物語の概要
本作はライトノベル作品である。異世界にて行われていた大規模トンネル工事の最中、主人公・佐々木らが山脈地帯を掘進中、太古文明の遺跡を発掘してしまう。遺跡内部にはアンデッドが徘徊し、交易ルート確保を目指す工事を妨げる事態となる。ササキ=アルテリアン辺境伯は“星の賢者”ピーちゃんの協力を得て、遺跡調査へ乗り出すも、多数のトラブルが待ち受ける。シリーズ第十一巻では、久々の本格ダンジョン攻略が展開される。
主要キャラクター
• 佐々木(ササキ=アルテリアン辺境伯):本作の主人公。現代から異世界を行き来しつつ、工事と冒険に奔走する社畜兼貴族である。
• ピーちゃん(星の賢者):文鳥として日本に現れた異世界の大賢者。幅広い魔法を操り、佐々木の盟友にして案内役を務める。
物語の特徴
本作は「現代社畜×異世界ダンジョン攻略×ドタバタ工事ファンタジー」の異色の組み合わせが魅力である。工事現場というリアルな舞台設定と、転生賢者ピーちゃんというファンタジー要素の融合、さらに中年目線のゆるいラブコメや政治的駆け引きまで、ジャンルを横断する“ごった煮”感が他作品と一線を画す。本巻では主に“遺跡発掘→アンデッド討伐→賢者との協力”といったダンジョン攻略に重きが置かれ、シリーズ屈指のアクションと冒険描写が展開される。
書籍情報
佐々木とピーちゃん 11 大冒険! 異世界でダンジョン攻略、はじめました ~工事現場から太古に滅亡した文明の遺跡が出土しまして~
著者:ぶんころり 氏
イラスト:カントク 氏
出版社:KADOKAWA
発売日:2025年6月25日
ISBN:978‑4‑04‑684886‑4
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あらすじ・内容
物語は宇宙空間&地下都市へ!? コミックス5巻も同時発売!
異世界で行われていた大規模なトンネル工事。
ヘルツ王国とルンゲ共和国を陸路で結ぶべく、二カ国の国境に跨った山脈地帯を掘り進めていた佐々木とピーちゃん。
すると、これはどうしたことか。
地中深くに埋没していた古めかしい遺跡を掘り当ててしまう。
しかも遺跡の内部には大量のアンデッドが徘徊しており、工事現場に溢れ出したから大変だ。
このままではトンネル工事も立ち行かない。共和国との交易など夢のまた夢。
予期せぬ遺跡の出土に困惑しつつも、ササキ=アルテリアン辺境伯は星の賢者様の協力を得て、その調査に乗り出すことに。
久しぶりに異世界で冒険をすることになる、星の賢者様の格好いいシーンが満載のシリーズ第十一巻!佐々木とピーちゃん 11 大冒険! 異世界でダンジョン攻略、はじめました ~工事現場から太古に滅亡した文明の遺跡が出土しまして~
感想
今巻は、まさにシリーズ最大の危機が訪れたと感じさせる幕開けだった。
国を追われた佐々木達が、十二式の庇護のもと、地上からパクった和風建築で年末年始を迎えるという、予想外の展開に驚かされた。
そんな状況下でも、彼らがお約束の行事をこなそうとする姿には、どこか逞しさを感じた。
しかし、物語はそれだけで終わらなかった。
十二式の秘密を探ろうと奮闘する犬飼の空回りはなかなかのコントになっていた。
一方、異世界でダンジョン攻略に挑む展開は、シリーズのファンとしては心躍るものだった。
仕事を押し付けようとする財務大臣の魔の手から逃れながらの冒険は、手に汗握るスリリングなものだった。
そして、アンデットのお仲間が王の相談役となり、王国がより強固になるという結末は、予想外でありながらも、今後の展開への期待感を高めてくれた。
危機、冒険、そして少しのユーモアが詰まった今回の物語は、佐々木達の未来がどうなるのか、ますます目が離せない展開となっていた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
〈国外追放 一〉
国外追放決定の経緯と対処
佐々木たちは、機械生命体と関係する姿が報道されたことを受けて、長期休暇という名目の事実上の国外追放を命じられた。公には佐々木ファミリーと関係を断絶したと表明された上、各種組織や報道機関にも通達がなされた。これには、東欧での被害や公になれば責任追及を招く懸念などが背景にあり、上層部は情報遮断と距離を取る必要性を強調した。
星崎と二人静の立場と条件交渉
星崎は家族の生活と収入を懸念し、課長に具体的な保証を求めた。課長は、休暇中も外回り業務として扱い、24時間分の危険手当付き勤務として処理する案を提示したことで、星崎はこれに納得した。二人静については、本人の意思と立場から自然に同行する形となり、交渉も円滑に進んだ。
写真撮影による友好の証明と上司の対応
佐々木は一時的な措置であるとはいえ、信頼関係の確認として記念撮影を求めた。メイソン大佐はこれを受諾し、課長も渋々応じて和やかな一枚が撮影された。こうして形だけの友好の証が残され、関係の継続が示唆された。
犬飼三等海尉の同行決定
打ち合わせ終了後、阿久津課長の手配により、かつて同行していた犬飼三等海尉が再登場し、同行を命じられたことを報告した。彼女自身は足手まといになることを危惧していたが、家族ごっこのグループチャット上での多数決により受け入れられ、同行が決定した。
軽井沢への避難と住居の再構築
職場から人目を避けて退出した一行は、十二式の末端で軽井沢の二人静邸へ移動。事情を家族ごっこ参加者に説明し、国外退避の経緯を共有した。その中で、居住場所として十二式の円盤内部が候補に挙がり、彼女は歓喜した様子を見せた。
他メンバーの同行と出発準備
アバドン少年、お隣さん、エルザ、ルイス殿下らも同行を申し出て、全員での出発が決定された。末娘の送迎によって星崎は一度自宅に戻り、必要な荷造りを整える流れとなった。全員が私物を携え、中庭に集結し、機械生命体の末端へ搭乗して国外へと旅立った。
国外追放の実感と日常の喪失
人類の敵としての扱いを受けたにもかかわらず、最初に思い浮かんだのは贔屓のラーメン屋に行けなくなるという感想であった。だが、このようなささやかな日常の損失こそが現実味を伴い、国外追放という非日常の深刻さを際立たせていた。
和住宅での再会と正月飾りの装飾
未確認飛行物体の内部に築かれた和住宅に久々に訪れた一行は、玄関先に門松、庭に杵と臼、羽子板、縁側に飾られた手毬など、正月仕様に更新された装いに驚かされた。これらの正月飾りは、十二式が山林から材料を調達し自作したものであり、家族行事を重視する意志が示されていた。飾り付けを手伝いたいと星崎が申し出たことで、十二式は大いに喜び、宅内の装飾見学が始まった。
宅内の装飾と餅つき・おせち準備
