どんな本?
『ユア・フォルマVII 電索官エチカと枢軸の軋轢』は、菊石まれほによるSFバディクライムシリーズの第七巻である。本作では、電索官エチカとそのアミクスであるハロルドが、全世界に公開されたRFモデルのシステムコードや「同盟」の陰謀に直面し、組織の闇と個人の信念が交錯する物語が展開される。
物語の概要
RFモデルのシステムコードが全世界に公開され、ハロルドの廃棄処分が決定される。さらに、エチカも職権濫用の罪で逮捕され、絶望的な状況に追い込まれる。しかし、エチカはシュロッサー局長の隠蔽行為をはじめとする「同盟」の綻びに気づき、事態の打開を図る。レクシー博士の裏切りや父チカサトの存在など、欠けていたピースが一つの答えへと収束していく中で、最後に眼に映る「機憶」とは何かが描かれる。
主要キャラクター
• エチカ:電索官として活躍する主人公。職権濫用の罪で逮捕されるが、「同盟」の陰謀を暴くために行動を起こす。
• ハロルド:エチカの相棒アミクスであり、RFモデル。システムコードの公開により廃棄処分が決定されるが、エチカとの絆を信じて運命に立ち向かう。
• シュロッサー局長:「同盟」の一員であり、組織の隠蔽行為に関与している。
• レクシー博士:かつての協力者であったが、裏切りによりエチカたちを苦しめる存在となる。
• チカサト:エチカの父。物語の鍵を握る存在として、その過去と真実が明かされる。
物語の特徴
本作は、SFバディクライムとしての要素を持ちながら、組織の陰謀や個人の信念、そして人間関係の複雑さを描いている。エチカとハロルドの絆や、過去の因縁が絡み合い、読者を引き込む展開が魅力である。また、シリーズを通じて築かれてきた世界観がさらに深まり、物語の核心に迫る内容となっている。
出版情報
• 著者:菊石まれほ
• イラスト:野崎つばた
• レーベル:電撃文庫
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2025年4月10日
• 判型:文庫判
• ページ数:392ページ
• 定価:880円(本体800円+税)
• ISBN:9784049155044
• 関連メディア:TVアニメ化決定。2025年4月よりテレビ朝日系全国ネット“IMAnimation W”枠にて放送中。
読んだ本のタイトル
ユア・フォルマ VII 電索官エチカと枢軸の軋轢
著者:菊石まれほ 氏
イラスト:花ヶ田 氏
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あらすじ・内容
「エチカ。あなたが私に抱いているのは、特別な『愛情』ですか?」
RFモデルのシステムコードが全世界に公開され、ハロルドの廃棄処分が決定。追い打ちを掛けるように、エチカまでが謂れのない職権濫用罪で逮捕される。
全てを覆す一手など見つからないと希望を失いかけていた最中、エチカはシュロッサー局長の隠蔽行為をはじめとする「同盟」の綻びに気がつき――。
「同盟」の軋轢、レクシー博士の裏切り、エチカの父、チカサトの存在。欠けていたピースが一つの答えへと収束する中で、最後に眼に映る「機憶」とは――。
感想
本作は、物語全体が大きな転換点を迎えた巻であった。冒頭から続く絶望的な状況は、とっても苦しく重いものであったが、その分、わずかな希望や変化の兆しが際立ち、緊張感を持続させていた。
組織「同盟」が一枚岩ではないと示された展開は、物語に新たな深みを与えた。
登場人物それぞれの立場が揺らぎ、特にエチカの両親の存在が明かされたことで、これまで語られてこなかった背景に一気に光が当てられた。
エチカとハロルドの関係は、今巻でも相変わらずもどかしく、互いを助けようとすればするほど、本心にたどり着けない姿が切なく、それでいて目が離せなかった。
再登場したキャラクターや新たな登場人物たちも、作品の複雑さに拍車をかけていった。
特に、物語後半で急浮上する「思考する機械」としての存在価値の問いは、哲学的なテーマにすら触れており、SFとしての深みをもたらした。
また、本作はトトキ課長の存在感が際立っていた巻でもあった。
トトキの胆力と判断力がなければ、物語は間違いなく崩壊していたと言えるほどに重要な役割を担っていた。
部下たちの振り回されっぷりと対比するように、トトキ自身の背景や視点も今後描かれてほしいと願わずにいられない。
特に、トトキの周囲にいる個性的な捜査官たちとの関係性は、スピンオフでも読みたいほどに個性的で興味深い。
ヒエダの動きも印象深く、彼女の空回りとそこからの反撃は、物語におけるカタルシスを見事に演出していた。
運命に翻弄されながらも、ハロルドや仲間たちの存在が彼女を救い出す様子は、胸が熱くなる展開であった。
全体を通して、記憶、家族、愛情、正義、そして機械と人間の境界――様々なテーマが交錯し、読後には複雑な感情が残る一冊であった。
