- 武闘大会はまだ始まらない。でも前哨戦からすでに血生臭い
- 十億クラム達成。ついに武闘大会が現実になった
- 賞金五億クラム。そりゃ世界中から集まってくる
- 最大の客寄せは新進気鋭の冒険家リーノ
- リーノ本人が思っていた以上に有名人になっている
- リーノが倒したことになっている魔獣には、別の人間の人生も詰まっていた
- リノキス、ちょっと気後れする
- ガンドルフには「本家に当たったら負けろ」
- ニアが「八百長は絶対ダメ」と言わないのが面白い
- ガンドルフ、答えを出した結果逮捕される
- しかも総本山の連中、思っていたより強くなかった
- これで終わりかと思ったら、ニアが「弟子です」と闇討ちに行く
- 弟子のために師匠が「弟子」を名乗るという謎の構図
- 「ガンドルフに手を出すな」を拳で説明する八歳児
- 武闘大会の裏で、アンゼルまでとんでもないことになっている
- ニアの弟子たちが、それぞれ違う形で成長している
- 武闘大会だけではなく「ウィングロード」まで始まりそう
- 武闘大会を作っている最中に、次の巨大コンテンツを探している
- 魔法映像も「完成品」から「成長を追う番組」へ
- 強者が集まれば、商人たちも当然動き出す
- それなのに大会はまだ始まらない
- まとめ|大会前から闇討ちと八百長と因縁だらけ。本番は本当に大丈夫なのか?
どんな本?
「凶乱令嬢ニア・リストン」は、南野海風 氏の著作で小説家になろうで2019年5月から書かれいる。
主人公は、かつて神殺しをも成し遂げた大英雄で、死の間際に自分を殺せるほど強い相手と出会うことを夢見ていた。
しかし、彼女が転生したのは、病弱な貴族令嬢、ニア・リストンだった。
彼女は、第二の人生でも強者を求めて楽しく戦いに身を投じて行く。
彼女は「血雨を歩く者《レッドレイン》」、「白き癒し手」、「騎士殺し」、「自殺願望者」など、様々な異名で呼ばれたが、最も有名なのは「狂乱令嬢」の名だった。
この物語は、彼女の華麗なる戦いの記録と、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた偶像の軌跡を描いている。
また、この作品は2022年9月にHJ文庫から出版されている。
概要
学院の二年生二学期初日、ニア・リストンが構想していた十億クラム企画である王国武闘大会の噂が広まる中で物語は始まる。
国王による魔法映像での正式発表を経て、各所からの追加出資により予算は約四十億クラム規模へ膨張し、浮島を丸ごと会場とする国際的大会へ発展した。
大会活性化の客寄せとして冒険家リーノ(リノキス)が参戦と優勝後の引退を表明し、世間の熱気は急上昇する。
三年生に進級したニアは、リストンチャンネルの停滞打破に向けて新競技「ウィングロード」の企画・番組化を展開。裏社会の動向や単船事故などの混乱を乗り越える中で、本家脚龍や勇星会をはじめとする国内外の強者が続々と王都へ集結する。
四ヵ月後に迫る武闘大会本番に向けた熱気が高まる中、ニアは過密な撮影スケジュールと大会への期待を抱いて夏休みを迎える段階までを描く。
主要登場人物
ニア・リストン
- 立場・所属: リストン伯爵家令嬢、学院小学部二年生→三年生。
- 主人公との関係: 本人(主人公)。
- この巻での主な役割: 武闘大会の資金背景の整理、冒険家リーノの参戦表明および特別番組の演出、不敗記録を保つ「追いかけっこ」番組での敗北演出、ガンドルフの庇護(天破流総本山への夜襲と口止め)、新企画「ウィングロード」の立ち上げ、アンゼルへの「外氣」助言。
- この巻で起きた重要な変化・行動: 三年生へ進級。現金を持たず過密なスケジュールで働く生活実態を兄ニールに理解され、配慮と気遣いを受けるようになる。
リノキス(冒険家リーノ)
- 立場・所属: ニアの専属侍女 / 冒険家リーノ。
- 主人公との関係: 侍女であり武術の弟子。
- この巻での主な役割: 冒険家リーノとして爆発的な人気を獲得し、魔法映像で武闘大会への参戦と優勝後の引退を表明。冬休みの特別番組(一日キャンプ、追いかけっこ)に出演し、氣の着実な成長を見せる。
ガンドルフ
- 立場・所属: 天破流道場主 / 師範代代理。
- 主人公との関係: 武術の弟子。
- この巻での主な役割・変化: 武闘大会を前に総本山から八百長要求を受けるが拒否して衝突し、一時拘留されるも正当防衛で無罪放免となる。総本山師範格らの実力に幻滅する一方で、流派の体面ではなく「強くなりたい」という自身の目的に気づく。
アンゼル
- 立場・所属: 酒場「薄明りの影鼠亭」店主 / 裏社会の支配者カフス傘下の人間。
- 主人公との関係: 氣の指導を受ける弟子のような関係、個人的な貸し借りを持つ協力者。
- この巻での主な役割・変化: カフスから武闘大会での五百億クラムの賭けに伴う優勝を命じられる。ニアから「外氣」の指導を受け、単船事故の際にニールを空中救出する。ベッカーとの決闘を経て負傷する。
ニール・リストン
- 立場・所属: リストン伯爵家長男、ニアの兄(十歳)。
- 主人公との関係: 実兄。
- この巻での主な役割・変化: 妹の過密なスケジュールと生活実態を知り謝罪・気遣うようになる。ウィングロード用単船の試乗・撮影に参加し、燃料魔石の不良による空中事故に巻き込まれるが救出される。
シャール・ゴール
- 立場・所属: 学院生(中学部)。
- 主人公との関係: 相談を持ちかけてきた知り合い。
- この巻での主な役割: ウィングロード競技の普及を目指し、ジャンク品の単船を長年修理。ニアの提案により「ウィングロードを夢みて」の番組主役として放送される。
ベッカー・ガイルマン(赤剣のベッカー)
- 立場・所属: 有名冒険家(四十四歳)。
- 主人公との関係: 冒険家リーノの情報を追う中でアンゼル達と関わる。
- この巻での主な役割・変化: ニールの護衛をアンゼルと共に務める。引退の区切りとしてアンゼルに決闘を挑み、大怪我を負って入院し武闘大会から離脱する。
読んだ本のタイトル
凶乱令嬢ニア・リストン 6 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録
著者:南野海風 氏
イラスト:磁石 氏
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あらすじ・内容
お嬢様、武闘大会前から大乱闘!
王様との約束を果たし10億クラムを揃えたニア。ついに武闘大会の開催が告知され、ウーハイトンの『本家脚龍』、遠国の勇者育成機関『勇星会』など、世界中から強者たちが集まってくる。 さらに、新進気鋭の冒険家リーノの大会参加を大々的に魔法映像で放送すると、ニアの狙い以上に王国の熱気は増して―― 本選前から始まる暗闘で、ニアや弟子たちも大暴れ! 「精進すればいいわ――敗北を糧にして」 天使のような凶乱令嬢の最強無双譚、裏の激闘続く第6弾!!
凶乱令嬢ニア・リストン6 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録
感想
武闘大会はまだ始まらない。でも前哨戦からすでに血生臭い
ついに武闘大会が開催される。
ニアが目標としていた十億クラムを用意し、国を巻き込んだ巨大イベントが本当に動き始めた。
そして、
「強者を集めて戦わせたい」
というニアの願い通り、国内外から強者たちが続々と集まってくる。
ここまでなら順調である。
問題は、集まってくる連中が普通ではないことだ。
有名冒険家。
武闘家。
暗殺集団。
各流派の実力者。
裏社会の人間。
商人やギルドも、それぞれの思惑で強者を大会へ送り込もうとする。
さらに、ニアが客寄せとして作り上げた新進気鋭の冒険家リーノまで参戦を表明。
すると、
「リーノと戦いたい」
という連中まで一気に増えてしまった。
大会はまだ始まっていない。
それなのに乱闘、八百長の強要、闇討ち、裏社会の思惑まで飛び交っている。
前哨戦からして血生臭い。
……いや、ニアの周辺ではいつものことかもしれない。
十億クラム達成。ついに武闘大会が現実になった
前巻までニアがひたすら追いかけていた十億クラム。
ついに必要な資金が集まり、武闘大会開催が現実となる。
最初に聞いた時には、
「子供が思いつきで言っているだけでは?」
くらいの話だった。
それが弟子たちを鍛え、リノキスを冒険家リーノとして働かせ、魔獣を狩り、商会まで巻き込み、本当に実現してしまった。
ニアの行動力がおかしい。
しかも大会が正式に発表されると、さらに資金や人が集まってくる。
ニアが始めた小さな野望が、もう本人だけでは制御できないほど大きなイベントへ成長していた。
賞金五億クラム。そりゃ世界中から集まってくる
大会の優勝賞金は五億クラム。
途方もない金額である。
当然ながら国内だけでなく、外国からも腕自慢が集まり始める。
金が欲しい者。
自分の実力を試したい者。
名を売りたい者。
強者と戦いたい者。
それぞれ目的は違う。
それでも、
「勝てば五億クラム」
という数字の力は大きい。
ニアが望んでいた「強者が集まる場所」が、本当に出来上がりつつある。
ここまで来ると、ニア本人が戦わなくても面白そうである。
最大の客寄せは新進気鋭の冒険家リーノ
そして大会をさらに盛り上げるため、ニアが投入したのが、
冒険家リーノ。
もちろん正体はリノキスである。
そもそもリーノという冒険家を作ったのも、武闘大会の資金を稼ぐためだった。
リノキスに魔獣を狩らせる。
冒険家として実績を積ませる。
金を稼がせる。
そんなことを続けていた結果、ニアが思っていた以上にリーノの名前が売れてしまった。
短期間で莫大な金を稼いだ。
危険な魔獣を次々と倒した。
そして突然姿を消した。
もはや冒険家たちの間では伝説のような存在である。
そこでニアは、
「冒険家リーノ、武闘大会参戦!」
と大々的に告知する。
当然、盛り上がらないわけがない。
リーノ本人が思っていた以上に有名人になっている
面白かったのは、リノキス本人が自分の人気に戸惑っていることである。
ニアからすればリーノは、
「武闘大会のために稼いでもらった冒険家」
くらいの感覚だったのだろう。
しかし世間から見ると違う。
短期間で莫大な金を稼いだ新進気鋭の冒険家。
強大な魔獣を倒した実力者。
そして突然姿を消した謎の人物。
物語として強すぎる。
その結果、
リーノと戦うために大会へやって来る強者まで現れる。
ニアの宣伝戦略は大成功である。
成功しすぎたとも言える。
リーノが倒したことになっている魔獣には、別の人間の人生も詰まっていた
そんなリーノを追って現れた一人が、有名冒険家ベッカーである。
彼がリーノを探す理由には、少し重いものがあった。
リーノが倒したことになっている魔獣。
その魔獣には、ベッカーにとって長年の因縁があった。
かつての仲間たちに関わる相手であり、自分自身の手で決着をつけるつもりだった。
ところが、
リーノが先に倒してしまった。
もちろん実際にはニアたちの事情も絡んでいる。
しかしベッカーは知らない。
自分の人生に長く残っていた因縁を、突然現れた冒険家が先に終わらせてしまった。
この話を知ると、リーノの名前が売れることの怖さも感じる。
名声が大きくなればなるほど、本人の知らないところで人間関係や因縁まで増えていくのである。
リノキス、ちょっと気後れする
これはリノキスにとっても重い。
自分が倒したことになっている。
自分の名前で功績になっている。
しかし、その魔獣には他人の人生まで関わっていた。
リノキス自身は、武闘大会の資金稼ぎのためにニアと行動していただけである。
それがいつの間にか、
誰かにとっての憧れになり、誰かにとっての因縁の相手になっている。
冒険家リーノという存在が、リノキス本人の想像を超えて独り歩きしているのが興味深かった。
