小説「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 2」少年期 家庭教師編【感想・ネタバレ】

小説「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 2」少年期 家庭教師編【感想・ネタバレ】

どんなラノベ?

引きこもりの無職だった男は、両親が亡くなった事で兄弟から家を追い出され。
交通事故に遭いそうになった高校生達を助けたら轢かれてしまい死亡し転生した。

今度の生は諦めずに努力して行こう。
前のようにはなりたく無い。

そう思いながら、魔法をロシツキーに習い。

その後、シルフィと仲良くなったがお互いに依存が強いと父パウロが判断して、フィットア領の本家のお嬢様の家庭教師に送られてしまう。

そこでお嬢様のエリスに勉学を教えながら、猫獣人のギレーヌから剣を習う日々を送っていたある日。

前巻からのあらすじ

転生したルーデウスは当初は転生前の性格に引っ張られていたが、、
魔法が使えると判ると家庭教師のロシツキーに魔法を教わり、彼女から「もう何も教える事は無い」と言われてロシツキーは去る。
その次に同じ村の子、シルフィーと出会い彼女に魔法を教える。

ルーデウスがシルフィーと学園に通いたいと言い。
そのためにお金を稼ぎたいとも言う。

ついでにルーデウス、シルフィーがお互いに依存している事に危惧した2人の両親は相談の末。

ルーデウスを主筋の令嬢の家庭教師に派遣して5年間帰って来るなと命令して彼を派遣してしまう。

読んだ本のタイトル

無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 2
著者:#理不尽な孫の手 氏
イラスト:#シロタカ  氏

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あらすじ・内容

生前34歳無職ニートだった男は、異世界で生まれ変わり、新たな人生を歩み出していた。そんな男ルーデウスは、フィットア領で一番大きなロアという都市に住むお嬢様の家庭教師の仕事を授かる。家庭教師ぐらい何とかなるだろうと思っていたルーデウスだが、生徒であるお嬢様――エリスは彼の想像を絶する乱暴者だった……!? 言うことを聞きそうにないエリスを何とか従わせるため、ルーデウスはある作戦を決行することに! ルーデウスの人生始まって以来の重大任務が始まる――。憧れの人生やり直し型転生ファンタジー、第二弾! 大反響により早くも登場!

(以上、Amazonより引用)

感想

シルフィと学園に通うための学費を稼ぐために主筋の暴力的なお嬢様、エリスの家庭教師に就任するルーデウス。

最初は暴力を振るわれて辟易していたが共に誘拐され。
一緒に脱出したら何とか仲良くなれて勉強に何気に付き合ってくれるようになった。

と言ってもいつも一緒に居るギレーヌの実体験の話で興味をひけたのだが、、

彼女は確実に成長して行った。
誕生パーティーを秘密裏に進められ、サプライズで祝われるほど主筋の家族とも打ち解けて。

人生も順調と思われたが、、

いきなりの魔法的な事故で、その場に居た人達が各地に飛ばされてしまう。

住民全員がランダムな場所に飛ばされてしまう。

ギレーヌとも別れてエリスと2人で魔大陸に飛ばされてしまう。

主筋の家族は?
ルーデウスの家族は?
シルフィーは無事なのか??

そもそも、魔大陸から無事に元居た所に戻れるのだろうか?

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展開まとめ

第二章 少年期 家庭教師編

プロローグ

野獣からの逃走

ルーデウス・グレイラットは一匹の野獣から逃げ続けていた。階段や庭を駆け抜け、時には魔術で屋根に登りながら必死に距離を取ろうとした。しかし赤い髪を翻す相手は執拗に追いすがり、努力で鍛えた体力と剣術の自信は打ち砕かれた。息が限界に達し、隠れるしかないと判断したルーデウスは観葉植物の陰に身を潜めたが、館中に響く絶対に許さないという怒声に震え上がった。

ルーデウスの過去と転生

ルーデウスは七歳の少年であり、前世は三十四歳無職の男であった。両親の葬式を欠席して家を追われ、失意の中で事故死したが、記憶を保ったまま転生していた。前世を悔い改め、七年間真面目に生きることを誓い、語学や魔術、剣術に励み、家族と良好な関係を築き、シルフィという幼馴染も得ていた。

家庭教師としての赴任と現状

シルフィと同じ学校に通うための学費を稼ぐ目的で、ルーデウスは城塞都市ロアへ向かった。雇い主の娘に五年間勉強を教えれば学費が支払われる契約であった。しかし現在、ルーデウスは少女の姿をした暴力の化身に追われ、観葉植物の陰で怯えていた。なぜこの状況に至ったのかは、一時間前へと遡るのであった。

第一話「お嬢様の暴力」

ロア到着と街の把握

夕方、ルーデウスはロアの町へ到着した。城壁と門、露天商、馬屋や宿の並びに活気を感じ、ギレーヌ・デドルディアに乗合馬車の待合所や各種の店を教えられた。町は門周辺に冒険者向けの店が集まり、奥へ進むほど裕福な区域となり、中心に領主の館がある構造であった。

館での面接と家系の判明

館では応接間に通され、やがて領主サウロス・ボレアス・グレイラットが現れた。礼儀を知らないと叱責されるが、できる限り丁寧に挨拶し反省したことで滞在を許された。執事の説明により、サウロスがパウロの叔父であり、ルーデウスにとって大叔父に当たると判明し、パウロが実家の縁を利用した事情が見えてきた。

フィリップの評価と作戦の提案

若旦那フィリップ・ボレアス・グレイラットは貴族の挨拶を教えつつ、ルーデウスに大きな期待はしていないと告げた。女の子が好きかを尋ね、パウロの気質になぞらえて合格としつつも、お嬢様が教師を次々解雇してきた事実を語った。ルーデウスは勉強の重要性を自覚させるため、誘拐を装って共に脱出し館へ戻る芝居を提案し、フィリップは面白い策だとして娘に会わせることにした。

お嬢様との衝突と暴力の現実

ルーデウスが面会した赤髪の少女は露骨に見下し、年下に教わるのは冗談ではないと拒絶した。ルーデウスは歳は関係ないと返し、彼女ができないことがあると突いたことで激昂を招いた。彼女はルーデウスの頬を打ち、ルーデウスは殴り返して痛みを教えようとしたが、即座に組み伏せられて殴打され、魔術で脱出した後も執拗に襲いかかってきた。力で従わせる選択は誤りであり、相手は卑怯な手も辞さず復讐してくると悟ったルーデウスは、転がるように逃げ回ることになった。

作戦決行の決意と不安

やがてお嬢様は疲れて引き上げ、ルーデウスは半泣きでフィリップに戻り、どうにもならないが諦めないと告げて例の策の実行を求めた。自室では殴られた痛みを治癒しつつ、生前の追放と違い今回は仕事も寝床も用意されている点で状況が異なると整理した。しかしお嬢様の暴力性は想定を超えており、誘拐を装っても当然の顔で罵る反応すらあり得ると考え、失敗できない重圧の中で手順を思案し、最後は神頼みをした。だが御神体を自室に置き去りにしたことに気づき、ここに神はいないと嘆いた。

お嬢様の人物像

お嬢様はフィットア領主の孫で、凶暴で言うことを聞かない性格であった。読み書きは自分の名前が書ける程度で、算術は一桁の足し算まで、魔術はできず、剣術は剣神流の初級であった。礼儀作法としてボレアス流の挨拶はでき、好きな相手はおじいちゃんとギレーヌであった。

第二話「自作自演?」

監禁の目覚めと作戦の確認

ルーデウスは小汚い倉庫で目覚め、痛みを抱えながらも骨折がないことを確かめ、治癒魔術で回復した。後ろ手の縄も問題にせず、これはお嬢様を籠絡する自作自演の計画の途中であり、服屋への外出から人さらいの拉致監禁までが筋書き通りに進んだと整理した。ただし、監禁場所が想定より荒れている点に違和感を覚えた。

