ゲート 自衛隊 〈2〉炎龍編〈上〉レビュー
ゲート 自衛隊 全巻まとめ
ゲート 自衛隊 〈3〉動乱編〈上〉レビュー
物語の概要
■ 作品概要
『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 〈2〉炎龍編〈下〉』は、異世界「特地」に派遣された自衛隊の活躍を描くミリタリー・ファンタジー小説の第2巻、その後編である。 本書では、精神の均衡を崩したハイエルフの少女テュカを救うため、主人公の伊丹耀司がついに決断を下す。彼は自衛隊の任務や立場を超え、仲間たちと共に伝説の災厄「炎龍」の討伐へと旅立つ。圧倒的な力を持つ巨大生物との死闘と、その裏で進行する帝都の不穏な権力闘争が物語の主軸となる。
■ 主要キャラクター
伊丹耀司: 自衛隊の二等陸尉。部下を危険に晒すことを避け、私的に炎龍討伐へ向かう決意をする。
テュカ・ルナ・マルソー: 父を殺されたショックから現実逃避を続けるハイエルフ。伊丹を父と重ね合わせることで心の平穏を保っている。
ロゥリィ・マーキュリー: 死と断罪の神エムロイの使徒。伊丹に好意を寄せ、その旅路に同行し、圧倒的な戦闘力で一行を支える。
レレイ・ラ・レレーナ: 理知的な魔導師の少女。魔法と異世界の知識を融合させ、対炎龍戦での戦術的鍵を握る。
ヤオ・ハー・デュッシ: 炎龍に部族を脅かされるダークエルフ。伊丹に討伐を依頼し、道案内として一行に加わる。
ゾルザル・エル・カエサル: 帝国の皇太子。主戦論を掲げ、父帝や妹ピニャと対立しながら権力基盤を固めようとする。
■ 物語の特徴
本作最大の見どころは、近代兵器とファンタジー要素が融合した対モンスター戦である。対戦車弾やプラスチック爆薬を駆使する自衛官と、魔法や神の力を行使する異世界住人が連携し、空を支配する炎龍に挑む展開は圧巻である。 また、派手な戦闘の一方で、テュカのトラウマ克服という心理的なドラマや、帝国内部でのドロドロとした権力争い、日本政府と諸外国の政治的駆け引きなど、重層的なストーリー展開も魅力の一つである。
書籍情報
ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈2〉炎龍編〈下〉
著者:柳内たくみ 氏
イラスト:黒獅子 氏
出版社:アルファポリス
発売日:2013年1月6日
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あらすじ・内容
超スケールの自衛隊×異世界ファンタジー、文庫化第2弾!
累計60万部突破!超人気の自衛隊×異世界ファンタジー、文庫化第二弾・後編! 伊丹ら陸上自衛隊が駐留するアルヌスの丘周辺は、『特地』と日本を繋ぐ拠点として栄え、双方の絆は着実に深まっていた。そこに突如現れたダークエルフのヤオ。彼女は一族の仇である炎龍を滅ぼすため、心の病んだテュカを悪戯に刺激し、伊丹に炎龍討伐をけしかける。混乱状態に陥ったテュカを救うため、ついに決断する伊丹。炎龍との命がけの戦いが始まった!
感想
作品全体を通しての印象
物語のスケールはさらに広がり、読み応えのある一冊であった。
まず目を引くのは、日本を取り巻く国際情勢の緊迫感だ。ロシアや中国といった列強各国が、「門」の向こうにある豊富な資源を狙い、日本に対して露骨な圧力をかけてくる。
それに対し、作中の日本政府は頑ななまでに外圧を退け、毅然とした態度を貫いている。フィクションとはいえ、あまりに有能で根性のある政治家たちの姿には、現実の日本との落差を感じずにはいられなかった。「今の日本に、これほどの気概があるだろうか」と、つい苦笑いしてしまうほどだ。
一方、異世界側の帝国も一筋縄ではいかない。彼らの文明レベルはローマ帝国時代程度だが、そこに魔法や魔獣という要素が加わることで、独特の脅威を生み出している。
単純な武力衝突では測れない、異文化ならではの底力としぶとさがある。自衛隊側には現代兵器という圧倒的なアドバンテージがあるものの、政治的な縛りや倫理的な制約も多く、力任せに制圧できないもどかしさがリアルな緊張感を生んでいた。
伊丹とテュカ、そして狂気への道
本巻の核となるのは、やはり伊丹とテュカの関係性だろう。
父親を目の前で失ったテュカは、その過酷な現実を受け入れられず、精神を病んでいく。
伊丹を父親と同一視し、依存していく彼女の姿は痛々しく、見ていて辛いものがあった。伊丹自身、最初は「最後まで責任を持てない」と距離を置いていたが、周囲の善意がかえって彼女を追い詰め、さらにはダークエルフのヤオや、国益を優先する柳田が炎龍討伐を焚きつけることで、事態はのっぴきならない方向へと進んでしまう。
壊れていくテュカを見過ごせなくなった伊丹が、ついに覚悟を決める過程は胸に迫るものがある。
理屈や損得ではなく、ただ目の前の少女を救うために動く。その不器用な優しさこそが、伊丹という男の魅力なのだと感じた。
柳田の非情さと人間臭さ
今回の柳田には、良い意味でも悪い意味でも感情を揺さぶられた。
テュカの病状を利用してまで伊丹を動かそうとするやり口は、正直言って「ひどい奴だ」と思わざるを得ない。
しかし、彼なりに国益を考え、泥をかぶる覚悟で動いていることも伝わってくる。
その彼が、後にデリラによる暗殺未遂事件に巻き込まれる展開は皮肉だった。皇太子ゾルザルの息がかかった連中の策謀により、デリラが日本人捕虜の紀子を襲う。
それを止めに入った柳田が刺されるシーンは衝撃的であり、彼もまた、この複雑な世界で必死に生きる一人なのだと再認識させられた。
炎龍討伐とクライマックスの爽快感
伊丹が単身(実際にはハーレム状態の一行となったが)で飛び出した後、自衛隊本隊が動くまでの流れも面白い。
診療施設で伊丹を焚きつけた「謎の老人」が、実はエルベ藩王国の国王デュランだったという仕掛けには驚かされた。
彼の国に炎龍がいることを利用し、彼を護衛するという名目で自衛隊が国境を越える。この政治的なロジックの組み立ては見事であり、物語に説得力を与えていた。
そして訪れる炎龍との決戦。伊丹たちが死闘の末に炎龍を倒した直後、冥府の神ハーディの使徒ジゼルが現れ、新たな危機が迫る。
新生龍をけしかけられ、絶体絶命かと思われたその時、間に合った自衛隊の航空支援がすべてを粉砕していく展開は圧巻だった。
圧倒的な火力で瞬く間に殲滅される新生龍を見て、何も知らないジゼルが「これが伊丹の力か」と勘違いする場面は、痛快であり滑稽でもあった。
ファンタジーの常識が現代兵器の理不尽な暴力に上書きされる、この作品ならではの「面白さ」が凝縮されていたように思う。
読後感
すべてが終わった後、伊丹に下された処分が「停職二週間」程度だったことには、思わず「まあ、仕方ないよな」と納得してしまった。
あれだけの騒ぎを起こし、命令違反を犯しながらも、結果として大きな功績を上げた彼らしい結末と言えるだろう。
重苦しいテーマやドロドロとした政治劇を含みつつも、最後はスカッとする爽快感があり、非常に満足度の高い一冊であった。
ゲート 自衛隊 〈2〉炎龍編〈上〉レビュー
ゲート 自衛隊 全巻まとめ
ゲート 自衛隊 〈3〉動乱編〈上〉レビュー
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
伊丹耀司
自衛隊の二等陸尉であり、第三偵察隊を率いる指揮官である。部下や他人の命を不必要に危険に晒すことを嫌い、自身の良心と責任感に基づいて行動する。
・所属組織、地位や役職
自衛隊・二等陸尉。第三偵察隊長(後に解任)。特地資源状況調査担当。
・物語内での具体的な行動や成果
精神的に追い詰められたテュカを救うため、任務を放棄して単独での炎龍討伐を決意した。ロルドム渓谷でダークエルフや仲間と協力し、炎龍を撃破することに成功する。その後、新たな脅威である使徒ジゼルとも対峙し、自衛隊の航空支援を得て撃退した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
無断での離隊行為により、停職二週間と減俸、隊長職解任の処分を受けた。一方で、拉致被害者救出の功績により一級賞詞を授与され、資源調査担当という新たな役割を与えられた。
