【ダンまち】「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか12」感想・ネタバレ

【ダンまち】「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか12」感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンル
異世界ファンタジー/冒険譚である。本作は、神々と冒険者が共存する世界オラリオを舞台に、主人公ベル・クラネルらの成長や戦い、種族と価値観の交錯を描く長編シリーズである。
内容紹介
ベル・クラネルは、ギルドから届いた一通の書状によって強制任務――「遠征(ミッション)」へと駆り出されることとなる。彼は新たな階層域「下層域(サブダンジョン)」へと赴き、未知なるモンスターや環境、他派閥との遭遇に直面する。彼を取り巻く仲間たちとともに、新しい迷宮の攻略と“戦いの先”を探し求め、ベルは新たな称号や地位を求めつつ、冒険を再び走り出す。

主要キャラクター

  • ベル・クラネル:本シリーズの主人公である。弱き冒険者として始まったが、成長と試練を経て仲間を守る信念を深めていく。12巻では新たな任務に挑む中心人物である。

物語の特徴

12巻は、シリーズ中でも“新たなステージへの転換点”として位置づけられる巻である。これまでの都市・ダンジョン間の折り返しを超え、ベルが未知の下層域へ挑むという展開が読者に新鮮な刺激をもたらす。称号や昇格、ミッションという制度的枠組みも加わり、単なる探索譚から「規則と挑戦の枠内で生き抜く物語」へと拡張されている。さらに、ベルを取り巻く仲間たちの役割変化や試練、ギルドや派閥間の衝突も物語に厚みを与える。また、本巻の冒険は“未知”というテーマを強く押し出し、読者に探求欲を呼び起こす構成である。

書籍情報

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 12
(Is It Wrong to Try to Pick Up Girls in a Dungeon?
著者:大森藤ノ 氏
イラスト:ヤスダスズヒト 氏
出版社:SBクリエイティブGA文庫
発売日:2016年10月15日
ISBN:978-4-7973-9280-7

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あらすじ・内容

“シリーズ累計800万部突破!
「ダンまち」第12弾!”
“そして、少年は再び走り出す。

好敵手との死闘を経て成長を遂げたベル。
昇格(ランクアップ)、神会(デナトゥス)、称号。人々や神々、オラリオ中の注目を集める中、彼のもとにもたらされるのは一通の書状だった。

「強制任務(ミッション)……『遠征』?」
ベル・クラネルは『資格』を得た、更なる冒険に臨め――。
ギルドより届いた指令がベルを新たな舞台へと導く。
迷宮攻略のために発足される『派閥連盟』。
これまで戦ってきた仲間達とともに、新たな階層、新たなモンスター、そして新たな『未知』に挑む。

新章開幕、下層域『新世界』へと突入する迷宮譚十二弾!

これは、少年が歩み、女神が記す、 ──【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】──”

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 12

感想

今巻はベルの「少年から男への変化」を描いた転換点であり、仲間の成長と絆が強く印象づけられる。純粋なダンジョン冒険譚としての高揚感に満ち、強化種との戦いはシリーズ屈指の緊迫感を放つ一冊であった。

アステリオスとの激戦を経て、ベルはついにLV.4へ昇格した。神会では「白兎の脚」と命名され、ヘスティア・ファミリアも等級Dに昇格する。ほどなくギルドより“強制任務(ミッション)”の通達が届き、下層域を目指す遠征が義務付けられた。

ヘスティア、ミアハ、タケミカヅチの三派閥による連合が結成され、リリの指揮訓練、春姫の新魔法開発、ヴェルフの新装備製作、命と千草の体術鍛錬が進められた。ベル自身もエイナの座学で知識を磨き、全員がそれぞれの弱点を克服していく。やがて遠征の朝、彼らは決意を胸に迷宮へと出発した。

24階層では稀少種《ブラッディー・ハイヴ》を討伐し、チームの連携を確立する。だが25階層では、寄生能力を持つ“強化種”が現れ、隊は壊滅の危機に瀕した。感染者を救うため、ベルは討伐を決断。死闘の末、滝壺へと落下して孤立する。

滝壺でベルは人魚の異端児マリィと出会い、彼女の「生き血」により回復する。マリィの導きで仲間の危機を察知したベルは、水都を駆け抜けて戦場へ急行。仲間を救うため再び剣を握る。

強化種は怪物群を操り“怪物進呈”を発動。春姫の全体昇華魔法も押される中、リリは仲間を見捨てぬ選択を取る。そこへベルが四分間蓄力の【ファイアボルト】を放ち、炎雷の奔流で敵を焼き尽くした。仲間と再会したベルは、英雄としての覚悟を確立する。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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展開まとめ

プロローグ 神と血と 眷族と物語と

神々の儀式と血の意味
遥か一千年前、神々が地上に血を落とす「儀式」が行われていた。それは人が神の滴を受け、昇華の階段を上る行為であり、困難を打ち破るための力の象徴とされた。神々はそれを促進剤と呼び、人の可能性を引き出す契機にすぎないと語っていた。人こそが果てなき航路を進む者であり、神々はその行く末を見守る立場であった。

神々の想いと血の継承
ある神は人に課した重荷を詫び、ある神は子の成長を喜び、ある神は約束の時代を担う英雄の出現を願った。こうして多くの神々が己の血を落とし、それが今に続く神と人との絆の礎となったのである。神血を浴びた者の肌には漆黒の神聖文字が刻まれ、神の恩恵が形を得ていった。

女神による物語の綴り
女神は血の儀を通じて、新たな物語を綴っていた。彼女の指が刻む神聖文字は碑文のように流れ、経験値をインクとして神の恩恵を描き出していく。それは彼女にとって唯一無二の宝物であり、少年との絆を形にする行為であった。女神は物語を読み進める子供のように微笑み、新たな頁をめくり、神と眷族の真名を背に刻んだ。

ランクアップの祝福
物語の欠片が白紙を埋めていく喜びに浸りながら、女神は筆を止め、静かに背中から指を離した。そして深く息を吐き、心を込めてベル・クラネルに告げた。
おめでとう、ベル君――ランクアップだ、と。

一章 ラビット×クローズアップ

ヘスティアの祝福とベルの昇格確認
竈火の館でヘスティアが【ステイタス】を更新し、ベルはLV.4へ昇格していた。LV.3からの到達は約二か月で、前回より期間は延びたが成長速度は依然突出していた。ベルは静かに結果を受け止め、昇華の確信を抱いていたのである。

アステリオス戦の評価と新能力
黒いミノタウロスであるアステリオスは管理機関にLV.7相当と評され、都市を攪乱した脅威として第一級賞金首に記録された。ベルはこれに敗北しつつも、これまでの抗争や二十階層到達、異端児を巡る攻防で上位の【経験値】を蓄積しており、決戦は昇格の最後の契機となった。発展アビリティは逃走で、離脱時の速度補正を得た。不名誉とも呼ばれる一方で希少であり、幾度もの追撃経験が結実した形である。新規スキルは闘牛本能で、猛牛系との戦闘で全能力が大幅に上がる。既存のリアリス・フレーゼと英雄の願い、速攻魔法ファイアボルトも併せ、ベルは猛牛と戦う者の名に実を伴わせた。

市壁上での内省と休息の決意
オラリオの市壁上でベルは昇格を胸に静かに英気を養っていた。激動の十日を経て休息を命じられ、武具の修理と新調が進む中、焦燥よりも落ち着きが勝る自分の変化を自覚していた。街の視線は軟化し、孤児院の子らの謝意やルゥの言葉が後ろめたさを和らげた。ベルは強くなる決意を新たにしていたのである。

