どんなラノベ?
『最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する』は、ファンタジー世界を舞台にした暗躍型の異世界宮廷ファンタジーである。
物語の舞台は、周辺国との軍事的な緊張感や、深刻な内憂外患を抱える強大なアードラー帝国である。主人公のアルノルト・レークス・アードラーは、双子の弟であるレオナルトを帝位につけるため、自らは「出涸らし皇子」と呼ばれる無能な皇子を演じつつ、裏では大陸最高峰の冒険者「シルバー」として驚異的な能力を振るい、壮絶な帝位継承戦を影から支配していく。
基本的な世界観は、魔法や魔導具、古代魔法、禁術が存在する中世風ファンタジーである。大国間での外交政略、領主の腐敗、宮廷内の暗殺疑惑といった複雑な陰謀が絡み合い、武力闘争のみならず、経済戦や高度な知略戦が展開される点が物語の大きな特徴である。
■ 物語の特徴
南部の悪魔騒動を解決したレオナルトは、帝都で名誉将軍に任じられ、有力な帝位候補として名を上げた。しかし、証拠の手紙を奪取した第三皇子ゴードンは、南部貴族の不正を暴き、自らが活躍できる内乱を引き起こそうと画策する。時を同じくして、第二皇女ザンドラの陣営が未来予知の力を持つ皇女クリスタを誘拐する事件が発生。事態は近衛騎士エルナの奮闘により解決されるものの、帝都には不穏な空気が漂い始めた。
内乱を未然に防ぐため、レオナルトは使者を装って南部連合の本拠地へ潜入し、首魁クリューガー公爵を奇襲する作戦に打って出る。その裏でアルノルトは謎の軍師グラウに変装し、最前線の都市を防衛してゴードン軍の猛攻を防いだ。一方のレオナルトたちも公爵を追い詰めることに成功するが、悪魔の血を用いた「悪鬼」が放たれ、城内は未曾有の混乱に陥っていく。
窮地の中、レオナルトは命を懸けた大魔法で悪鬼を浄化し、アルノルトも暗躍して背後の悪魔の討伐を果たす。結果的にゴードンとザンドラは皇帝から厳しい処罰を受け、帝位を巡る争いは次なる段階へと進むのである。
読んだ本のタイトル
#最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い 4 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する
著者:タンバ 氏
イラスト:夕薙 氏
出版社:KADOKAWA(スニーカー文庫)
発売日 :2020年8月1日
ISBN : 9784041091708
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あらすじ・内容
帝国南部での災禍を瀬戸際で食い止めることに成功した双子の皇子アルとレオ。 火種は燻ぶり続け、今度は三勢力間での極秘情報争奪戦が始まる――!
最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い4 無能を演じるSSランク皇子は皇位継承戦を影から支配する
感想
南部では、他国に攻めるためゴードン主導の軍部はザンドラが取り仕切る魔術師の実験集団に非情な人体実験をしていた。
材料入手のための人身売買に関わっていた南部貴族の反乱を事前に鎮圧するのが目的だったが、、、
その証拠の告発状を持つ騎士を捜索するのだが。
その脚を引っ張るのが軍部に籍を置くゴードンと南部に支持基盤を持つザンドラってのがたちが悪い。
騎士の調査に出向くレオとアルを阻止するためにあの手この手で妨害して。
遂には騎士は保護したが告発状の手紙を取られてしまう。
さらにアルとレオが留守の間にザンドラが妹のクリスタを実験体にするために誘拐しようとするが、、
見習い騎士のリタが妨害するが、重傷を負ってしまう。
異母妹とはいえ妹を実験体に、、、
ザンドラはもう狂ってるな。。
彼女を狂わせてるのは母親。
では、母親を狂わせたのは?
皇帝の妃である彼女を狂わせる事の出来る人物は??
その辺りがキーになってくるな。
クリスタにはリタが死亡する未来が見えていたが、それだけは回避出来た。
そして南部貴族達の反乱は、軍を派遣して戦争した末に帝国を蹂躙して返した刀で帝都も攻めたいゴードン。
その出鼻を挫くためにレオは反乱の党首の公爵を討伐する事を皇帝に提案する。
その兵士を揃えるのはアルだった。
かつて不正を行っていた主人を斬った連中が集まっている元騎士だった連中の団。
弟のために己の覚悟を兵士達に示して彼等の心に火を入れたアル。
そして、レオに独自の兵士が出来た。
約300人の騎士(兵士)達。
自身の正義を信じ、主人を裏切った元騎士の集まりが彼等の味方になる。
これで実動部隊が手に入った。
レオが突撃したら付いてくる300人の騎士達。
だんだんと派閥が大きくなって来た。
でも最後にアルは暗躍して南部貴族の要所の都市で、シルバーでは無く謎の軍師ブロウとして暗躍する。
そして、レオの奇襲が成功して南部貴族の反乱は沈静化していった。
結果。
南部貴族達から支持されていたザンドラは帝位争いから脱落する。
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考察・解説
南部異変の解決
アードラシア帝国南部で発生した、魔界と繋がる「黒い球体」とアンデッドの大軍による未曾有の災厄は、多くの者たちの奮闘と協力によって解決へと導かれた。その解決までの軌跡は以下の通りである。
絶望的な防衛戦と援軍の到着
バッサウ上空に黒い球体が出現し、大量のスケルトンが湧き出す中、第八皇子レオナルトは逃げる民を守るために撤退を拒み、自らが囮となって戦線を維持する決断を下した。
- 事態を打開するため、リンフィアの提案により冒険者ギルドへレイドクエストを発注した。
- 帝都ではフィーネの呼びかけで「蒼鴎の救援」と名付けられたクエストが発動し、SS級冒険者シルバー(アルノルト)が指揮を引き受けた。
- シルバーが作り出した巨大な転移門を通って数百名の冒険者が戦場に駆けつけた。
- さらに第一皇女リーゼロッテも騎兵連隊を率いて突撃したことで、戦況は防衛から反撃へと転じた。
召喚者の救出と魔界の扉の崩壊
戦闘中、悪魔フルカスが現れ、黒い球体が魔界と現世を繋ぐ穴であることが判明する。さらに、球体の中にリンフィアの妹シンファが囚われており、彼女が召喚の核となっていることが分かった。 - これを受けて戦場の目的は、リンフィアを球体へ送り届ける護送作戦へと移行した。
- レオナルトやリーゼロッテが道を切り開く中、リンフィアは黒い球体に辿り着き、激しい電撃に焼かれながらも内部に右手を伸ばし、シンファを外へ引き上げることに成功した。
- シンファが救出されると球体は崩壊し始め、落下していく子供たちもシルバーが魔法で生み出した銀の鷲によって無事に助け出された。
シルバーの本気とシルヴァリー・レイによる終息
子供たちの救出が完了したことで、妹を怖がらせないために力を抑えていたシルバーが、ついに本来の魔力を解放した。 - フルカスに対して、この場の強者は俺だ、と宣言したシルバーは、超広範囲殲滅魔法シルヴァリー・レイを発動した。
- 放たれた星のように輝く七つの銀光は、フルカスごと魔界への穴を撃ち抜き、残存するアンデッドと悪魔たちを完全に殲滅した。
- 脅威がすべて排除されると、シルバーはレイドクエストの達成を宣言し、冒険者や騎士たちの歓声とともに南部の異変はついに終息を迎えた。
まとめ
帝国の危機を救ったのは、皇族、騎士、そして国境や身分を超えて集まった冒険者たちの強い連帯であった。レオナルトが示した民を守る執念と、シルバーが放った圧倒的な一撃は、南部の民に希望を取り戻させた。この未曾有の災厄の終息は、激化する帝位争いの中で各陣営の評価や影響力にも大きな変革をもたらす重要な契機となったのである。
帝位争いの激化
アードラシア帝国における帝位争いは、第八皇子レオナルトの台頭を契機に三大勢力の均衡が崩れ、内乱や他国の介入を招きかねないほど激化している。その具体的な展開と各陣営の動きは以下の通りである。
レオナルト陣営の急成長
南部での海竜討伐や悪魔騒動を解決したレオナルトは、その多大な功績から「帝都守備隊の名誉将軍」に任じられ、これまで第二皇子エリクにしか許されていなかった「重臣会議」への参列も認められた。これによりレオナルトは、新興の四番手からエリクすら脅かす有力な帝位候補者へと急成長を遂げ、勢力図が大きく塗り替えられた。
ザンドラ陣営の暗躍と失墜、そして他国の介入
勢力を拡大するレオナルト陣営に対し、第二皇女ザンドラは、第一皇女リーゼロッテとラインフェルト公爵の縁談を潰そうと動いた。側近のザイフリート伯爵に命じ、公爵の客室に娼婦を連れ込んだように偽装する策を企てた。しかし、これを察知したアルノルトの反撃により、工作の品々はザイフリート伯爵自身の部屋に移され、結果として伯爵が皇帝の逆鱗に触れて失脚した。
さらに、ザンドラの支持基盤である南部貴族の不正や反乱未遂が露見したことで、ザンドラと母の第五妃ズーザンは無期限の謹慎を命じられ、実質的に帝位争いから脱落寸前まで追い込まれた。追い詰められたザンドラは、ペルラン王国の第一王子との縁談を進めるという強硬手段に出ており、外国の力を帝位争いに引き込もうとしている。
ゴードンの暴走と内乱の誘発
第三皇子ゴードンは、自らが活躍できる戦場と武功を求めるあまり、意図的に戦争を引き起こそうと暴走を始めた。
- 天才参謀の娘であるハーフエルフのソニアを、彼女の養父と祖父母を人質に取ることで無理やり軍師として従わせた。
- ソニアの献策に従い、南部貴族の不正を記した手紙をあえて重臣会議で暴露した。
- これにより皇帝に南部討伐を決断させ、大規模な内乱を意図的に引き起こそうとした。
この内乱は、レオナルトを勅使としたアルノルトたちの決死の奇襲作戦によって未未然に防がれたが、ゴードンは自分が皇帝になるためならば帝国の民がどれほど犠牲になっても構わないという危険な野望を露わにしている。
エリクの不気味な静観
最大勢力を持つ第二皇子エリクは、自らは決して手を汚さず、下位の候補者たちが潰し合うのを待つという冷徹な静観姿勢を崩していない。 - 南部騒乱の際には、外務大臣として他国の介入を防ぐ牽制を行い、皇帝からの評価を着実に上げた。
- 急成長したレオナルトに対しては「自分が次期皇帝だ」と直接的な牽制をかけた。
- レオナルトとザンドラ、ゴードン陣営が争うよう、巧みに状況を誘導している。
まとめ
現在のアードラシア帝国の帝位争いは、単なる宮廷内の権力闘争にとどまらず、意図的な内乱の誘発や、敵国の王族の介入を招くなど、帝国全体の存亡や民の命を脅かす国家規模の危機へと激化している。
リタとクリスタ
アードラシア帝国の第三皇女クリスタと、騎士見習いの少女リタの関係は、身分を超えた強い友情と、過酷な運命に立ち向かう自己犠牲の物語である。二人の出会いから誘拐事件を乗り越えて絆を深めるまでの経緯は以下の通りである。
身分を超えた出会いと友情
クリスタは、幼い頃に母である第二妃を亡くして以来、第六妃ミツバに育てられており、親しい身内以外には心を閉ざしがちな少女であった。一方のリタは、貧困層から騎士の素質を見出されて城の広場で訓練を受けている平民の少女で、快活で物怖じしない性格の持ち主である。
- 迷子になっていたリタがレオナルトと知り合い、お菓子を食べる仕事をもらったことをきっかけに城の広場へ行くようになる。
- 広場でクリスタと出会ったリタは、彼女を「クーちゃん」と呼び、二人はすぐに親しい友人となった。
- リタの裏表のない純粋な明るさは、未来予知の能力ゆえに不安を抱えがちなクリスタにとって、心を和ませる大きな救いとなっていた。
クリスタの未来予知と誘拐事件の発生
ある日、クリスタは自身の先天魔法である未来予知により、「小さな部屋で大勢の子供たちと共に、リタが自分の目の前で死ぬ」という凄惨なビジョンを見てしまう。クリスタから泣きながら助けを求められたアルノルトは、妹とリタを救うため、帝国最強の剣であるエルナをクリスタの専属護衛に任命した。
しかし、第二皇女ザンドラと第五妃ズーザンがクリスタの未来予知能力に目をつけ、彼女を「究極の呪い」の実験体にするための誘拐計画を実行する。アルノルトが重傷を負ったという偽の報告でクリスタを部屋から誘い出し、ザンドラと繋がりのある奴隷商人が彼女を薬で眠らせて馬車で連れ去ってしまった。
リタの決死の追跡と地下牢での奮闘
クリスタが連れ去られるのを目撃したリタは、クリスタが落としたウサギのぬいぐるみと、エルナから預かっていた魔導具「絆硬貨」を拾い、自らも馬車の荷台に忍び込んで後を追った。 - 奴隷商人の地下施設に連れ込まれ、首輪をつけられそうになっていたクリスタの前にリタが現れる。
- リタは短剣で縄を切り、「リタは友達を見捨てる卑怯者じゃない」とクリスタを連れて逃走を図った。
- 二人は奴隷商人の側近で暗殺者の教官である禿頭の男に追いつかれ、大勢の子供奴隷が閉じ込められている部屋へと追い込まれてしまう。
- この部屋こそが、まさにクリスタが予知で見た場所であった。
- 男に強烈な蹴りを入れられ、肋骨が折れて内臓を傷つけるほどの重傷を負いながらも、リタは血を吐きながら立ち上がった。
- リタは「クーちゃんは友達だから守るんだ」とクリスタを背中に庇い、短剣を構え続けた。
エルナの救出と深まる絆
予知通りに男が鉄の棒でリタを突き刺そうとした瞬間、クリスタは最後の希望に縋ってエルナの名を叫んだ。すると、リタが残した「絆硬貨」の魔力の糸を辿ってきたエルナが壁をぶち破って現れ、男を一撃で討伐して二人を救出した。
事件後、リタはエルナによって地上へ運び出され、ハーフエルフのソニアによる応急処置を受ける。その後は城へ運ばれ、怪怪我が治るまでミツバの部屋のベッドで手厚く看護されることとなった。自らの命を懸けて自分を守ろうとしたリタの姿にクリスタは深く心を打たれ、二人の友情と絆はより一層強固なものとなった。
まとめ
クリスタとリタの間に結ばれた絆は、皇族と平民という絶対的な身分の壁だけでなく、凄惨な未来の予知という恐怖をも打ち破った。リタの純粋なまでの自己犠牲と、それに応えようとしたクリスタの強い想いは、過酷な宮廷闘争や陰謀が渦巻く帝国において、互いを支え合う確かな光となっている。
レベッカ捜索任務
「レベッカ捜索任務」は、アードラシア帝国南部の不正問題を巡り、帝位を争う三大勢力が一人の女騎士と彼女が持つ「告発状」を奪い合った重要な事件である。その発端から結末までの経緯は以下の通りである。
背景:シッターハイム伯爵の決断と告発状
バッサウの領主デニス・フォン・シッターハイム伯爵は、南部を裏で牛耳るクリューガー公爵に脅迫され、長年人攫い組織の活動に加担させられていた。しかし、彼は最後に子供たちを救うために決起して命を落とす。
死の直前、デニスは親友の娘であり自身に忠誠を誓う騎士レベッカに、クリューガー公爵ら南部貴族の悪行を記した血印入りの書状(告発状)を託し、帝都の皇帝へ届けるよう命じた。
三つ巴の追跡劇
この手紙は帝位争いの行方を大きく左右する爆弾であったため、三つの勢力がレベッカを追う事態となった。
