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尾道理子皇帝の薬膳妃

小説「皇帝の薬膳妃 黒水晶の宮と哀しみの記憶」感想・ネタバレ

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皇帝の薬膳妃11の表紙画像(レビュー記事導入用) 尾道理子

薬膳妃 10巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 12巻レビュー

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物語の概要

■ 作品概要

本作は、男装の薬膳師と皇帝の后「鼓濤」という二重生活を送ってきた少女・董胡の秘密がついに皇帝・黎司に知られてしまった、大人気王宮アジアンファンタジーシリーズの第11弾である。
マゴイに操られて崖から転落し、尊武の離宮に幽閉された董胡は、そこで尊武の長い髪がマゴイと同じ「銀髪」であるという驚愕の秘密を知ってしまう。
本作では、尊武がかつて心優しき公子だった過去や、董胡の母・濤麗が殺害された17年前の凄惨な一夜の真相がすべて白日の下にさらされる。 一方、尊武から董胡が死んだと偽りの報告を受けて憔悴しきっていた皇帝・黎司は、天術によって彼女の生存を確信し、囚われの彼女を救い出すため自ら離宮へと迎えに行く決意を固める。
黎司と尊武、二人が抱く異なる「執着」が激しく交錯する、緊迫の物語が紡がれる。

■ 主要キャラクター

  • 董胡(とうこ):男装の薬膳師とお后様を演じてきた主人公である。自分の料理が人に執着を植え付ける「麒麟の呪い」ではないかと苦悩しながらも、幽閉された離宮からの脱出と楊庵の救出を模索する。
  • 黎司(れいじ):伍尭国の第十七代皇帝である。董胡が偽の后であると知りながらも一途に愛し、天術によって彼女が生きていると確信すると、皇帝の地位や命すら投げ打って自ら離宮へ迎えに行く覚悟を決める。
  • 尊武(そんぶ):玄武公の跡継ぎで宮内局長を務める。濁流から董胡を救って離宮に幽閉し、黎司には「董胡は死んだ」と冷酷な嘘を報告する。本来はマゴイの銀髪を持ち、八歳に経験した母の事件と高熱を契機に冷徹に変貌した壮絶な過去を隠していた。
  • 界弦(かいげん):幼い頃から尊武を守り、彼の孤独を誰よりも理解している忠実な側近護衛である。地下の「暗衛部隊」を預かるが、董胡の麒麟の力が尊武の「悪しき衝動」を救うと信じ、彼女に尊武の側に残ってほしいと懇願する。
  • 楊庵(ようあん):董胡の兄弟子で皇帝の密偵である。董胡を守るために捕らえられたが、自分の存在が彼女の足枷になることを恐れて自死を試みた末、阿芙蓉を吸わされ催眠状態で操られる「七幡」となり、鍼を用いた暗殺者へ変貌させられる。
  • 空丞(くうじょう):近衛軍・黄軍の将軍である。離宮へ幽閉された董胡を守るために軍の地位を捨てて尊武に仕えるふりをし、眠った式神たちの隙を突いて彼女と共に脱出を企てる。
  • 陀那(だな):尊武の母親で、其那国出身のマゴイである。17年前に濤麗を殺害したが、八歳の尊武が遮光の枝を切り落としたことで日光を浴びて失明し、現在は尊武が世界を制服する未来を夢見て暗躍している。
  • 白龍(はくりゅう):董胡が捜し続けていた盲目の天才医師である。実は先々代皇帝とマゴイの姫君の間に生まれた銀髪の医師であり、朱璃の依頼で黎司のもとを訪れて重大な真実を伝える。

■ 物語の特徴

  • 尊武の「銀髪」に隠された、凄惨な変貌の真実 それまで冷徹無比だった尊武がかつては心優しい公子であり、八歳の時に母・陀那が犯した「濤麗殺害」を阻止しようとして自ら母の顔を焼き、マゴイの血(悪しき衝動)が目覚めて銀髪に変貌したという凄惨な過去が明かされる。
  • 「麒麟の呪い」に苦しむ董胡と、執着から生まれる救い 董胡は自身の作る料理が相手に異常な執着を生み出して破滅へ導く「料理の呪い」であることを知って深く傷つき、料理を封印しようとする。しかし界弦は、マゴイの冷酷さに染まった尊武にとって、董胡への執着こそが人間らしい思いやりや迷いを取り戻させる唯一の「救いの光」であると告げ、二人の関係性に新たな視点を与える。
  • 絶望から立ち上がる黎司の「迎えに行く」圧倒的な覚悟 董胡を失ったショックで水すら受け付けず死の淵まで衰弱した黎司は、魂を飛ばす天術の中で離宮に囚われた董胡たちの生存を確信する。董胡が黎司を守るために離宮に残ろうとする誤解を解き、大切な人を一番近くで守るため、自ら食事を摂って生気を取り戻し、皇帝としてではなく個人として離宮へ迎えに行く決意を固める熱いドラマが描かれる。
  • 離宮の地下で蠢く「阿芙蓉の暗衛部隊」と楊庵の暗殺術 離宮の地下には、其那国の阿芙蓉(極楽金丹の原料となる芥子)を吸わされて心を放棄し、高い戦闘能力を与えられた生身の男たちの「私軍」が存在することが明かされる。操られて「七幡」となった楊庵が、医師としての知識を応用した「鍼による暗殺術」を振るう衝撃のサスペンス要素が物語をさらに引き締めている。

書籍情報

皇帝の薬膳妃 玄武の離宮と囚われの后
著者:尾道 理子 氏
出版社:KADOKAWA角川文庫
発売日:2026年1月23日
ISBN:9784041170472

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あらすじ・内容

尊武の正体は一体――!? 大人気王宮アジアンファンタジー第11弾!
薬膳師と妃の二重生活を送っていた董胡。隣国の悪魔のような一族・マゴイに操られ、崖から落ちたところを尊武に助け出されたあと、董胡は尊武の離宮に囚われていた。
自身の秘密をついに皇帝・黎司にも知られ、すべてを失ってしまったと途方に暮れる董胡だったが、そのさなか、尊武の大きな秘密を知ってしまう。なんと彼の髪はマゴイと同じ銀髪であった――。尊武はマゴイなのか、彼の目的は何なのか。彼が心優しき公子だったころの過去と、濤麗が亡くなった、あの悲惨な一夜の真相がすべて明かされる!
一方、尊武から董胡が死んだと報告を受けた黎司は、すっかり憔悴しきっていた。しかしマゴイからの脅威が迫る伍尭國の危機を乗り越えるため、黎司は董胡が必ず戻るという希望を抱き続け、奮い立とうとするが……。

黎司と尊武、彼らが抱く形の違う董胡への執着が、いま物語を動かす。
王宮アジアンファンタジー、激動の第11弾!

皇帝の薬膳妃 黒水晶の宮と哀しみの記憶

感想

尊武の銀髪が露見したことをきっかけに、彼の凄絶な過去と、董胡や黎司へ向けた歪んだ執着が明らかになっていく。

尊武は黎司に董胡が死んだと思わせる一方、董胡には黎司が正体を知って嫌悪し、もう会いたくないと言っていると嘘を吹き込んだ。互いを強く想い合っている二人が、尊武の嘘によって引き離され、それぞれ絶望していく展開が非常にもどかしかった。

さらに董胡は、人々を癒やすために磨いてきた五色の光を視る料理の力が麒麟の力であり、その副作用によって料理を食べた者が異常な執着に陥り、破滅へ向かう可能性があると知った。自らの生き甲斐だった料理が、大切な人々を苦しめる呪いにもなっていたという事実に直面し、董胡は二重の衝撃を受けることになった。

本作は、これまで散りばめられていた多くの謎が一気に明かされると同時に、登場人物たちの葛藤が極限まで高まった第11弾である。尊武の過去、マゴイの血、麒麟の力、董胡と黎司のすれ違いが複雑に絡み合い、物語が大きく動き始めた。

尊武の銀髪と凄絶な過去

尊武がマゴイの血を引いていることが明らかになり、八歳の頃に銀髪へ変わった経緯も語られた。

幼い頃の尊武は、母親思いで弱い者にも優しい公子だった。しかし、母・陀那が濤麗を殺し、赤子だった鼓濤まで手にかけようとする現場を目撃する。尊武は鼓濤を守るため、陀那を日光にさらして重傷を負わせた。

母が人を殺す姿を目撃し、自らの行動で母の顔を焼き、片目の視力まで奪ってしまった。その衝撃によって尊武の中のマゴイの血が目覚め、髪が銀色へ変わると同時に、激しい怒りや破壊衝動に苦しむようになった。

現在の冷酷な尊武からは想像しにくいが、彼は最初から残虐な人間だったわけではなかった。自分の中に湧き上がる悪意に抗い、自らの犯した罪に苦しみ続けていたことが分かり、尊武への印象が大きく変わった。

十五カ月児と尊武の出生

マゴイの女性が十五カ月児を産むという話から、玄武公は尊武が自分の実子ではなく、先帝と陀那の子ではないかと疑い始めた。

陀那はもともと先帝の后として伍尭國へ送られていたが、恐れた先帝によって玄武公へ下賜されていた。尊武が十五カ月児であったなら、玄武公へ嫁いだ後に生まれていても、実際には先帝の子である可能性があった。

尊武が先帝の落胤であり、黎司の異母兄かもしれないという事実は大きな衝撃だった。玄武公の跡継ぎとして生きてきた尊武が、本来は皇族として育ち、場合によっては皇帝になっていたかもしれない存在だったのである。

一方の玄武公は、鼓濤に続いて尊武まで自分の子ではないと思い込み、再び裏切られたという憎しみに支配されていった。濤麗を失った悲しみから立ち直れないまま、周囲への憎悪を深めてきた玄武公の姿も痛々しかった。

尊武が仕掛けた二つの嘘

尊武は董胡を自分の離宮へ留めるため、黎司と董胡の双方へ嘘をついた。

黎司には、董胡は濁流に流されて死んだと思わせた。さらに董胡は偽の后であることを恐れ、黎司の許へ戻ることを拒み、自分を兄以上に慕っていたと語った。

一方の董胡には、黎司は董胡が本物の鼓濤だと知った上で、もう顔も見たくないと言っていると伝えた。

二人とも尊武の言葉を疑いながら、相手が自分を拒絶したのではないかという不安を拭えなかった。互いに会いたいと願っているのに、その想いが届かず、それぞれが自分は嫌われたと思い込んでいく展開は非常にもどかしかった。

尊武の嘘は単なる意地悪ではなく、董胡を手放したくないという異常な執着から生まれていた。董胡を失えば自分も生きられなくなると理解した尊武は、黎司が衰弱し、伍尭國が崩壊する可能性まで承知した上で董胡を奪おうとしていた。

麒麟の力がもたらす残酷な真実

董胡が人々を癒やすために磨いてきた、五色の光を視る料理の力の正体も明らかになった。

董胡の料理には麒麟の力が宿り、食べた者の心を強く引き付ける作用があった。その力は人を救う一方で、相手によっては異常な執着へ変わり、破滅に導く呪いにもなっていた。

黎司が董胡の料理しか受け付けなくなったことも、尊武が董胡を手放せなくなったことも、この麒麟の力が関係していた。

人を癒やしたいという純粋な思いで作ってきた料理が、知らないうちに大切な人々を狂わせていたかもしれない。その事実を知った董胡の絶望は計り知れなかった。

しかも、料理人が同じ材料と分量で料理を再現しても、董胡が作ったものと同じ味にはならなかった。董胡自身が調理することで麒麟の力が宿るため、誰かへ作り方を教えるだけでは解決できなかったのである。

