物語の概要
■ 作品概要
『皇帝の薬膳妃 白虎の后と桜の恋慕』は、平民育ちの薬膳師・董胡が、一の后「鼓濤」と「男装の后付き専属薬膳師」という二重生活を送りながら王宮の陰謀に立ち向かう中華アジアンファンタジーの第7弾である。 青龍の東に住む高原の民・ロー族に攫われる危機を乗り越え、王宮に戻った董胡のもとに、白虎の一の后・雪白から「病を診てほしい」との往診依頼が届く。 白虎の后宮を訪れた董胡は、侍女頭の帰莎や皇帝の侍女頭である奏優らが絡む「呪い」の疑惑や、雪白自身の「偽りの懐妊」という大きな嘘を巡る騒動に深く巻き込まれていく。 一方、皇帝・黎司は董胡が実は「女性」ではないかという秘密に確信を抱き、彼女の未来を守るために水面下で大きな決意を固める。
■ 主要キャラクター
- 董胡(とうこ) / 鼓濤(ことう): 本作の主人公であり、玄武の一の后と男装の医官という一人二役の生活を送る少女。雪白の往診を引き受けたことで白虎后宮の嘘と陰謀に巻き込まれる。
- 黎司(れいじ): 伍尭國の若き皇帝。董胡が女性であることに気づき、彼女を守るため女性医師を育成する麒麟寮の設立を画策し、楊庵へ董胡を託す密約を交わす。
- 雪白(ゆきしろ): 白虎の一の后。美しく妖艶な容姿を持つが、不遇を周囲のせいにする被害者意識が強く、黎司の関心を惹くために「自作自演の呪具」や「偽りの懐妊と流産」という嘘を重ねて周囲を翻弄する。
- 帰莎(きしゃ): 白虎の侍女頭。当初は平民医官である董胡を蔑み、雪白の懐妊を盲信して暴走するが、実際は雪白の実家の方針に従って下働きを鞭打っていただけで、自身も雪白の嘘に惑わされていた被害者であった。
- 奏優(そうゆう): 黎司の侍女頭で白虎公の姪。黎司に一目惚れして侍女となった。鼓濤を偽者と疑い、雪白の「懐妊が流産した」という嘘を信じ込んで玄武の后宮へ乱入し、董胡を捕らえようとする。
- 朱璃(しゅり): 朱雀の一の后であり、董胡の良き理解者。雪白の嘘を見抜き、董胡を皇后に据えるべく、白虎への「子宝祈願の旅」を口実に白龍を捜しに行く壮大な后行列の計画を立てる。
- 楊庵(ようあん): 董胡の兄弟子。黎司から直々に董胡の性別について尋ねられ、彼女が危険に晒された際にいつでも王宮から連れ出して保護できる「金縁の木札」を託され、董胡専属の密偵に任命される。
- 尊武(そんぶ): 玄武公の嫡男で宮内局長。董胡の正体を見抜いており、それを脅しに使いつつも、白虎の后宮の調査に董胡を使部として同行させ、雪白の嘘と破廉恥な過去を暴く。
- 犀爬(さいは): 麒麟の血筋を持つ、典医寮付きの若い産巫女。触診や脈診で胎児の有無や性別を看破できる能力を持つ。董胡を男性と誤解して反感を抱くが、雪白が懐妊していない事実を最初に見抜いた。
■ 物語の特徴
- 白虎后宮における「嘘と被害者意識」の医療ミステリー 本作は、これまでの明確な悪意による陰謀劇とは異なり、「自分は弱く不遇で守られるべき」という雪白の強い被害者意識が引き起こした「偽りの懐妊と流産」という複雑な嘘がテーマとなる。その精神的背景と嘘の歪みを、産巫女の特別な力や論理的な問診・脈診で解き明かしていくプロセスが見どころである。
- 董胡の秘密を知った黎司の決意と「女性医師」への道 黎司が董胡の性別の秘密を問い詰めることなく、彼女の立場と才能を永続的に守るため、女性医師を育成する「麒麟寮」の新設を殿上会議で宣言しようとする。二人の絆がより深い信頼へと昇華される一歩が描かれる。
- 黎司と楊庵による董胡を巡る「二人の男の密約」 董胡の知らないところで、黎司が楊庵を「董胡専属の密偵」に任命し、いざという時には彼女を王宮の外へ逃がして保護するための最強の金縁の木札を託すシーンは、本作屈指のエモーショナルな場面である。
- 白虎(麒麟の大社)への子宝祈願という新たなる旅の幕開け 白龍を捜すため、朱璃の不敵な計画により、お忍びの「子宝祈願」を名目にした華麗な后行列の編成が決まり、次巻への期待を大いに高める構成となっている。
書籍情報
皇帝の薬膳妃 白虎の后と桜の恋慕
著者:尾道 理子 氏
出版社:KADOKAWA(角川文庫)
発売日:2024年5月24日
ISBN:9784041149317
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あらすじ・内容
もう少しだけ、このままで――。大人気王宮ファンタジー第7弾!
薬膳師と妃の二重生活を送る董胡は、青龍の東に住む高原の民・ロー族に攫われるも、なんとか危機を乗り越え再び王宮での日常が戻ってきていた。
ある日、董胡は白虎の姫である雪白に、病を診てほしいと呼び出される。陰気な雰囲気が漂う白虎の后宮に気後れする董胡だったが、雪白から打ち明けられたのは、白虎の侍女頭の帰莎と皇帝の侍女頭である奏優が結託して雪白を呪っているという疑惑だった。さらには鼓濤に対する悪い噂が白虎から流れていることがわかり、帰莎と奏優への疑いが増すも、どこか釈然としない一連の騒動に董胡は否応なく巻き込まれていく。そんな中、雪白懐妊の知らせが!?
一方、黎司は董胡の秘密に迫ろうとしていた――。
もう少しだけ、このままでいたい。自分の信じる道を生きると決めた董胡と、彼女を見守る黎司が新たな一歩を踏み出す、アジアンファンタジー第7弾!
感想
本巻で特に印象に残ったのは、白虎の一の后・雪白が重ねる嘘の不気味さである。
これまでの物語にも、薬や権力を利用して人を陥れる人物は登場してきた。しかし雪白は、自分が利益を得るために冷静な計算だけで嘘をついているわけではない。
自分は弱く、周囲から虐げられ、誰かに守られるべき存在である。
その思い込みを守るために、現実の方を少しずつ自分に都合よく変えていく。
明確な悪意を持つ敵とは違うからこそ、対話が通じず、静かな恐ろしさを感じる人物だった。
自分を被害者だと信じ続ける雪白
董胡は、白虎の后宮から往診を求められ、雪白のもとを訪れる。
そこで目にしたのは、顔色の悪い侍女や、鞭で打たれたような傷を持つ雑仕たちだった。
さらに雪白は、侍女頭の帰莎に支配され、皇帝の侍女頭・奏優と結託して自分を呪い殺そうとしていると訴える。
帰莎に打たれたという手首の傷まで見せられれば、董胡が雪白を被害者だと思ってしまうのも無理はない。
実際、董胡は自分も突然皇帝の后にされた経験を持つため、雪白の孤独や戸惑いへ強く共感していた。
しかし物語が進むにつれ、雪白の話には少しずつ矛盾が現れる。
帰莎に鞭打たれたという話。
奏優が一の后の座を奪おうとしているという話。
寝所に置かれた呪いの人形。
そして、皇帝の子を身ごもったという懐妊の訴え。
どれも雪白を悲劇の中心へ置き、周囲の人間を悪者に変える話ばかりである。
特に恐ろしかったのは、雪白が嘘をついている自覚すら薄いように見える点だ。
都合の悪い現実を認めるのではなく、自分が傷つけられたという物語へ置き換えてしまう。
その物語を本人が本気で信じているため、涙も恐怖も不自然には見えない。
だからこそ、奏優や帰莎だけでなく、董胡や黎司まで一度はその言葉に引き込まれてしまったのだと思う。
悪意のない嘘ほど訂正が難しい
雪白は偽りの懐妊だけでなく、最後には流産したとまで奏優へ伝える。
しかも、その原因を玄武の医師団が処方した薬湯へ結びつけ、鼓濤と董胡が胎児を流したことにしてしまう。
実際には懐妊しておらず、尊武が処方した人参湯にも胎児を流す成分は入っていない。
それでも奏優は、雪白の言葉を疑わなかった。
高貴で美しく、弱々しい雪白が嘘をつくはずはない。
玄武の后は素性が怪しく、黎司を薬膳で惑わせているに違いない。
奏優の中では、最初から信じたい結論が決まっていたのである。
人は事実を見て信じるのではなく、自分が信じたいものに合う事実だけを選んでしまうことがある。
雪白の嘘がここまで大きくなったのも、彼女一人の問題ではない。
帰莎は雪白に認められたいという思いから、不自然な言動へ目をつぶった。
奏優は黎司を守りたいという思いから、雪白を無条件に信じた。
周囲の人々がそれぞれの願望を重ねたことで、一人の思い込みが王宮全体を揺るがす騒動へ変わっていった。
この構図には、人間関係の現実的な怖さを感じた。
雪白を「ただの馬鹿」と切り捨てる朱璃
董胡が雪白の言動を朱璃へ相談した場面も印象に残った。
董胡は雪白が心を病んでおり、本当に助けを求めている可能性を考える。
しかし朱璃は、雪白を信用してはならないと早い段階で見抜いていた。
自分は弱く、不遇で、誰かに守られるべき存在だと思い込む。
うまくいかない原因をすべて周囲へ押しつけ、自分に都合よく現実を書き換える。
朱璃の説明は厳しいものだったが、雪白の本質をかなり正確に表していたと思う。
朱璃は妓楼という、人の欲や嘘が日常的に行き交う場所で生きてきた。
美しい女性が涙を見せることで、周囲の男性や権力者を動かす危険性もよく知っている。
そのため、表面的な弱さや涙に流されず、雪白の言動が最終的に何を生むのかを見ていたのだろう。
雪白のような人物を「かわいそうな人」として受け入れ続ければ、周囲の善意まで次々に食い潰されてしまう。
董胡の優しさだけでは対処できない相手に、朱璃の厳しさが必要だったと感じた。
女性だと気付き始める黎司
重い白虎の騒動の一方で、黎司が董胡の性別へ気付き始める展開には、少し笑いながらも緊張させられた。
高原で董胡を抱き締めた時、黎司は自分の腕の中に彼女が収まることへ、不思議な安らぎを覚えていた。
さらに董胡が上楼君の衣装をまとった夢まで見る。
その感触を確かめるため、翠明を抱き締めて比較しようとする場面には思わず笑ってしまった。
もちろん翠明は、黎司が女性との関係を避け続けた結果、男色へ目覚めたのではないかと深刻に誤解する。
