フィクション(Novel)凶乱令嬢ニア・リストン読書感想

小説「凶乱令嬢ニア・リストン5」感想・ネタバレ

凶乱令嬢ニア・リストン4の表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

凶乱令嬢4巻 レビュー
凶乱令嬢まとめ
凶乱令嬢6巻 レビュー

  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■ 物語の特徴
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 登場キャラクター
      1. ニア・リストン
      2. ガンドルフ
      3. アンゼル
      4. フレッサ
      5. リノキス
      6. ヒルデトーラ
      7. レリアレッド
      8. ヒエロ
      9. カカナ・レシージン
      10. クリスト・ヴォルト・ヴァンドルージュ
      11. キキリラ・アモン
      12. ジョセコット・コイズ
      13. シャール・ゴール
      14. トルク・セドーニ
      15. リネット・ブラン
      16. ニール
  6. 出来事一覧
    1. 第一章 進級試験、それから
        1. 大仕事前のヒエロとの言い争い
    2. 第二章 結婚式の準備
        1. カカナの過干渉による現場の焦燥
    3. 第三章 二年生になって
        1. 学院準放送局の顔合わせでの挑発
        2. 企画会議での厳しい叱責
        3. ニールの「氣」の無断習得とリネットへの叱責
    4. 第五章 出稼ぎと空賊
        1. 黒槌鮫団(空賊)による高速船襲撃
        2. キャプテンの銃撃とニアの反撃
        3. 賊の処遇を巡るキャプテンの命乞い
    5. エピローグ
        1. キキリラからの果たし状と駆けっこ勝負
    6. 書き下ろし フレッサの仕事
        1. 地下下水路での密輸組織との遭遇
        2. 巨大火球による奇襲と迎撃
        3. 密輸組織との取引と脅迫
  7. 展開まとめ
    1. プロローグ
    2. 第一章 進級試験、それから
    3. 第二章 結婚式の準備
    4. 第三章 二年生になって
    5. 第四章 夏休みの前に
    6. 第五章 出稼ぎと空賊
    7. エピローグ
    8. 書き下ろし フレッサの仕事
    9. 特典ショートストーリー『酒場の女にねだられた』
  8. 凶乱令嬢ニア・リストン 一覧
  9. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

本作は、かつて神殺しを成し遂げた大英雄の魂が、遥か未来の世界で病弱な貴族令嬢に転生し、再び武の極みと強敵を求めて暴れ回る異世界無双ファンタジーである。「魔法映像(マジックビジョン)」と呼ばれる独自の放送技術が普及し始めた世界を舞台に、主人公が表向きは国民的な映像タレントとして活動しつつ、裏では純粋な戦闘狂としての本性を発揮する姿が描かれる。
第5巻では、自身が望む武闘大会を開催するための資金(十億クラム)を稼ぐべく、お忍びで飛行皇国ヴァンドルージュへ赴き魔獣狩りを楽しんだニアの姿から物語が展開する。帰国後、彼女のもとに飛行皇国のヒエロ王子から「ザックとフィルの結婚式を魔法映像で撮影してほしい」という依頼が届く。魔法映像の他国への普及を推し進めるため、ニアたち撮影班は初の海外ロケへと挑むことになり、同時に「氣」の修練を積む弟子たちとの出稼ぎや、予期せぬトラブルに巻き込まれていく。

■ 主要キャラクター

  • ニア・リストン: 本作の主人公である。前世は「神殺し」の異名を持つ最強の武人だが、現在はリストン家の幼き令嬢に転生している。天使のような愛らしい外見とは裏腹に、強者との死闘を至上の喜びとする生粋の戦闘狂である。本巻では魔法映像の海外普及のため初の海外ロケを主導しつつ、並行して魔獣狩りや空賊相手の大立ち回りを演じる。
  • リノキス・ファンク: ニアに仕える専属侍女であり、一番弟子である。ニアの過酷な指導により「氣」を習得しており、常人を遥かに凌ぐ高い戦闘力を持つ。本巻でもニアの目標である十億クラムを稼ぐための魔獣討伐に同行し、実戦を通してさらなる成長を見せる。
  • ヒエロ: 飛行皇国ヴァンドルージュの王子である。魔法映像という新しい文化に強い関心を示し、自国の結婚式の撮影をニアに依頼することで、物語を初の海外ロケ展開へと導くきっかけを作る人物である。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、可憐な幼女の外見に反して、内面が純粋な狂戦士(バーサーカー)であるという主人公の強烈なギャップである。一般的な令嬢ものとは異なり、魔法映像という現代のタレント活動のようなエンターテインメント要素を利用して名声や資金を集めるが、その最終的な目的は常に「強い相手と本気で戦うこと」に帰結している点が他作品と一線を画している。
特に第5巻では、「世界初となる魔法映像を導入した結婚式の撮影」という平和的でビジネスライクな事業展開と並行して、ニアの手ほどきを受けた弟子たちの目覚ましい成長や、空賊や巨大魔獣を相手に容赦なく拳を振るう痛快なバトルアクションが絶妙なバランスで描かれている点が大きな見どころである。

書籍情報

凶乱令嬢ニア・リストン 4 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録
者:南野海風 氏
イラスト:磁石  氏
出版社:ホビージャパン
レーベル:HJ文庫
出版日:2024年4月1日

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あらすじ・内容

お忍びで向かった飛行皇国ヴァンドルージュで魔獣狩りを楽しんだニア。 帰国後、彼女のもとに飛行皇国にいるヒエロ王子からザックとフィルの結婚式の撮影依頼が届く。他国への魔法映像の普及を進めるため、ニアたち撮影班は初の海外撮影に挑むことになり―― 「世界初となる魔法映像を導入した結婚式企画スタートだ」 一方で、ついに学院放送局が開設されたり、氣の修練を積んだ弟子たちと出稼ぎに行った先でトラブルに巻き込まれたりも!? 天使のような凶乱令嬢の最強無双譚、初の海外撮影に挑む第5弾!!

凶乱令嬢ニア・リストン5 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録

感想

「十億クラム」という途方もない目標を軸として、各陣営がそれぞれの立場で動き続ける物語だったという印象を受けた。派手な大決戦よりも、地道な積み上げと勢力図の変化が主題となっていた。

まず日常の裏側では、ガンドルフやアンゼルの修行が丁寧に描かれた。氣の理解は進んでいたものの、実戦で即座に使える段階にはまだ届かない。このあと一歩のもどかしさが、とてもリアルであった。彼らが単なる強さの追求ではなく、ニアの十億クラム構想のために動いている点も興味深い。前回の出稼ぎで一億八千万クラムを稼いだとはいえ、当初の目標には届かず悔やむ姿に、目標設定の異常さが浮き彫りになった。

三学期に入り、レリアレッドやヒルデトーラが多忙になり、以前のように常に一緒に行動できなくなる関係性の変化も地味に効いていた。とくに、レリアレッドがニアの病気復帰の話を自陣営の紙芝居のネタにしようとするくだりは、完全にビジネス思考でえげつない。しかし、ニアもそれを即座に自領の番組に引きこむなど、決して甘さを見せない抜け目なさが際立った。進級試験の勉強ができず、リノキスにきつくしつけられるニアの姿は、彼女が万能ではないことを示しており、物語のよいバランスを保っていると感じる。

今回の大きな見どころは、隣国ヴァンドルージュでの結婚式の撮影であった。魔法映像という未知の機材に対し、空軍の女性大将が最初は理解できずに撮影を止めようとする。しかし、実際に映像を見せることで一気に理解が進む流れは、「技術は見せてこそ伝わる」ということを象徴する良い場面だった。本番での化粧崩れを防ぐため、事前に祝福の映像を新郎新婦に見せる判断も見事である。新婦は想定通りに涙を流したが、その横で新郎が号泣してしまうという予想外の展開には、人間味が強くあふれていて心温まった。巨大な魔晶板を使ったサプライズは、魔法映像が単なる娯楽にとどまらず、人々の思いや祝福を届ける装置として貴族社会に深く印象付けられる素晴らしい出来事であった。

帰国して二年生になると、魔法映像の勢力図の変化がより明確になってきた。かつて頂点にいたリストン領の追いかけっこ番組がマンネリ気味になり、レリアレッドのシルヴァー領が紙芝居で勢いを増していた。ヒルデトーラの料理番組も定番化しており、この王者の停滞感がなんともリアルである。さらに、学院準放送局の発足によって新世代の突き上げが始まり、開局記念の障害物競走をとおして、大衆にはわかりやすさが必要であるという現実的な課題も示された。

後半の展開も怒涛であった。地獄のような撮影週間を乗り越え、弟子たちとの出稼ぎに向かうなかで、それぞれの修行と課題の発見が描かれた。そこで遭遇した空賊との戦いでは、戦力差がありすぎてニアたちに敵うはずもなく、あっという間に制圧されてしまう。彼らが後にセドーニ商会の船員として再配置される結末には、この世界の循環構造のようなものを感じて面白かった。さらに、兄ニールが氣を使えるようになるなど、周囲の成長も著しい。

全体を総括すると、十億構想の進捗や魔法映像の社会的拡張、弟子たちの成長段階の明確化が主軸となった、非常に充実した拡張巻であった。武闘大会の開催にはまだ時間もお金も足りなかったが、確実に盤面は広がっていた。静かに、そして大きく動いた読み応えのある一冊であった。

凶乱令嬢4巻 レビュー
凶乱令嬢まとめ
凶乱令嬢6巻 レビュー

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

ニア・リストン

リストン家の令嬢であり、小学部二年生へ進級する主人公である。十億クラムを稼ぎ出し、大規模武闘大会を開催する目標に向かって突き進む。リノキスやフレッサら弟子たちに「氣」を教え導く師匠としての顔も持つ。

・所属組織、地位や役職

 リストン家令嬢。冒険家リーノの弟子リリー。

・物語内での具体的な行動や成果

 ヴァンドルージュでの結婚式撮影を主導し、魔法映像の他国への売り込みを成功させた。夏の出稼ぎでは空賊黒槌鮫団の襲撃に際し、先遣隊とキャプテンを瞬時に制圧して船を守り抜いている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 セドーニ商会に預けた資金が八億クラムを突破し、武闘大会の開催決定を引き寄せた。

ガンドルフ

ニアの教えを受ける弟子の一人であり、純粋に強さを求める武人だ。子供の姿をした師に対して無意識の遠慮を抱えている。

・所属組織、地位や役職

 道場の師範代代理。

・物語内での具体的な行動や成果

 氣の修練に励み、アンゼルとの組み手で実戦感覚を養った。夏の出稼ぎに参加し、空賊襲撃時には別動隊として敵船一隻を制圧している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 武闘大会への出場に前向きであり、さらなる成長を期待される存在となる。

アンゼル

路地裏の酒場を営む人物であり、ニアの弟子である。無駄を省いた実戦的な棒術を扱い、武に向いた資質を見せている。

・所属組織、地位や役職

 酒場「薄明りの影鼠亭」の店主。

・物語内での具体的な行動や成果

 王都地下下水路で密輸組織の拠点を発見し、フレッサの囮役を務めて部品の奪取に貢献した。夏の出稼ぎにも同行し、空賊の討伐を成功に導く。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 武闘大会で賞金を得て、酒場経営を格上げする野心を抱くようになった。

フレッサ

アンゼルの酒場で働く店員であり、マーベリア出身の暗殺者だ。対人戦に特化した暗器と鞭を扱うが、大型魔獣狩りには適性がないと悩んでいる。

・所属組織、地位や役職

 酒場の店員。裏稼業の暗殺者。

・物語内での具体的な行動や成果

 単独で地下下水路の調査を行い、密輸組織の魔法使い二人を制圧した。「氣拳・打裂」で巨大な火球を防ぎ、取引で最新の単船部品を手に入れている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 密輸品の換金により自身の出稼ぎの遅れを取り戻す算段を立てた。

リノキス

ニアの専属侍女であり、冒険家リーノという裏の顔を持つ。一番弟子としての矜持を強く持ち、ニアの指示には忠実に従う性格だ。

・所属組織、地位や役職

 リストン家専属侍女。冒険家。

・物語内での具体的な行動や成果

 結婚式撮影の裏方として奔走し、過密日程を乗り切った。空賊との戦闘では「極力殺さない」という条件を提示した上で、強襲作戦に参加している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 アルトワール随一の冒険家としての名声を確立し、武闘大会の優勝候補筆頭と目される。

ヒルデトーラ

アルトワール王国の王族であり、ニアの友人である。番組制作に力を注ぎ、魔法映像の普及に貢献する立場にある。

・所属組織、地位や役職

 王族。学院準放送局の所属者。

・物語内での具体的な行動や成果

 ニアへヴァンドルージュからの招待状を届けた。学院準放送局の企画会議に参加し、専門的すぎる内容に対して厳しい指摘を行っている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 主演番組「料理のお姫様」が主婦層に浸透し、確固たる人気を獲得した。

レリアレッド

シルヴァー家の令嬢であり、ニアの隣室に住む友人だ。自領の魔法映像の躍進に手応えを感じつつ、新たな競争相手には強い警戒心を示す。

・所属組織、地位や役職

 シルヴァー家の令嬢。学院の生徒。

・物語内での具体的な行動や成果

 学院準放送局の新メンバーへ牽制を試みようとした。企画会議において、キキリラたちの映像に対し容赦のない批判を展開している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 特筆すべき地位の変化はないが、映像制作への審美眼を深めていく。