董胡にとって料理は生き甲斐であり、自分が人の役に立てる大切な手段だった。それを封じなければならないと考える姿は非常に苦しかった。

董胡が尊武にもたらした変化

界弦の話によって、董胡への執着が尊武にとって呪いだけではなく、救いでもある可能性が示された。

尊武は董胡と出会ってから、董胡本人だけでなく、彼女が大切に思う楊庵や空丞の命まで惜しむようになった。以前の尊武なら、邪魔になる相手は迷わず殺していたはずである。

しかし董胡が悲しむことを意識するようになったことで、尊武の中に他者への思いやりや迷いが戻り始めた。

界弦は、マゴイの恐ろしさは他者への執着を失い、物事を損得や善悪だけで切り分ける極端な思考にあると考えていた。誰ともつながらず、誰の痛みにも影響されなかった尊武の世界へ、董胡が初めて入り込んだのである。

董胡への執着は尊武の弱点になったが、その弱さこそが、尊武をマゴイの血から解放する道になるのかもしれなかった。

地下に隠された暗衛部隊

尊武の離宮の地下には、阿芙蓉によって意思と感情を奪われた男たちで構成された私軍が存在していた。

男たちは貧困や戦争、家族の死によって生きる希望を失い、自ら支配される道を選んでいた。食事と寝床を与えられる代わりに、阿芙蓉なしでは生きられず、尊武や界弦の命令に従う存在となっていた。

捕らえられた楊庵も、董胡の足枷になりたくないと自死を選ぼうとし、それを止められた末に董胡を忘れることを望んで催眠状態にされていた。

董胡を救おうとした楊庵が、逆に鍼を使う暗殺者として董胡を殺しかける展開は残酷だった。

尊武はこの部隊を使って伍尭國を支配する選択肢も持っていた。マゴイと手を組み、世界の覇者となる未来まで示されており、董胡の選択が国の存亡を左右する状況になっていた。

絶望による黎司の衰弱

尊武から董胡が死んだと聞かされた黎司は、それでも亡骸を見るまでは信じないと捜索を続けた。

しかし、董胡が自分ではなく尊武を慕い、自分を皇帝として恐れていただけだと聞かされたことで、精神的に追い詰められていった。

黎司にとって董胡は、皇帝という肩書ではなく、一人の人間として自分を見てくれた唯一の存在だった。その関係さえ思い違いだったと信じ込まされ、董胡と出会う以前の孤独へ戻ってしまったのである。

董胡の料理以外は喉を通らなくなり、粥も薬湯も吐き出し、真水しか受け付けなくなった。董胡の料理に執着している自分を、阿芙蓉の中毒患者のようだと考える姿も痛ましかった。

魂だけの天術

絶望の中で董胡に会いたいと願った黎司は、魂だけの姿となって尊武の離宮へ飛んだ。

そこで地下の私軍や、拘束された空丞を発見した。空丞が尊武へ仕えるためではなく、董胡を守るために黄軍を辞めたことも知った。

さらに黎司は、生きている董胡を自らの目で確認した。

董胡は尊武を慕って離宮に残っていたのではなかった。空丞や楊庵を救い、黎司と伍尭國を守るため、自分を犠牲にして尊武の側へ残ろうとしていたのである。

尊武の話が嘘だったと知り、董胡が今も自分を想っていると理解したことで、黎司は再び生きる希望を取り戻した。

しかし魂の姿では声も届かず、董胡へ触れることもできなかった。董胡も黎司に嫌われたと思い込み、髪の束を抱き締めながら会いたいと涙を流していた。

すぐ近くにいるのに互いの声が届かない場面は非常に切なかった。

黎司の立ち上がり

肉体へ戻った黎司は、一時呼吸まで止まっていたものの、董胡が生きているという希望によって生気を取り戻した。

董胡を自ら迎えに行くと決め、皇帝としてではなく、黎司個人として離宮へ向かおうとした姿が印象的だった。

これまで黎司は王宮から動けず、天術を通して董胡を助けることしかできなかった。しかし今回は、自分の足で董胡の許へ向かい、救い出そうと決意した。

尊武が植え付けた嘘の一端が崩れ、黎司が董胡の本当の気持ちを知ることができた展開は、重苦しい物語の中で大きな希望となった。

総括

本作は、尊武の過去、マゴイの血、麒麟の力、玄武公の愛憎、黎司と董胡のすれ違いが一気につながり、物語が大きく動き出した一冊だった。

特に印象深かったのは、董胡の料理の力が人を救う力であると同時に、異常な執着を生む呪いでもあったことである。

黎司と尊武はどちらも董胡を失えば生きられないほど執着しているが、その表れ方は大きく異なっていた。黎司は董胡を守り、共に生きることを望んだ。一方の尊武は、董胡を得るためなら黎司や伍尭國が滅びても構わないと考えていた。

ただし、その尊武にも董胡との出会いによって人間らしい迷いが戻り始めている。董胡が黎司の許へ帰るのか、尊武の暴走を止めるため離宮へ残るのか。その選択が、二人だけでなく伍尭國の未来まで左右しようとしていた。

董胡が生きていると知った黎司が、自ら離宮へ迎えに行くと立ち上がった場面には大きく興奮した。尊武の嘘によって引き裂かれた二人が再会し、互いの誤解を解けるのか。物語が一気に面白くなり、続きが非常に気になる終わり方だった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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薬膳妃 10巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 12巻レビュー

考察・解説

尊武の銀髪

尊武の銀髪の真実と過去の全貌

『皇帝の薬膳妃』第11巻『黒水晶の宮と哀しみの記憶』において明かされた、尊武の銀髪に隠された驚くべき真実、および彼の過去と宿命について、銀髪の露見と偽装工作、銀髪へと変わった八歳の日々の悲劇、銀髪がもたらすおぞましい衝動と異能、ならびに暴かれた出生の疑惑と玄武公の進軍の各点から解説する。

銀髪の露見と偽装工作

尊武の長い髪は、これまできれいな黒髪であると周囲に思われていた。

・董胡が持っていた白龍由来の磁石付き小物入れと尊武がもみ合った際、磁力の働きによって、髪に塗られていた自然鉄の黒い砂鉄が引き寄せられて剥がれ落ち、隠されていた本来の見事な銀髪が露わになった。
・実は、尊武の母・陀那も其那国出身のマゴイの一族であり、彼女も生前は同じ砂鉄を使って銀髪を黒く染め、周囲に正体を偽って暮らしていた。

銀髪へと変わった「八歳の日」の悲劇

尊武は生まれた時から銀髪だったわけではなく、八歳までは普通の黒髪を持つ、誰からも愛される心優しき公子であった。

・彼が銀髪へと変わる契機となったのは、十七年前に起きた母・濤麗の殺害事件である。
・当時、執着の狂気に囚われていた母・陀那は、赤子だった鼓濤(董胡)の命をも奪おうと短刀を振りかざした。
・これを目撃した八歳の尊武は、妹の命を救うため、界弦の剣を抜いて頭上の大きな木の枝を切り落とした。
・これによって差し込んだ太陽の光は、極端に日光に弱い陀那の顔面を直撃して焼き爛れさせ、彼女の片目を失わせる結果となった。
・罪なき赤子を救うためとはいえ、自らの手で実の母親を傷つけてしまった凄まじい精神的衝撃から、尊武はその夜から命に関わるほどの高熱を出してひと月寝込むこととなった。
・そして、この高熱から回復した際、彼の髪は黒から見事な銀色へと変貌を遂げていた。
・この極限の衝撃こそが、尊武の中に眠っていたマゴイの血を強制的に目覚めさせた引き金であった。

銀髪がもたらす「おぞましい衝動」と「異能」

銀髪への変貌を境に、尊武の心の中にはマゴイ特有の魔物の血が花開いてしまった。

・彼は体の中から湧き上がる、自分でもコントロールできないおぞましい衝動や破壊への怒り、他者を痛めつけたい欲望に支配され、自分が自分でなくなっていく底知れない恐怖にさいなまれて苦しむようになった。
・母・陀那は、冷酷な心に変わっていく息子を見てついに目覚めてくれたと狂喜乱舞した。
・尊武が髪を再び黒い砂鉄で染めている時は、この邪悪な衝動をいくらか抑え込むことができる。
・しかし、銀髪のままの時は自分でも何をするか分からないと、尊武自身が自らの凶暴性を董胡に明かしている。
・また、この銀髪には超自然的な異能が宿っている。
・尊武は日の光を克服した極めて強力なマゴイであり、他者の心を操る強大な力を持っている。
・側近護衛である界弦は、尊武が留守にしている間、尊武の銀髪の束を依り代にすることでその能力を借り、阿芙蓉の香で操られた数十人もの地下暗衛部隊に命令を下し、統率していた。

暴かれた出生の疑惑と玄武公の進軍

この尊武の銀髪の事実や、マゴイの一族が十五カ月もの間、胎内にとどまって生まれてくる十五カ月児という特徴は、父親である玄武公の耳にも入ることとなった。

・陀那がかつて先帝・孝司帝から形式上の正妻として下賜された姫であり、嫁いで一年以上後に尊武を産んだことを思い返した玄武公は、尊武は自分の実子ではなく、先帝の落胤(皇帝・黎司の異母兄)であるという衝撃の事実に辿り着いた。
・愛情を注いできた尊武も鼓濤も自分の血を引いておらず、自身が道化のように騙され続けていたと悟った玄武公は、絶望と怒りのあまり正気を失い、自らの手で尊武や鼓濤、陀那を始末するため、黒軍を招集して尊武の離宮へと進軍を開始する事態となった。

まとめ

尊武の銀髪の真実と過去の全貌を巡る一連の全貌は、磁石の力による砂鉄の剥落と銀髪の露見から始まり、八歳の日の母殺害未遂阻止と精神的衝撃に伴うマゴイの血の覚醒、破壊衝動と髪束を通じた異能の統率、そして先帝の落胤という出生の真相発掘と玄武公の狂気的進軍に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
血脈の呪縛や狂信的な欺瞞という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、宿命の開示と悲惨な真実の解露の記録である。
偽りの黒髪から、衝撃の覚醒、狂気の克伏、血の真実の露見、そして破滅的攻防への突入へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

麒麟の呪い

麒麟の呪いの本質と影響の全貌

『皇帝の薬膳妃』における美しくも残酷な運命の核心である「麒麟の呪い」について、狂気的な執着を生む魅了の力としての本質、尊武の母が恐れた鼓濤への殺意、董胡の絶望と薬膳が引き起こす料理の呪い、および呪いは救いの光になり得るのかという考察の各点から解説する。

麒麟の呪いの本質:狂気的な「執着」を生む魅了の力

麒麟の血を引く者が持つ神通力は、時に周囲の人間に対して、本人の意思とは関わりなく狂気的な愛憎や激しい嫉妬、すなわち執着を植え付けてしまう。

・その最たる例が、董胡の母である皇女・濤麗であった。
・彼女は人や動物、鳥や魚までをも引き寄せる極めて強力な魅了の力を有していたが、この力に魅入られた男たちは、彼女への執着から次第に狂気に囚われていった。
・かつて盲目の医師・白龍が濤麗への嫉妬から心を病んで視力を失ったのも、玄武公(樊武)が麗を独占しようとして執着の鬼と化したのも、すべてはこの麒麟の力がもたらした呪いが原因であった。

尊武の母が恐れた「鼓濤への殺意」

玄武の嫡男である尊武の母・陀那は、この麒麟の力がもたらす恐ろしさを誰よりも早く、そして正確に理解していた。

・彼女は、濤麗に魅入られた男たちは一生その呪いから解き放たれずやがて狂い始めると自らの息子に説いた。
・そして陀那は、生まれたばかりの赤子である鼓濤(董胡)にもその恐ろしい呪いの力が受け継がれ、将来自分の愛する息子である尊武に災いをもたらすことを極限まで恐れた。
・この呪いへの恐怖こそが、陀那が乳飲み子だった鼓濤を殺しようとした殺意の正体であった。
・結果として、濤麗は我が子を守るために身代わりとなって命を落とすことになった。

