物語の概要
ジャンル:
異世界ファンタジー/冒険譚。本作は、神々と冒険者が共存する都市オラリオを舞台に、冒険者ベル・クラネルらの成長と戦い、モンスターとの交錯を描く長編シリーズ。
内容紹介:
第10巻では、ベルは迷宮“大樹の迷宮”で竜の少女ウィーネを保護しようと試みる。しかしウィーネを狙う狩猟者たちの襲撃を受けるとともに、ギルドや都市の暗部が関与する陰謀が露わになっていく。ウィーネを巡る争いが人とモンスターの衝突を呼び、ベルは自らの信念で彼女を守ろうとする。友情・葛藤・対立・犠牲といったテーマが交錯する、シリーズ屈指の重厚な巻である。
主要キャラクター
- ベル・クラネル:本作の主人公である。弱き冒険者として始まりながら、仲間を守るために成長し続ける意志を持つ青年である。
- ウィーネ:大樹の迷宮でベルが出会った竜の少女。人語を話し孤立した存在で、彼女を守ろうとするベルの行動が物語の軸となる。
物語の特徴
10巻の特徴は、「守る者と狙われる者の関係性」が際立っている点である。ベルがウィーネを守ろうとする姿にはヒロイックな面がありつつも、彼女自身の存在意義や過去という謎が重なり、単なるバトル以上のドラマが展開される。また、モンスターと人間、冒険者と秩序といった対立構造が物語深部を支える。ギルド・都市の裏表や、狩猟者という“人の闇”の要素も絡むことで、読者には“守る意味”と“犠牲”を問いかける重みのある巻として記憶されるだろう。
書籍情報
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 10
(Is It Wrong to Try to Pick Up Girls in a Dungeon?)
著者:大森藤ノ 氏
イラスト:ヤスダスズヒト 氏
出版社:SBクリエイティブ(GA文庫)
発売日:2016年5月14日
ISBN:978-4-7973-8677-6
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あらすじ・内容
大森藤ノ×ヤスダスズヒトが贈る、圧倒的ダンジョンファンタジー、第十弾!理知を備えるモンスター『異端児(ゼノス)』との邂逅も束の間、ベルはウィーネと引き離されてしまう。
懊悩の日々に埋もれるベルだったが、ウィーネにも魔の手が迫ろうとしていた。 そして、
『武装したモンスターの大移動を確認! ギルドは討伐任務を発令します!!」
暴走する『異端児(ゼノス)』によって賽は投げられた。
引き鉄となったのは暴悪な狩猟者(ハンター)達、代償は都市の全派閥を巻き込む動乱。
激動のオラリオで少年は決断を迫られる。
憧憬と怪物、現実と理想、英雄と罪人。
人類とモンスターの狭間で、ベルは──
「君は、本当に愚かだな……」
これは少年が歩み、女神が記す、
──【眷族の物語(ファミリア・ミィス)】──
感想
任務の果てにベルたちが出会ったのは、理知を持つモンスターの群れ――【ゼノス】であった。彼らはウィーネと同じく言葉を話し、人間のような感情を備えていた。その代表であるリドたちは、ウィーネを「妹」と呼び、仲間のもとに帰すようベルに懇願する。激しい葛藤の末、ベルはついに彼女を託す決断を下した。別れの瞬間、ウィーネの涙とベルの沈黙は、互いの信頼と痛みを静かに物語っていた。
だがその直後、ゼノスたちは“狩猟者”と呼ばれる冒険者集団の襲撃を受け、多くの仲間を失う。深い絶望と憎悪に呑まれた彼らは、復讐のため迷宮都市オラリオへの襲撃を決意する。
突如として始まったゼノスの暴走は、都市全体を混乱に陥れた。理知あるモンスターが人間を襲うという前代未聞の事態に、ギルドと【ロキ・ファミリア】が動員される。ベルは人とモンスターの狭間で再び苦悩しながらも、彼らの“真意”が憎しみだけではないと信じ、単身でその行動を止めに向かった。彼が選んだのは、討伐でも放置でもない――「共に生きる」ための救いであった。
しかし、その選択は冒険者としての立場を失う覚悟を伴っていた。ベルは英雄としての名声を地に落とし、仲間からも非難を浴びる。それでもなお、彼は「人とモンスターの共存」を信じ、その信念を貫いたのである。
ウィーネを救い、ゼノスを導いた代償はあまりにも大きかった。ベルは都市中から“裏切り者”と呼ばれ、孤立する。それでも、その姿には確かに“本物の英雄”の輝きが宿っていた。アイズ・ヴァレンシュタインへの後ろめたさを抱きながらも、ベルは己の行動を悔いることなく、次なる試練へと歩みを進める。彼のスキル『憧憬一途』が示すように、信じる理想を追い続ける心は、いかなる挫折にも決して屈しなかった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
幕間 迷執手記
創造の天才と迷宮への執着
かつて一人の工匠がいた。彼は聡明かつ至妙な技を持ち、神々さえ称賛する白亜の巨塔【神の塔】を完成させた。あらゆる発明を成し得た彼は自らを世界一と信じて疑わなかった。しかし、大陸の果てで出会った『大穴』――地上とは異なるもう一つの世界、燐光に満ちた迷宮に心を奪われた。幾層にも分かれたその構造と、未知なる鉱石や植物を備えた世界は、彼の目に「作品」として映ったのである。
迷宮の美と狂気の誕生
彼はその神秘を解明すべく肉体を鍛え、奥深くへと潜った。だが、理解を深めるほどにその複雑さと美に圧倒され、ついに理性を失った。『神羅万象』が内包されたかのような混沌の美に魅せられた彼は、壊れた男として狂気の叫びを上げた。それ以後、彼は常軌を逸した創作に没頭し、人々からは奇人と呼ばれるようになった。
妄執の遺産と呪いの手記
やがて彼は寿命という限界に直面した。己が人であることを呪い、止まる身体を嘆きながらも、最後に遺したのは呪いの手記であった。そこには『設計図』とともに、後世の血族に託す言葉が綴られていた。己が宿願を果たすため、創造の衝動に従順であれと。欲望に忠純であり、渇望に純粋であることを命じるその手記は、狂気の遺言であった。
受け継がれた呪いとディックスの決意
時を経て、変色したその手記をディックスが手にしていた。薄暗い空間で頁をめくる彼は、準備を終えた部下の声に応じて立ち上がる。手記を投げ捨て、赤い槍を手にしたディックスは、黒檻の並ぶ闇の中を進んだ。鎖の音が響く中、彼は低く笑いながら呟いた。求めることに純粋であれ――その言葉に、かつての狂気が再び息を吹き返していたのである。
六章 嵐の前の
欠落の朝と静かな食卓
ベル・クラネルは自室で目覚め、隣にいたはずのウィーネがいない寝具を見つめて沈痛となっていた。大食堂に降りると、ヴェルフやリリ、命、春姫がいつも通りに振る舞おうとしていたが、会話はぎこちなく、空席となったウィーネの席に皆の視線が集まっていた。春姫は無意識に一枚多く食器を並べ、命に指摘されて我に返った。家族のように過ごした日々の痕跡だけが残り、食卓には寂寥が漂っていたのである。
別離の余韻と無力感