ヒエロ

アルトワール王国の第二王子である。魔法映像の可能性に魅入られており、他国への普及を強力に推し進める野心家だ。

・所属組織、地位や役職

 第二王子。

・物語内での具体的な行動や成果

 ヴァンドルージュでの結婚式撮影を計画し、ニアを招聘した。厳しい監視体制の中で企画を成立させ、撮影班の指揮を執っている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 魔法映像の披露により各方面から関心を集め、当面他国に残留することとなった。

カカナ・レシージン

飛行皇国ヴァンドルージュの空軍総大将である。生真面目な軍人であり、魔法映像に対する警戒心から現場に細かく干渉する。

・所属組織、地位や役職

 空軍総大将。結婚式の監視員。

・物語内での具体的な行動や成果

 過密な撮影スケジュールの中で質問を繰り返し、進行を妨げかけた。しかし映像の意義を理解した後は、自ら祝辞の見本映像に出演して協力している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 魔法映像への理解を深め、敵対的な態度は軟化した。

クリスト・ヴォルト・ヴァンドルージュ

飛行皇国ヴァンドルージュの第四皇子だ。気さくで偉ぶらない態度を取り、魔法映像に対して強い興味を抱いている。

・所属組織、地位や役職

 第四皇子。

・物語内での具体的な行動や成果

 到着したニアたちを迎え、皇国側の厳しい撮影規制を説明した。カカナの干渉を和らげるため、彼を外へ連れ出すなど現場の調整役を担う。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 自らカメラを担いで撮影を体験し、技術への関心を示すようになった。

キキリラ・アモン

学院準放送局の新メンバーである。行動力に溢れ、高い運動能力を誇るが、初対面からニアに駆けっこを挑発するなど強引な面が目立つ。

・所属組織、地位や役職

 学院準放送局に所属する中学部一年生。

・物語内での具体的な行動や成果

 障害物競走の企画で主役を務め、雄叫びを上げて王都での初放送を勝ち取った。果たし状を送ってニアと勝負したが、敗北を喫している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 ニアに負けたことで自信を打ち砕かれ、執着が一時的に弱まった。

ジョセコット・コイズ

没落寸前の貴族の娘である。家を再興するため、魔法映像業界での成功を志している野心的な少女だ。

・所属組織、地位や役職

 学院準放送局に所属する中学部二年生。第六階級貴人。

・物語内での具体的な行動や成果

 演劇や衣装の知識を活かした企画を立てたが、専門的すぎてヒルデトーラから批判された。その後、ニアから対談形式への改善案を提示されている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 特筆すべき地位の変化はない。

シャール・ゴール

学院準放送局の新メンバーだ。制服を着崩すなど不良めいた雰囲気を持つが、裏方志望で企画に面白さを見出している。

・所属組織、地位や役職

 学院準放送局に所属する中学部二年生。

・物語内での具体的な行動や成果

 企画会議を経て自分の声が反映されることに興味を持ち、職人の映像に関心を示した。自己紹介の際に「ウィングロード」という言葉を口にする。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 監督からは将来的に必要になる人材として評価されている。

トルク・セドーニ

セドーニ商会の一員である。商機を逃さない計算高さと強欲さを持ち合わせ、ニアの資金計画に深く関与する。

・所属組織、地位や役職

 セドーニ商会関係者。

・物語内での具体的な行動や成果

 出稼ぎ用の高速船を手配し、空賊襲撃時には自ら単船の操縦を買って出てニアの強襲を支援した。捕縛した賊たちを商会の労働力として取り込んでいる。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 空賊を利用することで、来年の武闘大会に向けた商会の準備を整えた。

リネット・ブラン

ニール付きの侍女であり、ニアの弟子だ。剣を扱う戦闘スタイルを持つが、未熟な段階で他者に技術を教えるという軽率な面がある。

・所属組織、地位や役職

 侍女。学院中学部冒険科の生徒。

・物語内での具体的な行動や成果

 フレッサに対して大型武器への変更を提案するなど、武術に関する意見を交わした。ニールに対して無断で「氣」の技術を教えている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 不始末によりニアから厳しく叱責され、徹底的な再鍛錬を命じられた。

ニール

リストン家の長男であり、ニアの兄である。温和な性格だが、才能を秘めており妹の活動を裏から支える立場にある。

・所属組織、地位や役職

 リストン家長男。

・物語内での具体的な行動や成果

 ニアとの剣術の打ち合いで、リネットから習得した「氣」を披露した。夏休み中には、不在のニアに代わって撮影の代役を見事にこなしている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項

 強力な力を手にしたことで、精神面での制御が今後の課題とされた。

出来事一覧

第一章 進級試験、それから

大仕事前のヒエロとの言い争い
  • 当事者: ニア vs ヒエロ王子
  • 発生理由: ヴァンドルージュ到着後、疲労困憊のニアが休息を求めたのに対し、ヒエロが徹夜を自慢し最終確認を強要しようとしたため
  • 結果: 言い争いの最中、ニアがヒエロを打って強制的に眠らせた(物理的暴力・騒動)

第二章 結婚式の準備

カカナの過干渉による現場の焦燥
  • 当事者: カカナ(空軍総大将) vs 撮影班(ニア・クリストら)
  • 発生理由: 過密日程で撮影を進める中、監視役のカカナが機材や動作に細かく質問を挟み、作業を止めようとしたため
  • 結果: ニアが撮影中の発言を控えるよう念押しし、クリストがカカナを外へ連れ出して衝突を回避した(口論・トラブル)

第三章 二年生になって

学院準放送局の顔合わせでの挑発
  • 当事者: キキリラ・アモン vs ニア
  • 発生理由: 学院準放送局の新メンバー紹介の際、キキリラが強引に発言権を取り、ニアに対して「私ニアちゃんより速いよ。早く撮ろうよ」と挑発気味に言い放ったため
  • 結果: ニアは即座に相性の悪さを予感し、苦手なタイプだと感じたが、その場での衝突は起こらなかった(一方的な威嚇・睨み合い)
企画会議での厳しい叱責
  • 当事者: レリアレッド、ヒルデトーラ vs 学院準放送局の新メンバー(キキリラ、ジョセコットら)と監督
  • 発生理由: 準放送局の映像が王都放送局で採用されない状況に対し、レリアレッドとヒルデトーラが映像の問題点(音声の不備、企画の意図不明瞭、専門的すぎる内容など)を厳しく指摘したため
  • 結果: 新メンバーと監督が反論し、王都やシルヴァー領への焦燥を露わにしたが、ニアの実務的な改善案提示により建設的な企画会議へと移行した(言葉による争い・口論)
ニールの「氣」の無断習得とリネットへの叱責
  • 当事者: ニア vs リネット(および連帯責任としてのリノキス)
  • 発生理由: 兄ニールとの剣術確認中、彼が「氣」を使っていることに気づき、未熟なリネットが勝手に「氣」を教えた事実が判明したため
  • 結果: ニアは弟子の不始末としてリネットを厳しく叱責し、徹底的に鍛え直すことを決定。リノキスも連帯責任として絞り上げられた(トラブル・処罰)

第五章 出稼ぎと空賊

黒槌鮫団(空賊)による高速船襲撃
  • 当事者: ニア、リノキス、ガンドルフ、アンゼル、フレッサ vs 黒槌鮫団(空賊三隻、約四十名)
  • 発生理由: 高速船が宿泊予定の浮島へ向けて減速した際、希少で高価な最新高速船そのものを標的として空賊が待ち伏せ・包囲したため
  • 結果: ニアの提案で交戦状態へ移行。空賊側は先遣隊十二名とキャプテンをニアに制圧され、その後三手に分かれた強襲により空賊船三隻は全て制圧され、賊約四十名は拘束された(事件・暴行)
キャプテンの銃撃とニアの反撃
  • 当事者: ニア vs 黒槌鮫団キャプテン
  • 発生理由: ニアが先遣隊十二名を不意打ちで制圧した際、キャプテンが反応して金属筒型の武器(銃)でニアを撃ったため
  • 結果: ニアは金属球を素手で受け止め、指弾で撃ち返してキャプテンの腹部を抉り、無力化した(物理的暴力)
賊の処遇を巡るキャプテンの命乞い
  • 当事者: キャプテン vs トルク・セドーニ、ニア、リノキス
  • 発生理由: トルクが賊の引き渡し先をマーベリア(死刑確実)と示唆したことに対し、キャプテンが部下の命だけでも助けてほしいと土下座して嘆願したため
  • 結果: ニアは完全には憎みきれず、最終決定を「冒険家リーノ」であるリノキスとトルクに委ねた。結果的に賊はセドーニ商会の格安の労働力(お抱え技師)として利用されることになった(言葉による葛藤)

エピローグ

キキリラからの果たし状と駆けっこ勝負
  • 当事者: ニア vs キキリラ・アモン
  • 発生理由: 学院準放送局のキキリラから日時指定の果たし状が出され、駆けっこ勝負を挑まれたため
  • 結果: ニアが余裕を残して勝利し、キキリラは愕然とした。ニアは「また挑戦してね」と模範的に返して場を収めたが、その映像は放送されなかった(競技での対決)

書き下ろし フレッサの仕事

地下下水路での密輸組織との遭遇
  • 当事者: フレッサ、アンゼル vs 密輸組織の魔法使い(男女二人)と武装した男たち
  • 発生理由: 地下下水路の定期調査中、フレッサとアンゼルが偽装された壁の奥で密輸品の保管庫(単船の部品)を発見し、それを総取りしようとしたため
  • 結果: 魔法使いが金属片を飛ばして迎撃したが、二人は強行突破。地上拠点の一軒家で武装した男たちを制圧し、魔法使い二人も捕獲して密輸品を奪取した(事件・暴行)
巨大火球による奇襲と迎撃
  • 当事者: フレッサ vs 青年魔法使い
  • 発生理由: フレッサが地上の倉庫から屋敷へ踏み込んだ瞬間、青年魔法使いが巨大な火球を放って攻撃してきたため
  • 結果: フレッサは「氣拳・打裂」を用いて火球を破壊し、爆発と延焼を回避した(物理的暴力・未遂回避)
密輸組織との取引と脅迫
  • 当事者: フレッサ vs 捕らえた青年魔法使い
  • 発生理由: 組織を制圧したフレッサが、地下の荷(密輸品)を全て引き渡すことを条件に命を見逃す取引を持ちかけたため
  • 結果: フレッサが理詰めで「安い損切り」になると脅迫し、魔法使いたちは条件を呑んで国外へ逃亡。フレッサたちは密輸品(自動で組み上がる最新型の単船部品)を無傷で獲得した(一方的な威嚇・解決)

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展開まとめ

プロローグ

ガンドルフの氣の修練と未熟さの自覚
道場の横でガンドルフは氣の修練を行っていた。かつては理解できなかった氣という力を練り上げ、踏み込みと掌打に乗せて放っていたが、その威力はまだ師の域には遠く及ばなかった。師である白髪の少女の教えを思い出しながら技を試したものの、鉄板すら破壊できる師の掌打とは違い、自身の技は未完成であることを痛感していた。氣の練りは遅く、実戦で即座に使える段階には至っておらず、さらなる鍛錬の必要性を自覚していた。

影鼠亭でのアンゼルと裏社会の関係
一方、酒場「薄明りの影鼠亭」では、店主アンゼルが客の対応をしていた。店は繁盛していたが、安酒中心のため利益は少なく、呑み逃げを試みた客は店員フレッサによって追われていた。アンゼルは昔馴染みのナスティンと会話し、街が平和で荒事がない現状や、魔法薬の副作用や地下の幽霊といった噂話を共有していた。そこに隠居した裏社会の人物ギースが現れ、アンゼルの代わりに店を任されることとなった。

港での合流と狩りへの準備
アンゼルは店を後にし、港でセドーニ商会の船に乗ってガンドルフと合流した。二人は船室で向かい合い、氣の修練を兼ねた組み手を開始した。アンゼルは鉄パイプで攻撃を仕掛け、ガンドルフはそれを受けながらも一撃も受けずに防いでいた。氣を込めた攻防は骨を砕くほど危険であり、未熟な氣を実戦で使える段階まで高めるための訓練であった。

強さと金を求めて浮島へ向かう決意
二人は十億クラムを稼ぐため、目的地である浮島へ向かっていた。到着は翌朝の予定であり、それまで訓練と休息を繰り返して準備を整えるつもりであった。強さを求める意志と狩りへの目的を胸に、ガンドルフとアンゼルは時間を忘れて組み手を続けていた。

第一章 進級試験、それから

出稼ぎの成果と十億クラムへの現実味
ニアは飛行皇国ヴァンドルージュから帰国し、三学期を迎えた。冬休みの出稼ぎは成功し、飛行烏賊討伐や謝礼、セドーニ商会からの上乗せも含めて総収入は一億八千万クラムに達した。当初目標の三億には届かなかったが、十億クラムという最終目標が現実味を帯びたことで、夏休みに残額を大きく稼ぐ計画を立てる決意を固めていた。

多忙な三学期と周囲の動き
三学期もニアの日常は多忙であった。レリアレッドやヒルデトーラもそれぞれ魔法映像や料理番組の企画で忙しく、特にヒルデトーラは夏に向けた大型企画の準備に没頭していた。ニアも誘いを受けたが、最優先はリストン領での撮影と出稼ぎであり、参加はスケジュール次第とした。また、レリアレッドが病気復帰の逸話を紙芝居にしようとしたため、リストン領で扱うと釘を刺した。

進級試験への不安と自負
年度末の進級試験が迫り、女子寮には緊張が漂っていた。補習制度の存在に恐怖を覚えつつも、日々の宿題とリノキスの指導により学習は積み重ねてきたと自らを納得させた。計算や歴史の知識にも一定の自信を持ちつつ、試験直前には腹痛を覚えるほどの緊張を感じていた。

