どんな本?
「サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと」は、モニカ・エヴァレットという無詠唱魔術を使える世界唯一の魔術師を主人公にしたファンタジー小説。
彼女は伝説の黒竜を一人で退けた英雄であり、極度の人見知りの天才魔女でもある。
しかし、彼女は無詠唱魔術を練習しているのは、人前で喋らなくて良いようにするためで。
無自覚なまま「七賢人」に選ばれてしまい、第二王子を護衛する極秘任務を同僚の七賢人に押しつけられることになり、気弱で臆病ながらも最強の力を持つ彼女が、王子に迫る悪をこっそり裁く痛快な物語が展開している。
読んだ本のタイトル
サイレント・ウィッチ V 沈黙の魔女の隠しごと
著者:依空まつり 氏
イラスト:藤実なんな 氏
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
冬休み中のモニカに与えられたのは、隣国との外交の場で第二王子を護衛する公式任務! 沈黙の魔女としての任務ゆえ、その隠れファンである殿下の熱視線が痛い……。そんな中、相棒・ネロが竜の接近を知らせて――?
サイレント・ウィッチ V 沈黙の魔女の隠しごと
前巻からのあらすじ
学園祭が開催されて沈黙の魔女は実行員として奔走する。
そんな彼女の前に不審者が、、
紫色の髪にピンク色の目。
七賢人の1人の呪術師レイ・オルブライト。
キラキラしている学園の陽の気にシオシオにされて苦しんでいるところにモニカが話しかけて、、
呪術具が学園に紛れていると。。
それを付けていたのが演劇のヒロインだったが其処に助けに入るのがノートン家の悪役令嬢!
モニカをイジメるフリをしながらしっかりサポートして呪術具を回収したが。
呪術はヒロインにしっかり残っており主役の代役になったグレンに攻撃魔法をぶち込む。
グレンピンチ!と思ったら、、
演劇を観ていたモニカが無詠唱魔法で攻撃魔法を抑え小さな事故として処理して何とかなったが、、
感想
学園に生徒になり、密かに第二王子フェリックスを護衛している七賢人の1人、沈黙の魔女モニカ。
そんな学園も冬休みに入る。
自称悪役令嬢のイザベルの帰省について行く満々だったモニカだったが、予言をする七賢人の1人、星詠みの魔女メアリーが竜害の兆候ありと言う。
そのせいでモニカは王都に待機となってしまった。
モニカの見識だと冬は竜は活動時期から外れているので発生しないはずなのに、メアリーが言うならとモニカは周りに気を配る。
だが、彼女の前にモニカと同期の七賢人の1人で結界の魔術師ルイスが現れて第二王子の護衛をしてくれと言う。
いや、極秘にやってますよと言うと、、
極秘では無く表だって、レーンブルグ公爵家に来るファルフォリア王国との外交に行く第二王子フェリックスを護衛してくれとルイスは言う。
さらにルイスはメアリーが予言した竜害に備えるために王都に待機して、変わりに弟子のグレンがフェリックスに着いて行くと言う。
ルイスの代わりにグレン。
あまりにも不安なので、ルイスは是が非でもモニカに一緒に行ってもらわないといけない。
フェリックスと一緒の馬車で領地まで行けるとワクワクしていたレーンブルグ家の娘エリアーヌだったが、空気が全く読めない陽気なグレンが引っ掻き回すw
しかも、フェリックスは沈黙の魔女に自身の論文を読んでもらうために寝る間も惜しんで論文を書いいたため。
フェリックスは馬車に乗ったら寝てしまう。
それでも諦めないエリアーヌにグレンがゲームに誘って、エリアーヌは軽く転がされてしまう。
そんなグレンの七賢人の覚え方が秀逸。
・結界の魔術師。師匠。怒ると怖い。
・星詠みの魔女。予言の人。目が合うと持ち帰られる(美少年限定)。
・薔薇の魔女。魔女だけど男。目が合うと野菜を押し付けてくる。
・深淵の魔術師。呪いの人。目が合うと「愛してる?」と聞いて来る(女性限定)。
・砲弾の魔術師。ドッカンドッカンしてる人。目が合うと戦闘を申し込まれる。
・宝玉の魔術師。師匠と仲が悪い。目が合うと因縁をつけられる(グレン限定)。
・沈黙の魔女。昔、師匠をボコボコにした人。目が合うと殺される。
後ろの3人、どんだけ危険人物なんだよww
しかも最後の1人はいつも側に居るぞww
そんな目が合うと殺される人にビクビクなグレンだったが、それでも師匠のルイスにいかに勝ったのか興味があったので恐る恐る聞くのだが、、
何故かそれを王族のフェリックスが答えてしまう。
どんだけ沈黙の魔女の記録を読み込んでいるんだよww
そんな憧れの沈黙の魔女に自身が書いた論文を読んでもらい、褒められるフェリックスは有頂天になってしまう。
それなのに、外交で狩猟をしていたら呪いに侵されたグリーンドラゴンが襲って来た。
ちょうど森の中を散歩していたエリアーヌとその従者に襲い掛かって来て。
間一髪でグレンがエリアーヌと従者を救出する。
だが反対にグレンがドラゴンの呪いに拘束さてれしまい意識不明の重態になってしまう。
そんなグレンを襲ったドラゴンの眉間を沈黙の魔女と王子フェリックスはライフルで撃ち抜いて、ドラゴンを討伐してしまうが、、
グレンの呪いは維持されたまま。
呪いは人為的に作られたもので、ドラゴンを侵してしいる呪いはまだ動いており。
実際に呪いは亡くなってるドラゴンの遺骸を引き摺りながら屋敷へ向かっていた。
それを討伐しようとしたら、何故かフェリックス王子が呪いの進行をら止めようとしており。
沈黙の魔女モニカが無詠唱魔法で呪いの核となる物を破壊して呪いを消したと思ったら、、、
呪いの残滓がモニカに襲い掛かり力尽きて倒れてしまう。
それを見たモニカの使い魔のネロが正体を現す。
彼の正体は黒竜だった。
しかも、沈黙の魔女が討伐とした言われていた黒竜が彼女の使い魔になっていた。
それも、ネロが鳥を骨のまま食べてしまい喉に刺さっていたのをモニカが抜いて、住む場所も無くなったのでモニカに養ってもらおうと使い魔になったらしい、、、
それで呪いを完全に消したと思ったのだが、グレンは相変わらず昏睡したまま。
さらにモニカも呪われた左手が動かない状態。
そんな時に、女性を見ると「愛してる?」と聞く深淵の魔術師のレイがグレンの呪いを見て。
2人とも自然に治癒すると言われてホッとする。
それと、今回の緑竜に呪いをかけた奴は一体誰なのかと探って行ったら、、
エリアーヌの従者が呪術師だと判明する。
そんな呪術師の正体も分かり、今回の騒動の原因も判明したのだが、、
そこからモニカの父親が何故に殺されたのかが判って来た。
それにフェリックスを王にして傀儡にしようとしている公爵が関わってくる。
あと、ネロの正体を知りたがったフェリックスに彼が今回の件で何か知っていると思い。
彼に質問するのだが、、
外交上手なフェリックスは沈黙の魔女が学園関係者だと探り出してしまう。
しかも、彼女が知りだがっていた情報を殆ど与えないで、、、
学園が始まったらフェリックスの追跡から逃れる事が出来るのだろうか??