ニアの弟子として強くなってきたリノキスだが、武闘大会では単純な強さ以外のものまで背負うことになりそうである。
ガンドルフには「本家に当たったら負けろ」
一方、ニアの別の弟子にも問題が発生する。
ガンドルフである。
彼の所属する天破流。
その総本山から人間がやって来る。
そして大会について、
「本家の人間と当たったら降参しろ」
と圧力を掛けられてしまう。
要するに八百長である。
本家の面子を守るため、分派側の人間は勝ってはいけない。
なんともくだらない話である。
せっかく武闘大会という純粋に強さを競える場所ができるのに、始まる前から上下関係や流派の事情が入り込んでくる。
ニアが「八百長は絶対ダメ」と言わないのが面白い
ここで印象に残ったのが、ニアの考え方だった。
ニアなら、
「武人なら正々堂々戦え!」
と言いそうな気もする。
しかし意外にも、八百長そのものを頭ごなしには否定しない。
負けてもいい時なら負けてもいい。
だが、
負けられない時は何が何でも勝て。
重要なのは他人に言われたからではなく、自分がどうしたいか。
非常にニアらしい考え方だった。
世間一般の正しさではない。
流派の正しさでもない。
自分が武人としてどうしたいのか。
そこだけは自分で決めろという話である。
そしてガンドルフは答えを出す。
ガンドルフ、答えを出した結果逮捕される
ニアの助言を受けたガンドルフ。
自分がどうしたいのかを考える。
そして、
総本山の連中を実力でねじ伏せようとする。
結果。
逮捕。
思わず笑ってしまった。
ニアの弟子としては百点なのかもしれない。
社会人としてはかなり危ない。
ただ、ニアも報告を聞いて、
「まあ、そうするよね」
くらいの反応なのが酷い。
弟子も師匠も武人思考すぎる。
しかも総本山の連中、思っていたより強くなかった
さらにガンドルフにとってショックだったのは、総本山の実力だった。
かつては雲の上の存在だと思っていた。
ところが実際に戦ってみると、
十人以上を相手にしても自分が無傷で勝ってしまった。
自分が強くなった。
それ自体は嬉しい。
しかし同時に、
「自分が憧れていた天破流とは何だったのか」
という疑問が生まれてしまう。
強くなるために修行してきた人間だからこそ、本家の肩書きだけでは納得できない。
ここはガンドルフの成長が分かりやすく表れていたと思う。
ニアの修行についてきた結果、本人が思っていた以上の場所まで来てしまったのである。
これで終わりかと思ったら、ニアが「弟子です」と闇討ちに行く
ガンドルフの件は一応収まった。
普通ならここで終わりである。
しかしニアは考える。
総本山の連中が、またガンドルフにちょっかいを出すかもしれない。
ならば、
今のうちに潰しておこう。
この発想である。
そして自分をガンドルフの弟子ということにして、総本山の人間が泊まっている宿へ乗り込む。
黒髪に変装。
天破流の衣装を着用。
礼儀正しく、
「一手御指南願います」
からの実力行使。
やっていることは完全に闇討ちである。
弟子のために師匠が「弟子」を名乗るという謎の構図
ここが今回かなり好きだった。
ガンドルフはニアの弟子である。
なのにニアは、
「ガンドルフの弟子です」
という体裁で総本山へ乗り込む。
関係が逆である。
しかし、この方が都合がいい。
ガンドルフ本人に負けたとなれば、本家としては面子の問題になる。
だが、
「ガンドルフの弟子にまで負けた」
となれば、もっと恥ずかしい。
しかも公にすれば、自分たちの醜態まで知られてしまう。
だから黙るしかない。
ニアなりの弟子を守る方法なのだろう。
やり方は完全に暴力だが。
「ガンドルフに手を出すな」を拳で説明する八歳児
そしてニアは総本山の連中を次々と倒していく。
しかも氣まで使わない。
あくまで天破流の弟子という設定だから、その範囲で戦う。
相手の技の問題点まで指摘しながら倒していくのだから容赦がない。
最終的には実力者ともきっちり戦い、
「ガンドルフを面倒事に巻き込むな」
と釘を刺して帰る。
八歳児のやることではない。
ただ、ニアの場合は弟子を守る方法がこれなのである。
話し合いより先に、
「二度と手を出したくないと思わせればいい」
になる。
前哨戦から血生臭いと思ったが、
やっぱりいつものニアだった。
武闘大会の裏で、アンゼルまでとんでもないことになっている
そして大会に巻き込まれているのはガンドルフやリノキスだけではない。
アンゼルも大変である。
裏社会では大会を利用した巨大な賭けが動き始めている。
アンゼルには、
「武闘大会で優勝しろ」
という無茶な話まで降ってくる。
しかも負ければ、とんでもない金が吹き飛ぶ。
本人からすれば笑えない。
強くなったとはいえ、周囲にはニアの弟子たちや国内外の強者が大量にいる。
勝てる保証などない。
それでも戦わなければならない。
ニアが望んだ「強者同士が本気で戦う場所」が、本人の知らないところでどんどん危険になっている。
ニアの弟子たちが、それぞれ違う形で成長している
今回面白かったのは、弟子たちの成長が単純な強さだけでは描かれていないことだった。
リノキスは冒険家リーノとして巨大な名声を背負う。
ガンドルフは本家の圧力と、自分が信じてきた流派への疑問に直面する。
アンゼルは大会で勝たなければならない理由を背負いながら、さらに氣を磨く。
同じニアの教えを受けていても、
抱えている問題が全員違う。
そしてニアも、それぞれに同じ答えを押し付けない。
最終的には、
「お前はどうしたい?」
というところへ戻ってくる。
強くなる方法は教える。
しかし何のために強くなるのかまでは決めない。
この師弟関係が面白い。
武闘大会だけではなく「ウィングロード」まで始まりそう
さらに今回、今後の大きな話になりそうなのが、
ウィングロード
である。
飛行船技術を利用した新しい競技。
速度を競うレース。
技術を見せるトリック。
複数艇によるフォーメーション。
ヴァンドルージュでは人気競技だが、アルトワールではまだほとんど知られていない。
ニアはこれを知ると、
「魔法映像の新企画に使えるのでは?」
とすぐに食いつく。
武闘大会の準備だけでも大変なのに、もう次の商売と番組企画を考えている。
本当に止まらない。
武闘大会を作っている最中に、次の巨大コンテンツを探している
ウィングロードが興味深いのは、単なる新競技として終わりそうにない点である。
魔法映像と相性がいい。
商会も絡める。
賭けも成立する。
国外との交流にもなる。
そして将来的には世界規模の競技になる可能性まである。
ニアの頭の中ではすでに、
「これをリストン領の番組として押さえられないか」
という発想になっている。
武闘大会を実現したと思ったら、もう次の種を蒔いている。
ニアが恐ろしいのは武力だけではなく、面白そうなものを見つけた時の行動速度なのかもしれない。
魔法映像も「完成品」から「成長を追う番組」へ
ウィングロードを通して、魔法映像にも新しい流れが生まれている。
これまでは完成した企画を見せる番組が多かった。
しかし今回は、
一人の少年が競技用単船を修理する。
完成へ近づいていく。
実際に飛ばす。
その過程そのものを追いかけて映像にする。
いわば、
「完成するまでを見守る番組」
である。
これまでの追いかけっこや料理、紙芝居とはまた違う。
魔法映像という文化そのものも、少しずつ番組の作り方が増えている。
武闘大会だけでなく、こちらも今後かなり大きくなりそうだと感じた。
強者が集まれば、商人たちも当然動き出す
大会が近づくにつれて、商人やギルドも黙っていない。
強い選手を抱える。
自分たちの利益につなげる。
ライバル商会に勝つ。
リーノを倒すための選手を用意する。
ニアが望んでいたのは、
「強い奴をいっぱい集めて戦わせたい」
くらいの話だったはずである。
ところが実際に巨大イベントになると、
商売。
利権。
賭博。
組織の面子。
流派の上下関係。
個人的な因縁。
さまざまなものが絡み始める。
ニアが石を一つ投げた結果、とんでもない波紋が広がっている。
それなのに大会はまだ始まらない
そして第6巻最大のポイント。
これだけいろいろ起きたのに、
武闘大会はまだ始まっていない。
驚く。
完全に大会前の話で一冊終わってしまった。
しかし不思議と物足りなさはなかった。
むしろ、
「これだけヤバそうな連中を集めて、本番どうするんだ?」
という期待の方が大きい。
リーノ。
ガンドルフ。
アンゼル。
国外からやって来た強者たち。
暗殺集団。
有名冒険家。
各組織が用意した実力者。
そして何よりニア。
これだけ駒を並べてしまった。
あとは戦わせるだけである。
まとめ|大会前から闇討ちと八百長と因縁だらけ。本番は本当に大丈夫なのか?
『凶乱令嬢ニア・リストン6』は、武闘大会そのものを描く巻ではなかった。
むしろ、
武闘大会という巨大な舞台に向けて、強者たちが集まり、それぞれの因縁が動き始める巻
だったと感じた。
十億クラムという途方もない目標は達成された。
大会開催が正式に決まった。
五億クラムという賞金を目当てに、国内外から強者が集まる。
冒険家リーノの参戦によって、その熱はさらに加速する。
しかし有名になったからこそ、過去の魔獣を巡る因縁まで背負うことになる。
ガンドルフには本家から八百長を迫られる。
それを拒んで暴れた結果、逮捕騒ぎ。
さらにニアが、
「ガンドルフの弟子です」
と名乗って総本山の連中を闇討ちする。
もう大会前から十分すぎるほど血生臭い。
一方でウィングロードという新しい競技も登場し、魔法映像や商売の世界では、すでに武闘大会の「次」へ向けた種まで蒔かれている。
今回を読んで強く感じたのは、
ニアが一つ何かを始めると、その周囲で勝手に物語が増殖していく
という面白さだった。
本人は強者と戦いたい。
だから武闘大会を開きたい。
出発点はそれだけだった。
ところが実際に動かしてみれば、国、商会、ギルド、裏社会、武術流派、冒険家、外国の強者まで巻き込んだ巨大な騒動になっている。
しかも肝心の大会はまだ始まっていない。
前哨戦だけでこの有様である。
本番が始まったら、いったいどうなってしまうのか。
ニアの弟子たちがどこまで通用するのか。
冒険家リーノとしてのリノキスが、膨れ上がった期待と因縁をどう受け止めるのか。
そして、これだけ集まった強者の中にニア自身が楽しめる相手はいるのか。
大会が始まっていないからこそ、次巻への期待が一気に高まる第6巻だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
ストーリー・プロット
第1幕:武闘大会の公式発表と計画の巨大化
- 原因: ニアが構想していた十億クラム企画の噂が広まり、王国側が意図的に情報を開示したこと。
- 行動: 現国王が魔法映像を通じて王国武闘大会の開催を正式発表する。ニアが拠出した八億クラムとセドーニ商会の出資(計十億)に対し、噂を聞きつけた各界からの追加出資が相次ぐ。
- 結果: 資金が約四十億クラムへ膨れ上がり、王都の競技場ではなく「浮島」を丸ごと会場として押さえ、整地や宿舎建設が始まる国際的大規模大会へと発展。優勝賞金五億クラムを目指し国内外の腕自慢から実力不問の者まで参加希望者が激増する。
- 次の展開: 参戦者の急増に伴う混乱を回避し、大会の客寄せとして育ててきた「冒険家リーノ」の参戦表明を行う必要が生じる。
第2幕:冒険家リーノの参戦表明と冬休み特別番組
- 原因: 冒険家リーノの拠点を追う訪問者が安酒場「薄明りの影鼠亭」に殺到し、店主アンゼルらの負担が限界に達したこと。
- 行動: 冬休み直前に魔法映像でリーノの「大会参加と優勝後の引退」を放送。併せて「一日キャンプ」および「不敗のニアとの追いかけっこ」出演を予告する。ニアは冬休み中に兄ニールの専属侍女リネットを借りて手元で訓練・揺さぶりを行いつつ、リストン領での撮影で実力を見せながらも接戦に見せた敗北演習(出来レース)を完遂する。