二日前の強制任務で『異端児』の隠れ里を知った【ヘスティア・ファミリア】は、喋るモンスターという未知と向き合い、最終的にウィーネを同胞へ託して別れを選んだ。地上は人類の領域であり、共存を許さない現実を前に、狩猟者が潜む危険から遠ざけるための決断であった。フェルズの説明により事情は理解したものの、ベル達には何もできないという無力感と、半身を失ったような喪失が残っていた。
ベルの確認の決意
朝食後、ベルはダンジョンへ行くと告げた。ヴェルフ、リリ、命、春姫は一斉に案じたが、ベルはすぐ戻るとだけ答えた。今後も冒険者を続けるならば、自分の中で確かめねばならないことがあると判断したからである。装備を整えて『竈火の館』を出たベルは、石畳の喧騒の中を無言で『バベル』へ向かった。
シルの“おまじない”
『豊穣の女主人』の前でシル・フローヴァに呼び止められ、弁当の申し出を断ったベルは、心配を見抜かれて戸惑った。シルは人差し指を回して鼻先を軽く突き、元気になーるという孤児院仕込みの“おまじない”を施した。ベルは思わず力の抜けた笑顔を取り戻し、礼を告げて立ち去った。店内ではアーニャ、ルノア、クロエ、そしてリューもまた、ベルの沈んだ様子を気にかけていた。
ヘスティア、ガネーシャを訪ねる
一方、ヘスティアは【ガネーシャ・ファミリア】を訪問した。象面の主神は調教師達とモンスターの調教現場を指揮しており、厳重な柵と監視の下で生態研究が進められていた。私語を退けて二人だけの場に移ると、ガネーシャはウラノスから理知あるモンスターを示されて以来、『怪物との友愛』に協力している経緯を明かした。団員への共有は最小限にとどめ、研究名目の飼育がギルド資料の更新に資している現状も説明された。
揺れる神意と支えの誓い
ヘスティアは、自分にとって最優先はベル達であると述べつつ、ベル達が選ぶならば『異端児』を支える覚悟を示した。未知が都市にもたらす影響への不安は否めないが、これは眷族の物語であるという信念を語ったのである。問いかけに対してガネーシャは結果を断じられないとしながらも、もし怪物達が闘争を望まず共存を願うなら、【群衆の主】を超えて【群衆と怪物の主】になると宣言した。ヘスティアはその言葉に初めて彼を格好いいと思い、笑みを返した。
地図に囲まれた主神の部屋
【ヘルメス・ファミリア】本拠のヘルメスの自室は、四方の壁を地図が覆い、砂漠圏の織物や貝・真珠の装飾品、使い込まれた旅帽が散在する旅人然とした空間であった。そこにヘルメスとアスフィが向かい合い、任務の報告が始まっていた。
二重尾行作戦の失敗
依頼はウラノス発で、ベル・クラネル達を囮にし、その後尾する【イケロス・ファミリア】をさらに【ヘルメス・ファミリア】が追う二重尾行であった。だがダンジョン内でアスフィ達の追跡が露見し、【イケロス・ファミリア】は即座に撤退して痕跡を絶ったため、作戦は失敗に終わった。アスフィは責を詫びたが、ヘルメスは咎めず、状況の分析に移った。
相手方の力量とディックスの脅威
アスフィは相手が勘も頭も切れ、こちらを圧倒できる戦力を備えつつも、正体看破ののち迷わず撤退を選ぶ慎重さを指摘した。透明化の『ハデス・ヘッド』をはじめとする【万能者】の魔道具が捕縛の脅威である以上、住処露見を避けた判断だと評価したのである。特に団長ディックス・ペルディクスは十年前に既にLV.4の【暴蛮者】であり、現在は第一級に準ずる実力に到達している可能性が高いと警戒を強めた。
イケロス・ファミリアの来歴と現状
【イケロス・ファミリア】は二十年以上前から存在する探索系派閥で等級Bであったが、『深層』進出を境に攻略記録が途絶え、以後は地下に潜ったかのように表舞台から姿を消していた。闇派閥との関係も疑われる中、今回の対応からも周到さが窺えた。
『巣』とゼノスの移動に関する見立て
ヘルメスは今回の件で敵に『巣』の所在の当たりを与えた可能性を認めつつ、ウラノス達の手筈では『異端児』は既に別拠点へ移動中だと整理した。ただし胸中には不穏が残り、直感として嫌な予感が強まっていた。
中層監視の指示と迫る兆し
結論としてヘルメスはアスフィに『中層』の動向を監視し、宿場街を中継点に見張り網を敷くよう厳命した。作戦の失敗を受けて挽回策を即断し、そう遠くないうちに敵が仕掛けてくると断じて備えに入ったのである。
七章 サンゲキの王者
苔光る迷宮と地上への希求
『大樹の迷宮』に佇むウィーネは、苔の光に照らされながら地上の星空と家族の記憶を思い返していた。胸奥の喪失と寂寥は癒えず、ベル・クラネル達への思慕が涙となって滲んでいたのである。
ゼノス小隊の編成と慎重行軍
ウィーネを守る小隊は、人蜘蛛ラーニェを指揮に、半人半鳥フィア、戦影オード、馬鷲クリフ、獣蛮族フォーらで構成され、24階層を後続隊として移動していた。多種族の集団は目立つため、部隊を分けて合流点へ進む方針を取り、先行のリドやレイが道中の危険を除去していたのである。
叱責と慰撫、揺れる心
人間への警戒を解かぬラーニェは、ウィーネの未練を戒め、人の残虐さを示唆して警告した。一方でフィアとフォーは寄り添って慰め、同胞の温情がウィーネの不安をわずかに和らげていた。しかし彼女の心はベル達への絆を否定できず、内面の葛藤は続いていた。
同胞の悲鳴の感知と進路変更
ウィーネの鋭敏な聴覚が遠方の悲鳴を捉え、理知ある同胞の救難と直感した。ラーニェは罠の懸念を示すグロスの制止を振り切り、現場確認を決断した。先行偵察のオードが安全を合図し、小隊は加速して声の発生地点へ向かったのである。
磔の歌人鳥と待ち伏せの露見
広間に到達した小隊は、樹幹に鎖で括られ杭で翼を貫かれた歌人鳥の磔を目撃した。彼女は逃げてと告げ、直後に樹皮色の偽装布を脱いだ狩猟者達が四方に出現した。ディックス・ペルディクス率いる一団は悲鳴を囮に用い、退路を塞いで『異端児』を包囲していたのである。
開戦と戦術の衝突
先手を取ったオードは突貫したが、ディックスの背後から躍り出た大男グランの一撃で両断され、さらにディックスが踏み潰して絶命させた。戦闘は一気に激化し、ラーニェの糸、フィアの射撃、クリフの急襲が狩猟者を圧したが、敵は多方向同時攻撃と魔法支援で間隙を衝き、数と連携で形勢を取り戻していった。
フォーの奮戦と討滅、隊の崩壊
巨大な鎚矛を振るうフォーは多人数を一挙に薙ぎ払い、矢と魔法を避けつつ押し返していた。だがディックスは槍捌きで渾身の一撃を受け流し、背後から貫いて縦断した。フォーは膝をつき息絶え、クリフは槍衾に倒れ、フィアは制圧され、歌人鳥も事切れ、小隊は壊滅へ傾いたのである。
絶望の決壊とウィーネの失神
同胞の連続する死にウィーネは崩れ落ち、フォーの亡骸に縋って慟哭した。そこへディックスが近づき、仲間外れにはしねえと嘲笑して槍を振り下ろした。紅が視界を覆い、衝撃が全身を貫いたのち、ウィーネの意識は闇に沈んだのである。
静まる広間と捕縛
ラーニェは両腕と多足を折られ、フィアとともにディックスの前へ引きずられた。ウィーネは殴打で意識を刈られ、鱗は罅割れたまま失神。人型のゼノスのみが生かされ、運搬の準備が進む。
糸の道標と看破
ラーニェは密かにウィーネへ蜘蛛糸で“道標”を付けようとするが、ディックスに即座に見破られ断たれる。用意周到で残虐、しかも慎重な指揮ぶりにラーニェは敵の厄介さを悟る。
凌辱未遂と毒の反撃、そして自決
