小説「鳥衣の華 3」【中華退魔ファンタジー】感想・ネタバレ

小説「鳥衣の華 3」【中華退魔ファンタジー】感想・ネタバレ

物語の概要

ジャンル
中華風退魔ファンタジーである。天才巫術師の少女とその許婚が、陰謀の影に包まれた異変の核心へと迫る物語の第3弾である。
内容紹介
皇命を受けた巫術師の董月季は、地方の廟で頻発する行方不明事件の調査に赴く。許婚の封霊耀や巫術師見習いの渓とともに白介山麓の繁華街へ足を向けると、そこでは古びた祠と異界の関わりが噂されていた。調査中、月季はごろつき幽鬼・黄舟と遭遇し、「洞窟で“食われた”」という言葉に翻弄される。花に抱かれた村の深い闇が浮かび上がる中、月季らは退魔の真価を問われることになる。

主要キャラクター

  • 董月季(とうげっき):当代随一の巫術師であり、本作のヒロイン。皇命を受けて地方の事件調査に赴き、その才覚と冷静さで謎に挑む存在である。
  • 封霊耀(ほうれいよう):月季の許婚。真面目で忠実な術者として、月季を陰ながら支える重要な人物である。
  • 渓(けい):巫術師見習いとして、月季とともに調査に同行する若き術者。成長とともに信頼を築く存在である。
  • 黄舟(こうしゅう):ごろつき幽鬼。洞窟内で「食われた」と訴え、事件の鍵を握る謎多き存在である。
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烏衣の華 3

物語の特徴

本作は、日本の“退魔もの”とは異なる、中国的な退魔ファンタジーの趣が色濃いのが魅力である。古廟や異界といったモチーフに加え、巫術師の技術と謎解きが融合した展開が、神秘性と物語性の両立を実現している。特に、月季が理性と感情の間で揺れながら謎に向き合う姿は、読者に強い共感を呼び起こす。

書籍情報

鳥衣の華 3
著者:白川 紺子 氏
イラスト:春野 薫久  氏
レーベル・出版社:角川文庫(キャラクター文芸)/KADOKAWA
発売日:2025年08月25日
ISBN:9784041165287

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あらすじ・内容

風変わりな天才巫術師の少女と許婚が謎を解く、中華退魔ファンタジー第3弾
当代随一の巫術師・董月季(とうげっき)に下された勅命。
それは地方の廟で起きている異変の調査に行くことだった。
許婚の封霊耀(ほうれいよう)と巫術師見習いの渓(けい)らと共に、
月季は白介山の麓の繁華街へと向かう。
そこでは行方不明者が急増しており、村の古い廟との関連が疑われた。
早速街中で調査を始めた月季は、黄舟(こうしゅう)というごろつきの幽鬼と出会う。
彼は洞窟のような場所で「食われた」と訴え……。

花に抱かれた村の暗い秘密とは。
中華退魔ファンタジー第3弾!

鳥衣の華 3

感想

読み終えて、まず感じたのは、霊の視点から描かれる恐怖の深さである。
自身の遺体が喰われるのを目の当たりにするというのは、想像を絶する苦しみだろう。
しかも、その遺体がその後どのように変貌を遂げるのかを知ると、背筋が凍る思いがした。
作中に登場する”アレ”の描写は、しばらく控えめに摂取しようと思うほど、強烈な印象を残した。

物語の中で、幽鬼同士が会話を交わす場面は、意外な発見だった。
特に、黄舟ともう一人の幽鬼の間に、深い絆が育まれていたことに心を打たれる。
拷問を受けても互いの名前を明かさなかったという事実は、彼らの繋がりがいかに強固なものであったかを物語っている。
なかなか出来ることではないと、深く感銘を受けた。

今回の物語では、行方不明者が続出する事件の真相を、月季たちが解き明かしていく。
花に抱かれた村に隠された暗い秘密は、読み進めるほどに恐ろしく、そして哀しい。
中華風退魔ファンタジーというジャンルでありながら、人間の業や心の闇を描き出す深さに、改めてこの作品の魅力を感じた。

『鳥衣の華』シリーズは、単なる退魔譚ではなく、登場人物たちの成長や人間関係も丁寧に描かれている点が素晴らしい。
今回の物語を通して、月季や霊耀、渓たちの絆がより一層深まったように感じる。次巻では、彼らがどのような困難に立ち向かい、どのような成長を見せてくれるのか、今から楽しみでならない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

