物語の概要
■ 作品概要
主人公アルス・ローベントは、ミーシアン内戦での功績によって「カナレ郡長」へと抜擢された。拠点をランベルクからカナレ城へと移し、領地経営を開始する。
鑑定スキルを活かして飛行船開発(シンへの投資)や新規人材(ムーシャ、ザット)の登用を推進し、組織基盤を強化していった。
しかし、サイツ州で下剋上を果たした新総督グレンダ・ドマートソンが、アルスの「鑑定」という唯一無二の才能を自陣営に取り込む、あるいは排除することを目論む。
軍師ボロッツ・ヘイガンド率いる8万の軍勢を派遣したため、カナレ郡は存亡の危機に直面した。
アルスは家臣団の武勇、隠密部隊「シャドー」による物資強奪工作、さらに地理条件を活かした水攻めを組み合わせることで、圧倒的な兵力差を覆してサイツ軍を撃退する。
こうして名実ともにカナレ郡長としての地位を確立させた。
■ 主要キャラクター
- アルス・ローベント カナレ郡長。鑑定スキルを核とした適材適所の配置と、家臣への全幅の信頼を前提とした意思決定を行う。前世のサラリーマンとしての記憶を保持し、転生後13年が経過した。
- リーツ・ミューセス 筆頭家臣。迫害されるマルカ人としての出自を持ち、自身に「居場所」を与えたアルスに絶対的な忠誠を誓う。軍事指揮およびアルスの精神的守護を担う。
- シャーロット・レイス 魔法兵隊長。規格外の魔力量を誇り、広域攻撃魔法「ヘル・ファイア」を戦術的主力とする。
- ロセル・キシャナ 参謀。膨大な知識に基づく戦術案作成とリスクアセスメントを担当。
- ミレーユ・グランジオン ランベルク統治代行兼策士。自由奔放ながら、アルスの忠義を試すような揺さぶりや、戦況に応じた奇策の提言を行う。
- リシア・プレイド アルスの婚約者。高い政治的洞察力を有し、戦時下においてもアルスの精神的支柱となる。アルスの将来を「次代の総督」と見据える野心も併せ持つ。
- ファム(シャドー) 隠密部隊の長。情報収集および、敵軍の兵站を破壊する物資強奪工作の戦術実行を担う。
- シン・セイマーロ 技術開発枠。飛行船理論の保持者。アルスより開発資金の投資を受け、R&D(研究開発)を推進する。
- ムーシャ / ザット 新規登用家臣。ザットは武勇81の即戦力。ムーシャは魔法適性Aを誇るが、当初は魔力の発動が確率に依存する「不安定さ」を抱える。
- ボロッツ・ヘイガンド サイツ軍総大将。新総督の側近であり、5万の兵で10万を破った実績を持つ智将。アルスの才能確保(または抹殺)を至上命題として侵攻を指揮する。
書籍情報
転生貴族、鑑定スキルで成り上がる 3 ~弱小領地を受け継いだので、優秀な人材を増やしていたら、最強領地になってた~
著者:未来人A 氏
イラスト:JIMMY 氏
出版社:講談社(Kラノベブックス)
発売日:2022年12月2日
ISBN:9784065296615
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あらすじ・内容
弱小貴族ローベント家の若き当主・アルス。
実は転生者であるアルスは、武力も知識も一般的なレベルだが、 「鑑定」という特別なスキルを使い出自や年齢を問わず有能な人材を集め、重用していた。
所属するカナレ郡の動きに従い、ミーシアン総督の跡継ぎ争いに参加したアルスは、 家臣の功績もあり、ついにはカナレ郡の郡長を任じられるという大出世を遂げる。 だが、そんなアルスの治めるカナレ郡をねらい、大軍勢が押し寄せるが――! 「鑑定」の力で有能な人材を登用し、危機を乗り越える!! コミックも絶好調! 小説家になろう 発 成り上がりファンタジー!
感想
8万のサイツ軍が侵攻。内乱中なのに隣の州まで攻めてくるのか
ようやくカナレ郡長になったアルス。
これまでより大きな領地を任され、これから人材を集めて領地を強くしていく。
そんな内政編になるのかと思っていた。
ところが、そんな悠長なことを言っていられない。
隣のサイツ州から8万の大軍が侵攻してくる。
しかもミーシアン州はまだ内乱の途中。
本来なら主君であるクランから援軍を送ってもらいたいところだが、クラン自身もバサマークとの戦いを続けているため、大軍をこちらに回す余裕がない。
いきなり難易度上がりすぎじゃないか。
今回は「攻める側」だった前巻とは逆に、自分の領地を守るための防衛戦が中心となる巻である。
■せっかく郡長になったのに、いきなり8万の軍勢が来る
ベルッド郡攻略の功績により、アルスは正式にカナレ郡長となる。
弱小領主から始まったことを考えると、かなりの出世である。
城に住むようになり、管理する人口も領地も増える。
その一方で仕事量も当然増える。
軍事、税、食料、人口、治安、資源。
ランベルクだけを見ていた頃とは規模が全然違う。
アルス自身も「本当に自分がこんな立場になっていいのか」と戸惑っているところが、相変わらずで面白い。
そしてまず行ったのが人材募集だった。
郡長になって人を雇える規模が大きくなったのだから、鑑定スキルを一番活かせる人材集めを進める。
ここで見つけたのがザットとムーシャ。
特にムーシャは魔法兵適性A。
普通の少女として暮らしていて、自分に魔法の才能があることすら知らなかった人物である。
こういう「本人すら気付いていない才能をアルスが発見する」展開は、やはりこの作品らしい。
シャーロットに魔法を教わって、初めて自分で魔法を放ったムーシャが驚く場面も印象に残った。
自分には何もないと思って生きてきた人が、「実はこんなことができたのか」と気付く。
アルスの鑑定スキルの面白さは、数値が見えることより、こういう埋もれていた人材に居場所を作れることなのだと思う。
■リーツとの釣りが良かった。戦争だけではない家臣との関係
戦が始まる前の日常パートで印象に残ったのが、リーツとの釣りである。
普段は仕事ばかりしているリーツが、突然アルスを釣りに誘う。
珍しいなと思ったら、実はアルスの誕生日を祝うサプライズの時間稼ぎだった。
魚は全然釣れない。
それでも二人で座りながら、ミレーユやロセル、シャーロットの話をする。
そしてリーツが、自分たちが今ここにいるのはアルスのおかげだと話す。
アルスはいつも「自分は何もしていない。優秀な家臣のおかげ」と考えている。
しかしリーツからすれば逆なのだ。
アルスが見つけてくれなければ、自分は今でも行き場を失っていたかもしれない。
シャーロットも奴隷のままだったかもしれない。
ロセルも才能を活かす機会がなかった。
アルスからすると「鑑定して優秀だったから採用した」だけでも、拾われた側からすれば人生そのものが変わっている。
この認識の違いが面白い。
戦で勝つこと以上に、アルスが人を集められる理由が少し分かった気がした。
■8万対約3万。これはさすがに無理じゃないか?
人材を集め、飛行船にも投資し、ようやく領地経営を始めた。
そんなところへ飛び込んでくるのがサイツ州侵攻の知らせである。
兵力8万。
いや、多すぎるだろ。
カナレ側はクランから送られた援軍を含めても3万に届かない程度。
しかもクランはバサマークとの内乱を続けているため、それ以上の援軍を簡単には送れない。
ミレーユが「降伏するのも一つの方法」と言い出すくらいには厳しい。
サイツ側からすれば、アルスを取り込めるなら取り込みたい。
無理なら危険人物として排除したい。
アルス本人は自分を平凡だと思っているのに、敵国からは「放置したらまずい人材」と評価され始めているのが面白いところだった。
ただの小領主だった人物が、ついに隣州の総督から警戒されるところまで来た。
成り上がってるなぁ。
■シャーロットだけでも十分おかしいのに、ムーシャまで魔法を撃つ
初戦ではカナレ軍がかなり強い。
川を利用して敵の進軍を制限し、そこへ魔法を叩き込む。
シャーロットの「ヘル・ファイア」は相変わらず規格外。
敵の防御を突破して大打撃を与える。
そして驚いたのがムーシャだった。
まだ実戦経験もほとんどない新人なのに、シャーロットと同じ魔法を使って敵軍へ攻撃する。
本人は人を殺すことに慣れておらず、戦いの後にはかなり動揺する。
ここがシャーロットとの大きな違いだった。
シャーロットは良くも悪くも戦場への適応が早い。
一方のムーシャは普通の少女として生きてきた人物なので、「自分の魔法で人が死んだ」という事実を簡単には飲み込めない。
才能があるからといって、すぐ兵士になれるわけではない。
このあたりは結構好きだった。
アルスの鑑定で分かるのは才能であって、その人物が経験まで持っているわけではない。
才能を見つけた後、どう育てるのかも必要になってきている。
■やっぱり8万は甘くない。普通に押し込まれる
初戦では大勝する。
これなら意外といけるのでは?
