魔導具師ダリヤ 7巻レビュー
まとめ
魔導具師ダリヤ 9巻レビュー
- ど物語の概要
- 読んだ本のタイトル
- あらすじ・内容
- 感想
- 遠征訓練のはずが完全にキャンプBBQ
- 魔物の素材を見たがるダリヤも完全に同類
- そんな騎士達を「弛んでいる」と見るベルニージ
- ダリヤの魔導具は「楽をするため」だけではない
- そしてベルニージの前にマルチェラが現れる
- 亡くした息子の先に、ちゃんと家族が続いていた
- 「名書き」を頼むヨナス先生がまた良い
- さらにダリヤ、義足を魔改造する
- 引退しそうだった老騎士が、現役復帰しそうになっている
- マルチェラとの暗黙の了解が泣かせる
- しかも武具開発部門の後見までしてくれる
- 一方、ダリヤはまたスライムで変な物を作っている
- イヴァーノの胃が心配になってくる
- 「至高のクッション」と堕落座卓を組み合わせたら危険では?
- しかしスライムが心配になってきた
- ヴォルフへの背縫いから商会紋まで決まるとは
- 8巻は「守るもの」が増えていく話だった気がする
- 番外編のカルロがまた良い父親だった
- まとめ
ど物語の概要
■ 作品概要
主人公のダリヤ・ロセッティは、ロセッティ商会会長を務める庶民の魔導具師であり、魔物討伐部隊の相談役である。
彼女は開発した「携帯温風器」の実地テストのため、男装と変声魔導具「声渡り」を用いて討伐部隊の西街道遠征訓練に同行する。
現地での鎧蟹討伐や味噌を用いた野外調理を経て、部隊の騎士達や元副隊長ベルニージ前侯爵との信頼関係を構築した。
遠征後、ヴォルフレードのアンダーシャツへの安全祈願「背縫い」を引き受けたダリヤは、試作中の誤操作をきっかけにイエロースライムの一級粉等を用いた高弾力の衝撃吸収素材を発見する。
この新素材を巡りスカルファロット別邸で異例の合同魔法付与実験が実施され、流動性を持つ極小ビーズの発明へと結実した。
実験の成功により「軽度防護布」および「衝撃吸収材」の製品化と、特許利益の分配契約(商会6割、協力者8名で4割均等分配)が成立し、商会の経済基盤と技術協力体制は決定的に強化された。
■ 主要キャラクター
ダリヤ・ロセッティ
- 立場・所属: ロセッティ商会会長、魔導具師、魔物討伐部隊相談役魔導具師。
- 主人公との関係: 主人公本人。
- この巻での主な役割: 男装(「ダリ」)で遠征訓練に同行し携帯温風器のテストや味噌を用いた調理助言を行い、ヴォルフのための背縫い試作から衝撃吸収素材・極小ビーズを発明する。
- この巻で起きた重要な変化や行動: ベルニージ前侯爵との対話で「赤髪の魔女」「水虫の女神」等の二つ名を知り強いショックを受ける。夜犬と赤い花の図案を商会紋に決定し、スカルファロット別邸での合同実験を技術面から先導した。
ヴォルフレード・スカルファロット
- 立場・所属: オルディネ王城騎士団 魔物討伐部隊員(スカルファロット伯爵家四男)。
- 主人公との関係: 友人、ビジネスパートナー。
- この巻での主な役割: 遠征訓練で大剣を用いて鎧蟹を一撃で討伐し、打ち上げの席でダリヤにすべてのアンダーシャツへの「背縫い」制作を依頼する。
- この巻で起きた重要な変化や行動: 高等学院時代に恋文にカミソリの刃が仕込まれていたトラウマを明かす。自立した試作シャツから衝撃吸収材の防具応用を見抜き、ダリヤに背縫いを施されたシャツを部隊で披露した。
ヨナス・グッドウィン
- 立場・所属: スカルファロット武具工房長(グッドウィン子爵家出身、炎龍の魔付き)。
- 主人公との関係: 武具に関する指導役(「ヨナス先生」)、技術的協力者。
- この巻での主な役割: 遠征訓練でのダリヤの護衛補佐を務め、炎龍の魔付きによる味覚変化(生の蟹や魚の嗜好)を理解される。マルチェラとベルニージの再会を調整する。
- この巻で起きた重要な変化や行動: 諜報部の身辺調査を取り下げさせ、ベルニージを武具開発部門へ勧誘。生まれた子供への「名書き」を依頼し、合同実験では火魔法による付与実験に成功した。
マルチェラ
- 立場・所属: ダリヤの護衛役(元運送ギルド員、スカルファロット家騎士)。
- 主人公との関係: 友人(妻イルマがダリヤの幼馴染)であり、商会設立時の保証人・護衛役。
- この巻での主な役割: 遠征訓練や工房作業でダリヤの護衛・力仕事を担う。魔法付与実験で「強めにガツンと」魔力を込めたことで亜麻色の球を四散させ、極小ビーズ発見の直接的トリガーとなる。
- この巻で起きた重要な変化や行動: 亡き父ベルナルディの父であるベルニージ前侯爵と再会。貴族復帰を断り生涯庶民として生きる意志を示し、生まれてくる双子(男:ベルノルト/ディーノ、女:ベルティナ/ディアーナ)の「名書き」を承諾された。土魔法の魔力が14から15へ上昇。
ベルニージ・ドラーツィ
- 立場・所属: 前ドラーツィ侯爵、魔物討伐部隊元副隊長。
- 主人公との関係: 遠征先で交流を持った元副隊長。後に商会の技術・開発協力者。
- この巻での主な役割: 遠征訓練の見学に訪れ、馬車内でダリヤから携帯温風器の提供を受けつつ対話する。マルチェラが亡き息子の実子(孫)であることを知る。
- この巻で起きた重要な変化や行動: ダリヤとの対話で魔導具への偏見を改め二つ名を伝えた。マルチェラ達の「名書き」を引き受け、スカルファロット家武具開発部門に参加。合同実験では高い土魔法の魔力で大量の極小ビーズを制作した。
グイード・スカルファロット
- 立場・所属: スカルファロット伯爵家当主(次期侯爵)。ヴォルフレードの兄。
- 主人公との関係: ロセッティ商会の後援者・貴族側の協力者。
- この巻での主な役割: イヴァーノと交渉を行い、スカルファロット家別邸を会場として複数ギルド・高位貴族を集めた商会紋お披露目と新素材の合同実験・会議をセッティングする。
- この巻で起きた重要な変化や行動: 背縫い試作から派生した新素材に着目し、各ギルド長や前侯爵を巻き込んだ大規模推進体制を構築。試作品の馬車用クッションを優先調達する交渉を行った。
イヴァーノ・バドエル
- 立場・所属: ロセッティ商会副会長。
- 主人公との関係: 商会運営の実務を支える右腕・ビジネスパートナー。
- この巻での主な役割: 商会紋の手続を進め、グイードとの交渉や合同会議での商談を取り仕切る。
- この巻で起きた重要な変化や行動: 貴族同士の駆け引きに対応しながら商会の利益を守る立場を貫く。合同会議において、特許利益のうち商会が6割、協力者8名で4割(各5%)を均等分配する契約条件を成立させた。
ルチア・ファーノ
- 立場・所属: 服飾魔導工房長(服飾ギルド員)。
- 主人公との関係: ダリヤの友人・仕事上の協力者。
- この巻での主な役割: ダリヤが試作した極小ビーズを着想源に大判の布へ詰め、「至高のクッション(人に怠情を教えるクッション)」を試作・命名する。
- この巻で起きた重要な変化や行動: 新素材を男女の体型補正用パッドや寝具・医療用途へ多角展開する構想を提示し、合同実験でもベルニージやダリヤを巻き込んで積極的に試作を推進した。
イデアリーナ・ニコレッティ
- 立場・所属: スライム養殖場研究主任。
- 主人公との関係: スライム素材の研究協力者(ダリヤとイヴァーノから研究援助を受けている)。
- この巻で起きた重要な変化や行動: イエロースライムを用いた新素材の完成と「至高のクッション」の感触に感銘を受け、実験結果の取りまとめやスライムの性質解明に大きく貢献した。
- この巻での主な役割: ダリヤにイエロースライムの一級粉を供給しており、合同実験ではスライムの性質・魔法属性による変化(水魔法での小石状変化やレッドスライムでの人肌温の固ゆで状変化など)を検証・記録する。
読んだ本のタイトル
#魔導具師ダリヤはうつむかない ~今日から自由な職人ライフ~ 8
(英語名:Dahlia in Bloom: Crafting a Fresh Start with Magical Tools)
著者:甘岸久弥 氏
イラスト:景 氏
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
スライム製品に補助魔導具――ダリヤの開発で騎士の背中を守る!
