物語の概要
ジャンルおよび内容
本作は、ゲーム的な知識を武器に転生した重騎士が、異世界で無双を目指す異世界転生/ファンタジー漫画である。主人公を含む冒険者パーティが、モンスター討伐やクエスト攻略、スキル運用・装備強化といった“ゲーム的設計”を現実世界に近い異世界で実践していく。第12巻では、物語のクライマックスに近づき、A級冒険者「カロス」が本性を現し、主人公側は持てる全てを結集して死力を尽くす“総力戦”へと突入した。
主要キャラクター
- エルマ(※訳注:主人公格重騎士):ゲーム知識を活かして「重防御職」から転じ、多彩なスキル・装備運用を行う重騎士。仲間への支援と自身の戦闘力両面で成長を遂げる。
- ルーチェ:エルマのパーティ仲間であり、支援・攻略面での立ち位置を担う。第12巻では連携プレイによる“共闘”の鍵を握る。
- カロス:A級冒険者にして「魔剣士クラス」「対人戦最強」と称される強敵。第12巻にて本性を露わとし、主人公たちにとって最大の試練となる。
物語の特徴
本作の魅力は、典型的な“異世界転生+チート無双”の枠組みを取りながらも、「ゲーム知識を現実の異世界に適用する」というメタ的な設定を軸にしている点である。装備グレード、スキルシナジー、クラン・パーティ編成など“RPG的思考”が細かく描写され、読者にとっての“攻略感”を感じさせる。また、第12巻では単純なモンスター討伐ではなく、冒険者同士・クラン同士の駆け引きや“死力を尽くした総力戦”というスケール感が強く、他の作品と差別化されている。「防御特化から攻撃特化へ」「パーティメンバーの連携強化」といった成長戦略も鮮明で、読者に“手応えある戦闘”と“物語の盛り上がり”を提供している。さらに、アニメ化決定・累計200万部突破という商業的な成功も、本作の現在性・注目度を裏付けている。
書籍情報
追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する(12)
著者:武六甲理衣 氏
原作:猫子 氏
イラスト:じゃいあん 氏
出版社:講談社
レーベル:ヤンマガKCスペシャル
連載:ヤンマガWeb
発売日:2024年12月6日
ISBN:9784065379042
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あらすじ・内容
凶悪ビルドの魔剣士を、共闘連携で打ち破れ! 覇権作品堂々漫画化第12巻!!
本性を露わにしたA級冒険者カロス。対人戦最強と言われる魔剣士クラスに加え、
強力なシナジーを活かしたスキルで構成された最強の相手に、
エルマたちは持てる全てを結集させて死力の総力戦を仕掛ける!!
感想
カロスの言葉は中身が薄く、求めているのは「戦いの愉楽」だと判明した。背後の組織より自己の高揚を優先する姿勢が、以後の不穏さを示した。
〈ダークブレイズ〉と高速連撃に対し、エルマは影拘束と受け流しで間合いを作り、ルーチェとケルトの挟撃で一時的優位を得た。力押しでは届かず、知略連携が要となった。
カロスは禁忌装備〈苦痛の首飾り〉〈黒縄剣ゲヘナ〉で毒を回復へ反転する“対人特化ビルド”であった。A級相当の不死性が露見し、戦況は再び拮抗した。
封魔を付与した矢で毒循環を断ち、エルマが胸部へ再度の一撃を通して勝機を掴んだ。カロスは「夢神の尖兵」への忠誠を口にしつつ自ら黒炎で消滅した。師弟の断絶とヒルデの慟哭が余韻を残した。
組織の全貌は掴めず、転生者級の知識を持つ者が暗躍する可能性が濃厚となった。エルマ単独の力では厳しさが増すと感じられ、さらなる成長の必然性が示されたのである。
〈水没する理想都〉の再攻略では、スノウが的確に采配し、連携火力で〈夢の主〉を討伐した。総力戦の最適解を選ぶ運用が機能し、物語は“知で勝つ”方向性を強めた。
侯爵家の歓待で、エルマの知識と「尖兵」の情報源が探られた。貴族権力と異端組織の接点が仄めかされ、エルマの父の思惑も含め政治劇の火種が置かれたと見える。
禁断の大森林での実験疑惑が浮上し、北方貴族は「尖兵」との戦争を宣言した。大討伐は魔物駆逐に留まらず、知識・技術の出所を巡る政治戦へ拡張した。
総括
謎の組織と“ゲーム知識保持者”の存在が緊張を跳ね上げ、力任せでは突破できない段階に入った。エルマは連携とビルド対策で活路を開いたが、次は格上の知と権力への対処が要る。父の企図と転生者級の敵が絡むなら、成長とスキル更新は不可避であり、次巻への期待は大きい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
エルマ
冷静な分析と前衛適性を併せ持つ重騎士である。仲間の生存を最優先し、戦術連携を主導する立場である。
・所属組織、地位や役職
エドヴァン伯爵家の出身者である。冒険者である。
・物語内での具体的な行動や成果
〈影踏み〉や〈パリィ〉で間合いを制し、〈ライフシールド〉と〈死線の暴竜〉で攻撃力を増強した。〈不惜身命〉を選択して正面突破を敢行した。カロスの〈毒ダメージ反転〉を看破し、封魔矢の作戦を事前に指示した。〈夢の主〉討伐戦では前衛として包囲を維持した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
カロス討伐の戦果でレベルが上昇した。ハウルロッド侯爵家から公式に招待を受け、情報面でも評価を得た。
ルーチェ
高機動とクリティカル特化の攻撃役である。エルマの指示で死角からの決定打を狙う。
・所属組織、地位や役職
冒険者である。
・物語内での具体的な行動や成果
〈ドッペルイリュージョン〉で撹乱し、〈ダイススラスト〉で確定クリティカルを叩き込んだ。〈竜殺突き〉で〈夢の主〉に致命打を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
