フィクション(Novel)凶乱令嬢ニア・リストン読書感想

小説「凶乱令嬢ニア・リストン4」感想・ネタバレ

凶乱令嬢ニア・リストン5の表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

凶乱令嬢3巻 レビュー
凶乱令嬢まとめ
凶乱令嬢5巻 レビュー

  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■ 物語の特徴
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 登場キャラクター
      1. ニア・リストン
      2. レリアレッド・シルヴァー
      3. ヒルデトーラ
      4. リノキス
      5. ニール
      6. アンゼル
      7. フレッサ
      8. ガンドルフ
      9. リネット
      10. マルジュ・セドーニ
      11. ダロン
      12. ベンデリオ
      13. トルク・セドーニ
      14. ヒエロ・アルトワール
      15. クリスト・ヴォルト・ヴァンドルージュ
      16. バンデ
      17. ジュード
      18. ザックファード・ハスキタン
      19. クロウエン・ヴォルト・ヴァンドルージュ
      20. フィレディア・コーキュリス
      21. オルター・イグサス
      22. アバラン
      23. グリーグ・クレット
      24. ヘレナ・ライム
      25. ジョレス・ライム
      26. ガウィン
      27. カカナ
  6. 出来事一覧
    1. 第一章 お姫様の新企画
        1. リノキスの帰還とすれ違い
        2. 父親の贈り物に関する話題での軋み
    2. 第二章 貢がせる
        1. セドーニ商会での交渉と威嚇(回想)
    3. 第三章 飛行皇国ヴァンドルージュへ
        1. 巨大飛行烏賊による定期船襲撃
        2. 救助介入を巡る口論
        3. 巨大飛行烏賊の討伐と乗組員救助
    4. 第四章 稼ぐ
        1. 高級ホテルでの入館拒否トラブル
        2. ホテルでの二度目の入館拒否トラブル
        3. 十文字鮮血蟹の討伐
        4. 陸軍と空軍の過去の手柄争い(回想)
    5. 第五章 名が売れてきた
        1. 火海蛇の討伐と極寒の海への飛び込み
        2. ヒエロ王子とクリスト皇子の間の殺気
        3. クロウエンとの競走(賭け)
    6. 第六章 襲撃
        1. 冒険家ギルドでの荒くれ者からの絡み
        2. 応接室での圧力と脅迫
        3. ニアのホテルへの刺客侵入
        4. オルター・イグサスへの正体不明の襲撃
        5. グリーグのアジト制圧
        6. 不正の証拠の投擲とグリーグの撤退
    7. エピローグ
        1. 晩餐の料理への仕掛け
  7. 展開まとめ
    1. プロローグ
    2. 第一章 お姫様の新企画
    3. 第二章 貢がせる
    4. 第三章 飛行皇国ヴァンドルージュへ
    5. 第四章 稼ぐ
    6. 第五章 名が売れてきた
    7. 第六章 襲撃
    8. エピローグ
    9. ヘレナ・ライムの優雅な一日と、その裏で
  8. 凶乱令嬢ニア・リストン 一覧
  9. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

本作は、かつて神殺しを成し遂げた大英雄の魂が、遥か未来の世界で病弱な貴族令嬢に転生し、再び武の極みと強敵を求めて暴れ回る異世界無双ファンタジーである。魔法映像(マジックビジョン)と呼ばれる独自の放送技術が普及し始めた世界を舞台に、主人公が表向きはタレント活動を行いつつ、裏では純粋な戦闘狂としての本性を発揮する姿が描かれる。
第4巻では、国を挙げての武闘大会を開催するため、ニアが十億クラムという莫大な資金を稼ぐ必要に迫られる。自国では顔が知られすぎているため、専属侍女が扮する冒険者「リーノ」の弟子に偽装して隣国である飛行皇国ヴァンドルージュへ向かい、本気で拳を振るっても壊れない巨大魔獣を相手に、血沸き肉躍る荒稼ぎを展開する。

■ 主要キャラクター

  • ニア・リストン: 本作の主人公である。前世は「神殺し」の異名を持つ最強の武人だが、現在はリストン家の幼き令嬢に転生している。天使のような愛らしい外見とは裏腹に、強者との死闘を至上の喜びとする生粋の戦闘狂だ。本巻では身分を偽り、隣国で魔獣狩りによる金策に身を投じる。
  • リノキス・ファンク: ニアに仕える専属侍女であり、一番弟子である。ニアの過酷な指導により、常人を遥かに凌ぐ戦闘力を持つ。本巻では冒険者「リーノ」として表向きの師匠役を務め、ニアが身分を隠して大暴れするための隠れ蓑となる。
  • ヒルデトーラ・アルトワール: アルトワール王国の第三王女である。ニアの親友の一人であり、共に魔法映像の普及に努めるスターでもある。「意外と会えるお姫様」をキャッチフレーズとしており、ニアの活動や映像事業を支援する重要な立場にある。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、可憐な幼女の外見に反して、内面が純粋な武人であるという主人公の強烈なギャップである。一般的な令嬢ものとは異なり、魔法映像という現代的なエンターテインメント要素を利用して名声や資金を集めつつも、彼女の最終的な目的は常に「強い相手と本気で殴り合うこと」に帰結している点が他の作品と一線を画している。
特に第4巻では、身分を偽って隣国へ遠征し、人目を気にすることなく巨大な魔獣を蹂躙するという、理屈抜きの圧倒的なバトル展開と爽快感が存分に味わえる構成となっている。

書籍情報

BOOK☆WALKERで購入凶乱令嬢ニア・リストン 4 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録
者:南野海風 氏
イラスト:磁石  氏
出版社:ホビージャパン
レーベル:HJ文庫
出版日:2023年12月1日

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あらすじ・内容

国を挙げての武闘大会を開催するため、10億クラムという大金を稼がなくてはいけなくなったニア。表立って王国で動くには顔を知られ過ぎているニアが選んだのは、冒険者リーノの弟子と偽装して、隣国ヴァンドルージュで魔獣狩りをすることだった―― 「実にいい。本気で殴っても壊れない相手じゃないか」 巨大な魔獣を相手に拳を振るう機会を得たニアは、待ち望んでいた血沸き肉躍る実戦の日々を送ることに! 天使のような凶乱令嬢の最強無双譚、隣国で大暴れする第4弾!!

凶乱令嬢ニア・リストン4 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録

感想

十億クラムという途方もない目標が、物語の規模を一段と引き上げたように感じた。

武闘大会を開くために莫大な資金が必要だと知ったニアは、子供の身でありながら決して諦めなかった。現実の課題として受け止め、自分に稼ぐ手段がないと分かるや否や、弟子のリノキスに稼がせようと思い立つ。その発想は酷く冷酷に見えるが、ひたすら合理的でもある。武人というよりも経営者に近い、彼女の鬼気迫る合理性が凄まじい。セドーニ商会との遣り取りでも、相手を侍女の鋭い眼光で黙らせて協力を取り付けるなど、主従の底知れなさが際立った。

隣国ヴァンドルージュでの出稼ぎでは、戦いの規模が常識を軽く飛び越えていった。空を飛ぶ巨大なイカを殴り飛ばし、軍隊に甚大な被害を与えたという十文字鮮血蟹を呆気なく倒してしまうのである。極寒の海に海蛇を叩き落とし、それをリノキスに回収させるという過酷な労働環境には、思わず苦笑いが漏れた。一方で、魔獣の体液や返り血を浴びた影響で、高級ホテルへの入館を何度も断られるといった日常の面倒事も描かれ、ただ強いだけではない面白さも味わえる。皇女クロウエンとの徒競走勝負にも勝ってしまうなど、彼女の底なしの能力が存分に発揮された。

そして、物語を一段と引き締めているのが、知略を巡らせる展開であった。名声が高まった冒険家リーノを取り込もうと、裏社会の黒幕がニアを人質に狙う。しかし、ニアの方が圧倒的に強い。尾行を逆手にとって隠れ家を突き止め、武力で捻じ伏せるだけでなく、不正の証拠まで根こそぎ奪い去ってしまった。ただ腕力で叩き潰すのではなく、後腐れなく相手を封じ込める手際の良さに、彼女の恐ろしさと賢さが表れていた。

また、ヒルデトーラによる「料理のお姫様」の企画が動き出すなど、魔法映像を通した文化の波及も並行して進んでいった。戦闘と商業、そして政治が複雑に絡み合い、世界観が一気に広がっていくのを感じる。

自らが大暴れしているにも拘らず、その功績の全てをリノキスの名声として積み上げていく。そこには、名誉に執着しない武人としての誇りと、裏から事態を操る支配者としての素質が同居していた。二年で十億クラムなど到底無理だと、誰もが思うだろう。しかし、本気でその目標を達成しに行くのがニア・リストンという存在なのである。途方もない道のりの、確かな第一歩を刻んだ痛快な一冊であった。

凶乱令嬢3巻 レビュー
凶乱令嬢まとめ
凶乱令嬢5巻 レビュー

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

ニア・リストン

魔法映像の業界に身を置き、企画競争に危機感を抱く存在である。武闘大会の開催を目指し、資金調達の手段を模索する。リノキスやニールなど、周囲の人間を巻き込んで目標を追求する立場だ。戦闘能力が非常に高く、他国でも圧倒的な力を発揮している。

・所属組織、地位や役職

 リストン家の令嬢。冒険家リーノの付き人リリー。

・物語内での具体的な行動や成果

 武闘大会開催のため十億クラムの資金調達を計画した。弟子たちに「氣」を教え、稼ぎ手として育成している。ヴァンドルージュへ出稼ぎに赴き、十文字鮮血蟹などの巨大魔獣を次々と討伐した。ホテルを狙った刺客を尾行し、グリーグのアジトを単独で制圧して証拠を奪う成果を上げた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ヴァンドルージュにおいて圧倒的な討伐成果を示し、冒険家リーノとしての名声を広めた。魔法映像導入の利点を説き、クロウエンに皇王への口添えを約束させた。

レリアレッド・シルヴァー

シルヴァー家の令嬢であり、ニアの隣席に座る生徒である。紙芝居企画の成功により、上機嫌な態度を示す。ニールを外出に誘うが断られ、落胆する場面がある。

・所属組織、地位や役職

 シルヴァー家の令嬢。学院の生徒。

・物語内での具体的な行動や成果

 紙芝居番組の大反響を受け、周囲から質問攻めに遭った。ニールを誘って外出しようとした。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 紙芝居企画の成功に強い手応えを感じていた。

ヒルデトーラ

王族であり、名物企画を求めて悩む立場にある。ニアやニールと協力して新番組の企画を立ち上げる。自ら料理を学び披露する番組を成功させる人物だ。

・所属組織、地位や役職

 王族。

・物語内での具体的な行動や成果

 ニアの部屋で新企画の相談を行った。ニールの提案を受け、新番組「料理のお姫様」の主演を務めた。ジョレス・ライムが料理を酷評した映像を公にしない条件として、ヘレナの夕食に自分が作った料理を紛れ込ませた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 主演番組が好評を得て、回を重ねるごとに順調に人気を高めた。

リノキス

ニアの専属侍女であり、冒険家リーノとして活動する。ニアに忠実に従い、共に出稼ぎや戦闘をこなす。ニアを守る護衛としての本分を強く意識している。

・所属組織、地位や役職

 ニアの専属侍女。冒険家リーノ。

・物語内での具体的な行動や成果

 十億クラムの資金調達のため、冒険家として魔獣を狩った。巨大飛行烏賊の襲撃に際し、宙吊りの船員を回収して救助した。グリーグからの呼び出しに単独で応じ、取り込みの要求を拒絶している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ヴァンドルージュでの討伐成果が対外的にリーノの手柄となり、名声を高めた。

ニール

ニアの兄であり、リストン家の跡取りである。妹に遠慮なく頼ってほしいと述べる協力的な性格を持つ。魔法映像の企画発案に貢献する人物だ。

・所属組織、地位や役職

 リストン家の長男。

・物語内での具体的な行動や成果

 事後報告型の撮影作戦を提案した。料理を主題とした番組内容を発案している。冬休みには自らの飛行船でニアを帰省させた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 彼が提案した企画が後に王都放送局の名企画となった。

アンゼル

路地裏の酒場を営む人物である。ニアから「氣」を教わり、強さへの渇望を見せる。ニアの強さが常軌を逸していると理解し、教えを受け続けることを選ぶ。

・所属組織、地位や役職

 「薄明りの影鼠亭」の経営者。

・物語内での具体的な行動や成果

 十億クラムを稼ぐ計画に協力するため、地下室で修行を開始した。出稼ぎの成果として、一千万クラムを超えていると見立てを報告している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 約一週間で「氣」のきっかけを掴み、基礎を習得した。