しかし黎司の中では、笑い話では済まない疑問が少しずつ形になっている。
董胡の細い指。
華奢な体。
胸板の感触。
女性のような美しさ。
それでも黎司は、董胡本人を問い詰めない。
正体を暴き、真実を言わせることもできる立場でありながら、彼女が自分の意思で話せる時を待とうとする。
董胡の秘密を知りたいという自分の欲よりも、董胡が守ってきた生き方を優先する姿に、黎司の深い思いやりを感じた。
董胡の未来を制度から守ろうとする黎司
黎司は、董胡が女性である可能性へ気付いただけで終わらない。
女性医師を育てる新しい麒麟寮を作ろうと考える。
現在の制度では、女性が医師免状を得る道は閉ざされている。
もし董胡が女性だと明らかになれば、性別を偽って医師になった罪を問われ、医師としての立場を失う可能性が高い。
そこで黎司は、董胡一人を特別扱いして救うのではなく、女性が正式に医術を学べる制度そのものを作ろうとする。
この決断に、皇帝としての黎司の成長を感じた。
大切な一人を救うために始めた改革であっても、それが同じように夢を諦めてきた多くの女性を救う道になる。
五年前、董胡から「誰もが夢を叶えられる世にしてほしい」と言われた黎司は、その願いを忘れていなかった。
急に国全体を変えることはできない。
それでも小さな一歩を積み重ねる。
理想を語るだけではなく、現実の制度へ落とし込もうとする姿が頼もしかった。
黎司と董胡が共有する夢
黎司が董胡へ、これからも自分を支えてほしいと語る場面も心に残った。
董胡は尊武の冷酷な処分を否定するが、黎司は青龍の法に照らせば尊武の判断は正しいと説明する。
それでも、法そのものが正しいとは限らないとも続ける。
平民が貴族へ剣を向ければ死罪。
貴族が平民を殺しても軽い処分。
その不平等を知りながら、権力を持つ者たちは自分の利益や保身のために見て見ぬふりをしてきた。
黎司自身も五年前までは、その一人だったと認める。
皇帝でありながら、自分の無知や弱さを隠さないところに誠実さを感じた。
そして黎司は、董胡と尊武には正反対でありながら似た部分があると語る。
二人とも他人の目や常識に従うより、自分の内なる声を信じて行動している。
董胡にとって尊武と似ていると言われることは耐え難い話だったようだが、黎司が評価していたのは、その生き方である。
自分の気持ちを押し殺し、周囲が望む人生を生きるのではない。
自分の人生を自分で選ぶ。
そのように生きられる国こそ、誰もが夢を叶えられる世なのではないか。
董胡の幼い願いが、黎司の中で国の理想へ育っていることに胸が熱くなった。
楊庵を自由にしたい董胡のすれ違い
本巻では、董胡と楊庵の関係にも大きな変化が起きる。
卜殷は幼い楊庵へ、董胡を守る役目を与えていた。
董胡はその話を知り、楊庵が自分のために人生を縛られているのではないかと考える。
そこで、もう自分を守る役目から解放されてよいと伝える。
しかし楊庵にとって、董胡を守ることは命令だから続けてきた役目ではない。
幼い頃に卜殷から居場所を与えられ、赤子の董胡を守ると約束した。
成長した今も、自分の意思で董胡のそばにいたいと思っている。
董胡は相手を自由にしたいと願っている。
楊庵は、董胡から離れることを自由だとは思っていない。
互いを大切に思っているのに、相手の幸せを勝手に決めようとすることで、言葉がすれ違ってしまう。
董胡は自分を犠牲にしやすいだけでなく、周囲の人が自分のために何かを選ぶことも拒んでしまうところがある。
それもまた、相手の意思を尊重しているようで、実際には相手の望みを見ていないのかもしれない。
董胡を楊庵へ託す黎司の密約
本巻で最も切なかったのは、黎司が楊庵を密かに呼び出す終盤の場面である。
黎司は董胡が女性だとほぼ確信している。
しかしその事実を明らかにすれば、董胡は罪に問われる。
玄武公や尊武に利用される危険もある。
そこで黎司は、楊庵を董胡専属の密偵に任命する。
さらに国中の門を通り、麒麟の社で保護を受けられる金縁の木札を渡す。
董胡の身に危険が迫った時は、王宮から連れ出してほしい。
彼女が王宮を去ることを望んだなら、二人で治療院や薬膳料理の店を開き、穏やかに暮らせるようにしてほしい。
皇帝である黎司が、平民の楊庵へ頭を下げて頼む姿には胸が締め付けられた。
黎司は董胡を自分のそばに置きたい。
薬膳師として支えてほしいと願っている。
それでも、女性として董胡を愛し、皇帝のそばへ置けば、貴族たちの嫉妬と憎悪が彼女へ向かう。
皇帝にはすでに四人の后がいる。
その状態で平民の董胡を寵愛すれば、彼女を幸せにするどころか、命を危険にさらしてしまう。
だから、自分の手が届かない場所へ行くことになっても、董胡の望む人生を守ってほしいと楊庵へ託す。
愛する人を手に入れるのではなく、その人が生き延びられる未来を選ぶ。
黎司の愛情は、あまりにも静かで、あまりにも悲しいものだった。
黎司と楊庵の立場の違い
楊庵は、黎司に頼まれなくても董胡を守ると答える。
その一方で、董胡自身が女性として黎司のそばにいたいと願った場合はどうするのかと問いかける。
この質問は、黎司が考えないようにしていた本音へ踏み込むものだった。
黎司は董胡の幸せを願っている。
しかしその幸せを、王宮から離れて楊庵と暮らす未来だと決めてしまっている部分もある。
それは董胡が楊庵を自由にしようとして、本人の意思を見落としていたことと似ている。
董胡の望みを尊重すると言いながら、黎司もまた、自分と共にいる道は彼女を不幸にすると最初から諦めている。
二人とも董胡を守ろうとしている。
しかし董胡が本当にどちらの道を望んでいるのかは、まだ本人にも分からない。
黎司と楊庵の密約は美しい自己犠牲であると同時に、董胡の知らないところで彼女の未来が決められようとしている危うさも感じさせた。
朱璃が企てる白虎への旅
重い展開が続く中で、朱璃の存在は大きな救いだった。
董胡は白龍の手掛かりを求め、白虎へ行きたいと考えている。
しかし皇帝の后が簡単に王宮の外へ出ることはできない。
そこで朱璃は、子宝祈願を名目に白虎の麒麟の大社へ参詣する計画を立てる。
朱雀の舞団や軽業師、赤軍の護衛まで連れた壮麗な后行列を作り、自分も同行する。
白龍を捜す秘密の旅を、国家的な行事のような華やかな計画へ変えてしまう発想が朱璃らしい。
さらに朱璃は、白虎への道中で董胡へ美しい姫君としての所作を教え、帰還後には黎司へ正体を告白させようと考えている。
董胡を見た瞬間に黎司が恋へ落ちるような名場面まで演出するつもりである。
董胡本人にとっては不安しかない話だが、朱璃の行動力には頼もしさを感じる。
董胡一人では、正体を打ち明ける決心をしても、何度も先延ばしにしてしまうだろう。
少々強引ではあるものの、背中を押してくれる朱璃がいるからこそ、物語が次の段階へ進み始めたのだと思う。
読後の感想
『皇帝の薬膳妃 白虎の后と桜の恋慕』は、「嘘」と「自分に正直に生きること」が対照的に描かれた一冊だった。
雪白は、自分が傷つかないように現実を書き換え、周囲へ嘘を広げていく。
本人の中では、それが嘘ではなく真実になっている。
一方の董胡は、周囲へ多くの秘密を抱えながらも、自分の内なる声には正直に生きてきた。
女性であることを隠しても、医師になりたいという願いは捨てなかった。
黎司を支えたいという気持ちにも嘘をつかなかった。
同じ「嘘」を抱える人物でありながら、雪白と董胡は正反対である。
雪白の嘘は、自分を守るために他人を悪者へ変える。
董胡の嘘は、他人を守ろうとするほど自分自身を追い詰めていく。
どちらの嘘も続ければ誰かを傷つける。
だからこそ董胡は、白龍を捜した後には黎司へすべてを話そうと決意する。
その選択がどのような結果を生むのかは分からない。
黎司は董胡を受け入れるかもしれない。
しかし皇帝という立場が、二人の気持ちだけでは解決できない問題を生むことも確かである。
黎司はすでに、董胡を守るためなら手放す覚悟まで決めている。
楊庵もまた、自分の意思で董胡を守り続けようとしている。
そして朱璃は、董胡自身が望む未来を選ばせようと動き始めた。
それぞれの愛情が董胡へ向けられているのに、その形はまったく異なる。
董胡が誰かの判断ではなく、自分の望む道を選べるのか。
白虎の地で白龍と再会し、母・濤麗の死の真相へ近づけるのか。
華やかな后行列の裏に、恋と出生の秘密、そして王宮の未来までが重なり始めた。
次巻で董胡の二重生活がどこまで大きく動くのか、期待と不安が同時に残る一冊であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
董胡の二重生活
董胡の二重生活と一人三役の全貌
『皇帝の薬膳妃』シリーズにおいて、主人公である董胡の二重生活について、二重生活の始まりと一人三役の身分、皇帝・黎司とのすれ違いと罪悪感の葛藤、正体を看破する者たちとの対峙と取引の各点から解説する。
二重生活の始まりと「一人三役」の身分
董胡の二重生活は、女性が医師や薬師、薬膳師になることが禁じられている伍尭國の制度と、王宮の冷酷な陰謀によって始まった。
・玄武の一の后・鼓濤:平民の男装医生として血の滲むような努力を重ね、医師試験に首席合格した直後、玄武公によって行方不明の実娘・鼓濤であると強引に決めつけられ、皇帝・黎司の一の后として王宮へ輿入れさせられた。后宮では化粧を施し、豪華で重い貴族衣装に身を包んで御簾の中で過ごした。
・后付きの専属医官・董胡:后宮の狭い移動範囲と退屈な日々に耐えかねた彼女は、后に与えられた署名用の木札を使い、自分自身を一の后付き専属医官・董胡として王宮に登録した。化粧を落とし、髪を両耳の横で結ぶ角髪に戻し、医官服をまとうことで、周囲からは幼い男童のように見え、外の宮内局へと自由に行き来する移動の自由を手に入れた。
