ブチ切れ令嬢6巻レビュー
ブチ切れ令嬢まとめ
ブチ切れ令嬢8巻レビュー
物語の概要
■ 作品概要
『ブチ切れ令嬢は報復を誓いました。〜魔導書の力で祖国を叩き潰します〜』は、卓越した知能と強大な魔法を持つ公爵令嬢が、自分を裏切った祖国や婚約者に対して容赦のない復讐を繰り広げる、本格的な追放・復讐ファンタジー作品である。
舞台となるのは、魔法や魔物、そして個人の魔力が具現化した「神器」が存在するファンタジー世界である。血筋や伝統を重んじる大国「ハルドリア王国」と、実力主義で急速に発展する新興国「ユーティア帝国」が主な舞台となる。 ハルドリア王国の筆頭公爵令嬢エリザベートは、愚かな王太子フリードから無実の罪で婚約破棄され、国や家族からも見捨てられる。これまでの献身を裏切られ静かにブチ切れた彼女は、祖国への徹底的な報復を誓い、帝国へと亡命する。 「エリー・レイス」と名を変えた彼女は、復讐のための資金と権力を得るべく「トレートル商会」を設立する。隠し持っていた真の神器【七つの魔導書】の力と圧倒的な商才を駆使して商会を急成長させ、帝国の表社会と裏社会の双方に深く食い込みながら、祖国を経済的・軍事的に叩き潰すための壮絶な暗躍を展開していく。
■ 主要キャラクター
- エリー・レイス(エリザベート・レイストン):本作の主人公。元ハルドリア王国の筆頭公爵令嬢。婚約破棄を機に帝国へ亡命し、トレートル商会会長となる。並外れた知略と冷徹な判断力、そして規格外の魔法力と神器をあわせ持ち、祖国への冷酷な復讐を遂行する。
- ミレイ:エリーの忠実な侍女であり、商会の経営をも補佐する側近。エリーの復讐を公私ともに有能に支え続ける。
- ルノア・カールトン:エリーの弟子であり商人見習いの少女。風属性の魔法使いで治癒や戦闘もこなす。師の教えを受けてめざましい成長を遂げ、自らも「カールトン商会」を立ち上げて大規模な物流事業を展開していく。
- バアル:トレートル商会の表向きの護衛であり、裏では諜報、工作、敵の排除などを担う凄腕の男。エリーの冷徹な策を影から実行する。
- アリス:エリーが帝国で保護し、養女として迎え入れた孤児の少女。冷酷な復讐者であるエリーにとっての心の拠り所となっている。
- ネスタルト・ヒルガディエ:元王国領であったヒルガディエ男爵家の若き当主。エリーを相談役として雇い、彼女の苛烈な実践指導を受けながら、領民を守る領主として、そして自らの密かな復讐のために力を身につけていく。
- フリード・ハルドリア:ハルドリア王国の王太子。エリーに無実の罪を着せて追放した張本人。目先の利益や感情を優先する数々の愚行によって、自国の衰退とエリーからの凄惨な報復を招く最大の元凶である。
- エドワルド・ワーナード:王国の侯爵家前当主。かつてはエリザベートを支援していたが、裏で国を操るための冷酷な策謀を巡らせており、エリーと激しい情報戦や暗闘を繰り広げることになる。
■物語の特徴
本作の最大の特徴は、主人公が個人の武力だけでなく、「経済力」や「情報戦」を駆使して国家規模の復讐を行う点にある。単なる魔法バトルにとどまらず、新商品の開発による市場の独占、流通網の構築と支配、偽金貨を用いた他国への経済攻撃、貴族間の派閥争いを利用した政治的駆け引きなど、緻密な内政・お仕事モノとしての側面が強く描かれている。
また、主人公が自らを裏切った敵に対して一切の慈悲や妥協を見せず、確実かつ徹底的に破滅へと追い込んでいく冷徹な姿勢が、読者に圧倒的なカタルシスを与える点も魅力である。 一方で、冷酷な復讐者である主人公が、養女のアリスや弟子のルノア、若き領主ネスタルトなどに厳しいながらも的確な指導を与え、彼らが逞しく自立していく姿を見守る「後進の育成劇」としての面白さも兼ね備えている。
書籍情報
ブチ切れ令嬢は報復を誓いました。 7~魔導書の力で祖国を叩き潰します~
著者:はぐれメタボ 氏
イラスト:昌未 氏
出版社:ホビージャパン(HJノベルス)
発売日:2025年8月19日
ISBN:9784798639321
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あらすじ・内容
天才令嬢、新米貴族の相談役として暗躍!?
「今後は実践形式で貴族としての振る舞いを覚えて頂きます」
ドワーフの街で再会した少年男爵ネスタルトに依頼され、相談役に就任したエリー。
ネスタルトが治める領地は帝国と王国を繋ぐ今後の商業交通網の要であり、
商人としても復讐者としてもエリーにとって重要な拠点だった。
エリーは帝国貴族への影響力を強めるため、ネスタルトへ講義をしながら、暗躍を進める――
その裏では、課題を出された新米商人ルノアの新事業計画も動き出していた!!
さらなる権力を手にする天才令嬢による大逆転復讐ざまぁファンタジー、第7弾!!
感想
読了してまず感じたのは、これまでの巻と比べると少し落ち着いた雰囲気の物語だったということである。
派手な戦闘や直接対決が中心だったこれまでと違い、本巻では大きな衝突よりも人物たちの成長や水面下での駆け引きに重点が置かれていた。そのため序盤はやや静かな印象を受けたが、読み進めるうちに今後の大きな展開へ向けた準備の巻なのだと実感した。
特に印象に残ったのは、エリーによる後進育成のエピソードであった。
旧王国領のヒルガディエ男爵領で、若き領主ネスタルトを鍛えていく様子は非常に興味深かった。交渉術から魔法訓練まで容赦なく叩き込まれながらも、少しずつ当主として成長していく姿には思わず応援したくなるものがあった。未熟だった少年が責任ある立場に向き合い、自分の足で立とうとする姿は読んでいて好感が持てた。
また、レブリック辺境伯領で行儀見習いとして奮闘するアリスの日常も印象深い。
アリスの微笑ましい成長を見守る楽しさがある一方で、ルノアの活躍には驚かされた。物流代行事業である「カールトン商会」を立ち上げ、自ら商売を動かしていく姿は非常に頼もしかった。読んでいて感じたのは、エリーが育てているのは単なる弟子ではなく、将来の勢力そのものなのだということである。今はまだ若く未熟な彼らだが、それぞれが経験を積み重ねていけば大きな力になりそうで、今後の成長が楽しみになった。
一方で、表立った戦闘が少ないからこそ、裏で進む駆け引きの面白さも際立っていた。
特に興味深かったのは、エリーが裏社会の実力者であるダルクを巻き込み、水運事業を進めていく展開であった。派手な戦闘ではなく、人脈や資金を利用して状況を動かしていく様子は本作らしい魅力だと感じた。
さらに、その利権を狙った王国貴族たちによる妨害工作も見応えがあった。難民を送り込むという手段で混乱を引き起こそうとする敵に対し、エリーはそれすら利用して状況を有利に変えていった。相手の策を逆手に取る展開には思わずニヤリとしてしまった。
また、かつて敵側にいたジルドが寝返る展開も印象的であった。力でねじ伏せるのではなく、人や情報を動かして優位に立っていくところに、本作ならではの面白さがあるように思う。
終盤ではネスタルトの変化も見逃せなかった。家族を脅かした周辺貴族への怒りをあらわにし、復讐を決意する姿からは、これまでの少年らしさだけではない危うさも感じられた。そんな彼を見たエリーが手を貸す構えを見せたことで、今後さらに大きな動きへ発展していきそうな予感が漂った。
総じて本巻は、大きな戦いの前に駒が揃っていく過程を描いた物語であった。派手な展開こそ少なかったものの、その分だけ人物たちの成長や勢力図の変化が丁寧に描写されていた。エリーが育ててきた弟子たちや築き上げた人脈が、今後どのような形で力を発揮するのか。次巻への期待が大きく膨らむ一冊だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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ブチ切れ令嬢6巻レビュー
ブチ切れ令嬢まとめ
ブチ切れ令嬢8巻レビュー
考察・解説
ヒルガディエ男爵領再建
第7巻で描かれるヒルガディエ男爵領再建は、ハルドリア王国から帝国へ割譲され衰退の危機にあった領地を、エリーの過酷な実践指導を受けた若き当主ネスタルトが自らの足で立て直していく、成長と内政の群像劇として展開されている。
衰退する領地の現状とエリーの相談役就任
ヒルガディエ男爵領は、偽金事件の賠償としてハルドリア王国から帝国へ割譲された領土であった。
・王国からの物流や商人が途絶えたうえ、前当主の急死により若く経験不足のネスタルトが跡を継いだため、領内の経済は停滞し孤立状態にあった
・エリーは、帝国貴族への影響力を得る目的で、商人としての相談役に就任した
・契約時にはわざと男爵家を乗っ取るような危険な条項を忍ばせた契約書にサインさせ、直後にそれを破棄することで、契約書は隅々まで読むことという貴族社会の厳しさを痛烈な実践形式で叩き込んだ
エリーの実践的な指導と領地問題の把握
エリーはネスタルトに対し、領主として自衛するための過酷な剣術訓練や、ポーションを用いた危険な魔力暴走訓練を行い、神器習得に向けた力をつけさせた。
・変装して領内の市場を視察させ、商人の減少による嗜好品や生活必需品の物価高騰という現状を、ネスタルト自身の目で確認させた
・答えを与えるのではなく、答えへ辿り着く方法を学ばせるエリーのスパルタ指導により、ネスタルトは次第に為政者としての自覚と覚悟を身につけていった
水運事業の始動と資金調達
領地再建の要となったのは、帝国各地へ繋がる複数の河川を活用した水運事業であった。
・魔物対策や他領との関税交渉といった課題があり、莫大な資金が必要であった
・そこでエリーの助言のもと、屋敷に眠っていた祖父の遺品(希少な古代の銃コレクションなど)を、帝国の裏社会を牛耳る頭目ダルク・ホーキンスへ売却した
・これにより金貨14万枚という莫大な資金を獲得し、さらにダルクが領内の物資を大量に買い上げたことで、領内経済は一時的な好景気に沸き、事業の基盤が整った
大商人との提携と家臣の説得
ネスタルトは得た資金で、冒険者ギルドへ周辺の魔物分布調査を依頼した。
・家臣たちは水生魔物の危険性などを理由に水運事業に反対していたが、ネスタルトは調査データを元に厄介な魔物は限られており、高位冒険者への依頼で対処可能と論理的に説得し、事業を本格始動させた
・さらに、他領との関税交渉や補給地点の整備を円滑に進めるため、帝国商業ギルド評議会の千里眼ロットン・フライウォークと提携し、彼の影響力と流通ノウハウを事業に組み込んだ
王国からの妨害工作と労働力への転換
水運事業が動き出す中、隣接する王国のバンデンハーク子爵領から、意図的に大量の移民(難民)が送り込まれる事態が発生する。
・これは、急激な人口増加で食料事情を悪化させ、物流を支配しようとする王国側の妨害工作であった
・しかし、ネスタルトは移民をただ排除するのではなく、監視下に置きながら水運事業の河川整備や施設建設のための貴重な労働力として活用する決断を下し、敵の目論見を逆手に取った
まとめ
ヒルガディエ男爵領の再建は、エリーの非情で実践的な指導を受けたネスタルトが、困難な交渉や資金繰り、王国からの妨害を自らの足で乗り越え、逞しい領主へと成長していく軌跡である。この時に立ち上げられた水運事業は、後の時代には帝国南部の物流を支える極めて重要な基盤へと発展することになるのである。
水運事業の始動
第7巻における水運事業の始動は、衰退していた旧王国領であるヒルガディエ男爵領を立て直すための起死回生のプロジェクトとして描かれている。若き当主ネスタルトが、エリーの指導のもとで直面する課題を克服し、事業を本格的に軌道に乗せていく過程が以下の通り展開されている。
家臣の説得と懸念の払拭
水運事業の立ち上げにあたり、家臣たちからは水生魔物の危険性や、他領との関税交渉・補給地点の整備にかかる莫大な費用を理由に当初は反対意見が出されていた。
・ネスタルトは、冒険者ギルドに依頼した魔物分布調査のデータを提示し、厄介な魔物(アリゲータードレイクやアクアスフィアなど)は限定的であり高位冒険者への依頼で対処可能であると論理的に説明した
・祖父の遺品である古代銃コレクションを売却して得た自身の個人資産を投じることで、領の財政を一切圧迫しないことを示し、家臣たちを完全に納得させることに成功した
堅実な段階的計画の立案
ネスタルトは一気に他領へ事業を拡大するのではなく、非常に堅実な段階的計画を立てていた。
・第一段階として、まずはヒルガディエ男爵領内における河川周辺の魔物討伐や補給地点の設営から着手し、その過程で事業運営のノウハウを蓄積する方針を示した
・得られたノウハウや実績を武器に他家の貴族との交渉を進め、最終的には船舶や人員の確保、物資の集積体制を整えるという長期的な道筋を描き出した
