スポンサーリンク
フィクション(Novel)尾道理子皇帝の薬膳妃読書感想

小説「皇帝の薬膳妃 紅菊の秘密と新たな誓い」感想・ネタバレ

スポンサーリンク
皇帝の薬膳妃3の表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

薬膳妃 2巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 4巻レビュー

スポンサーリンク

物語の概要

■ 作品概要

本作は、王宮を舞台にした中華風のアジアン・ファンタジー小説の第3弾である。 主人公の董胡は、正体を隠して「皇帝の妃(鼓濤)」と「男装の医官」の一人二役をこなしている。 朱雀の流行り病を防いだ彼女は、穏やかな后宮生活に戻ろうとしていた。 しかし、彼女を敵視する玄武公の一族である皇太后から突然のお茶会に誘われる。 これをきっかけに、董胡は再び王宮を揺るがす大きな陰謀へと巻き込まれていく。

■ 主要キャラクター

  • 董胡(とうこ) / 鼓濤(ことう) 本作の主人公。平民の医生でありながら、玄武の一の后「鼓濤」として輿入れした。王宮では「男装の医官」としても活動し、陰から黎司を支え続けている。
  • 黎司(れいじ) / レイシ 伍尭國の第十七代皇帝。董胡の薬膳料理によって拒食症が改善されつつある。后の鼓濤と医官の董胡が同一人物であることはまだ知らない。
  • 王琳(おうりん) 玄武公から新たに鼓濤のもとへ派遣されてきた侍女頭。かつて玄武公の陰謀で殉死させられた先帝の内医助・吐伯の妻である。皇太后に脅されて黎司の毒殺を図るが、董胡の薬膳と説得によって真実を悟る。
  • 雄武(ゆうぶ) 玄武公の次男であり、麒麟寮の医生。医師試験で董胡に首席を奪われたことで複雑なライバル心を抱く。しかし、王琳の毒殺計画をいち早く察知し、自ら悪役を演じて董胡に警告を伝える。
  • 皇太后(こうたいごう) 先帝の一の后であり、黎司の弟宮である翔司の母親。玄武の出身で、実兄の玄武公とともに黎司の廃位を狙う。王琳を脅迫して帝の毒殺を命じた黒幕の一人である。
  • 楊庵(ようあん) 董胡の兄弟子。帝の密偵(使部)として后宮の董胡と接触し、王琳の素性を探るなどして彼女を支える。
  • 偵徳(ていとく) 麒麟寮の平民医師であったが、内医官の殉死制度の闇を暴き、かつての親友・秋仲の仇を討つために内医司へ志願した人物。
  • 朱璃(しゅり) 朱雀の一の后。忽然と消えた「華麗(董胡)」を不審に思い、后宮の鼓濤のもとへ押しかける。そして、鼓濤と医官の董胡が同一人物であることを見破って対峙する。

■ 物語の特徴

ついに正体が露見するスリリングな幕切れ 朱雀の后・朱璃にすべての正体を見破られ、二人の后が互いに一歩も引かずに睨み合う衝撃の結末が、次なる波乱を予感させる。

内医官殉死制度という恐るべき王宮の「悪習」への切り込み 代々のしきたりとされてきた「殉死制度」の裏で、玄武公が自分の地位を脅かす優秀な平民医師たちを葬り去ってきたという冷酷なシステムが暴かれる。

王琳と董胡の対峙、そして緊迫の毒殺回避劇 夫を不条理に失って心を閉ざした王琳と、彼女の体調不良(糖虚)を薬膳で救い、誠意をもって向き合う董胡の対話と心理戦が大きな見どころを成す。

雄武の意外な葛藤と不器用な優しさ かつては董胡に嫌がらせをしていた雄武が、家族の悪事に苦悩し、嫌われ役を買って出てでも董胡を助けようとする一幕があり、彼の精神的成長が掘り下げられる。

読んだ本のタイトル

皇帝の薬膳妃 紅菊の秘密と新たな誓い
著者:尾道 理子 氏
出版社:KADOKAWA角川文庫
発売日:2022年10月24日
ISBN:9784041130209

ブックライブで購入

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

謎のしきたり・内医官殉死制度の闇を暴け! 壮大なアジアンファンタジー。

伍尭國(ごぎょうこく)の妃と薬膳師、一人二役の生活にも慣れてきた董胡。
王宮で自らの侍女たちや、時折宮に訪れる皇帝・黎司に薬膳料理を振る舞い、皆の笑顔に喜びを感じていた。

ある日、董胡は、黎司と敵対する玄武公・亀氏(きし)一族の皇太后からお茶会に招かれる。
玄武公らはずっと董胡を見くびっていたが、ついに黎司の董胡への寵愛ぶりに目をつけたようだ。
皇太后から怪しい茶を出されるが、董胡は機転を利かせ、何とかその場を乗り切る。

しかし後日、玄武公より新たな侍女頭として王琳(おうりん)という女性が派遣されてきた。
玄武公の間者らしき彼女に、董胡たちは警戒を強めるが――。

真っすぐで伸びやかな一人二役ヒロイン・董胡が王宮にはびこる悪習に斬り込む!
重版がとまらないアジアンファンタジー、待望の第3弾!

皇帝の薬膳妃 紅菊の秘密と新たな誓い

感想

本巻で特に印象に残ったのは、董胡が作る薬膳が人の体を整えるだけでなく、閉ざされた心を開き、やがて国の制度まで動かしていく点である。

董胡は玄武の一の后・鼓濤として暮らしながら、男装した医官・董胡、侍女頭代理・董麗という複数の顔を使い分けている。

前巻では朱雀の妓楼へ潜入し、阿芙蓉の流行を食い止めた。命がけの任務を終え、ようやく穏やかな日常へ戻れるかと思われたが、王宮での生活は決して彼女を休ませてくれない。