夏への期待と予想外の展開
春休みは撮影で動けないと判断し、夏休みに賭ける決意を強めた。また、王の武闘大会構想に関して状況報告を考えつつ試験に臨んだが、問題に行き詰まり逃避的に思考を巡らせていた。やがて試験は終わり、春休みを迎えるはずであったが、予定は優先順位の高い出来事によって覆された。ニアたちは春休みに再び飛行皇国ヴァンドルージュへ向かうこととなったのである。

ヒルデトーラの来訪と十億クラムの報告準備
進級試験後、春休みを控えたある日、ニアのもとにヒルデトーラが訪れた。ニアは王へ十億クラム計画の進捗を報告する手紙を書いており、ちょうど渡す機会を得た形であった。手紙には現在セドーニ商会に預けている約二億クラムの資金と、夏休みまでの予想収入、今後の資金配分についての相談が簡潔に記されていた。企画を動かす時期や必要額を見極め、無理なく効率的に進める意図であった。

資金調達の方法とリノキスの正体
資金の稼ぎ方を問われたニアは、冒険家リーノの存在を明かした。それは侍女リノキスの別名であり、彼女が冒険家として資金を稼いでいると説明した。ヒルデトーラは驚きつつも深く追及せず、事情を察して他言しないと約した。ニアは王から同様の質問があった場合を想定し、あらかじめ事情を共有したのであった。

ヒエロ王子からの手紙と結婚式の招待
手紙を託した後、ヒルデトーラからヒエロ王子の書簡を受け取った。そこには春休みにヴァンドルージュで行われる結婚式への出席要請が記されていた。ハスキタン家とコーキュリス家の婚礼らしく、ヒエロ王子がニアを呼ぶ意図は魔法映像普及活動に関わる可能性が高いとニアは推測した。王子が他国への売り込みを進めている立場を考えれば、何らかの進展があったのではないかと受け止めた。

春休みの予定変更と協力の決意
春休みは撮影で埋まっている見込みであったが、魔法映像の普及に関わるなら協力せざるを得ないと判断した。日程を早めに知らせるよう依頼し、調整の必要性を伝えることとした。短い世間話の後、ヒルデトーラは帰り、ニアの春休みは再びヴァンドルージュへ向かう可能性を帯びることとなった。

報酬提示と協力の確約
ヒエロは依頼の報酬として二千万クラムを提示し、失敗の許されない仕事ゆえ無報酬では困ると理由を述べた。ニアは報酬の有無にかかわらず協力するとしつつ、責任を背負う覚悟として受け止め、ヴァンドルージュへ向かっている時点で返答は決まっているとして、力を合わせてやり遂げると明言した。

春休み半ばの合流と依頼内容の核心
互いの都合が合わず、ヒエロと会えたのは春休みのほぼ中日となった。ニアは殺人的な撮影スケジュールを終えた直後に拾われ、そのまま高速船で隣国へ直行する形になった。船内でヒエロから、ザックファードとフィレディアの結婚式に関する説明を受け、ニアへの依頼が結婚式の撮影であると理解し、呼ばれた理由に納得した。

初の他国撮影にニアが選ばれた理由
ニアは今回が魔法映像史上初の他国撮影である点を確認した。ヒエロは、政治色を薄くするため王族のヒルデトーラは避け、アルトワール王族相手でも尻込みするレリアレッドでは高位貴族の場に耐えられないと判断したと説明した。さらに、子供が主導することで警戒心が緩む可能性、そしてザックファードとフィレディアからの指名がある点から、ニアが両国にとって適任であるとした。

撮影許可を得るための交渉と決定打
ニアが許可獲得の経緯を尋ねると、ヒエロは複数の説得材料を列挙した。祖父母に結婚式を見せる話や思い出を残す提案、結婚祝いとして無料奉仕する強調、将来子供に見せる価値の提示、ニアの祝福という嘘を交えた後押し、導入の第一歩としての利点提示、撮影範囲を限定する譲歩案などを重ねたという。中でもフィレディアの美しさを残したくないのかという一言が最も効果的だったと述べた。

過密日程による疲弊とヒエロの強制休息
到着後に最終確認があるため計画を頭に入れるよう求められたが、ニアは直近で一週間に十一本撮影した疲労から今は無理だと拒んだ。徹夜を自慢し寝ないと言い張るヒエロに対し、ニアは大仕事前に休むべきだとして、言い争いの最中にヒエロを打って眠らせた。リノキスは突っ伏す直前に頭を支え、カップを回収して安全に寝かせた。

大仕事前の英気の確保
ニアは結婚式撮影という新しい企画を興味深いものと捉えつつ、今は休息を優先した。リノキスにも休むよう命じ、失敗が許されない仕事に備えて英気を養うことを決めた。

到着直前の顔合わせと寝落ちの影響
ヴァンドルージュ到着直前、ニアは今回の同行者と顔合わせをした。王都撮影班が同行しており、現場に出ることの少ない部長ミルコ・タイルも含まれていた。ヒエロは移動中に打ち合わせを行う予定だったが、ニアもヒエロも爆睡してしまい、到着まで起きなかったため予定がずれた。ヒエロは謝罪したが、ニアは自分も寝ていたとして、謝罪に時間を使わず仕事で挽回すべきだと切り替えた。

結婚式まで二日と準備時間の不足
ザックファード・ハスキタンとフィレディア・コーキュリスの結婚式は二日後であり、自由に使える時間は実質一日半しか残っていなかった。到着後は許可申請など他国特有の手続きも必要で、今日と明日は打ち合わせと準備に費やされる見込みであった。式当日は流れが決まっている分、撮影自体はむしろ準備より負担が少ないと見込まれていた。

港での合流とホテルへの移動
港では待ち人が痺れを切らし、ニアは先に下船して黒髪の兄妹と合流した。相手は飛行皇国ヴァンドルージュ第四皇子クリスト・ヴォルト・ヴァンドルージュと実妹クロウエンであり、冬の出稼ぎで面識があった。余裕のない日程のため皇族自ら迎えに来ており、立ち話を避けて宿泊ホテルへ直行し、そこで打ち合わせを行う方針となった。

皇族との距離感調整と場の空気作り
ホテルの特等室に集まり、クリストは自らの立場を説明し、偉ぶらず気楽に接してほしいと述べた。クロウエンも補佐役として同席し、雑用があれば言うよう申し出た。撮影班は畏縮していたが、ニアはあえてクロウエンに紅茶を頼み、皇族を特別扱いしすぎない姿勢を示した。クロウエンは淡々と紅茶を淹れ、場の硬さを緩める方向に働いた。

規制の説明と監視体制の重さ
クリストは移動中に打ち合わせできなかった点を指摘しつつ、ヴァンドルージュ側の規制を説明した。魔法映像は知る者が多い一方、仕組みや意図の理解は浅く、軍事利用や技術窃取に繋がり得るとして警戒心が強い状況にあった。結果として撮影は特例で認められたが、撮影場所は屋内・敷地内に限定され、要人撮影は本人許可が必要となり、時間も指定され監視員の指示に従う条件が付いた。さらに撮影映像の国外持ち出しは禁止され、監視員の判断で許可や中止が左右される体制であった。

監視員の正体と企画会議の長期化
監視員は陸軍総大将ガウィン・ガードと空軍総大将カカナ・レシージンであると示され、皇王の警戒心の強さがうかがえた。クリストは規制下でどのような企画を成立させるかを問い、ヒエロは候補案を用意していたが、規制条項が判明したことで検討事項が急増した。ミルコとヒエロは、アルトワールでも魔法映像が普及する以前に反対が強く活動範囲が狭かった経験を踏まえ、今回にも重なる点が多いとして意見を重ねた。こうして立場を忘れるほど打ち合わせは白熱し、夜まで続いていった。

会議疲労と計画の確定
ホテル到着後、食事休憩もそこそこに夜まで企画会議が続き、撮影班の一部は寝落ちするほど疲弊した。企画書やメモが散乱し、行き詰まりの末に仮眠を取る者も出たが、長時間の議論の結果、厳しい規制に触れずに魔法映像を最大限活用して結婚式を盛り上げる方針が固まった。ヒエロが会議終了を告げると、残っていたスタッフも力尽き、計画はようやく明日から動ける段階に到達した。

皇族の宿泊と時間圧縮の意識
クリストは全員分の個室を用意していたが、状況的にこのまま寝かせておくのが妥当だと見ていた。結婚式まで時間がなく、行き帰りの手間を省くため、クリストとクロウエンも個室に泊まる判断をした。クロウエンは企画会議の過酷さを問い、ヒエロは通常はここまで長引かないが、数日分の相談が一日に凝縮されたためだと説明した。

監視員への先手の挨拶を提案
休息に入る前、ニアは監視員に当日挨拶するのではなく、今日のうちに顔合わせと明日の予定共有を済ませたいと提案した。目的は監視員のスタンス確認と、明日の時間短縮であった。協力的か妨害的かで行動が左右され、出発時刻の遅延など幼稚だが確実な妨害が起きれば、限られた準備時間が削られる危険があった。

ニアが前面に立つ判断とクリストの同行
ヒエロは自分が行くと申し出たが、ニアは政治色を薄くするため自分が行くべきだと退けた。王子が他国軍人に挨拶に出向く形は角が立つ可能性があり、貴人の娘として見られているニアの方が動きやすいと判断した。万一ふざけた対応をされれば許さないという覚悟も含まれていた。クリストはガウィンとカカナに面識があるとして同行を申し出、企画会議を無駄にしないためにも直接予定を伝えるべきだと同意した。

食事を挟んで行動開始
ニアとクリストは先触れを出した上で、食事を取ってから監視員のもとへ向かうことになった。クリストは十文字鮮血蟹がうまいとして蟹を勧め、ニアは段取りを任せると応じた。クリストは年齢に関係なく素敵な女性をもてなすと軽口を叩きつつ、下心はないと付け加えた。こうして、魔法映像を導入した結婚式企画は本格的に動き出した。

魔法映像の真価を賭けた下準備
今回の目的は、当事者たちを特別な一日へ導くための下準備であった。魔法映像で何をするのかと問われれば、結婚式を最大限に彩り、その価値を示すことに尽きる。成功すれば強力なアピールとなるが、その分失敗の代償も大きい企画であった。

早朝の監視員訪問と第一印象
まだ夜の気配が残る早朝、撮影班とクリストたちは監視員の屋敷を訪れた。陸軍総大将ガウィン・ガードはラフな軍服姿で穏やかに応じ、空軍総大将カカナ・レシージンは正装で不機嫌さを隠さなかった。ガウィンは一見気の抜けた印象ながら内心が読めず、カカナは杓子定規な軍人然とした態度でわかりやすい存在であった。二人は同じ屋敷に住んでおり、複雑な関係をうかがわせた。

監視体制と表向きの協力姿勢
両総大将はそれぞれ五人の部下を伴い、力ずくでも止める意思を示す体制であった。前夜の訪問では小言こそあったが、露骨な非協力は見せず、皇王の命に従い監視役に徹する姿勢を示していた。内心は読めないものの、表向きは職務に忠実であると判断された。

行動開始と時間との勝負
ヒエロの号令で撮影班は整列し、監視員たちも用意された大型単船に乗り込んだ。まずは港へ移動する段取りである。規制下での撮影は不安要素を抱えつつも、ここからは時間との勝負であった。こうして、緊張をはらんだ長い一日が幕を開けた。

第二章 結婚式の準備

二班編成と監視員の振り分け
港に到着した一行は、ここから二班に分かれて行動することとなった。撮影班は十二人で、監督・カメラ・メイクなど各役割を二人ずつ配置しており、ちょうど二班に分けられる体制であった。第一班はヒエロ、ミルコ、クロウエンが担当し、第二班はニアとクリスト、そしてリノキスが加わった。監視員は第一班に陸軍総大将ガウィン、第二班に空軍総大将カカナが同行することとなった。

監視員の選択と意図
前夜の面談で、ガウィンは曲者で読みづらく、揚げ足を取られかねない存在だと判断されたため、ヒエロが引き受けることになった。ニアははっきりした性格のカカナの方が対応しやすいと考え、第二班に空軍総大将が付く形となった。昨日の顔合わせが、こうした振り分けに生きたのである。

無茶な航路と時間との戦い
それぞれ飛行船に乗り込み、すぐに出発した。ヴァンドルージュは浮島が多く、無駄なく巡る航路を決めるのは容易ではない。今日一日で二十を超える島を回る予定であり、船長に細かい指示を出しながら進路を定めていった。カカナは無茶な予定だと呟き、魔法映像のために常識を欠いているのではないかと苦言を呈した。

景色を求める理由と最初の目的地
ニアは、良い映像を撮るには時間や場所を選ぶ必要があると説明し、そこに行かなければ見られない景色を撮るのだと告げた。最初の目的地は第三上層島。ザックファードが幼い頃に家庭教師をしていた貴族女性の屋敷を訪れ、結婚式に来られない縁者から祝福の言葉を収録するためであった。限られた時間の中、結婚式を特別な一日にするための準備が始まった。

過干渉による緊張の高まり
速度重視で移動と撮影を重ね、四件目の屋敷に到着した頃には空が白み始めていた。過密な日程の中、撮影班は強い緊張感を保ち、失敗を許さぬ空気で動いていた。しかし空軍総大将カカナは、機材や動作の一つ一つに細かく質問を挟み、作業を止めようとした。監視として理解を深めたい意図はあったが、間が悪く、現場の焦燥を強めていた。

撮影の意図と衝突回避
庶民の屋内での撮影では反射板や化粧道具を用い、光を整えて祝福の言葉を収録した。カカナの疑問は尽きなかったが、撮影中は発言を控えるよう念押しし、クリストが外へ連れ出して場を収めた。現場は時間との戦いであり、監視との衝突は避けねばならなかった。

