物語の概要
■ 作品概要
本作は、中華風の王宮を舞台に、正体を隠して「后」と「男装の医官」の二重生活を送る少女の活躍を描いたアジアン・ファンタジーの第2弾である。天術(先読み)を司る皇帝が統治し、独自の術を収める四つの領地(玄武・青龍・朱雀・白虎)からなる国「伍尭國」を世界観のベースとしている。
【あらすじ】 身代わりとして皇帝・黎司(レイシ)に嫁いだ玄武の后・鼓濤(董胡)は、お互いの正体を知らぬまま薬膳を通じて皇帝と心を通わせ、王宮での居場所を少しずつ見つけていた。ある日、皇帝の「先読み」の力により、妓楼街として栄える南都「朱雀」に謎の病が流行るという予言がもたらされる。董胡は薬膳師として調査を命じられ、かつての師匠ト殷や兄弟子の楊庵が残した手がかりを胸に朱雀へ赴く。そこで彼女は、朱雀の一の后・朱璃やその弟・旺朱と協力しながら、花街に蔓延する奇病の解明と陰謀の阻止に立ち向かう。
■ 主要キャラクター
- 董胡(とうこ) / 鼓濤(ことう) / 紫竜胆(むらさきりんどう) 本作の主人公。人が欲する味や体調の乱れを「五色の光」として感知できる能力を持つ。男装の医官「董胡」(大朝会での偽名は董麗)と一の后「鼓濤」の二重生活を送る。今作では朱雀の病の原因を探るため、高級妓楼「雅舫楼」にて最高級妓女「上楼君・紫竜胆」になりすます一人三役の綱渡りをこなす。
- 黎司(れいじ) / レイシ 伍尭國の第十七代皇帝。董胡の薬膳により心身を整え、真の「先読みの天術」を覚醒させた。朱雀に蔓延する謎の病のビジョンを視て、秘密裏に董胡へ調査を託す。昼の明るい光の中で顔を合わせた際、董胡に憧れの「レイシ」本人であると確信される。
- 朱璃(しゅり) / 光貴人(ひかりきじん) 朱雀から輿入れした一の后。元々は妓楼で育ち、紅拍子(男装の舞妓)のスター「光貴人」として奔放に生きていた。皇子の出産や皇后の地位には全く興味がなく、幼い頃に出会った初恋の女性「濤麗」の行方を捜すために后宮に入った。
- 旺朱(おうしゅ) 朱璃の弟であり、朱雀公の息子。しかし姉と同じく平民の気楽さを好み、軽業師「傀儡法師」の一団を率いて活動しながら、高級妓楼「雅舫楼」の楼主代理も務めている。朱雀の闇を探るため董胡たちと協力関係を結ぶ。
- 楊庵(ようあん) 董胡の兄弟子。董胡が女性であることを知る数少ない理解者である。董胡を守りたい一心で王宮の内医司に入り、使部として朱雀への潜入調査に同行する。
- 偵徳(ていとく) 麒麟寮の医師であったが、王宮の内医司に平民医官として推挙される。裏に潜む権力者へ一矢報いるため、そして弟子の董胡の消息を探るために王宮へ入り、朱雀の調査を指揮する。
- 禰古(ねこ) 朱璃付きの侍女頭。奔放な朱璃に小言を言いつつも深く慕っており、彼女が真の皇后になることを夢見ている。
- 夕霧(ゆうぎり) 高級妓楼「雅舫楼」の上楼君だったが、後に降格させられた妓女。客を引き寄せるために、謎の「若君」から手渡された特別な香(阿芙蓉)を使用していた。
- 若君(わかぐみ) 雅舫楼の一番の上客とされる、狐目の謎の貴族。夕霧らを「阿芙蓉」の中毒にして操り、客から大金を巻き上げ、朱雀の地を蝕もうと暗躍する。さらに神経を狙う特殊な鍼術を用いて戦う冷酷な技の使い手である。
■ 物語の特徴
ついに確信された「レイシ」の正体と、交錯する夢 董胡は、明るい陽光のもとで見た皇帝の素顔が、かつて再会を誓い合った命の恩人「レイシ」その人であると確信する。お互いに強い信頼と好意を抱きながらも、正体を偽り「嘘」をつき続けなければならない二人のもどかしいロマンスや、それぞれが胸に抱く「薬膳師としての夢」「平民が平等に生きられる世を作る夢」がより深く掘り下げられる。
后×医官×妓女の「一人三役」による緊迫のスリリング・サスペンス 前作での「一の后」と「男装の医官」の二重生活に加え、今作では病の真相を暴くために「最高級妓女・紫竜胆」としての身分を演じることになる。いつ誰に女であることが、そして后であることが露見するか分からない、綱渡りのような三重生活が独特の緊張感を生み出している。
「阿芙蓉(アヘン)」による奇病と、薬膳・生薬の知恵を用いた解決プロセス 朱雀の妓楼を蝕む病の正体は、強い依存性と高揚感をもたらす劇薬「阿芙蓉(極楽金丹)」の煙を吸い込んだことによる中毒症状である。董胡は、味覚の好みが極端に可視化される「五色の光の活性化とその後の消失」という独自の観察眼から病の正体を見抜き、竜胆(リンドウ)や十薬(ドクダミ)を用いた薬膳と解毒の知恵で人々を救っていく。
后同士の爽快なシスターフッド(女性同士の友情) 一の后としての寵愛を争うはずの朱雀の后・朱璃と董胡が、敵対する関係を超えて、お互いの本性を認め合い無二の友となっていく過程が魅力的に描かれる。宮廷の格式張ったルールを嫌う朱璃の奔放なキャラクターが、物語に爽やかな風を吹き込んでいる。
読んだ本のタイトル
皇帝の薬膳妃 朱雀の宮と竜胆の契り
著者:尾道 理子 氏
出版社:KADOKAWA(角川文庫)
発売日:2022年4月21日
ISBN:9784041124888
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あらすじ・内容
朱雀の地にはびこる病の謎を解け! 壮麗なるアジアン・ファンタジー絵巻
幼い頃に会った謎の麗人「レイシ」の専属薬膳師になることを夢見て、
性別を男子と偽って医学を学ぶも、陰謀に巻き込まれ、正体を隠して皇帝の妃となった董胡。
お渡りの日、薄闇で見た皇帝の顔は、憧れの麗人「レイシ」にそっくりだった……。
動揺する董胡だが、王宮で、伍尭国の南都・朱雀から輿入れした朱璃姫と仲良くなり、徐々に居場所を見つけていく。
ある日、皇帝の「先読み」の力で、朱雀の地に謎の病が流行る、との先触れがあった。
董胡は薬膳師として勅命を受け、調査へ赴くことになったが、そこで思いもよらない出会いが――。
朱雀の地にはびこる、謎の病の原因は!?
謎の麗人・レイシの正体は、いったい誰なのか――。
物語が大きく動き出す! 壮麗な一人二役アジアンファンタジー絵巻。
感想
前巻では、男装して薬膳師を目指していた董胡が、玄武公の娘・鼓濤として皇帝へ嫁がされるという急激な運命の変化が描かれた。
董胡は玄武の一の后である鼓濤、侍女頭代理の董麗、男装した専属医官の董胡という複数の姿を使い分けながら、何とか王宮で生き延びている。
本巻では、そこへ朱雀の妓楼で働く妓女見習い・紫竜胆という新たな立場まで加わる。
ただでさえ正体が知られればすべてを失いかねない状況なのに、董胡は皇帝・黎司の先読みに現れた流行り病を調べるため、朱雀の都へ向かう。
王宮内のすれ違いを描いた前巻から一転し、今回は潜入調査や薬物事件、戦闘まで加わった冒険色の強い物語となっていた。
それでも中心にあるのは、董胡が薬膳師として誰かを助けたいという思いである。
危険だと分かっていても、病に苦しむ人々を見過ごせない。
その真っ直ぐさと危うさが、強く印象に残る一冊だった。
朱雀の后に嫉妬してしまう董胡
物語は、五穀豊穣を祝う神嘗会から始まる。
皇帝の訪問が最も多かった玄武の后・鼓濤は宴へ呼ばれず、代わりに朱雀の一の后だけが招かれていた。
茶民と壇々は、以前董胡が皇帝から逃げるように御簾の奥へ隠れたことで、寵愛を失ったのだと心配する。
董胡自身は、皇帝が訪ねてこなくなれば正体を隠しやすくなるため、むしろ都合がよいと考えていた。
しかし、皇帝が美しい朱雀の后を気に入ったのではないかと聞くと、胸の奥に痛みを感じてしまう。
この時点で董胡は、皇帝が五年前に出会ったレイシ本人ではないかと疑っている。
もしも皇帝がレイシであれば、玄武公の娘として嫁いだ鼓濤が彼から愛情を向けられてはならない。
董胡はそう考えながらも、レイシが別の女性へ心を寄せているかもしれないと思うと、素直に喜ぶことができない。
自分の感情を醜いものだと思い、必死に否定しようとする姿が切なかった。
董胡は、自分がレイシの専属薬膳師になりたいだけであり、恋愛感情ではないと思い込もうとしている。
しかし、皇帝と朱雀の后の関係が気になってしまう時点で、その思いはすでに忠誠や憧れだけでは説明できなくなっている。
本人だけが自分の気持ちへ追いついていないところが、もどかしくも面白かった。
三人だけの神嘗会に感じる温かさ
華やかな宴へ招かれなかった董胡たちは、后宮で三人だけの神嘗会を開く。
壇々には芋や栗、南瓜といった甘い食材を用意し、辛いものが好きな茶民には豆板辣油を作る。
茶民がどの料理にも激辛の豆板辣油をつけて喜び、甘党の壇々が同じものを食べて悲鳴を上げる場面には思わず笑ってしまった。
帝の寵愛や后宮の序列を巡る緊張の中でも、三人で食卓を囲む時間だけは穏やかである。
本来なら一の后と侍女という厳しい身分差がある。
しかし董胡は、自分だけが豪華な料理を食べるのではなく、茶民や壇々と同じ料理を分け合う。
相手が何を美味しいと感じるのかを見つけ、それぞれに合った味へ整える。
董胡にとって薬膳は、病気を治すためだけのものではない。
相手を知り、距離を縮めるための手段でもある。
前巻では利害関係から始まった三人が、今では本当の家族のように食卓を囲んでいる。
権力争いばかりの王宮において、この小さな食事の時間が大きな救いになっていた。
平民と貴族、それぞれが抱く夢
三人の会話では、平民と貴族が考える幸せの違いも描かれる。
董胡は、貧しい生活であっても、自分の好きな医術を学び、薬膳師になる夢を追っていた頃は幸せだったと語る。
男装していたため、普通の貴族女性には許されない自由もあった。
働き、外を歩き、季節の行事を楽しみ、自分の力で進む道を選ぶことができた。
一方、茶民と壇々にとっての夢は、よい家へ嫁ぎ、豊かな生活を送ることである。
董胡には、誰かに見初められるのを待つだけの夢に見える。
しかし二人にとっては、良縁を得るために有力な家へ仕え、主人から信頼され、美しく見せる努力を続けることも、自分の力で未来を掴む行為だった。
この会話が興味深かった。
董胡は、自分で職業を選び、技術を身につけることを夢だと考える。
茶民と壇々は、身分社会の中で許された範囲から、少しでもよい未来を得ようとしている。
どちらが正しいという話ではない。
生まれた環境によって、思い描ける夢の形そのものが違うのである。
誰もが身分や性別に関係なく夢を持てる世を作るという董胡と黎司の約束が、どれほど難しいことなのかを改めて感じさせる場面だった。
董胡を捜し続ける楊庵
本巻では、董胡が王宮へ連れ去られた後の楊庵の様子も描かれる。
董胡とト殷が同時に姿を消し、治療院まで荒らされていた。
楊庵は、医師試験で董胡に敗れた雄武が何かしたのではないかと疑い、彼へ掴みかかる。
取り巻きたちに殴られ、蹴られても、董胡のいない世界に未練はないと言い放つ姿は痛々しかった。
普段は明るく、少し頼りない兄弟子のように見えていた楊庵だが、董胡への思いは想像以上に深い。
楊庵は、いつか自分が医師免状を取り、董胡と一緒に治療院を開きたいと願っていた。
董胡が女であることを隠して危険を冒さなくても、自分の妻として薬膳の研究を続けられる場所を作りたいと考えていたのである。
ただし、その未来は董胡が本当に望んでいるものとは少し違う。
董胡は誰かの妻として医術へ関わりたいのではなく、自分自身が医師免状を持つ薬膳師になりたい。
楊庵の気持ちは真剣で優しいが、董胡の夢を完全には理解できていないところも興味深かった。
それでも、董胡が残した冬虫夏茸を守り、二度と王宮から出られない可能性を承知で捜しに行く決断には胸を打たれた。
自分の人生を捨てる覚悟をしてでも助けたいと思うほど、楊庵にとって董胡は大切な存在だったのである。
自由で美しい朱雀の朱璃姫
本巻で新たに登場する朱雀の一の后・朱璃も、強く印象に残る人物だった。
朱璃の后宮は、黒を基調とした重厚な玄武の宮とはまったく異なる。
朱色の柱、白砂の庭、太鼓橋、美しい吊り燈籠。
中庭には舞台があり、華やかな舞妓たちが日常的に舞っている。
まるで別世界へ迷い込んだような光景に、董胡が圧倒されるのもよく分かる。
さらに董胡は、舞台で勇壮な舞を披露する美しい紅拍子に目を奪われる。
その舞人こそ、朱雀の一の后である朱璃本人だった。
朱璃は貴族の姫として育ったのではない。
妓楼を営む父と舞妓の母の間に生まれ、紅拍子として舞台へ立つことを夢見ていた。
ところが父が突然朱雀公となり、母は離縁され、朱璃も一の后として王宮へ送られてしまう。
董胡と朱璃は、生まれも性格も違う。
それでも、自分の望まない形で高い身分を押し付けられた点ではよく似ている。
董胡は医師として生きたかった。
朱璃は紅拍子として舞いたかった。
二人とも、権力者たちの都合によって自分の人生を変えられている。
そのため董胡が朱璃へ急速に親しみを覚える流れには納得できた。
朱璃もまた、董胡の顔にかつて想いを寄せた濤麗の面影を見つけ、強い関心を抱く。
互いに秘密を持ちながらも、表面的な后宮の争いを越えて理解し合っていく二人の関係が心地よかった。
帝の寵愛を争わない朱璃
朱璃が黎司と親しくしていた理由も、董胡の想像とは異なっていた。
