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フィクション(Novel)読書感想領民0人スタートの辺境領主様

小説「領民0人スタートの辺境領主様  Ⅱ(2)  双子の祈り」感想文・ネタバレ

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フィクション(Novel)

領民0人1巻レビュー
領民0人まとめ
領民0人3巻レビュー

Table of Contents

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  1. どんな本?
  2. 読んだ本のタイトル
  3. あらすじ・内容
  4. 前巻からのあらすじ
  5. 感想
  6. 考察・解説
    1. ネッツロース草原におけるディアスの畑作り
    2. 鬼人族の薬草栽培における特徴と独自の技術
    3. 大耳跳び鼠人族の特徴とイルク村への加入
    4. エルダンからの贈り物とイルク村の発展
    5. 森人族セナイとアイハンの秘めた力とその背景
    6. 第三王女ディアーネによるネッツロース草原襲撃事件の全容
    7. イルク村の祝宴と種族間の価値観の違い
  7. 登場キャラクター
    1. イルク村
      1. ディアス
      2. アルナー
      3. クラウス
      4. マヤ
      5. チルチ
      6. ターラ
      7. セリア
      8. セナイ
      9. アイハン
      10. エイマ・ジェリーボア
      11. フランシス
      12. フランソワ
      13. ベイヤース
      14. カーベラン
      15. シーヤ
      16. グリ
    2. 鬼人族
      1. モール
    3. カスデクス領
      1. エルダン・カスデクス
      2. カマロッツ
      3. エンカース
      4. ゲラント
      5. 犬人族の長
      6. 獅子人族の長
    4. 犬人族
      1. マーフ・ティベ・マスティ
      2. セドリオ・バー・センジー
      3. ライハートゴードフニャディシェフ・オースン・シェップ
      4. カニス
      5. マスティ族
      6. センジー族
      7. シェップ族
    5. サンセリフェ王国
      1. 王様
      2. リチャード
      3. マイザー
      4. イザベル
      5. ヘレナ
      6. ディアーネ
      7. ガレス
      8. ナリウス
      9. プリネシア
      10. ミラルダ
    6. 傭兵
      1. ゴードン
  8. 展開まとめ
    1. ??? ディアス
    2. イルク村に戻って
    3. 五日が過ぎたイルク村の広場で
    4. 揺れる馬車の中で 小さな身体で蠢く何か
    5. 馬車の列へと近付きなが ディアス
    6. イルク村へと向かう馬車の御者台で
    7. 四日後の朝、出立する馬車を見送りながら
    8. 木箱の中で 小さな身体で蠢く何か
    9. カスデクス領の街メラーンガルのとある酒場酒場で管を巻く男達
    10. 王都、騎士の詰め所 王国の騎士達
    11. イルク村で ディアス
    12. 翌日、イルク村の広場で
    13. 十日後、イルク村で
    14. 埃の積もった石室で ディアーネ
    15. 王都、王宮のある一室で リチャード
    16. 完成した溜池のほとりで ディアス
    17. カスデクス領メラーンガルの領主屋敷でエルダン
    18. 戦場となってしまった草原で ディアス
    19. イルク村の老婆達のユルトで マヤ
    20. 森の中を駆けながら アルナー
    21. 戦いを終えて――ディアス
    22. イルク村への帰路で ディアス
    23. 一ヶ月後、王都
    24. 書き下ろし双子の祈り
    25. 柔らかな風の吹く草原でセナイとアイハン
    26. 特別書き下ろし。魅惑の蜂蜜
    27. 倉庫の側で セナイとアイハン
  9. 同シリーズ
    1. 領民0人スタートの辺境領主様
  10. その他フィクション

どんな本?

世界観はハイファンタジー。
話は追放からのスローライフモノ。

戦争で、孤児から救国の英雄に成ったディアス。

それを面白く思わない王族が横槍を入れて。

拝領した広大な草原には領民がおらず、住む家も無く、食料すら無い。
領地を与えると言いながらやってる事は流刑にしたような物。

その誰一人いないはずの草原で、ディアスは少女アルナーに出会う。
そして森人の双子のセナイとアイハンが娘となって家族となる。

読んだ本のタイトル

#領民0人スタートの辺境領主様 Ⅱ 双子の祈り
著者:#風楼 氏
イラスト:#キンタ  氏

Bookliveで購入 BOOK☆WALKERで購入

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あらすじ・内容

大草原の新米領主、ディアス。
何もない領地で出会った亜人の少女や兵士時代の戦友、
彼の噂を聞きつけた人々らと“イルク村”を作り
領主として大きな一歩を踏み出したのだった!

草原での畑作りに悪戦苦闘の毎日を送っていると
それを見かねた村で一緒に暮らす少女たち、セナイとアイハンは
ディアスのため、皆のためにある行動を起こす!!

新たな仲間や敵が出てきて新米領主様は大忙し!
村人たちと力を合わせてこの苦難をどう乗り越えるのか…!?

領民0人スタートの辺境領主様2 双子の祈り

前巻からのあらすじ

元孤児で平民の英雄のディアスは脳筋で考える事が苦手な35歳。
王様に褒められて領地を貰えると言われて、言われるがまま付いて行ったら。

おざなりな説明を受けて、草原のど真ん中に置いて行かれた。貰えるはずだった報奨金は派閥争いをしている王子に横領され。

着の身着のままで食糧も水も無い状態で放置。

そこから始まる領主生活。そこにいた鬼人族達と友誼を結び。

友誼の証として鬼人族のアルナーを婚約者にして、2匹のメアーと共にテントのようなユルドを建て暮らし始める。

そして狩に行ったらアースドラゴンを討伐して鬼人に身内として認められる。

感想

国の中枢の国王と第一王子には完全に信用されてるディアス。

理不尽に辺境に飛ばされたと思ったら、国境沿いでの防衛を期待されての領地の下賜らしい。

それを妨害してる第二王子と第三姫?

そして第三姫からディアスは侵攻を受けてしまう。

でも関わろうとしない第一王子。。。

そして明かされる第一王子とディアスとの関係。

調子にノってた王子は敵に包囲されて絶体絶命だったのだが、ディアスが助けに入って包囲を突破して王子を救出。

その後に拳骨をされて、一時期ディアスの補佐官をさせられていた。

ちなみにディアス本人は第一王子とは知らなかったらしいww

会っても覚えていないのかも?w

最後までお読み頂きありがとうございます。

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領民0人1巻レビュー
領民0人まとめ
領民0人3巻レビュー

考察・解説

ネッツロース草原におけるディアスの畑作り

ディアスが治める辺境の地「ネッツロース草原」は、背の低い草しか生えず、過去に何人もの開拓者が挑戦しては失敗してきた過酷な土地であった。しかし、ディアスは諦めることなく、様々な種族の仲間たちと協力して畑作りに挑戦する。その独自の畑作りの実態は以下の通りである。

1. 鬼人族の知恵「葉肥石」による土壌改良
草原の土は作物が育ちにくい状態であったが、ディアスは鬼人族の長モールから「葉肥石」という特別な緑色の宝石を譲り受ける。この石を鉄棒で細かく粉状に砕き、水や獣の骨と混ぜて土を寝かせることで薬草が育つようになるという鬼人族の知恵を、ディアスは畑の土作りに応用した。

2. 最新農具と領民の協力による開墾
隣領の領主エルダンからは、開墾の支援として「プラウ」と呼ばれる車輪と変形クワが付いた農具が贈られた。開墾や環境整備にあたっては、多様な領民たちの協力体制が敷かれている。

  • プラウを力の強い家畜「白ギー」に牽引させることで、事前の草刈りも不要なまま、広大な土地をあっという間に耕すことに成功する
  • 畑仕事の経験が豊富な棄民の老婆たち(チルチ婆さんやターラ婆さん)が指導役となり、彼女たちの提案で草木灰を用いた土作りも試みられた
  • 夏場の水不足に備え、小川から水を引くための「溜池」の建設が行われ、犬人族(センジー氏族など)の献身的な手助けによって見事に完成した

3. 森人族の双子による「秘密の結界」
ディアスたちの奮闘の裏には、孤児の双子セナイとアイハンによる秘密のサポートがあった。

  • 彼女たちは植物に魔力を与え、病や瘴気を防ぐ結界を張る力を持つ「森人族」であり、草原の地面の力が吸われていることに気づいていた
  • 大好きなディアスの畑を成功させるため、彼女たちはエイマの案内で夜中にこっそり畑へ赴き、自分たちの魔力を分け与えて結界を張るという不思議な力で畑の成長を裏から支えた
  • 結果として、畑の作物は彼女たちが魔力を込めた「巨大な円」の形に沿って芽吹くことになる

4. セナイとアイハンの小さな畑
ディアスの大きな畑とは別に、セナイとアイハンも犬人族の子供たちと協力して、広場の脇に独自の小さな畑を作っている。

  • 犬人族の鼻を頼りに、葉を育てる「葉肥石」、根を育てる「根肥石」、実を育てる「実肥石」を組み合わせる方法を探し出した
  • くるみや木の実、さらにはドライフルーツの種まで植えて、愛情深く世話を楽しんでいる

まとめ
このように、辺境領の畑作りはディアスの熱意を起点として、鬼人族の知恵、隣領からの強力な支援、多種多様な領民たちの知識と労働力、さらには双子の秘密の魔法が結集することで、不可能と思われていた開墾を成功へと導いている。

鬼人族の薬草栽培における特徴と独自の技術

鬼人族の薬草栽培には、彼らが置かれた過酷な生活環境や独自の文化、そして特殊な技術が深く関わっている。その主な特徴は以下の通りである。

1. 畑を持たない「鉢植え」での栽培

鬼人族は長年王国から隠れ住んでおり、いつ土地を捨てるかも分からない生活を送っている。そのため、土地に根付く畑を持つことはなく、以下のような方法をとっている。

  • 移動の際にも持ち運びができる鉢植えを使用する
  • 鉢植えの中で薬草を育て、その数を増やしている

2. 栽培を担うのは「老人や怪我人」

鬼人族の社会には特有の文化やルールが存在する。

  • 健康で元気に働くことができる者が薬草栽培に関わるのは不吉なこととされている
  • 栽培は主に年老いた者や、怪我をして狩りができなくなった者たちの仕事となっている
  • 若く健康な者には薬草の扱い方を教えることはあっても、育て方を教えることは絶対にない
  • 薬草に精通しているアルナーでさえ栽培方法を知らなかった
  • 栽培の知識は、族長であるモールのようないくつかの年配者たちによって管理されている

3. 「葉肥石」と獣の骨を用いた特殊な土作り

作物が育ちにくいネッツロース草原において薬草を育てるため、彼らは「葉肥石(はごえいし)」と呼ばれる緑色の石を使用する。

  • この石は見た目こそ美しい宝石のようであるが、魔力を持たず魔力を込めることもできない
  • 魔法を扱う鬼人族にとっては価値のないただの石ころとみなされており、南の土地に行けばいくらでも手に入るものとされている
  • 栽培の手順としては、鉄敷きと鉄棒を使って葉肥石を細かく粉状に砕き、鉢植えの土に水や砕いた獣の骨と一緒に混ぜ合わせ、しばらく土を寝かせる
  • 葉肥石を混ぜない土では、薬草は育ちが極端に悪いか全く育たないため、この知恵は栽培に不可欠なものとなっている

4. 薬草以外には通用しない限界

葉肥石と骨を使った土作りは万能ではない。

  • 薬草栽培においては確かな効果を発揮するが、芋や豆といった野菜や作物の栽培には通用しない
  • 同じように鉢植えで作物を育てようとしても、葉が生えるまでは育つものの、その後枯れたり実がならなかったりして失敗に終わる

まとめ

このように、鬼人族の薬草栽培は、定住を避ける生活様式への適応と、特定の者にのみ受け継がれる秘伝の技術によって成り立っている。そして、この葉肥石を用いた土作りの知恵が、後にディアスたちが辺境の地で本格的な畑作りへと挑戦する際の重要な足がかりとなる。

大耳跳び鼠人族の特徴とイルク村への加入

「領民0人スタートの辺境領主様」に登場する「大耳跳び鼠人族」は、王国の遥か南方の砂漠地帯を故郷とする獣人の一種族である。過酷な過去を背負い、人間族に強い不信感を抱いていた彼らについて、いくつかの視点から解説する。

1. 外見的特徴と「砂漠の民」としての誇り
大耳跳び鼠人族は、ネズミに近い顔立ちをしながらもウサギのように長い耳と長い尻尾を持ち、体格はネズミより大きくウサギよりは小さいという特徴を持っている。彼らは道具や言葉を扱うれっきとした獣人であり、主な特徴は以下の通りである。

  • 一度も地に足を着かずに距離を詰めるほどの驚異的な跳躍力を誇る
  • 彼ら自身は自らを「砂漠の民」と呼ぶことに強いこだわりと誇りを持っている

2. 奴隷狩りの悲劇と人間への不信
もともと数の少ない種族であったが、過酷な境遇により人間への敵対心を深めていった。経緯は以下の通りである。

  • 悪質な奴隷狩りに遭って商品として売り払われる寸前だったところを、隣領の領主エルダンによって保護された
  • エルダンは彼らを手厚く保護し、時が来れば砂漠へ帰すと約束していた
  • しかし、彼らは人間族によって故郷から引き離されたという過去から人間への不信感が根強い
  • 人間の血を引くエルダンの言葉すら信じずに反発し続けていた

3. 猿人族を騙る黒幕によるディアス襲撃事件
彼らの不信感と誇りは、悪意ある者に利用されてしまう。

  • 「猿人族」を名乗る全身黒尽くめの怪しい男(黒幕)から、「ドラゴン殺しのディアスを殺せば名誉や大金が手に入る」「ディアスを嫌っているエルダンも喜ぶ」などと唆され、襲撃計画を企てた
  • エルダンがディアスへ物資を届ける馬車の積荷に忍び込み、イルク村に到着するなり奇襲を仕掛ける
  • 相手の力量を見誤っていた彼らは、ディアスやアルナー、そして護衛の獣人たちによってあっけなく全員が捕縛され、エルダンの下へ送り返されて処罰を受けることとなった

4. エイマの存在とイルク村への加入
この無謀な襲撃計画の中で、ただ一人反対していたのが大耳跳び鼠人族の女性エイマ・ジェリーボアである。

  • 彼女は奇襲の直前、仲間に突き飛ばされながらも大声で危険を叫んで止めようとしたが失敗し、ディアスたちの報復を恐れて馬車の木箱に隠れていた
  • その後、一週間ほど木箱に閉じ込められていたところを双子の孤児セナイとアイハンに救出される
  • エイマは魂鑑定でも「強い青」と判定されており、読み書きや算術ができる知識を活かして、セナイとアイハンの教育係などとして村の役に立ちたいと願い出た
  • ネズミを嫌うアルナーからは「常に清潔な暮らしを徹底する」という条件を付けられたが、エイマはこれを快諾し、大耳跳び鼠人族として初めてイルク村の領民として迎え入れられることになった

まとめ
このように、大耳跳び鼠人族は人間への強い不信感から一度はディアスを襲撃するという過ちを犯したものの、エイマの加入によってイルク村との新たな関係が始まった。彼女の持つ高い知識や真摯な姿勢は、村の発展と種族間の信頼回復に向けた大きな一歩となっている。

エルダンからの贈り物とイルク村の発展

隣領カスデクス領の領主であるエルダンから主人公ディアスへ、今後の円滑な交流と領間交易への期待を込めた「友好の証」として、莫大な無償の贈り物が届けられた。この贈り物は、イルク村の生活と開拓を劇的に前進させることとなる。その詳細な内容は以下の通りである。

