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尾道理子皇帝の薬膳妃

小説「皇帝の薬膳妃 后行列の旅と謎の一族」感想・ネタバレ

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皇帝の薬膳妃8の表紙画像(レビュー記事導入用) 尾道理子

薬膳妃 7巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 9巻レビュー

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物語の概要

■ 作品概要

『皇帝の薬膳妃 后行列の旅と謎の一族』は、后と男装の医官という二重生活を送る主人公・董胡が、自らの出生の真実と危機に立ち向かう王宮アジアンファンタジーの第8弾である。 前作で自らが本物の「鼓濤」であることを知った董胡は、自身の生い立ちの鍵を握る盲目の医官「白龍」を捜すため、朱雀の后・朱璃とともに、お忍びの「子宝祈願」を口実とした絢爛豪華な后行列を仕立てて白虎へと旅立つ。 到着した百滝の大社で、二人は隣国・其那国(きなこく)から逃れてきた謎の姉妹ルカとナティアに出会い、其那国が人心を操る不気味な銀髪の集団「マゴイの一族」に掌握されつつあるという恐るべき内乱の事実を知る。 さらに、大社にマゴイの一族の魔の手が迫る中、董胡が皇帝・黎司の后であるという最大の秘密が、最も身近な存在である兄弟子の楊庵に知られてしまう。

■ 主要キャラクター

  • 董胡(とうこ) / 鼓濤(ことう): 本作の主人公であり、玄武の一の后と男装の医官という一人二役の生活を送る少女。自身の出生の謎を解くため白虎へ旅立つが、大社に渦巻く其那国の陰謀や、マゴイの一族の異常な「十五カ月児」の難産に立ち向かうこととなる。
  • 黎司(れいじ): 伍尭國の若き皇帝。董胡の正体に気づきつつも、彼女の立場と才能を永続的に守るため、女性医師を育成する麒麟寮の設立を急ぐ。百滝の大社における不穏な情勢を察知し、后たちを守るために黄軍と黒軍を白虎へ急派する。
  • 朱璃(しゅり): 朱雀の一の后。董胡の良き理解者であり、白虎への后行列(子宝祈願)を全面的にプロデュースして同行する。男装の薬膳師「光(ひかる)」を名乗り、持ち前の類稀なる美貌と世渡りの才を駆使して董胡の調査を助ける。
  • 楊庵(ようあん): 董胡の兄弟子であり、今回の旅の密偵。董胡を危険から遠ざけ、いつか王宮の外で平穏な第二の人生を共に送りたいと願っていたが、旅先の大社で「后・鼓濤」の髪を梳かす董胡の姿を偶然目撃し、残酷な真実に打ちのめされる。
  • 尊武(そんぶ): 玄武公の嫡男で宮内局長。董胡の全ての秘密を握る人物。其那国に滞在経験があり、マゴイの一族の危険性を黎司へ報告したうえで、自ら黒軍を率いてお后様救出のために白虎へと向かう。
  • ルカ: 金茶色の髪と紺碧の瞳を持つ其那国の13歳の少女。大社で不法移民として選別され、妓楼に売られそうになっていたところを董胡たちに救われ、后の部屋に匿われる。実は其那国の王女である。
  • ナティア: ルカの姉で、其那国の王女。半年前に国を逃れて隠れ庵で働いていたが、其那国でマゴイの一族に心の闇に入り込まれたことで、マゴイの子(十五カ月児)を身ごもっていることが発覚する。
  • 宝庵(ほうあん): 百滝の大社の大宮司や王宮医官を歴任した白虎の神官。私財を投じて行き場のない女性を保護する「隠れ庵」を建て、其那国の政変とマゴイの一族の脅威を董胡たちに伝える。
  • 犀爬(さいは): 典医寮付きの優秀な産巫女。隠れ庵に滞在してニーナの異常な「十五カ月児」の難産に立ち会うが、血を恐れて何もできない董胡に対し、医師としての厳しい現実と自らの限界を突きつける。
  • ユラ・マゴイ: 其那国から白虎の港町へ潜入した、冷酷非道なマゴイの一族の男。大社の祭主・泰全の心を操って少女達を人身売買させており、さらに「麒麟の血」を引く高貴な姫君を狙って牙を剥く。

■ 物語の特徴

  • 絢爛豪華な「后行列」と、忍び寄る「マゴイの一族」の陰謀 物語の前半では、朱雀の芸団を伴った華やかな「后行列の旅」が描かれるが、目的地に到着した後は一転して、其那国の凄惨な政変や、人の恐怖や悲しみといった心の闇に入り込んで操る「マゴイの一族」との緊迫した心理戦が展開される。
  • 「十五カ月児」という異常なお産と、医師としての挫折 母体が死亡した状況でもなお、骨盤を押し広げて生まれようと胎動を続ける「妊娠十五カ月の胎児(マゴイの子)」という衝撃的な出産シーンが描かれる。大量の出血を恐れる弱点を持つ董胡が、凄惨な死を前になす術もなく、医師として深い無力感と挫折に打ちのめされる描写は極めて重厚である。
  • すれ違う想いと、暴かれる董胡の「后」としての正体 董胡を王宮の陰謀から救い出し、一緒に生きることを切望していた兄弟子の楊庵が、偶然にも董胡こそが黎司に嫁いだ「后・鼓濤」その人であるという真実を目撃する。董胡、黎司、楊庵の、それぞれが異なる真実を抱えたまま複雑に交錯するすれ違いの人間ドラマが、本作最大の切ない見どころとなっている。
  • 伝説の医師「白龍」への新たな手がかり 産巫女の犀爬の見習い時代の記憶から、かつて難産を「手をかざすだけ」で救ったという、宝庵の旧知である盲目の医師の存在が語られ、董胡の出生の真実を握る「白龍」への道筋が再び開き、次巻への大きな手がかりを残す構成となっている。

書籍情報

皇帝の薬膳妃 后行列の旅と謎の一族
著者:尾道 理子 氏
出版社:KADOKAWA角川文庫
発売日:2024年10月25日
ISBN:9784041154236

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あらすじ・内容

もう少しだけ、このままで――。大人気王宮ファンタジー第7弾!
薬膳師と妃の二重生活を送る董胡は、青龍の東に住む高原の民・ロー族に攫われるも、なんとか危機を乗り越え再び王宮での日常が戻ってきていた。
ある日、董胡は白虎の姫である雪白に、病を診てほしいと呼び出される。陰気な雰囲気が漂う白虎の后宮に気後れする董胡だったが、雪白から打ち明けられたのは、白虎の侍女頭の帰莎と皇帝の侍女頭である奏優が結託して雪白を呪っているという疑惑だった。さらには鼓濤に対する悪い噂が白虎から流れていることがわかり、帰莎と奏優への疑いが増すも、どこか釈然としない一連の騒動に董胡は否応なく巻き込まれていく。そんな中、雪白懐妊の知らせが!?
一方、黎司は董胡の秘密に迫ろうとしていた――。

もう少しだけ、このままでいたい。自分の信じる道を生きると決めた董胡と、彼女を見守る黎司が新たな一歩を踏み出す、アジアンファンタジー第7弾!

皇帝の薬膳妃 后行列の旅と謎の一族

感想

本巻では、董胡が自らの出生を知る白龍を捜すため、朱璃とともに白虎の地へ向かう。

これまで王宮や青龍で危険な事件へ巻き込まれてきた董胡だが、今回の旅は「子宝祈願」という華やかな名目で始まる。豪華な牛車や朱雀の芸団、沿道に集まる大勢の民など、旅の序盤には祭りのような明るさがあった。

