小説「サイレント・ウィッチ X(10) 沈黙の魔女の隠しごと」感想・ネタバレ

小説「サイレント・ウィッチ X(10) 沈黙の魔女の隠しごと」感想・ネタバレ

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物語の概要

本作はハイファンタジー小説であり、無詠唱魔術を操る“沈黙の魔女”モニカ・エヴァレットを主人公とする。魔術師を収監する監獄での爆発事件を契機に、港町サザンドールでの水霊祭や友人・ラナの人質事件が描かれ、新たな危機が王国を揺るがす完全書き下ろしの新章が始まる

主要キャラクター

  • モニカ・エヴァレット:〈沈黙の魔女〉と称される無詠唱魔術の天才。極度の人見知りながら、王国の危機に自ら立ち向かう主人公。
  • ラナ・コレット:モニカの親友。水霊祭の準備中に事件に巻き込まれ、物語の起点となる人物。
  • ウィルディアヌ:水の精霊。海に落ちたモニカを救い、彼女と協力関係を築くキーキャラクター。

物語の特徴

  • 完全書き下ろしの新章で、シリーズ既存読者にも新鮮な展開が楽しめる。
  • モニカの無詠唱魔術というユニークな要素がシリーズの大きな魅力。
  • 魔術師収監施設の爆発、水霊祭、人質事件と、ミステリー+ファンタジー要素を融合し、読者を引き込む構成。
  • 主人公の内向的で天才肌なキャラクター性と、精霊との共闘など、他作品との差別化が明確。

書籍情報

サイレント・ウィッチX 沈黙の魔女の隠しごと
著者:依空 まつり 氏
イラスト:藤実 なんな  氏
出版社:KADOKAWA(カドカワBOOKSレーベル)
発売日:2025年7月10日
ISBN:9784040758558

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あらすじ・内容

魔術師をも収容する堅牢な監獄で爆発事件!? 完全書き下ろしで新章開幕!罪を犯した魔術師を収監する監獄で爆発事件が!
王国中に緊張が走る中、港町サザンドールでは予定通り水霊祭の準備が進められ、モニカも親友のラナとそのリハーサルに赴く。

しかし突如現れた賊がラナを人質に!?
咄嗟の攻防で犯人が例の事件の脱獄囚だと特定したモニカだったが、不意の一撃を受け海に突き落とされてしまう。沈みゆくモニカ、その窮地を救ってくれたのは、水の精霊ウィルディアヌで――?

王国を揺るがす新たな危機。完全書き下ろしで新章開幕!

サイレント・ウィッチ X 沈黙の魔女の隠しごと

感想

今作から新章に突入し、物語は新たな展開を見せている。
モニカが親友のラナと水霊祭を楽しもうとしていた矢先、海賊の襲撃に巻き込まれるという波乱の幕開けだ。
最初は優勢だったモニカだが、海賊たちが水の精霊の力を使い始めたことで、事態は一変。
モニカ自身も海に転落してしまう。
そこから始まる、今回の事件の真相を追う探偵のような活躍が、物語の軸となっている。
特に印象的だったのは、アイザックの相棒である水の精霊、ウィルディアヌとのやり取りだ。
どこか不気味で、ホラーのような雰囲気さえ漂うその会話は、物語に独特の彩りを添えている。
精霊という存在が、単なるファンタジー要素ではなく、物語に深みを与える存在として描かれているのが面白い。
また、今回の騒動の裏で、フェリクスの出生に関する話が語られる点も見逃せない。
彼の母親を護衛していた騎士、ブレンダンが、今後の物語にどのように関わってくるのか、非常に楽しみである。
過去の出来事が、現在の事件とどのように繋がっていくのか、今後の展開に期待が高まる。
戦闘シーンだけでなく、登場人物たちの日常や人間関係も丁寧に描かれているのが、この作品の魅力だと感じる。
今回の事件を通して、モニカとラナの友情がどのように深まっていくのか、また、フェリクスの過去が彼の未来にどのような影響を与えるのか、目が離せない。
新章開幕ということもあり、今後の展開が非常に楽しみな一冊であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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展開まとめ