映像による理解の獲得
移動中、リノキスの提案で、既に撮影した映像をカカナに見せることにした。魔晶板に映る祝福の言葉を繰り返し見たカカナは、式に来られない縁者の思いを届ける意義を理解し、急ぐ理由も納得した。瞳を潤ませながら協力を申し出て、部下を先行させ、訪問先に準備を整えさせる策を提示した。

見本映像の作成と空気の変化
さらに説明時間短縮のため、見本映像を新たに撮る案が採用された。適任としてカカナ自身が選ばれ、戸惑いながらも祝辞を収録した。映像映えする姿にスタッフは盛り上がり、場の空気は和らいだ。見本の存在と部下の先行により撮影は加速し、過密日程は次第に現実的なものとなった。

小さな楽しみと撮影完了
長丁場の中、リノキスが調達した菓子が束の間の息抜きとなった。島ごとに異なる味を楽しみながら、心の余裕を保ちつつ撮影は続いた。思わぬ協力と工夫に支えられ、深夜に及んだ収録はついに完了した。

深夜帰還と消耗の共有
ヴァンドルージュ首都ユーネスゴへ戻り、ホテルに到着したのは深夜であった。半日以上の移動と撮影を繰り返した結果、ニア、リノキス、撮影班、同行していたクリスト、監視のカカナまで心身を削られ、部屋に入るなり倒れ込む者が続出した。ヒエロ王子は自ら出迎えたが、歓談の余裕はなく、全員が限界に近い状態であった。

分業体制と終わらない地獄
一班は少し早めに戻って編集作業へ入り、二班は仮眠後に交代して編集と翌日の準備を担う手筈であった。撮影が終わっても作業は終わらず、特にスタッフにとっては地獄が継続する形となった。カカナは疲労と嫌悪を隠しきれなくなり、過酷さを実感した。

編集非公開とカカナの興味
ヒエロ王子は監視は撮影に限るとしてカカナに休息を促したが、カカナは編集作業に興味を示した。だが編集工程は魔法映像の技術に直結するため公開できず、国家機密に相当すると説明された。代わりにヒエロ王子は広報用の映像一式を貸し出し、カカナは操作方法を教わって魔晶板と関連器具を持ち帰り、ガウィンと共に視聴する流れとなった。

ニアの休息と翌朝の再始動
ヒエロ王子はニアに疲労を残すなと命じ、休息を優先させた。ニアは借りた部屋で最低限の入浴を済ませ、ベッドに入った瞬間に眠りへ落ちた。翌朝は早く起き、髪を洗い、紅茶で短い余裕を確保してから、スタッフの詰め所と化した大部屋へ向かった。

編集の大詰めと機材搬入
大部屋では編集が最終局面に入り、ヒエロ王子が映像チェックと指示を繰り返し、スタッフは疲れた顔のまま機敏に動いた。ニアは機材運搬を依頼され、リノキスと共に運び出して大型単船へ積み込み、機材だけ先に現地へ送った。天候は快晴で、結婚式にふさわしい幸先の良さがあった。

関係者集合と本番前の段取り
編集が完了すると関係者全員が食堂の個室に集まり、打ち合わせをしながら朝食を取った。疲労の残る者、徹夜で無精ひげの者、回復している者が入り混じり、皇子・皇女・軍の監視員も同席した。結婚式は昼開始だが、準備のため朝から移動が必要であり、休息や身支度の段取りを分けた上で、いよいよ本番へ向けて動き出した。

神殿退出と第一部撮影の完了
神への宣誓が終わり、立派な神殿から来賓がぞろぞろと退出した。ハスキタン家長男ザックファードと、コーキュリス家長女フィレディアの結婚式には、ヴァンドルージュ皇族やマーベリア王族まで含む錚々たる面子が集まっていた。撮影班は事前説明済みのため、来賓は二度見こそすれど干渉はせず、新郎新婦は拍手に迎えられて神殿から現れた。ニアは一班と二班の役割分担に従い、神殿正面ではなく脇口で一班と合流し、次の現場へ移動して第一部の撮影を終えた。

屋敷先回りと第二部の導入
次の現場はハスキタン家の屋敷であり、ニアたちは大型単船で新郎新婦と来賓より先に到着した。庭先には立食パーティー用のテーブルが並び、屋敷内にも十分なスペースがあるため天候不良でも運用可能であった。規制は基本的に屋外撮影を禁じるが、この日は一部緩和され、屋敷を背景にした撮影なら許可される方針となった。ニアはガウィンとカメラの角度・範囲を最終確認し、到着した新郎新婦を花束で出迎えて祝福し、その様子も撮影された。

控室での先行上映と涙の安全確保
フィレディアはここでお色直しに入るため、ニアは使用人からドレス裾の役目を引き取り、二人と控室へ向かった。ここでニアは、事前に約束していた「話」を実行するため魔晶板を準備し、式に出席できなかった縁者たちの祝福映像を上映した。来賓の前で上映すると化粧崩れや感情の制御が難しいため、皇女クロウエンの進言を踏まえ、控室で先に観せる判断となっていた。結果、フィレディアは早々に泣き、最終的にはザックファードの方が号泣して収拾がつかなくなるほどであったが、ここで泣き切らせたことで本番の顔崩れを避ける狙いは達成された。

映像の帰属と皇王の警戒への対応
ニアは魔晶板と「祝いの言葉の魔石」を二人への贈り物として渡すと告げた。ヴァンドルージュで撮影した映像を国外へ持ち出さないという規制の範囲内で、結婚式映像は当地で編集・保管される前提である。フィレディアは、家格都合で呼べなかった本当に祝ってほしかった人々の言葉が映像に収められていたことを喜び、祝福の重みの違いを実感した。ザックファードも懐かしい友や恩師の姿に感情が溢れたと語り、控室上映の効果が裏付けられた。

玄関ホールの暗転と大型魔晶板の奇襲
来賓が玄関ホールに集まった段階で、ニアが事前に示した段取りに従い照明が落とされ、使用人がカーテンを閉めて外光を遮断した。壁際に人の背丈を超える巨大な魔晶板が浮かび上がり、編集済みの祝福映像が一気に流された。個人的メッセージ部分は切り、多人の「おめでとう」を連結した構成で、魔法映像に不慣れな来賓へ強烈な衝撃を与えた。来賓は放心し、新郎は再び泣いて新婦を連れて控室へ退避した。

撮影の終盤化と“売り込み”の成果
庭の片隅でヒエロ王子は撮影班を労い、ここからは余興や催し物を控えめに記録する段階に入ったと整理した。権力者が多い場で証拠映像になり得る撮影は避け、式の進行に影響しない範囲へ収束させる判断である。解散後、撮影班は待機部屋へ下がり、ニアはパーティー対応のため残留した。一方でクリストはカメラを担いで撮影を体験し、クロウエンや監視役のガウィンとカカナも同行して、子供たちの反応や試行撮影へ移っていった。

子供対応というニアの役割
広報用映像でニアを知った子供たちが押し寄せ、ニアを取り囲んだ。大人の商談や駆け引きの妨げになりやすい子供を引き受けることが、ニアの実務上の役割となった。ニアは挨拶し、撮影や魔法映像の説明、こぼれ話、実演まで含めて子供の興味を受け止める構えを取った。これは同時に「撮る/撮られる」実演として来賓への追加アピールにもなり、売り込みの最大化へ繋がった。

終幕
ヒエロ王子は有力者に直接魔法映像を提示できた時点で成功と断じ、早速「動く絵」についての質問も舞い込んだ。ニアは子供対応を担い、各自が各自の役割で最後まで動き切った結果、大きな問題なく日が暮れ、ヴァンドルージュの結婚式はお開きとなった。

第三章 二年生になって

帰国準備とヒエロ王子の残留
ザックファードとフィレディアの結婚式翌朝、ニアとリノキスは早朝からホテルのロビーで帰り支度を整え、見送りに来たヒエロ王子と別れの挨拶を交わした。撮影班とミルコ・タイルはハスキタン家に宿泊して結婚式映像の編集作業を継続しており、完了後に帰国する予定であった。ヒエロ王子は披露した魔法映像への関心から各方面に呼ばれており、当面アルトワールへ戻らない可能性が示された。

仕事抜きの約束と共有される話題
ヒエロ王子は「次は仕事抜きで食事」と誘うが、ニアは結局企画の話になると見立てた。ヒエロ王子はそれも良いと受け止め、二人の共通話題が魔法映像に集約されている現状が確認された。ニアはザックファードとフィレディアへの伝言を頼み、ホテルを出発した。

観光できない滞在と新学期への帰還
今回も滞在は慌ただしく、二度目のヴァンドルージュ訪問でありながら観光や街歩きの時間は取れなかった。春休みが終わり新学期が始まるため、ニアは帰国を優先せざるを得ない状況であった。

港への道すがらの蟹案と土産の検討
港へ向かう途中、リノキスは「最後に蟹を食べる」提案を出し、ニアも渋々了承した。港の食堂なら早朝営業の可能性があり、蟹の味を二人とも気に入っていることが背景にあった。ニアは弟子たちへの土産を考えるが、蟹は日持ちしないため不向きと判断され、代案として魚の干物が挙がった。ヴァンドルージュで蟹の流通は始まったばかりで、今後有名になる見込みだという認識のもと、港で土産になり得る品を探す方針となった。

二年生としての新学期
冬休みと同様に、帰国直後から新学期が始まった。ニアは新調した制服に身を包み、小学部二年生となる。大きな変化はないが、寮の部屋と教室が変わり、六年生の卒業によって女子寮の顔ぶれも入れ替わった。春休み前に涙で別れを惜しまれた相手もいたが、ニア自身にとっては顔見知り程度であり、温度差があった。

レリアレッドとの隣室と新情報
部屋替えによりレリアレッドと隣同士となった。偶然か学院の意図かは不明だが、二人は登校前に学院放送局の話題を共有する。三学期末に聞いていた「学院内放送局設立」の噂は本決定となり、正式には「準放送局」として学院公認となった。国からの給金は出ないが、学院内限定の公式活動として認められ、活動費も支給されるという。

放送局加入の打診と現実的制約
学院放送局側はニアとレリアレッドにも所属を望んでいるという。しかしニアは即座に難色を示す。外部の撮影活動、弟子の育成、十億クラムの件など多忙であり、これ以上抱えれば何かが疎かになると判断しているためである。ヒルデトーラは参加予定らしいが、ニアは続報待ちとする姿勢を取った。

学院案内撮影の再始動
放課後、女子寮前に人垣ができている理由はすぐに判明する。そこにいたのは学院放送局スタッフとヒルデトーラであり、用件は前年に好評だった学院案内映像の再撮影であった。新入生歓迎の意味も兼ね、今年も実施するという。
結果として、今年も多くの子供が入り乱れ、予定通りに進まない賑やかな学院案内映像が撮影されることとなった。

――二年生が、こうして始まった。

新年度の安定と各計画の進捗
新年度開始からしばらく経ち、新入生の寮生活の不安も落ち着いてきた。ニア側の撮影と弟子の育成は順調に進み、十億クラム計画も、本人が参加できないぶん急伸はしないものの、弟子たちの協力で着実に積み上がっている。国王からは「今年の夏の終わりまでに四億以上あれば大会開催準備を始められる」と連絡があり、開催予定は来年冬、約一年半後を見据えた大規模大会となる見通しである。現状の貯金は二億超で、夏休みの狩猟計画次第では四億到達が見込まれている。

魔法映像の勢力図とリストン領の課題
紙芝居公開以降、シルヴァー領チャンネルが突出して人気を得ている。リクルビタァを中心に紙芝居チームが組織化され、画力だけでなく視聴者を飽きさせない工夫や物語構成が強い。王都放送局側のヒルデトーラも「同路線では敵わないので別路線が有効」と見ており、ニアもその意見を両親へ伝達した。
王都放送局では「料理のお姫様」が定番化し、ヒルデトーラのキャッチコピーと噛み合って主婦層に浸透している。一方、リストン領は伸び悩み、当たり企画の「追いかけっこ」もマンネリ化が進んでおり、新たな捻りが必要だが打開策が出ていない。

学院放送局の拡充とレリアレッドの危機感
学院放送局は学院敷地内に専用建物を得て、機材置き場や活動拠点が整備された。さらに「魔法映像に出たい」と志望していた生徒が新加入したらしい。ニアは人材増を前向きに捉えかけるが、レリアレッドは「人気を奪う若い芽が出てきた」と危機感を露わにし、新メンバーを“ガツンと”牽制すべきだと主張する。ニアは挨拶自体には賛成だが、レリアレッドの意図が挨拶を逸脱している点を警戒する。結局、翌日に挨拶へ行く話がレリアレッド主導で決まる。

放送局訪問までの寄り道と道場の反応
翌日、ニアは劇団氷結薔薇(座長ユリアン、ルシーダ、シャロ)と喫茶店で会う予定があり、門限もあるため酒場訪問は見送る。放課後にレリアレッドと合流し、放送局へ向かう途中、サトミ速剣術の道場を覗くことになる。兄ニールやサノウィルの姿はなく、結局すぐ離れるが、魔法映像で見慣れた顔が現れたためか道場側は動揺する。レリアレッドは求められていないのに「マネージャー(侍女)を通さないとサインはできない」と“それらしい対応”をして立ち去る。

