物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジー/冒険譚である。本作は、神々と冒険者が共存するオラリオの世界を舞台に、ベル・クラネルを中心とした冒険と成長、種族間の軋轢を描くシリーズである。
内容紹介:
竜の少女ウィーネを救った代償として、ベルの名声は人々から失われてしまったという非難の声が巷に広がる。失意と孤立の中でベルは苦悩するが、“失われないもの”の絆に励まされ、再び立ち上がる決意を固める。次なる器として、「異端児(ゼノス)」と呼ばれる存在の帰還作戦が企てられ、都市最強であるロキ・ファミリアが前に立ち塞がる。賢者の知恵、勇者の策、神々の思惑、そして黒き獣の咆哮が交錯する戦いの中、ベルは己の心に問う:「僕……強くなりたいです」。
主要キャラクター
- ベル・クラネル:本作の主人公である。善意と信念を持って行動するが、11巻では信用を揺るがされ、人々の視線に苦悩する立場に置かれる。
- ウィーネ:竜の少女。ベルが救った対象であり、本巻でも彼との関係性が物語の鍵を握る存在である。
- ロキ・ファミリア:オラリオ内の最強と謳われるファミリア。帰還作戦を阻む強敵として立ちはだかる。
- 異端児(ゼノス):本巻の中心とされる存在。彼らの帰還をめぐる作戦において、ベルらの前に立つ障害となる。
物語の特徴
本巻の特色は、「信頼の崩壊と再構築」である。ベルが“英雄”としての立場を失い、人々の非難や誤解と向き合う姿は、ただ強さを描く物語から、心の強さや信念を描く物語へと深みをもたらす。また、ロキ・ファミリアや異端児という強大な敵勢力を相手に、ただの戦いではなく策略・葛藤・信念のぶつかり合いが展開される点も魅力である。さらに、種族の壁、神々の思惑、英雄譚と信念の重なりが、読者にとって重層的な読み味を提供する巻である。
書籍情報
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 11
(Is It Wrong to Try to Pick Up Girls in a Dungeon?)
著者:大森藤ノ 氏
イラスト:ヤスダスズヒト 氏
出版社:SBクリエイティブ(GA文庫)
発売日:2016年10月15日
ISBN:978-4-7973-8812-1
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あらすじ・内容
大森藤ノ×ヤスダスズヒトが贈る、圧倒的ダンジョンファンタジー、第十一弾!
少年(リトル・ルーキー)の名声は地に堕ちた──。
竜の少女(ウィーネ)を救った代償として人々からの信用を失ったベル。
悪意と失意の狭間で少年は傷付き、苦悩する。だが、
「迷わないで。貴方の側には失われないものがちゃんと残っています」
出会いの絆に支えられ、決意を新たにした少年は仲間とともに立ち上がる。
再び戦場へと変わる迷宮街で決行される『異端児(ゼノス)』帰還作戦。
その前に立ちはだかるは都市最強(ロキ・ファミリア)。
賢者の知恵、勇者の策、神々の思惑、そして黒き獣が咆哮を上げる時、少年の心は回帰する。
「僕……強くなりたいです」
これは、少年が歩み、女神が記す、
──【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】──
感想
読了し、胸が熱くなった。今巻は、シリーズの中でも屈指の熱量と衝撃を持つ物語であった。
物語は、ベル・クラネルがリヴィラの街での討伐任務に参加するところから始まる。安全階層に出現したモンスターの異常行動を調査する中、ベルは人語を理解する竜の少女ウィーネと出会う。彼女を助け、保護するという決断が、後に都市全体を巻き込む騒動の引き金となった。
ウィーネとの秘匿生活は、【ヘスティア・ファミリア】の絆を深めると同時に、仲間たちに新たな覚悟を芽生えさせた。春姫やリリ、ヴェルフ、命らはそれぞれ葛藤を抱えながらも、ベルの選択を支える。その一方で、ヘルメスやイケロスら神々の思惑が交錯し、地下では理知を持つモンスターたち――【ゼノス】が暗躍していた。
ギルドの強制任務により、ベルたちはウィーネを伴い再びダンジョンへ赴く。20階層への“導き”が命じられたその任務は、表向きの調査ではなく、ウィーネとゼノスを巡る計画の一端であった。ベルは、真実を知ろうとしながらも、彼女を守るため奮闘する。
その後、ベルはゼノスの群れと邂逅し、ウィーネを仲間のもとへ帰す決断を下す。しかしその直後、ゼノスは“狩猟者”たちの襲撃を受け、仲間を失う。憎悪に駆られた彼らは、オラリオへの襲撃を決意し、都市は混乱に陥った。
人とモンスターの狭間で苦悩するベルは、戦うことでも見捨てることでもなく、両者の共存を信じて立ち上がる。その姿はまさに、信念を貫く冒険者の象徴であった。
そして、ベルの前に立ちはだかるのは【ロキ・ファミリア】の精鋭、そしてアイズ・ヴァレンシュタインだった。理想と現実が激突する中、ベルはただ「誰かを救いたい」という想いだけを武器に、巨大な壁に挑む。その戦いは、彼の心を原点へと立ち返らせる。「僕……強くなりたいです」という言葉には、失われた名誉よりも大切な覚悟が宿っていた。
ウィーネを救った代償はあまりに重かった。都市の民から裏切り者と呼ばれ、名声を失ったベル。しかし、彼の優しさと勇気は仲間たちの信頼を失うことはなかった。彼を支える【ヘスティア・ファミリア】の絆こそが、暗闇の中の光であった。
また今巻では、エイナの心情も印象的に描かれる。彼女がベルの行動を見守る姿は、彼の成長を誰よりも信じているように感じられた。アイズやティオナらの立場も複雑に交錯し、それぞれの「正義」がぶつかり合う構図は、物語をより深くしている。
地に堕ちた英雄ベル・クラネル。だがその瞳には、以前にも増して強い光が宿っていた。
再び立ち上がる時、彼は真の意味で“英雄”へと近づいていくのだろう。
神々の謀略すら超えていくであろう、次なる再戦が待ち遠しい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
プロローグ 迷い子達の今
地下水路での賞金稼ぎの捜索
オラリオの地下水路で、複数【ファミリア】混成の上級冒険者一団が、地上へ逃れた武装モンスターの討伐と懸賞金獲得を狙って捜索を進めていた。先頭はドワーフで、隊列にはモルド・ラトローも加わっていた。彼等は【イケロス・ファミリア】の騒動以降に散在したモンスターの情報を携えており、地上で情報が途絶したため地下に活路を求めたのである。
嘲笑と反発、そして襲撃
一団は道中でベル・クラネルの評判を嘲笑したが、モルドは同業者を貶める態度に激しく反発した。直後、前方に出現したリザードマンが突撃し、ドワーフを正面から弾き飛ばす。蜥蜴人は長剣や尻尾を駆使して蹂躙し、冒険者達は反撃もままならず総崩れとなった。水路へ転落者も出て、隊は潰走した。
ウィーネの覚醒と安堵
その頃、青白い瞼を開いた竜の少女ウィーネは、石造りの天井を見上げ、傍らの歌人鳥レイからベルの無事を知らされて安堵した。ウィーネはフェルズによって蘇生され、リド、グロスらと共に地下水路の忘れられた倉庫で身を潜めていた。
現状説明と四面楚歌
フェルズはウィーネへ現状を説明した。『異端児』は都市全体から追われており、移動の途上で散逸が生じたこと、ダンジョン帰還の要である『バベル』と『人造迷宮』の出入口は封鎖されているため、現状は帰還不能であることが明らかになった。孤立無援の中、近辺には冒険者の接近も確認され、速やかな移動が必要であった。
『彼』の片腕とわずかな希望
同胞の側には巨大な黒い片腕が氷漬けで保存されており、激戦の痕跡と『彼』の強大さを示していた。アステリオスとは合流できておらず、戦力的に劣勢であったが、フェルズは希望となりうる手段の存在をほのめかした。ウィーネは闇に閉ざされた頭上を見上げ、ベルの名を静かに呼んだ。