フレッサ

アンゼルと共に酒場にいる人物である。強さを求め、ニアの提案に応じる。稼ぎと修行を両立させる算段を立てる性格だ。

・所属組織、地位や役職

 日雇いの冒険家。

・物語内での具体的な行動や成果

 冒険に同行しながら「氣」の修行を行った。冬休み直前の集まりに出席している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 約一週間で「氣」のきっかけを掴んだ。

ガンドルフ

道場の師範代代理である。ニアのもとで「氣」の修練を積む。戦力として数えられる水準に成長する。

・所属組織、地位や役職

 天破流師範代代理。

・物語内での具体的な行動や成果

 秋から冬にかけて出稼ぎに出た。冬休み直前の個室での集まりに参加している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 将来的に資金獲得へ貢献させる存在としてニアに構想されている。

リネット

ニアの関係者として修行に励む人物である。学院に通いながら出稼ぎも行う。

・所属組織、地位や役職

 学院の生徒。

・物語内での具体的な行動や成果

 ガンドルフと共に「氣」の修行を進めた。冬休み直前の集まりに参加している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 「柔氣」の素質が高いと整理された。

マルジュ・セドーニ

セドーニ商会の会頭である。商人としての実務能力に長ける。ニアの要求を受け入れ、利益を上げる人物だ。

・所属組織、地位や役職

 セドーニ商会会頭。

・物語内での具体的な行動や成果

 冒険家リーノ一行の飛行船手配や換金などの雑事全般を請け負った。ニアの犬企画の放送を見て魔晶板を消している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ニアを逃せない上客として認識するようになった。

ダロン

セドーニ商会の上役であり、マルジュの右腕である。営業活動を行う立場にある。

・所属組織、地位や役職

 セドーニ商会の上役。

・物語内での具体的な行動や成果

 本店を訪れたニアに対し、お姫様グッズの営業を行った。冬の遠征の礼と依頼を受け取っている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 当初からニアとの取引を受諾してよかったと判断していた。

ベンデリオ

撮影班の責任者と推測される人物である。過密な撮影スケジュールを組む。ニアから怒りを買っている。

・所属組織、地位や役職

 撮影班の責任者。

・物語内での具体的な行動や成果

 帰省したニアを屋敷に入る前に捕まえ、撮影班用の飛行船へ連れ込んだ。十日で二十六本という狂気の撮影工程を完遂させている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ニアに内心で許さないと再確認された。

トルク・セドーニ

マルジュの息子である。商人としての計算高さを持つ。リーノの行動を把握し、商会の利益を追求する人物だ。

・所属組織、地位や役職

 セドーニ商会関係者。案内役。

・物語内での具体的な行動や成果

 ヴァンドルージュ行きの高速船を案内した。魔獣の買取価格を提示し、事後の交渉を引き受けている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 出稼ぎの成果を受け、満面の笑みで労いに現れた。

ヒエロ・アルトワール

アルトワール王国の第二王子である。魔法映像の可能性に強く魅せられている。ニアを外交にも使える人材として評価する立場だ。

・所属組織、地位や役職

 アルトワール王国第二王子。王都放送局局長代理。

・物語内での具体的な行動や成果

 ニアをヴァンドルージュの高級ホテルへ招待した。ハスキタン家へニアを案内し、魔法映像導入の支援を行っている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 王位や王族の身分を捨ててもよいと考えるほど仕事に傾倒している。

クリスト・ヴォルト・ヴァンドルージュ

ヴァンドルージュ皇国の第四皇子である。軽薄な雰囲気をまとう遊び人である。魔法映像の熱心なファンでもある。

・所属組織、地位や役職

 ヴァンドルージュ皇国第四皇子。

・物語内での具体的な行動や成果

 ホテルのロビーでヒエロと共にニアを待った。クロウエンとニアの競走において、賭けの条件を提示している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ヒエロからニアを汚す可能性があると強い警戒を抱かれている。

バンデ

セドーニ商会が手配した飛行船の船長である。当初はリーノとリリーの見た目に不安を抱く。実績を見て認識を改める性格だ。

・所属組織、地位や役職

 飛行船の船長。

・物語内での具体的な行動や成果

 リーノたちを秋島へ運んだ。無傷で仕留められた竜頭鼠や刀刺鹿を見て、二人が本物の腕利きであると理解している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 見た目で相手を判断していた間違いを悟り、作業を急がせる方針に変えた。

ジュード

バンデの船の乗組員である。荷運びの指示に従う。

・所属組織、地位や役職

 飛行船の船員。

・物語内での具体的な行動や成果

 荷運び用の単船で森へ向かった。複数の刀刺鹿を単船に積んで戻ってきている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 戸惑い顔のままであったが、彼が持ち帰った獲物が二人の実力を証明した。

ザックファード・ハスキタン

ハスキタン家の赤毛の青年である。ヒエロの友人として集まりを主催する。

・所属組織、地位や役職

 ハスキタン家の当主筋。

・物語内での具体的な行動や成果

 ヒエロの来訪を感謝し、身分を忘れるよう求めた。許嫁の誕生日の集まりであるとニアに明かしている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 特筆すべき事項はない。

クロウエン・ヴォルト・ヴァンドルージュ

クリストの異母妹である。ニアの俊足に関心を示す。

・所属組織、地位や役職

 ヴァンドルージュ皇族。

・物語内での具体的な行動や成果

 ニアと競走を行った。ニアに敗北し、皇王への魔法映像導入の口添えを約束させられている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 競走の結果、ニアに対する再戦の因縁が残った。

フィレディア・コーキュリス

機兵王国の高位貴族である。ニアに好意を抱く。

・所属組織、地位や役職

 機兵王国マーベリアの高位貴族。

・物語内での具体的な行動や成果

 ハスキタン家の集まりに参加した。ニアを気に入って膝の上で撫でている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 特筆すべき事項はない。

オルター・イグサス

自警団を率いる遊撃隊の人物である。軍が対処できない対象を秘密裏に排除する。侵入者に襲撃される。

・所属組織、地位や役職

 元陸軍第六師団執行部隊長。自警団の組織者。レストラン店長。

・物語内での具体的な行動や成果

 リーノに関する件を裏案件として調査する決意をした。部屋に現れた正体不明の侵入者に対し、照明を落として投げナイフで応戦している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 侵入者に背後に回り込まれ、気絶させられた。

アバラン

冒険家ギルドの支部長である。権力者と冒険家の間で板挟みになりながらも、静観する態度を取る。

・所属組織、地位や役職

 冒険家ギルド中央支部のギルド長。

・物語内での具体的な行動や成果

 応接室でリノキスとグリーグの対話に同席した。衝撃音が響いた際、確認へ走り革袋を持ち帰っている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 リノキスに巻き込みを詫びた。

グリーグ・クレット

貴族然とした裏社会の人物である。リーノを取り込もうと画策する。権力を用いて相手を追い込む手法をとる。

・所属組織、地位や役職

 執務室を持つ裏社会の黒幕。

・物語内での具体的な行動や成果

 ギルドの応接室でリノキスに蟹の討伐方法を迫った。子供を弱点として仄めかし、リノキスに圧力を掛けている。革袋に入った不正の証拠を見て応接室から逃走した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ニアにアジトを制圧され、隠し金庫から帳簿と書類を奪われた。

ヘレナ・ライム

上流階級の女性である。礼儀作法の教師を務める。完璧を求め、冷静な判断力を持つ。

・所属組織、地位や役職

 第三階級貴人ジョレス・ライムの妻。

・物語内での具体的な行動や成果

 夕食の前菜の不自然な切り口を見て、専属料理人の手ではないと見抜いた。王族の仕掛けだと察し、穏やかに探りを入れている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 王族を公然とこき下ろす危険を回避し、読み勝った。

ジョレス・ライム

ヘレナの夫である。王族の料理を酷評してしまう。

・所属組織、地位や役職

 第三階級貴人。

・物語内での具体的な行動や成果

 王族の料理を酷評した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 その映像を公にしない条件として企画協力を約した。

ガウィン

皇国陸軍の総大将である。巨大蟹討伐の知らせに驚き、事態の把握に動く。裏案件として処理する方針をとる人物だ。

・所属組織、地位や役職

 皇国陸軍総大将。

・物語内での具体的な行動や成果

 カカナと共に港へ向かい、討伐された蟹の死体を確認した。オルター・イグサスと短い言葉を交わしている。リーノ滞在先のホテルへ面会を申し込む伝言を送った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 リーノが軍の接触に応じるかどうかを分岐点になると見立てた。

カカナ

皇国空軍の総大将である。自らの目で事実を確認しようとする。

・所属組織、地位や役職

 皇国空軍総大将。

・物語内での具体的な行動や成果

 十文字鮮血蟹の討伐報告を疑い、単船の準備を命じて港へ向かった。表で事態を収めたい意思を示している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 特筆すべき事項はない。

出来事一覧

第一章 お姫様の新企画

リノキスの帰還とすれ違い
  • 当事者: ニア vs リノキス
  • 発生理由: 出稼ぎから帰還したリノキスが再会を求めてニアに取りすがったが、ニアが登校を優先したため
  • 結果: ニアはリノキスを放置して部屋を出て、リノキスは泣き崩れた(小さなトラブル)
父親の贈り物に関する話題での軋み
  • 当事者: ニア、ニール vs ヒルデトーラ
  • 発生理由: ニアがヒルデトーラに国王への贈り物を尋ねた際、ヒルデトーラが過去に贈り物を拒まれた経験を語ったため
  • 結果: その場の空気が悪化し、ニアは以後この話題を避けると決めた(口論・心理的葛藤)

第二章 貢がせる

セドーニ商会での交渉と威嚇(回想)
  • 当事者: ニア、リノキス vs マルジュ・セドーニ
  • 発生理由: ニアが「二年で十億クラム稼ぐ」と持ちかけた際、マルジュが鼻で笑いかけたため
  • 結果: リノキスが異様な眼光(殺気)を向け、本気で殺されると感じたマルジュが口を噤んで交渉に応じる方向へ舵を切った(威嚇・未遂)

第三章 飛行皇国ヴァンドルージュへ

巨大飛行烏賊による定期船襲撃
  • 当事者: 巨大飛行烏賊 vs 定期船の乗組員・乗客
  • 発生理由: 巨大飛行烏賊が定期船を捕食目的で襲撃したため
  • 結果: 定期船が触手で拘束され、乗組員6名が命綱で宙吊りになる事態に陥った(突発的な事件)
救助介入を巡る口論
  • 当事者: ニア vs リノキス
  • 発生理由: 襲撃されている定期船を発見したニアが討伐と救助を提案したが、リノキスが無謀だと強く反対したため
  • 結果: ニアが「ねじ伏せて単独で行く」「二人で行く」「見送る」という選択肢を突き付けて迫り、リノキスが折れて同行を決断した(口論)
巨大飛行烏賊の討伐と乗組員救助
  • 当事者: ニア、リノキス vs 巨大飛行烏賊
  • 発生理由: 宙吊りになった定期船の乗組員を救助し、同時に魔石や素材等の報酬を得るため
  • 結果: ニアが囮となって飛行烏賊の攻撃を引きつけ、その間にリノキスが乗組員を救助。その後、ニアの打撃とリノキスの拘束用の槍による連携攻撃で飛行烏賊を無力化した

第四章 稼ぐ

高級ホテルでの入館拒否トラブル
  • 当事者: ニア vs ホテルの受付
  • 発生理由: ホテル到着時、ニアの体に残っていた巨大飛行烏賊の粘液と生臭さが問題視されたため
  • 結果: 入浴と着替えを済ませる条件が出され、従業員用浴場で体を洗った後にようやく入館を認められた(トラブル)
ホテルでの二度目の入館拒否トラブル
  • 当事者: ニア vs ホテルマン
  • 発生理由: 狩りから戻った際、リノキスが仕留め損ねた魔獣の返り血をニアが浴びて汚れていたため
  • 結果: ホテルマンに止められ、持ち帰った魔獣(足足茸)を差し出して料理の提案を持ちかける形で対応した(トラブル)
十文字鮮血蟹の討伐
  • 当事者: ニア、リノキス vs 十文字鮮血蟹
  • 発生理由: 島の開拓を阻む高額賞金首である魔獣を狩るため
  • 結果: 蟹の攻撃でニアが吹き飛ばされる場面もあったが、上位技『彗星』を用いて蟹の脚を爆砕し、討伐に成功した
陸軍と空軍の過去の手柄争い(回想)
  • 当事者: ヴァンドルージュ皇国陸軍 vs ヴァンドルージュ皇国空軍
  • 発生理由: 過去に十文字鮮血蟹の討伐を巡り、両軍の間で手柄争いが発生したため
  • 結果: 共同作戦に至るも失敗し、甚大な損失を出した結果、国として蟹に関わることが禁じられた(過去の対立・事件)