皇太后の茶会、玄武公から送り込まれた新しい侍女頭、皇帝暗殺の陰謀、内医官の殉死制度。

次々と問題が押し寄せるなか、董胡は薬膳師としての知識と、人を見捨てられない性格によって道を切り開いていく。

派手な力で敵を倒すのではなく、料理や言葉を通して人の考えを変えていくところに、本作らしい面白さを感じた。

穏やかな薬膳の日々と董胡の罪悪感

前巻の事件を終えた董胡は、再び鼓濤として玄武の后宮で過ごしている。

黎司が后宮を訪れると、董胡は寒菊の花を散らした湯豆腐や、玄米と小豆の粥など、冬の体を整える薬膳を用意する。

食用の紅菊や黄菊が浮かぶ湯豆腐は見た目にも華やかで、冷えた体を温める料理として実に美味しそうだった。

印象に残ったのは、黎司が料理を味わうだけでなく、董胡が語る食材の効能や調理方法まで楽しみにしていることである。

董胡は、鼓濤付きの薬膳師から聞いた話であるかのように説明する。しかし料理の話になると夢中になり、まるで自分が作ったように細部まで語ってしまう。

もちろん、実際に作ったのは董胡本人である。

黎司はその不自然さに気づきながらも、深く追及しない。むしろ董胡の話を聞くことで心身が整うようだと喜んでいる。

二人の距離は少しずつ縮まっている。

しかし董胡は、黎司に好意を向けられるほど、自分が彼を欺いているという罪悪感を深めていく。

黎司は医官の董胡と、后の鼓濤を別人だと思っている。

董胡はどちらの姿でも黎司を支えているが、本人には真実を明かせない。

嬉しさと苦しさが同時に膨らんでいく関係が、非常にもどかしかった。

皇帝も時代とともに変わるべきだという黎司の覚悟

紅菊を使った料理を囲みながら、黎司は皇族の緋色について語る。

緋色は一つの決まった色ではなく、周囲の気や時代によって赤にも黄にも見える。

そして皇帝もまた、緋色と同じように時代の変化を受け入れるべきではないかと考えていた。

この言葉を聞いた董胡は、五年前にレイシへ願ったことを思い出す。

身分や性別に関係なく、誰もが夢を持てる世を作ってほしい。

幼かった董胡が何気なく口にした願いを、黎司は今も忘れず、実現しようとしているのではないか。

しかし董胡は、王宮で権力争いの厳しさを知ったことで、自分の願いがどれほど難しいものだったかを理解している。

無邪気な願いによって、黎司へ重い責任を背負わせてしまったのではないかと不安になる。

今の董胡が本当に望んでいるのは、理想の国を作ることより、黎司が健やかに生きることなのかもしれない。

それでも黎司は、自分が皇帝である限り、国を変えようとする。

二人が交わした約束が、黎司にとって生きる理由であり、同時に重い覚悟にもなっていることが伝わってきた。

皇太后の茶会に漂う悪意

董胡のもとへ、これまで拝謁を拒み続けていた皇太后から突然、茶会への招待が届く。

参加者は皇太后だけではない。

玄武公、華蘭、そして董胡が麒麟寮にいた頃の同級生である雄武まで同席する。

鼓濤としての董胡にとって、これほど危険な顔ぶれはない。

雄武は、男装して医生として学んでいた頃の董胡を知っている。顔を見られれば、鼓濤の正体に気づかれる可能性が高い。

さらに皇太后と玄武公は、最初から董胡を歓迎するつもりなどなかった。

平民育ちであることを嘲り、衣装や侍女の作法まで馬鹿にする。

医師免状についても、董胡の努力によって得たものではなく、玄武公の情けで与えられた飾りにすぎないと決めつける。

董胡がどれほど努力して首席になったのかを知っているだけに、読んでいて腹立たしさを覚えた。

権力者たちは、自分たちに都合の悪い事実を簡単に書き換える。

平民が貴族より優秀だったという結果を認めず、玄武公が恵んだ資格ということにしてしまう。

董胡の人生や努力が、彼らにとっては自分たちの権威を守るための道具でしかないことが伝わってきた。

濃茶を前に放った「懐妊の可能性」という嘘

茶会で皇太后が董胡へ差し出したのは、黒露の玉と呼ばれる濃茶である。

玄武公たちに出されたものよりも明らかに濃く、量も多い。

単なる嫌がらせなのか、本当に毒が入っているのかは分からない。

しかし玄武公たちが医術を支配し、死因まで自由に偽装できることを考えれば、何も疑わず飲むのは危険すぎる。

董胡が飲むのをためらうと、皇太后や侍女たちは無礼だと責め立てる。

そこで董胡は、碾茶は効能が強すぎるため、懐妊の可能性がある者は飲むべきではないと説明する。

つまり自分は皇帝の子を身ごもっている可能性があるため、この茶を飲めないと主張したのである。

もちろん、実際に懐妊しているわけではない。

自分の命を守るために、その場で作り上げた嘘だった。

この機転には驚かされた。

皇太后たちが董胡を殺そうとしていたのかは分からない。

それでも、危険な可能性がある以上、自分の身を守るために行動する。

誰かを傷つけるための嘘ではなく、生き延びるための嘘である。

董胡は、もし嘘をついた罰を受けるなら受け入れると覚悟している。

男装も、鼓濤としての生活も、すべてはこの世界で生きるために必要だった。

弱い立場の人間が正直でいるだけでは、生き残ることさえ難しい。

董胡のしたたかさは、生まれつきの腹黒さではなく、理不尽な世界に適応するために身につけた強さなのだと感じた。

意外な形で董胡を救った雄武

董胡の説明を華蘭は詭弁だと否定する。

さらに華蘭が放つ不思議な風によって董胡の扇が落ち、顔が晒されてしまう。

その瞬間、雄武は鼓濤が麒麟寮の董胡本人であると確信する。

董胡は、碾茶の危険性を同じ麒麟寮で学んだ雄武へ尋ねるよう求める。

雄武が否定すれば、董胡は茶を飲まなければならない。

董胡は、雄武が自分の死を見届けるために茶会へ来たのではないかとさえ疑う。

しかし雄武は、濃すぎる碾茶には子を流す可能性があると正直に証言する。

玄武公や華蘭の望む答えではない。

それでも医術の知識を曲げず、董胡の説明を肯定した。

この場面で、雄武への印象が大きく変わった。

雄武は麒麟寮で董胡を見下し、取り巻きたちと嫌がらせをしていた人物である。

決して素直に信頼できる相手ではない。

しかし、医術に関する知識を権力者の都合で曲げることはしなかった。

彼には貴族としての傲慢さがある一方、学問に対する矜持も残っている。

単純な悪役ではなく、父親の恐怖に支配されながらも、自分なりの正しさを守ろうとしている人物であることが見えてきた。

雄武が抱えていた罪悪感

本巻では、董胡が医師試験で首席となった直後の雄武の過去も明かされる。

雄武は董胡に負けたことで、玄武公から厳しく叱責されていた。

しかし雄武自身は、不正によって結果を変えたいとは思っていない。

自分の力で董胡を上回りたいと考えていた。

ところが玄武公と章景は、亀氏一族より優秀な平民医師など不要だとして、董胡を内医官に任じ、殉死させようと企てる。

雄武は殺す必要はないと反対するが、父や兄と比較され、見捨てられる恐怖から強く逆らえない。

最終的には章景へ任せると答えてしまう。

その後、董胡が行方不明となり、楊庵まで姿を消したことで、雄武は自分の嫉妬が人を死へ追いやったのではないかと罪悪感を抱き続けていた。

董胡が生きていると知った時、雄武はようやく自分の目で確かめたいと願う。

茶会で董胡を助けたのも、単なる兄としての親切ではない。

過去に何もできなかった自分を変えたいという思いがあったのだろう。

だからといって、過去の嫌がらせが消えるわけではない。

それでも、自分の弱さや過ちを抱えながら行動しようとする雄武の姿は印象に残った。

王宮から一緒に逃げようとする楊庵

皇太后の茶会の後、董胡は薬庫で楊庵と再会する。

楊庵は偵徳から、次に王宮の外へ出る機会があれば、董胡と共に逃げるよう提案されていた。

内医官には殉死の未来があり、玄武の后に仕える董胡も、いつ命を失うか分からない。

楊庵は朱雀へ逃げ、二人で治療院を開こうと誘う。

朱雀が無理なら国を出てもよい。

董胡と一緒なら、どこででも生きていけると真剣に語る。

楊庵の願いは、董胡を危険な王宮から救い、自分のそばで安全に暮らしてほしいというものである。

その気持ちは温かい。

しかし董胡は断る。

后の鼓濤として姿を消せば、楊庵だけでなく、茶民や壇々まで処罰されるかもしれない。

そして、黎司を置き去りにすることもできない。

黎司は孤独な状態で国を変えようとしている。

拒食も完全には治っていない。

自分の正体が知られ、黎司に疎まれる日が来るまでは、そばで支えたい。

董胡の覚悟がはっきりと示された場面だった。

楊庵と逃げれば、薬膳師として穏やかに暮らせる可能性がある。

それでも董胡は、安全な道ではなく、黎司の隣に残る道を選ぶ。

本人は恋だと認めていないかもしれないが、その選択自体が彼女の気持ちを明確に表していると感じた。

董胡の日常を奪う侍女頭・王琳

董胡、茶民、壇々が甘味を囲んで過ごしていた穏やかな時間は、新しい侍女頭・王琳の登場によって終わりを迎える。

王琳は玄武公の命令で派遣された女性であり、冷静で厳格、隙のない人物である。

董胡たちが御簾の中で一緒に菓子を食べている姿を見ると、すべてを廃棄させる。

董胡が御膳所で料理することも禁じ、常に姫君らしい衣装と言葉遣いで過ごすよう命じる。

茶民と壇々は王琳を氷女や鬼女と恐れ、董胡も自由に医官姿へ着替えて外へ出られなくなる。

これまで董胡は、窮屈な王宮生活の中でも、料理を作ることで自分らしさを保っていた。

茶民や壇々と食卓を囲み、黎司へ薬膳を作ることが心の支えになっていた。

王琳は、そのすべてを奪う。

単に厳しい侍女頭が現れたというだけではない。

董胡が董胡であり続けるための場所が、少しずつ消されていくような息苦しさがあった。

甘味を拒絶する王琳の異変

董胡の目には、人が求める味が五色の光として見える。

王琳からは、甘味を表す黄色の光を強く拒絶する様子が見えていた。

食そのものにも関心が薄く、甘いものは徹底的に避けている。

董胡は当初、王琳を料理で味方につけることは難しいと考える。

しかし王琳はある日、激しい眩暈を起こして倒れてしまう。

董胡が診察すると、王琳は十分な食事を取らず、体内の糖が不足する「糖虚」の状態に陥っていた。

王琳が持っていた薬は今の症状に合っていない。

董胡は薬を捨て、甘麦大棗湯を飲ませ、甘味を感じにくい雑穀粥へ豆板辣油を加えて食べさせる。

王琳が嫌う甘さを無理に押し付けるのではなく、本人が受け入れやすい味へ整える。

ここに董胡の薬膳師としての魅力が表れている。

体に必要だから食べろと命じるのではない。

その人がなぜ食べられないのかを考え、心と体の両方に寄り添った料理を作る。

敵かもしれない相手であっても、具合が悪ければ助ける。

董胡の行動には迷いがない。

この真っ直ぐさが、後に王琳の心を動かすことになる。

王琳が甘味を嫌うようになった理由

王琳は、もともと甘いものが好きな女性だった。

夫の吐伯は、そんな王琳のために糖菓子を買って帰る愛妻家であり、平民にも安く薬を分ける優れた医師だった。

吐伯と王琳の暮らしは、決して派手ではない。

それでも互いを尊重し、同じ夢を持って生きる温かな夫婦だった。

しかし吐伯は、先帝の死後に突然、内医助へ任じられ、そのまま殉死させられてしまう。

玄武公にとって、民から支持される優秀な医師は、自分の権力を脅かす邪魔な存在だった。

吐伯は皇帝を救えなかった責任で殉死したのではない。

殺すために内医助へ任命されたのである。

夫を失った王琳にとって、甘味は幸せだった頃を思い出させるものになってしまった。

大好きだったからこそ、二度と口にできない。

甘味を拒絶する姿は、吐伯との記憶や幸せだった自分自身を拒んでいるようにも感じられた。

董胡が治療したのは、単なる栄養不足ではない。

王琳が悲しみの中で止めてしまった時間を、少しだけ動かしたのだと思う。

兄を守るために悪になる王琳

吐伯を失った王琳に残された大切な存在が、兄の安寧である。

安寧もまた、玄武の医術を変えようとする優秀な医師だった。

皇太后は王琳に対し、安寧が帝によって内医助へ任じられようとしていると告げる。

内医助となれば、黎司が亡くなった時に吐伯と同じように殉死させられる。

兄を救うには、安寧が内医助になる前に皇帝を殺すしかない。

そのように王琳を追い詰め、董胡が作った料理へ毒を入れるよう仕向ける。

王琳は、夫のように正しく生きるだけでは、大切な人を守れないと考えている。

だから自分が悪となり、兄だけは救おうとする。

董胡に命を救われ、優しくされても、毒殺計画を完全には捨てられない。

その葛藤が胸を締め付けた。

王琳は冷酷な人物ではない。

愛する人を二度と失いたくない恐怖によって、罪を犯すしかないと思い込まされている。

玄武公や皇太后は、人の愛情や弱さを利用して犯罪へ追い込む。

自分たちは直接手を汚さず、王琳へ選ばせたように見せるところが恐ろしかった。

乱暴な態度の裏で警告を伝えた雄武

帝の訪問を控えた董胡の后宮へ、雄武が突然現れる。

雄武は御簾の中へ踏み込み、董胡の胸倉を掴む。

一見すると、過去と変わらない乱暴な態度である。

しかし雄武の本当の目的は、王琳が帝の膳へ毒を入れようとしていると董胡へ知らせることだった。

玄武公の監視を避けるため、自分が董胡を嫌っているように見せながら、耳元で警告を伝える。

雄武は父親へ正面から逆らうことはできない。

それでも、自分にできる方法で董胡と黎司を救おうとしている。

茶会で董胡の知識を肯定したことも、今回の警告も、彼にとっては命がけの行動だったはずだ。

董胡は雄武を信用できず、最初は警告の意味にも気づかない。

しかし後に真意を知り、自分が過去の印象だけで雄武を決めつけていたことを反省する。

人は簡単には変わらない。

それでも、過去に悪いことをした人間が、もう何をしても無意味というわけではない。

雄武が少しずつ父親の支配から抜け出し、自分の意思で動こうとする姿に期待を抱いた。

毒見を通過した料理と緊迫の瞬間

董胡は、拒食が進んでいる黎司のため、少量でも栄養を取れる料理を作る。

王琳は亡き吐伯の診療所から持ち出した毒薬を手にし、董胡の料理へ加えようとする。

自分を救ってくれた董胡を罪に陥れることへの迷い。

兄を守らなければならないという焦り。

吐伯を奪った理不尽な世への怒り。

さまざまな感情の中で王琳は揺れる。

帝が訪れると、料理は毒見役によって一品ずつ確認される。

毒見では異常が見つからない。

その後、黎司が汁を口にした直後、喉を押さえて苦しみ始める。

ここまでの緊張感は非常に強く、王琳が本当に毒を入れたのかと不安になった。

しかし黎司は、酸辣湯の辛さにむせただけだった。

一瞬だけ緊張が緩む場面だが、王琳にとっては大きな転換点となる。

目の前の黎司は、皇太后から聞かされていた冷酷で無慈悲な皇帝ではない。

董胡の料理を喜び、侍女にも穏やかに接する普通の青年だった。

王琳は、自分が聞かされてきた情報が本当に正しいのか疑い始める。

王琳の告白と黎司の謝罪

黎司は王琳に対し、安寧を内医助へ任じるつもりなどないと明かす。

さらに吐伯が先帝の死後に内医助へ任じられ、殉死させられた事実も伝えられる。

王琳は、皇太后と玄武公に利用されていたことを悟る。

兄を救うためだと思っていた暗殺が、実際には玄武公の敵を排除するための策略だったのである。

王琳は帝を毒殺しようとしていたことをすべて白状する。

しかし、命令を示す証拠は何もない。

公にすれば、皇太后たちは責任を逃れ、王琳だけが処刑される可能性が高い。

ここで印象に残ったのは、黎司が王琳を責めるより先に、吐伯を救えなかったことを謝る場面である。

吐伯が殺された時、黎司はまだ皇帝ではなかった。

本来なら黎司に責任はない。

それでも皇帝として、国の制度によって命を奪われたことを謝罪する。

そして安寧を守り、殉死制度そのものを終わらせると約束する。

王琳は、自分が罰されるのではなく、夫の志を受け継ぐ道を示された。

その瞬間、冷たく閉ざされていた心が大きく動いたように感じた。

帝のいない殿上会議

翌日の殿上会議では、黎司が体調を崩したとして高御座が空席になっている。

玄武公は、黎司が玄武の后宮で倒れたことを強調し、鼓濤が何か失態を犯したのではないかと匂わせる。

さらに空席となっている内医助へ、王琳の兄・安寧を任命するよう求める。

黎司が毒で死ねば、董胡が罪を負う。

安寧は内医助へ任じられ、次の皇帝の死に合わせて殉死させることもできる。

玄武公にとって都合のよい筋書きが用意されていた。

ところが、黎司は健康な姿で会議へ現れる。

自分の死を玄武公が予測していたかのような言動を皮肉り、周囲の反応を確かめる。

黎司と董胡は、暗殺に気づいていないふりをし、関係者を見極めようとしていたのである。

ただ敵を告発するのではなく、証拠がない状況で相手の反応を引き出す。

以前の黎司であれば、自分一人で苦しみ、何もできずに諦めていたかもしれない。

董胡や王琳、翠明たちの協力を得て、策を立てて玄武公へ対抗する姿に成長を感じた。

医師を葬るために使われた殉死制度

殿上会議で黎司は、内医官だけでなく、后や侍従を含めたすべての殉死を廃止すると宣言する。

皇帝の死に誰かを付き合わせる必要はない。

すべての者が、本来持っている寿命を全うするべきだと語る。

玄武公は、殉死制度が内医官による皇帝暗殺を防ぐために必要だと反対する。

しかし黎司は、先帝の死の直前と死後の内医官名簿を比較し、吐伯をはじめとする多くの医師が、崩御後に内医官へ追加されていた事実を示す。

つまり彼らは、皇帝を救えなかった責任で殉死したのではない。

玄武公にとって邪魔だったため、死んだ皇帝の墓守として葬られたのである。

人の命を守る医師が、権力者の都合によって制度的に殺される。

これほど皮肉な話はない。

玄武公は医術を司る領主でありながら、優れた医師を育てるのではなく、自分の地位を脅かす者を消していた。

その結果、国全体が医師不足に陥っている。

個人的な悪事に見えた吐伯の死が、国の医療を弱らせる大きな問題へつながっていることが分かる構成だった。

翔司が初めて玄武公へ逆らう

黎司は弟の翔司に対し、自分や翔司が死んだ時、后や医官を道連れにしたいと思うかと問いかける。

玄武公は答えさせまいとするが、黎司は次の皇帝になる可能性がある以上、今ここで意思を示すべきだと迫る。

翔司は、誰にも殉死してほしくないと答える。

すべての人に、本来の寿命を全うしてほしい。

その言葉は、翔司が玄武公へ初めて明確に逆らった瞬間でもある。

翔司は黎司を邪悪な皇帝だと信じ、廃位させることが国のためだと思っていた。

