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フィクション(Novel)杖と剣のウィストリア読書感想

小説「杖と剣のウィストリア グリモアクタ ―始まりの涙―」感想・ネタバレ

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杖と剣のウィストリア グリモアクタの表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

杖と剣のウィストリア グリモ アクタ まとめ
杖と剣のウィストリア 2 グリモ アクタ

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  1. どんな本?
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■ 物語の特徴
  2. 読んだ本のタイトル
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. エルファリアとの約束
    2. 至高の五杖
    3. リガーデン魔法学院
    4. 記憶の代償
    5. 天上の侵略者
  6. 登場キャラクター
    1. リガーデン魔法学院
      1. ウィル・セルフォルト
      2. エルファリア・セルフォルト
      3. コルドロン・アヌーブ
      4. ワークナー・ノーグラム
      5. エドワルド・セルフェンス
      6. エヴァン・ガロード
      7. フェルディ
      8. ブルーノ・マルカス
      9. シオン・アルスター
      10. ユリウス・レインバーグ
      11. コレット・ロワール
      12. パーム・スノック
      13. ルナイス・アレート
      14. リリール・マース
      15. ゴードン・バレー
      16. ロイ
      17. リアーナ・オーウェンザウス
      18. メアリー・ロー
    2. 魔法使いの塔
      1. アロン
      2. ゼオ・トルゼウス・ラインボルト
      3. ギル
      4. キャリオット・インスティア・ワイズマン
      5. ログウェル
      6. サリサ・アルフェルト
      7. ユルヴァール・アルヴィス・リュグロー
      8. 至高の五杖
      9. 氷の派閥
      10. 発掘機関
    3. セルフォルト孤児院
      1. アシュレイ・セルフォルト
    4. その他・集団
      1. メルセデス・カウリス
      2. 天上の侵略者
      3. 楽園の住人
      4. 土の民
      5. 妖精
      6. 首無しの邪悪
  7. 展開まとめ
    1. Prologue 色褪せぬ約束
    2. 一章 HELLO RIGARDEN
    3. 二章 魔法学院の 日々
    4. 三章 暴かれる真実
    5. 四章 そして刃は 解き放たれる
    6. 五章 不屈の意志と 崩壊の序曲
    7. 六章 名前も知らない 君へ
    8. Epilogue  始まりの涙
  8. 同シリーズ
    1. その他フィクション
  9. アニメ
    1. PV
    2. アクション

どんな本?

■ 作品概要

『杖と剣のウィストリア グリモアクタ ―始まりの涙―』は、大人気コミック『杖と剣のウィストリア』の前日譚を原作者自身が描き下ろしたファンタジーノベルである。 本作の舞台は、「天上の侵略者」と呼ばれる厄災から世界を守るため、「至高の五杖(マギア・ヴェンデ)」という偉大な魔導士たちが張る「大結界(偽りの空)」によって守られた、魔法至上主義の世界である。 魔法が全く使えない少年ウィル・セルフォルトと、魔法の天才である幼馴染エルファリアは、大結界の向こう側にあるとされる本当の「夕日」を一緒に見るという幼い日の約束を果たすため、世界最高峰のリガーデン魔法学院に入学する。しかし、エルファリアはその類稀な才能を見出され、若くして次代の「至高の五杖」候補として魔法世界を束ねる「塔」へ連れ去られてしまう。魔法が使えない「無能者」として絶望の淵に突き落とされたウィルが、彼女を取り戻し約束を果たすため、魔法ではなく異端の「剣」を手に取り、過酷な運命に立ち向かう物語である。

■ 主要キャラクター

  • ウィル・セルフォルト: 本作の主人公である。魔法至上主義の世界において魔法が使えない「無能者」であるが、圧倒的な身体能力と「剣」の才能を秘めた「戦士」である。エルファリアとの約束を何よりも大切にしており、彼女を守るためなら自らの大切な記憶を代償にすることも厭わない、強い意志と不屈の精神を持っている。
  • エルファリア・セルフォルト(エルフィ): ウィルの幼馴染であり、ヒロインである。入学早々に「至高の五杖」候補に見出されるほどの圧倒的な魔法の才能を持つ天才魔導士である。ウィルを深く愛しており、彼を守るためなら自己犠牲を厭わない一方、ウィルと引き離されることを強く恐れる寂しがり屋な一面も持つ。
  • ワークナー・ノーグラム: リガーデン魔法学院で風魔法などを担当する教師である。厳格な性格だが生徒想いであり、魔法が使えないウィルの努力を認め、彼を影から見守り支える唯一の理解者となる。
  • コルドロン・アヌーブ: リガーデン魔法学院の校長を務める、底知れない力を持つ老齢の魔女である。飄々とした態度をとるが、ウィルが秘める「剣」の力に興味を示し、特例で彼の在学を認めるなど、二人の運命を裏から導く重要な役割を担う。
  • エヴァン・ガロード: 学院の教師として振る舞うが、真の役職は才能を発掘する極秘の「発掘機関(ウォッチャー)」である。他者の才能や価値にしか興味がない冷酷な性格で、エルファリアの才能を自らの功績とするため、手段を選ばずウィルから彼女を奪い去る策謀を巡らせる。
  • シオン・アルスター: 炎属性を操る名家アルスター家の長男であり、ウィルの同級生である。プライドが高く平民や魔法を使えないウィルを見下していじめるが、その異常なまでの執着の裏には、彼自身の不器用な感情や対抗心が隠されている。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、大人気コミックの主人公がなぜ魔法世界において「剣」を振るうことになったのか、その「原点」となる過去が詳細に描かれている点である。魔法の才能が全てを決定づける理不尽な世界において、魔法を一切使えない主人公が、鍛え上げた「剣」という物理的な暴力のみで絶望的な状況を打破していく展開は、読者に強いカタルシスを与える。

また、他作品との明確な差別化要素として、「強大な力を振るう代償として、愛する人との大切な記憶が白く染まり失われていく」という過酷な設定が挙げられる。圧倒的な力を得る一方で心や思い出が削られていくという悲壮感が、戦いの描写に深い痛切さをもたらしている。

すべてを失ってでも愛する少女を護ろうとする主人公の不屈の精神と、すれ違いながらも互いを強く想い合い、遠く離れても同じ約束を胸に歩み出す二人の切なくも美しい関係性が、本作の最も興味深く魅力的なポイントである。

読んだ本のタイトル

杖と剣のウィストリア グリモアクタ ―始まりの涙―
著者:大森藤ノ 氏
イラスト: 夕薙  氏
原作:青井聖 氏
出版社:SBクリエイティブGA文庫
ISBN:978-4-8156-2639-6

(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。

あらすじ・内容

TVアニメ化決定の大人気コミック前日譚を原作者大森藤ノ自らノベライズ!

それは、物語の始まりを告げる『涙』――
6年前、魔法学院1年生の『前日譚』開幕!

「一緒に『至高の五杖』になって、夕日を見に行こう!」
二人の約束を胸に秘め、ウィルは幼馴染のエルファリアとともにリガーデン魔法学院に入学を果たす。
巡り合うのは様々な魔導士達。そんな中、エルファリアは魔法の才を認められ、瞬く間に魔法世界を束ねる『塔』のスカウトが届く。

一方、ウィルは己に才能がないことを知り、少女と引き裂かれてしまう。そして絶望する少年は――剣を執る。
「『塔』に……エルフィのところに、行くんだ」
『杖』を掲げる魔法至上主義世界に今、異端の『剣』が産声を上げる!
大人気コミックの前日譚を原作者自らが描く至極のノベライズ、始動!

杖と剣のウィストリア グリモアクタ ―始まりの涙―

プロローグ:色褪せぬ約束

二人の子供が本を読みながら、想像に耽っている。彼らは「月」と「太陽」に関する物語に魅了されており、現実の空に存在する魔導士が創る「月」と「太陽」について知っている。子供たちは、真の「月」と「太陽」が偽りの空の向こうにあると信じており、美しい「夕日」を見るために一緒に行く約束を交わす。この想像と約束は彼らの心に深く刻まれる。

第一章:HELLO RIGARDEN

闇に包まれた世界が天上の侵略者によって滅びの危機に瀕していた時、魔女王メルセデスのもと、五人の魔導士が立ち上がり空に大結界を張る。この結界によって一時的に平和がもたらされるが、侵略者は未だに脅威となっている。リガーデン魔法学院では、未来の魔導士たちがこの大結界を支える役割を担うことになる。ウィル・セルフォルトとエルファリア・セルフォルトは、入学式で校長の祝辞を受け、至高の五杖を目指す新たな生活を始める。

第二章:魔法学院の日々

ウィルとエルフィは孤児院で育ち、リガーデン魔法学院への推薦状を受け取る。これが彼らの夢である夕日を見に行くための第一歩となる。学院での初日、エルフィは自己紹介で自らを守る強い意志を示し、ウィルは彼女のサポートを試みるが、彼女の大胆不敵な行動には周囲も驚く。学院での一連のオリエンテーションと歓迎会に参加した後、ウィルはエルフィから励ましを受け、彼女から「蒼涙のペンダント」を贈られる。二人は昔の約束を果たすために共に努力することを誓い合う。

第三章:暴かれる真実

ワークナー教師はウィルの異常な状況に頭を悩ますが、エドワルド教師とエヴァン教師も加わり議論する。エヴァンはこの問題の答えを持っていると主張し、「メルセデスの鏡」の使用を要求する。学院での自習中、ウィルは過去の記憶に違和感を持つが、エルフィは彼を支え、彼の不安を和らげるために積極的に行動する。学院内でのウィルの位置は低下し、彼は絶望的な状況に直面するが、エルフィと共に前進する決意を固める。

第四章:そして刃は解き放たれる

エルファリアはウィルと共に過ごした幸せな時を振り返るが、ウィルが記憶を失い、彼女とのすべてを忘れてしまう。エルファリアはウィルの記憶を取り戻すために魔法学院へ行く決意をする。一方、ウィルはエルファリアのもとへ行く決意を固め、彼女を守るために自身も強くなる決意をする。学院の校長コルドロンはウィルの留学を認め、彼の未来に対する支援を申し出る。

エピローグ:始まりの涙

ウィルは医務室で目を覚ますと、エルファリアとの過去を部分的に思い出す。校長に「日記をつけなさい」と言われ、日々の記録をつけることで過去を思い出し、その記録が力に変わるように努める。ウィルは色々なインクを用いて本を彩り、これが彼とエルファリアの物語、「導きの魔録書」として世界に一冊だけの本となるだろう。

感想

漫画版の本編を読む前に、まずはこちらから読んでみた。

時系列的にはこちらが先のはずである。

……いや、誰に言い訳しているのだろう。

本作は、魔法が全てとされる世界を舞台に、魔法を使えない少年ウィルと、類まれな才能を持つ少女エルファリアの過去を描いた物語である。

読んでいてまず印象に残ったのは、ウィルとエルファリアの関係性だった。

同じ孤児院で育ち、同じ日に保護された二人は、互いを支え合いながら成長していく。しかし、圧倒的な才能を持つエルファリアは早くから周囲に認められ、「塔」へと導かれていく。

一方で、魔法を使えないウィルは周囲から評価されず、孤独な立場に置かれてしまう。

同じ場所からスタートしたはずなのに、少しずつ立場が離れていく二人の姿は読んでいて切なかった。

特に印象的だったのは、それでも二人がお互いを諦めなかったことである。

ウィルはエルファリアに追いつくために努力を続け、エルファリアもまた、ウィルを支えるために人知れず多くの努力を重ねている。

単なる恋愛関係というよりも、お互いの存在が支えになっている関係性として描かれており、その絆の強さに心を打たれた。

また、本作で興味深かったのは、ウィルが自分の進むべき道を見つけていく過程である。

魔法が全てとされる世界で魔法を使えないことは致命的な欠点に見える。しかしウィルはそこで立ち止まるのではなく、剣という新たな可能性を見出していく。

読んでいて感じたのは、本作が単なる才能至上主義の物語ではないということである。

生まれ持った才能が評価される世界だからこそ、自分にできることを探し続けるウィルの姿がより強く輝いて見えた。

一方で、作中ではウィルの力に関する重い代償も描かれている。

漫画版を4巻まで読んだ時点では、その代償についてあまり触れられていなかったため、個人的には「すでに克服したのだろうか」と思っていた。しかし本作を読む限り、まだまだ重要な要素として残されているように感じる。

そして、大森藤ノ作品を読んできた身としては、こうした設定が何も描かれずに終わるとは思えない。

むしろ今後の大きな見せ場として描かれるのではないかと期待してしまう。

読後には、ますます漫画版の続きが気になってしまった。

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』でも感じたことだが、大森藤ノ作品は単なるバトルや成長物語ではなく、人間関係や心の葛藤を丁寧に描いてくれるところが魅力だと思う。

本作もまた、魔法と剣のファンタジーでありながら、自分の居場所を探し続ける少年と、大切な人を支え続ける少女の物語として強く心に残った。

魔法の才能がなくても、自分だけの道を見つけて前へ進む。

そんなウィルの姿は、何かに挫折した経験のある人ほど共感できるのではないだろうか。

完全に続きが気になってしまったので、この勢いのまま漫画版も最後まで読んでみようと思う。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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考察・解説

エルファリアとの約束

ウィルとエルファリアの約束とは、「塔の頂上に上って、本当の『夕日』を一緒に見に行くこと」である。

約束の背景
彼らの住む世界の空は、偉大な魔導士たちが張った「大結界」による「偽りの空」であり、人々は本物の太陽や月を見ることはできない。幼い頃、エルファリアは絵本で「勇者と魔女の冒険」を読み、結界の向こうにある「夕日」が世界で一番綺麗な景色であることを知る。そして、空に一番近い「魔法使いの塔」のてっぺんに行き、世界で最も偉大な魔導士である「至高の五杖(マギア・ヴェンデ)」になれば、その夕日が見られるかもしれないと考え、ウィルと二人で約束を交わした。