と思ったら、そんなに甘くなかった。
サイツ軍は兵力が多い。
一度負けても、まだまだ攻めてくる。
大軍による波状攻撃でカナレ軍は徐々に押され、リーツたちは撤退を余儀なくされる。
大型触媒機などの物資まで失ってしまう。
前巻ではかなり順調にベルッド郡を攻略していたので、今回は久しぶりに「本当に負けるかもしれない」という状況だった。
アルス自身が前線で剣を振るうわけではないのも特徴的である。
基本的には後方から情報を受け、誰をどこへ配置するのかを決める。
戦闘はリーツ。
魔法はシャーロットとムーシャ。
機動戦はクラマントやブラッハム。
作戦はロセルとミレーユ。
工作はファム率いるシャドー。
こうして並べると、とんでもなく役割分担ができている。
アルス自身が強くなる物語ではなく、組織そのものが強くなっているのがよく分かる。
■敵の補給物資を盗む。シャドーが家臣になった効果が大きすぎる
正面から8万を倒すのは難しい。
そこで狙うのが兵站である。
ロセルが敵の物資を狙うことを提案し、シャドーが実行する。
ここからのシャドーが強い。
敵の文官になりすまして内部へ潜入。
補給を効率化するための拠点を作るよう誘導し、その場所を把握する。
そして完成した補給拠点から魔力水を盗み出す。
敵のために効率化させたように見せて、実際には盗みやすい場所へ物資を集めさせていたわけだ。
性格悪いなぁ。
でも戦争ではかなり強い。
3巻でファムたちを家臣にした意味が早速出ている。
戦闘能力だけでは8万という数の差を埋められない。
だから敵を戦う前から弱らせる。
前巻までのアルス軍にはなかった「情報戦」という武器が加わったのを感じた。
■最後は偽情報+水攻め。8万の軍を真正面から倒す必要はない
魔力水を奪われたサイツ軍は、戦を続けるのが難しくなる。
そこへさらにシャドーが偽情報を流す。
「クランがバサマークに勝利して、こちらへ向かっている」
実際にはまだ決着していない。
しかしサイツ軍からすれば、本当だった場合は最悪である。
カナレ軍だけでも苦戦しているのに、クラン本隊まで来れば挟み撃ちになる。
動揺した敵が撤退を始めたところで、今度は川を利用する。
シャーロットたちの水魔法で川の水量を増やし、退路を塞ぐ。
そこをカナレ軍が攻撃する。
正面から8万を倒すのではなく、
補給を奪う。
嘘の情報で撤退させる。
撤退先を地形と魔法で塞ぐ。
追い込まれたところを攻撃する。
かなり徹底している。
兵力差だけ見れば絶望的だったのに、戦う条件そのものを変えてしまった。
こういうところは『鑑定スキル』というタイトルから想像する内容より、かなり軍略ものになってきたと感じる。
■アルスとリシア、ようやく結婚
激しい防衛戦を乗り越え、その後クランがバサマークを倒したことで、長く続いていたミーシアンの内乱もようやく終わる。
そしてアルスとリシアが結婚する。
アルス、まだ14歳。
前世では35歳まで結婚できなかったのに、転生したら14歳で結婚。
人生変わりすぎだろ。
それでも二人の関係は最初の政略結婚的なものから、かなり変化している。
リシアはアルスが戦に出るたびに心配するし、危険な前線にまで来てしまう。
アルスもリシアを単なる婚約者ではなく、大切な相手として見ている。
戦争が続いてきただけに、ようやく二人が夫婦になれたことには少し安心した。
初夜では二人とも経験がなく、妙にぎこちない。
戦場では数万人の兵を動かしているのに、こっちは二人とも緊張しまくっている。
この落差はちょっと面白かった。
■飛行船まで飛び始めた。次は戦争の形そのものが変わりそう
そして最後に出てくるのがシンの飛行船である。
最初は本当に飛ぶのか怪しかった計画なのに、小型とはいえ実際に空を飛ぶところまで到達する。
アルスは人材だけではなく、技術にも投資を始めている。
これがかなり気になる。
今までは歩兵、騎兵、魔法兵をどう使うかという戦争だった。
そこへ飛行船が実用化されたら、偵察も輸送も戦闘も大きく変わる可能性がある。
鑑定スキルで人を見つける。
その人に仕事を与える。
その人物が成長して、新しい技術や戦力を生み出す。
この流れがどんどん大きくなってきた。
4巻は8万のサイツ軍との戦いが中心ではあるが、個人的には「アルスが集めてきた人材が一つの組織として機能し始めた巻」という印象が強かった。
兵力では圧倒的に不利。
味方は内乱中で、援軍にも限界がある。
それでも、リーツの戦闘力、ロセルとミレーユの知略、シャーロットとムーシャの魔法、ファムたちの工作、クラマントたちの機動力。
それぞれを組み合わせることで、8万という大軍を退けてしまった。
アルス本人は相変わらず「みんなのおかげ」と思っている。
確かにその通りではある。
でも、その「みんな」を見つけて、一つの場所に集めたのはアルスである。
そこまで含めて考えると、敵がアルスを危険人物として警戒するようになったのも納得できる巻だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
ストーリー・プロット
アルス・ローベントによるカナレ郡の統治開始から、サイツ州の大軍を迎え撃った防衛戦の終結に至るまでの動向をまとめる。領地経営の刷新、新戦力の獲得、そして知略と魔法を駆使した決戦の推移は以下の通りとなる。
第1幕:カナレ郡長への就任と移住
- クラン・サレマキアより正式にカナレ郡長へ任命され、本拠地をカナレ城へ移す。
- 旧領ランベルクの統治はミレーユに委託し、シャドーによる監視役を配置する。
- 統治領域と行政規模の拡大に対応するため、新たな領国運営体制を確立する。
第2幕:新たな才能の発掘と飛行船投資
- 飛行船開発者のシンと投資契約を結び、将来的な技術的優位の確保を進める。
- 人材募集の看板に女性も可と明記し、門戸を広げた登用を実施する。
- 高い武勇を誇るザットと、強力かつ特異な魔法適性を秘めたムーシャを新たに登用する。
第3幕:日常の絆とサプライズの誕生日
- 成長する弟妹たちとの交流を通じ、領主としての立場とともに家族の絆を深める。
- 家臣団が密かに企画した13歳の誕生日会を経験する。
- 前世の孤独なサラリーマン時代を振り返りつつ、家臣たちとの間に芽生えた深い信頼と情愛を強く自覚する。
第4幕:サイツ州の台頭と侵攻の予兆
- 隣接するサイツ州でグレンダによる政変が起き、情勢が急変する。
- バサマークとの密約に基づき、ボロッツ率いる8万の大軍がカナレ郡への侵攻を開始する。
- クラン本隊はバサマークへの牽制に専念せざるを得ず、カナレへの援軍はメイトロー傭兵団を含む2万にとどまる。
第5幕:防衛線の構築と初期の戦闘
- リーツ、シャーロット、メイトロー傭兵団を主力として迎撃態勢を整える。
- 初戦はシャーロットの大規模魔法で敵を圧倒する。
- ボロッツによる執拗な波状攻撃と圧倒的な兵力差に押され、段階的な後退と防衛線の再編を強いられる。
第6幕:シャドーの暗躍と魔力水強奪
- ファム率いるシャドーが敵の物資輸送担当者に接触する。
- 物資管理用の地下拠点構築を提案し、敵の兵站を一箇所へ集中させるよう誘導する。
- サイツ側が自国で調達できずバサマークから供与されていた炎の魔力水を強奪し、敵の戦術的な選択肢を奪う。
第7幕:川岸の決戦と終結
- クラン勝利の虚偽情報を戦場へ流布し、敵部隊の動揺と退却を引き起こす。
- 渡河を試みて隊列が乱れたサイツ軍に対し、シャーロットと能力を覚醒させたムーシャが広域水魔法を発動する。
- 川を氾濫させて敵の退路を完全に断ち、包囲殲滅によって侵略軍を壊滅させる。
カナレ郡の防衛戦は、兵力差を覆すための内政基盤、的確な人材登用、情報工作、そして地形と魔法を連動させた戦術が完全に機能したことで勝利を収めた。この防衛成功により、アルスは郡長としての統治権と言動力を内外に強く示す結果となった。
主要な転換点
ベルッド郡侵攻戦の終結を経て、アルス・ローベントを取り巻く環境は大きく激変した。カナレ郡長への就任からサイツ州による大規模侵攻の迎撃に至るまでの過程において、物語の展開や戦略的状況を決定づけた重要な転換点について整理する。
カナレ郡長への抜擢による立場の劇的変化
- 一地方の領主から広域行政官への昇格を果たした。
- 統治領域の拡大に伴い、アルスの存在がサイツ州をはじめとする外部勢力から獲得および排除の対象として広く認知される契機となった。
サイツ州の侵攻決定と目的のシフト
- 物語の主軸が領内の内政基盤強化から、圧倒的劣勢下における領国防衛戦へと移行した。
- 敵軍師ボロッツの登場により、兵力差を覆すための高度な知略戦が展開されることとなった。
シャドーによる魔力水強奪と兵站破壊
- 物資管理用の地下拠点構築という逆転の発想を用いた潜入工作を展開した。
- サイツ軍がバサマークから秘密裏に供与されていた貴重な炎の魔力水を強奪し、敵の戦術的な火力を奪うことで戦力差を質的に縮小させた。
敵の和平交渉拒否と論理的忠義の選択
- サイツ側から提示された鞍替えによる地位保証の条件を断固として拒絶した。
- 主君クランの器量を認め、裏切りがもたらす長期的リスクや信用の喪失を回避するため、合理的かつ強固な忠義を貫いた。
一連の転換点は、アルスが広域統治者としての地位を確立し、外部勢力からの激しい軍事的脅威を退ける上で決定的な役割を果たした。高度な情報戦による兵站破壊や主君への揺るぎない方針選択を通じて、劣勢を覆す盤石な防衛体制が構築された。
主人公を中心とした人物関係の変化
カナレ郡の統治拡大やサイツ州との防衛戦を経て、アルス・ローベントを取り巻く主要人物との関係性はより強固なものへと進化した。激動の戦乱期において、婚約者、筆頭家臣、そして新たに加わった人材との間に結ばれた絆の深まりと組織的な統合について整理する。