遠征訓練へ同行するなど、魔物討伐部隊との関係を強固にしていく女性魔導具師のダリヤ。
魔導具師ダリヤはうつむかない ~今日から自由な職人ライフ~ 8
彼女は魔物討伐部隊員から、ヴォルフのアンダーシャツに『背縫い』をしてやってほしいと頼まれる。『背縫い』とは、戦いに赴く者の無事を願い、その者の衣服の背に施す縫い取りのことだった。
彼らの頼みを引き受けたダリヤは、シャツへ縫い取りのみならず、スライムを使ったとある付与ができないかを試すのだが――。
「ロセッティの『商会紋』になりそうだ。このシャツも、防具に使えるかも……」
思わぬかたちで、ダリヤは『商会紋』とともに新たな開発品を生みだしてしまう。さらに各界の重鎮をも巻き込み行われた新製品の実験の場で、魔物討伐部隊を引退した侯爵家元当主の義足の不調に遭遇したダリヤは、その改良を試みることにもなり――!?
魔導具師ダリヤのものづくりストーリー、挑戦と前進の第八弾、開幕!
感想
魔物討伐部隊の遠征訓練。
普通なら緊張感のある野外訓練になるはずなのだが……。
ダリヤが開発した魔導具を持ち込んだ結果、どう見てもキャンプになっている。
今回の獲物は鎧蟹。
巨大な蟹を嬉々として狩る騎士達。
倒したらその場でバラす。
刺身にする。
蒸す。
炙りバターにする。
味噌汁まで作る。
遠征訓練とは?
しかも、そんな騎士達の中に自然に紛れて魔物の素材を観察しているダリヤ。
もう完全に魔物討伐部隊の身内である。
そんな楽しそうな遠征の一方で、印象に残ったのが元副隊長ベルニージだった。
最初は今の騎士達を見て、
「弛んでいる」
と批判していた人物である。
しかし、その言葉の奥にあったのは精神論だけではなかった。
もう誰にも死んでほしくない。
自分が守れなかった部下。
そして魔物討伐部隊で命を落とした息子。
過去を背負った老人が、マルチェラと出会ったことで少しずつ前を向いていく。
この流れがとても良かった。
遠征訓練のはずが完全にキャンプBBQ
今回、ダリヤは携帯温風器の実地試験も兼ねて魔物討伐部隊の遠征訓練へ同行する。
護衛のマルチェラ。
そしてヨナス先生も一緒である。
ダリヤにとっては初めて魔物討伐部隊と一緒に行く遠征。
当然ながら危険もある。
実際、ヴォルフが巨大な鎧蟹へ飛び込み、一撃で仕留める姿を目の前で見ることで、彼らの仕事が常に死と隣り合わせなのだと改めて実感することになる。
……のだが。
討伐が終われば空気が一変する。
鎧蟹の刺身。
蒸し蟹。
炙りバター。
スープ。
さらに宝魚まで捕まえて味噌汁と刺身。
遠征用の魔導具もそろっている。
これもうキャンプBBQでは?
魔法を戦闘だけではなく調理に使っているのも面白い。
騎士や魔導師の高い技術力を、蟹をおいしく食べるために全力投入している。
平和だ。
いや、直前まで巨大な魔物を倒していたのだが。
魔物の素材を見たがるダリヤも完全に同類
そして騎士達が鎧蟹を解体している横で、ダリヤも魔物の素材に興味津々。
普通なら巨大な蟹型魔物の解体現場なんて遠慮したくなりそうなものだが、そこは魔導具師。
「この部位は何かに使えないだろうか」
という方向へ思考が飛んでしまう。
騎士達は魔物を見れば、
「どう倒すか」
「どう食べるか」
を考える。
ダリヤは、
「何か魔導具に使えないか」
を考える。
なんだ。
やっぱり似た者同士じゃないか。
ダリヤが魔物討伐部隊に馴染んでいくのも当然なのかもしれない。
そんな騎士達を「弛んでいる」と見るベルニージ
ところが、そんな現在の魔物討伐部隊を厳しい目で見ている人物がいた。
元副隊長のベルニージである。
かつて部下を守るため七日間戦い続け、片足を失った老騎士。
彼からすれば、暖かい魔導具を使い、おいしい物を食べ、楽しそうに遠征する現在の騎士達は緊張感が足りないように見える。
最初は、
「昔の人の精神論かな」
とも感じた。
しかし読み進めると、そんな単純な話ではなかった。
ベルニージは怖いのだ。
若い騎士達が油断して死ぬことが。
自分は片足を失った。
部下も失った。
そして息子まで魔物討伐部隊で亡くしている。
だからこそ、
「楽をしていたら死ぬ」
という感覚から抜け出せなかったのだろう。
ダリヤの魔導具は「楽をするため」だけではない
そんなベルニージに対するダリヤの考え方が印象に残った。
便利な魔導具を使って、戦闘以外の負担を減らす。
体力を残す。
それによって生き残る可能性を上げる。
楽をすることと、弛むことは違う。
むしろ無駄な消耗を減らして、本当に必要なところへ力を残す。
ダリヤの魔導具が魔物討伐部隊に受け入れられている理由が、ここで改めて分かった気がする。
防水布も。
五本指靴下も。
遠征用コンロも。
携帯温風器も。
派手に魔物を倒す武器ではない。
でも、騎士達が少しでも楽に遠征できる。
疲労を減らせる。
怪我や病気を防げる。
そして、生きて帰れる。
ベルニージも、現在の部隊では昔より死者や負傷者が減っていると知り、少しずつ考えを変えていく。
この展開は良かった。
そしてベルニージの前にマルチェラが現れる
ここからが8巻で一番印象に残った。
ヨナス先生。
やってくれましたね。
ベルニージの前にマルチェラを連れてくる。
亡くなった息子ベルナルディの面影を残す青年。
そして彼の名前はマルチェラ。
それは、ベルナルディが結婚したいと言っていた女性と同じ名前だった。
ベルニージには分かってしまう。
目の前にいる青年が誰なのか。
一方のマルチェラは大貴族を前にしてカチコチ。
しかし、二人の間では直接すべてを口にしなくても伝わっている。
この距離感が良かった。
亡くした息子の先に、ちゃんと家族が続いていた
ベルニージは息子ベルナルディと結婚の話を巡ってすれ違ったまま、彼を失っている。
もう取り返すことはできない。
謝ることもできない。
話し合うこともできない。
ところが、ベルナルディの人生はそこで完全に途切れていたわけではなかった。
息子が愛した女性との間にマルチェラが生まれていた。
そして今度は、そのマルチェラとイルマの間に双子が生まれる。
ベルニージにとっては曾孫である。
失ったと思っていた家族が、別の場所でちゃんと続いていた。
ここは読んでいてかなりくるものがあった。
「名書き」を頼むヨナス先生がまた良い
そしてヨナスがベルニージへ「名書き」を依頼する。
一族の年長者が赤子のために名を書き、その紙に赤子を触れさせる。
長く生きてほしいという願いを込めた風習。
ベルニージがそれを引き受ける。
これがまた良い。
ダリヤが必死に助けたマルチェラとイルマ。
その二人の間に生まれる子供達。
誕生を待ち望む人が、また一人増えた。
しかも魔物討伐部隊の元副隊長。
前侯爵。
そして血のつながった曾祖父。
ベルニージが自分の癖字を思い出して、曾孫のために文字の練習を始めるのも良い。
剣を振るってきた老騎士が、まだ生まれていない曾孫のためにペンを握る。
こういう場面に弱い。
さらにダリヤ、義足を魔改造する
そしてベルニージの古い義足へ問題が起きる。
そこで登場するのがダリヤである。
新しく開発した衝撃吸収材を義足へ使えないか。
接触部分を柔らかくする。
身体への負担を減らす。
さらに魔法による補助まで追加する。
結果。
魔導義足爆誕。
ベルニージが杖なしで歩いている。
それどころか剣を振っている。
馬にまで乗れる。
待て待て。
性能上がりすぎでは?