お嬢様の覚醒と誘拐犯の暴力

目覚めたお嬢様は縛られた状態で叫び散らし、そこへ山賊然とした男が現れた。男はお嬢様を臭いと罵り、蹴り飛ばして踏みつけ、唾を吐きかけたうえで、ルーデウスにも蹴りを入れて退室した。扉越しの会話は演技の域を超え、傷つけすぎると値が下がる、最悪は男の子だけでもよいといった発言が混じり、計画と齟齬があるとルーデウスは察した。

治癒と耳打ちの失敗

ルーデウスは縄を焼き切ってお嬢様の状態を確認し、骨が二本折れていると判断して中級の治癒魔術で癒した。誘拐が領主への怨恨による可能性を伝えようとしたが、お嬢様は聞かずにギレーヌを大声で呼び、男が再突入してより激しく蹴られる結果を招いた。お嬢様は血を吐き、内臓の損傷も疑われたため、ルーデウスは初級の治癒魔術で致命傷を避ける処置をした。

状況の異常と脱出方針の転換

ルーデウスは扉越しに、売り払うか身代金にするかを相談する会話を聞き、作戦が本物の誘拐へ逸れている可能性を受け入れた。魔術で誘拐犯を倒せば尊敬されるという筋は成り立ちにくく、相手の強さ次第では自分が殺される危険もあるため、誘拐犯への正面衝突を避けて脱出を優先すると決めた。

脱出口の構築と恐怖の誘導

ルーデウスは土と火の魔術で扉の隙間を埋め、ドアノブを溶かして開きにくくし、保険をかけた。次に小窓の鉄格子を、水の魔術で周囲の土を溶かして丸ごと外し、子供が通れる脱出路を確保した。そのうえで、お嬢様に今夜仲間が来てなぶり殺しにすると告げて恐怖を煽り、自分は逃げると言って窓へ向かった。

服従の約束と共同脱出

扉が開かないと外で騒ぎが始まり、お嬢様は置いていかないで助けてと懇願した。ルーデウスは家に着くまで言うことを聞くこと、そして大声を出さないことを約束させ、破れば置いていくと冷徹に告げた。土の魔術で扉を埋めて時間を稼ぎ、縄を焼き切り、治癒魔術で傷を完全に癒した後、鉄格子の穴から外へ出てお嬢様を引き上げ、脱出を開始した。

脱出直後の町と約束の再交渉

倉庫を出た先は城壁のない見覚えのない町で、少なくともロアではなかった。お嬢様は逃げ切ったと誤解して大声を出し、約束を破るが、追手の怒号が聞こえると怯えて戻り、大声を出さないと撤回した。ルーデウスは家庭教師として未雇用である点を突き、館に戻っても約束を破らない確約と、指示に従うことを淡々と約束させた。

資金の運用と追手の足止め

ルーデウスはパンツに仕込んだアスラ大銅貨五枚を取り出し、町の入口の門番に一枚渡して、追手には町の外へ出たと伝えるよう依頼した。さらに乗合馬車の待合所で、現在地がロアから二つ離れたウィーデンであると把握した。お嬢様は文字が読めず、ルーデウスは読める利点として利用方法が書かれている点を示した。

追手の接近と移動計画の説明

怒号が近づくと、ルーデウスはお嬢様を抱えて待合所のトイレに隠れ、追手が去るまで待機した。ルーデウスはここからロアへ戻るには乗合馬車の乗り換えが必要で、到着時刻の都合で一晩宿泊しなければならないと説明した。資金はぎりぎりであり、釣り銭をごまかされれば帰路が途絶え、追手に追いつかれると示し、算術の重要性を恐怖と結びつけて理解させた。

隣町への移動と粗末な宿泊

出発時刻に合わせて馬車に乗り、隣町へ問題なく移動した。ルーデウスは世の中の苛酷さを教えるため、藁のベッドしかない粗末な宿を選んだ。お嬢様は物音に過敏に反応し、怯えを繰り返して眠れず、翌朝も後方を警戒し続けた。追手らしき者は現れず、ロアまで到達した。

ロア到着直後の再襲撃と交渉決裂

城壁を越え領主の館が見えると安全だと油断した直後、お嬢様は路地裏へ引きずり込まれた。ルーデウスは二秒の遅れで気づき、追跡すると二人組が現れ、片方は剣先をお嬢様の首筋に当てて後退した。相手はルーデウスを護衛の魔術師、あるいは魔族だと見なし、ルーデウスは未雇用だがこれから雇われる予定だと返した。相手は金目当てと決めつけ、変態貴族への売却や身代金で金貨一〇〇枚になると持ちかけた。

金と「助ける理由」の選択

ルーデウスは金の大切さを理解していると認めつつ、金より大切なことがあると述べ、金ではデレは買えないと言い切って交渉を切った。相手はお嬢様を人質にし、火球を空へ撃てと脅したため、ルーデウスは発射前に魔力操作で火球を細工し、空中で巨大爆発を起こして視線を逸らした隙に攻勢へ移った。

魔術戦と致死の危機、ギレーヌの介入

ルーデウスは風の真空波で一人の腕を切り落とし、お嬢様を抱えて離脱を図ったが、もう一人は岩砲弾を剣で断ち切るほどの腕前であった。ルーデウスは火球と泥沼で動きを止めたと確信するが、相手は剣を投げて頭を狙い、避けられない死を意識した。直前にギレーヌ・デドルディアが割り込み、剣を弾き、続けて赤い剣閃で二人を瞬殺した。ルーデウスは殺し合いの現実と死の恐怖を強く自覚した。

帰還後の結末と家庭教師就任

館へ戻ると、お嬢様は緊張が解けて座り込むが、メイドの手を払いのけて立ち上がり、約束が終わったから喋ってよいと大声で宣言した。ルーデウスは失敗を直感するが、お嬢様は特別にエリスと呼ぶことを許すと言い、家庭教師として受け入れる意思を示した。ルーデウスは礼を述べ、エリスは様はいらないと返し、倒れ込んだ。こうしてルーデウスはエリス・ボレアス・グレイラットの家庭教師となった。

エリスの整理情報

エリス・ボレアス・グレイラットはフィットア領主の孫で、凶暴だが言うことを聞かないこともない段階に変化していた。読み書きは自分の名前、算術は足し算までで、魔術には興味を持ち、剣術は剣神流初級であった。礼儀作法としてボレアス流の挨拶ができ、好きな相手はおじいちゃんとギレーヌであった。

間話「後日談とボレアス流挨拶」

誘拐事件の黒幕と政治的処理

誘拐事件の裏で糸を引いていたのは執事のトーマスであった。トーマスはならず者が口にした変態貴族と繋がっており、以前からエリスに目を付けていた相手の要求に乗って、金目当てで二人の男を作戦に組み込んだ。結果として、ルーデウスが想定以上に魔術を扱えたこと、実行役が忠実ではなかったことが誤算となった。変態貴族は証拠不十分や関係性の立証困難を理由に罪を免れ、曖昧な部分は政治的に掘り返されず処理された。表向きはギレーヌが事件を全て解決したことになり、剣王ギレーヌを食客として抱える家の強さを示して抑止に用いる方針となった。ルーデウスも、事情を聞かれたらギレーヌの手柄として語れと厳命され、自身の存在が他のグレイラット家に知られることを避ける意図が示唆された。

フィリップの立場と応接間での説明

ルーデウスは応接間でフィリップから一連の事情を聞かされ、口裏合わせの指示を受けた。フィリップは単なる領主の息子ではなく、ロアの町長として事件処理を取り仕切っていた。ルーデウスが余裕を問うと、行方不明のままなら慌てていると返し、現時点で収拾がついていることを前提に淡々と進めた。

サウロスの乱入と「嘘」の強要

話の最中、サウロスが扉を乱暴に開けて乱入し、ルーデウスの頭を掴んで撫で回し、エリスを助けた件を問い詰めた。ルーデウスが「秘書が勝手にやった」と取り繕うと、サウロスは嘘を咎め、フィリップに矛先を向けて拳で殴り倒した。サウロスは、恩人に礼を言わせず貴族の芝居に巻き込むのは許せないと激昂した。

