杖と剣のウィストリア 1 グリモ アクタ
杖と剣のウィストリア グリモ アクタ まとめ
物語の概要
■ 作品概要
『杖と剣のウィストリア2 グリモアクタ ―土の姫君―』は、大人気コミック『杖と剣のウィストリア』の前日譚を描くノベライズ第2弾のファンタジーノベルである。
物語の舞台は、魔法の才能が全てを決める魔法至上主義の世界である。主人公の少年ウィルは、幼馴染の天才魔導士エルファリアが魔法の最高峰である「至高の五杖」として「塔」へ連れ去られ、独りきりで魔法学院に取り残されてしまう。魔法が一切使えないウィルは実習単位が稼げず退学の危機に陥るが、教師のワークナーから、心を閉ざした問題児「土の姫君」ことコレット・ロワールと友達になり、ダンジョン探索に同行するよう命じられる。
コレットは、かつて世界を護るために作られた決戦術式「ロワールの禁呪」により、世界の生贄として「界の巨兵」に取り込まれ死ぬ運命を背負っていた。そのため彼女は周囲を拒絶し、自ら死を望んでいた。彼女の孤独と過酷な宿命を知ったウィルが、自身の恐怖を乗り越えて異端の「剣」を手に取り、彼女を救い出して「本当の友達」になるために絶望的な運命に立ち向かう物語である。
■ 主要キャラクター
- ウィル・セルフォルト:
魔法が全く使えない「無能者」の少年である。エルファリアと交わした約束を果たすため「塔」を目指している。エルファリアと引き離され孤独を感じていたが、同じく孤独を抱えるコレットを放っておけず、彼女を救うため、魔物への恐怖に立ち向かい命がけで剣を振るう。 - コレット・ロワール:
土魔法の名家ロワール家の一人娘で、「土の姫君」と呼ばれる少女である。一族の女性が代々「界の巨兵」の生贄として命を落とす「ロワールの禁呪」を背負っている。呪われた運命から自死を望み心を閉ざしていたが、ウィルの優しさに触れることで「誰かに笑っていてほしい、喜んでもらいたい」という生きたい願いに気づく。 - ワークナー・ノーグラム:
リガーデン魔法学院で風魔法を担当する教師である。魔法が使えないウィルの努力を認め、彼を支える数少ない理解者である。コレットを救うため、ウィルに彼女と友達になるよう命じ、他の教師や大人たちを巻き込んで奔走する。 - テラノス・ロワール:
コレットの父親であり、没落したロワール家の当主である。かつて妻を禁呪の暴走による惨劇で失い、娘を救うために常軌を逸した研究に没頭していた。ウィルの「魔力を溜め込む」特性を利用した魔道具「封血のブレスレット」を完成させ、娘の運命に抗う。 - シオン・アルスター:
炎魔法の名家アルスター家の長男である。ウィルを見下していじめるが、実は彼を気にかけており、危険な無茶を繰り返すウィルを必死に引き止めようとする不器用な少年である。 - ロゼ・プレナイト:
コレットのルームメイトである。ロワール家の呪いの事情を知っており、飄々とした態度で距離を置きつつも、コレットやウィルを心配し、彼らを陰ながら手助けする。 - エルファリア・セルフォルト:
ウィルの幼馴染である。新たに「氷姫の杖」として至高の五杖に叙任された天才魔導士である。塔の最上階からウィルの無事と活躍を強く信じ、彼を守るために行動を起こす。
■ 物語の特徴
本作の最大の特徴は、大人気コミックの主要キャラクターであるコレットが、なぜ魔法を使えないウィルに心を許し、どのようにして「友達」になったのか、その知られざるルーツと過去が詳細に描かれている点である。
他作品との差別化要素として、主人公が単なる物理的な剣の力だけで問題を解決するのではなく、自身が魔法を使えず「魔力を内に溜め込む」という異端の特性を活かし、魔道具を介して少女の膨大な魔力を肩代わりすることで「生贄の呪い」を打破するという、作品独自の設定を巧みに活かした展開が挙げられる。
また、天才の幼馴染と引き離され孤独に苛まれる少年と、呪われた運命により他者を拒絶し孤独を望む少女という「独りぼっち」の二人が出会い、不器用ながらも距離を縮めていく過程が丁寧に描写されている。絶望的な状況下で、誰かのために命を懸ける主人公の姿と、「死にたい」と願っていた少女が「生きたい」という本心に気づき救済される展開が、読者の胸を強く打つエモーショナルで魅力的なポイントとなっている。
書籍情報
杖と剣のウィストリア 2 グリモアクタ ―土の姫君―
著者:大森藤ノ 氏
イラスト: 夕薙 氏
原作:青井聖 氏
出版社:SBクリエイティブ(GA文庫)
ISBN:978-4-8156-4066-8
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あらすじ・内容
TVアニメも大人気のコミック『ウィストリア』原作者・大森藤ノ自らノベライズ第2弾!
知られざる《土の姫君》――コレットの秘話。
異端の剣が絶望の運命を切り裂く――!!
エルファリアを『塔』へと見送り、独りきりでの学院生活を送りはじめたウィル。
実習単位を稼ぐすべなどなく退学不可避かと思われたが――
「今後ダンジョンには必ずコレットを連れていくこと!」
ワークナーの厳命により、誰しもに心を閉ざした『呪われし姫君』コレットと日々を共にする代わりに、学院で学び続ける資格を得る。
そして瞳から光を失い、黒き花の香りに沈んでいく少女の宿命を知った時、『剣』は再び雄叫びを上げる。
「あの子をもう独りにさせない!!」
無能者と呪われし姫はいかにして『友達』になったのか?
大人気コミック至高のノベライズ、第二弾!!
感想
読み終えてまず驚かされたのは、漫画版で知っていたキャラクターたちとの印象の違いである。
特に「土の姫君」コレットの初登場時の姿は強く印象に残った。
漫画版では親しみやすく明るい印象があったため、本作で描かれる彼女の重い境遇には驚かされた。一族の女性が代々「界の巨兵」の生贄となる宿命を背負い、自ら死を望むほど心を閉ざしている姿は痛々しい。
だからこそ、この状態のコレットが後の漫画版の姿へどのように繋がっていくのか興味を惹かれながら読み進めることができた。
また、エルファリアの意外な一面も印象的だった。
天才魔導士として周囲から畏敬される存在でありながら、ウィルに会えないことを不満に思い、塔の最上階で駄々をこねる姿には思わず微笑んでしまった。
普段の完璧なイメージとのギャップもあり、より人間らしい魅力が感じられたように思う。
本作で特に心に残ったのは、ウィルとコレットの関係性である。
魔法が使えず、幼馴染とも離れ離れになったウィルは学院で孤独な日々を送っている。一方のコレットもまた、自らの宿命によって周囲との距離を作り続けていた。
そんな二人がダンジョン探索をきっかけに少しずつ距離を縮めていく姿は非常に印象深かった。
読んでいて感じたのは、この物語は単なるバトルファンタジーではなく、孤独を抱えた者同士が支え合う物語でもあるということである。
誰よりも傷ついているからこそ相手の痛みに気づける。ウィルがコレットを放っておけなかった理由も、そのあたりにあるように感じた。
そして終盤の戦いは圧巻だった。
コレットの魔力暴走によって生まれた「大地の卵」を前に、周囲が破壊を選択しようとする中、ウィルだけは彼女を救うことを諦めない。
命がけでコレットのもとへ向かう姿には思わず胸を熱くさせられた。
個人的に最も印象に残ったのは、ウィルがコレットの本心に辿り着く場面である。
周囲には「死にたい」と語り続けていた彼女だったが、その奥には「本当は生きたい」という願いが隠されていた。
そして誰かに笑っていてほしいという小さな願いを、ウィルが真正面から受け止める。
この場面は本作のテーマそのものを象徴しているように感じた。
強大な巨兵との戦いも見応えがあったが、それ以上にコレットが自分の本音を認めるまでの過程が心に残った。
託された魔法を魔剣へと変え、巨兵を打ち破る展開には大きなカタルシスがあった。
そして何より嬉しかったのは、過酷な宿命から解放されたコレットが、ウィルと「本当の友達」になる結末である。
物語の始まりでは孤独だった二人が、お互いを支え合える存在になっていく姿には大きな安堵を覚えた。
読んでいて感じたのは、本作の魅力は派手な戦闘だけではなく、傷ついた少年少女が少しずつ居場所を見つけていく過程にあるということである。
ウィルとコレットの関係性を中心に描かれる物語は非常に温かく、読後には爽やかな余韻が残った。
漫画版を読んでいる人ほど、新たな発見を楽しめる一冊だと思う。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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杖と剣のウィストリア 1 グリモ アクタ
杖と剣のウィストリア グリモ アクタ まとめ
考察・解説
魔法学院の日常
リガーデン魔法学院の日常は、魔法の才能と単位取得が絶対的な価値基準となる過酷な実力主義の側面と、思春期の少年少女らしい学生生活の側面が混在している。
授業と単位取得
学院での生活は、進級や魔法使いの塔へ上るために必須となる単位の取得を中心に回っている。
- 授業は多岐にわたり、魔源学史のような座学では水晶甕を用いて魔力と香りの関係を示す香水の儀などの実演が行われる。
- 実技の授業では、土の兵士の攻撃を防ぐ障壁魔法の訓練などが行われ、生徒の練度や才能が試される。
- 魔法生物室で魔法考察書を提出するなどの課題も課される。
- 地下迷宮でのダンジョン実習も日常的に行われており、指定された階層でモンスターを討伐して魔素を回収することが求められる。時には複数クラス合同でパーティを組むことも許可されている。
生徒たちの生活と人間関係
生徒たちの間では、魔法の才能や家柄による明確な格差が存在する。
- 名家の出身で成績優秀な生徒のもとには人が集まり、塔の派閥制度を模倣した派閥が形成されている。
- 魔法が使えない無能者は、授業で失敗して嘲笑されたり、自尊心の高い貴族の生徒から日常的にいじめを受けたりと、激しい差別に晒されている。
- 生活環境は完全な全寮制であり、女子寮と男子寮に分かれた魔法学院寮で同室の生徒と生活を共にし、厳格な門限も存在する。
- 食事は主に広大な学院大食堂で提供され、非戦闘用のボール・ゴーレムが配膳を行うなど、魔法世界ならではの風景が広がっている。
まとめ
過酷な勉学の合間には学生らしい行事も用意されており、11月にはアゾの夜会と呼ばれる舞踏会が開催され、生徒たちは盛装してダンスを楽しむ。しかし、11月の終わりからは1年の節目である学期末試験が迫り、単位を落とせば進級や塔への道が絶たれるため、生徒たちは鬼気迫る猛勉強を行うことになる。一方で、魔導の央都で開催される豊穣祭や聖水祭といった街の祭典も、生徒たちにとって学院生活を彩る重要な息抜きとなっている。
土の姫君
「土の姫君」とは、没落した土魔法の名家であるロワール家の一人娘、コレット・ロワールの異名である。彼女は学院内で学年一の問題児とされており、その制御不能な力と騒動の多さから、畏怖と皮肉を込めて「破壊者」とも呼ばれている。
呪われた宿命と孤独
彼女は、一族の女性が代々「界の巨兵」の生贄として命を落とす「ロワールの禁呪」を背負っている。
- 自分に近づけば誰かを傷つけてしまうと考え、希望や未来を諦めている。
- 早く「死にたい」と願いながら心を閉ざし、他者を拒絶して孤独な学院生活を送っていた。
絶対的な守護と破壊の力
コレットに危機が迫ったり、強いストレスを受けたりすると、彼女の意思とは無関係に巨大な「岩の腕(アース・ゴーレム)」が自動防衛として出現する。
- この腕は「界の巨兵」の一部であり、彼女を過保護に守る。
- 一方で、周囲の生徒やダンジョンの魔物、さらには教師の魔法でさえも無差別に蹂躙し破壊する絶望的な力を持っている。
ウィルとの交流と変化
魔法学院の教師ワークナーの命により、魔法が使えない少年ウィルはコレットの監視役として「友達になること」を命じられる。
- 最初はウィルを無視し、「一緒に死んでくれるなら友達になってあげる」と絶望をぶつけた。
- しかし、どれだけ傷ついても自分を独りにさせまいと何度も立ち向かってくるウィルに、次第に心を動かされていく。
まとめ
物語の終盤、桁外れの魔力を持つコレットはわずか10歳にして魔力が溢れ、「大地の卵」として界の巨兵に取り込まれてしまう。絶体絶命の状況下で、コレットは「もう誰も壊したくない、誰かに笑っていてほしい」という本音を吐露し、ウィルによってそれが「死にたい」ではなく「生きたい」という願いであると言い当てられる。ウィルがコレットの父の作った「封血のブレスレット」を彼女の腕に嵌めたことで、彼女は過酷な生贄の運命から解放された。そしてついに「土の姫君」ではなく普通の女の子として、ウィルと「本当の友達」になることができたのである。
ウィルの劣等感
本作において、主人公ウィルが抱える「劣等感」は、彼が魔法至上主義の世界で一切魔法を使えない「無能者」であるという事実に根ざしており、物語の様々な場面で彼を苛む感情として描かれている。
無能者としての無力感と他者との比較
ウィルは魔法学院で激しい差別やいじめを受けており、才能ある魔導士たちとの圧倒的な力の差を見せつけられるたびに、強い劣等感と無力感に苛まれている。
- イグノールとの遭遇:ダンジョンで魔物に襲われ恐怖で動けなくなっていたウィルは、エルフの留学生イグノールに圧倒的な魔法で救われる。ウィルは、彼が自分自身の弱さを呪いながら「塔」を目指していることを知り、「すごいエルフだって頑張っているのに、魔法を使えない僕は…」と、どうしようもない劣等感に打ちのめされる。
- コレットの才能:コレットが実技の授業で無詠唱の強大な土魔法を発動した際、ウィルはその才能の化身のような魔法に驚愕し、自分には真似できないという残酷な現実を突きつけられる。
- エルファリアとの隔絶:エルファリアが正式に「氷姫の杖」として至高の五杖に叙任された際、彼女は遥か高みの別世界の住人となってしまう。他の生徒たちが才能の壁に絶望する中、ウィルもまた、自分は下にいて彼女は上にいるというどうしようもない隔絶を感じ、切なさと劣等感を抱きながら塔を見上げることしかできなかった。
まとめ
常に劣等感や後ろめたさを抱えているウィルであるが、彼は決して諦めることなく、他者のためにその感情を振り払う強さを持っている。恩師であるワークナーから、誰よりも努力し「決して諦めないこと」を実践していると称賛され誕生日プレゼントを渡された際、ウィルは自らのみっともない劣等感を振り払って、素直にその言葉と贈り物を受け取った。また、暴走した「大地の卵」に取り込まれたコレットを救出に向かう際、シオンから「お前は自分のことも救ってやれないくせに! 自分と似た『独りぼっち』のコレットを助けてやりたいだけだ」と痛烈な指摘を受ける。しかしウィルは、自分にはエルファリアがいたから温もりを知っているが、コレットは今も独りぼっちであることに気づき、「彼女をもう独りにさせない」という本当の願いを見出す。自らの弱さや劣等感を乗り越え、誰かを救うために絶望的な恐怖に立ち向かっていく姿が、ウィルの最大の強さとなっている。
記憶障害と心傷
本作における「記憶障害」と「心傷(トラウマ)」は、主人公ウィルが強大な敵と戦った際に支払った代償とその後遺症であり、彼の抱える深刻な問題として描かれている。
記憶障害(力を行使した代償)
ウィルは、内に秘めた異端の「剣」の力を行使する際、その代償として記憶を失ってしまう。
- かつてエルファリアを護るために「天上の侵略者」と戦った際にも重度の記憶障害を負っており、その時の出来事を自分では覚えていない。この記憶障害により、以前コレットに対して「誰だっけ」と発言してしまったことも忘れており、彼女から「私のことを覚えていなかった」と反感を買う原因となってしまった。
- 力を使うと記憶の欠損とともに髪が白くなる(白髪化)ため、コルドロン校長が定期的に白髪を抜きながら記憶の欠損を確認し、補完する処置を行っている。
- 大地の卵の内部で「地母妃の守護巨兵」と戦った際も、無意識の領域で剣の力を使用したためその死闘を記憶できず、事後には至高の五杖の砲撃から逃れた衝撃で記憶が飛んだと説明されて納得している。
心傷(トラウマ)と魔物への恐怖
ウィルは記憶障害によって「天上の侵略者」と戦った記憶を失っているが、肉体や本能には、遥かに強く恐ろしい怪物と交戦した恐怖が強烈な「心傷(トラウマ)」として刻み込まれてしまっている。
- この後遺症により、ダンジョンでモンスターと対峙すると、無意識のうちに侵略者の影を重ねてしまう。
- その結果、体が震えて戦えなくなってしまうという深刻な不調に陥っていた。
まとめ
恩師のワークナーは、この心傷は簡単には解決できず、真に乗り越えるにはウィル自身の超克が必要だと考えている。ウィルは、魔物に対する根源的な恐怖と闘うため、エルファリアから贈られた「約束のゴーグル」を身につける。ゴーグルを装着して視界を鮮明にし、大切な彼女の声を思い浮かべることで、心傷による震えを抑え込み、自らを奮い立たせて絶望的な戦いに飛び込んでいくのである。
約束のゴーグル
本作において「約束のゴーグル」は、幼馴染の天才魔導士エルファリアから主人公ウィルに贈られた大切なアイテムであり、彼が過酷な運命や根源的な恐怖に立ち向かうための「勇気」の源となる重要な装身具として描かれている。
暗闇を見通す機能
魔法が使えないウィルは、ダンジョンの暗闇を照らす共通魔法を使えず、楽園の住人のように闇目も利かない。しかし、このゴーグルを装着することで以下のような効果が得られる。
- 暗闇が消える
- 迷宮内の景色を鮮明に見渡せるようになる
物理的な視界を確保するためにも、ダンジョン探索において欠かせないアイテムである。
心傷(トラウマ)の超克