引退しそうだった老騎士が、現役復帰しそうになっている
ここが本当に良かった。
登場したばかりのベルニージは、過去を引きずっている老人だった。
片足を失った。
部下を失った。
息子を失った。
現在の魔物討伐部隊にも馴染めない。
最近は元気もなく、本格的に隠居していく人物なのかと思っていた。
それがどうだ。
曾孫が生まれる。
名書きをするため文字を練習する。
マルチェラ達の生活を守ろうとする。
武具開発にも関わる。
魔導義足を手に入れる。
剣を振る。
馬に乗る。
そして、
「春までに鍛え直す」
と言い始める。
元気になりすぎだろう。
でも、それがうれしい。
身体が動くようになったから元気になっただけではないのだと思う。
自分にはまだやることがある。
守りたい家族がいる。
後輩達へ残せるものがある。
そう思えるようになったことが大きいのではないだろうか。
マルチェラとの暗黙の了解が泣かせる
ベルニージとマルチェラが、いきなり感動の祖父と孫になるわけではないところも好きだった。
マルチェラは庶民として生きてきた。
イルマと家庭を築いている。
もうすぐ子供も生まれる。
そこへ突然、
「実は前侯爵の孫でした」
となっても困る。
ベルニージも、それを理解している。
だから無理に貴族社会へ引っ張らない。
マルチェラ達の今の生活を守ろうとする。
お互いに分かっている。
でも、全部を言葉にはしない。
その距離感がとても良かった。
失われていた家族の関係が、無理やり元通りになるのではなく、新しい形で少しずつつながっていく。
そこが印象的だった。
しかも武具開発部門の後見までしてくれる
さらにベルニージは、スカルファロット家の武具開発にも関わるようになる。
元魔物討伐部隊副隊長。
前侯爵。
現場経験もある。
貴族社会にも顔が利く。
ダリヤ達にとって、ものすごく心強い人物である。
前巻では魔剣作りが大事になり、スカルファロット家が正式に武具開発を扱うようになった。
そこへベルニージまで加わる。
ダリヤ本人はあまり自覚していないだろうが、周囲の守りがどんどん固くなっている。
魔導具を作れば作るほど注目されるダリヤにとって、これはかなり大きいと思う。
一方、ダリヤはまたスライムで変な物を作っている
感動していたら、今度はスライムである。
衝撃吸収材。
軽度防護布。
そして極小の粒を使ったクッション。
また新商品候補が増えている。
しかも研究会に集まっている面子がおかしい。
高位貴族。
ギルド関係者。
魔導具師。
服飾関係者。
そこへルチアが、
「もっと魔力を流して」
とでも言わんばかりに実験を進める。
そして素直に魔力を流す貴族達。
ダリヤ。
ルチア。
あなた達、また何か始めましたね?
イヴァーノの胃が心配になってくる
一方、その光景を見るイヴァーノ。
たぶん頭の中では、
「これを商品化すると……」
「権利関係は……」
「どこのギルドを巻き込む……」
「生産量は……」
「素材の確保は……」
と計算が始まっている。
そりゃ胃の辺りも押さえたくなる。
ダリヤが一つ新素材を作る。
ルチアが別用途を思いつく。
貴族達が実験する。
新商品が増える。
ロセッティ商会の仕事が増える。
イヴァーノの胃薬も増える。
最近、この流れが様式美になってきた。
「至高のクッション」と堕落座卓を組み合わせたら危険では?
そして完成したクッション。
人に怠惰を教えるような座り心地。
待ってほしい。
前巻には「堕落座卓」がある。
今回のクッションと堕落座卓。
組み合わせたら駄目なやつでは?
温かい座卓。
身体を包み込むクッション。
鍋。
酒。
もう二度と立てない。
「堕落シリーズ」として売り出せそうである。
恐るべしロセッティ商会。
人々の生活を便利にするどころか、人間を駄目にする方向でも進化し始めている。
しかしスライムが心配になってきた
問題は素材だ。
スライムである。
防水布。
新素材。
衝撃吸収材。
クッション。
医療用品。
用途が増え続けている。
ダリヤが発明するたびに、
「またスライムの需要が増えるのでは?」
と心配になってくる。
そろそろ本気でスライムの養殖や保護を考えないといけないのではないだろうか。
ダリヤ。
スライムを使う魔導具ではなく、
「スライムを増やす魔導具」
を開発した方がいいかもしれない。
ヴォルフへの背縫いから商会紋まで決まるとは
もう一つ面白かったのが、ヴォルフのアンダーシャツへの「背縫い」。
戦地へ向かう人の無事を願い、親しい女性が背中へ刺繍する風習である。
もちろんダリヤは深い意味を知らない。
純粋に、
「ヴォルフが無事に帰ってきますように」
という気持ちで引き受ける。
そして夜犬と赤い花の図案を考える。
ヴォルフは大喜び。
意味を知っている周囲。
微妙な空気。
当人二人。
分かっていない。
いつものやつだ。
しかも、そのデザインがそのままロセッティ商会の商会紋になる。
ヴォルフの背中を守るために考えた模様が、今度はダリヤの商会を示す紋になる。
偶然なのだが、なかなか意味深である。
8巻は「守るもの」が増えていく話だった気がする
読んでいて感じたのは、8巻には「守る」という話が多かったことである。
ダリヤは魔導具で魔物討伐部隊の負担を減らす。
ヴォルフの無事を願って背縫いをする。
ベルニージは失った息子の先に残されたマルチェラと曾孫を守ろうとする。
スカルファロット家は大きくなっていくダリヤの立場を守る。
新素材は騎士達の身体を守る防具へ使われる。
ダリヤが作っているものは便利な生活用品なのだが、結果的に誰かが生きて帰るための道具になっている。
だからベルニージのような古い騎士にも、最後にはその価値が伝わったのだと思う。
番外編のカルロがまた良い父親だった
そして最後の番外編。
ダリヤの父カルロの話が良かった。
ダリヤの母テリーザを失ったあと、カルロは父親として、そして魔導具師の師匠として娘を育ててきた。
危険な世界からできるだけ遠ざける。
それでも、自分がいなくなったあと一人でも生きていけるよう技術を教える。
一人前の魔導具師へ育てる。
今のダリヤがあるのは、カルロがずっと背中を支えていたからなのだと改めて感じる。
そして、
母親がいなかった分まで自分が二倍愛した。
いつかあの世で再会したら、ダリヤがどれだけ立派に育ったのか全部話したい。
そんな父親の気持ちを知ると、やっぱり思う。
いい父親だよ。
本当に。
もっと長く生きて、今のダリヤを見ていてほしかった。
商会長になった。
魔物討伐部隊の相談役になった。
高位貴族やギルド長達まで集めて魔導具を作っている。
魔剣開発にも関わっている。
そして相変わらず本人だけは、
「ちょっと便利な物を作りました」
くらいの顔をしている。
カルロが今の娘を見たら、どんな顔をしたのだろう。
まとめ
8巻はかなり盛りだくさんだった。
鎧蟹を狩って食べるキャンプのような遠征。
ベルニージとマルチェラの再会。
曾孫への名書き。
蒼く輝く魔導義足。
武具開発へのベルニージ参加。
スライム由来の新素材。
人を駄目にしそうなクッション。
ヴォルフへの背縫い。
ロセッティ商会の商会紋。
そしてカルロの過去。
特に印象に残ったのはベルニージだった。
過去に囚われ、引退していくだけに見えた老騎士が、失った息子の先に続く家族を知る。
曾孫のために文字を練習する。
新しい義足で再び立つ。
剣を握る。
未来へ向かって動き始める。
ダリヤが作ったのは義足という魔導具だが、ベルニージが取り戻したのは足だけではなかったのだと思う。
生きる張り合いまで取り戻している。
ダリヤが懸命に助けたマルチェラとイルマ。
その二人の子供達の誕生を待っている人が、また増えた。
こうやってダリヤが助けた人から、さらに別の人へ縁がつながっていくところが、この作品の好きなところである。
……それはそれとして。
至高のクッション+堕落座卓。
絶対に危険である。
冬の亀どころか、冬眠する人間を大量生産しかねない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
魔導具師ダリヤ 7巻レビュー
まとめ
魔導具師ダリヤ 9巻レビュー
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
考察・解説
ストーリー・プロット
第1幕:ペーパーナイフへの付与と遠征訓練の事前準備
ダリヤは緑の塔で、ヴォルフレード(ヴォルフ)が持参した銀色のペーパーナイフに銀蛍の鱗粉を付与する作業を行う。
その際、ヴォルフが高等学院時代に恋文中のカミソリの刃で手首を傷つけられて以来、手紙の開封を避けてきた過去を知る。付与により美しく輝くナイフを完成させたダリヤは、ヴォルフの安全を願う思いを強くし、人工魔剣の開発意欲を新たにする。