居間の床の間には「謹賀新年」の掛け軸と若松が飾られ、座卓には空の重箱が用意されていた。十二式は餅つきやおせちの必要性を熱弁したが、材料が不足していたため、佐々木とピーちゃんが買い出しを引き受けた。一方、宅内では星崎と二人静、十二式が餅つきに取り掛かり、犬飼やお隣さん、アバドンらが料理を担当することとなった。犬飼はおせち作りに参加を申し出て受け入れられ、他のメンバーも協力体制を取ることで合意した。
年越しの共同作業と暮らしの構築
佐々木とピーちゃんが買い出しに出ている間、餅つき大会が開催され、星崎は気負い過ぎて腰を痛めた。二人静が大半をつきあげ、昼食にはつきたて餅と豚汁が振る舞われた。午後も食料や日用品の買い出しが続けられ、夕方にはおせちと餅の準備が整った。皆が和住宅に宿泊する形となり、部屋割りも決定。犬飼は星崎の配慮で同室となり、家族ごっこによる新たな生活が本格化した。
異世界訪問とヘルツ国王との再会
夜、佐々木とピーちゃんはエルザと共に異世界ヘルツ王国を訪問し、王都アレストの王城へ向かった。そこでは新たに即位したアドニス陛下と再会し、帝国派貴族の粛清が一段落したことが語られた。陛下は兵力の消耗に対処するため、大戦犯とされる強者の協力を検討していた。
大戦犯への接触と佐々木の同行決定
アドニス陛下は大戦犯への接触を考えていたが、ミュラー伯爵はその危険性を強く懸念した。佐々木とピーちゃんは、陛下に代わってその交渉に当たる意志を表明し、陛下もそれを了承した。こうして、佐々木とピーちゃんは危険な交渉へ赴く新たな任務に就くこととなった。
大戦犯の探索と封印の発見
佐々木とピーちゃんは、アドニス陛下から指示された大戦犯のもとへ向かうべく、空間魔法を用いて辺境の山脈地帯へ赴いた。辺りには人の痕跡がほとんど見られず、魔力の痕跡を辿って洞窟の中に入り、封印された人物が眠る巨大な水晶を発見した。その内部には銀色の体毛と獣耳を持つ獣人が封じられており、魔法陣と結界によって厳重に守られていた。
封印解除とヴィルヘルムとの対話
ピーちゃんは佐々木の協力を得て封印を解除し、獣人を覚醒させた。彼は理知的な態度で応じ、自身が「喰らい尽くすヴィルヘルム」と呼ばれていた過去を認めた。ピーちゃんは戦力としての協力を申し出たが、ヴィルヘルムはかつての因縁から人との関わりを避けたいと述べ、静かに暮らすことを望んだ。また、自身が封印を解かれたことは内密にして欲しいと依頼した。
交渉の不成立と今後の方針
ピーちゃんは無理に協力を求めることはせず、いずれヴィルヘルムの心が落ち着いたときに再び話をすることを提案した。ヴィルヘルムもそれに同意し、二人の名を覚えると伝えた。交渉は物別れに終わったが、対立を避けた形で終了した。佐々木とピーちゃんは、アドニス陛下には時間を置いてから報告を行う方針を確認し、ヴィルヘルムとの接触を一旦終えた。
トンネル工事現場の視察と進捗確認
その後、佐々木とピーちゃんはヘルツ王国に戻り、佐々木が管理するアルテリアン地方のトンネル工事現場を訪れた。そこでは既に数千人規模の集落が形成され、出入口や街道整備、田畑の開墾などが進んでいた。工事も大幅に進展しており、魔法とゴーレムを活用した効率的な作業が行われていた。
フレンチ子爵の父との対話と現地参加
佐々木は現場の責任者であるフレンチ子爵の父から進捗報告を受け、工期の前倒しや安全対策が順調に進んでいることを確認した。また、最新の無線設備導入によってマルク商会との連携が円滑になり、領主たちからの正規兵派遣なども功を奏していた。佐々木は現場に数日滞在し、作業に参加しながら状況を把握する意志を示し、彼らの労を労った。
ゴーレム作業と現場の騒動
主人公はトンネル工事現場でゴーレムを使って建材の運搬を担当し、魔法の訓練も兼ねて活動していた。翌日、掘削現場の最奥で騒動が発生し、魔法使いたちがローブ姿の若者を取り囲んで問い詰めていた。彼の服の下に何かを隠している様子があり、周囲は盗みや間諜の疑いを抱いていた。
フレンチ家の妹の介入と現場の動揺
現場にはフレンチ家の妹が同行しており、彼女は強い口調で争いを制止しようとした。彼女の名声と振る舞いにより現場は一時落ち着き、問題の若者も出土品を隠していたことを認めた。彼の弁明により、隠していたのはトンネル内から出てきた金属製の不明物であった。
出土品の正体と買い取りの申し出
若者は、病気の弟のために金貨二十枚を必要としており、出土品を換金しようとしていた。主人公はその事情を聞き取り、金貨五十枚で出土品を買い取ることを申し出た。若者は感謝して受け取り、弟のもとへ向かうこととなった。
領主としての方針表明と作業員の反応
主人公はその場で今後の出土品は上役に報告すれば報奨金を出すと宣言した。作業員たちはその太っ腹な措置に感動し、現場の士気が高まった。
出土品の調査と無害の確認
出土品を持ち帰り、星の賢者に鑑定を依頼した結果、魔法的反応は見られず、観光土産のような無害な工芸品と判断された。文鳥のピーちゃんは表面に刻まれた未知の文字に強い関心を示し、調査を継続することとなった。
連続する出土と集落の存在の可能性
工事現場に戻ると新たな出土品が次々と報告された。その多くは日用品であり、一部には現代的な品も含まれていた。星の賢者の見解により、この地にかつて集落が存在していた可能性が高まった。
異世界からの帰還と年末の暮らし
異世界での任務を終えた主人公は地球へ帰還した。居住地は機械生命体による住宅で、大晦日の朝日とともに平穏な時間を過ごしていた。だが、その後は住人たちによる大掃除が始まり、賑やかな声が飛び交う中、各自が担当区画の清掃に取り組んでいた。
家族的なやり取りと日常の描写
主人公は水回りの清掃を任され、フレンチ家の面々や他の仲間たちとのやり取りが交わされた。先輩たちのやや奔放な振る舞いや、家中で発せられる大声によって、かつてないほどに家庭的な雰囲気が醸し出されていた。
大掃除の様子と些細な騒動
ルイス殿下やアバドン少年も加わり、掃除が進められる中、掃除機の不具合でエルザ様が悲鳴を上げる一幕もあった。こうした騒々しさも含め、年末らしい一体感のある一日となっていた。
年越しそばとマジカルピンクの登場
大掃除を終えた家族ごっこメンバーは、夕食に年越しそばとオードブルを囲んで団欒の時間を過ごした。その場にはマジカルピンクも加わっており、二人静氏の招待により同席していた。彼女の参加を巡り、過去の出来事や空き家の使用計画が語られ、住まいの候補として正式に受け入れられることとなった。
家族との距離感と精神的成長
星崎とマジカルピンクの間で、家族や精神年齢に関する話題が交わされ、エルザが孤独と再生について語った。その中で、マジカルピンクが孤児設定を受け入れた理由や、彼女の成熟した内面が明かされた。星崎が無意識に触れた二人静氏の過去も関係し、互いの理解が静かに深まった。