董胡の絶望:薬膳が引き起こす「料理の呪い」

董胡自身、他人の体調を五色の光として読み解き、その体が欲する最高の味(薬膳)を提供する不思議な力を持っている。

・彼女は、これこそが母から受け継いだ麒麟の呪いの力そのものであると気付き、激しい絶望に陥った。
・董胡の料理を繰り返し食べた黎司、楊庵、そして尊武が、彼女に対して異常なまでの強い執着を宿すようになったのは、知らず知らずのうちに自らの手で作った料理を通じて彼らを呪いにかけていたからではないかと、董胡は激しい自己否定に囚われた。
・冷酷な尊武が、命懸けで滝つぼに飛び込んで董胡を救い、離宮に幽閉したばかりか、いざ殺そうと首に手をかけてもどうしても力を込めることができずお前を殺せないと愕然としたのも、すべて董胡の料理による呪いのせいとされた。
・尊武はすべてお前の呪いのせいだと自嘲し、董胡自身も自分の料理が人を狂わせる呪いなのだと確信して、生き甲斐であった料理を封印しようと思い詰めていくこととなった。

呪いは「救いの光」になり得るのか

第11巻において、白龍は恋慕と結びつくことで麒麟の力は執着という呪いへと変化するという見解を示している。

・相手を思い、距離が近付くほどにその呪縛は強まっていく。
・しかし、尊武の側近である界弦は、董胡に対して全く異なる視点からこの呪いを肯定した。
・マゴイの血による悪しき衝動に支配され、孤独で空虚な世界に一人で立っていた尊武にとって、董胡の存在だけが唯一の希望の光であった。
・董胡への執着をきっかけに、尊武の心には楊庵や空丞の命を気遣うといった失われていた迷いや思いやりが戻り始めた。
・界弦は、この麒麟の呪いこそが、尊武をマゴイの悪しき血から解放し、彼が非情な道へ進むのを防ぐ唯一の救いになると信じ、董胡に尊武の側に残ってほしいと涙ながらに懇願した。

まとめ

麒麟の呪いの本質と影響を巡る一連の全貌は、狂気的な執着を招く魅了の力から始まり、陀那による赤子殺害未遂と濤麗の犠牲、董胡の五色の光と料理を通じて広がる呪いへの苦悩、そして界弦が示した尊武の人間性を繋ぎ止める救いの光としての側面至るまで、その歩みを明瞭に示している。
血の呪縛や狂気的愛執という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、宿命の解露と精神的救済の記録である。
魅了の悲劇から、恐怖の殺意、料理の封印、受容の葛藤、そして希望としての反転へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

マゴイの血筋

マゴイの血筋の全貌

『皇帝の薬膳妃』シリーズにおいて、伍尭国の隣国である其那国の王宮を掌握したマゴイの一族について、特異な肉体的・生理的特徴、人心を操る恐るべき異能、麒麟の血を求める執念と世界の覇者への野望、および内なる魔物の血の各点から解説する。

特異な肉体的・生理的特徴

マゴイの血を引く者には、通常の人間とは大きく異なる生理的特徴が存在する。

・外見:生まれながらに金属的な銀の髪と紺碧の瞳を有している。その容姿は人間離れして非常に秀麗である。
・太陽への脆弱性:マゴイは極端に日の光に弱い。日光を直接浴びると、火傷のように肌が焼け爛れ、目も真っ白になって見えなくなる。そのため、日の光を反射する特殊な銀色の被衣や黒い外套などで全身を覆って暮らす必要がある。
・十五カ月懐妊と出産の凄惨さ:マゴイの女性は、お腹に十五カ月間も胎児を留めて出産するという異常な過期産の体質を持つ。胎児が大きくなりすぎるため、お産は凄惨を極める難産となり、かつては母親がほとんど命を落としていた。そのため、マゴイの女性は通常の女性よりも骨格が大きく作られている。近年、其那国で切開術が発達したことで、母子の生存率や女児が育つ確率が劇的に向上し、一族の人数が急速に増加した。

人心を操る恐るべき異能

マゴイが持つ最大の武器が、他人の心の闇に入り込んで精神を支配する人心を操る力(催眠)である。

・闇への侵入:他人の恐怖、悲しみ、妬み、絶望、罪悪感といった心の隙間に潜り込み、その心を完全に占領して操る。
・阿芙蓉による術の進化:本来、マゴイ一人が操れる相手は一人のみであった。しかし、マゴイの土地で採れる特殊な芥子から抽出した阿芙蓉の香を用いることで、催眠状態を長期にわたって持続させ、かつ遠隔から複数の人間を同時に操る術を編み出した。これにより、少人数であっても他国の王宮や軍隊を掌握することが可能となった。

麒麟の血を求める執念と「世界の覇者」への野望

マゴイの一族が何よりも執着し、手に入れようとしているのが、伍尭国の皇帝一族が持つ麒麟の血である。

・異能の増幅と太陽の克服:マゴイは自分たちの弱点を克服するため、より高貴で濃い麒麟の血を自らの中に取り込もうとしていた。マゴイの血と麒麟の血が交じり合うことで、日の光を克服した頑強な肉体を得られるだけでなく、人心を操る力や天術が劇的に増幅され、世界の覇者となる強大な異能を持つ子が誕生すると信じられている。
・白龍(旻儒)と尊武の誕生:その野望のために、かつて先々代皇帝の時代にマゴイの姫君が皇宮地下の籠りの宮へ送り込まれ、そこから白龍が生まれた。また、玄武公の正妻であった陀那からも、先帝の落胤として強大な異能を受け継いだ尊武が誕生した。尊武は日の光を完全に克服し、何十人もの私兵や式神を同時に操るという、一族が悲願とした能力を開花させている。

内なる「魔物の血(悪しき衝動)」

マゴイの血を引く者は、生まれた時から銀髪で残酷なわけではない。

・突然の変貌と悪しき衝動:白龍も尊武も、幼少期は普通の黒髪を持つ、心優しく誠実な少年であった。しかし、十代後半の白龍は激しい嫉妬を、八歳の尊武は母の殺人を引き金として、高熱の末に髪が銀髪へと変貌した。
・中庸を失う恐怖:マゴイの血が目覚めると、体の中からコントロールできない悪の衝動や破壊への怒りが湧き上がり、他者への情や思いやり、迷いといった中庸の心を完全に失い、冷酷無比な性格へと変貌してしまう。白龍も尊武も、自分が自分でなくなっていくこの魔物の血の恐怖にののしり、深く苦しんできた。

まとめ

マゴイの血筋の全貌を巡る一連の全貌は、銀髪や十五カ月懐妊といった特殊な肉体構造と日光への弱さから始まり、阿芙蓉を用いた催眠術による精神支配、太陽の克服と世界制覇を掲げた麒麟の血への執着、そして白龍や尊武の覚醒にみる内なる悪しき衝動との相克に至るまで、その歩みを明瞭に示している。身体的欠陥や血脈の呪縛という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、異能の真実と精神的葛藤の記録である。
過酷な生態の克服から、国勢の侵食、野望の増幅、衝動の克伏、そして人間性の希求へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

離宮の暗衛部隊

尊武の地下暗衛部隊の全貌

『皇帝の薬膳妃』において、尊武の堅牢な離宮の地下に隠された極秘の暗衛部隊について、拠点と外観、阿芙蓉による精神支配と構成員の正体、管理者界弦と白服の式神たち、および楊庵(七幡)の変貌と鍼の暗殺術の各点から解説する。

暗衛部隊の拠点と外観

暗衛部隊の訓練場は、離宮の竹林の先にあるだだっ広いお堂の地下に位置している。

・床の間の土壁がスライドする隠し扉の奥に、地下へ下りる暗い階段が隠されている。
・地下の広大な部屋では、数十人の男たちが生身の体で剣術や柔術などの武術鍛錬に黙々と励んでいる。
・彼らは一様に麒麟の密偵に酷似した黒い動きやすい服を着ているが、その目は虚ろであり、人間らしい感情や意思が全く感じられない陰鬱な雰囲気をまとっているのが特徴である。

阿芙蓉による精神支配と構成員の正体

地下の男たちは尊武が作り出した式神ではなく、実体のある生身の人間である。

・彼らが虚ろな目で忠実に従っているのは、其那国から持ち込まれた芥子から抽出された阿芙蓉を吸わされ、精神を支配されているためである。
・訓練中に体調を崩したり、禁断症状で苦しみ始めたりした男たちは、阿芙蓉の香が充満する密閉された補給室へ連行される。
・そこで薬を吸入して回復すると、再び虚ろな目になって鍛錬へと戻っていく。
・この部隊を構成する男たちは、貧困、戦争、家族の死などによって生きる希望を失い、地獄のような現実を生きるよりも、心を失って支配されることを自ら望んだ絶望の淵にいる人々である。
・彼らは自らの意思と感情を放棄する代わりに、地下で飢えや明日への不安のない規則正しい生活、清潔な寝床と食事を保証されている。

管理者「界弦」と白服の式神たち

暗衛部隊が蠢く地下広間において、尊武以外に唯一意思と感情を持っているのが、尊武の側近である界弦である。

・界弦は幼い頃から尊武の護衛を務めてきた壮年の男であり、尊武が自分を真に理解できる唯一の右腕として全幅の信頼を置く人物である。
・また、尊武の背後には青白い顔をした白服の袴姿の男たちが控えており、彼らは尊武の式神として、地下の男たちの武術指導や体調不良者の搬送といった教官・管理役を淡々とこなしている。

楊庵(七幡)の変貌と鍼の暗殺術

董胡を救おうとして離宮の周囲を探り、尊武の配下に捕らえられた兄弟子の楊庵もまた、この地下に連行されて阿芙蓉の支配下に置かれた。

・楊庵は、董胡が皇帝の后であることを知って絶望し、さらに自分が彼女の足枷になっていると気付いて自死を試みた。
・しかし尊武に止められ、死ねないのなら董胡を忘れた存在になりたいと望んで、自ら深い催眠状態(阿芙蓉による精神支配)に入ることを選んだ。
・地下で七幡と呼ばれる操り人形となった楊庵は、医師として培った鍼の技術を応用した「鍼による暗殺術」において、凄まじい才能を開花させた。
・急所のツボを正確に突くことで、白服の式神を一瞬で人型の紙へと戻す彼の技術を見た尊武は、楊庵に暗殺者としての高い価値を見出し、董胡を従わせるための人質以上の存在として重用した。

まとめ

尊武の地下暗衛部隊の全貌を巡る一連の全貌は、隠された訓練場の構造と黒衣の男たちの外観から始まり、阿芙蓉による絶望した人間たちの精神支配と生保、界弦と式神教官による徹底管理、そして自ら催眠を選んだ楊庵(七幡)の鍼による暗殺術の覚醒に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
心の喪失や精神的支配という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、冷酷な軍事組織の真実と人間の葛藤の記録である。
地下への隠蔽から、阿芙蓉の投薬、自己放棄の受容、技術の転換、そして私兵集団の完成へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

黎司の執着

皇帝黎司の董胡に対する執着の全貌

『皇帝の薬膳妃』において描かれる皇帝・黎司の董胡に対する執着について、絶望の淵に灯った生きる意味としての執着の始まり、独占欲と激しいやきもち、麒麟の呪いと命を削る絶望、尊武の支配する執着との決定的な違い、および執着を越えた共にある覚悟の各点から解説する。