- ザンドラ陣営:支持基盤である南部貴族の不正が皇帝に露見するのを防ぐため、組織の暗殺者や自身が集めた精鋭の暗殺者を放った。手紙の隠滅だけでなく、確実な口封じとしてレベッカ自身の殺害を命じていた。
- ゴードン陣営:ザンドラを失脚させ、さらに「南部討伐」という大規模な内乱を意図的に引き起こして自らの武功を挙げるため、軍の隠密部隊を動員してレベッカと手紙の確保に動いた。
- レオナルト・アルノルト陣営:無用な内乱を防ぎつつ南部貴族の不正を穏便に処理するため、レベッカと手紙の保護を目指した。アルノルトは、ゴードンの新軍師となったソニアからレベッカが帝都近郊の街イェーナにいるという情報を得て、皇帝に南部の視察という名目でレオナルトと共にイェーナへ向かう許可を取り付けた。
イェーナでの救出劇
イェーナに到着したアルノルトたちは、冒険者ギルドの受付嬢エマがレベッカを匿っていることを突き止める。
夜になり、エマとレベッカが潜伏する宿屋をザンドラ側の暗殺者が襲撃したが、アルノルトの執事セバスがこれを撃退した。合流を果たしたアルノルトとレオナルトは、エマとレベッカを馬に乗せて帝都へ向かって脱出を図り、ゴードンの隠密部隊による待ち伏せもレオナルトの武勇によって突破して、レベッカ本人の保護に成功した。
手紙の喪失とゴードンの思惑
しかし、保護したレベッカたちから、手紙はすでに同行していた冒険者パーティーに託し、自らが囮となって二手に分かれていたことが明かされる。
冒険者たちは帝都で待ち伏せに遭い、ボロボロの状態で発見され、最重要証拠である手紙はゴードン陣営の隠密部隊に奪われてしまっていた。
手紙をゴードンに握られたことで、アルノルトたちが目指した穏便な解決の道は断たれ、ゴードンの思惑通り、重臣会議で南部貴族の不正が暴露されて内乱の危機が現実のものとなってしまう。
結末:重臣会議での証言と新たな爵位
重臣会議の場において、レベッカは皇帝の前で手紙がシッターハイム伯爵の書いた本物であると涙ながらに証言した。
皇帝はシッターハイム伯爵の過去の不正を重く見て伯爵位を剥奪したが、命懸けで手紙を届けようとしたレベッカの功績と、伯爵の最期の覚悟を認めた。
そしてレオナルトの進言を受け、皇帝はレベッカに新たに「シッターハイム子爵」の爵位と帝国銅十字勲章を授与し、彼女の努力に報いた。
まとめ
レベッカ捜索任務は、手紙がゴードン陣営に渡ったことで大規模な南部騒乱を誘発する引き金となった。しかし、身を挺して主君の意志を全うしようとしたレベッカの忠義は皇帝に認められ、新たな子爵家の誕生という形で結末を迎えた。この事件は、三大勢力の思惑が複雑に絡み合う帝位争いの激化を象徴する一戦である。
南部連合の反乱
アードラシア帝国の南部で発生した「南部連合」の反乱は、帝位争いの思惑と貴族の不正が絡み合った国家の危機であった。しかし、アルノルトとレオナルトの双子の皇子による連携と奇襲作戦により、大規模な内戦へと発展する前に鎮圧された。その経緯は以下の通りである。
反乱の勃発とゴードンの思惑
南部貴族の不正を記した「告発状」が第三皇子ゴードンによって重臣会議で暴露され、皇帝ヨハネスはクリューガー公爵をはじめとする南部貴族を徹底的に捜査し、内乱も辞さない強硬姿勢を示した。
- 追い詰められたクリューガー公爵は、他の南部諸侯の親族を騙し討ちで人質に取り、彼らを無理やり巻き込んで「南部連合」を設立し、帝国に対して抗戦の構えを見せた。
- ゴードンは、この反乱を軍事力で鎮圧することで自らの武功を圧倒的なものとし、軍部を完全に掌握して帝位に近づくことを目論んでいた。
レオナルトの奇襲策とフィーネの覚悟
大規模な内乱が起こることは、多くの民の犠牲や他国の介入を招きかねないため、レオナルトは戦争を未然に防ぐ策を皇帝に提案した。 - 皇帝の「勅使」としてクリューガー公爵の本拠地である城塞都市「ヴュンメ」に赴き、交渉の席で奇襲を仕掛けて首魁を捕らえるという極秘作戦を立案した。
- この使者の役目には、皇帝の寵愛を受けており相手を油断させやすい「蒼鴎姫」フィーネが自ら志願した。
- 護衛には、アルノルトが身を挺して説得した帝国軍の精鋭部隊「ネルベ・リッター(傷跡の騎士たち)」がつくこととなった。
最前線ゲルスでの防衛戦とシルバーの暗躍
一方、ゴードン率いる帝国軍の先遣隊(レッツ大佐とガルバー将軍)は、戦争の口実を作るために自軍のガルバー将軍を暗殺し、それを最前線の城塞都市ゲルス側の仕業に仕立て上げて攻撃を開始した。
ゲルスの若き領主アロイスは、母が人質に取られている中でも領民を守るために抗戦を決意する。そこにSS級冒険者シルバー(アルノルト)が「流れの軍師グラウ」と名乗って現れ、アロイスに協力した。 - グラウは魔法を利用した火攻めや的確な戦術を展開し、十倍の兵力を持つ帝国軍を退けた。
- さらに夜襲を仕掛けて敵の攻城兵器を焼き払った。
- 司令部に侵入してレッツ大佐を暗殺することで、帝国軍の進軍を完全に阻止した。
ヴュンメの制圧と反乱の終結
ゲルスでの足止めが功を奏し、レオナルトたちは予定通りヴュンメの城への潜入に成功する。フィーネはクリューガー公爵に対して皇帝からの「武装解除の最後通告」を突きつけ、公爵がこれを拒否してフィーネを人質に取ろうとした瞬間、セバスやラース率いるネルベ・リッターが一斉に奇襲を開始した。 - 同時に、フィーネとリンフィアは別館に監禁されていたタルナート伯爵やジンメル伯爵夫人などの南部諸侯たちを救出した。
- 救出された諸侯たちの協力を得て、城内の騎士たちを説得し、投降させることに成功した。
- 追い詰められたクリューガー公爵は、自らに「吸血鬼化の薬」を服用しようとしたが、レオナルトが決死の覚悟で剣を投擲してその腕を切り落とし、捕縛した。
まとめ
クリューガー公爵が捕らえられ、人質となっていた貴族たちも解放されたことで「南部連合」は瓦解した。アルノルトとレオナルトの巧みな連携により、帝国を揺るがす大規模な内乱は、本格的な戦争に発展する前に未然に防がれる結果となった。この一戦は、急成長するレオナルト陣営の存在感を確固たるものにし、帝位争いの勢力図を大きく塗り替える契機となったのである。
家族を守る決意
アードラシア帝国における激しい帝位争いの中で、アルノルトとレオナルトの双子の兄弟が自らを過酷な戦いに投じた最大の理由は、野心や権力欲ではなく「家族を守る」という強い決意にある。その決意が表れている重要なエピソードは以下の通りである。
帝位争い参戦の動機:母と兄を守るためのレオナルトの覚悟
本来、レオナルトは身内で帝位を争うことを嫌い、皇帝になる意思を持っていなかった。しかし、彼を支持していたドミニク老将軍が暗殺されたことで、自分が帝位争いに加わらなければ、敵対者として自分だけでなく、後宮にいる母ミツバや兄アルノルトも殺されるという現実に直面する。
- レオナルトは、母、兄、そして自分についてきてくれる人々全員を背負う必要があると痛感した。
- 自分が勝ち抜かなければ彼らに碌な未来が待っていないと語り、愛する家族と支持者たちの命を守るために、自ら過酷な帝位争いを勝ち抜く覚悟を固めた。
妹の笑顔を守るため:アルノルトとエルナへの懇願
第三皇女クリスタが自身の未来予知によって、友人であるリタが死ぬという凄惨なビジョンを見た際、アルノルトは妹の安全と帝位争いの情勢を天秤にかけざるを得なくなった。 - 母を亡くして抜け殻のようだったクリスタがようやく笑うようになった日々を守るため、アルノルトは動いた。
- 帝位争いにおける自身の不利益やプライドを捨てて、幼馴染のエルナにクリスタの専属護衛を頭を下げて懇願した。
- アルノルトにとって、妹にこれ以上辛い思いをさせないことは、何よりも優先すべき家族への愛であった。
弟の命を守るための「血の誓約」
南部連合の反乱を未然に防ぐため、レオナルトが敵の本拠地に赴くという危険な奇襲作戦を立案した際、アルノルトは弟の護衛として帝国最強の独立部隊「ネルベ・リッター(傷跡の騎士たち)」の説得に向かった。 - 国や民への忠誠心を失いかけていた騎士たちに対し、アルノルトは帝位争いや国のためといった建前を捨て、弟を死地に送る以上はできるだけ強力な味方をつけてやりたい、弟が大切で死んでほしくないという生々しい本音をぶつけた。
- 先に生まれて兄になった時点で責任を持ったと語り、自らの左手を短剣で貫く「血の誓約」を彼らの前で披露した。
- 弟のために自らの血と痛みを伴ってすべてを賭けるその真摯な「兄としての覚悟」は、頑なだった騎士たちの心を強く打った。
- 結果として、騎士たちに命懸けでレオナルトを守るという志願を決断させた。
まとめ
アルノルトとレオナルトにとって、苛烈な帝位争いや権力闘争は、大義名分や覇権のためではなく、互いの命と大切な家族の未来を守るための防衛戦である。彼らの行動の根底には常に家族への深い愛情と自己犠牲の精神があり、それが結果として多くの他者を惹きつけ、強大な勢力へと成長していく原動力となっている。
軍師ソニアの献策
「軍師ソニアの献策」は、第三皇子ゴードンに無理やり従わされたハーフエルフの少女ソニア・ラスペードが行った、帝国の情勢を大きく揺るがす戦術的・戦略的な提案である。彼女の献策とその背景には、過酷な運命と軍師としての深い葛藤が存在している。
軍師となった背景と「3回の献策」
ソニアの養父は、かつて帝国軍で「天才参謀」と謳われた軍人であった。ゴードンは彼を軍師に迎えるため、養父の両親(ソニアの祖父母)を人質に取るという強硬手段に出る。
- 後遺症で帝都へ向かえない養父に代わり、幼い頃から養父の蔵書で兵法を学んでいたソニアがゴードンの軍師として出向くこととなった。
- ソニアは愛する家族を救うため、ゴードンへの献策は「3回まで」という条件を付けて従っている。
第一の献策:手紙を使った内乱の誘発
ソニアの最初の献策は、奪取した「南部貴族の不正を記した手紙(告発状)」の運用法であった。ゴードンはこの手紙を使って対抗馬である第二皇女ザンドラを脅そうと考えたが、ソニアはそれを「もったいない」と止める。 - ソニアは、手紙を重臣会議で暴露してクリューガー公爵をはじめとする南部貴族を追い詰め、公然と反乱を起こさせることを提案した。
- これにより、軍事に秀でたゴードンが中央軍を率いて内乱を鎮圧する状況を作り出す。
- さらに、その隙を突いて侵攻してくる他国も撃退することで、誰もが認める圧倒的な武功を挙げて帝位を確実なものにするという、極めて合理的かつ壮大なシナリオを描いた。
第二の献策:ゲルス防衛戦での「即席の攻城兵器」
しかし、ゴードンはソニアの「静観すべき」という進言を無視し、味方の将軍を暗殺して強引に最前線の都市ゲルスへの攻撃を始めてしまう。
そのゲルスの攻防戦で、ゴードン軍は「流れの軍師グラウ」と名乗るシルバー(アルノルト)の戦術に敗れ、甚大な被害を出して足止めされた。 - 時間がない中で追い詰められた帝国軍の臨時指揮官レッツ大佐から策を強要され、ソニアは人質の命を守るために「一日で即席の攻城兵器を作る」という策を提示した。
- これは時間がない帝国軍にとって唯一の勝ち筋であった。
- 同時に、有能な敵軍師であるグラウなら気づくであろう五分五分の賭けでもあった。
軍師としての苦悩と葛藤
ソニアは卓越した戦術眼を持っているが、盤上の駒が生きた人間であることを深く理解しており、自分の策によって内乱が起き、多くの無関係な民や兵士が死ぬことに激しい罪悪感を抱いている。 - 生身の人間を勝利のための駒として割り切って扱うことができない。
- 「自分は軍師に向いていない」と自嘲しながらも、人質に取られた家族を救うために手段を選ばず残酷な策を練らなければならないという、深い悲哀と苦悩を抱えている。
まとめ
ソニアの献策は、天才的な兵法の知識に裏打ちされたものであり、ゴードン陣営の強力な武器となった。しかし、その卓越した知略の裏には、家族への愛と、自らの策がもたらす破壊や犠牲に対する人間らしい良心との間で激しく引き裂かれる、一人の少女の壮絶な葛藤が隠されている。
登場キャラクター
アードラシア帝国(皇族・後宮)
ヨハネス
決断を重視する帝国の指導者である。皇太子の死後、帝国の再建と帝位争いの対処に心血を注いできた。
・アードラシア帝国・皇帝。
・十一年前の流民問題においてソーカル皇国に対して強硬な態度を示した。
・重臣会議中に過労で倒れたが復帰して反乱への対応を指揮している。
皇后
皇帝の正室である。第四皇子の母親として後宮の権力争いとは無縁の立場にある。
・アードラシア帝国・皇后。
・物語内での具体的な行動や成果は記録されていない。
・特筆すべき地位の変化や影響力は確認できない。
第二妃
リーゼロッテとクリスタの母である。金髪で穏やかな性格の持ち主であった。
・アードラシア帝国・第二妃。
・すでに故人であり直接的な行動の描写はない。
・皇帝の寵愛を受けていたが不審死を遂げている。
ズーザン
皇帝の第五妃でありザンドラの母である。内に攻撃性を秘めている。
・アードラシア帝国・第五妃。
・失われた究極の呪いを完成させるため娘に人体実験を指示した。
・南部貴族の不正発覚に伴い無期限の謹慎処分を受けている。
ミツバ
皇帝の第六妃でありアルノルトとレオナルトの母である。子供の責任と自主性を重んじる考えを持つ。
・アードラシア帝国・第六妃。
・十一年前の宝玉破損事件の際アルノルトの行動を本人の責任として評価した。
・皇帝が倒れた際には強硬な態度で休養を取らせている。
皇太子
ヨハネスの長男であり多くの期待を集めていた人物である。
・アードラシア帝国・皇太子。
・三年前に戦死しており作中では回想の中で語られるのみとなっている。
・彼の死によって血みどろの帝位争いが勃発した。
リーゼロッテ・レークス・アードラー
第一皇女であり軍人としての生き方を重視している。東部国境の守備を担う将軍として活動する。
・アードラシア帝国・第一皇女・元帥。
・南部の異変に際して騎兵連隊を率いて駆け付け先頭に立って道を切り開いた。
・その戦功により東部国境軍の増員と予算拡大が認められている。
エリク
第二皇子であり冷静で冷徹な判断力を持つ人物である。
・アードラシア帝国・第二皇子・外務大臣。
・他国の問題以上に自国の問題を重視する姿勢を見せ南部騒乱の際には他国の介入を防いだ。
・最大勢力を持つ帝位の最有力候補として影響力を持つ。
ゴードン
第三皇子であり武力による解決と戦争を好む人物である。
・アードラシア帝国・第三皇子・将軍。
・南部貴族の不正を記した手紙を重臣会議で暴露し意図的に内乱を引き起こそうと動いた。
・騒乱を拡大させた責任を問われ北部国境守備軍への出向を命じられている。
ザンドラ・レークス・アードラー
第二皇女であり自らの目的のためには手段を選ばない人物である。
・アードラシア帝国・第二皇女。
・究極の呪いを完成させるため異母妹のクリスタを誘拐する計画を立てた。
・実家のクリューガー公爵家が反乱を起こしたため無期限の謹慎処分を受けた。
アルノルト・レークス・アードラー
第七皇子であり双子の弟を皇帝にするために暗躍する。裏ではSS級冒険者シルバーとして活動している。
・アードラシア帝国・第七皇子・SS級冒険者。
・使者を装った奇襲作戦を立案し自らの血でネルベ・リッターを説得した。
・南部の異変や反乱の危機を裏から解決へと導いている。