しかし兄を廃位させれば、后や侍女、医官たちまで不幸になる可能性があると気づき始めている。

まだ玄武公の嘘を完全に見抜いたわけではない。

それでも自分の良心に従い、殉死を否定した。

黎司も、弟が完全な傀儡になっていないことに安堵する。

敵対する兄弟でありながら、二人とも人の命を守りたいという根本的な思いは同じである。

玄武公の嘘が明らかになった時、二人がどのような関係を築くのか気になった。

命を懸けた禁呪という大きなはったり

殉死制度を廃止しても、黎司の死後に翔司が即位し、玄武公が制度を復活させる可能性がある。

そこで黎司は、詔に禁呪を施すと宣言する。

自分の死後、殉死を命じた者と関係者には、殉死者と同じ死が与えられる。

玄武公が制度を復活させれば、自分自身も命を失うことになる。

しかし実際には、黎司にそのような禁呪を使う力はなかった。

玄武公を恐れさせるための、命を懸けたはったりだったのである。

董胡が皇太后の茶会で懐妊の可能性を口にしたように、黎司もまた、弱い立場から権力者へ立ち向かうために嘘を使う。

二人の行動が重なるところが興味深かった。

どちらも他人を陥れるための嘘ではない。

自分や誰かの命を守り、理不尽な制度を終わらせるために必要な嘘である。

正面から戦えば玄武公には勝てない。

それでも知恵と覚悟によって、少しずつ権力を削っていく。

董胡と黎司は、正体を明かしていなくても、よく似た戦い方をするようになっていた。

悪しき制度を変えた新たな誓い

殉死制度の廃止は、本作における非常に大きな成果である。

吐伯や秋仲をはじめ、多くの優秀な医師はもう戻ってこない。

王琳の悲しみも、偵徳の怒りも消えるわけではない。

しかし、これから同じ理由で命を奪われる人はいなくなる。

董胡が王琳を救い、王琳が真実を告白し、偵徳が証拠を見つけ、黎司が制度を廃止する。

一人の力だけで成し遂げた改革ではない。

それぞれが持っている知識や経験をつなぎ合わせたことで、国の悪習を変えることができた。

董胡の薬膳は、王琳の体を回復させただけだったかもしれない。

しかし体が回復したことで、王琳は董胡や黎司の言葉を聞き、自分の目で真実を確かめる余裕を取り戻した。

小さな食事が人の選択を変え、その選択が制度を動かしていく。

薬膳を中心にした物語だからこそ成立する、静かで力強い流れだった。

味方となっても厳しい王琳

事件後、王琳は黎司へ協力する道を選ぶ。

今後は皇太后に従っているふりをしながら、その動きを探る密偵となる。

董胡にとって、玄武公側の人間だった王琳が味方になることは非常に心強い。

しかし王琳は、優しい侍女頭へ変わったわけではない。

料理は許すようになっても、董胡を完璧な姫君に育てようとする厳しい指導は続く。

むしろ黎司への忠誠が強くなったことで、董胡を皇帝にふさわしい后へ仕上げようと張り切っている。

董胡たちにとっては、以前とは別の意味で逃げられない相手になった。

この少し笑える着地点がよかった。

王琳の悲劇や暗殺計画は重い。

それでも彼女が董胡たちの賑やかな日常へ加わることで、物語が暗くなりすぎない。

厳しい王琳と、自由すぎる董胡、怯える茶民と壇々のやり取りが、今後どのように変わっていくのか楽しみになった。

完成していなかった黎司の天術

殉死制度を廃止し、大きな成果を上げた黎司だが、彼の力にはまだ大きな問題が残っている。

先読みに現れるのは凶事ばかりで、術も完成する直前に途切れてしまう。

創司帝の天術に必要だったとされる三種の神器のうち、一つが失われている可能性も示される。

黎司は魔毘と呼ばれる黒衣の男を呼び出し、銅鏡へ未来を映す術を使っている。

しかし何かが足りないため、未来の全体像を見ることができない。

五行の均衡は崩れ、伍尭國は争乱へ向かいつつある。

玄武公の陰謀だけを止めれば終わる問題ではないことが見えてきた。

黎司は皇帝として成長しているが、国を守るために必要な力はまだ完全ではない。

董胡との約束を果たすためにも、失われた神器や天術の秘密を解き明かす必要がある。

宮廷内の争いから、国全体の歴史や秘密へと物語が広がり始めたように感じた。

濤麗の正体と董胡の出生を巡る疑い

朱璃の依頼を受け、黎司は濤麗の過去を調べる。

濤麗は単なる朱雀の侍女ではなく、身分の低い后から生まれた皇女だった。

朱雀の后宮で流行り病が起きた時、黎司の母・凰葉をはじめ多くの者が亡くなった。

しかし濤麗が暮らしていた三の宮だけは、死者が出ていない。

その後、濤麗は現在の玄武公へ嫁ぎ、娘を一人産んだと記録されている。

その娘が玄武の一の后・鼓濤である。

ただし、玄武公の宮では濤麗の娘が存在していた形跡がほとんどない。

董胡は平民の治療院で育てられていた。

なぜ皇女の娘が、玄武から離れた村で男として育てられることになったのか。

玄武公は董胡を本当に実の娘として迎えたのか。

それとも、行方不明だった鼓濤の立場へ、都合よく董胡を当てはめただけなのか。

巻を重ねるごとに、董胡の出生は明らかになるどころか、さらに謎を深めている。

濤麗が朱雀の后宮で果たした役割や、流行り病を免れた理由も気になるところである。

ついに正体を見破った朱璃

物語の終盤、朱璃は玄武の后宮を訪ね、侍女頭・董麗と薬膳師・董胡の行方を尋ねる。

新しい侍女頭である王琳は、そのような人物は最初から存在しないと答えていた。

しかし朱璃は納得しない。

鼓濤、董麗、董胡の三人が同一人物であると見抜き、御簾を上げて顔を見せるよう董胡へ迫る。

さらに真実を話さなければ、黎司へすべてを伝えると告げる。

董胡は逃げられないと悟り、御簾を上げる。

現れた顔は、朱璃が知る董麗であり、董胡であり、幼い頃に慕っていた濤麗に瓜二つだった。

この場面は、本巻の最後にふさわしい緊張感に満ちている。

朱璃は董胡を陥れたいわけではない。

濤麗に何があったのかを知りたい。

黎司が心を寄せる鼓濤が、本当は何者なのか確かめたい。

一方の董胡にとって、正体を知られることは命に関わる。

朱璃が好意的な人物だと分かっていても、すぐに信じてすべてを話せる状況ではない。

これまで友好的に接してきた二人が、互いに一歩も引かず睨み合う。

単純な敵対ではなく、どちらも大切な人を守るために真実を求めているからこその対立である。

朱璃が董胡の秘密をどう受け止めるのか。

黎司へ話すのか、それとも董胡の味方になるのか。

次巻へ向けて、非常に気になる終わり方だった。

読後の感想

『皇帝の薬膳妃3 紅菊の秘密と新たな誓い』は、董胡と黎司の小さな行動が、王宮に根づいた悪習を変えるまでに広がっていく一冊だった。

序盤では、寒菊の湯豆腐や甘味を囲む穏やかな日常が描かれる。

しかし、その温かな食卓の裏では、玄武公たちによって多くの医師が命を奪われてきた事実が明らかになる。

王琳の夫・吐伯も、偵徳の恩人である秋仲も、国のために医術を尽くしたからこそ、権力者に目をつけられて殺された。

正しく生きた者が報われず、腐敗した者が権力を保つ。

王琳が世界を信じられなくなるのも無理はない。

それでも董胡は、王琳を敵として切り捨てなかった。

倒れた相手を診察し、必要な料理を作り、どうして甘味を拒むのかを考える。

黎司もまた、暗殺者となりかけた王琳を罰するのではなく、彼女が大切な人を失わずに済む制度を作ろうとする。

二人が王琳へ与えたものは、都合のよい許しではない。

もう悪にならなくても、大切な人を守れる道だった。

その結果として王琳は、夫の生き方を後世へ残すため、黎司へ協力することを選ぶ。

この流れが本作で最も胸を打たれた部分である。

また、雄武の内面が描かれたことで、玄武側の人物も単純な悪役ではないことが分かった。

雄武は父親を恐れ、董胡を救えなかった。

過去には嫌がらせもしている。

それでも罪悪感を抱き、今度こそ守ろうとしている。

翔司も玄武公の嘘を信じているが、人の命を犠牲にすることまでは望んでいない。

玄武公の支配下にいる人々が、少しずつ自分の意思で動き始めている。

国の歯車が確かに変わり始めたように感じた。

一方で、董胡の秘密は限界に近づいている。

黎司は次に会う時、董胡へ自分が皇帝であると明かし、鼓濤の顔も見たいと考えている。

朱璃はすでに、鼓濤と董胡と董麗が同一人物だと見抜いた。

王琳は男装医官の秘密をまだ知らない。

楊庵も、レイシが黎司であり、董胡自身が皇帝の后であることを知らない。

秘密が増えれば増えるほど、真実が明らかになった時の衝撃も大きくなる。

董胡と黎司は、互いに相手を大切に思いながら、最も重要な事実を隠している。

二人が本当の姿で向き合える日は近づいているようで、同時に遠ざかっているようにも感じられる。

薬膳によって一人の凍った心が解け、その人物の告白によって悪しき制度が終わる。

華やかな宮廷物語でありながら、人が変わるためには、まず安心して食べ、生きられる場所が必要なのだと感じさせる一冊だった。

董胡が朱璃へどこまで真実を話すのか。

王琳は新しい味方としてどのように動くのか。

雄武や翔司は玄武公の支配から抜け出せるのか。

そして董胡と黎司は、互いの正体を知った後も同じ約束を抱いて歩めるのか。

数多くの秘密と人間関係が大きく動き始め、次巻への期待が一層高まる読後感となった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

ブックライブで購入

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです

薬膳妃 2巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 4巻レビュー

考察・解説

伍尭国の五行思想

伍尭國の世界観と五行思想の全貌

『皇帝の薬膳妃』の舞台である伍尭國について、地理的構造と五つの都・五つの輝石、天術と四術による政治的・精神的均衡、五色の象徴、および思想の歪みと五行の均衡の崩壊の各点から解説する。

地理的構造と「五つの都・五つの輝石」

伍尭國は、中央に皇帝が住まう都を置き、東西南北を四つの領地が取り囲む完璧な五行の配置をとっている。

・中央の麒麟の都:国の中心に位置し、五重の塔である皇宮が構えられ、中央の五行(土)を象徴する黄玉の輝石が鎮座している。

・東の青龍の都:東の守護石として蒼玉が祀られ、木を司る領地である。

・西の白虎の都:西の守護石として玻璃が祀られ、金を司る異国との交易が盛んな領地である。

・南の朱雀の都:南の守護石として紅玉が祀られ、火を司る華やかな気候の領地である。

・北の玄武の都:北の守護石として黒水晶が祀られ、水を司る寒冷な山に囲まれた領地である。

「天術」と「四術(四公)」による政治的・精神的均衡

この国を治める支配者層は、それぞれの都で五行に対応した独自の術を司り、宮廷の官職を世襲で分け合っている。

・中央(麒麟/皇家):未来を予見し天災や飢饉から万民を未然に救う封の儀式を司る天術を担う。

・東(青龍公/龍氏):軍事を担う兵部局長を兼ね、武術に秀でた武官を多く輩出する。

・西(白虎公/虎氏):財宝の管理や商売を担う大蔵局長や式部局長を兼ね、貿易や経済活動を牛耳る商術を担う。

・南(朱雀公/鳳氏):宮廷式典や宴を司る治部局長を兼ね、舞踊や雅楽など高度な宮廷文化を伝承する芸術を担う。

・北(玄武公/亀氏):中枢である中務局長を兼ね、医術・医薬・薬膳の一切を一手に担う。

「五色」の象徴:衣装から、董胡の視る「味覚の光」まで

五行思想は、伍尭國の視覚的な色彩と、人間の心身の健康を司る味覚にも完璧に対応している。

・衣装と軍勢の五色:皇帝直属の黄軍は黄色、玄武の武人は黒色、朱雀の后宮や舞妓は赤色、青龍は青色、白虎は白色を身にまとう。

・董胡の能力:董胡は人が今欲している味や体調の乱れを五色の光として感知できる。

・味覚と五行の対応:塩味の黒は腎を助け、苦味の赤は心や肝を整え、酸味の青は肝臓を助けて毒出しを促す。

・その他の味覚対応:辛味の白は肺や胃腸を温め、甘味の黄は不安を和らげて脾を助ける役割を持つ。

思想の歪み:五行の均衡の崩壊と、黎司による復活の戦い

本来は、中央で皇帝が強力な天術を発揮して四術の調和を保つことで、国全体の安寧が約束されていた。

・近親婚の繰り返しにより皇族の体が弱り、天術の力は著しく衰退していった。

・先代皇帝の時代には完全に天術が途絶え、皇帝は四公の利権に動かされる傀儡へと形骸化した。

・北の医術を握る玄武公が莫大な富と政治的実権を握り、西の白虎公と結託して薬物の汚職に手を染めたことで五行の均衡は崩壊しかけていた。

・新皇帝・黎司が董胡の薬膳によって生命力を取り戻し天災を先読みしたことは、失われていた天術を覚醒させ建国当初の五行の調和を取り戻す偉大な改革の始まりであった。

まとめ

伍尭國の世界観と五行思想を巡る一連の全貌は、地理配置と輝石による五行の構築から始まり、天術と四術が織りなす支配機構、色彩や五味にまで及ぶ思想の浸透、そして皇帝の衰退による均衡崩壊と黎司による改革に至るまで、その歩みを明瞭に示している。権力の偏重や思想の形骸化という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、精緻な世界構築と再生の記録である。五行の配置から、官職の分掌、制度の腐敗、天術の再覚醒、そして本来の調和の回復へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

玄武公の権力闘争

玄武公の権力闘争と全貌

『皇帝の薬膳妃』における玄武公の権力闘争について、圧倒的な経済力を背景にした皇帝の傀儡化、外戚政治の確立を狙う翔司皇子の擁立、多彩な陰謀と身代わりの后、優秀な平民医師を葬る内医官殉死制度の悪用、黎司の暗殺計画と天凜烏頭、および闘争の結末と失脚の始まりの各点から解説する。

圧倒的な経済力を背景にした「皇帝の傀儡化」

玄武公は、医術の都である玄武を治める領主である。

・近年の薬膳茶などの流行により、亀氏は皇帝すらも凌ぐ莫大な富を手に入れていた。

・その絶大な財力はやがて政治的実権へと繋がり、国の権力バランスは大きく歪められた。

・先代の孝司帝は病弱で気が弱く、完全に玄武公の言いなりになっていた。

・これにより、玄武公は国の中枢である中務局長を世襲し、自らの利権を最優先する政治を押し通していた。

「外戚政治」の確立を狙う翔司皇子の擁立

玄武公の究極の目的は、自らの血を引く者を皇帝に据えて外戚政治を完成させることであった。

・彼の妹は先帝の后であり、現在は皇太后の立場にある。

・その息子である翔司皇子は、新皇帝である黎司の三歳年下の弟宮である。

・玄武公は翔司皇子を次期皇帝に擁立しようと画策し、黎司を廃位に追い込むため執拗な謀略を張り巡らせた。

・同時に、自らの溺愛する実娘である華蘭を翔司皇子と恋仲にさせ、翔司が即位した際に彼女を真の皇后として送り込めるよう手回しをしていた。

多彩な陰謀と「身代わりの后」

黎司を廃位および暗殺し、自らの権力を絶対的なものにするため、玄武公は数々の手段を用いた。

・的当ての儀式における捏造と妨害:歴代の即位式で行われてきた的当ての儀式は事前に裏で数字を合わせておく捏造された茶番劇であったが、玄武公は黎司の即位式において弓師を操り、意図的に違う数字の的を射抜かせることで黎司を無能な皇帝として大衆の前で貶めた。

・捨て駒としての董胡の輿入れ:黎司の后宮は暗殺計画の余波や暴君の癇癪に巻き込まれる危険が高かったため、玄武公は愛娘の華蘭を温存し、その身代わりとして行方不明だった実娘・鼓濤であると特定した平民育ちの董胡を脅迫を用いて后宮へ送り込んだ。

・白虎公との密輸および汚職の共犯関係:玄武公は商術を司る白虎公と結託して貴重な薬剤を他国へ密売して巨万の富を得ていたが、黎司の先読みの天術によって自分たちの汚職の実態が暴かれ共倒れになるリスクを恐れていた。

優秀な平民医師を葬る「内医官殉死制度」の悪用

玄武公は、自分の地位や亀氏の医術の権威を脅かす可能性のある優秀な平民医師たちを葬り去るため、内医官殉死制度を悪用していた。

・皇帝の死に殉じて専属医師も殉死するという慣習を利用した。

・先帝の崩御直後、目障りな平民の名医や吐伯を急遽内医助に任じて合法的に抹殺した。

・一方で、自分の身内である貴族医官は崩御の前にあらかじめ解任させて生き永らえさせる手口を用いていた。

黎司の暗殺計画と「天凜烏頭」

黎司の先読みの天術が覚醒し民衆の支持が集まり始めると、追い詰められた玄武公は暗殺計画を実行した。

・妹である皇太后と結託した。

・皇太后付きの医官を通じて天凜烏頭という水に溶け出し皮膚からも吸収される猛毒を調達させた。

・白虎公の立場を利用し、黎司が毎朝の禊を行う黄金泉にその毒を流し込んで暗殺しようと計画した。

闘争の結末と失脚の始まり

暗殺計画は、男装の医官として床下に潜り込んで密談を聞いた董胡が、身分を偽って白虎公から毒壺を騙し取ったことで未遂に終わった。

・夫を不条理に失っていた侍女頭の王琳が董胡の薬膳と説得によって改心し、帝へすべてを白状した。

・殿上会議において、黎司は先帝の崩御日と殉死者名簿の矛盾を突く確固たる証拠を重臣たちの前で提示した。

・これにより、玄武公の強力な支持基盤であった内医官殉死制度は全面的に廃止されることとなった。

・傀儡として操っていたはずの翔司皇子までもが自らの意志で殉死制度の廃止に賛同したため、玄武公の権力基盤は足元から大きく揺らぐこととなった。

まとめ

玄武公の権力闘争と全貌を巡る一連の全貌は、莫大な経済力を背景にした帝権の空洞化から始まり、弟宮擁立と外戚政治の完成に向けた画策、身代わり立后や密輸汚職による陰謀の張り巡らし、内医官殉死制度の悪用による対立勢力の排除、劇薬・天凜烏頭を用いた暗殺工作、そして不正の露呈と殉死制度廃止に伴う権力基盤の決定的崩壊に至るまで、その歩みを明瞭に示している。専横的な権力構造や不条理な制度による抑圧という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、不当な支配の終焉と正義の回復の記録である。権力の肥大化から、傀儡工作、暴走する陰謀、真実の発覚、そして制度改革による権勢の失墜へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

殉死制度の廃止

伍尭國における殉死制度の廃止と政治改革の全貌

伍尭國における殉死制度の廃止は、皇帝・黎司が成し遂げた最大の政治的改革である。この制度の背景に潜む闇、廃止を巡る殿上会議の頭脳戦、禁呪による牽制、およびその影響の各点から解説する。