ヘルメスの謝罪とアスフィの言葉
市壁に現れたヘルメスは、異端児の件でベルを苦しめたことを謝罪し、今後もお節介を続けると告げた。ベルは許せない思いと恩義の記憶の間で答えを保留したが、アスフィはベルを案じていたと伝え、神の去背を見送らせた。

フェルズの提言と最下層攻略の示唆
続いて姿を現したフェルズは、ベルの昇格と変化を認めつつ、今後はダンジョン挑戦を再開するのかと問い質した。ベルが強化の意思を示すと、フェルズは人類と異端児の共存のためにはダンジョン最下層の攻略が不可欠だと戦う理由を与えた。詳細は明かされず、結ばれた誓約と決着があるのみだと示して去った。

神会の報告と命名式の喧騒
神会ではガネーシャの司会で都市近況が報告され、続いて昇格者の命名式に熱気が高まった。ベルは連続で神会に食い込み、二度の【ランクアップ】を経た異例の存在として注目を浴びた。

二つ名命名の攻防とヘスティアの奮闘
ヴェルフ・クロッゾの二つ名は不冷で即決したが、ベルの番ではフレイヤが美神の伴侶を提案し、ヘスティアが激昂して阻止した。ロキらが悪ふざけを重ね混沌を極めるも、最終的にはヘスティアと周囲の尽力で無難な称号に落ち着かせ、ベルの名誉を守った。

昇級に伴う派閥等級と「お達し」の予兆
神会閉幕後、ヘファイストスはヘスティアにファミリア等級の昇級を確認し、次なるお達しの到来を示唆した。ヘスティアは疲労をにじませつつも、ベルへの報告と来たる通達に備える心境に至っていたのである。

ホールの喧騒と二つ名の掲示
ギルド本部ロビーに神会後の名簿が貼り出され、多くの亜人と市民が新たな二つ名に注目していた。視線は自ずと白髪の冒険者の項目へ集まり、歓声と溜息が交錯していたのである。

【白兎の脚】の公表と周囲の評価
ベル・クラネルは巨大掲示板で自身の二つ名【白兎の脚】を確認した。外見と俊足を称えた新称号に対し、周囲は好戦、嘲笑、羨望など様々な色を見せつつも、その偉業を認める空気が支配的であった。かつてのやっかみは消え、生意気な新人と見る者はいなくなっていたのである。

こそばゆさと相談の意図
称賛の熱気を肌で感じたベルは気恥ずかしさを覚え、今後の相談のため窓口へ向かった。受付嬢達の視線を受けつつ、ハーフエルフのアドバイザーであるエイナのもとへ歩を進めた。

エイナの動揺と純白の封書
エイナ・チュールは茫然とベルを見つめ、同僚ミィシャに促されてようやく我に返った。彼女は頬を染めて取り乱しながら、ギルド印の封蠟が施された純白の封書を差し出した。周囲は恋文と勘違いして騒いだが、ベルはその手触りと印から高位の通達であることを即座に察していた。

『強制任務』の予兆
封書を受け取ったベルは過去の記憶を手繰り寄せ、強制任務という語を無意識に呟いた。場の喧騒が続く中、神会後の余波は次の段階へ移行する兆しを見せていたのである。

二章 冒険インターミッション

茶房での合流と『お達し』の確認
ヘスティアとベルは北西のメインストリート沿いの茶房でヘファイストスと合流し、ギルドから届いた白い封書の内容を確認した。封書は『強制任務』であり、探索系【ファミリア】が一定等級に達した際に義務付けられる『遠征』の実施を求める通達であった。

遠征義務の趣旨と条件
ヘファイストスは、等級D以上の探索系【ファミリア】には周期的な遠征が課せられ、到達階層の更新、新規採取・採掘物の発見、『未開拓領域』の地図作成、階層主討伐などが成果として認められると説明した。実施は自派閥主導でなければならず、他派閥の遠征に随伴するだけでは不可であった。また不履行や無成果の場合は罰則として上納金が科されることが示された。ベルは上級派閥が越えてきた通過儀礼であると理解し、ヘファイストスは応援を伝えて場を後にした。

ファミリア会議と情報整理
夜、【ヘスティア・ファミリア】は本拠で会議を開き、遠征の是非と方針を協議した。春姫は前派閥での遠征随伴の記憶を語り、ヴェルフは鍛冶系派閥で縁が薄かった経緯を述べた。リリは強制任務の拒否が原則できないこと、回避は重大損害や長期の他任務受託時などに限られること、成功証明は特定ドロップや鉱石の持ち帰りが用いられることを整理した。さらに遠征は自派閥構成員の過半数参加が条件であり、派閥としての経験値獲得と強化が意図されていると結論づけた。

目標階層の見立てと編成案
到達階層が二十階層である現状から、妥当な目標は二十四階層と見積もられた。ベルのLV.4により基準を満たす一方で、初見階層ゆえに慎重さが求められると共有された。編成はベル、ヴェルフ、命、非常時の妖術師として春姫を軸に、必要に応じて他派閥の上級冒険者を雇用する案が最も現実的とされた。リリは自身の参戦を抑えつつ、参謀としての判断を示した。

ベルの意志表明と結束
ヘスティアが団長の意向を質すと、ベルはウィーネ達のため、そして自分のために強くなる意志を明言し、できるなら仲間全員と共に前進したいと告げた。リリ、春姫、命はそれぞれ肯定を示し、ヴェルフも笑みで応じた。ヘスティアはミアハやタケミカヅチとの協力を視野に入れ、派閥連合の構想を口にした。

遠征決定と高まる熱量
議論の末、【ヘスティア・ファミリア】は強制任務としての遠征を正式に決定した。新たな目標の提示によって一同の士気は昂揚し、派閥全体が次の探索へ向けて動き出す体制に入ったのである。

派閥連合の発足と出発予定
【ヘスティア・ファミリア】は【ミアハ】と【タケミカヅチ】と連携し、三派閥による派閥連合を立ち上げ、十日後の出発を定めた。協力要請は快諾され、【ヘファイストス】は鍛冶支援に徹する方針となった。参加見込みには桜花と千草、ダフネとカサンドラ、さらに【麗傑】アイシャが加わり、戦力は下層突入も視野に入る構成へと厚みを増したのである。

作戦統括と連携課題
竈火の館の応接間は作戦室と化し、リリが地図と情報を統括した。ダフネは合同遠征の要は連携であると指摘し、突貫の編成では高位階層に通用しない恐れを示した。これを受け、リリは自らの前線参加を抑え、後衛から全体を統帥する指揮役への転身を決断した。指揮術はダフネの実地助言によって補強され、隊列と役割の再設計が進んだ。

各員の強化訓練
命と千草はタケミカヅチの下で体術と間合いを鍛え、【ステイタス】に依存しない「技と駆け引き」を徹底した。ヴェルフは工房に籠もり、兎鎧の整備から刀や槍、魔剣に至るまで装備群を仕上げた。桜花は仲間を守る武器の製作を直訴し、職人の闘志に火が付いた。春姫はアイシャに導かれて書庫に入り、希少な『魔導書』で新たな魔法の強制発現に挑んだ。十日に及ぶ集中特訓は、それぞれの弱点を埋める狙いで着実に進行した。