いつも側でアウアウ言っている書記が沈黙の魔女と彼は見つける事が出来るのだろうか??
なんか探っては自己否定しそうな気がする、、
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
展開まとめ
プロローグ 勝負はテーブルに着く前から始まっているのですよ、同期殿
宴会を避けた静かな時間のはずが
モニカ・エヴァレットは、新年式典の翌日、疲労と人混みを避けて客室に籠もっていたが、使用人による過剰な世話の申し出に辟易し、静寂を求めて〈翡翠の間〉へ向かった。そこは七賢人と国王のみが立ち入れる結界に守られた空間であった。読書のために向かったその場所では、同期の〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーと〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォード・ファイアストンがカードゲームをしていた。
武闘派の誘いと逃げられない勝負の場
武闘派で知られる二人を前に、モニカは恐怖に震えたが、ブラッドフォードの誘いを断れず、ゲームに参加せざるを得なくなった。城内では第一王子派と第二王子派の派閥争いが起きており、七賢人を取り込むための接待合戦が行われていた。モニカもその一端に巻き込まれていたのである。
初勝利と増す賭け金の重圧
モニカは初めてのカードゲームで、水竜を揃えてあがりを宣言し、ブラッドフォードと組んで勝利を収めた。続く二戦目も連勝し、彼の機嫌は良好となった。ところが、賭け金は銀貨二〇枚へと跳ね上がり、モニカは不安を抱えたままゲームを続行することとなった。
勝利の演出と罠の種明かし
ブラッドフォードはルイスの癖を根拠に勝利を確信し、ゲームを進めたが、実際にはルイスが〈呪竜〉という特殊役を成立させており、ブラッドフォードの大勝ちは一転して大敗へと変わった。モニカはルールを知らなかったことを悔やみながらも、場に出されたカードの不自然さに気づき、山札の構成に矛盾があることを指摘した。
イカサマの追及と魔術戦の勃発
モニカの鋭い観察により、カード枚数の不一致が明らかとなり、ルイスのイカサマが疑われた。ブラッドフォードは怒りをあらわにし、魔術戦を挑んだ。ルイスも応戦し、防御結界を展開したが、その対象にモニカは含まれておらず、彼女は慌てて自力で防御魔術を発動した。
騒動の収束とモニカの保護
騒動の末、〈茨の魔女〉が駆けつけて二人の暴れた魔術師を拘束し、円卓の下でうずくまっていたモニカは〈星詠みの魔女〉に保護された。勝負に巻き込まれたことで心身共に消耗したモニカは、数字を呟き続けるほど衰弱していた。
一章 ウィンターマーケットと冬精霊の氷鐘
冬至前の街の賑わいとイザベルの買い物
セレンディア学園の休校日、モニカはイザベル・ノートンとその侍女アガサと共に、クレーメのウィンターマーケットを訪れた。モニカは人混みに緊張しつつも、以前よりも落ち着いて行動できるようになっていた。イザベルは家族への土産や香りの良い石鹸、孤児院の子ども達のための本などを買い揃え、モニカと別れて行動する体を装い、周囲の目を避けて行動した。
竜害の予言と別れの決断
冬至休みを共に過ごすはずだったイザベルの誘いを、モニカは断ることとなった。理由は、〈星詠みの魔女〉による「この冬、国に竜害の兆候あり」との予言である。竜害が懸念される以上、七賢人であるモニカにも出動の可能性が生じ、ケルベック伯爵家への同行は叶わなかった。イザベルは悔しさをにじませながらも、状況を理解し、別行動を選んだ。
偽装された別行動と探偵の誤解
イザベルはモニカに白紙の買い物メモを渡し、馬車で休憩に入る演技をしながら、学園関係者の目を避けた。二人の関係を秘密にするための演技であったが、現場を監視していた素行調査の探偵は、これを真に受け、イザベルによるモニカへの虐待と誤解した。彼は依頼に従い、モニカの尾行を続けることを決意した。
シリルとグレンとの再会と買い物同行
単独行動中のモニカは、ウィンターマーケットで偶然シリル・アシュリーとグレン・ダドリーに再会した。二人は土産探しの最中で、モニカは彼らと行動を共にすることとなった。女の子への土産選びに困っていたグレンに対し、モニカは香りの良い石鹸を提案した。シリルもラベンダーの石鹸を選び、それぞれ目的の品を手に入れた。
冬精霊の氷鐘とモニカの決意
買い物の後、三人は広場に設置された冬精霊の氷鐘を訪れた。グレンが大きな声で宣誓したことをきっかけに、モニカも初めてこの街に来た時からの成長を実感し、今後も前向きに頑張ることを願って鐘を鳴らした。シリルは二人に期待を寄せる言葉をかけ、モニカは友人や先輩に見守られていることを胸に刻んだ。
フェリクスの決断と再起の兆し
一方その頃、第二王子フェリクスは、懐中時計に隠された契約精霊との石を見つめながら、自身が書いた魔術論文を手放そうとしていた。王位を目指す以上、魔術の知識は不要とされていたが、外交任務の指示とともに、冬休みに〈沈黙の魔女〉に会える可能性が記された手紙を受け取ったことで、彼は希望を取り戻した。論文の束を再び手に取り、執筆を再開することで、自身の想いに再び向き合い始めた。