しかし、その楽しい空気の裏側では、其那国から逃げてきた少女たちの人身売買や、国家そのものを乗っ取ろうとするマゴイの一族が動いている。

華やかな后行列から始まった物語が、次第に人間の心の闇と命の重さへ踏み込んでいく展開が印象的だった。

黎司にすべてを話すための旅

董胡は、自分が本物の鼓濤であることを知り、黎司へ正体を打ち明ける決意を固めていた。

黎司もまた、鼓濤に対して以前より深い信頼を示し、容姿や素性がどのようなものであっても、その信頼は変わらないと伝える。

御簾を上げ、顔を見せてほしい。

そう頼まれた董胡は、まさに真実を話す機会を与えられていた。

それでも、白龍から出生の秘密を聞くまでは話せないと考え、告白を先延ばしにしてしまう。

黎司の言葉には嘘がなく、董胡を裁くよりも支えたいという思いが表れている。それが分かっているからこそ、董胡が何も話せない場面はもどかしかった。

董胡は黎司を信用していないわけではない。

むしろ大切な相手だからこそ、中途半端な状態で打ち明けたくないのだろう。

しかし、秘密を完全に整理してから話そうとするほど、告白の機会は遠ざかっていく。

すべてを知ってからでなければ前へ進めないという董胡の慎重さが、かえって二人の距離を複雑にしているように感じた。

董胡の居場所を作ろうとする黎司

董胡が知らないところで、黎司は彼女の未来を守るために動いている。

女性であることを隠したまま医師を続ければ、いつか正体が露見する。年齢を重ねれば、華奢な体つきや細い首筋を少年だからと誤魔化すことも難しくなる。

そこで黎司は、女性が正式に医術を学べる新しい麒麟寮を作ろうとしていた。

董胡一人を秘密裏に助けるのではなく、制度そのものを変えようとするところに、皇帝としての成長を感じる。

董胡が女性であっても堂々と医師として働き、正式な専属薬膳師になれる場所を用意する。

黎司にとっては、白虎から帰ってきた董胡を驚かせる贈り物のようなものだったのだろう。

しかし董胡は、その計画を知らないまま旅へ出る。

黎司は董胡が消えてしまうことを恐れ、董胡は自分の正体を明かしたら黎司のそばにいられなくなると恐れている。

互いに相手の未来を考えているのに、肝心なことを伝えられていない。このすれ違いが切なかった。

華やかな后行列と王宮の外の世界

白虎へ向かう后行列は、これまでのシリーズにはない開放感に満ちていた。

朱雀の舞妓や軽業師、剣舞の一団が沿道の人々を楽しませ、行列はまるで大きな祭りのように進んでいく。

王宮の中では、黎司を軽視し、皇帝の座から引きずり下ろそうとする貴族も多い。

その一方で、王宮の外にいる民は、后たちの無事を願い、黎司を称える声を上げている。

董胡が初めて、民から見た黎司の姿を知る場面が印象に残った。

王宮にいると、敵や陰謀ばかりが目に入る。

しかし黎司の治世に期待し、純粋に慕っている人々も確かに存在する。

黎司が孤独に進めている改革は、決して誰にも届いていないわけではない。そのことを董胡が実感できたのは、この旅の大きな意味だったと思う。

また、旅の途中で語られた王琳の言葉にも強く共感した。

董胡は、妻や母になることを自分の最大の幸せとは思えず、自分の心は本当に女性なのだろうかと悩んでいた。

長く男性として暮らし、医術や薬膳を生き甲斐としてきた董胡にとって、皇帝の寵愛を待ち、皇子を産むために生きる后の暮らしは、自然なものではない。

しかし王琳は、夫に仕え、子を産むことだけを女性の幸せとする考えこそ、貴族社会から教え込まれたものだと語る。

夫を愛していても、仕事に生き甲斐を感じてよい。

子を産まなくても、女性として欠けているわけではない。

この言葉によって董胡が少しだけ自分を認められた場面には、温かさを感じた。

朱璃と董胡の自由な姿

今回も朱璃の行動力には圧倒された。

白龍を捜す旅を実現するために子宝祈願を利用し、朱雀の芸団と后行列を組み合わせ、さらには自ら薬膳師へ変装して大社の中を歩き回る。

董胡に舞を教え、負傷した舞妓の代わりとして舞台へ立たせる展開には思わず笑ってしまった。

医師として病人を助ける董胡は見慣れているが、巫女の衣装をまとい、紅拍子の舞台へ立つ姿は新鮮である。

董胡の舞は決して完璧ではない。

それでも、負傷した少女のために懸命に覚え、無心で鈴を鳴らす姿が観客の目を引く。

董胡の魅力は、美しく振る舞おうと計算することではなく、目の前の誰かのために全力を尽くすところにあるのだと改めて感じた。

一方、男装して剣舞へ加わる朱璃は、どのような姿でも華やかである。

皇帝の后という立場に閉じ込められず、舞台の上で生き生きと動く朱璃の姿は、董胡が目指す自由な女性の一つの形にも見えた。

其那国の少女と大社に隠された人身売買

百滝の大社へ到着した後、物語の雰囲気は大きく変わる。

董胡と朱璃は、其那国から流れてきた少女たちが大社で働かされていることを知る。

表向きは、行き倒れた女性を祭主の泰全が保護していることになっていた。

しかし実際には、言葉を話せる容姿のよい少女を選び、眠り薬を飲ませて妓楼へ売っていたのである。

助けた少女・ルカが粥を毒だと思い、食べることを恐れる場面には胸が痛んだ。

空腹で倒れるほど弱っていても、食べれば売られるかもしれない。

安全を信じられず、董胡が先に食べる姿を見て、ようやく粥へ口をつける。

董胡にとって食事は、人を元気にし、心をつなぐものである。

その食事が少女たちを捕らえる道具に使われていたことは、本作の中でも特に残酷な出来事だった。

それでも董胡と朱璃は、事情を知ると迷わずルカを助けようとする。

危険を増やすと分かっていても、見捨てるという選択をしない。

二人の無茶には心配させられるが、この迷いのなさに救われる部分もあった。

マゴイの一族が操る心の闇

ルカと姉のナティアは、其那国の王女であることを明かす。

彼女たちの国では、銀髪を持つマゴイの一族が王族や重臣の心を操り、国家を支配していた。

マゴイの力は、何もないところから人を操るものではない。

悲しみや恐怖、妬み、絶望といった、その人がすでに抱えている心の闇へ入り込む。

王妃を亡くした父王の悲しみ。

父と貴族の間で追い詰められた王子の苦悩。

そうした弱った心を利用し、本人の意思を奪っていく。

この能力が恐ろしいのは、誰にでも狙われる可能性があることだ。

人間である限り、絶望も悲しみも避けられない。

心の弱さを完全になくすことはできない。

マゴイはその弱さを責めるのではなく、静かに入り込み、本人の考えであるかのように支配する。

雪白の嘘が周囲の信じたい気持ちを利用して広がった前巻に続き、今回は心の隙間そのものが敵に利用されている。

人間の内面に踏み込んだ恐怖が、物語をさらに不気味なものにしていた。

董胡が何もできなかった十五カ月児の出産

本巻で最も衝撃を受けたのは、隠れ庵での出産である。

其那国から逃げてきたニーナは、妊娠十五カ月を迎えていた。

胎児は大きく育ち過ぎ、母体の骨盤を通ることができない。

さらに胎盤が剥がれ、大量の出血が始まる。

董胡は止血薬を作ろうとするが、すでに助かる見込みはほとんどない。

目の前でニーナの命が消えていく中、董胡は大量の血を見て動揺し、医師として何もできなかった。

これまで董胡は、食事や薬草、観察力によって多くの患者を救ってきた。

しかし薬膳では間に合わない状況もある。

傷口を開き、血へ触れ、即座に処置しなければ救えない命もある。

ニーナが亡くなった後も、胎児が母体の中で生まれようと動き続ける描写は凄惨だった。

母親の命が尽きても動く胎児を前に、誰も言葉を発することができない。

ファンタジーの怪物として片づけるには、あまりにも生々しい出産と死の場面だった。

犀爬から突きつけられる医師としての限界

董胡はニーナを救えなかっただけでなく、ナティアもマゴイの子を身ごもっていると知る。

助けたいと願う董胡に対し、犀爬は血を見ることもできない者に切開術はできないと厳しく言い放つ。

その言葉は冷たいが、間違ってはいない。

董胡は拓生が斬られた時にも、大量の血を前に動けなかった。

今回もまた、何もできないまま患者を失っている。

薬膳の知識が豊富で、人のために尽くす気持ちがあっても、それだけで医師としてすべての命を救えるわけではない。

董胡自身も、医師として自分より犀爬の方がふさわしいのではないかと感じてしまう。

これまでの董胡は、身分や性別という外側の壁と戦ってきた。

しかし今回は、自分自身の能力や恐怖という内側の壁に直面している。

女性だから医師になれないのではない。

制度が変われば医師として認められる可能性はある。

それでも、命を救うために必要な技術を身につけられるかは、董胡自身が乗り越えなければならない問題である。

この挫折が今後の董胡をどう変えるのかが気になった。

楊庵が知ってしまった董胡の正体

人間関係の面で最も切なかったのは、楊庵が鼓濤の正体を知る場面である。

楊庵は黎司から、董胡が女性だと露見した時には王宮から逃がすよう頼まれていた。

自分なら董胡とともに治療院や薬膳料理の店を開き、穏やかに暮らせる。

楊庵はその未来を本気で望んでいた。

しかし董胡は王宮から離れようとしない。

黎司にとって大切なのは皇帝の后であり、薬膳師の董胡は部外者にすぎない。

そう言われた董胡が深く傷つく場面からも、彼女がどれほど黎司のそばにいたいのかが伝わってきた。

楊庵は董胡を後ろから抱き締め、一緒に王宮を出てほしいと頼む。

それでも董胡は、その願いだけは聞けないと拒む。

その後、楊庵は偶然、鼓濤の姿をした董胡を目撃する。

守り続けてきた幼なじみ。

自分と王宮を出てほしいと願った女性。

その董胡が、実は黎司の后であった。

楊庵にとっては、自分が思い描いていた未来が一瞬で崩れたようなものだろう。

董胡は黎司の妻という立場を捨てられず、黎司も董胡を守るために楊庵へ託そうとしている。

三人とも相手を大切に思っているのに、それぞれが知っている情報と望んでいる未来が違う。

これまで積み重ねられてきた秘密が、ついに大きく崩れ始めた場面だった。

最悪の敵が董胡へ近づいている

物語の最後では、銀髪のユラ・マゴイが百滝の大社の近くまで来ていることが明らかになる。

祭主の泰全もすでに心を操られ、人身売買へ加担していた。

ユラが求めているのは、麒麟の血を濃く引く高貴な姫君である。

董胡は自分が濤麗の娘であり、その条件に最も近い存在だと気付く。

しかし正体を明かせず、一行に該当する者はいないと答えてしまった。

董胡が秘密を守ろうとしたことで、危険を周囲へ正しく伝えられない。

ここでも二重生活が彼女を追い詰めている。

一方、王宮では黎司が其那国の異変を知り、軍を白虎へ送る決断を下す。

尊武も其那国やマゴイの一族に詳しいことを理由に、黒軍を率いて向かう。

董胡を守りたい黎司。

董胡へ執着を見せる尊武。

鼓濤の正体を知ってしまった楊庵。

そして董胡を狙うユラ・マゴイ。

それぞれの人物が白虎へ集まり始め、物語は一気に大きな衝突へ向かっている。

読後の感想

『皇帝の薬膳妃 后行列の旅と謎の一族』は、旅の楽しさと人間の暗い部分が強く対比された一冊だった。

序盤の華やかな后行列や朱雀の芸団には、王宮を離れた解放感がある。

董胡が民の暮らしへ触れ、女性としての自分を少しずつ受け入れていく場面にも温かさを感じた。

しかし百滝の大社へ到着してからは、人身売買、国家の乗っ取り、異常な妊娠、出産による死と、非常に重い出来事が続く。

とりわけニーナを救えなかった経験は、董胡にとって大きな傷となるはずである。

人を救いたいという気持ちだけでは救えない。

薬膳だけでは届かない命がある。

董胡が医師としてさらに成長するには、血への恐怖や外科的な治療とも向き合わなければならないのだろう。

また、本巻では董胡の正体を巡るすれ違いも大きく動き出した。

黎司は董胡が女性だと知りながら、彼女の居場所を作ろうとしている。

楊庵は董胡を王宮から逃がそうとした直後、彼女が皇帝の后だと知ってしまう。

董胡本人は、白龍を見つけてからすべてを告白しようとしているが、その前にユラ・マゴイの危険が迫っている。

真実を話せば状況が変わる。

それでも話さなければ、さらに大きな危険を生む。

これまで董胡を守ってきた秘密が、今度は逃げ道を塞ぐものへ変わり始めているように感じた。

華やかな旅の続きに待っていたのは、董胡の出生だけではなく、自分がどのような医師となり、誰と生きるのかを問われる大きな試練だった。

黎司や尊武の軍が白虎へ到着した時、ユラ・マゴイとの戦いがどう動くのか。

そして董胡が楊庵や黎司へ、どこまで真実を打ち明けることができるのか。

複数の秘密と感情が限界まで積み重なり、次巻をすぐに読みたくなる終わり方であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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薬膳妃 7巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 9巻レビュー

考察・解説

皇帝の真摯な想い

皇帝・黎司が董胡に抱く真摯な想いの全貌

『皇帝の薬膳妃』シリーズにおいて、皇帝・黎司が主人公・董胡に対して抱く真摯な想いについて、生きる意味をくれた董胡への不滅の誓い、問い詰めずに未来を守る不退転の決意、自己犠牲的な愛と楊庵との切なすぎる密約、および隠し切れないそばにいてほしいという切実な願いの各点から解説する。

生きる意味をくれた董胡への「不滅の誓い」

黎司にとって、董胡は暗殺の恐怖と深い拒食の苦しみから自分を救い出し、生きる意味を与えてくれた唯一無二の存在である。

・皇太子時代、誰もが自分に皇太子としての役割や天術の力だけを求める中、12歳の董胡だけは個としての黎司を見つめ、私のために生きてほしいと引き留めた。

・真摯な涙に心を打たれた黎司は、何があろうと諦めず命ある限り生き抜くと誓った。

・平民であっても誰もが身分や性別を問わず夢を叶えられる世を作り、董胡を専属薬膳師として迎えるというささやかな約束が、5年間過酷な宮廷を生き抜くための唯一の光となった。

問い詰めずに「未来を守る」不退転の決意

黎司は、男装の医官・董胡が実は女性であることに確信を抱くようになった。

・彼は彼女を無理に問い詰めることはしなかった。

・現行の厳しい法の下で彼女が女性だと露見すれば、医師免状は剥奪され、皇帝を欺いた重罪で処刑や流刑に処されることが分かっていたためである。

・そこで黎司が下した決意は、男装を暴くことではなく、女性が男装することなくその才能を活かして堂々と医師として働ける社会を自らの手で新設することであった。

・この女性医師の麒麟寮新設という国家改革は、保守的な重臣たちからの猛烈な反発が必至であるにもかかわらず、黎司は董胡の才能と夢を永続的に守るため、不退転の決意で推進した。

自己犠牲的な愛と楊庵との「切なすぎる密約」

黎司の真摯な想いが最も痛切に現れているのが、董胡の兄弟子である楊庵と極秘裏に交わした密約である。

・自分が皇帝である限り平民の娘である胡を愛して側に置けば貴族の嫉妬と憎悪に晒し一年と生きてはおれぬだろうという過酷な現実を自覚していた。

・自身の欲望や執着を完全に排し、万が一の時は彼女を王宮から逃がし、自分の手の届かない場所で自由で穏やかな第二の人生を歩ませるための最強の金の縁飾りの木札を楊庵に託した。

・自分が皇帝である限り女である胡を幸せにすることはできず、自分の手が届かないところに消えてしまったとしてもどうか守り続けてほしいという言葉を残した。

・悲痛な自己犠牲の愛は、たとえ二度と会えなくなろうとも彼女がどこかで生きて笑ってくれることこそが自分の救いであるという、皇帝としての究極の愛の形であった。

隠し切れない「そばにいてほしい」という切実な願い

自分を律し、董胡を守るために完璧な皇帝であろうと虚勢を張る黎司であるが、時折、彼女を失う恐怖やそばにいてほしいという弱音が抑えきれずにあふれ出した。

・青龍への特使同行が決まった際、尊武という危険な男に董胡が近づくことに激しい焦りを覚え、何としても彼女を守りたいと声を荒げて反対した。

・董胡が東の高原へ拉致されたと知るや、実体を遠方に飛ばすという命を削るような天術を限界を超えて試み、光の粒子をまとって彼女の窮地に現れ、無事を確かめるように強く抱き締めた。

・白虎への出発を前にした対話では、容姿や素性以上に私はそなたを人として信頼している、どのような事実を知ろうともこの信頼は揺らがない、私を信じてほしい、あなたの抱えるものを分かち合って支えたいと、御簾越しに切実な本心を吐露した。

・黎司の想いは常に董胡の安全と幸せが絶対的な最優先事項であり、彼女が自分の手元で后として暮らすことすら望まないほど徹底して真摯であった。

まとめ

皇帝・黎司が董胡に抱く真摯な想いを巡る一連の全貌は、命を救われたことによる不滅の誓いから始まり、性別を追及せず権利を守る女性医師構想の発案、自らの執着を捨てて自由を保障する金の木札を巡る密約、そして溢れ出る信頼と愛憎を越えた切実な抱擁に至るまで、その歩みを明瞭に示している。宮廷の暗闘や身分の隔絶という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、至純の愛と覚悟が紡ぎ出した絆の記録である。不滅の誓いから、制度の創出、自己犠牲の決意、本心の吐露、そして未来への確固たる意思決定へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

白虎への后行列

白虎への后行列と白虎編における動乱の全貌

『皇帝の薬膳妃』第8巻『后行列の旅と謎の一族』において描かれる白虎への后行列について、巡礼の口実と白龍捜索の真相、国家的な政治興行と盛大な演出、牛車内における賑やかなドラマ、および百滝の大社への到着と迫り来る真五族の脅威の各点から解説する。

巡礼の口実と「白龍」捜索の真相

后行列の真の目的は、主人公の董胡が自らの出生と過去の真相を握る盲目の麒麟の医官・白龍を捜し出すことであった。

・養父のト殷から、白龍が白虎の百滝の大社に身を隠している可能性を聞かされていた董胡は、彼に会うことを切望していた。

・朱雀の一の后・朱璃は、白虎の一の后・雪白が引き起こした偽りの懐妊騒動を盾に皇帝・黎司へ強烈な交渉を行い、子宝祈願という大義名分のもとお忍びの旅の許可を勝ち取った。

