サイレント・ウィッチ10巻
サイレント・ウィッチまとめ
サイレント・ウィッチ12巻
物語の概要
本作は、リディル王国において魔術師の頂点とされる「七賢人」の一人、《沈黙の魔女》モニカ・エヴァレットを主人公としたファンタジー作品である。 極度の人見知りで静かな生活を望むモニカは、魔法大学での講演依頼を受け、しぶしぶ現地を訪れる。しかし、そこで彼女を待ち受けていたのは、七賢人すら惑わす精神干渉魔術――謎の「霧」による異変であった。学内に仕組まれた狡猾な罠と、霧の中に潜む陰謀。モニカは信頼する仲間と共に、人々の保護と事態の収束に向けて動き出す。自身のトラウマや制約と向き合いながら、無詠唱魔術で霧の深淵を切り拓く、緊迫の魔法ミステリーが展開される。
主要キャラクター
- モニカ・エヴァレット: 本作の主人公。《沈黙の魔女》の称号を持つ、世界で唯一「無詠唱魔術」を操る天才魔術師。圧倒的な実力とは裏腹に、素顔は極度の対人恐怖症であり、人前で話すことを何よりも苦手とする。
- ルイス・ミラー: 《結界の魔術師》の称号を持つ七賢人の一人。モニカを今回の任務(講演)に引き込んだ張本人であり、事態の調査において彼女のバックアップを務める。合理的かつ現実的な性格で、モニカを公私ともに振り回すことが多い。
物語の特徴
本作の最大の魅力は、世界最強クラスの魔術師でありながら、精神的には極めて内向的な少女・モニカの「ギャップ」と「成長」にある。単なる魔法バトルに留まらず、霧に隠された謎を解き明かすミステリー要素と、仲間との絆を通じて自らの役割を自覚していく心理描写が精緻に描かれている。無詠唱魔術という設定を活かしたスピーディーな戦闘と、複雑に絡み合う謀略が読者を物語へと引き込んでいく。
書籍情報
サイレント・ウィッチ XI 沈黙の魔女の隠しごと
著者:依空 まつり 氏
イラスト:藤実 なんな 氏
出版社:KADOKAWA(カドカワBOOKSレーベル)
発売日:2026年1月9日
ISBN:9784040762494
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あらすじ・内容
突如現れた霧、その正体は――七賢人をも惑わす精神干渉魔術の結界!?
モニカが講演依頼を受けた魔法大学で、突如正体不明の霧の魔術が発動。〈砲弾の魔術師〉が現在状況を調査中――。
その報せを受け、モニカも学内に残された人々を保護すべく、共同研究中だった〈茨の魔女〉らと大学へ急行する。
そこは禁書指定の魔導書を保管する重要施設、奇しくも結界点検のためルイスも来校中だった。だが霧の正体は七賢人さえ惑わす精神干渉魔術で、各々苦戦を強いられてしまう。
七賢人を狙う悪辣な罠に、モニカが見出した突破口とは!?
感想
クレスバーン魔法大学を舞台に繰り広げられた今巻は、七賢人それぞれの「過去」と「矜持」が交錯する、非常に密度の濃い一編であった。正体不明の霧と精神干渉魔術という絶望的な状況下で、物語は単なる事件解決に留まらず、登場人物たちの内面を深く掘り下げていく。
前半で強烈なインパクトを残したのは、五代目〈茨の魔女〉ラウル・ローズバーグとその姉メリッサの関係性だ。ラウルの「友達」への異常なまでの渇望と、それとは対照的な先代当主・メリッサによる悪辣な嫌がらせ。彼女の小細工が引き金となった「巨大エンドウ豆」の暴走劇は、ドタバタとした楽しさの裏に、ローズバーグ家が抱える複雑な因縁を滲ませていた。シリルとラウルの「戦友」のような奇妙な連帯感、そして「ホワイトハリケーン一号」を繰り出すラウルの実力描写は、彼の濃すぎるキャラクターをより魅力的に引き立てている。
物語の中核をなすのは、〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーと脱獄囚アドルフ・ファロンの決着である。精神干渉によってかつての「ミネルヴァの悪童」へと戻ったルイスの荒々しい姿は、普段の気取った彼を知る読者にとって新鮮であり、同時に彼が歩んできた過酷な道のりを感じさせる。師であるマクレガンが喝破した、アドルフの「ルイスに構ってほしい」という歪んだ承認欲求。この切なくも醜い人間心理が、禁書の魔導書『終焉招く黒』を巡る死闘をより一層重厚なものにしていた。
主人公のモニカについても、その成長が著しい。講演会で見せた圧倒的な術式解説と、無作法な質問を完璧に黙殺する「七賢人」らしい毅然とした態度は、かつての弱気な彼女を知る者として胸が熱くなるシーンであった。一方で、アイザック(フェリクス)とイザベルによる「本気のお忍び」に振り回される姿や、立派な師匠への道の遠さに項垂れる様子には、彼女らしい親しみやすさが健在で安心させられる。
イザベルの再登場やラナの不在、そして暗躍するディー先輩の影など、次なる舞台「ケルベック」への布陣も完璧だ。アドルフに鐘を渡した謎の少女オルテリアが予言する「終わることのない冬」の足音に、物語は一層の緊張感を孕んでいく。モニカが「カッコいい師匠」として成長する日はまだ遠そうだが、その過程を見守る楽しみを改めて実感させてくれる一冊であった。
サイレント・ウィッチ10巻
サイレント・ウィッチまとめ
サイレント・ウィッチ12巻
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
モニカ・エヴァレット
七賢人の一人であり、〈沈黙の魔女〉の称号を持つ。極度の人見知りであるが、無詠唱による精密な魔術行使を得意とする。
・所属組織、地位や役職 七賢人。〈沈黙の魔女〉。
・物語内での具体的な行動や成果 ハイオーン侯爵領で巨大化したエンドウ豆の暴走を食い止めた。クレスバーン魔法大学に展開された精神干渉魔術の術式を読み解いた。ルイスと協力して脱獄囚のアドルフ・ファロンを捕縛した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 魔法大学での講演会で高度な術式解説を行い、高い評価を受けた。弟子であるアイザックに対し、師匠としての責任感を抱き始めている。
ルイス・ミラー
七賢人の一人であり、〈結界の魔術師〉の称号を持つ。冷徹な印象を与えるが、かつては「ミネルヴァの悪童」と呼ばれるほど気性の激しい人物であった。
・所属組織、地位や役職 七賢人。〈結界の魔術師〉。
・物語内での具体的な行動や成果 脱獄囚アドルフ・ファロンを捕縛対象として追跡した。精神干渉の影響で一時的に凶暴な人格が表出したが、モニカの助力により正気を取り戻した。アドルフが放った王都狙いの火球を、魔法兵団に指示を出して迎撃させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 アドルフとの因縁を完全に断ち切った。事件解決後は負傷を口実にして長期休暇を取得した。
アドルフ・ファロン
ネイガル監獄を脱獄した魔術師であり、ルイスに対して強い憎悪を抱いている。謎の少女から与えられた「氷の鐘」を用い、大規模な幻術と精神干渉を展開した。
・所属組織、地位や役職 ネイガル監獄脱獄囚。〈風の手の魔術師〉。
・物語内での具体的な行動や成果 クレスバーン魔法大学を霧の結界で閉鎖し、ルイスを精神的に追い詰めようとした。封印されていた魔導書『終焉招く黒』を奪取して黒炎を操った。王都に向けて巨大な火球を複数射出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 魔力の過剰行使により重度の魔力中毒に陥った。ルイスによって捕縛され、現在は治療と取り調べを受けている。
ラウル・ローズバーグ
七賢人の一人であり、〈茨の魔女〉の称号を持つ。植物と交流することを好み、明るく社交的な性格で周囲を振り回すことが多い。
・所属組織、地位や役職 七賢人。〈茨の魔女〉(五代目)。
・物語内での具体的な行動や成果 肥料の調合ミスと姉の悪戯が重なり、研究用のエンドウ豆を異常に巨大化させた。白薔薇の蔓で構成された竜を生成して戦闘に用いた。霧の結界内にある杭を回収し、精神干渉魔術の弱体化に貢献した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 モニカやシリルとの「お泊まり会」を通じ、友人との交流を深く楽しんだ。かつての一族の悪名により友人ができなかった過去を持っている。
シリル・アシュリー
ハイオーン侯爵家の養子であり、真面目で責任感の強い青年である。モニカの良き友人として、彼女の任務や日常生活を支えている。
・所属組織、地位や役職 ハイオーン侯爵家・嫡男。セレンディア学園生徒会・副会長。