挟撃連携の要として信頼を得た。負傷後も戦線復帰し士気を維持した。
ケルト
弓と接近格闘を併用する機動支援である。味方救出と好機創出に長ける。
・所属組織、地位や役職
冒険者である。
・物語内での具体的な行動や成果
〈脱兎〉と〈影沈み〉でメアベルを救出した。〈アサシンアタック〉でカロスに有効打を与えた。封魔の〈エンチャントアロー〉に〈ポイゾプロテクト〉を載せ、毒反転機構を無効化した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
身を挺した護衛で信頼を高めた。射撃支援の要として評価が上がった。
メアベル
回復と防御術式を担う僧侶である。迅速な結界展開で致命傷を防ぐ。
・所属組織、地位や役職
冒険者である。僧侶である。
・物語内での具体的な行動や成果
〈マナバリア〉で黒炎を阻止した。〈ポイゾプロテクト〉を矢に付与し、敵の回復ギミックを封殺した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
支援魔法の運用で作戦成功に寄与した。隊の生存率に直結する役割を確立した。
カロス
A級の称号を持つ魔剣士である。対人特化の自傷強化型構成を採用する強敵である。
・所属組織、地位や役職
〈黒き炎刃〉に所属した。〈夢神の尖兵〉に通じた。
・物語内での具体的な行動や成果
〈ダークブレイズ〉と〈クリムゾンウェーブ〉で圧力をかけた。〈苦痛の首飾り〉と〈黒縄剣ゲヘナ〉で毒反転回復を成立させた。最終局面で自壊し情報を遮断した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
裏切りが露見し討たれた。師弟関係の誤解を残し、組織の実在を示す証左となった。
ヒルデ
カロスに私淑していた若手冒険者である。戦後に誤解と対峙した。
・所属組織、地位や役職
冒険者である。
・物語内での具体的な行動や成果
戦闘終結時に一団へ詰問した。カロスの最期の言葉を受け取り、敵対を回避した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
師の死を経て関係を整理した。感謝の言葉を残して退場した。
スノウ
ハウルロッド侯爵家の次期当主候補である。前線指揮で統率を示す。
・所属組織、地位や役職
ハウルロッド侯爵家・後継候補である。大規模依頼の指揮官である。
・物語内での具体的な行動や成果
〈水没する理想都〉再攻略で退避と攻勢の切り替えを適切に指示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
実戦指揮で評価を上げた。公的晩餐で功績の顕彰に立ち会った。
ハウルロッド侯爵ハーデン
北方有力貴族である。実利重視の政治判断で局面を動かす。
・所属組織、地位や役職
ハウルロッド侯爵である。北方貴族会議の主催者である。
・物語内での具体的な行動や成果
カロス事案を報告し、〈夢神の尖兵〉との戦を宣言した。私兵と報酬でレイドを支援した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
作戦資源の供出で影響力を示した。情報収集の窓口として発言力を強めた。
アイザス・エドヴァン
エドヴァン伯爵家当主である。武の矜持を掲げる当事者である。
・所属組織、地位や役職
エドヴァン伯爵家・当主である。
・物語内での具体的な行動や成果
北方会議で貴族の在り方を主張した。大討伐への備えについて応酬した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
戦力不足を指摘され外圧を受けた。上級冒険者の外部調達を容認する局面に立った。
カリュブディス(〈夢の主〉)
存在進化を果たしたダンジョンボスである。高い再生力と多肢で戦線を攪乱する。
・所属組織、地位や役職
〈水没する理想都〉の支配存在である。
・物語内での具体的な行動や成果
レベル90相当として出現した。包囲戦で触手を用いて抵抗した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
再攻略戦で討伐された。討伐成功により依頼は収束へ向かった。
イザベラ
ハウルロッド侯爵家の関係者である。来賓対応で進行を補佐する。
・所属組織、地位や役職
ハウルロッド侯爵家・館の実務担当である。
・物語内での具体的な行動や成果
来訪したエルマらを出迎え、場の意図を代弁した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
式次第の円滑化に寄与した。発言で場の硬直を緩和した。
展開まとめ
第100話
違和感と見抜き
エルマはカロスの語る内容に空虚さを感じていた。自らの在り方に酔っているように見えても、その言葉には本質的な関心が欠けていた。彼は人から聞いたことを繰り返しているような印象を受け、そこに違和感を覚えた。エルマは最終的に、カロスが求めているのは「戦いを楽しむこと」だと見抜いた。
カロスの目的と挑発
カロスは背後の組織に関心を示すことなく、己の強さを十全に発揮できる“最後の目標”を求めていた。彼にとって重要なのは信念ではなく、戦いそのものを愉しむことだった。カロスはエルマに向けて「せいぜい楽しませてくれ」と言い放つ。
黒炎の発動
カロスは剣を掲げ、魔法陣を展開。四つの黒炎を生み出し、それらをエルマたちへ放つ。エルマはそれが追尾機能を持つスキル〈ダークブレイズ〉であると即座に見抜いた。
回避と分断
エルマは遮蔽物を盾にして一撃をしのぎ、仲間のルーチェとケルトは機敏な動きで追尾を振り切った。しかし僧侶メアベルは速度が足りず、炎が迫る。
救出と潜行
