傷モノの花嫁 10巻 レビュー
傷モノの花嫁 まとめ
傷モノの花嫁 12巻 レビュー
物語の概要
■ 作品概要
『傷モノの花嫁(11)』は、あやかしが棲む皇國を舞台にした和風ファンタジーの最新刊である。霊力が高く「傷モノ」として疎まれていた少女・菜々緒と、皇國の鬼神として畏れられる紅椿夜行の愛と絆を描く。前巻までに、菜々緒を狙う黒幕・ぬらりひょんの討伐戦が繰り広げられたが、本巻では、死闘の果てに英雄たちが迎えた誕生日と、新たな序列のもとで変動する陰陽寮の勢力図、そして菜々緒の過去と「才」の秘密に迫る物語が展開される。
■ 主要キャラクター
- 紅椿 夜行: 紅椿家の当主にして、皇國の鬼神と称される最強の退魔部隊隊長。菜々緒の夫。冷徹なまでの強さと、愛する妻へ向ける深い愛情を併せ持つ。
- 紅椿 菜々緒: 本作の主人公。かつて「傷モノ」として蔑まれていたが、その身には大封印の才という強大な力が秘められていた。夜行の献身的な愛を受け、英雄の妻として強くあろうと決意する。
- 京極 零時: 夜行と一成の同期であり、共に「三馬鹿」と呼ばれる実力者。先祖返りの血を継ぐ予言の子。夜行とは対照的な飄々とした性格。
- 菊大路 一成: 夜行の同期である六番隊隊長。雷神・風神の守護を受ける実力者だが、夜行に対して強烈なライバル心と友情を抱く熱血漢。
- 紅椿 夜桜: 夜行の妹。英國に留学しており、魔女の技術と皇國の呪術を操る天才。兄を深く慕い、今回の騒動を知り一時帰国する。
- 藤堂 和音: 藤堂家の跡取り。夜行ら「三馬鹿」に対して激しい対抗心を燃やすが、実力は彼らに及ばず、紅椿家を没落させようと暗躍する。
■ 物語の特徴
夜行の誕生日を祝った菜々緒は、彼から指輪を贈られて夫婦の絆を深める。英国から一時帰国した夜行の妹・夜桜とも打ち解け、平穏な時間を過ごす。
一方、陰陽総会では紅椿家が五家に留まるも、序列の変動により陰陽寮の勢力図が塗り替えられた。英雄である夜行たちに嫉妬する藤堂和音は、白蓮寺家を利用しようと暗躍を企む。
そんな折、父の病を知らされた菜々緒は、自身の封印の才と失われた記憶の手がかりを求め、夜行と共に因縁の地である白蓮寺の里へ帰郷した。里では「白宵大祭」が迫る中、菜々緒は父との再会を果たし、涙ながらに過去のわだかまりを解いていく。
しかし、和音の呪術的な干渉を受けた白蓮寺麗人が、菜々緒への異常な執着を暴走させて監視の隊員を殺害。隔離を破った麗人は菜々緒を待ち望みながら、不穏な儀式の幕を開けようとしていた。
書籍情報
傷モノの花嫁(11)
原作: 友麻 碧氏
著: 藤丸 豆ノ介 氏
発売日:2026年5月29日
ISBN:9784065434482
出版社:講談社
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あらすじ・内容
皇都浅草を舞台とした大妖怪・ぬらりひょんとの死闘はついに幕を下ろした。菜々緒と夜行は陰陽大神宮での祝言も執り行い、ついに本当の意味で夫婦に。紅椿家の次女・夜桜の帰還や横濱デートなど、二人は穏やかな日常を過ごす。平和な日々を取り戻す鍵となった菜々緒の“大封印の才”。そして、その額の封印の傷。さまざまな謎は未だ残したまま、浅草の騒動の総決算「陰陽総会」が開催されてーー。
感想
浅草での大妖怪ぬらりひょんとの凄絶な死闘が幕を閉じ、菜々緒と夜行が真の夫婦となっていく第11巻は、激しい戦いの後の平穏と、そこに潜む不穏な人間関係が多角的に描かれており、非常に読み応えがある内容であった。
まず心に残ったのは、夜行の誕生日を巡る一連のドラマである。菜々緒が手料理や手作りのパンを一生懸命に準備し、夜行の生まれた日を「世界で最も幸せな日であってほしい」と心から祝福する姿には、胸が熱くならざるを得ない。かつて白蓮寺の里で「傷モノ」として蔑まれていた彼女が、夜行からの深い愛情と指輪という絆の証を受け取り、英雄の妻として共に戦い生き抜く覚悟を決める場面は、精神的な成長が強く感じられる屈指の名シーンである。さらに英国から帰国した夜行の妹・夜桜が登場し、最初は豪快な呪術オタクぶりに圧倒されつつも、ハーブ園での交流やピクシー騒動を通じて菜々緒と友人同士のようにはしゃぎ、打ち解けていく日常パートは微笑ましく、読んでいて非常に安心感を抱かされた。
しかし、物語は単なる幸福な日常だけでは終わらない。浅草の騒動の総決算として開催された「陰陽総会」では、退魔の一門が抱える「家格序列」という重苦しい因習が再び浮き彫りになる。ここでかつての同級生である藤堂和音が登場し、紅椿家の失墜を喜び、英雄たちへの嫉妬心を剥き出しにして暗躍を企む姿には、今後の展開に対する強い危機感を覚えた。この複雑な序列の変動を巡る勢力図の塗り替えは、それまであまり物語の前面に出てこなかった陰陽五家や後八家といった社会的な背景を思い出させ、世界観の奥深さを再認識させてくれる。
同時に、今巻では皇國の統治構造や歴史の謎についても深く考えさせられた。作中では将軍家と比べて皇族の力が極めて強く、我々の知る歴史上の天皇家よりも遥かに強い影響力を持っている描写がなされている。それほど皇族の力が強大であるならば、そもそも武家が幕府を開く必要などなかったのではないか、という素朴な疑問が湧いてくるほど、この世界特有の歴史的影響力には興味を惹かれる。また、陰陽師の歴史において外せないはずの安倍晴明のような存在がこの世界でどう扱われているのか、その系譜がどこにあるのかという点も気になるところである。今回の総会で発表された新たな序列の中には、それらしき苗字の家が見当たらなかっただけに、陰陽寮の歴史の裏に隠された設定への好奇心がさらに刺激された。
物語の後半、父の危篤を知らせる伝言を受け、菜々緒が自身の「大封印の才」と失われた記憶の手がかりを求め、因縁の地である白蓮寺の里へ帰郷する決意をする展開は、読者としても緊張感が高まる瞬間である。里では「白宵豊穣祭」が迫る中、病床の父と涙ながらに再会し、過去のわだかまりを解いていく姿には、彼女が長年抱えてきた心の傷が少しずつ癒えていくような感動を覚えた。
だが、その感動的な里帰りの裏で、藤堂和音の呪術的な干渉を受けた白蓮寺麗人が、菜々緒への歪んだ執着を爆発させるラストには背筋が凍るような衝撃を受けた。隔離を破って監視の隊員を殺害し、不穏な「白宵大祭」の儀式の幕を開けようとする麗人の狂気は、まさに予測不能な恐怖である。和音による人間関係の操作と、麗人の暴走が混ざり合い、平和な日常から一転して血生臭い波乱の予兆へと突き落とされる構成は実に見事であり、早くも次巻の展開が待ちきれない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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傷モノの花嫁 10巻 レビュー
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傷モノの花嫁 12巻 レビュー
考察・解説
夜行の誕生日
夜行の誕生日は9月16日であり、今年で26歳を迎えた。この誕生日は、彼が背負う「英雄」としての歴史的な意義と、菜々緒との夫婦の絆が深まる重要な節目として描かれている。
1. 英雄が生まれた日としての意義
夜行が生まれた日は、もう一人の退魔の英雄である京極零時と同じ誕生日である。
- 陰陽総会前の会議にて、卑弥呼は「二十六年前の今日、二人の英雄が同時にこの世に生まれた」と祝福した。
- この二人の誕生は国に大きな変化をもたらし、不可能とされていた中山道をはじめとする五街道の奪還(大妖怪からの領土奪還)という悲願達成の鍵となった。
- 夜行がいることで皇都への大妖怪の介入が防がれており、彼の誕生日は皇國にとって歴史的な転機となった日として評価されている。
2. 菜々緒からの手作りサプライズ
夜行にとって、この日は菜々緒の深い愛情を感じる日となった。
- 菜々緒は「夜行様がお生まれになった日は、この世で最も幸せな日でなければ」という思いから、1ヶ月も前から後鬼や猫と秘密で誕生日を祝う準備をしていた。
- 夜行が屋敷に帰宅すると、菜々緒や式神たちから盛大に祝福された。
- そこで菜々緒が振る舞ったのは、夜行の好物であるハンバーグステーキと、生地から発酵させて手作りしたパンであった。
- 洋食作りに不慣れながらも一生懸命準備した菜々緒の手料理を、夜行は「世辞ではないぞ 本当に美味い」と心から絶賛し、無事に誕生日を祝えた菜々緒は安堵と喜びで涙を流した。
3. 横濱への旅行と愛の誓い
誕生日の後、夜行は新婚旅行も兼ねて菜々緒を横濱にある紅椿家の別荘へ一泊の小旅行に誘った。
- 海を眺めながら、夜行は菜々緒を失うことの恐怖と、彼女を傍で守り続けたいという本音を明かした。
- 感謝と夫婦の愛の証として、菜々緒に指輪を贈った。
- 夜行は、ぬらりひょんとの決戦で菜々緒が母(朱鷺子)を救ってくれた瞬間の感動を一生忘れないと語り、「俺はお前と共に生きる お前と共に生まれてきた意味を証明し続ける それがきっと俺の戦いだ 共に戦おう」と誓いを立てた。
菜々緒もまた、英雄の妻として夜行と共に生き抜くことこそが自分の戦いであると覚悟を決め、改めて二人の強い絆が結ばれた。夜行の誕生日は、彼が背負う英雄としての宿命と、夫婦の深い愛情が交差するかけがえのない一日となったのである。
紅椿夜桜の帰還
紅椿夜桜の帰還とそれに伴うエピソードについて解説する。
1. 帰還の理由と豪快な登場
- 紅椿夜桜は夜行たちの末の妹(次女)であり、大叔母の影響で西洋魔法を学ぶため英国の魔法学校に留学していた。
- しかし、皇都での大妖怪ぬらりひょん襲来の事件を聞いて心配になり、一時帰国することになった。
- 横濱港に豪華客船で到着した夜桜は、船の手すりから港へ飛び降りるという常識外れの豪快な登場を果たした。
- そして「わたくしが戻ったからにはもう大丈夫、万事解決ですわ!」と自信満々に宣言し、夜行から「中身は相変わらずだな」と呆れられている。
2. 菜々緒との初対面と深い絆
- 初対面の菜々緒に対し、夜桜はすぐにその膨大な霊力に気づき、霊力値や朝餉、式神の有無について怒涛の質問攻めにするという「呪術オタク」な一面を見せた。
- その後、礼儀正しく自己紹介をし、菜々緒を「お義姉様」と呼んで快く迎え入れた。
- 横濱の別荘のハーブ園で二人きりになった際、夜桜は菜々緒に対し、母・朱鷺子を救ってくれたことに心から感謝を伝えた。
- 実は夜桜自身も、吸血への恐怖で壊れていく母をなんとかして救いたいと、その手がかりを求めて異国へ留学していた背景があった。
- 夜桜は、菜々緒が母と正面から向き合って救ってくれたことに深く感謝し、今後は自分が菜々緒の力になると約束して、二人は深い絆で結ばれた。
3. 圧倒的な実力と意外な弱点
- 夜桜は幼い頃に皇國の呪術のほとんどを習得してしまい、国内で学ぶことがなくなったため英国へ留学したという「紅椿家きっての天才」である。
- 英国でも皇國の呪術を駆使して無双しており、西洋魔法も扱える「魔女」でもある。
- 別荘に滞在中、英国の魔術師のミスにより大量の使い魔(ピクシー)が脱走する大騒動が起きた。
