物語の概要
ファンタジー小説『無職転生 〜蛇足編〜3 ジョブレス・レッドカーペット』は、異世界転生モノ『無職転生』本編完結後の「蛇足編」第三弾。ビヘイリル王国での決戦を経ての、主人公ルーデウス・グレイラットとその周囲の人々の“その後”を描く短編集「蛇足編」に収録された長編『ジョブレス・レッドカーペット』を主題とする。特に、ルーデウスの息子アルスの駆け落ちを巡る騒動を、ルーデウスとアルス双方の視点で描くファミリードラマ的長編である
ジャンルと内容
- ジャンル:異世界転生ファンタジー、小説/アフターストーリー。
- 内容:人生やり直し型転生ヒーロー・ルーデウスのその後と、家族の絆に生じる危機を描く長編。特に、息子アルスが引き起こす「駆け落ち」事件に焦点を当て、家族という最も身近な関係を通じた温かな葛藤と成長を描写する。
主要キャラクター
- ルーデウス・グレイラット:前シリーズ主人公。ビヘイリル王国での戦いを終え、家族や仲間との静かな日常を取り戻しつつある転生者。
- アルス(ルーデウスの息子):本作の中心人物。駆け落ちを企て、家族の運命を揺るがす騒動を巻き起こす少年。彼の視点から物語は進行し、家族の愛と対峙する。
(※蛇足編シリーズに登場する他キャラも登場するが、本巻では特にこの二人の視点が主軸となる)
物語の特徴
- 視点の二重性:父・ルーデウスと息子・アルス、両者の視点で同じ事件を描くことで、家族の絆と齟齬が交錯するドラマ性を高めている点が特色である。
- “その後”を描く醍醐味:本編で明かされなかった戦後の人生を掘り下げ、特にアルスという次世代にスポットライトを当てることで、新たな“成長物語”として読者を引き込む。
- ファン向け深掘り要素:ルーデウスの書や過去の戦いに続く後日談的要素が盛り込まれ、シリーズファンにとって必読のアフターエピソードとなっている。
書籍情報
無職転生 ~蛇足編~3 ジョブレス・レッドカーペット
(Mushoku Tensei: Jobless Reincarnation)
著者:理不尽な孫の手 氏
イラスト:シロタカ 氏
発売日:2025年06月25日
ISBN:9784046847171
出版社:KADOKAWA(MFブックスレーベル)
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
取り返しのつかない失敗と、その先にある人生と――
ビヘイリル王国での決戦の末、勝利したルーデウス・グレイラット。彼と彼を取り巻く人々のその後を描く物語集『蛇足編』。
シリーズ第三巻は、ルーデウスの息子アルスの駆け落ちを巡る長編『ジョブレス・レッドカーペット』を収録。家族の最も大きな危機がルーデウス・アルスの両視点で描かれる特別編!
決戦の後にも人生は続く――。その先にルーデウスは何を思い、何を為すのか……。
人生やり直し型転生ファンタジー、本編のその後を紡ぐ物語、シリーズ第三弾!
感想
読み終えたとき、まるで恋愛小説を読了したかのような感覚に包まれた。
本巻では、ルーデウスの息子アルスと、その叔母であるアイシャの恋愛模様が中心に描かれていた。
衝撃的であったのは、アイシャ(とアルス)の恋愛譚が一巻まるごと展開されていた点である。しかも、その相手はルーデウスとエリスの息子・アルスであった。
叔母と甥という立場の二人の関係に、戸惑いを覚えざるを得なかった。
初恋に気づいたアルスは、すでに自分たちの想いを抑えきれなくなっていた。
それに応えたいアイシャだったが、二人の前には「叔母と甥」という越え難い壁が立ちはだかっていた。
親戚同士の恋愛を世間(アスラ王国は除く)が受け入れるはずもなく、困難は必至であった。
それでもなお、互いへの想いは強く、困難を乗り越えようとする二人の姿には、心を揺さぶられるものがあった。
特に印象深かったのは、ルーデウスが二人の関係を否定した場面である。
前世のトラウマが刺激されたことが要因であったのだろうが、親戚同士の恋愛に対して強い拒絶反応を示していた。
ルーデウスの苦悩は理解できたものの、その行動がかえって事態を悪化させていた点は、読者にやるせなさを抱かせた。
その結果、アルスはアイシャと駆け落ちをすることとなった。
物語は、二人を追うルーデウスの視点で進行し、最終的にはアルスとアイシャが結ばれる展開を迎えた。