・朱璃の母もまた、一番弟子である綺羅の初舞台を白虎で披露できるとしてこの旅を歓迎し、朱雀領全体の承認を取り付けることとなった。

国家的な政治興行と盛大な演出

個人のお忍びから始まった旅は、やがて歴史に残る絢爛豪華な大行列へと発展した。

・盛大な后行列を民衆に示すことは、皇帝・黎司の治世が安定し四公との関係も良好であるという強力な政治的アピールとなり、沿道からは皇帝を讃える歓声が上がった。

・朱雀の軍勢である赤軍が厳重な護衛を担当し、朱璃の弟である王州やその舞踊団が同行した。

・道中では剣舞や曲芸が披露され、旅そのものが国を挙げた賑やかな祝祭の装いを呈していた。

牛車内における賑やかなドラマ

豪華な牛車の中では、厳格な外見とは対照的な賑やかで人間味あふれるドラマが展開された。

・初めて王宮の外へ出た侍女の茶民と壇々は、白虎の特産品や珍しい小物を買うことを楽しみに胸を躍らせていた。

・朱璃は酒を牛車内に持ち込み、董胡に女性としての所作や舞を叩き込む美姫化計画を進めていた。

・王宮へ帰還した際に董胡を麗しい姿へ変貌させ、黎司を一目で恋に落とさせる劇的な正体開示を企んでいた。

・侍女頭の王琳と猫々は、常識破りな二人の后の行動に頭を悩ませつつも、互いの苦労を分かち合って絆を深めていた。

百滝の大社への到着と迫り来る真五族の脅威

数日間の快適な旅を経て、一行は美しい滝に囲まれた百滝の大社へと無事に到着した。

・董胡と朱璃は神職の太善からお祓いを受けつつ、極秘裏に白龍の捜索を開始した。

・到着と時を同じくして、隣国ツィナからの金髪の難民少女・ルカとの出会いが生じた。

・ツィナが人間の心を操る能力を持つ謎の異族・真五族に侵食されているという衝撃の事実が判明した。

・董胡のルーツを探る旅は、人身売買や15ヶ月に及ぶ異様な妊娠の謎、そして純血の乙女を狙うユラ・真五の陰謀へと巻き込まれていくこととなった。

まとめ

白虎への后行列と白虎編における動乱を巡る一連の全貌は、白龍捜索の熱望と子宝祈願の大義名分から始まり、国家的な威信を示す盛大な政治興行、牛車内での賑やかな人間模様、そして百滝の大社到着と真五族の陰謀への遭遇に至るまで、その歩みを明瞭に示している。宮廷の不自由や異国の侵略という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、真実の追求と新たな試練の開幕を告げる動乱の記録である。偽装の巡礼から、豪華な進行、人間関係の深化、異国の異変察知、そして国境を越えた陰謀との対峙へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

薬膳と医療

薬膳と医療(医術)の全貌

『皇帝の薬膳妃』の世界において、薬膳と医療(医術)について、伍尭國における医術と薬膳の定義と社会的格差、董胡が体現する薬膳と医術の融合、および医療・国家改革としての食は養生の仙薬の各点から解説する。

一、伍尭國における「医術」と「薬膳」の定義と社会的格差

本作の世界では、人の命に関わる技術は大きく三つの役割に分かれている。

・医師:患者の体を診察し、鍼を打ち、薬を処方する。病気になってしまった後の処置を担う。

・薬師:医師が処方した薬を正しく煎じて患者に飲ませる役割を持つ。

・薬膳師:日々の食事を通じて病気を未然に防ぐ(予防する)ことを目的とする職である。

このように本来は役割が明確に分かれているが、作中ではその扱いに大きな社会的格差が存在する。

・特権階級による独占と世襲:薬膳は貴族の間で流行しているものの、基本的には一握りの大家が世襲で独占する職であり、平民が大成することは極めて困難な道であった。また、女性が医師や薬膳師として正式に免状を得ることは法度によって禁じられていた。

・良薬口に苦しの限界:多くの医師は料理が下手であり、薬を処方する感覚で薬膳を作るため、まずくて食べられない料理になりがちであった。そのため、美味しくかつ高い効能を持つ薬膳料理を作る技術は、日の目を見ない非常に稀有な職となっていた。

二、董胡が体現する「薬膳と医術の融合」

董胡は、ただ処方された生薬を料理に混ぜるだけのまずい薬膳を否定する。彼女の薬膳は、確かな医学的アプローチ(診察)と、相手の体が真に求めている味(五色の光)を合致させる美味しい治療である。

・1. 皇帝・黎司の拒食症の治療:黎司は幼少期から繰り返された暗殺(毒殺)の恐怖から深刻な拒食症に陥り、通常の薬や食事を一切受け付けず、気血水すべてが衰弱していた。董胡は黎司の周囲に視えた青(酸味を欲する肝臓の弱り)の光から、毒消しによって弱った肝臓を助けるため、梅の酸味や高価な冬虫夏草を用いた甘辛い薬膳饅頭を提供した。これが無理なく喉を通り、胃腑に収まる唯一の食べ物となり、彼の生命力を劇的に回復させた。

・2. 青龍の后・翠蓮の「黒蝋妃の呪い」:主治医の雲は、后の過換気発作を心の甘えと片付け、効能のない雑草を混ぜた万能薬「黄龍の鱗」を処方して症状を悪化させていた。董胡は脈診や舌診から、病の本質を不眠や心労からくる胆気虚であると特定した。首に大きな負担をかけていた重いかんざしを外させ、楊庵の指圧で首周りの気の巡りを整えつつ、肝胆の働きを高めるために緑の野菜や柑橘類、酸棗仁を配合した薬膳を指導し、不眠と発作を根本から治療した。

・3. 東の高原(ロー族)の奇病「気癧」:一族の後継者ロサリをはじめ、子供たちの成長が止まり首が腫れる奇病に対し、現地のシャーマン・エジドは祈禱を捧げることしかできなかった。董胡は、海から遠く離れた極寒の高原環境において海産物の摂取が絶たれたことが、甲状腺を正常に機能させる栄養素であるヨードの欠乏を招いていることを見抜いた。自身の薬籠にあった乾燥食材であるヒジキ、さらには羊の甲状腺や肝臓を高原の乳製品と組み合わせた薬膳汁を処方し、寝たきりだったロサリを数日で歩けるまでに快復させた。

三、医療・国家改革としての「食は養生の仙薬」

「食は養生の仙薬、延齢の妙術」という言葉通り、董胡が行う薬膳治療は、やがて黎司が目指す国家制度の改革(医療改革)へと直結していく。

・四術独占による弊害の解体:伍尭國では四領地が医術や武術を独占していたため、医師が極端に不足し、青龍のようにまともな医療が受けられず偽薬に騙される民が溢れていた。黎司は、医術のような命に関わる知識は領地の壁を越えて共有されるべきだと確信し、青龍をはじめとする他領地への麒麟寮(医塾)の新設を進めていく。

・女性医師構想と夢の実現:黎司は、男装の医官として必死に生きる董胡の才能と夢を永続的に守るため、女性が男装することなく堂々と医師の免状を得られる「女性医師を育成する麒麟寮」の新設を殿上会議で宣言しようとする。

まとめ

薬膳と医療(医術)を巡る一連の全貌は、社会的格差と独占に阻まれた伍尭國の医療構造の把握から始まり、五色の光を用いた的確な診察と薬膳料理による奇病の克服、そして身分や性別、領地の壁を取り払う広域的な技術共有と女性医師構想に至るまで、その歩みを明瞭に示している。封建的な特権制度や閉鎖的な独占という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、真実の知識と愛がもたらした医療革新の記録である。役割の分類から、実地の治療、制度の矛盾解明、そして国家的な医療共有体制の確立へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

其那国の政変

其那国の政変とマゴイの一族の台頭の全貌

其那国は、伍尭國の北西に位置し海峡を挟んだ隣国である。金茶色の髪に紺碧の瞳を持つこの国で起きた政変について、政変の全貌とマゴイの一族の台頭、人心を操る魔物の力による王宮の掌握、伍尭國への影響と不法移民の急増、および皇帝・黎司の把握と王宮の対応の各点から解説する。

其那国の政変の全貌と「マゴイの一族」の台頭

政変の引き金となったのは、王家に仕えていた神官の血筋であるマゴイの一族(銀の髪族)の異常な急増と台頭であった。

・マゴイの一族は、生まれた時から銀の髪という印を持って生まれてくる美麗な容姿を持つ一族であるが、その本質は冷酷な性質を備えていた。

・もともとは極めて子が生まれにくく、マゴイの女性は頭の大きい十五カ月児を産むためにお産のたびに母体が犠牲になる特性があり、一世代に一人から三人程度しか生存できない希少な一族であった。

・約50年前に一人のマゴイが妊婦の腹を掻き切る切開術によって十数人の子を生み出し、その中の聡い者が傷口を縫って母体を生かす切開術を完成させたことで、一族は100人を超える規模へと急増した。

・5年前、マゴイの娘と其那の王子との間に切開術なしで王家の血を引く男児が誕生し、他の妃に生まれた2人の男児が相次いで急死したこともあって、この子が王家の唯一の後継者となった。

人心を操る「魔物の力」による王宮の掌握

マゴイの一族が持つ最も恐るべき能力は、人心を操る力であった。

・この力は健全な心は操れないものの、人の恐怖、哀しみ、絶望、強欲といった闇の感情に付け入って心を占領し、その人物を思いのままに動かした。

・其那国の王は、王妃の死による激しい悲しみの心の闇に付け込まれてマゴイの言いなりになり、兄王子も父王と追いやられた貴族たちとの板挟みに苦しんだ心の闇を狙われて術中に嵌った。

・王と王子を意のままにしたマゴイの一族は、王宮の重臣の多くを銀の髪の男たちへと入れ替え、其那国の王宮および国家の実権を完全に掌握する政変を完了させた。

伍尭國への影響と不法移民の急増

この政変に伴い、マゴイの一族の支配から逃れるため、またマゴイの子を身ごもらされて凄惨な十五カ月児の出産の犠牲になるのを避けるため、其那国の若い女性たちが自国を捨てて伍尭國へ渡る不法移民が急増した。

・逃げてきた女性の中には、其那国の王女姉妹であるルカやナティアも含まれていた。

・白虎へ渡った不法移民の少女たちは、百滝の大社の祭主・泰全によって選別され、眠り薬を混ぜたお粥で眠らされた上で、裏で密かに妓楼へ売買される人身売買の温床となっていた。

・一部の女性たちは元大宮司である宝庵が建てた隠れ庵に保護されていたが、中にはすでにマゴイの血を宿した女性たちも匿われており、その凄惨なお産が人々を絶望させていた。

・マゴイの一族の真の狙いは其那国にとどまらず、彼らの力と麒麟の血を掛け合わせることで世界の覇者となる子を得るため、后詣での行列を狙って昴宿にまで潜入していた。

皇帝・黎司の把握と王宮の対応

この重大な隣国の政変や不法移民の急増について、百滝の大社の祭主・泰全が故意に情報を遮断していたため、皇帝・黎司や白虎公をはじめとする伍尭國中央は長い間実態を把握できずにいた。

・后詣でに同行していた皇帝の密偵からの火急の報告により、黎司がこの政変を察知した。

・黎司はただちに緊急の殿上会議を開き、后たちの安全確保と国境付近の不法移民取り締まり、および実態解明のために白軍と黄軍の一部を白虎へ急派することを決定した。

・以前に其那国に滞在経験がありマゴイの一族について詳しい知識を持つ尊武も、自ら黒軍を率いて白虎へと出陣することとなった。

まとめ

其那国の政変とマゴイの一族の台頭を巡る一連の全貌は、切開術の確立に伴う異族の異常繁栄から始まり、精神の隙を突く人心操作による其那国王宮の支配、難民化する女性たちの不法入国と人身売買の暗躍、そして皇帝・黎司による軍の派遣と尊武の参戦に至るまで、その歩みを明瞭に示している。異国での怪異や国境の暗闘という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、国家間動乱と生存を懸けた抵抗の記録である。急激な一族の拡大から、精神支配の完了、隣国への影響波及、情報遮断の突破、そして中央軍の出動へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

マゴイの一族

マゴイの一族の生態と伍尭國への脅威の全貌

本作の第8巻『后行列の旅と謎の一族』において、物語の根底を揺るがす最大の脅威として登場する、隣国・其那国の神官の血筋であるマゴイの一族(銀の髪族)について、一族の生態と十五カ月児を巡る凄惨な歴史、人の心の闇を支配する恐るべき能力、其那国の悲劇と少女たちの逃亡、および伍尭國への侵入と麒麟の血への執着の各点から解説する。

一族の生態と「十五カ月児」を巡る凄惨な歴史

マゴイの一族は、生まれたときから一族の印である銀の髪を持って生まれてくる。

・元々は非常に子が生まれにくい性質であり、マゴイの女性は頭の大きい十五カ月児を身ごもるため、お産のたびに骨盤を通過できず母体が犠牲になるという特徴があった。

・そのため、一世代に1人から3人程度しか生存できない極めて希少な一族であった。

・しかし約50年前、一人のマゴイの男が妊婦の腹を掻き切る切開術を行い、その後に傷口を縫って母体を生かす切開術が完成したことで、一族は100人を超える規模へと急増した。