座学と心情の変化
ベルは夜のギルド資料室でエイナから個別座学を受け、通過階層の地形やモンスター、異常事態の事例まで知識武装を図った。座学に自ら臨む姿勢は過去からの変化を示し、エイナはその成長を目の当たりにして密かに胸を高鳴らせた。勉学に没頭する横顔は、遠征を前にした覚悟の深まりを物語っていた。

主神たちの前祝い
ヘスティア、ミアハ、タケミカヅチは場末の酒場で杯を交わし、眷族の成長を誇りに語り合った。準備を任せて飲む気まずさを笑い飛ばしつつ、帰還後の祝杯を約して成功を祈念した。幼女神は寂しさと誇らしさを胸に、少年の背で紡がれる物語が宝物であると改めて噛みしめたのである。

遠征方針の焦点
到達階層の更新か希少資源の持ち帰りか、成果の定義は定められ、証拠提示の要件も確認された。自派閥主導と過半数参加の条件が重くのしかかる中、鍵となるのは混成部隊の連携である。後衛統帥、体術強化、装備刷新、新魔法の獲得、そして座学による下支え――それらが束になって初めて、下層への扉が開くという見立てが共有された。

遠征出発――第六区画の朝

快晴の朝、竈火の館前に【ヘスティア・ファミリア】と協力各派が集い、物資と装備の最終確認を終える。アイシャが大朴刀を肩に笑みを向け、リリルカが膨れ上がったバックパックを背負い直す。桜花はヴェルフ特製の白銀の斧を受け取り、代金は遠征で取り返すと覚悟を語る。ナァーザは新薬の詰め合わせを春姫に託し、春姫は《ゴライアスのローブ》を纏って深々と礼を取る。タケミカヅチ、ミアハ、ヘファイストスは留守と後方支援を引き受け、館の護りまで手配済みである。ヘスティアと笑みを交わしたベル・クラネルは「いってきます」と告げ、派閥連合は一週間予定の遠征へ踏み出した。

編成と目標――下層を見据える行軍

前衛はヴェルフ、桜花、ベル。中衛は命・千草・ダフネの遊撃と、リリルカ・春姫・カサンドラの支援部に分かれ、殿はLV.4のアイシャが務める。初の大所帯ゆえ陣形は状況で可変としつつ、目標は下層到達に据えられた。行程は安全階層外での野営も想定し、第二級冒険者の所見を基に五日での往還を計画する。

24階層の洗礼――蜂巣の砦を落とす

舞台は『大樹の迷宮』24階層。ベルは右手の《ヘスティア・ナイフ》に加え、左手にヴェルフ謹製の新刃《白幻》を携行する。素材はユニコーンの角、切れ味は《牛若丸》を凌ぎ、兎鎧や強化レッグホルスターと相まって殲滅効率を押し上げる。進軍を阻むのは《デッドリー・ホーネット》と、その巣たる罠型稀少種《ブラッディー・ハイヴ》。粘液の足止めで春姫が拘束され、前衛の盾も赤黄色に汚れるなか、ベルは壁走りの大跳躍で殺人蜂を両断し、着地の流れで【ファイアボルト】を二連射。さらにリリルカの統率で円陣防御へ移行すると、二十秒の蓄力を通して砲撃級の【ファイアボルト】を巣へ直撃させ、壁面ごと蜂巣を爆砕して突破口を開いた。

戦後の呼吸――称賛、戸惑い、そして覚悟

戦利品の回収が進む中、千草と桜花はベルの動きの鋭さに舌を巻き、カサンドラと命もその成長に驚嘆する。春姫は『異端児』の件でベルが怪物を斬れるのか案じていたと打ち明けるが、ベルは紫紺の魔石を握りしめ、「『偽善者』になると決めた」と明言する。竜の少女やゼノスを守るために、同族たりうる怪物を斬るという矛盾を自らの意志で抱え込み、英雄であれ悪賊であれ、結果の名を甘受する覚悟である。その決然たる横顔に春姫は息を呑み、頬を染める。

背中を追う者、支える者――連鎖する意志

離れて様子を見ていたヴェルフは、遠ざかる背中を案じて顔を曇らせるリリルカに、「支えるのがサポーターだろ」と挑発めいた励ましを投げる。リリルカは気を取り直し、自分も強くなると頬を叩いて気勢を上げる。アイシャは隊の連携と士気の高まりに目を細め、一人の背中が周囲の決意を連鎖させている現実を“英雄の素質”と見立てる。そして「そろそろ、食べ頃かねぇ」と含み笑いを漏らした刹那、遠くのベルがぞくりと背を震わせた。遠征の空はなお晴れ、物語はさらに深い層へ潜っていく。

樹洞のルームでの野営準備
リリルカの懐中時計が地上の夜更けを告げ、遠征隊は24階層の正規ルート脇にある樹洞の行き止まりを野営地に定めた。迷宮壁と床を意図的に損壊して再生優先を誘導し、内部の掃討と出入口の見張りを配置した。テント設営、炊事、警戒、明日の動線検討が並行して進み、隊は落ち着いた運用体制に移行したのである。

装備整備とスキル検証
ヴェルフは砥石や小炉を持ち込み《神様のナイフ》を整備し、ベル・クラネルの新刃《白幻》の手応えは極めて良好であった。ベルはまた【英雄願望】の検証を密かに進め、最長蓄力が四分へ伸長し、攻撃行動に限って集束強化が働くこと、被弾や集中断で解除と消耗が生じることを掴んだ。以後は勝負所での限定運用が妥当と結論したのである。

角灯の下の夕餉
青光苔を削って照度を落とし、瓶に詰めた光で角灯を拵えた。命と千草が作った雑炊は迷宮食材を織り交ぜて好評であり、カサンドラと千草は治療談義で意気投合した。即応力と人数に支えられ、当日中は階位昇華も魔剣も温存できたことが確認された。

下層の脅威と情報規制
アイシャは24階層の肝を「異常攻撃と物量」と総括し、25階層からの下層は地形難が主因、30階層から本格的に能力が要求されると釘を刺した。リリルカは下層・深層の詳細情報がギルド規制下にある実情を明かし、場は緊張を帯びたが、先走った恐怖を戒める材料ともなった。

酒宴でほぐれる空気
アイシャの主導で簡素な酒宴が始まり、重い空気は笑いへ転じた。遠征一日目ながら節度は守られ、士気維持の効果が優先されたのである。

見張り番の会話と心情
見張りに就いたベルのもとへリリルカが雑炊を運び、変化への不安を打ち明けた。ベルは仲間と野営を楽しむ今の心境を示し、リリルカは安堵した。やり取りは微笑ましくも、ベルの成熟が周囲に与える影響を静かに印象づけた。

小競り合いと迎撃
春姫が合流して小さな口論が生まれ、騒ぎに惹かれた《メタル・ラビット》の群れが接近した。三人は迅速に迎撃し、野営の秩序を保った。

遠征一日目の締め
談笑と警戒が交錯する中、隊は「順調すぎる進行」の手綱を締め直し、下層への備えを胸に刻んで夜を越えたのである。

静寂の広間と見張りの刻
酒宴の喧噪が遠のき、24階層の樹洞には森の夜を思わせる静謐が戻っていた。テントの中からはリリルカら女性陣の寝息が聞こえ、ヴェルフと桜花は武器を抱えたまま草壁にもたれて眠っている。通路の奥から遠く獣の遠吠えが響くが、距離は離れており危険はない。ベル・クラネルは依然として見張り番に立ち、足もとでは青光苔の瓶が淡い光を放つ。壁の損壊維持作業を続けながら、懐中時計の針が午前二時を指すのを確かめた。