ラベンダー石鹸と過去の回想
モニカはクレーメでの買い物を終えて女子寮に戻り、養母らに贈るためのラベンダーの石鹸を手に屋根裏部屋へと向かった。新年の式典を控え、七賢人として城に滞在しなければならないことを思い出し、昨年は研究に没頭して式典を忘れ、ルイスに連行された苦い記憶を振り返った。
緊急訪問と任務の通達
屋根裏で出迎えたのはルイス・ミラーであり、彼は沈痛な面持ちでモニカに重大な任務を伝えた。モニカは正式に第二王子フェリクスの護衛として任命され、外交の場に姿を現す必要があると告げられた。さらに同行者として、ルイスの弟子であるグレンも任務に加わることが決定していた。
グレンの同行と正体隠蔽の困難
モニカの正体がグレンに知られていない以上、〈沈黙の魔女〉としての振る舞いには制限が生じた。ルイスは代弁役となる従者を必要とし、信頼できる人物の選定を求めたが、モニカには該当者がいなかったため、精霊ネロに人間の姿で従者役を担わせる案が浮上した。任務には七賢人のローブと杖も必要となり、回収はリンが担当することになったが、モニカは長さと装飾の多さから杖を物干し竿代わりに使用していたことが判明し、ルイスを呆れさせた。
探偵の報告とドリーの妄想
一方、ブリジット・グレイアムの侍女ドリーは、雇われ探偵からモニカの行動報告を受け、内容をブリジットに伝えた。報告には特段の異常は記されていなかったが、ドリーはモニカを悪い魔術師と見なし、ブリジットがその正体を暴こうとしていると妄想していた。ブリジットは淡々と指示を下し、探偵には冬休み中も監視を続けさせるよう命じた。
花の装飾とブリジットの秘めた想い
ドリーはブリジットに水色のドレスの装飾について相談したが、ブリジットは花の装飾を拒否した。彼女の私物にも花を模した装飾は少なく、ドリーはその理由を測りかねたが、ブリジットは自身の中にある特別な理由により、それを避けていた。彼女は、自分が望む花を贈れる者は世界で一人だけだと胸の内で語り、静かに目を閉じた。
冬休みに向けたそれぞれの動き
各々がそれぞれの事情や思惑を抱えたまま、冬休みが間近に迫っていた。モニカは困難な任務に備え、ブリジットは静かに行動を重ねており、物語は新たな局面へと向かっていた。
二章 偉大なる魔女、輝く風を纏いて降臨す
エリアーヌの帰省準備と高まる期待
セレンディア学園の式典を終えたエリアーヌ・ハイアットは、実家への帰省に向けて慌ただしく支度を整えていた。彼女が上機嫌でいたのは、第二王子フェリクスが同行し、外交の一環として屋敷に滞在することが決まっていたためである。エリアーヌは、自身の装いを完璧に整え、馬車での時間をフェリクスとの距離を縮める好機と見なしていた。実家での案内や既成事実作りまで思案するほど、彼女はこの機会に意気込んでいた。
馬車の前での思わぬ再会と衝撃
帰省用の馬車の前でフェリクスと合流するはずのエリアーヌは、そこに立っていた平民のグレン・ダドリーの存在に戸惑う。しかも彼は魔法兵団の制服を身に着け、今後フェリクスの護衛を務めると紹介される。想定外の展開にエリアーヌは動揺しながらも、表面上は冷静を装って挨拶を交わした。
馬車内の思惑と空回り
馬車内ではフェリクスの隣にグレンが座り、エリアーヌの目論見は早々に外れた。彼女はフェリクスに寄り添うような偶然を演出する計画を練っていたが、護衛という立場のグレンが隣に座ることに口を出せなかった。一方、グレンは屈託なくエリアーヌとの距離を縮め、エリアーヌは戸惑いつつも、フェリクスに「エリー」と呼ばせる策を模索した。しかしフェリクスは眠気に勝てず船を漕ぎ始め、彼女の試みは空振りに終わった。
道中の和やかな空気と小競り合い
馬車の中では、グレンが手品やカードゲームを持ちかけ、エリアーヌも次第に夢中になっていった。フェリクスは二人の様子を穏やかに見守りながらも、疲労から目を閉じて休息を取った。彼にとっては、エリアーヌの気を引くグレンの存在が、好都合に作用していた。
バルトロメウスの登場と従僕たちの思惑
一方、レーンブルグ公爵邸では、雑用係のバルトロメウス・バールが修繕作業を終え、〈沈黙の魔女〉モニカとの再会を夢見ていた。彼はかつて助けられた美しいメイドこそがモニカだと確信しており、再会に向けて意気込んでいた。従僕ピーター・サムズや執事レストンとのやり取りの中で、屋敷内の人間関係や優先順位が描かれた。ピーターは噂好きで他人の評価を気にする人物であり、レストンはお嬢様であるエリアーヌを何よりも重視していた。
フェリクス一行の到着とモニカの降臨
三日目の昼過ぎ、フェリクス、エリアーヌ、グレンがレーンブルグ公爵邸に到着した。迎えた使用人の中には、フェリクスが以前どこかで見たような顔──ピーターの姿があり、彼はクロックフォード公爵家出身であることを明かした。そんな折、上空に突如現れたのは精霊王シェフィールドを召喚したモニカの姿であった。これは彼女が飛行魔術の不安定さを補うために、苦肉の策で行った結果であった。