血に飢えた者の来歴
一方、迷宮で生まれた存在は、同族を鏖殺し続ける原初の飢えに突き動かされ、皮が裂け骨が砕けても戦い続けてきた。死地で同胞に救われ、知恵と武器を授けられ、自身の飢えの正体が強烈な憧憬という願いであると知ったが、再び迷宮へ戻っても満たされず、焦燥を深めていた。
狩人の殲滅と再会への渇望
空に近い廃墟で狩人達を返り討ちにした彼は、手にした唯一の武器と血塗れの体のまま歩を進めた。求める夢に近いものを敵に見出しつつも決定的に違うと悟り、背を見せぬ相手との再会だけを渇望して彷徨を続けていた。
一章 零落白兎
都市の動揺と世論の悪化
【イケロス・ファミリア】事件から四日後、オラリオ中に流布した情報紙は「武装モンスターの地上進出」「リヴィラ全滅」などの見出しで不安を煽っていた。紙面の片隅には「【リトル・ルーキー】の暴走」とする記事も散見され、都市の視線はベル・クラネルへ厳しく向けられていたのである。
竈火の館の判断と外出
ヘスティア、リリ、春姫、命は街の変調と白眼視を確認し、ヴェルフは工房に籠もり続けていた。ベルは沈痛な面持ちで外出を願い出、ヘスティアは危険を承知で同行を条件に許可した。ベルは「何もしない時間」が最も怖いと述べ、動くことを選んだのである。
街路の冷気と女神の庇護
曇天のオラリオは閉店が増え、人々と冒険者の視線はベルに冷たかった。蔑称「怪物趣味」まで飛び交う中、ヘスティアは人前で自らの借金を持ち出して矢面に立ち、意図的に反感を引き受けて緩衝材となった。ベルはその庇護に情けなさと感謝を同時に覚え、手を取られて歩みを続けたのである。
『豊穣の女主人』での確認と黒い猛牛
酒場『豊穣の女主人』では、リュー・アストレアがベルの行為を軽蔑しないと明言し、18階層で討伐隊を壊滅寸前に追い込んだ「黒い猛牛(アステリオス)」の脅威を語った。事件の精査は後日に回され、店は野次馬を抑えつつ平静を保っていた。
ロキとの邂逅と価値観の落差
『ダイダロス通り』は厳重な警戒下にあり、【ロキ・ファミリア】も調査に当たっていた。アイズ・ヴァレンシュタインと言葉を交わす機会は避けられ、代わってロキがベルに近づき、結果への興味本位を隠さず囁いた。神々の遊興にも似た距離感は、下界の痛みと大きく隔たっていたのである。
孤児院での断罪と崩落
路地で見かけた子供達を追い、ベルは『ダイダロス通り』奥の孤児院でライ、フィナ、ルゥと再会した。子供達は「裏切者」と断じ、扉は固く閉ざされた。憧憬を裏切ったという自覚が胸を抉り、ベルはその場に崩れ落ちたのである。
シルの慰撫と再起の火種
そこへシル・フローヴァが現れ、迷宮街の避難相談に奔走している旨を伝えたうえで、詮索を避け、膝枕で静かに慰めた。彼女は「走り続ける貴方が好き」と囁き、失われないものが側に残っていると諭した。ベルは孤独への恐怖を吐露しつつも、その言葉に僅かな晴れ間を見出し、歩を進める意志を取り戻したのである。
ギルドと【ロキ・ファミリア】の対立
『ダイダロス通り』外れの廃墟化した大通りで、ロイマン・マルディールが撤収を強要したが、フィン・ディムナは【ガネーシャ・ファミリア】の被害状況を理由に拒否した。ギルドの待機命令違反を責め立てるロイマンに対し、フィンは冷静に応じ、現地継続の必然を示したのである。
『人造迷宮』と“鍵”をめぐる取引
フィンは神イケロスから得た情報として『人造迷宮』の存在と“鍵”を示し、発見時はギルドへ引き渡すと提案した。その代償として【ロキ・ファミリア】の現地活動継続を承認させ、さらに『人造迷宮』内部構造や最硬金属扉の位置など判明分を逐次報告することを約した。ロイマンは条件を呑んだが、出し抜けば即座に関係を断つと釘を刺したのである。
調査の現状と方針
ガレスとティオナが超硬金属の壁を掘削して侵入したが、先にアダマンタイト扉が立ち塞がり破壊は断念した。地上への影響を避けるため無用の破壊を控え、情報共有と並行して慎重な調査継続を選択したのである。
盟友勢力の動向
リヴェリアは【フレイヤ・ファミリア】が門衛を担い静観していると報告した。フィンはギルドを全面信用はせず、損得勘定で交渉可能なロイマン個人を“信用”の範囲にとどめ、当面の協力相手として数えた。
アイズの報告とフィンの推理
アイズ・ヴァレンシュタインはベル・クラネルが『ダイダロス通り』に来訪したと伝えた。フィンは事件当日のベルの気配が“彼らしい”ものではなかったとし、武装モンスター群――高知能化・亜種化・黒い猛牛――には未解明の「何か」があると推論した。その「何か」をベルが知り、対立を招く行動へ踏み切った可能性を視野に、敵味方の線引きを明確にするため「自分が会う」と決断したのである。
ベルとヘスティアの小休止、そして雨
一方、ベル・クラネルはヘスティアと合流し、ヘルメスの関与がウラノスの依頼に基づく旨を知ったが、その真意は掴めなかった。思索の最中、曇天はやがて雨に変わり、都市全体が緊張を帯びたまま次の局面へと移行しつつあることを示していた。
二章 交じり合わぬ糸、交錯する意図
雨中の陣地と派閥幹部の苛立ち
迷宮街に駐留する【ロキ・ファミリア】の陣地では、降り続く雨が追跡を妨げ、ベートが臭跡の消失に舌打ちしていた。ティオネと舌戦を交わす中、ガレスは溜息をつき、ティオナはダマンタイトの壁を叩き過ぎた手の痛みを訴えていた。雨は行軍を鈍らせ、陣の空気は苛立ちで満ちていたのである。
フィンの帰還と監視方針の決定
フィンが戻り、ベル・クラネルとの接触は実現したが途中で妨げられ、核心情報は得られなかったと報告した。ただし反応からベルが事件の中核にいると断じ、『人造迷宮』の存在認知と『鍵』不所持を読み取った。フィンはリヴェリアに予定通りベルの動向監視を命じ、情報戦に軸足を置く方針を確定したのである。
『豊穣の女主人』離れでの事情開示
アスフィはリューとアイシャに、四日前の騒動の核心が『異端児』と『人造迷宮』であったと説明した。強制任務時に詳細を伏せたのは混乱と判断遅延を避けるためであり、事件後に実態を把握したと述べた。アイシャは理知あるモンスターの救済に否定的な本音を示したが、依頼主の要望に従う必要を理解し、渋々協力を受諾した。
交換条件と闇派閥残党の手掛かり
アスフィはリューに対し、『人造迷宮』に潜伏していた闇派閥残党の情報を探索後に提供することを約し、協力を取り付けた。かくしてリューとアイシャは待機指示を受け、ヘルメス系の独自行動に参画する準備を整えたのである。
ガネーシャの方針転換とシャクティの逡巡
本拠『アイアム・ガネーシャ』では、ガネーシャがシャクティに療養と整理の時間を与えていた。シャクティは『異端児』に対し怒りと共感を覚えたと吐露し、団員の逡巡が致命を招く恐れを語った。ガネーシャは【群衆の主】として『異端児』捜索への不介入と市民保護の徹底を宣言し、警備強化に舵を切ったのである。
鍛冶神の執務室での神々の打ち合わせ
【ヘファイストス・ファミリア】の執務室では、ヘファイストス、ミアハ、タケミカヅチが『異端児』情報の露見がもたらす混乱を懸念した。排斥、保護、攪乱が錯綜する神々の気質を勘案し、情報の秘匿が最善と結論した。ヘファイストスは救済の是非を決めかねる本心を明かし、三柱は少年への視線が集まる現状を重く見たのである。
地下神殿での方針確認と手記の移管
ギルド本部地下『祈禱の間』では、ウラノスがロイマンから【ロキ・ファミリア】任用と『鍵』回収方針の報告を受け、情報共有の徹底と調査隊編成の権限をギルドに留めることを指示した。続いて現れたヘルメスは『ダイダロスの手記』をウラノスに手渡し、『人造迷宮』入口情報の裏付けを示した。ウラノスは状況固定化を是認しつつ、治安維持の現実策を選んだのである。