- 夜行たちも捕獲に手こずる中、夜桜は自身の式神である左京と右京(前鬼と後鬼の子供)と連携し、巨大な魔法陣を展開してピクシーを一斉に拘束するという圧倒的な実力を見せつけた。
- 一方で、ハーブ園で小さな蛇(青大将の子供)に遭遇した際には悲鳴を上げて震え上がり、ゴーレムをワンパンで倒せる実力者でありながら「蛇が苦手」という可愛らしい弱点があることも判明している(この時は菜々緒が素手で蛇を投げて解決した)。
4. 今後の進路と縁談
- 来年には魔法学校を卒業する予定であり、本人は皇國に戻って陰陽寮で活躍するつもりだと語っている。
- また、すでに複数の縁談が来ていることに対しても「わたくしの往く道を阻む存在でなければ、当主のちい兄様が決めてくださって構いませんわ」と潔い態度を見せている。
夜桜の帰還は、持ち前の明るさと圧倒的な実力で周囲を騒がせただけでなく、菜々緒との間に家族としての深い絆を築く重要な出来事となった。今後の皇國での彼女のさらなる活躍が期待されるのである。
陰陽総会の序列変更
陰陽総会で発表された序列変更の詳細とその背景、ならびに各家の反応や今後の影響について解説する。今回の序列変動は、陰陽五家における内部腐敗の露呈や大妖怪襲来といった事件を経て、陰陽寮の勢力図が大きく塗り替えられる歴史的な転機となった。
1. 新たな序列の概要
皇帝より下された新たな序列では、陰陽五家と後八家に大きな変動があった。
【新・陰陽五家】
- 一位:黒条家(元五家 第二位)
- 二位:翠天宮家(元五家 第三位)
- 三位:藤堂家(元五家 第五位)
- 四位:紅椿家(元五家 第一位から降格)
- 五位:京極家(元後八家 第一位から昇格)
【新・陰陽後八家(上位のみ抜粋)】
- 一位:菊大路家(元後八家 第五位から昇格)
また、元五家第四位だった橙院家は、後々二十八家の七位へと大幅に降格した。
2. 序列変動の背景と理由
この劇的な変動の裏には、各家の失態や直近の戦いにおける功績が直接的に影響している。
- 紅椿家の降格と残留:紅椿家は、大妖怪ぬらりひょんを身内(朱鷺子)から出現させたという大きな失態により、首位から四位へ降格した。しかし、皇都防衛の要であり、先祖返りの力なしでは五街道を守り切れないという現実から、五家には残留した。
- 橙院家の失墜:橙院家は現当主が諸々の悪事を認め、言い逃れできない証拠が出揃ったため、五家の地位を剥奪された。
- 京極家・菊大路家の躍進:京極家は五街道奪還の功績により五家に昇格した。菊大路家は、浅草でのぬらりひょんとの戦いにおいて、次期当主の一成が自らの寿命を5年も奉納して死力を尽くしたことが高く評価され、後八家の筆頭へと躍進した。
3. 新局長の誕生と藤堂和音の不満
序列変更に加えて、事件の責任を取って辞任した紅椿夜一郎の後任として、新たな陰陽寮局長が発表された。
- 京極氷馬の局長就任:新局長には、藤堂家の当主ではなく、元副長であり京極零時の父である京極氷馬が皇帝直々に任命された。
- 藤堂和音の目論見外れ:序列三位に躍進し、「三馬鹿」(夜行・零時・一成)の上に立ったと喜んでいた藤堂和音は、紅椿家の五家残留や京極家・菊大路家の昇格に猛反発した。和音は自身の父が新局長になるよう根回しを済ませていたと考えていたが、京極氷馬の就任により陰陽寮を掌握する野望は打ち砕かれた。
- 裏で動く意図:和音は、京極家に権力を集中させ菊大路家を引き上げたこの人事の裏に、陰陽寮を去ったはずの紅椿夜一郎の意思(盟友である京極家を立てて現体制を維持する策)が働いていると推測している。
4. 今後の影響
紅椿家の夜行と鷹夜は、京極家が局長になり五家入りしたことで、「現体制は大崩れせずに済んだ」と最悪の事態を回避できたことに安堵している。
しかし、和音をはじめとする権威主義的な派閥の不満は募っており、退魔の一門内部での派閥争いや、白蓮寺の里を巻き込んだ新たな陰謀(和音による白蓮寺麗人の利用など)の火種となるなど、しばらくは陰陽寮内が荒れることが予想されるのである。
白蓮寺の里帰り
菜々緒の「白蓮寺の里帰り」に関する詳細と重要なエピソードについて解説する。
1. 里帰りの目的と背景
菜々緒がかつて虐げられていた白蓮寺の里へ帰る決断をしたのには、主に二つの理由があった。
- 父の病:陰陽総会の後、白蓮寺家当主から夜行経由で「菜々緒の父が病に伏せっており、もう長くない」という知らせが届いた。
- 失われた記憶と「才」の究明:菜々緒にはぬらりひょんを封印した強力な「大封印の才」があるが、自分が妖に攫われた時の記憶を失っていた。彼女は、額の傷ができた状況や、白蓮寺の里で注連縄の外に出たあの日何があったのかを思い出すことが、自身の才を理解する手がかりになると考え、過去と向き合う覚悟を決めた。
夜行も、「今の幸せになった菜々緒を白蓮寺の連中に見せつけてやりたい」と語り、彼女の決断を全力で後押しした。
2. 同行者と里の状況
現在の白蓮寺は五家から降格し、マリア率いる第八番隊の管理下に置かれている。そのため、里帰りには夜行に加え、マリアと八番隊、そして白蓮寺出身で現在は十三番隊の連絡係を務める宗佑が同行した。
- 白宵豊穣祭:菜々緒たちが訪れた時、里はちょうど「白宵豊穣祭」の時期であった。これは、里の霊脈の源点であり、本家の奥に植えられている樹齢二千年の御神木「白宵(しらよい)様」を祀るお祭りである。
3. 里人たちの悪意と、両親との再会
里に到着した菜々緒を待っていたのは、以前と変わらない複雑な人間関係であった。
- 里人の反応と宗佑の怒り:里人たちは帰ってきた菜々緒や、里を捨てた宗佑に対して陰口を叩き、相変わらずの悪意を向けた。宗佑の母・槙乃も菜々緒に嫌味を言うが、夜行とマリアに一喝される。宗佑は、周囲に同調して弱い者いじめをする里の陰湿な体質を激しく非難した。しかし菜々緒は、槙乃がかつて傷みかけとはいえ食べ物を分けてくれた唯一の人物であったと明かし、彼女なりの優しさを庇った。
- 父・作治との再会:実家に着くと、母は今もなお菜々緒の顔を直視しようとしなかった。しかし、病床に伏せていた父・作治は菜々緒の姿を見るなり、「すまなかった、お前を守ってやれなかった」と涙を流して謝罪した。菜々緒は父の手を握り、「ただいま戻りました」と優しく声をかけ、長年引き裂かれていた父娘は涙の再会を果たした。
4. 麗人の暴走と不穏な「儀式」の幕開け
菜々緒が両親との再会を果たしている裏で、白蓮寺家では恐ろしい事態が進行していた。
- 和音の暗躍:隔離され監視下に置かれていた白蓮寺麗人に対し、藤堂和音が接触していた。和音は言葉巧みに麗人の心を操り、菜々緒への異常な執着と、彼女を攫った「鬼(夜行)」への憎悪を呪術的な力へと増幅させていた。
- 白宵大祭の開始:完全に正気を失った麗人は、監視の目を盗んで何かの種を飲み込むと、突如として呪術(蔦)を発動させる。呪術を封じられていたはずにもかかわらず、蔦は八番隊の監視員をミイラ化させて殺害してしまった。
麗人は菜々緒が里に来ていることを察知し、「百年に一度の白宵大祭だ。さあ、儀式を始めよう」と狂気に満ちた笑みを浮かべ、不穏な儀式の幕を開けた。
このように、菜々緒の里帰りは、過去のトラウマや家族との和解という個人的なドラマにとどまらず、藤堂和音の陰謀や白蓮寺麗人の暴走が絡み合う、新たな事件(白宵編)の引き金となっているのである。
白蓮寺麗人の不穏な動き
白蓮寺の里で発生した白蓮寺麗人の不穏な動きについて解説する。菜々緒が里帰りをした裏で、隔離されていた白蓮寺麗人は藤堂和音の暗躍と自身の狂気により、恐ろしい事件を引き起こした。
1. 藤堂和音による洗脳と感情の増幅
- 麗人は本来、八番隊の監視下で奥殿に隔離されており、誰との面会も許されない状態であった。
- しかし、白蓮寺家の跡取り問題の仲裁役として里に出入りしていた藤堂和音が、麗人に接触する。
- 和音は、菜々緒を失った麗人の苦しみに付け込み、それが恋であり、娘を惑わせた鬼(夜行)への執着だと囁いた。
- 麗人は菜々緒がかつて自分を慕っていたのに拒絶された現実を受け入れられず、恋しい、苦しい、憎いという感情を暴走させていく。
- 和音は言葉巧みに麗人の愛情と憎悪を明確な形に固定し、その強い感情を呪術の力へと増幅(呪術操作)させていたのである。
2. 種の飲み込みと監視員の殺害
- 完全に狂気に囚われた麗人は、八番隊の隊員が監視している前で、呪文を呟きながら何かの種を飲み込んだ。
- 隊員がそれを咎め、豊穣祭について無駄話をやめるよう警告するが、麗人はただの豊穣祭じゃないと返答する。
- 直後、呪術を封じられていたはずの麗人から無数の蔦が出現し、隊員の身体に絡みついた。
- 蔦は隊員の生命力を吸い取るように干からびさせ、見張りの監視員をミイラ化させて殺害してしまったのである。
3. 白宵大祭と儀式の幕開け
- 監視役を排除し自由の身となった麗人は、白宵様はお怒りのようだと意味深な言葉を呟いた。
- そして、菜々緒がこの里に戻ってきていることをすでに察知しており、彼女の名を繰り返し呼びながら早く会いたいと狂気じみた笑みを浮かべる。
- 麗人は、現在行われている祭りがただの豊穣祭ではなく、百年に一度の白宵大祭であると明かし、さあ儀式を始めようと宣言した。
このように、菜々緒への異常な執着と和音の企みによって暴走した麗人は、自らの手で惨劇を引き起こし、里を巻き込む恐ろしい儀式の幕を開けたのである。
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登場キャラクター
紅椿家
紅椿夜行
冷徹な強さと妻への深い愛情を併せ持つ人物である。皇都の防衛を担い、仲間からの信頼も厚い。
・所属組織、地位や役職
紅椿家当主。陰陽寮壱番隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
大妖怪ぬらりひょんとなった母・朱鷺子を討伐するために出撃する。武井の野望を阻止し、攫われた菜々緒を救出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
陰陽総会で家格が五家の首位から四位に降格するも、五家には残留する。
紅椿菜々緒
かつて傷モノとして蔑まれていた少女である。夜行の献身的な愛情を受け、彼を支える決意を固めている。
・所属組織、地位や役職
紅椿家の正妻。
・物語内での具体的な行動や成果
大妖怪ぬらりひょんを封印し、義母の朱鷺子を救済する。夜行の誕生日に手作りの料理とパンを振る舞った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
大封印の才を持つことが判明し、自身の過去の秘密を探るため白蓮寺の里へ帰郷する。
紅椿夜桜
夜行たちの末の妹である。豪快な性格で、兄を深く慕い、菜々緒ともすぐに打ち解けた。
・所属組織、地位や役職
紅椿家の次女。英國の魔法学校の留学生。
・物語内での具体的な行動や成果
大妖怪襲来の事件を知って皇國に一時帰国する。脱走したピクシーの群れを魔法陣で一斉に捕獲した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇國の呪術と西洋魔法を操る魔女であるが、蛇が苦手という弱点を持つ。