展開まとめ

第一章 頽廃の街

死後の闇と屍を貪る影
博徒の男は刺殺されて死んだ自分の亡骸を目にし、恐怖に竦んだ。暗闇から現れた獣のような影が屍を覆い、音を立てて貪っていたのである。

川港での停泊と勅命の旅
月季は濃霧の港で出航を待ち、侍女の春草や護衛の蘇訛里と共に甲板に立っていた。旅の目的は地方の廟で頻発する怪事の調査と祓除であり、月季自身に取り憑く化け物の正体を探る望みもあった。

客商の怯えと娼妓の幽鬼
霊耀と渓が現れ、客商の男が護符を求めた。月季は彼の傍らに娼妓の幽鬼を視認し、男が彼女を舟から突き落とした過去を見抜いた。幽鬼は梁香芹と名乗り、無念を語った。

罪の指摘と幽鬼の解放
月季は男に出頭を命じ、霊耀が制圧して役人へ引き渡した。梁香芹は黒羽の術で小鳥に変じ、楽土へ送り出された。蘇訛里の冷厳な対応も示され、月季は彼の本質を感じ取った。

白介山と風濤の異変
一行の調査先は白介山麓の繁華街・風濤であり、行方不明者が増加していた。蘇訛里は治安の悪化と役人不足を説明し、賭博によって栄える街の実態を示した。

港の華やぎと街の頽廃
港に着くと、彩絹や吊り燈籠で飾られた華やかな景色が広がっていたが、香の煙の裏には腐臭が潜んでいた。街門を越えると賭場や妓楼が立ち並び、混沌とした風景が広がった。

宿泊と調査の準備
哈彈族経営の旅館に宿を取り、蘇訛里は星鳥を通じて京師との連絡を受けた。月季は春草と寒翠を残し、霊耀や渓、蘇訛里と共に白介山の古廟へ向かう支度を整えた。

風濤の雑踏と小事件
風濤の大通りで、霊耀が妓女に釵を挿し直していたところを月季が制止し、一行は気を引き締めて山裾へ向かった。蘇訛里は俗事にも通じた様子を見せつつ無表情を崩さず、渓は軽口で場を収めたのである。

白介山の手前と隠居屋敷
街の外れは人影が薄く、霊耀が示した山裾には前県令の隠居屋敷が佇んでいた。白介山は近づくほど起伏と濃緑を増し、外来者を拒む幽遠さを帯びて見えた。蘇訛里は中腹の花抱村と廟の所在を簡潔に説明し、案内役を務めた。

幽鬼・黄舟の出現と証言
月季は烏衣に導かれるように現れた幽鬼の若い男と対面した。名は黄舟で、博打と負債にまみれた末に暗がりで刺殺されたと語った。黄舟は自らの亡骸が洞窟のような場所で黒い化け物に食われていたと述懐し、死体が残らぬ事情が示唆されたのである。

花抱村の静寂と紫釵花
一行は山道を進み、花抱村の質素な門をくぐった。村は岩壁に囲まれ、一面に紫釵花が群生していたが、人の気配はなく家屋は荒廃していた。景観の美と無人の寂が対照を成し、異様な静けさが漂っていた。

正体不明の廟と監視の気配
紫釵花に半ば覆われた小堂は清掃が行き届き香炉に灰が溜まっていたが、神像も壁画も供物もなく、祀神は不明であった。月季は視線を感じ、蘇訛里は複数の者の気配を察知したため、堂外で霊耀・渓・黄舟と合流して警戒を強めた。

洞窟探索の不調と不穏な寒気
岩壁沿いに洞窟を捜索したが手掛かりは得られなかった。黄舟は場所を示せないまま、ここに化け物の巣穴と同質の冷たい気配を感じて怯えを示した。一行は状況整理のため、村を離れて街へ戻る判断を下した。

帰路の内省と紫の花
道中、月季は黄舟が楽土へ渡れぬ理由が執着でも忘失でも判然としないと見立て、自身の内に巣くう黒い影を思い出して胸に翳を宿した。霊耀は足元を支え、月季は髪飾りを思わせる紫釵花を手折って懐に収め、廟と洞窟と監視の三点を今後の焦点として再確認したのである。

第二章 鬼卜師

役所調査と手分け
蘇訛里は役所へ行き花抱村の記録と移住者を当たると告げ、月季・霊耀・渓は黄舟の手掛かり追跡を続行。

黄舟の記憶の糸口――鬼卜師
黄舟は殺害前に“鬼卜師”の占いを受けていたと想起。鬼卜師は厨子を背負い旅団(鵐帮)と行動、当たりを“導く”占者で、評判の者は“血像”を背負うという不穏な風聞があると渓が補足。黄舟は黒鵐に属する鬼卜師と会ったらしいが、黒鵐は既に風濤を去ったとの街の証言。