まさにクライマックスへの突入を告げる一巻としてふさわしく、続巻への期待が高まるばかりである。
次こそ、彼らが心からの言葉を交わせる瞬間が訪れることを願いたい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
序章 暗礁
ロンドンでの再会と緊張
エチカはロンドン支局に戻り、トトキ課長の後任である新課長ロアに出迎えられた。支局内は依然として緊張状態にあり、スティーブの処遇やハロルドの動向についても不確定要素が残されていた。トールボットの記憶操作による昏睡が続く中、同盟の全容は未だ不明であり、各関係者が自らの立場を再確認する必要に迫られていた。
記憶と証言の再構築
エチカはスティーブの補助を得て、トールボットの記憶の一部を復元する試みに挑んだ。断片的な記憶からは、「同盟」の設立経緯と関係者の名が浮かび上がったが、それらは全て隠蔽された情報に過ぎなかった。記憶の解析中、スティーブはかつての経験を踏まえ、エチカの心情を気遣いながらも冷静に進言を重ねた。
新たな焦点・米国連邦議会との接触
物語はアメリカへと舞台を移し、エチカとハロルドは連邦議会の聴聞会に出席することとなった。AIに関する倫理法案の整備を目的とした会合であり、「思考操作技術」やユア・フォルマの規制が議論された。ハロルドは証人として出席し、冷静に証言を行ったが、議員らの思惑は一枚岩ではなく、会議は混迷を極めた。
エチカとハロルドの確執と決意
エチカはハロルドとの間に横たわる感情の溝に苦悩していた。互いに信頼と葛藤を抱えながらも、同じ目的に向かって進もうとする姿勢は崩れなかった。彼女は、自らの過去と向き合いながら、いかなる立場でも自分の正義を貫く覚悟を新たにした。
同盟の内通者と裏切りの証拠
エチカたちは調査を進める中で、国際倫理委員会内に潜む内通者の存在を突き止めた。証拠の提示により一部の関係者は拘束されたが、組織の深部にまで及ぶ「同盟」の影は払拭されなかった。ハロルドはこの結果に対し冷静に受け止めながらも、事態が自らの存在意義に大きく関わることを認識していた。
決裂と未来への選択
エチカとハロルドの関係は一つの終着点を迎えた。互いを必要としながらも、今のままでは共に歩めないという現実に直面し、エチカは別れを選択した。ハロルドはその背中を見送りながら、自身の感情と任務の狭間で揺れ動いていた。
第一章 審判の天秤
逃避行の余波と追跡者の出現
エチカとハロルドは、ドバイでの事件後に国外へ逃亡していたが、国際電子犯罪捜査局により特別手配されることとなった。トトキ課長の更迭とともに、彼らを追う新たな捜査チームが編成され、その一員として新任の捜査官コリンズが加わった。
秘密の開示と葛藤する思惑
逃亡中の二人は、かつて接触のあった亡命科学者たちの協力を得ながら、自身の身に起きたことの真相を追っていた。とくにハロルドに関するRFモデルの制御技術や、「同盟」の関与が次第に浮き彫りとなり、情報の断片が一つの枠組みを形成しつつあった。
信頼の揺らぎと内部抗争
エチカは過去に犯した電索の責任を自覚しつつ、情報の拡散や抹消に関する選択を迫られていた。ハロルドもまた、自身の存在意義とエチカとの関係性に苦悩しており、次第に感情のぶつかり合いが深まった。コリンズは独自の判断で彼らに接触し、真相を見極めようとするが、捜査本部との意見の対立を抱えていた。
「同盟」の影と新たな真実
シリーズ当初から断片的に語られてきた「同盟」が、ついに組織的な枠組みとして現れた。その影響力は国際機関内部にも及び、電索官や捜査官たちの判断を左右するに至っていた。エチカとハロルドは、その枢軸にある技術と記憶の操作に踏み込んだ結果、自らが背負うことになる新たな真実を目の当たりにする。
別れと再出発の兆し
一連の出来事の中で、エチカとハロルドは逃避行を終え、それぞれが抱える過去や使命と向き合う決意を固めた。関係は修復不可能な段階に至ったかに見えたが、最後には互いの選択を尊重する形で別離した。新たな枠組みの中で、電索官としての役割を再定義しようとするエチカの姿が、未来への静かな覚悟を感じさせた。
ボックスヒルでの訪問と局長との遭遇
エチカたちはトールボットの消息を追ってイングランド南東部の静かな村ボックスヒルを訪れた。介護目的で別荘に移った彼を訪ねたが、到着早々、訪問先から現れたのはかつての『同盟』会議にも姿を見せたロルフ・シュロッサー局長であった。この思わぬ遭遇に一行は動揺する。局長はガードナー捜査官の葬儀のためロンドン入りしていたが、その素振りには不自然な余裕があった。
トールボット邸での緊迫と責任の所在
