物語の概要
■ 作品概要
本作は、異世界転生・聖女ファンタジー小説シリーズの第7巻である。前世は300年前の大聖女セラフィーナでありながら、現在は第一騎士団の新人騎士として正体を隠して生きる少女フィーア・ルードを主人公とする。本巻では、霊峰黒嶽への遠征から王都に帰還したフィーアが、国王との面談に臨む展開が描かれる。面談の場で道化師の少年セルリアンが仕掛けるゲームを通じ、彼に隠された重大な秘密をフィーアが規格外の洞察力で見抜く駆け引きが繰り広げられる。 さらに、フィーアがもたらした「黒竜の従魔化」や「大聖女の薔薇の発見」、「300年ぶりの魔人討伐」といった規格外の事象が報告される極秘の「第2回騎士団長会議」の様子や、大聖女の薔薇の効能に騎士団長たちが翻弄される『は茶め茶会』、そして300年前の大聖女と近衛騎士団長の過去編など、大ボリュームの愉快なエピソードが収録されている。
■ 主要キャラクター
- フィーア・ルード:第一騎士団の新人騎士。前世は300年前の大聖女セラフィーナの記憶と力を持つ。自分が大聖女であることを隠そうと努めているが、無自覚に伝説の黒竜を従魔にしたり、大聖女の薔薇を発見したりと、常識外れの行動で周囲を驚愕させる。
- サヴィス・ナーヴ:黒竜騎士団総長であり、国王の弟。フィーアの実力を高く評価し、国王面談にもシリルとともに同席して彼女を見守る。
- シリル・サザランド:第一騎士団長でありサザランド公爵。フィーアの上司として、彼女が次々と引き起こす未曽有の大事件に頭を悩ませつつも、会議や日常において彼女を全力で保護・支援する。
- ローレンス・ナーヴ(セルリアン):ナーヴ王国の国王。精霊王の呪いを継承したことで体が若返り続けており、対外的には影武者を立て、自身は道化師「セルリアン」として振る舞っている。
- シリウス・ユリシーズ:300年前の赤盾近衛騎士団長。前世のセラフィーナを過保護なまでに守護し、彼女を構成する全てを未来永劫守ると誓った王国最強の騎士である。
- ロイド・オルコット公爵、ノエル・バルフォア公爵:国王の双璧と呼ばれる三大公爵。実は道化師ドリー、ロンとして国王の傍に仕えている。
■ 物語の特徴
主人公が「自分が大聖女であることをひた隠す」というタイトル通りのスタンスを取りながらも、彼女の無自覚な優しさと規格外の実力(伝説の魔獣の調伏、魔人の封印、王の秘密の看破など)が、世界の常識を心地よく打ち砕いていく点が本作の最大の魅力である。 特に本巻では、群像劇としての面白さが際立っている。フィーアの行動結果が報告される「騎士団長会議」で王国最高峰の団長たちが次々と頭を抱えて絶望する様子や、書き下ろしの『は茶め茶会』において大聖女の薔薇の効能(麻痺や本音の暴露など)に高位の騎士団長たちが阿鼻叫喚の態で翻弄される姿は非常にコミカルである。シリアスな世界観や過去の因縁(300年前の悲劇や呪い)を背景に持ちつつも、フィーアの底抜けの明るさと予測不能な行動が、物語全体を愉快で爽快なエンターテインメントへと昇華させている。
書籍情報
転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 7
著者:十夜 氏
イラスト:chibi 氏
出版社:アース・スター エンターテイメント
レーベル:アース・スターノベル
発売日:2022年8月18日発売
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あらすじ・内容
王都へ帰還したフィーアを待っていたのは……国王との面談!?サヴィスとシリル同席のもと、国王面談に臨むフィーア。「国王陛下は色々と試してこられるかもしれませんが、訓練修了の確認だと思って、できるだけお応えくださいね」シリルからの言葉を受け、全力で挑むことを決意するフィーア。しかし、国王のお気に入りである道化師の少年は、試すような発言とともにフィーアへとある「ゲーム」を持ちかけ……飄々とした道化師を相手に、フィーア本気の「駆け引き」が始まる!書き下ろしは、団長たちが不思議な効能のお茶に翻弄される『は茶め茶会』、道化師たちの反省会、混沌の『第2回騎士団長会議』、300年前の過去編など、愉快で楽しいエピソードを大ボリュームでお届け!
感想
本巻でも、フィーアの無自覚な規格外ぶりと、それに振り回される周囲の姿をたっぷり楽しむことができた。
フィーアは、自分が大聖女の生まれ変わりであることを隠している。
聖女として目立たず、普通の騎士として生きていくつもりである。
しかし、本人が慎重に行動しているつもりでも、結果だけを見ると伝説級の出来事を次々と引き起こしている。
王国の守護聖獣である黒竜を従魔にする。
三百年ぶりに現れた魔人の討伐へ関わる。
失われた大聖女の薔薇を発見する。
そして今回は、誰も見破れなかった国王の秘密まで暴いてしまう。
もはや正体を隠すどころか、周囲から見れば「何者なのだ」と疑われても仕方がない。
それでも本人だけは、自分をどこにでもいる一介の騎士だと信じている。
この認識のずれが、本作の大きな魅力である。
シリアスな秘密や三百年前の因縁が描かれる一方で、フィーアが関わった瞬間に状況がどこか愉快な方向へ転がっていく。
第7巻も、笑いと不穏さ、そして過去の切なさが絶妙に混ざり合った一冊だった。
王都へ連れて帰ってきた規格外の友人
霊峰黒嶽から王都へ戻ったフィーアは、まずシリル団長へ休暇中の出来事を報告する。
休暇期間は大幅に超過している。
しかし、第十一騎士団の砦へ滞在している間は業務扱いになると言われていたため、本人は堂々としている。
黒竜不在時における竜たちの移動状況を確認していた。
そう説明すれば問題はないと考えている。
もちろん、その黒竜本人を王都まで連れて帰ってきたことについては話さない。
フィーアにとってザビリアは、大切な友人である。
しかし王国にとっては、守護聖獣として語られる伝説級の存在だ。
その黒竜が小さくなり、フィーアの部屋を自由に出入りしている。
状況だけ考えれば、とんでもないことである。
それでもフィーアは、勤務中は別行動を取れば正体を隠せると考える。
第十一騎士団の騎士たちも、縮小したザビリアを鳥やトカゲのような生き物だと思い込み、誰一人として黒竜だとは疑わなかった。
確かに、伝説の黒竜が小さくなって目の前にいるとは普通は考えない。
ザビリアも、意外とこの姿のままで過ごせるのではないかと考え始める。
フィーアは、正体が知られても王国の守護聖獣なのだから、騎士たちが跪いている間に逃げればよいと答える。
この発想が実にフィーアらしい。
普通であれば、正体が露見した後の政治的な混乱や、王城全体の騒ぎを心配する。
フィーアが考えているのは、その場から逃げられるかどうかだけである。
ザビリアから大物だと評されるのも納得だった。
シリウスの剣が呼び起こす三百年前の記憶
フィーアは、第十一騎士団の砦からシリウスの剣を持ち帰っている。
長身のシリウスに合わせて作られた剣であるため、現在のフィーアには大きすぎて実戦では使えない。
それでも、かつて自分を守り続けた近衛騎士団長の剣である。
お守りのように部屋へ飾り、眠る時には枕元へ置く。
ザビリアとシリウスの剣があれば、自分は完璧に安全だと考えるフィーアの姿には、二人への強い信頼が表れていた。
ただ、剣には三百年前と異なる部分がある。
柄の下に付けられていた銀色の宝石が、赤い宝石へ変わっていた。
三百年の間に持ち主が変わり、装飾が交換されたのだろうとフィーアは考える。
しかし、シリウスがセラフィーナを深く大切にしていたことを考えると、この赤色にも何か意味があるのではないかと気になった。
剣と一緒に眠ったフィーアは、三百年前のシリウスとの時間を夢に見る。
そこで描かれる二人の関係が、とても温かかった。
夜会で踊る相手はシリウスだけ
三百年前のセラフィーナは、王女として夜会へ出席するため、シリウスからダンスを教わっていた。
聖女としての活動を優先していたため、王女に必要な作法や社交にはあまり慣れていない。
そのため、ダンスの練習でも何度もシリウスの足を踏んでしまう。
足を踏まないように足元を見る。
すると、シリウスから顔を上げるよう注意される。
足元ばかり見られたまま何度も踏まれると、狙って踏まれているように感じるという指摘には思わず笑ってしまった。
セラフィーナは、夜会でほかの男性の足を踏む可能性を心配する。
しかしシリウスは、彼女と踊る相手は自分だけだと言い切る。
第二王女であり大聖女でもあるセラフィーナが、公式の夜会で一人の男性としか踊らないのは不自然である。
それでもシリウスが何かを企むように笑ったことで、セラフィーナは本当にそうなるのだろうと受け入れる。
シリウスは、彼女が望まない相手と踊らなくて済むよう、裏で根回しをするつもりだったのだと思う。
強引に見えて、行動の中心には常にセラフィーナを守る気持ちがある。
過保護ではある。
しかし、その過保護さが嫌な束縛として感じられないのは、彼が彼女の意思や幸せを本気で大切にしているからだろう。
シリウスの努力を理解するセラフィーナ
シリウスは王国最強の騎士である。
それだけでなく、大貴族としての政治力や礼儀、ダンスなど、騎士以外の能力も高い。
周囲は「シリウス・ユリシーズだから」という一言で、その完璧さを片付けている。
しかしセラフィーナは、その結果が本人の努力によるものだと理解している。
騎士としての能力が高いからといって、政治や社交まで自然に身につくわけではない。
忙しい時間の隙間で学び、努力を積み重ねてきたからこそ、現在のシリウスがある。
セラフィーナは、彼が「シリウスであり続けるため」に努力し続けていることまで肯定する。
この言葉を受けたシリウスは、彼女がいつも自分を認め、救ってくれると語る。
周囲から完璧だと思われている人物ほど、弱さや努力を理解してもらう機会は少ない。
何でもできて当然。
失敗は許されない。
シリウスは、そんな期待を一人で背負ってきたのかもしれない。
セラフィーナだけは、結果だけではなく、その裏側にある努力を見てくれる。
だからこそ、シリウスにとって彼女の言葉は特別だったのだと思う。
未来永劫守るという誓い
シリウスはセラフィーナの手を取り、その甲へ口づける。
そして、彼女の深紅の髪、金の瞳、奇跡を生み出す白い腕を含め、彼女を構成するすべてを未来永劫守ると誓う。
単に命を守ると言っているのではない。
外見。
力。
考え方。
弱さ。
セラフィーナという人間を作るすべてを守ると約束している。
非常に重い誓いである。
それでもセラフィーナは、その言葉を完全には理解していないように見える。
立派な近衛騎士団長から心強い約束をもらったと受け取り、わざと淑女らしい礼をする。
シリウスも騎士の礼で応え、二人は笑い合う。
シリウスの想いはかなり深い。
しかしセラフィーナは、彼が自分を守るのは近衛騎士団長として当然だと考えている。
この届きそうで届かない距離が切なかった。
フィーアとして転生した現在でも、シリウスの剣に触れることで、彼との時間が少しずつ戻ってくる。
楽しく温かい記憶であるほど、すでに彼がいない現実が重く感じられる。
それでも、忘れていた時間を取り戻せること自体には救いがあった。
国王との面談に同席させられるサヴィス総長
王都へ戻って数日後、フィーアは国王との面談へ向かう。
国王は、第一騎士団へ配属された騎士を一人ずつ自分の目で確認している。
非常に忙しい立場でありながら、新人騎士と個別に面談する。
単なる顔合わせではなく、相手の人柄や能力を見極める試験のような意味がある。
面談にはシリル団長だけでなく、サヴィス総長も同席する。
サヴィス総長は毎年、面談時期になると地方視察などを理由に王都を離れている。
国王は実の兄である。
それでも面談を避けようとしていることから、これまで相当面倒な目に遭ってきたのだろう。
シリル団長は、自分だけに対応を押しつけられるのは困ると考え、フィーアの面談へサヴィス総長を巻き込む。
フィーアの休暇延長を快く認めた背景には、この計算もあったらしい。
ただし、シリル団長自身は、フィーアを思い通りに動かせたことなどないと主張する。
確かに最終的には、フィーアの引き起こした事態へ対応するのはいつもシリル団長である。
一見するとフィーアがシリル団長の手のひらで転がされている。
実際には、シリル団長の方がフィーアに振り回されている。
二人の関係性がよく分かる会話だった。
煌びやかな国王と無礼な道化師
国王の執務室には、見るからに王らしい男性が待っている。
金髪碧眼。
豪華な衣装。
頭には輝く三重冠。
広い部屋には騎士や側近が並び、その中央で堂々と座っている。
誰が見ても国王である。
その周囲には、セルリアン、ロン、ドリーという三人の道化師もいた。
中でもセルリアンは、十歳前後に見える美しい少年である。
道化師は愚か者という立場を利用し、国王や貴族へ無礼な発言をすることが許されている。
セルリアンも、フィーアをできの悪い騎士だと笑い、サヴィス総長やシリル団長まで呼び捨てにする。
フィーアは、国王のお気に入りだから許されているのだと判断する。
さらに、三人の道化師が全員美形であることから、彼らをそばへ置くことが国王の趣味なのではないかと勘違いする。
本人は自信満々に状況を見切ったつもりである。
その様子を見たシリル団長が、疲れ切った表情を浮かべる。