ウィルは「天上の侵略者」と交戦した恐怖がトラウマとして肉体に深く刻み込まれており、モンスターを前にするとその影を重ねてしまい、体が震えて戦えなくなるという深刻な不調を抱えていた。恩師ワークナーは、この心傷を乗り越えるためにゴーグルの使用を勧めている。ウィルは、魔物への根源的な恐怖と闘う際、このゴーグルを身につける。ゴーグルを通して視界をクリアにし、大切なエルファリアの声を思い浮かべることで以下の行動が可能になった。
- トラウマによる震えを抑え込み、勇気を奮い起こす
- 強大な特異種「アッシュ・ストーカー」を撃破する
- 絶望的な破壊力を持つ「大地の卵」へ命がけで突撃する
まとめ
エルファリアが次期「至高の五杖」として「塔」へ連れ去られ、手の届かない別世界の住人となってしまった後も、ウィルはこのゴーグルをお守りのように腰に下げて大切にしている。圧倒的な才能の壁を見せつけられ、強い劣等感や切なさに打ちのめされそうになった時、彼はゴーグルを胸に強く抱きしめ、彼女と交わした「一緒に夕日を見る」という約束を果たすための心の支えとしている。物語の終盤、死闘の末にボロボロになりながらコレットを背負って生還した際も、彼はゴーグルを身につけたままであった。
ロワールの禁呪
「ロワールの禁呪」とは、かつて魔法世界を護るために編み出された強大な決戦術式でありながら、時を経て一族の女性を犠牲にし続ける過酷な「呪い」へと変質してしまった悲劇の魔法である。本作のヒロインであるコレット・ロワールの過酷な宿命の根幹を成している。
起源と本来の目的
およそ500年前、世界が「天上の侵略者」の脅威に晒されていた時代に、「大いなる始祖」と呼ばれる始祖ロワールが「希望あれ」という言葉と共に唱えた決戦術式「地母妃の界呪生誕(グランティーネ・アルスマグナ)」が始まりである。
- 始祖ロワールは自らを犠牲にして強大な「界の巨兵」を生み出し、多くの侵略者を討って魔法世界を救った。
- しかし、その発動済みの術式は彼女の血筋に連綿と刻み込まれることとなった。
厄災への変質と地の生贄
平和な時代が訪れ、侵略者の脅威が一時的に去った現在、この魔法は世界を護る守護から一族を食い殺す「厄災」へと変質してしまった。
- ロワール家は女児しか生まれない特異血統(スペル・ブラッド)である。
- 一族の女性は代々「界の巨兵」の核となる「地の生贄」として世界に取り込まれ、寿命を迎える前に命を落とすという呪われた宿命を背負うこととなった。
- コレットの母コルネリアや祖母たちも、この巨兵に取り込まれて犠牲となっている。
黒涙花の術式と破壊の惨劇
界の巨兵は、生贄の魔力が満ちて「器」として完成した時に現れ、対象を取り込もうとする。これを防ぐため、ロワール家に婿入りした歴代の魔導士たちは、魔力の成長を香りで誤魔化し、巨兵から対象を隠す「黒涙花の術式」という延命策を編み出した。しかし、生贄を求める巨兵の力は凄まじく、5年前にはコレットの母を護るためにダンジョンに匿ったにもかかわらず巨兵が現れ、付近のカレームという村を一夜にして消滅させる「破壊の惨劇」を引き起こしている。
まとめ
コレットは歴代の地の生贄の中でも桁外れの才能(魔力)を持っていたため、わずか10歳にして魔力が溢れ、黒涙花の香りでも隠しきれなくなり、「大地の卵」として界の巨兵に取り込まれそうになる。しかし、父テラノスが完成させた魔道具「封血のブレスレット」と、魔法を使えない代わりに外部の魔力を貪欲に溜め込むことができるウィルの特性を組み合わせることで、コレットの魔力をウィルへと逃がし続けることに成功した。これにより、コレットは生贄の器として完成することを免れ、長きにわたる呪いの因縁から解放されることとなった。
ウィルとコレットの絆
本作において、主人公ウィルと「土の姫君」コレットの絆は、魔法至上主義の世界で孤立する「独りぼっち」の二人が、過酷な運命を前に互いの本心と向き合い、「本当の友達」になるまでの軌跡として描かれている。
打算から始まった関係
二人の交流は最初、恩師ワークナーからの「友達になれ」という唐突な命令から始まった。
- 魔法が使えないウィルがダンジョンで戦うための武器をコレットの「秘伝魔法」で調達しつつ、制御不能な力を持つコレットの暴走時の抑止力としてウィルを側に置くという、大人たちの「一挙両得」の思惑が発端であった。
- コレットは一族の呪いによって「自分に近づけば誰かを傷つけてしまう」と考え、自ら死を望み心を閉ざしていた。
- そのため、最初はウィルを完全に無視し、以前ウィルに(記憶障害の影響で)「誰だっけ」と言われた反感もあって激しく拒絶していた。
命懸けの守護と心の変化
それでもウィルは諦めず、彼女がダンジョンで死のうとしているのを放っておけずに行動を共にする。
- トラウマによる魔物への恐怖に震えながらも、彼女を死なせまいと命懸けで魔物(アッシュ・ストーカー)に立ち向かうウィルの姿を見て、コレットは少しずつ心を動かされていく。
- アゾの夜会(舞踏会)で共に踊ったことなどを経て、彼女は次第にウィルの隣にいることを許すようになる。
「独りぼっち」への共鳴と決意
コレットの魔力が暴走し「大地の卵」が出現した際、ウィルはシオンから「お前は自分と同じ『独りぼっち』のコレットを助けたいだけだ」と痛烈な指摘を受ける。
- その言葉によってウィルは自分の本心に気付く。
- 自分にはエルファリアがいたから温もりを知る「二人ぼっち」だったのに対し、コレットは今も冷たい闇の中で真の「独りぼっち」であると悟る。
- 彼女をもう独りにさせないと固く決意して絶望的な死地へと飛び込んでいく。
まとめ
「大地の卵」の内部で、コレットは「自分がいると誰かを壊してしまうから、みんなに笑っていてほしいから死にたい」と涙ながらに絶望を吐露する。しかしウィルは、それが誰かに笑っていてほしい、喜んでもらいたいという『生きたい』願いの裏返しであると彼女の本当の心を見事に言い当てた。この言葉で生きる希望を取り戻したコレットは、生贄の運命に自ら抗ってウィルに「土姫の魔剣」を託し、二人の力で界の巨兵を粉砕する。すべてが終わった後、医務室で目覚めたコレットは涙を流しながら、自らの意志で「私と『友達』になってくれますか」とウィルに問いかけた。ウィルが満面の笑みで「もちろん」と応えたことで、打算や命令から始まった二人の関係は、互いを心から想い合う「本当の友達」へと結実したのである。
封血のブレスレット
本作において「封血のブレスレット」は、コレット・ロワールが背負う「界の巨兵」の生贄となる呪いを打破し、彼女を過酷な宿命から救い出した決定的なキーアイテムである。
開発の経緯と「封魔のブレスレット」
この魔道具の原型は、コレットの父であるテラノス・ロワールが、娘を救うために長年開発を進めていた「封魔のブレスレット」である。
- 本来は、成長し続けるコレットの魔力を完全に封印し、界の巨兵の核となることを食い止めるためのものであった。
- しかし、その計画の実現は困難を極めていた。
ウィルの特性を利用した方向転換
事態が好転したのは、コルドロン校長の打診によるものであった。
- 彼女は魔力を「封印」するのではなく、「外に逃がし続ける」という新たな方向性を提示した。
- その受け皿として選ばれたのがウィルであった。
- ウィルは肉体がどれほど悲鳴を上げようとも、外部からの魔力を貪欲に喰らい尽くして貯蔵するという「魔剣」の特性を持っており、彼がコレットの魔力を受け止め続けることで、半永久的に生贄を回避できると考えられたのである。
ウィルの血を媒介とした「真紅の石」
ブレスレットを媒介としてコレットからウィルへ一方通行の魔力送信を行うため、装置の内部にはウィルの血液から作り出された「真紅の石(血の結晶)」が組み込まれている。
- 少年の血を封じ込めたことで、この魔道具は「封魔」から「封血のブレスレット」へと生まれ変わった。
- テラノスは自身の体を削り、己の臓器の一部を生体術式に変えてまで研究に没頭し、半年以上の歳月をかけてこれを完成させた。
まとめ
コレットの魔力が溢れ「大地の卵」として界の巨兵に取り込まれた絶体絶命の死地において、テラノスからウィルへとこのブレスレットが託される。ウィルがこれをコレットの右手首に嵌めたことで、コレットの魔力はウィルへと送られ続ける理想的な状態となった。これにより、界の巨兵に「生贄の器として至っていない」と誤認させることに成功し、コレットは一族を縛り続けてきた禁呪の因縁からついに解放されることになったのである。
生贄の宿命と救済
本作において「生贄の宿命と救済」は、ヒロインであるコレット・ロワールが背負う過酷な呪いと、主人公ウィルや父テラノスの命がけの行動によってそこから解放されるまでの、物語の核心をなす重要なテーマとして描かれている。
「地の生贄」としての過酷な宿命
コレットの生家であるロワール家は、女児しか生まれない特異血統(スペル・ブラッド)であり、一族の女性は代々「界の巨兵」の核となる「地の生贄」として世界に取り込まれ、寿命を迎える前に命を落とすという呪われた宿命を背負っている。
- かつて世界を護るために編み出された決戦術式「地母妃の界呪生誕(グランティーネ・アルスマグナ)」は、平和な時代において一族を食い殺す「厄災」へと変質してしまっていた。
- コレットは歴代の地の生贄の中でも桁外れの魔力を持っていたため、その成長を「黒涙花の術式」の香りで誤魔化すことも限界を迎えた。
- わずか10歳にして魔力が溢れ、「大地の卵」として界の巨兵に取り込まれてしまう。
救済への決死の突入
事態を重く見た魔法使いの塔が「大地の卵」の破壊を決断する中、ウィルはコレットを救い出すために絶望的な死地へと飛び込む。
- コレットの父であるテラノスは、自身の体を削ってまで完成させた魔道具「封血のブレスレット」をウィルに託し、娘の未来を彼に委ねた。
- 魔法が使えないウィルは、周囲の反対や自身のトラウマによる恐怖を乗り越え、「コレットをもう独りにさせない」という強い想いだけで卵の内部へと突入していく。
本心の吐露と呪いからの解放
大地の卵の内部で、界の巨兵に取り込まれたコレットは「自分がいると誰かを壊してしまうから、みんなに笑っていてほしいから死にたい」と涙ながらに絶望を吐露する。
- しかしウィルは、それが誰かに笑っていてほしい、喜んでもらいたいという「生きたい」願いの裏返しであると彼女の本当の心を言い当てる。
- 生きる希望を取り戻したコレットの想いを受け止め、ウィルはテラノスから託された「封血のブレスレット」を彼女の腕に嵌める。
- この魔道具によってコレットの膨大な魔力がウィルへと送られ続けることで、界の巨兵に生贄の器として至っていないと誤認させることに成功し、コレットは一族を縛り続けてきた禁呪の因縁からついに解放された。
まとめ
過酷な宿命から解放された後、コレットは始祖ロワールの禁呪について考え直す。古代の過酷な時代において、生贄として一族を縛る呪いは、同時に絶対に死なせないという守護者の誓いであり、一日でも長く生きて希望を見出してほしいという始祖ロワールの祈りだったのではないかと思い至ったのである。死を望んでいた「土の姫君」は、呪いの宿命を乗り越え、右手首にウィルとの絆を示すブレスレットを嵌めた「普通の女の子」として、ウィルと本当の友達になり新たな一歩を踏み出した。
杖と剣のウィストリア 1 グリモ アクタ
杖と剣のウィストリア グリモ アクタ まとめ
登場キャラクター
リガーデン魔法学院
ウィル・セルフォルト
魔法至上主義の世界で魔法が使えない無能者の少年である。エルファリアと幼馴染であり、彼女と夕日を見る約束を交わしている。剣を扱う能力と高い身体能力を秘めている。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
コレットとダンジョン実習へ向かい、アッシュ・ストーカーを撃破した。大地の卵の内部へ単身で突入し、地母妃の守護巨兵と戦闘を繰り広げる。コレットの腕に封血のブレスレットを嵌めて彼女を救出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔法が使えないため周囲からいじめを受けている。天上の侵略者と戦った代償として記憶を失う後遺症を抱える。
エルファリア・セルフォルト(エルファリア・アルヴィス・セルフォルト)
ウィルの幼馴染である。ウィルに深い愛情を抱き、彼を過保護に守ろうとする。ウィルと離れ離れになることを恐れる寂しがり屋な一面を持つ。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。のちに魔法使いの塔へ所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
分身魔法である白の芸術を独自に創出した。ダンジョンでウィルと共に天上の侵略者との戦いを経験する。キャリオットと戦闘し、大地の卵の破壊を遅らせるために五分間の時間を稼いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
入学直後から高い魔法の才能を示し、次期至高の五杖候補として塔へ連れ去られる。
コルドロン・アヌーブ
学院の最高責任者であり、老齢の魔女である。飄々とした態度をとるが、生徒の資質を正確に見抜く。世界の動向を裏から導く役割を担っている。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の校長。
・物語内での具体的な行動や成果
魔法が使えないウィルの在学を特例で認めた。テラノスと密約を結び、ウィルの血から真紅の石を作って封血のブレスレットの開発を支援する。大地の卵の事件では、南側から生徒達を守るために砲撃を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件の責任を一人で被り、処分が見送られて校長職に留まった。
ワークナー・ノーグラム
厳格だが生徒想いの教師である。ウィルの努力を認め、彼を影から見守り支援する。ウィルのよき理解者となっている。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の教師。風魔法と魔法生物を担当する。
・物語内での具体的な行動や成果
ウィルにコレットと友達になるよう命じた。大地の卵の事件では、エドワルドと共に魔法を放ちキャリオットの砲撃を防ぐ。ウィルがコレットを救出する時間を稼いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
休暇中の教師に代わり水属性の授業を臨時で担当した。ウィルへ誕生日プレゼントを贈っている。
エドワルド・セルフェンス
冷酷で威圧的な態度をとる教師である。魔法を使えない者が塔を目指すことを強く否定している。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の教師。闇魔法と魔源学史を担当する。
・物語内での具体的な行動や成果
授業でウィルを公然と辱めた。大地の卵の事件では、ワークナーの説得に応じる。闇魔法でキャリオットの砲撃を押しとどめることに協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
生徒から恐れられている。ウィルには別の進路を勧めている。
エヴァン・ガロード
教師として振る舞うが、他者の才能にしか興味を持たない。エルファリアの才能を自らの功績とするため暗躍する。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の教師。極秘魔導士の集団である発掘機関の構成員。
・物語内での具体的な行動や成果
エルファリアを学院に誘い出すため、ウィルに推薦状を送った。実技試験でエルファリアの才能を暴き、彼女を塔へ連行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
正体を現した首無しの邪悪に殺害される。
フェルディ・ブロックス
土魔法を担当する教師である。コレットの監視や対応に苦労している。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の教師。土と風のクラスを担当する。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョン実習の引率を行った。コレットの暴走時に障壁魔法で生徒を守ろうとする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ウィルを土のクラスへ特例として編入させた。
ブルーノ・マルカス
水魔法を担当する教師である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
妻の出産と育児のために休暇を取っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の代わりにワークナーが臨時で水のクラスを担当した。
シオン・アルスター
名家アルスター家の長男である。プライドが高く、平民であるウィルを見下している。ウィルに対して強い執着を抱いている。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。炎のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
ウィルを日常的にいじめていた。大地の卵の事件の際、危険を顧みずウィルの後を追う。ウィルに自分の本心を気付かせるきっかけを与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
炎属性の魔導士である。
ユリウス・レインバーグ