執着の始まり:絶望の淵に灯った「生きる意味」

黎司の執着は、単なる一目惚れや男女の恋情ではなく、命の渇望から始まっている。

・幼少期から幾度となく暗殺のために毒を盛られ、食べることそのものが死への恐怖となっていた黎司は、心身ともに衰弱し、生きることを半ば諦めていた。
・しかし五年前、逃亡先で出会った男装の少女・董胡が作った薬膳饅頭だけは、喉を拒絶することなく苦も無く飲み込むことができた。
・さらに、誰もが皇太子や皇帝という役割だけを求め、お飾りの傀儡として扱う中、董胡だけが一人の人間レイシとして向き合い、自分のために生きてほしいと語った。
・この約束こそが、黎司にとって過酷な王宮を生き抜く唯一の希望であり、彼を強烈に董胡という存在に縛り付けることとなった。

独占欲と激しい「やきもち」

黎司は皇帝という高貴な身分でありながら、董胡の前では一人の感情豊かな若者に戻る。

・即位後、董胡が玄武の后宮に専属薬膳師として仕えていると知った黎司は、正体を隠しながらも毎日のように后宮を訪れ、彼女の料理を食べ、言葉を交わす時間を何よりも渇望するようになった。
・その執着の深さは、董胡が后宮で尊武のために料理を振る舞っていたと聞いた際、自分以外の男、それも天敵である尊武に料理を作っていた事実に激しい嫉妬を覚え、己の独占欲に胸を騒がせるほどであった。

麒麟の呪い(執着)と命を削る絶望

物語が進むにつれ、董胡が周囲を惹きつける力は、母・濤麗から受け継いだ周囲に狂気的な執着を植え付ける麒麟の呪いではないかという疑惑が浮上する。

・実際、尊武から董胡は自分の嘘がばれて死罪になることを恐れ、黎司を避けて自ら滝つぼに飛び込んだという偽りの報告を受けた時、黎司は魂の拠り所を完全に失った。
・かつて董胡に出会う前の孤独へと引き戻された黎司は、体を維持する気力すら失い、喉が完全に閉ざされて水すら受け付けなくなるほど憔悴しきり、一時呼吸が止まるほど衰弱してしまった。
・この様子は、まるで阿芙蓉の中毒患者が薬を求めるように、董胡という光なしには生命を維持できないほど、黎司の肉体と魂が彼女に依存し、執着しきっていたことを物語っている。

尊武の「支配する執着」との決定的な違い

尊武もまた董胡に対して異常な執着を抱き、彼女を自らの離宮へ幽閉し、世間には死んだと嘘をついて一生自分の専属料理人として囲い込もうと画策した。これは、他者への情を失ったマゴイの血による支配と独占の執着である。

・これに対して、黎司の執着は葛藤と守護に満ちている。
・黎司は董胡の料理を誰よりも求め、片時も手放したくないと願う一方で、彼女との約束を守るため、権力を使って強引に召し抱えることを拒み、一度は彼女を神官の養女として王宮から安全な場所へ逃がすことすら決意していた。
・己の欲望よりも、董胡の夢と安全を何よりも優先させ、一番近くで大切に守りたいと願うのが黎司の執着であり、そこには深い敬意と愛が根底に存在している。

執着を越えた「共にある覚悟」

黎司の執着は、彼女の秘密を知ったことで、さらなる次元へと昇華する。

・意識を飛ばした天術の中で、董胡が自分は偽物であり、いつか正体がばれて嫌われることを恐れて離宮に残ろうとしていると知った黎司は、その深い誤解に愕然とした。
・そして、自分がそなたを嫌うはずがない、そなたを失うこと以上に不幸なことなど何もない、そなたの犯した大罪のすべては皇帝である自分が背負い、どのような茨の道であっても命懸けで守り抜くと、自ら迎えに行く強い覚悟を固めた。
・黎司の執着は、人を狂わせる麒麟の呪いから始まったものかもしれないが、それを自覚しながらも、己のすべてを投げ打って董胡の抱える闇や罪ごと愛し、同じ運命を歩もうとする黎司の姿は、執着という名の呪いを、二人の絆という名の最高の救いへと変えている。

まとめ

皇帝黎司の董胡に対する執着を巡る一連の全貌は、生存の希望として芽生えた情念の原点から始まり、独占欲や嫉妬の感情露呈、偽りの死亡報告に伴う衰弱、尊武の支配的執着との対比に見る愛の性質、そして罪や闇ごと包み込んで伴走する不退転の覚悟に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
血脈の呪縛や狂気的な依存という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、真実の愛執と救済の記録である。
絶望の救済から、独占の渇望、喪失の試練、自己犠牲の選択、そして真の絆の確立へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

薬膳妃 10巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 12巻レビュー

登場キャラクター

伍尭国朝廷・后宮

黎司

伍尭国の第十七代皇帝である。
天術によって未来を先読みする力を持つ。
后の鼓濤となった董胡を深く信頼している。

・所属組織、地位や役職
 伍尭国皇帝。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡の作る薬膳料理により本来の天術を覚醒させた。
 式神や天馬を操って董胡をマゴイの襲撃から救い出した。
 天馬の蒼天を駆って尊武の離宮へ現れる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 当初は天術の力が弱まっていた。
 女性の医師を育成する麒麟寮の設立を計画している。
 失われた三つ目の神器の捜索を決意した。

翠明

皇帝の側近を務める神官である。
病や怪生を癒す力を持つ。
黎司から絶大な信頼を寄せられている。

・所属組織、地位や役職
 皇宮の神官。

・物語内での具体的な行動や成果
 実体に近い強力な式神を操る。
 董胡が王宮の医官となるよう手配を整えた。
 茶民の髪を使って強力な護衛の式神を作り出した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 養子として引き取られた経緯を持つ。
 祖父は麒麟寮の元寮長であった。

奏優

皇帝の后宮に仕える侍女頭である。
白虎公の姉君の末の姫にあたる。
黎司の身を深く案じている。

・所属組織、地位や役職
 皇帝の侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
 お后たちが独断で子宝祈願を進めたことを批判した。
 白虎の雪白に唆されて鼓濤を非難する。
 のちに自身の誤解に気付き鼓濤へ謝罪した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 三日間の謹慎処分を受ける。
 出自による贔屓をせず公平に務めると誓った。

月丞

黄軍を率いる年配の将軍である。
空丞の父親にあたる。
皇帝に対して忠誠を尽くしている。

・所属組織、地位や役職
 黄軍将軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 尊武の特使団の護衛を務める。
 尊武が馬を駆って虎威大山へ向かったことを黎司に急報した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 青龍の氏家を守護する家系である。

朱璃

朱雀の一の后である。
直感と観察力に優れている。
后宮の窮屈な暮らしに不満を抱く。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の一の后。

・物語内での具体的な行動や成果
 后と医官と侍女頭代理が同一人物であることを見抜いた。
 白虎への后行列を計画する。
 壁宿へ向かう尊武の離宮を追跡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 妓楼で育った元紅拍子の舞団員である。
 いずれ后宮を出て紅拍子に戻るつもりでいる。

王琳

玄武の一の后宮の侍女頭である。
非常に有能で厳格な性格を持つ。
最初は鼓濤を監視する間者として動いていた。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后宮の侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡의境遇や人柄を知って彼女の協力者となる。
 茶民を鼓濤の身代わりに仕立てて白虎での捜索に協力した。
 后宮で眠る茶民と壇々の世話を担う。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 夫は先帝の内医助を務めた吐伯であった。
 夫が内医司の殉死制度で死亡したため制度を憎んでいる。

茶民

董胡付きの侍女である。
少し色黒で痩せている。
お金を貯めることを好む。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后宮の侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡が后に成り代わる大朝会の留守番を務めた。
 白虎への旅路では鼓濤の身代わりとして輿に乗る。
 自身の髪を翠明の式神の人柱として提供した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 元々は華蘭の侍女であった。
 最初は董胡を見下していたが彼女の料理を食べて態度を和らげる。

壇々

董胡付きの侍女である。
色白でふくよかな容姿を持つ。
おっとりとした性格をしている。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后宮の侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡の作る饅頭を好んだ。
 一度知恵熱を出して寝込む。
 身代わりの人柱になることを快諾し式神の基となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 元々は華蘭の侍女であった。
 食べることを何より好む。

禰古

朱雀の一の后である朱璃の侍女頭である。
おしゃべりで規律に厳しい性格を持つ。
朱璃のことを深く慕っている。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の后宮の侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
 大朝会で集めた噂話を朱璃に報告した。
 后行列の旅路では規律を正そうとする。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 朱璃のわがままな行動に日々手を焼いている。

孝司帝

先代の皇帝である。
病弱で気が弱い性格であった。
玄武公の言いなりになって国を治めていた。

・所属組織、地位や役職
 先代皇帝。

・物語内での具体的な行動や成果
 生涯で一度も天術を使えなかった。
 玄武公に操られて黎司を冷遇した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 先々代皇帝の急逝に伴い十五歳で即位した。
 本編開始前に急逝した。

創司帝

伍尭国の初代皇帝である。
天術による先読みの力を持つ。
風を操って安寧の国を築いた。

・所属組織、地位や役職
 初代皇帝。

・物語内での具体的な行動や成果
 剣で風を起こし千里先の敵をなぎ倒した。
 鏡に映る未来を読み解く。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 建国者として皇宮の最上階に祀られている。

空丞

黄軍を率いる武骨な将軍である。
大柄な体格で気持ちの良い笑顔を持つ。
后の鼓濤を尊武の暴挙から守る決意を固める。

・所属組織、地位や役職
 黄軍将軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 青龍への特使団の護衛を務める。
 浅瀬に漂着した尊武と董胡を救助した。
 董胡の正体が后であると聞かされて激しく動揺する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父は同じく黄軍将軍の月丞である。
 董胡を守るため黄軍を辞して彼女の生涯の護衛兵になる決意をした。

楊庵

董胡の兄弟子である。
鍼の技術において優れた才能を持つ。
董胡に対して密かに恋情を抱いている。

・所属組織、地位や役職
 内医司の使部。皇帝の密偵。

・物語内での具体的な行動や成果
 探りを入れる使部として王宮へ入り董胡を捜し出した。
 董胡を守るために密偵の任務を請け負う。
 尊武の離宮の周りを探っていたところを捕らえられた。
 阿芙蓉の催眠により心を失った暗殺者「七幡」となる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 幼少期に瀕死の状態でト殷に救われた過去を持つ。
 董胡に再び会うために尊武に仕える道を選んだ。

玄武公家

董胡 / 鼓濤

男装して医師免状を取得した平民育ちの少女である。
策略によって皇帝の后・鼓濤として王宮へ輿入れした。
人の求める味を色として感知する力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后。男装の医官。

・物語内での具体的な行動や成果
 薬膳料理により黎司の拒食を改善した。
 自らの出生の秘密を探るため白虎の百滝の大社へ向かう。
 大社で白龍と再会して本物の鼓濤であると知った。
 マゴイの香に操られて滝つぼへ転落する。
 尊武に救われて彼の離宮に幽閉された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 母の濤麗と樊武の間に生まれた実娘である。
 自身の能力が周囲に執着を植え付ける呪いではないかと恐れる。

尊武

玄武公の嫡男である。
冷徹な性格で常に論理的に行動する。
董胡に対しては強烈な執着を示している。

・所属組織、地位や役職
 宮内局長。玄武公の嫡男。特使団の団長。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡の正体を見抜いて取引を持ちかけた。
 特使団を率いて青龍へ赴く。
 滝つぼに落ちた董胡を追って濁流に飛び込み彼女を救出した。
 黎司に対し董胡は溺死したと偽りの報告を伝える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自身の髪に自然鉄の粉を塗って黒髪に偽装していた。
 白龍の小物入れの磁力により本来の銀髪が露わになる。
 彼がマゴイの一族の血を引く先帝の落胤であることが発覚した。

玄武公 / 樊武

医術の都である玄武を治める領主である。
非常に独裁的で権力に強く執着する。
皇帝を廃位させて弟宮の翔司を即位させようと企む。

・所属組織、地位や役職
 玄武公。中務局長。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡が女である弱みを握り后として輿入れさせた。
 殿上会議で先読みを外した黎司を嘲る。
 天凜烏頭を用いて黎司の暗殺を計画した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 かつて皇女である濤麗を妻として娶った。
 現在は息子の尊武の顔色を窺いすべてを任せている。