フィーアの推測は相変わらず、途中までは鋭く、最後に大きく外れる。
この独特の思考が面白かった。
セルリアンの話し方に隠されたルーア語
セルリアンたちは、母音や語尾を不自然に強調する独特な話し方をしている。
一見すると、言葉を上手く話せない道化師を演じているように聞こえる。
これまで面談を受けた騎士たちも、その口調を奇妙なものとして受け流していたのだろう。
しかしフィーアは、その話し方が古いルーア語をもとにしていると見抜く。
現在のナーヴ語は、ルーア語から変化して生まれた言葉である。
ルーア語では母音と語尾が重視されていた。
セルリアンの話し方は、現在の言葉へルーア語の発音規則を重ねたものだった。
フィーアは仕組みを説明するだけでなく、その口調を完璧に模倣してみせる。
セルリアンは言葉を失う。
さらにフィーアは、ルーア語程度は教養の範囲だと言い放つ。
三百年前の王女だったフィーアにとっては、本当に教養の範囲なのだろう。
しかし現在では、古い言語を自然に使いこなせる者などほとんどいない。
本人は常識的なことを言っているつもりで、また規格外の知識を披露している。
サヴィス総長やシリル団長が笑いをこらえられなくなる場面には、思わず笑ってしまった。
見抜かれたセルリアンの呪い
フィーアは、セルリアンの左腕が動いていないことに気づく。
さらに、その腕には強力な呪いが掛けられていた。
フィーアは普段、呪いを見れば術式を読み取り、解除方法を組み立てることができる。
ところが、セルリアンの呪いだけは全く分からない。
自分では解けない呪いが存在する。
その事実に、フィーアは自分の聖女としての力が足りないと落ち込む。
周囲から見れば、呪いが掛けられていると一目で分かること自体が異常である。
しかしフィーアは、解けないことの方を問題にしている。
規格外の人物ほど、自分の基準で能力不足を判断してしまう。
この場面でも、周囲との認識の差が大きかった。
セルリアンは、自分の言葉でフィーアを傷つけたと勘違いし、素直に謝る。
口は悪く、相手を試すような態度を取る。
それでも、本当に傷つけたと思えば謝罪できる。
生意気なだけではない、子どもらしい可愛さも感じられた。
仕組まれたカードゲーム「国王崇拝」
国王の提案によって、フィーアはセルリアンたちとカードゲームを始める。
その後、サヴィス総長とシリル団長も参加し、「国王崇拝」というゲームが行われる。
カードの強さは数字からジャック、クイーン、キングの順となる。
さらに、最強のジョーカーが一枚だけ加えられる。
ただしジョーカーは、ジャック、クイーン、キングの後にしか出せない。
最後のカードをキングにして勝とうとした場合、次の相手がジョーカーを出せば、勝者から最下位へ落とされる。
フィーアに配られたのは、三枚のキングと一枚のジョーカーを含む、明らかに有利な手札だった。
ここでフィーアは、カードゲーム自体が国王による試験だと見抜く。
自分が勝てるように仕組まれている。
だから重要なのは、勝つことではない。
どのように勝つのかを見られている。
フィーアはそう考える。
セルリアンが最後にキングを出した時、フィーアは残していたジョーカーを重ねる。
そして、「国王を上回るのは道化師だけですね」と言い放つ。
この時点では、周囲から見ると、国王の目の前で道化師を称賛しただけにも見える。
しかしフィーアは、すでにセルリアンの正体へ辿り着いていた。
道化師セルリアンこそ本物の国王
フィーアはセルリアンの前へ進み、騎士の礼を取る。
そして、彼こそがナーヴ王国の本当の国王だと告げる。
この展開は非常にスリリングだった。
まず、セルリアンという名前は、ローレンスという名前の文字を並べ替えたものだった。
次に、青と白の衣装と馬を意識した頭巾は、かつてのナーヴ王国の国旗と、以前の守護聖獣である白いユニコーンを表している。
古いルーア語を意識した口調まで含め、セルリアンの外見や名前には過去の王国へつながる要素が隠されていた。
しかし、これだけで国王だと断言することは難しい。
決め手となったのは、左腕へ掛けられた精霊王の呪いだった。
精霊は契約の範囲を越えて人間へ干渉できない。
そのため、人の身で精霊の呪いを受けられるとすれば、精霊王の血を持つ王家の人間しかいない。
そして、現在知られている王族は国王とサヴィス総長だけである。
そこまで考え、フィーアはセルリアンが国王だと結論づける。
ルーア語。
名前の並べ替え。
衣装の意匠。
呪い。
王家の血筋。
短い面談の中で、これだけの情報を拾い上げている。
本人は自然に気づいただけだと考えている。
しかし、王国最高峰の頭脳を持つ者たちから見ても、異常な洞察力である。
誰にも見破られなかった秘密を、一介の新人騎士が暴いた。
この場面には爽快感があった。
高度な駆け引きを冗談だと思う護衛騎士たち
セルリアンの正体を知る者は、ごく一部に限られている。
表向きの国王は影武者であり、第一騎士団の騎士たちも、その人物を本物だと信じて警護している。
道化師セルリアンを最優先で守るよう命じられているが、それも国王のお気に入りだからだと説明されていた。
そのため、フィーアがセルリアンへ騎士の礼を取り、国王と呼びかけた場面を見た騎士たちは、彼女が冗談へ本気で付き合っていると思う。
フィーアは正解へ辿り着いた。
それなのに秘密を守るため、周囲には正解だったと説明できない。
道化師を国王と呼んだ、妙にノリのよい新人騎士として扱われる。
正解したのに罰ゲームのような結果だけが残る。
このすれ違いが非常に面白かった。
フィーア本人は、恥をかくことになると知って動揺する。
サヴィス総長は、国家安全のための任務だと思って耐えるよう慰める。
さらに、すべては趣味の悪い遊びを仕掛けたセルリアンが悪いとして、豪華な夕食を奢らせる。
国王であるセルリアンが、弟のサヴィス総長へ押されて素直に頷く姿も微笑ましかった。
若返り続ける国王ローレンス
セルリアンは、自分が国王ローレンスであることを認める。
彼は十年前から、一年経過するたびに一歳ずつ若返っていた。
現在の体は九歳程度である。
原因は、王家に流れる精霊王の血だと考えられている。
国民へ真実を公表すれば、国王が化け物のように恐れられる可能性がある。
そのため、成長した姿の影武者を表向きの国王として立て、自分は道化師セルリアンとして側にいる。
国王でありながら、国王として人前に立つことができない。
王座のすぐ近くにいながら、誰からも本物だと認識されない。
フィーアが自分を見つけてくれたことで、セルリアンは少し嬉しそうにする。
正体を暴かれて悔しい。
それでも、自分自身を見つけてもらったようで気分がよい。
その言葉には、彼が抱えてきた孤独がにじんでいた。
道化師として自由に振る舞う姿は楽しそうに見える。
しかし、その未来には大きな制約がある。
若返り続けた先に何が待っているのか。
三十歳や五十歳になった時、自分の体はどうなっているのか。
本人も変えられない運命として受け入れているように見える。
フィーアの明るさが、閉ざされたセルリアンの未来へ何か変化を与えるのではないか。
その期待が残った。
三百年前から継承された精霊王の呪い
セルリアンの左腕へ掛けられた呪いは、本人が直接受けたものではない。
三百年前、王家の祖先が精霊王から受けた呪いを、子孫であるセルリアンが継承している。
三百年前という言葉に、フィーアは前世の自分が関係しているのではないかと考える。
しかし、セラフィーナ自身には精霊王と会った記憶がない。
精霊王はなぜ王家を呪ったのか。
なぜ現在まで、その呪いが受け継がれているのか。
王家に流れる精霊王の血と、国王の若返りはどのようにつながっているのか。
大きな謎が提示された。
本巻はコメディ要素が強い。
それでも、物語の根底では、三百年前に起きた出来事が現在へ影響し続けている。
フィーアの前世。
魔人の再出現。
失われた精霊。
王家の呪い。
別々に見える問題が、少しずつ一つの過去へつながり始めているように感じた。
国王を振り回したフィーア
面談後、フィーアはシリル団長へ、国王との面談が疲労困憊の行事だったと語る。
シリル団長は、これまでは国王に振り回される新人騎士を見ることが心労だと思っていた。
しかし今回、フィーアに振り回される国王を見ている方が、はるかに疲れると理解したらしい。
セルリアンの口調を言い負かす。
仕組まれたカードゲームで、わざと相手を最下位へ落とす。
決め台詞とともに国王の自尊心を打ち砕く。
最後には、誰にも知られていない正体まで暴く。
フィーアは、シリル団長から国王の試みにできるだけ応えるよう言われたため、普段以上に頑張っただけだと説明する。
その結果が、国王の完敗だった。
シリル団長は、自分の助言で自分の首を絞めたのだと反省する。
高い能力を持つ人物ほど、フィーアへ明確な指示を出すことの危険性を理解している。
本人は忠実に従っているつもりである。
しかし、その忠実さが想定を大きく超える結果を生み出してしまう。
この構図が面白かった。
王国最高峰の頭脳から注目されるフィーア
道化師ロンとドリーの正体は、ロイド・オルコット公爵とノエル・バルフォア公爵である。
二人は「国王の双璧」と呼ばれる、王国最高峰の頭脳を持つ側近だった。
普段は公爵として国政を支え、国王のそばでは道化師に扮して自由に意見を述べている。
その二人も、フィーアがセルリアンの正体を見抜いたことに驚く。
特にロイドは、フィーアを天才型だと評価する。
理論を一つずつ積み上げるのではない。
ほかの人間には知覚できない小さな情報を読み取り、直感的に真実へ到達する。
ただし、その根拠を本人が言葉にできないこともある。
セルリアンの呪いや王家の始祖について、フィーアは当たり前の事実として説明した。
しかし現在の人々にとっては、おとぎ話に近い知識である。
周囲から見ると、根拠の薄い推測で正解を引き当てたようにも見える。
ロイドは、それを偶然とは考えない。
フィーアは何らかの情報を実際に捉えていると判断する。
その評価は正しい。
フィーアには前世の知識と、大聖女としての感覚がある。
ただし本人は、その能力が現在では異常だと理解していない。
王国の頭脳たちから危険視されるほど鋭いのに、普段は驚くほど鈍い。
その落差がフィーアの面白さである。
ロイド公爵に目をつけられるフィーア
フィーアに強い興味を持ったロイド公爵は、王城の庭で彼女へ接近する。
道化師ドリーとして会ったばかりである。
しかしフィーアは、公爵姿のロイドとドリーが同一人物であることに全く気づかない。
名前の文字を並べ替えれば分かると促されても、考えようとしない。
国王の正体はわずかなヒントから見抜いた。
その一方で、目の前にいる同一人物には気づかない。
必要だと思った時だけ、異常な集中力を発揮する。
興味のないことには、驚くほど注意を向けない。
道化師たちは、そんなフィーアの鋭さと鈍さについて真剣に分析する。
本人の中では、常に全力で周囲を観察しているわけではないのだろう。
普段から国王面談と同じ集中力を維持していたら、疲れてしまう。
だから、日常では自然に力を抜いている。
その結果、秘密を暴く時と、何も気づかない時の差が大きくなる。
ロイドは、自分に興味を示さないフィーアへ、かえって執着する。
多くの人間が高い地位や美しい外見を理由に近づいてくる。
しかしフィーアは、ロイドが誰なのかすら気にしていない。
その反応が珍しかったのだと思う。
シリル団長は、フィーアの腕を掴んで離さないロイドを力ずくで引き離す。
どちらがフィーアから信頼されているのかを巡り、二人は言い争う。
フィーアは、息の合った様子を見て、二人は仲がよいのだと解釈する。
ここでも認識のずれが大きかった。
騎士団長たちを襲う極秘会議
本巻で特に笑ってしまったのが、フィーアについて情報を共有する騎士団長会議である。
集められたのは、王国最高峰の能力を持つ騎士団長たちである。
戦闘力、判断力、統率力。
どれを取っても優秀な人物ばかりだ。
その彼らが、フィーアに関する報告を聞くたびに疲弊していく。
最初に報告されるのは、フィーアの従魔が黒竜である可能性だった。
黒竜は王国の守護聖獣であり、千年以上を生きる強大な存在である。
その黒竜が、フィーアへ完全に心を許している。
感情や思考まで共有している可能性があるため、会議の場でフィーアを悪く言えば、黒竜に知られる危険もある。
会議をしているだけなのに、発言へ命を懸けなければならない。
騎士団長たちが恐怖するのも無理はない。
続いて、クェンティン団長が緋色のグリフォンの王を従魔にしたと報告する。
通常なら、それだけで国を挙げて喜ぶほどの偉業である。
しかし、黒竜の話を聞いた直後であるため、反応は薄い。
規格外の情報が続きすぎて、感覚が麻痺している。
この会議の時点で、すでにかなり疲れているように見えた。
失われた大聖女の薔薇まで発見する
さらに、三百年前に失われたはずの大聖女の薔薇が、王城の庭で見つかったことが報告される。
発見したのは、当然のようにフィーアである。
本人は、その花がどれほど貴重なのか理解していない。
国王から聖女の墓標に使う花を探すよう頼まれ、綺麗な花として摘んだだけだった。
受け取った金貨も、デズモンド団長たちへ食事を振る舞うために使っている。
周囲から見れば、失われた伝説の花を発見した人物である。