1. 充実した農具と家畜、およびインフラ支援
エルダンは事前に約束していた農具や作物の種、種芋を手当たり次第に見繕って贈った。さらに、それらを運搬してきた馬車や家畜をそのままディアスに譲渡するという破格の待遇を見せた。具体的な支援内容は以下の通りである。

  • クワ、カマ、ふるい、プラウ、ピッチフォーク、石臼などの豊富な農具一式
  • 各種作物の種や種芋
  • 運搬用の馬車2台と馬4頭
  • 強力な労働力となる山牛(白ギー)2頭
  • ハミ、鞍、鐙などの馬具一式
  • 厩舎の建築資材一式
    また、物資の提供だけでなく、エルダンの従者カマロッツと護衛の獣人たちが自らの手でわずか3日で立派な厩舎を建設するという、手厚いインフラ建設支援も行われた。

2. カスデクス領特産の嗜好品と食料支援
作物が収穫できるまでの繋ぎとして、大量の食料が贈られた。特産品を含む物資の内訳と、それに対する村人たちの反応は以下の通りである。

  • 野菜の酢漬け、山牛のバター、干し肉、干し魚といった大量の食料の確保
  • カスデクス領の特産品である香辛料、紅茶(三瓶)、砂糖(一壺)などの高級品の受領
  • 渋みの強い紅茶とただ甘いだけの砂糖はディアスやアルナーには不評であったが、マヤ婆さんたち棄民の老婆たちが専用の嗜好品として歓迎し定着
  • 孤児の双子であるセナイとアイハンは紅茶の香りを気に入り、両親の形見の種と一緒に壺に入れてお守りのように携帯

3. 馬の譲渡と家族の喜び
馬車と馬がもらえると知った馬好きのアルナーは、人目をはばからずに歓喜し、馬たちを愛情深く撫で回した。贈られた4頭の馬はどれも素直な駿馬であり、以下のように名付けられた。

  • ディアスの黒毛の牡馬:ベイヤース
  • アルナーの赤毛の牡馬:カーベラン
  • セナイの白毛の牝馬:シーヤ
  • アイハンの灰色毛の牝馬:グリ
    乗馬が得意なアルナーや、馬と心を通わせるのが上手な双子たちは見事に馬を乗りこなし、村の周囲の見回りなどに活用している。乗馬が苦手なディアスも、やんちゃで賢いベイヤースに手こずりながらも、少しずつ絆を深めている。

まとめ
このように、エルダンからの贈り物は単なる物資の支援に留まらず、過酷な辺境開拓を支える強力な力となり、イルク村の人々の生活に新たな喜びと豊かさをもたらしたのである。

森人族セナイとアイハンの秘めた力とその背景

『領民0人スタートの辺境領主様』に登場する孤児の双子、セナイとアイハンは、未知の亜人である「森人族」である。彼女たちが持つ「森人族の秘めた力」とその背景について、以下のポイントから解説する。

1. 草木の育成と結界を張る2つの魔法
森人族には、森を育て、守るための特有の力が2つ備わっている。

  • 草木の育成を早める力:植物に自身の魔力を分け与えることで、成長を劇的に早めることができる。未熟な子供の力であっても、毎日続ければ驚くほどの速さで木が育つ。
  • 病や瘴気を防ぐ結界を張る力:特殊な呪文を唱えることで、病害や瘴気を遠ざける結界を作り出すことができる。

2. 死後に「森に成る」という独自の生態
森人族は「森に住んで、森を守り、森に成る」という独自の生態と文化を持っている。

  • 死の間際になると、彼らは自分の知識や力を「種」に込め、親しい人に託す
  • 託された種から成長した木は、手で触れるだけでその人の想いに触れられる「墓石」のような存在となる
  • 同時に、知識を学べる「本」や、血脈を感じられる「家系図」のような存在としても機能する
  • これらの木々が集まることで、彼らは最終的に森に成る

3. 人間族から力を隠す「両親との約束」
森を成すほどの便利な力は、人間族に知られると悪用されてしまう危険性がある。

  • セナイとアイハンは亡き両親から「決して人間族に力のことを言ってはいけない」「力を使う所を人間族に見られてはいけない」と固く約束させられていた
  • ディアスたちに引き取られ、家族として愛されるようになっても、彼女たちはその約束を頑なに守り続けていた

4. ディアスを助けるための秘密の奮闘
ディアスが畑作りに挑戦した際、森人族である双子はこの草原の「地面の力が吸われている」ことに気づく。大好きなディアスの畑を成功させたいものの、人間族であるディアスに力を使うところを見られるわけにはいかなかった。

  • 人間族ではない大耳跳び鼠人族のエイマに秘密を打ち明け、相談する
  • 人間族が寝静まった夜中にエイマの案内でこっそりと畑へ向かう
  • 呪文を唱えてペンダントや髪飾りの宝石を光らせ、畑に魔力を分け与えて結界を張る
    この双子の秘密のサポートのおかげで、作物が育たないと思われていた過酷な草原での開墾は成功に向かうが、彼女たちが魔力を込めた範囲に沿って「巨大な円」の形に作物が芽吹くという、少し不思議な結果を生むことになる。

まとめ
このように、セナイとアイハンが持つ森人族の力は、過酷な環境を切り拓く大きな原動力となっている。両親との約束を守りつつも、大切な家族であるディアスのために秘密裏に力を尽くす双子の奮闘は、イルク村の発展を裏から支えている。

第三王女ディアーネによるネッツロース草原襲撃事件の全容

第三王女ディアーネによるディアスの領地(ネッツロース草原)への襲撃は、彼女の野望から始まり、圧倒的な戦力差にもかかわらずディアス達の勝利に終わるという、王国全体を巻き込む大騒動となった。その詳細な経緯と結末は以下の通りである。

1. 襲撃の背景とディアーネの野望
第三王女ディアーネは、建国王の王墓を荒らして古代の遺物である王笏と王の印章を盗み出し、私兵50名と傭兵200名を率いて隣領カスデクス領に現れた。彼女の目的や野望は以下の通りである。

  • 自分が活躍するはずだった戦争を終わらせ、自分から英雄の座を奪ったと逆恨みするディアスを討つこと
  • ディアスの財産やドラゴンの素材を奪い、さらに兄姉を排除して王国を支配すること
    ディアーネは偽の王命書を作成し、カスデクス公エルダンに1000名の軍勢を出兵させるよう強要した。

2. 圧倒的な戦力差と奇妙な膠着状態
ディアス達は草原の東端でディアーネ軍と対峙した。ディアス側の戦力は、彼自身とクラウス、連絡役のエイマ、犬人族(マスティ族)10名の計12名のみであった。対する敵軍は総勢1250名という圧倒的な大軍であったが、戦場は以下のような理由から奇妙な膠着状態に陥った。

  • エルダンは王命に従うふりをして出兵したものの、親友であるディアスを守るために軍を一切動かさず、陣中で優雅にティータイムを開いて進軍をサボタージュした
  • 左翼の傭兵隊長ゴードンも、相手が救国の英雄ディアスと命知らずのクラウスであると知り、勝てたとしても大勢殺されると判断して早々に全軍を撤退させた

3. ディアス達の反撃と犬人族の予想外の活躍
孤立したディアーネは狂乱し、戦鐘を鳴らして直属 of 50名だけで突撃を開始させた。ディアス達は逃げ回る作戦から、真正面から迎え撃って武装解除する作戦へと切り替え、以下のように反撃を展開した。

  • ディアスは手加減しながらも圧倒的な膂力で敵兵を吹き飛ばし、クラウスはその隙を的確に埋めて見事な連携を見せた
  • ドラゴンの素材で作られた竜牙のマスクと竜鱗のマントを装備した小型種の犬人族達が、本能的な俊敏さと噛みつきで兵士たちを翻弄した
    この犬人族達の強力なサポートにより、敵兵50人を完全に制圧することに成功した。

4. アルナーの追撃とディアーネの末路
軍が崩壊したディアーネは完全に癇癪を起こし、王笏の力でディアスや草原を全て燃やそうとしたが、潜伏していた者たちによって阻まれた。その後の展開は以下の通りである。

  • 隠蔽魔法で潜伏していたアルナーが放った矢によって王笏を弾き飛ばされた
  • アルナーは、ディアスの人を殺さないという意志を尊重し、矢でディアーネに恐怖を与えながら森へと追い込んでいった
  • 逃げ込んだ森の中で、ディアーネは第一王子リチャードの密命を受けて潜伏していたナリウス達に遭遇して捕縛され、王の印章とともに王都へ送られることになった

5. 襲撃事件の結末と王国への影響
ディアスは1人の死者も怪我人も出さずに完全勝利を収め、捕虜も無償で解放した。この事件の結果、王国には以下のような大きな影響がもたらされた。

  • 王都では大罪を犯したディアーネが神殿に幽閉されて失脚した
  • ディアーネの暴走を止められなかった第二王子マイザーも窮地に立たされた
  • 事態を収拾したリチャードが最大派閥を築いた
  • エルダンも王からの信頼と免税措置を勝ち取った
  • ディアスがたった2人で大軍を退けたという荒唐無稽な噂が王国中に広まり、彼に公爵位が与えられることが決定した

まとめ
このように、第三王女ディアーネの個人的な野望と逆恨みから始まったネッツロース草原襲撃事件は、ディアス側の圧倒的な武勇と犬人族の活躍、そしてエルダンらの協力によって無血の完全勝利へと導かれた。この結末は、ディアーネの失脚やディアスの公爵昇格など、王国の勢力図や情勢を大きく揺るがす重要な転換点となった。

イルク村の祝宴と種族間の価値観の違い

イルク村では、新たな仲間の加入や村の発展といった吉事が重なると、村人総出で賑やかな祝宴が開かれる。その中でも、大耳跳び鼠人族のエイマや犬人族たちの受け入れが決まった日に開かれた祝宴は、村の絆や種族間の価値観の違いを浮き彫りにする重要な出来事であった。

1. ディアスへのサプライズと手作りのご馳走
馬の入手、畑作りの成功、そしてエイマや犬人族といった新しい領民が増えるという吉事が重なったことを受け、マヤ婆さんたちの提案により宴が開かれることになった。

  • ディアスが忙しくしている間に、アルナーの独断で秘密裏に準備が進められた
  • ディアスが倉庫の食材や酒樽が減っていることに気づいて集会所に向かうと、すでに宴の準備が整いつつあった
  • クラウスが得意の壺焼きパンを焼き、アルナーは婚約の祝いでもらった米を使って鬼人族流の甘い米料理(セナイとアイハンが砕いたくるみ入り)を作るなど、村人たちが協力して豪華な料理を用意した

2. 酒を巡る夫婦の衝突と「価値観の違い」
この宴の準備を通じて、ディアスとアルナーの間で酒に対する認識の違いが明らかになる。

  • 王国の法律や常識に従い、未成年のアルナーに酒を飲ませたくないと考えたディアスは、彼女に内緒で酒を隠したり処分したりしていた
  • しかし、アルナーは「夫婦なのだから黙って勝手なことをせず、相談してほしかった」と不満を伝える
  • 鬼人族には幼い子供にも「馬乳酒」を飲ませる文化があり、酒は体に良く病を祓うものだと認識されていることが判明する
  • ディアスは、種族が入り混じるイルク村において、こうした文化や価値観の違いをきちんと話し合い、独自のルールを作っていく必要性を痛感した

3. 種族を越えた大合唱と賑やかな夜
夕方前に準備が整い始まった宴は、エイマという新たな領民を迎え、絶えない笑顔と美味しい料理に包まれた。

  • 歌と踊りの時間になると、家畜であるメーアのフランシスとフランソワが、お互いに角をぶつけ合い蹄を鳴らしながら見事な歌と踊りを披露し、場を大いに盛り上げた
  • それに触発されたセナイとアイハン、そしてエイマも乱入し、種族の壁を越えた大合唱が始まった
  • この賑やかで温かい宴は、セナイたちが眠気に負けるまで続いた

4. 翌朝の「馬乳酒」の答え合わせ
宴の翌朝、アルナーは鬼人族の村から持ち帰った「馬乳酒」を食卓に並べる。

  • ディアスが恐る恐る飲んでみると、それは酒精が極めて弱く、体力増強や便通改善などに効果がある栄養飲料のような代物であった
  • 前日の宴でぶどう酒一滴で泥酔したエイマですら、ほろ酔い程度で済むほどであった
  • アルナーにとっての「酒」がこれであったことを理解したディアスは、改めて種族間の常識や価値観の違いを深く学び、互いを理解するための対話の重要性を実感することとなる

まとめ
このように、イルク村の祝宴は単においしいものを食べて騒ぐだけでなく、新しい家族を迎え入れ、互いの文化や考え方の違いをすり合わせながら、絆を深めていく大切な場となっている。

領民0人1巻レビュー
領民0人まとめ
領民0人3巻レビュー

登場キャラクター

イルク村

ディアス

無人と思われていたネッツロース草原を治める領主である。人の死を極端に嫌う思想を持つ。アルナーと婚約している。

・所属組織、地位や役職
 ネッツロース草原の領主。救国の英雄。
・物語内での具体的な行動や成果
 プラウを使って白ギーと共に畑を耕した。ディアーネが率いる大軍に対し、少数の仲間と共に戦い、敵の武器と戦意を奪って無血で勝利する。不思議な力を持つ杖を火点け杖として竈の火起こしに利用した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王から公爵位と新たな家名を与えられることが決定した。

アルナー

鬼人族の少女であり、薬草の扱いに長けている。ネズミを忌み嫌う性格である。ディアスと生活を共にしている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の代表者。
・物語内での具体的な行動や成果
 隠蔽魔法を使い、ディアーネの手から王笏を矢で弾き飛ばした。ディアスに内緒で宴の準備を進める。四頭立て馬車の御者を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 イルク村における家族を預かる代表者に選ばれた。

クラウス

ディアスを慕っている元王国兵士である。村の防衛を担う立場にある。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領兵隊長。防衛担当の代表者。
・物語内での具体的な行動や成果
 マスティ族を相手に実戦形式の戦闘訓練を行った。戦場ではディアスの隙を埋めるように連携し、敵兵を翻弄する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 会議を行うための代表者の一人に就任した。

マヤ

故郷に棄てられた老婆たちのまとめ役である。占いを特技とする。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の人間族代表者。
・物語内での具体的な行動や成果
 色とりどりの石を使って占いを行い、吉報を読み取った。吉事が重なったことを受け、宴を開くことを提案する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 人間族全体の意見を代表する立場に選出された。

チルチ

畑仕事の経験が豊富な老婆である。村の農業に関わる立場にある。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスに対してプラウの使い方を指導した。夏場の水不足に備えて、小川から水を引く溜池の建設を提案する。敷葉という方法で溜池の底と壁を叩き固めるよう指示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

ターラ

背が高く背筋の伸びた老婆である。畑仕事を特技とする。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
 白ギーにプラウを引かせ、土を耕す。草木灰と水を用いた土作りに取り組んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

セリア

細面で長い灰髪を持つ老婆である。真面目で口数が少ない性格をしている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
 領民が増加した際の問題を防ぐため、代表者を決めて会議を行うルールを提案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

セナイ

長い耳を持つ森人族の双子の一人である。アイハンの姉妹にあたる。ディアスやアルナーを親のように慕っている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
 夜中にエイマの案内で畑へ向かい、植物の成長を助けるための結界を張った。見回りの途中で犬人族を置き去りにしたことを反省し、彼らを馬に乗せて歩く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