大商人との提携と外部からの妨害
事業が動き出すと、新たな流通ルートが帝国経済に与える影響力の大きさを察知した帝国商業ギルド評議会の千里眼ロットン・フライウォークが接触してくる。
・ロットンは新ルート上の宿泊・集積施設の運営を引き受ける代わりに、他領の貴族との困難な交渉に力を貸すと提案し、ネスタルトは事業を進める上での強力な後ろ盾を得た
・隣接する王国のバンデンハーク子爵から、大量の難民(移民)を意図的に送り込まれるという妨害工作を受けた
・これは急激な人口増加で食糧難を引き起こし、自らが物流を支配して男爵領を食料輸入に依存させるという悪辣な企みであった
後世に残る歴史的偉業
困難な状況の中、ネスタルトの決断によって産声を上げたこの水運事業は、後の時代において帝国南部の物流を支える極めて重要な基盤へと発展を遂げることとなる。
・水路には大小の船が行き交い、水路沿いに建設されたホテルや集積拠点も、事業開始当初の計画からすでに原型が存在していた
・一介の地方男爵家がいかにしてこれほどの大事業を成し遂げたのかは、後世の歴史学者たちの研究対象となるほどの歴史的偉業として語り継がれている
まとめ
水運事業の始動は、ネスタルトがエリーから学んだ交渉術や論理的思考を実践し、領主として自立していく重要な転換点である。魔物の脅威や資金不足、他国からの謀略といった幾多の障害を、冷静な分析と強力な協力者との提携によって乗り越え、領地の未来を切り拓いていくダイナミックな内政エピソードとして機能しているのである。
魔力暴走と神器
物語における魔力暴走と神器の関係性は、本作の魔法体系とキャラクターの成長、そしてエリーの戦略を深く結びつける重要な要素として描かれている。その詳細と考察を以下にまとめる。
神器の基本概念と到達点
この世界において、生物の体内に宿る魔力を理性と理論で以て制御する技術が魔法である。
・その魔力を極限まで鍛え上げ、物質化して様々な能力を持つ道具として具現化させた最終到達点が神器である
・多くの場合、武器や防具の形をとるのは、神器に至るほど魔力を鍛える者が騎士や冒険者など戦いを生業とする者だからである
・神器の習得は、個人の強力な戦力となるだけでなく、貴族にとっては家の力を象徴する強い権威をもたらすものである
魔力暴走を利用した過酷な習得訓練
神器を習得するためには、魔力の総量である保有魔力ではなく、一度に扱える魔力量である体外魔力を鍛える必要がある。
・体外魔力は自然には増えないため、エリーはこれを効率よく増やす手段として、意図的に魔力暴走を引き起こす特殊なポーションを用いた訓練をネスタルトに提案する
・魔力を暴走させて通常より多くの体外魔力を放出させ、それを無理やり制御下に置くことで、魔力操作の精度を飛躍的に向上させるのがこの訓練の目的である
・しかし、この方法は極めて危険であり、体の一部麻痺や魔力障害、最悪の場合は命に関わるリスクを伴う
・実際にエリーが実演した際にも、魔力を完全制御した直後に激しく消耗して倒れ込み、後遺症として一時的に右目の視力を失うほどの負担を受けた
・かつてミレイも同様の訓練を受けたが、高価な薬を使用しても神器習得に至らず、精神的に塞ぎ込んでしまった過去がある
神器習得に必要な要素と過程
魔力暴走を抑え込み、体外魔力が最大に高まった状態(魔力の完全制御状態)の先にある最後の壁を越えることで、神器の生成に至る。
・エリーは、その壁を越えるためには自身の魔力を完全に御する才能と強い意志の二つが不可欠であると分析している
・ネスタルトにはその両方が備わっていると確信したため、エリーはこの過酷な訓練を施す決断を下した
能力発現のメカニズムと意図的な誘導
神器の能力や形状は、発現させた者の思考や資質、趣味嗜好、経験に強く由来する。このメカニズムには環境による明確な傾向が存在する。
・貴族の神器:歴史ある貴族家は、同じ血統で過去の成功例を踏襲した訓練を行うため、自身の神器を生成する際に過去の成功者のイメージが入り込みやすく、火や雷といった属性強化型など、シンプルでイメージしやすい神器が発現しやすい(ブラートの雷神の剣やフリードの雷神の槍がその典型である)
・冒険者の神器:冒険者は命の危機に瀕した状況で神器を発現させることが多いため、その窮地を打破するための特殊な能力や特定の状況に特化した神器になりやすい
・この習得時のプロセスが発現する能力に影響を与えるという法則に目をつけたエリーは、ネスタルトの神器習得過程を意図的に誘導しようと目論んでいる
・彼女自身の神器である嫉妬の魔導書が他者の神器を記録・使用できる性質を持つため、土属性の適性を持つネスタルトに、将来的に最大の敵となる雷神ブラートに対抗し得る切り札となるような特殊な能力を発現させようと計画しているのである
まとめ
本作における魔力暴走を用いた神器の習得は、単なるパワーアップの手段ではなく、多大なリスクを伴う命懸けの試練として描かれている。そして、発現する神器の能力が個人の経験や環境に依存するという設定は、エリーの冷徹で計算高いプロデュース能力を際立たせる装置として、物語の展開に深い戦略性をもたらしているのである。
カールトン商会設立
第7巻におけるカールトン商会設立は、エリーの弟子であるルノアが、与えられた試練をきっかけに商人としての才能を本格的に開花させ、自らの手で帝国の物流網を大きく変える事業を立ち上げていく重要なエピソードとして描かれている。
エリーからの課題と物流事業の構想
事の発端は、エリーがルノアの商人としての成長を促すために与えた、金貨50枚を融資し1年間で利子を含めた60枚にして返済せよという過酷な課題であった。
・ルノアはレブリック辺境伯領の村々を視察する中で、魔物や野盗の危険が伴うにもかかわらず、国にとって物流が不可欠な血液のようなものであることに気付く
・各商会が個別に負担している護衛や馬車の費用を集約し、専属護衛と輸送馬車による輸送代行を行うことで、大幅なコスト削減と利益を生み出す事業を構想し始めた
ジョージの救出と商会設立の決断
ルノアは事業に向けた補給拠点の候補地を調査するため、街道沿いの野営地を視察していた際、オークに襲われていた青年ジョージを救出する。
・彼は仕事のミスで仕えていた貴族(エルクリンデ伯爵)から切り捨てられ、暗殺者に追われていた元交渉役であった
・ルノアが自らの事業構想を記したメモ帳を見せると、ジョージはその計画が莫大な利益を生む大事業であることを即座に見抜き、自分を雇ってほしいと懇願した
・ルノアは一人では手が回らなくなっていたため彼を受け入れるが、ジョージの強い後押しと勢いに乗せられる形で商業ギルドへ向かい、自らを会長とするカールトン商会を設立することになった
大商人や有力貴族との強気な交渉
商会を設立したルノアは、エリーから学んだ交渉術や背後関係(トレートル商会との繋がり)を巧みに利用し、次々と事業の基盤を固めていく。
・有力なレント商会との商談では、無名の新人商会長として扱われながらも事業の将来性を論理的に説明し、輸送ノウハウの提供を引き出す魔法契約を結ぶことに成功する
・レブリック辺境伯ルーカスとの面会では、エリーの関与を否定しつつも、自らの足で各地の商会と提携し補給拠点の整備を始めている実績を提示した
・レブリック辺境伯領から帝都まで続く物流網を黄金の街道として築き上げると力強く宣言し、ルーカスからの協力を取り付けることに成功した
エリーの驚きとルノアの覚醒
ルノアの行動はエリーの想像をはるかに超えるスピードと規模で進んでいた。
・エリーは事後報告によって、水運ルート上の重要地点で宿場の開発が進められていることを知る
・その開発を行っているのがルノアを商会長とするカールトン商会であることを知り、しばらく見ない間に彼女が何をしていたのかと困惑し驚愕することとなる
まとめ
カールトン商会の設立は、ルノアがエリーの保護下にある単なる見習いから、自らの知恵と度胸で大物たちと渡り合う一人の商会長へと覚醒した証である。彼女が築き上げる黄金の街道と物流事業は、後にハルドリア王国への報復や帝国の経済発展においても極めて重要な役割を果たしていくこととなるのである。
バンデンハーク子爵の終焉
物語において描かれるバンデンハーク子爵(ウィルソン・バンデンハーク)の終焉は、自らの野心と保身のために民を犠牲にした小悪党が、エリザベートの冷徹な謀略によって破滅へと追い込まれる象徴的なエピソードである。その軌跡は以下の通り展開されている。
ヒルガディエ男爵領への工作と野心
ウィルソン・バンデンハークは、かつてエリザベートの悪評を流布した情報操作に長けた小心者の貴族である。偽金事件の賠償によって領地が帝国と隣接することになった彼は、フリード王太子を支持するワーナード侯爵家前当主エドワルドの指示のもと、ヒルガディエ男爵領への妨害工作を開始した。
・自領で意図的に増税と国境警備の緩和を行い、ヒルガディエ男爵領で高報酬の仕事があるという噂を流布することで、自領の民を難民として大量に送り込んだ
・その真の狙いは、急激な人口増加による食糧難を引き起こし、工作員を使って周辺領主を買収しながら物流を支配し、ヒルガディエ男爵領を自領の食料輸入に依存させることにあった
・フリードからのより豊かな領地への転封の約束を信じたウィルソンは、自らの栄達を確信して高価なワインを開けていた
領内経済の崩壊と民衆の反発
しかし、彼の目論見はエリザベートに完全に見透かされていた。
・エリザベート率いるアンフェール商会は、バンデンハーク領の老舗商会との取引を断る一方で、利益を優先する子爵息飼いの大規模商会が帝国との取引に注力するよう仕向けた
・その結果、バンデンハーク領内では生活必需品が極端に不足し始めた
・領主であるウィルソンがこの事態に有効な対策を講じなかったため、領民の不満は限界に達し、移住や反乱を試みる者が現れ始めた
エドワルドの裏切りと冷酷な真実
ついに怒りを爆発させた領民たちが暴徒化し、ウィルソンの屋敷を包囲する事態に発展した。
・ウィルソンは信頼するエドワルドに助けを求めるが、フリード王太子は地方へ出向いており、転封の約束も果たされていなかった
・エドワルドが屋敷へ招き入れたのは、国家反逆罪で指名手配されているはずのエリザベート本人であった
・エドワルドは、かつてエリザベート追放時にフリードを支持したように見えたのも彼女の指示による情報操作であり、自分は初めからエリザベートの配下として王国内で暗躍していたことを明かした
・唯一の頼みであったエドワルドの裏切りに、ウィルソンは愕然とした
羽虫のような最期
追い詰められたウィルソンに対し、エリザベートは自分が狙っているのは自らの尊厳と誇りに傷をつけた者たちであり、貴方はたまたま視界に入った羽虫のような存在に過ぎないと冷酷に言い放った。
・その直後、屋敷の扉が破られ、暴徒たちがなだれ込んでくる
・エリザベートたちは魔法で姿を隠して悠然と立ち去り、ウィルソンは自らが苦しめた暴徒たちの暴力の前に為す術なく引き裂かれ、その生涯を終えることとなった
まとめ
バンデンハーク子爵の終焉は、強者に媚びへつらい民を搾取し続けた小悪党の末路として描かれている。エリザベートの深謀遠慮の前に完全に踊らされ、最後は最も恐れていた暴徒と化した自らの領民によって裁かれるという、極めて皮肉かつ凄惨な結末を迎えたのである。
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登場キャラクター
トレートル商会・カールトン商会
エリー・レイス(エリザベート・レイストン)
元ハルドリア王国公爵令嬢であり、現在は帝国で商会を率いる才媛である。冷徹な判断力と規格外の魔法力を持つ。身内には厚い情をかけるが、敵には容赦がない。ヒルガディエ男爵の相談役として厳しい指導を行う。
・所属組織、地位や役職
トレートル商会会長。帝国特別認可商人。ヒルガディエ男爵家相談役。
・物語内での具体的な行動や成果
ヒルガディエ男爵領を訪れ、ネスタルトに実践的で過酷な指導を施した。裏社会の顔役ダルクとネスタルトを引き合わせ、水運事業の資金繰りを支援した。王国側の工作員を利用し、敵の目論見を逆手にとる策を講じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
帝国貴族への影響力を強めながら、祖国への復讐を着実に進めている。
ミレイ
エリーの忠実な侍女であり、公私にわたり彼女を支える側近である。冷静沈着に実務や情報収集をこなす。エリーの指示を正確に実行する。
・所属組織、地位や役職
トレートル商会幹部。エリーの専属侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