テュカ・ルナ・マルソー
ハイエルフの少女であり、父を炎龍に殺された過去を持つ。精神的なショックから父の死を認めることができず、伊丹を父親と誤認することで心の均衡を保っていた。
・所属組織、地位や役職
コダ村の避難民。伊丹の同行者。
・物語内での具体的な行動や成果
伊丹と共に炎龍討伐の旅に出た。戦闘中に父の死という現実を突きつけられ錯乱したが、最終局面で現実を受け入れ、精霊魔法による雷撃で炎龍を火口へ沈める決定打を放った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
仇討ちを果たした後も、伊丹を「父さん」と呼ぶことを選び、精神的な安定を取り戻した。
ロゥリィ・マーキュリー
死と断罪の神エムロイに仕える亜神であり、強大な戦闘能力を持つ。伊丹に対して強い執着と好意を抱き、彼の守護者として振る舞う。
・所属組織、地位や役職
エムロイの使徒。
・物語内での具体的な行動や成果
伊丹の単独行に強引に同行し、炎龍との戦闘では前衛として奮戦した。重傷を負いながらも回復し、後に現れた使徒ジゼルに対しては伊丹との絆を誇示して対抗した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
将来、神へと昇華した際には「愛」を司る神になるという意思を示した。
レレイ・ラ・レレーナ
カトーの弟子である魔導師で、冷静かつ論理的な思考の持ち主である。魔法に物理法則や化学的知識を応用する才覚を持つ。
・所属組織、地位や役職
魔導師。カトーの弟子。
・物語内での具体的な行動や成果
錯乱するテュカを眠らせるなど旅を支え、対炎龍戦では爆発を利用して剣を射出する戦法でダメージを与えた。炎龍の翼を破壊し、飛行能力を奪う戦果を挙げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
導師号の申請を行うため、学都ロンデルへ向かう予定である。
ヤオ・ハー・デュッシ
ダークエルフのシュワルツの森部族出身の女性である。炎龍に脅かされる同胞を救うため、手段を選ばず伊丹を巻き込もうとしたが、その過程で深い恩義と忠誠心を抱くようになる。
・所属組織、地位や役職
シュワルツの森部族。
・物語内での具体的な行動や成果
テュカを利用して伊丹を動かそうとした罪悪感を抱えつつ、道案内役として同行した。炎龍討伐後は、使徒ジゼルから信仰していた神ハーディの残酷な真実を聞かされ、絶望した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ハーディへの信仰を捨て、ロゥリィを主神とする直信徒へ改宗し、名も改める決意をした。
柳田
自衛隊の二等陸尉であり、国益と資源確保を重視する現実主義者である。伊丹に対して嫉妬と対抗心を燃やしつつも、組織の中での立ち回りに長ける。
・所属組織、地位や役職
自衛隊・二等陸尉。
・物語内での具体的な行動や成果
伊丹の無断離隊を「資源調査任務」として処理し、上層部を納得させた。エルベ藩王国のデュラン国王と交渉し、地下資源の採掘権を獲得した。デリラが望月紀子を襲撃した際、身を挺して阻止し重傷を負った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
デリラとの戦闘で脇腹を刺され、瀕死の重傷を負う。
ピニャ・コ・ラーダ
帝国の皇女であり、帝国の安定と存続を第一に考える。兄ゾルザルの不自然な台頭に危機感を抱き、継承争いによる内乱を回避しようと苦悩する。
・所属組織、地位や役職
帝国皇女。
・物語内での具体的な行動や成果
次兄ディアボに対し、長子相続の重要性を説いて秩序維持を訴えた。自身の立場を「芸術の擁護者」と規定し、政治的野心がないことを強調した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇帝やディアボからは、日本と結びついた「第三勢力」の旗頭として認識されつつある。
ディアボ
帝国の第二皇子であり、兄ゾルザルや父皇帝の動向を冷静に分析する策士である。自身の権力基盤を確立するため、独自の勢力形成を画策する。
・所属組織、地位や役職
帝国第二皇子。
・物語内での具体的な行動や成果
皇帝がピニャを利用しようとしている構図を見抜き、どの勢力にも属さない「第四勢力」の構築を模索し始めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ピニャの政治的成長と説得力に驚き、彼女を警戒すべき競争相手として再評価した。
ゾルザル・エル・カエサル
帝国の皇太子であり、父皇帝に対抗するような増長した態度を見せる。テューレの入れ知恵により自信過剰に陥っている。
・所属組織、地位や役職
帝国皇太子。
・物語内での具体的な行動や成果
頻繁に宴席を設け、貴族たちを取り込もうとしている。日本側の潜入工作員である古田を料理人として雇い入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
テューレに操られる形で、帝国と日本の対立を激化させる火種となりつつある。
テューレ
元ヴォーリアバニー族の女王であり、現在はゾルザルの奴隷兼愛人である。帝国と日本、そしてヒト種全体への激しい憎悪を抱き、破滅を望んでいる。
・所属組織、地位や役職
ゾルザルの奴隷。元ヴォーリアバニー族女王。
・物語内での具体的な行動や成果
ゾルザルを唆して講和を妨害させ、戦争を継続させようと画策した。望月紀子の暗殺を命じる偽の指令書を作成し、事態を混乱させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
復讐のために自身の立場と色香を利用し、帝国内部から崩壊を招こうとしている。
嘉納太郎
日本の外務大臣であり、列強からの圧力に対して毅然とした態度を貫く。日本の主権と法秩序を守ることに固執する。
・所属組織、地位や役職
日本国外務大臣。
・物語内での具体的な行動や成果
主要国外相会議において、特地への外国軍派遣や武装監視団の受け入れを拒絶した。受け入れ条件として極めて厳しい制約を提示し、各国の介入を牽制した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
各国の外相に対し、日本が容易に譲歩しない姿勢を印象付けた。
デリラ
ヴォーリアバニー族の戦士であり、現在はアルヌスの食堂で働く給仕である。フォルマル伯爵家への恩義と忠誠心を持つ。
・所属組織、地位や役職
アルヌス協同生活組合・給仕主任。フォルマル伯爵家の元メイド。
・物語内での具体的な行動や成果
伯爵家からの(偽造された)暗殺指令を受け、苦悩の末に望月紀子を襲撃した。制止に入った柳田と交戦し、彼に重傷を負わせた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
偽命令に踊らされた結果、重大な傷害事件の加害者となってしまった。
デュラン(老人)
エルベ藩王国の国王であり、身分を隠してアルヌスの診療施設に入院していた。隻腕隻眼で、老獪な交渉術を持つ人物である。
・所属組織、地位や役職
エルベ藩王国・国王。
・物語内での具体的な行動や成果
正体を隠して伊丹を激励し、覚悟を決めさせた。柳田との交渉で、炎龍討伐の許可を与える代わりに、戦後の復興支援と帰国の護衛を約束させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
自衛隊とのコネクションを確立し、自国の復興と独立維持のための足掛かりを得た。
ジゼル
冥府の神ハーディの使徒であり、竜人(ドラゴニュート)である。傲慢で粗暴な言動が目立ち、自身の欲望に忠実である。
・所属組織、地位や役職
ハーディの使徒。
・物語内での具体的な行動や成果
ロゥリィをハーディの妻にするため連れ去ろうとし、新生龍二頭をけしかけた。自衛隊の近代兵器による攻撃を受け、勝てないと悟り逃走した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