部下の一部がラーニェへの暴行を企てる。ラーニェは恐怖を押し殺し、毒液で反撃して加害者らを悶絶させるが、多数の刃で致命傷を負う。それでも「この身も、死でさえも渡さない」と自ら胸の魔石を握り潰し、灰となって散った。ディックスは動じず撤収を指示し、ウィーネとフィアを連れ去る。
遅すぎた到着と怒号
数時間後、グロスが広間に到着。灰となった仲間の痕跡、砕けた装備、隠して投げ込まれた赤い水晶を拾い上げ、天へ向けて怒りの咆哮を放つ。
ベルの逡巡――“殺せるが、迷う”
一方ベル・クラネルは上層で単独の試し斬り。モンスターは倒せる、だがウィーネとゼノスを知ってしまった今、刃を振るうたびにためらいが生じる。リドの「絶対に死なないで、また会おう」という言葉だけが、戦う足を前へ進ませる。答えは出ぬまま地上へ戻ろうとしたその時――
階段の上の金色
『バベル』の螺旋階段で、ベルは足を止める。逆光にきらめく金髪と金の瞳。そこに立っていたのは、アイズ・ヴァレンシュタインだった。
祈禱の間――見えない“出入り口”
フェルズは眼晶で『バベル』を監視するも【イケロス・ファミリア】の出入りは一切検知できず、ウラノスに「『バベル』以外の出入り口」の可能性を進言。リドと連絡を取る黄水晶の反応が突如消失し、不穏が濃くなる。
24階層――復讐の火、理性の崩壊
グロスが持ち帰った赤い眼晶がラーニェ隊の惨状を映し、憤激がゼノス全体に伝播。グロスはフェルズへの連絡水晶を破壊し「報復」を宣言。リドは「地上への憧憬」を守ろうと必死に制止するが、同胞の怒りは制御不能に。グロス隊が進軍、リドはレイとレットを率いて追撃し、アルミラージには“あいつ”の招集を命じる。
18階層リヴィラ――動く影
変装した一団(【ヘルメス・ファミリア】)が街中で【イケロス】の三人を尾行。安全階層のはずのリヴィラに不穏なざわめきが広がり、中央樹方面で“異常”の兆しが集まっていく。
オラリオ――剣士への問い
ベル・クラネルはアイズ・ヴァレンシュタインに、「怪物が人と同じ心を持つなら?」と問う。アイズは「怪物のせいで誰かが泣くなら、私は怪物を殺す」と即答。揺るがぬ現実にベルが言葉を失ったその時、都市に非常鐘が鳴り響く。
非常通達――都市総動員へ
ギルド拡声器が告げる。「18階層リヴィラが武装したモンスターにより壊滅。モンスターの大移動を確認」。全ファミリアへの強制任務、ダンジョン侵入禁止、ホーム待機の指示。ベルは凍りつき、アイズは即応の構え。動乱が、いよいよ地上を巻き込んで始まる。
八章 動乱都市
リヴィラ壊滅の報とギルド本部の混乱
リヴィラの街から逃げ延びた大頭ボールスが、武装したモンスター集団の急襲と街の陥落を報告した。白大理石のロビーには避難民と満身創痍の冒険者が溢れ、職員と受付嬢が治療と聞き取りに奔走した。モンスターは中央樹から一気に駆け上がり、統一性のない種族構成ながら第二級冒険者級の力で街壁を破壊したため、迎撃は形を成さず住人と冒険者は潰走したのである。ギルドは緊急警報を発し、侵入禁止と本拠待機を一斉通達した。
ウラノスの裁断と討伐権限の一任
ギルド長ロイマンが『祈禱の間』で直訴すると、ウラノスは祈禱が破られていない事実を示し、拙速な都市危機認定を退けた。そのうえで、複数派の同時投入を避けるため討伐は【ガネーシャ・ファミリア】に一任し、中層以下の冒険者救出も担わせる方針を下した。ロイマンは即時伝達に移った。
フェルズとの協議と『異端児』への疑念
フェルズは、武装集団が『異端児』である可能性を口にし、リドとの連絡断絶や狩猟者の関与を推測した。ウラノスは使い魔と密使の手配、都市守備と検問の再配置、強制任務の参加者を自派と通じる者で厳選する策を決定した。真意は『異端児』の露見と殺戮を避けつつ、速やかに収束させることであった。
ベル・クラネルの見極めを指示
ウラノスはフェルズに対し、強制任務にベル・クラネルを組み込むよう命じた。『異端児』の手を取った唯一の冒険者が、状況に流されるだけの子か、神に踊らされる器か、あるいは別の姿を示すのかを見極める意図であった。フェルズは神意に従うことを了承した。
ベルとアイズの急行とエイナの説明
警報後、ベル・クラネルとアイズ・ヴァレンシュタインはギルド本部へ直行した。混乱するロビーでエイナと遭遇し、武装モンスターの実在と指揮役となった石竜、ばらばらな種族構成の報を聞いた。ギルドは精鋭で叩くとして【ガネーシャ・ファミリア】主導での対処に傾き、他派閥には待機を要請していた。ベルは動揺しつつも行動を選ぼうとしたが、強制任務に関する新情報の気配に引き止められた。
各【ファミリア】の動き(ミアハ、タケミカヅチ、ヘファイストス)
【ミアハ・ファミリア】は店を閉じ情報収集に移行し、竜女に端を発する事態との関連を懸念した。【タケミカヅチ・ファミリア】は帰還組の報告を受け、市民の不安鎮静を優先して街頭へ出る方針を採った。【ヘファイストス・ファミリア】は規模の大きさゆえ独断行動を避け、団員を本拠に集めつつギルド方針に従う態勢を整えた。
【ガネーシャ・ファミリア】の招集とフレイヤの推察
【ガネーシャ・ファミリア】本拠は最も慌ただしく、封鎖と検問交替を急いだ。フレイヤは検問任務への回し方の不自然さから、ウラノス側の後ろめたさと真意を見抜いたうえで、歓楽街の罰則帳消しを取引材料に都市門の防衛を引き受けた。彼女は魅了を用いてバベルへ戻る意向も示し、渦中への独自接近を図った。
【ロキ・ファミリア】の議論と不信
【ロキ・ファミリア】は待機命令に不満を示すベートをガレスらがなだめ、リヴェリアは武器を装備する変種としての脅威を評価した。ギルドの情報統制には強い疑念が共有され、フィンは勘として事態が続くと見立て、ロキも都市全体を振り回す展開を予感して同意した。アイズは討議に加わりつつ成り行きを注視した。
都市全域への波及とイケロスの嘲笑
都市は検問・封鎖・帰還誘導に揺れ、八門の守りとバベル封鎖が進んだ。高所から動乱を見下ろすイケロスは、ディックスの失敗を嗤い、事態の混迷を愉しむように観望した。思惑が絡み合うなか、巨大な渦はさらに膨張していった。
竈火の館の動揺と推測
【ヘスティア・ファミリア】本拠にて、ヴェルフは武装モンスターによる街陥落の報に激情を示し、リリは情報の不確実さを認めつつも警戒を促した。ヘスティアはバベル封鎖と店からの強制避難を報告し、都市全体が不穏に傾いている実情が共有された。原因については狩猟者の関与が想起され、『異端児』の逆鱗に触れる出来事があったとの推測が強まった。春姫はウィーネらの安否を案じ、リリは街が壊滅した以上は討伐以外の選択がないと冷厳に言い切り、一同は重い沈黙に包まれたのである。
暗号入り通達とベルの投入
ギルド使者が羊皮紙を届け、表向きは待機命令のみであったが、ヘスティアは縁飾りに紛れた【神聖文字】を読み取り、ベル・クラネルを16階層の討伐隊に組み込む密命を看破した。老神ウラノスの真意を悟ったヘスティアは中央広場へ先回りする決断を下し、ヴェルフ、リリ、命、春姫が続いて本拠を飛び出した。
フェルズの導きと先遣隊合流
