簡単な感想
異世界に迷い込んだら、美人な同級生と合流。
普通なら嬉し恥ずかしな状況だが・・・
宏は重度の女性恐怖症だった。。
読んだ本のタイトル
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 1
著者:#埴輪星人 氏
イラスト:#ricci 氏
あらすじ・内容
不慮の事故で飛ばされた異世界は、人気VRMMO『フェアリーテイル・クロニクル』そっくりの世界だった。ゲーム内で生産職人として高いスキルを保持していた宏は、そこで再会したクラスメイトの春菜と共に自給自足の生活を開始することになるのだが……!? 「モノづくり系」異世界ファンタジーの始まり始まり。
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 1
感想
中学の時に教師と女子生徒からイジメを受けたせいで女性恐怖症になった宏。
両親は芸能人で本人も容姿が優れており学内カーストトップだった春菜。
そんな2人がゲームみたいな世界にいきなり来て協力して異世界を過ごして行く。
そこで判明する彼等の装備は全くないが、身体能力とスキルはゲームの時のまま。
それで宏は解毒薬を作ると効果が高過ぎて凄い事に、、
そんな事があったが、二人は冒険者と屋台をしながら生計を立ていた。
ある日、彼等は服を自作するために蜘蛛のモンスターが蔓延る森に行ったら、蜘蛛に捕まった人を見付けてしまう。
そして彼等を助けた事で物語が始まる。
繭の中から王女エアリス、騎士?ドーガとレイナを救出。
エアリスは宏と春奈に懐き、日本食にドハマりするw
盗賊団に攫われた人達を救出するためにアジトへ突入すると。
そこに拘束されていた、知り合いの達也と澪と合流。
ついでに、ドーガの元にいた真琴とも合流してメンバーが揃う。
最後までお読み頂きありがとうございます。
登場キャラクター
東宏
無表情かつ実直な性格を持つ上級生産職人であり、異世界において多岐にわたる製造技術で活躍した。
・元は日本の高校三年生で、VRMMO『フェアリーテイル・クロニクル』の上級クラフト職プレイヤー
・異世界に転移後は、初期装備とスキルを活用してサバイバル生活を開始した
・ポーションや装備の製作、食料調達、鍛冶、道具製作などに関する圧倒的技術を披露し、街の機構職員や冒険者に一目置かれる存在となった
・過去の女性関係におけるトラウマから、女性に対して深い不信感を抱いている
・王族エアリスの姉・エレーナ王女の治療依頼を受け、王宮問題にも関与し始めた
藤堂春菜
明朗かつ優秀な文武両道の少女であり、異世界においても現実的な判断力と対応力を発揮した。
・元は宏の高校の同級生であり、現実では関わりの薄い存在だったが、ゲームを通じて再会した
・異世界転移後は、バランス型の戦闘職として宏を支援し、回復・魔法剣・補助魔法など多様なスキルを駆使した
・語学や経済観察力にも優れ、街の市場調査や交渉を主に担当した
・宏に代わって制度への登録なども代表して行い、政治的・宗教的背景に対しても警戒を怠らなかった
・王家の事情や冒険者協会との交渉でも冷静に立ち回り、信頼を集めた
エアリス
ファーレーン王国の第五王女であり、姫巫女としての特殊な立場を持つ高貴な少女。
・ピアラノークの巣から繭の中で救出された後、記憶と状況を整理しながら慎重に行動した
・救出者である宏と春菜の食事を通じて警戒を和らげ、交流を開始した
・日本文化や食事に興味を持ち、そばやおでん、たこ焼きなどを通じて信頼を深めていった
・宏と春菜に正体を隠すための偽名「エル」を使用し、一時的に街での庇護を受ける立場となった
・姉エレーナの病を心配し、宏に治療を懇願するほどの信頼を寄せるようになった
ドーガ
エアリスの側近であり、忠義心の厚い騎士である。
・繭の中から救出された三人のうちの一人であり、最も冷静な判断力を持つ男性騎士
・宏に対して当初から敬意を払い、レイナの暴走を叱責するなど、礼節を重んじた対応を貫いた
・王族の事情を宏たちに明かし、情報共有と信頼構築の橋渡し役を担った
・偽名「ドル」を用いて街中での行動に対応し、宏たちと協力体制を築いた
レイナ
エアリスの護衛騎士であり、強い正義感と男性不信を併せ持つ女性剣士。
・宏に剣を突きつけるという暴挙に出たが、その背景には過去の経験とエアリスへの忠誠があった
・春菜によって制裁を受けた後、深く反省し謝罪した
・偽名「リーナ」を使用し、以後はエアリスと共に行動するが、監視下に置かれる立場となった
・自らの過失を省みつつ、宏への信頼を回復しようと努める姿勢を見せている
達也
冗談や演出を好む一方で、状況に応じた判断力と調整能力を持つ柔軟な人物である。
・異世界転移後は短期間で仲間たちに合流し、情報整理や今後の行動方針の確認に貢献した
・「まぜるんば」の演出など、場の空気を和ませるための行動を積極的に行った
・日本文化の紹介やアイテム開発にも関心を示し、チームの潤滑油的な役割を果たしている
真琴
内向的な過去を持ちつつも、異世界での経験を経て精神的に成長を遂げた少女。
・ドルガに保護されてからの護衛任務や戦闘任務を通じて、現実での引きこもりを克服した
・希少素材「神鋼」を求めていたが、宏の手で精製可能であると知って驚愕した
・他の女性陣との関係性や日常会話においても自然に溶け込み、交流を深めている
澪
寡黙で感情表現の少ない少女であり、異世界転移後に達也と共に行動していた。
・病歴に関する話題や髪型に対する関心が描写されており、他の女性陣との関係性も良好である
・装備整備の必要性を理解し、宏との協力体制の中で役割を果たしつつある
レイオット
ファーレーン王国の第一王子であり、王太子としての冷静な判断と高い行動力を備えている。
・エアリスの身柄を宏たちに預けたまま、エレーナの治療を依頼するため訪問した
・宏の人柄と能力を見極め、信頼に値すると判断したうえで、国王に掛け合って許可を得た
・公式・非公式の態度を使い分ける柔軟さを持ち、たこ焼きなどの日本文化にも関心を示した
エレーナ
ファーレーン王国の第二王女であり、姫巫女候補の一人として重病に苦しんでいる存在。
・現在は病状が悪化しており、レイオットやドーガの尽力により宏の治療を受ける段階にある