アルスとリシアの関係
- 戦場での再会を通じ、決戦前に対等な絆を示す誓いの接吻を交わした。
- 家同士の利害に基づく政略結婚の枠組みを超え、困難を共に乗り越える精神的および情緒的なパートナーシップを確立した。
アルスとリーツの関係
- 釣りや誕生日の対話といった私的な交流を通じ、主従の枠を超えた相互救済の関係を再確認した。
- アルスは過酷な戦乱を生き抜く精神的な支えとしてリーツを頼り、リーツはアルスを自らの居場所や存在意義の源泉としている。
アルスと新家臣(ムーシャ・ザット)の関係
- 鑑定スキルによって見出した不安定な才能や実直な武勇に対し、偏見なく活躍の場を与えた。
- 渡河戦におけるムーシャの魔法覚醒をはじめとする実戦での成功体験を経て、両名とも正規の戦力として家臣団へ完全に統合された。
これらの関係性の深化は、アルス陣営の内面的な結束力と軍事的な柔軟性を一段と高める結果となった。私的な信頼と公的な統率が高度に調和した強固な人間関係は、今後想定される更なる大規模な戦乱に立ち向かうための重要な基盤となる。
主人公の認識と周囲の評価
カナレ郡長への就任やサイツ州との防衛戦を経て、アルス・ローベントに対する自己認識と周囲からの客観的評価には明確な隔たりが存在する。自身の能力を控えめに見積もる本人の姿勢と、外部や家臣団が寄せる高い評価の対比について以下に整理する。
主人公自身の認識
- 自らを平凡な人間と定義し、他者の卓越した才能に頼る他力本願の姿勢を自認している。
- その一方で、転生から13年目を迎えたことで、かつての前世における自分自身の限界を超えつつあるという実感も抱き始めている。
周囲からの評価
- 家臣や協力者たちの隠れた価値を正しく見出し、その能力を極限まで引き出す唯一無二の指導者として評価されている。
- 婚約者であるリシアからは、将来的に一州を統べる総督の器を持つ存在として期待されている。
- 敵対勢力であるサイツ総督からは、自陣営に最も迎え入れたい極めて有用な資源であると同時に、排除すべき重大な脅威として警戒されている。
認識の差が現れた場面
- 13歳の誕生日パーティーにおいて、アルスが謙遜を込めて現在の成果はすべて家臣のおかげであると語るのに対し、家臣団はアルス自身の存在と見識に心からの感謝と忠誠を返すという対比構造が示された。
自己を過大評価せず謙虚さを保つアルスの内面は、結果として家臣たちの自発的な忠誠心と結束を促している。本人の消極的な自己評価とは裏腹に、周囲から寄せられる絶対的な信認と外部からの警戒は、彼が名実ともに乱世を左右する指導者へと成長している実態を浮き彫りにしている。
クライマックス:川岸の殲滅戦
サイツ州による大規模侵攻に対し、カナレ軍は高度な情報戦と地形・魔法を連動させた戦術を展開した。兵力差を覆して敵軍を壊滅へと追い込んだ川岸の決戦について、その経緯と勝敗の要因を以下に整理する。
発生原因
- 事前の潜入工作により炎の魔力水を強奪されたことで、サイツ軍は火力の源を失い継戦能力が大幅に低下した。
敵軍の動向
- 物資不足を補うべく短期決戦を試みたものの、カナレ軍の粘り強い防衛線に阻まれて長期化し、疲弊を深めた。
フェイクニュース工作
- 情報機関シャドーが、クランがバサマークに完全勝利し大軍で接近中であるという虚偽情報を敵陣営内へ流布した。
- 敵軍内に極度のパニックを醸成し、統制を失った無秩序な総退却を誘導した。
戦術的挟撃(水攻め)
- 上流に待機していたシャーロットとムーシャが、渡河に合わせて水魔法を一斉に発動した。
- 急激に氾濫した川によって退路を完全に断たれた敵軍に対し、混乱に乗じた猛攻を仕掛けて殲滅した。
因果関係の帰結
- 偽報による心理的圧力と、洪水による物理的障害を完全に同期させた結果、8万を誇る大軍勢の組織的崩壊をもたらした。
事前の兵站破壊から始まった一連の作戦は、敵の焦りを誘い、情報工作による心理誘導と水魔法による退路遮断を完璧に噛み合わせることで決定的な戦果を挙げた。圧倒的な兵力差が存在する状況下であっても、的確な戦況判断と連携を徹底すれば戦局を完全に掌握できることを実証した戦例となった。
巻末時点の状況
サイツ州による8万規模の大軍勢を退けたカナレ郡防衛戦の終結に伴い、アルス・ローベントを取り巻く政治的・軍事的環境は新たな局面を迎えた。領国防衛の成功によって生じた立場の変化、解決された課題、そして依然として残る懸念事項と今後の展望について整理する。
アルスの立場
- 8万のサイツ軍を退けた防衛戦の勝利により、カナレ郡長としての実力と威信を内外に確立した。
解決した問題
- サイツ軍による直接的な軍事侵攻を排除し、領内の安全を確保した。
- 実戦での活躍と成功体験を通じ、新家臣ムーシャの不安定だった魔法能力が安定化した。
継続している問題
- クランとバサマークによるミーシアン州の内乱が決着しておらず、依然として継続している。
- 侵略を退けたものの、隣国サイツ州との間には潜在的な敵対関係が残されている。
今後への要素
- 技術的優位の確立を目指すシンによる飛行船開発プロジェクトが本格始動する。
- 戦後の安定を見据え、リシアとの間で結婚の約束が交わされた。
カナレ防衛戦の完勝は、アルスの広域統治者としての地位を確固たるものとし、新戦力の覚醒をもたらした。一方で、州内の覇権争いや隣州との対立といった大局的な問題は依然として続いており、今後は飛行船開発などの新技術の導入や将来の婚姻関係を足がかりとしつつ、次なる決戦への備えを進める段階へ移行する。
登場キャラクター
ローベント家(カナレ郡・ランベルク領)
アルス・ローベント
転生者であり、弱小貴族ローベント家の若き当主である。他者の能力値を数値として見抜く鑑定スキルを持つ。自身の能力は平凡と自覚し、優れた家臣たちの力を結集して領地経営と防衛に挑む。許嫁のリシアを深く愛し、十四歳を迎えて正式に結婚する。
・所属組織、地位や役職 ローベント家当主。カナレ郡長。
・物語内での具体的な行動や成果 ベルッド平定の功績を認められ、クランからカナレ郡長に任じられる。広範囲に人材募集の触れを出し、ザットとムーシャを発掘して家臣に加える。サイツ軍八万の侵攻に際してクメール砦で防衛戦を指揮する。シャドーの調略と連携し、川の激流を利用した包囲殲滅策を実行して大勝を収める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 自身を鑑定することはできない仕様である。サイツ軍撃退の功績により、クランからミーシアン内乱終結における最大の功労者として称賛され、大量の金貨を下賜される。十四歳の誕生日にリシアとの婚礼を挙げ、カナレ領主としての地位を確固たるものにする。
リーツ・ミューセス
マルカ人の青年であり、ローベント家の筆頭家臣である。主君アルスに絶対の忠誠を誓い、命を懸けて仕える覚悟を持つ。武勇、統率、知略、政治のすべてに秀でた万能の実力者である。
・所属組織、地位や役職 ローベント家・筆頭側近、前線指揮官。
・物語内での具体的な行動や成果 前線部隊の総指揮を執り、川を挟んだ布陣でサイツ軍の迎撃態勢を整える。敵の数による猛攻に直面した際、殿の奮戦を支えつつ的確に軍を後退させる。歩兵の先頭に立って鬼神の如く敵兵を斬り伏せ、味方の士気を極限まで高める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。卓越した武勇と統率力により、カナレ軍の主軸として防衛戦の勝利に不可欠な貢献を果たす。
シャーロット・レイス
ローベント家に仕える魔法兵隊長である。青髪の少女で、マイペースかつ食欲旺盛な性格をしている。アルスを実の弟のように大切に思い、新人のムーシャの面倒を親身に見る。
・所属組織、地位や役職 ローベント家・魔法兵隊長。
・物語内での具体的な行動や成果 大型触媒機を用いて炎魔法『ヘル・ファイア』を放ち、初戦で敵の防御魔法を吹き飛ばして戦場を火の海に変える。川の上流へ別動隊として進出し、ブラッハムの加勢を受けて敵の襲撃部隊を退ける。川に水魔法を撃ち込んで激流を引き起こし、サイツ軍の退路を完全に断つ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。その圧倒的な火力は敵味方双方から規格外と恐れられ、カナレ防衛の絶対的な中核を担う。
ロセル・キーシャ
ローベント家の軍師を務める少年である。読書家で知識欲が旺盛であり、城の書物室に籠もって学びを深める。慎重でプレッシャーに弱い一面を見せるが、的確な戦況分析を下す。
・所属組織、地位や役職 ローベント家・軍師。
・物語内での具体的な行動や成果 敵の数的不利を覆すため、シャドーに補給物資を狙わせる工作活動を提案する。本隊の側でアルスを補佐し、敵騎馬隊の強襲を事前に予測して迎撃陣形を整える。将来の軍備増強策として魔法騎兵隊の新設を提案する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。アルスの頭脳として軍議を牽引し、作戦立案において中心的な役割を果たす。
ミレーユ・グランジオン
ローベント家の軍師兼相談役である。元総督府補佐の経歴を持つ破天荒な女性で、酒と博打を好む。常に緊迫感に欠ける態度を取る反面、大局を見抜く洞察力と大胆な軍略を持つ。
・所属組織、地位や役職 ランベルク領主代行、ローベント家・軍師兼相談役。