第五章 名が売れてきた

火海蛇の討伐と極寒の海への飛び込み
  • 当事者: ニア、リノキス vs 火海蛇
  • 発生理由: トルクの注文に従い、飛行船を囮にして火海蛇を狩る「釣り」を行ったため
  • 結果: ニアが火海蛇を蹴り落として頭骨を砕き即死させた後、リノキスが命綱付きで極寒の冬の海へ飛び込んで回収した(戦闘・過酷な労働トラブル)
ヒエロ王子とクリスト皇子の間の殺気
  • 当事者: ヒエロ・アルトワール vs クリスト・ヴォルト・ヴァンドルージュ
  • 発生理由: クリストの軽薄な言動が、将来的にニアという至宝を汚す可能性があるとヒエロが危惧したため
  • 結果: ヒエロが殺気が漏れるほどの嫌悪を抱いたが、深呼吸をして抑え込み、表立った衝突は避けた(一方的な威嚇・葛藤)
クロウエンとの競走(賭け)
  • 当事者: ニア vs クロウエン・ヴォルト・ヴァンドルージュ
  • 発生理由: クリストの提案とヒエロの挑発により、魔法映像導入の口添えを賭けて俊足の勝負を行うことになったため
  • 結果: ニアがハンデを受けた上で勝利し、クロウエンに皇王への口添えを約束させた(競技での対決)

第六章 襲撃

冒険家ギルドでの荒くれ者からの絡み
  • 当事者: リノキス vs 荒事慣れした冒険家(中年の男)
  • 発生理由: 冒険家ギルド中央支部を訪れたリノキスに対し、男が腕を掴んで実力を試そうと絡んできたため
  • 結果: リノキスが「格を落としてまでやることか」と一蹴し、相手も普通ではないと察して引いた(トラブル・威嚇)
応接室での圧力と脅迫
  • 当事者: リノキス vs グリーグ・クレット
  • 発生理由: グリーグが十文字鮮血蟹の討伐方法を聞き出そうとしたが、リノキスが回答を拒否し牽制したため
  • 結果: グリーグがニア(子供)の存在を弱点として仄めかして脅しをかけ、リノキスは激昂しつつも国際問題化を恐れて耐え忍んだ(一方的な威嚇・口論)
ニアのホテルへの刺客侵入
  • 当事者: ニア vs ルームサービスを名乗る男たち(グリーグの部下)
  • 発生理由: グリーグ側が子供(ニア)を確保または誘拐しようとホテルに侵入したため
  • 結果: ニアは事前に気配を察知して窓から外へ退避し、事態の表面化を避けた(事件・未遂)
オルター・イグサスへの正体不明の襲撃
  • 当事者: オルター・イグサス vs 侵入者(正体不明)
  • 発生理由: 不明
  • 結果: 侵入者が暗闇の中でオルターの投擲を躱して背後に回り込み、オルターを気絶させた後、目的不明のまま立ち去った(暴行・事件)
グリーグのアジト制圧
  • 当事者: ニア vs グリーグの部下たち
  • 発生理由: ニアがホテルからの刺客を尾行し、黒幕の拠点を無力化するため
  • 結果: ニアがビル内に侵入し、各階にいた十数名の構成員を無抵抗のまま全員気絶させて制圧し、証拠の書類を確保した(暴行・事件)
不正の証拠の投擲とグリーグの撤退
  • 当事者: ニア(間接的)、リノキス vs グリーグ・クレット
  • 発生理由: ニアがアジトから奪った不正の証拠書類とフライパンをギルドの壁に投げ込み、事態の収拾を図ったため
  • 結果: ギルドの壁に穴が開き、革袋の中身を見たグリーグは保身のため応接室から逃走した。これによりリノキスへの脅迫も無効化された(威嚇・解決)

エピローグ

晩餐の料理への仕掛け
  • 当事者: ヘレナ・ライム vs ヒルデトーラ(間接的)
  • 発生理由: ヒルデトーラが新企画「料理のお姫様」の撮影の一環として、自分が作った料理をヘレナの夕食に紛れ込ませたため
  • 結果: ヘレナは専属料理人の手ではないと見抜き、王族の意図的な仕掛け(試練)であると察して、穏便な感想でかわすことで切り抜けた(葛藤・トラブル)

凶乱令嬢3巻 レビュー
凶乱令嬢まとめ
凶乱令嬢5巻 レビュー

展開まとめ

プロローグ

紙芝居番組の大反響

寮から校舎へ向かう登校中、学院内では前夜から始まったシルヴァーチャンネルの新番組である紙芝居の話題が飛び交っていた。アルトワール建国王や初代王妃に関する内容が評判を呼び、生徒たちは夢中になっていた。教室に入ってからも熱気は収まらず、誰も彼もが番組の続きに強い関心を抱いていた。ニアはその様子を見て、自身も心を掴まれたと実感し、これこそが真の流行であり、魔法映像が初めて国民の心を捉えた瞬間であると認識した。

レリアレッドの得意とニアの悔恨

隣席のレリアレッド・シルヴァーは上機嫌で登校し、紙芝居企画の成功に強い手応えを感じていた。周囲から番組について質問攻めに遭っていると語り、ニアの悔しそうな様子を楽しんでいた。ニアは悔しさを認めつつも平静を装った。紙芝居企画は本来自分が先に思いついたものであったと振り返り、縁がなかったのだと受け止めたが、その差は明白であると認識していた。自身の犬企画は到底及ばず、本当の大当たりとは何かを思い知らされたのである。

危機感と対抗策の模索

ニアは、魔法映像業界を軽視していた自分の甘さを自覚した。ヒルデトーラが名物企画を求めて悩んでいたにもかかわらず、当事者意識が薄かったと反省した。王都チャンネルにもリストンチャンネルにも、紙芝居に匹敵する企画は存在しないと理解し、対抗策として武闘大会の実現を強く意識した。

武闘大会への布石

国を挙げた武闘大会開催には十億クラムが必要であり、その調達のため専属侍女リノキスが冒険家として活動を始めていた。学院を離れた彼女が魔獣を狩って資金を稼いでいることを思い、ニアもまた動かなければならないと考えた。小学部一年生の二学期が始まり、周囲の状況も変化していた。この秋は多方面で忙しくなると覚悟を固めていた。

第一章 お姫様の新企画

リノキスの帰還とすれ違い

新学期が始まって数日後、リノキスが予定通り寮へ帰還したが、ニアは登校のため抱擁も会話も後回しにして部屋を出た。リノキスは再会を求めて取りすがり、見捨てられたと泣き崩れたが、ニアは落ち着くまで放置する判断をした。ニアは出稼ぎの成果や土産話が気になりつつも、夜に回すしかないと考えた。

ヒルデトーラとの企画相談の継続

放課後、女子寮の部屋にはヒルデトーラが先に来ており、昨日の続きとして新企画の相談が再開された。ヒルデトーラは城下町で企画の種を探したものの、結果として遊び歩いただけで終わったことを悔やみ、次は二人で出掛けない方針を示した。ニアは焦りを戒めつつ、企画を考えるのではなく探す姿勢自体は悪くないと受け止めた。

犬企画の再評価と紙芝居への危機感

ヒルデトーラは王都放送局に名企画がないと嘆いたが、ニアがリストン領の名企画を問うと、ヒルデトーラは犬企画こそ当たりだと強く主張した。リノキスも、身近で分かりやすく視聴者層を選ばない点を理由に当たりだと評価した。ニアは犬企画の評判の高さを意外に思いながらも、紙芝居企画の拡張性と初手の巧みさを認め、今後の競争を見据えて武闘大会などの必要性も意識した。

新しい頭の投入とニールの招集

王族ゆえに企画の制約が多いヒルデトーラを見捨てられないと判断したニアは、解決策として発想の頭数を増やす方針を決めた。魔法映像に一定関与しつつ情報漏洩の懸念が少なく、企画発案に深く関わってこなかった人物として、ニアは兄ニールを選び、リノキスに男子寮へ向かわせて確保させた。ニールは事情を聞いて協力を快諾し、妹に遠慮なく頼ってほしいと述べた。

城下町での再探索と父親の話題の軋み

ニア、ヒルデトーラ、ニールは時間の都合から歩きながら話し、休憩で喫茶店に入ったが、結果的に買い物や冷やかしが中心となり、再び遊び歩いた感覚が残った。ニールは父オルニット・リストンの誕生日が近いとして贈り物を用意し、ニアも便乗した。ニアがヒルデトーラに国王への贈り物を尋ねると、ヒルデトーラは一度贈って拒まれた過去を語り、空気が悪化したため、ニアは以後この話題を避けると決めた。

ニールの閃きと「料理」の方向性

喫茶店では庶民に流行しているドーナツを食べ、食文化の実感を得た。帰り道、ニールは企画の案を思いつき、後に王都放送局の名企画となる構想の端緒を語った。翌日、ニアの部屋にヒルデトーラ、ニール、さらに悔しがるレリアレッドも同席し、企画会議が開かれた。

許可を飛び越える提出戦略

ニールはヒルデトーラの立場では正攻法で新企画の許可が下りにくいと整理し、先に無許可で撮影して映像ごと企画として提出する事後報告型の作戦を提案した。映像が破棄される可能性を含む危険な手である一方、完成物に政治的利点を見出せば上層部が通す余地があると説明した。ヒルデトーラは変則策として検討する姿勢を示した。

料理企画の提示とヒルデトーラの確信

ニールは内容案として料理を提案し、台所という撮影場所の確保の容易さ、回ごとの変化の付けやすさ、料理を振る舞うゲストを招ける応用性を挙げた。さらに王族や貴人をもてなす形にすれば王族のイメージアップにも繋げられると述べた。ヒルデトーラは急速に思考を巡らせ、政治や外交への応用まで含めて可能性を見出し、強く乗り気になった。

即断と熱量の暴走

ヒルデトーラはニールに感謝し、成功の暁の褒美を約束して部屋を飛び出していった。ニアは見送りをリノキスに任せ、残ったニールを労った。ニールはニアの負担を気遣い、ニアは跡取りであるニールより自分の方が動きやすいと述べつつ、たまには番組に出てもよいのではないかと提案し、ニールは考えると応じた。

新番組の始動と成功

ヒルデトーラ主演の新番組「料理のお姫様」が動き出し、企画成立までに裏で様々なことがあったらしいという噂が流れた。第一回放送からヒルデトーラの料理の手際が良かった点も話題になったが、本人は詳細を語らなかった。それでも番組は滑り出しから好評を得て、回を重ねるごとに順調に人気を高めていった。

レリアレッドの誘いと断り

レリアレッドはニールを誘って外出しようとしたが、ニールは前日に休んだ分、当日は道場へ行きたいとして断り、また誘ってほしいと返した。レリアレッドは落胆しつつも了承した。

日常への回帰

レリアレッドが振られた様子を見たニアは、自身も気が進まない宿題に取りかかろうと考えた。

第二章 貢がせる

紙芝居の躍進と王都の兆し

新学期が始まってしばらく経ち、シルヴァー領の紙芝居は予想通り流行した。一作目「アルトワール建国記」に続き、二作目「赤騎士物語 建国編」が始まり、赤騎士ソーマの物語は瞬く間に受け入れられた。一日八回の放送体制も視聴を後押しし、ニア自身も毎日の続きに心を掴まれていた。

一方、王都放送局ではヒルデトーラ主演の「料理のお姫様」が浸透し始めていた。寮の献立に番組で紹介された料理が出るなど好評で、撮影も王都で完結できる利点から順調に続いている。ヒルデトーラの手際は既に初心者の域を超えており、番組は成功の可能性を強く示していた。

余裕の中で進める別の布石

リストン領の撮影は夏に撮り溜めた分を消化しており、ニアには時間的余裕が生まれていた。その間に、天破流師範代代理ガンドルフとリネットの修行を進め、「氣」を習得させつつあった。特にガンドルフは戦力として数えられる水準に達しており、将来的に資金獲得へ貢献させる構想を抱いていた。

ネズミの酒場への訪問

ニアはリノキスと共に路地裏の「薄明りの影鼠亭」を訪れ、アンゼルとフレッサに会った。リノキスが冒険家リーノとして活動できているのは、酒場側が詮索や追及を止めているからであり、その協力に感謝を示したうえで、本題を切り出した。

ニアは十億クラムを稼ぐ計画への協力を求め、対価として自らが二人を鍛えると提案した。脅迫ではなく取引であると明言し、見返りは「今の百倍は強くなる」ことであると提示した。