内医官殉死制度の悪用と犠牲

伍尭國には、皇帝の死に伴い専属医師である内医官も殉死するという悪しき慣習が存在した。

・この制度は、医術を司る玄武公によって政治的に悪用されていた。

・自らの地位や医術の権威を脅かす優秀な平民医師を排除する手段としてこれを利用した。

・実際に、王琳の夫である名医・吐伯や、偵徳の親友である秋仲など、多くの無実の医師が犠牲となった。

・一方で、玄武公の身内である貴族医官は、皇帝の死の直前にあらかじめ解任されて生き延びていた。

王琳の告白と暗殺計画の瓦解

玄武公と皇太后は、黎司を排除するために王琳を脅迫した。

・王琳は、皇帝の料理に毒を盛るよう命じられた。

・董胡の献身的な治療と説得により、彼女は自らの誤解に気づくこととなる。

・王琳は帝にすべてを白状し、皇帝暗殺計画は未遂に終わった。

・この告白によって、黎司は殉死制度の不正を暴く決定的な証拠を手に入れた。

殿上会議における黎司の頭脳戦

黎司は殿上会議において、殉死制度の全面的な廃止を突然宣言した。

・反発する玄武公に対し、黎司は明確な証拠を突きつけた。

・先帝の副葬品を記した『御霊守目録』と、崩御直前の『内医官名簿』を提示した。

・二つの名簿の比較により、先帝の崩御後に多数の平民医師が急遽追加されて殉死させられていた事実が明らかとなった。

・玄武公の親族の医師が事前に難を逃れていた矛盾も指摘された。

・さらに黎司は弟宮の翔司皇子に対して意見を求め、翔司は自らの意思で殉死制度は望まないと答え、黎司の改革に賛同した。

「禁呪」による牽制と完全なる廃止

黎司は内医官だけでなく、后や侍従を含めたすべての殉死を禁じる詔を出した。

・玄武公は黎司の死後に翔司を操って詔を覆そうと考えた。

・それを見抜いた黎司は、この詔に自らの死を対価とする禁呪を施すと宣言した。

・これは、死後に殉死を命じた者と関係者に同じ死を与えるというものである。

・実際には黎司に呪いの力はなく、これは天術書に基づいたはったりに過ぎなかった。

・しかし、玄武公を強く牽制し、制度の再復活を完全に防ぐ役割を果たした。

廃止がもたらした影響

殉死制度の廃止により、国中の優秀な医師たちが無駄に命を落とす危険がなくなった。

・玄武以外の領地における慢性的な医師不足の解消にも道が開かれることとなった。

・玄武公にとっては、邪魔者を合法的に排除する手段が消滅したことを意味する。

・傀儡としていたはずの翔司が黎司の側に回ったこともあり、玄武公の権力基盤は大きく揺らぐこととなった。

まとめ

伍尭國における殉死制度の廃止と政治改革を巡る一連の全貌は、制度悪用による平民医師の排斥から始まり、王琳の証言を通じた暗殺計画の瓦解、証拠提示と弟宮の賛同による殿上会議での勝利、禁呪を用いた制度復活の阻止、そして権力基盤の解体と医療環境の是正に至るまで、その歩みを明瞭に示している。旧弊な不条理や特権階級による不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、妥協なき政治決断と人間の意志が結実した改革の記録である。不正の告発から、証拠の開示、同盟の獲得、虚実を交えた牽制、そして帝権の確立へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

皇太后の毒殺計画

皇太后の毒殺計画と暗殺阻止の全貌

『皇帝の薬膳妃3 紅菊の秘密と新たな誓い』で描かれる皇太后の毒殺計画について、毒殺計画の背景と動機、王琳への脅迫と心理的誘導、毒殺の実行手口、計画の察知と阻止、および計画の結末の各点から解説する。

毒殺計画の背景と動機

黎司は二度の先読みを的中させたことで、民衆の間で皇帝への支持が急速に高まっていた。

・焦った玄武公と皇太后は、黎司の早期排除を画策した。

・王琳の兄である安寧に内医助の指名が迫っていた。

・その就任前に黎司を暗殺し、弟宮の翔司を即位させる必要があった。

王琳への脅迫と心理的誘導

皇太后は、新たな侍女頭である王琳を暗殺の実行犯に選定した。

・王琳の夫である吐伯は、先帝の死に伴い内医助として殉死させられていた。

・皇太后は王琳に対し、帝が兄の安寧を内医助に任じようとしていると嘘を伝えた。

・就任すれば安寧も吐伯と同じく殉死させられると脅迫した。

・安寧を帝に推薦したのは后の鼓濤であると唆した。

・夫の仇を討ち、兄を救うためには黎司を殺すしかないと彼女は思い詰めることとなった。

毒殺の実行手口

后の鼓濤が自ら御膳所で料理を作っている事実に王琳が気付いた。

・大膳寮の料理を味付けし直して帝に提供していた。

・王琳は、この手作りの料理に毒を混入させようと計画した。

・具体的には、夕食の汁椀である酸辣湯に毒を入れることを企てた。

計画の察知と阻止

玄武公の次男である雄武が、后宮へ強引に押し入った。

・雄武は、姉の侍女から暗殺計画を事前に聞き出していた。

・王琳が帝の膳に毒を入れるつもりであると董胡へ耳打ちして警告した。

・その後、王琳は極度の糖不足により倒れてしまうこととなった。

・董胡は王琳を甘麦大棗湯などの薬膳で介抱した。

・夫の吐伯は先帝の死後に殉死させるためだけに内医助に任じられたという真実を王琳へ伝えた。

・王琳は自らの目で黎司の人柄を確かめた。

・帝が夫の死を心から惜しんでいることを知り、彼女は改心して計画を断念した。

計画の結末

王琳は帝に対し、自らの暗殺計画をすべて自白した。

・黎司は王琳を責めることなく、その兄を守ることを約束した。

・彼は殿上会議において、殉死制度の廃止を宣言した。

・これにより、皇太后と玄武公の陰謀は完全に失敗に終わることとなった。

まとめ

皇太后の毒殺計画と暗殺阻止を巡る一連の全貌は、帝権高まりに対する危機感と焦燥から始まり、誤解と脅迫を利用した手駒の誘導、食事への毒物混入の画策、秘密の察知と薬膳を介した真実の開示、そして自白と制度廃止による暗殺工作の完全瓦解に至るまで、その歩みを明瞭に示している。陰謀や理不尽な脅迫という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、誠実な対話と情理が勝利した救済の記録である。焦燥の膨張から、手駒の脅迫、毒殺の企図、真実の共有、そして殉死制度の全廃へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

侍女頭王琳の葛藤

侍女頭・王琳の葛藤と改心の全貌

『皇帝の薬膳妃3 紅菊の秘密と新たな誓い』に描かれる侍女頭・王琳の葛藤について、葛藤の背景である最愛の夫の不条理な死と偽りの大義、復讐の決意である兄を守るために悪になる悲痛な覚悟、董胡の献身である氷の心を溶かす薬膳と突きつけられた真実、帝の人柄との対峙である給仕の場で揺れ動く暗殺者のナイフ、および葛藤の結末である涙の改心と未来へ向けた完璧な侍女頭の誓いの各点から解説する。

葛藤の背景:最愛の夫の不条理な死と、張り巡らされた「偽りの大義」

王琳は、かつて壁宿の診療所で夫の吐伯と共に暮らしていた。

・夫は平民からも慕われる極めて優秀な名医であった。

・先帝の崩御に伴い、夫は内医助として不条理な殉死を遂げることとなった。

・この悲劇に対し、玄武公と皇太后は病床の先帝を救うために吐伯を任じたが甲斐なく早世してしまったという巧妙な嘘を吹き込んだ。

・王琳はその偽りの説明を信じ込み、深い絶望を抱くこととなった。

・さらに皇太后は、新帝が今度は王琳の兄である安寧を内医助に指名しようとしていると告げた。

・この就任により兄も吐伯と同じく殉死させられると脅迫し、安寧の推薦者が后の鼓濤であると唆したことで、王琳の復讐の炎に火がつくこととなった。

復讐の決意:「兄を守るために悪になる」という悲痛な覚悟

王琳は、最愛の夫を失った悲しみにより食をまともに受け付けなくなっていた。

・夫との甘い思い出に繋がる甘味を徹底的に拒絶するようになり、心は氷のように冷たく閉ざされていた。

・過酷な世界で兄を守るためには自らも悪になるしかないと決意した。

・皇太后の命に従い、皇帝を毒殺する暗殺者となることを引き受けた。

・鼓濤を監視して追い詰める冷徹な侍女頭として后宮へ入ることとなった。

・后宮の日常を厳しく律し、后が自ら御膳所に立つことを厳禁とした。

・后が帝の寵愛を得て権力を握ろうとする野心ある強欲な女だと教え込まれていたからである。

・王琳の言動は常に冷徹を極め、周囲の侍女たちを恐怖で震え上がらせた。

董胡の献身:氷の心を溶かす薬膳と、突きつけられた「真実」

王琳は、極度の精神的緊張と拒食に近い食事制限により、后宮で低血糖を起こして昏倒してしまった。

・この窮地において、王琳を救ったのは敵であるはずの董胡の献身であった。

・董胡は王琳の体の乱れを見抜き、甘くて飲みやすい甘麦大棗湯を提供した。

・甘味を嫌う王琳でも食べられるよう、豆板辣油をからめた雑穀粥を差し出した。

・王琳はこの温かい粥を口にし、少しずつ体力と落ち着きを取り戻していった。

・董胡は、夫の吐伯が内医助に任じられたのは先帝が崩御された後のことであったという衝撃的な事実を告げた。

・玄武公が自分の地位を脅かす名医を合法的に抹殺するために夫を殉死の身代わりにしたという真実を突きつけられることとなった。

帝の人柄との対峙:給仕の場で揺れ動く「暗殺者」のナイフ

毒殺の実行日が訪れ、王琳は自らの手で帝の膳に猛毒である天凜烏頭を仕込もうとした。

・彼女の胸中には葛藤が渦巻いていた。

・自分を看病してくれた后を罪に陥れることへの強い罪悪感があったからである。

・后の偽善を呪うことで王琳は自らの手を動かそうとした。

・実際に黎司の前に進み出て給仕を始めると、その認識は大きく揺らぐこととなった。

・目の前の帝は噂されるような残虐な暴君ではなく、極めて穏やかで、后の用意した食事を心から喜んで口にしていた。

・后への信頼を隠さない帝の無防備な姿に、王琳の毒を仕込む手は震えを隠せなかった。

葛藤の結末:涙の改心と、未来へ向けた「完璧な侍女頭」の誓い

帝は、王琳に対して自らの言葉で語りかけた。

・名医である吐伯を殉死によって失ったことを、国としての大きな損失だと深く悔やんでいた。

・この心からの哀悼の言葉が、王琳の凍りついた復讐心を完全に溶かすこととなった。

・王琳は、夫が愛した医術の世界や、その未来のために戦おうとしている兄・安寧の意志を思い出した。

・自分が悪に身を落として復讐を果たすことは夫の望む生き方ではないと悟った。

・彼女は帝にひれ伏し、自らの毒殺計画をすべて自白した。

・帝は王琳の兄を必ず守り、殉死制度を廃止することを約束した。

・王琳は自らの過ちを認め、これからは名医の妻として、そして完璧な侍女頭として帝と后を影から支える密偵として生きることを誓った。

・彼女の葛藤は、亡き夫への正しい愛の誓いへと昇華されたのである。

まとめ

侍女頭・王琳の葛藤と改心を巡る一連の全貌は、夫の殉死と過酷な脅迫から始まった復讐の誓い、暗殺者としての冷徹な着任、低血糖での昏倒と董胡の薬膳による介抱、突きつけられた内医官抹殺の真実、皇帝の人柄との対峙による暗殺工作の踏みとどまり、そして自白と制度全廃を通じた完璧な侍女頭への再始動に至るまで、その歩みを明瞭に示している。偽りの過酷な宿命や不条理な企てという不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、誠実な薬膳と対話がもたらした精神的救済の記録である。偽りの憎悪から、暗殺の企て、真実の認知、皇帝への信頼、そして真の忠義への昇華へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

董胡の正体露見

多重身分の露見と正体隠匿の全貌

『皇帝の薬膳妃』シリーズにおいて、主人公・董胡がその身分を偽り、やがて正体が露見していくプロセスについて、多重身分という綱渡りの限界、朱雀の后・朱璃による決定的な正体露見、異母弟・雄武への正体露見と命がけの狂言、および皇帝・黎司との間に横たわる絶対に明かせない正体の各点から解説する。

多重身分という「綱渡り」の限界

董胡は元々、女性であることを隠して男装し、医師試験に首席合格した平民の医生であった。

・優秀さゆえに玄武公に見出され、行方不明の実娘・鼓濤として皇帝・黎司のもとへ強引に輿入れさせられた。

・后宮という不自由な檻に閉じ込められた彼女は、一の后としての木札を逆手に取り、自身を后付きの専属医官・董胡として典医寮に登録する奇策を講じた。

・女官たちの集まる大朝会へ出席するため、今度は侍女頭代理・董麗(華麗)という身分まで偽造した。

・后、男装医官、そして侍女頭代理という一人三役の綱渡りは、王宮という狭く疑心暗鬼に満ちた空間において長続きするはずのない危うい試みであった。

朱雀の后・朱璃による決定的な正体露見

董胡の三重の変装を最も鮮やかかつ執拗に暴き立てたのが、朱雀の一の后・朱璃であった。

・「董麗」との出会い:朱璃は大朝会において、玄武の后宮から派遣された侍女頭代理・董麗の佇まいに興味を抱き、自らの宮へ招待した。そこで董麗から自身の二日酔いや肝臓の疲れを見抜いた竜胆のわらび餅を贈られ、その聡明さに深く心惹かれることとなった。

・深まる不審と正体の看破:朱雀の流行り病の調査にあたり、帝から后付きの優秀な医官として董胡の存在を教えられた朱璃は派遣を打診した。しかし対面した董麗は頑なに面会や派遣を拒み、不自然な言い訳を重ねた。さらに大朝会に本物の侍女頭である王琳が現れ、華麗という侍女は存在せず専属の薬膳師もいないと告げられたことで、朱璃の疑念は確信へと変わった。

・御簾を上げさせての対峙:朱璃は后宮の鼓濤のもとへ押しかけ、華麗や薬膳師の董胡の居場所について逃げ道のない追及を突きつけた。御簾を上げなければ知るすべてを帝に話すと告げ、董胡に御簾を上げさせることに成功した。

・露わになった素顔:鼓濤の素顔は朱璃が知る侍女頭・華麗であり、薬膳師・董胡その人であった。さらにその顔は、朱璃が幼い頃から后宮で憧れ続け行方を捜していた濤麗に生き写しであった。この衝撃的な露見により、二人の后は互いに一歩も引かずに睨み合う緊迫の対峙を迎えることとなった。

異母弟・雄武への正体露見と「命がけの狂言」

董胡をライバル視していた玄武公の次男・雄武に対する正体の露見は、物語に敵でありながらも陰から支えるという不器用な救いのドラマをもたらした。

・茶会での視覚的露見:医師試験で自分を抑えて首席となった董胡が突如消えたことを気に病んでいた雄武は、華蘭の侍女の噂話から胡が后・鼓濤として王宮にいることを知った。皇太后が主催したお茶会において、董胡は華蘭が放った攻撃的な気の風によって扇を落としてしまい顔を晒した。この瞬間、雄武は目の前にいる后が麒麟寮の医生・胡であることをはっきりと確認し愕然とした。

