無職転生 16巻レビュー
無職転生 全巻まとめ
無職転生 18巻レビュー
どんな本?
『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』は、理不尽な孫の手氏による日本のライトノベル。
この作品は、34歳の無職でニートの男性が剣と魔法の異世界に転生し、新たな人生を歩む物語。
主人公は、前世での経験と後悔を糧に、今度こそ本気で生きることを誓う。
彼は新たな名前「ルーデウス・グレイラット」として、家族や人間関係を大切にしながら、前世のトラウマを乗り越えて成長していく。
この作品は、「小説家になろう」で2012年から2015年まで連載され、その後書籍化された。
また、漫画版やアニメ版も制作されています。
特にアニメ版は大変人気があり、2024年4月には第2期の後半が放送される。
また、「無職転生 〜蛇足編〜」という番外編もあり、こちらは本編完結後の物語が描かれている。
読んだ本のタイトル
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 17
著者:理不尽な孫の手 氏
イラスト:シロタカ 氏
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あらすじ・内容
次々と迫りくるヒトガミの使徒!? 任務の成否やいかに――?
図書迷宮から、帰ってきて数週間。
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 17
ルーデウスはアリエルを王にするという指令を完遂するため、アスラ王国へとアリエルに同行していた。
決戦に備え、王都アルスの王城にて舞台を整える一行。
数多の妨害を乗り越え、訪れたパーティ当日。アリエルは順調に敵勢力である第一王子を追い詰めていく。
しかし、相手も切り札を隠し持っていて、窮地に陥ることになってしまい……?
「まずい。どうする。どうすればいい。動けない」
ルーデウスは無事にアリエルを王の座に就かせることはできるのか!?
人生やり直し型転生ファンタジー第十七弾、ここに開幕!!
感想
ルーデウスがアリエルを王にするという目的を持って、アスラ王国へと旅立った物語である。アリエルの王位継承をかけた戦いは、王都アルスの王城でのパーティーが舞台となった。多くの障害を乗り越え、ついに訪れた決戦の日。アリエルは敵勢力である第一王子を追い詰めるが、相手も切り札を隠し持ち、アリエルたちは窮地に立たされる。
この困難な状況の中、「どうすればいいか」と悩むルーデウス。しかし、彼は動けないわけにはいかないと決意し、アリエルを守るために全力を尽くす。その過程で、人神に操られた親戚をケアしながら、目標達成へと進む。
物語は、アスラ王国編の完結とともに、シルフィの護衛としての役割にも一区切りがつく。転移事件がもたらした多くの人々の人生の変化、悲劇と出会い。そして、これからも続くルーデウスたちの人生への期待が描かれる。物語の最後には、ヒトガミの次なる使途と思われる不気味な人物が登場し、今後の展開への期待を高める。
本作は、アリエルの王位獲得をめぐる激しい争い、仲間たちとの絆、そして家族の物語が描かれている。オルステッドの圧倒的な力、敵として立ちはだかる水神流の面々との戦い、そしてルーデウスの内面の葛藤。それぞれの登場人物が直面する困難を乗り越え、成長していく姿が心を打つ。また、ルーデウスが父パウロの墓前で報告するシーンは、彼の成長と家族への想いが感じられる。
本作は、ただの異世界ファンタジーではなく、登場人物たちの人生、成長、家族との絆を描いた深い物語である。読み進めるうちに、彼らの挑戦と成長に心を動かされ、次なる展開への期待が膨らむことだろう。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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無職転生 16巻レビュー
無職転生 全巻まとめ
無職転生 18巻レビュー
考察・解説
アスラの王位継承戦
本作における「アスラの王位継承戦」は、第二王女アリエルが次期国王の座を勝ち取るため、ルーデウスやペルギウスの支援を受けながら、最大の政敵である第一王子グラーヴェルとその強力な後ろ盾であるダリウス上級大臣と繰り広げた最終決戦として描かれている。
アスラ王国への帰還と道中の戦い
国王の重病の報を受け、アリエル一行は王都を目指すが、ヒトガミの使徒と疑われるダリウスの暗躍により国内の転移魔法陣が破壊されていた。そのため、一行は陸路での過酷な帰還を余儀なくされた。
道中での主な出来事は以下の通りである。
- 赤竜の上顎と呼ばれる森で、北帝オーベールや北王ウィ・ターが率いる兵士の襲撃を受けるが、ルーデウスたちの連携によりこれを撃退する。
- 敵の襲撃が続くことを警戒し、密入国ルートを持つ盗賊団と接触する。
- 盗賊団の中にダリウスの元性奴隷であった元貴族のトリスティーナを発見し、アリエルの説得によって彼女を味方に引き入れることに成功する。
王都での暗闘と決戦の準備
王都アルスに到着後、アリエルは王位を確実なものにするための「場(パーティ)」を設営するため、味方の貴族たちへの根回しに奔走した。
この準備期間中、グラーヴェル派からの暗殺者が毎日のように送り込まれたが、ルーデウス、エリス、ギレーヌの働きにより全て排除された。また、決戦の前夜には再びオーベールらが襲撃を仕掛けてきたが、ルーデウスたちの返り討ちに遭い、敵の戦力を大きく削ぐことに成功した。
ペルギウスの降臨とダリウスの失脚
準備が整い、第一王子グラーヴェルを慰労するという名目で開かれたパーティに、アスラ王国の名だたる貴族が集結した。アリエルはこの場で最大の政敵を追い詰める行動に出る。
- トリスティーナをパープルホース家次女として紹介し、ダリウスが彼女を誘拐し性奴隷としていた事実を告発する。
- ダリウスはこれを偽物だと否定するが、事前にアリエルが寝返らせていたパープルホース家当主が告発を支持したため、ダリウスの失脚が確定する。
ダリウス失脚後、第一王子グラーヴェルが現れ、多数決によってどちらが王にふさわしいかを決めようと提案する。しかし、アリエルの合図とともに空中城塞ケィオスブレイカーが王城の真上に現れ、英雄である甲龍王ペルギウスが降臨する。ペルギウスがアリエルを次代の王の席へと促したことで、会場の貴族たちはアリエルを次期国王として認め、彼女の勝利が決定づけられた。
まとめ
決着がついた直後、ヒトガミの最後の切り札として水神レイダが乱入し、剥奪剣界で会場を制圧するが、そこに龍神オルステッドが現れ、レイダを瞬殺する。逃亡を図ったダリウスとオーベールは、ルーデウス、エリス、ギレーヌの追撃によって討ち取られた。
最後に、ヒトガミの助言に惑わされていたルークがアリエルに剣を向ける事態となるが、シルフィの言葉とアリエルの王としての器に触れることで忠誠を取り戻す。二度の裏切りを働いたルークの父ピレモンも命を助けられ、アスラ王国の王位継承戦はアリエルの完全勝利という形で幕を下ろした。
ヒトガミの使徒排除
本作における「ヒトガミの使徒排除」は、オルステッドの配下となったルーデウスが、アリエルをアスラ国王にするという任務の過程で、ヒトガミの思惑によって動く使徒たちを特定し、排除していく政治闘争と死闘のエピソードである。
使徒の特定と警戒
オルステッドの分析により、アリエルの王位継承を妨害しようとするヒトガミの使徒として、以下の人物たちが特定され、彼らとの戦闘に備えることとなる。
- 第一王子派の重鎮であるダリウス上級大臣
- アリエルの側近でありながらヒトガミから助言を受けていたルーク
- 武術や魔術に秀でた手駒として使徒である可能性が高い、北帝オーベール・コルベットと水神レイダ・リィア
北帝オーベールとダリウス上級大臣の討伐
王都での決戦において、アリエルの計略によってダリウスが数々の悪行(トリスティーナの性奴隷化など)を暴露され、政治的に失脚する。逃亡を図ったダリウスと護衛のオーベールを、ルーデウス、エリス、ギレーヌの三人が追撃した。
オーベールは多彩な技と奇策でルーデウスたちを苦しめるが、ルーデウスが放った「炸裂岩砲弾」によってダリウスが目を潰されてうずくまり、その隙を突いたエリスとギレーヌの連携攻撃によってオーベールは討ち取られた。
残されたダリウスは、自身がサウロス(エリスの祖父)を陥れて処刑に追いやった張本人であることを自白したため、エリスの合意のもと、ギレーヌによって首を刎ねられ、使徒の排除と同時に復讐が成就した。
水神レイダの乱入とオルステッドの介入
アリエルの勝利が確定した直後、ヒトガミの最後の切り札として水神レイダが天井を破って乱入する。レイダは五つの奥義を組み合わせた「剥奪剣界」を展開し、動いた者を即座に斬り捨てる結界で会場の全員を制圧した。
しかしそこに、龍神オルステッドが現れる。オルステッドはレイダの放つ黄金の剣閃をすべて素手で弾き落としながら歩み寄り、いともたやすくレイダの胸を貫手で貫き、瞬殺した。
ルークの暴走と忠誠の回復
ダリウスとオーベールを討ち取って会場に戻ったルーデウスたちが見たのは、ルークがアリエルの首に短剣を突きつけている光景であった。ルークは以下の理由で極限状態に追い込まれていた。
- ヒトガミから「ルーデウスがアリエルを裏切り、国を乗っ取ろうとしている」と吹き込まれていた
- 父ピレモンが処刑されそうになっていた
ルークはシルフィに対し「アリエルを助けたくばルーデウスを殺せ」と迫るが、シルフィはルーデウスを信じて添い遂げるという確固たる意志を示す。さらに、アリエルが「私はあなたの王女です」と毅然と告げたことで、ルークは騎士としての本来の忠誠を取り戻し、刃を下ろして泣き崩れた。
まとめ
こうして、ルーデウスたちは敵対する使徒(ダリウス、オーベール、レイダ)を実力で排除しつつ、身内であるルークを殺害することなくヒトガミの呪縛から解き放ち、ヒトガミの企みを完全に打ち砕くことに成功した。
龍神オルステッドの真実
本作における「龍神オルステッドの真実」は、彼が単なる恐怖の象徴や世界最強の存在というだけでなく、途方もない時間をかけて孤独な戦いを続ける、過酷な宿命を背負った古代龍族であることが中盤以降に明かされる。
正体と目的
オルステッドは七大列強第二位に名を連ねる世界最強の存在であり、その正体は初代龍神の息子である古代龍族の生き残りである。彼は初代龍神によって転生法を用いられ、約2000年前から現代へと送り込まれた。歴代の龍神(オルステッドで100代目)はすべてヒトガミを倒すためだけに存在しており、オルステッドもまた父の仇であり古代龍族の悲願である「ヒトガミ打倒」を唯一の目的として行動している。
呪いと秘術
彼の身には、以下の厄介な呪いと秘術がかけられている。
- この世界のあらゆる生物から忌避され、恐怖される呪い
- 初代龍神が編み出した、世界の理から外れる(ヒトガミの視界から逃れる)秘術
呪いにより、彼の姿を見た者は本能的な恐怖を抱くが、古代龍族の血を引く者や、ルーデウスやナナホシのような異世界由来の存在にはこの影響が及ばない。
最大の真実「死に戻りのループ」
当初、オルステッドは運命(歴史)を見る力があると語っていたが、のちにルーデウスに対してそれは半ば嘘であったと明かす。彼に未来予知の力はなく、その真実は「いつ、どこで死んだとしても、記憶を保ったまま最初からやり直す」というタイムリープ能力であった。
甲龍暦330年の冬を起点とし、200年の猶予の間にヒトガミを殺せなければ強制的にループするという過酷な運命を背負っており、彼はすでに100回以上のやり直しを繰り返してきた。彼がアリエルの王位継承などの歴史の分岐を確信を持って語れたのは、この何百回という経験の蓄積によるものであった。
強さと圧倒的な制約
オルステッドは、この世界に現存する全てのオリジナル魔術と技を扱い、以下の龍神特有の固有魔術も使いこなす。
- 魔術を無効化する『乱魔』
- 魔力を吸収する『前龍門』
本気を出せば世界を滅ぼせるほどの力を持っているが、ヒトガミから逃れる秘術の副作用として「魔力の回復速度が著しく(通常の約千倍)遅くなる」という致命的な弱点を抱えている。
魔力が完全に回復するまでに数十年かかるため、彼は普段は極力魔力を消費しないよう手加減して戦うことを余儀なくされていた。
まとめ
魔力の消費を抑えなければならないオルステッドにとって、絶大な魔力と強い運命を持ち、ヒトガミから見えないルーデウスの存在は非常に大きな意味を持つ。ルーデウスが配下となり見えない駒として彼の手足となって動くようになったことで、何百回と失敗を繰り返してきたオルステッドの孤独な戦いに、初めてヒトガミを打ち倒す「あと一歩」の勝機がもたらされることとなった。
エリスとギレーヌの別れ
アスラ王国での激闘を終え、ルーデウスたちが魔法都市シャリーアへ帰還する出発の日の早朝に描かれる、エリスと彼女の長年の剣の師匠であるギレーヌとの感動的な別れのエピソードである。
早朝の最後の稽古
シャリーアへ帰還する出発当日の早朝、まだ日も昇らない時間にギレーヌは三本の木剣を持ってルーデウスたちの元を訪れる。言葉を交わすことなく、ルーデウスとエリスは木剣を受け取り、庭で最後の稽古が始まる。
稽古は以下の流れで行われ、エリスの確かな成長と二人の実力差が明確に描かれている。
- 素振り二〇〇本
- 基礎の型(かつてのようにギレーヌからの厳しい叱責が飛ぶことはなかった)
- ルーデウスとエリスによる「対の稽古(掛かり稽古)」(エリスの剣がルーデウスに対して寸止めされる)
師弟の最終立ち合い
ルーデウスを下がらせた後、ギレーヌとエリスは向かい合う。居合の構えを取るギレーヌと、大上段に構えるエリス。永遠とも思える静寂の後、一瞬の交錯が起こる。
ルーデウスの目にも捉えきれなかったその立ち合いの結果、ギレーヌの木剣は根本から叩き折られ、エリスの剣がギレーヌの首筋に添えられていた。
涙の別れ
互いに剣を引いた後、ギレーヌは静かに「これにて、稽古を終了する」と宣言する。エリスは下唇を噛み、大粒の涙を瞳に溜めながら深く頭を下げ「ありがとうございましたっっっ!」と礼を述べた。
ギレーヌはそれ以上何も言わず、ルーデウスにエリスを託すような一瞥を残して去っていく。そして、ギレーヌの姿が見えなくなった瞬間、エリスは抑えきれずに大声を上げて号泣する。
まとめ
このシーンは、幼い頃からエリスを守り、剣を教え導いてきた師匠ギレーヌと、立派な剣王へと成長した弟子エリスの長きにわたる師弟関係が一つの区切りを迎えた、美しくも切ない別れとして描かれている。
無職転生 16巻レビュー
無職転生 全巻まとめ
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キャラクター紹介
アリエル陣営
アリエル・アネモイ・アスラ
アスラ王国の第二王女である。次代の王を目指す指導者として行動する。ルーデウスやオルステッドと協力関係を結ぶ。
・所属組織、地位や役職
アスラ王国の第二王女。次期国王候補。
・物語内での具体的な行動や成果
トリスティーナを説得して味方に引き入れた。王城でのパーティにてダリウスの悪事を暴く。ペルギウスを招き入れることで王位継承の優位を決定づけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
政争に勝利し次代の王となることが確定する。ルークの裏切りを不問に処した。
ルーデウス・グレイラット
オルステッドの配下として活動する魔術師である。家族を守ることを最優先に行動している。シルフィやエリス、ロキシーを妻に持つ。
・所属組織、地位や役職
オルステッドの配下。「泥沼」の二つ名を持つ。
・物語内での具体的な行動や成果