プロローグ 動き始めた季節

七賢人会議と法改正の議題
夏終月の五週二日、リディル王国において七賢人会議が開催された。出席したのは<砲弾の魔術師>ブラッドフォード、<魔女>ラウル、そして<沈黙の魔女>モニカの三名であり、現時点で七賢人は六名となっていた。欠席した三名のうち、<深淵の呪術師>レイは常習的な不参加であり、<星詠みの魔女>メアリーおよび<結界の魔術師>ルイスは、急な呼び出しで不在であった。
会議の主要議題は、禁術使用罪および研究罪の法改正であり、これまでの死刑から無期懲役刑へと改める提案であった。モニカが完成させた血縁判定の魔導具<黒い聖杯>が一年前に発表されて以降、医療用魔導具の規制緩和が進み、肉体操作魔術の医療利用も視野に入るようになった背景がある。呪具の性能向上により、魔術師の拘束が現実的となったことも、刑罰の緩和に繋がっていた。
ネイガル監獄爆発事件の発生
会議の途中、メアリーとルイスが到着し、王都北西部に位置するネイガル監獄で爆発事件が発生したことが告げられた。封印結界が施されていた監獄には魔術師も収監されており、外壁には魔法攻撃の痕跡が認められた。現場調査を担当するルイスは、封印結界の再構築に向かうこととなり、メアリーからは火災による死傷者の発生が報告された。
この爆発の規模は、七賢人の中でも最も高火力なブラッドフォードの魔術に匹敵するものであり、魔導具や精霊干渉の可能性も調査対象とされていた。爆発の影響で多数の呪具の再製作が必要となり、それを担うオルブライト家への負担が予想された。
日常への帰還と水霊祭の話題
数日後、モニカは王都での業務を終え、サザンドールへ戻っていた。七賢人の待機命令は解除され、モニカは友人ラナとレストランで食事を楽しんでいた。水霊祭の開催が決定しており、ラナは祭りのメインイベントである「秋精霊の灯り船」について説明した。過去に乗船した際に夜の海を怖がって泣いた経験を語り、今年はモニカと共に見物したいと誘った。
モニカも初めての祭りを楽しみにしていたが、ラナの仕事の多忙さを案じ、手伝いを申し出た。しかしラナは彼女の気遣いだけを受け取り、祭りを楽しんでほしいと応じた。会話の中で、グレンに乗船券を渡したことが話題に上るが、彼は監獄事件後の追跡任務に動員されており、参加は難しい状況にあった。
新たな登場人物と人手不足の支援
祭り準備の最中、ラナの元に実家から派遣された使用人リック・ホーリスが現れた。労働階級出身の若者で、ラナの父の指示によって人手不足を補うために派遣されたと述べ、商会の手伝いを申し出た。ラナはその厚意を受け入れ、リックは荷物持ちとして同行することとなった。
脱獄者ダレルの過去と目的
場面は転じ、リディル王国西部を彷徨う痩身の青年が描かれる。名をダレルといい、ネイガル監獄から脱獄した囚人である。彼はかつて神童と呼ばれたが、その人格と研究姿勢が問題視され、魔法学校を追放された過去を持つ。
貧民街での生活を経て投獄された彼は、獄中でかつてセレンディア学園の教師だったヴィクター・ソーンリーと出会い、知識を吸収していった。爆発の混乱に乗じて脱獄した際、ソーンリーを誘ったが、彼は<沈黙の魔女>の存在を恐れて残留を選んだ。
ダレルは己を“バケモノ”と称し、誇りすら抱いていた。そして脱獄後、ある人物「ルーフェルノ」に会うため、海辺の道を歩み続けていた。

幕間 アイリーン・ナイトレイの騎士

庭園の再訪と再会
ブレンダン・オートレッドは、かつて仕えていたクロックフォード公爵家の庭園を訪れていた。壮年となった彼は、かつての護衛対象である令嬢アイリーン・ナイトレイとの再会を果たす。アイリーンは相変わらず快活で聡明な淑女であり、幼少期にブレンダンが名付けた“好奇心モンスター”の異名を今も覚えていた。ふたりは昔の記憶を懐かしみながら、再会のひとときを穏やかに過ごした。
茶会のひとときと侍女ディアナ
庭園の丸テーブルでは、若い侍女ディアナが紅茶を淹れた。彼女は接客に不慣れながらも丁寧に務めを果たし、ブレンダンとアイリーンは紅茶と菓子を楽しんだ。ブレンダンの食いしん坊ぶりは変わらず、アイリーンもそれを温かく見守っていた。かつて任務中に腹の虫が鳴り、彼女からクッキーをもらった思い出が蘇り、今なお変わらぬ微笑みにブレンダンは心を打たれた。
思いがけぬ婚約の報告
談笑の最中、アイリーンはセレンディア学園を退学したこと、そして国王アンブローズ・クレイドル・リディルへの輿入れが決まったことを語った。ブレンダンはその知らせに驚きを隠せなかった。王には既に第一王妃ヴィルマと王子ライオネルがいるが、ヴィルマ妃は他国ランドールの出身であり、国内では支持が薄かった。アイリーンの父クロックフォード公爵が娘を王妃として差し出すことで、政治的影響力の強化を狙っていることは明らかであった。
騎士の葛藤と姫の決意
ブレンダンは、年齢差のある政略結婚に胸を痛めつつも、アイリーンの晴れやかな表情に言葉を失った。彼女は幼い頃と変わらず、知的好奇心を携えて未来を切り開こうとしていた。どのような立場になろうとも、自分は世界を知りたいのだと語る姿に、ブレンダンは深い尊敬と誇りを覚えた。そして、王宮へと旅立つ姫に対し、変わらぬ忠誠と祝福の言葉を捧げた。
未来と別離
ブレンダンにとってアイリーンは、恋愛や親子といった関係を超えた“仕えるべき姫”であった。彼女を守るための誓いは、今も心に刻まれていた。しかし、それから一年後、アイリーンは王妃として国王に嫁ぎ、さらに二年後、第二王子フェリクスを出産。その出産を機に、彼女は命を落とし、この世を去った。