伊丹たちの戦力を誤認していたが、圧倒的な火力を目の当たりにし、恐怖を植え付けられた。
望月紀子
帝国に拉致された日本人被害者である。家族の死を知り、精神的に追い詰められている。
・所属組織、地位や役職
民間人(拉致被害者)。
・物語内での具体的な行動や成果
家族と家を失った絶望から自殺願望を抱いた。デリラに襲撃された際、彼女がテューレに似ていると発言し、襲撃者の動揺を誘った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
デリラによる襲撃事件の中心人物となり、意図せずして物語の緊張を高める要因となった。
古田
自衛隊の隊員であり、料理人としての腕前を持つ。潜入工作員として帝都へ送り込まれた。
・所属組織、地位や役職
自衛隊・陸曹長(推定)。料理人。
・物語内での具体的な行動や成果
帝都の貴族邸での宴席に料理人として潜り込み、その腕前でゾルザルに気に入られた。ゾルザルの宮殿への出頭を命じられ、中枢への接近に成功した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ゾルザルの懐に入り込むことで、貴重な内部情報を得られる立場を確立しつつある。
出来事一覧
09
嘉納外相と各国による外交的対立
- 当事者: 嘉納太郎(日本外相) vs ロシア・中国・フランス等の外相
- 発生理由: 各国が「門」の向こう側への武力派遣や監視団の受け入れを強く要求したため。
- 結果: 嘉納は日本の法と主権を盾に、武装解除や厳格な管理条件を突きつけ、安易な派兵を拒絶した。
テュカの錯乱と伊丹の拒絶反応
- 当事者: テュカ・ルナ・マルソー vs 伊丹耀司
- 発生理由: 伊丹たちが「父は死んだ」と事実を告げたことで、テュカが現実を拒絶し、伊丹を「お父さん」と思い込む妄想に逃げ込んだため。
- 結果: その狂気的な視線に耐えきれず、伊丹は激しい嘔吐と転倒を起こし、レレイの魔法で眠らされた。
ヤオの告白と土下座
- 当事者: ヤオ・ハー・デュッシ vs 伊丹、ロゥリィ、レレイ
- 発生理由: ヤオがテュカに「父の死」を吹き込んだのは、テュカを壊して伊丹を炎龍討伐に動かすための悪意ある策略だったと明かしたため。
- 結果: 敵意を向けられる中、ヤオは額を床に擦りつけて自身の身柄を対価に炎龍討伐を懇願した。
10
柳田による炎龍討伐の強要と伊丹の拒絶
- 当事者: 柳田二尉 vs 伊丹耀司
- 発生理由: 柳田が国益(資源確保)のためにヤオの依頼を受けて炎龍を倒すべきだと主張したが、伊丹が部下を危険に晒したくないと拒んだため。
- 結果: 伊丹は命令でない限り動かないと断言し、議論は平行線となった。
伊丹の任務放棄と離脱
- 当事者: 伊丹耀司 vs 第三偵察隊(桑原曹長ら)
- 発生理由: 伊丹が部下を巻き込まずに単独でテュカを救う(炎龍を倒す)決意を固めたため。
- 結果: 離陸直前のチヌークから飛び降り、指揮権を桑原に委ねて隊を離脱した。
11
柳田への物資要求と嫉妬の吐露
- 当事者: 伊丹耀司、ロゥリィ、レレイ vs 柳田二尉
- 発生理由: 伊丹が単独行のために車両や武器弾薬を要求し、さらにロゥリィたちが強引に同行を決めたため。
- 結果: 柳田は伊丹の「やる気がないのに人が集まり成果が出る」あり方に激しい嫉妬と憎悪をぶつけつつも、物資の手配と隠蔽工作を引き受けた。
フォルマル家からの暗殺指令
- 当事者: フォルマル伯爵家(書面) vs デリラ
- 発生理由: デリラに対し、望月紀子を暗殺せよという(偽造された)秘密指示書が届いたため。
- 結果: デリラは恩義ある伯爵家の命令と、現在の生活との板挟みになり苦悩する。
12
望月紀子の自殺願望
- 当事者: 望月紀子 vs 自分自身
- 発生理由: 家族の死と帰る場所の喪失を知らされ、絶望したため。
- 結果: 「死んじゃおうか」と口にする精神状態に陥った。
デリラによる紀子襲撃と柳田の介入
- 当事者: デリラ vs 柳田二尉
- 発生理由: デリラが指令に従い紀子を殺害しようとした現場に、柳田が遭遇し制止したため。
- 結果: 柳田は拳銃を発砲するがデリラにかわされ、脇腹を刺された。柳田は重傷を負いながらも弾が尽きるまで応戦し、デリラも被弾した(詳細は次章以降へ続くが、双方重傷の殺し合い)。
13
執事バーソロミューへの拷問的尋問
- 当事者: 用賀二佐、メイドたち vs バーソロミュー
- 発生理由: デリラに偽の暗殺命令を送った犯人を特定するため。
- 結果: 自白剤(アミタール)を投与され、意識朦朧の中で信箋の流出経路を自白させられた。
ファントムと炎龍の空中戦
- 当事者: 神子田(F4ファントム) vs 炎龍
- 発生理由: 炎龍の戦力評価データの収集および挑発のため。
- 結果: 正面衝突コースでの交差によりファントムは機首やキャノピーに熱損傷を負ったが、炎龍の機動性能などのデータ収集には成功した。
14
ロルドム渓谷での包囲
- 当事者: 伊丹一行 vs ダークエルフの部族
- 発生理由: 伊丹たちがダークエルフの潜伏する渓谷へ侵入したため。
- 結果: ヤオの説明により誤解が解け、伊丹が「緑の人」であると知られて歓迎された。
炎龍の襲撃とLAMによる撃退
- 当事者: 炎龍 vs 伊丹一行、ダークエルフ
- 発生理由: 炎龍が餌を求めて渓谷に飛来したため。
- 結果: 伊丹が錯乱するテュカに無理やりLAM(対戦車弾)を撃たせ、その爆音と衝撃で炎龍を一時的に退避させることに成功した。
テュカへの現実の強制
- 当事者: 伊丹耀司 vs テュカ・ルナ・マルソー
- 発生理由: 炎龍を前にしても現実逃避するテュカに対し、伊丹が「父の仇」を直視させようとしたため。
- 結果: テュカはパニックに陥ったが、父の矢羽を見て記憶を取り戻し始めた。
15
炎龍の巣での遭遇戦と誤射
- 当事者: 炎龍 vs 伊丹一行、ダークエルフ選抜隊
- 発生理由: 爆薬設置中に無線連絡が通じず、炎龍の帰還に気づくのが遅れたため。
- 結果: コムがLAMで先制攻撃を仕掛けたが、バックブラスト(後方噴射)や誤射により味方に甚大な被害が出た。コム、バン、ナユらが死亡・重傷。
セイミィの特攻と死
- 当事者: セイミィ vs 炎龍
- 発生理由: 乱戦の中、セイミィがLAMで炎龍の脚部を撃ち抜いたため。
- 結果: 炎龍の装甲を貫通させたが、直後にセイミィは炎龍に噛み砕かれて死亡した。
16
炎龍との最終決戦
- 当事者: 伊丹、レレイ、テュカ、ヤオ、クロウ、フェン vs 炎龍
- 発生理由: 巣からの脱出および復讐のため。
- 結果: フェンとクロウが死亡。レレイの剣雨による翼の破壊、テュカの雷撃による地盤崩落により、炎龍は火口の底へ転落し死亡した。
ジゼルの登場と威圧
- 当事者: ジゼル vs ロゥリィ、伊丹
- 発生理由: ハーディの使徒ジゼルが現れ、ロゥリィをハーディの嫁にするため連れ去ろうとしたため。
- 結果: ジゼルが新生龍二頭を召喚し、一触即発の状態となった。
17
新生龍との戦闘
- 当事者: ジゼル、新生龍(赤・黒) vs 伊丹、ロゥリィ、ヤオ
- 発生理由: ジゼルが交渉を打ち切り、新生龍に攻撃を命じたため。
- 結果: 拳銃が通じず伊丹たちは窮地に陥るが、ロゥリィとの連携とはったりで時間を稼いだ。
自衛隊による航空支援攻撃
- 当事者: 自衛隊(F4、AH-1、自走砲) vs 新生龍、ジゼル
- 発生理由: 伊丹たちの支援要請(事前の合意)に基づき、自衛隊が介入したため。
- 結果: 新生龍二頭はミサイルと機関砲で瞬時に挽き肉にされ、ジゼルは恐怖して逃走した。
伊丹への処分通達
- 当事者: 自衛隊(檜垣) vs 伊丹耀司
- 発生理由: 無許可での離隊および単独行動に対する懲罰。
- 結果: 停職二週間、減俸、隊長職解任の処分が下された(同時に拉致被害者救出等の功績で表彰も行われた)。
ゲート 自衛隊 〈2〉炎龍編〈上〉レビュー