王国側の工作員に関する情報を収集し、エリーに報告した。エリーの指示で工作員の対応や情報操作の手配を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーの右腕として、商会運営や裏工作において不可欠な役割を担っている。
ルノア・カールトン
エリーの弟子であり、将来有望な商人見習いの少女である。与えられた課題に向き合い、自ら考えて行動する力を持つ。ジョージを助けた縁で新事業を立ち上げる。
・所属組織、地位や役職
トレートル商会見習い。カールトン商会会長。
・物語内での具体的な行動や成果
エリーから金貨50枚を一年で増やす過酷な課題を与えられた。独自の物流代行事業を考案し、カールトン商会を設立した。ルーカスやレントといった大物と強気な交渉を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
見習いから一人の商会長へと覚醒し、帝国の物流網を大きく変える存在へと成長する。
アリス
エリーが保護し、養女として引き取った少女である。エリーを深く慕っている。レブリック辺境伯家で行儀見習いとして滞在する。
・所属組織、地位や役職
エリーの養女。レブリック辺境伯家行儀見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
自立心を芽生えさせ、自ら行儀見習いとして働くことを希望した。レブリック辺境伯邸でメイド服を着て配膳などの仕事を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーの復讐劇における心の拠り所となっている。
ミーシャ
エリーの従者であり、猫人族の少女である。真面目で責任感が強い。アリスの護衛と世話役を務める。
・所属組織、地位や役職
トレートル商会侍女見習い兼護衛。レブリック辺境伯家行儀見習い。
・物語内での具体的な行動や成果
アリスと共にレブリック辺境伯邸に行儀見習いとして滞在した。移動中にゴブリンの群れと遭遇した際は、率先して戦闘に参加した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦闘技術を大きく向上させ、護衛として十分に機能するレベルに成長している。
バアル
トレートル商会に雇われた裏社会の凄腕である。粗暴な雰囲気を漂わせるが、情報収集や工作に長けている。エリーの命を受け、裏の仕事を実行する。
・所属組織、地位や役職
トレートル商会護衛部門責任者。
・物語内での具体的な行動や成果
ヒルガディエ男爵領で王国側の工作員と接触し、情報を引き出した。エドワルドの屋敷を襲撃し、ジルドの家族を救出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーの冷徹な策を影から支える重要な戦力である。
グランツ・カールトン
ルノアの父親であり、真面目な性格の商人である。娘の成長を喜びつつも、危険な目に遭わないか心配している。商会支店長として実務を取り仕切る。
・所属組織、地位や役職
トレートル商会レブリック辺境伯支店支店長。
・物語内での具体的な行動や成果
化粧品原料の供給村を視察し、魔物被害の対策を講じた。娘のルノアが冒険者になったと知り、大いに狼狽した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
気弱だった以前に比べ、商会支店長として堂々とした振る舞いができるようになっている。
スティア
王国から移籍してきた有能な女性商会員である。グランツの補佐役を務める。冷静に状況を判断する。
・所属組織、地位や役職
トレートル商会商会員。グランツの指導役および補佐。
・物語内での具体的な行動や成果
レブリック辺境伯支店で顧客への手紙作成などの業務を行った。グランツの狼狽ぶりをルノアに暴露した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
グランツを厳しく指導し、支店の安定した運営に貢献している。
ジョージ
仕事の失敗で貴族から切り捨てられた青年である。ルノアに命を救われ、彼女の才能を高く評価する。穏やかな性格だが、交渉の知識を持つ。
・所属組織、地位や役職
元エルクリンデ伯爵家交渉役。カールトン商会商会員。
・物語内での具体的な行動や成果
オークに襲われていたところをルノアに助けられた。ルノアの物流事業計画の将来性を見抜き、カールトン商会の設立を強く後押しした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ルノアを商会長として支え、カールトン商会の発展に貢献する。
キャロル
アリスの従魔であるカーバンクルである。アリスと常に行動を共にしている。
・所属組織、地位や役職
アリスの従魔。
・物語内での具体的な行動や成果
アリスの頭や膝の上に乗って移動の時間を過ごした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
セイントバード
エリーが召喚する鳥型の魔物である。遠方への連絡手段として重宝されている。
・所属組織、地位や役職
エリーの使役魔。
・物語内での具体的な行動や成果
帝都からヒルガディエ男爵領へ手紙を運搬した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
神器の力によって召喚される。
ヒルガディエ男爵家
ネスタルト・ヒルガディエ
若くしてヒルガディエ男爵家の当主となった少年である。経験不足だが領地再建に情熱を燃やしている。エリーの過酷な実践指導を受ける。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
エリーを相談役に迎え、水運事業を立ち上げた。魔力暴走を伴う過酷な魔法訓練に挑んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーの指導のもと、困難を乗り越え逞しい領主へと成長していく。
アルテ・ヒルガディエ
ネスタルトの姉であり、弟を献身的に支える女性である。弟の成長を願い、エリーに指導を懇願する。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵家当主後見人。
・物語内での具体的な行動や成果
ネスタルトとともにエリーから実践的な交渉術を学んだ。エルクリンデ伯爵からの婚姻の申し出を保留している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アベル
ヒルガディエ男爵家に長く仕える初老の家令である。主への忠誠心が強い。エリーの強引な指導に抗議することもある。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵家家令。
・物語内での具体的な行動や成果
ネスタルトに影のように付き従い、来客の案内などを行った。エリーが提示した危険な契約書に対し、声を荒らげて抗議した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
グリッツ
ヒルガディエ男爵家の軍事を預かる家臣である。ネスタルトに剣術の指導を行っている。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵家軍事顧問。
・物語内での具体的な行動や成果
家臣一同を代表して、エリーに取り寄せてもらった剣をネスタルトに贈呈した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
財政管理人
ヒルガディエ男爵家の財政を管理する家臣である。水運事業のリスクを懸念している。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵家財政管理人。
・物語内での具体的な行動や成果
水運事業の会議において、莫大な費用がかかることを理由に反対意見を述べた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ライアン
ヒルガディエ男爵領の衛兵である。領地の衰退に不安を抱いている。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵領衛兵。
・物語内での具体的な行動や成果
領都の門の警備を行い、エリーたちの乗る馬車の確認を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
アンドレ
ヒルガディエ男爵領の衛兵である。ライアンと共に門の警備を担当している。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵領衛兵。
・物語内での具体的な行動や成果
領都を訪れる人が減った現状についてライアンと語り合った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
オラルク・クリーニア
水運計画の会議において記録を担当した人物である。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵家家臣。記録者。
・物語内での具体的な行動や成果
事業計画の内容を記録し、ネスタルトにとって良い経験になるかもしれないと所感を記した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
領兵
ヒルガディエ男爵領の治安維持や防衛を担う兵士たちである。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵領の兵士。
・物語内での具体的な行動や成果
領外へ買い出しに向かう商隊の護衛を務めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
従僕
ヒルガディエ男爵家で雑務などを担当する使用人である。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵家使用人。
・物語内での具体的な行動や成果
アベルの指示でバアルを馬車置き場に案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
メイド
ヒルガディエ男爵家で働く女性使用人である。
・所属組織、地位や役職
ヒルガディエ男爵家使用人。
・物語内での具体的な行動や成果
ネスタルトやアルテにお茶の給仕を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
レブリック辺境伯家
ルーカス
レブリック辺境伯家の当主である。エリーの強力な協力者であり、帝国の国境を守る。
・所属組織、地位や役職
レブリック辺境伯。帝国大使。
・物語内での具体的な行動や成果
アリスとミーシャを行儀見習いとして屋敷に受け入れた。ルノアの提案した物流事業計画に協力を約束した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
侍女
レブリック辺境伯家に仕える女性使用人である。
・所属組織、地位や役職
レブリック辺境伯家使用人。
・物語内での具体的な行動や成果
来客にお茶や菓子を給仕した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
騎士
レブリック辺境伯領の治安や防衛を担う精鋭である。
・所属組織、地位や役職
レブリック辺境伯領の騎士。
・物語内での具体的な行動や成果
領内の街道を定期的に巡回し、治安の維持に努めている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ハルドリア王国関連
ウィルソン・バンデンハーク
バンデンハーク子爵家の当主である。小心者だが情報操作に長けている。自らの保身と野心のために民を犠牲にする小悪党である。
・所属組織、地位や役職
バンデンハーク子爵。
・物語内での具体的な行動や成果
エドワルドの指示で増税を行い、ヒルガディエ男爵領へ大量の難民を送り込む妨害工作を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーの策略によって領内経済が崩壊し、最後は暴徒化した領民に襲撃され命を落とした。
エドワルド・ワーナード
ワーナード侯爵家の前当主である。王国の裏で暗躍する冷酷な策謀家である。エリーを排除しようと目論む。
・所属組織、地位や役職
ワーナード侯爵家前当主。
・物語内での具体的な行動や成果