二人にとっての約束の意味

  • ウィルにとって:彼は魔法が一切使えない「無能者」であるが、この約束を果たすことだけが彼の絶対的な原動力である。エルファリアの隣に立つ資格を得るため、彼は周囲から嘲笑されようとも魔法の代わりに「剣」を手に取り、命がけでダンジョンに潜って塔へ上るための単位を集めようとする。
  • エルファリアにとって:過去にウィルが自分をかばって記憶を失ってしまった悲しい出来事があり、彼女はウィルを危険な目に遭わせないよう、一度は塔へ行く夢を諦めていた。しかし、二人の思い出を忘れてしまったウィルが「夕日を見る約束」だけは大切に覚えていてくれたことに涙し、彼を守りながら共に魔法学院へ行くことを決意した。

引き裂かれる二人と再度の誓い
物語の後半、圧倒的な魔法の才能を見出されたエルファリアは、強引に「塔」へと連れ去られ、二人は引き離されてしまう。しかし、別れの際、ウィルは「魔法を使えなくても! たくさんのものが僕達を引き裂いたとしても! 必ず、君を迎えに行く!」「一緒に、『夕日』を見に行こう!」と彼女に向かって叫ぶ。

まとめ
エルファリアも涙を流しながら「待ってるよ! ずっと、ずっと!」と応え、二人は決して色褪せることのない約束を再び固く誓い合った。この約束こそが、過酷な運命に立ち向かう二人の強い絆と物語の始まりとなっている。

至高の五杖

「至高の五杖(マギア・ヴェンデ)」は、魔法世界において最も偉大とされる五人の魔導士に与えられる最強の称号である。作品の世界観や物語の根幹に深く関わる重要な存在として描かれている。

起源と役割
遥か昔、世界が「天上の侵略者」によって滅亡の危機に瀕した際、始祖である魔女王メルセデスのもとで立ち上がり、侵略者を退けた五人の魔導士が始まりとされている。彼らは空に巨大な「大結界」を張り巡らせて侵略者を封印し、世界に平和をもたらした。現在でも、彼らは世界で最も高い「魔法使いの塔」の頂上に居を構え、魔法世界の繁栄と平和を維持するために大結界(偽りの空)を張り続けている。

現在の構成メンバー
至高の五杖は、光・炎・風・土・雷・水・闇の七属性および妖精の中から、五つの属性の代表者によって構成されている。物語の舞台となる現代のメンバーは以下の五名である。

  • 光皇の杖:マステリアス・ノア(アロン)。至高の五杖の長であり、最強の杖とされている。
  • 炎帝の杖:インスティア・バルハム(キャリオット・インスティア・ワイズマン)。
  • 雷公の杖:トルゼウス・ファッジ(ゼオ・トルゼウス・ラインボルト)。杖ではなく「剣」を佩いている異端の魔導士である。
  • 氷姫の杖:ユルヴァール・アルヴィス・リュグロー。
  • 妖聖の杖:エルリーフ・カナン。

目標としての至高の五杖
魔法学院に入学する生徒の多くにとって、至高の五杖は誰もが一度は憧れる最高峰の目標である。至高の五杖になるためには、学院で7200という膨大な単位を取得するか、歴史にない新魔法を創出して飛び級を果たすなど、想像を絶するような狭き門をくぐる必要がある。ウィルとエルファリアにとっては、「空に一番近い塔のてっぺんに行き、至高の五杖になれば本当の『夕日』が見られるかもしれない」という幼い頃の約束を叶えるための絶対的な目標であった。

まとめ
物語の中盤で、エルファリアが前代未聞の分身魔法「白の芸術」を創出し、圧倒的な才能を証明したことで、光皇の杖アロンから次期至高の五杖として正式に認められる。彼女は老衰で余命幾ばくもない「氷姫の杖」ユルヴァールの後継者として、強引に塔へと連れ去られてしまう。その後、ユルヴァールが崩御したことで大結界に綻びが生じ、「天上の侵略者」の一部がダンジョンに侵入してしまうという、世界の存亡に関わる危機が引き起こされることとなる。

リガーデン魔法学院

「リガーデン魔法学院」は、世界最高峰の魔法教育機関であり、多くの魔導士の卵を育成し、世に名を残す上級魔導士を何百人も輩出している名門校である。物語において、ウィルとエルファリアが入学する舞台となる。

設立の目的と場所
魔法世界の中心である「魔導の央都(ウルブ・リガーデン)」に位置し、世界で最も高い「魔法使いの塔」とともに築かれている。学院の最大の目的は、偽りの空の向こうで世界を狙う「天上の侵略者」に対抗するため、空を支える大結界を維持できる優秀な魔導士を育てることである。そして、将来の「至高の五杖(マギア・ヴェンデ)」を生み出すという重大な責務を担っている。

学院の施設と規模
四百年の歴史を持ち、貴族の館が20個あっても敵わないほど広大な敷地と施設を誇る。

  • 低学年用の「第一校舎」と高学年用の「第二校舎」に分かれている。
  • 880の教室、大図書館、実技場、大食堂などが存在し、案内役として「喋る彫像」が配置されている。
  • 完全な全寮制であり、都に実家がある生徒も含めて全員が魔法学院寮で生活する。

教育制度と単位
11歳で入学し、16歳まで高度な魔法教育を受ける六年制の学校である。進級や卒業には「単位」が必須であり、学年ごとの進級条件を満たせなければ容赦なく退学となる。

  • 総単位数:6年間で取得できる最大単位数は12000(筆記3600、実技4800、実習3600)である。
  • 進級・卒業:2年生になるには1000単位、卒業するには6000単位が必要である。
  • 『塔』への進学:至高の五杖を目指すために「魔法使いの塔」へ進学するには、最低でも7200単位を取得するか、歴史にない新魔法を創出して飛び級を果たす必要がある。

授業内容とダンジョン
入学直後に「導きのカンテラ」を用いた「属性検査」が行われ、生徒個人の魔法属性(光・炎・風・土・雷・水・闇など)が判明する。これを基に、生徒は自分の属性に合ったクラスで魔法を磨く。授業は主に3つの種類に分けられる。

  • 筆記:魔法の基礎や歴史、迷宮学などを学ぶ座学である。
  • 実技:魔法の練度や威力を測る訓練・試験である。
  • 実習:学院の地下に広がる広大な「ダンジョン」に潜り、モンスターを討伐して「魔素」を回収する実践訓練である。ダンジョン探索は危険を伴い、命を落とす生徒も出るほど過酷である。

まとめ
学院は貴族の生徒が多く在籍しているが、基本的には「魔法の才能がすべて」という実力主義の空間である。平民であっても、エルファリアのように圧倒的な魔法の才能を示せば、貴族からも称賛され「聖女」として扱われる。一方で、魔法が一切使えないウィルのような「無能者」が在籍することは前代未聞であり、魔法世界に相応しくない存在として生徒や教師から激しい差別と排斥の対象になる。

記憶の代償

本作において「記憶の代償」とは、魔法が使えない主人公ウィルが、内に秘めた異端の「剣」の力を行使する際に支払わなければならない、過酷な反動のことである。

幼少期の代償
ウィルは5歳の頃、魔物に襲われたエルファリアを護るために初めて「力」を覚醒させて魔物を倒した。しかし、その代償として以下のような二人だけの宝物のような思い出を完全に失ってしまった。

  • それまでの5年間の記憶
  • エルファリアと交わした「夕日を見に行く約束」
  • 交わした口付け
    義父アシュレイの「暗示魔法」によって客観的な記録としての記憶は補完されたが、二人だけの共有体験は失われたままとなった。この出来事がエルファリアに深い自責の念を抱かせ、彼女がウィルを過保護に守ろうとする原因となった。

天上の侵略者との死闘と白髪化
物語の終盤、ダンジョンに現れた圧倒的な「天上の侵略者」からエルファリアを護るため、ウィルは再び限界を超えて力を解放する。彼が力を使うたびに、以下のような現象が起こった。

  • 黒い髪が加速度的に白く染まっていく(白髪化)
  • 孤児院での日々や学院の仲間たちの記憶が消え去っていく
  • 最も大切だったエルファリアの名前や存在までもが砂のように消え去っていく
    最後には自分が誰であるかさえ忘れ、感情を失った白銀の「剣」そのものへと成り果ててしまう。

まとめ
コルドロン校長によれば、この記憶の欠損はウィルの心身の「器」がまだ強大な力に見合っていない、「未熟」であるが故の代償であるとされている。戦いの後、彼女の特別な魔法である『魔女王の遺産(編纂・傷だらけの魔剣譚)』によってウィルの記憶は補完された。さらに、魔法学院で6年間の修行を積んで「器」を磨けば、力を使っても記憶を失うことはなくなり、十分に成長した暁には失われたエルファリアとの昔の思い出も取り戻せる可能性があると示唆されている。

天上の侵略者

「天上の侵略者」は、魔法世界を滅亡の危機に陥れた最凶最悪の厄災であり、物語の世界観や主人公たちの目的に深く関わる恐るべき敵対存在である。

起源と世界の脅威
遥か昔、空から飛来して世界を闇に閉ざし、滅亡寸前まで追い詰めた存在である。

  • 始祖である魔女王メルセデスと初代の「至高の五杖」によって退けられ、空に張られた巨大な「大結界(偽りの空)」の向こう側に封印された。
  • 今も結界の向こうで世界を狙っており、大結界が破られれば再び厄災が訪れて世界を滅茶苦茶にしてしまうとされている。
  • リガーデン魔法学院が設立された最大の目的も、この侵略者に対抗し、大結界を維持できる優秀な魔導士を育成することにある。

ダンジョンへの召喚と絶望的な力
物語の終盤、エヴァン(その正体は彼を殺害して成り代わっていた「首無しの邪悪」)の手引きによって、ダンジョン3層の「未開拓領域」に一体の「天上の侵略者」が召喚される。

  • 現れたのは5メートルを超える巨大な白い体躯、凶悪な長刃となった右腕、禍々しい眼球を持つ化物であった。
  • その戦闘力は圧倒的で、純粋な暴力と超高速の動きによって、優秀な上級魔導士たちを一瞬で惨殺・捕食した。
  • 次期「至高の五杖」候補であるエルファリアが放つ強力な氷魔法や分身魔法をも悉く粉砕し、彼女を絶体絶命の窮地に追い込んだ。
  • 「塔」の試算によれば、都市に一体現れただけで3万人の命が失われるほどの絶望的な脅威とされており、塔の上層部はパニックを防ぐため「毒ガス流出」と偽って民衆を避難させたほどであった。

まとめ
エルファリアを護るため駆けつけたウィルとの間で、魔法を置き去りにするほどの理外の激闘が繰り広げられる。ウィルは戦いの中で加速度的に大切な記憶を失いながらも「白銀解放」を果たし、エルファリアの涙の魔法と交わって誕生した「水涙の魔剣」によって、ついに侵略者を両断し討伐することに成功した。しかし戦いの後、コルドロン校長から、あれほど強大で恐ろしい化物が間違いなく尖兵であり末端の存在に過ぎないという衝撃の真実が明かされる。大結界の向こうには数えきれないほどの侵略者が蠢いており、ウィルとエルファリアが約束した夕日を見るためには、この途方もない脅威を退けなければならないことが示唆されている。

登場キャラクター

リガーデン魔法学院

ウィル・セルフォルト

孤児院で育った平民であり、エルファリアの幼馴染である。魔法が使えない無能者とされるが、剣を扱う能力と高い身体能力を持つ。エルファリアと夕日を見る約束を交わしている。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔法が使えないながらも筆記と実習で単位を獲得した。ダンジョンで天上の侵略者と戦い、これを討ち倒している。その代償として記憶を失った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 魔法が使えないため周囲からいじめを受けた。戦いの中で自身が剣であると覚醒し、コルドロンの魔法で記憶の欠損を補われた。

エルファリア・セルフォルト

ウィルの幼馴染であり、孤児院で育った。ウィルに深い愛情を抱き、彼を守ろうとする過保護な一面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。のちに魔法使いの塔へ所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
 ウィルのために蒼涙のペンダントを作成し、魔力を供給していた。分身魔法である白の芸術を独自に創出している。ダンジョンでウィルと共に天上の侵略者と戦った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 入学直後から高い魔法の才能を示し、次期至高の五杖候補として塔へ連れ去られた。

コルドロン・アヌーブ

魔法学院の最高責任者であり、老齢の魔女である。飄々とした態度をとるが、生徒の資質を正確に見抜く。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の校長。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔法が使えないウィルの在学を特例で認めた。天上の侵略者との戦いの後、魔女王の遺産を用いてウィルの記憶を補完している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 学院内で絶大な権限を持つ。ウィルを学院で育てる代わりに、エルファリアへウィルの目標となるよう取引を持ちかけた。

ワークナー・ノーグラム

厳格だが生徒想いの教師である。ウィルの努力を認め、彼を影から見守り支援する理解者となる。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の教師。風魔法と魔法生物を担当する。
・物語内での具体的な行動や成果
 ユリウスの挑発に対し、実力で彼を退けた。ウィルの記憶障害を知り、コルドロンに直訴している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 休暇中の教師の代わりに、水属性の生徒の授業を臨時で担当した。

エドワルド・セルフェンス

冷酷で威圧的な態度をとる教師である。魔法を使えない者が塔を目指すことを強く否定する。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の教師。闇魔法と魔源学史を担当する。
・物語内での具体的な行動や成果
 属性検査でウィルに違和感を抱いた。後の実技試験でウィルがエルファリアの魔力を借りていたことを暴いている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 生徒から恐れられている。ウィルに別の進路を勧めた。

エヴァン・ガロード

教師として振る舞うが、他者の才能にしか興味を持たない。エルファリアの才能を自らの功績とするため暗躍する。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の教師。極秘魔導士の集団である発掘機関の構成員。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルファリアを学院に誘い出すため、ウィルに推薦状を送った。実技試験でエルファリアの才能を暴き、彼女を塔へ連行している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 正体を現した首無しの邪悪に殺害された。

フェルディ

ダンジョン実習の引率を行う教師である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の教師。土と風のクラスを担当する。
・物語内での具体的な行動や成果
 ダンジョン実習中にコレットの失踪をワークナーに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

ブルーノ・マルカス

水魔法を担当する教師である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
 妻の出産と育児のために休暇を取っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 彼の代わりにワークナーが臨時で水のクラスを担当した。