「氣」の提示と覚悟の確認

アンゼルとフレッサは疑念を抱きつつも、強さへの渇望を隠さなかった。ニアは奥の部屋で二人に「氣」を体感させ、その存在と可能性を示した。二人は裏社会の強者たちが使う力と同種であると気付き、価値を理解した。

十億を即座に支払うのではなく、稼ぐための協力でよいのかと念を押すフレッサに対し、ニアは各々のペースでリーノに同行し手伝えばよいと答えた。

二人の表情は既に決意を示していた。こうして、国を挙げた武闘大会の資金十億クラムを稼ぐ計画は、秋の初めに本格的に動き出したのである。

地下室での修行開始

取引の翌朝、まだ暗い時間にリノキスは冒険家リーノの姿で酒場を訪れた。修行場所は酒場の地下室で、かつて密造酒に使われていた広い酒蔵であった。ニアは学院のため不在であり、リノキスが「氣」のきっかけを教える役を担った。感じ取れる者にしか教えられない力であり、まずは自力でわずかでも動かせるようになることが目標であった。

同行と決断

リノキスが一週間で習得したと聞き、フレッサは冒険に同行しながら修行すると決めた。日雇いである身軽さを活かし、稼ぎと修行を両立させる算段である。アンゼルも参加を決め、三人は修行を開始した。約一週間で二人は「氣」のきっかけを掴み、ニアの見立ての正しさが証明された。

秋の進展と様子見

秋が深まった頃、ニアは酒場を訪れた。出稼ぎは順調で、リノキスやフレッサ、ガンドルフ、リネットが冒険に出ている間の様子を確認しに来たのである。リネットとの同時来訪を避けているのは、関係を悟られないためであった。

アンゼルの実感

「氣」に慣れたアンゼルは、ニアの存在に違和感を覚えた。周囲の「氣」が揺らぐ中、ニアだけは揺らぎがなく、異常なほど安定していると感じ取ったのである。ニアはその感覚を肯定し、さらなる成長を断言した。

諦念と覚悟

ニアが去った後、アンゼルは改めて理解した。ニアは関わってはならない存在であり、強さの桁が違うと。既に深く関わってしまった以上、逃げるよりも教えを受け続ける方が賢明だと半ば諦めた。十億クラムという厄介事も含め、既に巻き込まれていると自覚したのである。

裏社会から距離を置き酒場を営む現在の方が、かつてよりも危険と隣り合わせであると感じながら、アンゼルは不安を酒と共に呑み込んだ。その呟きは、酒場の喧騒に紛れて消えていった。

「氣」の要素整理と素質の偏り

ニアは、しばらく会えなくなる前に「氣」の基礎を整理した。「氣」は「内氣」と「外氣」に大別され、各四要素から成り立つとした。内氣は「浄氣」「硬氣」「柔氣」「流氣」、外氣は「斬氣」「兆氣」「打氣」「呼氣」である。さらに“九つ目”があるが、それは自力で辿り着くべきとして言及を避けた。

技を使う際は、内氣・外氣に含まれる要素を状況に合わせて配分するのが原則である。例として「氣拳・雷音」は内氣の「柔氣」と「流氣」を厚くすることで成立しうるが、ニアは「流氣」偏重のみで成功扱いにする危険を戒め、「硬氣」で拳を守りつつ「流氣」で速度を上げ、「柔氣」で衝撃や他要素の緩衝を担わせるといったバランスの重要性を説いた。

素質は分散しており、リノキスは「流氣」、リネットは「柔氣」、ガンドルフは「硬氣」、アンゼルは「硬氣」と「流氣」、フレッサは「柔氣」と外氣の素質が高いと整理された。互いの不足を補い得る関係であり、基礎は教え終えた以上、あとは修行あるのみだと締めた。

冬休み前の集結と成果確認

冬休み直前、秋から続いた鍛錬と出稼ぎの区切りとして、ニアは稼ぎ手を一堂に集めた。場所は高級レストラン「黒百合の香り」の個室で、酒場に集まると目立つため避けた。今日は労いとしてニアの奢りであり、実質的に弟子同然となった面々が同席した。

成果の確認では、アンゼルが「一千万は超えてるだろ」と見立て、リノキスがセドーニ商会の証文の合算として「二千万弱」と報告した。稼ぎは出ているが十億には遠く、このペースでは間に合わない現実も共有された。

冬休みの遠征計画と狙い

ニアは計画が本決定したとして、冬休みに冒険家リーノの付き人として飛行皇国ヴァンドルージュへ出稼ぎに行くと通達した。目的は金稼ぎに加え、二年後の武闘大会に向けて冒険家リーノの名を広げること、そしてニア自身が動ける場所へ移ることである。アルトワール周辺でリーノが注目されるほど有名になり、同国で同行すれば正体露見の危険が増したため、他国へ行く判断に至った。

上級魔獣の目星も付けており、最大で三億程度の荒稼ぎが可能という見積もりが示されたが、都合よく遭遇し想定通りに仕留められる場合の上限であるとも確認された。食事後、ニアは各自に少し金を渡して解散し、アンゼル、フレッサ、ガンドルフは飲みに向かい、リネットは学院へ戻った。

セドーニ商会への挨拶とグッズの勢い

ニアとリノキスは行動を開始し、冬休み前の挨拶としてセドーニ商会本店へ赴いた。店内には「お姫様グッズ」の特設コーナーが設けられており、「料理のお姫様」の人気上昇に伴い、公式の包丁・調理器具・エプロン・スパイス・レシピ本などが展開されていた。販促映像も流れ、企画が売れているだけでなく、積極的に売り込まれている現状が示された。ニアは土産としてスパイスとレシピ本の購入を考えた。

隣には紙芝居グッズの大規模特設もあり、赤騎士ソーマの木彫り人形は入荷待ちとなるほど人気であった。さらに特設ではないがニア関連のグッズも並んでおり、犬の木彫り人形など、本人にとって複雑な商品も売られていた。

上役としてダロンが応対し、会頭マルジュ・セドーニは外出中だと告げた。ニアは冬の遠征の礼と今後の依頼を伝え、十億の稼ぎの使い道を問われると、まだ話せる段階ではないとして「子供だから難しいことはわからない」と誤魔化した。ダロンは営業としてグッズを勧め、ニアは紙芝居グッズは足りていると断った。

帰省と撮影地獄への再突入

二学期が終わり、ニアは兄ニールの飛行船で帰省した。冬休みにまとまった休日を得るつもりだったが、リストン邸の島へ到着するや否や、ベンデリオに捕まり撮影班用の飛行船へ連れ込まれた。屋敷に入ることさえできないまま、夏の再来のような過密撮影スケジュールへ突入し、ニアは病床に臥していた頃を懐かしむほどの忙しさを実感した。

証文の束が示す「最上級の上客」

セドーニ商会会頭マルジュ・セドーニは、執務室の引き出しに積み上がる証文の束を見て、商魂を揺さぶられる感覚と胃の痛みを同時に抱えていた。夏から始まったニア・リストンとの取引は、当初は世迷言にしか聞こえなかったが、三ヵ月で二千万超という成果が現実味を与え、今では「逃せない上客」へ変貌していた。

交渉初手の失態と侍女の圧

マルジュは、ヒルデトーラの紹介状を携えて現れたニアを「魔法映像によく出るリストン家の娘」程度に見ていた。そこへ「二年で十億クラム稼ぎたい、手伝ってほしい」と言われ、鼻で笑いかけた自分の言葉を今も後悔していた。踏みとどまれたのは、紹介状の重みと、背後の侍女が向けてきた異様な眼光のためである。商人として脅迫や恫喝に慣れていたマルジュですら「本気で殺されるかもしれない」と感じ、口を噤み、話を聞く方向へ舵を切った。

セドーニ商会が担う役割と利益構造

セドーニ商会が請け負ったのは、冒険家リーノ一行が浮島へ行くための飛行船手配、魔獣素材や魔石の換金、換金後の資金の貯蓄・管理、ギルドや換金先との交渉など煩雑な雑事全般である。費用に加えて各所から手数料を得る仕組みで、リーノ側が稼げば稼ぐほど商会も儲かる構造になっていた。右腕ダロンは当初から「受けてよかった話」と見ており、その判断が正しかったと今は証文が証明している。

二つの疑問「使い道」と「隣国行き」

利益の大きさと同時に、マルジュの関心は二つの疑問に集中していた。第一は十億クラムの使い道である。大金を二年で貯める以上、使途は既に定まっているはずで、そこにさらに大きな儲け話が潜むと踏む。しかしダロンの探りは手応えがなく、本人たちも知らない可能性すら示唆された。ヒルデトーラが関与している以上、王族側からいずれ話が来る可能性はあるが、現時点では不明のままである。

第二は、冬に向けた飛行皇国ヴァンドルージュ行きの意図である。金稼ぎが目的なのは理解できるが、なぜ隣国なのかが引っかかった。アルトワールではできない“大きな何か”を起こしに行くのではないかと疑い、ここにも儲け話の匂いを嗅いでいた。

遠征準備の実務と商会の手配

ダロンは、ニアが帰省前に挨拶に来たことと「冬の遠征もよろしく」という伝言を伝えた。マルジュは超高速船の手配状況を確認し、入国許可の申請方法として「リーノをセドーニ商会の護衛として同行させる」体裁を指示した。滞在日数は予定通り、同行者が増える可能性も見越して乗組員として登録し、現地での活動は向こうの支店に任せる方針を固めた。

胃痛の象徴としての魔晶板

最後にマルジュは魔晶板を点け、偶然にもニアの犬企画の放送が流れた。彼はそれを見てすぐに消し、「自業自得」と理解しつつも、今はニアの姿を見たくないほど胃が痛むのだと自嘲して締めた。

第三章 飛行皇国ヴァンドルージュへ

冬休みの短さが生んだ「夏以上の地獄」

冬休みは短く、出稼ぎの数日を捻出するため撮影は極限まで過密化した。十日で二十六本撮りという狂気の工程を完遂し、ニアはようやく「バカンス(出稼ぎ)」へ踏み出せる状態になった。撮影班も限界に近く、メイクは泣きながら逃亡を図り、カメラは感情を失ったように淡々と回し、現場監督は虚ろな目で娘の手作りお守りを見つめるほど疲弊していた。それでもニアは、次は温泉地で撮影しそのまま泊まる工程を組む、と内心で誓い、ベンデリオだけは許さないと再確認した。

隣国行きの表向きの理由と「お忍び」

ヴァンドルージュは距離があり、貴人の娘が黙って国境を越えることはできないため、正式手続きを踏みつつ実態はお忍びとなった。両親を説得するための表の理由は二つである。第一に、第二王子ヒエロ・アルトワール(王都放送局局長代理)への挨拶である。ヒルデトーラの伝手で「冬休みの旅行がてら会いに来ないか」という招待状を整えた。第二に、飛行皇国の飛行船の下見である。両親は入学祝いとしてニア専用の飛行船を贈る意向があり、現地で候補を見つけてこいと背中を押した。両親も兄も同行せず、ニアとリノキスの二人だけで短期滞在する段取りは計画通りであった。

本島での変装と「リーノ&リリー」への切替

兄の飛行船でリストン領本島へ移動し、港で二人は変装に入った。ニアは稽古着に着替え、髪染めの魔法薬で黒髪にして「闇闘技場の時の幼児」に戻る。リノキスも侍女服を脱ぎ、駆け出し冒険家風の装いに変えた。ここから先はニア・リストンと侍女リノキスではなく、冒険家リーノと付き人リリーとして行動する。

最新高速船の異様さと「金属の棒」

セドーニ商会が用意したヴァンドルージュ行きの船は、流線形というより「先端を緩く尖らせた金属棒」のような奇怪な形状だった。全体が金属製で、閉鎖的な構造と低い天井、剥き出しのパイプが古い感覚のニアの不安を煽る。案内役の身形の良い中年男は商人然としており、リノキスと面識がある様子で、船の特徴を得意げに語った。

半日で到着する速度と「爆風加速」

通常の飛行船なら補給込みで三〜四日かかる航路だが、この最新型は一日、さらに実質半日で到着すると説明された。燃料費が高く普段使いに向かず、速度偏重で積載量も度外視という試作・尖り設計であるらしい。上階は窓が多く視界は確保されていたが、前方は壁と扉で区切られ操縦区画が隔離されていた。

離陸後、通信管から「加速開始」「大きく揺れる」と警告が入り、カウントダウンののち点火。雷音を上回る爆発音と衝撃で船体が揺れ、眼下の港が一瞬で消えた。外の島々や雲が後方へ吹き飛ぶ速度で流れ、ニアは視覚で異常な速さを理解する。この船なら確かに半日で着く、と納得しつつ、性能への欲望と「入学祝いでは無理だろう」という現実感を同時に抱いた。