ケルトが〈脱兎〉でメアベルのもとに跳び、彼女を抱えて〈影沈み〉を発動。二人は影の中に潜り、黒炎の爆発を回避した。炎は地面に落ちて爆ぜ、爆炎が広がる。だが、影潜りは攻撃無効化ではなく、着地点が悪ければ命を落としていた危険な回避であった。
裏切りの英雄カロス
カロスは笑みを浮かべながら、エルマたちの連携を称賛した。動きは的確で、互いへの信頼も見て取れたと語るが、同時に二人を仕留め損ねたことを残念がった。彼の所属する〈黒き炎刃〉が裏切り者だったという事実は、エルマの想定の中でも最悪の展開であった。
想定外の強敵
カロスはA級冒険者の中でも「英雄」と称される存在であり、レベル差は圧倒的だった。数の利があっても攻撃は通らず、逆に一撃でも受ければ致命傷となる。命が一つしかない現実世界で、己の才覚のみでA級に到達した実力が脅威と化していた。
ためらいと後悔
エルマはカロスが裏切る可能性を考慮していたが、仲間に共有できずにいた。憧れの英雄を疑うことができなかったのだ。そのため、事前準備や戦力の動員ができなかったことを悔やむ。カロスは冷たく「さて、誰から行こうかな」と呟き、次の瞬間上空へと跳躍した。
奇襲と迎撃
ケルトがカロスの姿を見失う中、ルーチェの頭上に刃が迫る。エルマの警告でルーチェは〈ドッペルイリュージョン〉を発動し、分身で回避を試みたが、カロスは高速の連撃で分身を次々と消し去った。彼は「三分の二を外したか、意味はないけどね」と余裕を見せる。
盾の防御と一撃の衝撃
カロスの攻撃がルーチェを狙う中、エルマが飛び込み盾で受け止める。〈マジックガード〉を展開して防御力を強化するも、衝撃に耐えきれず吹き飛ばされる。ルーチェが叫ぶ間もなく、カロスは冷ややかに次の標的を定めた。
影踏みの反撃
吹き飛ばされながらもエルマはカロスの影を踏み、〈影踏み〉でわずかに動きを封じることに成功。その隙にルーチェが〈竜殺突き〉を放つが、カロスは容易く受け流す。大振りすぎると指摘し、「対人戦ではそんな攻撃は通じない」と笑う。
戦闘の温度差
カロスはこの戦いを本気ではなく、あくまで「遊戯」として楽しんでいた。エルマたちが命懸けで挑む中で、彼だけが余裕と冷静さを崩さず、戦場を支配していた。
死線の覚醒
エルマは限界まで追い込まれながら〈ライフシールド〉を展開し、生命力を防壁へと転化した。HPを削ることで〈死線の暴竜〉の発動条件を満たし、身体から赤い光を放ちながら攻撃力と速度を倍増させる。リスクの高い賭けであったが、仲間の犠牲を避けるためにはこの一手しかなかった。
第101話
決死の対抗策
カロスの強さは過去に対峙したどの敵よりも圧倒的で、正面から挑めば全滅は必至だった。エルマは〈燻り狂う牙〉を組み込んだ戦術で、ルーチェの〈死神の凶手〉と連携し、格上の冒険者にも通用する一撃を狙う。彼の目的は、カロスの攻撃リソースを引き付け、味方の行動機会を確保することにあった。
英雄の驚愕
赤光を纏ったエルマの姿を見たカロスは、「まさか〈燻り狂う牙〉を能動的に組み込むとは」と驚愕し、興味を示した。彼はこの世界の仕様を深く理解しており、単なる技量頼みの戦士ではないことが判明する。エルマはその底知れなさに恐怖を覚えつつも、影を踏み締め〈影踏み〉で動きを封じ、渾身の一撃を放つ。
連携の再構築と反撃の兆し
エルマは正面からカロスに突進し、重騎士として唯一その剣圧を受け止め得る立場を取った。カロスは余裕を崩さず挑発的な笑みを見せたが、エルマは〈パリィ〉で軌道を逸らし、正面からの力勝負を避ける。
賭けの一撃とクリティカル発動
上空からルーチェが〈ダイススラスト〉を発動。六の目を引き当て、確定クリティカルを得る。さらに〈奈落の凶刃〉の効果でダメージが倍増し、カロスを押し返すことに成功した。さすがのカロスも受け流しきれず体勢を崩し、わずかに驚きを見せる。
連続攻撃の隙を突く策
死角からケルトの矢が飛び、カロスは首を傾けて回避。しかし、その回避動作を読んでケルトが〈アサシンアタック〉を繰り出し、風切り音を利用して接近。蹴りでカロスの側頭部を打ち抜くことに成功する。直後の剣撃は反動を利用して回避し、無傷で離脱した。
士気の上昇と連携の再確立
ケルトの一撃は決定打ではないが、パーティーの士気を大きく高めた。カロスの優勢に押されていた戦場の空気が変わり、エルマは即座に指示を飛ばす。「ルーチェは背を取れ、俺が正面を叩く」と。ルーチェが後方に回り込み、暴竜と死神の挟撃態勢が完成した。
暴竜と死神の挟み撃ち
攻撃特化の重騎士とクリティカル特化の道化師が、正面と死角から同時に襲いかかる構えを取る。仲間の連携が完全に噛み合い、かつてないほど戦意を高めた彼らが、ついに英雄カロスを包囲する構図が出来上がった。
戦況の均衡と反撃の兆し
エルマは〈ライフシールド〉を展開し、生命力を防壁に転化した。意図的にHPを削ることで〈死線の暴竜〉の発動条件を整え、攻撃力と速度を倍化させた。ルーチェやケルトと連携し、圧倒的な力量差を埋める戦術に出た。カロスはその判断に興味を示し、同時にエルマの力量を認める発言を残した。
協調攻撃と優勢の獲得
ルーチェの〈ダイススラスト〉がクリティカルを引き、ケルトが〈アサシンアタック〉で追撃。これによりカロスの体勢が一瞬崩れ、士気は大きく上昇した。エルマは前衛として正面から受け、ルーチェは死角を取る挟撃態勢を構築。暴竜と死神の二重攻撃が形となった。
優位の確立と不穏な兆候
主導権は一時的にこちらへと移ったが、カロスのスキル構成は依然不明のままだった。彼は戦況を静観しながら「本当にいいパーティーだ」と笑い、赤く輝く剣を掲げる。直後、広範囲炎撃〈クリムゾンウェーブ〉が放たれ、全方位に獄炎が広がった。エルマは即座に盾で防御し、爆炎を利用して距離を取る。
決死の攻防と新たな脅威
カロスはさらに四つの黒炎を浮かべ、追尾型魔法〈ダークブレイズ〉を発動した。彼は「まずは確実に一人落とす」と宣言し、標的を分散させる。ルーチェを追う炎と、エルマへ向かう三発が同時に動き出す中、エルマは全てを引き受ける覚悟で前に出る。カロスは剣を構え、殺意を露わに突進した。