モニカとネロの計算外の再会と騒動
モニカは飛行中の事故を回避するため、無意識に精霊王を召喚してしまい、想定以上に壮大な登場を果たしてしまった。ネロは人間の青年姿でモニカと共に登場し、過去にフェリクスと出会っていたことが発覚する。偽名も即興で名乗り、モニカはその軽率さに困惑したが、事態の収拾を図って彼女自身は魔術師として最敬礼で応じた。フェリクスは無詠唱魔術を目撃し、感動を露わにして挨拶を交わした。
緊張と動揺の中の歓迎と新たな始まり
モニカはフェリクスの優しい態度に安堵しながらも、彼が以前の事件で自分に気づいていたことに動揺した。フェリクスは彼女に敬意を込めて接し、その手の甲に口づけを与える。エリアーヌはこの状況に苛立ちを見せたが、屋敷内への案内を指示することで場を収めた。モニカは高鳴る胸を押さえながら、護衛としての任務を始める覚悟を新たにした。
三章 秘伝の三番の行方
レーンブルグ公爵邸での再会と疑念
グレンたちは任務の開始に際し、公爵邸に案内された。そこでは〈沈黙の魔女〉モニカと従者アレクサンダーが控えており、グレンはアレクサンダーの態度に強い胡散臭さを覚えた。〈沈黙の魔女〉本人は小柄で無口な少女のように見えたが、グレンは師ルイスから聞かされていた彼女の凶悪な人物像を思い出し、内心怯えていた。
護衛任務の命令と七賢人の紹介
グレンが任務を与えられたのは冬休み前のある晩、寮に師匠ルイスが現れた時であった。ルイスは〈結界の魔術師〉としての立場から、第二王子の護衛に同行するよう命じた。加えて、グレンが公爵邸で恥をかかぬよう、七賢人について説明を始めた。七賢人には変わり者が多く、目を合わせただけで災難を被る者ばかりだった。特に〈沈黙の魔女〉は無詠唱魔術を使いこなす強者で、ルイスすら敗北した過去を持つと語られた。
魔術戦の過去とフェリクスの敬意
〈沈黙の魔女〉の強さについて、グレンがアレクサンダーに質問すると、彼は曖昧な返答をした。一方、フェリクスは詳細に解説し、無詠唱による節制術式の併用が勝因であると語った。グレンには内容が難解で理解できなかったが、フェリクスの熱意と知識の深さに感心した。モニカはそのやり取りを見て、フェリクスの憧れに気づき戸惑った。
バルトロメウスの陰謀と厨房の混乱
厨房では、新米使用人バルトロメウスが〈沈黙の魔女〉は偽物であると疑いを抱いていた。過去に見た〈本物〉と体格や雰囲気が異なるという理由からである。彼は魔女を酩酊させて正体を暴くため、「秘伝の三番」という特別な飲み物をフルーツケーキに染み込ませた。
夜の訪問と魔術論文のやり取り
晩餐を避けて部屋に戻ったモニカのもとに、フェリクスが夜食を持参して訪ねてきた。中身には偶然バルトロメウスの仕掛けた「秘伝の三番」が含まれていたが、それは全てネロが食べ尽くした。フェリクスは魔術論文を手渡し、自らの〈友人〉がモニカに添削を依頼していると伝えた。モニカはその論文の質の高さに驚き、誠実に添削を行った。やがてフェリクスはその返答に感激し、論文に対する彼の情熱が本物であることをモニカは確信した。
モニカの決意と揺れる感情
モニカは添削の最後に「また論文が見たい」と書き添え、フェリクスの夢を後押ししたいと願った。フェリクスの想いが恋愛ではなく、憧れと尊敬に基づいていると理解し、自身も〈沈黙の魔女〉としての誇りを守ろうと決意を新たにした。
エリアーヌの落胆とグレンの無神経
一方、エリアーヌはフェリクスが〈沈黙の魔女〉の部屋に入ったのを見て激しく嫉妬した。彼女は「秘伝の三番」で誘う計画を立てていたが、その飲み物はフェリクスの手に渡っていた。怒りに震える彼女に声をかけたのはグレンで、彼は無邪気にもトイレに同行してほしいと頼んだ。エリアーヌの計画は水泡に帰し、彼女の夜は呆気なく終わった。
誤解に満ちた結論とバルトロメウスの勘違い
最後に、〈沈黙の魔女〉の部屋を見張っていたバルトロメウスは、フェリクスが部屋から満足げに出てきたのを見て、ふたりが恋仲であると誤解した。ネロが「秘伝の三番」をすべて摂取していた事実を知らず、彼はこの出来事を偽魔女の弱みとして利用しようと画策を始めた。
四章 バルトロメウス・バールの提案
早朝訓練と〈沈黙の魔女〉の助言
屋敷二日目の朝、グレンは飛行魔術と火の魔術の同時維持の訓練に取り組んでいた。二重魔術の維持は難しく、失敗を繰り返していたが、〈沈黙の魔女〉が現れ、火の魔術を二つ同時に使う方が感覚を掴みやすいと助言した。グレンはその方法で一定の成功を収め、彼女の親切さに感銘を受けた。〈沈黙の魔女〉に抱いていた恐怖は誤解であり、師ルイスの個人的な感情が含まれていたことに気づいた。
モニカの見回りと犬への違和感
モニカは王国の使者到着を前に庭園を見回っていた。屋敷の猟犬が一部の人物に怯える様子を目撃し、その対象が自分の従者ネロであることに心当たりを持った。正体を隠している以上、彼に犬へ近づかないよう警告すべきだと考えた。見回りを続ける途中、彼女は過去に街で出会った男バルトロメウスと再会した。
バルトロメウスとの再会と誤解