アイハン

長い耳を持つ森人族の双子の一人である。セナイの姉妹にあたる。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
 木箱に閉じ込められていたエイマをセナイと共に助け出した。夜中の畑で呪文を唱え、魔力を地面に与える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

エイマ・ジェリーボア

大耳跳び鼠人族の女性である。読み書きや算術の知識を持つ。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の領民。
・物語内での具体的な行動や成果
 仲間の襲撃計画を止めようとしたが失敗し、木箱に身を隠した。夜の畑へ向かうセナイとアイハンを案内する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 セナイとアイハンの教育係を志願し、イルク村の領民として受け入れられた。

フランシス

羊のような姿をしたメーアのオスである。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
 宴の席でフランソワと角をぶつけ合い、歌と踊りを披露した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

フランソワ

羊のような姿をしたメーアのメスである。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の家畜。
・物語内での具体的な行動や成果
 宴の席でフランシスと共に歌と踊りを披露した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

ベイヤース

黒毛の牡馬である。足が太くがっしりした体つきを持つ。やんちゃな性格をしている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
 溜池の側で退屈し、ディアスの髪を食んだ。広場で昼寝をしているセナイたちに混ざって眠りにつく。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エルダンからディアスへ譲渡された。

カーベラン

赤毛の牡馬である。アルナーの乗馬として扱われている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
 アルナーを鞍なしで背に乗せ、草原を走った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エルダンからディアスへ譲渡された。

シーヤ

白毛の牝馬である。セナイの乗馬として扱われている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
 セナイを乗せて村の周囲を見回る。疲労した犬人族を背に乗せて歩く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エルダンからディアスへ譲渡された。

グリ

灰色毛の牝馬である。アイハンの乗馬として扱われている。

・所属組織、地位や役職
 イルク村の馬。
・物語内での具体的な行動や成果
 アイハンを背に乗せて草原を駆けた。疲労した犬人族を背に乗せて休ませる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エルダンからディアスへ譲渡された。

鬼人族

モール

鬼人族をまとめる族長である。

・所属組織、地位や役職
 鬼人族の族長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスに葉肥石を渡し、薬草栽培の方法を指導する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

カスデクス領

エルダン・カスデクス

亜人の未来を憂う領主である。ディアスを親友として見ている。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス領の領主。カスデクス公爵家の次男。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスへ農具や馬車、食料などを無償で贈る。ディアーネに協力するふりをして進軍をサボタージュし、陣中で優雅にティータイムを開いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王から正式な爵位継承と新たな家名を許された。ディアーネの件による補償として三年間の免税措置を与えられる。

カマロッツ

エルダンに仕える従者である。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス領の従者。
・物語内での具体的な行動や成果
 馬車隊を率いてディアスに贈り物や大耳跳び鼠人族を届けた。三日でイルク村の厩舎を建設する。戦場では遠眼鏡を使ってディアスたちの戦いぶりを評価した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

エンカース

エルダンの父親である。過去にネッツロース草原の開拓を試みた。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス領の元領主。
・物語内での具体的な行動や成果
 王家に無断でネッツロース草原を開拓しようとしたが、失敗に終わった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 病死したとされる。

ゲラント

鳩のような姿をした亜人である。エルダンの使者を務める。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス領の鳩人族伝書隊の長。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルダンからの至急の手紙をディアスの元へ届けた。イルク村の倉庫前で夢中になって豆を食べる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

犬人族の長

冷静な思考と忠誠心を持つ人物である。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス領に従う種族の長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアーネへの対応を協議する会議において、当事者であるディアスの意見を聞くべきだと提案する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

獅子人族の長

好奇心旺盛な性格の人物である。

・所属組織、地位や役職
 カスデクス領に従う種族の長。
・物語内での具体的な行動や成果
 会議の席で、ゲラントにディアスの手紙の内容を尋ねた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

犬人族

マーフ・ティベ・マスティ

勇敢な性格をしたマスティ族の氏族長である。

・所属組織、地位や役職
 マスティ族の氏族長。イルク村の領兵。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスに対して兵士の仕事を志願した。竜牙のマスクと竜鱗のマントを装備し、戦場で敵を制圧する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

セドリオ・バー・センジー

真面目で堅物な性格のセンジー族の氏族長である。

・所属組織、地位や役職
 センジー族の氏族長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスへ溜池作りの手伝いや雑用を志願した。水路の堰板を開け、小川の水を溜池に流し込む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

ライハートゴードフニャディシェフ・オースン・シェップ

好奇心旺盛で落ち着きのない性格のシェップ族の氏族長である。

・所属組織、地位や役職
 シェップ族の氏族長。
・物語内での具体的な行動や成果
 馬や動物たちの世話を熱心に希望した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 通称はシェフである。

カニス

心配性な性格の白毛の大型種犬人族である。

・所属組織、地位や役職
 エルダンの下で小型種の世話係をしていた。
・物語内での具体的な行動や成果
 イルク村を目指して暴走する小型種たちを必死に追いかけた。小型種を兵士にすることへの不安を露わにする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

マスティ族

黒毛でがっしりした体つきを持つ氏族である。勇敢で力自慢という特徴がある。

・所属組織、地位や役職
 小型種の犬人族。
・物語内での具体的な行動や成果
 クラウスと実戦形式の戦闘訓練を行い、連携して彼を押し倒す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 イルク村の領兵となる。

センジー族

茶毛で短い毛を持つ氏族である。真面目な性格をしている。

・所属組織、地位や役職
 小型種の犬人族。
・物語内での具体的な行動や成果
 毎朝井戸で水を汲み、各ユルトの水瓶へと運搬した。夏場に備えて溜池を掘る作業を担当する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

シェップ族

白黒毛で長い毛を持つ氏族である。働くことが好きで好奇心旺盛な性格をしている。

・所属組織、地位や役職
 小型種の犬人族。
・物語内での具体的な行動や成果
 白ギーや馬たちの世話を担った。厩舎の掃除や動物たちのブラッシングを行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

サンセリフェ王国

王様

善良であるが愚かと評される人物である。ディアスを深く信頼している。

・所属組織、地位や役職
 サンセリフェ王国国王。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスの功績を認め、彼に公爵位と新たな家名を与えることを決定した。エルダンの免税要求を認める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

リチャード

誠実な人格を持つ第一王子である。

・所属組織、地位や役職
 サンセリフェ王国第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアーネの王墓襲撃に対し、配下の貴族たちに静観を命じた。平民ギルドの協力者に対してディアーネの捕縛を指示する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ディアーネを捕縛した功績などで、王国最大の派閥を築き上げた。

マイザー

ディアスを天敵と認識している第二王子である。

・所属組織、地位や役職
 サンセリフェ王国第二王子。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスの為に用意された金品や人材を奪ったとされる。弱体化した派閥を再建するため、金を集める目的で手紙を書いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 騒動の余波で派閥が弱体化し、失脚寸前に追い込まれた。

イザベル

王位を諦めていない第一王女である。

・所属組織、地位や役職
 サンセリフェ王国第一王女。
・物語内での具体的な行動や成果
 王位争いに参加している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

ヘレナ

王位を諦めていない第二王女である。

・所属組織、地位や役職
 サンセリフェ王国第二王女。
・物語内での具体的な行動や成果
 王位争いに参加している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

ディアーネ

ディアスを逆恨みし、王国支配の野望を抱く第三王女である。

・所属組織、地位や役職
 サンセリフェ王国第三王女。
・物語内での具体的な行動や成果
 建国王の王墓を荒らし、王笏と王の印章を盗み出した。ディアスを討つために偽の王命書を作成し、カスデクス領へ出兵を強要する。アルナーの矢で王笏を弾き飛ばされ、森へ逃げ込む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 捕縛されて王へ引き渡され、神殿内で幽閉されることが決まった。

ガレス

リチャードの御側付きを務める老齢の騎士である。

・所属組織、地位や役職
 リチャード直属の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアスのことを知らない若い貴族たちに対し、彼の過去や実像を語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

ナリウス

リチャードに協力する黒髪黒目の平民である。

・所属組織、地位や役職
 平民ギルドの協力者。
・物語内での具体的な行動や成果
 森の中でディアーネを捕縛する。アルナーの矢による攻撃を受けた際、金貨袋を地面に置いて逃走した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

プリネシア

リチャードの潜入工作員として活動する人物である。

・所属組織、地位や役職
 ディアーネの従者。
・物語内での具体的な行動や成果
 ディアーネが王の印章を盗んだ事実を知り、逃亡してリチャードに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

ミラルダ

ディアーネに仕える従者である。

・所属組織、地位や役職
 ディアーネの部下。
・物語内での具体的な行動や成果
 建国王の王墓を襲撃すると聞いて、数十人の兵士と共にディアーネの下から逃げ出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

傭兵

ゴードン

状況を冷静に判断する傭兵隊長である。

・所属組織、地位や役職
 左翼に陣を敷く傭兵の隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
 相手がディアスとクラウスであると知り、全軍撤退を指示した。ディアーネの従者に金貨の入った袋を押し付け、進軍要請を拒否する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 記載なし。

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展開まとめ

【領民:0人 →16人のレポート】辺境領主ディアスのこれまで

【救国の英雄】ディアスは、無人と見なされていた草原ネッツロースを拝領し、【辺境の領主】となった。

領内で鬼人族との接触に成功したディアスは、彼らと友好関係を築き、【鬼人族の少女】アルナーと共同生活を始めた。また鬼人族から【羊のような生き物】メーア二頭を譲り受け、草原での生活基盤を整えていった。

その後、領土北部で遭遇したアースドラゴンを討伐し、【ドラゴン殺し】の称号を得る。この功績によって、アルナーとの婚約も正式に結ばれた。

さらに【英雄を慕う元王国兵士】クラウスを領兵として迎え入れ、続いて【故郷に棄てられた12人の老婆】マヤ達を保護し、領民として受け入れた。彼らと共に草原へイルク村を築き上げていく。

その後、訪れた商人から【特徴的な長い耳を持つ双子】セナイとアイハンを引き取った。

また【亜人の未来を憂う領主】エルダンとも出会い、互いに友好関係を結ぶことに成功した。

そうしてディアスは、一歩ずつ着実に領地を発展させながら、辺境領主としての道を歩み続けているのであった。

ネッツロース領イルク村の施設一覧

【ユルト】

【倉庫】

【厠】

【井戸】

【飼育小屋】

【集会所】

【広場】

??? ディアス

畑作りへの挑戦

ある朝、ディアスはエルダンとの会談内容を夢に見て目を覚ました。夢の中でエルダンは、この草原では畑作りは難しく、これまで何人もの開拓者が失敗してきたと語っていた。それでもディアスは、やれるだけやってみると返答し、エルダンもまた農具の提供を約束していたのである。

目を覚ましたディアスは、昨晩盗賊を追い払った影響で寝不足気味だった。隣ではセナイとアイハンが寝言を口にしており、その様子へ苦笑しながら寝床を抜け出す。

朝の広場での会話

ユルトの外へ出たディアスは、井戸近くでアルナーやマヤ婆さん達が食材を洗っている姿を見つけた。マヤ婆さん達に寝ぼけ顔を笑われつつ、ディアスは顔を洗い、朝食作りを手伝うことになる。

やがて広場で皆揃って朝食が始まり、ディアスは領民達の体調を確認した。するとマヤ婆さん達は以前より体調が良くなったと語り、その理由としてアルナーの薬草料理が大きいのではないかとディアスは考える。

そこでディアスは、鬼人族達が大量の薬草をどのように確保しているのか気になり、アルナーへ質問した。するとアルナーは、基本的には鉢植えで薬草を栽培しているのだと説明する。鬼人族は定住しないため、畑ではなく持ち運び可能な栽培法を用いていたのである。

しかし栽培方法については、狩りが出来なくなった年寄り達の仕事であり、若者には教えない風習があるため、詳しいことはモールに聞くべきだとアルナーは語った。

鬼人族の村への訪問

その後、ディアスは鬼人族の村へ向かうことを決める。しかしアルナーやマヤ婆さん達は家事、クラウスは村の警備、セナイとアイハンは人の多い場所を嫌がったため、同行者はフランシスとフランソワだけとなった。

草原で寄り道をしながらも昼前には鬼人族の村へ到着し、見張り達へ来訪目的を伝えて入村する。村人達からアルナーを奪った男だと小言を受けながらも、ディアスはモールのユルトへ向かった。

葉肥石と薬草栽培

モールへ畑作りの相談をすると、モールはこの草原では作物は育たず、過去に鬼人族も開拓へ失敗したと語った。ただし薬草栽培の方法なら教えられるという。

そうしてモールは、緑色の石――【葉肥石】を取り出した。土へ砕いた獣骨と葉肥石を混ぜ、しばらく寝かせることで薬草が育つ土になるのだという。だが、不思議なことに、この方法では薬草は育っても芋や豆などの作物は育たないらしかった。

ディアスは葉肥石を手に取り、その美しさへ驚く。しかしモールによれば、この石には魔力も価値も無く、南方でいくらでも採れるただの石ころなのだという。

ディアスは葉肥石を分けて欲しいと頼み、モールも快く了承した。そしてもし畑作りに成功したなら、その方法を鬼人族にも教えて欲しいと頼む。食糧事情が改善されれば、鬼人族も村を大きく出来るからであった。

ディアスは当然のように了承し、成功した暁には芋も大量に持ってくると約束する。その返答にモールは嬉しそうに笑い、続けてアルナーとの子作り用薬草まで勧め始めた。

その薬草は男用の強烈な興奮剤だと聞かされ、ディアスは慌ててアルナーへ渡さないでくれと制止するのであった。

イルク村に戻って

葉肥石への反応

葉肥石の入った革袋を抱えてイルク村へ戻ったディアスを見つけると、セナイとアイハンは駆け寄り、帰宅を喜んだ。二人はアルナーやマヤ婆さん達へ報告した後、ディアスにも撫でてもらおうと戻って来るが、その途中で革袋に気付き、中身を見せて欲しいとせがみ始めた。

ディアスは二人の期待に押され、革袋の口を広げて中身を見せる。しかし葉肥石を見たセナイとアイハンは、期待外れだったように肩を落とし、ただの石ころだと不満を漏らした。

その様子に驚くディアスだったが、フランシス達が何やら声をかけると、二人はすぐに機嫌を直し、フランシス達と遊び始めた。

魔力による価値観の違い

その後、洗濯物を干し終えたアルナーも葉肥石を見て、ただの石ころだと口にした。

疑問を抱いたディアスへ、アルナーは、魔法に関わる者であれば石に魔力があるかどうかは見ただけで分かるのだと説明する。葉肥石には魔力が無く、魔力を蓄える器も存在しないため、鬼人族にとっては宝石ではなく、価値の無い石ころに過ぎなかったのである。

さらにアルナーは、セナイとアイハンも魔力を見分ける才能に優れており、将来的には族長以上の魔法使いになれる可能性があると語った。ディアスは、ただ無邪気に遊んでいるように見える二人が、自分には理解できない才能を持っていることに驚きつつ、その未来へ期待を抱くのだった。

葉肥石の用途

アルナーから用途を尋ねられたディアスは、葉肥石が薬草栽培用の土作りに使われる石であり、畑にも応用できるか試したいのだと説明した。

薬草栽培に関わるものということで、アルナーは少し顔をしかめる。しかし興味自体は失わず、葉肥石を観察し始めた。

しばらく調べた後、アルナーは近くにあった石を使い、葉肥石を勢いよく叩き割る。その硬そうな見た目に反して脆いことを確認すると、石を砕くための道具を取りにユルトへ戻っていった。