・侍女頭代理・董麗:王宮の女官頭や侍女頭が集まる大朝会に出席し、王宮内の警備状況や情報を集めて脱出の道を探るために作り出した第三の偽りの身分である。目立たない装いでお朝会に出席し、各宮の動向を監視する密偵として暗躍した。
皇帝・黎司との「すれ違い」と罪悪感の葛藤
この二重生活は、董胡と皇帝・黎司との間に、もどかしくも切ない二重のすれ違いを引き起こした。
・薬膳師と后宮の主というねじれ:黎司は、かつて命を救われ、将来専属薬膳師として迎えると月下に誓い合った憧れの少年・董胡を捜し続けていた。后宮で出される絶品饅頭の味から、鼓濤が召し抱えている薬膳師・董胡こそが、あの時の少年であると確信し深く喜んだ。しかし、黎司は后・鼓濤と薬膳師・董胡が同一人物であることには長い間気付いていなかった。
・騙し続ける罪悪感:董胡は、黎司が玄武公の娘である鼓濤を強く警戒し嫌悪していることを知っていた。そのため、自分がレイシと慕う彼を鼓濤として騙し続けていることに深い罪悪感を抱いた。正体がばれて彼に失望され心を閉ざされる前に、せめて彼の拒食を治療して王宮を去ろうと密かに決意を固めていた。
正体を看破する者たちとの対峙と取引
董胡の綱渡りのような二重生活は、鋭い目を持つ者たちによって次々と見破られ、物語に決定的な転機をもたらした。
・朱璃(朱雀の一の后):優れた直感と観察力により、后の鼓濤、男装の医官・董胡、侍女頭代理の董麗が同一人物であることを見抜いた。しかし、董胡に帝を害する意図がないことや、黎司を心から大切に想っていることを確信すると、その秘密を守る最大の後ろ盾かつ良き理解者となった。
・尊武(玄武公の嫡男):宮内局の記録と董胡の行動の不自然さから、彼女の正体を看破した。尊武はこれを玄武公や皇帝に密告することはせず、己を楽しませるための余興として沈黙を守る代わりに、董胡を自分の専属薬膳師として強引に青龍の医療再建特使団へ同行させるという、極めてスリリングで不気味な取引を持ちかけた。
・黎司(皇帝としての決意):やがて黎司もまた、董胡が女性であることに確信を抱くようになった。しかし、彼女を問い詰めて追い詰めることはせず、女性が男装することなく堂々と医師になれるよう、女性医師を育成する麒麟寮の新設を宣言し、彼女の才能と未来を永続的に守ろうとした。さらに、万が一彼女の正体が暴れて危機が迫った時のため、兄弟子の楊庵に最強の金の縁飾りの木札を託し、董胡を王宮からいつでも逃がして保護するための極秘の密約を裏で交わした。
まとめ
董胡の二重生活(さらには一人三役)を巡る一連の全貌は、封建的な制約と宮廷の陰謀から生まれた多重偽装から始まり、すれ違いと騙し続ける罪悪感への葛藤、正体を看破する者たちとの緊迫した駆け引きと取引、そして皇帝・黎司による愛と未来を守るための制度改革に至るまで、その歩みを明瞭に示している。偽りの身分や宮廷の暗闘という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、知性と信念が紡ぎ出した多重身分の記録である。多重の偽装から、心の葛藤、正体の露見、協力者との絆、そして新たな制度の創出へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
黎司の女性医師構想
女性医師構想と国家改革の全貌
皇帝・黎司が推進する女性医師構想について、構想の背景である法の壁と現実の歪み、董胡への強い想いと償いの決意、構想の具体策と一つの伍尭國への国家改革、および不退転の覚悟と殿上会議での衝突の各点から解説する。
構想の背景:女性の医療参加を阻む「法の壁」と「現実の歪み」
伍尭國においては、伝統的に医師、薬師、薬膳師は男性だけの職であり、女性が医療行為を行うことは法制度によって厳しく禁じられていた。
・貴族女性の受診拒否:高貴な姫君たちは男性医師に肌を見せることを深く嫌うため、病を限界まで隠し、手遅れになるまで放置してしまう悲劇が多発していた。
・埋もれる女性の医療技術:お産の専門知識を持つ産巫女は高度な技術を有しているにもかかわらず、医師としての免状や地位は与えられず、不当に低い待遇に甘んじていた。
・社における女性の助手:麒麟の社などには、実質的に医師の助手として医療行為に携わっている極めて優秀な女性たちが多数存在していた。
・黎司はこれらの実態を憂慮し、女性がその才能を活かして正式に医療に携われる仕組みが国を救うために不可欠であると確信した。
董胡への強い想いと「償い」の決意
黎司が殿上会議へこの女性医師の麒麟寮新設を提出すると決意した最大の動機は、男装の医官・董胡の存在であった。
・黎司は、男装の医官・董胡が実は女性であることに確信を抱くようになった。
・現行の過酷な法の下では、董胡が女性であると露見した瞬間、医師免状は剥奪され、性別を偽って皇帝を欺いた重罪で厳しい処罰を受けることになってしまう。
・黎司は、自らの命を救い生きる希望をくれた彼女の才能と夢を何としても守り抜きたいと強く願った。
・董胡の男装を無理に暴いて追いつめるのではなく、女性が堂々と医師として働ける制度を自らの手で新設することこそが、彼女への最大の恩返しと償いになると決意した。
構想の具体策と「一つの伍尭國」への国家改革
黎司の構想は、一人の后を守るための私的な優しさを超え、国全体の制度を再編する大改革へと昇華されていった。
・女性専用の麒麟寮の新設:麒麟の領地に女性医師の育成に特化した麒麟寮を新たに設立し、女性が正式な医学教育を受け、国家公認の医師免状を取得できる道筋を切り拓く計画を立てた。
・四術独占の解体と技術交流:伍尭國ではこれまで、四領地がそれぞれの技術を独占し、他領地へ提供することを拒んでいた。黎司は青龍の医療体制崩壊を契機に特使団を派遣し、現地に麒麟寮を新設した。
・領地や性別、身分の壁を取り描いて、命に関わる知識を均等に共有および交流できる一つの伍尭國を築くことこそが、彼と董胡が5年前の月下に誓い合った理想の世の実現へとつながる道であった。
不退転の覚悟と殿上会議での衝突
この女性医師の麒麟寮新設は、伝統的な特権と世襲を重んじる玄武公ら重臣たちにとって、自らの利権を脅かされる改法であった。
・玄武公からの激しい反発と猛烈な抵抗は必至の状況であったが、黎司は必ず通してみせると不退転の決意を固めていた。
・董胡の秘密を握って脅しをかけてきた危険な玄武嫡男・尊武を警戒しつつ、水面下で楊庵を董胡専属の密偵に指名して最高の金の縁飾りの木札を託した。
・万が一、自分の力の及ばぬ宮廷の刃が董胡を襲った際には、彼女を王宮から逃がして麒麟の社に匿い、平穏に暮らせるための備えまで整えたうえで、黎司はこの大いなる誓いと改革にすべてを懸けて踏み出した。
まとめ
女性医師構想と国家改革を巡る一連の全貌は、女性の医療参加を阻む法制度の限界と現場の歪みの把握から始まり、男装医官・董胡の才能保護と恩返しを懸けた救護の決意、女性専用の麒麟寮創設と四領地の技術独占解体という国家再編、そして旧勢力との衝突に備えた万全の脱出策の提示に至るまで、その歩みを明瞭に示している。封建的な法制度や旧弊な特権支配という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、愛と信念が牽引した制度改革の記録である。法制度の矛盾認識から、愛する者への報恩、制度の創出、技術共有の推進、そして国家の抜本的革新へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
雪白の懐妊騒動
雪白の懐妊騒動と自作自演の全貌
『皇帝の薬膳妃』第7巻で描かれる雪白の懐妊騒動について、騒動の背景と雪白の歪んだ精神、「懐妊(悪阻)」の嘘と王宮への波紋、往診による真相の露見、呪具と自傷を巡るさらなる自作自演、および騒動の結末と濡れ衣の崩壊の各点から解説する。
騒動の背景と雪白の「歪んだ精神」
白虎の一の后・雪白は白虎公の養女であるが、皇帝・黎司が月に一度の義務的な不渡りだけで自分の顔を見ようとしないことや、白虎后宮の序列が最下位であることに深い孤独と不満を抱いていた。
・彼女は非常に美しく儚げな女性であるが、自分は弱く不遇で守られるべきだという異常に強い被害者意識を持っていた。
・自分に都合よく現実を書き換え、自分の嘘を真実だと思い込む特徴があり、本人に嘘をついている自覚が全くなかった。
「懐妊(悪阻)」の嘘と王宮への波紋
雪白は、黎司の関心を惹きつけ、后宮での序列を上げて周囲に軽んじられないようにするために、懐妊の嘘をつき始めた。
・空腹時の吐き気や白飯の匂いへの嫌悪、酸味を好む変化など、典型的な悪阻の症状を完璧に演じて見せた。
・白虎の侍女頭・帰莎を通じて、王宮の薬庫から悪阻の薬である小半夏加茯苓湯を繰り返し注文させた。
・自身が懐妊したという噂を意図的に王宮中に広めていった。
往診による真相の露見(尊武と犀爬の診断)
雪白の懐妊が本当かどうかを確かめるため、玄武公の命令を受けた嫡男・尊武が医師団を率いて白虎の后宮へ往診に向かい、使部として男装の董胡も同行した。
・尊武の見抜き:尊武は脈診と舌診を行い、雪白の体に悪阻や嘔吐の証が全くないことを見抜いた。そのうえで、あえて冷え性および胃弱用の人参湯を処方した。
・産巫女・犀爬の診断:身体検査を行った産巫女の犀爬は、妊婦を診察すれば胎児の有無や性別まで感じ取れる特別な力を持っていた。彼女の診察により、雪白が懐妊していないことが確定した。
・衝撃の過去の露見:犀爬は、雪白が皇帝に嫁ぐ数年前にすでに複数の男性と関係を持っていたことを看破した。