翌日に迫った魔物討伐部隊の西街道遠征訓練へ同行するにあたり、周囲の心配や魔物の襲撃リスクを考慮したダリヤは、黒髪の帽子と伊達眼鏡による男装(「ダリ」)を整え、変声魔導具「声渡り」を装着して王城の馬場へ向かい、ヴォルフや護衛のマルチェラ、ヨナスと共に隊長グラート率いる遠征部隊へと合流・出立した。
第2幕:西街道での遠征訓練と鎧蟹討伐・現地試食
西街道の水場点検を終えた部隊は山際の岩場へ移動し、大型魔物・鎧蟹の討伐を開始する。赤鎧のグリゼルダとランドルフが大個体を誘い出すと、巨体を現した群れのリーダー格に対し、ヴォルフは大剣で急所を一撃で突き刺し即死させる。
さらにグラート隊長は、バルトローネ家の血族固定で火魔法保持者のみが使用できる魔剣「灰手」を用い、別の個体を甲羅ごと蒸し焼きにする。川原に戻った後、ダリヤは隊員達に「携帯温風器」の装着と東ノ国の調味料「味噌」を煮立たせずに溶かす調理法を伝授する。
また「赤銅の熊」の異名を持つランドルフが川で宝魚を「手捕り」し、炎龍の魔付きで加熱料理が苦手なヨナスにダリヤが蟹刺しや宝魚の刺身を勧め、現地試食は盛況となる。
この食後の和やかな空気の中、見学に訪れた元副隊長ベルニージ前侯爵の馬車前でダリヤが足を滑らせかけた事故を契機に、次の対話へと接続する。
第3幕:ベルニージ前侯爵との懇談と「二つ名」の発覚
体調不振と魔導具への懸念から馬車に留まっていたベルニージに対し、転倒しかけたダリヤは寒さを気遣い膝掛けと「携帯温風器」を提供する。
ダリヤが「魔導具は戦う余力を残し、生き残る確率を上げるもの」と誠実な意図を伝えたことで、ベルニージは己の偏見を省みて態度を軟化させ、貴族街でダリヤに「赤髪の魔女」や「水虫の女神(水虫からの救いの女神)」といった異名が浸透している事実を明かし、ダリヤをショックに陥れる。
直後、上空に飛来した空蝙蝠を、弓騎士達が緑のワイバーンの骨、二角獣の尾、緑馬の骨の矢、ミスリル線、風龍のウロコから成る「疾風の魔弓」で射ち落とした。
ベルニージはその威力と最新装備の有用性に感嘆し、グラートから詳細な説明を受けることとなる。
遠征訓練を終えたダリヤは健康診断を経て、中央区での打ち上げへと向かった。
第4幕:遠征後の打ち上げと「背縫い」の受諾
中央区の食堂酒場に集まった隊員約40名は無事の帰還を祝う。
ドリノが胸ポケットの「初恋のハンカチ」を話題にし、ヴォルフが学院時代に過激な贈り物に苦しめられたトラウマが明かされる中、話題は騎士の伝統的な安全祈願である「背縫い」へと移行する。
背縫いは「戦う背中を支える」「不在の家を守る」という文化的意味を持ち、赤鎧の騎士で唯一背縫いがないヴォルフに対し、ドリノはダリヤへ制作を提案する。
ヴォルフの無事と生還を心から祈るダリヤは、すべてのアンダーシャツへの背縫い制作を快諾した。
ヴォルフは深く感謝し、後日シャツを預ける約束を交わす。
一方、この宴の裏側で、ヨナスはグイードの配慮により確保した氷漬けの鎧蟹を携え、マルチェラと共にベルニージの屋敷へと向かうのだった。
第5幕:鎧蟹の配達とベルニージ・マルチェラの再会
ヨナスとマルチェラは夜分にベルニージの屋敷へ鎧蟹とワインを届ける。馬車内で対面したベルニージは、マルチェラが殉職した実子ベルナルディに酷似していることに気づく。ヨナスが「ご家族に乾杯を」と促したことで、マルチェラは自身がベルナルディの血を引く存在であり、生まれてくる双子に「ベルノルト/ディーノ」「ベルティナ/ディアーナ」と命名予定であることを明かした。
ベルニージは涙を堪えて曾孫の「名書き」を快諾する。マルチェラ退席後、ヨナスは諜報部の身辺調査を取り下げさせ、ベルニージをスカルファロット家武具開発部門へと勧誘した。
ベルニージはマルチェラ達の庶民としての生活を守ることを誓い、武具開発への参加を承諾する。
緑の塔に戻ったダリヤは、預かるシャツのための背縫い試作に着手する。
第6幕:背縫い試作・衝撃吸収素材の発明と商会紋の決定
ダリヤは試作の黒Tシャツに夜犬と赤い花の図案を刺繍し、生地の耐久性を高めるため一級イエロースライム粉、王蛇の粉、ミント液、蟹の酸を配合する。しかし作業中のくしゃみによりスライム粉を規定の3倍投入してしまう。魔法付与を終えると、翌朝シャツは単体で自立する高弾力な低反発ゴム状の素材へと変化していた。訪問したヴォルフはその質感から「防具の衝撃吸収材」への応用価値を即座に見抜く。
二人は夜犬と赤い花の図案をロセッティ商会の正式な「商会紋」に決定し、ヴォルフのアンダーシャツに同色糸で「ダリヤ」と刺繍を入れた背縫いを完成させた。
イヴァーノはこの商会紋と衝撃吸収素材の報告を携え、スカルファロット別邸のグイードのもとへ向かい、大規模な合同会議のセッティングへと展開させる。
第7幕:スカルファロット別邸での新素材披露と魔法付与実験
スカルファロット別邸にて、グイード、ベルニージ、各ギルド長(商業・冒険者・服飾)、ルチア、イデア、ダリヤ、イヴァーノらが集結する。
ダリヤが試作の弾力布と卵黄状クッションを披露すると、ルチアは流動性のある極小ビーズを大判の布に詰め「至高のクッション(人に怠情を教えるクッション)」を試作する。続いてダリヤの提案により高魔力者達(グイード、ベルニージ、レオーネ、アウグスト、ヨナス等)が一斉に魔法付与実験を実施。
マルチェラが「強めにガツンと」魔力を込めた行動や、ベルニージ達の土・火魔法付与により大量の極小ビーズ(微粒子ビーズ)が誕生した。
会議では「軽度防護布」「衝撃吸収材」の製品化と、特許利益の6割をロセッティ商会、4割を協力者8名(各5%)に均等分配する契約が全会一致で合意された。
主要な転換点
転換点:ダリヤの遠征訓練参加と「携帯温風器」の実地テスト
- それ以前の状況: ダリヤは魔物討伐部隊の相談役を務めていたが、現場の遠征訓練に同行した経験がなく、開発した魔導具が実際の過酷な環境でどう機能するかを直接確認できていなかった。
- 出来事: 男装(「ダリ」)と変声魔導具「声渡り」を用いて西街道での水場点検・遠征訓練に同行し、隊員達へ「携帯温風器」の使用説明を行うとともに、現場での鎧蟹討伐や味噌を用いた野外調理指導に参加した。
- 変化: 現場の騎士達の生の改善要望(固定紐の太さや消臭対策など)を直接収集できる立場となり、部隊員との信頼関係が著しく深まったほか、相談役として「ダリヤ先生」の呼称が定着した。
- 次への影響: 寒さに凍えていた元副隊長のベルニージ前侯爵と馬車前で接点を持つ機会を得たほか、遠征後の打ち上げにおいて騎士達の安全祈願「背縫い」を引き受ける契機となった。
転換点:ベルニージ前侯爵との対話と誤解の解消
- それ以前の状況: ベルニージ前侯爵は、遠征先で過度に快適な魔導具を使用する現代の部隊に対し、「気の緩みが生じ不意打ちや死に直結する」と懸念し、魔導具主導の風潮に強い違和感と懐疑を抱いていた。
- 出来事: 馬車前で転倒しかけたベルニージに対し、ダリヤが携帯温風器を提供し、「魔導具は戦う余力を残し、安全と生き残る確率を上げるためのもの」という誠実な理念を伝えた。
- 変化: ベルニージは己の古く偏った考えを改めて魔導具の真価とダリヤの志を認め、彼女に授けられている二つ名(赤髪の魔女、水虫の女神等)を伝えつつ態度を軟化させた。
- 次への影響: ベルニージが最新装備(疾風の魔弓等)の有用性を認識し、後にスカルファロット家の武具開発部門への参加および合同魔法付与実験への全面協力を決意する要因となった。
転換点:討伐部隊打ち上げでの「背縫い」制作の引き受け
- それ以前の状況: ヴォルフレードは赤鎧の騎士の中で唯一、家族や親しい女性からの安全祈願の刺繍「背縫い」が施されていないアンダーシャツを着用していた。
- 出来事: 遠征後の宴の席で伝統的な「背縫い」の風習が話題となり、ヴォルフが持たないことを知ったダリヤが、彼の無事と生還を心から願ってすべてのアンダーシャツへの刺繍制作を自ら申し出た。
- 変化: 単なる友人やビジネスパートナーの枠を超え、ヴォルフの背を守り無事を祈る存在としての役割をダリヤが直接担うこととなった。
- 次への影響: 背縫いの試作工程において、ダリヤが試作シャツへ耐久付与実験を行い、くしゃみによる誤操作から偶然にも「低反発の衝撃吸収素材」を発明する直接のトリガーとなった。
転換点:イエロースライム粉を用いた試作による衝撃吸収素材・極小ビーズの発見
- それ以前の状況: スライム素材は防水布(ブルースライム)等に使われていたが、イエロースライム粉は布に付与してもわずかに破れにくくなる程度の認識に留まっていた。