・物語内での具体的な行動や成果 巨大化したエンドウ豆からモニカを救出するために尽力した。クレスバーン魔法大学の事件では案内役を務め、人命救助や現場の指揮を執った。混乱する現場において魔力中毒者の保護を適切に指示した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 モニカやラウルとの共闘を経て、彼らを親しい友人としてより強く認識した。周囲の期待に応えるべく、将来の指導者としての能力を発揮している。
アイザック・ウォーカー(フェリクス・アーク・リディル)
リディル王国の第二王子であるが、アイザック・ウォーカーという名でモニカの弟子として活動している。冷静沈着で策略に長けている。
・所属組織、地位や役職 リディル王国・第二王子。モニカの弟子。
・物語内での具体的な行動や成果 グレンに対して魔術試験の筆記対策を指導した。バルディア侯爵邸で供された催淫効果のある秘薬を見抜き、侯爵の企みを阻止した。幻影魔術で正体を隠し、モニカの講演会を密かに聴講した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 自らの過去や母との思い出を前向きに捉えられるようになった。モニカとは師弟関係を超えた信頼関係を築いている。
ブラッドフォード・ファイアストン
七賢人の一人であり、〈砲弾の魔術師〉の称号を持つ。巨大な体躯を持つ魔術師で、火力の高い広域殲滅魔術を得意とする。
・所属組織、地位や役職 七賢人。〈砲弾の魔術師〉。
・物語内での具体的な行動や成果 大学に異変が生じた際、単身で結界内部に突入して職員や守衛を救出した。マクレガンと協力して、アドルフが放った火球を精霊王召喚により撃墜した。魔法大学での講演会を主宰した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 多くの魔術師の憧れの対象となっている。弟子のウーゴに対して厳しくも信頼を寄せている。
オーエン・ライト
魔法兵団の第一部隊隊長を務める魔術師である。ルイスとはミネルヴァ時代からの戦友であり、彼の家族の護衛を任されるほど信頼されている。
・所属組織、地位や役職 魔法兵団第一部隊・隊長。
・物語内での具体的な行動や成果 ルイスが不在の間、彼の妻子を本部で保護した。王都に迫る火球をルイスから預かった結界魔導具を用いて迎撃し、上空へ逸らした。アドルフの取り調べ状況を負傷中のルイスに報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 魔法兵団の団長を目指すという決意を固めた。過去の因縁があったアドルフを自らの手で捕らえようと尽力した。
ヴィセント・アシュリー
ハイオーン侯爵の当主であり、知的な雰囲気を纏った紳士である。養子のシリルを大切に思っており、彼が友人を連れてきたことを内心で喜んでいる。
・所属組織、地位や役職 ハイオーン侯爵。
・物語内での具体的な行動や成果 滞在したモニカとラウルを厚くもてなした。ボードゲームのコレクションを披露し、シリルたちと夜を徹して遊んだ。大学の異変に際し、迅速に七賢人へ協力を依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 学生時代はボードゲームクラブの会長を務めていた。領地の管理だけでなく、魔術師たちの活動にも理解を示している。
オルテリア・チャイム
淡い金髪を持つ謎の少女である。人間の営みに対して強い嫌悪感を抱いており、裏で脱獄囚たちを操っている。
・所属組織、地位や役職 正体不明。冬の精霊と深い関わりを持つ。
・物語内での具体的な行動や成果 アドルフに「氷の鐘」を与え、世界を混乱させるよう唆した。アドルフの失敗を嘲り、次の計画に向けて北の雪山を目指した。強力な氷霊の力を借りて「謁見の門」を呼び出そうとしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 監獄の破壊にも関与していた可能性が高い。終わることのない冬をもたらそうと画策している。
ヴァネッサ・ディー
ファイアストン家の出身であり、ヒューバード・ディーの母親である。徹底した合理主義者で、利益を最大化することを最優先に考える。
・所属組織、地位や役職 ディー家・当主夫人。
・物語内での具体的な行動や成果 息子ヒューバードが〈黒い聖杯〉の利権を逃したことを追及した。ケルベック伯爵領における魔力濃度の調査をヒューバードに命じた。魔力炉の設置に向けた法的・立地的な分析を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 夫から実権を奪い、家を支配している。ブラッドフォード・ファイアストンの実姉である。
展開まとめ
プロローグ 復讐の鐘を鳴らす者
ルイスの訪問と別件の相談
七賢人の一人〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーは、元職場である魔法兵団本部を訪れ、第一部隊隊長オーエン・ライトと休憩室で会っていた。ルイスは弟子グレン・ダドリーが不在であることを確認しつつ、酒とジャムを混ぜた独特の飲み物を口にしながら、しばらく王都を留守にすると告げた。オーエンは七賢人就任の誘いを断り、話題は七賢人候補や〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットのことへ移っていった。
脱獄囚捕縛と因縁の標的
ルイスは、ネイガル監獄脱獄囚の捕縛が急務であると整理し、モニカや〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォード・ファイアストン、〈星槍の魔女〉カーラ・マクスウェルの働きで残り二人まで追い詰めた状況を説明した。残る一人に〈風の手の魔術師〉アドルフ・ファロンが含まれ、過去にアドルフがルイスの婚約者ロザリーを傷つけ、さらにオーエンを利用して罪を被せようとした因縁が明かされた。ルイスは家族を本部に避難させ、自身の留守中の護衛をオーエンに託し、戦友としての信頼のもと任せた。
街道の荷馬車と護衛の正体
場面は東部地方の街道へ移り、書物を運ぶ荷馬車の御者と護衛の魔術師が昼食を取っていた。御者は〈沈黙の魔女〉人気やアンダーソン商会の台頭を語り、護衛は〈砲弾の魔術師〉への憧れを口にしつつ、商業利用への侮蔑も滲ませた。やり取りの最中、護衛は嫌いなものほど目につくと呟き、実はその男が脱獄囚アドルフ・ファロンであり、盗んだローブと杖で正体を偽って逃亡していたことが示された。
監獄爆発の記憶と氷の鐘
アドルフは監獄爆発時の記憶を辿り、瓦礫の陰で原因を探っていたところ、淡い金髪の少女に遭遇していた。少女は人間の願望を嗤い、アドルフの憎悪を見抜いたうえで、詠唱なしに氷の粒から鐘を形作り、一時的に魔力を増幅するが五回しか使えないと説明して渡した。少女は仲間らしき背の高い男に合流し、アドルフに世界を引っ掻き回せと嘲笑して去った。直後、鐘の音と轟音で結界が破壊されたことを思い出し、アドルフは鐘こそが監獄破壊の鍵だと確信していた。
再起への執着と復讐の決意
現在のアドルフは革袋に入れた鐘の冷たさを確かめ、試し打ちで一回使ったため残り四回だと計算していた。御者の北部訛りに気づいたアドルフは内心で強い嫌悪を募らせ、嫌いなものは排除しても視界に入り続けるのだと再確認した。そしてこの鐘の力で徹底的に消し去り、今度こそやり直すのだと、復讐への執着を固めていた。
一章 講演会への誘い
ウーゴの到着と「カッコつけ」失敗
サザンドールの停留所に、二〇代前半の魔術師風の青年ウーゴ・ガレッティが降り立った。ウーゴは「重要任務を帯びた自分」を演出して浸っていたが、〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットの住所メモを風に飛ばされ、追いかけて車道に飛び出した結果、馬車に轢かれかけて転倒し気絶した。御者のリック・ホーリスは直撃を避け、同行者バルトロメウスは青年の手のメモを見て、馬車内の若い娘に声をかけた。
モニカ宅の勉強会とグレンの事情
同じ頃、モニカの家ではグレン・ダドリーが下級魔術師試験の勉強を頼みに来ていた。グレンは筆記で二度落ちたことを明かし、ネイガル監獄脱獄囚〈風の手の魔術師〉アドルフ・ファロンが未捕縛のため周囲が緊張している状況も語った。モニカは試験問題の監修側で問題を知っているため勉強を直接教えられず、代わりにアイザック・ウォーカーが教えると申し出た。
アイザックの指導とモニカの気づき
