どんなラノベ?
普段は出涸らしと呼ばれる、臣下の貴族に馬鹿にされてる皇子。
でもその実態は古代魔術を駆使するSS級冒険者のシルバ。
そんな彼が双子の弟を次期皇帝にしようと暗躍する。
前巻からのあらすじ
外交使節として他国へ行ったレオとアル。
さらにアルの護衛に勇爵家のエルナを御供に行くが、、
敵対国の使節が来たのだが、レオが船酔いで体調が悪いのでアルがレオになり変わって対応。
その後、水竜か発生させた嵐に巻き込まれてしまい。
レオに化けたアルの乗る船は。
水竜に沈められた船の乗員を回収して敵対国とはいえ重傷者がいるため、白旗を掲ながら敵対国の港に突っ込んでいって。
救助者を相手国に渡して治療も受けれるようにしたが、、
レオに化けたアルは捕虜になってしまった。
そして、水竜もレオが指揮をとってる時にシルバーが討伐して相手国の脅威を解決する。
読んだ本のタイトル
最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い 3 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する
著者:タンバ 氏
イラスト:夕薙 氏
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
外交でも完璧に暗躍し、弟・レオナルトの評価を高めた出涸らし皇子・アルノルト。安堵も束の間、次は皇族最強の将軍・第一皇女リーゼの縁談を取り持つよう皇帝に命じられる。一方、流民の村で起きる人攫いの解決を命じられたレオナルト。しかし、調査の最中に帝国を揺るがす異常事態が発生し!?
最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い3 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する
帝国とその民の危機を前に、獅子奮迅の活躍を見せるレオ。その成長と決意を目の当たりにしたアルは――「未来の皇帝が俺に本気を見せてみろと言った。その返礼はせねばならんだろう」弟を助け、帝国を護る為、出涸らし皇子は戦場で暗躍する! 最強皇子による縦横無尽の暗躍ファンタジー、決意の第三幕!
感想
水竜を討伐した功績で父親の皇帝から何が欲しいと言われたレオは。
外交使節として出発する前に冒険者のリンフィアが懇願して来た。
南部の流民の村に蔓延る人攫いの問題を解決したいと言う。
それを聞いた皇帝は流民を含めて帝国に居る民は全て帝国の民だと宣言しており。
問題を放置している南部貴族に激怒。
レオに皇帝代理人としての全権を与えて徹底的に捜査するように命じる。
そして、アルには密かに長女のリーゼロッテの縁談を少しでも前に進めろと命令する。
そして、アルはリーゼロッテに縁談を求めた東部の辺境のユルゲンの領地へと行く。
ユルゲンの領地に着いて、彼の屋敷に行くと東部国境を警備しているはずの異母姉リーゼロッテが登場。
リーゼロッテとユルゲン、そしてアルとお茶をしながら話をするが。
その下でお菓子の取り合いをする程仲が良い姉弟。
そんなリーゼロッテに、縁談の話を持って行けと皇帝から命令された言うが、、
リーゼロッテは結婚する気は無いと言う。
そして縁談相手のユルゲンの一途さが説明されるのだが、、
出会ってから約10年間。
何度もリーゼロッテに求婚しており彼女に相応しい男になろうと努力するユルゲン、
そんなユルゲンに姉も悪くは思ってないが友人止まり。
そんな中、南部でレオは流民の人攫い事件を追い掛けていたが、スケルトンの大軍が突然襲ってきた。。
それに救援に軍を率いて駆け付けるリーゼロッテ、その道を長年整備して、さらに自ら領地の軍を率いて魔獣を引き付けてリーゼロッテの道を切り開くユルゲンが凄くカッコよすぎる。
それでもツレないリーゼロッテ、、
頑張れユルゲン!!
あ、スケルトンの大軍は軍部の過激派(ゴードン派)から依頼を受けた魔術を研究する連中(ザンドラ派)が人体実験をして、異界に繋げた物だったと判明。
アレ?
これはゴードン、ザンドラの次期皇帝の資格剥奪案件じゃね?
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
展開まとめ
第一章 流民問題
ドワーフ流入と外交危機の発生
十一年前、帝国は西のペルラン王国と戦争状態にあった。その最中、東のソーカル皇国がドワーフの国を侵略して滅ぼし、多くのドワーフが帝国へ逃れた。帝国はこれを保護したが、技術流出を恐れるソーカル皇国は抗議と警告を繰り返し、ついには皇子を大使として派遣する事態となった。
帝国の対応策と宝玉譲渡の決定
皇帝ヨハネスと宰相フランツは、二正面作戦を避けるため対応を協議した。ドワーフを引き渡せば亜人全体を敵に回す危険があるため、代替案としてソーカル皇国に巨大な宝玉を提供する方針が決定された。帝国は宝玉資源に余裕があり、これによって戦争回避と西部戦線の安定を図ろうとした。
エルナの迷い込みと宝物庫侵入
大使来訪の日、六歳のエルナは城内で父と離れ、偶然見つけた通気口から宝物庫へ入り込んだ。そこには古代の魔法剣など貴重な品が並んでおり、エルナは興味を惹かれて剣を手に取り、振り回し始めた。
宝玉破壊と混乱
剣の一振りが箱を斬り裂き、その中にあった巨大な宝玉を真っ二つにしてしまった。さらに魔導具も破壊され、宝物庫は暗闇に包まれた。事態の重大さを理解したエルナは動揺し、どうすることもできず泣き崩れた。
アルノルトの介入と身代わりの決断
そこへ七歳のアルノルトが現れ、状況を把握するとエルナを通気口から逃がした。直後に皇帝一行が到着する中、アルノルトは自らが宝玉を壊したと名乗り出て責任を引き受けた。
皇帝の激怒と処罰
アルノルトの告白により、その場は凍りついた。皇帝は激怒し、帝国と皇国の友好の証であった宝玉を壊したことを厳しく叱責し、アルノルトを牢へ入れるよう命じた。アルノルトは抗弁せず、処罰を受け入れた。
エルナの告白と不安
一方、逃げ出したエルナは父である勇爵のもとへ駆け寄り、涙ながらに一連の出来事を説明した。父の表情が曇るのを見て、エルナは自らの行動が招いた結果への不安を強めていった。
エルナの告白と責任の所在
勇爵は皇帝のもとへ赴き、宝玉破壊の責任が自らとエルナにあると謝罪した。重臣たちはアルノルトの行動を非難し、皇族の失態として外交上の不利を招いたと問題視した。エルナは真実を告げたいと願いながらも立場上それができず、涙をこらえて沈黙した。
皇帝の判断と真相の把握
皇帝はアルノルトが誰かを庇っていることを見抜いており、宝玉の箱に施された防御魔法から彼の犯行ではないと理解していた。それでも大使の前での体裁を保つため、アルノルトを処罰せざるを得なかったと説明した。また、今さら真実を明かしても状況は覆らず、外交的にも意味がないと断じた。
ミツバの登場と教育観
アルノルトの母ミツバが現れ、エルナを労いながらも、アルノルトの行動は本人の責任であると明言した。彼が自らの意思で庇った以上、その結果も受け入れるべきだとし、母として助命を求めることを拒否した。その姿勢は周囲に衝撃を与えたが、子の自主性と責任を重んじる考えに基づくものであった。
政治論争と外交批判
ミツバは外務大臣の発言を受け、現在の外交方針や戦争準備の甘さを鋭く批判した。ペルラン王国との戦争やソーカル皇国への弱腰対応は見通しの欠如によるものだと指摘し、外務大臣を論破した。さらに、帝国は亜人保護という立場を貫くべきであり、曖昧な態度は国の威信を損なうと主張した。
皇帝の決意と方針転換
ミツバの言葉とアルノルトの覚悟に触れ、皇帝は方針を転換した。安全策よりも信念を貫くことを選び、亜人保護の立場を明確にする決意を固めた。そして自らの責任で決断することこそが皇帝の役目であると再認識した。
大使との対決と強硬外交
皇帝は大使に対し、ドワーフの引き渡しを拒否し、要求が受け入れられないなら敵対も辞さないと宣言した。すでにペルラン王国へ停戦使者を送ったことを明かし、二正面作戦の覚悟すら示した。帝国の威信と信念を前面に押し出した強硬な姿勢により、大使は圧倒され退去した。
アルノルトへの教えと皇帝の姿
その後、皇帝はアルノルトを呼び、自らの決断こそが皇帝の務めであると教えた。良し悪しに関わらず決断することの重要性を示し、その姿を褒美として見せた上で、罰は受けるよう命じた。アルノルトはそれを受け入れた。
後日談とエルナの誓い
後日、エルナはミツバに謝罪し、アルノルトを決して見捨てないと誓った。この出来事をきっかけに、アルノルトは大きな価値あるものを得ることとなったが、その意味を本人は理解していなかった。
現在と未来への示唆
現在、ミツバは当時を振り返りつつ、アルノルトが理想の皇帝像を見たことで自ら帝位を望まず、他者を支える道を選ぼうとしていることを思案していた。その在り方に一抹の不安を抱きながらも、帰還する息子たちを迎えるため行動を起こした。
レオナルトの戦果報告と評価
玉座の間に重臣と皇帝の子供たちが集まる中、レオナルトは海竜討伐後にアルバトロ公国とロンディネ公国が同盟維持を再確認し、南部で当面戦が起こらなくなったと報告した。皇帝はその成果を高く評価し、帝国の名声向上と南部情勢の安定をもたらした手腕を称賛した。これにより、今回の功績が完全にレオナルトの手柄として認められた。
褒美の選択と新たな願い
皇帝は褒美として大臣職すら与える意向を示し、その場にいた大臣や兄姉たちは緊張した。しかし、レオナルトは大臣職を辞退し、自分にはまだ務まらないと答えたうえで、南部出身の少女から頼まれていた問題の解決を望んだ。その内容が流民の村で起きている人攫いだと明かされると、場の空気は一変した。
流民問題への皇帝の激怒
その村が十一年前から存在していたと知った皇帝は激昂した。かつて自らすべての流民を帝国の臣民と認めると宣言していたため、その命が守られていないことは自らの権威を軽んじられたに等しかったからである。自ら調査し、事実なら領主の首を刎ねるとまで言い出したが、宰相フランツの進言により、ひとまず冷静さを取り戻した。
ザンドラとゴードンの失策
そこへザンドラとゴードンが、自分に任せてほしいと進言した。だが皇帝は、それを帝位争いの道具にしようとしていると受け取り、二人を強く叱責した。特にザンドラは南部出身の母を持つため、この問題に利害関係がある可能性を指摘され、ゴードンは力任せで繊細な案件に向かないと断じられた。二人は謝罪して退いた。
レオナルトの巡察使任命
皇帝は最終的にレオナルトを巡察使に任じ、南部辺境の問題を徹底的に調べるよう命じた。人攫いは帝国における重罪であり、それを見逃した者もまた重罪であるとして、一切の妥協なく真相を暴くよう厳命した。アルノルトはその命令を受けたザンドラの様子から、彼女の母の実家もこの問題に関わっている可能性を察し、この件が帝位争いにおいて大きな意味を持つと見ていた。
レオナルト陣営の前進
今回の功績によって、レオナルトは名実ともに帝位争いの有力候補となった。今後は味方する者も増え、勢力基盤はさらに固まりつつあるとアルノルトは見ていた。留守の間にレオナルト陣営を潰せなかったことを他陣営が後悔するだろうと考えつつ、ここからが本当の戦いだと認識していた。
会議後の呼び止めと縁談の相談
会議が終わって全員が下がる中、アルノルトだけが皇帝に呼び止められた。玉座の間に皇帝とフランツだけが残ると、二人は言いにくそうにしながら、東部国境を預かる第一皇女に縁談の話が来ていると告げた。アルノルトは即座に断るべきだと返したが、皇帝とフランツは困り切った様子を見せた。
第一皇女の価値と皇帝の親心
アルノルトは、第一皇女が東部国境全軍を預かる元帥であり、帝国に三人しかいない元帥の一人である以上、縁談など馬鹿げていると主張した。しかし皇帝は、娘がすでに二十五歳であり、このままでは嫁ぎ先がなくなると本気で心配していた。これまで何度も手紙で縁談を勧めたものの、そのたびに拒絶され、ついには縁談を受けるくらいなら皇族をやめるとまで言われていた。
理不尽な説得役の押し付け
皇帝は、自分では強く出られないため、アルノルトに第一皇女を帝都へ呼び戻すよう説得を命じた。クリスタとも仲が良く、第一皇女にも気に入られているアルノルトなら何とかなると考えたのである。長姉が皇帝にとって特別な第二妃に瓜二つであることもあり、皇帝は命令で呼び戻すことを避けていた。理不尽な頼みにアルノルトは呆れつつも、結局は頷くしかなく、また面倒ごとが増えたと感じていた。
第一皇女の人物像の確認
自室に戻ったアルノルトは、フィーネに第一皇女の縁談話を打ち明けた。フィーネは、各地を転戦して武功を重ね、他国にまで名を轟かせた姫将軍としての噂を語った。これに対してアルノルトは、その評価は誇張ではなく、第一皇女が東部国境の守備を改革して以降、ソーカル皇国が動けなくなったと説明した。