・物語内での具体的な行動や成果 アルスに代わりランベルク領の統治を代行する。サイツ軍とバサマークの連携を瞬時に見抜き、物資強奪後の敵に対して即時野戦を仕掛ける決断を下す。川に激流を起こして敵を追い詰める殲滅策を発案する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。弟トーマスの身柄引き取りを申し出るなど、家の勢力拡大に向けて独自の動きを見せる。
クライツ・ローベント
アルスの実弟である。父レイヴンに似た金髪の活発なわんぱく小僧である。強い向上心を持ち、兄の役に立つ戦士になる夢を抱く。
・所属組織、地位や役職 ローベント家・次男。
・物語内での具体的な行動や成果 木剣を持ってアルスの部屋に押し入り、剣の稽古をせがむ。六歳児とは思えない力強さと速さで木剣の打ち合いを演じる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。武勇の才能を順調に伸ばしている。
レン・ローベント
アルスの実妹である。クライツとは二卵性の双子にあたる。黒髪でアルスによく似た容姿を持ち、年齢よりも大人びた性格をしている。
・所属組織、地位や役職 ローベント家・長女。
・物語内での具体的な行動や成果 クライツとの稽古を終えたアルスを書物室へ連れ出し、熱心に勉学に励む。ロセルから熱心に教えを受け、六歳とは思えない高度な知識を吸収する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。知略と内政の才能を順調に発揮している。
ブラッハム・ジョー
カナレ軍に新しく加わった武芸者である。単純かつ好戦的な性格で、喧嘩と手柄を好む。リーツの指導を受けて少しずつ基礎や状況判断を身につけていく。
・所属組織、地位や役職 ローベント家・少数精鋭隊隊長。
・物語内での具体的な行動や成果 前線で騎馬隊を率い、逃亡するサイツ軍の敵将を一騎打ちで討ち取る。指示を受けてシャーロットの救援に駆けつけ、敵兵を蹴散らして危機を救う。アルカンテス城での祝宴に際し、護衛部隊として同行する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 鑑定による知略は初期から成長している。本隊防衛や重要拠点の救援を任される実力者として重宝される。
ザット・ブロズド
人材募集の触れを見てカナレ城へ仕官してきた男である。赤髪で長身の堂々たる体躯を持つ。実直で落ち着いた性格をしており、礼儀正しさを備える。
・所属組織、地位や役職 ローベント家・少数精鋭隊副隊長。
・物語内での具体的な行動や成果 手合わせを通じて隊長ブラッハムの高い実力を認め、補佐役を引き受ける。前線においてリーツの隣で奮戦し、白兵戦で優れた腕前を示して敵兵を次々と倒す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 31歳時のステータスは統率51、武勇81、知略70台、政治70台、野心56である。適性は歩兵A、他はCとDを示す。即戦力の近接戦闘要員として重臣たちの信頼を得る。
ムーシャ・トリック
カナレの人材募集に応じて仕官した少女である。髪が短く小柄で大人しい性格をしている。戦いや人命を奪うことへの恐れを抱きながらも、シャーロットへの憧れを胸に成長していく。
・所属組織、地位や役職 ローベント家・魔法兵。
・物語内での具体的な行動や成果 初めて手にした触媒機で炎魔法を発動させ、高い適性を示す。実戦において大型触媒機を任され、強力な『ヘル・ファイア』を放って敵兵を圧倒する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 16歳時のステータスは統率、武勇、知略、政治の限界値がすべて70台で、現在値は40台、野心32である。適性は魔法兵Aを示す。戦場での実戦経験を重ねて覚醒の兆しを見せ、主戦力へと成長する。
サレマキア家(クラン派)
クラン・サレマキア
ミーシアン州の総督候補であり、クラン派の総帥である。豪胆で実力主義を貫く指導者である。アルスの才能と功績を極めて高く評価している。
・所属組織、地位や役職 センプラー領主、ミーシアン総督。
・物語内での具体的な行動や成果 アルスをカナレ郡長に正式に任命する。バサマークのベルッド侵攻を撃退し、アルカンテス城を包囲して陥落させる。捕縛した実弟バサマークの斬首刑を執行する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。バサマーク派を完全に打倒し、ミーシアン全土の統一を成し遂げる。
パイレス家(カナレ郡 / ベルッド郡)
ルメイル・パイレス
カナレの前郡長であり、現在はベルッド郡長を務める領主である。信義に厚い武人肌の人物である。アルスに強い期待と信頼を寄せる。
・所属組織、地位や役職 元カナレ郡長、ベルッド郡長。
・物語内での具体的な行動や成果 カナレの引き継ぎのため重臣メナスをアルスの補佐として同行させる。アルカンテス城の祝宴でアルスの戦果を称賛する。アルスとリシアの婚礼に招かれ、主賓として結婚の誓いの立会人を務める。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。ベルッドの統治を確立し、有力諸侯としてアルスを後見し続ける。
メナス・レナード
パイレス家に仕える重臣である。冷静沈着で実務能力に優れた文官である。
・所属組織、地位や役職 パイレス家・家臣。
・物語内での具体的な行動や成果 新郡長となったアルスに同行してカナレ城へ赴く。城内の案内を行い、領地の人口や財政状況をまとめた詳細な資料を渡して引き継ぎを完了させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。新体制への移行を円滑に支える役割を果たす。
プレイド家(トルベキスタ領)
リシア・プレイド
トルベキスタ領主ハマンドの娘であり、アルスの婚約者である。清楚な貴婦人の振る舞いを見せる一方、鋭い知謀と高い野心を秘める。アルスを心から深く愛している。
・所属組織、地位や役職 トルベキスタ領主令嬢、後にローベント家当主夫人。
・物語内での具体的な行動や成果 カナレ城を訪れてアルスの就任を祝福する。サイツ軍の侵攻に際し、危険を冒して前線のクメール砦へ駆けつけ、アルスの側で精神的支柱となる。内乱終結後にカナレ城で結婚式を挙げ、アルスと正式に夫婦となる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。婚礼を経て正式にアルスの正妻となり、領地運営の会議にも参加して発言権を持つ。
ハマンド・プレイド
トルベキスタ領主であり、リシアの父親である。温厚な性格の領主である。
・所属組織、地位や役職 トルベキスタ領主。
・物語内での具体的な行動や成果 カナレ城を訪問して新郡長アルスに正式な忠誠を誓う。結婚式に出席し、娘リシアの未来をアルスに託して領地へ戻る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。アルスの義父となり、ローベント家との同盟関係を確固たるものにする。
オルスロー家(クメール領)
クラル・オルスロー
クメール領を治める初老の領主である。慎重な性格で、相手の実力を見定める気質を持つ。
・所属組織、地位や役職 クメール領主。
・物語内での具体的な行動や成果 ハマンドと共にカナレ城を訪れ、若き新郡長アルスへ忠誠を誓う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。当初はアルスの器量を値踏みしていたが、領内の重要拠点であるクメール砦を守り切ったアルスを認める。
セイマーロ工房
シン・セイマーロ
飛行船の研究と開発に生涯を懸ける職人である。関西弁のような口調で話す熱血漢である。操縦と開発に強い情熱を注ぐ。
・所属組織、地位や役職 技術職人・発明家。
・物語内での具体的な行動や成果 カナレ城を訪れて飛行船開発の資金援助をアルスに直談判する。少額の支援をもとに小型飛行船の試作機を製作し、荒原での浮上および飛行実験を成功させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。飛行実験の成功によってアルスからさらなる開発資金の増額を獲得する。
サレマキア家(バサマーク派)
バサマーク・サレマキア
前ミーシアン総督の次男であり、兄クランと覇権を争う旗頭である。冷静な策略家であるが、兄への強い対抗意識を燃やす。
・所属組織、地位や役職 アルカンテス領主、バサマーク派総帥。
・物語内での具体的な行動や成果 窮地を脱するためサイツ州の新総督と裏で手を結び、カナレ侵攻を促す。総力を挙げてベルッド奪還に動くが失敗に終わる。アルカンテス城に籠城するも包囲されて捕縛される。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。広場の処刑台上でクランの破滅を予言し、斬首刑に処される。
リーマス・アイバス
バサマーク派に仕える知将である。百戦錬磨の経験を持つ老将である。
・所属組織、地位や役職 バサマーク派・武将。
・物語内での具体的な行動や成果 ベルッド失陥とトーマス捕縛の報を受け、無用な流血を避けるためバサマークに降伏を進言する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。バサマーク派の軍事的限界を冷静に見定めていた。
サイツ州総督府・サイツ軍
ボロッツ・ヘイガンド
サイツ州新総督の最側近であり、今回の遠征軍の総大将である。口元に微笑を浮かべた長身の武官で、軍略家として傑出した才能を持つ。総督に絶対の忠誠を誓う。