アイザックは過去問を用いてグレンに教え、要点を噛み砕いて説明し、身近な例えも使って集中を保たせた。モニカはその教え方の巧さに感心し、さらにアイザックがミートパイを用意する手際や、ネロとの会話から見える面倒見の良さを見て、彼が「弟みたいで可愛い」と語ることに驚いた。モニカはお礼を言えるようになろうと考え、茶菓子を買いに外出することを決めた。
ラナの忠告とウーゴの正体判明
家を出たモニカはラナ・コレットに呼び止められ、ウォーカー(=アイザック)が滞在中なら隠れた方が良いと小声で忠告される。そこへ、ラナに馴れ馴れしく話しかける青年が現れ、モニカはナンパと誤解して「怖い顔」で牽制したが、青年は〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォード・ファイアストンの弟子ウーゴだと名乗った。さらにモニカは自分が〈沈黙の魔女〉本人だと明かし、ウーゴは固まった。
講演会への招待とモニカの決断
気まずい空気の中、ウーゴは師ブラッドフォードからの手紙と資料を渡し、冬招月中旬にクレスバーン魔法大学で行われる講演会へ、モニカに術式解説役として出席してほしいと依頼した。招待状には〈茨の魔女〉ラウル・ローズバーグから「一緒に行こう」と追記があり、会場がハイオーン侯爵領内である点もモニカにとって都合が良かった。モニカは補佐的役割であること、世話になっている相手への恩返しになることを踏まえ、依頼を受諾した。
結界見直しと『終焉招く黒』の話題
グレンの発言で、クレスバーン魔法大学が〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーの結界見直し対象であることが示され、ウーゴは同地に黒炎の魔導書『終焉招く黒』があるため結界強化が行われると説明した。魔術書と魔導書の違いをグレンが即答でき、直前まで学んでいた内容が身についている様子も描かれた。
アイザックの胸中と「聴講」の企み
客間の会話を聞いたアイザックは、〈沈黙の魔女〉の術式解説を講演会で聴講できることに強い興奮を示し、変装や予定調整の算段を進めた。ミートパイを切り分けながら、母のパイ作りの記憶や、フェリクス・アーク・リディルとして生きるために過去を遠ざけていた感覚を思い出し、思い出せるようになった自分を自覚した。
ラウルの浮かれた計画と姉弟の火花
五代目〈茨の魔女〉ラウル・ローズバーグは、冬招月にハイオーン侯爵領へ数日滞在できることを喜び、友人らしい「連続お泊まり」を想像して浮かれていた。しかし離れに戻ると、姉で四代目〈茨の魔女〉メリッサ・ローズバーグに美容液用魔法薬の行方を追及され、ラウルは害虫対策に混ぜたと白状して逃走した。メリッサは怒りを晴らしきれず、共同研究で使われる肥料の小瓶をすり替え、さらに分からない程度に魔力付与を施して、ラウルが恥をかく未来を狙って高笑いした。
二章 天高く豆肥ゆる冬
共同研究の視察と畑への移動
冬招月第二週三日、モニカはシリルの案内でラウルと共にハイオーン侯爵領の研究畑へ向かった。研究は植物への魔力付与によって耐寒性などを高め、同時に豆類の魔力吸収で土地の余剰魔力を抑える狙いで進められていた。三人は管理小屋に到着し、野良着に着替えて畑の確認に入った。
エンドウ豆の不作報告と立て直し方針
管理人から、エンドウ豆がほぼ全滅し残りも枯死寸前だと報告された。管理人は責任を感じて動揺するが、ラウルは農業の不確実さとして受け止め、休暇を与える形で管理人を麓の街へ向かわせた。畑の状況を踏まえ、ラウルは弱った植物への緊急策として液体肥料の投与実験を行う方針を示した。
液体肥料の投与と魔力流の異常
モニカは感知魔術で土と植物の魔力の流れを確認し、ラウルが液体肥料を投与した。すると魔力が異常な速度で土からエンドウ豆へ吸い込まれ、エンドウ豆の内部で魔力が急激に膨れ上がる兆候が現れた。危険を察したシリルがモニカを引き、直後にエンドウ豆は支柱を蹴散らして巨大化し始めた。
原因判明とシリルの追及
シリルは規定量超過の疑いでラウルを問い詰め、モニカも自分の計算ミスを疑って動揺した。ラウルは肥料レシピを確認した末、調合時に小数点を見間違えたと認めた。規模外れの成長は、この調合ミスが引き金になっていた。
モニカ拘束と魔術封じの発生
蔓がモニカの足首を絡め取り、モニカは逆さ吊りにされた。モニカは蔓を切ろうとするが魔術が発動できず、蔓に魔力を吸われた可能性が浮上した。シリルは氷槍で根元を断とうとするも再生が速く、モニカはエンドウ豆の内部へ引きずり込まれて姿が見えなくなった。
豆の弾け飛びと二次増殖
エンドウ豆の莢が膨らんで巨大な豆が弾け飛び、シリルは氷壁で直撃を防いだ。ところが落下した豆が震えて芽吹き、蔓が増殖して本体に絡みつき、さらなる肥大化を加速させた。ラウルは魔力吸収効果が肥料で強化された可能性を示し、捕まれば抵抗不能に近い危険性が明確になった。
メリッサの介入と想定外の暴走
山道を進むメリッサ・ローズバーグは、弟ラウルの失態を見物する目的で畑へ向かっていた。メリッサは肥料の一部をすり替え、さらに魔力付与まで施していたが、目の前のエンドウ豆の異常な巨大化は想定外だった。自分の小細工と弟の不注意が合わさった事態だと悟り、動揺を強めた。
打開策としての薔薇と時間稼ぎ
シリルは牽制を続けながら、ラウルの「薔薇があれば対処できる」という案に賭けた。管理人小屋に置いた鞄の中に、ドライ薔薇入りの冬至用リースがあると告げ、ラウルに回収を命じた。シリルは魔力排出用ブローチを外して全力の氷で蔓を凍結し、退路を作って時間を稼いだ。
ラウルの離脱と次の局面
シリルが退路を確保すると、ラウルは管理人小屋へ向けて走り出した。緊迫した状況にもかかわらず、ラウルはシリルの強い言葉を「友達っぽい」と受け取り、上機嫌のまま行動に移った。
三章 戦え、ホワイトハリケーン一号
シリルの時間稼ぎと防衛戦
巨大化したエンドウ豆の蔓は強靭化し、氷の矢での切断が通らなくなっていた。シリルは蔓が地面に触れた瞬間を狙い、接触点から氷が広がる術式を組み込んだ氷矢で凍結を狙う。同時に複数の氷壁を展開し、蔓が管理人小屋へ向かったラウルを追跡できないよう進路を塞ぎ、攻撃を自分へ引きつけ続けた。
集中の綻びと逆さ吊り被害
降り注ぐ巨大豆を氷壁で回避しながら詠唱を続けるうち、疲労と緊張で視野が狭まり、地面を這う蔓の奇襲を許した。蔓に足を絡め取られて逆さ吊りにされ、凄まじい速度で魔力を吸われる。シリルは魔力過剰吸収体質ゆえに吸収攻撃をわずかに相殺し、その僅かな猶予で足首の蔓を凍らせ、氷槍の衝撃で砕いて脱出した。しかし勢い余って傾斜を転げ落ち、戦線から一時的に弾き飛ばされた。
メリッサの撤退判断と偶然の遭遇
メリッサは巨大エンドウ豆を見て危険を察し、関与が露見する前に山を下りようとした。そこへ傾斜を転がり落ちてきたシリルが現れ、メリッサは咄嗟に身構える。シリルは紳士的に怪我の有無を確認し、迷った一般人だと判断して退避を促した。
蔓の襲来と“護衛イベント”発生
会話の最中、茂みから蔓が伸びて襲いかかり、シリルは短縮詠唱で蔓を氷塊にして排除した。メリッサは庇われたことで内心浮き立つが、ラウルと遭遇する危険を優先し、礼を述べて急いで山を下りた。シリルは一般人を巻き込ませない使命感を強め、モニカ救出と拡散阻止のため戦闘を継続した。
“白薔薇の竜”の出現
管理人小屋側から、蔓で組まれた巨大な造形物が接近する。それは蔓が絡み合って形作られた竜で、体表には棘があり、所々に白薔薇が咲いていた。足元にはラウルが現れ、薔薇に魔力を付与して作ったと説明する。シリルは規模外れの魔力付与と再生した薔薇の瑞々しさから、〈茨の魔女〉の本領を目の当たりにする。
ホワイトハリケーン一号、投入
ラウルは竜に“ホワイトハリケーン一号”の名を与え、エンドウ豆の拘束へ移る。白薔薇の竜の蔓でエンドウ豆本体を雁字搦めに固定し、シリルは声でモニカの応答を引き出す策に切り替えた。焦りのあまり、生徒会時代の呼称「ノートン会計」で点呼すると、蔓の隙間からモニカの微かな返事が返り、位置を特定できた。
モニカ救出作業
白薔薇の竜がエンドウ豆を押さえる間、シリルは鍬を使ってモニカ周辺の蔓を凍結させてから叩き割る。力加減を誤ればモニカを傷つけかねないため、氷槍ではなく鍬で慎重に処理し、最終的には手で蔓を引きちぎってモニカを引き抜いた。モニカは魔力枯渇で朦朧としており、シリルの腕の中でか細く呼びかけた。
エンドウ豆の無力化と“後片付け地獄”の確定
ラウルは白薔薇の竜に魔力を込めて筋肉のように蔓を膨張させ、エンドウ豆の一部をねじ切って根ごと引き抜かせた。巨木を引き抜くように土が割れ、エンドウ豆は動かなくなる。ラウルは一件落着と言い切るが、畑は荒れ放題で残骸も散乱し、シリルはその言葉を受け入れつつも疲労でへたり込んだ。
荷車での撤収と冬至リースの余韻
