物語の概要
■ 作品概要
本巻は、烏妃・寿雪が『梟』との接触を経て、自らを「烏を閉じ込める器」と定義し、その存在意義に虚しさを抱く場面から始まる。
寿雪は麗娘の遺訓に背き、九九や衣斯哈、温螢ら夜明宮の仲間との繋がりを持つことで、辛うじてその虚しさに呑みこまれずに済んでいる状況にある。
物語は、泊鶴宮の侍女・紀泉女から持ち込まれた「雨夜に現れる幽鬼」の相談、および内廷を彷徨う「老僕の幽鬼」の怪異を軸に展開する。
調査の過程で、古代の神「鼇(ごう)の神」の伝承と、月真教の流れを汲む新興宗教「八真教」の組織的な呪詛が浮き彫りになる。寿雪は怪異の解決を通じて、自身の出自に関わる「杼(ちょ)王朝」の断片に触れ、孤独な砦ではなく、他者と交わることで己を定義し始める。
最終的に、烏漣娘娘(うれんにゃんにゃん)の弱体化と八真教の台頭という「神の代替わり」の予兆が示される。
■ 主要キャラクター
令狐 之季 : 洪濤院の学士。歴州出身の元・地方官(観察副使)。義妹を惨殺した八真教の教主「白雷(はくらい)」に強い憎悪を抱く。落州の伝承に詳しい。
柳 寿雪 : 烏妃。自身の存在を「器」と捉え虚しさを抱くが、夜明宮の仲間との交流に救われている。依頼を通じて他者の人生に関わり、言葉による救済を与える。
夏 高峻 : 皇帝。寿雪を「友」として案じ、物理的・心理的支援を強める。魚泳の自裁による傷を内に秘めている。
衣斯哈 : 夜明宮の少年宦官。故郷の星や海の知識を持ち、寿雪に新たな知見と心の安らぎを与える。
温螢 : 寿雪の護衛宦官。生真面目に職務を遂行する。新参の淡海と反目しつつも、護衛体制の構築に尽力する。
淡海 : 新たに配属された護衛宦官。元・勒房子で情報収集に長ける。寿雪から身を案じられたことに困惑と感銘を受け、彼女を「お人好し」と評する。
紀 泉女 : 泊鶴宮の侍女。八真教の信徒。亡き許婚の幽鬼に悩まされ、寿雪に救いを求める。
晩霞(鶴妃) : 賀州の豪族・沙那賣(さなめ)家の娘。掴みどころのない性格。実家は八真教を庇護しており、後宮内での動向には不明な点が多い。
羽衣 : 宝物庫の番人。その正体は「鼇の神」によって作られた使い部。初代皇帝・欒タの時代から存在し、王朝の変遷を静観してきた特異な存在。
千里 : 冬官。博識。神の信仰には「波(流行)」があるという観点から、烏漣娘娘の弱体化と八真教の台頭を論理的に分析する。
読んだ本のタイトル
後宮の烏 3
著者:白川紺子 氏
イラストレーター:香魚子 氏
出版社:集英社
発売日:2019年8月21日
ISBN:978-4-08-680267-3
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あらすじ・内容
「梟」が残した羽根に、自らの行く末を重ねる寿雪。先代の戒めに反し夜明宮は孤独から遠ざかるも、寿雪自身は虚しさから逃れることが出来ずにいた。烏妃の許には、今宵も訪問者が絶えない。泊鶴宮での怪異は、やがて烏漣娘娘への信仰を脅かす『八真教』へと通じて? 他方、高峻は烏妃を「烏」から解放する一筋の光明を見出し、半信半疑ながらも寿雪と共にあることを決め!?【目次】雨夜の訪い/亀の王/袖を引く手/黄昏宝珠
後宮の烏 3
感想
3巻も、寿雪のもとへ持ち込まれる怪異を解決していくところから始まる。
雨の日だけ現れる幽鬼。
後悔から彷徨い続ける老人。
文官の袖を引き続ける幽鬼の手。
そして鶴妃に送られてきた呪われた腕輪。
最初はそれぞれ別の怪異に見えるのだが、読み進めていくと八真教という存在が浮かび上がってくる。
さらに最後には、八真教に関わっていた白雷が連れている巫女が、イシハの幼馴染だとわかる。
うわ……。
そう来るのかよ。
怪異を一つずつ解決していたはずなのに、いつの間にか寿雪の身近な人間まで大きな流れに巻き込まれ始めている。
雨夜の訪い|雨の日だけ現れる許嫁の幽鬼
最初は、雨の日だけ幽鬼が現れるという女官からの相談である。
その幽鬼の正体は、女官の許嫁だった。
かつて二人は盗賊に襲われた。
その際、彼女を逃がすために許嫁は殿となり、命を落としている。
生き残った女官には、そのことへの後悔が残っていた。
自分を逃がすために彼は死んだ。
そんな相手が幽鬼となって雨の日に現れる。
これだけなら、死んだ許嫁と残された女性の悲しい話で終わりそうだった。
ところが『後宮の烏』は、そう簡単には終わらない。
許嫁の幽鬼は自然にそこへ現れていたわけではなかった。
息子を亡くした家族の怨念を霊符へと転換し、その力で幽鬼を縛って使役する。
そんな悪趣味な罠が仕掛けられていたのである。
死者にも未練がある。
残された人間にも後悔がある。
そこへさらに別の人間の怨念まで利用する。
相変わらず、この作品の呪術は人間の感情の嫌なところを容赦なく使ってくる。
ただ怖い幽鬼が出てくるのではない。
その後ろに、生きている人間の執着がある。
そこが『後宮の烏』の怪異の怖さなのだと感じる。
亀の王|新しい護衛・淡海がやって来た
寿雪には新しい護衛も加わった。
名前は淡海。
弓の名手である。
近距離での戦いを得意とする温蛍と、遠距離から援護できる淡海。
戦力として考えれば、かなり相性がよさそうである。
ただし、人間としての相性はあまりよくないらしい。
寿雪の周囲、本当に人が増えたな……。
1巻の頃の、人を寄せ付けようとしなかった寿雪から考えるとかなりの変化である。
そんな淡海が持ってきたのが、幽鬼の噂だった。
宦官ではない老人の使用人が、幽鬼となって彷徨っているという。
老人には、病に苦しむ主人の令嬢を助けられなかった後悔があった。
彼は令嬢を救うため、万能薬を求めた。
どうしても助けたい。
その思いから懇願して手に入れた薬だった。
しかし、その薬はあまりにも強かった。
病によって弱っていた令嬢の身体は耐えられず、亡くなってしまう。
助けたかったのに、自分が持ち帰った薬によって死なせてしまった。
その後悔が老人を幽鬼として彷徨わせていたのである。
これも辛い。
善意でやったことが最悪の結果につながってしまう。
本人に悪意がなかったからこそ、その後悔から逃れられない。
寿雪はそんな老人の幽鬼を祓う。
そして最後に明らかになる「亀の王」の正体。
亀の王は神だった。
怪異だけでなく神の存在まで絡んでくることで、寿雪を取り巻く世界が少しずつ広がっているように感じた。
袖を引く手|怖い話かと思ったら、心配していただけだった
次に現れるのは、高峻の側に控える新しい文官である。
彼の袖を、幽鬼の手が常に掴んでいる。
手だけ。
いや、普通に怖い。
しかし、その正体を知ると印象が変わる。
その手は、亡くなった義妹のものだった。
義妹は嫁ぎ先の家族が八真教にのめり込んだことで命を落としていた。
当然、文官は八真教を恨んでいる。
ところが義妹は、その恨みに囚われ続ける彼を心配していた。
だから幽鬼となった後も、彼の袖を引いている。
「もうやめて」
そんな思いだったのだろうか。
死者が生者を恨んでいるのではない。
死んだ義妹が、復讐心に囚われた生者を心配している。
この逆転が印象に残った。
しかし、彼は八真教への恨みを捨てられないという。
それも仕方がない気がする。
大切な人を失った人間に、恨むなと言うのは簡単ではない。
義妹もそれがわかっているからこそ、袖を引き続けていたのかもしれない。
八真教という存在が急に気になってくる
ここで八真教という存在が出てくる。
新興宗教の八真教。
嫁ぎ先の家族がそこへの信仰にのめり込み、その結果として義妹は亡くなった。
これだけでも十分に不穏である。
しかも3巻では、八真教が単なる一つの事件の背景では終わらない。
後半の事件にもつながってくる。
これまで寿雪が相手にしてきたのは、幽鬼や呪いなどが中心だった。
しかし、その怪異を生み出しているのは人間であることも多い。
3巻では、その「生きている人間」の側がさらに不気味になってきた。
黄昏宝珠|鶴妃、寿雪に懐いてない?
そして鶴妃である。
寿雪と仲が良くなった。
……というより、完全に懐いてない?
人との関わりを避けていた寿雪なのに、巻を追うごとに人が増えていく。
九九。
イシハ。
温蛍。
淡海。
高峻。
そして鶴妃。
本人が望んでいるかどうかは別として、寿雪の周囲がどんどん賑やかになっている。
そんな鶴妃の実家から腕輪が送られてくる。
ところが、それは鶴妃の好みとは違う金の腕輪だった。
そして鶴妃が腕輪を嵌めると、高熱を出して倒れてしまう。
腕輪には呪いが仕込まれていた。
寿雪によって呪いは祓われる。
だが、さらに嫌な事実がわかる。
本来、その呪いを受けるはずだったのは寿雪だった。
鶴妃は巻き込まれただけなのである。
また寿雪が狙われている
2巻では梟が寿雪の中にいる烏を狙ってきた。
そして3巻では呪いまで飛んでくる。
寿雪、狙われすぎでは?