ベルはエイナに呼び止められ、ギルドの一室からフェルズに伴われて『秘密の通路』へと案内された。フェルズは武装集団が『異端児』であること、リヴィラ陥落後に侵攻が18階層から進んでいないことを伝え、動機は街側にあるとの見立てを示したうえで、【ガネーシャ・ファミリア】の先遣隊にベルを編入する意向を告げた。ベルはリドやウィーネを想い、事実を自ら確かめる決意で協力を承諾した。
ヘルメスの警戒と独自行動
【ヘルメス・ファミリア】本拠では、負傷して帰還した眷族の証言からイケロス派の影が確認され、ヘルメスはフェルズの使い魔経由の編成情報から、ウラノスがベルを巻き込んだことに苦言を呈した。英雄の試練を是とする彼でさえ、今回は神意に沿わぬ危険な筋道と断じ、一歩誤れば破滅と警告した。ヘルメスはアスフィに別動で18階層偵察と交戦回避を命じ、自身も対面確認のために動くとし、さらにアイシャの招集を指示した。
豊穣の女主人の裏手での密談
酒場『豊穣の女主人』に現れたアイシャは、リューに対しモンスター群が16階層に留まり【ガネーシャ・ファミリア】主導の討伐隊が編成中であること、そしてベルが危険な任に就くことを明かした。自身が【ヘルメス・ファミリア】へ改宗し、情報と見返りの関係で16階層の偵察とベルの保護を担う立場にあることも告白した。さらに【イケロス・ファミリア】と闇派閥の関与示唆により、リューの封じた怒りが呼び起こされ、リューは介入を決断した。
出立準備と店側の黙認
装備準備へ向かうリューと別れた後、盗み聞きしていたシルは女将ミアに咎めを受けつつも、当日の客足の途絶を理由に黙認を取り付けた。条件としてシルはリュー不在分の業務負担を引き受けることとなり、店は内部事情を抱えたまま、当人達の出立を見逃す体制をとったのである。
小結—収束へ向けての布石
【ヘスティア・ファミリア】は暗号通達でベルの参戦を察知し行動を開始し、ベルはフェルズの先導で先遣隊へ。ヘルメスは危険度を見極めつつ独自の偵察線を敷き、アイシャとリューは16階層へ向かう決意を固めた。各勢力の思惑が一点に収束しつつあり、真相解明と『異端児』の保全、そして都市の秩序維持を賭けた動きが急加速したのである。
狩猟者拠点の異様とディックスの狂笑
薄闇の広間でディックスは黒檻に鎖で繋いだ多数の異端児を前に、リヴィラ陥落の報を受けて歓喜した。武装モンスターの侵攻は自分達の狩りへの報復と見抜き、街が壊滅し強制任務が発令された混乱を嘲る。主神不在も意に介さず、涙する竜女に視線を落としてなお暴虐の意志を揺るがせなかったのである。
中央広場の動員と“討伐ではなく調教”の密命
セントラル広場では【ガネーシャ・ファミリア】が出撃準備を進める中、ギルドからの極秘通達が「殺さず生け捕り」の調教指示であることが伝えられ、隊内に動揺が走った。シャクティ・ヴァルマは主神への信を掲げて命令受諾を明言し、イルタらの不満を収めて出撃体制を整えた。民衆の視線が集中するなか、討伐の大義の裏側に“保全”の意図が潜む布陣が固められたのである。
ベルの潜入とヘスティア達の黙契
ベル・クラネルはフェルズの手配でローブと荷を背負い、臨時サポーターとして隊列に紛れた。フェルズは透明化の魔道具で同行し、原因究明のための潜入を進める。人波をかき分けて現れたヘスティア、ヴェルフ、リリ、命、春姫は制止も同行も許されない現実に言葉を呑み、視線で「行け」と「気を付けて」を交わした。ベルは力強く頷き、静かに決意を固めた。
ヘルメス側の別働と三人の不可視侵入
外縁ではアスフィが魔道具の兜を用意し、アイシャ・ベルカとリュー・リオンに装着させて不可視で封鎖網を突破させた。ヘルメスの密命の下、三者は【ガネーシャ・ファミリア】と別線で16階層へ向かい、生情報の収集と少年の保護を狙う。アスフィは苛立ちながらも段取りを完遂し、アイシャとリューはそれぞれの借りと因縁を胸に潜入を開始した。
出撃の号砲と収束する思惑
シャクティの号令と民衆の声援が響く中、討伐隊はバベルの門へ進発した。フェルズとベルの潜入線、アスフィ隊の不可視線、そして表の大部隊という三層の矢が同時に放たれ、標的は16階層へと収束する。涙する竜女を檻に繋ぐ狩猟者、異端児の保全を秘めるギルド、少年を見送る女神と仲間達。相克する意志がダンジョンの闇で交錯し、決戦の幕は切って落とされたのである。
九章 獣の夢
リヴィラの壊滅と狩猟者の追及
ダンジョン18階層『迷宮の楽園』西部の宿場街リヴィラは、雪崩のような強襲により壊滅状態となっていた。瓦解した水晶柱と炎上する魔石製品が廃墟の様相を作り、街路ではガーゴイルのグロスが逃げ遅れた冒険者を捕縛して同胞の行方を詰問していた。相手は【イケロス・ファミリア】の狩猟者であり、人蜘蛛が遺した毒の匂いをまとっていたため、グロスは同胞を殺した一味と断じて威圧と拷問を加えたのである。
『扉』の手掛かりと東端への進発
狩猟者は恐怖に屈し、階層東端の大森林に同胞を連れ去るための扉があると示した。しかし持っていない者には行けないと繰り返し、詳細は明かさなかった。グロスは見切りをつけ、異端児達に森の東端へ向かうよう号令した。翼ある者は飛翔し、他は断崖を駆け下りて一斉に東部を目指した。
討伐隊の到着と追跡方針
同時期、17階層から【ガネーシャ・ファミリア】の討伐隊が18階層へ到達した。シャクティは天頂近くを飛ぶ有翼の武装モンスター群を視認し、部隊を二手に分けて生存者探索と追撃を命じた。ベルは本隊に続行し、透明化して随伴するフェルズはリヴィラは囮であり、飛行する集団の中にリド達の姿を確認したと告げたため、彼等は大森林へ進路を定めたのである。
大森林での交戦と三つ巴
南から東へ湾曲する広大な森林に進入した討伐隊は、武装モンスターと野生モンスターの激闘に遭遇した。実際には異端児達が森の群れを排除していたが、人影を認めた異端児は激昂して討伐隊にも突撃し、戦場は三つ巴となった。ベルは濁流のような交戦に巻き込まれ、フェルズとも分断されて回避と防御に徹するほかなかった。
武装モンスターの脅威と調教の困難
シャクティは調教対象を亜種たる武装個体に限定する方針を示したが、非致傷を前提とする制約が戦況を不利にした。石翼で攻防一体となるガーゴイル、頭上から怪音波を放つセイレーン、野生の剣技を操るリザードマンらは、第一級冒険者にも匹敵する潜在力を示し、討伐隊は押し返されぬよう必死に対応していたのである。
アイシャとリューの介入、アスフィの逡巡
後方の潅木から戦場を観測していたアイシャ、リュー、アスフィは、討伐隊の苦戦とベルの所在不明を受け、リューが助太刀を決断した。アイシャも続き、二人は隠密性を高める魔道具の兜を用いずに前線へ跳び込んだ。アスフィは情報収集を優先すべきだとして逡巡したが、置き去りにされた魔道具を回収しつつ、自身の透明化は維持したまま事態の推移を見極めていたのである。
援軍の介入と戦況の反転
大森林での乱戦は、調教の制約に縛られる【ガネーシャ・ファミリア】と、怒りに身を委ねた『異端児』が激突する構図であった。金翼のセイレーンが怪音波と羽弾で前線を崩そうとしたが、アイシャの大朴刀とリューの木刀が遊撃として機能し、イルタら第一級戦力の窮地を次々と救った。シャクティは二人の自由戦闘を逆手に取り、非致傷の縛りを抱えた本隊の態勢立て直しに成功したのである。