バルトロメウスはモニカの正体を疑い、彼女を〈沈黙の魔女〉の偽者と決めつけて詰め寄った。モニカは混乱し、無詠唱魔術で自らが本物の〈沈黙の魔女〉であることを証明した。バルトロメウスはようやく納得したものの、彼が〈沈黙の魔女〉と誤認していたのは、実際には精霊リンであったことが判明した。
リンへの恋心と取引の申し出
バルトロメウスは精霊リンに一目惚れし、モニカにリンとの仲を取り持つよう取引を持ちかけた。その見返りとして、モニカがフェリクスの護衛であるという秘密を黙っていると申し出た。モニカは護衛任務が露見することを恐れつつも、精霊との仲介を求められ困惑した。
フェリクスの介入と誤解の深化
その場に現れたフェリクスは、モニカに接触するバルトロメウスの行為を止め、彼女を朝食に誘った。モニカは咄嗟にネロを通じてバルトロメウスとの関係は問題ないと伝えたが、フェリクスは警戒を解かず釘を刺した。ネロはバルトロメウスを自らの「子分」と表現し、場を収めたが、バルトロメウスはモニカとフェリクスが恋仲であるとますます誤解した。
協力か口封じかの選択
モニカは極秘の護衛任務を維持するために、バルトロメウスを排除するか協力を受け入れるかという二択を迫られた。だが、バルトロメウスが望むリンの紹介には応じがたく、今後の対応に頭を悩ませていた。一方バルトロメウスは、フェリクスの冷たい視線を見て二人の関係にますます確信を深めていた。
五章 肉食男子の肉食トーク
ファルフォリア王国との外交交渉
フェリクス王子はファルフォリア王国の使者団と会談を開始した。使者団は旧ファル王国系のバロー伯爵派と旧フォリア王国系のマレ伯爵派に分かれ、内部で対立していた。リディル王国との小麦取引に積極的なバロー伯爵に対し、マレ伯爵は帝国への配慮から慎重な姿勢を示した。フェリクスはワインの話題を用いてマレ伯爵の警戒心を探るが、竜騎士団の新駐屯基地建設に関する話題が交渉の焦点となり、議論は軍事的な側面に移行した。クロックフォード公爵の意向により進む駐屯地建設は、竜害対策を名目としつつ帝国への備えも兼ねていた。マレ伯爵はこれを牽制と捉え、厳しく追及した。フェリクスは状況の打開を模索しつつ、〈沈黙の魔女〉への憧れを密かに抱いていた。
モニカの内心と警戒
外交会議を見守っていたモニカは、フェリクスの堂々とした交渉姿勢に感心していた。フェリクスが〈沈黙の魔女〉の素顔や能力に興味を示していることを察し、警戒心を強めていた。バルトロメウスの協力も視野に入れながら、自身の正体が露見しないよう策を練っていた。一方、フェリクスは会議後にモニカへ丁寧に接し、昼食会の後に狩りに同行する予定を伝えた。
グレンとアレクサンダーの交流
外交会議の隣室では、グレンとモニカの従者アレクサンダーがカードゲームに興じていた。アレクサンダーは見た目に反して気さくで博識であり、竜に関する知識を語りながら、カードゲームを通じてグレンと打ち解けていった。呪竜カードの特殊ルールを通じて、竜の分類や性質についての会話が展開され、ゲームへの理解も深まっていった。昼食会後の狩りへの同行が決まった際、グレンは馬に乗れないことを明かし、従者としてピクニック側に留まることとなった。
エリアーヌの苛立ちと肉談義の場
レーンブルグ公爵令嬢エリアーヌはフェリクスとの接近を図るも、外交や狩りで疎遠な状況に苛立ちを募らせていた。狩りの見学中、グレンやアレクサンダーとともに肉談義が繰り広げられ、公爵夫人も加わって和やかな雰囲気となるが、エリアーヌはその話題に馴染めず不満を抱いた。母の配慮も期待外れに終わり、ついには一人で馬を駆って森の散策に出かける。従者のピーターを伴い、偶然の再会を期待して森へ向かった。
バールとアレクサンダー、そして迫る脅威
ピクニックの場では、アレクサンダーと黒髪の若い使用人バールが親しげに振る舞っていた。両者は名前の由来も含めて親近感を抱いていたが、突如アレクサンダーが異様な魔力の接近を察知した。彼は緊張感を強め、グレンとバールにエリアーヌの元へ急ぐよう指示した。感知された魔力は竜に酷似しており、正体不明ながら強大な存在であった。警戒が高まる中、森に向かったエリアーヌの安否が懸念され始めた。
六章 呪われたもの
森の中での異変と呪竜との遭遇
エリアーヌと従者ピーターは森を散策中、緑竜の接近に遭遇した。竜の様子は異常であり、その体には黒い帯状の影が這っていた。緑竜は馬を襲撃し、明らかに理性を欠いた行動をとった。エリアーヌはその姿から竜が呪いに蝕まれた存在、すなわち呪竜であると直感した。影は馬を呪いと同化させ、ピーターは錯乱し、エリアーヌも恐慌状態に陥った。二人が絶体絶命の状況にある中、グレンが飛行魔術で駆けつけ、二人を救出した。
呪竜からの逃走とグレンの被呪
グレンは飛行魔術で木々の間を縫うように飛び、エリアーヌとピーターの救出を図ったが、呪竜が放つ黒い影はしつこく追尾してきた。魔力の同時維持に不慣れなグレンは、攻撃魔術の火力を十分に発揮できず、影に追いつかれ、エリアーヌたちを安全圏に投げ出してから自身が呪いを受けた。グレンは呪いに蝕まれながらも必死に詠唱し、高威力の火球で竜に一撃を与えたが、すでに呪いは彼の半身を覆い、意識を失って倒れた。