ヘルメスの現況報告と経路推定
ヘルメスは『異端児』の目的を同胞合流とダンジョン帰還の二点に整理し、進路を『バベル』と『ダイダロス通り』の二択と推定した。前者は【フレイヤ・ファミリア】の介入が必至であり、フェルズは避けると読んだ。後者は【ロキ・ファミリア】が最大障壁で、地形利用の妙と対峙が不可避という構図であった。
地下水路の休息と欠員確認
一方、地下水路の横穴で休息する『異端児』は、アルル、ヘルガ、レット、フィア、アステリオスのはぐれを確認し、追跡の痕跡が雨で途絶している実情を共有していた。食も細り、活力の低下が顕著で、長期逃走の限界が露呈していたのである。
フェルズの書簡と使い魔の飛翔
フェルズはリドの血をインクに代える魔道具で書簡をしたため、義眼を持つ梟の使い魔に託した。『眼晶』喪失で遅延していた連絡線を再開し、最後の希望として外部への打開策を講じたのである。使い魔は雨の空へ舞い上がり、交錯する思惑と封鎖線の只中に細い連絡の糸を結んだ。
雨中の不穏と梟の密書
オラリオに降り続く雨の中、ベル・クラネルは本拠で無機質な監視の視線を感じ取っていた。中庭に現れた水晶義眼の梟がフェルズの密書を届け、【ヘスティア・ファミリア】は内容確認のため集結した。密書は亜人言語を組み合わせた暗号であり、【異端児】の帰還計画と協力要請が記されていたのである。
ヘスティア陣営の選択と結束
ヘスティアは「助けるか否か」の二択を提示したが、ヴェルフが第三の道――【異端児】を帰還させつつ自分たちも非難を最小化する策――を提案した。ヴェルフは新造の『魔剣』を示し、作戦遂行の意思を表明。命、春姫、リリもそれぞれの立場から賛同し、ベルの独断への悔恨は仲間の言葉で解かれ、【ファミリア】は「ウィーネ達を助ける」と一致結束したのである。
【異端児】側の作戦と『鍵』
地下水路の【異端児】は、フェルズの主導で『人造迷宮(クノッソス)』への突入とベル達との「連携」を決定した。優位性は『ダイダロス・オーブ』すなわち『鍵』の保有であり、入口位置さえ掴めば侵入後に扉を閉め追撃を断てると分析した。陽動はベルに任せるが、それは注目を引き付けるためであり、直接の合流は避ける手はずであった。ウィーネは「恩返し」の誓いを口にし、【異端児】の士気は回復していたのである。
【ロキ・ファミリア】の対抗配置
フィン・ディムナは会議で「相手はベルを囮にして『人造迷宮』へ向かう」と読み、あえて逆方向に網を張る策を指示した。黒い猛牛アステリオスの突破力を最大警戒対象とし、死守すべきは発見済みの入口だと確認。リヴェリアとガレスは「階層主相当」と評価し、アイズは「さらに強くなる」と直感を述べ、幹部らは罠と監視を強化したのである。
神々とギルドの俯瞰
地下の『祈禱の間』では、ヘルメスがウラノスに情勢を報告し、盤上の駒に見立てて【勇者】と【愚者】の思考を対比させた。定石ではフィンが優位と見つつも、賢者由来の魔道具と奇手が活路になりうると推測。結局のところ「全てはベル・クラネル次第」と結論し、両者は鍵を握る存在として少年を注視し続けたのである。
合流前夜の総意
【ヘスティア・ファミリア】は救出へ、【異端児】は突入へ、【ロキ・ファミリア】は迎撃へと、それぞれの意思を固めた。雨が上がった夜、愚者と勇者と神々の視線は一つの名に収束し、次局面の幕開けが確定したのである。
三章 開戦前夜
フレイヤの静観と決断
雨上がりの夜、オラリオを覆う暗雲の下で、銀髪の女神フレイヤは白亜の塔から都市を見下ろしていた。彼女はヘルメスから【異端児】や【人造迷宮】、そしてベル・クラネルの行動に関する情報を受け取り、全てを把握していた。それでもフレイヤの関心は少年ただ一人にあり、他の勢力の思惑には興味を示さなかった。
だが、彼女はベルの再起を確信し、静観を終える決意を固める。従者オッタルに命を下し、アレン達にも通達するよう指示を出した。美の女神は、自らの手でベルの未来を見届けるために動き出したのである。
監視の目をかいくぐる行動開始
その同夜、ヘスティア・ファミリアは密かに行動を開始した。フェルズの警告を胸に、ベルとリリは監視者を引きつけながら北西へ向かい、指定された地下店「魔女の隠れ家」に到着する。店主レノアに合言葉を伝えると、彼女はフェルズの信頼を受け継ぐ守人として二人を秘密の倉庫へ案内した。そこには大量の『魔道具』が保管されており、ベルとリリは時間を惜しんで回収を行った。
一方、ヘスティアと命は別行動を取り、隠された通路を経由してギルド本部地下『祈禱の間』に到達した。彼女はウラノスと面会し、住民避難の指示と引き換えに『ダイダロスの手記』を受け取る。女神はフェルズの作戦を補完するため、重要な資料を携えて戻ったのである。
眼晶による合同作戦会議
本拠に帰還した一同は、フェルズからの指示で『眼晶』を通じて【異端児】との連絡を取った。水晶に映る地下水路の映像の中、フェルズはベルたちに礼を述べ、今後の計画を説明した。『ダイダロス通り』の地下にある六つの門のうち、一つを突破してダンジョンへ帰還する――それが目標であった。
しかし、その進路を守るのは【ロキ・ファミリア】であり、交戦は避けられない。戦闘規模を最小限に抑えるため、フェルズはベルに陽動を任せる案を提示した。都市中の注目を集める彼の動きこそが、最大の攪乱になると判断されたのである。
ベルの決意と仲間たちの覚悟
フェルズの提案にベルは迷いながらも了承した。春姫は危険を案じたが、フェルズは懐で動く陽動が不可欠だと説いた。ベルは全員の視線を受け止め、決意を新たにする。ウィーネやリド、レイら【異端児】は感謝と信頼を口にし、互いの再会を約束した。
ヴェルフは戦闘支援のため『魔剣』を用意し、命と春姫は裏方として準備に回る。リリは危険を承知で作戦補助を引き受け、ヘスティアは全員の覚悟を確かめるように頷いた。彼らはすでに一つの運命を共有していたのである。
開戦を前にした連帯と予兆
会議の終盤、フェルズは『ダイダロスの手記』の存在が活路になると語り、未知の出入口を突く可能性を示した。ヘスティアはその入手経緯を説明し、情報網が整うことを確認する。
水晶越しに交わされた言葉は、確かな絆を育み、戦いの予感を帯びた静寂が訪れた。ベル・クラネルを中心に、神と怪物と冒険者が一つに結束しようとしていた。
月光が雲の切れ間から差し込み、オラリオの街を照らす中、誰もが同じ名を胸に刻んでいた。
すべての運命は、ベル・クラネルへと収束しようとしていたのである。
ギルドの混乱と受付嬢の決意
昼夜を問わずギルド本部は混乱に包まれていた。廊下を駆ける職員と市民の怒号が交錯し、窓口では受付嬢たちが不安を鎮めることに追われていた。リヴィラ壊滅の報が都市を震撼させ、今ではその余波として【リトル・ルーキー】への非難が広がっていた。
ミィシャ・フロットは「悪いのは【イケロス・ファミリア】なのに」と声を上げ、職員室に怒声を響かせた。上司はそれを諭し、市民の落胆は期待の裏返しであると説明した。だが、机に向かうエイナ・チュールは沈黙を守り、震える手で書類に署名を続けていた。彼女は突然顔を上げ、「なんで、あの子は来ないの」と怒声を発した。抑え切れぬ思いを爆発させたエイナは、そのまま巡回名目で職場を飛び出した。彼女の胸には、再会への決意が燃えていた。
出立するベルとヘルメスの策略
その夜、ベル・クラネルは静まり返った本拠に一人佇んでいた。仲間たちは既に『ダイダロス通り』へ向かっており、彼は黒外套を羽織り、兎鎧と《神様のナイフ》《牛若丸》を装備した。
門前で待っていたのは神ヘルメスである。彼は旅帽の鍔を上げて笑みを見せ、「君を応援している」と告げた。ベルが礼を述べて去ると、ヘルメスはその背を見送り、直後に現れたエイナを迎えた。彼女の問いに答え、ベルが『ダイダロス通り』へ向かったことを告げた後、紫の宝石を嵌めた腕輪を「彼の落とし物」と称して託した。エイナは怪訝に思いつつも受け取り、夜道へ駆け出した。