トルク・セドーニの正体と同行の含意

リノキスは同行していた男を、セドーニ商会会頭マルジュ・セドーニの息子トルクとして紹介した。ニアにとっては、かつて「二年で十億クラム」という要求を実務面で呑み込んだ商会の直系であり、単なる乗組員ではなく商会の意思決定に近い人物が同乗していることになる。トルク側の狙いは、リーノの行動予定(狩る魔獣・活動拠点・今後の遠征)を把握し、商会として取りこぼさず利を取りに行くことだとニアは察した。

「可愛い」連呼と関係設定の即興

リノキスはリリー(変装中のニア)を「弟子で近しい存在」として曖昧に定義し、トルクに深入りさせない線引きを作った。トルクは商人らしく事情を嗅ぎ取りつつも、踏み込まず会話を実務へ戻す。リノキスは今後も出稼ぎでこの高速船を使いたい意向を伝え、トルクは「拠点移動の際は事前連絡」を強く約束させ、商会として囲い込みを進めた。

魔獣買取の提案とニアの介入

朝食の席で、トルクはヴァンドルージュで狩る魔獣の話題を出し、商会が便乗できる余地(指定の魔獣・優遇買取)を探る。ニアは「商会が狩ってほしい魔獣があるのでは」とあえて口を出し、希望を聞いて可能なら応じる流れを作った。トルクは即座に「色を付けた買取価格」を提示し、利害が一致する形で交渉が動き出す。ニアは以後の金絡みの細部を大人(リノキスとトルク)に任せ、自室へ退いた。

休息のはずが緊急停止で叩き起こされる

狭い個室で眠りに落ちたニアは、「緊急事態発生」「三秒後に緊急停止」という船内放送で叩き起こされる。急停止の横揺れで身体が浮き、壁に頭をぶつけてベッドから転落した。外敵や侵入者なら気配で即応できるが、音声だけでは起きられなかった点を自分の盲点として認識しつつ、状況確認へ動く。

左舷側の異常と巨大飛行烏賊の捕食

通路に出ると整備士らが窓に張り付き、左舷側に注視していた。外には巨大な飛行烏賊(スカイスクイッド)が、別の飛行船に触手を巻き付けて拘束している光景があった。捕まえられた船からは赤い煙が上がり、救難信号(狼煙)と推測される。相手船は停止しており、逃走は不可能に見える。整備士は「この船は移動特化で装備がなく、どうにもできない」と渋い判断を述べた。

ニアの算段と船の「見捨てる」判断

ニアは、船がまだ原形を留めている以上、生存者がいる可能性、救助の報酬、巨大魔獣の魔石価値といった“稼ぎ”の要素まで即座に計算する。だが船内放送は「当船は武装不足のため救助信号は一時保留。ヴァンドルージュへ急行し救援を求める」と告げ、再加速準備に入る。合理的判断ではあるものの、ニアにとっては眼前の獲物と救助機会を捨てて去る展開となり、思わず「待て」と制止しかけるところで場面が切れる。

緊急停止の回避と介入の提案

再加速のカウントが始まったため、ニアは操縦区画へ駆け込み、施錠されたドア越しに止めるよう訴えた。応対に出たトルクとリノキスへ、襲撃中の飛行烏賊は「金になる」「救助謝礼も見込める」と即断し、討伐を提案する。リノキスは巨体相手の無謀さを理由に強く反対し、時間がない緊急状況で口論になる。

リノキスの葛藤と「同行」の選択

ニアは闇闘技場の件を踏まえ「勝手に単独行動はしない」と明言した上で、選択肢を突き付けた。「ねじ伏せて単独で行く」「二人で行く」「見送る」のいずれかを選べと迫り、人命が懸かっている点も含めて判断を求める。リノキスは護衛としての本分を主張しつつも、結局は同行を決断し、表情を引き締めた。

トルクの承諾と事後交渉の取り決め

トルクと船長は討伐・救助を承諾した。勝手に乗り込むことや破損が責任問題になり得るため、事後の交渉はトルクが引き受け、討伐後は狼煙(救難信号)を消して安全確認後に高速船を寄せる手順が定められる。トルクは皇国やギルド相手にも「取れるところから取る」と公言し、商会の実務力を示した。

単船で現場へ投下される

下層の船尾で単船が準備され、リノキスが跨って操縦、ニアは後ろへ飛び乗る。外壁が開くと同時に強風と寒気が襲い、単船は空中へ投げ出される形で出発した。高速船は触手の届かない距離を保っていたが、単船の速度で捕獲された飛行船へ急接近する。

宙吊りの船員発見と方針の修正

近づくと、飛行船から何本もロープが垂れ、その先に命綱で吊られた人員がいることが判明する。船外装ごと引き剥がす手段は、吊られた者ごと落下させる危険があるため却下となる。ニアは「まず気を引き、暴れる前に迅速に仕留める」方針を固めた。

甲板突入と初撃の失望

リノキスは直進を選び、飛行烏賊は足(触手ではない)を振り下ろして迎撃する。ニアは後部座席で立ち上がり、落ちてくる足を「真横に流す」動作で受け、結果として足は爆散した。想像以上に脆い手応えにニアは落胆し、見掛け倒しだと判断する。ニアは単船から飛び降りて甲板へ着地し、リノキスも強引に停止して合流した。

役割分担と挑発によるヘイト固定

飛行烏賊はニアを明確な敵として凝視し、退かない姿勢を示す。ニアはリノキスへ「宙吊りの人員回収」「回収した者の命綱をリノキス自身に結ぶ」よう指示し、烏賊は自分が引き受けると宣言する。攻撃を自分へ集中させ、飛行船本体と吊られた者への被害を抑える狙いである。

烏賊の反撃準備と短期決戦の構え

烏賊は複数の足を同時に振り上げ、背後からも攻撃を迫らせる。さらに木箱のような積み荷を利用した攻撃まで見せ、単純な巨体ではなく一定の知能を示唆する。ニアは弁償リスクを避けるため木箱は受け止める意図を持ちつつ、リノキスが救助を終えるまで相手を引きつけ、終わり次第に迅速に仕留める構えを固めた。

飛行魚という存在の整理

ニアは飛行魚を、浮島現象をもたらした「大地を裂く者ヴィケランダ」の影響で生まれた海洋生物の変異だと捉えていた。種類も大きさも統一性がなく、空を回遊するだけの不可解な生物群である。兄と見かけた富嶽エイも飛行魚であり、特に有名なのは巨大飛行鯨「光を食らう者モーモー・リー」で、太陽を遮る影から畏怖の伝承が生まれ、信仰対象にすらなっているとされる。

囮としての時間稼ぎと救助の完了

ニアは甲板上で飛行烏賊の攻撃を避けたり受け止めたりしつつ、甲板を叩く角度の攻撃は片手で防御して船体負担を抑えた。粘液で全身が生臭くぬるぬるになる以外に大きな被害はなく、周囲の物を投げつけて注意を引き続ける。狙いは囮であり、その間にリノキスが宙吊りの船員を回収して船室へ退避させた。

拘束用の槍と決着の手順

回収完了の報告を受け、ニアは命綱を「重い棒」に結んで槍として使うよう指示した。以後は遠慮せず「破ル流」で足を爆散させ、烏賊に動揺と畏怖を生じさせる。逃走姿勢に入る前に距離を詰め、内氣と重氣を込めた蹴りで頭部を甲板へ叩きつけ、リノキスが命綱付き金属棒を目へ深く突き刺して拘束する。ニアが追い打ちで槍を追加し、烏賊は短時間で動かなくなった。船体破損を避けるため「暴れさせない拘束」を優先した判断であった。

救助結果と定期船側の状況

宙吊りだったのは6人で、怪我や体調不良はあるが死者はいなかった。防風処理が及ばない場所で強風に晒され冷え切ったことが主因で、命に別状はない。襲われた船は浮島間を移動する定期船で、護衛兼任の乗組員が素早く乗客を船室へ避難させたため被害が抑えられ、外装は損傷したが内部機関は無事だった。狼煙を上げて救援を待つしかない絶望的状況で、高速船が停止し単船が向かう様子が船室側から確認されていた。

評価のねじれと「冒険家リーノ」の名

甲板での戦闘が船室から見えない構造もあり、救助後に賞賛を浴びたのは冒険家リーノであった。七歳の子供が討伐したとされるより、リノキスが仕留めたとする方が現実味があるため、ニアは実務上それを受け入れる。ヴァンドルージュで「冒険家リーノ」の名を売ることも目的であり、この扱いは都合が良い面もあった。

高速船へ帰還と簡易清拭

狼煙は止められ、高速船が接近してきたため、ニアは先に戻った。烏賊の粘液で全身がぬるぬるになっており、風呂はないため女性乗組員に湯を用意してもらい身体を拭き取る。戦闘の詳細を問われても語れる形の事実がないため「気が付いたら終わっていた」とだけ返すに留めた。

休息と交渉の先送り

ニアは夕方までしっかり睡眠を取り、途中一度の大きな揺れは加速によるものと推測する。食堂でリノキスとトルクに合流すると、交渉は「船内故障の可能性」「乗客の不安」などから一旦解散し後日対応になったと説明される。烏賊の魔石は回収したが、身体は重量の問題で相手船側が持ち去った。

ヴァンドルージュ到着と出稼ぎの開始

寄り道があったものの、高速船は夕食時までに飛行皇国ヴァンドルージュへ到着した。ニアにとってここからの数日間は、出稼ぎでありつつ実戦の機会に満ちたバカンスでもあり、より濃密な戦いへの期待を抱きながら皇国での活動が始まった。

第四章 稼ぐ

首都ユーネスゴ到着と高級ホテルでの躓き

ヴァンドルージュ皇国の首都ユーネスゴへは夜に到着した。トルク手配の高速船は飛行烏賊遭遇による遅延があっても一日未満で到着し、性能の異常さが際立っていた。滞在は第二王子ヒエロ・アルトワールの招待という体裁で高級ホテルが確保され、費用も王子側の厚意で負担される。だが受付では、ニアに残った飛行烏賊由来の生臭さが問題となり、入浴と着替えを済ませない限り入館を認められないという対応を受けた。

入浴と身分偽装の徹底

名目上、ニアは冒険家リーノの付き人リリーであり、貴族名は出さない方針である。高級ホテルに不釣り合いな身なりと立場の中、従業員用浴場へ案内され、年齢的な配慮から女性従業員の見守り付きで洗髪・洗身を重ね、粘液と臭気を落とす。着替え後、洗濯も依頼し、再チェックを経てようやく部屋へ通された。リノキスは部屋で侍女服に戻り、紅茶の準備まで整えていた。

短期滞在ゆえの稼働計画と目標金額

冬休みは短く、翌朝から浮島へ出る方針が即決される。目標は三億クラム、最低でも一億クラムの確保である。狩場行きの船、換金、ギルド申請、補給などはセドーニ商会が一括手配し、二人は港へ行って狩るだけという形に整えられていた。ニアはこの過剰とも言える厚遇を感じつつ、商人相手の貸し借り感覚にも思いを巡らせる。

ヒエロ王子の不確定要素と不穏な予感

ヒエロ王子との面会日時は未定で、相手からの連絡待ちとなる。ニアは魔法映像の案件上、王子との接触を最優先事項と捉えつつも、予定外の事態が起きそうな予感を口にする。リノキスは言霊めいた理屈でそれを戒め、ニアも「さらっと顔合わせで済ませたい」という希望を抱くが、予感は当たる方向へ傾き始めていた。

飛行皇国の国力背景と浮島環境の利点

ユーネスゴ自体が大きめの浮島であり、浮島国家であるヴァンドルージュは国内移動の必要性から飛行船技術を突出して発展させた、という授業内容が想起される。多数の浮島はそれぞれ異なる生態系を持ち、結果として魔獣や資源の分布が島単位で絞り込める。ニアは未開ゆえではなく、調べが付くからこそ効率よく魔獣を探し狩って換金できる点を、出稼ぎ地選定の理由として押さえている。

翌朝の出発準備と最初の獲物「刀刺鹿」

一夜明け、ホテル内の風呂で整え、暗いうちから食堂で簡単な朝食を取る。最初の標的は刀刺鹿であり、トルクの注文として最低三頭、角は折らず毛皮の損傷は少なく、可能なら魔石も抜かず丸ごとが望ましいと共有される。高速船の手配や現地交渉などの累積を受け、トルクの要求が厚くなったことも示される。

取引観と信頼の優先

リノキスは「命懸けなのだから高く売りたい」という本音を漏らすが、ニアは金の稼ぎ方と信頼の重みを切り分け、信頼は確実な育成法がなく失えば戻しにくいと釘を刺す。セドーニ商会の仕事ぶりに不満がない限り、相手の意向にある程度合わせるべきだという判断に落ち着く。