・帰莎は懐妊を信じていたため医師団に激しく抗議したが、これ以上の追及を恐れた雪白自身が泣き出して診察を拒否し、医師団を退出させた。
「呪具」と「自傷」を巡るさらなる自作自演
懐妊の嘘と並行して、雪白は黎司の同情を買うために別の嘘を重ねていた。
・黎司に対し、帰莎と皇帝の侍女頭・奏優が結託して自分を呪い殺そうとしていると涙ながらに訴え、寝所の床下に隠した人形の呪具を見せた。
・帰莎に鞭で打たれたと嘘をつき、自傷行為による腕の傷を見せた。
・黎司は雪白を信じ、極秘裏に神官を連れて呪いの祓いに通ったが、翌日にはその呪具は消えていた。
・雪白は帰莎にばれたら殺されるとさらに怯えて見せ、黎司は水面下で帰莎の調査を進めることとなった。
騒動の結末と濡れ衣の崩壊
黎司は神官と捕縛の役人を連れて白虎の后宮を訪れ、帰莎を捕らえて刑部局で取り調べを行った。
・帰莎の自白:帰莎は、雪白が主張していた懐妊や流産、呪具の存在、自分自身が雪白を鞭打った話などが、すべて雪白が仕組んだ自作自演の嘘であることを知らされ愕然とした。帰莎は雪白の実家の方針に従って下働きを鞭打っていただけで、自身も雪白の嘘に踊らされていた被害者であった。
・毒殺(流産)の濡れ衣:帰莎が捕まったと知って焦った雪白は、今度は奏優を煽るために、玄武の后宮の薬膳師(董胡)が煎じた薬湯を飲んでお腹の子が流れてしまったという文を送った。怒った奏優は玄武の后宮へ乱入し、董胡を毒殺の罪人として捕らえようとしたが、そもそも子がいないため、その濡れ衣も完全に崩壊した。
・関係者の処分:奏優は自分が雪白の嘘に翻弄され、身勝手な思い込みで動き回っていたことに気づき、深く反省して鼓濤(董胡)へ謝罪した。奏優と帰莎は三日間の謹慎処分となったが、鼓濤の口添えもあって元の役職へ復帰した。
・雪白のその後:雪白自身の処分は白虎公を巻き込む醜聞を避けるために表向きは保留され、帰莎の監視下で贅沢品を没収されるにとどまった。彼女はその後、深く謝罪する文を鼓濤たちに送ったものの、最後にはもう儚くなってしまいたいと自死を仄めかす一文を添え、相変わらず被害者意識から抜け出せない姿を見せている。
まとめ
雪白の懐妊騒動と自作自演を巡る一連の全貌は、冷遇への寂しさから生まれた偽りの妊娠と悪阻の演技から始まり、医師団の往診と産巫女の鑑定による虚飾の露見、呪具や自傷を用いた加害の偽装、そして関係者を巻き込んだ毒殺の濡れ衣の崩壊と処分の決定に至るまで、その歩みを明瞭に示している。自己保身や身勝手な嘘という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、宮廷を揺るがした自作自演劇の記録である。偽りの悪阻から、真相の診察、自傷の狂言、濡れ衣の瓦解、そして真相解明後の秩序回復へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
朱璃の白虎行計画
白虎行計画と白虎編への旅立ちの全貌
『皇帝の薬膳妃』第7巻の終盤において、朱雀の一の后・朱璃が主導して立ち上げた「白虎行計画」について、計画の背景と動機、計画の具体的な内容、および物語上の意義と董胡の覚悟の各点から解説する。
計画の背景と動機
白虎行計画は、登場人物たちの目的と王宮の動向が重なり合って始動した。
・「白龍」の捜索:董胡は養父・ト殷から、自らの出生と過去の真相を握る盲目の麒麟の医官である白龍の存在を聞かされていた。ト殷によれば、白龍は白虎の麒麟の社にいる神官の友人のもとに身を隠している可能性があり、董胡は真実を知るために彼に会うことを強く望んでいた。
・子宝祈願という大義名分:皇帝の后たちが勝手に王宮の外へ出ることは通常不可能であるが、白虎にある子宝成就で有名な麒麟の大社への参詣を口実にすれば、正式に王宮を出る許可が下りるという前例があった。
・懐妊騒動を逆手に取った交渉:黎司に旅を認めさせるため、朱璃と鼓濤は、白虎の一の后・雪白が引き起こした偽りの懐妊と流産騒動によって多大な精神的苦痛を被ったことを盾にした。皇帝である黎司に抗議を突きつけ、お忍びの許可を強引に勝ち取ろうとする作戦を立てた。
計画の具体的な内容
朱璃の主導により、計画はきわめて大規模かつ緻密に構想された。
・絢爛豪華な后行列の演出:お忍びの旅でありながら、朱璃はあえて絢爛豪華な牛車や赤い錦で飾る舞団、朱雀の公軍である赤軍の護衛を伴う大規模な行列を仕立てようとした。
・皇帝の治世安定をアピールする政治的狙い:壮大な后行列を民衆に示すことは、現皇帝・黎司の治世が安定し、四公との関係も円満であり、世継ぎへの期待が高まっているという強力な政治的アピールになるため、黎司も反対しにくいという計算があった。
・朱雀の舞団の興行:朱璃の一番弟子である舞妓・綺羅の初舞台を白虎で開く計画も含まれており、彼女たちを護衛代わりに同行させることで、旅と興行を巧みに合致させた。
・董胡の美姫化と告白プロデュース:朱璃は旅の道中で董胡に男性を魅了する所作を叩き込み、白虎から王宮に帰還した際には黎司が一目で恋に落ちるような麗しい美姫へ磨き上げる計画を立てていた。二人が再び対面した際に正体を明かす場面を演出しようと盛り上がっていた。
物語上の意義と董胡の覚悟
この計画は、董胡と黎司の関係性において重大な転換点となった。
・正体告白の約束:朱璃は白虎行を全面的にサポートする代わりとして、白虎から戻った後はたとえ白龍が見つからなくても、黎司にすべて正直に自分が董胡であることを打ち明けるという約束を董胡と交わした。
・董胡の不退転の決意:黎司の拒食症が徐々に快復し、自分に注がれる彼の深い愛情を感じる中で、董胡自身も嘘をつき続けることに強い罪悪感を抱き始めていた。そのため、白虎への旅を最後の猶予とし、帰還後はすべてを話して黎司の判断を受け入れる覚悟を決めた。
まとめ
白虎行計画と白虎編への旅立ちを巡る一連の全貌は、白龍捜索の熱望と子宝祈願という大義名分から始まり、政治的演出を伴う豪華な后行列の立案、美姫化計画と正体告白の約束、そして帰還後にすべてを明かす董胡の不退転の覚悟に至るまで、その歩みを明瞭に示している。宮廷の不自由や宿命の隠蔽という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、真実の追求と誠実な愛が導く新展開の記録である。真実への欲求から、偽装の遠出、大義名分の獲得、告白の誓約、そして新たな旅路の踏み出しへと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
皇帝と楊庵の密約
皇帝と楊庵の密約の全貌
『皇帝の薬膳妃』第7巻において、皇帝・黎司が董胡の兄弟子である楊庵と極秘裏に交わした密約について、密約に至る背景である黎司の深い愛と過酷な現実、極秘の対面と正体の露見、最強の金の縁飾りの木札の授与、および悲痛なる自己犠牲の愛と二人の男の誓いの各点から解説する。
密約に至る背景:黎司の深い愛と過酷な現実
黎司は、男装の医官・董胡が実は女性であることに確信を抱いていた。
・現行の過酷な法制度下では、董胡が女性であると露見した瞬間、医師免状は剥奪され、皇帝を欺いた重罪で処刑や流刑に処される危険があった。
・黎司は表舞台において、女性が男装することなく堂々と医師になれる「女性医師の麒麟寮新設」という国家改革を不退転の決意で進めていた。
・しかし、宮廷内では玄武公ら四公が失脚を狙っており、さらに玄武の嫡男・尊武が董胡の正体に気付いて脅しをかけていた。
・もしも自分の力が及ばず、董胡の秘密が暴かれて刃が及んだとき、皇帝という立場では平民の娘である彼女を守り抜くことができないと自覚していた。
・黎司は、自分が皇帝である限り平民の娘を寵愛すれば貴族の嫉妬と憎悪に晒し命を狙われてしまうという残酷な現実を捉えていた。
・彼女を無理に手元に縛り付けるのではなく、万が一の時は彼女を王宮から逃がし自由で穏やかな人生を送らせるための極秘の裏工作を決意した。
極秘の対面と正体の露見
年の暮れ、黎司は自身の診察に付き従う内医官たちの中から、董胡を陰から見守る任務についていた楊庵を皇宮の隠し部屋へ極秘に呼び出した。
・黎司は、自らが5年前に斗宿の治療院で董胡に命を救われたレイシ本人であり、彼らが仕える皇帝その人であることを明かした。
・驚愕する楊庵に対し、黎司は「董胡は女性なのだろう」と問いかけた。
・楊庵は董胡を守るために必死に男だと言い張ったが、黎司は彼女を処罰するつもりなど毛頭なく、むしろ彼女の安全のために隠れて動く必要があったのだと真摯な想いを伝えて楊庵を諭した。
最強の「金の縁飾りの木札」を託す
黎司は楊庵を「董胡専属の密偵」に任命し、万が一の時に彼女を救い出すための切り札として、皇帝の持つ最強の「金の縁飾りの木札」を託した。
・無条件の通行と保護:これを示せば伍尭國中のいかなる門も自由に通過でき、各地にある麒麟の社で無条件の保護を受けることができる。
・楊庵の自由の許可:この木札を提示すれば楊庵自身も密偵の任を解かれ、王宮の外へ自由に出ることができる。
・平穏な第二の人生の保障:もし董胡が二重生活に疲れ王宮を出て穏やかに暮らしたいと望んだならば、この木札と引き換えに麒麟の社から十分な金子を受け取り、二人で別の土地に逃れて治療院や薬膳の店を開き暮らすことができるよう手配されていた。
悲痛なる自己犠牲の愛:二人の男の誓い
破格の条件を提示された楊庵は、黎司に対して董胡が女として側にいたいと望んでいたらどうするのかと問いかけた。
・これに対する黎司の答えは、自分が皇帝である限り女である胡を幸せにすることはできず、自分の手が届かないところに消えてしまったとしてもどうか守り続けてほしいというものであった。