『ダイダロス通り』での陽動と剣姫の出現
迷宮街に到達したベルは、周囲の冒険者から注目と疑念の視線を浴びていた。市民は北西へ避難済みで、通りは不穏な気配に満ちていた。ベルが情報収集を装って動く中、頭上の屋根から降り注ぐ視線に気付く。そこに立つのは、金髪の剣士アイズ・ヴァレンシュタインであった。
フィン・ディムナに「彼の監視を自分が行う」と進言したアイズは、私情を封じ、任務として監視を始めていた。ベルはその姿を見て動揺し、陽動の困難を悟る。
援軍の到着と交錯する思惑
そこへ【ミアハ・ファミリア】団長ナァーザ・エリスイが現れた。彼女はミアハの命を受けてベルを助けに来たと語り、密かに渡された物を受け取ると、「今度は薬をたくさん買ってね」と笑って去った。その様子をアイズは屋根上から監視していた。
続いて現れたのはリュー・リオンとアイシャ・ベルカである。リューは【ヘルメス・ファミリア】の一員として協力を申し出、アイシャも時間稼ぎの任務を引き受けた。だが、アイシャがベルをからかうように抱き寄せ、リューがそれを咎めたことで現場は一触即発となった。冒険者達の嫉妬も高まり、ベルの評判はさらに悪化した。
受付嬢の突撃と誤解の爆発
そして、最後の刺客が現れた。エイナ・チュールである。彼女は怒りと涙を交え、「来ないなら私が行く」と叫びながらベルに詰め寄った。
再会のはずが、誤解と感情が入り混じる言葉が飛び出す。「私って、キミにとって都合のいい女だったんだね!」――その一言が周囲の怒号を誘発した。ベルは必死に弁明するが、冒険者達の罵声は止まらず、完全に注目の的となった。
屋根の上からそれを見つめるアイズ・ヴァレンシュタインの金の瞳は、沈黙のままに輝きを帯びていた。彼女は小さく首を傾げ、呟いた。「ベルって……不良なの?」
陽動の成果と代償
この夜、ベル・クラネルの陽動は完璧に成功した。市民も冒険者も、その全てが彼の一挙手一投足に釘付けとなった。しかし同時に、彼の周囲には誤解と敵意、そして見えぬ策略の影が渦巻いていた。アイズの監視、ヘルメスの腕輪、エイナの激情――その全てが次の戦局を形作る要素となったのである。
指揮所の設営と“魔法の地図”
ヘスティアとサンジョウノ・ハルヒメは、歓楽街を臨む塔屋上に臨時の指揮所を設け、眼晶と『探索者の粉』を振った『名工の遺産』を用いて各隊の位置をリアルタイム追尾した。ヴェルフ・クロッゾとヤマト・ミコトには路地ごとの進路指示が飛び、屋上は事実上の作戦室として機能したのである。
ヘスティアとロキの密談――不干渉の取り付け
ヘスティアは前日にロキへ『異端児』の実情を賭けで明かした。ロキは共存に与せず、フィン・ディムナの名声と都市秩序を理由に協力を拒否したが、同時に“不干渉”を約して退いた。これにより、少なくとも【ロキ・ファミリア】外からの撹乱は抑制される見通しとなった。
合流と出立――“号令”の遠吠え
下水道縁ではヴェルフとミコトがウィーネ達と合流し、匂袋を配して隠密性を高めた。刻限、フェルズの合図でリドが屋上へ躍り出て遠吠えを放ち、各地に散る『異端児』へ位置と進路を伝達した。呼応の声は限定的ながら届き、隊列は『ダイダロス通り』地下部への侵入行軍を開始した。
都市反応――緊張と熱狂の分岐
ギルド長ロイマンは万神殿で蒼ざめ、対照的に神々は“祭り”のごとく熱狂した。フィン・ディムナは中央から無言の観測を続け、対処の網を絞った。ヘスティアは天頂の雲間に時機を見て、ハルヒメとともに後詰の“階位昇華”出撃を準備した。
幕開け
闇底で駒が動き出し、ベル・クラネルを中心に視線と戦力が収斂した。橙黄の双眸を細めたヘルメスが“ゲームスタート”を告げ、開戦前夜はついに作戦発動の瞬間へと転じたのである。
四章 ダイダロス前哨戦
リリの陽動開始と変身魔法の運用
作戦の口火はリリであった。リリは変身魔法シンダー・エラを用いて一角兎アルルに擬態し、ダイダロス通りの路地へ飛び出して冒険者達を南区へ誘引した。能力値や潜在能力は複写できない制約があるため何度も捕縛の危機に晒されたが、響く十二時のお告げで変身と解除を繰り返し、網目状の小径で追手同士を衝突させつつ混乱を拡大させた。恐怖と不満を抱えつつも、リリは立案者であるフェルズへの恨み言を胸にしまい、自身の役割を全力で遂行したのである。
ベルの離脱判断と不可視化による撹乱
南側の喧噪はベルにも届き、ベルはエイナの腕をそっと振りほどいて走り出した。エイナは職務上その背を見送るしかなく、ヘルメスからの預かり物を渡しそびれたことを悔いた。ベルはヘスティアの連絡で東側の状況を把握し、陽動継続の指示に同意した。追尾するアイズや他派閥の視線を認めると、ベルは匂い袋で体臭を消し、リバース・ヴェールで透明状態となって南東区へ離脱した。以後は姿を見せずに攪乱に徹し、標的を見失った冒険者達の焦燥を意図的に高めたのである。
ナァーザの幻想花と偽情報の拡散
南東区ではナァーザが幻想花を携行して歩き、花粉を吸い込んだ者にベルやモンスターの幻影を見せた。耐異常を未修得の冒険者を中心に誤報が連鎖し、廃屋や通りへの空振り突入が続出した。リリの陽動と相まって南東帯の混乱は加速し、ベルの不可視化とあわせて敵の索敵線は機能不全に陥りつつあった。ナァーザは入手経路に興味を覚えつつも、説明通りに行動して戦場の錯視を維持したのである。
アイズの追跡と覆面の剣士による足止め
アイズは気配や微細な足音からベルの不可視化を見抜き、高速で追走した。しかしロングケープと覆面の冒険者が進路を遮断し、第一級相当の踏み込みで木刀を打ち込んだため、アイズは抜剣して応戦した。覆面の懐から漏れる光粒を観察しつつ、アイズは路地へ落ちて斬り結んだ。偶然とは言い難い時機にアイズは警戒を強めたが、戦闘の継続を余儀なくされ、ベルへの監視は中断されたのである。
リューの階位昇華と春姫・ヘスティアの後方支援
南西外縁の高所では、ヘスティアと春姫が魔法の地図で戦況を俯瞰していた。覆面の冒険者であるリューはベルの依頼でアイズの足止めに向かい、春姫の妖術による階位昇華を受けていた。ヘスティアはベルに対し、不可視のまま攪乱を継続しロキ・ファミリアの注意線に引っかかり続けるよう進言した。ベルはウィーネ達への合流衝動を抑え、指示どおり見えない脅威として揺さぶりをかけ続けたのである。
フィンの状況判断と陣形維持
中央帯上空の屋上ではフィンが魔石灯の信号器で全域の報を集約していた。南および南東での一角兎や誤認情報に対して、フィンはアイズの足止めを織り込みつつ動揺を見せず、西側の臭いを重視して部隊移動を指示した。敵は人造迷宮の鍵事情から大所帯の本隊と推理し、地理把握と魔道具の可能性を勘案して罠と斥候を増やした。黒い猛牛の反応がないことを確認しつつ、フィンは陣形を維持し、敵主力の露見を待つ構えを崩さなかったのである。
ラウルの性格と配備のほころび
ラウルはLV.4の第二級冒険者で、自己評価の低さと平凡な風貌ゆえに「冴えない」印象を持たれていたのである。南・南東の騒乱に「流石団長」と感心するラウルの前に、フィンが“直接”現れて南東への展開と黒い猛牛出現を通達した。ラウルは違和感(槍不携行や信号器未通達)を覚えつつも権威に従い、部隊移動を開始した。
リリの成りすましと情報奪取
“フィン”はリリのシンダー・エラであった。以前の求婚騒動で掴んだ口調・所作の模写により、リリは西側防衛線の隊列を南東へ誤誘導し、守備の穴を創出した。さらに守備配置(北西・北東・南西・南東の四扉)を奪取してヘスティアへ報告し、手記に照合して「西の別経路」を特定させたのである。
西区の隠密工作と迎撃排除
九十八番街の隧道では、リドとレイが静粛に見張りを制圧し、ウィーネも負傷者の秘匿に加わった。命・ヴェルフ・グロスらは石像や高所を利用した奇襲で周辺の目を潰し、春姫・ヘスティアの遠隔支援と眼晶誘導により、隠し通路群を継ぎながら中央帯手前へ到達した。