セドーニ商会の支援体制と狩りの開始

港ではセドーニ商会が用意した飛行船に乗り込み、周辺事情に通じた船長、荷運び要員、ギルド申請、物資補填までが揃っていることを確認する。ニアは「狩るだけ」に集中できる環境を評価し、買取価格まで強く求めるのは高望みだと結論づける。こうして、昨日の飛行烏賊より強い獲物を期待しつつ、出稼ぎと狩りの日々へ踏み出した。

船長バンデの不安と「仕事」としての割り切り

船長バンデと船員ジュードは、セドーニ商会から「腕利きが来る」と事前に聞かされていたにもかかわらず、現れたのが若い女冒険家と十歳にもならない子供だったことで強い不安を抱いた。だが命令はトルク・セドーニ直々であり、彼女らを魔獣の島へ運ぶのが自分たちの仕事だと割り切って出航するしかなかった。

秋島到着と刀刺鹿の危険性

最初の目的地は通称「秋島」で、冬が薄い気候のため植物が豊富で草食獣が多い一方、獣害のため人は多くなく、狩りを資源とする島として成り立っていた。狙いは刀刺鹿で、刀剣のように鋭い角を武器に体当たりや突きを仕掛け、臆病で逃げ足も速く、巨体ゆえに直撃すれば致命傷になり得る厄介な魔獣である。

二人の軽さとバンデ側の焦燥

港の集落から森は近く、冒険家リーノとリリーは島の暖かさに言及しつつ、バンデに「早めに戻るので出航準備を」と告げ、返事も待たず森へ走っていった。無事を心配する側と、次の工程を前提に動く側の温度差が際立ち、バンデは苦々しさを抱えつつも出航準備を命じる。

想定外の早期帰還と竜頭鼠の「無傷の死体」

準備の最中、リーノが大きな麻袋を担いで戻り、単船を出して荷運びを頼む。袋の中身は刀刺鹿ではなく、襲われたため狩ったという竜頭鼠の亡骸だった。バンデは驚きつつも価値を認め、荷運び用の単船を手配してジュードを森へ向かわせる。

バンデの理解と評価の反転

バンデが袋の中身を検分すると、竜頭鼠は複数入っているのに血の臭いがなく、外傷も見当たらなかった。剣を携えた冒険家がどうやって傷一つ付けずに仕留めたのか見当がつかず、見た目で判断していた自分が大間違いだったと悟る。セドーニ商会の忠告が誇張ではなく事実だと腑に落ち、以後は「このままスケジュール通り進む」前提で作業を急がせる。

刀刺鹿の搬入で確定する“当たり”

ほどなく戻ったジュードの単船には、複数の刀刺鹿が積まれていた。ジュードは戸惑い顔のままだったが、バンデはこれで確信する。二人は見た目に反して本物の腕利きであり、計画が現実に回るなら滞在は短く、今日一日が異様に忙しくなると予感した。

初日の戦果一覧

刀刺鹿八頭、竜頭鼠十六匹、暗殺鷲三羽、極地対応型スライム特大一匹、雪大虎二頭、氷矢鳥七羽と卵四つ、火海蛇超特大一匹と副次的に浮上した魚群大量、光蝶三十三匹、足足茸特大一匹(魔石のみ回収、身は現地で食す)。幻獣・水呼馬は呪いの説得を受け未討伐に留めた。以上が初日の成果である。

物足りなさと身体の“準備体操”感

戦果は十分だが、ニアにとっては準備体操が終わった程度で、歯ごたえはなかった。山越え谷越えと遊びを入れて工夫はしたが、根本的に魔獣が弱い。大人が蟻を踏む感覚に近い。それでも拳を遠慮なく振るえた点は快で、拳一つで片が付く世界の単純さを楽しんだ。

唯一の刺激――幻獣・水呼馬

途中で狩りを止められた幻獣・水呼馬は、水の身体ゆえ物理が通らず、滅多に使わない種類の「氣」を用いる体験となった。あの種の氣で“何かを殴る”機会は少なく、貴重な実地だった。

船側の温度差と名売りの進行

当初は戦果に歓喜して次の浮島へと急いだ船長・乗組員も、やがて顔を引きつらせる。九割以上はニアが狩り、リノキスは「絶滅する」と制止役に回る場面が多い。それでも対外的には冒険家リーノの名が立つ構図で進み、方針としては妥当である。

足足茸の味と時間の制約

リノキスの「氣拳・雷音」で売り物にならなくなった足足茸は、その場で焼いて食す。香り高く、網焼きでも上質。ホテルでの料理への期待が高まる。とはいえ夕方で船に積み切れないと判断され撤収。体力は余裕だが、物理的制約で続行不可となった。

明日以降の高額目標

本命の高額魔獣は明日以降。数千万クラムの賞金首がいると聞き、危険度の高さにむしろ期待が膨らむ。初日は様子見だったが、周辺の強度感からすればいきなり危険度を上げても良かったと省みる。

帰港と再びの“受付ストップ”

港着後は後処理をセドーニ商会に委ね、ホテルへ直帰。だが返り血で汚れた格好のため、再びホテルマンに止められる。原因はリノキスの仕留め損ねによる飛沫で、ニアだけが血を浴びた形である。足足茸を差し出し、料理の提案を持ちかけるところで本日は締めとなった。

想定外の早帰還

首都ユーネスゴのセドーニ商会ヴァンドルージュ支部に、船長バンデが報告に現れた。陽が落ち切る前の帰還は早すぎる。トルクは怪我やトラブルを疑うが、バンデは「飛行船に乗せ切れないほど狩った」と告げ、現物確認を促す。

布の下の“宝の山”

港に係留された商会の船には目隠しの布。盛り上がった不自然な山を前に、トルクは言葉を失う。刀刺鹿八頭、雪大虎二頭ほか、数量も質も誇張ではなく事実だった。

刀刺鹿の“無傷”仕留め

原形を保った刀刺鹿が整然と並ぶ。血抜き・内臓処理以外に刃傷は見当たらない。毒ではなく「首の骨を折った」と聞き、価値を最大化する“綺麗な狩り”の技量に戦慄する。角と毛皮の状態は上々、素材価値は高い。

雪大虎の美皮

“死の吹雪”と恐れられる雪大虎二頭も、毛皮に傷がない。通常は精鋭が壊滅しかねない相手を、この量と質で持ち帰る現実に、商人としての計算が追いつかない。

光蝶の生け捕りという可能性

瓶内で呼吸する光蝶三十三匹。死後も光る希少種を生体で確保した価値は計り知れない。飼育・増殖が可能なら新産業の芽となる。加えて火海蛇の超特大個体は懸賞対象で、収益の柱となる。

深夜まで続く金勘定――初日の確定額

刀刺鹿八頭:四百万クラム。
竜頭鼠十六匹:二百六十万クラム(うち三匹は傷物で各五万)。
暗殺鷲三羽:九十万クラム。
極地対応型スライム特大一匹:魔石七十万クラム。
雪大虎二頭:各四百万クラム。
氷矢鳥七羽+卵四つ:計百四万クラム(傷物二羽は各三万、卵各二万)。
火海蛇超特大一匹:一千万クラム+懸賞二百万クラム。
幻獣・水呼馬:情報料百万クラム。
光蝶三十三匹:二百八十万クラム(捕獲五匹は各三十万)。
足足茸特大一匹:魔石二十万クラム。

合計三千四百四十九万クラム。

二日目の体制強化と見積提示

出稼ぎ二日目、港には船長と乗組員が早朝から待機していた。前日の戦果で引き気味だった空気は消え、今日は明確にやる気がある。理由は貨物船を二隻用意したためで、回収量の上限が引き上げられた。さらにトルクから前日分の買取見積もりが渡され、リノキスはこのペースなら二億到達も見込めると判断したが、ニアは数字を徹底的に拒否して処理を丸投げした。

予定変更の協議と追加注文の内容

操縦室で当日の航路調整を協議する。二隻体制を得たことで、事前に組んだ「積載量前提」の最適ルートを崩し、より高額・高危険度の魔獣を優先して回れる見通しが立つ。船長からはトルクの追加注文が共有され、対象は雪大虎・火海蛇・禍実老樹・災門蜂・十文字鮮血蟹・剣客蟷螂など、いずれもヴァンドルージュで危険視される魔獣であった。いずれも元から狩猟予定であり、方針は「可能な限り全て回る」に固まる。周囲の船員は、冒険家リーノの自信ある態度に英雄視の眼差しを向け、名声が確実に売れていく状況となる。

第九十一下々層島への到着と初手の標的

朝陽が昇る頃、目的地の第九十一下々層島に到着する。ヴァンドルージュの浮島は番号で管理され、通称はあっても正式名は番号のみである。二人は単船で島へ降下し、飛行船は上空待機、狩猟後に回収へ降りる手筈となる。最初の獲物は砂浜にいる十文字鮮血蟹で、島の開拓を阻む存在として二千万クラムの賞金が懸かる大物であった。巨体は寮ほどの規模に見え、赤い甲殻と十字模様が宗教的な畏怖を与える。

戦闘開始と技の更新『彗星』

リノキスは「雷音」の通りにくさを確認し、「轟雷」系が適する可能性に言及するが、ニアは「ただ大きい蟹」と断じて接近する。蟹は想像以上の速度と重さで右腕を振り下ろし、ニアは派手に吹き飛ばされるが受け身で無傷のまま立ち上がる。甲殻の硬さから一撃必殺は困難と判断し、状況に適した上位技を選択する。ニアはリノキスに見学を命じ、「雷音」の一段上――『彗星』を披露し、視認困難な加速で蟹の眼前を抜けた直後、衝撃音とともに蟹の脚一本を爆砕して戦闘の主導権を奪った。

本日の戦果の提示

十文字鮮血蟹:超特大一匹、特大六匹。

災門蜂:百三十三匹と特大の巣。

禍実老樹:特大一本(果実付き)。

剣客蟷螂:三体。

雪大虎:二頭。

暗殺鷲:六羽と卵二つ。

巨大蟹討伐の報が「名前」を確定させる

ヴァンドルージュでは「アルトワールに凄腕の新人冒険家がいる」という噂は以前から断片的に流れていたが、名指しで確定したのはこの日の朝であった。冒険家ギルドに「蟹が狩られた」と報告が入り、当初は何の蟹か分からずロビーがざわつく。だがギルド長が「十文字鮮血蟹」だと断言すると空気は一変し、信じられないという叫び、賞金額の詮索、私怨の悪態、安堵で硬直が解ける者など、混乱が爆発的に広がった。軍ですら討伐に失敗し、半ば“放置が既定路線”になっていた存在が倒された事実が、冒険家リーノの名を一気に広める契機となった。

軍部の動揺と総大将二人の現地確認

同じ報告は皇国軍にも届く。陸軍総大将ガウィンは驚愕し、空軍総大将カカナは眉をひそめて疑う。過去に陸軍と空軍は手柄争いから共同作戦に至り、それでも失敗し甚大な損失を出したため、国として蟹に関わることを禁じた経緯があった。加えて隣国情勢もあり、これ以上の損耗は許されないという判断が背景にある。因縁の魔獣が狩られた以上、カカナは「自分の目で見ないと信じられない」と単船準備を命じ、ガウィンも同行する。二人はかつての軍同士の不仲が民間にまで派閥を生んだ過去を踏まえ、「一緒に動く」体裁も守る必要があった。

解体された蟹の死体と、討伐者の正体への到達

港は野次馬で溢れ、解体されて無残な姿になった十文字鮮血蟹が晒されていた。甲羅には過去の砲撃痕も残り、個体の同一性が確認できる。総大将二人が最も知りたかったのは「誰が、どうやって殺ったか」であり、そこで討伐者が「アルトワールから来た冒険家リーノ」だと知る。外から流れ込んだ傭兵団の仕業という予想は外れ、個人名が立ったことで、案件は軍の“表”では扱いづらい領域へ移る。

裏案件化の合意とオルター・イグサスの影

ガウィンはカカナに「この件にはもう触れるな」「裏の案件だ」と囁き、国際問題化の回避と、他国出身者を皇国の事情に巻き込まない方針を共有する。ただしカカナは、接触できるなら表で収めたい意思も示す。ガウィンは港の路地で、暗がりに気配を潜めていた屈強な大男と短く言葉を交わす。男はオルター・イグサス――今はなき陸軍第六師団執行部の元隊長で、軍や法では対処できない対象を排除する自警団を秘密裏に組織し、裏で動く存在である。ガウィンは現状は黙認しつつも、オルター不在後の自警団暴走を危惧し、必要なら引導を渡す局面が来ると内心で見積もっていた。