バンデンハーク子爵を操り、ヒルガディエ男爵領への工作を指示した。エリーの正体に気づき、独自に彼女を排除する方針を固めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーと激しい情報戦を繰り広げる最大の敵の一人である。
ジルド
エドワルドに仕える執事である。情報収集や裏工作を担当する。息子を人質に取られ、エドワルドに従わされていた。
・所属組織、地位や役職
バンデンハーク子爵領の臨時代官。エドワルドの執事。
・物語内での具体的な行動や成果
エドワルドの指示でヒルガディエ男爵領への工作を進めていた。バアルに家族を救出されたことでエリーに寝返り、エドワルドの不正の証拠を差し出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーの配下となり、エドワルドを欺きながら王国内での情報操作を担う。
ヨルガ商会の商会長
バンデンハーク子爵領の老舗商会を率いる人物である。
・所属組織、地位や役職
ヨルガ商会商会長。
・物語内での具体的な行動や成果
経営悪化を打破するため、アンフェール商会に取引を持ち掛けたが、有益な商材を持たなかったため断られた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
使者
バンデンハーク邸に情報を伝達する者である。
・所属組織、地位や役職
バンデンハーク子爵家の使用人。
・物語内での具体的な行動や成果
エドワルド・ワーナードが到着したことをウィルソンに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ジルドの息子とその妻子
エドワルドによって屋敷に軟禁され、ジルドを操るための人質とされていた。
・所属組織、地位や役職
ジルドの家族。
・物語内での具体的な行動や成果
バアルとその部下たちによってエドワルドの屋敷から救出された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーの保護下に入り、安全な場所へ移住する予定である。
執事
バンデンハーク子爵邸を取り仕切る使用人である。
・所属組織、地位や役職
バンデンハーク子爵家執事。
・物語内での具体的な行動や成果
来客であるエドワルド・ワーナードを屋敷の中へ案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
帝国商業ギルド・冒険者ギルド
ロットン・フライウォーク
帝国商業ギルド評議会の評議員である。《千里眼》の異名を持ち、広大な情報網を駆使する。本性を隠し、エリーと腹の探り合いを行う。
・所属組織、地位や役職
帝国商業ギルド評議会評議員。宿屋の元締め。
・物語内での具体的な行動や成果
ヒルガディエ男爵領の水運事業に提携を持ち掛けた。密かに錬金術素材を集め、エルクリンデ伯爵領へ運び込んでいる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーからその正体や真の目的について疑念を持たれている。
ウォルター
ヒルガディエ男爵領の商業ギルドで働く職員である。有能で機転が利く。
・所属組織、地位や役職
商業ギルド職員。
・物語内での具体的な行動や成果
エリーがアンフェール商会の支店を設立する際の手続きを担当した。エリーの要望に応え、外周区の大型商館の候補を迅速に手配した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エリーから優秀な人物だと評価されている。
ギルドマスター
ヒルガディエ男爵領などの冒険者ギルドを取り仕切る責任者である。
・所属組織、地位や役職
冒険者ギルドマスター。
・物語内での具体的な行動や成果
ネスタルトから領内および周辺領地の魔物分布調査の依頼を受け、快く了承した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
受付嬢
商業ギルドの受付を担当する職員である。
・所属組織、地位や役職
商業ギルド受付嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
エリーのギルドカードを見て特別認可商人であることに驚き、慌てて応接室へ案内した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
帝国の商人・裏社会・市民など
ダルク・ホーキンス
帝国商業ギルド評議会の評議員である。《頭目》の異名を持ち、帝国の裏社会を牛耳る。金銭を重んじ、容赦のない性格である。
・所属組織、地位や役職
帝国商業ギルド評議会評議員。金融屋。
・物語内での具体的な行動や成果
ネスタルトから希少な古代銃のコレクションを金貨14万枚で買い取った。ヒルガディエ男爵領の市場で物資を大量購入し、好景気をもたらした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
エルザ
Aランク冒険者であり、《不死鳥》の異名を持つ。エリーの友人として交流がある。
・所属組織、地位や役職
Aランク冒険者。パーティ《鋭き切先》リーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
喫茶グリモワールでエリーと再会し、ヒルガディエ男爵領の事情やアリスを預ける方針について話を聞いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
レント
レブリック辺境伯領で有力なレント商会を率いる商会長である。賭けやゲームを好む一面がある。
・所属組織、地位や役職
レント商会商会長。
・物語内での具体的な行動や成果
ルノアからの物流事業の提案を受け、事業の将来性を評価して物資輸送のノウハウ提供を約束する魔法契約を結んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ランゼ
冒険者パーティーに所属する魔導士である。
・所属組織、地位や役職
冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
森で薬草を採取しているルノアに声をかけ、ともに薬草集めを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
冒険者パーティーのリーダー
グランツの護衛を務める冒険者パーティーのリーダーである。
・所属組織、地位や役職
剣士の青年。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
香草栽培の村周辺の調査を行い、危険な痕跡がないことをグランツに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
冒険者たち
各地のギルドから依頼を受け、危険な仕事に従事する者たちである。
・所属組織、地位や役職
冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
水運事業のための河川の魔物討伐や、村周辺の危険な魔物の調査を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
商人たち
帝国各地で商売を営む人々である。
・所属組織、地位や役職
商人。
・物語内での具体的な行動や成果
ヒルガディエ男爵領へ訪れたり、物流事業によって新しい商品を取り扱ったりしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
市場の女主人
ヒルガディエ男爵領の市場で店を営む女性である。
・所属組織、地位や役職
市場の店主。
・物語内での具体的な行動や成果
商隊によってもたらされた小麦やドライフルーツなどを販売し、エリーと会話を交わした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
記者の男
帝国で有名な旅行誌の専属ライターである。
・所属組織、地位や役職
雑誌記者。
・物語内での具体的な行動や成果
河を進む客船に乗りながら、ヒルガディエ男爵家が築き上げた水運事業やルノアについての記事を推敲していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
精霊・魔物
オーク
森に生息する豚の頭を持つ凶暴な魔物である。
・所属組織、地位や役職
野生の魔物。
・物語内での具体的な行動や成果
森の中でジョージを襲っていたが、駆けつけたルノアの魔法によって討伐された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ゴブリンの群れ
各地に生息する一般的な魔物である。
・所属組織、地位や役職
野生の魔物。
・物語内での具体的な行動や成果
ルノアたちが視察した村の奥の森に中規模の群れが住み着き、冒険者ギルドへ討伐依頼が出された。アリスたちの移動中にも出現した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
レッサーウルフの群れ
ルノアの探知魔法に引っかかった森の魔物である。
・所属組織、地位や役職
野生の魔物。
・物語内での具体的な行動や成果
ルノアがジョージを発見する直前、森の探索魔法によって位置を探知された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
エイプ系の魔物
同じくルノアの探知魔法に引っかかった木の上に生息する魔物である。
・所属組織、地位や役職
野生の魔物。
・物語内での具体的な行動や成果
ルノアの探索魔法によって、木の上に群れで存在していることが確認された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ブチ切れ令嬢6巻レビュー
ブチ切れ令嬢まとめ
ブチ切れ令嬢8巻レビュー
展開まとめ
序章
ヒルガディエ男爵領への準備
ドワーフの街を離れたエリーは、ガイエンから譲り受けたサラマンダーの魔力を宿す剣を取り出した。剣には膨大な火属性の魔力が込められていたが、水属性の魔力を持つ自身とは相性が悪いため、当面は使用せず保管することに決めた。
その後、帝都へ戻った後の予定について話し合いが行われた。エリーはヒルガディエ男爵領へ長期滞在する準備を進める一方、ミーシャやミレイへ各種手配を指示した。
アリスたちとの別行動の決定
エリーは、ヒルガディエ男爵領が最近までハルドリア王国領だった事情から、自身と行動を共にすることがアリスたちにとって危険になる可能性を説明した。
そのためアリス、ルノア、ミーシャの三人はレブリック辺境伯領へ滞在させる方針を伝えた。アリスは寂しさを見せながらも、エリーの仕事を応援すると答えた。
エリーはアリスを預ける理由として、ロットン・フライウォークがアリスを調査している件も考慮していた。防諜体制の整ったレブリック辺境伯邸なら安全だと判断していたのである。
帝都での業務整理
帝都へ戻ったエリーは、留守中に溜まった書類仕事へ取り掛かった。既存事業の運営はアルノーへ任せられるものの、新規事業への投資や研究部門の予算管理は自ら行う必要があった。
エリーはヒルガディエ男爵領でも執務を継続できるよう体制を整え、二週間ほどかけて各種手配を完了させた。
エルザとの会話
仕事の合間に喫茶グリモワールを訪れたエリーは、偶然居合わせたエルザと再会した。
エリーはヒルガディエ男爵領へ向かう予定を説明し、帝国が旧王国領を統治する手法について語った。帝国は編入直後の反発を抑えるため税負担を軽減し、長期的に統合を進めていると分析した。
また、アリスたちをレブリック辺境伯領へ預ける方針も伝え、エルザはその判断に納得した。
レブリック辺境伯領への旅
帝都での準備を終えたエリーたちは、レブリック辺境伯領へ向けて出発した。
道中では街道の治安問題について話題となった。野盗討伐が繰り返されているにもかかわらず被害が減らないことから、エリーは領主と繋がる盗賊団が存在する可能性を指摘した。
ルノアは危険性に不安を示したが、商人が解決すべき問題ではなく、領主や宮廷が対応する案件だと説明された。
レブリック辺境伯領への到着
警戒しながら旅を続けた一行は、襲撃を受けることなくレブリック辺境伯領へ到着した。
かつて本店だったトレートル商会支店では、支店長グランツとスティアが出迎えた。商会運営は順調であり、グランツも以前とは見違えるほど成長していた。
エリーは翌日にルーカスとの面会予定があることを聞き、その日は休息を取ることにした。
ルーカスとの会談
ルーカスとの会談で、エリーはヒルガディエ男爵家の相談役となった経緯を説明した。