学院準放送局での顔合わせ
新設の拠点には円卓が置かれ、旧メンバーが着席して待っていた。ヒルデトーラも既に到着している。正式名称は「アルトワール学院準放送局」であり、旧メンバーは中学部・高学部で構成され、小学部は所属させない方針である。
監督が新メンバー三名を紹介する。ジョセコット・コイズ(気の強そうな金髪の女)、キキリラ・アモン(精力的で笑顔が強い女)、シャール・ゴール(制服を着崩しピアスの男)である。

キキリラの第一声とニアの即時評価
紹介直後、キキリラが強引に発言権を取り、ニアに向けて「私ニアちゃんより速いよ。早く撮ろうよ」と挑発気味に言い放つ。ニアは即座に相性の悪さを予感し、苦手なタイプだと感じる。

喫茶店での続報催促
「それでそれで?」と身を乗り出すシャロに対し、ニアは「どうもなっていない」と淡々と返す。学院準放送局への挨拶は軽い顔合わせで終わり、衝突も展開もなかった。シャロは肩透かしを食らったように引き、つまらないとこぼすが、ニアにとってはそれくらいがちょうどいい。撮影外では無理に面白さを演出する気はないのである。

王都の個室喫茶と氷結薔薇の面々
場所は王都の洒落た喫茶店の個室。貴人や有名人が使う店であり、氷の双王子ユリアンとルシーダ、看板女優シャロ・ホワイトという劇団氷結薔薇の三人が揃えば騒ぎは避けられない。ニアも一定の知名度があるため、個室は必須であった。

久々の休息と役者の本音
ユリアンは「仕事と関係ない話がしたい」と言い、三人が久しぶりの休息中であることを明かす。次の劇の稽古が控えており、気を抜けるのは今だけだという。ニアも稽古期間の緊張感には共感する。
「恋した女」以降、劇への出演話は時折来ているが、稽古と本番を含む長い拘束時間がネックとなり、ベンデリオの判断で見送られている。ニア自身も強く希望していないため任せていたが、今は少し後悔もある。

新人三人への関心
ルシーダは学院準放送局の新人三人に強い興味を示す。個性が強そうな三人が同時に加入したのは偶然ではなく、採用意図があるはずだと指摘する。ニアも同感であり、ただの偶発的な人選ではないと感じていた。

監督の若さゆえの企み
学院準放送局の中学部監督には、明確な狙いがあった。個性の強い新メンバーをあえて集めることで、内部に刺激と競争を生み、企画自体を加速させる意図である。若者らしい大胆さと野心がそこにあった。

暴走気味の初対面
「私ニアちゃんより速いよ!」と輝く笑顔で迫るキキリラに、ニアは完全に引いていた。撮影の約束もなく、関係性も築けていない段階での強引な誘いに戸惑う。魔法映像に起用する前提であるならば、学院準放送局の先行きに不安を覚えざるを得ない。

三人の自己紹介
シャールの指摘で挨拶の流れとなり、三人は名乗る。
キキリラ・アモンは中学部一年。勢いと行動力の塊のような少女である。
ジョセコット・コイズは中学部二年。気の強さと冷静さを併せ持つ。
シャール・ゴールも中学部二年で、現時点では裏方志望だと明言する。

没落貴人の決意
ジョセコットは自らの事情を明かす。コイズ家は没落寸前の第六階級貴人であり、祖父の代の商い失敗で家は傾いた。家を立て直すため、魔法映像業界へ飛び込む決意をしたという。
特に、魔法映像権利を購入し紙芝居産業を生み出したシルヴァー領の躍進に強い関心を抱いていると語る。その姿勢に、ニアは共感と応援の念を抱く。

監督の狙い
学院準放送局の監督は三人の採用意図を説明する。
ジョセコットは演劇知識と衣装・メイクの技術を持つ存在。
キキリラは学年屈指の身体能力を誇り、身体を使った企画への可能性を見込まれている。
シャールは将来的に必要になると監督が判断した人材であり、現状は裏方だが、状況次第で表に出る可能性もあるという。

『ウィングロード』の名
シャールは事情を問われ、「ウィングロード」とだけ口にする。ヒルデトーラはその名を知っている様子であるが、詳細は語られない。監督は「いずれ来る」と意味深な言葉を残す。
ニアはこの時点では深く考えないが、実際には無関係では済まされない出来事へと繋がっていく。

迷走と原石の始まり
キキリラ・アモン、ジョセコット・コイズ、シャール・ゴール。
この三人の加入により、学院準放送局は新たな映像領域を模索し始める。中には倫理的・社会的に問題を孕む企画も混じり、試行錯誤と迷走の連続となる。しかし、その混沌の中には確かな原石も存在していた。

そして――この出会いこそが、後にニアへ大きな影響を及ぼす出来事の発端となるのである。

始動する学院準放送局
学院準放送局は発足し、活動を開始した。しかしニア、ヒルデトーラ、レリアレッドはそれぞれ個別の撮影予定を抱えており、関係があるようで実際は深く関与していない。ヒルデトーラは所属者として顔を出しているものの、新メンバーとの共演はまだ実現していない。

牽制なき静観
挨拶の場で一発かますつもりだったレリアレッドは、新メンバーが年上の中学部生であること、特にジョセコットが貴人の娘であることを考慮し、無用な対立を避けた。無駄に敵を増やさないという判断は賢明であった。以降、彼女は夜ごとニアの寮室を訪れ、就寝前の時間を共にするようになる。

静かな夜の習慣
ニアは弟子の指導を終え、入浴と宿題を片付ける時間にレリアレッドを迎える。レリアレッドは宿題を終わらせてから訪れる勤勉さを見せ、時には変わった紅茶を持参する。穏やかな夜のひとときである。

その傍らでレリアレッドは魔法映像を鑑賞する。観ているのはヒルデトーラの番組「料理のお姫様」。鹿肉のソテーを仕上げる姿に、努力の積み重ねを感じ取っている様子である。

放送されない映像
話題は学院準放送局の近況へ移る。発足から約一か月が経過したが、準放送局制作の映像はまだ一度も王都放送局で放送されていないという。
準放送局で制作した映像は、本職の局員による審査を経て合格すれば放送される仕組みである。ゆえに未放送は即失敗を意味するわけではないが、ヒルデトーラが「どう口を出してよいかわからない」とこぼしている点から、すでに何本か制作は進んでいると推察される。

キキリラを軸に
レリアレッドによれば、当初はキキリラを軸に企画を組む方針だったという。運動能力を武器にした映像路線であろう。
ニアはその名を聞くだけで複雑な感情を抱く。勢いと押しの強さを前面に出す彼女が軸となるならば、準放送局の色も自ずと定まっていくはずである。

迫る変化の予感
一か月という時間は短いが、日々の積み重ねは確実に季節を進める。このままいけば夏休みもすぐに訪れるだろう。
まだ表に出ていない映像の裏で、学院準放送局は試行錯誤を続けている。
その模索がやがて形を成し、思わぬ波紋を広げることになるとは、ニアはまだ深く考えていなかった。

緊急招集の理由
夏休み目前のある日、レリアレッドが「ヒルデトーラの緊急招集」を伝えた。ニアは翌日にアンゼルとフレッサの鍛錬、さらにガンドルフ同行の予定を入れていたが、魔法映像絡みの支障は利害に直結すると判断し、招集を優先した。レリアレッドは「自分の誘いより即答なのか」と動揺するが、ニアは個人的用件と業界案件の性質差を説明し、納得させた。

放送に届かない企画
翌日、学院準放送局の詰め所に集まると、監督が「どうしても企画が通らない」と頭を下げた。ヒルデトーラの補足によれば、準放送局は何度も映像を王都放送局へ持ち込んでいるが、放送までこぎつけていないという。新メンバー三人は沈んだ空気で、キキリラはうつむき、ジョセコットは不機嫌、シャールは退屈そうであった。

映像チェックと三者の共通反応
現状把握のため、放送局員全員で撮影済み映像を魔晶板で確認した。予算都合で短い撮影用魔石が中心のため、素材は短尺が多い。視聴後のニア、ヒルデトーラ、レリアレッドの反応は揃って「うーん」であり、却下されるのも無理はないという苦い手応えが残った。

厳しめ希望とレリアレッドの一斉指摘
監督が感想を求めると、レリアレッドは先に「優しいのと厳しいの、どちらがいいか」と確認し、厳しめ希望を受けて即座に叱責を開始した。屋外撮影なのに声が聞き取りづらい点、滑舌、声量、風で音が流れる状況への無配慮をまず問題視した。さらにキキリラに対して、動き回って音が拾えない、しゃべるなら止まれ、撮影者と打ち合わせせよ、カメラが追えていない、そして「延々運動しているだけの映像は何を伝えたいのか」と核心を突いた。

ヒルデトーラの追加指摘
ヒルデトーラはジョセコットの企画を批判した。知識が豊富なのは認めつつ、内容が専門的すぎて一般視聴者が置き去りになる点を問題とし、視聴者母数の少なさを指摘した。キキリラは運動能力が空回りし、ジョセコットは語れるが題材が偏りすぎている、という整理がなされた。

新メンバーの反論と監督の焦り
キキリラとジョセコットは、監督の指示通りにやった面が大きいと反論した。監督は「王都・リストン・シルヴァーと同じことをしても勝てない」「資金も経験もスタッフの腕も負けている」「後追いでは放送されない」と焦燥を露わにし、企画勝負に活路を求めていた。

ニアの実務的な改善案
ニアは「視聴者に何を伝えたいかを考え、わかりやすく伝える」という基本を提示した上で、具体策を出した。キキリラは知名度が低いうちは単独ではなく、比較対象を置いて能力を一目で理解させるべきだとした。ジョセコットは対談形式にし、演劇好きや専門家、役者との会話で知識を噛み砕いて視聴者に届ければ即戦力になり得る、と評価した。知識は本物であり、見せ方次第で通用すると判断した。

本題への移行と企画会議の加熱
レリアレッドに「結論は何か」と促され、場はようやく本題へ入った。学院準放送局の売りは何か、他の三勢力にない特徴は何か、この学院だから撮れる映像は何か、知名度がない段階で内輪だけでは弱いのではないか、開局記念のお披露目としてわかりやすい企画にすべきではないか、という論点が次々と提示された。会議は熱を帯び、遅くまで続いた。

第四章 夏休みの前に

シャールの合流と関心の芽
企画会議から三日後、ニアとレリアレッドが学院準放送局の詰め所へ向かう途中、シャール・ゴールと遭遇した。シャールは当初、魔法映像や番組の仕組みが分からず、局長ワグナスの指示に従うだけだったが、会議で「自分の声が反映される」感覚を得て興味が湧いたと語った。さらに、方向性や視聴者、学院ならではの映像を意識して職人の映像を見ると面白いと述べ、企画側の適性も感じさせた。

放送局前の異様な人だかり
放送局の前には、学年も男女も問わず生徒が集まっていた。シャールは撮影時間を意識して先に駆け、ニアとレリアレッドも続いた。ニアは参加者の熱い視線を受けるが、駆けっこの実績で足の速さが知られているだけであり、今回は参加しないと明言した。主役はキキリラで、準放送局のお披露目を兼ね、王都チャンネルでの初放送を狙う撮影日であった。

ワグナスの歓迎と即時の戦力化
詰め所に入るとワグナスが歓迎し、外の人数の多さを説明した。ニアとレリアレッドが見に来ると伝えたことで生徒が応じ、サノウィル・バドル、ガゼル・ブロック、さらに高学部に上がったレリアレッドの姉リリミなども参加していた。ヒルデトーラは予定で欠席である。ニアは手伝いを申し出て、準備不足の状況を理解しつつ現場に入った。夏休み直前で準備期間が三日しかなく、今を逃すと夏休み後にずれ込む事情があった。

障害物競走のコース設計
ワグナスは番号付きネームプレートを付けた参加者へ、大声で順番に説明した。コースは細い道の平均台を渡り、泥水の水たまりを飛び越え、杭を埋めた飛び石ルートを跳び、等間隔の木箱を飛び越えながら走ってゴールする構成であった。落下や接地は失格であり、泥に落ちれば汚れるうえ失格となる。要するに障害物競走である。

学院準放送局の強みの再定義
企画会議で突き詰めた「学院の強み」は、生徒の多さと、生徒の親や親戚という需要にあった。昨年の武闘大会が魔晶板の購入層開拓にもつながり、映像の受けも良かった経験が根拠となる。視聴者参加型の発想を活かし、「自分も出る側になり得る」可能性を見せて生徒の関心を引き、将来の視聴・利用へつなげる狙いがある。

三日で整えた現場とキキリラの主役化
参加者の選定は運動能力の高い生徒に絞られており、スタッフが学内を走り回って交渉し集めたと推測できるほどの密度であった。コース作りと交渉を三日で行ったなら十分に整えた部類である。そしてこの企画は、キキリラの運動能力を最大限に発揮させ、映像として見せつけるための場として用意された。キキリラは「がんばります」と宣言し、撮影は本格的に動き出した。

開局初勝利とキキリラの咆哮
学院準放送局が撮影した障害物競走の映像は、王都放送局の放送権を獲得した。あと数日で夏休みという時期に、開局初の放送という結果を勝ち取ったのである。王都側が「使える」と判断しなければ流れない以上、これは明確な勝利であった。
キキリラ・アモンの「我!最速!」という雄叫びは強烈な印象を残し、再放送も既に複数回確認されている。平均台からの転落や泥水への落下といった見せ場、そして上位者の鮮やかな突破が分かりやすく構成され、小学部女子寮でも評判は上々であった。

リノキスの皮肉と冷静な切り替え
映像を観ながら、リノキスは「お嬢様を差し置いて最速ですか」と鼻で笑う。だがニアは宿題を優先し、魔法映像を一旦切る。勝利は喜ばしいが、放送局の戦いはこれからであり、いつまでも一勝に浸るつもりはない。
学院準放送局の問題は一段落したが、ニアにとっての本命は十億クラム計画である。

