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フィクション(Novel)尾道理子皇帝の薬膳妃読書感想

小説「皇帝の薬膳妃 紅き棗と再会の約束」感想・ネタバレ

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皇帝の薬膳妃1の表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

薬膳妃 まとめ
薬膳妃 2巻レビュー

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■ 物語の特徴
  2. 読んだ本のタイトル
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. 薬膳師の夢
    2. 皇帝の后選び
    3. 男装の医生
    4. 皇帝の拒食症
    5. 玄武公の陰謀
    6. 先読みの天術
    7. 身代わりの后
  6. 登場キャラクター
    1. 皇家(麒麟)
      1. 黎司(れいじ)
      2. 翔司(しょうじ)
      3. 孔曹(こうそう)
      4. 孝司(こうじ)
      5. 創司(そうじ)
      6. 翠明(すいめい)
    2. 玄武(医術・亀氏)
      1. 董胡(とうこ)
      2. 玄武公(げんぶこう)
      3. 濤麗(とうれい)
      4. 華蘭(からん)
      5. 章景(しょうけい)
    3. 朱雀(芸術・鳳氏)
      1. 朱雀公(すざくこう)
      2. 凰葉(おうは)
    4. 青龍(武術・龍氏)
      1. 青龍公(せいりゅうこう)
    5. 白虎(商術・虎氏)
      1. 白虎公(びゃっここう)
    6. 斗宿の村
      1. ト殷(といん)
      2. 楊庵(ようあん)
      3. 庄助(しょうすけ)
      4. 鉄太(てつた)
    7. 后宮・女官・侍女
      1. 叡条(えいじょう)
      2. 茶民(ちゃみん)
      3. 壇々(だんだん)
      4. 優(ゆう)
      5. 郭美(かくび)
      6. 万寿(まんじゅ)
    8. その他の存在
      1. 魔毘(まび)
    9. 集団
      1. 黄軍(皇帝近衛軍)
      2. 華蘭の侍女三人衆
      3. 皇太后の侍女たち
      4. 麒麟の社の神官たち
      5. 朱雀の芸妓団
  7. 展開まとめ
    1. 一、皇帝陛下の一の后 
    2. 二、 謎の麗人 
    3. 三、華蘭と侍女三人衆 
    4. 四、即位・立后の式典 
    5. 五、皇帝、黎司 
    6. 六、后の宮の御膳所 
    7. 七、初見えの儀式 
    8. 八、皇帝の薬膳饅頭 
    9. 九、紅葉の宴 
    10. 十、三つ目の先読み 
    11. 十一、玄武の后宮にて 
  8. 同シリーズ
  9. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

本作は、中華風の王宮を舞台に、妃と医官の一人二役をこなすことになった少女の活躍を描く「二重生活ファンタジー」である。 世界観は、天術(神通力)を司る皇家(皇帝)が治める中央の都「麒麟(きりん)」を中心に、それぞれ独自の術(医術・武術・美術・商術)を司る四公が治める東西南北の地(玄武・青龍・朱雀・白虎)からなる国「伍尭國(ごぎょうこく)」を舞台としている。

【あらすじ】 玄武の田舎村に暮らす少女・董胡は、幼い頃に出会った謎の麗人「レイシ」の専属薬膳師になる夢を抱き、男性と偽って医術を学んでいた。しかし、医師試験に首席合格したその日、領主の玄武公から自分がかつて誘拐された彼の実娘「鼓濤」であると告げられ、嫌われ者と噂される新皇帝への輿入れを命じられてしまう。 王宮へ入った董胡は皇帝に嫌われようと振る舞うが、医官(男装)に変装してこしらえた薬膳饅頭が偶然にも皇帝のお気に入りとなる。こうして、お互いの正体(5年前の命の恩人と、生き抜く約束を交わした麗人)に気づかぬまま、一の后「鼓濤」としての宮廷生活と、后宮付きの男装の専属医官「董胡」としてのハラハラする二重生活が始まる。

■ 主要キャラクター

  • 董胡(とうこ) / 鼓濤(ことう) 本作の主人公。17歳。人が今欲している味覚や体調の乱れを「五色の光」として感知できる不思議な能力を持つ。5年前、治療院の前に倒れていた「レイシ」を救い、彼の専属薬膳師になる約束を果たすために男装して猛勉強を重ねてきた。大朝会では「董麗(とうれい)」という偽名を使用する。
  • 黎司(れいじ) / レイシ 伍尭國の新皇帝。5年前に董胡に命を救われ、「生き延びて成人し、いつか董胡を薬膳師として迎える」と月に誓った麗人「レイシ」その人である。過去に何度も毒を盛られた経験から、食べ物を受け付けない極度の拒食症に苦しんでいるが、董胡の作る薬膳饅頭だけは苦もなく美味しく食べることができる。
  • ト殷(といん) 斗宿(としゅく)の村で治療院を営む医師で、董胡の師匠であり育ての親。かつて玄武公に仕える医師だったが、董胡が攫われた(あるいは駆け落ちした)とされる時期に姿を消したため、玄武公からは「董胡を連れ去った犯人」と疑われている。
  • 楊庵(ようあん) 治療院における董胡の3歳年上の兄弟子。鍼の技術においては天才的な腕前を持つ。董胡が女性であることを知る数少ない人物の一人である。
  • 茶民(ちゃみん) 一の后宮に配属された董胡付きの侍女。15歳。気が強く、お菓子を売って小銭を稼ぐのが趣味。異様なほどの激辛好き。
  • 壇々(だんだん) もう一人の董胡付きの侍女。13歳。おっとりとした性格の食いしん坊で、甘いものが大好き。
  • 翠明(すいめい) 黎司(レイシ)に仕える神官。病気や怪我を癒す力や、式神を操る不思議な術を持つ。5年前にレイシを迎えに現れ、のちに王宮で医官となった董胡と再会する。
  • 玄武公(げんぶこう) / 亀氏(きし) 医術の都・玄武を治める領主で、董胡の父親。絶大な富と権力を誇り、新皇帝の黎司を廃位させて、自分の血を引く弟宮の翔司皇子を即位させようと陰謀を巡らせている。
  • 華蘭(からん) 玄武公が正妻との間に儲け、溺愛する美しい姫君。気位が高く、皇帝の弟宮・翔司皇子と恋仲である。自分を皇帝の后にさせないための「身代わり(替え玉)」として董胡を王宮に送り込んだ。不思議な風を操る術を持つ。
  • 翔司(しょうじ) 黎司の3歳年下の弟宮。実直で聡明な好青年だが、玄武公から「黎司は冷酷な悪人」と信じ込まされ、自らが皇帝になることが正しいと信じている。

■ 物語の特徴

  • 「妃」と「医官」の一人二役による、ハラハラする二重生活 董胡は王宮では高貴な一の后(鼓濤)として軟禁状態の生活を送るが、一の后の権限(木札)を利用して男装の后宮付き専属医官(董胡)の身分も手に入れ、王宮内を自由に動き回り情報収集や治療を行う。この一人二役の綱渡りな生活が、独特の緊張感と面白さを生み出している。
  • 「味覚の可視化」×「拒食の皇帝」を救う薬膳の絆 董胡が持つ「相手の求める味や体調の乱れが光となって見える能力」を駆使し、拒食症に苦しむ皇帝の体質に完全に合わせた「薬膳饅頭」を作ることで、彼の心と体を癒していく。料理を通じた温かな信頼関係の構築が、本作の大きな魅力である。
  • 互いの正体に気づかない「すれ違い」の王道ロマンス 董胡は「ずっと再会を夢見ていたレイシ様」を、黎司は「生きる意味をくれた命の恩人・董胡」を今でも一番大切に思っている。しかし、王宮では「お互いを警戒すべき敵同士(玄武公の娘と、癇癪持ちのうつけ皇帝)」として対面しているため、目の前の相手が探している本人だと気づかず、すれ違いを繰り返す焦れったくも心ときめくドラマが描かれる。
  • 緊迫する宮廷の陰謀と、真の天術への覚醒 皇帝を傀儡にしようとする玄武公ら四公による、暗殺や捏造された「先読み」の試練が黎司を襲う。しかし、董胡の薬膳により心身を整え、民の安寧を祈るという「真の皇帝の覚悟」に目覚めた黎司は、鏡に未来を映し出す真の天術を覚醒させ、大風や毒殺などの破滅を自ら予言・回避していく爽快な展開が描かれる。

が探している本人だと気づかず、すれ違いを繰り返す焦れったくも心ときめくドラマが描かれる。

読んだ本のタイトル

皇帝の薬膳妃 紅き棗と再会の約束
著者:尾道 理子 氏
出版社:KADOKAWA角川文庫
発売日:2021年10月21日
ISBN:9784041117774

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あらすじ・内容

妃と医官の二重生活が王宮に波乱を呼ぶ! 心ときめくファンタジー絵巻。

伍尭國(ごぎょうこく)の北の都、玄武に暮らす少女・董胡(とうこ)は、幼い頃に会った謎の麗人「レイシ」の専属薬膳師になる夢を抱き、男子と偽って医術を学んでいた。しかし突然呼ばれた領主邸で、自身が行方知れずだった領主の娘であると告げられ、姫として皇帝への輿入れを命じられる。なすすべなく王宮へ入った董胡は、皇帝に嫌われようと振る舞うが、医官に変装してこしらえた薬膳饅頭が皇帝のお気に入りとなり――。妃と医官!? 一人二役ファンタジー。