紅椿鷹夜
夜行の兄であり、母の影響下にありながら家族のバランスを取ろうとする人物である。
・所属組織、地位や役職
紅椿家の長男。陰陽寮第一研究室室長。
・物語内での具体的な行動や成果
朱鷺子の襲撃から部下の栗宮を庇い、重傷を負う。その後、陰陽寮病院で治療を受けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
籠目玉などの霊具を開発し、陰陽寮の防衛技術に貢献している。
紅椿夜一郎
夜行の父であり、家族を顧みなかった過去に責任を感じている。
・所属組織、地位や役職
元紅椿家当主。元陰陽寮局長。
・物語内での具体的な行動や成果
大妖怪となった朱鷺子と共に死ぬ覚悟を決め、蓮太郎に自分ごと撃つように命じた。零時の治療によって一命を取り留める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一連の事件の責任を取り、陰陽寮局長を辞任する。
小夜子
夜行たちの姉、あるいは妹にあたる人物である。冷静な判断力を有している。
・所属組織、地位や役職
紅椿家の関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
一時帰国した夜桜を夜一郎たちと共に出迎える。夜行が母を斬る決意をした際、感情に流されないよう忠告を与えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
白蓮寺家
白蓮寺当主
白蓮寺家をまとめる立場の人物である。
・所属組織、地位や役職
白蓮寺家の現当主。
・物語内での具体的な行動や成果
陰陽総会の後、菜々緒の父が病に伏せっている事実を夜行に伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
乱心した麗人に斬りつけられ、重傷を負う。
白蓮寺麗人
菜々緒に対して歪んだ執着を抱く人物である。現実を受け入れられず、和音の術中に陥る。
・所属組織、地位や役職
白蓮寺家の次期当主。
・物語内での具体的な行動や成果
監視の目を盗んで種を飲み込み、呪術を発動させる。八番隊の監視員をミイラ化させて殺害した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
精神に異常をきたして隔離されていたが、封印を破って不穏な儀式を始める。
宗佑
周囲に同調して弱い者いじめをする里の陰湿な体質を激しく嫌悪している。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮第六番隊隊員。菊大路一成の連絡係。
・物語内での具体的な行動や成果
菜々緒の白蓮寺への里帰りに同行する。母親の槙乃をはじめとする里人たちの態度を厳しく非難した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
槙乃
宗佑の母であり、里の因習に染まった人物である。
・所属組織、地位や役職
白蓮寺の里の住人。
・物語内での具体的な行動や成果
里帰りした宗佑や菜々緒に陰口を叩いて非難する。過去に菜々緒に傷みかけの食べ物を分けていたことが判明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
作治
菜々緒の実父である。入り婿という立場の弱さから、娘を守りきれなかった過去を持つ。
・所属組織、地位や役職
白蓮寺家の関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
重い病で床に伏せっている。帰郷した菜々緒と再会し、涙を流して過去の非を謝罪した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
菜々緒の母
菜々緒の実母である。過去の出来事から娘との間に溝が生じている。
・所属組織、地位や役職
白蓮寺家の関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
里帰りした菜々緒を夫の作治がいる部屋へと案内する。娘の顔を直視しようとしない態度をとり続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
京極家
京極零時
飄々とした性格の持ち主である。夜行や一成とは学生時代からの戦友として強い絆で結ばれている。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮十三番隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
一目連の瞳を用いてぬらりひょんと交戦する。武井を拘束し、非情な手段で天狗への尋問を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
予言の子と呼ばれる先祖返りであり、大妖怪の動きを牽制する存在として評価されている。
京極桐人
零時の伯父にあたる人物である。甥の零時を深く溺愛している。
・所属組織、地位や役職
京極家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
陰陽総会の場で、命を張って戦った英雄たちを讃える発言を行う。和音の不満を巧みに躱して場をまとめた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
京極氷馬
かつて東海道奪還を成功させた経歴を持つ。零時の父親である。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮新局長。元副長。
・物語内での具体的な行動や成果
陰陽総会の最中に会場へ現れ、新局長に就任したことを宣言する。大妖怪の活発化に備え、人間の結束を訴えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇帝から直々に局長へ任命され、陰陽寮の実権を握る。
藤堂家
藤堂和音
権威主義的な思考を持つ人物である。夜行ら「三馬鹿」に対して強い対抗心と嫉妬を燃やしている。
・所属組織、地位や役職
藤堂家の跡取り。
・物語内での具体的な行動や成果
白蓮寺麗人に接触し、その異常な執着心を呪術の力へと増幅させる。陰陽総会で紅椿家の降格や京極家の昇格に異議を唱えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
人心掌握と話術に長けており、裏で暗躍を続ける。
藤堂忠和
和音の父親である。
・所属組織、地位や役職
藤堂家の現当主。
・物語内での具体的な行動や成果
新局長就任に向けた根回しを完璧に完了させたと和音に伝えていた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
局長就任の目論見は外れ、京極氷馬にその座を奪われる。
藤堂雅文
和音に仕える部下、あるいは協力者である。
・所属組織、地位や役職
藤堂家の関係者。
・物語内での具体的な行動や成果
浅草の事件現場に菜々緒がいた事実や、ぬらりひょんの動向を調査して和音に報告する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
菊大路家
菊大路一成
夜行の同期で熱血漢である。強烈なライバル心と深い友情を併せ持つ。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮第六番隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
自らの寿命を奉納して風雷神門ノ陣を発動させ、夜行を支援する。浅草の防衛を担当し、ぬらりひょんの本体と対峙した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
雷神・風神の守護を受ける実力者であり、その戦功により家格が後八家の筆頭へ昇格する。
菊大路家の当主
一成の父親である。
・所属組織、地位や役職
菊大路家の当主。
・物語内での具体的な行動や成果
夜行たちを自宅に招き、牛鍋を振る舞ってもてなす。陰陽総会において、一成の命を懸けた活躍に感極まって涙を流した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
桃ノ井家
桃ノ井亜門
会議の進行などを取り仕切る立場にある。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮四番隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
隊長会議の進行を担当する。事件の真相解明のため、菜々緒に霊力値の測定を提案した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
翠天宮家
翠天宮沙羅
感情表現が豊かで、仲間思いの性格である。皇國の詩姫と称されている。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮五番隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
武井と対峙し、その動機を問いただす。降霊術を行って蛍流の霊を自身に宿し、武井と対話させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
他者の魂に干渉する憑依術の才を持つ。
陰陽寮・その他
卑弥呼
かつて五行結界を張った伝説の人物である。陰陽寮の重鎮として強い影響力を持つ。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮第三部隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
菜々緒の特別な才能を高く評価し、適性調査を指示する。陰陽総会前の会議で夜行の誕生日を祝福した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
蓮太郎
夜行たち三人の元上司である。部下たちを誇りに思っている。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮弐番隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
対大妖怪用の銃を使用し、夜一郎の覚悟を受け入れて彼ごと朱鷺子を撃つ。呪詛の反撃を受けて重傷を負った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
マリア
頼りになる豪快な女性隊長である。菜々緒を娘のように可愛がっている。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮八番隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果