そこに至るまでの道のりは決して平坦ではなく、彼らの恋愛を通して、ルーデウス自身もまた、過去のトラウマと向き合い、内面的な成長を遂げていく過程が描かれていた。
家族の絆、そして恋愛の困難さ。様々な感情が交錯し、単純にはいかない人間関係が本作の大きな魅力となっていた。
『無職転生』本編の後日譚にあたる蛇足編は、戦闘シーンにとどまらず、家族関係や人間模様といった日常的なテーマに焦点が当てられており、キャラクターたちの感情がより深く伝わってきた。
今回の『ジョブレス・レッドカーペット』は、恋愛要素が特に強調されており、『無職転生』の新たな側面を味わえる一冊であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
展開まとめ
『ジョブレス・レッドカーペット』
一.「四九九年」
森を逃げる男と追跡者の正体
甲龍歴四九九年、かつてルーデウス・グレイラットが死亡して十八年が経過した。中央大陸北部の無名の森で、ある男が命からがら逃走していた。彼はアスラ王国の間諜であり、鬼神帝国の内情を探るため潜入していたが、帝国の秘策の情報を得たことにより、追撃を受けていた。追跡者は鬼神帝国第二軍特務憲兵『影追鬼』ルイシェリア・スペルディアと、その補佐『無影鬼』という正体不明の存在であった。彼女に追われた者は誰一人逃れたことがなく、男は反撃のために森の中で待ち伏せを決意した。
転移研究所の発見と『幻の書』
男は森の中で、出入口も窓も存在しない家を発見した。中へ侵入すると、そこはかつての大魔導師ルーデウス・グレイラットの秘密研究所であった。転移魔法陣や古い自動人形の研究資料が残されており、さらに男は幻とされていた『ルーデウスの書』第二十九巻を発見する。この巻はアスラ王国の王室書蔵庫に欠けていた唯一の巻であり、非常に重要なものであった。
ルイシェリアの急襲と男の最期
男が書を手に取った瞬間、彼の胸を短槍が貫いた。それは追跡者であるルイシェリアの一撃であり、男は為す術なく命を落とした。ルイシェリアは短槍の血を払った際、側にいたヘンリーに血を浴びせてしまい、彼に苦笑交じりで咎められた。
ヘンリーの特異体質と二人の関係
ヘンリー・マケドニアスは、他者から認識されにくくなる呪いを持つ特異体質の諜報員であり、ルイシェリアの相棒であった。その呪いゆえに誰の記憶にも残らない彼を、スペルド族のルイシェリアだけが認識できていた。互いに欠けた部分を補い合う二人は、多くの任務を共にこなしてきた。
『幻の書』の正体とアルスの反応
研究所から回収した第二十九巻には、日本語で記された内容が含まれており、ヘンリーが解読を始めると、それはルーデウス自身の告白文であることが判明した。「我が息子アルス・グレイラット及び我が妹アイシャ・グレイラットの暴走と、我が人生最大の過ちについて」と書かれていた。
鬼神帝国の拠点における報告と会話
数日後、鬼神帝国の拠点でアルス・グレイラットが書類作業に苦悩しているところへ、任務を終えたヘンリーとルイシェリアが帰還した。彼らは四人の間諜を処理したと報告し、同時に『幻の書』を提出した。その内容に目を通したアルスは、それが自身の若き過ちを記したものだと理解し、赤面しつつも受け入れた。
『風神』アルスの人物像
アルス・グレイラットは鬼神帝国第二軍特務部隊の隊長であり、『風神』と称される剣士である。剣神流に体術と魔術を加えた変幻自在の戦法を駆使し、実力・人望ともに高い人物として知られていた。一方で、美人を見ると鼻の下を伸ばす癖もあり、その人間臭さが親しまれる所以でもあった。
過去の語りへの導入
ルイシェリアとヘンリーが興味を示す中、アルスは己の十代の過ちを語ることを決意する。それは、今では想像もつかぬ若き日の未熟さに満ちた、恥ずかしい物語の始まりであった。
二.「物語」
叔母との関係と立場の複雑さ
アルスは叔母アイシャと甥と叔母の関係であったが、アイシャの母が当主の側室であったため、その立場は複雑であった。幼少期より彼はアイシャに世話され、母三人の教えと姉ふたりの影響を受けながら成長した。アイシャは彼にとって姉であり母のようでもあり、理不尽な叱責をせず、彼の成長を支えた存在であった。
三人の母と二人の姉の教え
白髪の母からは知識と交友を、青髪の母からは学び方を、赤髪の母からは剣術と守るという覚悟を教わった。ルーシーは真面目で学びを促し、ララは気ままで彼を悪さへ誘った。アイシャはそのどちらとも異なり、実践を通じて教えを体得させる存在であった。