鉄敷きと石砕き作業

戻ってきたアルナーは、鉄製の皿状の道具と鉄棒をディアスへ渡した。

それは鬼人族が石薬や宝石加工に使う道具であり、胡座を組んだ脚の上へ鉄敷きを乗せ、その中央で石を砕くためのものだった。周囲へ粉が飛び散らないよう工夫されており、完成された実用品であった。

説明を受けたディアスは、壺を用意し、広場で実際に葉肥石を砕き始める。拳では割れなかった石も、道具を使えば容易に砕くことが出来た。

砕いた石をさらに細かく潰し、粉状にして壺へ移す。その作業は予想以上に面白く、ディアスは夢中になって葉肥石を砕き続け、気付けば日暮れまで没頭していたのだった。

五日が過ぎたイルク村の広場で

葉肥石の粉砕作業完了

ディアスは最後の葉肥石を砕き終え、革袋が完全に空になったことを確認すると、五日間続けた作業の終了に安堵した。

途中でセナイとアイハンから、粉砕がまだ粗いと指摘され、砕き直しをする羽目になったものの、それでも五日で終わったなら早い方だと考えていた。しかし長時間座り続けた影響で腰には大きな負担がかかっており、ディアスは広場へ寝転がって体を伸ばす。

感知魔法による異変察知

だが休む間もなく、感知魔法を発動させたアルナーが険しい表情で駆け寄って来た。

アルナーによれば、東から多数の反応が近付いて来ているらしい。しかし今回は感知結果が曖昧で、人や馬に加え、馬ではない何かまで混ざっており、正確な数を把握できなかった。

ディアスは、以前の盗賊達が再び現れた可能性も考えたが、移動速度が遅く距離にも余裕があると聞き、まずは村への説明と装備準備を優先することにした。

アルナーの同行

ディアスが鎧と戦斧を準備していると、戦化粧を施し弓矢を携えたアルナーも同行の準備を整えていた。

ディアスが理由を尋ねると、アルナーは敵かもしれない相手に対し、数も正確に分からない以上、一人で向かわせる訳にはいかないと強く主張する。

ディアスはアルナーの真剣な態度を受け入れ、感知魔法の助けも必要だと判断して同行を認めた。するとアルナーは照れ隠しのように矢筒でディアスの尻を叩き、急ぐよう促した。

カマロッツ一行の正体

二人は草原を東へ駆け、遠眼鏡を使って接近する一団を確認する。

そこにいたのはカマロッツ率いる馬車隊だった。護衛の獣人達を伴い、複数の馬車で移動している。その最後尾では、黒ギーによく似た白い獣が馬車を引いていた。

アルナーはそれを白ギーだと説明し、感知魔法が混乱していた原因も、大量の護衛や家畜の存在によるものだったと理解する。

しかしアルナーは、二台目の馬車の荷台に小さな何かが複数乗っているのを発見する。外を窺っていたらしいそれらは、アルナーが見た直後に姿を隠してしまった。

農具を運ぶだけにしては不自然な構成であり、小さな何者かを乗せていることにも違和感を覚えたディアスは、直接カマロッツへ事情を聞くべく、アルナーと共に馬車隊へ向かうのだった。

揺れる馬車の中で 小さな身体で蠢く何か

馬車内での食料探し

薄暗い馬車の中で、砂漠の民の少年は外へ気付かれないよう慎重に積荷を調べていた。

木箱の中には豆や干し肉、干し魚ばかりが入っており、苦手な物ばかりだったが、旅のためには仕方ないと自分を納得させる。果物を期待していたものの見当たらず、狩りをする必要まで考え始めていた。

そんな時、仲間の一人に見つかってしまう。少年は食料を少し持ち出そうとしていただけだと説明するが、相手は食料など不要だと言い放った。

本当の目的の発覚

さらにその仲間は、馬車が砂漠ではなく西へ向かっていることに気付いていないのかと嘲笑し、本当の目的を明かす。

それは砂漠へ帰ることではなく、“ドラゴン殺し”を討ち取って砂漠の民の誇りを取り戻すことだった。

少年は騙されていたことに衝撃を受ける。砂漠へ帰るために協力していたはずが、実際には危険な襲撃へ巻き込まれていたのである。

しかも仲間達は既にその気になっており、人間族は弱い、ドラゴン殺しも卑怯な罠を使っただけだと決め付け、完全に戦意を燃やしていた。

少年の焦りと恐怖

少年は必死に皆を止めようと考える。

噂通りなら相手はアースドラゴンを単独で倒した化物であり、正面から戦えば全滅する未来しか見えなかった。残り少ない砂漠の民を、こんな無謀な戦いで死なせたくなかったのである。

しかし説得の方法は思い浮かばず、いっそ自分が先に飛び出してドラゴン殺しへ許しを乞うべきかとも考える。だがその想像だけで足が震え、実行する勇気は持てなかった。

そんな中、馬車が減速し始める。ついに目的地へ着いたのだと悟った少年は、恐怖でさらに追い詰められていく。

奇襲開始

停車後、外からカマロッツとディアスの会話が聞こえてくる。

ディアスの名を耳にした瞬間、砂漠の民達は完全に殺気立った。唸り声を押し殺しながら戦闘態勢を整え、奇襲の機会を窺い始める。

少年はもう迷っている時間は無いと覚悟を決める。

皆を止めるため、そして奇襲を失敗させるため、少年は大声で危険を叫びながら仲間達へ飛びついた。こちらの存在を外へ知らせてしまえば、戦いを回避できるかもしれないと考えたのである。

しかしその行動は失敗に終わる。仲間達は少年を突き飛ばし、奇襲が露見した程度では怯まなかった。

そしてディアスが十分近付いたと判断した瞬間、砂漠の民達は馬車から飛び出し、一斉に襲撃を開始した。

外では怒号と悲鳴、衝撃音が響き始め、少年が最も恐れていた戦いが、ついに始まってしまったのだった。

馬車の列へと近付きなが ディアス

馬車列との遭遇

ディアスとアルナーが馬車列へ近付くと、カマロッツは護衛達へ停車の指示を出し、三台の幌馬車はゆっくり停止した。

挨拶もそこそこに、ディアスが馬車の数や積荷について尋ねようとしたその時、二台目の馬車から危険だと叫ぶ女性の声と、内部で暴れるような音が響いてくる。

カマロッツ達も状況を把握していなかったらしく、皆が愕然としていた。

大耳跳び鼠人族の襲撃

事態を確認するためディアスが馬車へ近付くと、小柄な獣人達が一斉に飛び出してきた。

茶色い毛並みと長い耳を持つその者達は、ドラゴン殺しを討てと叫びながら、驚異的な跳躍力でディアスへ襲い掛かる。

ディアスは一瞬対応が遅れたが、アルナーが即座に動き、弓や矢筒を用いて小動物達を叩き落としていく。アルナーはネズミに噛まれると病を貰うこともあると警告しつつ、しかしカマロッツ達の所有物かもしれないとして手加減していた。

襲撃者達は自分達を飼われた存在ではなく「砂漠の民」だと主張し、なおも攻撃を続けたが、護衛の獣人達が介入すると一気に劣勢となる。

最後には麻袋へ次々詰め込まれ、全員捕縛された。

砂漠の民の正体

カマロッツは深く謝罪し、襲撃者達について説明を始める。

彼らは「大耳跳び鼠人族」という獣人であり、王国よりさらに南の砂漠地帯に住む民だった。奴隷狩りに遭い、売られる寸前だったところをエルダンが保護していたのである。

しかし彼らは人間族への不信感が強く、エルダンの厚意にも完全には心を開いていなかった。今回の襲撃も、その反発から起きたものだった。

ディアスは事情を聞いた上で、今回の件でカマロッツやエルダンを責めるつもりは無いと伝える。ただし、次に同じことがあれば手加減出来る保証は無いとも告げた。

アルナーも、カマロッツは青い魂になっているから許して良いが、鼠人族達は強い赤だったため次は容赦しないと小声で語っていた。

馬車の積荷とエルダンからの贈り物

騒動が落ち着いた後、ディアスは積荷に香辛料があるという話を思い出し、カマロッツへ事情を尋ねる。

するとカマロッツは、エルダンからの手紙と目録を差し出した。そこには、農具一式だけでなく、種芋や食料、香辛料、紅茶、砂糖、さらに馬車と馬までもが無償の贈り物として記されていた。

加えて、白ギーと呼ばれる山牛、馬具、さらには厩舎を建てるための資材まで含まれていた。

ディアスは、そのあまりに大掛かりな友好の証へ愕然とする。エルダンは代金不要だと記していたが、ディアスは何らかの返礼をしなければならないと考え、アースドラゴンの素材を贈ることを思案し始めた。

馬を得たアルナーの歓喜

さらにカマロッツは、ディアスへ馬車の扱い方を学んでみてはどうかと提案する。

その話を聞いていたアルナーは、本当に馬を譲って貰えるのかと確認し、目録を読んだ直後、満面の笑みを浮かべた。

アルナーは興奮した様子で、馬が四頭も手に入るのだと叫び、嬉しさを隠しきれないまま馬達の元へ駆け寄っていく。

そして一頭一頭を丁寧に撫でながら、その喜びを噛み締めていた。

イルク村へと向かう馬車の御者台で

馬車の帰路とアルナーの謝罪

カマロッツから提案された御者による指導は不要となった。

馬車の準備を進める中で、アルナーが馬や馬車について十分な知識を持ち、慣れた手つきで扱ってみせたからである。カマロッツは、ディアスが学ぶなら自分達よりアルナーから学ぶ方が良いだろうとまで口にした。

こうして、四頭立て馬車の御者はアルナーが務めることとなり、ディアスとアルナーの馬車を先頭に、カマロッツ達の馬車と白ギーの馬車が続く形でイルク村へ向かう。

馬車の揺れに身を任せていると、アルナーが遠慮がちな声で先程の件について謝罪を口にした。馬を手に入れた嬉しさのあまり、周囲を忘れてしまったのだという。

ディアスは、多少気恥ずかしくはあったが嫌ではなかったと返し、人前では程々にして欲しいとだけ伝えた。

その言葉を聞いたアルナーは黙って頷き、それ以上何も言わずに馬車を操ることへ集中する。

イルク村への帰還

穏やかな時間が流れ、やがてイルク村が視界に入る。

槍を持って村を警戒していたクラウスは、近付いてくる馬車列へ警戒を強めていたが、御者台の二人がディアスとアルナーだと気付くと慌てて駆け寄ってきた。

ディアスは、感知魔法に反応した相手がカマロッツ達だったこと、エルダンから農具や食料だけでなく馬や馬車まで贈られたことを説明する。

するとクラウスは大いに喜び、その知らせを村の皆へ伝えるため広場へ駆けていった。

村人達の歓迎

しばらくすると、セナイとアイハンが白い毛の塊を抱えて現れ、その後ろから毛を刈られたばかりのフランシスとフランソワ、さらにマヤ婆さん達も姿を見せた。

どうやら村では、ちょうどメーア達の毛刈りをしていた最中だったらしい。

セナイとアイハンは、ディアス達の無事を喜びながら元気いっぱいに手を振り回して出迎える。

そんな賑やかな歓迎を受けながら、ディアス達は馬車を率いてイルク村へと帰還するのだった。

四日後の朝、出立する馬車を見送りながら

カマロッツ達との別れ

カマロッツ達がイルク村を訪れてから四日後の朝、ディアス達は隣領へ帰る馬車を見送っていた。別れ際、セナイとアイハンは寂しさから静かに泣き始める。人見知りをしていた二人も、この数日でカマロッツ達と打ち解けていたのである。

アルナーは二人の頭を撫でながら、馬達の世話をしなければならないと優しく諭した。その言葉で我に返った二人は涙を拭い、厩舎へ駆け出していく。クラウスも乗馬の練習をしたいと言い、その後を追っていった。

三日で完成した厩舎

ディアスはユルトへ戻りながら、完成したばかりの厩舎について思い返していた。

カマロッツ達は、加工済みの木材を用いる工法によって、わずか三日で厩舎を完成させていた。六つの個室を備えた横長の厩舎であり、家畜の増減に応じて移築や増築もしやすい構造となっていた。

完成後の宴では、ディアス達は感謝の証として大量のアースドラゴン素材と魔石を贈ろうとした。しかし、その量にカマロッツ達は困惑し混乱してしまう。最終的には、ディアス達の利益になるよう活用するという条件付きで受け取られることとなった。

紅茶と砂糖を楽しむ老婆達

広場では、マヤ婆さん達が焚き火を囲みながら紅茶を楽しんでいた。

ディアス達若い面々は紅茶や砂糖をあまり好まなかったが、マヤ婆さん達はそれらを大層気に入っていた。紅茶を飲みながら砂糖を舐め、まるで貴族のお嬢様になった気分だと笑い合っている。

セナイとアイハンも紅茶の味は苦手だったが、香りは好んでおり、小さな壺に茶葉を入れて持ち歩いていた。

畑作りへの協力

マヤ婆さんは、チルチ婆さんとターラ婆さんが畑仕事を手伝いたがっていることをディアスへ伝える。

二人は以前から畑作で生計を立てていた経験者であり、足手まといにはならないと語った。ディアスもその申し出を受け入れ、翌朝から畑作りを始めることとなった。

プラウによる農作業

翌日、ディアス達は村の南側で畑作りを開始した。

チルチ婆さんの指導のもと、ディアスは白ギーにプラウを曳かせながら土を耕していく。プラウは土を効率良くひっくり返し、草まで埋め込める優れた農具であり、その性能にディアスは驚かされる。

葉肥石の粉や草木灰も同時に撒きながら作業を進め、昼前には耕作を完了させることが出来た。

また、チルチ婆さんは夏場の水不足に備えて溜池を掘る必要性も説明した。小川の水量は安定しておらず、畑の維持には蓄水設備が不可欠だったのである。

セナイとアイハンの不思議な質問

昼食前、セナイとアイハンがディアスを呼びにやって来た。

ディアスが二人を抱き上げると、アイハンは畑仕事が大変ではないか、失敗したら悲しいかと尋ね始める。さらに、自分達が隠し事をしていたら悲しいかとも問いかけた。

ディアスは、悪いことでなければ少しくらいの隠し事は誰にでもあると答えた。

すると二人は急にもがき始め、地面へ下ろされると、そのまま村へ駆け去ってしまう。

後日ディアスやアルナーが理由を尋ねても、二人がその件について語ることはなかった。だが、いつも通り元気に過ごす二人の姿を見ているうちに、ディアスも次第にその出来事を気にしなくなっていくのだった。

木箱の中で 小さな身体で蠢く何か

木箱からの救出

木箱に閉じ込められて一週間ほど経った頃、エイマは限界を迎え、助けを求め続けていた。砂漠の民であるため水なしでもある程度は耐えられたが、それでも衰弱は深刻だった。

そんな中、近付いてくる人の気配を耳が捉える。必死に木箱を叩きながら助けを求めた結果、セナイとアイハンが声に気付き、荷物をどかして木箱を開けてくれた。

救出されたエイマは、自分が大耳跳び鼠人族の女性であり、眼鏡や本も自作したことを説明する。二人は興味津々で耳や尻尾に触れ、様々な質問を投げかけてきた。

閉じ込められた理由

セナイとアイハンに事情を尋ねられたエイマは、自分がディアスを襲撃しようとした砂漠の民と外見が似ていたため、巻き込まれることを恐れて木箱へ隠れたのだと語る。

しかし隠れた直後に荷物を積まれ、外へ出られなくなってしまった。何度か助けを求める機会はあったものの、ディアス達への恐怖から声を上げられず、そのまま一週間が過ぎてしまっていた。