・所属組織、地位や役職 サイツ軍総大将。
・物語内での具体的な行動や成果 ブルレード砦に本陣を構え、カナレ侵攻部隊へ後方から指示を送る。アルスの人材登用能力を危険視し、生け捕りか暗殺を企図する。全軍大敗の責任を痛感し、暗殺者を雇ってアルスを狙う決断を下す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。大敗によりサイツ国内での地位失墜に直面する。
カイサス・ロッパード
サイツ軍の兵站部門に所属する下級文官である。酒好きで軽薄な性格をしている。
・所属組織、地位や役職 サイツ軍・輸送係助手。
・物語内での具体的な行動や成果 酒場でシャドーの工作員レメンの誘惑に乗り、宿室へ連れ込む。部屋に潜んでいたムラドーに背後から首を絞められ、絶命させられる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 衣服と身分証を奪われ、ランバースが成り代わるための偽装の対象となる。
ラクトル・ブランドル
サイツ軍の物資輸送を一手に統括する責任者である。小柄で肥満体型の実直な文官である。これまで数多くの戦で兵站を支えてきた実績を持つ。
・所属組織、地位や役職 サイツ軍・輸送総責任者。
・物語内での具体的な行動や成果 物資輸送の遅れを批判され、効率化の策を模索する。カイサスに変装したランバースの進言を信じ、土魔法による地下補給拠点の新設を決定する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。柔軟な判断が裏目に出て、カナレ軍に拠点の位置と魔力水をすべて奪われる結果を招く。
バサ・ルペリコル
サイツ軍の前線指揮を任された将軍である。兵の練度や士気を高める手腕に優れる反面、不測の事態への臨機応変な対応力に欠ける。
・所属組織、地位や役職 サイツ軍・前線司令官。
・物語内での具体的な行動や成果 魔力水不足とクラン軍勝利の虚報を受けて全軍の撤退を決定する。川の氾濫によって逃げ場を失い、カナレ軍の包囲攻撃を受けて大損害を被る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。殿の犠牲によって辛うじて脱出を果たすものの、五万もの兵を失う大敗を喫する。
傭兵団シャドー
ファム(マザーク・ファインド)
情報収集と工作活動を担う傭兵団シャドーの団長である。中性的な容姿を持つ青年である。アルスの家臣として忠実に行動する。
・所属組織、地位や役職 傭兵団シャドー・団長、ローベント家・家臣。
・物語内での具体的な行動や成果 サイツ軍の輸送拠点から魔力水を直接奪取する奇策を立案する。部下たちへ的確な指示を与え、大量の魔力水強奪を完遂させる。アルスの結婚式では給仕メイドに変装して式場に潜入する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。卓越した諜報能力でサイツ軍を機能不全に陥れ、大勝の基盤を作り上げる。
ベン(アレクサンドロス・ベルマドルド)
傭兵団シャドーの構成員である。印象に残らない平凡な容貌を持つ。強靭なスタミナと類いまれな俊足を誇る。
・所属組織、地位や役職 傭兵団シャドー・伝令役、ローベント家・家臣。
・物語内での具体的な行動や成果 ブルレード郡に集結したサイツ軍八万の情報を迅速にアルスへ届ける。クメール砦とファムの間を往復し、わずか一日足らずで作戦指令を伝達する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。迅速な情報網の維持を一人で支え続ける。
ランバース(アンドリュー・スマージュ)
傭兵団シャドーに所属する変装の達人である。
・所属組織、地位や役職 傭兵団シャドー・団員、ローベント家・家臣。
・物語内での具体的な行動や成果 殺害された下級文官カイサスに成り代わり、ブルレード砦に潜入する。輸送責任者ラクトルに地下補給拠点の建造を進言し、その場所をすべてカナレ軍へ流す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。精巧な変装術を駆使し、魔力水強奪作戦の鍵を握る。
レメン
傭兵団シャドーに所属する女性工作員である。男心を掴む会話や技術に長けている。
・所属組織、地位や役職 傭兵団シャドー・団員、ローベント家・家臣。
・物語内での具体的な行動や成果 酒場でカイサスに接触して巧みに誘惑し、部屋へ連れ出すことに成功する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。対象を油断させて暗殺の機会を作り出す。
ムラドー
傭兵団シャドーに所属する戦闘員である。
・所属組織、地位や役職 傭兵団シャドー・団員、ローベント家・家臣。
・物語内での具体的な行動や成果 レメンが部屋に誘い込んだカイサスを瞬時に絞殺し、衣服の回収を支援する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。暗殺任務を確実に遂行する。
メイトロー傭兵団
クラマント・メイトロー三世
帝国屈指の実力を持つメイトロー傭兵団の頭領である。冷徹な現実主義者で、契約金額に見合う働きを厳格にこなす。卓越した戦術眼を備える。
・所属組織、地位や役職 メイトロー傭兵団・団長。
・物語内での具体的な行動や成果 クランの命を受けてカナレ防衛の援軍として参陣する。大型触媒機の分散配置をリーツに進言し、防御陣形の効率化を図る。精鋭騎兵を率いて敵魔法兵の背後を突き、壊滅的な打撃を与える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 作中において個別のステータス数値表示はない。遊撃部隊として本隊の守備や敵騎兵の迎撃に活躍する。
登場集団
ベルッド城の諸侯・貴族たち
ベルッド郡平定後に招集されたクラン派の領主たちである。
・所属組織、地位や役職 クラン派・所属貴族。
・物語内での具体的な行動や成果 クランによるアルスのカナレ郡長就任宣言をその場で聞き届ける。一部の領主は若きアルスの異例の出世に嫉妬や反感の視線を向ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 大勢が決したことで表立った異論を挟むことは控える。
カナレ城の使用人たち
カナレ城の家政や維持管理を担当する従者たちである。
・所属組織、地位や役職 パイレス家 / ローベント家・城内使用人。
・物語内での具体的な行動や成果 ランベルクから移住してきたアルスとその家族の居室を整える。仕官希望者たちの案内や面談の取り次ぎを行う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 主君の交代に伴い、ローベント家の統治体制を裏方から支える。
カナレ城の仕官志願者たち
カナレ郡内や他領から集まってきた人材募集の志願者集団である。
・所属組織、地位や役職 平民、狩人、没落貴族、元傭兵など。
・物語内での具体的な行動や成果 才能を問う看板を見てカナレ城へ押し寄せ、アルスの鑑定を受ける。面談のみで帰される方式に一部が不満を漏らす。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 多くが不採用となる中、優れた才を示した者だけが家臣団へ登用される。
カナレ領の魔法兵たち
カナレ城下で訓練を重ねる魔力適性保持者たちの部隊である。
・所属組織、地位や役職 カナレ軍・魔法兵部隊。
・物語内での具体的な行動や成果 触媒機を用いた実戦訓練に励む。新人のムーシャが放った炎魔法の威力に歓声を上げ、その才能を素直に称賛する。前線でシャーロットの指揮下に入り、敵軍への斉射を担う。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 実戦を通じて練度を高め、サイツ軍に対する最大の攻撃力として機能する。
アルカンテス城のバサマーク側近・部下たち
バサマークの周囲で敗戦処理や外交交渉に奔走する側近集団である。
・所属組織、地位や役職 バサマーク派・側近・将校。
・物語内での具体的な行動や成果 パラダイル州や皇帝への調略工作の失敗を次々と報告する。サイツ州新総督からの交渉受諾の書状を持ち帰り、主君へ届ける。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 劣勢の中で起死回生を図るが、情勢を覆すには至らない。
ブルレード砦のサイツ軍兵士たち
ミーシアン国境のブルレード郡に集結したサイツ州の大部隊である。
・所属組織、地位や役職 サイツ軍・遠征部隊。
・物語内での具体的な行動や成果 総勢八万の威容を誇り、カナレ郡侵攻に向けて砦から順次出撃する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 新体制下のサイツ州の国力を誇示する大規模な侵略軍として編成される。
クメール砦の兵士たち
州境に位置する要衝クメール砦の守備部隊である。
・所属組織、地位や役職 カナレ軍・城郭守備兵。
・物語内での具体的な行動や成果 本陣として砦に入ったアルスの身辺を守護する。砦を訪れたリシアの来訪を速やかに取り次ぐ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 最終決戦に際して出撃部隊として動員され、防衛戦の勝利を支える。
メイトロー傭兵団の兵士たち
クラマントが率いる百戦錬磨の精鋭部隊である。
・所属組織、地位や役職 メイトロー傭兵団・傭兵部隊。