しかも今の寿雪は、1巻の頃とは違う。
周囲には人がいる。
鶴妃が呪いを受けたように、寿雪を狙った攻撃によって別の人間が傷つく可能性まで出てきた。
孤独だった寿雪に人が集まってくるのは嬉しい。
しかし、人とのつながりが増えれば増えるほど、寿雪にとって守らなければならないものも増えていく。
2巻で感じた「これ無理ゲーじゃね?」という状況が、さらに悪化している気がする。
そして八真教へつながる
鶴妃に呪いを送った事件では、主犯とされた鶴妃の叔父が処刑される。
さらに呪いを仕掛けた白雷へと話がつながっていく。
八真教は解体され、白雷は島へ流されることになる。
これで八真教の話も一段落なのか。
そう思った。
だが、終わらない。
白雷は巫女を連れている。
そして、その巫女の正体が明らかになる。
イシハの幼馴染。
……え?
うわ……。
そう来るのかよ。
イシハがここでつながってくるとは思わなかった
イシハは2巻から寿雪のもとへ来た少年である。
折檻を受けていたところを温蛍に助けられ、その後は寿雪の身近な存在になった。
そのイシハの過去が、ここで八真教につながってくる。
これは予想していなかった。
八真教は高峻の文官の義妹を死なせた原因でもある。
寿雪を狙った呪いにも関係している。
そして今度はイシハの幼馴染まで出てくる。
それまで別々に見えていた話が、少しずつ一本につながり始めた感じがする。
寿雪の周囲に人が増えているだけではない。
その人たちが抱えている過去まで、寿雪の物語へ入り込んできている。
まとめ|寿雪の周りに人が増えるほど、厄介事まで増えていく
『後宮の烏』3巻で印象に残ったのは、幽鬼の未練そのものより、その背後にいる生者の感情だった。
許嫁を失った後悔。
主人を救えなかった老人の後悔。
八真教によって義妹を失った文官の恨み。
寿雪を狙って送られた呪い。
幽鬼は怖い。
呪いも怖い。
しかし結局、それらを生み出している人間の執着や恨みのほうが怖いのではないかと思えてくる。
一方で、寿雪自身も変わっている。
孤独だった寿雪の周囲には、いつの間にか多くの人が集まっている。
九九やイシハだけではない。
護衛も増え、鶴妃にも懐かれ、高峻は相変わらず寿雪のところへやって来る。
1巻の寿雪から考えると、ずいぶん賑やかになった。
ただ、その人たちとのつながりが増えたことで、事件も寿雪個人だけでは終わらなくなっている。
そして最後に明かされた、白雷が連れている巫女とイシハの関係。
八真教は解体された。
白雷も流される。
それなのに、まったく終わった感じがしない。
むしろ嫌な形で次につながってしまった。
イシハの幼馴染が、なぜ白雷と一緒にいるのか。
彼女は何者なのか。
そして寿雪たちは再び八真教と関わることになるのか。
うわ……。
そう来るのかよ。
これは4巻を読むしかない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
ストーリー・プロット
第1幕:雨夜の幽鬼と泉女の訴え
泊鶴宮の侍女・泉女が寿雪を訪ねる。雨の夜、自室の前に立つ正体不明の幽鬼に怯えているという。泉女は八真教の信者であり、白珊瑚の佩き飾りを握りしめて不安を抑えていた。寿雪は、幽鬼が後宮に居着いたものではなく、泉女の故郷からついてきたものであると看破。調査のため、牡丹の花を煙に変える術を用いて泊鶴宮へと向かう。
第2幕:許婚の正体と呪詛の痕跡
寿雪は術により、幽鬼の正体が泉女の亡き許婚・巴秀(はしゅう)であることを特定する。巴秀は泉女を逃がそうとして殺害された過去を持つが、その幽鬼は八真教の巫術師が作成した呪符により、強制的に「使い部」として使役されていた。呪符を贈ったのは、息子を失った「巴秀の両親」であり、その行き場のない憎しみが呪詛の源泉であった。寿雪は呪符を燃やし、術の気配(熱)を放って呪詛を返す。解放された巴秀の幽鬼は、消滅の間際に恨みの言葉を遺すが、寿雪は泉女に対し、巴秀の「生かそうとした行動」という事実を肯定するよう言葉をかけ、救済を試みる。
第3幕:内廷を彷徨う老僕と石鼇合子
高峻より、内廷に「老僕の幽鬼」が現れるとの情報を得る。その幽鬼は古い召し使いの姿で、小さな器を捧げ持って彷徨っているという。寿雪と高峻は夜間の内廷で、よろよろと歩く老僕の幽鬼を目撃。彼が持っている器が、皇帝の宝物庫に収蔵されている「石鼇合子(せきごうごうし)」であることを特定する。
第4幕:宝物庫の番人と古代の神話
真相を探るため、二人は宝物庫の番人・羽衣を訪ねる。羽衣は、石鼇合子が千八百年前の「杼(ちょ)王朝」の遺物であり、かつては「鼇の神(大海亀の神)」の爪を削った延命の薬が入っていたことを語る。之季が語る落州の伝承(主人のために得た薬が結果として死を招き、殺害された老僕の話)と符号し、幽鬼が「主人のための偽薬(あるいは強すぎる本物)により主を死なせ、自らも非業の死を遂げた忠義の僕」であると推測する。
第5幕:鰲枝殿の怪異と決着
羽衣の助言に従い、寿雪と高峻は神の力が宿る「鰲枝殿」へ向かう。床には神の甲羅を用いた花模様が象嵌されていた。寿雪が花模様に触れ、老僕の救済を祈ると、床は銀色の水面へと変貌し、強力な力で寿雪を引き込もうとする。高峻の支えと、寿雪が放つ強烈な「術の気配(熱い念)」により引き込みを断ち切り、石鼇合子は粉砕される。拠り所を失った老僕は消滅。羽衣も「鼇の神の使い部」としての役割を終え、寿雪を「杼(ちょ)の姫さま」と呼び遺して水の中へと去る。
第6幕:袖を引く手と学士の憎悪
高峻の仲介で学士・之季と面会した寿雪は、彼の袖を引く義妹・小明の幽鬼を見る。之季は、月真教の残党が教主を務める「八真教」への激しい復讐心を抱いていた。寿雪は、之季の憎しみが小明をこの世に縛り付けていると説くが、之季は教主・白雷への憎悪を捨てることを拒む。この接触を通じ、八真教の背後に沙那賣家の意図的な介入があることが示唆される。
第7幕:八真教の影と神の代替わり
冬官・千里は、信仰には「波(流行)」があるとし、現在、烏漣娘娘(冬の王)の力が弱まり、古代の「鼇の神」への回帰(八真教の台頭)が起こっているという仮説を提示する。教主・白雷は石の仮面を被った巫術師であり、寿雪による呪詛返しを受けて負傷した事実が判明する。寿雪は自らの周囲にある仲間という「砦」の存在を認め、孤独を肯定するのではなく、繋がりの中に生きる決意を固める。
主要な転換点
- 転換点名:新護衛・淡海の着任と意識の乖離
- それ以前の状況 : 烏妃としての秘匿性が優先され、物理的な護衛は温螢一人に限られていた。
- 出来事 : 高峻が情報収集に長けた淡海を配属。寿雪が淡海の身を案じ、「危ない真似をするな」と忠告する。
- 変化 : 淡海は、自分の身を案じられた経験のなさに困惑・感銘を受け、寿雪を「お人好し」と評価。寿雪自身も、仲間を守るという意識を強める。
- 次への影響 : 外部勢力(沙那賣家、八真教)の情報が迅速に入手される体制が整う。
- 転換点名:八真教による「組織的な呪詛」の露呈
- それ以前の状況 : 幽鬼の怪異は、個人の怨恨に基づく自然発生的なものと考えられていた。
- 出来事 : 泉女への呪符が八真教の巫術師(白雷)による一流の呪詛であり、組織的に他者の感情を利用している事実を解明。
- 変化 : 怪異が単なる霊現象ではなく、現王朝を揺るがしかねない宗教勢力の意図的な攻撃であることが判明する。
- 次への影響 : 烏漣娘娘と鼇の神の対立構造が、政治・宗教の対立として具体化する。
- 転換点名:羽衣の消滅と「杼王朝」の示唆
- それ以前の状況 : 羽衣は後宮の変わらぬ一部であり、その出自は不明のまま受容されていた。
- 出来事 : 鰲枝殿での事件を経て羽衣が消滅。去り際に寿雪を「杼(ちょ)の姫さま」と呼ぶ。
- 変化 : 烏漣娘娘以前の神(鼇の神)の力が後宮内に及んでいることが実証され、寿雪の出自が前王朝(杼王朝)に繋がることが示唆される。
- 次への影響 : 寿雪の出自に関する謎が、神話的背景と結びついて深化する。
主人公を中心とした人物関係の変化
- 寿雪 ⇔ 高峻 : 互いに家族や「師(麗娘、魚泳)」を失った孤独を抱えていることを確認し合い、王と妃ではなく、傷を認め合う「友」としての信頼を深化させる。
- 寿雪 ⇔ 泉女 : 呪詛の解決を通じて、寿雪が残酷な事実(巴秀の両親の憎しみ)を伝えつつも、「生かされた事実」を肯定する言葉を与えることで、精神的支柱となる。
- 寿雪 ⇔ 温螢・淡海 : 二人を単なる道具や隠れ蓑ではなく、自分のために尽くす「仲間」として慈しみ、その身を案じるようになる。彼らを自らの孤独を埋める「砦」として受け入れ始める。
主人公の認識と周囲の評価
- 寿雪自身の認識 : 「自分は烏を閉じ込める器であり、人を近づければ不幸にする。孤独であるべき運命」という自己否定。
- 周囲からの評価 : 九九や泉女、花娘らは、寿雪を「外見は冷淡だが、本質は慈悲深く頼りになる高潔な妃」として認識。夜明宮には些細な悩み(肩こりや縁談等)の相談者が増加している。
- 認識の差が現れた場面 : 淡海に対し「危ない真似をするな」と注意した際、淡海から「自分の身を案じられたのは初めてだ」という困惑と感銘を持って「お人好し」と評される。
クライマックス:鰲枝殿の事件
- 発生原因 : 内廷の老僕の幽鬼を救済するため、羽衣から「鰲枝殿にある神の力を借りる」という助言を得る。
- 当初の状況 : 古代の海亀(鼇の神)の甲羅が象嵌された鰲枝殿へ、寿雪、高峻、衛青、温螢が入る。
- 登場人物の行動 : 寿雪が床の花模様(神の力の残滓)に触れ、老僕の救済を祈願する。