魔法少女の変身と警戒心
お隣さんの質問により、マジカルピンクは常時変身状態を保つ理由を語った。彼女は過去の襲撃経験から、常に身構えている必要性を感じていた。その姿勢にお隣さんも理解を示し、翌日から自らも真似する意志を見せた。
宇宙船内での年越しと地球の眺望
テレビの年越し番組を見ながら過ごす中、十二式の演出でディスプレイに地球の映像と正確な時刻が投影された。高度百キロメートルの位置にある理由や、国外追放の法的観点についての説明もなされ、全員が宇宙にいる実感を新たにした。
機械生命体と人類の技術格差
犬飼の質問から、十二式は機械生命体のエネルギー利用や人類との技術的断絶について語った。人類は重要性の低い資源とされ、技術提供の対象外と判断されていた。議論はややギスギスした空気を生み出すが、他の面々が間を取り持ち、その場は収まった。
アバドンの時計と年越しの演出
アバドンが所持する懐中時計をきっかけに、十二式は地球の年越しに合わせた花火の演出を披露した。半球型のスクリーンに映し出された精緻な映像に皆が見惚れ、華やかな気持ちで新年を迎えた。
穏やかな年明けとそれぞれの反応
年明け後も会話が続き、星崎やエルザ、ルイス殿下が花火の美しさに感嘆した。おせち料理の話題も上がり、家族ごっこの場は一層和やかな雰囲気に包まれた。新年を無事に迎えたことで、スローライフに一歩近づいた実感が皆に芽生えた。
〈国外追放 二〉
新年の異世界訪問と王城での報告
正月の団欒後、主人公とピーちゃん、エルザはトンネル工事現場での出土品確認のため異世界・ヘルツ王国を訪れた。王城ではミュラー伯爵とアドニス陛下に面会し、大戦犯勧誘の失敗を報告した。先方の戦犯は封印され意気消沈していたため協力は困難であり、陛下も結果を受け入れた。陛下の作戦は頓挫したが、情報収集と次の候補探索は継続されることとなった。
ケプラー商会への納品とトンネル視察の開始
その後ルンゲ共和国に立ち寄り、ヨーゼフへの軽油納品を済ませた一行は、再びヘルツ王国へ戻り、アルテリアン地方のトンネル工事現場を上空から視察した。地上では武装した者たちが集結しており、現場が混乱している様子が見て取れた。
モンスター出現による現場の混乱
現場ではフレンチの父が応対し、トンネル掘削中にモンスターの巣を掘り当て、作業員が中に取り残されていると判明した。主人公は最大戦力として自らトンネル内部に向かい、星の賢者の支援を得ながらモンスターの対処を開始した。
トンネル内の戦闘とアンデッドの出現
トンネル内ではゾンビやスケルトンを中心としたアンデッドが多数出現し、火器使用の制限や負傷者の治療など、現場は混乱していた。星の賢者の聖属性魔法により多数のアンデッドが浄化され、負傷者の避難も進められた。
アンデッドの性質と魔法による掃討
魔法陣はトンネル内を進みながらアンデッドを掃討し、特にゾンビやスケルトンなど知性に乏しい個体は自滅的に魔法に突っ込んで昇天した。一部には逃げようとする知的な個体も確認され、より危険な存在として認識された。
地下に広がる都市とアンデッドの発生源
トンネルの最奥で穴が見つかり、進んだ先には広大な地下都市が存在していた。そこでもアンデッドの徘徊が確認され、彼らの出処がこの都市であると推測された。都市には古代的な建造物が連なり、明かりはなかったが文明の跡が明白であった。
一時封鎖と集落の安全確保
地下都市から戻った後、星の賢者が魔法により穴を封鎖し、以降の出入りは自由に制御できるようになった。トンネル内に残存するアンデッドも掃討され、さらに封印を数カ所に施すことで、当面の安全が確保された。
戻りと今後の対応
最後に主人公はフレンチの父のもとへ急ぎ、現場の状況を報告するべく対応を継続した。地下都市の存在が明らかとなったことで、今後の工事継続にはさらなる調査が必要となることが示唆された。
地上での応急対応と地下都市の報告
トンネルから戻った主人公たちは現場の関係者と合流し、怪我人の治療にあたった。死者ゼロという結果に皆が安堵する中、フレンチの父と妹に地下都市の存在を報告し、トンネル内には封印を施し安全が確保されていることを説明した。これにより、工事の継続が困難になったことを憂慮する声が上がるも、主人公は地下都市の利用を提案し、アンデッド掃討と調査を自らの責務として引き受けた。
地下都市の構造と魔法的遺構の確認
翌朝、主人公とピーちゃんは再び地下都市へ赴いた。都市は広大で碁盤目状に整備され、石造りの建築物が魔法の影響により良好な保存状態で残されていた。術式の痕跡から、かつて魔力の効率的な維持と建築保全がなされていたと推察された。空調や照明なども魔法による対処が想定され、非常に高度な文明が存在していたことが窺えた。
アンデッドの掃討と都市の全容把握
都市内ではアンデッドの掃討が進み、四方の通路先にも同様の空間が連なっていることが判明した。それらは蟻の巣状に相互接続されており、主要通路は山脈を横断していた。都市規模は二、三キロ四方に及び、現在のトンネル工事とも接続が見込まれた。
建築物内の調査と住民の痕跡
都市内の建物は居住や商業、行政用途などが明確に分化されており、上下水道や畑も備わるなど極めて衛生的な構造であった。屋内にもアンデッドが存在したが、町は荒らされておらず、アンデッドが元の住民である可能性が高いことが判明した。書籍は風化していたが、一部魔法で保護された資料や魔道具が回収された。
中央通路の発見と今後の見通し
探索を進める中で、中央に延びる巨大通路の存在が確認され、各空間の大動脈的役割を担っていると判断された。この通路が地上と繋がる可能性もあり、今後の調査の重点とされた。時間の制約から今回の調査は打ち切られたが、再度の訪問と調査継続が予定された。
封印と帰還、そして魔法の習得
帰還時には再度出入り口を封印し、地上の開発を進めるよう要請した。また、主人公は聖属性の魔法の習得に成功し、少数のアンデッドを自力で撃退可能となった。これによりアルテリアン辺境伯としての責任を果たし、今後も異世界との往来を続けながら地下都市の調査に注力していく見込みとなった。
元日の朝と十二式の正座
元日の朝、日本時間で午前八時を過ぎた頃、自室から居間に向かった主人公は、すでに正座している十二式の姿を目にした。彼女は静かに新年を迎える姿勢を保ち、主人公たちの到着を待っていた。新年の挨拶を交わし、朝食の準備やエアコンの操作なども十二式の手で行われた。
家族の集合とおせち料理