茶館の証言と“宝玉”
茶館主は「愛想よく小綺麗で当てる」鬼卜師を何度か見たと語る。これを聞いた黄舟は一気に“宝玉”を思い出す――幼馴染の朱簾から“儲け話”で白い小玉を預かった翌日、朱簾は失踪、自身は刺殺された。

荒らされた住処
黄舟の家(竈の灰に宝玉を隠匿)と朱簾の家は徹底的に物色済み。宝玉は消失。黄舟は朱簾の生死に縋るが、月季は幽鬼召喚での確認を提案(ただし一度きりの切り札)。

蘇訛里の報告――三つの衝撃
①「黄舟を刺した」と自首した男・莫義が出現。ただし動機は賭場の小競り合いで、遺体も出ておらず不自然。
② 莫義は花抱村出身。
③ 記録上、花抱村は二十年前に流行病で壊滅。生存は壮年男性ばかり八名で、のち全員が風濤へ移住。廟の記録は皆無で、村全体=同族の祖廟だった可能性を示唆。
また、蘇訛里は哈彈族ゆえの偏見に直面しつつ、戸籍・簿冊を的確に精査。月季は不用意な発言を詫び、彼の静かな痛みを知る。

夜の合図――“星を追え”
夜、月季の窓辺に花会の紙と紺青の石が投げ込まれる。朱墨で『星』『追』に丸、「黒鵐 鬼卜師 清秋」と記名。月季は夜着のまま霊耀に相談し、「(素直に読めば)星を追え」という曖昧な伝言と解釈。鬼卜師が黒鵐から離れて単独で接触してきたのか、あるいは誘導か――意図は不明だが、手掛かりは“星”。月季は押し花にした紫釵花を傍らに、翌日の莫義への聴取と“星”の探索を次の一手に据える。

獄での面会と“作られた犯人”
月季・霊耀・渓・蘇訛里は獄で自首した莫義に面会。月季が花抱村の廟や白い宝玉、朱簾を畳みかけると、莫義は動揺しつつも「知らねえ」「俺が刺した」で押し通す。黄舟の証言(夜の出会い頭で顔は見ていない)と食い違い、さらに「余計なことに首を突っ込むな」と牽制。月季は“背後の意志が用意した下手人”と判断する。

花抱村の線が一気に濃くなる
蘇訛里の調べで、花抱村は二十年前の流行病で壊滅、生存は壮年男ばかり八名、のち全員が風濤へ移住。廟の記録は皆無だが、姓「莫」が多く“祖廟”の可能性。加えて莫義も花抱の出で、黄舟の殺しと村・廟・生存者の線がつながり始める。

胴元“錦欄”と花会の影
黄舟の情報から、莫義は花会の胴元“錦欄”の手下。朱簾・黄舟は無所属のごろつき。同郷の横つながりも強く、花抱出身者同士の別組織も示唆される。月季は鬼卜師から届いた花会の紙を踏まえ、賭場—胴元—廟の三角を要注意と見る。

県庁前の横槍と“元県令”
県令の使者が月季一行を引き留めるが、李衡(元県令)が介入して退ける。李衡は馬車内で、風濤が胴元に牛耳られ行政が黙認する現状、花抱村の流言(祟り)と廃村経緯を説明。廟の祀神は不明のまま、街の“古老”も既に散逸。李衡は屋敷での情報提供を申し出る。

黄舟の胸の底――朱簾との歳月
黄舟は繁華街をさまよい、幼少の物乞いから二人で風濤へ逃れた過去、運搬夫としてのささやかな生活、そして朱簾が持ち込んだ“儲け話”と白い宝玉を回想する——その直後に朱簾は失踪、黄舟は刺殺へ。宝玉・朱簾・鬼卜師・花抱の線が一点でうごめく。

第三章 朋友

黄舟の潜入と莫一族の動向
黄舟は錦欄の屋敷裏手の庭に立ち、周囲を警戒する莫一族の男たちを目にした。彼らは錦欄を「莫の兄貴」と呼び、花抱村の再興を願って従っていた。屋敷内を進んだ黄舟は、紫釵花や白い宝玉の欠片を見つけ、さらに拷問を受け死亡した朱簾の亡骸を発見した。