・自らの手元に置いて愛を育むことではなく、たとえ二度と会えなくなろうとも彼女がどこかで元気に生きて笑ってくれることこそが最大の救いであるという、皇帝としての究極の自己犠牲を示した。
・楊庵は若き皇帝がどれほど深く痛切に董胡を愛しているかを思い知り、静かにその覚悟を受け止めた。
・頼まれなくとも守ると金の木札を握りしめ、命を懸けて彼女を守り抜くことを黎司と誓い合った。
まとめ
皇帝と楊庵の密約を巡る一連の全貌は、過酷な法制度と権力闘争の現実に対する冷徹な認識から始まり、極秘の対面と女性であることの確信の共有、無条件の通行と保護を約束する金の縁飾りの木札の譲渡、そして皇帝としての究極の自己犠牲と命を懸けた守護の誓いに至るまで、その歩みを明瞭に示している。宮廷の陰謀や身分の隔絶という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、深い愛情と男たちの誓約が刻まれた救済の記録である。過酷な現実の自覚から、正体の共有、極秘の特権授与、自己犠牲の提示、そして命を賭した誓約へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
登場キャラクター
展開まとめ
序
董胡の二重生活
平民育ちの董胡は、皇帝一の后・鼓濤と男装の専属薬膳師を演じ分けて王宮で暮らしていた。黎司には男子と思われたままであり、自身の素性も明かせずにいた。
尊武との青龍行き
二重生活を見抜いた異母兄の尊武に脅され、董胡は特使団の使部として青龍へ向かった。尊武の弱みを探ろうとしたが、冷酷で捉えどころのない彼に翻弄された。
ロー族の病
董胡は高原の民ロー族に攫われ、族長の息子の病を治すよう命じられた。未知の症例に苦しみながらも、シャーマンの力を持つカザルの導きによって病の原因を突き止めた。
卜殷との再会
山奥で養父の卜殷と再会した董胡は、自身の生い立ちと、さらなる真相を知る麒麟の医官・白龍の存在を知らされた。
王宮への帰還
尊武は腹を立てながらも董胡を救いに現れ、二人は無事に王宮へ戻った。しかし白虎の后宮では、新たな騒動が動き始めていた。
一、厩舎の青鬣馬
黎司の夢
黎司は上楼君の装いをした董胡の夢を見た。扇の下から現れた顔は董胡そのものであり、その美しさと、自分の名を呼ぶ声に強く心を揺さぶられた。
目覚めた黎司は、高原で董胡を抱き締めた時に得た安らぎと、夢の中の妓女姿が気になり続けていた。
翠明との比較
黎司は董胡を抱いた感触を確かめるため、翠明に自分へ抱きつくよう命じた。翠明は黎司が女性との関係を避け続けた末に男色へ傾いたと誤解し、新たな姫君を探すべきだと考えた。
黎司は董胡の華奢な体つきが翠明とは違い、不思議なほど腕の中に収まりが良かったと説明した。さらに妓女姿の董胡が美しかったと漏らしたため、翠明の疑念はかえって深まった。
蒼天との再会
董胡は黄軍の厩舎を訪れ、空丞に迎えられた。そこには黎司と翠明がおり、高原から連れ帰られた青鬣馬の仔馬も大きく成長していた。
仔馬は董胡を覚えており、嬉しそうに頬を寄せた。黎司は董胡の細い指や華奢な体つきを改めて意識し、胸元へ触れようとしたが、翠明の咳払いに止められた。
黎司の髪
董胡は高原で命を救われたことを改めて感謝し、式神のために預かっていた黎司の髪を返そうとした。
しかし黎司は、その髪が董胡の危機を知らせ、再び自分を導く可能性があるとして、持ち続けるよう頼んだ。董胡は天術による負担を心配したが、黎司は創司帝の力を自在に使えるようになりたいと望んでいた。
尊武の報告
董胡は特使団で見た尊武の冷酷な判断や危険な思想を黎司と翠明へ報告した。尊武が現在は黎司に従う意思を持っていることも含め、鼓濤の秘密以外はありのままに伝えた。
董胡は雲寮の医生たちが死罪となったことを非難したが、黎司は青龍の法に従えば、皇帝の特使へ剣を向けた彼らへの処分は正当だったと説明した。
不平等な法
黎司は尊武の処置を認めながらも、法そのものが正しいとは限らないと語った。青龍では同じ行為でも、平民なら死罪となり、貴族なら軽い処分で済むほど不平等であった。
董胡が法を変えられないのかと尋ねると、黎司は権力者に都合よく作られた制度を変える必要を認めた。しかし平民は声を上げれば潰され、貴族の多くは無知や保身、利益のために現状を黙認していた。
五年前の願い
黎司は五年前まで、自分も特権を疑わずに生きる貴族の一人だったと振り返った。董胡と出会い、誰もが夢を叶えられる世を望む言葉を聞いたことで、自分の無知と向き合うようになっていた。
黎司の周囲では誰も本音を語らず、翠明さえ主君を守るために問題を遠ざけていた。董胡だけが皇帝を前にしても変わらず疑問を口にするため、黎司はその存在を必要としていた。
董胡と尊武の共通点
黎司は、価値観は正反対でありながら、董胡と尊武には自分の内なる声に従って生きる共通点があると語った。
尊武は周囲の非難や常識に屈せず外遊へ出て、有益な知識を持ち帰った。董胡も男装や医師への道を諦めず、自分の望みを押し殺さずに進んできた。二人は他人の目よりも自分自身への誠実さを優先していた。
黎司の目指す国
黎司は、誰もが自分に正直に生き、夢を叶えられる世を作りたいと語った。その実現には高い教養と秩序が必要であり、遠い道のりであっても、小さな一歩を積み重ねるしかなかった。
黎司は董胡へ、これからも自分を支えてほしいと求めた。董胡は白龍から卜殷へ伝えられた教えが自分の中で育ち、黎司にも認められたことを喜び、力を尽くすと答えた。
蒼天の命名
黎司は青鬣馬の名を董胡に選ばせた。二人が気に入った蒼天という名に決まり、仔馬も応えるように鳴いた。
蒼天は黎司と董胡には懐いたが、厩舎へ現れた尊武には怯えて後ずさった。
尊武の来訪
尊武は黎司がいるとは知らなかったと装い、献上した青鬣馬の様子を見に来たと説明した。黎司は蒼天を撫でるよう勧めたが、馬は尊武を拒んだ。
董胡は尊武から、余計なことを話していないか探るような視線を向けられたため、先に退出しようとした。しかし尊武も同行しようとしたため、黎司は命令して彼だけを残した。
董胡は黎司の助けによって、尊武と二人きりになる事態を免れた。
二、白虎の后
桜の花の塩漬け
王宮に春が訪れ、鼓濤は茶民と壇々と共に八重桜の花を塩漬けにしていた。花茶や甘味に使えると聞いた二人は喜び、穏やかな日常が戻っていた。
そこへ王琳が現れ、白虎の后から董胡を貸してほしいという文が届いたと告げた。青龍の后を治した評判を聞き、病の診察を求めてきたのであった。
白虎の后宮への往診
王琳は巻き込まれる危険を案じて断るよう勧めたが、董胡は病人を放っておけず、白龍の手掛かりも得られるかもしれないと考えて往診を引き受けた。
翌日、董胡は厳重な関門を通って白虎の后宮へ入った。勝手口では痩せて顔色の悪い侍女や、鞭の傷を負った雑仕たちを目にし、宮全体に陰気で冷たい雰囲気を感じた。
侍女頭・帰莎
白虎の侍女頭・帰莎は、董胡が平民医官だと知ると露骨に態度を変え、后を診せることへ強く反対した。
雪白は帰莎の無礼をたしなめ、御簾越しの問診だけでも受けると決めた。帰莎がなおも反発すると、雪白は感情を荒らげて侍女たちを退室させ、董胡と二人だけで話そうとした。
雪白の訴え
雪白は、自分が呪われていると董胡へ明かした。王宮へ来てから体が重くなり、背中に何かを背負っているように感じるという。
董胡は呪いを扱えないとして退こうとしたが、雪白は手を掴んで縋りついた。さらに侍女頭の帰莎が呪いに関わっていると疑い、自分も帰莎の言いなりになっていると訴えた。
奏優への疑念
雪白は、帰莎が皇帝の侍女頭・奏優を白虎の一の后に据えようとしていると語った。
奏優は白虎公の姉の末娘で、三年前に黎司へ一目惚れし、皇太子の侍女となっていた。しかし雪白が突然虎氏の養女となって一の后へ選ばれたため、自分の幸せを奪われたと恨んでいるという。
雪白の孤立
雪白は、黎司が月に一度訪れるだけで顔も見ようとせず、玄武や朱雀の后より低い序列に置かれていると嘆いた。
后宮の衣装や宝飾、食材は序列によって制限され、帰莎も最下位の后宮であることに不満を抱いていた。奏優は助力を装って足繁く通いながら、雪白を内心で嘲っていると雪白は考えていた。
鞭の傷
雪白は、玄武の后宮へ勝手に文を送ったことで帰莎に鞭打たれたと明かし、手首の傷を見せた。
過去に虎氏へ助けを求めようとした侍女も帰莎に処罰され、后宮を追われた後に自死したという。雪白は黎司へ直接訴えることもできず、鼓濤から口添えしてほしいと董胡へ頼んだ。
玄武の后への警告
董胡が立場上難しいと断ると、雪白は奏優が鼓濤の正体を暴こうとしていると告げた。
奏優は鼓濤が偽の姫で、怪しい術により黎司を虜にしているという噂を口にし、玄武の后を特に敵視していた。董胡は自分の秘密が暴かれる危険を感じ、奏優への警戒を強めた。
雪白との接近
雪白は自分が鼓濤の味方であり、同じ后として親しくなりたいと伝えるよう董胡へ頼んだ。
董胡は奏優の動きを知るためにも、雪白と関係を築く価値があると考えた。白龍の情報を得られる可能性もあり、鼓濤として朱璃を交えた茶会を開くことを思いついた。
気虚の処方
董胡は雪白の情緒が不安定で、多少の気鬱はあるものの、病と言えるほどの症状ではないと見た。
十分な診察はできなかったため、体の重さを和らげる気休め程度の薬湯を処方し、白虎の后宮を後にした。
三、花宴の節
花宴の節
王宮の大庭園では、満開の桜の下で花宴の節が開かれていた。黎司や四公、重臣たちが雅楽と舞を楽しむ一方、朱璃の御簾の中では、青龍へ黙って同行した董胡が厳しく叱られていた。