ルーカスはエリーが復讐のために旧王国領へ接触しているのではないかと警戒したが、エリーは目的が帝国貴族への影響力獲得にあると説明した。
自身が貴族になるつもりはないが、ヒルガディエ男爵家を支援することで貴族社会への影響力を得たいと語ったのである。ルーカスは帝国へ害を与えないことを条件に協力を約束した。
アリスの預かり先決定
エリーはルーカスへアリスの保護を依頼した。
ルーカスは当初、客人として受け入れるつもりだったが、アリス本人の希望もあり、行儀見習いとして受け入れることになった。
エリーは、アリスが最近自立心を育てていることを説明し、一般的な礼儀作法を学ばせたいと考えていた。
出発の日
諜報関係の引き継ぎを終えたバアルが合流し、ヒルガディエ男爵領へ向かう日が訪れた。
見送りに現れたアリスは、レブリック辺境伯家のメイド服を着て行儀見習いとしての挨拶を披露した。ミーシャも同じく行儀見習いとしてアリスの世話役を務めることになっていた。
エリーは成長したアリスの姿を見て喜び、ルーカスへ改めて二人を託した。
バンデンハーク家の動向
レブリック辺境伯領を出発した後、エリーはバンデンハーク家がヒルガディエ男爵領に隣接する地域へ移封されていることを知った。
バンデンハーク家はかつてエリーの婚約破棄騒動で悪評を広めた家であり、現在は伯爵から子爵へ降格していた。
さらに報告書によれば、ヒルガディエ男爵領ではバンデンハーク家による印象操作が行われており、領民への影響も出始めていた。
新たな協力者の参加
ミレイから渡された別の書状を確認したエリーは、以前から接触していた王国貴族が今回の件へ協力する意思を示したことを知った。
エリーはその返答に満足し、歓迎の準備が必要だと語った。その表情には獲物を前にしたような笑みが浮かんでいた。
一章《ヒルガディエ男爵領》
ヒルガディエ男爵領到着
エリーたちはレブリック辺境伯領を出発し、ヒルガディエ男爵領へ向かった。道中は荒野を通る必要があったが、【強欲の魔導書】によって荷物を収納していたため馬車は軽く、魔物の討伐も順調に進んだことで予定より早く到着した。
街へ近づくと、領都は活気に乏しく、衛兵の数も少なかった。エリーは王国との交流が断たれ、帝国からの支援も終了したことで物流が停滞していると分析した。また、前当主の急死によって若いネスタルトが十分な引き継ぎを受けられなかったことが、現在の苦境の一因であると語った。
衛兵たちの不安
門を守る衛兵ライアンとアンドレは、帝国編入後も生活に大きな変化はなかったものの、街を訪れる人々が減ったことを憂いていた。
二人は若い領主ネスタルトに不安を抱きながらも、到着したトレートル商会の馬車を確認した。ヒルガディエ男爵からの書状を持っていたため、隊長の確認を経て一行は領内へ通された。
衰退する領都の現状
街へ入ったエリーたちは、賑わいのない領都の様子を目にした。産業の発展も進んでおらず、このままでは経済が破綻し、ヒルガディエ男爵家が爵位を失う可能性があるとエリーは指摘した。
その後、一行は男爵家の屋敷へ向かった。屋敷は質素で、貴族としての財力や権威を示す装飾品も少なかった。
相談役契約の締結
屋敷では家令アベルの案内でネスタルトとアルテが出迎えた。
エリーは相談役としての契約書を提示し、報酬や指導内容について説明した。ネスタルトは内容を十分確認せずに署名したが、エリーはそれを問題視した。
契約書を使った実践指導
エリーは署名済みの契約書を再確認させた。そこにはヒルガディエ男爵家の財産や徴税権、土地売買権にまで関わる危険な条項が記載されていた。
ネスタルトとアルテは驚愕し、アベルも抗議した。しかしエリーは、口頭説明だけを信用して契約書を読まずに署名したこと自体が重大な失敗だと指摘した。
そのうえで、信頼できる相手であっても契約書は隅々まで確認するべきだと教え、契約書を凍らせて破壊した。今後は実践形式で商人や貴族との駆け引きを学ばせると宣言し、改めて正式な契約を結ばせた。
アリスたちの行儀見習い生活
一方その頃、レブリック辺境伯邸ではアリスとミーシャが使用人見習いとして働いていた。
アリスは涙目になりながら玉ねぎを切り、ミーシャは料理を手伝っていた。その後も掃除などの仕事をこなし、周囲の使用人たちから可愛がられていた。
様子を見に来たルーカスは、二人が順調に馴染んでいることを確認した。ミーシャは離れた場所からでもルーカスの存在に気付き、感知能力の高さを見せた。
礼儀作法の学習
午後になると、アリスとミーシャは礼儀作法の授業を受けた。
教育係の侍女は、相手との関係や身分によって礼の仕方が変わることを教えた。ミーシャは過去にミレイから厳しく教育されていたため問題なくこなしたが、アリスは姿勢の維持に苦戦していた。
それでも侍女は、アリスの飲み込みは早いと評価した。アリスは淑女の礼の練習にも取り組み、震えながら姿勢を保ち続けた。その姿を見た使用人たちは、微笑ましく見守っていた。
ヒルガディエ男爵領の実践指導
剣術訓練による自衛能力の強化
エリーはネスタルトと木剣による訓練を行っていた。ネスタルトの構えの欠点を指摘しながら攻撃を加え、倒れても動きを止めないよう厳しく指導した。
休憩中、家令のアベルは若いネスタルトへの訓練が厳しすぎると訴えたが、エリーは領主である以上、自らを守る力が必要だと説明した。するとネスタルト自身が訓練の継続を望み、領民や大切な人々を守れる力を手に入れたいと語った。その決意を聞いたアベルは感極まり、ネスタルトの成長を喜んだ。
領内視察による問題発見
剣術訓練の後、エリーはネスタルトを連れて街へ出た。今回は問題点を自ら発見する訓練であり、エリーは助言こそ行うものの答えは与えない方針を示した。
二人は姉弟を装いながら市場や街並みを観察した。喫茶店から通りを眺める中で、仕事を求める失業者や物々交換を行う住民の姿が見られた。ネスタルトは街全体に活気がないことを感じ取り、エリーは商人の減少によって物資不足と物価上昇が始まっていると説明した。
さらに、このまま放置すれば必需品にも影響が及び、買い占めや経済停滞が発生すると指摘した。ネスタルトは商人誘致や特産品開発などの対策案を挙げ、エリーはそれぞれを評価しながら長期的な視点の必要性を教えた。
街の裏側への警戒
市場を歩く中で、ネスタルトは領地の問題を十分に把握できていなかったことを悔やんだ。しかしエリーは、問題に気付き改善しようとしていること自体が重要だと励ました。
その後、果実水を買いに離れたネスタルトの隙に、エリーはバアルから報告を受けた。街にはネスタルトの正体に気付いた者たちがおり、その中には警戒すべき人物も含まれていた。エリーは準備が整い次第接触するよう指示した。
魔法契約の仕組みの講義
別の日、エリーはネスタルトとアルテに魔法についての講義を行った。魔法式の構造を説明した後、魔法契約において重要となる認識の概念について教えた。
アルテにリンゴを持たせ、所有権の移動によって契約の判定が変化する例を示したうえで、契約魔法は客観的事実ではなく契約者の認識に強く依存していると説明した。
さらに、契約違反の判定は常時行われるのではなく、特定の条件を満たす瞬間に行われることも教えた。二人は契約内容だけでなく認識のすり合わせが重要であることを学んだ。
エリーの方針と帝都からの報告
講義後、ミレイは貴重な契約魔法の知識を教えたことを心配したが、エリーは将来的に広まる知識なら価値の高いうちに利用する方が良いと答えた。
また、ミレイは商会が直接介入した方が領地再建は早いのではないかと提案したが、エリーはあくまで相談役として振る舞い、ネスタルト自身の選択によって領地を変えさせる方針を貫いた。
その後、帝都から届いたガザルの報告書を読み、エリーは新たな動きがあったことを知った。そして獲物が一匹増えることになりそうだと意味深な笑みを浮かべた。
ネスタルトの信頼と警戒
ネスタルトはエリーとの出会いを幸運だと考えていた。エリーに利用されていることは理解していたが、それでも彼女の指導が自分の成長につながっていることを実感していた。
アルテとの会話の中で、エリーは答えを与えるのではなく答えへ辿り着く方法を教えているのだと語り、その厳しい指導を前向きに受け止めていた。
エルクリンデ伯爵からの手紙
執務中、ネスタルトは届いた手紙の中にエルクリンデ伯爵家の紋章を見つけた。彼はその手紙をアルテに見せず隠した。
手紙の内容は以前と同じく支援の申し出であり、その条件はアルテとエルクリンデ伯爵との婚姻であった。しかしネスタルトは、エルクリンデ伯爵が両親の死に関与していると疑っていたため、その提案を受け入れる気はなかった。
証拠がない以上、公にすれば男爵家が不利になることも理解していたネスタルトは、その問題を胸に秘めたまま執務へ戻った。アルテはそんなネスタルトを気遣い、休息を勧めるのであった。
ヒルガディエ男爵領を巡る不穏な動き
ロットンとエルクリンデ伯爵領への疑念
エリーはミレイから帝都のガザルの報告を受けた。宿屋を営むロットン・フライウォークが錬金術素材を密かに集め、近隣のエルクリンデ伯爵領へ運び込んでいることが判明した。
ロットンは本来そのような商売をしていないため、エリーは不審に感じた。また、自身を探っていた者たちが滞在先の周辺で動きを見せていることから、無関係とは考えられないと判断した。
王国の間者の存在
ミレイはバアルの調査結果を報告した。市場でネスタルトと行動していた際に探るような視線を向けていた者たちの中に、王国側の間者がいたことが判明した。
その目的は帝国の情報収集と、領民がヒルガディエ男爵家に取り込まれないよう情報操作を行うことであった。エリーは背後にいる人物をバンデンハーク子爵と推測した。バンデンハークはかつてエリーの悪評を流布した人物でもあり、その目的を探るようバアルとガザルに指示を出した。
水運事業への準備
ミレイが連絡のため退室した後、エリーは河川運送事業のために用意した地図を広げた。ヒルガディエ男爵家とヘパイト侯爵家との契約もあるため、事業を進める必要があると考えていた。
エリーはネスタルトとアルテに周辺地理を学ばせながら事業計画を立案させる方針を決めた。しかし地図上で指を止めた先は、不審な動きが確認されているエルクリンデ伯爵領であった。
水運事業会議での反発
数日後、エリーはオブザーバーとしてヒルガディエ男爵家の事業計画会議に参加した。ネスタルトはヘパイト侯爵家との共同事業である水運事業について説明したが、家臣たちは反対した。
軍事顧問は河川に生息する魔物による危険性を指摘し、財政管理人は関税交渉や補給体制の整備に莫大な費用がかかると訴えた。さらに財政管理人はヘパイト侯爵家の真意を疑う発言まで行ったが、ネスタルトは不敬であるとして戒めた。
その後もネスタルトは資料や事例を用いて説得を試みたが、家臣たちを完全に納得させることはできず、会議は終了した。
エリーによる会議の評価
会議後、ネスタルトはエリーに評価を求めた。エリーは六十点と評し、財政管理人の失言によって生まれた心理的な隙を利用して主導権を握るべきだったと指摘した。
さらに、貴族や商人との交渉では買収や結託なども当たり前に行われると説明し、交渉の厳しさを教えた。アルテはエリーの語る交渉術に驚き、これまでどのような交渉を経験してきたのかと苦笑した。
ルノアの視察同行
一方、レブリック辺境伯領ではルノアが父グランツのもとを訪れた。グランツは化粧品原料の供給村を視察する予定であり、ルノアも同行することになった。
グランツは危険を心配したが、ルノアは冒険者としての経験と魔法の技術を理由に同行を希望した。スティアからは、ルノアが冒険者になったと知った際にグランツが大慌てしていたことが明かされ、ルノアは父の愛情を改めて知ることになった。
森の異変への調査
翌日、ルノアたちは馬車で村へ向かった。視察先の村では香草栽培と樹液採取が行われていたが、最近森に獣の気配が増しているという報告が届いていた。
グランツは強力な魔物の出現を警戒し、護衛の冒険者たちにも調査を依頼していた。危険な魔物が確認された場合には討伐依頼や住民避難も視野に入れていると説明した。
ルノアによる薬草の発見
休憩中、ルノアは森で見覚えのある植物を発見した。鑑定魔法を使って調べた結果、それがポーション材料となるトルキ草であることを思い出した。
ルノアは薬効の高い個体を選びながら採取を始めた。その様子を見た冒険者のランゼにも薬草の特徴や価値を説明し、一緒に採取を行った。
ルノアは葉脈の色や根の重要性を教えながら採取方法を伝え、ランゼと共に見張りの交代時間まで薬草集めを続けたのであった。
魔力暴走による神器習得訓練
エリーはネスタルトの前に紫色の液体が入った小瓶を置いた。それは魔力を暴走させるポーションであり、既に魔法の基礎を習得しているネスタルトの体外魔力を鍛えるために用意したものであった。