皇帝の薬膳妃 紅き棗と再会の約束

感想

本作を読んで最初に感じたのは、主人公・董胡の人生があまりにも強引に変えられてしまう恐ろしさである。

董胡は女性であることを隠し、男性の医生として医術を学んできた。目的は、医師免状を手に入れ、いつか約束した人物の専属薬膳師になることだった。

その夢のために、生涯男性として生きる覚悟まで決めている。

ところが医師試験に首席で合格し、ようやく免状を受け取れると思った瞬間、自分が玄武公の娘・鼓濤であると告げられる。

さらに、嫌われ者と噂される新皇帝の一の后として嫁ぐよう、一方的に命じられてしまう。

十七年間かけて積み上げてきた董胡としての人生を、玄武公は簡単に終わらせようとする。

この始まりからして非常に理不尽であり、董胡が何とか自分の夢を守ろうとする姿を応援したくなった。

努力して手に入れた人生を奪われる苦しさ

董胡にとって、医師免状は単なる資格ではない。

女性は医師になれない世界で、正体が知られれば自分だけでなく、育ての親であるト殷や兄弟子の楊庵まで処罰される危険があった。

それでも男装を続け、麒麟寮で学び、首席で試験に合格する。

そこまでの努力を考えると、玄武公の「医生の董胡は免状を得て人生を終え、これからは姫の鼓濤として生きればよい」という言葉はあまりにも残酷である。

本人が何を望んでいるのかは、まったく考慮されない。

医師免状を与えることさえ、董胡の夢を認めるためではなく、逆らわせないための道具として使われている。

董胡が鼓濤でなければ、今度は女であることを隠して医師試験を受けた罪に問う。

さらに楊庵やト殷の命まで持ち出して脅す。

どちらに転んでも董胡が自由に生きる道は残されていない。

華やかな中華風の世界を舞台にしているが、描かれているのは、生まれや性別、権力によって人生を決められてしまう苦しさである。

董胡が皇帝の后という高い身分を与えられても、少しも幸運に見えないところが印象的だった。

薬膳師を目指す董胡の魅力

董胡の魅力は、優れた医術の知識だけではない。

彼女には、人の周囲に見える五色の光から、その人が求めている味や体調を読み取る力がある。

黒は塩味、赤は苦味、青は酸味、白は辛味、黄色は甘味を表す。

ただ病名を当てるのではなく、その人の体質や好みに合わせて料理を作るところが面白い。

薬膳と聞くと、体にはよいが味はあまり期待できない料理を想像してしまう。

しかし董胡が目指しているのは、薬を我慢して食べてもらうことではない。

その人が心から美味しいと思い、自然に食べられる料理を作ることである。

相手が喜び、少しずつ元気になっていくことに、董胡は強いやりがいを感じている。

病気を治すだけでなく、病気になる前の体を整え、食べる喜びまで取り戻させる。

この薬膳師という仕事への思いが、董胡の行動すべての中心にある。

王宮へ連れていかれ、妃にされても、董胡は料理や医術を捨てない。

侍女の茶民と壇々の好みに合わせて饅頭を作り、体調を崩した壇々を診察し、ついには自分自身を一の后付きの専属医官として登録してしまう。

自由を奪われても、使える知識と立場を組み合わせ、自分の道を作っていく。

董胡のたくましさが心地よかった。

レイシを救った薬膳饅頭

本作の中心にあるのは、董胡と謎の麗人レイシの約束である。

五年前、董胡が暮らしていた治療院の前に、ひどく衰弱した美しい人物が倒れていた。

董胡の目には、その人物から本来見えるはずの色がまったく見えない。

死の間際にいる人と同じ状態だった。

レイシは食事も薬も拒み、助けようとする董胡たちを信用しない。

董胡は、自分が大切に集めていた冬虫夏茸を使い切り、無理やりにでも重湯を食べさせる。

その結果、レイシは少しずつ体力を取り戻す。

ところが元気になると、虫の幼虫から生える冬虫夏茸を食べさせられていたと知り、董胡を組み伏せて怒りをぶつける。

命を助けるために全財産ともいえる薬材を使った董胡からすれば、あまりにも恩知らずである。

悔しさから董胡が「助けたかっただけなのに」と涙を流す場面が印象に残った。

その言葉によって、レイシは初めて董胡を一人の人間として見る。

それまでレイシは、周囲の人間を自分を利用する者か、命令に従う者としてしか見られなかったのだと思う。

そんなレイシにとって、何の見返りも求めず、宝物まで使って助けようとした董胡は理解できない存在だった。

この二人の関係は、最初から甘い恋愛として始まるわけではない。

衝突し、怒り、傷つきながら、少しずつ相手を信じるようになる。

その過程が丁寧に描かれていた。

食べることが恐怖になったレイシ

レイシが拒食になった理由は、何度も毒を盛られてきたためである。

食事にも菓子にも薬にも毒が入っていた。

毒見役が何人も命を落とし、レイシ自身も死にかけたことがある。

食べなければ衰弱して死ぬ。

しかし食べれば、毒で死ぬかもしれない。

そのような環境では、食事を楽しむことなどできるはずがない。

レイシが食べ物を拒絶するのは、わがままではなく、自分の命を守るための反応だった。

董胡は事情を知る前、乾姜を大量に入れた辛い饅頭を出してしまう。

しかし、その辛い饅頭を食べたことで、レイシの周囲に青い光が見える。

青は酸味を求める色であり、毒によって肝臓が弱っていることを示していた。

董胡はすぐに自分の意地悪を謝り、今度こそレイシが苦しまずに食べられる饅頭を作ろうとする。

梅を使った酸味のある饅頭を食べたレイシは、美味しいとは認めない。

それでも、久しぶりに苦しまず飲み込めたと話す。

この小さな変化が印象的だった。

一度の料理ですべてが解決するわけではない。

長く傷ついた体と心を、董胡が少しずつ整えていく。

薬膳が単なる便利な治療法ではなく、失われた信頼を回復する手段として描かれているところが本作の大きな魅力だと感じた。

誰かのために生きるという約束

董胡は、いつか自分の饅頭を美味しいと思えたなら、二度と死んでもよいと思わないでほしいとレイシに求める。

そして、あるべき場所へ戻り、命がある限り生きてほしいと訴える。

レイシはその願いを受け入れ、何があっても生き抜くと約束する。

さらに董胡は、平民でも、女性でも、努力すれば夢を持てる世を作ってほしいとレイシに願う。

董胡はレイシの本当の身分を知らない。

ただ、偉そうで高貴な人物なのだから、何かできるのではないかという素朴な考えで語っている。

しかし、その言葉はレイシの人生を大きく変える。

レイシは、それまで多くの人が自分のために生き、自分のために死んでいったと語る。

一方で、誰かから「自分のために生きてほしい」と言われたことはなかった。

皇族として必要とされることと、一人の人間として必要とされることは違う。

董胡はレイシの地位や力ではなく、レイシ本人に生きてほしいと願った。

その言葉が、レイシに生きる意味を与えたのだと思う。

レイシは、誰もが身分や性別に関係なく夢を叶えられる世を作り、いつか董胡を専属薬膳師として迎えると約束する。

董胡も、その日のために医師免状を取り、立派な薬膳師になると誓う。

二人にとって、この約束は淡い思い出ではない。

五年間を生き抜くための支えだった。

再会しているのに気づかない二人

本作で特に面白かったのは、董胡と黎司が互いの正体に気づかないまま再会する構成である。

新しく即位した皇帝・黎司こそ、五年前に董胡が救ったレイシ本人だった。

黎司は、約束を守るために皇帝となるまで董胡を呼び寄せなかった。

平民でも努力すれば夢を叶えられる世を作る。

その約束を果たしてから、胸を張って董胡を迎えたいと思っていたのである。

一方の董胡は、玄武公によって皇帝の一の后にされている。

つまり、二人はすでに夫婦という立場になっている。

しかし董胡は皇帝がレイシだと知らず、黎司も玄武の一の后が董胡だとは知らない。

さらに董胡は、男装して玄武の一の后付き医官として王宮内を歩き始める。

そのため董胡には、妃の鼓濤、男性医官の董胡、レイシの専属薬膳師を目指す少女という複数の立場が生まれる。

黎司の側も、董胡、玄武の后、薬膳饅頭を作る謎の薬膳師が同一人物だと分かっていない。

読者には二人の正体が見えているため、「もう目の前にいるのに」と何度も思わされる。

このすれ違いが非常にもどかしく、同時に楽しかった。

妃と医官を使い分ける二重生活

王宮へ入った董胡は、后宮に閉じ込められるような生活を送る。

自由に外へ出ることもできず、皇帝の寵愛や后宮の序列によって、食材や衣装まで変わってしまう。

しかし董胡は、自分の医師免状と一の后の身分を利用し、自分自身を専属医官として登録する。

一の后である鼓濤が、男装医官の董胡を雇っていることにして、王宮の中を自由に歩けるようにするのである。

かなり大胆な方法だが、董胡にとっては医術を使えるうえに、ト殷や楊庵の情報を探す機会にもなる。

妃としては御簾の中に隠れ、医官としては王宮を歩き回る。

この二重生活には、正体が知られそうになる緊張感と、董胡の行動力を楽しめる面白さがあった。

董胡は、与えられた立場へ大人しく収まる人物ではない。

后にされたなら、その権力を使う。

閉じ込められたなら、別人として外へ出る。

薬や鍼を使えないなら、使える立場を自分で作る。

状況を嘆くだけでなく、自分にできることを探し続ける姿に強く惹かれた。

噂とは違う皇帝の姿

董胡は、皇帝が癇癪持ちで、気に入らない者を斬り捨てるうつけ者だと聞かされていた。

初見えでも黎司は御簾を剣で切り、玄武公の手先ではないかと董胡を威圧する。

董胡からすれば、噂どおりの恐ろしい皇帝に見えても仕方がない。

しかし黎司には、玄武公によって何度も命を狙われてきた過去がある。

毒を盛られ、悪い噂を広められ、后たちも暗殺者ではないかと疑わなければならない。

黎司の荒々しい態度は、残虐な性格というより、生き延びるために身につけた警戒心だった。

董胡の饅頭を毒だと誤解して踏みつける場面では、読んでいて腹立たしさを覚えた。

壇々が怯えながら出した饅頭を見て、黎司は毒殺を疑う。

自分が何度も毒を盛られてきたため、他人の善意を簡単には信じられない。

五年前にも、董胡の善意を踏みにじって涙を流させた。

そして今度も、同じ人物が作った饅頭を踏みにじってしまう。

本人たちは相手の正体に気づいていないが、過去と現在が重なる構成が印象的だった。

黎司は後に自分の誤解を認め、饅頭を求めて玄武の后宮へ通うようになる。

無理に薬膳師を召し上げず、董胡の意思を尊重する態度も見せる。

董胡も次第に、皇帝は噂ほど横暴な人物ではないと感じ始める。

正体を知らないまま、二人がもう一度信頼関係を作っていく過程が興味深かった。

薬膳によって皇帝が力を取り戻す

黎司は、長く続いた拒食によって体が弱り、本来持っているはずの麒麟の力も使えない状態だった。

即位式では、皇帝の先読みを示す儀式で三度も予言を外す。

しかし、その儀式自体が本来は仕組まれた茶番であり、玄武公の妨害によって失敗させられた可能性が高い。

黎司は皇帝でありながら、四公に政治を支配され、会議でも軽んじられている。

自分には皇帝としての力がないのではないかと悩み、退位や死まで考える。

その黎司を支えたのが、董胡の薬膳饅頭だった。

董胡は皇帝がレイシだとは知らない。

それでも、食事を苦痛に感じる皇帝の体を見抜き、幼い子供の味覚を育てるように、薄味の饅頭を少しずつ工夫する。

董胡の料理によって体が整い、黎司は少しずつ力を取り戻していく。

さらに玄武の后としての董胡の言葉も、黎司の心を支える。

皇帝は国の民すべてから必要とされる存在だから、諦めないでほしい。

董胡の励ましを受け、黎司は自分の弱さばかりを見ていたことに気づく。

そして、民を守るために何ができるのかを考え始める。

食事が体を整え、言葉が心を立て直し、その両方によって眠っていた力が目覚めていく。

薬膳が単なる便利な魔法ではなく、人が本来持つ力を取り戻す支えとして描かれているところがよかった。

未来を当てることより、災害を防ぐこと

紅葉の宴では、黎司と弟宮の翔司による先読み比べが行われる。

玄武公は、黎司を敗北させ、弟宮を新しい皇帝にしようとしている。

しかし黎司は、仕組まれた的当ての勝負を放棄する。

そして、的の数字を当てるだけでは民を救えないとして、儀式そのものを廃止する。

代わりに、朱雀の張宿で大風と洪水が起こる未来を予告し、住民へ避難や収穫を命じる。

予言が外れれば、皇帝としての信用を失う。

それでも災害が本当に起こる可能性があるなら、黙っていることはできない。

黎司は、自分の地位よりも民の命を選ぶ。

さらに印象的だったのは、黎司が予言の的中を喜ばないことである。

大風が実際に起きたということは、すべてを防げたわけではない。

未来を正確に当てることより、人々が行動し、被害を小さくすることに意味がある。

先読みは絶対に変えられない運命を見る力ではなく、行動によって未来を変えるための力として描かれている。

この考え方には強く惹かれた。

未来が見えても、何もしなければ悲劇は起こる。

逆に、未来を知った人が備えることで、本来起こるはずだった被害を減らせる。

皇帝の役割は、すべてを言い当てて神のように振る舞うことではない。

不確かな情報であっても、民を守るために決断し、その責任を負うことなのだと思う。

玄武公の陰謀と董胡の機転

玄武公は、本作における大きな脅威である。

董胡を娘として大切にしているわけではない。

溺愛する華蘭を皇帝へ嫁がせたくないため、行方不明だった鼓濤を身代わりとして利用したにすぎない。

黎司を失脚させ、弟宮の翔司を皇帝にし、華蘭を一の后にする。

そのために噂を流し、儀式を妨害し、毒による暗殺まで企てる。

特に恐ろしかったのは、黄金泉へ天凜烏頭の毒を流し、禊を行う黎司を殺そうとする計画である。

天凜烏頭は、皮膚から吸収されても命を奪う猛毒である。

董胡は医官として薬庫を利用していたからこそ、危険な薬が持ち出されたことに気づく。

さらに床下へ潜り込み、玄武公と白虎公の密談を盗み聞きする。

そして白虎公の前に白い衣姿で現れ、玄武公から暗殺を引き継いだ謎の人物を装い、毒壺を奪い取る。

医術の知識だけでなく、相手の恐怖心まで利用した大胆な作戦だった。

白虎公が董胡を妖狐と思い込み、逃げるように立ち去る展開には思わず笑ってしまった。

命懸けの陰謀を扱いながらも、董胡の行動によって少し軽快な空気が生まれる。

深刻になりすぎず、読みやすさを保っているところも本作の魅力だと感じた。

茶民と壇々との関係

董胡に仕える茶民と壇々も、物語を明るくしてくれる存在である。

茶民は気が強く、少しでも金を貯めることが好きである。

壇々は食べることが何より好きで、何かあるたびに恐ろしがる。

最初の二人は、突然現れた平民育ちの姫である董胡を心から敬っているわけではない。

自分たちの出世や立場のために仕えている部分も大きい。

董胡も、王宮から逃げる際に協力してもらうため、二人を味方につけようと考えていた。

しかし、董胡は二人の好みに合わせた饅頭を作り、華蘭たちから侮辱された時には侍女として庇う。

二人も少しずつ董胡を信頼するようになる。

董胡が王宮から消えようとした時、二人は董胡を悪く言えば処罰を免れられると説明されても、それはできないと泣く。

これまで仕えた誰よりも優しく、一緒に過ごした日々が幸せだったと語る。

最初は利害関係だった三人が、いつの間にか家族のような関係になっている。

薬膳を通して胃袋を掴むという軽い始まりから、本当の信頼へ変わっていく流れが温かかった。

黎司とレイシ、皇帝と妃のすれ違い

董胡は、医官として五年ぶりにレイシと再会する。

黎司も董胡が生きていたことを知り、ようやく約束した相手を見つける。

しかし、董胡はレイシが皇帝だとは知らない。

黎司も董胡が玄武の后・鼓濤であることを知らない。

二人は再会を喜びながら、別の姿では皇帝と妃として会話を続ける。

董胡は、皇帝へ出す饅頭をレイシに作るつもりで工夫する。

黎司は、その味から玄武の后が雇っている薬膳師は董胡だと気づく。

それでも董胡を権力で奪わず、玄武の后が大切にしている人物なら無理に引き離せないと考える。

一方の董胡は、皇帝の横顔にレイシの面影を見つけ、正体に気づきかける。

しかし黎司が玄武公の娘を完全には信用できないと話したため、自分が鼓濤であることを明かせなくなる。

玄武公の娘だと名乗れば、黎司をさらに苦しめるかもしれない。

医官の董胡としてレイシに仕えたい。

しかし妃の鼓濤としては、皇帝から警戒されている。

二人とも相手を大切に思っているからこそ、正体を明かせない。

このすれ違いは非常にもどかしい。

ただの勘違いではなく、それぞれが生き延びるために秘密を抱えているため、簡単には解決できないところがよかった。

鼓濤という名を受け入れる瞬間

董胡は、鼓濤という名前を自分のものとして受け入れられずにいた。

玄武公から押し付けられた名であり、医官として生きてきた董胡の人生を奪う名前でもある。

しかし物語の終盤、黎司は妃としての彼女の名を尋ねる。

董胡が鼓濤と答えると、黎司はその名を大切に刻むように呼ぶ。

それまで捨てたいと思っていた名前を、好きな人に呼ばれたことで、董胡の胸に甘い感情が生まれる。

名前そのものが変わったわけではない。

玄武公に呼ばれれば、支配や脅迫を思い出す。

黎司に呼ばれれば、一人の女性として見てもらえたように感じる。

同じ名前でも、誰がどのような思いで呼ぶかによって意味が変わる。

この場面が印象的だった。

董胡が鼓濤として生きることを完全に受け入れたわけではない。

それでも、鼓濤という立場にも、自分にとって大切な意味が生まれ始めている。

今後、董胡、鼓濤、薬膳師という複数の自分をどのように一つへつなげていくのか気になった。

薬膳と宮廷闘争が自然につながる物語

本作は、中華風の宮廷を舞台にした恋愛物語である。

しかし、薬膳が雰囲気を作るための飾りで終わっていない。

董胡が人間関係を築く時にも、病人を救う時にも、皇帝の力を取り戻す時にも、薬膳が関わっている。

壇々や茶民の好みに合わせた饅頭によって信頼を得る。

食べ物を恐れるレイシへ、もう一度食べる喜びを教える。

拒食によって弱った黎司の体を整え、天術が目覚める土台を作る。

さらに薬草の知識によって、暗殺用の毒にも気づく。

董胡の薬膳師としての能力と、宮廷の陰謀が別々に進むのではなく、物語の中で自然につながっている。

また、薬膳は相手を支配するための力ではない。

相手の体調や好みを見て、その人が食べたいと思えるものを作る。

董胡は、食べる人の声や反応を確かめながら料理を変えていく。

権力者が他人の人生を勝手に決める宮廷の世界とは、正反対の姿勢である。

玄武公は、自分の都合で董胡や黎司、翔司、華蘭を動かそうとする。

董胡は、相手が何を必要としているのかを考え、その人自身が生きる力を取り戻せるよう支える。

この対比も興味深かった。

読後の感想

『皇帝の薬膳妃1 紅き棗と再会の約束』は、薬膳、男装、后宮、身分違いの恋、皇位を巡る陰謀など、多くの要素が詰め込まれた作品である。

それでも物語が散らかった印象にならないのは、董胡と黎司が交わした約束が中心にあるからだと思う。

董胡は、レイシの専属薬膳師になるために医術を学んできた。

黎司は、董胡を迎えるために生き延び、誰もが夢を叶えられる世を作ろうとしている。

ところが二人は再会しているにもかかわらず、互いの正体に気づいていない。

妃と皇帝。

医官とレイシ。

薬膳師と饅頭を求める客。

一つの関係だけではなく、何重にも姿を変えながら二人の距離が近づいていく。

そのもどかしさが、本作最大の魅力だと感じた。

また、董胡は特別な力を持っているが、その力だけで問題を解決しているわけではない。

患者を観察し、料理を工夫し、危険な場面では自分で考えて行動する。

自由を奪われても、知識と立場を使って少しずつ道を作る。

その姿には、与えられた運命へ大人しく従わない強さがあった。

一方の黎司も、最初から理想的な皇帝ではない。

毒への恐怖から人を疑い、董胡の善意を踏みにじり、自分には力がないと諦めかける。

しかし董胡の料理と言葉によって、少しずつ自分の役目を思い出していく。

未来を当てて威厳を示すのではなく、未来を変えて民を守ろうとする皇帝へ成長していく姿が印象的だった。

第一巻では、二人の正体は完全には明かされないままである。

董胡の出生にはまだ謎が残り、ト殷が本当に董胡を連れ去ったのかも分からない。

華蘭の不思議な力、祈禱殿に現れた魔毘、失われた三つ目の神器など、今後につながる要素も多い。

何より、董胡がいつ黎司をレイシだと確信し、黎司が玄武の后こそ董胡だと知るのかが気になる。

薬膳が人の体を整えるだけでなく、傷ついた心や失われた信頼まで少しずつ癒やしていく。

陰謀が渦巻く宮廷の中で、温かい饅頭が人と人をつないでいく物語だった。

今後、董胡と黎司が互いの正体を知り、五年前の約束をどのような形で果たしていくのか、続きを読みたくなる一冊である。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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薬膳妃 まとめ
薬膳妃 2巻レビュー