本人からすれば、美しい薔薇を見つけ、報酬で知人へ食事を奢っただけである。
しかも本当は、フィーアが普通の薔薇へ魔力を注ぎ、大聖女の薔薇へ変化させていた。
それを知るカーティスだけは、彼女の秘密を守るため真相を黙っている。
会議では、フィーアにはほかの人間が見逃すものを発見する力があるのではないかと推測される。
完全には間違っていない。
ただし、見つけているだけでなく、自分で伝説を生み出している。
騎士団長たちが真実を知ったら、さらに頭を抱えることになっただろう。
三百年ぶりに現れた魔人
会議で最も重大な報告は、霊峰黒嶽で魔人が出現したことだった。
魔人は三百年間、世界から姿を消していた。
しかし、二紋の鳥真似は少女の姿へ擬態し、人間の言葉や振る舞いまで身につけていた。
人間社会の中へ、すでに魔人が紛れ込んでいる可能性がある。
単に一体の敵が現れたという話ではない。
国の安全保障そのものを揺るがす事態である。
その魔人を倒した戦いには、カーティス、二人の冒険者、そしてフィーアが参加していた。
騎士として見れば、フィーアの剣技は特別に高いわけではない。
そのため団長たちは、彼女が魔人戦で役に立ったことを疑問に思う。
しかし、フィーアには強力な聖石がある。
さらに、従魔として黒竜がいる。
攻撃と回復の両方を考えれば、本人の剣技を含めなくても、王国最強の戦力になり得る。
カーティスは当然のように、フィーアこそ最強だと断言する。
彼にとってフィーアは、三百年前から変わらず大聖女である。
周囲がようやく、フィーアを単なる新人騎士として扱えなくなってきた。
国王の正体まで暴いたという追加報告
黒竜。
グリフォンの王。
大聖女の薔薇。
三百年ぶりの魔人。
これだけでも、会議一回分としては重すぎる。
ところが最後に、フィーアが国王の正体を見抜いたことまで報告される。
道化師の口調がルーア語に基づいていると見抜く。
カードゲームで国王を最下位へ落とす。
名前や衣装、呪いから真の国王へ辿り着く。
誰も解けなかった試験を、新人騎士が完璧に突破した。
騎士団長たちは、フィーアの能力に感心するより、恐怖を覚え始める。
何を見抜かれるか分からない。
本人には悪意がない。
だからこそ、対策も難しい。
隠そうとすればするほど、フィーアは小さな違和感を拾って真相へ近づく可能性がある。
王国を代表する有能な団長たちが、フィーア一人の報告によって疲労困憊していく。
この状況がたまらなく面白かった。
大聖女の薔薇を使った「は茶め茶会」
書き下ろしの「は茶め茶会」も印象に残った。
大聖女の薔薇を使った三百年前の茶会を再現したい。
イーノック団長の強い希望によって、シリル団長やデズモンド団長を含む複数の騎士団長が集められる。
招待状には、出席するかどうかを選ぶ項目がない。
実質的な強制参加である。
フィーアも、黄色いワンピースを着せられ、大聖女に見立てた形で参加させられる。
三百年前、大聖女の薔薇には、花びらによって異なる効果があった。
麻痺を解除する。
体力を回復させる。
本音を表へ出す。
誰かへの好意を強める。
フィーアは、その効能を思い出す。
そして、自分まで茶会へ巻き込んだ騎士団長たちへ、二度と同じ企画をしたいと思わせないよう、花びらへ魔力を加える。
本人としては、少し懲らしめるだけのつもりだったのかもしれない。
しかし、大聖女の力によって強化された花びらの効果は、容赦なく騎士団長たちを襲う。
阿鼻叫喚となる騎士団長たち
紅茶を飲んだデズモンド団長は、体が熱くなり、フィーアを可愛らしく感じて不器用に褒め始める。
普段の彼からは想像しにくい姿である。
クェンティン団長は、すべてが面白く感じられ、笑い続ける。
クラリッサ団長は、手に負っていた火傷が消える。
ザカリー団長は全身が麻痺するが、筋肉が覚醒したと勘違いする。
シリル団長は攻撃力が高まり、カップや椅子を簡単に壊してしまう。
イーノック団長は、頭に浮かんだことを次々と口にする。
カーティスだけは、蓄積していた疲労が消え、完全に回復する。
騎士団長たちが次々と異常な状態へ陥り、会場は阿鼻叫喚となる。
一方のフィーアは聖女であるため、悪い効果が出ても体内で自動的に解除できる。
騒ぎ続ける団長たちを横目に、ケーキやクッキーを食べながら優雅に茶会を楽しむ。
大聖女の力を使った本人だけが無傷である。
周囲から見れば、とんでもない人体実験である。
しかしフィーアは、騎士団長たちが望んで始めた茶会なのだから問題ないと考えている。
カーティスも、名誉ある大聖女の茶会に参加できたことを喜んでいる。
この二人だけ、認識が三百年前のままである。
現代の騎士団長たちが振り回されるのも当然だった。
被害を減らしたのか増やしたのか分からない
茶会後、シリル団長とデズモンド団長は悩む。
当初、フィーアを呼んだのは被害を分散させるためだった。
フィーアがいれば、何か起きても助けてもらえるかもしれない。
そのように考えていたのだろう。
確かに、重い後遺症が残るような被害は出ていない。
しかし、騎士団長たちが異常な状態になった原因は、フィーアが花びらへ魔力を加えたことにある。
彼女を呼ばなければ、ここまで大きな騒ぎにはならなかった可能性が高い。
結果として被害を減らしたのか。
それとも拡大させたのか。
二人には判断できない。
フィーアへ頼れば解決することも多い。
同時に、フィーアを関わらせることで、想定以上の事件になることもある。
王国の有能な人々が、彼女の扱いに頭を抱える理由がよく分かる書き下ろしだった。
道化師たちの反省会
セルリアン、ロン、ドリーは、フィーアに正体を見抜かれた原因について反省会を開く。
セルリアンという名前。
古い王国の国旗を模した衣装。
守護聖獣ユニコーンを意識した頭巾。
ルーア語を使った口調。
確かに、正体へつながる要素を入れすぎている。
しかし、これまでは誰にも気づかれなかった。
そのため、仕掛けが甘かったというより、フィーアの洞察力が異常だったという結論に至る。
一方で、フィーアは公爵姿のドリーを見ても、同一人物だと全く気づかなかった。
常に鋭いわけではない。
必要な時にだけ、集中力を極限まで高める。
それ以外の時間は大きく力を抜いている。
道化師たちは、フィーアの性質をそのように分析する。
本人の中では、意識して切り替えているわけではないだろう。
目の前の人を助ける必要がある。
試験へ応えなければならない。
そう判断した時だけ、大聖女だった頃の知識や感覚が自然に働く。
その結果、周囲の秘密まで暴いてしまう。
普段の鈍さがあるからこそ、鋭さが発揮された時の落差がより面白く感じられる。
セルリアンの閉ざされた未来
反省会の中で、セルリアンは自分の未来が閉ざされていると語る。
若返りを止める方法はない。
精霊王の呪いも受け継いでいる。
王でありながら、王として表舞台へ立つこともできない。
周囲には優秀な側近がいる。
弟のサヴィス総長もいる。
それでも、自分が背負う運命を変えることはできないと考えている。
そんなセルリアンが、フィーアを「よい存在」だと評価する。
完璧にやり込められたにもかかわらず、不快ではない。
むしろ、清々しい気持ちになったという。
フィーアには悪意がない。
相手を傷つけようと計算しているわけでもない。
見えた事実に反応し、正しいと思ったことを口にしているだけである。
だからこそ、セルリアンも本気で怒り切れなかったのだと思う。
最後にフィーアが風穴を開けてくれるかもしれない。
王家に積み重なったものを吹き払い、自分の未来まで変えてくれるかもしれない。
道化師たちは、そんなわずかな希望をフィーアへ抱き始める。
本人は何も知らない。
それでも、無自覚なまま周囲へ希望を与えている。
フィーアらしい関わり方だった。
シリアスな秘密を明るさで包み込むフィーア
第7巻では、王家に関する重要な秘密が数多く明かされる。
本物の国王が道化師として暮らしていること。
国王が一年ごとに若返っていること。
王家には精霊王の血が流れていること。
三百年前に受けた呪いが、現在の国王へ継承されていること。
サヴィス総長が次の国王になる可能性。
魔人が三百年ぶりに現れたこと。
どれも、物語全体へ関わる重い情報である。
普通に描けば、かなり暗く不穏な巻になっていただろう。
しかし、その中心にいるのがフィーアである。
国王の秘密を見破った直後に、自分はどこにでもいる一介の騎士だと主張する。
国家機密へ触れた後に、道化師への勧誘だけは全力で拒否する。
騎士団長たちが国の未来を話し合う中、本人は何も知らずに薬草を摘んでいる。
この明るさと認識のずれによって、重い物語が息苦しくなりすぎない。
フィーアの存在そのものが、作品の空気を救っているように感じた。
無自覚だからこそ周囲を変えていく
フィーアは、自分が特別な存在だと認めていない。
大聖女の力を持っている。
黒竜から深く信頼されている。
三百年前の知識を覚えている。
強力な回復魔法を使える。
呪いや魔人を見抜ける。
それでも本人は、自分を普通の新人騎士だと考え続ける。
この無自覚さは、周囲にとって大きな苦労の原因である。
しかし同時に、フィーアの良さでもある。
相手の地位によって態度を大きく変えない。
国王であっても、悪趣味な遊びを仕掛ければ正面からやり返す。
公爵であっても、興味がなければ名前すら覚えない。
傷ついた人がいれば、自分の力を惜しまず使う。
貴重な聖石も、自分の財産にしようとは考えず、困っている人を助けるために渡そうとする。
権力や利益を求めていないからこそ、周囲は彼女を信用し、惹かれていく。
フィーア本人は何も狙っていない。
それでも、彼女が動くことで王国の人間関係や価値観が少しずつ変わっていく。
その過程が心地よかった。
笑いの中に残るシリウスへの想い
本巻で最も胸が温かくなったのは、やはりシリウスとの過去だった。
セラフィーナは、シリウスの深い想いに気づいていない。
彼が自分だけを夜会の相手にすると言っても、過保護な近衛騎士団長として受け取る。
自分がいなければ満足に息もできないほど大切だと言われても、その意味を理解しない。
シリウスは、想いを直接伝え切れないまま、彼女を守り続ける。
それでも二人の間には、確かな信頼がある。
セラフィーナはシリウスの努力を誰よりも理解し、肯定する。
シリウスは、セラフィーナを構成するすべてを守ると誓う。
恋愛として気持ちが通じ合っていたかは分からない。
しかし、互いが互いにとって特別な存在だったことは間違いない。
フィーアが現在、シリウスの剣をお守りとして眠っていることも印象的だった。
三百年が経過しても、彼の剣は彼女の安心できる場所になっている。
記憶が完全に戻っていなくても、心の奥にはシリウスへの信頼が残っているのだと思う。
正体を隠すほど正体へ近づかれていく
『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す 7』では、フィーアが自分の正体を直接明かすことはない。
しかし、周囲は確実に彼女の異常さへ気づき始めている。
黒竜を従魔にしている。
伝説の花を見つける。
魔人を倒す。
国王の正体を見破る。
古代言語を自然に使う。
呪いを見抜く。
一つだけなら、偶然や特殊な経験として説明できる。
これだけ重なると、普通の騎士という説明には無理がある。
騎士団長たちは、フィーアが何者なのか答えを出せないまま、彼女に関する極秘会議を開いている。
王国の頭脳たちも、フィーアの洞察力を警戒し始める。
本人が正体を隠そうとすればするほど、別の方向から注目が集まっていく。
いつまで秘密を守り続けられるのか。
誰が最初に、大聖女の生まれ変わりという真実へ辿り着くのか。
その緊張感も高まってきた。
読後に残った明るさと不穏な期待
第7巻は、国王面談を中心としたコメディの楽しさが強く印象に残る一冊だった。
セルリアンのルーア語を見破り、完璧に模倣する。
仕組まれたカードゲームで、国王を最下位へ落とす。
誰も見抜けなかった本物の国王を、複数の根拠から特定する。
それだけのことを成し遂げながら、周囲からは道化師の冗談へ全力で付き合った騎士だと思われる。
このすれ違いは、本作ならではの面白さである。
さらに、騎士団長会議や「は茶め茶会」では、王国最高峰の人物たちがフィーアに振り回される姿を存分に楽しめた。
有能な人物ほど状況を深く理解できる。
だからこそ、フィーアの規格外さを知った時の絶望も大きい。
その反応に何度も笑ってしまった。
一方で、シリウスとの過去や、セルリアンが背負う王家の呪いには、切なさと不穏さがある。
フィーアの前世と、三百年前に起きた出来事。
精霊王の呪い。
魔人の再出現。
現在の王家。
それぞれの謎が、少しずつ近づいているように感じる。
それでも、フィーアの底抜けの明るさがあるため、読後感は重くなりすぎない。
深刻な運命や秘密まで、どこか愉快な出来事へ変えてしまう。
本人は正体を隠して静かに暮らしたいだけなのに、次々と王国の歴史を動かしていく。
次巻では、フィーアがさらに何を見つけ、誰の秘密を暴き、どのような未曽有の事態を引き起こすのか。
不安よりも楽しみの方が大きくなる、爽快で温かな一冊だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
王都への帰還
北方遠征からの王都への帰還と展開の全貌