第102話
黒炎の猛威と隙の発見
カロスが〈ダークブレイズ〉を発動し、四つの黒炎が追尾する。ルーチェを狙う一発と、エルマへ迫る三発が同時に動き出した。エルマは雷を纏って地面を蹴り、迎撃の構えを取る。黒炎の中を縫うように突進し、カロスの剣撃を〈パリィ〉で受け流すことで接近戦へと移行した。
術者の弱点を突く一手
エルマは〈ダークブレイズ〉の追尾が甘くなる特性を利用し、跳躍してカロスを飛び越える。黒炎が標的を見失い、カロスの周囲に墜落。その爆炎を避けるため、カロスは後退を余儀なくされた。エルマはその隙を逃さず、〈影踏み〉を発動して動きを封じ、連撃を浴びせた。
重騎士の反撃と体勢崩し
カロスは自らの魔法に巻き込まれかけながらも笑みを浮かべ、「重騎士の動きか」と驚嘆を漏らす。エルマは〈当て身斬り〉を放ち、さらに〈影踏み〉の拘束で体勢を崩す。カロスはついに膝をつき、攻防の主導権がエルマ側へと傾いた。
死線を越えた連携攻撃
カロスが立て直しかけた瞬間、ルーチェが跳躍して突撃する。彼女は〈ダイススラスト〉を選び、運命のサイコロが【6】を示した。クリティカル発動により、ナイフはカロスの防御を貫き胸を裂いた。カロスは膝をつきながら呻き、血を流す。
勝利の確信と昂揚
致命打を与えたルーチェは震える手でナイフを握りしめ、「やりました!」と叫ぶ。メアベルも「このまま行けば勝てる」と声を上げ、パーティー全体が勝利を目前にした高揚に包まれた。
違和感の発生と戦況の分析
ルーチェの一撃で倒したかに見えたカロスが立ち上がり、敗北を認めるような仕草を見せた。だがエルマは戦況に違和感を覚えていた。A級冒険者がこの程度で致命傷を負うはずがないと推測し、「上手く進みすぎている」と警戒を強めた。剣筋や立ち回りの不自然さから、カロスの技量とレベルが釣り合っていないことを見抜く。
カロスの変貌と敵意の顕在化
カロスは苛立ちを露わにし、エルマたちを「恵まれた貴族」と罵倒した。自身の過去と階層への憎悪をぶつけ、「お前のような人間が一番嫌いだ」と叫ぶ。激しい怒気とともに魔法陣を展開し、新たな武装を呼び出す。
禁忌の装備〈苦痛の首飾り〉と〈黒縄剣ゲヘナ〉
カロスの首には拷問具のような首飾りが現れ、胸元の魔法陣からは黒い瘴気を放つ剣が抜き出された。それぞれ強力な能力を持つ代償として使用者に継続的な苦痛と猛毒を与える、いわば“自傷強化型”の装備であった。
魔剣士ビルドの真の姿
これまでカロスのスキルツリーが見えなかった理由は、彼が通常のスキルではなく装備効果に依存した構成を取っていたためであった。〈苦痛の首飾り〉で受けるダメージを倍化させ、〈黒縄剣ゲヘナ〉でその痛覚を攻撃力に転化する。魔剣士の中でも極端な“対人最強格”のキャラビルドであり、ゲームでも忌避されていた戦術である。
再生と恐怖の兆候
ルーチェの攻撃で刻まれた致命傷が、黒い煙と共に癒えていく。彼の体表には呪詛のような紋様が浮かび上がり、周囲を覆う瘴気は増大。エルマはそれを見て、完全に状況を誤認していたことを悟る。
対人特化型の覚醒と戦闘再開
カロスは瘴気の塊に包まれ、背後に異形の影を具現化させる。これは〈マジックワールド〉においても最凶と呼ばれた“対人最強格キャラビルド”の発動であり、もはや常人の戦闘ではない領域に達していた。彼はエルマに視線を向け、「その剣をどこで手に入れた」と問うエルマに、「茶番はここまでだ、あの御方のためにも」と冷ややかに答え、完全な殺意を解き放った。
第103話
違和感の発覚
戦闘の最中、エルマは戦況に異常を察知していた。カロスの受けたはずの致命傷が急速に癒えており、動きもA級冒険者の技量としては不自然なほど粗雑であった。
カロスの正体提示
カロスは自嘲気味に笑みを浮かべ、苦痛の首飾りと黒縄剣ゲヘナを取り出した。どちらも強力なデメリットを伴う禁呪級装備であり、同時に身に着けた瞬間、禍々しい瘴気が周囲を覆った。
装備とスキル構成の解説
カロスの構成は〈魔人の剣戟〉〈ポイゾウーズの心〉〈彫像の天使〉の三系統から成る複合スキルツリーであった。毒ダメージを回復へ反転させる特性と最大HP上昇、さらに持続回復を重ね、猛毒を利用して攻撃力を極限まで引き上げる構造である。
これは〈マジックワールド〉においても「毒ゾンビ型魔剣士」として知られた危険な戦術であり、通常の手段では撃破が困難とされていた。
不死性の発動
〈苦痛の首飾り〉によって倍化した毒が、〈毒ダメージ反転〉の効果で回復へ変換され、カロスの傷を瞬時に癒やしていく。さらに〈祝福の聖歌〉による神聖魔法が重なり、完全な持続回復状態へと移行した。
戦術の再構築
エルマは冷静に状況を分析し、正面突破を選択した。防御力を捨て攻撃力を倍化させる〈不惜身命〉を発動し、ルーチェとの連携による同時攻撃で勝機を見出そうとする。回復役メアベルの突入は即座に制止し、後衛支援に専念させた。
死闘の激化
ケルトの放つ矢も瞬時に癒え、カロスは無表情のまま前進を続けた。毒と回復を循環させる不死の体は、もはや常識的な戦闘法では崩せない。
エルマは渾身の一撃を構え、カロスは黒縄剣を掲げながら冷笑する。
激突の終端
両者は〈背水の陣〉の構えで斬り結び、黒と青の光が交錯した。
カロスが「掻き消えろ、エルマ」と叫ぶ中、戦闘は新たな段階へ突入していた。
毒竜斬撃波の発動
カロスが〈毒竜斬撃波(ヒュドラブレイク)〉を放ち、地を裂くような紫の斬撃が放たれた。エルマは即座に後方へ跳び、〈ライフシールド〉で直撃を防いだものの、盾は砕けて毒の影響を受けた。軽度の毒状態により動きが鈍る中、戦況はさらに厳しくなった。
分身を用いた反撃
エルマが態勢を立て直す間、ルーチェは〈ドッペルイリュージョン〉で分身を作り、逃げ回りながら時間を稼いだ。カロスは分身の動きから本体を見抜き、斬撃で分身を破壊する。しかし、これはブラフであり、ルーチェは背後から〈竜殺突き〉を放った。だが、カロスは裏拳で反撃し、ルーチェを吹き飛ばした。