五家から降格した白蓮寺の里を管理する。菜々緒の里帰りに同行し、彼女の安全を守る任務に就いた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
五大呪術の才を持たないが、高い霊力と統率力を有している。
式神
前鬼
夜行の式神である。
・所属組織、地位や役職
紅椿家の式神。
・物語内での具体的な行動や成果
夜行の吸血体質について菜々緒に説明する。夜行の誕生日に祝福の言葉をかけた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後鬼の夫であり、左京と右京の父親である。
後鬼
菜々緒を身近で支える式神である。
・所属組織、地位や役職
紅椿家の式神。
・物語内での具体的な行動や成果
菜々緒と共に、夜行の誕生日を祝うための料理やパンの準備を行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
前鬼の妻である。
烏
夜行の成長を見守り続ける式神である。
・所属組織、地位や役職
紅椿家の式神。
・物語内での具体的な行動や成果
夜行の誕生日に、彼の成長を感慨深く語り、他の式神から突っ込みを受ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
猫
菜々緒に協力する式神である。
・所属組織、地位や役職
紅椿家の式神。
・物語内での具体的な行動や成果
菜々緒と共に夜行の誕生日祝いの準備に携わる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
左京
夜桜に付き従う式神である。
・所属組織、地位や役職
夜桜の一の式神。
・物語内での具体的な行動や成果
大槌を用いて、脱走したピクシーの群れを捕獲する作戦に参加する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
前鬼と後鬼の子供である。
右京
夜桜に付き従う式神である。
・所属組織、地位や役職
夜桜の二の式神。
・物語内での具体的な行動や成果
金棒を用いて、脱走したピクシーの群れを捕獲する作戦に参加する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
前鬼と後鬼の子供である。
その他
六番隊の使者
陰陽寮からの伝令を担う人物である。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮六番隊の隊員。
・物語内での具体的な行動や成果
魔術師のミスによって使い魔のピクシーが脱走した事実を夜行に報告する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
ピクシー
霊力の高い女性を好む習性を持つ。
・所属組織、地位や役職
魔術師の使い魔。
・物語内での具体的な行動や成果
横濱の別荘で大量に脱走し、捕獲部隊を混乱させる騒動を引き起こした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
八番隊の隊員
マリアの部下として里の治安維持に努める。
・所属組織、地位や役職
陰陽寮八番隊の隊員。
・物語内での具体的な行動や成果
隔離された白蓮寺麗人の監視業務を行う。不審な行動を咎めた直後、麗人の放った呪術によって殺害された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特になし。
傷モノの花嫁 10巻 レビュー
傷モノの花嫁 まとめ
傷モノの花嫁 12巻 レビュー
展開まとめ
第41話 英雄の生まれた日
夜行の後悔と菜々緒への想い
夜行は、白蓮寺の里で初めて出会った頃の菜々緒を思い返していた。当時の菜々緒は傷だらけで怯え、震えていたが、今の彼女はもうその頃とは違う存在になったと語った。そして花嫁姿の菜々緒が本当に美しかったことを伝えた。
別れへの恐怖
菜々緒は涙を流しながら、夜行の存在をすぐ近くに感じられる今の幸せを噛み締めていた。しかし同時に、次に目を覚ました時には夜行がもういないかもしれないという恐怖を抱いていた。
夜行は、かつて菜々緒へ「自分を忘れて幸せになれ」と告げたことを思い出し、自らの言葉が残酷だったと認めて謝罪した。
互いの誓い
菜々緒は、その言葉を二度と口にしないよう夜行へ告げた。夜行もそれを受け入れ、心に刻むと約束した。
一方で菜々緒は、自分の中では夜行を忘れることなど決してできないと改めて認識していた。忘れて幸せになるくらいなら、永遠に夜行を想い続けたいという強い愛情を胸に抱いていた。
誕生日の朝
場面は九月十六日の朝へ移った。
菜々緒は夜行へ誕生日の祝福を伝えながら、この幸せを守るためには自分がもっと強くならなければならないと考えていた。
菜々緒の覚悟
菜々緒は、夜行の妻としてこれからも共に生き続けるため、自らを鍛え、この幸福を守る決意を固めていた。
そして夜行と共に歩む未来のため、自分のすべてを捧げる覚悟を新たにしたのであった。
誕生日の朝
九月十六日の朝、菜々緒は穏やかな笑顔で夜行へ挨拶をした。目覚めた夜行は、昨夜の出来事を思い返しながら菜々緒の姿を見つめていた。
出勤後も夜行の頭から菜々緒のことは離れず、今朝の彼女は恥じらいを残しながらも輝くような笑顔を見せていたため、その美しさに心を奪われていた。自ら頬を叩いて気を引き締めようとしたが、その様子を蓮太郎に見咎められた。
蓮太郎とのやり取り
蓮太郎は夜行の異変を心配して声をかけた。夜行は反射的に敬語で返答してしまうが、かつて隊長同士に上下関係があるように見せないため敬語をやめるよう言われていたことを思い出した。
夜行は自分でも相当動揺していると自覚しつつ謝罪し、蓮太郎もそれを受け入れた。
誕生日を祝われる夜行
その後、夜行、蓮太郎、桃ノ井亜門、卑弥呼による会議が開かれた。
陰陽総会を前に情報整理の必要性を確認した後、卑弥呼はまず夜行の誕生日を祝福した。蓮太郎や桃ノ井も祝いの言葉を送り、夜行は戸惑いながらも礼を述べた。
卑弥呼は二十六年前の今日、夜行と零時という二人の英雄が同じ日に生まれたことを振り返った。
英雄たちがもたらした変化
卑弥呼は、中山道の奪還をはじめとする数々の成果は夜行と零時の存在なしには成し得なかったと評価した。
さらに五街道奪還という長年の悲願を達成し、人間側が妖から領土を取り戻したことは歴史的な転機であったと語った。
夜行の存在によって皇都への大妖怪の介入が抑制され、零時の存在によって五行結界外の大妖怪も牽制されていると説明した。また二人に刺激を受けて優秀な人材も育ち、現在の陰陽寮は歴代最強と呼べる水準に達したと評価した。
その中で卑弥呼は、武流もまた時代を動かす才能を持っていた人物だったと語った。
橙院家への処分
話題は橙院家の問題へ移った。
桃ノ井は、橙院家の現当主が数々の悪事を認めており、すでに否認不可能な証拠も揃っていると報告した。そのため五家落ちの処分は避けられない見通しとなっていた。
また富士の天狗への対応については、今後十三番隊と連携しながら進める予定であると説明した。
朱鷺子の処遇
続いて朱鷺子の扱いについて報告が行われた。
桃ノ井は、理由がどうであれ朱鷺子の罪は重いとしながらも、現状では封印の安定が最優先であると説明した。そのため紅椿夜一郎の監視下に置かれ、表向きに罪を問われることはないとされた。
人に封印された妖は、封印者の寿命が尽きると同時に死ぬとされており、ぬらりひょんも朱鷺子の寿命が尽きれば完全に消滅する見込みであることが共有された。
ぬらりひょんの血筋調査
さらに将軍家は朱鷺子を最後に断絶していること、今後は第三研究室が紅椿家の子供たちへの影響を調査していく方針であることが説明された。
卑弥呼は独自に調べた結果として、現皇帝でさえ将軍家にぬらりひょんの血が混じっていた事実を知らなかったと明かし、長く隠されてきた秘密であったことを示した。
陰陽五家の闇と歴史の再検証
会議では将軍家とぬらりひょんの関係について議論が続いた。
卑弥呼は、朱鷺子を紅椿家へ嫁がせたのは前皇帝の判断であり、退魔の英雄を生み出す意図があったのではないかと推測した。また当時、朱鷺子ほど高い霊力を持つ女性はいなかったとも語った。
さらに、ぬらりひょんと椿鬼の間に因縁が存在していたことや、ぬらりひょん一派が国を支配することへ異常な執着を見せていたことも改めて確認された。夜行は、ぬらりひょんが「五十年前は失敗した」と語っていたことを報告した。
開国の真相への疑念
蓮太郎は、その言葉が五十年前の開国を巡る騒乱と関係している可能性を指摘した。
卑弥呼は、陰陽五家は長い歴史と権威を持つ一方で内部から腐敗しやすく、自浄作用も働かなかったと語った。白蓮寺、橙院家、紅椿家と続けて問題が表面化したことで、五家と後八家の序列や陰陽寮の勢力図は大きく変化すると予想した。
さらに夜一郎の局長辞任によって組織内の力関係も変わりつつあり、「時代が動く」と卑弥呼は断言した。
将軍家に残された影響
将軍家にぬらりひょんの血が混じっていた事実は、歴史上の重大な可能性を示していた。
将軍家の重要な決定の裏に、ぬらりひょんの意思が関与していた可能性が浮上したのである。その場合、五十年前の開国という歴史的決断の意味も大きく変わることになる。
卑弥呼は、だからこそ当時五行結界を張った判断は間違いではなかったと思いたいと語った。
菜々緒の才能の秘匿
会議終了後、夜行は帰路につきながら今回判明した事実を振り返った。
その中で卑弥呼は、菜々緒が持つ大封印の才については緘口令を敷き、公表しない方針を示していた。
その力は将来的に皇國の運命を左右しかねないほど強大であり、人間にとっても妖にとっても脅威となり得るためである。
また、菜々緒の額の×印は妖印ではなく、自らを攫った妖を封印した証であり、偉大な才能の証明であることも判明した。卑弥呼は、菜々緒が傷モノにされたわけではなかったことを心から喜んでいた。
誕生日の祝福
屋敷へ戻った夜行を待っていたのは、菜々緒や使用人、式神たちによる盛大な誕生日の祝福であった。
前鬼は結婚式の直後に誕生日まで重なった夜行をからかい、烏も感慨深そうに成長を語った。しかし後鬼や猫からすぐに突っ込まれ、その場は賑やかな雰囲気に包まれた。
その様子を見た菜々緒は、夜行が皆から愛されていることを嬉しそうに語った。
菜々緒の誕生日計画
夜行は、菜々緒が自分の誕生日を知っていたことに驚いた。
すると菜々緒は、かなり前から誕生日を祝う計画を立てていたことを明かした。
案内された先には豪華な料理が並んでおり、菜々緒は後鬼や猫と協力して準備したことを説明した。そして夜行が好物であると聞いていたハンバーグステーキを用意したことを伝え、夜行は予想外の誕生日祝いに驚きながらも喜びを隠せなかった。
菜々緒の手料理
誕生日の食卓では、後鬼と猫が菜々緒の努力を明かした。
菜々緒は一か月も前から料理やパン作りの練習を続けており、発酵まで成功させていたという。夜行はパンまで自作したと知って驚き、その努力を素直に称賛した。