トトキは自らの判断で謹慎中にも関わらず捜査を継続していたことを認め、シュロッサーから絶縁ユニットの返還を命じられる。トトキは全責任を負う姿勢を示し、フォーキンやエチカを庇った。ピーコック刑事もトトキの行動を擁護するが、局長はそれを認めず、トトキを連行しようとする。
突発的な警報とトールボットの死
その直後、別荘内で火災警報が鳴り響き、駆けつけた一行は煙の中で自死したトールボットの姿を発見する。彼は首にナイフを突き立てて死亡しており、その光景は衝撃的であった。彼の状態から考えて自殺は不自然であり、他殺を疑うも、アミクスの機能停止状態や指紋の証拠などからは自死が強く示唆されていた。
捜査の混迷とトトキの送還
鑑識による検視の結果を待ちながら、トールボットの死が『同盟』と関係している可能性が示唆されたが、決定的な証拠はなかった。局長は冷静に事態を処理しつつ、トトキを支局へ連行するよう命じた。トールボットの死によって唯一の証人を失ったことで、捜査はさらなる困難を迎える。
捜査継続への決意と希望の芽
ピーコックはロンドン警視庁として独自に捜査継続の道を模索すると伝え、トトキの復帰にも希望が残された。エチカとフォーキンは冷静さを保ちながらも焦燥を募らせていた。そんな中、エチカのもとへ〈国際AI倫理委員会〉からメッセージが届き、翌日に開廷されるRFモデルの審問会への重要参考人としての出席要請が記されていた。事態は新たな局面へと突入しようとしていた。
電索官の再始動と揺らぐ関係
エチカは、謹慎明けの復帰直後に起きたキメラウイルス感染事件の捜査に加わった。彼女はハロルドと共に行動するが、互いの距離感には依然として亀裂が残っていた。ハロルドは任務に徹しつつも、感情を押し殺した態度を貫いていた。
疑惑の浮上と組織内部の揺れ
レクシー博士の行動により、電索局内部に動揺が走った。彼女が独断で研究施設を接収し、関係者を拘束した事実が発覚し、トトキ課長は責任を問われて更迭された。また、国際組織「同盟」との関係を疑われる人物が相次いで死亡し、その死因にはキメラウイルスが関係している可能性が示された。
追跡捜査と深まる陰謀の気配
電索局はウイルスの出所を追って、国外の情報機関との連携を模索した。その中で、スティーブが独自に得た情報により、背後にある黒幕の存在が浮かび上がった。エチカとハロルドは、同盟が過去に関与したとされるプロジェクトとの関連を洗い出そうとするが、情報は断片的で決定打に欠けていた。
逃避行の選択と内面の吐露
事態が緊迫する中、エチカとハロルドは追手から逃れるため、一時的に行方をくらませた。逃避行の最中、ハロルドは自らの存在意義と記憶の改竄、そしてエチカへの複雑な感情について語り始めた。エチカもまた、電索官としての責務と、彼への思いの間で揺れていた。
関係者の裏切りと絶望的展開
一連の事件の裏で、信頼していた関係者が同盟に通じていた事実が明るみに出た。仲間の死と、局内での粛清によって、エチカたちは孤立を深めた。さらに、レクシー博士の研究が暴走し、多数の犠牲者が出る結果となった。
壊れゆく絆と希望の行方
ハロルドは自らの決断でエチカと距離を取ることを選び、彼女に一方的な別れを告げた。エチカはその言葉を受け止めきれず、ただ涙を流すしかなかった。状況はますます悪化し、彼女たちは出口の見えない闇に立たされていた。
審問会後の沈黙と別れ
審問会の終了後、エチカとダリヤは報道陣に囲まれた倫理委員会本部を後にした。薄曇りの空から光が差し込むなか、二人は会話もなく交差点へ向かった。ダリヤは形式的にエチカをタクシーに誘うが、エチカは嘘をついて断った。お互いの心情を察しながらも、距離を取らざるを得ない状況にあった。別れ際に交わした言葉は空虚で、ダリヤは振り返ることなく去っていった。
世界との乖離と内なる疲労
タクシーが去ったあと、エチカは立ち尽くしていた。倫理委員会の決定により、RFモデルが社会から切り離される現実を前にしても、世界は何も変わらぬように見えた。真実よりも規則や秩序が優先される社会に対し、彼女は深い疲弊と孤独を感じていた。
フォーキンとの再会と感情の崩壊
そこに現れたのは、エチカを案じて駆けつけたフォーキンであった。彼はエチカに何度も連絡を入れていたが、彼女はそれに気づいていなかった。会話の中で、エチカはついに感情を抑えきれず、涙を流した。フォーキンはそんな彼女を静かに支え、抱きしめた。彼もまた、過去に大切な人物を失っており、同じような苦しみを経験していたことが語られた。
逃避と絶望、そして仄かな決意
ハロルドの廃棄が決まり、再審議も望めない現実に、エチカは希望を失いかけていた。自棄的な思考に陥り、ノワエ社からハロルドたちを奪って逃げる妄想さえ抱いた。現実から逃れたいという衝動に駆られながらも、彼女はまだ落ちるわけにはいかないという一縷の意志を手放さなかった。
予期せぬ逮捕とさらなる孤立