再連携の構え
ルーチェは悔しさを滲ませながらも立ち上がり、エルマと合流した。エルマは「焦るな、狙うのは暴竜と死神の同時攻撃だ」と指示し、無理な単独攻撃を抑制した。二人は再び息を合わせ、次の好機を伺う。
カロスの狙い変更
カロスは冷静に状況を分析し、「エルマから落とすのは難しい」と判断。万一の脅威を避けるため、狙いをルーチェへと切り替えた。彼の掌には再び黒炎が集まり、〈ダークブレイズ〉が展開される。
黒炎の標的
四つの黒炎がルーチェを狙って放たれた。カロスは嘲るように笑い、「彼女から狙うしかない」と言い放つ。エルマが「お前……!」と叫ぶ中、ルーチェの表情には動揺が走り、次の瞬間、黒炎が迫る場面で幕を閉じた。
第104話
黒炎への対抗策
ルーチェは四発の黒炎〈ダークブレイズ〉を前にしても怯まず、「その黒い炎の対処法は先程エルマから学んだ」と宣言した。彼女は華麗な動きで黒炎の進行軌道を誘導し、術者であるカロスとの間に射線を作って干渉を狙った。小柄な体格と高い機動力を活かし、黒炎の追尾性能を削ぐことに成功した。
自傷覚悟の突進
しかし、カロスはその戦法を見切り、自身の黒炎を受けながらも前進を強行した。〈毒ダメージ反転〉によって自傷を回復へと変換するため、爆炎を恐れずに突撃したのである。カロスの剣がルーチェへ迫り、ルーチェは必死にナイフで受け止めるも、黒炎の追撃を受けて爆炎に巻き込まれた。
仲間の救援と大技の兆し
吹き飛ばされたルーチェのもとへカロスが迫るが、背後からエルマが斬撃で割って入る。カロスは剣を振り上げて防ぎ、戦闘の主導権を維持した。
カロスの剣身には赤紫の光が宿り、広範囲殲滅技〈クリムゾンウェーブ〉の発動が予兆された。もし放たれれば、地に倒れるルーチェは逃れられない状況であった。
ケルトの決断
その瞬間、ケルトがルーチェを抱き上げ、退避行動に移った。彼は「俺にはこんなことしかできねえ」と叫びながら全力で走り、エルマは〈シールドバッシュ〉を発動してカロスの攻撃を逸らし、ケルトの逃走を援護した。
エルマは盾の反動を利用して自らも後方に飛び、迫る炎熱の波を回避した。
犠牲と守護
爆炎が収まると、ルーチェを庇って地に伏すケルトの姿があった。背中は焦げ付き、皮膚が焼け爛れていたが、彼は微笑を浮かべ「ルーチェはちゃんと守った」と呟いた後、力尽きて崩れ落ちた。
メアベルは悲鳴を上げ、二人へ駆け寄りながら「ルーチェさん、ケルトさん!」と叫び、戦場に緊迫が走った。
毒に蝕まれた抵抗
エルマはルーチェとケルトが戦線復帰できない中、単身でカロスを引き付ける覚悟を固めた。体力も魔力も限界に近く、状態異常〈毒(小)〉に侵されながらも前へ出た。彼はメアベルに「ケルトを頼んだぞ」と叫び、仲間を託して突撃した。
決死の攻防と挑発
カロスは「一人で耐えるつもりか」と冷笑しつつ攻撃を仕掛けた。エルマは〈パリィ〉で受け流しながら「お前自身は大したことがない」と挑発し、敵の冷静さを削ごうとした。毒で動きの鈍ったエルマに対し、カロスは剣速を上げ、苛烈な連撃を繰り出した。
絶技の予兆と追い詰められる戦況
カロスは「じきに〈毒竜斬撃波〉のクールタイムが終わる」と宣告し、再び必殺技の発動を示唆した。エルマはその一撃を避けられぬと悟り、立て直しの猶予を得るために〈マジックガード〉を発動し、残るMPを全て注ぎ込んだ。
一撃必殺の突き
〈マジックガード〉によって攻撃を相殺した瞬間、エルマは盾を手放し、剣を突き出してカロスの胸部を狙った。不意を突かれたカロスは防御が遅れ、胸を深く貫かれた。致命傷には至らなかったが、勢いで吹き飛ばされ膝をついた。
逆転の兆しと仲間の援護
カロスは「馬鹿め、私は回復できる」と嘲笑し、再び剣に毒炎を纏わせた。〈毒竜斬撃波〉のクールタイムが解け、必殺の赤紫の光が迸った。しかし、その肩に一本の矢が突き刺さる。矢から白い光が放たれ、剣を包んでいた毒の輝きが消えた。
封魔の矢と仕組まれた策
矢は〈魔法付与の矢(エンチャントアロー)〉であり、メアベルの白魔法〈ポイゾプロテクト〉が封じ込められていた。ケルトが放ったその矢は、カロスの毒を打ち消し、彼のスキル発動条件を無効化した。ケルトは弓を構えながら「これでいいんだよな」と呟き、メアベルは静かに魔力を注ぎ込んで矢に力を与えた。
戦略の全容
この策はエルマが事前に二人へ指示していたものである。カロスのスキル構成が毒ゾンビ型である可能性を警戒し、毒無効化魔法を矢に付与する戦法を仕込んでいた。〈ポイゾプロテクト〉は対象を一定時間毒から守る効果を持ち、〈黒縄剣ゲヘナ〉の回復反転機構を封じる鍵でもあった。
形勢の逆転
毒を失ったカロスは動揺し、剣を振り上げたまま攻撃を中断した。エルマはその隙を逃さず突撃し、カロスの防御を弾いて胸部に再度の一撃を叩き込んだ。カロスの身体は大きく後退し、地に膝をついた。
黒炎の終焉
胸を押さえたカロスは血を吐き、「有り得ない……この私が、格下相手に」と呟いた。彼の剣からはもはや黒炎も毒光も消えており、全身を覆っていた異様な気配も霧散していった。
エルマは疲労困憊の中で剣を構えたまま立ち、勝利を確信した。
第105話
カロスの崩壊と回想の始まり
胸を貫かれたカロスは、よろめきながら立ち尽くしていた。戦場に静寂が訪れ、遠くで鳥の群れが飛び立つ中、彼は虚ろな目で自らの敗北を受け入れつつあった。意識が遠のく中、過去の記憶が脳裏に蘇った。
幼少期と〈加護の議〉
カロスの故郷は海沿いの小さな街であった。古びた教会で〈加護の議〉を受け、クラス「魔剣士」としての加護を授かった。攻撃性能に優れた強力な職業と聞かされ、彼は純粋に喜び、英雄への憧れを抱いた。
憧れと傲慢の芽生え