軍人としての第一皇女
第一皇女の人柄を問われたアルノルトは、彼女を一言でいえば軍人であると表現した。騎士のような一対一の美学ではなく、勝利そのものを重視する現実的な考え方を貫いており、皇太子の死後も帝位争いには加わらず、誰が皇帝になっても元帥として仕えると宣言していた。そのため、軍関係者の多くはゴードン支持へ流れることになった。
第二妃とのつながりとフィーネへの評価
アルノルトは第一皇女を、背が高く金髪の美女であり、雰囲気は違うがフィーネに似ていると評した。その言葉にフィーネは照れ、セバスがその理由を説明した。さらに、第一皇女とクリスタは第二妃の娘であり、第二妃は金髪で美しく、穏やかで優しい人物だったことが語られた。アルノルトは、皇帝がフィーネを気に入っているのも、第一皇女とは正反対に、第二妃に近い気質を見ているからだと考えていた。
縁談の背景と第五妃への無関心
第一皇女の縁談を皇帝が気にするのは、長女である彼女が未婚である限り、ザンドラの縁談にも影響が及ぶためだった。一方で、セバスは皇帝が第五妃を好いていないと語り、フィーネはその言葉に驚いた。アルノルトは、皇帝は表向き妃たちを平等に扱っているが、第五妃にはある疑惑が付きまとっていると説明した。
第二妃暗殺疑惑の発端
その疑惑とは、第二妃を暗殺したのが第五妃ではないかという噂だった。後宮で妃同士の争いは珍しくないが、第二妃はすでに皇太子とクリスタを産んでおり、政治的に排除すべき位置にはいなかった。それにもかかわらず急死し、調査しても死因が特定できなかったことで、第五妃への疑いが強まった。
第五妃と第二妃の対立構図
アルノルトは、第二妃と第五妃が同年代で、どちらも公爵家の娘として比較され続けてきた存在だったと説明した。皇帝の寵愛を受けた第二妃に対し、第五妃は政略結婚であり、娘たちの評判も第二妃の娘のほうが高かった。そのため、第五妃は第二妃に一方的な対抗意識を抱いていたのではないかと見られていた。
禁術研究と呪殺の疑惑
第五妃にはアリバイがあり、直接手を下した証拠はなかった。それでも疑惑が残る理由は、第五妃がザンドラの師であり、禁術研究に深く関わっていたためであった。ザンドラは禁術の中から有用な魔法の制限解除を進めていたが、その過程で危険な魔法にも触れていた。そこから、証拠を残さず人を呪い殺す禁術が存在したのではないかという噂が生まれていた。
皇太子の死と疑惑の継続
三年前に皇太子が死亡した際も、調査しても暗殺の証拠は見つからなかった。その状況が第二妃の死と重なったことで、皇帝は以後ずっと第五妃に疑いの目を向けるようになった。ただし、証拠がない以上、ザンドラに禁術研究を禁じることもできず、その研究成果が軍や魔導兵器開発に役立っているため、皇帝は大きなジレンマを抱えていた。
南部任務への警戒と支援の決意
アルノルトは、ザンドラの母の実家が南部で力を持っていることから、レオナルトが巡察使としてその地に向かうことを危うく感じていた。真面目なレオナルトは不正を見逃さないが、今回は同時期に別任務を与えられているため、直接助けることができない。だからこそ、陰から支えるしかないと考えた。フィーネにそれはいつものことだと言われたアルノルトは、その言葉に同意しながら笑みを浮かべ、フィーネの菓子を口にした。
東部復興策の準備とマリーの補佐
ベルツ工務大臣のもとでは、次の重臣会議で東部と帝都を結ぶ新たな道の建設を提案する方針が確認されていた。モンスター被害を受けた東部の復興を早めるだけでなく、道の建設によって雇用も生み出せる内容であり、その着想にはマリーが持ち込んだ公爵家の事業資料が活用されていた。ベルツ伯爵はマリーの補佐能力を高く評価したが、マリー自身はそれを自分の功績とせず、すべてはレオナルトとフィーネの人望によるものだと述べて屋敷を後にした。
路地裏での襲撃と逆転
帰路についたマリーは買い物を終えた後、あえて路地裏へ入った。すると、若い三人組の男たちが声をかけてきた。マリーは抵抗するどころか応じる姿勢を見せたが、男が肩に手をかけようとした瞬間、袖から出したナイフでその手を壁に縫い付けた。続いて冷静に問い詰め、彼らが黒ずくめの男に唆され、自分を攫うよう命じられていたことを聞き出した。
敵の駒の取り込み
事情を把握したマリーは、男たちが金に困っていたことを察すると、レオナルトから預かっていた資金の中から金貨を渡した。そしてその金を報酬として、レオナルト皇子が他国で多くの命を救ったという事実を帝都で広めるよう命じた。さらに、生きるのに困ったなら城を訪ねるよう告げ、正しく生きようとする者ならレオナルトは見捨てないと伝えた。襲撃者を罰するのではなく、主の評判を高めるための駒へと変えたのであった。
エルナとの接触と黒幕の推測
その場にはエルナも姿を見せ、帝都の民の様子を知るために巡回していたと明かした。マリーは、先ほどの男たちの後を追って接触相手を探るよう頼み、今回の件はほぼ間違いなくザンドラ配下の暗殺者によるものだと推測を語った。ただし、確信があっても糾弾するには明確な証拠が必要であり、政争とはそうした尻尾のつかみ合いであると説明した。エルナは不満を漏らしつつも、その依頼を引き受けてその場を去った。
レオナルトへの報告とアルノルトへの伝達命令
城へ戻ったマリーは、ベルツ伯爵との話し合いの結果をレオナルトに報告した。レオナルトは感謝を示したが、マリーはなおも自分の働きを小さく見積もっていた。するとレオナルトは、その結果をアルノルトにも伝えるよう命じた。マリーは必要性に疑問を抱きながらも、主の望みとあれば従う姿勢を見せた。
アルノルトの部屋で見た対照
アルノルトの部屋を訪れたマリーを出迎えたのはフィーネであった。室内ではアルノルトがソファーでだらしなく昼寝をしており、フィーネはそれを起こさぬよう静かに応対した。マリーは資料を渡しつつ、フィーネがアルノルトに甘すぎるのではないかと苦言を呈したが、フィーネは疲れているなら休むべきだと受け止め、さらに人目につかないところでアルノルトはきちんと仕事をしているのだと庇った。
マリーの疑念と新たな決意
フィーネの言葉を聞いたマリーは、エルナやフィーネだけでなく、レオナルトまでもがアルノルトを高く評価している事実を改めて意識した。兄弟だからという理由だけでは片づけられないほど周囲の信頼が集まっており、アルノルトには何か特別なものがあるのかもしれないと感じた。一方で、それ以上にただ自堕落なだけの可能性も否定できないと考え、その曖昧さに頭を痛めた。最終的にマリーは、これ以上レオナルトに迷惑がかからぬよう、今後はアルノルトにもっと小言を言おうと決意してレオナルトのもとへ戻った。
亜人商会代表との面会前の確認
任務を受けたアルノルトとレオナルトは、すぐに帝都を発つのではなく、それぞれ出発前の準備を進めていた。レオナルトは有力者との会談と取り込みに動き、アルノルトは亜人商会代表への対応を担っていた。面会に先立ち、フィーネは代表を良い人だと評したが、アルノルトはその評価を鵜呑みにせず、人の善性を見がちなフィーネとレオナルトを支えるのが自分の役目だと考えていた。
エルフ秘書との対話と商会の性質
商会の部屋の前で出迎えたのはエルフの秘書であった。閉鎖的で外界にほとんど姿を見せないエルフが、吸血鬼の代表のもとで秘書を務めていることにアルノルトは驚いた。秘書は、自身が里を出た異端者であり、外の世界で苦労した末に代表に救われたと語り、この商会が行き場のない亜人たちの受け皿になっていると説明した。アルノルトはあえてその話を疑うような物言いをしたが、秘書の反応から本当の話だと見抜いた。
ユリヤとの初対面と東部事件への謝罪
部屋に入ると、亜人商会代表ユリヤがアルノルトたちを迎えた。吸血鬼らしい美貌を持つ彼女を見たアルノルトは、東部で出会った吸血鬼たちと、そこから連想されるフィーネの危機を思い出して不快さをにじませた。するとユリヤはその感情を察し、東部で同族が帝国側を危険にさらした件について関係はないと前置きしつつ謝罪した。アルノルトもすぐに態度を改め、互いに席についた。
フィーネの利用法を巡る駆け引き
アルノルトは、今回の用件としてフィーネをどう使うつもりなのかを単刀直入に問うた。ユリヤは逆にアルノルトの考えを探ろうとしたが、アルノルトは彼女の意図を見抜き、フィーネを広告塔として使い、彼女が使っている商品であると宣伝し、可能なら絵も店頭に出すつもりなのだろうと先回りして答えた。ユリヤはその読みの鋭さに驚き、アルノルトが無能を装っているだけではないことを認めた。
弟を守るための役割の自覚
アルノルトは、自分が才を隠しているわけではなく、周囲が勝手に無能と見なしただけだと語った。その上で、今は弟を皇帝にすると決めており、誠実すぎるレオナルトやフィーネを守るために、自分が騙し合いや駆け引きを引き受けるのだと明言した。そして二人を欺こうとする者は自分が潰すと牽制し、ユリヤに強い警告を与えた。
化粧品販売と亜人商会の帝都進出
ユリヤはアルノルトの牽制を受け入れた上で、フィーネの活用法について大筋で彼の考えと同じだと認めた。まずは化粧品を売り出し、蒼鴎姫であるフィーネが使っている品として宣伝することで、大きな話題を呼ぶつもりだった。その効果により、亜人商会に対する帝都でのマイナスイメージを払拭し、堂々と参入する足場を築こうとしていた。
対抗勢力への攻勢と資金要求
アルノルトはその構想を認めつつ、まずは対抗勢力に協力している商会へ打撃を与え、資金源を断つよう求めた。潰すとまでは言わずとも、動けなくなるほどの損害を与えることを要求したため、ユリヤは呆れながらも応じざるを得なかった。さらにアルノルトは、今すぐではなくても必要なときに必要なだけ資金を用意するよう求め、厳しい条件を突きつけた。ユリヤは、とんでもない勢力に手を貸すことになったと漏らしつつも、その条件を受け入れた。
ユリヤとの距離感の確認
退室に際し、ユリヤはアルノルトが望むなら亜人全体を動かして全力で協力してもよいと誘惑するように持ちかけた。しかしアルノルトは、今はその時ではなく、代償が何になるかわからないとしてその申し出を退けた。ユリヤに悪い印象はなかったものの、好奇心が強く、踏み込まれたくない領域まで入り込んできそうな危うさを感じたためであった。アルノルトは商人としての有能さは認めながらも、当面は距離を取るべき相手だと判断してその場を去った。
巡察使任命と兄弟の評価
レオナルトは巡察使の証である紫のマントを皇帝から授かり、南部調査の任務を正式に命じられた。皇帝は一切の妥協を許さず、不正を徹底的に暴くよう厳命した。アルノルトはその様子を見送りながら、レオナルトの能力に不安はないとしつつも、柔軟性の面では自分が補っていたことを指摘された。しかしアルノルトは、レオナルトは人の力を借りることに長けており、自分がいなくとも周囲が支えると評価した。
皇帝の弱気と帝位争いへの覚悟
続けて皇帝はアルノルトに第一皇女の縁談の重要性を語る中で、自らの老いと将来への不安を吐露した。いずれ帝位争いの勝者によって退けられる運命にあることを自覚し、娘の花嫁姿を見たいという願いを明かした。しかしアルノルトは、帝位争いを容認している以上、その弱気は参加者への侮辱であると強く諫めた。皇帝もそれを受け止め、かつて見せた皇帝としての姿を忘れていないかを確認し、アルノルトの答えに安堵した。
出発前の兄弟の別れ
その後、アルノルトはレオナルトの出発を見送った。互いに長い言葉は交わさず、簡潔に激励し合い、それぞれの任務へと向かう覚悟を確認した。
リンフィアへの謝意と資金提供
アルノルトはリンフィアに対し、命を救われたことやフィーネたちを守ってくれたことへの感謝として、魔法で容量を拡張した袋に入った大量の金貨を託した。それは皇子として支給されていた十年分の資金であり、村の復興や問題解決のために自由に使うよう伝えた。さらに、レオナルトは正攻法に偏るため、リンフィアの柔軟な判断で支えてほしいと依頼した。
リンフィアの決意と信頼の確立
リンフィアはその厚意に深く感謝し、必ずレオナルトの力になると誓った。また、アルノルトとの出会いが自身にとって大きな意味を持っていたことを語り、フィーネが彼を信頼する理由を理解したと述べた。アルノルトもその言葉を受け、弟のことを託すに足る人物だと認めた。
任務への出発と今後の展望
リンフィアはレオナルトの護衛として馬車に乗り込み、巡察へと出発した。アルノルトは遠ざかる馬車を見送りながら、自分もまた第一皇女の縁談という任務に向き合う決意を固めた。まずは縁談相手と会い、その上で第一皇女に働きかける必要があると考え、今後の忙しさを見据えて行動を開始した。
ザンドラの焦燥と後宮への突入
後宮の一室にザンドラが押し入り、母である第五妃ズーザンのもとへ駆け込んだ。レオナルトが巡察使として南部へ向かったことに強い危機感を抱き、支持基盤への影響を訴えて取り乱していた。