夏の出稼ぎ計画と参加者の調整
アンゼルとフレッサは前向きに参加を検討中であり、ガンドルフは必ず参加すると宣言した。リネットはニールから離れられないと辞退したが、面子は概ね固まりつつある。
セドーニ商会が高速船を用意すると申し出ており、移動手段も確保できた。夏の出稼ぎは目前であり、日程調整が急務である。

レリアレッドとの夜のひととき
レリアレッドは相変わらず夜に訪れ、再放送を観ながら障害物競走の出来を称賛する。企画段階から関わったことで思い入れが違うと語り、ニアも同感であった。
準放送局は放送権を得たことで一息ついたが、ニアは正式所属ではないため、今後の関与は最小限でよいと考えている。

十億クラム計画と勝負の夏
現在の貯金は約二億クラム。王は四億で大会開催を認めると言ったが、ニアは可能なら十億を目指したいと考える。祭りのような大規模武闘大会を盛大に開くためである。
今回の出稼ぎには弟子たちも同行させる。冒険家リーノ単独ではなく、強そうな集団として動く形を強調することで説得力を持たせる狙いもある。成功すれば五億以上を見込む派手な狩り計画であり、同時に弟子たちの実戦武者修行でもある。

今度の夏こそが勝負所であった。

夏休み突入と慌ただしい準備
山のような宿題を抱え、生徒たちは学院から解き放たれた。ニアも祝勝会への参加、セドーニ商会への挨拶、ヒルデトーラからの大型企画参加要請、レリアレッドからのシルヴァー家招待などを立て続けにこなし、ようやく夏休みに突入する。
だが前半は例年通り撮影漬けであり、本当の出稼ぎは後半である。兄ニールと飛行船で帰郷しながら、恒例の剣術確認が始まった。

ニールの成長と「氣」の発現
打ち合いを見た瞬間、ニアは違和感を覚え、すぐに正体を察する。ニールは「氣」を使っていた。教えたのはリネットである。
まだ不安定とはいえ、年齢に不相応な動きと鋭さは確かに「氣」によるものだった。子供が容易に扱える技術ではないだけに、ニールの才能は際立っている。同時に、未熟な者が未熟な技を教えた事実は看過できない問題であった。

リネットへの叱責と責任の所在
弟子の不始末は師の責任でもある。ニアはリネットを厳しく叱責し、徹底的に鍛え直す。中途半端な習得は危険であり、教える以上は完全に修めさせる必要がある。
ついでに連帯責任としてリノキスも絞り上げられる。力は扱う者の精神次第で凶器にもなる。穏やかなニールが力に振り回されぬことを願いつつ、ニアは自らも修行を続ける。

兄妹の再会と新たな企画の話題
修行の最中、ニールが部屋を訪れる。夏休み中は互いに過密日程で、落ち着いて話す機会は貴重である。
話題はヒルデトーラからの伝言だった。漁村で行う「料理のお姫様」の大型企画に、ニールも参加してほしいという。詳細はニアから聞けと言われたらしい。

兄妹は紅茶を挟みながらゆっくりと話を始める。
飛行船は、過密スケジュールが待つリストン領へと進んでいた。

再訪と商人の胃痛
セドーニ商会本店に、約一年ぶりにニア・リストンが現れた。かつて「二年で十億クラム稼ぐ」と言われた時、マルジュ・セドーニは門前払いしかけた。その判断を思い出すたびに後悔が込み上げる。だが現実には、ニアはすでに二億クラムを超える資金を築いている。子供の戯言ではなかった。

今回は抜かりなく歓待した。最高級の茶葉、ヒルデトーラ発案の人気ケーキ、潤沢な接待費。反応は上々で、接待自体は成功だった。

「口が滑った」独り言の破壊力
だが歓待の最中、ニアは「日頃のお礼に少し口が滑るかも」と前置きし、来年末に大規模武闘大会が開かれる可能性、その費用として十億クラムを投じるかもしれないと仄めかした。

十億の目的がついに明かされた形である。しかも、夏に大きく稼ぐとも言う。二億を既に持つ以上、夢物語とは言えない。本気だ。

商人の推測と読み合い
ニアが帰った後、マルジュとダロンは即座に分析を始める。王族は既に知っている可能性が高い。むしろ、ニアが話したのは故意であり、情報解禁のタイミングを見計らった布石ではないかと推測する。

国王ヒュレンツ・アルトワールが関与している可能性も濃厚。国家規模の儲け話を見逃すはずがない。王族とニアは協力関係にあると見るのが自然である。

つまり、王族が本格的に動く前に、情報を一足先に掴んだのがセドーニ商会という構図になる。

商魂の再燃
十億規模の武闘大会となれば国際大会。国外客向け宿泊施設、食材流通、新規仕入れルート、関連商材――あらゆる市場が動く。

長年安定していた商人の血が、胃の疼きとともに再び燃え上がる。
動くなら今である。

一週間後、国王からマルジュへ呼び出しがかかる。
一年後の武闘大会へ向けて、国王が動き、商人が動き、国が動き始める。

やがて噂は王都から国中へと広がる。

だがその頃、ニア・リストンはまだ知らない。
王都で起きている水面下の動きを。

彼女はただ、過密スケジュールを粛々とこなしながら、出稼ぎの旅を楽しみにしているのだった。

第五章 出稼ぎと空賊

地獄の撮影からの解放
リストン領での過密な撮影を終え、ようやく解放されたニアは、冒険家リーノとその弟子リリーとして出稼ぎに向かう。移動はセドーニ商会が用意した高速船。行動範囲と時間効率は格段に向上し、捻出できた期間は約一週間。撮影で溜め込んだ鬱憤を、魔獣討伐で晴らす決意であった。

欲望を隠さぬ商人トルク
港で出迎えたのは、会頭マルジュの息子トルク・セドーニ。先に漏らした「十億クラム」「武闘大会」の情報を聞きつけ、露骨なまでに欲望を滲ませた顔をしている。商人として情報価値を正確に理解している証であり、その強欲さすら清々しいとニアは評する。

弟子たちとの合流
高速船内でガンドルフ、アンゼル、フレッサと合流する。立場上、ニアはあくまでリーノの弟子リリーとして最下位の扱いに徹することを念押しする。弟子たちの服装や立ち位置に軽口を交えつつも、今回の出稼ぎが単なる狩りではないことを告げる。

十億の使い道と武闘大会計画
ここで十億クラムの使途を明かす。来年末に国規模の武闘大会を開催する資金であり、今回の出稼ぎで最低限の開催資金が見込める見通しだという。

さらに、優勝候補筆頭はリノキスであること、リノキスが優勝した場合の賞金は山分けとすることを宣言する。集めた資金は全員で稼いだものであり、後腐れのない形を選んだ。

不満があるなら実力で覆せ、と。勝てば総取りである。

ニアが出場しない理由
フレッサの問いに、ニアは出場しないと断言する。金や名声は既に別の形で得ており、興味がない。仮に戦いたい相手がいたとしても、衆目の中ではなく邪魔の入らぬ場で戦う。

この時代の武人は総じて弱いと感じている。自らがまだ成長途中であるにもかかわらず、既に戦える相手が見当たらない現状に、物足りなさすら覚えていた。

武人のための一週間
旅程と修行計画を練りながら、武人と弟子のための一週間が始まる。
撮影で溜まった鬱憤を晴らすかのように、強敵との遭遇を心待ちにしながら。

一週間の終わりと五億の成果
楽しい時間はあっという間に過ぎ、出稼ぎも残り一日となった。上級魔獣狩り、弟子の鍛錬、自身の修行に明け暮れ、今回は宿題すら前倒しで全て片付けている。純粋に戦いと鍛錬だけに没頭できた、極めて充実した一週間であった。

収益は概算で五億クラム以上。既存の貯金と合わせれば四億を優に超える見込みであり、武闘大会開催の最低条件は満たされたことになる。あとは国王ヒュレンツ・アルトワールの仕事である。

弟子たちの思惑と武闘大会への意欲
アンゼルとガンドルフは参加に前向きである。
アンゼルは賞金目当てに酒場経営の格上げを狙い、ガンドルフは武人としての舞台に純粋な情熱を燃やす。
フレッサは裏社会との関わりから表舞台を避けつつも、出場方法を模索中。
リノキスは「一番弟子」としての矜持から、絶対に負けられないと闘志を燃やしている。

アンゼルの資質
アンゼルの棒術は無駄がなく、殴ることに特化した実戦的な構成である。奇を衒わず、確実に仕留めにいく性質は武に向いた資質だとニアは評する。
数百の打ち込みを回避され体力が尽きるも、伸びしろは十分。「氣」の練りを高めれば更に化ける逸材である。

ガンドルフへの課題
ガンドルフは経験豊富で完成度も高いが、躊躇が残る。
見た目が子供であるニアに対し、無意識の遠慮が生まれている。
「打つと決めたなら躊躇わない」。
氣を乗せた一撃の感触を身体に刻ませ、強さと加減の両立を学ばせることが狙いである。

フレッサの暗殺術
フレッサは暗器を駆使する暗殺型。虚実入り混じる攻撃は高水準で、毒付きなら危険度はさらに上がる。
ベルトに仕込んだ鞭での奇襲も試みるが、読み切られる。
殺し合いであれば弟子の中で最も強い可能性を秘めているとニアは評価する。

リノキスの実戦修行
リノキスとは能力をほぼ揃えた実戦形式の殴り合い。
追い込みの中で新たな選択肢を生み出させる修行である。
実戦経験不足を補い、極限状況で生き抜く力を養うことが目的だ。

それぞれ確実に伸びている。
その中から誰か一人でも、自分を超える存在が現れないかと、ニアは密かに期待している。

平穏な旅路と王子の名目
今回の出稼ぎも、第二王子ヒエロ・アルトワールの呼び出しという名目で実現している。七歳の単独遠征を正当化するためである。
一度の会食のみで別れ、その後は問題なく旅を続けた。

収穫は十分。憂いなく帰還できるはずだった。

突発的な出来事
だが六日目の夕方。
高速船に緊張が走る。

「空賊だ! 空賊が出たぞ!」

予想外の敵。
退屈とは無縁の、最後の一幕が始まろうとしていた。

空賊遭遇と即応判断
狩りを終え、宿泊予定の浮島へ向けて高速船が減速した瞬間、待ち伏せしていた空賊三隻に包囲された。高速船は通常なら逃げ切れるが、発着前後は減速が必要で逃げ足が封じられる。しかも船は無武装であり、金や積み荷での解決が通用しない可能性が高い。標的は積み荷ではなく、希少で高価な最新高速船そのものだと判断される。

交戦方針の確定
トルクと船長が「船を失えば信頼も失う」と逡巡する中、ニアは「殺りましょう」と交戦を提案する。
ここでは「冒険家リーノの弟子リリー」という立場であり、全力で迎撃すべき案件だと位置づける。リノキスも最終的に交戦に同意し、ただし「後始末の都合で極力殺さない」方針が添えられる。

作戦骨子
空賊船は三隻。同時に仕掛け、砲撃を撃たせない状況を作る必要がある。まず正面の一隻を最速で制圧し、その合図で高速船を加速離脱させる。以後、残り二隻も制圧し、全制圧後に回収して撤収する。
空賊は単船で侵入してくるため、射出口を開けて迎え入れ、同時にこちらが乗り込む単船も準備する。

突入編成
三手に分かれて同時制圧する。
ニアは単独で正面を担当。
リノキスとガンドルフが一隻。
アンゼルとフレッサが一隻。
不覚時は逃げ回って生存優先、という指示も与えられる。

先遣隊の無力化
射出口から単船六隻、計十二名の賊が侵入し、続いて黒槌鮫団のキャプテンが乗り込む。キャプテンは金糸刺繍の黒ロングコートと派手な所作で威圧し、要求は船そのものだと示す。
交渉が始まる中、ニアは単船の陰を使い背後へ回り込み、十二名に連続で不意打ちを入れて意識を刈り取る。

キャプテンの反射と火器の登場
倒れる部下の音でキャプテンが即座に反応し、金属筒型の武器でニアへ発射する。飛来したのは火薬で撃ち出された金属球であり、ニアはこれを手で受け止めて構造と威力を評価する。
威力は対人には致命傷になり得るが、ニアには貫通しない水準であり、改良点が多いと断じる。返礼として指弾で弾丸を撃ち返し、キャプテンの腹を貫通は避けつつも深刻に抉って無力化する。

情報引き出しと時間制約
賊の捕縛は乗組員に任せ、ニアたちは修行に使っていた倉庫部屋へキャプテンを移送する。
ニアは「情報を出せば可能な限り殺さずに制圧、出さなければ皆殺し」と即決を迫り、船長とトルクも「彼女はやると決めたらやる」と圧を補強する。キャプテンは抵抗するが、最終的に必要情報を吐く。
一隻あたり十五人前後、三隻運用。各船に指揮役(副キャプテン相当)がいる。キャプテン船はやや大型で正面にいる船。今回侵入した十二名は各船から出ており、各船の残数は概算で十名前後と見積もられる。アジト情報は後回しとなる。

想定外の問題と解決策
次工程は単船で空賊船へ同時乗り込みだが、ニアは身体が小さく操縦系に手が届かないことが判明する。空を走る「空駆け」も現状では不可能で、正面の迅速制圧に支障が出る。
そこでトルクが操縦役を買って出る。飛行船の知識と実務経験を理由に、ニアはトルクを運転手として採用する。