夜更けの訪問者
布音に振り向くと、薄手の戦闘衣を纏う褐色のアマゾネス――アイシャが現れた。彼女は冗談めかして「夜這い」と言い、すぐに「冗談だよ」と笑って距離を詰める。その艶やかな姿と挑むような眼差しに、ベルは思わず息を呑んだ。会話の端々で彼女は、明日到達する25階層=『下層』について触れる。
「ここからが“新世界”だ」と、迷宮開拓初期の冒険者が名付けた呼称を伝え、緊張を帯びた空気の中でベルを見据える。
「怖気づいていないか?」
その問いに、ベルは静かに息を整えた。

“新世界”への覚悟
彼の脳裏には、先ほどの会話――階層を越えて竜が飛び交うという噂――がよぎる。そこは想像を超えた領域、上級冒険者のみが立ち入る“地獄”の前線であった。それでも彼は言葉を選びながら答えた。
「何も感じていないと言えば嘘です。でも……それでも、僕は先に進みたい」
恐怖は確かにある。だがそれ以上に、未知を切り拓く意志が勝る。握られた拳には震えよりも決意が宿っていた。

女傑の言葉と余熱
アイシャは目を細めて微笑み、「いい顔だね。あの時より、ずっと」と呟く。紫紺の衣を揺らしながら一歩近づき、耳もとに囁く。
「全身の熱が治まらなくなった時は呼びな。いつでも肢体を貸してやるよ」
艶やかな吐息が首筋を撫で、残る余韻に男の肌が粟立った。彼女は微笑を残してテントに戻り、再び静けさが広間を包んだ。

未知への前夜
ベルは火照りを冷ますように息を吐き、拳を見下ろす。25階層への進攻――LV.4となって迎える初めての“冒険”は、すぐそこに迫っていた。静寂の底で、彼の胸中には恐怖と高揚が交錯し、明日への決意が確かな熱として燃え始めていたのである。

三章 新世界~ Water Island

水晶洞窟の下降と『巨蒼の滝』の出現
一行は24階層最奥の大広間から水晶で覆われた斜路を下り、出口の蒼光に導かれて外へ出た。視界に現れたのは、25階層の中心を貫いて27階層へ落ち続ける大瀑布『巨蒼の滝』であり、霧と飛沫の中を半人半鳥や歌人鳥が舞い、巨大空洞一帯が水の楽園と化していた。畏怖と感動が並立する光景に、ベルらは言葉を失いながらも次の探索へ気持ちを切り替えたのである。

階層構造と進路の確認
アイシャは『巨蒼の滝』が階層を貫通している事実と、滝壺からの飛び降りが致命的であることを示し、崖沿いの一本道を西へ進んで迷宮へ入る正規ルートを指示した。現在地は連絡路の最南端であり、空洞外周を時計回りに進んで滝裏を抜け、南東の地下連絡路へ向かうという道筋が共有された。

迷宮内への移行と探索方針
洞穴で小休止を取り、リリは強制任務の達成要件として水辺由来のドロップや資源の取得条件を読み上げた。遠征残り六日間は24階層の野営地を拠点に25階層を往復する方針が確定し、環境変化に段階的に順応することが重視された。水際の危険を避ける原則が再確認され、パーティは規律を整えて進行したのである。

水精霊の護布と人型モンスターへの備え
一行は『水精霊の護布』を新調して装備し、水抵抗・水圧軽減による水中活動の補助を確保した。アイシャは歌人鳥、半人半鳥、人魚、半人半蛇といった人型系が多い特性を挙げ、躊躇は死に直結すると釘を刺した。ベル、ヴェルフ、リリ、命、春姫らは『異端児』への迷いを持ち込まぬよう自制を誓い、緊張を実戦向きの集中へ変換した。

下層初戦と水際の危険
金属系『ブルークラブ』との初戦は、連携と手順の徹底によりつつがなく終結した。防御力の高い鋼殻も継ぎ目を的確に断てば崩せることが確認され、必要ドロップの一部を早々に確保した。以後の通路では水路が並走し、流速と深さのある水域が常在する危険地形であると判明した。落水は即死ではなくとも、地形不利により嬲り殺されるリスクが極めて高いと共有され、緊張感が一段と高まったのである。

突発襲撃の迎撃と連携
水際警戒の最中、『レイダーフィッシュ』が水面を破って春姫を狙ったが、アイシャの大朴刀と命の一刀で即応迎撃に成功した。命は春姫の護衛を自任し、要の後衛を守る意識をさらに強めた。小さな安堵と称賛が広がる一方、ベルと桜花は水中発生モンスターの捕捉困難さを改めて認識し、以降の行軍では視線と間合いの管理を一層厳格化した。

迷宮珊瑚採取の決断と斥候行動
対岸の岩場に薄紅色の『迷宮珊瑚』と『迷宮真珠』を認め、当初は危険を理由に否定的だったリリも価値情報に基づき採取へ方針転換した。斥候役は命、補助にベルが就き、水晶の飛び石を跳躍して渡河した。事前に弓で擬態の有無を確認し、命が切り取り、ベルが背嚢に収める手順で迅速に確保した。欲張らず撤収を優先する判断が合意され、退路確保も維持されたのである。

アクア・サーペントの奇襲と回避
撤収間際、水面が爆ぜて『アクア・サーペント』が出現した。命は落下寸前に岩場へ着地して跳躍し、体術で顎を蹴り上げて牙を折る離脱の間隙を作った。続けてベルが《神様のナイフ》で胴を両断し、アイシャの縄の援護で二人とも岸へ復帰した。急流と波で体勢を崩しながらも最小損耗で危機を脱し、対大型水棲への初動対応が有効であることが証明されたのである。

戦利品の評価と高揚、そして自戒
広間で戦利品を確認すると、迷宮珊瑚と迷宮真珠は総額三百万から三百五十万ヴァリスに達する見込みとなり、遠征の収益性が一気に現実味を帯びた。歓声と称賛が広がる中、ベルは童心に似た探索の高揚を思い出しつつも、開幕からの大蛇襲撃を教訓として慢心を断ち、リーダーとして切り替えを徹底する決意を固めた。水という地形特性が要求する機転と準備の重さを、ベルは支援者の顔を思い浮かべながら反芻していたのである。

エイナの不安とギルドでの逡巡
ベルの遠征二日目、ギルド本部でエイナは『下層』関連の失踪依頼を精査し、過剰とも取れる心配を募らせていた。同僚ミィシャは「失踪届けは常態」と諭しつつ、エイナの私情を見抜いて自制を促した。エイナは羞恥に沈みつつも、ベルの無事を祈り「帰還後に夕食を奢らせる」と心中で決めたのである。

25階層の進行と地形イベント
一行は大空洞を巻く多層迷宮を時計回りに攻略し、間欠泉の遮断、怪物の宴の回避、水晶橋ルートの選別、巨大蛸の妨害などを捌きつつ、地図の半分にも満たぬ消化度で探索を継続した。水流が並走する薄暗い通路で三度目の休憩後、慎重に前進したのである。

ルヴィスの出現と異常兆候
前方に単独行のエルフ冒険者を視認。装備に見覚えがあり相手をルヴィスと特定したが、右腕欠損と大量出血という重体であった。直後、背後の闇から“苔に覆われた人型巨体”が現れ、右手にルヴィスの切断腕、左手に水晶鎚矛を携えて接敵した。