・直接の登場はないが、王家の権力構造と姫巫女制度の中核を担う人物として描写されている
展開まとめ
ファ ーレ ーン編
プロロ ーグ
現実世界での関係と意外な再会
東宏と藤堂春菜は、偶然VRMMO『フェアリーテイル・クロニクル』内で再会し、ゲームを通じて言葉を交わした。東は地味で冴えない高校三年生、春菜は文武両道の才媛であり、美貌と海外の血を持つ少女であった。本来ならば交わることのない二人が、ネットゲーム内での共通点をきっかけに微妙な距離感を保ちながら会話を交わした。二人とも受験生でありながら、勉強との両立を図りつつログインしていた。
ゲーム内の異変と宏のログイン
東は、受験勉強の合間に『フェアクロ』へとログインし、日頃の仲間たちと談笑しつつ、ポーションの取引や初心者向け装備の提供を行った。彼は上級生産職人として多くのアイテムを製作・保有していたが、その希少性や市場価値には無頓着であった。仲間たちは彼の膨大な在庫と生産技術に驚きを隠さず、生産の厳しさや素材確保の困難さを語り合った。そんな中、宏のもとに文字化けしたメールが届き、それを運営に報告した直後、突如としてクライアントに異常が発生した。
強制転移と異世界での目覚め
転送石の使用中にシステムが暴走し、文字化けした転送先へと強制的に転送された宏は、目を覚ますと異世界と思しき森の中にいた。着ているのはゲームの初期装備であり、手持ちの装備は貧弱なナイフ一本のみであった。現実との区別がつかないほどの臨場感や痛覚の再現性から、彼はゲームではない現実世界に近い何かに転移させられたことを理解した。
春菜との再会と初戦闘
森を彷徨う中、宏は熊に追われる春菜と遭遇し、反射的に彼女を庇って熊に立ち向かった。二人は初期装備とゲーム時代のスキル・パラメータを駆使して協力し、どうにか熊を倒すことに成功した。お互いに異世界転移の経緯を確認し合い、装備もアイテムも所持金も失った状態であることを把握した。会話は距離を保ちつつも、互いの立場を尊重したものとなった。
現実の身体とアバターの差異
春菜は自分のアバターと異なる現実の容姿を宏に確認し、アバター外見が反映されず素顔であることに落胆した。芸能人の母を持つ彼女にとっては、素顔の露出が予期せぬリスクとなり得る。さらに、ゲームの初期衣装が現実では露出度が高く、現実的な羞恥心を引き起こすという問題にも直面した。
サバイバル開始と職人スキルの活用
生活基盤の整備のため、宏は熊の毛皮を利用して鞄を作ることを決意した。針は魚の小骨で代用し、糸はウサギの毛から自作した。春菜も料理スキルを活かして魚を捕らえ、干物の準備を行った。当面は道具の自作と薬品の製造によって貨幣を得る必要があると判断し、街を目指すことが当面の目標となった。
異世界生活の幕開け
必要な機材の自作や素材収集、そして生活の安定に向けた計画を立てながら、宏と春菜はサバイバル生活の初日を共に過ごすこととなった。現実か夢かも判然としない異世界に投げ出された中、彼らは互いに助け合いながら、この世界での生活を始める覚悟を固めつつあった。
ファ ーレ ーン編
第一話
現実の受容と目的の確認
異世界に転移した東宏と藤堂春菜は、現状を受け入れた上で日本に帰る手段を探すことを最終目的に設定し、情報収集と金策の必要性を確認した。まずは近隣の街に入るため、熊の内臓から特殊ポーションを作成し、所持金の代わりとなる物品を確保することとした。宏はエンチャントやクラフトを駆使して乳鉢を自作し、ガラス瓶も薪と石から精製して製造した。
素材採取とポーション製造
春菜は植物系素材の採取を担当し、宏はその間に薬草の選別、鍋や道具の整備を行い、心臓や肝臓などからストレングス・バイタリティ・毒消しといったレベル3の特殊ポーションを製造した。完成した薬は効力・精度ともに高く、宏はその背景に自身の高い生産スキルとエクストラスキルの影響を自覚していた。
能力とステータスの開示
互いの信頼を深めるため、春菜はステータスや習得スキルの共有を提案し、宏はためらいながらも自身のスキル構成を明かした。宏は一次加工から最終製品スキル、生活系スキルに至るまで多数のスキルを上級カンストしており、放置訓練やメイキングマスタリーの取得によって高効率で育成してきた経緯を語った。また、宏はエクストラスキルを複数保持しており、その一部は神の名を冠する製造スキルであった。
春菜の能力と役割
春菜もエクストラスキル「神の歌」を習得しており、バフ系の補助魔法を中心とした遊撃型のバランスファイターであることを明かした。回復・攻撃・魔法剣も習得しており、得意武器は細剣。戦闘時の基本的な役割は、宏が敵の注意を引きつけ、春菜が補助と支援を行う連携スタイルであることを確認した。
再出発と街への移動
二人は野営地を片付け、街を目指して出発した。道中、春菜の希望によりレベル2ポーションを追加で製造した後、未整備の街道に合流し、街の方向が不明なまま進行を開始した。適当に選んだ道を進む中で、ポイズンウルフの毒に倒れた冒険者とその仲間に遭遇し、宏が製造した毒消しポーションで命を救った。
冒険者との接触と正体の示唆
命を救った礼として、彼らからウルスへの同行と情報提供を受けることとなり、宏と春菜は状況説明を行った。彼らの異世界からの来訪と見られる言動に対し、冒険者ランディとクルトは、最近噂されている「異世界転移者」の存在と王宮による保護制度の情報を提供した。宏と春菜は、この話が単なる噂ではなく、実際に国家機関が関与していることに疑問を抱いた。
実力の一端と街への同行
春菜は「神の歌」によって一帯の動物さえも魅了する歌声を披露し、ランディたちにその実力を印象付けた。彼らは自らを単なる迷子と称しながらも、圧倒的なスキルと技術をさりげなく見せることで、異世界においても一目置かれる存在であることを暗に示した。こうして、宏と春菜は冒険者たちの案内でウルスの街へと向かうこととなった。
ファ ーレ ーン編
第二話
ウルスの街と異世界の常識
宏と春菜は冒険者ランディらに連れられてウルスの街へ到着した。城壁は低く簡素でありながら、通行のための身分証提示という文化の違いに戸惑った。ランディらの紹介により、彼らは街への入場を許可され、衛兵の手引きで異世界転移者保護のための施設「異世界人保護・管理機構」の支部へと案内された。