菜々緒は洋食に不慣れだと不安を見せながらも料理を勧めたが、夜行は笑顔で受け入れた。
誕生日を祝えた喜び
夜行が料理を口にすると、その味を心から褒めた。
世辞ではなく本当に美味しいと評価され、菜々緒は思わず涙を流した。夜行が心配して声を掛けると、菜々緒は無事に誕生日を祝えたことへの安堵を語った。
さらに夜行が生まれた日は世界で最も幸せな日であってほしいと思っていたこと、そして心から祝福していることを伝えた。
その純粋な言葉に、夜行は深く心を動かされた。
武井への処遇と新たな約束
その後、二人は外出先で穏やかな時間を過ごしていた。
菜々緒は武井が第五番隊へ配属されたことを聞き、やり直すための時間が与えられたことを喜んだ。夜行はそんな菜々緒の優しさを改めて感じながらも、武井が沙羅の下で厳しく扱われる未来を想像していた。
しかしすぐに話題を変え、夜行は再び海を見に行かないかと菜々緒を誘った。
横濱への小旅行
夜行は新婚旅行と呼ぶほどではないものの、横濱にある紅椿家の別荘へ一泊で出掛ける計画を提案した。
菜々緒は目を輝かせながら喜び、自分もまた海を見たいと思っていたことを打ち明けた。
小田原で海を見たことを思い出して微笑む一方、夜行は当時の出来事を振り返った。舟に乗ったことも思い出したが、菜々緒が攫われたため、それどころではなかったのである。
失うことへの恐怖
夜行は、菜々緒が攫われた時、本当に生きた心地がしなかったと打ち明けた。
菜々緒を失うことが何より恐ろしく、彼女の持つ偉大な力が将来どのような災厄を呼ぶかわからないとも語った。そして、ずっと傍で守り続けられたらどれほど良いだろうかと本音を漏らした。
それは英雄として戦い続ける夜行の、弱さと愛情が入り混じった告白でもあった。
菜々緒の覚悟
菜々緒もまた同じ恐怖を抱いていた。
夜行を失うかもしれないという思いは二度と味わいたくないと語りながらも、皇國を守るという夜行の宿命を否定するつもりはなかった。
夜行には共に戦う仲間がおり、自分だけが戦わないでほしいとは言えない。だからこそ自分も共に歩み、共に戦い続けると決意を示した。
さらに朱鷺子との約束を守るため、自らの才能を磨き、攫われた時の記憶さえ受け止める覚悟を語った。
菜々緒は、英雄の妻として夜行と共に生き抜くことこそ自分の戦いだと宣言したのである。
指輪に込められた想い
菜々緒の覚悟を聞いた夜行は静かに膝をついた。
そして西洋には花嫁へ指輪を贈る習慣があると説明し、少し遅くなったが受け取ってほしいと告げた。
差し出されたのは、美しい装飾が施された高価な指輪だった。
菜々緒は恐縮して辞退しようとしたが、夜行は優しく微笑みながら、受け取ってほしいと改めて願うのだった。
夜行の感謝と誓い
夜行は菜々緒へ指輪を贈った理由を語った。
それは夫婦の愛の証であると同時に、自分からの感謝の気持ちでもあった。夜行は、菜々緒が朱鷺子を抱きしめた瞬間を思い返し、あの光景に心を震わせたことを明かした。
そして、その瞬間を一生忘れないだろうと語りながら、菜々緒と共に生き、自分たちが生まれてきた意味を証明し続けることが自分の戦いだと告げた。
最後に夜行は、これからも共に戦おうと菜々緒へ誓った。
菜々緒の返答
夜行の真っ直ぐな言葉を聞きながら、菜々緒は彼と初めて心を通わせた頃を思い出していた。
自分をまっすぐ見つめる瞳は今も変わらない。その姿に、改めてこの人に恋をして良かったと実感する。
そして夜行の誓いを受け止め、菜々緒は笑顔で「はい」と答えた。
指輪を巡る微笑ましいやり取り
感動的な空気の中、夜行は突然「もし金に困ったらその指輪を売るんだぞ」と言い出した。
菜々緒は即座に拒否し、絶対に無理だと訴える。
夜行は花嫁へ贈る指輪とは本来そういうものだと説明したが、菜々緒はますます嫌だと慌てて反発した。
重い誓いの直後とは思えないやり取りに、二人らしい穏やかな空気が流れた。
夜桜の帰還
場面は変わり、海を進む船の甲板へ移る。
左京と右京は、夜の海は冷えることや、まだ皇國は見えないことを夜桜へ伝えた。しかし夜桜は意に介さなかった。
彼女は船首に立ち、自らを「紅椿夜桜」と名乗りながら、ついに麗しき故郷である大和皇國へ帰る時が来たと高らかに宣言した。
その表情には、大和皇國へ戻ることへの強い期待と野心が浮かんでいた。
新たな波乱の予兆
夜行と菜々緒が互いの想いを確かめ合い、未来への誓いを交わした一方で、海の向こうからは夜桜が帰還しようとしていた。
こうして夫婦の新たな門出が描かれると同時に、紅椿夜桜という新たな火種が皇國へ戻ろうとしていることが示され、物語は次なる局面への幕開けを予感させながら締めくくられた。
第42話 夜桜の帰還
夜桜帰還の報せ
横濱への旅行中だった夜行と菜々緒のもとへ、鷹夜から連絡が入った。
夜桜が今週末に横濱港へ到着するため、旅行ついでに迎えへ行ってほしいという依頼である。夜行は菜々緒へ謝罪したが、菜々緒はむしろ夜桜に会えることを楽しみにしていた。
夜行は道中で、夜桜が紅椿家の末娘であり、英國へ留学していること、最近起きた事件を聞いて心配になり一時帰国することになったのだと説明した。
港での待機と海のあやかしの話
横濱港には大勢の出迎え客が集まっていた。
菜々緒が驚くと、夜行は海外から帰国する者や外国から来訪する者も多く、海路の長旅を終えた者を盛大に迎える文化があると語った。
さらに菜々緒が海のあやかしについて尋ねると、夜行は海のあやかしとは様々な盟約を結んでおり、人間との関係は比較的良好だと説明した。
一方で陸のあやかしとは古くから対立関係にあり、両者の仲は最悪であるとも語った。
豪快すぎる夜桜の登場
やがて豪華客船が入港し、船上から夜桜の姿が現れた。
菜々緒は、華やかで可憐でありながら凛とした雰囲気を持つ姿に、紅椿家らしさを感じ取った。
夜行も三年ぶりの再会に成長を期待していたが、その直後、夜桜は船の手すりから港へ飛び降りるという常識外れの行動を取った。
無事に着地した夜桜は、自分が戻った以上すべて解決すると高笑いしながら宣言する。
その姿を見た夜行は、中身はまったく変わっていないと呆れるのだった。
菜々緒への興味
夜桜は初対面の菜々緒を見るなり、その膨大な霊力に興味を示した。
まともな挨拶もせず、霊力の大きさや朝餉の実力、式神の有無などを次々と質問する。
夜行は慌てて制止し、呪術への興味が強すぎるのだと謝罪した。
その後、改めて夜桜を紹介すると、夜桜は礼儀正しく名乗り、自らを紅椿家の次女と説明した上で、菜々緒を「お義姉様」と呼んだ。
菜々緒はその呼び方に驚きながらも喜び、改めて自己紹介を返した。
左京と右京の正体
さらに前鬼と後鬼の話題となり、菜々緒は思わぬ事実を知ることになる。
夜桜に仕える左京と右京は、実は前鬼と後鬼の子供だったのである。
二人は夜桜の一の式神、二の式神として正式に紹介され、菜々緒へ丁寧に挨拶した。
前鬼と後鬼の間に子供がいたことに加え、その子供たちが式神として活動している事実に、菜々緒は驚きを隠せなかった。
夜桜の留学理由
その後、一行は横濱の別荘へ移動した。
夜行は、夜桜が大叔母の影響を受け、西洋魔法へ強い関心を抱くようになったことを説明する。
そのため英國へ留学し、本格的に魔法を学んでいるのだという。
菜々緒は魔法という存在に強い衝撃を受け、おとぎ話の中だけのものだと思っていたと驚いた。
そんな反応を見た夜桜は意味深に微笑み、さらなる話題が続くことを予感させた。
魔法学校での夜桜
別荘での談笑の中、夜桜は自分が皇國の呪術だけでなく魔法も扱える「魔女」であることを披露した。
魔法で茶器を浮かせながら得意げに語る夜桜に対し、夜行は魔法学校での生活について尋ねる。しかし夜桜は、魔法学校でも皇國の呪術で無双していると胸を張った。
さらに寮対抗決闘では、相手が未知の呪術や式神に怯むため有利だと説明し、左京と右京も彼女の圧倒的な実力を証言する。夜行は呆れながらも、夜桜が楽しそうに過ごしている様子を見て安堵していた。
夜桜の将来と縁談
夜行は来年卒業を迎える夜桜へ、今後の進路について尋ねた。
夜桜は当然のように皇國へ戻り、陰陽寮でも活躍するつもりだと答える。しかし夜行は、本当にそれで良いのか、自分の好きな道を選んでも構わないのだと告げた。
実際、夜桜は幼少期のうちに皇國の呪術の大半を習得してしまい、学ぶことがなくなったため英國へ留学したほどの天才だった。
だが帰国するとなれば縁談の話も避けられない。夜行がすでに複数の縁談が来ていることを伝えると、夜桜は当主である夜行が決めるなら誰でも構わないと淡々と答えた。
その潔さに夜行は感心しつつも、せめて信頼できる相手を選びたいと考えるのだった。
菜々緒との二人きりの時間
その時、六番隊から急報が届き、夜行は席を外すことになった。
夜桜はすかさず菜々緒を誘い、別荘のハーブ園へ連れ出す。夜行は不安そうだったが、菜々緒自身も夜桜と話してみたいと考え、二人で庭へ向かった。
ハーブ園での交流
庭には大叔母が植えた様々なハーブが育てられていた。
菜々緒はローズマリーを見つけ、料理の香り付けに使う植物だと説明する。夜桜が洋食も作るのかと尋ねると、菜々緒はまだ勉強中だが、夜行の好物から少しずつ覚えているのだと照れながら答えた。
その言葉を聞いた夜桜は、菜々緒の額に残る傷へ視線を向ける。
母を救ってくれた恩人
夜桜は白蓮寺の里で起きた出来事や、菜々緒が負った傷について既に聞いていた。
そして姉からの手紙で、菜々緒が封印の力によって朱鷺子の中にいたぬらりひょんを封じ、母を救ってくれたことも知っていた。
夜桜は紅椿家の人間として、そして朱鷺子の娘として、心から感謝の言葉を伝える。
菜々緒は恐縮するが、夜桜の言葉には偽りのない思いが込められていた。
夜桜が抱えていた苦悩
夜桜は、自分もまた母を救う方法を探していたことを明かした。
母が異常なほど吸血を恐れ、少しずつ壊れていく姿を見ながら、異国で学べば何か手掛かりを得られるのではないかと考えていたのである。
しかし、その答えに辿り着く前に、すべては菜々緒によって解決されてしまった。
夜桜は寂しさを滲ませながらも、姉からの手紙で今の朱鷺子が幸せに暮らしていると知り、それだけで十分だと語った。
母が幸せならば、自分の願いも果たされたのだと受け入れていたのである。
夜桜の願いと菜々緒への信頼
菜々緒は、夜桜もまた夜行や朱鷺子と同じように、母と正面から向き合い救いたかったのだと理解した。
そして朱鷺子と交わした約束を明かし、これからは紅椿家の一員として精一杯励み、夜行のことは自分に任せてほしいと伝えた。さらに夜桜にも様々なことを教えてほしいと願う。
その言葉を聞いた夜桜は、夜行が思った以上に前向きで落ち着いていることに気付き、それは菜々緒が側にいるからだと納得した。そして今後は自分も力になると約束し、菜々緒との距離を縮めた。
蛇を前にした夜桜の弱点
その直後、近くの茂みが不自然に揺れたため、夜桜は妖の可能性を警戒して菜々緒を背後へ下がらせた。
しかし現れたのは一匹の蛇だった。
菜々緒は冷静に観察する一方で、夜桜は途端に顔色を変え、震えながら後ずさる。呪術の天才であり、ゴーレムすら一撃で倒せる夜桜だったが、蛇だけは苦手だったのである。