未知の“強化種”との交戦
ベルの肉薄に対し、巨体は鎚矛の薙ぎ払いで通路ごと震わせる威力と速度を示し、ベルのLV.4の速攻にも即応回避を繰り返した。視線と挙動から高い戦意と観察能力が認められ、ベルは本個体を『強化種』と断じた。ベルの蹴撃で間合いを退かせたのち、隊が合流して包囲に移ろうとした瞬間、敵体表に多数の隆起が生じた。

“種子弾”の一斉掃射と被害
敵は全身から尖弾状の『種子』を多方向へ斉射。壁面で跳弾し乱軌道で襲来したため完全防御は困難であった。ベルはルヴィスを抱えて遮蔽へ退避し、前衛は大盾と大朴刀で後衛を庇護、春姫とリリは《ゴライアスのローブ》で伏せ防御を完了したが、千草が一発被弾して転倒した。敵は直後に側壁の横穴へ自発的撤退を実行し、戦術的判断力の高さを裏付けた。

感染の兆候と緊急事態
千草の被弾部位から蔦が伸長し、首・腕・胸部へ侵入する寄生症状が発現した。同様の蔦がルヴィスの半身にも確認され、『種子弾』が感染起点である可能性が極めて高いと判明した。敵の武装は物理打撃と寄生兵装の複合であり、治療・解呪・切除の可否を迅速に検討すべき局面であった。

四章 水辺の狩人

寄生の発覚と回復阻害
千草の被弾部位から蔦が伸長し、体力を吸い上げる症状が進行した。ルヴィスにも同様の蔦が絡み、原因は“苔の巨人”がばら撒いた『種子弾』であると判明した。カサンドラは「回復薬・回復魔法は逆効果」と断じ、傷は塞がっても体力が即時に吸われ続ける性質を指摘した。

ベルの号令と選択肢の提示
狼狽が広がる中、ベルはカサンドラの手を取り落ち着かせ、「地上へ戻って高位治療を仰ぐ」「源を断つ=本体討伐」の二案を明示させた。ベルは自らの未熟を認めつつ「仲間で助ける」と言い切り、リリ、ヴェルフ、桜花、命らは即座に建設的議論へ切り替えた。アイシャはその胆力を評価し、隊の意志統一が進んだ。

強化種の同定と危険度評価
交戦所感と挙動から敵は『モス・ヒュージ』由来の『強化種』と推定された。通常は中層の待ち伏せ型だが、魔石の継続摂取で筋力・反応・戦術判断が飛躍し、25階層に進出。体表からの“多重跳弾”『種子弾』と撤退判断を備える戦闘知性が確認された。広域での索敵困難・時間経過の強化リスクから、長期化は不利と結論づけられた。

“魔石狩り”という新たな脅威
意識を回復したルヴィスは、敵が冒険者の鞄を最優先で奪い『魔石』を喰らって急速強化している実態を証言した。由来は同族喰いで魔石の快楽に溺れた過程で、効率を学習し“冒険者=魔石の集積体”へと標的を転換したためである。これは従来の強化種像を越える異質な脅威であり、将来的に『血濡れのトロール』級(LV.5相当被害)の惨事を招きうると警鐘が鳴らされた。

撤退/討伐の天秤と決断
リリは「広大な25階層での本体探索は困難・危険、帰還が合理的」と主張。一方、命・ヴェルフ・桜花は「千草とルヴィスの余命・地上治療の不確実性・“魔石”を持つ自分たちが必ず追われる」点から討伐寄りの現実論を提示。ダフネは『モス・ヒュージ』系統の性質から“本体撃破で灰化=寄生解除”の可能性を補強した。総合判断として、ベルは「あのモンスターを倒す」と宣言し、派閥同盟は遠征目標を“強化種討伐”へと更新した。

“狩人”の誕生と学習
苔の巨人は冒険者(ニンゲン)を観察し、後衛の“歌”(詠唱)が脅威だと学ぶ。まず後衛を潰し、隊の数を削いで徒党を組ませない戦法を確立。『魔石』を奪うために『種子』などの武器を生み、撤退時は『種子』で弱体化・位置追跡も両立させる。圧倒的な強者(金髪金眼の少女の一団など)は回避し、いずれ『異端児』やセイレーンを狩るため更なる力を求める“狩人”として自負を深める。

餌と身代わりの“罠”
ルヴィスの案内で一行は血痕を追い『ルーム』へ到達。水晶柱の根本に倒れたエルフ二人(足を粉砕・『宿り木』寄生)。苔の巨人は台座で待機し、周囲の水路から雑魚モンスターが集結する“餌場”が完成していた。
近づくと台座の“苔の巨人”は、苔の外殻を被せられたエルフであることが判明(本体は別)。命の【八咫黒鳥】は外殻に反応していたため見破れなかった。

後衛急襲とベルの強行介入
本体は南側の水路から背後のリリ達へ接近。メイスが振り下ろされる刹那、ベルが小鐘の加速を発動して間合いを潰し、鈍器を《神様のナイフ》で両断。苔の巨人は“詠唱潰し”を狙うが、ベルの“速攻魔法”【ファイアボルト】が即時発動して直撃。以後、黒白の連撃で追い詰める。

知恵ある強化種の逆手
撤退を読んだ苔の巨人は、脚の死角から木根の鞭を射出してベルの脚を拘束。自ら水へ身投げしてベルごと急流へ引きずり込む。水中での苔の巨人は木根で推進・転回し優位に立ち、ベルは『水精霊の護布』の補助があっても後手に回る。

水中乱戦とさらなる脅威
乱戦に『アクア・サーペント』が参戦し、ベルの肩へ食いつく。苔の巨人は大蛇を嫌って拘束を解き、別流路へ離脱。ベルは必死に大蛇を振りほどくが、流れはすでに階層中心部へ――。

『巨蒼の滝』へ
水流の轟音の正体は滝口。抗いきれずベルは水蛇を振り解いた直後、巨大な落下流へ巻き込まれ、『巨蒼の滝』へと吸い込まれて落下していく。

五章 水都の花嫁

水流に呑まれたベルとリリの動揺
群晶が散在する広間でベルが水中へ消え、リリは飛び込もうとしたがダフネに制止された。リリは取り乱していたが、滝壺近くの危険とレイダー・フィッシュの牙に直面し、軽率な救出が自殺行為である現実を突きつけられたのである。

アイシャの判断と説得
アイシャは八咫白鳥の探知結果からベルの反応が広間外へ消えたと告げ、追走は不可能と断じた。さらにベルはLV.4中堅以上の敏捷を有して自力で生還し得ると評価し、まずは隊の安全を最優先にせよとリリを諭した。これによりリリは参謀としての冷静さを取り戻した。

撤退案と臨時拠点の構築
リリは負傷者の多さと機動低下を勘案し、24階層連絡路前の崖で水流もなく防衛に適した地形を即席の陣地に転用する案を提示した。アイシャが単独でリヴィラの街へ救援要請に向かい、隊は春姫の階位昇華を用いた防衛で持久する方針とした。強化種が現れた場合は命の重圧魔法で崖道ごと崩落させて撃滅する誘導戦術を採る計画であった。

覚悟の共有と前進
ヴェルフとダフネは地の利を活かす戦法に同意し、エイナの教えに基づく合流の定法からも崖前待機が妥当と判断した。春姫は自らの無力を嘆いたが、リリは必要なのは春姫の力だと励ましたうえで、私情を抑えて出立を決断したのである。