フィリップの理屈とサウロスの納得

殴られたフィリップは動じず、パウロが勘当されていても血筋はグレイラットであり、ルーデウスは家の一員であるため、上辺の報奨より家族として温かく接するのが礼だと主張した。サウロスはその理屈を受け入れ、殴ったことは謝らずに場を収めた。

魔術指導の依頼とルーデウスの条件提示

サウロスはエリスに魔術を教えてほしいと頼み、エリス自身がルーデウスの魔術に強い興味を示していると説明した。ルーデウスは、頼むべきはサウロスではなくエリス本人であり、本人が頭を下げて言うべきだと切り返した。サウロスは拳を振り上げるが、ルーデウスは頭を下げるのを嫌がる態度がエリスの悪い手本になると指摘し、甘やかしを改める必要を示した。

サウロスの号令とエリスの来室

サウロスは大音声でエリスを呼びつけた。館では伝言を使用人に頼む文化が薄いらしく、サウロスは嵐のように現れて扉を開け放ち、すぐ閉めることを好まない性分であると補足された。やがてエリスが勢いよく入室し、祖父の所作を基準に行動している様子が描かれた。

頭を下げろという教育と雇用の脅し

サウロスは、頼みごとをするなら自分で頭を下げろとエリスに命じた。エリスは不満を示し、祖父が頼んでくれる約束だったと抗議するが、サウロスはエリスが頼まないならルーデウスの雇用は無しだと宣告した。エリスは屈辱と怒りで顔を赤くしつつ、言葉を絞り出そうとするが、サウロスに態度を咎められる。

ボレアス流の「頼みごと」発動

追い詰められたエリスは、赤髪を掴んで即席のツインテールを作り、ウインクまで付けて、語尾を飾った異様な「お願い」の型を披露した。ルーデウスは恐怖を覚え、可愛い仕草のはずが捕食者の目にしか見えないと感じた。サウロスは一転して好々爺のようにデレデレし、獣族好きの嗜好が露呈した。執事の説明によって、ギレーヌの雇用もサウロスの鶴の一声だったことが示された。

フィリップの加勢と一族の性質の理解

フィリップも現れて、型の改善点として腰の突き出しやしな作りを助言し、ルーデウスは父パウロを含めてグレイラット家の気質を再認識した。ルーデウスが男も同じ頼み方をするのか問い、サウロスは男は男らしくしろと叱り、性的嗜好の線引きがあることも示した。

全面廃止への反転と後味

ルーデウスはエリスの屈辱と怒りを改めて観察し、この風習を二人きりの場で要求すれば危険だと結論づけた。ルーデウスは大音声で「それが人にモノを頼む態度か」と叫び、長時間の演説を行い、最終的にボレアス流の「頼みごと」は全面的に廃止された。ギレーヌからは褒め言葉を受けた一方で、エリスからはなぜか冷たい視線を向けられる結末となった。

第三話「凶暴性、いまだ衰えず」

家庭教師一ヶ月の現実と科目の偏り

ルーデウスが家庭教師になって一ヶ月が経過したが、エリスは算術と読み書きの授業になると姿を消し、剣術の時間まで戻ってこなかった。説得しても逃げ、捕まえようとすると殴って逃げ、追えば戻ってきて殴ってから再び逃げるという悪循環であった。一方で魔術の授業だけは例外で、初めて火球を出した際には燃えるカーテンに満足し、放火魔のような表情で「大きな花火」を夢想するほどの熱意を見せた。ルーデウスは危険性を悟り、見ていない場で火の魔術を使うことを厳命したが、他教科へ意欲が波及する期待は外れた。

隠れ場所の熟知と過去の家庭教師の末路

エリスは屋敷の土地勘を活かして巧妙に隠れ、過去の家庭教師たちも発見に苦労していた。見つけた教師は叩きのめされることが多く、逆に暴力で抑えた教師も夜襲で重傷を負って退職したという。夜襲・朝駆けを返り討ちにできたのはギレーヌだけであり、ルーデウスは自力で対抗する未来を避けたかった。フィリップは算術と読み書きこそ重要だと譲らず、ルーデウスは現実的にエリスを「授業に出させる」手段を求めることになった。

馬小屋での発見と自爆に近い失策

ルーデウスは馬小屋の藁束で腹を出して眠るエリスを発見した。風邪対策として服を直しつつ、軽率な悪ふざけに踏み込みかけた瞬間、エリスは目を覚まし、鳩尾へ強烈な一撃を叩き込んだ。ルーデウスは悶絶し、エリスは鼻息と蹴りだけを残して去った。エリスの凶暴性が睡眠中すら衰えていない現実が突き付けられた。

ギレーヌへの助力要請と「苦労話」による説得

ルーデウスは発想を切り替え、ギレーヌの言葉で算術・読み書きの必要性を語らせればエリスが従うと見込んだ。ギレーヌは当初渋るが、ルーデウスの泣き真似混じりの頼みで引き受けた。休憩時間にギレーヌは、冒険者時代に契約書や売買、地図・案内板、物資管理などを仲間任せにしていた結果、仲間と別れた後に困窮した体験を語った。食料配分に失敗して飢え、極限状態で不衛生なものを口にして体調を崩し、さらに魔物の群れに遭遇しかけたという話まで続き、ルーデウスは胃が痛くなる一方で、エリスは武勇伝として目を輝かせた。翌日以降、エリスは算術と読み書きの授業に出るようになり、ギレーヌの効果が証明された。

算術導入と「屁理屈」への対処

授業では四則演算から始め、エリスは足し算はできるが引き算が苦手で、掛け算・割り算の必要性に反発した。「均等に分ける必要があるのか」と論点をずらすエリスに対し、ルーデウスは「使わない自由」と「できない不利益」を切り分けたうえで、ギレーヌに実例を求めた。ギレーヌの飢餓体験談が再び投下され、エリスは割り算を覚える動機を得て、反復練習へ移行した。

剣術訓練と成長実感

ギレーヌは剣術指導でも具体的で、踏み込み・観察・半身ずらし・足先と目線からの予測などを要求し、ルーデウスは殴られながら矯正された。エリスは算術の鬱憤を晴らすように容赦なく殴り、ギレーヌが止めるまで続いたが、ルーデウスはエリスという近い実力の相手がいることで成長を実感した。技量差が大きすぎたパウロ相手では「何が起きたか分からない」状態になりがちだったが、エリス相手なら失敗と改善が具体的に積み上がると整理した。

感覚派と理論派の差、そして恐怖の課題

訓練後、ギレーヌはルーデウスが攻め込まれると身体が鈍る癖を指摘し、本人は「本気で襲い掛かられるのが怖い」と認めた。エリスは情けないと殴るが、ギレーヌは魔術師としてそれで良いと断じ、ただし足が竦む癖の直し方は自力で探れと突き放した。加えてギレーヌは「感覚派」は悪くないが、頭を使わなければ強くなれず人にも教えられないと述べ、自身は理論化によって剣王に至ったと語った。ルーデウスは魔術も感覚寄りだと自覚しつつ、師匠ロキシーの教え方が自分を伸ばした点を振り返り、基礎の不足を考え始めた。

書庫探索とヒルダの冷遇、魔術教本の正体

午後の自由時間、ルーデウスは魔導書を期待して書庫を訪ねたが、置かれていたのは主に持ち出し禁止の財政資料で、魔導書は希少だと知った。道中でフィリップの妻ヒルダに挨拶するが、舌打ちで無視され、ルーデウスはショックを受ける。書庫では歴史書を見つけ、暇に学ぶつもりを固めた。夜は授業準備として算術の問題と書き取りを作り、魔術教本で予習した。教本は千年前から写本され続けた定番で、師匠に付かずとも魔術が学べる環境を広げ、約五十年前から普及が進んだとされる。奥付には「ラノア魔法大学 発行」とあり、ルーデウスは大学の商売の巧みさを理解した。