十歳の誕生日と初恋の目覚め
十歳の誕生日に真剣を贈られたアルスは、それを「大切な人を守るため」と教えられた時、アイシャのことを思い、初めて恋心を自覚した。アイシャからの無償の愛と信頼が、彼の思考に影響を与え、アイシャへの想いを深めた。
青い空を願った少女との物語
父から聞いた話とオルステッドから贈られた本から、アルスは魔王によって空が紫色になったという伝承を知り、「大切な人」に青い空を見せたいと願った。彼は真意を兄に相談し、魔王討伐を決意した。
五人の賢者との出会いと試練
占い師の助言に従い、盾を作る賢者、船を作る賢者、剣を作る賢者、魔除けの腕輪を作る賢者をそれぞれ訪れた。いずれも「未来の子供のため」と使命を語りながらも、忙しさのため直接助けを渋る中、アルスはそれぞれから装備と導きを授かって旅を続けた。
魔王との戦いと敗北
賢者たちの助けを得たものの、アルスは魔王の強大な力の前に敗北し、剣も盾も腕輪も失って逃げ帰った。巨大な魔物や悪魔の囁きに心を蝕まれ、毒の沼に絶望しながらも、諦めの淵で最後の賢者の住処と思しき家を見つけた。
最初にして最後の賢者と再起
赤銀色の髪を持つ賢者のもとで、アルスは占い師の言葉――五人全員に会わなければならない――を思い出し、自分の過ちを悟った。賢者から「使命のための力」を授かり、装備の真価を理解し、船を空に飛ばして魔王の城へ向かった。
二度目の戦いと青空の回復
力を取り戻したアルスは装備を再び手に、魔王を斬り倒した。魔王の死とともに空は真っ青に戻り、世界は救われた。
王都での称賛と村への帰還
人族の町で王から称賛され、王位と姫の引き換えを申し出られたが、アルスは「大切な人」のもとへ帰ることを選んだ。賢者たちへ借りたものを順に返却して旅を終えた。
愛する人との再会と衝撃の真実
故郷に戻ったアルスは、兄から恋人が既に朝に亡くなっていたことを告げられた。彼女は青空を見た後、笑顔で旅立ったはずと願ったが、実際はアルスに会いたくて涙を流しながら亡くなっていた。アルスは最も大切な願いを見誤り、自らの過失に気づいて膝を崩し、その後も涙を流し続けた。
以上が、アルスの成長と初恋、そして空の色を取り戻すまでの過程である。
物語読後の感想とアイシャの疑問
アイシャはアルスに読み聞かせた本『アルスの物語』を閉じ、内容に対してやや暗い結末であると感じた。古い本であり、語られる教訓も歪であったため、原典から改変されたアレンジ版と見ていた。アイシャは本の材質や由来にも興味を持ちつつ、物語の内容について素直に疑問を抱いていた。
アルスの動揺と恋心の自覚
読み終えたアルスは、主人公と自身の名前が同じだったこともあり感情移入しすぎていた。物語の悲劇的な結末に動揺した彼は、アイシャに「幸せになるにはどうすればよかったのか」と問い、彼女の回答にも満足しなかった。さらにアルスは結婚の意味を問い、アイシャは赤面しつつ説明したが、アルスはそれを真正面から受け止め、やがて「アイシャ姉と結婚したい」と真剣に告白した。
アイシャの戸惑いと葛藤
アルスの突然の告白に、アイシャは動揺を隠せなかった。自らもアルスを深く愛していたが、年齢差や兄妹同然の関係、そして家庭の立場を思い浮かべて自制を選んだ。しかし彼女の態度は明らかに揺らぎ、いつもよりも強くアルスを抱きしめ、その感情を言葉にして伝えた。アルスはその変化を敏感に感じ取り、「今日、何かが変わった」と直感した。
プロポーズ以降の関係の変化
アルスはこの日を境に、アイシャへの恋心を明確にし、積極的に思いを伝えるようになった。アイシャも初めは困惑していたが、次第にアルスの思いに応えるようになっていった。アスラ貴族では近親間の結婚も珍しくない事情が、それを後押しする背景となった。アイシャ自身も、アルスの気持ちが変わらなければそれも悪くないと考えるようになっていた。
物語の継続と父への関心
アルスは当時の思い出を語りながら、『ルーデウスの書』を読み進めることを提案した。父がどのような思考でいたかにも興味を抱きながら、自身の過去と向き合い始めた。これより先は、物語と過去の記録が交錯し、新たな真実へと続いていくこととなる。
三.「家族会議」
アイシャとの関係に対する自己内省
ルーデウスはアイシャに対して妻としてではなく妹・家族としての愛情を抱いていたことを自覚し、NTRではないと結論づけていた。過去のすれ違いは自らの理解不足に原因があったと認めていた。