黎司が朱雀の后宮へ通っていたのは、朱璃へ寵愛を向けていたからではない。
朱雀の妓楼で原因不明の病が流行する未来を先読みし、秘密裏に対策を相談していたのである。
公に発表すれば、病の原因となる者たちへ気づかれ、かえって解決が難しくなる。
そのため黎司は、朱雀の一の后である朱璃だけに事情を伝えていた。
朱璃自身も黎司と恋愛関係になるつもりはない。
二人は皇帝と妃というより、互いの事情を理解する友人のような関係になっている。
朱璃は、黎司が噂されるような残虐なうつけではなく、真面目で不器用な人物だと見抜いている。
さらに、黎司が玄武の后を気にかけていることまで指摘する。
当の董胡だけが、そんなことはないと必死に否定しているのが面白かった。
朱璃は人の感情に鋭い。
一方の董胡は、薬膳や体調の変化には敏感なのに、恋愛感情となると驚くほど鈍い。
この対照的な二人の会話には、何度も笑わされた。
竜胆の苦味がつなぐ信頼
朱璃とのお茶会で董胡が用意したのは、竜胆を加えたわらび餅だった。
竜胆には強い苦味があり、毒見役や侍女たちは顔をしかめる。
しかし酒を好む朱璃は、その苦味を気に入り、次々に食べていく。
董胡は朱璃が放つ味の色から、酒によって肝臓へ負担がかかっていることを見抜いていた。
朱璃が王宮へ来てから疲れやすくなり、眠気を感じていたのも、慣れない生活と飲酒による影響が重なっていたのだろう。
董胡はただ薬効を説明するのではなく、朱璃が好む苦味へ整えて食べやすい形にする。
この場面にも、董胡らしい薬膳師としての考え方が表れていた。
竜胆は苦い。
普通なら食べにくい生薬である。
しかし、その苦味を必要とする人にとっては美味しく感じられる。
朱璃の体を整えるために使われた竜胆が、後に董胡の妓女名である紫竜胆へつながっていく構成も印象的だった。
美しい花でありながら、根には強い苦味と薬効がある。
華やかな妓女の姿を演じながら、内側では医師として事件を追う董胡に重なる名前だと感じた。
皇帝がレイシだと確信する瞬間
朱璃は、玄武の一の后付き医官・董胡を朱雀へ派遣してほしいと求める。
しかし目の前にいる侍女頭・董麗こそ、その董胡本人である。
さらに一の后・鼓濤も同一人物であるため、朱璃の依頼を受ければ正体が露見する危険が高い。
董胡は一度断るが、朱璃は玄武の后本人をお茶会へ招き、黎司から直接頼んでもらうという作戦に出る。
董胡は茶民を鼓濤の替え玉として御簾へ座らせ、自分は董麗として朱璃と話す。
そこへ黎司が現れたことで、慌てて自分が鼓濤の姿へ戻らなければならなくなる。
ただでさえ危険な一人芝居である。
しかし、その混乱の中で董胡は、昼の明るさの中ではっきりと皇帝の顔を見る。
そして、皇帝・黎司こそ、五年前に生きる約束を交わしたレイシ本人であると確信する。
前巻から続いていた大きな疑問が、ようやく一つ解消される瞬間だった。
董胡にとってレイシは、薬膳師を目指す理由そのものである。
その人物が、自分が妃として嫁いだ皇帝だった。
しかも黎司は、朱雀の民を救うため、董胡の力を必要としている。
危険を恐れて一度は断った董胡も、レイシから求められたことで調査へ向かう決意を固める。
この決断には、董胡のレイシへの強い思いが表れている。
ただし、その思いが強すぎるからこそ、危険へ向かうことを止められない。
薬膳師としての使命感と、レイシの役に立ちたいという個人的な願いが重なり、董胡をさらに危うい場所へ進ませているようにも感じた。
楊庵、偵徳との再会
朱雀へ向かう董胡は、皇帝の密偵として派遣された楊庵と偵徳に再会する。
楊庵は董胡を捜すため、偵徳とともに王宮へ入っていた。
ようやく無事な姿を確認できた楊庵の安心は、どれほど大きかっただろうか。
董胡にとっても、家族のように暮らした兄弟子との再会は大きな喜びだった。
特に印象に残ったのは、楊庵が荒らされた治療院から董胡の冬虫夏茸を守り、持ってきてくれた場面である。
董胡にとって冬虫夏茸は、幼い頃から集めていた大切な宝物だった。
楊庵自身は見た目を気味悪がっている。
それでも董胡が大事にしていたからこそ、危険な王宮まで持ってきてくれた。
董胡は嬉しさのあまり楊庵へ抱きつく。
しかし楊庵の恋心にはまったく気づかず、妓楼で遊んでもよいと勧めてしまう。
ここまで鈍いと、楊庵が気の毒を通り越して少し笑えてしまう。
ただ、董胡の心にはレイシの存在があまりにも大きい。
楊庵を家族として大切に思っていても、恋愛の相手として見る余地がないのだろう。
楊庵の一途な思いと、董胡の無自覚な残酷さが重なる場面だった。
妓楼に潜む流行り病の正体
董胡、楊庵、偵徳の三人は、朱雀の高級妓楼・雅舫楼へ潜入する。
当初は疱瘡や寄生虫などの病気が疑われていた。
しかし妓女たちの肌や顔色に異常はなく、妓楼の衛生状態にも大きな問題はない。
そこで浮かび上がったのが、突然多くの客から異常な人気を集めるようになった妓女・夕霧の存在である。
夕霧へ夢中になった客たちは、店や財産を手放してまで金を用意しようとする。
妻子を捨て、危険な手段で金を稼ごうとする者まで現れる。
これは恋愛感情や妓女への入れ込み方としても明らかに異常である。
董胡たちは、夕霧が焚いていた香の正体が阿芙蓉ではないかと疑う。
阿芙蓉は、痛みを和らげ、強い高揚感を与える。
しかし効果が切れると、深い絶望や倦怠感に襲われ、再び快感を求めずにはいられなくなる。
それが極楽金丹という形で妓楼へ持ち込まれ、客や妓女たちを依存させていたのである。
帝の先読みに現れた流行り病とは、感染症ではなかった。
薬物によって人々の心と生活が壊れていく現象だったのである。
病気という言葉を、体に現れる症状だけに限定しなかったところが興味深かった。
快楽の後に残る絶望
偵徳は、黒い丸薬が本当に阿芙蓉なのか確かめるため、自ら煙を吸ってしまう。
古傷の痛みが消え、踊りたくなるほどの高揚感に包まれる。
しかし薬効が切れると、痛みや頭痛、倦怠感が一気に押し寄せる。
楊庵もわずかに煙を吸い、普段なら言えない董胡への思いを口にしかける。
この描写から、極楽金丹が単に気持ちよくなる薬ではないことが伝わってくる。
苦痛や不安を一時的に消す。
普段抑え込んでいる感情まで解放する。
しかし、その後に現実が何倍も重くのしかかる。
もう一度あの快感を得なければ耐えられないと思わせるところに、依存の恐ろしさがある。
董胡の目には、阿芙蓉が効いている時には五味を示す色が異常なほど強く見え、効果が切れると色そのものが消えてしまう。
人間が本来持っている食欲や感情の波を、薬が強引に増幅し、その後すべてを奪っていく。
董胡の特殊な能力によって、依存症の変化が視覚的に描かれているところが分かりやすかった。
妓女見習い・紫竜胆への変装
夕霧の部屋を調べるため、董胡は女性の姿へ変装し、妓女見習いとして潜入する。
男装した医官として暮らしてきた董胡が、今度は華やかな妓女の姿になる。
一の后であり、侍女頭であり、男装医官でもある董胡が、さらに紫竜胆という妓女を演じる。
ここまでくると、一人何役なのか分からなくなるほどである。
しかも妓楼の者たちは、董胡が本当に男性なのか疑い始める。
女性だと知られれば、男装して医師資格を得た罪を問われる可能性がある。
董胡の美貌を気に入った謎の若君からは、妓女としての最初の客を迎える破瓜儀礼まで命じられてしまう。
調査のためとはいえ、あまりにも危険な状況だった。
それでも董胡は、自分の身を守ることだけを考えて逃げるのではなく、若君と阿芙蓉の関係を突き止めようとする。
危険を承知で事件の中心へ踏み込む姿は頼もしい。
一方で、楊庵が止めても若君を追い続け、敵に囲まれてから自分の無謀さを後悔する場面もある。
董胡の正義感は大きな魅力だが、自分の限界を考えずに行動してしまう危うさもある。
誰かを救うためなら自分を犠牲にしてもよいという考え方は、レイシへ生きてほしいと願った董胡自身が最も避けるべきものなのかもしれない。
若君が広める極楽金丹
極楽金丹を広めていた中心人物として浮かび上がるのが、狐のような目を持つ若君である。
若君は夕霧へ薬を売らせ、依存した客から金を巻き上げていた。
夕霧が上楼君となって指名料を高く取るようになると、薬を買う金が減ってしまう。
そのため若君は夕霧を降格させ、代わりに董胡を新たな上楼君へ押し上げようとする。
夕霧も董胡も、若君にとっては金を稼ぐための道具でしかない。
薬によって客を支配し、妓女も恐怖で縛りつける。
人間の弱さや欲望を利用し、使えなくなれば捨てる姿には強い嫌悪を覚えた。
さらに若君は、阿芙蓉を単なる金儲けのためだけに広めていたわけではない可能性がある。
朱雀の街へ大量に流通させれば、人々は働けなくなり、財産を失い、領地そのものが弱体化していく。
背後には、朱雀を混乱させようとする大きな組織の存在が感じられる。
前巻の玄武公による政治的な陰謀とは異なり、今回は薬物を使って庶民の生活から領地を崩壊させようとしている。
宮廷内の争いが、王宮の外で暮らす人々へどのような被害を与えるのかが描かれていた。
朱璃と旺朱が守ろうとする朱雀
董胡たちが若君を追い詰める際、協力者となるのが朱璃の弟・旺朱と、軽業師の一団である傀儡法師だった。
旺朱は朱雀公の息子でありながら、堅苦しい貴族の生活を離れ、軽業師として暮らしている。
朱璃が紅拍子として生きたいと願っているように、旺朱もまた自分の好きな道を選んでいる。
二人とも貴族らしさから外れているが、自分たちの領地や人々を大切に思っている。
朱璃は王宮に座って報告を待つだけではない。
紅薔薇貴人の舞人と入れ替わり、自ら朱雀へ戻って事件の様子を確かめている。
旺朱も配下を率い、妓楼や山中の隠密集団を調べていた。
一の后や朱雀公の子供という地位に頼るのではなく、自分の足で現場へ向かう。
その姿勢は董胡とよく似ている。
玄武公が他人を駒として動かす人物であるのに対し、朱璃や旺朱は自分も危険な場所へ立つ。
朱雀の姉弟が多くの人から慕われている理由が分かるように感じた。
紫竜胆として若君へ立ち向かう
董胡は、紫竜胆の破瓜儀礼を利用して若君をおびき出す。
若君が部屋へ入ると、旺朱や楊庵、傀儡法師たちが現れ、逃げ道を塞ぐ。
董胡は阿芙蓉を広めた罪を追及するが、若君は夕霧が勝手に売っただけだと言い逃れる。
さらに、自分は高位貴族であり、平民には捕らえられないと嘲笑する。
悪事の証拠があっても、身分の低い者には裁けない。
この世界の権力構造を利用した態度が腹立たしかった。
しかし若君は、追い詰められても簡単には捕まらない。
長刀を持つ相手の攻撃をかわし、密かに鍼を投げて腕を痺れさせる。
さらに禁鍼穴を狙い、人を昏倒させる。
董胡は、相手が特殊な鍼術を使っていることを見抜く。
医術は本来、人を治すためのものである。
その技術を傷つけ、支配し、命を奪うために使う若君へ、董胡が激怒するのも当然だった。
薬膳や鍼は、使う人間によって救いにも凶器にもなる。
玄武が誇る医術の力が、阿芙蓉や攻撃用の鍼という形で悪用されている。
医術そのものが善なのではなく、誰が何のために使うのかが重要なのだと考えさせられた。
完全には終わらない事件
董胡たちは阿芙蓉の流通を止め、多くの中毒者を集めて治療を始める。
しかし、依存を簡単に治せる特効薬はない。
十薬茶を飲ませ、体から毒を排出しながら、強い離脱症状に耐えてもらうしかない。
薬を断てばすぐ元通りになるわけではなく、回復には時間と本人の意志が必要になる。
この描写には現実的な重さがあった。
さらに、若君本人は逃亡する。
山中の拠点にいた隠密集団も大半が逃げ、生きたまま捕らえられた者は自害する。
大量の極楽金丹は押収できたが、誰が組織を動かしていたのかは分からない。
朱雀の街で起きるはずだった大規模な被害は防げた。
それでも根本的な黒幕は残っている。
主人公たちが一度活躍しただけで巨大な組織がすべて崩壊するような、都合のよい結末にはなっていない。
若君は董胡との再会を予告しており、今後もさらに大きな敵として立ちはだかる可能性がある。
事件が完全には解決しなかったことで、物語の世界がさらに広がったように感じた。
朱璃と董胡の友情
朱璃は、董胡が侍女頭・董麗、男装医官・董胡、妓女見習い・紫竜胆という複数の姿を使い分けていることに気づきかけている。
特に紫竜胆の正体を知ろうとし、董胡が本当に男性なのか強い興味を示す。
しかし朱璃は、すぐに追及して董胡を追い詰めようとはしない。
逃げられないように、今は黙って見守ろうとする。
朱璃自身も、自分が望まない身分を押し付けられ、紅拍子としての顔を隠している。
だからこそ、董胡が幾つもの秘密を抱えなければ生きられないことを、どこかで理解しているのかもしれない。
一般的な后宮物語であれば、玄武の后と朱雀の后は皇帝の寵愛を争う関係になりそうである。
しかし本作では、二人とも皇后の地位や寵愛に強い関心を持っていない。
それぞれ自分の夢があり、自分の守りたいものがある。
恋の競争相手ではなく、望まない役割を背負わされた者同士として理解し合う。
二人の間に生まれる友情が、后宮の息苦しさを和らげていた。
楊庵の告白と届かない思い