- 結果: 特番告知と魔晶板の二割引きが重なって需要が急増し、生徒の三割近くが冬休みに寮に残る事態となったため、ヒルデトーラが再放送を手配して帰郷を促した。リーノは「冒険家ドリーム」の象徴として評価が過熱する。
- 次の展開: リーノの熱狂が広がる裏で、天破流道場主ガンドルフを巡るトラブルが発生する。
第3幕:ガンドルフ逮捕騒動と天破流総本山への威嚇
- 原因: 天破流総本山の上位者が王都に到着し、ガンドルフに「当たったら降参しろ」と実質的な八百長を要求したこと。
- 行動: ガンドルフは自らの武に従って総本山の一団と乱闘を起こし拘留される。レリアレッドが学院へ処分保留を求め、セドーニ商会が動いたことで「人数差による正当防衛」と認められ無罪放免(記録上は拘留)となる。ガンドルフへの再干渉を防ぐため、ニアは夜間に黒髪の門下生「リリー」に変装して総本山の宿泊先へ強行突入し、「氣」を一切使わずに純粋な身体技術のみで一団や師範代レィタオを打ちのめして口止めした。
- 結果: 総本山からの再干渉が阻止され、ガンドルフ自身も流派の体面ではなく「強くなりたい」という己の目的に気づく。
- 次の展開: 騒動が収束し、三年生に進級したニアはリストンチャンネルの停滞打破に向けた新企画の検討へ移る。
第4幕:新競技「ウィングロード」の着想と番組化
- 原因: 三年生への進級後、シャール・ゴールから飛行競技「ウィングロード」の部品調達および競技普及の相談を受けたこと。
- 行動: ニアは停滞気味のリストンチャンネル打破に適合する新企画として可能性を見出し、セドーニ商会へ相談。シャールが事故で捨てられた試作単船を長年修理してきた執念の過程を「修理日記」として撮影・編集させ、準放送局で「ウィングロードを夢みて」として放送させる。
- 結果: 番組は視聴者の関心を集め、元空賊キャプテンの技師リグナーの協力により初飛行に成功。セドーニ商会による用具展開や事業参入と相まって、新競技の認知がアルトワール国内へ急速に広がる。
- 次の展開: ニールをモデルとして起用したプロモーション撮影および現場の警戒活動が開始される。
第5幕:裏社会の動向とアンゼルへの「外氣」伝授
- 原因: 王都へ外国人や武闘家が流入して安酒場が連日荒れる中、裏社会の支配者カフス・ジャックスがアンゼルに対し、五百億クラムの賭けのために武闘大会優勝を命じたこと。
- 行動: 勝ち切る自信のないアンゼルは「借り」を利用してニアと密会し相談。ニアは日常動作に氣を馴染ませてきたアンゼルの愚直な鍛錬を評価し、手足や道具の先へ氣を放つ「外氣」の基礎と宙に立つ応用概念を実演して授ける。
- 結果: アンゼルは次の鍛錬目標を「外氣」に定め、セドーニ商会からの頼みでニール・リストンの護衛仕事(撮影現場の外周警戒)をフレッサやベッカーと共に引き受ける。
- 次の展開: 港の撮影現場において、潜伏する不審な監視者と条件発動型不良魔石による事故が発生する。
第6幕:撮影現場の単船事故と「外氣」による救出
- 原因: 本家脚龍の手下と思われる潜伏者の視線が消えた直後、空中走行中のニールの単船が条件発動型不良魔石の異常により黒煙を吐いて爆発・墜落の危機に瀕したこと。
- 行動: ベッカーが投げた「鍵石」にアンゼルが魔力を込めて即席の救助用単船を組み上げ飛び乗る。アンゼルは「外氣」を応用して空を蹴るように氣を放ち、ニールを空中救出。さらに二千万クラム以上する高級単船の落下衝撃を氣と鉄パイプで殺して無事回収した。その後、工作グループのアジトを襲撃・制圧(リネットも参戦)し、現れた本家脚龍の頭ダウ・ザンシーへ身柄を引き渡す。
- 結果: ニールは無傷で保護され工作員は処分される。直後、ベッカーが引退の区切りとして本気の殺意でアンゼルに決闘を申し込む。
- 次の展開: ベッカーとの死闘を終えたアンゼルが満身創痍で店を守る中、王都には国内外の強者たちが続々と到着する。
第7幕:強者たちの集結と武闘大会へのカウントダウン
- 原因: 引退の区切りとして本気の殺意で挑んできたベッカーに対し、アンゼルが満身創痍になりながらも勝利し、大怪我を負ったベッカーが入院・離脱したこと。
- 行動: セドーニ商会の躍進に対抗するため、ブラウン商会、冒険家ギルド、鍛冶師ギルド等の有力者が半巨人族ギグザラス、音速のジオン、剣鬼アスマ等の強者を擁立。王都にはスレンクラッド王国の勇星会(サウザン、トーハゥロウ)、本家脚龍、猛虎族など他国・他流派の猛者が続々と到着・集結する。
- 結果: ニアは帰郷の船上で港に集う強者たちの気配を察知し、把握しきれていない強者の存在を含め、大会が単なる弟子同士の争いに留まらない展開を予感する。
- 次の展開: ニアは夏休みの過密な撮影スケジュールに向かいながら、約四ヵ月後に迫る武闘大会本番を楽しみに待つ段階となる。
主要な転換点
1:王国武闘大会の公式発表と予算膨張
- それ以前の状況: ニアの十億クラム構想が噂段階として学院内外に広まっていた状態。
- 出来事: 国王が魔法映像で大会開催を正式発表し、各界からの追加出資が相次いだ。
- 変化: 予算が十億から約四十億クラムへ急増し、会場が浮島丸ごとへと変更され、国内外の強者や物流が集中する国際的大規模イベントへ変貌した。
- 次への影響: 参戦者の急増と過熱する熱狂に対応するため、客寄せとしての冒険家リーノの参戦表明が必要となった。
2:冒険家リーノの参戦表明放送
- それ以前の状況: リーノの情報を追う者が酒場「薄明りの影鼠亭」に押し寄せ、店舗の負担が限界に達していた状態。
- 出来事: リーノが魔法映像に出演し、「大会優勝をもって引退する」と表明。併せて特別番組への出演を告知した。
- 変化: リーノの存在が「冒険家ドリーム」の象徴として世間に定着し、魔晶板の売り上げが急増。酒場での待ち伏せ行動が収束した。
- 次への影響: 冬休みの特別番組「追いかけっこ」の撮影・放送が行われ、ニアの不敗演出と出来レースが完遂された。
3:ガンドルフの八百長要求拒否と正当防衛事件
- それ以前の状況: 天破流総本山からの使者が上位者として威張っていた状態。
- 出来事: ガンドルフが総本山からの降参要求を拒否し、力づくで抑え込もうとした総本山の一団と衝突・拘留された。
- 変化: レリアレッドの訴えとセドーニ商会の介在により正当防衛が認められ無罪放免(記録上は拘留)となったが、総本山との確執が発生。ニアが夜襲で総本山側を打ちのめしたことでガンドルフへの再干渉が阻止された。
- 次への影響: ガンドルフは流派の体面ではなく「自身の強さ」を追求する目的を再確認した。
4:シャールの単船修理の番組「ウィングロードを夢みて」放送
- それ以前の状況: リストン領の番組(リストンチャンネル)が通常運行に戻り、埋没気味で新企画を必要としていた状態。
- 出来事: シャールが長年ジャンク品を修理してきた過程を「日記形式」で映像化し、準放送局で放送した。
- 変化: 視聴者の関心を集めることに成功し、セドーニ商会の事業参入と相まって、国内に新競技「ウィングロード」の認知が広がった。
- 次への影響: ニールを起用したプロモーション撮影が行われ、現場での不測の事故へとつながった。
5:カフスによるアンゼルへの優勝命令と「外氣」の教授
- それ以前の状況: アンゼルは裏方として大会の混乱を静観する立場をとっていた。
- 出来事: カフスが五百億クラムの賭けのためにアンゼルへ優勝を命令。アンゼルはニアに相談し、「外氣」の基礎を伝授された。
- 変化: アンゼルが明確な目的を持って「外氣」の習得へ踏み出し、実戦で使用できる技術領域へ達した。
- 次への影響: ニールの単船事故が発生した際、アンゼルが「外氣」を用いて空中救出を成功させた。
6:単船事故での「外氣」実戦使用とアジト制圧
- それ以前の状況: ニールのウィングロード撮影が順調に進んでいた状態。
- 出来事: 条件発動型の不良魔石によりニールの単船が空中失速・爆発の危機に瀕し、アンゼルが「外氣」で空を蹴ってニールを救出。その後、裏で工作していた手先を制圧した。
- 変化: ニールが無傷で救出され、工作グループが本家脚龍に回収・処分された。
- 次への影響: ベッカーが引退の決着としてアンゼルに決闘を挑み、大怪我を負って武闘大会から離脱した。
ニアを中心とした人物関係の変化
ガンドルフ
- 開始時: 弟子に氣と武術の基礎を授ける師のような関係。
- 主な出来事: ガンドルフが総本山と衝突して逮捕された際、ニアが処分保留の助言を出し、さらに夜間に総本山の宿泊所へ突入して相手を打ちのめし、ガンドルフに手を出すなと口止めした。
- 巻末時: ガンドルフが「自分より上」と認める唯一の存在であり、ニアがガンドルフの立場と環境を守った関係。
アンゼル
- 開始時: 裏社会の情報やセドーニ商会との繋ぎを行う協力関係。
- 主な出来事: アンゼルが武闘大会優勝を命じられた際、ニアに「借り」を利用して相談。ニアは「外氣」の概念と実演を授けた。
- 巻末時: 「プロは間違えない」という信頼のもと、技術の助言を与える関係性がより強固になった。
ニール
- 開始時: やや距離感のある兄妹。
- 主な出来事: ニアが金を持たず、趣味も持たず身体を鍛えて過密なスケジュールで働いている実態をニールが知る。ニールは配慮不足を謝罪し、ウィングロード企画への協力を申し出た。
- 巻末時: ニールが妹の置かれた過酷な状況を理解し、気遣いと協力を行う関係へと変化。
シャール・ゴール
- 開始時: ヒルデトーラ経由で相談を持ちかけてきた単なる知り合い。
- 主な出来事: ウィングロードの部品調達を手配し、単船修理の執念を「日記形式」の番組として企画・提案した。
- 巻末時: ウィングロード普及に向けたプロデューサー(企画提供者)と協力者の関係。
主人公の認識と周囲の評価
主人公自身の認識
- 現金を持っておらず、買い物も侍女に代行させている。
- 多忙な撮影スケジュールをこなす中で、身体を鍛えることが実質的な習慣となっている。
- 武闘大会や魔法映像の企画は「最強を決める場の提供」と「普及」が目的であり、個人的な莫大な利益目的ではない。
- 「追いかけっこ」の敗北演出も含め、不敗の演出や企画のコントロールは完璧にこなしていると考えている。
周囲からの評価
- ニール(兄): 妹が一切の遊興を断ち、過密なスケジュールで前借りのために酷使されていると捉え、自身の配慮不足を申し訳なく思っている。
- ニールの専属侍女リネット / 世間: 冒険家リーノ(リノキス)を「短期間で一獲千金を達成した冒険家ドリームの象徴」として崇め、ニアはその完璧な演者・プロデューサーの手腕を持っていると見ている。
- ガンドルフ / アンゼル: 技術や氣の次元を超越した、挑むことすらおこがましい絶対的な強者・指導者として捉えている。
- セドーニ商会以外の商人・裏社会(カフス等): セドーニ商会の躍進の陰にいる存在、あるいは「絶対に敵に回してはならない黒髪の少女(怪物)」として警戒・恐れを抱いている。
認識の差が現れた場面
- ニールとの車中での会話: ニアが五千万クラムの金額を平然と流し、自分の生活感覚(金を持たない、鍛錬が習慣)を語った際、ニールが驚愕し、妹の不憫な生活実態を察して謝罪した場面。
- カフスとマルジュの対談: 裏社会のカフスが「剣鬼アスマを叩きのめした黒髪の少女」を探ろうとした際、マルジュが「触れない方がいい、敵に回したら終わり」と警告し、ニアの現実の幼い姿とは異なる絶対的な脅威として評価されている場面。
展開まとめ
プロローグ
影鼠亭での祝杯