エリーは保有魔力と体外魔力の違いを説明し、体外魔力を増やすことが魔力制御の向上につながり、神器習得の条件の一つになると語った。新興貴族であるヒルガディエ男爵家にとって神器の習得は大きな権威となるため、ネスタルトは強い関心を示した。
危険を伴う訓練方法
アルテは魔力暴走の危険性を指摘した。エリーは魔力暴走を抑える薬も用意していることを説明したが、それでも後遺症や命に関わる危険があることを隠さなかった。
そのうえで、薬を使うかどうかはネスタルト自身が決めるべきだと告げ、十分に考えるよう促した。
ミレイの不安とエリーの判断
訓練後、エリーとミレイは商会の事務仕事を行いながら、ネスタルトへの指導について話し合った。
ミレイは、自身も過去に魔力暴走による訓練を受けながら神器習得に至らず、精神的に大きく落ち込んだ経験があったため、ネスタルトに同じ方法を勧めることを心配していた。
しかしエリーは、ネスタルトには十分な才能と意志が備わっていると確信していた。これまでの訓練を通じて魔力操作の才能を見抜いており、数か月の訓練で神器習得に必要な技術へ到達できると考えていた。
ヒルガディエ男爵家が抱える婚姻問題
話題はヒルガディエ男爵家の現状へ移った。エリーは、現在の状況を打開する方法は自分を頼ることだけではないと説明した。
その手段の一つがアルテの政略結婚であった。領地貴族と婚姻関係を結べば派閥に加わることができ、支援や後ろ盾を得られる。国境に位置するヒルガディエ男爵領は本来価値の高い土地であり、多くの貴族家が関係を築こうとしても不思議ではなかった。
しかし実際に婚姻を申し込んでいたのはエルクリンデ伯爵家のみであった。
エルクリンデ伯爵家への不信
エリーは、通常であればアルテを嫁がせてエルクリンデ伯爵家の庇護下に入るのが合理的な選択だと説明した。
それにもかかわらずネスタルトが婚姻を拒んでいることから、エルクリンデ伯爵家に対する強い不信が存在すると推測した。その不信は単なる感情ではなく、何らかの危険や企みを感じ取っているからこそのものだと考えた。
そしてネスタルトが安易な安定を選ばず、困難な道を歩み続けている理由は、強い信念や正義感、あるいは復讐心にあるのかもしれないとエリーは考えた。
ネスタルトの日記の記述
ヒルガディエ家に残されたネスタルトの日記には、かつて無知で弱く、進むべき道も見失っていた自分に、ある人物が知恵と力、そして道しるべを与えてくれたと記されていた。
その人物は自身の目的のためにネスタルトを利用したに過ぎなかったが、それでも差し伸べられた手を取ったことを一度も後悔しておらず、その人生に満足していると綴られていた。
二章《隻眼》
冒険者ギルドへの魔物調査依頼
エリーとミレイはネスタルトに同行し、ヒルガディエ男爵領の冒険者ギルドを訪れた。ネスタルトはギルドマスターに対し、領内および周辺領地の魔物分布調査を依頼した。
その目的は領地防衛だけでなく、将来計画している事業の基礎資料を集めることにあった。ギルドマスターは依頼内容を理解し、他領の冒険者ギルドとも連携して調査を進めることを了承した。
ネスタルトによる課題整理
数日前、ネスタルトは水運計画に関する問題点を整理し、その内容をエリーへ相談していた。
ネスタルトは問題を魔物対策と他領通行の二つに分類し、まずは即座に着手可能な魔物対策を優先するべきだと判断した。魔物対策は領民の安全向上につながるだけでなく、将来的な交渉材料や実績にもなると考えたのである。
エリーはその判断を評価し、交渉に必要な影響力や資料が不足している現状では適切な選択だと説明した。
冒険者を活用する方策
ネスタルトは当初、領兵による調査を考えていたが、エリーはそれを止めた。
領兵は治安維持や防衛向けに訓練されており調査の専門知識がないこと、さらに人員を割けば領内の治安維持に支障が出ることを理由に挙げた。また、他領の調査を行うこともできないと指摘した。
そこでエリーは冒険者ギルドへの依頼を提案した。冒険者ギルドは領境を越えて活動できるため、他領の魔物情報も収集可能であった。ネスタルトは考察を重ねた末、各領地の冒険者ギルドへ個別に依頼を出す方法へとたどり着いた。
先々代の遺品の調査
調査費用の問題を解決するため、ネスタルトは屋敷に残されていた先々代の遺品を確認させた。
帝都で文官を務めていた先々代が収集した品々が大量に保管されており、その価値をエリーに鑑定してもらうことになった。多くは価値の低い物であったが、一部には好事家に高く評価される希少品も含まれていた。
それを見たエリーは、それらを担保として金貨千五百枚を融資すると提案し、買い手となる人物を紹介すると約束した。
魔物調査計画の始動
資金の目途が立ったことで、ネスタルトは正式に冒険者ギルドへ調査依頼を提出した。
ギルドマスターは調査箇所の多さから高額な依頼料が必要になると説明したが、ネスタルトは領民の安全のためだとして了承した。こうして魔物分布調査は周辺各地の冒険者ギルドへと依頼されることになった。
ダルク・ホーキンスの来訪
冒険者ギルドから戻ると、ヒルガディエ男爵邸には見慣れない高級馬車が並んでいた。
エリーの招きによって訪れていたのは、帝国の裏社会を支配するダルク・ホーキンスであった。ネスタルトは緊張しながらも応接室で対面し、家の資産整理の一環として遺品の売却を提案した。
銃コレクションの価値判明
案内された部屋で遺品を確認したダルクは、そこに並ぶ銃のコレクションを見て興奮した。
それらは希少価値の高い歴史的な銃や試作品ばかりであり、ダルクは次々とその価値を見抜いていった。そしてコレクション一式を金貨十四万枚で買い取ると即決した。
ネスタルトはその額に驚きながらも売却を承諾し、契約は成立した。
領地経済の活性化
ダルクは銃の購入だけでなく、領内の商会や市場から酒や保存食、余剰生産品を大量に買い上げた。
その結果、多額の資金が領内へ流れ込み、ヒルガディエ男爵領は久しぶりの活気に包まれた。
エリーたちは、これは単なる散財ではなく、水運事業への投資や将来の利権獲得を見据えた行動だと考えた。
今後に向けた準備
ダルクの帰還後、ネスタルトたちは今回の成果を振り返った。
銃の売却によって事業資金に大きな余裕が生まれ、高位冒険者の雇用や将来的な魔物討伐も視野に入れられるようになった。
しかし本番は調査完了後であり、その結果を踏まえた対応を考えなければならなかった。だがネスタルトの疲労も大きかったため、その日の話し合いは切り上げられ、各自休息を取ることになった。
ルノアの治癒活動と視察の終了
ルノアは治癒魔法を用いて村人たちの傷を癒し、最後の治療を終えた。各地の村で治療を繰り返した結果、広範囲に及ぶ治癒魔法の範囲を制御し、効果を高める技術を習得していた。
グランツは香草畑の視察も終了したため翌日に領都へ戻る予定だと伝えた。ルノアが最初に訪れた村を心配すると、グランツは森で発見されたゴブリンの群れについて既に冒険者ギルドへ連絡済みであり、討伐依頼料も上乗せしているため近いうちに冒険者が派遣されるだろうと説明した。
物流の重要性に気づくルノア
旅の間、ルノアは何度も魔物の襲撃を受け、自らも戦闘に参加していた。グランツはルノアの成長を称賛し、商人にも自衛の力が必要だと語った。
その夜、ルノアは部屋でメモ帳を広げ、物流について考察した。街と街を結ぶ物流には魔物や野盗の危険が伴うが、それでも物流は国にとって欠かせないものであると考えた。
さらに、一般の人々も他領と取引できる仕組みがあれば大きな利益が生まれるのではないかと思い至り、次々とアイデアを書き留めた。預かった資金を元手に利益を生み出すという課題に向き合いながら、事業計画の輪郭を形作っていった。
王国側工作員への対策
ヒルガディエ男爵邸では、ミレイが王国側の工作員に関する報告をエリーへ届けた。
潜入していたのはバンデンハーク子爵配下の工作員であり、バアルは接触に成功していた。エリーはその関係を維持しながら情報を引き出すよう指示し、水運事業計画の情報も意図的に流すよう命じた。
その情報に反応して動く帝国貴族を炙り出し、王国と内通する勢力を見つけ出そうとしていたのである。さらにエリーは、この領地で本格的に商売を開始する方針を固めた。
ネスタルトとアルテの迷い
中庭へ向かう途中、アルテはネスタルトに貴族位を返上して平民として生きる道もあるのではないかと話した。
ネスタルトもその可能性を考えたことはあったが、貴族として力を身につける方針は変わらないと答えた。二人はそのままエリーたちの待つ中庭へ向かった。
魔力暴走の実演
中庭には神器習得に必要な訓練用ポーションが用意されていた。
エリーは危険性を説明した上で、自ら紫色のポーションを飲み魔力暴走を発生させた。周囲の温度は急激に低下し、氷の棘が地面から生え、膨大な魔力が周囲へ溢れ出した。
しかし次の瞬間、エリーは暴走した魔力を完全に制御し、自身の体内へと収束させた。ミレイはこれが体外魔力を最大限に高めた状態であり、その先に神器生成があると説明した。
実演後、エリーは激しく消耗しながらも、完全制御に成功していても大きな負担を受ける危険な方法であることをネスタルトへ示した。
魔力暴走の後遺症
翌朝、エリーは強い頭痛と意識の混濁の中で目を覚ました。
ミレイによれば、それは魔力暴走による後遺症であった。さらにエリーは右目の視力を失っていることに気づいた。
魔力暴走を抑えるポーションを服用し、一日休養したことで体調は回復したが、右目の視力だけは戻らなかった。ミレイは魔力回復効果を持つ眼帯を用意し、エリーはそれを身につけた。
神器の能力に関する考察
休養後、エリーはミレイに神器の能力について説明した。
歴史ある貴族家では過去の成功例を参考にして神器習得の訓練を行うため、似た傾向の神器が生まれやすいと語った。一方で冒険者は命の危機の中で神器を発現することが多く、特殊な能力を持つ神器になりやすいと考察した。
そのため、神器習得の過程を誘導すれば狙った能力を持つ神器を発現させられる可能性があると述べた。そして土属性適性を持つネスタルトに対し、自らの目的に有用な神器を発現させられるかもしれないと考えていた。
商業ギルドでの支店設立
エリーはミレイとバアルを伴い、ヒルガディエ男爵領の商業ギルドを訪れた。
外周区の北側に拠点を置く予定であることを説明しながら移動したが、それは潜入している工作員へ情報を見せる意図も含まれていた。
商業ギルドは閑散としていたが、エリーはこの地に将来性を見出している職員も存在すると分析した。
ウォルターとの商談
エリーは特別認可商人としての身分を示し、支店設立の手続きを進めた。
担当となったウォルターに対し、トレートル商会ではなく平民向け商品を扱うアンフェール商会の支店を設立する意向を伝えた。
ウォルターは当初商業区の物件を提案したが、エリーは外周区北側への出店を希望した。その理由を深く追及せず対応したウォルターを、エリーは優秀な人物だと評価した。
その後、ウォルターが用意した大型商館の候補を確認したエリーは、物件を後日確認することを条件に仮契約を結び、アンフェール商会の支店設立手続きを進めたのであった。
ルノアの事業提案とレント商会との契約
ルノアはレブリック辺境伯領でも有力なレント商会を訪れ、商会長のレントと面会した。トレートル商会の商会員ではなく、一人の商人として取引を持ちかけたいと説明したことで、レントは彼女を無名の商人として扱ったが、話を聞くことには同意した。
ルノアは帝都とレブリック辺境伯領を結ぶ物流事業を構想していると説明した。各商会が個別に負担している護衛や馬車の費用を集約し、専属護衛と輸送馬車による輸送代行を行うことでコスト削減を目指していた。そして事業立ち上げのため、レント商会が持つ物流のノウハウや人脈の提供を求めた。
レントは事業内容に興味を示し、まずは輸送のノウハウのみを提供し、事業の進展次第で人脈の提供を判断する条件を提示した。ルノアはそれを受け入れ、魔法契約書によって契約を結んだ。
レントの評価とルノアの決意
ルノアが去った後、レントは今回の提案をエリーから与えられた課題の一環だと推測した。大きな負担なくエリーとの繋がりを得られ、もし事業が成功すれば輸送費の削減という利益も期待できるため、この賭けは十分に価値があると考えていた。
一方でルノアは馬車の中でようやく緊張を解き、今回の交渉が成立したのはエリーの影響力があったからだと自覚していた。今後はより厳しい交渉が続くと理解しながらも、次の重要な相手であるルーカスとの交渉に向けて準備を進める決意を固めた。
ネスタルトへの助言
エリーはネスタルトが作成した水運事業関連の資料を確認し、問題ないと評価した。ネスタルトは次の会議で家臣たちを説得したいと意気込んだが、経験豊富な家臣たちを前に気後れしていた。