・物語内での具体的な行動や成果 歩兵、騎兵、弓兵、魔法兵をバランスよく備える。精鋭騎馬隊が敵魔法兵の陣地を奇襲して壊滅させ、本隊防衛の迎撃戦でも高い戦闘力を発揮する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 契約に忠実な働きを見せ、カナレ軍の貴重な主戦力として活躍する。
カナレ軍の兵士たち
ローベント家とクラン派援軍からなる守備連合軍である。
・所属組織、地位や役職 カナレ防衛連合軍・兵士たち。
・物語内での具体的な行動や成果 防衛線を敷いて数倍の敵兵の突撃を迎え撃つ。リーツの合図に従い、規律ある後退や突撃陣形への即時変化を成功させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 厳しい防衛戦を戦い抜き、サイツ軍五万を討ち取る大勝に貢献する。
サイツ軍の兵士・騎兵たち
カナレへ侵攻したサイツ州の正規部隊である。
・所属組織、地位や役職 サイツ州軍・歩兵および騎兵。
・物語内での具体的な行動や成果 仲間が魔法で焼かれる凄惨な光景を越えて前進し、一度は防衛陣地を突破する。大型の軍馬を駆ってカナレ本隊への挟み撃ちを試みるが、迎撃されて後退する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 補給線を断たれた状態で背水の陣を敷くが、川の氾濫に阻まれて壊滅的な損害を被る。
アルカンテス城のバサマーク処刑見物人たち
バサマークの斬首刑を見届けるために集まった民衆と兵士たちである。
・所属組織、地位や役職 アルカンテス・一般市民および将兵。
・物語内での具体的な行動や成果 城前広場に密集し、処刑台に立つバサマークの最期の叫びと刑の執行を目撃する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 内乱の首謀者の死を見届け、総督家の継承戦争の終焉を実感する。
アルカンテス城の祝宴参加貴族たち
内乱終結を祝う祝宴に招集されたミーシアン諸侯たちである。
・所属組織、地位や役職 ミーシアン州・領主および重臣たち。
・物語内での具体的な行動や成果 広間に集い、クランの勝利宣言に耳を傾ける。劣勢を覆したアルスの功績を認め、盛大な拍手を送る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 若きカナレ郡長アルスに対する見方を改め、その実力を認めるようになる。
カナレ城の結婚式参列者・音楽隊
アルスとリシアの婚姻儀礼を祝福する参列者と楽士たちである。
・所属組織、地位や役職 ローベント家家臣、親族、式典演奏隊。
・物語内での具体的な行動や成果 大広間に集まり、穏やかな楽曲を奏でて新郎新婦の入場を迎える。夫婦の誓いを見届けて祝辞を述べ、祝宴の酒食を賑やかに楽しむ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項 両領地の友好的な結びつきを祝福し、新体制の門出を祝う。
展開まとめ
プロローグ
アルス・ローベントは日本で死んだ後、異世界で貴族の長男として生まれ変わり、約十三年が経過していた。彼は他人の能力を測る特異な力を持っており、その能力を活かして、優秀な人材を家臣として登用してきた。マルカ人のリーツ・ミューセスや魔法使いのシャーロット、頭脳派のロセルなど、多様な才能を持つ者たちを集め、彼らの助けを借りて領主としての責務を果たしてきた。
十二歳で父を失い領主となったアルスは、自身の知識だけでは足りず、家臣たちの力に頼ることで何とか領地を治めてきた。そして、ミーシアン州の大戦での戦功により、彼はカナレ郡長に昇進した。新たな城と大勢の人々を治める責任に不安を感じつつも、家臣たちの力を信じ、これからも領主として進んでいく決意を固めていた。
一章 カナレ危機
アルスはルメイルとの話し合いの翌日、カナレ郡長に任命された。クランが貴族たちの前で宣言し、異論はなかったものの、何人かの領主からはやっかみを買ったかもしれないと感じた。アルスは彼らの能力を鑑定し、今後注意すべき人物として記録した。
その後、アルスは家臣たちと共にランベルクに戻り、カナレ城への移住の準備を進めた。ルメイルから補佐役としてメナス・レナードを紹介され、カナレ郡の現状についての情報提供を受けた。
また、ランベルクの運営を誰に任せるかについて家臣たちと議論し、最終的にミレーユに任せることに決定した。リーツはアルスの側に残りたいと申し出たため、ランベルクの運営はミレーユに一任され、シャドーの団員が彼女の動向を監視することとなった。
アルスは至急の決定事項を終え、領主たちを城に招待して祝宴の準備を進めることにした。リシアとの結婚については、まだ戦が終わっていないため、後に話し合うことを決めた。
数日後、トルベキスタ領主のハマンド・プレイドとクメール領主のクラル・オルスローがカナレ城を訪れた。シン・セイマーロも現れ、飛行船の開発資金を求めたが、アルスは財政の余裕がないため、まずは必要額の三分の一を提供することにした。
祝宴では、リシアがアルスに抱きつき、無事を喜んだ。また、ハマンドとクラルはアルスに忠誠を誓ったが、クラルはまだアルスを値踏みしている様子であった。
祝宴は無事に終わり、翌日、領主たちはそれぞれの屋敷へと戻った。
アルスは領主たちが帰った後、少し休暇を取ることにした。疲れを癒し、リラックスしていると、弟のクライツが剣の稽古をしようと部屋にやってきた。一方、妹のレンは勉強をしようと言い、二人は喧嘩を始めた。アルスは二人にどちらも行うことを約束し、まずはクライツとの剣の稽古を行った。クライツは才能豊かで、アルスは危うく負けそうになる場面もあったが、最終的に勝利した。
その後、レンと一緒に勉強を開始した。レンは非常に知識が豊富で、ロセルに教わったことを自慢していた。一方、クライツは勉強が苦手で、早々に疲れてしまったが、アルスは彼にもっと勉強するように励ました。レンは兄に対していたずらっぽく笑い、彼女がクライツを将来手玉に取るかもしれないとアルスは感じた。
アルスは休暇を終え、働き始めようとしていた時、リーツから釣りの誘いを受けた。普段仕事熱心なリーツからの意外な提案に驚きながらも、アルスはこれを受け入れ、二人で湖へ向かった。釣りは不調だったが、リーツと様々な話をし、楽しい時間を過ごした。
釣りを終えて城に戻ると、サプライズの誕生日パーティーが待っていた。リーツの計画で、家臣たちやリシアがプレゼントを用意して祝福した。シャーロットからはクッキー、ロセルからは本、ミレーユからは銀貨を受け取り、リーツは剣と防具を贈った。リシアも多くの贈り物を持参し、アルスを祝った。
アルスはこのパーティーを最高の誕生日として心に刻み、家臣たちの支えを強く感じた。
アルスは誕生日パーティーが終わった翌日、家臣たちと領地の経営について本格的に話し合いを行った。最初の議題は人材集めであり、リーツが提案したお触れを出して人材を集める方法を採用することに決まった。また、ロセルの提案で、どのような人材を優先して採用すべきかも話し合われ、戦に備えて武勇に優れた者を優先することとなった。
人材発掘においては、看板を町や村に設置し、アルスの鑑定能力で候補者を評価した。しかし、初めの数週間は優秀な人材が見つからず、疲労も重なり困難な状況が続いた。その中で、ようやく武勇や知略に優れた男性、ザット・ブロズドと、魔法兵適性が高い女性、ムーシャ・トリックを見つけ、彼らの採用を決めた。
こうして、アルスは領地の強化と戦への準備を進めていった。
アルスはザットとムーシャを家臣として採用することを決定した。ムーシャは魔法適性Aを持ち、魔法兵としての潜在能力が高い人物であった。リーツやロセルたちと話し合いを行い、特にムーシャの能力に期待を寄せていた。シャーロットもまた、彼女を歓迎し、訓練を共にすることになった。
ムーシャは初めて魔法を使い、その威力に驚いた。彼女は今まで自分に何の才能も感じていなかったが、魔法の才能を見出されたことで、新たな自信を得た。シャーロットはムーシャの成長を見守りながら、魔法兵としての訓練を手伝い、二人の間には友情が芽生えていった。
ムーシャは自分の力を信じ、少しずつ魔法の腕を上げていく決意を固め、シャーロットとの交流を深めながら成長していった。
アルスはザットとムーシャを家臣として採用し、数週間が経過した。ムーシャは魔法適性が高く、訓練を重ねることで徐々に成長を見せていた。一方、ザットは副隊長として少数精鋭部隊に配属されていたが、隊長であるブラッハムの無鉄砲な性格に不満を抱きつつも、その高い戦闘能力を認め、共に訓練に励んでいた。
その後、アルスはさらに人材を募集し、新たに十人の家臣を獲得した。人材集めが続く中で、より広範囲に優秀な人材を集めるため、ほかの郡長たちとの交流を深める必要を感じ始めていた。
一方、ミーシアンではクランから出兵命令が下り、アルスも出陣の準備を進めることとなった。その頃、敵方のバサマークは窮地に立たされており、サイツ州との交渉に最後の望みを託していた。
アルスは兵を集め、クランの軍に合流する準備を進めていたが、資金不足により動員できる兵の数は少なくなっていた。さらに、サイツの攻撃に備えるため、一部の兵を残さねばならず、出陣できる兵は少数に限られていた。そんな中、シャドーの伝令役であるベンから、サイツ州がカナレ郡に隣接するプルレード郡で兵を集結させているとの報告が入った。八万の兵が集結しているという情報に、アルスは緊急軍議を開くことを決めた。