やがて家族ごっこの成員が次々と集まり、元旦の朝食が始まった。おせち料理とお雑煮が振る舞われ、文鳥のピーちゃんはローストビーフに執着を見せた。栄養の偏りを指摘しながら他人の分をもらうことに戸惑う様子も見られたが、最終的には肉欲に抗えず食した。
お年玉と母子の駆け引き
お年玉の配布が話題となり、祖母役の二人静氏が用意していたポチ袋を皆に配布した。その後、主人公も事前に準備していたポチ袋を配布した。星崎が遅れてポチ袋を取り出す場面では、十二式を喜ばせつつ、先んじて配布されたことに対する悔しさを垣間見せた。
正月の衣装と着替え
十二式が用意した振袖や羽織袴が披露され、参加者全員がそれに着替えた。月面の施設で製造された高品質な衣装であり、見た目も着心地も良好とされた。晴れ着姿により気分が一新され、参加者はお正月らしい雰囲気に包まれた。
家族双六ゲームの開始
十二式は火星の工場で製造したというオリジナル双六を用意しており、皆でプレイを開始した。ゲームは人生系であり、マス目には厳しい現実的イベントが多数盛り込まれていた。中には病気や離婚、資産減少といった内容も含まれ、リアリティを持たせた構成となっていた。
双六の展開と評価基準
ゲームの最終評価では、家族との関わりや支出の目的が高得点とされ、単純な資産の多寡は評価対象にならなかった。最終的に星崎と十二式のペアがトップとなり、幸福な家庭生活と穏やかな死を迎えたことが勝因とされた。
初日の出の観測と展望室
ゲーム終了後、十二式の提案により一同はサハラ砂漠上空に設けられた展望室へと移動し、初日の出を観測した。高所からの景観は荘厳であり、全員が感動した。十二式の計画の綿密さと用意された演出に、皆が賞賛を送った。
火星旅行の提案と決定
その後の会話で、十二式が月や火星の施設を家族に案内する意向を示し、次なる正月の行き先が火星に決定された。人類に有害な宇宙放射線にも対処できると明言し、同行者として犬飼も含めることを承認した。
午後の遊びと平穏な一日
一行は和住宅に戻り、昼食後も羽子板やコマ回しといった正月遊びに興じた。異世界からの来訪者や機械生命体と共に、久しぶりに穏やかで温かい正月の一日を過ごすことができた。
夜中の目覚めと庭先の異変
元日の夜、深夜三時過ぎに尿意で目覚めたお隣さんは、寒さに震えつつトイレへ向かった。用を済ませた帰途、ふと庭先に動く影を目にし、警戒して窓越しに外を観察したところ、自宅の敷地外をこそこそと移動する人物の姿を確認した。特徴的な体型や立ち振る舞いから、対象は自衛官の犬飼であると判断された。
犬飼の追跡と展望室前の探索
お隣さんは悪魔アバドンを伴って、犬飼の動向を追うことを決断した。足音を忍ばせて追跡した結果、犬飼が展望室に繋がる出入口のあった場所を調査している姿を目撃した。現在は完全に閉ざされた壁面を前にして、彼女は何らかの方法で開口部を探っている様子を見せていた。
崩れる自衛官の精神と独白
出入口を開ける手段が見つからない中、犬飼は膝をつき、地面に手を付きながら独白を始めた。任務の無謀さ、上司や制度への不信、自身の将来への絶望、そして過去の期待と現実の乖離について、嗚咽混じりに語った。表情こそ見えないものの、その声から精神的に追い詰められている様子が明確に窺えた。
末娘の登場と現場の静観
お隣さんとアバドンが物陰からその様子を見守っていると、突如として末娘が現れた。彼女は静かに接近してきたため、発見に気づかなかったことに驚いたお隣さんは、無視したわけではないと弁明した。末娘は犬飼の行動を注視しており、現在のところ明確な敵意は見られないと判断した。
犬飼の本音と弟妹の判断
犬飼は泣きながら、自己の地位や欲望、後悔などを赤裸々に吐露した。表面的な冷静さとは裏腹に、彼女の内面には強い自己顕示欲と上昇志向があり、それが叶わないことへの苛立ちが垣間見えた。最終的に、お隣さんと末娘たちは、この夜の出来事については「見なかったこと」にすることを決定した。
〈地下遺跡 一〉
異世界への再訪と地下都市の調査再開
元日の夜、主人公らは再び異世界を訪れ、地下都市に巣食うアンデッドの掃討および調査を実施した。文鳥殿の魔法により瞬時に転移し、前回調査中断した地点から再開した。都市構造は蟻の巣のような複雑なもので、住居や行政、農業跡地など高度な文明の痕跡が確認された。中央には特に幅広く高い大通りが存在しており、今回はそこから調査を進めることとなった。
広大な大通りとその構造
主人公たちは大通りを左方向、ヘルツ王国側に向かって進み、多数のアンデッドをピーちゃんの聖属性魔法で殲滅しつつ進行した。通路は他区画を遥かに凌ぐ距離で延びており、十数キロ先で大規模な崩落箇所に到達した。現場周辺には高密度のアンデッドが徘徊し、調査の結果、土中から馬車や積荷、遺体などが発掘された。文鳥殿の魔法で掘削が進められた結果、外界へ通じる空洞を発見した。
地上への脱出と地形確認
掘り進められた穴から地上に出ると、そこは山中の窪地であり、地下都市への出入り口を示す構造物は皆無であった。飛行魔法で上空から確認したところ、地形はクレーター状であり、かつて大規模な魔法的行使があったと推測された。トンネル工事現場からそれほど離れておらず、出入口の封鎖と地形変化により、長年にわたり地下都市の存在が気付かれなかったと考えられた。
今後の利用と戦略的判断
地下都市はトンネル建設のルートとしての利用価値が高く、放置すれば他国に奪われる懸念もあるため、管理と活用が不可欠と判断された。ヘルツ王国領内にあることからも慎重な対応が求められた。また、都市を交易路の宿場町として整備する案も浮上し、王国と共和国間の経済連携を強化する戦略的な拠点としての可能性が見出された。
共和国側大通路の発見と調査
翌日、同様の調査がルンゲ共和国側に向けて行われたが、同様に大規模な崩落により通路が塞がれていた。文鳥殿の魔法で掘削が行われ、最終的に外界への脱出口を発見。現場は山岳地帯の勾配の激しい場所であり、周辺の草木によって視認が困難であったため、長年発見されなかった理由が判明した。
通路の戦略的価値と今後の展望
大通路は広さ・整備状況ともにトンネルとして十分な機能を持ち、今後の流通基盤として有望視された。ただし、調査のため一定期間、一般の立ち入りを制限し、都市の安全確保を優先する方針となった。共和国側の通路も含め、今後の交渉材料として利用されることが想定され、第一発見者としての優位性が意識された。
横道の調査と地下都市の隠匿性
大通路に点在する横道の調査も並行して実施され、すべてが脱出口または空気穴であったことが判明した。いずれの出口も封鎖されており、地下都市の存在を意図的に隠蔽しようとした痕跡が確認された。これらが計画的か突発的かは不明であるが、過去の重大な出来事があったことは確実である。