蘇訛里の偵察と錦欄の正体
黄舟の報告を受け、蘇訛里は単独で錦欄の屋敷に侵入した。二階の物置には紫釵花や白い結晶が散らばり、朱簾の亡骸が放置されていた。錦欄が手下に遺体を「いつもの場所」へ運ぶよう命じていたことから、彼の背後に大規模な組織的行為があると推測された。また手下が錦欄を「莫の兄貴」と呼んでいたため、彼の本名が花抱村出身の莫来であると判断された。

岩塩の正体と私塩密売の発覚
蘇訛里は屋敷で拾った白い結晶を持ち帰り、霊耀がそれを岩塩と見抜いた。錦欄は賭博の収益に加え、岩塩を密売することで莫大な利益を得ていたと判明した。これは国法で禁じられた私塩密売であり、黄舟や朱簾が巻き込まれた原因であると整理された。

幽鬼召喚と朱簾の証言
月季は黄舟の願いを受け入れ、巫術により朱簾の幽鬼を呼び出した。朱簾は錦欄に騙され捕らえられた経緯を語り、岩塩の密売を知ったために拷問の末に殺されたことが明らかとなった。朱簾は鬼卜師から密売の情報を聞き、塩の塊を渡されていたことも判明した。朱簾と黄舟は互いに悔恨と感謝を交わし、月季の導きによって楽土へと渡った。

今後の方針と白介山の影
錦欄が遺体を「いつもの場所」へ運ばせていたことから、蘇訛里は黄舟の亡骸も同様に処理されたと推測した。追跡の結果、錦欄の馬車は白介山方面へ向かったと判明し、翌朝には山に入る決意が固められた。月季は押し花にした紫釵花を眺め、鬼卜師が残した「星を追え」という言葉を思い返し、次の調査の焦点を山へと定めたのである。

第四章 星を抱く

錦欄の独白と密売の背景
錦欄は夜半に酒を酌みながら、私塩密売の露見を恐れていた。朱簾の死により一時の懸念は消えたが、秘密が漏れた経路を掴めず苛立っていた。花抱村再興のために密売で金を得た経緯を思い返し、村を失った過去の惨禍と再興の理想を胸に刻んでいた。彼にとって密売と犠牲は村のために必要な手段であった。

村の探索と岩壁の発見
月季たちは「星を追え」という言葉を手掛かりに、紫釵花に覆われた岩壁を調べた。花の裏に風を感じ、仕掛けを見抜いて岩の扉を開いた。中には洞窟があり、階段を下ると岩塩の結晶が広がる採掘坑が現れた。

廟と血像の存在
洞窟奥には神像群が並び、香草と黒紅の液体を湛えた杯が供えられていた。周囲には白茶けた骨片や肉片が散らばり、死臭が漂っていた。月季はこれを血を供えて魔力を得る血像と断じ、黄舟や朱簾の亡骸もここに運ばれたと推測した。

錦欄の告白
錦欄が現れ、洞窟は祖廟であり、岩塩は生贄と引き換えに湧くと語った。かつて村は行商人を生贄とし、岩塩を得ていたと明かした。廃村後、錦欄は密売の利益を拡大させるため骸を捧げ続け、岩塩を得ていた。彼は「村のため」と主張したが、その実態は欲望に基づくものであった。

化け物の顕現と祓い
死臭とともに闇の塊が現れ、錦欄に襲いかかって頭部を喰らった。月季は黒羽を舞わせて祓い、剣で切り裂いた。化け物は消えたが、月季は手応えに違和感を覚えた。

崩落と脱出
直後に坑道が崩落を始め、蘇訛里の先導で月季たちは脱出した。錦欄と手下は坑内に埋没した。山裾では李衡が駆けつけ、役所への報せと屋敷での手当を申し出た。蘇訛里は李衡が洞窟の場所を知っていた点を疑い、私塩密売への関与を示唆した。

残された疑念
月季は化け物を祓った際の違和感を拭えず、霊耀も懸念を抱いたが、蘇訛里は切り上げを主張した。その後、烏衣が戻り、紫釵花の花弁を落とした。月季はかつての出来事を思い出し、考えを巡らせた。

烏衣の示唆と私室の探索
月季は烏衣が運んだ紫釵花の花弁から手掛かりを得て、霊耀とともに李衡の私室を調べた。調度や帳面に不審はなく、隣室の寝室へ移ったである。

寝室床下の隠し口と地下室
床石に挟まった花弁を手掛かりに石板を外し、梯子の先に地下空間を発見した。内部には多数の甕が並び、緡縄銭が詰まった甕が確認されたである。

奥部の小室と血の供物を伴う神像
地下室の奥には通路で繋がる小室があり、岩塩製の女神像と香草、血と思しき液体を満たした杯が供えられていた。洞窟の廟から持ち出された像と見なされる状況であったである。