異世界人保護制度の実態
機構の職員であるギルマス風の男性は、穏やかな物腰で対応したが、制度そのものが管理と統制の意図を含むものであると感じさせた。制度は異世界からの転移者の監視と保護を名目としており、国王が直接関与していると語られた。宏はこの制度の裏に潜む政治的意図や宗教的構造に対して危機感を募らせた。
異世界転移の制度的背景と神の干渉
異世界転移は女神ファーレーンによってもたらされた現象とされ、国家もそれを公認していた。転移者は記録と検査を受けた上で、身元保証と訓練、就業支援などが提供される制度の枠内で扱われることになっていた。国家と宗教機構が一体で管理していることから、宗教的統制を強める意図が見え隠れしていた。
登録と義務の確認
春菜が代表して登録手続きを進める中、宏は制度の正当性や安全性に対し根強い疑念を抱いていた。職員は強制ではないとしながらも、未登録者に対する社会的制約や生活基盤の不備について強調し、結果的に登録を促す構造を取っていた。春菜は協力的な態度を保ちつつも、内心では制度への警戒を強めていた。
施設内での支援と疑念の深化
施設は異世界人のための衣食住を整え、教育・職業支援を提供していたが、その一方で過度な同化や信仰の強制のような空気も存在した。宗教施設が併設され、神の教えを学ぶことが重要視されていた。宏と春菜はこの“保護”の名の下に行われる監視と干渉に不信を抱きつつも、当面は協力の姿勢を見せることで干渉を最小限にとどめる道を選んだ。
日常生活と今後の準備
生活環境が整うと、春菜は語学や生活知識の習得に励み、宏は設備の整った作業室を借りて鍛冶と薬品製造に取り組んだ。自立の準備を進める中で、制度や宗教勢力との距離感を慎重に測りながら、二人は新たな生活とこの世界での目的を改めて見据えた。彼らは一見受け入れたように見えながらも、その裏では静かに警戒を深めていた。
ファ ーレ ーン編第三話
適応訓練と生活環境の拡充
異世界人保護・管理機構の施設内において、宏と春菜は数日間の適応訓練を受けた。訓練内容は言語、通貨、マナー、宗教観など多岐にわたり、春菜は非常に優秀な成績で課程を終了した。宏は言語以外の生活全般において高水準の技術を示し、特に料理・薬品・道具製作において他の追随を許さなかった。職員はこの万能さに驚きを隠せなかったが、宏はそれを軽く受け流しつつ、今後の活動に向けた準備を整えた。
街中の見学と機構の狙い
訓練の一環として街の市場を見学する中で、春菜は商品の相場、物価、流通構造を観察し、宏は素材の入手先や品質を調査した。施設側のガイドは二人の動きや会話を逐一観察しており、施設の目的が「保護」ではなく「監視と囲い込み」にあると宏は認識した。教会や宗教施設の存在感も強く、異世界人の「信仰による囲い込み」が進められていることも明白であった。
移動と移住に向けた交渉
施設内での生活は快適であったが、宏と春菜は早期の独立を目指していた。特に宏はこのまま施設に留まれば、宗教的・政治的勢力に組み込まれる危険があると判断し、機構職員に街での居住と活動の許可を求めた。職員は一時的な外出許可を渋々認める形で許諾し、その代わりに彼らの活動を支援するという名目で監視を継続することとなった。
住居確保と独自活動の開始
春菜が不動産業者と交渉し、街中にある築浅の店舗付き住宅を確保した。家賃は安くはなかったが、十分な広さと防音構造があり、工房兼住居として最適な条件であった。宏は設備の整備と素材の買い付けに集中し、春菜は生活必需品の調達と市場調査を担当した。二人は役割を明確に分担し、今後の活動の拠点を完成させた。
製造と販売への試作
宏は早速、薬品・調味料・保存食・石鹸などを試作し、その品質と効果は市場の水準を大きく上回るものであった。特に風味調味料や万能保存食などは冒険者や料理人の関心を集めるものであり、販売ルート確保の可能性が高かった。春菜は宏の製品の特性を見極め、市場との価格調整やブランド化の必要性を検討し始めた。
監視の継続と今後の布石
街での自由行動が認められた一方で、機構職員の目は依然として二人を追っていた。宏と春菜は当面の間は施設と表面的に協力関係を保ちつつ、真の自立と安全確保に向けた布石を着実に打っていく必要があると認識していた。異世界生活の基盤は整い始めたが、それと同時に、国家・宗教・機構といった大きな力との駆け引きも本格化しようとしていた。
鍛冶場の使用と下準備
宏は住民登録を済ませた後、生産施設の管理人を訪ね、溶鉱炉と鍛冶場の使用を申し出た。使用料は薪代込みで二十クローネ、鍛冶道具は熱源込みで十クローネとされ、熱源を自前で用意すれば八クローネに割引されるとの説明を受けた。宏は費用を抑えるため、通常の薪を購入して独自に処理を施す方法を選択し、その薪一本一本に模様を刻み込む作業に入った。使用していたナイフが欠けたため、春菜からナイフを借りて作業を続行し、最終的には春菜のナイフも損耗した。薪への加工が終わると、宏は鍛冶場にあった粉末を使って魔法陣を描き、薪に対して儀式を行った。儀式を終えると模様が消え、宏は下準備を完了させた。
鍛冶作業と職員の驚愕
準備が整うと、宏は職員を呼び戻し、鍛冶場の使用料を支払い、薪に火をつけた。炎は通常よりも強く、宏は予想どおりの反応で職員を驚かせなかった。宏は鉱石や使用済みのナイフ、手斧、つるはしを溶鉱炉に投入し、魔力を込めた魔法陣を描いて精製を開始した。通常とは異なる手順を踏みつつ、精製された金属はインゴットとして型に流し込まれた。宏はナイフとハンマーをまず作り、素材に魔力を流し込んでエンチャントを施しながら鍛造した。
道具製作とレイピアの鍛造
ナイフとハンマーの製作後、宏は壊れたヤスリやタガネの代用品も用意しつつ、次々と必要な道具類を作り上げていった。最終的に春菜のためのレイピア製作に取りかかり、今まで以上に丁寧に魔力を込めて作業を進めた。完成したレイピアは美しいシルエットと高性能を誇り、春菜は実際に試用したうえで調整を依頼し、細かな修正が加えられた。結果、春菜は出来栄えに満足し、宏も壊れた工具の代償を済ませて作業を終えた。
義賊アルヴァンとの比較と春菜の複雑な感情