優秀な家庭教師のもとで魔法を学んだエリートである。自信家であり、他人を見下す傾向がある。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。水のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
ワークナーを試すために魔法を放ったが防がれた。エルファリアに同志になるよう誘ったが拒絶される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
氷魔法を扱うことができる。
コレット・ロワール
没落した土魔法の名家であるロワール家の一人娘である。呪われた宿命を背負い、心を閉ざして自ら死を望んでいる。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。土のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
魔力が暴走し大地の卵として界の巨兵に取り込まれた。絶望的な状況下で生きたいという本心を吐露する。ウィルに土姫の魔剣を託した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一族の女性が代々生贄となる禁呪を背負っていた。ウィルによって呪いから解放され、彼と本当の友達になる。
パーム・スノック
学院の生徒である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
エドワルドの授業中に疑問を呟き、名前を言い当てられた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
ルナイス・アレート
学院の生徒である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。水のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
攻撃魔法の練習中に力みすぎているとワークナーから注意を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
リリール・マース
シオンの友人であり、彼に従う生徒である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンで暗闇に苦しむウィルを嘲笑した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
ゴードン・バレー
シオンの友人であり、彼に従う生徒である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンで暗闇に苦しむウィルを嘲笑した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
ロイ
学院の生徒である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョン実習中に魔物に襲われて混乱した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
リアーナ・オーウェンザウス
成績優秀な生徒である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。雷のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
物語内で直接的な行動は描かれていない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
学年首席を争う有望な生徒と評価されている。
メアリー・ロー
名家ローの一族で、成績優秀な生徒である。高慢で自尊心が高い。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。炎のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンでコレットへ仕返しを企て、モンスターの襲撃を装って彼女を追い詰める。結果としてコレットの暴走を招いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
学年首席を争う有望な生徒と評価されている。騒動を起こしたことで重い罰が下る見込みとなった。
イグノール・リンドール
エルフの留学生である。端正な容姿を持ちながらも、自身への怒りや劣等感を抱いている。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンでシャドウ・ウルフに襲われていたウィルを強力な風魔法で救った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
他の生徒より年上に見え、破格の魔力を持つ。
ロゼ・プレナイト
コレットの同室の女生徒である。飄々としているが面倒見が良く、優秀な魔導士の卵となっている。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の1年生。土のクラスに所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
ウィルにコレットの情報を教え、アゾの夜会に二人を参加させるために暗躍した。ダンジョンで暴走した岩の巨腕から魔法でシオンたちを守る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
祖父がロワール家の応援者であり、自身もロワール家に連なる遠縁にあたる。
エレン
雷のクラスを担当する教師である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の教師。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンで岩の巨腕が暴走した際、ワークナーやフェルディと共に駆けつけて事態の収拾を図った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
岩の巨腕の攻撃を受けて障壁ごと吹き飛ばされた。
魔法使いの塔
アロン・マステリアス・オールドキング(マステリアス・ノア)
魔法世界で最強の杖とされる存在である。
・所属組織、地位や役職
至高の五杖。光皇の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
エルファリアの才能を審議し、彼女を次期至高の五杖として正式に認めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
至高の五杖の長である。土の姫君事件後、コルドロンの罷免を防ぐ一声を発した。
ゼオ・トルゼウス・ラインボルト
粗暴な口調と態度を持つ魔導士である。弱者を見下す一方で這い上がろうとする者に興味を示す。
・所属組織、地位や役職
至高の五杖。雷公の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
塔の制止を振り払い、雷の派閥を率いてダンジョン遠征へ出発した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
杖ではなく剣を所持している異端の魔導士である。
キャリオット・インスティア・ワイズマン
常に笑みを絶やさない魔導士である。無慈悲な判断力を持つ。
・所属組織、地位や役職
至高の五杖。炎帝の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
大地の卵の破壊を決定し、自ら執行者となって殲滅魔法を放った。エルファリアの妨害を退ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
最強の炎を操る。エヴァンを嫌っている。
ユルヴァール・アルヴィス・リュグロー
氷の派閥を束ねていた魔導士である。
・所属組織、地位や役職
至高の五杖。先代の氷姫の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
物語の途中で老衰により崩御した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の死により大結界の力が一時的に弱まった。
エルノール・エルリーフ・アールヴ(エルリーフ・カナン)
妖精たちで構成される妖聖の派閥を率いる魔導士である。
・所属組織、地位や役職
至高の五杖。妖聖の杖。
・物語内での具体的な行動や成果
円卓の間で大地の卵の対応を議論した際、エルファリアの覚悟を受け取って黙認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エルフの王女である。
サリサ・アルフェルト
冷静で隙のない態度をとる魔導士である。冷鉄の女と呼ばれる。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の上級魔導士。氷の派閥に所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
塔で暴れるエルファリアを必死になだめた。大地の卵の事件後も塔の政治的調整に苦慮する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
次期至高の五杖候補とされていた。
ログウェル
両目を布で隠している魔導士である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の上級魔導士。キャリオットの副官。
・物語内での具体的な行動や成果
炎の派閥に対し、大地の卵への攻撃からの撤退準備を伝令した。円卓の間で戦況を報告する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
コルドロンと同窓である。
ギル
ゼオに従う魔導士である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の魔導士。
・物語内での具体的な行動や成果
塔の門の前でウィルを怒鳴りつけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
ロッジ・ホランド
炎の派閥に所属する魔導士である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の上級魔導士。炎の派閥に所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
大地の卵への攻撃に参加し、撤退命令に苛立ちを示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
ドラゴス・ノウル
炎の派閥に所属する魔導士である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の上級魔導士。炎の派閥に所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
大地の卵に対して炎の魔法を放った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
エルトリアス・ガーデルシンク
炎の派閥に所属する魔導士である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の上級魔導士。炎の派閥に所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
大地の卵に対して炎の魔法を放った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
カルヴァンテ・クルーゲル
風の派閥に所属する魔導士である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の上級魔導士。風の派閥に所属する。
・物語内での具体的な行動や成果
大地の卵に対して魔法を放った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
セルフォルト孤児院
アシュレイ・セルフォルト
ウィルとエルファリアを育てた養父である。穏やかで心優しい性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
セルフォルト孤児院の運営者。元魔導士であり医療師。
・物語内での具体的な行動や成果
記憶を失ったウィルに暗示魔法をかけて記憶を補完した。エルファリアに魔法学院へ行く選択肢を提示する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ウィルに力を隠すよう約束させていた。
ロワール家
テラノス・ロワール(テラノス・フェルノック)
没落したロワール家の現当主である。娘を救うための研究に身を滅ぼし、狂気じみた執念を見せる。
・所属組織、地位や役職
ロワール家当主。土魔法の研究者。
・物語内での具体的な行動や成果
自身の臓器を削って封血のブレスレットを完成させ、ウィルに託した。鋼の魔法でウィルの突撃を援護する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
事件後は娘と向き合う決意を固めた。
コルネリア・ロワール
コレットの母親である。娘を過保護に愛していた。
・所属組織、地位や役職
ロワール家。先代の地の生贄。
・物語内での具体的な行動や成果
界の巨兵に取り込まれ、その核となった。大地の卵の内部で亡霊として現れ、ウィルを排除しようとする。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
5年前に破壊の惨劇を引き起こして死亡した。
その他・歴史上の人物
メルセデス・カウリス
かつて魔法世界を救ったとされる伝説的な存在である。
・所属組織、地位や役職
魔法世界の始祖。魔女王。
・物語内での具体的な行動や成果
過去に天上の侵略者を押し返し、大結界を構築した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼女の名を冠する魔道具や魔法が存在する。
始祖ロワール
ロワール家の最古の祖先である。決戦術式を生み出し魔法世界を救った。
・所属組織、地位や役職
魔法世界の防衛を担った魔導士。大いなる始祖。
・物語内での具体的な行動や成果
自らを犠牲にして地母妃の界呪生誕を発動する。多くの天上の侵略者を討った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
その術式が血筋に刻まれ、後世に地の生贄の呪いを残すことになった。
上創のルハ
十賢人の一人である。現在の魔法世界創造に大きく関わった存在となっている。
・所属組織、地位や役職
偉大なる十賢人の一人。土創のルハ。
・物語内での具体的な行動や成果
魔法世界の創造の一端を担った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ロワール家は彼の傍系にあたる。
集団・組織
楽園の住人
魔法世界の一般的な種族である。魔法を操り、生活を営んでいる。
・所属組織、地位や役職
魔法世界に住む種族。
・物語内での具体的な行動や成果
共通魔法を使い、魔法世界での営みを送る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
暗闇を見通す闇目などの特性を持つ。
土の民
魔法が使えない種族である。
・所属組織、地位や役職
魔法世界に住む種族。ドワーフとも呼ばれる。
・物語内での具体的な行動や成果
独自の技術で生活し、武器の製造などを行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
魔法使いの塔に上ることはできない。
妖精
魔法世界に住む種族である。長寿であり、独自の魔法を持つ。
・所属組織、地位や役職
魔法世界に住む種族。エルフなど。
・物語内での具体的な行動や成果
闇を見通す魔法などを使用する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
楽園の住人よりも優れた魔法種族とされる。
天上の侵略者
魔法世界を脅かす最凶の敵対存在である。知性や感情を超えた加虐心を持つ。
・所属組織、地位や役職
大結界の外から来る厄災。
・物語内での具体的な行動や成果
過去に世界を滅亡寸前まで追い詰めた。ダンジョンに召喚された個体は上位魔導士たちを惨殺する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ウィルとの死闘の末に討伐された。
首無しの邪悪
エヴァンを殺害し、彼に成り代わっていた存在である。
・所属組織、地位や役職
正体不明の敵対者。
・物語内での具体的な行動や成果
エルファリア暗殺や天上の侵略者の召喚を裏で手引きした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
発声器官を持たず、魔力で文字を描いて意思表示をする。
発掘機関
才能ある人材を見つけ出し、塔へ導く役割を担う集団である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の極秘組織。ウォッチャー。
・物語内での具体的な行動や成果
エヴァンがこの機関の構成員として活動していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