ベルの孤立とリドの離脱
混戦に呑まれたベルは、半人半蛇の猛攻で変装を破られ、身を晒した。そこへ蜥蜴人のリドが割って入り、取っ組み合いを装ってベルを森林の外縁へ弾き出した。リドは密猟者による同胞殺害とウィーネらの拉致を告げ、怒りで自制を失いかけている己を認めたうえで、「森の東端の『扉』」に囚われた仲間を奪還すると宣言した。ベルが同行を申し出ると、リドは地面を断ち割って境界線を刻み、「これ以上関わればベルも終わる」と突き放し、その咆哮で拒絶を示して離脱した。
フェルズとグロスの決裂
戦場上空では、フェルズがガーゴイルのグロスに停戦と協働を訴えたが、グロスは「人間側の者であるお前に我らの怒りは理解できぬ」と断じた。十五年に及ぶ信義をも断ち切る激憤のまま、グロスは遠吠えで『異端児』に東端への集結を命じ、殿としてセイレーンのレイに人間側の足止めを指示して離脱した。
リューの手とベルの選択
取り残されたベルの前にリューが現れ、【イケロス・ファミリア】の奸計から距離を置くべきだとして地上への撤退を勧めた。ベルは沈黙で拒み、蜥蜴人の追跡を選ぶ。リューは討伐隊の危機を先に払拭すると告げつつ高等回復薬の入った小鞄を託し、すぐ後を追うと約した。ベルは謝意を述べて走り出し、リドの背を追って森の東端――『扉』へ向かったのである。
密猟者拠点の誘い出し策
地下拠点でディックスは状況報告を受け、【イケロス・ファミリア】の密猟者が街で口を割ったと見て嘲笑した。彼はグランに精製金属の小型装置を投げ渡し、「『扉』を開けろ」と命じた。モンスターを拠点に誘い込み、一挙に殲滅する意図である、とディックスは愉悦を隠さずに語った。
大森林東端の捜索と焦燥
ガーゴイルのグロス率いる『異端児』は大森林の東端――階層の行き止まりに到達し、『扉』を血眼で探索した。しかし反応はなく、同胞への呼びかけにも応答はない。「持っていないお前等じゃ行けない」という狩猟者の言葉が現実味を帯び、リドやグロスの焦りは頂点に達した。
ベルとフェルズの合流、痕跡の消失
ベルはフェルズと合流し、森を切り裂く進撃の痕跡を辿って東端へ到達したが、『異端児』の気配は忽然と消えていた。破壊された青水晶は自己修復を始め、ベルは『異端児』の隠れ里で見た“地形リセット”の既視感を覚える。
“鍵”の反応と隠し通路の露呈
ベルの腰の小鞄から、球形の魔道具が灼けるような熱を放ち始めた。白銀の外殻(ミスリル)に赤い“眼”を埋め込んだ装置で、表層には「D」の記号が刻まれている。装置の反応に導かれた先で、フェルズは魔導グローブから衝撃波を放ち、岩壁の偽装を破砕。ダンジョン由来ではない人工の横穴が姿を現した。
オリハルコンの『扉』と開錠
横穴の突き当たりには、悪魔像を脇に据えた巨大な金属門が聳えていた。材質は“世界最硬”と称されるオリハルコン。破壊は不可能に等しいが、ベルが球状装置をかざすと門の紅玉が反応して上方へ開扉した。フェルズは壁面に刻まれた崩し字を読み、「ダイダロス」の名を呟く。人工構造物の設計者(あるいは主)を示す銘である。
闇派閥の遺物という示唆
ベルは、装置がリューの過去の討伐で押収された“闇派閥”の遺物ではないかと推測する。18階層という安全階層の“内側”に、長年潜伏可能な人工施設を築くことは理論上は可能――その現物が、いま目の前にあるという事実が、二人の背に冷や汗を伝わせた。
『異端児』の消失と“招待”の成就
『異端児』の姿が東端から消えたのは、ディックスの「招待」――扉の解錠によって内側へ誘い込まれたためであると読める。ベルとフェルズは修復で閉まりつつある外壁を背に、闇の通路の奥へ進む決断を固めた。
地上の小康
その頃、地上の中央広場では討伐隊の出陣後も人波が絶えず、【ガネーシャ・ファミリア】がバベル周辺を封鎖していた。高まっていた不安は次第に和らいだが、真の脅威は地下深くで口を開けたばかりであった。
中央広場の停滞と方策検討
【ヘスティア・ファミリア】のヴェルフ、命、ヘスティア、春姫は中央広場で封鎖中の『バベル』を見守り、打つ手のない焦燥に苛まれていた。密猟者の『住処』特定を模索する中、リリが「怪物の“商品価値”」という観点に着目し、密輸経路と保管拠点の発想へと至ったのである。
ソーマの牢とザニスの示唆
一行は【ソーマ・ファミリア】本拠を訪ね、ソーマと団長チャンドラの協力で地下牢に拘束されているザニスと面会した。かつてリリに“モンスターの誘引・捕獲・売却”という商売を持ち掛けていたザニスは、理知と自尊を失った姿ながら『異端児』の存在と密輸への関与を匂わせ、「手掛かりは“ダイダロス通り”だ」とだけ吐き、詳細は拒んだ。リリはこの証言をもとに行き先を定め、口外無用を約して牢を後にしたのである。
ベルとフェルズ、地下人工域の出入口に到達
同時刻、18階層東端ではベルとフェルズが『異端児』の足跡を追って進入路を探索していた。自己修復する青水晶群の挙動に既視感を覚えたベルは、リューから託された小鞄の底から球形の“鍵”の魔道具を取り出す。装置の熱反応に導かれ、フェルズが魔導手袋の衝撃波で偽装岩壁を破ると、ダンジョン由来ではない人工の横穴が出現した。
最硬門と超硬回廊――“ダイダロス”の名
突き当たりには悪魔像を従えたオリハルコン製の巨大門が聳立し、鍵の魔道具に反応して開扉した。内部は錯綜する石造通路で、壁の破砕部からはアダマンタイトの金属肌が露出する。要所の“最硬門”と“超硬回廊”という防護構造は、鍵なしの侵入・脱出をほぼ不可能にしていた。壁面に残る崩し字「ダイダロス」のサインを前に、フェルズは千年前の奇工の名とウラノスとの縁、そして“バベル以外の出入口”というギルドが懸念してきた仮説の現物化を認めたのである。
負の根源=【イケロス・ファミリア】の『住処』確定
通路には『異端児』の血痕が点々と続き、地上へ抜ける密輸ルートの存在が論理的に接続された。フェルズは「探し求めた負の根源はここにある」と断じ、この人工領域こそ【イケロス・ファミリア】の拠点であると結論した。
屋上の対峙:ヘルメス vs イケロス
地上の“ダイダロス通り”では、迷宮街の塔屋上でヘルメスが男神イケロスを追い詰めた。イケロスは神威による撹乱を軽笑で受け流しつつも観念し、「今なら何でも答える」と挑発混じりに応じる。追走劇の勝者として立つヘルメスと、混沌の街並みを見下ろすイケロス――密猟事件の中枢が、問答によって明らかにされようとしていたのである。
人造迷宮クノッソス突入—檻の広間
リド、グロスら『異端児』は東端の『扉』から人工路へ雪崩れ込み、終点の巨大広間で無数の黒檻を発見。フィアをはじめ理知あるモンスター達が枷と鎖で拘束されており、総出で解放に動く。だが奥から現れた眼装の男ディックスと狩猟者たちが包囲、救い出した仲間が足枷となるよう狙い澄ました罠だった。
ディックスの正体—“D”と鍵、ダイダロスの血
ベルとフェルズが到着。二人の“球形の鍵”に狩猟者側がざわめく中、ディックスは左眼の“D”刻印を晒し、自らが奇人ダイダロスの子孫だと宣言。『扉』は系譜の「目玉」に反応し作動する設計で、死体からくり抜いた眼球を模した“鍵”で開閉していると嘲る。人造迷宮の名は『クノッソス』――始祖が残した設計図を子孫が千年かけて継ぎ足した“作品”だと明かした。
