物語の概要
本作は、ファンタジー要素を含む短編集である。シリーズ第9巻までに登場したキャラクターやエピソードを中心に、特典ショートストーリーや書き下ろしを含む計50編以上が収録されている。主に、これまで語られなかった裏側や日常的な出来事、最高審議会の後日談などが描かれ、ファン必携の一冊である 。
主要キャラクター
- モニカ:本シリーズの主人公。無詠唱魔術を操る“沈黙の魔女”。対人恐怖症で言葉を発することが苦手であるが、魔術においては天才的才能を持つ。
- ルイス:モニカの同期で「結界の魔術師」。本編の前日譚や短編でその天才ぶりと荒っぽい性格が描かれる。
物語の特徴
- フルカラー30頁におよぶキャラクターデザイン資料(衣装・髪型など)を収録。
- 入手困難だった特典ショートストーリー(第7巻まで)を再録し、合計50編以上のボリューム。
- 本編の続きとして最高審議会以降を描いた書き下ろし3編と、続刊10巻へ繋がる新エピソード2.5万字を収録 。
- 大事件よりも日常寄りの描写中心で、シリーズ独特の“ふつうの日々”を丁寧に展開。探偵要素やキャラクターのやりとりが心地よく、ファンに嬉しい構成 。
書籍情報
サイレント・ウィッチ IX -extra- 沈黙の魔女の短編集
著者:依空 まつり 氏
イラスト:藤実 なんな 氏
出版社:KADOKAWA(カドカワBOOKSレーベル)
発売日:2025年6月10日
ISBN:9784040758541
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あらすじ・内容
過去特典の再録に、新規書き下ろしも! 収録総数50編以上の豪華短編集!
ファン必携の大ボリューム短編集、3大注目ポイント!
1.9巻までに登場した登場人物のデザイン資料をフルカラーで30ページにわたって紹介!衣装や髪型等の設定も充実!
2.現在は入手困難な7巻までの特典ショートストーリーを再録! 期間限定フェアの特典や、トータル3万字に及ぶ有償特典まで網羅し、収録総数はなんと50編以上!
3.最高審議会のその後を描いた書き下ろし作品3編を始め、10巻へと繋がる新規収録エピソードも合計2.5万字掲載!
感想
本巻はショートストーリーがぎっしり詰まり、読み進める手が止まらなかった。
沈黙の魔女の生活感
七賢人でありながら、干し肉or魚の水炊きで飢えをしのぐモニカの暮らしぶりには戦慄した。粉塵爆発寸前のクッキー作りも然りで、理論万能と思いきや生活力は底辺をはい回る。
その危うさが愛嬌となっていた。
日常コメディの妙味
特典SSでは学園祭の騒ぎや生徒会室の小競り合いが続き、キャラクター同士の間合いが柔らかく膨らむ。
ネロという救済装置
モニカの生活態度は餓死寸前と評して過言ではない。
だが、お腹の空いたネロが肉球でモニカにおねだりするようになって彼女の生活にリズムが出てきたのは、ネロには気の毒だがモニカのためには良かっと思えた。
豪華付録と資料価値
巻頭三十ページにわたるフルカラーデザイン資料は眼福であった。
衣装、髪型、小物に至るまで細やかな意図が解説され、これまでの想像を具体的な像へ変換してくれる。
物語外の情報が物語内の感情を補完し、キャラへの理解を一段引き上げた。
七巻以前の特典SS再録
入手困難であった特典が網羅された意義は大きい。
過去のエピソードが体系的に揃ったことで、登場人物の行動原理や成長曲線が線としてつながる。
既読派にも新規派にも均しく恩恵が行き渡り、シリーズの厚みが倍化したと感じたである。
書き下ろしで示された未来
最高審議会後を描く三編は、十巻へ続く伏線をやわらかな余韻で包みつつ提示し。
危うい平穏と微細な変化が混在し、「続きが必ず来る」という確信と期待に胸踊る。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
プロローグ 送り出す日
冬至休みの準備とヒルダの決意
冬至休みを目前に控えた王都は多くの人々で賑わい、王立魔法研究所の研究員ヒルダ・エヴァレットも例外ではなかった。研究所では〈黒い聖杯〉の解析が進行中であったが、彼女は休暇を宣言し、帰省する養女モニカを迎えるために準備を進めていた。リースや保存食に加え、菓子も購入するために焼き菓子店へと向かっていた。
菓子作りの思い出と母娘の信頼構築
ヒルダは数年前の冬至休みに、モニカと初めてクッキーを作った記憶を思い出した。引き取った当初のモニカは心を閉ざし、言葉を恐れていた。ヒルダは信頼を築く手段として共同作業を選び、科学的思考を取り入れた菓子作りを通じて交流を試みた。実験器具を応用した手順や誤った工程を経ながらも、モニカとの距離を縮める時間となった。結果は失敗に終わったが、その過程に意味があったとヒルダは感じていた。
協力者との再会と進行する計画
焼き菓子店で、ヒルダは過去にレイン博士の救出を図った協力者と偶然再会した。表向きの接触を避けつつも、医師会と魔術師組合の支援を得て進行している計画について知らされる。〈黒い聖杯〉の解析が進む現在、医療用魔導具の規制緩和と禁術研究罪の見直しが視野に入りつつあった。男の言葉から、〈黒い聖杯〉がレイン博士の遺志と娘モニカの技術によって完成に至ったことが示唆された。
モニカとの再会と学園生活の語らい
冬至前日の夕暮れ、ヒルダは帰省したモニカと再会した。成長したモニカは笑顔で挨拶し、温かな団欒の時間が始まる。セレンディア学園での生活をモニカは嬉しそうに語り、ラナや生徒会の仲間たちとの交流、悪役令嬢講座、焼肉パーティといった思い出を共有した。飛行魔術の訓練や、失敗談も交えながら、モニカは学園で得た経験を楽しそうに話した。
自立への決意と母親の思い
会話の最後に、モニカはサザンドールへの転居を報告した。賑やかな港町で新たに商会を立ち上げる友人ラナを手伝うためであると語った。予想外の決断に戸惑いながらも、ヒルダはその選択を尊重し、成長を喜んだ。かつて怯えてヒルダの手を離せなかった少女が、今や自らの意思で未来を切り拓こうとしている姿に、母としての誇りと少しの寂しさが交錯していた。
願い続ける未来への祈り
かつて数字の世界に逃げ込んだ少女の心が、今ようやく世界へと向き合い始めている。ヒルダはあの日交わした手の温もりを思い出しながら、これからもモニカの未来が幸せであることを、深く願い続けていた。
一章 夏精霊が去る前に (編入前)
【新年の空の旅】
研究への没頭と体調不良
モニカ・エヴァレットは山小屋で術式の研究に没頭し、暖炉の火が消えるのも忘れて書き物に集中していた。その結果、唇は荒れ、顔色は悪く、肉体的にも限界に近づいていた。
ルイスの訪問と式典の指摘
同期の七賢人ルイス・ミラーが山小屋を訪れ、モニカが新年の式典を忘れていることを告げた。式典は七賢人として必ず出席すべき行事の一つであり、開始まで数時間しか残されていなかった。
即席の簀巻きと強制連行
モニカは身支度を試みたが、空腹と寝不足により動けず倒れた。ルイスは毛布と敷物でモニカを簀巻きにし、強制的に杖に縛りつけて空を飛び、式典へと向かった。
【〈沈黙の魔女〉の執務室】
メアリーへの引き渡し
ルイスは簀巻きにしたモニカを連れて、〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイの執務室を訪れた。メアリーは新年の式典に向けて準備を済ませており、ルイスはモニカの人間化を依頼した。
モニカの不在と執務室の惨状