帰路の会話で春菜は、ゲーム内で苦労して入手し、強化した義賊アルヴァンのレイピアよりも、宏が即席で作ったレイピアの性能が勝っていたことに不満を漏らした。アルヴァンのユニーククエストについて話題が及び、春菜がそのボスを攻略した経緯が語られた。クエストは偶発的に発生し、戦闘では相手の手札を先に引き出していたことが勝因であった。宏はそれを評価したが、春菜はあまりにあっさりと現地の素材でそれ以上の性能の武器が作られたことに釈然としない様子を見せた。
装備制作の裏事情と生産職人の事情
宏は神鋼製のフルエンチャントレイピアを三本ほど倉庫に所有していた事実を明かし、春菜を呆れさせた。これらの装備は極めて高難度で製作されたものであり、上級スキルと長期の修練が必要だった。だが、宏の製作があまりにも容易に見えたため、春菜の不満は解消されなかった。なお、ゲームのシステム上、プレイヤーの装備状況がボスのドロップ性能に影響するため、アルヴァンのドロップ品は結果的に宏の作った装備に劣るという仕組みが存在していた。
拠点確保と食生活改善への方針
今後の拠点確保を目指し、宏は予算が二万クローネであることを春菜に伝えた。工房を兼ねた住居を探す必要があることから、まずは価格相場や候補の物件を調べる方針が立てられた。加えて、現在の宿の料理が味付けに乏しく、長期的な生活を見据えると改善が必要であると判断された。宏は自作で調味料を作る意向を示し、春菜も協力を約束した。調理法や食材のバリエーションに限界がある現状に不満を持ちつつも、都市の豊かな水資源と多様な気候を活かせば、十分に満足できる食環境を構築できると判断した。
今後の展望と準備
拠点確保と食環境の改善は、冒険者活動の基盤として重要であるとの認識を共有し、二人は行動に移ることを決意した。結果的にその週の夜中、カレー粉とマヨネーズの自作に成功するまでの道筋がこの会話で示された。
ファ ーレ ーン編 第四話
巨大蜘蛛の群生地との遭遇
春菜と宏は、冒険の途中で巨大な蜘蛛の群生地に足を踏み入れた。巣に引っかかった巨大スズメバチが繭にされる光景に春菜は戦慄したが、宏は冷静に対応していた。これは、衣類素材の糸を確保するためにスパイダーシルクを採取するという目的からであり、冒険者としての準備と戦術の一環であった。
服の必要性と冒険者生活の変化
事の発端は、春菜が衣類の不足を訴えたことに始まった。ポイズンウルフ騒動から一カ月が経過し、二人は宿生活から脱却して小さな部屋を借り、生活の安定を図っていた。屋台販売も開始され、カレーパンやアメリカンドッグが好評を博しており、揚げ物という調理法がこの世界において新奇であったことが人気の要因となっていた。彼らの屋台は収益を上げており、生活基盤は確実に強化されつつあった。
服のエンチャントと製造技術の話題
春菜が求めたのは汚れに強い衣服であり、宏はエンチャントによる対策を提案した。汚れ防止や自動修復、温度調整など多くの機能を付与できる技術を持っており、その多彩さは春菜を驚かせた。中でも製造段階で素材に付与したエンチャントが干渉しないという特性は、装備品をカスタマイズするうえで大きな利点となっていた。また、サイズ自動調整が下着には適用できないという制約により、下着の製作は見送られることとなった。
素材調達とスパイダーシルクの選択
動植物から採れる一般的な繊維素材がこの地域で入手困難であることを受け、宏はスパイダーシルクの利用を提案した。丈夫かつ高性能な素材であるスパイダーシルクを得るには、ジャイアントスパイダーの巣に向かう必要があったが、宏には糸を効率的に入手する手段があった。虫を巣に誘導して繭を作らせ、それを利用するという方法である。この方法は春菜から見て非人道的とも言えるものであったが、宏は職人として合理的に行動していた。
繭と素材の確保、そして製作準備
十分な数の繭を得た後、宏は蜘蛛の駆除と解体を開始した。彼は高性能なエンチャント済みの斧を使い、効率よく作業を進めた。解体で得られた素材はエンチャントされた鞄に収納され、糸紡ぎ用の機材も準備されていた。春菜は紡織スキルを持たないため、今回は見学にとどまり、次回以降に学ぶことを決意した。宏は彼女にウサギの毛を使った訓練を勧めた。
フィールドボス・ピアラノークの危険性
素材集めの最中、春菜はジャイアントスパイダーのフィールドボス「ピアラノーク」と遭遇した。これはバサークベアの倍の強さを誇り、視覚・温度・匂いを使って獲物を認識するアクティブモンスターであった。宏は三度ほど戦闘経験があり、倒すには時間と戦略が必要だと語った。春菜は恐怖を感じつつも冷静に通信を行い、ピアラノークを宏の方へ誘導しながら慎重に撤退を開始した。
物語構造としての皮肉と行動の因果
宏と春菜は「こういう話をすると現れる」と冗談めかしていたが、まさにその通りにピアラノークと遭遇することとなった。これは物語における「お約束」のような展開であり、春菜もその偶然に苦笑を浮かべるしかなかった。こうして、服の素材を求める一連の行動は、予期せぬ戦闘と冒険を招いたのである。
ピアラノークとの戦闘
春菜と宏は、ジャイアントスパイダーの王・ピアラノークとの戦闘に突入した。春菜は俊敏な動きと魔法剣によって先制攻撃を仕掛け、宏は高い筋力を活かして支援に徹した。二人の連携により、ピアラノークの攻撃を受け流しつつ着実にダメージを与えていったが、蜘蛛の三次元的な行動により春菜が体勢を崩す場面もあった。宏は斧を使い蜘蛛の注意を引きつけ、春菜の回復まで持ちこたえることに成功した。再び体勢を整えた春菜は、大技の準備を始め、宏が時間を稼ぐ中、全身全霊を込めた魔法剣「エレメンタルダンス」を放ち、ピアラノークの足を切り落とし、最後は腹を真っ二つに斬り裂いて撃破した。
勝利後の休息と技の代償
勝利した春菜は、極度の消耗により動けなくなった。「エレメンタルダンス」は全属性魔法剣と分身を組み合わせた上級技であり、発動条件と消費量が非常に厳しいものであった。それでも彼女は、以前に比べて多少余裕があると語った。宏はその回復を警戒しつつ見守り、周囲の安全を確保したのち、ピアラノークの解体と素材回収を開始した。
繭の中の少女と不穏な兆候