陀那

尊武の母親である。
其那国出身のマゴイの一族である。
かつて先帝・孝司帝から正妻として下賜された経緯を持つ。

・所属組織、地位や役職
 玄武公の元正妻。

・物語内での具体的な行動や成果
 17年前に嫉妬のあまり濤麗を殺害した。
 赤子だった鼓濤(董胡)の命をも奪おうと短刀を振りかざす。
 八歳の尊武が遮光の枝を切り落としたことで日光を浴びて失明した。
 現在は尊武が世界を征服する未来を夢見て暗躍している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 濤麗が嫁いできたことで正妻の座を明け渡した。
 それによって心を病んでしまったと言われている。

雄武

玄武公の次男である。
色白で神経質な顔つきをしている。
医師試験で首席を董胡に奪われ悔しさを募らせる。

・所属組織、地位や役職
 玄武公の次男。医師。

・物語内での具体的な行動や成果
 麒麟寮で董胡と知り合う。
 医師試験で二番の成績となった。
 のちに董胡が后になった理由を知り彼女に親切にしようと試みた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 尊武の異母弟にあたる。
 董胡に対しては複雑な対抗心と執着を抱いている。

華蘭

玄武公の娘である。
董胡の異母妹にあたる。
気位が高く傲慢さと冷酷さを持つ。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の姫。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡の部屋を訪れて彼女を嘲笑した。
 独自の術を用いて風を起こし董胡の頬を切る。
 兄の尊武を心から慕っている。

・地位の変化、昇慢、影響力、特筆事項
 玄武公が溺愛している。
 弟宮の翔司と恋仲であると噂される。

界弦

尊武の側近護衛を務める男である。
尊武の孤独を誰よりも理解している。
実直で忠義に厚い性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 尊武の側近。

・物語内での具体的な行動や成果
 尊武の離宮の地下にある暗衛部隊の訓練を任されている。
 尊武が留守の間、彼の銀髪を依り代にして暗衛部隊を統率した。
 董胡の麒麟の力が尊武の「悪しき衝動」を救うと信じて彼女に懇願する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 幼い頃から尊武の護衛を務めてきた。
 尊武が全幅の信頼を置く右腕である。

灰音

尊武の特使団に同行した人物である。
具体的な性格や詳細な特徴は不明である。
尊武の意図に従って動く。

・所属組織、地位や役職
 尊武の配下。

・物語内での具体的な行動や成果
 特使団の一員として活動する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 具体的な記載はない。

吐伯

先帝の内医助を務めた貴族医師である。
壁宿の地で手広く診療所を開いていた。
貧しい平民に安く生薬を分けて人望を集めていた。

・所属組織、地位や役職
 内医助。医師。

・物語内での具体的な行動や成果
 人望を恐れた玄武公によって内医助に就任させられた。
 先帝の崩御に伴い内医司の殉死制度で死亡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 后宮の侍女頭・王琳の夫であった。
 その死は王琳が玄武公を憎むきっかけとなる。

須未

王琳の兄である安寧の妻である。
王琳の帰還を心から喜ぶ。
夫と共に王琳の屋敷を守り続けていた。

・所属組織、地位や役職
 安寧の妻。王琳の義姉。

・物語内での具体的な行動や成果
 王琳と朱璃を屋敷に迎え入れた。
 尊武の離宮や董胡の消息についての情報を二人に伝えた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王琳の身を深く案じている。

安寧

王琳の兄である。
妹の王琳を深く案じている。
妹が急に行方不明になったことを非常に心配していた。

・所属組織、地位や役職
 王琳の兄。

・物語内での具体的な行動や成果
 妻の須未に頼んで、王琳が帰ってこないか時々屋敷を見に行かせていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 王琳の無事を願っている。

青龍公家

青龍公 / 龍氏

武術を司る青龍を治める領主である。
武骨に見えるが腹黒く権謀術数に長けている。
自らの利益のために雲の悪事を利用していた。

・所属組織、地位や役職
 青龍公。兵部局長。

・物語内での具体的な行動や成果
 后の翠蓮が毒を盛られた事件を理由に、雲を即座に死罪に処した。
 それによって自らの関与を示す証拠を隠滅する。
 尊武の特使団を歓待し、彼を懐柔しようと試みた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自分の妹や身内を尊武の正妻に娶らせようと画策している。
 常に自らの保身と権力の維持を優先させている。

朱雀公家

朱雀公 / 鳳氏

芸術を司る朱雀を治める領主である。
争いごとを好まない穏やかな性格を持つ。
皇帝に対しては協力的な態度を示す。

・所属組織、地位や役職
 朱雀公。

・物語内での具体的な行動や成果
 娘の朱璃が計画した白虎への后行列を許可した。
 帝の廃位を企む玄武公の動きには消極的な姿勢を示す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 前の朱雀公の従兄にあたる家系である。
 娘の朱璃のわがままな行動に日々頭を悩ませている。

旺朱

朱雀公の息子である。
朱璃の弟にあたる。
明るく気さくで行動力がある。

・所属組織、地位や役職
 朱雀公の息子。芸団「傀儡法師」の主導者。

・物語内での具体的な行動や成果
 大社を出る際に朱璃に頼まれて金子を工面した。
 不法に潜入したマゴイの一族を捕らえるために動く。
 白虎の大社で董胡を捜索するために尽力した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 身分が高いにもかかわらず、平民の軽業師として活動している。
 姉の朱璃とは非常に良好な関係を保っている。

白虎公家

白虎公 / 虎氏

商術を司る白虎を治める領主である。
臆病で優柔不断な性格をしている。
玄武公の威圧的な態度に逆らえずにいる。

・所属組織、地位や役職
 白虎公。

・物語内での具体的な行動や成果
 かつてマゴイの姫君が輿入れした事実を明かした。
 其那国からの不法移民を把握できなかった不手際を追及される。
 のちに天罰を恐れて皇帝への不敬な企てから距離を置く。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 養女の雪白を皇帝の后として嫁がせた。
 現在は地位の維持に躍起になっている。

白虎・百滝の大社 / 霊山

白龍 / 旻儒

長らく董胡が捜し続けていた盲目の医師である。
濤麗を心から愛していた。
先々代皇帝とマゴイの姫君の間に生まれた実子である。

・所属組織、地位や役職
 麒麟の医官。盲目の医師。

・物語内での具体的な行動や成果
 嫉妬のあまり高熱を出して視力を失った。
 その引き換えに癒しの神通力を覚醒させる。
 命を狙われた赤子の董胡を抱いて逃げ延びト殷へ託した。
 白虎の山房で董胡と再会して出生の秘密を伝える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 かつては麒麟寮で天才医師と呼ばれていた。
 本来はマゴイの血を引く銀髪である。

濤麗

董胡の母親である。
先々代皇帝の娘であり、隠し育てられた皇女である。
出会う人々を狂わせるほどの強力な魅了の力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 麒麟の皇女。

・物語内での具体的な行動や成果
 樊武に嫁いで一人の娘(董胡)を産んだ。
 白龍の助力を得て玄武の屋敷から逃れようとする。
 逃亡の途中で何者かによって殺害された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 身分が低かったため三の后宮に隠されて育った。
 尊武の母から麒麟の力を恐れられて命を狙われる。

其那国

ユラ・マゴイ

其那国から不法に侵入した冷酷な男である。
人心を操る特別な能力を宿している。
世界の覇者となる子供を得るために麒麟の血筋の娘を捕らえようとする。

・所属組織、地位や役職
 マゴイの一族の主導者。

・物語内での具体的な行動や成果
 其那国の政変を主導した。
 泰全の心を操ってルカの姉などの少女たちを連行させる。
 百滝の大社で董胡を精神支配しようとして黎司に阻まれた。
 黎司の天術である突風を受けて崖下へ転落する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 左腕を骨折しながらも生き延びた。
 ルカの報告から、薬膳師の董胡が玄武の后・鼓濤であると突き止める。

ナティア

其那国の王女である。
ルカの姉にあたる。
マゴイの一族に心を操られて逃亡してきた。

・所属組織、地位や役職
 其那国の王女。

・物語内での具体的な行動や成果
 マゴイの子を妊娠して隠れ庵に保護されていた。
 隠れ庵で妹のルカと再会を果たす。
 治療を受けるために老師の山房へ留まる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 妊娠十五カ月目の過酷な出産を恐れている。
 かつては王家の中でも賢い姫として一目置かれていた。

ルカ

其那国の王女である。
金茶色の髪と紺碧の瞳を持つ。
姉を捜すために不法移民に紛れて伍尭国へ渡ってきた。

・所属組織、地位や役職
 其那国の王女。

・物語内での具体的な行動や成果
 泰全に売られそうになったところを董胡たちに救われた。
 お后の部屋に匿われた後に姉のナティアと再会を果たす。
 大社で盗み聞きした「董胡が后の鼓濤である」という正体をユラに漏らした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ユラ・マゴイに対して未熟な恋慕を抱く。
 彼に選ばれた者としての優越感に浸り、董胡を裏切る行動を取った。

離宮の暗衛部隊

弐幡

離宮の地下にある暗衛部隊に所属する男である。
具体的な性格や特徴は不明である。
阿芙蓉の催眠によって心を失っている。

・所属組織、地位や役職
 離宮の地下暗衛部隊。

・物語内での具体的な行動や成果
 地下の訓練場で黙々と武術の鍛錬を行う。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 具体的な記載はない。

伍幡

離宮の地下にある暗衛部隊に所属する男である。
具体的な性格や特徴は不明である。
阿芙蓉の催眠によって心を失っている。

・所属組織、地位や役職
 離宮の地下暗衛部隊。

・物語内での具体的な行動や成果
 地下の訓練場で黙々と武術の鍛錬を行う。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 具体的な記載はない。

異形の存在・その他

魔毘

祈禱殿の暗がりに現れる不気味な男である。
赤髪で右目を隠している。
黎司の求めに応じて未来の光景を銅鏡に映し出す。

・所属組織、地位や役職
 不詳。

・物語内での具体的な行動や成果
 黎司の祈りに応じて銅鏡に不吉な未来を映した。
 先々代皇帝の時代にも皇帝の前に現れていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 黎司がその名を唱えることで出現する。
 天術の行使に関わる異形の存在である。

偵徳

先帝の内医司を務めた医師である。
高い正義感と激しい憎悪を抱く。
玄武公によって親友の秋仲を殉死させられた過去を持つ。

・所属組織、地位や役職
 内医司。皇帝の密偵。

・物語内での具体的な行動や成果
 病の原因を探るために内医司へ潜入する。
 楊庵を連れて王宮を脱出する計画を立てていた。
 尊武が秋仲を死に追いやった張本人であると知り彼に激しい憎悪を向ける。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 頬に大きな傷痕を持つ。
 尊武への復讐の機会を狙っている。

集団

黄軍

皇帝が直轄する近衛軍である。
優秀な者が集められている。
王宮の警備や要人の護衛を務める。

・所属組織、地位や役職
 近衛軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 青龍の地への特使団の護衛を担った。
 白虎への后行列の護衛に空丞らの一軍が派遣された。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 青龍の氏家を守護する月丞、空丞が将軍を務めている。

黒軍

玄武が率いる軍隊である。
尊武が将として率いている。
その統制と武力は非常に高い。

・所属組織、地位や役職
 玄武の公軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 其那国の政変に備えて白虎の地へ派遣された。
 大社でマゴイの襲撃を退け后たちの帰還を護衛する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 宮内局長である尊武が指揮権を持つ。