滝壺での生還と損耗の処置
ベルは巨蒼の滝の滝壺中央で生存し、浅瀬へ這い上がって高等回復薬を連続使用して致命傷を避けた。大空洞の地形と進路を確認し、支流へ消えた強化種が仲間を再襲撃する恐れを察知して北東の洞穴へ向かおうとした。

緋燕イグアスの奇襲
滝の裏から不可視の速度で襲うイグアスの突撃が肩と頬を裂き、ベルは手甲で一撃を受け止めつつも多数個体の斉射に追い込まれた。群晶の陰へ退避したが、突撃の連鎖で障害物は削砕され、離脱も重装防御も持たない状況で通常の対処法は成立しなかった。

迎撃への転換と連撃の極致
退路と防御が断たれたベルは、剣姫アイズの戦いを想起し、白幻一振りに集中する正面迎撃を選択した。風切りと殺気を感じ取る極限の集中により、突進軌道を読み切って斬閃を重ね、第一波三十余の交錯を凌ぎつつ、全方位の再襲にも円弧の連撃で応じて群れを切り崩したのである。

殲滅と自覚した成長
最後の一匹の魔石を断ちイグアスの大量発生を制圧したベルは、体力の消耗と時間の損失を認めながらも、危険を引き受けるべき瞬間に備える心構えと技量が養われたと自覚した。第一級冒険者に至るための最善の模索と準備の必要を胸に刻んだのである。

不意の拍手と人魚の出現
静まりゆく滝壺で場違いな拍手が響き、振り向いたベルは緑玉蒼色の下半身と藍の上半身を持つマーメイドを目撃した。怪物離れした美貌の彼女は、演武を見届けたかのように無邪気に手を叩いており、ベルは新たな邂逅を認識したのである。

戦闘の発端とアイシャの並行詠唱
蒼水晶の迷路でモンスターが殺到する中、アイシャが攻防回避と詠唱を同時展開し、『並行詠唱』で「【ヘル・カイオス】」を解放した。鮫背びれ状の巨大斬撃波はブルークラブ、デヴィル・モスキー、クア・サーベントをまとめて粉砕し、水流そのものをも両断して進路を切り開いたのである。

進路確保と隊列の再始動
アイシャは「道が空いているうちに行く」と本隊を促し、ヴェルフとリリの『クロッゾの魔剣』による遠距離援護が死角を抑えた。重傷者を抱える桜花、命、ダフネ、春姫、さらに千草を担ぐカサンドラが戦列を離れており、数的不利は続いていたが、火力支援との噛み合いで前進は維持できていた。

ドルムル一行との遭遇
角の曲がりで【マグニ・ファミリア】のドワーフ四名と鉢合わせた。彼らは全員が『宿り木』に侵され鎧も損耗していたが、なお撤退行路を確保しようとしていた。ルヴィスの安否に歓喜するドルムルは、気力の尽きたエルフの憔悴に一瞬たじろいだが、状況共有に移行した。

安全階層での虐殺という新事実
ドルムルは「下層の安全階層」で発見した干からびた遺体に蔦と花が咲いていた事実を伝えた。『強化種』が“モンスターが湧かない”安全階層で待ち伏せし、冒険者の弛緩を学習して奇襲していると判明したのである。アイシャは「要らない知恵を得た化物」として脅威度を再評価した。

弱点推定と装備再編
ドルムルの「殴打・斬撃・雷の魔剣が通らなかった」という報告から、リリとヴェルフはベルの速攻魔法の実績に基づき「炎」有効を再確認し、ヴェルフは赤の長剣型『魔剣』に換装した。即応火力の質と射程の組み合わせでアイシャの前衛負担を減らす方針である。

拠点方針の共有と合流決定
リリは連絡路前の崖で防衛拠点を構築する計画を簡潔に提示し、緊急時の助け合いの原則に従いドワーフ側の同行を受け入れた。一本道の地形を活かし、強化種来襲時は命の『重圧魔法』で崖道ごと落として撃滅する誘導戦術を主戦略とした。

ドワーフの献身と戦列の軽量化
「戦闘はもう難しいがサポーターはできる」として、ドルムル達はルヴィスら負傷者を自ら担い、桜花らを前線へ復帰させた。重戦士種族の携行力により機動の重石が外れ、隊の回転が改善された。リリも彼らの人柄と実直さを評価し、士気はわずかに持ち直した。

残る不安とベルの不在
前進の号令に従い隊は出発したが、春姫が問われたベルの所在に言葉を詰まらせ、直後にリリがバックパックの帯を強く握り締めた。計画は動き出したものの、強化種の学習能力と安全階層奇襲という新事実が重くのしかかり、合流までの猶予が限られる現実が明確となったのである。

滝壺の拍手と人魚の登場
滝音に紛れて続く拍手の主は、人魚であった。翡翠色の瞳と迷宮真珠の飾りを持つ『彼女』は、ベルの戦いを見届けるかのように現れたが、有翼のモンスター接近に驚き一度は水中へ退いたのである。

有翼モンスターの迎撃
ベルは消耗を抱えたまま『ハーピィ』『セイレーン』と交戦した。近接は《神様のナイフ》と《白幻》で対処し、遠距離の『怪音波』を警戒しつつ【ファイアボルト】を連射して歌人鳥を撃墜した。LV.4相応の持久と反応で短期に制圧したのである。

マーメイドの『魅了』が効かない異常
別個体の『マーメイド』二匹が破滅的な歌で『魅了』を試みたが、ベルには異常が出なかった。装具による耐性は皆無であり、過去のイシュタルとの因縁で心理耐性が育った可能性を自覚しつつ、【ファイアボルト】で排除した。

異端児の確認と名乗り
最初に現れた人魚が再び姿を見せ、言葉を交わした結果、『異端児』であることが判明した。名は「マリィ」。リドやグロス、レイを知ると語り、ベルも名乗りを返して信頼を繋いだ。

『生き血』による完全回復
マリィは自ら指先を噛み、流した血をベルに「食べて」と差し出した。羞恥に塗れつつも受け入れたベルは、体力・負傷・毒が一挙に癒える完全回復を得た。『マーメイドの生き血』という稀少な回復資源の効力である。

退避と歌による誘導
大空洞は再出現する有翼モンスターや冒険者の視線を招く危険地帯であるため、マリィの提案で北東の洞穴側へ移動した。マリィは水路から、ベルは陸路から向かい、玲瓏たる歌声で進路を誘導し、小規模広間の泉で再会した。

泉での再会と装いの変化
再会したマリィは貝殻の下着を身に着け、髪で顔を隠すなど人間の装いを真似る仕草を見せた。無邪気で幼い言動、旺盛な好奇心は、従来の異端児というより『精霊』を想起させる独特の雰囲気であった。

階層事情と同胞の所在
マリィの話では、リド達は上へ移動中で援助は望めない。一方、マリィ自身は飛べも歩けもせず、水都に留守番として残っていると述べた。ベルは人間の所在へ案内を求めたが、ここで重大な警告が示される。

強化種の脅威と制止
マリィは水都に「怖いモノ」がいると断言し、苔色の巨体・黄色い眼の特徴を示す強化種が「ベルの同胞を食べていた」と証言した。彼女は強く同行を拒み、『水精霊の護布』の裾を掴んで引き止める。ベルは仲間の救援を急ぎたい意志と、無辜の異端児を怯えさせる現実の間で、苦渋の逡巡に直面したのである。