・乱暴者を装った命がけの警告:のちに雄武は、実家が企てていた王琳を用いた黎司の毒殺計画を事前に察知した。彼は董胡を救うため、あえて先触れもなしに后宮へ強引に押し入り、激昂した乱暴者を装って御簾の中へと侵入した。背後に控える王琳に悟られないよう、董胡の胸倉を掴みながら侍女頭が帝の膳に毒を入れるつもりであると耳元で命がけの警告を伝えた。この身を挺した行動によって、董胡は毒殺計画を未然に防ぐことができた。

皇帝・黎司との間に横たわる「絶対に明かせない正体」

最も正体を知るべき相手である皇帝・黎司との間には、切なくもどかしい正体隠匿の葛藤が横たわっている。

・黎司は5年前に命を救ってくれた平民の董胡を深く大切に思っており、男装の医官・董胡として再会した際も、いつか自分の専属薬膳師として迎える約束を果たすべく気遣っていた。

・同時に黎司は、后の鼓濤が作る手作りの温かい薬膳に深く救われ、心惹かれ始めていた。

・しかし黎司は、后の鼓濤と医官の董胡が同一人物かつ女性であることには未だに気付いていない。

・董胡の側でも、自分が皇帝を廃位しようと企む政敵・玄武公の娘である身代わりの后・鼓濤というあまりにも重い嘘をのしかけられている。

・自分が后・鼓濤であり、かつての恩人・董胡であることを明かせば、王宮内で孤立している黎司をさらなる政治的窮地へ追い込んでしまう状況であった。

・黎司が后宮で玄武公の娘であるそなたを信用しきることはできないと不器用に語ったのを聞き、董胡は切ない胸の疼きを押し殺して正体を明かすことを断念した。

まとめ

多重身分の露見と正体隠匿を巡る一連の全貌は、一人三役の密謀による偽装の限界から始まり、朱雀の后・朱璃による追及と真実の暴露、異母弟・雄武による正体の視認と命がけの毒殺警告、そして皇帝・黎司を政治的窮地から守るための切ない正体隠匿に至るまで、その歩みを明瞭に示している。政治的思惑や正体隠匿の恐怖という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、緻密な変装と愛ゆえの葛藤の記録である。多重変装の維持から、朱璃の看破、雄武の助言、正体の保持、そして影からの献身的な救済へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

三つの神器の謎

三つの神器の謎と天術システムの全貌

『皇帝の薬膳妃』の物語における三つの神器の謎と天術のシステムについて、三種の神器の歴史と二種への減少、現在に伝わる二つの神器の特性、三つ目の神器の不在がもたらす天術の不完全さ、および三つ目の神器の正体の各点から解説する。

三種の神器の歴史と「二種」への減少

伍尭國の建国期、開祖である創司帝の時代には、未来を予見し風を操るための三種の神器が存在していたと古い文献に記されている。

・創司帝はこれらの神器を駆使し、剣で風を起こして敵をなぎ倒し、鏡に映る未来を読み解いて数々の天災から国を救ったと伝えられている。

・時代が下るにつれて皇族の天術の力は衰退していった。

・これと呼応するように、十代皇帝の時代を境に文献における神器の記述は二種へと減少した。

・先代の孝司帝、および現在の黎司が即位時に継承したのも剣と鏡の二種のみであった。

・黎司は、皇帝が麒麟の力を失い四公の傀儡へと成り下がっていった歴史の裏には三つ目の神器の紛失が深く関係しているのではないかと睨んでいる。

現在に伝わる二つの神器の特性

黎司の手元に残されている二つの神器は、それ自体が不思議な霊力を宿している。

・皇帝の剣(象徴の剣):研磨もされておらず長年実戦で使われた形跡もない儀礼用の国宝である。黎司が玄武の后を威嚇するためにこの剣を振るった際、刃先が届いていなかったにもかかわらず手前の御簾と蝋燭の先を切り裂く怪異を起こした。通常の木藁を斬ろうとしても全く刃が通らないことから、持ち主の気や天術に感応して力を発揮する特殊な性質を持つとされる。

・神器の鏡(銅鏡):天術を執り行うための中心的な道具である。黎司の懐にある小さな銅鏡は未来のビジョンが近づくと熱を帯び、皇宮三階の祈禱殿に据え置かれた大きな銅鏡と共鳴して、これから起こる悲惨な未来を映像として映し出す。

三つ目の神器の不在がもたらす「天術の不完全さ」

董胡の薬膳によって心身が整い天術を覚醒させた黎司は、祈禱殿で魔毘という赤髪で片目を隠した黒衣の男を呼び出せるようになった。

・魔毘は無言で祭壇の銅鏡を指し示し、未来の天災や陰謀を黎司に視せる媒介のような役割を果たす。

・しかし、黎司の天術には致命的な弱点が存在する。

・直前まではっきり視えない:創司帝のように遠い先の未来を正確に読み解くことができず、未来が変化する直前の極めて直近の未来しか確信を持って視ることができない。

・術の途絶:祈禱殿で天術を完成させようと魔毘を呼び出し念を込めても、途中で必ず術が解けて魔毘の姿が消え失せてしまう。

・黎司は、天術の構築に必要なパズルの最後のピースである三つ目の神器が欠けているために術が未完成のまま強制終了してしまうのだと直感している。

三つ目の神器の正体

失われた三つ目の神器の正体については、作中でいくつかの手がかりや仮説が提示されている。

・「人心」という仮説:側近の翠明は、天術の書が極めて難解であることから、目に見える道具ではなく人々を良く治めその心を掌握することこそが開祖の遺した三種目の神器の本質なのではないかという精神的な解釈を語っている。

・「気(心)」の状態を反映する皇帝の衣服:もう一つの手がかりは皇帝が身にまとう緋色の正装である。皇宮の内庭にある黄金泉の脇に咲く茜の根で染められたこの衣は、用いる者の気の状態によって赤、黄、白、青と色を変える奇妙な特性を持っている。変化を受け入れ己の気と万民の安寧を一致させることが天術の極意であるならば、この衣服や黄金泉の水の色も三つ目の神器や天術の秘密に深く関わっている可能性が高い。

まとめ

三つの神器の謎と天術のシステムを巡る一連の全貌は、建国期の三種から二種への減少の歴史から始まり、剣と鏡という現存する神器の霊的な特性、不完全な天術の制限と術の途絶、そして人心や黄金泉の衣服に秘められた三つ目の神器の真実の探究に至るまで、その歩みを明瞭に示している。道具の喪失や能力の制限という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、精神的覚醒と統治の真価を問う試練の記録である。歴史の変遷から、神器の共鳴、能力の限界、真理の洞察、そして真の皇帝としての覚醒へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

薬膳妃 2巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 4巻レビュー

登場キャラクター

皇家(麒麟)

黎司(れいじ)

黎司は伍尭國の第十七代皇帝である。幼少期の毒殺未遂により重度の拒食症を患う。董胡の作る薬膳饅頭だけを食べることができた。彼女に深い信頼と好意を抱いている。

・所属組織、地位や役職
伍尭國第十七代皇帝。

・物語内での具体的な行動や成果
かつては皇太子であった。逃亡中に治療院の前で倒れる。そこで董胡に命を救われた。即位式の的当ての儀式では先読みをすべて外した。董胡の薬膳を食べると心身が整う。彼は真の天術を覚醒させた。朱雀の大風と青龍の大火事を予言する。民に備えを指示して被害を抑え込んだ。第二巻では朱雀の病のビジョンを視る。第三巻では王琳の毒殺計画を阻止した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇太子から皇帝に即位した。二度の災害を予言して的中させる。民衆から強い支持を得るようになった。

翔司(しょうじ)

翔司は黎司の三歳年下の弟宮である。実直で生真面目な好青年だ。兄を冷酷な暴君だと信じ込んでいた。玄武公に利用されている。

・所属組織、地位や役職
皇族。

・物語内での具体的な行動や成果
玄武公から兄の悪行を聞いて育った。即位式の前に的当ての数字を的中させる。兄に代わり自らが即位することを正しいと考えていた。元服前は角髪を結う。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
玄武公により次期皇帝候補として擁立されている。華蘭と恋仲である。

翠明(すいめい)

翠明は黎司に仕える神官である。病気や怪我を癒す力を備える。式神を操ることもできる。黎司から絶大な信頼を寄せられた。

・所属組織、地位や役職
神祇院、神官。

・物語内での具体的な行動や成果
五年前、レイシを迎えに治療院へ現れた。王宮では董胡の様子を探るために密偵を置く。宮内局で医官となった董胡と偶然再会した。式神を用いて董胡とレイシの対話を仲介する。第二巻では偵徳を不審に思い連行させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
黎司の食事による体調変化をいち早く察知していた。

皇太后(こうたいごう)

皇太后は先帝の一の后であり、翔司の母親である。新しく入宮した鼓濤(董胡)を認めず、挨拶の手紙を無視していた。玄武の出身で、華蘭を溺愛している。

・所属組織、地位や役職
皇太后。

・物語内での具体的な行動や成果
鼓濤(董胡)からの拝謁伺いの手紙を無視し続けた。侍女たちに大朝会への出席を一方的に押し付けさせる。第二巻の最後には、突后者宮でお茶会を企画した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
先帝の時代に一の后から皇后となった。新皇帝の即位に伴い皇太后となる。

玄武(医術・亀氏)

董胡(とうこ)

董胡は本作の主人公である。人が欲する味や体調の乱れを「五色の光」として感知できる。幼い頃に出会った「レイシ」の専属薬膳師になる夢を抱く。

・所属組織、地位や役職
玄武の一の后(鼓濤)。玄武の一の后付き専属医官(董胡、別名:董麗)。上楼君(紫竜胆)。華麗。

・物語内での具体的な行動や成果
医師試験に首席で合格した。玄武公により実娘「鼓濤」として皇帝へ輿入れさせられる。王宮では男装の医官に変装した。薬膳饅頭を作って拒食症の皇帝に提供する。白虎公を騙して天凜烏頭の毒壺を奪い、暗殺を阻止した。第二巻では朱雀の流行り病の調査に赴く。そこでは「紫竜胆」として潜入した。第三巻では王琳の暗殺計画を未然に防ぐ。王琳の糖虚を薬膳で治療した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
平民の医生から玄武の一の后に選ばれた。后宮付き専属医官の立場も手に入れる。多重の身分を演じることに限界も見え始めている。

玄武公(げんぶこう)

玄武公は医術の都・玄武を治める領主である。絶大な財力と政治的実権を握る。黎司を廃位させ、翔司を擁立しようと陰謀を巡らせている。

・所属組織、地位や役職
玄武の領主。中務局長。

・物語内での具体的な行動や成果
実娘の華蘭を温存した。代わりに董胡を「鼓濤」として皇帝へ輿入れさせる。即位式の的当ての儀式に細工をして黎司に恥をかかせた。白虎公に命じて黄金泉へ毒を流させようとする。第二巻の最後には、皇太后の宮へ出向いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇帝すらも凌ぐ栄華を極めている。不服を唱える董胡をト殷や楊庵の命を盾に脅迫した。

華蘭(からん)

華蘭は玄武公が正妻との間に儲けた一の姫である。気位が高く、美しい容姿をしている。翔司皇子と恋仲だ。

・所属組織、地位や役職
玄武公の娘(一の姫)。

・物語内での具体的な行動や成果
皇帝の黎司を嫌悪し、輿入れを拒否した。董胡の部屋を訪れて彼女の振る舞いを嘲笑する。不思議な風の術を用いて董胡の頬を切った。第二巻では、皇太后のお茶会に参加するため王宮へやって来る。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
玄武公から溺愛されている。翔司皇子が即位した際には皇后となることが予定されている。

雄武(ゆうぶ)

雄武は玄武公の次男である。実力主義を重んじる性格だ。董胡に対して複雑なライバル心を抱いている。

・所属組織、地位や役職
玄武公の次男。麒麟寮の医生。

・物語内での具体的な行動や成果
医師試験で自分が首席になるものと信じていた。首席合格した董胡を妬んでいたと楊庵から疑われる。第二巻では、皇太后のお茶会へ参加するために后宮を訪れた。第三巻では乱暴者を装って御簾に押し入り、毒殺計画を董胡へ警告した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
医師試験に合格した。董胡とは対照的に、実家の強力な後ろ盾を持っている。

尊武(そんぶ)

尊武は玄武公の長男である。おそろしく勘が良くて要領がいい。妹の華蘭から深く慕われている。

・所属組織、地位や役職
玄武公の長男。首席医官。

・物語内での具体的な行動や成果
四領地や他国への外遊から黒水晶の宮へ帰還した。妹の華蘭に土産を渡す。彼女が麗しくなったと褒めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
生まれながらに人々を従えさせる資質を持つ。将来的に亀氏一族を継ぐにふさわしいと期待されている。

章景(しょうけい)

章景は玄武公の側近である。医術博士の称号を持っている。常に玄武公のそばに控えていた。

・所属組織、地位や役職
医術博士、玄武公の側近。

・物語内での具体的な行動や成果
医師試験で雄武が二番だった際、解答の改ざんを玄武公へ提案した。董胡を内医官に任じて殉死させる計画を進める。弟宮の部屋で玄武公たちと黎司の失脚を喜んでいた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
玄武公の腰巾着のように振る舞う。彼が書いた医師免状は大きな効力を持っていた。

朱雀(芸術・鳳氏)

朱璃(しゅり)

朱璃は朱雀から輿入れした一の后である。かつて「光貴人」として紅拍子のトップスターを務めた。初恋の女性「濤麗」の行方を捜している。

・所属組織、地位や役職
朱雀の一の后。紅拍子(光貴人)。

・物語内での具体的な行動や成果
后宮に縛られることを嫌った。帝には自分の素性を正直に明かす。お互いに気の置けない友人関係を築いた。大朝会で出会った董麗を気に入る。第三巻の最後には鼓濤のもとへ押しかけ、その正体が董胡であることを暴いて対峙した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一時的な繋ぎとして輿入れした。数年後には元の紅拍子に戻る予定である。

斗宿の村・内医司

楊庵(ようあん)

楊庵は董胡の三歳年上の兄弟子である。鍼の天才的な腕前を持つ。董胡を深く愛しているが、彼女の気持ちには届いていない。

・所属組織、地位や役職
医師。内医司の使部。

・物語内での具体的な行動や成果
倒れていたレイシを診察台まで運んだ。ト殷の逃亡後に王宮の麒麟寮へ残る。雄武に対して董胡を消したと疑い掴みかかった。内医司の使部となり董胡を捜す。第三巻では帝の密偵として鼓濤の寝所へ忍び込み、王琳の調査を引き受けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
引き締まった肉体と当たりのいい顔つきだ。董胡が女性であることを知る数少ない人物である。

偵徳(ていとく)