森人族の秘密

セナイとアイハンは、エイマへ秘密の相談を持ちかける。

二人は森人族であり、植物へ魔力を与えて成長を促す力と、病や瘴気を防ぐ結界を張る力を持っていた。森人族は死の間際に種へ知識や力を託し、その種から育った木々によって一族の記憶や歴史を残していく種族だった。

だが両親から、人間に力の存在を知られてはいけないと強く言い聞かれていた。

畑への悩み

セナイとアイハンは、ディアスが懸命に作っている畑が、この土地ではうまく育たないことを知っていた。

この土地では地面の力が吸われており、普通に作物を育てても魔力が失われてしまうという。二人の力で結界を張れば改善できるが、それは人間に隠している力を使うことを意味していた。

ディアスを助けたい気持ちと、両親との約束を守りたい気持ちの間で揺れる二人は、その解決策をエイマへ相談する。

エイマは、夜中に皆へ知られないよう畑へ行き、こっそり力を使えば良いと提案した。セナイとアイハンはその案に大喜びし、エイマへ夜に起こしに来てほしいと頼む。

夜の冒険

夜更け、エイマはディアス達が眠るユルトへ忍び込んだ。

ディアスの汗臭い匂いに驚きつつも、眠っているセナイとアイハンをなんとか起こすことに成功する。

しかし二人は、いざ外へ出ると暗闇を怖がって足を止めてしまう。そこで両親の種を取り出し、勇気を得ながら進むこととなった。

エイマは夜道を案内しながら、セナイとアイハンを励まし続ける。風や物音、暗闇に怯えながらも、二人はディアスの役に立ちたい一心で畑まで辿り着いた。

森人族の力の発動

畑へ到着したセナイとアイハンは、中央で向かい合い、呪文を唱え始める。

首から下げた宝石や髪飾りが白く輝き、その光は月光のように広がって地面へ染み込んでいった。二人は結界がうまくいったことを確認し、安心したように呟く。

力を使い終えた二人は強い眠気に襲われ、そのままユルトへ戻る。そしてセナイはエイマを抱きかかえたまま眠りにつき、さらにアイハンまで加わったことで、エイマは二人に挟まれたまま身動きの取れない状態となってしまうのだった。

カスデクス領の街メラーンガルのとある酒場酒場で管を巻く男達

メラーンガルの賑わい

カスデクス領西部の街メラーンガルでは、エルダンの代替わり以降、領内が安定し活気づいていた。領主屋敷の近くにある大酒場も連日大勢の客で賑わい、人々は酒を酌み交わしながら様々な話題で盛り上がっていた。

客達は、エルダンが王都へ赴き、アースドラゴンの魔石を王へ献上する予定であることを語り合う。それにより王からの覚えも良くなり、カスデクス領はさらに安泰になるだろうと期待を寄せていた。

ディアスとアルナーの噂

酒場では、ドラゴン殺しディアスについての噂も広がっていた。

カマロッツの護衛を務める者からの話として、ディアスは人前でもアルナーと親密に接していること、亜人達にも偏見なく接し、護衛達へも食事や高級なぶどう酒を振る舞ったことなどが語られる。人間族の貴族とは思えないその振る舞いに、客達は感心していた。

また、ディアスが東部出身でありながら亜人を嫌っていない理由について、最初に出会った亜人であるアルナーへ一目惚れしたからだ、という噂話も飛び交う。客達は笑いながらも、エルダンとディアスの友誼の裏にはアルナーの存在があったのだろうと語り合っていた。

領民募集の話題

さらに話題は、ディアスが出した領民募集の看板へ移る。

種族を問わず受け入れること、家と食事を用意することなどが書かれていたが、男達はそんな条件だけで隣領へ移住したがる者はいないだろうと半信半疑だった。

しかし実際には、小型種の犬人族達が真剣な表情で看板を見つめていたという話もあり、酒場の者達はその反応を不思議がっていた。

黒幕の噂

やがて話題は、大耳跳び鼠人族によるディアス襲撃事件へ移る。

男達の話によれば、襲撃した者達は「猿人族」を名乗る黒幕に唆されたと証言していた。その猿人族は、黒い布で全身を覆った長身の男であり、ディアスを殺せば名誉や金が手に入る、さらにはエルダンも喜ぶなどと吹き込んでいたらしい。

その特徴を聞いた男達は、先ほど酒場へ入ってきた黒尽くめの男を思い出し、慌てて周囲を見回す。しかし男の姿は既に消えており、結局見つけ出すことは出来なかった。

黒尽くめの男の苛立ち

一方その頃、酒場近くの裏路地では、その黒尽くめの男が独り言を漏らしていた。

男は、獣人達を唆しても思うように動かせず、唯一騙せた大耳跳び鼠人族も失敗に終わったことへ苛立っていた。さらに、与えていた毒まで無駄になったことを悔やみ、今後は奴隷や浮浪者を利用するべきかと考え始める。

しかし、黒尽くめの格好が酒場で噂になっていることから、このままでは動きづらいと判断し、人気のない場所で黒い布を脱ぎ捨てた。

その後、街外れの娼館を見つめた男は、何者かへの激しい呪詛を吐き出す。ひとしきり憎悪を吐露した後、男は平静を取り戻し、そのまま街の外へと姿を消していくのだった。

王都、騎士の詰め所 王国の騎士達

騎士達の噂話

王都各地に設けられた騎士団の詰め所では、治安維持を担う騎士達が訓練そっちのけで噂話に興じていた。

彼らは第三王女ディアーネの派閥から離反者が続出していることや、戦争や魔物襲来を訴えて各地を巡っていたディアーネが近く謹慎処分を受けるらしいことを語り合う。

さらに話題は次期国王争いへと移る。第一王子リチャード、第二王子マイザー、第一王女イザベル、第二王女ヘレナ、第三王女ディアーネの各派閥について、神殿や大貴族、西方商人達との繋がりを交えながら勢力図を土床へ描いていた。

カスデクス領次男の噂

騎士達は、マイザー派に属していたカスデクス公爵家の変化についても話し始める。

カスデクス公と長男は病死し、現在は次男が跡を継いでいるという。しかしその次男に関する情報は、西方商人達の口から語られる誇張じみた噂ばかりだった。

幼少から商才に優れ、見たこともない農具や仕掛けを作り出したこと、大人を片手で持ち上げる怪力を持つこと、さらには十人以上の妻を持つほどの色男であることなど、現実味に欠ける話が並んでいた。

だが騎士達は、たとえ誇張であっても、そうした噂を広められるだけの財力と影響力をその次男が持っている証拠だと考える。

ディアスとの関係

さらにその次男は、ネッツロース草原を治めるディアスと親交が深いという話も出る。

領地が隣接していることで友誼を結び、義兄弟の契りを交わしたことや、二人でドラゴンを討伐したという噂まで存在していた。

騎士達は、呪われた土地と呼ばれるネッツロース草原を思い浮かべながら、ディアスとカスデクス家次男の動向が王国の今後へ大きな影響を与えるかもしれないと考え始める。

ディアーネの出陣

そんな中、一人の若い騎士が慌てた様子で訓練室へ飛び込んできた。

若い騎士は、ディアーネが二百近い兵士と多数の荷馬車を率いて王都を出発したと報告し、戦争でも起きるのではないかと狼狽していた。

しかし古参の騎士達は、二百程度の兵力で大事になるはずがないと高を括り、地方遊説の延長だろうとまともに取り合わなかった。

若い騎士だけが不安を拭えないまま立ち尽くし、周囲の騎士達は再び王位争いや噂話へ戻っていくのだった。

イルク村で ディアス

イルク村の騒がしい一日

イルク村は朝から様々な出来事に見舞われ、村全体が落ち着かない空気に包まれていた。

最初の騒動は、セナイとアイハンが夜中のうちにネズミを寝床へ連れ込んでいたことである。アルナーは病の原因にもなり得る存在を寝床に入れたことへ激怒し、セナイ達と共に、大耳跳び鼠人族のエイマを捕らえて薬湯漬けにしながら説教を行った。ディアスは襲撃事件との関係を懸念したが、アルナーは危険は無いと判断していた。

次の騒動は畑で起きた。蒔いた種から芽が出たものの、その芽は畝に沿って並ばず、畑の中央に巨大な円を描くように生えていたのである。しかも円の内側だけが芽吹き、外側では同じ畝でも芽が出ていなかった。チルチ婆さん達は原因を突き止めようと、土を調べたり匂いを嗅いだりしながら議論を続けていた。

さらに、セナイ達がエイマを助け出そうとして倉庫を荒らし、荷箱の中身を散乱させる事件も起きていた。ディアスはクラウス達と片付けをしていたが、その最中に白鳩の姿をした鳩人族のゲラントが飛来する。ゲラントはエルダン配下の鳩人族伝書隊の長であり、エルダンからの至急の手紙を届けに来たのだった。

エルダンからの手紙

ゲラントが運んできた手紙には三つの内容が記されていた。

一つ目は、大耳跳び鼠人族襲撃事件に関する謝罪と調査報告であり、実行犯達を焚き付けた黒幕の存在が示唆されていた。二つ目は、第三王女ディアーネが兵と武器を集めているという不穏な報告だった。三つ目は領民募集の看板についてであり、小型種の犬人族達が強く興味を示し、移住を希望しているという内容だった。

ゲラントは大型種と小型種の犬人族の違いについて説明する。大型種は人間に近い姿を持ち器用で理知的であり、小型種はより犬に近い姿で本能的だが不器用で、氏族単位で助け合いながら暮らしているという。彼らは広い草原や家畜の世話に憧れ、イルク村での生活を夢見ていた。

ディアスは村人達に相談し、クラウスやマヤ婆さん達、アルナー達の賛同を得て、小型種犬人族の受け入れを前向きに検討することを決めた。

エイマの加入

ディアスは、セナイ達の足元でしょんぼりしていたエイマへ事情を尋ねる。するとエイマは、自分は襲撃を止めようとしていたこと、そしてイルク村で暮らしたいと望んでいることを語った。

エイマは、セナイとアイハンの成長を見守りたいと語り、自分には読み書きや算術の知識があり教育係として役立てると必死に訴えた。魂鑑定の結果も強い青であり、襲撃事件にも加担していなかったことから、ディアス達はエイマを正式に受け入れることを決める。唯一アルナーだけは鼠人族への警戒を崩さなかったが、清潔な暮らしを徹底するという条件付きで認めた。こうしてエイマ・ジェリーボアはイルク村の新たな領民となった。

宴の準備

ゲラントを見送った後、ディアスは倉庫の食材や酒樽が消えていることに気付く。エイマの話によれば、集会所から料理や宴の準備をする声が聞こえてくるという。集会所へ向かったディアスは、村人達が既に宴の準備を始めている光景を目にした。

クラウスは壺焼きパンを作り、アルナーは鬼人族流の甘い米料理を調理していた。セナイとアイハンは砕いたくるみを料理へ加え、エイマは砂糖をねだってはしゃいでいた。皆は馬の入手や畑作りの成功、新たな領民の加入を祝うため、ディアスに内緒で宴を準備していたのである。

酒を巡る価値観の違い

ディアスは、未成年であるアルナーへ酒を飲ませたくないという思いから、以前から酒を隠したり処分しようとしていた。しかしアルナーは、自分を心配している気持ちは理解しているものの、夫婦である以上は相談して欲しかったと本音を打ち明ける。

さらに鬼人族には、馬乳酒を幼い子供にも飲ませる文化があることが語られ、酒に対する価値観が王国とは大きく異なることが判明する。ディアスは、自分達が今後様々な種族と共に暮らしていく以上、文化や価値観の違いをきちんと話し合い、イルク村独自のルールを作る必要があると考えるようになった。

賑やかな宴

夕方前には宴の準備が整い、イルク村では新たな領民エイマを迎えての祝宴が始まった。料理と酒が振る舞われ、皆の笑顔は絶えなかった。

やがて歌と踊りの時間になると、フランシスとフランソワが蹄を鳴らしながら歌い始める。その見事な歌声に宴は大いに盛り上がり、さらにセナイとアイハン、エイマまで加わって大合唱となった。こうして賑やかな宴は、セナイ達が眠気に負けるまで続けられるのだった。

翌日、イルク村の広場で

馬乳酒と価値観の違い

宴の翌朝、ディアスは食卓に並べられた白い液体を目にする。それはアルナーが鬼人族の村から持ち帰った馬乳酒だった。

ディアスは半信半疑で口にしたが、馬乳酒は酒精が極めて弱く、酒というより栄養飲料に近い代物だった。クラウスやマヤ婆さん達も同様の感想を抱き、前日の宴でぶどう酒一滴で泥酔していたエイマですら、ほろ酔い程度で済んでいた。アルナーは、この馬乳酒こそが鬼人族にとっての「酒」であり、体力増強や病除けの効果があると説明する。ディアスは、この件を通じて種族間の価値観の違いを改めて痛感し、今後は文化や習慣についてしっかり話し合う必要があると考えるようになった。

代表者制度の提案

宴から五日ほど経った頃、セリア婆さんがディアスへ相談を持ちかけた。彼女は、犬人族やエイマの受け入れの際に村人全員へ意見を聞いたやり方について、このまま人数が増えれば立ち行かなくなると指摘したのである。

セリア婆さんは、代表者を決めて意見を集約し、領主へ伝える仕組みを作るべきだと提案した。さらに、最終的な判断と責任は領主自身が負うべきだとも語る。その意見に納得したディアスは、その夜すぐに村人達を集めて話し合いを行った。

その結果、領主が最終決定権を持ちながら、必要に応じて代表者達を集めた会議を行う制度が作られた。代表者にはアルナー、クラウス、マヤ婆さんの三人が選ばれ、それぞれ家族、防衛、人間族全体の意見を代表する立場となった。エイマにも獣人族代表の話はあったが、自分は未熟だとして辞退した。

犬人族到来の報せ

その翌朝、ディアスはアルナーに叩き起こされる。アルナーの生命感知魔法によって、村の近くまで複数の生命反応が接近していることが判明したのである。

ディアスとアルナーが村の東端へ向かうと、草原の向こうから犬の遠吠えと大量の足音が聞こえてきた。やがて現れたのは、小型種犬人族達の一団だった。彼らは荷車を身体に繋ぎ、夜通し移動してきた疲労を抱えながらも、一心不乱にイルク村を目指して駆けていた。後方では大型種の犬人族であるカニスが、必死に彼らを止めようとしていた。

ディアスが大声で落ち着くよう呼びかけると、犬人族達は驚くほど素直に従い、速度を落として整然と座り込んだ。黒毛のマスティ、茶毛のセンジー、白黒毛のシェップという三氏族で構成されており、それぞれ性格や体格に特徴があった。

小型種犬人族達との対面

カニスは、自分が小型種達の世話役であり、彼らをイルク村まで引率してきたことを説明した。また、荷車には老人や妊婦、子供達も乗っており、エルダンが用意した支援物資も積まれていると語る。

さらにカニスは、犬人族にとって氏族が家族そのものであり、どんな時でも一緒に暮らすことを重視していると説明した。ディアスは、自分達が用意したユルトでは手狭ではないかと心配したが、カニスは、小型種達は狭い場所で密集して眠ることを好むため問題ないと笑って答えた。