モニカのローブと杖が執務室にあると聞いたルイスは、メアリーから合鍵を借りて執務室に入室した。扉を開けた途端、書類と本が雪崩のように崩れ落ち、期限切れの招待状などが散乱していた。
式典準備の困難
室内は足の踏み場もない状態であり、ローブと杖の捜索は困難を極めた。モニカの私室はまるでゴミ捨て場のようであり、ルイスの苛立ちは頂点に達した。
【〈沈黙の魔女〉と万能調味料】
ルイスの山道訪問
ルイスは議事録を届けるため、徒歩でモニカの山小屋を訪れた。飛行魔術を避けた結果、入り組んだ山道に苦労しつつ、ようやく小屋に到着した。
ミノムシ化した魔女との再会
山小屋では、モニカが毛布にくるまって床で眠っていた。倒れた椅子や崩れた本から、椅子から転げ落ちてそのまま寝ていたことが判明した。
生活力の欠如と議事録の受け渡し
モニカは質素な生活を送っており、干し魚を水に入れただけの食事をしていた。ルイスは議事録を手渡すと共に、精霊契約の提案や生活改善を促したが、モニカは消極的な態度を見せた。
ジャムの贈呈と術式への感嘆
ルイスはモニカに万能調味料としてのジャムを贈った。さらに、彼女の机上にあった高度な術式に目を留め、その能力の高さを改めて実感した。
【〈沈黙の魔女〉、逃亡中】
黒竜討伐後の宴からの逃走
黒竜討伐の任務を終えたモニカは、ケルベック伯爵による盛大な宴を断り切れず、逃亡を試みていた。彼女は木陰に隠れて使用人の捜索から逃れていた。
御輿の登場と限界
宴のために用意された御輿が運び込まれ、モニカは緊張のあまり逃走を決意した。途中で村人に心配されたが、それも振り切って走り去った。
偉大な魔術師の情けない逃避行
ローブを脱ぎ捨てて走るモニカは、鼻水をすすりながら山小屋への帰還を願っていた。彼女の姿は、この国の頂点に立つ魔術師とは思えぬほど哀れであった。
【心無い魔女の使い魔】
杖の扱いとネロの正体
モニカは山小屋の裏庭に設置した支柱に杖を引っ掛け、洗濯物干しとして利用していた。黒猫姿のネロは、かつて討伐された黒竜であり、モニカに付き従っている存在であった。
山小屋の惨状と睡眠
帰宅したモニカは書類の山に埋もれて就寝した。ネロはその暮らしぶりに呆れつつも、モニカの傍で眠りについた。
目覚めと観察眼
翌朝、モニカはネロの体温に気づき、生き物としての構造に関心を示した。だが、専攻外である魔法生物には深入りしないと判断した。
契約を交わさぬ選択
ネロとの正式な契約を交わすことには興味を示さず、モニカはこの存在がそのうち離れるであろうと淡々と構えていた。
書き物への没頭と無関心
ネロが騒いでも、モニカは筆を止めず集中を続けた。その様子にネロは、彼女の無防備さではなく無関心さに気づいた。
空腹と共同生活の兆し
モニカは空腹を覚え、ネロと食事の話を交わした。干し肉のスープを用意したが、ネロには不評であり、次回からは肉類を多く準備することを考えた。
【星流しの夜】
恐怖に怯える魔女の帰還
夏の日、黒猫ネロは山奥のオンボロ小屋で読書をしながら、外出したご主人様モニカの帰りを待っていた。虫除けのハーブを採りに出たモニカは、帰宅するなり扉に鍵をかけてうずくまり、恐怖に震えていた。モニカが怯えた原因は、山中で村人に出くわしたことであり、極度の人見知りである彼女にとっては猛獣よりも恐ろしい存在であった。
村人の目的と星流しの祭り
モニカが引きこもる中、ネロは彼女に代わって村人たちの動向を調査した。話を盗み聞きした結果、数日前の強風により大木が倒れて川の流れを堰き止め、それを解消しようと村人が山に入ってきていることが判明した。加えて、星流しという水の精霊王に捧げる祭りが近づいており、小舟に供物を載せて川に流す儀式が滞ることを村人たちは懸念していた。
夜の山道と川の調査
ネロの誘導により、モニカは夜の山へと出た。昼間はおどおどしている彼女も、夜の人気のない山では平然と歩いていた。やがて、川が堰き止められている現場に到着すると、モニカはランタンの明かりのもとで状況を確認し、大木が完全に水流を遮断していることを確認した。
無詠唱魔術による大木の切断
モニカは一言も発せず、風の魔術を展開し、大木を瞬時に切断して川に流した。詠唱なしで高度な魔術を操るその姿は、まさに〈沈黙の魔女〉と呼ばれる所以であり、彼女がリディル王国の七賢人の一人であることを示していた。作業後、モニカは再び人の来訪がなくなることを安堵し、夜空を見上げた。
流星と少女の静かな願い
夜空を見つめていたモニカは、北東の空に流れる星を目にし、星流しの由来を口にした。彼女にとって、祭りそのものには興味はなくとも、その背後にある由来や象徴には心を寄せていた。そして、賑わいの代わりに静かな夜と空を選び、最強の使い魔ネロの存在を傍らに感じながら、ほのかな笑みを浮かべた。
誤解された贈り物
祭り当日、ネロは祭り会場から一本の枝を持ち帰った。それは紫の小さな花をつけた香りの良い枝であり、娘たちが胸に挿して踊っていたものであった。ネロはそれを土産としてモニカに渡したが、彼女はそれを虫除けのハーブだと勘違いし、糸で吊るして窓辺に飾った。モニカはそのまま幸福そうに数式の続きを始め、祭りの日であることすら忘れていた。
任務前夜の平穏
こうして〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットは、村の問題を密かに解決しながら、祭りにも人にも関わらず、静かな日常を続けていた。この出来事は、やがて彼女がセレンディア学園への潜入任務に赴く少し前の、穏やかな夜の記録である。
二章 巡る秋、始まりの季節 (編入 ~学園祭前の夜遊び)
【〈沈黙の魔女〉の小さな噓】
シリルの紅茶嫌いの真相
モニカ・ノートンは、セレンディア学園に転入した少女であり、その正体は〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットであった。彼女は生徒会副会長シリル・アシュリーが紅茶を避ける行動に疑問を抱いていた。ある日、彼が紅茶を避ける理由を問いかけると、シリルは自身の体質により紅茶を冷ますことを気にしていたと明かした。これに対してモニカは、自分が猫舌であるため冷めた紅茶でも問題ないと伝え、シリルは無言で紅茶を口にした。
【子リスの食事事情】
空腹に気づかぬモニカ
生徒会業務を終えたフェリクスは、鍵閉め当番のモニカが空腹を自覚していない様子に気づいた。彼は焼き菓子を手渡し、モニカはそれを少しだけ食べた後、残りを数回分の食事として持ち帰ろうとした。フェリクスは彼女の無理を諭し、その場で全て食べるよう促した。
【スタイリッシュ神経衰弱】
報告書と風変わりな勝負
モニカが夜に報告書を仕上げていると、リンとネロがカードを使った神経衰弱を始めた。二人は技術的にスタイリッシュなカード捲りに熱中し、勝負の本質を忘れていた。報告書を完成させたモニカは、あっさりとゲームを制してリンに称賛されたが、本人は辞退の意を示した。
【魅惑の黄金三角形】
測定への執着と意外な共感
モニカは生徒会室で作業中、メジャーを見つけると夢中で物の長さを測り始めた。幼少期の癖が蘇り、絨毯の模様まで測定している最中にシリルとフェリクスに見咎められた。問い詰められたモニカは苦しい言い訳をしたが、シリルは内心で喜びを感じていた。後にフェリクスがシリルの織物好きであることを明かし、モニカは黄金比の魅力を改めて実感した。
[氷の貴公子と猫じゃらし]
ネロとシリルの意外な交流未遂