- 予定外の出来事・危機 : 床が突如として銀色の水面と化し、強大な吸引力で寿雪を深淵へと引き込もうとする。
- 対応と決着 : 高峻が寿雪の体を抱きかかえて支え、寿雪が内なる「術の気配(熱い念)」を放って引き込む力を断ち切る。その衝撃で石鼇合子が砕ける。
- 直後の結果 : 老僕は消滅し、羽衣も自身が鼇の神の使い部であったことを告げて水の中へ去る。後宮は宝物庫の番人を失う。
巻末時点の状況
- 寿雪の立場 : 表面上は烏妃だが、周囲の人間を「守るべき砦」として受け入れる心境の変化が生じている。また、自身が「杼の姫」と呼ばれたことに疑問を抱く。
- 未解決の問題 : 烏漣娘娘の弱体化、八真教教主「白雷」の動向、沙那賣家の真意、之季の復讐心の行方。
- 今後につながる要素 : 衛青が拘束した封一行(ほういっこう)の証言。彼が潜伏していた妓楼の鴇母から、寿雪の母・鶲玉(こうぎょく)を知る証言が得られ、衛青と寿雪が同一の父親を持つ(血縁関係にある)可能性が浮上する。
幽鬼の相談
物語において夜明宮へ持ち込まれる幽鬼の相談は、宮中で生じる怪異事件の発端となると同時に、主人公である柳寿雪の心情の移ろいや人間関係の広がりを描く要の役割を果たす。現世に留まる死者の魂と向き合う儀礼の決まり事や、具体的な相談事例、ならびに主人公の内面に及ぼす影響を整理する。
幽鬼の相談における基本構造と原則
後宮の奥深くに建つ夜明宮には、不老不死の女仙や幽鬼と噂される烏妃の柳寿雪が暮らす。人目を忍び、失せ物探しや招魂、祈祷、死者の魂にまつわる相談が日々持ち込まれる。
- 訪問の様式
- 依頼人は深夜に足を運び、特定の口上を述べて夜明宮の門をくぐる。
- 摂理の遵守と救済の限界
- 正当な対価を伴わない依頼や、命の理に反する死者の蘇生は明確に拒絶する。執り行う術は、一時的に魂を呼び寄せる招魂や、現世への心残りを解きほぐして海の彼方の楽土へ送り届ける鎮魂に限定する。
主な相談者と解決の顛末
- 皇帝による翡翠の耳飾りの探索
- 拾得した装身具に宿る宮女の魂の素性と救済を求める依頼。過去の宮廷闘争による冤罪が露見し、許婚との対面を経て無念を解消した魂が昇天を果たす。死者を悼む皇帝の慈悲深さが、主人公と確固たる盟約を結ぶ契機となる。
- 見習い宦官による同族の魂の相談
- 宮殿の庭に現れる同じ部族出身の少年宦官に関する依頼。魂の未練が愛慕ではなく誤って鳥の命を奪った罪悪感に起因すると突き止め、幻の鳥への謝罪を通じて安寧へと導く。
- 侍女による雨夜の足音の相談
- 雨の夜に居室の前へ佇む許婚の姿に関する依頼。死者の魂が悪意ある宗教勢力の呪詛の道具として操られていた事実を暴き、術を跳ね返して魂を解放する。
- 学士による衣服を引く手の相談
- 急逝した義理の妹の魂が袖を引く現象に関する依頼。現世に留まる背景には遺された兄の激しい復讐心への憂慮が存在し、生者側が憎悪を手放さない限り魂の未練が解けない実態を告げる。
- 死者自身による訪問
- 病没した宮女が主人の声を求めて自ら訪れる事例では、自身の罪悪感が生み出した妄執の正体を暴く。また、前王朝の呪術師が自刃した皇女の魂を救うべく助力を乞うなど、死者自らが赴く特異な事例も生じる。
幽鬼との対話がもたらす主人公の内面的変容
先代からは他者に情をかけず孤高を保つよう厳しく戒められて育つ。しかし、彷徨う魂を脅威ではなく深い悲哀を帯びた存在として受け止め、その苦痛を見過ごせない性質を持つ。
人との交わりを禁じられた冷厳な運命の只中において、生者や死者からの切実な声に応じ続ける営みは、他者との細やかな絆を紡ぎ、自らの存在意義を見出す温かな契機へと結実していく。
まとめ
幽鬼の相談という窓口を通じて描かれる出来事は、怨嗟や未練の解消にとどまらず、生者と死者の双方が抱える痛みの救済へと繋がる。掟に縛られていた少女が他者の哀切に触れ、少しずつ他者との繋がりを受け入れていく軌跡は、冷え切った宮廷の闇を照らす確かな光となる。
八真教の呪詛
物語の中盤において最大の怪異として立ちはだかる八真教の呪詛は、主人公の柳寿雪や周囲の人々を脅かす重大な事件の背景を形づくる。神の名を騙りながら人々の怨嗟を利用して猛威を振るった新興宗教の正体や、呪詛の構造、そして作中で起きた具体的な事件と破滅の顛末を以下に整理する。
八真教と教主・白雷の正体
・派生元と勢力圏
かつて前王朝の巫術師が利用した月真教から枝分かれした新興宗教に位置づけられる。鶴妃の実家である沙那賣家が支配する賀州を中心に、急速な勢力拡大を遂げた。
・信仰の対象
白妙子の名で祀られる神の実体は、古代に広く信仰された大海亀の神に相当する。
・教主の手腕
教主を務める白雷は、神の名のもとに信者を集める強力な巫術師であり、神宝の力を借りて高度な呪術を行使した。
八真教の呪詛における構造と特性
・教義の隠蔽
信者の抱える憎悪や悔恨を神が肩代わりするという教義を隠れ蓑にして呪詛を運用した。
・感情の変換と呪具の配置
託された恨みを取り除くのではなく、まじないの文字を記した呪符や呪具へと変換し、標的の身近に配置させることで効果を発動させた。
・死者の魂の利用
不条理に命を落とした死者の魂を縛りつけ、標的を威嚇するための道具として利用する残忍な特徴を帯びた。
作中で発生した主な呪詛事件
・泊鶴宮の侍女に迫る怪異
雨の夜になると居室の前に血まみれの許婚の姿が現れ、侍女の精神を追い詰める事態が生じた。真相は、無病息災のお札として渡された包みそのものが白雷の記した呪具であり、許婚の魂が意思に反して操られていたことによる。寿雪が術をもって呪符を焼き払い、返り呪いとして送り返したことで魂は解放され、白雷は遠方で仮面を破壊されて負傷を負った。
・烏妃を標的とした蝦蟇の呪法
沙那賣家から届いた荷物に含まれる金の腕輪を身につけた途端、鶴妃が高熱を発して倒れる異変が生じた。この装身具は、白雷が神宝の力を用いて寿雪を呪殺するために仕立てた呪具であった。寿雪を気遣い、本来渡されるはずだった腕輪を自ら身につけた鶴妃が身代わりとなって被害を受けた。神の力が宿る蟆石が組み込まれていたため通常の術では対応できなかったが、寿雪が星烏の羽を剣へと変化させて蟆石を一刀両断し、呪詛を完全に打ち砕いた。
呪詛の結末と勢力の瓦解
・神宝の消滅と術者の負傷
呪詛が破られた反動を受け、白雷が保持していた神宝は粉々に砕け散り、術者自身も左目を激しく負傷した。
・首謀者の処断
独断で他家に接近を図り、烏妃の呪殺まで画策した沙那賣家の長老は、現当主の一刀によって処刑された。
・教団の崩壊
白雷は孤島へと追放処分となり、後ろ盾を失った八真教は完全に瓦解した。
まとめ
他者への憎悪や執着を呪詛として行使する行為は、一時的に勢力を誇ったものの、道理に背いた術の代償として破滅を迎えた。割り切れない感情に必要なものは呪詛ではなく祈りであるとする寿雪の信念が、悪意の連鎖を断ち切り、後宮の平穏を取り戻す契機となった。
烏妃と帝
後宮の奥深くに座す烏妃・柳寿雪と若き皇帝・夏高峻の関係性は、物語全体を牽引する中核として描かれる。歴史から抹消された神話的な宿命を背負う二人が、互いの深い傷と孤独を分かち合い、対等な友として絆を深めていく過程を以下に整理する。
出会いと関係の始まり
・異例の訪問と点心
夜明宮に隠れ住む寿雪は、皇帝の夜伽を行わず、不老不死の女仙や幽鬼と噂される特別な存在として扱われる。高峻は拾い上げた翡翠の耳飾りに憑く幽鬼の正体を解明するため、自ら夜明宮へと足を運ぶ。
・不憫さを慈しむ心
寿雪は当初厄介事を嫌って拒絶の姿勢を示すが、高峻が持参した好物の包子や、無念の死を遂げた幽鬼を救いたいと願う真摯な情に触れ、探索の依頼を引き受ける運びとなる。
共有される過去の傷と孤独
・寿雪の銀髪と罪悪感
寿雪本来の髪色は、現王朝によって粛清された前王朝皇族の証となる銀色を呈する。幼少期に母が目の前で処刑された際、恐怖から隠れ続けた寿雪は、母を見捨てて生き延びた後悔を自らへの罰として長年背負い続ける。
・高峻の喪失感と悔恨
高峻もまた、幼少期に生母や側近の宦官を宮廷闘争の陰謀で毒殺され、無力なまま見殺しにしてしまった痛恨と悲しみを胸底に抱え込む。
・重大な秘密の共有
ある夜、高峻は寿雪の本来の銀髪を目撃するが、反逆者の血筋として断罪せず、見なかったと告げて秘密を堅守する。心に深い欠落を抱える者同士として、両者の間に確固たる信頼が芽生える。
二人の王による誓約
・消された歴史の顕現
夜明宮に秘匿された歴史書により、かつて国が政を司る夏の王と神託を司る冬の王によって統治されていた事実が判明する。初代皇帝が冬の王を後宮に囲い込んで烏妃と名付けたことで、歴代の烏妃は王の名を奪われ、幽閉を強いられてきた経緯が露わとなる。
・捕殺令の廃止と四つの誓約
真相を知った高峻は、形骸化していた前王朝皇族の捕殺令を公式に破棄する。寿雪の前で跪き、以下の誓約を取り交わす。
・寿雪の命を何があっても奪わない
・双方は決して争わない
・二人きりの場では対等な冬の王として遇する
・寿雪の良き友となる
・誓約の証
高峻は盟約の証として宮廷工房で作らせた薄紅の硝子細工を贈り、後に自ら削り上げた木彫りの魚の飾りを手渡す。寿雪はその気遣いを重んじ、肌身離さず身につけるようになる。
孤独の掟を超えるぬくもりと相互の救済
・戒めの変化
先代や祭祀を司る官吏から他者と情を通わせず孤独を守るよう厳命されていた寿雪だが、高峻が届ける菓子や手作りの木彫り、真摯な対話に触れる中で、頑なに閉ざしていた心情を解きほぐしていく。
・互いを救う存在への昇華