そこでエリーは、自分自身の力だけでなく、周囲に存在するあらゆるものを利用することも重要だと助言した。実際に使える力でなくとも、相手がそう認識するならば有効な手札になると教え、ネスタルトに考える機会を与えた。
ジョージの来訪
そこへアベルが現れ、ジョージという客が訪ねてきたことを伝えた。ジョージはエルクリンデ伯爵家に仕えるメルク子爵家三男であり、以前からアルテへの求婚話を持ち込んでいた人物であった。
応接室でジョージは再びアルテとエルクリンデ伯爵との婚姻を求めた。ヒルガディエ男爵領の苦境を脱するためには伯爵家との縁組が最善だと主張したが、ネスタルトはこれまで通り断固として拒否した。
ジョージの挑発とエリーの反撃
求婚の話が進まないと見るや、ジョージは標的をエリーへ移した。食事や一夜の奉仕を持ちかけ、それを条件に伯爵家との取引を仲介すると侮辱的な発言を繰り返した。
怒るネスタルトを制したエリーは、ジョージの発言がエルクリンデ伯爵家の意思であると見なすと宣言し、ミレイに命じてトレートル商会およびアンフェール商会とエルクリンデ伯爵領の主要商会との取引停止を命じた。
ジョージはエリーが特別認可商人であり、トレートル商会の会長であることを知って動揺した。エリーはそのまま退席し、後にエルクリンデ伯爵家との関係を再調査するよう指示した。
ネスタルトの決意
その日の午後、ネスタルトはエリーに謝罪した。挑発に乗りかけた自分の未熟さを認め、エリーの助けがなければ言質を取られていたと反省した。
そしてネスタルトは、以前見せられた魔力暴走を利用する訓練を受ける決意を固めた。エリーは危険性を再確認させた上で了承し、会議終了後から訓練を始めることを約束した。
家臣会議と水運事業の始動
家臣たちを集めた会議で、ネスタルトは冒険者ギルドに調査させた魔物の分布図と盗賊被害の報告書を提示した。
家臣たちは水生魔物の存在を理由に反対意見を述べたが、ネスタルトは水運ルート上の魔物を分析し、本当に危険な魔物は限られており、高位冒険者への依頼で対処可能だと説明した。
さらに祖父の遺産整理によって得た個人資産を利用するため、領の財政を圧迫しないことも示した。そしてまずは領内河川周辺の魔物討伐と整備から始める方針を提案した。
家臣たちは領地の安定につながり、予算への負担も少ないことを認めたため反対しなかった。こうしてヒルガディエ男爵家による水運事業計画は、本格的に始動することとなった。
ヒルガディエ男爵家水運事業計画の記録
水運事業の開始
私財の売却によって予算面の問題は解決したものの、水生の強力な魔物や他領地の貴族との交渉など多くの課題を抱えたまま、ネスタルトの決断によってヒルガディエ男爵家は水運事業を開始することとなった。
事業計画の概要
記録には、まずヒルガディエ男爵領内で河川の整備や補給地点の設営を行い、その過程でノウハウを蓄積する予定が記されていた。
その後、得られたノウハウを活用して他家との交渉を進め、さらに他領地での河川整備や補給地点の設営へと事業を拡大する計画であった。
最終的には船舶や人員の確保と育成、物資の集積体制を整える方針が示されていた。
記録者の所感
記録者であるオラルク・クリーニアは、この計画がどこまで成功するかは分からないとしながらも、若いネスタルトにとっては良い経験になるかもしれないと記していた。
三章《水運事業の始まり》
水運事業の進展とエリーの商会運営
家臣たちを説得して始まった水運事業は順調に進み、河川の魔物討伐も冒険者たちによって着実に進行していた。ネスタルトは事業責任者として執務に追われていた一方、エリーは自室でトレートル商会から届いた書類の処理を進めていた。
その中でアンフェール商会の従業員募集が予想以上に早く定員へ達したことが判明した。エリーは、応募者の中に水運事業や自身の正体を知る者が含まれている可能性を疑い、バアルを通じて調査させることを決めた。そして疑わしい者たちを排除するのではなく、逆に利用して情報を掌握する方針を示した。
商館整備の完了
ミレイは商館の修繕や庭の整備、看板の準備、備品の発注が順調に進んでいることを報告した。エリーは仕事を切り上げ、アリスへ手紙を書くことにした一方で、ミレイにはバアルとの接触を任せた。
バンデンハーク子爵の不安
一方、バンデンハーク子爵ウィルソンは、工作員がトレートル商会の護衛であるバアルとの接触に成功し、新設された商館へ工作員を潜入させたとの報告を受けていた。しかし特別認可商人であるエリーへの警戒心は強く、裏切りを恐れて工作員や協力者への監視を命じていた。
その頃、ウィルソンはヒルガディエ男爵領の状況が思惑通りに進まないことに苛立っていた。
エドワルドの来訪とエリーの正体
やがてワーナード侯爵家前当主エドワルドがバンデンハーク子爵邸を訪れた。ヒルガディエ男爵領への工作状況を確認したエドワルドは、相談役として活動しているエリー・レイスの名に強く反応した。
エドワルドはエリーが王国を去ったエリザベートであると断定し、さらにバアルの危険性についても説明した。そのうえで、工作員は既に利用されている可能性が高いとして即座の撤収と処分を命じた。
また、アデル派がエリザベートの存在を秘匿していた可能性に言及し、王宮への報告ではなく独自にエリザベートを排除する方針を固めた。
ヒルガディエ男爵領への妨害計画
エドワルドは工作員の再編を指示するとともに、バンデンハーク領から大量の人員を流入させるための情報操作を命じた。
待遇の良い仕事がヒルガディエ男爵領にあるという噂を流し、さらに増税と国境警備の緩和によって領民を移動させ、水運事業の進行を妨害しようとした。ウィルソンは恐怖と利益への期待から、その計画に従うこととなった。
ジョージの失脚と逃亡
一方、エルクリンデ伯爵家ではジョージが厳しく叱責されていた。ジョージの軽率な発言によってトレートル商会との取引停止という損害が発生したためである。
伯爵は責任を全てジョージに押し付けて切り捨てた。長年忠実に仕えてきたにもかかわらず見捨てられたジョージは、自らが伯爵家の秘密を知る存在であることから命の危険を察知した。
そのため屋敷を脱出し領地外へ逃亡したが、伯爵が放った刺客に追われることとなった。
ルノアによるジョージ救出
森へ逃げ込んだジョージは、追手と共にオークの縄張りへ入り込んでしまった。刺客たちは魔物を興奮させる粉をジョージに浴びせ、自分たちは逃走した。
ジョージはオークに追われて絶体絶命となったが、その時突然オークが倒された。さらに別のオークも一瞬で討ち取られた。
呆然とするジョージの前に現れたのは、杖を持った三つ編みの少女ルノアであった。ルノアはジョージに大丈夫かと声を掛けた。
領内経済の改善
その頃エリーは市場を訪れ、水運事業の影響による変化を確認していた。ネスタルトが導入した商隊制度によって帝都との交易が行われるようになり、小麦や保存食など領外の商品が流入していた。
事業自体は赤字であり、現在はネスタルトの個人資産で補填していたが、領内経済の活性化という成果は確実に現れ始めていた。
新たな報告とルノアの事業
その後エリーはアンフェール商会でミレイから報告を受けた。バンデンハーク側の工作員たちは全員撤収し、その背後にエドワルド・ワーナードがいることも判明した。
エリーは予定通り計画を第二段階へ進めるよう指示した。
さらに別件として、水運ルート上の重要地点で宿場の開発が進んでいるとの報告がもたらされた。当初は他商会による介入を警戒したエリーだったが、その開発を行っていたのはカールトン商会であり、商会長はルノア・カールトンであると知らされた。
エリーは予想外の報告に驚き、しばらく見ない間にルノアが何をしているのかと困惑するのであった。
カールトン商会の成長とジョージとの出会い
カールトン商会の執務室で働くルノアは、自ら考案した物流代行事業が各領地を跨ぐ大規模な事業へ発展したことに戸惑いながらも、商会運営に追われていた。事業拡大によって利益も増え、貴族対応を支えるジョージの存在にも助けられていたため、後悔はしていなかった。
ルノアは商会長としての仕事を続けながら、ジョージと出会った頃を思い返していた。
中継拠点候補地の調査
事業開始前、ルノアは街道沿いの野営地を視察し、補給拠点候補地の調査を行っていた。野営地の周辺を開拓する案を考えたルノアは風属性の探知魔法を使用し、周辺の魔物の分布を調査した。
調査中、街道から離れた場所で人間が二体のオークに追われていることを発見したルノアは、見捨てることができず救援へ向かった。
オークからの救出
身体強化と風属性魔法を用いて現場へ急行したルノアは、木の上から風刃を放って一体目のオークの首を切り裂いた。続いて隙を見せたもう一体のオークに風の騎馬槍を叩き込み討伐した。
戦闘後、ルノアは腰を抜かしていた青年を確認し、野盗ではないと判断して声を掛けた。その青年こそジョージであった。
ルーカスとの面会
現在に戻ったルノアは、ジョージと共にレブリック辺境伯ルーカスとの商談へ向かった。
応接室では行儀見習いとして働くアリスとミーシャの姿も見られた。ルノアはカールトン商会が進める物流事業について説明し、各地の補給拠点整備や商会との提携状況を報告した。
ルーカスは事業内容を評価しながらも、許可が得られなかった場合の対応を尋ねた。ルノアは補給拠点を旅人向けの商業施設として運営するつもりだったと答えたうえで、この事業を拒否した領地は他領との競争に取り残されると説明した。
黄金の街道構想への協力
ルーカスはエリーの関与を確認したが、ルノアは出資を受けているだけで事業には関与していないと説明した。
その回答を受けたルーカスは協力を約束した。ルノアは安堵しながらも気丈に振る舞い、レブリック辺境伯領から帝都まで続く物流網を黄金の街道として築き上げると宣言した。
移民増加への対応協議
一方ヒルガディエ男爵邸では、ネスタルト、アルテ、エリーが領内人口の急増について話し合っていた。
増加した住民の多くはハルドリア王国からの移民であり、特にバンデンハーク子爵領周辺でヒルガディエ男爵領の仕事の多さを宣伝する噂が流されていた。
エリーは何者かが意図的に移民を送り込んでいると分析したが、その目的は不明だった。ネスタルトは移民を排除せず監視下で労働力として活用する方針を提案し、エリーもそれを支持した。
敵の狙いへの警戒
さらに三人は敵の真の目的について議論した。
ネスタルトは工作員の潜入や破壊工作、あるいは暗殺の可能性を挙げた。標的は自分かエリーである可能性が高いと考えられ、ネスタルトの護衛強化も必要だとの結論に至った。
エリーはネスタルトが領主として着実に成長していることを感じ取っていた。
エリーによる反撃準備
その後、エリーはアンフェール商会でバアルとミレイから報告を受けた。
移民の中には工作員や暗殺者も含まれていたが、エリーは即座に排除せず監視を続けるよう指示した。ただしネスタルトに危害が及ぶ場合のみ排除する方針を示した。
さらにミレイから受け取った資料を確認したエリーは、敵が自分の名まで利用して活動していることを知る。バアルが敵の排除を提案したものの、エリーは敵を利用するつもりであり、楽しく踊ってもらうと語りながら反撃の準備を進めるのであった。
後世に残された記録
後世の記録では、ヒルガディエ男爵領の急激な人口増加は極めて不自然な現象として扱われていた。
当時の資料の多くは後の争乱によって失われており、ネスタルトによる計画的な施策だったとする説や、白銀の魔女が関与していたとする説も存在していた。しかし確実な証拠は残されておらず、今後も調査が必要であると記されていた。
四章《バンデンハーク子爵の終末》
バンデンハーク子爵領商会との交渉
ヒルガディエ男爵領が移民を受け入れてからしばらくが経過し、エリーやネスタルトには工作員が接触してきたものの、その都度問題なく排除されていた。
そんな中、エリーはバンデンハーク子爵領の老舗商会であるヨルガ商会との商談に臨んでいた。領民減少によって経営が悪化したヨルガ商会は、ヒルガディエ男爵領との国際取引に活路を見出そうとしていたが、有益な商材を持たず利益も見込めなかったため、エリーは取引を断った。
交渉後、エリーとミレイは、バンデンハーク子爵領の商会が内輪の商売に慣れ過ぎており、急激な環境変化に対応できていないことを話し合った。
ロットンとの会談準備
午後には重要な会談が予定されていたため、エリーは商館の隣に建設した事務所を使用し、商会員を退避させたうえでミレイとバアルを配置した。
相手の目的が不明であり、戦闘の可能性もあると考えたエリーは、フリューゲルを取り出して警戒を強めながら会談に備えた。
ロットンからの提携提案
会談相手として現れたのは帝国商業ギルド評議会評議員のロットン・フライウォークだった。