ゲート 自衛隊 全巻まとめ
ゲート 自衛隊 〈3〉動乱編〈上〉レビュー
展開まとめ
09
兄妹の密談と継承への違和感
元老院議会後、ピニャは次兄ディアボに呼び止められ、ゾルザルが父皇帝と張り合う意思を見せていると知らされた。皇太子に立てられたばかりのゾルザルの言動は、増長というより不自然な策謀めいたものであり、ピニャも強い違和感を覚えた。皇帝の後見下で継承される以上、父と競う構図自体が成り立たないからである。
帝国秩序と長子相続の論理
ピニャは、能力より序列を優先する長子相続の意義を説き、継承争いが帝国分裂を招く危険を指摘した。ゾルザルが帝位に就くことは最善ではないが、内乱よりは遥かにましであると論じ、ディアボは妹の成長と説得力に驚かされた。
皇帝の描く大局とピニャの位置
ディアボは思考を巡らせ、皇帝がゾルザルを表の皇太子に据えつつ、ピニャと日本を結びつける第三勢力構想を描いている可能性に思い至った。日本を敵から味方へ転じ、戦争終結を大義にピニャを担ぎ出す図式である。ディアボは、この構想においてピニャこそが帝位に最も近い存在だと認識した。
ディアボの焦燥と第四勢力構想
ゾルザルにも皇帝にも与し難いと悟ったディアボは、自身が主導権を握るため第四の勢力を模索し始めた。諸侯や国外勢力、日本内部の力まで視野に入れ、後継争いで主導権を得る道を考え続ける。
芸術の擁護者というピニャの答え
帝位を視野に入れていると見たディアボの問いに、ピニャは自らを芸術の擁護者と位置づけた。その答えは政治的野心とは異なり、ディアボの予想を大きく外すものであった。
テューレの怨念と戦争継続の策
一方、テューレはゾルザルを操り、自信過剰へと導いた過去を回想した。彼女の目的は講和阻止と戦争の永続であり、帝国と日本、元老院と帝室の対立を激化させ、ヒト種が滅び尽くすまで憎しみを煽ることであった。ノリコを帝室の手で殺させる策を命じ、復讐の完遂を誓うテューレの狂気が、さらに事態を深刻化させていった。
嘉納太郎の苛立ちとロシアへの拒絶
主要国の外相が集う会議の場で、嘉納太郎は通訳用インカムの不快感を覚えつつ、議論の緊張に神経を尖らせていた。ロシア外相が求めた、武装した外国軍の受け入れ要求に対し、嘉納は銀座が日本の政治経済の中枢である以上到底受け入れられないと明確に拒絶し、南オセチアでのロシアの軍事行動を引き合いに出して不信を示した。
水面下の支持と各国の思惑
外務次官から、米英独の概ねの賛同を得たとの報告を受けた嘉納は強気の姿勢を崩さなかった。「門」がもたらす莫大な利益に各国が群がる一方、戦災や日本国内の負担は軽視されていた。日本政府は総論では譲歩しつつ、各論では厳しい制限を課す方針を固めていた。
中国の監視要求と日本の反論
中国外相は、日本が特地で不正を行っているのではないかと疑念を呈し、監視のための部隊派遣を求めた。これに対し嘉納は、日本が民主国家であり、武力弾圧を行っていない事実を挙げ、受け入れには厳格な条件が伴うと宣言した。
日本が突き付けた厳格な条件
嘉納は、東京通過時には各国兵士が日本の法に完全に従うこと、武装の携行禁止、装備の厳重な管理と検査、違反時の即時射殺と高額な保証金支払いを条件として提示した。この内容に多くの外相が顔色を失い、アメリカのみが条約の存在から比較的冷静であった。
列強の反応と会議の決着
イギリスやドイツは少人数派遣での妥協を検討したが、フランス、ロシア、中国は大量投入を想定していたため反発した。フランス外相の再考要求に対し、嘉納は端的に拒否し、条件が問題ないなら罰則も問題ないと突き放した。この強硬姿勢をもって、その日の会議は終了した。
伊丹の逡巡とテュカへの不安
伊丹は世界情勢の動きと無関係にアルヌスの街を巡回していたが、柳田の言った金髪エルフがテュカである以上、嫌な予感を拭えなかった。伊丹はテュカに好意を持ちながらも、彼女が精神に不発弾のような危うさを抱えているため、事態を見たくない気持ちが勝ち、仮設住宅区画で行ったり来たりしていた。
街の生活と少年との会話が背中を押す
挙動不審な伊丹に、組合の少年が気軽に声を掛けた。少年は夜這いを疑うほどませていたが、伊丹は否定し、噂で傷つくのは女性だと諭した。少年とのやり取りを経て、伊丹は覚悟を固め、テュカの部屋へ向かった。
テュカの錯乱と伊丹の嘔吐
扉を開けたのはレレイで、室内にはロゥリィもいた。テュカは憔悴した状態から一転して伊丹に抱きつき、二人が父が死んだと言ったことを怒っていた。テュカは父が炎龍に殺された話を嘘だと断じ、伊丹を父さんと呼んで笑顔を向けた。伊丹はその視線に狂気を見て耐え切れず、部屋を出て吐瀉し、のたうち回った末にレレイの魔法で眠らされた。
目覚めと発端の説明
伊丹が目覚めるとロゥリィが状況を語り、テュカが取り乱したこと、レレイがテュカを眠らせるために手荒な対応をしたことが示された。レレイは発端として、ヤオという名のダークエルフを連れて来て宿を貸した件を挙げた。
ヤオの名乗りと悪意の告白
ヤオは姿を現し、ダークエルフのシュワルツの森部族デュッシ氏族デハンの娘ヤオ・ハー・デュッシと名乗った。ロゥリィとレレイが敵意を示す中、ヤオはテュカに父が炎龍に殺されたと吹き込んだ理由を、悪意があったからだと明言した。伊丹が大切にする三人を利用すれば、伊丹が動くと見込んだのだと語った。
復讐の論理と救いの嘆願
ヤオは、同胞を救うため自衛隊に頼み込んでも拒まれ続けたこと、冗談交じりにイタミなら動くかもしれないと言われたことを述べた。炎龍という明確な敵がいるのに手が届かない怒りは行き場を失うとし、復讐は遺された者の魂魄を鎮める儀式だと説いた。最後にヤオは伊丹の前で額を床に擦りつけ、テュカの件のついででよいから同胞を救ってほしいと懇願し、代償として自らを捧げるとまで言い切った。
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ヤオと柳田の策の失敗
ヤオと柳田は、テュカを壊して伊丹を炎龍討伐へ追い込む目論見を立てていたが、伊丹は逆に「父親役」を引き受けた。テュカが伊丹を父と誤認することで崖っ縁に留まれるなら、それに付き合うという選択であり、結果として二人の誘導は失敗した。
偽りの穏やかな十日間と悪化する歪み
伊丹とテュカは朝夕を共にし、伊丹は「自衛隊の仕事」と称して隊に戻り、夕方に帰る生活を十日ほど続けた。だが伊丹は撤収命令の可能性を抱え、いずれテュカを置き去りにする未来を思って追い詰められていた。さらに、テュカが父の記憶と伊丹の差異を無理に埋め続けることで、矛盾のストレスが頭痛や体調不良として増幅していった。
ヤオの呪いめいた警告と伊丹の苛立ち
街でヤオが現れ、「終わりはすぐそこだ」と呪いのように言い放つ。伊丹はそれに吠えて拒絶するが、状況が悪化している現実からは逃げ切れない。
柳田の挑発と伊丹の葛藤の言語化
柳田は伊丹の「家族ごっこ」を揶揄しつつ、捕虜返還第一陣の到着や講和協議の進展を告げる。柳田は国益と資源(石油・ダイヤ)を理由に、ダークエルフの件で恩を売るべきだと迫るが、伊丹は部下の命を賭けることを拒み、第三偵察隊の面々を具体的に挙げて「任務ならまだしも、自分の勝手で危ない思いをさせられない」と断言した。
一方で伊丹は、戦い方次第なら炎龍にも可能性があるのではないかと、洞窟のような狭隘地形への誘い込み、LAM直撃、毒餌や寝込みなど、具体的な手段を思考し始める。
酒盛りの配慮と伊丹の決断の孤独
伊丹はテュカを食堂の酒盛りに連れ出し、街の人々や第三偵察隊と馴染ませようとした。黒川が隣に付くことでテュカが「父さん、傍にいてよ」と言いにくくなり、伊丹は父親役から一時的に離れて考える時間を得る。ロゥリィとレレイは破綻点が近いことを理解しつつも、今は楽しい場を壊さないために口にしない。止めるか続けるかを決められるのは伊丹だけという構図が強調される。
母の記憶と「救い」の発想
伊丹は中学時代、暴力的な父を止めようとした母が包丁に手を伸ばし、結果として父を失い、母が現実否認の形で壊れていった過去を回想する。やがて母は措置入院となり、伊丹は「命令だから仕方ない」という言葉で自分を守り、重い扉の閉まる音を今も引きずっている。