シオン・アルスター

名家アルスター家の長男である。プライドが高く、平民であるウィルとエルファリアを見下す。ウィルに対して強い執着を抱く。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。炎のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
 教室でエルファリアに決闘を挑んだが、敗北した。記憶を失いつつあるウィルに苛立ち、彼をいじめ続けると宣言している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 炎属性の魔導士である。

ユリウス・レインバーグ

優秀な家庭教師のもとで魔法を学んだエリートである。自信家であり、他人を見下す傾向がある。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。水のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
 ワークナーを試すために魔法を放ったが防がれた。エルファリアに同志になるよう誘ったが拒絶されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 氷魔法を扱うことができる。

コレット・ロワール

没落した名門ロワール家の一人娘である。生気がなく、死を望んでいる。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。土のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
 ダンジョン実習中に姿を消し、魔物に殺されようとした。ウィルに命を救われ、彼に興味を抱いている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 黒淚花の香りをまとっている。

パーム・スノック

学院の生徒である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
 エドワルドの授業中に疑問を呟き、名前を言い当てられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

ルナイス・アレート

学院の生徒である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。水のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
 攻撃魔法の練習中に力みすぎているとワークナーから注意を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

リリール・マース

シオンの友人であり、彼に従う生徒である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
 ダンジョンで暗闇に苦しむウィルを嘲笑した。ウィルを殴るシオンを止めようとしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

ゴードン・バレー

シオンの友人であり、彼に従う生徒である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
 ダンジョンで暗闇に苦しむウィルを嘲笑した。ウィルを殴るシオンを止めようとしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

ロイ

学院の生徒である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
 ダンジョン実習中に魔物に襲われて混乱した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

リアーナ・オーウェンザウス

成績優秀な生徒である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。雷のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
 物語内で直接的な行動は描かれていない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 学年首席を争う有望な生徒と評価されている。

メアリー・ロー

成績優秀な生徒である。

・所属組織、地位や役職
 リガーデン魔法学院の1年生。炎のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
 物語内で直接的な行動は描かれていない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 学年首席を争う有望な生徒と評価されている。

魔法使いの塔

アロン

魔法使いの塔の頂点に立つ魔導士である。

・所属組織、地位や役職
 至高の五杖。光皇の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルファリアの才能を審議した。彼女を次期至高の五杖として正式に認めている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 最強の杖とされる。

ゼオ・トルゼウス・ラインボルト

粗暴な口調と態度を持つ魔導士である。弱者を見下す一方で、這い上がろうとする者に興味を示す。

・所属組織、地位や役職
 至高の五杖。雷公の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
 塔の門を叩くウィルをダンジョンへ突き落とした。その際、ウィルに剣を与えている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 杖ではなく剣を所持している。

ギル

ゼオに従う魔導士である。

・所属組織、地位や役職
 魔法使いの塔の魔導士。
・物語内での具体的な行動や成果
 塔の門の前でウィルを怒鳴りつけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

キャリオット・インスティア・ワイズマン

常に笑みを絶やさない魔導士である。

・所属組織、地位や役職
 至高の五杖。炎帝の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
 抵抗するエルファリアの魔法を炎で相殺した。彼女を塔へ連行している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 エヴァンのことを嫌っている。

ログウェル

キャリオットに従う魔導士である。両目を布で隠している。

・所属組織、地位や役職
 魔法使いの塔の上級魔導士。キャリオットの副官。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルファリアを失神させて捕らえた。ウィルにも失心魔法をかけて気絶させている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

サリサ・アルフェルト

冷静で隙のない態度をとる魔導士である。エヴァンに不快感を示す。

・所属組織、地位や役職
 魔法使いの塔の上級魔導士。氷の派閥に所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
 眠り続けるエルファリアの護衛を指示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 冷鉄の女と呼ばれ、次期至高の五杖候補とされていた。

ユルヴァール・アルヴィス・リュグロー

氷の派閥を束ねる魔導士である。

・所属組織、地位や役職
 至高の五杖。氷姫の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
 物語の途中で老衰により崩御した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 彼の死により大結界の力が弱まった。

至高の五杖

魔法世界で最も偉大な五人の魔導士の総称である。

・所属組織、地位や役職
 魔法使いの塔の最高位。
・物語内での具体的な行動や成果
 空に大結界を張り、天上の侵略者から世界を守っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 光、炎、雷、氷、妖聖の代表者で構成される。

氷の派閥

ユルヴァールを頂点とする魔導士の集団である。

・所属組織、地位や役職
 魔法使いの塔の派閥。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルファリアを次期氷姫の杖として迎え入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 サリサなどが所属している。

発掘機関

才能ある人材を見つけ出し、塔へ導く役割を担う集団である。

・所属組織、地位や役職
 魔法使いの塔の極秘組織。
・物語内での具体的な行動や成果
 エヴァンがこの機関の構成員として活動した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

セルフォルト孤児院

アシュレイ・セルフォルト

ウィルとエルファリアを育てた養父である。穏やかで心優しい性格を持つ。

・所属組織、地位や役職
 セルフォルト孤児院の運営者。元魔導士であり医療師。
・物語内での具体的な行動や成果
 記憶を失ったウィルに暗示魔法をかけ、記憶を補完した。エルファリアに魔法学院へ行く選択肢を提示している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ウィルに力を隠すよう約束させていた。

その他・集団

メルセデス・カウリス

かつて魔法世界を救ったとされる伝説的な存在である。

・所属組織、地位や役職
 魔法世界の始祖。魔女王。
・物語内での具体的な行動や成果
 過去に天上の侵略者を押し返し、大結界を構築した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 彼女の名を冠する魔道具や魔法が存在する。

天上の侵略者

魔法世界を脅かす存在である。知性や感情を超えた加虐心を持つ。

・所属組織、地位や役職
 大結界の外から来る敵対者。
・物語内での具体的な行動や成果
 エヴァンによってダンジョンに召喚され、魔導士たちを惨殺した。ウィルとの死闘の末に討伐されている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 その存在は世界に致命的な被害をもたらす。

楽園の住人

魔法世界の一般的な種族である。暗闇に強い特性を持つ。

・所属組織、地位や役職
 魔法世界に住む種族。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔法を操り、生活を営んでいる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 共通魔法を使える。

土の民

魔法が使えない種族である。

・所属組織、地位や役職
 魔法世界に住む種族。ドワーフとも呼ばれる。
・物語内での具体的な行動や成果
 独自の技術で生活している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 魔法使いの塔に上ることはできない。

妖精

魔法世界に住む種族である。独自の魔法を持つ。

・所属組織、地位や役職
 魔法世界に住む種族。エルフなど。
・物語内での具体的な行動や成果
 闇を見通す魔法などを使用する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特筆すべき事項はない。

首無しの邪悪

エヴァンを殺害し、彼に成り代わっていた存在である。

・所属組織、地位や役職
 正体不明の敵対者。
・物語内での具体的な行動や成果
 エルファリア暗殺や天上の侵略者の召喚を裏で手引きした。計画失敗後に姿を消している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 発声器官を持たず、魔力で文字を描いて意思表示をする。

展開まとめ

Prologue 色褪せぬ約束

空への憧れとエルファリアの語る世界

ウィル・セルフォルトは、エルファリアと過ごした日々を宝物として振り返っていた。エルファリアは本を読みながら、本物の空には月と太陽が浮かんでいることを語った。彼女の輝く瞳や楽しそうな笑顔に、ウィルは強く心を惹かれていた。

本には、勇者と魔女が世界を冒険する物語が描かれており、その挿絵には月や太陽の姿があった。エルファリアの読み聞かせによって、それらは魔法以上に幻想的な存在としてウィルの心に映っていた。

偽りの空の向こうへの想像

ウィルたちの頭上に浮かんでいたのは、本に描かれた月や太陽ではなく、大結界を構成する魔力の塊であった。大結界は五人の偉大な魔導士によって維持される天と地の境界であり、幼いウィルたちはその向こう側に本物の月と太陽が存在すると考えていた。

エルファリアが語る未知の空は、ウィルにとって憧れと想像をかき立てる存在となっていた。

夕日への夢とウィルの想い

エルファリアはさらに、本物の空には世界で最も美しい夕日があると語った。勇者が崖の上から沈みゆく太陽を見つめる挿絵を指し示しながら、世界中が赤く染まる光景について目を輝かせて説明していた。

ウィルはその話を聞きながら、夕日の絶景を想像した。しかし、それ以上に彼の心を動かしたのは、夢を語るエルファリア自身の姿であった。眩しい瞳と笑顔は、どんな秘宝よりも価値のある宝物としてウィルの胸に刻まれていた。

共に夢を追う約束

エルファリアは、空に最も近い塔の頂上へ辿り着き、至高の五杖になれれば夕日を見られるかもしれないと語った。

その夢を聞いたウィル・セルフォルトは、迷うことなく、いっしょに見にいこうと答えた。幼い日のその言葉と想いは、今もなお彼の心の奥に残り続けていた。

一章 HELLO RIGARDEN

リガーデン魔法学院への入学

リガーデン魔法学院の入学式で、コルドロン校長は世界の歴史と至高の五杖の役割について語った。ウィル・セルフォルトは緊張していたが、隣にいたエルファリア・セルフォルトに手を握られ、一緒に至高の五杖となって夕日を見に行こうという約束を交わした。

式の終わりには新入生たちへ祝福が贈られ、ウィルとエルファリアは正式にリガーデン魔法学院へ入学した。

学院への憧れと夢への第一歩

ウィルは二か月前に届いた推薦状を思い返していた。世界最高峰の魔法教育機関であるリガーデン魔法学院への入学は、孤児院の仲間や養父から祝福される出来事だった。

ウィルにとって学院への入学は、エルファリアと交わした夕日を見る約束を叶えるための大切な一歩であった。

ダンジョンと至高の五杖への道

教室ではワークナー・ノーグラムが学院生活について説明した。学院の地下には広大なダンジョンが存在し、生徒たちは授業の一環としてそこへ潜り、魔物と戦いながら実力を磨くことになると告げられた。

さらに、学院から塔へ上れるのは成績上位者のみであり、至高の五杖になるためには想像を絶する努力が必要だと説明された。ウィルとエルファリアは改めて塔の頂を目指す決意を固めた。

シオンとの対立

至高の五杖を目指すという会話を聞いたシオン・アルスターは、平民であるウィルとエルファリアを見下し、貴族こそが至高の五杖に相応しいと主張した。

ウィルが戸惑う一方で、エルファリアは貴族の優位性についてわかりやすく説明するよう求めた。その言葉に激怒したシオンは決闘を挑み、短杖を抜いてエルファリアへ魔法を向けた。

エルファリアの圧倒的な実力

シオンが炎の魔法を放とうとした瞬間、エルファリアは無詠唱で氷魔法を発動した。放たれた魔法はシオンを一瞬で氷漬けにし、勝負は瞬時に決着した。

エルファリアはシオンに対し、ウィルを馬鹿にしないよう告げた。その圧倒的な実力に教室中が驚愕し、教師たちも言葉を失った。

エルファリアの自己紹介と存在感

勝利後、エルファリアは机の上に飛び乗り、自身とウィルが平民であること、そして二人が特別な関係であることを堂々と宣言した。

さらに、自分たちをいじめればやり返すと警告したことで、生徒たちの注目を一身に集めた。多くの生徒は彼女の実力に驚き、尊敬の眼差しを向けるようになった。

歓迎会と寮生活の始まり

その後、新入生たちは歓迎会へ参加し、多くの料理を楽しんだ。歓迎会終了後は全寮制の学院寮へ移動し、ウィルは一人部屋を与えられた。

広い部屋で一人になったウィルは、魔法を使えないため灯りすら点けられない自分を実感した。そして窓から大結界を見上げながら、この世界の成り立ちや天上の侵略者、至高の五杖の役割について思いを巡らせた。

孤独と故郷への想い

静かな部屋の中で、ウィルは孤児院の仲間たちとの生活を思い出していた。これまで常に誰かと共に暮らしていたため、一人きりの環境に寂しさを感じていた。

それでも夕日を見るという約束を胸に、学院生活への決意を新たにしていた。

エルファリアの来訪

そんな中、エルファリアが女子寮を抜け出し、ウィルの部屋へ現れた。彼女は分身魔法を利用して自分の代わりを女子寮に残しており、本体だけがウィルのもとへ来ていた。

女子寮では既に多くの生徒から注目を集めていたが、エルファリアは気にする様子もなく、ウィルの部屋で楽しそうに過ごした。

家族のような時間

二人は部屋を探検し、順番に風呂へ入り、ウィルはエルファリアの髪を梳いた。孤児院で過ごした頃と変わらない時間が流れ、ウィルの寂しさは自然と消えていった。

やがて同じ寝台で横になった二人は、幼い頃の思い出を語り合いながら、学院生活について話を続けた。

ウィルの不安とエルファリアの励まし

ウィルは、自分だけが魔法を使えないことや、シオンとの決闘で何もできなかったことへの劣等感を打ち明けた。また、学院でも無能だと証明されるのではないかという不安を吐露した。

エルファリアはそんなウィルを抱きしめ、大丈夫だと優しく励ました。そして彼のために密かに作っていた蒼涙のペンダントを贈った。

夕日を見る約束の再確認

エルファリアは蒼涙のペンダントに、ウィルの学院生活が上手くいくよう願いを込めていた。ウィルはその贈り物を受け取り、心から感謝を伝えた。

そして二人は再び、いつか一緒に夕日を見るという約束を確かめ合った。互いに笑顔を交わしながら、学院生活の始まりを迎えたのであった。

二章 魔法学院の 日々

孤児院で育まれた絆

ウィル・セルフォルトは夢の中で、セルフォルト孤児院で過ごした幼少期を思い返していた。ウィルとエルファリアは赤ん坊の頃に孤児院へ預けられ、同じ日に家族として迎えられたことで、兄妹のような絆を育んでいった。

魔法の才能に恵まれたエルファリアは孤児院でも群を抜く存在であり、美しい氷や雪の魔法を見せていた。一方のウィルは魔法をまったく使えず、年下の子どもたちにからかわれることもあったが、エルファリアと交わした夕日を見る約束を支えに努力を続けていた。