フォーキンと共に歩いていたエチカの前に、突如として捜査官たちが現れた。マイヤー分析官らは彼女に職権濫用の容疑で逮捕状を突きつけ、反論の余地もなく手錠を掛けた。かつて令状なしでグレッグに電索を行ったことが告発されていた。トトキの証言が利用された可能性も示唆され、エチカは逮捕されたままボルボへと連行された。
すべての崩壊と虚無の受容
手錠の感触に現実を噛みしめながらも、エチカの心はすでに麻痺していた。もはや『同盟』の陰謀など取るに足らず、ハロルドを失うという最大の喪失に比べれば、全てが色褪せて見えた。フォーキンの無念そうな姿を背に、彼女は運命に流されるようにして拘束されていったのである。
第二章 泥船
謹慎処分と新たな捜査の開始
エチカは無令状での電索を行ったことにより謹慎処分を受けていたが、「同盟」関係者の急死とキメラウイルスの流出という新たな事件が発生し、捜査への復帰を命じられた。キメラウイルスの起点とされたのはイングランド南部にある研究機関であり、エチカはハロルドとともに現地調査へ向かった。
逃避行の開始と真実の暴露
現地での捜査中、彼らは襲撃を受け、証拠隠滅の動きを察知したため、命を守るため逃避行を選択した。道中、エチカとハロルドは互いに秘密としていた情報を明かし合い、関係に変化が生じた。特にハロルドの出生とRFモデルの過去に関わる衝撃の事実が明かされ、エチカはそれを受け止める決意を固めた。
トールボットの策略と同盟の影
トールボットは倫理委員会の権限を悪用し、事件の真相を封じ込めようとした。エチカは彼が「同盟」の中心人物である可能性を疑い、証拠を得るため違法な電索に踏み切った。その過程で、レクシー博士やトトキ課長までもが事件の渦中に巻き込まれ、次々と排除されていった。
最後の対峙と別れ
最終的にエチカとハロルドは追い詰められ、トールボットと直接対決する。ハロルドは重傷を負いながらもエチカを守ることを選んだが、トールボットの記憶を電索することには失敗した。その後、ハロルドはエチカに対して関係を断つ言葉を残し、二人は決別する形となった。
崩れゆく秩序と次なる幕開け
事件の影響は広く、ユア・フォルマ技術の正当性や倫理に疑問が投げかけられることとなった。一連の出来事は「同盟」と呼ばれる巨大な陰謀の一端にすぎず、真相解明にはさらなる戦いが必要であることが示唆された。エチカは傷つきながらも歩みを止めず、次なる局面へと向かった。
廃棄を目前にしたメンテナンスルームの情景
ロンドンにあるノワエ・ロボティクス本社では、RFモデルであるハロルドとスティーブが、解析機関への移送準備のため、メンテナンスルームに収容されていた。神経模倣システムの解析に失敗し、倫理委員会からの命令で廃棄処分が決定された彼らは、すでに処分を受け入れる心構えでいた。ハロルドは感情を抑えたまま状況を受け入れ、スティーブもまた冷静に受け止めていた。
意外な引き渡しと局長の登場
そこへ現れたのは、電子犯罪捜査局のデイヴィス捜査官とマイヤー分析官であった。彼らはハロルドを証拠品として押収するために訪れ、倫理委員会の許可の下、ハロルドだけがロンドン支局へ三日間の拘留処分となる。移送されたハロルドの前に姿を見せたのは、エチカとシュロッサー局長であり、彼らは廃棄処分を避けるべく、ハロルドの協力を求めていた。
レクシー博士の電索と危険な逃避行の始まり
目的は、昏睡状態のレクシー博士の電索による真相の究明であり、シュロッサー局長たちはエチカの要請により彼女を支援していた。ハロルドは戸惑いながらも、エチカの無謀な覚悟に押されて協力を承諾する。バンでの移動中、追跡者の存在が発覚し、局長たちは一時的にマイヤーの判断で急加速・逃走を選択する。
追跡と衝突事故、そして襲撃者の登場
無謀な逃走の末、バンは郊外で転覆し、乗員はほぼ全員無傷で脱出したものの、追跡者の正体は「同盟」に雇われた傭兵ハーヴェイであり、彼は即座にデイヴィスを射殺する。続いてシュロッサー局長も、回収されたHSBの内容が「上」の期待を裏切るものであったため、躊躇なく処刑される。
エチカの銃口と敗北、救いのない選択
絶望的な状況の中、エチカはデイヴィスの銃を奪い、抵抗の意思を見せるが、直後に撃たれて重傷を負う。彼女の最後の願いはハロルドだけでも助けることであったが、状況はすでに取り返しのつかない段階に至っていた。
機械と人間のはざまで揺れる感情
ハロルドはエチカを庇い続けたが、彼女の一連の行動に対し、怒りと戸惑い、そして愛情のような複雑な感情を抱いていた。命を賭してまで彼女が守ろうとしたものが何だったのか、そしてそれが自分のためであったことに気付いたとき、彼は言葉では表せない思いに囚われていた。
結末の予兆とさらなる混迷
シュロッサー局長の死、デイヴィスの粛清、そしてハーヴェイの冷酷な行動により、ハロルドとエチカは完全に「同盟」の掌中に落ちた。再び未来が閉ざされる中、物語は次なる章への布石として、重苦しい幕を引いた。