至高の五杖
魔法世界で最も偉大な五人の魔導士の総称である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の最高位。マギア・ヴェンデ。
・物語内での具体的な行動や成果
空に大結界を張り、天上の侵略者から世界を守っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
光、炎、雷、氷、妖聖の代表者で構成される。
氷の派閥
氷魔法の魔導士の集団である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の派閥。
・物語内での具体的な行動や成果
エルファリアを次期氷姫の杖として迎え入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ユルヴァールやサリサなどが所属している。
炎の派閥
炎魔法の魔導士の集団である。火力に優れる。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の派閥。
・物語内での具体的な行動や成果
キャリオットの指示で大地の卵へ無制限の砲火を浴びせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
雷の派閥
雷魔法の魔導士の集団である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の派閥。
・物語内での具体的な行動や成果
ゼオに率いられてダンジョン遠征へ出発した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
風の派閥
風魔法の魔導士の集団である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の派閥。
・物語内での具体的な行動や成果
大地の卵の破壊作戦に参加し、岩の弾丸の迎撃を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
無色の派閥
魔法使いの塔の派閥の一つである。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の派閥。
・物語内での具体的な行動や成果
大地の卵の破壊作戦に支援として参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
妖聖の派閥
エルフだけで構成される魔導士の集団である。
・所属組織、地位や役職
魔法使いの塔の派閥。
・物語内での具体的な行動や成果
エルノールが率いている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
メアリーの派閥
メアリー・ローのもとに集まった生徒たちの集団である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の生徒の集まり。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョンでコレットへ仕返しを企てて暴行を加える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
岩の巨腕によって蹴散らされた。
迷宮門番
深界の門に常駐する警備隊である。
・所属組織、地位や役職
リガーデン魔法学院の警備隊。ゲートガード。
・物語内での具体的な行動や成果
生徒たちの実習届けを確認し、迷宮への出入りを管理している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特筆すべき事項はない。
杖と剣のウィストリア 1 グリモ アクタ
杖と剣のウィストリア グリモ アクタ まとめ
展開まとめ
Prologue 大地の宿命
希望あれ
血の一族に遺された始まりの言葉
全ては、始まりの一が遺した希望あれという言葉から始まっていた。血の一族はその言葉に従い、力を生じさせる一方で、屍と墓標を積み重ねていった。
血の運命は大地に還り、世界と融け合っていった。
喪失によって失われた光
少女は大切なものを失い、温かなものも消えてしまった。
喪失は胸に穴を空け、涙すら枯らした。その日から世界は灰色となり、少女の瞳は光を失っていた。
狂った背中と残された絶望
少女が縋りたかったものは壊れていた。
何もかもを捨て、代償を引きずり出そうとする狂った背中は、決して振り向かなかった。そのため少女には絶望と諦観だけが残り、小さな体を抱きしめてくれる存在はどこにもいなかった。
希望を呪いと捉える少女
少女は古びた本に記された希望あれという言葉に対し、希望ではなく呪いだと吐き捨てた。
全てを失い、全てが壊れた少女は、希望も夢も未来も見出せず、いつか訪れる破滅を受け入れるしかなかった。
黒い花と死を望む心
少女の心の奥底、悪夢の淵には、黒い泉のほとりに立つ少女の姿があった。
黒い花の甘く涼しい香りを嫌いながら、昏い瞳を持つ忌まわしき姫君である少女は、水面に映る自分を見つめていた。そして、死んでしまえという思いと、死にたいという願いを抱いていた。
一章 続・魔法学院の 日々
エルファリアとの別れ後の学院生活
新たな決意と変化した日常
エルファリアは塔へ上り、至高の五杖となったうえで、夕日を見に行くという約束をウィルと結び直して別れた。
寂しさを抱えながらも、ウィルは約束を果たすため必ずエルファリアのもとへ行くと決意し、学院生活へ戻った。しかし以前の日常とは異なる三つの変化が生じていた。
エドワルドの執拗な侮辱
授業中、ウィルはエドワルドによって魔力と香りの関係を示す実演に引き出された。
魔力を放出できないウィルが水晶甕に向かうと異臭が発生し、生徒達から嘲笑と非難を浴びた。エドワルドは無能者の香りは存在意義を問われるほどの異臭だと説明し、ウィルを公然と辱めた。
塔を目指す無能者を認めないエドワルドは、ウィルの意思を折り学院から追い出そうとしていた。ウィルは屈辱を感じながらも耐え続けた。
シオンによる執拗ないじめ
エルファリアがいなくなって以降、シオンはいっそう激しくウィルをいじめるようになった。
塔を見上げることやエルファリアとの関係を嘲笑し、何度も挑発を繰り返した。ウィルは怒りを覚えながらも、問題を起こせば周囲に迷惑がかかるため耐え続けた。
一方でシオンは他の生徒がウィルに危害を加えようとすると激しく制止し、自分以外の者がウィルをいじめることを許さなかった。そのため新たないじめっ子は現れず、シオン自身には次第に傷が増えていった。
ダンジョンで戦えなくなったウィル
ウィルにとって最も深刻だった変化は、ダンジョンで戦えなくなったことであった。
シャドウ・ウルフに襲われた際、武器を失っていたこと以上に、得体の知れない恐怖によって体が動かなくなっていた。狼の姿に侵略者の面影を重ねてしまい、戦意を失っていたのである。
窮地に陥ったウィルは、突如現れたエルフの留学生イグノール・リンドールに救われた。
イグノールとの遭遇
イグノールは強力な風魔法でシャドウ・ウルフを討伐し、ウィルを救った。
周囲の生徒達はウィルを無能者と蔑み、イグノールもまた無様だと告げた。しかし彼は愚かな自分を見ているようで見るに堪えないとも呟いていた。
その言葉から、ウィルはイグノールが自身に対しても強い怒りや劣等感を抱いていると感じ取った。そして塔を目指す彼に親近感を覚えた。
しかしウィル自身は成果を得られず、実習単位を取得できないままダンジョンを後にした。
ワークナーの叱責と支援
ダンジョンから戻ったウィルは、魔女の眼で行動を監視していたワークナーに呼び出され、危険な行動を厳しく叱責された。
ワークナーは武器もなく戦おうとした無謀さを責めながらも、ウィルを退学させるつもりはなく、卒業まで支える決意を固めていた。
そのうえで、ウィルが戦えなくなった原因を侵略者との戦いによる心傷だと推測した。そしてエルファリアから贈られたゴーグルを使うよう勧め、新たな武器の必要性も指摘した。
土の姫君コレットの暴走
その最中、土魔法教師フェルディが駆け込んできた。
土の姫君と呼ばれるコレット・ロワールが再び騒動を起こしたためである。ウィルはワークナー達とともに現場へ急行した。
そこには多数の生徒が倒れ、巨大な岩の腕に襲われる惨状が広がっていた。黒涙花の香りを纏うコレットは、その中心で無関心に立っていた。
フェルディの土魔法は岩の腕に無効化され、ワークナーの風魔法による拘束と攻撃で対処することになった。
ウィルによる生徒救出
教師達が岩の腕を抑え込む中、ウィルは危険を顧みず飛び出した。
岩の右手に捕らえられていた女生徒を力ずくで救出し、さらに倒れていた生徒達も安全な場所へ避難させた。
その後、ワークナーの魔法によって岩の両腕は破壊され、騒動は鎮圧された。しかし周囲の生徒達は教師達を称賛するばかりで、ウィルの行動に気付く者はほとんどいなかった。
ただしワークナー、フェルディ、そしてコレットだけは、ウィルの奮闘を見届けていた。
コレットはフェルディの制止を無視して立ち去り、校舎には暴れた岩の腕による大きな被害だけが残されていた。
土の姫君
コレットの暴走と土の守護者
コレットの騒動が収束した後、夜の学院大食堂でワークナー、フェルディ、ウィルは後始末について話し合った。
フェルディは、今回の件がコレットによる秘伝魔法の暴走としては八度目だと語った。コルドロンによれば、コレットの意思とは無関係に守護者が自動的に彼女を守っており、暴れていた土の腕は土魔法による守護者の一部であるらしかった。
ウィルは守護者について質問し、土魔法で生み出されるアース・ゴーレムと、魔道具であるマジック・ゴーレムの違いについて説明を受けた。
コレットの騒動の真相
運ばれてきた夜食を前に、ワークナーは騒動の経緯を語った。
生徒達の証言によれば、コレットはちょっかいを出された側であり、無視を続けていたものの、しつこく詰め寄られた結果として守護者が暴走したのであった。コルドロンはコレットを厳重注意したものの、加害者ではないとして処分は見送った。
さらにウィルが土の姫君という呼び名について尋ねると、フェルディはコレットのロワール家がかつて土魔法の名家であり、その血筋に由来する呼称だと説明した。しかし現在では騒動の多さから、破壊者という異名まで広まりつつあるとも語った。
コレットの危うい行動
フェルディはコレットが学年一の問題児であり、学院の外でも問題を起こしていると明かした。
特にダンジョンへ何度も単独で入り、危険な行動を繰り返しているという。校長の命令で監視役を付けていたほどであり、フェルディはその対応に苦労していた。
その話を聞いたウィルは、以前ダンジョンで出会ったコレットの姿を思い出し、死にかけているという言葉に強い不安を覚えた。
コレットの関心とワークナーの推測
フェルディは最近のコレットが奇行を控えていた理由として、ウィルを観察しているように見えたと語った。
ワークナーも同じ印象を抱いていた。かつてコレットはウィルに対し、苦しそうで自分と同じく死に魅了されている、自分も死にたいのかと問いかけていたのである。
その時の様子を思い返したワークナーは、コレットが唯一ウィルにだけ関心を示していると考えた。
友達になるという命令
フェルディが無能者という呼び方をした際、ワークナーはウィル・セルフォルトという名前で呼ぶよう厳しく訂正した。
その後しばらく考え込んだワークナーは、突然ウィルにコレットと友達になれと命じた。
さらに今後ダンジョン実習へ向かう際は、コレットとの同行を絶対条件にすると宣言した。
あまりに唐突な教師命令に、ウィルもフェルディも唖然とするしかなかった。
二章 あいつもこいつも 狙っていない、 あの子の隣
土の姫君との交流
土のクラスへの編入
ウィルはフェルディの説明により、複数属性者と同じ特例扱いとして土のクラスへ編入された。本来の魔法属性を探すためという名目であったが、フェルディ自身もその説明に自信を持てずにいた。
教室では無能者への反感や蔑みの声が飛び交ったが、ウィルはその中でコレットの姿を見つめていた。ワークナーの命令により、これからコレットと友達にならなければならなかったのである。
友達作戦の真意
前夜、ワークナーはコレットのロワール家に伝わる秘伝魔法について説明していた。
ロワール家の武装魔法は手甲や鎧、そして剣を生み出すことができるため、コレットの協力を得られればウィルは武器を手に入れられるという。また、ウィルがコレットの側にいれば、彼女の暴走時に被害を抑えられる可能性もあると考えていた。
フェルディはその提案を受け入れ、ウィルはコレットと交流を図る役目を担うことになった。
コレットへの接触
ウィルは自己紹介後、コレットへ話しかけた。しかしコレットは一瞥しただけで反応を示さなかった。
その様子に周囲の生徒達はざわめき、ウィルが土の姫君へ近付くことに驚きを見せた。それでもウィルは諦めず、授業や自習時間、忘れ物を届ける時など、様々な機会に声を掛け続けた。
しかしコレットは一切返事をせず、ウィルの試みはことごとく空振りに終わった。
実技授業での対照的な実力差
土のクラスでの実技授業は障壁魔法の訓練だった。
魔法を使えないウィルは障壁を展開できず、土の兵士の攻撃を頭突きで受け止めたり殴り飛ばされたりして失敗を重ねた。一方でコレットは巨大な土塊を瞬時に生み出し、障壁魔法だけで土の兵士を粉砕した。
その圧倒的な魔力と才能に、ウィルはエルファリアと比較しながらも驚愕した。また、魔法とともに漂う黒涙花の香りにも気付いていた。
称賛しても届かない想い
ウィルはコレットの才能を素直に称賛し、すごい魔導士になれると声を掛けた。
しかしコレットは何の反応も示さなかった。ウィルは接点を作ろうと努力を続けたが、手応えを得られないまま日々が過ぎていった。
昼食時の騒動
休日明けの昼食時間、ウィルはシオンたちがコレットに話しかけている場面に遭遇した。
以前の暴走騒動を思い出したウィルは慌てて割って入ったが、シオン達はコレットを昼食に誘っていただけだった。シオンはロワール家の格式やコレットの高貴さについて熱弁し、その香りまで褒め称えていた。
そのやり取りの最中にコレットは立ち去ってしまい、ウィルは彼女を追いかけた。
初めて交わされた会話
ウィルが黒涙花の香りを頼りにコレットを見つけると、コレットは初めて自ら言葉を発した。
どうして付いてくるのかと問われたウィルは、友達になりたい、コレットのことを知りたいと正直に伝えた。しかしコレットは、自分のことを覚えていなかったくせにと言い返した。
さらに以前、自分に対して誰だっけと言ったことを責め、嫌いだと告げた。ウィルには全く身に覚えがなく、理由もわからないまま拒絶され続けた。
それでもコレットはこれまで見せなかった不機嫌や軽蔑といった感情をあらわにしており、ウィルに対してだけ特別な反応を示していた。
教師達の見守り
その様子を上階から見ていたフェルディは、感情を見せるコレットの姿に驚いていた。
ワークナーは、コレットが口にした誰だっけという言葉が、ウィルの記憶障害によって失われた記憶に関係していることを理解していた。そして、形はどうあれコレットの感情を動かせる存在がウィルであると確信した。
ワークナーは友達作戦の成果を感じながら、二人の行く末を見守るのであった。
ダンジョンでの同行
コレットを追って迷宮へ向かう
放課後、ウィルはダンジョンへ向かうコレットを追いかけた。嫌われていることは理解していたが、彼女が何度も死にかけていると知っていたため、放っておくことができなかった。
深界の門で実習届けを提出した後も、コレットは無言のまま迷宮へ進んでいった。ウィルは携行用光具を手に、彼女の後を追い続けた。
恐怖を抱えながら進むウィル
一層の常闇の庭へ入ったウィルは、暗闇と魔物への恐怖に苦しめられていた。侵略者の記憶を失っているにもかかわらず、その影が脳裏をよぎり、呼吸は乱れ続けていた。
そんなウィルに対し、コレットは怖いのかと問いかけた。そして魔物が怖いのか、それとも死が怖いのかと重ねて尋ねた。
さらに自分は怖くないと告げたコレットの言葉に、ウィルは彼女が死を望んでいるように感じた。
コレットを失いたくないという本心
コレットは、怖いのになぜ付いてくるのかと問い続けた。
ウィルは最初、友達になりたいからだと答えたものの、それが本当の理由ではないと自ら認めた。そして、コレットにいなくなってほしくないこと、会えなくなるのが怖いことを正直に打ち明けた。
二人が暗闇の中で向き合う中、突如として凄まじい咆哮が響いた。
アッシュ・ストーカーの襲撃
大型魔物アッシュ・ストーカーが奇襲を仕掛け、ウィルはコレットを庇って吹き飛ばされた。
現れたのは本来三層に出現する特異種であり、一層に現れるはずのない強敵だった。傷を負いながらも、ウィルは侵略者の影を重ねて恐怖に震えていた。
しかしコレットは怯えることなく魔物へ近付いていった。その姿を見たウィルは、コレットが死んでしまえば彼女を理解する機会も失われると気付いた。
約束のゴーグルが与えた勇気
ウィルは腰に下げていたエルファリアから贈られた約束のゴーグルを装着した。
ゴーグルによって暗闇が消え、迷宮の景色が鮮明に見えるようになった。エルファリアの声を思い浮かべながら勇気を奮い起こしたウィルは、コレットへ襲いかかろうとしていたアッシュ・ストーカーへ突撃した。
魔物との激闘と勝利
ウィルは拳でアッシュ・ストーカーを殴り飛ばし、続けて襲い来る二股の尾を見切った。
一本の尾を掴んで振るうことで、もう一本を切断し、その宝石刀のような尾を奪い取る。そして接近したウィルは、その武器で魔物の首を切り落とした。
アッシュ・ストーカーは絶命し、迷宮には静寂が戻った。傷だらけになったウィルだったが、恐怖による震えは消えていた。
コレットの心の変化