阿芙蓉の煙を吸った楊庵は、普段抑えている感情を制御できなくなる。
女性姿の董胡を抱き締め、可愛いと褒め、自分の思いを告げようとする。
董胡も、ようやく楊庵が自分に向けている感情へ気づきかける。
しかし楊庵は、そのまま眠り込んでしまう。
目覚めた後は自分の行動を覚えており、恥ずかしさから董胡を避ける。
せっかく思いが届きそうになったのに、薬の影響による言葉として曖昧になってしまう。
楊庵にとっては、あまりにも気の毒な展開だった。
一方、董胡は楊庵を大切に思っている。
命がけで捜しに来てくれたことにも、冬虫夏茸を守ってくれたことにも感謝している。
それでも心の中心にいるのはレイシである。
楊庵がどれほど一途に思っても、董胡が同じ気持ちを返せるかは分からない。
単なる当て馬として笑える関係ではなく、幼い頃から家族として暮らしてきたからこその複雑さがある。
この恋心が今後、三人の関係にどのような変化を与えるのか気になった。
レイシに認められた薬膳師
任務を終えて王宮へ戻った董胡の前に、神官姿のレイシが現れる。
レイシは董胡の働きを褒め、頭を撫でながら立派な薬膳師になったと認める。
董胡にとって、これは何より嬉しい言葉だったと思う。
五年前、レイシの専属薬膳師になると約束した。
その約束を支えに、女性であることを隠し、医師免状を取るために学び続けた。
玄武公に人生を奪われ、妃にされても、董胡が薬膳を捨てなかったのは、いつかレイシの役に立ちたいという願いがあったからである。
朱雀の事件で董胡は、阿芙蓉中毒者を見分け、治療へ導き、街の崩壊を防いだ。
まだ正式にレイシの専属薬膳師になれたわけではない。
それでも、長年の努力を本人から認めてもらえた。
董胡が夢へ少し近づいたことを感じられる場面だった。
しかし同時に、董胡の苦しみは深くなる。
レイシは男装医官の董胡を信頼し、側へ置きたいと願っている。
一方で、玄武の后・鼓濤にも温かな感情を抱き始めている。
どちらも同じ董胡である。
それなのに董胡は、自分自身である鼓濤へ嫉妬してしまう。
レイシを二つの姿で欺き続けている罪悪感もある。
真実を告げれば、玄武公の娘として警戒され、側にいられなくなるかもしれない。
黙っていれば、信頼してくれる相手を欺き続けることになる。
正体が明らかになる時が近づくほど、二人の関係が壊れる恐怖も大きくなっていた。
董胡の母・濤麗を巡る新たな謎
本巻では、董胡の母とされる濤麗についても新しい情報が出てくる。
朱璃は幼い頃、朱雀の后宮で「とうれい」という少女に出会っていた。
その少女は明るく、后宮の中を自由に駆け回り、朱璃にとって初恋の相手となった。
董胡は、その少女に顔立ちがよく似ている。
しかし玄武公は、濤麗を玄武の姫であり、自分の娘を産んだ女性だと説明していた。
朱璃の記憶が正しければ、濤麗はもともと朱雀の后宮にいた人物だった可能性がある。
なぜ彼女が玄武公のもとへ行ったのか。
本当に玄武公の妻だったのか。
ト殷はなぜ董胡を連れ出したのか。
前巻では、董胡が玄武公の実娘であることがほぼ事実のように語られていた。
しかし本巻によって、その前提自体が再び揺らぎ始める。
さらに朱璃は、黎司へ濤麗の捜索を依頼する。
董胡の出生が、朱雀の過去や黎司の母方の血筋とどのようにつながっているのか。
恋愛や薬物事件だけでなく、物語の根幹に関わる大きな謎が動き始めたように感じた。
読後の感想
『皇帝の薬膳妃2 朱雀の宮と竜胆の契り』は、前巻以上に董胡の行動力と危うさが際立つ一冊だった。
董胡は、玄武の后・鼓濤、侍女頭代理・董麗、男装医官・董胡、妓女見習い・紫竜胆という複数の姿を使い分ける。
そのたびに口調や服装、立場を変え、正体が知られないように振る舞わなければならない。
一つでも秘密が露見すれば、自分だけでなく茶民や壇々、楊庵、偵徳たちまで危険にさらされる。
それでも董胡は、朱雀で苦しむ人々を見捨てなかった。
阿芙蓉によって人生を壊されていく人を見つけ、治療し、薬の流通を止めようとする。
その行動の根底には、レイシの役に立ちたいという思いがある。
しかし、最終的には目の前で苦しむ人を放っておけない董胡自身の性格が、彼女を動かしていたのだと思う。
また、今回描かれた阿芙蓉の事件は、単純に悪い薬を止めれば終わる話ではなかった。
薬を売る者を捕らえても、依存した人々がすぐに元へ戻るわけではない。
若君や背後の組織も逃亡している。
人を救うには、事件を解決するだけでなく、その後も長く治療を続けなければならない。
董胡が目指す薬膳師の仕事も、劇的にすべてを治すものではない。
食事を通して少しずつ体を整え、その人自身が回復する力を支える。
この作品らしい救い方だと感じた。
そして何より大きかったのは、董胡が黎司こそレイシ本人だと確信したことである。
憧れていた人物は、すでに自分の夫という立場にいる。
しかし董胡は、鼓濤としても、董胡としても、本当の自分をすべて明かすことができない。
黎司もまた、董胡と鼓濤という二人の女性に異なる感情を抱いているつもりでいる。
二人の距離は確実に縮まっているのに、秘密が増えるほど真実を告げることは難しくなっていく。
さらに、楊庵の恋心、朱璃が捜す濤麗、逃亡した若君、玄武公の陰謀、董胡の正体を知る雄武との茶会など、次巻へつながる問題も多く残された。
苦味のある竜胆が体を整えるように、本作では華やかな宮廷や妓楼の裏にある苦しみが丁寧に描かれている。
その苦しさを避けるのではなく、受け止めながら人を救おうとする董胡の姿が魅力的だった。
幾つもの顔を演じながら、本当に自分が望む生き方を探し続ける董胡が、いつかすべての秘密を明かし、レイシの隣で堂々と薬膳師を名乗れる日が来るのか。
次巻では皇太后の茶会が待ち受けている。
董胡を医生時代から知る雄武を前に、鼓濤としての正体を隠し通せるのか。
今回とは異なる王宮内の緊張が始まりそうで、続きが気になる結末だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
薬膳師の男装
薬膳師の男装と精神の象徴の全貌
『皇帝の薬膳妃』において、主人公・董胡が装う薬膳師(医生・医官)の男装について、不条理な制度の壁を突破するための命がけの決意、王宮での男装の医官としての能動的な復活、正体と嘘をめぐる焦れったくも切ないロマンスの葛藤の各点から解説する。
不条理な「制度の壁」を突破するための命がけの決意
伍尭國においては、正式に医術を修めて医師、薬師、そして薬膳師になれるのは男性のみと厳格に定められていた。
・幼い頃に出会った謎の麗人・レイシを自作の薬膳饅頭で救い、いつかあの方の専属薬膳師になるという純粋な夢を抱いた董胡にとって、このジェンダーの障壁は絶望的なものであった。
・彼女は諦めることなく、生涯を男として生きていく覚悟を決めた。
・髪を男性医生の装いである角髪に結い、白い袍に浅葱色の下袴を穿き、男装の医生・胡として生きる道を選んだ。
・女性であることが露見すれば、自分自身のみならず、育ての親であるト殷や兄弟子の楊庵までもが死罪を免れないという、常に生命の危機と隣り合わせの命がけの男装であった。
・この過酷な状況下で猛勉強を重ねた彼女は、難関の医師試験を首席で合格するほどの実力を身につけた。
王宮での「男装の医官」としての能動的な復活
玄武公の陰謀により、無理やり身代わりの一の后・鼓濤として王宮へ輿入れさせられたことで、董胡としての医生の人生は一度強制的に葬られた。
・后宮での生活は行動範囲が極端に狭く、御簾の中から出ることも許されない、退屈で不自由な檻のようなものであった。
・董胡はこれに甘んじることなく、后に与えられた権限である木札を逆手に取り、自分自身を玄武一の后付専属医官・董胡として典医寮に申請および登録する奇策に出た。
・再び髪を角髪に結い、宮内局の色である紫の袍に黒い襷を締めた男装の医官の姿を取り戻した。
・これにより后宮の外へ自由に移動し、薬庫から生薬を調達して仲間の治療を行ったり、王宮内の情報を収集したりする機動力を手に入れた。
・朱雀の地を蝕む流行り病の真相を解明するため、男装の医生として現地へ赴くだけでなく、事件の核心が潜む妓楼「雅舫楼」に潜入すべく、一時的に妓女見習い・紫竜胆に変装した。
・后、男装医官、妓女という一人三役の極限状態を演じ分けた董胡の男装は、能動的に人々を救うための最強の防具として機能した。
正体と「嘘」をめぐる、焦れったくも切ないロマンスの葛藤
男装は、新皇帝・黎司とのすれ違いをより焦れったく、切ないドラマへと昇華させるシンボルでもあった。
・黎司は、5年前に命を救ってくれた董胡を優秀な男性医生として深く認識しており、約束通り彼を自らのお側に召し抱えたいと切望していた。
・王宮で医官・董胡としてレイシと再会を果たした際、黎司は董胡の頭を愛おしそうに撫で、今でも大切に思っていることを伝えた。
・董胡の側には、自分が皇帝を廃位しようと企む政敵・玄武公の娘である身代わりの后・鼓濤という、あまりにも重い正体がのしかかっていた。
・自分が女であり、かつての命の恩人・董胡であることを明かして助けを求めれば、王宮内で孤立し命を狙われている黎司をさらなる政治的窮地へ追い込んでしまう状況であった。
・董胡は切ない胸の疼きを押し殺し、レイシの専属薬膳師としてただあの方の体を守り夢を叶えるため、あえて女であることと后であることを隠し通し、男装の医官として影から仕え続けることを決意した。
まとめ
薬膳師の男装と精神の象徴を巡る一連の全貌は、厳格なジェンダー制度を突破する命がけの決意から始まり、王宮での医官権限の奪還と一人三役の能動的な活躍、そして愛する者を守るために正体を伏せ続ける葛藤に至るまで、その歩みを明瞭に示している。不条理な社会的制限や政治的抑圧という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、能動的な覚悟と無償の愛の記録である。制度への反逆から、資格の獲得、身分の再構築、変装による潜入、そして影からの献身的な救済へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
阿芙蓉の流行
阿芙蓉の流行と朱雀を巡る陰謀の全貌
『皇帝の薬膳妃2 朱雀の宮と竜胆の契り』において描かれる阿芙蓉の流行について、阿芙蓉の性質と吸入による変容、朱雀における流行の実態と人間性の破壊、流行の裏に潜む朱雀弱体化の政治的陰謀、および董胡の活躍による病の究明と流行の終息の各点から解説する。
阿芙蓉(極楽金丹)の性質と「吸入」による変容
阿芙蓉は、元々は芥子の実から作られる鎮痛薬である。
・通常は小さく丸めて丸薬として服用されていたが、希少な割に効きが遅く、軽い睡眠導入剤や媚薬として用いられる程度で、それほど需要の高い生薬ではなかった。
・数前に香炉で焚いて煙を吸うという新たな用法が発見されたことで、その性質は劇的に変化した。
・煙を吸うと、丸薬を飲むよりも遥かに優れた鎮痛効果と強烈な快感および高揚感をもたらすようになり、玄武の妓楼では極楽金丹の名で闇取引されるようになった。
・朱雀で出回ったものは、以前の極楽金丹よりもさらに薬効と依存性を強めた、極めて危険な改良版であった。
朱雀(雅舫楼)における流行の実態と人間性の破壊
阿芙蓉の流行は、妓楼街として栄える南都・朱雀の高級妓楼である雅舫楼を中心に広がっていた。
・支配された妓女と客の狂気:地味で客のつかなかった妓女の夕霧が、謎の若君から渡された阿芙蓉の香を寝所で焚き、客を誘惑して最高級妓女へと急浮上した。この煙を吸った客たちは一時的に異常な高揚感を覚えるが、薬が切れると激しい倦怠感や頭痛、深い絶望感に襲われ、再び阿芙蓉を求める悪循環に陥った。
・家庭と人生の崩壊:常連客の商人である六造は、夕霧を指名する大金を作るために店を売り払い、使用人を解雇し、妻子を実家に送り返す暴挙に及んだ。金を工面するために犯罪に手を染めようとする事態まで発生した。
・五色の光による病的変化の可視化:味覚や体調が光となって見える能力を持つ董胡の観察により、阿芙蓉を吸った者は一時的に五色の光が異様に強く活性化するが、薬が切れると色が完全に抜け落ち、極度の無色状態に陥ることが判明した。
流行の裏に潜む「朱雀弱体化」の政治的陰謀
阿芙蓉の流行は、単なる一介の売人による金儲けではなく、国を揺るがす組織的な計画であった。
・狐目の若君による画策:夕霧に阿芙蓉を渡し、彼女を裏から恐怖で支配していたのは、雅舫楼の上客を装っていた狐目の謎の貴人である若君であった。
・朱雀領の力を奪う意図:偵徳の分析によれば、この悪事の真の狙いは朱雀という領地全体の民や兵を阿芙蓉漬けにして弱体化させることであった。朱雀は新皇帝・黎司の廃位に積極的ではなく、予言を的中させた皇帝を熱心に信奉する神官や民が多い土地であるため、皇帝の支持基盤を蝕んで失脚させようとする敵対勢力の関与が強く疑われた。
董胡の活躍による病の究明と流行の終息
新皇帝・黎司の先読みの天術によって流行り病の予兆を事前に察知した董胡は、勅命を受けて男装の医官として朱雀へ潜入した。