考察・解説

薬膳師の夢

董胡の薬膳師の夢と変革の全貌

『皇帝の薬膳妃』において、主人公・董胡が抱く薬膳師の夢について、夢の原点である謎の麗人「レイシ」との約束、董胡の特別な資質と薬膳への情熱、立ちはだかる性別と身分の厚い壁、および運命の激変と形を変えて続く薬膳の絆の各点から解説する。

夢の原点:謎の麗人「レイシ」との約束

董胡が危険を冒してまで薬膳師を志す最大の理由は、5年前に治療院の前で倒れていた謎の麗人「レイシ」を救ったことにある。

・毒への恐怖から重度の拒食症に陥っていた彼を、董胡は自身が精魂込めて作った薬膳饅頭で救い、食べる喜びを取り戻させた。

・二人は生き延びて成人し、いつか董胡を専属薬膳師として迎えるという約束を交わした。

・董胡にとってこの夢は、レイシの専属薬膳師としてただあの方の役に立ちたいという純粋なロマンに基づいている。

・黎司にとっても、誰かのために生きるというこのささやかな約束こそが、孤独で過酷な宮廷闘争の中で命をつなぐ唯一の生きる意味となっていた。

董胡の特別な資質と薬膳への情熱

董胡がこれほど薬膳師にこだわるのは、彼女自身が持つ味覚を可視化する能力と深く結びついている。

・人の体調の乱れや欲している味が五色の光として見える特殊な能力を備えている。

・この能力を駆使し、相手の体質に完全に合わせた薬膳饅頭を作り、病人の体調が改善していく様子を見ることに無上の喜びとやりがいを感じていた。

・病気になってから治療する医師や薬師とは異なり、日々の食事を通じて病気を予防する薬膳師の仕事に強い誇りを見出している。

立ちはだかる「性別」と「身分」の厚い壁

当時の伍尭國において、董胡の夢は二つの巨大な壁により極めて困難なものであった。

・女性という性別の壁:正式な医師や薬師、薬膳師は男性しかなることができないため、董胡は髪を角髪に結い、男性と偽って麒麟寮で血の滲むような猛勉強を重ねねばならなかった。女であることが露見すれば死罪を免れない危険と隣り合わせであった。

・平民という身分の壁:病気の予防を目的とする薬膳師は、多額の金を払える貴族を相手とする職であり、平民の身分で大成することは制度的に不可能に近いとされていた。

・董胡が悔し涙を流した際、レイシは誰もが身分や性別を問わず、努力によって夢を叶えられる世を自分が作ると月に強く誓った。

運命の激変と、形を変えて続く「薬膳の絆」

董胡が首席で医師試験を突破した直後、彼女がかつて誘拐された玄武公の実娘・鼓濤であることが判明し、新皇帝の一の后として王宮へ輿入れさせられる事態が発生した。

・絶望した董胡であったが、王宮でも男装の専属医官・董胡としての変装身分を手に入れ、二重生活を開始した。

・后宮を毎夜訪れるようになった新皇帝に自作の薬膳饅頭を食べさせることで、意図せずして皇帝の専属薬膳師としての役割を事実上果たし始めることとなった。

・黎司は后宮付き薬膳師を皇帝付きとして引き抜きたいと願うが、董胡が断ると権力の乱用を良しとせず無理やり召し上げることを拒んだ。

・かつて交わした約束を果たせていない自分への不甲斐なさから、彼は権力の行使を控えた。

まとめ

董胡の薬膳師の夢と変革を巡る一連の全貌は、命を救った幼き日の約束から始まり、味覚を可視化する特異な資質、男装と身分詐称を強いる理不尽な制度の壁、そして后宮での二重生活を通じた約束の再始動に至るまで、その歩みを明瞭に示している。性別や身分という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、志と愛情が紡ぐ運命の記録である。誓いの交わしから、過酷な修行、制度との葛藤、后宮での再開、そして真の平等な世界創出への決意へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

皇帝の后選び

皇帝の后選びと宮廷闘争の全貌

『皇帝の薬膳妃』における「皇帝の后選び(立后)」について、后選びの基本システムと血脈維持の背景、黎司の即位における后選びの異常性と四公の陰謀、皇帝・黎司の后たちに対する極度の警戒、および最悪の出会いから始まった玄武の后との関係変化の各点から解説する。

后選びの基本システムと「血脈維持」の背景

伍尭國では、皇帝の即位に伴い、東西南北の領地を治める四公の宮から、それぞれ最も身分の高い一の姫が輿入れするのが代々の習わしとなっている。

・后選びには、国の権力バランスを保つ目的のほかに、重要な血脈の維持という背景が存在する。

・かつて皇帝の血筋である麒麟は、近親婚を重ねて血の純度を保とうとした結果、病弱になり天術の力が衰退していく事態を招いた。

・数代前からは近親婚をやめ、四公(玄武・青龍・朱雀・白虎)から后を迎えることで、かろうじて血脈と天術の力を保ち続けている。

黎司の即位における「后選び」の異常性と四公の陰謀

新皇帝として即位した黎司には強力な後見がなく、誰にも望まれない孤独な皇帝であった。

・四公は黎司の治世を早々に終わらせ、聡明で扱いやすい弟宮の翔司を新皇帝に据えようと画策していた。

・四公は次の本命である翔司の治世のために一族の正統な一の姫を温存するという暴挙に出ており、黎司のもとには不自然な后ばかりが送り込まれた。

・青龍と白虎の后:先の皇帝の逝去を知ってから急造で養女に取り立てた姫たちであり、本物の一の姫ではない。

・朱雀の后:書類上は本物の一の姫であるが、黎司より3歳年上の25歳の姫である。

・玄武の后(鼓濤 / 董胡):本来なら玄武公が溺愛する正妻の娘・華蘭が一の后になるはずであったが、華蘭が輿入れを拒んだため、玄武公は医師試験に首席合格した董胡が行方不明だった実娘・鼓濤であると強引に仕立て上げ、身代わりとして王宮へ送り込んだ。

皇帝・黎司の后たちに対する極度の警戒

四公の思惑を見抜いていた黎司は、輿入れしてきた后たちを自身の命を狙う暗殺者、あるいは傀儡にするための罠として激しく警戒していた。

・立后から10日以内に行う定めである最初の顔合わせ「初見えの儀式」についても、黎司は后選びの儀式を廃止する詔を出そうとしたほど嫌悪していた。

・最終的に儀式自体は執り行われたものの、他の后たちに対しては御簾越しに二言三言の型通りの挨拶を交わすだけで、決して心を許すことはなかった。

最悪の出会いから始まった「玄武の后」との関係変化

黎司が最も警戒していたのが、最大の政敵である玄武公から送り込まれた一の后(鼓濤 / 董胡)であった。

・初見えの夜、黎司は暗殺者への警告・威嚇として、研磨もされていない神器の剣で御簾と蝋燭を切り裂く暴挙に出た。

・この最悪の出会いから、二人の関係は食を通じて奇妙な変化を遂げていくこととなる。

・拒食症の黎司が、后の用意した薬膳饅頭だけは美味しく食べられることに気付き、さらに后が自らの保身を顧みずに仕える姿勢やその聡明さに触れる中で、黎司は鼓濤という后に深く惹かれ、信じたいと願うようになった。

まとめ

皇帝の后選びと宮廷闘争を巡る一連の全貌は、神聖な血脈維持の制度から始まり、新皇帝を軽視する四公の陰謀と身代わり立后の横行、暗殺を警戒する黎司の冷酷な対応、そして薬膳を通じた心通わせと確かな信頼関係の構築に至るまで、その歩みを明瞭に示している。宮廷の不条理な権力闘争や偽りの身分という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、陰謀を凌駕する絆の記録である。歪んだ立后から、暗殺の警戒、食を通じた接触、心の融解、そして真の理解者への昇華へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

男装の医生

男装の医生(医官)としての生き方と役割の全貌

『皇帝の薬膳妃』において、主人公・董胡が扮する男装の医生(医官)について、伍尭國における厳格なジェンダー障壁と男装の覚悟、医生としての卓越した才能、王宮で蘇る男装の医官・董胡、および正体と夢の狭間における葛藤のシンボルの各点から解説する。

伍尭國における厳格なジェンダー障壁と男装の覚悟

伍尭國において、正式な医師、薬師、薬膳師になれるのは男性のみと定められている。

・女性である董胡が夢を叶えるためには、男性になりすます必要があった。

・董胡は白の袍に浅葱色の下袴を履き、髪を両耳のあたりで束ねる角髪に結うという男性装束を徹底した。

・華奢な体格でありながら物心ついた頃から男装を続けていたため、周囲に女と疑われることはなかった。

・女性であることが露見すれば、自身のみならず育ての親のト殷や兄弟子の楊庵までもが死罪を免れないため、常に生命の危機と隣り合わせの覚悟であった。

・董胡は生涯男として生きていくと固く誓い、皇帝直属の医塾「麒麟寮」で猛勉強を重ねた。

医生としての卓越した才能

董胡はただ男装していただけでなく、医生として極めて優れた実力を持っていた。

・17歳にして、難関である医師試験を首席で合格するほどの頭脳の持ち主であった。

・人が今欲している味覚や体調の乱れが五色の光となって見える特殊な能力を備えていた。

・患者に合わせた完璧な処方を行い、日々の食事を通じて病を未然に防ぐ薬膳師の仕事に強い誇りとやりがいを感じていた。

王宮で蘇る「男装の医官・董胡」

玄武公の陰謀により無理やり一の后・鼓濤として王宮へ輿入れさせられたことで、董胡としての医生の人生は一度中断した。

・后宮での退屈な生活や侍女の高熱を救いたいという思いから、一の后の権限を利用して再び男装の姿を取り戻した。

・自ら木札に『玄武一の后付 専属医官 董胡』と書き込み、申請することで王宮医官の身分を手に入れた。

・髪を再び角髪に結い、宮内局の色である紫の袍に玄武の后宮付きを示す黒い帯を締めた。

・医官の姿になることで后宮の外へ自由に移動できるようになり、薬の調達や王宮内の情報収集が可能となった。

正体と夢の狭間における葛藤のシンボル

男装の医官に戻ったことは、彼女と新皇帝・黎司とのすれ違いをより複雑にし、物語のドラマ性を高める象徴となった。

・董胡は医官の姿で、5年前に再会を誓い合った命の恩人「レイシ」その人である青年と王宮内で邂逅を果たした。

・黎司は彼女を優秀な男性医生として認識しており、いつか自分の専属薬膳師に迎える約束を守り続けていた。

・董胡は王宮内で男装の薬膳師「胡」として黎司のそばに仕えたいと強く願ったが、同時に自分は黎司を政治的に脅かす玄武の一の后・鼓濤でもあった。

・正体を明かせば黎司をさらに危険にさらしてしまうと察し、男装の医官としての姿を隠し通し、形だけの后であり続けることを決意した。

まとめ

男装の医生(医官)としての生き方と役割を巡る一連の全貌は、女性に対する社会的制限を克服するための覚悟から始まり、首席合格と特異能力を活かした実績の築き、王宮での医官身分の再獲得、そして愛する者を陰から支えるための変装の継続に至るまで、その歩みを明瞭に示している。不条理な制度や政治的抑圧という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、志と知性が生んだ能動的な挑戦の記録である。男装の決意から、才能の開花、王宮での権限獲得、真の意図の秘匿、そして大切な存在を守り抜く意志へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

皇帝の拒食症

黎司の拒食症と救済の全貌

『皇帝の薬膳妃』における新皇帝・黎司(レイシ)の拒食症について、拒食症の凄絶な原因と日々の肉体的苦痛、董胡との出会いと冬虫夏茸による命がけの救済、味覚の可視化と美味いと感じる喜びの奪還、および王宮での再会と天術(先読みの力)の目覚めの各点から解説する。