ラウルは荷車を引いて管理人小屋まで運ぶと提案し、シリルはモニカを支えて荷車に乗る。モニカは眠り込み、生徒会の予算案や業者リストを口走る夢を見ていた。道中、ラウルは白薔薇入りの冬至リースがプレゼント用だった可能性に気づき、冗談めかして自分宛てだと騒ぐ。シリルは否定しきれない沈黙を選び、モニカの誕生日が冬招月だと知りつつ渡し損ねた事実を胸に残した。ラウルは「戦友っぽい」と満足し、眠る二人を起こさぬよう静かに歩き続けた。
四章 魔女の秘薬と紳士協定
バルディア侯爵邸での情報交換
エリン公爵フェリクス(実態はアイザック・ウォーカー)は、リディル王国南部のバルディア侯爵邸に招かれ、侯爵と近況を語り合った。バルディア侯爵は第二王子派で力を持っていたが、最高審議会でクロックフォード公爵が失脚した後も影響力を保ち、情報通として各方面の情勢を把握していた。会話は帝国の南方戦線、ヴァルムベルク辺境伯、西の不穏、そして帝国の火種の多さへと及び、侯爵は「内紛で滅びる前に我が国の一部になった方が幸せ」と語り、開戦派の野心を滲ませた。
手札の提示と“南の鹿”の動き
アイザックは帝国が妹姫をリディル王国へ嫁がせる噂を示し、侯爵の反応を引き出したうえで、ファルフォリア(南の鹿)が騒がしいことを話題にする。侯爵はファルフォリア内部の二分化と、帝国の黒獅子皇へ擦り寄ろうとする勢力の存在を示唆した。アイザックは南方戦線が片付けば次はファルフォリアに向かう可能性を語り、その影響でランドール王国(狭間のネズミ)も不安定になる流れを匂わせた。
薔薇の香りの紅茶と王族の警戒符牒
使用人が運んだ紅茶から薔薇の香りがし、アイザックは王族に伝わる「薔薇の香りのする物を供されたら警戒せよ」という言い伝えを思い出す。ポケットの水霊ウィルディアヌも警告の意思を示し、アイザックは茶席に仕込まれた意図を察する。そこで話題をネイガル監獄の脱獄囚と違法薬物「水霊の至高」へ寄せ、侯爵が“違法薬物”という言葉を避けた反応から、紅茶に混入されたものの性質へ踏み込んだ。
〈茨の魔女〉の秘薬とバルディア侯爵の企み
アイザックは紅茶が「〈茨の魔女〉の秘薬」だと断じ、侯爵の筋書きを言語化する。第二王子が体調不良になり客室へ運ばれ、侯爵令嬢が看病し、薬効で第二王子が令嬢を見初めて関係を持つという構図である。侯爵は娘は同意だとし、さらにフェリクスがファルフォリア貴族に人気があること、呪竜騒動で名声があること、娘と結ばれれば対外関係に利益があることを述べた。王位継承権を放棄した第二王子でも政治的価値が残り、子ができれば状況が動く可能性を侯爵は見ていた。
切らずに活かす選択と“紳士協定”
王族に一服盛った行為は本来致命的だが、アイザックは侯爵を切らず、紅茶を下げることを許し「今まで通り良い関係でいたい」と柔らかく告げる。さらに侯爵令嬢への言い訳として、侯爵自身がマダム・カサンドラの館のドリス嬢に入れ込んでいる件を仄めかし、釘を刺すに留めた。互いの弱みを踏みにじらず、利害で繋がる“紳士的な協定”がここで成立した。
没収した小瓶の正体と危険性
客室でアイザックは没収した小瓶を確認し、ウィルディアヌは「非常に強い催淫効果」を検知した。薔薇の香りが強く、摂取量を誤れば魔力中毒にもなり得る危険物であり、アイザックは自分が毒物耐性を持っていても魔法薬は別物で、飲む前に気づけてよかったと述べた。
付与魔術の仕組みと規制の穴
アイザックは魔法薬が付与魔術で作られること、付与には「定着付与」と「一時付与」があることを説明する。一時付与は即効性が高く規制が厳しい一方、定着付与は強い薬効を出しにくいため規制が緩い。しかしローズバーグ家(〈茨の魔女〉の一族)は定着付与でも桁違いの効果を付与でき、強力な魔法薬を作れてしまう。王家は有事の需要もあり規制を強化せず、ローズバーグ家も過度な流通を避けるという暗黙の均衡があった。
均衡を壊した“先代”と残った在庫
ところが先代〈茨の魔女〉(四代目)は金のために魔法薬を貴族へ密売していたため、ローズバーグ家は当主を引きずり下ろし、当時16歳のラウルを当主に据えた。それでも密売された魔法薬は貴族の手元に残り続け、バルディア侯爵が所持していた薬もその一つだと示される。
薬を捨てない理由とウィルディアヌの疑念
アイザックは小瓶を破棄せず研究用として保管し、ウィルディアヌは「誰かに使うつもりでは」と疑う。アイザックは否定し、「それでは楽しくない」と言い、願いを叶えるなら自分が心から笑える方法でなければならないと述べる。ウィルディアヌは、アイザックが目的のため手段を選ばない面があると指摘し、アイザックは曖昧に笑って誤魔化した。
出発準備とブレンダンの“察し”
アイザックは早めに邸を発つ口実ができたとして荷物をまとめ、待たせている「彼女」のもとへ向かう意志を示す。ブレンダンから旅程に合わせた土産リストを受け取っており、ブレンダンがアイザックの望みが〈沈黙の魔女〉のもとで魔術を学ぶことだと察していたと語る。ブレンダンは母アイリーン妃が魔術を学んでいた背景も踏まえ、〈沈黙の魔女〉へ「若を頼む」と伝言しており、アイザックは自分の正体までは露見していないと見つつも、ブレンダンの洞察に内心舌を巻いた。
五章 わくわくお泊まり会
ソワソワする〈識者の家系〉当主
ハイオーン侯爵ヴィセント・アシュリーは、知性を体現したような面差しの男であるが、この日は珍しく落ち着かなかった。急きょ屋敷に七賢人〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットと〈茨の魔女〉ラウル・ローズバーグが泊まることになり、客室や医者、風呂まで手配してからも内心が浮ついていた。養子のシリルが「友人を連れてくる」ようなことが今まで無かったため、親の心境として妙に嬉しく、しかし仕事の関係者なので浮かれ過ぎるのも違うと自制していた。
玄関ホールのカオスと父の介入
書斎方面からシリルの怒声が響き、モニカの本棚破壊(並び替え)と、泥だらけで花壇を出入りするラウルへの叱責が発覚する。玄関ホールではモニカが本を抱えてうとうとし、ラウルは叱られても朗らかに笑っていた。ラウルが花壇のハーブでハーブティーを淹れたいと言い出し、シリルが止めかけたところへ、ヴィセントが「良いとも」と許可する。息子が十分に元気で騒がしいことを見て、ヴィセントは「少し浮かれても許されそうだ」と判断した。
モニカの療養と“クローディアのお古”ドレス
モニカは泥を落とされ、使用人たちの勢いに押し切られてクローディアのお古のドレスに着替えさせられる。女主人不在の屋敷で、使用人たちは久々の「女性の世話」に張り切っていた。ドレスは青い天鵞絨に真珠ボタンという高級品で、モニカは「汚せない」と過剰に緊張する。医者の診立てでは魔力欠乏症は軽度で、休息で回復するとされ、モニカは書斎の本を借りて穏やかに過ごした。
共同研究の反省会が“お泊まり会”に乗っ取られる
夕食後、モニカ・シリル・ラウルで反省会が始まるが、ラウルは「次から小数点を見間違えない」と軽く言うだけで、反省感が薄い。シリルが残骸処分など実務を進めようとすると、ラウルは「折角のお泊まり会なんだから何して遊ぶか決めよう」と話を逸らし、勝手に使用人へボードゲームやカードを求める。シリルが激怒しかけた瞬間、音もなくヴィセントが現れ「あるとも」と肯定する。
“低俗”の禁止と、父の救済宣言
ラウルは遊びに詳しくないと言い出し、シリルに推薦を求めるが、シリルは「そういう低俗な物で遊んではいけないと父上が」と言い淀む。するとヴィセントは、ボードゲームの歴史と文化的価値を語り、自身が学生時代ボードゲームクラブの会長でコレクション持ちだと明かす。シリルは一転して目を輝かせ、「是非拝見させてください」と頼み、救われたように安堵する。
運ゲー採用と“擬似人生”の悲喜劇
モニカは計算が得意すぎて勝ってしまう懸念を申告し、ヴィセントは運要素の強いサイコロゲームを選ぶ。駒で人生を疑似体験する形式で、盤面の小さな物語(馬を買う、病気で休むなど)を楽しむ趣向だった。ラウルは早々にゴールする一方、モニカは「財布を忘れて四マス戻る」を連発し、シリルは馬関連の受難や落とし穴、さらに「馬車暴走でスタートに戻る」で精神を削られる。ラウルは二人の不運を小芝居にして茶化し、モニカは泣きそうになり、シリルは哲学者のように項垂れて「人生の終着点が見えない」と呟く。ヴィセントはその光景を静かに見守り、「良い友人ができた」と確信する。
お開きとラウルの“初めて”の幸福