アリエルを王都へ送り届ける道中で護衛を務めた。オーベールたちの襲撃を退ける。炸裂岩砲弾を用いてダリウスの視力を奪い、オーベール討伐の隙を作った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦いを通じてオルステッドからの信用を得る。自身の限界と運に頼る戦い方を反省した。さらなる成長を父の墓前で誓う。
シルフィ(フィッツ)
ルーデウスの妻である。アリエルの護衛を務める魔術師として行動する。家庭内の調整役を担っている。
・所属組織、地位や役職
アリエルの護衛。「フィッツ」という偽名を使用していた。
・物語内での具体的な行動や成果
道中の戦闘で魔術による支援を行った。王城のパーティではアリエルの影武者として暗殺者の標的となる。ルークがアリエルを人質に取った際にはルーデウスを支持すると宣言した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリエルの王位継承が確定した後で護衛の職を辞する。以後は家庭に入り子育てに専念する決意を固めた。
エリス・グレイラット
ルーデウスの妻である。好戦的な剣士として描かれている。祖父サウロスを陥れたダリウスに強い恨みを抱く。
・所属組織、地位や役職
「狂剣王」の二つ名を持つ剣士。
・物語内での具体的な行動や成果
森での戦闘にて敵兵を圧倒した。王都の夜道での戦いでは北王ナックルガードを討ち取る。最終決戦では毒を受けながらもオーベールに深手を負わせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ダリウスの死を見届けた。戦闘後はルーデウスと共にシャリーアへ帰還する。
ギレーヌ・デドルディア
獣族の剣士である。エリスの師匠にあたる人物として描かれる。サウロスの仇討ちを望んでいる。
・所属組織、地位や役職
「黒狼」の二つ名を持つ剣王。
・物語内での具体的な行動や成果
森の戦闘で北王ウィ・ターと対峙した。王都の夜道での再戦では相手の片腕を奪う。最終決戦ではオーベールに致命傷を与え、ダリウスの首を刎ねた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦いを終えた後もアリエルの護衛として仕えることになる。帰還前にエリスと最後の稽古を行う。
ルーク・ノトス・グレイラット
アリエルに仕える騎士である。ピレモンの息子にあたる。主君への忠誠心と家族への情の間で葛藤する。
・所属組織、地位や役職
アリエルの騎士。ノトス・グレイラット家の次男。
・物語内での具体的な行動や成果
アリエルを護衛して王都へ向かった。父ピレモンが処刑されそうになった際、衝動的にアリエルを人質に取る。シルフィの言葉で我に返った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリエルから行動を許される。ピレモンの失脚に伴いノトス・グレイラット家の当主となる。
エルモア・ブルーウルフ
アリエルに仕える従者である。
・所属組織、地位や役職
アリエルの従者。
・物語内での具体的な行動や成果
アリエルの影武者としての役割を担う準備を進めていた。王城のパーティ会場では合図を送ってシルフィの魔術を発動させた。
クリーネ・エルロンド
アリエルに仕える従者である。
・所属組織、地位や役職
アリエルの従者。
・物語内での具体的な行動や成果
道中の戦闘でアリエルに化けて馬車に身を潜めた。
トリスティーナ・パープルホース
元アスラ貴族の令嬢である。過去の経験からダリウスに対して憎悪を抱く。
・所属組織、地位や役職
盗賊団の構成員。パープルホース家の次女。
・物語内での具体的な行動や成果
アリエルに説得されて味方になった。王城のパーティに現れ自身がダリウスの性奴隷にされていた事実を告発する。ダリウス失脚の決定打を作った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリエルの保護を受けて貴族としての立場を取り戻した。今後は盗賊団との交渉役として活動する。
グラーヴェル陣営
グラーヴェル・ザフィン・アスラ
アスラ王国の第一王子である。ダリウスを後ろ盾として次代の王を目指している。
・所属組織、地位や役職
アスラ王国の第一王子。
・物語内での具体的な行動や成果
王城のパーティにてアリエルと対峙した。ペルギウスが登場するまでは優位に立っていた。多数決の提案を前にして形勢を逆転される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ダリウスやレイダを失う。アリエルとの政争において敗北が確実となる。
ダリウス・シルバ・ガニウス
アスラ王国の上級大臣である。第一王子グラーヴェルを支持する。ヒトガミの使徒として行動している。
・所属組織、地位や役職
アスラ王国の上級大臣。
・物語内での具体的な行動や成果
トリスティーナを性奴隷として扱っていた。アリエル一行を暗殺するためオーベールらを差し向ける。王城のパーティで過去の悪事を暴露されて失脚した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
レイダの助けで逃亡を図ったが追い詰められる。最終的にギレーヌによって斬首されて死亡する。
ピレモン・ノトス・グレイラット
ルークの父親である。小心で利己的な性格として描かれる。常に安全な道を選ぶ。
・所属組織、地位や役職
ノトス・グレイラット家の当主。
・物語内での具体的な行動や成果
アリエルを裏切って第一王子派に寝返った。サウロスの処刑に加担する。ダリウスが失脚すると再びアリエルに取り入ろうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ルークの懇願で命は助けられる。当主の座を剥奪されて領地に軟禁される処分を受けた。
ジェイムズ
ボレアス家の当主である。ダリウスの庇護を受けて家を存続させている。
・所属組織、地位や役職
ボレアス・グレイラット家の当主。
・物語内での具体的な行動や成果
王城のパーティに長男を引き連れて参列した。ルーデウスたちに対して食事の招待を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
領地を失いながらも家を存続させるために苦闘している。
フレイタス・パープルホース
パープルホース家の当主である。トリスティーナの父親にあたる。
・所属組織、地位や役職
パープルホース家の当主。
・物語内での具体的な行動や成果
ダリウスの尋問に対して反旗を翻した。娘がダリウスに奪われた事実を公に告発する。ダリウス失脚に貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリエル側へ寝返ることで家を守る選択を行う。
オーベール・コルベット
奇抜な服装と戦闘術を用いる剣士である。ダリウスに雇われてアリエルたちの命を狙う。
・所属組織、地位や役職
北帝。「孔雀剣」の二つ名を持つ。ダリウスの護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
森の道中で奇襲を仕掛けた。王都の夜道での襲撃では岩砲弾を受けて負傷する。王宮の追撃戦でエリスとギレーヌの攻撃を受けて死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ダリウスを守るために最後まで戦い抜いた。
ウィ・ター
小人族の剣士である。ダリウスに雇われた護衛の一人にあたる。
・所属組織、地位や役職
北王。「光と闇」の二つ名を持つ。
・物語内での具体的な行動や成果
森の戦闘でギレーヌと対峙した。王都の戦闘では黒煙を放って視界を奪い逃走を図る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
路地へ逃げ込んだところで討ち取られる。胸に大穴を開けられて死亡した。
ナックルガード(ナクル、ガド)
ウサギの耳を持つ獣族の剣士である。双子で連携して戦う。
・所属組織、地位や役職
北王。「双剣」の二つ名を持つ。
・物語内での具体的な行動や成果
王都の夜道で馬車の行く手を塞いだ。二人で一人前の戦力としてエリスに挑む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリスによって討ち取られて死亡する。
レイダ・リィア
水神流の奥義を極めた老婆である。ダリウスに過去の恩義を感じている。
・所属組織、地位や役職
水神。アスラ王国の元剣術指南役。
・物語内での具体的な行動や成果
王城のパーティ会場に天井を破って乱入した。剥奪剣界を展開して会場の全員の動きを封じる。ダリウスを逃がした後に現れたオルステッドと対峙した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
オルステッドの圧倒的な力の前に敗北する。胸を貫かれて死亡した。
ペルギウス陣営
ペルギウス・ドーラ
魔神ラプラスを討ち果たした三英雄の一人である。アスラ王国の歴史において絶大な影響力を持つ。
・所属組織、地位や役職
甲龍王。空中城塞ケィオスブレイカーの主。
・物語内での具体的な行動や成果
アリエルの要請に応じた。空中城塞に乗って王城のパーティ会場の上空に現れる。アリエルを次代の王の席へと導いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
アリエルの王位継承を決定づける要因となる。戦いの後は配下を一人残して帰還した。
シルヴァリル
ペルギウスに仕える精霊の一人である。仮面を被っている。
・所属組織、地位や役職
ペルギウスの第一の僕。「空虚」の二つ名を持つ。
・物語内での具体的な行動や成果
空中城塞を訪れたエリスたちを案内した。王城のパーティ会場ではレイダの襲撃に際して警告を発する。
アルマンフィ
ペルギウスに仕える精霊の一人である。光のように素早い動きを持つ。
・所属組織、地位や役職
ペルギウスの配下。「光輝」の二つ名を持つ。
・物語内での具体的な行動や成果
王城のパーティ会場でレイダの背後を取ろうと試みた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
レイダの斬撃を受けて真っ二つにされる。光の粒子となって霧散した。
トロフィモス
ペルギウスに仕える精霊の一人である。
・所属組織、地位や役職
ペルギウスの配下。「波動」の二つ名を持つ。
・物語内での具体的な行動や成果
王城のパーティ会場でレイダに対して攻撃を放とうと試みる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
レイダの斬撃を受けて真っ二つにされる。光の粒子となって霧散した。
十二人の僕(精霊たち)
ペルギウスに仕える配下たちである。
・所属組織、地位や役職
ペルギウスの配下。
・物語内での具体的な行動や成果
ペルギウスと共に王城のパーティ会場に現れた。会場の端へと移動し護衛の役割を担う。
アスラ王国関係者
イゾルテ・クルーエル
礼儀正しい性格の剣士である。レイダの弟子にあたる。エリスとは独特の距離感を保っている。
・所属組織、地位や役職
アスラ王国の見習い騎士。水王。
・物語内での具体的な行動や成果
王都の街中でエリスと再会した。レイダが凶行に及んだ際、師を問いただす。レイダがオルステッドに殺害されると涙を流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
レイダの死後も道場を守る道を選んだ。騎士として正式に取り立てられる予定となる。
ルーデウスの家族・関係者
アイシャ
ルーデウスの妹である。明るく元気な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
ルーデウスの妹。
・物語内での具体的な行動や成果
ルーデウスがシャリーアに帰還した際に出迎えた。エリスからお土産の鏡を受け取り大喜びする。
リーリャ
ルーデウスの家で働くメイドである。アイシャの母親にあたる。
・所属組織、地位や役職
ルーデウスの家のメイド。
・物語内での具体的な行動や成果
ルーデウスが帰還した際に出迎える。家の者たちの無事を報告した。
ロキシー
ルーデウスの妻である。ミグルド族の魔術師として描かれる。ルーデウスの帰還時に妊娠中として登場する。
・所属組織、地位や役職
ルーデウスの妻。
・物語内での具体的な行動や成果
ルーデウスがシャリーアに帰還した際に出迎えた。妊娠によって変化した体型に戸惑いを見せる。ルーデウスと対話して安心を得た。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
胎動を感じる。母になる準備を進める。
レオ
ルーデウスの家にいる聖獣である。
・所属組織、地位や役職
聖獣。
・物語内での具体的な行動や成果
リビングの暖炉の前で丸まっていた。ルーデウスの姿を見ると近づき手を舐めて歓迎する。
ジロー
ルーデウスの家にいるアルマジロである。
・所属組織、地位や役職
ペットのアルマジロ。
・物語内での具体的な行動や成果
犬小屋で昼寝をしている姿が描かれた。
ビート
ルーデウスの庭にいる植物である。
・所属組織、地位や役職
庭の植物(トレント)。
・物語内での具体的な行動や成果
庭先で光合成をしており体を揺らしている姿が描かれた。
その他の登場人物・集団
オルステッド
世界最強の存在とされる龍神である。ヒトガミを倒すことを目的としている。他者から恐れられる呪いを抱える。
・所属組織、地位や役職
龍神。ルーデウスの雇い主。
・物語内での具体的な行動や成果
ルーデウスに指示を与えた。王都のパーティ会場に乱入する。水神レイダを素手での格闘の末に一撃で討ち取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
死んでも記憶を保ったまま過去へ戻る秘術を持っている。数え切れないほどの時間を繰り返し未来の結末を知る。
無職転生 16巻レビュー
無職転生 全巻まとめ
無職転生 18巻レビュー
備忘録
第十七章 青年期 アスラ王国編(後)
第一話「アスラ王国へ出発」
転移魔法陣による移動計画
ルーデウスたちはアスラ王国へ向かうにあたり、通常であれば数ヶ月を要する距離を、転移魔法陣を用いて短縮する計画を立てていた。馬車で空中城塞へ向かい、そのまま魔法陣を使って赤竜の上顎北部へ転移し、そこから陸路で南下する経路であった。
空中城塞でのエリスの反応
空中城塞に到着すると、エリスは高度から見下ろす景色に強く感動し、年相応とは思えないほど無邪気にはしゃいでいた。町を見下ろして歓声を上げたり、周囲を見回して感嘆する様子は、同行者たちに微笑ましく受け止められていた。
シルヴァリルとの邂逅と案内
魔法陣の前で待機していた空虚のシルヴァリルは、エリスの素直な反応に好感を抱き、自ら名乗りを上げた。エリスも名乗り返し、二人は良好な関係を築いた。城内を見たがっているエリスの様子を察したシルヴァリルは、嬉しげに案内役を務め、ルーデウスたちはそれに従った。
ペルギウスとの謁見
一行は謁見の間で甲龍王ペルギウス・ドーラと対面した。ルーデウスはエリスが無礼を働くことを危惧したが、エリスは事前に準備していた丁寧な挨拶を行い、膝をついて礼を尽くした。その態度をペルギウスは高く評価し、エリスに対して好意を示したうえで、かつて配下が彼女を襲った件について謝罪した。エリスはそれを気にしていないと応じ、場は和やかに収まった。
転移魔法陣の仕組みと制約