宏はピアラノークの巣にあった繭から、一人の少女を救出した。少女は上流階級の装いをしており、特殊な魔力によって仮死状態で保護されていた。春菜は解除系の魔法では対応できず、宏も簡易な手段では処理できないと判断したため、後日ウルスに戻ってから対応することに決めた。二人は、繭の中に他にも生存者がいる可能性を考慮し、すべてを回収して野営地で確認することにした。
政治的背景と春菜の警戒
春菜は、救出した少女が王家や貴族に関わる人物である可能性を感じ、これが政治的陰謀に発展する兆しであると警戒した。これまでに集めた噂話を思い返しながらも、直接的な関連性を見出すことはできなかった。しかし、嫌な予感を覚えつつも、彼女は事態に備える覚悟を決めて野営地へと運んだ。
救出者の内訳と謎の状況
繭から救出されたのは八人であり、そのうち生存者は三人であった。残る五人は死亡しており、その内訳は戦士風の男性三人、文官風の男性一人、侍女風の女性一人であった。生き残っていた二人の大人はどちらも金属鎧を身に着けた騎士であったが、彼らが一方的に敗北するとは考えにくく、何らかの状態異常や罠の可能性が疑われた。加えて、文官や侍女のような人間がこんな場所にいる理由にも疑問が残った。
転送手段の確保と処置の方針
宏は巣の中から発見した転送石を修復すれば、生存者および遺体をウルスへ転送できると判断した。これにより移動手段の問題は解決され、二人は遺体の身元確認用の遺品を収集し、埋葬の準備を進めることにした。また、残された繭から虫を取り除く作業を平常心で進めることで、精神の平衡を保とうとした。宏はスズメバチを薬材として温存し、春菜も気持ちを切り替えて解体作業に取りかかった。こうして、二人は目前の現実に向き合いながら、確実に行動を進めていった。
ファ ーレ ーン編 第五話
目覚めを待つ静かな日常
ピアラノークの群生地から帰還して三日が経過し、宏と春菜は助け出した三人の世話を交代で行っていた。亡くなった者については冒険者協会に引き渡し、搬送も知人の協力を得て実施された。二人は、寝室を三人に明け渡し、自身は狭い住居の中でそれぞれ別のスペースに就寝していた。春菜はダイニング、宏はベランダという厳しい環境ながらも互いに生活の妥協を図っていた。
宏の過去と女性不信の理由
目覚めない男女のうち女性二人について、宏は極端に接触を避けていた。彼は中学・高校時代に計六回もの濡れ衣を着せられた経験を持ち、それが女性全般への深い不信につながっていた。特に中学時代には担任教師までもが加担しており、それが彼の人格形成に大きな影響を与えていた。春菜はその過去を聞き、宏に対する見方と対応を慎重に見直す必要を感じた。
新たな情報と冒険者協会からの要請
冒険者協会からは、救出した繭の数を五つとするよう口止めがなされた。この指示は、救出された人物たちの素性が明らかになることを避けるためであり、同時に宏たちを保護する意図も含まれていた。協会が関与していること、屋台経営を通じて町に自然に溶け込んでいることから、当面の活動に支障は出ないと見られた。
食材調達と日本食再現の試み
宏はこの数日間でさまざまな食材を調達していた。特に海藻類(わかめ、昆布、のり)やそばの実の入手は画期的であり、春菜とともに日本食の再現に意欲を見せていた。昆布がファーレーンでは敬遠されていることもあり、これらの食材は市場価値が低く、入手は容易であった。宏は熟成加速器で調味料の準備を進め、春菜は出汁の調整を担当した。
少女の目覚めと警戒
三人のうち、最初に目を覚ましたのはプラチナブロンドの少女であった。彼女は自身の高貴な身分に相応しく、見知らぬ環境に強い警戒心を抱いた。記憶を辿る中で、姉に取り入る男により巨大蜘蛛の巣へ送り込まれたことを思い出し、自身の命を守るために時間停止の魔法を周囲に発動していたと理解した。目覚めた今、自分たちを救った者の正体と意図を慎重に探ることにした。
文化の違いと蕎麦との出会い
少女は宏と春菜の会話を立ち聞きし、彼らの話す内容が食べ物に関するものであると判断した。やがて厨房から漂う香りとともに食欲が限界に達し、腹の音を立てて存在を知られることとなった。春菜の勧めに従い、そば茶を口にした後、慎重にそばを試食した彼女は、その豊かな味に驚嘆し、空腹を満たすことに夢中になった。
信頼の兆しと穏やかな交流の始まり
宏は女性との距離を保ちながらも、相手に警戒されぬよう最大限の配慮を見せ、少女にそばを提供した。春菜もまた、異文化への理解を示しながら接したことで、少女は徐々に警戒を解きつつあった。異世界での出会いは、恐怖と不安を孕みながらも、共通の文化である「食」を通じて、わずかな信頼の芽を生み出し始めていた。
そばを通じた交流と日常会話
目覚めたばかりのエアリスは、春菜と宏が用意したそばを上品に、しかし一心に味わっていた。食後にはそば湯を飲み、礼儀正しく感謝の祈りを捧げた。食事が気に入った様子で、翌日のメニューを楽しみにする様子を見せたため、春菜と宏はおでんを提案し、屋台の話題に移った。屋台と冒険者の兼業に驚くエアリスに対し、宏と春菜は、生活のために街中の仕事や屋台での副収入を得ている事情を説明した。宏が協会から目をつけられていると語ると、エアリスは一瞬警戒したが、春菜はそれが違法行為ではなく、宏の製作品の精巧さが原因であることを明かした。宏が家具や魔道具をすべて自作している事実を知り、エアリスはその技術力に驚きを隠せなかった。
自己紹介と救出状況の確認
三人は互いに名乗り合い、宏と春菜が十級の冒険者であること、エアリスが高貴な身分であることが確認された。エアリスは、自身たちがなぜ蜘蛛の巣に囚われていたかを問うと、春菜たちは服の素材を得るために糸を採りに行っただけだと説明した。その理由に呆れつつも、命を救われた立場として感謝せざるを得なかった。宏の問いに対し、エアリスは繭に囚われていたのは八人であると答えたが、生存者は自分を含めて三人だけであり、他の者は救出時すでに手遅れであったことを知らされると、彼女は深い悲しみに沈んだ。
護衛の誤解と宏への暴挙
突然、春菜の部屋からエアリスの護衛であるレイナが飛び出し、宏に対し剣を突きつける暴挙に出た。レイナは宏が敵であると一方的に決めつけ、問い質す姿勢を崩さなかった。この状況に、宏は過去の女性関係のトラウマが強く刺激され、極度の恐怖に陥って硬直し、精神的な崩壊寸前に追い込まれた。春菜はその様子を見て怒りを爆発させ、レイナを圧倒的な力で打ち倒した。宏を擁護する春菜の姿に、エアリスもレイナの非礼を厳しく非難した。