フェルズ隊の進路決定と突撃
フェルズは『ダイダロスの手記』の写しをもとに西の扉へ直進する方針を確認し、命とヴェルフに“殿潰し”の迎撃を委ねた。一行は槍形隊列を組み、命とヴェルフがリバース・ヴェールで先陣を切る形で隠し扉を解放、峡谷状の一本道へ一斉突撃した。初動で上級見張りを落とすことに成功したが、二人目に鐘を鳴らされ、以後は速度維持を優先して突破に移行した。
フィンの看破と陣形再建の遅れ
中央帯上の本陣では、フィンが西隊の不自然な南展開を信号光から察知し、ラウルへの“直命”が偽装であると看破した。過去の戦争遊戲時の“小人族の調略”の記憶から、犯人をリリと推測し、敵が『手記』を保有する可能性に到達したのである。すでに鐘が鳴り、西からの直進突破で中央帯に食い込まれたため、代替配備での穴埋めは遅延した。
ロキの一言と再指揮
主神ロキは「見極めろ」とだけ囁き、以後の判断を一任した。フィンは慢心を省みて即応に転じ、状況整理の要としてラウルの召喚を命じ、残存戦力の挟撃配置で中央帯の収束戦へ舵を切ったのである。
間章 三人の孤児、真夜中の絶叫、血まみれのメイズ
避難民の渋滞と孤児救出の決断
北西外縁部は避難で渋滞しており、千草と桜花はギルド支援に従事していた。孤児のライとフィナ、そして保護者のマリアが「猫を迎えに教会へ向かったルゥの捜索」を懇願し、桜花は自らの孤児としての出自を重ねて随伴を決断した。千草はこれを容認し、少数での救出行へ移ったのである。
カサンドラの予知夢と二匹の“お守り”
北東の薄闇では、カサンドラが木箱を抱えて単独行動中にダフネに発見された。箱の中身は一角兎と黒犬であり、数日前に見た破滅的な予知夢を回避する“お守り”として密かに保護していた事実が露見した。モンスター匿いは破滅を招くと憤るダフネは即時処断に動いたが、判断の是非が問われる刹那に事態は急転したのである。
漆黒の巨軀との遭遇と通過
返り血に塗れた漆黒の巨躯が現れ、両刃斧を掲げて二人に迫った。しかし、一角兎と黒犬が割って入り、巨体は斧を下ろして黙然と通過した。死線を跨いだ後、二人は緊張の反動で言い争いに転じたが、結果として少女達は二匹とともに難を逃れたのである。ここで“怪物”の一挙手一投足が単純な殺戮衝動ではないことが暗示された。
二七七番街:血まみれの路地と“痕跡”
東区二七七番街へ潜入したリリは、上級下級を問わず冒険者が瀕死で折り重なる惨状を目撃した。壁や路面の破砕痕、道化師の徽章の混在、そしてなお息のある者が多い事実は、「殲滅」ではなく「無力化」を優先した暴威であることを示した。リリははぐれたゼノスの“鍵”合流計画を再確認しつつ、猛牛級の所業を想起し強い不安を覚えたのである。
漆黒の怪物の独白と離別
一方その怪物は、狩猟者を殴打と蹴撃のみで制圧していた。これは闘争ですらなく「狩りにも満たない」と自己嫌悪を喰い、同胞の反応が称賛と畏怖に二分する現実を受け止めた。彼は異端として己を測り、同胞の“地上で生きる夢”と自身の“闘争に意味を求める夢”の不一致を認める。ゆえに眼球を嵌めた第二の鍵を赤帽の同胞へ託し、再会ではなく再戦を希求するかのように、地上に“自分の夢”を探しに去ったのである。
五章 ウルトラソウル!
迷宮街西区での索敵と苛立ち
ティオナは廃墟で気絶した冒険者を見つけたが回復薬を忘れており、ティオネに呼ばれて現場を離れた。複雑な構造の『ダイダロス通り』に阻まれ、ティオネは索敵の難航に苛立っていた。ティオナは近傍に脅威の気配を感じ取っており、状況は緊迫していたのである。
警鐘と追撃の開始
鐘の合図が鳴り響き、二人は即応して移動した。同時刻、迷宮街西の中央寄りでは『異端児』の隊列が『人造迷宮』への通路を目指して突進しており、【ロキ・ファミリア】は三方向から迎撃に動いたのである。
透明奇襲と氷の制圧
ヴェルフと命は『リバース・ヴェール』で不可視となり、蒼い『魔剣』を抜いて屋上と正面の両面から吹雪を叩き込んだ。広範囲の氷結で弓兵らを無力化し、進路上の冒険者も凍結させた。殺傷を避け街の破壊を最小化するため氷属性を選択した点が連携の肝であった。
突破と進路誘導
凍り付いた包囲を『異端児』が体当たりで突破し、命は側道からの追手を冷波で阻んだ。ヘスティアと春姫の支援で進路は逐次更新され、隊列は中央帯へ向け加速したのである。
ヒリュテ姉妹の追い上げと隠密の看破
後衛を狙うティオナとティオネが急追し、不可視の気配を視線で射抜いて奇襲を看破した。二人は氷障壁や氷柱を瞬時に粉砕して間合いを詰め、ヴェルフと命は正面迎撃を余儀なくされた。
下り坂の賭けと『風武』の解放
通路先の下り勾配を見たヴェルフは賭けに出て『異端児』へ全力疾走を指示した。ティオネが盾、ティオナが討ち取りの陣で突入する刹那、命は刀型の『魔剣』を抜き、居合一閃で颶風を放った。『風武』の突風は姉妹を後方高空へ吹き飛ばし、非殺傷で追撃を断ち切ることに成功した。
本陣の洞察と配置転換
同じ頃、フィンは偽装された自分への問い質しから敵が『ダイダロスの手記』を持つと断じ、地下守備の無意味化を見越して地上待機へ切替え、ガレスの出撃を命じたのである。
ガレスの急降下と蹂躙
現在へ戻り、ガレスが大戦斧で大通りを割る隕石の一撃を見舞い、『異端児』の中央を吹き飛ばした。リドとフェルズの連携も及ばず、ガレスは多対一の包囲をものともせず大型級を拳と斧で押し返し、圧倒的な壁役として前面を制圧していた。
黒霧の混戦と支援の到来
フェルズは『黒霧』で戦域を遮断し乱戦へ持ち込んだが、ヴェルフの『氷燕』は使用限界で砕け、形勢は険しかった。そこへ椿・コルブランドが介入し、煙幕を盾に『魔剣』を次々と撃ち込みながら戦場を撹乱した。椿はためらうヴェルフを叱咤し、次の切り札の投入を促したのである。
『氷鷹』による足止め
ヴェルフは長剣型『魔剣』を解放し、『氷鷹』の猛吹雪でガレスを盾ごと半身氷結させた。ガレスは笑って耐えつつも防御を強いられ、ヴェルフは黒霧の利を活かしてここを押さえると宣言した。フェルズは合図を継いで『異端児』に前進を促し、追撃を受けながらも突破の糸口が生まれたのである。
隊列の分散と新たな危機
南西外縁の観測では『異端児』の表記が『魔法の地図』上で散り、潰走寸前の分断が進行していた。ヘスティアと春姫は焦燥し、特にウィーネの位置が群れから孤立しつつある事実が判明した。ここに至り、突破の代償として新たな危機が立ち上がったのである。
黒霧下の孤立と北西区への逸走
ウィーネは負傷した左腕を押さえつつ、フェルズの『黒霧』に満ちた路地を逃走した。眼晶を持たないため誘導を得られず、複雑な『ダイダロス通り』の地形に翻弄されながら北西区へ踏み入ったのである。
追撃の圧力とティオナの出現
【ロキ・ファミリア】の矢が背後から迫る中、ウィーネは開けた通りへ飛び出した。そこで彼女は屋上に立つティオナ・ヒリュテを視認し、第一級冒険者の脅威に直面して逆方向へと走り出した。
崩落の危機と自己犠牲の決断
十字路で孤児達と鉢合わせた直後、砲撃の余波による建物崩落が発生した。ウィーネはベルの行為を想起して逡巡を断ち切り、発現した片翼でハーフエルフの子ルゥを庇って身を投じ、瓦礫の直撃を防いだ。
誤解と目撃の分岐
現場の冒険者や住民には、怪物が子を襲い偶然瓦礫が落ちたようにも映った。一方、至近で経緯を見たカシマ・桜花とチグサは「怪物が守った」と認識して動揺した。ルゥは涙ながらに「お兄ちゃんは間違っていなかった」と呟き、場に余韻を残したのである。
ティオナの追撃と転機
路地裏でティオナが退路を断ち、突きを放つ寸前まで迫ったが、直前で手を止めた。瓦礫下の行為を踏まえ「倒すのは無理」と判断して大双刃を下げ、ウィーネに「早く行った方がいい」と退去を促した。ウィーネは一礼も言葉もなく離脱した。