謁見後、一行は転移魔法陣のある広間へ案内された。転移魔法陣は通常、双方に魔力が通っていなければ使用できないが、魔力濃度の高い場所では周囲の魔力を吸収する魔道具によって半永久的に稼働させることが可能であった。また、魔力結晶を用いて人工的に魔力を供給する方式も存在していた。アスラ王国は魔力濃度が低いため、多くの魔法陣が魔力結晶に依存していた。
転移妨害の背景と遠回りの理由
アスラ王国内の転移魔法陣は、魔力結晶型・自然型を問わず何者かに破壊されていた。その原因として、全ての設置場所を把握するヒトガミの関与と、広範な私兵を持つダリウス上級大臣の存在が疑われていた。このため、ルーデウスたちは王国内へ直接転移することができず、遠回りを強いられることになった。
ペルギウスの動向への疑問
一方で、ペルギウスがどのようにしてアスラ王宮へ赴くのかは明かされなかった。アリエルはその方法を知っている様子であったが、詳細は伏せられており、何らかの特別な手段を用いることが示唆されていた。
転移先の遺跡と歴史的背景
転移先は古代の転移魔法陣が残る遺跡であった。かつてはこのような遺跡が各地に存在し、種族を問わず大陸間の移動が可能であったが、戦争で悪用された結果、全面的に使用が禁じられた経緯があった。現在も残る遺跡は、ある龍族が独自に結界を張って保護したものであり、その存在がルーデウスたちの移動手段として活用されていた。
森への到着と馬車の問題
遺跡の外は鬱蒼とした森であり、赤竜の上顎北西付近に位置していた。しかし、馬車ごと転移した結果、遺跡の出口から馬車が出せない問題が発生した。これに対し、アリエルの従者たちは即座に対応し、馬車を分解して外へ運び出し、後に再組立することで解決した。
街道への移動と野営
一行は馬車の部品を運搬しながら街道付近まで移動し、そこで再び馬車を組み立てた。到着時には日が暮れていたため、その場で野営することとなった。周囲の森から薪や食料となる魔物や野草を確保し、現地調達で生活環境を整えた。さらに従者が持参した絨毯により、野営でありながらも快適な空間が用意された。
役割分担とルーデウスの違和感
食事の準備は従者とシルフィが担当し、エリスとギレーヌが警戒に当たっていた。ルーデウスは手伝いを申し出たが不要とされ、自身の役割がほとんど存在しない状況に戸惑いを覚えた。これまで旅では魔術による補助で重宝されてきたが、今回は他者の能力によってその必要がなかったためである。
ヒトガミの使徒に対する思考
ルーデウスは今回の目的であるヒトガミの使徒の特定と排除について思考を巡らせた。候補としてルークやダリウス、さらに北帝や水神の可能性を挙げ、事前にオルステッドから対処法を教えられていた。特にルークに対しては疑念を抱きつつも、彼がアリエルを守る存在であることから、排除することへの葛藤を感じていた。
未来への不安と決意
ヒトガミやオルステッドの語る未来についても考察しつつ、ルーデウスは将来の世界の行く末に不安を抱いた。しかし、現時点では家族を守ることを最優先とし、未来の問題は未来の人間に委ねるべきだと割り切った。また、その可能性を後世に伝えるため、記録を残す必要性を考え始めた。
思考の中断と日常への回帰
食事の準備が整ったという声により、ルーデウスの思考は中断された。深い思索は一旦保留とし、日記として記録する決意を抱きながら、仲間との時間へと戻っていった。
夜の見張りとオルステッドとの接触
野営の夜、一行は交代で見張りを立てていた。アリエルのみがテントを使い、他の者たちは二人一組で周囲を警戒していたが、人数の都合で一度だけ三人一組となる時間帯があった。初日の見張りを担当したルーデウスは、周囲の見回りを名目に焚き火を離れ、森の奥でオルステッドとの定期連絡を行った。
暗闇の中での報告
ルーデウスは焚き火から十分に離れた場所で、暗がりの中から現れたオルステッドと対面した。突然その姿を見たことで一瞬悲鳴を上げそうになったが、すぐに気を取り直して報告を始めた。初日ということもあり、報告内容はルークに怪しい動きがなく、旅も順調であるという簡潔なものであった。オルステッドも現時点では大きな異変を想定しておらず、しばらくは何も起こらないだろうと見ていた。
赤竜の上顎に潜む危険
一方で、オルステッドは赤竜の上顎を抜けるあたりでの襲撃を強く警戒していた。赤竜の上顎はアスラ王国と北方大地をつなぐ谷とその北の森を含む地域であり、国外に近く、人目も届きにくいため、要人を密かに始末するには最適の場所であった。森には強力な魔物や盗賊団も存在しており、王女暗殺を事故や行方不明として処理しやすい環境が整っていたため、ダリウスがヒトガミの助言を受けているなら、最初に仕掛ける場所はそこだと見なされていた。
襲撃を前提とした作戦
もし襲撃が起きれば、それを理由に街道を通る危険性を訴え、自然な流れで別ルートへ移ることができた。その先にはトリスのいる盗賊団との接触も想定されていた。反対に襲撃が起きなかった場合には、オルステッドが召喚魔法陣の描かれたスクロールと魔力結晶を用いて自作自演の妨害を起こし、同様にルート変更へ持ち込む段取りであった。すでにそのための準備は整えられていた。
北帝オーベールへの警戒
襲撃者として特に警戒されていたのは、北帝オーベール・コルベットであった。アスラ王国が北帝と水神を雇っている場合、奇襲や暗殺に長けたオーベールが派遣される可能性が高いとオルステッドは見ていた。オーベールは服装や髪型、戦い方に至るまで奇抜であり、北神流を体現するような剣士として知られていた。ルーデウスは対処法を教わり、いくつかの戦闘パターンも想定していたが、オルステッドはその態度に楽観が混じっていることを見抜いていた。
治癒用スクロールの受領
オルステッドは戦いに備え、ルーデウスへ王級治癒魔術の魔法陣が描かれたスクロールを渡した。ルーデウスは治癒魔術を上級までしか扱えないため、重大な損傷を負った場合に備えての措置であった。これにより、オルステッドが今回の戦いを相応に危険なものと見ていることが示された。
魔術体系に関する会話
会話の中で、ほとんどの魔術は魔法陣で再現可能であることも語られた。ただし、獣族の吠魔術や王竜の重力魔術のように、特殊な発動原理を持つ固有魔術は別であり、その理を理解しなければ使えないとされた。未来のルーデウスが重力魔術を扱っていたことにも触れられたが、それには長い研究と訓練が必要だったはずだとオルステッドは説明した。自らも重力魔術を使えると認めたうえで、それも一つずつ習得してきたものであると明かした。
ルークの処遇に関する確認
ルーデウスは、もしルークがヒトガミの使徒であった場合に生かしておいた後の影響について確認した。オルステッドは、アリエルが王となるか否かという転換点が訪れれば、その時点でルークもヒトガミの呪縛から解放されると答えた。ヒトガミの使徒は未来予知の結果が出るまで固定されており、この件が終わるまでは入れ替わらないことも説明された。ルーデウスはその仕組みを聞き、使徒を殺せばその枠がしばらく埋まらないままとなることを理解し、ヒトガミ側の手札を減らす意味も見いだした。
初日の終わり
こうしてルーデウスはオルステッドとの連絡を終え、焚き火のもとへ戻った。周囲に異常がないことを報告し、予定通りに見張りを交代すると、毛布にくるまって休息を取った。アスラ王国への旅の初日は、表面上は平穏のうちに過ぎていった。
第二話「赤竜の上顎」
渓谷の道と商隊との遭遇
赤竜の上顎は分かれ道のない一本道の渓谷であり、どの国にも属さない中立地帯であった。一行が進む中、大規模な商隊とすれ違った。多数の幌馬車と荷を積んだ馬、そして護衛の冒険者たちが隊列を成しており、彼らは警戒の目でルーデウスたちを見据えていた。その光景は、かつてルーデウス自身が商隊に混じって旅をしていた過去を思い起こさせた。
過去の自分と現在の変化
商隊の姿を見たことで、ルーデウスは孤独であった過去を振り返った。当時はエリスに捨てられたと思い込み、自身の未来に絶望していた。しかし現在はシルフィに支えられて自信を得て、家庭を持ち、複数の伴侶と共に生活していた。過去と現在の落差を実感しつつ、当時の自分であればこの状況を素直に祝福できず、距離を取っただろうと内省していた。
道中でのやり取りと関係性
移動中、エリスとシルフィとの軽妙なやり取りが交わされた。ルーデウスは無意識にシルフィに触れてしまい、それをたしなめられつつも受け入れられる場面があった。エリスはそれに対抗心を見せ、翌日は自分の後ろに乗るよう提案するなど、三者の関係性が垣間見えた。こうしたやり取りは緊張感のある旅路の中で、束の間の安らぎとなっていた。
森への到達と地形的特徴
やがて渓谷を抜けると、広大な森が広がっていた。出口は高所に位置しており、森の先には城壁が確認できたが、森の内部は見通しが悪く、何が潜んでいるか分からない状況であった。一方で城壁側からは出入りが監視可能であり、地形的に襲撃に適した環境であることが明らかであった。
慰霊と過去の犠牲者
森の入口で一行は足を止めた。アリエルたちは道端の石に花を供え、祈りを捧げた。その石はかつてこの地で命を落とした者たちの墓標であり、アリエルの関係者も含まれていると考えられた。彼女は普段信仰心を表に出さないが、この場では敬意を示して祈りを捧げた。ルーデウスもそれに倣い、手を合わせた。
襲撃を見据えた判断
祈りを終えたアリエルは、この先で襲撃の可能性が高まることを踏まえ、その日は森の入口で野営し、翌日に一気に突破する方針を示した。これまでよりも引き締まった表情での指示であり、一行はその決断に従い、緊張を高めながら準備を進めることとなった。
戦闘前の最終確認と役割分担
森の入口で野営した夜、一行は改めてフォーメーションと各自の能力を確認した。エリスとギレーヌが前衛、シルフィが中衛、ルーデウスが後衛として全体を見渡す位置を担う構成であった。ルークと従者エルモアはアリエルの直衛となり、従者クリーネは魔道具によってアリエルに変装し、影武者として行動する役割を与えられていた。襲撃を前提とした綿密な準備が整えられた。
待ち伏せの察知と戦闘開始
翌日、森の中を進む中で、オルステッドの合図である待ち伏せの印を発見した。警戒を強めた直後、武装した兵士たちが道を塞ぎ、さらに森の中から増援が現れた。名乗りを拒否した兵士たちはそのまま戦闘に突入し、エリスとギレーヌが先陣を切って斬り込み、シルフィが魔術で支援した。
北王ウィ・ターとの対峙
戦闘の最中、小人族の剣士ウィ・ターが現れ、ギレーヌに一騎打ちを挑んだ。彼は光を反射する鎧を利用し、ギレーヌの視界を奪うことで優位に立っていた。ギレーヌは攻撃の機会を得られず押され始めたため、ルーデウスは泥を降らせる魔術を用いて光の反射を封じ、形勢を逆転させた。
北帝オーベールの奇襲
その直後、ルーデウスの背後から北帝オーベール・コルベットが奇襲を仕掛けた。オーベールは地中に潜んで機会を窺っており、接近戦に持ち込んだ。ルーデウスは篭手を射出する奇策で攻撃を回避し、対峙する形となった。オーベールは即座に攻めず、状況を見極めるように会話を交わした。
戦況の変化と撤退
その間にギレーヌが合流しつつあったが、オーベールは不利を悟り、煙幕や火炎攻撃を用いて混乱を誘発した後、撤退を宣言した。エリスが追撃しようとするも、シルフィが制止し、無理な深追いは避けられた。敵兵も一斉に撤退し、戦闘は終結した。
戦闘後の処理と異変の発覚
戦闘後、一行は死体を処理した。森では死体を放置するとアンデッド化するため、装備を回収した後に焼却を行った。その作業中、ルークが敵兵の鎧に刻まれた紋章に気付き、顔色を変えた。その紋章はミルボッツ領のものであり、領主ピレモン・ノトス・グレイラットの関与を示唆していた。
裏切りの確定
この発見により、アリエル側につくと見られていた有力貴族が裏切っていたことが明らかとなった。襲撃は単なる賊ではなく、アスラ王国内部の権力争いが直接的に関与したものであると判明し、一行の置かれた状況はより深刻なものとなった。
第三話「推察」
襲撃後の作戦会議
襲撃から一時間後、一行は森の奥で焚き火を囲み、光を外に漏らさぬよう配慮しながら作戦会議を行った。敵兵の鎧からミルボッツ領の紋章が発見されたことで、ルークは父ピレモンの裏切りを受け入れられず、動揺を隠せずにいた。一方でアリエルや他の者たちは、その可能性をある程度想定していた様子で冷静に状況を分析していた。
ルーデウスの進路提案
ルーデウスは、オーベールの発言や戦闘状況から、今後も継続的な襲撃が行われると推測した。特に関所での待ち伏せの危険性を指摘し、正面突破は困難であると判断した。その上で、密輸や奴隷売買に関わる盗賊団と接触し、関所を通らずに国境を越える案を提示した。
意見の対立と不信の芽生え
この提案に対し、シルフィは一定の信頼を示しつつも慎重な姿勢を崩さなかった。一方、ルークは強く反発し、ルーデウスの行動が不自然であるとして疑念を向けた。戦闘中の対応やオーベールの戦法への理解を根拠に、あらかじめ襲撃を知っていたのではないかと詰問した。ルーデウスは予見眼による判断であると説明したが、ルークの疑念は完全には払拭されなかった。
ヒトガミの影響の示唆
ルークの動揺と疑念は、ヒトガミによる干渉の可能性を示唆していた。父の裏切りを否定しようとする心理と、現実との乖離が彼の判断を鈍らせていた。ルーデウスは、ヒトガミの助言が的外れになっている可能性や、すでにルークが使徒として利用されている可能性を推測した。
アリエルの決断
ルークはペルギウスへの支援要請を提案し、従者たちもそれに賛同した。しかし最終的な判断を下したアリエルは、ルーデウスの案を採用した。彼女は、この程度の困難で他者に頼るべきではないとし、自らの力で状況を切り開く意思を示した。その決断には、ルーデウスへの信頼も含まれていた。
ルークとの主従の再確認
アリエルは動揺するルークに対し、改めて自らとの関係を問いかけた。ルークは自分が彼女の騎士であると答え、アリエルもまた王女としての立場を示した。このやり取りにより、二人の間の絆は再確認され、ルークは一時的に冷静さを取り戻した。
新たな方針と不安の残存
こうして一行は盗賊団との接触を目指す方針を固め、再び行動を開始することとなった。しかしルーデウスの中では、ルークがヒトガミの使徒である可能性が強まり、不安は完全には消えなかった。旅は新たな緊張を抱えたまま続くこととなった。
盗賊団のもとへ向かう森中の移動
一行は盗賊団のいる場所へ向かうため、いったん街道へ戻ったうえで、目印のある岩から森へと入った。目的地は森の東端、山の麓の崖下であったが、森の中は鬱蒼としており、馬車を分解して馬に積み替えても移動は難航した。木を切り倒して道を作る場面もあり、痕跡が残ることは避けられなかったが、大人数で移動する以上、完全な隠密は不可能と割り切って進むしかなかった。
アリエルの疲労と静かな行軍
森の奥へ進むにつれ、アリエルは歩き慣れない地形に苦しみ、たびたび足の痛みを訴えた。もっとも、弱音を吐くことはなく、その都度シルフィが治癒魔術をかけ、休息を挟みながら進行を続けた。道中では目立った会話もなく、各自が沈黙したまま歩みを進めていた。
ルークへの助言内容の推測
沈黙の中で、ルーデウスはヒトガミの使徒について考えを巡らせていた。とりわけ気にしていたのは、ルークがどのような助言を受けたのかという点であった。図書迷宮へ向かう前に、ルークがルーデウスへ協力を求めに来たことから、その時点でアリエルのためにルーデウスを引き込めという助言を受けていた可能性を考えた。しかし、襲撃後にルークが異様なほどルーデウスを疑ったことから、それ以外にも何らかの言葉を吹き込まれていると推測していた。
ダリウスとオーベールへの疑念