深夜の酒場「薄明りの影鼠亭」で、店主アンゼルと店員フレッサは祝いの酒を酌み交わしていた。王国武闘大会が開催されるという噂が流れ、それが故意に流された確定情報であると二人は理解していた。この噂は、ニア・リストンが目標としていた十億クラムの件が無事に決着したことを意味していた。横槍や妨害を警戒して落ち着けずにいた二人は、ようやく安堵していた。自分たちも多額を貢いだが、最終的にはニアの力が決定打となったことを思い返しつつ、今後の大会規模と賞金額によっては国内外から強者が集まり、裏の揉め事も増えるだろうと見通していた。それでも退屈せず儲け話もあると、不敵に笑い合った。
脚龍の決断
遠国ウーハイトンでは、暗殺組織「脚龍」の長クゥ・ユンシェイが月見酒を楽しんでいた。老齢ながら未だ頂点に立つクゥは、若手が大会の噂に浮き立っていると報告を受ける。時代の変化により組織の在り方に思いを巡らせつつも、戦う以外の生き方を知らぬ若者たちを縛るより、外の世界を見せるべきだと判断した。アルトワールにも脚龍の分派が存在することを思い出し、本家と分家の邂逅は刺激になると考える。参加を許可しつつ、負けて帰れば徹底的に鍛えると命じ、若手の成長を促そうとした。
勇星会の出立
さらに遠いスレンクラッド王国では、勇星会の兵舎に武闘大会の噂と五億の賞金が伝わり騒ぎとなっていた。若き勇星会員サウザンは、休暇を控えたトーハゥロウに遠国アルトワールへの参加を持ちかける。賞金よりも未知の強者との戦いに興味を示したトーハゥロウは応じ、二人は大会へ向かう決意を固めた。こうして、勇者を志す二人もまた、遠い国へ旅立つことになった。
第一章 二年生、二学期
学院に広がる武闘大会の噂
二学期初日、教室では王国武闘大会の開催が話題の中心となっていた。夏休み中に噂が広まり、学院中に行き渡っていたのである。ニア・リストンは、自身が構想していた十億クラム企画が動き出したことを実感していた。情報は商会からではなく、王側が意図的に広めた可能性が高いと考えていた。王国公認の国際武闘大会として実現段階に入ったのである。
ヒルデトーラとの再会
放課後、寮に戻ったニアを待っていたのは第三王女ヒルデトーラ・アルトワールであった。夏休み中は多忙で会えなかったが、互いの近況を軽く交わす。ヒルデトーラ主演の大型企画「料理のお姫様大漁祭り出張サービス」は大成功を収め、再放送も重ねられていた。ニアはその奮闘を高く評価しつつも、まずは武闘大会の話題を優先することにした。
十億クラム達成の確認
ヒルデトーラは王城でも大会の話題が持ちきりであると告げ、十億クラムが本当に用意できたのかを確認した。ニアは十億を準備したと明言し、その大半はリノキスの働きによるものであると示した。冒険家リーノとして活動したリノキスが莫大な利益を上げ続けた結果であった。これにより武闘大会開催は決定的となった。
告知と立場の整理
正式発表は魔法映像によって行われる見込みであり、王族であるヒルデトーラが告知を担う可能性が高いとニアは述べた。資金を集めたのはリストン側であっても、これはニア個人の野望であり、リストン家の利益目的ではないと明言した。最強を決める場を設けることと、魔法映像の普及が目的であり、利益は度外視であった。
三人の茶会
やがてレリアレッドも合流し、武闘大会の話題から大漁祭り企画の裏話へと移った。久しぶりに三人が揃い、和やかな茶会が開かれた。武闘大会という大きな動きの裏で、彼女たちの絆は変わらず続いていたのである。
公式発表と予算膨張
王国武闘大会の公式発表は秋の初めに行われ、噂段階だった開催が確定した。学院ではサノウィル、ガゼル、リリミら強者が鍛錬を始めており、発表によってそれが無駄にならないと確定した。現国王が魔法映像で正式発表すると国中が騒ぎとなり、ニアが拠出した八億とセドーニ商会の出資で十億を確保した計画は、追加出資が相次いで最終的に約四十億へ膨れ上がった。大会は想定以上に大規模化し、王都の競技場ではなく浮島を丸ごと会場として押さえ、整地や会場・宿舎建設が始まった。近隣国の船や出稼ぎの人員が流入し、物流と食料需要が急拡大して各領地や貴人、国家までもが金で動き出した。
参加者の激増と賞金の吸引力
優勝賞金が五億クラムと定まり、腕自慢だけでなく実力不問の者までが目の色を変えて鍛え始めた。噂を聞きつけた他国の戦士もアルトワールへ向かい、狙い通り参加者層は国際色を帯びていった。その流れの中で、一年で推定五億を稼ぎ、周辺の高額魔獣を狩り尽くして突然姿を消した冒険家リーノの名声が、伝説として独り歩きするほどに肥大していた。
冒険家リーノ参戦表明の波紋
ニアは、来年開催予定の大会を盛り上げる客寄せとして育ててきた冒険家リーノの参戦表明を公表する段階に入った。魔法映像で参加決定が告げられると、アルトワール王国全体が吠えたかのような騒ぎになり、ニアの想定を超えてリーノの存在が成長していたことが明確になった。
発表時期を巡る葛藤
公式発表から一か月後、冬の気配が漂う夜、八歳になったニアは参戦表明の時期と形を悩んでいた。リーノの参加を想定して動く者とそうでない者がいるため、表明が早過ぎれば参加者が減る可能性があった。一方で、リーノの名声が売れ過ぎた結果、拠点とされる酒場「薄明りの影鼠亭」にリーノを訪ねる者が激増し、店主アンゼルとフレッサの負担が増していた。武闘家や冒険家同士の諍いが頻発し、さらに貴人の使いと思しき者まで強引に踏み込もうとするなど、状況は悪化していた。
早期発表の決断と退避理由の構築
ニアは負担軽減を優先し、早めの発表を決めた。魔法映像で来年の大会に向けて仕上げるため一時アルトワールを離れると宣言すれば、姿を消す理由になり、捜す者は減ると見込んだ。熱狂的な者がどう動くかは不明でも、酒場で待ち伏せするような行動は減るはずだと考えた。
リノキス出演案と企画拡張
ニアはさらに、冒険家リーノとしてリノキス本人が魔法映像で参戦表明する案を提示した。本人の口から語れば話題性が増し、レリアレッドが望む企画「一日キャンプ」への出演にも繋げられると見た。リノキスは戸惑ったが、ニアは冬休みまでに決めればよいとし、選択肢として提示した。加えて、リストン領の番組でも冒険家リーノを使い、不敗のニア・リストンと駆けっこ勝負を組めば話題になると着想した。犬企画に代わる冬休み特別企画として、王都の「料理のお姫様」やシルヴァー領の紙芝居に押され気味な状況を押し返す一手になると判断した。
第二章 参戦表明
参戦表明の放送と学院の熱狂
噂と正式発表を経て武闘大会への期待が高まる中、冬休み直前に冒険家リーノの参戦表明が魔法映像で放送された。撮影は中立性と秘匿性を優先して学院準放送局が担当し、リーノは帽子と高い襟で顔を隠しつつ、武闘大会に参加し優勝をもって冒険家を引退すると明言した。独占インタビューを務めたジョセコット・コイズは一夜で学院中の注目を集め、王都でも学院でも大騒ぎとなった。
番組出演予告が生んだ追い風
リーノは大会まで姿を消すと告げたうえで、失踪前にレリアレッドの一日キャンプと、ニア・リストンの追いかけっこへ出演すると宣言した。この一言だけで魔晶板の売れ行きが伸び、さらに魔晶板の期間限定二割引きが重なって購入者が増えた。冬休みに帰郷せず寮に残って番組を観たい生徒が続出し、人数が三割近くに達したため、ヒルデトーラが冬休み終盤の再放送を手配して帰郷を促し、事態の収拾を図った。加えてヒルデトーラは、リーノを料理のお姫様にも出演させるようニアに求めた。
冬休みの段取りと別行動の決定
終業式後、ニアは港で帰郷の船に乗る準備を進めたが、今回はリノキスを同行させられなかった。リノキスは冒険家リーノとして王都とシルヴァー領の撮影へ向かい、四日後にリストン領で合流する予定となった。リストン家にはリノキスが休暇で帰省すると説明を通し、リノキス不在の間の侍女役として兄ニール・リストンの専属侍女リネットを借りる手配を整えた。
別れの不安と信頼
ニアは飛行船に乗り込み、タラップ下で見送るリノキスと別れた。すぐに合流する予定でありながら、リノキスが撮影先で失礼をしないかという不安が残った。レリアレッドやヒルデトーラへの態度を思い返しつつも、ニアはリノキスがこれまで自分の撮影現場を見て学んできた以上、放送事故になる言動や避けるべき振る舞いは理解しているはずだと考えた。それでもなお、完全には不安を拭い切れないまま、ニアは帰郷へ向かった。
冒険家ドリームという評価
冬休み三日目の夜、リストン家の自室でリネットの修行を見ながら、ニア・リストンは冒険家リーノの世間的評価を尋ねた。リネットは、リーノは短期間で一獲千金を体現した存在であり、命を懸けて夢を追う冒険家像そのものだと語った。強さも分かりやすく、魔獣に勝てる存在は子供にとって特に魅力的であり、突如現れて数億を稼いだ物語性が噂として語りやすい英雄譚になっているのだと説明した。ニアはその分析に一定の納得を示した。
リネットの動機と修行
修行中のリネットは、大会や賞金よりもニール・リストンを守るために誰よりも強くなりたいと強い執念を見せた。その想いは氣にも表れ、狂信的なほどの集中力を示していたが、ニールに許嫁ができるかもしれないと揺さぶられると動揺し、氣を乱した。ニアは平常心の修行としてあえて揺さぶりを入れつつ鍛え続け、限界に達したリネットを休ませた。
人気過熱への疑問
夕食時、ニールまでもがリーノの撮影に同行したいと申し出たことで、ニアは人気の広がりを実感した。リーノが冒険家ドリームの象徴となっている現状に驚きつつ、優勝後に引退すると宣言させた判断は正しかったのかと考えた。世間的な強さの基準や金銭感覚と、自身の感覚の乖離にも戸惑いを覚えた。
浮島での合流
翌朝、撮影班とともに浮島へ向かったニアは、港で待っていたリーノと合流した。リノキスは化粧と髪型で別人のように装い、撮影班にも正体は気づかれていなかった。ニールを紹介されるとリーノは動揺しつつも挨拶を交わし、撮影は問題なく進行した。人気による混乱を避けるため、人の少ない農業島の隅で迅速に撮影を行う段取りであった。
追いかけっこの開始
スタート直前、リーノは何も考えず本気で走るから勝敗はニアが選べと告げた。リノキスはニアの不敗記録を破ることや八百長に複雑な思いを抱いていたが、ニアは実力で勝てば問題ないと応じた。合図とともに二人は走り出し、撮影が開始された。
冬休みの終焉と人気の実感
過密な撮影と宿題に追われるうちに冬休みはあっという間に終わった。冒険家リーノとしての撮影を終えたリノキスと合流し王都へ戻ると、女子寮で生徒たちに囲まれた。話題は再放送が続く「追いかけっこ」リーノ回であり、ニア・リストンの不敗記録が止まったことも含めて盛り上がっていた。ニアは接戦に見せて敗北を演出し、出来レースを完璧に仕上げたと自負していた。加えて、リノキスの氣の成長を確認し、国内最強候補と評してよい水準に達していると評価した。
人気過熱への戸惑い
夕食時、ニール・リストンまでリーノの撮影に同行を望んだことで、ニアは人気の広がりを改めて実感した。冒険家ドリームの象徴としてのリーノ像が独り歩きし、優勝後の引退宣言は結果的に妥当だったかもしれないと考えた。世間の強さや金銭感覚と自身の基準とのずれにも戸惑いを覚えた。
魔法映像と世間の熱
自室で魔法映像を観ると、リノキスは自分の出演番組を繰り返し観られることを恥ずかしがった。ニアはレリアレッドの一日キャンプ回を気に入り、冒険の基礎が分かりやすく説明されている点を評価した。チャンネルを替えると、学院準放送局のキキリラ・アモンが王都港で出場者を取材していた。猛虎族の屈強な兄弟に物怖じせず突撃し、鼻息で曇るほど寄られながらも映像を収める姿は印象的で、準放送局の成長を感じさせた。
大会への期待
猛虎族の挑発も映像としては面白いが、優勝はないとニアは冷静に判断した。大会はまだ一年近く先であるにもかかわらず、出場者が続々と集まり始めている現状に、武闘大会の熱気を実感した。そうして新学期を控え、嫌々ながら宿題に取り掛かろうとするのだった。
道場での相談の約束