当時の彼は、人を助ける崇高な志よりも「認められたい」「格好つけたい」という虚栄心に支配されていた。夢見がちで傲慢、他者の評価に依存する性格がその原点であった。それが後の悲劇の種となる。
仲間との不和と孤立
魔剣士はパーティー戦に不向きな職であり、個々の方針が衝突しやすかった。カロスはたびたび仲間と対立し、ついにはギルド内で孤立していった。彼の街の冒険者たちも貧困と恐怖に苛まれ、互いを思いやる余裕を失っていた。
冤罪と追放
些細な誤解と利害の不一致が積み重なり、カロスは探索中の窃盗容疑をかけられた。ギルドは彼を切り捨て、盗賊の濡れ衣を着せられたまま、仲間たちからも見放された。彼は失意の中で街を逃げ出すように去った。
流浪と挫折
知識も人脈もない彼は、新たな街で下級冒険者として再起を試みたが、田舎者として嘲られ、都会の冒険者に利用された。日々の失敗と蔑みにより、次第に自信を喪失し、自分には冒険者としての才能が欠けていると悟るに至った。
絶望と憎悪の蓄積
生活は困窮し、努力は報われず、理想は砕かれた。かつて憧れた英雄像は遠い幻想となり、彼の心には世界への憎悪だけが残った。「世界中の人間が憎い」と思い始めたその頃、転機が訪れる。
運命の出会い
路地裏で、カロスはフードを被った謎の人物に声を掛けられた。その人物は「君には凡人にはない才能が眠っている。英雄になれる器だ」と語り、「私には君の力が必要だ」と手を差し伸べた。
カロスはそれが甘言であると理解していた。それでも、初めて「必要だ」と告げられた言葉に胸を打たれた。
堕落の選択
その言葉には強い魔力と威圧が宿っており、抗う余地もなかった。嘘と分かっていながら、カロスは嬉しさを覚え、差し伸べられた手に縋るように従った。彼はその瞬間、英雄への憧れではなく、歪んだ力への渇望によって運命を決定づけられたのである。
絶叫と最後の抵抗
致命傷を負いながらも、カロスは「こんなところで負けるわけにはいかない」と叫び、炎の魔法〈クリムゾンウェーブ〉を放った。彼の渾身の魔力が地を震わせ、赤黒い衝撃波が放たれるが、それは焦燥に駆られた最後の抵抗に過ぎなかった。
エルマの反撃と決着
エルマは跳躍して炎を避け、一気に間合いを詰めた。カロスは「私に近づくなぁっ!」と絶叫して剣を振るうが、エルマの一閃が彼の腕を断ち切る。魔剣〈黒縄剣ゲヘナ〉が宙を舞い、カロスは力尽きて膝をついた。エルマは剣を構え、「これで終わりだ」と告げて止めを刺した。
戦闘の終結と分析
倒れたカロスを前に、メアベルがルーチェを支えながら駆け寄り、ケルトも続いた。ケルトは「エルマ! そんな外道、さっさと殺せ!」と怒号するが、エルマは「それはできない」と制止した。カロスは〈夢神の尖兵〉と呼ばれる、貴族をも凌ぐ知識を持ち、大災害を目的とする組織に属していたためである。
異端組織の存在
エルマは、この組織が何者かの権力者と繋がっている、もしくは自身と同じ「転生者」が関与している可能性を推測した。自分が生前の記憶を保持している以上、他にも同様の存在がいても不思議ではないと理解したのだ。カロスの証言は、世界の根幹に関わる情報であった。
再び襲う黒炎
ケルトは激昂し、「このクソ野郎が!」と叫びながらカロスを罵倒した。カロスは無言のまま地に伏していたが、その背後から突如、闇の魔力が発動する。
「〈ダークブレイズ〉!」という叫びとともに黒炎の弾丸が放たれた。メアベルが即座に〈マナバリア〉を展開し、辛うじて防御に成功する。黒炎は結界に阻まれたが、そこに潜む新たな脅威の存在を、彼らはまだ知る由もなかった。
ヒルデの乱入と誤解
戦闘の終結直後、ヒルデが仲間の冒険者を引き連れて現れた。彼女はカロスの危機を目にし、激昂して剣を構える。「オレの師匠に何やってやがる!」と叫び、エルマ達を裏切り者と断じた。カロスの誤解を解くには状況が悪く、エルマも即座の説得は不可能と判断していた。
師弟の断絶と最期の言葉
カロスは弱々しく口を開き、「最後まで馬鹿なガキだ。君の師匠になった覚えはない」と静かに言い放った。ヒルデは動揺しながらも耳を傾け、カロスは「私は人の師に立てるような真っ当な人間ではない」と告白した。
彼は過去の理想を演じることしかできなかった己を自嘲し、「エルマ、君は私とは正反対の人間だ」と語った。かつて信じた理想を演じることでしか己を保てなかったことを悔い、最後の対話を交わした。
カロスの告白
エルマが「話してくれ、カロス」と問いかけると、彼は過去を語り始めた。
「私はあの御方に救われた。人としての魂を売り、その御方に仕えることを選んだ」と言い、〈夢神の尖兵〉に身を置く理由を明かした。彼にとってその存在は唯一の救済であり、裏切ることは自らの存在を否定することに等しかった。
カロスの掌に巨大な黒炎が生まれ、その中心に魔法陣が展開される。
決断と自己消滅
カロスは「もしあの御方を裏切るというのなら、私は本当に何者でもなくなってしまう」と呟き、暴発寸前の魔法を制御しながら、自らの胸へと放った。その瞬間、黒炎が炸裂し、彼の身体を呑み込んだ。
ヒルデが「師匠ぉぉぉっ!」と絶叫する中、カロスの肉体は消滅し、虚空に灰が舞った。
終焉と報酬
システムの表示が現れ、エルマの視界に「経験値16500取得」「レベル75→80」と告げられた。無機質な通知とは対照的に、ヒルデの慟哭が戦場に響き渡る。煙が立ち上り、戦いの舞台は静寂に包まれた。
師弟の悲劇的な決別と〈夢神の尖兵〉の闇を残したまま幕を閉じた。
第106話
カロス討伐後の行動
エルマ達はカロス戦を終え、ヒルデが率いる冒険者達の護衛を受けながら〈夢の穴〉の出口へ向かった。カロスの裏切りが発覚したため、〈夢の主〉討伐レイドの中止が全冒険者へ通達された。
エルマの謝罪と仲間の応答
エルマはヒルデ達に誤解されたことを詫び、情報伝達の遅れを謝罪した。メアベルは「無理もない」と宥め、ケルトは「最後までタイミングが掴めず頭を抱えた」と愚痴をこぼした。理解が追いつかぬ中でも、ケルトは的確な射撃でカロスの肩を射抜き、〈毒ダメージ反転〉を中断させ、勝利を決定づけた。