エセックス州の火災現場へ向かうフォーキンの行動
ロンドン市内の安宿を飛び出したフォーキンは、エセックス州エッピング・フォレスト地区ラフトンでの火災現場に急行した。トトキ課長からの連絡により、死亡したのはシュロッサー局長であると確認された。また、ヒエダの拘留記録が存在しないことから、彼女の行方も不明であった。フォーキンは現地に急行することを決意した。
監視ドローン映像から得られた手がかり
リンからの情報により、ヒエダがシュロッサーらと共にロンドンを出発し、白いバンに乗っていたことが判明した。監視ドローンによる自動通報とその後の破壊という不可解な行動が確認されたことから、事件の背後に『同盟』の関与が強く疑われた。
火災現場の調査と鑑識の報告
フォーキンは現場でトトキと合流し、焼失したバンと炭化した遺体を目にした。発見された遺体は、シュロッサー局長、マイヤー分析官、デイヴィス捜査官の三名であり、シュロッサーらは銃創によって殺害されたと見られた。現場の状況から事故を装った他殺であることが明白であった。
『同盟』の粛清と失踪したエチカの行方
現場から逃走あるいは連れ去られたと見られるもう一人の人物の存在が示唆され、エチカの安否が懸念された。『同盟』の関与を疑う声が強まる中、フォーキンらは状況の深刻さを痛感しつつも捜査を継続する姿勢を貫いた。
欧州情報保安局の諜報員ウルフの登場
ピーコック刑事の案内で現れたのは、欧州情報保安局の諜報員ウルフであった。彼は『同盟』および思考操作システムのバックアップデータを追っており、捜査への協力を申し出た。情報機関としての立場から、ファラーシャ・アイランドでの実験を黙認していたことを明かした。
ヒエダとハロルドの誘拐の可能性
ウルフは、行方不明のヒエダが『同盟』に連れ去られた可能性が高いこと、さらには廃棄処分が決定していたハロルドも同様に奪われたことを告げた。彼女のGPS情報を追跡した結果、ヒエダが向かった先はドイツ・ミュンヘンであることが判明した。
ミュンヘンへの新たな展開
この情報をもとに、フォーキン、トトキ、ウルフらは新たな舞台であるミュンヘンへと向かう決意を固めた。背後に蠢く『同盟』の存在、思考操作システムの脅威、そして仲間を取り戻すための戦いが、ここに新たな局面を迎えることとなった。
第三章 道標
秘密裏の帰還と命令違反の記録
エチカはトトキ課長により本部へ密かに連れ戻され、思考操作事件での違法な行動の詳細な記録を求められた。彼女は自らの電索と機憶操作のすべてを記録に残すこととなった。ハロルドはトールボットの記憶から得た断片的な情報をもとに、「同盟」への関与を示唆する証拠を整理した。
電索官たちの処遇と混乱の兆し
国際倫理委員会の判断により、スティーブは一時拘束下に置かれ、電索官としての職務を停止された。また、エチカの行動に関する議論が本部内で波紋を呼び、彼女は任務への復帰が危ぶまれる状況となった。加えて、トトキまでもが責任を問われ、更迭される決定が下された。
新たな感染症と連続死の発覚
アメリカ各地で発生したキメラウイルス感染による急死事件が連続して報告され、被害者はかつて「同盟」と関係があったとされる人物ばかりであった。調査のため、エチカとハロルドは再び現場へと向かうこととなった。
再接近と避けられぬ告白
逃避行に近い形でエチカとハロルドは現場調査に臨み、その過程で互いの胸の内を吐露した。距離を取ろうとしていたハロルドの態度が変化し、二人の関係は一時的に和らいだが、根本的な誤解や不安は解消されぬままであった。
正体不明の黒幕と拡大する陰謀
調査の中で、「同盟」の構成員と思われる人物の存在が示唆された。さらに、感染症の裏にはAI制御による情報操作が関わっている可能性が浮上した。スティーブもまた、自らの存在意義と主義との間で葛藤しながら、情報提供に協力した。
組織の崩壊と新たな選択
エチカたちの報告をもとに本部は捜査方針を変更し、「同盟」への本格的な包囲を開始した。しかし、その直前で重要証人が死亡し、情報は断絶した。また、ハロルドの存在が倫理的に問題視され、彼の今後についても議論が行われた。
決裂の予兆と別れの足音
調査の終結後、ハロルドは自らの在り方とエチカの思いに距離を置く決断を下した。エチカはその態度に傷つきながらも、彼を理解しようと努めた。しかし、互いの視線が交わることなく、別離の空気が漂い始めていた。
孤独な電索官の再出発
エチカは新たな辞令を受け取り、次なる任務地へと向かうこととなった。彼女の心にはまだ癒えぬ痛みが残っていたが、電索官としての責務を果たす覚悟を新たにしていた。残されたハロルドもまた、自らの「人間らしさ」に揺れながら、新たな選択を模索していた。
過去の記憶と初めての手紙