ルーデウスは次に、ダリウス上級大臣がヒトガミの使徒である可能性を改めて強く意識した。アリエルの帰還を予測していたにしては、配置されていた戦力があまりに大きく、北帝オーベールや北王ウィ・ターの投入も含めて、詳細な情報が事前に流れていたと見るほかなかった。とくにオーベールがアリエルではなくルーデウスを優先して狙ってきたことから、ダリウス側がルーデウスの存在も把握していたと考えていた。最後の使徒については依然として判然としなかったが、ピレモンについては以前から裏切る可能性があったため、使徒であるとは断定しなかった。
オーベールへの再評価
戦闘を振り返る中で、ルーデウスはオーベールの戦い方を改めて厄介だと感じていた。魔力付与品だけでなく、油や催涙弾といった道具を自在に使い分け、単なる奇抜さでは済まない強さを備えていたからである。目立つ外見に反して森に入ると気配を消し、撤退に入った後は追撃も難しかったため、北帝の名にふさわしい相手であると認識を新たにしていた。
二度目の報告と敵戦力の確認
夜の野営時、ルーデウスは再びオルステッドと接触し、襲撃の内容を報告した。オルステッドは、逃走に入ったオーベールを仕留められなかったことを責めず、むしろ当然と受け止めたうえで、ウィ・ターについて説明した。ウィ・ターは北神三剣士の一人で、光を利用した目潰しを得意とする奇抜派の北王であった。昼は磨き上げた鎧と鏡で相手の視界を奪い、夜は黒煙を使って闇に紛れるが、昼は鎧を汚し、夜は火魔術で周囲を照らすことで対処可能だと教えられた。また、ダリウスは他にも水王や剣聖級の護衛を抱えている可能性があるが、水神という切り札を持つ以上、大量の戦力を雇うことはないだろうとも分析された。
ルークへの評価とヒトガミの綻び
ルークについては、今回の混乱がむしろよい兆候だとオルステッドは見ていた。ヒトガミは未来を見る力に長ける一方で、予測や複数の使徒の連携調整は苦手であり、そのため助言同士の間に綻びが生じやすいというのである。ルークが愕然としていたのは、他の使徒への助言と現実が食い違った結果であり、そこからヒトガミの嘘が露呈したのだと考えられた。さらに、ルークは運命が弱く、ヒトガミにとっては監視役としての意味合いが強いとも語られた。ただし、投げやりになったヒトガミが使徒に無茶をさせることもあるため、警戒は怠るなと釘を刺された。
ルークとの接触を考えるルーデウス
ルーデウスは、可能であればルークと直接話し、ヒトガミとの接触や助言内容を聞き出したいと考えていた。説得してヒトガミの言いなりになるのをやめさせるか、逆に利用できるなら逆スパイにしたいという思惑であった。オルステッドは無駄だろうとしつつも、その試み自体は許可した。計画全体は順調と評価されていたが、ルーデウス自身はルークの挙動などに綻びを感じ、むしろ順調すぎることに不安を抱いていた。
夜の焚き火でのアリエルの誘い
報告を終えたルーデウスが焚き火のもとへ戻ると、見張りをしていたシルフィとクリーネに加えて、もう一人起きている者がいた。それはアリエルであった。焚き火を背に立ったアリエルは、不敵な笑みを浮かべながらルーデウスに声をかけ、少し散歩をしないかと誘った。
第四話「アリエルの選択」
夜の森での対話
夜更け、アリエルはルーデウスを焚き火の場から連れ出し、月明かりの差す森の中を二人きりで歩いた。従者やシルフィを同行させず、松明を手に自ら先導する姿から、彼女がこの場を意図的に設けたことは明らかであった。ルーデウスは真面目な話であると察しつつも、警戒のために魔眼を開いていた。
家族関係への観察とアリエルの視点
アリエルは本題に入る前に、シルフィとエリスの関係について語った。エリスがルーデウスを全面的に信じて前に立とうとし、シルフィがその背後で支えようとしていること、さらにシルフィがエリスを出来の悪い妹のように扱い、エリスもそれを受け入れていることを指摘した。ルーデウスはその言葉を通じて、自分が気づかぬうちにシルフィが家庭内の調整役を担っていたことを認識した。
ルークへの問いとアリエルの本心
やがてアリエルは本題として、ルークをどう思うかとルーデウスに尋ねた。ルーデウスが相手の望む答えを探ろうとしたのに対し、アリエルは率直な答えを求めていると告げ、自らの考えを先に示した。彼女は、ルークが裏切っていると考えていると明言した。ただし、それはルークに自分を裏切る理由があるからではなく、家族を人質に取られるなど、裏切らざるをえない状況に追い込まれている可能性を見ていたからであった。
ルーデウスへの疑念と信頼の両立
アリエルは、最近になって唐突に協力を申し出たルーデウスに対しても、まったく疑っていないわけではなかった。ルークの発言次第では、ルーデウスが裏から糸を引いている可能性も考えられたからである。しかし彼女は、それでも自分の見立てが誤っていたなら甘んじて受け入れる覚悟を示し、恐れずにルーデウスへ問いを向け続けた。ルーデウスは、ルークは裏切っているのではなく、誰かに唆されているだけだと答えた。
黒幕への接近とオルステッドへの言及
アリエルはその答えを受け、唆している相手の名を無理に問うことはしなかった。その代わり、ルーデウスを陰から操っている人物に会わせてほしいと求めた。そして、その相手としてオルステッドの名を挙げた。図書迷宮での一連の出来事があまりにも都合よく進みすぎていたことから、背後に誰かがいると見抜いていたのである。さらにアリエルは、オルステッドが自分たちの味方であるなら受け入れ、そうでないなら自ら味方に引き込むとまで言い切った。
オルステッドの出現とアリエルの反応
ルーデウスが返答に迷っていると、背後からオルステッド本人が姿を現した。彼はアリエルが話したいというなら拒まないと告げ、鋭い視線を向けた。その圧倒的な威圧にさらされたアリエルは、一度は恐怖に震え、顔を歪め、失禁するほどの反応を示した。ところが次の瞬間、彼女の表情は恍惚へと変わり、ルーデウスはその反応から、彼女が完全には屈していないことを察した。
動揺からの立て直し
オルステッドとの対面で強烈な恐怖を受けたアリエルであったが、しばらくして冷静さを取り戻していた。ルーデウスが水魔術と混合魔術で衣服を整えた後、アリエルは表面上は平静を装い、再び王族としての威厳を保っていた。一方でオルステッドは居心地悪そうにその場に立ち続けていた。
呪いへの理解と対峙
アリエルはオルステッドの放つ異常な威圧を呪いによるものと理解し、それを克服できると語った。王族として感情を切り離す訓練を積んできた彼女は、恐怖を抑え込む術を心得ていた。しかし同時に、完全に信用しているわけではないことも明言し、あくまで見極めるために対話を望んだと告げた。
ヒトガミの存在と目的の開示
アリエルの問いに対し、オルステッドは自らの行動理由を明かした。ダリウスの背後にはヒトガミと呼ばれる存在がおり、それが敵であるために行動していると説明した。ヒトガミはアリエルを排除し、第一王子グラーヴェルを王に据えようとしているという。さらにその理由として、百年後の未来においてアスラ王国の存亡に関わる分岐があり、アリエルが王となれば魔術によって国は存続し、グラーヴェルが王となれば武力偏重によって滅びると語られた。
アリエルの理解と判断
突飛な内容でありながらも、ルーデウスの反応から虚偽ではないと判断したアリエルは、ヒトガミの目的を理解した。アスラ王国からヒトガミに対抗する人物が生まれる可能性があり、それを阻止するために国を滅ぼそうとしているという構図を受け入れたのである。
ルークの真相の確認
続いてオルステッドは、ルークが裏切っているわけではなく、ヒトガミに唆されているだけであると断言した。ルーデウスも同様の見解を示し、自身の体験をもとにヒトガミの手口を説明した。これにより、ルークが自覚なく敵対行動を取っている可能性が明確となり、アリエルはその点について一定の納得を得た。
協力関係の成立
アリエルは最終的に、オルステッドとルーデウスの目的が自らと一致していると判断し、協力関係を受け入れる決断を下した。たとえ危険や裏切りの可能性があっても、勝利のためには強力な味方を得るべきだと考えたためである。周囲には伏せたまま、自らの意思でオルステッドの側に立つ覚悟を示した。
役割分担の提案と承認
さらにアリエルは、役割分担を提案した。ルーデウスはヒトガミの使徒との戦闘に専念し、自身はルークや貴族たちへの対応を引き受けるというものである。オルステッドはこの提案を承認し、ルークの処遇についてはアリエルに一任した。必要であれば説得し、それが叶わぬ場合は排除するという厳しい条件のもと、任務が委ねられた。
新たな同盟の確立
こうしてアリエルは、自らの意志でオルステッドとの協力関係を結び、戦局における新たな立ち位置を確立した。恐怖を乗り越えた上での決断であり、王となるための覚悟が示された瞬間であった
協力関係の成立と戸惑い
一連のやり取りを経て、ルーデウスは気づけばアリエルがオルステッドの配下となり、共同戦線を張る立場になっている状況に戸惑いを覚えていた。突然の展開でありながらも、今後の方針は共有され、互いに協力して行動する体制が整えられた。
秘密保持と信頼の確認
アリエルはこの事実をシルフィたちには伏せるよう求めた。ルーデウスは了承しつつも、その判断に問題がないかを確認したが、アリエルは迷いのない様子で応じた。彼女は精神的な整理がついたことを示し、これによりルーデウスと真の意味での協力関係が築けたと語った。
ルーデウスの条件提示
ルーデウスは協力を受け入れつつも、自身の最優先事項が家族の保護であることを明確にした。ルークの件に関して、シルフィやエリスに危険が及ぶと判断した場合には、アリエルの判断を待たず自らルークを排除する意志を伝えた。この条件は、オルステッドへの従属もあくまで家族を守るためであるという立場の表明でもあった。
役割の受容と今後の関係
アリエルはその条件を受け入れ、今後も協力関係を維持することを確認した。ルーデウスにとってアリエルは、オルステッドの配下としての同僚という新たな位置づけとなり、戦いにおける重要な協力者となった。
日常への回帰と小さな波紋
二人が戻ると、シルフィは不満そうな様子を見せていた。夜の出来事は表には出されないまま、しかし確実に関係性の変化を内包したまま、一行の旅は続いていくこととなった。
第五話「トリスティーナ」
盗賊団の縄張りへの到達
翌日、一行は盗賊団の縄張りへと足を踏み入れた。追っ手の気配はなく、オーベールや兵士たちも追ってきてはいなかった。ヒトガミは予知できなくとも予測は可能なはずだが、龍神の紋章が刻まれた腕輪の影響もあり、この別ルートは予知の範囲外になっているとルーデウスは考えていた。
包囲の中での接触
森を進む中、ギレーヌが周囲の気配を察知し、エリスの前進を制した。盗賊たちはすでに一行を包囲していたが、ルーデウスは交渉役を引き受け、自ら前に出た。やがて山賊風の男が姿を現し、合言葉を交わしたことで敵意は収まり、一行は奥へ案内されることになった。
山小屋での待機
案内された先は森の中の小屋であった。そこは簡素ながらも寝泊まりのできる造りであり、今夜はここで休み、明け方に国境越えを行う予定だと説明された。案内役の男は金を受け取ると、トリスを連れてくること、明け方まで小屋を出れば話はなしになることを告げて立ち去った。一行はそれぞれ持ち場につき、ルーデウスは装備の点検をしながら静かに時を待った。
雨の夜とトリスの来訪
しばらくして外は雨となり、小屋の中は緊張を孕みつつも静かな空気に包まれていた。そこへフードをかぶった女が現れた。彼女は不機嫌そうに悪態をつきながら中へ入り、自分を呼び出した用件を早く話せと迫った。シルフィが眠っている者がいるから静かにしてほしいと頼むと、女はさらに機嫌を悪くしたが、ルークが前に出て丁寧に詫びたことで態度を和らげた。こうして、女がトリスであることが明らかになった。
ルーデウスへの警戒とエリスの威圧
ルーデウスが名乗ると、トリスはその名に覚えがあるような反応を示し、魔法都市シャリーアで悪名を持つ泥沼のルーデウスではないかと口にした。さらにエリスやギレーヌのことも把握しており、ただの盗賊ではなく情報に通じた立場であることがうかがえた。トリスが詮索するような素振りを見せた時、エリスが剣の柄頭を鳴らして警戒を示し、その威圧にトリスも態度を改めた。
アリエルによる正体の指摘
ルーデウスが本題に入ろうとしたところで、アリエルが姿を現した。彼女はトリスを見て、元アスラ貴族のトリスティーナ・パープルホースではないかと名指しした。トリスは強く動揺したが、アリエルが幼い頃に会ったことを語ると、その記憶と照合して正体を認めた。アリエルが父王の病を受けて帰還したものの兄に歓迎されていないと率直に明かしたことで、トリスも一行がここへ来た理由を理解した。
トリスの過去の告白
アリエルに問われたトリスは、自らの過去を語り始めた。幼い頃に攫われ、ダリウスの性奴隷として扱われたこと、やがて盗賊団へ売られ、盗賊の親分の女として暮らしたこと、その後は修行を経て今の立場に至ったことを、淡々と打ち明けた。その内容は過酷であったが、トリスは感情を露わにせず語り終えた。
アリエルの説得と仲間入り
アリエルはその告白を受け、トリスの境遇に涙を流しながら、彼女を地獄に落としたダリウスへ天罰を下すと誓った。そして、ダリウスに性奴隷として扱われていた証言をしてほしいと頼んだ。トリスはすぐには応じず、アスラ王国とダリウスの強大さを理由に勝ち目はないと否定したが、アリエルは自らの陣営の戦力と勝算を示して説得を続けた。長い沈黙の末、トリスはついに首を縦に振り、アリエルを王都へ送り届け、ダリウスを討つ手助けをすると誓った。
アリエルの手腕とルーデウスの決意
こうしてトリスはアリエルの仲間となった。ルーデウスはほとんど口を挟むことなく、交渉はアリエルの言葉だけで進められた。貴族たちへの対応は自分が担うという言葉通り、アリエルは見事にトリスを引き入れてみせた。ルーデウスはその手腕を実感しつつ、自分もまた自分の役目を果たさねばならないと気を引き締めた。
第六話「道中」
秘密の抜け道への移動
翌朝、一行はまだ日も昇らぬ暗い森の中を、トリスに先導されて出発した。無駄口を叩かず山の方角へと進み続けると、やがて森が唐突に開け、高い崖と森に囲まれた半月形の湖が姿を現した。そこは地図にも載らない盗賊団の管理する隠し場所であり、トリスが石碑の前で呪文を唱えると、崖の一部が消えて洞窟の入口が現れた。
湖と洞窟を通る国境越え
トリスは浅瀬を伝って洞窟へと入り、一行もそれに続いた。エリスは冒険心を隠さず先を急ぎ、ルーデウスたちは馬を引きながら水の中を進んだ。洞窟の中は人工的な造りで、床は綺麗なタイル張りになっていた。内部は広く天井も高かったが、分岐が多く複雑であり、トリスは魔物こそ少ないものの、はぐれず進むよう注意を促した。さらに、遠くに光が見えても外へ出てはならないと警告し、外は赤竜の縄張りだと説明した。
道中の会話とアリエルへの支援
洞窟を進む間、ルーデウスはアリエルと視線を交わしたが、それを見たシルフィに釘を刺された。前夜の件は周囲に知られておらず、アリエルがトリスを仲間に引き入れたことも偶然とカリスマによるものとして受け止められていた。一方でアリエル自身は、本気でルーデウスの支援に回るつもりであり、そのことはルーデウスにも伝わっていた。
長い坑道の先にあった出口
洞窟内の移動は長く、時間の感覚が狂うほどであった。やがてアリエルや従者たちが疲労を見せ始めた頃、トリスが仕掛けを作動させ、行き止まりに見えた岩の向こうから外光が差し込んだ。外に出るとそこは再び森であり、太陽の位置から見て正午を回った頃であった。トリスは芝居がかった口調でアスラ王国へようこそと告げ、一行はついに密入国を果たした。
裏道を使った南下
洞窟の出口は国境の南東に位置しており、そこから一行はドナーティ領を目指して進んだ。トリスは密入国と密出国の時間帯の違いを説明し、他の集団と鉢合わせしないよう急ぎ足で移動を促した。その後は街道を避け、地図にも載らない小道を使って進行した。トリスはこうした道に精通しており、一行は迷うことなく移動できたが、ルーデウスはオーベールの襲撃がないことに油断せず、敵が王都周辺に戦力を集中している可能性も考えていた。