偵徳は麒麟寮の医師であった。董胡の指導にもあたっていた。王宮の内医司に平民医官として推挙される。

・所属組織、地位や役職
平民医師。内医司の平民医官。

・物語内での具体的な行動や成果
優秀な学生が突然消える王宮の闇を警戒していた。董胡が消えた後、救うために内医司の医官となる。第三巻では内医頭の書庫に忍び込み、先帝の御霊守目録を調査した。友人の秋仲が殉死させられた事実を突き止める。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
顔から胸にかけて大きな傷痕がある。玄武公への激しい復讐心を抱く。

頑兼(がんけん)

頑兼は内医司の医官であり、主治医を務める老人である。手足の震えがあり、言動にも痴呆を疑う兆候が見られる。

・所属組織、地位や役職
内医司、内医頭。

・物語内での具体的な行動や成果
毎朝、黎司の診察を行っている。黎司が薬湯を拒否するため、内膳寮に指示して食事に薬を混ぜさせた。第三巻では、彼の書庫に偵徳が忍び込んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
齢八十を過ぎている。書庫には歴代皇帝の健康日誌や内医官名簿が保管されていた。

宮内局・薬庫

万寿(まんじゅ)

万寿は王宮の薬庫で働く平民の役人である。王宮の薬庫のほとんどを取り仕切る。

・所属組織、地位や役職
宮内局、薬庫の平民医官。

・物語内での具体的な行動や成果
董胡が薬を求めてやって来た際、良質な生薬を融通した。冬虫夏茸を贈られて深く感謝する。楊庵から頼まれ、玄武の薬売りたちを通じて王琳の素性を調査した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
細君をとても大切にしている愛妻家である。楊庵とは事あるごとに口論になる犬猿の仲だ。

后宮・女官

茶民(ちゃみん)

茶民は鼓濤(董胡)の付き侍女である。気が強く、少し色黒で痩せている。お金を貯めるのが趣味だ。

・所属組織、地位や役職
玄武の一の后宮、侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
不要な茶菓子などを売って小銭を貯め込んでいる。董胡から激辛の饅頭を作ってもらい、涙を流して喜んだ。第三巻では王琳に小銭を没収されて嘆く。お茶会では鼓濤を助けるために協力した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
十五歳である。当初は董胡への不満を抱いていたが、料理を食べて深く懐いた。以前より少し肌が白くなっていく。

壇々(だんだん)

壇々は鼓濤(董胡)のもう一人の付き侍女である。色白でふっくらしており、おっとりした性格をしている。食いしん坊だ。

・所属組織、地位や役職
玄武の一の后宮、侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
董胡のために厨房から蒸し饅頭を運んできた。董胡から甘い饅頭を分けてもらう。帝が饅頭を毒殺の罠と誤解した際、濡れ衣を晴らすために完食した。第三巻ではお茶会の緊張から知恵熱を出して寝込んでしまう。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
十三歳である。董胡の薬膳により体調を回復させ、深く懐くようになった。

禰古(ねこ)

禰古は朱璃姫に仕える侍女頭である。朱璃姫を深く愛し、皇后になることを望んでいる。

・所属組織、地位や役職
朱雀の一の后宮、侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
大朝会でお后様の最下位の序列を不満に思っていた。第三巻の大朝会では、新しく代わった玄武の侍女頭である王琳に華麗や董胡のことを尋ねる。冷たくあしらわれて動揺した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朱雀の后宮を取り仕切る。王琳の冷徹さに恐怖を抱いていた。

王琳(おうりん)

王琳は玄武公から新たに鼓濤のもとへ派遣されてきた侍女頭である。かつて先帝の内医助を務めて殉死させられた吐伯の妻だ。非常に冷徹な態度で后宮を取り仕切る。

・所属組織、地位や役職
玄武の一の后宮、侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
后宮を厳しく管理し、鼓濤が自ら料理することを厳禁とした。皇太后に脅され、兄の安寧を救うために黎司の毒殺を企てる。極度の糖虚で倒れた際、董胡の薬膳と説得により夫の死の真実を知る。黎司の人柄に触れて改心し、計画を自白した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
夫の殉死後は兄の診療所に身を寄せていた。毒殺未遂の後は黎司と鼓濤のために働く密偵となる。

登場が明確に確認できる集団

皇太后の侍女たち

皇太后の左右に控え、華やかな扇を持つ四人の侍女たちである。

・所属組織、地位や役職
二の后宮(皇太后宮)の侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
お茶会において、地味な装いをした鼓濤や茶民、壇々の不作法を嘲笑した。皇太后の言葉に同調し、王琳をそそのかす役割を果たす。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
若々しく粋な装いをしている。主である皇太后の威光を傘に着て、他者を見下す。

翠明の式神たち(麒麟の神官たち)

翠明が操る、同じ顔をした不思議な神官たちの姿をした存在である。

・所属組織、地位や役職
翠明の式神。

・物語内での具体的な行動や成果
楊庵が鼓濤の寝所へ忍び込む際、周囲を見張って援護した。彼らの存在により、楊庵は誰にも見つからずに任務を遂行できた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
感情がなく、人の印象に残らない特徴を持つ。複雑な機転や能動的な決断はできない。

菊植えの職人たち

白虎の園丁寮で管理する、大規模な菊の花壇で働く男たちである。

・所属組織、地位や役職
園丁寮の職人。

・物語内での具体的な行動や成果
紅菊の花壇のそばで話しながら通り過ぎていった。よしずの裏に隠れていた黎司と董胡には気づかなかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王宮の花壇の手入れを任されている。彼らの存在により、黎司が董胡を被衣の中へ引き寄せるきっかけが生まれた。

華蘭の侍女たち

黒水晶の宮に仕え、華蘭の身の回りの世話をする女性たちである。

・所属組織、地位や役職
黒水晶の宮の侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
雄武に対して好意的に振る舞い、后宮の情報を話した。雄武は帝の毒殺計画を事前に察知できた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
華蘭を熱心に称賛する。雄武に貴重な情報をもたらす役割を果たした。

薬膳妃 2巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 4巻レビュー

展開まとめ

序 

伍尭國と董胡

伍尭國は玄武、朱雀、青龍、白虎の四領地を、中央の麒麟の皇帝が統治する国であった。玄武で育った平民の董胡は、医師を目指して男装していたが、玄武の一の后・鼓濤として皇帝・黎司のもとへ輿入れすることになった。

黎司を支える医官

董胡は皇帝の廃位を企む玄武公の娘として警戒されながら、男装の医官として密かに黎司を助けた。黎司は医官の董胡と后の鼓濤が同一人物だと知らないまま、次第に心を開いていった。

朱雀の流行り病

黎司は天術によって、朱雀の妓楼街に病が流行する未来を予見した。密偵として現地へ向かった董胡は病の原因を突き止め、流行を抑えたものの、主犯格とみられる若君を逃した。

皇太后からの招待

朱雀の危機を救えた董胡は鼓濤としての日常へ戻ろうとしたが、これまで拝謁を拒み続けていた皇太后から突然茶会へ招かれ、新たな波瀾を迎えようとしていた。

一、 黒水晶の宮 

五つの輝石

伍尭國は、創司帝が未来を読み、風を操って築いた国であった。皇宮と四領地の宮には結界を支える輝石が奉納され、玄武の黒水晶を守る役目を領主の亀氏が担っていた。

首席を逃した雄武

医師試験直後、雄武は首席を董胡に奪われたことで玄武公から叱責された。章景は解答の改ざんを提案したが、麒麟の神官が判定に関わっていたため、結果を覆すことはできなかった。

玄武公は亀氏一族より優秀な医師は不要だと考え、董胡を排除するよう章景に命じた。雄武は自力で董胡に勝つつもりであり、殺す必要はないと反対したが、二人に聞き入れられなかった。

内医官の殉死

孝司帝の崩御を利用し、玄武公と章景は目障りな医師たちを内医官に任じ、殉死させようと企てた。民から支持される吐伯や、異国の切開術を学んだ平民医官も対象となり、董胡も同じ方法で始末される予定であった。

二人は次の皇帝の治世も短いと見込み、将来排除する医師の名簿まで作ろうとしていた。雄武は人命を意のままに選別する父たちの残酷さを目の当たりにし、恐怖で反論できなかった。

兄との比較

玄武公と章景は、雄武を兄の尊武と比べ、亀氏一族を継ぐ資質が足りないと責めた。幼い頃から兄に劣ると言われ続けた雄武は、唯一自信のあった座学でも首席になれず、父に見捨てられる恐怖に襲われた。

その恐怖から董胡を救う言葉を口にできず、雄武は章景に任せると答えてしまった。しかし董胡の首席合格が闇に葬られ、命まで奪われると知っても、勝利を得たとは思えず、激しい罪悪感だけが残った。

董胡への罪悪感

雄武は董胡を嫌い、嫌がらせもしていたが、殺したいほど憎んではいなかった。董胡を捜し回る楊庵を見るたびに心を痛め、楊庵まで姿を消すと、自分を起点に闇が広がっているように感じて生きる気力を失いかけた。

生存の噂

やがて雄武は、董胡が女性であり、皇帝の一の后として生きているという噂を聞いた。信じ難い話だったが、調べるうちに事実だと分かり、董胡の生存を自分の目で確認したいと願った。

皇帝の后となった董胡に会う機会はなかったが、董胡が侍女頭代理として弟宮と偶然出会ったことをきっかけに、雄武の望みは思いがけず実現へ向かうことになった。

二、黎司と翔司 

翔司と華蘭の縁談

翔司は玄武の二の后宮で華蘭や玄武公、皇太后と過ごしていたが、貴人回廊で出会った竜胆の姫君が頭から離れなかった。華蘭とは異なる素朴で自由な美しさに惹かれながらも、自分を慕う華蘭に対して不誠実だと感じ、気持ちを切り替えようとした。

帝廃位の計画

皇太后と玄武公は、黎司の先読みが当たったため民衆を扇動できず、廃位計画が停滞したことを嘆いた。玄武公は黎司が邪術を使って災害を起こし、先読みを的中させたのだと翔司へ吹き込んだ。

翔司は兄の行いだと信じ、黎司を廃位して自分が正しい国を築くことが使命だと決意した。しかし廃位後の后や侍女の行く末を尋ね、竜胆の姫君を案じる様子を見せた。

殉死を語る華蘭

玄武公は后や侍女には新たな暮らしを用意すると答えたが、華蘭は子のない后には帝と流刑や死を共にする道もあると告げた。翔司は、自分の即位がすべての者を幸福にするわけではなく、不幸に巻き込まれる者もいると初めて気付いた。

翔司が玄武の后や侍女を気にかけたことで、華蘭は強い嫉妬を見せた。玄武公と皇太后も鼓濤への警戒を深め、濤麗の娘である鼓濤と一度会う必要があると考えた。

兄弟のすれ違い

皇太后の宮から戻る途中、翔司は貴人回廊で黎司と出会った。翔司は鼓濤やその侍女に危害を加えれば絶対に許さないと告げ、そのまま立ち去った。

黎司は濡れ衣を信じて自分を憎む翔司を案じながらも、久しぶりに弟と言葉を交わせたことを喜んだ。翔司の真っ直ぐな性格が玄武公に利用されているのではないかと心配していた。

弟宮への想い

初冬を迎えた頃、黎司は鼓濤の后宮を訪れ、翔司が鼓濤の身を案じていたと話した。董胡は翔司が腹黒い策を巡らす人物ではなく、周囲の大人に誤った情報を教え込まれているのだと理解した。

黎司は翔司を大切に思いながらも、その気持ちは一方通行だと寂しげに語った。董胡は兄弟のすれ違いを切なく感じた。

寒菊の薬膳

董胡は黎司のため、寒菊の花湯豆腐や玄米と小豆の粥など、冬の体を温め腎臓を補う薬膳を用意した。黎司は菊の花びらや香ばしく炒った玄米の味を気に入り、董胡の料理と食材の説明を楽しんだ。

黎司は皇族の緋色が時代や周囲の気によって変化する色だと語り、皇帝も変化を受け入れるべきだと考えていた。董胡は、五年前に自分が願った平等な世を黎司が実現しようとしているのではないかと感じ、その願いが重荷になっていないか不安を抱いた。

黎司からの贈り物

黎司は鼓濤が衣装や宝飾品をほとんど求めていないと知り、自ら見立てた品を贈ると告げた。董胡は断ろうとしたが、黎司の好意を前に受け入れるしかなかった。

董胡は鼓濤と薬膳師の二つの姿で黎司を欺いている罪悪感を抱きながらも、向けられる好意に心が浮き立つのを抑えられなかった。

皇太后からの茶会

黎司が帰った翌日、董胡のもとへ皇太后から茶会の招待が届いた。これまで拝謁の申し出を無視され続けていたにもかかわらず、突然招かれたのである。

茶会には玄武公、華蘭、雄武も参加する予定であった。董胡は自分の過去を知る者たちと鼓濤として対面しなければならず、日が近付くにつれて憂鬱を深めていった。

三、皇太后のお茶会 

皇太后との対面

皇太后の茶会の日、董胡は茶民と壇々を従えて二の后宮を訪れた。そこには玄武公、華蘭、雄武も列席しており、皇太后は董胡の地味な装いと侍女たちの不作法を嘲った。

皇太后は平民育ちの董胡にまともな医術は使えないと決めつけ、玄武公も医師免状は親心で与えた無用の品だと語った。さらに皇太后は免状を冥途の土産にするよう告げ、董胡は自分を早々に抹殺する意図があるのではないかと警戒した。

黒露の玉

皇太后は黒露の玉という濃茶を一同へ振る舞ったが、董胡の茶だけは異常に濃く量も多かった。玄武公たちの茶とは明らかに異なり、董胡は毒を盛られている可能性を疑った。

董胡が飲むのをためらうと、皇太后や侍女たちは無礼だと責め立てた。玄武公も扇を置いて謝罪するよう迫り、董胡を追い詰めた。

懐妊の可能性

董胡は碾茶の効能を説明したうえで、懐妊の可能性がある者は濃い碾茶を飲むべきではないと告げた。文献には碾茶を好む婦人の流産例が記されており、董胡は自分が国中で最も飲んではならない者だと主張した。

董胡は実際に懐妊していたわけではなく、毒の可能性がある茶を避けるために嘘をついていた。自分を守るための嘘で罰を受けるなら受け入れる覚悟であった。

華蘭の風

華蘭は董胡の説明を詭弁だと責め、男と偽って医師免状を得た過去まで持ち出した。その直後、華蘭の燃えるような視線とともに強い風が起こり、董胡の扇が手から落ちた。

顔を晒した董胡を雄武は驚愕して凝視した。董胡は華蘭から発せられる攻撃的な力を感じ、以前にも同じ風で頬を傷つけられたことを思い出した。

雄武の証言

董胡は碾茶の危険性について、同じ麒麟寮で学んだ雄武へ確認するよう求めた。華蘭は董胡の話を出鱈目だと否定するよう雄武へ迫った。

董胡は、雄武が自分の死を見届けるために来たのではないかと疑い、逃げ出す覚悟まで固めた。しかし雄武は、濃すぎる碾茶には子を流す可能性があると学んだと認め、董胡の説明を肯定した。