転移魔法陣設置に関する政治的動向
ルーデウスはアリエルと共にアスラ王国内への転移魔法陣設置を進めており、ミリス神聖国からの反対を予期しつつも神子や教皇との交渉により表立った抗議を回避する合意を得た。実験的に人気のない地域に設置を開始し、利便性と安全性を重視した拡大計画を構想していた。
帰宅と家の静けさ
仕事を終え帰宅したルーデウスは、家族の誰もいない静けさに違和感を覚えた。日中の時間帯でそれぞれが学校や買い物などに出ており、自宅には自分ひとりだけが残っていた。
アイシャの部屋から聞こえる声
静寂の中、アイシャの部屋から苦しげな声が聞こえた。最初は体調不良かと思われたが、次第に情事を思わせる声と内容であると気づき、戸惑いながらも扉を開ける決断をした。
信じがたい現場の発見
扉を開けた先で、ルーデウスはアイシャとアルスが裸で交わっている場面を目撃し、強い衝撃を受けた。現実を受け入れきれず、動揺しながらも風呂と着替えを指示し、その場を収めた。
家族の帰宅と共有
動揺のままリビングにいたルーデウスのもとにシルフィとリーリャが戻り、事態を共有。ロキシーやエリスも帰宅し、状況を知ってそれぞれが動揺や怒りを示した。
家族会議の開始とアイシャの説明
家族会議が始まり、アイシャはアルスとの関係について『練習』であると説明。彼の将来のためとし、淡々と冷静な敬語で語ったが、ルーデウスはその軽率さに強いショックを受けた。
リーリャとの対立
アイシャの言葉はリーリャの過去の発言を逆手に取る形となり、彼女を精神的に追い詰めた。リーリャは動揺し、涙を浮かべて沈黙した。
シルフィの挑発とアイシャの動揺
シルフィはわざとジークやクライブにも『手ほどき』を依頼する挑発的な提案を行い、アイシャを追い詰めた。アイシャは一瞬承諾するが、明らかに動揺し、信頼を試されていることを察した。
エリスの怒りと暴力
耐えきれなくなったエリスはアルスを殴り、非を一方的にアイシャに押し付ける態度を咎めた。暴力を止めようとするルーデウスやアイシャの姿に、事態の深刻さが表れた。
アルスの告白とアイシャの本音
シルフィの問いかけを受け、アルスは自分が告白して求めたことを明かした。続いてアイシャは、アルスを本当に好きであり、抑えきれない感情だったと涙ながらに告白した。
ルーデウスの葛藤と判断
ルーデウスは、二人の関係が純粋な恋愛であると理解しつつも、アルスの未熟さや依存的な態度に問題があると感じた。最終的に、アルスをアスラ王国の王立学校へ進学させ、アイシャと距離を取らせる決断を下した。
アイシャの反発と納得
アイシャは納得できない様子を見せたが、ルーデウスの真剣な態度に気づき、最終的には受け入れた。自身もアルスの成長の妨げになっていたことを自覚し、離れる必要を認めた。
家族の反応と協力体制
シルフィ、ロキシー、エリスはそれぞれの視点で事態を受け止め、ルーデウスの決断を支持した。ロキシーは王立学校に教師として同行し、アルスの様子を見守ると申し出た。
ルーデウスの内省と疑念
ルーデウスは家族や周囲の反応に比べ、自分だけが異様なほどの忌避感を持っていることに違和感を覚えた。合理的な理由が見つからずとも、感情として拒否せざるを得ない複雑な心理に苦しんだ。
駆け落ちという結末
家族会議の翌朝、アイシャとアルスは『二人で生きていきます』という手紙を残して姿を消した。駆け落ちという形で、ルーデウスの決定から逃れた形となった。
四.「若さ」
リーリャの叱責と家族の反応
夜、リーリャの怒声が響き渡り、アルスとアイシャの関係に対する非難が繰り返された。アルスはそれを別室で聞きながら、自分の無力さと依存を痛感していた。ララやジークからの問いかけにより、アイシャに頼りきりの自分を省みるようになった。
家族会議での反省と決意
ララとジークの助言を受け、アルスは父ルーデウスに対抗する覚悟を固めた。最初は父を倒すなど非現実的な案も浮かんだが、最終的にはアイシャへの想いを言葉にして伝えることが必要であると認識した。
アイシャとの再会と覚悟の共有
説教を終えて部屋へ戻るアイシャと再会したアルスは、彼女の疲弊した様子に心を痛めた。アイシャの「逃げようか」という提案に対し、アルスは即答で賛同し、自分の意志と愛情を告げた。アイシャはその言葉に応えるように家出を決意した。
出発準備と静かな家出
アイシャは非常時用に備えていた荷物を取り出し、二人は裏口から家を出た。ララとジークはそれを見送ったが、アルスは振り返らなかった。母たちとはもう会えないという予感があった。
