どんな本?
「サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと」は、モニカ・エヴァレットという無詠唱魔術を使える世界唯一の魔術師を主人公にしたファンタジー小説。
彼女は伝説の黒竜を一人で退けた英雄であり、極度の人見知りの天才魔女でもある。
しかし、彼女は無詠唱魔術を練習しているのは、人前で喋らなくて良いようにするためで。
無自覚なまま「七賢人」に選ばれてしまい、第二王子を護衛する極秘任務を同僚の七賢人に押しつけられることになり、気弱で臆病ながらも最強の力を持つ彼女が、王子に迫る悪をこっそり裁く痛快な物語が展開している。
読んだ本のタイトル
サイレント・ウィッチ VI 沈黙の魔女の隠しごと
著者:依空まつり 氏
イラスト:藤実なんな 氏
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あらすじ・内容
呪竜騒動は人為的な事件だった――その疑惑から第二王子との向き合い方が分からなくなるモニカ。そんな折、王城でクロックフォード公爵から呼び出しが! モニカは真実を求め、王国の重鎮との直接対決に挑むが……?
サイレント・ウィッチ VI 沈黙の魔女の隠しごと
感想
主人公であるモニカ・エヴァレットは、無詠唱魔術を操る世界唯一の魔術師で特別な力を持つ少女です。前巻までの出来事で呪竜騒動を終結させた彼女は、新たな学期を迎える中で、次なる騒動に巻き込まれていきます。
物語は、モニカが父が処刑された原因に絡むクロックフォード公爵の関与を疑う場面から始まります。
しかし、確証を得ることが難しく、呪竜騒動で負傷した左手の痛みと、左手を痛めている小柄な女子がサイレント・ウィチーだと知り、彼女を探している第二王子フェリクスからの追究に逃げながら新学期を迎えることになります。
モニカの周りでは次々と問題が起こり、彼女の平穏な日常は揺るがされていきます。
モニカが以前通っていた学園ミネルヴァの問題児であり、モニカの正体を知る先輩であるヒューバートが転入してきます。
彼は強い者に挑むのが大好きで、ミネルヴァでは手応えが無いのでセレンディア学園へと転校して来ました。
このヒューバートと結界の魔術師の弟子であるグレンはヒューバートと因縁があり、モニカを見つけたヒューバートが、モニカの事情を無視して決闘をしようとしたら、横槍を入れてグレンとシリルがヒューバートと決闘する事となります。
これがまた次なる騒動に繋がる事となるとは、、
さらに、隣国のセレンディア学園からチェス大会でモニカに結婚を申し込んだロベルトが編入して来て。
モニカに会う度にチェスを前提に結婚を申し込み。そして新入生である第三王子のアルバートは、第二王子フェリクスが愛玩(ペット)しているモニカを奪うために暗躍する。
モニカはヒューバートに怯え、ロベルトに求婚され第三王子に絡まれ。
彼等との関わりに悩みつつ翻弄されて行きます。
そんなモニカの受難とは別に、「星詠みの魔女」メアリーが「七賢人の誰かが欠ける」という不穏な予言を発せられ、物語は更なる謎へと進展します。
ヒューバートとグレン、シリル、ロベルトとの決闘でグレンとシリルが行方不明となります。その後、彼らを拉致した精霊たちから、精霊を実験で使い潰す七賢人の一人である「宝玉の魔術師」エマニュエルが、禁止された古代魔道具を用いて精霊を集めて使いつぶしていることが明らかになります。そんな危険な実験を止めて欲しいと精霊たちからの懇願を受け、グレンとシリルは意図せずにエマニュエルの研究所をぶっ潰しに向かうことになります。その後を第二王子のフェリクスが付いていくことになります。
さらに、七賢人の中でも「結界の魔術師」として知られるグレンの師匠であるルイスと共に、モニカは七賢人の中で評判の悪いエマニュエルへのカチコミに巻き込まれます。
ところが、エマニュエルに捕まっていたと思われるルイスの契約精霊のリンが現れ、次巻へと続きます。
本書は笑いとシリアスが交錯する魅力的な展開が特徴です。
プロローグのノートン一家による、ノートン家で過ごした夏休みのエピソード(偽造)は笑いを誘い、読者を楽しませます。
しかし、一方でモニカが大切に思う人々に嘘をつかなければならない苦悩や、彼女の運命に巻き込まれるさまは、共感を呼び起こす要素でもあります。
物語は、魔法と友情、成長のテーマを通じて展開されています。モニカは愛する父を失い、その才能を持ちながら王国の七賢人になった孤独な少女です。彼女の成長や友情の絆が、読者の心を打つことでしょう。
「サイレント・ウィッチ VI 沈黙の魔女の隠しごと」は、幻想的な世界観、魅力的なキャラクター、緻密なストーリー展開が読者を魅了する作品です。笑いとシリアスが交錯する中で描かれるモニカの冒険(苦難?)は楽しさと感動をもたらしてくれることでしょう。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
プロローグ 冬至前、華麗なる悪役ファミリー劇場
豊かな領地ケルベック伯爵領の現状と評判
ケルベック伯爵領は、リディル王国東部の肥沃な土地であり、水資源や林業に恵まれた地域であった。整備された街道と宿場街により、貿易の要衝としても発展し、冬至前でも人の往来が絶えなかった。この地を治めるノートン家は軍事と外交に長け、当代のアズール・ノートン伯爵は民からも篤く信頼されていた。
探偵の登場と竜害の噂
探偵を名乗る男が領地を訪れ、畑仕事をしている農夫たちに話しかけた。男は黒竜の鱗を求める者と誤認されつつも、その目的を曖昧にしながら会話を進めた。農夫たちは、竜の鱗の価値や黒竜撃退後の事情を語り、宿の推薦や領主の性格についても親しげに述べた。
馬小屋に関する噂と探偵の関心
話題はやがて、かつて領主夫人が修道院から引き取った少女の話へと移った。少女は現在、馬小屋で虐げられているとの噂が流れており、探偵はその人物が調査対象であると直感した。農夫の警告により探偵は娘の存在を確信し、屋敷を目指すことにした。