高峻は寿雪を過酷な神の呪縛から解放して自由にする道を模索し、寿雪もまた皇帝が背負う重責や孤立を深く案じ、祈りや行動を通じて支えようと試みる。
まとめ
夜の宮殿に幽囚されていた冬の王と、過酷な朝廷で心を冷え切らせていた夏の王は、互いに温もりを交わすことで過去の痛恨を乗り越えていく。歴史の闇に葬られた二つの王権が対等な友として手を取り合う軌跡は、過酷な運命を打ち砕き、新たな未来を切り拓く確かな光明へと結実していく。
沙那賣の因縁
後宮の烏第3巻を中心に描かれる沙那賣の因縁は、賀州を統治する豪族・沙那賣家に代々引き継がれる神殺しの祟りと、その過酷な宿命に翻弄された人々の罪と悲哀を描き出す。一族の忌まわしい過去、身代わりを強いられた少女たちの犠牲、そして呪詛の打破を通じて結ばれる友情の軌跡を整理する。
沙那賣家の出自と神殺しの過去
・異国からの渡来
沙那賣家は賀州において強大な権勢を誇る豪族だが、本来は海の彼方に位置する異国・卡卡密から移住した一族に端を発する。本名を外部に明かさず、親が子の実名を絶対的に支配する独特の掟を固持する。
・神の謀殺と神宝の強奪
かつて卡卡密の地にいた先祖は、天候を自在に操る神宝・黄昏宝珠を独占する目的で、巨大な蝦蟇の姿をとる土地の神・白妙子に末娘を嫁がせると偽って交渉を持ちかけた。洞窟へ入った神を従者に襲撃させて刺殺し、その体内を切り裂いて神宝を強奪した。
・末娘を襲う祟り
神を欺いて命を奪った罪業により、沙那賣家には当主の末娘が15歳を迎えると原因不明の高熱を発して命を落とす過酷な呪詛が科せられた。
身代わりの養女による残酷な犠牲
・破却不能の神宝
黄昏宝珠は投棄や破壊を試みても必ず手元へ戻るため、祟りから逃れる術を失った歴代当主は非情な手段を講じた。
・歪んだ身代わりの慣習
実の末娘が15歳に達する前に貧困層から養女を迎え入れ、形式上の末娘として登録した上で祟りの犠牲に仕立て上げ、実子を生き延びさせる残酷なしきたりを重ね続けた。
鶴妃・晩霞が抱える罪悪感
・養女・小蟬との出会い
現当主・朝陽の娘であり、皇帝・夏高峻の妃として入宮した鶴妃・晩霞もまた、この過酷な連鎖の当事者となった。晩霞が13歳の折、身代わりとして迎えられた小蟬を実の妹のように慈しみ、父へ命の救済を哀願した。
・突きつけられた冷酷な選択
父・朝陽は小蟬の助命を望むならば自らの死を受け入れよと冷徹に通告した。死の恐怖に直面した晩霞は自身の生存を選択し、15歳を迎えた小蟬は高熱を発して落命した。
・抜け殻のような日々
無辜の少女を犠牲にして生き長らえた自責の念から、晩霞は深い喪失感と心の傷を抱え、空虚な葛藤を抱えたまま日々を過ごした。
八真教・白雷との結託と呪殺の企て
・故国復帰への執着
沙那賣家には将来的に卡卡密へ帰還して王権を確立するという悲願があり、その拠り所として黄昏宝珠を手元に保持し続けた。
・長老の暴走と新興勢力
朝陽の叔父にあたる長老は権勢欲に憑りつかれ、新興宗教・八真教を率いる白雷と密約を交わした。白雷は宝珠が帯びる神性を引き出し、高度な呪術を行使した。
・金の腕輪に仕掛けられた呪詛
朝廷の要人への接近を企てる長老と白雷は、活動の障壁となる烏妃・柳寿雪を排除するため、蝦蟇の彫刻と蟆石をあしらった呪具・金の腕輪を寿雪宛てに送付した。
・身代わりの発病と寿雪の介入
異変を察知した晩霞が寿雪を庇う形で腕輪を装着した結果、猛烈な高熱を発して昏睡状態に陥った。事態を把握した寿雪は、星烏の羽を鋭利な剣へと転化させて蟆石を一刀両断し、蝦蟇の呪法を完全に打ち砕いた。その反動を受け、黄昏宝珠は粉々に砕け散り、白雷も左目に重傷を負った。
因縁の終結と新たな友情
・当主による処断と騒乱の鎮圧
不正の発覚と一族の失脚を回避するため、当主・朝陽は独断で画策を進めた長老の首を刎ね、白雷を孤島へ追放処分として事態を収拾した。
・胸中の告白と対等な絆
呪縛から救出された晩霞は、家門に秘匿された暗部と自らの罪責を寿雪へ打ち明ける機会を得て心の安寧を取り戻した。両者は宮廷内の身分を超越して名前で呼び合う確固たる信頼関係を築き上げた。
まとめ
神への背信と幾多の犠牲の上に成り立っていた沙那賣家の因縁は、呪詛の打破と当事者たちの告白を経て清算された。不当な力に縋る妄執は打ち払われ、犠牲となった者への慰霊の念と、互いの痛みを共有した寿雪と晩霞の清廉な友情が、長きにわたる闇を払拭する結果へと結実した。
呪縛からの解放
後宮の烏において呪縛からの解放という主題は、物語の根底を貫く極めて本質的な要素を成す。単なる怪異や呪術の解明にとどまらず、神話的な宿命、過酷な過去のトラウマ、そして生者と死者の執着によって魂を縛られた人々が、他者との温かな絆や祈りを通じて自らを解き放っていく不屈の軌跡を描き出す。
柳寿雪を縛る三重の呪縛と解放
主人公の柳寿雪は、重なり合う三重の呪縛に苦しみ続けてきた背景を持つ。
・神と宿命による呪縛
初代烏妃の香薔と初代皇帝の欒夕の誓約以来、歴代の烏妃は冬の王でありながらその尊称を奪われ、女神である烏漣娘娘を夜明宮の地下に留める番人として幽閉されてきた経緯を辿る。新月の夜には己の体内で暴れる神の力によって激痛に耐えねばならず、先代烏妃の麗娘からは誰も愛さず何も望まず孤独を守るよう厳しく教育を受けてきた。
・血筋と過去の罪悪感による呪縛
寿雪は現王朝によって滅ぼされた前王朝皇族の生き残りであり、その証となる銀髪を持つ。幼少期に母が処刑された際、恐怖から身を隠して生き延びた過去を背負う。母を見捨てたという後悔から、自身が烏妃として理不尽に耐え続ける生活を、母を見捨てた罰として受容してきた。
・夏高峻による解放への導き
皇帝の夏高峻は寿雪の銀髪を目撃しても秘密を守り抜き、前王朝皇族の捕殺令を公式に破棄して彼女の生存を法的に肯定する措置をとる。さらに何があっても命を奪わないこと、決して争わないこと、二人きりの場では対等な冬の王として扱うこと、そして良き友になるという誓約を交わし、彼女に尊厳と温もりをもたらす。
・自己の救済の受容
高峻は寿雪の生命を奪わずに神から解放する道を模索し始める。先代への負い目から救いを拒む寿雪に対し、高峻が静かに語りかけた言葉によって寿雪は涙を流し、孤独の制約を脱して自身が幸せになる権利を受け入れるに至る。
夏高峻を縛る悲劇と孤絶からの解放
皇帝である夏高峻もまた、凄惨な過去と憎悪の呪縛に囚われていた経緯を持つ。
・復讐の達成と空虚感
幼少期に生母や側近の宦官を皇太后の謀略によって惨殺され、自らも廃太子に追いやられた高峻は、皇太后への憎悪と母たちを見殺しにした罪悪感を抱えて生きてきた。法に基づいて皇太后を断罪した後に残されたものは、深い後悔と虚無感であった。
・寿雪による真実の解明と救い
高峻の寝殿の前に現れていた生母たちの幽鬼について、寿雪は死後も皇太后の遺した呪詛から高峻を守り続けていた真実を突き止め、術を用いて呪詛を粉砕する。母たちの深い情愛を知った高峻は救われ、また凄惨な事件に心を痛める高峻に対し寿雪が死者を悼む手紙や祈りを捧げたことで、高峻もまた魂の重荷を下ろす結果となる。
幽鬼たちと生者の執着からの解放
作中で描かれる幽鬼たちは、不条理な死や未練、誤解といった生前の強い心残りによって現世に留まる存在として描かれる。
・反魂の拒絶と救済の儀礼
死者を現世に蘇らせる反魂は道理に反するため寿雪は厳格に拒む一方、幽鬼や遺族の隠された心残りを解き明かし、未練を解くことで魂を海の彼方の楽土へ送り届ける救済を果たす。
・呪詛から祈りへの昇華
人々の憎しみや後悔を呪具に変えて他者へぶつける悪意ある呪法に対し、寿雪はどうしようもない感情に必要なものは呪詛ではなく祈りであるという信念を掲げて対峙し、人々を不毛な呪詛の連鎖から解き放つ。
まとめ
本作における呪縛からの解放とは、神の都合や政治的思惑によって歴史の闇に押し込められた冬の王と夏の王が、互いの傷に寄り添い、手を取り合うことで自らの人生を取り戻す過程を指し示す。誰にも頼らず一人で耐え抜くことのみを求められてきた寿雪が、助けを求める内なる声を高峻に受け止められた瞬間こそ、物語における最も美しく力強い解放の情景を描き出している。
登場キャラクター
夜明宮
柳寿雪
夜明宮に住む16歳の烏妃を務める。帝の夜伽をせず不思議な術で招魂や捜し物を引き受ける。前王朝の皇族の生き残りとして銀色の髪を黒く染めている。
・所属組織、地位や役職
夜明宮・烏妃。冬の王。
・物語内での具体的な行動や成果
衣斯哈の手当てを行い飛燕宮の幽鬼事件を調べた。青燕の幻を現して兪依薩の幽鬼を成仏させる。封宵月が作った泥人形を破壊した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつて家婢として折檻を受けた過去を持つ。夏高峻から木彫りの魚形を贈られた。周囲の人々との交流を深める中で孤独の戒めに葛藤する。
麗娘
先代の烏妃を務めた人物を指す。寿雪を夜明宮で育て上げた。
・所属組織、地位や役職
夜明宮・先代烏妃。
・物語内での具体的な行動や成果
幼い寿雪の髪を黒く染めた。寿雪に読み書きや作法や知識を教え込む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
物語開始の2年前に死去した。生前に薛魚泳から想夫香を贈られて大切に所持していた。
九九
夜明宮で寿雪に仕える侍女を務める。飛燕宮から夜明宮へ配属された経歴を持つ。明るく世話好きな性格を見せる。
・所属組織、地位や役職
夜明宮侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