冬休み終盤の夜、ニアは天破流道場を訪れ、修行後のガンドルフの様子を確認した。氣を身につけたことで踏み込みや体さばきが鋭くなり、着実な成長を見せていると評価する。多忙ゆえ長話は避けたいとしつつも、弟子の相談である以上無視はできないと判断し、翌日の昼に城下町で会う約束を交わした。相談は天破流総本山から来た人物に関する件だという。
八百長の打診
翌日、撮影の合間に港近くの食堂で合流した三人。ガンドルフは武闘大会に出場する予定だったが、総本山から来た上位者たちに「当たったら怪我をする前に降参しろ」と圧を掛けられたと明かす。実質的な八百長の要求であり、流派の上下関係と面子を守るための指示であった。
勝敗よりも意思
ガンドルフはニアから授かった氣の名に恥じる行為はできないと葛藤するが、ニアは意外にも八百長そのものを否定しなかった。勝ちに固執するあまり卑怯を正当化することこそみっともないとし、「負けていい時は負け、負けられない時は何が何でも勝て」と告げる。そして「どうしたいかを考えよ」と、選択の基準を他人の意向ではなく己の意思に置くよう諭した。
単純な答え
助言を受けたガンドルフは、武の世界は単純でよいのだと気づく。上下関係や体面ではなく、自らの武に恥じぬ道を選ぶべきだと腹を決め、立ち上がった。
――その日、ガンドルフは逮捕された。
逮捕の報とニアの確信
ガンドルフ逮捕の噂が学院寮を駆け巡った夜、ニアは思わず笑った。総本山から来た上位者たちと衝突し、実力でねじ伏せようとした結果だと即座に察したのである。八百長を受け入れるか否かは本人の意思次第だと伝えた以上、逆らう選択をしたのだろうと納得した。武人が抗うと決めたなら戦うだけ、それでよいという認識であった。
レリアレッドの動揺
そこへ天破流門下生であるレリアレッドが飛び込んできた。師範代代理の逮捕に動揺し、どうすべきかをニアに問う。ニアはシルヴァー家が即座に介入すれば総本山との対立を招く恐れがあると判断し、まず学院側に働きかけて処分保留を求めるよう助言した。時間を稼ぎ、事実確認を優先すべきだと示したのである。
セドーニ商会への依頼
裏では別の手も打つ。ニアはアルトワール有数の大商会であるセドーニ商会に働きかけることを決め、リノキスに連絡を任せた。ガンドルフとは過去の取引で縁があり、各方面に顔が利く商会であれば動けると踏んだのである。
無罪放免と余波
結果、ガンドルフは総本山の門徒との乱闘の末に拘束されたが、人数差を理由に正当防衛が認められ無罪放免となった。セドーニ商会の働きかけとレリアレッドの学院への訴えも奏功し、学院からの処分もなしとなる。ただし総本山との軋轢は残る。ニアはアンゼルとフレッサにも目配せしつつ、この件が静かに収束することを願うのだった。
三学期の喧騒
天破流道場主逮捕の騒動は誤報として上塗りされ、三学期は何事もなかったかのように始まった。学院も王都も、冒険家リーノの番組と一年後に迫る王国武闘大会の話題で持ち切りである。外国から訪れる有名冒険家や武闘家の噂が飛び交い、準放送局は港での取材を重ねて「使える映像」を量産していた。
放送局の思惑
学院で会ったジョセコットは、学院参加者の取材を望みつつも、王都放送局から内輪向けだと却下されたと漏らす。サノウィルやリリミといった名前はあるが、広い需要には結びつきにくい。全体が浮ついた状況では、鮮明な構図を打ち出すのは難しい段階であった。
リストンチャンネルの停滞
一方、リストン領の番組は変化に乏しい。のんびりとした作風は高齢視聴者に支持されているが、周囲が加速する中で埋没気味である。「追いかけっこ」回も再放送を重ね、現在は通常運行に戻っている。ニアは新企画の必要性を感じつつも、注目を奪いにくい時期であると判断し、具体案を見いだせずにいた。
進級と予感
宿題に追われながらも、ニアは三学期を通してリストンチャンネルの再構築を考え続けた。しかし明確な結論は出ないまま進級試験を終え、小学部三年生となる。そして春休みを前に、思いがけない出会いが待ち受けていることを、まだ知らないのであった。
第三章 お祭り騒ぎの裏側で
リーノ参戦と酒場の熱狂
冬、王国武闘大会への冒険家リーノ参戦が表明されると、王都の安酒場「薄明りの影鼠亭」は一層の熱気に包まれた。リーノはこの店に顔を出し、客に一杯奢ることもあったため、常連たちは親近感を抱いている。外国勢に勝ってほしいという自国民の期待も重なり、賭け話や優勝予想で場は沸き返った。
カウンターのフレッサは「これで少しは落ち着く」と呟くが、店主アンゼルは「本番はこれからだ」と応じる。大会正式発表以降、外国人参加者の流入で裏社会も騒がしくなっていた。
ボスの呼び出し
そこへ雇われ店主のギース・バイツが現れ、裏社会の支配者カフス・ジャックスからの呼び出しを伝える。倉庫街へ向かったアンゼルは、かつての仲間ナスティンと合流し、厳重に警戒された倉庫へ入る。
左頬に大きな傷を持つカフスは、アンゼルの強さを試すかのように三人の屈強な部下を襲い掛からせる。アンゼルはポケットに手を入れたまま攻撃を回避し、実力を示した。
五百億の賭け
本題は武闘大会だった。カフスはアンゼルに出場と優勝を命じる。優勝賞金は五億だが、真の狙いは賭博である。カフスはアンゼルに五百億を賭け、外国勢から根こそぎ奪う算段を立てていた。
裏の住人であるアンゼルが表舞台に立つことへの抵抗はある。それでもカフスの命令を拒む選択肢はない。二人の歪だが強固な信頼関係のもと、アンゼルは出場を受け入れた。
不安と現実
倉庫を出たアンゼルは煙草を咥え、自問する。優勝できるのか。名も知らぬ強豪はもちろん、フレッサ、ガンドルフ、リネットといった実力者、そしてニア・リストンの周囲にいる者たちの強さを知っているからこそ、確信は持てない。負ければカフスは全財産を失う。その時は逃亡も視野に入れるしかないと腹を括る。
脚龍の影
帰路で暗がりから声を掛けたのは、暗殺集団「脚龍」の頭ダウ・ザンシーであった。ダウは「本家脚龍」がアルトワールに入ってきたと告げる。武勇国ウーハイトンを拠点とする凄腕の暗殺集団であり、「氣」の存在を知る強者たちだ。
大会目的での来訪らしいが、どう動くかは不明。リーノの情報を追えば酒場に辿り着く可能性も高い。天破流総本山、本家脚龍、その他の実力者たち。大会まで一年あるとはいえ、これからさらに混沌は深まる。
アンゼルは重くのしかかる命令を抱えながら、逃げる準備だけは整えておくと決めるのであった。
女子寮前の呼び止めと用件の正体
進級試験後の放課後、女子寮入口でニア・リストンはシャール・ゴールに呼び止められた。ニアは色恋沙汰を疑うが、シャールは用件は相談だと否定し、ヒルデトーラから回された件だと説明した。話は魔法映像そのものではなく、セドーニ商会との繋がりを確認したうえで「飛行皇国ヴァンドルージュから飛行船、正確にはウィングロード用の部品を取り寄せてほしい」という依頼へ繋がった。
部屋での説明とニアの着想
ウィングロードの話題に興味を持ったニアは、シャールを自室へ招き、リノキスに紅茶の用意を命じて話を続けさせた。シャールは、ウィングロードが単船を用いる競技であり、血を流さずに競える平和な種目だと説明する。ニアはこれを、刺激が弱く停滞気味のリストンチャンネルに適合する新企画の核として捉え、今の武闘大会ブームの裏で先に仕掛ける好機だと判断した。
競技内容の整理
シャールの説明により、ウィングロードは大別して三種に整理された。複数艇でコースを走り速度を競うレース、単船技術を披露するトリック、複数艇で隊列飛行を魅せるフォーメーションである。ヴァンドルージュでは発祥競技として人気が高く、賭けも盛り上がるという。アルトワールでは街中での単船利用は原則禁止だが、港湾の運搬用途など免許制での運用はあり、競技としての速度特化は未開拓である。
シャールの野望とニアの投資判断
シャールは中学部卒業後にヴァンドルージュへ渡り選手となり、アルトワールにも競技を広め、将来的には世界共通競技にするという大きな目標を語った。ニアはこの将来像に、全世界で放送される競技をリストン領チャンネルが押さえる可能性を見出し、芽があるなら支援してもよいと判断した。まずは部品名をメモし、商会に調達を依頼する段取りへ移る。
リノキスの嫉妬と商会訪問
リノキスはシャールとの距離感に疑念を示し、ニアは「ただの知り合い」と切り捨てて準備を急がせた。二人はセドーニ商会本店を訪れるが、会頭マルジュ・セドーニは外出中で、代わりにダロンと名乗る男が応対した。ニアは門限の都合で手短に「この国でウィングロードを流行らせたい」と相談を切り出そうとする。
ダロンの遮断と“話が大きすぎる”評価
しかしダロンは穏やかに言葉を被せ、薄才の自分では判断できない、話が大きすぎるので主人に直接頼んでほしいと述べ、場を改めるよう促した。ニアはこれを、ウィングロードが商会レベルで扱う価値のある大きな案件であり、会頭判断が必要だという示唆だと受け取る。結果としてニアの意欲は増し、企画を是が非でもリストン領で独占したいという方向へ加速した。
春休み直前の面会
進級試験が終わり春休み直前に少し時間ができたニア・リストンは、レリアレッド経由で呼び出しをかけ、天破流道場でガンドルフと会った。道場は休みで子供たちはおらず、ニアは逮捕騒動後の処分状況と顛末を確認する目的で正座して向き合った。
処分確定と道場続行
ガンドルフは、事件後しばらく監視され、解雇の話まで出たが、最終的に学院側は道場継続を認めたと説明した。国の記録上も「逮捕ではなく拘留」と整理され、学院もそれで納得したという。これで一件は表向きに収束し、ガンドルフは学院職員としての立場を維持した。
総本山連中への実力行使
ニアが「実際に何をしたのか」を問うと、ガンドルフは総本山から来た師範格らが宿泊する宿に行き、実際に手を出したと認めた。ニアは捕まる面倒はあるとしつつ、結局やるなら逃げ方を考えろと軽く言うが、ガンドルフの悩みはそこではなかった。
幻滅と目的の再確認
ガンドルフは、雲の上の存在だと思っていた総本山の師範たちが強くなく、十人以上がかりでも自分が無傷で勝ってしまったことに強い違和感を抱いたと語った。彼らが本気で鍛えているように見えず、「彼らの天破は自分が目指した天破ではない」と結論づける一方、目的は流派ではなく「強くなりたい」ことだと再確認した。
天破流に残る理由と未決の沙汰
ニアが辞めるのかを問うと、ガンドルフは辞める理由もないと答えた。子供たちの成長を見るのが楽しく、天破より強い流派があるとも思わないとし、例外としてニアだけは天破以上だと認めた。ただし総本山からの正式な沙汰はまだ下りておらず、師範代代理が総師範級らを倒した件は、総本山にとって処分が難しい性質の問題だと推測した。
違和感の追跡とニアの離席
ガンドルフは自分から辞める意思はなく、天破流でまだ強くなれると考えていると述べ、さらに最近気になる「違和感」があり、その正体を確かめたいとも口にした。ニアは「問題なさそう」と判断すると同時に、自分にやるべきことができたとして立ち上がり、今日は修行なしと言い残して道場を後にした。翌日にはリストン領へ帰る予定で、ニアは今後の忙しさを予感した。
夜の決着を付ける準備
ニア・リストンは、ガンドルフの件を放置できないとして今夜のうちに動くことを決め、リノキスに身支度をさせた。リノキスは文句を言いつつも髪を整え、最後に衣装が似合うと告げた。ニアは明朝に移動予定のため、今夜しか時間がないと踏んでいた。
変装と目的地の特定
二人は冒険家リーノの拠点アパートメントを出て、リノキスは街娘、ニアは天破流門下生「リリー」として振る舞う。ニアは黒髪に染め、天破流の儀礼用の服を着用した。情報源はアンゼルらで、天破流総本山から来た一団の宿泊先を把握していた。
貸し切り宿への強行突入
ニアは大通りから外れた貸し切り宿に到着すると、ドアを蹴り壊して踏み込んだ。中には二十名前後が滞在し、広間で酒や食事をしていた。ニアは礼をして同門を名乗り、「一手御指南願います」と勝負を要求し、意図を理解させるためにジョッキを蹴り上げて威嚇した。