ドーガの介入と事態の収拾
最後に目を覚ました騎士・ドーガが現れ、レイナの態度を強く叱責した。ドーガは、春菜の攻撃がもしエアリスに向けられていたならどうするつもりだったのかと詰問し、レイナは返答に窮した。エアリスも、レイナの男性不信は理解できるが命令違反は許されないと諭し、彼女は完全に萎縮した。ドーガは改めて春菜たちに謝罪し、春菜も謝罪を受け入れたが、次は無いと釘を刺した。
宏の精神的崩壊とその余波
レイナの暴挙により、宏はかつてのトラウマが引き起こされ、嘔吐や言動の混乱を見せた。ドーガは自ら汚物の後始末を申し出て、宏の代わりに動いた。春菜は宏の着替えを準備し、距離を取りながら三人を連れて玄関先に退避した。宏は着替えを終えると、自ら寝袋を持ってベランダへ向かい、雨の中で眠ることを選んだ。その背中は痛々しく、三人はその姿を見て申し訳なさと後悔に苛まれた。特にレイナは、自らの言動が命の恩人を精神的に追い詰めたことを深く反省し、その一件は冒険者組と救出者との関係に深い影を落とし、後々まで尾を引くこととなった。
ファ ーレ ーン編 第六話
朝の会話と外見偽装の準備
早朝、エアリスは宏の様子を心配して声をかけたが、宏はすでに昨日の出来事を受け流し、道具の製作に取り組んでいた。春菜は仕入れのために早朝から一人で出かけており、宏はその間に三人の外見を変えるためのアクセサリーを作成していた。協会の依頼で支援を秘密にする必要があることから、変装は必要不可欠であった。
各人の動向と屋台準備
ドーガは部屋で連絡を取っており、レイナは前日の件で罰を受けていた。春菜が戻ってくると、和食の準備を相談しながら屋台の仕込みを進め、宏はアクセサリーの完成度にある程度の妥協を示した。春菜と宏の間には昨夜の出来事に関するわだかまりも見られず、共同生活における信頼の深さが垣間見えた。
昨日の件の精算とレイナの事情説明
ドーガは正式に昨日の件の総括を行い、宏と春菜にも立ち会いを求めた。レイナは、宏を自分に害を為した私兵の男と取り違えた結果として暴走したことを自白した。特に、春菜の涙を見たことで冷静さを失ったことが大きな要因であり、判断力を欠いた行動であったと悔いていた。
宏と春菜の寛容と処分の保留
宏と春菜はその事情を理解しつつも、今後の問題行動があれば容赦なく切り捨てるという姿勢を示した。ドーガは、現状で正式な処分を下すことは困難であると述べ、事態が落ち着いた後に改めて沙汰を行うと説明した。レイナは深く反省を示し、再び謝罪を行うことで場は収まった。
偽名の設定と行動方針の確認
エアリスたちは素性を隠すため、それぞれ偽名を設定した。エアリスは「エル」、ドーガは「ドル」、レイナは「リーナ」となり、行動の際には特にレイナがエアリスを「姫様」と呼ばないよう注意が促された。春菜は仕事に出ることになり、宏はドーガと共に留守を預かることになった。
カレーパンと服作りの由来
宏は自作のカレーパンの調理中に服が汚れることをきっかけに、蜘蛛の糸で汚れに強い服を作ろうと考え、素材集めに出かけた経緯を語った。その贅沢な試みにドーガたちは呆れつつも、彼らの価値観の違いを再認識した。
春菜からの緊急連絡と救助行動
外で仕事中の春菜から、メリザの娘ルミナが薬草採取中に行方不明となったとの連絡が入り、宏は急ぎ合流した。事態は他の子供二人も含む三人の少女が失踪しているという重大なものであり、冒険者たちも動員されることになった。
手がかりの発見と潜入捜索の開始
捜索中、宏が不自然な足跡を発見し、シーフの青年によってそれが偽装された痕跡であると確認された。敵の存在や人質の可能性を考慮し、宏・春菜・シーフの三人が隠密行動で内部を探ることとなった。宏の自作アイテムによる補助を活用し、迅速かつ静かに足取りを追跡していった。
和解と再出発の朝
エアリスは宏との会話を通じて、前夜の出来事が既に過去のものとして受け止められていることを知り安堵した。宏は三人の身元を隠すための変装用アクセサリーを製作しており、春菜はその間に市場で仕入れを行っていた。春菜の帰還後は屋台の仕込みを再開し、宏との関係も変わらぬ信頼のもとに保たれていた。
昨日の一件とレイナの釈明
ドーガが食事の前に昨日の件を精算すべく場を設け、レイナは姫を泣かせたと誤認し暴走した事情を説明した。その原因には、宏に似た男との過去の因縁と、自身の若さや性格による視野狭窄があったと述べた。宏と春菜はその説明に理解を示し、今後の行動で信頼を回復するよう促した。ドーガは処分を留保し、現状の戦力不足から即時の解雇を避ける意向を表明した。
偽名の導入と行動指針
正体を隠すため、エアリスは「エル」、ドーガは「ドル」、レイナは「リーナ」と偽名を定めた。レイナの過失を踏まえ、エルとリーナを二人きりにしないこと、エルは常に春菜かドーガと共に行動することが確認された。春菜は交渉のため外出し、宏は屋内で装備や日用品の準備にあたることになった。
宏の研究と異世界での生活
宏は本来優先すべき帰還手段の模索が進められていない理由を機材や材料不足と説明し、その間に生活必需品の研究を進めていたことを明かした。救出のきっかけがカレーパンの油汚れによる服の改良に起因していたことが語られ、ドーガらはその突飛さに呆れつつも、彼らの生活ぶりを理解し始めていた。
メリザの娘の失踪と現地への急行
外出中の春菜から、商人メリザの娘ルミナが薬草採取中に行方不明となったとの連絡が入り、宏は応援に向かった。事件は複数の子供の失踪を伴うもので、冒険者たちの間でも事態の重大性が共有されていた。宏と春菜は装備と情報を整えながら、速やかに現地へと向かった。
足跡の発見と隠密捜索の開始
現場近くで宏が不自然な痕跡に気づき、シーフの冒険者が偽装された足跡を確認した。人質の可能性を考慮し、宏・春菜・シーフの三人での少人数隠密捜索が決定された。宏は遮音結界や各種アイテムを準備し、三人は仮パーティを結成して静かに足跡を追跡し始めた。
ファ ーレ ーン編 第七話
まぜるんば騒動と宏の悪ふざけ