領民たちの計画と探偵の誘導
探偵が立ち去った後、農夫たちは彼の足止めと領主屋敷への誘導を計画していた。各人が役割を受け持ち、「金の雄鶏亭」や屋敷への連絡を開始した。
探偵による潜入調査と娘の確認
屋敷に遅れて到着した探偵は、直接馬小屋を確認するため、裏手から敷地に忍び込んだ。小屋内では、イザベル令嬢と侍女アガサが、薄茶髪の少女を侮辱し冷遇していた。少女は哀願しながらも水をぶちまけられ、屈辱的な扱いを受けていた。
伯爵の登場と苛烈な対応
ケルベック伯爵が現れると、イザベルは涙を浮かべて少女の非を訴え、伯爵は一方的に少女を罵倒した。その様子から、探偵は少女が本当に「モニカ・ノートン」であると確信し、屋敷を離れる判断を下した。
芝居の真相と演技の全貌
馬丁の報告により、探偵の離脱が確認されると、伯爵とイザベル、侍女アガサ、そして少女サンディは本性を現した。実はすべてが演技であり、サンディは冬休み中のモニカ・ノートンの代役であった。探偵はモニカの実在を信じて帰還したが、全ては間者を欺くための計略だった。
ノートン家による偽装工作の背景
不審者が修道院を巡り、「モニカ」の存在を探る動きが確認され、ノートン家は屋敷周辺の領民に指示を出して誘導と芝居を仕組んでいた。サンディは厳しいオーディションを経て抜擢され、悪役父娘の演技に加わっていた。
今後の対策と演技の強化方針
伯爵は間者に気づいたことを伏せたまま、今後のために演技力をさらに磨く必要性を語った。イザベルも悪役の研究を続けることを誓い、侍女アガサも演出面で伯爵の工夫に感嘆していた。
サンディへの感謝と民への信頼
寒さの中での芝居の終了後、伯爵はサンディに感謝と労いの言葉をかけた。彼女は家族と離れた冬休みをノートン家で過ごすが、代役として大切に扱われることとなった。ノートン家の人々は彼女を歓迎し、心尽くしのもてなしを用意していた。
いじめられ役の待遇と結末
サンディの役割には好待遇が伴っており、演技時間以外は食事や衣装、寝具まで贅沢な環境が整っていた。任務に協力する家族的な雰囲気の中、ノートン家は民と領主の絆を深めながら、〈沈黙の魔女〉モニカの名を守るため、用意周到な偽装劇を演じ続けていた。
一章 七賢人若手三人衆、結成
魔術奉納での混乱とモニカの失神
新年の魔術奉納では、ブラッドフォード・ファイアストンの炎とモニカ・エヴァレットの氷鐘が喝采を浴びた。しかしモニカは、注目により緊張してその場で気絶した。さらに〈茨の魔女〉は遅刻し、〈星詠みの魔女〉が幻術でその不在を誤魔化していた。結果として七賢人のうち一人が幻、一人が失神という異例の事態となった。
翡翠の間での七賢人の応酬
魔術奉納の後、七賢人は〈翡翠の間〉に集まり、式典まで待機していた。エマニュエルはモニカの功績を過剰に称賛し、第二王子派への勧誘を試みた。これに対して第一王子派のルイス・ミラーが冷静に牽制し、反射結界を用いた魔導具研究に対する皮肉を交えて返答した。モニカは二人の間に挟まれ困惑しつつも、ルイスの実力を信じていた。
式典前の〈茨の魔女〉捜索の提案
〈茨の魔女〉の不在が続く中、〈星詠みの魔女〉メアリーがモニカに彼女の捜索を依頼した。重苦しい空気から逃れたかったモニカは即座に承諾し、〈深淵の呪術師〉レイ・オルブライトも同行することになった。
庭園でのシリルと〈茨の魔女〉の出会い
ハイオーン侯爵の養子シリル・アシュリーは、緊張をほぐすため城の庭園を訪れた。そこで〈茨の魔女〉と名乗る庭師風の青年と遭遇し、猫を助けるため木に登っていた彼を魔術で救った。青年は、魔力を含ませた肥料で植物を改良する研究をしており、その成果にシリルは感銘を受けた。
奇抜な語りと庭園案内
庭師の男は自らの先祖が庭園文化やトイレ文化の発展に寄与したと語り、「五代目〈トイレの魔女〉」を自称した。シリルはその突飛な語り口に困惑しながらも、興味深い研究と穏やかな性格に徐々に打ち解けていった。
モニカとレイの会話と衝撃の告白
モニカとレイは〈茨の魔女〉を探しながら、裏切りの呪術師に関する調査の進捗を共有した。レイは、呪術による操作を可能とする呪具の存在と、それに興味を示した人物が第二王子フェリクスであることを明かした。さらに、その背後には第二王子の祖父であるクロックフォード公爵の関与が疑われていた。
呪竜騒動の陰謀の可能性
呪竜騒動は、クロックフォード公爵が仕組んだ英雄劇であり、呪術師はその操り人形に過ぎなかった可能性が示唆された。呪術は失敗し、竜が暴走する事態に至ったが、結果的にフェリクスは英雄として評価された。だが、モニカは彼の笑顔の裏に隠された真実に不安を覚えていた。
精神的動揺と今後の不安
モニカはレイからの情報に動揺し、自分の護衛としての役割を果たせるか不安を募らせた。呪竜との戦いで受けた後遺症も回復途上であり、精神的にも肉体的にも重圧を感じていた。
再会の直前、動揺するモニカ
レイと共に庭園を進んだモニカは、ついに〈茨の魔女〉と遭遇するが、その隣に立つ人物を見て驚愕する。それは、彼女が敬愛するシリル・アシュリーであった。思わぬ再会に、モニカは動揺し、杖を取り落としそうになった。
七賢人としての正体の判明
庭師と思われていた男が〈茨の魔女〉ラウル・ローズバーグであると名乗り、正式なローブと杖を身に着けてその正体を明かした。彼は〈深淵の呪術師〉レイと〈沈黙の魔女〉モニカを紹介し、自身を含めた三人を「七賢人若手三人衆」と称した。シリル・アシュリーは七賢人の風貌と振る舞いに大きな衝撃を受け、過去の自分の振る舞いに非礼がなかったかを慌てて振り返っていた。
レイによる誤解と混乱
〈深淵の呪術師〉レイは、シリルを女性と勘違いし唐突に愛を求める発言を連発したが、モニカによりシリルが男性であると訂正され、激しく動揺した末に取り乱した。シリルはその異様な言動に困惑し、七賢人への尊敬の念が揺らいでいった。
モニカとシリルの再会未遂