姉妹の合流と見解の相違
ティオネが合流し、ティオナの独断を叱責した。ティオナは「普通のモンスターと違う」と直感を述べ、ティオネは怒気のまま「黒い猛牛(ミノタウロス)だけは討つ」と戦場へ復帰した。姉妹は議論を続けつつ再び走り去った。
南西外縁の指揮所の焦燥
『魔法の地図』上でウィーネの表示が北西へ離れていくことに、ヘスティアは危機を確信した。フェルズとリドは圧力下で離脱不能、ヴェルフと命も抑えに専念、リリとベルは遠距離で、即応救出が不可能であった。
春姫の飛翔と女神の決断
春姫は逡巡なく高所から跳躍し単独救援に向かった。ヘスティアは最速の打開としてベルに救援を要請したのである。
ベルと春姫の合流・協働の誓約
ベルは春姫を確保し、二人での救出を誓った。春姫は涙を拭い、詠唱に入って支援を約した。
『ウチデノコヅチ』による階位昇華
春姫の妖術『ウチデノコヅチ』が発動し、ベルは一時的にLV.4へと階位を上げた。ベルは春姫を抱えたまま『リバース・ヴェール』で姿を隠し、屋上伝いに南西から北西へ超加速で縦断を開始した。察知の危険を承知の上で最短を突き、ウィーネ救出へ全力で疾駆したのである。
路地裏の再会
孤立していたウィーネは、呼びかけに応じて現れたベルと春姫に救われ、抱擁で安堵する。ヘスティアの誘導で合流と離脱を急ぐ。
狼人との遭遇と“身を張る盾”
超速で嗅ぎつけたベートが降臨。ベルは囮を決めかけるが、春姫が単身で路地へ進み出て時間を稼ぐ。罵倒と威圧に耐えながら『ウチデノコヅチ』の詠唱を継続し、到着したアイシャへ“階位昇華”を付与。ベート対アイシャの私闘が勃発し、ベルとウィーネは北へ離脱。
静寂の先の待ち伏せ
人気のない道を南下しようとした先に、アイズが立ち塞がる。彼女は五日前の問いへの答え――「怪物が誰かを泣かせるなら斬る」は変わらないと宣言。ウィーネを庇うベルの訴えは届かず、交渉は決裂する。
ベル対アイズ(第1幕)
ベルはウィーネ退避の時間を稼ぐために二刀で挑む。狭い小径での“白兎の猛攻”で一瞬押し返し、「強くなった」と認めさせるも、アイズが本気へ移行。神速の剣舞に圧倒され、致命は外されつつもベルは叩き伏せられる。
追撃阻止と再激突(第2幕)
アイズがウィーネへ向かうのを、ベルは『ファイアボルト』で遮断し再び接敵。「話したい」対「話すことはない」の断絶は埋まらず、剣とナイフが火花を散らす。最終的にアイズの連撃に防具ごと押し潰され、ベルは路上に沈む。
現在地と心情
アイズは先へ、ウィーネは退避中。ベルは痛みに朦朧としつつも、ヘスティアの声とウィーネの涙を胸に、再起を絞り出そうと石畳を掴む。
北北西の戦闘後と春姫の決意
アイシャはベートとの戦闘に敗北し、地面に倒れていた。全身に傷を負いながらも、なお笑みを浮かべて春姫に語りかけた。泣きじゃくる春姫に「行く当てがあるなら行け」と促し、少女の涙を背に眠りへ落ちた。
再会と隠し通路の決断
その頃、ウィーネは不安を抑えきれずに戻り、傷だらけのベルと再び合流した。彼の体には深い疲労が刻まれていたが、迷宮街の裏通りで隠し通路を発見し、ウィーネを先に逃がすことを選ぶ。ベルは眼晶を彼女に託し、笑みを装って「必ず追いかける」と告げた。彼の背後で扉が閉まり、少女は闇の中へ消えた。
再び向き合う金の剣士
通路を守る位置に立つベルの前へ、アイズが現れた。逃走を見届けた彼女の瞳には咎めの色が宿っていた。ベルは退避を拒み、言葉の代わりに武器を構えた。剣とナイフの衝突は静寂を切り裂き、彼は何度倒れても立ち上がり続けた。
信念の衝突と想いの告白
激しい鍔迫り合いの中でアイズは問いを投げる。「なぜそこまでするのか」と。ベルは息を荒げながら「ウィーネ達と笑って暮らせる場所が欲しい」と答えた。その純粋な願いは、アイズの信念をかすかに揺らした。
竜の少女の登場と自己犠牲
隠し通路が開き、ウィーネが再び飛び出した。彼女は両手を広げてベルを庇い、「ベルを傷つけないで」と叫んだ。アイズの糾弾に対し、ウィーネは自らの爪を折り、さらに片翼を引き千切る。血を流しながら「誰も傷つけたくない」と訴え、孤独の記憶と感謝を語った。
アイズの変化と別れ
涙を流す竜の少女を前に、アイズの仮面は崩壊した。剣は下げられ、「私はもう、その竜女を殺せない」と告げる。彼女は万能薬を置き、「助けることはできない、私はここにいる」と言い残して去った。ベルとウィーネは互いに支え合い、その場を後にする。
静寂の夜と残された者
夜風の中、アイズは一人立ち尽くしていた。そこにベートが現れ、短い言葉を交わして去る。残された金髪の少女は空を仰ぎ、月光の下で沈黙したまま佇んでいた。
廃墟での再会と癒やし
アイズの去った後、ベルとウィーネは北の廃墟に身を潜めていた。屋根の半壊した石造りの建物で、二人はアイズから受け取った万能薬を使って互いの傷を癒やした。ウィーネの傷は塞がったが、折れた爪と引き千切った翼は戻らなかった。ベルは軽い傷のみで致命傷を避けており、アイズが終始手加減していたことを悟った。
春姫の到着と安堵
眼晶を手にした春姫が廃墟に到着すると、ウィーネは涙を浮かべて彼女に抱きついた。春姫もまた涙をこぼし、互いの無事を確かめ合った。春姫はアイシャに救われたことを報告し、ベルとウィーネの生存を喜んだ。
小さな再会と現状の報告
春姫に連れられて現れたのは、兎の異端児アルルであった。小柄なモンスターが春姫に抱きつき、ウィーネも笑顔で応じた。短い再会の後、ヘスティアの通信が届き、フェルズ達がすでに『人造迷宮』へ入ったことが告げられる。しかし、中央地帯には【ロキ・ファミリア】をはじめとする冒険者達が集結しており、合流は不可能と判断された。
レットの「鍵」とベルの閃き
絶望的な報告の中、レットが懐から魔道具――『人造迷宮』の「鍵」を差し出した。地上に残る同胞から託されたものであり、その者は「夢が近くにある」と語って地上に留まったという。ベルは感謝を述べた後、ひらめきを得た。かつてシルや孤児達と調査した『マリア孤児院』の地下通路を思い出したのである。
孤児院への潜入と地下通路の突破
ベル一行は北西区から北へ移動し、人気の途絶えた『マリア孤児院』裏庭へ侵入した。かつての調査で発見した石板の扉を開くと、そこには広大な地下通路が広がっていた。崩れた通路を前に、ベルは右腕に魔力を集中させ【英雄願望】を発動し、蓄力した大砲撃を放って瓦礫を一掃。『ファイアボルト』が通路を切り開き、『人造迷宮』へ通じる経路を確保した。
異端児達との別れと誓い
フェルズへの合流を信じた異端児達はベルに感謝を告げ、それぞれの手を握って別れを惜しんだ。ウィーネは涙を堪えながら「もう泣かない」と微笑み、ベルと春姫に「また会おう」と誓う。三人は指切りを交わし、ウィーネは同胞とともに闇の奥へと進んでいった。ベルは小指の温もりを見つめ、「必ず約束を果たす」と誓いを新たにした。
地下での進軍と神々の動揺
地下通路では、フェルズ率いる異端児達が『設計図』を頼りに西の『扉』を目指して進行していた。上層ではヘスティアが安堵の息をつき、ベルの機転を称える。一方、【ロキ・ファミリア】本陣ではフィンが異端児を見失い、状況を把握できずに苦悩していた。
千年前の手記と異変の兆候
ヘスティアが誤って『ダイダロスの手記』を水に落とした瞬間、驚愕の事実が浮かび上がる。彼女は震える手で古書を開き、「どういうことなんだ、ウラノス!!」と叫んだ。
人造迷宮の虚構と神の介入
その頃、フェルズ達が辿り着いたのは継ぎ目のない巨大な石壁だった。『扉』は存在せず、地図は虚偽であった。動揺する一行の背後に、橙色の髪の男神ヘルメスが現れ、「やぁ、『異端児』の諸君」と語りかける。そして微笑みながら告げた――
「『ダイダロスの手記』なんて、あるわけないじゃないか」。
六章 神のたばかり
手記の偽造に気付いたヘスティア