ミレーユは、サイツがバサマークと手を組んでいる可能性を指摘し、援軍が期待できない状況になるかもしれないと予想した。最悪の場合、降伏も視野に入れるべきだと提案したが、アルスはクランへの忠誠心や領地を守る決意から、降伏は避けたいと考えた。リーツやロセルも最終的には降伏を容認する意見を持ちながらも、援軍を待つことを優先とした。
数日後、クランからの返答が届き、バサマークがサイツ州と手を組んで動き出したことが確認された。クランはカナレに二万の援軍を送ることを約束したが、大規模な援軍は難しく、アルスは28,000人の兵で八万のサイツ軍に対抗しなければならなくなった。援軍には有能なメイトロー傭兵団も含まれていたため、アルスはクランを信じ、カナレを守るための戦いに備えることを決意した。
アルスはクランからの援軍の報告を受け、兵数が二万であることに少し不安を感じていたが、メイトロー傭兵団が参加することに安心感を覚えていた。敵のサイツ軍は八万の兵を擁し、兵糧も豊富で、侵攻が始まれば長期戦になる可能性があった。敵将ボロッツ・ヘイガンドは五万の兵で十万の敵軍を破ったという実績を持つ優秀な指揮官であり、簡単には勝てないことが予想された。
軍議では、ミレーユやロセルが、サイツ軍を追い払うために最初の戦いで大打撃を与えることが重要だと提案した。カナレ軍は少数ながらも質の高い兵を擁し、シャーロットやリーツの力を活用すれば勝機はあると考えた。援軍には大量の魔力水も含まれており、サイツ軍に対抗する準備は整っていた。
アルスはリーツやシャーロット、クラマント率いるメイトロー傭兵団に前線で戦うよう命じたが、無理をせず状況が悪化したらすぐに撤退するよう指示した。彼自身はクメール砦に留まり、戦場の指揮を遠隔で行うことになった。
サイツ州の新総督の右腕であるボロッツ・ヘイガンドは、プルレード砦でカナレ領への侵攻準備を進めていた。彼は軍略に優れた指揮官であり、今回の戦いでカナレ郡長アルスを捕らえるか、殺すことを目的としていた。総督はアルスの能力に注目し、彼を家臣にするか、敵対するなら排除する必要があると考えていた。
サイツ総督は人材を最も重要視しており、アルスのように人材を見抜き育てる力を持つ者を味方に付けたいと強く望んでいた。クランがアルスを高く評価しているため、戦でカナレを占領し、アルスを確保することが急務だと判断していた。
ボロッツは総督の命令に従い、カナレ軍の抵抗が予想以上に強くても攻め続け、アルスを捕らえるか殺すよう兵に指示を出した。戦は激しくなる見込みであり、サイツ軍は多くの兵を失う覚悟で進軍を開始する準備を整えていた。
二章 戦開始
前線に到着したリーツは、シャーロット、ブラッハム、ザット、クラマントと共に軍議を開き、敵が来た際の対応を話し合った。作戦は、敵軍が川を渡る際にシャーロットの強力な魔法で混乱させ、その隙に弓兵で攻撃し、敵を追撃して損害を与えるというものだった。リーツはこの作戦が成功する可能性が高いと考え、敵が引き返すことを期待していた。
一方、シャーロットは魔法兵たちに指示を出し、戦の準備を進めていた。ムーシャも参加していたが、まだ成長途上であったため、シャーロットはムーシャの実力に若干の不安を抱いていた。ムーシャ自身も戦場での初めての経験に緊張していたが、シャーロットの励ましを受けて戦場に臨んだ。
やがてサイツ軍が到着し、リーツはシャーロットに合図を出し、シャーロットは強力な炎魔法「ヘル・ファイア」を放ち、敵の防御を打ち破った。驚いたことに、ムーシャも同じ魔法を使い、シャーロットに匹敵する威力を発揮した。これにより、敵軍は大きく混乱し、無秩序に撤退を始めた。
リーツはその隙を逃さず、ブラッハムら騎馬兵に追撃を命じた。ブラッハム隊は逃げる敵将を捕らえ、彼を討ち取った。カナレ軍は初戦を圧勝で終え、敵軍に大きな打撃を与えることに成功した。
初戦に大勝利を収めた夜、リーツたちの陣は勝利の喜びに包まれていた。特にブラッハムは自身の活躍を誇っていたが、実際にはシャーロットとムーシャの魔法が戦果の大部分を担っていた。ムーシャは初めての戦で多くの敵を倒したことに心を痛めていたが、周囲の兵たちは戦場の経験があるため、あまり気に留めず騒いでいた。リーツは兵たちの士気が高いのは良いことだが、指揮者としては気を引き締めていた。
リーツは、初戦の大勝利によって敵軍が撤退する可能性を考えつつも、簡単には撤退しないだろうと予想していた。数回の戦で勝利を重ね、最終的には停戦交渉に持ち込み、譲歩することで敵軍を追い返すことを目指していた。シャーロットの魔法が今後も有効であれば、次の戦でも勝利は見込めるとリーツは考えていた。
クメール砦にいるアルスも、リーツたちの勝利報告を受けて喜んでいた。しかし、ロセルは兵の数がまだ圧倒的に劣っているため、油断は禁物だと警告していた。そんな中、リシア・プレイドが砦を訪れ、アルスの側にいたいと申し出た。アルスはリシアの安全を心配して断ろうとしたが、彼女の強い意志とミレーユの助言により、最終的にリシアの同行を認めた。リシアはアルスの隣で戦況を見守ることになった。
前線で指揮を執っていたリーツは、斥候からの報告を受け、サイツ軍が本格的な大規模攻勢を開始したことを知った。ラントルク・ロッダーやその弟トラポル・ロッダーといった有能な将が指揮を取っており、敵軍の士気は非常に高かった。リーツは、シャーロットやムーシャを中心とした魔法兵を活用した戦術を取ることに決め、敵軍が防御魔法を駆使してくると予測して対策を練っていた。
敵が大軍で渡河を強行してきたため、カナレ軍は防御しつつ攻撃を開始したが、ムーシャの魔法は不発で、シャーロットの魔法に頼る場面が増えた。カナレ軍は最初こそ敵兵を撃退していたが、敵の勢いに押され、川を渡られてしまい、陣が破られる寸前まで追い詰められた。リーツは撤退を決断し、殿の兵士たちの奮闘もあって最小限の損害で撤退に成功したが、物資や大型触媒機を失い、戦況は厳しさを増した。
リーツは、この状況をアルスに報告するため、書状をクメール砦に送り、次の対応を急ぐこととなった。
クメール砦でアルスたちは、リーツからの書状を受け取り、敵軍の勢いに押されて撤退したことを知った。アルスは和平交渉を試みたが、サイツ側からの提案はカナレ郡を差し出すという内容であり、アルスが郡長として続けることが条件だった。これに対し、アルスと彼の仲間たちは、裏切りや領地の放棄は賢明でないと判断し、交渉は失敗に終わった。
その後、アルスたちは戦いに勝利するための方法を模索し、ロセルはシャドーを使って敵の物資を破壊するという案を出した。これにより、敵の兵糧や魔力水を減らし、守備を有利に進める作戦が決まった。クメール砦自体の防御力が不安視されていたが、時間を稼ぐことができればクランからの援軍が期待できるため、全力で戦うことが決定された。
最終的にアルスはリーツに時間稼ぎを指示し、シャドーに工作活動を依頼して戦況の改善を図ろうとした。
アルスからの書状を受け取ったリーツは、敵の大軍を相手に時間を稼ぐ必要があるという指示に悩んでいた。シャドーによる工作が成功するかどうかは未知数であり、戦術的な準備が急務であった。リーツは、自分が先頭に立って戦うことを決意し、兵たちを鼓舞した。
クラマントからの助言を受け入れ、リーツは大型触媒機の使用をシャーロットとムーシャに限定し、他の魔法兵たちには歩兵の援護を命じた。ムーシャは初めての重要な役割に緊張していたが、シャーロットの励ましを受け、覚悟を決めて魔法を発動させる準備を整えた。
敵軍が迫る中、ムーシャは自身の過去を振り返り、自らを奮い立たせて魔法を発動させることに成功した。
リーツは前線で指揮を執り、兵士たちの士気を高めるため、自ら戦場に立った。敵軍は数で圧倒していたが、リーツは冷静さを保ち、戦術を練りながら敵兵を迎え撃った。魔法兵シャーロットとムーシャによる強力な魔法攻撃が敵を大きく削り、戦場は一時的に優勢となった。しかし、魔力水の補充が必要となり、魔法が一時止まると、敵兵が再び迫ってきた。
リーツは自軍の歩兵と騎兵を巧みに使い、敵軍を崩すために乱戦を起こし、その隙に騎兵を背後に回して魔法兵を奇襲する作戦を立てた。騎兵のクラマントとブラッハムに指示を伝え、タイミングを見計らいながら戦い続けた。
リーツは自ら多くの敵兵を斬り倒し、仲間のザットと共に奮闘したが、疲労も徐々に溜まっていた。それでもリーツは限界を超えて戦い続け、カナレ軍の士気を高めるため奮闘した。
クラマントは戦況を見て、騎兵隊を率いて奇襲を仕掛けることを決断し、ブラッハムと共に敵の魔法兵に突撃した。騎兵隊は少数精鋭で、敵の防御を突破し、魔法兵を討ち取ることに成功した。敵軍は混乱し、リーツはこの機を見て自軍を後退させ、追撃してきた敵に対して魔法兵の集中攻撃を仕掛けた。これにより敵は大打撃を受け、戦意を喪失して撤退した。
カナレ軍は勝利を収めたが、戦力を消耗しており、特に魔力水の不足が深刻な問題となっていた。リーツは次の戦いに備えつつ、シャドーが敵の魔力水を減らす工作を成功させることを祈った。
一方、シャドーのリーダーであるファムは、アルスの指示を受け、敵の魔力水を狙う作戦を立てた。ファムは敵の拠点を襲うことを決断し、作戦の成功にはアルスの協力が必要だと考えたため、すぐにベンに伝言を託してアルスに報告させた。
数日後、ファムはアルスからの返答を受け取り、すぐに必要な兵の手配が行われることが確認された。ファムは、ランバース、レメン、ムラドーの三人に任務を命じた。彼らはサイツ軍の文官カイサスをターゲットにし、レメンの巧みな交渉でカイサスを部屋に誘い込んだ。その後、ムラドーがカイサスを殺害し、ランバースがカイサスに変装してサイツ軍内部に潜入した。