菜々緒は青大将の幼体で毒はないと判断し、そのまま蛇を掴んで遠くへ放り投げた。
夜桜はそんな菜々緒の大胆な行動に衝撃を受けながらも、改めて頼もしさを感じていた。
脱走したピクシーの報告
一方その頃、夜行は六番隊の使者から報告を受けていた。
陰陽寮が英国から招いた高名な魔術師が管理していた使い魔のピクシーが一匹脱走したというのである。
しかし話を聞くうちに、その魔術師は捕獲にも手こずっており、夜行は本当に高名な人物なのかと呆れてしまう。
さらにピクシーは霊力の高い女性を好む習性があると聞き、菜々緒や夜桜がいる現状を考えて嫌な予感を抱いた。
大量脱走の発覚
やがて屋敷の外が騒がしくなり、夜行は異変を察知する。
外では無数のピクシーが飛び回り、捕獲部隊が大混乱に陥っていた。
事情を聞くと、魔術師が捕獲したピクシーを籠へ戻そうとした際、誤って籠の中にいた三十匹全てを逃がしてしまったことが判明する。
夜行は再び「本当に高名な魔術師なのか」と呆れ返った。
ピクシー捕獲作戦
さらに屋敷内にもピクシーが侵入していることが分かり、夜行は菜々緒や夜桜が標的になっている可能性を考え、急いで捕獲へ向かった。
一成も捕獲作戦に参加しており、網を振り回しながら奔走していた。
しかし小さく素早いピクシーたちは容易に捕まらず、夜行も刀で叩き落とそうとするがことごとく回避される。
その様子を見た一成に呆れられるが、夜行は逆に「お前にだけは言われたくない」と言い返した。
混乱する屋敷
屋敷内外では大量のピクシーが飛び回り続け、状況はさらに混沌としていく。
そこへ大槌を手にした左京と、金棒を構えた右京も駆けつけ、本格的な捕獲作戦へ参加した。
こうして横濱の別荘は、妖退治ではなく大量のピクシーを追い回す大騒動の舞台となってしまったのである。
夜桜による一斉捕獲
大量のピクシーを前に、左京と右京はそれぞれの武器を激しく打ち合わせ、大音量と振動を発生させた。突然の衝撃にピクシーたちが怯んだ隙を見て、二人は夜桜へ合図を送る。
夜桜は「わたくしの鼻先でちょろちょろと」と不満を漏らしながらも、自信満々に魔法を発動した。そして巨大な魔法陣を展開し、飛び回っていたピクシーたちを一斉に拘束してみせたのである。
菜々緒と夜桜の喜び
騒ぎを聞きつけた夜行は、菜々緒と夜桜の無事を確認しようと駆け寄った。
しかし夜桜は菜々緒へ向き直り、「見た?」と誇らしげな視線を送る。菜々緒も満面の笑みで「見たー!」と応え、二人はまるで友人同士のようにはしゃぎ合った。
その様子を見た夜行は、どうやら心配する必要はなさそうだと安堵するのだった。
最後の一匹
捕らえられたピクシーは順番に檻へ収容されていった。
一成や六番隊の使者は夜桜の活躍を称賛し、夜桜自身も「向かうところ敵なしですわ!」と胸を張る。
ところが数を確認していた隊員が、一匹足りないことに気付いた。
その直後、最後の一匹が菜々緒へ向かって飛んでいく。しかし菜々緒は慌てることなく、その場で素手で捕まえてしまった。
駆け寄った夜行が心配する一方で、菜々緒は「蜻蛉はよく捕まえて遊びましたし」と平然としていた。しかし捕まえた相手が蜻蛉ではなくピクシーだったことに気付き、逆に本人が驚く結果となった。
騒動の後始末
全てのピクシーが無事に回収され、騒動はようやく収束した。
一成は文明開化によって海外の文化や技術が流入する一方で、新たな問題も増えていると嘆く。使者も外来種問題などが深刻化していると同意した。
そして一成は、新婚旅行の最中に騒ぎへ巻き込んでしまったことを夜行へ詫びる。夜行も不満を漏らしつつ、午後こそは菜々緒と二人きりで観光しようと決意した。
夜桜の横入り
しかし夜桜は横濱観光なら自分も案内できると名乗り出た。
異国文化については自分の方が詳しいと胸を張り、当然のように同行しようとする。夜行が困惑していると、そこへ鷹夜が現れ、新婚夫婦の邪魔をしてはいけないと夜桜をたしなめた。
さらに小夜子や夜一郎も姿を見せ、久しぶりの再会に夜桜は大喜びする。特に夜一郎の姿を見るなり「お父様」と駆け寄り、親子の再会を喜んだ。
夜一郎からの感謝
夜行が母の所在を尋ねると、夜一郎は黒条家で卑弥子とお茶会をしていると説明した。夜行はそれを聞き、問題が起きる心配はないと納得する。
その後、夜一郎は菜々緒へ向き直った。
今回改めて伝えたいことがあったのだと言い、紅椿家を守ってくれたことへの感謝を口にする。しかしすぐに言葉を訂正し、「紅椿家ではなく、朱鷺子と夜行を守ってくれた」と述べた。
そして夜一郎、小夜子、鷹夜の三人は揃って頭を下げ、菜々緒へ心からの感謝を伝えるのであった。
紅椿家の家族として
夜一郎たちから感謝の言葉を受けた菜々緒は、自分もすでに紅椿家の一員なのだと答えた。
その言葉には照れと戸惑いが混じっていたものの、家族として受け入れられている実感が込められていた。夜行はそんな菜々緒の姿を静かに見守り、その成長を感じ取っていた。
二人きりの横濱散策
騒動が収まった後、夜行と菜々緒は海辺を歩きながら横濱の景色を眺めていた。
夜行は結局ゆっくり過ごせなかったと残念そうに語る。しかし菜々緒は、洋館や路面電車、甘栗など初めて触れるものばかりで楽しかったと笑顔を見せた。
さらに、夜行と再び海を見られたことも嬉しかったと語り、自分はとても幸せだと打ち明ける。その幸福は、むしろ怖く感じるほどだった。
夜行の誓い
菜々緒の言葉を聞きながら、夜行は彼女が以前とは見違えるほど成長したことを実感していた。
白蓮寺にいた頃には想像もできなかったほど強くなった。しかし同時に、強くなったからこそ無理を抱え込む危険もあると考える。
だからこそ夜行は、菜々緒の言葉や心の変化を見逃してはならないと改めて決意した。
そしてかつて口にした「皇國で一番幸せな花嫁にする」という約束を思い出し、自分はまだ何も成し遂げていないと告げる。
この程度で満足してもらっては困ると言う夜行に、菜々緒は嬉しそうな笑顔を向けた。
陰陽総会の話題
場面は駅へ移り、一成が帰路につく夜行たちを見送りに来ていた。
そこで一成は、次の陰陽総会に零時も参加するらしいという情報を耳にしたと伝える。
夜行は、天狗に攫われた女性たちの救出が急務である以上、本部もようやく本格的に動き始めたのだろうと考えた。
しかし一成は、それだけではなく零時が何か企んでいる可能性を警戒していた。
零時と十三番隊の過去
夜行は零時について思い返していた。
十三番隊は富士山周辺に勢力を持つ天狗たちを牽制する役目を担っている。かつて富士一帯は天狗たちの支配下にあり、捕まった者は命も尊厳も奪われる悲惨な状況だった。
東海道を奪還した後も、その支配を防ぐために多くの隊士が犠牲となってきた。
だが零時が十三番隊長へ就任して以降、天狗たちは目に見えて活動を潜めていた。長年好き放題していた外法ですら、近年は天狗郷から出てこなくなっていたのである。
その功績は大きかったが、武井を利用して五行結界の内側へ干渉した件だけは見過ごせない問題だった。
再会への警戒
一成は、今はまず攫われた女性たちの救出を優先すべきであり、天狗との全面対決にはまだ早いと語った。
夜行が零時を心配しているのかと尋ねると、一成は苦笑しながら肯定する。
零時は昔から何を考えているのか分からず、気付けば誰も予想しない方向へ進んでしまう人物だったのである。
その話を聞いた夜行は、陰陽総会で会った際には改めて釘を刺しておこうと考えた。
こうして二人は、月末に迫った陰陽総会を見据えながら、それぞれの思惑を胸に列車を見送るのであった。
序列変動白宵編
第43話 陰陽会議
夜行の不安と菜々緒の気遣い
陰陽総会当日の朝、夜行は菜々緒を抱き寄せながら血を吸っていた。
しかし菜々緒は夜行の頬を両手で包み、「仕事に遅れてしまう」と優しく制止する。そして、何か不安があるのではないかと問いかけた。
夜行は、陰陽総会のことを考えると落ち着かなくなるのだと認める。
大封印の才への配慮
夜行は、大封印の才についての報告が総会で見送られたことに安堵していた。
菜々緒が目覚めた才については未解明な部分が多く、本人もまだ整理できていない。夜行は焦る必要はないと伝え、決して悪いようにはさせないと約束した。
菜々緒には自分のペースで才と向き合ってほしいと語り、総会へ向かうため屋敷を後にした。
菜々緒の失われた記憶
夜行を見送った後、菜々緒は自身の過去について考えていた。
ぬらりひょんを封印してから一か月近く経つにもかかわらず、攫われていた期間の記憶は戻っていない。
しかし、自分が才に目覚めたのは白蓮寺の里で注連縄の外へ出たあの日だったのではないかと考える。
だからこそ、あの日に起こった出来事を思い出すべきなのではないかと自問していた。
陰陽総会の開幕
一方、陰陽総会の会場には各家の関係者が集まっていた。
夜行が姿を現すと、周囲では紅椿家の没落を噂する声が飛び交う。
夜一郎の失踪により紅椿家は失墜し、次期局長には藤堂家当主の藤堂忠和が有力ではないかと語られていた。また、妖との関わりが深い紅椿家や京極家より、伝統ある呪術一門の藤堂家を評価する者も少なくなかった。
藤堂和音との再会
そんな中、夜行たちの前に現れたのが藤堂和音だった。
陰陽学校時代の同級生であり、「三馬鹿」と呼ばれた夜行・零時・一成をライバル視している人物である。
和音は、自分たち藤堂家が陰陽五家へ返り咲き、さらに序列三位にまで上り詰める見込みだと自慢した。そして紅椿家の降格は確実だと見下す。
しかし零時から「棚ぼたではないか」と指摘され、一成からも本当のことを言うなと呆れられた。
傷モノの花嫁への侮辱
和音はさらに、菜々緒を「傷モノの花嫁」と呼び、紅椿家は骨の髄まで妖に汚染されていると嘲笑した。
一成はすぐに制止し、喧嘩をするなら総会後にしろと警告する。
だが和音は表面上こそ笑みを浮かべながらも、一成や零時に対して強い敵意を抱いていた。
和音の野心と零時への恐怖
和音は内心で、自分がようやく夜行たちを追い越したと思い込んでいた。
一成を取るに足らない存在と見下し、紅椿家の失墜を喜んでいたのである。
しかし同時に、零時に対しては不気味な恐怖も抱いていた。
世間では「予言の子」と呼ばれる零時だが、和音にとっては常識の通じない怪物のような存在だった。だからこそ、五行結界の外で勝手に滅んでくれればよいとさえ考えていた。
その思惑とは裏腹に、零時は和音の苛立ちを見抜いたように無邪気な言葉を投げかける。
和音はその言葉に動揺しながらも、陰陽総会の行方を見据えていた。
夜行の怒りと和音の嫉妬
夜行は藤堂和音に対し、紅椿家の失態については反論するつもりはないと告げた。償いとして今後も皇都防衛に尽力すると受け入れる姿勢を見せる。
しかし、菜々緒だけは別だと断言した。菜々緒は何も悪くなく、自分の妻を「傷モノ」と呼ぶことだけは許さないと静かに怒りを示した。
その言葉を聞いた和音は、夜行への嫉妬をさらに募らせていた。英雄として称賛される立場も、恵まれた才能も、美しい妻も、何もかもが気に入らないのである。さらには祝言へ招待されなかったことまで根に持っていた。
和音は陰陽寮局長の交代を口にし、「お前の時代は終わりだ」と夜行へ言い放った。
陰陽総会の開会
やがて陰陽総会が始まり、参加者たちが着席した。
司会役は、今回の総会では議題が多いものの、まずは全員が注目している家格序列の発表から始めると宣言する。