アレクサンダーの到着と救出
エリアーヌとピーターの前に〈沈黙の魔女〉の従者アレクサンダーが現れ、呪いに接触できる自身がグレンを運ぶことを宣言した。アレクサンダーは呪いが彼を避けることを確認し、グレンを担ぎ上げて避難を開始した。彼はこの呪いが素人では対処不能であることを明言し、専門家の呼び出しを指示した。
狩場での交渉と突発事態
その頃、狩場ではフェリクス、モニカ、ファルフォリアの使者たちが交流を続けていた。外交的配慮からフェリクスは狩果を譲り、マレ伯爵との駆け引きにおいて冷静に対処していた。だが緑竜の接近が視認され、一行は混乱に陥った。フェリクスは冷静に退避を促しつつ、事態を収拾しようとした。
呪竜の急襲とモニカの結界
モニカは休憩所へ戻り、呪いに侵されたグレンと混乱する人々の対応に追われた。レーンブルグ公爵夫人は素早く指揮を執り、状況を掌握した。そこに再び緑竜が現れ、呪いの影を放ち襲撃を開始した。モニカは咄嗟に通常防御結界と対呪い用防御結界を展開し、影の侵入を防いだ。だが、攻撃魔術を同時に使えない状況に追い詰められ、戦術的に不利な状態に陥った。
フェリクスの狙撃と呪竜の討伐
モニカの絶望の中、フェリクスが猟銃を用いた狙撃を提案した。モニカは部分的に結界を解除し、フェリクスは緑竜の眉間を正確に撃ち抜いた。緑竜は断末魔を上げ、黒い影とともに力を失って墜落し、完全に沈黙した。この連携により、呪竜は討伐された。人々は歓声を上げたが、モニカはその最期に竜が発した声に深い疑念と衝撃を抱いていた。
八章 愛されたがり、到着
呪術師レイの登場と混乱
レーンブルグ公爵邸に〈深淵の呪術師〉レイ・オルブライトが突然現れ、到着早々から愛されたい欲求を暴走させて周囲を困惑させた。七賢人の一人である彼は、呪竜事件の顛末と呪いの実態を把握するために訪れたと見られる。案内された部屋でモニカに縋りつき、必要とされていることを愛と受け取り、執拗に愛情を求めた。ネロがそれを強引に制止し、ようやく診察へと移行した。
モニカの傷と呪いの診察
モニカは左腕の痣をレイに見せ、診断を受けた。レイはそれが自然発生の呪いではなく、人為的な呪術であると即断した。呪具の完全破壊により呪いは消滅していたが、痣と痛みはしばらく残る見通しであった。また、レイは呪具の残滓が長く呪いを保つことを説明し、ネロの黒炎が呪具の完全破壊に寄与したことを評価した。
グレンの容態とその過去
呪いにより昏睡していたグレンは回復していた。彼の膨大な魔力量と、それに起因する過去の暴走事件が語られた。〈結界の魔術師〉に引き取られた経緯が示され、モニカは彼の抱えていた恐怖と決意を想起した。一方、フェリクスはグレンに対する罪悪感を抱いていた。呪竜事件の背後にクロックフォード公爵との繋がりを疑いながらも、真相は伏せられ、王子としての立場が称賛される構図が描かれた。
エリアーヌの見舞いとグレンの回復
フェリクスとグレンの会話に、エリアーヌが割り込むように見舞いに現れた。彼女は動揺しながらも見舞いの意を伝え、グレンの快活な応対に安堵しつつ、照れ隠しの態度を見せた。表向きは呆れながらも、裏では彼のために食事を手配する姿から、彼への好意が垣間見えた。
呪術師の劣等感とモニカの対応
話は再びレイに戻り、呪術師としての劣等感や容姿へのコンプレックスを延々と語り始めた。モニカは懸命に励ましの言葉をかけ、彼の自尊心を保とうと努めた。呪術の影響による容姿変化や精神的な負荷についても触れられ、レイの抱える孤独と痛みが滲み出た。
呪竜の正体と裏切り者の存在
モニカは呪竜の発生要因について問い、レイは人為的な呪術で竜を支配することは不可能としながらも、竜が自ら呪いを受け入れた可能性には沈黙した。そして、十年前にオルブライト家を裏切り呪具を持ち出した男の存在を挙げた。モニカもそれに同意し、今回の事件との関係を疑った。
秘密の調査と呪術師の過去
モニカは今回の呪竜事件を他言せず、レイと共に調査を進める提案を行った。フェリクスの関与も疑われており、真相を知るためには王子との直接対話が必要であった。レイはこの申し出に感極まり、モニカへの恋情をさらに暴走させたが、モニカは冷静に話を本筋へと戻そうと努めた。
フェリクスとの対面と新たな局面
バルトロメウスの案内により、フェリクスが面会を求めて現れた。ネロはレイを強引に廊下に追い出し、モニカとフェリクスの対話の場を整えた。モニカは筆談で彼を迎え、穏やかに話し始めたが、彼の微笑みの裏にある真意を探ろうと心を引き締めていた。こうして、呪竜事件の核心に迫る交渉の幕が上がった。
九章 モニカとネロの出会い
黒竜ネロの正体と誤解の釈明
フェリクスはモニカの使い魔であるネロに対し、かつてのケルベック伯爵領襲撃との関係を問い質した。だがネロは、自分は翼竜の群れを率いた覚えもなく、むしろ勝手に慕われただけであったと述べた。フェリクスはその言い分に困惑しつつも、ネロの話を受け入れた。
モニカとネロの出会いの真相