・5年前には、骨格が大きく15ヶ月児を普通に産めるマゴイの娘が、切開術なしで其那の王子との間に王家の血を引く男児を出産した。

人の「心の闇」を支配する恐るべき能力

マゴイの一族が持つ最大の武器は、人心を操る力(魔物の力)である。

・健全な心を持つ人間を操ることはできないが、人の恐怖、哀しみ、妬み、絶望、強欲、罪悪感といった闇の感情に付け入ってその心を占領し、思い通りに動かしてしまう。

・この力によって、其那国の王は王妃を亡くした深い悲しみの闇を、兄王子は父王と貴族の板挟みになった苦しみの闇をそれぞれマゴイの娘に狙われ、完全にその術中に嵌った。

・こうしてマゴイの一族は王宮の重臣たちを次々と銀の髪の男たちへ入れ替え、其那国の実権を完全に掌握する政変を完了させた。

其那国の悲劇と少女たちの逃亡

マゴイの一族が実権を握ったことで、其那国では彼らの子(十五カ月児)を強制的に身ごもらされ、出産のために腹を切り裂かれて命を落とす若い女性たちの悲劇が相次ぐようになった。

・この凄惨な運命から逃れるため、国の若い女性たちが自国を捨てて伍尭國へ渡る不法移民が急増した。

・ルカやナティアといった王女姉妹も、この混乱の中で国を逃れてきている。

・しかし、逃れてきた少女たちは白虎の百滝の大社の祭主・泰全によって選別され、眠り薬を盛られて裏で妓楼へ人身売買されるという、新たな闇の犠牲となっていた。

伍尭國への侵入と「麒麟の血」への執着

マゴイの一族の真の狙いは、自国の支配にとどまらない。

・人心を操る彼らが最も恐れ、そして強く求めているのが、伍尭國の皇帝が持つ特別な麒麟の血である。

・彼らは、マゴイの魔性の力と高貴な麒麟の血を掛け合わせることで、世界の覇者となる子を得ようと執念を燃やしている。

・50年前にもマゴイの娘を皇帝に嫁がせる試みがあったが、病弱だったためすぐに亡くなり、計画は失敗に終わった。

・そのため今度は、お忍びの后詣でで王宮の外へ出てくる麒麟の血を引くお后様を狙って、冷酷非道な一族の男ユラ・マゴイらが昴宿の港町へと密かに潜入し、牙を剥く機会を窺っている。

まとめ

マゴイの一族の生態と伍尭國への脅威を巡る一連の全貌は、切開術の確立による十五カ月児を巡る異族の急増から始まり、精神の隙を突く人心操作による其那国王宮の掌握、命がけで渡航する難民少女たちの悲劇と人身売買の被害、そして麒麟の血を狙う伍尭國侵入と陰謀の牙に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
異族の支配や精神の侵食という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、国家間動乱と邪心に対する命がけの抵抗の記録である。
奇妙な生態の判明から、国家の精神支配、難民の発生、血統への執着、そして国境を越えた直接的脅威の出現へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

正体の露見

董胡の正体の露見と人間模様の全貌

『皇帝の薬膳妃』シリーズにおいて、主人公・董胡が隠し持つ複数の正体が周囲に明かされていく過程について、朱雀の后・朱璃への露見、玄武嫡男・尊武への露見、皇帝・黎司への女性の露見、兄弟子・楊庵への露見、および侍女頭・王琳への露見の各点から解説する。

一、朱雀の后・朱璃への露見:良き理解者との出会い

朱雀の一の后・朱璃は、優れた直感と鋭い観察力により、早い段階から后の鼓濤、男装の医官・董胡、侍女頭代理の董麗がすべて同一人物であることを見抜いていた。

・朱璃は玄武の后宮に押し入り、董胡に正体を明かすよう迫った。

・逃げ切れないと悟った董胡は御簾を上げさせ、自分が医師免状を得るために男装していた平民の娘であり、強引に后に据えられた経緯をすべて告白した。

・さらに朱璃は、董胡の容姿が幼い頃に出会った麒麟の皇女・濤麗に瓜二つであることから、董胡が濤麗の娘であることを看破した。

・朱璃は、董胡が皇帝・黎司を害する意図がないと確信すると、正体を他言しないと約束し、彼女の秘密を守る最大の後ろ盾かつ理解者となった。

二、玄武嫡男・尊武への露見:不気味な脅迫とスリリングな取引

宮内局長である玄武の嫡男・尊武は、后宮における不自然な医官登録の記録や行動から、董胡の正体を看破した。

・彼は、后である鼓濤と、男装の医官・董胡が同一人物であり、さらに女性であることを見抜いた。

・尊武は后宮に突如乗り込んで御簾を強引にめくり上げ、医官姿の董胡と対面して秘密を握っていることを突きつけた。

・しかし、尊武はこれを皇帝や玄武公に密告して董胡を失脚させるのではなく、自分の退屈を紛らわせる余興として利用することを選んだ。

・彼は秘密を黙っている代償として、董胡を自らの専属薬膳師として青龍の医療再建特使団へ強引に同行させ、綱渡りのような奇妙な主従関係を結ぶこととなった。

三、皇帝・黎司への「女性」の露見:あえて問い詰めない「守るための愛」

皇帝・黎司は、男装の医官・董胡の細い身体つきや所作から、彼女が女性であることに確信を抱くようになった。

・現行の過酷な法制度下では、女性が男装して医療に携わったことが露見すれば、医師免状は剥奪され、皇帝を欺いた重罪として処刑や流刑を免れない。

・黎司は董胡の才能と未来を永続的に守るため、あえて直接正体を問い詰めて彼女を追い詰めることはしなかった。

・その代わりに、女性が男装することなく堂々と医師になれるよう、女性医師を育成する麒麟寮の新設を殿上会議で宣言し、不退転の決意で国家改革に挑んだ。

・さらに黎司は、万が一自分の手が及ばずに彼女の秘密が暴かれて刃が及んだ時のため、董胡の兄弟子である楊庵を董胡専属の密偵に指名して最強の金の縁飾りの木札を託し、いつでも王宮から彼女を逃がして保護できるよう極秘の密約を裏で交わした。

・なお、黎司は后・鼓濤と医官・董胡が同一人物であることには長らく気づいておらず、複雑なすれ違いが続いている。

四、兄弟子・楊庵への露見:残酷な真実と引き裂かれる想い

兄弟子の楊庵は、董胡が女性であることは最初から知っており、彼女を玄武の刃から守るために王宮でもその秘密を頑なに隠し続けていた。

・しかし、楊庵は董胡が后・鼓濤として皇帝へ嫁がされたという事実には長らく気づいていなかった。

・この正体は、第8巻『后行列の旅と謎の一族』において、旅先である白虎の百滝の大社で露見した。

・楊庵は、后・鼓濤としてのきらびやかな装いをし、侍女に髪を梳かされている董胡の姿を偶然にも目撃した。

・自分が守ろうとし、いつか王宮の外で共に暮らしたいと切望していた最愛の妹弟子が、実は憧れの黎司に嫁いだ后であったという残酷な真実を知り、楊庵は激しいショックと悲哀に打ちのめされることとなった。

五、侍女頭・王琳への露見:現実的な告白と心強い協力関係

玄武公から新たに派遣されてきた有能な侍女頭・王琳に対し、董胡は年末に自ら男装医官の姿を見せ、すべてを告白した。

・帝から鼓濤と董胡の二人に贈り物を渡すので御簾内にて直接対面したいというお召しが届いたため、これ以上一人二役を隠しきれなくなったためである。

・最初、王琳は后が男装して王宮を動き回っていたという前代未聞の事実に衝撃を受けて寝込んでしまった。

・しかし、董胡の出生や黎司との5年前からの深い経緯を聞くうちに彼女の境遇に深く同情し、現実を受け入れて良き理解者および協力者となった。

・その後は、玄武公や他の后宮からの監視の目を欺くため、完璧なお仕度や偽りの寵愛劇をプロデュースし、董胡を陰から支える心強い存在となった。

まとめ

董胡の正体の露見と人間模様を巡る一連の全貌は、多重身分の保持から始まり、朱璃による見抜かれと保護、尊武の脅迫に伴う取引、黎司の法制度改変を見据えた深い愛情、楊庵の絶望的な事実の目撃、そして王琳の全面協力への転換に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
封建的な制約や身分の強制という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、秘密の共有と絆が交錯する人間ドラマの記録である。偽装の維持から、正体の発露、脅迫と取引、制度改革の提示、そして強固な協力体制の構築へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

麒麟の血筋

麒麟の血筋と天術の全貌

『皇帝の薬膳妃』シリーズにおいて、麒麟の血筋について、麒麟の血筋が司る天術と個々の能力、近親婚による天術の衰退と傀儡化、および隣国マゴイの一族からの執着と脅威の各点から解説する。

一、麒麟の血筋が司る「天術」と個々の能力

麒麟の血を引く者は、多かれ少なかれ天の御力を授かり、不思議な神通力を操ることができる。その発現の仕方は人によって異なり、非常に多様で個性的な能力として現れる。

・黎司(現皇帝):未来の災いを見通す先読みの力を持つ。

・濤麗(皇女・董胡の母):人や動物を本人の意思にかかわらず惹きつける魅了の力(愛の波動)を持っていた。彼女が庭を歩けば小鳥や栗鼠、蝶、魚が集まり、人間も一瞬で魅了されたとされる。

・白龍(盲目の医師):患部や妊婦の腹に手をかざすだけで痛みを取り除き、難産の際には骨盤を開かせるという驚異的な癒しの神通力を有していた。

・翠明(神官):病気や怪我を癒す力を持ち、髪の毛を人柱として用いることで、実体に近い強力な式神を操ることができる。

・犀爬(産巫女):お産に特化した能力を持ち、妊婦を診察することで胎児の有無や性別を正確に看破できる。

・董胡(玄武の一の后・鼓濤):相手の体がその瞬間に欲している味覚が五色の光として視える特殊な能力を持つ。これもまた、彼女自身が濤麗の娘として麒麟の血を引いているために宿った特別な力であると示唆されている。

二、近親婚による「天術」の衰退と傀儡化

初代皇帝である創司帝の時代には、未来を読み風を操るなど強大な天術で安寧の国を築いた。しかし、その後は以下のような経緯で血筋の衰退を招いている。

・近親婚の弊害:麒麟の血の純度と力を保つために皇族同士での近親婚を重ねた結果、皇族は病弱になり、先読みの力も世代を重ねるごとに失われていった。現皇帝の父(先代皇帝)は生涯その力を使えず、黎司の代になってようやく僅かな先読みの力が芽生えるという状況であった。

・権力の失墜:麒麟の力が衰えたことで、皇帝は四領地(特に医術で富を成した玄武公)の傀儡となりつつあった。即位式での的当ても、本来の力ではなく事前に数字を弓師へ伝えて当てる捏造された茶番劇に変貌していた。

・血脈の維持:力の衰退を食い止めるため、数代前からは近親婚をやめて四領地から后を迎えることで血を繋いでいる。

三、隣国「マゴイの一族」からの執着と脅威

隣国・其那国を実質的に支配するマゴイの一族(銀の髪族)は、人心を操る力(魔物の力)を持つ邪悪な存在であるが、彼らが異常なほど強く執着しているのが、伍尭國の麒麟の血(力)である。

・世界の覇者への野望:マゴイの一族は、自らの魔性の力と高貴な麒麟の血を掛け合わせることで、世界の覇者となる子を得られると信じている。

・后行列への襲撃計画:過去にはマゴイの娘を皇帝に嫁がせる試みも行われたが、病弱ゆえに失敗に終わった。そのため、人心を操るマゴイの冷酷な男「ユラ・マゴイ」らは、お忍びの子宝祈願を口実に白虎(昴宿)へと旅立ったお后様一行(特に、濤麗の娘として色濃い麒麟の血を宿している董胡)を拉致しようと、港町に潜入して牙を剥く機会を狙っている。

まとめ

麒麟の血筋と天術を巡る一連の全貌は、神聖な天術の個別発現から始まり、近親婚が招いた血脈の衰退と皇帝の傀儡化、そして血統を狙う隣国マゴイの一族による邪悪な執着に至るまで、その歩みを明瞭に示している。血統の呪縛や外敵の侵略という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、宿命の力と国家の根幹を巡る記録である。

異能の覚醒から、王権の衰微、外敵の暗躍、そして血脈を守る攻防へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。

薬膳妃 7巻レビュー
薬膳妃 まとめ
薬膳妃 9巻レビュー

登場キャラクター

伍尭国朝廷・后宮

董胡(とうこ) / 鼓濤(ことう)

男装の薬膳師として育った少女である。
周囲からは少年のように見られている。
玄武の一の后として後宮へ輿入れした。
皇帝である黎司を陰ながら支えている。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后。男装の医官。

・物語内での具体的な行動や成果
 患者の周囲に見える五色の光から体調を読み取る。
 その力を用いて相手が求める味の薬膳料理を作る。
 朱雀の流行り病を収束させた。
 玄武公による皇帝の暗殺計画を暴いた。
 青龍の后の病を快方へ導く。
 白虎の地で生い立ちの秘密を知る白龍を捜した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 平民の医生から后になった。
 自身の生い立ちに関わる白龍を捜すために白虎へ旅立つ。

黎司(れいじ)

伍尭国の第十七代皇帝である。
天術による先読みの力を持っている。
董胡を人として深く信頼している。
董胡を過酷な法から守るために力を尽くす。

・所属組織、地位や役職
 第十七代皇帝。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡が女性であることに確信を抱く。
 女性医師を育成する麒麟寮の設立を宣言した。
 董胡の身に危険が迫った際のために楊庵と密約を交わす。
 白虎における不穏な情勢を察知した。
 后たちを守るために軍を急派した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 先読みの力が世代とともに弱まっていた。
 しかし天術を操れるようになってきた。