シリルは〈沈黙の魔女〉に既視感を覚え、過去に会ったことがあるのではと問いかけようとしたが、そこに第一王子ライオネルが現れたことで中断された。ライオネルは脱走した猫を追っていたところで、モニカがそれを保護し、彼女の左手に怪我があることが明らかになった。
第一王子ライオネルとの邂逅
ライオネルは礼儀正しくシリルに感謝を述べ、〈識者の家系〉として今後も王家に力を貸してほしいと伝えた。シリルは自らの能力に自信を持てないまま応答したが、ライオネルは自身の未熟さをも語り、王にならずとも国を守る覚悟を語った。その姿に、シリルは王族としての誠実さを見出し感銘を受けた。
七賢人たちの政治的立場と混沌
ライオネルが去った後、〈茨の魔女〉は中立を公言し、〈沈黙の魔女〉は態度を明かさず、レイは顔の良い者への嫉妬心から暴言を吐いた。シリルは七賢人たちの政治観や言動に困惑し、尊敬の念を失いつつその場を離れる決意をした。
シリルの離脱とモニカの動揺
シリルは七賢人に頭を下げて辞去しようとしたが、〈沈黙の魔女〉の姿に既視感を覚え、不安と疑念を残したままその場を去った。モニカは密かに動揺しており、再会の気配に戸惑いながら平静を装っていた。
ラウルの情報収集と意外な協力提案
モニカとレイがクロックフォード公爵の陰謀について会話していたことは、ラウルに集音魔術によって盗み聞きされていた。ラウルは庭園の植物に染み込ませた自身の魔力を通じて音を拾う術式を使用していたと明かした。レイはそれを見抜き、強い警戒心を示したが、ラウルは協力の意思を示し、自身も調査に加わりたいと申し出た。
協力の理由と過去の孤立
ラウルは、クロックフォード公爵邸に出入りできる立場を持っており、情報収集や潜入が可能であると説明した。しかし、彼の本音は別にあり、七賢人の中で孤立してきた過去を語り、「友達がほしい」と真剣に訴えた。初代〈茨の魔女〉の悪名が災いし、彼は周囲から敬遠されていたのである。
若手三人衆の結成と新たな連携
モニカはラウルの思いを受け入れ、協力に同意した。レイは不満を抱きつつも渋々同意し、三人は七賢人の若手としての連携を図ることとなった。ラウルは大きな声で意気込みを語り、モニカとレイを抱き寄せながら三人の新たな関係の始まりを宣言した。
二章 言いたいことは、一つだけ
新年の式典と王族の紹介
新年の儀は国王の体調不良により、第一王子ライオネルとその母ヴィルマ妃が執り仕切った。式典自体は例年通りであったが、一部簡略化されていた。七賢人の席に着いたモニカは、参加者の顔を確認しながら王族や関係者の特徴を記憶していた。壇上にはライオネル王子、その背後にヴィルマ妃とフィリス妃が控え、観覧席には第二王子フェリクスと第三王子アルバートが座っていた。王家に最も近い席にはクロックフォード公爵ダライアス・ナイトレイもいた。モニカはこの場にいる人物の顔と名前を記憶し、改めて自らの不注意を省みていた。
国王の様子とモニカの内心
モニカは玉座に座る国王アンブローズの様子を観察した。表情には生気がなく、まるでチェスの盤面を見渡すような静かな視線を投げていた。この人物こそ、極秘の護衛任務をモニカに命じた張本人であり、すべての発端であった。
宴会への誘いとモニカの参加
式典後、〈茨の魔女〉ラウルがモニカを宴会へ誘い、〈深淵の呪術師〉レイも巻き添えにされた。モニカは目立たぬようヴェールを装着して会場に入るが、彼女の登場は注目を集めた。黒竜と呪竜を討った功績が知れ渡っていたため、好奇と畏敬の視線が集中した。
フェリクスの接近と動揺
宴会場でフェリクスがモニカに声をかけたことで注目が集まり、モニカは極度に動揺した。呪竜騒動と父の死に関わる可能性があるクロックフォード公爵と、その孫であるフェリクスにどう接するべきか悩んだ。レイは魔術でモニカの体に偽の呪いを施し、彼女が退席できるよう助け舟を出した。
シリルとの再会と感情の揺らぎ
退出途中、モニカはシリルと再会した。彼は〈沈黙の魔女〉としてのモニカに対し礼儀正しく接したが、モニカはそれに戸惑いと苦しさを覚えた。彼女はセレンディア学園で過ごした日々と「モニカ・ノートン」としての自分に対する想いに苛まれ、宴会場を逃げ出した。
七賢人たちの宴会場での動向
一方、〈結界の魔術師〉ルイスは宴会場で状況を観察していた。〈星詠みの魔女〉メアリーは七賢人の「星」が翳っていると警告し、ルイスに不吉な予兆を伝えた。七賢人を貴族議会の下に置こうとする動きが強まりつつあること、〈宝玉の魔術師〉が第二王子派であることなど、ルイスは状況を把握し始めていた。
クロックフォード公爵との対面
宴会を抜けたモニカは、クロックフォード公爵に呼び出され、個室で対面した。彼はモニカに第二王子フェリクスの専属護衛を依頼したが、モニカは既に国王から極秘任務を受けており、提案を拒否した。公爵は彼女を懐柔しようとし、地位や部下を提示して誘ったが、モニカは沈黙を貫いた。
政治的誘導への拒絶と精神干渉術の発動
クロックフォード公爵はモニカに七賢人長の地位を提案し、フェリクスを自分の意のままに動かすと語った。この発言にモニカは怒りを抑えきれず、精神干渉の術を無詠唱で発動し、彼らを白い蝶の術式で囲んだ。その上で、モニカは「望みはない」とだけ告げ、部屋を後にした。
フェリクスとの邂逅と不信の感情
部屋へ戻る途中、フェリクスがモニカの前に現れ、祖父の言動を案じて声をかけた。しかしモニカは、彼が本当にクロックフォード公爵の操り人形であることを疑い、問いかけを飲み込んで彼の側を通り過ぎた。
感情の整理と眠りへの逃避
自室に戻ったモニカは、ネロの眠るカゴを抱きしめ、ろうそくに火も点けずベッドに潜った。彼女は胸に去来する思念を振り切るように目を閉じた。政治的な思惑が錯綜する中で、自身の立ち位置と過去の偽りの学園生活への郷愁に揺れながら、静かに眠りに落ちようとしていた。
三章 バーニー・ジョーンズの手紙
依頼を受けたバルトロメウスの道中