エアリスのおやつの時間に、胡散臭い老婆の扮装をした達也が登場し、「まぜるんば」と呼ばれる知育菓子を実演した。宏が仕込んだ演出であり、春菜や真琴らは困惑しながらも巻き込まれていった。まぜるんばは科学反応で食感や色が変化する菓子で、宏が日本文化を伝える一環として用意したものであった。突っ込み役の真琴も呆れつつ参加し、結果的に一同で作って食べることとなったが、味は微妙であった。
新しい工房とその利用計画
宏たちは奴隷商を捕らえた報酬として、メリザから大型住居付き工房を賃貸という形で得ていた。条件は時折無料で仕事を引き受けることであり、最初の注文は等級外ヒーリングポーション200本であった。これらのポーションは春菜の調合練習品であり、薬の販売に制約があるこの世界では実質的な価値の交換となっていた。工房の維持管理についても、改装は自力で行うが、保守の一部はメリザが無償で担うことで合意が成されていた。
工房内の改装と役割分担の検討
宏は設備の整備計画を皆と共有し、最優先事項として台所と風呂の改装を挙げた。女性陣の強い希望により、大型風呂の導入も決定された。作業分担も明確化され、春菜と宏が中心となり、他のメンバーが建材調達や台所設備の補助に回る体制が整えられた。呼び名の問題も議論され、春菜が宏に名前呼びを要望し、了承されたことで人間関係にも変化が生じた。
服不足と素材収集の再出発
新加入のメンバーに対する装備の不足が判明し、蜘蛛の糸という素材の在庫が不足していることが課題となった。新たに服を仕立てるため、宏と真琴、達也が三日ほどの遠征に出ることが決まった。エアリスやドーガらには装備が行き渡らず、優先順位をつけて分配されたが、全員に行き届かせるには再調達が必要であった。
改装後の風呂と女性陣の会話
改装された大浴場が完成し、女性陣が入浴する初日を迎えた。広く快適な風呂に満足しつつ、会話は澪の病歴や髪の話題に及び、やがて春菜の豊満な胸に対する羨望と嫉妬が交錯する展開となった。真琴やレイナは冗談混じりに春菜に詰め寄ったが、春菜は本気で怯えることとなった。
風呂の構造的欠陥と騒動の露見
改装の不備で風呂場の音が外まで漏れ、宏にはすべての会話が筒抜けとなっていた。この事実が発覚し、羞恥に耐え切れなくなった真琴とレイナは灰になりかけた。春菜や澪は取り繕いながら会話を逸らし、宏からは改造アイテムに関する説明がなされた。
外見操作アイテムの仕組みと限界
宏が作る幻覚型の外見変更アクセサリーは、本人の外見を基にしたもので、体格や体型の根本的な変更はできなかった。また課金アイテムとして存在した外見編集アイテムも、材料が特殊なだけで自作は可能であったが、現実的な使用には向かないという結論に至った。宏と春菜は、女性陣の願望とは裏腹に、現実のままを受け入れるような対話で締めくくった。
日本人メンバーによる情報のすり合わせ
就寝前、日本人だけが集まり、それぞれがこの世界に飛ばされてからの経緯を確認した。真琴は三か月前、春菜と宏は約一か月半前、達也と澪は十日前に転移しており、すべてが同じ年の四月二十七日に発生していた。また、ゲート通過や転送魔法を使った瞬間が転移の引き金であると推測され、その際の時間差が、現地での経過時間のズレに繋がったと春菜が分析した。
転移後の生活と合流までの経緯
宏と春菜は転移直後に熊に襲われるなど過酷な状況を経験し、互いの協力で生き延びた。一方、真琴はドルガに保護され、護衛や任務の手伝いを行いながら戦闘技術を磨いていた。それぞれが異なる状況下でサバイバルを経験しており、特に真琴は戦闘任務を通じて現実世界での引きこもりを克服していた。
これまでの活動内容の共有
宏と春菜は毒消しの製造やピアラノークの討伐、屋台経営などを経て、地元の人々と信頼関係を築いてきた。一方、真琴はエアリスの護衛や名指し依頼を中心に活動していた。達也の問いかけに対し、宏たちは帰還の意思を明言しつつも、快適な生活環境を整えることが優先事項であったと説明した。
グランドクエストの進行状況とプレイスタイルの違い
各自のグランドクエスト進行状況が確認され、真琴は第四章中盤に達していたが、素材不足により進行が停滞していた。宏は、真琴が求めていた希少素材「神鋼」を精製可能であると明かし、真琴を驚かせた。これは、彼がかつて高い生産スキルを有していたことに起因していた。
職人に対する粘着妨害とゲーム内事件の回顧
過去に生産系プレイヤーが悪質ギルドから執拗な妨害を受け、リアルにまで影響が及ぶ事件が発生していた。運営による対処は遅れ、ストーカー被害まで発展したことが、職人プレイヤーが減少した原因となっていた。宏と春菜はその時期に受験などでゲームを中断していたため、直接的な被害は免れていた。
当面の方針と装備整備の決定
話題を現実的な方向に戻し、一同は今後の行動としてエアリスの問題解決を最優先とすることで一致した。翌日以降、達也らの装備を整えるため、宏と澪が作成を担当することが決まり、情報の整理と今後の方向性がようやく明確化された。
ファ ーレ ーン編 第八話
王家の事情と宏の薬の関係
宏が毒消しを作った人物であることをドーガに確認されたことで、一同は事態の核心へと踏み込んだ。春菜の問いにより、宏の薬作りの能力が今後の事態打開に関わる可能性が示唆されたが、その詳細は極めて複雑であった。ドーガは自分たちの素性を明かす必要性を認識し、宏たちを信用に足る人物と判断したうえで情報の開示を決意した。
徹底された情報管理とドーガの開示
工房には高度な結界が施されており、宏が開発した道具や達也・澪がかけた結界によって外部からの盗聴や視覚的干渉が防がれていた。この万全な環境下で、ドーガは自身とエアリス、レイナの正体、そして王家の特殊事情について語り始めた。
王家の継承と姫巫女の特異性
エアリスはファーレーン王国の第五王女であり、姫巫女という特別な役割を持っていた。ファーレーンでは王家に伝わる血統魔法が男系にしか発現しないため、継承権は基本的に男子に限られていたが、姫巫女に限っては血統魔法を受け継ぐ子を産むことが可能とされていた。これによりエアリスにも低順位ながら王位継承権が与えられていた。
王族内の人間関係と孤立
エアリスの専属侍女が不祥事を重ねた結果、エアリスは王族の中で孤立していた。その侍女はかつてエアリスに対し毒殺未遂を行い、処刑されたが、彼女の行為によってエアリスの評価は著しく損なわれた。エアリスはその後、信頼できる側近としてドーガとレイナの二人だけに支えられていた。