一方アルナーは、その間に犬人族全員へ魂鑑定を行っていた。結果は驚くべきもので、小型種達は一人残らず強い青だった。

仕事への強い執着

カニスは続けて、小型種達は仕事をしていないと強いストレスを抱えるため、どんな仕事があるのかが極めて重要だと説明した。ディアスは、溜池作りや家畜の世話、領兵としての警備や戦闘訓練など、様々な仕事を用意していると答える。

その瞬間、小型種達は歓喜の遠吠えを上げ、働けることを心から喜び始めた。ディアスが落ち着くよう声を掛けると、彼らは再び大人しく座り込み、ディアスの言葉を待つ。そこでディアスは、自分がこの草原の領主であると正式に名乗った。

すると各氏族の代表が進み出る。マスティの族長マーフは兵士の仕事を望み、センジーの族長セドリオは雑務でも何でもやると申し出る。シェップの族長シェフは、馬や動物達の世話を熱心に希望した。ディアスはそれぞれの希望を受け入れ、役割を割り振っていった。

アルナーもまた犬人族達と握手を交わし、自分がディアスの妻であると名乗る。犬人族達から若奥様、美人な奥様と褒められたアルナーは満面の笑みを浮かべ、早くも打ち解けた様子を見せていた。

カニスの不安

しかし、そんな様子を見ていたカニスだけは複雑な表情を浮かべていた。彼は、小型種達は不器用で力も弱く、武器を扱うのも難しいのに、本当に兵士にするつもりなのかと不安を露わにする。

カニスにとって、小型種達は守るべき存在であり、その彼らを危険な戦いへ向かわせることへ強い抵抗があったのである。ディアスは、その心配を受け止めながらも、自分なりの考えをどう説明するべきか思案するのだった。

十日後、イルク村で

犬人族達の定着

犬人族達がイルク村へ移住してから十日が経ち、彼らは完全に村へ馴染んでいた。毎朝、センジー達は井戸で水を汲み、各ユルトへ運搬する役目を担っていた。短い指と肉球のある手でも工夫次第で道具を使いこなし、連携して効率良く働いていたのである。

広場ではマヤ婆さん達と犬人族の女性達が朝食の支度をしていた。女性達は料理だけでなく、高齢のマヤ婆さん達の日常動作を支え、座る時や立つ時、物を持つ時に身体を添えて介助していた。ディアスは、それまで自分が高齢者達の負担へ全く気付けていなかったことを恥じる。

シェップ達と家畜の世話

シェップ達は白ギーや馬達の世話を担当していた。放牧や厩舎掃除、ブラッシングなどを手際良くこなし、家畜達からも深く信頼されていた。むしろ動物達はディアス以上にシェップ達へ懐いているほどだった。

彼らは家畜達へ嬉しそうに話しかけながら世話をしており、動物を相手にすることそのものを心から楽しんでいる様子だった。

子供達と畑作り

セナイとアイハンは犬人族の子供達と非常に仲良くなっており、毎日のように草原で遊んでいた。さらに犬人族達と共に石拾きへ出掛け、葉肥石に似た力を持つ石を集めていた。

アイハンによれば、葉を育てる葉肥石、根を育てる根肥石、実を育てる実肥石の三種があり、それらを組み合わせることで植物がしっかり育つという。セナイ達はそうした知識を頼りに畑作りを始め、くるみや木の実、ドライフルーツの種などを植えていた。ディアスは芽が出るか疑問に思いながらも、彼女達の好きにやらせることにした。

畑の周囲には犬人族達が掘り返さないよう柵と看板も設置され、村は少しずつ生活の場として整備されていく。

働くことを喜ぶ犬人族達

犬人族達は掃除、洗濯、食事作り、溜池工事など、あらゆる仕事を積極的に引き受けていた。人手不足だったイルク村にとって、その働きぶりは極めて頼もしいものだった。

ディアスは休むよう勧めていたが、犬人族達は休息より働くことを望んでいた。報酬として銀貨や金貨も渡されていたが、彼らはそれを使わず、自分達のユルトへ飾って崇めるように扱っていた。

また、周囲から不器用だと言われていた小型種犬人族達だったが、実際には工夫次第で様々な道具を器用に扱っていた。ロープには掴みやすい結び目を作り、桶には持ちやすい凹みを設け、食器やブラシも彼ら用に調整すれば問題なく使用できた。ディアスは、むしろ非常に器用だと感じるようになっていた。

カニスへの答え

小型種達を兵士にすることへ不安を抱いていたカニスに対し、ディアスは言葉で説明するのではなく、実際に村での様子を見せることを選んだ。カニスはその提案を受け入れ、十日間ずっとマスティ達へ付き添っていた。

その頃、村外れではクラウスとマスティ達による訓練が行われていた。クラウスは戦争経験豊富な実力者だったが、マスティ達は四足姿勢を活かした俊敏な動きで攻撃を避け続ける。

やがて一匹が木槍の懐へ飛び込み、クラウスの脚へ噛みついて体勢を崩させる。そこへ残る四匹が一斉に襲い掛かり、押し倒した上で喉へ甘噛みを加えて勝利した。クラウスは彼らの連携と成長を素直に称賛する。

小型種達の戦闘能力

ディアスは、小型種達が想像以上に優秀な兵士になれると確信していた。彼らは鼻、耳、目が優秀で、本能的な回避能力と高い瞬発力を持っていた。武器を持てなくとも、それを補って余りある能力があったのである。

さらに鬼人族へ犬人族専用の武具製作も依頼しており、それらが完成すれば更に大きな戦力になると考えていた。

一方カニスは、訓練の成果を目の当たりにしながらも、まだ完全には割り切れない様子だった。ディアスはそんな彼へ、ここへ攻めてくるのは場末の盗賊程度であり、戦争のような大事ではないのだから、もっと気楽に構えて良いのだと考えるのだった。

埃の積もった石室で ディアーネ

建国王の王墓への侵入

王国東部の地下深くに存在する古い石室へ、第三王女ディアーネ率いる一団が侵入した。従者達が燭台へ火を灯すと、石室の最奥には石棺と三体の石像、そして宝石や金銀細工が供えられた祭壇群が姿を現す。兵士達は財宝へ目を奪われるが、ディアーネは棺と石像へ触れぬよう厳命し、祭壇の品々を軍資金として回収させた。兵士達はその命令に従いつつ、高価そうな品を懐へ隠し始める。

建国王の王笏

ディアーネはプリネシアと共に王笏を持つ石像へ近付き、その手から王笏を抜き取った。真紅の宝石へドラゴンが巻き付く意匠の王笏は、風化した石室とは不釣り合いなほど美しい輝きを放っていた。

ディアーネは、その王笏こそ建国王が万の敵を焼き払った神器であり、自らもこれを使って伝説を築くのだと語る。そしてまずディアスを討ち、その財宝とドラゴン素材を奪い、さらに兄姉達を排除して王国を手中へ収めると宣言した。

プリネシアの恐怖

しかしプリネシアは、王笏など既に力を失った古代の遺物に過ぎないと認識していた。そもそも本物である保証すら無い代物へ執着し、ディアス討伐や王位簒奪を語るディアーネへ強い不安を抱く。

既に建国王の王墓を襲うという計画の時点で兵士達が離反しており、これ以上暴走が続けば自分の身も危険になると考えたプリネシアは、ディアーネの下を離れて第一王子リチャードの元へ戻る決意を固める。

王の印章

ディアーネはさらに、自らには最後の切り札があると語り、絹布に包まれた黄金の品を取り出した。それが王の印章だと気付いたプリネシアは、一気に顔色を失う。

ディアーネはそのまま激情に駆られ、ディアスこそ自分から英雄の座を奪った悪漢であり、戦争終結もドラゴン討伐も財貨独占も全て許し難い罪だと語り始めた。さらに、ディアスは無垢の民を虐殺した逆賊であり、自分こそが真の正義を示す存在なのだと自己陶酔していく。

しかしプリネシアはその言葉を聞いておらず、王の印章を盗み出したディアーネが何か危険な企みを進めていることだけを重く受け止めていた。そしてディアーネが語りに夢中になった隙を突き、その場から逃亡して王都へ向かう。

謎の男の企み

その頃、王墓を見下ろす丘の上では、黒幕である謎の男が事態を見下ろしていた。彼は、獣人達以上に王族の方が騙しやすかったと嘲笑し、ディアーネを利用してディアスを討たせ、その後に自らディアーネを始末する計画を思い描く。

そうすればディアスへの復讐を果たせるだけでなく、自分を捨てた家族を見返し、自らが英雄になれると狂喜しながら笑い続けるのだった。

王都、王宮のある一室で リチャード

リチャード王子のダンスホール

王宮内には『リチャード王子のダンスホール』と呼ばれる特別な部屋が存在していた。豪華絢爛な装飾で彩られたその部屋は、防音性を重視した頑丈な造りとなっており、第一王子リチャード直属の護衛によって厳重に守られていた。

世間では遊興の場として噂されていたが、実際には第一王子派閥の貴族達が集まり、軍政や財政など国家運営について議論を交わす秘密会議の場となっていた。リチャードは派手な外套を脱ぎ捨て、質素な服装でその中心へ座していた。

ディアーネの暴走と静観命令

リチャードは、ディアーネが建国王の王墓を襲撃したとの報告を受けたことを貴族達へ告げる。さらに、潜入させていたプリネシアからの情報を基に、王墓荒らしや王笏・王の印章の奪取などの詳細が共有された。

貴族達はディアーネ討伐や介入を主張したが、リチャードは一切の手出しを禁じる。理由は、ディアスへ不用意に関われば危険だからであった。リチャードはディアスを「相手が誰であろうと噛み付く狂犬」と評し、王族であろうと容赦しない男だと断言する。

ディアスの真実

若い貴族達は、救国の英雄やお人好し、玉無しなどの噂程度しかディアスを知らなかった。そこで老齢の騎士が、ディアスの実像を語り始める。

ディアスは戦時中、王命による略奪や虐殺を一度も行わなかった。志願兵達にもそれを禁じ、自らは狩猟や労働で食料を得ていた。その結果、占領地の村々は荒廃を免れ、戦後には王国へ友好的な地域として統治されることになる。

また、「玉無し」の由来も語られた。若英部隊の貴族子弟達が自国民へ暴虐を働いた際、ディアスは彼らを制裁し、主犯格達を踏み潰したのである。その事件は本来なら王宮裁判沙汰だったが、騎士団長やサーシュス公爵、さらには国王自身がディアスを擁護したことで裁判は立ち消えとなった。

リチャードとディアスの過去

さらにリチャードは、自身もかつてディアスから危害を加えられた王族であると認める。若き日のリチャードは、若英部隊を率いて無謀な戦場視察を行い、敵軍に包囲されて壊滅寸前となっていた。そこへ現れたディアスが彼を救出し、その直後に拳骨と説教を叩き込んだのであった。

その後三ヶ月もの間、リチャードはディアスの下で鍛えられることとなり、それが現在の誠実な人格形成に繋がったと側近達は語る。リチャード自身も、ディアスが王国を何度も救い、父王の失策を埋め続けてきたことを認めていた。

第二王子派閥への疑念

リチャードは、ディアスがネッツロース草原へ送られた際、本来なら十分な人材と資金が与えられる予定だったと明かす。しかし、それを奪ったのは第二王子マイザー派閥だと推測していた。

マイザー派閥は、呪われた草原へ向かうディアスは死ぬだろうと考え、用意された金品や人材を横取りしたのである。リチャードは、その件がいずれ国王へ露見し、第二王子派閥へ大きな打撃を与えるだろうと見ていた。

ディアーネ追跡命令

会合の最後に、リチャードは平民ギルドの協力者達へ命令を下す。目的は、ディアーネがディアスと接触する前に捕縛し、王の印章を回収することであった。

若い協力者が印章を売れば利益になるのではと軽口を叩くと、リチャードは王族や貴族が平民へ素直に金を払うはずがないと冷淡に返す。そして、もしディアスと接触することがあればと、多めの金を渡し、飢えて死なれては笑えないと不機嫌そうに言い放った。

ディアーネの孤独と妄執

一方その頃、ディアーネは高級宿の一室で孤独に苛まれていた。ミラルダやプリネシアに見放され、王都から連れてきた兵士達も次々と離脱し、手元には僅かな兵と傭兵しか残っていなかった。

しかし彼女は、建国王の王笏と王の印章を見つめることで再び高揚する。王笏には万の敵を焼き払う力があり、印章には民を従わせる力があると信じ込み、自分こそがこの国を支配する存在なのだと思い込んでいく。

そうしてディアーネは、王国を支配し、自分を見下してきた全ての者達を見返すため、さらなる行動へ踏み出すのだった。

完成した溜池のほとりで ディアス

溜池の完成

ディアスはセンジーの氏族長セドリオへ指示を出し、小川と溜池を繋ぐ水路の堰板を開かせた。鬼人族の職人達によって作られた水路へ小川の水が流れ込み、センジー達が掘り上げた大きな溜池へと注がれていく。溜池の底や壁はチルチ婆さんとターラ婆さんの指導による「敷葉」という工法で何度も叩き固められており、しっかりと水を受け止めていた。

夏が近付く中、センジー達やシェップ達、マスティ達の協力によってようやく完成した溜池を見つめながら、ディアスは畑の作物やセナイ達の植えた木の実の成長を思い浮かべ、水の確保の重要性を改めて実感していた。

ベイヤースとの交流

そんなディアスの後頭部へ、牡馬ベイヤースが鼻先を突っ込み、髪を食み始める。ベイヤースはアルナーがディアスへ半ば強引に押し付けた馬であり、乗馬の練習と絆作りの為に共に行動していた。

ベイヤースはやんちゃな性格をしており、退屈するとこうして構って欲しがる癖があった。アルナーは、共に過ごし世話を続ければ馬から尊敬されるようになると言っていたが、現状のディアスはまだ完全には認められていないらしかった。

セドリオ達へ後を任せたディアスは、ベイヤースと共に村へ戻ることにする。途中、他の馬達――カーベラン、シーヤ、グリのことを思い浮かべながら、アルナーやセナイ、アイハンの見事な乗馬技術に感心していた。

一方で、自分はまだベイヤースに助けられてばかりであると考えると、ベイヤースはまるでそれを見透かしたような視線を向けてくる。ディアスが負けじと笑顔を返すと、ベイヤースは大きく鼻息を吐き、呆れたような態度を見せるのだった。

昼寝する村の仲間達

イルク村へ戻ったディアスは、広場で奇妙な光景を目にする。セナイとアイハン、フランシスとフランソワ、そして大量の犬人族達が一塊になって昼寝をしていたのである。

セナイ達の畑から芽が出て以来、彼らは畑の側で昼寝をするようになり、それに釣られる形でフランシス達や犬人族達も集まり始めた結果、そのような光景が出来上がっていた。

暑い夏の日差しの中でも、皆は穏やかな表情で眠っており、セナイとアイハンは寝言で「パパ」「ママ」と呟いていた。その穏やかな雰囲気に誘われ、ベイヤースまでもがその輪へ混ざり込んで眠り始める。