この経験から伊丹は、テュカも放置すれば同じように破綻すると感じ、「救うなら今しかない」という切迫感を抱く。
ソーシャルワーカーの見解と区切りの必要
伊丹は精神医学ソーシャルワーカーに「父を殺された娘は敵討ちで救われるか」と問う。回答はケースバイケースだが、人が敵を追い求める心は本能に近いという私見が示され、裁きや処罰の過程が被害者側のカタルシスを支えること、復讐が虚しくてもその虚しさが「区切り」になり得ることが語られた。伊丹はその言葉を抱え、ドラゴン討伐に踏み出すべきか思索を深めていく。
義手義足の老人との対話と背中押し
深夜、診療施設前のベンチで伊丹は義足・義手で傷だらけの老人と会う。老人は炎龍の話に強く反応し、強大な敵には全戦力投入が定石だとしつつも、「無関係な他人を巻き込まない」発想として伊丹の二人出撃案を理解し、それは自殺に近いと指摘する。だが同時に「退けない時がある。自殺にならないよう工夫しろ」「馬鹿にならねば男はやっていけぬ」と言い、伊丹に覚悟を促した。
離陸直前の逸脱
翌朝、伊丹は第三偵察隊と共にチヌークへ搭乗し、帝都任務に向かう流れだった。見送りのテュカ、レレイ、ロゥリィを前に、伊丹は「ちょっと留守にするだけ」と自分に言い聞かせる。しかし後部ハッチが閉じる瞬間、伊丹は突如「降ります。後を頼みます」と桑原に告げ、指揮を放棄してヘリから飛び降りた。チヌークは伊丹を残して離陸し、第三偵察隊は飛び去っていった。
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任務放棄の解放と、テュカへの直截な約束
伊丹は帝都行きを止めたと告げ、鉄帽や手袋を外して「枷が外れた」ような解放感を得た。後悔の可能性を承知しつつ、悩み続けるより決断した現在の方が良いと感じていた。テュカは迷惑をかけた不安を見せながらも、独りにされない喜びが勝ち、伊丹に抱きつく。伊丹は「お前が笑顔で居られるほうが大事」「俺が一緒にいてやる」と励ますが、その言葉はテュカには口説き文句として響き、照れと動揺で「実の娘を口説いてるの?」と抗議しつつも、心は強く揺れる。
「一緒に行こう」――父親口調が呼び起こす一致
伊丹は呼吸を整え、「旅の支度をしろ」と少し父親を気取ってテュカを誘う。テュカは即座に喜び、行き先を尋ねて弾む。伊丹の「無理に父親を演じる声色」が、テュカの父ホドリューのそれと偶然重なっており、テュカの反応を決定的に強めた。伊丹は良心の痛みを押し殺し、南へ行くと告げ、テュカは「父さんとなら何処でも」と無邪気に支度へ走っていく。
柳田の現実提示と、伊丹の撤退不能
柳田は「任務放棄+単身ドラゴン退治」を無茶と断じ、内部的には停職・降格・配転の可能性を告げる。第三偵察隊を追って任務を果たしてからにしろという提案も出すが、伊丹は「私事に部下を巻き込めない」「時間の猶予がない」「先送りの後悔は嫌というほどした」と退け、物資準備(車両・武器・爆薬・燃料・食糧)とLAM最低十発以上を要求し、柳田に「つじつま合わせ」を押し付ける形で進める。
同行者が雪だるま式に増える
柳田が「二人分でいいのか」と含みを持たせた直後、ロゥリィが実力行使で介入し、伊丹に「巻き込め」と迫る。伊丹は口説き文句の形で「一緒に来てくれるか」と言わされ、ロゥリィは血を舐めて「契約完了」と宣言、柳田に「三人分」と通告する。続いてレレイも「生還率を上げるには魔法が必要」と同行を要求し、伊丹は押し切られて「四人分」とする。さらにヤオが現れ、土下座同然に「永久に御身の物」と忠誠を誓い、自罰的に囮でも良いと申し出る。伊丹は罰も憎悪も向けず、冷淡に「道案内をしろ」と役割だけ与える。結果は「五人分」となる。
柳田の激しい本音
柳田は、努力で出世してきた自分に対し、伊丹が「やる気がないのに偶然と戦果で同階級にいる」ことへの嫉妬と憎悪を吐露する。部下を得て命令できる立場になるために皆が競争しているのに、伊丹には自発的に付いてくる者が現れる、その不条理が許せないという叫びである。ただし吐き出した後は、出発の車両と物資を整え、表面上は収束させる。
出発準備と、テュカへの嘘
テュカがヤオを見て不安を示すと、伊丹は「故郷へ帰る途中で送るだけ」という嘘で説明し、レレイとロゥリィも黙って合わせ、ヤオも頭を下げて同調する。テュカは一瞬の不満を抱えつつも、友人たちとの旅の楽しみに切り替える。街の人々が見送りに集まり、柳田の高機動車が到着、レレイ・ロゥリィ・ヤオ・テュカが乗り込み、伊丹が運転席につく。全員が出発可能だと応じ、車両はアルヌスを離れた。
老人の正体が動き始める
診療施設の病室で、義肢と眼帯の老人は伊丹たちの出発を見送り、ナースコールで「一番地位のある人」を呼ぶよう求める。これまで「ただの農夫」と誤魔化してきたが、若者が勇気を示した以上、自分もぬくぬくしていられないと語り、何かを明かす決意を固めた。
デリラの幸福と、伯爵家からの秘密指示
一方、従業員宿舎で個室と待遇を得た給仕主任デリラは、夢のような生活を謳歌していた。しかしイタリカのフォルマル伯爵家から「秘密指示書」が届き、その内容は実行すれば自分が働けなくなるだけでなく、街の亜人全体の立場を失いかねないほどのものだった。関係性からして本来あり得ない命令にデリラは動けなくなり、相談先を探す中で、窓外を伊丹たちの高機動車が走り去る音を聞き、手を伸ばすようにその背を見送る。
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デリラの祈りと剣の誓約
デリラは小さな祭壇の前で複数の神名を唱え、燭台に火を灯して祈祷した。戦衣を纏い、隈取りを施し、媒で燻した抜き身の剣を掲げて「恐れや慈悲や迷いを捨て、敵を斬る剣となる」旨を誓った。これはヴォーリアバニーに伝わる祈りであった。
ヴォーリアバニーの社会と滅亡の経緯
ヴォーリアバニーは東北域の平原に部族国家を築き、女王を頂点とする体制で生きてきた。男が極端に稀少で、家という概念が成立しにくく、部族全体が家族として機能していた。だが女王の裏切りを契機に帝国軍の襲来を受け、狩猟のような掃討で捕縛・陵辱・耳の切断・奴隷売買が横行し、逃亡者も飢えと流転に追い詰められていった。誇りと女王への怨念だけが生存の支えとなった。
フォルマル伯爵家による庇護とデリラの決断
フォルマル伯爵家先代当主コルトは、ヴォーリアバニーを含む亜人部族を領内で保護し、不当な扱いを禁じた。流れ着いた者たちは痩せた山中の土地に集落を築き、条件を満たした者はハウスメイドとして雇われ、極貧からわずかに救われた。デリラは「恩に報いるため、伯爵家の命に従う」と迷いを断ち、剣を握った。
伊丹の単独行動の“合法化”と上層部の反応
柳田は伊丹の独断行動を、戦略資源情報の緊急性を理由に「桑原に指揮を委ね、現地協力者を得て資源調査へ向かった」という体裁へ整え、檜垣の決裁を得た。檜垣は葛藤を吐露しつつも承認し、柳田は「規則を破る理由と時期に人間の価値が出る」と持論を述べた。一方で今津は資源情報の遅れを嘆き、現地調査の必要性を改めて強調した。
狭間の判断と支援部隊の準備
柳田が陸将室で問い詰められる中、狭間は伊丹の行動根拠(訓令)を確認した上で、支援に踏み切った。第一戦闘団に伊丹支援の準備を命じ、空自にも不測事態(特地甲種害獣など)に備えた航空支援を要請した。さらに柳田へ「診療施設にいる会わせたい人物」として、エルベ藩王国の国王が入院中である事実を告げ、交渉役を命じた。
デュラン国王との取引交渉
柳田が面会すると、隻腕隻眼の国王デュランは病み上がりに見えない食欲を示しつつ、国内の有力貴族(クレムズン公爵・ワット伯爵)へ書簡を送るよう求めた。柳田は内政干渉を拒み、取引材料として「炎龍退治のための越境許可」を引き出しつつ、見返りに地下資源の採掘権と免税を要求した。交渉は拮抗したが、最終的に「金銀銅以外の地下資源一切+免税」を確約させ、代価として自衛隊がデュランの帰還護衛を行うことで合意した。
診療施設の実態と紀子の崩壊