エルファリアの信頼と過保護な一面

成長するにつれ、エルファリアはウィルを頼るようになった。以前はウィルを守る側だったが、やがて隣に立つ存在となり、困った時には意見を求めるようになった。

その一方で、エルファリアはウィルが傷つくことを極端に嫌っていた。ウィルが誰かを庇って怪我をしそうになるたびに駆けつけ、周囲を叱りつけたり制裁を加えたりしていた。

推薦状と旅立ちの日

魔法を使えないまま焦りを抱えていた頃、ウィルのもとへリガーデン魔法学院の推薦状が届いた。推薦状を持参したのはエヴァンという教師であり、ウィルは夢への切符を手にしたような気持ちになった。

孤児院の家族たちは入学を祝福し、エルファリアも同じく推薦状を受け取っていた。二人は入学準備を進め、申込書を記入しながら将来への期待を膨らませた。そして旅立ちの日、家族に見送られながら孤児院を後にした。

魔導の央都への到着

長い旅を経て、二人は魔導の央都へ到着した。巨大な城壁に囲まれた都市と、空へ伸びる魔法使いの塔を目の当たりにし、夕日を見るという約束への思いをさらに強くした。

エルファリアの不安な夢

目を覚ましたウィルは、自分に抱きついたまま眠るエルファリアを見つめた。エルファリアは夢の中でウィルを探し、離れないでほしいと涙を流していた。

ウィルは彼女を優しく抱きしめて安心させた。そして蒼涙のペンダントを見つめながら、今日から始まる学院生活への決意を新たにした。

闇魔法教師エドワルドの授業

学院生活初日、ウィルとエルファリアは地下教室へ向かった。そこでは闇魔法と魔源学史を担当するエドワルド・セルフェンスが待っていた。

威圧的な雰囲気を持つエドワルドは、最初の授業として属性検査を行うと説明した。そして闇魔法こそ全ての魔法の起源であると語り、闇魔法への偏見を批判した。

属性検査の開始

生徒たちは導きのカンテラを用いた属性検査を受けた。魔力を流すことで属性に応じた光が灯り、それによって適性が判別される仕組みであった。

炎、水、土、雷など様々な属性が判明していく中、エルファリアは青い光を灯し、水属性であることが確認された。

ウィルの水属性判明

最後に検査を受けることになったウィルは、自分の属性が判明しないのではないかと強い不安を抱いていた。しかしエルファリアから大丈夫だと励まされ、勇気を得てカンテラへ手を伸ばした。

すると青い光が灯り、ウィルが水属性の魔導士であることが判明した。魔法を使えないと思い続けていたウィルは大喜びし、エルファリアも心から祝福した。

エヴァンへの警戒

属性検査後、二人はエヴァンと再会した。ウィルは感謝の気持ちを抱いていたが、エルファリアは終始冷たい態度を取っていた。

その場を離れた後、エルファリアはウィルに対し、エヴァンのことが嫌いだとはっきり告げた。ウィルは彼女の強い拒絶に驚きを隠せなかった。

迷子と遅刻

広大な学院内を移動する途中、ウィルとエルファリアは道に迷ってしまった。喋る彫像に助けられながら目的地へ向かったものの、始業時間には間に合わなかった。

教室へ到着した二人はワークナーから厳しく叱責され、何度も謝罪することになった。

水属性クラスへの参加

説教を終えた二人は、水属性の生徒たちが集まる教室へ加わった。そこには机も椅子もなく、広い空間だけが広がっていた。

ワークナーは改めて自己紹介を行い、水属性の生徒たちに向けた授業を始めようとしていた。

水のクラス初授業

水と氷のクラスでは、本来担当予定だったブルーノが休暇中であったため、ワークナーが臨時で授業を受け持つことになった。

その説明の最中、ユリウス・レインバーグが風属性の魔導士であるワークナーに水魔法を教えられるのかと疑問を投げかけた。ユリウスは自身の知識と経験に自信を持っており、遠回しにワークナーを軽視していた。

ワークナーの実力証明

ワークナーはユリウスに本気で魔法を放つよう命じた。ユリウスは氷の槍を生成して攻撃したが、ワークナーは風を起こしただけでそれを粉砕した。

さらに氷魔法の触媒を用いて風雪を生み出し、属性の違いを超えて魔法を応用できることを示した。圧倒的な実力を目の当たりにしたユリウスは非を認めて謝罪し、生徒たちもワークナーへの見方を改めた。

エルファリアの警戒

周囲の生徒がワークナーを尊敬するようになる中、エルファリアだけは違和感を抱いていた。

彼女はワークナーの胸の辺りに何か隠された力のようなものを感じ取り、普通の魔導士とは異なる存在だと考えて警戒していた。

水のクラスと実技授業

ワークナーは、このクラスが水属性と氷属性の生徒によって構成されており、今後もっとも顔を合わせる級友になると説明した。

続いて翌月に控えるダンジョン実習に備え、初歩的な攻撃魔法の訓練を行うことになった。生徒たちは魔力の流れを感じ取りながら詠唱を行い、水の下位魔法である青流の侍者の発動を目指した。

生徒たちの実力差

授業では魔法を何度も失敗しながら練習する生徒と、一度で成功させる生徒に分かれていた。

ユリウスは当然のように魔法を成功させ、エルファリアも無詠唱で高度な氷魔法を発動した。その卓越した技術は周囲を驚かせ、ワークナーからも別格と評された。

ウィルの焦りと助言

ウィルはエルファリアとの差を埋めたいという焦りから、水魔法を飛ばして氷魔法を習得しようとした。しかしワークナーに呼び止められ、基礎を飛ばしてはならないと諭された。

ウィルはエルファリアに置いていかれることへの不安を打ち明けた。ワークナーは、自分にも特別な存在に追いつこうと努力し続けた友人がいたと語り、その友人は最終的に塔の頂へ到達したと教えた。

さらに、強い意志は既に持っているのだから、あとは正しい努力を重ねるだけだと励ました。そして決して諦めない事こそ魔法以上の力になるという言葉を贈った。

初めての魔法成功

励ましを受けたウィルは、水魔法の基本に立ち返り、青流の侍者を正しく詠唱した。

すると勢いよく水流が放たれ、初めて魔法を成功させることができた。ワークナーもその成果を認め、ウィルは大きな喜びを感じた。

ユリウスの勧誘

魔法の試射が終わった後、ユリウスはエルファリアへ近づき、自分と共に行動する同志にならないかと誘った。

ユリウスは二人で力を合わせれば塔の頂へも辿り着けると語り、将来的には自らの家名を与えることまで口にした。

ウィルの決意

ユリウスの言葉を聞いたウィルは慌てて二人の間に割って入った。

ユリウスは凡才がエルファリアの時間を奪うべきではないと切り捨てたが、ウィルは才能がなくても諦めず、エルファリアを守ると宣言した。

その言葉にユリウスは動揺し、ワークナーもそのやり取りを見て笑いを堪えていた。

エルファリアの答え

ウィルの背後から抱きついたエルファリアは、自分はユリウスの同志にはなれないと告げた。そしてウィルと一緒にいたいと明言した。

さらに、ユリウスには好きな相手がいるのではないかと指摘した。その言葉にユリウスは顔を真っ赤にして動揺し、そのまま逃げるように立ち去った。

学院生活の始まり

終業後、エルファリアはウィルの不安を見抜いていたことを明かし、自分は絶対にウィルを一人にしないと伝えた。

その後、二人は学院の単位制度や進級条件について説明を受けた。塔へ進むためには七二〇〇単位が必要であることを知り、とにかく多くの授業に合格しなければ夕日を見る夢は叶わないと理解した。

日々の授業と生徒たちの関係

学院生活が始まると、ウィルとエルファリアは魔法基礎や歴史学、迷宮学など多くの授業を受けることになった。

エドワルドの厳しい授業に生徒たちは怯え、シオンとはたびたび席を巡る揉め事が起きた。しかしエルファリアが視線を向けるだけでシオンは怯え、騒動は収まった。

一方、水のクラスではユリウスも毎日顔を合わせていたが、エルファリアの前では以前の勢いを失い、逃げるように立ち去ることが増えていた。そんな状況に戸惑うエルファリアは、自分が魔王扱いされていると落ち込み、次の日には聖女になると宣言していた。

ダンジョン実習の開始

ワークナーは攻撃魔法だけでなく、防御用の障壁魔法である水鏡の重要性を説明した。また、探知や解析、望遠といった共通魔法についても教え、生徒たちは迷宮で生き残るための知識を学んだ。

その後も筆記と実技の授業に励みながら一か月が過ぎ、ついに実習としてダンジョン探索が解放された。

深界の門への到着

実習当日、ウィルとエルフィは深界の門へ向かった。

深界の門は地下迷宮への入口であり、巨大な建造物と不気味な装飾によって圧倒的な存在感を放っていた。初めてダンジョンへ挑む生徒たちは皆緊張しており、ウィルも胸の高鳴りを抑えられなかった。

コレットとの遭遇

門の前でウィルは、一人の少女と出会った。

黄水晶色の長い髪を持つその少女は、虚ろで生気の感じられない雰囲気をまとっていた。ウィルは少女から漂う黒淚花の香りに気付き、その姿を目で追った。

するとエルフィが嫉妬して詰め寄り、さらにシオンも現れて少女の素性を説明した。少女の名はコレット・ロワールであり、かつて至高の五杖を輩出した名門ロワール家の娘であった。

シオンは名家の娘であるコレットを庇ったが、エルフィに恋心を見抜かれて動揺した。その騒ぎはワークナーに叱責されて終わり、コレットは先にダンジョンへ向かっていった。

ダンジョンの意義

ダンジョンは巨大な地下迷宮であり、各階層に異なる魔物が生息していた。

魔導士の杖や魔宝灯の材料をはじめ、多くの資源がダンジョンから得られるため、魔法世界にとって欠かせない存在であった。また、魔導士が実戦経験を積み、塔へ進む人材を育成する場でもあった。

そのため新入生たちも、魔女王メルセデスの教えに従い、実習として迷宮へ挑むことになった。

暗闇の中の不安

地下へ続く螺旋階段を下り始めると、ウィルは深い暗闇に苦しめられた。

楽園の住人は本来暗闇に強い種族であったが、ウィルは生まれつき闇目が弱く、周囲が見えていなかった。シオンたちから嘲笑されても反論できず、自身の欠点を改めて痛感していた。

周囲に迷惑をかけたくないという思いから教師にも相談しておらず、その判断を後悔しながら進むことになった。

常闇の庭への到着

やがて一行はダンジョン第一層である常闇の庭へ到着した。

ここは入門者向けの浅層であり、比較的弱い魔物が出現する区域であった。しかし何も見えないウィルは強い不安を抱え、軽い混乱状態に陥っていた。

ワークナーは広間でモンスターとの戦闘訓練を行うと説明し、生徒たちは指示に従って進んでいった。

初めての実戦

広間へ到着すると、暗闇の中からモンスターの唸り声が響いた。

生徒たちは一斉に青流の侍者を放ち、戦闘を開始した。エルフィは蒼氷の詩人を発動し、飛行するレッサー・ゲイザーを一撃で撃破した。

ウィルは氷柱の光で初めて敵の姿を確認し、エルフィの実力の高さを改めて実感した。

魔素の吸収と単位獲得

レッサー・ゲイザーを倒した後、ワークナーは魔素の吸収について説明した。

倒した魔物から発生する魔素を杖に吸収することで討伐記録が残り、それによって単位が与えられる仕組みであった。また、魔素を放置するとダンジョンがより強力な魔物を生み出す可能性が高まるため、必ず回収しなければならなかった。

エルフィは魔素を吸収し、レッサー・ゲイザー討伐による単位一を獲得した。ウィルもその成果を喜び、二人で夕日を見る夢への第一歩だと感じていた。

実習の厳しさ

生徒たちは次第に実戦に慣れ、教師たちの指導のもとでモンスターを倒していった。

ウィルもエルフィの援助を受けながらレッサー・ゲイザーを撃破することに成功した。しかし全員が順調だったわけではなく、シャドウ・ウルフやブラック・センチピードに襲われて負傷する生徒も現れた。

傷を負い泣き出す生徒たちの姿を見たことで、生徒たちはダンジョンの危険さを改めて実感し、気を引き締め直したのであった。

コレット失踪の発覚

ダンジョン実習を通じて、生徒たちは事前の学習や訓練が迷宮で生き残るために必要だったことを実感していた。

その最中、シオンとユリウスがモンスターの討伐を巡って口論を始め、水と炎のクラスの生徒たちにも険悪な空気が広がった。ワークナーが仲裁して騒ぎを収めようとしていたところ、土と風のクラスを担当する教師が駆け込んできた。

教師は土のクラスの生徒が一人行方不明になったと報告した。失踪したのはコレット・ロワールであり、隠密魔法を用いて教師たちの監視を逃れた可能性が高いと判明した。

コレット救出を決意するウィル

教師たちは捜索を開始したが、有効な手掛かりを掴めずにいた。

生徒たちも不安に包まれる中、コレットを想うシオンが涙ながらに探しに行こうとする姿を見せた。その必死な叫びに心を動かされたウィルは、自分に何ができるかわからないまま走り出した。

ウィルは以前コレットから漂っていた黒淚花の香りを頼りに、エルフィの制止を振り切ってダンジョンの奥へ向かった。

暗闇の中での孤独な捜索

闇目の利かないウィルにとって、暗闇の迷宮を全力で走ることは危険そのものであった。

何度も転倒し、体をぶつけて傷だらけになりながらも、黒淚花の香りを追い続けた。やがてシャドウ・ウルフと遭遇し窮地に陥るが、その時、胸元の蒼涙のペンダントが淡く輝き始めた。

氷魔法の発現

ペンダントの光とともに力の流れを感じたウィルは、初めて氷魔法を発動した。

蒼氷の詩人によって放たれた巨大な氷柱はシャドウ・ウルフを一撃で撃破し、周囲を照らす光源にもなった。

ウィルは氷柱を外灯代わりに利用できることに気付き、暗闇への恐怖を乗り越えてさらに奥へ進んでいった。

死を望むコレット

一方コレットは、自らの未来に希望を見出せず、死を望んでいた。

教師たちの目を盗んで迷宮の奥へ向かい、一層でも特に危険なモンスターであるビッグボス・クロウラーの前に立っていた。自らを襲おうとする怪物を前にしても恐怖を見せず、そのまま死を受け入れようとしていた。