ロキシーとの遭遇と助言
出発後すぐにロキシーに見つかり、二人は静かに向き合った。ロキシーは二人を責めることなく、過去の自分も家出したことがあると語り、旅立ちを見送った。ただし、状況が行き詰まった際には連絡を求めるようアイシャに告げた。
旅立ちの承認と決意の出発
ロキシーの穏やかな見送りに背を押され、アルスとアイシャは旅に出た。アルスはロキシーの大人としての余裕と懐深さを感じ、自分の未熟さとこれからの成長への決意を新たにした。
五.「捜索」
行き先の選定と仲間の登場
家出を決行したアルスとアイシャは、王都を離れ北方の土地を目指すことを決定した。アイシャはあらかじめ用意していた身分証と手形を活用し、迅速に旅支度を整えた。途中でクロームとエリカが合流し、家出への同行を申し出た。クロームはアルスに共感し、エリカは「面白そう」という理由で行動を共にすることにした。
旅のルールとアルスの成長
旅の間、アイシャは自分に頼りきらないようアルスに一定の責任と行動の自由を与え、兄としての自覚を促した。アルスはこれを機に自らの役割を意識し、行動を主導するよう努力を始めた。
騎士団の追跡とロキシーの対応
王都ではロキシーが騎士団の追跡から二人をかばう形で時間を稼ぎ、アイシャが周到に仕掛けていた誤誘導ルートを利用して騎士団を翻弄させた。これにより、追跡者はクロームのルートに誘導される結果となった。
エリスの怒りと捜索の開始
エリスはアルスの家出に激昂し、ジークを連れて強硬に捜索を始めた。これに対しロキシーは冷静に状況を分析し、彼らの成長と自立を促す意図があることを理解しつつ、必要以上の介入を避ける方針を取った。
アルスの孤独と仲間意識の芽生え
旅の中でアルスはアイシャにだけ甘えることをやめ、クロームやエリカとの協調を意識するようになった。旅の主導権を握ることで、少しずつ仲間たちとの信頼関係を築き、自分が守るべき存在として振る舞おうとする意志を強めていった。
六.「ささやかな綻び」
父の姿に対する認識の変化
アルスは成長とともに、絶対的な存在と信じていた父もまた不完全な人間であり、悩みや失敗を抱えていたことに気づいた。尊敬を集める存在でありながら、父親としての厳しさには欠けていたと回顧した。
過去の出来事と父の対応
アルスが大切な人形を壊した際、父は叱らずに優しく諭した。この対応に対し、姉ルーシーは「期待されていないからだ」と語っていた。アルスも次第にその言葉に同調するようになり、自身の無力感を抱くようになった。
風呂場での父子の会話と誤解
風呂での会話を通じて、父が優しい言葉をかける一方で、アルスは自分への期待のなさを感じ取った。父と比べて自分の成長が遅いことを意識し、疎外感を深めていった。
婚約の話と揺れる感情
父がアスラ王国から持ちかけられた婚約話を語る中で、アルスは恋愛や結婚といった現実に直面した。そこで真っ先に思い浮かんだのがアイシャの存在であり、彼女に告白する動機となった。
家出とセーフハウスでの新生活
アイシャとの駆け落ち後、二人はミリス神聖国の川沿いの村にある安全な家で暮らし始めた。生活は質素ながらも穏やかで、アルスはアイシャを守ろうと決意し、剣術や魔術の鍛錬に励みながら日々を送った。
変わっていくアイシャの様子
当初は幸せに満ちていた生活も、アイシャの妊娠発覚を機に変化した。アイシャは次第に活気を失い、精神的に追い詰められていった。アルスは明るく振る舞い支えようとしたが、彼女の不安を和らげることはできなかった。
アイシャの内面の葛藤と限界
アイシャは理想と現実の間で自身を追い詰め、自らに厳しい評価を下し続けていた。完璧であろうとするあまり、自身の感情すら否定し、次第に心をすり減らしていった。
守るということの意味の見失い
アルスは守ると誓いながらも、実際には見当違いの行動しかできていなかった。アイシャの異変に気づきながら、具体的に支えることができず、自分の無力さを痛感していた。
追い詰められた末の決断
アルスは、アイシャを救いたい一心で青ママに連絡を取った。その行動が救いか破滅かは定かではなかったが、少なくとも「守る」ことにはつながったと信じた。
七.「小さな守り手」
村での再会とアルスの変化