拒食症の凄絶な原因と、日々の肉体的苦痛

黎司にとって食事を摂ることは、肉体的な苦痛を伴う土を食らうようなものであった。

・物を口に入れると異物を詰め込まれたように不快になり、喉が呑み込むことを拒絶し、呑み込んだ先から激しい吐き気に襲われる重度の拒食状態に陥っていた。

・症状を引き起こした根本的な原因は、幼少期から繰り返されてきた毒殺への恐怖にあった。

・黎司はこれまでに朝餉や飲茶菓子、さらには薬と偽られて数え切れぬほど毒を盛られてきた。

・実際に二度も死にかけ、彼の毒見を務めた多くの女官たちが命を落としていた。

・絶望的なパラドックスに直面し、食べ物そのものが恐怖の対象となってしまったのである。

董胡との出会いと「冬虫夏茸」による命がけの救済

5年前、暗殺を避けるために逃亡し、飢餓と衰弱で治療院の前に倒れた黎司は、生命の光すら放たない瀕死の状態であった。

・人の体調や欲する味が光として見える特殊な能力を持つ董胡は、彼が拒食に陥っていることを見抜いた。

・董胡は、自身の全財産であった貴重な万能薬である冬虫夏茸を重湯に混ぜ、暴れる黎司の口へ無理やり流し込んだ。

・この強引ながらも命がけの看護により、黎司は奇跡的に起き上がれるまでの体力を取り戻すこととなった。

味覚の可視化と「美味い」と感じる喜びの奪還

体力が回復したものの、黎司は義務的に食事を胃に流し込んでいるだけで、食べる喜びは失われたままであった。

・毒素によって肝臓が弱り切っている黎司の体から、酸味を欲するサインである青い光が放たれているのを董胡が察知した。

・董胡が用意した酢漬けの梅を餡に入れた饅頭を口にした黎司は、苦もなく飲み込めるという劇的な変化を感じた。

・毒が抜け、本来の好みの味である黄色と白の光が見えた夜、董胡は唐芋の甘味と乾姜の辛味を活かした温かい蒸し饅頭を彼に差し出した。

・それを食べた黎司は、長年失われていた食事への感動を思い出し、美味いと感じて一気に完食した。

・董胡の存在と彼女が作る薬膳饅頭こそが、過酷な宮廷で生き抜くための唯一の希望となったのである。

王宮での再会と、天術(先読みの力)の目覚め

皇帝に即位した後も、冷め切った料理ばかりが運ばれる王宮の環境下で、黎司の拒食症は本質的には改善していなかった。

・后宮へ輿入れした董胡が、身分を隠して后宮の御膳所で自ら腕を振るい、出来立ての温かい薬膳饅頭を届け始めると、黎司の体調はみるみる回復していった。

・董胡の薬膳によって食が整い、生命力がみなぎったことで、黎司は眠っていた皇帝本来の力である天術(先読みの力)を完全に覚醒させた。

・国を揺るがす数々の災厄を予言および回避し、真の皇帝としての道を歩み始めることとなったのである。

まとめ

黎司の拒食症と救済を巡る一連の全貌は、毒殺の恐怖に起因する壮絶な拒食症状から始まり、幼き日の命がけの看護と冬虫夏茸による救命、五色の光読みと薬膳饅頭を通じた味覚と感動の復権、そして王宮での再開による天術の覚醒に至るまで、その歩みを明瞭に示している。毒殺の恐怖や宮廷の陰謀という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、食と愛情がもたらした奇跡の記録である。絶望の拒食から、命の救出、食べる喜びの獲得、天術の覚醒、そして真の治世の確立へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

玄武公の陰謀

玄武公の陰謀と全貌

『皇帝の薬膳妃』において、医術の都・玄武を治める領主・玄武公の陰謀について、陰謀の最終目的である新皇帝・黎司の廃位と弟宮・翔司の擁立、実娘・華蘭の温存と董胡を捨て駒にする身代わり輿入れ、先読みの捏造と即位式および紅葉の宴での妨害、劇薬・天凜烏頭による黎司の暗殺計画、ならびに董胡に対するト殷や楊庵を利用した人質脅迫の各点から解説する。

陰謀の最終目的:新皇帝・黎司の廃位と、弟宮・翔司の擁立

玄武公の最終的な狙いは、有力な後見を持たない孤立した新皇帝・黎司を退位させることであった。

・自らの妹の血を引き、娘の華蘭と恋仲である実直な弟宮・翔司を新皇帝として即位させることを目論んだ。

・翔司は純朴で扱いやすいため、彼を傀儡皇帝とすることで玄武公は伍尭國の権力を完全に掌握しようとした。

・その布石として、黎司が気に入らない宮女を次々と斬り捨てる冷酷な暴君であるという虚偽の悪評を意図的に世間に流していた。

実娘・華蘭の温存と、董胡を「捨て駒」にする身代わり輿入れ

皇帝の即位時には各四公の一の姫が后として輿入れする定めが存在した。

・玄武公が溺愛する正妻の娘・華蘭が輿入れするはずであったが、華蘭は新皇帝を嫌悪し翔司を深く愛していた。

・将来的に翔司が即位した際に華蘭を真の一の后として皇后に据えるため、彼女を温存した。

・医師試験に首席合格した平民の董胡がかつて攫われた実娘・鼓濤であると強引に仕立て上げ、身代わりとして王宮へ送り込んだ。

・暗殺計画の余波で后が死ぬことになっても、替え玉である董胡であればいつでも使い捨てられる捨て駒として扱った。

「先読み(天術)」の捏造と、即位式・紅葉の宴での妨害

伍尭國において、皇帝が天術の力を持つことは万民の支持を得るための絶対条件であった。

・玄武公は黎司のカリスマ性を破壊するため、即位式における的当ての儀式に裏で細工を施した。

・弓師たちを操り、黎司が予言した数字とは異なる的を射抜かせることで、黎司に無能なうつけという致命的な烙印を押した。

・裏では弟宮の翔司に事前に的の数字を教えて予言を的中させ、彼こそが真の天術の継承者であると貴族たちに喧伝していた。

・紅葉の宴で先読み比べを企画し、民衆の目の前で決定的に黎司を敗北させて廃位に追い込もうと準備を進めていた。

劇薬「天凜烏頭(てんりんうず)」による黎司の暗殺計画

黎司が予言を次々と的中させ万民からの熱狂的な信仰心を集め始めると、危機感を抱いた玄武公は直接的な暗殺へと手段を過激化させた。

・玄武公は皇太后付きの医官を使い、皮膚からも吸収される超強力な劇薬である天凜烏頭の抽出液を調達させた。

・弱みを握って脅迫していた白虎公に命じ、黎司が毎朝の神事で禊を行う聖なる泉「黄金泉」にこの毒を流し込ませようとした。

・冷水での禊の最中に皮膚から全身に毒を吸収させて急死させるという計画であった。

董胡に対するト殷や楊庵を利用した人質脅迫

この巨大な陰謀を董胡に強制的に受け入れさせるため、玄武公は過酷な人質劇を実行した。

・彼女の育ての親であるト殷を赤子の鼓濤を攫った犯人と決めつけ、彼が失踪したことを盾に取った。

・王宮の麒麟寮に残された兄弟子・楊庵を監視下に置き、従わなければ拷問にかけて処刑すると董胡を脅迫した。

・彼女の自由と医師としての夢を人質にすることで、完全にその口を封じた。

まとめ

玄武公の陰謀と全貌を巡る一連の全貌は、実の娘の温存と傀儡皇帝の擁立構想から始まり、身代わり立后を通じた捨て駒の擁立、儀式工作による天術の捏造と威信の失墜、劇薬・天凜烏頭を用いた暗殺計画、そして養父や兄弟子を盾にした脅迫に至るまで、その歩みを明瞭に示している。冷酷な宮廷闘争や理不尽な陰謀という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、権力欲が生んだ邪悪な企てとそれに対抗する誠実な知性の記録である。傀儡擁立の画策から、身代わりの擁立、先読みの妨害、毒殺の企図、そして董胡と黎司の連携による陰謀の完全瓦解へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

先読みの天術

先読みの天術と真の覚醒の全貌

『皇帝の薬膳妃』における新皇帝・黎司が覚醒させる先読みの天術について、天術の概要と的当ての儀式という茶番、董胡の薬膳による真の天術の覚醒、天術の性質である変化する未来と諸刃の剣、および劇的に的中した三つの先読みの各点から解説する。

天術の概要と「的当ての儀式」という茶番

伍尭國において、天術を司る血筋である麒麟が持つ力こそが、未来を予見する先読みの天術である。

・民衆が皇帝を神の如く尊崇するのもこの超常的な力に由来している。

・血の純度を保つために近親婚を重ねた結果、皇族は病弱になり天術の力は著しく衰退していた。

・先代の皇帝にいたっては生涯で一度も先読みの力を使えなかった。

・歴代の即位式で行われてきた的当ての儀式は、事前に裏で調整された捏造された茶番劇へと形骸化していた。

・新皇帝・黎司の即位式では、玄武公の陰謀により弓師たちが意図的に予言とは異なる的を射抜いたため、黎司は天術を使えない無能な皇帝として大衆の前で大恥をかかされることとなった。

董胡の薬膳による「真の天術」の覚醒

黎司自身、当初は天術の力がほとんど現れておらず、自分の無力さに絶望していた。

・后宮へ入った董胡が、彼の重度な拒食症を治すために体調へ完全に合わせた薬膳饅頭を毎夜提供し始めたことで運命が変わった。

・正しい食事によって黎司の食が整い、心身に生命力がみなぎったことで、眠っていた皇帝本来の真の天術が完全に覚醒した。

・皇宮の祈禱殿にある銅鏡、そして自らが受け継いだ神器の鏡を通じて、未来の悲惨な光景を明確なビジョンとして視るようになった。

天術の性質:「変化する未来」と「諸刃の剣」

作中で描かれる天術は、単に決まった未来を言い当てるような単純な予言ではない。

・人々の行動によって変化する未来:未来は固定されたものではなく、人々の意識や行動によって刻一刻と書き換わる性質を持っている。黎司が天災を予言し、それを信じた民が備えを行うことで、未来の悲惨な光景はより被害の小さいものへと変化していった。このため、黎司は確信を持てる極めて直近の未来しか予言できなかった。

・諸刃の剣としての引き裂かれる祈り:先読みが当たるということは、裏を返せば大災害が本当に起きてしまうことを意味する。災害を防いでしまえば予言が外れたと糾弾され廃位に追い込まれるリスクを背負う。自分の予言が外れて天災が回避され民が救われるように、自らの失脚を覚悟して祈ることこそが皇帝の正しいあり方であるという葛藤が描かれた。

劇的に的中した「三つの先読み」

黎司が命がけで大衆に告げた三つの先読みの詔は、国の空気を完全に一変させた。

・第一の先読み:朱雀・張宿の大風と洪水において、5日以内に大風が吹き川が氾濫するという予言に対し、備えを完了した農民たちは奇跡的に難を逃れ、確実な被害防止の実績を作った。

・第二の先読み:青龍・尾宿の大火事において、玄武公らは厳しく取り締まり予言を外そうとしたが、3日後に予期せぬ落雷によって火が上がった。事前に水を貯めて待機していた者たちによって火は速やかに消し止められ、予言は見事に的中しつつ最小限の小火で済んだ。

・第三の先読み:暗殺の危機から白虎公の転落へにおいて、当初視ていた暗殺や暴動の未来は、大風と火事を的中させたことや董胡が男装して毒壺を騙し取ったことで劇的に変化した。最終的に黎司が視た未来は白虎公が階段から落ちて鼻を骨折するというアクシデントになり、それが見事に現実となった。

まとめ

先読みの天術と真の覚醒を巡る一連の全貌は、捏造された茶番劇としての儀式の形骸化から始まり、董胡の薬膳による生命力の回復と真の能力の覚醒、変化する未来と救済への葛藤という能力の真価、そして民を救う三つの予言の的中と暗殺の回避に至るまで、その歩みを明瞭に示している。権力闘争の道具や偽りの権威という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、真の皇帝としての覚醒と精神的成長の記録である。屈辱の体験から、食による復活、ビジョンの獲得、民のための祈り、そして帝位の盤石化へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

身代わりの后

身代わりの后・鼓濤と不条理な運命の全貌

『皇帝の薬膳妃』において、主人公の董胡が「身代わりの后(鼓濤)」として王宮へ送り込まれた設定について、身代わり輿入れの真相と華蘭の温存、玄武公の冷酷な計算、拒めぬ脅迫と葬られた董胡の人生、黎司との最悪の出会いと偽りの后がもたらす葛藤、および身代わりの后から運命の伴侶への変容の各点から解説する。

身代わり輿入れの真相と華蘭の温存

本来、新皇帝・黎司の即位に伴い、医術の都・玄武を治める領主から輿入れすべき一の姫は、玄武公が溺愛する正妻の娘・華蘭であった。

・華蘭は新皇帝の暴君という噂を嫌悪し、皇帝の弟宮・翔司と深く愛し合っていた。

・玄武公の最終目的は、黎司を廃位して翔司を新皇帝に据えることであった。

・将来的に翔司が即位した際、華蘭を真の一の后として皇后の座に就かせるべく、彼女を黎司への輿入れから温存した。

・医師試験に首席合格した董胡を、幼少期に行方不明になっていた実娘・鼓濤として強引に仕立て上げ、華蘭の身代わりとして王宮へ送り込んだ。

玄武公の冷酷な計算(「捨て駒」としての后)

玄武公にとって、身代わりである董胡は都合の良い使い捨ての捨て駒に過ぎなかった。

・黎司の后宮は、皇帝を排除しようとする玄武公にとって最も油断を誘いやすい企みの場であった。

・暗殺計画の余波に巻き込まれて后が死ぬことになろうとも、あるいは皇帝の狂気によって危害を加えられようとも、平民育ちの替え玉である董胡ならばいつでも切り捨てて構わないという冷酷な政治的計算が働いていた。

拒めぬ脅迫と、葬られた「董胡」の人生

董胡自身は、必死に勉強して首席合格を勝ち取った医師としての夢や、5年前にレイシと交わした約束を果たす人生を望んでいた。

・女性と偽って医師試験を受けた罪を盾にされた。

・育ての親であるト殷が逃亡し、王宮に一人残された兄弟子の楊庵が監視下に置かれ、従わなければ拷問にかけて処刑すると脅された。

・これにより董胡は、自身の十七年の歳月と医師としての人生を強制的に葬られ、玄武の一の姫・鼓濤を演じざるを得なくなった。

黎司との「最悪の出会い」と「偽りの后」がもたらす葛藤

身代わりの境遇は、新皇帝・黎司との関係に複雑な影を落とした。

・黎司にとって、玄武から送り込まれた一の后は自分を害し廃位に追い込もうとする政敵の刺客以外の何者でもなかった。

・最初の初見えの儀式では、黎司が警告を込めて神器の剣で御簾と蝋燭を切り裂く最悪のスタートとなった。

・董胡が届ける薬膳饅頭の出来立ての温かさと美味しさによって二人の心は通じ合っていくが、董胡は自分が鼓濤である限りレイシには本当の正体を明かせないという強烈な葛藤を抱え続けることとなった。

・敵の立場でありながら命の恩人である真実を告白して助けを求めれば、孤立し命を狙われている黎司をさらに危険な状況へ追い込んでしまうためであった。

「身代わりの后」から「運命の伴侶」への変容

身代わりの后という設定は、董胡に自由を奪う檻として機能した。

・玄武公がただの捨て駒と見なして王宮に放り込んだ董胡の、他者を思いやるひたむきな心と薬膳の知恵こそが、拒食に苦しむ黎司の心身を救い、失われた天術を呼び覚ますこととなった。

・董胡は、本来なら呪うべき鼓濤という偽りの名であっても、黎司がその名を良い名だと大切に呼んでくれた瞬間に、かすかな甘い疼きを感じた。

・玄武公の駒として偽りの后を演じながら、男装の医官としてレイシのそばで彼の体を守り抜く妃と医官の二重生活は、不条理な運命に翻弄されながらも愛する人を影から守ろうとする董胡の最も能動的で健気な意思の現れであった。