出撃
賊側は先遣隊とキャプテンを人質同然に失っており、即座の砲撃はしづらいと判断される。予定を維持し、五隻の単船が射出口から発進する。
ニアは「まず甲板を制圧する。船内に入ったらトルクは下りてこい」と指示し、正面船への単独制圧を開始する段階へ移行する。

強風下の接近と心理戦
高速船の防風域を抜けた単船は強風に晒されるが、トルクの操縦で持ち直し、正面の緑色の空賊船へ向かう。空賊船は船体を横にして壁となり、高速船へ砲門六門を向けて停止していた。ニアは「上から近づき、姿を見せろ」と指示し、隠密よりも“連絡要員に見せる”ことで警戒を不必要に上げない方針を選ぶ。

甲板制圧の瞬間手順
単船を寄せ、ニアは賊の視認下で飛び降りる。賊は状況を理解する前に、ニアが甲板上の敵対者を一呼吸の早業で無力化し、砲撃誘発を避けるため強襲の発覚自体を遅らせる。キャプテン級の反応速度は例外であり、一般の賊はニアの動きに追随できないことが示される。

船内掃討と高速船の離脱
続いて船内へ侵入し、遮蔽物の多い空間で不意打ち中心に制圧を進める。途中、遠方で「ドン」という加速音が響き、高速船が戦線離脱したことを確認する。これはトルクが「この船は動けず、砲撃不能」と合図した結果であり、最優先事項である“高速船の安全確保”が達成される。

副キャプテンの確保と制圧完了
操舵室には身形の良い副キャプテン格が残っており、高速船の異常な離脱速度に驚愕していた。ニアはその隣に現れて声を掛け、これを最後の一人として確保し、当該船の制圧を完了させる。

捕縛状況と人数の再計算
甲板へ戻ると、トルクが賊を縛って整列させている。ニアの報告では船内に七人が倒れており、当該船の乗員は計十三人と判明する。事前にキャプテンから得た「各船十人前後」という情報よりやや多いが、誤差の範囲と判断される。意図的な虚偽というより、キャプテンの把握が雑だった可能性が高い。

弟子側への懸念と情報遮断の方針
高速船は逃がし、残るは空賊船二隻の制圧状況のみだが、ここからは視認できず不確定要素が残るため、ニアは弟子側の安全を気に掛ける。
その最中、トルクは「ニアはリーノより強いのか」と踏み込んだ問いを投げる。ニアは「知らなくていいことがある」「距離感が必要だ」と告げ、商会との関係維持のため核心情報への深入りを拒む。トルクは一旦引き下がるが、商人として諦め切れない含みも示される。

後処理と戦況報告
賊の捕縛、船内の安全確認、金品探索を進める中、別働の二隻から連絡が入り、弟子側も首尾よく制圧を終えたことが判明する。

三隻制圧後の回収と拘束
黒槌鮫団の飛行船三隻を制圧したのち、高速船が戦線へ戻り、賊は全員高速船の倉庫へ移送された。拘束された賊は四十人ほどで、無造作に転がされる光景は滑稽さと哀れさが同居するものとなった。賊の処遇を決める場には、冒険家リーノと仲間たち(ニア/弟子たち)、船長、トルクが参加し、一般の乗組員は心理的負担を避けるため同席しない。

引き渡し先としてのマーベリア案
トルクは黒槌鮫団が機兵王国マーベリアと飛行皇国ヴァンドルージュの国境付近で活動していた点を挙げ、地元でやり過ぎたため“出稼ぎ”としてアルトワール近辺へ来た可能性を示す。リノキスが報奨金の有無を問うと、トルクは「出る」と認める一方、マーベリアは閉鎖的かつ好戦的で、交渉は踏み倒しや難癖のリスクが高く、労力に見合わないと評価する。

マーベリア像の補足とフレッサの出自
アンゼルは、マーベリアは機兵という軍事的勝算があるため戦争志向だが、遠方へ機兵を運ぶ飛行船技術が追いつかず侵略に踏み切れず燻っている、と説明する。加えてフレッサがマーベリア出身であり、幼少期に出たため近年事情は詳しくないが良い思い出がないと吐露する。ニアは、ヴァンドルージュで結婚したフィレディアもマーベリア出身(コーキュリス家)だったことを想起する。

キャプテンの嘆願と“処刑”の現実
拘束されたキャプテンは「マーベリアに送れば全員死刑だ」と強く拒み、自身の罪(略奪・殺し)を認めた上で、部下の命だけでも助けてほしいと土下座する。トルクは商人として冷徹に、同情の余地はないと突き放すが、キャプテンの姿勢は場の空気にわずかな揺れを生む。

決定権の所在とニアへの視線
トルクは処遇についてニアに判断を求めるが、ニアは「師匠に聞け」と形式上の筋を通そうとする。にもかかわらず、キャプテンも賊も弟子たちもニアを見ており、キャプテンは「一番立場が上に見える」と理由を明言する。さらにキャプテンは過剰な忠誠の申し出まで行うが、リノキスが即座に拒否する。

ニアの逡巡と“理由があれば”という線引き
ニアは無罪放免は不可能と理解しつつ、キャプテンを完全には憎み切れなくなっている自分も認め、死なせれば寝覚めが悪いと感じる。そこで、処遇の実務はトルクに任せる方向を示し、「どんな決定でも理由があれば反対しない」と条件を付ける。同時に、最終決定は代表である冒険家リーノが下すべきだと整理し、リノキスへ確認を振る。

帰港と夏休みの終幕
こうして、撮影と出稼ぎに追われた小学部二年生の夏休みは、空賊騒動という“最後のハプニング”を伴って幕を閉じる。ニアたちはその思い出(そして賊という物理的な荷物)とともにアルトワールへ帰港し、二学期が始まる。

王都帰還後の報告会
出稼ぎの旅から王都へ戻った翌日、ニアは高級レストラン「黒百合の香り」の個室に弟子たちを集めた。同行していなかったリネットも同席し、フレッサの説明で旅の出来事を共有する流れとなる。食後、リノキスがセドーニ商会から聴取した最新情報を「冒険家リーノ」として報告する段取りに入った。

資金進捗と武闘大会の確定
貯金は夏の出稼ぎで八億クラムを突破した。二年で十億という目標が現実味を帯び、冒険家リーノの売名行為も奏功して「アルトワール随一」と呼ばれるほど名が売れた。結果として、十億投資で開催される大規模武闘大会は開催決定となり、計画はすでに動き出して当事者の手を離れつつある。残り二億については、セドーニ商会が出資を申し出ており返答は保留となったが、ニアは国王と相談して利権の形を整えるよう指示した。

協力への区切りと感謝
ニアは、切りが良いとして「十億クラムの件は達成」と宣言し、これ以上本業を持つ者たちを縛らない方針を示す。協力への感謝を述べ、場にはまばらな拍手が起こり、当初は冗談に見えた計画が成功に近づいた事実が共有された。

セドーニ商会“お抱え冒険家”提案
セドーニ商会から、今後も指定した獲物の狩りを依頼したい、つまり“お抱え冒険家”として関係を継続したい提案が出た。ニアは、全員が生粋の冒険家ではない点を踏まえ、受けるかどうかは各自判断でよいと整理し、必要なら小遣い稼ぎと恩返しを兼ねればよいとする。

「教えは終わるのか」という核心
フレッサが、十億の話が終わるなら「リリーから何も教えてもらえなくなるのか」と直球で確認する。アンゼルとガンドルフも同様に、曖昧にして継続を期待していた本音を漏らす。ニアはこの場で結論を出さず、「追々」と先送りしつつ、現状すでに「氣」の修行方法は教えており、最強を目指さないなら追加指導は多くないという認識を内心で固める。また、リネットについては別件として、兄へ「氣」を教えた責任を取らせる意図が示され、修行継続は既定路線となる。

空賊の正体とセドーニ商会の利用方針
細かな確認はニアだけで足りるとしつつ、全員が知るべき大きな報告として空賊の件が共有された。黒槌鮫団の大半はマーベリアの飛行船技師で、高性能飛行船の開発チームに属していたが成果を出せず職を失い、国を追われて空賊化したという。トルクはこの点を確認したうえで、来年の武闘大会準備という状況下、格安賃金で使える約四十人の男(うち半数が手に職の技師)を「利用しない手はない」と判断し、セドーニ商会の労働力として抱える方向に動いた。ニアは、双方が納得しているなら口出ししない立場を取り、この件も受け入れられるものとして扱う。

報告会の解散
一連の報告を終え、昼食会は解散となった。

エピローグ

新学期直前の寮生活
二学期開始を翌日に控え、ニアは寮へ戻ってようやく落ち着いた。文具の準備と、前倒しで片付けていた夏休みの宿題を確認し、休みらしい休みがほとんどなかった夏を振り返る。十億クラム計画を優先したため、王都・シルヴァー領の撮影に参加できなかった点が気掛かりとして残った。

ニールの代役と放送待ち
ニアは、欠けた撮影の穴埋めとして兄ニールが代役を務めたことを確認する。リノキスはリネット経由の話として、ニールが代役を見事にこなしたと伝え、ニアは二学期中の放送を楽しみに待つ姿勢を取る。レリアレッドはニア不在でも兄がいれば不満は出にくいだろうという見立ても示された。

果たし状の対応
ニアは指定時刻に合わせて外出し、サトミ速剣術道場へ向かう。炎天下の道場周辺には小学部から高学部まで幅広い年齢層の見物人が三十人ほど集まり、サノウィル・バドルやガンドルフの姿もあった。目的地では、赤い鉢巻で仁王立ちするキキリラ・アモンと学院準放送局が待ち構えており、準放送局の撮影でカメラが回っている状況だとニアは察する。

駆けっこ勝負の決着
キキリラからの果たし状は、日時指定での駆けっこ勝負の提案だった。開始合図と同時に走り出し、ニアは余裕を残して勝利し、キキリラは走って負けた経験が初めてだと愕然とする。ニアは「また挑戦してね」と模範的に返して場を収め、キキリラの執着がしばらく弱まる見込みを立てた。

放送されない結末
勝負自体は成立し、ニアの勝利で終わったが、その映像は放送されなかった。ニアは映像の世界の選別の厳しさを実感しつつ、二学期へ入っていく。

書き下ろし フレッサの仕事

影鼠亭の夜と追跡者たち
「薄明りの影鼠亭」は今夜も盛況である。カウンターには冒険家リーノことリノキスが座り、店員のフレッサが横に立つ。今や国内随一の稼ぎ手となったリーノを追う者は多く、店内外には密かな監視の目が潜んでいる。リノキスは一杯飲んでから帰る、その間に追跡者を撒く算段だ。裏事情を知る老バーテンダーのギースは余計な詮索をせず、拠点としての役目を果たしている。

ニア不在と進級試験の不安
ニアは一年生三学期で多忙を極め、進級試験への苦手意識を抱えつつも勉学は順調である。リノキスとリネットが交代で本業に当たり、出稼ぎと撮影の両立を続ける。フレッサは出稼ぎ同行を勧められるが、魔獣狩りは効率が悪いと判断している。彼女の本職は対人専門の暗殺であり、大型魔獣相手では収益と危険が釣り合わない。

本職の岐路
裏の仕事を続けることは、今の立場では危険を孕む。リノキスは「関係者に手を出せば私が殺す」と本気で警告する。フレッサはその言葉の重みを理解しつつ、いずれ廃業を考える。だが裏社会は簡単に足抜けできない。同業者の刺客が来る可能性もある。今の自分なら撃退できるかもしれないが、時期尚早とも感じている。

屋上の追跡回避
店を出たリノキスは「氣」による察知能力で監視の死角を探り、路地を駆け、壁や窓枠を足掛かりに屋上へ上る。追跡者を撒いた後、屋上で着替え、冒険家から町娘へと戻る。建物の上を移動し、アパートメントへ帰還する。追跡のプロでさえ帰路を掴めないのは、この手際の賜物である。

十億の対価と葛藤
フレッサは「氣」のレクチャー代としての十億クラムを、自身への投資と捉えている。借りは早く返したい。しかし効率的でない出稼ぎは失敗と怪我のリスクを増やす。闇闘技場は出禁、日雇い依頼は報酬が低く、盗みやカジノも問題を抱えている。打開策を模索するが決め手はない。

結論のない夜
ギースに「大人しく出稼ぎに行け」と言われつつ、フレッサは軽口でかわし、仕事に戻る。表情は変わらないが、内心は本気で悩んでいる。貸し借りを清算する方法、そして裏の仕事との決別の時期を。答えはまだ出ない。

倉庫街の夜と焦燥
春は近いが、夜気はまだ冷たい。倉庫街の闇に黒服のフレッサが立つ。酒場の店員とは別人の貌で、甘い香りと危うさを纏う。情報屋に金になる仕事を問うが、殺し以外で高額案件はないと即答される。闇闘技場、未認可カジノ、非合法の店が並ぶこの一角は王都で最も荒れているが、表向きは穏やかで監視も行き届く。派手な密入国や密輸の動きはなく、網は張られているという。

裏の力関係と抑止
外から流れてくる連中が牛耳ろうとすることはあるが、アルトワールの闇は弱くない。暗殺組織「脚龍」をはじめ危険な者は多い。フレッサ自身も密入国者だが、いまは目立つ動きは避けるべき局面だ。大きく稼げる案件は監視の目に触れやすく、足が付く。仕事がないというより、取れる仕事がない。

十億の対価と恐れ
必要額は最低百万。だが殺しは今はまずい。ニアの信頼を損ねることが何より怖い。学びはまだ多く、「氣」による強化の機会を手放せない。裏で生きるには強さが要る。少なくとも「脚龍」本家、「勇星会」、「猛獣傭兵団ビースト」、「四空王・白鯱空賊団の暴走王」級と遭遇しても生き延びられる力が欲しい。そしてその上にいる存在がニアであることを、フレッサは知っている。