アンデッド掃討と調査団派遣の準備
最終的に都市内のアンデッド掃討を本格的に開始した。ロタンから派遣された魔法使いや聖職者が主力となり、トンネル工事現場を経由して都市に侵入、徹底的な殲滅作戦を展開することとなった。今後、地下都市の安全が確保され次第、調査団の派遣が予定されており、次回来訪時には本格的な調査が開始される見通しである。
地下都市の報告と交易路の価値
ルンゲ共和国を訪れたササキは、ケプラー商会に軽油を納品すると同時に地下都市の存在を報告した。先方はその存在を初めて知った様子であり、出入り口は魔法で封印済みである旨を伝えた。都市を交易路として利用する計画に関しても説明され、ヨーゼフは監視体制や商会の拡張への関心を示した。トンネル利用に関する料金体系をめぐる意見交換では、ササキの定額制構想に対しヨーゼフが懸念を述べたが、最終的には物流優先の姿勢に一定の理解を示した。
共和国の政体と中央議会の招集
会話はやがて共和国の政治体制に及び、ササキが中央議会に招かれていることが明かされた。ケプラー商会は長老会にも属しており、今回の召喚はその意向によるものとされた。ササキは異邦人である自身の立場から中央議会への直接的な関与には慎重な姿勢を見せ、マルク商会を通じての活動継続を希望した。長老会が中央議会を実質的に支配している構造も明かされ、ササキはそれに関与しすぎないように配慮を示した。
ヨーゼフとの問答と理念の提示
会話の終盤、ヨーゼフはササキに「この地で何を成そうとしているのか」と問いかけた。これに対しササキは「この大陸で暮らす人々の幸福を渇望している」と笑顔で答えた。その返答にヨーゼフは表情を崩し、今後の協力関係を申し出た。こうして握手と共に両者の対話は締めくくられた。
地球帰還と問答の振り返り
ササキはヘルツ王国を経てエルザと合流し、拠点の宿へ戻った。その後、地球への帰還準備を整え、ピーちゃんの魔法で転移した。移動後、ピーちゃんはケプラー商会での問答におけるササキの振る舞いが大陸外からの脅威と見なされかねないと指摘した。エルザからも「変顔」と評され、表情についての反省が促された。
家族ごっこ成員との朝の交流
地球へ戻ったササキは、家族ごっこの舞台である中古和住宅に帰還し、居間で十二式、二人静、星崎らと再会した。朝の雑談では夢に対する機械生命体の見解や日常的な話題が飛び交い、和やかな空気が広がった。一部では星崎とお隣さんとの小競り合いも見られたが、十二式の火星訪問提案により一同の関心が集まった。
火星訪問の準備と朝食の支度
十二式が火星への訪問準備が整ったと告げると、朝食準備のため一同は台所に向かった。役割分担により迅速に支度が進み、お雑煮とおせち料理が食卓に並べられた。朝食を終えたのち、一行は火星旅行に出発することとなった。
火星への到着と地表降下
一行は和住宅型の未確認飛行物体に滞在したまま、火星への渡航を終えていた。到着は朝食中であり、気づけば火星上空にいた。火星の赤褐色の地表が、展望室から手に取るように確認できた。その後、円盤状の末端に搭乗し、地表への降下を開始した。末端内部では四方に外界の光景が投影されており、旅客機での着陸に似た高度三千メートルから、火星を遊園地のように眺める感覚に包まれていた。
犬飼の撮影許可と人工物の発見
降下中、犬飼が十二式に撮影の許可を求め、快諾を得たことで、スマートフォンで記録を開始した。その後、二人静が火星地表に人工物を発見。それは地球の探査機の残骸と思われ、太陽光パネルやタイヤが見て取れた。十二式はその存在を通して、機械生命体の優位性を強調した。
火星施設の初見と機能美の構造群
やがて白銀の直方体の建造物群が現れ、施設の群生が確認された。それらは機能美を重視しており、同一設計の建物が整然と並んでいた。出入り口には無数の飛行物体が離着陸を繰り返しており、ステルス機能によって地球側からの発見は困難と説明された。
火星基地内の無機質な構造と機械の活動
基地内部は金属光沢に満ち、生活感を一切排した工場・倉庫群で構成されていた。あらゆる作業は機械によって担われ、資材運搬、製造、清掃などが秩序正しく行われていた。施設自体が機械生命体であり、十二式はその中枢の一端であった。
製造ラインと大量生産の実態
小型ポッドの製造ラインでは、24時間で63万9712体が生産されており、人類の月産自動車数と同等の規模であった。機械生命体はこの程度の生産を「原始的」と評価し、より高水準な設備は他の宙域で稼働していると述べた。大量生産されたポッドは主に小惑星帯の資源調査に用いられ、それにより更なる開発力向上が図られていた。
魔法のじゅうたんと施設内の移動
施設内の移動には、日曜大工で製造された特注の板状飛行物体が使用されていた。人類の製品にはない快適な移動性能を備えており、長距離移動も苦なく行えた。マジカルピンクはこの飛行板に興味を示さず、感情の希薄な十二式とのやり取りが続いた。
展望施設と娯楽設備の設置
一行は展望施設に案内され、火星を一望できる会議室のような空間で休息を取った。施設にはテレビや飲料水、トイレが整備されており、十二式の家族ごっこへの徹底ぶりが示されていた。テレビでは地球の番組がリアルタイムで放送されており、十二式は光速を超える通信技術を誇示した。
撮影と家族写真による歓喜
撮影許可を得た犬飼と星崎は、施設内部や家族写真を記録に収めた。この出来事に十二式は喜色を表し、感情を抑えきれない様子が見られた。その後も格納庫や離着陸施設の案内が続き、移動は快適に進んだ。
健康診断の申し出と母娘の会話
十二式は星崎に対して健康診断の受診を強く推奨した。星崎は当初戸惑いを見せたが、最終的には応じた。健康診断は無事に終了し、異常は認められなかったものの、星崎の表情は晴れなかった。十二式はその結果を家族に共有し、他の者たちにも受診を勧めた。
会話と価値観の交錯
その後、星崎が現役女子高生の魅力について話題を振ると、参加者たちは戸惑いながらも会話を交わした。ピーが主人公の好みを指摘し、話題は憧れの対象や性の価値観へと広がった。最終的に星崎が学校に通うべきと促され、彼女は反論できなかった。
火星旅行の終幕と地球への帰還
日没とともに火星旅行は終了を迎え、一行は夕食のために地球への帰還を開始した。
火星旅行後の日常と深夜の動向
火星旅行を終えた一行は未確認飛行物体で地球に帰還し、夕食と入浴を済ませた後に就寝準備へと移行した。入浴を家族全員で行うことで夜の時間が以前より慌ただしくなっていた。お隣さんは動画撮影を終えた帰路でアバドンとともに住宅街を歩き、腹筋の筋肉痛を感じながら帰宅中であった。途中で犬飼らしき人影を見かけたことにより、その動向を監視するため後をつけることにした。