ウィルによる救出

しかしビッグボス・クロウラーが襲い掛かろうとした瞬間、ウィルが飛び込んできた。

ウィルは渾身の体当たりでビッグボス・クロウラーを吹き飛ばし、コレットの命を救った。その後も迫り来るモンスターの群れを相手に、水魔法の青流の侍者を連発して戦った。

コレットを守りながら奮闘したものの、敵の数は多く、徐々に追い詰められていった。

エルフィの到着と撤退

窮地に陥ったその時、エルフィが追いついた。

エルフィは強力な吹雪の魔法で周囲のモンスターを一掃し、状況を立て直した。そして無茶をしたウィルを叱責するとともに、コレットにも怒りを向けた。

さらにコレットを保護するため、まだ習っていない結界魔法を発動し、教師たちが発見できるよう安全を確保した。

その後、エルフィはウィルを連れてその場を離れた。

コレットの興味

取り残されたコレットは、倒れたビッグボス・クロウラーを見下ろした。

魔法も使わず、体当たりだけで危険なモンスターを倒したウィルの存在に驚きを覚えたコレットは、初めて彼に興味を抱いた。

そしてモンスターから発生した魔素を吸収しながら、変な人だと呟いた。

エルフィの不安と白い髪

ダンジョンを出た後、エルフィはウィルの様子を何度も確認した。

危険な場所へ二度と連れて行きたくないと語り、実習へ戻ることも拒んで寮へ帰ろうとした。ウィルは戸惑いながらも従うしかなかった。

その途中、ウィルは抜け落ちた一本の髪を拾う。その髪は白く変色しており、何が起きているのかわからないまま、不安だけが深まっていった。

三章 暴かれる真実

教師たちの疑念

職員室で評価表をまとめていたワークナーは、ウィルについて考え込んでいた。

ウィルは水魔法や氷魔法を高い水準で扱える一方で、探知や解析などの共通魔法が一度も成功していなかった。本来なら誰でも扱える共通魔法より属性魔法の方が難しいため、その状態は極めて不可解であった。

それでもワークナーは、真面目で努力家なウィルが不正をしているとは考えられず、むしろ応援したい模範的な生徒だと評価していた。

エドワルドが抱くエルフィへの警戒

そこへ闇の魔導士であるエドワルドが現れ、エルファリアについて尋ねた。

エドワルドはエルファリアが優秀な新入生という評価を超えた何かを秘めていると感じており、まだ実力を隠しているのではないかと疑っていた。

ワークナーは、その言葉の裏に警戒や嫉妬の感情が混じっていることを察していた。

エヴァンの提案

二人の会話にエヴァンが割り込んできた。

エヴァンは二人の疑問に答えられると告げ、魔法世界の繁栄のためとして協力を求めた。そして真実を明らかにするため、メルセデスの鏡を用意してほしいと要求した。

図書館の幽霊の噂

その頃、自習室では学院中で噂になっている図書館の幽霊の話題が広がっていた。

夜の大図書館に現れる少女の幽霊が禁書を持ち去るという話であり、目撃者が追跡しても消えてしまううえ、探知にも反応しないと噂されていた。

ウィルが感想を求めると、エルフィは興味なさそうに相槌を打つだけだった。

エルフィの読んでいた本

ウィルはエルフィが読んでいた本に興味を持った。

エルフィは難しくて理解できなかったから戻してくると説明したが、本の題名は魔法による記憶の再現性と発現性であった。

不自然な様子を感じながらも、ウィルは深く追及できなかった。

エルフィへの憧れ

エルフィが席を外した後、複数の女生徒がウィルを取り囲んだ。

彼女たちはエルフィを聖女の再来のように崇拝しており、好物や昔話を聞き出そうとした。学年首席候補であるエルフィに近付きたいという思惑も隠していなかった。

ウィルは応じようとしたが、エルフィとの思い出を語ろうとした瞬間、不思議な違和感に襲われた。

記憶への違和感

ウィルはエルフィとの思い出を知っているはずなのに、それらがまるで他人の日記を読んでいるように感じられた。

笑顔や泣き顔、好きなものまで覚えているにもかかわらず、自分自身がその記憶の中に存在していないような感覚に苦しみ、激しい頭痛と不快感を覚えた。

激怒するエルフィ

その時、自習室へ戻ってきたエルフィが大声で女生徒たちを叱責した。

これまで見せたことのないほど強い怒りを見せ、二度と同じことをしないよう言い放った後、ウィルを連れてその場を去った。

ウィルが感じた違和感について話そうとすると、エルフィはそれを遮り、ウィルは何も変わっていない、自分の大好きなウィルのままだと強く言い聞かせた。

しかし歩きながら、エルフィは焦りを滲ませるような言葉を漏らしていた。

忙しさを増す学院生活

迷宮探索が始まったことで、筆記、実技、実習の授業が同時進行となり、生徒たちの日々はさらに忙しくなった。

ウィルはエルフィの隣に居続けるため懸命に勉強へ打ち込み、試験にも全力で取り組んだ。

エルフィに違和感を相談したい気持ちもあったが、彼女は話題を避け続けたため、ウィルは追及を諦めた。

新魔法と飛び級制度

授業の中でワークナーは、新しい魔法を創出すれば飛び級の資格を得られると説明した。

塔に登録されていない新魔法は高く評価され、至高の五杖へ近付くための有力な手段になるという内容であった。

その説明の最中、ワークナーは授業とは別の本を読んでいるエルフィを注視していた。

単位の積み重ね

筆記、実技、実習の試験が本格化し、生徒たちは単位獲得に励んだ。

ウィルは努力を重ねて全ての試験に合格し、単位数十六を獲得した。一方のエルフィは百四十六単位を獲得していた。

それでも二人は順調に成果を積み重ねており、夢へ近付いていることを喜び合った。

合同実技試験の開始

やがて全クラス合同の実技試験の日が訪れた。

試験は人数を二つに分けて行われることとなり、エルフィは実技場へ、ウィルは地下教室へ向かうことになった。

別行動を不安がるエルフィを励ましたウィルだったが、その一方でワークナーが終始視線を合わせようとしないことに気付いていた。

地下教室ではエドワルドが待っており、水晶抵塊を属性魔法で破壊する実技試験の開始を宣言した。

ウィルはこれまで積み重ねてきた努力を信じ、自らの力で試験に挑もうとしていた。

実技試験の開始

地下教室では属性魔法による実技試験が始まった。

生徒たちは五人ずつ並び、水や土、風の下位魔法を使って水晶抵塊の破壊に挑戦した。破壊に成功できなかった生徒が落ち込む姿を見ながらも、ウィルはエルフィを安心させるため、自分も必ず合格しようと気持ちを奮い立たせていた。

ウィルの合格とエドワルドの告発

順番が回ってきたウィルは、青流の侍者を発動し、一撃で水晶抵塊を破壊した。

しかし直後、エドワルドが激しく取り乱し、ウィルに掴みかかった。エドワルドは属性検査の日から抱いていた違和感が確信へ変わったと告げ、ウィルの胸元から蒼涙のペンダントを引きちぎった。

そしてウィルが使っていた魔法は全てエルファリアがペンダントを通じて供給していたものであり、ウィル自身は魔法を使っていなかったと断言した。

魔法を失ったウィル

エドワルドは、自分の言葉が誤りなら魔法を使って証明しろと迫った。

ウィルは短杖を握り、水や氷の魔法を何度も詠唱した。しかし胸に宿っていた熱は現れず、魔法は一切発動しなかった。

沈黙だけが残り、ウィルは膝をついた。教室中の生徒たちから疑念や侮蔑、失望の視線が向けられる中、ウィルは自分もエルフィも不正などしていないと訴えることしかできなかった。

エルフィを求めて走るウィル

ウィルは蒼涙のペンダントを奪い返し、地下教室を飛び出した。

学院中を駆け抜けながら、エルフィに会って真実を確かめたいと願った。自分は本当に魔法が使えないのか、それとも教師たちの言葉が間違いなのか、その答えを求めて実技場へ向かった。

氷鳥の出現

実技場へ辿り着いたウィルは、巨大な氷鳥が空中に浮かぶ光景を目撃した。

実技場の天井は崩壊し、百メートル以上上空まで突き抜けた空が広がっていた。瓦礫に囲まれた中で、生徒も教師も圧倒的な存在感を放つ氷鳥を見上げていた。

シオンやユリウスをはじめ、多くの生徒が恐怖と絶望に打ちのめされていた。

エルフィの才能の暴露

氷鳥の下には、魔法陣の中心で座り込むエルフィがいた。

ウィルは床に刻まれた魔法陣がメルセデスの鏡であることに気付いた。それは魔導士の素質を強制的に具現化する魔道具であり、氷鳥はエルフィの才能と膨大な魔力量そのものであった。

そこへ現れたエヴァンは、これこそがエルファリアの真実だと宣言した。

図書館の幽霊の正体

エヴァンは魔法映像を投影し、学院で噂になっていた図書館の幽霊の正体を明かした。

映像には複数のエルフィが同時に活動する姿が映されていた。それはエルフィが独学で生み出した分身魔法によるものであり、幽霊の正体は彼女自身だった。

本体と同等の能力を持つ高度な分身魔法は前例のない新魔法であり、エルフィは十歳にして魔法を創出した天才であることが証明された。

至高の五杖への推薦

エヴァンはエルフィを新たな至高の五杖へ推薦すると宣言した。

さらに塔へ向けて呼びかけると、上空に現れていた金色の球体から光皇の杖の声が響いた。光皇の杖は審議するとだけ告げ、塔へ帰還した。

その返答により、生徒や教師たちはエルフィが本当に至高の五杖になり得る存在であると理解し、歓声を上げた。

ウィルへの残酷な宣告

歓声に包まれる中、エヴァンはウィルへ真実を告げた。

エルフィは本来塔へ進むべき才能の持ち主であり、ウィルと一緒にいるためにその未来を拒み続けていたという。そしてエヴァンは、ウィルを学院へ招いた理由もエルフィを表舞台へ引き出すためだったと明かした。

自分が彼女の未来を妨げる存在だったと突き付けられたウィルの心は完全に砕かれた。

逃げ出したウィル

氷鳥が崩れ去り、蒼い光が舞い散る中、エヴァンはウィルに用済みだと告げた。

その言葉を最後の一撃として、ウィルは歓声もエルフィの呼び声も振り切り、その場から逃げ出した。

後悔するエルファリア

エルファリアは力を振り絞って立ち上がり、ウィルを追った。

ウィルに魔法を使わせていることも、自身の才能も隠し通せると思っていたが、それは傲慢だったと痛感していた。エドワルドやワークナー、エヴァンに全て見抜かれ、今日の試験そのものが自分たちを引き離すための策略だったことも理解した。

自分のせいでウィルを傷付けたという後悔を抱えながら、エルファリアは森へ向かった。

森での再会

学院の森で、ウィルは木にしがみつきながら泣いていた。

エルファリアは責められる覚悟で近付いたが、ウィルは彼女を非難せず、自分が魔法を使えず、隣に立つ資格がないことを謝り続けた。

その言葉を聞いたエルファリアも涙を流し、ウィルを抱きしめた。

二人の涙

エルファリアは自分はずっとウィルと一緒にいると伝えながら、何度も謝った。

ウィルも涙を流し続け、二人は互いの傷を抱えたまま寄り添った。

少年と少女の嗚咽は、大結界の光が夜へ変わった後も、静かな森の中に響き続けていた。

四章 そして刃は 解き放たれる

エルファリアの想いと約束

ウィルとのかけがえのない日々

エルファリアは物心がついた頃からウィルと共に過ごしていた。遊びも食事も眠る時も一緒であり、ウィルは彼女にとって半身とも言える大切な存在だった。

二人は互いに好意を伝え合い、エルファリアはウィルの笑顔や温もりを何よりも大切にしていた。孤児院の屋根で夜空を眺めたことや口付けを交わしたこともあり、その日々を幸福そのものだと感じていた。

物語と夕日の約束

エルファリアは本を読むことを好み、多くの物語に親しんでいた。

魔法使いや冒険者たちの活躍に自分とウィルを重ねるうち、いつか物語のような景色を一緒に見たいと願うようになった。そして五歳の時、二人は至高の五杖となり塔の頂から夕日を見るという約束を交わした。

ウィルが魔法を使えなくても、エルファリアは自分が彼を守ればよいと考え、その約束を大切に抱き続けた。

魔物との遭遇とウィルの覚醒

ある日、二人は森で魔法を跳ね返す魔物に襲われた。

追い詰められたエルファリアを守るため、ウィルは立ち上がり、不思議な力を発揮して魔物を倒した。エルファリアはその力をウィルだけの魔法だと感じ、その勇気と強さに心を奪われた。

記憶喪失という代償

しかし戦いの後、ウィルは記憶を失っていた。

エルファリアとの思い出や五年間の記憶が消え、自分が誰なのかさえ曖昧になっていた。エルファリアは必死に否定したが、ウィルは何も思い出せなかった。

失われた思い出の大きさに、エルファリアは深く傷ついた。

アシュレイが明かした真実

その夜、アシュレイはウィルの記憶喪失の原因が、彼の魔法にあると説明した。

ウィルは魔法を使えないのではなく、使う準備が整っていないだけであり、その力には大きな代償が伴うという。そして身体能力の異常な高さも、その力の片鱗だと語った。

エルファリアは、自分がウィルを守れなかったことで彼を傷つけたのだと苦しんだ。

暗示による記憶の補完

アシュレイは暗示魔法を用いて、失われた記憶を補完した。

ただしそれはアシュレイ自身が見た客観的な記録を埋め込んだだけであり、二人だけの思い出までは戻らなかった。さらにウィルがその不自然さに気付けば精神的に不安定になるため、違和感を抱かせてはならないとも告げられた。

また、ウィルが再び力を使えば、新たな記憶までも失う可能性があると警告された。

過保護になったエルファリア

その後、表面上は以前と変わらない日々が戻った。

しかしウィルは二人だけの思い出を忘れたままであり、エルファリアが語っても首を傾げるばかりだった。そのためエルファリアは彼を頼りながらも、再び力を使わせないよう以前にも増して守ろうとした。