『星の力を得た少女』などの物語作品における「特別休暇を利用した北方遠征からの王都への帰還」について、休暇の超過とシリル団長の策略、ミニ黒竜の姿での王都潜入、およびシリウスの剣の持ち帰りと安眠の各点から解説する。
休暇の超過とシリル団長の策略
王都へ帰還したフィーアが最初に行ったのは、直属の上司であるシリル第一騎士団長への報告であった。
・予定されていた休暇期間を大幅に超過していたが、第十一騎士団の砦に滞在する間は業務扱いとするという事前の指示を免罪符とした。
・黒竜不在時の霊峰黒嶽における竜たちの移動状況を確認していたという名目で堂々と振る舞った。
・シリル団長はそれを咎めることなく、地方視察に出ているサヴィス総長が王都に戻り次第、国王との面談を実施すると告げた。
・サヴィス総長は毎年国王面談の時期になると意図的に王都を離れていたが、シリル団長は自分一人に面倒な対応を押し付けられないよう、フィーアの面談を総長が帰還するタイミングまで遅らせ意図的に巻き込む計算をしていた。
・フィーアは、自身が好きなだけ休暇を延長してよいと言われた背景にシリル団長のしたたかな策略があったことに気付き、完全に手のひらで転がされていたと愕然とした。
ミニ黒竜の姿での王都潜入
フィーアの従魔である黒竜ザビリアは、霊峰黒嶽から王都まで密かについてきていた。
・ザビリアは変装グッズを身に着けず、ただ縮小化しただけの小さな黒竜の姿でフィーアの部屋に入り込んだ。
・第十一騎士団の砦にいた時も、周囲の騎士たちは小さなザビリアを鳥やトカゲに似た弱そうな生物だと勘違いし、黒竜だと疑う者は誰一人いなかったため、王都でもこのままの姿で過ごせると判断した。
・フィーアも、もし黒竜だとバレたとしても王国の守護聖獣として騎士たちが跪いている間に逃げればいいと楽観的に構え、ザビリアとの再会と変わらぬ会話を楽しんだ。
シリウスの剣の持ち帰りと安眠
フィーアは北方の砦で巡り会った、300年前の前世の近衛騎士団長シリウスの剣を王都へ持ち帰っていた。
・長身のシリウスが使っていた剣はフィーアには扱えないサイズであったが、お守りとして手元に置いていた。
・剣の柄にはめ込まれた宝石が、かつてシリウスを象徴していた銀色から赤色へと変わっており、持ち主が自分に代わったことで装飾も替えられたのだろうと推測した。
・帰還翌日の夜、フィーアはザビリアとシリウスの剣がそばにあれば安全だと考え、剣を枕元に置いて眠りについた。
・もともと寝つきが良いため剣に本当に安眠効果があったのかは定かではないが、心安らかにぐっすりと眠りにつくことができた。
まとめ
北方遠征からの王都への帰還を巡る一連の全貌は、シリル団長の策略による休暇超過の容認から始まり、正体を隠したザビリアの王都潜入、そして前世の縁であるシリウスの剣の持ち帰りと安眠に至るまで、その賑やかな帰還劇を明瞭に示している。軍の規律や周囲の監視という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、穏やかな日常の再開と絆の記録である。報告の遂行から、上司の思惑、従魔の潜伏、そして安らぎの獲得へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
前世の記憶
フィーアの前世の記憶の覚醒とその後の影響の全貌
『星の力を得た少女』などの物語作品における「主人公フィーアにおける前世の記憶の覚醒とその後の影響」について、死の淵での前世の記憶の覚醒、前世の正体である大聖女セラフィーナ、凄惨な最期と魔人からの呪詛、記憶覚醒後の決意としての聖女の隠蔽、および現在とのギャップの認識と自己分析の各点から解説する。
死の淵での前世の記憶の覚醒
ルード騎士家の末子として育ち、騎士を目指して成人の儀の試練に臨んだ15歳のフィーアは、森の中で大怪我をして幼体化していた黒竜ザビリアに遭遇した。
・良かれと思って回復薬を使用したところ、痛みを攻撃と勘違いした黒竜に反撃され、肩や脇腹を噛まれ致命傷を負った。
・死を覚悟し、これまでの短い人生を振り返ろうとしたその瞬間、唐突に彼女の脳裏に蘇ったのが前世の記憶であった。
前世の正体である大聖女セラフィーナ
彼女の前世は、今から約300年前のナーヴ王国の王女であり、類まれなる力を持った大聖女セラフィーナであった。
・当時の彼女は精霊と深く結びつき、怪我や病気の治癒にとどまらず、状態異常の回復、身体強化、防御魔法、武器への魔法効果付与など、おとぎ話とされるような規格外の魔法を自在に操る絶大な力を持っていた。
凄惨な最期と魔人からの呪詛
前世の記憶の中で最もフィーアに強い恐怖を植え付けたのは、その最期の場面であった。
・大聖女として兄王子たちと共に魔王討伐へ赴いた彼女は、魔力を使い果たして魔王を封印したにもかかわらず、兄たちから見捨てられ魔王城に置き去りにされた。
・魔王の右腕である美しくも残酷な魔人に捕らえられ、お前が聖女だから殺されるのだと理不尽な言葉を浴びせられながら、凄惨な拷問の末に殺害された。
・死の間際、魔人から聖女として生まれ変わったら必ず見つけ出しまた同じように殺すと恐ろしい宣告を受けていた。
記憶覚醒後の決意としての聖女の隠蔽
瀕死の重傷を負いながらも、無意識に前世の回復魔法を使って一命を取り留めたフィーアであったが、記憶を取り戻して真っ先に抱いた感情は強烈な恐怖であった。
・彼女が今世で異常なまでに騎士という職業に固執していたのも、心の奥底で聖女になれば殺されると無意識の防衛本能が働いていたためだと悟った。
・自身の生存を守るため、前世の兄レベルの強さを持つ剣士が3人仲間になるまでは絶対に聖女の力を封印すると決意し、一介の騎士として目立たずに生きていこうと固く誓った。
・前世のように精霊の力を使わず自身の魔力のみで魔法を行使すれば、精霊の残滓を追う魔人に見つかることはないと推測した。
現在とのギャップの認識と自己分析
フィーアは前世の記憶と現在の世界の状況をすり合わせる中で、大きな変化に気付いた。
・前世では当たり前であった精霊との契約が今世では失われており、現在の聖女たちが持つ微弱な力は、何代も前の祖先が精霊と結んだ契約の薄れた残滓を受け継いでいるにすぎないという仮説に行き着いた。
・これにより、今世で聖女が極端に少なく能力が弱体化しているにもかかわらず過剰に崇められている理由を納得し、自身の規格外の力が露見する危険性をより強く自覚するようになった。
まとめ
フィーアの前世の記憶の覚醒とその後の影響を巡る一連の全貌は、死の淵での前世の記憶の覚醒から始まり、大聖女セラフィーナとしての絶大な力、魔人による凄惨な最期と呪詛、聖女の力をひた隠す決意、そして現在の世界とのギャップの自覚に至るまで、その大きな転換を明瞭に示している。過去の恐怖や魔人の脅威という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、記憶の再生と生存戦略の記録である。記憶の覚醒から、トラウマの自覚、隠蔽方針の確立、そして世界の仕組みの分析へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
国王の正体
国王の正体とその背景および看破の全貌
『星の力を得た少女』などの物語作品における「作中における国王の正体とその背景、フィーアによる看破の経緯」について、表向きの国王と真の国王である道化師セルリアン、精霊王の呪いと若返り続ける体、フィーアによる正体の看破と国王崇拝、およびサヴィス総長への王位継承計画の各点から解説する。
表向きの国王と真の国王である道化師セルリアン
表向きのナーヴ王国国王は、黄金の髪に青い目を持つ豪奢な美貌のローレンス王として玉座に座っているが、実は彼は影武者である。
・真の国王は、王の傍らの階段に行儀悪く座っている若い道化師セルリアンである。
・国王が影武者であることは、サヴィス総長やシリル団長、一部の大臣など国の中枢にいる20名程度しか知らない極秘事項である。
・第一騎士団の騎士たちすら影武者を本物の王だと信じて警護にあたっている。
・真の国王セルリアンは道化師の立場を利用し、第一騎士団の新人騎士面談において、私的な遊戯を通して騎士の資質を見極めていた。
精霊王の呪いと若返り続ける体
セルリアンが影武者を立てて道化師に扮している理由は、彼が精霊王の呪いを継承しているためである。
・この呪いは300年前に王家の祖先が精霊王から受けたもので、セルリアンは10年前から毎年、年を取る代わりに1歳ずつ体が若返るようになってしまった。
・実年齢は29歳であるが、肉体は9歳程度の少年の姿になってしまっている。
・そのまま王として表舞台に立てば国民が気味悪がり混乱を招くため、影武者を立てて正体を隠し、道化師として振る舞っている。
フィーアによる正体の看破と国王崇拝
国王面談に臨んだフィーアは、圧倒的な洞察力によって道化師セルリアンの正体を完璧に見抜いた。
・セルリアンの独特の口調が、ナーヴ語の基となった古いルーア語の母音と語尾をリスペクトしたものであること。
・セルリアンという名前が、表向きの王ローレンスのアナグラムであること。
・彼の青と白の市松模様の衣装と馬の頭巾が、300年前の旧国旗と旧守護聖獣ユニコーンを表していること。
・彼の動かない左腕に掛けられた強力な呪いが精霊王の呪いであり、人の身で精霊の呪いを受けられるのは精霊王の血を引く王族の始祖の子孫のみであること。
・そして国王崇拝というカードゲームにおいて、最後に出されたキングのカードを1枚のジョーカーで切り捨て、なるほど、国王を上回るのは道化師だけですねと言い放った。
・その直後、道化師である彼に向かって騎士の礼を執り、国王陛下と呼びかけることで完全に正体を暴いてみせた。
サヴィス総長への王位継承計画
若返り続けるセルリアンは、結婚して次代を残す役割を果たすことが難しく、また実年齢と影武者の外見的差異も大きくなってきたため、いずれ退位することが決定している。
・対外的には、弟であるサヴィス総長が新たな筆頭聖女と結婚するタイミングに合わせて、影武者の王からサヴィスへと王位が継承されるという極秘計画が進められている。
まとめ
国王の正体とその背景を巡る一連の全貌は、影武者と道化師という歪んだ表裏の構造から始まり、肉体が若返る精霊王の呪いの苦闘、フィーアによる知識と洞察に基づく完全な正体解明、そして王位継承へと向かう国家計画に至るまで、その実態を明瞭に示している。血脈の呪縛や外見の制約という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、正体の開露と王権の真実の記録である。偽装の維持から、呪いによる変容、洞察による破綻、そして未来への譲位へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
大聖女の薔薇
大聖女の薔薇の正体とその影響の全貌
『星の力を得た少女』などの物語作品における「作中における大聖女の薔薇の正体とその影響」について、大聖女の薔薇の正体、献花の依頼と300年ぶりの復活、思考を反映する運命の茶会、は茶め茶会での阿鼻叫喚と被害、および騎士団による厳重な管理の各点から解説する。
大聖女の薔薇の正体
大聖女の薔薇とは、300年前の大聖女セラフィーナの御印とされていた特別な赤い薔薇である。
・花びらがまるでカットされた宝石のようにキラキラと煌めくのが特徴であり、大聖女とともに失われ、300年間一度も発見されていなかった。
・元々は薄緑色の花を咲かせる見た目が貧弱な薔薇種にすぎない。
・蕾を付ける少し前の時期から、大聖女が毎日魔力を注ぎ続けることで初めて大聖女の薔薇へと変異する。
献花の依頼と300年ぶりの復活
王都に帰還したフィーアは、サヴィス総長から国王が定期的に聖女の墓標に捧げている花の調達を依頼された。
・フィーアは聖女に贈る最上の花として前世の自分の薔薇を思いついた。
・王城の北東の庭園の一角に辛うじて残っていた元の薔薇株を見つけ出し、毎日魔力を注いで大聖女の薔薇を咲かせた。
・フィーアは総長に献上する際、たまたま見つけた本物っぽい薔薇だと偶然を装ったが、サヴィス総長はその価値と異常性を即座に見抜いた。
思考を反映する運命の茶会
この薔薇の最大の特徴は、その花びらを浮かべた紅茶を飲むと様々な効能が現れることである。
・効能の内容は、薔薇を育てるために魔力を流していた時の大聖女の思考や心情に影響される。
・怪我の治癒を願えば回復効果が、小難しい顔の騎士を笑わせたいと考えれば何でも面白く感じる効果が付与される。
・300年前の騎士団長たちは、大聖女のお茶会で出される紅茶を決死の覚悟で飲み干しており、密かに運命の茶会と呼んで恐れていた。
は茶め茶会での阿鼻叫喚と被害
大聖女の薔薇が発見された後、第一騎士団長シリル主催のもと、騎士団長たちを集めたお茶会が開催された。
・お茶会に強制参加させられたフィーアは、やけくそになり、紅茶を注ぐ際にさらに魔力を注入して効能を強めた。
・デズモンド:フィーアが可愛く見え、さらに体が痺れる効果が現れた。
・クェンティン:全てのことが面白く感じて笑い転げた。
・クラリッサ:料理で作った火傷の跡が完全に治癒した。
・ザカリー:体が麻痺し、筋肉が覚醒したと思い込んだ。
・シリル:攻撃力が大幅にアップし、握ったカップや椅子を粉砕した。