廃業の気配と選択
暗殺を封じられた暗殺者。効率の悪い魔獣狩りでも出稼ぎに出るか、裏稼業を畳むか。情報屋と別れ、倉庫街を歩きながら、現実的な選択を天秤にかける。いまは派手な一手より、信頼を守る一手。普通に出稼ぎへ向かう方が早いかもしれないと、半ば本気で考え始めていた。

飛行船での訓練と対話
ニアの弟子たちは飛行船の一室を借りて訓練を行っていた。今回の相手はリネット・ブランである。剣を扱うリネットと暗器を使うフレッサは、武器を扱う者同士として互いの悩みを理解できる立場にあった。リネットは大型武器の使用を提案するが、フレッサは武器に固執しているわけではなく、自身の戦闘スタイルは効率を重視した暗器中心であると答えた。会話の最中も刃を交える緊張感は途切れず、フレッサの投擲技術は極めて鋭く、リネットの首元に一瞬で刃を突きつけるほどであった。

暗器の限界と魔獣戦の不適性
しかしフレッサの暗器は対人戦では致命的であっても、大型魔獣には威力不足であった。刃が急所まで届かず、致命傷を与えることが難しい。彼女の戦い方は対象を徐々に削る形式となり、その結果として魔獣の皮や素材に傷が増え、商品価値を下げてしまう。魔獣狩りにおいては一撃で仕留める力が求められ、フレッサの技術はその条件に適合しなかった。

出稼ぎでの評価と現実認識
数日の狩りを終えた帰路、リネットは率直にフレッサの狩りは効率が悪く、場合によっては足手まといになると指摘した。フレッサ自身もそれを理解していた。重打で粉砕する者、長剣で急所を断つ者に比べ、自身の攻撃は決定力に欠ける。暗殺者として完成された技術であっても、魔獣狩りという分野では中途半端な強さに留まっていた。

ニアの評価と今後の課題
フレッサはすでにニアに相談していたが、ニアは下手に助言すればフレッサの長所を損なう可能性があるとして、具体的な指導を避けていた。戦闘の次元そのものが異なるニアにとって、暗器主体の戦闘は参考になりにくい領域だったのである。結果としてフレッサは、自身の戦闘スタイルが対人戦に特化していること、そして魔獣狩りでは適応できていない現実を改めて認識することになった。

地下下水路の定期調査という仕事
路地裏の酒場で昔馴染みナスティンに仕事の有無を尋ねたフレッサは、予想外にも「殺し以外で実入りのいい仕事」があると聞かされる。それは王都地下下水路の定期調査であった。広大で入り組み、人為的に構造が変化する地下は、非合法の利用者が潜みやすい場所である。そのため抜き打ちでの調査が定期的に行われ、五日以内に終えれば三百――実際の総額は五百万クラムの報酬が出るという。

単独潜入の算段と「氣」への自信
通常は複数人で行う危険な仕事だが、取り分を考えれば単独行動が望ましい。フレッサは「氣」を身につけた今ならば、仮に自分より強い相手と遭遇しても逃走は可能ではないかと計算する。大型魔獣が生息している可能性は低く、対人戦であれば十分に対処できるという自負もあった。出稼ぎより効率的で、かつ自身の専門性に近い仕事である点も魅力であった。

揺れる自尊心と選択の動機
リネットから「足手まとい」と評された傷はまだ癒えていない。魔獣狩りでは中途半端と断じられた現実が、素直に出稼ぎへ戻ることを躊躇わせていた。十億クラムへの貢献も滞っている。だからこそ、稼げる機会があるなら掴みたい。地下調査はその条件を満たしていた。幽霊の噂もあるが、人除けのための流言である可能性が高いと判断する。

仲介料を巡る駆け引き
しかしナスティンの提示した仲介料は二百万。元の報酬五百万に対して過大ではないかと食い下がるが、ナスティンはリスクに対する正当な対価だと主張する。過去に酔い潰され財布を抜かれた恨みまで蒸し返され、これ以上の交渉は不利と悟ったフレッサは引き下がる。明日から着手する旨だけ告げ、地下下水路調査への参加を決断したのであった。

地下下水路調査の最終確認
翌朝、常連の喫茶店でナスティンから地下下水路の地図を受け取る。仕事内容は通路の確認と状況調査。宿無しは放置、チンピラは排除、組織的な拠点らしきものは深入りせず報告――過去に一度参加しているフレッサにとっては既知の内容であった。五日以内に全域を踏破できれば報酬は三百万。単独行動で取り分を確保する算段である。

正規ルートからの潜入
王都所有の小屋を通る正規の入口から地下へ入る。通常は施錠されているが、今回は事前に開けられている。地下は王都の排水を集約し、魔法処理によって浄化して海へ流す構造となっているらしい。詳細は知らずとも、アルトワールの下水は比較的清潔に保たれているという認識はあった。

闇と臭気の空間
梯子を下りた先には、石積みの通路と中央を流れる排水路。両端には歩道があり、壁には淡く光る魔石が埋め込まれている。しかし空気は淀み、正体不明の臭気が充満している。朽ちた魔獣か、動物か、あるいは人間か。陽光の届かぬ地下は、何があっても表に出にくい空間である。

初動の索敵と判断
しばし動かず目を慣らし、地図を確認しながら早足で進む。床には薄く埃が積もり、最近は人も獣も通っていない様子であった。この区画は潜伏向きではない。まずは人が溜まりやすい場所へ向かうべきだと判断する。
フレッサは、静まり返った地下通路を地道に踏査し始めた。

順調な踏破と違和感の不在
王都は十八区に分かれ、地下下水路も同様に区画管理されている。調査三日目、フレッサは既に半分以上を踏破していた。環境の不快さを除けば特筆すべき異変はない。チンピラの潜伏もなく、宿無しから得られた情報も乏しい。このままいけば四日目の夜には完了できる――そう見込んでいた。

現地での幽霊情報
だが調査中に出会った二人の宿無しから、思わぬ話が出る。白くひらひらしたものが第十区方面をすうっと移動していたという。酒場の噂と違い、現場での証言は重みがある。彼らが嘘をつく理由は薄く、命令で語らされている様子もない。幽霊そのものか、幽霊に見える何かが存在する可能性は高いと判断する。

第十区を最後に残す判断
宿無したちを倉庫街へ誘導し、調査を継続。四日目までに十七区の確認を終え、残るは第十区のみとなる。目撃情報があった区域をあえて最後に回したのは、予期せぬ事態に備えるためである。何かがある可能性は高いが、その正体は不明。

脅威の本質の推測
幽霊が実在する可能性を完全には否定しないものの、定期調査が入る地下に強大な霊的存在が居座るとは考えにくい。むしろ幽霊に見せかけた人為的な存在の方が現実的であり、脅威度も高い。
フレッサは警戒を強めつつ、第十区へ足を踏み入れた。面白い結末になることを、半ば楽しみにしながら。

第十区の異常と三人の痕跡
第十区に入ったフレッサは、床の汚れ、空気の停滞、そして直感から「ここだけ異質だ」と確信した。埃の乱れと土汚れを読み取り、靴跡が三種類あることを突き止める。頻繁な出入りの形跡があり、少人数で静かに動く手際の良さから、単なるチンピラではなく外国人の工作員やマフィアの類を疑う。
小規模なら現場判断で潰し、ついでに金目を回収できる。そう腹を決め、いったん引き上げて夕方に助っ人アンゼルを連れて戻る。

偽装された通路と密輸拠点の発見
「崩落注意」の立札とシートで偽装された壁を見つけ、板壁をずらすと人が通れる穴があった。穴の先には、過去に潰れた組織が残した広間があり、そこに大きな木箱が大量に積まれていた。
フレッサは壊した木箱から中身を確認しており、金属製の部品が詰められている。アンゼルはそれを単船の部品だと見抜き、地下の地図にない保管庫である以上、密輸の線が濃厚だと判断する。木箱は二百以上あり、運び出しの労力が問題になるため、二人は「相手を叩いて総取りする」案を現実的な選択肢として浮上させる。

魔法使いの介入と奇襲
上へ通じる梯子を確認し、状況を見極めようとした矢先、天井側から男の声が響く。遠視と送音の類で監視していた魔法使いが、侵入者に撤退を促す。
フレッサとアンゼルは警告を「準備が整っていないから時間稼ぎしたい」と読んで、撤退せずに突入を選ぶ。直後、木箱が壊れて金属片が大量に飛来する。フレッサは足を止めず、囮役をアンゼルに任せて梯子を上る。代償として高級酒四本を約束し、役割分担を確定させる。

単船の自動組み立てと密輸の狙い
アンゼル側では金属片の攻撃が脅威になりにくい。氣の習得で体感速度が落ち、回避と受け流しが容易になっていた。魔法使いは怒り、金属片を集めて形を成し、単船そのものを組み上げて飛ばしてくる。
部品が「バラして保管でき、自動で組み上がる」仕様であることが見え、密輸する理由が明確になる。これは禁制品か新製品級で、価値が高い可能性が高い。

地上拠点への突入と火球の迎撃
梯子の先は住宅地の一軒家に繋がる倉庫で、武器を持った男たちが待ち構えていた。フレッサは氣の優位で手早く制圧し、屋敷へ踏み込む。
玄関を開けた瞬間、巨大な火球が迫る。避ければ住宅地で爆発し、騒ぎが拡大して全てを失う。食らえば死ぬ。フレッサは暗器の鞭を抜き、ニアから教わった「氣拳・打裂」を土壇場で実行し、火球を破壊する。霧散しきれず火が飛び散るが、爆発は回避し、火事にも至らない。

魔法使い二人の捕獲
火球を放った青年魔法使いを追跡する途中、扉を飛ばす罠を回避。別室で杖を構えた若い女魔法使いを見つけるが、怯えて戦意がないと判断し、動くなと釘を刺して男を追う。
男は抵抗を続けられず殴り倒され捕獲される。フレッサは男を引きずり、女も連れて倉庫へ戻る。下の攻撃が止んだことでアンゼルも合流し、魔法使いがこの二人であることを確認する。

取引条件の提示
フレッサは相手の責任者が男であると見て、取引を持ちかける。目的は金であり、地下の荷を全て引き渡すなら命は見逃し、組織の背景も追わない。密輸の失敗、目撃者排除の失敗、国内法違反という状況で、ここで引けば「安い損切り」になると理詰めで突きつける。
フレッサは「小悪党二人に潰される程度なら、どのみち成功しなかった」と冷たく結論づけ、相手に選択を迫った。

調査報告の完了と偽装
調査五日目の夜、フレッサはアンゼルの酒場でナスティンに地図を返却し、地下下水路調査の報告を済ませた。内容は簡素で、特筆点は「第十区の壁が壊れていた」程度に留めた。ナスティンは追加を求めるが、フレッサは「寒さで宿無しも少なく、他に異常はない」と返し、報酬は後日支払いと告げられてやり取りは終わる。フレッサはそのまま店の仕事へ戻った。

密輸案件の後始末と距離の取り方
裏ではすでに密輸品は運び出し済みであり、魔法使いたちも飛行船で国外へ去っている。フレッサは相手の名前も組織も国も聞かず、深入りしない選択を徹底した。目的は金であり、面倒の種を抱える合理性がないためである。残る作業は、落ち着いた段階でブツを換金することだけとなった。

成果の見込みと次の展望
回収した品は「自動的に組み上がる最新型の単船」という未知の技術を含むとされ、フレッサは高値で捌ける可能性に期待を寄せる。これにより、出稼ぎに出られなかった期間の穴埋めができる見通しが立った。
当面はこの結果で十分であり、今後さらに「氣」を練磨すれば、大型魔獣狩りにも対応できる領域へ近づけるはずだとフレッサは考えた。実例としてニアがそれを成している以上、到達不可能ではない、という確信が支えになっていた。

特典ショートストーリー『酒場の女にねだられた』

撮影後の束の間の自由
撮影を終えたニアは、門限までのわずかな空き時間を得る。王都にリストン領簡易放送局が設けられたことで撮影は手軽になったが、その分ニアの負担は増えていた。寮へ直帰するのが順当ながら、貴重な学院外の時間を惜しみ、アンゼルたちの様子を見に行くことを選ぶ。付き添いのリネットに了承を得て、単身で路地裏の酒場へ向かった。

影鼠亭での再会と緊張
「薄明かりの影鼠亭」に入ると、客たちは静まり返り、自然と席が空く。アンゼルとフレッサが迎え、ニアは「一番強い酒」を注文するが、出てくるのはいつものジュースである。
本題は様子見――特に「氣」の練度の確認であった。二人は緊張するが、ニアは順調な成長を認め、その調子で続けるよう告げる。アンゼルとフレッサは安堵する。

ねだられる技と牽制
雑談の中、フレッサが甘く囁き「技を教えてほしい」とねだる。アンゼルも乗じるが、ニアがリノキスの名を出すと即座に引き下がる。
要望自体は理解できるものの、ニアは無手専門であり、武器の技を体系的に教えることはできないと説明する。無手の延長として武器を扱うことは可能だが、それは武器術そのものではないという立場である。

技の選別と示唆
無手の技、武器の技、双方で応用可能な技の三種があると整理し、自身が扱えるのは前二者のうち武器専門を除いた領域だと明かす。
それでも何か一つなら示せるものがあると考える。フレッサが鞭を使う点に着目し、適した技が思い当たる。ただし本来はまだ早い段階と認識しつつも、状況を見て教えることを検討する。

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