一章 氷の貴公子と腹ペコ老人

移動手段の模索と精霊との対話
アイザック・ウォーカーこと第二王子フェリクス・アーク・リディルは、港町サザンドールへの移動手段を検討していた。彼の契約精霊であるウィルディアヌに小舟の牽引を依頼するが、距離が長すぎるため不可能と判明する。船の代替案として板を利用することも冗談交じりに提案したが、現実的ではなかった。水霊祭に合わせてサザンドールを訪れる計画である彼は、現地の美食家を口説くために酒を手土産として用意することを考え、家令の人選に向けてブレンダン・オートレッドの名を挙げた。
水霊祭に向かうシリルの誤解
ハイオーン侯爵家の養子であり図書館学会役員でもあるシリル・アシュリーは、後輩グレン・ダドリーから突然「関係者用」と記された秋精霊の灯り船の乗船券を託され、彼の代わりに祭りの運営を手伝う決意を固めていた。だが、それは実際には業務用ではなく、ラナの父のコネで取得した特別乗船券に過ぎなかった。グレンは監獄事件の調査で手一杯となり、遊びの代行を真面目な先輩に託して逃げたに過ぎなかった。
港町での思わぬ出会い
サザンドールへの道中、シリルは立ち寄ったタリアの町で、従者とはぐれ空腹に耐えていた老人ブレンダン・オートレッドと出会う。彼は財布を従者ハンスに持ち逃げされ困窮していたが、シリルの持っていた焼き菓子を分けてもらい礼を述べた。ブレンダンはかつてアイリーン妃の護衛を務めた騎士であり、現在は隠居の身であると明かした。シリルはブレンダンの素性に敬意を示し、共にハンスを探すことを申し出た。
誤解とすれ違い
シリルとブレンダンの会話の中で、ブレンダンはシリルの義父ハイオーン侯爵を知っていると述べ、彼の養子であることを称賛した。その言葉にシリルは喜びつつも、実父との確執を思い出し、内心で苦悩した。しかしそれを顔に出すことなく、再び人探しに意識を向けた。
ハンスとダレルの再会
一方、ブレンダンの従者ハンスは、食事を買いに出た先でかつての悪縁である魔術師崩れの男ダレルと再会する。ダレルはネイガル監獄の脱獄者であり、仲間とともに何らかの計画を進めていた。ハンスはその場を逃れようとするが周囲を囲まれ、身の安全のためにダレルに従うふりをして行動を共にする決断を下した。彼はブレンダンの安否を心配しながらも、事態から逃れる術を見出せずにいた。

二章 バルトロメウス・バールは恋する若者の味方

水霊祭と準備の高まり
サザンドールの港では、水霊祭に向けて灯り船の出航準備が進められていた。港には屋台が並び、人々は祭りの雰囲気に包まれていた。船上では使用人たちが夜宴の準備を行い、特別な招待客を迎える態勢が整っていた。
乗船予定者としてラナとモニカが現れ、チケット係に身分証を提示して乗船手続きを済ませた。ラナは学生向けの特別枠での参加であり、準備係としても動いていた。一方モニカは<沈黙の魔女>であることを伏せて、ラナの親しい友人として参加していた。
招待客たちの集いと偶然の乗船者
招待客の中には、第二王子フェリクス、侯爵令息シリル・アシュリー、元騎士ブレンダン・オートレッドらが名を連ねていた。フェリクスは気まぐれに、護衛役なしで精霊と共に乗船し、シリルは誤って「業務用」だと信じていた招待状を手にして現地入りした。ブレンダンは当初参加予定はなかったが、シリルとの交流を経て同行することとなった。
また、ラナの父親が世話になっていた地元貴族の計らいで、多くの準関係者が「特別扱い」の名目で同席していた。これにより、当初予定されていたよりも幅広い階層の人々が灯り船に乗り込むこととなった。
灯り船の出航と人間模様
夕刻、船は出航し、夕日とともにゆっくりと沖へと進んだ。船内では各々が思い思いに過ごし、フェリクスは料理に舌鼓を打ちながらも、ひと目を避けるため人目につきにくい位置で過ごしていた。シリルは初めての祭り参加にやや緊張を見せ、ブレンダンは酒を傾けつつ穏やかな時間を楽しんでいた。
モニカは人前で魔術を使えないという制約がありながらも、魔導具の調整や異変への備えを怠らず、静かに周囲を観察していた。彼女は密かに周囲の精霊の様子を感じ取り、不穏な気配に注意を向けていた。
祭りの空気と迫る異変
船が沖に到達するころ、秋精霊への祈りとともに無数の灯火が水面を照らした。幻想的な光景が広がる中、船内は一層にぎわいを増し、人々の顔には笑顔が浮かんでいた。しかしその一方で、モニカは精霊のざわめきに不自然さを覚え、何かが起こる予兆を察知していた。
その気配は港とは異なる種類のものであり、強い意志を持った存在が周囲に干渉しているように感じられた。彼女は即座に対応できるよう魔導具を確認し、密かに警戒態勢に入った。
緊張の兆しと終わりなき夜
祭りの夜が最高潮を迎える中、誰もが気づかぬうちに不穏な空気が忍び寄っていた。港町の平和なひとときは、嵐の前の静けさに過ぎず、モニカの直感が告げる危機は確実に近づきつつあった。灯り船の夜は、やがて大きな転機を迎えることとなる。