ネロが日向で昼寝をしていたところ、シリルが近づき猫じゃらしで遊ぼうとしたが、警戒したネロは即座に逃走した。その後、シリルの言い訳を信じたモニカが草むしりを始め、止めようとするシリルとの間に小さな騒動が起きた。フェリクスは面白がって見守っていた。
[生徒会犬猫論争]
犬猫派の論争とネロの拗ね
生徒会室で犬と猫の可愛さを巡る論争が起きた。猫であるネロは猫派の支持を期待していたが、モニカが「肉球があればどちらでも良い」と発言したため失望した。その後、ネロはふてくされてモニカに冷たい態度を取り続け、一週間後にようやく和解した。
[生徒会の散らかし魔達]
整理整頓の悪習と事故の発生
生徒会内には二人の“散らかし魔”がいた。一人は整理が苦手なエリオット、もう一人は独自の並べ方をするモニカであった。この悪癖が原因で資料室で事故が起こりかけ、モニカが脚立から落ちかけたところをシリルが救った。だが、二人は動けなくなり、エリオットが加勢するもまた危機に陥った。
フェリクスの登場と混乱の収束
騒動の最中にフェリクスが登場し、片手で重い資料箱を戻し、モニカを助け出した。彼は状況を即座に把握し、整理整頓の重要性を諭した。最後に、シリルは怒りを込めて散らかし魔たちに大掃除を命じ、生徒会に一時的な秩序を取り戻させた。
【属性診断】
属性診断への関心とモニカの反応
モニカは教室でグレンから突然「得意属性」を尋ねられたことで驚き、魔術師であることが露見したのではと焦った。グレンはただ属性診断の冊子に触発されての問いであり、その内容に二人で興味を持った。冊子には属性ごとの性格傾向が記載されており、モニカの属性である風は「気分屋だが一つのことを極める学者肌」とされていた。これは数学と魔術を究めたモニカの性質に合致していた。
副会長シリルの登場とグレンの評価
会議時間の変更を伝えるためシリルが教室に現れ、グレンの身だしなみに関して細かく指摘した。襟やスカーフの結び方を直しながら、身なりに対する厳格さを見せた。グレンはそれを見て、氷属性の性格診断にある「排他的で冷酷」という表現に疑問を抱きつつも、シリルの面倒見の良さを評価した。モニカもその様子に同意するように頷いた。
【いってきます】
新居への道のりと体力の限界
モニカは新たに購入した山小屋へ向かっていたが、道中で息が切れ、転倒を繰り返すなど、運動音痴と体力不足に悩まされた。山道で転げ落ちそうになった際には、無詠唱魔術によって身を守ったが、全身は泥まみれで、七賢人の面影はなかった。それでも彼女は誰もいない場所での失態を誰にも見られていないことに安堵していた。
山小屋での静けさと孤独への安堵
ようやくたどり着いた山小屋は埃と黴の匂いが充満し、環境は劣悪であった。しかしモニカにとって、誰にも干渉されないその空間は心から安心できる場所であった。ベッドに横たわった彼女は、七賢人になって以降得られなかった安らぎを感じ、静かに眠りについた。
仲間たちとの約束と再出発
場面は現在に戻り、モニカは社交ダンスの再試験を控え、筋肉痛を抱えながらも準備を整えていた。ふと、初めて山小屋に行った日を思い出し、かつての安寧の日々に思いを馳せたが、今は戻れないと自覚していた。皆との約束がある今、孤独よりも友人との絆を選び、足取り軽く「いってきます」と呟いて試験へ向かった。
[お菓子作りは計量が命]
思いつきの焼き林檎から始まる騒動
ケイシーは、譲り受けた不格好な林檎で焼き林檎を作ろうと考え、モニカとラナをおやつ作りに誘った。気軽な提案だったが、ラナは高級食材一式、モニカは精密天秤を持参し、ケイシーを驚かせた。二人の本気度に圧倒されたケイシーは、予定を変更して本格的な菓子作りに挑むこととなった。
初めてのケーキ作りと成功の共有
その晩、モニカは屋根裏でネロに菓子作りの様子を語った。モニカは料理経験が乏しかったが、今回は「計量」を担当し、初めての菓子作りに成功した喜びを共有した。
[鏡に映る未来]
怖い話大会とグレンの騒動
雨の放課後、ケイシーの提案で空き教室に集まった一同は、怖い話大会を開催した。ケイシーの語る「首無し騎士」の話にグレンが絶叫し、場は混乱したが、モニカはその騎士を下位精霊による幻だと冷静に解釈した。続くラナの「未来が映る鏡」の話でも、グレンは怯え、場の雰囲気はにぎやかであった。
生徒会による鏡の調査決定
その後、生徒会長フェリクスの指示により、モニカ・ニール・シリルの三人がダンスルームの鏡の調査を行うこととなった。最近、鏡の前で体調不良を訴える生徒が続出していたためである。鏡にまつわる噂と怪現象の関係性を探るための調査であった。
鏡の異変と精霊の存在
ダンスルームに入った三人は、感知魔術などを用いて調査を進めた。モニカは額縁の模様の歪みに気づき、隠された空間から水の上位精霊の契約石を発見した。この精霊は長らく鏡に囚われ、助けを求めて魔力で幻影を見せていた。噂の「未来の姿」や「寿命を吸われる」といった怪異は、この精霊による干渉によるものであった。
精霊の解放と真相の収束
モニカは契約石に魔力を注ぎ、精霊の存在をリンに託した。リンは石を持ってミネルヴァに戻ることとなり、これにより鏡の怪異は解決へ向かった。モニカが調査の最中に見つけた真実は、生徒達の不安を払拭するための重要な鍵であった。
王子との対話と自己認識の変化
その後モニカは再びダンスルームを訪れ、フェリクスと鏡を前に語り合った。フェリクスは未来が恐ろしくても変えればよいと語り、モニカは自分自身への信頼を少しずつ育み始めた。対照的な自信を持つフェリクスとの会話は、モニカにとって重要な内面的成長の一歩となった。
騒動の余波と日常への回帰
翌日、噂が広まり教室は騒然となったが、モニカはそれを受け流しつつ問題の収束を目指した。彼女の前向きな行動は、少しずつ自信を取り戻す兆しを見せていた。モニカの未来がどのように形作られていくかはまだ分からないが、自分自身の意思で前を向き始めていた。
[悪役令嬢の報復宣言]
孤児院での朗読と子ども達への別れの告白
イザベルは孤児院で読み聞かせを行い、子ども達に人気を集めていた。だが、近くセレンディア学園に進学することを知った子ども達は動揺し、涙を浮かべて引き留めようとした。イザベルはそれを優しく受け止めつつ、「英雄を助ける任務」と称して前向きな別れを演出した。
モニカへの毒殺未遂に対する怒り
イザベルの侍女アガサは、モニカが茶会で毒を盛られた件を淡々と報告した。イザベルはこの報に激しい怒りを覚え、加害者カロラインに対する報復を決意した。ケルベック伯爵家がモニカに与えた「ノートン姓」を理由に、正当な報復として行動に出ることを決意した。
ケルベック伯爵家の意志表示と行動開始
イザベルはルイスの命令を無視し、カロラインへの報復を自らの手で行うと宣言した。フェリクス殿下への影響力を通じて、ケルベック伯爵家の意志を明確に示す意図であった。アガサに美容薬を用意させ、報復の準備を進めたイザベルは、冷たい笑みと共に行動を開始した。
[メイドの矜持]
アガサへの信頼とリンの対抗意識
モニカは、イザベルの侍女アガサへの感謝をリンに語った。看病や日常の支援に尽力するアガサの姿勢に、モニカは深い信頼を寄せていた。一方、リンは自身の役割に対する対抗意識を芽生えさせ、有能メイドの座を賭けて看病を申し出た。
看病対象への誤認識と暴走
看病対象がモニカではなく主人のルイスであるべきと気づいたリンは、帰還を決意する。しかし、ルイスは非常に丈夫で看病を必要としないことから、リンは看病の機会を得られずに困惑した。
[悪役令嬢とダンスを]
合同授業での華麗な舞踏