狙いはガンドルフの盾
ニアの狙いは、総本山側が長期休暇を狙ってガンドルフを呼び出し、再度揉め事に巻き込んで破門へ追い込む可能性を潰すことにあった。本人ではなく「弟子」に負けた体裁にすれば、相手は恥を恐れて表沙汰にできず、ガンドルフに再接近しにくくなると踏んだ。
連戦と見せしめ
ニアは「氣」を使わずに戦う前提で、相手を一人ずつ受けて立った。剛体系の防御には平手で皮膚を打つ理屈を示し、型通りの蹴り主体の攻撃には実戦上の欠点を指摘しながら崩した。複数人を短時間で倒し、広間の空気を完全に支配した。
師範代レィタオとの対峙
最後に現れたのが天破流師範代レィタオで、彼女はガンドルフと同期で、本人をライバル視していると明かした。仕返し目的ではなく、ガンドルフが腑抜けていないか確かめに来たという。ニアの動きを見て、ガンドルフが鍛錬を欠かしていない証拠だと確信し、ニアを武闘家として倒して糧にすると宣言して勝負を挑んだ。
高度な攻防とレィタオの限界
ニアは体格差を埋めるためテーブルに乗って間合いを調整し、レィタオの鋭い蹴りとフェイントを受けた。レィタオは飛び蹴りの足を掴む判断まで到達したが、ニアは目を狙う指突きで牽制し、以後は約三十合ほど打ち合った末に、顔面への飛び蹴りで決着を付けた。
口止めと撤収
ニアは総本山の一団に対し、今夜のことは互いに口外しないなら誰にもバレないと告げ、ガンドルフを揉め事や厄介事に巻き込むなと約束を迫った。相手は目を逸らし、事実上の同意となった。宿を出た後、リノキスはニアが「氣」を使っていない点を確認し、ニアは「弟子として来た」建前と、技を磨く重要性を語った。
事後の見通し
ニアはこれでガンドルフへの再干渉は止まると見込み、情報をくれたアンゼルらへの感謝を胸に、翌日からの帰省と撮影予定へ備えた。
第四章 新しい企画のタネ
三年生への進級と再始動
ニア・リストンは春休みを経て小学部三年生に進級し、休みの記憶が撮影で埋まっていることを当然のように受け止めた。王都へ戻り、新学期まで残り二日という段階で、制服を受け取りに行く前にセドーニ商会へ向かった。同行者は兄ニール・リストンであった。
ウィングロード事業の急進展
ニアが春休み直前に持ち込んだウィングロードの相談は、想定以上の速さで具体化した。会頭マルジュ・セドーニが元々、ウィングロード用品の輸入と普及を検討していたためである。二十人以上の飛行船技師を確保でき、それを活かす事業を探す中でウィングロードが候補に挙がっていた。技師たちにも単船改造への意欲があり、ニアの提案は時機を得たものとなった。
武闘大会ブームと魔法映像の追い風
王国武闘大会を控え、アルトワールは観光客と富豪の滞在で空前の景気となり、魔法映像への注目も高まっていた。この状況でウィングロードを取り上げれば、一気に人気が点く可能性があると見込まれた。マルジュは大会当日に、ウィングロードの種目「フォーメーション」による編隊飛行で盛り上げる構想まで持ち、交渉に着手する段階にあった。
リストン家の了承とニールの参戦意欲
ニアは帰郷中に両親へ計画を伝え、詳細を問われることなく「ニアが望むなら構わない」と承諾を得た。休暇のたびに激務を引き受けてきたニアの希望として、可能な限り叶えたいという意向であった。加えて予想外に、兄ニールも「自分も参加したい」と乗り気を示した。
子供用単船の不在と代案としてのニール
セドーニ商会でマルジュは、子供用のウィングロード単船は存在しないと報告した。オーダーメイドなら五千万クラム以上の可能性があるという。ニアは金額より時間の問題を重く見て、広報のためには自らが参加するのが早いと考えたが、単船操作の経験がなく練習時間が不可欠である点も認識していた。一方、ウィングロード用単船は通常より小型で軽量騎手向けのため、満十歳で小柄なニールなら乗れる可能性が示された。商会側は試しに二台を取り寄せ、整備も済ませていた。
港での試乗に向けた移動
街中で単船に乗れない規制のため、一行はセドーニ商会の馬車で港へ向かった。倉庫付近は商会の私有地であり、そこでなら単船利用が可能とされた。移動中、ニールはニアが「五千万クラムはどうでもいい」かのように話した点を問い詰め、金銭感覚を確認しようとした。
ニアの生活実態とニールの認識修正
ニアは自分が現金を持ったことがなく、買い物も侍女が代行していると説明した。趣味も撮影の多忙さで時間を割けず、身体を鍛えることが実質的な習慣になっていると語った。ニールは妹の生活が想像以上に過密だったと理解し、両親が計画を即決した理由にも納得した上で、これまで気遣いが不足していたと謝罪した。ニアは兄の心情を受け止めつつ、自分は前借りの返済として働いている面もあると述べ、家に負担をかけない形で事業を進めたいと考えた。
新企画の素材としてのニール起用案
ニアは、ニールの美貌と存在感がリストンチャンネルの強化とウィングロード普及に有効だとして、魔法映像への出演を提案した。しかしニールは即答せず「考えさせてくれ」と保留した。ニアはそれを断り文句として受け取り、兄は非常時の代役程度で十分だと割り切った。
試乗の結果とニアの屈辱
港でニールはウィングロード用単船に乗り、楽しげに走らせた。ニアはその姿に、貴人の子供らしい堅さのない「普通の子供らしさ」を見出した。一方でニア自身は、ハンドルとフットペダルに手足が届かず乗れなかった。手足が届かず操縦できない屈辱を、二度も味わう結果となった。
極秘情報の共有と口止め
ニア・リストンは、セドーニ商会がウィングロード事業に本格参入する可能性をシャール・ゴールに示しつつ、現段階では極秘だとして口止めした。情報が漏れれば、ニア個人ではなく商会側の不利益になり得るためである。夏頃に動きが出る見込みを示し、ウィングロードに関わりたいなら黙っておけと釘を刺した結果、シャールは了承した。
部品受け渡しとシャールへの信用
新学期初日を終え寮に戻ったニアは、女子寮前で待ち伏せしていたシャールに、依頼されていた単船部品を渡した。購入まで任されていたのは、シャール本人が動くと足元を見られる懸念があるためであった。代金は予算内に収まり、シャールは硬貨入りの革袋をそのまま渡した。ニアは中身を確認せず受け取り、競技用単船を組む者が小銭を誤魔化すほどの小物だとは見ないと判断した。仮に誤魔化すなら信頼を失い次がなくなるだけだ、と割り切った。
シャールの単船型と見学の誘い
ニアはウィングロード知識を得た直後であり、シャールの単船がどの型かを問い、豹獣型か空蛇型かと具体的に尋ねた。シャールは言葉で答える代わりに、完成間近の機体を見に来いと誘った。ニアは時間があることもあり、見学を決め、護衛兼付き人としてリノキスも同行させた。
単船の多様性と競技用定型四種
移動の途中、ニアは単船が用途に応じて多種多様であることを整理した。アルトワールで一般的な荷運び用、馬車型の複数人乗り、空賊が使う防風空域外用の高馬力機などがあり、競技用ウィングロード単船は「速く飛ぶ」一点を追求して定型が確立したと説明される。飛行皇国ヴァンドルージュで磨かれた競技用定型は四種類で、豹獣型、空蛇型、矢鳥型、鋼猪型である。
中学部校舎の作業部屋と赤い豹獣型
シャールが案内したのは中学部校舎の空き部屋で、鍵を開けると油の匂いが漂う作業場だった。そこには、油で汚れた敷物の上に、塗装が剥げて外装がボロボロの赤い単船が置かれていた。形状は先日セドーニ商会の倉庫で見たものと同型で、前部が丸い標準的な豹獣型と判断できた。シャールは、事故で捨てられた試作機をがらくた屋で見つけ、親に借金して購入し、数年かけて修理してきたと語った。外観は傷んでいるが致命的故障は見えず、完成間近という説明にも整合した。
企画提案としての「修理日記」撮影
ニアはこの状況を即座に企画の素材と見なし、撮影を提案した。小学部から単船を修理し続けた生徒という題材を軸に、完成から初飛行までを日を跨いで追い、日記のように積み上げて編集し一本の映像にまとめる構成を想定した。シルヴァーチャンネルの紙芝居まとめ放送の形式を応用し、長期追跡型の映像として差別化できる可能性があると踏んだ。現段階ではウィングロードの広報になれば十分であり、少しでもアルトワールで認知が広がれば目的は達せられる、という判断である。
シャールの抵抗とワグナスへの接続
シャールは、日記を他人に見せることや自分が魔法映像に出ることに抵抗を示した。しかしニアは、ウィングロード普及のために準放送局に所属したのなら好機だと押し切り、現場監督ワグナスに話せと促した。未熟でも嗅覚は悪くなく、面白いと判断すれば動くはずだ、とニアは見立てた。
番組「ウィングロードを夢見て」の放送と“続く”の仕掛け
準放送局は、シャールがウィングロードと出会った経緯、がらくた屋で見つけた競技用単船を数年かけて修理してきた執念、そして「部品は揃ったのに動かない」という最終局面までを、日付や語り部を挟みつつ日記形式でまとめて放送した。最後は「思いも寄らない人物が助けとなる。続く」で締め、視聴者の関心を次回へ繋いだ。
短時間魔石の制約を逆手に取った制作
レリアレッドは、準放送局が長時間撮影用の魔石を使えないという制約を、複数日に分割撮影→編集で一本化する形に転換した点を評価した。完成された物語やインタビューではなく、特別な演出を抑え「普通の人に寄り添う」感触の番組になっており、試作感は残しつつも手法として成立していた。
続きの実情と“技師”の登場予告
ニアは、続きの展開を現場で既に見ていた。シャールの初飛行撮影に同行し、マルジュ・セドーニに取り次いでセドーニ商会の敷地で試乗できる段取りを付けた結果、どこかで見たような陽気な元空賊のキャプテンが飛行船技師として現れ、最後の仕上げを施して単船は飛ぶ。放送上は秘匿されているが、夏休み前には続編が公開され、同時期にセドーニ商会もウィングロード用品の取り扱いを始め、競技がアルトワールへ浸透していく見込みとなった。
夏休みの見通しと大漁祭りの主役交代
ニアの夏休みは、前年の十億稼ぎの出稼ぎと比べれば余裕があり、基本はリストン領の撮影で埋まる程度であった。気掛かりは大漁祭りで、去年が大好評だったため今年も開催される。ヒルデトーラの「ニール君によろしく」という言葉から、今年はニールが前面に出る流れが濃く、ニアは領益のため譲る腹を括った。
武闘大会フィーバーの加熱と闇闘技場の気配
王国武闘大会の熱は夏になっても衰えず、参加希望者は二百人超に達した。腕自慢と観光客が流入し続け、密かに裏の闘技場で戦って日銭を稼ぐ者もいるらしい。ニアの目には弟子たちの相手になり得る者は見当たらないが、街の熱量はさらに上がりつつあった。
冒険家リーノ評価と“酒場のマスター”噂
レリアレッドは、侍女の見立てとして「参加者の誰よりもリーノが強そう」と語り、リーノの再出演を望んだ。続いて噂話として、赤剣のベッカーが参加登録翌日に大怪我で入院し、原因が「どこかの酒場のマスターにボコボコにされた」という話を挙げた。同種の噂が八件もあり、虚偽と断じきれない数になっているという。ニアは場所の特定情報は出さず、子供が行くべき店ではない、と距離を置いた。
荒れる客層とフレッサの一撃
王国武闘大会を半年後に控え、外国人を含む新顔が急増した「薄明りの影鼠亭」では、連日のように客同士の揉め事が起きていた。店員フレッサは、元凶の客を酒瓶で的確に昏倒させ、外でやるか自分とやるかと迫って即座に鎮圧する。常連は慣れきっており、酒瓶が何本割れるか賭ける者までいる有様である。
赤剣のベッカー来店
カウンターに陣取るのは、赤い刀身の魔剣を操る有名冒険家ベッカー・ガイルマン。未開拓地調査と魔獣狩りで実績を積み、「赤剣のベッカー」と呼ばれる四十四歳の男である。女関係の失敗談を延々と語り、フレッサやアンゼルを口説くが、アンゼルは客としか見ておらず、内心では早く帰れと思っていた。
リーノを嗅ぎ回る理由