三章 秋精霊の灯り船

出航前の交流と不穏な兆し
モニカたちは、秋精霊の灯り船に乗るため港に集った。ラナはアルパトラ風の華やかな衣装を纏い、モニカやアイザックと和やかな会話を交わしていた。リックは船に乗ることに不安を抱いていたが、周囲の勧めにより同行することになる。モニカはリックに対して、何か違和感を抱きつつも、表面上は落ち着いた様子で船に乗り込んだ。
船上の光景とモニカの葛藤
秋精霊の灯り船の甲板は、ランタンや装飾で美しく彩られていた。だが、モニカは出航早々に船酔いしてしまい、苦しむこととなる。アイザックとラナは彼女を気遣い、薬を取りに行こうとするが、リックはそれを止めようとし、どこか不自然な態度を見せていた。モニカは自身の成長や大人としての在り方についても思い悩んでいた。
乗船者による襲撃と人質事件
船室の前で、突如ラナの悲鳴が響き渡る。ラナは男にナイフを突きつけられて人質にされ、仲間と共に船を制圧される。彼らは詠唱無しで水の弾丸を操る能力を持ち、乗組員を威嚇した。男たちの目的は、ラナを人質としてアルパトラへ向かうことであり、ラナの身分を知った上で行動していることが明らかとなる。
モニカの反撃と脱獄囚の正体
ネロの機転により、男の注意が逸れた瞬間、モニカは無詠唱魔術で襲撃者を撃退した。アイザックも迅速にラナを救出し、共に犯人たちを拘束する。男の一人・ダレルはネイガル監獄の脱獄囚であり、リックと兄弟のような関係にあった。リックは動揺し、命令に従えず苦悩する様子を見せた。
船の異変と精霊憑きの暴走
船が突如揺れを止めたかと思うと、大きく揺れ、モニカは頭を打ち、魔術の集中を失った。逃げようとするダレルをモニカが撃ち、再拘束する中、リックの正体が明かされる。彼は水霊ルーフェルノに憑かれた精霊憑きであり、襲撃者たちも同様に精霊の力を得ていた。ルーフェルノが操る水の大蛇によってモニカは海へと投げ出されてしまう。
ウィルディアヌの救出とアイザックの行動
アイザックは精霊ウィルディアヌをモニカ救出のために海へ送り出す。船上では、アイザックがリックの姿を見失い、状況の把握と対応に追われていた。モニカとウィルディアヌが流された方向を感知し、船長を説得して船を向かわせる準備を始める。
海中での精霊の対峙
水中では、ウィルディアヌがモニカを泡で包み救出を試みていた。そこへ現れたルーフェルノが、自身を大海出身の水霊と名乗り、弱き泉生まれのウィルディアヌを嘲る。ルーフェルノはモニカの引き渡しを要求するが、ウィルディアヌはそれを拒絶した。ルーフェルノは追撃を中断し、リックを衰弱させぬためと称して撤退する。その気配を感じつつ、ウィルディアヌは陸を目指してモニカと共に移動を始めた。

四章 水辺で静かに願うもの

海岸での目覚めと状況確認
モニカは冷たい海辺で意識を取り戻し、侍従服姿の青年――人間形態のウィルディアヌと対面した。自身が溺れていないことと軽傷で済んだことを確認し、秋精霊の灯り船から遠く離れた見知らぬ浜に流れ着いたと把握したである。ウィルディアヌから、船に残るアイザックとラナの無事を知らされ、救助が向かうと推察したが、脱獄囚と精霊憑きの行方が不明である点を懸念した。
二人の協力と行動方針
上位水霊ルーフェルノに憑かれたリックの脅威を再確認したモニカは、水辺を離れつつ敵の捜索を進める方針を立てた。寒さを訴える彼女に対し、ウィルディアヌは魔力操作で衣服の海水を弾き、行動可能な状態へ整えた。二人は目立たず脱獄囚を捕縛し、アイザックと合流することを目的に協調を開始したであった。
ウィルディアヌの過去と心情
道中、ウィルディアヌは自らが森奥の涸れかけた泉で生まれた弱い水霊であると語り、願いを叶えられぬまま人々の祈りを静かに見守っていた来歴を明かした。彼はかつての主アイリーン妃と騎士の強い信頼関係を羨望しつつ、信頼という概念を完全には理解できない自分を省みたである。
正体隠しの工夫と詠唱問題
モニカは七賢人である身分を隠し続けたいと述べ、ウィルディアヌも人間らしく振る舞う必要性を認めた。二人は無詠唱魔術では正体が露見すると判断し、表向きの詠唱を演技で補う策を検討した。モニカは素数を、小声で唱える案を考案し、ウィルディアヌは紅茶の銘柄を列挙する方法で対応することで合意したのである。
不審な少年の観察と接触予兆
岩陰では金髪の痩せた少年が二人を監視していた。彼はモニカを裕福な観光客、ウィルディアヌを護衛の魔術師と推測し、ダレルらに悟られぬよう先回りして接触しようと企図した。少年は近隣の漁師小屋へ向かい、状況を利用する算段を立てたであった。
感知魔術による手掛かり発見
夕刻が迫る中、モニカは無詠唱で感知魔術を行使し、近隣の漁師小屋から下位精霊に由来する魔力反応を捉えた。敵か無関係の精霊かを判別するため、彼女は慎重に接近方法を検討し、ウィルディアヌへ協力を要請したところで場面は推移した。