エリスの現状整理

事件やギレーヌの介入を経て、エリスは凶暴さを保ちつつも授業参加は増え、読み書きは家族の名前まで、算術は引き算が怪しい段階に至った。魔術への意欲は継続し、礼儀作法も一般的な挨拶ができるようになり、好意の対象は祖父サウロスとギレーヌであることが示された。

第四話「職員会議と日曜日」

凶暴性の再燃と原因の特定

半年ほどが経過し、最近おとなしかったエリスが再び凶暴に戻り始めた。ルーデウスは原因を探り、「休みが無い」ことがストレスの蓄積につながっていると気づいた。特に算術で苛立ちが顕著で、難問に当たると当たり散らす危険が増していた。

教師会議の招集と休日制度の提案

夕食後、ルーデウスはギレーヌと礼儀作法の教師エドナ・レイルーンを呼び、授業計画の再編を提案した。従来は食事とおやつの区切りで一日三教科を回す運用で、ルーデウスの加入によって夕方まで学習が詰まり、結果として休みが消失していた。ルーデウスは七日のうち一日を「授業を一切しない日」とし、残り六日で六科目(読み書き・算術・魔術・歴史・剣術・礼儀作法)を回す方針を示した。週の概念がない世界の事情を踏まえつつ、覚えやすさと「七」の縁起の良さも理由にした。

配分の調整と連携体制の整備

エドナは礼儀作法の授業回数減に伴う給与を懸念したが、月給制で問題ないと確認された。実際の配分は、剣術と魔術は継続性を重視しつつ、読み書き・算術は回数を増やし、魔術の使用回数を算術問題に組み込むなど、反復練習と実用を結びつける形で進めた。また、教師側の欠勤や長期休暇が発生した際はルーデウスに連絡し、空いた時間に代替授業を入れて穴を埋める運用を提案した。さらに毎月初めに教師間の集会を行い、連携と突発対応の効率を上げる枠組みを作った。こうしてルーデウスは「休日」を獲得した。

初めての休日と町の観光への同行

最初の休日、ルーデウスはフィリップに挨拶して町へ出ようとするが、入口でエリスとギレーヌが待ち構えていた。エリスは「ずるい」と不満を爆発させつつ同行を主張し、ルーデウスは安全面でも利があるとして受け入れた。ギレーヌは護衛任務として同行し、ルーデウスには「力を過信するな」と釘を刺したうえで、何かあれば助けると明言した。ルーデウスは「叫び過ぎは危険」という誘拐時の教訓を踏まえ、助けを呼ぶ状況の教育が必要だと認識した。

ロアの市街観察と相場の学習

城塞都市ロアは外壁に囲まれた大規模な町で、商業エリアには露店と店が混在していた。ルーデウスは露店の商品名と値段をメモし、相場の把握を試みた。メモが日本語で読めず苛立つエリスに対し、ルーデウスは価格差を例に「値切って買い、別の店で売れば利益が出る」という発想を算術問題として提示したが、エリスの計算は混乱し、ルーデウスが正解を示して矯正した。露店の店主は転売を咎めるが、ルーデウスは情報提供程度に留めると言い、ギレーヌは会話を真剣に聞く側に回った。相場調査の「役立ち」を問うエリスに対し、ルーデウスは結論を押し付けず「自分で考え、役に立つなら真似し、不要なら笑えばいい」と返した。

本屋での辞典価格と金銭感覚の教育

外側のエリアで本屋に入り、一般本は金貨一枚前後、鍵付きケースの本は平均金貨八枚以上と高額であることを確認した。植物辞典が金貨七枚と知り、ルーデウスはゼニスが誕生日に贈った本の価値を改めて実感した。エリスは祖父に出させて本を買ってやると言い出すが、ルーデウスは「自分の自由にできる金ではない」と断り、給与の現実(ルーデウスは月に銀貨二枚)と、実績・肩書き・護衛任務を持つギレーヌの待遇差を説明した。誰かに買い与えるのは「自分で稼げるようになってから」と線を引き、代わりに小遣いを持たせて金の使い方を学ばせる方向を示したことで、エリスは一時しおれるが、直後に期待で機嫌を戻した。

空中城塞の目撃とペルギウスの史実確認

帰路、夕焼けの空に浮かぶ城をルーデウスが発見し、周囲が平然としていることに驚く。ギレーヌはそれを『甲龍王』ペルギウスの空中城塞だと説明した。エリスは知識を誇り、ペルギウスが魔神ラプラスを倒した三英雄の一人で、十二人の下僕を率いて空中要塞から本拠地へ乗り込んだと語った。ルーデウスは帰宅後にフィリップ経由で資料を取り寄せ、実家にあった『ペルギウスの伝説』が史実として通用する内容だと確認した。ペルギウスは召喚魔術で十二の使い魔を作り、古の空中城塞『ケイオスブレイカー』を復活させて決戦に臨み、ラプラスを完全消滅には至らず封印に留めたこと、功績から年号が『甲龍暦』になったこと、そして空中城塞で世界の空を飛び回っているらしいことが記されていた。ルーデウスは「四百年以上生きているのか」と疑問を抱きつつ、いつか行きたいと憧れを抱いた。

休日の効果と学習意欲の変化

休日の翌日、エリスの機嫌は極めて良く、休日制度が正解だったと裏付けられた。再び連れて行けと要求する際、エリスは一度「ボレアス流」の頼み方を持ち出しかけるが、ルーデウスが即座に制止し、エリスは渋々通常の頼みに戻った。さらに「いい子にしていないと連れて行かない」という条件を理解し、授業への意欲を見せた。

エリスの現状整理(更新)

エリスは「やや凶暴」程度に落ち着きつつ、言うことを聞く姿勢が増えた。読みは向上し、算術は桁の変わる引き算も可能になった。魔術は初級修行中、剣術は剣神流初級、礼儀作法は普通の挨拶ができる段階で、好意の対象は祖父サウロスとギレーヌである。

第五話「お嬢様は十歳」

一年の成果とエリスの成長

一年が経過し、エリスの教育は全体として順調に進んだ。剣術は特に才能が突出し、十歳前に剣神流の中級へ到達した。ギレーヌの見立てでは数年内に上級も視野に入る水準であり、エリスの天性が示された。一方、ルーデウスは剣術の才能がないと評価され、視線を逸らされる形で現実を突きつけられた。読み書きは騙されて奴隷に売られる危険をギレーヌに示され、危機感から実用レベルへ近づいた。算術は伸びが遅く、苦手が残ったが、ルーデウスは高度数学を求めず「五年で四則演算」が目標だと割り切った。魔術は詠唱による初級は概ね修得したものの、無詠唱は伸び悩み、シルフィとの差に迷いが生じたが、剣士であるエリスとギレーヌには雑事で使える初級の反復が有効だと判断し、方針を維持した。

十歳の誕生日準備とダンス特訓の混乱

十歳の誕生日は貴族の大規模行事であり、館の大広間と中庭を開放して領内から贈り物が集まり、近隣貴族が招かれる。サウロス主導では無頼な立食酒飲みの計画だったが、フィリップの介入で中級貴族も参加しやすいダンスパーティへ変更された。屋敷は準備で慌ただしく、メイドすら全力で走る状況となった。主役のエリスは礼儀作法の強化期間に入り、ルーデウスの授業は停止して暇になった。だが礼儀作法の仕上がりも芳しくなく、エドナは疲弊しつつ訓練増加を要望し、エリスは一日中つきっきりで鍛えられる日が続いた。

エリスの逃亡と説得役の引き受け

ある日、エリスは「もういい!」と部屋を飛び出して廊下を全力で逃走し、追って出たエドナはため息をつく。原因はダンス練習で、うまくできないためダンスになると姿を消す癖がついたことだった。エドナは「十歳の誕生日で笑いものになるのはあんまりだ」と訴え、ルーデウスに説得を依頼した。ルーデウスは、五歳刻みの盛大な誕生日が人生で三度しかないこと、些細な失敗が長く尾を引く苦い記憶になり得ることを思い、自身の過去の後悔も重ねて引き受けた。