水没したはずの手記が波打ちもせず、インクも滲んでいない事実から、ヘスティアは当該手記が魔道具であると見抜いた。神時代初期にこの精度の書物型魔道具は成立しにくいとの推論から、古代手記は意図的に再現された偽物であると断じた。また、インクの性質がフェルズの手紙と同様であることから、血潮の筆を用いた痕跡を掴んだ。
ヘルメスの種明かしと目的
ヘルメスは、ヘスティアとフェルズの前で手記が自分の眷族ベルセウスによる模造品であると明かし、本物は人造迷宮に遺されているはずだと述べた。偽の設計図には存在しない扉や袋小路が仕込まれており、フェルズとゼノスはその誘導によって待ち伏せ地点へ誘い込まれていた。ウラノスを中継に使ったのは疑念を避けるためであり、協力関係を背景にした策であった。通信を断たれたのち、ヘルメスはゼノスに死を求める取り引きを示し、主導権を握った。
ベルと春姫の合流と不穏の兆し
孤児院を後にしたベルと春姫は、迷宮街の黒霧が晴れつつある景色を見下ろしていた。そこへヘスティアから合流要請が入り、現地で手記が偽物でフェルズとの連絡が断たれた事態を知らされた。緊急性からベルのステイタス更新が行われ、出立準備が進む最中、頭上から異形の咆哮が響き、飛行する影の接近が確認された。
北西区外縁の飛行モンスター襲撃
北西区外縁の避難地帯に、有翼のガーゴイルを含む複数のモンスターが急襲し、モルド・ラトローらが混乱の中で応戦した。冒険者の一斉射は弾かれ、後衛の詠唱は分断され、群衆は恐慌に陥った。現地で護衛を担っていたガネーシャ・ファミリアのシャクティは市民保護を最優先とし、避難誘導を指示した。タケミカヅチ・ファミリアも子供達の避難に動いたが、ライ、フィナ、ルゥらは恐怖で足がすくんでいた。
ベルの出撃とヘスティアの憤り
屋上から惨状を目撃したベルは、ゼノスが通常のモンスター同様に暴れている事実に衝撃を受けつつ、制止を振り切って広場へ急行した。ヴェルフ、命、リリも現場に到着して混乱を共有する中、ヘスティアは全体の光景を舞台になぞらえ、何者かの神意によって残酷な劇が演出されているという怒りを募らせた。
フィンの出陣決断
フィンは避難所襲撃はないと見立てていた前提が崩れたことを認め、介在する第三者の意志を察した。親指の疼きを兆しと見て、ラウルに本陣指揮を委ね、自ら部隊を率いて北西へ向かう決断を下した。第一級冒険者は待機とし、リヴェリアらに後事を託して迅速に行軍を開始した。
北西外縁の混乱とエイナの誘導
北西区外縁の避難広場は有翼種の急襲で恐慌状態に陥った。エイナはギルド職員として【ガネーシャ・ファミリア】の指示に従うよう住民に呼びかけ続けたが、戦況は悪化し、統制は失われつつあった。中心に降り立ったガーゴイルが突出した戦闘力を示し、下級から第二級に至る冒険者を次々に退け、遠距離攻撃も通らない状況が生じたのである。
標的にされたエイナとベルの介入
混乱の最中、ガーゴイルがエイナを明確に“視認”して急襲した。エイナの腕輪に灯る紫宝玉と、怪物側の同系の宝玉が共鳴している兆候が示され、彼女は狙い撃ちの標的と化した。ベルは即応して身を挺し、女神のナイフで迎撃してエイナを庇ったが、ガーゴイルは執拗にエイナを狙い続け、戦闘は劣勢に傾いた。
ヘルメスの謀略と“英雄の原点回帰”
場面は遡り、ヘルメスはフェルズとゼノスに対し、手記偽造と誘導の全容を明かしたうえで「数体の犠牲」を条件とする取引を迫った。目的は“異端との縁”を断ち、ベルを「怪物を討ち人々を救う英雄」へと再定義することであった。ヘルメスはガーゴイル=グロスに紫宝玉を渡し、「ベルの大切な人物」に反応して標的化するよう指示。アスフィは方法に疑義を呈しつつも後詰に回り、男神は観衆・主役・配役を揃えた“舞台”として事態を演出した。
グロスの決断と“偽りの暴走”
グロスはゼノスの“恩返し”として自らが犠牲役を引き受ける決断を下した。ベルに討たせることで、神との契約を成立させ、同胞救出を勝ち取る算段である。地上では彼が“理性を封じた暴走”を演じ、宝玉の誘導でエイナを狙い続け、ベルに反撃=致命打の選択を強要した。
ヘスティア一行の到着と逡巡
ヘスティア、ヴェルフ、リリ、命、春姫が広場に到着したが、ゼノスを撃つべきか否かで判断を躊躇した。ヘスティアはヘルメスの企みをベルに告げて動揺を増幅させることを避け、即断の糸口を掴めない。観衆の中では、エイナを庇うベルの行動によって“裏切り者”という悪評が薄れつつあり、視線は「【リトル・ルーキー】」の一挙手一投足に集約した。
【ロキ・ファミリア】の布陣と最終局面
フィンが部隊を率いて屋上から上空制圧と牽制を指示し、地上・上空の二面封鎖で有翼種殲滅に移る。ヘルメスは塔上から満足げに戦況を観劇し、「異端児を見捨てて怪物を討て」という“英雄の原点回帰”をベルに迫った。猶予の尽きたグロスは捨て身の特攻でベルに反撃を強制し、同時にフィンの槍と団員の矢が射線に入る中、ベルはナイフを握る手をついに動かした。
人造迷宮での逡巡とフェルズの確信
『人造迷宮』へ退避したゼノス一行は、ヘルメスの手引き自体は約定通りであったが、地上に残ったグロスらを見捨てる形にリドが激しく反発した。フェルズはあえて背を向けたまま、「ベル・クラネルは神意を超える」と断じ、少年の自律的な突破を信じる姿勢を貫いたのである。
広場の決戦と“強要された二択”
地上の大広場では、ガーゴイル(グロス)が紫宝玉でエイナを標的化し、ベルに“エイナを守るためにゼノスを斬る”という二択を強いた。観衆と冒険者の視線、そしてヘルメスの“舞台装置”が、ベルに致命打の決断を迫る構図が完成していた。
祖父の教えと“第三の選択”
突撃が迫る刹那、ベルは祖父の教え――「誰の指図でもない、自分で決めろ」――を想起し、神意の糸を断ち切るようにナイフを鞘へ納め、両腕を広げて“信じる”行動を選択した。これによりグロスは突撃を中断、フィンは即座に射撃中止を指示し、戦場に異様な静寂が走った。
ヘルメスの次手とアスフィの“紅針”
沈黙が“人類の敵”という悪評の火種に転じる兆しを読むや、ヘルメスは透明化したアスフィにモンスター凶暴化の『紅針』投入を命じた。アスフィは逡巡を抱えつつも射出体勢に入り、ベルとフィンだけが異変に即応して動き出す、という臨界点に戦況は到達した。
新たな咆哮と“絶対強者”の接近
同時刻、路地裏で“隻腕でも勝てぬ”と悟らせる規格外の武人が一人の戦士を戦場へ導き、その戦士は屋上へ跳躍して広場を望見するや、白髪の少年を“絶対無二の好敵手”と認識した。誰にも渡さぬという渇望が臨界に達し、迷いも策謀も吹き飛ばす大咆哮が戦場に轟いたのである。
七章 英雄回帰
黒い猛牛の奇襲とベルの分断
雄叫びが轟いた直後、漆黒の猛牛が大広場を強襲し、ベル・クラネルを狙って突進した。ベルはエイナを突き飛ばして庇い、振り下ろされた両刃斧の直撃を回避したが、衝撃波で建物群を貫通するほど吹き飛ばされ、広場から分断されたのである。
大広場の動揺と各陣の反応
広場は砂煙と破片に包まれ、冒険者と住民は混乱に陥った。【ロキ・ファミリア】の団員らは敵影の把握に手間取り、ヘスティアとエイナはベルの安否を叫んだ。ヴェルフと命は黒い猛牛をミノタウロスと認識し、リリと春姫は恐怖で硬直していた。フィンは斥候・包囲・後方支援の手順を即時指示し、アイズの招集を決めたのである。
廃墟での邂逅と名乗り
瓦礫の廃墟でベルは漆黒の怪物と対峙した。怪物は静かに言葉を発し、名を問うた。自身をアステリオスと名乗ったその存在は、たった一人の人間との死闘の夢に導かれてここへ来たと語り、宿敵との再戦を求めた。ベルは逡巡しつつも応じる決意を固め、武器を構えたのである。
再戦の開幕
アステリオスは凶笑とともに咆哮し、戦闘が開始された。ベルは右側面――アステリオスがかつて腕を失った側――を狙って機をうかがい、二刀で切り込んだが、両刃斧と体術に阻まれ防戦一方となった。技量と駆け引きで成長を見せるアステリオスに対し、ベルは辛くも回避し続ける展開であった。