朱璃(しゅり)

朱雀の一の后である。
優れた直感と鋭い観察力を持っている。
董胡のよき理解者として行動する。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の一の后。

・物語内での具体的な行動や成果
 后と医官と侍女頭代理が同一人物であることを見抜いた。
 董胡に危害を加える意図がないと確信して秘密を守る。
 白虎への子宝祈願の旅を計画した。
 男装の薬膳師「光」を名乗って同行する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 元々は朱雀公の娘として育ったわけではない。
 舞妓を母に持ち、妓楼で育った。
 いずれは后宮を出て、紅拍子に戻るつもりである。

王琳(おうりん)

玄武公から新たに派遣されてきた后宮の侍女頭である。
仕事に非常に有能な女性である。
最初は董胡に厳しく接した。
事情を聞いてからはよき協力者となる。

・所属組織、地位や役職
 后宮の侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
 お后様らしい装いやお茶会を整える。
 前代未聞の男装での移動に衝撃を受けた。
 玄武公や皇太后に報告する内通者であった。
 しかし、最終的にはお后様を心配した。
 帝の使部として潜入した楊庵の仲立ちとなる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 夫は先帝の内医助であった吐伯である。
 夫は内医司の殉死制度により死亡した。

楊庵(ようあん)

董胡の兄弟子である。
鍼の技術に非常に優れている。
董胡のことを女性として大切に想っている。

・所属組織、地位や役職
 斗宿の治療院の医生。内医司の使部。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡とともに麒麟寮で学んだ。
 治療院が荒らされた後に、董胡を探すため王宮へ入る。
 黎司から董胡を逃がすための金の木札を託された。
 白虎の大社で董胡の后としての姿を目撃する。
 陰から董胡を見守り続けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 孤児としてト殷に育てられた。
 黎司より、董胡専属 of 密偵に任命された。

万寿(まんじゅ)

王宮の薬庫を管理している医官である。
王宮の内外から様々な情報を収集している。
少し口が悪いが、親切な性格である。

・所属組織、地位や役職
 宮内局の医官。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡に高価な冬虫夏茸を分けた。
 白虎の后宮での悪阻の処方箋から不穏な動きに気づく。
 その事実を楊庵に伝えた。
 玄武の薬売りから王琳に関する噂を聞き出す。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 薬庫のほとんどを取り仕切っている。

尊武(そんぶ)

玄武公の嫡男である。
宮内局長を務めている。
董胡の二重生活の秘密をすべて握る人物である。
退屈を嫌い、面白いことを好む。

・所属組織、地位や役職
 宮内局長。玄武公の嫡男。特使団の団長。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡の正体を見抜いて取引を持ちかけた。
 董胡を自身の専属薬膳師として同行させる。
 青龍へ向かう特使団の団長となった。
 自ら黒軍を率いて白虎へ向かった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 他国へ長く外遊していた。
 其那国に滞在した経験を持つ。

翠明(すいめい)

皇帝である黎司の側近神官である。
病気や怪我を癒す力を持つ。
実体に近い式神を操ることができる。

・所属組織、地位や役職
 皇宮の神官。

・物語内での具体的な行動や成果
 黎司を陰からサポートしている。
 董胡を王宮の医官として召し出す手配をした。
 自身の髪の毛を人柱とした式神を使用する。
 白虎の大社への后行列を護衛させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 祖父は麒麟寮の元寮長であった。

空丞(くうじょう)

黄軍の将軍である。
大柄な体格で気持ちの良い笑顔を持つ。
青龍の后である翠蓮の兄である。

・所属組織、地位や役職
 近衛軍である黄軍の将軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 青龍への特使団の護衛を務めた。
 董胡が攫われた際に救出に向かう。
 黄軍を辞して董胡を捜す決意をした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父は黄軍将軍の月丞である。

禰古(ねこ)

朱雀の一の后である朱璃の侍女頭である。
朱璃のことを深く慕っている。
規律に厳しく、おしゃべりな性格である。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の后宮の侍女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
 朱璃の命令で大朝会へ出席した。
 董胡を朱雀の后宮へ招く。
 大朝会で他宮の噂話を収集した。
 后行列の旅路では規律を正そうとする。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 白虎への后行列に同行した。

茶民(ちゃみん)

董胡付きの侍女である。
少し色黒で、痩せている。
お金を貯めることが趣味である。
激辛の料理を好む。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后宮の侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 元々は華蘭の侍女であった。
 おやつを売って小銭を貯めている。
 后に成り代わる大朝会の留守番を務めた。
 白虎の旅路では后の身代わりとなる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:元々は華蘭の侍女であったが、のちに董胡へ忠誠を誓うようになる。

壇々(だんだん)

董胡付きの侍女である。
色白でふっくらしている。
食べることを何より好む。
おっとりした性格である。

・所属組織、地位や役職
 玄武の一の后宮の侍女。

・物語内での具体的な行動や成果
 元々は華蘭の侍女であった。
 董胡の作る饅頭を好んで食べる。
 一度知恵熱を出して寝込んだ。
 身代わりの人柱になることを快諾した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:美味しい食べ物に非常に弱い。

朱雀公(すざくこう)

朱雀の領主である。
気が弱く、引っ込み思案な性格である。
妻である孔雀貴人に頭が上がらない。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の領主。

・物語内での具体的な行動や成果
 以前は大きな妓楼を与えられていた。
 血筋が絶えたことで領主に就任した。
 帝の廃位にはあまり積極的ではない。
 娘の白虎行きを帝に嘆願する。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:優秀な兄が亡くなったことで領主の席が回ってきた。

玄武公(げんぶこう)

玄武の領主である。
医術を司る亀氏の一族を率いる。
皇帝すらも凌ぐ権勢を誇る。
冷酷で強欲な性格である。

・所属組織、地位や役職
 玄武の領主。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡を実娘の鼓濤として皇帝へ輿入れさせた。
 医師試験首席の董胡を脅迫する。
 帝を廃位させて弟宮を擁立しようと目論む。
 的当ての儀式を裏で細工していた。
 皇帝の暗殺を白虎公へ命じる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:自分の血の繋がる甥を皇帝にして操ろうとしている。

犀爬(さいは)

麒麟の血筋を引く産巫女である。
優秀でお産に特化した能力を持つ。
他人にあまり好意的な態度を取らない。

・所属組織、地位や役職
 宮内局付きの産巫女。

・物語内での具体的な行動や成果
 白虎の后である雪白の往診を行った。
 触診だけで懐妊していないことを見抜いた。
 隠れ庵でナティアの診察をする。
 ニーナの難産に立ち会った。
 董胡に医師としての厳しさを突きつける。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:妊婦を診察すれば腹の中に子がいるかどうかが分かる。

孔曹(こうそう)

太政大臣を務める重臣である。
皇帝の治世を支える立場にある。
黎司の大叔父に当たる。

・所属組織、地位や役職
 太政大臣。

・物語内での具体的な行動や成果
 臨時殿上会議の進行を務めた。
 青龍における偽医師の事件の報告を行う。
 内医司の殉死制度の不備を確認した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:黎司の父である孝司帝の叔父に当たる。

青龍公(せいりゅうこう)

青龍の領主である。
日焼けした頑強な体を持つ。
武術を司る一族を率いる。

・所属組織、地位や役職
 青龍の領主。

・物語内での具体的な行動や成果
 雲の偽医師事件の管理不足を詫びた。
 自身の公認はなく、雲がやったと主張する。
 特使団の医師たちを女官で懐柔しようとした。
 帝の廃位に反対しない。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:玄武公を警戒しながらも、自領の利益のために立ち回る。

白虎公(びゃっここう)

白虎の領主である。
商術を司る虎氏の一族を率いる。
小心者で、優柔不断な性格である。

・所属組織、地位や役職
 白虎の領主。

・物語内での具体的な行動や成果
 的当ての件で帝を擁護した。
 玄武公から黄金泉への毒の混入を命じられる。
 天罰を恐れて躊躇した。
 不法移民の件で帝に不満を持つ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:大怪我を負ってから、帝の天術の力に怯えている。


朱雀の芸団

旺朱(おうしゅ)

朱雀公の息子である。
朱璃の弟に当たる。
気楽な生活を好む。
軽業師としての高い技術を持つ。

・所属組織、地位や役職
 朱雀公の息子。軽業師集団「傀儡法師」の頭領。

・物語内での具体的な行動や成果
 朱璃の命令で妓楼の調査を行った。
 董胡と出会い、協力関係を結ぶ。
 戦闘の際には高い戦闘能力を発揮する。
 后行列の護衛として同行した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:現在は親父の代わりに楼主代理を務める。

綺羅(きら)

朱璃の一番弟子である舞妓である。
肌の透き通るような美少女である。
真面目で仕事に厳しい。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の芸団の舞妓。

・物語内での具体的な行動や成果
 高級妓楼で間者として働いていた。
 お后付き薬膳師に衣装を貸す。
 白虎で初お披露目の舞台に立つ。
 董胡に厳しい舞の稽古を行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:朱璃の光貴人の舞に憧れて舞団に入った。


白虎・百滝の大社 / 隠れ庵

泰全(たいぜん)

百滝の大社の祭主である。
人当たりのよい好相な人物である。
その裏で、邪悪な内情を隠し持つ。

・所属組織、地位や役職
 百滝の大社の祭主。

・物語内での具体的な行動や成果
 不法移民の件を帝に知らせなかった。
 其那国の少女たちを不当に選別している。
 少女たちを眠らせて妓楼へ売却した。
 マゴイの一族に心を操られていた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:大社の祭主として大きな影響力を持ち、不法移民の情報を遮断した。

洛陽(らくよう)

大社の巫女を束ねる巫女頭である。
責任感があり、真面目な性格である。
祭主の言葉を信じ切っている。

・所属組織、地位や役職
 百滝の大社の巫女頭。

・物語内での具体的な行動や成果
 董胡たちの探索を不審に思う。
 しかし、朱璃の美貌に魅了されて許した。
 其那国の不法移民たちに仕事を与える。
 行き届いた看病を施したと信じ込む。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 (特になし、記述しない)

宝庵(ほうあん)

隠れ庵の宮司である。
元は百滝の大社の大宮司であった。
清廉で、温和な風貌を持つ。

・所属組織、地位や役職
 隠れ庵の宮司。元大宮司。

・物語内での具体的な行動や成果
 私財を投じて隠れ庵を建設した。
 行き場のない女性たちを保護している。
 其那国の政変の事実を董胡に伝える。
 マゴイの一族について詳しく話した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:かつては王宮の医官も務めていた。


其那国

ルカ

其那国の王女である。
金茶色の髪と紺碧の瞳を持つ。
行方不明の姉を捜すためにやってきた。

・所属組織、地位や役職
 其那国の王女。不法移民。

・物語内での具体的な行動や成果
 選別されて妓楼に売られそうになった。
 董胡たちに救われて后の部屋に匿われる。
 姉であるナティアと再会を果たす。
 大社で丸薬作りの手伝いを始めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:其那国の政変から不法移民に紛れて逃れてきた。

ナティア

其那国の王女である。
ルカの姉に当たる。
国を逃れてきた不法移民である。

・所属組織、地位や役職
 其那国の王女。不法移民。

・物語内での具体的な行動や成果
 マゴイの一族に心を操られてしまった。
 その結果として、マゴイの子を身ごもる。
 隠れ庵に保護されて暮らしていた。
 マゴイの一族の脅威を董胡たちに教える。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:マゴイの一族による凄惨な十五カ月児の出産を恐れて逃れてきた。

ニーナ

其那国から隠れ庵に逃れてきた女性である。
ルカたちと同じ容姿を持つ。
非常に危険な難産を迎える。

・所属組織、地位や役職
 不法移民。

・物語内での具体的な行動や成果
 マゴイの子を身ごもっていた。
 妊娠十五カ月目の異常なお産を迎える。
 犀爬たちの必死の処置を受ける。
 しかし、大量の出血によって死亡した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 (特になし、記述しない)

ユラ・マゴイ

其那国から侵入した冷酷な男である。
マゴイの一族の主犯格である。
銀の長い髪に紺碧の瞳を持つ。

・所属組織、地位や役職
 マゴイの一族の主導者。

・物語内での具体的な行動や成果
 祭主の泰全の心を操って少女を誘拐させた。
 后行列を狙って大社に侵入する。
 麒麟の血筋の娘を捕らえようとした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:高貴な麒麟の血とマゴイの血を掛け合わせることで覇者の子を得ようとしている。


集団

朱雀の赤軍

朱雀公の命で動く公軍である。
后行列の護衛として活躍した。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の公軍。

・物語内での具体的な行動や成果
 后行列の周囲を厳重に警護する。
 大社の不審者を排除した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 (特になし、記述しない)

麒麟の密偵

皇帝の命で働く隠密である。
主に情報の収集や后の護衛を担う。

・所属組織、地位や役職
 皇帝直属の密偵。

・物語内での具体的な行動や成果
 其那国の異変をいち早く捉えた。
 大社に侵入して董胡たちの周辺を見守る。
 不穏な情勢を王宮へ報告した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 (特になし、記述しない)