ロキシーが収集した情報により、アイシャとアルスがミリス神聖国の辺境の村に住んでいることが判明した。ルーデウスはシルフィ、ロキシー、エリスを連れて村を訪れたが、リーリャは留守番となった。村は無名で地図にも載らない場所であり、生活は質素ながらも安定していた。到着した家の前では、アルスが門番のように立ちはだかり、ルーデウスを睨みつけた。彼は以前より大人びた雰囲気を漂わせ、野性味を帯びていた。
アルスの覚悟と対話
ルーデウスはアルスに、駆け落ちや現状に後悔はないのかと尋ねたが、アルスは覚悟していたと断言した。そして、アイシャと共に生き、彼女を助けたいという強い意志を表明した。彼の答えは、アイシャへの深い愛情と感謝に基づいたものであり、迷いのない態度に成長がうかがえた。ただし、その意志に対してルーデウスはまだ子供らしさを感じ、現実の厳しさに対する理解が浅いとも懸念した。
エリスとの戦いによる試練
アルスの決意の真偽を確かめるため、エリスが彼に勝負を挑んだ。エリスの本気の攻撃に対し、アルスは命がけで応戦し、満身創痍となりながらも立ち上がり続けた。利き腕を失い、顔を腫らし、全身傷だらけとなっても彼は剣を構え、家を守ろうとした。エリスの剣を拾い上げて立ち上がる姿は、守るという意志そのものを体現していた。
戦闘の終結とロキシーの言葉
アルスの意志を前にしても、エリスは「守ることはできても、守りきることはできない」と言い放った。その意図が伝わらず困惑する中、ロキシーがアルスに語りかけた。かつてルーデウスが家族を守るために土下座し、オルステッドにまで噛みついた過去を引き合いに出し、「死んでも守ることが本当に正しいのか」と問いかけた。アルスはその言葉に剣を落とし、涙を流し、力尽きて倒れた。
アルスの成長と父の想い
アルスの姿に、ルーデウスは誇らしさを感じた。確かに未熟であり、考え方にも幼さは残るが、死を恐れず愛する者を守ろうとした姿勢は、かつての自分を彷彿とさせた。未熟さを責めるよりも、その覚悟を讃えたいという思いが心を満たしていた。
父としての決断と対話の先送り
ルーデウスはアルスに対して何も言わず、成長と覚悟を確認できたことに満足した。アイシャとの関係に対する複雑な感情はあったが、それはアルスにぶつけるものではないと判断した。そして、今回の訪問の本来の目的であるアイシャとの対話に臨むことを決意し、仲間たちに後を託して家の中へと入っていった。
八.「アイシャ・グレイラット」
天才少女としての生い立ちと歪み
アイシャは幼少期から非常に高い知能を有し、模倣能力と理解力に秀でていた。家事や学問すべてを難なく習得する一方、他者の感情や限界への共感が欠落していた。その結果、能力で他人を判断し、感情的な愛情を理解しないまま成長した。
アイシャの失踪と妊娠の発覚
長期間消息を絶っていたアイシャが、突如として発見された。その理由は妊娠による行動制限であり、かつてのような機動力を失っていたためである。妊娠の相手はアルスであり、彼女の行動の背景に恋愛感情が存在したことが判明した。
理性と感情の対立
妊娠は予見可能であったにも関わらず、アイシャは欲望と愛情に抗えず、行動を制御できなかった。結果として駆け落ちを選択したが、その後は自己嫌悪と葛藤に苛まれた。彼女は相談すれば結果が変わったかもしれないと理解しながらも、誰にも打ち明けられなかった。
駆け落ちの顛末と告白
ルーデウスはアイシャと対話し、アルスとの関係や妊娠の経緯、駆け落ちに至るまでの心情を聞き出した。アイシャはアルスを愛していたが、彼との将来に確信は持てず、自身の行為を「練習」とごまかしていた。だが次第に、これは本物の愛であると認識するようになった。
兄への恐怖と罪悪感
ルーデウスの拒絶に対し、アイシャは強い恐怖を感じていた。家族を大切にする兄に逆らい、破滅的な行動をとった自覚があり、強い自己否定と絶望に陥っていた。彼女はルーデウスに殺されるのではないかとまで恐れていた。
ルーデウスの過去と心情の共有
ルーデウスは自身の前世について語り、自分がいかに過ちを犯し、今の幸せを得たのかを告白した。その中でアイシャの行動を責めることなく、共感と理解を示した。アイシャもルーデウスの前世についてある程度の察しを持っていた。
アルスに対する想いの原点
アイシャはアルスが生まれた瞬間から特別な感情を抱いており、その感覚は他の子供にはないものであった。彼の存在に惹かれ、時間を共に過ごすうちに恋愛感情へと変わっていった。だがその過程において自制を失い、制御できない関係へと発展した。