社交ダンスの合同授業において、イザベルは見事な舞いを披露した。モニカはその優雅で華やかな姿に圧倒され、自身の苦手意識を忘れて見惚れていた。イザベルの動きは悪役令嬢としての誇りを体現するかのようであった。
モニカの称賛とイザベルの奮起
モニカからの賞賛を受けたイザベルは感激し、さらなる技能向上のため男性役を学ぶと宣言した。男装でのダンス提案に対し、モニカは必死に拒否し、イザベルの計画はひとまず中断された。
[モニカの自慢]
友人との思い出に浸るモニカ
フェリクスが生徒会室を訪れると、モニカは櫛を手に思い出に浸っていた。その櫛は、友人と一緒に選び購入したものであり、モニカにとって大切な記憶の象徴であった。
友情の誇りと変化の兆し
フェリクスはモニカの変化に気づき、彼女が数式ではなく友情を想って笑っていたことに驚いた。モニカは、友人に教わったことや共に過ごした時間を嬉しそうに語り、その姿は以前よりも人間的で温かみを帯びていた。
[グレン・ダドリーの隠しごと]
森の中での秘密活動
フェリクスはグレンが森の中で何かをしている姿を目撃し、こっそり後を追った。そこで目にしたのは自作の燻製器と、ベーコン作りに没頭するグレンの姿であった。
燻製の試食と料理への情熱
グレンはフェリクスに手製ベーコンの味見を求めた。フェリクスはこれを受け入れ、香りの弱さを指摘した上で厨房の使用許可を与えた。グレンは感激し、今後は正式な場所で調理を行うこととなった。
後日の余波
この出来事を機に、男子寮のまかないに美味なベーコンやハムが登場するようになった。グレンの情熱が結果として学園生活の一部に彩りを加えたのである。
【ウニョウニョ解読会】
シリルの絵をめぐる生徒会室での混乱
モニカ、エリオット、シリルの三人は学園祭の企画書確認を進めていたが、演劇クラブ提出の読解困難な文字に苦戦していた。解読の合間、エリオットが皮肉を交えシリルの絵を話題にし、やがてモニカが絵を解釈できるかどうか試す流れとなった。これによりシリルが三枚の絵を描き、それぞれ「潰れたパンのような四足歩行の何か」「羽のある魚のような何か」「触角をもつ二足歩行の何か」が提示された。
ウニョウニョ絵の意味をめぐる三者のやりとり
モニカはその絵を何度も観察するも意味を見出せず、シリルの期待に応えたい一心で思案を重ねていた。一方、エリオットはその様子を揶揄しつつも、絵の内容を理解しようとはせず茶化し続けた。モニカは絵の意味を掴めないまま困惑し、シリルの信頼とエリオットの皮肉の板挟みとなっていた。
フェリクスの登場と衝撃の解読
生徒会長フェリクスが生徒会室に現れ、モニカたちは作業放棄を思い出し慌てて書類をまとめようとした。その際、床に落ちた絵をフェリクスが拾い、一目で「猫」「翼竜」「子リス」と解釈を下した。これによりシリルは大喜びし、モニカは第三の絵を自分に似せたものと察し動揺した。だが、フェリクスはそのまま企画書の進捗確認を促し、エリオットだけがしたり顔で真面目に作業を続けていた。
【うっかり頑張ってしまったのよ】
ニールと同じ授業を選んだクローディアの動機
クローディア・アシュリーは選択授業でチェスを選んだ。目的は明白で、婚約者ニールと同じ時間を過ごすためであった。本人にはチェスへの強い思い入れはなかったが、ニールに「一緒に頑張ろう」と言われたことで、心が揺れ、思わず頷いてしまった。
代表選手選出と浮かれる気持ち
その結果、クローディアはチェス大会の代表選手に選ばれ、ニールと共に訓練に参加することとなった。代表メンバーにはフェリクス・アーク・リディルも含まれ、彼は中堅として間に入る立ち位置であった。三人の並びにやや複雑な思いを抱きつつも、クローディアは表情に出さず、心だけが軽やかになっていた。
昨年の試合を振り返るモニカたちの反応
一方、モニカとエリオット、ベンジャミンは前年の試合記録を見返していた。クローディアの試合内容は容赦がなく、対戦相手との力量差が歴然であった。その盤上から放たれた静かな怒りと鬱屈した気配により、会場の空気すら支配されていたとベンジャミンは評した。モニカはその場にいなかったことに安堵し、胸を撫で下ろした。
【パタンと一織り、紡ぐ歌】
モニカの音痴発覚と生徒会での追及
モニカは音楽の実技評価で「歌っているふり」を続けていたことが露見し、フェリクスとシリルによる生徒会での事情聴取を受けていた。シリルは彼女の欺瞞に激怒し、エリオットは揶揄しながらも事実に驚いていた。モニカは実際に課題曲を歌うよう命じられたが、その歌声は評価に値しない代物であった。
音楽評価の再提出とフェリクスの助言
フェリクスはモニカの感想文を確認し、数式で埋め尽くされた内容に頭を抱えつつも、音楽史の筆記試験と自由選曲による再提出の機会を与えた。モニカは落第を避けるため、改めて感想文に取り組むこととなった。
エリオットとベンジャミンの助言
チェス訓練の場でモニカは再提出の事情を語り、エリオットから「普通の感想文を書けばよい」と諭されるも理解できなかった。ベンジャミンは音楽とは心を震わせるものであり、魂を読み取ることが鑑賞の本質だと説いたが、モニカはそれを物理的振動として理解しようとし、両者の会話は微妙に噛み合わなかった。
屋根裏部屋での葛藤とネロの提案
夜、モニカは再提出の感想文に苦しみながら、ネロとリンに相談した。ネロは自身の歌を披露し参考にするよう促すが、モニカはなおも感想が書けず、語彙の乏しさにも悩まされていた。一方リンは風の精霊として音楽に感応する性質を語り、ネロの歌を「珍味」と評してやんわり否定した。
旧学生寮への導きとフェリクスの謎の行動
翌日、ネロはモニカにフェリクスが一人で森へ向かったことを告げた。任務上護衛する立場であるモニカは後を追い、旧学生寮付近で滑ったところをフェリクスに助けられた。そこで旧学生寮が立入禁止である理由と、不審な出入りがあるという情報を聞かされた。
旧寮で出会った精霊憑きの子犬
二人は旧寮でグレンと出会い、黄緑色の毛並みと宝石のような瞳を持つ子犬に遭遇した。モニカは無詠唱魔術で魔力反応を確認し、子犬が精霊に憑かれていると見抜いた。子犬の中の精霊は、かつて聞いた特定の歌を再び聴きたがっており、それが消滅の危機を回避する鍵であると判明した。
音楽室での探索と精霊の求める歌の手がかり
フェリクス、モニカ、グレンはベンジャミンに協力を求め、音楽室で様々な曲を演奏して精霊の反応を試した。精霊は「ギッコン、パタン」という言葉でその歌を表現し、それが機織り娘たちが歌っていた労働歌であることが明らかとなった。
「機織り歌」とシリルの関係
ベンジャミンは精霊の言葉から「機織り歌」を想起し、フェリクスはその歌を無意識に口ずさんでいたのがシリルであると断定した。グレンがシリルを強引に資料室から連れ出し、第二音楽室で歌ってくれるよう懇願したが、シリルは当初固く拒絶した。
シリルの歌唱と精霊の応答
葛藤の末、シリルは歌唱を承諾し、ベンジャミンの伴奏で「機織り歌」を披露した。精霊はそれに強く反応し、風を起こして歌に同調する姿を見せた。新緑色の光を伴う風は、精霊の詠唱に等しく、その歌が深い共鳴を引き起こした証であった。
事件の終結とモニカの感想文完成
精霊は満足し、ミネルヴァの魔法生物研究所に引き渡されることが決定された。翌日、モニカはシリルの歌に基づいた新たな感想文をフェリクスに提出し、高評価を得た。シリルは自身が「魂を読み取られた」と知り、困惑を見せたが、モニカは満足げに提出へと向かった。
小さな歌の奇跡とネロの珍味