魔法学院を諦めた理由

十歳の誕生日が近づく頃、エルファリアは魔法学院へ行くことを諦めていた。

夕日の約束を叶えたい気持ちはあったが、ウィルが再び記憶を失う危険を考えると、それ以上望むことができなかったのである。

エヴァンの勧誘

そんな中、エヴァン・ガロードが孤児院を訪れた。

彼はエルファリアの才能を高く評価し、魔法学院への入学と至高の五杖への道を勧めた。しかしエルファリアは才能にしか興味を示さない彼を嫌悪し、何度訪ねられても断り続けた。

ウィルと共に穏やかに暮らすことを望んでいたからである。

ウィルへの推薦状

ところがある日、ウィルが魔法学院の推薦状を手に喜びながら駆け寄ってきた。

その背後にエヴァンの姿を見たエルファリアは、彼が自分を学院へ誘い出すためにウィルを利用していることを悟った。

怒りを覚えたが、夢に胸を膨らませるウィルの姿を見て、その希望を壊すことはできなかった。

義父が示した可能性

その夜、アシュレイはエルファリアに魔法学院へ行ってほしいと伝えた。

学院には稀少な魔法や禁呪が保管されており、ウィルの記憶を取り戻す方法が見つかるかもしれないと語ったのである。

さらに才能あるエルファリアなら、ウィルを救う術を発見できる可能性もあると示した。

約束を覚えていたウィル

悩み続けたエルファリアは、その夜、裏庭で眠れずにいたウィルと話した。

なぜ学院へ行きたいのか尋ねると、ウィルはエルフィとの約束を叶えるためだと答えた。そして夕日を見に行く夢に近付けるから行きたいのだと語った。

失われたと思っていた思い出の中で、約束だけは残っていたことを知り、エルファリアは涙を流した。

学院行きを決意

エルファリアはウィルを抱きしめながら決意した。

たとえエヴァンの罠であっても学院へ行き、ウィルの側を離れず、彼の記憶を取り戻す方法を見つけ出すと決めたのである。

そのために蒼涙のペンダントを作り、分身魔法の精度も高め、学院の蔵書から秘術を探す準備を整えた。

そして二人は共に央都リガーデンへ向かった。

傷付いたウィルと寄り添うエルフィ

現在へ戻り、森の中でエルフィは夕日の約束を語り続けていた。

しかしウィルは、自分が無能者であり、エルフィのような才能ある存在と並び立てないと思い詰めていた。

そんな彼の言葉を遮り、エルフィはウィルが一緒でなければ意味がないと涙ながらに訴えた。

二人の約束の再確認

泣き続けるエルフィを見たウィルは、その想いを拒むことができなかった。

二人は抱き合い、互いの温もりを確かめ合った。約束は消えていないこと、一緒にいる限り続いていることを再確認したのである。

やがて二人は笑顔を取り戻し、エルフィが差し出した手にウィルが手を重ねたところで物語は締めくくられた。

エルファリアとの別離

約束を胸に歩き出す二人

ウィルとエルファリアは悲しみを抱えながらも立ち上がり、再び約束を叶えるため歩き始めた。ウィルは魔法が使えないという現実に苦しみながらも、エルファリアと繋いだ手だけは離さないと決意していた。

塔からの迎え

森を進む二人の前に、エヴァンと複数の魔導士が現れた。エヴァンは、光皇の杖アロンがエルファリアを新たな至高の五杖として正式に認めたと告げ、彼女を塔へ迎えに来たと宣言した。

しかしエルファリアは拒絶し、ウィルと一緒にいると主張した。そして無理に連れていくなら全員を氷漬けにすると警告し、周囲を凍らせるほどの魔力を放出した。

炎帝の杖キャリオットの登場

エヴァンは対抗策として至高の五杖の一人を呼び出した。現れたのは炎帝の杖キャリオット・インスティア・ワイズマンだった。

キャリオットは自らの正体を明かした後、エルファリアに戦うよう促した。エルファリアは即座に氷結魔法を放ったが、至高の五杖であるキャリオットには通用しなかった。

圧倒的な力の差

キャリオットは紅の従士を発動し、巨大な炎を放った。エルファリアは水鏡で防御したが、炎の威力は凄まじく、障壁は沸騰しながら消滅寸前に追い込まれた。

ウィルは咄嗟にエルファリアを庇った。エルファリアも全力で抵抗し、炎を相殺したものの、その衝撃で二人は吹き飛ばされた。

それでもキャリオットは余裕を崩さず、光皇の決定通りエルファリアを塔へ連れていくと認めた。

エルファリアの連行

続いてキャリオットの従者ログウェルが動いた。彼は一瞬でエルファリアの前へ現れ、魔法によって彼女の意識を奪った。

肩に担がれたエルファリアを見たウィルは怒りのまま飛びかかったが、ログウェルの失心魔法によって倒された。

意識を失いかける中、ウィルとエルファリアは互いに手を伸ばしたが届かず、エルファリアは塔へ連れ去られてしまった。

エヴァンの侮辱

倒れたウィルに対し、エヴァンは魔法世界の宝を台無しにしていた塵芥だと罵った。

その言葉は既に傷付いていたウィルの心をさらに砕き、彼は深い絶望の中で意識を失った。

塔へ向かう決意

目を覚ましたウィルは、一人で塔へ向かった。

塔はかつて夕日を見る約束の場所だったが、今ではエルファリアを奪った牢獄となっていた。それでも彼女を取り戻すため、ウィルは傷付いた体を引きずりながら歩き続けた。

閉ざされた塔への懇願

塔へ辿り着いたウィルは門を叩き、エルファリアを返してほしいと懇願した。

しかし門は固く閉ざされたままで何も応えなかった。やがて懇願は怒りへ変わり、拳から血を流しながら門を叩き続けた。

そして全力で門を打ち砕こうとした瞬間、背後から声が掛けられた。

雷公の杖ゼオとの遭遇

そこにいたのは至高の五杖の一人、雷公の杖ゼオ・トルゼウス・ラインボルトだった。

ゼオは塔から帰還したばかりであり、ウィルの事情を察すると、女を奪われた子供だと挑発した。

さらに一瞬でウィルの前へ移動し、彼を投げ飛ばした後、何をしたいのか問いかけた。

挑発と怒りの爆発

ゼオは奪い返したいのか、復讐したいのかと問い続け、剣まで差し出して挑発した。

理解不能な言動に戸惑うウィルだったが、至高の五杖への怒りは限界に達していた。エルファリアを連れ去った者たちへの憤りと、塔への怒りをぶつけるように叫びながら、ゼオへ向かって全力で拳を振り抜いた。

雷公の杖の試練

ゼオの価値観と弱者への叱責

ウィルの拳を受けたゼオは大げさに悶絶した後、その怪力を面白いと評価した。そして、エルファリアを奪われたのは至高の五杖のせいではなく、ウィル自身が弱かったからだと断言した。

ゼオは、この世界では弱者は女も宝も尊厳も命さえも奪われると語り、奪われたくなければ這い上がるしかないと叩きつけた。ウィルは魔法の練習も勉強も必死に続けたこと、自分なりに努力したことを訴えたが、ゼオは死ぬ気で頑張ったという言葉を否定した。死ぬ気で足掻いた者は本当に死ぬものであり、ウィルはまだ生きていると切り捨てた。

迷宮への突き落とし

ゼオは雷を放ち、地面に巨大な縦穴を穿った。その雷撃は地下迷宮へと到達し、学院とダンジョンを繋げた。

続いてゼオはウィルを穴の上へ持ち上げ、一度死んで生まれ変われと言い放つと、そのまま迷宮へ突き落とした。さらに餞別として剣を投げ込み、恨みも怒りも全てぶつけて這い上がってこいと告げた。

その後ゼオは、誰も迷宮へ入れないよう雷の結界で穴を封鎖し、ウィルが自力で戻ることを期待しながら塔へ去っていった。

常闇の庭での覚醒

ウィルが目を覚ますと、そこは迷宮一層の常闇の庭だった。周囲には無数の魔物が集まり、闇に頼る戦場は魔法を使えないウィルにとって死地だった。

しかしウィルは絶望に飲まれなかった。ゼオの言葉を思い返し、自分がエルファリアを守れず、取り戻せなかった原因は全て自分の弱さにあると認めた。そしてエルファリアを守れなかった自分を否定しながら、強くなる決意を固めた。

剣による戦いの始まり

ウィルは剣を手に取り、魔物へ突撃した。魔法を持たない代わりに備わっていた圧倒的な身体能力を武器に、次々と魔物を打ち砕いていった。

剣術の知識はなかったため、当初は鞘に収めたまま鈍器のように振るっていた。しかし巨大な芋虫型の魔物との戦いの中で剣を抜き放つと、銀色の刃で魔物を両断した。

その後も空を飛ぶ魔物や狼型の魔物、多足の魔物を斬り伏せ、迷宮の中で戦い続けた。

爆発を利用した反撃

迷宮の穴が自己修復によって塞がり始め、地上からの光が失われようとしていた。

ウィルは紅い眼を持つ小鬼型の魔物へ突進し、その眼に剣を突き立てた。爆発性を持つ紅宝が炸裂し、周囲の魔物を吹き飛ばした。

自身も爆発に巻き込まれたが、魔導士のマントによって致命傷を免れた。さらに炎が篝火となって迷宮を照らし出し、闇の中でも戦える状況を作り出した。

強さへの渇望

戦い続ける中で、ウィルは学院へ向かう前に義父から聞かされていた言葉を思い出した。エルファリアを守る時だけは、自分の力を使ってよいという約束である。

既に守れなかった現実を噛み締めながらも、今からでも間に合わせるために強くなりたいと願った。エルファリアのもとへ辿り着き、彼女を迎えに行くために、ウィルは魔物を斬り続けた。

そして一度死んで生まれ変わるように、自らの弱さを斬り捨てる覚悟を固めた。

学院への帰還

翌朝、魔法学院ではエルファリアが至高の五杖となり塔へ移った話題で持ち切りになっていた。

その一方でワークナーは、前日から姿を消したウィルを必死に捜していた。彼はエヴァンの計画に加担したことを後悔し、ウィルを犠牲にしてエルファリアを塔へ捧げたようなものだと苦悩していた。

教室ではウィルを嘲る声も上がっていたが、その空気は突然変わった。

傷だらけの帰還と決意

教室へ現れたウィルは全身を傷だらけにし、返り血に染まりながら剣を引きずっていた。

彼は迷宮で得た数々の骸の宝を差し出した。魔素を集めることも杖を使うこともできないため、自らの成果の証として運んできたのである。

驚く教師達を前に、ウィルは単位と資格を与えてほしいと願った。そして塔へ行き、エルファリアのもとへ向かうのだと、自らの意志を示した。

五章 不屈の意志と 崩壊の序曲

絶望の目覚めと現実

医務室での目覚め

ウィルはエルファリアを追いかける夢から目覚め、医務室でワークナーに看病されていたことを知った。エルファリアのことを思い出したウィルは激痛を押して起き上がり、すぐに塔へ向かおうとした。

しかしワークナーは、エルファリアは既に学院を離れ、次期至高の五杖候補として塔へ所属することになったと説明した。さらに、魔法が使えない者は塔へ入ることすら許されないという現実を突きつけた。

ウィルは言葉を失い、何も変わっていない現実を受け入れざるを得なかった。

学院に広がる悪意

秘薬で体調を回復したウィルは医務室を抜け出し、学院内を歩いた。しかし学院中には既に噂が広まっており、生徒や教師たちはウィルを無能者として蔑んでいた。

魔法を使えない者への排斥は平民差別とは異なり、魔法世界に相応しくない存在を切り離そうとするものだった。ウィルは向けられる悪意や軽蔑に傷つきながらも、エルファリアを探して学院中を歩き回った。

だが、どこにもエルファリアの姿はなかった。

校長室への呼び出し

渡り廊下で塔を見つめていたウィルのもとへワークナーが現れ、コルドロン校長に呼ばれていると告げた。

校長室でコルドロンはエヴァンの行動を問題視し、学院活動を禁じる処分にしたことを伝えた。そしてエルファリアは現氷姫の杖ユルヴァールの後継候補として期待されており、至高の五杖入りは避けられない状況だと説明した。

世界を守る大結界の維持を考えれば、エルファリアを塔へ迎える決定は覆せない現実だった。

校長による試験

続いてコルドロンは、魔法が使えないウィルの処遇について話し始めた。

魔法学院は魔法の才能を育てる場所であり、魔法が使えない者は本来なら存在し得ない。しかしコルドロンは突然短剣をウィルへ渡し、同時に複数の炎の魔法を放った。

ウィルは咄嗟にワークナーを突き飛ばし、短剣だけで全ての炎の矢を斬り落とした。無意識に見せたその技量を見て、コルドロンは大笑いしながらウィルの在学継続を認めた。

塔への希望

在学を許されたウィルは、勉強を続けて強くなれば塔へ行けるのかをコルドロンに尋ねた。

コルドロンは、不屈の意志と努力を捧げ続ければ可能性はあると答えた。その言葉を聞いたウィルは再び希望を見出し、エルファリアのもとへ辿り着くために努力を続けることを誓った。

最低から始まる学院生活

第三週の上の曜から、ウィルの新たな学院生活が始まった。

まずエルファリアの魔法を利用して取得していた実技や実習の単位が全て没収され、手元には筆記で得た十一単位しか残らなかった。

その結果、生徒たちはウィルをさらに軽蔑するようになり、やがて露骨ないじめへと発展した。魔法で転ばされたり、本やノートを吹き飛ばされたり、実技授業では実験台にされそうになったりした。

それでもウィルは反論せず、黙って耐え続けた。

周囲の反応

シオンはウィルを見るたびに苛立ちと侮蔑を示し、ユリウスは完全に無関心になった。コレットだけは遠くから見つめ続けていた。

教師たちもウィルの存在を快く思っていなかったが、校長の決定があるため追放はできなかった。授業では無視されるか珍獣のように扱われる日々が続いた。

エドワルドの忠告

そんな中、エドワルドだけは意外にも生徒たちがウィルを嘲笑することを戒めた。

さらにウィルに対し、魔工師や薬師、魔法生物の調教師など別の進路を勧めた。魔法を使えない以上、その方が現実的だと考えていたのである。

しかしウィルはそれを拒否し、自分は塔へ上り至高の五杖を目指すのだと告げた。

決裂

ウィルの言葉を聞いた瞬間、エドワルドは激怒した。

魔法を使えない者が塔を目指すことは自殺行為であり、至高の五杖を目指すなど愚かだと断じた。塔は杖の墓場であり、杖ですらないウィルが足を踏み入れれば何も残らないと警告した。