李衡の出現と関与の自白
李衡は屋敷外へ通じる抜け道の存在を明かしつつ、錦欄に協力して私塩密売の便宜を図り、県令らを抱き込んだ事実を認めた。花抱村再興を名目とする蓄財と、像への執着が語られたである。

穢れの再顕と祓除、神像の破砕
像の背後に闇の穢れが再び現れ、月季は黒羽で縛して剣で断ち切った。李衡は失神し、抱えていた岩塩像は粉砕された。地下での対処後、月季と霊耀は地上へ戻ったである。

役所連絡の段取りと離脱方針
渓と蘇訛里に事情を共有し、李衡の救助を使用人へ伝える手配を行った。蘇訛里は県令への先手対応を引き受け、一行は煩瑣を避けて速やかな出立を決めたである。

旅館での支度と釵の受領
旅館に戻った月季は春草の手当と着替えを受け、出立準備を進めた。霊耀は紫玉を飾る釵を差し出し、春草の助言により月季の髪に挿された。寒翠は伝達役として動き、一行は蘇訛里の帰着次第で合流できる態勢を整えたである。

船上での会話と霊耀の思索
霊耀は船上から遠ざかる風濤の街を眺め、その未来に寒々しさを覚えた。渓は角黍を食べながら霊耀に「許婚を女として扱え」と諭し、霊耀は月季を巫術師としてしか見てこなかったことに気づいた。月季の才を強く信じ、憧憬と嫉妬を抱いてきたため、信頼は当然と考えていたが、その姿に新たな面影を感じ取っていた。

蘇訛里の報告と省察
蘇訛里は冬官府へ星鳥で第一報を送り、私塩密売と県政の腐敗を報告した。花抱村の廟は祖廟にすぎず、血像と化け物が特異な点であると整理した。自身の判断では地下の神像を発見できなかったことを省み、月季を侮っていたと認めた。霊耀が月季を信じた判断は正しかったが、その信頼ゆえの危うさをも感じ取っていた。

川港での出来事
一行は川港に到着し、月季は黒衣に戻り霊耀から贈られた釵を懐に収めた。雑踏の中で少年に袖を引かれ、壁画の欠片を押しつけられる。黒と赤の彩色が施された石片に月季は妙な引力を覚えた。そこへ烏衣が戻り、さらに黒嶋が飛び去るのを目にした月季は、胸の奥に説明のつかない黒い影を感じた。

番外編 魔笛

嵐の避難と古宿の逗留
一行は嵐により川港へ避難し、花街外れの古びた宿に分宿した。建物は湿り気が強く、天井に染みが広がる劣悪な環境であった。

旧妓楼の因縁と笛の怪
宿の主人は、この建物がかつて小規模な妓楼であり、養母が太客を度々殺して庭に埋めた末に摘発された経緯を語った。以後は幽鬼こそ出ないが、夜毎に陰鬱な笛の音が響く怪異が続いていた。

幽鬼の顕現と願い
月季の部屋には若い男の幽鬼が立ち、名笛を失って楽土へ行けぬと訴えた。幽鬼は笛を「如蘭」と呼び、この家の内部で自分を呼んでいると示した。

捜索と女将の動揺
月季は主人の私室へ向かい、笛の音色が近づく感覚を手掛かりに探索した。女将は依頼自体を否定しつつも笛の所在を問われて動揺し、やがて居抜き購入時に櫃から見つけ秘匿していた事実を示唆した。

笛「如蘭」の出現
女将が差し出した漆黒の笛は頭金に蘭文を彫った優美な品であり、幽鬼は歓喜して吸い寄せられた。音色はまろやかに太く冴え、幽鬼の言葉とともに響きが増した。

妖魅への転じと一刀
幽鬼は笛へ融合するように変貌し、黒漆と同化する悪鬼となった。月季は守りを崩すべく刃の狙いを転じ、笛の中心を貫いた。地底からの断末魔のような低響ののち、笛は縦に亀裂して粉砕し、悪鬼も炭の粉となって消滅した。

事後と小休
怪異は収束し、主人夫婦は青ざめて言葉を失った。月季は疲労を抱え部屋へ戻り、霊耀の気遣いを受けて温茶と乾果で体を労った。笛の名残の音は完全に消え、音色の記憶さえ朧となった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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