エチカは幼少期、母と暮らすアパートで初めて自分宛ての手紙を受け取った。それは父・稗田親聡からのものであり、彼女にとってかけがえのない経験であった。だが喜びは長く続かず、母に書類を奪われ、心に傷を残した。
父との再会と成長の軌跡
母の再婚相手との新生活が始まり、エチカは父と再び暮らすことになる。だが、父からの愛情は感じられず、エチカは機械のように感情を抑える生活を強いられた。その後、ニューヨークへと移住し、エチカは成長を重ね、ついには国際刑事警察機構の一員としての証を手に入れた。しかし、卒業式に現れない父の姿に深い寂しさを抱く。
遺された言葉と遺書
帰宅したエチカの前に現れたのは、父の死を告げる自殺幇助機関のアミクスだった。彼が手渡した遺書を前に、エチカは複雑な感情に襲われる。父の無愛想な態度や沈黙が、死という形で終わりを告げたことに、心の整理がつかなかった。
逃避行の安息と再会
エチカは目覚めたホテルの一室で、かつての逃避行を思い出す。傷ついた身体は手当てされ、ハロルドによって救われていた。彼は周囲の目を避けながら行動し、エチカに必要な物資を用意していた。リンダウのホテルでの穏やかな時間は、一時の安息に過ぎなかった。
仲間との絆と決断
ハロルドとの再会を経て、エチカは彼との絆を再確認する。ダリヤやトトキ課長の現状を気にかけながらも、逃走中である自分たちの立場を改めて認識する。アンリという人物の協力により、彼の家を訪ねることが新たな鍵になると信じ、行動を決意した。
葛藤と感情の交錯
ハロルドはエチカにとって、単なる相棒や友人を超えた存在になっていた。だが、アミクスである彼に「愛情」という感情が通じるかどうかに苦しむエチカは、その想いを「友情」として言い換え、感情を押し殺す道を選んだ。
向けられた問いと答えの拒絶
ハロルドの率直な問いかけに対し、エチカは動揺しつつも、自らの感情に蓋をし続けた。自分の感情を否定し、誤魔化すことで関係の均衡を保とうとする姿勢が、痛々しいまでに描かれた。
最後の願いと人間の業
エチカは「友情」という言葉の中に、壊れない繋がりを見出そうとしていた。愛情がもたらす混沌や痛みに疲れた彼女は、自らの感情に「呪い」とまで言及する。機械にはない、人間の機構としての矛盾と弱さを受け入れながら、それでも前を向く決意がにじんでいた。
ロンドン作戦会議と日本渡航計画
ミュンヘンからの脱出と監視の開始
欧州情報保安局の拠点で、エチカとハロルドの救出に関する緊張感ある会議が行われた。二人は『同盟』に監禁されていたが、リュカ・アンリの協力によって脱出した。保安局は当初から彼らの動向を監視しており、アンリのアパートに身を寄せる様子も確認済みであった。監視ドローンの映像により、『同盟』の傭兵がアンリの自宅に侵入したことも判明し、緊張が高まっていた。
情報の裏取りと推理の応酬
トトキとフォーキンは、『同盟』がヒエダの父親の開発したソフトウェアを利用して思考操作システムの改良を試みている可能性について言及した。フォーキンはヒエダとの過去の会話をもとに推理を披露するが、リンクスはそれを明確に否定した。しかし、フォーキンとトトキは依然としてその説を有力とみなしており、ヒエダが重要な情報を握っている可能性に注目していた。
RFモデルと渡航の危険性
エチカとハロルドを日本に送り出す計画が進められていたが、RFモデルであるハロルドの存在が問題視された。倫理委員会への対応や、発覚した場合のリスクも懸念されていたが、トトキは『同盟』の脅威が優先されると判断した。ハロルドには機械否定派を装わせ、偽造書類で旅客として日本に向かわせる手はずとなった。
ピーコック刑事の報告と『同盟』の影
ロンドン警視庁のピーコック刑事が登場し、シュロッサー局長らの検死結果を報告した。プロの手による犯行であり、『同盟』の傭兵の仕業と断定された。ギデオン・ハーヴェイという傭兵の身元も明かされ、その背景には米国の民間軍事会社が『同盟』に買収されたという情報もあった。保安局は彼を泳がせ、首謀者への接近を優先していた。
トトキの復帰とノワエ社への対応
謹慎中のトトキには、ノワエ社からハロルド返却について問い合わせが続いていた。フォーキンはその圧力を感じながらも、トトキの冷静な対応に救われる。彼女は既に副局長に直談判しており、自身の復帰は近いと見込んでいた。混乱する捜査局内で『同盟』への反撃を模索する姿勢が浮き彫りとなった。
揺れる正義と決断の余地
捜査の現場において、正義と合理性の間で揺れる判断が求められていた。ピーコックの苛立ちと、保安局の慎重な姿勢の間に見えた齟齬は、現実的な対応の難しさを象徴していた。最後に交わされた軽口のやりとりは、極限状態でも冷静さを保とうとする捜査官たちの人間味を浮かび上がらせた。
第四章 残照の十字架
奥多摩町への到着と調査開始