フィットア領を見た二人の反応
移動の途中、一行はフィットア領の近くを通過した。かつての広大な麦畑はまだ戻っておらず、復興にはなお長い年月が必要と思われた。エリスとシルフィは並んで景色を眺めたが、その表情は対照的であった。シルフィは懐かしさを滲ませ、復興が進んでいることを喜んだのに対し、エリスは素っ気ない態度を見せた。
故郷と未来を語る会話
それでも会話を続ける中で、シルフィはエリスが領主になっていた可能性や、ルーデウスがそれを支えていた未来を想像してみせた。エリスはそれを否定しつつも、自分には剣を振るう生き方のほうが似合っていると語った。さらに話題は家庭へと移り、エリスはルーデウスと子供を作れればそれでよいと率直に口にし、シルフィも今の生活に十分すぎるほど満足していると打ち明けた。
穏やかな時間と束の間の安らぎ
その後も二人は、帰った後の暮らしやロキシーのこと、食べ物の話など、他愛のない話を続けた。会話は賑やかとは言えなかったが、ルーデウスにとってはそのやり取りと、シルフィを後ろから抱くような体勢そのものが大きな安心感をもたらしていた。常に襲撃の危険を意識しながらも、そのひとときだけは穏やかな空気が流れていた。
交易都市リケットへの到着
一行は十数日の移動の末、ドナーティ領の端に位置する交易都市リケットへと到着した。この町は南北の物資を中継する重要拠点であり、小さな町ながら魔法都市シャリーアよりも規模が大きかった。本来であれば目立たぬよう王都へ接近したかったが、地理的にこの町を避けることはできず、襲撃の可能性が高い地点でもあった。
隠れ宿での警戒態勢
トリスの案内により、一行は組織の息のかかった宿に潜伏した。周囲の建物も含めて支配下にあり、地下通路による脱出経路も備えた安全拠点であった。アリエルは部屋に籠り、トリスは情報収集に出向き、残る者たちは護衛に回った。ルーデウスとギレーヌが一階を、エリスとシルフィが二階を警戒し、従者は変装して外出、ルークはアリエルの側に控えた。
ギレーヌとの会話と信頼
見張りの最中、ギレーヌは森での戦闘におけるルーデウスの働きを評価し、感謝を述べた。ルーデウスは後衛としての役割を強調したが、ギレーヌはエリスが前線で戦うために努力してきたことを語り、役割分担の重要性を示した。また、過去の約束として人形を作る話題が出され、戦いを前にした静かなやり取りが交わされた。
トリスの帰還と情報収集
トリスが戻り、差し入れを渡したことで一時的に緊張が緩んだ。彼女はアリエルの指示で様々な情報を集めており、得られた情報はアリエルによって整理され、必要なものがルーデウスへと共有される体制が取られていた。情報の取捨選択はアリエルに委ねられており、ルーデウスはそれを前提に判断を行うしかなかった。
アリエルとルークの対立の発覚
やがて宿の上階から言い争いが聞こえ、ルーデウスが部屋に入ると、ルークとアリエルが対立している状況が明らかとなった。トリスが持ち帰った情報によれば、サウロス・ボレアス・グレイラットの失脚の主犯はピレモン・ノトス・グレイラットである可能性が高いと判明した。
処遇を巡る対立
アリエルは約束通りギレーヌに仇討ちをさせる意向を示し、仮にノトス家が裏切っていた場合はピレモンを処刑し、ルークを当主に据えると断言した。この発言はルークに強い動揺を与え、家族と主君の間で葛藤する姿を見せた。さらにアリエルは、ルーデウスに貴族位を与えないことも明言し、場の緊張を一層高めた。
ルークの疑念とヒトガミの介入
その後、アリエルはルークと個別に話し合いを行い、彼がヒトガミの助言を受けていたことを明らかにした。その内容は、ルーデウスが裏切り者であり、地位や利益のために暗躍しているというものであった。ルークは当初これを疑っていたが、近頃の出来事が助言と一致し始めたことで、次第に疑念を強めていた。
疑念の残る協力関係
アリエルはルークの疑念を完全には払拭できていないものの、行動によって信頼を示すようルーデウスに求め、ルークの動向は自ら抑えると約束した。ヒトガミの助言は粗雑なものであったが、それでも人の心を揺るがすには十分であり、適材適所による対応の重要性が示された。
リケット出立後のルークの変化
翌日、一行はリケットの町を発った。ルークはルーデウスへの疑念を強めており、アリエルとルーデウスが二人きりにならないよう警戒しながら立ち回っていた。アリエルがルーデウスに貴族位を与えないと明言したことで、ルークはなおさらルーデウスが裏切りに走る可能性を意識していた。しかしその警戒によって、かえってルーク自身の動きも制限されることとなり、旅の不安要素が一つ減る結果となっていた。
サウロスの仇に関する通達
出発に先立ち、アリエルはサウロスを陥れた敵について、ギレーヌとエリスへ自ら説明した。自分の陣営の者が関与していた可能性が高いと明かしたうえで、その責任を認める形で話を進めた。ギレーヌは強い殺意を宿した目を見せつつも、アリエル自身を斬るつもりはないと答え、用意された敵を斬ると静かに告げた。
ギレーヌとエリスの受け止め方
ギレーヌはピレモン個人に固執する様子を見せず、自分なりに状況を整理したうえで、王都で斬るべき相手を斬るという立場を示した。エリスは表面上こそ興味が薄そうに見えたが、剣の柄を強く握りしめており、感情を内に押し込めていたことがうかがえた。最終的には、ルーデウスの邪魔になる相手なら斬ると述べ、ギレーヌの判断に従う姿勢を見せた。
王都への長い道のり
その後、一行は複数の迂回路を取りながら慎重に進軍を続けた。襲撃や追跡を警戒しつつ、無用な接触を避けるように道を選び、時間をかけて王都への接近を図った。こうして約二十日を費やした末、ついにアスラ王国の首都、王都アルスへと到着した。
第七話「王都アルス」
世界最大の都の全貌
王都アルスは世界最大の都市であり、人魔大戦を勝利に導いた勇者の名を冠した都であった。初めてこの地を目にする者は、その壮大さに驚愕せずにはいられなかった。
丘の上には荘厳な王城シルバーパレスがそびえ立ち、その周囲には上級貴族たちの巨大な邸宅が広がっていた。さらにそれらを取り囲む城壁は要塞のように堅固であり、その内側には果てしなく続く町並みが展開されていた。
町の内部には巨大な闘技場や騎士団の訓練場、聖ミリス教団の神殿、水道橋といった施設が整備されており、商業や文化の中心地としての機能も充実していた。加えて、水神流の道場や歌劇街、宿場街などが立ち並び、華やかさと活気に満ちていた。
ラプラス戦役の勝利を記念した門をはじめとする歴史的建造物も点在し、その景観は都市の威容をさらに強調していた。アルテイル川を越えてなお広がり続けるその規模は、視界に収まりきることがなく、この地が人族最古にして最大の都と称されるにふさわしいものであった。
王都の威容に圧倒されるルーデウスとエリス
小高い丘から王都を見下ろしたルーデウスとエリスは、その規模に圧倒され言葉を失った。丘の上には銀色に輝く巨大な王城がそびえ、その周囲を二十メートル以上はある堅牢な城壁が取り囲んでいた。さらにその外側には上級貴族の巨大な邸宅群が広がり、それらもまた城壁に囲われていた。幾重にも重なる城壁と街区は、長い年月をかけて拡張された都市の歴史を物語っていた。
王都に対する各人の感情の違い
壮大な景観に感動するルーデウスとエリスとは対照的に、他の面々は険しい表情で王城を見据えていた。アリエルも馬車を降り、自らの帰還を噛みしめるように城を見つめていた。彼らにとってこの地は単なる都市ではなく、これから決着をつけるべき場所であった。
王都内部の様子と移動開始
王都に入ると、外観ほどの特別さは感じられず、商人や人々で賑わう通常の都市風景が広がっていた。ただし道幅は非常に広く、整備の行き届いた都市であることがうかがえた。アリエルは別宅を拠点とする方針を示し、一行は上級貴族区画へと向かって進軍を開始した。
正体の露見と民衆の反応
移動の途中、ルークやシルフィの姿から一行の正体が民衆に知られ、アリエルの帰還が広まった。人々は歓声を上げ、花を投げるなど熱烈な歓迎を示した。長い年月が経過してもなお、アリエルたちの人気は衰えておらず、その影響力の大きさが明らかとなった。
圧倒的な支持と不安の払拭
歓声は町を進むごとに大きくなり、兵士たちまでもがそれに同調していた。混乱や襲撃の危険も懸念されたが、結果として騒動は起こらず、民衆の支持が一行の安全を支えている状況であった。アリエルはまるで英雄のように迎えられ、その光景は王都における彼女の影響力を強く印象付けた。
それぞれの受け止め方
この歓迎に対し、ルーデウスは居心地の悪さを覚えたが、エリスは素直に気分の高揚を感じていた。それぞれが異なる思いを抱えながらも、一行は王都の中心へと歩みを進めていった。
貴族街での空気の変化
貴族の地区へ入ると、民衆の歓声は次第に減っていった。アリエルたちの人気はあくまで民衆の間で強いものであり、貴族たちは表立って声援を送るような振る舞いをしなかった。代わって目についたのは、全身鎧をまとい整然と隊列を組んで歩く見習い騎士たちであり、王都の中心部らしい緊張感が漂っていた。
見習い騎士への説明とエリスの友人の存在
ルーデウスが見習い騎士たちについて疑問を口にすると、エリスが珍しく詳しく説明した。騎士学校を経ずに騎士となる者たちは見習いとして礼儀や実務を学び、町の見回りも務めるのだという。その知識は剣の聖地でできた友人から聞いたものであり、ルーデウスはエリスに友人がいたことに驚きを覚えた。
イゾルテとの再会
その直後、見習い騎士の一人がこちらに駆け寄り、武装した一行を驚かせた。兜を外して姿を現したのは、エリスの知人である水王イゾルテ・クルーエルであった。イゾルテはエリスとギレーヌの生存を喜び、アスラ王国で見習い騎士として仕えつつ、正式任命とともに水帝の称号を得る予定であると語った。
ルークへの誤認とイゾルテの印象
イゾルテは一行の馬車がアリエルのものではないかと察しつつ、ルークの丁寧な応対を受けた。彼女はルークをルーデウスだと勘違いし、妻の前で他の女性に愛想を振りまくような人物だと誤解して不快感を示した。ルーデウス本人はその陰口を真正面から聞くこととなったが、場の空気を乱さぬよう名乗り出ることは避けた。
エリスとイゾルテの距離感
エリスはイゾルテとの会話に淡々と応じつつも、彼女との関係性がうかがえる空気を見せた。剣の聖地で築かれたつながりがありながら、親密というよりは互いの腕を意識し合う剣士同士の距離感であった。イゾルテもまた、エリスの性格を理解している様子で、短い再会の中にも慣れたやり取りがあった。
敵となる可能性への自覚
イゾルテが去った後、エリスは彼女が将来的に敵に回るかもしれないと口にした。水神レイダが敵となる可能性が高い以上、その配下にあるイゾルテも戦場に立つ可能性があったからである。エリスはそれを悲しむよりも、剣の聖地でつけられなかった決着をつけられる相手として受け止めていた。
ルーデウスの理解と願い
ルーデウスには、命のやり取りを含む剣士同士の競争心を完全には理解できなかった。それでも、エリスとイゾルテがそうした関係にあることは感じ取っていた。だからこそ、もし戦うことになったとしても、どちらも生き残ったまま競い合い続けてほしいと願わずにはいられなかった。
上級貴族区画への到達と別邸到着
一行は城壁を越えて中級貴族の地区を抜け、さらに奥の上級貴族の地区へと進んだ。そこは小国の城にも匹敵する邸宅が立ち並ぶ場所であり、アリエルの別邸もまた町中にありながら巨大な規模を誇っていた。到着時にはすでに夕刻となっており、王都の広さゆえ移動だけで半日を費やしていた。
屋敷では執事と数名の使用人が出迎え、長らく不在であったにもかかわらず管理が行き届いている様子がうかがえた。内部は豪奢で、美術品が随所に配置された典型的なアスラ貴族の屋敷であった。
休息と体勢の整備
それぞれ客間を与えられた後、一行は水浴びで旅の疲れと汚れを落とした。設備は細部に至るまで豪華であり、別邸であっても高い格式を持つことが示されていた。その後、ルーデウス、アリエル、エリス、シルフィの四人で食事が取られ、他の配下は別の場所で食事を行った。
アリエルの行動開始宣言
食後、アリエルは本格的に動き出すことを宣言した。ペルギウスを迎えるための準備と、ダリウス失脚のための「場」を整えることが目的であり、寝返った貴族の確認、情報収集、味方への連絡、各所への根回しなど、多岐にわたる作業を十日程度で完了させる見込みであった。
王の病を理由に主要貴族が王都へ集結している状況を利用し、短期間で決戦の舞台を整える計画であった。
戦闘の可能性と対策
アリエルは、「場」が整えば勝利はほぼ確実と見ていたが、その前段階で敵が武力による妨害を仕掛けてくる可能性を指摘した。そのため、敵勢力の主戦力を事前に削ぐ必要があると判断し、ルーデウス、エリス、シルフィにその役目を担わせることとした。
しかし、広大な王都で敵を探し出すことは困難であるため、逆に隙を見せて敵を誘い出す「釣り」の戦術が採用された。魔力付与品を用いてアリエルの偽装を行い、襲撃しやすい状況を意図的に作り出すことで敵を引き寄せる計画であった。
シルフィの役割と決意
この作戦において、シルフィが囮役を担う可能性が高く、危険な役目であることが示された。しかしシルフィは即座にそれを受け入れ、勝負どころである以上できることは全て行うべきだと表明した。ルーデウスもまた、その決意を受けて全力で守る覚悟を固めた。
戦力差と最終手段の確認
敵が誘いに応じる確率は五分程度と見積もられ、応じなかった場合は総力戦になると予測された。その際はルーデウスへの負担が大きくなることが想定されていた。
味方の援軍は限定的であり、上級剣士や上級魔術師程度にとどまるため、北帝・北王級の敵には対抗しきれないと判断されていた。そのため、最終手段としてオルステッドの力を借りる可能性も確認された。
戦いの開始
こうして今後十日間の方針が定まり、アリエルの主導のもと、王都における戦いの準備が整えられた。翌日より、アスラ王国の政争と武力衝突が本格的に始まることとなった。
第八話「宵闇の死闘」
王城への同行と戦力分担
ルーデウスたちはアリエルに同行し、王城へと赴いた。トリスは拠点で待機し、従者二人は各家との連携や味方の確保に奔走していたため、この場には六人のみが集まっていた。従者たちを戦闘から外したのは安全面だけでなく、彼女らの家が政治的な戦力となるためでもあり、アリエルが短期間で体制を整えようとしている意図が明確であった。
王城の規模と訪問目的
王城は外観通りの巨大さを誇り、ペルギウスの空中城塞以上の規模を持つと感じられた。その裏には王族の生活空間である王宮や庭園が広がっていたが、今回の目的はそこではなく、病床の国王への見舞いと、今後の決戦のための「場」の確保であった。ルーデウスはアリエルとルークの後ろに付き従う形で行動し、自身の役割は限定的であった。
三英雄の肖像画との遭遇
城内でルーデウスは、ペルギウス・ドーラの肖像画を発見した。最初は気づかなかったものの、名前の記されたプレートによって本人であると認識し、驚きを覚えた。さらにその肖像画が歴代アスラ王の近くに飾られていることから、ペルギウスがアスラ王国において極めて重要な存在として扱われていることを理解した。
伝説の英雄への認識の変化
肖像画の隣には北神カールマンと龍神ウルペンと思しき人物も描かれており、三者が魔神ラプラスを討った「三英雄」として顕彰されていた。ルーデウスはこれまで半ば軽視していた伝承を、オルステッドからの話を経て現実のものとして受け止めていた。彼らが実際に強大な存在と戦い打ち倒したことを理解したことで、その偉業の重みを認識したのである。
ペルギウスの影響力の再認識