五章 人類耳呼吸疑惑

少年ハンスの遭遇と誤解
少年ハンスは、追っ手から逃れるために漁師小屋に身を隠していた。窓から外を窺い、接近する二人組を小石で誘導しようとしたが、扉が開き、驚いた彼は攻撃の構えを取った。現れたのは外にいた二人、モニカと侍従服のウィルディアヌであった。ハンスは精霊憑きであることを告白し、ダレルに利用されていたと訴えるが、モニカたちは即座に信じなかった。彼の頭には雷の矢が突きつけられたまま、話が続いた。
奇妙な攻防と水の魔術
小屋の外ではダレルの配下が攻撃を開始し、モニカは防御結界を展開した。ウィルディアヌは紅茶の銘柄を唱えるという奇妙な詠唱で水球を生成し、敵の顔面に張り付けて無力化した。彼は人間が耳で呼吸すると誤認していたが、モニカの指摘で誤りに気づく。敵が窒息する前に水を解除し、拘束することで脅威を排除した。
精霊憑きに関する疑問と認識の相違
ハンスはモニカたちに保護を求め、精霊憑きにされた経緯を語る。彼は貧民街出身で、かつてダレルに世話になったが、再会した際に無理やり協力させられたという。ハンスの話から、ダレルは人為的に人間を精霊憑きにする方法を用いていたと示唆される。モニカはそのような魔術は存在しないと断言し、精霊と契約するためには契約石が必要であると説明したが、ハンスはダレルが契約石を所持していなかったことを証言した。
リックの異常性と年齢の真実
ハンスはダレルの弟リックについても語った。リックは見た目は大人びているが、実際には11歳であり、兄に従順で精霊憑きである。彼の髪には青い一房があり、これは精霊憑きの証である。リックには水霊ルーフェルノが取り憑いており、宿主である彼より兄のダレルに従っていた。これは通常の契約精霊とは異なり、制御が困難であることが示唆されていた。
ラナとアイザックの会話と推察
一方、秋精霊の灯り船では、ラナとアイザックがモニカの安否について話していた。ラナはリックを雇っていたことに責任を感じ、謝罪した。リックの年齢が11歳であることが明かされ、アイザックは歯の生え方や服装から既にその可能性に気づいていたと語った。また、船に飾られていた宝石が一つ消えており、それがダレルの目的の一つであった可能性が浮上した。
脱獄囚ダレルの動向とルーフェルノの覚醒
ダレルはその宝石を契約石として加工し、上位精霊との契約を目論んでいた。彼はネイガル監獄で精霊憑きの術を完成させたとされ、部下に精霊を憑依させていた。ダレルの命で動く水霊ルーフェルノは、宿主リックの体を操り、独自に行動していた。彼らはモニカを襲撃したことに対して報復の意志を持っており、再戦を示唆していた。
リックの回想と後悔
リックは幼少期の記憶の中で、兄ダレルとの絆やラナとの出会いを思い返していた。ラナは精霊憑きのリックを差別せず、むしろその髪を美しいと讃えた存在であり、彼にとって大切な人物となっていた。だが兄に従った結果、ラナを危険に晒してしまったことを深く後悔し、自ら姿を消す決意を固めていた。リックが眠る傍らで、兄ダレルは新たな契約の準備を進めていた。