二日目の追加討伐で「脅威」として確定し、面会要請へ

夕方、近辺の脅威とされる魔獣が次々狩られたとの報が再度入り、総大将二人は港へ戻ることになる。ガウィンは、ここまでの武力を持つ個人を「知ろうとせず放置する」ことは不可能だと判断し、リーノが軍の接触に応じるかどうかが分岐点になると読む。応じなければオルターが動き、揉める可能性が高い。穏便な解決を願いながら、ガウィンはリーノ滞在先のホテルへ面会を申し込む伝言を送った。

本日の戦果と累計の金額整理

十文字鮮血蟹:超特大一匹、特大六匹。超特大は報奨金二千万クラム、特大六匹は六百万クラム。

災門蜂:百三十三匹と特大の巣。千三百三十万クラム、巣は幼虫込みで二百万クラム。

禍実老樹:特大一本(果実付き)。五百万クラム、果実は一つ三万クラムで三百六万クラム。

剣客蟷螂:三体。九百万クラム。

雪大虎:二頭。美品につき一頭四百万クラム。

暗殺鷲:六羽と卵二つ。百八十万クラム、卵は一つ五万クラム。

合計:六千八百二十六万クラム。

一日目(三千四百四十九万クラム)と合算し、累計一億二百七十五万クラムとなった。

第五章 名が売れてきた

伝言の山が示す「知名度の変化」

出稼ぎ三日目の早朝、雪がちらつく中で出発準備を進めると、ホテルマンから「伝言」を預かっていると告げられる。用意されたのは身元が確認できた十件のメモであり、さらに名を明かさない・身元不明の三十五件はホテル側が受け付けていなかった。十文字鮮血蟹討伐の影響で、冒険家リーノへの関心が一気に増したことが裏付けられる。港で待ち伏せされる懸念もあり、表口を避けて裏口と路地を使い、遠回りで港へ向かった。

有名人扱いと情報統制の徹底

港は早朝にもかかわらず人が多く、堅気ではない視線も混じる状況であった。船長は「いろんな人に聞かれた」と明かすが、セドーニ商会の方針に従い「質問は商会へ」の一点張りでかわしており、商会のサポートがここでも機能している。三日目は前二日で相場が見えたため、換金率の高い高額魔獣を優先して狙う方針へ切り替える流れになる。昨日の見積もりでは六千万クラム超で、累計が一億を越えている事実が改めて共有される。

伝言の中身と「児童養護施設」への対応方針

甲板で伝言を確認すると、差出人は貴族二名、皇国軍の総大将、冒険家ギルド長、商業ギルド長、聖王教会、有名冒険家チーム複数、そして児童養護施設など多岐にわたる。内容は概ね「会いたい」「話したい」「寄付しろ」に集約され、日時指定で呼び出すような一方的なものは無視する判断となる。一方で児童養護施設の訴えは看過しづらく、セドーニ商会に実情調査を依頼し、事実が確認できれば寄付する、という折衷案に落ち着いた。

火海蛇の“釣り”と、リノキスの荒行

トルク側の注文として火海蛇が挙がり、船長は「とっておきのやり方」を提示する。低空で海面近くを飛び、飛行船を餌にして襲ってきた火海蛇を返り討ちにする“釣り”である。実態としては、ニアが火海蛇を蹴り落として頭骨を砕き即死させ、外向けには冒険家リーノが命綱付きで冬の海へ飛び込み「海中で仕留めた」体裁を作る。狩り自体の負担よりも、寒空の海に飛び込むリノキスの負担が過酷で、本人は震えながらも演技を継続する。しかも回収の最中に次の個体が来ており、休む間もなく続行を求められる展開となった。

本日の戦果

火海蛇:超特大三匹、大三匹。

突槍鮫:特大二匹。

鋸海月:特大一匹。

ホテルのロビーでの待ち合わせ

ホテルのロビーにある待ち合わせ用テーブルで、男二人が並んで座っていた。左の男は来訪自体を危ぶみ「本当に会うのか」「帰った方がいい」と言うが、右の男は「寮を抜け出して来た」「ニア・リストンに会うチャンスは滅多にない」と押し切る。左の男は内心で強い拒絶感を抱き、ニア・リストンを現魔法映像業界における替えの利かない至宝と位置づけ、軽率な接触が害になり得ると警戒していた。

ヒエロ・アルトワールの現在地

左の男はアルトワール王国第二王子ヒエロ・アルトワール(二十歳)であった。かつては第一王子を蹴落として王位を狙う野心家だったが、学院高学部卒業と同時に「放送局局長代理」に就いて以降、魔法映像の可能性に魅せられ、王位どころか王族の身分さえ捨ててもよいと考えるほど仕事に傾倒していた。支配者階級の都合で進められていた婚約も解消し、社交界から距離を取り、第一王子との関係も修復されている。ヒルデトーラ経由でニアの評判も聞いており、落ち着いていて粗相が少なく、外交にも使える資質があるという認識を持っていた。

同席者クリストへの不信と必要性

ヒエロの隣にいるのは、ヴァンドルージュ皇国第四皇子クリスト・ヴォルト・ヴァンドルージュ(十八歳)である。軽薄で口も軽く、妙齢の女性を口説くような遊び人の雰囲気をまとっているが、魔法映像の熱心なファンでもあった。ヒエロにとって、ヴァンドルージュへ魔法映像文化を浸透させる上でクリストは重要な足掛かりであり人脈であるため無下にできない。一方で、ヒエロはクリストが将来的にニア・リストンという至宝を汚す可能性まで想像し、殺気が漏れるほどの強い警戒と嫌悪を抱く。

会談直前の緊張

クリストは「ニアは本当に足が速いのか」「映像上のイカサマではないのか」と半ば挑発的に興味を示し、ヒエロは実際に会うのは初めてなので確証はないと答える。ヒエロは妹ヒルデトーラの評価を根拠に「外交にも使える」人物像を思い描きつつ、クリストに対する殺気を指摘されて深呼吸で抑え込む。深く考えれば「隣の友人を殺すしかない」という結論に達しそうな危うさを自覚し、思考停止を選ぶ。まもなくニア・リストンが到着する段階であり、今更揉めても遅いという切迫感が漂っていた。

ヒエロの夕食招待と装いの切り替え

第二王子ヒエロから「今晩、食事を一緒にどうか」という伝言が届き、即答で了承して面会が決まった。狩りを少し早めに切り上げてホテルへ戻り、風呂で汗と海水を落とし、髪色も白髪へ戻して身支度を整える。今夜は冒険家リーノと付き人リリーではなく、ニア・リストンと侍女リノキスとしてロビーへ向かった。

三日目の稼ぎと総額の整理

三日目の戦果は火海蛇(超特大三匹で二千四百万クラム、大三匹で千五百万クラム)、突槍鮫(特大二匹で一千万クラム)、鋸海月(特大一匹で三百万クラム)で、合計五千二百万クラムとなった。これまでの累計は一億五千四百七十五万クラムに達した。

悪天候で出稼ぎ中止、方針転換

出稼ぎ四日目は降雪と強風で飛行船が出せないとセドーニ商会から伝言が入り、狩りは中止となった。帰路の高速船を確保できるか次第で猶予が変わるが、実質三日で打ち止めの可能性が高く、稼ぎは「一億と六千万弱」で目標三億の半分に留まった。時間が空いたことで、前夜クリストから受けた「身内の集まり」への誘いに応じ、普及活動とコネ作りを優先する判断へ切り替える。

リノキスの過剰警戒とニアの割り切り

リノキスはクリストを「軽薄極まりない」と強く警戒し、年齢差を理由にした安心を否定するが、ニアは実利を優先して話を聞き流し、ヒエロに連絡を取らせて待ち合わせを成立させる。出稼ぎが潰れた以上、非公式の場での接点づくりを有効策と捉えた。

昼の再会とヒエロの“誘導”方針

昼食前にロビーでヒエロと合流し、ヒエロは前夜クリストを連れてきたことを詫びる。ニアは必要な同行だったと返し、子供扱い不要の姿勢を示した。ヒエロは「制限はしないが、私が誘導する方向に進んでほしい」と協力を要請し、ニアも利害一致として受け入れる。ここからヒエロがエスコートし、黒塗りの箱形大型単船で雪の街を移動することになった。

移動中の手土産と魔法映像談義

道中、集まりへの手土産としてヒエロは高いワインを箱買いし、ニアも両親への土産用に同じワインを二本購入してホテル配送を手配する。会話は自然に魔法映像へ傾き、ヒエロが番組を網羅的に視聴している様子から、局長代理としての激務と業界を背負う重さが示唆され、ニアは過労を案じる。

ハスキタン家での歓迎と顔合わせ

目的地はハスキタン家の屋敷で、執事に迎えられ、屋敷の規模から名家であることが察せられる。玄関でクリストが熱烈に出迎え、暖炉のある客間へ案内する。そこで赤毛の青年ザックファード・ハスキタンがヒエロに友人としての来訪を感謝し、内輪の集まりとして身分を忘れるよう求めた。続いてニアに片膝を突き、許嫁の誕生日の集まりであると明かす。ニアは異国ゆえ無礼の可能性を詫びつつ、貴人用の挨拶で応対した。

参加者の素性と“売り込みに最適な席”の確信

紹介されたのは、クリストの異母妹クロウエン・ヴォルト・ヴァンドルージュ、機兵王国マーベリアの高位貴族フィレディア・コーキュリス、そして当主筋のザックファードであった。ニアは彼らが資金・発言力・皇族人脈を備えた層であると見抜き、ここでの印象形成が魔法映像導入を大きく前進させうると確信する。

利益構造の説明と“始まりの逸話”の提示

魔法映像導入の利点として、ニアは広告料による利益を簡潔に説明し、番組での商品露出が購買に結びつく仕組みを例示する。さらにヒエロの促しで、かつて死に至る病に伏していたこと、両親が助けを求めるため多額の資金を投じて魔法映像を領内へ導入したこと、結果として助かり三年が経ったことを語る。魔法映像が絡む「わかりやすい感動話」として場の説得力を高め、導入検討へ感情面の後押しを作った。

クロウエンとの競走と口添えの“賭け”

クロウエンはニアの異常な俊足に強い関心を示し、クリストが勝負を提案する。ヒエロはいったん制止するが、逆に「勝負にならない」と挑発して火を付け、競走が既定路線となる。クリストは「賭け」を持ち出し、ニアが勝てばクロウエンが皇王へ魔法映像導入を口添えする条件が成立する。ニアは一回限りと区切り、ハンデも受け取った上で勝利し、口添えの楔が打たれる形となった。結果としてクロウエンには再戦への因縁が残った。

余興と親密化、そして引き揚げ

以降はヴァンドルージュ事情や魔法映像の話、ボードゲームなどで穏やかに過ごし、ニアはフィレディアに気に入られて膝の上で撫でられるなど距離が縮まる。夕刻、ヒエロはニアの帰国準備を理由に夕食を辞退し、名残惜しがる一同と別れて単船へ戻る。クリストも同行して寮へ帰る流れとなった。

王子と皇子の“仕掛け”の示唆

帰路の単船内で、ヒエロとクリストは「楔は打ち込めた」「本当に仕掛けるのはこれから」と悪い顔で手応えを語り、ニアの来訪やフィレディアの好意が想定以上の成果だったと示唆する。ニアは詳細を知らされないまま、「近く仕事を頼むことになるかもしれない」とだけ告げられ、先を予感させる形でハスキタン家での一日が締めくくられた。

第六章 襲撃

オルター・イグサスの疑念と裏案件化

降雪で視界の悪い朝、遊撃隊のオルター・イグサスは、現陸軍を取り仕切る男から「隣国の冒険家が軍の呼び出しに応じなかった」との報告を受け、正式に裏案件として自分が動く段階に入ったと判断した。ヴァンドルージュ全軍でも討伐不能だった十文字鮮血蟹を、他国の個人が討伐した事実は不自然であり、最大の疑問は「どうやって狩ったか」にあった。過去の包囲炎上網作戦が飛行船ごと引きずられて壊滅した経緯も踏まえ、オルターは蟹の亡骸と他の獲物の損傷から、砲撃より強力な打撃痕を根拠に「個人携行の大砲級兵器」もしくは城すら崩す暗器の可能性を推定し、スパイ疑惑も含めて動機・国籍・目的の聞き出しを決意した。

ホテルでの静養と宿題の終盤

一方でニアは、ヒエロとクリストに送られてホテルへ戻り、天候不良と時間の遅さから外出せず、翌日の帰国に備えて部屋に籠もっていた。残る課題は冬休みの宿題だけで、あと二問で終わる段階まで進んでいたが、その最中にリノキスが「困ったことになった」と戻ってくる。