エチカとハロルドは奥多摩駅に降り立ち、静かな年の瀬の町に足を踏み入れた。彼らは『同盟』の痕跡を探すため、トトキから託されたボストンバッグと旧式の携帯電話を手に、地元の住所を探索した。観光客に紛れて行動するために変装も施しており、エチカは用意されたポストカードを頼りに行動を進めた。
記憶と現実の交差点
二人は、母親カヨリの旧姓である「綿本」の表札を見つけ、戸惑いながらもインターホンを押した。現れた女性は紛れもなくエチカの母カヨリであり、数十年ぶりの再会が唐突に訪れた。幼少期に刻まれた虐待と放任の記憶が蘇る中、エチカは冷静さを保ちながら情報収集を進めた。
過去との対峙と母の告白
カヨリはチカサトから住所を貸してほしいと頼まれた事実を認め、過去にあった離婚の経緯を語った。浮気による夫婦関係の破綻、親権譲渡、そしてエチカを手放した理由をあっけらかんと語るカヨリに対し、エチカは苦い記憶と感情の渦に巻き込まれた。父との接点を探るための訪問であったが、目的と無関係なベビーリングのみが手渡され、エチカの胸中には苦悶が残った。
謝罪とすれ違い
カヨリは涙ながらに謝罪の言葉を口にし、過去の虐待や無理解について「許してほしい」と訴えた。だがエチカは、その謝罪が自己満足でしかないと悟り、何も応えなかった。母の謝罪は、過去をクレーターのように心に残してきたエチカにとって、再び古傷を抉る行為に等しかった。
母との別れと新たな目的地
ハロルドが助け舟を出すように会話を断ち、二人は綿本家を後にした。坂道を下る間、エチカは振り返らなかった。母からの謝罪がむしろ重荷となった今、自分が抱える感情の複雑さに戸惑っていた。雪が舞い始める中、エチカは新たな「当て」を思い出した。綿本家で見かけた家政アミクスの姿が、失われた手がかりを呼び覚ましたのである。
スミカとの再会への決意
記憶の奥底に燻っていたもう一人の存在、スミカ──彼女が何かを知っているかも知れないと感じ取ったエチカは、今度こそ核心に近づくため、スミカのもとへ向かう決意を固めた。こうして物語は、過去との断絶ではなく、その再接続を通じて進展していくこととなった。
潜入捜査と新たな危機
エチカたちはリグシティにて、電索官殺害事件と同盟の関係性を探るため、潜入捜査を開始した。エチカはハロルドとの距離感に悩みつつも、任務に集中する姿勢を崩さなかった。現地ではテロリストによる爆破事件が発生し、現場に居合わせた捜査班は動揺する中でも冷静に対応し、被害拡大を食い止めた。事件の背後には、キメラウイルスの痕跡が確認され、同盟の関与が疑われた。
トトキ課長の更迭と捜査方針の転換
上層部の命令により、トトキ課長が更迭され、捜査班に動揺が広がった。新たに任命された上司は事なかれ主義を貫き、捜査の制約が増したことで、エチカたちは不満を募らせた。それでもエチカは独自のルートで証拠を集め、同盟に近づこうと試みた。ハロルドもまた、RFモデルとしての秘密を守るため、苦悩しながらも協力を続けた。
過去との対峙と感情の噴出
逃避行の中で、エチカとハロルドは互いの過去や秘密に踏み込む会話を交わした。これまで避け続けていた心情が交差し、二人は深く傷つけ合いながらも本音を吐露し合った。その中で、エチカはハロルドをただの機械ではなく「特別な存在」として意識していたことに気づいた。一方、ハロルドは人間ではない自分に対するエチカの感情を受け止めきれず、距離を取ろうとした。
裏切りと孤独な選択
同盟の存在が確定的になりつつある中、内部の裏切りが発覚した。エチカの信頼していた人物までもが敵であったという事実が明らかになり、彼女は強い動揺に襲われた。誰にも頼れない状況で、エチカは最終的に自らの判断で行動する道を選んだ。その選択は正解とは思えなかったが、ほかに方法はなかった。
残された希望と続巻への期待
一連の事件を通じて、エチカとハロルドの関係は決定的に変化した。二人が再び交わる日は来るのか、それともこのまま袂を分かつのかは定かではなかった。しかし、深まる陰謀の気配と未解決の伏線が残されており、物語は次なる展開へと向けて緊迫感を増していった。
トトキとフォーキンの現場復帰
ヒースロー空港の一角にて、トトキはロンドン警視庁からの報告を受け、自身の謹慎処分が撤回されたことを確認した。電子犯罪捜査局のデュマ副局長は、局内の汚職を認め、スミス課長の更迭を含む組織改革に着手していた。トトキは再び電索課の課長として任命され、フォーキンも処分を解かれた。『同盟』に対抗するため、トトキは捜査班の拡充を求め、デュマ副局長もそれを承認した。
ウルフとの合流と作戦の準備
空港のカフェテリアで、フォーキンとトトキは欧州情報保安局の諜報員ウルフと合流した。彼は『同盟』の一員と目されるウェインライトの動向を追っており、既に彼の行動履歴を特定していた。また、ヒエダとハロルドが隠れている場所も察知されていたため、二人の逃避行の次の行動を見据えた準備が進められていた。