騒動の裏で静かに物語が閉じる中、屋根の上ではネロが相変わらず「珍味」と評された自作の歌を陽気に口ずさみ続けていた。かくして音楽にまつわる一連の出来事は、静かに幕を下ろしたのである。
【天才に紙とペンを与えるな】
モニカとの対局とエリオットの検証
チェス大会を目前に控えた中、エリオットはモニカに敗れた対局の内容を真剣に検証していた。盤面に駒の動きを再現し、自身のミスを洗い出そうと試みた。
仲間たちの「検証」のずれた方向性
しかし、その横でベンジャミンは音楽の着想を得て五線譜に曲を書き出し、モニカは「八クイーン問題」なる数学的チェスパズルに没頭していた。対局の振り返りを行っていたのはエリオットだけであり、他の二人は別の方向に集中していた。
紙とペンの暴走とエリオットの憤慨
エリオットは二人の行動に呆れ果て、紙とペンを取り上げて屑籠に投げ捨て、チェスに集中するよう強く促した。
【新婚魔術師は早く家に帰りたい】
封印解除と魔導具の愛のささやき
ルイス・ミラーは古代魔導具〈星紡ぎのミラ〉にかけられた結界を解除していた。だが、ミラは自我を持つ上に惚れっぽく、ルイスに対して執拗に愛を語りかけてきた。
惚気で応戦するルイスの戦術
愛の囁きによる精神攻撃を受けながらも、ルイスは妻との惚気話で対抗し続け、遂に解除作業を完了させた。
仕事を終えたルイスの本音と同期との再会
任務を終えたルイスは帰宅を切望していたが、〈星詠みの魔女〉メアリーの提案で、七賢人の一人モニカを招いた食事会に参加する流れとなった。ルイスは疲労困憊の中、帰宅願望を胸に秘めていた。
【心の臓を持たねども】
精霊によるときめきの実験
リンはモニカをお姫様抱っこし、人間の「ときめき」の研究を試みたが、モニカは高所による恐怖心からドキドキしていたため、成果とは言えなかった。
王子様化したリンによる再検証とモニカの失神
リンはさらに王子様の姿に変化して抱きかかえたが、モニカは驚愕のあまり失神してしまった。リンはその脈拍の上昇を確認しつつ、原因は恐怖であり恋愛的なときめきとは異なると結論付けた。
リンの過去のときめき体験
リンは自身に臓器や血が無い精霊でありながら、過去に一度だけ本物のときめきを感じた経験を回想した。それは心臓が鼓動するような錯覚を覚えた特別な体験であった。
人間への関心とルイスへの否定
リンは人間の感情に触れたいという探求心を明かしつつ、ネロの指摘する「ルイスへの恋愛感情」を断固否定し、協力関係のみにすぎないと明言した。
【仲良しを半分こ】
伝統菓子の共有とイザベルの願い
イザベルはモニカに、祭りの伝統菓子を半分こにして仲良しを願う習わしを伝え、菓子を手で割って一緒に味わおうと誘った。
アガサへの分け合いとささやかな絆
イザベルの強い勧めにより、モニカはアガサにも菓子を分けようと提案し、三人で一緒に菓子を分かち合った。この行為が、小さな友情と信頼を育む温かな瞬間となった。
【会計の責務】
シリルが阻んだ着服とソーンリーの苦悩
かつての生徒会会計であったシリルは、真面目な性格ゆえに帳簿を定期的に確認し、ソーンリーによる着服を唯一阻止した存在であった。彼の存在はソーンリーにとって大きな障害であり、帳簿改竄を困難にさせていた。
資料返却とモニカの協力提案
着服調査が終わった後、膨大な会計資料が学園に返却された。モニカはそれを片付けようとしたが、シリルはその責任を自身が負うべきだと主張した。
謝罪と現会計としての責任感
モニカは過去に「杜撰な管理」と発言したことを謝罪し、今の会計として自ら責任を担おうと申し出た。シリルはその言葉に心動かされ、和解の空気が生まれた。
フェリクスの参加と三人の共同作業
そこにフェリクスが現れ、三人で作業をすれば早く終わると提案した。フェリクスの配慮はシリルを精神的に救い、三人の間に新たな信頼が築かれた。
【モニカ・ノートンと温度計】
温度計設置の目的と誤解
生徒会室を温度計だらけにしたモニカの行動に、シリルは殿下の快適さを追求するためと誤解したが、実際には学園祭のクッキー作りに向けて、バターを最適な温度に戻すための室温調査であった。
モニカの思考の暴走とシリルの助言
モニカは数字を用いた計測に夢中になっていたが、シリルから実践的な方法を助言され、室温に関する誤解に気づいた。調理におけるバターの取り扱いを誤解していたモニカの行動は、理論に偏りすぎたものであった。
クッキー作りの成功と教師の奮闘
担当教師がモニカに目を離さず付き添ったことで、クッキー作りは無事成功し、チャリティバザーにて良質な品が提供された。教師は後に、魔術師を必要とするのかという生徒の問いに困惑したことを振り返った。
【ラナの手紙】
モニカの背中の傷痕への気づき
ラナはモニカにコルセットの使い方を教えていた際、彼女の背中に複数の古傷を見つけた。中でも肩から肩甲骨の間の傷が特に目立っており、ラナは衝撃を受けたが、それを悟られぬよう表情を隠した。モニカはコルセットの締め付けに不満を漏らしていたが、ラナの内心には深い怒りが渦巻いていた。古傷であることから加害者や経緯は不明であったが、ラナはモニカが語ることはないだろうと察していた。
傷への配慮と内に秘めた怒り
ラナは見える場所の傷に対して特に敏感であった。彼女は自らの立場で過去の傷に言及することは控えたが、今後新たに誰かがモニカを傷つけた場合は黙っていないと心に決めていた。その決意は静かながらも強く、誰かが再びモニカを傷つけたならば、怒りを露わにして立ち向かう覚悟であった。
ドレスの仕立て直しに込めた思い
学園祭後の舞踏会でモニカに貸す予定のドレスについて、ラナは父に宛てて細かな要望を書き送っていた。背中の傷を隠しつつ、二の腕までは見せられるようにし、スカートには程よくボリュームを加えるように考えていた。華やかすぎず、モニカが負担を感じないよう、あくまで控えめに可愛らしく仕上げることを目指していた。
押しつけへの不安と祈り
自分の行動が独りよがりになっていないかをラナは何度も自問していた。それでも、モニカに喜んでもらいたいという願いは揺るがなかった。ラナは手紙の末尾に、父に協力を願う一文を添え、真心を込めて封をした。
最後の準備と小さな夢
ラナは封を終えた後も、モニカに似合う髪型や化粧について思いを巡らせていた。派手すぎず、飾りすぎず、それでいて「素敵」と感じてもらえるような、可憐でさりげない美しさを目指していた。ラナの願いは、ただひとつ、モニカに笑顔で舞踏会を迎えてほしいということだけであった。
三章 秋の終わり、招かれる冬 (学園祭 ~冬休み)
【グレンの礼服】
早朝の訪問と贈り物の到着
学園祭の朝、グレンは珍しく早起きし、窓の外に張りついたリィンズベルフィードを発見した。彼女は師匠ルイスの契約精霊であり、舞踏会用の正装一式を届けに来た。ルイスの伝言に困惑しつつも、グレンは高級な礼服を受け取った。
礼服の品質と代金への不安
紙袋の中には、金糸の上着や虹色ボタンのシャツ、シルクのタイなどが入っていた。高価そうな品に警戒したグレンであったが、リンの説明により、礼服は王子護衛任務の経費として処理されており、請求は国王にされることを知る由もなかった。
【呪術師、満喫中】
奇行と期待の誤認
〈深淵の呪術師〉レイは学園祭受付で奇行を繰り返し、女子生徒を困惑させつつも入場を果たした。周囲の華やかさに圧倒されながらも、彼は展示を見て早々に帰ろうと考えていた。
秋薔薇との出会いと誤解からの感動
日陰で秋薔薇を眺めていたレイは、販売員の女子生徒の優しい言葉に心を動かされ、鉢植えを購入した。愛されたと錯覚した彼は、チャリティバザーでも次々と品物を買い込み、学園祭を満喫するに至った。