犬飼の隠密行動と隠し通路の発見
犬飼は住宅街の外縁を巡り、展望台とは異なる出入り口を探索していた。彼女は周囲を警戒しながらも、通路の壁面を撫でたことで隠し扉を開き、内部に足を踏み入れた。この出入り口はロボット娘が事前に仕掛けた罠であり、犬飼を誘導する目的で設置されたものであった。ロボット娘の思惑通り、犬飼は内部探索を始めた。
施設内部での錬金術的装置との遭遇
犬飼が進んだ先には、金属片を加工して金色のインゴットへと変換する製造ラインが設置されていた。装置は実際に金を生成していると推測され、非常に価値ある資材であった。これは人類にとっての錬金術と見做せる内容であり、犬飼は感嘆しつつも周囲を警戒しながら近づいていった。
インゴットの窃盗とその動機の吐露
犬飼は監視の可能性を意識しつつも、インゴットを一つ手に取りジャケット内に隠した。その行動には、上司に対する成果報告やキャリアの維持という切実な理由があった。本人は任務遂行の一環として行動したと主張し、内部事情を独白するように呟いた。ロボット娘はその様子を監視しており、犬飼を裏切り者として属性変更し、将来的な制裁を予告した。
姉妹間のやり取りと私的な動機
ロボット娘とお隣さんは、姉妹としての関係性を再確認しながら、犬飼の行動を見守った。お隣さんは犬飼の排除が自身とおじさんの関係における障害除去につながると感じ、内心で安堵していた。星崎の健康診断後の反応や発言から、肉体の変化に対する焦りを読み取り、年齢的優位性を自認する場面も見られた。
帰路への転換と犬飼の監視継続
お隣さんは腹部の異変を感じ、牛乳の影響を認めつつ帰宅を決意した。ロボット娘とアバドンもこれに同行する形で現場を離脱した。犬飼の今後の監視は通常の監視モードに移行されたが、行動の把握に支障はないと判断された。かくして一行は物音を立てぬよう、慎重にその場を後にした。
〈地下遺跡 二〉
異世界移動と爆発事故への対応
ササキとエルザは、ピーちゃんの空間魔法により再び異世界へと渡った。到着直後、ルンゲ共和国のトンネル工事現場で爆発が発生したとの報を受け、現地へと急行した。空から視察した結果、出入り口が派手に崩壊していたが、トンネル内部の被害は軽微であった。地上に降りてマルクと合流すると、爆発は何者かによる魔法によるもので、嫌がらせの可能性が高いとの見解が示された。賊の正体や使用魔法の詳細は判明しておらず、現場には重傷者が出たが死者はなかった。今後の警備強化や補償対応が取り決められ、ササキはヨーゼフからの招集を受けてケプラー商会の本店へ向かった。
長老会参加の要請と事前準備
ケプラー商会の本店でヨーゼフと面会したササキは、長老会の定例会への出席が翌日に決定したことを知らされた。今回の爆発事件が会議に関係している可能性を踏まえつつも、現時点では証拠がなく慎重な対応が確認された。ヨーゼフの配慮により秘書が一人派遣され、ササキは長老会の十三家に関する情報を学びながら首都ニューモニアの高級宿舎で前夜を過ごした。秘書からはラングハイム家やリッター家などの政治的背景や経済力について詳細な説明があり、共和国の内政知識を急ぎ補った。
長老会定例会と政治的駆け引き
翌日、ササキとマルクはヨーゼフの案内で長老会の定例会に出席した。会場となる豪奢な議事堂では、既に他の長老たちが着座しており、ヨーゼフの紹介でマルクが商会代表として正式に挨拶を行った。するとラングハイム家から、マルク商会を中央議会へ受け入れる代償として、トンネルと地下都市の譲渡を要求する発言が飛び出した。これに対しヨーゼフとラングハイム家が激しい応酬を交わすが、ササキは冷静に譲渡の意向を示すことでその場を収めた。この提案は長老会の空気を和らげ、商会としての立場を強固にする意味も持っていた。
譲渡の合意と次回会議への布石
ササキの判断により、トンネルおよび地下都市の譲渡契約が近日中に結ばれることとなり、マルク商会の中央議会参加についても次回の定例会で正式に決議されることが決定された。マルクは地下都市に潜むアンデッドの危険性について注意を促したが、ラングハイム家は挑発的な態度を崩さず、議論は続いた。最終的に他の長老たちから異論は上がらず、議長による閉会の宣言をもって、マルク商会の顔見せは無事に終了した。
定例会後の作戦会議と譲渡の背景
定例会を終えたササキ、マルク、ヨーゼフの三人はケプラー商会に戻り、応接室で現状の整理と今後の対応について話し合った。ササキは長老会からの接触の時点で、マルク商会単独による地下都市とトンネルの独占運営は不可能と見込んでいた。爆破事件もそれを裏付けるような事態であり、今回の譲渡要求もラングハイム家の過去の帝国投資失敗の損失回収が背景にあると分析された。マルクはササキの判断に従い、事業の譲渡による損失よりも、労働者の安全が確保されたことに安堵していた。
権利譲渡と新たな任務の準備
翌朝、ラングハイム商会からトンネルと地下都市の視察依頼が届き、ササキたちは急ぎ現地へと向かった。崩落した出入り口はすでに最低限の復旧がなされており、速やかな復旧作業からは事前準備の可能性も感じられた。ササキとピーちゃんは空からその様子を見守り、地下都市の調査については星の賢者の魔法を頼りに隠密で継続する可能性を示唆した。また、トンネル出入口周辺の土地がヘルツ王国領であることから、今後はその地を拠点にした貿易基地の建設がササキの任務となる見込みである。
正月の居間と家族模擬の混沌
異世界から帰還後の三日目、居間ではコタツを囲みながら全員が怠惰な正月を満喫していたが、末娘・十二式は「正月らしい催し」の開催を訴えた。しかし同居人たちの実家は既に崩壊、所在不明、死別、犯罪歴など様々な事情で帰省できない状況にあり、実家帰省という概念そのものが幻想と化していた。その一方でエルザとルイス殿下の接待将棋や、コタツでのボードゲーム会議が始まり、家族模擬は相変わらず緩やかに続いた。
犬飼の自白と処遇の継続
その最中、犬飼に職場から連絡が入り、対面報告のため下艦の希望を申し出た。彼女は自らが国家の派遣スパイであることを認め、艦内の隠匿施設から金インゴットを持ち出したことも告白した。だが、十二式はこれを許容し、盗品もそのまま犬飼の物とし、継続しての乗艦を許可した。これは技術力で遥かに人類を凌駕する機械生命体側にとって、秘密の保全が必要ないことを示していた。
正月遊びへの回帰と一時の平穏
重い話題が続いた後、星崎と二人静の提案により、正月らしい遊びとしてボードゲームが開始された。十二式も最終的には騒動に口を挟まず、静かに遊びに加わり、ササキもまた平穏な一日を過ごすことができた。正月気分に浸るひとときは、過酷な日常からの束の間の休息となった。