朱璃は董胡が突然消えた濤麗のようになることを恐れ、無事を確かめるように強く抱き締めた。董胡は男装姿を誰かに見られる危険を訴えたが、御簾の外では禰古が嫉妬深く様子を窺っていた。
濤麗の最期
董胡は高原で卜殷と再会し、自分が濤麗の娘であることを確かめたと明かした。濤麗は赤子の董胡と逃げようとして何者かに斬られ、専属医師の白龍が董胡を卜殷へ託していた。
玄武公が濤麗を殺したわけではなく、失踪後に屋敷総出で捜していたことも伝えた。朱璃は濤麗の死を悲しみ、真相を知る白龍を捜し出す必要があると考えた。
白虎への旅支度
卜殷は、白龍が高原にいなければ白虎の麒麟の社にいる可能性があると話していた。董胡は白虎へ行く口実がないと悩んだが、朱璃は自分も同行できる策があると告げた。
朱璃は詳しい内容を明かさず、準備が整い次第知らせるため旅支度をしておくよう董胡へ命じた。
桜の花茶
董胡は完成した桜の塩漬けを朱璃へ贈った。朱璃は喜び、禰古に花茶を淹れさせようとした。
そこへ青龍の侍女頭・鱗々が訪れ、翠蓮が回復して初めて宴へ参加していると報告した。鱗々は董胡の特使団での働きにも感謝し、月丞と空丞がその功績を高く評価していたと伝えた。
鼓濤を巡る噂
鱗々は玄武の后が宴を欠席し続けていることを心配し、さらに鼓濤が偽者だという噂が広がっていると明かした。
噂は白虎の雑仕が他の宮の下働きへ意図的に話しかけたことから広まっていた。朱璃は誰かが王宮全体へ噂を流そうとしている可能性を疑った。
雪白の依頼
鱗々が去った後、董胡は雪白の往診で聞いた話を朱璃へ伝えた。雪白は帰莎に支配され、奏優に一の后の座を奪われると恐れ、鼓濤から黎司へ自分の御簾へ入るよう口添えしてほしいと頼んでいた。
朱璃は、他の后へ黎司を譲るような依頼をする雪白を図々しいと断じた。妓楼では上客を譲れば地位を失うだけであり、雪白が無知でなければ相当な策士だと警戒した。
雪白への警戒
董胡は雪白が心を病み、純粋に助けを求めている可能性を示した。しかし朱璃は雪白を信用せず、今後は往診にも行かず関わらないよう命じた。
奏優については禰古に大朝会で探らせることにし、董胡は雪白との茶会を提案できないまま花宴を終えた。
四、動き出す雪白
白虎の后宮への訪問
花宴の節が終わると、黎司は玄武の后宮へ向かう予定を変え、雪白からの文に応じて白虎の后宮を訪れた。奏優は雪白を後回しにして鼓濤のもとへ行こうとする黎司を責め、雪白こそ皇帝にふさわしいと強く勧めていた。
黎司は白虎の后宮の陰気な雰囲気や、同情を求める雪白の言動を苦手としていたが、奏優に泣かれて断れず訪ねていた。
雪白の孤独
雪白は人払いを求め、黎司だけを御簾の近くへ招いた。素顔を見せた雪白は、自分が義父や侍女たちから見捨てられ、后宮に居場所がないと訴えた。
黎司が好きなことをして過ごせばよいと答えると、雪白は奏優と帰莎が自分の悪口を言い、最下位の后であることを嘲っていると語った。
帰莎の折檻
雪白は袖をまくり、帰莎に鞭打たれたという傷を黎司へ見せた。虎氏へ助けを求めようとした侍女も折檻され、奏優へ相談した内容まで帰莎へ伝わったと訴えた。
黎司は医師を呼び、帰莎を中務局に取り調べさせようとした。しかし雪白は、先に見せたいものがあるとして黎司を寝所へ導いた。
床下の呪具
雪白の寝所の畳の下には、長い髪を付け、両手を木杭で固定された人形の呪具が隠されていた。
雪白は帰莎が切った自分の髪を使って呪い殺そうとしていると怯えた。黎司は専門の神官を秘密裏に連れてきて呪具を無効にし、その後に帰莎を捕らえると約束した。
秘密の調査
雪白は帰莎や奏優に知られれば殺されると訴えた。黎司は翌晩も雪白のもとへ渡るように装い、侍女たちを退出させて神官に調べさせることを決めた。
雪白は一人で眠る恐怖を訴えたが、黎司は皇宮へ戻って手配を進めようとした。
御簾の中の誤解
雪白は退出しようとする黎司へ寄り添い、歩き出した際に畳の縁につまずいた。黎司が抱き止めると、雪白の衣装は大きくはだけていた。
物音を聞いて入ってきた侍女たちは、御簾の内で衣装の乱れた雪白を黎司が抱いている場面を目撃した。黎司は誤解を察したが、后である雪白との関係を否定すれば彼女の体面を傷つけるため、弁解せず皇宮へ戻った。
五、久しぶりの薬庫
万寿との再会
董胡は青龍へ向かう前に借りた薬籠を返すため、久しぶりに薬庫の万寿を訪ねた。薬籠は傷だらけで生薬もほとんど残っていなかったが、万寿は特使団の予算で補えるとして代金を気にしなかった。
董胡は白虎へ旅立つ可能性に備えて薬籠を買い取り、新たな生薬を揃えてもらうことにした。そこへ楊庵も現れ、万寿と憎まれ口を交わしながら親しげに話した。
偵徳のその後
董胡は、尊武への憎しみから古傷を悪化させていた偵徳の様子を楊庵へ尋ねた。偵徳は董胡の薬で二日間眠り続け、高原への救出隊に置いていかれたことへ腹を立てていた。
古傷は改善したものの、現在は尊武の弱みを探すため部屋に籠もって調べ物をしていた。董胡は偵徳が危険な行動を起こしそうになったら止め、すぐ知らせるよう楊庵へ頼んだ。
卜殷への怒り
楊庵は、卜殷が突然姿を消した理由を董胡へ尋ねた。董胡は卜殷がかつて玄武公の診療所で働き、その後追われる身となったことだけを伝えたが、鼓濤の秘密は明かせなかった。
楊庵は自分を置き去りにした卜殷へ怒りを抱いていた。董胡が卜殷も楊庵を心配していたと伝えても、簡単には許せないと答えた。
幼い日の約束
董胡は、楊庵が幼い頃から自分を守る役目を与えられていたと卜殷から聞いたことを打ち明けた。
楊庵は三、四歳頃、全身に暴力を受けて瀕死の状態で倒れていたところを卜殷に救われたと語った。過去の記憶はなかったが、卜殷から与えられた粥と居場所を失いたくないと強く願っていた。
卜殷は赤子の董胡を示し、一生守る覚悟があるなら置いてやると尋ねた。楊庵はそこに残るため喜んで約束したが、成長後も董胡を守ることを負担だと思ったことはなかった。
楊庵の自由
董胡は、卜殷が楊庵の人生を縛ってしまったと悔やんでいたことを伝えた。そして自分はもう大人であり、楊庵は役目から解放され、自分が本当に守りたい者のために自由に生きてほしいと告げた。
しかし楊庵は、董胡から離れろと言われたように受け取り、不機嫌になった。董胡は危険な王宮を離れて医師として穏やかに暮らし、幸せになってほしいだけだと説明したが、楊庵は董胡を置き去りにすることが自分の幸せだと思われていることへ怒った。
すれ違う思い
董胡は楊庵を危険へ巻き込みたくないと訴えたが、楊庵は董胡が何も分かっていないと叫んだ。
戻ってきた万寿は事情を知らないまま楊庵が悪いと決めつけ、董胡へ謝るよう促した。楊庵はさらに機嫌を損ね、そのまま薬庫を出ていった。
董胡は楊庵を自由にしたいという思いをうまく伝えられず、言い方を間違えて怒らせてしまったと悔やんだ。
六、帝の桜御膳
桜御膳
花宴の節の後、黎司は玄武の后宮を訪れ、董胡の給仕で桜御膳を味わった。董胡は桜鯛の炊き込み飯、菜の花とあさりの汁椀、春野菜、桜餅と花茶を振る舞い、黎司の体調に合わせて調理していた。
黎司の食事量は増え、味覚を示す五色も整いつつあった。董胡は拒食の回復を感じたが、黎司から何度も見つめられ、小さな手を両手で包まれたため落ち着かなかった。
楊庵の解放
黎司は董胡の華奢な体で医師免状を得た努力を思い、麒麟寮で恐ろしい目に遭わなかったかと尋ねた。董胡は楊庵がいつも守ってくれたと答えた。
董胡は、楊庵が密偵を辞めたいと願った場合は自由にしてほしいと頼んだ。黎司は楊庵自身の望みであるなら認めると約束し、董胡を安堵させた。
董胡の幸せ
黎司は董胡が望むなら、自分の専属薬膳師として側近の地位を与え、翠明の養子にして貴族へ迎えると提案した。そうなれば好きな仕事に打ち込み、玄武公や尊武からも守れると語った。
董胡にとって専属薬膳師はかつての夢であったが、自分が本物の鼓濤だと知った今は后の立場を捨てられなかった。董胡は玄武の后付き薬膳師として黎司へ料理を作る現在の暮らしが最も幸せだと答えた。
董胡は黎司の拒食が治った時に、鼓濤と董胡が同一人物であることをすべて告白し、その判断を受け入れると心に決めていた。
女性医師の麒麟寮
黎司は五年前の約束を実現する一歩として、女性医師を育成する麒麟寮を建てる構想を明かした。
貴族の女性には男性医師へ肌を見せることを避け、治療が遅れる者がいた。産巫女や麒麟の社で医術に携わる女性も存在するため、医師を志す女性は必ずいると黎司は考えていた。
黎司は殿上会議で詔を出し、玄武公が反対しても実現すると誓った。董胡は女性が堂々と医術を行い、諦めていた夢を叶えられる未来を喜んだ。
消えた呪具
黎司は白虎の后宮の問題により、しばらく玄武の宮へ通う時間が減ると告げた。董胡が雪白を診察したことを話すと、黎司は雪白の寝所から人形の呪具が発見されたと明かした。
黎司は翌日に神官と捕縛の役人を連れて訪れたが、呪具は跡形もなく消えていた。雪白は帰莎に知られたと怯え、左手が動かない、首を引かれるように感じると訴えるようになったため、黎司は毎日神官を伴って様子を見ていた。
奏優の噂
董胡は奏優が雪白を頻繁に訪ねていたことを尋ねた。黎司は奏優を信頼していたが、雪白から帰莎と結託していると疑われたため、白虎の后宮へ近付くことを禁じていた。
董胡は鼓濤が偽の姫だという噂が王宮に広まり、その出所が奏優へ行き着くことを伝えた。雪白からも、奏優が玄武の后の正体を暴くと語っていたと聞いていた。
黎司は奏優が自分を思うあまり行き過ぎた行動をしたと認め、厳しく注意すると約束した。さらに鼓濤の素性を詮議するつもりはないため、安心するよう伝えてほしいと頼んだ。
董胡は黎司が鼓濤を偽者かもしれないと思いながらも調べずにいてくれることを知り、真実を告げる日への恐怖を深めた。
七、雪白懐妊?