六章 海賊退治御一行

精霊解除への望みとダレル捜索の決定
ハンスは取り憑いた精霊を引き剥がせるか問い、モニカは方法不明のためダレルから情報を得るべきと判断したである。封印だけ施した三人の手下を残し、一行は日没前にダレルの潜伏先を急襲する方針を固めたである。
海辺への移動と詠唱の秘密
海岸沿いを進む途中、ハンスはモニカとウィルディアヌの奇妙な詠唱を聞き取り、不審を抱いたである。ウィルディアヌは伝統的詠唱と強弁したが説得力に欠け、ハンスは彼らを頼れるか疑問視したである。それでも協力関係は維持され、一行は慎重に前進したである。
シリルとの合流と小屋急襲
目標の小屋で氷結魔術を操るシリルとブレンダンが海賊討伐中であることが判明し、モニカは飛行魔術で合流したである。共同戦闘によりリックら精霊憑きを拘束し、モニカは封印処置を実施したである。ブレンダンはハンスの主人であり、ハンス救出のためシリルと協力していた事実も判明したである。
小屋での尋問とモニカの叱責
捕えたリックの尋問をモニカが主導し、ダレルの行方とラナ人質計画を追及したである。リックは兄への忠誠とラナへの罪悪感の間で涙し、モニカは大人に相談すべきだったと静かに諭したである。ハンスの無邪気な発言でモニカの年齢が明かされ、場が一瞬緩和したである。
水霊ルーフェルノの離反と小屋の危機
リックが水霊ルーフェルノを呼び出そうとした矢先、精霊が体内から消失していることが判明し、同時に小屋周辺の水位が急上昇したである。モニカの防御結界が張られるも小屋は沖へ流され、水面からルーフェルノの嘲笑と攻撃意思が示されたである。一行は海上で孤立し、精霊の大規模な力に対峙する逼迫した状況へ突入したである。

七章 どうでもよくなんかない

ルーフェルノとダレルの過去
水霊ルーフェルノは魔力濃度の低下で消滅の危機に瀕し、砂浜で出会った少年ダレルに救いを求めたである。ダレルは精霊を生かす場所を作ると誓い、やがて弟リックの肉体を契約石の代用とする禁断の術を完成させたである。
小屋水没と脱出準備
ルーフェルノが海水で小屋を押し潰す中、モニカは仲間九名を壊れた小舟に乗せ、シリルと協力して氷と風の魔術で船体を補強したである。小屋を覆う結界の限界を悟ったモニカは精霊王シェフィールドを召喚し、舟を浮かせて脱出を図ったである。
ルーフェルノとダレルの再契約
海上で待ち構えていたダレルは、盗んだ宝石を本物の契約石としてルーフェルノと再契約し、リックを切り捨てようとしたである。モニカは人間を契約石にする非道を糾弾し、ラナを人質にされた怒りを露わにして対峙したである。
リックの葛藤と決意
兄への忠誠に揺れるリックは、モニカに「怒りを示せ」と諭され、ラナへの想いを守るためにダレルへの反発を叫んだである。ダレルは弟を不要と断じ、両者の亀裂が決定的となったである。
精霊王召喚と海上戦
モニカは改良した精霊王召喚で小舟を飛行させ、ルーフェルノの水の大蛇を風刃で迎撃したである。ブレンダンとリックも櫂で攻撃を逸らし奮闘したが、ルーフェルノは巨大波を発生させて形勢を覆し、精霊王の門を掻き消して舟を呑み込んだである。

八章 キラキラ王子様は夕焼けと共に

ダレルの過去と研究
ダレルは、魔術師としてネイガル監獄に収監されていた過去を持ち、そこで出会った元教師の囚人ヴィクター・ソーンリーから多くの魔術知識を得ていた。ソーンリーは沈黙の魔女を「バケモノ」と呼び、関わることを極度に嫌がった。ダレルは幼少期に出会った上位精霊ルーフェルノの延命のため、魔法学校に進学し、契約石を得るための研究を重ねた。その過程で人間を契約石の代替とする術式を開発したが、限界があり、なおも本物の契約石に固執し続けた。
幻影と精霊王召喚
ダレルは沈黙の魔女モニカが乗っていた小舟をルーフェルノの力で呑み込んだつもりでいたが、それは幻影であり、モニカたちは実際には水中に潜伏していた。さらに、モニカは精霊王召喚を二重に発動し、精霊ルーフェルノとの魔力干渉によって水中の支配を拮抗させ、逃走経路を塞いでいた。
空前の魔術戦と戦局の転換
モニカの精霊王召喚は、高度な同時維持と水中環境の操作により、ルーフェルノの魔力を圧倒した。ダレルは船を乗っ取ることで活路を見出そうとしたが、その目論見は、幻影によって隠れていたモニカの仲間である銀髪の青年シリルと旅装の老人の連携により阻止された。ダレルとルーフェルノは、凍結や幻影によって拘束され、形勢は逆転する。
救出と決着
アイザックは秋精霊の灯り船から木の板を使って波に乗り、奇跡的な跳躍でダレルを攻撃して捕縛し、契約石を奪取した。ルーフェルノもまた降伏を余儀なくされ、戦闘は収束した。アイザックと契約精霊ウィルディアヌの見事な連携は、周囲に強い印象を残した。
戦後処理とそれぞれの心情
戦闘後、モニカ一行は砂浜に到着し、魔力を使い果たしたモニカは疲労困憊していた。小屋は破壊され、避難用の舟も失われていたが、ブレンダンが領主との交渉を引き受けることで事後処理が進められた。一方、拘束されたダレルは、かつての囚人仲間と同じく敗北を受け入れることとなる。彼の弟リックは兄への思いを涙ながらに告げ、ダレルもまた心の内で何かが変わった様子を見せた。モニカはダレルの罪が変化した時代において裁かれることに思いを巡らせ、静かにその結末を見守っていた。