苛烈な性格の露呈
ザンドラは苛立ちを抑えきれず、近くにいた侍女に風の鞭を振るい、気絶するまで執拗に暴行を加えた。血だらけになった侍女を前にしても罪悪感を示さず、そのまま会話を続ける姿は常軌を逸していた。
ズーザンの冷静な判断
一方のズーザンは冷静さを保ち、南部の件は兄に任せているため問題ないと断じた。仮に失敗しても責任は兄に集中し、自分たちには及ばないと見ていた。また、支持基盤の一時的な損失も、後に帝位を取れば取り返せると考えていた。
禁術研究への執着
ズーザンは自身が禁術研究を行えない状況にあるため、ザンドラにその完成を託した。奴隷商人から届く子供たちを実験対象とし、究極の呪いを完成させるよう命じた。ザンドラもそれに応じ、自分を苛立たせる者すべてを呪い殺すと語り、その狂気を露わにした。
母娘の結束と歪んだ野望
ズーザンはザンドラを自らの素質を受け継いだ存在として愛し、彼女が帝位につくことは自分が帝位につくのと同義だと認識していた。必要であれば自らも再び障害となる者を排除すると語り、二人は歪んだ笑みを浮かべながら抱き合った。
侍女たちの恐怖
その一部始終を見ていた侍女たちは顔を伏せ、ただこの場が終わることを祈るしかなかった。母娘の異様な姿は、周囲にとってまさに恐怖そのものであった。
第二章 ラインフェルト公爵
ユルゲン・フォン・ラインフェルトの人物像
ユルゲン・フォン・ラインフェルトは二十六歳の若き公爵であり、東部と南部の間に領地を持つラインフェルト公爵家の当主であった。家格は新興で領地も大きくはないが、特産物や鉱物取引によって大きく発展しており、実績面では第一皇女の結婚相手として十分な条件を備えていた。しかし、武芸が不得手である点が、軍人であるリーゼロッテの価値観と合致しない大きな障害となっていた。
縁談の裏事情と長年の想い
セバスの報告により、ユルゲンは十年以上にわたりリーゼロッテへ求婚を続けていたことが判明した。幾度も断られながらも諦めず、皇帝を通じた正式な縁談申し込みも繰り返していた。その執念に皇帝も心を動かされ、今回の縁談を後押ししたが、最終的にアルノルトへ取りまとめが委ねられていた。
初対面の印象と評価
アルノルトが対面したユルゲンは、小柄でやや小太りな体格を持ち、人の良さがにじみ出る穏やかな人物であった。外見や武芸の面ではリーゼロッテの好みから大きく外れていたが、その人柄の誠実さは明らかであり、高圧的な態度を取ることができないほどの柔らかさを持っていた。
リーゼロッテとの出会いと一目惚れ
ユルゲンは二十年前、幼少期に参加した剣術大会でリーゼロッテと出会っていた。不公平を訴えて泣いていた自分に対し、努力不足を指摘した少女こそが五歳のリーゼロッテであり、その後大会に飛び入り参加して優勝した姿に心を奪われた。ユルゲンはその場で求婚するも即座に断られ、「相応しい男になれば考える」と告げられたことをきっかけに努力を始めた。
努力と挫折の積み重ね
ユルゲンは武芸に適性がないと悟り、商業と領地経営に力を注いで成果を上げた。十五歳で再び求婚したが断られ、その後も手紙や贈り物で想いを伝え続けた。しかし、軍に入ろうとした際にはリーゼロッテの意向で排除されるなど、距離を縮めることは叶わなかった。それでも彼は諦めず、二十年にわたり想いを貫いていた。
変わらぬ愛情と決意
ユルゲンはリーゼロッテの強さや美しさに惹かれたことを認めつつ、今ではそれを超えてただ彼女自身を愛していると語った。その想いは一切揺らぐことなく、他の女性に目を向けることもなく、ただ一人を想い続けていた。
アルノルトの決断と協力関係の成立
その一途さに心を動かされたアルノルトは、リーゼロッテへの説得に協力することを決めた。ただし成功の保証はできないと前置きしつつ、あらゆる手段でユルゲンをアピールすることを約束した。その代わりとして、ラインフェルト公爵家は帝位争いにおいてレオナルト陣営を支援することを了承した。
作戦開始と新たな展開
こうしてアルノルトとユルゲンは利害を一致させ、リーゼロッテ攻略という難題に向けた作戦会議を開始した。リーゼロッテが強敵であることを前提に、二人はそれぞれの立場と能力を活かして突破口を探ることとなった。
木剣勝負で露呈した武芸の限界
アルノルトとユルゲンは木剣を手に試合を行った。互いに武芸を不得手とする者同士であり、本人たちは白熱したつもりでいたが、セバスからは子供のチャンバラのほうがまだ見ていられると評されるほど拙い内容であった。これにより、剣術でリーゼロッテへ訴える道は難しいことが改めて明らかになった。
ハルバード修練に込められた執念
次にユルゲンは、自身が長く稽古を続けてきた武器としてハルバードを示した。十五歳の頃、リーゼロッテから武器も使えぬ者とは結婚しないと言われたため、彼は武芸の才に恵まれない身でありながら槍の稽古を始めた。しかし、軽い一撃では認められないと悟り、重いハルバードを扱うために食事を増やして体を作り変えるほどの努力を重ねていた。武芸の才能は乏しくとも、一つの武器を見られる水準にまで引き上げた執念は確かなものであった。
誠実さを貫くユルゲンの信念
アルノルトが他の女性に心を動かされたことはないのかと問うと、ユルゲンは一度愛すると告げた以上、その言葉に嘘をつきたくないと答えた。父の誠実さを尊び、自分もまた一人の女性を愛し続ける男でありたいと考えていたのである。その真摯さは、リーゼロッテに振り向いてもらうための打算ではなく、自分自身の在り方として根づいていた。
セバスの現実論とユルゲンの迷い
セバスは、努力が必ず報われるわけではなく、女性の心は努力とは別のところで動くこともあると現実的な見解を述べた。その言葉にユルゲンは一度膝をつくほど打ちのめされたが、すぐに立ち上がり、もしチャランポランな男が好まれるのなら自分がそうなればよいと発想を切り替えた。そしてアルノルトに、そのような男になる秘訣を教えてほしいと真顔で頼み込んだ。その姿にアルノルトは、愛の力の凄まじさを思い知らされた。
リーゼロッテに通じる強さの模索
アルノルトは、リーゼロッテが基本的に強い者を好む以上、ユルゲンが持つ別種の強さをどう示すかが鍵になると考えた。セバスも、リーゼロッテは二十年にわたりユルゲンの成長を見てきたのだから、その成果自体は認めているはずだと補足した。だがアルノルトは、成果だけでなく努力の過程そのものを見せる必要があると判断した。
アルノルトが気に入られた理由
ユルゲンに、自分はどうやってリーゼロッテに気に入られたのかと問われたアルノルトは、十一年前の出来事を思い返した。少女を庇って牢に入れられていた一週間、リーゼロッテは毎日牢を訪ね、真相を話せば取りなしてやると告げていた。しかしアルノルトは最後まで秘密を守り通し、自分がやったと言い張った。その意地を貫いた姿を、リーゼロッテは弟らしいと評価し、以後目をかけるようになったのであった。
直接会う方針への転換
この回想を通じて、アルノルトはユルゲンの在り方自体はリーゼロッテに嫌われるものではなく、むしろ好ましく映るはずだと確信した。だが、男としてどう見ているかは手紙のやり取りだけでは判断できないと考え、直接会って話を進める必要があると結論づけた。
ラインフェルト公爵領への出発決定
アルノルトはセバスに準備を命じ、帝都ではなくラインフェルト公爵領へ向かうことを決めた。そこならリーゼロッテのいる場所にも近く、自分が行けば彼女のほうから会いに来る可能性もあると見たためである。もし来なければ、こちらから赴けばよいと覚悟を決めていた。ただし遠出には準備が必要であり、加えて自分たちの動きを妨げようとする者もいると見て、警戒も怠らぬ方針を取った。
ザンドラの危機感とザイフリート伯爵の招集
ザンドラは自室にザイフリート伯爵を呼び出し、ラインフェルト公爵の弱みを握っていないかと問いただした。第一皇女とラインフェルト公爵の縁談が成立し、それをアルノルトが取りまとめれば、レオナルト陣営の勢力がさらに拡大すると恐れていたためである。
ザイフリート伯爵の情勢分析
ザイフリート伯爵は、東部国境守備軍や第一皇女の後ろ盾そのものよりも、ラインフェルト公爵が加わることのほうが厄介だと指摘した。ラインフェルト公爵は新興ながらも商才に優れ、人望を集める術も心得ており、多くの貴族が借りを持つほどの存在であった。そのため、彼がレオナルト陣営を支援すれば、勢力はさらに大きく伸びると見ていた。
静観を勧める進言
それでもザイフリート伯爵は、ラインフェルト公爵の求婚がこれまで一度も実っていない以上、今回も静観して構わないと判断していた。さらに、レオナルトは皇帝の勅命で南部の流民問題を調査しており、ラインフェルト公爵の件も皇帝の管轄である以上、軽々しく手を出せば皇帝の怒りを買う危険があると進言した。
ザンドラの焦りの正体
しかしザンドラは、その助言を受け入れなかった。伯父が南部の大半を掌握する立場にあり、流民問題が責任問題へ発展すれば自分にも余波が及ぶと焦っていたからである。さらに、アルノルトがこれ以上功績を積み上げることも強く警戒しており、敵の勢力拡大を黙って見ていることはできないと考えていた。
ザイフリート伯爵の決断
ザイフリート伯爵は、ザンドラがそこまで焦る以上、伯父が流民問題に関与していること、そして今回の件でザンドラ陣営とレオナルト陣営の力関係が逆転しかねないことを察した。そのうえで、南部での劣勢を覆すことはできなくとも、ザンドラの期待に応えるためには別の形で手柄を立てる必要があると判断した。
縁談破壊の策
そこでザイフリート伯爵は、自分たちとは無関係に見せかけながら縁談そのものを潰す策を提案した。皇帝がベルツ伯爵の一件以来、男女関係の不祥事に過敏になっていることを利用し、口の堅い娼館の者を使って、ラインフェルト公爵が城に娼婦を連れ込んだように見せかけるというものであった。第一皇女が関わる件であれば、皇帝は激昂して詳しく調べる前に処罰し、その結果として縁談は破談になると見込んでいた。
策の承認と不穏な影
ザンドラはその策を聞いて大いに喜び、ザイフリート伯爵を自らの懐刀として重用する意向を示した。ザイフリート伯爵は感謝を述べつつ、ザンドラにはこの件に一切無関心を貫くよう念を押し、自らは準備に取りかかった。その一方で、二人の会話を誰かが密かに聞いていたことには、最後まで気づかなかった。
ザンドラ陣営の策への反撃
アルノルトは、ザンドラ陣営がラインフェルト公爵を陥れるため、娼婦を連れ込んだように見せかける策を進めていることを報告で知った。計画の中心は、部屋に痕跡を残して皇帝に信じ込ませるというものであった。ザイフリート伯爵がその実行役となると見抜いたアルノルトは、仕込まれるはずの物品を逆にザイフリート伯爵の宿泊部屋へ移させる反撃策を決めた。既婚者である伯爵が皇帝の城を娼館代わりに使ったと見なされれば、皇帝の怒りはより強まると踏んだのである。
ザイフリート伯爵の失脚
翌日、ザイフリート伯爵は自室から次々と不審な物品が発見され、皇帝の前へ引きずり出された。皇帝は、妻帯者でありながら城に娼婦を呼んだうえ、皇帝の城を穢したとして激怒し、言い訳を聞かずに伯爵を牢へ送った。アルノルトはその様子を見ながら、ザンドラが有能な人材を一人失ったことを内心で喜んでいた。ザイフリート伯爵もザンドラも、この件を深く追及されれば自らの策まで露見するため、口をつぐむほかなかった。
帝都を離れる好機の到来
この一件により、しばらくザンドラは積極的に動けなくなった。エリクやゴードンもまた、皇帝の勅命で動くレオナルト陣営に手を出せる立場ではなく、下手に動けば自らの役職を失いかねなかった。アルノルトは、これで帝都を留守にしても問題は少ないと判断し、予定どおりラインフェルト公爵領へ向かう方針を皇帝に伝えた。
リーゼロッテへの接近方針
アルノルトは、第一皇女リーゼロッテを説得するには、やはり直接会うのが最善だと考えていた。手紙では動かない性格であることを皇帝も認めており、公爵領までなら彼女が来る可能性もあると見込まれていた。皇帝は弱気を見せることなく、その判断を支持した。
フランツが語るユルゲンの配慮
宰相フランツは個人的な願いとして、ユルゲン・フォン・ラインフェルトの誠実さをアルノルトに伝えた。ユルゲンは二十年間一度もリーゼロッテへ直接手紙を送らず、必ずフランツを経由させていた。相手に迷惑と思われるなら渡さず破棄してほしいとまで告げるほど配慮していたのである。そのため、リーゼロッテも彼からの手紙だけは必ず読み、贈り物も受け取り続けていた。
リーゼロッテの拒絶の意味
この事実から、リーゼロッテはユルゲンを個人的に嫌っているわけではないとアルノルトは理解した。結婚を断り続けているのは、単に嫌悪しているからではなく、別の理由がある可能性が高かった。フランツは、その理由が結婚そのものを望まないというものであれば仕方ないが、別の事情があるなら説得してほしいと願った。