レオナルト・レークス・アードラー
第八皇子であり他者を救うために行動する真っ直ぐな人物である。家族を守るために帝位争いへ参加する。
・アードラシア帝国・第八皇子・巡察使・全権大使。
・バッサウでのアンデッド発生時には自ら囮となって戦線を維持し悪魔を討ち取った。
・クリューガー公爵を捕縛して南部の反乱を未然に防ぎ帝都守備隊の名誉将軍に任じられた。
トラウゴット
第四皇子であり文才はないが傑作の執筆を目指している。帝位争いには加わっていない。
・アードラシア帝国・第四皇子。
・皇帝の名代として南部へ赴きエルナに聖剣の使用を許可した。
・特筆すべき地位の変化はない。
クリスタ
第三皇女でありアルノルトやフィーネに心を許している少女である。未来予知の先天魔法を持つ。
・アードラシア帝国・第三皇女。
・自身の能力により友人が死ぬビジョンを見た。
・その能力に目をつけたザンドラ陣営によって誘拐された。
アードラシア帝国(臣下・貴族・関係者)
フランツ
帝国の宰相であり皇帝の側近として政務を支える人物である。
・アードラシア帝国・宰相。
・皇帝が倒れた後は会議を主導し冒険者ギルドへの呼びかけを許可した。
・南部の反乱に対しては妥協による内乱回避の可能性を模索している。
財務大臣
帝国財政を担当する老臣である。
・アードラシア帝国・財務大臣。
・モンスターの大量発生や南部異変によって帝国財政が疲弊していると指摘した。
・ゴードンが主張する大規模な内戦に対して強く反対している。
ベルツ伯爵
工務大臣を務める貴族である。
・アードラシア帝国・工務大臣。
・ザンドラの工作で追い詰められていたがアルノルトに救済されてレオナルト陣営に加わった。
・東部と帝都を結ぶ新たな道の建設を提案している。
ドミニク将軍
帝都守備隊の要職にあった老将軍である。
・帝都守備隊・名誉将軍。
・レオナルトに肩入れして帝位争いに首を突っ込んだ。
・三大勢力のいずれかによって暗殺された。
ユルゲン・フォン・ラインフェルト
ラインフェルト公爵家の若き当主であり商才に長けた人物である。
・ラインフェルト公爵家・当主。
・リーゼロッテに二十年間求婚し続けており彼女のために光の道を建設した。
・リーゼロッテの進軍を助けるために道を切り開いた功績で領地の拡大を認められている。
エルナ・フォン・アムスベルグ
勇爵の娘であり皇帝の剣として忠誠を誓う少女である。
・近衛騎士団・第三騎士隊隊長。
・皇帝の名代から許可を得て聖剣極光を召喚し海竜レヴィアターノを一撃で両断した。
・クリスタの誘拐を防げなかった責任を問われ自宅での謹慎を命じられている。
勇爵
エルナの父であり勇者の血を引く貴族である。最近の帝位争いが行き過ぎていると懸念を抱いている。
・アードラシア帝国・勇爵。
・過去にエルナが宝玉を壊した際皇帝に対して娘の行動を謝罪した。
・特筆すべき昇進や影響力の変化はない。
アンナ
勇爵の妻であり若々しい外見を持つ女性である。
・勇爵家・夫人。
・アルノルトとエルナの来訪をにこやかに出迎えた。
・フィーネを屋敷に匿うというアルノルトの頼みを引き受けている。
フィーネ・フォン・クライネルト
クライネルト公爵家の令嬢であり蒼鴎姫と呼ばれる人物である。
・クライネルト公爵家・令嬢。
・皇帝の勅使に志願しクリューガー公爵の本拠地へ赴いた。
・人質となっていた貴族たちを救出し城内の騎士たちを説得して投降させている。
クライネルト公爵
フィーネの父であり温厚な性格の領主である。
・クライネルト公爵家・当主。
・息子がシルバーを追い返した失態を謝罪し娘を差し出そうとした。
・アルノルトの要求を受け入れレオナルト陣営への全面的な支持を約束している。
ギード・フォン・ホルツヴァート
ホルツヴァート公爵の長男でありアルノルトを軽視する青年である。
・ホルツヴァート公爵家・長男。
・街でアルノルトの足をステッキで叩くなどの嫌がらせを行った。
・エルナを侮辱したためアルノルトの怒りを買って謝罪に追い込まれた。
ホルツヴァート公爵
ギードの父であり古い歴史を持つ名門貴族の当主である。
・ホルツヴァート公爵家・当主。
・物語内での具体的な行動の描写はない。
・長男をレオナルトに次男をエリクに接近させている。
セバス
アルノルトに仕える執事であり超一流の暗殺者としての技量を持つ人物である。
・アードラシア帝国・第七皇子付き執事。
・ザンドラ側の暗殺者を撃退し情報収集や工作活動を担った。
・クリューガー公爵の館の警備を音もなく無力化している。
マリー
レオナルトに仕えるメイドであり冷静な補佐役である。
・アードラシア帝国・第八皇子付きメイド。
・ベルツ伯爵と新道建設の協議を行い政務を支えた。
・路地裏で襲撃者を取り押さえレオナルトの評判を広めるよう指示を与えている。
デニス・フォン・シッターハイム
バッサウを治めていた領主である。人攫い組織に加担していたが最後に反旗を翻した。
・アードラシア帝国・シッターハイム伯爵。
・不正を告発する書状をレベッカに託した。
・暗殺者教官に討たれて命を落としている。
レベッカ・フォン・シッターハイム
デニスに忠誠を誓う若い女騎士である。主君から告発状を託された。
・シッターハイム伯爵家・騎士。
・追手から逃れながら手紙を運んだ。
・重臣会議で涙ながらに証言を行いシッターハイム子爵の爵位を授与されている。
帝国軍・ネルベ・リッター
アダム・ガルバー
帝国軍の将軍でありゴードンの熱烈な支持者である。
・帝国軍・将軍。
・ゴードンから一万の兵を与えられゲルスの街の偵察に向かった。
・戦争の口実を作るために味方によって狙撃され暗殺された。
レッツ大佐
帝国軍の指揮官でありゴードンの腹心の一人である。
・帝国軍・大佐。
・ガルバーの補佐として最前線に赴きソニアに攻城兵器の作成を強要した。
・司令部に侵入したシルバーによって短剣で刺殺されている。
ラース・ヴァイグル
ネルベ・リッターの騎士団長であり大人の色気を漂わせる男である。
・ネルベ・リッター・大佐。
・アルノルトの説得を受け入れレオナルトの護衛として奇襲作戦に志願した。
・クリューガー公爵の城で道を切り開き悪鬼からレオナルトを守り抜いた。
ベルント・レルナー
ネルベ・リッターの若い兵士である。
・ネルベ・リッター・少尉。
・アルノルトの血の誓約に応え最も早く任務に志願した。
・限界を迎えて倒れたレオナルトを抱きとめている。
ネルベ・リッターの兵士たち
主君を裏切った過去を持つ元騎士たちで構成された独立部隊である。
・帝国軍・ネルベ・リッター。
・アルノルトの覚悟に打たれて奇襲作戦に志願した。
・ヴュンメの城でクリューガー公爵の騎士たちや悪鬼と戦っている。
南部連合・南部貴族
スヴェン・フォン・クリューガー
第五妃の兄であり南部を牛耳る大貴族である。
・クリューガー公爵家・当主。
・他の南部諸侯の親族を人質に取り南部連合を設立して反旗を翻した。
・自らに吸血鬼化の薬を使おうとしたがレオナルトに腕を切り落とされて捕縛された。
トラウト侯爵
クリューガー公爵の同志であり自分の安全を最優先に考える男である。
・南部連合・侯爵。
・タルナート伯爵たちを人質として扱い反乱に巻き込んだ。
・リンフィアの奇襲を受けて気絶させられている。
タルナート伯爵
帝国寄りの立場をとる南部の貴族である。
・南部連合・伯爵。
・クリューガー公爵の反乱に反対し人質となりながらも抵抗を示した。
・フィーネに救出された後で城内の騎士たちを説得する役割を担った。
ジンメル伯爵夫人
アロイスの母であり芯の強い女性である。
・ジンメル伯爵家・夫人。
・人質にされながらも息子の足枷になるくらいなら死を選ぶと覚悟を示した。
・リンフィアによってトラウト侯爵から救出されている。
アロイス・フォン・ジンメル
ゲルスの街を治める若き領主である。
・ジンメル伯爵家・当主。
・母が人質に取られている状況でも領民を守るために帝国軍への抗戦を決意した。
・流れの軍師グラウの協力を得て帝国軍の進軍を食い止めた。
フォクト
ジンメル伯爵家の老騎士である。
・ジンメル伯爵家・騎士団長。
・グラウの作戦に疑問を抱きながらも協力し防衛戦を指揮した。
・奇襲部隊を外に出す偽装工作を見事にこなしている。
ヨルダン
ゲルスの兵士であり元冒険者らしき男である。
・ジンメル伯爵家・兵士。
・アロイスの本音を引き出し兵士たちの士気を大きく向上させた。
・グラウの指示で奇襲部隊を率いて帝国軍の攻城兵器に火を放っている。
老研究者
クリューガー公爵のもとで薬の研究を行っていた人物である。
・クリューガー公爵家・研究者。
・悪魔の血と吸血鬼の血を配合した薬を開発した。
・クリューガー公爵に急かされて薬を渡している。
ザンドラ・ズーザン陣営の暗躍者・裏社会
シャオメイ
ズーザンに仕える侍女であり凄腕の暗殺者である。
・アードラシア帝国・第五妃付き侍女。
・クリスタが未来予知の先天魔法を持っている可能性を突き止めた。
・エルナの隙を突きリタに毒を与えて暗殺を試みている。
ギュンター
ザンドラ配下の歴戦の暗殺者である。
・人攫い組織・暗殺者。
・かつてアルノルトを拉致しようとしたが撃退された。
・クリスタの誘拐を実行し後宮衛士たちを殺害した。
ゲントナー
小太りの商人であり裏では奴隷商人として活動している男である。
・ゲントナー商会・会長。
・ザンドラ陣営の指示でクリスタを誘拐し地下オークションに持ち込んだ。
・エルナに両足を斬られて捕縛されている。
冒険者ギルド・冒険者
エマ
冒険者ギルド帝都支部の受付嬢である。
・冒険者ギルド・受付嬢。
・イェーナの支部でアルノルトに絡む冒険者を一喝して事態を収拾した。
・シッターハイム家の騎士レベッカを匿い保護に協力している。
リンフィア
辺境のヒーナ村出身の冒険者である。
・冒険者ギルド・冒険者。
・魔槍を用いてトラウト侯爵や城の騎士たちを眠らせて無力化した。
・フィーネの護衛として活躍し人質の救出に貢献した。
リタ
貧困層出身の平民の少女でありクリスタの友人である。
・騎士見習い。
・誘拐されたクリスタを追跡し地下牢で身を挺して彼女を守った。
・重傷を負って倒れたがソニアの治療を受けて命を取り留めている。
ペルラン王国
ソニア・ラスペード
ハーフエルフの少女であり卓越した戦術眼を持つ人物である。
・ゴードン陣営・軍師。
・養父と祖父母を人質に取られ無理やりゴードンに従わされていた。
・ゲルス防衛戦でグラウの策に敗れ自らの責任に絶望して涙を流した。
ソニアの養父
かつて帝国軍で天才参謀と謳われた軍人である。
・元帝国軍・参謀。
・ゴードンの軍師になる要請を断り両親を人質に取られた。
・物語内での直接の登場はない。
ソニアの祖父母
ソニアの養父の両親である。
・平民。
・ゴードンによって人質として囚われている。
・物語内での直接の登場はない。
ペルラン王国の第一王子
ペルラン王国の王族である。
・ペルラン王国・第一王子。
・お忍びで帝都に滞在しザンドラを妻にと申し出た。
・物語内での直接の登場はない。
その他・市民など
露店のおばさん
帝都で果実を売っている女性である。
・帝都の商人。
・アルノルトに物価上昇の理由を説明し果実を売った。
・特筆すべき地位の変化はない。
露店の店主
帝都で商売をしているよそ者の男である。
・商人。
・ハーフエルフであるソニアに高値をふっかけ横暴な態度をとった。
・アルノルトの命令を受けた警邏隊によって商売許可証を没収された。
ドワーフの老人
ヴュンメの街で迷子になっていた高齢のドワーフである。
・ドワーフ。
・リンフィアに門まで案内してもらいお礼として霊樹の笛を渡した。
・渡した笛が後にシルバーを呼ぶための重要なアイテムとなっている。
魔界・魔物
悪鬼
悪魔の血と吸血鬼の血を配合した薬によって変質した人間である。
・クリューガー公爵家の騎士(変異後)。
・噛みついた相手を感染させる能力を持ち城内の騎士たちを襲った。
・レオナルトの大魔法によって浄化され人間に戻った。
成り損ない
悪鬼になれなかった怪物である。
・怪物。
・城の入り口で騎士たちと戦い最後はラースたちによって倒された。
・特筆すべき地位の変化はない。
展開まとめ
第一章 情勢変動
帝都への凱旋と民衆の歓声
南部の異変を解決したレオナルトたちは、事情聴取と戦功への褒賞のため帝都へ帰還した。紫の狼煙による最悪の事態を覚悟していた帝都の民は、危機を救った英雄としてレオナルトを熱狂的に迎えた。
リーゼロッテやユルゲンにも歓声が送られ、南部への迅速な対応が高く評価されていた。一方でアルノルトには「出涸らし皇子」という嘲笑が向けられたが、ユルゲンはアルノルトの行動を勇気ある決断だったと擁護した。
皇帝による戦功表彰
皇帝ヨハネスは一行を迎え、南部の異変を解決した功績を称えた。
第一功としてレオナルトは帝都守備隊名誉将軍へ任命され、重臣会議への参加も許可された。それにより、帝位争いにおける有力候補として一気に存在感を増した。
リーゼロッテには東部国境軍の増員と予算拡大、ユルゲンには宝物と領地拡大が与えられ、それぞれの功績が正式に認められた。
アルノルトの思惑
表彰後、貴族たちはレオナルト陣営への接近を考え始めた。
アルノルトは、自分が無能と見られることで実力に自信を持つ者たちがレオナルトの下へ集まりやすくなると考えていた。そのため、自身は今後も無能を演じ続ける必要があると再認識していた。
迷子の少女リタ
帝剣城で迷子になっていた少女リタは、衛兵に拘束されそうになったところをレオナルトに助けられた。
レオナルトは彼女を教官のもとへ送る代わりに、自分へ大量に贈られてくる菓子を一緒に食べさせることにした。リタは任務だと喜んで菓子を食べ、遠慮のない明るさでレオナルトへ接した。
周囲から常に気を遣われていたレオナルトにとって、リタの自然体な態度は癒やしとなっていた。
リタとクリスタの友情
後日、レオナルトはリタとクリスタがすでに仲良くなっている姿を目撃した。
そこへ現れたフィーネには幼女観察趣味を疑われ、さらにアルノルトまで現れたことで騒ぎは賑やかなものとなる。リタは双子であるアルノルトとレオナルトを見分けられず混乱していた。
アルノルトはレオナルトの代わりに仕事を引き受け、レオナルトへクリスタたちと遊ぶよう促した。レオナルトは久しぶりに自然体で過ごし、日が暮れるまで振り回されることになった。
重臣会議と南部の闇
重臣会議では、レオナルトが南部巡察の報告を行った。
南部では流民を狙った人攫いが行われており、その背後に南部貴族や軍部が関与していた可能性が高いことが判明した。シッターハイム伯爵家地下には攫われた子供たちを閉じ込める施設が存在し、人間兵器計画まで進められていた。
さらに、その計画にはゴードン陣営が関わっている疑惑も浮上する。
アルノルトは、まず南部問題へ対処すべきだと進言し、皇帝と宰相フランツもそれを認めた。
レベッカ捜索とソニアとの出会い
アルノルトは、重要証人であるレベッカの行方を追っていた。
そんな中、帝都の露店でハーフエルフの少女ソニアと出会う。ソニアは差別的な扱いを受けており、アルノルトは店主を処分して彼女を助けた。
その後、二人は帝都を歩きながら互いの境遇を語り合う。アルノルトは皇族として生きる苦しみを漏らし、ソニアもハーフエルフとしての迫害を打ち明けた。