白虎筆頭の序列
大朝会から戻った王琳は、白虎の雪白が初めて后の序列筆頭となり、玄武が二番手に下がったと報告した。黎司が毎日のように白虎の后宮へ通っていることを、奏優は自慢げに語っていた。
奏優は王琳にも強く当たり、董胡が平民医官の立場で出しゃばっていると非難していた。董胡は、鼓濤の噂を黎司へ伝えたことを奏優に知られ、恨まれているのだと考えた。
白虎の贅沢
茶民と壇々は、白虎の后宮が最高級の衣装や宝飾品を次々に求め、雅楽の演者まで招いて茶会を開いたという噂を伝えた。
二人は黎司の寵愛が雪白へ移り、皇后の座まで奪われるのではないかと心配した。鼓濤が皇太子を産むべきだと迫ったが、董胡は呪具への対応で黎司が通っているだけだと知っていたため、深刻には受け止めなかった。
万寿への桜餅
董胡は万寿への礼と、喧嘩した楊庵への詫びを兼ねて桜餅を薬庫へ届けた。万寿は妻が懐妊し、悪阻で食欲を失っていると話したため、董胡は食べやすい料理を作ると約束した。
万寿は妻のために小半夏加茯苓湯を用意する中で、同じ処方を繰り返し求める貴族医官の処方箋に気付いていた。
悪阻の処方箋
処方箋は典医寮の貴族医官が出したものであり、王宮内の高位女性が悪阻を患っている可能性があった。さらに夜間に薬を受け取りに来た使者は、鼓濤の悪い噂を広めていた白虎の后宮の者であった。
処方箋を隠す様子がなかったため、万寿は帝の子を身籠った女性への薬であり、雪白本人が懐妊した可能性が高いと推測した。
雪白懐妊の疑い
董胡は茶民と壇々の懸念が現実になったのではないかと激しく動揺した。
まだ確証はなく、事実ならいずれ公表されるはずであったが、董胡は雪白が黎司の子を身籠った可能性を抱えたまま、なんとか玄武の后宮へ戻った。
八、尊武の来訪
雪白懐妊の噂
雪白が懐妊したという噂は、鼓濤が偽者だという噂と同じく、雑仕を通じて各宮へ広まった。茶民と壇々は黎司が雪白へ心変わりし、皇后の座まで奪われるのではないかと泣きながら訴えた。
董胡は世継ぎが生まれれば黎司の治世が安定すると自分に言い聞かせた。しかし皇后になるなら朱璃か翠蓮であってほしかったという思いがあり、雪白に心を許したのではないかと考えるたび、胸の中に割り切れない感情が残った。
尊武からの先触れ
尊武から鼓濤の宮を訪ねるため、饅頭を用意しておけという文が届いた。董胡は命令じみた態度に腹を立てたが、王琳は尊武を饅頭で懐柔し、宮内局の局頭である彼から雪白懐妊の真偽を聞き出すよう勧めた。
董胡はその提案を受け入れ、翌日に尊武を迎えることにした。
一口肉饅頭
鼓濤と尊武は互いに丁寧な言葉を使いながら、腹を探り合った。董胡は肉汁を包んだ一口饅頭を用意し、茶民と壇々に運ばせた。
尊武は青龍で式神として邪魔をした二人の名を覚えていた。茶民と壇々は名を呼ばれたことを喜んだが、董胡は尊武が二人を見初める可能性などないと心の中で謝った。
尊武は饅頭を気に入った様子を見せずに四十個すべて食べ、一口饅頭も悪くないとだけ評した。
厩舎での口止め
尊武は青鬣馬の厩舎で、董胡が黎司と話していた件を持ち出し、自分について余計なことを伝えていないか確かめた。
董胡が言われて困ることをしなければよいと返すと、尊武は自分も董胡の秘密を握っていると脅した。
鼓濤と黎司の関係
尊武は鼓濤が化粧をすると別人のように見えるのかと尋ね、黎司が寝所を共にした相手の顔に気付かないはずがないと指摘した。
そのまま御簾の中へ入り、男装した董胡を見た尊武は、黎司が鼓濤の顔すら見ず、料理を食べるためだけに宮へ通っていると見抜いた。
尊武は玄武公と華蘭が、鼓濤が皇子を産めば計画の邪魔になると警戒していたことを明かした。鼓濤が懐妊すれば、弟宮を擁立するために消されていた可能性があった。
白虎への往診
董胡が雪白懐妊の真偽を尋ねると、尊武も玄武公から調査を命じられていると答えた。
宮内局の局頭である尊武は、翌日に自ら白虎の后宮へ往診し、懐妊を確かめる予定であった。そして董胡へ、使部として同行するかと持ちかけた。
尊武の脅し
王琳は危険に関わらないよう董胡を止めた。しかし尊武は、雪白の懐妊が事実なら玄武公の望み通り、胎児を流す毒草を使うかもしれないと告げた。
董胡がそれを見過ごせないと分かっての脅しであった。尊武の思惑に乗りたくないと思いながらも、董胡は雪白と胎児を守るため、白虎の后宮への同行を決めた。
九、 雪白の診断
白虎への往診
尊武を中心とした典医寮の医師団が、雪白の懐妊を確かめるため白虎の后宮を訪れた。董胡も使部として同行し、尊武が胎児を流す毒を使わないか警戒した。
雪白は男性医師に肌を見せることを嫌がったが、尊武は脈診や舌診だけを行い、詳しい診察は女性の産巫女・犀爬が担当すると説明した。
産巫女・犀爬
犀爬は麒麟の社で働き、貴族の出産に立ち会ってきた若い女性であった。董胡は女性でありながら医術に近い仕事をする犀爬へ親近感を抱いた。
雪白は嘔気や食欲不振、白飯の匂いへの嫌悪、酸味を求める変化を訴えた。その症状は悪阻に見えたため、董胡は懐妊が事実だと思った。
人参湯の処方
尊武は生姜、甘草、蒼朮、人参を使った人参湯を処方した。董胡は毒草が混ぜられていないか確認し、煎じ終わるまで薬師を見張った。
嘔吐の激しい雪白には人参湯が合わないように思えたが、害のある処方ではなかったため、董胡は尊武が薬を不得手なのだと考えた。
確定されない懐妊
犀爬は月齢が浅く、懐妊とは確定できないと報告した。帰莎は雪白の症状が悪阻に違いないと反発し、玄武出身の尊武が白虎の懐妊を認めたくないのだと非難した。
尊武は麒麟の医師を呼ぶと冷静に応じたが、雪白は診察を拒んで泣き出し、全員を退出させた。診察は懐妊の真偽が分からないまま終わった。
犀爬の反感
宮内局へ戻ると、尊武は犀爬と董胡だけを部屋へ呼んだ。犀爬は董胡を、容姿だけで后の専属薬膳師になった若い男性だと思い込み、露骨な敵意を向けた。
董胡は同じ女性として話したいと思っていたが、正体を明かせず、犀爬から一方的に嫌われてしまった。
偽りの懐妊
犀爬は、雪白は懐妊しておらず、待っても子は育たないと断言した。尊武も脈や舌に嘔吐の証がなく、雪白の症状は嘘だと見抜いていた。
人参湯は診立てを誤ったのではなく、悪阻ではないと判断したうえで処方されたものだった。雪白は黎司の関心を引き、序列を上げ、本当に懐妊する機会を得るために嘘をついたと尊武は考えた。
雪白の過去
犀爬は、雪白が皇帝に嫁ぐ数年前にすでに男性との関係を持ち、相手も複数いた可能性があると告げた。
犀爬は麒麟の血筋により、胎児の有無や性別まで感じ取れる特別な力を持っていた。その力は尊武に見出されたものであり、犀爬は尊武へ強い敬意を抱いていた。
尊武の企み
尊武は帰莎が麒麟の医師を求めれば雪白が追い詰められると分かり、わざと要求を受け入れていた。帰莎の無礼も根に持ち、報復の機会を探ろうとしていた。
董胡は雪白の嘘を知った黎司が傷つき、拒食まで悪化することを心配した。しかし尊武は、董胡も雪白へ嫉妬して毒を仕込むと思っていたと明かした。
懐妊への警告
尊武は、董胡が黎司の子を身ごもれば玄武公をはじめ多くの者が動き、毒を盛られる危険があると警告した。
さらに黎司は鼓濤の顔すら見ていないため、そもそも懐妊する心配はないと嘲った。董胡は図星を突かれ、激しく腹を立てながら后宮へ戻った。
十、朱璃の企み
雪白を巡る疑念
雪白の懐妊が誤りだと判明する見込みとなり、玄武の后宮には落ち着きが戻っていた。しかし黎司は白虎へ通い続け、雪白の序列も筆頭のままであったため、董胡は呪具や奏優、帰莎に関する話の真偽を判断できずにいた。
雪白が思いつきで嘘を重ねる人物なのか、周囲に虐げられた被害者なのか分からず、董胡は黎司が振り回されているのではないかと心配した。
朱璃との茶会
董胡は玄武の后宮へ朱璃を招き、正式な茶会を開いた。朱璃と禰古は、雪白が懐妊して皇后になるという噂や、黎司が白虎へ通い続けていることへ激しい不満をぶつけた。
董胡が産巫女の診立てでは懐妊していないと伝えると、二人は安堵した。しかし黎司が白虎へ通う理由を問われたため、董胡は呪具や雪白、帰莎、奏優を巡る一連の出来事を打ち明けた。
朱璃の見立て
朱璃は雪白を、自分は弱く不遇で守られるべき存在だと思い込み、不幸の原因を周囲へ求める厄介な人物だと評した。
雪白のような女性は、自分に都合よく現実を書き換え、その嘘を真実だと思い込むため、本人にも嘘をついている自覚がなかった。美貌によって周囲の男性まで巻き込めば、人間関係や国を揺るがす危険があると朱璃は警戒した。
皇后への懇願
朱璃は雪白が皇后となる事態を防ぐため、鼓濤が黎司の子を産んで皇后になるべきだと迫った。
董胡は朱璃の方が皇后にふさわしいと反論したが、朱璃は誰が相手でも子を産むことは自分の尊厳に関わるほど嫌だと明言した。その代わり鼓濤が皇后になるなら、王宮へ残って補佐すると約束した。
告白への決意
董胡は黎司の拒食が改善し、自分が濤麗の娘だと判明したことで、鼓濤と董胡が同一人物だと近いうちに打ち明けようと考えていると話した。
雪白の嘘を見たことで、自分が黎司へつき続けている嘘も悪質ではないかと思い始めていた。白龍と会えれば迷いを断ち切れると語ると、朱璃は白虎へ捜しに行こうと提案した。
子宝祈願の旅
朱璃は、白虎にある子宝成就で有名な麒麟の大社への参詣を口実にすれば、后でも王宮を出られると考えていた。
さらに一番弟子・綺羅の初舞台を白虎で開き、朱雀の舞団を護衛として同行させる計画も立てていた。雪白の懐妊騒動で傷つけられたと黎司へ訴え、必ず許可を得るつもりであった。
朱璃は白龍が見つからなくても、白虎から戻った後には黎司へすべてを話すよう董胡へ約束させた。董胡はそれが進むべき道だと感じ、告白を決意した。
蓬の一口団子
難しい話を終えると、朱璃が持参した茶葉と、董胡が作った蓬の一口団子で茶会を楽しむことになった。
董胡は蓬が止血薬や灸、薬膳にも使えると説明した。朱璃と禰古は、蓬の苦味と餡子の甘味を一度に味わえる団子を気に入り、次々と口へ運んだ。
奏優の乱入
王琳が茶を淹れに行ったまま戻らず、不審に思っていると、戸口から制止する声が響いた。
王琳を振り切って御座所へ踏み込んできたのは、黎司の侍女頭・奏優であった。奏優は鼓濤への礼を欠いたまま、薬膳師の董胡を出すよう大声で要求した。