寿雪の身の回りの世話や着替えを行った。後宮内の噂話や情報を収集して寿雪に伝える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
寿雪から厚い信頼を得ている。反故紙を集めて衣斯哈の習字に協力した。
蘇紅翹
夜明宮で仕える宮女を務める。過去に舌を切られたため言葉を発することができない。
・所属組織、地位や役職
夜明宮宮女。
・物語内での具体的な行動や成果
寿雪に茶を運ぶなど厨の仕事を行った。反故紙に絵を描いて安氏や九九や封宵月の顔を表現する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
洗穢寮から夜明宮に引き取られた。絵が得意な特技を見せる。
星星
夜明宮で飼われている金色の鳥を指す。金鶏と呼ばれる化鳥に該当する。
・所属組織、地位や役職
夜明宮の化鳥。鳥部(哈拉拉)。
・物語内での具体的な行動や成果
夜明宮の部屋で羽をばたつかせて遊ぶ。封宵月との戦闘時に寿雪のもとへ飛来した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
寿雪に尾羽を抜かれて金色の矢へ変化した。封宵月からは哈拉拉と呼ばれる。
桂子
夜明宮で仕える大柄な老婢女を務める。無口で頑健な体つきを持つ。
・所属組織、地位や役職
夜明宮婢女。
・物語内での具体的な行動や成果
湯あみや食事の用意など力仕事を担当した。熟れた無花果を笊に入れて寿雪へ差し出す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
麗娘の時代から夜明宮に仕え続けている。食養生に詳しい知識を持つ。
皇室・凝光殿
夏高峻
霄国の若き皇帝を務める。廃太子の過去を持ち落ち着いた佇まいを見せる。
・所属組織、地位や役職
霄国・皇帝。凝光殿の主。夏の王。
・物語内での具体的な行動や成果
布作面を入手して寿雪のもとへ持ち込んだ。過去の宦官名簿を衛青に調べさせる。封宵月の襲撃から寿雪をかばって腕に負傷した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
手製で木彫りの魚形を作成して寿雪に贈った。薛魚泳の自裁に深い衝撃を受ける。
衛青
夏高峻に忠実な側仕えの宦官を務める。高い武芸を身につけている。
・所属組織、地位や役職
内侍省・衛内常侍。夏高峻の側仕え。
・物語内での具体的な行動や成果
飛燕宮の過去の名簿を引き写して寿雪に渡した。小刀を投げて封宵月の足首に命中させる。夜明宮の周辺で血に染まった徐成の遺体を発見した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつて酷い折檻を受けた過去を持つ。寿雪の影響力が広がる状況を警戒する。
温螢
寿雪の護衛を務める若い宦官を指す。頬に一文字の傷を持つ。
・所属組織、地位や役職
宦官。寿雪の護衛。
・物語内での具体的な行動や成果
鵐帮時代の経験を寿雪に語った。洗穢寮へ向かって安氏の死亡を確認する。鵲巣宮で暴れる泥人形から寿雪を守った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
元は鵐帮の軽業師を務めていた。衛青の配下として間諜活動を行う。
後宮(妃嬪・宮女・宦官)
雲花娘(花娘)
鴛鴦宮に住む二の妃を務める。夏高峻の幼なじみに該当する。
・所属組織、地位や役職
鴛鴦宮・二の妃(鴦妃)。
・物語内での具体的な行動や成果
桃色や青色の華やかな衣装を寿雪に仕立てて贈った。寿雪の訪問を心から歓迎する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
雲宰相の孫娘を務める。かつての恋人である欧玄有を想い続けている。
昌黄英(燕夫人)
飛燕宮に住む妃を務める。幼い雰囲気を残している。
・所属組織、地位や役職
飛燕宮の妃(燕夫人)。
・物語内での具体的な行動や成果
庭の燕子花を見に来た寿雪を受け入れた。小百合の花を高峻経由で寿雪へ贈る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
名家の出身であり奥深くで育った経歴を持つ。大人の男女を怖がる性格を見せる。
琴恵瑤(鵲妃)
鵲巣宮に住む妃を務める。落馬事故で亡くなった兄を深く慕っていた。
・所属組織、地位や役職
鵲巣宮の妃(鵲妃)。
・物語内での具体的な行動や成果
薄絹をかぶって夜明宮を訪れ反魂を懇願した。封宵月に頼んで兄の髪と土から泥人形を作らせる。泥人形に喉を噛みちぎられて死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
中書侍郎の琴孝敬の娘を務める。病と称して部屋に引きこもり血を与え続けた。
衣斯哈
飛燕宮の見習い宦官を務める。哈彈族の出で素直な性格を持つ。
・所属組織、地位や役職
飛燕宮見習い宦官。夜明宮小間使い。
・物語内での具体的な行動や成果
飛燕宮の庭に出る少年宦官の幽鬼を寿雪に相談した。師父から追い出された後に夜明宮へ引き取られる。寿雪から文字の読み書きを教わった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
故郷の漁村の言い伝えを寿雪に語った。温螢や九九から可愛がられる。
康覧
飛燕宮で衣斯哈の指導役を務めていた宦官を指す。
・所属組織、地位や役職
飛燕宮宦官(指導役)。
・物語内での具体的な行動や成果
衣斯哈に激しい杖罰を加えた。寿雪の瞳の中に化け物を見て恐怖する。衣斯哈を追い出した後に病に伏した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去の兪依薩の件を知りつつ隠蔽していた。寿雪の言葉に怯えて体調を崩す。
兪依薩
先帝の時代に飛燕宮に仕えていた哈彈族の少年宦官を指す。
・所属組織、地位や役職
飛燕宮少年宦官(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
当時の燕夫人に青燕の尾羽を献上していた。仕掛けた網で誤って青燕を死なせてしまう。青燕の死骸を妃に見せて自首し処刑された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
鳥殺しの罪で斬首された。死後は悔恨から燕子花の庭に幽鬼として留まった。
史顕
鴛鴦宮で茶挽きを担当する宦官を務める。
・所属組織、地位や役職
鴛鴦宮宦官。
・物語内での具体的な行動や成果
兪依薩とともに青燕捕獲の罠を仕掛けた事実を告白した。死んだ青燕の尾羽を秘蔵する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
友を裏切った罪悪感を長年抱えていた。寿雪から青燕の尾羽を返される。
注文
内府局で灯籠や用具を管理する宦官を務める。
・所属組織、地位や役職
内府局宦官。
・物語内での具体的な行動や成果
かつて兪依薩の指導役を務めていた。寿雪の問いに答え兪依薩の罪状が鳥殺しであったことを明かす。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
兪依薩の事件の責任で杖刑を受け閑職へ追いやられた。
福児
鴛鴦宮で史顕を手伝う若い宦官を務める。
・所属組織、地位や役職
鴛鴦宮宦官。
・物語内での具体的な行動や成果
中庭で茶葉を釜で炒る作業を行った。史顕の代わりに茶を挽く者を呼びに行く。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
史顕の茶挽きの腕前を頼りにしていた。
阿繡
内染司に勤める古参の宮女を務める。
・所属組織、地位や役職
内染司宮女。
・物語内での具体的な行動や成果
庭の燕子花を見に来た寿雪を案内した。先帝の代にいた哈彈族の宦官の噂を寿雪に語る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮の過去の出来事に詳しい知識を持つ。
西婉琳
先々帝(炎帝)の時代の鵲妃を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
炎帝の妃(鵲妃・故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
書肆の青年と心を寄せていた。青年の首をはねられた場所の土を袋に入れて持参する。後宮入り後に池へ入水して死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
吏部尚書の娘として大切に育てられた。不慮の事故として処理される。
安氏
西婉琳に幼少期から仕えていた侍女を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
西婉琳の元侍女。洗穢寮宮女(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
西婉琳の後宮入りを推し進めた。深夜に夜明宮を訪れて婉琳の救済を求める。洗穢寮で病死した後に幽鬼となって現れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
西婉琳を死に追いやった罪悪感から幻聴に苛まれた。最後は鵲巣宮の池へ沈んで消滅する。
徐成
鵲巣宮に仕えていた宮女を指す。
・所属組織、地位や役職