・一人三役の潜入と丸薬の奪取:董胡は男装の医師として行動する傍ら、自ら妓女見習いの紫竜胆に扮して若君に近づき、夕霧の袖から阿芙蓉の丸薬を奪取することに成功した。
・命がけの吸引実験:持ち帰った丸薬の正体を暴くため、偵徳が自らの体を使って吸引実験を行い、これが極めて強力な阿芙蓉であることを医学的に証明した。
・十薬による解毒と供給の遮断:董胡は五色の光を視る能力を駆使して初期中毒者を見分け、集中的に治療を行った。毒消し効果に優れた十薬を煎じて飲ませて体内の毒を出し、阿芙蓉の恐ろしさを説明して説得した。
・赤軍および傀儡法師との連携と終息:朱雀公の息子である旺朱が率いる傀儡法師や朱雀の公軍である赤軍と協力し、若君の隠れ家や取引拠点を包囲した。若君本人は特殊な鍼術を駆使して逃亡し黒幕の完全な正体までは暴けなかったが、大量の阿芙蓉を差し押さえることで朱雀の壊滅という未曾有の危機を未然に防ぐことに成功した。
まとめ
阿芙蓉の流行と朱雀を巡る陰謀の全貌は、吸入法による生薬の変質と依存性の増幅から始まり、妓楼を介した人々の精神破壊と人生の崩壊、皇帝派の拠点である朱雀を狙った政治的弱体化工作、そして潜入捜査と解毒治療を通じた危機の完全回避に至るまで、その歩みを明瞭に示している。薬物中毒や敵対勢力の陰謀という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、専門的な薬学知識と他者を救う強い志が引き起こした救済の記録である。薬物の蔓延から、陰謀の察知、命がけの検証、生薬を用いた治療、そして拠点摘発による危機回避へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
朱雀の后
朱雀の一の后・朱璃と自立した女性像の全貌
『皇帝の薬膳妃2 朱雀の宮と竜胆の契り』において物語の中心となる朱雀の一の后・朱璃(光貴人)について、異色の生い立ちである男装のスター・光貴人、期限付きの輿入れと后宮へ入った真の目的、皇帝・黎司との奇妙で爽やかな友情、および董胡とのシスターフッドと見守る優しさの各点から解説する。
異色の生い立ち:男装のスター「光貴人」
朱璃は生まれながらの深窓の姫君ではない。
・元々は朱雀の都の大きな妓楼の楼主となった父と、かつて大人気を誇った舞妓の母との間に生まれ、妓楼街で自由に育った。
・彼女自身、光貴人の名で朱雀で大流行していた男装の舞妓である紅拍子のトップスターとして活躍していた。
・上流階級の姫君の証である長い髪を持たず、その長さは男性貴族ほどしかないため、公式の場に出る際にはかもじを付けて取り繕っている。
・男装して舞台で舞う姿は目の肥えた観客ですら女性であることを忘れて見惚れるほど凛々しく、劇中では董胡をも一瞬で虜にした。
「期限付き」の輿入れと后宮へ入った真の目的
朱璃が不本意ながらも一の后として王宮に入ったのには、明確な理由と期限が存在した。
・元々彼女の父が朱雀公を継いだのは、前朱雀公の血筋が絶えた際、本来の跡継ぎが成人するまでの一時的な繋ぎに過ぎなかった。
・数年後に跡継ぎが成人すれば父は楼主に戻り、朱璃も一の后の座を退いて紅拍子に戻ることが決まっていた。
・彼女が輿入れを承諾した理由は、幼い頃に出会った初恋の女性であるとうれいの行方を后宮の古い資料から捜し出すためであった。
・このとうれいこそ、董胡の母親とされる濤麗のことであり、のちの物語の大きな鍵となっていった。
皇帝・黎司との「奇妙で爽やかな友情」
后宮の女性たちは皇帝の寵愛を巡って火花を散らしているが、朱璃は最初から皇帝に言い寄られたら投げ飛ばしてやろうと考えているほど寵愛に興味がなかった。
・黎司に自分の素性をあっさりと白状したことで、かえって黎司から深く信頼され、お互いに何でも話せる気の置けない友人や戦友のような関係を築いた。
・黎司は朱雀の妓楼を蝕む阿芙蓉の流行の先読みを得た際、公にできないこの陰謀の調査を信頼できる朱璃にのみ秘密裏に相談していた。
・毎夜のように黎司が朱雀の宮を訪れていたのは寵愛のためではなく、この病の対策を密かに練るためであった。
董胡との「シスターフッド」と、見守る優しさ
大朝会で玄武の后宮から派遣された侍女頭代理・董麗として現れた董胡と出会った朱璃は、彼女の誠実な瞳に一目惚れし、強い興味を抱いて朱雀の宮へ招待した。
・薬膳の知恵への感銘:董胡が朱璃の体調の乱れを味覚の五色の光から見抜き、特別に配合した苦い竜胆のわらび餅を贈ると、朱璃はその優れた効能と薬膳の知恵に深く感じ入った。これが朱雀の奇病の解明を董胡に依頼するきっかけとなった。
・正体を見抜く鋭い勘:朱璃は董胡が一人何役もの綱渡りをしていることに薄々気付き始めたが、過酷な隠し事をする裏には複雑な事情があるのだろうと察し、無理に追及して追い詰めることをせず影から温かく見守る選択をした。
まとめ
朱雀の一の后・朱璃と自立した女性像を巡る一連の全貌は、男装の舞妓スターという異色のルーツから始まり、初恋の人物捜索を目的とした期限付き輿入れ、黎司との間に結ばれた利害を超えた友情と信頼関係、そして一人複数役をこなす董胡への深い理解と影からの温かな支援に至るまで、その歩みを明瞭に示している。宮廷の形式主義や陰湿な権力闘争という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、自立した精神と誠実な友情の記録である。舞台での躍進から、秘密の調査、皇帝との共闘、薬膳を通じた絆、そして董胡を守る影の盾への昇華へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
皇帝の先読み
先読みの天術と真の覚醒の全貌
『皇帝の薬膳妃』における新皇帝・黎司が覚醒させる先読みの天術について、先読みの天術の基本システムと血脈の衰退、董胡の薬膳による真の天術の覚醒、天術の性質である変化する未来と諸刃の剣、および的中した具体的な四つの先読みの各点から解説する。
「先読みの天術」の基本システムと血脈の衰退
伍尭國において、天術を司る血筋である皇家が持つ、未来を予見する力こそが先読みの天術である。
・古来、民衆が皇帝を神の如く崇拝するのも、この超常的な力に由来していた。
・血の純度を保つために近親婚を重ねた結果、皇族は病弱になり、天術の力は著しく衰退していった。
・先代の孝司帝にいたっては、生涯で一度も先読みの力を使えなかったほどである。
・歴代の即位式で行われてきた、皇帝が的中する的を予言する的当ての儀式は、事前に裏で数字を合わせておく捏造された茶番劇へと形骸化していた。
・黎司の即位式では、彼を排除したい玄武公の陰謀により弓師たちが意図的に異なる的を射抜いたため、黎司は天術を使えない無能な皇帝として大衆の前で大恥をかかされることとなった。
董胡の薬膳による「真の天術」の覚醒
黎司自身、当初は天術の力がほとんど現れておらず、自分の無力さに絶望していた。
・食事を口にすると激しい吐き気に襲われる重度の拒食症に陥り、心身ともに衰弱していた。
・后宮へ嫁いだ董胡が、身分を隠して彼の体調に完全に合わせた温かい薬膳饅頭を毎夜提供し始めたことで状況は一変した。
・正しい食事によって黎司の食が整い、心身に生命力がみなぎったことで、眠っていた皇帝本来の真の天術が完全に覚醒した。
・皇宮の祈禱殿にある銅鏡や、自らが受け継いだ神器の鏡を通じて、未来の悲惨な光景を明確なビジョンとして視るようになった。
・祈禱殿では魔毘という謎の男が現れ、黎司を銅鏡へと導き、未来の天災や暴動のビジョンを映し出した。
天術の性質:「変化する未来」と「諸刃の剣」
作中で描かれる天術は、単に固定された運命を言い当てるものではない。
・人々の行動によって変化する未来:未来は固定されたものではなく、人々の意識や行動によって刻一刻と書き換わる性質を持っている。黎司が天災を予言し、それを信じた民が備えを行うことで、未来の悲惨な光景はより被害の小さいものへと変化していった。このため、黎司は確信を持てる極めて直近の未来しか予言できなかった。
・「諸刃の剣」としての過酷な祈り:皇帝の本来の務めとは、天に祈って災害を未然に防ぐことである。しかし、災害を防いでしまえば予言が外れたと糾弾され、廃位に追い込まれるリスクを背負う。それでも自分の予言が外れて天災が回避され、民が救われるように、自らの失脚を覚悟して祈ることこそが、皇帝のあるべき姿であるという過酷な葛藤が描かれている。
的中した具体的な四つの先読み
黎司が命がけで大衆に告げた先読みは、国の空気を完全に一変させた。
・第一の先読み:朱雀・張宿の大風と洪水において、5日以内に大風が吹き川が氾濫するという予言に対し、皇帝の言葉を信じて備えを完了した農民たちは奇跡的に難を逃れ、被害を最小限に抑え込んだ。
・第二の先読み:青龍・尾宿の大火事において、玄武公らは厳しく取り締まり予言を外そうと画策したが、3日後に予期せぬ落雷によって空き家から火が上がった。事前に水を貯めていた神官や信者によって火は速やかに消し止められ、小火で済んだ。
・第三の先読み:暗殺の危機から白虎公の転落へにおいて、当初視ていた暗殺の未来は、董胡が男装して白虎公から毒壺を騙し取ったことで劇的に変化した。最終的に黎司が視た未来は白虎公が階段から落ちて鼻を骨折するアクシデントになり、それが見事に現実となった。
・第四の先読み:朱雀の流行り病において、南都・朱雀に原因不明の病が蔓延する予兆を察知し、朱璃と董胡を秘密裏に現地へ派遣して流行を未然に防ぐことに成功した。
まとめ
先読みの天術と真の覚醒を巡る一連の全貌は、捏造された茶番劇としての儀式の形骸化から始まり、董胡の薬膳による生命力の回復と真の能力の覚醒、変化する未来と救済への葛藤という能力の真価、そして民を救う四つの予言の的中と危機の回避に至るまで、その歩みを明瞭に示している。権力闘争の道具や偽りの権威という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、真の皇帝としての覚醒と精神的成長の記録である。屈辱の体験から、食による復活、ビジョンの獲得、民のための祈り、そして帝位の盤石化へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
医師試験の首席
医師試験の首席合格と運命の翻弄の全貌
『皇帝の薬膳妃』において、主人公・董胡が掴み取った医師試験の首席合格について、運命を激変させた首席合格、玄武公の次男・雄武との因縁と流れた噂、優秀な寮生が消えるという麒麟寮の不気味な前例、および医生としての董胡を繋ぎ止めた免状と印章の各点から解説する。
運命を激変させた「首席合格」
董胡は、女性であることを隠して男装し、皇帝直属の塾である麒麟寮で三年間血の滲むような猛勉強を重ねてきた。
・17歳という若さで難関の医師試験に合格し、首席という最高の成績を収めた。
・本来であれば輝かしい第一歩となるはずであったが、優れた成績が玄武公の目に留まったことで、素性が調べられることとなった。
・行方不明だった実娘・鼓濤であると強引に特定され、医師としての未来を強制的に葬られる結果となった。
・嫌われ者の新皇帝への身代わりの后として、王宮へ輿入れさせられることとなった。
玄武公の次男・雄武との因縁と流れた噂
この医師試験には、玄武公の次男である雄武も受験していた。
・実力主義を重んじる雄武は自分が首席で合格するものと信じて疑わなかったが、董胡がその雄武を抑えて首席となった。
・首席合格の直後に董胡が麒麟寮から突如として姿を消したため、周囲には不穏な噂が流れることとなった。
・麒麟寮や王宮内では、玄武公の次男よりも良い成績を修めたために目障りとなって玄武公に消されたのではないかという憶測が飛び交った。
・董胡を失った兄弟子の楊庵もこの噂を信じ、雄武に対して激昂して掴みかかった。
「優秀な寮生が消える」という麒麟寮の不気味な前例
董胡の首席合格の陰には、麒麟寮が抱える不気味な前例が存在していた。
・平民医師の偵徳は、飛び抜けて優秀な者は一言の連絡もなく突然姿を消すという妙な噂を語っていた。
・この現象の裏には、王宮の極めて冷酷な制度が絡んでいた。
・医術の権威を独占したい玄武公にとって、自らの地位を脅かす優秀な平民医師は目障りな存在であった。
・そうした優秀な医師を、皇帝の死とともに強制的に殉死させられる過酷な役職である内医官へと推薦し、合法的に葬り去るシステムが存在した。
・偵徳が一番にはならない方がいいと警告していたのは、この恐ろしい罠を懸念してのことであった。
医生としての「董胡」を繋ぎ止めた免状と印章
首席合格の際、玄武公は董胡に対し、胡としての人生を葬る代わりとして、章景が書き記した医師免状と庵治石に彫られた印章を授与した。
・医師として働けないのであれば無用の長物と思われたが、この免状と印章はのちに董胡にとって強力な武器となった。
・王宮内で身動きが取れなくなった董胡は、この免状と一の后の権限を利用し、典医寮に玄武一の后付専属医官・董胡として自分自身を登録することに成功した。
・本物の免状と高貴な印章があったからこそ、彼女は誰にも疑われることなく男装の医官の姿を取り戻し、后宮の外へ自由に移動して黎司を救うための行動を起こすことができた。