聖路加タワーでの通信と情報交換
エチカとハロルドは、トトキの指示で指定された公衆電話を通じて連絡を取った。エチカはウェインライトが『同盟』の要人であり、過去にクワインの不起訴に関与していた事実をトトキから知らされた。これにより、『同盟』の起源が少なくとも15年前に遡ることが明らかとなった。また、エチカは『同盟』に対抗するため、父が開発した思考操作抹消ソフトウェアの存在を示唆し、それと引き換えに倫理委員会へRFモデルの再審議を要求した。
ハーヴェイによる拉致と脅迫
通話中、ハーヴェイがエチカに接近し、銃口を突きつけて通話を遮断させた。彼はエチカを連れ去ろうとし、抹消ソフトウェアの情報を引き出そうとしたが、エチカはウェインライト本人にのみ情報を提供する旨を伝え、時間を稼いだ。ハーヴェイは迷いながらも彼女を拘束し、仲間と共に建物を後にした。
ハロルドの裏工作と追跡開始
ハロルドはコンビニから一部始終を見守っており、エチカの落としたベビーリングを拾い、公衆電話を使ってトトキに報告を行った。彼は今回の展開を「予定通り」と形容し、冷静に次の一手に備えた。
フィラデルフィアでの再会と救出への決意
深夜の空港での接触
フィラデルフィア国際空港の静けさの中、ハロルドはトトキと再会した。彼らは『同盟』会議以来の顔合わせであったが、トトキは再会を特別視せず、冷静に任務の指示を与えた。トトキはハロルドの偽装身分を用意し、彼に引き続き協力する姿勢を示した。一方で、彼女はRFモデルの正体に対する迷いを抱えつつも、ハロルドへの信頼を保とうとしていた。
フォーキンとの再会と信頼の確認
フォーキンも現場に姿を現し、ハロルドと久々の対面を果たした。彼は相変わらず信頼深く、疑いのない態度で握手を交わした。過去に裏切りを経験してきたハロルドにとって、フォーキンの姿勢は感謝すべきものであり、彼自身も決意を新たにした。彼は「ヒエダ電索官の名にかけて裏切らない」と誓い、協力体制を再構築した。
フィラデルフィアでの手がかりと行き先の予測
ヒエダ電索官の行方については、携帯端末のGPSが羽田以降追跡できず、情報は途絶えていた。しかし、配送業者を介してフィラデルフィアに到着していたことが判明し、チームは彼女の行方を追うことになった。欧州情報保安局との連携は不完全であり、手がかりの断片から可能な限りの推測を行う必要があった。
新たな仲間との合流と出発
車両の後部座席には欧州情報保安局の諜報員ウルフが待機しており、彼もまた任務に加わる立場にあった。彼の態度は一見軽いものの、訓練された非言語の冷静さを備えていた。トトキとフォーキンが運転席に乗り込み、目的地を「フィラデルフィア衛生研究所」と定めたことで、一行は出発した。
最後の希望に向かって
ハロルドは車窓から街の灯を眺めながら、ヒエダの無事を祈った。状況は極めて緊迫しており、行動の一つひとつが今後の鍵を握ることは明らかであった。残された時間は少なく、まさにチェックメイトの直前であった。
終章 枢軸の軋轢
事態の激化と正体の発覚
ロンドンでの出来事を経て、エチカたちは「枢軸」の存在が関与する事件と直面した。謹慎中であった彼女は再び電索官として復帰し、ロンドン支部へ出向することとなった。そこで明らかとなったのは、「枢軸」なる勢力と、彼らが利用する異形の存在「黒鋼の使徒」の実在であった。さらに、レクシー博士の暴走により、国家間の緊張は一気に高まっていった。
ハロルドの疑念と決断
ハロルドは、エチカとの関係に苦悩しつつも、彼女を支える姿勢を崩さなかった。だが、その心中には複雑な葛藤が渦巻いていた。RFモデルの存在やエチカ自身の過去がもたらす影響に直面しながらも、彼は自らの信念に従って行動を選択していった。
国家間の対立と枢軸の影
レクシー博士の情報公開により、RFモデルとキメラウイルスに関する事実が暴露された。それに伴い、各国の政府と諜報機関が動き出し、電索局の内部でも混乱が生じた。枢軸の存在はこれまで以上に脅威を帯び、対立は不可避の様相を呈していた。
逃避行の果ての真実
エチカとハロルドは、幾多の追手から逃れつつ、自らの手で真実に迫っていった。その道中、互いの本音が交錯し、信頼の深さと脆さが浮き彫りとなった。過去に隠されていた真実が少しずつ明かされ、彼らはついに「枢軸」の核に迫った。
決別と選択の時
物語の終盤、かつての味方や信じていた人物が敵対者として現れ、エチカは厳しい選択を迫られた。仲間の更迭や離反といった状況が続く中、彼女は「正義」とは何かを改めて問い直すことになった。そして、どれほど過酷な道であろうとも、自らの足で進むことを選んだ。
同シリーズ







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