- 出来事: ヴォルフのシャツの耐久性を高める試作中、ダリヤのくしゃみによるイエロースライム一級粉の過剰投入(規定の3倍)と高魔力付与によりゴム状の低反発布地が生み出され、さらに別邸の実験でマルチェラやベルニージらの高魔力付与により極小ビーズが四散・生成された。
- 変化: 衝撃を著しく緩和する「衝撃吸収材」「軽度防護布」および流動性とフィット感を持つ「至高のクッション」という、防具・医療・家具全般に応用可能な革新的素材が誕生した。
- 次への影響: 服飾ギルドや各分野の専門家を巻き込んだ新商品開発へと発展し、複数ギルドや高位貴族を包摂する大規模な合同実験・事業化会議へとつながった。
転換点:異例の複数ギルド・高位貴族合同魔法付与実験と利益契約合意
- それ以前の状況: ロセッティ商会は小規模な庶民商会としてスタートし、個別の開発ごとに商業ギルドやスカルファロット家と連携をとる形式にとどまっていた。
- 出来事: スカルファロット別邸にて、グイード、ベルニージ、商業・冒険者・服飾の各ギルド長らが集い、高魔力者達による多属性(火・土・水・風・氷)の一斉魔法付与実験を実施。特許利益について、ロセッティ商会が6割を保持し、残り4割を協力者8名で均等分配(各5%)する契約が全会一致で合意された。
- 変化: 単一商会の枠を超え、王国における主要ギルドや高位貴族層が一体となった強固な新素材生産・流通・後援ネットワークが構築された。
- 次への影響: ロセッティ商会の社会的地位と経済的基盤が決定的に強化され、騎士団防具の性能底上げや市民向け生活用品の革新へ向けた体制が完了した。
ダリヤを中心とした人物関係の変化
ヴォルフレード・スカルファロット
- 開始時: 気の置けない友人であり、魔導具や魔剣開発を共に行うビジネスパートナー。
- 主な出来事: ペーパーナイフへの輝き付与、遠征訓練同行での討伐の見守り、過去のトラウマ(カミソリの刃や狂信的な贈り物)の共有、アンダーシャツへの「背縫い(夜犬と赤花、同色糸での『ダリヤ』の刺繍)」の受諾と商会紋の決定。
- 巻末時: 互いの安全と活躍を深く祈り合う関係。ダリヤが彼の「背縫い」を一手引き受け、ヴォルフはダリヤがデザインした商会紋の背縫いを誇らしげに着用・部隊披露する信頼で結ばれた間柄となった。
ベルニージ・ドラーツィ
- 開始時: 初対面の元魔物討伐部隊副隊長(侯爵家の隠居老人)。魔導具に対する不信感と古風な精神論を持つ人物。
- 主な出来事: 馬車内での携帯温風器の提供と対話を通じ、魔導具の本来の意義(安全確保と生存率向上)を伝えて理解を得る。ダリヤの二つ名(赤髪の魔女、水虫の女神等)を伝え、のちにスカルファロット別邸での合同実験で共にスライム粉への魔法付与(極小ビーズの生成)を行う。
- 巻末時: ダリヤの技術力と姿勢を高く評価して「ダリヤ先生」と称する理解者・技術的協力者となり、共に新素材の利益分配契約を結ぶ関係となった。
ヨナス・グッドウィン
- 開始時: 武具に関する知識の指導役(ダリヤからは「ヨナス先生」と敬称される)、グイードの従者・工房長としての協力者。
- 主な出来事: 遠征訓練での護衛補佐、味覚(炎龍の魔付きによる生の刺身嗜好)に関する相互理解の深まり、マルチェラとベルニージの仲介・庇護体制の構築、スライム新素材実験への共同参加。
- 巻末時: 互いに「ヨナス先生」「ダリヤ先生」と呼び合い、魔導具開発や新素材の検証、武具開発部門における技術・実務面で対等に支え合う強固な協力関係となった。
主人公の認識と周囲の評価
主人公自身の認識
ダリヤ自身は、自分を「赤髪に緑目と色合いだけは明るいが、地味な容姿の庶民」であり、主に生活関連の魔導具を制作する普通の魔導具師であると認識している。遠征訓練への同行に際しても、騎士達の邪魔にならず溶け込むために男装(ダリ)や変声魔導具「声渡り」を使用するなど、控えめで謙虚な姿勢を崩さない。ヴォルフのアンダーシャツに施した「背縫い」についても、恋愛的な意図や「あなたの背中は私が守りたい」「独り占めしたい」といった社会的・男女間の含意ではなく、純粋に友人の安全と無事の帰還を祈る「おまじない」として引き受けており、自身に与えられている異名や周囲からの過大評価に対しては困惑やショックを覚えている。
周囲からの評価
魔物討伐部隊の騎士達や各ギルド長、貴族層からは、卓越した発想力と技術力を持ち、隊員の命や生活を劇的に改善する非常に優秀で熱意溢れる魔導具師として高く評価されている。部隊内では親しみを込めて「ダリヤ先生」と呼ばれるほか、騎士団の背を守る「身内」「相談役」として絶大な信頼を寄せられている。また、王城や貴族街では「赤髪の魔女」「赤猫」「靴の番人」「食の改革者」、さらには五本指靴下等の功績から「水虫の女神」「水虫からの救いの女神」といった独特な二つ名(異名)でささやかれており、来年には女男爵への叙爵が噂されるほど強い影響力を持つ人物とみなされている。
認識の差が現れた場面
- ベルニージから「二つ名」を告げられた場面: ダリヤは自身を地味な庶民の魔導具師だと思っているが、ベルニージから「赤髪の魔女」や「水虫の女神」といった二つ名で貴族街や王城に浸透している事実を知らされ、不名誉な認知に強いショックを受けて肩を落とした。
- ヴォルフへの「背縫い」と商会紋の決定・周囲の反応: ダリヤは純粋にヴォルフの無事を祈る安全祈願および試作として夜犬と赤花の刺繍(背縫い)を施し、それをロセッティ商会の商会紋としたが、背縫いは文化的に「戦うあなたの背中を私が守りたい」「あなたを独り占めしたい」という強い示唆を持つ。騎士団の仲間達(ドリノやランドルフ等)やグイード・イヴァーノ達は、その深い意味合いを理解しつつもダリヤ自身に全く恋愛・社会的自覚がないことを見抜き、微妙な表情や苦笑いを浮かべた。
- 男装(ダリ)に対する周囲の見解: ダリヤは周囲に威圧感や迷惑を与えないよう男装して溶け込もうとしたが、部隊の騎士や魔導師達からは「首や手首の細さから女性らしさが隠せていない」「眼鏡姿が大変似合っている」と客観的に観察されており、本人の意図と周囲の受け止め方に明らかな差異が生じていた。
キャラクター紹介
ダリヤ・ロセッティ
オルディネ王国で活動する魔導具師であり、ロセッティ商会の会長。前世の知識と魔法を組み合わせ、人々の生活を便利にする魔導具の開発に情熱を注いでいる。ヴォルフレードとは、互いに信頼し支え合うパートナーとして、魔導具制作や遠征訓練を通じて絆を深めている。
- 所属組織、地位や役職
- ロセッティ商会・会長。
- 魔導具師。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 男装して魔物討伐部隊の遠征訓練に参加し、携帯温風器の使用指導や魔導具の効果確認を行った。
- ヴォルフレードと共に「銀蛍のペーパーナイフ」や「疾風の魔剣」などの魔導具を制作した。
- ベルニージとの対話を通じ、魔導具による隊員の安全確保の重要性を説いた。
- イエロースライムを用いた新素材「砂丘泡」を開発し、衝撃吸収材としての可能性を広げた。
- スカルファロット家の支援を受け、魔導具開発の環境を整えつつある。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 商会長としての手腕を発揮し、各ギルド長や貴族との連携を深め、魔導具の普及に努めている。
- ヴォルフレードとの関係性が周囲に認知されつつあり、スカルファロット家の保護下にある。
ヴォルフレード・スカルファロット(ヴォルフ)
魔物討伐部隊に所属する騎士であり、伯爵家の四男。ダリヤの良き理解者であり、彼女の魔導具開発を全面的にサポートしている。
- 所属組織、地位や役職
- 王城騎士団・魔物討伐部隊員(赤鎧)。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 遠征訓練にて、青い変異種の鎧蟹を討伐し、その後の解体作業も率先して行った。
- 「疾風の魔剣」を使用し、首長大鳥などの魔物討伐に貢献した。
- ダリヤとの食事や魔導具制作を楽しみ、彼女との時間を大切にしている。
- 兄グイードにダリヤの保護を相談し、養子縁組などの提案を受けた。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 魔剣の使い手としてだけでなく、部隊内での信頼も厚く、リーダーシップを発揮し始めている。
- ダリヤとの関係を守るため、貴族としての立場を活用しようと模索している。
イヴァーノ・メルカダンテ
ロセッティ商会の副会長。元商業ギルド職員としての経験を活かし、ダリヤの右腕として商会を支える。
- 所属組織、地位や役職