まとめ

身代わりの后・鼓濤と不条理な運命を巡る一連の全貌は、実娘温存と傀儡擁立のための仕掛けから始まり、使い捨ての捨て駒としての冷酷な配置、脅迫による意思の粉砕と偽りの身分付与、黎司との警戒と葛藤に満ちた関係、そして二重生活を通じた影からの救済と真の伴侶への変容に至るまで、その歩みを明瞭に示している。政治的思惑や不条理な脅迫という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、歪んだ運命を跳ね返す誠実な愛と知性の記録である。強制された輿入れから、最悪の接触、正体を隠した救済、天術の覚醒、そして二重生活を通じた絆の完成へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

薬膳妃 まとめ
薬膳妃 2巻レビュー

登場キャラクター

皇家(麒麟)

黎司(れいじ)

伍尭國の第十七代皇帝である。かつて毒を盛られた経験から拒食症を患っている。董胡が作る薬膳饅頭だけを食べることができる。

・所属組織、地位や役職
 伍尭國第十七代皇帝。

・物語内での具体的な行動や成果
 かつては皇太子であった。玄武の離宮へ送られる途中に逃亡を図る。逃亡中に治療院の前に倒れた。そこで董胡に命を救われる。即位式の的当ての儀式では先読みをすべて外した。しかし董胡の薬膳を食べて心身が整い天術を覚醒させる。その後、朱雀の大風と青龍の大火事を予言した。民に備えを指示して被害を最小限に抑え込む。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 皇太子から皇帝に即位した。二度の災害を予言して的中させる。これにより民衆から強い支持を得るようになった。

翔司(しょうじ)

黎司の三歳年下の弟宮である。実直で聡明な性格をしている。兄を冷酷な暴君だと信じ込んだ。

・所属組織、地位や役職
 皇族。

・物語内での具体的な行動や成果
 玄武公から兄の悪行を聞かされて育った。即位式の前に的当ての数字を予言して的中させている。兄に代わって自らが即位することが正しいと考えていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 玄武公により次期皇帝候補として擁立されている。華蘭と恋仲である。

孔曹(こうそう)

黎司の大叔父である。正義感が強く頑固な性格をしている。玄武公が逆らうことのできない唯一の相手だ。

・所属組織、地位や役職
 太政院、太政大臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 黎司を子供の頃から可愛がっていた。殿上会議では黎司を無視する重臣たちに対して口を挟む。そこで黎司を庇う発言をした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 七十歳を過ぎている。黎司の数少ない味方である。

孝司(こうじ)

黎司の父親である。かつて第十六代皇帝として国を治めていた。病弱で気の弱い人物だ。

・所属組織、地位や役職
 先代皇帝。

・物語内での具体的な行動や成果
 玄武公の言いなりになって生きていた。黎司を冷遇する。病弱を理由に祈禱殿に入ることもほとんどなかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語の開始前に急逝した。生涯にわたり先読みの天術を使うことはなかった。

創司(そうじ)

伍尭國の開祖とされる皇帝である。優れた天術の力を持っていた。日々禊をして儀式を行っていたと伝えられている。

・所属組織、地位や役職
 初代皇帝。

・物語内での具体的な行動や成果
 この伍尭國を建国した。多くの災いを祈りによって阻止する。的当ての儀式は行っていない。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 皇宮の祈禱殿に祀られている。彼の時代には剣で風を起こし鏡で未来を読んだとされている。

翠明(すいめい)

黎司に仕える神官である。病気や怪我を癒す力を備えている。式神を操ることもできる。

・所属組織、地位や役職
 神祇院、神官。

・物語内での具体的な行動や成果
 五年前、逃亡したレイシを迎えに治療院へ現れた。王宮では董胡の様子を探るために密偵を置く。宮内局で医官となった董胡と偶然再会した。その後、式神を用いて董胡とレイシの対話を仲介する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 黎司から絶大な信頼を寄せられている。黎司の食事による体調変化をいち早く察知していた。

玄武(医術・亀氏)

董胡(とうこ)

本作の主人公である。人が今欲している味や体調の乱れを「五色の光」として感知できる能力を持つ。幼い頃に出会った「レイシ」の専属薬膳師になる夢を抱いている。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后(鼓濤)。玄武の一の后付き専属医官(董胡、別名:董麗)。

・物語内での具体的な行動や成果
 医師試験に首席で合格した。玄武公により行方不明だった実娘「鼓濤」として皇帝へ輿入れさせられる。王宮では男装の医官に変装した。出来立ての薬膳饅頭を作って拒食症の皇帝に提供する。白虎公を騙して天凜烏頭の毒壺を奪い、皇帝暗殺を阻止した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 平民の医生から玄武の一の后に選ばれた。その後、后宮付き専属医官の立場を同時に手に入れる。

玄武公(げんぶこう)

医術 of の都・玄武を治める領主である。絶大な財力と政治的実権を握っている。新皇帝の黎司を廃位させようと陰謀を巡らせている。

・所属組織、地位や役職
 玄武の領主、中務局長。

・物語内での具体的な行動や成果
 溺愛する実娘の華蘭を温存した。その代わりに董胡を「鼓濤」として強引に皇帝へ輿入れさせる。即位式の的当ての儀式に細工をして黎司に恥をかかせた。白虎公に命じて黄金泉へ天凜烏頭の毒を流させようとする。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 皇帝すらも凌ぐ栄華を極めている。皇帝の弟宮である翔司を次期皇帝にしようと画策していた。

濤麗(とうれい)

董胡の母親とされる人物である。玄武公の元にいた。

・所属組織、地位や役職
 玄武公の妻。

・物語内での具体的な行動や成果
 宮に仕えていた下級医師であるト殷と駆け落ちした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 すでに亡くなっている。董胡と生き写しの容姿をしていた。

華蘭(からん)

玄武公が正妻との間に儲けた姫である。気位が高く、美しい容姿をしている。皇帝の弟宮である翔司皇子と恋仲である。

・所属組織、地位や役職
 玄武公の娘。

・物語内での具体的な行動や成果
 皇帝を嫌悪し、嫁ぐことを拒否した。董胡の部屋を訪れて彼女の平民育ちの振る舞いを嘲笑する。不思議な風の術を用いて董胡の頬を切った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 玄武公から溺愛されている。翔司皇子が即位した際には皇后となることが予定されている。

章景(しょうけい)

玄武公の側近である。医術博士の称号を持っている。常に玄武公のそばに控えている。

・所属組織、地位や役職
 医術博士、玄武公の側近。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡に対してお館様の決定に従うよう畳みかけた。董胡に医師免状を渡す役割を担う。弟宮の部屋で玄武公たちと黎司の失脚を喜んでいた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 玄武公の腰巾着のように振る舞っている。彼が書いた医師免状は大きな効力を持っていた。

朱雀(芸術・鳳氏)

朱雀公(すざくこう)

芸術の都・朱雀を治める領主である。本人は気弱な性格をしている。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の領主、治部局長。

・物語内での具体的な行動や成果
 前の朱雀公の血筋が途絶えた後に領主に担ぎ上げられた。殿上会議では玄武公の質問に対して答えに窮する。黎司の廃位については積極的ではなかった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 四公の中では立場が弱い。

凰葉(おうは)

黎司の母親である。先帝の一の后であった。

・所属組織、地位や役職
 先帝の一の后。

・物語内での具体的な行動や成果
 黎司を産んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 すでに亡くなっている。彼女の一族は不幸が続き血筋が途絶えている。

青龍(武術・龍氏)

青龍公(せいりゅうこう)

武術の都・青龍を治める領主である。含みのある物言いを好む。

・所属組織、地位や役職
 青龍の領主、兵部局長。

・物語内での具体的な行動や成果
 殿上会議において黎司を遠回しに嘲笑した。目的を外した弓師を取り調べていると報告する。玄武公からの連絡を受けて、尾宿の村での火の使用を禁じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 武術の都を率いる強力な四公の一人である。

白虎(商術・虎氏)

白虎公(びゃっここう)

術の都(商術)・白虎を治める領主である。狡猾な面があるが、同時に小心者で天罰を恐れている。

・所属組織、地位や役職
 白虎の領主、大蔵局長、式部局長。

・物語内での具体的な行動や成果
 殿上会議で的当てを外した黎司を追及した。玄武公から天凜烏頭の毒を手渡される。黄金泉へその毒を流する役目を押し付けられた。しかし白絹姿で現れた董胡を玄武公の間者と誤認し、毒壺を渡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 玄武公と結託して悪事に手を染めて私腹を肥やしていた。毒壺を渡した後に階段から転落して鼻の骨を折る大怪我を負った。

斗宿の村

ト殷(といん)

斗宿の村で治療院を営む医師である。董胡の師匠であり、育ての親でもある。

・所属組織、地位や役職
 医師。

・物語内での具体的な行動や成果
 倒れていたレイシを介抱した。黎司に対し、元の場所へ戻った後は董胡に関わらないよう約す。玄武公から鼓濤の誘拐犯として疑われ、捕縛される前に逃亡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 かつては玄武公の傘下で働く医師であった。酒癖が悪い。

楊庵(ようあん)

董胡の三歳年上の兄弟子である。鍼の天才的な腕前を持っている。董胡が女性であることを知る数少ない人物である。

・所属組織、地位や役職
 医師。

・物語内での具体的な行動や成果
 倒れていたレイシを診察台まで運んだ。頭痛を訴える庄助を介抱し、鍼を打って楽にさせる。ト殷が逃亡した後に王宮の麒麟寮へ残された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 引き締まった肉体と当たりのいい顔つきをしている。玄武公により監視下に置かれていた。

庄助(しょうすけ)

斗宿の村に住む農民である。大風の前に頭痛を訴える常連客である。

・所属組織、地位や役職
 農民。

・物語内での具体的な行動や成果
 治療院に駆け込んできて、頭痛の治療を求めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 董胡が熱あたり(熱中症)による水脱を見抜き、白虎加人参湯を処方された。

鉄太(てつた)

斗宿の村の農民である。

・所属組織、地位や役職
 農民。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡から笹身の饅頭をしばらく食べさせられた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 笹身饅頭を食べたことで、腕回りが二倍になった。

后宮・女官・侍女

叡条(えいじょう)

中務局の尚侍を務める生真面目な年配の女性である。すべての女官を取りまとめる権限を持つ。

・所属組織、地位や役職
 中務局、尚侍。

・物語内での具体的な行動や成果
 新皇帝となって最初の大朝会を主宰した。そこですべての女官や后宮の侍女頭を集めて職務を確認する。犬猿の仲である優と郭美の言い合いを注意した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 先帝の時代から尚侍を務めている。皇帝に拝謁を求めるなど、規律を重んじる。

茶民(ちゃみん)

鼓濤(董胡)の侍女を務める少女である。気が強く、少し色黒で痩せている。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后宮、侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡の身支度を整えようとした。不要な茶菓子などを売って小銭を貯め込んでいる。董胡から薔椒を効かせた激辛の饅頭を作ってもらい、涙を流して喜んだ。董胡から預かった暗号の手紙を楊庵へ届ける手配をする。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 十五歳である。当初は董胡への不満を抱いていたが、料理を食べてからは深く懐くようになった。

壇々(だんだん)

鼓濤(董胡)のもう一人の侍女を務める少女である。色白でふっくらしており、おっとりした性格をしている。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后宮、侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡のために厨房から蒸し饅頭を運んできた。董胡から黒豆と栗の甘い饅頭を分けてもらう。帝が饅頭を毒殺の罠と誤解した際、濡れ衣を晴らすために饅頭をすべて完食した。その後、極度の緊張から高熱を出して寝込んでしまう。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 十三歳である。非常に食いしん坊である。

優(ゆう)

皇帝に仕える侍女頭である。

・所属組織、地位や役職
 皇帝の后宮、侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
 大朝会で郭美と激しく言い合った。郭美が弟宮のために専属の女官を要求したことに対し、不遜であると反論する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 郭美とは犬猿の仲である。皇帝の資質を擁護するために強く主張していた。

郭美(かくび)

弟宮の翔司皇子に仕える侍女頭である。

・所属組織、地位や役職
 弟宮の后宮、侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
 大朝会において、弟宮のために専属の女官を使う許可を求めた。即位式で先読みを外した皇帝の資質を人々の前で疑問視する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 優とは犬猿の仲である。弟宮の方が皇帝にふさわしいという世論を後押ししている。

万寿(まんじゅ)

宮内局の薬庫で働く通いの医官である。董胡と気が合う薬草仲間となる。

・所属組織、地位や役職
 宮内局、医官。

・物語内での具体的な行動や成果
 薬庫の窓口で、董胡が持つ庵治石の印章を見て驚いた。皇太后付きの医官が天凜烏頭を持ち去った事実を董胡に教える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 妻がいる。董胡からお礼に分けられた棗を喜んで受け取った。

その他の存在

魔毘(まび)

赤い長い前髪で右目を隠した、黒ずくめの異国風の衣装を着た男である。黎司の前に不意に現れる。

・所属組織、地位や役職
 不明。

・物語内での具体的な行動や成果
 祈禱殿で絶望していた黎司の前に現れた。黎司がその名を「魔毘」であると確信した直後に、闇へ溶けるように消え去る。その後、黎司を祭壇の銅鏡へと導き、未来の天災や暴動などのビジョンを映し出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 死神を思わせる陰気な風貌をしている。彼の介入により黎司は先読みの力を発現させることができた。

集団

黄軍(皇帝近衛軍)

皇帝直属の近衛軍である。

・所属組織、地位や役職
 皇帝近衛軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 式典会場や皇宮内の警備を担当している。その大部分が武術に優れた青龍人で構成されていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 かつての三つの先読みのビジョンでは、四公に扇動された暴動の末に、皇帝を裏切って寝返る未来が映し出されていた。

華蘭の侍女三人衆

華蘭に仕える、位の高い上級侍女たちである。

・所属組織、地位や役職
 華蘭の付き侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 華蘭と共に董胡の部屋を訪れ、董胡をあざ笑った。茶民や壇々をいじめ、転ばせたり罰を与えたりしている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 陰湿な嫌がらせを繰り返しており、茶民や壇々から恐れられていた。

皇太后の侍女たち

皇太后に仕える侍女たちである。

・所属組織、地位や役職
 皇太后の后宮、侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 新しく入宮した鼓濤(董胡)を認めず、挨拶の手紙を汚いもののように指先でつまみ上げた。大朝会の出席を茶民や壇々に一方的に押し付ける。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 つんけんした態度をとっており、玄武の一の后宮の侍女たちを常に見下していた。

麒麟の社の神官たち

各地の村にある麒麟の社に仕える神官たちである。

・所属組織、地位や役職
 神官。

・物語内での具体的な行動や成果
 皇帝の先読みの詔を信じて大風や大火事の備えを行った。大風の際には高台の御堂に村人たちを避難させる。大火事の際には水桶を持って消火活動に加わり、延焼を防いだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大多数が誠実であり、皇帝に対する忠実な信奉者である。彼らの存在が皇帝の強い支持基盤となっている。