やがてソニアは突然、ゴードンが“彼女”を見つけたと告げる。“彼女”とはレベッカを指していた。
アルノルトはその情報を信じ、急いで城へ戻る決意を固めた。
ソニアからの情報
アルノルトは、ソニアが流した情報についてセバスと検討していた。
罠の可能性も考慮したが、アルノルトは非効率すぎると判断する。もともとゴードンとザンドラの監視は続ける予定であり、ゴードンがレベッカを発見したという情報は、自分たちの行動方針を明確にするだけだった。
アルノルトは、ソニアの言葉に嘘がなかったと断言した。さらに、彼女自身の正体には疑問を抱きながらも、レベッカ保護の必要性を再認識する。
ゴードンの狙い
アルノルトは、ゴードンがレベッカと告発状を利用して南部討伐の空気を作り、自らが帝国を救う英雄として台頭する可能性を警戒していた。
その後、ゴードンが隠密部隊を帝都近郊の街イェーナへ向かわせたという報告が入り、アルノルトはレベッカの居場所がそこだと察する。
さらに、ゴードンが新たな軍師を迎えたことも判明した。
ソニアの正体
廊下でゴードン一行と遭遇した際、最後尾の人物がアルノルトへ「よろしくね、アル君」と囁いた。
その声はソニアのものだった。
アルノルトは、ゴードン陣営へ加わった軍師こそソニアだと理解する。しかし、罠であっても向かわなければならないと判断し、皇帝を巻き込んだ策を実行した。
皇帝を利用した策
アルノルトは皇帝へ、レベッカがイェーナにいる可能性を報告した。
近衛騎士隊派遣を止めたうえで、自分とレオナルトへ南部視察を命じ、その途中でイェーナへ立ち寄る形にしてほしいと提案する。
皇帝の命令で動く皇子へ手を出すことは、軍部側にも大きな危険を伴うからだった。
最終的に皇帝はそれを認め、アルノルトは失敗できない任務になったと覚悟を固めた。
クリスタの未来視
その後、アルノルトはミツバの部屋で震えるクリスタと対面した。
クリスタは未来視によって、小さな部屋に閉じ込められた大勢の子供たちと、自分の目の前でリタが死ぬ未来を見ていた。
クリスタの未来視は、本人が深く関わる未来ほど的中率が高い。アルノルトとミツバは、その未来が現実になる可能性が高いことを理解し衝撃を受けた。
しかし同時に、アルノルトはレベッカ保護のため帝都を離れなければならなかった。
エルナへの依頼
アルノルトはエルナへ、クリスタの護衛を依頼した。
帝位争いとクリスタの安全を天秤にかけていることへ罪悪感を抱くアルノルトに対し、エルナは当然のように協力を受け入れる。
やがてアルノルトは、クリスタが未来予知の先天魔法を持つことを打ち明けた。
エルナはすべてを理解し、自分がクリスタを守ると断言する。
エルナの決意
エルナは任務辞退の理由として、自分が水を苦手としている弱点を公表する覚悟を決めた。
それは近衛騎士として致命的な弱点を晒すことに等しかったが、エルナは誓いのほうが重要だと語った。
アルノルトが必要としているなら、どこへでも行く。
そう告げたエルナは、アルノルトの守りたいものを自分も守ると誓う。
アルノルトは、エルナが昔から変わらず自分の味方であることを改めて実感した。
クリスタとの別れ
最終的にエルナは後宮へ残り、クリスタの護衛を務めることになった。
アルノルトは涙を流すクリスタを抱きしめ、自分が最も信頼している剣を置いていくのだと伝える。
それがエルナだった。
エルナへ妹を託したアルノルトは、もう振り返ることなく帝都を後にした。
ザンドラ陣営の動き
一方、ザンドラは人攫い組織の暗殺者たちへ、レベッカ抹殺を命じていた。
レベッカ本人が証言すれば皇帝が動きかねないため、必ず始末する必要があったのである。
さらにザンドラは、ゴードンとレオナルトの戦力がイェーナへ集中することを好機と見ていた。
クリスタ誘拐計画
その後、ズーザン直属の暗殺者シャオメイが現れ、レオナルトとアルノルトがイェーナへ向かうことを報告した。
ザンドラは、クリスタ周辺の護衛が薄くなると判断し、未来予知の先天魔法を持つクリスタを狙う計画を立てる。
クリスタを実験体として利用できれば、自らの理想へ大きく近づけると考えていたのである。
ザンドラは、イェーナで何が起きようとも、クリスタさえ手に入れば構わないと狂気じみた笑みを浮かべていた。
第二章 捜索と誘拐
イェーナへの潜入
アルとレオは、帝都から半日ほど離れた城塞都市イェーナへ到着した。
二人は皇帝命令を利用して夜中に街へ入り込み、領主の干渉を避けながら行動を開始する。アルは、レオが表で領主を引きつけ、自分とセバスが裏で動く方針を定めた。
さらにセバスへレベッカ探索を命じ、アル自身は冒険者ギルドから情報を集めようと考える。
冒険者ギルドでの騒動
冒険者ギルドへ向かったアルは、地元冒険者から絡まれる。
人探しを依頼せず情報だけ求める姿勢を嘲笑され、酒を浴びせられるなど険悪な空気となった。
しかしそこへ帝都支部所属の受付嬢エマが現れ、騒動を即座に制止する。
エマはアルの服装や素顔から皇族だと察し、アルノルト皇子であることを明かした。
それでもアルは相手を罰することなく、軽率な行動を慎むよう忠告するだけに留めた。
エマの不自然な態度
個室へ移動したアルは、エマへレベッカ捜索について事情を説明した。
レベッカが南部貴族の不正を示す手紙を持ち、軍や暗殺者から狙われていることも明かす。
しかしエマは、レベッカの名を聞いても驚かず、本当にその話が事実なのか確認した。
アルはその反応から、エマが既にレベッカを匿っていると推測する。
監視者の存在も確認したアルは、翌朝エマがレベッカを連れてきた瞬間に保護し、そのまま離脱する方針を固めた。
エルナの護衛任務
一方後宮では、エルナがクリスタの護衛を続けていた。
リタと遊ぶクリスタを見守りながら、エルナは騎士用魔導具“絆硬貨”を使った遊びを披露する。
クリスタは、アルが語っていた“大陸最高の剣”という言葉を思い出し、エルナそのものが剣なのだと実感した。
エルナもまた、クリスタとの距離が以前より縮まっていることを感じていた。
シャオメイの監視
しかし、その場を遠方からシャオメイが監視していた。
エルナは気配を察知したものの姿までは掴めず、警戒を強める。
一方シャオメイは、エルナほどの存在がクリスタを徹底護衛していることで、クリスタが未来視の先天魔法を持つという情報を確信した。
クリスタ誘拐計画
第五妃の部屋では、シャオメイがザンドラへ報告を行っていた。
ザンドラは、クリスタを実験体として手に入れるため、南部と繋がる商人たちを利用した誘拐計画を進める。
失敗しても商人たちを切り捨てればよいと判断し、クリスタ誘拐は正式に実行段階へ入った。
エルナの引き離し
その後、第五妃からクリスタとエルナを呼び出す使者が訪れる。
危険を察知したエルナは、クリスタへ絶対に部屋から出ないよう強く言い聞かせ、衛士たちにも厳命した。
そして自分だけが第五妃の元へ向かい、クリスタを守るための時間稼ぎを行う。
偽報告による誘導
エルナが離れた直後、血だらけの侍女が現れ、アルノルトが重傷を負ったとクリスタへ告げた。
さらにミツバも現場へ向かったと聞かされ、クリスタは平静を失う。
衛士たちは止めようとしたが、クリスタは振り切って走り出してしまった。
クリスタ誘拐
誘導されたクリスタは、血を流して倒れる人物をアルだと思い込み駆け寄る。
しかしそれは別人だった。
直後、小太りの男が薬入りの布でクリスタの口を塞ぎ、意識を奪う。
追ってきた衛士たちはギュンターによって殺害され、クリスタは二重底の馬車へ運び込まれた。
こうして馬車は帝都を脱出していく。
リタの追跡
しかし、その馬車へ密かに潜り込んだ者がいた。
リタである。
リタは途中で落ちていたクリスタのウサギのぬいぐるみを拾い、自分が助けるのだと決意して馬車へしがみついていた。
やがてクリスタ失踪が発覚し、帝都全体が厳戒態勢へ入る。
だが、その時にはすでに馬車は帝都を離れていた。
クリスタが見た最悪の未来が、現実となり始めていたのである。
レベッカ救出作戦
深夜、アルノルトたちはセバスの報告を受け、レベッカの潜伏先である宿へ急行した。
しかし到着した時には既に戦闘が始まっており、エマが尾行されたことで潜伏場所を突き止められたと判明する。
襲撃者は軍ではなく暗殺者であり、動いていたのはザンドラ側の勢力だった。
レベッカはシッターハイム家の騎士として名乗り、レオナルトは到着が遅れたことを詫びながら保護を約束する。
だが第一波を退けただけに過ぎず、アルノルトは即座に撤退を決断した。
イェーナからの脱出
一行はレオナルトを先頭に夜の街道を突破していく。
待ち伏せは何度も発生したが、いずれもレオナルトの武勇によって突破可能な程度だった。
しかしアルノルトは、ゴードンの隠密部隊がまったく動かないことへ違和感を抱く。
監視されているにもかかわらず攻撃がない理由を考えた末、彼らは既に最低限の目的を果たしたのではないかと推測した。
失われた告発の手紙
アルノルトが問い詰めた結果、レベッカとエマは重要な事実を明かした。
告発の手紙は冒険者パーティーへ託され、既に帝都へ向かわせていたのである。
レベッカ自身が囮となり、手紙だけでも届けようとした作戦だった。
しかしアルノルトは、それでは相手に読まれていると断言する。
ザンドラとゴードンほどの相手なら、二手に分かれる程度の策は当然予測済みであり、待ち伏せされるだけだと見抜いていた。
その結果、アルノルトは手紙が既にゴードン側へ渡った可能性を強く警戒するようになった。
ズーザンの誘導
一方後宮では、エルナが第五妃ズーザンへ呼び出されていた。
ズーザンはザンドラへの協力を求めるが、エルナは帝位争いへ関与しない立場を崩さない。
しかし会話を続ける中で、エルナは自分がクリスタから引き離されるために呼ばれたのだと気付く。
その瞬間、エルナは部屋を飛び出し、最短距離でミツバの部屋へ向かった。
クリスタ誘拐の発覚
だが、戻った時には既にクリスタは姿を消していた。
衛士たちは、アルノルトが重傷を負ったという偽報告を受け、クリスタが飛び出したと説明する。
エルナは即座に罠だと理解し、現場を調査した。
そこでクリスタのウサギのぬいぐるみと、“絆硬貨”を発見する。
リタが追跡のために仕込んでいたのである。
エルナは硬貨へ魔力を流し、光の糸を辿ってクリスタの居場所を特定した。
地下牢での再会
その頃クリスタは、奴隷商人たちの地下施設へ閉じ込められていた。
そこへ馬車へ潜り込んでいたリタが現れ、短剣で縄を切って救出する。
リタは、友達を見捨てる卑怯者にはならないと告げ、クリスタと共に脱出を試みた。
しかし禿頭の男へ追い詰められ、逃げ込んだ先は、クリスタが未来視で見ていた“リタが死ぬ場所”だった。
エルナの救出
男がリタへ止めを刺そうとした瞬間、クリスタはエルナの名を叫ぶ。
直後、壁が粉砕され、エルナが地下施設へ突入した。
エルナは禿頭の男を一撃で叩き飛ばし、リタとクリスタを守り抜く。
リタは重傷だったが命に別状はなく、クリスタは涙ながらに約束を破ったことを謝罪した。
しかしエルナは責めることなく、リタへ感謝を告げた。
さらに地下牢の子供たちを解放し、生きたいならついて来いと導いていく。
奴隷オークション摘発
地上では、エルナが奴隷商人ゲントナーと違法オークション参加者たちを摘発した。
そこへ仮面の暗殺者が現れ、ゲントナーの口封じを図る。
エルナは激しく交戦するが、暗殺者は建物崩壊を引き起こし、逃走した。
エルナは追撃を諦め、クリスタやリタ、子供たちの救出を優先する。
ソニアの介入
脱出後、倒れていた貴族たちは何者かによって眠らされていた。
そこへ現れたフード姿の人物が、リタへ未知の治癒魔法を施す。
エルナは、その正体がソニアだと気付く。
ソニアは礼も報酬も拒否し、そのまま姿を消した。
皇帝ヨハネスの激怒
やがて皇帝ヨハネスが現場へ到着する。
ヨハネスはクリスタの無事へ安堵する一方、護衛を失敗した責任としてエルナを厳しく叱責した。
クリスタが庇おうとしても聞き入れず、エルナへ自宅謹慎処分を命じる。
エルナ自身も、一切言い訳せず責任を受け入れた。
エリクの思惑
その後、仮面の暗殺者シャオメイはエリクへ報告を行う。
暗殺自体は失敗したが、リタへ毒を与えたため長く目覚めないだろうと説明した。
エリクは、ザンドラ陣営とレオナルト陣営の対立がさらに深まることへ満足していた。
一方で、エルナを排除する考えは否定し、将来的には重要な臣下になる存在だと評価していた。
帝都帰還と後悔
帝都へ戻ったアルノルトは、クリスタ誘拐事件とリタの重傷、エルナの謹慎処分を知る。
アルノルトは、エルナなら未来視で見えた死を覆せると信じていたが、誘拐そのものまでは防げないと考えていた。
それでも、エルナへすべてを託した自分の判断へ強い後悔を抱く。
皇帝への報告
アルノルトは皇帝ヨハネスへ、レベッカ保護成功と手紙喪失を報告した。
ヨハネスは即座に失敗を見抜き、アルノルトへ厳しい言葉を投げかける。
だが同時に、今は責任追及よりも内乱回避が優先だと判断した。
ゴードン側には切れ者の軍師がおり、手紙を利用すれば南部問題は帝国内乱へ発展しかねなかったからである。
ヨハネスは、アルノルトへ内乱阻止の方法を考えるよう命じ、処罰を保留した。
クリスタとの再会
後宮へ戻ったアルノルトを、クリスタは涙ながらに迎えた。
クリスタは、自分のせいでリタが傷つき、エルナまで処分されたのだと自責していた。
しかしアルノルトは、それはクリスタの責任ではないと優しく諭す。
ミツバもまた、失敗を受け止めた上で次へ活かすべきだとアルノルトへ語った。
アルノルトは、その言葉を胸に刻みながら、次こそ失敗できないと決意を新たにするのだった。
帝都へ戻ったアルへの嘲笑
帝都へ戻って数日が経過しても、ゴードンは動きを見せなかった。
その間、皇帝は奴隷問題や南部貴族と繋がる帝都貴族の調査を進め、多くの貴族が城へ集められていた。
城内では、皇帝に叱責されたという噂によって、アルは再び「出涸らし皇子」として嘲笑の対象となっていた。
アル自身も、その立場を自ら選んだことを理解していたが、それでも周囲の空気へ息苦しさを覚えていた。
ギードの挑発
そんな中、ホルツヴァート公爵家の長男ギードがアルへ接触する。
ギードはアルを見下しながら、自分をレオ陣営へ推薦しろと要求した。
ホルツヴァート家は、長男をレオ側、次男をエリク側へ近づけ、どちらが勝っても利益を得ようとしていたのである。
しかしアルは、ギード本人に価値はないと判断し、即座に拒絶した。
エルナへの侮辱とアルの激怒
拒絶されたギードは、皇女誘拐事件で失敗したエルナを嘲笑する。
その瞬間、アルは激しい怒りを露わにした。
エルナはクリスタを救った功労者であり、その働きを侮辱されることだけは許せなかったのである。
アルの殺気にギードは恐怖し、謝罪と発言撤回を強要される。
しかしアル自身は、その後で感情を抑えきれなかったことを悔やんでいた。
無能な皇子を演じるはずだったのに、エルナのことになると冷静ではいられなかったからである。
エルナとの面会許可
城を出たアルへ、セバスがエルナとの面会許可が下りたと報告する。
ミツバが皇帝へ掛け合った結果だった。
エルナは現在、アムスベルグ勇爵家で謹慎中だった。
アルは、母の根回しへ感謝しながら、セバスと共に屋敷へ向かった。
アムスベルグ家での再会