冒険家ギルドの“緊急呼び出し”の不自然さ

リノキスが持ち帰ったのは、冒険家ギルドから「冒険家リーノ」への呼び出しで、表向きの理由は十文字鮮血蟹の懸賞金(二千万クラム)の引き渡しだった。しかし今回の旅はセドーニ商会に全面委任しており、懸賞金受領も商会が代行するはずで、商会を通さずホテルへ直接届く“緊急”伝言は不自然だった。ニアは無視も検討するが、リノキスはギルドには規則外の暗黙ルールが多く、外国籍の冒険家は不利に扱われ得るため、懸賞金の扱いが曖昧になる危険があると説明する。

狙いの推測と“名声”を守る判断

呼び出しの狙いとして、懸賞金の巻き上げよりも「リーノを取り込みたい」意向の方があり得ると二人は見立てる。ニアは揉め事回避なら二千万を捨ててもよいと割り切りかけるが、リノキスは無視すれば「逃げた」という悪評が広まり、名前を売る目的が損なわれると指摘する。ニアも、来る大規模武闘大会の客寄せとして名声の価値が二千万以上であり、ヴァンドルージュでの失点は今後取り返せないと判断して、呼び出しへの対応が必要だと結論づけた。

リノキスの単独対応とニアの待機

ニアは自分が行く案も口にして不完全燃焼を滲ませるが、リノキスは新たな厄介事を避けるため自分が行くと決め、冒険家リーノの格好に着替えて単独で部屋を出た。ニアは貴人の娘と露見するリスクを避け、髪を染め直すのも翌朝でよいとして表には出ず、土産話を待ちながら宿題の残り二問を片づけることにした。

冒険家ギルド中央支部への移動と“値踏み”の空気

リノキスはホテルマンに場所を確認し、首都ユーネスゴの冒険家ギルド中央支部へ向かった。天候は落ち着き始めたが、通りは閑散としており、灯りの点くギルドは悪天候でも開いている“冒険家の溜まり場”だった。中には荒事慣れした冒険家が二十人以上おり、リノキスが入った瞬間に喧騒が止み、不躾な視線が集中する。中年の男が腕を掴んで絡むが、リノキスは「格を落としてまでやることか」と一蹴し、男も相手の“普通ではなさ”を察して一杯奢ると引いた。周囲の反応から、リーノ来訪を全員が把握しており、絡みは代表しての実力確認だったと読める状況になった。

応接室での対面と“貴族然とした男”の圧力

受付嬢に導かれ奥の応接室へ入ると、ギルド長アバランが待っていた。だが問題は同席する貴族然とした中年男で、名乗らず高圧的に「蟹をどう仕留めた」と核心だけを迫る。権力の使い方を知る危険な匂いを帯び、ギルドに圧力を掛けられる人物であることが示唆された。リノキスは「武器や戦法は商売の種」として回答を拒み、さらに「アルトワール国民なので従う理由はない」「今の時代に貴族も平民もない」と牽制して、取り込み狙いの相手に主導権を渡さない姿勢を明確にした。

“弱点”の提示とホテルへの刺客を確信するリノキス

男は直接手は出せなくても、法や他者を使えばいくらでも追い込めると示し、交渉に応じるべきだと圧を掛けたうえで「明確な弱点」を突く。リノキスは瞬時にニアを想起し、立ち上がって激昂するが、相手はそれを“子供を人質に取った”脅しが効いた反応と誤解する。リノキスの本当の懸念は、ニアが誘拐されることではなく、刺客がホテルで事態を悪化させ、国際問題級の騒ぎに発展しないか、という一点だった。ニアを止められる存在がいない以上、ここでの軽率な行動が火に油になることを恐れ、状況不明のまま耐える選択をする。

ニアの迎撃準備と“闇から闇へ”の処理方針

同じ頃、ホテルの部屋に三人の気配が接近し、ニアは未熟な暗殺者程度だと即座に見抜いた。自分たち以外の宿泊がほぼない階であることから狙いはここだと判断し、稽古着への着替え、黒髪のカツラ装着で身元露見を回避する準備を整える。ドア越しに「リーノは外出中」と応対すると、ルームサービスを名乗る男が配置につき、鍵を開けて侵入する段取りが聞こえたため、ニアは荷物を回収して窓から外へ退避する。ここで揉めれば王子ヒエロやリストン家に政治的な火種が及ぶため、ニアは「動いた形跡を一つも残さず」闇から闇へ処理する方針を固めた。

尾行と逆襲の開始

刺客が侵入して部屋に子供がいないと騒ぐ様子を上から観察し、ニアは動かずにやり過ごして連中を追う。報告役が分かれた瞬間、死角で伝令を上から襲撃して気絶させ、残り二人を尾行する。二人はメインストリート近くの中規模ビル(二階へ外階段で侵入)に入っていき、ニアはそこを拠点と判断する。鍵を力任せに破って侵入し、詰め所のような広間でまず一人を拳で沈め、階内に六人、上階に八人ほどの気配を把握する。相手が裏社会の武闘派であると見て「遠慮はいらない」と結論し、発見されないように全員を仕留めてリノキスを安心させる段階へ入った。

オルターの違和感と正体不明の侵入者

レストラン店長として潜伏していたオルターは、グリーグ・クレットがリーノと会い、子供の確保まで進んでいるはずの時間帯に、理由の言語化できない違和感を覚えた。気配も物音もないのに本能が警戒を訴え、引き出しのナイフを握ってドアへ寄った瞬間、正体不明の攻撃で吹き飛ばされる。オルターは投げナイフ用のハーネスを装着し、照明を落として闇にするが、侵入者は躊躇なく入室し、オルターの投擲を当てずに“外して返す”ことで警告する。囮の応酬の末、侵入者は背後に回り込み、オルターを気絶させた。侵入者は相手の力量を「常識の範囲内で強いだけ」と切り捨て、目的不明のまま部屋を去る。

ビル全体の制圧とグリーグの執務室特定

一方でニアは、この建物を根城にする連中を上から尾行して突入し、ほぼ無抵抗で各階の構成員を次々に寝かせ、四階奥の高級調度の執務室へ到達する。ビル内は制圧済みで、動けるのはニアだけという状態になった。机上の署名書類から、この部屋の主がグリーグ・クレットであり、リノキスの呼び出しと誘拐未遂の黒幕だと当たりを付ける。

隠し金庫の発見と証拠の確保

ニアは本棚の不自然にせり出した一冊に違和感を覚え、背後の壁埋め込み型の隠し金庫を見つける。鍵はなく力ずくで破壊し、中身を確認すると現金・宝石・権利書類・証文・帳簿が入っていた。金品は足がつく可能性を警戒して触れず、持ち出すのは帳簿と書類に絞る。持ち運びの重しとして、二階の広間にあったフライパンを選ぶ。

ギルド応接室の膠着と“衝撃音”

その頃、冒険家ギルドの応接室では、グリーグが執拗に「蟹をどう仕留めた」と迫り、リノキスは「殴ったり蹴ったり」と事実だけを繰り返して譲らない。ギルド長アバランは権力に逆らえず、しかし加担もせず、静観で場を保っていた。そこへ衝撃音が響き、ギルド全体が揺れる。アバランは即座に確認へ走り、戻ると革袋を抱えていた。

革袋の中身とグリーグの撤退

革袋には、ひしゃげた頑丈な鉄製フライパンが入っており、投げ込まれて壁に穴が開いたと告げられる。続いて革袋の中身を見たグリーグは顔色を変え、アバランを鋭く睨むが、アバランは肩をすくめるだけだった。袋にはフライパン以外に“不正の証拠”が入っており、グリーグはリノキスを顧みず、袋を掴んで執務室を飛び出す。保身と事後処理を優先せざるを得ない状況になり、交渉どころではなくなる。

ニアの意図の伝達と出稼ぎの終結

アバランの言葉で、リノキスは革袋がニアのアクションであり、黒幕のアジトを潰して証拠を押さえたうえで「もう大丈夫だから戻れ」という合図だと理解する。グリーグが去った以上、リノキスがこの場に残る理由は消えた。アバランは巻き込みを詫び、リノキスは「一つ貸し」として留め、蟹の懸賞金はセドーニ商会経由にするよう伝えて退室する。こうしてヴァンドルージュでの出稼ぎは、最後の騒ぎを挟みつつも収束した。

エピローグ

高速船での帰路と“リーノ”の名声

騒動の翌朝、ニアとリノキスは無事にアルトワール行きの高速船へ乗り込み、まだ薄暗い空の下で飛び立った。ホテルから港までの道には、冒険家、軍人、裏社会風の者まで様々な人影が集まり、リノキスの姿に反応していた。数日で億単位を稼ぎ、有名魔獣を次々と討伐した隣国の冒険家リーノは、狙い通り名を売ることに成功していたのである。

その一方で、注目が過ぎることは危険でもあった。襲撃もあった以上、これ以上ヴァンドルージュに留まるのは得策ではないと判断し、帰国を選んだ。

商会との別れと出稼ぎの成果

船内では、トルク・セドーニが満面の笑みで労いに現れた。リノキスが商会の依頼を完遂したことで、想定以上の利益を上げたらしい。今回の出稼ぎは、収益一億超えという成果を残し、冒険家リーノの名も広まった。宿題も終え、冬休みの目的は概ね達成された形である。

高速船が高度を上げ、爆発音とともに加速すると、ヴァンドルージュの街並みは遠ざかっていった。観光らしい観光はできなかったものの、狩りという点では十分に満足のいく滞在であった。

個室での安堵と疲労

個室に移り、ようやく二人きりになると、緊張が解ける。連日の狩猟と暗闘で、気付かぬうちに疲労は蓄積していた。それでも、成果を思えば苦労に見合うものだったと互いに確認し合う。

昨夜の真相へ

そして話題は自然と昨夜の襲撃へ向かう。リノキスがギルドに呼び出された理由、グリーグ・クレットの思惑、そしてニアが単独でアジトを制圧した件。ニアは黒幕の証拠を押さえたが、全容はまだ聞いていない。

帰国までの船旅は、その答え合わせの時間となる。冒険家リーノの名声の裏で動いていた陰謀の実態が、これから語られることになる。

ヘレナ・ライムの優雅な一日と、その裏で

上流階級に生きる女性の矜持

ヘレナ・ライムは、第三階級貴人ジョレス・ライムの妻である。王族の血を引き、幼少より礼儀作法を徹底して叩き込まれてきた。五十を超えた今もその所作と教養は衰えず、多くの貴人子弟に礼儀を教える教師として活動している。

規則正しい生活を旨とし、十種の果実と野菜を搾った特製ジュースで一日を始める。美容や装い以上に健康を重んじる姿勢は、社交界で長く生き抜いてきた者の実感に裏打ちされている。

朝食は質素ながら整えられ、日中は子供たちに厳しく礼儀を叩き込む。華やかに見える上流階級の裏にも、緊張と責務があることを思い知らされる一日であった。

ニア・リストンという例外

印象に残る教え子として、ヘレナはニア・リストンの名を挙げる。礼儀作法の撮影を通じ、長時間の指導にも微動だにしない落ち着きと、子供とは思えぬ言動を見せた存在であった。

それは彼女にとっても初めての経験であり、後に大きな意味を持つ出会いとなる。

夕食に潜む違和感

本当の山場は夕食であった。完璧を求めるヘレナの目に、前菜の不揃いな切り口と粗い盛り付けが映る。専属料理人の手ではないと即座に見抜く。

毒ではない。意図的な仕掛けだと察する。魔法映像の撮影絡み――特にニア・リストンの番組を連想するが、早計は危険と判断する。王族ヒルデトーラの関与の可能性まで考慮し、軽率な断罪を避ける。

「料理人が変わったのかしら」と柔らかく探りを入れ、どの相手にも対応できる形で場を進める。その冷静さこそ、上流階級を生き抜く武器であった。

真相――ヒルデトーラの新企画

実際の仕掛け人はヒルデトーラであった。新企画「料理のお姫様」として、自ら料理を学び披露する番組の一環だったのである。

背景には、ジョレス・ライムが王族の料理を酷評してしまい、その映像を公にしない条件として企画協力を約した事情があった。結果として、ヘレナは王族を公然とこき下ろす危険を回避し、読み勝った形となる。

文化の始まりと運命の転機

この出来事は、後に素人参加型大会へと発展する長寿番組の礎となる。同時に、貴人を不意打ちで試すという魔法映像文化の一端を生み出した。

そして何より――この一件は、ニア・リストンの運命を大きく動かす契機となった。

優雅な一日の裏で動いた思惑と駆け引き。それはアルトワール王国の新たな文化の胎動であり、次代を担う者たちの物語の分岐点であった。

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