セレンディア学園へと向かう荷馬車を操るのは、帝国出身の技術者バルトロメウス・バールであった。彼は現在、〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットの依頼で、従僕ピーターの素性調査を請け負っていた。報酬は破格であり、バルトロメウスは恋焦がれる契約精霊リンとの接点を得る好機と捉えていた。彼は連絡の便を確保するため、学園に出入りする業者に潜り込んでいた。
荷馬車に現れた謎の青年
道中、バルトロメウスは赤毛の青年を荷馬車に同乗させた。青年は質の高い服に身を包み、複数の高価な指輪を着けていた。陽気に鼻歌を歌う彼の替え歌は、どこか不穏さを孕んでおり、バルトロメウスは微かな寒気を覚えていた。
モニカとイザベルの再会と警告
一方、冬休み明けのモニカは、ケルベック伯爵領の街でイザベルと合流し、学園へと向かった。イザベルは、モニカの存在を探っている者がいると警告し、伯爵領内の修道院を調べ回る不審者の存在を報告した。代役を用意していたため正体は露見していないが、用心すべき状況であった。
日記による冬休みのアリバイ工作
イザベルはモニカの冬休みのアリバイとして、自作の日記を手渡した。その内容は、モニカが伯爵邸で下僕のような扱いを受けていたというもので、非常に詳細かつ徹底していた。モニカは友人との会話に備え、その日記を覚える決意を固めた。
屋根裏部屋とバーニーの手紙
学園の屋根裏部屋に戻ったモニカは、冬休み中に届いた一通の手紙を見つけた。差出人は旧友であり宿敵のバーニー・ジョーンズであった。彼の手紙には、モニカのかつての天敵、ヒューバード・ディーがセレンディア学園に編入するという驚愕の情報が記されていた。モニカはその知らせに戦慄し、かつての恐怖が蘇って涙を流した。
新学期の始まりと正体隠しへの不安
新学期初日、モニカは極度に周囲を警戒しながら教室へ向かった。友人たちとの再会では、イザベルの日記の内容に基づいた冬休みの説明をなんとか乗り切ったが、グレンが呪竜騒動に触れたことで複雑な感情を抱いた。彼の体調を案じながらも、自責の念が拭えなかった。
生徒会会議での動揺
放課後、生徒会室に集まった役員たちの前で、フェリクスは左手を負傷した少女を探していると語った。モニカは動揺を必死に抑え、左手が無事であると装って乗り切ったが、シリルはその様子を鋭く観察していた。モニカは緊張の中でなんとか正体を隠し通したが、状況はますます切迫していた。
四章 因縁の編入生達
編入生リストに注目する教師たち
リンジー・ペイルは後期からの編入生リストに疑問を抱いた。特に高等科三年への編入生に関心を持ち、同僚のウィリアム・マクレガンとの会話から、その人物が〈砲弾の魔術師〉の甥である元ミネルヴァの生徒と判明した。リンジーは中等科二年の王子や高等科一年の留学生も含めて、強い個性を持つ編入生が揃っていることに気づき、波乱の予感を抱いていた。
グレンの過去とミネルヴァでの苦難
グレン・ダドリーは一般家庭出身の少年で、突如〈星詠みの魔女〉の予言によって将来を変えられた。彼の魔力量は常人を大きく上回り、王の命によりミネルヴァへ進学することとなった。しかし、貴族中心の環境に馴染めず、基礎教養科目で劣等生扱いを受けていた。周囲の蔑視に反発し、決められた時期を待たずに魔術実技の訓練を始めるに至った。
無謀な実戦訓練と暴走
ある日、赤毛の先輩に誘われて結界内での魔法戦を行ったグレンは、実力を評価されたことに気を良くして訓練を承諾した。しかし、実戦は予想を遥かに超える過酷さで、グレンは圧倒され、恐怖と怒りの中で制御不能な魔力を暴発させた。その結果、意識を失うほどの大火球を放ち、何が起きたかもわからぬまま倒れ込んだ。
呪いの後遺症と静かな決意
朝、学園寮で目覚めたグレンは呪いの後遺症に苦しみながらも、普段どおりの生活を保とうと努めていた。副会長シリルの訪問を受けて動こうとした際に足に痛みが走るが、友人や後輩たちを心配させたくない一心で明るく振る舞う決意を新たにした。
エリアーヌの複雑な思い
選択授業への移動時、エリアーヌ・ハイアットは偶然を装ってグレンに会おうと画策していた。しかし、そこにはクローディア・アシュリーがグレンと並んでいたことで、エリアーヌは言葉を失った。更に、生徒会庶務ニールも同行していたが、存在感が薄いために見落としていたことに気づき、内心で反省した。
赤毛の編入生との再会
そこへ現れたのは、ミネルヴァでグレンを襲った赤毛の先輩だった。彼は基礎魔術上級の教室の場所を尋ねただけだったが、グレンは怒りを露わにして叫び、周囲に緊張が走った。男はグレンを侮辱するような言葉を投げて去っていき、グレンはその背を睨み続けた。
モニカを取り巻く危機と警戒心
モニカ・ノートンは選択授業のチェスを受講していたが、複数の人物から目をつけられており、警戒を強めていた。特にミネルヴァ時代の先輩ヒューバード・ディーの動向に注意しており、ノートン家の使用人らと連携して情報収集を行っていた。
新たな編入生との邂逅
チェスの授業で紹介された新たな編入生ロベルト・ヴィンケルは、モニカに敗北した過去を持ち、再戦を望んで学園にやってきた人物であった。モニカはその登場に驚愕し、意識を失いかけるほどの衝撃を受けた。
ロベルトの暴走とモニカの困惑
ロベルトは授業中にもかかわらず、詩と犬の絵を手土産にモニカへ求婚の意思を示し、モニカを激しく困惑させた。周囲の生徒達は呆れながらも注視し、ベンジャミンはその芸術性の欠如に絶望していた。ロベルトはチェスの対局を申し込み、モニカは戸惑いながらも応じた。
意味不明な発言とずれたアプローチ
ロベルトは袖をまくって鍛えた腕を強調し、兄の助言を忠実に再現するように唐突にモニカに意味不明な発言を投げかけた。モニカは理解できず曖昧に相槌を打ちつつ、混乱の中でチェスの駒を並べ始めた。
五章 第三王子アルバートの、お友達大作戦
図書室での避難と学習の日々
モニカはロベルトから逃れるため、放課後に図書室へ避難するようになっていた。図書室は蔵書が豊富で、父の本を読み解くために生物学関連の資料を求めて訪れていた。また、「黒い聖杯」に関する記述を探しながら、父の研究の痕跡を追っていた。
図書室での偶然の再会