破綻と現実の受容
アルスとの関係が発覚し、ルーデウスに拒絶されたことで、アイシャはすべてが破綻したと感じた。家族や周囲を裏切った自覚はあったが、戻る勇気も持てず、妊娠したまま閉じこもる日々を過ごしていた。
兄妹の対話と和解の兆し
ルーデウスはアイシャの要望を受け止めつつ、彼女の行動を完全には容認しないながらも、罰は軽いもので済ませる意向を示した。アイシャの過ちと未熟さを指摘した上で、アルスの未熟さも指摘し、関係が早すぎたことを説いた。
家族との信頼関係の回復へ
ルーデウスは家族との話し合いを提案し、まずはアイシャに家へ戻るよう促した。アイシャもそれに同意し、これからの処遇を家族全員で決めることとなった。アイシャは深い反省と謝罪を口にし、ようやく涙を流して感情を吐露した。
駆け落ちの終結と未来への第一歩
こうしてアイシャとアルスの駆け落ちは終わりを迎えた。事件は家族全体に影響を与えたが、ルーデウスの理解と対話により、関係の修復に向けて一歩を踏み出すこととなった。
九.「アイシャがメイドを辞める時」
帰宅とリーリャの反応
ルーデウスはアルスとアイシャを連れて帰宅し、アイシャの妊娠を見たリーリャは衝撃で尻もちをつき、包丁を持ち出して自責の念に駆られた。ルーデウスが状況を説明し、落ち着かせたものの、リーリャは衰弱し寝込んだ。
リーリャとの対話と自責の念
ルーデウスは看病しながら、家族間の事情やアイシャとアルスの気持ち、自由な生き方の尊重について語った。リーリャは自身の過去の行いを悔い、娘に負の遺伝を感じていたが、ルーデウスはアイシャの恋愛感情は自然なものだと説得した。
アルスとアイシャへの指導
ルーデウスはアルスに対し、リーリャを自分の大切な人の母として扱うこと、周囲への影響や自身の過ちを学ぶこと、そしてアイシャを守る覚悟を持つよう諭した。アイシャにも正直に思いを伝え、腹を割って話すよう指示した。
話し合いと家族の反応
三人の話し合いは長時間に及び、途中で叫び声もあったが、最終的にはリーリャも納得し、アイシャとアルスは家族に謝罪した。家族はこれを受け入れ、処遇についても議論が行われた。
アイシャへの罰と将来
アイシャは自らの提案により形式上はグレイラット家から勘当され、出産後アスラ王国へと旅立つこととなった。罰として子供はルーデウスが預かり、アイシャは数年間会えなくなることとなった。これは彼女の成長を促すための処置であった。
アルスの今後と責任
アルスは家に戻り復学し、責任を果たすべく成長を目指した。将来的には成人し一人前と認められた上で、アイシャを迎えに行くことを約束とされた。彼はその決意を固め、真摯に努力し始めた。
各所への謝罪と周囲の反応
ルーデウスはアイシャとアルスを伴い、捜索に協力してくれた人々へ謝罪行脚を行った。ザノバ、アリエル、オルステッド、ルイジェルドらはそれぞれの反応を見せたが、基本的には許容する空気があった。
アイシャ出産とルロイ誕生
アイシャは男児・ルロイを出産した。家族はルロイを温かく迎え入れ、特にリーリャは豹変したかのように愛情を注いだ。アルスは積極的に育児を学び、父としての責任を果たそうとしていた。
別れと旅立ち
アイシャは旅装を整え、メイド服を残して家を発った。ルロイとの別れに涙し、家族に子の世話を託した。彼女の「行ってきます」という言葉に、ルーデウスは喜びを感じた。
ルーデウスの告白決意
アイシャの旅立ちを機に、ルーデウスは自身の前世の記憶について三人の妻に話す決意を固めた。家族と向き合ううえで、過去の影響を正しく共有すべきと考えたからである。
四年後の再会と変化
四年後、アルスは剣と魔術で聖級に至り、魔法大学を優秀な成績で卒業した。アイシャも人としての在り方に変化を見せ、思慮深く行動するようになっていた。二人はシャリーアに新居を構え、ルロイと共に暮らしていた。
家族としての関係と未来
現在、三人はルーデウスの家と交流を続け、アイシャはメイド服を脱ぎ去り、母として、そして家族の一員としての新たな道を歩んでいた。
十.「後日談」
結末の記録と師匠の立場
アルスは『ルーデウスの書』二十九巻の終幕を閉じたであった。ヘンリーは師匠にお咎めがないことを問い、アルスは未熟者には責任を取らせてもらえない事実を淡々と語ったである。
アルスの自己研鑽と称号獲得
当時の自分を反省し、倍の勉強と訓練を自主的に課したアルスは、やがて風聖級魔術師兼剣聖の称号を得たである。オルステッドや北神らからも神級の剣士と認められたである。