干し草の上での対話と決断

ルーデウスは馬小屋裏の干し草に寝転ぶエリスを見つけ、隣に座ろうとして蹴り落とされる。追撃はなく、エリスは空を見上げたまま不機嫌を維持し、ダンスは「必要ない」「誕生日も絶対踊らない」と断言した。うまくできないことを強いられる理不尽への反発であり、ルーデウスは必要性を論理で説くことが難しいと悟る。代わりに「できないことだからこそ、できた時の達成感が大きい」という方向で寄り添い、手伝うと申し出たが、エリスは拒否を続けた。会話が途切れた直後、エリスは突然立ち上がり「練習に戻る、ついてきなさい」と決め、ルーデウスも同行した。

ダンス指導の核心発見と矯正法

練習再開後、ルーデウスは初心者ステップをあっさり覚え、エドナに「才能がある」と褒められるが、エリスは不機嫌になる。ルーデウスは観察から原因を二つに整理した。第一に、エドナは「こういうものだから覚えなさい」という教え方で、要点や理由を示さないため理解の足場が弱かった。第二に、エリスの動きは速く鋭く、自分のペースを崩されるのを嫌う剣士向きの特性が、相手に合わせる必要があるダンスでは障害になっていた。そこでルーデウスは訓練を剣術の形に寄せ、「目を閉じて自分のリズムで揺れる」「手拍子に合わせて避けるつもりでステップを踏む」「手拍子直前に声を入れてフェイントに釣られない」といった方法を導入した。これはギレーヌの攻撃を避ける稽古の応用であり、エリスはフェイントを見切る感覚でリズムを合わせられるようになった。ルーデウスは「一つの授業で学んだことは他にも応用できる」と教え、エリスは珍しく素直に頷いた。エドナは剣術とダンスの親和性に目を開き、ルーデウスの知識の集積を称賛し、エリスも胸を張って同調した。

誕生日パーティ本番と最初の相手役

当日、サウロスが開幕を宣言し、フィリップ夫妻は取り入りに来る貴族を隙なく捌き、サウロスは大声と理不尽で直談判勢を退散させた。貴族たちは最後に主役エリスへ殺到するが、エリスは「父に伝える」と繰り返すだけの受け答えで乗り切った。ダンスの時間となり、ルーデウスは予定通りエリスの最初のパートナーを務める。エリスは緊張で固まり、暴発の危険すらあったため、ルーデウスは軽い視線と踏み込みでフェイントを入れていつもの反応を引き出し、緊張を崩した。多少足を踏まれつつも転ばずに踊り切り、エドナも変化を見て取った。

料理の確保と“モテ期”の発生

役目を終えたルーデウスは料理を漁り、珍しい品やケーキを食べる。警備中のギレーヌが涎を垂らしているのを見て、ルーデウスは料理をナプキンに包み、後で自室へ運ばせる段取りを取った。すると中級貴族の娘が次々とダンスを申し込み、年齢も幅広く押し寄せた。断りにくさから基本的に相手をし、疲弊したところでフィリップが理由を説明する。サウロスが「最初にエリスと踊った少年はグレイラット姓」と自慢してしまい、隠し子疑惑まで含めて「将来の名士候補」と見做した家々が娘や孫を送り込んだのだという。フィリップは、ルーデウスに政治的関与を持たせる意図は薄く「適当に相手をしておけ」としつつ、パウロのように節操なく振る舞うなと釘を刺した。

終盤のエリスの“お嬢様演技”と二人の踊り

最後に現れたのはドレスアップしたエリスであり、大声や粗暴さを消した「お淑やかな令嬢」としてルーデウスをダンスに誘う。二人が中央へ出ると、未習の速い変調リズムの曲が流れ、エリスは動揺する。ルーデウスは目線のフェイントで剣術の感覚を呼び戻し、ステップは正規に拘らず、稽古のように踏み込みと引きを組み合わせて音に合わせた。不規則で奇異にも見えたはずだが、エリスは年相応の笑顔で楽しみ、踊り終えると拍手が起こった。サウロスは二人を肩に乗せて中庭を走り回り、周囲も笑い、結果として「楽しいパーティ」で締めくくられた。

パーティ後の部屋飲みと贈り物

パーティ後、ルーデウスはギレーヌとエリスを自室へ招き、隠していた安酒も出して三人で乾杯した。緊張と興奮で食べられなかったエリスは、テーブルの食べ物を見て空腹を露わにした。ルーデウスは「師匠は弟子に杖を贈る」というロキシーの話を思い出し、遅れて用意した二本のワンドを取り出して、ギレーヌとエリスへ渡すことを宣言した。ギレーヌは剣神流の礼法で片膝をつき、師匠としてのルーデウスを正式に立てて受け取った。エリスも当初は模型に興味を示しつつ、欲しいのはワンドだと主張して受領し、同じく畏まった態度を真似た。

ギレーヌの指輪と“悪い狼”の話題遮断

エリスはギレーヌにも贈り物を期待するが、ギレーヌは習慣がないとして用意していないと言い、エリスは落ち込んだ。ルーデウスが「普段身に着けているものでもよい」と促すと、ギレーヌは一族の魔除けだという木彫りの指輪を外してエリスへ渡した。エリスは怖々と指輪を受け取り、強く喜びを示して大切にすると誓った。ルーデウスは「迷信だったから」と言うギレーヌに、過去に悪い狼に襲われたのかと尋ねるが、ギレーヌがパウロの逸話に入りかけたため、ルーデウスは即座に話題を切り上げて父の情事を聞きたくないと明言し、三人で食事へ戻した。

翌朝の同衾と“魔除けの効果”

翌朝、ルーデウスは目覚めるとベッドの真横でエリスが寝ていることに気づいた。夜のパーティ中に眠くなったエリスがルーデウスのベッドへ倒れ込み、ギレーヌはそれを見届けて自室へ戻っていた。ルーデウスは一瞬よからぬ想像をして近づくが、エリスがギレーヌの指輪をはめ、ルーデウスのワンドを抱いて満足げに眠る姿を見て邪念を引っ込め、「魔除けの指輪は効果がある」と独り言を漏らし、触れずにベッドの端へ潜り込んだ。

塔への探索とサウロスの密会発覚

早朝、ルーデウスは殴られる回避も兼ねて散歩に出るが、門が開かず外へ出られないため館内を探索する。近づくなと言われていた塔の入口と思しき螺旋階段を見つけ、昨日が誕生日で無礼講だと解釈して登った。上階から艶めいた声が聞こえ、忍び足で最上階へ辿り着くと、狭い部屋でサウロスがネコミミのメイドと密会している場面を目撃した。サウロスは途中でルーデウスに気づき、メイドは先に気づいた上で興奮していた様子で、事後にすぐ階段を降りて退出した。

赤い珠と“良いものとして祈る”理屈

サウロスは普段と違う穏やかな声でルーデウスに用件を問う。ルーデウスが階段を登っただけだと答えると、サウロスは自分は「珠に祈っていた」と言う。出窓の外には中空に浮かぶ赤い珠があり、中身が動くようにも見えたが、サウロスは正体を「わからぬ」としつつ、三年前に見つけて以来「悪いものではない」と断じた。その根拠は「そう考えたほうがよいからだ」という精神衛生上の理屈であり、ルーデウスも同調して一応祈ることにした。

遠乗りの誘いと奥方の話

サウロスは遠乗りに出かけるため同行を求め、ルーデウスは供を申し出た。ルーデウスは会話の流れで奥方の有無を尋ねてしまい、サウロスは奥歯を鳴らして「死んだ」と告げた。ルーデウスは即座に謝罪し、それ以上踏み込まないと判断して、二人は出発する流れとなった。

エリスの到達点更新

この一連の出来事を経た時点で、エリスは読みがほぼ完璧、九九を修得し、魔術は初級詠唱がほぼ可能、剣神流は中級、礼儀作法はパーティで恥をかかない程度まで到達した。好きな相手として、おじいちゃん、ギレーヌに加え、ルーデウスが並ぶ段階に至った。