赤軍

朱雀が率いる公軍である。
后行列の警備や周囲の治安維持に当たる。
朱雀公の命令に従って動く。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の公軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 子宝祈願へ向かう后行列の護衛を担当した。
 白虎の大社で行方不明となった薬膳師・董胡を大捜索する。
 朱璃の指示を受けて其那国の不法移民を保護した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 力強く后たちの安全を最優先にしている。

麒麟の密偵

皇帝直轄の諜報機関である。
各地に潜入して不穏な情報を収集する。
黎司の命令により密かに動き回る。

・所属組織、地位や役職
 諜報部隊。

・物語内での具体的な行動や成果
 楊庵や偵徳らが王宮に潜入して情報を集めた。
 其那国の不法移民や政変の動きを掴み王宮へ報告する。
 白虎の地でナティアたちの情報を収集した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 姿を現さず隠密裏に行動することを信条とする。

マゴイの一族

其那国の王宮を牛耳る銀髪の一族である。
他人の恐怖や絶望などの心の闇に入り込み操る。
高貴な麒麟の血を取り込んで支配力を高めようとする。

・所属組織、地位や役職
 其那国の神官一族。

・物語内での具体的な行動や成果
 其那国の王家を操り政変を起こした。
 大社の泰全や少女たちを操って誘拐させる。
 董胡を精神支配して滝つぼへ転落させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 生まれた時から銀色の髪を持つ。
 人数が非常に少なかったが、切開術の発達により近年増加している。

離宮の暗衛部隊

尊武の離宮の地下に組織された極秘の私兵集団である。
生身の人間でありながら阿芙蓉の催眠によって心を失っている。
高い戦闘能力を持ち、黙々と訓練に励む。

・所属組織、地位や役職
 尊武の私軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 地下の広大な訓練場で日々武術を鍛え上げている。
 体調不良の際には阿芙蓉の香が満ちた補給室で回復を図る。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 貧困や絶望から自ら心を捨てることを望んだ者たちで構成されている。
 界弦が彼らの統率と訓練の監督を担う。

式神の従者たち

尊武が麒麟の力を用いて作り出した従者である。
無表情で感情を持たない。
見聞きした情報がすべて尊武と共有される。

・所属組織、地位や役職
 尊武の式神。

・物語内での具体的な行動や成果
 離宮の管理や、董胡の身の回りの世話を淡々とこなす。
 尊武がびしょ濡れで帰ることを事前に察して完璧な準備を整えていた。
 地下の暗衛部隊では、彼らに武術の指導を行う。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 紙に尊武が息を吹きかけることで人型として実体化する。
 尊武の留守中も董胡の行動を完全に監視・共有している。

宮内局の文官たち

王宮の宮内局に仕える文官たちである。
おしゃべりで噂好きな性格を持つ。
有力な貴族の動向に常に目を光らせている。

・所属組織、地位や役職
 宮内局。

・物語内での具体的な行動や成果
 生存が確認された尊武に声をかけて白虎での状況を尋ねた。
 王宮内の様々な噂話を尊武の耳に入れる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自らの保身やごまのすり方に腐心している。

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薬膳妃 10巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 12巻レビュー

展開まとめ

序 

暴かれた二つの秘密

胡は皇帝の后・鼓濤と男装の薬膳師を演じてきたが、その正体を黎司に知られた。さらに、自らの麒麟の力には料理を食べた者へ強い執着を生じさせ、破滅へ導く呪いがあると知った。

マゴイの支配と離宮への幽閉

生き甲斐である料理を失った胡は動揺し、マゴイに操られて崖から落ちた。尊武に救われたものの、本物の玄武の姫君であることと麒麟の呪いを知られ、離宮へ囚われた。

胡を捜しに来た楊庵も捕らえられ、胡は空丞と共に脱出の道を探した。やがて離宮には、胡の母を殺した尊武の母も住んでいると気付いた。

尊武の銀髪

尊武は胡を一生養うと穏やかに語ったが、胡はその態度を疑った。やがて偶然、尊武の髪がマゴイと同じ銀色であることを知り、彼の正体へ新たな疑念を抱いた。

黎司への偽り

一方、黎司は天術で胡を捜し、天馬に乗って尊武の離宮へ現れた。しかし尊武から胡は死んだと偽られ、深い絶望に沈んだ。

多くの秘密を抱える尊武によって、胡と黎司は互いの真実を知らぬまま引き離されていった。

一、眉目秀麗な公子様 

理想の公子・尊武

十数年前、黒水晶の宮で流鏑馬の大会が開かれ、八歳を目前にした尊武が三つの的をすべて射抜いた。容姿、武術、座学のすべてに優れた尊武は、玄武公の理想的な跡継ぎとして人々から称賛されていた。

母に贈る夕顔

尊武は、日の光を避けて暮らす母・陀那のために、夕方から咲く夕顔を探していた。側近護衛の界弦は、母親思いで素直な尊武を深く慕い、命懸けで守ることを誓っていた。

その時、尊武は生まれたばかりの妹・鼓濤の泣き声を聞いた。会いたいと望んだものの、陀那から濤麗と鼓濤に近付くことを禁じられていたため、母を悲しませまいと諦めた。

孤立した陀那

陀那はかつて玄武公の正妻だったが、皇女である濤麗が嫁いだことで地位と夫の寵愛を失い、東の方へ移されていた。濤麗が使用人たちから慕われる一方、病弱で人付き合いの少ない陀那は孤立し、呪物を使って濤麗を害そうとしたという噂まで流れていた。

それでも陀那が宮で暮らし続けられたのは、優秀な尊武の存在があったためである。尊武は弟の雄武とは自由に会えたが、鼓濤だけは決して近付くことを許されなかった。

母の豹変

夕顔が咲くと、尊武は花を陀那の寝所へ届け、食事の世話をした。陀那は無気力に伏せる一方、尊武の提案が気に障ると突然怒鳴り、母を捨てるつもりかと責め立てた。

尊武が泣いて謝ると、陀那は一転して優しい母親へ戻り、尊武を宝物だと抱き込んだ。尊武は時折見せる母の愛情を喜び、感情の激しい変化に耐えながら言いつけへ従っていた。

麒麟の呪いへの恐怖

陀那は、濤麗が時間をかけて人の心を縛り、執着させて操る恐ろしい力を持つと尊武へ教えた。自分だけがその危険に気付いており、いずれ尊武も同じ力を得れば理解できると語った。

尊武が鼓濤に会いたいと口にすると、陀那は鼓濤の方がさらに恐ろしい呪いを持つと激昂した。尊武が会うなら濤麗と鼓濤を殺すと短刀を持ち出したため、尊武は必死に止め、二度と会わないと約束した。

白龍への関心

尊武が濤麗の専属医である白龍の話をすると、陀那は珍しく強い興味を示した。尊武は母を喜ばせるため、界弦や侍女から白龍の情報を集めて伝えた。

その後、黒水晶の宮では濤麗と白龍が親密であり、鼓濤は玄武公ではなく白龍の子だという噂が広がった。出所不明の噂によって玄武公は苛立ちを募らせ、宮全体が黒い渦に呑まれるような不穏な空気に包まれていった。

二、十七年前の事件 

鼓濤を救えなかった尊武

尊武は、北の方に仕える侍女たちが次々と処刑され、鼓濤まで死罪になるという噂を聞いた。界弦へ助けを求めたが、従者は玄武公へ従うしかないと告げられた。

尊武は玄武公へ鼓濤の助命を願ったものの、激怒した父に殴られて追い出された。罪のない者を罰する大人たちに絶望した尊武は、自分だけは誰の命も奪わない公正な主人になると誓った。

陀那の企み

陀那は尊武の傷を案じる一方、濤麗と鼓濤が間もなく消えると喜んでいた。玄武公が白龍を捕らえるために宮中の男たちを率いて出たことを明かし、白龍と濤麗の関係を疑わせる噂も自分が流したと認めた。

尊武は、自分から得た白龍の情報が利用されたことを知った。陀那の行為を間違いだと責め、これ以上共にいることはできないと告げて部屋を出た。

白龍への警告

界弦の部屋で一夜を過ごした尊武は、白龍らしき男と身分ある女性が裏山へ向かったと聞いた。玄武公の狩りの標的が白龍だと悟り、危険を知らせるため界弦と共に裏山へ入った。

途中で陀那の銀色の被衣を発見し、白龍と濤麗を追って昼間の山へ入ったのだと気付いた。尊武は母の凶行を止めるため、声のする方角へ急いだ。

濤麗の最期

陀那は鼓濤を抱く白龍へ迫り、濤麗ではなく鼓濤こそ尊武へ災いをもたらす存在だと叫んだ。濤麗が白龍と鼓濤を守ろうとすると、陀那は短刀で濤麗を刺した。

濤麗は白龍へ鼓濤を託し、そのまま崩れ落ちた。陀那は尊武の姿に気付いても止まらず、逃げる白龍と鼓濤を再び追おうとした。

母を止めた光

尊武は界弦の剣を抜き、陀那ではなく頭上の枝を切り落とした。差し込んだ日光によって陀那の顔は焼け爛れ、片目も見えなくなった。

尊武は陀那を銀の被衣で覆い、泣きながら謝った。陀那は息子に裏切られたと責め、鼓濤を逃がしたことをいずれ後悔すると告げて意識を失った。

隠された罪

界弦は尊武の将来を守るため、陀那が濤麗を殺した事実を隠すことにした。人目を避けて陀那を部屋へ運び、血に染まった衣装を焼き、呼び起こせない侍女・灰音に代わって応急処置を施した。

界弦は尊武へ、目撃したことを誰にも話さず夢として忘れるよう言い聞かせた。しかし尊武は深い衝撃を受け、その夜から命に関わるほどの高熱を出した。

銀色に変わった髪

尊武は一か月後に回復したが、その髪は黒から見事な銀色へ変わっていた。

三、マゴイの血 

銀髪の正体

白龍から渡された強磁石付きの小物入れによって、尊武の髪を覆っていた黒い砂鉄が剝がれ、銀髪が露わになった。董胡は尊武がマゴイではないかと疑ったが、尊武は問いに答えず、小物入れの仕組みに興味を示した。

董胡が空丞へ知らせようと考えると、尊武は正体を知られれば空丞を離宮から出せず、場合によっては始末すると警告した。董胡は空丞に黙っている代わりに、事情を説明するよう求めた。

陀那の血筋

尊武は、母の陀那も砂鉄で銀髪を黒く染めていたと明かした。玄武公は尊武がマゴイであることに気付いていない可能性が高く、尊武自身も八歳までは普通の黒髪だったという。

尊武は高熱で一か月寝込んだ後、髪が銀色へ変わり、性格まで別人のようになった。その変化によって、玄武公からも不気味に思われていると考えていた。

八歳の変貌

尊武は八歳以前の自分が、心優しく素直な公子だったと語った。しかし銀髪になってからは激しい怒りと破壊衝動に支配され、生き物や人を傷つけたい欲望に苛まれた。

自分が悪しき存在に乗っ取られ、陀那と同じものへ変わっていく恐怖を抱いたが、陀那は息子が目覚めたと喜んでいた。

砂鉄の抑制

陀那が砂鉄で銀髪を黒く染めると、尊武の凶暴な衝動はいくらか抑えられた。反対に銀髪のままでは、自分でも何をするか分からない状態になるという。

尊武は董胡へ、銀髪の自分には決して近付かないよう警告し、それ以上の説明を拒んで立ち去った。

四、黎司の想い 

尊武の報告

天術を終えた黎司は、尊武と空丞が玄武の離宮で生きていると翠明へ伝えた。しかし尊武から董胡は濁流に流されて死んだと聞かされ、涙を流しながらもその言葉を信じようとしなかった。