ディアスも眠気に襲われながら、その平和な光景を静かに見守っていた。

ゲラントの急報

しかし、その穏やかな時間は突然終わりを迎える。空から白い影――ゲラントが激しく羽ばたきながら飛来してきたのである。

ただ事ではない様子を察したディアスは広場を飛び出し、ゲラントを迎える。ゲラントは荒い息を整えながら、エルダンからの火急の手紙を届けに来たと告げた。

ディアスが手紙を開いて内容を確認すると、そこには極めて厄介な事態が記されていたらしく、ディアスは深く重い溜め息を吐くのだった。

カスデクス領メラーンガルの領主屋敷でエルダン

ディアーネ来訪による緊急会議

エルダンは自らに従う各種族の長達を領主屋敷へ招集し、第三王女ディアーネへの対応を巡る会議を開いていた。

数日前、ディアーネは兵士五十名と傭兵二百名を率いてカスデクス領へ現れ、エルダンへ面会を要求した。そして面会の場で、自分はディアスを討ち、その財産を奪う為に来たのだと明言し、その協力を求めてきたのである。

エルダンは王族相手ということもあり、感情を押し隠しながら丁重に断ろうとした。しかしディアーネは激昂し、「これは王命である」と叫びながら、一枚の文書を突き付けた。

その文書は文章自体こそ稚拙で、誰が見ても偽物と分かる内容だったが、末尾には本物と思われる王の印章が押されていた。王の印章がある以上、法的には正式な王命書として扱われる可能性があり、正式な爵位継承前であるエルダンには強く拒絶することが難しかった。

結局エルダンは返答を保留し、家臣達との相談を理由に時間稼ぎを始める。そして豪華な食事や歌手、踊り子による歓待でディアーネを引き留めつつ、対応策を協議していたのである。

ディアスを守ろうとするエルダン

会議の中でエルダンは、ディアーネへ協力するなど論外であり、むしろ王女一行を始末すべきだと主張していた。

エルダンにとってディアスは親友であるだけでなく、草原開墾という誰も成し得なかった偉業を実現した重要人物だった。もしディアスが草原を大穀倉地帯へ変えられるなら、その最大の利益を得るのは隣接するカスデクス領である。

交易路の整備や農業発展を考えれば、ディアスを失うことは領の未来そのものを失うに等しかった。その為、ディアーネへ協力する選択肢は最初から存在せず、元凶であるディアーネ達を処理するしかないと考えていたのである。

慎重論を唱える長達

しかし長達の中には、エルダンの未来を優先すべきだとして反対する者達もいた。

王族であるディアーネを始末すれば、病死や失踪として処理できたとしても、今後必ず大きな禍根を残すことになる。正式な爵位継承を目前に控えたエルダンが、そのような危険な橋を渡るべきではないと彼らは考えていた。

会議は平行線を辿り続け、結論は出ないまま時間だけが過ぎていく。

犬人族の長の提案

そんな中、静観していた犬人族の長が口を開いた。

今回の件はディアス自身にも関わる問題であり、まずは当事者であるディアスの意見を聞くべきではないかと提案したのである。

エルダンは既にゲラントを使者として送り、ディアーネ来訪の件をディアスへ知らせていた。そして、問題が無ければ今日中に返答が届くはずだと説明する。

犬人族の長は、ディアスの人柄から考えれば、おそらく――と続けようとしたところで、外から特徴的な羽音が響き始める。

ディアスからの返答

その直後、ゲラントが窓から飛び込んできた。疲労困憊の様子のゲラントを労いながら、エルダンはディアスからの返書を受け取る。

エルダンは席へ戻り、楽しげに手紙を読み始めた。ディアスの整った文字や詩のような文章を好んでいるエルダンだったが、読み進めるうちに、その声は驚愕へ変わる。

会議の参加者達が訝しむ中、獅子人族の長がゲラントへ内容を尋ねると、ゲラントは渋々ながら小声で答えた。

その手紙には、王命書の通りディアーネへ協力せよと書かれているのだと。

その言葉を聞いた長達は、一斉に驚愕の声を上げるのだった。

戦場となってしまった草原で ディアス

戦場に満ちる異様な空気

草原には、戦争が始まる直前特有の重苦しい空気が広がっていた。

ディアス達は草原東端でディアーネ軍と対峙していた。敵軍は中央にディアーネ直属の重装歩兵五十名、左翼に傭兵二百名、右翼にエルダン率いる千名規模の軍勢という、歪な陣形を形成していた。対するディアス側は、ディアスとクラウス、連絡役のエイマ、そして戦闘装備を施されたマーフ達十名のみだった。

マーフ達はクラウス考案の戦闘装備「竜牙のマスク」と「竜鱗のマント」を装備していた。アースドラゴン素材によって作られたそれらは、高い防御力と攻撃力を兼ね備えており、マーフ達は石を噛み砕き、クラウスの刺突を受け流す程の戦力へ成長していた。

エルダンへの複雑な信頼

クラウスは、これ程の戦力差なら鬼人族やアルナーの援軍を頼むべきだったのではないかと不安を口にした。だがディアスは、アルナーには村を隠蔽魔法で守る役目があり、鬼人族達にも守るべき村があると説明した。

さらにディアスは、エルダンが本当に敵なのか疑わしいと考えていた。エルダンは毎日のように鳩人族を通じてディアーネ軍の詳細情報を送り続けており、今朝になっても内通じみた手紙を寄越していたのである。

ディアス達は、エイマ考案の作戦に従い、落とし穴地帯へ敵を誘導しつつ、ディアーネだけを狙う奇襲を行う予定だった。しかしディアスは内心、最悪の場合は単騎でディアーネへ突撃する覚悟も決めていた。

畑を守る決意

ディアス達には村を捨てて逃げる選択肢も存在した。しかしそれは、セナイとアイハンが愛情を込めて育てている畑を捨てることを意味していた。

畑を育て始めてから、セナイ達は夜泣きをしなくなっていた。あの畑は二人にとって心の支えになっていたのである。その為ディアスは、家族としてその支えを守るべきだと決意していた。

不可解な戦鐘

やがて敵陣から巨大な戦鐘が運び出される。ディアスはそれを、かつて戦争初期に使われていた古い伝令用装置だと説明した。

戦鐘が激しく鳴り響き、中央の五十名が突撃を始める。しかし突撃した兵士達は途中で失速し、周囲を見回しながら立ち止まってしまった。左翼の傭兵達も右翼のエルダン軍も全く動かず、戦場は奇妙な膠着状態へ陥る。

その頃、右翼のエルダン軍では、白いテーブルや花瓶が並べられ、戦場とは思えぬ優雅なティータイムの準備が始まっていた。

エルダンの徹底した妨害

ディアーネの従者は、全軍突撃命令に従わないエルダンへ激しく抗議した。しかしエルダンは、今はティータイムが最優先だと平然と返答する。

エルダンは、自分は既に王命書通りに兵力や物資を提供しており、十分協力していると主張した。そして、たった二人しかいないディアス達へ千人の軍を向ける必要など無いと皮肉交じりに言い放った。

従者が怒鳴り続けても、エルダンは優雅に紅茶を飲み続け、ティータイムを終わらせようとはしなかった。

傭兵達の逃亡準備

左翼の傭兵隊長ゴードンもまた、ディアスの姿を見た瞬間から撤退を決意していた。

ゴードンは、ディアスとクラウスが戦場で数々の敵を屠った伝説的存在であり、たとえ勝てても大量の死者が出ると断言した。さらに、ディアスは多くの傭兵達にとって命の恩人であり、彼に手を出せば業界全体を敵に回すことになると語る。

その言葉に傭兵達は戦意を失い、撤退準備を始めた。ディアーネの従者が進軍を命じても、ゴードンは全く耳を貸さず、逆に金貨袋を押し付けて追い返してしまう。

ディアーネ軍の孤立

エルダン軍も傭兵達も動かず、孤立したディアーネは狂気じみた表情で戦鐘を打ち鳴らし続けた。

その叫びに追い立てられるように、中央の兵士達だけが士気低く進軍を開始する。ディアスはその様子に呆れ果てながらも、状況を見て作戦変更を決断した。

敵は五十余り、士気も練度も低い。それなら逃げ回る必要は無いと判断し、真正面から迎え撃って武装解除し、最後にディアーネを一発殴って目を覚まさせる方針へ切り替えたのである。

その宣言にクラウスとマーフ達は歓喜したが、エイマだけは危険だと必死に反対した。

しかしディアスは雄叫びを上げ、クラウスとマーフ達が一斉に駆け出す。こうして奇妙極まりない戦いの幕が上がるのだった。

イルク村の老婆達のユルトで マヤ

占いによる吉報

ユルトの中でマヤは、色とりどりの石を使った占いを行っていた。石達は布の上を不自然に動き、それぞれの位置へ収まっていく。結果を読み取ったマヤは、無事や吉報、大功といった良い兆しを確認しつつも、「反響」という結果だけを少し気に掛けていた。

その占い結果を聞いた犬人族達や老婆達は安堵し、マヤへの感謝を口にしながらそれぞれの仕事へ戻っていく。

村を守る犬人族達

その後マヤは、セナイとアイハンの畑を見張っている若い犬人族を見つけた。犬人族は、葉を齧ろうとする虫を監視していると言うが、実際にはただのてんとう虫であり、マヤはそれが畑を守る益虫であると教えてやる。

さらにマヤは、普段なら畑の世話をしているはずのセナイ達が居ないことに気付く。犬人族によれば、セナイとアイハンはフランシス達やマスティ族と共に村周辺の見回りへ出かけており、アルナーは犬人族達を連れてディアスの援護へ向かったという。

マヤは呆れながらも、村を守るという犬人族の言葉に安心し、その場で一緒に見張りを始めるのだった。

ディアス達の反撃

戦いが始まると、ディアスは雄叫びを上げて敵兵を怯ませ、その隙に突撃を開始した。

ディアスは戦斧の刃を使わず、石突きや柄、横腹などで敵兵を叩き、武器と戦意を奪っていく。敵兵達は次々に武器を落とし、恐怖のあまり地面へ伏していった。

しかし一部の兵士達は態勢を立て直し、陣形を組んで抵抗を始める。ディアスはここからが本番だと気を引き締め、全力で戦斧を振るい続けた。

エルダン達による戦況分析

戦場後方で遠眼鏡を覗いていたエルダンは、カマロッツへディアス達の評価を尋ねた。

カマロッツは、ディアスについて底知れない体力と圧倒的な膂力を持ち、手加減していてなお兵士を吹き飛ばす程の戦闘力を有していると評する。もし本気で戦えばどれ程の惨状になったか分からないと、恐怖を交えて語った。

一方クラウスについては、ディアスの隙を的確に埋め、戦場を舞うように駆けながら連携を成立させていると高く評価した。ディアスの動きを完全に読み切り、その補佐に徹している様子にエルダンも感嘆する。

さらに二人は、小型種の犬人族達の活躍にも驚かされていた。犬人族達は草原を駆け回り、兵士へ噛み付き、吠え声で混乱させながら戦場を翻弄していたのである。エルダンとカマロッツは、自分達が彼らを過小評価していたことを認めざるを得なかった。

追い詰められるディアーネ

その頃ディアーネは、軍が崩壊し、傭兵達にも見捨てられたことで完全に癇癪を起こしていた。

建国王の王笏を振り回しながら、ディアスもカスデクスも草原も全て燃やし尽くせと絶叫し、自身の激情を撒き散らす。戦いに勝ち続けるしか道が無かったにもかかわらず、最初の一歩で躓いた現実が、ディアーネの理性を崩壊させていたのである。

やがてディアスへ向かって突撃しようとした瞬間、何処からか飛来した矢が王笏を持つ右手を撃ち抜き、王笏は弾き飛ばされてしまう。何が起きたのか理解出来ないまま、ディアーネは恐怖と混乱へ呑み込まれていった。

アルナーとイルク村婦人会の介入

その矢を放ったのは、隠蔽魔法を用いて潜伏していたアルナーだった。

アルナーの周囲には、イルク村婦人会を名乗る犬人族達が集まっており、ディアーネへの対処方法を楽しげに相談していた。

アルナーは、まず矢でディアーネを落馬させ、その後は森へ追い込み、恐怖を徹底的に刻み込むと宣言する。そして実際に次々と矢を放ち、ディアーネへ傷を与えながら、カスデクス領東の森へ追い立てていった。

犬人族達もまた、アルナーの指示に従って王笏や戦利品の回収へ動き出し、戦場の裏側で静かに行動を開始するのだった。

森の中を駆けながら アルナー

森の中での追撃

風も無く湿気の籠もった森の中を、アルナーは隠蔽魔法で姿を消しながら駆けていた。

アルナーは弓を構え、恐慌状態で逃げ続けるディアーネへ矢を放ち続ける。矢はあえて身体を掠める程度に留められており、その目的は殺害ではなく、ディアーネへ徹底的な恐怖を刻み込むことにあった。

ディアスが人の死を極端に嫌っていることを理解しているアルナーは、その意志を尊重し、自分もまた殺さずに済ませようとしていたのである。

ナリウス達との遭遇

そんな中、ディアーネの進行方向に三人の男が現れる。

先頭に立つ黒髪黒目の男・ナリウスは、偶然にも標的へ出会えたと喜び、仲間達と共にディアーネを押さえ付け、縄で縛り上げた。

しかしその直後、森の中へ鋭い風切り音が響き渡る。

アルナーの放った矢がナリウス達を掠める形で飛来し、三人は即座に武器を構えて周囲を警戒し始めた。だが隠蔽魔法によって、射手の姿は何処にも見えない。

ディアスの名を出すナリウス

攻撃の主がディアス側の者だと察したナリウスは、即座に大声で呼び掛けた。

自分達は敵ではなく、リチャードの命を受けて来た者であり、ディアスを助ける側なのだと訴え、さらにリチャードがディアスのために用意した大量の金貨を掲げて見せる。

その言葉を受け、周囲に漂っていた殺気は徐々に和らいでいった。

ナリウスは、ディアーネはリチャードの手で裁かせるべきだと説得を続け、仲間達と共に武器を収める。やがて完全に敵意が消えたことを確認し、ディアーネを連れて立ち去ろうとした。

金貨だけを奪うアルナー

しかしその瞬間、再びアルナーの矢が飛来する。

矢はディアーネの腰の袋を掠め、大量の金貨が地面へと散乱した。

その意図を察したナリウスは、ディアーネは連れて行くが金貨は好きにしてくれと叫び、そのまま仲間達と共に逃走する。

こうしてナリウス達は、ディアーネを連れて森を去っていった。

アルナーの判断

一人残されたアルナーは、地面に落ちた金貨袋を拾い上げながら思案していた。

魂鑑定の結果では、ナリウス達は完全な悪人ではなく「赤みを帯びた白」であり、しかも最後までディアスへの敵意を抱いてはいなかった。

そのためアルナーは、彼らを敵として処理すべきか判断に迷う。

最終的に一人で結論を出すことを諦めたアルナーは、ディアスの下へ戻ることを決めた。

リチャードがディアスを案じて金を送ってきたこと、ディアーネの処分も引き受けるつもりであることを伝え、その後は疲弊したディアスのために料理を作るか、歌を聞かせるかなどを考えながら、アルナーは大量の金貨を抱えたまま軽やかに森を駆け戻っていくのだった。

戦いを終えて――ディアス

戦いの終結と違和感

ディアスは周囲を見回し、敵兵達から完全に戦意と武器を奪えたことを確認すると、深く息を吐きながら戦斧を地面へ突き刺した。

左翼の傭兵達は既に撤退し、中央軍も壊滅状態となっていた一方で、エルダン軍だけは最後までほとんど動かなかった。ディアスは戦いが自分達の勝利で終わったと判断する。

ディアーネを取り逃がしたことには不満を残したものの、仲間達が大きな怪我無く戦いを終えられたことをディアスは良い結果だと受け止めていた。自身の鎧は激しく損傷していたが、それだけで済んだことを安い被害だと考えていた。