戦闘後のやりとり
エルマはルーチェの奮闘を称え、彼女は笑顔で感謝した。メアベルは「先に警告していたら怖がって来ていない」と冗談を言い、ケルトが苦笑して場を和ませた。彼らは犠牲者を出さずに勝利したことを喜び、短い安堵の時間を得た。
ケルトとの密談
その後、ケルトがエルマに接近し、「カロスのスキルツリーを知っていたのか」と問う。エルマは「最悪の事態を想定していたら、たまたま当たった」と答え、ケルトは「本当に底知れない奴だ」と呟いた。
カロスの死と残る謎
エルマは今回の勝利が奇跡的な結果にすぎないと自覚していた。カロスが自害したため、背後組織〈夢神の尖兵〉の情報は得られず、依然として謎のままだった。エルマはこの一件が終わりではなく、新たな陰謀の序章だと察していた。
ハーデン侯爵の洞察とカロスの目的
エルマはスノウ暗殺未遂時のハーデン侯爵の「時間稼ぎ」という言葉の意味を理解する。カロスの真の狙いは〈夢の主〉の第二段階存在進化〈夢壊(ゾーク)〉を人為的に起こすことだった。そのためには多数の高レベル冒険者の命を犠牲にする必要があり、それを実現する手段として〈大規模依頼(レイドクエスト)〉を利用していた。
カロスの計画と破綻
だが、エルマ達が〈嘆きの墓所〉での計画を阻止したため、カロスは次の手段を練る間もなく焦り、再びレイドを企てた。疑いの目が自分に向く前にハウルロッド侯爵家を陥れ、スノウ暗殺未遂を偽装して注意を逸らす。暗殺そのものが目的ではなく、侯爵家の内部抗争を演出することが狙いであった。
結末と侯爵の判断
ハーデン侯爵は早くからカロスを容疑者と見抜いており、事件後に周囲から怪しい気配が消えていたこともその証左だった。侯爵は事態を静観しつつ、事の全貌を見通していたのである。
戦闘後の空気とメアベルの声掛け
カロスの自害により戦闘が終わった後、一行には重苦しい空気が漂っていた。
メアベルは「結果オーライなんよ! まだレイド自体は片付いてないけど、全部終わったらみんなで美味しいものを食べに行くんよ!」と明るく声を上げ、沈んだ雰囲気を払拭しようとした。
しかしその言葉に振り向いたヒルデと目が合い、彼女は言葉を詰まらせる。
ヒルデの沈黙と心情
ヒルデは憔悴した様子で立ち尽くし、表情からは感情の色が消えていた。
目の前で尊敬する人物が裏切り者として散った事実を受け止めきれず、混乱の中にあった。
メアベルは気まずげに名を呼びかけるが、ヒルデは小さく息を吐き「まだ頭が追い付いていないが、別にオレだってこれで逆恨みする程馬鹿じゃねぇよ」とだけ答える。
続けて「さっきの魔弾、悪かったな」と呟き、淡々と前を向いた。
彼女の声は冷たくも、どこか力を失っており、普段の快活さは完全に消えていた。
師弟の記憶と残響
ヒルデの脳裏には、最期の瞬間に語ったカロスの言葉が蘇っていた。
「君がここまで来られたのは、君の才覚と努力の賜物だ」「私は人の師に立てるような真っ当な人間ではないのだから」。
その言葉は、彼女に対する最初で最後の真正面からの賛辞だった。
ヒルデはそれを受け止めきれずに立ち尽くし、複雑な感情を押し殺すように背を向ける。
別れの言葉と静かな終幕
沈黙ののち、ヒルデは背中越しに小さく呟く。
「……あの人を止めてくれてありがとうな」
その言葉には、仲間への感謝と、失った師への惜別が滲んでいた。
エルマたちは黙ってその背を見送り、ヒルデは静かに去っていった。
地面には、風に吹かれながらカロスの形見である徽章が残り、灰となって消えゆく。
第107話
〈水没する理想都〉再攻略の開始
数日後、〈夢の主〉カロスの件を経て再び〈水没する理想都〉の大規模依頼が実施された。目的は〈夢の主〉の討伐である。
今回の指揮官はハウルロッド侯爵家の次期当主候補であるスノウが務め、侯爵ハーデンが依頼者として高額な報酬と自らの私兵を提供していた。戦闘は通常より余裕のある布陣で行われた。
進化した〈夢の主〉との遭遇
敵として出現したのは、〈存在進化〉を果たした“夢の主”カリュブディスであった。
その姿は青い肌の人型上半身と巨大な十の触手を持つ異形であり、レベル90という強大な存在であった。冒険者三十名と私兵による包囲網が敷かれ、作戦通りボス部屋から引きずり出して集団戦に持ち込む。
戦闘指揮とスノウの奮戦
スノウは前線で指示を出し、「ダメージを受けた者は即時に下がって回復を受けろ」と指揮を飛ばす。
かつて声を出すのが苦手だった彼女は、見違えるような統率力を発揮していた。ルーチェはその成長を称えたが、エルマは「本人は気にしているから言うな」と苦笑する。
敵の再生速度が予想以上に速く、エルマは一時〈燻り狂う牙〉の使用を考えるが、スノウが持ち前の判断力で対応を指示した。
ルーチェの突撃と反撃の合図
ルーチェが「私が行きます!」と名乗り出て、エルマの〈シールドバッシュ〉でカリュブディスへ突進。
敵の人型部分の背後に回り込み、「竜殺突き」を放って肉体を貫いた。
巨体が悲鳴を上げてよろめくと、スノウが即座に「今です! 一気に畳みかけてください!」と号令。
冒険者たちが総攻撃を仕掛け、触手を次々と切り落としていく。
〈夢の主〉の討伐と戦闘の終結
ルーチェの一撃を決定打としてカリュブディスは崩れ落ち、戦闘は終結した。
こうして〈水没する理想都〉の攻略は成功を収め、参加者たちは勝利の歓声を上げる。
エルマとルーチェは互いに労いの言葉を交わし、三日後の報告と式典を控えることとなった。
ハウルロッド侯爵家からの招待状
討伐の三日後、エルマとルーチェのもとにハウルロッド侯爵家からの正式な招待状が届いた。
「大規模依頼での功績と勇猛さを称える特別な晩餐を設ける」と記されており、二人は再び侯爵家の館へと向かう。