黎司は白滝川の下流と周辺の村を捜索するよう翠明へ命じ、亡骸が見つからない限り董胡を捜し続けると宣言した。

董胡を后に置く願い

黎司は董胡が無事なら、玄武の后・鼓濤として側に置きたいと翠明へ告げた。表向きは后として暮らしながら、実際には専属薬膳師として夢を叶えさせるつもりだった。

翠明は、平民の董胡には後ろ盾がなく、玄武公から命を狙われる危険があると反対した。しかし黎司は、離れた場所で生死を案じるより、一番近くで守りたいと訴えた。

黎司の唯一の望み

黎司は董胡のいない人生には意味を見いだせず、彼女が側にいてくれるなら、身のすべてを伍尭國と民のために捧げると誓った。

董胡本人が后になることを望まない可能性は残っていたが、黎司の決意は変わらなかった。翠明は董胡が無事なら二人を全力で支えると約束し、黎司はその言葉を希望として立ち上がった。

マゴイの血筋への疑惑

殿上院では、重臣たちが尊武らの消息と其那國のマゴイについて話し合っていた。

白虎公は、先帝の時代に銀髪で日の光に弱い其那國の姫が輿入れしたと語った。さらにマゴイの女性は十五カ月児を産み、難産で命を落とすことが多いと明かされた。

その特徴に心当たりがあった玄武公は、尊武の出生へ疑念を抱き、蒼白になった。

尊武と空丞の生存

黎司は殿上院へ入り、天術によって尊武と空丞の無事を確認したと報告した。二人は尊武の離宮で回復しており、近く王宮へ戻るだろうと告げた。

重臣たちは尊武の生存を喜んだが、平民医官である董胡の安否を気にかける者はいなかった。

后行列の偽装

黎司は、玄武と朱雀の后が無事に戻り、動揺した鼓濤は朱璃の后宮で休んでいると説明した。

実際には朱璃と王琳が董胡を捜しに向かい、茶民が鼓濤に扮していた。朱璃は玄武公の訪問を防ぐため、玄武の侍女たちも自らの后宮で保護していた。

伍尭國への脅威

赤軍の将軍は、白虎で得たマゴイの情報と、董胡たちが大河へ流された経緯を重臣たちへ報告した。

黎司は其那國がすでにマゴイに支配され、伍尭國への侵略も想定すべきだと判断した。白虎を中心に軍の警戒を強化し、情報を共有して戦闘にも備えるよう命じた。

皇帝としての決意

黎司は董胡が生きて戻ると信じ、その時こそ想いを伝えて后として迎えると心に決めた。

董胡と共に生きる未来を守るため、黎司はマゴイの脅威を退け、皇帝として前を向くことを選んだ。

五、壁宿の診療所 

吐伯の診療所

朱璃と王琳は赤軍や麒麟の密偵を伴い、壁宿にある亡き吐伯の診療所へ到着した。そこでは王琳の兄・安寧の妻である須未と旧使用人たちが、王琳の帰還に備えて屋敷を守り続けていた。

朱璃は朱雀の薬膳師・光と名乗り、一行を休ませた後、尊武の離宮と董胡の消息について情報を集めた。

濡れた三人の目撃談

村人は、大河の下流でびしょ濡れの空丞、尊武、董胡と思われる三人を目撃していた。三人は山側へ向かっており、その先には尊武の離宮があった。

朱璃と王琳は董胡が離宮で生きていると確信した。一方、離宮の周辺を探っていた黒服の若者が門内へ連れ込まれたという話から、楊庵も捕らえられた可能性が示された。

幼い尊武の姿絵

使用人は、流鏑馬に出場した幼い尊武の姿絵を大切に持っていた。当時の尊武は誠実で優しく、母親思いの公子だったと伝えられていた。

さらに尊武は、心を病んだ母を支えるため離宮へ移り、妻も娶らず介護していると噂されていた。朱璃と王琳は、自分たちの知る冷酷な尊武との違いに戸惑った。

離宮の監視

最近の離宮では食材を運ぶ荷車が増え、夜には松明が灯り、竈の煙も上がっていた。朱璃は尊武と董胡が滞在していると判断した。

しかし玄武の嫡男の宮へ赤軍を率いて踏み込むことはできず、朱璃は密偵に監視させながら、尊武が董胡を王宮へ連れ帰るか様子を見ることにした。

地下の暗衛部隊

離宮の地下には、黒服の男たちが武術を鍛える広大な訓練場があった。彼らは虚ろな目で黙々と鍛錬し、体調を崩すと香の満ちた密閉部屋へ入れられ、回復して戻っていた。

その部隊を指揮していたのは尊武であり、背後には青白い顔の白服の男たちが仕えていた。

操られた楊庵

楊庵も虚ろな目となり、地下で武術を教え込まれていた。医術で培った鍼の技術を使い、白服の男の急所を正確に突いて人型の紙へ戻した。

尊武は楊庵に暗殺術の才能があると知り、董胡を従わせるための人質以上の価値を見いだした。

界弦の忠誠

地下部隊を育てていた壮年の男は、幼い頃から尊武を守ってきた界弦だった。尊武は、自分を真に理解し右腕となれるのは界弦だけだと告げた。

尊武は王宮へ向かう間、董胡を逃がさず、空丞が妨害すれば始末してよいと命じた。ただし可能なら空丞を殺すなと付け加えた。

尊武の変化

界弦は、董胡と出会ってから尊武に人間らしい迷いが戻ったと感じていた。董胡だけでなく空丞の命まで惜しむ態度に、銀髪になる前の優しい公子の面影を見いだした。

界弦は誰も殺さず離宮を守ると答え、尊武の中に再び現れた変化へ希望を抱いた。

六、尊武の能力 

黎司への呼びかけ

董胡は黎司の髪を手に、もう一度姿を現してほしいと願い続けた。しかし黎司は現れず、尊武が語った拒絶が真実なのか、別の嘘をつかれているのか判断できずにいた。

さらに尊武がマゴイの血を引くと知り、マゴイと結んで董胡を差し出すつもりではないかと疑った。自分が利用されれば伍尭國の崩壊につながると恐れ、黎司へ知らせる必要を感じた。

式神の従者

部屋を出ようとした董胡の前に尊武が現れ、王宮へ向かうと告げた。董胡が従者たちをマゴイの力で操っているのかと尋ねると、尊武は紙から侍女姿の式神を作り出した。

離宮の従者はすべて尊武の式神であり、彼らの見聞きしたものは尊武と共有されていた。董胡と空丞の行動も常に把握されており、尊武の留守中でも逃げ出すことは困難だった。

尊武の選択肢

董胡は尊武が伍尭國の敵なのか、黎司を操るつもりなのか問い詰めた。尊武は玄武公とは別の考えで動いており、今後どの道を選ぶかには複数の選択肢があると答えた。

一度は董胡の行動次第だと口にしたものの、すぐに冗談だと打ち消した。董胡は白龍の言葉を思い出し、自分の判断が伍尭國の行方を左右する可能性を感じた。

料理を口実にした自由

董胡は尊武の留守中も料理を作りたいと申し出た。自分の料理を式神に味見させ、料理人へ同じ味を伝えれば、呪いのない料理を作れると説明した。

尊武はその提案を認め、料理をする時には医官服へ着替えることを許した。董胡は料理を口実に御簾の外へ出て行動範囲を広げる機会を得た。

尊武の出立

尊武は董胡と空丞を離宮に残し、黎司への報告のため王宮へ向かった。

七、離宮の夕顔膳 

夕顔畑への接近

董胡は空丞に、離宮の従者がすべて尊武の式神であり、二人の会話や行動が常に伝わっていると明かした。そのため料理の食材探しを装い、竹林の向こうへ進む機会を作った。

夕顔の実を使いたいと訴えたことで立入禁止区域へ案内され、董胡と空丞は高い塀や夕顔棚の奥を確認した。さらにその先には不思議な植物の畑と大きなお堂があり、董胡は楊庵が囚われている場所だと推測した。

夕顔膳の調理

董胡は持ち帰った夕顔の実を使い、干瓢や酢の物、刺身、鶏餡かけ、漬物、あんみつなどを作った。料理人にも同じ工程と分量で再現させ、董胡自身が作らなければ麒麟の呪いを避けられるか確かめようとした。

しかし見た目も材料も同じ料理でありながら、式神たちは董胡の料理の方が明らかに美味しいと判定した。単純に茹でただけの料理でも差が生じたため、董胡は麒麟の力が料理そのものへ作用している可能性を疑った。

眠りについた式神

夕顔膳を食べた式神たちは、突然全員が眠り込んだ。董胡は睡眠薬を使っておらず、食べなかった空丞だけは無事だったため、董胡の料理が式神へ予想外の影響を与えたと考えられた。

尊武と意識を共有する監視役が動けなくなったことで、董胡と空丞は初めて自由に相談できる状況を得た。

離宮からの脱出

董胡は離宮を出て麒麟の社へ向かい、尊武がマゴイであることを黎司へ伝える決意を明かした。自分がマゴイの手に渡れば伍尭國の崩壊につながると考えたためであった。

空丞は董胡を守って脱出させると誓ったが、董胡は先に楊庵を救うことを求めた。夕顔畑の奥で見つけたお堂に楊庵がいると見当をつけ、眠る式神たちを残して空丞と共に厨房を飛び出した。

八、秘密の暗衛部隊 

芥子畑の正体

董胡と空丞は眠った式神たちの隙を突き、夕顔畑の先にあるお堂を目指した。途中に広がる畑で、董胡は未成熟な実から阿芙蓉を採取した跡のある芥子を見つけた。

その芥子は董胡の知る種類と異なり、マゴイが人を操る際に焚いた香と似た匂いを持つ可能性があった。董胡は、尊武が極楽金丹だけでなく、マゴイの操術に用いる薬を作っているのではないかと疑った。

地下への隠し扉

二人がお堂へ入ると、広い板張りの室内には誰もいなかった。しかし空丞は床下から振動を感じ取り、地下に部屋があると見抜いた。

董胡が床の間を調べていると、土壁が横へ動き、隠し通路が現れた。その奥から黒服姿の楊庵が姿を見せたため、董胡は無事を喜び、共に逃げようと手を取った。

操られた楊庵

楊庵は突然董胡の腕をひねり上げ、背後から羽交い締めにした。同時に隠し通路から黒服の男たちが現れ、空丞の行く手を塞いだ。

楊庵の目は虚ろで、尊武に操られていることが明らかだった。空丞が男たちと戦う中、楊庵は董胡の首を押さえ、鍼をうなじへ向けた。

兄弟子の暗殺術

董胡を救うために探していた楊庵は、尊武によって暗殺者へ変えられていた。

身動きできない董胡は、兄弟子の鍼によって命を奪われようとしていた。

九、黒水晶の宮の騒動 

十五カ月児への疑念

玄武公・樊武は、マゴイが十五カ月児を産むという話から、其那國出身で日の光に弱かった陀那の正体を疑った。

若い頃、陀那は孝司帝へ密かに嫁いだ姫君だったが、帝が恐れて手放したため、樊武へ形式上の正妻として下賜されていた。陀那は嫁いで一年以上後に尊武を産んだため、樊武は疑いなく実子として育てていた。

尊武の変貌

尊武は八歳まで素直で優しい公子だったが、高熱で一か月寝込んだ後、残酷で無慈悲な性格へ変わった。

使用人への折檻を楽しみ、平民の子供と犬を斬るなど、以前とは別人のような行動を取った。樊武は高熱による脳の損傷や鬼憑きを疑ったが、マゴイの特徴を知ったことで、その変化にも別の意味があったのではないかと考えた。

失われた濤麗

尊武が変貌した頃、濤麗は白龍と鼓濤を連れて逃げようとし、何者かに殺された。

樊武は白龍と鼓濤を殺すつもりだったが、濤麗だけは失いたくなかった。彼女の死によって絶望し、尊武の異変にも向き合えないまま、憎しみと権力欲に支配される玄武公へ変わっていった。