鵲巣宮宮女(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
部屋に水を持ってきた際に飢えた泥人形に襲われた。喉を噛みちぎられて死亡する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
遺体は夜明宮近くの林へ遺棄された。寿雪により絲羽を焚かれて弔われる。
連娘
琴恵瑤に仕える侍女を務める。
・所属組織、地位や役職
鵲巣宮侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
琴恵瑤とともに自分の血を泥人形に与えていた。衰弱した状態で部屋の灯籠に火を入れる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
血を奪われ続けて激しく削痩していた。
琴恵瑤の兄
琴恵瑤の実兄を務めた人物を指す。
・所属組織、地位や役職
官吏候補(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
落馬事故により打ちどころが悪く死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妹の琴恵瑤から深く慕われていた。髪の一部が泥人形の依代に利用される。
朝廷・官吏
雲永徳(雲宰相)
中書省の長官を務める。夏高峻の恩人に該当する。
・所属組織、地位や役職
中書令(宰相)。雲家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
外廊で夏高峻と会話を交わした。飛燕宮に菊が贈られた件や後宮の噂に言及する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
雲花娘の祖父を務める。朝廷で強大な権力を保持する。
何明允
学士承旨を務める官吏を指す。理知的な風貌を持つ。
・所属組織、地位や役職
学士承旨。戸部侍郎。
・物語内での具体的な行動や成果
知人が入手した布作面の怪異について夏高峻に話した。布作面を借り受けて夏高峻へ引き渡す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
雲永徳の末娘を妻に持つ。
琴孝敬
中書侍郎を務める官吏を指す。琴恵瑤の父親に該当する。
・所属組織、地位や役職
中書侍郎。
・物語内での具体的な行動や成果
娘の死後に夏高峻と対面した。寿雪から届いた慰めの手紙に涙を流して感謝する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
寒閥の出身として重用されていた。事件後に官職を辞して朝廷を去る。
宿綱
吏部郎中を務める官吏を指す。
・所属組織、地位や役職
吏部郎中。元冬官府・放下郎。
・物語内での具体的な行動や成果
薛魚泳からの頼みで封宵月の過所を作成した。封宵月を後宮へ推薦して送り込む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
かつて冬官府で薛魚泳に育てられた経歴を持つ。取調べを受けても薛魚泳の名を伏せ続けた。
冬官府・神祇
薛魚泳
冬官府の長官を務める老翁を指す。長い白眉と白髭を持つ。
・所属組織、地位や役職
冬官府・冬官。
・物語内での具体的な行動や成果
夏高峻と囲碁を指した。寿雪へ麗娘の若い頃の思い出を語る。封宵月を後宮へ潜入させた責任を取り自裁した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
麗娘とは幼少期からの学び仲間であった。若い頃に麗娘へ想夫香を贈った過去を持つ。
董虔(千里)
薛魚泳の後任として冬官となった男性を指す。字を千里と呼ぶ。
・所属組織、地位や役職
冬官府・冬官。
・物語内での具体的な行動や成果
弧矢宮で夏高峻と寿雪に面会した。薛魚泳の残した手記から烏妃の秘密を調査する意向を示す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
病弱で痩せぎすな体つきを持つ。薛魚泳から星烏廟の管理を託されていた。
烏漣娘娘
夜と万物の生命を司る女神を指す。
・所属組織、地位や役職
神(夜と生命の女神)。
・物語内での具体的な行動や成果
新月の夜に寿雪の体を離れて徘徊した。寿雪に激しい苦痛を与える。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
烏妃の体内に封じられている。封宵月からは妹と呼ばれる。
鴇耳坊・鵐帮・市井
封宵月(宵月)
不気味な青年を指す。人間ではない存在に該当する。
・所属組織、地位や役職
幽宮の葬者部(副子手)。烏漣娘娘の兄。
・物語内での具体的な行動や成果
琴恵瑤に泥人形を作って与えた。安氏の幽鬼を消滅させる。星烏の羽根からできた剣で寿雪を襲撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
仮の肉体(使い部)で行動していた。金鶏の矢を受けて大量の梟の羽根となって消滅する。
乞伏士畢
かつて鴇耳坊にいた五弦琵琶の名手を指す。鴟張島の出に該当する。
・所属組織、地位や役職
鴇耳坊楽人(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
日夜没頭して血を流しながら琵琶を弾き続けた。琵琶を奪われて部屋で首を吊って死亡する。布作面に幽鬼として留まり続けた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
左丘曜が奏でる五弦琵琶の音色に吸い込まれて成仏する。
左丘曜
鴇耳坊の老楽人を指す。乞伏士畢の同僚であった。
・所属組織、地位や役職
鴇耳坊楽人。
・物語内での具体的な行動や成果
狂気的に琵琶を弾く士畢から琵琶を取り上げた。鰲枝殿で五弦琵琶を演奏して士畢の魂を成仏させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
士畢の才能に対する嫉妬と罪悪感を抱えていた。
封一行(封老師)
湊町に住む老巫術師を指す。前王朝の時代に京師を逃亡した。
・所属組織、地位や役職
巫術師。代書屋。
・物語内での具体的な行動や成果
行き倒れていた青年を拾って宵月と名付けた。薛魚泳に文を出して宵月の過所を頼む。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
処刑された欒冰月を見捨てて逃げた過去を悔いる。
沙氏
鵐帮「赤雀」の長を務める人物を指す。
・所属組織、地位や役職
鵐帮「赤雀」頭領。
・物語内での具体的な行動や成果
過所を所持して一座を率いて各地を回った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
温螢がかつて所属していた一座の長を務める。
喜児
鵐帮「赤雀」に所属する琵琶弾きの女性を指す。
・所属組織、地位や役職
鵐帮「赤雀」楽人。
・物語内での具体的な行動や成果
五弦琵琶を巧みに演奏した。商人たちの前で演奏を披露する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
温螢の元同僚であり屈指の琵琶弾きとして知られる。
書肆の青年
東の集市にある本屋の青年を指す。
・所属組織、地位や役職
書肆店員(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
西婉琳の屋敷へ伝奇物や詩物語を届けていた。西婉琳を連れ去ろうと部屋へ侵入して捕らえられる。庭先で首をはねられて処刑された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
西婉琳と密かに心を寄せ合っていた。店は取り潰される。
歴史上の人物・前王朝
炎帝
現王朝の初代皇帝を務めた人物を指す。夏高峻の祖父に該当する。
・所属組織、地位や役職
現王朝・初代皇帝(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
西婉琳の噂を聞いて後宮へ召し入れた。西婉琳の不慮の死に対してお咎めを下す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
前王朝からの禅譲を受けて即位した。
先帝
夏高峻の父を務めた人物を指す。
・所属組織、地位や役職
現王朝・第二代皇帝(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
兪依薩の鳥殺しの事件の際に処刑を承認した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇太后の権勢に押されていた。
欒夕
前王朝の初代皇帝を務めた人物を指す。
・所属組織、地位や役職
前王朝・初代皇帝(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
香薔を夜明宮へ閉じ込めて烏妃と名付けた。冬の王の存在を史書から抹消する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
烏妃の孤独の戒めを作り出した張本人に該当する。
香薔
前王朝の最初の烏妃を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