戦いを見ていたコレットは、恐怖に怯えていたはずのウィルが自分のために死へ立ち向かったことに戸惑っていた。
ウィルは自分の怪我を後回しにしてコレットの無事を確認し、危険な真似をしてはいけないと叱った。
その姿を見たコレットは、三ヶ月前にも同じように自分を助けてくれたことを思い出した。誰にも大切にされていないと思っていた自分を、ウィルだけは変わらず守ろうとしていることを感じ取る。
そしてコレットは、やはり変な人だと呟きながら、ウィルへの認識を少しずつ変え始めていた。
三章 雨降って
死を望むコレットの変化
死への願望と学院生活の変化
コレットは以前から死を望んでいた。逃れられない呪いによって全てを奪われるくらいなら、自ら終わりを選びたいと考えていたのである。そのため、死に近付ける迷宮へ通える魔法学院への入学も受け入れていた。
しかしウィルと共にダンジョンへ潜るようになってから、コレットの学院生活には少しずつ変化が生まれていた。
シオンとの対立の激化
ウィルが土のクラスへ移ったことを知ったシオンは、コレットを狙っているのではないかと激しく問い詰めた。ウィルが否定しても納得せず、教師へ賄賂を渡したのではないかとまで疑った。
その後もシオンはリリールやゴードンと共に、以前にも増してウィルへ絡むようになった。
コレットとの距離の縮まり
一方でコレットは、以前よりもわずかにウィルへ反応を返すようになっていた。その変化に周囲の生徒達は驚き、ウィル自身も喜んでいた。
ウィルはコレットの好みや嫌いなものを少しずつ理解するようになり、自分が付きまとうことも完全には嫌がられていないと感じていた。
ダンジョンでの共同探索
ウィルとコレットはダンジョンへ二人で向かうことも増えた。ワークナーが用意した竜の牙のナイフを手に、ウィルはコレットを守りながら魔物と戦った。
当初の目的だった武器の確保や単位取得よりも、コレットを守ること自体がウィルにとって大切なことになっていた。
そんな中、コレットは戦うウィルを見てドワーフみたいだと呟いた。悪意のないその言葉を、ウィルは褒め言葉として受け取り、素直に喜んだ。
エルファリアへの記録
夜になると、ウィルは導きの魔録書へ日々の出来事を書き記していた。エルファリアに学院生活の出来事を伝えられるようにするためである。
自分なりに頑張れていると感じたウィルは、塔を見上げながらエルファリアへ思いを馳せた。
塔で暴れるエルファリア
その頃、塔の最上階ではエルファリアがウィルに会えないことに耐えられず暴れていた。
副官のサリサや氷の魔導士達は、何度も脱走を企てるエルファリアの対応に追われ疲弊していた。サリサは泣き続けるエルファリアをなだめながら、正式な氷姫の杖の叙任式の際には塔の外へ出られると伝えた。
ロゼからの忠告
七の月に入り、ウィルは廊下で同級生のロゼに呼び止められた。
ロゼは、コレットとの距離を縮めたウィルを評価しながらも、コレットには関わらない方がいいと忠告した。そしてロワール家には呪いがあり、一族の女性は代々寿命を迎える前に亡くなっていると語った。
さらに、コレット自身もその運命を受け入れており、死を望んでいるのではないかと指摘した。
コレットへの想いと聞かれていた会話
ロゼの話を聞いたウィルは衝撃を受けながらも、コレットを死なせたくないと断言した。
しかしロゼから、コレットの魔法は怖くないのかと問われると、ウィルは怖くないとは言えず、正直にそうかもしれないと認めた。
その会話は、偶然その場に居合わせたコレットにも聞かれていた。コレットは何も言わず、昏い瞳で足元を見つめながら、その場を静かに立ち去っていった。
ロゼとの別れとウィルの決意
ロゼへの本心の告白
ウィルは、コレットの魔法を怖いと認めた上で、それでもコレットと仲良くなりたいとロゼへ告げた。最初は教師達に言われたことがきっかけだったが、今では本心から友達になりたいと思っていると打ち明けた。
コレットが困っているなら助けたいと語るウィルに対し、ロゼは魔法も使えないのに格好いいことを言うと皮肉を返した。それでもウィルは気にせず、コレットについて知っていることがあれば教えてほしいと頼み続けた。
ロゼの本音と別れ
ウィルは、ロゼがコレットを嫌っているのではなく、同室者であるコレットを心配して忠告してくれたのだと考えた。そしてロゼにもコレットと友達になってほしいと伝えた。
その言葉を聞いたロゼは肩の力を抜き、女たらしの素質があると冗談めかして告げた。ウィルは、何かが良い方向へ変わればいいと願いながらその場を後にした。
ワークナーとエドワルドの対立
一方その頃、ワークナーはエドワルドを校長室へ連れて行こうとしていた。エドワルドはウィルへの便宜を図るワークナーと校長を批判し、魔法を使えない者に至高の五杖を目指させることは愚かな行為だと断じた。
ワークナーは、ウィルに恥をかかせ続けるエドワルドの教育方針を非難したが、議論は平行線を辿った。
コレット問題への協力要請
ワークナーは今回の目的がウィルではなくコレットについてであることを明かした。コレットを取り巻く環境を調べた結果、普通ではない事情があると感じていたためである。
エドワルドは特別扱いはしないとしながらも、ロワール家の才能を失わせるべきではないとして、一度だけ協力することを承諾した。
校長との対話
校長室を訪れたワークナーは、コルドロンへコレットについての見解を尋ねた。そしてロワール家の女性が代々早世していることや、コレットの母が村を消滅させた破壊の惨劇に関与していたことを調査済みであると明かした。
さらに、コレットを守る岩の腕が制御不能であり、将来的に大惨事へ発展する危険性を訴えた。
ロワール家の秘密
コルドロンは、ロワール家が魔女王メルセデスの命によって現在の魔法世界創造に関わった十賢人・上創のルハの傍系であると語った。
そのためロワール家の秘術は極秘情報として扱われており、創造に関わった一族である以上、破壊にも関わり得る力を秘めていると説明した。
また、コレットについては塔も監視しており、自身も裏で手を回していることを明かした。そしてコレットを天秤の娘と呼び、現場での対応をワークナーとエドワルドに任せた。
貴族達への警戒
話の最後にコルドロンは、他の生徒達の反応に注意するよう警告した。自尊心の高い貴族の子供達は、大人以上に残酷な行動を取ることがあると危惧していたのである。
メアリーの屈辱と復讐心
その頃、メアリー・ローは空き教室で激怒していた。コレットへ仕掛けた嫌がらせが返り討ちに遭い、自身は岩の腕に首を掴まれ醜態を晒したからである。
その事件以降、周囲の評価は変わり、シオンからは叱責され、ユリウスからは嘲笑された。名家の令嬢であり学年首位の一人であるメアリーにとって、それは耐え難い屈辱だった。
ダンジョンへの企み
怒りに燃えるメアリーは、コレットの弱点を探し始めた。そこで派閥の生徒達から、岩の腕は地上でしか現れず、ダンジョン内では使用されたことがないという情報を得た。
さらに、コレットが頻繁にダンジョンへ通っていることも聞かされる。話を聞き終えたメアリーは意味深な笑みを浮かべ、ダンジョンに目を向けるのだった。
ダンジョン実習と岩の巨腕の暴走
二層実習で孤立するコレット
七の月六日、第一週雷の曜に、土のクラス、水のクラス、雷のクラスによる合同のダンジョン実習が行われた。実習場所は二層であり、生徒達は第三地帯までを探索範囲として、ブラッド・ウィスプを目標に単位修得へ向かうことになった。
しかしウィルは、コレットの様子がおかしいことに気を取られていた。最近は少しずつ反応を返していたコレットが、出会った頃のようにウィルを拒絶しており、ロゼは自分達の会話を都合の悪いところだけ聞かれたのだろうと呟いた。
コレットを追うウィルとロゼ
実習開始と同時に、コレットは誰とも組まずに一人で通路へ進んだ。ウィルは一人では危ないと呼び止めたが、コレットは立ち止まらなかった。
ウィルはコレットを見失わないために追いかけ、ロゼも悪態をつきながら同行した。二人は、片方が魔物に対応している間にもう片方がコレットの側につく形で協力し、教師達の魔女の眼による監視も受けながら進んでいった。
ロゼの魔法と第三地帯への到達
途中でサヴェージ・ラムの群れが現れると、ロゼはウィルを先に行かせて魔法を放った。ロゼは岩の涙によって複数の魔法陣から落石を発生させ、七匹の魔物を一度に倒した。
ウィルはその魔法の威力に驚いたが、ロゼに叱られてすぐにコレットを追った。やがて一行は第三地帯の最奥に近づき、これ以上進むのは危険だとウィルが判断したところで、笑い声が聞こえてきた。
メアリー派閥の待ち伏せ
第三地帯最奥の広間には、メアリーとその派閥の生徒達が待ち伏せしていた。彼らは以前コレットの岩の腕に痛い目を見た者達であり、コレットの岩の腕がダンジョンでは出ないと知って、仕返しを企てていた。
メアリー達はコレットを問題児と呼び、学院から出て行けと罵った。ロゼはそれを仕返しだと見抜き、ウィルはコレットを庇うために前へ出て、その場から引き返そうとした。
メアリーの攻撃と匂い袋の罠
ウィル達が退こうとした直後、メアリーは炎魔法を放ち、ウィル、コレット、ロゼを倒れさせた。メアリーは魔物の影が見えたから魔法を使っただけだと言い訳し、コレットをモンスター扱いするような態度を取った。
さらにメアリー達は一斉に火球を放ち、ロゼは土丘で防いだが、攻撃は激しさを増していった。ウィルは魔女の眼で教師達が見ていると警告したが、メアリー達は信じず、メアリーはここがダンジョンであることを逆手に取っていた。
その直後、ウィルは甘い香りが匂い袋によるものだと気づいた。メアリー達は魔物を広間へ誘い寄せ、混乱を正当防衛に見せかけようとしていたのである。
コレットを追い詰める暴言
メアリーは、助けてほしければ謝罪して家来になると言えとコレットへ迫った。しかしコレットは昏い瞳で見返すだけだった。
メアリーは怒りを募らせ、コレットを役立たずと罵り、どうせいつか死ぬ呪われた一族だと言い放った。さらに同じ役立たずも地獄で待っていると告げたことで、コレットの瞳から光が消え、黒涙花の香りと膨大な魔力が広間に広がった。
岩の巨腕の降臨
コレットの感情に同調するように、轟音とともに二本の巨大な岩の腕がダンジョンに降臨した。巨腕はまずメアリーを掌撃で弾き飛ばし、壁に叩きつけた。
広間は一瞬静まり返ったが、直後に岩の巨腕は咆哮のような音を上げ、周囲の魔導士、魔物、ダンジョンそのものを無差別に破壊し始めた。メアリーの派閥の生徒達は次々と吹き飛ばされ、魔物達も砕かれ、監視していた魔女の眼までも破壊された。
教師達の到着と制圧失敗
ワークナー、フェルディ、雷のクラスのエレンが広間に駆けつけた。彼らは土、風、雷の魔法で倒れた生徒を守り、岩の巨腕を無力化しようとした。
しかし岩の巨腕はコレットを包み込むように防御し、教師達の魔法を跳ね返した。さらに巨腕の攻撃によってフェルディとエレンは障壁ごと吹き飛ばされ、ワークナーだけが何とか回避し、生徒達を庇うのが精一杯となった。
コレットを救おうとするウィル
ウィルは、コレットが世界を拒絶しているように見えながらも、泣いているように感じた。岩の巨腕はコレットを安全な懐に縛りつけ、全てを壊すまでそこにいろと歪んだ愛を囁いているようだった。
ウィルはコレットを解放するには岩の腕を何とかするしかないと考え、約束のゴーグルを指でなぞって駆け出した。しかし上位魔導士でも制圧できない巨腕に何度も吹き飛ばされ、壁へ叩きつけられ、血を吐きながらも突撃を繰り返した。
コレットの制止とウィルの拒絶
ウィルは激しい巨腕の音に紛れて、コレットが来ないで、止められないからと訴えていることに気づいた。コレットは自分では制御できないことを諦めたように告げていた。
それでもウィルは、絶対に君のところに行くと叫び、何もできないと悲しむコレットを助けようとした。その想いを受けたコレットは、迫る巨拳を前にして短杖を抜いた。
コレットの秘伝魔法と崩落
コレットは血統地伝・巨兵の指刃を唱え、土の秘術によってウィルの前に真鍮色の大地の剣を生み出した。ウィルはその剣を抜き、迫る巨拳の表面を滑るように受け流した。
しかし破壊と剣の衝突に耐えきれず、先にダンジョンの天井が崩れ始めた。広間全体が崩壊し、岩の巨腕は崩落に巻き込まれて地面へ叩きつけられた。
崩落の中でコレットを抱きしめるウィル
ウィルは降りしきる岩の雨の中を駆け抜け、呆然とするコレットを抱きしめて押し倒した。直後、岩の破片が頭や背中に降り注ぎ、全身に苦痛が広がった。
視界が黒く染まる直前、コレットの小さな手がウィルの体を握り、何かを呟いた。ロワールの血統地伝による温かな奇跡が全身を包み込み、ウィルは意識を失った。
ダンジョン崩落後の救出と夜の中庭
崩落後の混乱と救出
天井崩落から一時間後、学院教師達は救護班や迷宮門番を呼び、生徒の避難と二次災害への対応に追われていた。土煙が残る二層第三地帯では、教師達の焦りと混乱した声が響いていた。
ロゼは、岩と土砂の中からウィルとコレットが掘り起こされる様子を見ていた。ワークナーが必死に崩落地点を掘り、エドワルド達が魔物を駆除しながら負傷者を運び出す間も、ロゼは放心して動けなかった。
ロゼが目撃した秘密
ウィルとコレットが生きていたのは、コレットが棺のような障壁を展開して二人を守ったからだとロゼは理解した。しかし、あのコレットが誰かを守ったことも、自分の危険を顧みずにコレットへ手を伸ばしたウィルの行動も、ロゼには信じがたかった。
ワークナーは、ロゼに見たものを口外しないよう厳命していた。コレットの暴走は教師陣が制圧したことになり、ウィルの行動は表に出ないはずだった。ワークナーに背負われるウィルと、フェルディに背負われるコレットを見送りながら、ロゼは魔法を使えないのに口だけではないウィルへの戸惑いを抱いていた。
医務室で目覚めるウィル
ウィルは医務室で目を覚ました。寝台の側にはコルドロン校長がいて、ウィルがコレットの名を出した途端、コレットは無事であり、軽傷で医務室を出たと先回りして告げた。
ウィルは起き上がろうとして痛みに苦しんだ。コルドロンはウィルの白髪が増えていることに気づき、エルファリアに怒られるから白髪抜きをすると言った。実際には短杖の魔法で白い髪を黒へ戻し、記憶の欠損がないか確認していた。
記憶の確認とロワール家の運命
コルドロンは、ウィルの記憶を整理するため、今回の出来事を詳しく聞かせるよう求めた。教師やメアリー達も治療済みであり、メアリー達にはロゼの証言や魔女の眼の情報によって重い罰が下る見込みだった。
ウィルは、コレットのロワール家の者がみな死んでしまうという話が本当かを尋ねた。コルドロンはそれを肯定し、コレットを天秤の娘と呼んだ。彼女は、秤がどちらに傾くかは自分にもわからないが、その時が来れば大人が決断しなければならないと語った。
コルドロンの助言とウィルの行動
コルドロンは、大人が責任を取るから、子供であるウィル達は何にも縛られず思うがままに行動してほしいと告げた。ウィルはその言葉に微笑み返し、許可を得て医務室を出た。
夜の第一校舎を進むと、ウィルはワークナー、フェルディ、エドワルドが二階の窓辺から中庭を見守っているのを見つけた。ワークナーが頷くと、ウィルも頷き返し、中庭へ向かった。
中庭で死を望むコレット
コレットは吹き抜けの中庭の長椅子に座り、大結界を見上げていた。ウィルが近づくと、コレットはみんな死んでしまえと呟いた。メアリー達、自分の制御できない一族の力、死の運命を強いる世界そのものを呪っていた。
やがてコレットは、一番死んだ方がいいのは自分だと告げた。誰かを傷つけ、壊してしまう自分など死んだ方がいいという思いを抱いていた。
友達になる条件とウィルの拒絶
ウィルは、コレットに死んでほしくないと伝えた。コレットが理由を尋ねると、ウィルはまだ友達になっていないからだと答えた。
するとコレットは立ち上がり、ウィルに歩み寄って、自分と一緒に死んでくれるなら友達になってあげると告げた。初めて浮かべた笑みは可憐であると同時に破滅的だった。ウィルはそれをできないと断言した。
コレットの怒りとウィルの本音
ウィルに拒まれたコレットは、嫌い、大っ嫌いと感情をあらわにした。冷たい人形のように戻ろうとしても戻れず、ウィルが自分に寄り添い、傷だらけになりながら一族の力と戦い、崩れる迷宮から守ってくれたことで、心を乱されていた。
ウィルはその非難を正面から受け止めた。そして、コレットと一緒に授業を受けたい、放課後にお菓子を食べたい、冗談を言って笑い合いたいと叫んだ。死んでしまったら、それらは全部できないと訴えた。
コレットの迷いと差し出された手
ウィルの言葉を受けたコレットは、どうすればいいかわからないと小さく呟いた。ウィルは、コレットがどうしたいかわかるまで側にいると言い、独りになんかさせないと伝えた。
その言葉にコレットの瞳は揺れ、彼女は顔を伏せた。やがて、言葉ではなく小さな手をおずおずと差し出した。ウィルはその手を優しく握り、包み込んだ。
大人達の見守る結末
窓辺から見守っていたワークナーは笑みを浮かべ、フェルディは複雑そうな表情をした。エドワルドは不機嫌そうに眉をひそめ、その場を去った。
子供達を見守る大人達の意見は分かれていた。それでも、遠見の魔法で全てを見守っていたコルドロンは、穏やかに微笑んでいた。
四章 月なき夜の ワルツ
エルファリアの叙任式とコレットの日常
コレットが母の悪夢を見る
コレットは、母との温かな記憶から始まる夢を見ていた。夢の中の母は、礼儀作法や教養、ダンス、魔法を優しく教え、過保護なほどコレットを案じていた。
しかし夢はやがて悪夢へ変わった。母の声はおぞましく歪み、手は白骨となり、温かな屋敷は闇に沈んだ大地へ変わった。無数の骨の手がコレットを地中へ引きずり込もうとし、母の骸が早く来るよう迫ったため、コレットは母を呼びながら目を覚ました。
コレットが朝の中庭へ向かう