・イーノック:何でも正直にしゃべり続けた。
・カーティス:蓄積していた疲労が完全回復した。
・フィーア自身は聖女であるため、悪い効能を体内に取り入れても自動で解除され、一人だけ無傷で優雅にスイーツを楽しんでいた。
騎士団による厳重な管理
この事態を受け、シリル団長は薔薇が咲いている王城の庭の一角を第一級禁域並みに立ち入り禁止とし、厳重な警備を敷いた。
・12株あるうちの2株が大聖女の薔薇に変異していることが確認された。
・今後も変異が続くのかを調査するとともに、300年ぶりに失われた遺産が現れたことを何かの予兆ではないかと警戒している。
まとめ
大聖女の薔薇とその影響を巡る一連の全貌は、薔薇の変異の真実から始まり、300年ぶりの復活、魔力や感情を反映する紅茶の効能、騎士団長たちを巻き込んだ混乱、そして騎士団による厳重な封鎖管理に至るまで、その実態を明瞭に示している。過去の失われた遺産や制御不能な効果という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、伝説の薔薇の再現と騒動の記録である。魔力の注入から、偶然の装い、効能の露呈、阿鼻叫喚の混乱、そして警戒態勢の確立へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
騎士団長会議
騎士団長会議の展開と持つ意味合いの全貌
『星の力を得た少女』などの物語作品における「作中における騎士団長会議の展開と、それが持つ意味合い」について、会議の概要と変容、黒き王探索前の公式会議、星降の森からの帰還後の縮小騎士団長会議、サザランドからの帰還後の第2回騎士団長会議、および極秘事案の連続となる第3回騎士団長会議の各点から解説する。
会議の概要と変容
本来、騎士団長会議は王国騎士団のトップたちが集まり、国家や騎士団の重要事項を決定する厳粛な場である。
・フィーアの入団以降、彼女が引き起こす未曽有の事態が次々と報告されるようになった。
・王国最高峰の頭脳と実力を持つ団長たちが常識を破壊され、恐怖や絶望で疲労困憊していく修羅場と化している。
黒き王探索前の公式会議
霊峰黒嶽から星降の森に飛来した黒き王への対応を協議した会議である。
・成長した黒竜の捕獲は不可能と判断され、敵意を見せずに霊峰黒嶽へ誘導するというクェンティン団長とザカリー団長の案が承認された。
・この際、フィーアはクラリッサ団長の後ろに随行として隠れていたが、クェンティン団長と視線だけで意思疎通を図るなどの行動を見せた。
星降の森からの帰還後の縮小騎士団長会議
黒竜探索からわずか1時間で帰還した理由を報告するため、シリル、デズモンド、ザカリー、クェンティン、ギディオンの間で秘密裏に行われた会議である。
・ザカリーから、フィーアの従魔が黒竜であるという第一級秘匿情報が証拠とともに明かされた。
・黒竜を前に何もできなかった己の無知を恥じたギディオンとクェンティンは降格を願い出、新人騎士のフィーアを第四魔物騎士団長に推薦した。
・これに反発するデズモンドらで場が混乱の極みに達した瞬間、シリルが風魔法を行使して降格願の書類を粉砕し、強引に議論を封殺するという実力行使に出た。
サザランドからの帰還後の第2回騎士団長会議
シリルがサザランドから帰還した翌日に急遽開催された会議である。
・フィーアがサザランドの住民から大聖女の生まれ変わりと認定され、現地が和解に至った事実が報告された。
・フィーアは住民から無償で譲り受けた至上の聖石の価値を理解しておらず、王都への帰還直後、偶然娯楽室にいたデズモンド、イーノック、クェンティン、ザカリー、サヴィス総長にお土産として配ってしまっていたことが判明した。
・自分だけが聖石をもらっていなかった事実を知ったシリルは激しく嫉妬し、会議室に戦場のような殺気を放った。
・団長たちは必死に弁解させられ、二度と思い出したくないほど疲弊することとなった。
極秘事案の連続となる第3回騎士団長会議
随行騎士の同席すら許されない、極秘中の極秘議題のみを扱う会議である。
・黒竜の従魔化:確たる証拠は出せないものの、フィーアが黒竜を従魔にしている可能性が高いとして情報の共有が行われた。
・大聖女の薔薇の発見:300年ぶりに大聖女の薔薇が王城の庭で発見され、それを見つけたのがフィーアであることが明かされた。
・魔人の討伐と封印:霊峰黒嶽でカーティスとフィーア、帝国の協力騎士が300年ぶりに現れた紋付きの魔人を討伐し、封じの箱に封印して持ち帰ったことが報告された。
・国王面談の看破:フィーアが国王面談において、道化師セルリアンの名前のアナグラムや衣装、左腕の呪いなどから、彼が精霊王の呪いで若返り続けている真の国王であると完璧に見抜いてみせたことが共有された。
・サヴィス総長が次期国王として即位する極秘計画や、シリルが次期騎士団総長に就任する予定、筆頭聖女の近衛騎士団長にカーティスが就任するといった国家体制に関わる重大発表が行われた。
まとめ
騎士団長会議を巡る一連の全貌は、本来の厳粛な決定機関としての機能から始まり、フィーアがもたらす規格外の事態による常識の破綻、有能な団長たちの苦心と混迷、そして国家の根幹に関わる重大な決定に至るまで、その大きな激変を明瞭に示している。旧態依然とした常識や厳格な規律という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、騎士団トップたちの苦闘と群像劇の記録である。会議の開催から、報告の開示、常識の破綻、感情の紛糾、そして重大決断の共有へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
登場キャラクター
第一騎士団
フィーア・ルード
第一騎士団の新人騎士である。前世は300年前の大聖女セラフィーナであり、その事実を隠そうとしている。無自覚に伝説の魔獣を従えたり、未曽有の事件を引き起こしたりする。
・所属組織、地位や役職
第一騎士団・新人騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
国王面談で道化師セルリアンの正体が真の国王であることを見抜いた。サザランドの住民から大聖女の生まれ変わりと認定され、回復魔法が込められた聖石を譲り受けた。大聖女の薔薇を発見し、それに魔力を注いでかつての効能を再現した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女の規格外の行動は騎士団長たちを振り回し、極秘の会議で何度も議題に上っている。道化師のお気に入りに認定され、王の執務室へ自由に入れる特権を与えられた。
シリル・サザランド
第一騎士団長にしてサザランド公爵である。公平で冷静な判断力を持つ。フィーアのこととなると感情的になる一面がある。
・所属組織、地位や役職
第一騎士団・団長。サザランド公爵。王位継承権第二位。
・物語内での具体的な行動や成果
フィーアが国王面談を受ける際、サヴィス総長を巻き込んで同席させた。極秘の騎士団長会議を主催し、フィーアの引き起こした事件について報告した。フィーアから回復魔法が込められた聖石を受け取り、彼女に黄金の竜の像を贈った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
サヴィス総長が王位を継承した暁には、次期騎士団総長に就任する予定である。
ファビアン
第一騎士団の新人騎士である。王子様のような麗しい外見を持つ。フィーアに対して友好的に接する。
・所属組織、地位や役職
第一騎士団・新人騎士。ワイナー侯爵家。
・物語内での具体的な行動や成果
国王面談で道化師たちからカードゲームの接待を受けたことに気づいた。面談の真の目的に疑問を抱き、フィーアに相談した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
将来的に筆頭聖女の近衛騎士団へ異動する予定であった。
第二騎士団
デズモンド
第二騎士団長である。猜疑心が強く、物事を斜めから検証する傾向がある。
・所属組織、地位や役職
第二騎士団・団長。憲兵司令官。
・物語内での具体的な行動や成果
騎士団長会議において、魔人に関する文献の知識を披露した。「は茶め茶会」で大聖女の薔薇の紅茶を飲み、体が痺れるとともにフィーアを可愛らしく感じる効能を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
フィーアの行動に振り回され、度々疲弊している。
第三魔導騎士団
イーノック
第三魔導騎士団長である。無口な性格だが、300年前の大聖女に関する話題になると饒舌になる。大聖女の茶会に関する本を愛読している。
・所属組織、地位や役職
第三魔導騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
「大聖女の薔薇」の発見に興奮し、300年前の茶会の再現を強く希望した。茶会には自作の古い騎士服を着て参加し、紅茶の効能で正直にしゃべり続ける状態になった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の願望が「は茶め茶会」開催の直接的な原因となった。
第四魔物騎士団
クェンティン
第四魔物騎士団長である。魔物を深く愛し、黒竜を従えるフィーアに心酔している。
・所属組織、地位や役職
第四魔物騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
騎士団長会議において、フィーアが黒竜を従えている可能性が高いと強く主張した。緋色のグリフォンの王を従魔とした。「は茶め茶会」で紅茶を飲み、すべてのことが面白く感じて笑い転げる効能を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は確認されていない。
第五騎士団
クラリッサ
第五騎士団長である。他人の感情に敏感で、陰日向のない性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
第五騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
騎士団長会議において、フィーアとサヴィス総長の関係性について独自の推測を語った。「は茶め茶会」で紅茶を飲み、手の火傷の跡が完全に消える効能を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は確認されていない。
第六騎士団
ザカリー
第六騎士団長である。筋肉を愛する快活な人物である。
・所属組織、地位や役職
第六騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
「は茶め茶会」で紅茶を飲み、体が麻痺しながらも全身の筋肉が覚醒したと思い込む効能を受けた。騎士団長会議において、フィーアが黒竜を従魔にしていることを裏付ける証言を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は確認されていない。
第十三騎士団
カーティス
第十三騎士団長である。サザランドで騎士団長を務めていたが、王都勤務となった。フィーアを至上の存在として絶対的に肯定する。
・所属組織、地位や役職
第十三騎士団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果
霊峰黒嶽で魔人と遭遇した際、協力騎士やフィーアと共に戦い、青騎士が遺した箱に魔人を封印した。「は茶め茶会」で紅茶を飲み、蓄積していた疲労が完全回復する効能を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
サヴィス総長の結婚に伴い新設される、筆頭聖女専用の近衛騎士団長に就任する予定である。
ナーヴ王国(王族・高位貴族・その他)
サヴィス・ナーヴ
黒竜騎士団総長である。ナーヴ王国の王弟であり、国王ローレンスの弟に当たる。冷静で落ち着いた性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
騎士団総長。王弟。王位継承権第一位。
・物語内での具体的な行動や成果
フィーアの国王面談に同席し、彼女が真の国王の正体を見抜く場面に立ち会った。騎士団長会議で、極秘事項について騎士団長たちに説明を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
対外的な国王である影武者が退位した後、サヴィスが王位を継承する予定となっている。
ローレンス・ナーヴ
ナーヴ王国国王である。対外的には影武者を立てている。
・所属組織、地位や役職
ナーヴ王国・国王。
・物語内での具体的な行動や成果
新人騎士の面談において、玉座に座る影武者の傍らで道化師セルリアンとして振る舞い、独自の試験を行っていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
精霊王の呪いにより若返り続けており、サヴィスに王位を譲る予定である。
セルリアン
道化師の少年である。その正体は真の国王ローレンスである。自由気ままで悪戯好きだが、王としての思慮も併せ持つ。