前王朝・初代烏妃(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
烏漣娘娘と己を結びつけて夜明宮の下に封印した。烏漣娘娘に花を与えて麻痺させる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
欒夕を深く愛した。後世の烏妃たちに呪縛を残す。
欒冰月
前王朝の皇孫を務めた人物を指す。
・所属組織、地位や役職
前王朝・皇孫(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
封一行の弟子として巫術を学んだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王朝滅亡時に処刑された。銀色の髪を持つ青年であった。
集団・組織
北衙禁軍
皇帝直属の軍隊を指す。
・所属組織、地位や役職
皇帝直属軍。
・物語内での具体的な行動や成果
容将軍が率いて先帝の死後に妃を引き取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
宮城の警備と武力の全般を担当する。
内僕寮
宮中の名簿や記録を管理する役所を指す。
・所属組織、地位や役職
後宮管理役所。
・物語内での具体的な行動や成果
過去の飛燕宮の宦官名簿を保持していた。衛青の依頼で名簿を提出する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮の人的データの集積を行う。
内膳司
後宮の食事や調理を担当する部署を指す。
・所属組織、地位や役職
後宮調理部署。
・物語内での具体的な行動や成果
夜明宮へ粥や豆漿を届けた。九九が以前所属していた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
宮女たちの作業場として機能する。
内染司
布地の染色や洗濯を担当する部署を指す。
・所属組織、地位や役職
後宮洗濯染色部署。
・物語内での具体的な行動や成果
阿繡が所属して布の洗浄を行った。寿雪に変装用の衣装を貸し出す。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
宮中の衣類維持を支える。
内掃司
後宮の清掃を担当する部署を指す。
・所属組織、地位や役職
後宮清掃部署。
・物語内での具体的な行動や成果
珊瑚色のシンプルな襦裙を制服とした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮全域の美化を担当する。
内府局
後宮の灯籠や調度品を管理する部署を指す。
・所属組織、地位や役職
後宮設備管理部署。
・物語内での具体的な行動や成果
毎夜の後宮の点灯作業を担当した。注文が所属して燭台や油を管理する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮の夜間の照明維持を担う。
洗穢寮
罪を犯した宮女や病気の宮女を収容する施設を指す。
・所属組織、地位や役職
最下層水仕事施設。
・物語内での具体的な行動や成果
安氏や蘇紅翹が水仕事を行った。宮女の墓場と称される過酷な環境を提供する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮の底辺に位置する。
冬官府(放下郎)
神祇や儀式を司る役所を指す。
・所属組織、地位や役職
神祇管理機関。
・物語内での具体的な行動や成果
星烏廟の管理を行った。放下郎たちが官吏登用を目指して雑務をこなす。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
薛魚泳の主導で庶人にも門戸を開いた。
勒房子
後宮内の犯罪を取り締まる皇帝直属の機関を指す。
・所属組織、地位や役職
後宮治安維持機関。
・物語内での具体的な行動や成果
林で見つかった宮女の遺体現場を検分した。野犬狩りの捜索を実施する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
帯刀した宦官たちによって構成される。
鴇耳坊
宮妓や宮廷楽人が所属する機関を指す。
・所属組織、地位や役職
宮廷音楽・芸能機関。
・物語内での具体的な行動や成果
乞伏士畢や左丘曜が所属した。宴席へ楽人を派遣する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
宮城の外に位置して芸能を管轄する。
鵐帮(赤雀)
各地を巡業する遊芸人の集団を指す。
・所属組織、地位や役職
旅芸人一座(赤雀)。
・物語内での具体的な行動や成果
街頭や宴席で軽業や演奏を披露した。かつて温螢や喜児が所属する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
巫覡の流れを汲む伝承を語り継ぐ。
展開まとめ
雨夜の訪い
夜明宮の夜半
夜半に目を覚ました衣斯哈は、故郷や宦官になった経緯を思い出して涙をこらえていた。同室の上役である温螢は気配に気づいて起き上がり、水を汲んで差し出した。衣斯哈は喉を潤し、温螢の気遣いに触れて心を落ち着かせ、再び眠りについた。同じ夜、寿雪は自らの存在や烏漣娘娘との関係に虚しさを覚えつつ、宵月の残した羽根からできた黒真珠の首飾りを眺めていた。そこへ鳥の星星が騒ぎ、夜明宮に訪問者が訪れた。
雨夜の幽鬼の相談
訪れたのは泊鶴宮で鶴妃に仕える侍女の紀泉女であった。泉女は、雨の夜になると自室の扉の前に足音を立てて現れる幽鬼に怯えていた。幽鬼は部屋に入らず立ち去るだけであったが、扉の前には水たまりが残されていた。その怪異は故郷の賀州から輿入れに伴って旅立った雨の夜から始まっていた。寿雪は幽鬼が泉女につきまとっている点を不審に思い、身を守る呪符を授けて翌日部屋を調べることを約束した。
泊鶴宮の調査
翌朝、寿雪は侍女の九九に着替えさせられ、護衛の温螢の気配を感じながら泊鶴宮へ向かった。案内された泉女の部屋の裏手で、寿雪は牡丹の花を煙に変えて幽鬼の姿を具現化した。現れたのは首を深く斬られた血まみれの若い男の姿であり、それを見た泉女は悲鳴をあげて倒れ込んだ。
索巴秀の死と呪詛の発覚
現れた幽鬼は泉女の幼なじみで許婚だった索巴秀であった。三年前、結婚報告のため土地神の廟へ向かう途中で強盗に遭い、索巴秀は泉女を逃がすために一人で戦って命を落としていた。寿雪は、幽鬼が何者かに使役された使い部であり、泉女に対する呪詛の道具として利用されていることを見抜いた。寿雪は部屋に結界を施し、泉女の身辺に呪詛を行える者がいないか探るよう求めた。
鶴妃との遭遇
泉女の部屋を出た寿雪は、鶴妃の晩霞と行き会った。晩霞は寿雪を小雀に似ていると評し、態度が父に似ていると無邪気に語りかけた。寿雪は晩霞の真意を測りかねて茶の誘いを断り、その場を辞した。裏門から去ろうとする寿雪を、かつて亡くなった鵲妃に仕えていた宮女が呼び止め、生前の異変に気づきながら何もできなかった後悔を打ち明けた。寿雪はその宮女に、己の手の小ささを説き、悔やむよりも祈るよう告げて心を救った。
帝の訪問と新たな護衛の選定
その夜、高峻が瓜を携えて夜明宮を訪れた。寿雪から泊鶴宮へ赴いた話を聞いた高峻は身辺を案じ、新たな護衛として武芸に秀でた宦官の淡海をつけることを決めた。二人は賀州を実質的に治める沙那賣家の複雑な立場や、鶴妃の人質としての側面について語り合った。高峻は烏妃として他者の頼みを聞き続ける寿雪の過酷な運命を気遣った。寿雪は高峻が作った木彫りの魚の飾りを大切に帯につけていた。
八真教の影
翌日、寿雪は再び泉女の部屋を訪れ、同僚の侍女である藤粳女から話を聞いた。粳女は、賀州で広まっている八真教の神である白妙子の教えについて語った。信徒である泉女は白珊瑚の佩き飾りを身につけており、教主の白雷が巫術師であることを明かした。寿雪は、憎しみや後悔を預かるという八真教の教義に疑問を抱き、巫術師が呪詛に関与している可能性を疑った。
呪具の発見と返り呪い
寿雪の問いかけにより、泉女は索巴秀の両親から無病息災の札として贈られた包みを取り出した。寿雪はその札が巫術師の記した呪符であり、呪具そのものであることを見抜いた。寿雪は術を用いて呪符を燃やし、矢に変えて呪者へと送り返した。呪縛を解かれた索巴秀の幽鬼が現れ、泉女に裏切り者と血を吐きながら言葉をぶつけて消え去った。
残された祈り
逃げ延びた自分を責めて取り乱す泉女に対し、寿雪は、索巴秀が恐怖を抱えながらも泉女を生かす行動を選んだ事実を説き、その死を否定してはならないと語りかけた。寿雪自身もまた、かつて自分を生かして死んだ母の選択を受け入れる契機となった。寿雪は泉女の看病を粳女に託し、呪詛ではなく祈りこそが必要であると考えながら部屋を後にした。その頃、遠方で呪詛を返された八真教の教主である白雷は、仮面を砕かれ負傷しながらも、烏漣娘娘の力の衰えを確信していた。
亀の王
新たな護衛の淡海
夜明宮に加わった淡海は、軽薄で無作法な振る舞いで温螢を苛立たせたが、弓の腕前と情報収集能力に長けていた。淡海は内廷に古い時代の召使の幽鬼がさまよっているという噂を寿雪に伝えた。また、烏妃が高峻と懇意になったことで、宰相の雲永徳が警戒を強めている情勢を指摘した。寿雪は他者を巻き込むことへの焦燥を覚えつつも、淡海の忠告を受け止めた。
朝議の対立と令狐之季の推挙