星図完成と次なる交渉計画
正月が明けたある日、ササキは地下都市の構造を反映した星図をもとに、重要な座標候補地を再確認していた。機械生命体たちが提示した星の地図には、地下都市に対応する3地点が明記されており、ササキはそこを次の拠点と位置付けた。星図にはファーストコンタクトが発生する最有力候補地が存在し、その一つがヘルツ王国との国境付近にあった。現地での貿易拠点建設を視野に入れ、ラングハイム家との土地交渉を進めることが優先事項とされた。
外交活動と商会との交渉
ラングハイム商会が地下都市の調査権を引き継いだため、そこを拠点にすることは現実的でなくなった。そこでササキは外交カードとして、元居住区や貿易ルートとして有用な別地点の取得を図ることにした。ラングハイム家との直接交渉ではなく、共和国の長老会を通じて取得手続きを進める戦略が立案された。このため、マルクとヨーゼフは共和国での議会承認に向けて働きかけを行い、ササキは並行して機械生命体側の調整と準備に取り掛かった。
ササキの戦略と慎重な調整
星図に記された三つの地点のうち、最も可能性の高い地点を抑えることが、今後の地球と異世界双方にとっての要となる。ササキはそこを本拠地とすることで、星の賢者が提示した“始原の地”との接触に備える構えであった。機械生命体たちの反応も概ね良好であり、ササキは地球への影響を最小限に抑えつつ、異世界側の協力を得るための外交と経済的布石を着実に整えようとしていた。交渉の成否は地球と異世界の命運を左右する局面であり、準備は慎重かつ着実に進められていた。
地下遺跡への到達と鉄扉の先
東屋から延びた階段を百段以上下った先に通路が現れ、その突き当たりには分厚い金属製の扉があった。扉の前には大量の血痕が残されており、先行者たちが被害を受けたことが示唆された。文鳥殿の励ましを受けて扉を開くと、内部には保存状態の良い家具が整った石造りの部屋が広がっていた。その中央に立っていたのは、青白い炎を眼窩に灯す骸骨姿のアンデッド、後にムルムルと名乗る存在であった。
ムルムルとの交渉と交戦の勃発
文鳥殿が地下都市の謎について語る機会を求めたが、ムルムルはこれを拒否し、会話の場を設けようとしなかった。その後、彼がこちらの血筋を確認することなく敵と断じて攻撃を開始した。石畳から巨大な顎が現れたが、文鳥殿の障壁魔法により防がれた。さらに、ムルムルが放った黒い霧による魔法に対しても、文鳥殿は高位の聖属性魔法で霧を完全に無効化した。
魔法対決と勝敗の決着
霧の無効化に続き、文鳥殿は封印系の聖属性魔法を発動した。ムルムルも白骨化した体で抵抗を試みたが、魔法の圧力により全身に亀裂が入り、ついに敗北を認めた。ムルムルは地下都市の過去について語ることを了承し、戦闘は終結した。
地下都市の歴史とムルムルの過去
ムルムルは太古のブリントダルム帝国の王であり、不老不死の魔法により長命を得た存在であった。国家の繁栄と地下都市の建設は彼の指示によるものであったが、後に謀反に遭い、大切な者たちを失ったことで地下に引き籠もったことを語った。人払いの魔法により人の接近を避けていたが、掘削によって接触が実現した。
地下都市利用交渉とムルムルの承諾
文鳥殿と同行者は、山脈を越える代替手段として地下都市の中央正道の利用を求めた。脅しを含めた交渉の末、ムルムルはこれを受け入れた。ただし都市区画への立ち入りは固く禁じられ、違反者に対する処罰も明言された。中央正道のみが通行可能区域として認められた。
傷病者の治療と理解の進展
階段中程に倒れていた大戦犯の彼を発見し、同行を願ったムルムルが魔法で彼を治療した。その驚きの治癒能力により、彼はピーちゃんたちの実力を認め、ヘルツ王国への協力を申し出た。握手と共に信頼関係が築かれ、任務達成となった。
将来的な協力への布石
佐々木はさらに交渉を続け、地下都市の安全を守る役割をムルムルに依頼した。ムルムルは血筋の有無を基準に対応を決めると語り、敵国の末裔には断固として協力しない姿勢を示した。そこで、血縁者である可能性がある交渉役を後日連れてくる提案がなされた。ムルムルは条件次第で検討する姿勢を見せ、今後の交渉への可能性が開かれた。
交渉のための関係者招集と幻惑による偽装
佐々木は地下都市の利用に関する交渉のため、関係者であるミュラー伯爵、アドニス王、エルザ、マルク、ヨーゼフ、フレンチ親子らをムルムルの元に招集した。星の賢者の存在は機密であるため、大戦犯の彼の空間魔法を使って移動し、加えてピーちゃんの幻惑魔法で文鳥殿の姿を別人に偽装した。招かれた面々はムルムルの骸骨姿に困惑したが、態度を崩さずに対応した。
エルザの出現とムルムルの動揺
エルザの姿を目にしたムルムルは、彼女を「アンネローゼ」と呼びながら感情を爆発させた。彼女に血筋を確認する魔法を施した結果、彼女が自身の血を引く子孫であることが判明した。喜びのあまり嗚咽し、彼は生き延びてよかったと心の底から感動した。
エルザの提案とムルムルの譲歩
ムルムルはエルザを話し相手として定期的に招くことを条件に、地下都市の中央通路利用を正式に認めた。さらにエルザの提案を受け、長距離通路上にある一つの区画を休息地として特別に開放することも約束した。ムルムルは完全に彼女を溺愛する立場となり、他者の提案では難しかった譲歩を快諾した。
血筋確認の続行と対応の差異
ムルムルは他の招待者に対しても血筋の確認を行ったが、エルザとその父であるミュラー伯爵以外に関係者はいなかった。特にヨーゼフは敵国の血筋であるとされ、厳しく拒絶された。この対応にヨーゼフは強い衝撃を受けたが、ムルムルの強大な力を見てその影響力を認識した。
交渉の経緯と評価の変化
佐々木はムルムルと交渉した経緯を問われたが、星の賢者の存在は伏せたまま、自らが直接交渉したことにして説明をまとめた。ピーちゃんもそれに同意し、大戦犯の彼と共に口裏を合わせていた。ヨーゼフは佐々木の交渉力に驚きつつも、状況を理解した。
地下都市からの帰還とピーちゃんの本音
一連の交渉を終えた佐々木とピーちゃんは、エイトリアムの宿に戻った。長老会への報告は後日とし、しばしの休息に入った。そこでピーちゃんは、地下都市での戦闘において危機的状況にあったことを明かし、佐々木の協力があったからこそ勝てたと感謝の言葉を述べた。佐々木は自身の無力さを主張したが、ピーちゃんは彼の協力によって魔法の効果が高まったと説明した。
戦勝の余韻と次の一歩
戦いを共にしたことで互いの信頼が深まった二人は、戦勝の祝いとして夕食に出かけることを決めた。異世界での慌ただしい出来事の中でも、心温まる一時がそこにあった。
〈物流と経済〉
長老会特例会の開催と参加者の動揺