アルヌスの医療施設は法的な届出を避ける事情から「診療施設」と呼称されていた。玄関先で喫煙していた紀子は、銀座事件以降、家族全員と連絡が取れず死亡した可能性が高いこと、家も火災で失われたことを知らされ、強い衝撃で感情が麻痺した状態に陥っていた。自分が自分でない感覚のまま、ふと「死んじゃおうか」と口にするほどに追い詰められていた。
ヴォーリアバニーの襲撃者と“テューレ”の名
紀子の前に、隈取りをしたヴォーリアバニーの女が現れ、紀子が「死にたい」と言うのを聞いて戸惑いながらも殺害を“手伝う”構えを見せた。紀子が何気なく「テューレに似ている」と口にした瞬間、襲撃者は凍り付くように反応し、空気が一変した。
柳田の介入と銃剣戦
そこへ診療施設から出てきた柳田が現場を発見し、即座に拳銃を抜いて制止した。柳田は躊躇なく発砲するが、襲撃者は跳躍と間合い操作で銃口線を外し、剣で肉薄した。柳田は偶然に助けられつつ前蹴りで距離を取ろうとするが、突進を捌ききれず脇腹を刺される。それでも柳田は背を向けた相手に弾が尽きるまで引き金を引き続け、激昂のまま応戦を続けた。
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地下倉庫での尋問開始
フォルマル伯爵家の老執事バーソロミューは、暗く湿った地下倉庫で椅子に縛り付けられ、ペルシアらに信箋の横流しを追及された。老メイド長は、公印の管理が執事にある点を根拠に問い詰めるが、バーソロミューは「知らない」と否認を続け、殴打を受けても口を割らなかった。アウレアの心読みも検討されるが、証拠能力の不足を理由に老メイド長が退けた。マミーナは怒りで手を出しかけるが、殺してしまえば口封じと疑われると制止された。
偽命令書の発覚と伯爵家の危機
アルヌスでは、デリラの事件が街に広まり、「柳田を刺した」という推測が定着した。警務隊は一般従業員を不問としたが、伯爵家の側は深刻であった。デリラの部屋から、伯爵家の信箋と公印を用いた「ノリコ暗殺命令書」が見つかり、伯爵家が日本側から疑われる事態となった。老メイド長は、真犯人が偽命令を送り込んだと判断し、内部調査に踏み切った結果、信箋と公印の管理に関わるバーソロミューが疑いの中心になった。
用賀の介入と指紋による圧迫
用賀二等陸佐と通訳の陸曹が立ち会い、暴力ではなく証拠で崩す方針が示された。用賀は命令書の写しを提示し、デリラ以外の指紋が二種あると告げ、バーソロミューの指紋採取を実施した。バーソロミューは激しく抵抗し、その態度自体が関与を示す形となったが、それでも沈黙を貫いた。
アミタール面接による自白誘導
医官が点滴針とチューブを用い、アミタールを静脈投与する手順を準備した。医官は「意志とは関係なく喋ってしまう」と事前に言い聞かせ、バーソロミューに「約束を破らずに済む」という逃げ道を与えた上で投与した。薬剤の効果により意識が朦朧とする中、用賀が質問を開始し、信箋流出の経路が判明した。ただし、流出先の「その者」はすでにイタリカの投宿先を引き払っており、追跡の糸は途中で途切れた。
今津の分析と対抗工作の方針
作戦幕僚第二科長の今津一等陸佐は報告を読み、講和妨害を狙う地下組織の存在を強く意識した。敵は紀子の存在と容姿を把握し得る立場にあり、さらにバーソロミューの借金と女癖という弱みを掴んで罠にかけたと整理された。会議では、伯爵家に情報を伏せつつ欺瞞情報を流し、伝達ルートを手繰って黒幕へ至る古典的手法が提案された。講和交渉団の到着予定などを餌に、敵の反応を引き出す方針が固まり、二科主導のカウンターテロが動き出した。
帝都支店での接触工作と潜入の進展
アルヌス協同生活組合の帝都支店では倉田が商人と雑談し、皇太子ゾルザル周辺への売り込み機会を探った。商人は、ゾルザルが非公式の宴席を各貴族邸で頻繁に開いていると漏らし、倉田は料理人の送り込みを提案して足掛かりを作った。臨時料理人として潜り込んだ古田は、客層の詳細を聞き出そうと動き、結果としてゾルザル本人に呼びつけられる。ゾルザルは古田の料理を気に入り、翌日の宮殿への出頭を一方的に命じた。さらに、ゾルザルに随伴するヴォーリアバニーの女が古田を値踏みするように見たことで、宴席の周辺に別の思惑が漂う状況が示された。
ファントムによるドラゴン戦力評価
特地の空を飛ぶ二機のファントムは、GPSも管制網もない環境で久里浜の緻密な航法指示により索敵を続けた。目標はドラゴンであり、目的は撃墜ではなく戦力評価であった。レーダー反射が低く発見が遅れる特性が確認され、神子田は背後から掠めて挑発し、旋回性能・上昇性能・急降下追従などを段階的に試した。ドラゴンは小回りが利き、翼のすぼめによる降下で優位を取る一方、上昇では振り切れないと理解してホバリングも見せ、知能も一定以上であると評価された。
チキンランと帰投後の損傷
神子田は最後に「スピリットのぶつけ合い」を確かめるとして正面衝突コースの接近戦を選び、ドラゴンの片目という特徴も把握した。結果として機首は高熱で焦げ、キャノピーは白濁し、電装品にも熱損傷が出た。整備班長は部品不足と危険性を怒鳴りつけ、神子田は「武器なしの勝負で火を噴いた」と憤るが、整備班長は相手が生物である以上そんな理屈は通らないと一蹴した。
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土砂降りによる停滞と行軍判断
土砂降りの中で高機動車は進路が水に浸かり、泥濘に車輪が取られて立ち往生した。伊丹は進退の危険を見てエンジンを止め、ヤオの「降り方は激しいが上がる時は早い」という見立てに従い、天候回復まで待機する判断を下した。待機中、伊丹は地図と方位磁石で現在地をPD座標で確認し、ヤオが噂を拾いながら迂回を重ねて一カ月かけてアルヌスに来た経路を聞き出し、炎龍探索の進路候補を整理した。
テュカの悪化と「目的」の共有不能
荷台には燃料タンク、LAM、爆薬、弾薬、水、食糧が積まれ、その隙間でテュカが眠っていた。アルヌス出発後、テュカの症状は悪化し、レレイが魔法で眠らせていたため、伊丹は旅の真意をテュカに伏せたまま進めざるを得なかった。伊丹は炎龍の出没域が「シュワルツの森を含む南部地域全域」と広いこと、炎龍の餌場習性からロルドム渓谷で待ち伏せが可能というヤオの提案を受け、巣の情報を得る目的も兼ねて渓谷へ向かう方針を固めた。
ロルドム渓谷の過酷な実態と包囲
シュワルツの森は車両通行が不可能な樹海であり、一行は迂回してロルドム渓谷へ到達した。渓谷は狭く深く、ダークエルフが隠れるには適しているが、食糧確保や生活には不向きで、増水で洞窟にまで水が侵入するため日常的に被害が出ていた。ヤオが先行して谷底へ下りた直後、伊丹たちは弓を構えたダークエルフに取り囲まれ、来訪目的を問われる状況に追い込まれた。
長老会議と「手段を問わぬ」倫理
洞窟奥でヤオは長老たちに、伊丹が「緑の人」の一人であること、炎龍討伐に動くに至った経緯、特にテュカに対して行った行為を包み隠さず報告した。だが長老たちはそれを咎めず、「使命のために不評を買おうとも手段を尽くすのは美徳」として評価し、責は部族全体が負うべきだと結論した。さらに炎龍討伐への助勢、テュカの保護、伊丹の軍での立場を悪くしないための「賞賛と感謝」の工作まで含め、現実的な支援策を次々と打ち出した。
炎龍襲来と即席の迎撃戦
渓谷に爆発音と叫びが響き、炎龍が突然舞い降り、ダークエルフの男を攫って咀嚼した。弓矢は鱗に弾かれ効果がなく、炎龍はテュカに狙いを定める。ロゥリィがハルバートで顔面を強打し転倒させ、レレイは連環円錐の爆轟波を放つが、炎龍は転がりつつ射線を外して回避し、戦いは膠着した。炎龍の反撃でロゥリィは衝撃を受けつつも立て直し、レレイは狙いを外されたことへの苛立ちを露わにした。
伊丹の告白とテュカへの現実強制
伊丹はテュカを抱えて伏せ、炎龍を見ろと顔を向けさせ、「父の仇だ」と現実を叩きつけたうえで、「俺は父親ではない」と決定的に告げた。テュカは恐怖と否認で錯乱し、助けを求めて泣き叫ぶが、父の矢羽に気付き記憶が蘇り、炎龍が仇であることを認識し始める。伊丹はLAMを取り出し、炎龍がそれを覚えている反応を見て、戦術的な糸口を掴む。