朝議では、名家出身者を重用したい雲永徳と、家柄によらない登用を進めたい何明允が激しく対立した。高峻は明允の意見を採用し、二人の間に溝が生じた。明允は、賀州で観察副使を務めていた能吏の令狐之季を洪濤院の学士に推薦した。之季は首席で合格しながらも孤児出身ゆえに地方を渡り歩き、沙那賣家と折り合いが悪くなって職を辞した人物であった。高峻は之季と直接面会することを決めた。
雲永徳の焦燥と賀州の商人
朝議で意見を退けられた雲永徳は、高峻の成長を認めつつも自らの影響力低下に寂しさを覚えていた。自邸に戻った永徳のもとに、賀州からやってきた絹商の鮑三郎が面会を求めて訪れた。
内廷の幽鬼と石鼇合子
夜、高峻は夏宝柚を持って夜明宮を訪れた。寿雪が内廷の幽鬼について尋ねると、高峻は自ら案内して夜の内廷へ向かった。二人は、古い装束をまとい、小さな亀の器を捧げ持って徘徊する老僕の幽鬼を目撃した。高峻はその器が宝物庫に収蔵されている、かつて延命の薬が入っていたとされる杼王朝の宝物「石鼇合子」であると気づいた。
宝物庫の番人との対峙
翌朝、寿雪は衛青の案内で宝物庫を訪れた。番人の老宦官である羽衣は、石鼇合子が大海亀の神である鼇の爪をすりつぶした薬を収めた器であると語った。羽衣は抑揚のない態度で、幽鬼の執着を解くには器を壊すか、神の甲羅が使われている鰲枝殿で祈願するべきだと助言した。
冬官府での対話
寿雪は冬官府へ赴き、冬官の千里に大海亀の神について尋ねた。千里は、古代に広く信仰された延命長寿の神であり、病弱な主人を救おうとした召使の執着ではないかと推測した。また千里は、信仰の盛衰には神の勢力争いが関わっているという持論を語った。
令狐之季との引見
高峻は洪濤院で令狐之季と対談した。之季は賀州で月真教の後身である八真教が広まり、沙那賣家がそれを庇護している実態を調査した結果、毒を盛られて逃亡した経緯を明かした。之季の瞳の奥に深い憎悪を見出した高峻は、内廷に出る幽鬼の話をした。之季は、かつて落州で耳にした、病の令嬢のために王族から延命の薬を乞うたが偽薬を渡されて殺された老僕の伝説を語った。
鰲枝殿の怪異と羽衣の消滅
寿雪と高峻は石鼇合子を携えて鰲枝殿へ向かった。床に施された鼈甲の花模様に器を置くと、床が波打ち、老僕の幽鬼が現れて主を死なせた後悔を叫びながら泣き崩れた。老僕は本物の延命薬を与えたものの、弱った令嬢には薬が強すぎて命を奪ってしまったことが判明した。寿雪が神に祈りを捧げると、床の力に引きずり込まれそうになったが、高峻が寿雪を抱きとめて救い出した。その反動で石鼇合子は真っ二つに割れ、老僕の幽鬼は消滅した。そこへ現れた羽衣は、自らが鼇の神の使い部であり、神の復活に伴って戻る時が来たと告げ、寿雪を「杼の姫」と呼んで水底へと姿を消した。
碁盤を挟んだ告白
冬官府で千里と語り合った後、寿雪は訪れた高峻と碁を打った。寿雪は前冬官の魚泳が自裁した事実を悟り、高峻が一人で悲しみを抱え込んでいることを案じていた。寿雪は、他者の決死の選択を否定しないことの大切さを語り、人との交わりを通じて自らの頑なな心が変わりつつあることを高峻に打ち明けた。夜明宮に戻ると、泉女から鶴妃の文が届けられた。文が載せられた布の亀甲紋を見た寿雪は、八真教の祀る白妙子こそが大海亀の神そのものであると知った。
袖を引く手
令狐之季の異変
洪濤院を訪れた高峻に対し、学士となった之季は、何者かの白い手が自らの右袖を引く怪異に悩まされていると告白し、烏妃に相談できないかと願い出た。同じ頃、花娘も卡卡密の絵巻物を借りに訪れており、之季が歴州の出身であることを知って表情を強張らせた。
東林の亭子での対面
激しい雨の中、東林の亭子で寿雪は之季と対面した。寿雪の目には、之季の袖を遠慮がちに引く白い女の手がはっきりと見えていた。之季はその手が、かつて令狐家に共に引き取られた義妹の小明のものであると明かした。小明は嫁ぎ先で月真教の入信を強要され、暴行を受けて命を落としていた。
憎悪と袖の手
之季は八真教の白珊瑚を身につけて教団を密かに探っており、教主の白雷こそが小明の婚家に暴行を唆した元凶であると語った。之季の復讐心と激しい憎悪を心配するがゆえに、小明の魂は楽土へ行けずに袖を引き続けていた。寿雪は、之季が憎悪を手放さない限り魂を救うことはできないと告げたが、之季は復讐を諦めることができなかった。
高峻の思惑と梟の再来
内廷に戻った高峻は、衛青と之季の危険性や沙那賣家の当主である朝陽の真意について話し合っていた。そこへ浪鼓から献上された光彩烏螺を通じて、牢に繋がれている梟の声が届いた。梟は寿雪を殺さずに烏を解放する道を模索するよう高峻に求め、高峻はその難題に苦悩した。
洪濤院での再会
寿雪は之季の抱える憎悪が気になり、淡海と温螢を伴って洪濤院を訪れた。之季は、小明から異性として愛されていたことに気づきながら応えられず、嫁がせて死なせてしまった深い後悔を吐露した。そこへ高峻も合流し、復讐の炎は対象が消えても消えない苦しみを共有した。之季は小明の手を重ね合わせ、復讐を抱えたまま共に生きる道を選んだ。
淡海と温螢の衝突
夜明宮の林で、温螢は雲永徳の間諜である宮女と密会していた淡海を問い詰めた。淡海は自分が間諜ではなく、寿雪の立場を守るために偽情報を流して雲家の動向を探っていたと明かした。淡海は寿雪の無防備な優しさに惹かれて護衛を務めていると語り、雲永徳が泊鶴宮や賀州の情報を執拗に集めている事実を伝えた。
封一行の捕縛と衛青の出自
衛青はかつて生まれ育った花街の妓家へ赴き、潜伏していた前王朝の巫術師である封一行を捕縛した。その際、妓女の女主人が衛青の母の過去を語り、同じ男に囲われていた妓女の鶲玉が子供を産んでいた噂を口にした。宮城へ戻った衛青は、夜明宮の林で動揺のあまり吐き気を催していたところを寿雪に見つかった。寿雪から母の名が鶲玉であったと聞かされた衛青は、自らとの血縁の可能性に戦慄しながらも、その動揺を隠して立ち去った。
黄昏宝珠
沙那賣の策略
白雷は沙那賣家の長老の祈禱を行い、長老の脚の痛みを和らげて信頼を得ていた。長老は白雷の助言に従って京師に絹商を送り込み、雲永徳に取り入る工作を進めていた。
泊鶴宮への訪問と家宝の秘密
寿雪は泉女の案内で泊鶴宮を訪れ、晩霞と親交を深めた。晩霞は自らの生家に伝わる家宝「黄昏宝珠」にまつわる恐ろしい因縁を語った。先祖が神を謀殺して手に入れた宝珠の祟りにより、沙那賣家の末娘は代々十五歳で高熱を発して命を落としていた。歴代の当主は身代わりの養女を迎えて死なせることで血脈を繋いでおり、晩霞自身も可愛がっていた養女の小蟬を犠牲にして生き延びた深い罪悪感を抱えていた。
弧矢宮での密命
高峻は弧矢宮に之季を呼び出し、東鱗坊にある雲永徳の屋敷へ赴いて自らの密命を伝えるよう指示した。永徳が背後で不穏な動きを見せる中、高峻は腹心の師を信じて策を講じていた。
金の腕輪と呪詛の標的
夜、泉女が夜明宮に駆け込んできた。沙那賣家から届いた荷の中にあった金の腕輪を身につけた途端、晩霞が高熱を発して倒れたという。泊鶴宮へ急行した寿雪は、蝦蟇の意匠が施された腕輪に強力な呪詛が仕掛けられているのを確認した。その腕輪は本来、沙那賣家から寿雪へ贈られるはずのものであり、晩霞が庇って自ら身につけたことで身代わりに倒れたのであった。
蝦蟇の呪法の打破
寿雪は腕輪の底に白雷の手による呪符を発見した。牡丹の術では破れなかったため、寿雪は星烏の斯馬盧を呼び寄せ、その羽を剣に変えて蝦蟇の頭石である蟆石を一刀両断した。呪詛は打ち破られ、腕輪は灰となって崩れ去り、晩霞の熱は瞬く間に引いた。侍女たちから崇められた寿雪は戸惑い、極度の疲労から倒れそうになったところを温螢の背に背負われて夜明宮へと戻った。
沙那賣朝陽の断罪
雲邸で永徳と面会した之季は、永徳が高峻を裏切ったのではなく、不正を暴くために賀州の商人を泳がせていた真意を確かめ合った。一方、賀州の屋敷では、呪法を破られて神宝を失い、左目を負傷した白雷の前に当主の朝陽が現れた。朝陽は、雲家に取り入って不正を働き、勝手に寿雪を呪殺しようとした叔父の長老を一刀のもとに斬首した。朝陽は白雷を八荒島へ追放処分とし、沙那賣の家督を完全に掌握した。
朝廷の再編と友情
高峻は朝陽の強引な処断の裏にある意図を見抜きつつ、事態を収束させた。引退を申し出た雲永徳を名誉職に据え、何明允と雲行徳を重用する体制を整えた。一方、泊鶴宮では全快した晩霞が寿雪に感謝を伝え、二人は互いに名を呼び合う仲となった。晩霞は父への報告書をしたためる際、寿雪の髪の秘密に気づきながらも、友を裏切るまいと苦悩した。
夜明宮の誓い
高峻は李の飴菓子を携えて夜明宮を訪れた。高峻は梟の声が届いたこと、そして捕らえた封一行の知識を借りて、寿雪を殺さずに烏を解放する道を模索することを宣言した。麗娘への負い目から救われることを恐れる寿雪に対し、高峻は自らの手で幸せをつかむよう優しく説いた。寿雪は自らを縛る孤独から解放され、流れる涙を高峻の手に拭われながら、差し伸べられた温もりを受け入れた。
波間の記憶
賀州を追われた白雷は、憑坐の少女である隠娘を連れて八荒島へ渡る小舟の上にいた。隠娘は浪鼓の貧しい漁村で貝殻を拾っていた子供であり、海の神である白妙子の声を唯一聞くことができた。波に揺られる隠娘は、自らの幼名である阿兪拉を思い出しながら、遠い京師へと送られていった幼なじみの衣斯哈の無事を祈り続けていた。
同シリーズ
後宮の鳥


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同著者のシリーズ
花菱夫妻の退魔帖


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