屋上の対話—ヘルメスとイケロス
同刻、“ダイダロス通り”の塔屋上でヘルメスがイケロスを追い詰める。イケロスは『ダイダロスの手記』と設計図の存在、資材と資金を求めて闇派閥と結託してきた系譜の歴史を語り、クノッソスが都市の闇の温床だった事実を裏付ける。
開戦—『呪詛』フォベートール・ダイダロス
広間ではグロスの突撃を合図に戦闘開始。劣勢に傾いた狩猟者側は、ディックスが超短詠唱の『呪詛』【フォベートール・ダイダロス】を放つ。紅の波が走り、リドもグロスも『異端児』全員が理性喪失。同士討ちと暴走が広間を覆い、地獄絵図と化す。フェルズの黒衣だけが対呪でベルたちを護り、状況を看破――「術者を倒せば呪詛は解ける」と叫ぶ。
決断—ベル vs ディックス
暴走したリドの刃が迫るも、フェルズの衝撃で間一髪。ベルは紅と黒の短剣を握り直し、LV.5を自称するディックスへ一直線。呪詛の代償で隙が生まれると読んだフェルズの後押しを背に、ベルは火花を散らして赤槍と斬り結んだ。
救助班と“不穏な兆し”
リヴィラで【ガネーシャ・ファミリア】救助班は生存者の救出と負傷者治療を進める一方、私怨を思わせるほど残虐に破壊された死体(実は【イケロス・ファミリア】)を発見。遠景では黒犬に跨る一角兎を目撃し、続いて“やばい”と叫ぶほどの異常――『亜種』の出現を察知する。
大森林・第一幕終息と“黒影”の乱入
本隊側ではリューとアイシャの援護で武装モンスターの制圧が進み、最後に残ったレイ(セイレーン)も包囲。小康に向かう中、アルミラージとヘルハウンドが横切った直後、シャクティが木へ叩き付けられ戦闘不能に。森を揺らして現れたのは、漆黒の皮膚に鎧、巨大ラビュリスを携えた“黒影”。咆哮とともに新たな脅威が戦場を呑み込む。
クノッソス大広間・フェルズの決断
人造迷宮の広間は依然として『呪詛』に狂わされた『異端児』の同士討ちで地獄絵図。フェルズは状況打開のため、レットとフィアに“鍵”を託し18階層へ離脱させ、レイや場合によっては【ガネーシャ・ファミリア】も連れてくるよう要請する(手段を選ばぬ救援要請)。
狩猟者への対処と時間稼ぎ
ディックスの呪詛を免れた狩猟者たちがフェルズへ殺到。フェルズは「なぜ従う?」と問うも、返答は「面白いから」の一言。彼は暴走中の『異端児』群を逆に障害物として利用し、無色の衝撃で狩猟者の接近を捌きながら時間を稼ぐ――その間にベルはディックスと対峙し、『呪詛』の術者撃破へ集中する構図が固まった。
リヴィラの惨状と異変の兆し
水晶光に照らされた『リヴィラの街』で、【ガネーシャ・ファミリア】の救助隊が生存者の捜索と治療に当たっていた。だが、彼らが見つけたのは血の海に沈む無残な死体の山であった。その犠牲者が【イケロス・ファミリア】の団員であることを誰も知らない。青年団員が断崖の方角を見上げると、黒犬に跨る白い影が走り去っていくのを目撃する。彼の顔は蒼白となり、「亜種が現れた」と絶叫した。
森林戦線の崩壊と“黒影”の出現
森の奥では、リューやアイシャを中心とした【ガネーシャ・ファミリア】が武装モンスターを制圧しつつあった。最後に残った金翼のセイレーンも包囲され、戦闘は終息しかけていた。しかし、突如現れた黒犬と一角兎が隊の前を駆け抜けた次の瞬間、シャクティが木へ叩き付けられ重傷を負う。倒壊した木々の奥から現れたのは、漆黒の皮膚と鎧を纏い、巨大な両刃斧を振るう黒影であった。その圧倒的な威圧に戦場が再び震撼する。
クノッソスの混乱とフェルズの抵抗
人造迷宮では、フェルズが暴走する『異端児』の群れを利用して狩猟者を牽制していた。専用魔道具『魔咆手』を使い、魔力を衝撃波として撃ち出す戦法で敵の進軍を阻む。フェルズ自身がLV.4であることを明かしつつも、燃費の悪い攻撃で時間を稼ぐしかなかった。レットとフィアに“鍵”を託し、18階層へ戻ってレイや【ガネーシャ・ファミリア】を連れてくるよう命じると、彼らを飛び立たせる。
ベル・クラネルとディックス・ペルディクスの激闘
ディックスの槍撃は凄まじく、ベルは防戦一方となる。彼が《牛若丸》で隙を誘うも、ディックスは逆手のナイフで反撃。致命傷は《兎鎧》の防御で免れたが、紅槍には呪詛が宿り、一度でも掠れば治癒不能の“呪いの武具”であった。ベルは頬を裂かれながらも立ち上がり、なお抗戦する。
“血の呪縛”と“嗜虐の欲望”
戦いの中でディックスは、自らが奇人ダイダロスの子孫であり、“血の呪縛”に囚われていると語る。迷宮完成の衝動に抗えず、それを超える“欲望”として、『異端児』を痛めつけることで快楽を得ていると告白した。泣き叫ぶモンスターを辱め、絶望させることこそが満足の源だと嘯く男に、ベルは戦慄する。
この嗜虐心こそ、血の呪いを上回る凶暴な“我意”であり、ディックスは人でも冒険者でもなく、もはや獣と化していた。
屋上の対話――ヘルメスとイケロス
地上ではヘルメスがイケロスを追い詰め、密輸の経緯を問い詰めていた。イケロスは、最初は迷宮建設資金のために『異端児』を売っていたが、ディックスが彼らを痛めつける快楽に溺れ、目的と手段が逆転していったと明かす。彼は笑いながら、「今のディックスは人造迷宮の完成など眼中にない、“獣の夢”そのものだ」と語るのだった。
戦場の惨状
アスフィは樹上から戦場を目撃し、地に散らばる手足と血に染まる草花、倒れ伏す冒険者達を前に戦慄していた。ガネーシャ・ファミリアの精鋭と第一級冒険者達は、たった一体の黒いミノタウロスにより瞬く間に各個撃破され、戦場は静寂と屍で満たされていたのである。
黒き怪物の脅威
漆黒の皮膚を持つ『怪物』は巨大な両刃斧で地面をめくり上げ、剛腕と踏み潰しで抵抗を封じた。傷一つないその身は凶暴な鼻息を吐き、惨禍の王のように戦場の中心に佇んでいた。
アスフィの後悔と隠密
アスフィは透明化の魔道具で隠密しつつも、情報収集を優先して撤退すべきだったと悔いた。リュー達に感化され援護に回った判断を悔い、逃走を心中で促しながらも、身体は恐怖に縛られて動かなかった。
迎撃の構図とアイシャの敗北
戦場に残ったのはアイシャとリューであった。他のモンスターは東端へ退いており、黒い『怪物』のみが対峙した。アスフィの投げた油爆薬で視界を遮ると、リューとアイシャは左右から同時攻撃を試みたが、『怪物』はアイシャを先に狙い、両刃斧で大朴刀を粉砕し、平手の一撃で大木まで吹き飛ばし戦闘不能に追い込んだ。
アスフィ露見と重傷
『怪物』は両刃斧を足元に叩き付け、青水晶と草地を弾丸化して散弾の雨を生んだ。標的はリューではなく透明化中のアスフィであり、散弾はベルセウスと兜を破壊して姿を暴き、純白の耐衝撃布を穴だらけにして彼女を戦闘不能にした。
リューの孤闘
リューは木刀で低姿勢の機動と脚部狙いを連ね、回避と攻撃を極限まで両立させて応戦した。『怪物』は人類に対する殺戮ではなく闘争そのものを愉しむ気配を示し、力だけでなく技も用いたため、リューは常に後手に回った。それでも短期決戦を選んだリューは、敵の思考を下段へ誘導する布石から空中戦へ切り替え、双葉の小太刀で急所を狙ったが、紅い角に受け止められて弾き返された。