ベッカーの通い詰める目的は、冒険家リーノの情報であった。武闘大会が近づくにつれ、リーノを探る者は増えているが、ベッカーには別の事情がある。ヴァンドルージュで因縁のあった魔獣を、リーノが先に狩ってしまったという。引退前に自らの手で決着をつけるつもりだった獲物を奪われ、張り合いを失ったと語る。狩りは早い者勝ちだとアンゼルは切り捨てるが、ベッカーの胸中は収まらない。
軽口の裏の傷
フレッサは、ベッカーの言葉が軽すぎると指摘する。冗談にしたい本音が透けて見えると感じ取ったのだ。戦い慣れ、あるいは殺し慣れている者の目で、男の傷を見抜いたのである。ベッカーはそれでも女を口説き、何杯か飲んで夜の街へ消えていった。
身元引受人の指名
深夜、店じまいの最中に汚職気味の憲兵が現れ、アンゼルを呼び出す。ベッカーが外国人同士の喧嘩で捕まり、身元引受人としてアンゼルを指名したという。罪が軽い者は、国内の引受人が来れば解放する運用であり、裏では賄賂も絡んでいるらしい。なぜ女好きのベッカーがフレッサではなくアンゼルを指名したのか。その理由を確かめ、場合によっては出禁を言い渡すつもりで、アンゼルは憲兵とともに夜の街へ向かった。
身元引受と真意の追及
詰め所で手続きを済ませ、アンゼルはベッカー・ガイルマンを引き取った。深夜の帰路で、なぜ自分を身元引受人に指名したのかを問い質す。ベッカーは、リーノの情報が欲しいからだと明言する。アンゼルが口を割らない性格だと承知の上でも、引く気はないという。アンゼルは手伝う気はないと釘を刺しつつ、周囲の気配を察した。
“本家脚龍”の影と闇の一撃
待ち伏せしていたのは三人の外国人。見た目は貧相な市民だが、中身は異様に強く、「氣」の揺らぎも少ない。アンゼルは彼らが「本家脚龍」に連なる者と推測するが、ベッカーを巻き込まぬため名は出さない。要求はリーノの居場所。アンゼルは煙草を咥え、闇に溶ける踏み込みから鉄パイプを呼び出して一人を沈める。残る二人に強烈な殺気を示し、これ以上の接触は死を招くと暗に告げて去った。
地下での鍛錬とニアの影響
翌朝、アンゼルは酒場の地下で鍛錬を続ける。フレッサやガンドルフ、リノキスらと同じく、ニア・リストンの弟子のような位置にあり、競い合う構図にいると自覚している。ニアの強さは挑むことさえおこがましい領域であり、かつて命知らずに挑んだ過去を思い出して冷や汗をかいた。
リノキスの手紙と約束
風呂へ向かう途中、常連からリノキスの手紙を受け取る。内容は「今夜おごるよ。店に来てくれ」。アンゼルはそれを握り潰しつつ、ニア・リストンと会う約束を取り付けられたと確信する。面倒事が続く中で、わずかな追い風を感じた。
ベッカー再来と情報戦の継続
その夜もベッカーは現れ、昨日の一件を気にして話を振る。アンゼルは興味がないと切り捨てるが、リーノを巡る動きが増している事実は共有された。武闘大会が近づくにつれ、リーノを追う者は後を絶たない。
セドーニ商会の護衛依頼
営業後、フレッサからセドーニ商会の使いが来たと告げられる。内容は護衛の仕事で、詳細は裏の倉庫で説明するという。商会はアンゼルとフレッサを高く評価しており、表向きの名を出しての依頼である以上、真っ当な案件と推測される。十億の件以来の恩義もあり、断りづらい。武闘大会の責任、リーノを狙う有象無象、赤剣のベッカー、本家脚龍の接触に加え、商会の仕事まで舞い込んだ。
新たな縁の予感
翌日、アンゼルは話を聞きに向かい、なぜ自分に依頼が来たのかを知ることになる。そして、奇妙な縁がさらに絡み始めていると実感するのであった。
第五章 ウィングロードの裏の話
セドーニ商会の護衛依頼を受諾
アンゼルはセドーニ商会の倉庫裏で説明を受け、即答を避ける芝居を挟んだ上で護衛任務を受ける。手紙で詳細を受け取り、足元を見られぬよう速やかに離脱した。すっぽかさずに出向いた判断が危機回避に直結したと痛感する。
護衛対象はニール・リストン
合流したフレッサに、護衛対象が「リリー(ニア)に連なる身内」、すなわちニール・リストンであると明かす。フレッサは即座に反応し、危険な熱量で「代わってやる」と迫るが、アンゼルは拒否する。仕事は放課後から門限までの短時間で、酒場の開店前に終わるため、アンゼルにとっては都合が良く、報酬も割が良い。
酒場の留守番と“侵入禁止”の牽制
アンゼルはフレッサに店を任せ、開店待ちの常連・チンピラに釘を刺す。フレッサの存在が抑止力となり、路地裏の治安維持にも機能していることが示される。アンゼルは次の約束へ向かう。
ニアとの密会と廃墟の避難所
約束場所は高級レストラン「黒百合の香り」付近。ニアは白髪を隠す帽子で人目を避けていた。アンゼルは彼女を潰れた店の地下倉庫へ案内する。そこはカフス・ジャックスの土地であり、隠れ家兼避難所である。アンゼルは過去の口約束「借り二つ」の一つを回収するため、ニアを呼び出していた。
武闘大会“優勝義務”の相談
アンゼルは詳細を伏せつつ、武闘大会で優勝が必要になったと告げる。理由は「恩人がアンゼルの優勝に大金を賭け、外せば破産」という一点に集約される。ニアはそれを武人として上等な動機だと評価し、「一拳銭均」という古い言葉を引き、戦う理由は人それぞれだと説く。
アンゼルの選択と“基礎優先”の正解
ニアは、アンゼルだけが技の教授を辞退し、基礎の「氣」鍛錬を優先した点を取り上げる。アンゼルは日常動作にまで「氣」を馴染ませてきた。ニアはその判断を正解と認め、技は基礎の延長に過ぎない、基礎が安定すれば技は自然に形になると断じる。
“外氣”の基礎を提示する実演
ニアは瓦礫を投げ、アンゼルに鉄パイプで打ち返すよう命じる。投擲はアンゼルの届かない半歩半に調整され、力量を完全に見切られていることを突きつける。ニアは解法として「手足の先、鉄パイプの先に『氣』を伸ばす」=「外氣」の基礎を提示する。さらに宙に立つ実演で、外へ放ち維持する応用まで示し、目算を裏切る攻防が急所狙いと結びつけば致命的になり得ると警告する。アンゼルは方針を即座に理解し、次の鍛錬目標を「外氣」に定める。
“こっち側”かという問いとニアの回答
別れ際、アンゼルはニアが裏社会の理屈に詳しい理由を問う。ニアは、力で道理を曲げる自分を真っ当と見なす方が平和ボケだと笑い、ただ「力の使い道を間違えていないだけ」と返す。さらに、アンゼルたちに「氣」を教えたのは「プロは間違えない」と信じたからだと言い残す。アンゼルはそれをプレッシャーとして受け止めつつ、次の訓練へ踏み出す。
フレッサの強引な同行
アンゼルが仕事へ向かう直前、フレッサが待ち伏せして同行を要求する。報酬なしでも付いていくと宣言し、撒く・拒むのが現実的でない状況になる。アンゼルは「報酬なし」「現場で指示無視なら殺す」と釘を刺し、コブ付きで向かう判断を下す。
港の倉庫街での待機と武闘大会フィーバー
合流地点は港の健全な倉庫街で、武闘大会の影響により物流・人流が活発化している。強そうな外国人や私服憲兵らしき者も増え、揉め事の多発が示唆される。フレッサは仕事の詳細を探ろうとし、アンゼルは護衛内容を説明する。
ベッカーの合流で“同業者”へ格上げ
ベッカーが商会の割符を提示し、今回の案件で合流していたことが判明する。アンゼルも割符を合わせ、酒場の客ではなく同業者として組む関係に変化する。歩きながら任務範囲を確認するが、フレッサは「ニールに会えない」構造に激怒し、アンゼルに蹴られて制止される。
任務分担の確定と現場の規模感
現場はセドーニ商会私有地の倉庫周辺で、敷地外に野次馬が五十人規模で集まる。撮影班は学院制服の子供中心で、撮影が絡むため外周の警戒要員が必要だと分かる。フレッサが敷地内へ突っ込もうとするのをアンゼルが襟首で止め、越権を禁じる。
護衛対象ニールと侍女リネットの確認
ニールはパラソル下で読書しており、傍にリネットが控える。リネットと目が合うが、立場上あからさまに関わらない判断となる。ベッカーはニールの至近で護衛、アンゼルは敷地外周から警戒と監視を担当する。
監視対象は“元空賊キャプテン”リグナー
監視対象として薄汚れた作業着の男が示され、アンゼルは記憶を辿って正体に気づく。男は空賊黒槌鮫団のキャプテンだった人物で、今はセドーニ商会の飛行船技師として働いている。アンゼルとフレッサは監視理由を「逃走や危害の防止」と理解するが、現状の彼は堅気に見える。
ワグナスとの形式的な挨拶と監視の開始
撮影班責任者ワグナスが挨拶に来るが、アンゼルは「挨拶不要、好きにやれ」と距離を取る。元キャプテンは監視されていることを察しつつ、技師として本業に戻ったと明言する。アンゼルとフレッサは過去の罪の清算や禊を管轄外と切り捨て、調子に乗るなら空賊だったことを暴露すると牽制する。
リグナーの過去と“技師が空賊になった理由”
リグナーは元々技師で、仕事を失い、技術だけを頼りに空賊へ転落した経緯を語る。商船に武装を向けるだけで生活が成り立ち、引き返せなくなったが、荒事には適性がなく、いずれ全滅していたと自己分析する。セドーニ商会はその適性を見抜き、危険性を抑えつつ技術者として雇用している可能性が示される。
ウィングロード撮影の概要とニールの立ち位置
撮影はウィングロード用の競技単船が主題で、賭けと人気を伴う“競馬的”性格を持つ商材としてセドーニ商会の事業に繋がる。ニールは主役ではなく、単船に乗って楽しむ立場で現場にいる。撮影の主役はシャールで、調整期間を挟みつつ1〜2か月で十回前後撮影する計画となる。アンゼルは単船の速度に驚きつつ、本場はさらに速いと聞かされ、飛行皇国ヴァンドルージュの技術力を実感する。
五回目の撮影と増える野次馬
五回目の撮影日。暑さが増し、現場の存在も広まって野次馬が増加する。野次馬の狙いはニール・リストンで、フレッサはリネット経由で接触したがるが、アンゼルは一貫して拒否する。ここまで大きな接触事故が起きていない点に、アンゼルは内心安堵している。
リグナーの“新開発”と盗品の因縁
リグナーは単船の最終点検を終え、雑談の対価として煙草を要求しつつ「魔法でパーツが自動組み上がり単船になる玩具」を開発中だと漏らす。アンゼルとフレッサは、それが地下下水路調査で入手し売り払った“アレ”の流れだと察し、結局セドーニ商会に渡ったと推測する。武闘大会でのお披露目予定とも語られ、フレッサは守秘義務の観点から口止めし、リグナーも慌てて同意する。
ベッカーの悩みとフレッサの苛立ち
リグナーがワグナスに呼ばれて離れると、ベッカーが合流する。ベッカーは護衛対象のニールから憧れの視線を向けられ、話しかけられるため、冒険家としての“素行”を見せづらいと苦笑する。フレッサは近づけない立場ゆえ苛立ち、状況の皮肉が浮き彫りになる。
“本家脚龍”の監視と方針の共有
ベッカーは本題として、撮影二回目から続く「妙な連中の見張り」をアンゼルたちも把握しているか確認する。連中は気配の断ち方が巧く、「氣」を得ていなければ察知できない水準で、本家脚龍の手合いである可能性が高い。アンゼルは方針として、現時点では“見られているだけ”なので動かず、近づいてきた段階で殴って脅すつもりだと説明する。
人数不明ゆえの“泳がせ”と夜待ち
フレッサは最低四人を確認するが、それ以上の視線を感じるため総数が読めない。アンゼルは障害を積極排除する性格だが、討ち漏らしが最悪の事態を招くため、今回は一度にまとめて排除する機会を待つ判断をする。明るい内に暴れると後始末が面倒で、殺せば本家脚龍の総出報復を招くため、殺しは避ける前提で夜や状況確定を待つ。
緊張下でも続く撮影現場
アンゼルとフレッサは、気づいていないふりで監視を継続しつつ、相手が下っ端である可能性を見立てる。鬱陶しさを抱えながらも、フレッサは「ニールに集中したいのに」とぼやき、外部の脅威が現場の空気を重くしていく。
撮影終盤とフレッサの限界
七回目、八回目の撮影は大筋で順調に進み、アンゼル側は野次馬の排除と侵入阻止に徹する。金で交渉してくる女や力ずくで踏み込もうとする女はフレッサが捌き、致命的な問題は起きなかった。一方で、フレッサは報酬なし・暑さ・リネットの不在・ニールに接触できない状況が積み重なり、爆発寸前まで苛立ちを募らせる。