第四王女カタリナとの対立
王族内では姫巫女候補の三人、すなわちエアリス、第二王女エレーナ、第四王女カタリナが存在したが、エアリスとカタリナの関係は極めて悪く、カタリナの側には怪しげな男が控えており、彼が宏たちをピアラノークに飛ばした張本人であることが明かされた。
王室構成と継承権の整理
ドーガは王族の系譜を春菜たちに説明し、主要人物としてアヴィン殿下、マグダレナ、エレーナ、マリア、カタリナ、レイオット、マーク、エアリスの存在を示した。政治的に影響力を持ち得るのはエレーナ、カタリナ、レイオット、マーク、エアリスの五名であったが、エアリスには人望がなく勢力としては成り立たなかった。
毒の可能性と宏の推論
エレーナが原因不明の病に苦しんでいることが語られた。症状の経過と他者への感染がないこと、さらには食事の状況などから、宏は病ではなく毒であると断定した。毒見役には異常が出ていないため、毒は精密に調整されたものである可能性が高く、宏は治療の可能性を認めたが、材料の準備に時間がかかることを示した。
日常への回帰と日本食の提供
ドーガが協会へ向かった後、宏は気分転換を兼ねて日本食を振る舞うことにした。お好み焼きの材料を並べ、鉄板を用意し、全員の注文に応じて手際よく調理を進めた。エアリスは再び日本文化に親しみを見せ、和やかなひと時が流れる中で物語は一時の休息を迎えた。
レイオットとの面会とエレーナの病状悪化
ドーガは冒険者協会ウルス本部を訪れ、協会長と面会した。そこに王太子レイオットが現れ、エレーナ王女の容体が著しく悪化したことを報告した。宏の診立てによれば治療は可能だが、毒や病のいずれにせよ手遅れの可能性もあるとされ、現場での診察が不可欠であった。レイオットは宏の力量を高く評価し、対応を急ぐため協力者ユリウスを呼び寄せ、ドーガと共に転移する手配を行った。
姫巫女の地位を巡る不穏な動き
宮廷内では姫巫女の地位を巡る問題が表面化していた。ある男が、エレーナや出奔したエアリスではなく、カタリナ王女に姫巫女の地位を譲るよう迫っていたが、神殿側はこれを拒否していた。レイオットは、神託を授かる立場である姫巫女を独断で変更することは不可能であり、カタリナでは国を滅ぼしかねないと危惧していた。
食事事情と王族の関心
エアリスが宏の手料理を楽しんでいると聞いたレイオットは、神殿の質素な食事に戻れるのか懸念を示した。ドーガは神殿関係者との協議を提案したが、レイオットは興味津々で宏の料理を味わいたいと頼んだ。その後、協会での簡素な食事を済ませた彼らは、宏の料理内容について情報交換を行い、ユリウスの到着を待って行動を再開した。
たこ焼きによる交流と日本文化の浸透
一方、工房では宏がたこ焼き用の鉄板を使って日本式たこ焼きを振る舞っていた。エアリスや春菜たちはその調理工程に歓声を上げ、焼き上がったたこ焼きの味に感動していた。だし醤油やポン酢などのバリエーションにも挑戦し、日本の味に対する関心がさらに高まっていた。
宮廷来訪者とたこ焼きパフォーマンス
その場にドーガと共にレイオットも訪れ、宏の手際に感心しながらたこ焼きを楽しんだ。宏の鉄板は高性能な魔道具であり、魔力消費の少なさや使用効率の高さにレイオットも驚きを隠せなかった。また、宏はたこ焼き鉄板だけでなく、鯛焼き用の型も作っていたことが判明し、真琴とのやり取りで小豆やチョコがない現状を踏まえた代替の話題が上がった。
技術の無駄遣いと信頼の不安
宏の調理器具はいずれも技術的に高度でありながら、あくまで娯楽や食事目的である点でオーバースペックとされ、レイオットはその無駄遣いぶりに不安を覚えた。エルンストやユリウスは宏たちの能力と信頼性を擁護したものの、ドーガたち王宮関係者にとっては、彼らの奔放な行動に不安を感じざるを得ない状況であった。
ファ ーレ ーン編第八 ・五話
エアリスの無事とレイオットの謝意
たこ焼きを食べ終え、自己紹介を済ませた後、レイオットは宏たちのもとで安全に暮らしているエアリスの様子を確認し、安堵して感謝の意を述べた。宏と春菜は助けたことは偶然であり特別なことではないと主張したが、レイオットはその行動の価値を認め、王族としての礼を必ず行うと誓った。また、エアリスを王城に戻すには時期尚早であり、引き続き預かってほしいという依頼もなされた。
エレーナ王女の治療依頼と条件提示
レイオットはもう一つの要件として、病状が悪化したエレーナ王女の治療を宏に依頼した。宏は診察結果次第で治療が可能かどうか判断すること、治療には一定期間の滞在が必要なこと、手遅れや後遺症に関しては責任を問わないこと、付き人や荷物を伴わない単独での来訪を求めた。これに対しレイオットはすべての条件を受け入れたうえで、必要な物資の費用負担や所持品の買い取りも申し出た。
非公式な態度と食文化への関心
会話の後、レイオットは非公式な場では普段通りに接してほしいと求め、さらに鯛焼きにも興味を示した。宏と春菜はカスタードを用意し、三十分後に初の鯛焼きを振る舞った。エアリスとレイオットはその味に満足し、工房での生活について和やかに語り合った。
王宮での国王との会談
その夜、レイオットはユリウスを伴い国王に面会し、結界具を用いて機密保持のうえでエアリスとエレーナの件を報告した。エアリスの身柄が安全に保護されていること、宏の人柄と意図に不審がないことを伝えたうえで、エレーナの治療を宏に任せる許可と、姫を単独で送り出す許可を求めた。国王は一時ためらったものの、四級ポーションの存在を見て宏の技量を認め、治療のための手配を進めることに同意した。
治療への覚悟とエアリスの願い
エアリスは治療を引き受けた宏に礼を述べ、さらに厚かましいと前置きしつつも、姉であるエレーナの治療をどうか頼むと真剣に頭を下げた。宏はそれに応じ、全力を尽くすと誓い、エアリスの思いに応える決意を新たにした。こうして王家の一大事に向けた治療の準備は着々と進んでいった。
同シリーズ
フェアリーテイル・クロニクルシリーズ




























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