満喫ぶりに対する師の反応
レイの様子を目撃したルイスは、呪術師が学園祭を存分に楽しんでいる姿に驚いた。鉢植えやぬいぐるみを抱えるレイを見て、複雑な思いを抱きつつも羨望の眼差しを向けた。
【お兄様、奮闘中】
生徒会副会長としての配慮
シリルは学園祭の舞踏会準備を確認した後、多忙な庶務ニールの負担軽減を考え、連絡係の代行を申し出た。これにより、ニールがクローディアと踊る時間を確保しようとした。
想いを伝える不器用な兄
舞踏会でドレスを着るクローディアの想い人がニールであると知るシリルは、自分なりの不器用な方法で二人の時間を作ろうとした。頼まれたニールは感謝の意を伝え、義兄となるシリルに敬意を深めた。
【エリオットの悪戯】
生徒会副会長の貴重な姿
資料整理を頼まれたモニカは、資料室でうたた寝するシリルを発見した。完全主義の彼が机に突っ伏して寝ている姿は非常に珍しく、モニカも驚愕した。
髪型の悪戯と周囲の反応
エリオットは隙を見てシリルの髪を三つ編みにし、リスのような髪型に変えた。生徒会室に戻ったシリルは異変に気づかぬまま皆の反応に戸惑い、フェリクスの一言で真相を知ると、怒声を上げるに至った。
【肉屋の倅と試験勉強】
グレンを中心とした勉強会
進級が危ういグレンを救うため、モニカたちは勉強会を開いた。モニカは算術、ラナは帝国語、ニールは基礎魔術を担当し、それぞれ丁寧に教えていた。
奇抜な記憶法とシリルの登場
グレンの学習能力に限界を感じたモニカは、数字に置き換える独自の記憶法を提案した。グレンはそれに倣い、王家の系図を肉の部位で覚えようとしたが、それが副会長シリルに見つかりかけ、モニカは慌てて隠蔽を図った。
副会長の配慮と尊敬の表明
シリルはグレンのために要点をまとめた資料を持参して現れた。グレンは感動し、シリルを高級部位「ヒレ肉」と称して称賛したが、シリルにはその意味が理解できなかった。
【虫と女傑】
蜘蛛騒動と怯える書記
資料室で小さな蜘蛛を見つけたエリオットが悲鳴を上げ、生徒会副会長シリルとモニカが駆けつけた。エリオットは蜘蛛に恐怖を抱き、取り乱していた。
モニカの迅速な対応
モニカは冷静に蜘蛛を手袋でつまみ、外へ逃がした。その落ち着いた対応に、エリオットは驚きと賞賛の言葉を投げかけた。
女傑と呼ばれるモニカ
先輩に対しては控えめな態度を見せるモニカであったが、虫に対してはまったく動じなかった。この一件で、彼女は密かに「女傑」と称されることとなった。
【合理的な住処】
負傷と医務室での手当て
イストレイアに襲われたモニカと、共に負傷したグレンおよび足をくじいたシリルは、医務室で治療を受けることになった。グレンは薬の塗布に慣れており、モニカの手当ても自ら引き受け、手際よく処置を行った。
グレンの手当ての上達の理由
モニカの問いに、グレンは修業中の怪我の多さと、師匠の妻が医師であったことを挙げた。修業の荒さと日常的な治療の観察が、自然と手当ての技術を高めた背景にあると語った。
新たな来訪者とクローディアの皮肉
そこへニールとクローディアが到着し、負傷の原因を問い質した。クローディアはこれまでのモニカの騒動歴を指摘し、皮肉を込めて医務室暮らしを提案した。
モニカの妄想と他者の呆れ
クローディアの発言を受けたモニカは、医務室暮らしの利便性に魅力を感じ、つい表情に出してしまった。グレンとシリルはその様子に呆れ、医師も困惑の態度を見せた。
【ラナとバザール】
誕生日プレゼントを探す意図
ラナはモニカの誕生日プレゼント選びを目的にバザールへ誘ったが、モニカが前日に生徒会と訪れていたことを知り、計画に狂いを感じた。
モニカの性格とプレゼントの悩み
高価な贈り物を遠慮しがちなモニカの性格を考慮し、ラナは実用的で控えめな贈り物を模索した。その中で、以前一緒に買った櫛に関連して、巾着袋を刺繡入りで贈る案を思いついた。
刺繡の決意と高揚感
巾着袋にモニカの幸運の花であるスミレの刺繡を施すことで、心を込めたプレゼントにしようと考えたラナは、モニカと別行動を取り、刺繡糸を買いに向かった。初めての試みに心を躍らせていた。
【愛されたがりの休日】
森での邂逅と召喚の告知
休日、スケッチをしていたレイは空から降ってきたリンに出会い、〈沈黙の魔女〉からの召喚を受けた。レイはそれを好意の表れと解釈し、歓喜に満ちた。
強制移動と着地の選択肢
リンは風の結界でレイを強引に学園まで搬送し、その過程で着地方法として過激な選択肢を提示した。動揺するレイに構わず、リンは一方的に移動を続けた。
教訓としての結末
体験した着地がレイに深い衝撃を与えた結果、彼は改めて〈結界の魔術師〉が関与する事態の危険性を認識し、以後の警戒を新たにした。
【隠れファンの葛藤】
魔法戦の余韻と話題の本
教室ではシリルとバイロンの魔法戦の話題で盛り上がり、フェリクスもその内容を回想していた。バイロンが参考にした本が〈沈黙の魔女〉によるものであると聞き、フェリクスは内心動揺した。
本への関心と妨害行動
本のタイトルをシリルが尋ねようとした瞬間、フェリクスは会話を中断させ、自ら話しかけることで話題を逸らした。これは貸出予約者を増やしたくないという私的な思惑からの行動であった。
罪悪感と自省
自分の行動に罪悪感を覚えたフェリクスは、心の中でシリルと〈沈黙の魔女〉に謝罪した。理性と感情の間で揺れ動く自身の振る舞いに反省を滲ませた。
【皮肉家とウィンターマーケット】
訪問のきっかけと嫌々の同行
ウィンターマーケットに訪れたエリオットは、友人ベンジャミンに強引に誘われた末の同行であり、不満を抱きながら街を歩いていた。
シリル達との遭遇と回避行動
冬精霊の鐘の前でシリルとモニカ、グレンを発見したエリオットは、声をかけられることを避けるため、ベンジャミンの行動を阻止しつつ場を離れた。
身分と行動の価値観の違い
使用人を伴わず自力で買い物をしていたシリルの姿に、エリオットは貴族らしからぬ振る舞いとして否定的な評価を下したが、その感情には自らの立場への劣等感も含まれていた。
【生徒会とリース作り】
リース作りの経緯と作業の分担
業者の手違いにより材料のみが届いたため、生徒会役員達がリース作りに取り組むこととなった。皆が手作業に励む中、エリオットは不満を漏らしつつも作業に参加した。
負けん気と観察による工夫
他の役員が見栄えの良いリースを作っているのを見たエリオットは、モニカのマツボックリの厳選を参考にしながら、目立つ装飾を施して完成度を高めようとした。
意地と意識の向け方
制作中のモニカの真剣な態度や、シリルへの反発心が、エリオットの制作意欲を刺激した。リースの見栄えに対する対抗意識が、彼の細部へのこだわりを生んだ。
【冬休みの救世主】
グレンの成績と補習の危機
学園では冬休み中の補習実施が懸念されていたが、その引き金となり得る生徒はグレンであった。彼の成績次第で、教師にも負担が及ぶ事態が発生しかけていた。
試験結果と周囲の歓喜
グレンはすべての教科で合格点をわずかに超え、補習を免れることに成功した。モニカとラナ、さらにはニールやシリルの努力が報われた瞬間であった。
副会長の厳格な追及
しかし、シリルは答案の不備を指摘し、補習を逃れたからといって甘い評価を与えなかった。グレンに対しては冬休みの課題を追加する意向を示した。
教師達の安堵と副会長の手腕
教職員はグレンが補習対象から外れたことに感謝し、シリルの尽力を称えた。シリルは学園の秩序と後輩の成長のため、常に全力で職務を果たしていた。