- ロセッティ商会・副会長。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 商業ギルドを退職し、ロセッティ商会に専念することを決意した。
- 温熱座卓や新素材のプレゼンテーションを行い、各ギルドとの協力を取り付けた。
- グイードと密談し、八本脚馬の飼料問題やダリヤの保護について協議した。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 商会運営の中心人物として、ダリヤの信頼を得ており、彼女の代理として重要な交渉を行っている。
オズヴァルド・ゾーラ
熟練の魔導具師であり、ゾーラ商会の会長。ダリヤの師匠として、技術指導や助言を行う。
- 所属組織、地位や役職
- ゾーラ商会・会長。
- 魔導具師。
- 物語内での具体的な行動や成果
- ダリヤに対し、魔力の安全な増やし方や希少素材の扱いについて指導した。
- ダリヤと相互保証人契約を結び、商会間の連携を強化した。
- ジャンに対し、家庭問題解決のための助言や一角獣のペンダント作成の仲介を行った。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- ダリヤの才能を高く評価し、彼女の成長を支援する立場を明確にしている。
グイード・スカルファロット
ヴォルフレードの兄であり、スカルファロット家の次期当主。弟とダリヤを守るために奔走する。
- 所属組織、地位や役職
- スカルファロット家・長男。
- 上級魔導師。
- 物語内での具体的な行動や成果
- ヴォルフレードに乗馬や護衛技術の習得を促し、支援を行った。
- ロセッティ商会の新素材開発会議を主催し、各ギルド長との調整を行った。
- ダリヤの保護策として、養子縁組や武具開発部門への所属などの案を提示した。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 弟たちの安全を最優先に考え、貴族としての権力と知略を駆使して環境を整えている。
ヨナス・グッドウィン
グイードの従者であり、護衛。魔付きとしての能力を持ち、ダリヤの研究に協力する。
- 所属組織、地位や役職
- グイードの従者。
- 物語内での具体的な行動や成果
- ヴォルフレードに対し、実践的な戦闘訓練を指導した。
- 炎龍のウロコを提供し、ダリヤの研究素材として活用させた。
- ベルニージに対し、スカルファロット家への協力を取り付け、名書きの約束を交わした。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- ダリヤに対し「先生」と呼んで敬意を表し、良好な関係を築いている。
ベルニージ・ドラーツィ
元魔物討伐部隊副隊長であり、前侯爵。老齢ながらも現役復帰を目指す。
- 所属組織、地位や役職
- 前ドラーツィ侯爵。
- 元魔物討伐部隊・副隊長。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 遠征訓練に参加し、若手隊員たちを激励した。
- ダリヤが開発した魔導義足を装着し、驚異的な動きで現役時代の片鱗を見せた。
- スカルファロット家との連携を深め、孫(マルチェラ)の将来を見守る姿勢を示した。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 魔導義足によって再び剣を振るう喜びを取り戻し、新たな人生の目標を見出している。
マルチェラ
ダリヤの友人であり、ロセッティ商会の関係者。自身の出自を知り、家族を守る決意を固める。
- 所属組織、地位や役職
- ロセッティ商会・関係者。
- 運送ギルド職員(後にスカルファロット家騎士)。
- 物語内での具体的な行動や成果
- ダリヤの遠征訓練に同行し、護衛や荷物運びを行った。
- 自身の出自(貴族の血筋)を知り、グイードからの支援を受け入れた。
- ベルニージに名書きを依頼し、家族の絆を深めた。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 貴族としての道ではなく、愛する家族と共に生きる道を選び、スカルファロット家の庇護下に入った。
ルチア
ダリヤの友人であり、服飾ギルドの工房長。
- 所属組織、地位や役職
- 服飾ギルド・工房長。
- 物語内での具体的な行動や成果
- ダリヤの服選びを手伝い、彼女の魅力を引き出した。
- フォルトゥナートからの求婚を断り、自身の工房を持つ夢を優先した。
- 医療用胸パッドの開発について、イデアやダリヤと議論を交わした。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 職人としての自立心が強く、貴族との結婚よりも自身のキャリアを選んだ。
フォルトゥナート・ルイーニ(フォルト)
服飾ギルド長であり、子爵。ルチアに想いを寄せている。
- 所属組織、地位や役職
- 服飾ギルド長。
- 子爵。
- 物語内での具体的な行動や成果
- ルチアに求婚したが断られ、イヴァーノに慰められた。
- 温熱座卓の高級版開発に協力し、貴族向け市場の開拓を目指した。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 失恋の痛手を抱えつつも、仕事を通じてルチアとの関係を維持しようとしている。
ジルドファン・ディールス(ジルド)
王城の財務部長であり、侯爵。
- 所属組織、地位や役職
- 財務部長。
- 侯爵。
- 物語内での具体的な行動や成果
- イヴァーノの訪問を受け、ロセッティ商会との良好な関係を確認した。
- マルチェラの保証人として迅速に対応し、商会の体制強化に協力した。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- ロセッティ商会に対して「借り」があるとし、積極的な支援を行っている。
フェルモ・ガンドルフィ
ガンドルフィ工房の職人。
- 所属組織、地位や役職
- ガンドルフィ工房・職人。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 温熱座卓の改良に尽力し、携帯用温風器の開発にも貢献した。
- ロセッティ商会との懇親会に参加し、ダリヤとのパートナーシップを確認した。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- ダリヤの信頼できる技術パートナーとして、新製品開発の中核を担っている。
メッツェナ・グリーヴ(メーナ)
ロセッティ商会の商会員。
- 所属組織、地位や役職
- ロセッティ商会・商会員。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 街中でのトラブルを仲裁し、女性への的確な助言を行った。
- ダリヤのエスコートを完璧にこなし、商会の対外的な印象を向上させた。
- 八本脚馬の生態に詳しく、スライム飼料の実験に立ち会った。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 商会内での対人スキルや情報収集能力が高く評価されている。
カルロ・ロセッティ
ダリヤの亡き父であり、魔導具師。
- 所属組織、地位や役職
- 元魔導具師。
- 物語内での具体的な行動や成果
- 過去の回想にて、レインコートや小型冷凍庫の開発エピソードが語られた。
- 妻テリーザとの出会いと別れ、そしてダリヤへの深い愛情が描かれた。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 彼の遺した技術や思想が、現在のダリヤの活動の指針となっている。
テリーザ・ランベルティ
カルロの妻であり、ダリヤの母。故人。
- 所属組織、地位や役職
- 元男爵令嬢。
- 物語内での具体的な行動や成果
- カルロとの情熱的な恋愛の末に結婚し、ダリヤを産んだ。
- 産後の肥立ちが悪く早世したが、カルロに深い愛を残した。
- 地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
- 彼女の存在がカルロの人生とダリヤの誕生に決定的な影響を与えた。
戦闘一覧
遠征訓練と鎧蟹
鎧蟹の討伐
- 戦闘者:ヴォルフ vs 鎧蟹
- 発生理由:赤鎧を着用したグリゼルダとランドルフが先陣を切り、鎧蟹を敵と認識させて誘い出したため。
- 結果:ヴォルフが瞬く間に鎧蟹(青い変異種)を倒した。倒された鎧蟹は食材として回収された。
背縫いと商会紋
自立したシャツへの警戒(未遂)