屋敷へ到着したアルは、食事中だったエルナと対面する。
アンナとセバスが席を外したことで、二人きりとなった。
アルはしばらく沈黙した後、自分がクリスタ誘拐を避けられないと知りながら、真実を伏せたままエルナへ護衛を依頼していたことを告白する。
つまり、自分はエルナを騙したのだと頭を下げた。
エルナの覚悟
しかしエルナは、それを侮辱だと返した。
自分は近衛騎士として誓いに従っただけであり、アルが責任を感じる必要はないと断言する。
近衛騎士としての未来が遠のいたことも受け入れていた。
それでもクリスタとリタを守れたのなら、自分の勝ちだと笑う。
アルもまた、その言葉を本心だと理解し、二人は祝杯を交わした。
アルの理想
酒を飲みながら、アルは本心を語り始める。
自分は必ずレオを皇帝にすると。
それは単にレオが優秀だからではなく、帝位争いという制度そのものを終わらせたいからだった。
帝位争いは有能な皇帝を育てる制度である一方、多くの血と犠牲を生み続けている。
クリスタのような子供まで巻き込まれる現状を、アルは許せなかった。
エルナは制度の必要性も認めつつ、アルの理想を理解していた。
そしてレオには、人を惹きつける力があると語る。
アルは、その言葉へ満足そうに頷いた。
ソニアの献策
その頃、ゴードンの下ではソニアが新たな策を提案していた。
奪った手紙を重臣会議で公開し、南部貴族とクリューガー公爵の腐敗を暴露するという計画である。
そうなれば皇帝は南部を放置できず、クリューガー公爵も反乱を起こすしかなくなる。
内乱となれば、軍事に秀でたゴードンが大きな戦功を得られる。
ソニアは、それこそがゴードンを帝位へ近づける最善策だと考えていた。
ソニアの過去
しかしソニアにとって、ゴードンは本来憎むべき相手だった。
十年前、故郷の村は戦争によって壊滅し、その原因の一端には若き日のゴードンの判断があった。
ソニアを救った養父も、その戦いで重傷を負い軍を去ることになる。
それでもソニアが協力しているのは、養父の両親をゴードンが人質に取っているからだった。
ソニアは三度だけ献策するという条件で軍師役を引き受けており、今回の策がその一度目だった。
軍師になれない理由
ソニアは、自分が軍師に向いていないとも自覚していた。
軍師とは、多くの命が失われることを理解した上で、人を駒として扱う存在である。
しかしソニアには、その割り切りができなかった。
内乱によって民が死ぬ未来を理解しているからこそ、罪悪感が消えなかったのである。
それでも、養父と祖父母を救うためには進むしかなかった。
手紙を失った焦燥
手紙を奪われてから二週間近くが経過しても、状況は動かなかった。
アルは、重臣会議でゴードンが手紙を切ると予測していた。
フィーネへ向かってアルは、手紙を失ったことで皇帝による調整の機会が完全に消えたと語る。
今や南部問題は、ゴードンの意志次第で内乱へ発展しかねない状態だった。
ソニアへの複雑な感情
クリスタ誘拐事件でフード姿の人物が助力したことから、アルはそれがソニアだと察する。
ソニアは根本的には善人なのだろうと考えつつも、内乱を引き起こそうとしている以上、敵であることは変わらなかった。
アルは、必要ならば自分の手でソニアを殺す覚悟まで語る。
それは憎しみではなく、せめて自分の手で終わらせたいという感情だった。
シルバーとして動けない理由
アルは、最初からシルバーとして動いていれば違う結果になったかもしれないと後悔していた。
しかし古代魔法の使い手シルバーが帝位争いへ肩入れしていると知られれば、帝国全体から危険視される可能性があった。
だからこそアルは、公には動けなかったのである。
フィーネの一言から生まれた策
そんな中、フィーネが何気なく南部貴族と話し合えないのかと口にする。
その言葉から、アルは活路を見出した。
内乱直前、皇帝の使者であれば、南部貴族も必ず応じる。
アルはすぐにレオを呼び寄せ、新たな作戦を説明した。
奇襲による内乱阻止計画
アルの策は、皇帝の使者を装って南部へ潜入し、そのままクリューガー公爵を奇襲制圧するというものだった。
反乱の中心を潰してしまえば、南部はまとまれず、内乱そのものを瓦解させられる。
レオも、その作戦を最善だと評価した。
だが問題も多かった。
必要なのは、近衛騎士級の精鋭でありながら、相手に警戒されない部隊だったのである。
ヴュンメ攻略の壁
翌日、アルはエルナへ作戦を相談する。
エルナは、内部構造が複雑なヴュンメ城を迅速に制圧するには内部地図が必要不可欠だと指摘した。
さらに自分が行けば聖剣で城ごと潰せると冗談めかして提案するが、アルは即座に却下する。
勇爵家の人間がだまし討ちへ参加すれば、評判への悪影響が大きすぎるからだった。
ネルベ・リッターという選択
エルナは、条件を満たす部隊として「ネルベ・リッター」の名を挙げる。
彼らは主君の不正を告発したことで居場所を失った騎士たちで構成された、帝国軍唯一の騎士団だった。
実力は極めて高く、どの陣営にも属していない。
今回の作戦には理想的な存在だった。
しかし彼らは我が強く、納得しなければ命令には従わない。
だからこそエルナは、レオではなくアル自身が彼らの信用を勝ち取るべきだと告げる。
その言葉に、アルは大きなため息を吐くしかなかった。
第三章 反撃の一手
重臣会議前の準備
数日後、重臣会議の開催が決定した。
アルは、ゴードンがこの場で動くと予測し、皇帝へ会議参加を願い出る。
作戦準備自体はほぼ整っていたが、唯一未解決だったのがネルベ・リッターとの交渉だった。
彼らは秘密演習中で接触できず、会議後にエルナと共に直接交渉へ向かう予定となっていた。
レオはアルへ大きな期待を寄せていたが、アル自身は自分よりレオの方が適任ではないかと感じていた。
それでもエルナがアルを推した以上、レオはそれを信じていたのである。
重臣会議の開始
玉座の間では、帝国の重臣たちが集まり重臣会議が始まった。
エリクは代表として、東部復興や悪魔騒動など問題続きの帝国事情を説明し、皇帝へ負担をかけていることを謝罪する。
皇帝は過労で倒れた後も休めず、各地対応へ追われていた。
そのため、手紙の件もアルたちへ任せていたのである。
ゴードンによる告発
会議の途中、鎧姿のゴードンが部下を連れて玉座の間へ乱入する。
ゴードンは緊急報告として、血塗られた一枚の手紙を差し出した。
それはシッターハイム伯爵がレベッカへ託した告発文であり、クリューガー公爵を中心とした南部貴族が人攫い組織と結託していた事実を記していた。
皇帝は内容を確認すると怒りを露わにし、その反応だけで重臣たちは内容が事実だと察する。
さらにクリスタ誘拐事件との関連も疑われ始め、会議全体が南部討伐の空気へ傾いていった。
それこそが、ゴードンの狙いだった。
レベッカの証言
皇帝は会議を一時中断し、レベッカを呼び出した。
レベッカは涙ながらに、手紙がシッターハイム伯爵本人によるものだと証言する。
これにより、クリューガー公爵の不正と、シッターハイム伯爵自身の罪も正式に確定した。
皇帝は伯爵位剥奪を宣言するが、レオが進み出る。
レベッカこそ命懸けで告発文を届けようとした功労者だと訴え、新たな爵位授与を提案したのである。
シッターハイムの名の継承
皇帝はレベッカへ望む爵位を問う。
しかしレベッカは、爵位よりもシッターハイム伯爵の名誉回復を願った。
それでも皇帝は、罪そのものは消えないと断言する。
その代わり、レベッカへ「シッターハイム子爵位」と帝国銅十字勲章を授与すると宣言した。
それは、シッターハイム伯爵の最期の覚悟と勇気を認めたという意味だった。
レベッカは涙を流しながら恩賞を受け入れた。
南部への強硬姿勢
その後、皇帝は南部問題へ強硬姿勢を示す。
クリューガー公爵を絶対に許さず、自ら南部捜査へ乗り出すと宣言したのである。
さらに第五妃ズーザンとザンドラへ謹慎処分を命じた。
こうして重臣会議は打ち切られ、帝国全体が急速に動き始めた。
ザンドラの失脚
会議後、エルナはザンドラにとって南部は重要な支持基盤であり、それを失えば帝位争いから脱落同然だと語る。
皇帝はザンドラが南部へ流れて独自行動することを防ぐため、早急に拘束したのである。
さらに勇爵は、最近の帝位争いには異常さがあると感じていた。
特にザンドラとゴードンは、帝国より私欲を優先しているように見えたのである。
アルもまた、その違和感を自覚し始めていた。
ネルベ・リッター駐屯地への訪問
アルとエルナは、ネルベ・リッターの駐屯地へ向かう。
到着しても案内役は現れず、兵士たちは遠巻きにアルを観察するだけだった。
やがて兵士たちは、出涸らし皇子や勇爵家頼みだとアルを嘲笑し始める。
激怒したエルナは剣へ手をかけるが、アルは自分が試されているのだと理解し、逆に兵士たちを挑発した。
主君へ傷を刻んだ忠義知らずだと煽ったことで空気は一変し、兵士たちは怒りを露わにする。
しかしアルは一歩も退かなかった。
ラースとの対面
そこへネルベ・リッター騎士団長ラース・ヴァイグル大佐が現れる。
ラースは、兵士たちはアルが脅し程度で逃げる人物か試していたと明かした。
アルもまた軽口で応じるが、ラースはアルが恐れていなかったことを見抜いていた。
そして正式に敬礼し、アルを話し合いへ招き入れた。
傷跡の騎士たちの現実
ラースは、ネルベ・リッターは正義の騎士団などではないと語る。
彼らは主君の不正を告発した結果、居場所を失った者たちだった。
国や民のために行動したにもかかわらず、待っていたのは称賛ではなく排斥だったのである。
だからこそ彼らは理想より現実を重視し、強さだけを磨いてきた。
アルは、その言葉から彼らが未だ「必要とされる場所」を求めているのだと理解した。
アルによる依頼
アルは、南部で起きようとしている内乱を戦争になる前に終わらせたいと説明する。
そのためにレオを使者として送り込み、奇襲によってクリューガー公爵を討つ計画を語った。
そして、その護衛役としてネルベ・リッターへ協力を求める。
しかしアルは、命令で従う者はいらないと断言する。
必要なのは、自ら進んで命を懸ける者たちだった。
アルの本音
ラースは、多くの民を守るという大義のために命を求めるのかと問う。
しかしアルは否定した。
弟に死んでほしくない。
だから最強の味方として力を貸してほしい。
それだけが理由だった。
その率直すぎる本音に、ラースは驚きを隠せなかった。
帝国や皇位ではなく、ただ弟を守りたいという感情だけで動いていたからである。
騎士たちへの訴え
アルは、ネルベ・リッター全員へ直接語りかける場を求めた。
そこでアルは、南部での作戦内容と、自分が彼らへ命懸けで協力を願いに来たことを率直に伝える。
その言葉に団員たちは強い反感を示した。
アル自身は安全圏にいながら、自分たちへ命を賭けろと言っているように見えたからである。
血の誓約
しかしアルは、自分も命を賭けると宣言する。
そして短剣を取り出し、“血の誓約”を行った。
アルは、自分は母の胎内で多くをレオへ奪われた出涸らし皇子だと語る。
それでも兄としての責任だけは残されている。
その責任を果たすため、自分は命を懸けるのだと断言した。
さらに、作戦失敗時には自ら命をもって責任を取ると誓う。
その証人としてエルナを指名した。
アルの覚悟
アルは短剣を左手へ深々と突き刺し、血を流しながら誓いを口にする。
その傷は、弟のためにすべてを賭けた証であり、自分にとっての勲章だった。
そしてアルは、ネルベ・リッターの騎士たちもまた、見返りを求めず信念に従って行動した者たちだと断言する。
だからこそ、自ら刻んだ傷を裏切りの証として扱うなと訴えた。
その傷は誇りであり、信念の証なのだと。
ネルベ・リッターの決断
静寂の後、一人の若い兵士が前へ出る。
ベルント・レルナー少尉だった。
彼は敬礼し、任務への志願を宣言する。
それを皮切りに、次々と団員たちが志願し始めた。
最後にはラースも前へ進み出て、ネルベ・リッター全員が志願すると宣言する。
彼らは、アルが自分たちの傷の価値を理解してくれたからこそ、自分たちもアルの傷を理解できるのだと語った。
そしてレオを必ず守り抜き、アルを死なせないと誓ったのである。
エルナの怒りと支え
すべてが終わった後、アルは大量出血によって眩暈を起こす。
だが倒れることはなかった。
傍にはエルナがいたからである。
エルナは傷の治療をしながら、次にまた無茶をして自分を心配させたら、その時は自分がすべてを斬ると涙混じりに怒った。
アルは苦笑しながら謝罪する。
しかし内心では、ネルベ・リッターの覚悟を得られたことへ確かな手応えを感じていた。
こうして、ゴードンの思惑を打ち砕くための準備は整ったのである。
南部連合の反旗
アルたちが帝都へ戻る頃、皇帝ヨハネスは大臣や皇子、主要貴族たちを集めて重臣会議を開いていた。
ヨハネスは、南部が皇帝直属の捜査を拒否したと宣言する。
それは反乱を意味していた。
フランツは、クリューガー公爵を中心として南部連合が結成され、大半の南部貴族と都市が参加していると報告する。
さらに南部は門を閉ざし、抗戦態勢へ入っていた。
会議では即座に軍を送るべきだという強硬論が噴出するが、フランツは、南部側の目的は皇帝からの譲歩であり、条件次第では内乱回避の余地もあると冷静に分析していた。
ゴードンの出陣要求
議論が続く中、ゴードンが前へ進み出る。
中央軍を自分へ預けてほしいと申し出て、南部など短期間で鎮圧できると豪語した。
多くの貴族たちは歓喜するが、財務大臣は即座に反対する。
すでに帝国財政は疲弊しており、内戦そのものが致命的な損失になると指摘したのである。
ゴードンは短期決戦を主張したが、問題は期間ではなく内戦自体だと退けられた。
レオナルトの奇襲策
その空気の中で、レオナルトが発言する。
彼は、自ら使者としてクリューガー公爵の本拠地へ入り込み、奇襲によって首魁を拘束または討つ策を提案した。
戦争が始まる前に南部連合の中心を潰せば、組織そのものが瓦解するという考えだった。
ヨハネスは興味を示したが、フランツは反対する。
レオナルトは南部異変を解決した英雄であり、相手に警戒されすぎているからである。
アルノルトでは格や潜入後の問題が残り、ゴードンでは威圧感が強すぎた。
その結果、適任者として浮上したのがフィーネだった。
フィーネの志願
その直後、フィーネが玉座の間へ現れる。
彼女は、自分にもできることがあると思いここへ来たのだと語った。
蒼鴎姫として皇帝から寵愛されているフィーネならば、南部側も危険な役目を担っているとは考えず、油断する可能性が高い。
ヨハネスは即座に却下しようとするが、フィーネは引かなかった。
民を守るのが貴族の役目であり、内乱を防げるなら危険を冒す価値はあると断言する。
ヨハネスは苦悩しながらも条件付きで許可を検討するが、フィーネは近衛騎士の同行すら敵を警戒させると拒否した。
ネルベ・リッターの志願
そこへアルノルトが遅れて現れる。
ヨハネスに叱責されながらも、護衛部隊として推薦したい者たちがいると告げた。
呼び込まれたのはラース率いるネルベ・リッターだった。
ラースは、ネルベ・リッター全員が今回の作戦へ志願すると宣言する。
それは極めて異例の出来事だった。
主君を裁いた騎士など信用できないと怒鳴る貴族に対し、ラースは、自分たちは不正を許せず主君を裁いたのであり、だからこそ不正を行う南部貴族へ寝返ることは絶対にないと断言した。