まとめ
医師試験の首席合格と運命の翻弄を巡る一連の全貌は、過酷な研鑽の果ての偉業達成から始まり、権力者の目に留まったことによる身代わり立后の強制、敗れた貴族との因縁や暗殺説の蔓延、優秀者を排斥する宮廷の冷酷な制度構造、そして授与された免状を活用した医官身分の再奪還に至るまで、その歩みを明瞭に示している。権威主義や不条理な権力行使という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、卓越した知性と意志が運命を切り拓いた記録である。栄誉の獲得から、自由の喪失、制度の闇への直面、資格の行使、そして影からの能動的な救済行動へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
四領地の利権争い
四領地の利権争いと支配構造の全貌
『皇帝の薬膳妃』の舞台である伍尭國における、皇帝と四領地の領主(四公)との間で繰り広げられる四領地の利権争いについて、天術の衰退と四公による皇帝の傀儡化、玄武と白虎の汚職と密売の共犯関係、青龍の政治的牽制と朱雀の脆弱な立場、および利権争いの延長線上にある朱雀弱体化計画の各点から解説する。
天術の衰退と、四公による皇帝の傀儡化
伍尭國は、中央で天術(先読み)を司る皇帝(皇家)が統治し、その周囲を独自の術を修める四つの領地(医術の玄武、武術の青龍、芸術の朱雀、商術の白虎)が囲む構造をとっている。
・かつては皇帝の強大な天術によって四術の均衡が保たれていたが、近親婚の弊害などで皇帝の先読みの力が衰えるにつれ、パワーバランスは大きく崩れていった。
・いつしか皇帝は、四領地の貴族たちが自らの利権を通すための都合の良い傀儡(お飾り)に成り下がっていった。
・実際に黎司の父である先帝の時代に発行された詔は、四公の利権を優先して守り、民衆の暮らしを激しく逼迫させるものばかりであった。
玄武と白虎の「汚職と密売の共犯関係」
四公の中で最も大きな富と政治的実権を握り、均衡を乱していたのが北の玄武公(亀氏)であった。
・玄武は医術・医薬を一手に担う総本山であり、近年の薬膳茶などの大流行によって皇帝を凌ぐほどの栄華を極めていた。
・この玄武公と深く結託していたのが、財宝の管理や商術を司る西の白虎公(虎氏)であった。
・白虎公は玄武の地で調合される貴重な薬剤を、自らのルートで他国へ横流し(密売)することで莫大な私腹を肥やしていた。
・二人は汚職と腐敗で深く結ばれた、決して裏切ることのできない利権の共犯関係にあり、国の経済と外交を完全に牛耳っていた。
・彼らが新皇帝・黎司の先読みの天術の覚醒を極度に恐れ、廃位や暗殺を急いだのは、天術によって自分たちが他国で荒稼ぎしている密輸や汚職の実態がすべて暴かれ、共倒れになるリスクを恐れたためであった。
青龍の政治的牽制と、朱雀の脆弱な立場
東の青龍公(龍氏)は、武術と軍事を司る強力な領主であった。
・青龍公は黎司の廃位を狙う玄武公と同調し、黎司が即位式の的当て儀式に失敗した失態や、それに伴う民衆の不穏な暴動の噂を政治的なカードとして利用し、黎司を精神的に激しく牽制していた。
・これに対し、南の朱雀公(鳳氏)は、先代の血筋が途絶えた後に急遽擁立された経緯から、四公の中で最も立場が弱かった。
・朱雀公本人の性質も非常に気弱であり、玄武公らが主導する過激な利権争いや皇帝の廃位計画には消極的な姿勢を示していた。
・さらに朱雀の地は黎司の母の故郷でもあり、黎司の先読み(大風の予言)を信じて救われた神官や民が多く、皇帝への忠誠心が比較的高い領地であった。
利権争いの延長線上にある「朱雀弱体化(阿芙蓉の蔓延)計画」
玄武公や白虎公といった敵対勢力は、自らの利権を脅かす皇帝を排除するため、皇帝の強力な支持基盤である朱雀の地を標的に定めた。
・朱雀の絢爛豪華な妓楼街を襲った原因不明の奇病である強い依存性を持つ劇薬「阿芙蓉」の蔓延は、単なる一介の売人による金儲けではなかった。
・その本質は、朱雀領の民や兵、さらには客として訪れる他領の者たちを阿芙蓉漬けにして心身を弱体化させ、黎司の皇帝としての権力基盤を根底から崩壊させようとする、極めて冷酷な政治的陰謀であった。
まとめ
四領地の利権争いと支配構造を巡る一連の全貌は、皇帝の権力衰退に伴う四公の台頭から始まり、玄武・白虎間における不正と密輸の癒着、青龍の軍事威圧と朱雀の立場的孤立、そして皇帝基盤を崩壊させるための阿芙蓉流行工作に至るまで、その歩みを明瞭に示している。権力者の腐敗や不条理な密謀という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、国家支配の闇とそれに対抗する正しい統治の記録である。天術の衰退から、四公の暴走、汚職の横行、陰謀の発覚、そして真の帝権回復による構造の再編へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
登場キャラクター
主要キャラクター
黎司(れいじ)
全角インデントのレイアウト構造を再現し、提示された登場人物を以下に紹介する。
黎司は伍尭國の第十七代皇帝である。幼少期の毒殺未遂により重度の拒食症を患う。董胡の作る薬膳饅頭のみを食べることができた。彼女に深い信頼と好意を寄せている。
・所属組織、地位や役職
伍尭國第十七代皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
かつては皇太子であった。逃亡中に治療院の前で倒れる。そこで董胡に命を救われた。即位式の的当ての儀式では先読みを外した。董胡の薬膳を食べると心身が整う。彼は真の天術を覚醒させた。朱雀の大風と青龍の大火事を予言する。民に備えを指示して被害を抑え込んだ。第二巻では朱雀の病のビジョンを視る。そして秘密裏に董胡へ調査を託した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇太子から皇帝に即位した。二度の災害を予言して的中させる。民衆から強い支持を得るようになった。
翔司(しょうじ)
翔司は黎司の三歳年下の弟宮である。実直で生真面目な好青年だ。兄を冷酷な暴君だと信じ込んでいた。玄武公に利用されている。
・所属組織、地位や役職
皇族。
・物語内での具体的な行動や成果
玄武公から兄の悪行を聞いて育った。即位式の前に的当ての数字を的中させる。兄に代わり自らが即位することを正しいと考えていた。元服前は角髪を結う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
玄武公により次期皇帝候補として擁立されている。華蘭と恋仲である。
創司(そうじ)
創司は伍尭國の初代皇帝である。優れた天術の力を持っていた。日々禊をして儀式を行っていたと伝えられている。
・所属組織、地位や役職
初代皇帝。
・物語内での具体的な行動や成果
伍尭國を建国した。多くの災いを祈りによって阻止する。的当ての儀式は行わなかった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇宮の祈禱殿に祀られている。彼の時代には剣で風を起こし鏡で未来を読んだと伝えられた。
翠明(すいめい)
翠明は黎司に仕える神官である。病気や怪我を癒す力を備える。式神を操ることもできる。黎司から絶大な信頼を寄せられた。
・所属組織、地位や役職
神祇院、神官。
・物語内での具体的な行動や成果
五年前、レイシを迎えに治療院へ現れた。王宮では董胡の様子を探るために密偵を置く。宮内局で医官となった董胡と偶然再会した。式神を用いて董胡とレイシの対話を仲介する。第二巻では偵徳を不審に思い連行させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
黎司の食事による体調変化をいち早く察知していた。
皇太后(こうたいごう)
皇太后は先帝の一の后であり、翔司の母親である。新しく入宮した鼓濤(董胡)を認めず、挨拶の手紙を無視していた。玄武の出身で、華蘭を溺愛している。
・所属組織、地位や役職
皇太后。
・物語内での具体的な行動や成果
鼓濤(董胡)からの拝謁伺いの手紙を無視し続けた。侍女たちに大朝会への出席を一方的に押し付けさせる。第二巻の最後には、突然后宮でお茶会を企画した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
先帝の時代に一の后から皇后となった。新皇帝の即位に伴い皇太后となる。
玄武(医術・亀氏)
董胡(とうこ)
董胡は本作の主人公である。人が欲する味や体調の乱れを「五色の光」として感知できる。幼い頃に出会った「レイシ」の専属薬膳師になる夢を抱く。
・所属組織、地位や役職
玄武の一の后(鼓濤)。玄武の一の后付き専属医官(董胡、別名:董麗)。上楼君(紫竜胆)。
・物語内での具体的な行動や成果
医師試験に首席で合格した。玄武公により実娘「鼓濤」として皇帝へ輿入れさせられる。王宮では男装の医官に変装した。薬膳饅頭を作って拒食症の皇帝に提供する。白虎公を騙して天凜烏頭の毒壺を奪い、暗殺を阻止した。第二巻では朱雀の流行り病の調査に赴く。妓楼「雅舫楼」に「紫竜胆」として潜入した。仲間と協力して阿芙蓉の蔓延を防ぐ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
平民の医生から玄武の一の后に選ばれた。后宮付き専属医官の立場も手に入れる。多重の身分を演じることに限界が見え始めた。
玄武公(げんぶこう)
玄武公は医術の都・玄武を治める領主である。絶大な財力と政治的実権を握る。黎司を廃位させ、翔司を擁立しようと陰謀を巡らせている。
・所属組織、地位や役職
玄武の領主。中務局長。
・物語内での具体的な行動や成果
実娘の華蘭を温存した。代わりに董胡を「鼓濤」として皇帝へ輿入れさせる。即位式の的当ての儀式に細工をして黎司に恥をかかせた。白虎公に命じて黄金泉へ毒を流させようとする。第二巻の最後には、皇太后の宮へ出向いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇帝すらも凌ぐ栄華を極めている。不服を唱える董胡をト殷や楊庵の命を盾に脅迫した。
華蘭(からん)
華蘭は玄武公が正妻との間に儲けた一の姫である。気位が高く、美しい容姿をしている。翔司皇子と恋仲だ。
・所属組織、地位や役職
玄武公の娘(一の姫)。
・物語内での具体的な行動や成果
皇帝の黎司を嫌悪し、輿入れを拒否した。董胡の部屋を訪れて彼女の振る舞いを嘲笑する。不思議な風の術を用いて董胡の頬を切った。第二巻では、皇太后のお茶会に参加するため王宮へやって来る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
玄武公から溺愛されている。翔司皇子が即位した際には皇后となることが予定された。
雄武(ゆうぶ)
雄武は玄武公の次男である。実力主義を重んじる性格だ。董胡に対して複雑なライバル心を抱いている。
・所属組織、地位や役職
玄武公の次男。麒麟寮の医生。
・物語内での具体的な行動や成果
医師試験で自分が首席になるものと信じていた。首席合格した董胡を妬んでいたと楊庵から疑われる。第二巻では、お茶会へ参加するために后宮を訪れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
医師試験に合格した。董胡とは対照的に、実家の強力な後ろ盾を持っている。
朱雀(芸術・鳳氏)
朱璃(しゅり)
朱璃は朱雀から輿入れした一の后である。かつて「光貴人」として紅拍子のトップスターを務めた。初恋の女性「濤麗」の行方を捜している。
・所属組織、地位や役職
朱雀の一の后。紅拍子(光貴人)。
・物語内での具体的な行動や成果
后宮に縛られることを嫌った。帝には自分の素性を正直に明かす。お互いに気の置けない友人関係を築いた。大朝会で出会った董麗(董胡)を気に入る。神嘗会の饗宴に一の后の中で唯一招かれた。第二巻の最後には、帝へ「とうれい」の捜索を依頼する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一時的な繋ぎとして輿入れした。数年後には元の紅拍子に戻る予定である。
旺朱(おうしゅ)
旺朱は朱璃の弟である。平民の気楽さを好む性格だ。
・所属組織、地位や役職
朱雀公の息子。軽業師集団「傀儡法師」の頭領。高級妓楼「雅舫楼」の楼主代理。
・物語内での具体的な行動や成果
朱雀の病を調べるため、姉の朱璃に協力した。山奥の若君の隠れ家を見つける。董胡たちと協力して若君を包囲した。逃走する若君の鍼の術により、仲間を傷つけられる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朱雀公の息子という高い身分である。将来的には家督を譲り、軽業師として生きることを望んだ。
朱雀公(すざくこう)
朱雀公は芸術の都・朱雀を治める領主である。気弱な性格をしている。
・所属組織、地位や役職