朱雀の芸団

朱雀が誇る芸能集団である。
后行列を賑やかに演出した。

・所属組織、地位や役職
 朱雀の芸団。

・物語内での具体的な行動や成果
 后行列の沿道で舞や曲芸を披露する。
 民衆に帝の治世の安定をアピールした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 (特になし、記述しない)

マゴイの一族

其那国の邪悪な一族である。
銀の髪を生まれながらの印として持つ。
人の心の隙を操る能力を持つ。

・所属組織、地位や役職
 其那国の神官の血筋。

・物語内での具体的な行動や成果
 其那国の王宮を完全に掌握した。
 若い女性たちに十五カ月児を強制的に産ませる。
 麒麟の血を引く娘の拉致を計画した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆事項:切開術を完成させたことで一族の人数が急増した。

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薬膳妃 7巻レビュー
薬膳妃 まとめ
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展開まとめ

序 

董胡の正体

女性であることを隠して医師となった董胡は、行方不明だった玄武公の一の姫・鼓濤とされ、五年前に出会った憧れの黎司へ嫁いでいた。董胡は薬膳料理で危機を乗り越えながら半年を過ごし、青龍で自分が本物の鼓濤だと知ったことで、黎司へ真実を告げる決意を固めた。

白龍を捜す旅

董胡は告白の前に、自身の生い立ちを知る白龍が白虎にいる可能性を追うことにした。朱雀の后・朱璃と共に、白龍を捜すための白虎行きを計画した。

交錯する秘密

黎司は董胡が女性だと気付き、楊庵へ事実を問いただしたうえで、正体が露見した際には安全な場所へ逃がして守るよう頼んでいた。しかし黎司は董胡が玄武の后であることを知らず、楊庵も同じ秘密を知らなかった。

一方、尊武だけは董胡が女性であり、鼓濤でもあることを把握していた。それぞれが異なる真実を抱える中、董胡は白龍を求めて白虎へ向かおうとしていた。

一、鼓禱のおねだり 

子宝祈願の練習

朱璃は、鼓濤が黎司へ子宝祈願を願い出るための演技を指南した。しかし妓楼の駆け引きを参考にした台詞は董胡らしくなく、董胡は普通に頼むことに決めた。

朱璃は断られた場合、雪白の件を持ち出して黎司を責め、許可を得ると請け負った。

春牡丹御膳

夜、黎司が玄武の后宮を訪れ、奏優の無礼を謝罪した。董胡は紅牡丹を添えた春牡丹御膳を用意し、牡丹の花びらの甘酢和えや蕪の牡丹鍋風餡かけ、春野菜の料理、牡丹餅を振る舞った。

董胡は牡丹と芍薬の違いや、生薬としての効能、美人を花に喩える言葉に医生ならではの意味があることを説明した。黎司は董胡との食事には新しい発見があり、食べることを楽しいと思えるようになったと感謝した。

信頼の告白

黎司は、鼓濤へ心を許しきれないと告げた過去の言葉を撤回したいと話した。容姿や素性に関係なく、鼓濤を人として信頼し、もっと近くで理解したいと願っていた。

鼓濤が顔や素性に負い目を感じているなら、どのような事実でも悪いようにはせず、秘密にすると約束したうえで、御簾を上げて顔を見せてほしいと頼んだ。

打ち明けられない真実

董胡はすでに真実を話す決心をしていたが、白虎へ行った後に告白するつもりだったため、突然の申し出に言葉を失った。

黎司は沈黙を拒絶と受け取り、無理強いしたことを謝った。それでも容姿や素性以上に鼓濤を信頼し、彼女の抱えるものを共に背負いたいと伝えた。

白虎行きの願い

立ち去ろうとする黎司を董胡は呼び止め、自分もすべてを話す決意を固めていると告げた。ただし生い立ちには不明な点があり、それを知る人物が白虎にいる可能性があると説明した。

董胡はその人物を捜して真実を確かめた後、黎司の前へ姿を現し、すべてを打ち明けて裁可を受け入れると約束した。

子宝祈願の口実

董胡は朱璃と共に、紅拍子の興行へ同行し、子宝祈願を名目に白虎の大社へ向かいたいと願い出た。后二人の参詣は黎司の治世の安定を民へ示すことにもなると説明した。

黎司は朱璃にはすべて話しているのだと複雑な様子を見せたが、后二人の外出は自分だけで決められないため、返答を預かると告げた。

董胡は白虎へ行けば迷いを振り払い、黎司へ真実を話せると確信していた。黎司は後日連絡すると約束し、玄武の后宮を後にした。

二、様子のおかしい揚庵 

白虎行きの許可

黎司が玄武の后宮を訪れた数日後、鼓濤と朱璃による子宝祈願の白虎行きが許可された。

朱璃は黎司へ、雪白の懐妊騒動で鼓濤がどれほど傷ついたかを長々と説き、外出を認めさせていた。さらに朱璃の母が后行列を伴う興行へ乗り気になり、朱雀公へ強く働きかけたことも許可の決め手となった。

百滝の大社

董胡は旅の常備薬を揃えるため、薬庫の万寿を訪ねた。行き先が白虎の昴宿にある百滝の大社だと知った万寿は、虎威大山では急な豪雨が多いため、蓑笠を用意するよう助言した。

董胡は悪阻が続く万寿の妻へ甘さを抑えた牡丹餅を渡し、万寿は董胡の料理なら妻も食べられるかもしれないと喜んだ。

楊庵との仲直り

薬庫の戸口には、先日の口論以来気まずくなっていた楊庵が立っていた。万寿は二人を残して奥へ下がり、話し合うよう促した。

楊庵は突然、董胡が今も黎司の専属薬膳師になりたいのか、黎司を好きなのかと尋ねた。さらに、黎司が董胡を妻にしたいと言った場合にどうするかと問いかけた。

董胡は黎司が自分を男性だと思っているため、そのようなことはあり得ないと答えた。しかし実際にはすでに黎司の后であり、真実を楊庵へ明かせずにいた。

楊庵の約束

楊庵は、董胡が女性だと露見した場合の危険を心配した。宮内局の局頭である尊武が不正に厳しく、部下を死罪にしたこともあると語り、董胡の秘密が知られれば何をされるか分からないと警告した。

董胡は尊武にすでに正体を知られていることを隠した。すると楊庵は、秘密が露見した時には必ず董胡を安全な場所へ逃がし、治療院でも薬膳料理の店でも望むものを用意すると約束した。

董胡は楊庵を役目から解放したかったが、真逆に守る決意を強めさせてしまった。それでもこれまでと変わらず頼りにしていると伝え、二人は仲直りした。

白虎への同行

万寿が揃えた質の良い生薬を受け取り、董胡は白虎への旅支度を整えた。

楊庵は自分も密偵として白虎行きへ同行すると明かした。董胡は彼を危険に巻き込みたくないと思いながらも、そばにいてくれることを嬉しく感じ、白虎から戻るまで頼ることにした。

尊武の目撃

董胡と楊庵が薬庫から出る様子を、宮内局の官吏を従えた尊武が遠くから目撃した。

尊武は楊庵に見覚えを感じ、官吏たちを待たせて一人で薬庫へ入った。万寿から、楊庵が董胡の旧知で兄弟子にあたり、皇帝の内医官に仕える使部だと聞き出した。

尊武の関心

尊武は、董胡が白虎への子宝祈願に同行することも知った。さらに楊庵と董胡の関係を確認すると、意味ありげに笑って薬庫を去った。

万寿は尊武が平民の楊庵へ関心を示した理由を理解できず、不安を抱いたまま、董胡たちへ知らせる機会を得られずにいた。

三、蒼天のお散歩 

蒼天への初騎乗

白虎への出発を二日後に控え、董胡は黎司に呼ばれて黄軍の馬場を訪れた。急速に成長した蒼天はすでに人を乗せられる体格となっており、軽くて蒼天に懐かれている董胡が初めて背に乗ることになった。

董胡は黎司、翠明、空丞に支えられて蒼天へまたがった。最初は高さに怯えたが、黎司が手綱を引き、姿勢を教えながら歩いてくれたため、次第に馬上へ慣れていった。

白虎行きへの心配

黎司は董胡も鼓濤に同行して白虎へ向かうと知り、行くなと告げた。しかし止めても董胡は出発すると分かっており、無茶をせず必ず帰るよう約束させた。

黎司は護衛に守られる鼓濤や朱璃より、平民医官として無理をしがちな董胡を最も心配していた。董胡が后たちと同じ牛車に乗ると聞くと、鼓濤が事情を知って守っているのだと考え、少し安堵した。

董胡は無事に帰った後こそ、黎司へすべてを打ち明け、嘘を重ねる日々を終わらせると決意した。

馬上からの転落

馬場を一周した董胡は、蒼天から下りる方法が分からず動けなくなった。黎司の指示通りに足を動かそうとしたが、鐙から足が外れて体勢を崩した。

黎司は董胡を受け止めようとして共に倒れ、自ら下敷きとなって庇った。董胡は青ざめて謝ったが、黎司は怪我もなく、再び董胡に馬乗りにされる運命らしいと笑った。

離したくない董胡

黎司は董胡の腰を抱えたまま、すぐにどこかへ行きそうだから離さずにおこうかと告げた。その視線には今までにない切実さと甘い熱があり、董胡は戸惑いながら目を逸らした。

黎司は冗談だとして手を離したが、自分が董胡を守りたかったのだと語った。さらに男ならできて当然と思われることでも、不得手なら無理に応じる必要はないと諭した。

董胡は男たちに劣らないよう力み続けてきたが、できないことを恥じなくてよいという黎司の言葉に、肩の力が抜けるような安らぎを感じた。

黎司の不安

馬場を離れた後、黎司は翠明へ、董胡を止めれば自分の前から消えると言われることが怖かったと明かした。

翠明も董胡が女性だと知らされてから改めて観察し、華奢な体や細い首筋と手首は成人男性では隠しきれないと判断していた。董胡が成人すれば髪型も変わり、女性であることを誤魔化すのはさらに難しくなる見込みだった。

黎司は以前、董胡が尊武に抱かれて自分の前から去る夢を見たこともあり、彼女が近いうちに姿を消すのではないかという不安を拭えずにいた。

女性医師の制度

黎司は董胡が消えずに済む居場所を作るため、女性医師を育成する麒麟寮の設立を急いでいた。朱雀公と白虎公は后詣での許可と引き換えに賛成し、医師不足に悩む青龍公も反対しない見込みであった。

玄武公だけが反対していたものの、議案の成立はほぼ確実となっていた。黎司は董胡が白虎から戻った後、最初の女性医師となるよう提案し、翠明の養女として貴族医師とする道も考えていた。

そうなれば董胡は女性であることを隠さず、正式に黎司の専属薬膳師となることも可能だった。黎司は董胡を驚かせ、喜ばせるつもりで準備を進める中、鼓濤と朱璃が白虎へ出発する日を迎えた。

四、 子宝祈願の后行列 

后詣での出発

白虎への出発当日、皇宮の大庭園では華やかな見送りの儀が行われた。鼓濤と朱璃は豪華な輿に乗り、侍女や朱雀の赤軍を従えて黎司から道中の無事を祈る言葉を受けた。

董胡は御簾の隙間から黎司を見つめ、必ず戻り、今度こそ嘘のない自分として再会すると心に誓った。

后行列の賑わい

王宮を出て牛車へ乗り換えると、朱璃は堅苦しい挨拶から解放されて寛ぎ始めた。鼓濤の侍女が少ないため、王琳だけでなく茶民と壇々も同行しており、二人は初めての外出と白虎への旅を楽しみにしていた。

行列が進む沿道には大勢の民が集まり、軽業師や舞妓、剣舞の一団が次々に芸を披露した。朱璃の弟・旺朱の一団も参加しており、華やかな興行が人々を沸かせていた。

民の歓声

沿道からは后たちの無事を願う声や、黎司を称える歓声が上がった。董胡は王宮内で貴族に軽んじられる黎司が、民から強く慕われていることを知って安堵した。

朱璃は、各地の麒麟の社と結びつく民は、神官たちが黎司を信奉する限り皇帝の味方であり、貴族よりも純粋に皇帝を崇めていると説明した。

旅酒と恋愛指南

朱璃は牛車の中で酒を飲み始め、董胡にも勧めた。董胡は鼓濤と薬膳師を使い分ける必要があるため断ったが、朱璃は後宮で生き残るには妓楼と同じく強かさが必要だと説いた。

さらに董胡には女性としての色気が足りず、濤麗と同じ美貌を持ちながら、長く男として暮らした習慣が残っていると指摘した。

舞姫への思いつき

董胡は男として過ごす方が自然であり、自分らしさを失ってまで黎司に好かれたいとは思わないと考えていた。

しかし酔った朱璃は、舞を覚えれば自然に女性らしい所作が身につくと思いつき、白虎への道中で董胡を舞姫へ育てると宣言した。

董胡は白龍を捜すことが旅の目的だと訴えたが、朱璃は聞かないまま眠ってしまった。董胡は目覚めた時にその計画を忘れていることを願い、ため息をついた。

五、昴宿の百滝の大社 

白虎の町と后行列

后行列は白虎へ入ると、朱雀の芸団が先回りして町の安全を確かめながら興行を行い、沿道の人々を沸かせて進んだ。朱璃は歓声に応えようと顔を出しかけたが、禰古に止められていた。