目覚めたコレットは汗に濡れており、まだ朝が始まる前の寮の部屋で上体を起こした。彼女は汗をかいた寝衣を脱ぎ、首もとに黒い花の魔法陣を刻んだ素肌を見せながら、音を立てずに制服へ着替えて部屋を出ていった。
同室のロゼは既に目を覚ましており、コレットが脱ぎ捨てた服を姉のように畳んで片付けた。部屋には黒涙花の香りが残り、ロゼはコレットにどうしてやればいいのかとやりきれない思いを抱いていた。
ウィルとの朝の待ち合わせ
夜が明け、朝の光が差し始めると、コレットは吹き抜けの中庭へ向かった。悪夢を見ずに済む朝になれば、ウィルに会えるからであった。
コレットが長椅子で待っていると、ウィルが小走りで現れた。寝癖を残したウィルを見てコレットは少し可笑しく思ったが、自分の髪もぼさぼさであることに気づき、恥ずかしさからうつむいた。中庭での待ち合わせは、夜の言い合い以降、自然と二人の日課になっていた。
コレットがウィルへの感情を自覚し始める
コレットは、誰もが自分を恐れ、教師や大人達でさえ魔物を見るように距離を取っていたことを思い返した。シオンだけは以前からちょっかいをかけてきたが、彼は目を合わせようとせず、至高の五杖という禁句にも触れたため、コレットは彼を苦手に思っていた。
コレットは自分が呪われており、近づけば誰かを壊してしまうと考えていた。そのため希望も夢も未来も諦め、早く死にたいと思っていた。だがウィルだけは、無視されても拒絶されても近づき、壊されても変わらず手を伸ばした。そのためコレットは、初めて悪くない感情を抱くようになっていた。
ワークナーがウィルの変化を認める
ウィルは魔法生物室で課題の魔法考察書を提出した際、ワークナーからコレットと上手くやれているようだと言われた。フェルディも少しだけウィルを見直したと聞かされ、ウィルは照れながら礼を言った。
ウィル自身も、コレットと少しずつ会話できるようになったことを前進だと感じていた。ダンジョン探索では、コレットが錬成した巨兵の指刃をウィルが盾のように使い、コレットが岩の弾丸で援護するようになっていた。その様子を見た生徒達は、コレットの態度や秘伝魔法への評価を変え始めた。
シオンとロゼがそれぞれコレットに関わる
シオンは、ウィルとコレットの距離が縮まっていることに動揺した。ウィルはコレットの交友関係を広げようと、シオンに一緒に食事をしてほしいと頼んだが、コレットはシオン達を避けてウィルの手を引いて行ってしまった。その結果、シオンは辱められたと怒り、ウィルへのいじめを激化させた。
一方、ロゼはウィルにコレットの好みや誘い方を教えるようになった。コレットが豆料理に興味を示していることや、髪を気にしていることなどを伝え、同室者ならではの情報を与えた。ウィルはロゼもコレットを気にしていると感じたが、ロゼは目立ちたくないため友達になることは避けると言った。
エルファリアの叙任式が告知される
ウィルは廊下から塔を見上げ、エルファリアへ思いを馳せていた。その時、掲示板の前に人だかりができ、エルファリアの名が聞こえたため、ウィルは人垣をかき分けて掲示を見た。
掲示には、氷姫の杖、至高の五杖叙任式と記されていた。叙任式は豊穣祭と重なる形で行われることになり、魔導の央都は祭りの装飾と歴史的瞬間への期待に包まれていた。
叙任式でエルファリアが氷姫の杖となる
十の月三十一日、夜の魔導の央都には巨大な水晶球が浮かび、マーシェル湖の祭壇で行われる叙任式の映像が映された。祭壇の中心には、法衣をまとったエルファリアがいた。
エルファリアは四人の至高の五杖に囲まれ、光皇の杖から蒼氷の短杖を受け取った。杖は彼女を主と認め、短杖から氷の結晶をまとった大長杖へ変質した。エルファリアは真名に氷姫の名を刻み、エルファリア・アルヴィス・セルフォルトとして魔法世界に身を捧げた。
大結界が力を取り戻す
エルファリアの魔力は蒼き光の奔流となり、偽りの空の先にある大結界へ届いた。三日月状に欠けていた大結界は蒼く染まり、薄れていた光を強く帯び直した。
それは先代の氷姫の杖ユルヴァールの穴が埋められ、大結界が本来の力強さを取り戻した証であった。叙任式は達成され、若すぎる新たな至高の五杖が正式に誕生した。
民衆の歓喜とウィルの決意
魔導の央都では民衆がエルファリアを称え、魔法世界の栄光を叫んだ。色とりどりの魔法が夜空へ打ち上げられ、街は歓喜に包まれた。
一方で、シオンやユリウス、金髪の少女、イグノールなど、魔導の頂を目指す者達は悔しさと絶望を滲ませていた。ウィルもまた、エルファリアが遥かな高みにいることを痛感し、腰に吊るしたゴーグルを胸に抱きしめた。
その隣にいたコレットがゴーグルに触れたため、ウィルはエルファリアからもらったものだと答えた。そして、エルファリアのいる塔へ行きたいのだと呟き、別世界の住人となった彼女を見つめ続けた。
アゾの夜会
エルファリアを見つめるウィルと胸の違和感
エルファリアの叙任式の後、ウィルは周囲の賑わいから切り離されたように、氷姫の杖となったエルファリアだけを見つめていた。
いつもならコレットの視線や言葉にならない気配に気づいてくれるウィルが、その時だけはエルファリアへ思いを向けていた。コレットは近くにいるのに遠く感じるウィルの横顔を見て、胸にもやもやした感覚を覚えたが、その理由はわからなかった。
ロゼによる叱責と夜会への誘い
翌日、ウィルはロゼに呼び出され、コレットの前で別の女の子の話をしたことを激しく叱られた。
ロゼは、コレットの様子がおかしい原因はウィルにあると決めつけ、アゾの夜会の羊皮紙を差し出した。そして、来月の舞踏会にコレットを誘って一緒に踊るよう命じた。
ウィルは衣装も作法も知らないため困惑したが、ロゼはコレットのためだと押し切った。その日から、ウィルにはコレットへの同行や勉強に加えて、ロゼによる秘密の特訓が加わった。
アゾの夜会の開催
十一の月八日、第二週光の曜の夜、リガーデン魔法学院の第二校舎三階にあるモリエールの大広間で、アゾの夜会が開かれた。
広間は魔法で華やかに飾られ、盛装した生徒達で賑わっていた。ウィルはロゼから借りた燕尾服を着ていたが、貴族でもない自分には場違いだと緊張していた。それでもコレットのために頑張ろうと、壁際でその時を待っていた。
盛装したコレットの登場
ロゼに連れられて、コレットも夜会へ現れた。
珊瑚色のドレス、踵のある革靴、リボンや花飾りを身につけ、普段はぼさぼさだった黄水晶色の髪も綺麗に整えられていた。盛装したコレットは可憐な令嬢のように見え、周囲の生徒達は驚きと称賛の声を上げた。
男子生徒達は次々にコレットをダンスへ誘おうとしたが、コレットは全て無視した。シオンも見惚れて声を失っていたが、コレットはウィルの姿を探して広間を進んでいった。
ウィルとコレットの対面
コレットは壁際に立つ礼服姿のウィルを見つけた。
ウィルもドレス姿のコレットに驚きながら、ドレスが似合っていること、髪が綺麗なこと、今日はとても綺麗だと伝えた。その言葉にコレットは頬を染め、初めての感情に戸惑った。
コレットは感謝の言葉を口にできず、母に教わった淑女の礼をした。しかし正式な誘いの前に舞踏後の礼をしてしまったため、ロゼもウィルも一瞬戸惑った。
それでもウィルは気を利かせ、踊りましょう、レディと手を差し出した。コレットはおずおずとその手を重ねた。
二人だけの舞踏
ロゼの配慮により、ウィルとコレットは人目を避けてバルコニーへ向かった。そこは小さな舞踏場のような場所であり、二人だけの時間が始まった。
ウィルはロゼから特訓を受けていたものの、まだステップは拙かった。コレットは母から教わったダンスで、それを遠慮がちに補った。二人は近い距離で会話し、コレットは母が優しかったことを語った。
広間ではシオンが突撃しようとし、ロゼが必死に止めていた。塔ではエルファリアが氷の双眼鏡で二人を見て泣き喚き、サリサが必死に引き止めていた。しかしその騒ぎは下界には届かず、ウィルとコレットの小さな舞踏会は邪魔されることなく続いた。
コレットの小さな変化
踊る最中、ウィルはコレットの表情を見つめた。
コレットの表情は大きく変わらなかったが、唇の端がほんの少し持ち上がっているように見えた。ウィルはそれに気づき、微笑み返した。
大結界の光に照らされながら、少年と少女の影は重なり、静かに踊り続けた。
夜会後の中庭と本物の笑み
アゾの夜会は定刻通り閉会した。塔の方角から私怨のこもったような小さな雹が降ったことを除けば、大きな騒ぎはなかった。
その後、コレットは一人で吹き抜けの中庭を訪れた。ロゼに舞踏会のことをからかわれ、耳や首筋が火照ったため逃げ出してきたのである。
中庭で夜空を見上げたコレットは、舞踏会などもう出られないと思っていたと呟いた。そして、別に、と心の中で答えかけた後、楽しかったと訂正した。
その時、コレットは誰にも見せたことのない本物の笑みを浮かべた。さらに、友達になれたらという思いを抱きかけた。
腕に現れた岩の肌
コレットは、友達がどんなものかまだわからないまま、自分の腕に違和感を覚えた。
制服の袖の下にごつごつしたものを感じ、おそるおそる袖をまくると、細い腕が竜の鱗のような岩の肌に蝕まれ始めていた。
その光景にコレットは強い衝撃を受け、偽りの空から落ちる大結界の冷たい光が、悲しみに暮れるように彼女を照らしていた。
五章 妄執の果て
学期末試験前とロワール邸訪問
雷の派閥の遠征と学期末試験の到来
雷公の杖ゼオは、塔の制止を振り払うように雷の派閥を率いてダンジョン遠征へ出発した。
その一報は世間を騒がせたが、学院生であるウィル達にはそれどころではなかった。十一の月二十三日、魔法学院では一年の節目となる学期末試験が迫っていた。
塔を目指すための猛勉強
ウィルは自習室で、土魔法や守護者に関する内容を必死に覚えていた。周囲の生徒に顔がうるさいと叱られるほど集中し、寝不足になりながら勉強を続けていた。
リガーデン魔法学院では、在学中に修得できる単位のうち、塔へ行くためには七二〇〇単位が必要であった。しかし魔法を使えないウィルは実技単位を全て落とすため、筆記と実習の単位を一つも落とせない状況にあった。
さらに二年生への進級にも一〇〇〇単位が必要であり、ウィルの所持単位は八九七であった。学期末試験で得られる単位を考えても、非常に厳しい状態だった。
実習単位への焦り
ウィルはコルドロンの便宜により、通常の一年生より広い範囲のダンジョン探索や、難しい任務を受けて実習単位を稼いでいた。
それでも単位は足りず、試験勉強の合間にダンジョンへ行く必要があるかもしれないほど追い詰められていた。ウィルは頭も体も疲弊し、白髪も増えていたが、エルファリアとの夕日の約束を叶えるため、諦めることを拒んだ。
コレットの変化への不安
ウィルは試験勉強に追われながらも、コレットのことを気にしていた。
舞踏会の後から、コレットはどこかウィルを避けるようになっていた。完全に離れるわけではなく、一緒にいてもいいと示すこともあったが、何かに怯えているようであった。
特にコレットは自分の右腕を隠し、ウィルやロゼが右側に回ることを嫌がっていた。ウィルはその様子に胸騒ぎを覚えた。
ワークナーへの相談
放課後、ウィルは魔法生物室へ向かい、ワークナーへコレットの異変を相談した。
試験前に時間を使う余裕はないと最初は咎められたが、ウィルは自分のことは必ず何とかするから、コレットのことを聞いてほしいと訴えた。ワークナーは優しい大人の顔になり、ウィルの話を聞いた。
ウィルがロワール家の呪いについて尋ねると、ワークナーは、ロワール家の者が晩年を迎えず亡くなった例が多いことを事実だと認めた。
ロワール家訪問の許可
ワークナーは、自分もコレットの生家について調べており、コルドロンに直接訪問できないか掛け合っていたと明かした。
そしてちょうど許可が下りたばかりであり、その条件がウィルの同伴だったと告げた。こうしてウィルは急遽、ワークナーと共にロワール家を訪ねることになった。
蒼雪と聖水祭の央都
魔導の央都には、この時期特有の蒼雪が降っていた。
蒼雪はベルムデス六氷湖からの寒波に由来するもので、央都では聖水祭の準備が進んでいた。街は装飾や屋台、魔電飾で彩られており、ウィルは幻想的な景色に一瞬心を奪われた。
ワークナーは、央都は魔法世界の中心であり、祭りも世界の手本として祝われる宿命があると語った。ウィルは来年こそ祭典を楽しめるよう進級しなければならないと思いつつ、今はコレットのことを調べなければならないと気を引き締めた。
荒れ果てたロワール邸
ウィルとワークナーは貴族区の外れにあるロワール邸へ辿り着いた。
そこは蔓が伸び放題の柵、荒れ果てた庭園、半壊した噴水、黒ずんだ石造りの館がある、廃墟のような屋敷だった。人の気配も生活感もなく、ウィルはセルフォルト孤児院の方がよほど温かみがあると感じた。
庭には黒涙花が群生しており、正面玄関の家章にも黒涙花と巨大な岩石の手のような意匠が刻まれていた。
羊皮紙に埋もれた屋敷
ワークナーは反応のない屋敷へ、校長の許可を得て入った。
中の廊下は、魔法に関する論文や研究資料らしき羊皮紙で埋め尽くされていた。ワークナーは土魔法の術式らしき内容を見て、秘伝魔法とも違う見たことのないものだと疑問を抱いた。
ワークナーは風魔法で羊皮紙をまとめ、探知魔法で地下への階段を見つけた。
地下実験室のテラノス
地下室には、用途不明の実験器具、不気味な煙を上げるフラスコ、紫の液体で満ちた培養槽、壁を這う魔導管、そして黒涙花があった。
そこにいたのは、ロワール家の現当主であり、コレットの父であるテラノス・ロワールだった。彼はやせ細り、病的な雰囲気をまとい、実験に没頭していた。
ワークナーがコレットについて尋ねると、テラノスは魔法学院に一任している、処理したければすればいいと冷たく答えた。さらに自分の妄執が現実になった時には約定を守ってもらうと、不穏な言葉を口にした。
ウィルへの異様な関心
テラノスが不気味な装置を動かし始める中、ウィルは思わず前に出て、コレットに何があるのか、なぜ寂しそうで辛そうにしているのかと叫んだ。
その瞬間、テラノスは初めて振り向き、ウィルの名を尋ねた。ウィル・セルフォルトと名乗ると、テラノスは待ちわびていたと告げ、未知なるウィルが自分に絶望をもたらす存在だと語った。
その目は異様な執念で輝き、テラノスはウィルを地下室奥の実験装置へ導こうとした。
環状の魔道具との接続
地下室の奥には、玉座のような設備と、その上に浮かぶ作りかけの環状の魔道具があった。
ワークナーが止めようとしたが、テラノスはコルドロンの署名らしき契約書を示し、準備は完了していると告げた。そして設備とウィルの左手首を、異様な紋様の鎖でつないだ。
真紅と黄水晶の光が放たれ、ウィルは手首を焼かれるような痛みに膝をついた。部屋中に魔法陣が描かれ、装置が鳴動したが、現象は唐突に終わった。
説明されない実験の終わり
光が消えると、テラノスはウィルへの興味を失ったように背を向け、帰るがいいとだけ告げた。
ウィルの手首には一瞬、蔦のような紋様が浮かんだように見えたが、すぐに消えた。体に異常はなく、ウィルは何が起きたのかわからなかった。
ワークナーはテラノスに何をしたのか詰め寄ったが、テラノスは全てを無視し、再び魔道具の作業に没頭した。ウィルはその背中を前に、ただ立ち尽くすしかなかった。
ロワールの禁呪
ワークナーによる帰路での確認
ロワール邸を後にしたウィルは、学院への帰り道でワークナーから何度も体調を確認された。ウィルには異常がなかったが、ワークナーはロワール邸で起きた出来事を強く警戒していた。
貴族区を出た頃、ワークナーは休憩を提案し、セントビオラ広場の長椅子にウィルを座らせた。ワークナーは屋台で二人分のホットココアを買い、ウィルに内緒だと笑いながら手渡した。蒼雪の降る中、ウィルはその温かさに安堵した。
コルドロンへの疑念
二人は、テラノスの実験で何をされたのかを整理しようとしたが、結論は出なかった。ワークナーは、契約書の署名が本物のコルドロンのものだったため安全だとは考えつつも、コルドロンに手の平で踊らされているように感じていた。
ウィルが、コルドロンからコレットは天秤の娘だと告げられたことを話すと、ワークナーも同じ言葉を聞かされていたと明かした。二人は、コルドロンがまだ何かを隠していると考え、今度こそ問い詰めようと話し合った。
ワークナーからの誕生日祝い
ワークナーは帰る前に寄り道をし、ファージーの筆記具店へ向かった。彼は店の中から黒檀の木箱を持ち帰り、少し早い誕生日祝いとしてウィルに差し出した。
ウィルは迷惑をかけてばかりで受け取れないと拒んだが、ワークナーは、誰よりもつらい環境で努力している者を評価しないのは間違っていると語った。そして、決して諦めないことを実践し続けるウィルを尊敬していると告げた。
木箱の中には、実用性を重んじた羽根ペンと魔法のインク瓶が入っていた。ウィルはその贈り物を抱きしめ、涙を浮かべながら礼を伝えた。
未来への誓い
ウィルは、ワークナーの誕生日が自分とエルファリアの一日後であることを知り、自分も返礼を用意すると言った。しかしワークナーは、ウィルが無事に進級し、来年も自分が教師を名乗れることが一番の贈り物だと告げた。
ウィルは、ワークナーから受け取ってばかりで終わらないよう、いつか必ず返したいと胸に誓った。そして、試験に合格して二年生になり、来年こそプレゼント交換をしようと決意した。
贈られた羽根ペンで予定を書き出す
学院寮へ戻ったウィルは、自室でワークナーから贈られた羽根ペンを使い、これからやるべきことを書き出した。
明日ワークナーと共にコルドロンを訪ねて事情を聞くこと、コレットに何をしてあげられるか話し合うこと、試験範囲の復習を進めることを記した。予定は山積みだったが、ウィルの胸には温かさとやる気が満ちていた。
夜に抜け出すコレットを見つける
窓辺に近づいたウィルは、寮の外に頼りなく揺れる影を見つけた。女子寮から抜け出すその姿はコレットのようであり、右腕を押さえているようにも見えた。
嫌な予感を覚えたウィルは、約束のゴーグルを掴んで部屋を飛び出した。廊下でシオンに呼び止められたが、止まらず寮を出て、黒涙花の匂いを辿って学院へ向かった。