- 戦闘者:ヴォルフ vs 黒いシャツ
- 発生理由:ダリヤの魔力付与実験によって自立していたシャツを、ヴォルフが不審なものと誤解したため。
- 結果:ヴォルフが短剣を抜いたが、すぐに誤解だと判明したため、実力行使には至らなかった(未遂)。
商会紋のお披露目と新商品開発
大猪の討伐(過去エピソード)
- 戦闘者:ヴォルフ vs 大猪
- 発生理由:討伐任務のため(具体的な経緯は原文に記載なし)。
- 結果:ヴォルフが討伐に成功した。戦闘の詳細は不明。
学術的意見交換と魔導義足
鍛錬場での模擬戦
- 戦闘者:ベルニージ vs 自身が率いていた騎士たち
- 発生理由:魔導義足を装着したベルニージが、自身の動きを確認するために行った。
- 結果:ベルニージがかつての速度や斬り込みを披露し、騎士たちを三度驚かせた。
大盾と老騎士の復活
大盾を用いた回避・衝突訓練
- 戦闘者:ランドルフ vs 魔物討伐部隊の騎士たちおよびヴォルフ
- 発生理由:衝撃吸収材を張った大盾の試用および日常の回避練習。
- 結果:ランドルフが騎士たちの剣を弾き、飛び込んできた者を宙へ飛ばした。ヴォルフも大盾にぶつかり宙を舞ったが、無地に着地し攻めに転じた。重大な怪我人は出ていない。
基礎訓練への参加
- 戦闘者:ベルニージ vs 魔物討伐部隊の隊員たち
- 発生理由:現場の訓練にベルニージが指導を兼ねて参加したため。
- 結果:ベルニージの全盛期よりは遅いものの、巧みな技術を見せ、隊員たちの勉強となった。
幕間 剣の重さとペンの重さ
ベルニージの息子の殉職(過去エピソード)
- 戦闘者:ベルニージの息子(ベルナルディ) vs 不明(魔物と推測されるが記述なし)
- 発生理由:魔物討伐部隊員としての任務中。
- 結果:ベルニージの息子が亡くなった。具体的な対戦相手や戦闘の詳細は不明。
魔導具師ダリヤはうつむかない 7巻レビュー
魔導具師ダリヤはうつむかないまとめ
魔導具師ダリヤはうつむかない 9巻レビュー
展開まとめ
銀蛍とペーパーナイフ
銀蛍の鱗粉
ダリヤは緑の塔でヴォルフと共に、銀蛍の鱗粉を使った魔法付与を行った。夜に淡く光る銀蛍の話から、ヴォルフは翌年の夏にスカルファロット領へ銀蛍を見に行こうと誘い、ダリヤも喜んで応じた。
ヴォルフが高等学院時代から持っていた剣型のペーパーナイフへ鱗粉を付与すると、刃は銀色に美しく輝いた。ヴォルフは魔剣のようだと喜んだが、ダリヤは光るだけで性能は変わらないため、魔剣ではないと否定した。
ヴォルフは学生時代、恋文だけでなく刃物入りの手紙まで送られたため、家の者に手紙を開封してもらっていたと明かした。その中でダリヤから届く手紙だけは自分で開けていると語り、ダリヤは彼が安心して読める手紙であることをうれしく思った。
遠征訓練への同行
翌日、ダリヤは魔物討伐部隊の遠征訓練へ参加する予定だった。西街道の水場点検、携帯温風器の試用、鎧蟹の討伐と素材確保を目的とした危険度の低い遠征であり、戦えないダリヤにとって初めて部隊と共に遠征へ出られる機会となった。
これまでヴォルフを見送ることしかできなかったダリヤは、自分も同じ場所へ行けることを喜んだ。
遠征訓練と鎧蟹
ダリさんの再現
遠征当日、ダリヤはヴォルフと初めて出会った頃と同じ男装をした。髪を帽子へ隠し、父カルロの服を着て、伊達眼鏡と声を低く変える魔導具・声渡りを身につけた。
女性が同行することで部隊に余計な心配をかけないための工夫だったが、再会時の姿を思い出したヴォルフは懐かしさからダリさんと呼んで喜んだ。
同行したヨナスは、実家のグッドウィン子爵家では外部魔力がなく母が他国の庶民だったため、すでにいない者として扱われていると明かした。一方で幼い頃からグイードの従者として暮らし、現在の自分に不満はないと語った。
携帯温風器の実地試験
目的地へ到着すると、ダリヤは魔物討伐部隊員へ携帯温風器の使い方を説明した。背中や腰、腹へ装着した隊員達は温風の快適さを喜び、同時に調整紐の太さや戦闘中の安全性など、実際に使わなければわからない改善点も挙げた。
携帯温風器が鎧を温めたことで汗や革の臭いまで強く感じる問題も見つかり、ダリヤは消臭剤や微風布との併用を考えることになった。
巨大な鎧蟹
一行は山際の岩場へ向かい、巨大な鎧蟹を誘い出した。グリゼルダとランドルフが赤鎧をまとって前へ出ることで、自分達より大きな相手へ挑む習性を利用し、大型個体だけを選んで討伐していた。
現れた巨大な鎧蟹に対し、ヴォルフは迷うことなく飛び込み、腹側から大剣を急所まで貫いて一撃で仕留めた。ダリヤは戦うヴォルフを間近で見て、彼の仕事が常に死と隣り合わせであることを改めて実感した。
続いて現れた鎧蟹は、グラートが血族固定の魔剣・灰手で倒した。灰手は鎧蟹を内部から焼き上げ、隊員達は討伐の腕前だけでなく、蒸し蟹としての仕上がりまで称賛した。
ヴォルフが倒した個体は青い変異種だった。ドリノが毒味を行った結果、毒はなく、通常種より甘みが強いことが判明した。この青い鎧蟹は後に食通から鎧蟹王と呼ばれるようになった。
鎧蟹の宴
川原へ戻った一行は、鎧蟹の刺し、蒸し蟹、炙りバター、スープなどを楽しんだ。炎や氷の魔法を調理へ利用する魔導師達の技術に、ダリヤは魔法制御の高さを実感した。
炎龍の魔付きとなって味覚が変化したヨナスは、加熱した料理を焦げや布のように感じる一方、生の鎧蟹はおいしく食べられた。ダリヤは刺身ならヨナスも楽しめるかもしれないと勧めた。
さらに東ノ国の味噌が登場すると、ダリヤは味噌を煮立てない調理法を隊員達へ教えた。ランドルフは川へ入り、素手で宝魚を跳ね上げ、ヴォルフが受け取り、ドリノが締める連携を披露した。宝魚も味噌汁や刺身となり、遠征訓練は食事を交えた賑やかな時間となった。
ベルニージとの出会い
グラートは元副隊長ベルニージを遠征訓練へ招いていた。ベルニージはかつて部下を守るため七日間戦い続けた結果、足を失い、魔物討伐部隊を退いた老騎士だった。
現在の隊員達が魔導具を使い、楽しげに食事をする姿を見たベルニージは、昔に比べて緊張感が足りないと批判した。息子を魔物討伐部隊で失った経験から、若い隊員達が油断して死ぬことを恐れていたのである。
偶然ベルニージと二人で話すことになったダリヤは、便利な魔導具を使うことで戦い以外の負担を減らし、生き残る可能性を上げる方がよいと訴えた。自分は給湯器や冷風扇を使いながら、若者だけに昔と同じ苦労を求めていたと気づいたベルニージは、自分が過去を手放せていなかったと認めた。
その後、ベルニージは男装したダリヤをロセッティ商会の一員だと思い込み、商会長についた二つ名を本人へ次々と話してしまった。特に水虫の女神という呼び名を聞いたダリヤは大きな衝撃を受け、正体を明かしたことで双方とも気まずい思いをした。
疾風の魔弓
食事の匂いに誘われて空蝙蝠が飛来すると、疾風の魔弓の実地試験が行われた。二本の矢が空蝙蝠の急旋回を追い、間をつなぐミスリル線で首と胴を切断した。
その威力を見たベルニージは驚き、現在の魔物討伐部隊が昔とは大きく変わっていることを知った。グラートから防水布、遠征用コンロ、五本指靴下、疾風の魔弓などによって死者や負傷者が減っていると聞き、ベルニージは後輩達が積み重ねてきた成果を認めた。
ベルニージは、相談役であるダリヤもすでに魔物討伐部隊の身内だと受け止め、グラートへ彼女に隊用のローブを贈るよう勧めた。
幕間鎧蟹のお届けと名書き
鎧蟹の届け物
遠征後、ヨナスはベルニージの屋敷へ鎧蟹を届けた。派閥の異なるスカルファロット家から夜に突然荷物が届いたことで、ベルニージは最初警戒したが、本当に好物の鎧蟹だと知った。
そこでヨナスは、マルチェラとイルマの間に生まれる双子に関する話をベルニージへ伝えた。ベルニージは自分の血を引く曾孫の存在を知り、大きな衝撃と喜びを受けた。
曾孫のために何かを残したいと考えたベルニージは、名書きを自分の手で書くことを決意した。しかし自分の字がひどい癖字であることを思い出し、翌日から書き取り練習を始めることになった。
背縫いと商会紋
ヴォルフへの背縫い
遠征後、ダリヤはヴォルフのアンダーシャツへ背縫いをすることになった。戦地へ向かう騎士の無事を願って親しい女性が刺繍する風習だと知らず、ダリヤは純粋な安全祈願として夜犬と花の図案を考えた。
完成した刺繍を見たヴォルフは大喜びした。一方、背縫いの意味を知る隊員達は複雑な反応を見せたが、ダリヤに恋愛的な意図がないことも理解しており、喜んでいるヴォルフを見守った。
ロセッティ商会の紋
夜犬と赤い花の図案は、そのままロセッティ商会の商会紋として採用されることになった。文字を読めない者や外国人でも商品を判別しやすくなるため、実用面でも都合がよかった。