長い旅を共にするうち、王琳と禰古は手のかかる后に仕える侍女頭同士として意気投合した。一方、董胡と朱璃は百滝の大社へ着いた後、二人とも薬膳師に変装して抜け出す計画を進めていた。

王琳と吐伯の願い

最初の宿で、王琳は亡夫・吐伯と百滝の大社へ子宝祈願に行く約束をしていたと明かした。子ができず別の妻を迎えるよう願った王琳に、吐伯は妻は王琳だけでよく、跡継ぎなら養子を迎えればよいと答えていた。

吐伯は沈み込む王琳へ診療所の手伝いを頼み、彼女が能力を生かせる生き甲斐を与えていた。王琳はやがて、子を産むことだけでなく、働いて人の役に立つ人生こそ自分に向いていると気付いていた。

董胡の迷い

王琳は、自分に授からなかった子を鼓濤が産み、その皇子を守ることが吐伯から託された新たな役目のように感じると語った。

董胡は、自分が長く男性として自然に生き、医術と薬膳を生き甲斐としてきたため、妻や母になることを最高の幸せと思えないと打ち明けた。他の后と寵愛を争い、皇子を産むことだけに人生を捧げる姿を想像できず、自分の心が本当に女性なのかさえ疑っていた。

作られた姫君像

王琳は、貴族の姫君が幼い頃から夫に仕え、男児を産むことだけが幸せだと教え込まれていると語った。それは女性を従わせるために作られた思い込みであり、愛する夫や子以外に生き甲斐を持ってもよいのだと吐伯との暮らしから知っていた。

王琳は、董胡こそ余計な価値観を植え付けられずに育った自然な女性であり、そのまま皇后になれば、苦しむ女性たちへ別の生き方を示せると励ました。董胡は自分が欠けた女性ではないと思えるようになり、后という立場への不安を和らげた。

百滝の大社

数泊の旅を経て、一行は昴宿の百滝の大社へ到着した。山上に建つ白い社殿の特別室からは、虎威大山を流れる幾筋もの滝が見渡せた。

董胡と朱璃は湯と聖水で身を清め、白装束に着替えて祭主による子宝祈願を受けた。董胡は祭主の両腕に赤紫色の痣を見つけて病を疑ったが、本人は健康そうに見えたため考え過ぎだと思い直した。

祭主・泰全

祈禱後、祭主の泰全は后二人を歓迎し、百滝の一部が玄武の壁宿にある湖へ続いていると説明した。一行は願いを叶える雨水を得る名目で、十日ほど大社に滞在する予定であった。

朱璃が白龍という神官について尋ねると、泰全は一瞬表情をこわばらせ、十数年前に玄武公から同じ人物を捜していると聞かれたが、知らないと答えたと話した。

其那国の流れ者

大宮司は、近頃其那国から不法に渡ってきた者が占い師を名乗り、白龍という名を使っている可能性を示した。

大宮司たちは不法移民が急増していることへの不満を口にし、黎司の対応が遅いと訴えた。泰全は強い口調で制し、白虎公を通じて対策が進んでいると説明して話を打ち切った。

薬膳師への変装

夜、董胡と朱璃は医官服に着替え、社殿内の探索へ出た。朱璃は光と名乗り、朱雀の后付き薬膳師を装った。

二人は山の斜面へ掘り込まれた地下階を進み、大きな厨房へ辿り着いた。そこでは多くの従者に交じり、金茶色の髪と紺碧の瞳を持つ其那国の少女たちが働いていた。

巫女頭・洛陽

立入禁止の通路へ入った二人は、巫女頭の洛陽に見つかった。董胡が后の夜食を作るため厨房を探していたと説明すると、朱璃は美貌と巧みな言葉で洛陽の心を掴み、滞在中に竈を使う許可を得た。

董胡は其那国の野菜・火焔菜や、ライ麦から作る麺麴に興味を示した。少女たちは伍尭國の言葉を理解できず、怯えながら黙々と作業していた。

倒れた少女

洛陽は、其那国から流れてきた若い娘の多くが妓楼へ売られ、逃げ出して行き倒れた者を泰全が保護していると説明した。しかし心労と衰弱から寝込み、毎日のように死者が出ていた。

その最中、一人の少女が突然倒れた。洛陽はこれまでと同じく助からないと判断したが、董胡は脈と呼吸を確かめ、血虚の可能性を考えた。

董胡は少女を看病させてほしいと願い、朱璃がその体を抱き上げた。二人は洛陽に案内され、少女を巫女たちの空き部屋へ運んだ。

六、其那國の少女 

其那国の少女の容体

空き部屋へ運ばれた少女は低栄養による気血両虚であったが、五色は均等に整っており、すぐに死ぬほど重い状態ではなかった。董胡は十全大補湯と粥を用意し、朱璃と共に看病した。

少女は目を覚ますと毒を恐れて粥を拒んだが、董胡が先に食べて安全を示すと、空腹に耐えかねたように夢中で食べ始めた。

隠されていた言葉

少女は其那国の者でありながら、伍尭國の言葉を話せた。話せることが知られれば妓楼へ売られるため、周囲には理解できないふりをしていたのである。

少女は、巫女たちは何も知らず、祭主の泰全こそが其那国から来た娘たちを大社へ集め、売り物になる者を選別していると明かした。

眠り薬の粥

泰全は伍尭國の言葉を話せる容姿のよい娘を選び、その粥へ眠り薬を入れていた。気を失った娘は安置所へ運ばれ、共謀する番兵によって外へ連れ出され、妓楼へ売られていた。

巫女たちには娘が衰弱して死んだと伝えられていた。そのため少女たちは、粥を食べて売られるか、食べずに飢えるかという状況へ追い込まれていた。

少女の救出願い

少女は次に選ばれるのが自分だと番兵の話から知り、董胡たちへ助けを求めた。后行列と芸団が滞在している間は泰全も騒ぎを避けるため、目立った行動を控えるつもりであった。

少女は自分が死んだことにし、番兵へ渡したと巫女たちへ伝えれば誤魔化せると提案した。そして其那国と伍尭國の両方の言葉を話せるため、必ず役に立つと訴えた。

后の部屋への匿い

朱璃は少女を助けると即座に決めた。后の通り道は常に人払いされ、侍女が一人増えても気付かれにくいため、部屋へ匿って連れ出すことが可能だと考えた。

こうして董胡と朱璃は、泰全の人身売買から其那国の少女を救うため、后の部屋へ隠すことにした。

七、綺羅のお披露目 

芸団への避難

董胡と朱璃は、其那国の少女が死んだと洛陽へ伝えた。洛陽は疑うことなく受け入れ、祭主側にも目立った動きはなかった。少女はルカと名乗り、十三歳であった。

董胡たちはルカを后の部屋へ匿ったが、王琳と禰古は安全上の問題から強く反対した。そこで朱璃は、珍しい容姿でも不自然ではない朱雀の芸団へ預けることを提案し、三人は幕営へ向かった。

旺朱との再会

芸団の大天幕で、董胡と朱璃は旺朱と再会した。朱璃がルカの事情を説明すると、旺朱は姉の無茶に呆れながらも受け入れを検討した。

一番弟子の綺羅も現れたが、朱璃と親しい董胡には冷たい態度を見せた。話し合いの結果、ルカは旺朱の世話係として芸団で働くことになった。

負傷した舞妓

綺羅の初披露で共に舞う予定だった少女が、道中で足首を痛めていた。董胡が診察すると骨にひびが入っている可能性があり、舞える状態ではなかった。

董胡は足を固定し、痛み止めの薬湯と塗り薬を用意した。少女は大切な舞台へ出られないことを悔やみ、綺羅へ何度も泣いて詫びた。

巫女舞の代役

紅拍子の舞には綺羅の後ろで舞う三人の巫女が必要だったが、朱璃では背が高く主役より目立ち、ルカは髪と瞳の色を隠せなかった。

皆の視線が董胡へ集まり、朱璃は背丈が綺羅と釣り合う董胡を代役に決めた。董胡は舞の経験がなく、お披露目まで二日しかないと拒んだが、朱璃は巫女舞なら覚えられると押し切った。

紅拍子への変装

董胡は朱璃と綺羅から厳しい稽古を受け、朱色の袴と白い千早をまとった。綺羅は舞台用の濃い化粧を施し、医官姿とは別人に見える美しい巫女へ仕立てた。

王琳たちには舞台へ出ることを知らせていなかった。董胡は不安を抱えながらも、負傷した少女のために代役を務める覚悟を決めた。

朱璃の剣舞

催しでは旺朱の曲芸や舞い童子に続き、能面をつけた剣士たちの剣舞が披露された。その中で際立って華やかな剣士は、密かに舞台へ上がった朱璃であった。

朱璃は男性剣士にも劣らない力強さと軽やかさで舞い、観客の大歓声を浴びた。ルカは薬膳師だと思っていた朱璃の自由な姿に驚き、伍尭國では人々が伸び伸び暮らしているのだと感じた。

其那国の変化

ルカは、其那国が魔物に取り込まれて変わってしまったと語った。若い娘たちは攫われたのではなく、自ら国を逃れて伍尭國へ渡ってきたのであり、ルカは行方不明になった姉を捜すために同行していた。

董胡が詳しく聞こうとしたところで舞台への出番を告げられ、話は中断された。

羅貴人の初舞台

綺羅は羅貴人として本舞台へ上がり、三人の巫女を従えて紅拍子を舞った。董胡も巫女の一人として鈴を鳴らし、覚えた舞へ全身全霊で取り組んだ。

舞は拙かったものの、董胡の無心な姿には人を惹きつける輝きがあり、観客の目を引いた。初披露は大きな成功を収めた。

王琳の発見

御簾から舞台を見ていた王琳と禰古は、剣舞の剣士が朱璃ではないかと気付き、呆然とした。

さらに王琳は巫女の一人が董胡だと見抜き、鼓濤が舞台へ立っている事実に眩暈を起こした。茶民と壇々は事情に気付かず舞を楽しんでいたが、王琳は鼓濤を甘やかし過ぎたと冷ややかに告げ、帰還後に厳しく叱ることを決めた。

八、隠れ庵 

侍女頭からの逃走

百滝の大社に滞在して四日が過ぎても雨は降らず、董胡と朱璃は再び外出を企てた。しかし王琳と禰古は、毎日のように部屋を抜け出し、芸団の舞台にまで上がった二人を厳しく叱責した。

黎司へ報告すると言われて焦った董胡と朱璃は、侍女頭たちの説教から逃れるように部屋を飛び出した。二人は芸団でルカを迎え、白龍とルカの姉を捜すため白虎の町へ向かった。

其那国の魔物

白虎の中心街を歩きながら、ルカは姉が魔物から逃げたのだと語った。其那国の若い娘たちは攫われたのではなく、自ら伍尭國へ逃れてきており、ルカは行方不明となった姉を捜すために彼女たちへ紛れて渡ってきていた。

ルカは、其那国から逃げた女性は百滝の大社、妓楼、または町外れの隠れ庵にいると聞いていた。董胡たちは、まず隠れ庵で姉を捜すことにした。

女性だけの隠れ庵

町外れの小高い場所に建つ隠れ庵では、逃げ込んだ女性を守るため、男性の立ち入りが禁じられていた。医官姿の董胡と朱璃も拒まれたが、元王宮医官の神官・宝庵が現れ、二人の服装から医官だと判断して中へ招いた。