ウィングロードの形と“アレ”の試作品
リグナーは撮影が残り一、二回で終わると告げ、今回は障害物リングを用いた障害レース形式で撮ると説明する。さらに、例の「部品が自動で組み上がって単船になる玩具」の試作品が完成したと語り、後で披露すると言う。アンゼルは因縁を知っているが、競技が“レース”として整っていく様子には一定の興味を抱く。
監視の消失と事故の発生
本番スピードで撮影に入る直前、外側から見ていた“本家脚龍”らしき監視の気配と視線が消える。アンゼルは危険を察し、フレッサと分かれてアジト探索に走るが、その直後に空中のニールの単船が不自然に揺れ、減速し黒煙を吐く。爆発の危険を見て、事態は「勘違い」では済まないと確定する。
鍵石投入と救助用単船の即席起動
ベッカーが鍵石を投げ渡し、アンゼルに「魔力を込めて投げろ」と指示する。アンゼルがニールの方向へ投げると、鍵石に反応して単船部品が飛来し組み上がっていく。アンゼルは完成した救助用単船へ飛び乗り、動力を入れて接近するが、速度が出すぎる癖の強さに苦戦し、一度はニールの横を通り過ぎる。
外氣の初実戦とニール確保
再接近の局面で、強風でニールの位置がずれ、手が届かない距離になる。アンゼルは、ニアから教わった「外氣」の基礎を咄嗟に応用し、足に氣を集めて“空を蹴る”ように放ち、単船を横滑りさせて距離を詰める。これによりニールを小脇に抱えて回収し、陸のリネットとベッカーへ引き渡す。ニールは恐怖の中でも指示に従い、胆力を見せる。
二千万の単船回収と原因推定
ニールが「単船が二千万以上」と告げるため、アンゼルは落下する故障単船の回収にも向かう。爆発しないことを祈りつつ鉄パイプを差し込み、氣で補助しながら落下速度を殺して持ち直す。現場ではニールが「タンク内の異常」を指摘し、燃料魔石の不良品混入の可能性が浮上する。ベッカーは「本番の最速域=消費量・魔力圧が上がった時だけ異常が出た」と推定し、条件発動型の不良魔石を疑う。
夜襲の準備とリネットの介入
フレッサは監視の“ヤサ”を突き止め、総数は十人程度と報告する。アンゼルは今夜の襲撃を決め、リネットも深夜に酒場へ現れ、事故が細工だという前提で情報提供を迫る。アンゼルは確証はないと断りつつ、監視の存在と、冒険家リーノの情報要求を断ったことへの嫌がらせだという筋書きを提示し、相手の正体は知らない方がよいと釘を刺す。
アジト襲撃と“本物”の脚龍への引き渡し
三人でアパート一棟を拠点とする連中を急襲し、フレッサとリネットが迅速に制圧していく。逃走者が出たためアンゼルが前に立つが、背後からリネットが殴り倒し「誰一人逃がすか」と殺気を見せる。アンゼルは「これ以上やればおまえが捕まる。坊ちゃんは誰が守る」と退かせ、以降はアンゼル側が処理を引き継ぐ。捕まえた男の逡巡から「脚龍ではない」疑いを強めた直後、黒服の一団が現れ、脚龍の頭ダウ・ザンシーが「そいつは俺たちが預かる」と回収する。アンゼルは“同門”として引き渡しを選ぶ。
ベッカーの決意と決闘の導火線
帰路でベッカーが待ち受け、アンゼルに「頼んでいいか」と勝負を申し込む。理由は冒険家引退の“区切り”であり、復讐の獲物だった魔獣をリーノが討ったことで目的が消え、感謝と引導が必要になったからだという。ベッカーは「アンゼルに勝てば大会でリーノに挑む」と位置づけ、赤剣を抜いて本気の殺意を示し、決闘が避けられない局面へ入る。
満身創痍の開店準備
アパートメント襲撃の翌日、フレッサが夕方に店へ来ると、アンゼルは包帯と痣だらけで開店準備をしていた。アンゼルは「ケンカ」とだけ答え、全身の痛みを理由に深くは語らず背を向ける。
赤剣のベッカーの強さ
アンゼルは「氣」を習得していても苦戦し、実力面では上回っていた手応えがあっても、経験差で圧倒されたと痛感する。ベッカーは戦い方が巧みで、斬る・えぐるに加えて石や砂まで使い、容赦なく削ってくる。倍以上はやり返したはずでも怯まず引かず、引退を賭けた捨て身で来るため、下手をすれば本当に殺されていた可能性があった。
路地裏の噂とアンゼルの返答
夏直前で日が長くなった夕暮れ、酒場「薄明りの影鼠亭」はいつも通り開店し、常連たちは噂話で下品に笑う。その中に「赤剣のベッカーが、どこかの酒場のマスターにボコられて入院した」という話が混じる。ベッカーが常連で、当の店主アンゼルが負傷している状況から連想は容易だが、誰に聞かれてもアンゼルは「知らねぇよ」とだけ答える。
幕間 商人たちの思惑
魔晶板中継と、集う強者たち
高級店の個室で、商会・ギルド・裏社会の有力者たちが魔晶板の中継を眺めていた。会場は王都から離れた浮島で、武闘大会予選に向けて各国の猛者が飛行船で続々到着し、宿舎へ流れていく。インタビュアーの学院生キキリラは、半巨人族ギグザラス(通称「頭割りギーグ」)に果敢に突撃し、視聴者受けする無邪気さと度胸で人気を上げている様子だった。
セドーニ商会の急伸と、周囲の苛立ち
場の中心はセドーニ商会会頭マルジュ・セドーニである。武闘大会開催を誰より早く察知して利権を掴み、さらにウィングロード事業へ先行参入したことで、出資者と人気を一気に集めた。魔法映像番組「ウィングロードを夢見て」や、ニール・リストンが嗜む話題が追い風となり、国内人気は急上昇した。結果として、他の商人や組織は乗り遅れ、舌打ち混じりに「セドーニの勢いを削ぎたい」という空気が固まっていく。一方、世間はリーノをセドーニの手駒と見ており、マルジュが否定しても誰も信じない。
対抗馬の投入:ブラウン商会と冒険家ギルド
ブラウン商会会頭レニー・ブラウンは、セドーニ商会との差が決定的になることを恐れ、ギグザラスを大金で招いて“リーノ潰し”の駒に据える。さらに冒険家ギルド王都支部長ククリジィフ・イーフも面子と私怨から、最強格と信じる狼獣人ジオン(通称「音速のジオン」)を呼び寄せ、リーノにぶつける構図を作った。ククリジィフは、リーノがギルドを利用して成り上がった後に距離を置き、セドーニ側で動くことを「有望株を奪われた」と感じて根深く反発している。
鍛冶師ギルドの焦り:剣鬼アスマの擁立
鍛冶師ギルド長ハッドウェア・バーガナーは、剣鬼アスマ・ヒノキをギルド側の出馬として支援していた。倭刀の整備ができる鍛冶師が少ない事情もあり、鍛冶師ギルドが面倒を見る形が成立している。狙いはリーノそのものというより、ウィングロード事業で先手を打たれたセドーニ商会への対抗である。数年かけて造船技師育成で巻き返す構想が、魔法映像の影響で一気に崩れ、利権も商品もセドーニに集まってしまったため、せめて大会で一矢報いたいという黒い願望が渦巻いていた。
群雄割拠の“駒”と、ベッカー離脱の噂
この場の面々はそれぞれ対抗馬を立てており、猛虎族ケド兄弟、冒険家レストラ、武人ガンドルフ、賞金稼ぎアバン、武僧オーフェイなど一流どころの名が並ぶ。加えて「赤剣のベッカー」は大怪我で王都を去り、酒場のマスターに負けて入院したという噂まで流れていた。強者が一堂に会する異常な状況が、商人やギルドの打算をさらに加速させる。
裏社会カフスの“本命”と、黒髪の少女
話題は裏社会を仕切るカフス・ジャックスへ移る。カフスは無名の男を出すとしつつ、本当は“本命”がいたが見つけられなかったと漏らす。さらにその本命とは、当時六〜七歳ほどの黒髪の少女で、剣鬼アスマを一方的に叩きのめしたという存在だと明かす。カフスはマルジュに「心当たりはないか」と探り、マルジュは顧客情報を理由に明言を避けつつ「触れない方がいい。敵に回したら終わり」と釘を刺す。カフスも危険性を理解した上で、すでに大枠は掴んでいると応じ、マルジュは当初の失態と紙一重の幸運を思い出して苦笑する。
エピローグ
勇星会の到着と、予選への焦り
スレンクラッド王国から来た勇星会のサウザンとトーハゥロウは、半年以上かけてアルトワール王都へ到着した。寄り道を重ねた旅は実質的に「冒険家活動を兼ねた旅行」だったが、武闘大会予選までは一ヵ月強しか残っていない。港の人の多さと都会の空気に圧倒されつつ、二人は「ここで予選落ちすれば立場的に許されない」と現実的な危機感を共有した。
傷だらけの男との邂逅が与えた警告
港で松葉杖の傷だらけの男とすれ違い、サウザンたちはその実力を直感した。男は「一対一の個人的なケンカで負けた」と笑い、武闘大会に出るなら「同じくらいヤバい連中がいる」と釘を刺して去る。強者が敗れる世界を見せつけられた二人は、王都の層の厚さを実感し、残り期間はより真面目に鍛えるべきだと腹を括った。
王都に潜む“本物”の気配
サウザンはウーハイトン風の服の集団と、中心にいる老人二人の動きから「対人慣れしたプロ」の危険さを読む。トーハゥロウは別の方向で、無手に特化した大男を見て「素手同士では勝てない」と判断する。二人は切り札の「神技」は使わないと確認しつつ、純粋な腕でどこまで通じるかを試す覚悟を固めた。
撮影現場への興味と、観察者の視線
トーハゥロウは魔法映像(マジックビジョン)の撮影機材に興奮し、サウザンは屋台の食欲に釣られながら、学院準放送局のインタビュー現場へ向かう。移動する二人を、何者かが「神氣持ちが来た」と評しつつ観察する。神の先兵か、それとも別物か――結論は保留のまま、二人が“面白い駒”として注目されたことだけが示される。
船上のニアと、武闘大会への期待
場面は変わり、船の甲板で港を眺めるニアは、リノキスとともに出発準備を進めていた。ニアは港でガンドルフを見つけ、さらに「ちょっと強そうなの」を見て大会が単なる弟子同士の争いでは終わらないと見立てる。把握しきれていない強者がまだいる可能性も踏まえ、ニアは武闘大会が面白くなることを確信した。
夏休み帰郷と、四ヵ月後への助走
ニアはこれからリストン領へ帰り、約一ヵ月の“地獄の撮影”が再開する現実にうんざりしつつも、武闘大会まで約四ヵ月という時間を「楽しみに待つ期間」として受け入れる。強者の流入が始まった王都の気配を背に、日常(撮影)と非日常(大会)の両方が加速していく締めとなった。
電子書籍版特典ショートストーリー『ある夏の放課後』
束の間のオフと小さな勝利
放課後、ニアは久々の“仕事なし”をレリアレッドに告げて勝ち誇る。互いに多忙な状況を知るからこそ煽り合う関係であり、数日前に悔しがらされた分の意趣返しでもあった。もっとも完全休日ではなく宿題はあるが、それでも半月ぶりの放課後オフである。
寮での誘いと役割の自覚
女子寮へ戻ると、寮長カルメが低学年の寮生たちを集めていた。ヒルデトーラの番組で紹介された菓子作りをするという。ニアは見守り要員として参加を頼まれる。二年生・三年生が火や器具を扱う不安を察し、荒行の予定を後回しにして引き受ける。
リノキスの期待と寮への配慮
部屋で事情を話すとリノキスは大喜びする。ニアは、規則面で便宜を図ってくれている寮長への礼も兼ねて協力を決める。使用人であるリノキスは同席せず、ニア一人で参加する。
ミニカップケーキと奮闘の放課後
番組を参考にミニカップケーキを作るが、実際は危なっかしい場面の連続で、ニアは転倒や器具の扱いをフォローし続ける。包丁を使わないメニューでも目が離せず、寮長の苦労を実感する。完成後、リノキスに分け与えると過剰な歓喜で受け取られた。
気疲れと小さな満足
せっかくのオフは荒行ではなく見守りで終わったが、寮の一員としての役割を果たした一日でもあった。子供たちの無事と笑顔を見届け、ニアは気疲れしつつも、どこか満足して放課後を締めくくる。
凶乱令嬢ニア・リストン 一覧

あらすじと考察は本文で詳しく解説。

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その他フィクション

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