強化種の逆襲と擬態の準備
苔に覆われた強化種は、ベルの炎撃で受けた損傷に苛立ちながらも滝落下でベルは死亡したと高を括った。巣穴に戻った強化種は非常食として蓄えた人間の死骸を処理し、奪った防具を苔で取り込み擬態強化を行った。さらに『種子』から得た群れの位置情報を頼りに、次の襲撃へ「確実な手段」を選択したのである。

怪物進呈(バス・パレード)の発動
強化種は母なる迷宮から武器を受けずとも、周囲のモンスターを『宿り木』で追い立て、正規ルートへ流し込む「怪物進呈」を仕掛けた。先んじて異変を聴き取ったアイシャは震動と咆哮の層の違和を察知。命の探知が前後左右からの同時接近を告げ、ヴェルフの抜剣より早く四方包囲が成立した。押し寄せる群れの背後には、怪物の血に濡れた濃緑の巨体――強化種が歩む影があり、アイシャは「化物が怪物を進呈している」と看破したのである。

隊の危機とベルの決意
一方、泉の広間ではダンジョン全体の震動を感じ取ったベルが、マリィの肩をそっと外し、「あいつを倒す」と誓った。怯えるマリィに対し、ベルは「守る・助ける」と明言し、ウィーネへ誓ったときと同じ覚悟を示した。これにマリィが応じ、案内を約した。

人魚の異能――対モンスター『魅了の唄』
マリィはセイレーンの怪音波とも通常のマーメイドの破滅歌とも異なる不協和の大音量の『唄』を放ち、迷宮内のモンスターを魅了・誘導した。彼女は「自分より大人しい子が教えてくれる」と語り、周囲の低格モンスターから位置情報を引き出す類の能力で進路を特定したのである。

合流へ――水陸二道の追走
泉から続く水路をマリィが、水晶の通路をベルが並走し、二人は四面楚歌に陥る仲間のもとへ急行した。強化種が仕掛けた怪物進呈に対し、ベルはマリィの誘導という新たな突破口を得て、反撃と合流の機会を掴んだのである。

六章英雄聖火

怪物進呈の発生と隊の混乱
苔の巨人による「怪物進呈」が発動し、四方から『宿り木』に寄生されたモンスターの大群が冒険者一行に殺到した。リリとヴェルフは、モンスターが自ら群れを駆り立てるという異常事態に戦慄する。アイシャは瞬時に状況を見抜き、「この地帯ごと破裂させるつもりだ」と断じて撤退を指示した。多数の方角から押し寄せる群れに対し、魔剣の火力では対応が追いつかないと判断したためである。

退避戦とヴェルフ・桜花の奮闘
パーティは正規ルートを離れ、枝分かれする通路へ逃走した。春姫の階位昇華を使う余裕もなく、ドワーフ達は負傷者を背負いながら必死に走る。ルヴィスの皮肉に怒るドルムルは憤激で速度を上げ、他のエルフとドワーフ達も同じように言い合いながら力を振り絞った。迎撃を担うヴェルフと桜花は雷撃の魔剣で進路を開き、撃破よりも突破を優先する。魔剣が砕け散ると、ヴェルフは大刀を抜き、桜花と並んで肉弾戦に移行した。

強化種の動向とアイシャの覚悟
殿に立つアイシャは、モンスター達が威嚇ではなく悲鳴を上げていることを見抜く。強化種が背後から追い立て、群れを冒険者へ向けているのだ。横穴を渡り歩くその巨人の姿を確認したアイシャは、怒りを露わにして「化物が怪物を進呈するなんて」と吐き捨て、次なる迎撃に備えた。

ベルとマリィの合流行動
一方、ベルはマリィの導きによって仲間の位置を把握し、25階層の迷宮部を疾走していた。マリィは歌声を使って冒険者達と強化種の位置を感知し、何度も方向転換を促す。水棲モンスター『アクア・サーペント』が襲来すると、マリィは水中で舞うように回避し、圧倒的な速度で敵を振り切った。彼女の泳ぎはまさに水中の精霊そのものであり、ベルはその姿に目を見張る。

陸路への転換と人魚の同行
やがて水路が行き止まりとなり、マリィは先へ進めなくなった。逡巡の末、ベルは水に飛び込み彼女を抱き上げ、陸路を走るという強引な手段を選んだ。突然の抱擁にマリィは驚きつつも、陸上の光景に歓喜しながら胸を弾ませる。貝の下着越しに押し寄せる人魚の体温に悲鳴を上げつつ、ベルは羞恥と危機感を押し殺して疾走を続けた。

未知なる絆と決意の深化
陸を駆けるベルの胸に顔を預けたマリィは、未知の冒険に目を輝かせ、「ベル、すごい! 大好き!」と無邪気に叫んだ。その姿にベルは苦笑しつつも、仲間と異端児を守る決意を胸に再び加速した。混沌の水都を駆け抜け、彼の走りは仲間の危機へと向けられていたのである。

前衛の苦闘と突破口
ヴェルフは大刀で『ブルークラブ』を斬り伏せ続けたが手数が嵩み消耗が濃く、桜花は《皇剛》の圧で正面を切り開いた。命は索敵と投擲支援を回しつつ、新刀《春霞》の居合「絶華」を放って『クリスタロス・アーチン』を一刀両断し、前進の隙を作った。カサンドラの【ソールライト】で全体が持ち直し、リリの誘導で一行は水流のない大通路へ集結、ヴェルフの紅の『魔剣』で行列第二波まで焼き払ったのである。

怪物の宴の予兆と決断
大通路の壁面に亀裂が広域に走り、『怪物の宴』の発生が不可避となった。アイシャはドワーフとエルフの面々に沈黙を約させ、リリに合図のうえ春姫の起動を選択した。隊は春姫を中心に円陣を敷き、殿のアイシャと前衛陣で時間を稼いだ。

春姫『ココノエ』と全体階位昇華
春姫は新たな『妖術』【ココノエ】を展開し、金光の尾に【ウチデノコヅチ】を装填して分配した。吸い込まれた光尾は命・桜花・ヴェルフ・ダフネ・アイシャへ降り、五名に同時の『階位昇華』を付与した。術者は五尾が限界で膝をつくも、付与を受けた戦力は物量の圧を受け止め、包囲を押し返して拮抗へ持ち込んだのである。

反攻と強化種の真意
劣勢を退けつつあった矢先、アイシャは雑兵の隙間に『強化種』を視認した。怪物は戦場に散った紫紺の『魔石』を両手に集め、嘲笑とともに嚥下して巨躯と外殻を増強した。強襲でアイシャに嚙み付き、『宿り木』を植え付ける。ヴェルフの紅の『魔剣』は『水精霊の護布』に相殺され、剣身は限界で砕けた。さらに行列の最後尾が合流し、圧力は再び増した。

劣勢とリリの選択
包囲は狭まり、春姫は消耗し、前線の傷は回復が追いつかなくなった。ドワーフとエルフは盾となる覚悟を口にし、撤退分断の最悪手が脳裏を掠めたが、リリは過去にベルから救われた記憶を胸に「見捨てない」と断じた。参謀としての最適解を振り捨て、仲間全員を連れて生き延びる選択へ舵を切ったのである。