ヨハネスは、なぜ彼らが今になって動いたのかを問う。
ラースは、弟を守ってほしいと真っ直ぐ頼まれたからだと答えた。
ヨハネスはアルノルトの左手に巻かれた包帯を見て、彼が血の誓約を行ったことを察する。
深いため息を吐いた後、ヨハネスはネルベ・リッターへ護衛任務を命じ、この件をレオナルトへ一任した。
フィーネへの苦言
会議後、アルはフィーネへ無茶をしたと苦言を呈した。
しかし本気で責めることはなかった。
フィーネが危険を承知で動いた理由を理解していたからである。
さらに今回に限っては、フィーネの性格と作戦上の利点が噛み合っていた。
アルは、できる限り安全を確保すると約束した。
ラインフェルト公爵家の協力
そこへユルゲンとリンフィアが訪れる。
リンフィアは、リーゼロッテから妹たちを任されている恩に報いるため協力すると宣言した。
アルは彼女たちの参戦を歓迎する。
ネルベ・リッター、リンフィア、セバスらが加わったことで、戦力は大きく整っていった。
奇襲作戦の真意
ユルゲンは、使者を装った奇襲はレオの評判を落としかねないと指摘した。
しかしアルは、それも計算済みだと説明する。
表向きにはフィーネが皇帝の最後通告を届ける使者となる。
その使者へ攻撃した時点で、それは皇帝への反逆であり、今回の行動は「だまし討ち」ではなく「皇帝による懲罰」になるのだと説明した。
ユルゲンは、その理屈へ感心する。
戦後を見据えた準備
アルはユルゲンへ、商人たちを動かしてほしいと依頼した。
戦争が長引けば治安悪化や食糧不足が発生する可能性が高く、その対策が必要だったのである。
ユルゲンは、その仕事は自分好みだと笑い、即座に了承した。
アルは、クリューガー公爵を倒して終わりではなく、その後の統治と復興こそ本番だと考えていた。
リンフィアの笛
リンフィアはフィーネへ一本の笛を渡す。
それは味方へ自分の位置を知らせる高位魔導具だった。
フィーネはアルへ視線を向け、アルも静かに頷く。
もしフィーネがその笛を吹く状況になれば、それは極限状態を意味する。
その時は、アルがシルバーとして動く理由になるのだった。
ソニアの事情
その後、セバスはソニアについての情報を報告する。
ソニアの養父は、かつて「天才参謀」と呼ばれた軍人だった。
アルはそれを聞き、ソニアの冷静な戦略眼へ納得する。
彼女は常に大局を操り、有利な戦況を崩さず戦っていたのである。
しかし今は彼女へ構う余裕はなかった。
アルはレオの護衛をセバスへ任せ、自分はゴードンの監視へ回る決断を下した。
出発前のフィーネとの対話
出発の日、アルの部屋にはフィーネだけがいた。
アルは、本当は行ってほしくないと本音を漏らす。
しかしフィーネは、不安はないと静かに答えた。
周囲を絶対的に信頼していたからである。
フィーネは、自分はアルの秘密を共有し、その負担を軽くする役目を担っていると語った。
アルは苦笑しながらも、自分にとってフィーネがどれほど大切かを打ち明ける。
帝位争いによって兄姉たちは変わってしまった。
だからこそ、正道を歩き続けるフィーネが必要なのだと語った。
そして、もし何かあれば必ず笛を吹けと命じる。
何をしていても、誰といても、フィーネを最優先で助けに行くと約束した。
フィーネの本心
部屋を出る直前、フィーネは、初めて出会った時からずっとアルに助けられてきたのだと語る。
だから自分はアルを信頼している。
何が来ても怖くないのだと。
アルは、クライネルト公爵領で助けたのは打算だと返すが、フィーネは楽しそうに笑うだけだった。
使節団の出発
外では、レオとネルベ・リッターが出発準備を整えていた。
ラース率いる三百名の騎士たちは、アルの視線に気づくと一斉に敬礼する。
ラースは、不安そうな顔では士気へ影響すると指摘し、胸を張って送り出してほしいと告げた。
アルは仕方なく顔を上げ、「任せた」とだけ伝える。
団員たちは無言の敬礼で応えた。
リンフィアとの約束
出発前、リンフィアはアルへ挨拶する。
アルは、いつまでも「アルノルト殿下」と距離を感じる呼び方をするなと不満を漏らした。
するとリンフィアは、帰ってきたら呼び方を変えてみると微笑む。
アルはそれを楽しみにしていると返した。
兄弟の誓い
最後にレオが拳を突き出し、アルも拳を合わせる。
レオは、戦争を止めてくると力強く宣言した。
アルもそれを頼むと応じる。
こうして使節団は帝都を出発した。
アルは城壁の上から、その姿が見えなくなるまで見送り続けた。
暗躍の始まり
使節団を見送った後、ユルゲンがアルへ声をかける。
アルはこれから帝都を離れ、ゴードンとソニアを監視すると明かした。
ユルゲンはすぐにその意図を察し、無理は禁物だと忠告する。
アルは遠くから様子を見るだけだと返した。
そして、ゴードンへ好き勝手はさせないと心に決めながら、帝都を離れていった。
ここから先は、表舞台ではなく暗躍の時間だったのである。
第四章 南部決戦
ゴードンとソニアの対立
レオたちが帝都を出発した頃、中央軍を集結させていたゴードンも動き始めていた。
移動中、ゴードンはソニアへ新たな献策を求める。
しかしソニアは、皇帝が認可したレオたちの作戦を妨害すべきではないと進言した。
静観していれば皇帝を尊重する皇子として評価を落とさずに済むからである。
だがゴードンは評価ではなく手柄を求めていた。
武力で皇帝となり、大陸統一を成し遂げるという野望を隠そうともせず、皇帝の意向すら軽視し始めていた。
ソニアはその危うさを感じ取るが、ゴードンはもはや彼女の言葉へ耳を貸さなかった。
中央軍の集結
帝都南方の平原には三万もの中央軍が集結していた。
本営では副将アダム・ガルバーが苛立ちを露わにしていた。
内乱へ誘導したにもかかわらず、レオたちの奇襲によって全てが崩されかねなかったからである。
しかしゴードンは、攻撃ではなく「偵察」を命じた。
しかも一万もの兵を与える異例の命令だった。
ガルバーはそこへ策を察し歓喜する。
補佐にはソニアと腹心のレッツ大佐がつけられた。
ソニアは再び軽挙妄動を止めようとするが、ゴードンは完全に聞き流し、家族解放の訴えすら拒絶した。
ソニアは、自分が完全に利用されていることを痛感していた。
ゴードンの本心
ガルバーたちが去った後、ゴードンはレッツへ計画進行を確認する。
レッツはすべて手配済みだと報告した。
ゴードンは、クリューガーへレオたちの作戦を伝えるため、隠密部隊を南部へ放っていた。
さらに万一へ備えた次の策も準備していると明かす。
その目的は、南部で確実に戦争を起こすことだった。
南部を叩き潰した後は帝都へ進軍し、自ら皇帝となる。
さらに大陸統一と海の向こうの世界征服まで夢見ていた。
レッツもまた、その野望へ陶酔していた。
隠密部隊への襲撃
ゴードン直属の隠密部隊は、百人規模の精鋭集団だった。
彼らはレオたちの作戦内容をクリューガーへ届けるため南部へ向かっていた。
しかし途中、突如として深い霧に包まれる。
周囲も見えない異常な霧によって部隊は散り散りとなった。
指揮官の少佐はモンスターによる現象を疑うが、それはシルバーによる幻影魔法だった。
隠密部隊は方向感覚を完全に狂わされ、山中を彷徨い続ける。
崖から転落する者やモンスターへ襲われる者まで現れ、部隊は壊滅状態へ陥った。
こうしてシルバーは、ゴードンの情報伝達作戦を完全に潰したのである。
ゲルス包囲とガルバーの慢心
南部最大級の都市ゲルスには、騎士と兵士を合わせても千人ほどしか戦力が存在しなかった。
そこへガルバーは一万の軍勢を率いて現れる。
圧倒的戦力差を前に、ガルバーは一日で陥落すると確信していた。
レッツはさらに見晴らしの良い丘から戦場を見渡そうと提案する。
ソニアは、都市へ近すぎるため狙撃の危険があると警告した。
しかしガルバーは南部にそんな人材はいないと一蹴する。
その直後、丘へ到達したガルバーの眉間へ一本の矢が突き刺さった。
ガルバーは即死した。
レッツによる戦争開始
ガルバーの死を確認したレッツは、即座に全軍へ警戒態勢を命じる。
そして敵による将軍暗殺を理由に、自ら指揮権を掌握した。
ソニアは、レッツが意図的に狙撃を誘発したことを察する。
レッツは、現場判断で進軍できる大義名分を得た以上、遠慮なく戦争を始められると宣言した。
つまりゴードンは最初から戦争を起こすつもりだったのである。
ソニアは絶望しながらも、何かできることを探そうと決意した。
アロイスと叔父の対立
一方、ゲルス側も混乱していた。
若き領主アロイス・フォン・ジンメル伯爵は、叔父へ狙撃の理由を問い詰める。
しかし叔父は、自分は帝国軍へついたと平然と語った。
ゴードンが戦争を求めており、そのために将軍暗殺という口実が必要だったのである。
戦争が始まればゴードンは帝位へ近づき、自分も領地を得られる。
叔父はそう説明し、民や街の犠牲をまったく顧みなかった。
アロイスは絶望しながらも、父から受け継いだ剣を抜き、領主として民を守る責務を果たすと宣言する。
だが叔父は護衛へアロイス拘束を命じた。
シルバーの介入
その瞬間、護衛たちは突如眠りへ落ちる。
叔父もまた魔法によって意識を失った。
そこへ現れたのはSS級冒険者シルバーだった。
シルバーは、無意味な戦争によって犠牲が増えることを望まないと語る。
さらに、クリューガー公爵のもとへ皇帝の勅使が向かっており、戦争阻止のため動いていることを明かした。
そして自分は冒険者として表立って介入できないため、別の立場で協力すると申し出る。
灰色のローブ姿へ変装したシルバーは、自らを「流れの軍師グラウ」と名乗った。
アロイスは迷いながらも、その申し出を受け入れた。
グラウによる戦況分析
グラウとなったシルバーは、アロイスから現状を聞き取る。
そしてゴードンが二段構えの策を準備していたと即座に見抜いた。
レオたちへの妨害が失敗した場合でも、南部で戦争を起こす準備だったのである。
しかし逆に言えば、ゲルスが落ちなければ話は変わる。
数日耐えきれば、その間にレオたちがクリューガー公爵へ到達し、戦争そのものを終わらせられる可能性があった。
絶望的な戦力差
アロイスは、ゲルス側の戦力が騎士五百、兵士五百の計千人しかいないと説明する。
しかも兵士の大半は急造兵だった。
対する帝国軍は精鋭一万。
数でも質でも圧倒的に劣っていた。
それでもシルバーは勝算はあると断言し、まず家臣たちを説得する必要があると告げた。
家臣たちとの対立
集められた家臣たちは、突然現れたグラウを信用していなかった。
特に騎士団長フォクトは、得体の知れない男へ頼るべきではないと警戒する。
それに対しシルバーは、ゲルスが突破されれば帝国軍は南部へ雪崩れ込み、一族は戦後に処刑されるだろうと断言した。
兵士たちの士気も低く、普通に戦えば確実に敗北する。
だからこそ協力者を信じるしかないと説いたのである。
アロイスもまた、自分たちはグラウを信じるしかないと家臣たちへ告げた。
家臣たちは渋々ながらそれを受け入れた。
防衛作戦の立案
その後、シルバーは防衛策を説明する。
帝国軍は正門へ攻撃を集中させ、防衛側が兵力を集めたところで別の門へ奇襲を仕掛ける常套戦術を用いる。
今回も間違いなく同じ手を使ってくると予測した。
しかしこちらには十分な兵力がない。
そのためシルバーは、奇襲部隊そのものを罠へ誘い込む方針を示す。
敵は圧倒的戦力差によって慢心する。
その油断を利用するのである。
シルバーは百名の兵士と大量の油を用意するよう命じ、不敵に笑みを浮かべた。
アロイスによる演説
戦闘直前、アロイスは騎士と兵士たちの前へ立つ。
兵士たちは不安と恐怖に包まれていた。
そんな彼らへ、アロイスは将軍暗殺が叔父によるものだったと真実を語る。
さらに、自分が戦う理由は南部連合でも帝国でもなく、領主として民を守るためだと訴えた。
もし簡単に降伏すれば、街は蹂躙され、戦後も反逆都市として衰退してしまう。
だからこそ数日だけでも持ちこたえたいのだと頭を下げた。
ヨルダンによる士気回復
沈黙の中、一人の兵士ヨルダンが声を上げる。
ヨルダンは、理屈ではなく母を助けたいから力を貸してくれと言えばいいと告げた。
その言葉を受け、アロイスは本音を口にする。
母を守りたい。
そして街も守りたい。
その本音を聞いたヨルダンは、先代へ世話になった恩があると叫び、子供へここまで言わせて黙っていられるかと兵士たちへ訴えた。
その言葉によって兵士たちの士気は大きく高まった。
東門への奇襲予測
正門では帝国軍による激しい攻撃が始まっていた。
しかしシルバーは、帝国軍が別の門へ奇襲を仕掛けると読んでいた。
特に東門は守りが薄く見える難所だった。
そして予想通り、東門へ約千名の奇襲部隊が現れる。
火攻めによる迎撃
奇襲部隊は破城槌によって門を破壊し、勝利を確信して侵入する。
だが、それこそが罠だった。
門の周囲には大量の油が撒かれていたのである。
そこへヨルダンが火を投げ込む。
さらに風向きが東へ変化したことで、火は爆発的に広がった。
まるで竜の吐息のような炎が坂道を飲み込み、縦列で進軍していた奇襲部隊は壊滅する。
生き残った者も重傷を負い、戦闘不能となった。
流れの軍師グラウの名乗り
撤退する帝国軍へ向け、シルバーは声を張り上げる。
この街には流れの軍師グラウがついた。
お前たちは決してこの街へ入れない。
そう宣言したのである。
ヨルダンは、完璧すぎる風向きの変化からシルバーが魔導師ではないかと疑う。
しかしシルバーは、すべて計算だと言い切った。
実際には魔法だったが、魔法を使う軍師ではなく、すべてを読み切る神算鬼謀の軍師として恐れられる方が都合が良かったのである。
こうして流れの軍師グラウの名は、帝国軍へ強烈な印象を刻み込んだ。
帝国軍の総攻撃
翌日、帝国軍は奇襲を諦め、四方からの正攻法による総攻撃へ切り替えた。
四つの門を同時に攻めれば、防衛側は兵力を分散せざるを得ず、どこか一か所は突破できる。
それが帝国軍の常識だった。
しかし結果は正反対となる。
ゲルスの兵士たちは高い士気を維持し、矢や投石を正確に浴びせ続けた。
帝国軍の兵士たちは、前日に壊滅した奇襲部隊の光景を忘れられず、火攻めへの恐怖と流れの軍師グラウへの不安から動揺していた。
その僅かな迷いを、ゲルス側は見逃さなかった。
結果として帝国軍は突破口を作れず、大きな損害を出して撤退することとなった。
レッツの焦燥
本営へ戻ったレッツは、机を叩きながら敵軍師を化け物だと罵った。
本来なら既にゲルスを突破しているはずだったにもかかわらず、実際には兵を失い続け、足止めされていたからである。
このまま失敗すれば、皇帝から咎めを受けるだけでなく、ゴードン陣営内での立場も危うくなる。
そのためレッツは、これまで遠ざけていたソニアへ助言を求める決断を下した。
ソニアの葛藤
呼び出されたソニアは、以前から持久戦を提案していたと指摘する。
しかし早期決着を望むゴードン陣営によって、その案は退けられていた。
ソニアは、初日にゲルスを落とせなかった時点で作戦は破綻したと断言する。
今のゲルスは一致団結しており、無理攻めはさらなる損害を招くだけだった。
だがレッツは、人質を盾に策を出せと強要する。
ソニアは苦悩した。
ゴードンは味方を犠牲にしてまで戦争を起こそうとしており、その先も戦争を続けるつもりだったからである。