第六話「言語学習」

エリスの変化と余裕の獲得

十歳の誕生日以降、エリスは授業を真面目に聞くようになり、暴力も減った。ルーデウスは精神的余裕を取り戻し、エリスの教育だけでなく自分の学習に時間を回す方針へ切り替えた。

世界史の概観と“七”の由来

ルーデウスは書庫の歴史書から世界の大枠を整理した。太古には七つの世界と七柱の神が存在し、結界で隔絶されていたが、悪しき龍神が結界を破って他世界を滅ぼし、最終的に龍神は《五龍将》の反逆で相打ちとなり、龍の世界は崩壊して「人の世界」だけが残った。その後は混沌期を経て人族と魔族の争いが主軸となり、第一次人魔大戦は勇者アルスらが《五大魔王》と《魔界大帝キシリカ》を倒して終結した。第二次人魔大戦ではキシリカが再び台頭し、英雄アルデバランの逸話とともに巨大陸が二分されリングス海が成立したとされる。さらに千年前に魔神ラプラスが魔大陸を統一し、五百年前のラプラス戦役では大規模侵攻が起きたが、七人の英雄が強襲してラプラス封印に成功し、条約で魔族差別の禁止などが定められた。ルーデウスは史実の積み重ねから「七が縁起の良い数字」とされる背景を理解し、逆に「六は不吉」とされがちな構図も読み取った。

主要言語の整理と学習方針

歴史学習を通じて、言語が各大陸・各神の名に紐づく形で整理されていることを把握した。中央大陸の人間語、ミリス大陸北部の獣神語、ベガリットの闘神語、天大陸の天神語、魔大陸の魔神語、海の海神語などが主要言語である。人間だけが人神語を名乗らない点を皮肉りつつ、方言差は英米程度で大差ないとも理解した。西部人間語は通じやすい一方、西部出身と分かると金持ち扱いで厄介が寄るため注意が必要、という実利情報も得た。

獣神語習得と魔神語での壁

ルーデウスは小銭稼ぎを続けつつ、召喚魔術書を買い損ねたことを契機に言語学習へ投資する。まずギレーヌが扱える獣神語を選び、ギレーヌの助けも得て一年で習得した。獣神語は文字数が少なくパターン把握で口語も伸びやすく、身体能力だけでなく記憶力の良さが学習を後押しした。一方、次に手を出した魔神語は教材の内容も言語体系も分からず、単語の切れ目すら掴めない状態に陥り、独学解読が完全に行き詰まった。

ロキシーからの小包と直筆教科書

行き詰まりの最中、長らく音沙汰のなかったロキシーから返書が届いた。小包には手紙と分厚い本が同封され、ロキシーは近況と皮肉を交えつつ、魔族の部族には人族未知らの魔術が多いこと、魔神語を話せれば将来の学習可能性が広がることを示した上で、ルーデウスのために魔神語の教科書を「直筆で書き上げた」と告げた。追伸として「冒険者の間では杖を持っていれば魔術師扱い」という認識も補足し、以前の杖の件の疑問も回収された。

辞典級の内容と学習の見通し

同封本は教科書であると同時に辞典であり、魔神語の単語・言い回し・発音まで人間語訳付きで網羅されていた。さらに後半には部族ごとの特徴・注意点がロキシーの主観付きで整理され、簡素な挿絵と注釈まで入った実用書になっていた。ミグルド族の項目が最も厚く、甘いもの好きといった情報も含まれる。ルーデウスはロキシーの労力と配慮に強く感謝し、この教材を使えば半年程度で基礎会話まで到達できると見込み、魔神語習得へ本腰を入れる決意を固めた。

★ギレーヌ視点★

ルーデウスへの評価の更新
ギレーヌは、ルーデウスが部屋に籠って何かに取り組む様子を見て、再び驚かされる予感を抱いた。初対面時は頼りない少年と思い、パウロの押し付けだと見ていたが、短期間でエリスの信頼を得て家庭教師の座に収まった事実が、その見立てを覆した。

誘拐事件と戦闘センスへの確信
誘拐事件はルーデウスが企画したと聞かされている。現場で彼は執事が雇った男二人と対等に渡り合い、北神流上級剣士を含む相手を、魔術の使い分けと合体で圧倒した。詰めの甘さは幼さゆえと見つつも、戦闘センスは天性で、距離条件次第ではギレーヌ自身も敗北し得ると判断した。

教育者としての力量と“先生”としての敬意
ルーデウスは授業計画を組み、効率的で分かりやすい指導を実践した。その結果、ギレーヌ自身が読み書きと算術を学び、火と水の初級魔術を習得し、さらに杖まで贈られるに至った。ギレーヌはルーデウスを剣の師とは別枠で「先生」と捉え、サウロスとエリスに近い敬意を払っている。理解できるまで言葉を変えて教える根気も高く評価している。

基礎重視の共通点と魔術観の転換
ルーデウスの教育方針は、剣神の「合理=基礎」という教えに似ており、初級魔術を無詠唱で使えるよう訓練する点を合理的だと納得している。かつて魔術師を対人戦で役に立たない存在と見ていたが、ルーデウスの高速機動と妨害・攻撃の併用を目にし、剣士にとって極めて危険な相手になり得ると認識を改めた。

剣術適性の見立てと将来の導線
ギレーヌは、ルーデウスに剣神流の才能は薄く、合理を突き詰めて考え過ぎる点が剣神流と噛み合わないと分析した。一方で北神流や水神流の方が適性があると見ており、三年後も剣を続ける意思があれば紹介するつもりでいる。魔術師としては帝級まで到達する可能性すら想定し、ロキシーへの評価は複雑ながらも、結果的に自分が魔術を得たことへの感謝は持っている。

“グレイラットの血”への警戒と確信
ルーデウスの紳士的態度に一時は「パウロの子ではないのでは」と疑ったが、獣耳への関心や女への目配せから、結局はパウロの血族だと結論づけた。将来の女癖を危惧しつつも、現時点では敬意を崩していない。エリスがルーデウスに恋情を抱き始めている兆候も読み取り、誕生日に彼の部屋へ泊まった事実を踏まえ、油断ならないと見ている。

エリスの成長と剣術への集中
エリスはこの二年で落ち着き、叫ばなくなり、服も汚さなくなった。理由は礼儀作法よりも「ルーデウスに良く見られたい」心だと推測する。さらにエリスは剣術に熱心となり、ルーデウスに何か一つ勝てるものを求めている可能性をギレーヌは感じ取った。剣神流の才能は確かで、踏み込みの鋭さと闘気の乗りが顕著になり、上級、剣聖へ到達するのも遠くないと見立てる。剣聖に届けば剣神へ会わせたいと考え、その時はルーデウスも同行させたいと思っている。

エリスの現状メモ(ギレーヌ認識)
エリス・B・グレイラットは領主の孫で、凶暴さは残しつつ素直さが増し、読み書きは書きも上達した。算術は割り算が苦手で、無詠唱魔術は依然できない。剣神流中級だが上級目前で、淑女の真似事も形になりつつある。好意の対象はサウロス、ギレーヌ、ルーデウスである。

第七話「確約」

十歳目前の到達点

ルーデウスは十歳を目前に、二年間の語学学習で魔神語・獣神語・闘神語を習得した。闘神語は人間語と文法が近く比較的容易だった。天神語と海神語は文献がなく断念している。剣術は中級目前だが、上級に到達したエリスとの差を実感する。魔術は細工の訓練で精度を高めつつも停滞を自覚し、将来は魔法大学で学ぶつもりで焦らない姿勢を取る。

誕生日の気配と事情の理解

誕生日が近づくと館が落ち着きを失い、ルーデウスは尾行で事情を察知する。どうやら自分の誕生日を内々で祝う準備らしい。ルーデウスは自分が「ノトス」家の血筋であることが政治的に微妙な立場にあると理解している。表立った祝賀は危険を招くため、館内だけのささやかな催しとなる。エリスがサウロスに願い出て実現した企画と知り、ルーデウスは本気で喜ぶ準備を決める。