ロットンはヒルガディエ男爵家の水運事業に関する詳細な資料を持参し、新たな流通網が帝国内の物流や物価に大きな影響を与えると説明した。その上で、新流通ルート上の宿泊施設や集積施設の運営を引き受ける代わりに事業へ参加したいと提案した。
エリーは契約内容を確認し、問題がないと判断すると、後日ネスタルトへ紹介することを約束した。
腹の探り合い
商談成立後、二人は世間話を交えながら互いの情報を探り合った。
ロットンはヒルガディエ男爵領の活気や王国から流入した移民について話題を向けた。エリーはバンデンハーク子爵領で増税が行われた結果、多くの領民が帝国へ逃れてきていると説明した。
一方でロットンは、王国に関する情報ではエリーの方が優れているのではないかと探りを入れたが、エリーもまた帝国に根を張る商人に過ぎないと応じ、互いに本心を隠したまま会談を終えた。
ロットンへの疑念
ロットンが去った後、バアルが姿を現した。
会談内容は表面的には極めて自然なものであったが、エリーは一つだけ違和感を覚えていた。ロットンほどの人物が、王国に関する情報で自分に劣ると発言したことが不自然だったのである。
エリーはその発言に何らかの意図があるか、あるいはロットン自身が本物ではない可能性すら考え、帝都のガザルへ調査を依頼した。
襲撃計画の実行決定
エリーは調査と並行して、以前から計画していた屋敷への襲撃を決行することを決めた。
ただしロゼリアとの契約に抵触しないよう、町の住民への危害は禁止し、対象も限定するようバアルへ命じた。バアルは了承し、準備のため部屋を後にした。
ネスタルトの期待と決意
その夜、ネスタルトはロットンとの契約書を見返していた。
ロットンの協力によって流通拠点の運営や各地の領主との交渉が大幅に進展すると考え、事業成功への期待を抱いていた。
しかし同時に、依然としてアルテとの婚姻を求め続けるエルクリンデ伯爵の存在を警戒していた。ネスタルトは姉をあの男へ渡すつもりはないと決意を新たにした。
早朝の鍛錬
翌朝、ネスタルトは日課となった鍛錬を行っていた。
軍事顧問グリッツはネスタルトの成長を評価し、当主として自らの剣を持つことを勧めた。ネスタルトはその提案を前向きに受け止め、鍛錬を続けた。
バンデンハーク子爵領の真の狙い
一方その頃、バンデンハーク子爵邸ではウィルソンとジルドが工作の進捗を確認していた。
二人は、ヒルガディエ男爵領で仕事があるという噂を流し、増税と国境警備の緩和によって領民を帝国へ流出させる計画が成功していることを喜んでいた。
しかし彼らの真の狙いは人口流入による混乱ではなかった。増加した人口を養うために必要となる食料供給を掌握し、送り込んだ工作員を使って周辺領主を買収しながら物流を支配することで、ヒルガディエ男爵領を食料輸入に依存させる計画だったのである。
フリード王太子との話もまとまり、自らの将来に不安を感じなくなったウィルソンは、高価なワインを開けながら今後の栄達を夢見ていた。
家臣たちの贈り物相談
ヒルガディエ男爵邸でグリッツに呼び止められたエリーは、自室で相談を受けた。グリッツは家臣一同でネスタルトに剣を贈りたいと考えており、それが失礼に当たらないかを尋ねた。
エリーは、帝国には嫡子へ剣を贈る誓の剣という風習があることを説明し、ネスタルトなら問題なく受け取るだろうと答えた。さらに、家臣たちの予算では一流職人の剣は難しいものの、自身の商会に所属する職人の作品なら用意できるとして、カガリの打った剣を取り寄せることにした。
バアルによる救出作戦
その頃、バアルからの報告が届いた。
バアルたちは王国のある屋敷へ潜入し、標的となる一家を発見した。男は家族を守ろうとしていたが、バアルは敵ではないと告げ、一家を連れ出すために用意していた身代わりの死体を見せた。
その後、屋敷は炎上し、死体によって一家が死亡したように偽装された。バアルたちは子供を抱えた夫婦を連れて町を離れ、帝国へ向かった。
救出後の処遇決定
報告を受けたエリーは、一家の確保に成功したことを確認した。
当面は帝都の屋敷で軟禁しながら保護し、将来的には自分の影響下にある町へ住居と仕事を用意する考えを示した。また、彼らは今後の交渉材料になるため、丁重に扱うようミレイへ命じた。
バンデンハーク子爵領の混乱拡大
難民流入が落ち着き始める一方で、アンフェール商会と取引を行うバンデンハーク子爵領では混乱が広がっていた。
利益を優先した大規模商会がアンフェール商会との取引に注力した結果、領内では生活必需品が不足し始めていた。しかし領主側は対策を講じず、領民の中には移住や反乱を試みる者も現れていた。
エリーは報告を受け、このまま事態を注視するよう指示した。
ネスタルトへの剣の贈呈
帝都から届いたカガリ製の剣を確認したエリーは、その品質に満足し、グリッツへ渡した。
後日、家臣たちは食堂へネスタルトを呼び出し、剣を贈呈した。グリッツは家臣一同がネスタルトの働きに敬意を抱いていることを伝え、その証として剣を贈った。
ネスタルトは感激し、家臣たちの思いを受け取った。エリーとミレイはその様子を見届けると、静かにその場を後にした。その後、ネスタルトは贈られた剣を大切にし、執務中も傍らに置くようになった。
バンデンハーク子爵領への出発
やがてエリーのもとへ待ち望んでいた連絡が届いた。
エリーはネスタルトへしばらく領地を離れることを伝え、ミレイと共にバンデンハーク子爵領へ向かった。
包囲された子爵邸
バンデンハーク子爵領の領都では、怒りを募らせた領民たちが領主の屋敷を包囲していた。
屋敷の中でウィルソンはエドワルドに助けを求めたが、フリード王太子は支持率向上のため地方へ出ており、約束されていた領地替えも実現していなかった。
追い詰められたウィルソンの前に現れたのはエリーだった。
エドワルドの正体
エリーの登場に驚くウィルソンへ、エドワルドは自らがエリーを呼んだことを明かした。
さらに、エリー追放の際に王太子を支持していたように見えたのも、エリーの指示で情報操作を行っていた結果だったと語った。エドワルドは王国内部に残り、フリード派を監視する役目を担っていたのである。
ウィルソンは信頼していたエドワルドの裏切りに愕然とした。
ウィルソンの最期
エリーは、自分が狙っているのは尊厳を傷つけた者たちであり、ウィルソンはたまたま視界に入った存在に過ぎないと告げた。
その直後、屋敷には暴徒たちが押し寄せ始めた。エリーはミレイの幻影魔法で姿を隠し、暴徒に襲われるウィルソンを残して屋敷を後にした。
魔法契約のからくり
屋敷を離れた後、エドワルドはロゼリアとの魔法契約があるにもかかわらず、今回の策で民へ被害が出た理由を尋ねた。
エリーは神器【色欲の魔導書】の力で、自らの認識や記憶を改変していたことを明かした。契約上は攻撃ではなく経済活動と認識していたため、契約違反にならなかったのである。
代償として片目の視力を失っていたが、ミレイの合言葉によって認識を元へ戻した。
エドワルドの本心
エリーは今後の方針を記した手紙をエドワルドへ渡し、ジルドを現地の窓口として任命した。
しかしエリーが去った後、エドワルドはジルドに対し、フリードや王国の情報を渡してエリーの信頼を得るよう命じた。そして、せっかく表舞台から排除したエリーが再び現れたことへの不満を漏らした。
ジルドの寝返り
数日後、ジルドはエリーと面会し、エドワルドの不正と裏切りの証拠を差し出した。
しかしエリーは、それ以上に詳細な証拠を既に保有していた。交渉材料を失ったジルドは、自らの命と引き換えに息子一家の救出を願い出た。
するとエリーは、既に息子一家を救出済みであり、安全な町へ移住させる準備も整っていることを明かした。そして今後は自分のために働くよう命じた。
燕の巣の取り込み
ジルドはエドワルドに従うふりを続けるよう指示を受けた。
彼が率いる情報操作組織『燕の巣』は王国内で大きな影響力を持っており、エリーはジルドを配下に加えることで、その組織ごと取り込むことに成功した。
ネスタルトの魔力暴走
ヒルガディエ男爵邸へ戻ったエリーは、突如として巨大な魔力の放出を感じ取った。
応接室へ駆け込むと、全身を返り血で染めたネスタルトと、瀕死の男がいた。男はエルクリンデ伯爵の使者であり、何らかの言葉でネスタルトの逆鱗に触れたらしかった。
エリーが必要かと尋ねると、ネスタルトは首を振ったため、エリーは氷の刃で使者の首を刎ねた。
ネスタルトの鎮静
魔力暴走状態にあったネスタルトは、エリーが近づくことすら拒絶し、岩の槍や石化の煙を放った。
しかしエリーは攻撃をかわしながら拘束し、魔力暴走を抑えるポーションを飲ませた。その結果、ネスタルトは徐々に落ち着きを取り戻し、ミレイに付き添われて部屋を後にした。
ネスタルトへの理解
後始末の手配を終えたエリーは庭へ出て、ネスタルトの変化について考えた。
人を斬った上で迷いなく不要と答えた姿から、ネスタルトの心には強い憎しみが存在すると確信した。そして、その感情がエルクリンデ伯爵家への報復へ向かうのなら、自分も手を貸すのは悪くないと考えるのだった。
水路の発展と歴史的評価
動乱の時代にネスタルト・ヒルガディエによって築かれた水路は、後の時代には帝国南部の物流を支える重要な基盤となっていた。
水路には大小さまざまな船が行き交い、人や物資が盛んに運ばれていた。また、水路沿いに建設されたホテルや積荷の集積拠点も、水運事業開始当初から原型が存在していたことが語られていた。
地方の小規模な男爵家に過ぎなかったヒルガディエ男爵家が、どのようにしてこれほど大規模な物流網を築いたのかについては、後世の歴史学者たちの研究対象となっていた。
記者の旅と宿への興味
帝国と公国の案内書を執筆している記者の男は、水路を進む客船の中で依頼された原稿の推敲を行っていた。
男は歴史的な考察よりも、《荒野の商人》ルノア・カールトンも宿泊したという由緒ある宿の食事や寝具の質に興味を抱いていた。また、戯曲『荒野の商人ルノア・カールトン物語』にも登場するその宿が、最初に建てられた宿であり、ヒルガディエ男爵家の資本によって建設されたことを思い出していた。
始まりの一太刀へ向かう旅路
目的地まであと数時間となった男は、原稿の草案をまとめると甲板へ出て煙草に火をつけた。
そして宿の名が『始まりの一太刀』であったことを思い出し、武器屋のような変わった名前だと独り言を漏らしながら、ゆっくりと煙草の煙を吐き出していた。
特典ショートストーリー『カールトン商会創業記』
ジョージの過去と境遇
ルノアは、自分を助けた青年ジョージから事情を聞いた。ジョージは仕事上の失敗によって仕えていた貴族から切り捨てられ、さらに暗殺者に追われて森へ逃げ込んでいたのであった。
ただし、その貴族とは別派閥であるレブリック辺境伯領にいる限り危険は少なく、ジョージ自身も今となっては縁が切れてよかったと語っていた。ルノアとの会話を通じて気持ちの整理がついたのか、ジョージの表情は次第に明るさを取り戻していった。
商人ルノアへの驚き
ジョージはルノアが冒険者ではなく商人であると知り驚いた。ルノアは師匠から商人なら自分の身を守れるだけの力を身につけるよう教えられたため、戦闘能力を鍛えていたのである。
さらにルノアは、師匠から渡された資金を増やす課題として、新たな事業の構想を進めていることを明かした。
物流事業への参加希望
ルノアは構想をまとめたメモ帳をジョージに見せた。内容を読んだジョージは、この計画が成功すれば大きな利益を生むと確信し、自分を雇ってほしいと申し出た。
ルノアはまだ半人前の商人だと遠慮したが、ジョージはルノアが常に相手を観察し警戒していることから、すでに一人前の商人としての資質を持っていると評価した。
ジョージの失敗と決意
ジョージは以前、仕えていた貴族の命令で強引な交渉を繰り返していたことを語った。その中で、交渉相手を怒らせるために女商人を侮辱したところ、その相手が大商会の会長であったため、領地に経済的な打撃が及ぶ危険が生じ、自分だけが責任を負わされて切り捨てられたのであった。
その経験から、ジョージはルノアの事業に将来性を見出し、報酬が少なくても協力したいと強く望んだ。
カールトン商会の誕生
ジョージから計画の規模と利益の大きさを説明されたルノアは、自分の構想が想像以上に大きな事業であることを知って戸惑った。しかし利益が見込める以上、挑戦する価値があると判断し、ジョージを受け入れた。
するとジョージはすぐに商業ギルドへ向かい商会を設立するべきだと主張し、ルノアを会長として扱い始めた。戸惑うルノアだったが、勢いに押される形でジョージと共に商業ギルドへ向かい、新たな商会設立へと動き出したのであった。
その後、ジョージはルノアの所属する商会と師匠の名前を知り、その事実に顔面蒼白となったのであった。
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