・所属組織、地位や役職
道化師。ナーヴ王国・真の国王。
・物語内での具体的な行動や成果
国王面談でカードゲームなどを通じて騎士を見極めていたが、フィーアに正体を見破られた。フィーアの洞察力を高く評価し、彼女を道化師にスカウトしようとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
祖先が受けた精霊王の呪いを継承しており、毎年一歳ずつ体が若返っている。
ロイド・オルコット
オルコット公爵である。道化師ドリーとして国王の傍に仕えている。興味を持った対象には執着する傾向がある。
・所属組織、地位や役職
オルコット公爵家・当主。道化師。
・物語内での具体的な行動や成果
フィーアの才能を高く評価し、庭で彼女を見かけた際に強引に親交を結ぼうとした。極秘に聖女プリシラを養女に迎えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
三大公爵の一人として、国王の双璧と称される権力を持つ。
ノエル・バルフォア
バルフォア公爵である。道化師ロンとして国王の傍に仕えている。慎重で常識的な判断を下す。
・所属組織、地位や役職
バルフォア公爵家・当主。道化師。
・物語内での具体的な行動や成果
フィーアに興味を抱き接近しようとするロイドを、サヴィス側の陣営と距離を保つべきだと制止した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
三大公爵の一人として、国王の双璧と称される権力を持つ。
シャーロット
王城勤めの聖女である。
・所属組織、地位や役職
聖女。
・物語内での具体的な行動や成果
王城の庭でフィーアと共に薬草を摘んでいた際、ロイド・オルコット公爵たちと遭遇した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は確認されていない。
ナーヴ王国(300年前)
セラフィーナ
300年前の大聖女である。フィーアの前世に当たる。自由奔放で周囲を振り回すが、誰からも愛される魅力を持つ。
・所属組織、地位や役職
ナーヴ王国・第二王女。大聖女。
・物語内での具体的な行動や成果
シリウスを題材にした奇抜な詩歌を作成し、姉のサロンで披露した。年末の挨拶に向けて甘味断ちを宣言したが、シリウスに懇願して特別に菓子を食べさせてもらった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女が開催したお茶会は、紅茶の効能から「運命の茶会」と呼ばれ、騎士団長たちに恐れられていた。
赤盾近衛騎士団(300年前)
シリウス・ユリシーズ
300年前の赤盾近衛騎士団長である。セラフィーナを過保護なまでに守護する。
・所属組織、地位や役職
赤盾近衛騎士団・団長。ユリシーズ公爵。
・物語内での具体的な行動や成果
セラフィーナの王女としての教育を補佐し、彼女が甘味を欲した際には特製の小さな菓子を用意した。セラフィーナが作成した奇抜な詩歌の被害を抑えるため、カノープスを題材に加えるよう提案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
セラフィーナを構成する全てを未来永劫守ると誓いを立てた。
カノープス
300年前の赤盾近衛騎士団の騎士である。シリウスの部下に当たる。
・所属組織、地位や役職
赤盾近衛騎士団・騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
シリウスの計略により、セラフィーナの詩歌の題材として巻き込まれた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき地位の変化は確認されていない。
魔物・精霊
ザビリア
フィーアの従魔である黒竜である。主である彼女を第一に考える。
・所属組織、地位や役職
魔物・黒竜。
・物語内での具体的な行動や成果
小さな姿に縮小化して王都の騎士寮に潜伏している。公爵邸を訪問するフィーアから、何があっても隠れているよう約束させられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
第一騎士団の騎士たちからは、黒竜ではなくただの鳥やトカゲだと思われている。
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展開まとめ
1 王都帰還
王都への帰還報告
王都へ戻ったフィーアは、休暇期間を大幅に超過したことを気にしながら、最初にシリル団長へ報告した。第十一騎士団の砦に滞在している間は業務扱いになるため、霊峰黒の竜たちの移動状況を確認していたことにして堂々と振る舞った。姉や友人に会えたと笑顔で語る一方、第一騎士団には従魔を持つ習慣がないため、勤務中はザビリアと別行動を取っていた。
国王との面談
シリル団長は、サヴィス総長が王都へ戻り次第、フィーアと国王との面談を行うと告げた。サヴィス総長は毎年、国王との面談時期になると王都を離れており、今回も地方騎士団の視察に出ていた。国王がサヴィス総長の兄であるため、シリル団長は自分だけに対応を押し付けさせまいと、フィーアの面談へ総長を同席させるつもりだった。
フィーアは、休暇延長を快く許された背景にシリル団長の計算があったと気付き、自分が手のひらで転がされていると訴えた。しかし、シリル団長は振り回されているのは自分の方であり、フィーアを思い通りにできたことなどないと返したため、フィーアは脱力して執務室を後にした。
赤い宝石の剣
勤務を終えて部屋へ戻ったフィーアは、第十一騎士団の砦から持ち帰ったシリウスの剣を手に取った。長身のシリウスに合わせた剣はフィーアには扱えなかったが、お守りとして飾っていた。ただし、柄にはめ込まれた宝石だけが三百年前と異なり、シリウスを象徴していた銀色から赤色へ変わっていた。フィーアは、持ち主が代わったことで装飾も替えられたのかと考えた。
ミニ黒竜の正体
外出していたザビリアは、ブルーダブの変装道具を身に着けず、小さな黒竜の姿で窓から戻ってきた。第十一騎士団の騎士たちも、その姿を鳥やトカゲに似た弱そうな生物だと思い込み、黒竜だとは誰も疑わなかった。そのためザビリアは、王都でもそのまま過ごせるのではないかと考えた。
フィーアも、正体が露見した場合は王国の守護聖獣として騎士たちが跪いている間に逃げればよいと答えた。ザビリアは、その発想を本気で口にできるフィーアを大物だと評し、二人は以前と変わらない会話を楽しんだ。
ザビリアとシリウスの剣
帰還翌日で疲れていたフィーアは、ザビリアとシリウスの剣があれば安全だと考え、剣を枕元に置いて早めに眠った。しかし、フィーアは普段から寝つきがよかったため、シリウスの剣に安眠効果があったのかは分からなかった。
私の近衛騎士団長(300年前)
夜会に向けたダンスレッスン
夜会を二週間後に控えたセラフィーナは、シリウスからダンスを教わっていた。しかし、足元ばかりを見て何度もシリウスの足を踏んでしまい、顔を上げて彼の表情を見るよう注意された。シリウスは、夜会でセラフィーナと踊る相手は自分だけだと言い切り、何かを企むように笑った。セラフィーナは、彼がそう断言した以上、その通りになるのだろうと諦めてレッスンを再開した。
王女としての準備
聖女としての活動を優先し、王女に必要な教養を十分に身に付けてこなかったセラフィーナは、国王から命じられた夜会への出席準備に追われていた。多忙なシリウスは時間を作って彼女を助け、疲労を見抜いて休憩を取らせるだけでなく、紅茶の好みまで把握していた。セラフィーナは、誰よりも自分を理解してくれるシリウスに感謝した。
シリウスの努力
セラフィーナは、騎士として生きてきたシリウスが、ダンスや政治、貴族としての作法まで完璧に身に付けている理由を尋ねた。シリウスは、体力があり睡眠が少なくて済むため、空いた時間に学んだだけだと答えた。
周囲は彼の能力をシリウス・ユリシーズだからと片付けていたが、セラフィーナは、その成果が絶え間ない努力によるものだと断言した。さらに、現在もシリウスであり続けるために努力を重ねていることは明らかだと、その歩みを肯定した。
大聖女を守る誓い
セラフィーナの言葉を聞いたシリウスは、彼女が自分を認め、救ってくれることへの喜びを口にした。そして、セラフィーナの手の甲に口づけると、深紅の髪、金の瞳、奇跡を生み出す腕を含め、彼女を構成する全てを未来永劫守ると誓った。
セラフィーナは照れを隠して淑女の礼を執り、シリウスも騎士の礼で応えた。その後、二人は顔を見合わせて笑い合った。暖かな光の中で、セラフィーナはシリウスと過ごした時間が常に輝いていたと思い、誰よりも素敵な近衛騎士団長だと心の中で呼び掛けた。すると、シリウスから優しく自分の大聖女と呼び返されたように感じた。
43 王様ゲーム
シリウスの夢
翌朝、フィーアはシリウスの剣と眠ったことで、三百年前にシリウスと過ごした記憶を夢に見たのだと考えた。夢の中では、シリウスがセラフィーナの深紅の髪や金の瞳を称え、彼女を構成する全てを守ると誓っていた。フィーアは、現在でも深紅の髪と金の瞳の組み合わせが珍しいことを思い出し、サヴィス総長の言葉と結び付けた。
国王面談への同行
王都へ戻って四日後、サヴィス総長の帰還に合わせてフィーアの国王面談が決まった。シリル団長は、国王が護衛につく騎士を自ら見極めるため、様々な試みを行う可能性があると説明した。控えの間で合流したサヴィス総長は、フィーアが面談相手だと知って驚いたが、何か起きても自分とシリル団長が後ろにいると励ました。
煌びやかな国王と道化師たち
国王の執務室には、豪華な衣装をまとったローレンス王と多数の騎士や側近、三人の道化師が待ち構えていた。ローレンス王はフィーアの入団式での手合わせについて尋ね、彼女はサヴィス総長への不敬を避けながら、自分に関する部分だけを答えた。
国王は道化師のセルリアンにフィーアの評価を求めた。セルリアン、ロン、ドリーは、フィーアや騎士団を次々に皮肉ったが、サヴィス総長とシリル団長は黙って受け流していた。フィーアは、三人が国王のお気に入りであるため無礼を許されているのだと考えた。
ルーア語の口調
セルリアンは独特な口調を馬鹿にしないフィーアを挑発した。しかし、フィーアはその話し方が古いルーア語の母音と語尾を尊重したものだと見抜き、完璧に模倣してみせた。さらに、ルーア語程度は教養の範囲だと言い放ったため、セルリアンは言葉を失い、サヴィス総長とシリル団長は笑いをこらえきれなかった。
左腕を蝕む呪い
フィーアは、セルリアンの左腕が動かず、強力な呪いを受けていることに気付いた。しかし、その術式だけは全く読み解けなかったため、自身の聖女としての力が不足していると落ち込んだ。セルリアンは、自分の言葉で傷付けたと勘違いして謝罪し、国王は二人にカードゲームで親交を深めるよう命じた。
国王崇拝
フィーアは道化師たちとのゲームで好成績を収めた後、サヴィス総長、シリル団長、セルリアンと国王崇拝というカードゲームを始めた。配られた手札には三枚のキングと一枚だけのジョーカーが偏っており、フィーアはゲーム自体が国王による試験だと見抜いた。
フィーアは勝てるよう仕組まれているからこそ、単に勝つのではなく、試験の意図に応える必要があると考えた。最後までジョーカーを残し、セルリアンが最後に出したキングを切ると、国王を上回るのは道化師だけだと言い放った。
道化師に扮した国王
フィーアはセルリアンの前で騎士の礼を執り、彼こそ国王だと告げた。セルリアンという名前がローレンスの文字を並べ替えたものであること、青と白の衣装と馬の意匠が古い国旗と守護聖獣ユニコーンを表していることが理由だった。
さらに、セルリアンの左腕に精霊王の呪いが掛かっていると見抜いたことが決め手となった。王家の始祖は精霊王と人間の娘の子であり、人の身で精霊の呪いを受けられるのは王家の血を引く者だけだと判断したのである。正体を暴かれたセルリアンは動揺し、影武者を退出させた。
国王の秘密
セルリアンは、自分こそ国王ローレンスであり、表向きの国王は影武者だと明かした。その事実を知る者はごく少数で、第一騎士団の騎士たちも影武者を本物だと信じて警護していた。道化師セルリアンを最優先で守るよう命じることで、本物の国王の安全が確保されていた。
ローレンスは十年前から一年ごとに一歳ずつ若返り、現在は九歳ほどの体になっていた。王家に流れる精霊王の血による力だと考えられており、国民の混乱を避けるため影武者が立てられていた。
三百年前の呪い
ローレンスは、左腕の呪いが自身に直接掛けられたものではなく、三百年前に祖先が受けた精霊王の呪いを継承したものだと語った。フィーアは三百年前という時期に、自分の前世が関係していた可能性を一瞬疑ったが、精霊王に会った記憶はなかった。
ローレンスは、自分の正体を初めて見抜いたフィーアに強い興味を示し、今後も頻繁に会うよう求めた。さらに道化師への勧誘を考えたが、フィーアは個性的な衣装を見て即座に拒否した。
疲労困憊の面談
面談後、フィーアはシリル団長が国王面談を嫌がっていた理由を理解したと語った。シリル団長は、これまでは国王に振り回される騎士を見守ることが心労だと思っていたが、フィーアに振り回される国王を見る方がはるかに疲れると答えた。