図書室で本を読むグレンを見つけたモニカは、彼の勉強内容に驚いた。グレンは短縮詠唱の習得を目指していたが、理解力不足で苦戦していた。モニカは彼の真剣さに心を動かされ、つい助言をしてしまう。正体を隠す必要があるにも関わらず、彼の成長を支えたいという思いが勝っていた。
魔術習得への指導と友情
モニカは、短縮詠唱よりも実用性の高い追尾術式の習得を優先すべきと強く説いた。グレンはその助言を素直に受け入れ、モニカに感謝を述べた。モニカも自らの正体を悟られないよう配慮しつつ、少しでも力になれればと考え、彼の学習を手助けすることを決意した。
図書室を密かに監視する存在
モニカとグレンのやり取りを、図書室の一角から一人の少年が見ていた。中等科の制服を着たこの少年は、リディル王国の第三王子アルバートの従者パトリックであり、二人の様子を興味深げに観察したのち、報告のために中等科の校舎へと戻っていった。
第三王子の策略と関心
アルバートは従者パトリックからの報告を受け、フェリクスの信頼を得ているグレンとモニカに興味を抱いた。兄フェリクスに対抗心を燃やす彼は、この二人を自らの陣営に引き入れることで、兄を出し抜こうと画策していた。茶会への招待を通じて接近する計画を立て、そのために図書室での接触を試みた。
王子と平民の噛み合わない交流
図書室でアルバートはハンカチをわざと落として接触のきっかけを作るが、モニカは緊張しすぎて動けず、代わりにグレンが拾って届けたことで茶会への招待が実現した。招待は不自然な成り行きではあったが、二人はしぶしぶ応じることとなった。
奇妙な茶会の始まり
アルバートが用意した茶会では、グレンとパトリックが菓子に夢中になり、モニカは緊張しながら様子をうかがっていた。アルバートはフェリクスがモニカをペットのように扱っていると誤解し、彼女を庇護するべく提案を持ちかけた。モニカは困惑しながらも、真意を伝えることができずにいた。
グレンの言葉と王子の反応
グレンはフェリクスを擁護し、人格を信頼できる人間だと明言した。真っ直ぐなその言葉にアルバートは戸惑いながらも耳を傾け、少しずつ感情を落ち着けていった。パトリックが差し出した菓子に慰められつつ、アルバートは再び友達という言葉に拘りを見せ始めた。
思惑と感情の交錯
アルバートはモニカがフェリクスの友人ではないと確認し、であれば自分が友人になれば兄を悔しがらせられると考えた。グレンは場の空気を和ませながら、皆が友達だと明るく言い切り、その言葉にアルバートも徐々に心を開き始めた。
懐柔作戦の第一歩
アルバートはモニカとグレンを「友達」として茶会に再び招待する意志を示した。計画は不完全ではあったが、王子は第一段階の成果に満足していた。モニカは自身の正体が露見していないことに安堵し、ひと口パイを食べながら胸を撫で下ろした。
六章 モニカ・ノートン拉致事件
魔法戦クラブに突如現れた脅威の編入生
セレンディア学園の魔法戦クラブは、謎の編入生による圧倒的な魔術攻撃により壊滅状態に追い込まれた。部長のバイロン・ギャレットですら、連射される無詠唱魔術の前に成す術もなく倒れた。彼の中で浮かび上がったのは〈沈黙の魔女〉の存在であり、編入生の実力は七賢人を彷彿とさせるほどであった。
ラナの誕生日とモニカの揺れる想い
一方、モニカは親友ラナの誕生日を祝うため、クローディアと共にティーサロンでお茶会を開いていた。ラナから卒業後の仕事の誘いを受けたが、モニカは自身が七賢人であるという秘密任務のため、答えることができなかった。心のどこかで喜びを感じながらも、罪悪感に胸を締め付けられていた。
ヒューバードの名前に震える過去
ティーサロンの帰り道、シリルの怒声からトラブルの気配を察したモニカは現場に向かった。そこで聞かされたのは、編入生ヒューバード・ディーによる魔法戦クラブ襲撃の事実だった。モニカにとってヒューバードはミネルヴァ時代の恐怖の象徴であり、再会を何としても避けるべき存在であった。
ヒューバードとの遭遇と拉致
生徒会メンバーと共にヒューバードを探す中で、モニカは隠れきれずに彼に見つかってしまう。エリオットやシリルの背後に隠れたが、ヒューバードは強引にモニカを拉致し、飛行魔術で学園の森へ連れ去った。
森での対面と正体の露見
森に降り立ったヒューバードは、モニカの正体が〈沈黙の魔女〉エヴァレットであると見抜いていた。任務中のモニカはそれを否定しようとするが、ヒューバードは情報を盾に取引を持ちかけた。だがその場に、シリルとグレンが到着し、モニカを救出した。
フェリクスの対峙と決闘の成立
生徒会長フェリクスも現場に到着し、ヒューバードの行為を糾弾した。ヒューバードは拉致を否定し、決闘を提案。条件として、敗れればモニカへの干渉を止めるが、勝利すれば彼女を奪うと宣言した。フェリクスはその挑発を受け入れ、シリルとグレンに勝利を命じたことで、正式な決闘が成立した。
モニカの無力感と決意の揺らぎ
状況の進展に追いつけず、モニカは恐怖と混乱に飲み込まれていた。自らの存在が賭けられることへの屈辱、そしてヒューバードに対抗できないという無力感が彼女を支配していた。
モニカ拉致の背景と魔導具への言及
ヒューバードはシリルの魔力体質と魔導具についても鋭く見抜き、魔導具〈宝玉の魔術師〉製のブローチに興味を示した。これにより彼の洞察力と執着が再確認され、同時に彼が単なる暴力的な存在ではないことが浮き彫りになった。
決闘を前にした会議と覚悟
フェリクスの命令により、シリルはモニカを守るために決闘に臨むこととなった。モニカ自身は涙をこらえ、もはや自分の力では何もできないことに打ちのめされていたが、それでも心のどこかで、仲間たちの勝利を願っていた。
七章 決闘と狩り
決闘宣言から三日間の苦悩
モニカを賭けた魔法戦の決闘は、マクレガン教諭の整備準備により三日後に設定された。その間モニカは精神的に衰弱し、眠れず食事も喉を通らないほど消耗していた。ヒューバードに見つかり、過去と任務の狭間で揺れ、後悔と自己嫌悪に苛まれていた。
仲間たちの支えと回復の時間