朱雀の芸妓団

朱雀の都から式典や宴のために召し出された芸団である。

・所属組織、地位や役職
 芸妓、踊り子。

・物語内での具体的な行動や成果
 即位式や紅葉の宴で、華やかな舞を披露した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 朱雀の都は芸術で栄えており、この芸妓団の美しさは茶民や壇々からも高く評価されていた。

薬膳妃 まとめ
薬膳妃 2巻レビュー

展開まとめ

一、皇帝陛下の一の后 

皇帝への輿入れ

黒水晶の宮に医師免状を受け取りに来た董胡は、玄武公から鼓濤という名の実娘であり、玄武の一の姫として皇帝へ輿入れさせると告げられた。幼い頃に連れ去られた鼓濤が、医師試験で首席となった董胡であると判明したのだという。しかし董胡は男性医生として暮らしており、苦労して医師への道を開いたため、突然の話を受け入れられなかった。

玄武公は董胡が女であることも見抜いており、男と偽って試験を受けた罪は不問にすると告げた。さらに、医生の董胡には医師免状を与えてその人生を終わらせ、以後は姫の鼓濤として生きればよいと一方的に決めた。十七年間の努力を簡単に葬られた董胡は返答できず、考える時間を求めて退出した。

斗宿の治療院

董胡は、斗宿の村で医師のト殷に拾われ、兄弟子の楊庵とともに治療院で暮らしてきた。嵐の前に頭痛を訴えて訪れた庄助を診た際、楊庵はいつもの症状と考えて五苓散を選んだが、董胡は暑い畑で働いていたことから熱あたりによる水脱を見抜き、白虎加人参湯を先に用いるべきだと判断した。

楊庵は鍼の技術に優れていた一方、董胡は患者の周囲に見える五色の光から、その者が求める味や体調の変化を読み取る力を持っていた。董胡はその力を使い、相手の体質や好みに合わせた薬膳饅頭を作っていた。人に喜ばれ、体調が改善していくことに強いやりがいを感じた董胡は、医家の者が避けがちな薬膳師になることを望んでいた。

薬膳師への覚悟

董胡は三年前、皇帝直属の麒麟寮で学ぶことを望んだが、募集が男子に限られていたため、ト殷に女であることを指摘された。それでも董胡は、生涯男として生きる覚悟を示し、女であることを誰にも明かさないと誓って入寮を許された。

董胡が薬膳師を志したのは、いつか約束を交わしたある人物の専属薬膳師となり、役に立ちたいと願っていたためであった。その思いを支えに猛勉強を続け、ようやく医師免状を手にするところまで来たため、玄武公の命令で夢を諦めることはできなかった。

鼓濤としての支度

客室に戻った董胡のもとへ、茶民と壇々という二人の侍女が現れ、姫君としての支度を始めようとした。董胡は斗宿へ戻り、ト殷に事情を相談したいと訴えたが、部屋の外には衛兵が立ち、外出を阻まれた。侍女たちは、玄武公に逆らえば自分たちまで処罰されると告げ、董胡を強引に湯殿へ連れていった。

董胡が女性であることを確かめた侍女たちは安堵し、玄武公が溺愛する華蘭ではなく、突然現れた鼓濤が一の后に選ばれたため、屋敷中が騒ぎになっていると説明した。董胡が辞退したいと口にすると、侍女や女童たちは、自分たちの出世や命運まで左右されると不安を示した。

董胡は二日前まで、医師試験の合格を喜び、免状を受け取るつもりでいただけであった。ところがト殷や楊庵に知らせる間もなく黒水晶の宮へ運ばれ、すでに輿入れまで筋書きが整えられていた。拾われ子である以上、玄武公の娘である可能性を完全には否定できなかったが、董胡はなお人違いだと信じ、男装が露見したことで医師に戻れなくなることばかりを案じていた。貴族社会を知らない董胡は、自分がすでに逃れられない立場に置かれていることを理解していなかった。

二、 謎の麗人 

鼓濤としての拝謁

姫君の装いを施された董胡は、翌日再び玄武公に拝謁した。玄武公は医師免状と高位の医家に与えられる印章を授け、医生としての人生に別れを告げるよう命じた。御簾の向こうでは玄武公の妻や娘たちが、平民育ちで男装していた董胡を嘲笑していた。

董胡は自分が鼓濤であるとは信じられず、母だという濤麗との面会や再調査を願い出た。しかし濤麗はすでに亡くなっており、玄武公は董胡が鼓濤でなければ、女であることを隠して麒麟寮に入り、医師免状を得ようとした罪に問われると脅した。

ト殷の失踪

玄武公は、ト殷がかつて自らの傘下で働く医師であり、鼓濤が攫われた時期に姿を消していたと明かした。董胡を捨て子として拾ったという話も嘘であり、ト殷が赤子の董胡を連れ去ったのだと告げた。

さらにト殷は捕縛を察して逃亡し、斗宿の治療院は空になっていた。玄武公は、董胡が従わなければ楊庵を拷問し、ト殷も追及すると脅した。董胡は自分が鼓濤であってもなくても以前の生活には戻れないと悟り、皇帝への輿入れを受け入れるしかなかった。

華蘭の身代わり

部屋へ戻った董胡は、茶民と壇々から玄武公の権力と残虐さを聞かされた。二人によれば、玄武公が溺愛する華蘭は正妻との間に生まれた姫であり、本来なら皇帝の一の后となる立場であった。

しかし新帝は癇癪持ちで人を斬る愚かな人物と噂され、華蘭は聡明で温厚な皇帝の弟宮と恋仲であった。そのため玄武公は華蘭を弟宮に嫁がせ、嫌われる皇帝には行方不明だった鼓濤を差し出そうとしていた。董胡は自分が華蘭の身代わりとして呼び戻されたのだと理解した。

倒れた麗人

董胡は五年前、斗宿の治療院の前に倒れていた美しい貴人を思い出した。意識を失ったその人物からは、死の間際にいる者と同じく五色の光が見えなかった。董胡は過去に診た拒食の子供と同じ状態だと考え、ト殷や楊庵と治療を始めた。

目覚めた麗人は食事も診察も拒み続けたため、董胡は貴重な冬虫夏茸を混ぜた重湯を無理やり食べさせた。三日後には起き上がれるまで回復したが、麗人は冬虫夏茸の正体を知ると激怒し、董胡を組み伏せた。董胡は宝物を使い切って助けようとした思いを踏みにじられ、悔しさから涙を流した。

董胡が助けたかっただけだと訴えると、麗人は初めて董胡を一人の人間として見つめた。楊庵に咎められた後、麗人は自らをレイシと名乗り、董胡も名前を伝えた。

毒への恐怖

董胡が乾姜を大量に入れた辛い薬膳饅頭を食べさせると、レイシの周囲に初めて青い光が現れた。青は酸味を求める色であり、肝臓が毒によって弱っていることを示していた。

問い詰められたレイシは、これまで食事や菓子、薬に何度も毒を盛られ、毒見役も多く死んだため、食べること自体が恐怖になったと明かした。董胡は事情を知らずに意地悪をしたことを謝ったが、レイシは董胡の言葉を信じて食べ、毒なら死んでもよいと思っていたと語った。

董胡は必ず美味しいと思わせると決意し、酸味のある梅を使った饅頭を作った。レイシは美味しいとは認めなかったが、久しぶりに苦しまず飲み込めたと答えた。

生き抜く約束

董胡は、美味しい饅頭を作れたなら二度と死んでもよいと思わず、あるべき場所で生きてほしいとレイシに求めた。レイシはその願いを受け入れ、何があっても命ある限り生き抜くと約束した。

それから董胡は、レイシの体から青い光が消えるまで酸味のある薬膳饅頭を作り続けた。レイシは徐々に体力を取り戻し、夜の庭を歩けるまで回復した。

薬膳師の夢

夜の庭で董胡は、身分に関係なく薬膳師になりたいという夢をレイシに語った。レイシは、薬膳師は貴人に仕える世襲の職であり、平民が大成するのは難しいと現実を説明した。

董胡は、生まれによって夢を持つことさえ許されない世を変えられないのかと問い、レイシならばそれを実現できるのではないかと訴えた。そして自分が医師免状を取り、役に立つ薬膳師になったら雇ってほしいと願った。

月下の誓い

レイシは、誰もが身分や性別を問わず夢を叶えられる世を自分が作るべきなのかもしれないと考えた。董胡は雇い先を失いたくないから自分のために生きてほしいと告げた。

レイシは、これまで周囲の者が自分のために生き、自分のために死んできたが、誰かのために生きてほしいと言われたのは初めてだと明かした。そして世を変え、いつか董胡を必ず呼び寄せると約束した。

董胡はレイシのために立派な薬膳師になると決意した。その時、何かを吹っ切ったレイシの体から、これまでになかった微かな色が放たれていた。

三、華蘭と侍女三人衆 

王宮脱出の企て

黒水晶の宮に来て五日が過ぎ、董胡は茶民と壇々の前では男装時代の口調と姿に戻っていた。玄武公に逆らえば楊庵とト殷が危険にさらされるため、董胡は一度皇帝の后となり、その権力を使って二人を逃がした後、自分も王宮から脱出することを考えていた。その先でレイシを捜し、約束通り専属薬膳師になることを望んでいた。

茶民と壇々

茶民は気が強く金を貯めることを好み、壇々は食べることが何より好きな少女であった。董胡は、華蘭の部屋で冷遇されていた二人と気兼ねなく接し、菓子も分け合った。

董胡は二人の周囲に見える色から、壇々が甘味を、茶民が強い辛味を好むと読み取った。饅頭の味に物足りなさを感じた董胡は、自分なら二人の好みに合うものを作れると考えたが、茶民は皇帝の后となる姫君が炊事をしてはならないと止めた。

華蘭の来訪

華蘭は三人の侍女を連れて董胡の部屋を訪れ、平民育ちの振る舞いや少ない侍女を嘲笑した。さらに使い古した着物や簪を祝いの品として差し出し、嫌われている皇帝の寵愛を受けるよう皮肉を述べた。

華蘭たちは、茶民と壇々しか董胡に仕えたがる者がいなかったと侮辱した。董胡は二人が十分に働いていると庇い、皇帝の后となる自分の侍女への言葉を慎むよう言い返した。

華蘭の術

董胡が反論すると、鋭い風のようなものが御簾を抜けて頬を切った。董胡は華蘭の仕業だと感じたが、周囲の者は気付いていなかった。

華蘭は、濤麗が宮に仕えていた男と駆け落ちし、その相手がト殷だったと告げた。董胡が玄武公の実子であるかも疑わしいと嘲笑し、皇帝の后としての栄華も長くは続かないような言葉を残して去った。

董胡は自らの出生と華蘭の不思議な力に不安を募らせた。しかし厳重な監視の中では逃げる方法を見つけられず、立后の作法を教え込まれるうちに輿入れの前日を迎えた。

甘辛い薬膳饅頭

満月を見上げた董胡は、五年前にレイシのために作った薬膳饅頭を思い出した。毒が抜けたレイシから見えた黄色と白の光をもとに、唐芋の甘味と乾姜の辛味を生かし、わずかな胡麻や蜜を加えて丁寧に饅頭を仕上げた。

レイシは食べ物を欲することはないと話したが、董胡の饅頭を口にすると美味しいと認め、次々に食べきった。出来立ての温かさと、本人さえ知らなかった好みに合う甘辛い味によって、長く失われていた食べる喜びを取り戻したのであった。

レイシは約束通り元の場所へ戻り、生き延びて成人した後、董胡を薬膳師として迎えると誓った。

満月の迎え

翌日、レイシは一日中瞑想を続け、夜になると満月の下で迎えを待った。やがて黒い影のような百人を超える男たちと二つの輿が現れ、翠明という青年がレイシの前にひれ伏した。

レイシは翠明に、董胡に命を救われたことと、自らの運命を受け入れて生き抜く決意を伝えた。さらに誰もが平等に夢を叶えられる世を作り、いつか董胡を薬膳師として雇いたいと告げた。

翠明は、レイシが董胡の饅頭を美味しいと感じたことに驚き、董胡を迎えに来ると約束した。董胡も医師免状を取り、必ず役に立つ薬膳師になると誓った。

レイシとの別れ

レイシは輿に乗る前、董胡の頭を撫で、命を救ってくれたことに感謝した。そして必ず生き延びて迎えに来るため、立派な薬膳師となって再び美味しい饅頭を作るよう告げた。

迎えの一行は月へ向かう黒い煙のように消え、その姿をト殷や楊庵、村人の誰も目にしていなかった。それでも董胡はレイシの約束を信じ、医師免状を得て迎えを待つことだけを目標に努力してきた。

皇帝の后になるよりも、董胡はレイシの専属薬膳師になることを強く望んでいた。

四、即位・立后の式典 

盛大な輿入れ

董胡は玄武の一の姫として、二百人ほどの大行列を伴い麒麟の都へ向かった。沿道では多くの民衆が拝座し、黒と五色で統一された華やかな行列を見送っていた。

董胡は重い衣装と装飾に身を包みながら、大衆の歓迎を目にして皇帝の后となる責任の重さを感じた。今逃げれば楊庵やト殷だけでなく、茶民や壇々らも危険にさらされるため、輿入れ前に逃亡することもできなかった。

王宮の大式典

董胡を乗せた輿は王宮の殿上広場に到着し、青龍、白虎、朱雀の一の姫たちとともに壇上へ並べられた。広場には重臣や官吏、民衆が埋め尽くすほど集まり、董胡は想像を超える式典の規模に圧倒された。

やがて第十七代皇帝の即位式が始まり、神器や冠、玉璽が継承された。董胡は新たに夫となる皇帝の姿を見ようとしたが、御簾や神官に遮られて顔を確認できなかった。

玄武の后

皇帝の即位後、四公から迎えられた一の姫たちが披露された。董胡は皇帝から黄玉の冠と緋色の襷襟を授けられ、正式に玄武の一の姫として皇帝の妻となった。

その後は祝いの膳や酒が運ばれ、朱雀の者たちによる舞踊や雅楽、剣舞が披露された。董胡は初めて見る華やかな催しに目を奪われた。

外れた先読み

式典の終盤、新帝が麒麟の血に伝わる先読みの力を民衆へ示す儀式が始まった。皇帝は弓師が五つの的のどれを射抜くか予言したが、最初の予言から外れてしまった。

慣例に従って三度繰り返されたものの、皇帝はすべての先読みを外した。歴代の皇帝にはなかった失態に、貴族や民衆は騒然となり、麒麟の力が薄れているという不安が広がった。