カイサスに変装したランバースは、サイツ軍の輸送責任者ラクトルに接触し、地下に補給拠点を作る案を提案した。ラクトルはその提案を採用し、補給作戦の変更を決定した。ファムは、この変装が予想以上に成功したことに驚きつつも、これを利用してサイツ軍の補給拠点の場所を事前に把握し、魔力水を盗み出す作戦を進めた。
シャドーの面々はファムの指示のもと、すぐに行動を開始した。
サイツ軍は急ピッチで新しい輸送拠点を地下に作り、六ヵ所に兵糧と魔力水を分散させた。しかし、ランバースが作戦の発案者として参加していたため、カナレ軍はその場所を把握していた。ファム率いるシャドーは、土魔法で拠点に穴を開け、魔力水を大量に盗み出すことに成功した。
クメール砦にいたアルスは、シャドーの成功に驚き、戦力の増強を確認したが、ロセルから「まだ安心できない」と指摘された。ミレーユは、敵軍の混乱に乗じて野戦を仕掛けるべきだと提案した。魔力水を奪われたサイツ軍は補給が滞り、機動力が低下するため、早急に攻撃を仕掛ける必要があると判断した。
さらに、ミレーユは川の水量を増やすことで、敵軍の撤退を妨げる作戦を提案した。これにより、敵軍を追い詰め、大損害を与えることが可能となる。アルスはミレーユの作戦を採用し、カナレ軍を守り抜くことを誓った。
三章 決着
アルスは、シャドーの工作が成功したことをリーツに報告し、敵軍の現状についても詳しく聞くよう指示を出した。リーツからは、敵軍が混乱し、攻撃を止めているという情報が届いたため、アルスたちは攻撃の準備を進めた。次の戦では、シャーロットに川の水量を増やすための魔法を任せ、サイツ軍を追い込む作戦を立てた。
アルスはクメール砦に残っていた兵を率いて出陣し、リーツ軍と合流後、サイツ軍への奇襲を計画。ミレーユの提案で、事前にシャドーを使ってサイツ軍に「クランが勝利し、カナレに向かっている」という偽情報を流すことに決定した。シャーロットは少数の兵を率いて川の上流へと向かい、水魔法の準備を開始した。
シャドーの工作により、サイツ軍は「クランが勝利した」という偽情報を信じ込み、混乱していた。アルスはその機会を逃さず、クメール砦から出陣を決意。彼自身も兵士たちの士気を上げるため、戦場に立つことにした。リーツやミレーユが最前線で指揮を執り、ロセルは後方でアルスを補佐。クラマント率いるメイトロー傭兵団は、遊撃隊として機動力を活かし、戦場での対応力を発揮する役割を担った。
進軍中、サイツ軍がシャーロットの動きを察知し、彼女を討つために数百の兵を送ってきた。アルスはブラッハムをシャーロットの援護に送り、彼女の安全を確保するために備えた。敵軍との戦闘が開始され、アルスの軍は魔法攻撃を駆使して敵兵を削り、リーツとミレーユの指示で陣形を崩さず応戦した。
敵軍の騎兵がアルスの本隊に突撃してきたが、ロセルとメイトロー傭兵団の的確な対応で撃退に成功。サイツ軍はついに撤退を始めた。アルスはシャーロットとの連携を図り、敵を川に追い込む作戦を進めていくことにした。
サイツ軍が後退した数時間後、シャーロットは川上でアルスからの合図を待っていた。合図はまだ来ておらず、待機中に彼女は暇を持て余していた。釣りを試みるもすぐに飽き、無駄な時間を過ごしていた。その間、敵兵が接近しているという報告があり、援軍が間に合わない可能性が出てきた。兵士たちは不安を感じていたが、シャーロットは落ち着いていた。
やがて、敵兵がシャーロット達に迫り、戦闘が始まった。シャーロットは炎魔法を使って敵を攻撃し、何人かの敵兵を倒したが、次々に敵が上陸し状況は悪化。彼女の魔法の使用も制限され、危険な状況に陥った。追い詰められたシャーロットだったが、遅れて到着したブラッハム率いる援軍によって、敵兵は撃退され、危機を脱した。
戦闘後、シャーロットはブラッハムに感謝しつつも、援軍の到着が遅かったことに怒りを見せた。状況が安定した後、本隊から水魔法の使用を指示され、シャーロットはすぐに行動に移った。
サイツ軍の指揮官バサ・ルペリコルは、魔力水の不足による失敗に怒りを感じながら、撤退を指揮していた。彼は輸送の不備が原因で、この戦いに敗れたと考えていたが、兵を早めに撤退させなかった自分にも責任があることを自覚していた。バサは一旦退却し、体制を整えて再度攻撃するつもりであったが、敵軍の魔法によって川が氾濫し、渡河が不可能となった。
アルスの指揮下、カナレ軍は川の氾濫を利用し、サイツ軍を追い詰めて大規模な魔法攻撃を仕掛けた。サイツ軍の多くが川を渡ろうとして溺死し、一部は反撃したが、リーツやミレーユの奮戦でカナレ軍は持ちこたえた。ムーシャの強力な魔法も敵を大きく削り、最終的にサイツ軍は撤退を余儀なくされた。
この戦いでカナレ軍は四万の敵兵を討ち取ったが、サイツ軍の兵数はまだ上回っていた。しかし、ロセルやミレーユは、これ以上サイツ軍が攻めてくる可能性は低いと判断した。クランがバサマークを撃退するまでの間、カナレ軍は防備を固め、サイツ軍の動向を警戒したが、数ヵ月後、クランが勝利したという報告を受け、ようやく安心することができた。
エピローグ
サイツ軍の総大将ボロッツ・ヘイガンドは、バサマークの敗北の報を受けて、カナレ攻略が絶望的になったことを悟り、落胆していた。彼は部下の指揮官たちに問題があったことを認めつつも、自身の判断ミスを痛感していた。アルス・ローベントが指揮するカナレ軍に敗北し、その優れた戦略と人材力に脅威を感じていたボロッツは、暗殺者を雇ってアルスの命を狙う決意を固めた。
その後、クランからクメール砦に援軍が到着し、アルスはサイツ軍の動きを監視する役割を担いながらも、戦の終結が近いことを実感していた。最終的に、バサマークがアルカンテス城で包囲され、六月十五日に処刑されることで、ミーシアンの統一が成し遂げられた。
アルスはアルカンテスで開かれた祝宴に参加し、戦果を讃えられ、褒美として大量の金貨を授与された。貴族たちの評価も改善し、彼の地位は確固たるものとなった。そして、八月八日、アルスはリシアとの結婚式を挙げ、幸せな節目を迎えた。
アルスは十四歳でリシアとの結婚式を迎えた。前世では結婚を夢見ていたが、実現することなく35歳を迎えたアルスにとって、今世での結婚は早すぎると感じていた。結婚式はカナレ城の大広間で行われ、アルスとリシアは純白のウェディングドレスとタキシードに身を包み、ルメイルを立会人として誓いを立て、キスを交わした。
式には家臣たちも出席しており、アルスの成長を喜ぶリーツや、食事に夢中なシャーロット、緊張するロセルなど、それぞれが個性的な様子を見せていた。式後の宴会は、賑やかな祭りのような雰囲気で進み、リシアと共に食事を楽しむアルスの姿もあった。途中、シャーロットがアルスをからかう場面もあったが、リシアの圧により彼女はすぐに退散した。
その日の宴会は、アルスの誕生日も兼ねており、結婚と誕生日を祝うプレゼントが多数贈られた。長い一日を終えたアルスは、疲れ果ててそのまま眠りについた。
アルスは結婚式翌日、義父のハマンドとルメイルを見送り、ハマンドにリシアを幸せにすると誓った。その夜、アルスはリシアとの初夜を迎えることになったが、前世でも今世でも経験がなく、緊張していた。リシアも同じく緊張しており、ぎこちない様子で部屋に入ってきた。二人はお互いに戸惑いながらも、徐々に緊張が解けていき、リシアは年長のメイドから助言を受けていたが、アルスは彼女をリードする立場であることを伝えた。
リシアはアルスに愛情を抱きつつ、恥ずかしさから戸惑いを見せたが、最終的には二人は名前を呼び合い、互いの存在を確認し合った。そして、その夜は甘く熱い時間を共に過ごし、夫婦としての新たな一歩を踏み出した。
翌朝、アルスはリシアの寝顔に気づいて昨日の出来事を思い出し、ついに大人になったことを実感した。リシアも目を覚まし、お互いに照れながらも昨夜の行為を振り返り、二十人もの子供が欲しいと語った。アルスはその数に驚きつつも、リシアの野心的な性格を再確認し、まずはカナレの強化を進めることを決意した。
その後、アルスとリシアは朝の会議に遅れて参加した。家臣たちが揃い、今後の領地運営について話し合いが行われた。ミーシアンの内乱が終結したことで、カナレの経済は上向きになり、今が領地を強化する絶好の機会であると確認された。魔法兵の増加や、ロセルの提案による魔法騎兵隊の設立なども議題に挙がり、アルスは慎重にそれらを検討した。
さらに、外交関係についても話し合われ、特にマサ郡との友好関係を築くための方法が議論された。リシアはパーティーへの招待や贈り物などを提案し、アルスもそれに同意した。外交情報の収集はシャドーに任せることになり、会議は終了した。
最後に、アルスはシンに飛行船製作を進めるための資金を提供し、その準備を進めることにした。数日後、シンがカナレ城に到着し、飛行船プロジェクトが本格的に動き出した。
シンがカナレ城に到着し、飛行船の開発に使う資金が入ったことを確認すると、彼はアルスに研究成果を見せることを提案した。アルスはシンに金貨を渡し、飛行船開発を進めるための資金を提供していた。シンは研究成果として、小型の飛行船を披露し、それが実際に飛行する様子を見せた。アルスや家臣たちはその光景に驚き、シンの才能を改めて認めた。
飛行船は風の魔力石と風の魔力水を使い、特殊な機材で浮力と推進力を得ていた。シンはこの技術が帝都の魔法研究者ハイネス・ブラウンの理論から着想を得たものであると説明した。ハイネスは変人として追放されたが、その理論は正しかったことが証明された。アルスはシンの飛行船開発をさらに支援するため、資金を増額し、今後の開発が早まることを期待した。
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