九章 夜の海は怖いから

領館への移送と事情聴取
モニカが脱獄囚ダレルを拘束した直後、領主の馬車が到着し、一行は砂浜の人目を避けて領館へ搬送された。ブレンダンが根回ししたことで素性を伏せた聴取が馬車内で行われ、漁師小屋破壊などの被害報告と護送手続きが滞りなく整えられた。領主はモニカらを丁重に迎え、リックの身柄も温情的に預かったので、大きな処罰は回避されたである。
夜の領館での食事とモニカの内省
湯浴みと着替えを済ませたモニカは部屋でネロと夕食を取り、窓越しに闇へ沈む海を眺めた。彼女はルーフェルノの告白を思い返し、自身が行った氷霊ロマリアの延命とダレルの行為を比較して葛藤した。精霊の意思を顧みなかった不純さに気づき、胸中に暗い海が広がる感覚を覚えたが、思考はやがてシリルの姿を探す衝動へと転じたである。
モニカとシリルの夜の散歩
庭園を散策していたシリルは食べ過ぎから来る冷気を抑えつつ花壇を避け、暗い海を怖れて立ち止まった。そこへ駆け寄ったモニカは共に歩き、共同研究の畑の進捗や氷霊ロマリアの延命問題を語り合った。シリルは責任を自分が負うと断言し、モニカも後輩として精霊研究を支える決意を示した。二人は互いの成長を認め合い、心の重荷を軽くして部屋へ戻ろうとしたである。
アイザックとブレンダンの交渉
庭の陰で待つアイザックは老騎士ブレンダンと対面し、領主業の留守を任せる家令として迎え入れたいと打診した。ブレンダンはかつて仕えたアイリーン妃への忠誠を引き合いに渋ったが、アイザックの誠意と酒宴の誘いに折れ、晩酌を条件に引き受ける意向を示した。アイザックは有能な後見を得て、魔術修行と領務の両立への布石を固めたである。
三人の合流と水霊祭への布石
交渉を陰で見守っていたモニカとシリルは姿を現し、アイザックが魔術を学ぶ熱意と留守役確保の目的を知った。シリルは胃もたれを咄嗟に隠したが、アイザックに悟られて苦笑しつつ、水霊祭特別乗船券の話題を出した。券は単なる優待であったが、アイザックは験担ぎに乗船を勧め、シリルは使命感を抱いて承諾した。モニカは師として教え方を見直すと宣言し、夜風の下で三人はそれぞれの目標と絆を確かめ合ったである。

十章 手探りの日々

水霊祭と準備の日常
モニカはダレル・ホーリスと水霊ルーフェルノの拘束を果たした後、仲間と共に水霊祭の朝を迎えた。祭の開催には若干の混乱があったが、概ね順調に進行し、モニカたちはリラックスした時間を過ごしていた。彼女はラナの商会を訪れ、アルパトラ風の衣装を着付けてもらう。その場にいたリック少年は、事件後フラックス商会の一員となり、ラナから制服を贈られることとなった。
リックの後悔と再出発
ラナは厳しい表情でリックの過去の過ちを指摘しつつも、再出発の機会を与えた。ラナの態度は商会長としての責任感と愛情に基づいたものであり、リックはその期待に応えることを誓った。制服に縫い付けられた商会の紋章を見たリックは、その重みを自覚し、これからの自らの行動を正そうと決意する。モニカもまた、リックの変化を温かく見守る決意を新たにした。
モニカの成長と水霊祭での挑戦
モニカは、自らを奮い立たせて人混みに挑み、アイザックへのお土産を探しに出かけた。しかし、人混みの壁に阻まれ、目標の店に辿り着けず苦戦する。そんな彼女の前に現れたのはネロであり、彼の案内で再び目的地を目指すこととなった。途中で高級果物のパイナップルを食べた二人は、その味に驚きつつも、共に楽しむ時間を過ごした。
アイザックとシリルの市街地巡り
一方、アイザックは眼鏡と帽子で変装し、市街で土産物を探していた。シリルは人混みに苦戦しつつも同行し、アイザックの助言によりスパイスやランタンを購入する。特にランタンは、夜の水辺への恐怖を克服するための象徴となった。アイザックの配慮にシリルは深く感謝し、ランタンを大切にすると誓った。
師弟関係の深化と贈り物
昼食を買い込んだアイザックはモニカの家を訪れ、彼女の「お帰りなさい」という言葉に深く感動する。モニカは水霊祭で探し出した魔術書をアイザックへの贈り物として差し出し、その選定には師としての思いが込められていた。モニカは、アイザックに「魔術式に絶対の自信を持つ魔術師」になってほしいという明確な目標を伝えた。
過酷な目標とネロの協力
魔術書は全30冊に及び、今回の1冊はその最初であった。アイザックはその期待の重さを受け止め、半年以内の習得を決意する。なお、それらの書籍の運搬にはネロが協力していた。こうして、アイザックは師であるモニカの期待に応えるべく、魔術師としての歩みを確かなものにし始めたのである。