イヴァーノがグイードへ商会紋を披露すると、ヨナスから背縫いにはあなたの背中を守りたいという意味があると説明された。ダリヤがその意味を知らなかったことを聞き、周囲はそれぞれ複雑な思いを抱いた。
商会紋のお披露目と新商品開発
スライム素材の共同研究
スカルファロット家の別邸へ、グイード、ベルニージ、レオーネ、アウグスト、フォルト、ルチア、イデア、イヴァーノらが集まり、ロセッティ商会の商会紋披露と新素材の検討が行われた。
イエロースライムへ特殊な薬液と魔法を組み合わせた素材は、布状にすると丈夫で刃物にも強く、厚くすれば衝撃を吸収した。ベルニージやグイード達は防具や医療用品への利用価値を見いだした。
ヨナスが強く殴っても壊れないほどの耐久性が確認され、布は軽度防護布、厚い素材は衝撃吸収材と名付けられた。
土と火の魔法によってできた極小の粒は、軽く柔軟なクッション材となった。フォルトの提案で砂丘泡と名付けられた。
レッドスライムから作られた、人体に近い温かさを保つ素材は、赤ん坊や病人用の寝具への利用が期待され、人肌保温材と名付けられた。
新素材は服飾、医療、武具など多方面へ利用できる可能性を持ち、それぞれのギルドや商会を巻き込む大きな開発へ発展した。
猪鍋と柚子酒
砂丘泡のクッション
大猪討伐から戻ったヴォルフは緑の塔を訪れ、温熱座卓と砂丘泡入りのクッションに包まれて完全にくつろいだ。
ダリヤは遠征帰りで疲れているなら無理に来なくてもよいと気遣ったが、ヴォルフは緑の塔で過ごすこと自体が休息になっていると答えた。
二人は大猪の肉を使った猪鍋と柚子酒を楽しんだ。ヴォルフはヨナスの炎龍の魔付きの強さに憧れることもあると話したが、味覚が変わって緑の塔食堂の料理を楽しめなくなるなら嫌だと言った。
ダリヤは、年老いてからもヴォルフと食事を共にできるかもしれないと一瞬想像し、酒のせいだとして考えるのを止めた。
幕間追い出しの雛
イヴァーノの巣立ち
イヴァーノは商業ギルドで担当していた仕事の引き継ぎを完全に終えた。十六年前、父が保証人となった商会の借金によって家族を失い、王都へ逃げるように来たイヴァーノは、追いかけてきた恋人と家庭を築き、商業ギルドへ就職していた。
レオーネとガブリエラは、そんな彼を長年育ててきた存在だった。二人はロセッティ商会へ完全に移るイヴァーノを、巣から追い出す雛のように送り出した。
餞別としてレオーネは、防毒・防混乱の白翡翠と、眠り薬や媚薬を無効にする黒水晶を組み込んだ足首用の魔導具を渡した。
制作した人物を尋ねたイヴァーノに、レオーネは自分がカルロの先輩だったことを改めて告げた。
学術的意見交換と魔導義足
医療用素材
ルチア、イデア、ダリヤは砂丘泡と人肌保温材を組み合わせ、人体に近い柔らかさと温かさを持つ胸パッドを試作した。
ルチアは、病気で片胸を失い、再生治療も受けられない女性が綿の詰め物では体のバランスや寒さに苦しんでいると説明した。ダリヤは新素材が単なる服飾品ではなく、医療面でも役立つことを理解した。
三人はさらにスライムへ各属性の魔法を付与する実験を進め、新たな素材の可能性を探った。
ベルニージの魔導義足
ベルニージの古い義足へも衝撃吸収材を応用することになった。ダリヤ達は義足の接触部を柔らかくし、身体への負担を減らすだけでなく、魔法による補助を加えた魔導義足へ発展させた。
新しい義足を得たベルニージは杖なしで歩き、さらには剣を振るい、馬に乗れるまでになった。長く失っていた騎士としての身体を取り戻したベルニージは、再び鍛錬を始める意思を見せた。
その動きに刺激されたドラーツィ家の護衛騎士達も、老いたベルニージに負けられないと鍛錬を強化した。
大盾と老騎士の復活
衝撃吸収材と武具
ダリヤは魔物討伐部隊の大盾へ衝撃吸収材を取り付け、ランドルフに試してもらった。盾を受けた際の負担が減ることが確認されると、弓騎士や戦鎚使い、グリゼルダ達も手袋や武具へ利用できないかと希望した。
一つの素材から次々と用途が広がり、グラートとイヴァーノは今後さらに忙しくなることを予感し、そろって胃薬を必要とするようになった。
ベルニージの再戦
魔導義足を身につけたベルニージは王城を訪れ、現役騎士達の訓練へ加わった。自由に歩き、剣を振るえるようになった彼は、春までに身体を鍛え直し、かつての教え子グラートと本気で打ち合いたいと宣言した。
老騎士の目には、隠居した老人ではなく、魔物討伐部隊員だった頃の闘志が戻っていた。
幕間 剣の重さとペンの重さ
ベルナルディの記憶
ベルニージは曾孫の名書きのため、妻メルセラに教わりながら文字の練習を続けた。
書き取りをする中で、末息子ベルナルディを思い出した。ベルナルディは父に憧れて騎士となり、魔物討伐部隊へ入ったが、結婚を望んだ女性との関係を巡って父子はすれ違った。
ベルニージは過去の選択や息子を失った後悔を抱え続けていた。しかし、マルチェラとその子供達へつながる血筋を知ったことで、失ったものだけを見るのではなく、残された未来へ向き合おうとし始めた。
ベルニージは魔導義足で再び剣を持つことを選び、メルセラも社交界へ本格的に戻ることを決めた。夫婦はそれぞれ剣と人脈を武器に、家族の未来へ動き出した。
若き八本脚馬の悩みと父の背中
十二番との再会
ロセッティ商会の馬車を引くため、新しい八本脚馬が借りられた。その馬は、ダリヤとヴォルフが初めて出会った日に馬車を引いていた、紫葡萄好きの個体だった。
十二番と番号で呼ばれていた八本脚馬は、偶然グリーンスライムから作った加工物を食べた。その後まったく食事を取らなくなったため病気を疑われたが、獣医の診察では異常はなく、加工物に含まれる大量の魔力で満腹になっていると判明した。
失敗作と思われたグリーンスライム素材に新たな利用価値が生まれる可能性が見つかった。
カルロの背中
イヴァーノはグイードと話す中で、カルロについて語った。男爵となっても庶民の頃と変わらず、多くの者に慕われ、娘を一人で育て、一人前の魔導具師にしたカルロを、イヴァーノは大きな背中を持つ人物だったと評した。
グイードは、娘は父親を基準に相手を選ぶことがあると聞いたことがあると話した。ダリヤにとって家族であり師匠でもあったカルロは、あまりにも高い基準だった。
弟ヴォルフを思うグイードは、その背中を追うことになる彼へ少し同情した。
茹で蕪と青年の逃走と迷走
ダリヤを守る方法
ヴォルフはグイードから、今後さらに注目を集めるダリヤを守る方法を示された。
開発をやめさせる方法、王城や高位貴族の専属魔導具師として庇護する方法、そしてヴォルフがダリヤを妻としてスカルファロット家へ迎える方法であった。
ヴォルフは結婚案を強く否定し、自分とダリヤはそのような関係ではないと主張した。するとグイードは、養女に迎える方法もあると提案した。
ヴォルフお兄様
緑の塔を訪れたヴォルフは、茹で蕪や鶏挽肉の味噌ダレを食べながら、グイードとの話をダリヤへ伝えた。
ダリヤはスカルファロット家の養女になることを現実的とは考えず、もしそうなればダリヤ・スカルファロットになると冗談めかして想像した。
さらにヴォルフが兄になると気づき、ヴォルフお兄様と呼んだ。ヴォルフは飲んでいた酒を吹き出した。
ダリヤが席を外すと、ヴォルフはダリヤ・スカルファロットという名前を思い返した。妻として迎える考えを慌てて否定しながらも、兄となれば常に隣にいて守れるのではないかと別方向へ迷走し、ヴォルフお兄様も悪くないと考え始めた。
番外編 父と娘の魔導具開発記録~小型冷凍庫~
小型冷凍庫の合格
過去、成人したダリヤは小型冷凍庫を完成させ、カルロから合格をもらった。氷の魔石を使う魔導回路やクラーケンテープの処理を正確に仕上げたダリヤを見て、カルロは弟子としての成長を認めた。
カルロは祝いとしてダリヤを予約していたレストランへ連れていき、一人前に近づいた娘と食事を楽しんだ。
カルロの願い
カルロは、妻テリーザを失った後、父としても師匠としてもダリヤを守ってきた日々を思い返した。
危険な魔導具や貴族社会の暗い部分から遠ざけ、庶民向けの魔導具を作りたいという娘の望みを守り、一人でも生きていける技術を身につけさせようとしていた。
成長したダリヤは妻テリーザに少し似ていたが、誰に似ているかは関係なかった。カルロにとってダリヤはかけがえのない家族であり、知識と技術を託す弟子であった。
いつか自分が死に、あの世でテリーザと再会できたなら、娘がどれほど立派に成長したか、楽しかった思い出と共にすべて語りたいと願った。そしてテリーザがいなかった分まで、自分が二倍愛したと胸を張って伝えようと考えた。
魔導具師ダリヤはうつむかない 一覧
その他フィクション

Share this content:
















コメント