中庭で苦しむコレット
ウィルは、コレットとよく落ち合う吹き抜けの中庭で、樹木に縋りつきながら右腕を押さえて苦しむコレットを見つけた。
駆け寄ろうとしたウィルに、コレットは来ないでと叫んだ。彼女は涙を浮かべ、見られたくない姿を見られたように苦しんでいた。やがて右腕の異常が進み、制服が破れ、竜の鱗のような岩肌に覆われた腕が露出した。
ウィルは、コレットが右腕を隠していた理由がロワールの呪いの兆候だったと悟った。
自分の腕を切ろうとするコレット
コレットは左手に真鍮色の短剣を生み出し、自分の右腕を切り落とそうとした。ウィルは止めようと駆け出したが、地面から現れた岩の巨腕に殴り飛ばされた。
巨腕はコレットを守る自動防衛としてウィルを阻んだ。しかしコレットが短剣を振り下ろすと、岩の肌自体が隆起して刃を折った。さらに岩の浸食は肩口まで広がり、コレットはウィルに見ないでと訴えるような目を向けて逃げ出した。
校舎を破壊する岩の指
コレットの変化と呼応するように地震が起こり、ウィルは揺れる校舎の中で彼女を追った。コレットの足跡には魔法陣が生じ、そこから岩の柱が無作為に射出されていった。
柱は銅像やお喋り彫像、壁や柱廊を破壊し、校舎の形を変えていった。ウィルは、それらがただの柱ではなく、巨大な何かの一部である岩の指だと気づいた。現象の全てがコレットを探して収束しようとしていたのである。
コルドロンの避難命令
第一校舎の屋上で事態を見ていたコルドロンは、天秤が歓迎できない方へ傾いたと呟いた。そしてテラノスが間に合わなかったことを悟ると、魔女の眼を起動し、学院職員へ全生徒の避難を命じた。
学院中の大鐘楼が鳴り響き、拡声魔法によって生徒達へ避難命令が出された。しかしウィルは、コレットが苦しんでいると知りながら逃げることはできず、警告を振り切って走り続けた。
シオンとロゼの合流
ウィルは校舎内でシオンとロゼに出会った。ロゼは、寮でコレットが突然苦しみ出し、先生を呼びに行っている間に姿を消したと説明した。
シオンは避難命令がコレットと関係しているのかと問い、ウィルはコレットの魔法が暴走しているようだと伝えた。三人は動揺しながらも、岩の密林のようになった校舎を進んでいった。
黒涙花の香りとロワールの呪い
進むうちに、シオンでさえ黒涙花の香りが強まっていることに気づいた。ロゼは顔面蒼白になり、ロワールの呪いは成人した後のもののはずだと呟いた。
ウィルはその意味を問いただす暇もなく、第二校舎の外へ飛び出した。そこには巨大な魔法陣が広がり、その中心でコレットが膝をついて苦しんでいた。
コレットの半身は岩肌に覆われ、うなじには黒涙花の小さな魔法陣が刻まれていた。彼女は母にやめてほしいと訴え、壊すのは自分だけでいいと苦しみながら抑え込もうとしていた。
地母妃の界呪生誕
ウィルとシオンはコレットへ駆け出そうとしたが、ロゼが二人を止めた。ロゼは間に合わないと呟き、直後、巨大な魔法陣が門へ変わった。
大地が鳴り、コレットを中心に巨大な殻が凄まじい勢いで構築されていった。コレットは最後に涙を流し、みんなを壊さないでと願った。
次の瞬間、殻が爆ぜ、強烈な衝撃が三人を吹き飛ばした。ロゼが何重もの障壁を展開していなければ砕け散っていたほどの爆発だった。
第二校舎を吹き飛ばした岩の卵
ウィル、シオン、ロゼは傷だらけになりながら立ち上がった。目の前では、第二校舎が中央から全壊していた。
校舎を吹き飛ばしたのは、直径三〇〇メートルを超える巨大な岩の球体だった。ウィルはそれを卵と呼び、ロゼはそれがロワールの禁呪、地母妃の界呪生誕であると叫んだ。
その瞬間、天秤が傾く音が聞こえたようであり、世界の崩壊へ進む絶望が広がっていた。
六章 土の姫君
ロワールの禁呪の真実
希望から始まった禁呪
ロワール家の禁呪は、五百年前に大いなる始祖が希望あれという言葉とともに唱えた魔法であった。
それは天上の侵略者を退けるために用意された禁断の魔法であり、多くの犠牲を払ってでも世界を守るための礎だった。しかしその魔法は、時を経て厄災となり、ロワール一族を地の生贄として世界へ捧げ続ける運命へ変わっていた。
コレットは、一族の宿命をどこかで悟っていた。母は死に、父は壊れ、自分もまた一族の終わりに組み込まれると知ったため、せめて自ら死ぬことを望んでいた。
コルドロンのもとへ駆け込むワークナー
第一校舎の屋上で指揮を執るコルドロンのもとへ、ワークナーが駆け込んだ。
ワークナーは、出現した巨大なゴーレムがコレットに関係しているのか、何が起きているのかを問い詰めた。コルドロンは詳しい内容を使い魔のクーシーに持たせた手紙へ記しており、ワークナーはそれを受け取った。
手紙には、ロワールの禁呪の全容と悲劇の歴史が記されていた。
地母妃の界呪生誕の仕組み
ワークナーは、地母妃の界呪生誕が、術者の一族を生贄に捧げ、世界そのものを界の巨兵へ変える禁呪であることを知った。
五百年前、始祖ロワールはその魔法を発動し、多くの天上の侵略者を討ち、多くの民を救ったと伝えられていた。だがその代償として、始祖ロワールの血筋は術式に刻み込まれ、後世の一族が生贄として取り込まれる宿命を負った。
コルドロンは、ロワール家が本来は世界を守る守護者であり、死の運命を受け入れた世界の生贄だったと語った。
厄災へ変質した守護の魔法
かつて世界を守るために存在したロワールの禁呪は、天上の侵略者の脅威が一時的に消えた五百年後の今、厄災と呼ぶべき呪いへ変質していた。
コレットの祖母や母も、界の巨兵に取り込まれて核となっていた。ワークナーは、生贄を看過していいはずがないと食い下がった。
コルドロンは、ロワール家も何もしてこなかったわけではなく、多くの上級魔導士や土魔法の名家が協力し、優秀な魔導士の血を取り入れて事態を改善しようとしてきたと説明した。
黒涙花の術式
何世代もの研究によって完成した延命策が、黒涙花の術式だった。
同じ頃、ウィルとシオンは、ロゼから黒涙花の術式について説明を受けていた。界の巨兵は、魔力が満ちて核にふさわしい器となった地の生贄を取り込もうとするため、ロワール家は魔力の成長を香りで誤魔化す術式を作り出したのである。
コレットの首もとに刻まれた魔法陣は、魔力と混ざることで黒涙花の香りを放ち、界の巨兵から彼女の魔力を隠す仕組みだった。
死の香りとして強まった黒涙花
ウィルは、エドワルドの授業で習った魔力と香りの関係を思い出し、黒涙花の香りが魔力の隠蔽であったことを理解した。
香りが強まるほど、コレットの魔力も高まり、生贄の器として完成へ近づいていたのである。そして今、黒涙花の香りが強烈になったことで、偽装は機能しなくなっていた。
シオンは、事情を知っていたのになぜ放置したのかとロゼを責めた。ロゼは、ロワールの呪いは成人後に起こるものだと聞いており、まだ時間があると思っていたと泣きながら叫んだ。
コレットの桁外れの才能
コレットは、地の生贄の長い歴史の中でも桁外れの才能を持っていた。
わずか十歳で界の巨兵に取り込まれようとしているほど、魔力の成長が凄まじかったのである。ロゼの予想も、コルドロンの思惑も、コレットの才能は上回っていた。
ウィルは、これまで見てきた岩の巨腕が、界の巨兵のごく一部にすぎなかったと理解した。そして目の前の大地の卵は、生贄を取り込み、新たな界の巨兵を生むための祭壇だと知った。
保護も逃避も成立しない禁呪
屋上でコルドロンは、地母妃の界呪生誕は本来、伝承の日のための決戦術式として認定されていたが、今では生贄の一族を取り込み続ける厄災になっていると説明した。
かつて塔ではロワールの血を絶やすべきだという声もあった。しかし界の巨兵や血統地伝を失うことは、天上の侵略者に対抗する手札を失うことでもあったため、反対意見も存在していた。
ワークナーはコレットを保護できなかったのかと問うたが、コルドロンは、ロワールの禁呪は魔法世界そのものであり、この世界にいる限り界の巨兵の射程内だと答えた。秘境や大地の果てに閉じ込めても世界が襲いかかり、地下迷宮に閉じ込めることも非道であるとして選ばなかったのである。
破壊の惨劇の真相
ワークナーは、過去の破壊の惨劇がロワール家の禁呪によるものだったと気づいた。
コルドロンは、コレットの母コルネリアをダンジョン内に匿った際に起きた事件だと認めた。テラノスの懇願もあり、コルドロンも関わっていたが、界の巨兵はダンジョンをも突き破って大地の卵を構築した。
その結果、付近のカレームという村は一夜にして消滅した。事前に避難指示を出していたため犠牲者は出なかったが、過去には一万の命が失われた例も記録されていた。
天秤の娘という意味
コレットの母を失ったテラノスは、娘を守る責任と、同じ惨劇を繰り返すかもしれない罪悪感の間で葛藤した。
その結果、テラノスはコレットを魔法学院に預け、コルドロンに進退を託した。コレットに残された選択肢は、保護観察か処分かであった。
コルドロンは、生と死、少女を救うか世界を破滅に導くかという天秤の傾きを、これまで見極めていたのである。
隠されていた理由と露見
ワークナーは、なぜ何も話してくれなかったのかとコルドロンに詰め寄った。
コルドロンは、究極的には禁呪の対抗策を発明しようとしているテラノスが間に合うかどうかだけが全てだったと語った。また、事情を共有する者が増えれば、塔にコレットの情報が漏れる危険が高まるため、情報漏洩を防ぐ必要があったと説明した。
そしてコルドロンは塔を睨み、しかし露見したようだと呟いた。
封血のブレスレット
塔による大地の卵への総攻撃
塔は非常事態を内々に発令し、全呪文の使用を自由とした。炎の派閥、風の派閥、無色の派閥が出撃し、大地の卵へ無制限の砲火を浴びせた。
しかし大地の卵は大地から魔力を吸い上げ、破壊された部分をすぐに再生していた。そのため上級魔導士達の上位魔法を受けても崩れず、逆に岩の弾丸や岩の巨腕で反撃し、塔の魔導士達を次々に撃墜していった。
塔上層部による破壊命令
炎の派閥のロッジ・ホランドは大地の卵への攻撃を続けようとしたが、ログウェルから撤退準備の伝令が届いた。
一方、塔の円卓の間では、炎帝の杖キャリオットが妖聖の杖エルノール、氷姫の杖エルファリア、ログウェルと共に状況を確認していた。キャリオットは、コレットが正統なロワールの後継者であることを把握し、央都で惨劇を繰り返させるわけにはいかないとして、大地の卵の破壊を決めた。
その命令により、コルドロンが危惧していた通り、コレットを救うか処分するかの天秤は、破壊へ傾いた。
混乱する学院と行方不明のシオン
学院では教師達が生徒を避難させていた。コレットが関わっていると知った生徒達は恐怖し、教師達の怒号と生徒の悲鳴が飛び交っていた。
その中でリリールとゴードンは、シオンがいないことに気付いた。シオンがコレットのもとへ向かったのではないかと考え、二人は青ざめたが、人の波に押されて引き返すことはできなかった。
ウィルが見出した突入の道
大地の卵を挟んで、塔の魔導士達は北側から攻撃していた。ウィル達は南側にいたため、直接砲火に晒されてはいなかったが、流れ弾だけでも命の危険があった。
ウィルは恐怖に震えながらも、大地の卵が北側の上級魔導士達へ対応しており、南側への注意が薄いことに気付いた。卵の内部に入ってコレットを助けるしかないと考え、ワークナーから教わった決して諦めないことという言葉を思い出した。
シオンは無理に決まっていると止めようとしたが、ウィルはコレットとここで別れたくないと告げた。
テラノスの到着
ウィル達のもとへ巨大な岩の破片が飛来したが、鋼の刃がそれを砕いた。現れたのはテラノスだった。
テラノスは、なぜそこまでして自分の娘を救おうとするのかとウィルに尋ねた。ウィルは、コレットと本当の友達になりたいから、寂しそうな彼女ではなく楽しそうに笑う彼女でいてほしいから、助けたいのだと叫んだ。
その答えを聞いたテラノスは、ウィルの考えを幼稚で愚かだとしながらも、眩しいものだと認めた。
封血のブレスレットの完成
テラノスはウィルの足元に鋼の剣を生み出し、その鍔と柄へ完成した封血のブレスレットを落とした。
それはロワール邸でウィルと繋がれていた環状の魔道具であり、これをコレットに嵌めれば理論上は彼女を救い出せるものだった。テラノスは、ブレスレットの完成にはウィルの協力が必要だったこと、そしてこの場で最も足が速いのがウィルであることから、彼にコレットのもとへ行くよう命じた。
ウィルは即座に頷き、鋼の剣を引き抜いて大地の卵へ向かった。シオンもそれを追い、大人達の魔法が二人の道を守り始めた。
コルドロンの救済計画
コルドロンは、テラノスが完成させたブレスレットを確認し、コレットを救えると判断した。
彼女は半年前、ウィルに無期限の迷宮探索許可証を与えた際、助かるかもしれない女生徒のために協力してほしいと求めていた。ウィルはその相手がコレットだと知らないまま、誰かを助けられるなら協力すると即答していた。
コルドロンはウィルの血を抽出し、その血から真紅の石を作ってテラノスへ渡した。これが封血のブレスレットの媒介となった。
魔力を逃がすための腕輪
当初、テラノスが作っていた封魔のブレスレットは、地の生贄の魔力を封じるためのものだった。しかしコルドロンは、ウィルが外部からの魔力を貪欲に溜め込む特性を利用し、コレットの魔力をウィルへ逃がし続ける仕組みを提案した。
コレットの魔力を封じるのではなく、腕輪を媒介としてウィルへ一方通行で送り続ければ、コレットは器として完成せず、界の巨兵の生贄を回避できる可能性があった。
テラノスはその構想を受け入れ、封魔のブレスレットを封血のブレスレットとして作り替えたのである。
テラノスの後悔と父親としての思い
テラノスは、半年以上かけてブレスレットを完成させたが、自分では娘のもとへ辿り着けないほど体を壊していた。
彼はロワール家に婿入りした当初、呪いへの知的好奇心と自尊心だけで動いていた。しかし妻コルネリアと娘コレットとの温かな家庭によって変わり、妻を失った後は娘を救うために手段を選ばなくなった。
それでもテラノスは、母を失ったコレットへどう接していいかわからず、研究に逃げてしまった。自分は父親らしいことが何もできなかったと認め、ロゼへ語った。
娘の未来を取り戻す決意
テラノスは、ウィルの真っ直ぐさを羨ましいと感じていた。自分は主役にはなれなかったが、後ろで糸を引く大人として、約束された悲劇の筋書きを書き換えようとしていた。
彼は世界に取り込まれた妻コルネリアへ、そろそろコレットを信じてやらないかと語りかけた。そしてロワールの亡霊達へ、娘達を解放しろと告げた。
テラノスは、娘の未来を返してもらうと叫び、至らない父親としての役目を果たすため、誰よりも苛烈に魔法を放った。
地母妃の守護巨兵
ゴーグルを装着して死地へ進むウィル
ウィルはエルファリアから贈られた約束のゴーグルを装着し、大地の卵へ向かって進んだ。上空から降る岩の雨や地面から現れる岩の大腕に命を脅かされながらも、コルドロン、ワークナー、テラノスの援護によって前進できていた。
コルドロンの砲撃、ワークナーの風魔法、テラノスの鋼の魔法が岩の攻撃を防ぎ、道を切り開いていた。大地の卵は北側の上級魔導士達への対応にも追われていたため、南側への迎撃が分散され、ウィルの突撃は辛うじて成立していた。
シオンがウィルを止める
何度も進路を変えさせられ、余波で転がされたウィルのもとへ、シオンが追いついた。シオンは死ぬつもりかと叫び、魔法を使えないウィルが大地の卵へ向かうことを必死に止めようとした。
シオンは、ウィルが震えていることも、怖がっていることも見抜いていた。そして大人に任せるべきだと訴え、ウィルにはコレットのためにそこまでする理由がないと迫った。
ウィルがコレットを助けたい理由に気づく
シオンは、ウィルが独りぼっちだから同じ独りぼっちのコレットを助けようとしているのだと指摘した。その言葉によって、ウィルは自分の本心をようやく見つけた。
ウィルは、自分とエルファリアは独りぼっちではなく二人ぼっちだったのだと叫んだ。ウィルにはエルファリアがいたから温もりを知っていたが、コレットは今も独りでいると気づいたのである。
だからウィルは、コレットをもう独りにさせたくないと告げた。それが、彼がコレットと友達になろうとしている理由だった。
ウィルが大地の卵へ侵入する
ウィルはシオンに背を向け、再び大地の卵へ向かって走り出した。シオンはその背中を追えず、立ち尽くすしかなかった。
コルドロン、ワークナー、テラノスの魔法が大地の卵の殻を砕き、生じた空隙へウィルは飛び込んだ。ウィルが卵に侵入する姿は、円卓の間で魔法球を見ていたエルファリアにも映った。
塔による処分の決定とエルファリアの抵抗
円卓の間では、学院関係者の避難が確認され、キャリオットが大地の卵を処分すると決めた。キャリオットは自ら執行者となり、塔の最上階から狙撃する準備に入った。
ワークナーとコルドロンは、塔がコレットごと卵を処分するつもりだと気づいた。さらに卵の中にはウィルもいるため、二人は危機感を募らせた。
その時、エルファリアはキャリオットの前に氷の破片を撃ち込み、ウィルを殺させないと立ちはだかった。キャリオットは、卵が孵れば天上の侵略者と同等かそれ以上の破壊者が現れると告げ、エルファリアが小さな命と魔法世界を天秤にかけていると指摘した。
それでもエルファリアは、ウィル達がコレットを助け出すと信じていた。そしてウィルのいない世界は滅んだ世界と変わらないと叫び、一歩も引かなかった。
卵内部に広がる大地の祭壇
ウィルが大地の卵に侵入すると、背後の割れ目は塞がり、外からの光は途絶えた。しかし内部には鉱石の光が散らばり、円蓋状の空間を照らしていた。
その中心には、巨大な地母妃の守護巨兵が君臨していた。太すぎる両脚と巨大な両腕を持つ岩塊の巨体は、無数の粘土の管に繋がれ、力を蓄えていた。表面には黄水晶のような魔力がきらめき、天上の侵略者を蹴散らすための決戦術式としての威容を放っていた。
巨兵に取り込まれるコレット