最終的にゲームは盛り上がり、出目の悪いシリルも感動的にゴールして祝福され、夜は解散となる。ラウルはまだ遊び足りないが、モニカは療養中であり、シリルも疲労していた。自室でラウルは「友達の家でお泊まり会」「一緒にボードゲーム」という初体験を反芻してはしゃぎ、これまでローズバーグ家の血筋と初代〈茨の魔女〉の悪名のせいで友人ができなかった過去を思い出す。恐れられる魔術より「友達を作る魔術」が欲しいと願い、野菜や花を育てる研究に心を注ぐ理由を再確認しつつ、明日以降の共同作業にもワクワクしながら眠りにつく。
深夜の大学に忍び込む男
場面は変わり、深夜のクレスバーン魔法大学に一人の男が侵入する。建物配置が「ミネルヴァ」に似ていると感じ、中心が図書館棟だと見定める。男は宝石を埋め込んだ杭を複数取り出して物陰や地面に刺し、土属性魔術で固定する。杭は大規模魔術の補助具で、魔術師組合本部の保管物を盗み、精神干渉魔術を得意とした囚人仲間ヴィクター・ソーンリーの術式に書き換えたものだった。精神干渉魔術の大規模展開は困難だが、男は「この鐘があれば」と革袋を押さえ、足音を殺して歩き出す。
六章 霧の結界、落ちた片眼鏡
窃盗事件と“捜査線上の先輩”
魔法兵団の会議で、魔術師組合本部の窃盗事件が共有された。夜間侵入で金庫の金と魔導具が盗まれ、荒らされた範囲が限定的で鍵が魔術で破壊されていたため、内部事情に通じる魔術師の犯行が疑われた。容疑の線上に上がったのは脱獄囚〈風の手の魔術師〉アドルフ・ファロンである。第一部隊隊長オーエン・ライトは無表情を装いながら、ミネルヴァ時代の先輩であるファロンの名に動揺し、かつて父の治療を盾に脅され協力した過去を思い出していた。オーエンは今度こそ止めると決め、ルイスへの借りを返して団長を目指す覚悟を固めた。
本部廊下の“護衛つき探検”
会議後、オーエンは廊下で目立つ三人組を見つける。部下の大柄なバイロン・ギャレット、メイド姿の契約精霊リィンズベルフィード、そしてルイスの幼い娘レオノーラである。レオノーラはよちよち歩きから突然ダッシュに切り替えるため、バイロンは足が当たらぬよう中腰気味で追従し、リンは静かに滑るようについていく。レオノーラはバイロンの足の間をくぐって遊び、バイロンが驚いた後にオーエンへ挨拶し、レオノーラも真似るように声を上げた。
“裁縫の壁”と人形の大惨事
リンはレオノーラの人形を掲げ、裁縫経験の有無をオーエンへ尋ねる。オーエンは苦手だと断り、逆に二人が直せないのかと問うと、リンは自分とバイロンで試した結果が酷い縫い目になったと示す。バイロンは深く反省し、妻が刺繍好きで裁縫が得意だと語り、頼む案を出す。だがレオノーラが人形を欲しがり受け取った瞬間、髪を引っ張って首をちぎってしまう。バイロンは悲痛な声を上げつつ「人形さんが泣いてますよ」と真面目に諭し、レオノーラはしょんぼりして人形を撫でた。
リンの“不吉”宣言とオーエンの祈り
リンは突然「この人形はルイスに似ている」と言い出し、人の形を移し身として扱うという知識を引いて、「なんと不吉な……ルイス殿の身に何か……」と抑揚なく告げる。レオノーラも無邪気に真似し、オーエンは内心で「ルイスの足と首がもげていない」ことを祈るしかなかった。
暴走事件の後始末と講演会準備
一方アシュリー邸では、エンドウ豆暴走の後始末が山積していた。モニカは手伝う気でいたが、魔力欠乏症直後のためシリルに安静を命じられ、翌日は部屋で過ごした。ラウルは観光気分だったが睨まれて後始末へ回り、残骸を処理してクレスバーン魔法大学へ運んだらしく、夜にシリルが筋肉痛で唸っていた。さらに翌日、ラウルは始末書、シリルは図書館学会の打ち合わせ、モニカは講演会準備を進める。モニカは〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォード・ファイアストンの六重強化魔術の解説資料に見惚れ、威力と射出速度の両立が「魔力量のゴリ押しではない」精密な設計だと感嘆した。
ウーゴ来訪と“鐘の音”の異変
シリルが客室に来て、ブラッドフォードの弟子ウーゴ・ガレッティの来訪を告げる。応接室ではハイオーン侯爵とラウルも同席し、ウーゴはクレスバーン魔法大学へ講演準備で向かった際、門が閉ざされ「結界点検で休校」と守衛から聞いたと説明する。そこへハンドベルのような高い鐘の音が一度鳴り、敷地全体が巨大な結界に包まれ、さらに結界内に白い霧が漂い始めたという。守衛は異常現象を知らず、敷地内には守衛もう一人と職員二人に加え、〈水咬の魔術師〉ウィリアム・マクレガンが講演資料確認で来訪していると答えた。
ブラッドフォードの突入と救援要請ルート
ブラッドフォードは結界を観察し、修復術式が組み込まれていると見抜く。霧が有害で結界に閉じ込めている可能性も考え、無闇に破壊しない判断を下す。ウーゴに「ハイオーン侯爵の屋敷へ行って応援を呼べ」と指示し、自身は中へ入って調べると決めた。威力を落とした火球で結界に人が通れる穴を開け、霧が外へ流れ出るのを確認して「毒ではなさそう」と呟き、穴から侵入する。穴は修復され、霧が師の背を覆い隠した。ウーゴは指示通り屋敷へ急行した。
シリルの優先順位と七賢人出動
ウーゴの報告を聞き、モニカは鐘と結界と霧の関係を整理しきれず思案する。ラウルは「ルイスとブラッドフォードがいれば大抵どうにかなる」と楽観するが、シリルは即座に否定し、まず結界内の人命確認を優先しつつ、霧が校舎内に入れば書物が湿ってカビが生え、大学の存続に関わると切実に訴える。ハイオーン侯爵は、魔術師組合を経由せず直接来た判断を評価し、七賢人に協力を正式に要請する。モニカは引き受け、ラウルも「換気してくる」と勢いよく乗り、ウーゴは師と〈結界の魔術師〉の安否確認も念押しする。こうしてシリルが案内役となり、モニカとラウルはクレスバーン魔法大学へ向かうことになる。
霧の中の“学生”と落ちた片眼鏡
場面は変わり、ブーツの踵を鳴らして廊下を歩く男が登場する。彼は自分が何をしているのか曖昧になり、手に身の丈ほどの立派な杖、良質な革手袋、そして片眼鏡があることに違和感を覚える。さらに長く重い三つ編みの髪が自分の地毛だと気づき、服や廊下の様子もいつもと違うと疑念を強める。そこへ拳大の物体が風の魔術で勢いよく飛来し、彼は咄嗟にかわすが、その拍子に片眼鏡が床へ落ちる。投擲物は石を紙で包んだもので、包み紙は“手紙”として機能していた。文字を見た男は青筋を立てて激昂し、前方の人影を犯人と見て廊下を走り、ついには手にしていた杖を勢いよく投げつけるところで章が切れる。
七章 勘違いの魔術
結界と霧の前での現地判断
モニカはシリル、ラウル、ウーゴと馬車でクレスバーン魔法大学へ急行し、校門で守衛から「誰も出てこない」「霧が濃くなっている」と報告を受けた。モニカは無詠唱の感知で、結界と霧に膨大な魔力が込められていることを掴むが、霧の性質が分からない以上、結界の破壊は危険と判断し、原因究明を優先すると告げた。
“ルイスの結界ではない”という違和感
モニカは、この結界がルイスのものではない気がすると口にする。根拠は、ルイスの結界が「状況に合わせて無駄を削る」設計なのに対し、目の前の結界は「魔力で無理やり動かしている」印象で無駄が多い点にあった。さらに「罠ならルイスはもっと怖い魔術を仕込む」とまで言い切り、ラウルがセレンディア学園での“薔薇が襲う仕掛け”を思い出して話が逸れかける場面も挟まる。
結界侵入と“湿らない霧”の正体
モニカは無詠唱の風の刃で結界を切り裂き、三人は中へ入る。霧で視界は悪いが、校舎に入ると外より霧が濃いことから発生源が校舎内だと推測される。シリルは書類や書物への被害を懸念するが、ラウルは霧が湿っていないと指摘し、自分の髪の反応を根拠に挙げる。モニカもローブや杖に水気がないのを確かめ、霧が幻術の可能性を口にした。
勘違いの連鎖と精神干渉の発覚
幻術の規模が大きすぎる点が議論される中、ラウルがシリルを「メアリーさん」と呼ぶなど言動が噛み合わなくなる。モニカもシリルを「バーニー」と呼びかけてしまい、過去の記憶が重なって青ざめた。シリルの一喝でモニカは自分が七賢人〈沈黙の魔女〉であることを再確認し、霧の中で“ミネルヴァにいる”と錯覚させられている可能性に辿り着く。
霧の仕掛けの理屈
モニカは、霧が幻術と精神干渉の複合魔術であり、被術者のミネルヴァの記憶に応じて「少し勘違いさせる」タイプだと説明する。シリルが影響を受けないのは、ミネルヴァを訪れた経験がないためだと整理した。モニカは風で霧を払いつつ、霧は弱いが湧き続けるなら大本を叩く必要があると述べ、精神干渉魔術を外へ流すのは危険なので結界破壊での力技は避けるべきだと判断する。
結界の小部屋へ、そして“落ちていた杖”
三人は校舎の防御結界が仕込まれている場所へ向かい、途中で金色の杖を発見する。ラウルが拾い上げ、それがルイスの杖だと判明する。近くの壁には傷があり、モニカは「攻撃を受けたルイスが犯人を追い、杖を投げた」可能性を推測する。シリルは「魔術師が杖を投げる理由」に困惑するが、モニカはルイスが「詠唱するより杖で殴った方が早い」と豪語する人物だと説明し、ラウルは壁の傷と整合すると受け取った。