皇帝から下された新たな序列が読み上げられることとなった。
陰陽五家と後八家の序列改定
最初に大きな変動として、紅椿家が陰陽五家一位から四位へ降格したことが発表された。
一方で京極家は後八家一位から陰陽五家五位へ昇格。菊大路家も後八家五位から一位へ昇格した。
さらに橙院家は陰陽五家四位から後々二十八家七位へと大幅降格し、灰花家が後々二十八家から後八家へ昇格した。
最終的な陰陽五家は、
- 黒条家
- 翠天宮家
- 藤堂家
- 紅椿家
- 京極家
という順位に改められた。
紅椿家への異議
ところが発表直後、和音が立ち上がり異議を申し立てた。
ぬらりひょんを身内から出した紅椿家が、なぜ陰陽五家へ残留できるのか理解できないと主張したのである。
周囲からも同調する声が上がった。
白蓮寺家の不祥事以上の失態であり、後々二十八家の末席まで落ちても不思議ではないという意見まで飛び出した。
会場は一気に紅椿家への批判で包まれる。
夜行の忍耐
その様子を見た鷹夜は、夜行へ何も言い返すなと忠告した。
今は耐えろ、甘んじて受け入れろと告げる。
夜行もまた反論せず、静かに状況を見守っていた。
沙羅への同意要求
勢いづいた和音は、今度は翠天宮家の沙羅へ話を振った。
今回の騒動で大怪我を負い、跡取り娘を失いかけた立場なのだから、自分の意見に賛同するはずだと考えたのである。
しかし沙羅は平然とした表情で答えた。
序列についてはよく分からないが、自分は「あの程度では死なない」と言い切ったのである。
予想外の返答を受けた和音は、自分が地雷を踏んだことを悟り、慌てて矛先を変えることにした。
京極家への攻撃
和音は次の標的として京極家を選んだ。
妖の血を引く先祖返りが多い一族を陰陽五家へ加えるべきではないと主張する。
京極家が五行結界の維持へ関われば結界が不安定になる危険があると声高に批判し、周囲の賛同を得ようとした。
内心では、今度こそ京極家を追い詰められると期待しながら、反論を待ち構えていたのであった。
京極家の反応と和音の苛立ち
京極家への批判を続ける和音だったが、当の京極家はまるで相手にしていなかった。
京極桐人は零時へ饅頭を差し出し、零時も嬉しそうに受け取る。二人は和音の発言など聞こえていないかのような様子であり、その態度に和音は激しく苛立った。
さらに和音は標的を菊大路家へ変更し、一気に四段階も序列を上げたのは金で地位を買ったからではないかと非難する。しかし一成は「成金商家ではなく士族だ」と即座に言い返した。
桐人による場の掌握
そこで桐人が口を開いた。
序列への不満を語る前に、先日の戦いで命を懸けた者たちを称えるべきだと穏やかに語る。
まず菊大路家へ話を振り、一成が寿命を五年も奉納して戦ったことを称賛した。
一成の父は息子を誇らしく思いながらも心配のあまり涙を流し、一成は照れながらもそれをなだめた。
夜行への評価
続いて桐人は夜行についても言及した。
傷は癒えても、失われた寿命は戻らないと語り、命を削りながら皇都を守った功績を評価する。
そして、どれだけ命を賭して戦ったかこそが重要なのだと述べた。
退魔の一門である以上、その覚悟を軽んじてはならないという考えを示したのである。
零時の天然発言
さらに桐人は零時へ話を振った。
零時は最近の活動として、小田原で天狗を拷問したことを平然と話し始める。
鯖節の出汁を利用した独特な方法を語り、その後はきちんと供養したとも付け加えた。
あまりにも自然に恐ろしい内容を語ったため、会場の空気は一瞬で静まり返る。
桐人はその流れを利用し、先祖返りの力を持つ者がいなければ五街道の防衛は成り立たず、紅椿家がいなければ皇都防衛も維持できないという現実を暗に示した。
批判していた者たちもその事実を理解しているため、それ以上強く出られなくなったのである。
和音の計算
和音は不満を抱きながらも、序列変動自体は珍しいことではないと自分へ言い聞かせた。
何より、自分は黒条家・翠天宮家・紅椿家を抑えて陰陽五家第三位となった。
さらに父である藤堂忠和が陰陽寮局長へ就任すれば、藤堂家の時代が到来すると確信していた。
和音は以前、忠和から根回しは完璧であり、総会中に新局長が決まると聞かされていたのである。
新局長発表
やがて後任会議の終了が告げられ、新局長が会場へ招き入れられた。
和音は当然、父の忠和が現れるものと信じていた。
しかし扉から姿を現したのは全く別の人物だった。
その男は、自らを京極氷馬と名乗り、皇帝直々の任命によって陰陽寮局長へ就任したと宣言する。
会場は騒然となった。
藤堂家ではなく京極家から新局長が選ばれたことに、多くの者が驚愕したのである。
京極氷馬の登場
氷馬はかつて陰陽寮副長を務め、五街道奪還作戦では東海道奪還を成功させた英雄だった。
さらに予言の子・京極零時の父でもある。
零時が思わず「父上」と呼ぶと、氷馬は総会中だとたしなめる。
そのやり取りを見た和音は、氷馬もまた零時を甘やかす親馬鹿だったことに呆れていた。
和音の危機感
しかし和音が本当に衝撃を受けたのは別の点だった。
京極家は陰陽五家入りを果たしただけでなく、局長の座まで獲得したのである。
さらに菊大路家も後八家筆頭へ昇格していた。
これは将来的に菊大路家を陰陽五家へ加える布石にも見えた。
和音は、これらの人事や序列改定の背後で何者かが意図的に勢力図を書き換えていると察する。
そして、これほど大規模な布石を打てる人物は一人しかいないのではないかと考え始めるのであった。
陰陽寮を去った夜一郎の影響力
和音は、新局長人事の裏に紅椿夜一郎の存在を感じ取っていた。
夜一郎は京極家と思想的に近く、盟友でもある。陰陽寮から退いた後も京極家を押し上げることで現体制を維持し、なお強い影響力を残しているのではないかと考えたのである。
その頃、氷馬は新局長として挨拶を行い、五行結界の外では大妖怪たちが活発化しているため、人間同士で争っている場合ではないと出席者たちへ訴えた。
総会後の情勢分析
総会終了後、夜行と鷹夜は今回の結果について話し合った。
紅椿家が陰陽五家の地位を維持し、京極氷馬が局長へ就任したことで、体制そのものは大きく崩れずに済んだと夜行は評価する。
一方で、退魔の一門内部には複数の派閥が存在しており、今回の大規模な序列変更によって今後しばらく混乱が続くだろうと予測した。
京極家の異常な結束力
鷹夜は京極家の結束力に感心していた。
当主の桐人、新局長の氷馬、そして十三番隊副隊長の大門が互いに争うことなく役割を分担しているからである。
しかし夜行は、その評価に複雑な表情を浮かべる。
彼の脳裏には、零時を甘やかし続ける京極三兄弟の姿が浮かんでいた。
氷馬は零時へ小遣いを与え、大門は賭け事を教え、桐人は饅頭を与える。三人とも零時を溺愛しており、その過保護ぶりは恐怖すら感じるほどだった。
夜行は、零時の自由奔放な性格が形成された原因を理解した気がしていた。
白蓮寺当主からの呼び止め
そこへ白蓮寺家の当主が現れ、夜行へ声を掛けた。
白蓮寺当主は伝えるべきか迷っていたと前置きした上で、菜々緒の父親について話したいことがあると切り出す。
その言葉に夜行と鷹夜は真剣な表情となった。
夜行による報告
帰宅後、菜々緒は紅椿家が五家に残留したことを喜び、夜行の日頃の功績による結果だと称賛した。
しかし夜行の様子がどこか重かったため、菜々緒は何かあったのかと尋ねる。
夜行は白蓮寺当主から頼まれた伝言があると告げた。
それは、菜々緒の父親が病に伏しており、既に余命が長くないという知らせだった。
夜行は念のため幸臣にも確認を取っており、その情報は事実らしいと説明する。
夜行の葛藤
夜行は、この話を菜々緒へ伝えるべきか迷っていた。
かつて菜々緒を白蓮寺家から連れ出した際、両親の態度は到底許せるものではなかったからである。
しかし同時に、自らの母との経験を思えば、あの時の出来事だけで全てを判断するのは早計かもしれないとも考えていた。
そのため、完全に決別するにしても、一度きちんと向き合ってから決めた方が良いのではないかと提案する。
菜々緒が父親に会いたいのであれば全面的に協力するし、逆に白蓮寺家と関わりたくないのであれば、その意思も尊重すると約束した。
菜々緒の返答
夜行の言葉を聞いた菜々緒は静かに考え込んだ。
そして、父のことは今でも時折思い出すと打ち明ける。
長い間胸の奥へしまい込んでいた家族への想いと向き合う時が、再び近づいていたのであった。
菜々緒が抱く両親への想い
菜々緒は、父親が入り婿という立場だったため強い権限は持っていなかったが、それでも傷モノとして蔑まれていた自分を可能な限り守ろうとしてくれたと振り返った。
そのため、自分は確かに父から愛されていたと思っていると語る。
また母についても、冷酷だったのではなく、他の子供たちを守るため必死だっただけなのではないかと考えていた。
親もまた人間であり、すべてを守ることなどできない。その現実は理解しているのだと静かに打ち明けた。
再会への恐れ
しかし菜々緒は、今もし両親と再会した場合、自分がどうなってしまうかわからないとも語った。
長年押し込めてきた感情や言葉が一気に溢れ出し、思わずひどい言葉をぶつけてしまうかもしれない。
その可能性が恐ろしいのだと本音を明かした。
白蓮寺へ戻る理由
それでも菜々緒には白蓮寺へ戻りたい理由があった。
顔に残る傷である。
白蓮寺へ戻れば、この傷が付いた当時の状況を思い出せるかもしれないと考えていた。
さらに、自身が失った記憶や「才」に関する手掛かりも得られる可能性がある。
その真実を知るためなら、自分は白蓮寺へ戻りたいと強く思っていると決意を口にした。
夜行の後押し
菜々緒の答えを聞いた夜行は、その覚悟に感心した。
そして白蓮寺行きが決まった以上、すぐに準備を進めようと提案する。
記憶や才能の秘密を探るためなら陰陽寮も協力してくれるはずであり、現在の白蓮寺はマリア率いる八番隊が管理しているため、以前ほど危険視する必要はないと説明した。
夜行の本音
さらに夜行は少し笑いながら、自分には以前からひとつ願いがあったと明かした。
それは、白蓮寺の人々へ今の菜々緒の姿を見せつけてやりたいということである。
かつて傷モノとして扱われていた少女が、多くの人に愛され、自らの意思で未来を切り開こうとしている姿を見せたいと思っていたのである。
白蓮寺への帰還決定
こうして菜々緒は、自らの過去と向き合う決意を固めた。
夜行もまた彼女を支えることを約束し、二人は失われた記憶と真実を求めて、再び白蓮寺の里へ向かうことを決めた。
第43話は、菜々緒が過去への恐怖を乗り越え、自らの意思で故郷へ戻る決断を下す場面で締めくくられた。
第44話 里帰り
白蓮寺麗人の執着
白蓮寺へ向かう一方、その頃の白蓮寺麗人は菜々緒を失った苦しみに囚われていた。
菜々緒が鬼に攫われたと思い込み、自分のものであったはずの存在を奪われたと嘆いていたのである。
そんな麗人へ和音は、その感情は恋であり、娘の心を惑わせた鬼への執着なのだと語りかけた。
麗人は菜々緒がかつて自分を慕っていたはずなのに拒絶した現実を受け入れられず、「恋しい」「苦しい」「憎い」と相反する感情を募らせていた。
和音の企み
場面は変わり、藤堂雅文が和音へ調査結果を報告した。