守護巨兵の胴体部分には、コレットが磔にされるように取り込まれていた。両腕と両脚はすでに巨兵の内部へ埋まり、右半身は岩の肌に覆われていた。
ウィルはすぐに助けると叫び、テラノスから託された鋼の剣と封血のブレスレットを手に進もうとした。しかしその直後、守護巨兵の胸部が肋骨のように開いた。
歴代の地の生贄とコルネリアの出現
開いた胸部から現れたのは、黄水晶の輝きを宿す巨大な宝珠だった。その中には白骨化した無数の女性達が折り重なっており、彼女達自身が宝珠を形作っていた。
ウィルは、それが歴代の地の生贄であり、ロワール一族の末路だと悟った。その表面から、長い髪と朽ちた貴族のドレスをまとった一体の骸骨がせり出した。
ウィルはそれがコレットの母、コルネリア・ロワールだと察した。コルネリアの亡霊は、我が子を守るように呪詛を告げた。
守護巨兵の攻撃とウィルの絶望
コルネリアの声に応じるように、守護巨兵を固定していた管が爆ぜ、巨体が動き出した。守護巨兵はウィルへ襲いかかり、振り下ろした拳で大地を割るほどの衝撃波を生んだ。
ウィルはその衝撃に巻き込まれ、卵の内壁へ叩きつけられた。たった一撃で四肢の骨にひびが入り、血を吐くほどの損傷を負った。圧倒的な規模の差と無機的な殺意に、ウィルは絶望を覚えた。
独りの絶望を知るウィルの立ち上がり
それでもウィルは立ち上がった。右手には鋼の剣、左手には封血のブレスレットを握っていた。
ウィルは、エルファリアが去った後に感じた独りになる絶望を思い出した。しかし自分には二人ぼっちだった温もりがあり、ワークナー達の手で闇を脱することができた。一方でコレットは今も寒い闇の中にいると考えた。
ウィルは、コレットを縛る絶望こそを恐れ、コレットの母に向かって彼女を返してもらうと告げた。鋼の剣を構えたウィルと守護巨兵が激突し、大地の祭壇で死闘が始まった。
炎帝の砲撃と大地の卵の崩壊
エルファリアが稼いだ五分
塔の最上階では、エルファリアがキャリオットを止めるために戦っていた。しかし五分の奮闘の末、円卓の間は氷と炎で荒れ果て、エルファリアは炎の球体に閉じ込められた。
キャリオットは、成長したエルファリアの力を認めながらも、勝負を制していた。エルファリアは炎の球体を内側から叩き、ウィルを助けようと叫んだが、キャリオットは大地の卵を処分するため、バルコニーから紅の魔法陣を展開した。
ワークナーの必死の懇願
地上では、ワークナーがエドワルドのもとへ飛竜から降り立ち、大地の卵への狙撃を止めるために力を貸してほしいと頼み込んだ。卵の中にはコレットとウィルが残っており、このままでは二人が死ぬと訴えたのである。
しかしエドワルドは、塔の判断こそ正しいと答えた。二人の生徒の命と央都の多くの民を秤にかけることはできないと考えていたからである。
それでもワークナーは、魔法を使えない身で竜より恐ろしい絶望へ飛び込んだウィルの勇気を語った。教師だけは、子供達が誰かを助けようとする勇気を称えなければならないと訴え、最後には友としてエドワルドに力を貸してくれと叫んだ。
風と闇が炎帝の砲撃を受け止める
塔の最上階から炎帝の砲撃が放たれる直前、ワークナーは風魔法で空へ駆け上がり、嵐竜の叫喚を放って炎に立ち向かった。
だがキャリオットの殲滅魔法は圧倒的であり、ワークナーの上位魔法をそよ風のように呑み込もうとしていた。炎が迫る寸前、エドワルドが隣に並び、闇の上位魔法を放った。
エドワルドはセルフォルトのためではなく、炎帝の杖の思い通りになるのが気に食わないだけだと叫んだ。また、以前ワークナーと交わした一度は協力するという約束を守るためでもあった。ワークナーはその義理堅さに喜び、二人は風と闇の重奏で炎の進軍を押しとどめた。
ウィルと守護巨兵の死闘
大地の卵の内部では、ウィルが地母妃の守護巨兵と戦っていた。体格も重量も魔力も圧倒的に違う相手であり、巨兵の一歩だけで大地が震え、全方位に岩の弾幕が放たれた。
それでもウィルは剣の力によって巨兵と渡り合った。巨兵の拳を避け、脹脛に剣痕を刻み、さらに秘伝魔法を取り込んで岩塊の長剣へ変えた魔剣で、巨兵の右腕を切り落とした。
しかし巨兵の腕はすぐに再生し、周囲の殻も瞬時に修復された。ウィルは、相手が五百年以上強化され続けてきた存在であり、コレットを取り込むために未完成の状態でなお圧倒的な強さを持つことを感じ取った。
魔剣の破壊とウィルの不屈
ウィルは核を狙うしかないと判断したが、切り落とされた巨腕が自爆し、爆発に巻き込まれた。ウィルの体は大きく傷つき、鋼の剣も真っ二つに折れた。
武器を失っても、ウィルはすぐに立ち上がった。残された武器はコレットを救いたいという想いだけであり、彼はコレットの名を叫びながら戦い続けた。
コレットが本心を吐露する
ウィルの声は、巨兵に取り込まれているコレットにも届いていた。コレットは、ウィルが自分のために戦い、壊され続けている姿を見て涙を流した。
コレットは過去に多くの者から恐れられ、拒絶され、父にも突き放された記憶を思い出した。自分がいると誰かを壊してしまうため、皆が笑うためには自分がいなくならなければならないと考えていた。
そしてコレットは、もう誰も壊したくない、誰かに笑っていてほしい、喜んでもらいたいから死にたいのだと、胸の奥に隠していた願いをウィルへ打ち明けた。
ウィルがコレットの本当の願いを言い当てる
ウィルは、コレットの願いを死にたいではなく生きたいだと断言した。誰かに笑っていてほしくて、喜んでもらいたくて、その気持ちを分かち合いたいのだから、コレットは生きたいのだと伝えたのである。
その言葉は、コレット自身も気付いていなかった本心を言い当てていた。血まみれになりながらも笑いかけるウィルを見て、コレットはもう死にたいとは言えなくなった。
ウィルはだから助けると告げ、封血のブレスレットを握りしめた。
コレットがウィルへ魔法を託す
界の巨兵が再び攻撃を放つ中、コレットは生贄の運命に抗った。全身を縛る岩と土の拘束の中でもがき、ありったけの魔力を解き放って、右腕を覆っていた岩の肌を砕いた。
コレットは自由になった右手をウィルへ伸ばした。それは助けられるためだけではなく、自分もウィルを助けるための手だった。
そしてコレットは、血統地伝・巨兵の短剣を唱え、巨大な岩の剣を生み出した。ウィルは封血のブレスレットを突き出し、コレットの想いごとその魔法を受け止めた。
土姫の魔剣による決着
ウィルの両手には、大地の巨剣である土姫の魔剣が顕現した。ウィルは全身全霊で疾駆し、守護の亡霊が核を守るために胸部を閉じ、両腕を交差させる完全防御を取っても勢いを緩めなかった。
ウィルは大地の超乃を放ち、コレットを取り込む胴体より上を狙って大壊撃を叩き込んだ。黄水晶の閃光が大地の卵を内側から染め上げ、巨兵と祭壇を包み込んだ。
炎帝の砲撃と卵の消滅
同じ頃、キャリオットの砲炎はワークナーとエドワルドの風と闇の魔法を蹴散らした。二人は炎に呑まれる寸前、飛竜に掴み上げられて間一髪で逃れた。
その直後、大地の卵は爆砕した。周囲は窪地状の焦土となり、巨大な卵は消え、炎上する校舎の瓦礫と、上半身が吹き飛んだ巨兵らしき残骸だけが残った。
ウィルがコレットを背負って現れる
ロゼは、どうなったのかと呟き、最悪の想像に顔を青ざめさせた。シオンは煙の先に影を見つけ、炎の欠片が舞う大地を駆けた。
そこには、コレットを背負って歩み出てくるウィルがいた。気を失ったコレットの右手首には封血のブレスレットが嵌められていた。
ウィルはゴーグルをつけたまま、口、鼻、目から血を流し、満身創痍だった。肺が傷ついたような呼吸音を漏らし、黒髪の中には燃え尽きたような白髪が目立っていた。今にも倒れそうなその姿を前に、シオンは呆然と立ち尽くした。
後始末と友達の約束
コルドロンが説明責任から逃れる
大地の卵の事件は解決したものの、最良の結末と言うには後始末が多く残っていた。コルドロンは、学院教師達や塔から求められる説明責任を後回しにし、ウィルの記憶補完を優先して旧校舎の隠し部屋に身を隠していた。
コルドロンは眠っているウィルへ短杖を振り、白髪化現象を直しながら、エルファリアにも大いに怒られそうだと溜息をついた。ワークナーには既に激しく叱られた後だったが、それでも彼女は機嫌のよい笑みを浮かべていた。
エルファリアが見舞いを望む
塔では、エルファリアがウィルの見舞いへ行こうとして副官サリサに必死に止められていた。ウィルを巻き込んだコルドロンにも突撃しようとしており、サリサは政治的に危険だと制止していた。
さらにエルファリアは、キャリオットを嫌い、氷と炎が仲良くすることを禁止するとまで言い出した。サリサは、至高の五杖として最初の指示がそれでよいのかと頭を抱えた。
その後、サリサは塔がコレット・ロワールの処理を見送るようだと報告した。エルファリアは背を向けながらも、確かな安堵の笑みを浮かべた。
テラノスが治療院で目覚める
事件後に昏倒したテラノスは、コルドロンの指示で央都一の治療院へ運ばれ、絶対安静を言い渡されていた。見舞いに来たワークナーに対し、テラノスは、コレットやウィルのもとへ行くべきではないかと意外そうに言った。
ワークナーは医務室へ通い過ぎたため、同僚にしばらく来るなと出禁にされたと答えた。テラノスはそれを聞いて笑い、体の痛みに苦しみながらも、以前とは違う穏やかな様子を見せた。
テラノスの謝罪とワークナーの返答
テラノスは、事情を話さずにウィルを巻き込んだこと、コレットに対して親の責任を果たさず迷惑をかけたことをワークナーへ謝罪した。
ワークナーは、ウィルを巻き込んだ件はほとんどコルドロンの責任であり、既に説教したから気にしなくていいと返した。また、テラノスが全てを代償に研究しなければ封血のブレスレットは完成せず、コレットは救えなかったとも語った。
ワークナーは、教師としてテラノスを讃えることはできないが、探究の地獄を渡り抜いた魔導士として責められるべきでもないと考えていた。
テラノスが父親として向き合う決意をする
テラノスは、これからはコレットの父親としての務めを果たすと告げた。コレットに許されず嫌われるだろうとわかっていても、妻コルネリアの分まで向き合うつもりだった。
ワークナーは、憑きものが落ちたようなテラノスを見て、彼がこれまで娘を救う使命に取りつかれ、身も心も追い込んでいたのだと感じた。
禁呪の因縁が断たれた可能性
テラノスはコレットの容態とロワールの禁呪の反応を尋ねた。ワークナーは、コレットはまだ眠っているが命に別状はなく、界の巨兵の影も今のところ見えないと答えた。
封血のブレスレットによって、コレットの魔力はウィルへ送られていると考えられた。生贄の器に至っていないと界の巨兵に誤認させる理想の状態となっており、テラノスはひとまず目論見通りだと安堵した。
ウィルへの感謝を本人に伝えるよう促される
テラノスは、ワークナーに娘を最後まで見捨てず戦ってくれたことへの感謝を伝えた。そして、ウィルにも感謝を伝えてほしいと頼んだ。
しかしワークナーはそれを断り、ウィルには自分の口から伝えるべきだと返した。ウィルはコレットの大切な友人になるのだから、と迷いなく告げた。
コレットが医務室で目覚める
コレットは医務室で目を覚ました。窓の外は昼と夜の境目のようで、放課後の気配があった。
視線の先には、シオンとロゼがいた。ロゼは見舞いの果物をつまみ食いしようとしていたが、コレットが目覚めたことに驚き、慌てて話しかけた。コレットがロゼの名を呼ぶと、ロゼは瞳を潤ませた。
ロゼは先生を呼んでくると言って医務室を飛び出し、シオンだけが残った。
シオンがウィルの存在を示す
コレットは助けられたのかもしれないと思い、何か言おうとした。しかしシオンは先に、自分は何もしていないと告げた。
シオンは、コレットを助けたのはそいつだと言い、寝台の奥を見た。コレットが上体を起こして視線を向けると、そこにはウィルが寝台に臥せって眠っていた。
コレットは、界の巨兵に取り込まれたこと、ウィルが助けに来てくれたこと、自分が生きようとして魔法を託したことを断片的に思い出した。自分が今ここにいるのは、側にいようとしてくれたウィルのおかげだと理解した。
コレットが涙を流す
シオンは何も言わず医務室を出ていき、コレットとウィルは二人きりになった。
コレットの目尻から涙がこぼれ、ウィルの手の甲に落ちた。ウィルは目を覚まし、コレットが泣いていることに気づくと、どこか痛いのかと慌てて心配した。
その直後、コレットは細い腕を伸ばしてウィルに抱きついた。コレットは声を上げて泣きじゃくり、ウィルは驚きながらも力を抜き、優しく抱きしめ返した。ウィルが背中をさすってくれるたび、コレットの心には温かいものが満ちていった。
コレットが友達になりたいと願う
一しきり泣いた後、コレットは体を少し離し、しゃくり上げながら言葉を手繰り寄せた。
そしてウィルに、自分と友達になってくれますかと尋ねた。それはコレットが本当はずっと望んでいた関係に手を伸ばす言葉だった。
ウィルは驚いた後、顔を喜びに染め、もちろんと答えた。コレットの唇は花が咲くようにほころび、涙を頬に伝わせながら、年相応の少女のように笑い返した。
Epilogue Let’s be Friends
土の姫君事件の後始末と新しい日常
ロワールの呪いを見直すコレット
始祖ロワールの禁呪によって地の生贄の運命が定められたことを、コレットはかつてふざけるなと思っていた。しかし界の巨兵と融合しかけたことで、その呪いは絶対に死なせない守護者の誓いでもあったのではないかと感じるようになった。
古代や戦乱の時代では命の価値が低く、いつ死んでもおかしくなかった。その中で、約束の日まで一族を守る禁呪は、一日でも多く生きて希望を見出してほしいという始祖ロワールの祈りだったのかもしれなかった。
母と一族に別れを告げるコレット
コレットは、夢と幻の狭間にある白い揺り籠のような空間で、在りし日の姿をした母コルネリアと向き合った。母は寂しそうに微笑み、コレットを見守り、護ろうとしていた。
魔法の力に囚われて歪んでいたとしても、そこには確かに母の愛があった。コレットはもう大丈夫だからと微笑み、母と一族の魔女達に見送られながら、涙を堪えて走り出した。その先には、一人の友達が待つ温かな世界があった。
土の姫君事件の影響
校舎粉砕事故、通称土の姫君事件は、学院に大きな影響を与えた。第二校舎は全壊し、土地そのものにも甚大な損傷が出たため、修復には時間がかかることになった。
そのため学院は、しばらく第一校舎と旧校舎を使って運営されることになった。四百年の歴史を持つリガーデン魔法学院にとって、前代未聞の大事故であった。
コルドロンの声明と処分の行方
事件の原因であるコレットを非難する声は多かったが、コルドロンは今回の責任は全て自分にあると声明を出した。魔法世界の維持を優先して犠牲に鈍感になっている央都の体制への懐疑から、半分意地でコレットを救ったとも語った。
人的被害は限りなくゼロであり、死者はいなかった。それでも塔の上層部ではコルドロンの校長職罷免が妥当とする方針が濃厚になった。しかしロワールの秘術を繋ぎ止めた功績や、これまでの人望も考慮され、最終的には光皇の杖アロンの一声で現状維持となった。減俸などの罰は課されたが、コルドロンは校長職に留まった。
コレットへの処遇とエルファリアの牽制
コレットの扱いは要経過観察とされ、何かあれば今度こそ処分対象とするという塔と学院の密約が結ばれた。
一方で、コレットを生体標本にすべきだという声も上がった。しかしエルファリアは、そんなことをすれば至高の五杖をやめると塔に宣言した。稀代の天才であるエルファリアを失う方が魔法世界の損失になるため、塔はコレットを狙う動きを控えた。
この行動により、エルファリアは非道を認めない清き聖女として称賛されたが、副官のサリサだけは疲れ果てた様子を見せていた。
試験日程の変更とウィルの回復
事件の影響で、全学年の学期末試験と最終試験の日程は大きく後ろ倒しになった。
一の月七日、第一週土の曜に、異例の年越しで学期末試験が行われることになった。ウィルは土の姫君事件の後、丸一日ほど眠っていた。目覚めた時にはコルドロンが側におり、白髪も減っていた。
ウィルは大地の卵に飛び込むまでのことは覚えていたが、その後の記憶は曖昧だった。コルドロンからは、至高の五杖の砲撃から間一髪逃れた衝撃で記憶が飛んだのだろうと説明されたため、ウィルはそう納得した。
シオンがウィルを待ち受ける
試験当日の朝、ウィルは臨時の試験会場である旧校舎へ向かっていた。境界祭はすでに終わっており、ウィルはコレットの見舞いと試験勉強に追われていたため、エルファリアが大結界を張り直す姿を見ることはできなかった。
旧校舎へ向かう途中、ウィルはシオンと出会った。シオンはリリールやゴードンを連れず、通りの真ん中でウィルを睨んで待ち構えていた。ウィルが挨拶を迷っていると、シオンは不意打ち気味にウィルを殴った。
コレットが旧校舎の中庭で待つ
旧校舎の中庭では、コレットが長椅子に座ってウィルを待っていた。ウィルが現れると、コレットは慌てて立ち上がり、顔を赤くしながら何かを言おうとしてうまく言えなかった。
ウィルはそんなコレットに笑いかけ、手を差し出した。そして友達は一緒に授業を受け、放課後にお菓子を食べに行くのだと伝えた。
友達として歩き出す二人
ウィルは、試験が終わった後にコレットと冗談を言って笑い合いたいと続けた。その言葉は、コレットが伝えたかった思いそのものだった。
コレットの頬は染まり、唇は笑みの形に曲がった。うなじにはもう黒涙花の魔法陣はなく、右手にはウィルとの絆を示す封血のブレスレットがあった。
土の姫君ではなく普通の女の子になったコレットは、満面の笑みで頷いた。そしてウィルと手を繋ぎ、もう独りではない少女として学び舎へ走り出した。
杖と剣のウィストリア 1 グリモ アクタ
杖と剣のウィストリア グリモ アクタ まとめ
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