小部屋の内部と改変された術式
扉が半開きの小部屋に入ると、窓のない暗い空間に濃い霧が溜まり、モニカは燭台に火を点けて視界を確保する。床には防御結界の魔術式が刻まれ、中央には宝石付きの細い杭状の魔導具が刺さっていた。結界の式には書き換えられた痕跡もあり、モニカが読み取ろうとしゃがみ込んだところで、扉側から獰猛な声と乱暴な足音が響く。
現れたルイスの異常
振り向いたモニカが見たのは、灰紫の目をぎらつかせ八重歯を剥き、粗野な北部訛りで「アドルフ・ファロンはどこにいる」と迫る〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーだった。いつもの気取った口調とは異なる様子であり、三人の前に“敵意”の形で立ちはだかる形となった。
八章 無言のエヴァレットと初代悪童
“ミネルヴァの悪童”の現代再来
モニカは在学時に聞いた「ミネルヴァの悪童」ルイス・ミラーの悪名を思い出し、今目の前のルイスがまさに噂通りの凶暴さであることに戦慄する。上品な七賢人候補として現れた頃の姿は消え、殴りかかりそうな前傾姿勢と怒気を撒き散らす不良そのものであった。
怯えるモニカと、会話を成立させるシリル
空気を読まないラウルが話しかけると、ルイスは北部訛りで荒々しく応じ、さらにモニカを「チビ」と呼んで脅すように質問する。モニカは恐怖で思考が停止しかけるが、シリルが割って入り、丁寧な口調で「精神干渉魔術の可能性」を説明しようとする。モニカも〈沈黙の魔女〉として霧を風で散らし、調査を続けようと踏みとどまる。
不可視の風弾とシリルの負傷
説明の最中、廊下から不可視の風の塊が飛来し、シリルの脇腹を直撃して吹き飛ばす。モニカは即座に風のクッションを作って衝突を緩和し、次に自分を狙った二撃目は防御結界で防ぎ切る。ルイスは攻撃者を「デコ野郎」と呼んで挑発し、廊下へ飛び出して追跡した。
残された書き置きと“図書館棟”の誘導
ルイスが走り去る拍子に紙切れが落ち、ラウルが拾う。そこには『ロザリーは預かった。図書館棟で待つ』と書かれていた。ロザリーがルイスの妻であること、現在は保護下にあるはずだという認識から、状況は“誘拐を装った呼び出し”へ傾く。モニカは、霧を払ってもルイスが正気に戻らない理由として「ミネルヴァ在籍期間が長いほど精神干渉が強い」仮説を立て、ラウルとシリルもそれに納得する。
ルイスが図書館棟へ行かない理由は“迷子”
シリルが「書き置き通り図書館棟へ行かず、なぜこの部屋に来たのか」と疑問を出すと、モニカは「ルイスは道に迷っている」と説明する。クレスバーン魔法大学は雰囲気こそミネルヴァに似ているが施設配置が異なり、ミネルヴァだと誤認したまま走り回れば目的地を誤るのは自然である。結果としてルイスは偶然モニカ達と遭遇し、説得されそうになったため、攻撃者はシリルを吹き飛ばして口封じしつつ、ルイスを挑発して連れ出したと推測される。
結界室の応急処置と“杭”の存在
モニカは結界室の床に刻まれた術式を短時間で読み解き、結界に組み込まれた幻術・精神干渉の複合魔術を大規模結界から切り離し、歪められた結界を修正する。霧の流出を防ぐため結界そのものは解除しない。一方、床中央の宝石付きの杭は連動型で、同様の杭が敷地内に計十三本あると判明する。ラウルは土属性で固定された杭に魔力を流し込み、力技で固定術式を破壊して杭を抜く。
役割分担と、それぞれの戦場へ
やるべきことが「行方不明者の保護」「アドルフの捕縛」「杭の全撤去」の三つに整理され、モニカはルイスと攻撃者(脱獄囚アドルフ・ファロン)追跡を担当し、シリルとラウルは杭の回収を担当する。別れ際、シリルはモニカに注意を促し、モニカはそれに力強く返事をして走り去る。
アドルフ側の独白と“氷の鐘”の種明かし
視点はアドルフに移り、彼がルイスへの強烈な劣等感と執着を抱いていることが語られる。脱獄時に“謎の少女”から渡された「氷の鐘」で魔力を増幅できるようになり、それと盗んだ魔導具を用いて学園規模の幻術・精神干渉の複合魔術を成立させた。杭は霧の維持と調整の要であり、たとえ一本抜かれても残りが充填済みなら数時間は保つ見込みで、決着の場は図書館棟だとアドルフは定めている。
マクレガン先生の保護と“動機”の解像
モニカは図書館棟へ急ぐ途中で〈水咬の魔術師〉ウィリアム・マクレガンを発見する。マクレガンは霧を警戒して半球型防御結界を張り、その場で救助待ちをしていたため、精神干渉の影響を受けていない。モニカは状況を説明し、ルイスが誘導されて図書館棟へ向かったことまで共有する。マクレガンは「アドルフは自分の弟子みたいなもの」と明かし、弟子の不始末は師が後始末するという覚悟を見せる。
“回りくどさ”の答え
モニカが「なぜこんな大掛かりな罠を」と疑問を口にすると、マクレガンは「学生時代をやり直したいのだ」「破滅する前に良い夢を見たいのかも」と言い、さらに核心として「アドルフはルイスに構ってほしいのだ」と言語化する。ルイスに“眼中にない”扱いをされ続けたことが耐え難く、悪意の形で相手の関心を引こうとしている、という見立てである。モニカはその感情を理解し切れないままでも、知っておく必要があると受け止め、問いを重ねる。
校門間近での提案
話しながら校門が近づいたところで、マクレガンはモニカに「少し別行動しよう」と言い、ルイスへの伝言を頼めるかと切り出す。
九章 二大怪植物、奇跡の共闘
ルイス、学生に逆戻りして大暴走
精神干渉魔術で“中等科三年のルイス”に戻ったルイスは、ロザリーを人質にしたアドルフを「越えてはいけない一線を越えた」と認識し、徹底的に潰す気で図書館棟へ走る。途中で「図書館棟は本当にこっちか?」という違和感はあるが、怒りがそれを押し切る。
アドルフの奇襲で負傷、そして“現実のズレ”に気づき始める
背後から風の塊で吹き飛ばされ、続けて風刃で右脚を切られ、さらに雷撃で左腕を痛め、胸部にも強打を受ける。アドルフの攻撃が「短縮詠唱+遠隔」という上級レベルであること、そして自分が着ているのが“制服ではなく刺繍入りのローブ”であることに気づき、ルイスの認知に亀裂が入る。
〈鏡の牢獄〉発動、アドルフが自滅する
背後から少女の声が「〈鏡の牢獄〉発動」と呟き、アドルフの周囲を“内向き反射”の半球結界が覆う。アドルフの雷矢は結界内で反射し、本人に刺さって悲鳴を上げる。霧が風で払われ、発動者がモニカだと判明し、ルイスは片眼鏡を受け取って“七賢人〈結界の魔術師〉としての自分”を取り戻す。
捕縛、止血、そしてモニカの自己反省が意味不明に重い
ルイスは気絶したアドルフを封印結界で拘束し、自身も止血を行う。モニカは〈鏡の牢獄〉の出来に不満を漏らし、「酷い魔術を使った」と懺悔する。ルイスは、発動そのものが凄まじいのに本人だけが納得していない、いつもの“完璧主義”を見て取る。
幻術の反転、アドルフの“本体”は霧の中
霧の揺れから再び攻撃が来ると察知したルイスはモニカを伏せさせ、防御結界を展開する。霧の中には“くたびれたローブ姿のアドルフ”が複数現れ、頭上から拡声で挑発が降ってくる。地面に倒れていたアドルフは幻で、入れ替わっていたことが判明する。ルイスの風弾は幻をすり抜け、反撃の風刃が結界を叩く。
モニカの一言で、アドルフが止まる(たぶん人生初の沈黙)
モニカは「アドルフはルイスに構ってほしい」「気を惹きたい」と伝える。ルイスは噴き出し、なぜかアドルフの攻撃が一時停止する。ルイスはそれを利用し、マクレガンの伝言(“気を惹きたいからこう動く”という見立て)を聞いて苦笑する。
霧が厄介すぎる問題と、“茨の魔女”の到来
モニカは霧が「敷地内に埋めた十三本の杭で維持」されていること、全撤去しても除去には時間がかかることを説明する。さらに霧の魔力を吸って肥大化する巨大植物の影を示し、〈茨の魔女〉が来ていると告げる。ルイスはその情報を後出しで食らって絶句する。
二大怪植物の共闘、杭回収が加速する
場面はシリル&ラウル側へ移り、白薔薇の蔓でできた竜「ホワイトハリケーン・リターンズ」が土を抉って杭を抜き、巨大エンドウ豆が霧(魔力)を吸って霧を薄くしていく。杭は全十三本まで回収が進み、霧は目に見えて減少する。
ブラッドフォード合流、行方不明者の回収も進展
霧の薄れた道を〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォードが歩いてきて、職員二名を担ぎ、守衛一名を連れて合流する。ブラッドフォードは精神干渉の影響を受けつつも、霧の調査中に具合の悪い者を見つけて保護していた。シリルは簡潔に状況を共有し、アドルフとルイスの件、モニカが追っていることを伝える。