ラナとクローディアに連れ出されたモニカは、空き教室で開かれた「さぼり会」に招かれた。グレンやニールも加わり、軽食や温かな言葉でモニカを励ました。クローディアの皮肉を含む配慮や、ラナの気遣い、グレンの献身が、モニカの心を徐々に和らげた。
生徒会幹部の乱入と笑顔の時間
騒ぎを聞きつけて現れたシリルとフェリクスは最初こそ咎めたが、結局黙認する形となった。さらにチェス馬鹿のロベルトも決闘に参加を表明したことが伝えられ、モニカは再び動揺したが、皆の変わらぬ態度に安心と感謝を覚えた。
観戦者の集結と決闘の準備
決闘当日、生徒会室にはモニカの友人や王族関係者らが観戦に集まり、モニカの不安はさらに増していた。ラナ、クローディア、ニールはモニカの心に寄り添い、フェリクスも特別に観戦許可を与えていた。参加者は三人となり、モニカを巡る戦いが始まろうとしていた。
ヒューバードの仕込みと三人の意地
ヒューバードは決闘を「狩り」と称し、仕掛けを整え待ち構えていた。一方、シリル・グレン・ロベルトは開始前から互いに譲らぬ姿勢を見せ、連携よりも先に敵を仕留めようと張り合っていた。ロベルトの魔法剣や、グレンの火炎魔術など、それぞれの技術が確認された。
グレンの先制とヒューバードの反撃
グレンが先陣を切って攻撃を仕掛けたが、ヒューバードは遠隔魔術と飛行魔術を組み合わせ、煙幕と錯乱を利用して反撃した。グレンは右腕に重傷を負い、落下の危機に陥ったが、シリルの氷の坂によって助けられた。
即興の連携と反撃の糸口
シリルは冷静に戦況を分析し、ヒューバードがグレンの火炎球を避ける理由を見抜いた。火力に劣る自らが追い込み、グレンに当てさせる作戦を実行。氷の壁で逃げ道を封じた隙に、グレンの火炎球が追尾術式で命中し、ヒューバードに初めてダメージを与えることに成功した。
ロベルトの突撃と謎の妨害
ヒューバードが落下した隙に、ロベルトが剣でとどめを刺そうと飛び出したが、突如三人とも体の自由を奪われ、背後から炎の矢に襲われた。ヒューバードは無詠唱魔術を行使しており、それにより三人は立て続けに攻撃され、ついにはグレンが意識を失った。
生徒会室の動揺とモニカの異変
観戦者は音のない映像で三人の苦戦を知り、異様な事態に息を呑んでいた。フェリクスはヒューバードの無詠唱魔術に動揺しつつも、ウィルディアヌに処分の指示を出した。一方、モニカは目を覆いたくなるような光景に耐えきれず、その場を離れ、飛行魔術で森へと向かっていた。
八章 ガツン
シリルの危機と疑念
シリルは重傷を負いながらも、霧の中で意識を取り戻していた。ヒューバードが無詠唱魔術を用いる理由に疑問を抱き、指輪の不在に気づいたことで、魔導具による仕掛けを察した。やがて霧が濃くなり、謎の小さな人影が現れると、ヒューバードは〈沈黙の魔女〉に語りかけ、シリルは再び意識を失った。
モニカの出撃と怒り
モニカは不慣れな飛行魔術で現場に急行し、霧を発生させてヒューバードの視界を遮った。足蹴にされたグレンを見たモニカは怒りに震え、恐怖を乗り越えてヒューバードに戦いを挑んだ。挑戦者として魔法戦に飛び入りし、怒りに満ちた覚悟を示した。
三年前の因縁と戦意の再燃
ヒューバードは三年前にモニカに圧倒された記憶を思い出し、再戦に歓喜した。挑発に応じたモニカは冷静に応戦し、霧と氷の槍で戦況を制御した。追尾性能の高い新魔術にヒューバードは驚愕しつつも歓喜を隠さなかった。
モニカの反撃と魔導具の奪取
氷の槍がヒューバードを追い詰める中、赤い光による攻撃で彼の右目が潰され、地面に叩き落とされた。さらに炎の矢が降り注ぎ、ヒューバードは自身の魔導具がモニカに奪われていたことを理解した。彼女は指輪を解析し、所有権を書き換えていた。
戦闘の終結とモニカの静かな勝利
モニカは魔導具を自在に操り、炎の矢を放ってヒューバードを完全に沈黙させた。ヒューバードは敗北にも関わらず満足げな表情を浮かべて倒れていた。モニカは彼を理解できないと感じ、自身の大切なものが勝利や称賛ではないことを再認識した。
体力の限界と気力の尽きた少女
モニカは現場を後にし、不慣れな飛行魔術で校舎に戻った。精神的疲弊と睡眠不足により廊下で倒れ、フェリクスに助けられた。意識を失いながらも謝罪を繰り返すモニカを見て、フェリクスはかつての友人の面影と重ねた。
フェリクスの感傷と不在の精霊
モニカを医務室に運んだフェリクスは、彼女の変化に心を揺さぶられていた。契約精霊ウィルディアヌの行動に違和感を覚え、居場所を確認したところ、精霊が学園外にいることを察知した。助けの要請はなかったため、様子を見ることにした。
精霊達の暗躍と少年の介入
時間を遡り、ウィルディアヌが魔法戦の現場に到着した時には、既に全員が倒れていた。そこへ現れた謎の少年と狼型の精霊が、シリルとグレンを連れ去ろうとしていた。ウィルディアヌは咄嗟に狼の尾にしがみつき、密かに同行することを選んだ。
七賢人と魔法戦の後処理
〈結界の魔術師〉ルイスとカーラは、魔法戦の痕跡を調査し、モニカの潜入任務を秘匿するため、ヒューバードの魔導具暴走による引き分けとすることで合意した。行方不明の挑戦者達の捜索を開始する中で、ルイスは精霊との繋がりが断たれたことに気づき、緊張を高めた。
異常事態と失踪の手掛かり
カーラの感知魔術により、北東に強力な精霊の反応が一瞬だけ捉えられた。ルイスはその方向に心当たりがあるとして、〈星詠みの魔女〉への伝言をカーラに託した。状況によっては、他の七賢人を動員する必要もあると判断していた。
リィンズベルフィードの監禁と男の狂気
北東の森にある隠れ家では、一人の男が〈偽王の笛ガラニス〉を用いてリィンズベルフィードを従えていた。彼はこの古代魔導具を唯一無二の才能と見做し、精霊を操って軍団を作ろうとしていた。妄執に囚われたその姿は、英雄への渇望と劣等感に満ちていた。
九章 真夜中の訪問者の物騒なお誘い
ヒューバードの目覚めと警告