半年前、ウォーガンの黒竜を討伐する任務で山に入ったモニカは、痛みに呻く黒竜と遭遇した。喉に骨が刺さっていた黒竜を救ったことがきっかけで、黒竜は人間に化けて恩返ししようとした。だがその姿に怯えるモニカに配慮し、最終的には黒猫の姿で自身を差し出し、主従関係が成立した。
正体露見と交渉の失敗
ネロの話を終えたモニカは、フェリクスに自分の正体を探られた。フェリクスは巧妙な言葉の綾と観察力で、〈沈黙の魔女〉がセレンディア学園関係者であることを突き止めた。モニカは動揺から判断を誤り、シリルの役職への反応によって、自ら正体を露呈してしまった。
呪術への疑念とフェリクスの言い訳
フェリクスは呪竜に対する呪いが呪術だと即断した理由を問われた際、過去の見学経験を挙げてはぐらかした。モニカはそれが用意された答えであると感じたが、反証の手立てを持たなかった。
水の上位精霊と得意属性の矛盾
ネロが語った「白いトカゲ」が水の上位精霊である可能性に対し、モニカはフェリクスのミドルネームと王国の慣習から、彼の得意属性が土であると推察した。得意属性が異なれば上位精霊との契約は不可能であり、この矛盾にモニカは違和感を覚えた。
モニカの疑念と自己制止
フェリクスの上位精霊の存在、魔術の使用を隠す理由、呪竜への不自然な対応など、様々な点からモニカの中に疑念が芽生えた。しかし自身の立場を踏まえ、これ以上の追及を避けるべきだと自制した。
フェリクスの確信と勝利
部屋を出たフェリクスは、〈沈黙の魔女〉が学園にいるという確信を得て満足していた。彼は冷静かつ用意周到にモニカから情報を引き出し、勝利を収めたと実感していた。
愛されたい呪術師と王族の対話
廊下ではレイ・オルブライトが落ち込みながら愛情を求めていた。フェリクスはそんな彼に呪術の本質について問いかけ、レイは呪術は他者を操るためではなく苦しめるための術であると答えた。フェリクスはその言葉に納得しつつ、内心に野心を燃やし、さらなる覚悟を固めていた。
第十章 ヴェネディクト・レインを知る者
モニカの苦悩と宴への誘い
呪竜との戦いで負傷したモニカは、交渉失敗と正体発覚の不安から落ち込み、部屋に閉じこもっていた。フェリクスとの交渉に敗北したことで心が折れ、宴への参加も拒んでいたが、魔術訓練を続けるグレンの姿を見て徐々に気持ちを持ち直した。そして短時間だけの顔出しを決意し、宴会の場へと向かった。
〈深淵の呪術師〉との邂逅と呪術師の発見
宴会会場へ向かう途中、モニカは〈深淵の呪術師〉レイ・オルブライトと出会い、互いの緊張を和らげるため同行を申し出た。宴の場では人の多さに圧倒されたが、モニカは使用人の一人に見覚えを感じ、その人物がかつて緑竜の記憶に現れた呪術師と一致することに気づいた。彼女はレイにその事実を伝え、男が呪術師であると確信した。
バリー・オーツの過去と呪術の顛末
使用人ピーター・サムズの正体は、十年前にオルブライト家を裏切った呪術師バリー・オーツであった。彼は幼体の緑竜を呪術で殺し、母竜を暴走させた張本人であり、呪竜騒動の元凶でもあった。ピーターは自身の呪具を使い反撃を試みたが、レイがその呪いを吸収・制圧したことで失敗に終わった。レイはその呪術の反動で体調を崩したが、モニカは単身でピーターを追跡した。
モニカの追跡と幻術による誘導
モニカは〈精霊の宿〉を活用して庭を照らし、幻術で緑竜の姿を再現しピーターをおびき出した。錯乱したピーターは逃走を図ったが、モニカと猟犬を従えたバルトロメウスによって追い詰められた。モニカは呪術対策を施した封印結界を展開し、ピーターの逃走を防いだ。
モニカとヴェネディクト・レインの因縁
ピーターはモニカを〈ヴェネディクト・レイン〉と呼び、錯乱しながらかつて自らが売った人物に対する後悔と恐怖を吐露した。ヴェネディクト・レインとはモニカの父の名であり、彼女はその告白に動揺する。ピーターはさらに強力な呪具を使って反撃を試みたが、呪術が暴走して自身を呪い殺してしまった。
父の死の真相への決意
ピーターの最期の言葉は、ヴェネディクトへの復讐を恐れるものだった。モニカは彼の死に様を見届け、父が無実の罪で処刑された事実を確信した。ピーターの遺した呪具を手にした彼女は、父の名誉を回復すべく真実を追う決意を固めた。そしてモニカは、学園外での活動に協力してくれる人物として、バルトロメウスに自らの雇用を申し出た。
十一章 それぞれの帰省
シリルの帰省と母との再会
シリルは南西部アシェンダルテの実家を久々に訪れた。名産品の織物の音が響く町並みに変化を感じつつも、彼は目立たぬよう地味な服装と帽子で母の元を訪れた。帰宅への不安を抱えていたが、掃除中の母と偶然再会し、当たり前の会話に安堵した。手土産として選んだ石鹼は母に喜ばれ、茶を交わしながら、学園生活や新年の挨拶への同行決定を報告した。母はその努力を認め、シリルは自身の成長を実感した。
フェリクスの外交成果と王位継承の布石
フェリクスはファルフォリア王国との交渉を成功裏に終え、王城へと帰還した。呪竜騒動を経たことで交渉は円滑に進み、両国間の竜害対策協力体制の提案も好感を得た。また、第三王子派が第二王子派に合流したことで、次期国王としての地盤が固まったと認識していた。ピーター・サムズの失踪も織り込み済みであり、クロックフォード公爵の思惑も読み切った上で、自らの行動を進める意志を固めていた。