宝庵は白虎の麒麟寮で学び、王宮医官や百滝の大社の大宮司を務めた後、私財で隠れ庵を建てていた。匿った女性たちと丸薬を作って売り、生活を支えていた。

ルカの姉捜し

宝庵は其那国の女性を何人も受け入れており、ルカの名と事情を伝えて姉がいないか確かめると約束した。

董胡たちが百滝の大社でルカを助けた経緯を話すと、宝庵は二人が后詣でに同行した王宮医官だと見抜いた。そして后を通じて黎司へ重大な情報を伝えてほしいと頼んだ。

其那国の内乱

宝庵が伝えようとしていたのは、泰全による少女の売買ではなく、其那国で起きている内乱であった。

其那国の異変は一年以上前から知られていたが、黎司へ情報が届いていない可能性があった。宝庵は、白虎の麒麟組織を動かせる泰全が情報を遮断していることも疑っていた。

銀の髪の一族

其那国には、特別な力を持つマゴイの一族が存在した。彼らは全員が銀色の髪を持ち、王家へ仕える希少な血筋であった。

数年前、その一族の女性と其那国の王子の間に、王家の血を引く銀髪の男児が誕生した。王子の他の男子は相次いで死亡し、現在はその子だけが後継者とされていた。

その後、其那国の王と王子はマゴイの一族に従うようになり、重臣の多くも銀髪の者へ入れ替わっていた。宝庵は、すでに政変が起きていると説明した。

姉妹の再会

宝庵が使いを出した後、其那国の女性が部屋へ駆け込んできた。彼女はルカの姉・ナティアであり、姉妹は互いを抱き締めて再会を喜んだ。

ナティアは半年前に其那国を逃れ、宝庵に保護されて隠れ庵で働いていた。董胡と朱璃は其那国で起きたことを尋ねたが、ナティアは言葉を濁した。

ニーナの産気

そこへ隠れ庵の女性が現れ、ニーナという女性が産気づいたと知らせた。

国一番と評判の産巫女は滞在していたが、宝庵は出産後の処置を自分一人では行えないと語った。強く頼まれた董胡と朱璃は、事情を聞けないまま出産へ立ち会うことになった。

九、十五カ月児 

異常な妊娠

産気づいたニーナは其那国の女性であり、立ち会っていた産巫女は犀爬であった。董胡は難産を疑ったが、胎児は逆子でも双胎でもなく、男児一人であった。

しかしニーナは妊娠十五カ月に達していた。胎児は生きていたものの頭が大き過ぎて骨盤を通れず、激しく母体を突き動かしていた。

十五カ月児

宝庵は、其那国では十五カ月児を腹から取り出すために切開術が発達したと明かした。ニーナの胎児はマゴイの一族の血を引く可能性が高かった。

隠れ庵ではこれまでにも同じような妊婦が三人おり、正期産を促しても生まれず、堕胎薬を使った妊婦も胎児に腹を突き破られるようにして死亡していた。

マゴイの血

ナティアとルカは、マゴイの一族は人間ではなく、地界から来た魔物だと語った。銀髪で天人のように美しい一方、生まれながらに残酷な存在だと恐れていた。

董胡と朱璃は信じきれなかったが、胎児が母体を動かすほどの力を示したことで、その異常さを目の当たりにした。

ニーナの死

胎児が激しく骨盤を押した結果、ニーナは胎盤早期剥離を起こして大量出血した。董胡は止血薬を作ろうとしたが、朱璃は助かる見込みがないと告げた。

ニーナはほどなく息を引き取り、董胡は目の前の命を救えなかったことと、大量の血に動揺した自分へ強い無力感を抱いた。

死後も動く胎児

ニーナが死亡した後も、胎児は生まれようとして母体を何度も突き動かした。胎盤が剥がれ、母体の命が尽きても動き続ける姿に、犀爬や宝庵を含む全員が恐怖した。

やがて胎児の動きは徐々に弱まり、力尽きたように止まった。部屋には言葉を失った者たちだけが残り、マゴイの血への恐怖が深く刻まれた。

十、皇宮の緊急殿上会議 

緊急の殿上会議

皇宮では火急の知らせを受け、黎司が四公と重臣を緊急招集した。玄武公は度重なる呼び出しや女性の麒麟寮設立へ不満を示したが、黎司は賛成多数ですでに成立が近いと退けた。

黎司は后詣でに同行した麒麟の密偵から重大な報告が届いたと明かし、白軍と黄軍の一部を白虎へ派遣すると告げた。

其那国の政変

密偵の報告によれば、白虎の海峡を隔てた其那国では、ある一族が王家を掌握する内乱が起きていた。

さらに其那国から白虎へ逃れる者が急増し、少女が妓楼へ売られたり、下働きとして表に出ない場所で暮らしたりしていた。白虎公は状況を把握しておらず、百滝の大社の祭主からも何の報告も受けていなかった。

黎司は祭主が情報を遮断していた可能性を疑い、白軍に調査を命じるとともに、空丞率いる黄軍を昴宿へ送って后たちの帰路を守ることにした。

尊武の志願

尊武は黒軍を率いて鼓濤たちを迎えに行きたいと申し出た。黎司は尊武を董胡へ近付けたくなかったため拒もうとしたが、尊武は其那国への滞在経験があり、現地の言葉も多少話せると説明した。

さらに内乱を起こした可能性のある銀髪のマゴイの一族についても知識があり、五年ほど前に王家の血を引く男児が生まれていたと明かした。

マゴイの台頭

尊武は、絶滅寸前と思われていたマゴイの若者が其那国の王宮に大勢おり、王と王子も一族の言いなりになっていると語った。

その情報を早く報告しなかったことを謝罪したが、黎司は何らかの意図を疑いながらも真意を読み取れなかった。重臣たちは尊武の同行を支持し、黎司も不本意ながら黒軍を率いて白虎へ向かうよう命じた。

禁書の書庫

会議後、黎司は皇帝だけが入れる皇宮上層の禁書庫へ向かった。そこには歴代皇帝の記録や、麒麟の力に関する書物が大量に保管されていた。

黎司は以前見かけた其那国とマゴイの一族に関する記録を探し、日が暮れるまで書庫を調べ続けた。

先々代皇帝の記録

黎司はようやく先々代皇帝の日記から、其那国について記された一冊を見つけた。

そこには黎司の想像を超える事実が書かれており、彼は愕然としながら、翠明が式神を寄こすまで読み続けていた。

十一、其那國の姉妹 

其那国の調査

百滝の大社に到着して五日が過ぎても雨は降らず、董胡と朱璃は別行動で其那国の情報を集めることにした。朱璃は芸団と共に町を調べ、董胡は楊庵を伴って隠れ庵へ向かった。

麒麟の密偵は其那国の政変と不法移民についてすでに王宮へ知らせていたが、マゴイの一族の詳細までは把握していなかった。そのため董胡は、ルカとナティアから詳しい事情を聞き出そうとした。

マゴイの増加

ナティアは、五十年ほど前に一人のマゴイが多くの女性を孕ませ、腹を切って子を取り出したことで、十数人の子が生まれたと語った。

その中の一人が医術を学び、腹を切った後に傷口を縫って妊婦を救う切開術を完成させた。これによってマゴイは数を増やし、現在では百人を超える一族になっていた。

マゴイの女児

切開術の発達によって、以前は生まれにくかったマゴイの女児も生き延びるようになった。マゴイの女性は男性以上に大柄で、十五カ月児を産める骨格を持っていた。

その結果、五年前にはマゴイの娘が其那国の王子との間に男児を産み、王家の後継者となる可能性を持つ子が誕生していた。

人心を操る力

マゴイの力は、人の心を操ることであった。一人のマゴイが操れるのは一人だけだが、恐怖や悲しみ、妬み、絶望などの闇へ入り込み、心を占領して思うままに動かしていた。

マゴイが百人を超えたことで、多くの重臣や王族を同時に支配できるようになり、其那国の王宮は銀髪の者たちに掌握されていた。

其那国の王女姉妹

ナティアとルカは、其那国の王女であることを明かした。父王は王妃の死による悲しみへ付け込まれ、マゴイの言葉しか聞かない別人のようになっていた。

兄王子も父と貴族たちの間で苦しんだ心の隙をマゴイの娘に狙われ、その娘との間に銀髪の王子をもうけていた。

麒麟の血への狙い

ナティアは、マゴイが本当に欲しているのは其那国の王家ではなく、伍尭國の麒麟の血だと告げた。

五十年前に生まれたマゴイの女児の一人は、麒麟との子を得るため伍尭國の皇帝へ嫁がされたという。しかし病弱な娘を送り込む方法を諦めたマゴイは、今度は高貴な麒麟の姫君を狙うようになっていた。

今回の后詣では、王宮の奥から姫君が外へ出る絶好の機会であり、すでにマゴイが昴宿へ潜入している可能性があった。

鼓濤の血筋

后詣での一行に麒麟の血を濃く引く姫君がいるかと問われ、董胡は自分が濤麗の娘であることを思い浮かべた。

しかし正体を知られる恐怖から、麒麟の血筋を持つ姫君はいないと答えた。ナティアは安堵しながらも、マゴイを警戒して早く王宮へ戻るよう忠告した。

ナティアの懐妊

犀爬はナティアを見て、子を身ごもっていると見抜いた。ナティアは其那国にいた頃、心の闇へ入り込んだマゴイによって妊娠させられ、半年前に逃げてきたと告白した。

堕胎薬を使えば母体ごと死ぬ危険があり、出産すれば十五カ月児となる可能性が高かった。董胡は助ける方法を探そうとしたが、犀爬は血を見ることさえできない董胡に切開術は不可能だと突きつけた。

楊庵の提案

帰り道、董胡は楊庵へ、其那国とマゴイの情報を急いで王宮へ伝えるよう頼んだ。

楊庵は危険を避けるため、董胡だけでも先に帰るよう勧めた。さらに玄武の后のもとを離れ、自分と共に王宮を出て薬膳料理の店や治療院を開こうと持ちかけた。

楊庵の抱擁

董胡は鼓濤や朱璃を残して逃げることはできないと拒んだ。楊庵は、黎司にとって大切なのは后たちであり、薬膳師の董胡は部外者に過ぎないと厳しく告げた。

傷ついた董胡が立ち去ろうとすると、楊庵は後ろから抱き締め、共に王宮を出てほしいと懇願した。

董胡は楊庵の願いを叶えたいと思いながらも、それだけはできないと謝り、腕を振りほどいて大社へ駆け戻った。

十二胡の正体 

別行動の調査

百滝の大社に到着して五日が過ぎても雨は降らなかった。朱璃は芸団と港町を調べ、董胡は楊庵と隠れ庵へ向かい、マゴイの一族について詳しい情報を集めることにした。

麒麟の密偵は其那国の政変と移民の急増をすでに黎司へ報告していたが、マゴイの実態は把握していなかった。董胡はニーナを救えなかった無力感を抱えながらも、其那国の女性たちのために調査を続けた。

切開術とマゴイの増加

ナティアによれば、かつて少数だったマゴイの一族は、女性の腹を切って胎児を取り出すことで十数人の子を得た。その子の一人が切開後の傷を縫い、母体を生かす医術を完成させたため、一族は百人を超えるまでに増えていた。

切開術によって、それまで生まれにくかったマゴイの女児も成長できるようになった。大柄なマゴイの女性は十五カ月児を自然に産める骨格を持ち、五年前には其那国の王子との間に王家の男子を産んでいた。

人心を操る力

マゴイの力は、人の恐怖や悲しみ、妬み、絶望などの闇へ入り込み、心を支配するものであった。一人が操れる相手は一人だけだが、一族が百人に増えたことで、多くの王族や重臣を同時に支配できるようになっていた。

ナティアとルカは其那国の王女であった。父王は王妃の死による悲しみを狙われ、兄王子も父と貴族の間で苦しんだ心へ付け込まれた。その兄とマゴイの娘の間に生まれた子が、其那国の後継者となっていた。

麒麟の血への執着

マゴイが最も求めているのは、伍尭國の麒麟の血であった。五十年前にはマゴイの娘が伍尭國の皇帝へ嫁いだが、その方法を断念した後は、高貴な麒麟の姫君を狙うようになっていた。

今回の后詣では、王宮から姫君が外へ出る絶好の機会であった。董胡は濤麗の娘である自分こそ麒麟の血を濃く引いていると悟ったが、正体を隠すため、一行に該当する姫君はいないと答えた。

ナティアの懐妊

犀爬はナティアが子を宿していると見抜いた。ナティアは母の死と父兄の変貌に絶望した心へマゴイに入り込まれ、其那国で妊娠した後に逃亡していた。

胎児はすでに七、八カ月ほどと考えられ、堕胎薬も使えなかった。董胡は助ける方法を探そうとしたが、犀爬から血を恐れる自分に切開術はできないと指摘され、医師としての無力さを痛感した。

楊庵との決裂

帰り道、楊庵は危険を避けるため、董胡だけでも先に王宮を離れるよう求めた。さらに黎司が最も大切にするのは后たちであり、薬膳師の董胡は部外者に過ぎないと告げた。

董胡が残る意思を変えないと、楊庵は背後から抱き締め、共に王宮を出てほしいと懇願した。しかし董胡はその願いだけは受け入れられず、腕を振りほどいて大社へ戻った。

楊庵が見た鼓濤

夕方、犀爬が董胡を訪ねて大社へ来た。案内役となった楊庵は后たちの部屋へ向かい、襖の向こうから聞こえる声に耳を止めた。

そこでは董胡と同じ声の鼓濤が、玄武公の行方不明だった一の姫であり、黎司へすべてを話す決意を語っていた。楊庵が隙間から覗くと、侍女に髪を梳かされる鼓濤の姿が董胡であることを見抜いた。

董胡と共に王宮を出る未来を望んでいた楊庵は、彼女が皇帝の后だった事実に打ちのめされた。

犀爬の忠告

董胡と会った犀爬は、ナティアの懐妊を尊武へ知らせないよう念を押した。董胡が切開術を使える尊武へ頼ろうと考えたことを見抜き、其那国の王女を救えなかった場合に尊武が責任を負う危険を指摘した。

犀爬は、医師になれたなら自ら切開術を学び、尊武の役に立ちたかったと悔しさを漏らした。董胡は血を恐れる自分より犀爬の方が医師に相応しいと感じ、己の弱さを恥じた。

盲目の医師

犀爬は見習い時代、児頭骨盤不均衡の難産を救った不思議な医師を見たことを思い出した。その医師は妊婦の腹へ手をかざしただけで骨盤を開き、無事に赤子を産ませていた。

医師はほとんど目が見えず、宝庵の旧知であった。董胡はその人物が白龍である可能性を感じ、翌日あらためて宝庵へ居場所を尋ねると決めた。

ユラ・マゴイ

その頃、港町の妓楼では、百滝の大社の祭主・泰全が銀髪の男たちと共にユラ・マゴイを迎えていた。泰全は人心を操られ、其那国から逃げた娘たちを大社へ集め、売り渡していた。

ユラは后詣での一行に麒麟の血を引く姫君がいるか調べさせていた。彼は高貴な麒麟の姫君を苦しめ、マゴイと麒麟の血を持つ子を得るため、すでに昴宿へ入り込んでいた。

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