この光景を通じて、ペルギウスが単なる強者ではなく、歴史的英雄として現在も強い影響力を持つ存在であることが明確となった。アリエルがその後ろ盾を得ているという事実が、王位争いにおける大きな優位性となることを、ルーデウスは実感したのであった。
王城への同行と三日間の進展
ルーデウスたちはアリエルと共に王城へ通い、国王の見舞いや決戦のための場の整備に立ち会っていた。従者二人はそれぞれの家や縁者を味方に引き入れるため奔走しており、アリエルは十日で必要な準備を終えるべく着実に手を打っていた。ルーデウスは護衛として同行しながら多くの貴族に紹介されたが、その名前までは覚えきれなかった。
ダリウスとグラーヴェルの観察
ルーデウスは一度だけ、遠目にダリウス上級大臣と第一王子グラーヴェルの姿を確認した。ダリウスは醜悪で怯えた様子を隠せず、ルーデウスを死神でも見るかのような目で見ていたため、ヒトガミの使徒であることを疑う余地はほとんどなかった。一方でグラーヴェルは王子らしい華やかさこそ薄いものの、人を惹きつける独自のカリスマを備えており、配下にしたいと思わせる人物として映っていた。
アリエルの戦いと続く暗殺
第二王子派で勝機を失いかけていた貴族たちは、アリエルの帰還を受けて再び集まり、場の設営を後押しした。アリエルは政治の場で戦い、ルーデウスたちは彼女を狙う敵の排除にあたった。実際には毎日のように暗殺者が送り込まれてきたが、標的はアリエルに扮したシルフィであり、移動中も食事中も就寝時も気が休まらなかった。本物のアリエルはメイドに変装し、粗末な部屋で休む形を取っていた。
小物暗殺者の排除と主戦力への警戒
送り込まれてくる暗殺者たちは数こそ多かったものの、エリスとギレーヌの前では力不足であり、大物はまだ釣れていなかった。ルーデウスは、こうした襲撃がダリウスやグラーヴェル本人ではなく、その配下の貴族たちによるものだと見ていた。一方で、本命の戦力が温存されている可能性を警戒し、北帝や北王級の敵が総力戦に加われば厳しい戦いになると考えていた。
護衛の隙を装う策と失敗
敵の主戦力を誘い出すため、アリエルは護衛の調子が悪いという噂を流し、隙を見せる策を講じた。きっかけとして使われたのは、エリスとギレーヌが同時に生理であるという下品な話であったが、この策はあまりに露骨であったためか失敗に終わった。翌日から暗殺者すら現れなくなり、逆に場の設営を進める有力貴族たちが狙われ始めた。
ピレモンとの対面とルークの懇願
その頃、ルーデウスはピレモン・ノトス・グレイラットと対面した。ピレモンはサウロスを陥れた人物と目されていたが、ルーデウスの目には大それた決断を下す人間には見えず、どこか臆病で安全な方へ逃げ続ける人物に映った。ルークは彼に対し、なぜアリエルを裏切ったのかと問い、今からでも戻ってほしいと懇願したが、ピレモンはそれを突き放した。さらに兄らしき青年からも家督目当てではないかと冷たく扱われ、ルークは置き去りにされた。
場の完成と最後の仕掛け
九日目にして、アリエルはついに場の設営を完了させた。場とは、第二王女アリエルが第一王子グラーヴェルを慰労するという名目の大規模なパーティであり、アスラ王国の名だたる貴族が参列することになっていた。アリエルは設営妨害を乗り越えたうえで、最後にダリウスが心底不安になる情報を流し、今夜のうちに敵が動かざるを得ない状況を作り出した。
夜道に現れた北王たち
その帰路、月もない暗い夜道で、馬車の前に黒い鎧をまとった獣族の男が立ち塞がった。彼は北王ナックルガードと名乗り、さらに同じ顔をした双子の剣士であることが明らかになった。前方ではエリスが双子の相手を引き受け、後方には無言のまま現れた北王ウィ・ターに対し、ギレーヌが剣を抜いて応じた。こうして馬車を挟んだ前後で同時に戦闘が始まった。
オーベールの潜伏とルーデウスの一撃
ルーデウスはオーベールの姿が見えないことを警戒し、援護に動けず周囲を観察した。城壁と邸宅に挟まれた夜道では隠れ場所が限られていたが、灯火の精霊を上へ移動させたことで、城壁の中腹に不自然な布の影を見つけた。そこに奇襲として岩砲弾を放つと、隠れていたオーベールが姿を現し、その足を大きくえぐられて城壁から落下した。
各所での決着とオーベールの逃走
オーベールは負傷しながらもなお高い戦闘力を保ち、ルークやルーデウスの攻撃をしのいだ。一方でエリスはナックルガードの双子を討ち取ったが、自身も肩口に深い傷を負っていた。ギレーヌはウィ・ターを圧倒し片腕を奪ったが、ウィ・ターは黒煙を放って視界を奪い、その混乱の中で逃走を図った。シルフィが火炎竜巻で黒煙を吹き飛ばして状況を立て直したものの、その隙にオーベールは鉤爪を使って城壁を駆け上がり、逃走に成功した。
ウィ・ターの最期と戦果の確認
ルーデウスがウィ・ターを追って路地へ入ると、そこには胸に大穴を開けて倒れたウィ・ターの死体があった。周囲に姿はなかったが、その仕留め方からオルステッドが介入したことは明らかであった。エリスの傷を治癒した後、一行は互いの無事を確認し、死体を片付けながら戦果を共有した。今回は北王ウィ・ターと北王ナックルガードを討ち取り、オーベールこそ逃したものの、敵の手駒を大きく減らすことに成功した。こうして一行は、大勝と呼べる成果を得たまま、翌日の本番へ臨むことになった。
第九話「アリエルの戦場」
会場に満ちる駆け引きの気配
王城の大広間には、長い卓と食器、花束が整然と並べられ、十日で整えたとは思えないほど周到に準備された会場が広がっていた。待合室では、どちらに転んでも大勢に影響の少ない貴族たちが、アリエルの狙いやグラーヴェル派の対応を面白がるように語り合っていた。ルーデウスはエリスと共にその入口付近で護衛に当たりながら、集まる貴族たちの顔を観察していた。
ピレモンとボレアス家の到着
やがて主賓級の貴族たちが次々と現れた。最初に現れたピレモン・ノトス・グレイラットは、ルーデウスに対してノトス家へ戻れると思うなと、見当違いな敵意を向けてきた。続いて現れたボレアス家当主ジェイムズは、やつれた顔をしており、領地消失後も生き残るために苦闘してきた様子がにじんでいた。彼はエリスに一瞥をくれただけで、個室へと去っていった。
ダリウスとオーベールの登場
最後に現れたダリウス上級大臣は、ルーデウスを見るや戦慄したように目を逸らした。その護衛として同行していたのが北帝オーベール・コルベットであり、彼は道中の襲撃をほのめかしつつ、次は真っ向勝負だと告げた。冗談めかした口調とは裏腹に、その目は冷たく、ルーデウスに対する明確な敵意を示していた。
パーティ開幕とアリエルの先制
全ての役者が揃い、パーティが始まった。護衛たちが壁際に並ぶ中、アリエルは上座から挨拶を行い、やがて本日の主題として二人の人物を紹介した。その一人として現れたのが、華やかな装いをしたトリスティーナであった。彼女がパープルホース家次女として名乗ると、会場には行方不明だったはずの令嬢が生きていたことへのざわめきが広がった。
トリスティーナの告発
トリスティーナは貴族令嬢らしい美しい言葉遣いで、自らの身に起こったことを語り始めた。家に見捨てられ、ダリウスに買われ、犬のように飼われたこと。フィットア領消滅事件の混乱の中で殺されかけたこと。運よく生き延びた後に救われたこと。そこには脚色も含まれていたが、聞く者の感情を揺さぶるには十分であった。アリエルはそれを受け、ダリウスが権力を利用して貴族の子女を誘拐し、性奴隷として扱ったと激しく糾弾した。
ダリウスの反論と偽物扱い
ダリウスは冷静さを崩さず、トリスティーナをどこの馬の骨とも知れぬ偽物だと切り捨てた。そして、本物である証拠があるのかと問い返し、パープルホース家の指輪が示されると、逆に本物のトリスティーナは既に死んでいると主張した。さらに、彼女の遺体には胸元に三日月形の痣があったと語り、現当主フレイタス・パープルホースに同意を求めた。会場は緊張に包まれ、誰もがフレイタスの返答を待った。
パープルホース家の寝返り
しかし、フレイタスの口から出たのは、ダリウスの予想とは正反対の言葉であった。彼は我が娘はダリウスに奪われたと明言し、トリスティーナこそ本物であると認めたうえで、娘を攫い監禁し辱めたダリウスに裁きを与えてほしいと訴えた。アリエルはすでにパープルホース家を味方につけており、ダリウスの反撃を封じる布石を打っていたのである。
ダリウス失脚の確定
フレイタスの証言によって、会場の流れは完全に決した。ダリウスを弁護すれば共犯と疑われかねず、味方を続ける利益も薄い以上、誰も彼を助けようとはしなかった。ダリウスが失脚すれば、自分の立場が繰り上がると考える貴族たちにとって、今この場で彼を切り捨てることは合理的であった。こうしてアリエルは、会場そのものを利用してダリウスを追い落とすことに成功した。
グラーヴェルの登場
だが、ダリウス一人の失脚で全てが終わるわけではなかった。会場の空気が決着に傾いたその時、第一王子グラーヴェルが現れた。彼は騒がしいパーティだと涼やかに言い放ち、アリエルを睨みつけた。ダリウスの敗北を受けて、次なる対決の相手が姿を現し、戦いは第二段階へと移ったのであった。
グラーヴェルとの正面対決
グラーヴェル・ザフィン・アスラは、会場の中央へ進み出ると、父王が病に伏している時に騒ぎを起こすのかとアリエルを非難した。アリエルは貴族の名誉を守っただけだと応じたが、グラーヴェルは国の大事においてはダリウスのような上級貴族を取るべきであり、中級貴族であるパープルホース家よりも優先されるのは当然だと断じた。アリエルはそれでも罪は罪だと譲らず、両者の主張は平行線となった。
多数決という名の踏み絵
そこでグラーヴェルは、この場に集う貴族たちにどちらが正しいかを問う、多数決を提案した。形式上は民主的であったが、実際にはアリエルとグラーヴェルのどちらにつくのかをその場で明示させる踏み絵に等しかった。貴族たちは動揺を見せず、いずれこの瞬間が訪れることを予期していた様子であった。ダリウスは沈んだものの、なおグラーヴェル派には四大地方領主や有力貴族が残っており、情勢は依然としてグラーヴェル優位に見えていた。
アリエルの切り札
だが、貴族たちが判断を固めかけたその時、アリエルは微笑みながら、もう一人紹介したい人物がいると告げた。そして従者エルモアの合図と共に、窓の外に巨大な火柱が立ち上った。その炎に照らされて現れたのは、夜空を覆うように接近する空中城塞ケィオスブレイカーであった。王城シルバーパレスの真上に停止したその威容に、会場は一気に騒然となった。
ペルギウスの降臨
やがて下座の扉の前に足音が響き、そこから銀髪金目の男が十二の僕を従えて姿を現した。甲龍王ペルギウス・ドーラである。その圧倒的な存在感に、会場の貴族たちは一斉に立ち上がり、膝をついて頭を垂れた。ペルギウスはそれを当然と受け止めるように会場を進み、アリエルとグラーヴェルの前に立った。
席次をめぐる茶番
会場の上座には三つの空席が用意されており、そこに立っていたのはアリエル、グラーヴェル、そしてペルギウスであった。ペルギウスは、どこに座ればよいのかと問いかけた。グラーヴェルは場の空気に呑まれ、最上位の席へ座ってほしいと答えた。しかしペルギウスは、自分はこの国を長く離れすぎており、次代の王の席を奪うわけにはいかないと述べた。
王位継承の流れの決定
そしてペルギウスは、次代の王の席に座るべき者としてアリエルの背を押し、自らはその隣に座ると告げた。その瞬間、会場の貴族たちは理解した。ペルギウスの後ろ盾を得たことで、王位継承の流れは決定的にアリエルへ傾いたのである。こうしてこの場において、次代の王はアリエルであるという認識が一気に共有された。
アリエルの勝利確定
アリエルは、ルーデウスを使ってオーベールを牽制し、自らの手腕でルークを抑え、トリスを用いてダリウスを追い詰め、さらにペルギウスを招くことでグラーヴェルの優位を崩した。これにより、この場における主導権は完全にアリエル側へと移り、勝利は決定的となった。
ダリウスとグラーヴェルの両者にとって、ペルギウス以上の切り札は存在せず、この瞬間においてアリエルの優勢は揺るがないものとなっていた。
突如の襲撃
しかしその直後、シルヴァリルの叫びと同時に異変が起きた。天井が崩れ落ち、シャンデリアを巻き込みながら会場中央へと瓦礫が降り注いだ。貴族の一人が押し潰され、複数の負傷者が出る混乱が生じた。
だが、それは単なる崩落ではなかった。天井を突き破って現れたのは、一人の人物であった。
水神レイダの介入
小柄な体に深い皺を刻んだ老婆は、黄金の剣を杖のように床へ突き立て、その場に立っていた。彼女は周囲を見渡しながら、夢のお告げのようだと呟いた後、静かに言葉を発した。
水神レイダ・リィアである。
彼女はダリウスに向けて助けに来たと告げ、この場における敵側の切り札として姿を現した。
最終局面への突入
ヒトガミ側の最後のカードが切られたことで、戦いは新たな局面へと移行した。アリエルが勝利を確実なものとした直後、その優位を覆すべく投入された存在により、戦場は再び緊張に包まれることとなった。
第十話「ルーデウスの戦場」
水神レイダの絶対的支配
水神流の奥義を三つ修めた水神レイダ・リィアは、老齢でありながらもなお水神の名を保持し続けるだけの実力を有していた。彼女は最難関とされる二つの奥義を組み合わせ、剥奪剣界と呼ばれる領域を成立させていた。その結界内では、誰かが一歩でも動けば即座に斬り伏せられるため、会場にいた全員がその場に縫い止められた。
実際に最初に動いたアルマンフィとトロフィモスは、レイダの一撃で瞬時に斬られて霧散した。ルーデウスも指輪に魔力を通そうとした瞬間に篭手の先端を切り落とされ、貴族の一人も逃げようとして脚の腱を断たれた。エリスもギレーヌも、ペルギウスすら動けず、会場全体がレイダの剣圏に支配されていた。
オーベールへの処刑命令
レイダは動きを封じたまま、オーベールにアリエル、ペルギウス、そしてルーデウスの首を刎ねるよう命じた。オーベールはエリスを前にしてなお迷いを見せたが、レイダは彼の卑怯さと半端な仕事ぶりを罵倒し、覚悟を決めさせようとした。オーベールが逡巡する中、見習い騎士たちが乱入し、その中にはイゾルテも含まれていた。
イゾルテは師であるレイダの凶行に困惑し、問いただした。するとレイダは、水神レイダと北帝オーベールが王竜王国に雇われ、要人暗殺を企てたことにして、自分たちはこの場で討たれ、イゾルテを英雄に仕立てるつもりだと語った。グラーヴェルにもその筋書きを認めるよう求めたが、場の緊張はさらに高まるばかりであった。
龍神の威圧による均衡の崩壊
オーベールがついにアリエルへ剣を向けたその時、場の空気を根底から塗り替えるような威圧が走った。ルーデウスの指輪に通した魔力が有効に働いていたため、会場のほとんどの者がその寒気と恐怖に震え上がった。レイダもその異変を察知し、ダリウスが余計なことを言ったせいでこうなったと吐き捨てた。
レイダは計画変更を決め、オーベールにダリウスを連れて今すぐ逃げるよう指示した。グラーヴェルではなくダリウスを助ける理由を問われると、レイダは若き日に自分が助けられた命の恩がまだ残っていたのだと語った。かつて正義感ある少年だと思っていた相手が今では醜く変わっていても、その恩だけは返すと決めたのである。
オルステッドとレイダの決着
その直後、圧倒的に不吉な気配を纏ったオルステッドが会場へと突入した。誰もがその姿に恐怖し、次に皆殺しにされるのは自分だと本能的に悟った。レイダは久しぶりだと語りかけ、自分のような老婆に引導を渡しに来たのかと問うたが、オルステッドは彼女がヒトガミの使徒だからだと簡潔に返した。
続いてレイダは剥奪剣界を発動し、黄金の剣閃を四方八方へ放った。しかしオルステッドはそれら全てを素手で弾きながら、一歩ずつ確実に距離を詰めていった。やがて彼はレイダの眼前まで到達し、何のためらいもなく貫手でその胸を貫いた。レイダはあまりにもあっけなく打ち倒され、剣界も消失した。