四章 新しい年、目覚めの春 (新年 ~最高審議会)
【〈茨の魔女〉は大張りきり】
ラウルとの出会いと依頼の切り出し
新年の式典から二日後の朝、モニカは〈茨の魔女〉ラウル・ローズバーグを探して城の庭園を歩き、彼が花壇で作業している姿を見つけた。モニカはラナの誕生日に贈るためのサシェ作りに使いたいとして、薔薇の花を譲ってほしいと依頼した。
ラウルの庭園での薔薇摘み
ラウルは快く了承し、モニカを自宅の庭園へ案内した。そこでは香りの強い品種の薔薇を選び、サシェに適した花を次々と摘んでモニカに渡した。
感謝と共感の共有
モニカの誠実な気持ちにラウルは共感し、無償で薔薇を提供した。モニカは友人が喜んだら報告すると約束し、花の香りを胸に帰路についた。
【王子様の宝物】
寮への帰還と宝物の確認
フェリクスは新年行事を終え、セレンディア学園の男子寮へ戻った。彼が鞄から取り出したのは、大切に保管された魔術書と自身の論文であった。
〈沈黙の魔女〉の添削と感激
特に大事にしていたのは、〈沈黙の魔女〉が添削した論文であった。記された短いメッセージを読んだフェリクスは、感激のあまり喜びを抑えきれなかった。
秘匿と不安への備え
論文を秘密の引き出しに隠しながら、フェリクスは自身に何か起きた時の処分について精霊ウィルに語った。だが、〈沈黙の魔女〉の論文だけは手放せないと、矛盾に悩みながらも保管を決意した。
【副会長の配慮】
負傷を隠しての作業
冬休み明けのある日、モニカは生徒会室から離れた第二資料室で資料整理をしていた。しかし呪竜による負傷の影響で、左手に痛みが残っていた。
シリルの申し出と配慮
資料箱を持ち上げられず困っていたモニカに、シリル・アシュリーが声をかけ、代わりに資料を探すと申し出た。狭い室内に自らが長く留まると冷気を放ってしまうことを理由に、間接的にモニカを気遣って外へ出した。
紅茶による返礼の決意
モニカはその配慮を受け取り、冷えた体には紅茶が最適だと考え、感謝の気持ちを込めて紅茶を淹れることを決意した。
【トゲトゲとウニョウニョ】
絵の添削をめぐる騒動
放課後、エリオットはチェスクラブでロベルトがトゲトゲした犬の絵を描いている場面を目撃した。絵の指導にあたっていたベンジャミンも困惑していた。
シリルの介入と対立
そこに現れたシリルは、ウニョウニョとした可愛らしい犬を描いて対抗し、ロベルトとの間に絵の方向性を巡る論争が生じた。
エリオットの皮肉と静観
騒ぎを皮肉るエリオットは「底辺争い」と断じ、チェスの準備に集中した。一連の応酬は、混沌と不協和音が漂う一幕となった。
【室内ピクニック】
プレゼントと港町の夢
ラナはモニカから贈られたサシェに感動し、冬休みに訪れた港町の思い出を重ねて夢に見た。
モニカの変調と決闘の噂
誕生日翌日、モニカの異変に気づいたラナは、魔法戦による決闘の噂を耳にした。事の発端は編入生ヒューバードの挑発であり、グレンとシリルが対決する事態となっていた。
モニカを支えるための行動
落ち込むモニカを支える方法として、ラナは「室内ピクニック」を提案した。ニールとクローディアも協力し、食事と休息を通してモニカを回復させようと動き始めた。
クローディアの策略と根回し
クローディアは最適な場所を示しつつ、フェリクスを間接的に動かして騒動の火消しを図ろうと計画した。結果、ラナは明日の昼休みに教室で室内ピクニックを実行することを宣言し、皆が協力して準備を整えることになった。
【深淵と茨、夜の馬車】
レイとラウルの任務への出発
深夜、〈深淵の呪術師〉レイ・オルブライトと〈茨の魔女〉ラウル・ローズバーグは、〈宝玉の魔術師〉が保有する古代魔導具の破壊と巻き込まれた一般人の保護のため、〈星詠みの魔女〉の手配した馬車でケリーリンデンの森へ向かっていた。同行は偶然であり、それぞれ王都在住であったことによる。〈星詠みの魔女〉は別行動をとり、〈結界の魔術師〉は他の賢人たちとの連絡役を担っていた。
ラウルの沈黙と一瞬の静寂
馬車の中、普段は陽気なラウルが口数少なく沈黙していた。揺れるランタンが彼の顔に影を落とし、その美貌は幻想的な雰囲気を醸し出していた。ラウルがこの事態を重く見ている様子に、レイは〈宝玉の魔術師〉の行動に対する厳しさを改めて感じ取っていた。
緊張の解放とラウルの素顔
沈黙の中、ラウルは突如として眠りに落ち、寝言を発することで緊張を和らげた。普段通りのマイペースさを見せ、彼の行動はラウルらしい自然体であった。早起きが習慣であるため、夜の馬車でも眠れる図太さにレイは呆れながらも感心していた。
【背中に隠した左手】
エリアーヌの見舞いと葛藤
グレンの風邪を聞いたエリアーヌは、見舞いの名目でチャリティバザー用のクッキー作りを始めた。焼き上げたクッキーは可愛らしく仕上がったが、天板で左手を火傷するという小さな代償も伴っていた。
見舞いの目的とすれ違い
翌朝、エリアーヌはグレンが既に回復して登校しているのを見て落胆した。火傷までして作ったクッキーを手に、自分の行動に対して内心で自嘲しつつも、グレンに気づかれたことで自然を装いクッキーを手渡した。
左手の火傷と動揺の理由
エリアーヌは、火傷を隠そうと咄嗟に左手を背後に回した。学園内では「左手を怪我した女子生徒がフェリクスの妻候補」という噂があり、その連想を恐れたのである。エリアーヌは自分でも理由のわからぬ動揺に戸惑いながら、グレンと共に歩を進めた。
正直さと笑顔の力
グレンはその場でクッキーを食べ、素直な笑顔で美味しいと伝えた。その様子にエリアーヌはあらゆる言い訳が無意味に思え、彼のまっすぐな姿勢に心を動かされた。笑顔の前では、偽りは霞んでしまったのである。
【貴方に最期の日が来たら】
竜討伐の労いの晩餐
〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォード・ファイアストンは、〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイの屋敷を訪れ、竜討伐後の労いを受けていた。メアリーは豪華な料理と酒でもてなし、共に労われるはずの〈結界の魔術師〉ルイスと〈沈黙の魔女〉モニカは都合により欠席していた。
少年たちとの暮らしと自立支援
屋敷には孤児院から引き取られた少年たちが側仕えとして仕えており、メアリーは彼らに給金と教育の機会を与え、準成人になれば支度金と紹介状を添えて送り出していた。彼女はこれを慈善ではなく趣味として割り切っていた。
星詠みの始まりと過去の予言
話が進む中で、ブラッドフォードはメアリーの星詠みの原点について尋ねた。彼女はかつて婚約者の父の死を予言したことを明かし、それが原因で罪悪感と共にその婚約も終わった過去を語った。婚約者は何も信じなくなり、孤独の中で道を分かつこととなった。
メアリーの覚悟と祈り
それでもメアリーは、元婚約者のやり方を否定せず、自身は自分の方法で国に尽くすと決意していた。彼の最期を星で見るまでもなく、彼の死が孤独と静寂に包まれることを知りながら、それを悼むのは自分一人でよいと考えていた。これは〈星詠みの魔女〉としてのエゴであり、彼への哀惜の形でもあった。
五章 そしてまた、夏が呼ばれ (最高審議会以降)
【卒業パーティの後で】
卒業を迎えたエリオットの決意
エリオット・ハワードは、セレンディア学園の卒業式とパーティが終わった後、政局の変化と自らの立場を静かに見つめていた。〈沈黙の魔女〉に協力したことで、父ダーズヴィー伯爵を含む第二王子派の貴族たちは失脚の道を辿り始めており、彼自身も家の衰退や婚約解消の可能性を受け入れる覚悟を持っていた。