皇帝の罪悪感と区切りへの希望
皇帝もまた、二十年にわたり一人の男を縛りつけてきたような現状に、少なからず罪悪感を抱いていた。かつて何度も諦めるよう勧めたが、ユルゲンはリーゼロッテが迷惑だと言うなら諦めると答え続けてきた。だからこそ皇帝は、今回を一つの区切りにしたいと考えていた。もしリーゼロッテが本当に誰とも結婚する気がないのなら、それはそれで受け入れるしかないとも認めた。
アルノルトの決意
皇帝とフランツの思いを受け、アルノルトは吉報を約束はできないとしながらも、できる限りのことをすると応じた。こうしてアルノルトは、リーゼロッテとユルゲンの関係に決着をつけるべく、ラインフェルト公爵領へ向かう決意を固めて玉座の間を後にした。
南部最大都市ヴュンメでの調査開始
レオナルトは南部最大の街ヴュンメに到着し、この地を治めるスヴェン・フォン・クリューガー公爵と面会した。クリューガー公爵は第五妃の兄であり、南部に強い影響力を持つ大貴族である。レオナルトは流民問題の調査のため、怪しい貴族の有無を率直に尋ねたが、クリューガー公爵は国境付近の貴族の統制がやや不十分であると曖昧に答えるに留めた。その言葉から逃げ道を残している可能性を感じつつも、レオナルトは表立った追及は避け、引き続き様子を見ることにした。
リンフィアによる街の情報収集
一方、リンフィアは街で買い出しを行いながら情報収集を進めていた。店主たちに変わったことがないか尋ねるが、どの店でも特に異常はないとの返答が続き、表面上は平穏な街であることが確認された。情報収集に大きな成果は得られなかったものの、街の様子に違和感がないことを把握した。
迷子のドワーフ老人との出会い
買い物を終えたリンフィアは、道に迷っているドワーフの老人を見つけた。三日間も街の中で迷っているという老人は、周囲から相手にされず困っていた。リンフィアは放っておけず、門まで案内することを申し出た。老人はドワーフであることから周囲に冷たく扱われていたが、リンフィアの対応に感謝し、和やかなやり取りを交わした。
笛の贈与と助言
門へ到着した後、老人は礼として霊樹で作られた笛をリンフィアに渡した。この笛は助けが必要なときに吹けば味方に居場所が伝わるというものであった。リンフィアは受け取りを辞退しようとしたが、老人は人に頼ることは悪いことではないと諭し、笛を託した。
老人の去り際と余韻
老人は笑顔で門の外へ去り、リンフィアはその頼りない背中を見送りながら不安を覚えたが、自身の任務を優先して街へ戻った。老人は人との縁に満足しつつ、次の行き先も定めぬまま山の中へと消えていった。
領都エルツへの到着
帝都を出発して一週間後、アルノルトはユルゲンとともにラインフェルト公爵領の領都エルツへ到着した。屋敷は公爵家としてはやや小規模であったが、領地の規模を考えれば相応のものであった。長旅の疲れを癒やすため、まずは休息と入浴を取ることが提案された。
リーゼロッテの突然の来訪
屋敷に入った直後、執事の報告により予想外の人物の到着が知らされた。それは帝国第一皇女であり元帥であるリーゼロッテであった。彼女は堂々たる気配と威圧感を伴って現れ、場の空気を一変させた。アルノルトは形式的な挨拶をやり直させられるなど、相変わらずの強引さを見せつけられた。
再会と家族の近況報告
リーゼロッテはアルノルトとの再会を喜びつつ、すぐに妹クリスタや義母の近況を尋ねた。アルノルトが平穏な様子を報告すると、彼女は満足そうに頷いた。その後、ようやくユルゲンにも視線を向け、短く言葉を交わした。
縁談への明確な拒絶
アルノルトの来訪理由を察したリーゼロッテは、父の意向であることを見抜いたうえで、ユルゲンに対し改めて結婚の意思がないことを告げた。彼女は共に死ねぬ者とは結婚しないという自身の価値観を貫き、ユルゲンの想いを一蹴した。それでもユルゲンは諦める様子を見せなかったが、リーゼロッテはそれ以上取り合わず話を打ち切った。
強引な振る舞いと入浴騒動
その後リーゼロッテはアルノルトとの会話を優先しようとしたが、長旅の疲れを理由に入浴を希望したアルノルトに対し、共に入ることを提案した。これにアルノルトは強く拒否し、ユルゲンと入浴するという苦しい言い訳で回避を図った。リーゼロッテはなおも三人での入浴を提案するなど奔放な振る舞いを見せたが、最終的には引き下がった。
ユルゲンの動揺と変わらぬ想い
一連のやり取りの中で、リーゼロッテの言動に圧倒されたユルゲンは鼻血を出して倒れ込むほど動揺した。それでも彼は彼女の強さや振る舞いを魅力として受け止めており、その想いは揺らいでいなかった。
入浴と束の間の休息
リーゼロッテが退いた後、アルノルトとユルゲンは大浴場へ向かい、長旅の疲れを洗い流すこととなった。圧倒的な存在感を持つリーゼロッテとの再会は、今後の交渉の難しさを改めて示すものであった。
入浴後の作戦確認
入浴を終えたアルノルトとユルゲンは、今後の方針について話し合った。リーゼロッテに主導権を握られた現状を問題視しつつ、アルノルトは彼女がユルゲンを嫌っているわけではなく、むしろ好意的に見ている可能性を指摘した。その根拠として、嫌っている相手の屋敷に自ら訪れる性格ではないことを挙げた。
結婚条件の再確認と課題
リーゼロッテが提示した共に死ねる者でなければ結婚しないという条件について、アルノルトはこれを満たせば縁談の可能性はあると分析した。しかしその条件を満たすには戦場で並び立つ実力が必要であり、ユルゲンが過去に軍から排除された経緯を踏まえると、その道は容易ではなかった。それでもユルゲンは修練の成果を示す決意を固めた。
紅茶の席での再会
その後、二人はリーゼロッテの待つ席へ向かった。彼女は入浴を短時間で済ませており、戦場での習慣から風呂を楽しむ感覚がないことを語った。ユルゲンの指摘により、それが無意識に隙を嫌う性質によるものだと理解すると、リーゼロッテは彼を評価し、褒美として菓子を与えた。この行動は彼女にとって非常に珍しく、ユルゲンへの一定の好意が示されていた。
アルノルトへの理不尽な扱い
一方でアルノルトが菓子に手を伸ばすと、リーゼロッテは即座に投げ飛ばし、謝罪を強要した。彼女は目の前にあるものは自分の所有物であるという独自の理屈を押し通し、アルノルトの反論を一切受け付けなかった。結果としてアルノルトは屈服し、形式的に謝罪することでようやく解放された。
菓子を巡る攻防と敗北
新たに用意された菓子も同様にリーゼロッテに独占され、アルノルトが抵抗を試みてもすべて片手でいなされてしまった。ユルゲンが譲ろうとした分すら奪われ、最終的にアルノルトは一切菓子を口にすることができなかった。
リーゼロッテの性格の再認識
この一連のやり取りを通じて、リーゼロッテの強引さと理不尽さ、そして圧倒的な実力差が改めて浮き彫りとなった。同時に、ユルゲンに対する態度からは完全な拒絶ではない可能性も見え、今後の交渉にわずかな希望が残されていることが示唆された。
第三章 蠢く闇
亜人商会の開店と爆発的な人気
アルノルトたちがラインフェルト公爵領に到着した頃、帝都ではフィーネが亜人商会の開店対応に追われていた。新商品である美肌水は蒼鴎姫であるフィーネが使用しているという宣伝効果により、開店と同時に客が殺到し、限定数は瞬く間に完売した。実際にフィーネ本人が姿を見せていたことが、商品価値をさらに高めていた。
フィーネを広告とした戦略の成功
ユリヤはフィーネを象徴として活用する戦略を成功させ、帝都でも屈指の人気商品へと押し上げた。一方でフィーネは、押し寄せる客の勢いに戸惑いながらも、見返りを信じて役目を果たす決意を固めた。店は女性客を中心に運営され、男性客の乱入は亜人の用心棒によって厳しく排除された。
男性客向け施策と徹底した統制
次の段階として、ユリヤは男性客を対象にした販売戦略を展開した。フィーネの存在を前面に押し出しつつも、商品購入を条件とする厳格なルールを設け、違反者には罰金や労働を課す仕組みを導入した。これにより秩序を維持しながら利益を拡大する体制が整えられた。
ユリヤの本質とフィーネの評価
利益を追求する一方で、ユリヤは貧困層への炊き出しなど慈善活動も行っていた。フィーネはその事実を知り、彼女の優しさを肯定するが、ユリヤ自身はそれを照れ隠しのように否定した。フィーネの純粋さと、ユリヤの現実的な商人としての姿勢が対照的に描かれた。
商売の成功と迫る不穏な兆し
売上はユリヤの想定を大きく上回り、フィーネの影響力の大きさが改めて確認された。しかし同時に、この成功が他陣営の妨害を招く可能性も高まっていた。帝位争いの最中である以上、商業活動であっても安全は保証されない状況であった。
クリスタの予知と緊急帰還
その最中、セバスが現れ、フィーネに城への帰還を命じた。理由はクリスタがフィーネを必要としているためであり、フィーネはそれを未来視による異変の兆しだと察した。商業的成功の裏で、事態が新たな局面へ進みつつあることが示された。
クリスタの未来視と皇帝の異変
城へ戻ったフィーネは、すぐにミツバの部屋へ向かった。そこではクリスタがミツバにしがみついたまま震えており、南部で起きる緊急事態に関する重臣会議の最中、皇帝が倒れる未来を見たと打ち明けた。フィーネはその重大さに動揺しながらも、まずは皇帝の死そのものが見えたのかを確認した。
死ではなく失神である可能性の確認
クリスタは、見えたのはあくまで皇帝が倒れる場面であり、人の死を見たときとは違う見え方だったと説明した。フィーネはそこから、命に直結する事態ではなく、過労や体調悪化による失神の可能性が高いと考えた。ミツバも皇帝に持病はないとしつつ、三年前から体力と気力の衰えは感じていたと明かした。
暗殺の可能性の否定と対策の方向性
フィーネは、近衛騎士団による厳重な護衛体制を踏まえ、毒や魔法による暗殺は困難だと推測した。セバスもまた、小細工で皇帝を害することは不可能であり、仮に討つなら正面から護衛を突破するしかないと断言した。これにより、原因は外部からの攻撃ではなく、皇帝自身の体調不良によるものと見る考えが強まった。
未来を変えられない現実の確認
フィーネは、ミツバに皇帝の健康管理を徹底してもらうよう提案した。だが同時に、南部で起きる問題そのものも、そこから生じる皇帝の負担も、今からでは止められない可能性が高いと判断した。南部で何かが起きる以上、それは必ず皇帝の耳に入り、結果として倒れる未来そのものは避けがたいと見ていた。
クリスタの秘密を守る決断
ミツバは、皇帝にクリスタの未来視のことを伝えるべきかをフィーネに問うた。フィーネは一度迷ったものの、怯えるクリスタの表情を見て答えを固めた。未来を伝えても結果が変わらないなら、クリスタの力を明かすことは負担と危険を増やすだけであると判断し、秘密は守るべきだと結論づけた。
アルノルトの考えと双子の信頼
ミツバは、その判断はきっとアルノルトも同じだと語った。アルノルトは、相手が皇帝であってもクリスタの力を明かさず、必要ならば利用しようとする皇帝の立場も理解した上で秘密を守ってきたというのである。レオナルトも何かを察してはいるが、アルノルトを強く信頼しているため、踏み込んで尋ねようとはしないのだとミツバは説明した。
フィーネへの信頼と託された役割
ミツバは、アルノルト、レオナルト、クリスタの三人にとって、フィーネが極めて大切な存在であると認めた。帝位争いの中でも三人が自分を見失わずにいられるよう、傍で支えてほしいと願い、深く頭を下げた。フィーネは恐縮しながらも、自分にできる限りの努力をすると約束した。
南部の異変に備える準備
話がまとまると、フィーネはすぐに動き始めた。セバスには、近く大きな依頼が出るという噂を冒険者たちへ流し、今ある依頼を片づけさせて手を空けるよう仕向けることを頼んだ。皇帝が倒れた場合、軍や騎士はすぐに動けない可能性があるため、即応戦力として冒険者を確保しておく必要があった。
資金確保とフィーネの決意
さらにフィーネは、亜人商会にも連絡し、今後金が必要になるかもしれないと伝えるよう求めた。南部で問題が起これば、必ずアルノルトも動くと考えていたからである。フィーネは、アルノルトが動きやすくなるよう先回りして支えることこそ、自分に与えられた役目だと定め、行動を開始した。
レオナルトの村長への謝罪と責任の表明
南部辺境の深い森にある村を訪れたレオナルトは、村長である老婆マオに対し、皇族としてすべての民に責任があると告げて頭を下げた。帝国の村でありながら長く顧みられなかった現実を前に、中央の不備を自らの責任として受け止める姿勢を示したのである。
アベルから見た村の現状
村の護衛を任されていた冒険者アベルは、この村には怪物の脅威はなく平和だが、人攫いと思われる者たちはたびたび姿を見せると説明した。護衛を固めている間は村人に手を出してこないものの、完全に消えたわけではなく、組織的に動いている気配があると明かした。
領主への疑惑とレオナルトの推理