アリエルの指示と追撃開始
レイダが倒れると、会場を支配していた静止が解けた。イゾルテは師を討たれた怒りから剣を抜いたが、オルステッドは何事もなかったかのようにテラスから飛び去り、イゾルテはその後を追った。そこでアリエルは即座に正気を取り戻し、ルーデウスたちにダリウスとオーベールを追うよう命じた。
ルーデウスはシルフィとルークをアリエルの護衛として残し、エリスとギレーヌと共に会場を飛び出した。なぜダリウスを追うべきかの理屈を深く考える余裕はなかったが、少なくともヒトガミの使徒であるダリウスを逃してはならないという点だけは明白であった。
逃走するダリウスたちへの追撃
三人はギレーヌの嗅覚に従って廊下を駆け抜け、王宮方面へ向かう混乱を横目にしながら、逃げるダリウスとオーベールへ追いついた。ダリウスはオーベールに支えられながら部屋へ逃げ込み、そこで待ち構える形となった。部屋の中でダリウスは神の言う通りにしたのに追い詰められるのはおかしいと喚き、オーベールはそれをなだめつつも、最後の戦いに備えて剣を構えた。
その中でダリウスは、ねずみ色のローブを着た魔術師が自分を殺すという神託を受けていたことを明かした。ヒトガミが裏で細かく手を回していたことが示されたが、もはやそれを信じる段階は過ぎていた。オーベールも特別報酬を確認し、勝てたなら持っていくと応じたうえで、決戦が始まった。
赤墨による奇襲とルーデウスへの集中攻撃
オーベールが赤墨と呟いた直後、エリスとギレーヌの足元で赤い玉が破裂し、強力な接着剤が二人の足を絨毯へ縫い付けた。ルーデウスは即座に水魔術でそれを洗い流したが、その一瞬の遅れの間にオーベールは二人の間を縫ってルーデウスへと迫った。
オーベールの本命は最初からルーデウスであった。予見眼で動きを見切っていたルーデウスは、左の篭手と右の土盾で防御を試みたが、オーベールは中空で剣を捨て、残る一刀で臘十文字を繰り出した。ルーデウスは咄嗟に左脚でそれを受け、脛を切断されながらも致命傷を避けた。
炸裂岩砲弾とオーベールの最期
ルーデウスが致命傷を免れたことで、エリスとギレーヌは即座に三人で囲む形を作った。しかしダリウスが火球弾を放ち、エリスはそれを斬ったものの、オーベールが投げた苦無に脇腹を貫かれた。一方、ギレーヌはオーベールに剣を深く食い込ませたが、まだ致命には至らなかった。
ここでルーデウスは、ダリウスを優先して仕留める必要を悟り、岩砲弾を放った。オーベールはそれを弾いたが、その弾は炸裂岩砲弾であり、砕けた破片がダリウスの目に突き刺さって彼をうずくまらせた。その一瞬の隙を逃さず、エリスが光の太刀でオーベールに深手を負わせ、続けてギレーヌが完璧な光の太刀を肩口から脇腹へと通した。ついにオーベールは倒れ、血だまりの中で息絶えた。
ダリウスへの復讐の成就
視力を失って叫ぶダリウスを見下ろしながら、ルーデウスはサウロスのことを口にした。するとダリウスは、自分がジェイムズを助け、ピレモンを焚き付け、サウロスを亡き者にしたと自ら認めた。フィットア領とボレアス家を守るためだったと正当化したが、それは同時にサウロス殺害の主犯であることの告白でもあった。
その言葉を聞いたエリスは、ダリウスこそ祖父の仇であると断じた。ギレーヌも同意し、二人は視線で意思を交わした。ルーデウスとエリスが頷くと、ギレーヌは無言で剣を振るい、ダリウスの首を刎ねた。飛び散った血はルーデウスの頬にまで届き、こうして長く引きずってきた仇討ちは果たされたのであった。
ダリウスの死とルーデウスの実感
ダリウスの死体は、その場に残された。これは事前にアリエルと決めていた方針であり、殺害現場の事情にかかわらず、ダリウスを誅したという事実そのものを示すことが重要であった。後にアリエルが糾弾される危険はあっても、それ以上にダリウス討伐による支持の獲得を優先したのである。
ルーデウスはその場で、今回の殺しに対する強い実感を覚えていた。直接止めを刺したのはギレーヌであったが、それでもオーベールを倒し、ダリウスの目を潰し、逃げ場を奪ったのは自分であるという認識が消えなかった。これまでとは異なる後味の悪さを抱えつつも、それが自ら選んだ道なのだと受け止めるしかなかった。
王級治癒とエリスの毒傷
その後、一行は隣室へ移動し、オルステッドから渡されていた王級治癒魔術のスクロールでルーデウスの傷を治療した。切断されかけた脚は完全に元へ戻ったが、大量の出血の影響で体の冷えは残っていた。
続いてエリスの治療に移ろうとしたところ、彼女の脇腹の傷口が紫色に染まっていることが判明した。オーベールの苦無には毒が塗られていたのである。解毒魔術では効果がなく、一瞬緊張が走ったが、ルーデウスはオルステッドから聞いていた情報を思い出し、オーベールの死体から解毒薬を回収した。それを飲ませ、傷口にも塗布したことで、エリスの容態は徐々に落ち着いていった。
戦闘後の短いやり取り
治療の最中、エリスはルーデウスが朧十文字を致命傷にならずに受けきったことに言及した。ルーデウスは、エリスとの模擬戦でより速い斬撃を見慣れていたおかげだと答えたが、エリスは自分には避けられなかったと、わずかに寂しさを滲ませた。もっとも、その感情を長く引きずることはなく、すぐに気持ちを切り替えた。
ルーデウス、エリス、ギレーヌの三人が無事であり、ダリウスとオーベールを討ったという意味では、戦いは完全勝利に近いものであった。
会場での異変
だが、意気揚々とパーティ会場へ戻った三人を待っていたのは、想定外の光景であった。ルークがアリエルの首筋に短剣を押し当て、ピレモンがその場に跪き、シルフィが激しい怒りを込めた目でルークを睨んでいたのである。
状況を理解できず混乱するルーデウスをよそに、ルークはシルフィへ向けて言葉を発した。アリエルを助けてほしくば、ルーデウスを殺せという要求であった。
第十一話「ルークの暴走」
会場の静寂とアリエル優勢の確定
ルーデウスたちが戻る前、パーティ会場は混乱の後に落ち着きを取り戻していた。残っていたのはアスラ王国の主力となる上級貴族たちであり、彼らは結果を見届けるためにその場に留まっていた。
ダリウスの失脚とペルギウスの登場により、アリエルが次代の王であるという印象は強固に植え付けられていた。オルステッドの正体について疑問を抱く者もいたが、アリエルが平然としていたことで、それ以上の混乱は広がらなかった。
貴族たちは、オルステッドをペルギウスの配下であると解釈し、その圧倒的な力に恐怖した。逆らえば同じ結末を迎えると理解し、結果としてアリエルへと頭を垂れたのである。
ルークの疑念とヒトガミの影響
しかし、その中でただ一人、ルークだけは異なる認識を持っていた。彼はアリエルの側近でありながら、オルステッドの本質に強い疑念を抱いていた。
ヒトガミの言葉とアリエルの言葉、その双方を知る立場にあるルークは、オルステッドを邪悪な存在と断じた。主君への忠誠は揺らいでいなかったものの、主君の選択が誤っているのではないかという疑念が強まっていた。
自分の無力さを自覚しつつも、ルークはこのまま従ってよいのかと葛藤していた。
ピレモンの保身とアリエルの断罪
その時、ピレモンが動いた。彼はアリエルの前に跪き、グラーヴェル派に寝返っていたのは全てアリエルのためであったと主張し、再び後ろ盾になると申し出た。
しかし、その態度はあまりにも露骨な保身であり、周囲の貴族たちからも軽蔑の視線を浴びていた。
アリエルは激怒し、ピレモンの言葉を一切受け入れなかった。寝返ったこと自体ではなく、その後に恥もなく擦り寄ってきたことを問題視し、彼の存在を害悪と断じた。
そして、ピレモンに死を命じた。
ルークの決断の契機
アリエルの言葉により、ピレモンは完全に追い詰められた。かつてアリエルを支えた功績があったとしても、二度の裏切りは許されないと判断されたのである。
ピレモンはルークに助けを求める視線を向けた。その目を受けて、ルークは激しく葛藤した。
主君への忠誠と、父親としての情。そのどちらを取るべきか、決断を迫られる状況となった。
★ルーク視点 ★
ルークが父への情と主君への忠誠の間で揺れたこと
ルークは、父ピレモンが卑屈で小心な人物であることを理解していたが、それが領主としての重圧や周囲との比較の中で歪んでしまった結果でもあると受け止めていた。若くして家督を継いだ父は、祖父やパウロと比べられ続け、家臣からも軽んじられ、不器用なまま家を守ろうとしてきたのだとルークは考えていた。サウロスの処刑に父が関与していた可能性も否定できず、裏切りもまた家を守るための選択だったのではないかと理解しようとしていた。
ルークが衝動的にアリエルを人質に取ったこと
アリエルがピレモンに死を命じたことで、ルークは限界に達した。気づけば剣を抜き、アリエルを抱き寄せて首筋に剣の腹を押し当てていた。自分でもなぜそこまでしたのか理解できていなかったが、父を失うことを受け入れられず、また主君が邪悪な存在に従おうとしているという恐れも彼を追い詰めていた。シルフィは即座に反応し、強い怒りをあらわにしてルークへ杖を向けた。
ルークがシルフィに問いを投げかけたこと
ルークは、オルステッドのような邪悪な存在に従うルーデウスを、本当に信じていいのかとシルフィに問い詰めた。ルーデウスはオルステッドに騙されているのではないか、シルフィは本当に自分で考えて動いているのかと責め立てた。しかしシルフィは、オルステッドを信用しているわけではなく、ルーデウスを信じているのだと断言した。ルーデウスが自分たちのために頭を下げ、無理をして動いている以上、自分がやるべきことは迷わせることではなく、支えることだと語った。
シルフィの言葉がルークの迷いを打ち砕いたこと
ルークは、アリエルとルーデウスのどちらかを選べと言われたらどうするのかと問い、シルフィはほとんど迷わずルーデウスを選ぶと答えた。そうした選択ができない相手と結婚し、子供を作ることなどしないとまで言い切った。添い遂げるとは、たとえ先に何が待っていても相手を支え続けることだというその言葉は、ルークの胸を強く打った。主君がどの道を選ぼうとも、自分はその選択を見守り、最後まで守る存在であるべきだったのだと、彼はようやく気づいた。
アリエルの言葉がルークを立ち返らせたこと
アリエルは動揺することなく、なぜこんなことをしたのかとは問わず、ただ自分はルークの王女であると告げた。その一言だけで、ルークには十分であった。自分が何よりも優先すべき相手が誰なのかを、その言葉が改めて明確にしたからである。ルークは、自分が主君を裏切る者ではなく、最後まで付き従う騎士であるべきだと立ち返った。
ピレモンの処遇が再整理されたこと
ルークの暴走が収まった後、問題となったのはピレモンの処遇であった。ルーデウスは、先ほどダリウス本人がサウロス殺害を口にしていたことから、ピレモンは利用されたに過ぎない形にできると進言した。アリエルはすぐにそれを受け入れ、全てをダリウスに押しつける方針を定めた。ギレーヌはなお不満そうであったが、エリスが祖父の仇は先ほどので我慢しろと諭し、その言葉に従って矛を収めた。こうしてピレモンは命だけは救われる形となった。
戦いの終結とそれぞれの姿
場を見回せば、シルフィはルーデウスに抱き寄せられ、恥じらいながらもその気持ちを受け止めていた。エリスはギレーヌに向かって、自分が空気を読んだのだと誇らしげに語っていた。ペルギウスは終始、面白がるように一連のやり取りを眺めていた。イゾルテは水神レイダの亡骸にすがって泣き、グラーヴェルは大きな後ろ盾を失って疲れ切った様子で座り込んでいた。もはやアリエルの前に立ちはだかる敵はおらず、こうしてアスラ王国での戦いは幕を閉じた。
第十二話「オルステッドの真実と王都の十日間」
王都での戦いの後始末
王宮での戦いから十日が経過し、アリエル側の勝利は揺るぎないものとなっていた。ピレモンは当主の座を剥奪されて領地に軟禁され、ノトス・グレイラット家はルークが当主となり、兄が実務を補佐する体制へと移行した。ギレーヌは当初ピレモンたちに敵意を抱いていたが、ルークの兄がエリスを盛んに褒めて求婚までしたことで毒気を抜かれ、その後はアリエルの護衛として仕えることになった。
勝利直後の夜とルーデウスの私的な安堵
戦いの翌夜、アリエルは疲労のため早々に部屋へ引き上げた。一方ルーデウスは、公衆の面前で自分を選ぶと明言したシルフィに深い愛しさを覚え、彼女を部屋へ連れ込んで存分に愛でた。日記の未来では振られていたという不安を抱えていたため、その言葉は大きな救いであった。シルフィが眠った後、水浴びで体を冷まそうとしたルーデウスは、戦いの興奮を残したエリスに乱入され、今度は彼女に激しく愛でられることになった。
墓地の地下でのオルステッドとの会議
翌日、ルーデウスのもとへ龍神の紋章が記された封書が届いた。そこには怪我を気遣う言葉と会議の場所が記されており、指定された先は使用人向け墓地の地下墓所であった。そこでオルステッドは、今回の働きを労い、これでアリエルが王になることは確定したと告げた。ルーデウスはなお不安を口にしたが、オルステッドはそれを明確に否定した。
オルステッドが明かしたループの真実
続いてオルステッドは、自分が以前語った未来を見る力について半ば嘘をついていたと認めた。彼に未来予知の力はなく、世界の理から外れるという言葉の本質は、死んでも記憶を保ったまま過去へ戻る秘術にあった。甲龍暦三百三十年の冬、中央大陸北部の名もなき森へ強制的に戻される仕組みであり、その猶予は二百年であった。オルステッドは百回を超えるやり直しを重ねており、その長大な経験から、ペルギウスを迎えダリウスを倒した時点でアリエルの勝利は覆らないと断言した。
ヒトガミとの戦いへの確信
オルステッドは、ヒトガミもこの戦いに何度も関与してきたが、毎回ある時点で手を引いてきたと語った。その境目が今この段階であり、ここまで来ればアリエルが王になることは揺るがないのだという。さらに彼は、ヒトガミに勝つために必要な条件も既に判明しており、今回はルーデウスという存在も加わったことで、あと一歩のところまで来ていると明かした。ルーデウスはその言葉を信じ、家族を守るためにも引き続き尽力する覚悟を固めた。
イゾルテの来訪と和解の意思
三日目、イゾルテがエリスを訪ねて屋敷にやって来た。アリエルから譲られた屋敷で彼女を迎えたルーデウスは、当初復讐を警戒していたが、イゾルテは礼儀正しく応対し、自分は敵に回らないと明言した。水神流そのものを敵に回したくないアリエルの配慮もあり、イゾルテは予定通り騎士として取り立てられる見込みとなっていた。彼女はレイダの死を残念に思いつつも、武人として戦って死ねたことは本望だっただろうと受け止めており、個人的な敵討ちはしない姿勢を示した。
エリスとイゾルテの距離感
イゾルテは、ルーデウスが思っていたよりもエリスを大切にしていることに安心したと率直に語った。エリスはいつも通り高圧的な態度で応じたが、二人のやりとりには剣の聖地で築いた独特の距離感があった。イゾルテは今は道場を守る義務があるため戦えないと語りつつ、互いにもっと強くなってから再び剣を交えようと持ちかけた。エリスはその言葉に満足げに応じ、イゾルテも彼女の扱いに慣れた様子を見せていた。
事後処理と貴族たちの動き
その後、ダリウスの死による王宮の混乱はあったものの、大事には至らず、アリエルとルークは新体制に向けて精力的に動き続けた。トリスも再び貴族としての立場に戻りつつあり、盗賊団との交渉役としてアリエルに利用される方向で話が進んでいた。ペルギウスは配下を一人名代として城に残し、自身は早々に空中城塞へ戻った。配下の死については、空中城塞で復活できるため問題ないと告げられ、ルーデウスは改めてその便利さに驚かされた。
ボレアス家からの招待と王都観光