LAM射撃の強制と炎龍の退避
炎龍は空へ逃げ、高度を上げて離脱しようとする。伊丹はテュカに背後からLAMを構えさせ、照準を合わせ引き金を引けと怒鳴り、逃避を許さずに発射動作を完遂させた。弾頭は外れたが爆発音と衝撃は大きく、炎龍は結果として去り、渓谷には「追い払った」という報が広がった。これによりダークエルフは復讐戦への機運を高め、各所に隠れていた者たちが渓谷へ集結し始めた。
宴席の光と影、テュカの崩壊
歓迎の宴が用意され、ヤオは賞賛を浴びる一方、旅の間に失われた同胞の訃報が次々と突きつけられ、友人からの罵倒を受け止めることで自罰的に落ち着こうとする。伊丹の側では、泣き疲れたテュカが膝に縋って眠り、長老から「閉じ込めていた悲嘆が一気に噴き出す局面で、扱いを誤れば取り返しがつかない」と警告される。テュカは伊丹を父だと思い込むことで現実逃避し続け、伊丹は否定しても届かない状況に頭を抱えた。
明日の出立と卑怯な作戦の共有
長老たちは翌朝の出立に戦士を随伴させ、険路の案内と荷運びも含めて全面協力を申し出た。伊丹は炎龍不在時に巣へ潜入し、粘土爆薬(C4)75kgを仕掛け、帰還時に爆破するという凶悪で確実性重視の作戦を語り、長老たちはその発想を高く評価した。続けてレレイは炎龍の活動期・休眠期の話から「活動期には繁殖もある」と気付き、伊丹が最悪の事態(複数個体)を恐れて動揺するが、卵数や繁殖周期の説明で確率的に低いと整理され、場はひとまず鎮まった。最後に「不運」という語に周囲が反応し、ヤオが脂汗を流す空気が残った。
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ダークエルフ随伴と装備分配
伊丹は、炎龍に武器が通じにくいと理解しつつも、ダークエルフたちが武装して同行することを受け入れた。ヤオは九名の同胞を引き連れ、年齢や立場の違いを含めて紹介した。伊丹は荷物としてLAM(110mm個人携帯対戦車弾)と粘土爆薬一式を分配し、運搬を任せた。
LAMの安全教育と部族気質
伊丹は武器を預ける以上、暴発や誤使用を避けるため、LAMの扱いを基礎から説明した。後方噴射(バックブラスト)の危険、引き金の管理、プローブの設定などを反復して教えた。一方で、ダークエルフたちは露骨な冗談を交えながら騒ぎ、伊丹は文化差に居心地の悪さを抱いた。
偽装行軍と洞窟への接近
伊丹は徹底した偽装を施し、レレイの魔法で眠らせたテュカを背負ってテュバ山麓から登攀した。ロゥリィ、レレイ、ヤオたちも獣脂を塗るなどして匂い対策を行い、三日かけて中腹へ到達した。案内役クロウの証言から、洞窟が噴火口内部へ通じ、岩棚に炎龍の巣があることを把握した。
留守確認と洞窟侵入の決定
伊丹はロゥリィを外で警戒役に置き、無線で連絡する手筈を整えた。ヤオとクロウが偵察し、炎龍が巣を留守にしていると報告したため、伊丹は爆薬設置を実行に移した。夕刻、戦闘糧食の加熱などを挟みつつ、伊丹たちは洞窟へ入った。
炎龍の巣と爆薬設置作業
洞窟内部は溶岩の造形で神殿めいた構造を成し、火口へ出ると広い岩棚に足跡や卵殻、過去の挑戦者の武具が散乱していた。伊丹は粘土爆薬を練り、電気雷管と母線を組んで設置を進めた。殺傷力を増す意図で、散乱していた剣類を爆薬上に並べ、爆発時の飛散体として利用した。発破母線は外から見えぬよう埋設し、起爆器に接続して準備を完了させた。
無線不通と炎龍帰還のズレ
火口内では岩盤の影響で無線が通りにくく、ロゥリィとの連絡が途絶した。ロゥリィは外から炎龍の接近を確認し警告を送ったが、返答が得られず、洞窟口へ走った。結果として、外の警戒と内部作業が噛み合わないまま、炎龍が巣へ戻る流れが生じた。
巣での遭遇と暴発的な開戦
爆破準備を終えた伊丹が顔を上げた時、目の前には炎龍がいた。双方が一瞬硬直する中、耐え切れなくなったコムがLAMを至近で発射し、炎龍の喉元で炸裂させた。だが炎龍は即座に反撃し、コムは爪で上半身を吹き飛ばされ死亡した。さらにバックブラストでバンとナユが致命傷を受けるなど、伊丹の安全教育が守られぬまま被害が拡大した。
混乱下のLAM運用と犠牲の連鎖
生存者たちは動転し、安全装置やプローブ設定を誤ったまま乱射し、爆風や破片が味方にも被害を及ぼした。炎龍も爆発の衝撃で苦痛は受けたが、鱗の構造が緩衝となり致命傷には至りにくかった。ノッコやメトも戦闘の中で倒れ、伊丹は自ら正しい手順でLAMを構えようとしたが、飛ばされてきたセイミィに阻まれた。
セイミィの一撃と装甲貫通の確証
セイミィは伊丹のLAMを拾い、至近で発射して炎龍の脚部を貫通させた。メタルジェットが鱗を破り、肉片が散るほどの損傷を与え、炎龍に「通る攻撃」が成立することが確定した。だが直後、炎龍はセイミィを噛み砕き、戦況の苛烈さは変わらなかった。
テュカの再覚醒と父の喪失の再体験
眠りから覚まされたテュカは、幻のような日常から一転し、炎龍が仲間を喰う現実を突き付けられた。恐怖で身体が硬直し、父の死の記憶が重なって自己責任へと意識が傾いた。レレイは、殺したのは炎龍でありテュカではないと断じ、怒りの矛先を自分に向ける心理を言語化して制止した。
レレイの発想転換と剣の投射
レレイは魔法で剣を加速しても鱗を貫けない現実を確認し、爆発の力で剣を投射する発想へ切り替えた。連環円錐の術式を組み合わせ、剣を衝突の瞬間に爆ぜさせることで、剣先を炎龍の鱗へ食い込ませることに成功した。小さな棘のような刺傷であっても、無敵の誇りを傷つけられた炎龍は動きを止め、レレイは勝機を確信した。
戦士たちの剣の集積と決意の高揚
レレイは散乱する無数の剣を空中に浮かべ、倒れてきた戦士たちの無念を束ねるように炎龍の頭上へ集めた。炎龍がLAMを恐れ、回避しようとする兆候も現れ、残存者は「いける」と手応えを掴み始めた。戦いは、ここから決定局面へ移行していった。
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伊丹の復帰とセイミィの最期
伊丹は眩暈と砂埃の不快さの中で意識を取り戻し、自分が仰向けに倒れていたと把握した。腕枕の距離にあったセイミィの視線が動かないことで、彼女が既に屍体であると理解した。伊丹は瞼を閉じてやり、胸元が破壊された現実から「もう目覚めない」ことを突き付けられた。直後、爆音と破片が降り注ぎ、戦闘が継続している現実が伊丹を引き戻した。
発破器の喪失と「役割」への回帰
伊丹は匍匐で発破器とリールを探し当てるが、発破母線が途中で切断されており起爆不能となった。仕掛けた爆薬が使えない以上、LAMと残存戦力に賭けるしかなくなる。動けるのはクロウ、フェン、ヤオの三名のみで、いずれも満身創痍であった。ヤオは伊丹の教えを守り、プローブ展開と安全装置Fへの切替まで正確に行ったが、狂乱した炎龍は巨体を壁に叩きつけて回避し、崩落が火口内に連鎖した。
母線修復への突入と炎龍の逃走兆候
フェンの特攻で戦況がさらに逼迫し、伊丹は躊躇すれば次はレレイやテュカに死が及ぶと直感した。伊丹は反射的に訓練動作へ移り、発破器・リール・ニッパを手に炎龍の足下へ走り込んだ。埋設箇所を掘り返して断端を探し、被覆を剥いて母線を接続し直す作業を敢行した。炎龍は悲鳴を上げ、翼を広げて離脱を試みる兆候を見せた。
レレイの剣雨と誘導爆裂
母線を伸ばす伊丹の背後で、レレイが嘲笑と罵倒を交えつつ上空に無数の剣を吊り上げた。伊丹たちは巻き込まれまいと伏せるが、剣は重力落下ではなく、炎龍へ向けて全方位から誘導されて突進した。爆発の勢いで投射された剣の大半は砕けたり弾かれたりしたが、膨大な本数ゆえに「刺さる剣」も生まれ、特に翼を集中的に裂いたことで炎龍は浮力を喪失した。
炎龍墜落と追撃の危険
墜落の衝撃で岩棚に亀裂が走り、炎龍は多量出血と穿孔で弱体化したように見えた。クロウとヤオは勝利を確信して剣を抜き突進するが、伊丹はなお危険と判断して制止した。クロウは止まらず、鱗に剣を叩きつけて連打し、隙間をこじ開けようとしたが、虫の息でも炎龍は炎を吐き、クロウを焼き殺した。伊丹はヤオを押さえ込み、巻き込まれる連鎖を止めた。
テュカの決断と雷撃による崩壊誘発