エリスとの師弟関係
“赤ママ”ことエリスは、狂剣王として苛烈な教えを与え、アルスは父以上の“父らしさ”を感じながら鍛えられたである。
卒業と戦いの日々
アルスは魔術大学を卒業し、アイシャを迎えに行って結婚した後、オルステッド配下のルード傭兵団に身を置いたである。誘惑や奔走の日々を経て、いつのまにか上司となったである。
語られる戦いの詳細
長年の夢となった“赤ママ”との剣技対決は、十二歳当時の敗北と手首失陥が元であったである。身も心も鍛え上げられた後、アルスは再挑戦を決意したである。
夢が映す過去と心の闘い
あの対決は夢に頻出し、悪夢として蘇ったである。意識を取り戻すたび、自らを振り返り、強くあるべき自覚を深めたである。
修行の成果と進路
ラノア大学では一部で先を越されつつも、剣術では抜きんでた力を示したである。自身の得意を見出したことで、心の揺らぎが消えたである。
剣神流の戦い方解析
エリスの戦法は粘りの防御と巧みな攻めを融合し、一撃で仕留めぬも、致命打を許さぬ構えであったである。北神流や水神流とも異なる、その苛烈かつ緻密な剣技にアルスは圧倒されたである。
運命の再戦と決着
決戦の場でアルスは敢えて真正面から挑み、風魔術による衝撃波と剣技で隙を作り出したである。エリスも体勢を立て直しながら攻撃を維持し、一進一退の攻防が続いたである。
勝利の一瞬と握手
絶好の機を捉えた衝撃波で隙を生み、光の太刀が一瞬のチャンスを捉え、エリスの手首を斬り落としたである。アルスは全身で抱き締められ、強さの証を得たである。
一人前への昇華
その勝利によって、アルスは真に一人前として認められ、家族や師たちの視線に見守られながら、心から成長を実感したである。
十.「後日談」 2
迎えを整える計画
アルスはアイシャを迎えに行くにあたり、適切な方法を模索して準備を進めたである。父に相談すると、具体策は与えられなかったが、相手を信じ自分らしく臨むべきとの言葉を得たである。
相談相手との出会い
父が紹介した相談相手は、女性を迎える心得に長けた人物――王都アスラの筆頭騎士ルークであると示されたである。ルークは的確な助言を与え、特別な儀礼を整えるよう提案したである。
迎えの演出内容
ルークは白馬四頭引きの箱馬車を用意し、王城の勝手口付近で待つよう指示したである。呼び出しは簡潔に、「迎えに来た、行くぞ」と伝えるのみと定められたである。
準備の実行
アルスは馬車や服装、花束も用意し、緊張のうちに待機したである。服装や演出には多少の不安があったらしいが、アイシャを思えば覚悟を固めていたである。
再会の瞬間
やがてアイシャが王城から姿を現した。赤いドレスに花飾りを身につけ、迎えに相応しい装いであった。アルスは膝をついて花束を差し出し、改めて結婚を申し込んだである。アイシャは笑顔で受け入れたである。
家族との対面
馬車にはリーリャと息子ルロイも同乗したである。ルロイは記憶こそなかったが、アイシャの誘いで母への抱擁を受けて泣いたである。リーリャとアイシャも互いの謝意を交わし、和解の一歩を踏み出したである。
新たな旅立ち
再会を祝した後、四人は夜景の見えるレストランへ向かったである。アイシャは久々の再会と家族の和やかさに、自然と笑顔を見せたである。みなが落ち着いた様子で行動し、再結集を喜んだである。
その後の歩み
アルスはアイシャと共に学びながら軍に身を置き、ゆくゆくは傭兵団の団長となったである。アイシャも積極的に働き、周囲から信頼を集めたである。
アイシャの最期と遺産
その後アイシャは戦時中に老衰で没したである。葬儀には多くの人が参列し、彼女の智略と思いやりが高く評価されたである。アルスは彼女の最後の立案を完成に導くべく、戦略を継ぎ、行動を起こしたである。
父ルーデウスの教え
アルスは自身の成長を父ルーデウスの支えと重ね、父の不器用ながら真摯な育児の姿勢を理解したである。息子ルロイへの接し方にも、その教えを反映させたである。
新たな旅路へ
書を閉じたアルスは、父ルーデウスが伝え残した記録を携えて、忠義を尽くすべくオルステッドの元へ向かったである。失敗を経ても成長を続ける人生への覚悟を胸に、次の歩みを始めたである。
同シリーズ
小説版





















漫画版










その他フィクション

Share this content:
コメントを残す