ぬらりひょんは丹薬を使い果たして滅びたという陰陽総会の報告は概ね事実らしいが、情報統制が敷かれているため詳細は不明だった。
さらに雅文は、浅草の事件現場に紅椿菜々緒もいたことを伝える。
菜々緒は非常に高い霊力を持ち、特別な才能があるとの噂も存在していた。
その報告を聞いた和音は、もし噂が本当なら厄介だと考える。
夜行と菜々緒の間に子が生まれれば、その子も英雄になる可能性が高いからであった。
英雄への執着
藤堂家は陰陽寮創設にも関わった名門でありながら、長年にわたり大妖怪に対抗できる英雄を輩出できていなかった。
和音自身も英雄の器ではなかったと自覚している。
それでも彼は、自分より上に立つ存在へ対抗したいという強い野心を抱いていた。
そのため白蓮寺を利用し、「傷モノの花嫁」の正体を暴こうと企んでいたのである。
麗人への呪術操作
雅文から麗人へ何をしたのか問われた和音は、当主に頼まれて診察しただけだと答えた。
麗人は呪詛返しの影響を受けており、元へ戻すには菜々緒と再会させる必要があるという。
しかし実際には、麗人へ言葉を投げかけ、その苦しみの正体を理解させただけだった。
愛情と憎悪を明確な形に固定し、その感情を呪術の力へ変えたのである。
雅文は、人心掌握と話術によって他者を操る和音の才能を改めて認識した。
白蓮寺への道中
その頃、白蓮寺へ向かう馬車の中では夜行たちが移動を続けていた。
夜行が菜々緒を気遣うと、菜々緒は思ったより落ち着いていると答える。
むしろ心配なのは宗佑の方だった。
宗佑は家出同然で白蓮寺を飛び出した過去があり、親族と再会することを恐れていたのである。
それでも白蓮寺出身者として案内役を務める必要があると自らを奮い立たせていた。
宗佑の役割
菜々緒は、一成の連絡係である宗佑が隊を離れて問題ないのか尋ねた。
宗佑は、一成は基本的に一人で何でもできる人物であり、自分の役目は実質的にツッコミ役や精神的な支え役のようなものだと説明する。
夜行も、一成は時折感情が迷子になるため補佐役が必要なのだと同意した。
さらに宗佑は、各隊長には補佐役となる連絡係が存在し、自分もその一人だと語った。
菜々緒はその話を聞きながら、夜行にも同じような連絡係がいるのか疑問を抱くのであった。
白蓮寺への到着
白蓮寺へ向かう道中、夜行は自身の連絡係が現在謹慎中であることを明かした。
その人物は華族を殴ったため処分を受けており、菜々緒は夜行の周囲には一筋縄ではいかない人物が多いのだと感じていた。
一方で夜行は、夜桜がまだ皇国に滞在しており、陰陽寮退魔部隊の視察などで各地を飛び回っていることも語った。
やがて一行は白蓮寺の里へ到着し、八番隊隊長のマリアと隊士たちから盛大な歓迎を受けた。
マリアとの再会
マリアは菜々緒の姿を見るなり抱き上げ、元気な様子を喜んだ。
宗佑は二人の親しさに驚くが、夜行はマリアが以前から菜々緒のような娘を欲しがっていたことを説明する。
久々の再会に、菜々緒も素直な笑顔を見せた。
白蓮寺の現状
応接室で里の名産である柿を味わいながら、マリアは白蓮寺の現状について語った。
白蓮寺は樹木や大地との結び付きが強く、農林業による収入も安定している。
住民は勤勉で食べ物も美味しく、本来なら良い里である。
しかし古い因習が根強く残っており、それが里を縛り続けていることを嘆いていた。
滞在中の注意事項
マリアは今回の滞在予定を説明した。
滞在は二泊三日で、宿泊先は八番隊屯所となる。
また白蓮寺麗人は監視下で隔離され、誰とも面会できない状態に置かれていた。
菜々緒の安全を守るため、マリア自身も常に行動を共にする予定だった。
さらに白蓮寺では跡取り問題が発生しており、分家が現当主派へ反発していた。
その仲裁役として藤堂家が介入し、藤堂和音も里へ出入りしていることが明かされた。
藤堂家への怒り
和音の名を聞いた夜行は警戒を示した。
マリアは藤堂家について、かつては陰陽師の頂点に立った名門であり、紅椿家はその配下だった歴史があると説明する。
しかし現在の藤堂家は純血主義や男尊女卑に固執する時代遅れの一族だと痛烈に批判した。
自身も武功を挙げて隊長にまで昇進したにもかかわらず、嫉妬によって陰陽寮を去らされ、望まぬ結婚を強いられた過去を語る。
その怒りは激しく、机を叩き壊してしまうほどであった。
白蓮寺の里へ出発
一通り説明を終えたマリアは、いよいよ白蓮寺の里へ向かうことを宣言した。
八番隊の隊士たちも即座に動き出し、一行は本格的に菜々緒の故郷へ足を踏み入れることとなった。
白蓮寺の里への帰還
菜々緒たちは白蓮寺の里へ足を踏み入れた。
夜行は以前訪れた時と比べて景色が大きく変わっていることに気付き、祭りでもあるのかと尋ねる。すると宗佑は、ちょうど「白宵豊穣祭」の時期だと説明した。
菜々緒も幼い頃に家族と参加した祭りを懐かしく思い出していた。
白宵豊穣祭と御神木
菜々緒は夜行に、白宵とは白蓮寺の里にある御神木の名であり、この地域の霊脈の源点となる存在だと説明した。
御神木は本家のさらに奥にある神聖な場所に植えられた樹齢二千年の巨木である。
豊穣祭ではその枝がお社に祀られ、人々は一年の実りへの感謝を捧げるのであった。
今年は豊作の年であるため、祭りも例年以上に盛り上がっている様子だった。
変わらぬ里人たちの悪意
祭りで賑わう里を見ながら、菜々緒はかつての楽しかった記憶を思い返していた。
しかし周囲からは、「菜々緒が帰ってきた」「白蓮寺がこうなった原因だ」「白宵様の祟りがなければいいが」など、以前と変わらぬ陰口が聞こえてくる。
菜々緒は昔と同じ悪意を向けられながらも、不思議と心が軽いことに気付く。
それは夜行や宗佑たち、信頼できる仲間が傍にいること、そして自分の中に揺るがない強さが生まれていたためだった。
宗佑への非難
里人たちの矛先は宗佑にも向けられた。
白蓮寺を離れた宗佑は「裏切り者」と呼ばれ、帰郷を責め立てられる。
菜々緒は、そのおかげで自分への視線が多少分散していることを内心で感じていた。
そんな中、かつての知人である槙乃が現れた。
槙乃との再会
槙乃は宗佑を見るなり怒りをぶつけたが、続いて菜々緒の姿にも気付く。
成長した菜々緒に驚きながらも、相変わらず遠慮のない物言いで接した。
そこへ夜行が割って入り、菜々緒を自分の妻だと明言し、軽々しく接するなと牽制する。
さらにマリアも、菜々緒が紅椿家本家の奥方であることを改めて告げたため、槙乃は完全に気圧されてしまった。
宗佑の怒り
宗佑は槙乃に対し、菜々緒へ何をしてきたのかを問い詰めた。
生まれた時から知っている子供だったにもかかわらず、周囲に流されて菜々緒を傷付けたことを厳しく非難する。
さらに白蓮寺という里そのものにも怒りを向けた。
人々が自分で考えず周囲に同調し、弱い者を排斥し続けた結果が今の状況だと断言し、自分が里を見限ったのは正しかったと語った。
菜々緒が明かす槙乃の優しさ
険悪な空気の中、菜々緒は槙乃を庇った。
槙乃は猿面と呼ばれていた頃の菜々緒に話しかけてくれた数少ない人物であり、時には捨てる予定の食べ物を分け与えてくれたこともあったのである。
槙乃は素直に認めなかったものの、菜々緒を気に掛けていたことは明らかだった。
その話を聞いた夜行は、「ゴミ処理」「傷みかけの食べ物」という言葉に衝撃を受け、菜々緒が受けてきた扱いの酷さを改めて実感するのだった。
父との再会を前に
槙乃は菜々緒に対し、父の作治へ会いに来たのだろうと語った。
菜々緒が里を去ってから作治は目に見えて衰弱し、その姿を見ているのが辛かったという。さらに久しぶりの帰郷なのだから、ゆっくりしていけと勧めた。
一方で槙乃は宗佑を半ば強引に実家へ連れて行き、久々の親子再会を果たそうとした。宗佑は父との再会を恐れて抵抗していたが、そのまま連行されていった。
菜々緒の実家へ
宗佑たちと別れた後、菜々緒は夜行たちを伴って自分の実家へ向かった。
そこへ出迎えたのは実母であった。しかし母は菜々緒へ視線を向けようとせず、今もなお娘の存在を直視できずにいる様子だった。
菜々緒はその態度に複雑な思いを抱きながらも、黙って後に続いた。
父・白蓮寺作治との対面
母は部屋の前で「紅椿菜々緒様がお見えになりました」と告げる。
部屋の中には病に伏した白蓮寺作治がいた。
作治は娘の名を聞くと信じられない様子で顔を上げ、目の前にいる人物が本当に菜々緒であることを確かめようとした。
やがて現実だと理解した作治は、震える声で菜々緒の名を呼んだ。
父の謝罪
作治は菜々緒を見るなり、自分が娘を守れなかったことを深く謝罪した。
里の中で差別や迫害を受け続けた菜々緒を救えなかったことを、長い間悔やみ続けていたのである。
娘の前で涙を流しながら、「本当にすまなかった」と繰り返した。
菜々緒の帰還
そんな父に対し、菜々緒は優しく声をかけた。
「菜々緒はここにいます」
そう告げながら父の手を握り、「ただいま戻りました」と帰郷の言葉を伝えた。
作治はようやく娘の無事な姿を自分の目で確かめ、涙を流しながら菜々緒の名を呼ぶのであった。
再会の涙
長年引き裂かれていた父娘は、ようやく再会を果たした。
作治の後悔と謝罪、そして菜々緒の帰還の言葉によって、二人の間にあった長い空白が少しずつ埋められていった。
白蓮寺の里で最も会いたかった相手との再会は、涙に包まれながら静かに始まるのであった。
白蓮寺麗人の不穏な行動
白蓮寺麗人は監視下に置かれながらも、静かに何かの種を口に含み、飲み込んでいた。
その様子を不審に思った八番隊の隊員が問い質すが、麗人は種を噛んだだけだと説明する。そして祭囃子が聞こえることに触れながら、豊穣祭の本当の意味を知っているかと尋ねた。
隊員はただの豊穣祭だと答え、無駄話をやめるよう警告した。
豊穣祭の真の姿
しかし麗人は、今回の祭りは単なる豊穣祭ではないと意味深に告げた。
その直後、異変が発生する。
呪術を封じられていたはずの状況にもかかわらず、隊員たちの身体へ無数の蔦が絡みついたのである。
蔦による襲撃
蔦は瞬く間に隊員たちの全身を拘束し、生命力を吸い取るかのように身体を干からびさせていった。
襲われた隊員は、呪術を使えないよう封じていたはずなのになぜ力を発動できるのかと困惑する。
さらに、これほどの力を白蓮寺麗人が持っていたこと自体にも驚きを隠せなかった。
しかし疑問の答えを得ることもできないまま、隊員たちは蔦に飲み込まれていった。
白宵の怒り
監視役を排除した麗人は静かに立ち上がった。
そして白宵がお怒りのようだと呟き、その異変をまるで歓迎するかのように受け止める。
麗人は菜々緒がこの里へ戻ってきたことを察知しており、その存在を強く意識していた。
菜々緒への執着
麗人は菜々緒の名を繰り返し呼びながら、早く会いたいと嬉しそうに微笑んだ。
その表情には再会を待ち望む喜びと、どこか狂気じみた執着が入り混じっていた。
白宵大祭の開幕
そして麗人は、今回が百年に一度の「白宵大祭」であることを明かした。
豊穣祭の裏で進められていた真の儀式が始まろうとしており、麗人は誰にも止められないままその準備を進める。
菜々緒の帰郷と同時に、白蓮寺の里では不穏な大祭の幕が静かに上がるのであった。
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