決着の中断と退去
間合いを殺して迫る両刃斧を前に、リューは死を覚悟した。しかし森の奥からの遠吠えを聞いた『怪物』は斧を下ろし、地を揺らして撤退した。残されたリューは痙攣する手を見下ろし、青い光に照らされる戦場で動く者が自分以外にいない事実を受け止めて、力なく空を見上げたのである。
地下大広間:挑発と暴力
ディックスはベル・クラネルを嘲弄しながら殴打し、モンスターは殺すべき存在だと断じた。満身創痍のベルは反撃がままならず、言葉でも心を折られかけていたのである。
紅石剝奪:ウィーネの暴走
ディックスは鎖に拘束されたウィーネの額から『ヴィーヴルの涙』を引き剝がし、竜女は凶暴化して変貌した。半人半蛇の巨体と禍々しい翼を備えた『ヴィーヴル』へと成り果て、耳を裂く咆哮とともにベルを叩き伏せた。
嫌悪と試練:揺さぶられる価値観
醜悪な異形を前に、ベルの胸中には人間として自然な嫌悪と忌避がこみ上がった。ディックスはそれを「真実」として突きつけ、殺戮の正当化へ誘導したが、ベルは倒れながらもなおウィーネの名を呼び続けた。
接触と慰撫:涙の証明
幾度も弾き飛ばされながらベルは接近し、肩に食い込む竜の爪をその手で包み、「大丈夫だ」と笑って抱き締めた。『怪物』であるはずのウィーネの双眸から涙が零れ落ち、人の情動が残っている事実が示されたのである。
決断と宣言:救う価値の根拠
なおも槍で迫るディックスを前に、ベルは穂先を断ち切り、「誰かを救うことに人も『怪物』も関係ない。助けを求めている、それだけで十分だ」と明言した。これは成り行きではない、己の意志による初志決定であった。
共闘の反撃:呪詛を押し返す声
リドはベルの言葉に奮い立ち、残る『呪詛』を振り払いながら参戦した。二人は連携してディックスを追い込み、ベルは【英雄願望(アルゴノクト)】の蓄力拳を叩き込んで黒檻へ吹き飛ばした。反動で拳を損傷したものの、『異端児』達の紅い光は薄れ、次々と正気を取り戻した。
逆手の策:紅石投擲と幻惑
追い詰められたディックスは『ヴィーヴルの涙』を未完成の縦穴へ投げ込み、ベルとリドを飛び込ませて足を止めたうえ、ウィーネへ幻惑の紅波を照射して地上直通の扉へ誘導した。自らは『眼』で別の扉を開き、追撃を断った。
追走の決意:地上へ
ベルはリドから紅石を受け取り、フェルズとともに地上へ続く急階段を追走した。レイ、グロスらも状況を分担しつつ、今度は自分達がベルとウィーネを助ける番だと覚悟を固めたのである。
余波:崩れる優位と残滓
【イケロス・ファミリア】の優位はディックスの『呪詛』に依存しており、その解除で狩猟者側は瓦解した。混乱の中、一人の大男が片目を失いながらも穂先と金属片を抱えて逃走し、なお怨嗟を呟き続けたことが、戦いの残滓として刻まれた。
十章 愚者
静寂のダイダロス通り
都市南東部の『ダイダロス通り』は、異様な静けさに包まれていた。通りの中央では、槍に貫かれ建物へ縫い止められた竜女ヴィーヴルと、その前に立つベル・クラネルが対峙していた。周囲にはヘスティアら仲間と市民、さらに屋根上には【ロキ・ファミリア】の面々が見守っており、誰もがその異様な光景に息を呑んでいた。
ベルの決断と孤立
ティオネやティオナが戸惑う中、ベートが攻撃に動こうとした瞬間、ベルは速攻魔法を発動し、天に炎を放って行動を制止した。その行為に市民や冒険者たちは驚愕し、彼に非難と敵意の視線を向ける。ベルは極度の緊張の中で言葉を絞り出し、竜女は自分の獲物であると主張した。人々の敵視を避けるため、利己的な冒険者を演じたのである。
竜女の逃走と追跡
ベルの宣言に呆然とする群衆の中、ヴィーヴルは拘束から脱出し、血を流しながら逃走した。ベルはそれを追い、市民たちは騒然となる。アイズは獲物の横取りは冒険者の禁忌であると説明し、ティオナがそれに理解を示すが、ベートは苛立ちを隠せず、他の団員や市民も少年への反感を強めていった。
フィンの判断とロキ・ファミリアの出撃
ティオネが指示を仰ぐと、フィンは感情を見せずにあの竜女を追跡するよう命じた。しかしその直後、通りに二十を超える武装したモンスターが出現し、【ロキ・ファミリア】の行動を阻む。蜥蜴人や石竜が群れを率い、通りを混乱に陥れた。フェルズは路地裏で異端児たちがベルを助けに向かう姿を見送り、自らも彼らの援護へと動いた。
異端児との戦闘開始
フィンはリヴェリアとガレスに指示を出し、モンスターたちの生け捕りを命じた。魔法の使用は制限され、街への被害を最小限にするよう命令が飛ぶ。冒険者たちは住民を守りつつ戦闘態勢に入り、ティオネ、ティオナ、ベートらが前線へ走り出した。フィンはアイズに残留を命じ、彼女は不満を抱きつつも従う。こうして、【ロキ・ファミリア】と『異端児』の戦いが幕を開けたのである。
交戦開始と布陣の衝突
八メドル幅の大通り一杯を使い、『異端児』と【ロキ・ファミリア】が中央帯で激突した。獣人、ヒューマン、エルフらがそれぞれ大型級、半人半蛇、鷲獅子を迎撃し、剣戟が一斉に鳴り響いたのである。
リド対ティオネの攻防
蜥蜴人のリドは長直剣と曲刀の二刀でティオネの双刃と斬り結んだが、女戦士特有の体術と怒濤の刀舞に押し込まれ、防戦一方となった。尻尾の奇襲で一度は武器を弾かせたものの、超人的な瞬速で掴み上げられ壁に叩きつけられ、主導権を失ったのである。
ベート対レイ、ティオナの各個制圧
高周波を放つセイレーンのレイは空戦で攪乱したが、ベートの跳弾機動と金属靴の一撃で撃墜された。続けて石竜の猛攻も蹴撃で粉砕され、ティオナは赤帽子を体術で瞬時に無力化した。これにより前線の雑多な脅威は急速に減衰したのである。
フェルズの人形兵投入とティオナの一刀両断
劣勢の『異端児』を救うため、フェルズは超硬金属製の人形兵を遠隔投入した。第一級の武器でも刃が立たない堅牢さであったが、ティオナが大双刃で斜めに両断し、額の刻印を削いで停止させた。切り札の瞬時無力化により、戦場の主導権は再び【ロキ・ファミリア】へ傾いた。
ガレスの包囲とイケロスの自首
屋上で戦況を俯瞰していたガレスは、不審者のフェルズを捕捉する構えを見せた。そこへイケロスが現れ、地下檻でのモンスター密輸と逃走を自白し、黒衣の人物の見逃しを依頼した。問答の隙にフェルズは離脱し、ガレスはイケロスを拘束して戦域へ急行したのである。
ヘスティア達の逡巡と支援準備
ヴェルフは倒れる『異端児』を前に救援へ踏み出しかけたが、リリが将来の糾弾を恐れて制止した。ヘスティアは責任を自ら負うと明言し、命は重圧魔法での拘束、春姫は階位昇華の供与を準備した。支援発動寸前、戦場に異様な気配が満ちた。
漆黒の猛牛の出現と咆哮
瓦礫の奥から、紅角を戴く漆黒の巨軀が現れ、弩級の咆哮で戦域を制圧した。市民と後衛の多くが膝を折り、戦意を奪われる中、怪物は突進してティオネを薙ぎ飛ばし、横薙ぎの一撃で周辺の団員をまとめて蹂躙した。戦場は一時的に『異端児』側の延命が叶う混沌へ傾いたのである。
猛牛と第一級の正面衝突
ティオナの大双刃とベートの金属靴が波状に襲い、フィンは住民避難を最優先として魔法の行使を抑制した。リヴェリアは結界を待機させ、アイズは深層由来の亜種と見立てて注視した。猛牛は三者の連携を受けても笑みを浮かべるほどの剛耐を示し、戦闘は膠着しながらも緊張を増した。