董胡は皇帝が噂通りのうつけ者なら逃亡の隙を見つけやすいかもしれないと考えた。しかし同時に、自分が大きな不幸へ巻き込まれていくような不安を抱いた。

五、皇帝、黎司 

皇帝・黎司

皇宮の中心

麒麟の都の中心には王宮があり、その中央の皇宮には皇帝の居室や政務を担う殿上院、祈禱殿などが置かれていた。その皇宮で暮らす現皇帝・黎司こそ、五年前に董胡が救ったレイシであった。

皇帝の本名は霊力を持つため、生前は麒麟皇家と一部の神官にしか知らされなかった。黎司は即位後も食事をほとんど受け付けず、董胡が作った出来立ての唐芋饅頭を求めていた。

ト殷との約束

五年前、ト殷は黎司に対し、元の場所へ戻った後は董胡に関わらないよう頼んでいた。礼や手紙も断り、董胡を召し抱えるなら、彼女が何者であっても守れる地位を得てからにしてほしいと告げていた。

黎司はその約束を守り、皇帝となるまで董胡を呼び寄せなかった。しかし、自分が真の皇帝になれるのかという迷いを抱いていた。

失われた麒麟の力

伍尭國の皇帝には本来、天術である先読みの力が備わっていた。しかし血を濃くするために近親婚を重ねた結果、皇族は病弱になり、力も衰えていた。黎司にも翠明との共鳴など僅かな力しか現れておらず、先帝も生涯その力を使えなかった。

即位式の的当ては、皇帝が予言した数字を弓師へ伝えて同じ的を射抜かせる捏造された儀式であった。ところが黎司の予言はすべて外れ、翠明は玄武公が弓師や神官を操って失敗させたと考えていた。

玄武公の企み

玄武公は、弟の翔司皇子こそ皇帝にふさわしいという評判を広めていた。翔司の母は玄武公の妹であり、娘の華蘭とも親しいため、黎司を退位させて翔司を即位させる狙いがあると考えられた。

一方、黎司の母方である朱雀公の家系はすでに力を失っており、黎司には有力な後ろ盾がなかった。玄武公は毒を使った暗殺を重ね、黎司を残虐なうつけ者だと世間に広めていた。

黎司は四公から嫁いだ后たちも暗殺者ではないかと疑い、とりわけ玄武の一の后を警戒していた。

拒食と生きる意味

黎司にとって食事は、土を口に入れるような苦痛であった。食べ物を体が拒絶し、飲み込めば吐き気に襲われた。五年前に董胡が作った食事だけが、苦しまず食べられる本当の食べ物であった。

皇太子だった黎司は、玄武の離宮へ送られる途中で暗殺の危険を察し、逃亡して董胡の治療院へ辿り着いていた。すべてを諦めていた黎司は、董胡から自分のために生きてほしいと言われたことで、生き抜く決意を固めた。

誰もが皇太子としての役割だけを求める中、董胡だけは一人の人間として黎司を必要としていた。平民でも夢を叶えられる世を作り、董胡を薬膳師として迎える約束が、黎司にとって生きる意味となっていた。

董胡を呼ぶ決意

翠明は密偵を通して、董胡が麒麟寮で優秀な成績を修め、医師試験にも合格する見込みだと把握していた。そして董胡を貴族の養子にして王宮へ召すことを提案した。

しかし黎司は、平民でも夢を叶えられる世を作るという約束に反するとして拒んだ。董胡が努力して医師免状を得た一方、自分は何も成し遂げていないと感じ、情けない姿で再会することを恐れていた。

翠明は、黎司の正体を隠したまま董胡を王宮の医官として召し、頃合いを見てレイシのために饅頭を作らせる案を出した。黎司はその提案を受け入れ、玄武公への反撃と改革を進める決意を取り戻した。

しかし黎司と翠明は、警戒していた玄武の一の后が董胡本人であり、すでに王宮へ輿入れしていることに気付いていなかった。

六、后の宮の御膳所 

退屈な后宮生活

董胡は玄武の一の后宮に入って三日で、御簾の中からほとんど出られない生活に耐えられなくなっていた。王宮の料理も高級な食材を使いながら味気なく、薬膳師を目指してきた董胡には不満であった。

茶民と壇々は、華蘭から董胡の出生に疑いを持たされ、以前ほど董胡を敬わなくなっていた。さらに同じ玄武の后宮には皇太后が暮らしており、その侍女たちから軽んじられていたため、董胡への不満も募らせていた。

御膳所の蒸し饅頭

董胡は二人を味方につけるため、御膳所で蒸し饅頭を作ることを提案した。食いしん坊の壇々には黒豆と栗の甘い饅頭を、辛味好きの茶民には鴨肉と芋に薔椒を加えた饅頭を作った。

董胡は大膳寮から届いた薄味の料理にも手を加え、三人で夕餉を囲んだ。茶民と壇々は自分たちの好みに合った料理を心から喜び、董胡への態度を和らげた。董胡は二人の胃袋を掴み、日々の積み重ねで信頼を得ようと考えた。

初見えへの恐怖

茶民と壇々は、皇帝が通うようになれば衣装や化粧を整え、寵愛を得る準備が必要だと張り切った。しかし董胡は、つい先日まで生涯男として生きる覚悟をしていたため、皇帝との初見えを受け入れられなかった。

董胡が無理をされれば皇帝を投げ飛ばすかもしれないと話すと、二人は死罪になると慌てた。そこで月のものが来たと偽り、御簾越しの会話だけで帰ってもらう方法を教えたが、皇帝が噂通りのうつけなら通用しない可能性も残った。

皇太后への挨拶

董胡は后宮に入った直後、皇太后へ挨拶の手紙を送っていたが、返事は届いていなかった。皇太后は華蘭を可愛がっており、董胡を一の后として認めていない可能性があった。

さらに皇太后の侍女たちは茶民と壇々を見下し、王宮の女官頭や侍女頭が集まる大朝会への出席まで押し付けていた。侍女頭が決まっていないため、茶民と壇々は互いに役目を押し付け合った。

侍女頭代理・董麗

董胡は后宮の外へ出られる好機と考え、自ら大朝会へ出席することにした。鼓濤であることを隠すため、木札には侍女頭代理の董麗と記し、目立たない装いで后宮を出た。

久しぶりに一人で貴人回廊を歩いた董胡は、警備や人の流れ、各宮の出入り口を観察し、王宮内の地理を頭に刻んだ。逃亡の手掛かりを得るため、周囲の情報を細かく集めていった。

初めての大朝会

大朝会では、中務局の叡条尚侍が女官たちを取りまとめていた。先帝時代の后宮の序列は、皇太后のいる玄武が筆頭で、白虎、青龍、朱雀と続いていた。

新帝の時代には、皇帝が各后宮へ通う回数や皇子の誕生によって序列が変わり、化粧品や食材、宝飾などの配給にも影響すると説明された。董胡は薬剤や珍しい生薬に興味を持ったが、他の侍女頭たちは互いに強い敵対心を向けていた。

皇帝と弟宮の対立

皇帝の侍女頭・優と、弟宮の侍女頭・郭美は激しく対立していた。郭美は弟宮が皇帝に等しい公務を担っているとして、皇帝と同じように専属女官を使う権利を求めた。

優が謀反に等しいと反論すると、郭美は弟宮の方が皇帝にふさわしく、即位式の的の数字も事前にすべて言い当てていたと主張した。さらに皇帝が宮女を斬り捨てるという噂や、即位後も后宮へ通っていないことを持ち出し、皇帝の資質を疑った。

叡条尚侍は皇帝に代々の習わしを説明し、郭美の要望も伝えると決めた。二人の争いが注目を集めたため、董胡は正体を疑われずに大朝会を終えられた。

四后宮の侍女頭

朝会後、朱雀、白虎、青龍の侍女頭たちは、董胡に皇帝から初見えの連絡があったかを尋ねた。どの后宮にも声がかかっておらず、三人は皇帝がうつけで残虐だという噂に不安を抱いていた。

朱雀の侍女頭は、皇帝が朱雀の姫を母に持つにもかかわらず、朱雀が先帝時代の序列で最下位なのを不満に思っていた。主である朱雀の一の姫が最も美しく、皇帝の寵愛を得れば次の大朝会では筆頭になると自信を示した。

董胡の顔立ちが玄武人らしくないことにも警戒し、玄武の一の后と似ているのかと尋ねた。董胡は本人であることを隠して答えを濁し、正体を知られずにその場を切り抜けた。

七、初見えの儀式 

玄武の初見え

皇帝は朱雀、青龍、白虎の后宮を訪れた後、期限ぎりぎりで玄武の后宮にも初見えの先触れを出した。董胡は華やかな衣装を整えられ、皇帝が無理に御簾へ入ろうとした場合は月のものを理由に断ろうと考えながら待った。

夜半に現れた皇帝は燭台の火を消し、董胡が玄武公から送り込まれた敵ではないかと問い詰めた。さらに神器の剣を振るい、御簾と蝋燭を切り裂いた。死を覚悟した董胡が頭を下げると、皇帝は董胡を玄武公の替え玉と判断し、害をなさない限り手を出さず、夫婦として睦むつもりもないと告げて去った。

切れた神器

黎司は後日、御簾を切った神器の剣で巻き藁を切ろうとしたが、まったく刃が通らなかった。黎司は警告のために剣を振っただけであり、御簾に届かないはずだったと翠明に説明した。

神器の剣は実戦用ではなく、長年研磨もされていなかった。黎司は玄武の后を警戒していたが、単なる替え玉であれば怖がらせたことを少し反省し、新しい御簾を贈るよう翠明に命じた。

黎司は即位時に剣と鏡の二つの神器を継承していたが、古い文献では神器は三つとされていた。三つ目は十代皇帝の頃に失われており、皇帝が麒麟の力を失い始めた時期と重なるため、黎司は天術の衰退との関係を疑った。

董胡失踪の知らせ

翠明は麒麟寮へ董胡を迎えに行かせたが、董胡が突然行方不明になったとの報告を受けた。玄武公の次男より優秀な成績を収めたため消されたという噂や、董胡が消えた日に玄武の輿が麒麟寮を出たという証言もあった。

黎司は、五年前から生きる支えとしてきた董胡が玄武公に害されたと思い込み、激しい怒りと絶望に襲われた。そして事情を確かめるため、再び玄武の后宮へ向かうことを決めた。

踏みつけられた饅頭

董胡は御膳所で饅頭を作りながら、初見えが最後だったため玄武の后宮の序列が下がり、食材の質も落ちたことを知った。それでも皇帝に嫌われたことで再訪はないと安心し、楊庵やト殷と連絡を取る方法を探そうとしていた。

しかし皇帝はその夜、再び玄武の后宮を訪れ、斗宿の麒麟寮から消えた医生について尋ねた。正体を疑われたと焦った董胡は、機嫌を取るため壇々に手作りの饅頭を出させた。

黎司は壇々の震えを毒殺の企みと誤解し、饅頭を払い落として踏みつけた。董胡は壇々に残った饅頭を食べさせて無毒であることを証明し、侍女は美味しい饅頭を食べてもらおうとしただけだと毅然と告げた。黎司は自らの誤解に気付き、何も言わずに立ち去った。

壇々の高熱

翌日、壇々は皇帝への恐怖と極度の緊張から高熱を出した。典医寮の医官は風邪と診断したが、董胡は咳や喉の腫れがないことから、精神的な衝撃によるものだと見抜いた。

必要な薬剤や鍼を自由に使えない董胡は、皇太后に専属医官がいると知り、自分自身を玄武の一の后付き専属医官として登録することを思いついた。

専属医官・董胡

董胡は玄武公から授けられた医師免状と一の后の木札を使い、玄武の一の后付き専属医官・董胡として典医寮へ申請した。章景の書いた免状と庵治石の印章によって疑われることなく認められ、医官服と器具を受け取った。

医官となった董胡は宮内局と玄武の后宮を自由に行き来できるようになった。男装姿なら鼓濤と気付かれにくいため、壇々の薬を受け取るとともに、楊庵やト殷へ連絡する手段を探そうと考えた。

翠明との再会

宮内局の薬庫で壇々の薬を受け取った董胡は、背後から名前を呼ばれた。逃げようとしたところで手首を掴まれ、相手が五年前にレイシを迎えに来た翠明であることに気付いた。

翠明は董胡を捜すため麒麟寮へ使いを送っており、行方不明になったと聞いて暗殺を疑っていた。董胡は自分が鼓濤であることを隠し、医師免状を受け取りに黒水晶の宮へ招かれ、そのまま玄武の一の后付き医官に任命されたと説明した。

翠明は董胡の話を信じ、レイシが約束を忘れず、董胡を薬膳師として望んでいると伝えた。董胡はレイシが王宮の皇宮で神官のような役目を担っていると聞き、一目だけでも会いたいと願った。

董胡への涙

黎司は、玄武の后が壇々を庇った言葉から、五年前に董胡が自分を助けたかっただけだと涙を流した場面を思い出していた。自分が当時と同じように善意を踏みにじったことを悔い、董胡を失った悲しみから涙を流した。

そこへ翠明が現れ、董胡が生きており、玄武の一の后付き医官として王宮にいると報告した。黎司は絶望から一転して喜び、翠明に案内されて董胡の前へ姿を見せることになった。

五年ぶりのレイシ

董胡は皇宮を囲む植え込みに隠れ、翠明とレイシが現れるのを待った。やがて回廊に現れた青年が被衣を下ろすと、五年前より成長し、さらに精悍さを増したレイシの姿が現れた。

董胡は夢に見続けた再会が叶ったことに涙を流した。レイシも周囲を警戒して言葉は発しなかったが、董胡を見下ろして柔らかく微笑んだ。

董胡はレイシこそ自分が仕えたい唯一の人物だと改めて確信し、変わらぬ忠誠を胸に深く頭を下げ続けた。

八、皇帝の薬膳饅頭 

レイシとの再会の余韻

翠明に正体を知られ、レイシと再会した董胡は、その姿を思い返してぼんやりするようになった。茶民と壇々には恋煩いを疑われたが、董胡はレイシの存在を明かさず、王宮で拾った棗を使って甘煮を作ろうとした。

帝が二度目に玄武の后宮へ渡ったことで序列は再び最上位となり、食材も優先して得られるようになった。董胡は帝とは決別できたと思っていたが、帝から謝罪と饅頭を求める手紙が届き、再訪が決まった。

饅頭を求める帝

帝は毒見役を連れて玄武の后宮を訪れ、前回の非礼を謝罪した。董胡は饅頭を自分の召し抱えた薬膳師が作ったものだと偽り、干しエビと松の実を使った饅頭を差し出した。

帝は董胡の饅頭を美味しいと喜び、次々に食べた。董胡も、自分の料理で帝が喜ぶ姿に温かな気持ちを抱き、帝を以前ほど悪い人物だとは思わなくなった。帝は再び訪れると告げて帰った。