十一、奏優乱入
奏優の乱入
奏優は玄武の后宮へ押し入り、董胡を出すよう要求した。朱璃は鼓濤への無礼を厳しく咎めたが、奏優は処罰を受ける覚悟で来たと答えた。
流産の訴え
奏優は、雪白が玄武の医師団から出された薬湯を飲んだ後、腹の子を流したと告げた。
朱璃は懐妊自体が確定していなかったと反論したが、奏優は玄武側が白虎の懐妊を認めず、麒麟の医師による診察まで拒んだと主張した。実際には麒麟の医師を拒んだのは雪白であり、薬湯も胎児を流すものではなかった。
鼓濤への嫌疑
奏優は、鼓濤が董胡を医師団へ紛れ込ませ、雪白の薬湯へ胎児を流す薬を混ぜたと決めつけた。
さらに鼓濤が偽の姫であり、黎司を薬膳や媚薬で引き留めていると非難した。朱璃は根拠のない嫌疑だと警告したが、奏優は雪白の言葉を疑おうとしなかった。
偽后の噂
朱璃が鼓濤の噂を流したのかと問い詰めると、奏優は雪白を励ますため、鼓濤の正体を暴くと本人に話したことを認めた。
奏優は王宮中へ広める意図はなかったが、雪白から白虎の下働きへ伝わり、噂になっていた。朱璃は奏優の軽率な発言が黎司と鼓濤の名誉を傷つけたと責めた。
奏優の要求
奏優は鼓濤を告発して死罪にしたいわけではなく、黎司から身を引かせたいだけだと明かした。
卑しい育ちや怪しい素性であるなら黎司へ近づかず、皇子を産んで皇后になろうとせず、雪白の懐妊を邪魔しないよう求めた。すべては黎司にふさわしい后を守るためだと考えていた。
董胡の譲歩
鼓濤は奏優と自分では真実が食い違っているものの、黎司を支えたいという目的は同じだと伝えた。
黎司が玄武の后宮へ来るのは董胡の料理によって食欲を回復させるためであり、寵愛ではないと認めた。そして拒食が治るまでの間だけ通うことを許してほしいと頭を下げた。
奏優は鼓濤が身の程を理解したと思い、一度は要求を受け入れようとした。
雪白への盲信
朱璃は、黎司を思って身を引こうとする鼓濤が、帝の子を流すはずがないと奏優へ訴えた。
しかし奏優は高貴な雪白が嘘をつくはずはないと信じ込み、鼓濤が自分を懐柔しようとしたのだと再び疑った。雪白が正しいという前提を崩せず、話し合いは振り出しへ戻った。
董胡の捕縛
奏優は董胡を捕らえて自白させれば、黎司が玄武の后宮へ通う理由もなくなると考え、捕縛の役人を呼ぼうとした。
鼓濤は身に覚えのない罪を認めてでも止めるべきか迷ったが、その時、茶民が黎司の来訪を告げた。奏優は誰よりも青ざめた。
十二、雪白の嘘
黎司の来訪
黎司は奏優の無断外出を咎め、雪白の件には関わるなと命じていたことを確認した。奏優は雪白から腹の子を流されたという文を受け取り、鼓濤と董胡を糾弾するため玄武の后宮へ来たと訴えた。
しかし黎司は懐妊も流産も知らされておらず、神官と捕縛の役人を連れて白虎へ向かったのは、侍女頭の帰莎を取り調べるためだったと明かした。
帰莎の証言
連行された帰莎は、雪白が懐妊していたという話は嘘だったと奏優へ告げた。玄武の医師団が麒麟の医師を拒んだという話も事実ではなく、診察を嫌がって断ったのは雪白自身であった。
帰莎は黎司が連日神官を伴って訪れているにもかかわらず、雪白への寵愛が深まった様子がないことや、雪白の話に少しずつ矛盾が増えていることへ疑念を抱いていた。
呪具を巡る虚言
黎司は、雪白から奏優と帰莎が共謀して寝所へ呪具を置き、奏優を新たな一の后にしようとしていると聞かされていた。
奏優は一の后になれる立場ではなく、そのような企みを持つはずもなかった。黎司は雪白の話に不自然さを感じたため、帰莎を不意に捕らえて事実を調べていた。
奏優の過去
雪白は、奏優が黎司に一目惚れし、自ら侍女になることを望んだ末に、自分が后へ選ばれたことを恨んでいると語っていた。
しかし奏優は、黎司を美しいと思ったことは認めたものの、侍女になるよう懇願した事実はなかった。侍女の話は雪白の父から持ち込まれたものであり、奏優は与えられた役目を喜んで受けただけであった。
雪白の企み
董胡は、雪白が自分より格上の奏優を后候補から外すため、皇太子の侍女へ推薦させた可能性を考えた。
黎司も雪白の話が虚偽であると判断し、懐妊も流産もなく、鼓濤や董胡が毒を盛った事実もないと断言した。奏優はようやく自分が雪白に欺かれていたと理解した。
奏優と帰莎の謝罪
奏優は鼓濤へ数々の無礼と濡れ衣を謝罪し、どのような処罰も受けるとひれ伏した。帰莎も雪白が玄武の后宮へ迷惑をかけたことを詫びた。
董胡が白虎の下働きたちへの鞭打ちを尋ねると、帰莎は雪白の実家から、無駄口を叩く者を厳しく罰するよう命じられていたと明かした。雪白自身が帰莎に鞭打たれたという話も嘘であった。
侍女頭の責任
董胡は帰莎へ、侍女頭は后の言いなりになるだけではなく、誤った命令には意見すべきだと諭した。
帰莎は雪白へ認められたい一心で不審な点から目を背け、懐妊を信じたい気持ちに流されていたと認めた。
医師団への同行
董胡は、雪白を診察した医師団へ自分の薬膳師を同行させていた事実を認めた。ただし目的は胎児を流すことではなく、悪意ある者が毒を盛らないよう監視するためであった。
鼓濤は何を信じるかは誰にも平等に与えられた自由であり、その選択が人柄を作ると語った。奏優と帰莎はその言葉を受け、改めて頭を下げた。
白虎騒動の処分
奏優と帰莎は三日間の謹慎となったが、鼓濤の口添えによって元の役目へ戻された。雪白への処分は、四公を巻き込む醜聞を避けるため保留となった。
雪白には帰莎の監視が付けられ、筆頭の序列で注文した贅沢品は没収された。雪白は謝罪文を送ったものの、自分の苦しみを訴え、自死をほのめかす言葉まで添えていたため、董胡は今後関わらないと決めた。
奏優の反省
謹慎を終えた奏優は黎司へ謝罪し、今後は出自による贔屓をせず、公平な侍女頭として務めると誓った。
奏優は鼓濤を素性の怪しい姫と思い込んでいたが、実際には聡明で慈悲深い后だったと評価を改めた。しかし鼓濤を醜女だと思う誤解は残っており、黎司は新たな噂を生まぬよう、その呼び方を禁じた。
黎司の想い
黎司は身分や美醜には関心がなく、皇帝という立場を捨てて心から愛しい相手を選べるなら、誰を選んでいたのかと漏らした。
奏優に心に秘める相手がいるのかと尋ねられたが、黎司は叶わぬことを考えても仕方がないと寂しげに答え、ある決意を固めた。
白虎行きの計画
朱雀の后宮では、董胡と朱璃が改めて茶会を開き、桜餅と花茶を楽しみながら白虎への旅を相談した。
朱璃は父の許可を得て、紅拍子の舞団や軽業師、赤軍の護衛を伴う壮麗な后行列を作る計画を進めていた。子宝祈願を名目に、皇帝の治世の安定と世継ぎへの期待を民へ示すつもりであった。
子宝祈願の役目
朱璃は董胡へ、雪白の騒動で傷ついた鼓濤として黎司へ訴え、子宝祈願の許可を得るよう求めた。
董胡は白龍を捜すことが目的だと抵抗したが、朱璃は帰還後に正体を明かし、いずれ世継ぎを産んで皇后になるところまで計画していた。
朱璃の演出
朱璃は白虎への道中で董胡へ男性を魅了する所作を教え、帰還後には黎司が一目で恋に落ちる美姫へ仕立てると張り切った。
さらに告白の場まで演出し、忘れられない名場面を作ろうと考えていた。董胡は黎司に嫌われる恐怖を抱えていたため、話を勝手に膨らませる朱璃へ強い不安を感じた。
十三、黎司の決意
皇宮への呼び出し
楊庵は皇宮の隠し部屋へ一人で呼び出され、青龍での働きに対する褒美を与えられると告げられた。
現れたのは皇帝となった黎司であり、楊庵は五年前に斗宿で会った高慢な貴人が黎司だったと知った。さらに、これまで自分へ密偵の任務を与えていたのも黎司であり、董胡もすでにその正体を知らされていたと明かされた。
黎司との再会
楊庵は董胡だけが先に黎司と再会していたことへ複雑な思いを抱いた。董胡が五年前から黎司の専属薬膳師を目指していたことを知っていたため、自分では到底敵わないと感じた。
しかし黎司は、董胡にも知らせず楊庵を呼んだ本当の理由を切り出した。
董胡の性別
黎司は董胡が女性ではないかと尋ねた。楊庵は医師免状や立場を守るため、董胡は男性だと言い張った。
黎司は女性だと知っても処罰や追及をするつもりはなく、むしろ董胡を守るために事実を確かめたいと説明した。さらに尊武がすでに董胡の性別へ気付いており、それを利用して青龍へ同行させた可能性を疑っていた。
女性医師への道
黎司は、董胡が女性だと露見すれば医師の職を失い、性別を偽って后の専属医官を務めた罪まで問われる危険があると語った。
そのため女性だけの麒麟寮を設け、女性が正式に医師免状を得られる制度を作ろうとしていた。黎司はそれを、性別を偽ってまで自分の薬膳師を目指した董胡への恩返しと償いだと考えていた。
董胡専属の密偵
黎司は楊庵を董胡専属の密偵に任命し、どのような時も彼女を守るよう命じた。
董胡の性別が露見して危険が迫った場合は、王宮から逃がして麒麟の社へ匿い、特に尊武の動向を警戒するよう頼んだ。
最強の木札
黎司は楊庵へ、伍尭國中の門を通過し、麒麟の社で無条件に保護を受けられる金縁の木札を託した。
その木札は楊庵が密偵を辞めて自由になる許可でもあった。董胡が王宮を出ることを望んだ場合は、二人で麒麟の社へ逃れ、治療院や薬膳料理の店を開いて穏やかに暮らすための資金も受け取れるようになっていた。
楊庵への託し
楊庵は自分が董胡を守るために生き、王宮へ入ったのも彼女を捜すためだったと答えた。黎司に命じられなくても守るのは当然だと木札を受け取った。
そのうえで、董胡が女性として黎司の側にいたいと望んだ場合はどうするのかと尋ねた。
皇帝としての断念
黎司は自分にはすでに四人の后がおり、皇帝が平民の娘を側室へ迎えれば、董胡は貴族たちの嫉妬や憎悪にさらされ、命を狙われると答えた。
自分が皇帝である限り、女性としての董胡を幸せにはできないと考えていた。そのため董胡が王宮を去り、自分の手の届かない場所へ行くことになっても、彼女の望むままに守ってほしいと楊庵へ頭を下げた。
二人の密約
楊庵は黎司の切実な願いを受け止め、董胡を守り続ける役目を引き受けた。
董胡の知らないところで交わされた黎司と楊庵の密約は、彼女の今後を大きく動かすものとなった。
同シリーズ











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