救援の到来と一撃
春姫は獣耳を震わせて接近者を感知し、「あの人」が来ると告げた。リリは雷の『魔剣』で足もとに窪地を穿ち、ゴライアスの防衣で上を覆って全員を収容、同時にアイシャへ退避を叫んだ。直後、遠方から駆けたベルが四分間の最大蓄力を完了し、右手の砲声【ファイアボルト】を放った。炎雷の奔流は大通路のモンスターを洗い流し、『強化種』さえ炎の濁流ごと壁外の大広間へ吹き飛ばしたのである。

ベルの帰還と再会
《ゴライアスのローブ》の下から姿を現したリリは、炎に包まれた通路の奥から歩み出るベルの姿を目にし、震える声でその名を呼んだ。炎の陽炎を背に歩む少年は静かでありながらも雄々しく、戦意の炎を消さぬまま前方を見据えていた。リリは感情の奔流を押さえ、回復薬を手渡し、仲間たちはその背中に信頼を託した。

怪物の憤怒と戦場の舞台
焼け爛れた苔の巨人――『強化種』は怒りに満ち、焼け落ちた肉体を苔で補いながら再び立ち上がった。ベルは大広間へ降下し、中央の水晶島で怪物と対峙した。天井の白水晶が放つ光の下、静寂と殺気が交錯する水晶の湖上が、二者の決闘の場と化した。

心身一致の覚醒
ベルは仲間を傷つけられた怒りを胸に戦意を燃やすも、感情ではなく冒険者として敵を討つ覚悟を選んだ。互いの初撃で力の差を悟りながらも、動きの冴えで対抗する。仲間の視線の先、命はベルの変化を看破し、心と肉体の不一致が解消されたと気付いた。これまでの彼は成長に体が追いつかず動きに歪みがあったが、今は完全に一致していた。

加速する斬撃と怪物の再生
ベルの連撃は苔の外殻を削ぎ落とし、『強化種』を圧倒した。だが怪物は大量の『魔石』の力で異常な速度で再生し、炎をも遮断する『水精霊の護布』をまとっていた。長期戦は不利。ベルは一撃必殺を選び、右手の《ヘスティア・ナイフ》に炎雷を収束させた。

炎と光の二重集束
ベルは【ファイアボルト】を刀身へ撃ち込み、『英雄願望』の特性を用いて魔力を内側へ集束させた。炎と白光が融合し、刀身が剣のように伸びて燃え上がる。仲間たちはその異様な光景を見守り、アイシャは「付与ではない」と息を呑んだ。それは斬撃と魔法の同時蓄力――ベルが編み出した『二重集束(デュアル・チャージ)』であった。

紅蓮の聖火
鐘の音が鳴り響く中、ベルは燃えるナイフを掲げた。燃え続ける炎はまるで神の火を宿した聖火のようであり、彼は静かに呟いた。「――神様、もらいます」。少年の右手に宿るその炎は、迷宮の底を照らす希望の光であった。

恐怖と逃走の本能
全身を焼かれた『強化種』は、炎雷を収束する白髪の少年の姿を前に震えていた。彼はこれまで数多の魔法に打たれ、焼かれ、凍てつかされても恐れを知らなかったが、今目にする炎光の輝きだけは異質であった。すべてを滅ぼす無慈悲な光――それを前にして宿していた憎悪さえも霧散し、ただ恐怖に呑まれていた。水中なら逃げられると信じて背を向けたその瞬間、上空より純白の吹雪が水流を凍結させた。視線を上げた先、水晶の柱の上で蒼い剣を構える赤髪の青年――アイズを見た怪物は、激昂しながらも逃げ場を失った。

聖火を掲げる白兎
背後から迫る足音に振り向くと、炎と光を纏ったベルが歩み寄っていた。鐘の音が鳴り響く中、白髪が風にたなびく。恐怖に支配された怪物は雄叫びを上げて拳を振り上げたが、少年はその攻撃を凌ぎ、一閃を放った。刃に刻まれた神の文字が光を放ち、炎の咆哮が広間を満たす。ベルの技――【アルゴ・ウェスタ 聖火の英斬】が炸裂し、紅と白の閃光が世界を塗りつぶした。苔の巨人は崩れ落ち、最後の思考で「白い兎には二度と近づくまい」と願い、爆散した。

勝利の光と仲間の歓声
爆炎が収まり、上半身を失った『強化種』の脚だけが立っていたが、それも灰と化した。炎と煙の中、ベルは静かに残心を解き、神の刃を見下ろした。焦げ跡一つない《ヘスティア・ナイフ》は、白い煙を立ち上らせながら光の余韻を放っていた。勝利の瞬間、リリと春姫の歓声はエルフとドワーフの咆哮に掻き消された。ヴェルフ、命、アイシャまでもが叫びを上げ、戦場に歓喜が広がった。

解放と安堵の抱擁
同時に冒険者達の体を縛っていた『宿り木』が消滅し、蔦は灰と化して崩れ落ちた。千草を抱きしめた桜花は涙を流し、ルヴィスやドルムルらも喜びに打ち震えた。ベルは穴から飛び降りて駆け寄る仲間たちを迎え、安堵の笑みを浮かべた。

別れの人魚
その背後、水面から小さく水音が響く。振り返るベルの視線の先には、水中から顔を出したマリィがいた。彼女は微笑みながら「ありがとう、ベル。――大好き」と告げる。唇に指を当ててキスを投げると、水の尾を揺らしながら深い水の世界へと帰っていった。泡の音が消え、広間には静かな余韻と、再び燃え始める聖火のような熱だけが残されたのである。

エピローグ 疾風の報せ

帰還と休息
『強化種』を討伐したベル達は、ルヴィスやドルムルらと共に下層から脱出した。物資も体力も限界に近く、寄り道を避けて最短経路で『大樹の迷宮』を越え、安全階層の『リヴィラの街』へと帰還した。街の住人の協力で宿を借り、重傷者の治療が始まった。

喪失と受容
ルヴィスは右腕を失い、仲間のエルフも片足を欠いていた。ベルが謝罪の言葉を口にすると、ルヴィスは「命が残っただけで幸運だ」と静かに答えた。彼はそれを自身の失態と受け止め、「これが冒険者であり、これがダンジョンだ」と告げた。その言葉にベルは、冒険者として生きる者の現実を痛感したのである。

感謝と誓い
ルヴィスは片腕に包帯を巻きながらも笑みを浮かべ、「いつか必ず恩に報いる」と誓い、胸に手を当てて深く頭を下げた。ドルムルもエルフとドワーフの垣根を越えて握手を求め、仲間たちは笑ってそれに応えた。互いの立場や種族を超えた絆が、この遠征で確かに芽生えていた。

再び戻る日常
アイシャは「せっかくだから酒を飲もう」と提案し、リリが「地上に戻るまでダメです!」と即座に反対した。ヴェルフやダフネ達は苦笑しながらそのやり取りを眺め、戦場の緊張は次第に日常の温もりへと変わっていった。春姫や命の笑顔も戻り、遠征の終わりに小さな安堵が訪れたのである。

リヴィラの街と新たな報せ
ベルは礼を伝えるため宿を出て、宿場の頭・ボールスと再会した。陽光を思わせる水晶の光に包まれた通りで、ふたりは笑いながら戦いの土産話を交わす。だがその時、獣人の冒険者が駆け込んできた。「街の外で同業者が殺された」との報せだった。
モンスターではなく、人間の手による殺害。しかも目撃者は犯人の名をはっきりと告げた――それは、賞金首として知られる【疾風】。
ベルとボールスは息を呑み、遠征の安堵を打ち消すかのように、静かな戦慄が街を包み込んだのである。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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