五日目にはボレアス家から、ルーデウスとシルフィに対してエリス抜きの食事の招待があった。ノトス弱体化を図りたい思惑が透けて見えたため警戒したものの、実際にはアリエルに近づきたいという意図を含んだ顔合わせに過ぎなかった。一方でイゾルテとも王都を観光することになり、ルーデウスの警戒をよそに、彼女はごく自然に町を案内し、エリスと楽しげな時間を過ごした。師を失った直後に訪れたのも、自身の中で一区切りをつけるためだったのだろうとルーデウスは感じた。
ルーデウスの仕事の終わりと新たな呼び出し
八日目には改めて事後の様子を確認したが、オルステッドの言う通り情勢は安定し、ルーデウスにできることはほとんどなくなっていた。アリエルの王位継承は着実に進み、敵対勢力も大勢を覆せる状況ではなくなっていた。自分の役目は終わったのだと判断したルーデウスは、そろそろ帰ろうとアリエルへ伝えた。すると翌日、彼は再びアリエルから呼び出しを受けることになった。
アリエルの私室での呼び出し
九日目の夜、ルーデウスはアリエルに呼ばれ、王宮にある彼女の私室を訪れた。余計な誤解を避けるため、シルフィを伴って赴いた。私室は王宮内の一室とは思えないほど広く豪奢であり、普段は大勢の侍女が控えているはずの空間も、この日は人払いがされていた。アリエルは自ら酒を用意し、軽口を交えながらも、ルーデウスに正式な礼を述べた。
アリエルからの謝意と褒賞の申し出
アリエルは、ペルギウスの件、旅の件、そしてオルステッドに関する件において、ルーデウスの協力がなければ自分はどこかで挫折していたと認めた。そのうえで、爵位や領地以外であれば自由に与えられるものを褒賞として差し出すと申し出た。ルーデウスはしばらく考えた末、以前ペルギウスと話していた魔族の像と本を売り出す計画について協力を求めた。アリエルはそれを快く引き受け、許可だけでなく量産のための工房まで用意すると約束した。
魔族の像と本の計画の進展
ルーデウスは、今後は像と本を組み合わせて売り出すつもりであることを伝えた。アリエルはミリス教との軋轢について問われても、金で解決できると断言し、王としての財力を背景に全面的な支援を約束した。ルーデウスはスポンサーと工房の確保によって、自らの構想が大きく前進したことを実感した。
シルフィへの感謝と友としての別れ
その後、アリエルはシルフィに向き直り、長年の護衛役としての働きに深く感謝した。シルフィはすでに正式に護衛を辞しており、引き継ぎも終えていた。アリエルは報酬ではなく言葉と気持ちで感謝を伝えたいと述べ、深く頭を下げた。シルフィはそれを受け止め、友達を助けるのは当たり前だと返した。二人は今後も行き来しようと語り合い、ラノアでの再会や招待の話に笑い合った。
ルーデウスが感じたシルフィの成長
ルーデウスは、アリエルと笑い合うシルフィの姿を見ながら、かつて畑のあぜ道を一人で歩き、周囲の子供たちに泥を投げられても何も言い返せなかった幼い日の彼女を思い出していた。そんなシルフィが今では一国の王女と対等に笑い合える存在となっていることを、ルーデウスは心から嬉しく感じていた。
アスラ王国を発つ日
そうして穏やかな時間を過ごすうちに、アスラ王国を発つ日がやってきた。これまでの戦いと後始末を経て、ルーデウスたちはついに王都を離れる時を迎えたのであった。
第十三話「別れの稽古とシルフィの変化」
ギレーヌの来訪と最後の稽古
出発当日の早朝、まだ日も昇らぬ時間に、ギレーヌが三本の木剣を持ってルーデウスたちの屋敷を訪れた。何をしに来たのかは言葉にされなくとも明らかであり、ルーデウスとエリスは黙って木剣を受け取り、着替えて庭へ出た。庭には寝ぼけ眼のシルフィが椅子に座り、働き始めたメイドたちも様子を窺っていた。ギレーヌの号令のもと、三人は素振りと型の稽古を始め、ルーデウスはかつて教わった頃と比べて自分が上達していることを実感した。
ルーデウスとエリスの対の稽古
基礎の型を終えると、次はルーデウスとエリスが向かい合って対の稽古を行った。エリスが攻め手となり、ルーデウスが受ける形は昔と変わらなかった。エリスの打ち込みはあくまで型に沿ったもので、かつてのように寸止めをしない荒さはなくなっていた。一方、ルーデウスの剣はエリスには届かず、二人の実力差は依然として大きかったが、それでも互いに積み重ねてきた日々が自然に動きに表れていた。
ギレーヌとエリスの最終確認
対の稽古が終わると、ギレーヌはルーデウスに見学を命じ、自らエリスと向かい合った。腰溜めに構えるギレーヌと、大上段に構えるエリスの間には、真剣勝負のような緊張が張り詰めた。合図もないまま一瞬で決着がつき、ルーデウスの目にはその動きを捉えきれなかった。結果として、ギレーヌの木剣は根元から叩き折られ、エリスの剣がその首筋に届いていた。ギレーヌはそれを受け止め、これで稽古は終わりだと告げた。
師弟の別れ
ギレーヌは神妙な顔でエリスに別れを告げた。エリスは涙を堪えながら返事をしたが、声は震え、感情を押し隠しきれていなかった。ギレーヌはそれ以上多くを語らず、最後にルーデウスへ一瞥を送り、その場を去っていった。その視線には、エリスを託す意思が込められているようにルーデウスには感じられた。ルーデウスは深く頭を下げ、剣を教えてくれたこと、そしてこれまでエリスを守ってくれたことへの感謝を改めて示した。
エリスの号泣
ギレーヌの姿が見えなくなると同時に、エリスは堪えていた感情を抑えきれず、大声を上げて泣き始めた。その泣き声は悲しみを振り払うように庭へ響き渡り、長い師弟関係の終わりと別れの重さをはっきりと示していた。
見送りとシルフィの人間関係
出発の時間になると、多くの者がシルフィの見送りに訪れた。大半はアリエル派の貴族であり、シルフィが女性であることやルーデウスの妻であることを初めて知って驚く者も多かったが、その評価自体は変わらなかった。形式的な挨拶を交わす中で、シルフィは丁寧に対応していたものの、最後には気疲れを見せていた。一方で、エルモアやクリーネといった親しい従者との別れでは、素直に感情を見せ、涙ながらに再会を約束していた。
ルークとの別れと相互理解
最後に訪れたルークは短い時間で別れを告げ、これまでの行動について謝罪した。シルフィもそれを受け入れ、互いに理解を示し合ったうえで、自然な形で別れを迎えた。ルークはシルフィに対して、困った時は頼るよう伝え、さらにルーデウスにも軽口を交えつつ信頼を示した。その後、ルークは二人に見送られながら去っていった。
帰路と移動手段の変化
帰路は来た時とは異なり、ペルギウスの転移魔法陣によって短時間で移動できる手筈となっていた。長い旅を想定していたエリスは拍子抜けしつつも、別れの重みは変わらないと感じていた。夜には空中城塞で一泊することとなり、三人は同じ部屋で休むことになった。
戦いの振り返りとルーデウスの不安
静かな夜の中、ルーデウスは今回の戦いを振り返った。結果としては勝利であったが、実感は乏しく、自分の力で成し遂げたという感覚も薄かった。多くをオルステッドに依存していたことへの不安と、今後も続く戦いへの重圧が心に残っていた。
シルフィの決意と役割の変化
その時、目を覚ましたシルフィは、護衛任務を終えたことで一区切りがついたと語った。そして今後は家に戻り、子育てに専念する決意を示した。これまでの役割を終え、新たに母として家庭を支える道を選んだのである。戦う力ではなく、別の形でルーデウスを支えるという意志がそこにはあった。
新たな関係性と前進
シルフィの決意を受け、ルーデウスは彼女の変化と成長を実感した。これまでとは異なる形で支え合う関係へと移行しつつあることを理解し、自身もまた変わる必要を感じた。そうした思いを抱えながら、三人は同じ部屋で静かに眠りにつき、新たな段階へと進む準備を整えていった。
第十四話「帰還と決意」
変わらぬシャリーアへの帰還
ルーデウスたちが魔法都市シャリーアへ戻ると、町も家も二ヶ月前とほとんど変わっていなかった。建設中の家や修復中の城壁が完成した程度で、大きな異変はなく、庭ではビートが光合成し、犬小屋ではジローが眠っていた。その平穏な光景に、ルーデウスは家族の無事を実感して安堵した。
家族との再会と土産への反応
帰宅すると、真っ先にアイシャが飛び出してきて、土産をねだった。エリスが渡した鏡を見てアイシャは大喜びし、自分の姿を映してはしゃいだ。リーリャもいつも通りの様子で迎え、家の者たちが皆無事に過ごしていたことを伝えた。その変わらぬ日常に、ルーデウスは深くほっとした。
ロキシーの変化と妊娠の進行
その後、ロキシーが姿を見せた。体調を崩しているのではないかと一瞬身構えたルーデウスだったが、問題は病ではなく、妊娠が進んで大きくなった体に対する戸惑いであった。ロキシーは腹が膨らみ、胸も変化し、自分の体が自分のものではないように感じて不安を抱えていた。シルフィもその気持ちに共感し、ルーデウスが家を空けていたことに対する寂しさを軽く滲ませた。
シルフィとエリスの気遣い
シルフィとエリスは、ルーデウスがまずロキシーと過ごすべきだと判断し、荷物を持って二階へ上がっていった。二人は返事を待たずに場を整え、ルーデウスとロキシーを二人きりにした。こうしてルーデウスはロキシーと向き合い、彼女の不安を受け止める時間を得た。
ロキシーの不安とルーデウスの気遣い
リビングで向かい合ったロキシーは、自分の変化した体をルーデウスにどう見られるかを強く気にしていた。特にお腹の膨らみと飛び出したへそを気にしており、ルーデウスがそれを見て失望するのではないかと不安に思っていた。ルーデウスはそれを可愛いと受け止めたが、ロキシーはすぐには信じなかった。そこで彼女は、言葉ではなく行動で示してほしいと求めた。
へそへの口づけと胎動の実感
ロキシーに促され、ルーデウスは彼女のへそに口づけた。その瞬間、腹の中の子が動いた。ルーデウスもロキシーもその胎動をはっきりと感じ、ロキシーはそれを父への挨拶だと穏やかに受け止めた。ルーデウスが改めて腹に手を当てると、ロキシーはもう恥ずかしがることなく、その手に自分の手を重ねた。
安心の回復と帰宅の実感
ロキシーは、シルフィの言う通り、ルーデウスが戻ったことで気持ちが落ち着いたと語った。ルーデウスもまた、ロキシーの言葉によって自分がようやく帰ってきたのだと実感した。そして二人は、改めてただいまとおかえりの言葉を交わし、ルーデウスは家に戻った安らぎを噛みしめた。
関係者への帰還報告と変化の実感
ルーデウスは翌日、ザノバやクリフ、エリナリーゼといった関係者に帰還の挨拶を行った。ナナホシとは既に空中城塞で会っていたため、再会は後日に回した。挨拶を重ねる中で、シャリーアに残る知人が減っていることに気づき、仲間たちもいずれこの地を去るのだと実感した。
パウロの墓への報告
夕暮れ時、ルーデウスは墓地を訪れ、父パウロ・グレイラットの墓の前に立った。新しい墓標に向かい手を合わせ、王都での戦いを報告した。今回の戦いでは誰も死なずに済んだことを伝え、安堵の気持ちを吐露した。
ピレモンとの邂逅と複雑な感情
ルーデウスは、王都で出会った父の弟ピレモンについて語った。弱さを抱えた人物でありながら、どこかパウロに似た面影を感じたことを思い出した。ピレモンもまた命を落とさずに済んだこと、そしてルークが父を守ろうとした姿に、自分にはなかったものを見たような思いを抱いた。
父への思いと自身の立場の再認識
ルーデウスは、ルークが父を守った行動に対して、羨望に似た感情を抱いていた。自分はパウロを守れなかったという思いが残っており、その対比が胸に残っていた。しかし同時に、自分は今、自分なりに戦い抜き、守るべきものを守っているのだと再認識していた。
帰還の実感と静かな決意
墓前での報告を終えたルーデウスは、静かな時間の中でこれまでの戦いを振り返った。そして、自分は確かに家へと帰ってきたのだと改めて実感し、これからも守るべきもののために進み続ける決意を胸に刻んだ。
関係者への挨拶と変化の実感
ルーデウスは帰還後、ザノバやクリフ、エリナリーゼらに挨拶を行った。ナナホシとは既に会っていたため後日に回し、交流を終える中で、シャリーアに残る知人が減っている現実を実感した。やがて皆がこの地を去ることを思い、静かな寂しさを覚えた。
パウロの墓への報告
夕暮れの墓地を訪れたルーデウスは、父パウロ・グレイラットの墓前に立ち、今回の戦いを報告した。誰も死なずに済んだことを伝え、酒と花を供えながら、アスラ王国での出来事やオルステッド、ヒトガミのことを語った。
ピレモンとルークへの思い
ルーデウスは父の弟ピレモンと会ったことを振り返り、その弱さと同時にパウロに似た面影を感じていた。さらに、ルークが処刑されかけた父を命懸けで守った姿を思い出し、自分にはできなかった行動として羨望を抱いた。自らも本来はピレモンを殺す予定であったが、結果的に助ける側に回ったことに複雑な後味を感じていた。
戦いの振り返りと反省
今回の戦いは成功であったものの、ルーデウスはそれを手放しで喜べなかった。これまでの戦いでも全力は尽くしてきたが、結果としてパウロを失った過去を思い返し、本当にそれで良かったのかと自問した。運に左右される要素が多く、今回もわずかな違いで誰かが死んでいた可能性を強く認識していた。
運に頼る戦いへの疑問
ルーデウスは、自分がこれまで運に頼って生き延びてきたのではないかと考えた。パウロの死もまた、運次第で回避できた可能性があったと感じ、今後も同じように運に家族の命を委ねてよいのかという疑問を抱いた。今回エリスが重傷を負ったこともあり、次は取り返しがつかない結果になるかもしれないという危機感を持った。
さらなる成長への決意
ルーデウスは、運任せではなく、自らの力で結果を引き寄せる必要があると結論づけた。より強くなり、できることを増やし、人との繋がりを広げることで、余裕を持って大切な者を守れるようになるべきだと考えた。これまでも努力してきたが、それでもなお足りないと認識し、油断せず成長し続ける決意を固めた。
父への誓いと新たな覚悟
墓前でルーデウスは、これからも努力を続けることを父に誓い、見守ってほしいと願った。そしてその誓いを忘れぬためにも、何度でもここへ戻る決意を胸に刻み、静かに墓地を後にした。
間話「???」
深夜の酒場に現れた異様な酔客
深夜の酒場に、ひどく酔った男が現れた。彼はすでに酩酊状態でありながら酒を飲み続け、何度も吐きながらも飲酒をやめなかった。酒場のマスターにとって酔客自体は珍しくなかったが、この男の様子にはどこか異様なものがあった。
存在しない相手との会話
客が減り始めた頃、男は突如として隣に誰かがいるかのように話し始めた。そこには誰もいないにもかかわらず、男は相手の反応に応じるように会話を続けていた。そのやり取りは独り言とは思えないほど自然で、まるで実際に会話が成立しているかのようであった。
過去と恩義を踏まえた依頼の受諾
男は見えない相手からの相談を受け、命を狙われている状況や過去の出来事について語り合っていた。かつてその相手の頼みで酷い目に遭った過去を思い出しつつも、迷宮での恩やこれまで助けられてきた事実を踏まえ、最終的には協力する意志を示した。そして、仲間を集める計画についても話を聞き、納得した様子で手助けを引き受けた。
突如として訪れた眠りと不気味さ
会話の途中で男は突如として力尽きたように眠りに落ちた。その一連のやり取りを見ていたマスターは、見えない何かと契約したのではないかと不気味さを感じた。やがて男を起こして店を出させたが、その様子はどこか操られているかのようでもあった。
去り際に残された言葉と余韻
男は店を出る直前、小さく呟いた。互いに恩がある関係である以上、自分は選ぶべき側を選ぶだけだという決意であった。その声は酔客のものとは思えぬほど冷たく、マスターに強い不安を残した。振り返った時にはすでに男の姿はなく、ただ扉の鐘の音だけが静かに響いていた。
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