茶会後の警戒

后宮へ戻った董胡は、懐妊したとは断言せず、可能性があると言っただけなので後から取り繕えると茶民たちへ説明した。茶民と壇々は皇太后が毒を盛るとは考えておらず、茶を飲めばよかったと語った。

董胡は、王宮では最悪の事態を想定しなければ簡単に葬られると考えていた。死因を判断する玄武の医師を玄武公が支配している以上、今後も自分より立場の高い者と会う時は警戒しなければならないと心に刻んだ。

四、薬庫の再会

壇々の知恵熱

皇太后の茶会翌日、壇々は緊張の反動で熱を出した。董胡は医官姿で薬庫を訪れ、万寿から柴胡や半夏などの生薬を受け取った。

董胡は日頃の礼として、楊庵が斗宿から持ち出してくれた冬虫夏茸を万寿へ贈った。万寿は妻への簪を買えると喜び、董胡への感謝を示した。

万寿と楊庵の対立

万寿は以前、董胡の兄弟子を名乗る怪しい使部を追い払ったと話した。その直後に楊庵が現れ、董胡を知らないと嘘をついた万寿と激しく口論した。

董胡は二人が同じ治療院で育った兄弟弟子だと説明したが、万寿は医師免状を持たない楊庵を見下し、楊庵も反発した。冬虫夏茸を守ってくれたのが楊庵だと知っても、二人は素直に感謝できず、険悪なままだった。

内医司の偵徳

薬庫を出た董胡は、楊庵に医師免状を取るよう勧めた。楊庵には優れた鍼の技術があったが、免状を得て内医官になれば外部との接触を制限されるため、偵徳は使部のままの方が動かしやすいと考えていた。

偵徳は自ら希望して内医司へ入り、内部で何かを調べていた。玄武の妓楼へ通っていたのも情報収集のためだったらしく、董胡は帝への反感を抱く偵徳が何を企んでいるのか不安を覚えた。

レイシを知らない楊庵

楊庵は、董胡が玄武の后付き薬膳師となったことで、レイシの専属薬膳師になる夢を諦めたのかと尋ねた。楊庵はレイシが王宮におり、帝として自分たちを使っているとは知らなかった。

楊庵は昔のレイシを生意気な人物だったと語り、五年後に再会して幻滅するより、捜さない方がよいのではないかと勧めた。董胡は真実を明かせず、黙って聞くしかなかった。

王宮からの脱出

楊庵は、偵徳から機会があれば董胡と共に王宮を逃げるよう勧められていると明かした。内医官には殉死の未来があり、董胡も玄武の后の運命に巻き込まれるため、次に王宮外の任務へ出た時が好機だという考えだった。

楊庵は朱雀で旺朱に匿ってもらい、董胡と二人で治療院を開くことを望んだ。朱雀が無理なら国を出てもよく、董胡と一緒ならどこでも生きていけると真剣に告げた。

王宮に残る決意

董胡は楊庵の提案を断った。鼓濤として逃げれば、楊庵や茶民、壇々まで処罰される可能性があり、突然姿を消せば黎司も傷つくと考えたためだった。

董胡は国を変えようと孤独に尽力する黎司を置き去りにできず、拒食が回復するまで支えたいと願っていた。自分の正体が露見し、黎司に疎まれる日が来るまでは、王宮に残ると心を決めていた。

楊庵の決意

楊庵は、董胡が自分よりもレイシや玄武の后を優先していると落胆した。それでも董胡が共に逃げる気になるまで待ち、医師免状を取って頼れる男になると決意した。

董胡は、楊庵が昔から最大の味方であり、再会した時に大きな安堵を得たと伝えた。二人は戻れない麒麟寮での日々を懐かしみ、互いに同じ寂しさを抱えていることを確かめた。

雄武への不信

董胡が雄武について尋ねると、楊庵は董胡の行方を問い詰めた際、雄武の取り巻きに殴る蹴るの暴行を受けたと語った。雄武自身が手を出したかは曖昧だったが、楊庵は雄武を嫌悪していた。

董胡は茶会で自分を助けた雄武に別の意図があるのではないかと考え直し、信用しない方がよいと判断した。一方で、董胡が女性で后になった事実は麒麟寮の者たちに広まっていないと分かり、その点だけは安堵した。

次の再会

董胡と楊庵は長く外にいられないため、それぞれの持ち場へ戻ることにした。董胡は次に薬庫を訪れる時、楊庵の好物の饅頭を万寿へ預けると約束した。

饅頭を受け取るためには万寿と仲良くする必要があると聞き、楊庵は死ぬ気で褒めて関係を改善すると宣言した。二人は再会を約束し、笑顔で別れた。

五、侍女頭・王琳 

壇々の快気祝い

壇々は董胡の看病と煎じ薬によって回復し、董胡、茶民と甘味尽くしの茶会を開いた。茶民と壇々は皇太后の茶会で董胡を助けた雄武を褒めたが、董胡は麒麟寮時代の嫌がらせや楊庵への暴行を思い出し、素直に信用できなかった。

董胡は甘味を楽しむ二人を見ながら、村で楊庵たちと串団子を食べた日々を懐かしんだ。窮屈な姫君の暮らしの中で、自分の料理を喜んで食べてくれる茶民と壇々の存在が支えとなっていた。

侍女頭・王琳

三人の団欒中、見知らぬ女性が突然御簾を巻き上げた。王琳と名乗るその女性は、玄武公の命で鼓濤付きの侍女頭に就任したと告げ、御簾内の甘味をすべて廃棄させた。

王琳は茶民と壇々を未熟で無作法だと責め、宮下げを進言しようとした。董胡は侍女の処遇を決めるのは自分だと言い返し、二人を守った。しかし王琳が玄武公の腹心である可能性が高く、董胡は医官として行動することも難しくなった。

奪われた日常

王琳は董胡が御膳所で料理することを禁じ、常に貴人らしい衣装と言葉遣いで過ごすよう命じた。茶民と壇々も処罰を恐れて逆らえず、董胡は御簾の中で書写や絵合わせをして一日を過ごすようになった。

茶民は菓子の売買を見つかって小銭を没収され、壇々は董胡の料理を食べられない苦しさを訴えた。三人は王琳を氷女や鬼女のように恐れ、わずか三日で疲れ切っていた。

甘味を拒む王琳

茶民と壇々は董胡の料理で王琳を味方につけようと考えた。しかし董胡の目には、王琳が甘味を強く拒絶し、食そのものにも関心が薄い色を放っていることが見えていた。

料理で心を動かすことが難しい相手だと董胡が説明しかけたところへ王琳が戻り、二人を厳しく叱責した。さらに翌日、帝が玄武の后宮を訪れるとの先触れを伝えた。

帝を迎える支度

董胡は王琳に鼓濤と帝が清い関係であることを知られれば、皇太后の茶会で口にした懐妊の可能性が疑われると焦った。帝を御簾内へ招けば会話を隠せるが、レイシに顔を見られて正体が露見する危険があった。

王琳は董胡を湯殿へ入れ、衣装や髪飾りを整え、王宮から最高級の品々まで借りてきた。董胡は料理を作ることも許されず、華やかに飾られた姿で帝を待つことになった。

玄武公の間者

帝が訪れると、いつもの膳がないことを残念そうにしながらも、董胡へ謝る必要はないと告げた。部屋の生け花や香、装いの変化にもすぐ気付き、董胡は玄武公から有能な侍女頭を送られたと強調して伝えた。

黎司はその言葉から王琳が玄武公の腹心であると察し、親心で送られた侍女なのだろうと応じた。二人は王琳に聞かせるため、普段から睦まじく過ごしているような会話を交わした。

黎司の気遣い

黎司は祈禱殿へ籠るため、しばらく会えなくなると告げて早々に帰ることにした。別れ際には、困ったことがあればいつでも知らせるよう董胡へ伝えた。

董胡は黎司の心遣いを嬉しく思ったが、王琳に文を確認され、医官として宮を出ることもできないため、助けを求める方法はなかった。黎司へ心配をかけまいと大丈夫だと答え、玄武公の監視下で自力で状況を変えるしかないと考えた。

六、密偵、楊庵 

后宮への密命

王琳に后宮を掌握された董胡は、料理も医官姿での外出も禁じられ、孤独な日々を送っていた。夜半、寝所へ忍び込んだ人物を玄武公の刺客かと警戒したが、それは帝の命を受けた楊庵であった。

楊庵は翠明の式神に守られて侵入し、帝が鼓濤の身を案じていると伝えた。董胡は鼓濤の声で応じ、玄武公から送られた侍女頭・王琳の素性を調べるよう依頼した。

紅菊の花壇

楊庵は当初、旧知である鼓濤の薬膳師・董胡と連絡を取るよう命じられていたが、后宮内で姿を見つけられず、直接鼓濤へ声をかけていた。董胡は薬膳師が無事であると伝え、王琳が大朝会へ出る時間なら外へ出られると考えた。

二人は次々回の大朝会の日、白虎側にある紅菊の花壇で董胡と会う段取りを決めた。楊庵が密偵として成長した姿に驚きながら、董胡は再び胡として動ける機会に希望を抱いた。

万寿への聞き込み

楊庵は王琳の情報を得るため、薬庫の万寿を訪ねた。二人は依然として険悪だったが、董胡のためだと知った万寿は、玄武の薬売りたちへ聞き込みをすると約束した。

薬売りから、高名な貴族医師・吐伯の妻が王琳という名だったとの情報が得られた。王琳は夫の診療所で薬剤の仕入れや運営を取り仕切り、吐伯から深く信頼されていた女性であった。

閉ざされた診療所

吐伯の診療所は平民にも安く薬を分け、多くの患者や医師が集まる評判の場所であった。しかし三か月ほど前、何の前触れもなく閉鎖され、吐伯は亡くなったと伝えられていた。

夫を失った王琳は、兄である医師・安寧のもとへ身を寄せ、診療所の奥で働いているとされていた。楊庵は、この王琳が鼓濤の侍女頭と同一人物ではないかと考えた。

御霊守目録

一方、偵徳は内医頭・頑兼の書庫へ忍び込み、孝司帝の副葬品を記した御霊守目録を調べた。そこには品物と同じように殉死者の名が並び、貴族医官や多くの平民医官が墓守として葬られていた。

偵徳が敬愛していた切開術の医師も犠牲となり、さらに友人で命の恩人でもある秋仲の名も記されていた。偵徳は、玄武公が自らの権威を守るために優秀な医師たちを殉死させたと確信した。

偵徳の過去

少年時代の偵徳は、玄武公の子息が乗る輿の前で子犬を鳴かせたことで、子犬ごと刀で斬られていた。秋仲の救命処置によって生き延びたが、顔から胸に残る傷と痛みは消えなかった。

偵徳はその公子が雄武ではない別の玄武公の息子だと考え、秋仲まで玄武公に殺された事実を知って復讐心を募らせた。ただし董胡と楊庵を巻き込むことへの迷いが、辛うじて行動を抑えていた。

吐伯の殉死

楊庵から吐伯と王琳の話を聞いた偵徳は、御霊守目録に内医助・吐伯の名があったと明かした。吐伯は孝司帝の死後に急遽内医助へ任じられ、殉死させられた可能性が高かった。

平民から慕われる吐伯を目障りに思った玄武公が、帝の死を利用して葬ったと考えた偵徳は、さらに激しい憎しみを抱いた。

七、消えた董麗 

朱璃への報告

朱雀の后宮を訪れた黎司は、珍しく后らしく着飾った朱璃を称賛した。朱璃が他の后との関係を尋ねると、黎司は后たちとの間に子を残せば、自身の死後に政敵から母子ともに命を狙われる可能性があるため、あえて深い関係を持たないのだと明かした。

濤麗の素性

黎司は朱璃に頼まれて調べた后宮の系譜を示し、濤麗が低い身分の后から生まれた皇女であったと説明した。かつて朱雀の后宮で流行り病が起きた際、凰葉をはじめ多くの者が亡くなった一方、濤麗が暮らす三の宮では死者が出ていなかった。

濤麗は後に現在の玄武公へ輿入れし、数年後に亡くなっていた。さらに濤麗には娘が一人おり、その娘が現在の玄武の一の后・鼓濤と記録されていた。

鼓濤への疑念

黎司は、玄武の一の姫君が長く白虎出身の正妻の娘だと思われていたことや、濤麗の娘が宮に存在しなかったとの証言から、鼓濤の出自を疑っていた。玄武公が濤麗以外の男との間に生まれた子を疎み、行方不明の姫君として利用した可能性を考えていたのである。

朱璃は濤麗に瓜二つの華麗や薬膳師の董胡を思い浮かべ、帝が会っている玄武の后が何者なのか疑問を深めた。しかし黎司は、玄武公を問い詰めても鼓濤だけが傷つくとして、真相を追及しないつもりだった。

朱璃の決意

朱璃は黎司へ自分の知る情報を伝えず、まず華麗を問い詰めて真相を確かめることにした。濤麗に何が起き、華麗や董胡が何者なのかを明らかにしたうえで、帝へ話すか判断しようと考えた。

消えた華麗

朱璃は次の大朝会に華麗を連れてくるよう禰古へ命じた。しかし大朝会に現れた玄武の侍女頭は別の女性であり、華麗という侍女は聞いたこともないと答えた。

新たな侍女頭は、玄武の一の后宮に薬膳師も存在しないと言い切った。華麗も董胡も最初からいなかったかのように姿を消し、周囲の者たちも二人を知らなかった。

深まる謎

禰古によれば、新しい侍女頭は冷たく威圧的で、会が終わると急いで立ち去っていた。朱璃はようやく真相を確かめられると思っていた矢先に手掛かりを失い、華麗と董胡の正体をめぐる謎をさらに深めた。

八、紅菊の密会 

紅菊の花壇

董胡は王琳が大朝会後に皇太后へ報告していると突き止め、その隙に医官姿で后宮を抜け出した。約束の紅菊の花壇へ向かうと、楊庵ではなく、翠明を伴って密かに皇宮を出たレイシが待っていた。

レイシは楊庵から董胡が后宮で見つからないと聞き、直接会いに来ていた。董胡は新しい侍女頭に薬膳師の存在を知られないため身を隠していたと説明した。

吐伯の殉死

レイシは、王琳が先帝の内医助・吐伯の妻であったと伝えた。吐伯は先帝の死の直前まで壁宿の診療所で働いており、殉死させるためだけに急遽内医助へ任じられた可能性が高かった。

先帝の死後、多くの優秀な医師が同じように内医官へ任じられ、玄武公にとって目障りな者を排除するため殉死制度が利用されていた。董胡は、夫を奪われた王琳がなぜ玄武公に従っているのか疑問を抱いた。