ティオネの逆上と三者連携の再編
壁から復帰したティオネは怒声とともに徒手空拳で猛牛へ連打を叩き込み、拳や骨を損じても止まらなかった。頬への上段蹴りも致命に至らず、投擲で吹き飛ばされるなど劣勢を強いられたが、ティオナとベートが加勢して三者で圧力をかけ続けた。
フレイヤ陣営の観測と少年の追跡視認
最上階から戦況を見下ろすフレイヤは、オッタルの含みを受けつつ視線を迷宮街外縁へ移し、破壊進路を辿る竜女とそれを追うベル・クラネルを視認した。ヘルンに追跡を命じたものの、間に合わない可能性を承知で動かしたのである。
ヘルメスの介入とフェルズへの要請
路地裏でヘルメスはフェルズに接触し、黒玉の非常用具を渡して取引を提示した。猛牛の出現で『異端児』の最悪は避けられるとの読みを示し、孤立するベルの救援を頼んだ。フェルズは逡巡の末に応じ、南方へ走った。目的地は『ダイダロス通り』を抜けた復興途上の歓楽街である。
猛牛、戦型変化と雷の魔剣
劣勢になりかけた漆黒の猛牛は背の大斧を抜き、双斧へ移行。右手の大斧が正体を現し“魔剣(雷)”として放電、至近のティオナ・ティオネ・ベートを痺れさせる。フィンの号令でリヴェリアが巨大結界を展開し、市民は死守するも通りは壊滅同然に。
アイズ投入――風纏う斬撃
「生け捕り中止」の宣言を受け、アイズ・ヴァレンシュタインが出陣。【エアリエル】で加速し、一閃で猛牛の右腕ごと魔剣を切断。片腕となった猛牛を圧し斬って後退させるが、紅角の突き上げと斧の剛撃で一時押し返され、付与が砕ける。なお再付与して斬り結ぶ。
三強包囲と黒煙の攪乱
ガレスが大戦斧で加勢、フィンも長槍で肩を射抜き、三人で包囲。猛牛は満身創痍で膝をつくが、そこへフェルズの黒玉が投げ込まれ濃霧が発生。レイの怪音波でアイズらの感覚が一瞬潰れ、猛牛の気配が消失。直後、リドが炎で周囲を延焼させ、『異端児』は一斉撤退。猛牛は人形兵が出現した穴から地下水路へ逃れる。
消火・救助へ転換
リヴェリア隊とアイズは消火・救助を優先。十分後に鎮火。フィンは「見誤った」と失策を噛み締め、猛牛の片腕も回収不能となる。
ベルとウィーネ、街外へ
一方ベル・クラネルは暴走するウィーネを追い、迷宮街から復興途上の歓楽街へ。冒険者の攻撃が集中し、ベルは【ファイアボルト】で人間側を撃って進路を切り開く。やがて攻撃が減り、“誘導”の罠に気づくが間に合わず、すり鉢状の広場へ追い込まれる。
一斉砲火と“怨念の槍”
包囲した魔導士の同時砲撃がウィーネを呑み、瀕死の彼女へ彼方から紅の呪槍が着弾。少女の胸を貫く。ベルが叫び駆け寄った刹那、広場の中心から地盤が崩落。落ちゆく中でベルはウィーネを抱きとめ、闇の底へと共に落下していく。
崩落と『異端児』の抵抗
歓楽街の広場は一斉砲撃の衝撃に耐え切れず崩落し、巨大な穴が開いた。ベル・クラネルとウィーネは砂煙の底へと落下する。錯乱したグランは勝ち誇って叫ぶが、上空から急行したグロスの石竜に粉砕され命を落とした。リドやレイら『異端児』達は最後の力を振り絞り、少年と少女の時間を守るため冒険者達を食い止めた。
地下での絶望と別れ
崩落した地下で、ベルは呪槍に貫かれたウィーネを抱き締めた。紅石を額に戻すが、少女の体は灰化していく。わずかな意識を取り戻したウィーネは、ベルに微笑みながら「助けに来てくれた人がいた」と語り、「ベル、大好き」と告げて消滅した。残されたのは紅の宝石だけであった。
フェルズの禁呪と奇跡の光
慟哭するベルの前にフェルズが現れ、古の詠唱を始めた。白光の柱が天へ伸び、都市中がその光を目撃する。禁忌の蘇生魔法【ディア・オルフェウス】が発動し、崩壊した地下に満ちた光がウィーネの体を包み込んだ。次の瞬間、少女は息を吹き返し、ベルの腕の中で鼓動を取り戻す。フェルズは力尽きながらも微笑し、「八百年かけてようやく成功した」と呟いた。
戦後の混乱と追跡断念
フィンやリヴェリア、アイズは歓楽街の光を確認するが、地下通路の崩壊で追跡を断念する。ミノタウロスを含む『異端児』達は消息不明となり、街は再び混乱に包まれた。フィンは被害の収束を指揮し、戦場の復旧に着手した。
地下での再会と安息
ベルとフェルズ、ウィーネ、そして生き延びた『異端児』達は地下の用水路に身を潜めた。リド、グロス、レイらは同胞の生還に涙し、眠るウィーネを囲んで安堵する。フェルズは消耗し壁にもたれながらも、静かにベルへ語りかけた。
「偽善者」と「愚者」
ベルはディックスの言葉を思い出し、自らを「偽善者」と呟いた。フェルズはそれを否定し、「偽善者と罵られる者こそ英雄になる資格がある」と告げる。さらに、「愚者であれ、ベル・クラネル。君の愚かさは神々にとってかけがえのないものだ」と続けた。その言葉にベルは何も返せず、ただ胸の奥で涙を堪えた。『異端児』達の感謝の声が響く中、ベルは眠るウィーネを見つめ、愚かな選択の果てに確かに救われた命があることを、静かに噛み締めていた。
エピローグ 選択の代償
人々の非難と失墜
ベル・クラネルは『異端児』達と別れ、眠り続けるウィーネをリド達に託して地上へ戻った。街を進む彼の姿に、人々は蔑みと怒りの視線を向ける。戦争遊戯の英雄として讃えられた名声は反転し、私利私欲に走った裏切り者として罵倒が浴びせられた。迷宮街へ足を踏み入れた彼は、破壊の痕跡と負傷者を前に、自らの選択の代償を痛感する。
エイナとの再会
ベルは通りでヘスティア達や【ロキ・ファミリア】の面々、そしてギルド職員エイナ・チュールと再会した。人々の注目が集まる中、エイナは涙を浮かべながらベルを問い詰める。ベルは真実を語れず、罪を認める言葉を口にした。次の瞬間、彼の頬に平手打ちが響き、エイナは怒りと悲しみを混ぜた声で「信じない」と叫び、泣きながら彼を抱き締めた。ベルは祖父の教えを思い出しながらも、どうすべきか分からず立ち尽くした。
イケロスの追放
夜明け、【イケロス・ファミリア】の主イケロスがオラリオから永久追放となる。モンスター密輸の責任を一身に背負い、全財産と眷族を失った彼は、ガネーシャに見送られながら北門を後にした。ギルドは彼を生贄として処罰し、都市の怒りを沈めることで事件を終息へ導こうとしていた。
ウラノスとヘルメスの密談
ギルド本部地下『祈禱の間』で、ウラノスとヘルメスが極秘の会談を行う。ヘルメスはイケロスの処罰によって騒動は沈静化しつつあると報告するが、逃亡した『異端児』達が未だ帰還できず危機にあることを懸念する。ウラノスは沈黙を保ち、ヘルメスは「ベル・クラネルを潰させない」と言い、彼を舞台に残す策を求めた。少年への執着の理由を問われると、ヘルメスは「大神の置き土産だから」と答え、老神ウラノスは沈黙のまま頷いた。
残された『怪物』
都市外れの廃墟で、片腕を失った漆黒のミノタウロスが月を見上げていた。紅に染まった体で両刃斧を地に突き立て、星と月の光を受けながら息を潜めている。戦場の激情を失い、ただ静かに白い月を見つめるその瞳には、未だ探し続ける何かへの意思が宿っていた。
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