モニカとの再会と複雑な感情
エリオットはパーティ後の打ち上げ会場に向かう途中で、制服姿のモニカ・エヴァレットと〈偽王子〉に遭遇した。モニカの七賢人としての地位に対し、彼は揶揄うことも敬うこともできず、曖昧な態度を取るしかなかった。モニカが身に着けていた花飾りが王子から贈られたものであることを察し、内心で不満を募らせていた。
打ち上げ会での賑やかな再会
打ち上げの場では新旧の生徒会役員たちが集まり、モニカの姿に皆が反応を示していた。モニカがつけている花飾りの意味を察した者たちは複雑な表情を浮かべ、それぞれの態度に戸惑いを見せていた。グレンとラナはモニカとの再会を喜び、賑やかに交流を交わしていた。
モニカからの贈り物と想い
モニカはブーケを手渡しながら、シリルや旧役員たちに卒業の祝いの言葉を述べた。その様子は初々しくもあり、かつての学園生活を思い起こさせた。エリオットは花飾りの出所をシリルに尋ねたが、シリルは王子の配慮と好意的に解釈し、素直に感心していた。
日常の延長としての賑やかな時間
グレンの呼びかけによってシリルも会話に加わり、場は一層賑やかになった。フェリクス殿下もそれを温かく見守り、和やかな空気の中で旧友たちは時間を共にした。エリオットはその様子を見つめつつ、未来の変化を予感しながらも、今このひとときを楽しもうと考えた。
【呼び方の話】
共同研究と打ち合わせの背景
モニカ・エヴァレットは、〈茨の魔女〉ラウル・ローズバーグとの共同研究のため、ハイオーン侯爵家を頻繁に訪れていた。この研究は植物への魔力付与をテーマとしており、ハイオーン侯爵が出資と土地を提供していたため、シリル・アシュリーも会議に同席していた。
植物と魔力の関係に関する知見
打ち合わせでは、魔力付与された植物による土壌の魔力汚染や、魔力蓄積部位の違いが議論された。豆類が土中の魔力を吸収する性質を持つことから、土地の魔力浄化に有効であるとラウルが提案した。これに基づき、畑の配置と作付計画の検討が進められた。
作業の分担と過去の連携の再現
モニカは大量の資料を準備し、シリルがそれを読み込みながら要点をまとめた。互いの作業分担は学園時代の生徒会役員時代と変わらず、自然に連携が取れていた。モニカは自分の作成した細かすぎる資料を反省しつつも、シリルからの肯定的な評価に安堵していた。
呼び方の違いとその理由
打ち合わせの途中で、ラウルがモニカに対し、なぜ〈結界の魔術師〉ルイスだけ名前で呼び、他の七賢人には肩書きを使うのかと問いかけた。モニカは無意識にそうしていた理由を思い出し、学生時代にルイスの名をラザフォード教授の弟子として頻繁に聞いていたことが背景にあると語った。
モニカとシリルの関係の変化
ラウルはさらに、なぜシリルだけ「様」付けで名前呼びなのかと尋ねたが、モニカは明確な答えを出せず、動揺した様子を見せた。シリルがモニカの名前を呼ぶたびに、彼女は嬉しさと落ち着かなさの入り混じる感情を抱えていた。この呼び方の違いは、彼女自身も気づいていない小さな心の動きであった。
【エピローグ】ありがとうを貴方に
引っ越し初日の再会と衣類の話題
モニカはサザンドールへの引っ越し初日、ラナの商会を訪れて久々の再会を果たした。積もる話を後回しにし、まずはショッピングへと向かうことになったが、ラナはモニカの質素な服装に目を留めた。モニカの持ち物は最低限であり、服や化粧品などの日用品はほとんど揃っていなかった。それを知ったラナは厳しい視線で問い詰め、生活の準備がまったく整っていないことを指摘した。
生活必需品の不足と買い物計画の立案
ラナはモニカの持ち物を詳細に聞き取り、生活必需品が著しく不足している事実を把握した。特にカーテンの未設置に強く反応し、女性の一人暮らしとして危険であると断じた。その場で買い物リストを作成し、優先順位を付けて購入を進める方針を決めた。まずは普段着とカーテンの調達を目指し、モニカもラナの気迫に圧されて同意した。
服選びと髪留めの話題
ラナは服飾店でモニカに白いブラウスとハイウエストのスカートを選び、その場で着替えさせた。その姿を眺めながら、モニカの髪を束ねていたリボンの傷みに気づき、新しいリボンの購入を提案した。そのリボンはかつてラナからもらったもので、モニカにとって思い出深い品であった。捨てがたい気持ちを抱えるモニカに対し、ラナは記念として髪留めをプレゼントすると宣言し、モニカ自身には普段使いのリボンを選ばせることにした。
自分の好みと向き合う時間
モニカはリボン選びに苦戦しながらも、自分の好みについて少しずつ考えるようになった。好きな模様として「線のある柄」が挙がり、ラナはそれに合うストライプ柄のリボンを提案した。特に赤いストライプにレースをあしらったリボンに惹かれたモニカは、それを選んだ。ラナはその様子を見て笑顔を浮かべ、「可愛い」と称賛した。
新しい生活の象徴としてのリボン
モニカはそのリボンを新たな生活の象徴と受け止め、店員に代金を支払い、自らの髪に結びつけた。鏡の前で揺れるリボンを見つめながら、彼女はこれまでの自分の変化を感じ取っていた。かつては人の親切に戸惑い、自分の感情を素直に伝えることすら困難だったが、今は素直に喜びと感謝を表現できるようになっていた。モニカは満面の笑みでラナに感謝の言葉を伝え、ラナもまたそれに明るく応じた。
【シークレット・エピソード】砂糖衣の王子様はいなかった
手紙で近況報告
モニカは養母ヒルダへ宛てた手紙に、新天地サザンドールでの活気ある日々や衝動買いした円形絨毯の美しさ、友人ラナが営む商会の服飾品、学園時代の仲間たちからの訪問と手土産を綴り、街の魅力を満喫している様子を記したである。
弟子の境遇と筆を止めた理由
手紙の追伸で弟子について書こうとした際、モニカは彼の複雑な事情を思い出し筆を迷わせたである。最終的に弟子を「黄金比ですごい」と婉曲に表現し、その場を収めたであった。
クッキーの香りと弟子の素性
バターとジンジャーの甘い香りに誘われ階下へ向かったモニカは、弟子アイザックが焼いたクッキーを目にしたである。彼は表向きリディル王国第二王子フェリクスとして振る舞うも、実際は故王子の影武者であり、モニカの機転で処刑を免れて以来、彼女の押しかけ弟子となっていたであった。
ネロとアイザックの軽妙な応酬
竜が化身した黒猫ネロが現れ、アイザックと縄張りを巡る軽い応酬を交わしたが、彼らのやり取りは和やかな雰囲気を保ったである。ネロは甘い菓子よりも後に焼かれるチーズクッキーを期待し、再び外へ見回りに出たであった。
クッキー職人としての手際
モニカは粉一つ衣服に付けずクッキーを焼くアイザックの技量に感嘆し、その作業風景を研究の息抜きとして楽しんだである。彼が用意した型抜きクッキーは完全に冷めると、砂糖衣で精緻に装飾され始めたであった。
砂糖衣で描かれる物語
アイザックは花型にレース状の模様を施し、女児型にはモニカを模したローブ姿を描写したである。感激したモニカは絞り袋を受け取り、猫型にネロの表情を、女児型にはエプロン姿のアイザックを描いて友情と師弟の象徴としたであった。
一日の締めくくりと追伸
夜、モニカは焼き上げたクッキーをラナへ届けた後、充実した日を反芻しながら手紙の追伸に「弟子は黄金比で料理上手」と書き加えたである。干し立ての布団に包まれた彼女は幸福感を胸に、静かに眠りへ落ちたであった。
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