王琳の過去

吐伯は平民にも慕われた愛妻家で、甘味好きの王琳へ頻繁に糖菓子を買っていたという。しかし現在の王琳は甘味を徹底して拒み、感情を失ったように振る舞っていた。

夫を亡くした王琳は兄・安寧の診療所へ身を寄せた後、二十日ほど前に姿を消していた。時期から考えれば、玄武公に呼び出されて鼓濤の侍女頭となった可能性が高かった。

レイシの拒食

職人が近付いたため、レイシは董胡を被衣の中へ引き寄せて身を隠した。間近でレイシを見た董胡は、五味を示す光が消えかけており、拒食が深刻化していることに気付いた。

レイシは董胡を自分のもとへ匿うと申し出た。董胡は薬膳師として共に行きたい衝動に駆られたが、后宮に残る茶民や壇々を見捨てられず、誘いを断った。

捕らわれた玄武の后

レイシは新たな先読みに、玄武の后らしき姫君が捕らえられる光景が現れたと明かした。詳しい理由は分からなかったが、鼓濤を守ってほしいと董胡へ頼み、自らも祈禱殿で回避を祈り続けていた。

董胡はレイシが祈りで体を酷使していると知り、まず食事を取らせることを優先した。王琳を説き伏せて料理を作るため、祈禱殿へ籠る前に帝として玄武の后宮を訪れるよう伝えてほしいと頼んだ。

皇太后への報告

大朝会を終えた王琳は皇太后を訪ね、鼓濤が無作法で、薬草や薬研を隠し持ち、自ら料理を作って帝へ薬膳師の料理だと偽っていたと報告した。皇太后は料理を禁じる必要はなく、むしろ帝へ作らせるよう命じた。

皇太后は、王琳の兄・安寧が帝によって内医助へ任じられようとしており、就任すれば夫の吐伯と同じく殉死させられると脅した。さらに鼓濤が安寧を帝へ推薦した可能性を示し、兄を救うには帝が死ぬしかないと思い込ませた。

王琳への毒殺命令

皇太后は鼓濤の料理に毒が入っていれば帝を排除でき、安寧も内医助にならずに済むと暗に示した。吐伯の死も先帝の要望による不幸な事故だったと偽り、玄武公の責任を隠した。

夫に続いて兄まで失う恐怖を突きつけられた王琳は激しく動揺した。皇太后と侍女たちは国と兄を救う正しい行いだと迫り、決断を委ねる形で王琳を帝の毒殺へ追い込んだ。

九、帝の暗殺者 

王琳の昏倒

董胡は王琳の不在中に茶民と壇々を伴って饅頭を作っていた。戻ってきた王琳は董胡を叱ろうとしたものの、激しい眩暈を起こして倒れた。

王琳が取り出した当帰芍薬散を調べた董胡は、現在の症状には合わないと判断して薬を捨てた。王琳は薬を奪われたまま意識を失ったが、董胡は死んだのではなく、頻脈と糖不足による昏倒だと見抜いた。

王琳の糖虚

董胡は王琳が以前は甘味を好みながら、ある時から甘い物や白飯まで受け付けなくなり、十分な食事を取っていなかったと推測した。体内の糖が不足した糖虚によって、冷えや眩暈、手の震えが起きていたのである。

董胡は眠る王琳に甘麦大棗湯を飲ませ、甘味を感じにくい雑穀粥へ豆板辣油を加えて食べさせた。王琳は処方を受け入れ、症状を回復させた。

吐伯との日々

王琳は辛い粥を食べながら、夫・吐伯との幸せな暮らしを思い出した。吐伯は甘味好きの王琳を深く愛し、その聡明さや慈悲深さを誇りに思っていた。

吐伯は安寧と共に玄武の医術を変えようと志し、名医として評判を高めた。しかし玄武公に招かれたまま戻らず、内医助として殉死させられていた。

悪になる決意

王琳は、誠実に医術へ尽くした吐伯が殺され、腐敗した医師たちが生き残る世の理不尽を知った。吐伯の死後も志を捨てない兄・安寧を守るため、自分が悪となるしかないと考えていた。

董胡に命を救われても、王琳は密かに帝と鼓濤を陥れる使命を捨ててはいなかった。

料理の解禁

回復した王琳は、以前と変わらず茶民と壇々を厳しく叱ったが、董胡が料理をすることには反対しなくなった。董胡は理由を不審に思いながらも、帝の訪問に備えて拒食を改善する薬膳を作れることを喜んだ。

雄武の訪問

帝の訪問を控えた董胡の后宮へ、雄武が先触れもなく現れた。董胡が無粋な訪問を皮肉ると、雄武はにわか姫君には礼を尽くす必要がないと挑発した。

雄武は先日の茶会で董胡を助けたことを後悔していると語り、御簾内へ踏み込んで董胡の胸倉を掴んだ。侍女たちに非難されるとすぐに手を離し、やり過ぎたと謝って立ち去った。

帝のための膳

翌日、董胡は拒食の進んだ黎司のため、少量でも十分な栄養を取れる膳を完成させた。董胡が御膳所を離れると、王琳は亡き吐伯の診療所から持ち出した毒薬を取り出した。

王琳は、自分を救ってくれた董胡を罪に陥れることに迷った。しかし兄を守り、吐伯の無念を晴らすためには悪になるしかないと考え、薬包紙を開いた。

毒見を通った料理

帝が訪れると、王琳は自ら膳を運び、一品ずつ毒見用の皿へ取り分けた。従者が異常なしと確認した後も王琳は給仕に残り、黎司の穏やかな人柄が皇太后から聞かされた姿と異なることに戸惑った。

董胡は最初に汁椀を勧めた。毒見では具材だけが確認されていたが、董胡が大丈夫だと促したため、黎司は汁を口にした。直後、黎司は顔を歪めて喉を押さえ、王琳は慌てて立ち上がった。

十、 帝のいない殿上会議 

殿上会議の異変

殿上会議では、帝が体調を崩したとして高御座が空席になっていた。玄武公は黎司が玄武の后宮で倒れたと匂わせ、鼓濤の粗相を疑うとともに、空席の内医助へ名医・安寧を任じるよう迫った。

しかし黎司は健康な姿で現れ、玄武公が自分の死を予期していたかのような言動を皮肉った。玄武公は動揺しながらも、帝のために医師を探していたと取り繕った。

王琳の告白

前夜、酸辣湯の辛さにむせただけの黎司を見て、王琳は自分が聞かされていた無慈悲な帝像との違いに戸惑った。黎司から先帝の崩御日と安寧を内医助へ指名していない事実を聞き、皇太后と玄武公に欺かれていたと悟った。

王琳は、鼓濤から吐伯が先帝の死後に内医助へ任じられ、殉死させられた事実を教えられていた。さらに鼓濤は、身分ではなく自分の目で帝を確かめるよう促し、玄武公が安寧も同じように葬る可能性を指摘していた。

毒殺計画の断念

王琳は帝へ毒を盛ろうとしていたことや、皇太后から兄を救うためだと唆された経緯をすべて白状した。しかし命令を示す証拠はなく、公にすれば王琳だけが罪に問われる状況であった。

黎司は王琳を責めるより先に、吐伯を救えなかったことを謝罪した。そして安寧を守り、悪用された殉死制度を終わらせると約束し、王琳へ協力を求めた。王琳は吐伯の生き様を後世に残すため、黎司に力を貸すと決意した。

暗殺計画の探り

黎司は鼓濤と相談し、体調を崩したように装って輿で皇宮へ戻り、殿上会議にも遅れて現れた。重臣たちの反応を観察した結果、今回の企みに玄武公と皇太后が関わり、青龍公や朱雀公は知らなかったと見抜いた。

翔司が青ざめて沈黙している姿を見た黎司は、弟も暗殺計画を知らされていたのではないかと疑った。兄の命を奪ってまで皇帝になろうとしているのかと悲しみながらも、玄武公に利用される翔司を救いたいと考えた。

殉死制度の廃止

黎司は玄武公が内医官の質を心配していたことを逆手に取り、内医官だけでなく、后や侍従を含むすべての殉死を禁じる詔を出すと宣言した。皇帝に墓守は不要であり、誰もが本来の寿命を全うすべきだと定めた。

玄武公は、殉死制度が内医官による皇帝暗殺を防ぐ戒めだと反対した。しかし黎司は、先帝の内医助だった玄武公の親族が生き残り、代わりに吐伯や多くの名医が先帝の死後に任じられて殉死した事実を示した。

御霊守目録の証拠

黎司は先帝の御霊守目録と、崩御直前の内医官名簿を重臣たちへ提示した。二つを比べると、先帝の死後に吐伯を含む多くの医師が追加され、墓守として葬られていたことが明らかになった。

青龍公と朱雀公も、自領が医師不足に苦しむ一方、玄武公が腕の良い医師を出し惜しみしていたと訴えた。名医を皇帝の死ごとに失う殉死制度が、国全体へ大きな損害を与えていたことが認められた。

翔司の選択

黎司は翔司へ、自分や翔司が死んだ時に后や医官を道連れにしたいかと問いただした。玄武公は答えさせまいとしたが、黎司は次代の皇帝となる可能性がある以上、今ここで決断するよう迫った。

翔司は殉死を望まず、すべての者に寿命を全うしてほしいと答えた。玄武公は初めて逆らった翔司を冷たく睨んだが、黎司は弟がまだ傀儡になり切っていないことに安堵した。

死を対価とする禁呪

重臣たちは殉死制度の廃止に反対せず、追い詰められた玄武公も表向きは賛成した。しかし黎司の死後に翔司を使って詔を覆せると考えていた。

黎司はその思惑を見抜き、詔へ禁呪を施すと宣言した。自らの死を対価として、死後に殉死を命じた者と関係者へ、殉死者と同じ死を与えるという内容であった。玄武公ははったりだと疑ったが、黎司に試すなら命で確かめることになると言われ、ついに肩を落とした。

十一、新たな波瀾の幕開け 

殉死制度廃止の成果

殿上会議を終えた黎司は、翠明と共に殉死制度を廃止できたことを喜んだ。今回も鼓濤と董胡の働きが大きかったため、二人への贈り物を急がせるとともに、次に后宮を訪れる際は鼓濤の顔を見て、董胡にも自分が帝であると明かそうと考えた。

禁呪のはったり

黎司が詔に施すと宣言した禁呪は、玄武公を牽制するための虚言であった。創司帝の天術書を用いて簡単な術を試しても発動せず、黎司には禁呪を使う力がなかった。

しかし黎司の先読みには凶事しか現れず、天術も完成直前で解けていた。創司帝の時代に存在した三種の神器が二つしか残っていないことから、黎司は失われた三つ目の神器を見つけなければ、皇帝の力を取り戻せないと考えた。

魔毘と未完成の天術

黎司は祈禱殿で魔毘と呼ばれる黒衣の男を呼び出し、銅鏡へ未来を映す術を使っていた。剣と銅鏡、魔毘が天術に必要だと分かっていたが、何かが不足しているため術は途中で途切れていた。

黎司は五行の均衡が崩れ、伍尭國が争乱へ向かう予感を抱いていた。王宮の長い歴史を戦火で失わないため、三つ目の神器を探し出す必要があると決意した。

王琳の密偵役

王琳は皇太后に呼び出され、毒殺を中止した理由を報告していた。黎司と董胡は、王琳が今後も皇太后の従順な間者を装い、その動向を探る方が安全だと判断していた。

王琳は帝への忠誠を深め、鼓濤を寵愛される完璧な姫君に育てようとしていた。料理は許すようになったものの、董胡への所作の指導は変わらず厳しく、男装医官として行動していた事実もまだ知らされていなかった。

雄武の警告

董胡が王琳の毒殺計画を見抜けたのは、雄武の警告があったためだった。雄武は乱暴者を装って御簾へ入り、董胡の胸倉を掴みながら、侍女頭が帝の膳へ毒を入れるつもりだと耳元で伝えていた。

茶民と壇々は雄武が自ら悪者となって董胡を救ったと知り、再び雄武を称賛した。董胡も思い込みで雄武を疑っていたことを反省し、再会できたなら謝ろうと考えた。

雄武の罪悪感

雄武は黒水晶の宮に残り、玄武公や華蘭の動向を探っていた。華蘭の侍女から帝の毒殺計画を知り、董胡だけでなく、悪事を重ねる父を止めるためにも警告していた。

雄武は董胡が生きていると知っても罪悪感から解放されず、董胡に認められたいという思いを抱いていた。董胡の正しさと強さを兄・尊武と重ね、自分も必要な存在だと認めてほしいと願っていた。

華蘭の疑念

華蘭は雄武が一の后宮を訪れたことを把握し、帝の毒殺を妨げたのではないかと探りを入れた。雄武は関与を否定したが、華蘭は玄武公に知られれば斬られるかもしれないと脅し、雄武を恐れさせた。

その後、華蘭は久しぶりに帰還した尊武のもとへ向かった。華蘭は雄武を見下す一方、優美で人を惹きつける尊武を心から慕っていた。

鼓濤への追及

朱璃は鼓濤を訪ね、侍女頭・華麗と薬膳師・董胡の行方を問いただした。董胡が曖昧に答えると、朱璃は鼓濤、華麗、董胡が同一人物だと断言し、御簾を上げて顔を見せるよう迫った。

帝へ真実を話すと告げられた董胡は、逃げ切れないと悟り、茶民と壇々に御簾を上げさせた。露わになった顔は、朱璃が知る華麗と董胡であり、幼い頃から慕っていた濤麗に瓜二つであった。

対峙する二人の后

正体を暴かれた董胡は、朱璃が何をするつもりなのかと敵意を向けた。朱璃も不敵な笑みを返し、二人は互いに一歩も引かず睨み合った。

黎司の知らないところで、鼓濤の秘密をめぐる新たな騒動が始まろうとしていた。

薬膳妃 2巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 4巻レビュー

同シリーズ

皇帝の薬膳妃 紅き棗と再会の約束の表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 紅き棗と再会の約束
皇帝の薬膳妃 朱雀の宮と竜胆の契の表紙画像(レビュー記事導入用)り
皇帝の薬膳妃 朱雀の宮と竜胆の契り
皇帝の薬膳妃 紅菊の秘密と新たな誓いの表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 紅菊の秘密と新たな誓い
皇帝の薬膳妃 青龍の姫と蝋梅の呪いの表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 青龍の姫と蝋梅の呪い
皇帝の薬膳妃 赤椿と蒼き地の波瀾の表紙画像(レビュー記事導入用)

皇帝の薬膳妃 赤椿と蒼き地の波瀾

皇帝の薬膳妃 緑の高原と運命の導きの表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 緑の高原と運命の導き
皇帝の薬膳妃 白虎の后と桜の恋慕の表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 白虎の后と桜の恋慕
皇帝の薬膳妃8の表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 后行列の旅と謎の一族
皇帝の薬膳妃9の表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 白銀の奇跡と明かされる真実
皇帝の薬膳妃10の表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 玄武の離宮と囚われの后
皇帝の薬膳妃11の表紙画像(レビュー記事導入用)
皇帝の薬膳妃 黒水晶の宮と哀しみの記憶

その他フィクション

e9ca32232aa7c4eb96b8bd1ff309e79e 小説「皇帝の薬膳妃 白虎の后と桜の恋慕」感想・ネタバレ
フィクション(novel)あいうえお順

Share this content:

コメント

タイトルとURLをコピーしました