董胡の饅頭

黎司は翠明に、玄武の后宮の薬膳師が董胡であると確信したことを伝えた。董胡の料理だけは苦痛なく食べられ、体に力が満ちる感覚があったため、毎日でも通いたいと望んでいた。

翠明は董胡を皇帝付きにすることを提案したが、黎司は平民でも夢を叶えられる世を作るという約束を果たしていないため、権力だけで召し上げることを拒んだ。また、董胡が玄武の后に大切にされていると考え、当面は正体を明かさず饅頭を受け取ることにした。

殿上会議の圧力

初めての殿上会議では、玄武公をはじめとする四公が、即位式で先読みを外した黎司を遠回しに嘲った。太政大臣の孔曹だけが黎司を庇ったが、会議は皇帝を無視して四公を中心に進められた。

玄武公たちは紅葉の宴で黎司と弟宮の翔司に先読みを競わせる案を出した。玄武公が再び仕組まれた的当てによって翔司を勝たせ、皇帝にふさわしい人物として示そうとしていることは明らかであった。しかし黎司には会議の決定を覆す力がなかった。

祈禱殿の魔毘

黎司は祈禱殿で、富と権力を独占する四公から国を守る力を求めて祈った。しかし何も見えず、味方の少なさと自らの無力さに絶望した。

その時、祈禱殿の暗がりに赤い髪で片目を隠した黒衣の男が現れた。黎司はなぜかその男の名が魔毘だと分かったが、魔毘は不気味に笑い、闇へ溶けるように消えた。

毎夜の饅頭

黎司は連日のように玄武の后宮へ通い、董胡の饅頭だけを食べて帰るようになった。董胡は帝の味覚が幼子のように未発達であることから、長い拒食状態にあると考え、レイシに作るつもりで薄味の饅頭を工夫した。

董胡はレイシが王宮にいると分かったため、自分が王宮から逃げる必要はなくなったと考えた。しかし一の后である鼓濤が消えれば、茶民や壇々らが処罰されるため、すぐに医官の董胡としてレイシのもとへ行くことはできなかった。

薬膳師の引き抜き

帝は董胡の饅頭を高く評価し、薬膳師に褒美を与えたいと申し出た。さらに皇帝付きとして譲ってほしいと頼んだが、董胡は家族のように大切な者であるとして断った。

帝は無理に召し上げることなく、董胡の願いを受け入れた。その態度から、董胡は帝が噂されるほど横暴ではなく、本来は穏やかで聡明な人物ではないかと考えるようになった。

董胡の励まし

黎司は自分の治世が短く終わる可能性を語り、紅葉の宴が最後になるかもしれないと弱音を吐いた。退位した後は董胡を自由にすると告げ、薬膳師を大切にするよう頼んだ。

董胡は五年前に自暴自棄だったレイシを思い出し、希望を捨てず、自分のためにも諦めないでほしいと励ました。そして皇帝は伍尭國の民すべてから必要とされる存在であると伝えた。

その言葉によって黎司は、皇帝として自分の弱さばかりを嘆き、民のために祈るという本来の役目を忘れていたことに気付いた。黎司は初心に返り、民の心に寄り添う皇帝として、もう一度できる限りのことをすると決意した。

九、紅葉の宴 

紅葉の宴

紅葉の宴には皇帝や重臣、四人の后が集まり、朱雀の芸妓団が華やかな舞を披露していた。董胡は玄武公から、帝と弟宮による先読み比べが行われると聞かされた。

玄武公は、帝が弟宮に敗れれば民の支持を失い、退位へ追い込まれるとほのめかした。さらに用済みとなった董胡も、華蘭に危険視されているため無事では済まないと脅した。董胡は、玄武公が帝だけでなく自分も駒として使い捨てようとしていると悟った。

白紙の予言

先読み比べでは弓師が三の的を射抜き、弟宮の紙には三と書かれていた。一方、帝の紙は白紙であり、人々は勝負を放棄したのだと失望した。

しかし帝は、的当ては民を救わない茶番であるとして廃止を宣言した。そして創司帝が行っていた封の儀式を復活させ、民の平安を願う本来の皇帝の務めに戻ると告げた。

張宿への詔

帝は封の儀式で三つの災厄を視たと話し、五日以内に朱雀の張宿で大風と洪水が起こると予言した。村人には早急な収穫と家財の収納、川辺から高台への避難を命じた。

玄武公たちは、外れれば帝を廃位へ追い込めると考え、予言を広く知らせることにした。帝自身も、予言が外れれば罪を負う覚悟を示し、災害が起きなければそれが最善だと語った。

弟宮を操る玄武公

宴の後、玄武公は白虎公や章景、弟宮の翔司と帝の失脚を確信していた。翔司は玄武公から黎司が宮女を斬り捨てたと教えられ、兄を冷酷な皇帝だと信じていた。

玄武公は予言が外れた後に民を扇動し、翔司を即位させ、華蘭を一の后として送り込む計画を進めた。翔司は自分が玄武公に利用されているとは知らず、兄に代わって国を治めることが正しいと信じていた。

棗の木の下

翠明は式神を使い、董胡だけが解読できる生薬の暗号で呼び出した。董胡が夜半に棗の木の下へ向かうと、皇宮の回廊にレイシと翠明が現れ、式神を通して会話を交わした。

レイシは、自分の立場が危うく董胡を守れないため、五年前の約束を忘れてほしいと頼んだ。しかし董胡は、薬膳師になること以上に、レイシの専属薬膳師になることが夢だと告げた。

董胡は、たとえ帝が廃位され未開の地へ流されても、レイシと共に行くと宣言した。レイシはその決意を受け入れ、どのような茨の道でも共にあるよう命じた。

天術の目覚め

黎司は翠明に、張宿の災害を確信していたわけではないと明かした。それでも予言が現実になれば多くの民が死ぬため、自分が廃位される危険を承知で告げていた。

玄武の后に励まされた後、黎司は民の平安だけを願って祈禱殿で祈り続けた。そこで再び魔毘が現れ、祭壇の銅鏡を指し示した。鏡には張宿の大風や洪水をはじめ、三つの悲惨な未来が映し出された。

黎司はそれが真の天術か確信できなかったが、翠明は董胡の食事によって体が整い、本来の力が目覚めたのだと信じた。黎司は自分の予言が外れるよう祈ることが、皇帝として民を守る正しい道だと悟った。

董胡の決別準備

五日目の朝になっても晴天が続き、帝の予言は外れたと思われた。董胡は帝やレイシと運命を共にする覚悟を固め、玄武公に殺される前に鼓濤として姿を消す計画を進めた。

董胡は后宮の者たちに眠り薬を飲ませ、自分が気乱れの末に逃亡したように見せかけようとした。茶民と壇々には、自分を嫌っていたと証言して罪を免れるよう頼んだ。

しかし二人は、董胡がこれまで仕えた誰よりも優しく、共に過ごした日々が幸せだったため、悪く言うことはできないと泣いた。董胡は二人を家族のように感じながらも、生き延びてほしいと願い、楊庵へ届ける暗号の手紙を託した。

張宿の大風

その直後、晴天だった空に黒い雲が広がり、朱雀の方角から突風が吹き始めた。張宿では皇帝の言葉を信じて収穫や避難を済ませた者たちが、大きな被害を免れた。

一方、貴族の言葉を信じて何も備えなかった地主たちは、田畑や家屋に大きな損害を受けた。村社の神官たちが高台の御堂へ住民を受け入れたことで、死者は異例なほど少なく済んだ。

尾宿の火災

予言が的中したことに動揺した玄武公は、事実を他の地域へ知らせないよう命じた。しかしその前に、帝は青龍の尾宿で三日以内に大火が起こるという新たな詔を出した。

玄武公たちは火を使わせなければ予言を外せると考え、村での火の使用を厳しく禁じた。それでも三日目の夕方、落雷によって衛兵の詰所から火が上がった。

村人たちは帝の詔に従って貯めていた水を使い、神官や信者たちの助けも得て火を消し止めた。帝の言葉によって大火が防がれたため、村人や衛兵は黎司を真の皇帝として崇めるようになった。

玄武公が帝の無力を証明するために広めた詔は、結果として朱雀と青龍に黎司を熱心に信奉する民を増やすことになった。

十、三つ目の先読み 

変化する未来

黎司は水殿で禊を行いながら、先読みが的中しても災害を防げなかった以上、手放しでは喜べないと翠明に語った。未来は人々の行動によって刻々と変化し、朱雀の大風への備えが青龍の火事の被害まで小さくしていた。

三つ目に視えていたのは、四公に扇動された民衆が各地で暴動を起こし、黄軍まで寝返る未来であった。その先には黎司が島流しとなり、董胡も共に小舟へ乗る姿が映っていた。しかし二度の先読みが的中したことで未来は変わり、暴動は収まりつつあった。

新たな未来

黎司は暴動の消えた未来を願って祈禱殿の銅鏡を見つめた。暴動の光景は現れなかったものの、代わりに想像もしなかった新たな未来が映し出され、黎司は衝撃を受けた。

天凜烏頭の注文

青龍の火事から三日後、董胡は医官姿で王宮の棗を拾い、薬庫の医官である万寿へ分け与えた。万寿は、玄武の皇太后付き医官が天凜烏頭を求め、保管されていた見本品を持ち去ったと明かした。

天凜烏頭は水に毒が溶け出し、皮膚から吸収されても命を奪う危険な毒草であった。董胡は、先読みによって追い詰められた玄武公が黎司の暗殺を企てているのではないかと疑った。

二公の密談

玄武の后宮へ戻った董胡は、玄武公と白虎公の輿を見つけた。二人が皇太后の宮にいると知ると、医官服を着たまま床下へ潜り込み、密談を盗み聞きした。

玄武公は白虎公に、天凜烏頭の毒を黄金泉へ流し込むよう命じていた。黎司が封の儀式の前に黄金泉の水で禊を行うため、毒を皮膚から吸収させて暗殺する計画であった。

白虎公は神聖な泉を汚すことを恐れたが、玄武公は互いの不正が暴かれれば共倒れになると脅し、実行を押し付けた。

白虎公への偽命

玄武公が立ち去った後、董胡は玄武の印を外し、髪をほどいて白絹姿となった。そして玄武公から暗殺を引き継ぐよう命じられた者を装い、白虎公の前へ姿を現した。

董胡は天凜烏頭の毒性を詳しく説明し、壺を傾けるだけでも命を落とす危険があると白虎公を怯えさせた。白虎公は玄武公の命令だと信じ、毒の入った壺を董胡へ渡して立ち去った。

董胡は玄武公と白虎公が再び話す前に毒を奪えたことに安堵した。天凜烏頭の抽出には時間がかかり、予備がなければ暗殺を一時的に阻止できたはずであった。

十一、玄武の后宮にて 

変わった三つ目の未来

黎司は水殿で禊を行いながら、先読みが当たったことよりも防ぎ切れなかった犠牲を悔やんでいた。未来は人々の意識と行動によって変化し、朱雀の大風への備えが青龍の火事を小火にまで縮小させていた。

三つ目に視えていたのは、四公に扇動された民衆が暴動を起こし、黄軍まで寝返った末に黎司が島流しとなる未来であった。しかし二つの災害を予告したことで暴動は消え、新たな未来へ置き換わった。黎司が祈禱殿で確認すると、今度は想像もしなかった光景が映し出された。

天凜烏頭の行方

董胡は薬庫の医官・万寿から、皇太后付きの医官が天凜烏頭を持ち出したと聞いた。天凜烏頭は水に毒が溶け、皮膚から吸収されても命を奪う猛毒であった。

玄武公の暗殺計画を疑った董胡は玄武の后宮へ戻り、皇太后の宮に玄武公と白虎公が来ていることを知った。床下へ潜って密談を盗み聞きすると、玄武公は黄金泉へ毒を流し、禊を行う黎司を殺すよう白虎公へ命じていた。

毒壺の奪取

玄武公が立ち去った後、董胡は髪をほどいて白絹姿となり、玄武公の命を受けた者を装って白虎公の前へ現れた。天凜烏頭の恐ろしい毒性を詳しく説明すると、怯えた白虎公は黒い毒壺を董胡へ渡した。

董胡は毒を奪うことに成功し、翌日まで皇宮に異変が起きなかったことで黎司の無事を確認した。

紅白饅頭

久しぶりに黎司が玄武の后宮を訪れると知り、董胡は先読みの成功を祝う紅白饅頭を作った。さらに棗へ黒糖を絡めた胡桃を詰め、レイシにも届くよう手土産として用意した。

黎司は饅頭を美味しいと喜び、董胡と薬膳師の料理が自分に力を与えたと感謝した。董胡も、玄武公の思惑とは関係なく黎司の勝利を心から喜んでいると伝えた。

白虎公の災難

黎司は三つ目の未来について、当初は禊の水に浮かんで死んでいる自分の姿が視えていたと明かした。しかしその未来は突然変わり、白虎公が階段から転落して鼻の骨を折る光景となり、すでに現実になっていた。

白虎公は狐に化かされた、罰が当たったとうわごとを口にしていた。董胡は毒壺を渡した自分を妖狐と思い込んだのだと悟り、黄金泉の水を黒い壺に入れて見舞いとして贈るよう黎司へ提案した。

黄金泉の鯉

董胡は皮膚から入る猛毒があると黎司へ警告し、黄金泉の水に鯉を放つよう勧めた。毒が混入すれば鯉が死んで異変を知らせ、毒を入れようとする者への抑止にもなるためであった。

黎司は董胡の発想を面白く聡明だと褒め、次第に彼女へ強い興味を抱いた。

御簾の向こうの顔

黎司は董胡の顔を見たいと言い、御簾の中へ入ろうとした。董胡は慌てて侍女の控えの間へ逃げたが、茶民と壇々に押し戻された。

董胡が几帳の陰から黎司の横顔を垣間見ると、その姿は五年前のレイシと重なった。帝がレイシ本人ではないかという疑いが生まれ、董胡は真実を打ち明けようと決意した。

告白の断念

董胡が口を開こうとした時、黎司はまだ玄武の后を信用していないと告げた。幼い頃から玄武公に何度も命を狙われ、先読みの力を示した今はさらに警戒が必要であると考えていた。

一方で、黎司は董胡と過ごす時間を楽しみにしており、信じたい気持ちもあると打ち明けた。しかし玄武公の娘に心を許すことはできないと告げたため、董胡は正体を明かせば黎司をさらに危険へ追い込むと考え、告白を断念した。

鼓濤の名

黎司は初めて董胡の后としての名を尋ねた。董胡が鼓濤と答えると、黎司は良い名だと心に刻むように呼んだ。

本来は捨てたいと思っていた鼓濤という名を黎司に呼ばれ、董胡の胸には甘い感情が生まれた。しかしその思いを打ち消し、正体を隠したまま形だけの后であり続ける道を選んだ。

黎司は再び饅頭を食べに来てもよいかと尋ね、董胡は帝の望むままにと答えた。

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