ヒューバード・ディーは基礎魔術学の教室で目を覚まし、自身が魔力欠乏症の処置のため、別室に運ばれたことを理解した。そこにはウィリアム・マクレガンが待機しており、モニカ・エヴァレットに関する干渉を控えるよう暗に警告された。マクレガンはモニカが七賢人であることを重く受け止めており、彼女の任務を尊重していた。
イザベル・ノートンの牽制
廊下でヒューバードは、ケルベック伯爵令嬢イザベル・ノートンに遭遇した。彼女はモニカの協力者として、彼に〈沈黙の魔女〉への干渉を控えるよう要請した。ヒューバードはその申し出に冗談めかして応じようとしたが、イザベルは自身の家系の影響力を示唆し、王国からの排除も辞さない姿勢を見せた。冷ややかで強気なその態度は、ヒューバードにも煩わしさを感じさせた。
モニカの回復と情報への不安
医務室で目覚めたモニカは、魔法戦がヒューバードの魔導具の暴走により中断されたと知らされた。フェリクスが何かを探している様子や、彼の切迫した口調から、何らかの異変を察知したモニカは、自力で情報収集を試みることにした。
ラナとの再会と不安の募り
女子寮へ戻ったモニカは、ラナの出迎えを受けた。グレンとシリルが寮に戻っているという話を聞くが、ラナの無邪気な様子から、それが真実でないことを悟った。不安を抱いたまま、屋根裏部屋へ戻ったモニカは眠気に抗えず、ネロの傍で再び眠りについた。
ルイスの訪問と事態の共有
真夜中、ルイス・ミラーがモニカの部屋を訪ね、グレンとシリルが行方不明であること、さらに契約精霊リンとの繋がりも途絶していることを明かした。モニカは重大な異変が起こっていると理解し、衝撃を受けた。ルイスは、独自の調査の過程で、〈宝玉の魔術師〉エマニュエル・ダーウィンがケリーリンデンの森で古代魔導具〈偽王の笛ガラニス〉を所持している可能性があると告げた。
シリルとグレンの目覚めと精霊の訴え
一方その頃、シリルとグレンはケリーリンデンの森の洞窟で目を覚ました。彼らは氷霊の少年と狼の地霊セズディオに遭遇し、森に住み着いた人間が精霊を操る笛を用いて混乱をもたらしていると聞かされた。氷霊は助けを求め、シリルは状況の深刻さを理解して、説得による解決を申し出た。
ウィルディアヌの報告とフェリクスの判断
氷霊の話を盗み聞きしていたウィルディアヌは急ぎ学園へ戻り、フェリクスに全てを報告した。フェリクスは〈宝玉の魔術師〉が関わる可能性を認識し、状況を利用し得ると判断した。冷徹ながらも、学園の生徒達を守るため、行動を開始する決意を固めた。
十章 精霊の供物
空中での対話とモニカの変化
ルイス・ミラーとモニカ・エヴァレットは、飛行魔術で冬の空を移動していた。モニカは七賢人の制服を着ず、任務が非公式であることを示していた。道中、ルイスはモニカがヒューバード・ディーに怒りを向け魔術を使ったことに言及し、彼女の感情の芽生えに気づいていた。以前のモニカは他人に無関心で、怒りも覚えなかった。だが、現在は違っており、ルイスはそれを変化と捉えていた。
〈宝玉の魔術師〉の違法行為と七賢人の苦境
ルイスは、〈宝玉の魔術師〉エマニュエル・ダーウィンが危険な古代魔導具〈偽王の笛ガラニス〉を極秘入手したことをモニカに伝えた。古代魔導具は国の厳重管理下にあるべきものであり、個人の所有は許されていない。だが、七賢人内のスキャンダルを防ぐため、事態は非公開で処理されることとなった。特に、貴族議会が七賢人の権限を奪おうとする動きが強まる中で、今回の事件の隠蔽は必要不可欠とされていた。
七賢人の行動とモニカの役割
〈星詠みの魔女〉メアリーの主導の下、七賢人が秘密裏に集結して作戦を遂行することが決まった。モニカの任務は〈宝玉の魔術師〉の注意を引きつける陽動であり、他の賢人たちがグレンとシリルを救出し、〈偽王の笛ガラニス〉を含む全魔導具を破壊するという流れであった。笛の破壊には、外部への情報漏洩と戦禍拡大の危険性を防ぐ目的があった。
グレンとシリルの朝と氷霊との交流
一方、森の洞窟ではグレンとシリルが目覚めていた。シリルは精霊たちへの礼として歌を捧げ、氷霊や下位精霊たちと交流を深めていた。氷霊は供物として花を求め、シリルは誠意をもって応じた。地霊セズディオは人間に敵意を見せたが、シリルは毅然とした態度で応対し、笛吹き男を訪れるにあたり礼節を重んじる姿勢を示していた。
作戦の危険性とルイスの警告
ルイスは〈宝玉の魔術師〉の魔導具が極めて高性能であること、さらには精霊であるリンが敵に操られている可能性があることを警告した。上位精霊との戦闘が予想される中で、場合によっては消滅させる覚悟も必要とされた。ルイスは、〈宝玉の魔術師〉の魔導具製作能力を評価しつつも、その危険性を強く警戒していた。
陽動の任務とルイスの結論
モニカが万一〈宝玉の魔術師〉と遭遇した場合について確認すると、ルイスは拘束の必要はないとし、魔導具を破壊し彼を無力化することを優先するよう述べた。その語り口には、軽妙さと皮肉が混じっていたが、事態の深刻さは変わらなかった。モニカは、正義の名の下に行動しているはずが、己が悪役になったような気分を覚えていた。
精霊たちとの静かな朝
洞窟では、シリルが歌で精霊たちを慰め、氷霊の願いに応じて花を供物として捧げる約束をしていた。セズディオは早く笛吹き男を倒すよう急かしたが、シリルは礼節を重んじる姿勢を貫いた。精霊たちに対する真摯な態度が、攫われた身であるにもかかわらず、信頼を築いていた。グレンもその様子を見て感心し、学園への帰還を願っていたが、直前の敗北を思い出して言葉を止めた。彼らにはまだ解決すべき問題が残されていたのである。
十一章 通りすがりの男達
陽動作戦の開始と襲撃
モニカは早朝にケリーリンデンの森へ徒歩で到着し、陽動の方法に思案していた。その最中、悲鳴を耳にして駆け寄ると、逃走するバルトロメウスと謎の全身鎧が現れた。鎧は中に人がいない魔導具であり、モニカは風の精霊王を召喚してこれを破壊した。
魔導具の正体と精霊の犠牲
破壊された鎧の中からは、オレンジ色の宝石が現れ、そこに精霊が封じられていたことが判明した。魔導具の動力源が精霊であることにモニカは衝撃を受けた。バルトロメウスは、かつて〈宝玉の魔術師〉の工房で働き、彼の研究内容を偶然知ってしまった過去を語った。