レオナルトは、村へ向かう前に領主の街へ寄る素振りを見せた際、領主が慌てて誰かと連絡を取ろうとしたことから、強い疑惑を抱いていた。単に流民の村を見逃していただけなら、巡察使である自分を歓迎する動きを見せるはずであり、異常な反応そのものが関与を示す材料になっていた。また、周辺の他領主は流民の村へ一定の対応を見せているのに対し、この領主だけが動いていない点も不自然であった。
リンフィアの過去と村が受け続けた被害
村長マオは、リンフィアがこの問題に強く関わる理由を語った。最初に人攫いが起きたのは十一年前で、攫われたのはリンフィアの姉だった。さらに最後に攫われたのは、リンフィアが病で寝込んでいた日に消えた妹であった。村では虹彩異色の子供が狙われることが多く、虹彩異色ではないリンフィアは、自分だけが残されたことに負い目を抱えていた。
流民政策と放置された村の実情
十一年前、皇帝は帝国内にいた流民を臣民と認め、認知後五年間の税を免除する政策を打ち出した。本来はその間に領地へ溶け込ませ、開墾や交易によって生活基盤を整えるはずだったが、一部の領主は利益にならないとして意図的にそれを無視した。この村もその一つであったが、ここは虹彩異色の者や優秀な狩人を多く抱える特殊な村であり、本来なら領主にとって利益が大きいはずだった。それでも存在を隠されたのは、村を表に出せない事情が領主側にあったからだとレオナルトは判断した。
レオナルトの謝罪と救出への誓い
話を聞いたレオナルトは、リンフィアが自分たちのもとへ来たのは、中央が辺境にまで目を配れなかった責任の結果だと認め、深く謝罪した。そのうえで、攫われた村人たちを必ず連れ戻すとは断言できないとしながらも、全力で捜索し、領主の罪を明らかにすると約束した。そして裁きは皇帝が公正に下すだろうと述べ、村長の信頼を受けた。
人攫いの背後にある大きな組織
村の外へ出た後、アベルは村を窺っている者たちが山賊やゴロツキではなく、本職の人間であると指摘した。立ち振る舞いや装備から見て、人攫いが商売として成立しており、その背後には大きな組織が存在すると見ていた。レオナルトも同意し、この村を治める領主程度ではなく、より大きな勢力が背後にいる可能性を認めた。
危険な任務とレオナルトの覚悟
この件を深く追えば、南部全体の貴族が関わっている可能性もあり、場合によっては反乱を誘発しかねなかった。その場合、責任は巡察使であるレオナルトにも及ぶ危険があった。浅く捜査して切り上げることも一つの手ではあったが、レオナルトは助けたいと思った人々を助けられない者に皇帝の資格はないと考え、自らの意志でこの問題に踏み込む決意を固めた。
アベルへの依頼と共闘の始まり
レオナルトは、自分はこの地に我を通しに来たのだと告げ、高額の報奨金を支払っている以上、アベルたちにも最後まで働いてもらうと宣言した。アベルは依頼主として危うさを感じつつも、すでに報酬を受け取っている以上、冒険者として断ることはできず、その言葉を受け入れるしかなかった。
シッターハイム伯爵への切り捨て通告
帝国南部の小都市バッサウにて、シッターハイム伯爵デニスはクリューガー公爵の使者から、今回の人攫い事件の首謀者としてすべての責任を負うよう求められた。表向きは南部貴族全体を守るための犠牲とされたが、実際にはクリューガー公爵が自らの関与を切り離すための切り捨てであった。
デニスが追い込まれた経緯
デニスは十年前に領主となったが、父の遺言に従って流民を自領民と認めずにいた。その事実をクリューガー公爵に握られたことで、人攫い組織への加担を強いられる立場に落ちていた。かつて一度だけ良心から皇帝へ訴えようとしたものの、領地への流通妨害や農作物への被害という報復を受け、領民を守るために屈服せざるを得なかったのである。
クリューガー公爵の思惑の露見
使者とのやり取りの中で、デニスはクリューガー公爵の狙いがザンドラを帝位につけ、クリューガー家が外戚として帝国中枢を握ることにあると見抜いた。使者はそれを否定せず、すべては帝位争いのためだと認めた。南部の多数の貴族を取り込み、人攫い組織まで操ってきた公爵の構想がここで明らかになった。
レベッカの裏切りと真実の発覚
そのとき、若い女騎士レベッカが使者を背後から討ち、クリューガー側がデニスに自白文を書かせたうえで殺し、レオナルトへ差し出すつもりだったと告げた。レベッカはデニスの親友の娘であり、彼に忠誠を尽くす数少ない騎士の一人であった。彼女はレオナルトのもとへ逃れて告発するよう訴えたが、デニスは自分が逃げ切れるとは考えなかった。
デニスの決断と書状の託宣
デニスは隠していた書状を取り出し、そこにクリューガー公爵をはじめとする南部貴族の悪行を記し、血印まで押していたことを明かした。そしてこの書状を帝都へ届ける任務をレベッカに命じた。自分はここで死ぬ覚悟を固め、せめて最後に貴族としての責務を果たすと決めたのである。
子供たちを救うための最期の戦い
レベッカを窓から逃がした後、デニスは忠義ある騎士たちとともに屋敷内で反撃を開始した。地下にあった人攫い組織の拠点へ突入し、奴隷商人たちを斬り捨てながら、ついに子供たちが閉じ込められている牢へたどり着いた。そこには首輪をつけられた数十人の痩せ細った子供たちがいた。
虹彩異色の少女との約束
デニスは剣をしまい、怯える子供たちに自ら近づいて助けに来たと告げた。その中には赤と青の虹彩異色を持つ少女もおり、彼女は村に帰れるのか、リンお姉ちゃんに会えるのかと問いかけた。デニスは必ず帰れると約束し、レオナルトが近くまで来ていることを伝えた。自らの罪を痛感しながらも、最後にこの子たちだけは救おうとしていたのである。
教官の襲撃とデニスの死
しかしその直後、黒服の男が背後から現れ、デニスの胸を貫いた。その男は素質ある子供を暗殺者へ仕立て上げる教官であり、瀕死のデニスでは太刀打ちできなかった。それでもデニスは最後まで諦めずに斬りかかったが、あっさりと首を刎ねられて絶命した。
少女の絶望と異変の発生
デニスの首が虹彩異色の少女のもとへ転がると、助けが来たという希望は完全に砕け散った。少女は恐怖と絶望の中で絶叫し、その瞬間、両目が輝いて牢屋全体が黒い何かに包まれた。南部で起きていた闇は、ここで新たな異変へと繋がっていった。
第四章 それぞれの想い
決戦前の最終確認
リーゼロッテが屋敷を去ってから三日が経ち、翌朝に再び会いに来るという伝令が届いたことで、アルノルトとユルゲンはいよいよ勝負の時が来たと覚悟を固めていた。中庭でハルバードを手にしたユルゲンは緊張していたが、アルノルトはリーゼロッテがユルゲンを嫌ってはいない以上、力を示せれば希望はあると励ました。アルノルトにとっても、この縁談をまとめることは皇帝からの信頼を得るための重要な機会であり、二人の利害は一致していた。
リーゼロッテとの決闘開始
やがてリーゼロッテが姿を見せ、またかと呆れつつも剣を取って勝負を受けた。開始前、アルノルトはユルゲンが一撃でも納得のいく攻撃を見せればよいのかと確認し、リーゼロッテはそれを認めたうえで、左手だけで戦うというハンデまで自ら課した。アルノルトは挑発がうまく働いたことを内心喜び、勝機が少しでも広がったと見ていた。
ユルゲンの成長と攻防
勝負が始まると、ユルゲンは全力でハルバードを振るい、リーゼロッテはそれを正面から受け止めた。そこから力比べに持ち込み、さらに回転を利用した攻めや柄での防御を見せるなど、以前よりはるかに成長した姿を示した。リーゼロッテもその成長自体は認め、かつてより強くなったことを評価していた。
切り札の見破りと敗北
ユルゲンは最後の切り札として、重い一撃を意識させた上で突きへ移る秘策を繰り出した。しかしリーゼロッテはそれを正確に読み切り、切っ先を剣で押さえ込んで封じた。彼女は、ユルゲンが自分との過去を踏まえ、かつて軽いと断じられた突きでこそ勝負に出ると見抜いていたのである。秘策を破られたユルゲンは打つ手を失い、ついに敗北を認めた。
縁談拒絶とアルノルトの抗議
勝負の後、リーゼロッテはユルゲンの成長そのものは悪くないとしながらも、自分を納得させる一撃ではなかったとして縁談を拒んだ。アルノルトはそれに納得できず、気に入っているのは明らかなのに理由も言わず振り回すのは酷いと訴え、何が不満なのかはっきり示すよう求めた。
残酷な言葉と隠された本心
その言葉を受けたリーゼロッテは少し考え込んだ後、これまで見せたことのない寂しげな笑みを浮かべた。そしてユルゲンに対し、もう自分に関わるな、迷惑だと告げた。その言葉を聞いたユルゲンは深く傷つきながらも、以後は縁談を申し込まないと静かに受け入れた。
残された違和感とアルノルトの選択
リーゼロッテは覇気のない様子でその場を去り、ユルゲンはその場に崩れ落ちるようにして放心した。あまりにも突然の展開にアルノルトは戸惑ったが、リーゼロッテの沈んだ表情を見て、本心は別にあると感じ取った。だからこそユルゲンではなく、まずリーゼロッテの後を追うことを選んだ。
リーゼロッテの本心を問いただす
ユルゲンを置いてリーゼロッテの後を追ったアルノルトは、不機嫌さを隠そうともしない姉に食い下がった。何一つ解決していないと訴え、強引にでも話を聞き出そうとした。軽い嘘で揺さぶりをかけると、リーゼロッテは動揺を見せ、結局は歩きながら話すことを受け入れた。
三年前の断絶の真相
アルノルトが問いかけたのは、三年前にレオナルトとの間で何があったのかという一点だった。リーゼロッテは当初関係ないと退けたが、やがて皇太子の葬儀の折、自ら第五妃ズーザンを殺しに行こうとし、それをレオナルトに止められたのだと明かした。母と皇太子の死にズーザンが関わっていると確信し、法では裁けないのなら自ら斬るしかないと考えていたのである。
レオナルトに止められた怒りと後悔
リーゼロッテは、証拠もないまま妃を討つことが誤りだとレオナルトに諭された。何度打ちのめしても退かず、裁きは法によって行われるべきだと訴えるレオナルトに対し、家族を二人失った自分の気持ちがわかるのかと激情をぶつけた。しかし、クリスタや他の家族、帝国、そして皇太子が守ろうとしたものはどうなるのかと問い返され、何も言えなくなった。そこで初めて、自分が感情に呑まれていたことを悟り、レオナルトに会わせる顔を失ったまま東部へ逃げ帰ったのだった。
親しい者を遠ざけた理由
その出来事以降、リーゼロッテは自分の愚かさと危うさを恐れ、親しい者を作ることをやめた。知人との関係を断ち、人を避けるようになったが、それでもアルノルトとクリスタ、そしてユルゲンとの縁だけは完全には断ち切れなかった。とりわけユルゲンは、遠慮なく関わり続けてきたため、迷惑だと思う一方でありがたくも感じていた。
共に死ねる者という条件の意味
リーゼロッテが共に死ねる者としか結婚しないと言っていたのは、残された者の痛みを知っていたからであった。自分は軍人であり、己の死は覚悟しているが、軍人ではない者を失うことは耐えられないと考えていた。だからこそ、優秀なユルゲンが軍で働ける資質を持っていても、共に死ねない以上は軍に入れることを拒んだのである。ユルゲンに同じ痛みを味わわせたくなかったのだった。
ユルゲンを縛っていた自覚
アルノルトは、リーゼロッテがユルゲンを嫌っているわけではなく、むしろ好ましく思っていることを確認したうえで、それならあのような突き放し方は酷すぎると訴えた。リーゼロッテもまた、自分の都合でユルゲンを繋ぎ止めていたのだと認めた。関係を断ち切るほど冷徹にはなれず、友人として甘えていたのだと気づいていた。
アルノルトの願いと未来への約束
アルノルトは、自分には家族を失った経験はないためリーゼロッテの痛みを完全には理解できないとしながらも、それでも彼女を家族だと思っていると告げた。そして、今の生き方の先に幸せはないと断言し、レオナルトが皇太子以上の理想をきっと築く、その足りない部分は自分が補うと約束した。双子であれば、かつての皇太子をも超えられると真っ直ぐに言い切った。
ユルゲンとの関係修復を促す
さらにアルノルトは、ユルゲンが二十年ものあいだ努力を重ねてきた結末が、あの別れ方で終わってよいはずがないと訴えた。リーゼロッテはユルゲンを異性として見る気はないが、嫌ってはいないと認めたものの、自分から関係を修復するのは気まずいと反発した。結局、向こうから頼んできたならこれまで通りでよいと言うという、面倒な形での譲歩に落ち着いた。アルノルトはその様子に呆れながらも、少しずつ姉らしさが戻ってきたことを感じていた。
南部の異常事態と急変する情勢
そこへラインフェルト公爵家の執事が駆け込んできて、南で紫の狼煙が上がったと報告した。紫の狼煙は国家全体に危険が及ぶ最高レベルの異常事態を示すものであり、皇太子が前線で死亡した三年前以来の事態であった。アルノルトは思わずレオナルトの名を口にし、リーゼロッテもまた事態の重大さを悟った。二人は運命の分岐点が再び訪れたことを感じながら、同時に南へ向かって走り出した。