当日の足止め作戦

当日、ギレーヌが緊張気味に部屋へ現れ、聖級魔術を見せてほしいと持ちかける。町を水没させかねない規模の話に発展させて時間を稼ごうとするが、ルーデウスは逆に遠出提案で揺さぶり、彼女の動揺を楽しむ。彼女が自分を部屋に留める意図を察し、あえて乗ることで準備側に協力する。

フィギュアと無防備な信頼

ルーデウスは製作中のギレーヌの人形を見せ、尻尾の構造確認を頼む。ギレーヌは躊躇なく応じ、純粋に完成を楽しみにする姿を見せる。ルーデウスは筋肉の質感に圧倒されつつ、彼女の無邪気な信頼と男前な態度に敗北感を覚える。性的な緊張よりも、戦士としての身体への敬意が勝る場面である。

本番前夜の静かな合図

夕食の呼び出しとともに、ギレーヌは不自然に急かす。尻尾の微かな動揺を最後に、二人は食堂へ向かう。ルーデウスは、これから始まる誕生日のサプライズを受け止める覚悟を固めていた。

語学と実力の積み重ね

十歳を目前に控えたルーデウスは、この二年間を語学習得に費やしていた。魔神語・獣神語・闘神語を修得し、多言語運用が可能となる。剣術ではエリスに才能差を感じ、魔術も伸び悩みを自覚しているが、将来を見据え焦らず力を蓄えていた。

誕生日準備と貴族の事情

館の人間がそわそわしている様子から、ルーデウスは自身の誕生日に関する準備を察する。本来なら盛大に祝われる立場だが、父パウロがノトス家から勘当されている事情により、公にできない。ノトス家の権力争いに利用される危険があるため、祝宴は内々で行われることになった。これはエリスが祖父サウロスに願い出て実現したものである。

十歳の祝宴

当日、館の人間はルーデウスを外に出さないように動き、夕食時に誕生日パーティが開かれる。エリスから杖が贈られ、ルーデウスはその厚意を素直に受け止める。

夜の衝突と反省

夜、エリスは昼間の会話を気にして部屋を訪れる。しかしルーデウスは意図を読み違え、軽率な行動に出る。結果として衝突が起こり、エリスは怒って去る。残されたルーデウスは、自身の未熟さと軽薄さを深く反省する。

許しと五年の約束

エリスは戻り、特別な日だからと今回を許す。ただし「五年後まで待つこと」を条件とする。ルーデウスはそれを約束として受け止め、軽薄な振る舞いを改める決意を固める。

第八話「ターニングポイント」

空の異変

シーローン王宮にて、ロキシー・ミグルディアは空の異変に気づく。茶色や紫が混じる不自然な色彩と、遠目にも分かる魔力の渦。それは魔法大学で見た召喚魔術の光に酷似していた。方角は東、アスラ王国方面。ロキシーはかつての弟子ルーデウスの存在を思い浮かべる。

王子パックスとの対峙

物思いに耽るロキシーに、シーローン第七王子パックスが絡む。王子は性的嫌がらせや脅迫まがいの言動で彼女を従わせようとするが、ロキシーは冷静に拒絶する。
王子はルーデウスの手紙を盾に取り、権力で排除すると脅す。しかしロキシーは、ルーデウスがアスラ王国上級貴族ボレアス家の庇護下にあること、さらに剣王ギレーヌがいることを挙げ、王子の無力さを論理的に指摘する。

教師としての限界

王子は権力に溺れ、学ぶ意志を失っていた。ロキシーは彼をルーデウスと比較し、自身の教育者としての限界を感じる。契約通り、王子の成人をもって家庭教師を辞することを宣言する。王子は動揺するが、もはや引き止めることはできない。

旅立ち

空の異変を理由に、ロキシーはシーローンを去る。出立の際、王子とその配下に襲われるが撃退する。王子は逆に非難するものの、国王は取り合わず、むしろ王子を叱責した。

世界規模の兆候

空の異変はロキシーだけでなく、世界各地の有力者たちも察知していた。
それは突発的で、明らかに尋常ではない現象である。

この出来事が、世界の転換点となる。

赤竜山脈にて

赤竜山脈と龍神

赤竜山脈にて、『龍神』オルステッドは西の空に集束する異様な魔力を感知する。原因は不明。しかし確かめれば分かると判断し、ただちに西へ向けて歩みを進める。

彼の足元には、たった今一撃で屠られた赤竜の死体が転がっていた。周囲には無数の赤竜が旋回しているが、いずれも手出しをしない。彼らは理解している。束になっても敵わず、挑まなければ害されない存在であることを。

無謀な若い竜が一匹襲いかかるが、瞬時に肉塊へと変わる。その様子を見ても、他の赤竜は動かない。誇り高き強者である赤竜が退くのは、相手が理外の存在だからである。

オルステッドは赤竜たちに見送られながら山を下る。その目的は不明。ただ、西に生じた異変へ向かっていることだけが確かであった。

空中城塞にて

空中城塞と甲龍王

空中城塞にて、三大英雄の一人『甲龍王』ペルギウスは北の空に広がる異変を見下ろす。その光はかつての魔界大帝復活の兆しにも似ていたが、質が異なる。側に控える天族の女も、それが召喚光に近いと指摘する。

ペルギウスは、その規模が自らの空中城塞を創造した時の現象に酷似していると判断する。単なる魔力暴走ではないと察し、事態を警戒する。

ラプラスへの執念

彼の目的はただ一つ。憎き仇、魔神ラプラスを復活直後に討つこと。封印が解かれるその瞬間を、空より監視し続けている。

魔界大帝の不自然な沈黙もあり、封印解除の可能性を疑う。即座に臣下アルマンフィへ命を下し、異変の調査と排除を指示する。

動き出す英雄

『甲龍王』ペルギウスは、十二人の臣下を従えながら警戒態勢を強める。四人の親友の仇を討つため、今度こそ確実にラプラスへ止めを刺す覚悟であった。

世界各地で異変を察知する強者たち。
それぞれの思惑を抱え、静かに動き始めていた。

剣の聖地にて

剣の聖地と剣神

剣の聖地にて、『剣神』ガル・ファリオンは南の空の異変に一瞬意識を向ける。しかし、その隙を突いて打ち込んできた二人の愛弟子を容易くあしらう。空の異常よりも、今この場の鍛錬の方が重要であった。

強さと欲望

ガル・ファリオンは名声や金に価値を見出さない。ただ「強さ」こそが全てであり、強ければ我儘を通せると考えている。剣帝と呼ばれる弟子たちも、まだ欲望が足りないと断じる。かつての弟子ギレーヌも、甘さを覚えたことで剣王で停滞したと見る。

彼にとって、戦場で生き残る秘訣は飽くなき欲望である。力そのものよりも、生への執着と貪欲さこそが強さを生む。

異変への無関心

世界各地の強者が空の異変に反応する中、剣神はそれを深く追わない。
彼の関心はただ一つ、自らを超える存在が現れるかどうか。

南の空の異常は、既に彼の意識から消えていた。

魔大陸のどこかにて

魔大陸と魔界大帝

魔大陸のどこかで、魔界大帝キシリカ・キシリスは東の空の異変を感知する。強大な魔力と召喚光に似た輝き。しかし術者の姿までは見通せない。結界の存在を疑いつつも、その正体を完全には把握できない。

孤独な復活者

かつて恐れられた魔界大帝も、今は誰からも構われない存在となっていた。復活を高らかに宣言しても反応はなく、町で叫べば哀れみの目を向けられるのみ。平和な時代において、彼女の存在は脅威として扱われていなかった。