マクレガンが指揮、ラウルの葛藤をシリルがぶっ叩く
マクレガンも合流し、保護者を外へ誘導する段取りを即決する。ラウルは図書館棟へ行くことを内心ためらうが、シリルが「モニカを頼む」と頭を下げたことで迷いが消え、図書館棟へ向かう決意を固める。
シリルの胸騒ぎと、精霊ブローチの微かな反応
外へ向かう途中、シリルは守衛の“軽度の魔力中毒”を見て、自分のブローチを渡すことを考える。しかしブローチが微かに光った気がして精霊ロマリアに呼びかけるも反応はない。冬精霊の風が吹き、曇った空を見上げたシリルの胸は妙にざわつく。
十章 一○秒の明暗
状況整理:霧の薄れと防御の継続
霧はラウルのエンドウ豆で薄まり、精神干渉魔術と幻術は効力を失い始めていた。一方でアドルフの風の刃による攻撃は続き、ルイスは半球体の結界を維持して防いでいた。
複合魔術の解析:必要魔力が足りない
モニカは結界室の魔術式を解読し、敷地内の大規模結界に後付けされた精神干渉と幻術の複合魔術は、発動に必要な魔力が明らかに不足していると判断した。ルイスも結界が周辺の魔力濃度の高い土地から魔力を引き込む仕組みを思い出すが、それを加味しても足りないという結論に至った。
鐘の音の共通点:監獄爆発と今回の結界
ルイスは結界発動時に鐘の音を聞いた気がすると話し、ウーゴやマクレガンも同様の証言をしていたことが示される。さらにルイスは極秘情報として、脱獄囚ダレル・ホーリスが「ネイガル監獄爆発の直前に鐘の音を聞いた」と供述していると明かし、鐘の音が異常事態に結びつく不穏さが強まった。
感知の継続:撹乱用魔導具の散布
モニカは感知魔術で周囲を探り、複数の不自然な魔力反応を確認する。それらはアドルフが撒いた感知撹乱用の魔導具と推測され、下手に全てを撃ち抜くと建物を巻き込みかねないため、破壊ではなく感知の維持を選んだ。
挑発からの転換:鐘の音と図書館棟の異常反応
ルイスはアドルフを煽って動かし、直後に鐘の音が鳴る。図書館棟付近にラウルのエンドウ豆を遥かに上回る強烈な魔力反応が出現し、状況は一気に危険域へ移った。
アドルフ側の動き:氷の鐘と封印破壊の準備
アドルフは杭型の幻術魔導具が無効化されたことを確認し、それがラウルの介入によるものだと悟って歓喜する。図書館棟へ到達したアドルフは、魔力を一時増幅させる氷の鐘を取り出し、残り使用回数を意識しつつ、図書館棟の封印破壊のために鐘を鳴らした。
最悪の符号:『終焉招く黒』の持ち出し
扉を破壊したアドルフは、氷の鐘と書物を携えて姿を現す。その本が初代〈茨の魔女〉の魔導書『終焉招く黒』であるとモニカとルイスは理解し、鐘の力が「封印解除」と「発動に必要な魔力確保」を同時に成立させうる状況だと察した。
黒炎の脅威:魔術を焼き尽くす対魔術性
モニカの雷撃は防御結界で弾かれ、さらにアドルフが鐘を鳴らすと異常な魔力がアドルフを満たす。『終焉招く黒』から伸びた黒炎はモニカの雷の槍を絡め取り、焼き尽くす。アドルフは黒炎が「防御結界ごと術者を焼く」性質を持つと語り、ルイスの戦法に対して致命的な相性であることを示した。
空中戦の開始:モニカが狙われる理由
ルイスは飛行魔術でモニカを抱えて離脱しつつ、モニカは「残すと厄介だが落としやすい」存在として真っ先に狙われやすいと指摘される。ルイスとモニカは風の矢を合わせて攻めるが、黒炎が魔術を焼却し、防御結界も硬く、決定打に至らなかった。
一〇秒の罠:植物を囮にして高度を縛る
ルイスは「下を閉ざして上へ」という方針で誘導し、ラウルの白薔薇の竜と巨大エンドウ豆を囮にしてアドルフを拘束する。黒炎は強力だが燃焼に時間がかかり、巨体を焼くのに約一〇秒を要する見込みとなった。この間、アドルフは高度を中途半端に保たざるを得ず、地上からラウルが薔薇の枝で攻勢を仕掛ける。
三門戦術:黒炎の射程不足を突く
アドルフが高度を上げて精霊王召喚の門を焼こうとしたところで、ルイスとモニカがそれぞれ門を開き、三つの門が正三角形の位置関係で並ぶ。黒炎は射程が短く三つ同時には対処できず、二つの門から現れた風の精霊王シェフィールドの攻撃がアドルフを追い詰めた。
落下と回収:魔導書の確保、モニカの落下
アドルフは『終焉招く黒』を手放し、革袋(切り札の可能性)を抱え込んで落下する。ラウルは落ちてきた魔導書を蔓で受け止めて確保するが、その直後、モニカも落下して着地し、ルイスに落とされたことを泣きながら訴える。ラウルは魔導書を持つ自分がどう見られるか一瞬硬直するが、モニカは普通に手を取って起き上がった。
十一章
ルイスの追撃と氷の鐘の正体
ルイスは速度を上げてアドルフを追い、氷の鐘が「瞬間的な魔力増幅」であると推定する。増幅で無理に術者本人の魔力を引き上げた結果、アドルフは出血など深刻な負荷を負っていた。
王都狙いの最終手:七つの火球
アドルフは鐘を鳴らして火球を巨大化させ七つに分裂させ、北の空へ高速射出する。王都へ火の雨を降らせる意図が明確になる。
迎撃:マクレガンとブラッドフォードの精霊王召喚
ウーゴの観測と共有術式を用い、マクレガンは水の精霊王ルルチェラで低高度の火球を受け止め、ブラッドフォードは炎の精霊王フレム・ブレムの高密度火球で高高度の火球を爆散させる。時間差で来る一撃が残るが、結界側の備えがあると判断される。
王都の防衛線:リンとオーエン
魔法兵団本部の屋根でリンとオーエンが待機し、ルイスからの意訳指示を受けて迎撃に動く。オーエンはルイスが用意した範囲限定の強固な防御結界用魔導具を杖に装着し、二重の結界で火球を受け流して上空へ逸らす。炸裂後の火の粉はリンの風で回収され、王都防衛は完了する。
決着:ルイスがアドルフを拘束し断罪する
ルイスはアドルフを縛り上げ、アドルフの「どうして」は自己反省ではなく他責だと見抜いて突き放す。さらに、アドルフは最後にいつもルイス本人ではなく周囲を狙うことで逃げていると断じ、ライバルになれない理由を言語化して終わらせた。
後処理と学び:モニカの師匠としての自省
戦後、シリルは救助と説明、魔力中毒者への配慮まで含めて現場を取り仕切る。モニカは図書館棟の封印破壊を報告し、復旧と検査の必要性が共有される。マクレガンの「先生として暴走を止める責任」に触れたことで、モニカは自分が弟子に対して師匠として何を示せているかを恥じ、成長の方向性を考え始める。
“なりたくない大人”の見本:燻製タイムと論文圧
ルイスはアドルフを燻製にする話を平然とし、マクレガンにたしなめられる。その後ルイスは、モニカの新しい魔術式(精霊王召喚二つ同時維持を支える安定化)に触れ、未発表の論文化を暗に要求し、発表頻度が高すぎると教本業者に恨まれると現実的な忠告までしてモニカを追い詰めた。モニカは「立派な大人」「カッコいい師匠」への道のりの遠さを痛感して肩を落とした。
十二章 本気のお忍び
大学閉鎖明けの混乱とコンラッドの期待
クレスバーン魔法大学の閉鎖が明けた翌日、学生コンラッド・アスカムは講演会の貼り紙を確認し、会場と開始時刻が急遽変更されたことを知った。七賢人〈砲弾の魔術師〉が登壇すると聞いて早めに来ていたため、校門内の慌ただしい動きも含めて「よくある魔法大学のトラブル」と受け止めた。
シリルとの再会と妙に丁寧な送迎
校門前でシリル・アシュリーに声をかけられ、会場がキングスリー公会堂へ移ったと案内される。送迎馬車まで用意される手厚さに、七賢人絡みの行事らしい格式をコンラッドは実感する。シリルが野良着の男と合流し、植物の枝が積まれた台車を見たことで、トラブル後の片付けと庭木整理が同時進行しているのだろうと納得した。
イザベルとの合流と“沈黙の魔女”登壇の匂わせ
公会堂でケルベック伯爵令嬢イザベル・ノートンと再会し、七賢人談義の同志として親しく会話を交わす。イザベルは〈砲弾の魔術師〉の発表に加え、術式解説に“お姉様”が関わると示し、コンラッドは〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットだと察する。告知が伏せられていた理由も、モニカの内気な性格に配慮し人の殺到を避けるためだとコンラッドは推測した。
講演会の熱気とモニカの圧巻の解説
会場は満員となり、ブラッドフォード・ファイアストンの登壇で熱が上がる。講演は高威力魔術の安全性と、威力と速度を両立しつつ安定性を上げる補助術式へ展開し、モニカは黒板に高速かつ正確に魔術式を書き込んで解説を支えた。巨漢の発表者と小柄な解説者という見た目の不釣り合いに反して、内容は超一流として成立していた。
空気を読まない質問への“完璧な黙殺”