ユルゲン不在と出陣の判明
紫の狼煙が上がった直後、屋敷へ戻ったリーゼロッテは、そこにいるはずのユルゲンが見当たらないことに気づき、真っ先にその所在を問いただした。執事の報告によって、ユルゲンはすでに騎士を率いて出陣したと判明した。しかもその目的は、南部へ向かう進路上のモンスターを討伐し、リーゼロッテたちの露払いをすることにあった。
南部行きの困難と戦力の限界
リーゼロッテは、新兵は使えないため、練兵のために連れてきていた騎兵連隊を率いて南部へ向かうしかないと判断した。しかし、夜の行軍は危険であり、森を抜ければモンスターの脅威があり、回り道をすれば時間を失うという厳しい状況に置かれていた。アルノルトも、今すぐ有効な手段が見つからず、現地へ急行する難しさを痛感していた。
光の道の存在
そんな中、公爵家の執事が準備が整ったと告げ、一行を屋敷の上階へ案内した。そこから見えたのは、南へ向かって伸びる光る道であった。それは三年前からユルゲンが周辺の領主と協力して建設してきた光の道であり、未完成ながら南北を一直線に結ぶ街道として整備されていた。建前は商人の運搬路確保であったが、真の目的はリーゼロッテが南北へ迅速に駆けつけられるようにするためであった。
ユルゲンの想いとリーゼロッテの動揺
三年前の出来事を踏まえれば、この道がリーゼロッテの後悔を繰り返させないために作られたものであることは明らかだった。アルノルトはその意図を察しつつも明言せず、リーゼロッテもまたその重さを感じ取っていた。ユルゲンがここまでした理由を問うリーゼロッテに対し、アルノルトは本人に聞くしかないと返したが、その裏ではユルゲンの愛情と誠実さを強く意識していた。
結婚への答えを急がせない助言
リーゼロッテは、自分はどうすればいいのかとアルノルトに問うた。アルノルトは、罪悪感から縁談を受け入れるようなことをすればユルゲンは失望するだろうと告げた。そのうえで、ただ結婚するならこの人がいいと思えたときにだけ応じればよいと助言した。リーゼロッテはなおもユルゲンを良き友人としか見ていないと答えたが、アルノルトは義兄と呼ぶならあのような人物がよいと率直に述べた。
南部への出発
アルノルトの言葉を受けたリーゼロッテは、軽く笑みを浮かべると、いつもの威風堂々とした姿を取り戻した。そしてレオナルトのもとへ向かうと決め、青いマントを翻して歩き出した。こうしてリーゼロッテとアルノルトは、光の道を用いて南部へ一直線に向かうことになった。
光の道を駆ける強行軍
アルノルトとリーゼロッテは騎兵連隊を率い、夜を徹して南部へ向かっていた。未完成ながらも長く続く光の道は、ユルゲンが商人や周辺領主と協力して築いたものであり、国家の支援なしにここまで整備したことにアルノルトは驚かされた。リーゼロッテは、ユルゲンがかつてエリクとも協力関係を結んでいたことを明かし、その周到さと優秀さを認めていた。
道に込められた配慮
進軍の途中、道沿いの村人たちが騎兵連隊へ食料と水を配っていた。これはユルゲンの指示によるものであり、道の建設時から軍勢が走りながらでも補給を受け取れるよう準備させていたのだった。さらに村には毎月金も置いていっていたことが明かされ、リーゼロッテはその気遣いを受け止めつつも複雑な思いを抱いていた。
リーゼロッテの揺れる感情
アルノルトは、ユルゲンが敵に回っていれば厄介極まりない存在であったと語った。これに対してリーゼロッテは、ユルゲンがザンドラに心を奪われるような男ではないとやや感情的に返し、無意識のうちに彼を強く認めている様子を見せた。アルノルトはその反応から、リーゼロッテの内心をよりはっきりと察したが、あえて深くは言及しなかった。
光の道の終点と戦場の気配
翌日の昼頃、光の道は途切れ、その先には真新しいモンスターの死骸が残されていた。そこから間もなく前方で戦闘音が聞こえ、ユルゲンたちがすでに前線で戦っていることが分かった。彼らは進路上のモンスターを討伐しながら進んでいたが、連戦による疲労で動きが鈍っていた。
ユルゲンの奮戦と制止
現場ではユルゲンと騎士たちがダブルヘッドベアーをはじめとするモンスターの群れと戦っていた。ユルゲンは大きな熊型モンスターの一撃を受けて吹き飛ばされながらも立ち上がり、駆けつけたリーゼロッテに手出し無用と叫んだ。余力があるなら南部の本件に使ってほしい、自分たちは露払いを務めるだけで十分だと訴えたのである。
体を張る理由の告白
リーゼロッテは、なぜそこまで無茶をするのかと問いかけた。それに対してユルゲンは、愛した人の前で格好よくありたいからだと答えた。頼りになる男でいたい、好きな相手のために体を張るのが男だと叫び、その言葉通りに気迫をこめてダブルヘッドベアーを押し返し、ついにはもう一つの首を刎ね飛ばした。その姿に騎士たちも勢いを取り戻し、戦況は立て直された。
アルノルトの判断と別行動
戦いの様子を見たアルノルトは、リーゼロッテに先へ進むよう勧めた。自分が残ればユルゲンたちもこれ以上無茶はできず、南部本隊のもとへ向かっても自分にはできることが少ないと判断したからである。リーゼロッテはレオナルトのことを任せるよう告げられ、その代わりユルゲンを頼むとアルノルトに託した。
リーゼロッテの評価とアルノルトの役目
去り際、リーゼロッテはアルノルトに対し、強行軍についてきたこと自体が立派な成長の証だと認めた。そしてユルゲンを未来の義兄と呼ぶアルノルトの言葉を否定しつつも、さきほどの戦いを当然のようにやってのける男だと評価した。その後リーゼロッテは南部へ向かって走り去り、アルノルトは討伐を終えて力尽きたユルゲンたちを安全な場所まで退避させるために動き始めた。
黒い球体の出現と紫の狼煙
南部へ向かっていたレオナルトは、バッサウの上空に黒い巨大な球体が浮かび上がるのを目撃した。その異常さを見た瞬間、ただならぬ事態だと直感し、近衛騎士の制止を振り切って紫の狼煙を上げた。後にそれが正しい判断であったことが明らかになるほど、事態は深刻であった。
スケルトン軍団との戦闘開始
黒い球体の出現とともに、バッサウからは大量のスケルトンが溢れ出した。レオナルトは騎乗したまま剣を振るい、弱点である胸部を砕いて次々と倒していったが、数は減らなかった。見えるだけでも数百はいる異常な状況の中、街の民は逃げ惑い、その背後からスケルトンが迫っていた。
撤退を拒むレオナルトの決意
近衛騎士たちは、数の差があまりにも大きいため撤退を進言した。しかしレオナルトは、ここで退けば逃げる民が背を討たれると判断し、戦線を維持すると断言した。今の自分は皇帝ではなく帝位候補にすぎず、その命は皇帝ほど重くはない以上、民を守るためにここに残るべきだと考えたのである。
近衛騎士への問いかけ
レオナルトは、近衛騎士たちに対して皇帝へ剣を捧げた日の誓いを忘れていないかと問いかけた。帝国と民のためにこの身を捧げるという誓いは消えていないと答えた彼らは、それ以降レオナルトに撤退を促すことをやめ、この場で時間を稼ぐ戦いに覚悟を決めた。
囮として戦線を維持する判断
レオナルトは、溢れ出るスケルトンが無秩序に動いているのではなく、近くの敵へ引き寄せられていることを見抜いていた。ここで退却すれば目標を失ったスケルトンが南部一帯に散り、各領地が独力での防衛を強いられると考えた。そのため、自らが囮となって戦線を維持することこそ最善だと判断していた。
リンフィアの提案と冒険者への着目
リンフィアもまた、後方にある自らの故郷の村を守るため、レオナルトの撤退を望まなかった。そして援軍として頼るべきは領主ではなく、報酬さえ払えば働く冒険者だと提案した。アベルたちがすでにその例であり、南部一帯の冒険者を動員するべきだと進言した。
レイドクエストの発案
リンフィアは、もっとも近い街の冒険者ギルドにレイドクエストを発注するよう提案した。多数の冒険者が参加可能な大規模依頼であり、通常は莫大な金がかかるため滅多に行われない形式だった。しかし今回の状況では、広域から冒険者を呼び寄せるには最適の手段であった。
アルノルトの資金の活用
その依頼に必要な資金として、リンフィアはアルノルトから託されていた大金入りの袋を差し出した。普段は金を使わないくせに、他人には惜しげもなく大金を渡す兄らしい行動だとレオナルトは呆れながらも、その優しさを改めて感じていた。
伝令役の選定と帝都への連絡
リンフィアは自らが伝令に向かうのではなく、近衛騎士に任せるべきだと判断した。レオナルトの個人的な信頼とは別に、この局面で一介の冒険者へ重大任務を任せるべきではないと考えたためである。レオナルトは近衛騎士たちに問いかけ、名乗り出た中から最も馬の扱いに長けた者へ袋を託し、近くの街でレイドクエストを発注し、同時に帝都へ詳細を知らせるよう命じた。
地獄の入口を前にした戦いの継続
伝令の騎士を送り出した後、レオナルトは再びバッサウへ視線を向けた。黒い球体はますます禍々しさを増し、スケルトンの数は減らないままであった。まるで地獄の入口を前にしているような光景の中で、レオナルトはただ無心に剣を振るい続けた。
帝都での重臣会議の開始
帝都では皇帝ヨハネスが重臣たちを招集し、南部の異常事態への対応を協議しようとしていた。冒険者ギルド経由で南部の情報はすでに共有されていたが、紫の狼煙の報告を受けてからヨハネスの体調は優れず、声にも覇気がなかった。それでも皇帝として会議を開始し、謎の球体の出現とアンデッドの大軍について説明した。
重臣たちの対立する意見
重臣たちは、南部国境守備軍を動かすべきか、中央軍や近衛騎士団を派遣すべきかで激しく対立した。南部の防衛を優先する意見と、皇帝の護衛を重視する意見が衝突し、議論はまとまらなかった。ヨハネスはその様子を聞きながらも思考が働かず、状況を整理することができなかった。
体調悪化と皇帝の倒下
やがてヨハネスは強いめまいと吐き気に襲われ、視界も定まらなくなった。重臣たちの声が遠のく中で意識を保てなくなり、ついには玉座から崩れ落ちた。宰相フランツが支え、侍医の手配が急がれた。
目覚めと再び職務へ向かう意志
ヨハネスが目を覚ましたのはベッドの上であった。約五時間眠っていたと聞くと、すぐに重臣を再招集しようとした。南部の危機に加え、帝位争いの最中である現状では、自身が不在であれば会議がまとまらず、各勢力の思惑が優先されてしまうと危惧していた。
帝位争いによる意思決定の混乱への懸念
ヨハネスは、重臣の中にはすでに特定の勢力に肩入れしている者もいると理解していた。そのため討伐軍の編成や戦略までもが政治的駆け引きに利用され、判断の遅れが生じることを懸念していた。その結果、南部にいるレオナルトの危険が増すと考えていた。
ミツバによる強制的な休養措置
しかしミツバは、ヨハネスの行動を強く制止した。皇帝の健康こそが帝国にとって最も重要であり、一時の混乱よりも長期的な安定を優先すべきだと断じた。近衛騎士も下がらせ、ヨハネスを事実上動けない状態にした。
母としての判断と国家観
ミツバは、レオナルトの危機を認めつつも、それを乗り越えられないならば皇帝の資格はないと冷静に判断した。また、皇帝が少し休んだだけで揺らぐ国家ならば存続する価値はないとし、臣下を信じて任せるべきだとヨハネスに告げた。
眠りへと落ちる皇帝
抵抗を試みるヨハネスであったが、体は思うように動かず、強い眠気に抗えなかった。ミツバが額に手を当てると、その冷たい感触にわずかな安堵を覚え、そのまま再び眠りに落ちた。
負傷者の治療とユルゲンの悔恨
アルはユルゲンたちと共に休息地へ移動し、負傷した騎士たちの治療に当たっていた。そこはユルゲンが設けた中継地点であったが、現在は野戦病院のような状態となっていた。ユルゲンは自身の力不足を悔やみ、アルが南部へ向かえなかったことを謝罪したが、アルはその働きを称え、自らが残ることでリーゼが前進できたと語った。安心したユルゲンはそのまま眠りについた。
アルの離脱とシルバーへの変身
ユルゲンの治療を終えたアルは、自身の小屋に戻り幻術で寝ている姿を残すと、帝都の隠し部屋へ転移した。そこで執事セバスと合流し、仮面を着けてシルバーとして行動を開始することを決めた。
南部と帝都の状況把握
セバスからの報告により、南部では黒い球体を起点にアンデッドが大量発生していること、レオは無事であり冒険者ギルドにレイドクエストを依頼して対応していることが判明した。また、皇帝ヨハネスが過労と精神的負担で倒れたことも知らされる。命に別状はないものの、皇帝不在によって帝都では意思統一が難航していた。
帝位争いによる混乱の拡大
アルは皇帝の倒下により帝位争いが加速し、大臣たちがそれぞれの思惑で動き始めていると分析した。その結果、軍の迅速な対応は期待できず、中央の戦力は当てにならないと判断する。
冒険者ギルドへの依存とフィーネの先手