それでもウィルは考えを曲げず、必ず塔へ行くと宣言した。

エドワルドは激しく反発し、二人の言い争いはワークナーが駆けつけて止めるまで続いた。そしてこの日を境に、エドワルドはウィルにとって明確な敵となった。

孤立するウィル

ワークナーとの衝突

ウィルは生徒たちからのいじめによる怪我を隠していたが、ワークナーに見抜かれ手当てを受けた。その後ワークナーは、塔へ行くことは不可能であり、このままでは心身が壊れてしまうと説得した。

しかしウィルは、実技単位を失っても筆記と実習の全単位を取得すれば塔へ行く条件を満たせると主張した。ワークナーはそれが現実的ではないと強く反対したが、ウィルは可能性がある以上挑戦を諦めなかった。

二人は初めて衝突したが、その後もワークナーは陰からウィルを気にかけ続けた。ウィルはその優しさに感謝しながらも、迷惑をかけまいとしてさらにダンジョンへ通うようになった。

放課後実習への挑戦

放課後実習が解禁されると、生徒たちは自主的に迷宮探索を行えるようになった。しかしウィルには探索許可を出す教師がおらず、ワークナーも反対していた。

そこでウィルはコルドロン校長に頼み込み、一層限定の無期限探索許可証を得た。塔へ行くためには実習単位の取得が不可欠だったため、ウィルは迷宮へ潜り続け、魔物討伐に没頭した。

剣を手にした鍛練の日々

闇に弱いウィルは松明を持って迷宮を探索した。その姿は周囲の生徒たちから嘲笑されたが、ウィルは気にせず進み続けた。

雷公の杖ゼオから渡された剣を唯一の武器として持ち歩き、毎日欠かさず鍛練を続けた。剣で戦うには敵へ近付かなければならず、魔法とは異なる恐怖が伴ったが、ウィルはその恐怖と向き合い続けた。

やがて剣は杖よりも手に馴染むことに気付き、皮肉を感じながらも剣の技術を磨いていった。

単位獲得への執念

ウィルは大量の骸の宝を持ち帰り、実習単位を積み重ねた。ワークナーは危険な探索を叱責したが、ウィルは止まらなかった。

同時に筆記試験でも満点を取り続けた。魔法の感覚を持たないため、他の生徒が感覚で理解する内容を理論として学び続けなければならなかったのである。

睡眠時間を削り、昼夜を問わず勉強と鍛練に没頭した結果、髪には白髪が混じり始めた。それでもウィルは構わず努力を続けた。

ワークナーの危機感

ウィルの成績表を閲覧したワークナーは衝撃を受けた。

筆記だけでなく実習単位の取得量も異常であり、一年生としては考えられない成果だった。迷宮一層を隅々まで探索している証拠であり、場合によっては二層へ足を踏み入れている可能性すらあった。

ワークナーはウィルの異常な戦闘能力を知っていたが、それを周囲へ明かせば状況がさらに悪化すると理解していたため、秘密を抱え続けるしかなかった。

一方で、自らを追い込み続けるウィルが壊れてしまうのではないかという不安を募らせていった。

異変の始まり

ウィルはエルファリアへの手紙を送り続けたが返事は届かなかった。塔を見上げながら勉強と戦闘を繰り返す日々を送る中で、少しずつ異変が現れ始めた。

二層で上級生たちが魔物に追われている場面に遭遇した際、助けようと剣を握った次の瞬間、自分が火の海の中に立っていることに気付いた。

周囲には大量の魔物の死骸が転がっていたが、その戦闘の記憶がなかった。骸の宝が回収されていることだけを確認したウィルは、その場を後にした。

翌日から、その上級生三人は学院に姿を見せなくなった。

記憶の欠落

それ以降、ウィルは時間の感覚を失い始めた。

朝だと思えば夜になり、昼食を取っていたはずが気付けば自室にいることもあった。鏡に映る自分はやつれ、瞳から光が失われつつあった。

そんな時、一人の少女が声をかけてきた。少女はウィルを見て、自分と同じように死に魅了されていると告げた。しかしウィルは彼女が誰なのか思い出せなかった。

少女はコレットだったが、ウィルは彼女との記憶を失い始めていたのである。

記憶障害の発覚

ワークナーはウィルを魔法生物室へ連れて行き、昨日の出来事を覚えているか問いただした。

しかしウィルは何も思い出せなかった。知識や鍛練の成果は残っているものの、日常の記憶が失われていたのである。

事態を重く見たワークナーは校長室へ駆け込み、ウィルが重度の記憶障害に陥っていると訴えた。

コルドロンの説明

コルドロンは既に状況を把握していた。

白髪の増加とともに記憶が失われていること、そしてウィルが宿す力を使うほど記憶など内面の一部が削られていくことを説明した。

さらにエルファリアが危険を承知で学院へ来た理由も、この力に関係する魔法を探していたからだと語った。

ワークナーはウィルを止められないのかと訴えたが、コルドロンは制止すればかえって暴走し、全てを失った残骸になるだけだと答えた。

そして今のウィルを止められる可能性があるのは、エルファリアただ一人だと結論づけた。

風邪とウィルの思い出

風邪を利用していた幼いエルファリア

幼い頃のエルファリアは風邪をひくことを好んでいた。風邪をひけばウィルが付きっきりで看病してくれ、他の子供たちに邪魔されることなく二人きりになれたからである。

そのためエルファリアは意図的に風邪をひこうとし、魔法の訓練にも励んだ。その結果として魔法の才能も大きく伸びていった。

しかし、わざと体調を崩していることを知ったウィルは激しく怒り、苦しむ姿を見たくないことや、離ればなれになるのが嫌だと涙ながらに訴えた。

エルファリアは自分の過ちに気付き、ウィルへ何度も謝罪した。それ以降は故意に体調を崩そうとしなかったが、それでも体の弱い彼女はたびたび風邪をひいていた。

塔で眠り続けるエルファリア

夢の中でウィルを求め続けていたエルファリアは、『魔法使いの塔』最上階付近の瞑寝の間で眠り続けていた。

発熱や倦怠感に苦しむ彼女の姿を見ながら、エヴァンは風邪が魔導士にとって魔力成長の兆候であり、『魔女の祝福』と呼ばれる特別な現象であると説明した。

その場にはキャリオット、ログウェル、サリサも同席しており、エルファリアが一ヵ月以上も目覚めない状況について話し合っていた。

エルファリアの異常な才能

エヴァンは、エルファリアが幼い頃から年に六回も祝福を受けていたことを明かした。

それは他の魔導士たちを大きく上回る回数であり、エヴァンは彼女こそが魔法世界の頂点に立つ存在だと確信していた。

彼は自身が発掘した才能であるエルファリアが未来の至高の五杖になることを誇りに思い、その成功を自らの栄光と重ね合わせていた。

サリサの警戒

エヴァンは眠るエルファリアへ手を伸ばそうとしたが、『氷の派閥』所属の上級魔導士サリサに制止された。

サリサはエルファリアを既に自派閥の人間と見なしており、エヴァンが軽々しく接触することを許さなかった。

エヴァンは表面上は引き下がったものの、将来エルファリアが塔の頂点に立つ日を楽しみにしている様子を隠さなかった。

シオンの苛立ち

一方のシオンは、学院でいじめを受け続けるウィルに強い苛立ちを抱いていた。

魔法で剣を奪われたり、噴水へ投げ込まれたりしても反撃せず、翌日には何事もなかったように勉強へ戻る姿が理解できなかったのである。

自分自身を大切にしないウィルの在り方を、シオンはどうしても受け入れられなかった。

子分への勧誘と拒絶

ある日、背中に無能者だと書かれた張り紙を貼られているウィルを見たシオンは、その張り紙を魔法で燃やした。

そして自分の子分になれと告げたが、ウィルは何も答えず立ち去った。

怒ったシオンは追いかけたが、振り返ったウィルの瞳には感情がほとんど残っておらず、その異様な雰囲気に圧倒された。

しかしその後、塔を見上げるウィルの横顔には強い決意だけが宿っていた。シオンは、ウィルが他人ではなくエルファリアだけを見続けていることを悟った。

そしてその日から、シオンはウィルのことをますます嫌うようになった。

シオンとウィルの衝突

翌日、シオンはウィルを問い詰めた。

しかしウィルは前日の出来事を覚えておらず、シオンとのやり取りさえ忘れていた。怒ったシオンはついに拳を振るい、ウィルを殴った。

騒動はワークナーによって止められたが、シオンの怒りは収まらなかった。

記憶障害の真実

その後、ワークナーはシオンを魔法生物室へ呼び出し、ウィルが重度の記憶障害を患っていることを打ち明けた。

ウィルは日々の出来事や人との記憶を失い続けているのだと説明されたシオンは衝撃を受けた。

しかし彼は同情するのではなく、自分のことも屈辱も全て忘れてしまうウィルに対して怒りを募らせた。

そして忘れられないほど自分がウィルをいじめ続けると宣言した。

ワークナーはその感情の中に強い執着を感じ取ったが、止めることはできなかった。

それ以降、シオンは誰よりもウィルへ執着するいじめっ子となり、他人が手を出せないほど執拗にウィルへ関わり続けるようになった。

エヴァンの陶酔

深夜、自室で酒を飲んでいたエヴァンは、自らの功績に酔いしれていた。

彼は発掘機関として世界中から才能ある人材を探しており、エルファリアの発見こそ最大の成果だと信じていた。

エルファリアが未来に魔法世界を救う存在となり、自分へ栄光をもたらすことを疑わず、その未来へ思いを巡らせながら酒を楽しんでいた。

その時、不意に部屋の扉が開き、何者かがエヴァンの肩へ手を置いたところで場面は終わった。

六章 名前も知らない 君へ

大結界の綻び

記憶を失いながらも約束に縋るウィル

時間の感覚さえ曖昧になったウィルは、渡り廊下で蒼涙のペンダントを握りしめながらエルファリアの名を繰り返していた。

彼女の好みや思い出は薄れつつあったが、笑顔と二人の約束だけは忘れていなかった。ウィルは塔の先にいるエルファリアのもとへ行くという想いだけを支えに、空へ向かって手を伸ばした。

氷姫の杖の死と侵略者の出現

現至高の五杖であるユルヴァール・アルヴィス・リュグローが崩御した。

その直後、大結界に小さな亀裂が走り、そこから白い何かが世界へ侵入した。至高の五杖たちは即座にそれが天上の侵略者の斥候であると察知した。

侵略者の存在はすぐに見失われたが、この日を境に魔法世界は滅亡へ向かう一歩を踏み出したのであった。

毒ガス流出を装った緊急避難

塔は真相を隠すため、毒ガス流出という名目で大規模な避難命令を発令した。

二十一の鐘が一斉に鳴り響き、学院の生徒や民衆は避難所へ向かい始めた。塔の魔導士たちは混乱を防ぐために偽りの説明を行いながらも、侵略者の捜索と討伐準備を進めていた。

その中でウィルだけは塔のさらに上空にある大結界の異変を見つめ、空に最も近い場所にいるエルファリアの身を案じていた。

目覚めたエルファリアの悲嘆

一方、瞑寝の間で目覚めたエルファリアは、ウィルと引き離された現実に泣き続けていた。

サリサは慰める余裕もなく、侵略者出現という緊急事態への対応に追われていた。塔は侵略者の存在を隠したまま至高の五杖による討伐を計画しており、エルファリアはまだ戦力として数えられていなかった。

サリサは護衛を残して侵略者捜索へ向かい、エルファリアはウィルを呼べば彼が危険を冒して塔へ来てしまうと恐れながら涙を流し続けた。

エヴァンによる誘拐

泣き続けるエルファリアの前にエヴァンが現れた。

彼は不自然な笑顔を浮かべながらエルファリアを連れて行きたい場所があると告げ、その場所を処刑場と呼んだ。そして巨大な魔法陣を発動させ、エルファリアと護衛たちを転移させた。

異変に気付いたサリサが駆け付けた時には、既に全員の姿は消えていた。

未開拓領域への転移

転移先はダンジョン三層の未開拓領域であった。

護衛たちは状況を理解できず混乱したが、エヴァンは悪事を行うには最適な場所だと告げた。さらに彼は新たな門を開き、そこから恐るべき存在を召喚した。

現れたのは巨大で白い異形の怪物だった。エルファリアたちは本能的な恐怖に襲われ、その存在が天上の侵略者であると知る。

エヴァンの裏切り

エヴァンは侵略者を真実の住人と呼び、恍惚とした様子で賞賛した。

そしてエルファリアを至高の五杖候補として見出した功績の見返りとして、その命を差し出せと要求した。

彼の言葉が終わると同時に侵略者が動き出し、護衛の上級魔導士たちは一撃で吹き飛ばされ、無惨な姿へ変えられた。

侵略者との戦闘開始

エルファリアだけは咄嗟に氷壁を展開し、生き延びた。

しかし迷宮の構造そのものが破壊され、広大な空間へ吹き飛ばされた先で護衛たちの変わり果てた姿を目にすることとなった。

侵略者は護衛たちの亡骸を喰らい始め、その光景はエルファリアに強烈な恐怖を与えた。

それでもウィルを守りたいという想いが恐怖を上回り、エルファリアは立ち上がった。

エルファリアの抵抗

エルファリアは分身魔法で八体の氷像を生み出し、冬雪の槍や氷涙の静女を放って侵略者へ挑んだ。

しかし侵略者は全ての攻撃を容易く破壊し、超高速で分身を次々と粉砕した。

さらに本体へ迫った攻撃によってエルファリアも重傷を負い、壁へ叩き付けられた。

絶望の中で求めた名前

戦いの最中、エヴァンはエルファリアの死を確信して転移魔法でその場を去った。

残されたのは侵略者と傷だらけのエルファリアだけであった。護衛は全滅し、逃げ場も存在しない。

死を目前にした少女は、それでも最後までウィルのことを思い続けた。そして呼ぶまいと決めていたその名前を、無意識のうちに口にしたのであった。

蒼涙の導き

エルファリアの涙を感じ取るウィル

講堂に避難していたウィルは、蒼涙のペンダントが光ったことで立ち上がった。

その光からエルファリアが泣いていることを悟ったウィルは、これまで自分は必要とされていないと思い込み、勉強やダンジョンに逃げていたことを自覚した。そして今こそエルファリアを迎えに行くべきだと決意し、制止を振り切って深界の門へ飛び込んだ。