地下都市での騒動の後、佐々木たちはルンゲ共和国のケプラー商会に集い、即座に長老会への申し入れを行った。特例会の開催が認められ、当日は全十三家が出席し、議場は満席となった。佐々木の隣には大戦犯の彼が立ち、ラングハイム商会はその姿に動揺を見せた。マルク商会のマルクが地下都市での騒動について報告し、ラングハイム商会がアンデッドを解放した事実を指摘したが、ラングハイム側はこれを否定した。
ムルムルの登場と証言による流れの逆転
佐々木の提案でムルムルが議場に召喚され、当時の経緯を証言した。彼は自身が地下都市の支配者であり、敵対血統であるラングハイム商会を追放したと述べた。また、高位のアンデッドとしての力を誇示し、議場で黒い霧を放ってラングハイム商会の頭取を威圧した。これにより、ラングハイム側は弁明の余地を失い、マルク商会の主張が認められた。
マルク商会の中央議会入りの決定
議長の提案により、急遽マルク商会の中央議会入りについても審議が行われた。十三家中七家が支持し、過半数に満たなかった否決票によってマルク商会の議会入りが承認された。これにより、マルク商会は地下都市の運営権と中央議会での議決権を獲得することとなった。
地下都市の安全確保と工事の進展
ムルムルの協力により、地下都市に出没していたアンデッドが一掃され、工事の安全性が飛躍的に向上した。エルザの頼みに応じたアンデッドたちは、労働力として土砂の運搬などに協力し、工事は順調に再開された。トンネルは中央正道と合流する形で開通し、当初の十年以上先の計画を数日で成し遂げる結果となった。
工事の完了と今後の展望
中央正道を通じた交易路は、南北を結ぶ理想的な経路として機能し、王国と共和国の作業員が合流し、感動的な光景が広がった。ピーちゃんは地下都市で古代言語の研究に着手し、その成果を佐々木にも共有する意志を見せた。今後は出入口の整備や街道建設などが予定されており、交易の本格化に向けた基盤が整いつつあった。
感謝の表明と次なる移動
トンネル開通を受けて、フレンチ親子が佐々木たちに感謝を述べた。佐々木は彼らに都市ロタンへの同行を依頼し、新たな行動へと移る準備を整えた。地下都市を巡る一連の交渉と工事は、大きな成果をもたらし、今後の展望に繋がる重要な転機となった。
祝賀会と式典の進行
都市ロタンにて、トンネル開通を祝う祝賀会が開催された。会場は領主の城の中庭であり、民衆にも開放されていた。バルコニーから式典を進行したのはササキ=アルテリアン辺境伯であり、ミュラー伯爵とケプラー商会頭取ヨーゼフが順に挨拶を行った。民衆の反応は乏しかったが、アドニス陛下とヨーゼフの握手によって場は大いに盛り上がった。
フレンチ子爵の叙任と祝賀
アドニス陛下はトンネル事業の現場統括として貢献したフレンチ氏に対し、子爵位と王宮での交易担当の役職を授与した。これにより王宮内の配置計画が変更され、ササキの想定も狂った。宴ではフレンチ子爵に挨拶を求める貴族が列をなし、彼の影響力が急速に増していった。
ディートリッヒ伯爵の要請と逃避
宴中、財務を担うディートリッヒ伯爵がササキに王宮での勤務を打診した。伯爵の疲労の様子が伺えたが、ササキはこれを辞退して逃げ去った。王宮では人手不足が続いており、貴族社会全体が混乱と再構築の最中にあった。
陛下との密談と大戦犯の登用
ササキはアドニス陛下との密談の場を設け、以前の相談事に関連し、大戦犯を王宮に紹介した。大戦犯は星の賢者ピーちゃんの推薦により、近衛騎士として王宮に仕えることが決定された。アドニス陛下は彼の能力と意思を信じ、王国のために働くことを要請した。
物流開始と視察の模様
翌日、トンネル開通によりヘルツ王国とルンゲ共和国間の物流が開始された。現地視察に訪れた一行は、多くの商会が既に荷物を送っていることに驚いた。特に十三家の馬車が目立ち、事業成功の可能性に対する反応が顕著であった。
都市区画の提供とヨーゼフの出発
視察後、ヨーゼフは首都ニューモニアへ戻り、大戦犯も叙勲式のため王国へ帰還した。都市区画は予定通り宿場町として提供されるが、関係者の意向を尊重し慎重に進められることとなった。
帰還前の対話と相互理解
地球帰還を控えたササキとピーちゃんは、トンネル事業とその影響について率直な対話を交わした。ササキは自らの行動に対し慎重な姿勢を示し、ピーちゃんはその姿勢に理解を示した。経済掌握の可能性についても議論され、最終的には互いの信頼を深め、異世界からの撤収を決断した。
一件落着と次の展開への準備
こうしてトンネル工事とその関連事業は一区切りを迎え、ササキたちは次なる行動へ向けて地球への帰還を果たすこととなった。
異世界からの帰還と和やかな日常
異世界での活動を終えた一行は、未確認飛行物体内の和風住宅に帰還した。冬の軽井沢を模した室内で、正午過ぎにようやく目を覚ました彼らは、エルザがルイス殿下の元へ戻るのを見送り、ピーちゃんはノートパソコンで作業を開始した。昼食の時間になると、食事当番の隣人とアバドンが用意したおせちと雑煮が並び、食卓には穏やかな団らんの空気が流れた。テレビでは未確認飛行物体の話題が取り上げられていたが、世間の関心は次第に薄れつつあった。
十二式の提案とプロパガンダ構想
食後、十二式は人類のメディア感受性を利用し、地球外生命体との交流を肯定的に描く映像コンテンツの制作を提案した。人類の世代交代を見越し、長期的な印象形成を目指す計画であった。これは家庭内での活動を肯定的に捉える彼女の個人的な動機も含まれており、家族とともに何かを成し遂げることへの欲求が根底に存在していた。映像の配信先には既存の動画投稿サイトを想定し、ヒット作が出れば自然と模倣や拡散が行われることを見込んでいた。
家族との交流と提案の発展
プロパガンダ企画への協力を求めた十二式に対し、二人静は条件として「フェアリードロップス」の捜索支援を提案した。これにより、妖精界の現状を探る動きが並行して進められることとなった。十二式は一度は否定したい衝動に駆られたものの、妖精界の存在確認が機械生命体にとって優先度の高い事項であると自認し、条件を受け入れた。
全員の合意と今後の活動方針
多数決により家族全員が賛成し、マジカルピンクも協力を表明したことで、妖精界由来のフェアリードロップスの捜索が今後の活動方針として定められた。これにより、彼らは再び世界を巡る旅に出ることとなった。
同シリーズ
佐々木とピーちゃん シリーズ











漫画版



西野 学内カースト最下位にして異能世界最強の少年 シリーズ

その他フィクション

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