朱雀の領主。治部局長。
・物語内での具体的な行動や成果
前朱雀公の血筋が絶えた後に領主に選ばれた。殿上会議では玄武公の追及に答えに窮する。第二巻では、流行り病の件で玄武公へ医師の派遣を求めた。しかしのらりくらりとかわされた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
四公の中では最も立場が弱い。
斗宿の村・内医司
楊庵(ようあん)
楊庵は董胡の三歳年上の兄弟子である。鍼の天才的な腕前を持つ。董胡を深く愛しているが、彼女の気持ちには届いていない。
・所属組織、地位や役職
医師。内医司の使部。
・物語内での具体的な行動や成果
倒れていたレイシを診察台まで運んだ。ト殷の逃亡後に王宮の麒麟寮へ残る。雄武に対して董胡を消したと疑い掴みかかった。内医司の使部となり董胡を捜すため朱雀へ同行する。現地では若君の鍼により傷ついた傀儡法師たちを治療した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
引き締まった肉体と当たりのいい顔つきだ。董胡が女性であることを知る数少ない人物である。
偵徳(ていとく)
偵徳は麒麟寮の医師であった。董胡の指導にもあたっていた。王宮の内医司に平民医官として推挙される。
・所属組織、地位や役職
平民医師。内医司の平民医官。
・物語内での具体的な行動や成果
優秀な学生が突然消える王宮の闇を警戒していた。董胡が消えた後、彼女を救うために内医司の医官となる。第二巻では、自分の体を使って阿芙蓉の吸引実験を行った。これが超極楽金丹であることを証明する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
顔に大きな傷痕がある。権力者に一矢報いるために王宮へ入った。
雅舫楼・朱雀街
綺羅(きら)
綺羅は雅舫楼で働くお仕着せ姿の少女である。十代半ばほどの若さだ。
・所属組織、地位や役職
雅舫楼の妓女見習い。旺朱の間者。
・物語内での具体的な行動や成果
滞在することになった偵徳たちを楓の間に案内した。夕霧が持っていた阿芙蓉の丸薬を奪って董胡へ渡す。若君を包囲する計画に協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
目鼻立ちの整った美しい少女である。上客である若君の素性などを密かに調べていた。
鴇婆(ときばば)
鴇婆は雅舫楼を取り仕切る老婆である。
・所属組織、地位や役職
雅舫楼の主。旺朱の間者。
・物語内での具体的な行動や成果
成金医師を装う偵徳たちから大金を受け取った。董胡が男性医生であると疑い、女装の上手さをからかう。大金を持ってきた六造の話を仕方なく聞いた。破瓜儀礼を終えた客へ竜胆の花を渡させ、治療部屋へ誘導する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妖怪のような鋭い目つきだ。金の動きには非常に目ざとい。
夕霧(ゆうぎり)
夕霧は雅舫楼で働く妓女である。地味で客がつかない状態であったが、若君から阿芙蓉を渡されて急浮上した。
・所属組織、地位や役職
雅舫楼の妓女。
・物語内での具体的な行動や成果
若君から渡された香を寝所で焚き、客を誘惑した。上楼君に昇格する。その後、若君に足蹴にされ降格を命じられた。董胡へ激しい嫉妬を向けて殴りかかる。偵徳の治療部屋で阿芙蓉の中毒治療を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
上楼君へと急浮上した。しかし、新人の紫竜胆が登場するとすぐに降格となる。彼女は若君に恐怖で支配されている。
葵(あおい)
葵は雅舫楼の人気の妓女である。
・所属組織、地位や役職
雅舫楼の妓女。
・物語内での具体的な行動や成果
かつては上楼君であったが、夕霧に客を奪われて降格する。夕霧が呪術を使って客を奪っていると偵徳に告げた。夕霧が妙な香を焚いている事実を明かす。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一時は店が彼女の人気でもっていると言われていた。夕霧に客を奪われたことに深い不満を抱く。
六造(ろくぞう)
六造は朱雀に住む商人である。夕霧に常軌を逸した執着を示している。
・所属組織、地位や役職
商人。阿芙蓉中毒者。
・物語内での具体的な行動や成果
夕霧を指名するための大金を用意した。店を売り払い、使用人を解雇する。妻子を実家に送り返した。金を工面するために犯罪に手を染めようとする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつては普通の商人である。阿芙蓉の煙を吸い、深い薬物依存に陥ってすべてを失った。
若君(わかぐみ)
若君は狐目の謎の貴族である。冷酷で非情な性格だ。夕霧を恐怖で支配している。
・所属組織、地位や役職
大金持ちの上客。
・物語内での具体的な行動や成果
夕霧に阿芙蓉を渡し、客を依存させて大金を稼いだ。夕霧を降格させ、新人の紫竜胆を上楼君に仕立てようとする。董胡たちの罠に気づき、男たちに囲まれた。神経を狙った特殊な鍼術を用いて戦う。最終的に風のように逃走した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
雅舫楼の最大の上客である。その正体は最後まで明かされなかった。
后宮・女官
茶民(ちゃみん)
茶民は鼓濤(董胡)の付き侍女である。気が強く、少し色黒で痩せている。お金を貯めるのが趣味だ。
・所属組織、地位や役職
玄武の一の后宮、侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
不要な茶菓子などを売って小銭を貯め込んでいる。董胡から激辛の饅頭を作ってもらい、涙を流して喜んだ。董胡から預かった暗号の手紙を楊庵へ届ける手配をする。第二巻では、お茶会へ出席するために鼓濤の替え玉となった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
十五歳である。当初は董胡への不満を抱いていたが、料理を食べて深く懐いた。以前より少し肌が白くなっていく。
壇々(だんだん)
壇々は鼓濤(董胡)のもう一人の付き侍女である。色白でふっくらしており、おっとりした性格をしている。食いしん坊だ。
・所属組織、地位や役職
玄武の一の后宮、侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
董胡のために厨房から蒸し饅頭を運んできた。董胡から甘い饅頭を分けてもらう。帝が饅頭を毒殺の罠と誤解した際、濡れ衣を晴らすために完食した。その後、極度の緊張から高熱を出して寝込んでしまう。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
十三歳である。董胡の薬膳により体調を回復させ、深く懐くようになった。
禰古(ねこ)
禰古は朱璃姫に仕える侍女頭である。
・所属組織、地位や役職
朱雀の一の后宮、侍女頭。
・物語内での具体的な行動や成果
大朝会でのおお后様の最下位の序列を不満に思っていた。朱雀の后宮へ招いた董麗の顔立ちをじろじろと見つめる。朱璃姫が男装の紅拍子姿で舞うのを注意した。朱璃が酒の中毒になりかけていると聞き、深く心配する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朱璃姫を深く愛し、皇后になることを望んでいる。最近、朱璃がやたらに眠ってしまうことを心配していた。
優(ゆう)
優は皇帝に仕える侍女頭である。郭美と対立している。
・所属組織、地位や役職
皇帝の后宮、侍女頭。
・物語内での具体的な行動や成果
大朝会で郭美と激しく言い合った。郭美が弟宮のために専属の女官を要求したことに対し、不遜であると反論する。朱雀の刻から美しい帛を贈られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇帝の資質を擁護するために強く主張していた。お茶会へ朱雀の后宮が誘われることを喜ぶ。
郭美(かくび)
郭美は弟宮の翔司皇子に仕える侍女頭である。優と対立している。
・所属組織、地位や役職
弟宮の后宮、侍女頭。
・物語内での具体的な行動や成果
大朝会において、弟宮のために専属の女官を使う許可を求めた。即位式で先読みを外した皇帝の資質を人々の前で疑問視する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
弟宮の方が皇帝にふさわしいという世論を後押ししている。
叡条(えいじょう)
叡条は典医寮や中務局の尚侍を務める生真面目な年配の女性である。すべての女官を取りまとめる権限を持つ。
・所属組織、地位や役職
中務局、尚侍。
・物語内での具体的な行動や成果
新皇帝となって最初の大朝会を主宰した。そこですべての女官や后宮の侍女頭を集めて職務を確認する。犬猿の仲である優と郭美の言い合いを注意した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
先帝の時代から尚侍を務めている。
頑兼(がんけん)
頑兼は内医司の医官であり、主治医を務める老人である。手足の震えがあり、言動にも痴呆を疑う兆候が見られる。
・所属組織、地位や役職
内医司、内医頭。
・物語内での具体的な行動や成果
毎朝、黎司の診察を行っている。黎司が薬湯を拒否するため、内膳寮に指示して食事に薬を混ぜさせた。黎司に鍼を打とうとする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
齢八十を過ぎている。
登場が明確に確認できる集団
傀儡法師(くぐつほうし)
傀儡法師は朱雀で一番の軽業師集団である。
・所属組織、地位や役職
軽業師集団。
・物語内での具体的な行動や成果
朱雀の都に潜入し、若君の仲間がいる山奥の小屋を発見した。董胡と協力して若君の包囲作戦に参加する。逃走する若君の鍼の術によって数名が倒された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朱雀公の息子である旺朱が率いている。
赤軍(せきぐん)
赤軍は朱雀の公軍である。
・所属組織、地位や役職
朱雀公の軍隊。
・物語内での具体的な行動や成果
朱雀公の命令によって動いた。山奥の若君の小屋を包囲する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
隠密集団を相手に苦戦し、その大半を取り逃がした。
若君の隠密集団
若君の隠密集団は若君に仕える黒装束の集団である。
・所属組織、地位や役職
若君の護衛、隠密集団。
・物語内での具体的な行動や成果
若君を尾行していた董胡と楊庵を包囲した。傀儡法師や赤軍を相手に、特殊な鍼の術を用いて戦う。追い詰められると、自害する者もいた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
身元を知るための手がかりを残さず、大半が逃走した。
展開まとめ
序
揺らぐ伍尭國
伍尭國は玄武、青龍、朱雀、白虎の四領地を、天術を司る麒麟の皇帝が統治する国であった。しかし皇帝の先読みの力は世代とともに衰え、国は富と権力を握った玄武公によって均衡を崩しつつあった。
第十七代皇帝と玄武の后
歴代随一のうつけと噂された黎司が第十七代皇帝に即位し、四領地から一の姫を后として迎えた。玄武の后となったのは、男装して薬膳師を目指していた平民の董胡であった。
董胡は鼓濤として正体を隠しながら、弟宮の擁立を目論む玄武公に命を狙われる黎司を陰から支えた。一つの危機を乗り越えて侍女たちと穏やかな日々を過ごしていたが、朱雀の妓楼街では新たな嵐が迫っていた。
一、神嘗会の宴
神嘗会の留守番
皇宮では五穀豊穣を祝う神嘗会が行われ、皇太后と朱雀の一の后が饗宴へ招かれた。一方、皇帝の訪問が最も多い董胡には招命がなく、茶民と壇々は、先日の訪問で董胡が御簾から逃げたため皇帝の機嫌を損ねたのだと嘆いた。
董胡は皇帝がレイシではないかという疑いに混乱し、これ以上訪ねてこない方がよいと考えていた。しかし皇帝が朱雀の后を気に入った可能性を聞くと、胸の奥に痛みを感じた。
三人だけの饗宴
董胡は宴に参加できない代わりに、大膳寮から届いた祝い膳を御膳所で味付けし直した。壇々には芋や栗、南瓜を用意し、辛味好きの茶民には唐辛子を加えた豆板辣油を作った。
壇々は豆板辣油の辛さに悲鳴を上げたが、茶民はどの料理にも合う味を気に入り、夢中で食べた。董胡は二人が好む味を見抜き、それぞれに合った料理を作ることで、三人だけの神嘗会を楽しんだ。
平民と貴族の夢
茶民と壇々は、董胡と暮らすうちに平民の生活へ興味を持ち始めた。董胡は、男装して自由に働き、貧しくとも薬膳師になる夢を持っていたため幸せだったと語った。
二人は貴族の姫君の夢は良縁を得て豊かに暮らすことだと答えた。董胡は、自らの力で叶える夢とは異なると感じたが、二人も良縁を得るために日々努力していると主張した。