先帝の皇子

樊武は、尊武が十五カ月児ならば、自分の子ではなく孝司帝と陀那の子である可能性に行き着いた。

顔立ちも体格も似ておらず、異常なほど優秀だった尊武は、本来なら皇族として育ち、場合によっては皇帝となっていたかもしれない存在だった。

華蘭の来訪

華蘭は、尊武が壁宿の離宮で生存していると聞き、医師を送るよう樊武へ頼んだ。しかし樊武は、尊武が自分を父とも思わず勝手な行動を重ねてきたと怒りを募らせた。

尊武を実の兄と信じて慕う華蘭は父を諫めたが、樊武は尊武をもはや得体の知れない他人として見始めていた。

董胡と尊武への疑惑

華蘭から、尊武が薬膳師を助けるため滝へ飛び込んだという話を聞き、樊武はその薬膳師が鼓濤ではないかと気付いた。

鼓濤が王宮へ戻っていない可能性と、尊武が離宮にいる事実から、二人が共にいると推測した。さらに鼓濤が尊武をたぶらかし、二人で自分を謀っていると思い込んだ。

離宮への進軍

尊武と鼓濤が自分の実子ではないという疑念は、樊武の怒りを憎悪へ変えた。

樊武は陀那を問い詰め、尊武、鼓濤、陀那を自ら始末すると宣言した。制止する華蘭を押しのけ、黒軍を召集して尊武の離宮へ向かう準備を始めた。

十、尊武の嘘 

王宮での目覚め

尊武は王宮で謁見を待つ間、気を失ったように眠り込んだ。胡の料理を食べた式神とのつながりが突然切れ、離宮の状況を把握できなくなったが、先に黎司への報告を済ませることにした。

憔悴した黎司

謁見の間には、天術を使い過ぎて衰弱した黎司が待っていた。尊武が胡はまだ見つからないと報告すると、黎司は失望しながらも捜索を続けるよう命じた。

尊武は、胡を失ったと思い込んだ黎司が麒麟の呪いによってどう変わるかを確かめようとしていた。黎司が死を信じ切っていないと知ると、身代わりの亡骸を用意して決定的な絶望を与えることまで考えた。

空丞の辞職

尊武は空丞から預かった黎司と月丞宛ての文を渡した。文には黄軍を辞めて尊武のもとで働くと記されていたが、黎司は空丞が重大な報告を文だけで済ませることや、尊武に仕える理由を不審に思った。

黎司は一度王宮へ戻るよう伝えることを命じたが、尊武は空丞が胡を見捨てられず、戻ることはないと考えていた。

胡への偽り

黎司に胡の最後の様子を尋ねられた尊武は、事実に嘘を混ぜて語った。胡は偽の鼓濤として黎司を騙した罪を恐れ、王宮へ戻りたくないと話した末、自ら滝へ飛び込んだと説明した。

さらに胡は尊武を兄以上に慕い、黎司を恐れていたのだと告げた。黎司は胡と心が通じていなかった可能性に打ちのめされ、食事も取れないほど弱っていった。

呪いの末路

尊武は、黎司が父・樊武のように憎しみへ変わるのか、自ら衰弱して死ぬのかを観察した。黎司の才覚と天術を高く評価し、先帝の子である自分にとって弟だった可能性も意識していたが、胡を渡すつもりはなかった。

胡を失えば自分も同じ状態になると考え、伍尭國が滅びようとも関係ないと結論づけた。

王宮の貴族たち

謁見後、尊武は宮内局の文官たちに囲まれた。彼らは尊武の無事やマゴイの噂、黎司の衰弱、弟宮への代替わりを軽々しく語り、玄武の繁栄を期待していた。

尊武は、天術を持つ黎司こそ他国への最大の抑止力であり、弟宮では伍尭國を守れないと理解していた。国外を巡った経験から、国の軍事力は脆弱で、近隣国も侵略を視野に入れていると見抜いていた。

胡を得る者

愚かな貴族社会とマゴイの野心を比べながら、尊武は今後の選択肢を考えた。

そして胡の心を得た者が世界を支配すると考え、離宮へ急いで戻ることにした。

十一、界弦の願い 

地下の暗衛部隊

楊庵の鍼は界弦の命令によって董胡のうなじ寸前で止まった。楊庵は七幡と呼ばれ、董胡を拘束して地下へ連行し、空丞も抵抗をやめて別室へ閉じ込められた。

地下の広間では、虚ろな目をした数十人の生身の男たちが武術の鍛錬を続けていた。式神ではない彼らを管理していたのは、かつて幼い尊武の側近護衛を務めた界弦であった。

楊庵の選択

界弦は、楊庵が董胡の正体を知り、自分が足枷になることを恐れて自死しようとしたと明かした。尊武に止められた楊庵は、生きるなら董胡を忘れた存在になりたいと望み、深い催眠状態へ入ったのである。

楊庵は董胡の呼びかけにも反応せず、苦しみ始めると阿芙蓉の香が満ちた補給室へ運ばれた。

阿芙蓉による支配

地下の男たちは、其那國から持ち込まれた芥子から作られた阿芙蓉を吸い続けることで操られていた。薬が切れれば禁断症状が起こるものの、摂取を続ければ苦痛なく生きられると界弦は説明した。

彼らは貧困や戦争、家族の死によって生きる希望を失い、自ら意思と感情を捨てて支配される道を選んでいた。代わりに食事と寝床を与えられ、不安のない生活を送っていた。

マゴイの異能

阿芙蓉は、日の光を避けて生きるマゴイが得た唯一の武器であった。元来一人しか操れなかったマゴイは、阿芙蓉によって催眠を長期間維持し、遠隔から複数人を支配できるようになっていた。

さらにマゴイと麒麟の血を持つ子は強大な異能を得る一方、力が暴走して死んだ例があった。そのためマゴイは、より濃い麒麟の血を求め、姫君を送り込んで尊武を誕生させたのである。

尊武の銀髪

尊武は日の光に耐え、何十人もの人間を操る力を持っていた。界弦は尊武の銀髪を依り代として、その力を借りて暗衛部隊へ命令していた。

しかし界弦自身も尊武の監視下にあり、式神との通信が途切れた今だけが、董胡へ秘密を話せる機会であった。

心優しい公子

界弦は、八歳以前の尊武が弱者を思いやり、民の幸福を願う優しい少年だったと語った。銀髪へ変わった後は悪しき衝動に苦しみ、子供と犬を斬った際には自分を殺してほしいと三日三晩泣き続けていた。

現在も尊武の心の奥には昔の優しさが残り、自らの罪への後悔に引き裂かれているのだと界弦は信じていた。

董胡が生んだ執着

尊武は董胡と出会ってから、自分以外の命へ執着するようになった。董胡を救うため白虎へ向かい、楊庵の自死を止め、空丞も可能なら殺さないよう命じていた。

界弦は、董胡が悲しむ者まで尊武の孤独な世界へ入り込んだことで、失われていた迷いと思いやりが戻り始めたと考えた。董胡への麒麟の呪いは、尊武にとって悪しき血から解放される救いになり得るものだった。

界弦の懇願

界弦は董胡へ、尊武の側に残ってほしいと頼んだ。董胡が悲しむ道を尊武は選べないため、彼女が側にいれば黎司と伍尭國を守り、尊武が非情な道へ進むことも防げると訴えた。

赤子の鼓濤

界弦はさらに、濤麗が殺された日、赤子だった董胡を陀那から救ったのは八歳の尊武だったと明かした。

尊武は母が董胡を殺そうとするのを止めるため、日陰を作っていた枝を斬り、陀那を日光にさらした。その結果、陀那は顔を焼かれ片目を失い、その衝撃が尊武のマゴイの血を目覚めさせたのである。

界弦は、自らが救った董胡の命を尊武のために使い、孤独な彼を救ってほしいと改めて懇願した。

十二、思わぬ訪問者 

黎司の拒食

黎司は董胡を失った絶望から、粥も薬湯も受け付けず、真水で口を湿らせることしかできなくなっていた。奏優と翠明は董胡が作った粥に近い味を用意したが、黎司は飲み込めずに吐き出した。

尊武から董胡が自分ではなく尊武を慕い、皇帝である黎司を恐れていたと聞かされたことで、黎司は董胡と出会う前の孤独へ戻っていた。董胡の料理だけを求める自分に、阿芙蓉の中毒に似た執着があるのではないかとも疑った。

魂だけの天術

董胡に会いたいと願いながら眠った黎司は、体を失った意識だけの姿で皇宮の上空に現れた。死んだのかと疑いながら董胡の許へ行くことを願うと、尊武の離宮へ導かれた。

黎司は屋根や床をすり抜け、地下に広がる黒服の軍勢を発見した。そこでは空丞が拘束されており、尊武へ仕えるためではなく、董胡を守るために黄軍を辞めたと知った。

生きていた董胡

黎司は豪華な地下室で董胡を見つけた。董胡は無事だったが、空丞の解放と阿芙蓉に侵された楊庵の救出を界弦へ求めていた。

界弦は、董胡が尊武の側に残ると決断すれば二人を解放すると告げた。董胡は尊武がマゴイと手を組んで伍尭國や黎司へ危害を加えないよう、自分が離宮に残ることを考えていた。

尊武と鼓濤の秘密

二人の会話から、黎司は尊武が玄武公の実子ではなく先帝の落胤であることを知った。さらに董胡が濤麗と玄武公の実の娘であり、本物の鼓濤だという事実にも行き着いた。

董胡は玄武公が陀那と尊武を許すかを案じ、黎司に嫌われたと思い込んでいた。尊武から、黎司は董胡の正体を知った上で会いたくないと言ったと偽られていたためである。

届かない思い

董胡は黎司を守るために尊武の側へ残るべきだと自分へ言い聞かせた。黎司は必死に否定し、自ら迎えに行くと叫んだが、その声は届かなかった。

董胡も一瞬だけ黎司の声を感じたものの、再び会いたいと涙を流した。黎司が触れようと伸ばした手は消え、その意識は肉体へ引き戻された。

生還した黎司

黎司は一時呼吸まで止まっていたが、翠明と奏優の呼びかけで目を覚ました。董胡が尊武の離宮で生きていると訴え、空丞と楊庵が捕らえられ、地下に私軍がいることを伝えた。

当初二人は夢だと疑ったが、朱璃と行動する密偵から、董胡が離宮にいる可能性と楊庵が捕らえられた事実を知らせる文が届いた。黎司は見たものが現実だったと確信した。

迎えに行く決意

董胡の生存を知った黎司は生気を取り戻し、食事を取った後、自ら離宮へ迎えに行くと決めた。皇帝としてではなく黎司個人として動き、月丞を護衛に連れて秘密裏に王宮を出るつもりだった。

さらに董胡が本物の鼓濤であり麒麟の力を持つ可能性を翠明へ伝え、尊武の母・陀那や先帝との関係、離宮の情報を調べるよう命じた。

白龍の来訪

その時、朱璃の木札を持つ白龍が白虎から黎司を訪ねてきた。董胡が隠している秘密を知る白龍は、朱璃の依頼を受けて皇宮へ向かっていた。

黎司は董胡に関する真実を知るため、白龍をすぐに通すよう命じた。

陀那の野望

離宮の闇に暮らす陀那は、濤麗への憎悪を募らせながら、白い勾玉を使って魔毘に未来を映させていた。

銅鏡には、尊武が私軍とマゴイを率いて王宮を制圧し、世界の覇者となる未来が映っていた。陀那は尊武がマゴイの悲願を叶えると信じ、その光景を希望としていた。

未来に現れた鼓濤

しかし尊武の隣には、これまでいなかった董胡の姿が現れた。尊武が董胡を愛おしそうに抱く未来を見た陀那は、鼓濤が生きていると悟った。

陀那は董胡が再び自分たちの計画を妨げると激怒し、魔毘へ居場所を映すよう命じた。

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