追い詰められるエルファリア

ダンジョンでは、エルファリアが全力を尽くした痕跡として氷の槍や氷柱が広がっていた。

しかし長時間の戦闘によって魔力は尽きかけ、膝をついたエルファリアの前には傷一つない天上の侵略者が立っていた。怪物は戦いを楽しむように彼女へ迫り、エルファリアはもはや抵抗する力を失っていた。

勇者になれなかった悔恨

死を目前にしたエルファリアは、幼い頃に読んだ童話を思い出していた。

勇者になってウィルを守りたいと願い続け、魔女として寄り添う願いを捨ててまで勇者であろうとした。しかし大切なものを守れる勇者にはなれなかったと悟り、最後にウィルへ謝罪しながらその名を呼んだ。

ウィルの到着

その直後、天井が砕けた。

岩盤を破壊しながら駆け付けたウィルは、落下しながら侵略者へ斬撃を放った。エルファリアは、自分を守るために現れた少年の姿を目にし、歓喜した。

傷だらけになりながらもウィルはエルファリアの前に立ち、怪物へ怒りを向けた。エルファリアを傷付け、泣かせたことを許さないと叫び、侵略者との戦いを開始した。

侵略者との激闘

ウィルと侵略者は常識を超えた速度で激突を繰り返した。

剣と長刃がぶつかるたびに衝撃が空洞を揺らし、双方は超高速で空間を駆け巡った。ウィルは敵の圧倒的な力と悪意を本能的に察知しながらも、エルファリアを守るという一念だけで戦い続けた。

侵略者は初めて防御を見せたものの、なおウィルを上回る力を持っていた。ウィルは肩を抉られながらも戦意を失わず、再び斬り結んだ。

記憶を代償にした戦い

戦闘が長引くにつれ、ウィルの髪は白く染まり始めた。

エルファリアはその変化が危険な兆候であり、ウィルが力を使う代償として記憶を失っていることを知っていた。彼女は逃げてほしいと叫んだが、ウィルには届かなかった。

ウィルは義弟妹との思い出や学院での日々など、大切な記憶を失いながらも戦い続けた。何を失ってもエルファリアを守るという想いだけが、崩れかける意識を支えていた。

失われた記憶の覚醒

エルファリアの叫びを聞いた瞬間、ウィルの中で忘れられていた記憶が呼び覚まされた。

幼い頃、エルファリアを守るために戦った出来事と、その時に自身を剣へ変えた記憶である。少女の涙と自らの剣を結び付けた過去の力が、再び意識の奥底から浮かび上がった。

その直後、侵略者の攻撃によってウィルの剣は根元から折られてしまった。

蒼涙の力の再装填

折れた剣がエルファリアの前へ突き刺さる中、ウィルは胸元から蒼涙のペンダントを取り出した。

五年前と同じように紐を引き千切り、そのペンダントを胸へ叩き込む。エルファリアの魔力と涙を自身へ取り込み、失われた力を再び起動させた。

その結果、ウィルの瞳は蒼く変化し、折れた剣の先には蒼氷の刃が形成された。少女の杖と少年の剣が融合し、氷の魔剣が誕生したのである。

魔剣による反撃

魔剣を手にしたウィルは、これまで以上の速度で侵略者へ斬りかかった。

初めて侵略者の肉体に明確な傷を刻み、その肩から血を流させた。続く猛攻によって怪物は次々と傷付き、肉体は凍結していった。

それでも侵略者は倒れず、さらに激しい攻撃を繰り出した。両者は空洞全体を破壊しながら激突を繰り返し、死闘はさらに激化していった。

怪物になる覚悟

戦いが続く中、ウィルの髪は急速に白く染まり続けた。

記憶だけでなく、自身の容姿や思考までもが変質していくことをウィルは理解していた。だが、それでもエルファリアを守れるなら怪物になっても構わないと覚悟を決めた。

その決意と引き換えに、ウィルの中からあらゆる記憶が音を立てて消え続けていた。

白銀解放

最後の記憶を代償にするウィル

ウィルは学院での生活や孤児院の思い出など、大切な記憶が次々と砕け散っていく恐怖に苦しみながらも、侵略者を倒すためにさらに代償を支払おうとした。

その時、エルファリアの叫びが届いた。ウィルは最後に彼女へ別れを告げるように微笑み、最も大切だった宝物を手放した。そして全てが白に染まり切った先で、新たな力を解放した。

白銀の剣への変貌

ウィルは白銀解放を発動し、自らが杖ではなく剣そのものであったことを理解した。

理解した直後にその事実さえ忘却しながらも、青い光をまとった斬撃を放ち続けた。巨人の突起や腕、眼球までも次々と切り裂き、圧倒的な勢いで追い詰めていった。

名も知らぬ少女への祈り

戦いの最中、ウィルの意識は血と傷にまみれながら涙を流すエルファリアへ向けられた。

既に彼女の名前も思い出せなかったが、その少女に笑ってほしい、泣かないでほしいという願いだけは残っていた。抱きしめることもできず、正体も分からなくなりながら、それでも少女の涙が止まることを祈り続けた。

巨人の反撃と再生

追い詰められた巨人は腕を変形させて砲撃を放った。

至近距離で直撃を受けたウィルと巨人は互いに吹き飛ばされ、大きな損傷を負った。しかし器の強度で勝る巨人は自己修復を始め、再び立ち上がった。

その様子を見たエルファリアは残された魔力を振り絞り、多数の氷壁を展開して巨人を封じ込めた。さらに氷壁を爆散させることで巨人の動きを拘束し、ウィルへわずかな時間を作り出した。

涙を拭う約束

エルファリアは傷だらけの体でウィルのもとへ駆け寄った。

言葉にならない想いを伝えようとする彼女を前に、ウィルは二つのことを理解した。自分たちは引かれ合う杖と剣であること。そして胸に抱いていたものは祈りではなく誓いだったことである。

ウィルは震える指でエルファリアの涙を拭い、夕日を一緒に見たいと語った。そして涙を分けてほしいと願った。記憶を失いながらも、二人が交わした夕日の約束だけは残り続けていたのである。

涙の魔剣の誕生

エルファリアは最後の魔力を込めて涙の魔法を発動した。

放たれた八つの氷の結晶はウィルの蒼氷の刃へ吸い込まれ、杖と剣が完全に融合した。その結果、水涙の魔剣が誕生し、巨人は初めて明確な恐怖を示した。

エルファリアの秘法を再現

ウィルは抜杖抜剣・最大召喚を発動した。

エルファリアの魔力と魔法の歴史を読み取り、彼女の秘法である白の芸術を再現した。魔剣は九振りへ分かれ、それぞれが同等の力を持つ分身として巨人を包囲した。

分身たちは超高速で連携し、巨人の脇腹や膝、両腕を次々と切断した。最後には胸を貫いて再生も反撃も許さず、完全に追い詰めた。

侵略者の最期

空洞の天井近くまで跳躍したウィルは、残る全魔力を蒼氷の大剣へ集中させた。

侵略者を滅ぼすための必殺の一撃が放たれ、巨人は真っ二つに両断された。全身が凍結した後に粉砕され、恐るべき侵略者は細かな氷となって消滅した。

その光景は幻想的な氷の雨となって迷宮を彩り、杖と剣の戦いは静かに幕を閉じた。

全てを失ったウィル

侵略者を倒した直後、ウィルの体は崩れ落ちた。

エルファリアが駆け寄ると、白く染まった髪や肌には生気がなく、反応も返ってこなかった。侵略者を討つ代償として、ウィルは全ての記憶を失っていたのである。

エルファリアは泣きながらその体を抱きしめたが、ウィルが応えることはなかった。

コルドロンの救済

そこへコルドロンが現れた。

侵略者の存在を追って到着したものの、戦いには間に合わなかったことを認めた彼女は、代わりに魔女王の遺産を用いた魔法を発動した。

編纂・傷だらけの魔剣譚によってウィルの記憶を補完し始めると、白く染まっていた髪は元の黒色を取り戻し始めた。

記憶回復の可能性

コルドロンは、この魔法で学院入学以降の記憶ならば取り戻せる可能性があると説明した。

さらに、ウィルが今後六年間修行して器を成長させれば、魔剣の力を使っても記憶を失わなくなると語った。また自身が定期的に記憶を編纂することで、今後は重度の記憶障害を防げるとも約束した。

そして将来さらに成長した時には、エルファリアとの失われた思い出も取り戻せるだろうと告げた。

新たな約束

コルドロンはウィルを学院で育てる代わりに、エルファリアへ一つの願いを託した。

塔の頂でウィルの目標となり、彼を導き続けてほしいというものであった。また、天上の侵略者は無数に存在しているため、エルファリア自身も世界を守る力を身につけなければならないと説明した。

エルファリアは葛藤の末、その願いを受け入れた。

ウィルを守る決断

サリサたちが近付く中、コルドロンは侵略者討伐の真相を隠す方針を示した。

ウィルの存在を塔へ知られれば実験対象にされかねないため、侵略者はエルファリア一人が倒したことにすると決めたのである。

エルファリアは苦しみながらもその提案を受け入れ、コルドロンとともに少年を守る決意を固めた。

首無しの邪悪の正体

一方その頃、ダンジョンの奥ではエヴァンが侵略者の敗北に取り乱していた。

しかしその正体は本物のエヴァンではなく、彼を殺害して成り代わっていた首無しの邪悪であった。エルファリア暗殺や侵略者の侵入工作は全てこの存在によるものであり、自らの失敗を嘆きながらも今後はしばらく大人しくすると決めた。

首無しの邪悪はエヴァンの首を踏み潰し、闇の奥へ姿を消していった。

Epilogue  始まりの涙

再び結ばれた約束

医務室で目覚めるウィル

ウィルは夢を見ることなく目を覚ました。重い疲労と頭痛を感じながら医務室で覚醒し、傍らにいたコルドロンから塔のガス流出事件について説明を受けた。

ウィルは十日間眠り続けていたことを知らされ、自身の記憶について確認を受けた。思い出せない出来事もあったが、コルドロンは無理に思い出さなくてよいと告げ、たとえ忘れても必ず思い出させると約束した。

エルファリアとの別れを知る

記憶の確認を終えたコルドロンは、ウィルとの別れを望む一人の女生徒が塔の前で待っていると伝えた。

その言葉を聞いたウィルは急いで着替え、医務室を飛び出した。ワークナーやシオンの前を駆け抜けながら、少しでも時間を無駄にしたくない一心で塔へ向かった。

至高の五杖となる決意

塔の前で待っていたエルファリアは、背を向けたまま自分が至高の五杖になると告げた。

それは誰かに命じられたからではなく、自らの意思で決めた選択であり、大切なものを守るための決断であった。ウィルは彼女の意志が揺るがないことを理解し、二人の別れを受け止めようとした。

別れの品として贈られたゴーグル

エルファリアは自ら作ったゴーグルをウィルへ差し出した。

そのゴーグルは暗闇でも見通せる特別な品であり、ウィルがダンジョンで困らないようにとの想いが込められていた。眠っていた十日間、エルファリアはこの贈り物を作り続けていたのである。

しかしウィルは、自分が彼女に相応しくないのではないかと思い悩み、すぐには受け取ることができなかった。

互いの想いの確認

ウィルは、自分が魔法を使えず弱い存在であり、そんな自分に贈り物を受け取る資格があるのか不安だったと打ち明けた。

それに対してエルファリアは、ウィルが優しく、誰よりも勇気を持つ人だと知っていると告げた。その言葉によって、離れていても二人の心は近くにあることをウィルは実感した。

そしてウィルは、エルファリアから差し出されたゴーグルを受け取った。

夕日の約束の再確認

エルファリアは別れを告げて塔へ向かおうとしたが、ウィルは彼女を呼び止めた。

魔法が使えなくても、どれだけ困難があっても、必ず塔へ行きエルファリアを迎えに行くと宣言した。そして、一緒に夕日を見に行こうと改めて約束した。

エルファリアは涙を浮かべながらその約束を受け入れ、ずっと待っていると答えた。二人は再び同じ約束を交わし、それぞれの道へ進むことになった。

涙を流すウィル

エルファリアが塔へ去った後、ウィルはワークナーに向かって、みっともなく泣くのはこれで最後にすると告げた。

しかし感情を抑えきれず、声を上げて泣き続けた。ワークナーはそんなウィルを抱き寄せ、静かに支えた。

塔の上ではエルファリアが涙を流し、地上ではウィルが涙を流していた。その涙は、二人の長い物語の始まりとなった。

導きの魔録書

後日、校長室へ呼ばれたウィルはコルドロンから日記をつけるよう勧められた。

それは導きの魔録書と呼ばれる魔法の本であり、書き記した内容をいつでも読み返せる特別な品であった。たとえ忘れてしまっても、その記録が未来の力になるようにとの願いが込められていた。

コルドロンは、この本にウィルとエルファリアの物語を綴るよう告げた。

物語の始まり

ウィルは導きの魔録書を受け取り、塔の見える窓辺で最初の頁を開いた。

羽根ペンとインクを手にしたウィルは、涙から始まった二人の約束の物語を書き始めた。

こうして、杖と剣の物語は新たな一歩を刻み始めたのであった。

同シリーズ

杖と剣のウィストリア グリモアクタ ―始まりの涙―の表紙画像(レビュー記事導入用)
杖と剣のウィストリア グリモアクタ ―始まりの涙―
杖と剣のウィストリア グリモアクタ2の表紙画像(レビュー記事導入用)
杖と剣のウィストリア2 グリモアクタ ―土の姫君―

その他フィクション

フィクション あいうえお順の表紙画像
フィクション あいうえお順

アニメ

PV

isekai channel @バンダイナムコフィルムワークス

アクション

isekai channel @バンダイナムコフィルムワークス

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