医師試験の首席
董胡は麒麟寮にいた頃、玄武公の次男・雄武と共に医師試験を受けていた。雄武は自分が首席になると信じていたが、不正なひいきを望まず、実力で評価されることを求めていた。
偵徳は、試験で飛び抜けた成績を収めた医生が過去にも突然行方不明になっていると話した。董胡は首席で合格したものの、その五日後に麒麟寮から姿を消すことになった。
楊庵の怒り
董胡とト殷が消えた後、楊庵は麒麟寮で雄武を問い詰めた。董胡が試験で雄武を上回ったため消されたと疑い、雄武の胸倉を掴んだが、取り巻きたちに殴られ蹴られた。
自暴自棄になった楊庵は、董胡のいない世界に未練はないと言い放った。雄武は楊庵を処罰せず立ち去ったが、楊庵は一人残され、董胡とト殷の行方を思って泣き崩れた。
偵徳の手掛かり
偵徳は楊庵に、董胡が王宮へ連れて行かれた可能性を告げた。偵徳は三年前から、ある人物の命令で董胡を密かに見守っており、医師免状を得た後にその人物のもとへ送り届ける予定だった。
偵徳は皇帝専属の内医官に推挙されており、楊庵を使部として王宮へ連れて行けると話した。しかし内医官は生涯王宮から出られず、皇帝の死とともに殉死する役目であった。董胡が王宮にいなければ、二度と捜すこともできない危険な賭けだった。
冬虫夏茸と決意
楊庵は荒れ果てた治療院へ戻り、董胡が残した冬虫夏茸の薬草籠を見つけた。薬膳のことばかり考えていた董胡を思い出し、自分はいつか董胡と所帯を持ち、共に治療院を開きたいと願っていたのだと改めて自覚した。
もっと早く医師免状を取り、董胡を守れる立場になっていればと後悔した楊庵は、一晩中木刀を振り続けた。夜明けに覚悟を決めると、冬虫夏茸を懐に収め、董胡を必ず助けると誓って偵徳の待つ麒麟寮へ向かった。
二、 五度目の大朝会
朱雀筆頭の大朝会
五度目の大朝会で、玄武の后宮はついに筆頭の座を朱雀へ譲った。朱雀の侍女頭は、神嘗会の饗宴以降、皇帝が朱雀の后宮へ頻繁に通い、姫君と親しく過ごしていると董胡へ誇らしげに語った。
董胡は皇帝が朱雀の后へ心を許したと知り、正体を隠し通せることを喜ぶべきだと思いながらも、胸の痛みを抑えられなかった。朱雀の侍女頭は帝付きの侍女たちへ流行の帛を贈り、舞団の鑑賞会へ誘うなど、巧みに味方を増やしていた。
朱雀の后宮への招待
大朝会後、朱雀の侍女頭は董胡を后宮へ招いた。后同士の交流は序列上位の宮から誘わなければ始められず、これまで筆頭だった玄武が動かなかったため、四后の交流も途絶えていたのである。
朱雀の后は、侍女頭から話を聞いて董胡に興味を持っていた。董胡も、皇帝が心を寄せたという朱雀の后がどのような姫君なのか確かめたいと思い、招待を受け入れた。
朱色の后宮
朱雀の后宮は、重厚な玄武の宮とは異なり、朱色の柱や吊り燈籠、白砂の庭と太鼓橋で華やかに彩られていた。中庭には舞台が設けられ、舞妓たちが美しい舞を披露していた。
朱雀の侍女頭は姫君を捜しに行き、董胡だけが広縁に残された。そこへ赤い水干をまとった舞人が現れ、勇壮で流麗な舞を始めた。
紅拍子の舞
董胡は舞人を人気の紅拍子だと思い、その圧倒的な美しさに見入った。男装した姿は男性にしか見えず、凜々しい顔立ちと力強い舞には一切女性らしさが感じられなかった。
夢中になった董胡は扇を下ろし、顔を晒していることにも気付かなかった。舞人は董胡を見つめると舞台から近づき、扇を取り上げて顎を持ち上げ、真正面から顔を確かめた。
男装した朱雀の后
舞人の無礼に董胡が戸惑っていると、戻ってきた朱雀の侍女頭・禰古が悲鳴を上げた。目の前の紅拍子は舞妓ではなく、朱雀の一の后本人であった。
朱雀の后は、客人を舞でもてなしただけだと平然と答えた。董胡が舞をこの世のものとは思えないほど美しかったと正直に称賛すると、朱雀の后は満足し、禰古に促されて董胡を部屋の奥へ案内した。
三、 朱雀の朱璃姫
朱璃の素性
朱雀の后宮へ招かれた董胡は、紅拍子姿から華やかな姫君の装いへ着替えた朱璃と対面した。朱璃は朱雀公の娘として育ったのではなく、妓楼を与えられた父と舞妓の母の間に生まれ、舞団を見て自由に育ったと明かした。
父が突然朱雀公となったことで、母は離縁され、朱璃も舞妓から一の姫へ仕立てられていた。朱璃自身は后になることを望まず、紅拍子の光貴人として舞団を率いる夢を持っていた。
濤麗の面影
朱璃は董胡の顔を見て、幼い頃に朱雀の后宮で出会った濤麗という少女に似ていると告げた。董胡が侍女頭として董麗と名乗ると、呼び名まで同じことに驚き、母娘ではないかと疑った。
濤麗は先帝の母である凰葉の后宮にいた女性だったが、凰葉の死後に朱雀公の血筋が絶え、后宮が再編された際に消息不明となっていた。董胡は自分の母は玄武の者だと答えて関係を否定したものの、濤麗の過去に新たな疑問を抱いた。
期限付きの一の后
朱璃の父は、先代朱雀公の息子が成人するまでの繋ぎとして朱雀公を務めていた。数年後には地位を返し、父は妓楼の楼主へ戻って母と復縁し、朱璃も紅拍子へ戻る予定であった。
朱璃が期限付きの輿入れを受け入れたのは、かつて想いを寄せた濤麗の行方を朱雀の后宮で捜すためでもあった。朱璃は濤麗を初恋の人だと語り、帝の寵愛や皇后の地位には興味がないと断言した。
帝との密談
朱璃は、神嘗会以降に帝が朱雀の后宮へ通っているのは、寵愛のためではないと明かした。帝は宴の御簾の中で、朱雀の地に関わる新たな先読みを内密に告げ、その後も未来の変化を報告するために訪れていた。
朱璃は帝を冷酷なうつけではなく、真面目で不器用な人物だと見ていた。また、帝は玄武の后を気にかけ、惹かれているように感じると董胡へ伝えたが、董胡は強く否定した。
妓楼街の流行り病
帝の先読みによれば、朱雀の妓楼で原因不明の病が流行する可能性があった。公にすれば解決が難しくなるため、帝は朱璃だけに知らせ、密かに対策を進めていた。
朱璃の父は玄武公へ医師の派遣を求めていたが、応じてもらえなかった。そこで朱璃は、玄武の一の后に仕える優秀な専属医官・董胡を借りたいと頼んだ。
しかし董胡は、朱璃に侍女頭として顔を見られているため、医官姿で再会すれば正体を疑われると考え、依頼を断った。朱璃は直接会って助言を受けるだけでもよいと食い下がったが、董胡は応じられなかった。
朱璃を慕う侍女たち
董胡が帰った後、禰古は朱璃が玄武の侍女へ内情を話し過ぎたと注意した。しかし朱璃は董胡の顔立ちを見て誠実な人物だと信じ、濤麗との繋がりにも期待を抱いていた。
禰古をはじめ朱雀の侍女たちは、紅拍子の光貴人としての朱璃を深く慕う一方、皇后となる姿も望んでいた。朱璃は帝を優れた人物と評価しながらも、互いに恋愛感情はなく、友人のような関係だと理解していた。
朱璃は妓楼の流行り病を防ぐことを優先し、玄武の一の后と直接話す準備を命じた。その直後に眠り込んだ朱璃を見て、禰古は王宮へ来てから疲れやすくなったことを心配した。
四、翔司皇子
竜胆の花
朱雀の后宮から戻る途中、董胡は朱璃の放つ味の色が、かつて見た人物と似ていることに気付いた。さらに玄武の貴人回廊の周囲に咲く竜胆を見つけ、生薬として採取する時期を考えて座り込んだ。
そこへ弟宮の翔司が近従を連れて現れた。董胡は慌てて扇を落としたが、翔司は自ら拾って優しく手渡した。竜胆の薬効を話した董胡は知識を怪しまれ、部屋に飾るため調べたのだと取り繕った。
董胡は翔司の無垢で誠実な態度に、玄武公と共に黎司を陥れている人物とは思えなかった。しかし翔司は二の后宮へ向かいながら、去っていく董胡の姿を見つめていた。
急な帝のお渡り
后宮へ戻った董胡は、玄武公と華蘭が皇太后を訪ねており、さらに黎司がその夜に渡ってくると知らされた。董胡は朱雀の流行り病について相談されるのではないかと考え、急いで食事を用意した。
董胡は白米中心の王宮の食事が脚気を招くと考え、粟や黍、昆布、帆立を入れた雑穀粥を作った。さらに蒸し鶏へ豆板辣油、黒酢、すり下ろした林檎を絡め、滋養と食べやすさを両立させた膳に整えた。
董胡の薬膳
黎司は雑穀粥を貴族らしくない食事と思いながらも、その味を気に入った。甘辛く仕上げた鶏料理も夢中で食べ、董胡は五年前に自分の料理を喜んだレイシの姿を重ねた。
董胡が薬膳師の料理を食べたくなった時はいつでも来てほしいと告げると、黎司は料理に夢中になり、董胡との会話を忘れていたことを恥じた。そして董胡を温かい人だと評し、玄武の后宮を心地よい場所だと語った。
朱雀への医官派遣
黎司はしばらく后宮へ来られないと告げ、朱雀の后に董胡の専属医官について話したことを謝った。朱雀の街では病に苦しむ民の姿が濃く視え始め、その中に角髪姿の若い医官が現れていた。
董胡は、それが自分を示す先読みであり、レイシが董胡だからこそ助けを求めているのではないかと考えた。しかし医官として朱雀へ行けば鼓濤との二重の身分が露見するため、協力を断った。
黎司は無理に命じず、他の医師を手配すると告げた。董胡は必要な時に黎司を助けられない自分を歯がゆく思いながら、見送ることしかできなかった。
内医司の偵徳
偵徳は王宮の内医司へ入り、皇帝の早朝診察に立ち会った。しかしそこに董胡の姿はなく、楊庵と共に手掛かりを失っていた。
内医頭の頑兼は八十歳を超え、手足の震えや判断力の衰えが見られる医官であった。黎司は頑兼が勧める薬湯や鍼を拒絶し、偵徳は皇帝が殉死制度のためにまともな医師を得られない状況を冷ややかに見ていた。
偵徳は、玄武公が優秀で目障りな医師を内医官に任命し、皇帝の死と共に殉死させてきたと考えていた。董胡も同じように犠牲になったと疑い、皇帝や権力者へ一矢報いるために王宮へ入っていた。
不穏な医官
偵徳が黎司を睨んでいると、緋色の服をまとった神官が突然現れた。神官は偵徳の不穏な気配を見抜き、本心を明らかにすると告げ、別の男たちに偵徳を連行させた。
同僚の医官たちは助けようとせず、偵徳は弁明する間もなく連れ去られた。
胡に重なる先読み
診察後、黎司は頑兼の指示で薬を混ぜられた朝食を嫌い、ほとんど手をつけなかった。前夜に玄武の后宮で董胡の料理を食べていたため体調は良かったが、董胡へ頼りすぎているのではないかと悩んでいた。
黎司の先読みに現れる医師や妓女、逃げ惑う玄武の后の顔は、いずれも董胡の姿に見えていた。黎司は自分の執着が天術を狂わせているのではないかと疑った。
翠明は、董胡の料理が黎司の血肉に影響し、感謝の思いが先読みに投影されているのだろうと説明した。黎司は董胡が妓女のように危険な目に遭うことを恐れ、朱雀への派遣を鼓濤が断ったことに安堵した。
翠明も別の医官を手配すると約束したが、朱雀の病を巡る事態は、二人の知らないところですでに動き始めていた。
五、朱雀のお茶会
鼓濤の替え玉
朱璃から茶会へ招かれた董胡は、侍女頭・董麗として出席するため、茶民を鼓濤に仕立てた。御簾の中に茶民と壇々を残し、董胡は朱璃の部屋へ向かった。
朱璃は董胡を親しげに迎え、玄武の后が内気な姫君だと聞いて意外に思っていると語った。董胡は朱璃の鋭い勘に警戒しつつ、鼓濤からの手土産として薬膳のわらび餅を差し出した。
竜胆のわらび餅
わらび餅には生薬の竜胆が混ぜられており、禰古と毒見役は強い苦味に顔をしかめた。しかし朱璃は苦味を気に入り、次々に食べた。
董胡は朱璃の周囲に苦味を示す赤い色を見て、酒を好む人物だと見抜いていた。朱璃が王宮へ来てから酒量を増やし、疲労や眠気を感じていると知ると、肝臓に負担がかかっていると説明した。竜胆には酒による胃もたれや肝臓の炎症を整える効能があり、禁酒すれば回復すると伝えた。
朱雀の流行り病
朱璃は、帝の先読みに現れた病が妓楼でよく見られる病とは異なると明かした。まだ病状は不明であり、帝は秘密裏に朱雀の都へ調査役を送るつもりであった。
朱璃は玄武の后付き薬膳師を調査に同行させたいと改めて頼んだ。さらに隣室には帝も招いており、鼓濤本人へ直接依頼するつもりだと告げた。
董胡は茶民の替え玉が露見することを恐れ、自分が鼓濤を説得すると約束した。朱璃はその言葉を引き出すため、最初から董胡を追い込んでいたのである。
朱璃と黎司の友情
董胡が退出した後、黎司は朱璃を思った以上に腹黒い姫だと評した。朱璃は朱雀の民を救うためなら鬼にもなると答え、董胡の薬膳師を必ず派遣させるつもりでいた。
朱璃は黎司が玄武の后を信頼し、気にかけていると見抜いていた。二人は帝と后というより友人のような関係であり、酒を酌み交わしていたが、朱璃は董胡の忠告に従って禁酒すると告げた。
帝との遭遇
董胡が茶民たちの待つ御簾へ戻ると、二人は紅拍子の舞と菓子を楽しんでいた。やがて舞台に現れた帝を舞妓と勘違いしたが、正体を知ると慌て始めた。
帝が御簾へ近づくと、茶民は鼓濤の衣装を董胡へ押し付けた。董胡が鼓濤として応対すると、昼の明るさの中ではっきり見えた帝の顔がレイシ本人であると確信した。
黎司は薬膳師の派遣を承諾したことへ感謝を告げた。董胡はレイシから求められていると知り、朱雀の病を調べる決意を固めた。
白もの御膳
翌日、黎司が玄武の后宮を訪れると、董胡は秋の白い食材を集めた白もの御膳を用意した。百合根とはと麦の飯、白木耳と貝柱の汁、蓮根や白菜、豆腐を使った料理を並べ、食感や味の変化で食事を楽しめるよう工夫した。