エピローグ 世話が焼ける主人に乾杯

エリン公爵領への準備とウィルディアヌの思索
ブレンダン・オートレッドは、エリン公爵領への転属に伴い、従者ウィルディアヌ(変装名ウィルフレッド・フォレスター)と共にオートレッド家を訪問していた。精霊憑きの後遺症を調べるために、強制的に憑依された者たちは専門病院へ送られたが、例外的にリックだけはモニカの監督下でサザンドールに戻ることが許された。ウィルディアヌは応接室でブレンダンを待つ間、人間の自然な仕草を真似しようとし、モニカの癖を参考に指をこねる行動を試していた。
ブレンダンとの再会とディアナの記憶
面会を終えたブレンダンは、ウィルディアヌの仕草から旧知の存在を見抜き、彼がかつてアイリーン・ナイトレイに仕えていた精霊ディアナであることを看破した。アイリーンとの縁を語り合う中で、ウィルディアヌは初めて「寂しさ」という感情を理解したと述べ、ブレンダンもまた久方ぶりに彼女を偲ぶことができたと語った。
精霊としての名と主人の秘匿
ウィルディアヌは己の本名を明かし、現在の主人がフェリクス殿下ではないことを示唆しつつも、正体を隠す意図をブレンダンに伝えた。ブレンダンは事情を察し、それを胸にしまうと約束した。ウィルディアヌが使う仮名「ウィル」は、主人の配慮により自然に呼ばれるよう設計された名前であり、それを誇りに感じていた。
アイザックという存在と「世話が焼ける」という言葉
ブレンダンの問いに、ウィルディアヌは自身の主人であるアイザック・ウォーカーについて、「危なっかしくて、ハラハラする存在」と評した。それを受けたブレンダンは、それこそが「世話が焼ける」ということだと教え、それゆえにウィルディアヌはアイザックと契約したのだと納得した。アイリーンの願いを引き継ぐ者としてのアイザックを見捨てられなかったウィルディアヌは、今の主人を守るために在り続けることを選んだのである。
共感の儀式と絆の象徴
ブレンダンはウィルディアヌに対し、互いに「世話が焼ける主人を持つ者同士」として、共感の意を込めてティーカップを掲げた。ウィルディアヌもそれに倣い、主人への忠誠と理解を共にする者として、静かにカップを持ち上げた。かくして、世話の焼ける主人に捧げる乾杯が交わされたのである。

【シークレット・エピソード】因縁の男

監獄外壁の調査と犯行手口の推定
七賢人の一人であるルイス・ミラーは、ネイガル監獄爆発事件から約一ヶ月後、破壊された外壁の調査を行っていた。監獄の結界は国内でも最高峰の防御力を誇り、外から破壊されたことが判明している。内部犯ではなく、外部からの攻撃による爆破であったため、犯人は囚人ではなく外部の魔術師であると断定された。火力の観点から、単独犯あるいは少人数の精鋭による犯行、もしくは上位精霊や魔導具の補助を受けた者の可能性が高いとルイスは推察した。
魔法兵団からの二つの報告
捜査本部へ戻ったルイスは、魔法兵団第一部隊隊長オーエン・ライトから二つの報告を受けた。一つは、脱獄囚ダレル・ホーリスが国外逃亡を図った際に<沈黙の魔女>モニカに捕縛されたという知らせである。モニカは任務外で偶然にも脱獄囚と遭遇したと見られている。二つ目は、遺体の身元確認が進んだ結果、脱獄囚の中に<風の手の魔術師>アドルフ・ファロンが含まれていたことが判明したという情報であった。
因縁ある脱獄囚アドルフ・ファロンの再登場
アドルフ・ファロンはかつて七賢人候補に選ばれた実力者であり、ルイスにとっては因縁の相手であった。彼は目的のためには手段を選ばず、過去にもルイスの家族を狙おうとした経緯がある。ルイスは即座に妻リンに連絡を取り、娘ロザリーとレオノーラを避難させる必要を感じた。また、アドルフが強い恨みを抱いている相手として、かつて七賢人選考戦で彼を無詠唱魔術で圧倒した<沈黙の魔女>モニカも標的となり得ると判断した。
過去の屈辱と二人の魔術師の関係
アドルフは遠隔魔術に長けた魔術師であったが、七賢人選考戦でモニカに無詠唱魔術で敗北し、誇りを砕かれた過去を持つ。モニカは当時、アドルフの得意分野で彼を打ち破り、それを単なる計算の結果と断じたため、彼に深い屈辱を与えた。オーエンがその話に触れると、ルイスもまたモニカに完敗したことを認めつつ、将来的な雪辱を誓った。
緊急連絡と緩急入り混じる弟子とのやり取り
ルイスはアドルフの再登場による脅威に対応すべく、弟子のグレンに王都への緊急連絡を命じた。グレンは任務より祭りへの未練を見せたが、それに対してルイスは優雅な笑顔を浮かべながら飛び蹴りを食らわせた。緊迫した事態の中にも、師弟の軽妙なやり取りが交錯していた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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