新たな局面を迎える第三王子アルバート
第三王子アルバートは、母フィリス妃の意向によりミネルヴァを退学し、セレンディア学園へ編入することとなった。形式上は第二王子派への合流であるが、本人は納得しておらず、兄フェリクスに対する反発と劣等感を抱えていた。従者パトリックに兄の弱点探しを命じ、自らの存在価値を証明しようと意気込んでいた。
モニカとヒルダの再会と父の死の真相
モニカは養母ヒルダの家に帰省し、懐かしい家と変わらぬヒルダの家事音痴に苦笑しながらも、温かな時間を過ごした。食事を共にする中で、父ヴェネディクト・レインの死に関わる呪術師の存在を尋ねると、ヒルダはかつて父に共同研究を持ちかけて断られた呪術師がいたこと、その直後に冤罪で父が処刑されたことを語った。背後に大物貴族がいると知りつつも、モニカは真相究明の意志を変えなかった。
黒い聖杯の謎と新たな手がかり
モニカは自身の部屋で思考を整理し、疑問点を整理した後、それを灰にして破棄した。就寝前に読み返していた父の著書の奥付に挟まれた一枚の紙切れを発見し、そこには「黒い聖杯の真実に気づいたら、店を訪ねるがいい」と書かれていた。文体や状況から古書店の店主ポーターの仕業と推察したが、「黒い聖杯」の意味は不明であった。その晩、モニカは父と誰かの穏やかな会話を夢に見て眠りについた。
エピローグ その音に誓う
新年の式典への不安と準備
冬至休みを養母の家で過ごしたモニカは、新年の式典に出席するため、憂鬱な気分で登城した。式典前には七賢人による魔術奉納が予定されており、今年の担当は〈砲弾の魔術師〉、〈結界の魔術師〉、〈茨の魔女〉であった。しかし集合場所に〈茨の魔女〉の姿はなく、〈結界の魔術師〉ルイスは苛立ちを隠さなかった。
七賢人たちの反応と混乱
〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォードは鷹揚に対応し、〈星詠みの魔女〉メアリーは呪竜討伐を果たしたモニカに感謝を述べた。一方で、〈宝玉の魔術師〉エマニュエルは不在を嘆き、〈深淵の呪術師〉レイは自身の式典参加を悲観した。ルイスは〈茨の魔女〉のクビを提案するなど、空気は不穏であった。混乱の中、モニカは代替案として自身の魔術奉納を申し出た。
城到着と式典開始
一方、第二王子フェリクスは民衆の歓声を浴びながらパレードに参加し、式典会場へ到着した。王族を迎える七賢人の列には、幻術で作られた〈茨の魔女〉の幻影が含まれていた。〈砲弾の魔術師〉が放つ火球が空に大輪の炎となって咲き、〈結界の魔術師〉がそれを完璧に防いだ。
モニカの魔術奉納と誓い
続いて、〈沈黙の魔女〉モニカが前に出て、氷で作られた「冬精霊の氷鐘」を空に浮かべた。鐘は澄んだ音を響かせ、聴衆を魅了した。この繊細で美しい魔術は、モニカが無詠唱で行使したものであり、見守るフェリクスは心を震わせながらその奇跡を目に焼きつけた。
城外での決意と共鳴
宿にいたシリル・アシュリーもまた、その音に心を打たれ、自らも堂々と国王に挨拶することを誓った。義父であるハイオーン侯爵の励ましを受け、静かに気持ちを奮い立たせた。
モニカの内なる誓い
式典の舞台で注目を集めるモニカは、かつてウィンターマーケットで冬精霊の氷鐘に立てた誓いを思い出していた。そして今、奏でる鐘の音に新たな誓いを重ねた。「父の無実を自分が証明する」と──モニカの想いを乗せて、冬精霊の氷鐘が凛と空に響き渡っていた。
【シークレット・エピソード】〈沈黙の魔女〉の知らない、幾つかのこと
バーニー・ジョーンズの決意と知らせ
アンバード伯爵家の次男であるバーニー・ジョーンズは、兄の急死により家督を継ぐこととなり、ミネルヴァを年内で退学することが決まっていた。かつて望んでいた立場を望まぬ形で得た現実に複雑な思いを抱きつつ、彼は誇れる当主となる決意を固めていた。退寮前の挨拶に訪れた研究棟で、〈紫煙の魔術師〉ラザフォード教授と学長が、かつてモニカに執着していた問題児ヒューバード・ディーがセレンディア学園に編入するという話をしているのを耳にし、バーニーは衝撃を受けた。潜入任務中のモニカと再会すれば騒動になると危惧した彼は、急ぎ寮へ戻り、彼女への警告と助言を込めた手紙を書き始めた。
ブリジット・グレイアムの帰省と内心
シェイルベリー侯爵家の令嬢ブリジット・グレイアムは、帰省後に妹セラフィーナの出迎えを受けた。妹はセレンディア学園に憧れを抱き、姉とフェリクス王子の関係に興味を示して無邪気に問いかけたが、ブリジットは冷静にそれをたしなめた。表面上は平静を保っていたが、妹の無垢な言葉に心を乱され、部屋に戻ると一人きりで感情を押し殺し、涙を堪えながら淡々と荷解きを始めた。王子への想いを胸に秘めながら、彼女は己を律していた。
同シリーズ
サイレント・ウィッチ シリーズ











その他フィクション

Share this content:
コメントを残す