アルが冒険者を戦力として考えていたことを、フィーネが先読みして行動していたことが明らかになる。フィーネは帝都周辺の冒険者にレイドクエスト参加を呼びかけ、さらにその動きは宰相の了承を得て行われていた。宰相もまた会議がまとまらない状況を見越し、冒険者を活用する方針を取っていた。
ギルドへの集結とフィーネの演説
帝都の冒険者ギルドでは、フィーネの呼びかけが都市全体に放送され、多くの冒険者が集結していた。彼女は命令ではなく、南部で苦しむ人々を救うために力を貸してほしいと訴え、その真摯な言葉が人々の心を動かしていた。
シルバーの参戦と指揮権の掌握
アルはシルバーとしてギルドに現れ、SS級冒険者としてレイドクエストへの参加を宣言した。その登場により場の空気は一変し、冒険者たちの士気は一気に高まった。アルは最高ランクとして指揮権を引き受けることを宣言し、誰からも異論は出なかった。
戦いへの準備完了
アルは全員の命を預かると宣言し、冒険者たちは歓声で応えた。フィーネと視線を交わし、言葉を交わさずとも意思を共有したアルは、南部へ向けた戦いの準備が整ったことを確信した。
消耗戦の継続と戦線維持
バッサウ上空に黒い球体が現れてから数日が経ち、レオのもとには二千を超える騎士と冒険者が集結していた。レオは前線を三交代で回しながらスケルトンの軍団を食い止めていたが、敵の数は減るどころか増え続けていた。当初は半包囲に成功していたものの、今では逆に押し返されつつあり、戦況は悪化していた。
休息を拒むレオの覚悟
リンフィアは休みなく指揮を続けるレオに休息を勧めたが、レオは今が正念場だとしてそれを拒んだ。バッサウから湧いてくるアンデッドは、ただ無秩序に現れているのではなく、こちらの動きに対応して増えているように見えていた。そのため、わずかな隙が致命傷になると判断し、レオは自らの疲労よりも戦線の維持を優先した。
負傷騎士の証言
そんな中、バッサウから逃げ延びた負傷騎士が目を覚まし、レオに話があると告げた。レオがテントを訪れると、その騎士は領主デニスが長年クリューガー公爵に脅され、人攫い組織にバッサウを利用されていたことを打ち明けた。そして、デニスは子供たちを助けるために決起し、屋敷の地下へ向かったのだと明かした。
黒い球体の発生源の推測
騎士の証言から、レオは黒い球体がバッサウの領主屋敷の地下と関係していると推測した。リンフィアも、攫われた子供たちの存在が異変の原因ではないかと見た。魔力が高い者や特殊な素養を持つ子供が集められていた以上、何らかのきっかけで異常が起きた可能性が高いと考えられた。
レベッカの存在と名誉回復の約束
騎士はまた、レベッカという人物がデニスの書状を持っていると語り、シッターハイム伯爵家の名誉を回復してほしいと訴えた。レオは、それが真実であるなら自分の名にかけて名誉を回復すると約束した。騎士はその言葉に感謝しながら、最後の力を使い果たして息絶えた。
黒い球体内部への突入意志
騎士の死を受けて、レオはあの黒い球体の中に誰かがいる可能性を考えた。そして、攫われた人々を助けるためには、球体そのものに踏み込まねばならないと決意した。リンフィアは、帝位を望む者として軽々しく命を賭けるべきではないと制したが、レオは助けたいと思う者を助けられないなら、そんな皇帝にはなれないと譲らなかった。
双子の共通する行動原理
レオの言葉を聞きながら、リンフィアはアルとレオの姿が重なって見えていた。外見以外に共通点は薄いようでいて、二人とも他者のために動くという根本の行動原理を持っていたからである。レオ自身は、自分は兄のように器用ではなく、慣れてしまえば見捨てることにも慣れてしまう弱い人間だからこそ、そうならないよう必死に真っ直ぐ進むしかないのだと語った。
耐えるべき時と前線の崩れ
レオは、助けると決めた以上その機会を逃すつもりはなかったが、勝機もないまま突撃するほど愚かでもなかった。今は耐え時と定め、前線を維持し続けた。しかし、レオの強い意志とは裏腹に、他の者たちは疲労と恐怖で次第に戦意を失い始め、前線のあちこちで綻びが生じていった。
左翼突破と最後の呼びかけ
ついに左翼が突破されたという報告が入り、予備隊の投入も間に合わない状況となった。逃げても背を討たれるだけだと判断したレオは、近衛騎士の角笛を奪って吹き鳴らし、自らの名のもとに戦意ある者たちへ集結を呼びかけた。騎士でも冒険者でも市民でも構わない、この場でまだ前を向ける者は自分のもとへ来いと叫び、剣を高く掲げた。
リーゼロッテの到着目前
その角笛の音は遠くまで響き、それを聞いたリーゼロッテは戦場が近いことを悟った。青いマントを翻しながら先頭に立ち、千の騎兵連隊を率いて速度を上げるよう命じた。こうして帝国南部には、意志ある者たちが次々と集まろうとしていた。
包囲下での消耗戦
方円陣を敷いて持ちこたえていたレオたちは、スケルトンの包囲を受けながら苦しい戦いを続けていた。半包囲に対抗していた戦線はすでに崩壊しており、今はリンフィアやアベル、近衛騎士たちといった上位戦力が踏みとどまることで、かろうじて陣形を維持している状況であった。撤退した騎士たちは戻らず、残った者たちの疲労は限界に近づいていた。
アベルたちの覚悟
アベルは胸くその悪い戦いだと吐き捨てながらも、依頼を受けた以上は放棄できないという冒険者としての矜持を示した。村を守るという依頼を果たすためには、今はレオを守るのが最善だと判断していたのである。傷だらけになりながらも軽口を叩き合う仲間たちの姿には、絶望的な状況の中でも折れない意志があった。
レオの仕込みと反転攻勢
やがて北方から騎馬隊が現れ、撤退した騎士たちの一部が戦場へ戻ってきた。これを見てレオは方円陣を解き、温存していた騎士たちを率いてバッサウへ向けて突撃した。リンフィアは、これはレオが近衛騎士の一部を意図的に離脱させ、撤退した騎士たちを立て直して再突入させるための仕込みだったと見抜いた。撤退という選択肢を最初から捨てていたからこそ、レオは混乱の中でも次の一手を打てていたのである。
先頭を譲らぬ皇子
突撃が始まると、レオは誰よりも前に出て道を切り開いた。近衛騎士たちは後列へ下がるよう進言したが、レオはそれを拒絶した。寄せ集めの騎士と冒険者たちを危地に追い込んだのは自分であり、それでも彼らがついてくるのは自分が先頭を走っているからだと断じたのである。その姿は、従来の優しい皇子という印象ではなく、一軍を率いる将としての威を備えていた。
バッサウ目前での急停止
別動隊の合流によって勢いを増した一行は、ついにバッサウを視認できる距離まで迫った。しかしその瞬間、何者かがレオへ斬りかかり、レオは剣で受け止めたものの、馬を止められてしまった。先頭が止まったことで全体の進軍も停止し、一行は再びモンスターの海の中で足を止めることとなった。
異形の強敵との遭遇
レオの前に立ちはだかったのは、黒い服をまとい、目までも真っ黒に染まった男であった。近衛騎士たちが加勢しても傷一つ負わせることができず、その実力は常軌を逸していた。しかも周囲のスケルトンたちはその男に襲いかかることもなく、レオはこの存在が異質な何かであると察した。
悪魔バラムの名乗り
レオが名を問うと、男は自らをバラムと名乗り、人間の呼び方でいえば悪魔だと告げた。そして、この街の中心には魔界と現世を繋ぐ召喚門が開かれており、今いるモンスターたちはその尖兵にすぎず、やがて大量の悪魔がこの地へ押し寄せるのだと明かした。南部の異変は単なるアンデッドの発生ではなく、魔界そのものと繋がる災厄であった。
絶望への抵抗
レオは召喚門を閉じるまでだと叫び、諦めない姿勢を示した。しかしバラムは、それはもはや手遅れであり、封じる手などないと嘲った。希望を砕こうとするその言葉に対しても、レオは退くことを選ばなかった。
リーゼロッテの到着
そのとき、澄んだ声が響いたかと思うと、バラムの左手が宙を舞った。咄嗟に距離を取ったバラムの前に立っていたのは、帝国軍元帥リーゼロッテ・レークス・アードラーであった。青いマントを翻し、覇気をまとって現れたその姿を見て、レオは久しぶりに見る姉の姿に目を見開いた。危機の最中、ついにリーゼロッテが戦場へ到着したのであった。
リーゼの突撃開始
少し時を遡り、レオが別動隊を放ち、バッサウへの突撃を開始した頃、リーゼたちはようやく遠目にバッサウを捉えていた。モンスターが見渡す限り広がる中、それでもリーゼはその中にレオがいると確信し、ためらうことなく突入を決断した。彼女の号令に応じたのは、長く配下として戦ってきた精鋭の騎兵連隊であり、士気を鼓舞する言葉など不要な軍勢であった。
試製回転式魔導連弩の投入
リーゼは連隊長に命じ、百名の兵士に試製回転式魔導連弩を使用させた。宝玉の魔力で連続射撃を可能にするその兵器は、スケルトンの群れに大量の矢を浴びせて進路をこじ開けた。対スケルトンには決定打とまではいかなかったが、敵陣に隙を生み出すには十分であり、リーゼたちはその隙を突いて突撃した。実戦投入の中で改良点も見えたが、それ以上に今は前進が優先された。
戦場で甦る姫将軍
敵の大軍を切り裂きながら進む中で、リーゼは久しぶりに戦場そのものへ充足を覚えていた。少数を率いて敵中を突破する感覚は、かつて列国から姫将軍と恐れられていた頃の彼女そのものであった。連隊長もまた、皇太子の死後に活力を失っていたリーゼではなく、戦場でこそ輝く本来のリーゼの姿を目の当たりにしていた。
レオとの再会と成長の実感
やがてリーゼたちはレオたちの姿を捉えた。レオは一軍の先頭に立ち、兵を率いて戦っており、その姿は若き日の皇太子に重なるほど将としての風格を帯びていた。アルが語っていた、自分たちは二人でなら長兄を超えられるという言葉は、虚勢ではなかったのだとリーゼは感じた。だからこそ、嬉しさを滲ませながらレオに声をかけ、その成長を確かめた。
悪魔バラムの正体の看破
リーゼはレオの前に立ちはだかるバラムと対峙し、斬り飛ばした左手が再生しないことや血が赤いことから、相手が人間を依り代にしていると見抜いた。バラムはそれを認めつつ、バッサウの中心で魔界と現世を繋ぐ召喚門が開かれており、いずれ大量の悪魔がこの地へやってくると明かした。レオはそれでも諦めず、今ここで叩かなければ人間社会に紛れ込まれると判断した。
高ランクアンデッドの出現と共同突撃
バラムが本気を見せると、バッサウからは巨大なジャイアント・スケルトンやドラゴンゾンビなど、より高ランクのアンデッドが現れた。バラム自身は透明化してその場から消えたが、レオは退却ではなく、この局面そのものを好機と捉えた。リーゼもその覚悟を受け入れ、二人はともにバッサウへの突撃を開始した。
リンフィアの窮地
一方、リンフィアとアベルたちは先頭集団への合流を急いでいたが、バッサウに近づくほど敵の抵抗は激しくなり、進軍速度は落ちていった。そんな中、ドラゴンゾンビの火球がリンフィアの傍に着弾し、彼女は先頭集団から弾き飛ばされてしまった。スケルトンの群れの中で孤立し、体も思うように動かない状況に追い込まれた。
笛に託した救援
絶体絶命の中で、リンフィアは以前ドワーフの老人から渡された霊樹の笛を思い出した。誰かに頼るのは悪いことではないという言葉を胸に、死地であっても妹を見つけるまでは死ねないと決意し、笛を吹いた。しかし音は出ず、何度試しても変わらなかったため、不良品だったのかと思いながらも笛をしまった。だが、その笛の音はたしかに遠く帝都まで届いていた。
シルバーの到着と帝都支部の救援
リンフィアが迫るスケルトンを迎え撃とうとした瞬間、周囲のスケルトンたちは一瞬で吹き飛ばされた。現れたのは、かつて会った仮面の冒険者シルバーであった。彼はレイドクエストを聞きつけて帝都支部の冒険者たちを率いてきたのだと告げた。そしてリンフィアの後方には巨大な転移門が開かれ、そこから数百の冒険者が一斉に突入し、スケルトンの軍団を薙ぎ払っていった。
リンフィアの再起
シルバーは、立てるならついてこい、稼ぎ時だと告げた。その言葉を受けてリンフィアは立ち上がり、最大の救援者であるシルバーの背を追った。こうして戦場には新たな援軍が加わり、反撃の機運が一気に高まっていった。
エリクの提案とシルバーの決断
帝都支部に冒険者が集結し、転移門を開こうとした直前、第二皇子エリクが現れ、軍の派遣部隊を同行させるため出発を待つよう求めた。帝国としての統制を優先する現実的な提案であったが、シルバーは意思決定の遅れによって生じる犠牲を問題視し、これを拒否した。冒険者は命を救うために動く存在であり、誰の指図も受けないと断言し、南部の問題は自らが預かると宣言して転移を実行した。
戦場への転移とリンフィア救出
転移直後、シルバーの前にはモンスターに包囲された戦場が広がっていた。その中で冷静に状況を見極めるリンフィアの姿を見つけ、周囲のモンスターを一掃して救出した。続いて帝都支部の冒険者たちが転移門から突入し、戦線に新たな勢いをもたらした。シルバーはリンフィアを回復させ、レオたちのもとへ向かうよう促した。