テュカは、炎龍に背を向けた伊丹の姿が父と重なり「父さんが死んじゃう」と恐怖が一点に収束した。弓も剣もないまま、精霊魔法だけで前に出て、二節で雷撃を召喚した。直後、洞窟内部は支えを失ったように崩れ始め、床に亀裂が走って地割れが拡大し、四人を奈落へ引きずり込む状況となった。
崩落からの全力撤退と生還の実感
伊丹はヤオの頬を叩いて正気に戻し、動けないレレイを担ぎ、テュカを急き立てて洞窟を疾走した。神殿めいた階段や床は走り抜けた端から崩落し、瓦礫は深い暗黒へ吸い込まれた。テュカが足を滑らせ転落しかけるが、伊丹が手を掴み上げ、ヤオも加勢して引き上げた。死の追跡に追い立てられながらも四人は外へ脱出し、テュカは「死なせずに済んだ」「父の敵を討った」という確信と、伊丹の手の感触から生存を噛み締めた。
外での合流とロゥリィの惨状
外気に触れた伊丹たちは、倒れ込むように地面へ横たわり、生存だけを短く確認した。遅れてロゥリィの声が届くが、伊丹の視界に入ったのは黒フリルの塊のように転がる彼女の惨状だった。全身が裂けるほどの損傷と出血を負いながらも回復が進んでおり、伊丹は抱き起こして左腕を付け合わせ、傷口が接合し始めた。
新たな敵の登場
背後から嘲る声がかかり、伊丹が振り返ると、山の中腹に白ゴス風の神官服をまとった女性が立ち、二頭の新生龍を従えていた。ロゥリィを「お姉さま」と呼び、ヒト種に心配されるほど腕が鈍ったのではないかと挑発し、場に新たな脅威が現れた。
17
ジゼルの正体と威圧
白ゴスの女は、深褐色の肌と刺青、縦割れの金眼を持つ竜人系の使徒ジゼルであった。礼儀を装おうとして言葉が崩れ、荒っぽい罵倒が漏れる。大鎌を担ぎ、危険な気配をまといながらロゥリィに「主上ハーディの妻になる身」として振る舞うよう迫った。
ロゥリィの衰弱と伊丹への依存
ロゥリィは腕が繋がったばかりで力が戻らず、ハルバートを持ち上げるのも困難であった。主神はエムロイであり、ハーディの妻になる気はないと反発する。精神的にも追い詰められ、伊丹に縋って泣き出しそうになる。ジゼルはロゥリィには敬意を残すが、伊丹には露骨に蔑視し、寝取りを疑って脅迫した。
伊丹の時間稼ぎとジゼルの事情説明
ロゥリィの「時間を稼げ」という囁きで、伊丹は質問を申し出る。ジゼルは面倒くさがりつつ律儀に応じ、ハーディに仕える使徒で、竜人出身の亜神、かつ現世で最も若い使徒だと明かされる。ハーディが女性で、ロゥリィを嫁に望んでいること、しかしロゥリィ本人は拒絶していることが示される。ジゼル自身は男が好みであり、主命と個人感情の板挟みで苛立っていた。
ロゥリィ負傷の真因と新生龍の切り札
ジゼルは、ロゥリィがあれほど損傷したのは「伊丹の傷をロゥリィが肩代わりしたから」だと言い切る。伊丹は大怪我が少ない理由を突き付けられ、ロゥリィの軽い態度に強い動揺を覚える。ジゼルは、炎龍を起こし、水龍と番わせ、卵を産ませて育てた二頭の新生龍(赤と黒)を従え、これでロゥリィにも勝てると豪語する。
ヤオの糾弾と信仰の亀裂
ヤオは、炎龍を起こしたのがジゼルかと詰問し、同胞が滅亡に追い込まれた理由を問う。ジゼルは「親分が黒と言ったら白でも黒」「死ねと言われたら黙って死ぬのが信仰」と言い放ち、信徒の祈りに神は耳を貸さない、信徒は炎龍の餌になってろとまで侮辱する。ジゼルが炎龍の餌がダークエルフだったことすら知らなかった事実は、ヤオの信仰を決定的に揺さぶり、怒りと絶望を噴出させる。
交錯の開戦と伊丹の介入
激昂したヤオが斬りかかるが、ジゼルの大鎌が先に振り下ろされる。伊丹は巻き込まれるのを避けるためヤオを抱えて倒し、刃は皮一枚で逸れる。ロゥリィもジゼルに斬りかかるが、赤龍が爪で割り込み、黒龍も牽制に回る。伊丹は9mm拳銃で赤龍を牽制するが、鱗は貫けず、結果としてジゼル側に「伊丹を敵」と認識させてしまう。レレイとテュカは黒龍に抑えられ、戦力化できない。
伊丹のはったりとロゥリィの演出
新生龍に銃が効かないと見た伊丹は銃口をジゼルへ向ける。ジゼルは伊丹の目を気に入り、ロゥリィは「炎龍を倒した男」と持ち上げる。伊丹は本心では自分の手柄ではないと理解しつつも、ロゥリィの負担軽減のため虚勢を張り、火口に死体があるはずだと説明する。黒龍が確認に向かい、直後、親の死を告げる叫びが響き、ジゼルは「伊丹の力」と誤認を深める。ロゥリィは伊丹に腕を絡め、眷属の契りと伴侶の関係を誇示して挑発を重ねる。
逃走への急転と空の迎撃
ジゼルが二頭の新生龍に追撃命令を出し、空から火を浴びせようとした瞬間、空対空ミサイル(サイドワインダー)が飛来し新生龍を爆炎で包む。続けて20mmバルカンの掃射で空中制御を奪い、地上では七五式自走155mm榴弾砲の集中砲撃が山麓を耕す。さらにAH-1コブラのTOWミサイルが追撃し、二頭の新生龍は肉塊へ解体される。伊丹側は、戦う前提ではなかったため、ロゥリィを抱えて全力で逃げ、ヤオはレレイを担ぎ、テュカも走って離脱した。
ジゼルの恐怖と敗北観の提示
爆撃に巻き込まれたジゼルは、遠方攻撃の正体を見誤り「これがイタミヨージの力か」と震撼する。血と破壊の中でロゥリィが探し回る姿に、ジゼルは自分が狩られる側に回ったと悟る。亜神は死なず、敗北とは自由を奪われ長期幽閉されることだと語られ、ロゥリィの「幽閉してあげる」という呼びかけがその恐怖を具体化する。ジゼルは勝てないと判断し、泥にまみれてでも逃走を最優先に切り替えた。
戦いの終わったテュバ山麓
戦後処理と静かな余韻
戦闘が終結したテュバ山麓では、第一戦闘団の隊員たちが新生龍の遺体確認を進め、上空を旋回していたファントムは離脱した。火口内部から炎龍の死骸が発見され、テュカの敵討ちが完遂されたことが確認される。自衛隊は犠牲となったダークエルフの遺体を丁重に収容し、炎龍と新生龍二頭の遺体は研究目的で搬出準備が行われた。伊丹たちは肩を寄せ合い、ただ呆然とその光景を眺めていた。
疲労の中の生存実感
テュカとレレイは伊丹にもたれ、ロゥリィは伊丹の膝で眠り、ヤオは背中を預けて虚ろに座っていた。神に裏切られた衝撃を抱えるヤオの疲弊は深い。伊丹は「生きてるな」と呟き、テュカだけが静かに応じる。敵討ちを果たした事実だけが、簡潔な言葉として交わされた。
ささやかな関係の変化
テュカは伊丹を「父さん」と呼ぶのをやめないと告げ、伊丹はそれを受け入れる。感情を動かす余力もなく、伊丹はその呼び名を許容した。
処分と表彰の同時到来
帰還後、伊丹は檜垣から停職二週間と減俸一か月、第三偵察隊隊長解任という処分を告げられる。部下を置いて動いた結果であり、伊丹は黙って受け入れた。直後、狭間陸将が現れ、日本人拉致被害者救出の功績による一級賞詞が授与される。さらにエルベ藩王国王デュラン、ダークエルフ族長会議、各地から感状と称号、金剛石の原石、ヤオの権利証までが次々と手渡された。
新たな任務
多方面からの評価を受けた結果、伊丹には「特地資源状況調査担当」という新任務が命じられる。停職明けから特地を巡り資源調査を行う役割であり、伊丹はこれを受諾した。
ベルナーゴ神殿への招待
最後に届いた黒い羊皮紙の手紙は、ハーディの神殿ベルナーゴからの招待状であった。伊丹は警戒するが、ロゥリィは同行を強く勧め、自らの意思を直接伝える好機だと語る。レレイは学都ロンデルで導師号申請を行うため同行を希望し、テュカも立ち会いを約束する。
ヤオの決意と信仰の転換
ヤオは自らの名を改め、ロゥリィを主神とする直信徒になる決意を示す。祈りに応えぬ神より、言葉を交わせる亜神を信じると宣言し、仲間たちはその選択を受け止めた。
ロゥリィの未来像
陞神後に何の神となるか問われたロゥリィは、予想が飛び交う中で小さく「愛」と答える。その言葉は一同を沈黙させるほど意外であった。
母との再会へ
一行が辿り着いたのは、農村地帯の森に囲まれた古い病院であった。そこには伊丹の母が入院している。躊躇する伊丹を、テュカは約束として背中を押す。逡巡する間も与えられず、仲間たちは伊丹を蹴り出し、彼は半ば強引に母と向き合う一歩を踏み出すことになった。
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