魔眼と限界

十を超える魔眼を持つキシリカは、遠方の魔力の質と規模を読み取る。しかし術者までは見えない。万能ではないがゆえに、魔神には届かぬ存在であることも自覚している。

移ろう時代

異変を前にしても、彼女の関心はどこかずれている。勇者の召喚や名声への未練をこぼしながら、目的もなく旅立つ。

世界各地の強者たちが異変を察知し動き出す中、魔界大帝もまた、ただ気まぐれに歩き出した。

同時刻・ルーデウス視点

聖級水魔術の披露

誕生日に交わした約束を果たすため、ルーデウスは城塞都市ロア郊外の丘へ向かう。同行するのはエリスとギレーヌ。
新たに贈られた杖『傲慢なる水竜王』を試すと、水魔術は約五倍の効果を発揮することが判明する。火は二倍、土と風は三倍。圧縮や調整は難しいが、圧倒的な増幅性能を持つ強力な魔道具であった。

水聖級魔術を披露しようとしたその瞬間、空の異変に気づく。

空の変色と魔力の奔流

紫と茶色が混ざる不気味な空。魔力が濃くなっているとギレーヌは判断する。
町へ戻るべきか離れるべきか迷う中、突如として何者かが高速で接近する。

光輝のアルマンフィ

現れたのは仮面の男――ペルギウスの使い魔『光輝のアルマンフィ』。
空の異変を止めるために来たと語り、ルーデウスを原因と疑い攻撃する。

ギレーヌは剣神流奥義『光の太刀』で応戦するが、アルマンフィは光速級の移動で回避。
剣王としての誓いを示し、無関係であることを証明すると、アルマンフィは矛を収める。

白光の降臨

その直後、空から一条の光が地へ落ちる。
膨張した純白の奔流は津波のように全てを呑み込み、町、館、城壁を消し去っていく。

アルマンフィは光となって離脱。
ギレーヌは駆け出すが光に呑まれる。
エリスは呆然と立ち尽くす。

ルーデウスは彼女を庇い、覆いかぶさる。

次の瞬間、世界は純白に包まれた。

意識を失う寸前まで、ルーデウスはエリスの手を離さなかった。

その日、フィットア領は消滅した。

エピローグ

消えたフィットア領

フィットア領消滅から半年後、ロキシー・ミグルディアは現地へ到達する。そこに広がっていたのは、石畳の街道が途切れた先のただの草原だった。街も村も、建物も道も存在しない。結果だけがそこにあった――フィットア領は消えた。

現実を前に、ロキシーは膝から崩れ落ちる。弟子ルーデウス、そして彼の家族の安否は分からない。

難民キャンプ

御者に勧められ、フィットア領の難民キャンプへ向かう。そこは村と呼べる規模になっていたが、活気はない。家族や財産を失った人々が絶望の中にいた。

掲示板には死亡者と行方不明者の名が並び、伝言や捜索依頼が無数に貼られている。今回の災害は、爆発ではなく大規模な転移現象であり、人々だけが世界各地へ飛ばされたことが判明する。

行方不明の名

ロキシーは行方不明者欄にルーデウスとその家族の名前を見つける。死亡欄にはない。生存の可能性が残されていた。

さらに、パウロの伝言を発見する。ゼニスたちを探すためミリス大陸へ向かうこと、ルーデウスには中央大陸北部を探せと記されていた。捜索隊の結成も告知されている。

パウロの生存を知り、ロキシーは安堵する。

決意

ロキシーは捜索への参加を決意する。後回しにされたルーデウスを探すべきだと考えたからである。彼の適応力を思えば、どこかで生き延びている可能性は高い。

中央大陸北部、ベガリット大陸、魔大陸。危険な土地ほど、探す者は少ない。ならば自分が行くべきだと判断する。

目的地は王竜王国イーストポート。そこから危険地帯へ向かうパーティを探す。

こうしてロキシーは難民キャンプを後にする。歩き出した瞬間、不思議と確信が芽生える。ルーデウスは生きている、と。

この日より、ロキシー・ミグルディアの長い旅が始まった。

番外編「森の女神」

紛争地帯とマルキエン傭兵国の信仰

中央大陸の中心にある紛争地帯では小国が興亡を繰り返していた。その一国マルキエン傭兵国は、傭兵派遣を生業とする戦闘国家であり、派遣先で必ず勝利をもたらす存在として恐れられていた。

酒場では傭兵たちが戦傷を誇り合い、戦後の酒と女を語りながら、木彫りのペンダントと赤く塗った短剣を掲げて「森の女神レーヌ」に祈りを捧げる。この信仰はマルキエン傭兵国にしか存在しない風習であり、背景には一つの逸話があった。

滅亡寸前の新興国と起死回生の策

嘉隆暦417年、マルキエン傭兵国は建国から二年の新興国だったが、外交の失敗をきっかけにディクト王国とブローズ帝国から同時に宣戦布告を受け、領土の半分を失うほど追い詰められていた。

最後の決戦は盆地で行われる。マルキエンは二国の不仲を利用し、同士討ちを誘発させる策を立てる。ブローズ帝国の鎧を着込んだ少人数部隊が森を越え、ディクト王国を背後から襲撃して「ブローズの奇襲」と誤認させ、同盟を崩壊させる計画であった。

エジンの森の突破と親衛隊との遭遇

作戦を担ったのは第三部隊長ビゴ・マーセナル。十名の部下を率い、魔物が出没し通行が禁じられるエジンの森を進む。道中で部下を一人失いながらも進軍を続けたが、森の中で同じくブローズ帝国の鎧を着た十名と遭遇する。相手はブローズ皇帝の親衛隊であり、指揮官は水聖クライン・ディノルタスだった。

ビゴたちは正体が露見すれば作戦が潰えるため即座に斬りかかるが、練度差は圧倒的で、瞬く間に劣勢へ追い込まれる。

森から現れた“野獣”と剣王ギレーヌ

その瞬間、傷だらけの巨大トカゲが飛び込んで倒れ、続いて“野獣”が現れてトカゲを刺し殺す。野獣は獣族の女で、赤く不気味に輝く片刃剣を振るい、親衛隊を一瞬で皆殺しにする。クラインは剣神流の一撃で上下に断たれて死ぬ。

次に野獣はビゴたちへ向くが、ビゴが剣神流の礼で片膝をつき「剣王ギレーヌ・デドルディア」だと呼びかけたことで、ギレーヌは正気を取り戻す。ギレーヌは「十二歳の赤髪の少女」または「十歳の魔術師の少年」を探しており、フィットア領で光に飲まれて飛ばされたと語る。

ギレーヌは現在地が紛争地帯だと聞き、アスラへ戻るため南へ向かうと決める。ビゴは恩と危機管理から同行を申し出て、進行方向が一致したため共に森を抜ける。

強襲成功と三つ巴の混戦

決戦直前で全軍の意識が前方に向いていたこと、ブローズ皇帝が森からの襲撃を恐れて疑心暗鬼になっていたことが重なり、背後からの強襲は効果を発揮する。ディクト王は森から現れた“ブローズ鎧の一団”を見てブローズの奇襲と誤認し、ブローズ帝国への攻撃を命じるが、その直後にギレーヌの剣で斬られて崩御する。

勅令によってディクト軍は引き返せず、ブローズ軍と衝突する。そこへマルキエン本隊が戦端を開き、三つ巴の混戦となる。ビゴはギレーヌの背中と赤い剣閃を追いながら戦い抜き、最終的にブローズ皇帝がギレーヌに首を落とされる瞬間を目撃する。混乱の果てに決戦はマルキエン傭兵国の勝利で終わる。

“森の女神レーヌ”の誕生

この戦功により、ビゴは英雄として将軍に取り立てられる。だが彼は戦後、獣の横顔のレリーフを首から下げ、剣の刀身を赤く塗る“おまじない”を始める。理由は「あの決戦では女神様に助けてもらったから」である。

その風習は部下から部下へと広まり、やがて守り神信仰へ昇華する。女神の名は本来ギレーヌだが、南部では発音しづらく訛ってレーヌとなり、「森から現れ大将軍を救った救国の女神」として千年かけて定着した。

ギレーヌ本人がその呼称を知ることはなく、彼女がその後アスラへ帰れたのか、探していた相手に会えたのかも、ビゴには分からないまま物語は閉じる。

同シリーズ

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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