高位アンデッドとの戦闘
戦場ではドラゴンゾンビといった高位アンデッドが出現し、シルバーは単独で迎撃に当たった。結界と魔法を駆使して撃破するも、スケルトンの総数に対しては微々たる影響にとどまった。その一方で、黒い球体から放たれる膨大な魔力の正体が未だ不明であることを認識し、事態の本質がそこにあると見定めた。
悪魔フルカスの出現
やがて首を抱えた異形の存在が現れ、シルバーはそれをデュラハンに似た別種の存在と見抜いた。その正体はフルカスと名乗る悪魔であり、依り代となる人間の体を借りて現世に顕現していた。さらに、黒い球体は魔界と現世を繋ぐ穴であり、そこからモンスターが溢れ出していることが明かされた。
複数の悪魔の存在と戦局の悪化
フルカスは単独ではなく「私たち」と語り、直後に別の悪魔が出現してレオを襲撃した。リンフィアが間一髪でこれを防ぎ、敵が隠密能力を持つ厄介な存在であることが判明した。シルバーが対応しようとする中、突如として少女の声が響き、悪魔たちの行動を一時的に停止させたことで、敵は一旦退却した。
シンファの存在と事態の核心
その声にリンフィアは強く反応し、攫われた妹シンファのものだと断言した。シルバーは状況を整理し、シンファが黒い球体の中におり、召喚の中心となっている可能性を指摘した。先天魔法の暴走によって魔界と繋がる事態が引き起こされたと推測し、事態解決の鍵が彼女にあると判断した。
リンフィア護送作戦の決定
シンファを救うためにはリンフィアを黒い球体へ送り届ける必要があると結論づけられた。転移は危険と判断され、地上からの護送が選択される。レオはこれに同意し、自ら道を切り開くと宣言した。リンフィアも姉として妹を救う決意を示し、戦場全体の目的はバッサウ到達から「リンフィアの護送」へと明確に変化した。
総力戦への移行
リーゼを先頭に騎士団が突撃し、レオや冒険者たちもこれに続いた。戦場にいた全員がリンフィアを送り届けるという共通目的を持ち、戦いは一つの方向へと収束していった。シルバーもまた前線に立ち、モンスターを排除しながら進路を確保し、総力戦の様相を呈していったのであった。
リンフィア護送の突破戦
リーゼの指揮のもと、一行は敵を殲滅するのではなく前進を最優先とし、リンフィアを黒い球体へ送り届けるため突撃を続けた。シルバーが上空から強敵を抑え、周囲の敵も削っていたことで進軍は成立していたが、戦場は依然として過酷であり、リンフィア自身も前線に出て戦う覚悟を示した。
リーゼの評価と覚悟の継承
進軍の最中、リーゼはアルノルトの人物像を語り、助けられた者は価値や信念を認められた存在であると断じた。そしてレオとアルの支えを受けたリンフィアに対し、自らは道を切り開くと宣言し、その助力を無駄にすることなく妹を救い出せと命じた。リンフィアはその言葉に応え、決意を固めて進軍を続けた。
バッサウ突入とレオの奮戦
リンフィアたちが街へ突入する一方で、レオは後方でジャイアント・スケルトンを足止めしていた。騎士たちと連携して敵を討ち取るが、不可視の悪魔バラムの奇襲を受け負傷する。それでもレオは退かず、自らが囮となってバラムを引き受けることで、仲間の進軍を優先した。
シルバーとの対立と役割の選択
シルバーが援護に入るも、レオはこれを拒否し、リンフィアの護衛を優先するよう命じた。自らの命よりも救うべき子供たちを優先すべきだと断言し、皇帝を目指す者としての覚悟を示した。その強い意思に押され、シルバーは後を託して戦場を離脱し、リンフィアの元へ向かった。
バラムとの一騎打ち
レオは単独でバラムとの戦いに挑んだ。不可視能力による奇襲に苦しめられながらも、冷静さを取り戻し、相手の攻撃を誘導する策に出る。あえて剣を収めて気配に集中し、攻撃を受けることを前提に反撃の機会を作り出した。
聖炎による悪魔討伐
バラムの一撃を受けつつもその首を掴んだレオは、聖属性魔法ホーリー・ブレイズを発動した。アンデッドに対して絶大な効果を持つ聖炎によってバラムを焼き尽くし、完全に消滅させた。自身も重傷を負いながらも決して手を離さず、確実に討ち取る執念を見せた。
勝利宣言と新たな異変
悪魔を討ち取ったレオは勝利を宣言し、騎士たちはそれに応えて士気を高めた。しかしその直後、黒い球体が強烈な光を放ち、新たな事態の発生を予感させた。戦いは終わらず、事態はさらに深刻な局面へと進もうとしていた。
黒い球体の正体と突入の決断
バッサウの街に入ったリンフィアたちは、上空に浮かぶ黒い球体と、その真下に口を開ける巨大な黒い穴を目にした。少しずつスケルトンがその穴から湧き出していることから、事態を収めるには黒い球体をどうにかする必要があると判断された。しかし、球体は高所にあり、そこへどう到達するかが問題となっていた。
フルカスの妨害とシルバーの援護
そのときフルカスが現れ、リーゼに強烈な一撃を浴びせて剣を折ったうえで、召喚者であるシンファを自らが球体の中に保護したと告げた。悪魔は命令そのものには逆らえないが、その解釈次第で好きに振る舞えるという危険性を示す言葉であった。リンフィアが怒りを見せる中、シルバーが割って入り、自らが相手を引き受けると宣言した。
黒い球体への道の形成
シルバーは戦いながら、リンフィアたちのために空中へ続く階段状の結界を作り出した。それは黒い球体まで一直線に伸びていた。リーゼはその機転を素直に評価し、リンフィアに先へ進むよう命じた。そして下ではリーゼを中心に円陣が組まれ、延々と湧いてくるスケルトンを押し返しながらリンフィアを守る態勢が整えられた。
リンフィアの到達と妹への呼びかけ
黒い球体へたどり着いたリンフィアは、どうすればよいかわからぬまま、とにかく妹の名を呼び続けた。しかし球体は反応を示さず、リンフィアは覚悟を決めて右手を球体の中へ差し入れた。激しい電撃が走り、腕の感覚が失われていく中でも、リンフィアは決して諦めなかった。やがて頭の中に、怯えたシンファの声が響いた。
姉妹の再会と心の解放
シンファは怖がりながらも、リンフィアの呼びかけに応じた。リンフィアは自分が守る、もう怖いことはないと優しく語りかけ、他にも子供たちがいると知ると、その全員を守ると誓った。痛みを押し隠しながら手を伸ばし続けた末、ついにシンファの手を掴み、その体を黒い球体の外へ引き上げることに成功した。そこにいたのは、赤と青の瞳を持つ栗色の髪の少女、間違いなくリンフィアの妹シンファであった。
黒い球体の崩壊と子供たちの落下
シンファが中心から引き離されたことで、黒い球体にはひびが入り、やがて光を放って消失した。しかしその中にいた子供たちは空中から落下し始めた。リンフィアは咄嗟に飛び降りて子供たちを掴もうとするが、手は足りず、このままでは下に広がる魔界へ通じる穴へ落ちてしまう危険な状況に陥った。
銀の鷲による救出
その瞬間、巨大な銀の鷲が現れ、落下するリンフィアと子供たちを背に乗せて救い上げた。それはシルバーが魔法で再現した鷲であった。本来なら召喚を行いたかったが間に合わず、魔法で形にしたのだとシルバーは語った。シンファはその美しい鳥に目を輝かせ、名をつけたいと口にするほど、ようやく穏やかな感情を取り戻し始めていた。
フルカスの激怒とシルバーの本気
救出に成功した直後、フルカスが怒りをあらわにしてシルバーを攻撃した。これまで計画を妨害され続けたことへの憎悪をぶつけるフルカスに対し、シルバーは今度はただでは済まさないと応じた。そして次の瞬間、シルバーの魔力はそれまでとは比べものにならないほど膨れ上がった。リンフィアは、その姿を見て、今までの戦いでは周囲への影響を考えて本気を出していなかったのだと悟った。これからこそ、シルバーの真の力が解き放たれようとしていた。
シルバーの本気解放
フルカスはシルバーを見下し、その力は及ばないと断じたが、シルバーは抑えていた魔力を解放し、圧倒的な差を見せつけた。これまで本気を出さなかったのは、リンフィアの妹を怖がらせないためであり、すでに救出が完了した今は遠慮する必要がなくなったのである。可視化されるほど濃密な魔力は、フルカスのそれを遥かに上回っていた。
魔法戦による圧倒
フルカスは接近戦で優位に立とうとしたが、シルバーは転移と高位魔法を駆使して距離を保ちつつ攻撃を行った。血雷による一撃でフルカスを吹き飛ばし、さらに魔法の拳や大地魔法で連続的に追い詰めた。フルカスは再生能力で耐えたものの、戦闘の主導権は完全にシルバーが握っていた。
信念の対立
フルカスは強者こそが正しいという魔界の摂理を語り、シルバーの行動を理解できないと断じた。これに対しシルバーは、手の届く者を全力で守るという自身の信条を語り、この世界にはこの世界のルールがあると断言した。そしてこの場の強者は自分であり、ここでは自分がルールであると宣言した。
銀滅魔法の発動
シルバーはフルカスを呪鎖で拘束し、時間をかけて大魔法の詠唱を開始した。それは彼の象徴である銀滅魔法であり、かつて古竜を討伐した力でもあった。銀の光が凝縮され、巨大な光球として顕現し、やがてシルヴァリー・レイが発動された。
広域殲滅と戦場制圧
放たれた銀光はフルカスの攻撃と拮抗したのち、複数の光球として分裂し、周囲のモンスターを一掃した。戦場に溢れていたアンデッドや悪魔は瞬く間に消滅し、残されたフルカスも再び拘束され、七つの光球による集中攻撃を受けた。
フルカスの消滅と穴の閉鎖
最終的にシルバーは銀光を集束させ、フルカスを魔界へ通じる穴ごと撃ち抜いた。銀光は穴の奥まで貫通し、流入していたモンスターと悪魔を殲滅しつつ、縮小する穴に合わせて収束し、完全に閉鎖へと導いた。これにより魔界との接続は断たれ、異変の根源は断ち切られた。
勝利宣言と戦いの終結
戦場の脅威をすべて排除したシルバーは、レイドクエストの達成を宣言した。冒険者たちは歓声を上げ、騎士たちもそれに応じて勝鬨をあげた。こうして南部を揺るがした異変は終息し、帝国を危機に陥れる事態は回避されたのであった。
戦後への布石
戦いは終わったが、後始末や政治的な影響はこれからであった。今回の勝利によりレオの評価は大きく高まり、南部の問題には皇帝自らの介入が避けられない状況となる。シルバーはその流れを見据えつつ、次なる局面への備えとして静かに動き始めるのであった。
エピローグ
皇帝ヨハネスの回復と過去の影
アルノルトは戦後、帝都に戻り皇帝ヨハネスの容態を確認した。ヨハネスは順調に回復していたが、紫の狼煙に対する過去の記憶が体調不良の一因となっていた。三年前、同じ狼煙によって皇太子を失った経験は深く刻まれており、その死によって帝位争いが始まり、帝国の体制も大きく揺らいだのである。
皇太子は理想的な後継者であり、多くの人材と未来の希望を担っていた存在であった。その死により有能な側近たちは去り、ヨハネスは再び政務を担い直すこととなった。アルノルトはその過去を踏まえ、今回の戦いでレオナルトを失うような事態は決して起こさせないと強く決意していた。
アルノルトとフィーネの対話
フィーネはアルノルトに対し、彼自身もまた多くの人に影響を与える存在であると告げた。レオナルトを太陽とするなら、アルノルトは月であり、目立たずとも人々を支える存在であると説いた。
アルノルトは自身の価値を軽視していたが、フィーネの真摯な言葉により考えを改め、自分の命も軽んじないと約束した。その後、アルノルトは再び戦場へ戻るため転移門を開き、その場を後にした。
ザンドラの焦燥と陰謀の発覚
一方、後宮では第五妃ズーザンの娘ザンドラが、南部の事件によって自らの立場が危うくなることに焦りを見せていた。バッサウの件が調査されれば、関係していた組織や一族の関与が明るみに出る可能性があり、帝位争いから脱落する危険があったためである。
しかしズーザンは動じることなく、帝位獲得に必要なのは権力ではなく「失われた究極の呪い」であると諭した。そして、その手がかりとして別の可能性に目を向けるよう促した。
クリスタの先天魔法の可能性
ズーザンの命を受けた侍女シャオメイは、クリスタに関する情報を報告した。クリスタは過去の重大な出来事を事前に察知していた可能性があり、未来予知の先天魔法を持つ疑いが浮上したのである。
さらに、過去にクリスタの側にいた侍女たちが不自然に城を離れていることから、ミツバがその能力を隠すために工作を行った可能性も示唆された。これにより、クリスタの力は極めて希少かつ危険なものであると認識された。
狂気の決断と新たな脅威
ザンドラはその力に価値を見出し、クリスタを実験体として捕らえるよう命じた。ズーザンもこれを肯定し、手段を選ばずに連れ去るよう指示を下した。
シャオメイは即時行動は難しいとしつつも調査を開始することを約束し、計画は静かに進行し始めた。こうして帝国の内側では、新たな陰謀が動き出し、さらなる混乱の火種が生まれたのであった。
最強出涸らし皇子 シリーズ











その他フィクション

Share this content:


コメント