フィーアは、国王の試みに応えるよう助言されたため、普段以上に能力を発揮した結果、正体を見破れたのだと胸を張った。シリル団長は、自分の言葉で自分の首を絞めたのだと悟り、反省を口にした。
【挿話】 国王の双璧
国王の双璧
ナーヴ王国では、ロイド・オルコット公爵とノエル・バルフォア公爵が国王の双璧と呼ばれていた。二人は重要な場に必ず同席し、的確な進言によってローレンス王を支えていると周囲から信じられていた。しかし、実際には二人が国王に扮するセルリアンとともに、ロンとドリーの名で宮廷道化師を務めていた。
フィーアへの評価
王城の庭を歩いていたロイドとノエルは、遠くにいるフィーアを見つけた。ロイドは国王の正体を見破ったフィーアを、周囲が知覚できない情報まで読み取り、真実を導き出す天才型だと高く評価した。
ノエルは、フィーアが呪いや王家の血筋を言い当てたのは偶然だと考えていた。しかしロイドは、根拠を言語化できなかっただけで、フィーアは実際に真実を捉えていたのだと断言した。サヴィスとシリルが面談中に沈黙していたのも、フィーアにさらに多くの秘密を悟らせないためだと説明した。
精霊王の秘密
ロイドは、ローレンスが三十歳に関する言葉を口にした際、王家に課された大きな制約までフィーアに気付かれる危険があったと考えていた。フィーアは別の解釈をしたため秘密は守られたが、今後も予想外の情報を読み取る可能性があると警戒した。
さらに、フィーアの深紅の髪と金の瞳が大聖女を思わせる色であるため、聖女たちから注目されれば災厄になりかねないとノエルは恐れた。ロイドは、いずれ注目されるなら早めに接触し、関係を築く方がよいと主張した。
フィーアへの接近
ロイドがフィーアに近付こうとすると、ノエルは国王側とサヴィス側を明確に分ける必要があるとして制止した。次代を担うサヴィスに不要な傷を負わせないため、騎士団との距離を保つべきだと考えていたからである。
しかしロイドは、権力に興味を示さず自分へ近付いてこなかったフィーアに強く惹かれていた。面白い存在と知り合いたいという好奇心を抑えられず、ノエルの警告を無視してフィーアのもとへ向かった。
ロイドとの初対面
フィーアは庭で草を摘んでおり、声を掛けてきたロイドが誰なのか分からなかった。ロイドは、フィーアが正式な名乗りを求めて演技しているのだと好意的に解釈し、オルコット公爵のロイドだと自己紹介した。
ロイドは呼び捨てを求め、セルリアンの秘密を知る二十人の一人だと明かした。しかしフィーアは、道化師ドリーとロイドが同一人物であることに全く気付いていなかった。名前を並べ替えるよう促されても考えようとせず、ロイド本人への関心の薄さを露わにした。
ロイドの執着
自分に興味を示さないフィーアの反応を見たロイドは、かえって強く関心を抱いた。ノエルは、一度興味を持つと執拗になるロイドから逃げるようフィーアに忠告した。
フィーアは逃げようとしたが、すでにロイドに腕を掴まれていた。ノエルが手を放すよう迫り、フィーアも抵抗したものの、ロイドは笑顔のまま話をしようと誘い続けた。普段は他人に関心を示さない二人の公爵が騒ぐ姿を、王城の人々は驚きながら見守っていた。
【挿話】第3回騎士団長会議
極秘の騎士団長会議
王都にいる騎士団長たちとサヴィス総長が集まり、フィーアに関する第一級秘匿情報を共有する会議が開かれた。進行役のシリルは、不明点が多く内容を完全には理解できていないと前置きし、出席者たちを不安にさせた。
黒竜の従魔
シリルは、フィーアの従魔が王国の守護聖獣である黒竜だと報告した。クェンティン、ザカリー、カーティスは実際に黒竜がフィーアに従う姿を目撃していたが、なぜ千年以上生きた強大な魔物が彼女に従ったのかは分からなかった。
黒竜はフィーアと完全につながっており、彼女の感情や思考を読み取る可能性があった。そのため、フィーアを悪く言えば黒竜に襲われかねないと知った団長たちは恐怖した。確実な証拠を提示できないため、会議ではフィーアが黒竜を従魔にしている可能性が高いとの結論に留められた。
グリフォンの王
クェンティンは、フィーアと黒竜がグリフォンの生息地から連れてきた緋色のグリフォンの王を、自身の従魔にしたと明かした。しかし、黒竜の話を聞いた直後だったため、その重大な成果も団長たちから軽く受け流された。
大聖女の薔薇
続いてシリルは、三百年前に失われた大聖女の薔薇が王城の庭で発見されたと報告した。宝石のように輝く赤い花を見つけたのはフィーアであり、彼女は国王から依頼された聖女の墓標用の花として、庭から摘んでサヴィスに渡していた。
フィーア自身は花の価値を理解しておらず、受け取った金貨でデズモンドたちに食事を振る舞っていた。事情を知った団長たちは、黒竜に続いて失われた花まで見つけるフィーアの異常な幸運に驚愕した。
フィーアに見えるもの
シリルは、なぜフィーアの周囲だけで異常事態が続くのか、その理由を探ろうとした。クェンティンは、フィーアには他者が見逃すものを知覚し、最善の行動を選ぶ力があるのではないかと推測した。
サヴィスも、フィーアが入団式で自身の古傷を見抜いたことを思い出した。カーティスだけは、フィーアが薔薇に魔力を注ぎ、大聖女の薔薇へ変化させた真相を知っていたが、彼女の秘密を守るため明かさなかった。
大聖女の薔薇の効能
カーティスは、大聖女の薔薇から茶を作れば、花に込められた大聖女の意図に応じた効能が現れる可能性を示した。三百年前には、麻痺解除や体力回復など、使用する花によって異なる効果が生じていた。
シリルは庭を立入禁止とし、変化した二株と残る薔薇の経過を調査すると決めた。三百年間失われていた花がこの時期に現れたことを、何かの予兆ではないかと警戒した。
三百年ぶりの魔人
最も重大な議題として、カーティスたちが霊峰黒嶽で魔人に遭遇したことが報告された。魔人は三百年間姿を消していたが、今回現れた二紋の鳥真似は少女に擬態し、人間の言葉と振る舞いを身に付けていた。
人間に紛れている魔人が存在する可能性が生まれたことで、団長たちは強い危機感を抱いた。カーティスは、協力した二人の冒険者とフィーアとともに戦い、魔人を倒したと説明した。
フィーアの戦力
団長たちは、騎士として強くないフィーアが魔人戦で役に立つとは信じられなかった。しかし、彼女にはサザランドで得た強力な聖石と、従魔である黒竜があった。
攻撃と回復の双方で破格の力を行使できると考えた団長たちは、本人の剣技ではなく、保有する力を含めればフィーアが最強なのではないかと認めた。カーティスは当然のこととして、フィーアこそ最強だと断言した。
封じの箱
デズモンドは、紋付きの魔人を殺すと紋が別の魔人へ移るため、完全に滅するには専用の箱へ封じる必要があると説明した。するとシリルは、カーティスから提出された封じの箱を取り出した。
カーティスは、青騎士の領地であるサザランドに残されていた箱を使い、倒した魔人を正しく封じていた。国王の判断により、箱は大聖堂へ届けられ、魔人の再出現が各国へ共有されることになった。
国王面談の真相
シリルは、フィーアが国王面談で道化師セルリアンの正体を見抜いたことも報告した。フィーアはセルリアンの口調が古いルーア語に基づくものだと見破り、逆に彼を言い負かした。
さらに、カードゲームでセルリアンのキングをジョーカーで打ち破り、国王を上回るのは道化師だけだと言い放った。その後、名前のアナグラム、衣装に使われた旧国旗と聖獣、左腕の呪いを根拠に、セルリアンが真の国王だと断定した。騎士団長たちは、フィーアの正体を見抜く能力に恐怖すら覚えた。
サヴィスの王位継承
最後に、ローレンスが若返り続けているため結婚が難しく、影武者との差も大きくなっていることから、サヴィスが新たな筆頭聖女と結婚した後に王位を継承する予定だと明かされた。
騎士団長たちは未来の王となるサヴィスへ祝意と忠誠を示した。サヴィスが国王となれば、シリルが騎士団総長を継ぐ見込みであり、騎士団の体制は維持されると考えられた。
筆頭聖女の近衛騎士団
新たな筆頭聖女には専用の近衛騎士団が設けられ、その団長にはカーティスが予定されていた。シリルは当初、同年代の騎士としてフィーアとファビアンを配属するつもりだった。
しかし、フィーアは大事件を呼び込み、大聖女と同じ赤髪を持つため、筆頭聖女との相性を不安視する意見が出た。次の筆頭聖女には、ロイド・オルコット公爵の養女となったプリシラ聖女が有力視されていた。
プリシラとの対面
シリルは、フィーアをオルコット公爵家へ連れて行き、プリシラの反応を確認した上で近衛騎士団への配属を決めることにした。危険を予感したデズモンドは同行を避けようとしたが、フィーアの配属に反対した責任を問われ、同行を命じられた。
黒竜、大聖女の薔薇、魔人、国王の秘密、次代の王と筆頭聖女までを一度に議論した会議は、出席者全員が疲労困憊する中で終了した。
44 公爵邸訪問1
ロイドに捕まったフィーア
王城の庭で薬草を摘んでいたフィーアは、初対面のロイド・オルコット公爵に腕を掴まれ、離してもらえずにいた。ロイドは自分を呼び捨てにするよう求め、フィーアの行動を勝手に解釈しながら親友になりたいと迫った。そこへシャーロットが現れ、ロイドと同行していたノエル・バルフォア公爵から自己紹介を受けた。
ロイドは最近迎えた養女プリシラがフィーアたちと同年代の聖女だと語り、フィーアとシャーロットを公爵邸へ招待した。
シリルとロイドの対立
シリルとデズモンドが庭に現れると、シリルはロイドの腕を捻ってフィーアを解放した。シリルとロイドは、どちらがフィーアから信頼されているかを巡って言い争ったが、フィーアは二人の息が合っていることから、仲がよいのだと受け取った。
フィーアが公爵邸への訪問許可を求めると、シリルは自分とデズモンドも同行すると決めた。さらに、ファビアンも加えた五人で翌朝訪問すると一方的に予定を定め、フィーアのためにストロベリータルトを用意するようロイドへ要求した。
公爵邸訪問の目的
食堂でファビアンと会ったフィーアは、急に決まった公爵邸訪問について尋ねた。ファビアンは、プリシラがシャーロットや赤髪のフィーアをどう受け入れるか確認することが目的だと推測していた。
フィーアは自分が聖女ではないと嘘をついて俯いたが、ファビアンはその様子を誤解し、フィーアが騎士であるから対等に交流できることを喜んだ。一方で、シリルとデズモンドまで同行することから、訪問によって生じるフィーアショックへの備えではないかと冗談めかして語った。
ファビアンの国王面談
ファビアンは、国王面談の目的が理解できなかったとフィーアに相談した。道化師セルリアンを護衛対象として紹介されたものの、国王自ら騎士を一人ずつ面談し、内容を秘密にする理由が分からなかったのである。
また、道化師たちがカードゲームに弱い一方、自分に有利過ぎる札を配っていたことから、接待されたのではないかと推測していた。フィーアは正体を見抜かれていないことに安堵し、自分も同じような面談を受けたと説明した。
伝わらなかった勝利
フィーアは、無礼なセルリアンをカードゲームで完膚なきまでに負かしたと誇らしげに語った。しかし、ファビアンは簡単に受け流した。
後になってフィーアは、全員が勝てるよう仕組まれたゲームだったため、自分がセルリアンを最下位にして勝ったことまで伝わらず、接待に気付かず喜ぶ者だと思われたのではないかと気付いた。私室へ戻ったフィーアは、そうではないと誰もいない空間へ必死に言い訳した。
ザビリアへのお願い
フィーアは翌日の公爵邸訪問についてザビリアに話し、たとえ失礼な言葉を聞いても現れないよう頼んだ。ザビリアは公爵を黒焦げにすればよいと解釈したが、フィーアは誰も傷付けず、おとなしくしてほしいのだと説明した。
ザビリアは自分が黒竜だと周囲に知られていると考えていたが、フィーアはクェンティン以外には正体が露見していないと信じていた。さらに、翌日は聖女であることを隠してプリシラと会うため、自身の擬態にも一切の失敗が許されないと考えた。
ザビリアは約束を受け入れたものの、魔物の世界では侮られないよう出会い頭に噛みつくべきだと助言した。フィーアは、プリシラは争う相手ではなく聖女仲間なのだと念を押した。
オルコット公爵邸への出発
翌朝、フィーアが待ち合わせ場所へ向かうと、シリル、ファビアン、シャーロットはすでに到着していた。フィーアは晴天を見上げ、公爵邸で楽しい出来事が待っていると期待した。
しかし、楽しいことがあるとよいと笑顔で話しかけても、三人は微妙な表情を浮かべたまま答えなかった。フィーアはその反応を、全員が朝に弱いためだと解釈した。
フィーアと騎士団長たちの『は茶め茶会』
強制参加のお茶会
イーノック団長が大聖女の薔薇を使った茶会の再現を強く望んだため、シリル団長とデズモンド団長は被害を分散させようと、フィーアを含む複数の騎士団長を招待した。招待状には出欠の選択肢がなく、不穏な気配を感じたフィーアはクェンティン団長へ譲ろうとしたが、彼もすでに招待されていた。さらにクェンティンが迎えに来ることまで決まり、逃げ道を失った。
秋のは茶茶会
茶会当日、フィーアは大聖女に見立てるため黄色のワンピースを着せられた。会場にはシリル、デズモンド、クラリッサ、ザカリー、カーティス、イーノック、クェンティンの各団長が集まり、イーノックだけは三百年前の騎士服を再現していた。