斥候隊との遭遇と威嚇
戦闘の余波で壁が破れ、【ロキ・ファミリア】の斥候隊の前に二人が現れた。団員らは同時攻撃を試みたが、アステリオスの咆哮により前衛は硬直、後衛は膝を折った。ベルは割って入り、団員らへの追撃を引き受ける形でアステリオスの注意を引き戻したのである。
広場への再流入と混乱の拡大
戦局は再び大広場へ雪崩れ込み、アステリオスの着地で悲鳴が最大化した。住民はメインストリートへ殺到し、冒険者らは奮起して四方から挑んだが、アステリオスは得物を粉砕し、上級冒険者をも次々と沈めた。ヘスティアは眼晶を通じてベルに囮の継続を求め、ベルは生存のためにも戦闘への集中を強めたのである。
子供たちの恐怖とベルの奮戦
孤児のライ、フィナ、ルゥは人垣の隙間から蹂躙の光景を目撃し、恐怖で身動きが取れなくなった。アステリオスの視線に射竦められた瞬間、砂塵を裂いてベルが突貫し、子供たちの金縛りを断ち切った。ライはベルを裏切り者ではなく冒険者であると理解し、震える胸に熱を覚えたのである。
声援の発火点
ならず者のモルドが安全地帯からベルを鼓舞し、怒声が広場に響いた。その声に触発され、ライは束縛を断ち切って兄ちゃん頑張れと叫んだ。声援は戦場の空気を変え、ベルは歓喜するアステリオスと真っ向から斬り結び続けたのである。
群衆の覚醒と声援の渦
迷宮街の大広場では、フィナとルゥの叫びとモルドの喚声を起点に、住民・ギルド職員・冒険者が一斉に声援へ転じた。ベル・クラネルは両刃斧を振るうアステリオスに対し、二振りの刃で応戦し続け、打算なき「勝利への意志」を可視化したのである。この「本物の死闘」は中傷と嘲弄を無効化し、観衆に英雄の面影を幻視させた。
フレイヤ陣の遮断と武器投擲
【ロキ・ファミリア】の介入は、オッタル以下【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者によって要所で封じられた。アレンは「ガキが雄を賭けている」として手出しを退け、四つ子の小人族らも前線を塞いだ。オッタルは大剣を中央へ投擲し、ベルはそれを掴んで再開戦、観衆の熱はさらに高騰した。
戦場の転移と中央広場での再開戦
被害拡大を避けるため、ベルは屋根伝いに撤退しつつ、都市中央の中央広場へ戦場を移した。ここでもアステリオスの咆哮が低位冒険者を無力化し、【ガネーシャ・ファミリア】は救助最優先に転じた。各派閥の屋上や劇場の屋根に観衆が群がり、声援は都市規模の熱狂へ拡散した。
覚醒の加速と反撃の連鎖
押し込まれながらも、ベルは渇望を燃料に加速し、連撃と体術を交えた攻めへ移行した。至近距離の「【ファイアボルト】」六連射でアステリオスの片目を潰し、落下してきた大剣を拾い三閃の袈裟・薙ぎ・斬り上げを通して装甲ごと深手を与えた。観衆と神々は総立ちとなり、広場は歓声の坩堝と化した。
必殺の衝突と敗北
最終局面、アステリオスは角突撃に酷似する構えをとり、ベルは【英雄願望】により「アルゴノゥト」を想起した「英雄の一撃」を収斂・解放した。だが紅の破光が白光を粉砕し、ベルは致命的衝撃で吹き上げられて敗勢が決定したのである。
白塔への突入と地下一階への墜落
アステリオスはなお猛進し、ベルを抱えたまま『バベル』の門を粉砕して突入。大広間を叩き割り、地下一階へ落下させた。薄闇に月光が差す坑道で、アステリオスは「これで一勝一敗。次こそ決着を」と告げ、咆哮を残してダンジョンの奥へ去った。
敗北の受容と新たな誓い
瓦礫に横たわるベルは、囮としての闘いが【ゼノス】の離脱を助けたと己を慰めようとしたが、「敗けて良かった」は偽りであると自覚した。悔恨が涙となって溢れ、同時に「強くなれ」という宿敵からの通牒を受け取った事実が心に灯った。ウィーネたちと生きる居場所を作るため、そして次は必ず勝つため、さらに強くなると誓ったのである。
都市の余波と物語の収斂
塔上のフレイヤはこの邂逅を恍惚として讃え、ヘルメスは企図の瓦解を認めつつ、神意の外で輝く「眷族の物語」に敬意を表した。地上ではヘスティアが【ゼノス】護送を急がせ、観衆は恐怖を超えて熱気へと転じた。かくして、少年と怪物の一騎討ちは都市全域を巻き込み、英雄譚の核として刻まれたのである。
エイナの突入
アステリオスがベル・クラネルを抱えて『バベル』へ消えた後、エイナは【ガネーシャ・ファミリア】の制止を振り切り、破壊された門から内部へ突入した。床中央に穿たれた巨大な穴を目撃し、最下に白い影を見出すと、暗闇と瓦礫の螺旋階段を転げるように地下一階へ向かったのである。
地下一階の到達と発見
魔石灯が壊れた薄闇の中、エイナは躓きながらも進み、ダンジョン一階層に到達した。瓦礫に横たわるベルは生存していたが、全身血塗れで、悔し涙を流していた。子どもの泣き顔ではない、敗北と無力を噛み締める「男性の涙」であった。
寄り添いと感情の自覚
エイナは言葉を挟まず膝を折り、ベルの右手を両手で包み込んだ。ベルは強く握り返し、エイナは胸奥に芽生える甘く切ない感情を自覚した。月光のような燐光に照らされる中、救援が来るまで、彼女はただ傍に寄り添い続けたのである。
エピローグ だから僕はまた、走り出す
異端児の帰還とフェルズの癒し
ダンジョン深層の隠れ里で、フェルズはリドたち【ゼノス】と再会した。迷宮街での戦いから数日、彼らは無事に帰還を果たしていた。フェルズは全癒魔法で負傷者たちを癒し、瀕死だったアステリオスの片腕までも元に戻した。アステリオスは礼を述べた後、「決着をつけるため、もっと強くなる」と言い残して深層へと去った。フェルズはその言葉に、運命に選ばれた少年と怪物の絆を思い、無言で頷いた。
地上の虚偽報告と都市の安堵
地上では『ダイダロス通り』の被害復旧が進み、ギルドは「黒い猛牛の暴走を【ロキ・ファミリア】が鎮圧した」とする虚偽報告を発表した。ウラノスの指示によるものであり、ベル・クラネルの存在は伏せられた。第一級冒険者たちはそれを黙認し、街は安堵を取り戻した。ギルド長ロイマンは疲弊の末に倒れたが、人々の間には「少年こそ真の冒険者」との声が広がっていった。
ウラノスとヘルメスの対話
【祈禱の間】で、ウラノスはヘルメスから報告を受けていた。ヘルメスは「少年の冒険が英雄譚として刻まれた」と語り、黒い猛牛の戦いを「純粋な力による真実」と評した。彼は今後もウラノスに協力する意思を見せる一方、「英雄のためなら再び対立するかもしれない」と橙の瞳で宣言した。去った後、フェルズが戻り、ウラノスに報告を終えた後、「自分もあの少年に賭ける」と告げた。老神は黙してその決意を受け入れた。
ヘスティア・ファミリアの安息
【ヘスティア・ファミリア】の本拠では、リリ、ヴェルフ、命、春姫たちが復興後の静けさを迎えていた。街の誤解は解け、冒険者たちの監視も消えていた。リビングではウィーネの不在を想いながらも、春姫は「約束しましたから」と穏やかに微笑み、希望を繋いだ。仲間たちは失われた少女への思慕と、ベルの不在を感じつつも、確かな絆を胸に抱いていた。
再会と新たな誓い
朝焼けの市壁上、ベルは東の空を見つめながら佇んでいた。そこへ金髪の剣士アイズ・ヴァレンシュタインが現れる。彼女は「ここに来れば会える気がした」と微笑み、ベルの願いを聞く。「また戦い方を教えてください」との言葉に、アイズは「同じ目をしている」と静かに応じた。別れ際、ベルはその背を見送らず、白亜の巨塔と迷宮の方角を見据えた。
疼く小指を握りしめながら、彼は改めて誓う。ウィーネとの約束、アステリオスとの決着、憧憬との再会。その全てを果たすために――。
だからベル・クラネルはまた、走り出した。
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