また、戦闘後にもかかわらず妙に活力が溢れていることへ違和感を覚える。頭上ではエイマが元気よくディアスの頭を噛み続けていた。

エイマによる叱責

エイマは、相手を殺したくないのであれば落とし穴などの作戦を活用すべきだったとディアスを叱責した。指揮官であるディアス自身が最前線へ突撃して戦いに夢中になる危険性を指摘し、兵法を学ぶべきだと強く訴える。

ディアスは、かつての戦争では王国一の兵学者を自称する仲間へ指揮を一任し、自分達は敵陣突破だけを担っていたと説明した。

しかしエイマは、それだけ理解していながら無茶な戦い方を続けるディアスをさらに責め、セナイやアイハン、アルナー達のことを考えて無事に帰ることを優先して欲しいと強く訴えた。

エルダンの降伏交渉

そこへエルダンが従者達や荷車を引き連れて現れ、降伏と捕虜解放の交渉を申し出た。従者達は戦場とは思えない豪華な交渉席を手際よく設営していく。

困惑するディアスへ、エルダンは今回の出兵が王国法上では越境侵攻に当たるため、自分達はディアスへ正式に降伏し和解する必要があると説明した。

エイマは、エルダンは「降伏し和解した」という形式そのものを必要としているのだろうと推測し、受け入れて損は無いと助言する。

それを受けたディアスは降伏と和解を了承し、捕虜達もすぐに解放すると約束した。

王都交渉への布石

エルダンは、自分が今後王都へ赴き、今回の偽王命騒動における被害者として王へ補償交渉を行うつもりであると明かした。

ディアーネによる王命書偽造は、王の印章を盗まれた王家側にも責任があり、エルダンとディアスはその被害者という立場になるというのである。

さらにエルダンは、賠償という名目で大量の食料や布などをディアスへ引き渡そうとした。ディアスは恐縮したが、エルダンはどうせ後で王へ補償請求するつもりだから遠慮は不要だと笑った。

アルナーの帰還

その最中、隠蔽魔法を解除したアルナーが現れる。アルナーは、朝食へ興奮作用のある薬草を混ぜていたことを平然と明かし、現在のディアスの異様な活力はその影響だと説明した。

さらにアルナーは、ディアーネを追跡していた途中で「リチャード」というディアスの育て子の使者に遭遇し、ディアーネの身柄はその使者へ引き渡したこと、また大量の金貨を預かったことを告げる。

ディアスだけでなく、エルダンやカマロッツまで驚愕する中、日は傾き始めていた。これ以上長居は出来ないと判断した一行は、その場で解散することとなる。

イルク村への帰還

ディアス達は捕虜をエルダン側へ引き渡し、その代わりに賠償品を積んだ荷車を受け取った。

アルナーやクラウス、マーフ達と共に荷車を引き、シェフやベイヤースとも合流したディアス達は、セナイやアイハン、村の皆が待つイルク村へ向かって帰路につくのだった。

イルク村への帰路で ディアス

戦後の帰路と薬草の真相

ディアスは荷車を引きながら、アルナー達と共にイルク村への帰路を歩いていた。

戦闘前にアルナーが食事へ混ぜていた興奮作用の薬草の効能は、どうやら戦いの中で発散されたらしく、身体には大きな違和感が残っていなかった。激戦を終えたにしては疲労も軽く、ディアスはその効果へ驚きを覚える。もっとも、その薬草が子作り向けの薬草だと知った以上、今後積極的に使いたいとは思えなかった。

事情を聞くと、モールがアルナーへ「特別に元気になる薬草」だとしか説明しておらず、意図的に誤解を招いていたことが判明する。ディアスはアルナーを責めることはせず、代わりに後でモールへ苦情を言おうと考えるのだった。

イルク村婦人会による戦利品回収

帰路の途中、犬人族の女性達が次々とイルク村へ向かって走っていく姿が見える。彼女達は剣や槍、防具など、戦場で拾った武器類を口に咥えて運んでいた。

アルナーによれば、彼女達は「イルク村婦人会」の面々であり、戦闘終了を見計らって戦利品回収を任せていたのだという。

さらに婦人会の者達は、糧食や馬だけでなく、戦鐘まで回収していた。アルナーの主導で戦闘訓練も受けており、隠蔽魔法を使いながら戦場を見守り、有事には援護するつもりだったことをディアスは知らされる。

ディアスは無断行動を叱ろうとしたが、アルナーから「話を聞いてくれなかったディアスにも非がある」と返され、自分にも問題があったと反省するのだった。

王笏の正体

その最中、犬人族の女性がディアーネの持っていた赤い宝石付きの杖を運んでいる姿が目に入り、ディアスはその杖を見せてもらう。

アルナーは杖へ魔力を込めれば何か起こるのではないかと試みるが、杖は何の反応も示さなかった。落胆したアルナーは杖を投げ捨ててしまう。

ディアスは慌てて杖を受け止め、その際に戦斧を修理する時と似た感覚を覚える。試しに同じように力を込めると、杖の先端から巨大な炎が噴き上がり、渦を巻きながら空へと立ち昇った。

炎はやがて消えたが、その場にいた全員が驚愕し、クラウスやエイマ、アルナー、婦人会の面々までが大騒ぎとなる。

火点け杖としての利用

様々な検証の結果、その杖はアルナーが魔力を込めた上で、ディアスが力を流し込んだ時のみ火を吹くことが判明した。

最終的にディアスは、その杖を戦闘用ではなく「火点け杖」と名付け、竈の火起こしに使うことを決める。火打石よりも素早く簡単に火を点けられるため、村の者達からは大変好評だった。

特にセナイとアイハンは火点け杖を気に入り、毎朝竈へ火を点けて回るディアスの後を追いかけるようになる。ディアスは、いつか二人が成長したら杖を使わせてやりたいと考える一方、本当に使い方を教えられるのかと不安も抱くのだった。

一ヶ月後、王都

王都を揺るがす騒動と各勢力の変化

夏を迎えた王都は、ディアーネの反乱未遂事件によって騒然としていた。王の印章を盗み、建国王の王墓を荒らしたディアーネは捕縛され、第一王子リチャードの手によって王へ引き渡される。第二王子マイザーは騒動の余波で派閥が弱体化し、王の怒りを買って失脚寸前に追い込まれた。対照的にリチャードは大きく勢力を伸ばし、王国最大の派閥を築き上げることになる。

一方、エルダンは王への献上と告発によって厚い信頼を得て、正式な爵位継承と新たな家名を許される。さらにディアーネの件による被害への補償として、三年間の免税措置まで与えられた。

ディアスを巡る英雄譚の拡散

王都ではディアスに関する数多くの噂が飛び交っていた。

呪われた草原を聖なる斧で開拓したこと、アースドラゴンを単独討伐したこと、荒野へ街を築きつつあること、絶世の美女を妻として迎えたこと、さらには千を超える軍勢をたった二人で退けたことまで、あまりにも荒唐無稽な内容ばかりであった。

しかしエルダン自身が、それらの噂の多くは事実に近いと認めたことで、噂は王国中へと拡散していく。王はその功績を認め、孤児出身のディアスへ公爵位と新たな家名を与えることまで決定した。

各地へ広がる反響

ディアスの噂は王国各地で様々な波紋を呼び起こしていた。

北部の鉱山町では、ディアスの家族と思われる男女が、ディアスの結婚話を聞いて驚きつつも、かつて婚約者を自称していた女性が騒ぎを起こすだろうと予想し、草原へ向かう決意を固めていた。

また別の街では、二十年以上前からディアスと結婚するつもりだったという女性店主が、店を畳んででもディアスの元へ向かうと宣言し、周囲を呆れさせる。

さらに神殿では、ディアスの父親らしき老神官が、長らく消息不明だった息子を殴りに行くと息巻きながら旅立とうとしていた。

羊達までもが柵を破って逃走する騒ぎを起こし、各地で混乱が広がっていく。

失脚したマイザーの執念

王宮では、失脚寸前となったマイザーが暗い部屋でディアスへの憎悪を募らせていた。

戦時中から自分の邪魔をし続けた存在だと断じ、今回の件で完全に「天敵」だと認識したマイザーは、自らの手でディアスを排除する決意を固める。派閥再建のためには金が必要だと考え、何者かへ援助を求める手紙を書き始めるのだった。

リチャードとエルダンの政治的駆け引き

リチャードのダンスホールでは、ナリウスが不機嫌なリチャードについてガレスへ尋ねていた。

ガレスによれば、リチャードは今回最大の勝者はエルダンだと考えていた。エルダンは王へ、領地継承やディアスへの爵位授与だけでなく、カスデクス領とネッツロース領の三年間免税まで要求し、それを認めさせていたのである。

さらにエルダンは謁見の場でリチャード支持を表明したため、リチャード側は対外的にエルダンを味方として扱わざるを得なくなった。その結果、迂闊に免税撤回や圧力をかけられない状況へ追い込まれ、リチャードは強い苛立ちを抱えていた。

ナリウスはその複雑な政治状況を完全には理解出来なかったが、自分の仕事が増えることだけは確信し、内心でほくそ笑むのだった。

復讐者の転落

かつてディアスに敗北し、復讐を誓っていた男は、マイザーの支援を受けて様々な策を講じていた。しかしディアスが千もの軍勢を味方につけたことで全ての計画は崩壊し、資金も人脈も失ってしまう。

男は浮浪者同然となりながらも復讐心だけは捨てられず、街角でディアスへの呪詛を吐き続けていた。

噂が草原へ向かう終幕

こうして王国中で生まれた様々な反響と噂は、西方へ、草原へ、そしてディアスの元へと広がっていく。

それぞれの人物達の思惑や感情を乗せながら、王国全土は新たな動乱へ向けて動き始めるのだった。

書き下ろし双子の祈り

柔らかな風の吹く草原でセナイとアイハン

セナイ達の見回りと家族への想い

ディアス達がディアーネ軍と戦っている頃、セナイとアイハンはシーヤとグリに跨がり、犬人族達と共にイルク村周辺の見回りを続けていた。

本来であれば、仲の良い犬人族達と草原を駆ける時間は楽しく幸福なものであった。しかしこの日の2人は、イルク村を守るのだという強い責任感を胸に秘めながら草原を走っていた。ディアスやアルナー、フランシス達や村人達、そして馬達まで、皆のことを大切に思っているからこそ、村を守りたいという想いはとても大きなものとなっていたのである。

戦場へ行けない悔しさ

セナイとアイハンは、弓が完成していれば自分達も戦えたのにと悔しさを滲ませていた。

最近2人はアルナーから弓術を教わっており、その腕前を高く評価されていた。もう少し上達すれば専用の弓を作って貰える予定だったため、自分達もディアス達と共に戦えたかもしれないという思いが抑え切れなかったのである。

それでも2人は、自分達に出来る役目として見回りに徹しようと決め、シーヤとグリへ想いを伝えながら草原を駆け続けていた。

友を置き去りにした反省

風と馬と一体になって走るうちに、セナイとアイハンは見回りの目的を忘れかけてしまう。

どこまでも行けるような感覚に包まれた2人は、亡き両親の元へ行きたいという想いまで抱いてしまっていた。その感情を受け取ったシーヤとグリは突然足を止め、後方を振り返る。

そこには、追いつこうとして疲弊し切った犬人族達の姿があった。

その瞬間、セナイとアイハンは自分達が仲間を置き去りにしていたことに気付き、強い恥ずかしさを覚える。2人は慌てて犬人族達へ駆け寄り、一人一人へ謝罪しながら抱き上げ、シーヤとグリへ乗せて休ませてやるのだった。

ディアスの娘としての自覚

落ち込みながら歩いていたセナイとアイハンは、自分達が「ディアスの娘」と口にしていたことに気付く。

これまで心の中では家族だと理解していても、実際に言葉へすることは出来なかった。しかしその言葉を口にした瞬間、温かく懐かしい幸福感が2人を包み込む。

以前ディアスは、亡き両親を忘れる必要はなく、その上で自分達のことも家族として大切に思えば良いと言っていた。その意味をようやく理解した2人は、幸せそうに微笑み合うのだった。

祈りながら続けた見回り

それ以降、セナイとアイハンは疲労を押して見回りを続けた。

犬人族達と交代で休憩を取りながら、シーヤとグリも労りつつ、家族の居場所を守るために頑張り続ける。そしてディアス達の勝利と無事を、亡き両親へ何度も祈っていた。

祈りは心を支える大切なものだと、ディアスから教わっていたからである。

勝利の報せ

夕方になると、戦場の方角から戦利品を咥えた婦人会の面々が戻って来る。

それを見たセナイとアイハンは、疲れを忘れて駆け寄り、ディアス達の無事を尋ねた。

婦人会員達は、ディアス達が勝利し、怪我人も死者も出ていないことを簡潔に伝える。その報告を聞いた2人は歓喜し、すぐに村中へ駆け回って皆へ知らせ始める。

ディアス達が勝ったこと、皆が無事で帰って来ることを叫びながら、セナイとアイハンは帰還までの間、元気いっぱいに村中を走り回るのだった。

特別書き下ろし。魅惑の蜂蜜

倉庫の側で セナイとアイハン

蜂蜜を求めた倉庫潜入

セナイとアイハンは、倉庫の側で身を屈めながら誰にも見つからないよう慎重に動いていた。

二人の目的は、隣領の領主エルダンから贈られた蜂蜜だった。花の香りが広がる甘い蜂蜜は、二人にとってくるみ以上の大好物であった。しかしディアスは、食べ過ぎは毒になるとして壺を倉庫の奥へしまい込んでしまっていた。

まだたっぷり残っているのに隠されてしまったことへ不満を抱いた二人は、蜂蜜を取り戻そうと倉庫へ忍び込む。自分達だけではなく皆と一緒に食べるのだから悪いことではないはずだと考えながら、二人は蜂蜜の壺へ近付いていった。

アルナーによる捕縛と説教

蜂蜜へ手が届きそうになった瞬間、アルナーが現れて二人を捕まえる。

倉庫の掃除をしていたアルナーは、勝手に倉庫へ入ったことや、盗みを企んだことを厳しく叱り飛ばした。

セナイとアイハンは悪気こそなかったものの、素直に謝罪し、しょんぼりと反省する。そんな二人の態度を見たアルナーは苦笑し、自分も子供の頃に同じようなことをしたと語るのだった。

秘密の蜂蜜持ち出し

アルナーは、そっと人差し指を唇へ当て、静かにするよう二人へ伝える。

そして自ら蜂蜜の壺を抱え込み、足音を立てないよう静かに倉庫の外へ持ち出し始めた。

その様子を見たセナイとアイハンは、満面の笑みを浮かべながらアルナーの真似をして後をついていく。叱られた直後にもかかわらず、三人はまるで共犯者のように楽しげに行動していた。

蜂蜜尽くしの夕食

その夜の夕食は、蜂蜜を使った豪華な献立となった。

蜂蜜を和えたくるみ炒め、蜂蜜入りの焼きパン、蜂蜜を塗った黒ギー肉、さらに一人一口分の蜂蜜まで用意され、食卓は甘い香りに包まれる。

料理を口にした者達は皆笑顔となり、蜂蜜を倉庫へしまい込んだディアスですら事情を察しながら穏やかな表情を浮かべていた。

中でもセナイとアイハン、そしてアルナーの三人は特に楽しそうであり、食卓には三人の笑い声がいつまでも響き続けるのだった。

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