質疑応答で、本筋から外れた数値要求の質問が出る。通常なら流されてもおかしくない場面で、モニカは即座に黒板を埋め尽くす解答を書き上げ、冷たい無表情で「記録したければ、どうぞ」と突き返した。会場は感嘆に包まれ、コンラッドとイザベルは強烈な格好良さとして受け止めた。
拍手の違和感と“護衛”の正体への伏線
講演後の拍手の中で、イザベルの護衛の男が無表情のまま力強く拍手していることにコンラッドは気づき、魔術に感銘を受けたのだろうと好意的に解釈する。この時点では、護衛の異様な熱量が後の展開の伏線となっている。
控室での安堵と護衛の来訪
講演が終わり、個室控室でモニカは疲れを吐き出す。そこへ現れたのはイザベルではなく、先ほどの護衛の青年であり、モニカを馬車へ案内するよう命じられていると告げる。さらに男は室内で待つ許可を求め、手の甲から水霊ウィルディアヌを出して「マイマスター」と呼びかける。
幻影解除で現れたアイザックと“本気のお忍び”
モニカが合図すると護衛姿は崩れ、第二王子と同じ顔をしたアイザックが現れる。会場には他の七賢人もいるため、ウィルディアヌの幻影で護衛に化けて潜入したと説明し、モニカの術式解説をどうしても直接聞きたかったと語った。イザベルもこの作戦に協力していたことが示され、モニカは二人の気合いの入り方に絶句する。
師匠らしさの練習とウィルディアヌとの連帯
モニカは師匠として弟子を窘めようとし、ウィルディアヌにも無理をさせないよう釘を刺す。ウィルディアヌは感情の薄い精霊らしからぬ反応を見せ、モニカと互いに呼び合って意思疎通を確かめる。共通の人物に振り回される者同士としての連帯感が、二人の間に形作られていた。
イザベル来室と共犯関係の露呈
侍女アガサとイザベルが控室に現れ、モニカは二人を招き入れる。アイザックとイザベルは和やかに協力関係を見せ、当初の段取りが「アイザックがノートン家の遣いとしてモニカを呼び、荷物運びもする」というものだったと明かされる。イザベルとアイザックはモニカの質疑応答対応を称賛し続け、アガサが馬車へ促して場を整えた。
ケルベック行きへの同行決定と冬の再会
イザベルはウォーカー(アイザック)の荷物は既に積んだと述べ、モニカは同行が急遽決まったことを察して困惑する。アイザックはケルベック伯爵に用事があるとして詳細を濁しつつ、耳元で「君と一緒の冬は二年ぶりだね」と囁き、過去に共に過ごした冬を想起させる。モニカが論文をまた見たいと伝えた記憶に重なり、アイザックは持参した論文の添削を依頼し、モニカは師匠として喜んで引き受けた。
エピローグ 冬が来る
オーエンの見舞いとルイスの“安静”事情
魔法兵団第一部隊隊長オーエン・ライトは私服でルイス・ミラーの屋敷を訪れ、手土産を携えて見舞いに来た。アドルフ捕縛後、ルイスは保護されていた妻子と久々に揃って帰宅できたが、負傷を理由に長期休暇を取っていた。ベッドで本を読む寝間着姿のルイスを見て、オーエンは「病人みたいだ」と驚き、学生時代の喧嘩っ早さと無茶な性分を思い出した。
休暇の“盛り報告”が妻にバレる
ルイスは休暇をもぎ取るため怪我を大袈裟に報告したが、医務室勤務の妻ロザリー・ミラーに見抜かれたと明かした。ロザリーは怪我の確認で報告と実態の差に気づき、「重傷患者は安静に」と命じたため、ルイスは大人しくしているという。オーエンは自業自得だと切り捨てつつ、裂傷の縫合や打撲もあること、休みなしの勤務が続いていたことを踏まえ、家族と休むのも悪くないと受け止めた。
アドルフの現状と“氷の鐘”の手掛かり
オーエンは本題として、〈風の手の魔術師〉アドルフ・ファロンが重度の魔力中毒で治療中であり、許容量超過の魔力行使で全身が損耗していると報告した。ルイスはアドルフが所持していたという「氷の鐘」について聴取状況を問うが、鐘は砕けて溶けたため現物が残らず、証言頼みで進捗も悪いという。ただしアドルフは取り調べで「鐘は子どもに貰った」と語ったと伝えられ、ルイスは表情を険しくした。
ネイガル監獄爆発の外部介入疑惑
ルイスは、ネイガル監獄爆発直前に鐘の音を聞いたという証言が複数ある点を確認し、オーエンも外部から鐘の力で監獄が破壊された可能性を示した。さらに、その人物が鐘をアドルフに譲ったという推測が浮かび、罪人に力を与える意図に、二人は薄気味悪い悪意を感じ取った。
夜明け前の倉庫街と冬精霊の宣言
場面は夜明け前の倉庫街へ移り、倉庫の屋根に白いドレスの金髪の少女が腰掛ける。少女オルテリア・チャイムは、アドルフの失敗を嘲りつつ、自分が身を削って「冬精霊の氷鐘レプリカ」を作ってやったのにと不満を漏らした。少女は吐息が白くならず、朝の人の営みが始まる気配を嫌悪しながら、子守唄や願いの声が途絶えたこと、手紙が届かないことを歌うように口にする。
次の狙いと“雪山”への準備
オルテリアはしばらく目立った行動を控える準備期間を置き、春までに全てを終わらせると定めた。まず雪山へ向かい、とびきり強い古参の氷霊を味方につけることが第一歩だと考える。その氷霊なら「謁見の門」を呼び出せるとし、自分は氷鐘レプリカの力があっても門を扱えないため、古き氷霊の力が必要だと述べた。
終わらない冬の到来
オルテリアは北の空を見つめ、人間を嘲笑い、戻らぬ日々を慈しむように歌い上げる。そして「冬が来る、終わることのない冬が」と宣言し、物語は不穏な予兆を残して締めくくられた。
【シークレット・エピソード】 ディー夫人の画策
呼び出しと母ヴァネッサの合理主義
夏の帰省直後、ヒューバード・ディーは母ヴァネッサに執務室へ呼び出された。執務室は飾り気がなく、実務以外を徹底的に削る母の気質が反映されていた。ヴァネッサは息子の挨拶を遮り、ヒューバードが〈黒い聖杯〉作りに関与した件を追及し、報告を通さなかった理由を問うた。
〈黒い聖杯〉利権に乗り遅れた母の苛立ち
ヒューバードは「至急で話を通す余裕がなかった」と弁明し、〈沈黙の魔女〉に確認すればよいと開き直った。ヴァネッサは、結果として利権争いに関与できず取り逃がしたと断じ、権利管理がアンバード伯爵バーニー・ジョーンズ側にあることを踏まえ、最大の利益がアンバード伯爵に流れた状況を冷静に分析した。ヒューバードは権利に口を挟まず、モニカに“貸し”を作る方を優先していた。
ヴァネッサの出自とディー家支配の手腕
ヴァネッサは旧姓ファイアストンで、弟が〈砲弾の魔術師〉ブラッドフォード・ファイアストンである。享楽主義の夫パーシー・ディーから書類に署名させ、家の権利を掌握し、以後は小遣いを与えて社交界でのコネ作り役として泳がせていた。ヒューバードの語尾を伸ばす癖すら切り捨てる彼女の合理性が、家庭内でも貫かれている。
セレンディア学園に通わせた“投資目的”
ヴァネッサは、ヒューバードをセレンディア学園に通わせた理由を「第二王子が決め手だった」と明言した。第二王子フェリクスの在学期は有力貴族・大商人の子が集まるため、そこに繋がりを作れば商機になるという算段である。第二王子派の失脚をヒューバードは嘲笑するが、ヴァネッサは“同窓である事実”自体がコネになると切り捨て、モニカへの執着も把握した上で冷淡に扱った。
“手打ち”として押しつけられた調査任務
ヴァネッサは〈黒い聖杯〉の報告不備の落とし前として、東部地方ケルベック伯爵領で起きた「温泉地の魔力濃度急上昇」調査を命じた。狙いは、安定して魔力が濃い土地を押さえ、条件が揃えば魔力炉を設置して魔導具工房規模の投資に繋げることにある。ヒューバードには半年の期限で、原因、魔法生物の有無、立地、住民状況まで含む調査報告が課された。
魔力炉の価値と法的な“綱渡り”
魔力炉は魔術を使えない者でも高い魔力定着率で付与ができ、魔導具産業にとって極めて魅力的な設備である一方、膨大な魔力を引くため精霊や竜との衝突リスクが高く、竜や精霊が棲みつく土地での設置は法律で禁じられていた。ヴァネッサが目を付けた土地は竜害指定地域の“外側ギリギリ”で、条件を満たせば設置が視野に入るという危うい立地であった。
ケルベックでの再会予告とヒューバードの下心
ヒューバードは任務を恭しく受諾し、ケルベック伯爵令嬢イザベル・ノートンが学園の後輩である点を利用できるとほくそ笑んだ。ヴァネッサは「揉めるな」「伯爵夫人は面倒臭い」と釘を刺すが、ヒューバードは南のディー夫人と東のノートン夫人の衝突すら見世物として楽しみにし、冬至休みにイザベルが〈沈黙の魔女〉を伴って帰省する可能性を想定して“もてなし”の準備に思考を走らせた。
サイレント・ウィッチ10巻
サイレント・ウィッチまとめ
サイレント・ウィッチ12巻
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あらすじと考察は本文で詳しく解説。

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