それでも人質を見捨てることはできなかった。
悩み抜いた末、ソニアは一日で即席の攻城兵器を作る案を提示した。
攻城兵器作成の決定
レッツは時間の浪費だと激怒した。
しかしソニアは、敵をまだ過小評価しているのかと切り返す。
今のゲルスを短期間で攻略するには攻城兵器しかない。
さらに、一日攻撃を止めれば守備側は普通なら油断するとも語った。
もっとも、グラウほどの軍師ならその程度の罠には気づくだろうとも考えていた。
つまりこの策は、帝国軍に残された唯一の勝ち筋だった。
レッツは最終的に提案を受け入れ、即座に攻城兵器の準備を命じた。
グラウとソニアの対峙
その後、ソニアはガルバーが狙撃された丘へ向かい、ゲルスを見渡した。
すると城壁の上へ、灰色のローブを纏った男が現れる。
流れの軍師グラウだった。
グラウは、ゴードン皇子を支えるハーフエルフの軍師という噂は聞いていると語り、どう動くのか見せてもらおうと挑発する。
さらに、人質を取られて無理やり戦っているのだろうとまで言い当てた。
ソニアは驚愕する。
グラウはそんな彼女へ、人質のことだけ考えて全力で来いと告げ、どんな策でも灰燼に帰してやると宣言した。
その言葉を受け、ソニアは覚悟を決める。
半端な攻城兵器では勝てない。
ならば全力で打ち砕くしかない。
そう判断したソニアは、自ら設計図を書き始め、攻城兵器作成へ全力を注ぐのだった。
ヴュンメ到着
アルがグラウとしてゲルス防衛へ当たっていた頃、レオたちは予想以上の速さでクリューガー公爵の本拠地ヴュンメへ到着していた。
途中の南部都市がほとんど抵抗を見せなかったからである。
民にも活気はなく、クリューガーへ心から従っている者が少ないことは明白だった。
セバスは、今回の反乱は南部全体の総意ではないと分析する。
レオは、それなら自分たちが来た意味があったと実感するのだった。
奇襲準備
ヴュンメへ近づく中、ラースは作戦の最終確認を行った。
城門を抜けた先でクリューガーが出迎える可能性が高く、そこが唯一の好機だった。
城の奥へ入れば武器を取り上げられ、奇襲は不可能になる。
そのため出迎えの場で一気に仕掛ける必要があった。
しかし、その場合フィーネが危険に晒される。
レオはそれを懸念したが、セバスとラースは自分たちが護衛すると断言した。
ラースはレオへ後方待機を勧めるが、レオは自分は守られるためではなく、クリューガーを捕らえるために来たのだと告げる。
その言葉を聞き、ラースは不要な気遣いだったと謝罪した。
アルへの評価
移動中、セバスとレオはアルについて語り合う。
セバスは、アルが剣を振っただけで筋肉痛になるほど貧弱だと苦笑した。
レオも、格好をつけて全力で剣を振るからだと笑う。
そんな二人の会話を聞きながら、ラースはアルを傑物だと評した。
見栄を張りながらも、自ら左手へ短剣を突き刺した覚悟は本物だったからである。
レオは、その評価を心から嬉しく思っていた。
帝位争いは辛いものだったが、アルを正当に評価する者が増えたことだけは喜ばしかった。
そして何より、兄弟で共に戦えていることを誇りに思っていた。
ヴュンメ潜入
やがて一行はヴュンメ城へ到着した。
レオは皇帝の勅使護衛として開門を要求し、城門はゆっくりと開かれる。
成功するまで外へは出られない。
全員がそんな覚悟を抱いていた。
城内へ入った一行は騎士に案内され、バルコニーの下へ通される。
そこへ姿を現したクリューガー公爵は、高所から一方的に話しかけるだけで、下へ降りてこなかった。
さらに安全のため、フィーネ一人で上へ来るよう要求する。
レオは即座に反発した。
しかし書状確認前に仕掛ければ、自分たちが使者を騙った刺客になってしまうため動けなかった。
そんな中、フィーネは冷静に要求を受け入れ、自分の役目は書状を届けることだと告げて単身でバルコニーへ向かった。
最後通告
フィーネはクリューガーへ皇帝の書状を手渡した。
クリューガーは内容を読み、これが皇帝の答えかと確認する。
フィーネは、それは宣戦布告ではなく最後通告だと告げた。
今すぐ膝をつき、南部諸侯へ武装解除を命じろ。
従わないなら処罰する。
それが皇帝の意思だった。
しかしクリューガーは嘲笑する。
自分は元々一国の主であり、帝国へ武力併合された屈辱を忘れたことはない。
皇帝を主と思ったことなど一度もないと断言した。
さらにフィーネを人質にし、再交渉を行うつもりだと宣言する。
フィーネは、そんな人物に王や貴族たる資格はないと厳しく非難した。
するとクリューガーは、強い者こそ王になるのだと言い放つ。
それに対しフィーネは、本当の王とは多様な臣下を持つ者だと返した。
そして、その瞬間に戦端が開かれた。
ヴュンメ城内戦闘
音もなく現れたセバスが、周囲の騎士たちを瞬時に斬り伏せた。
その刃はクリューガーへも迫るが、クリューガーは騎士を盾にして逃走する。
同時に下ではレオたちが城内へ突入していた。
クリューガーは全員殺せと命じ、騎士たちが立ちはだかる。
しかしラース率いるネルベ・リッターが騎士たちを蹴散らし、レオの道を切り開いた。
フィーネもリンフィアとネルベ・リッター数名に守られながら離脱する。
こうしてヴュンメ城内で、小規模ながら決定的な戦いが始まったのである。
南部諸侯たちの対立
ヴュンメ城の別館には、クリューガーによって人質にされた南部諸侯たちが監禁されていた。
タルナート伯爵は、南部連合への参加を拒み、帝国への忠誠を訴えていた。
しかしトラウト侯爵は、既に多くの南部貴族が犯罪組織へ関与しており、全員が一蓮托生だと嘲笑する。
さらに、皇帝が勅使を送ってきたことで帝国側も交渉へ応じざるを得なくなったと勝ち誇った。
トラウト侯爵は、最終的には帝国と講和し、自分とクリューガーの安全だけを保障させるつもりだった。
その身勝手な態度に、タルナート伯爵は強い嫌悪感を抱くのだった。
ジンメル伯爵夫人の覚悟
怒りを抑えきれなくなったタルナート伯爵たちは騎士へ突撃し、その隙に剣を奪った。
しかし騎士たちは、部屋の隅にいた女性貴族たちへ槍を向ける。
その中には、アロイスの母であるジンメル伯爵夫人もいた。
トラウト侯爵は彼女たちを人質にして脅迫するが、ジンメル伯爵夫人は一切怯まなかった。
自分が家族の足枷になるくらいなら死を選ぶと宣言し、騎士たちへ詰め寄る。
子を想えば母はどこまでも強くなれる。
そう言い切る彼女の覚悟に、騎士たちは動揺した。
それでもトラウト侯爵は彼女を拘束させ、首へ短剣を突きつける。
タルナート伯爵とジンメル伯爵夫人は、互いに覚悟を決めたのだった。
リンフィアの奇襲
その時、突然部屋に不思議な音色が響いた。
騎士たちは抗いがたい眠気に襲われ、次々と膝をつく。
そこへ現れたリンフィアが、魔槍を振るいながら騎士たちの手足を斬り、無力化していった。
リンフィアの魔槍は、振り回すことで眠気を誘う音色を発する能力を持っていた。
ただし精密な対象指定はできず、部屋全体へ影響を及ぼすため、ジンメル伯爵夫人たちも巻き込まれてしまう。
リンフィアは申し訳なさそうに謝罪しながらも、素早くトラウト侯爵から彼女を救い出した。
そして呆然とするトラウト侯爵の前へ、フィーネが進み出るのだった。
フィーネの宣言
フィーネは、自分は皇帝の勅使として人質を助けに来たのだと名乗った。
トラウト侯爵は衛兵が来ないことに焦り始める。
そこへセバスが姿を現し、館の警備はすべて無力化済みだと明かした。
クリューガーは既にレオたちへ追い詰められており、最初からそのための作戦だったのである。
トラウト侯爵は、使者を装った奇襲は卑怯だと叫ぶ。
しかしフィーネは、これは皇帝の命に従わなかった者への懲罰だと静かに返した。
そして、自分たちは卑怯かもしれないが、あなたは卑劣だと断言する。
その直後、リンフィアは槍でトラウト侯爵を殴り倒し、気絶させた。
救出された人質たち
フィーネは改めて、自分は皇帝の勅使フィーネ・フォン・クライネルトであると名乗った。
救助が遅れたことを詫びると、貴族たちは感極まった様子を見せる。
皇帝は自分たちを見捨てなかった。
その事実に、多くの者が涙した。
フィーネは彼らが落ち着くのを待ってから、協力を要請する。
城内にはまだ彼らの臣下たちがおり、人質となっているため帝国側へ敵対している。
その騎士たちへ無事を知らせ、説得してほしいというのだ。
タルナート伯爵は即座に了承した。
さらにフィーネは、戦闘中に命を落としたタルナート伯爵の騎士が、最期に主を助けてほしいと願っていたことを伝える。
フィーネは謝罪せず、忠臣としてその最期を語った。
タルナート伯爵は、その言葉を静かに受け止めた。
新たな不安
しかしタルナート伯爵は、ここにいるのは人質の半数だけであり、他にも多くの貴族が別の場所へ連れていかれていると明かした。
その話を聞いたフィーネとリンフィアは、不穏なものを感じ取る。
単なる移動とは思えなかったからである。
セバスも嫌な予感を覚えていた。
それでも今は、救出した貴族たちの無事を城内へ知らせることが先決だった。
少しでも騎士たちの抵抗が止まれば、残る人質も探しやすくなる。
そう説明され、フィーネは頷く。
だが不安は消えず、フィーネは蒼い鴎の髪飾りへ触れながら前へ進む勇気を得ようとしていた。
フィーネによる降伏勧告
フィーネは城の正門前に立ち、拡声器を使って城内の騎士たちへ呼びかけた。
人質となっていた多くの貴族は既に救出済みであり、残る者たちも救助すると宣言する。
そして、自分たちが戦う理由はないと訴え、剣を収めるよう説得した。
さらに、皇帝の勅使へ刃を向ける意味を考えろと告げ、自分の正義に曇りのない者だけが戦う資格を持つと言い放つ。
その言葉に、多くの騎士たちは動揺する。
彼らの大半は悪人ではなく、ただクリューガーへ仕えていただけだったからである。
人質救出による動揺
そこへ、人質だった貴族たちとその騎士たちが現れた。
主君の無事を確認した騎士たちは涙を流して膝をつき、何度も詫びる。
その姿を見たクリューガー公爵家の騎士たちにも迷いが生まれた。
リンフィアは、この機会なら騎士たちを取り込めると判断し、フィーネへ進言する。
フィーネは即座に説得を開始した。
主の命令に従って戦っていただけなら罪には問わないと宣言しつつ、ここで抵抗を続ければ家族にまで累が及ぶと警告する。
優しさだけでなく脅しも交えたその姿に、リンフィアはアルに似てきたと感じていた。
やがて騎士たちは次々と膝をつき、勅使へ従うと宣言する。
そして、残る人質たちが城の地下へ連れていかれたことを明かした。
地下への不安
地下という言葉に、リンフィアはバッサウでの事件を思い出す。
悪魔や人体実験の存在を知っているからこそ、強い警戒を抱いたのである。
地下へ突入すれば、最悪の場合は悪魔が出現し、城ごと消し飛ぶ可能性すらあった。
そのためリンフィアとセバスは、まず城内の戦闘を終わらせるべきだと提案する。
フィーネは葛藤しながらも、その判断を受け入れた。
そして再び騎士たちへの呼びかけを続け、一秒でも早く戦いを終わらせようとした。
クリューガーの切り札
一方、クリューガーは城の最上階へ逃げ込み、研究者へ新型の薬を急いで完成させるよう命じていた。
それはザンドラと共同開発した薬であり、本来は自ら使う予定ではなかった危険な代物だった。
しかし、生き延びるためには使うしかないと判断したのである。
そこへレオが扉を斬り破って突入した。
レオは騎士たちを次々と斬り伏せながら、一直線にクリューガーへ迫る。
その戦い方は、安全重視だった以前とは異なり、直感に従って最適な動きを続けるものだった。
その姿は、一騎当千の姫将軍リーゼを彷彿とさせていた。
吸血鬼化の薬
間に合わないと悟ったクリューガーは、未完成の薬を飲もうとする。
それを見たレオは、自らの安全を捨てて剣を投擲した。
投げられた剣は見事にクリューガーの腕を斬り落とし、薬の使用を阻止する。
しかし丸腰となったレオへ騎士たちの刃が迫る。
その危機を救ったのはラースだった。
ラースはレオを庇いながら周囲の騎士たちを斬り捨て、クリューガーの確保を命じる。
研究者を問い詰めると、その薬は吸血鬼化の薬であることが判明した。
さらにクリューガーは、薬の開発過程で生まれた別の成果があると不気味に笑う。
その直後、城の下から大量の悲鳴が響き渡った。
南部での戦いは、まだ終わっていなかったのである。
アロイスの疑問
帝国軍が陣営へ引き上げた翌日、アロイスは城壁から敵陣を眺めていたグラウへ問いかけた。
昨日の防衛戦で使った魔法の正体を知りたかったのである。
グラウはすぐには答えず、逆にアロイスへ問いを返した。
自分たちは何が凄かったのか考えろと促したのである。
アロイスは考えた末、敵兵が弱く、味方兵が強かったことを挙げた。
するとグラウは半分正解だと告げた。
冷静さを保つ魔法
グラウが使った魔法は、味方兵士たちの心を正常に保たせるものだった。
戦場の熱気や恐怖で冷静さを失わないようにし、敵をよく見て行動し、指示を正確に聞ける状態へ導いていたのである。
それによって素人同然だった兵士たちは、熟練兵のような動きを見せた。
一方、帝国軍側は前日に奇襲部隊が炎で壊滅したことで強い恐怖を抱いていた。
その不安が兵士たちの冷静さを奪い、判断を鈍らせていたのである。
守備側有利の攻城戦で攻撃側が迷えば、結果は決まっていた。
布石はすでに打たれていた
さらにアロイスは、グラウが次の布石も既に打っているのではないかと推測した。
その問いに対し、グラウは布石を打ったのは昨日ではなく、その前だと明かす。
アロイスは考え込み、やがてヨルダンの姿を昨日一度も見ていなかったことへ気づいた。
実際には、奇襲部隊を撃破した直後に百人の兵を密かに城外へ出していたのである。
フォクト騎士団長が巧みに立ち回ったことで、敵側はその減少に気づかなかった。
帝国軍の制約
グラウはさらに、帝国軍には時間制限があり、しかも偵察隊という建前のため増援や大規模な魔導師部隊を呼べないと分析する。
そのため突破するには、奇策か攻城兵器へ頼るしかなかった。
特に巨大な攻城兵器を作る場合、大量の人手が必要になる。
帝国軍は周辺の村々へ金をばら撒き、人足を集めるはずだった。
そして既に城外へ潜伏している百人は、その人足へ紛れ込む予定だったのである。
奇襲作戦の狙い
百人だけでは大した脅威にはならない。
しかし、そこへグラウ本人が現れれば話は別だった。
敵から見れば突然現れたようにしか見えず、攻城兵器や兵糧を奪われる危険がある。
それを失えば帝国軍は撤退せざるを得ない。
仮にゲルスを突破しても、その先へ進むための準備が整わなくなるからである。
グラウは、奇襲が終われば自分は去るとも告げた。
その後はアロイス自身が領主として責任を負わねばならないのである。
アロイスへの助言
グラウは、クリューガー公爵が倒れ、人質の無事が確認できたら、すぐに皇帝へ謝罪へ向かえと助言した。
帝国軍一万を食い止めた幼い領主を、皇帝が重罰に処すことはないだろうと語る。
アロイスはその言葉を真剣に受け止めた。
最後にグラウは、出発の時期は秘密だと笑いながら告げる。
そしてアロイスの頭を軽く叩き、二人は共に城壁を下りていった。
アルの到着と状況確認
グラウの姿でヴュンメ上空へ現れたアルは、想定していた状況との違いに困惑していた。
フィーネが危機に陥っていると考えていたアルは、すぐに彼女の下へ向かう。