黎司は料理を美味しいと喜び、董胡はレイシの味覚を少しずつ育て、体を整えられることに薬膳師としての喜びを感じた。
朱雀への木札
食事を終えた黎司は御簾へ近づき、朱璃が用意した木札を差し出した。木札があれば、董胡は朱雀の領地を自由に通り、現地の者から助けを得られるというものだった。
董胡が受け取ろうとすると、黎司はその手を包み込むように木札を渡した。さらに十分な警護を用意し、自身も祈禱殿で無事を祈り続けると告げた。
黎司は病の原因だけを突き止め、危険なら逃げ帰るよう董胡へ伝えてほしいと頼んだ。董胡はその心遣いを受け止めながら、必ず病の原因を解明してレイシの役に立つと決意した。
六、帝の密偵
朱雀への潜入任務
董胡は偵徳と楊庵に再会し、朱雀の妓楼で起こる流行り病を調査する任務に就いた。二人は王宮から逃げることも提案したが、董胡は周囲へ迷惑をかけられないとして断った。
偵徳と楊庵は帝や玄武の后の正体を知らず、董胡も自分が鼓濤であることや帝がレイシであることを明かさなかった。三人は疱瘡や寄生虫の可能性を考え、六日以内に病の原因と治療法を探ることになった。
朱雀の花街
三人は玄武から来た裕福な医師と弟子を装い、朱雀の都へ入った。偵徳は花街で遊ぶ医師を演じ、董胡は通行人の体から見える味覚の色を観察した。
街の人々に目立った病状はなかったが、董胡は何人もの人が珍しい同じ色を放っていることに気付いた。病的ではなかったため、朱雀独特の食文化によるものではないかと考えた。
雅舫楼への滞在
三人は流行の中心になるとされた高級妓楼・雅舫楼を訪れた。偵徳は大金を見せ、五日間滞在する裕福な医師を演じて入楼を認められた。
案内役には綺羅という少女が付き、食事の席には三人の妓女が現れた。董胡は妓女たちを観察したが、顔色や肌に異常はなく、味覚の色にも病を示す変化は見つからなかった。
失脚した葵
三人の中で最も美しい妓女は不機嫌なまま席を立った。その妓女は葵といい、以前は最上位の上楼君だったが、夕霧に客を奪われて普通の妓女へ降格していた。
偵徳は情報を得るため、他の妓女ではなく葵を床入りの相手に指名した。董胡と楊庵は部屋を追い出され、妓楼の裏庭で待つことになった。
楊庵の秘密
楊庵は董胡が女性であることを偵徳にも明かさず、秘密を守り続けていた。董胡は楊庵へ感謝し、行方不明となったト殷について尋ねた。
楊庵は、董胡が消えた後に治療院を訪れると、内部が荒らされ、ト殷も姿を消していたと話した。偵徳は麒麟寮と王宮の闇を調べるため内医司へ入ったらしく、楊庵たちは帝も疑っていたが、詳しい事情は董胡へ明かさなかった。
冬虫夏茸
楊庵は荒らされた治療院から守り抜いた董胡の薬草籠を持ち出し、中に残っていた冬虫夏茸を渡した。董胡は宝物が戻ったことを喜び、楊庵へ抱きついて感謝した。
董胡は楊庵の気持ちを理解したつもりになり、妓女を指名してもよいと勧めた。しかし楊庵は怒って董胡の頭を殴り、その場を立ち去った。董胡は楊庵の本心にまったく気付いていなかった。
七、 朱雀の奇病
呪術の噂
偵徳は雅舫楼の妓女たちに目立った病はなく、衛生状態も良いため、疱瘡や寄生虫が流行している様子はないと報告した。一方、葵は夕霧が呪術で客を奪っていると訴え、夕霧が妙な香を焚いていると話していた。
偵徳と董胡は、その香が芥子から作られる阿芙蓉ではないかと疑った。阿芙蓉は丸薬では弱い鎮痛作用しか持たなかったが、香炉で焚いて煙を吸うと強い快感と高揚をもたらし、玄武の妓楼では極楽金丹として闇取引されていた。
夕霧の部屋
董胡は極楽金丹の香りを確かめるため、夜明け前に一人で夕霧の部屋へ忍び込もうとした。しかし扉に手をかけたところで、妓女見習いの綺羅に見つかった。
その直後、夕霧の部屋から高位貴族らしい若君と夕霧が現れた。若君は夕霧を足蹴にし、髪を掴みながら妓女へ降格するよう命じた。夕霧は董胡へ激しい嫉妬を向けて殴りかかったが、若君には恐怖から完全に従っていた。
謎の若君
若君は夕霧を捨てる一方、董胡を気に入り、明後日に破瓜儀礼を行うよう雅舫楼へ命じた。身元は明かされていなかったが、衣装や振る舞いから上流貴族であることは明らかであった。
若君は一か月ほど前に現れ、夕霧を指名するようになってから、彼女の客が急増していた。董胡は夕霧が客を虜にする変化と若君の存在に繋がりがあると疑った。
夕霧の丸薬
綺羅は夕霧の衣装から見つけた黒い丸薬を董胡へ渡した。匂いは阿芙蓉に似ており、董胡は香炉で焚けば極楽金丹か確かめられると考えた。
一方、雅舫楼の鴇婆は高額な破瓜儀礼を逃さぬため、董胡へ妓女になるよう勧めた。さらに董胡が本当に男性なのか疑い、正体を見抜くような視線を向けた。
夕霧に囚われた客
そこへ六造という貧しい商人が大金を持って現れ、夕霧へ会わせてほしいと懇願した。六造は店を売り、使用人を解雇し、妻子まで里へ返して金を用意していた。
六造は夕霧といられるなら何でもすると語り、今後は危険な方法で金を稼ごうとしていた。綺羅によれば、同じように夕霧のために大金を用意した客が他にも複数いた。
董胡は、夕霧と六造に共通する異常な執着こそ、帝の先読みに現れた流行り病の正体であると確信した。
八、阿芙蓉
極楽金丹の正体
董胡は妓女見習いに変装して部屋へ戻り、夕霧が持っていた黒い丸薬と妓楼で起きている異変を偵徳と楊庵に報告した。偵徳は丸薬が阿芙蓉を煙で吸う極楽金丹である可能性を認めた。
阿芙蓉の煙には痛みを消して気分を異常に高揚させる作用がある一方、薬効が切れると深い絶望や倦怠感を招き、短期間で強い依存を生む危険があった。董胡は夕霧や六造の異常な執着から、以前よりも薬効を増した阿芙蓉が使われていると考えた。
偵徳の吸引実験
偵徳は薬効を確かめるため、董胡の制止を聞かず丸薬を香炉で焚いて煙を吸った。古傷の痛みが消え、踊り出したくなるほど気分が高揚したことで、丸薬が強力な阿芙蓉であると判明した。
偵徳は、この快感を一度味わえば多くの者がやめられなくなり、大量に広まれば朱雀の街が崩壊すると警告した。さらに単なる金儲けではなく、朱雀を弱体化させる意図がある可能性も示した。
楊庵の告白
手ぬぐいで十分に煙を防げなかった楊庵も阿芙蓉の影響を受け、董胡を抱き締めた。楊庵は女性姿の董胡を可愛いと褒め、以前から抱いていた想いを打ち明けようとした。
董胡は初めて楊庵の感情に気付きかけたが、楊庵は薬が効き過ぎて眠り込んだ。目覚めた後は自分の行動を覚えており、強い羞恥と自己嫌悪から董胡を避けた。
若君の企み
董胡は、若君が夕霧へ阿芙蓉を売らせ、依存した客から金を巻き上げていると推測した。夕霧が上楼君となったことで指名料が妓楼へ流れ、薬の売上が減ったため、若君は夕霧を降格させようとしていた。
さらに董胡を新たな上楼君へ仕立て、夕霧を再び売人として使おうとしていると考えた。董胡は破瓜儀礼までに証拠を掴み、若君の悪事を止めると決意した。
阿芙蓉中毒の色
薬効が切れた偵徳は、古傷の痛みや倦怠感、頭痛に苦しんだ。楊庵も食欲を失い、味覚を示す色が消えていた。
董胡は、阿芙蓉が効いている間は五味を示す五色が異常に強まり、切れると色が失われることに気付いた。雅舫楼や朱雀の街には同じ色を放つ者が複数おり、夕霧以外にも阿芙蓉を売る妓女が存在すると判断した。
狐目の若君
街を調べていた董胡と楊庵は、偶然狐目の若君を見つけた。董胡は黒幕や仲間の正体を突き止めるため尾行を始めたが、楊庵は危険だとして引き返すよう求めた。
董胡はレイシの役に立ちたい一心で尾行を続け、若君を追って山道へ入った。しかし二人は、木の上に潜んでいた十人ほどの黒装束の男たちに包囲された。
その中心にいた華やかな顔立ちの男も、董胡の目には阿芙蓉に冒された五色を放っていた。董胡は大きな組織が背後にあると悟り、楊庵の忠告を聞かなかったことを後悔した。
九、 上楼君、紫竜胆
紫竜胆の破瓜儀礼
雅舫楼では紫竜胆の破瓜儀礼を祝い、紅薔薇貴人の舞団による剣舞が催された。紫竜胆を上楼君に押し上げた若君は、夕霧を降格させて再び極楽金丹を売らせることだけを目的としており、紫竜胆を使い捨ての人形としか見ていなかった。
若君が竜胆の花で飾られた部屋へ入ると、紫竜胆に扮した董胡が待ち受けていた。董胡が若君へ問いかけると、隣室から旺朱や楊庵、傀儡法師の一団が現れ、若君を包囲した。
旺朱との協力
若君を尾行していた董胡と楊庵を囲んだ黒装束の者たちは、朱璃の依頼で妓楼を調べていた傀儡法師の一団であった。その頭領の旺朱は朱璃の弟であり、朱雀公の息子でありながら軽業師として暮らしていた。
旺朱は山奥に若君の仲間らしい隠密集団がいると明かし、董胡たちの尾行を止めた。董胡は妓楼の楼主代理でもある旺朱へ協力を求め、破瓜儀礼までの二日間で若君を追い詰める準備を進めた。
中毒者の治療
董胡は阿芙蓉中毒者を見分ける力を使い、雅舫楼や朱雀の街から中毒者を集めた。紅拍子の舞を見に来た客には竜胆の花を目印として渡し、偵徳や診療所の医師が十薬を用いて離脱症状の治療を始めた。
夕霧も極楽金丹を売っていたことを認め、治療を受けていた。しかし阿芙蓉中毒を根絶するには供給を断つ必要があり、董胡は若君とその仲間を捕らえることを最優先とした。
赤軍の包囲
董胡が極楽金丹について追及しても、若君は夕霧が勝手に売っただけだと言い逃れた。さらに貴族である自分を平民が捕らえることはできないと嘲笑した。
董胡は朱雀公の命を受けた赤軍が山奥の拠点へ向かっていると告げた。若君は初めて動揺したが、董胡の正体を問いながら長刀を抜き、包囲を突破しようとした。
鍼を使う若君
若君は旺朱や楊庵たちの攻撃をかわしながら、密かに鍼を投げて男たちの腕を痺れさせた。董胡は倒れた者の腕に刺さった鍼を見つけ、若君が神経を狙った特殊な鍼術を使っていると見破った。
攻撃の正体を知られた若君は、今度は禁鍼穴である神庭へ鍼を打ち、男たちを昏倒させた。医術を人を傷つけるために使う行為に董胡は激怒したが、若君は再会を予告して風のように逃走した。
消えた隠密集団
旺朱や楊庵は若君を追ったが、その姿を見失った。山奥の拠点へ向かった赤軍も同じ鍼術を使う男たちに苦戦し、大半を取り逃がした。
捕らえられた者たちは舌を噛んで自害し、拠点には大量の極楽金丹だけが残されていた。若君と隠密集団の身元を示す物はなく、事件の黒幕は判明しないままとなった。
十、正体ばれる?
阿芙蓉中毒の治療
董胡たちは雅舫楼に残り、阿芙蓉を断った患者の離脱症状を治療した。特効薬はなく、十薬茶で毒出しを促しながら回復を待つしかなかった。楊庵は若君の鍼で傷ついた傀儡法師たちを治療し、優れた勘で腕の痺れを和らげた。
董胡は豪華な食事を囲みながら、旺朱が阿芙蓉中毒ではなく、幼い頃から妓楼の料理に親しんだ天性の美食家であると気付いた。旺朱は董胡と楊庵の働きに感謝し、今後は雅舫楼を自由に利用してよいと告げた。
紅薔薇貴人の正体
雅舫楼には、紅薔薇貴人と入れ替わって王宮を抜け出した朱璃も訪れていた。朱璃は能面をつけて舞台に立ち、自ら領地の異変を確かめていた。
朱璃は紫竜胆に扮した董胡を見られなかったことを惜しみ、董胡が本当に男性なのか疑いを深めた。董胡と侍女頭・華麗の関係にも気付きかけたが、逃げられないよう今は追及せず、密かに見守ることにした。
偵徳と楊庵との別れ
任務を終えた董胡は王宮へ戻り、偵徳と楊庵も遅れて帰還した。三人には帝と朱雀公から褒美が与えられたが、偵徳はなお帝の先読みを信じ切れず、阿芙蓉の発見も偶然だと考えていた。
楊庵は董胡と離れることを惜しみ、玄武の后宮で働きたいと望んだ。しかし董胡の正体を明かせないため実現できず、今後は薬庫の万寿を通して連絡を取り合うことになった。
レイシとの再会
偵徳たちが去った後、神官姿のレイシが董胡の前に現れた。レイシは朱雀での働きを褒め、頭を撫でながら立派な薬膳師になったと告げた。
董胡は、いつかレイシの専属薬膳師になるという夢が自分を支えてきたと明かした。レイシも董胡を側に置きたい気持ちは変わらないと語ったが、玄武の后が董胡を重用しているため、これからも時折会う機会を作ろうと約束した。
胡と鼓濤への想い
レイシは董胡へ深い信頼を寄せる一方、鼓濤の話をする時には異なる温かな感情を見せた。董胡は自分自身である鼓濤に嫉妬しながら、二つの姿でレイシを欺いていることへの不安を抱いた。
正体が明らかになれば、レイシの側にいられなくなると考えた董胡は、その日を少しでも先延ばしにしながら力になり続けたいと願った。
濤麗の捜索
朱璃は朱雀での働きを労いに来た黎司へ、幼い頃に出会った濤麗という女性を捜してほしいと頼んだ。朱雀の后宮には当時の名簿や日誌が残っておらず、皇宮の資料に手掛かりを求めたのである。
黎司は后宮の名簿を調べると約束し、朱璃から濤麗の名を聞いた。
皇太后の茶会
同じ頃、鼓濤のもとへ、これまで無視を続けていた皇太后から茶会の招待が届いた。茶会には玄武公、華蘭、雄武も参加する予定であった。
董胡は、麒麟寮時代の自分を知る雄武と鼓濤の姿で会わなければならないことに不安を抱いた。扇で顔を隠して切り抜けようと考えたが、茶会では予想もしない事態が待ち受けていた。
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