シリルは茶会を秋のは茶茶会と名付け、大聖女の薔薇の花びらを浮かべた紅茶で、三百年前の茶会を再現すると説明した。騎士団長たちは人体実験だと抗議したが、イーノックの挑発を受けたシリルが開催を決めたため、逃れることはできなかった。
大聖女の薔薇の記憶
カーティスは、大聖女の薔薇の花びらを紅茶に浮かべると、麻痺解除や体力回復など、花びらごとに異なる効能が現れたと語った。その話を聞いたフィーアは、三百年前にも自身の思考が薔薇へ影響し、麻痺や本音の露出、好意の増幅などの効果を持つ花びらが生まれていたことを思い出した。
フィーアは、騎士団長でもない自分を巻き込んだ者たちに二度と茶会を開きたいと思わせまいと決意した。そして、八つのカップへ紅茶を注ぎながら花びらに魔力を加え、効能を強めた。
花びらの効能
紅茶を飲んだ直後は何も起こらなかったが、おかわりまで飲んだデズモンドは体が熱くなり、フィーアを可愛らしく感じながら不器用に褒め始めた。クェンティンは全てを面白く感じて笑い続け、クラリッサは手の火傷が消えた。
ザカリーは全身が麻痺しながら筋肉が覚醒したと思い込み、シリルは攻撃力が増してカップや椅子を簡単に粉砕した。イーノックは思ったことを次々に口にし、カーティスは蓄積していた疲労が消えて完全に回復した。
無傷のフィーア
フィーアは聖女であるため、悪い効能を受けても体内で自動的に解除できた。そのため、騒ぎ続ける団長たちをよそに、用意されたケーキやクッキーを食べながら優雅に茶会を楽しんだ。
デズモンドの異常は二種類の花びらを摂取した結果であり、他の団長たちにもそれぞれ異なる効能が現れたとフィーアは推測した。周囲が麻痺したり笑い続けたりする中、フィーアは彼らが本当にこの茶会を望んでいたのかと疑問を抱いた。
大聖女様のお茶会
カーティスは、名誉ある大聖女様のお茶会なのだから参加したかったのだと答えた。フィーアは深く考えることをやめ、元護衛騎士であるカーティスとともに最後まで茶会を楽しんだ。
終了後、シリルとデズモンドは、被害分散のために呼んだフィーアが実際に被害を減らしたのか、それとも拡大させたのかを判断できなかった。二人はフィーアが花びらへ魔力を加えた事実を知らず、その真相を知らないまま終わった。
【挿話】道化師たちの反省会
セルリアンの敗因
セルリアン、ロン、ドリーは王の私室に集まり、フィーアに正体を見抜かれた原因を検討した。セルリアンは、ルーア語に基づく口調やローレンスのアナグラム、三百年前の国旗と守護聖獣を模した衣装など、正体につながる要素を盛り込み過ぎたのではないかと考えた。
しかし、これまで誰にも気付かれなかったことから、三人はフィーアの洞察力が特別だったとの結論に傾いた。左腕の呪いや王家の始祖に精霊王の血が流れていることまで言い当てた以上、単なる偶然ではなく、言葉にできない根拠を捉えていたのだと考えた。
フィーアの鋭さと鈍さ
ドリーは、公爵姿でフィーアと会った際、自分が道化師ドリーと同一人物だと全く気付かれなかったと明かした。そのため、フィーアは常に鋭いのではなく、必要な時だけ高い集中力を発揮するのではないかと推測された。
セルリアンは、フィーアの本質は鋭いものの、常に気を張り続けられないため、普段は力を抜くことで均衡を保っているのだろうと考えた。ドリーも、その集中力を短時間維持するために、長く気を抜く必要があるのかもしれないと同意した。
フィーアへの好意
ドリーは、セルリアンが完璧にやり込められる姿を初めて見たため、フィーアを格好よいと思い、気に入ったと素直に認めた。セルリアンも、誇りを傷付けられたにもかかわらず不快ではなく、むしろ清々しさを感じていた。
その理由として、セルリアンはフィーアに悪意や打算がなく、純粋に目の前の事実へ反応していたからだと考えた。そして、フィーアはよい存在だと、珍しく率直に評価した。
閉ざされた未来と希望
セルリアンは、自分の未来が閉ざされており、変えることはできないと静かに語った。それでも、最後にフィーアが清々しい風を運び、何かを変えてくれるかもしれないと期待した。
ロンとドリーは、セルリアンが背負う逃れられない運命を思いながら、フィーアが王家に溜まったものを少しでも吹き払い、セルリアンを楽にしてくれることを願った。しかし、その期待をフィーア本人が知ることはなかった。
【挿話】第2回騎士団長会議
緊急の騎士団長会議
サザランドから帰還した翌日、シリルは急遽騎士団長会議を開催した。会議には王都勤務となった第十三騎士団長カーティスも出席し、サザランドで起きた重大事項が報告されることになった。
大聖女の生まれ変わり
シリルは、赤髪金瞳のフィーアがサザランドの住民から大聖女の生まれ変わりだと認定されたと明かした。多くの偶然と強い大聖女信仰が重なった結果であり、住民たちは心からフィーアを信じていた。
その影響で、住民たちはフィーアだけでなく騎士たちや領主であるシリルも受け入れた。百年前の悲劇以来、領民から拒まれていたシリルがようやく受け入れられたことを知り、騎士団長たちは素直に祝福した。
配られた聖石
サザランドの民は、貴重な聖石を今後もフィーアへ譲り渡すと約束していた。しかしフィーアはその価値を理解せず、帰還した夜にデズモンド、イーノック、クェンティン、ザカリーへ土産として配っていた。
シリルは、聖石にはまだ回復魔法が込められていないと考えていた。ところが団長たちから、瀕死の傷や欠損まで治せるほど強力な回復魔法が満たされていると知らされ、強い衝撃を受けた。
聖石を巡る嫉妬
自分だけ聖石をもらっていなかったシリルは、他の団長たちがフィーアから親しい相手と認められたのではないかと考え、不機嫌になった。団長たちは、聖石を受け取ったのは偶然同じ部屋に居合わせたためだと必死に弁解した。
シリルは一度納得しかけたが、サヴィスもフィーアから聖石を受け取っていたことが判明したため、再び機嫌を損ねた。その後の会議は険悪な空気に包まれ、騎士団長たちは二度と思い出したくないほど疲弊した。
フィーアの申し出
翌日、落ち込んでいたシリルのもとへフィーアが訪れ、一ダース以上の聖石を差し出した。全てに強力な回復魔法が込められており、フィーアは騎士たちを管理するシリルなら最も有効に使えるとして、全部譲ろうとした。
シリルは嫉妬していたことを正直に謝罪し、聖石を受け取れば同等の返礼ができず、フィーア自身の財産にもなると説明した。しかしフィーアは、困っている者を救うための石なので返礼は不要だと主張した。
三つの聖石
フィーアの善意を受け止めたシリルは、全てではなく三つだけ預かることにした。そして、その聖石で必ず騎士たちを救うと約束し、残りはフィーア自身を守るために使うよう求めた。
フィーアはなおも全て渡したそうにしていたが、シリルは彼女の無欲さと善良さを実感し、第一騎士団の騎士として心から誇りに思った。
黄金の竜
数日後、シリルは聖石への礼として、ザビリアに似た黄金の竜の像をフィーアへ贈った。フィーアは本物の黄金だと知って返そうとしたが、シリルは返却すれば職人への侮辱になると告げ、受け取りを拒ませた。
さらにシリルは、フィーアが好みそうな像を追加で作らせていると明かした。貴重品を騎士寮に置けないと訴えるフィーアに対し、盗む者がいれば厳しく処罰すると言い切ったため、フィーアは反論を諦めた。その後も二人の間では、黄金の像を巡る攻防が繰り返された。
【SIDE】 シリウス 「セラフィーナから詩歌の題材にされる(300年前)
詩歌の題材となったシリウス
セラフィーナは姉シャウラが開く詩歌のサロンへ参加するため、シリウスを題材にした歌を作っていた。題材の注目度が重要だと教えられた彼女は、王国最強の騎士であるシリウスなら人目を引くと考えた。
シリウスは自分を世間へ売り出す必要はなく、セラフィーナだけが知っていればよいと拒んだ。しかし、彼女は謙遜だと受け取り、完成した詩歌を披露し始めた。
愛の使者の詩歌
セラフィーナの歌では、シリウスは騎士でも大貴族でもなく、全ての女性へ愛を届ける麗しい使者として扱われていた。忙しいという言葉や無視する態度まで、女性への好意だと解釈されていた。
あまりの内容にシリウスは言葉を失ったが、期待に満ちたセラフィーナを前に否定できなかった。シャウラの助言によって、貴婦人が望むシリウス像を創作したと知り、歌の人物はもはや自分ではないと考えた。
青騎士との比較
シリウスは歌の被害を減らすため、セラフィーナが幼い頃から二つの題材を比較する手法を使っていたと持ち上げた。その上で、青騎士カノープスをもう一人の題材に加えるよう提案した。
突然巻き込まれたカノープスは絶望したが、セラフィーナの望みを拒めず承諾した。セラフィーナは人気のある二人を歌えば注目を集められると喜び、シリウスとカノープスは無言で彼女の話を聞き続けた。
倍増した詩歌
三日後、サロンで披露された詩歌の写しがシリウスへ届けられた。シリウスはカノープスを加えた分、自分の箇所が減ると期待していたが、セラフィーナは歌全体を倍の長さにしていた。
さらに、詩歌の披露後には貴婦人たちが興奮して次々に倒れ、前例のないサロン中止となっていた。シリウスは、原因がセラフィーナの詩歌だったのだろうとため息をついた。
壁に並んだ詩歌
シリウスの私室には、セラフィーナが六歳の時に作った詩歌が飾られていた。彼は今回の歌も内容には難があると感じながら、自分を題材にしたものだからと、その隣へ飾った。
二つを見比べたシリウスは、以前の蛇という言葉を繰り返すだけの歌より格段に成長していると感心した。誰もその評価に答える者はいなかったが、王国は変わらず平和だった。
セラフィーナの甘味断ち(300年前)
年末行事への参加
セラフィーナは、年末に王族が国民へ挨拶する行事へ初めて正式に参加することになった。王女として華やかに登場しようと意気込み、憧れのドレスを着るため、当日まで甘味を断つと宣言した。しかし、シリウスはその言葉を確実に覚え、撤回を許さなかった。
付け焼き刃の王女教育
国王主催のパーティーにも出席するため、セラフィーナは国内貴族の顔や名前、家族構成を覚える必要があった。六時間勉強して三百人覚えたと主張したが、シリウスに間違いを指摘され、実際には百人程度だと訂正された。
糖分不足を訴えたセラフィーナは、甘味がなければ頭が働かないとシリウスに懇願した。さらに、彼にも失えば生活できないほど大切な嗜好品があるのかと尋ねた。
シリウスの嗜好品
シリウスは、その嗜好品が欠ければ満足に息もできないほどだと答えた。セラフィーナは甘味も同じだと訴え、ようやく理解されたと喜んだが、彼が意味していたものが自分であることには気付かなかった。
シリウスは侍女に命じ、通常より小さく作られた菓子を用意させた。セラフィーナは太る心配が少ないと喜び、許可を求めた。
甘味とダンスレッスン
シリウスは、セラフィーナの喜ぶ表情には逆らえないとして、好きなだけ食べることを認めた。ただし、摂取した糖分を運動量へ換算し、翌日以降のダンスレッスンへ追加すると告げた。
セラフィーナは先の苦労より目の前の甘味を選び、美味しさに感激した。シリウスはその姿を優しく見守った。
届かなかった想い
セラフィーナは、シリウスにも大切な嗜好品を楽しむよう勧めた。シリウスは、それは繊細で、自分が望むだけでは手を出せないため、他者に奪われないよう見守るだけで満足だと答えた。
セラフィーナは高位の魔物の肉だと勘違いし、好きな時に手を伸ばせばよいと助言した。シリウスはその言葉を忘れないと意味深に答えたが、セラフィーナは侍女たちの動揺にも気付かず、再び菓子を食べることへ夢中になった。
特別書き下ろし 【挿話】 騎士たちは見た! フィーアの国王面談
騎士たちの国王面談
国王を護衛していた騎士たちは、第一騎士団の新規配属者が受ける面談に同情していた。国王はわずかな質問で興味を失い、その後は道化師たちが面談者を苛立たせたうえ、最後のカードゲームでも意図的に勝たされるため、後味の悪い催しだったからである。
フィーアの悪乗り
フィーアは道化師の独特な口調を、ナーヴ語の基となった言語への敬意だと言い切った。騎士たちは出まかせだと思ったが、道化師たちが驚いた様子を見せ、サヴィスやシリルまで笑ったため、彼女の冗談が予想以上に受けていると考えた。
さらにフィーアは、ルーア語は教養の範囲だと言い返し、道化師へ騎士の礼を取って国王陛下と呼びかけた。騎士たちは、フィーアが完全に悪乗りしているのだと感心した。
面談の正解
サヴィスが人払いを求めると、国王本人が部屋を退出した。騎士たちは、国王までフィーアの遊びに付き合ったのだと受け取り、道化師に全力で合わせ、自信満々に王だと言い切ることこそ面談の正解だったのだと納得した。
しかし、その対応を実践するには羞恥心を捨てる必要があり、自分たちには到底真似できないとも感じた。そのため、騎士たちは改めてフィーアの胆力を評価した。
道化師のお気に入り
後日、フィーアは道化師のお気に入りとなり、王の執務室へ自由に入れる特権を与えられた。騎士たちは誰も疑問を抱かず、短時間で王と道化師に気に入られたのなら当然だと受け入れた。
こうしてフィーアは、誰にも真似できない対応を見せた者として、第一騎士団の騎士たちから称賛され、認められた。
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