フィーネは城壁の上で笛を手にし、泣きそうな表情でアルへ助けを求めた。
レオが命懸けで大魔法を使おうとしていると知ったアルは、セバスから現在の状況説明を受ける。
クリューガーは悪魔の血と吸血鬼の血を組み合わせた薬を開発しており、人質となっていた南部貴族の半数を悪鬼へ変えていた。
さらに噛まれた騎士たちも悪鬼化し、現在は城を封鎖した状態で避難が進められている。
レオは悪鬼たちを救うため、聖魔法による浄化を試みていたが、魔力不足により魔法は完成寸前で止まっていた。
アルの拒絶
フィーネはアルへ助力を懇願した。
しかしアルは、それはレオ自身が選んだ責任だと告げ、即座に拒絶する。
本来なら都市封鎖や犠牲の容認によって被害を抑える手段も存在した。
それでもレオは、敵も味方も全員救うという最善を選んだのである。
その理想のために臣下まで危険へ巻き込んだ以上、命を賭けるのは当然だとアルは断言した。
フィーネは涙ながらに、レオが今まさに命を懸けて戦っているのだと訴える。
だがアルは、自分には悪鬼を救えないと説明した。
古代魔法には悪魔浄化の術式が存在せず、自分にできるのは滅ぼすことだけだったのである。
だからこそ、命を賭けて救おうとしているレオを押し退け、自分が悪鬼を皆殺しにすることはできないと語った。
それでもフィーネは諦めなかった。
アルはそんな彼女へ、レオは自分の弟であり、必ず壁を越えると静かに告げるのだった。
限界へ追い込まれるレオ
その頃、レオは大魔法発動のために魔力を絞り出していた。
体中から力が抜け、血を失うような感覚に襲われながらも、悪鬼たちを救おうと必死に耐えていたのである。
しかし魔力不足は深刻で、弱気が心へ入り込み始める。
その時、レオの耳へアルの声が届いた。
アルは、すべてを救うと決めた以上、諦める権利などないと厳しく叱咤する。
できるかどうかではなく、やるのだと断言した。
まだ立てる。まだ喋れる。ならば限界ではない。
自分で勝手に限界を決めるなと、アルは容赦なくレオを追い込む。
その言葉によって、レオの心へ再び火が灯った。
レオの覚悟
アルは、理想を笑う者は必ず現れると語った。
百人が選ばない道でも、百一人目がお前なのだと告げる。
レオはその言葉を受け、自らの理想を再確認した。
救えないと決めつけるのではなく、救う努力をする者になりたい。
誰かに無理だと言われても、否と言える皇帝になりたい。
そう強く願ったレオは、最後の魔力をすべて解き放つ。
そしてついに詠唱を再開した。
金色の光がレオの周囲へ満ち、《救済の光は天より降り注いだ》という詠唱が響き渡る。
その姿を見たアルは、満足げに微笑んでいた。
アルの出撃
フィーネが安心して涙を流す中、アルは周囲へ視線を向けた。
そこには人攫い組織の者たちが潜んでいた。
彼らがレオの邪魔をするつもりだと察したアルは、フィーネをセバスへ任せ、自ら動くことを決める。
レオへ目の前のことだけに集中しろと言った以上、その言葉を守るためにはアル自身が動かなければならなかった。
アルはフィーネへ、すぐ終わらせると告げる。
そして弟を守るため、転移によって戦場へ向かった。
アルの暗躍と兄としての自覚
アルは転移を繰り返しながら、自分がいつから兄として振る舞うようになったのかを思い返していた。
母はアルとレオを平等に育て、兄なのだからという言葉を口にしたことはなかった。
それでもアルは、いつしか兄として振る舞うようになっていたのである。
転移した先では、塔の上に潜んでいた魔導師たちがレオを狙っていた。
アルは容赦なく魔導師たちの胸を貫き、次々と始末していく。
魔導師たちは突然現れるアルへ対応できず、為す術なく倒されていった。
その最中、アルはかつて憧れた兄の姿を思い出していた。
牢へ閉じ込められていた頃、皇太子だった長兄は毎日アルへ会いに来ていたのである。
牢から出してくれるわけでもなく、差し入れを持ってくるわけでもない。
ただ話し相手となり、孤独にさせないよう寄り添ってくれていた。
そして牢から出た時、長兄はアルの頭を撫で、それでいいと告げた。
アルはその兄へ憧れ、自分も弟の無茶を肯定し、その無茶を支えられる兄になりたいと思うようになっていた。
レオを守るための戦い
最後の魔導師は、レオへ攻撃を放とうとしていた。
集中状態のレオには回避できず、ネルベ・リッターも防げない状況だった。
アルは即座に魔導師の腕を掴み、そのまま折り砕く。
そして、弟は今必死に背伸びしているのだから邪魔するなと告げ、最後の魔導師を殺した。
レオの詠唱は続いていた。
それは現代魔法でも最上級とされる、高度な七節詠唱の聖魔法だった。
悪魔を浄化するための術式であり、レオは南部の事件以降、それを習得していたのである。
しかし覚えたばかりの魔法を実戦投入したことで、レオの身体には大きな負担がかかっていた。
血を吐きそうになりながらも、レオは詠唱を止めない。
そんな弟へ少しでも戦いやすい環境を与えるため、アルは古代魔法《デジャブ・クロック》を発動する。
その魔法は少し先の可能性を見せることで、対象へデジャブを与える術だった。
ネルベ・リッターの兵士たちはその導きによって危険を避け、怪物へ的確な攻撃を叩き込んでいく。
レルナー少尉もその一人であり、巨大な怪物の首へ剣を突き立てる戦果を上げた。
アルは、誰もがレオのために命を張っている姿を見ながら、レオの愚直さこそが人を惹きつけるのだと実感していた。
聖魔法の完成
アルはレオへ、皆が道を開けたのだからやり遂げろと語りかけた。
そしてついに、レオは最終詠唱へ到達する。
《天は善なる者を見捨てない・この金光は破邪の煌きである――ホーリー・グリッター!!!!!!》
巨大な金色の魔法陣が城全体を覆い、そこから放たれた光の柱が悪鬼たちを浄化していった。
もし悪魔の血が完全に身体を侵食していたなら、悪鬼たちは消滅していたはずだった。
しかし光が消えた後、そこには生きたまま倒れている人々が残されていた。
悪鬼たちは救われたのである。
巨大な歓声が上がり、人々はレオの名を叫ぶ。
しかし限界を迎えていたレオは、その場で倒れ込んだ。
だが地面へ落ちる寸前、レルナー少尉がレオを抱き止める。
その姿を見届けたアルは、静かに役目を終えたのだった。
アルとフィーネ
アルはフィーネの下へ戻る。
フィーネは勢いよく頭を下げ、自分が勝手なことばかり言ったと謝罪した。
しかしアルは、フィーネは間違っていなかったと告げる。
自分は大局よりも弟への信頼を優先した。
もし失敗していれば、多くの犠牲を招いたかもしれない。
それでも今回は、レオなら救えると信じたのだと語った。
そしてアルは、兄弟揃って馬鹿なのだと苦笑する。
フィーネは何か言おうとするが、言葉が見つからず戸惑ってしまう。
その様子を見たアルは噴き出し、今回の決断で彼女へ迷惑をかけたことを謝罪した。
その後、アルは転移によって帝都へ帰還した。
ザンドラへの裁定
南部の騒乱が終結した後、皇帝は第二皇女ザンドラへ無期限謹慎を命じた。
後宮から出ることも、誰かと会うことも、帝位争いへ関わることも禁じられたのである。
ザンドラは、自分はクリューガー公爵の姪ではあっても帝国へ反旗を翻したわけではないと反論した。
しかし皇帝は、その言葉を信じるとしても処分は変わらないと告げる。
クリューガー公爵の血筋であり、後ろ盾としていた事実は消えない。
さらに皇帝は、帝位を諦めろと宣告した。
それはザンドラにとって、実質的な帝位争いからの脱落宣言だった。
ザンドラの反発
ザンドラは、自分と母である第二妃を皇帝が嫌っているのだと激しく訴えた。
第二妃が暗殺事件の黒幕だという噂を信じているのだろうと責め立て、自分を子として見ていないと叫ぶ。
しかし皇帝は、それは個人的感情によるものではないと断言した。
問題は、クリューガー公爵の悪行が民にまで広く知れ渡ったことにある。
子供を攫う犯罪組織を運営していた者の関係者が帝位を目指すことを、民は許さないのである。
皇帝は、国と民を優先できない者に皇帝の資格はないと告げた。
ザンドラは最後まで抵抗したが、近衛騎士たちに拘束され、叫びながら部屋を引きずられていった。
ゴードンへの処分
続いて皇帝は、ゴードンへ視線を向けた。
部下を制御できず、勅使一行を危険へ晒し、南部との全面戦争寸前まで事態を悪化させた責任を問う。
ゴードンは殊勝な態度で非を認めた。
しかし皇帝は、その態度を認めつつも罰を下す。
ゴードンへ北部国境守備軍への出向を命じ、二か月間前線勤務としたのである。
これはかつてゴードン自身が断った配置であり、しかも司令官ではなく一戦力として送られる屈辱的な処分だった。
皇帝による総括
処罰を終えた皇帝は、今回の騒乱を最小限で抑えた功績を称えた。
外務大臣として各国を牽制したエリク、南部鎮圧に尽力したレオも高く評価される。
特にレオは、大魔法まで使用したことを労われた。
その流れで皇帝はアルへも視線を向け、よくやったと評価する。
アルの失言
しかしアルは、戦争も起きず全部上手くいったのではないかと軽い調子で口にした。
その瞬間、周囲の大臣たちは顔をしかめる。
皇帝は激怒した。
前線で都市が戦火へ晒された以上、そこにいた民にとっては紛れもなく戦争だったのだと叱責する。
国家運営とは、そのような思いを民へさせないためのものだと告げ、民の視点を理解できないならザンドラと変わらないとまで言い放った。
アルは素直に謝罪しながら顔を伏せる。
しかし内心では、この失言によって自分への警戒や評価が多少下がることを狙っていた。
ネルベ・リッターを動かしたことで上がりすぎた評価を調整するため、迂闊な皇子という印象で終わらせたかったのである。
とはいえ、その代償として皇帝の長い説教を受け続ける羽目になった。
フィーネとの語らい
処分が終わった後、アルは自室でフィーネと共に過ごしていた。
皇帝は盛大な祝賀パーティーを開く予定であり、長旅と戦闘を終えたばかりのフィーネをアルは気遣う。
しかしフィーネは、ネルベ・リッターやリンフィアが良くしてくれたため平気だと笑顔で答えた。
むしろフィーネは、アルのほうが精神的に疲弊しているのではないかと心配していた。
フィーネは、アルがソニアを助けられなかったことを気に病んでいるのではないかと見抜く。
アルは、ソニアは帝位争いの被害者であり、本来なら救うべき存在だったと認めた。
しかし人質の居場所がわからない以上、自分にはどうすることもできなかったのである。
暇がないという理由で見捨てたことに、アルは強い罪悪感を抱いていた。
フィーネは、救いたいと思う気持ちそのものが大切なのだと語る。
その思いが重なって、物事は良い方向へ進むのだと励ました。
アルはその言葉を受け、ソニアを救うことを諦めないと決意する。
帝位のために人質を取り、望まぬ戦いへ少女を駆り出すことを認めてしまえば、自分たちもゴードンと変わらないからだった。
新たな火種
その後、フィーネはパーティーで着るドレス選びをアルへ手伝ってほしいと頼んだ。
アルも自分の服選びを頼み返し、二人は部屋を出ようとする。
その時、セバスが現れ、気になる情報を伝えた。
帝都へペルラン王国の第一王子が、お忍びで滞在しているというのである。
さらにその目的は、ザンドラとの縁談だった。
アルはすぐに、ザンドラが切り札を切ったのだと理解した。
他国の力を借りることで、失脚を回避しようとしているのである。
もっとも、王国へ借りを作る以上、ザンドラは今後その影響を無視できなくなる。
それでも完全に未来を絶たれるよりはマシだと判断したのだろうとアルは分析した。
そして、ザンドラは必ず再起を狙って動くと警戒を促す。
セバスが去った後、アルは今は休める時に休んでおくべきだと語る。
これから再び激しい争いが始まることを理解しながら、アルはフィーネと共に部屋を後にした。
エピローグ
フィーネとの語らい
南部騒乱の後処理を終えた後、アルは自室でフィーネと共に過ごしていた。
皇帝は盛大な祝賀パーティーを開く予定であり、長旅と戦闘を終えたばかりのフィーネをアルは気遣う。
しかしフィーネは、ネルベ・リッターやリンフィアが気遣ってくれたおかげで疲れていないと笑顔で答えた。
その姿を見たアルは、フィーネの精神的な強さへ感心する。
ソニアを救えなかった後悔
フィーネは、今回の件でアルの精神的負担を心配していた。
特にソニアを助けられなかったことを気に病んでいるのではないかと問いかける。
アルは、その言葉を否定できなかった。
ソニアは帝位争いの被害者であり、本来なら救うべき存在だった。
しかし人質の居場所が分からず、今の自分には助ける余裕もなかったのである。
結果として、自分は帝位争いの都合を優先し、彼女を見捨てたのだとアルは語る。
そして、本当は完璧でありたい、救いたいと思った相手を救えるだけの力が欲しいのだと本音を漏らした。
フィーネの励まし
フィーネは、力よりも救いたいという思いそのものが大切なのだと語った。
その思いがなければ力に意味はなく、人の思いが重なることで物事は良い方向へ進むのだと優しく告げる。
だからこそ、救いたいと思い続けるべきであり、諦めるのはアルらしくないと励ました。
その言葉を受け、アルはソニアを救うことを諦めないと決意する。
人質を取り、望まぬ戦いへ少女を駆り出す行為を認めてしまえば、自分たちもゴードンと変わらなくなるからだった。
フィーネとの会話によって、アルは再び前を向くことができた。
ドレス選びの約束
アルは、本来ならパーティーを途中で抜け出すつもりだったが、フィーネが下がるまでは付き合うと告げた。
するとフィーネは、少し言いづらそうにしながら頼み事を切り出す。
皇帝から大量のドレスを贈られ、どれを着ればよいのか選べず困っているため、一緒に選んでほしいというお願いだった。
アルは快く了承し、代わりに自分の服も選んでほしいと頼む。
フィーネは嬉しそうに頷いた。
ペルラン王国第一王子の来訪
そこへ突然セバスが現れ、気になる情報を伝える。
ペルラン王国の第一王子が、お忍びで帝都へ滞在しているというのだ。
アルは即座に事情を察した。
ザンドラへの処分が想定より軽かったことと結び付け、嫁探しだろうと看破する。
セバスはその推測を肯定し、第一王子がザンドラを妻に望んでいると説明した。
ザンドラの新たな切り札
アルは、ザンドラがついに切り札を使ったのだと理解する。
これまでザンドラは、自分の結婚相手は自分で決めるとして婚姻カードを切らずにいた。
しかし今回、帝位争いから脱落寸前まで追い込まれたことで、王国の力を借りる道を選んだのである。
王国側としても、帝国へ影響力を持てるなら利益は大きい。
一方で、他国王族の妻となった者を皇帝として認める者は少なく、ザンドラ自身にも制約が生まれる。
それでも未来を完全に絶たれるよりはマシだと判断したのだろうとアルは推測した。
さらにアルは、ザンドラなら正式発表前に必ず何か仕掛けてくると警戒を強める。
新たな戦いの予感
セバスが去った後、アルは軽くため息を吐いた。
今すぐ問題が動くわけではない。
だからこそ、休める時に休むべきだと考える。
これからまた激しい帝位争いが始まることを理解しながら、アルはフィーネと共に部屋を後にした。
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