〈宝玉の魔術師〉の非道とバルトロメウスの決意
〈宝玉の魔術師〉は魔導具製作を弟子に任せ、自身は精霊を動力源にする研究に没頭していた。シリルの不完全なブローチも、彼が直接製作したものではない可能性が高かった。バルトロメウスは精霊のために行動しており、モニカも彼に協力を申し出た。
フェリクスの潜入とシリルたちの追跡
フェリクスは学園を抜け出し、独自にケリーリンデンの森へ潜入していた。風の精霊王召喚を目撃し、七賢人が行動中であると推測した彼は、シリルたちを保護するため、森の中へ進んだ。
精霊たちの警告と上位精霊の接近
シリルとグレンは氷霊に案内され、笛吹き男がいるという泉を目指していた。だが、炎霊レルヴァに遭遇し、強力な炎で包囲された。シリルたちは氷と火球の応酬で道を開き、セズディオに乗って突破を試みたが、直後にセズディオが負傷し行動不能となった。
炎霊レルヴァとの交戦と救援の登場
炎の雨によって危機に瀕した一行を救ったのは、茨と薔薇の魔術であった。姿を現したのは〈茨の魔女〉ラウルと〈深淵の呪術師〉レイである。彼らは非公式任務としてこの森に来ており、軽妙なやり取りを交えながらも、シリルたちを保護する意志を示した。
七賢人の真意と作戦の第一段階
ラウルは冗談めかして自らを庭師、レイを詩人と称した。だがレイは密かに伝言を使い魔に託し、作戦の進行を確認していた。彼らの任務はシリルとグレンの保護であり、本隊は〈宝玉の魔術師〉の私刑に向けて動いていた。
フェリクスの見届けと未練
森の一角でフェリクスは二人の保護を確認し、外套を羽織り直した。彼は精霊王召喚を行ったモニカの姿を直接見ることが叶わなかったことに、密かな残念を覚えながらも、その場を静かに離れていった。
エピローグ 立ち塞がる風
魔導甲冑兵の構造分析と無力化の模索
モニカは破壊された魔導甲冑兵の構造を冷静に観察し、鎧・金属糸・装飾枠・宝石の四要素に分けられると即座に分析した。動力源となる精霊と鎧を切り離す手段を模索し、金属糸に記された膨大な魔術式から接続術式の可能性を見出した。
新たな魔導甲冑兵との遭遇と実戦での突破
五体の魔導甲冑兵が襲来したが、モニカは氷の魔術で動きを封じたうえで、敵の動作に生じた隙間を利用して雷の矢を接続術式に正確に通し、全機を無力化した。その後、封印術式を施して精霊を解放せずに保護し、魔導具としての機能を停止させた。
七賢人としての才覚と人間的な未熟さ
モニカの実力に圧倒されたバルトロメウスは、彼女を大魔術師として敬意を抱きつつも、魔導甲冑兵の残骸につまずいて転ぶ姿に子どもらしさを感じていた。モニカは自らの負傷した左手をかばいながらも任務を果たし、今後の方針を考えていた。
調査結果とモニカの不安
バルトロメウスは、モニカに依頼されていた呪術師ピーター・サムズの調査結果を報告した。ピーターはかつてクロックフォード公爵に雇われており、その時期はモニカの父ヴェネディクト・レインの処刑直前であった。モニカは、父の死がクロックフォード公爵に関連する可能性を強く感じた。
信頼の表明と支援の誓い
報酬を辞退したバルトロメウスは、モニカに「力を貸してください」と頼むよう促し、年若い彼女を一人の子どもとして支援する意思を示した。モニカは戸惑いながらも素直に礼を述べ、彼の気遣いに安心感を覚えた。
新たな危機の到来と精霊の襲撃
和やかなやり取りの最中、モニカたちに突如強風が襲いかかった。それは敵意に満ちた風であり、防御結界を展開したモニカの眼前に現れたのは、風霊リィンズベルフィードであった。彼女は無表情のまま、殺意を込めた風の刃を繰り出し、モニカたちに襲いかかってきた。
【シークレット・エピソード】星詠みと星槍
エマニュエルの精霊報告と状況把握
〈宝玉の魔術師〉エマニュエル・ダーウィンは、自邸で炎霊レルヴァの報告を受け、〈深淵の呪術師〉と〈茨の魔女〉の接近を知った。さらに、森の西側では風の精霊王召喚が行使されており、侵入者によって罠型魔導具と魔導甲冑兵が破壊された事実が明らかとなった。
〈偽王の笛ガラニス〉の支配と自信の高揚
エマニュエルは、精霊を操る古代魔導具〈偽王の笛ガラニス〉に語りかけ、忠誠を誓うその声に安心感を得た。過去の自分では太刀打ちできなかった相手にも、今の自分ならば勝てるという自信が芽生えていた。彼はこの魔導具を用いて、七賢人をも従わせる野望を抱いていた。
〈結界の魔術師〉への敵意と命令
エマニュエルは、魔導具の力を見せつけることで他の賢人たちを従わせようと考えていたが、〈結界の魔術師〉だけは自分に服従しないと予測していた。そのため、侵入者のうち〈結界の魔術師〉に限っては殺害を命じた。彼の脳裏には、開戦を望む存在への忠誠と評価を得る期待が渦巻いていた。
〈星詠みの魔女〉の静かな決意
ケリーリンデンの森を見下ろす丘に立つ〈星詠みの魔女〉メアリー・ハーヴェイは、かつての同胞エマニュエルが一線を越えたことに悲しみを抱いていた。古代魔導具〈偽王の笛ガラニス〉が国に災厄をもたらす前に、それを破壊しなければならないと決意していた。
協力者カーラの登場と戦況の分析
そこへ現れたのは、煉瓦色の髪をした素朴な旅装の女、元七賢人〈星槍の魔女〉カーラ・マクスウェルであった。カーラは幻術や感知の魔術を駆使し、同時に三種の魔術を行使する卓越した技量を見せながら、状況を冷静に分析していた。
七賢人たちの動向と限界の指摘
カーラは、〈深淵の呪術師〉や〈茨の魔女〉が出力過剰で扱いが難しいことや、連絡係のルイスの魔力消耗、そしてモニカの危機などを把握していた。彼女は、かつての弟弟子や後輩たちを案じ、自ら介入することを決意した。
カーラの参戦と二人の連携
カーラは、あくまで「勝手に」協力するとユーモアを交えて告げ、メアリーもその申し出を快く受け入れた。こうして、〈星詠みの魔女〉と〈星槍の魔女〉の二人は、迫りくる災いに立ち向かうべく手を取り合った。
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