ケルトたちも招待したいと考えたが、名が記されていないため今回は控える判断を下す。
招待と到着
エルマとルーチェがハウルロッド侯爵邸に再招待され、玄関でイザベラとスノウが出迎えた。短期間での再招待にエルマは礼を述べた。
スノウの挨拶不発
スノウは感謝を伝えようとして言葉に詰まり、イザベラが代弁した。内容は「二度の歓待は功績の証。今回の討伐への貢献に侯爵家として感謝」であった。ルーチェはレイド時との落差に戸惑った。
先行案内の理由
エルマが「次期当主候補が案内役か」と疑問を向けると、スノウは「父が来ると自分のペースで話されるため、無作法だが先に礼を述べたかった」と説明した。前回は父の独演でスノウが置物化していたというWEB描写と一致。
侯爵像の前置き
イザベラは「侯爵は忙しく偏屈で好き嫌いが激しい」と説明。上位貴族相手でも会合をすっぽかす人物であると示し、場が硬直した。
歓待開始
侯爵が満面で再会を喜び、エルマを気に入っていると発言。席に着くやカロス討伐への謝意と、カロスの「面白いスキル構成」への見解を求めた。ルーチェが小声で「竜のような口」と漏らし、エルマが肘で制した。
招待の狙いの示唆
侯爵はエルマがクラスやスキルに詳しい点を追及。エルマは「自分は廃嫡の身で家への怨恨もない」とかわす。ケルトとメアベルが招かれなかったのは、冒険者ではなく“エドヴァン家の人間”としてエルマと話したかったためとエルマが推測(WEB準拠)。
尖兵の情報源への問い
侯爵は「王国が積み上げた加護知識を上回る無名の教団は不思議」とし、エルマの知恵を借りたいと迫る。エルマは「心当たりはない。家のことも勝手に話せない」と回答しつつ、内心では転生者絡みを連想し身構えた。
応酬と牽制混じりの賛辞
侯爵はエルマを「武功だけの親父とは違い、ちゃんと貴族」と持ち上げながら談笑を続行。スノウは歓待の席趣旨から外れる進行に恐縮。エルマは気楽にと応じて場を収めた。
仮説の提示と不穏な示唆
侯爵は〈夢神の尖兵〉の背後について「他国機関」または「国内の悪辣な貴族の子飼い」か、それでなければ「得体の知れぬ何か」と結論。エルマは“この世界を作り物として知る者”の可能性を連想し冷汗を覚えたところで場面が切れた。
第108話
北方貴族会議の趣旨
ハウルロッド侯爵ハーデンが主催する会議は、ベルネット公爵家からの要請に基づく前段調整であった。公爵家から「例の森(禁断の大森林)の魔物の間引き」を行ってほしいとの連絡が入っており、実質的には王家からの命であった。
出席者の顔ぶれ
出席者はハウルロッド侯爵(ハーデン)、ヴェルム・ヴィルス、ヒルマン・ヒーツ、そしてエドヴァン伯爵家当主アイザス・エドヴァンであった。各貴族がそれぞれの立場と戦力を暗に主張する構図が描かれた。
ハーデンの報告内容
ハーデンは自領でA級冒険者が人為的に魔物災害を企てた事件を報告した。該当の冒険者は討伐されたが、その技術と知識の出所が問題であった。特に「夢の穴」を用いる実験や制御に関する知見が外部で再現されうる点を重視した。
「夢壊」と禁断の森の疑念
問題の目的は〈夢壊〉であるとされ、もし〈夢壊〉が現実化すれば甚大な被害が出ると懸念された。ハーデンは、これだけの知識と技術を集めるには実地での実験が必要であり、王家の感知の届かぬ未開拓地、すなわち禁断の大森林で何らかの実験が行われていた可能性を指摘した。
領主同士の応酬
アイザスは討伐の間隔が短い点に疑念を示し、今回の大討伐は誰の意思かを問いただした。ハーデンは自らは調査と報告をしたにすぎないと釈明しつつ、他家の戦力や資源を列挙してエドヴァン家の弱点を暗に指摘した。両者は緊張したやり取りを交わした。
会議の空気と含意
会議は表面的には協調的であったが、各当主の思惑と牽制が交差する場となった。禁断の森での「実験」の可能性と、それに伴う王権・貴族間の責任問題が本討伐の背景事情として浮かび上がった。
結語的示唆
会話の終盤で、禁断の森での実験という仮説が会議の中心命題となり、今後の大討伐は単なる駆逐行為に留まらず、知識・技術の出所を巡る政治的な争点にもなったことが示唆されて終わった。
ハーデンの挑発と圧力
ハーデンは会議の席上で、エドヴァン家の準備不足を指摘し「ベルネット公爵家に顔が立たぬ」と断じたうえで、恩着せがましく「貴殿の指揮する戦力として上級冒険者を見繕ってやる」と申し出た。実際に戦力と資金に余裕のないアイザスは苦渋の表情を見せる。
貴族の在り方を巡る激論
ハーデンが「一騎当千など時代遅れ」と言い放つと、アイザスは激昂し立ち上がる。「自らの手で魔を討ち滅ぼす、それこそが王国の剣たる貴族の本来の在り方だ」と反論し、武を誇る伝統的貴族観を主張した。
これに対しハーデンは、「王家より託された領地を守ることこそが貴族の本質であり、時代に合わせて形を変えるのが当然」と説き、加護に依存し子を追放したアイザスを暗に非難した。
両者の対立の頂点
アイザスは「他家に口出しされることではない」と怒号し、会議場は緊張に包まれる。ハーデンはそれを受け流しつつ、「王家の面子を保つために不足を補う」と言いながらも、冷たく「ノルスン王国の貴族に無能はいらん」と言い放ち、エドヴァン家の立場を脅かした。
討伐の本質と新たな脅威
その後、ハーデンは本題へと移り、A級冒険者カロスの行動を報告する。彼が「禁断の大森林」に頻繁に出入りしていた証言を挙げ、カロスが関係していた謎の教団〈夢神の尖兵〉の存在を明かした。今回の大討伐は、その正体を暴くための戦いであると宣言する。
戦争宣言
ハーデンは会議の結論として、「これは我々北方貴族と〈夢神の尖兵〉との戦争の幕開けである」と告げた。彼の発言は挑発的でありながらも、貴族たちに否応なく戦の準備を強いる形となり、会議は緊迫した空気のまま終結した。
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