物語の概要
■ 作品概要
前王朝(欒氏)の禁忌である銀髪を衆目に晒した柳寿雪の政治的・身体的危機と、その救済、および新局面への移行を記録したものである。
香薔の結界破壊と同時に寿雪の魂は「回廊星河」へ飛散し、肉体は「烏(烏漣娘娘)」に占拠された。
皇帝・高峻は寿雪を処刑から守るため、彼女を「神に仕える巫婆」と再定義し、新職「祀典使」に任命する政治工作を完遂した。
並行して、魂を呼び戻す「血縁者」として宦官・衛青が自らの出自を特定・告白し、招魂に成功した。後半部では、賀州の豪族・沙那賣家の長男・晨が自身の出生に関する事実(父・朝陽と実妹・杳の近親相姦による子であること)を把握し、血族を放棄。
到達地点として、寿雪は現世へ帰還し、烏の半身が漂着した界島周辺での異変(鼇の神による海流制御と海底火山の噴火)へと事態は推移する。
■ 主要キャラクター
- 柳寿雪: 烏妃。結界破壊の影響で魂が一時喪失するが、衛青の招魂により帰還。「祀典使」として公的に皇帝の庇護下に入る。
- 高峻: 皇帝。政治的策略(祀典使の新設)と巫術的手段を用い、寿雪の生存を確保。烏との直接対話により契約を更新する。
- 衛青: 宦官。名簿調査により母・鶲玉の客が寿雪の父と同一人物であることを特定。異母兄として招魂の儀を執行する。
- 烏(烏漣娘娘): 寿雪の肉体に顕現。孤独を恐れる神性の本質を露呈し、高峻と「半身」回収の協力関係を結ぶ。
- 梟: 烏の兄神。星烏に宿り、流罪の身として現世に干渉。高峻に寿雪の魂の行方を示唆する。
- 沙那賣晨: 賀州の豪族の長男。自らの出生の事実を知り、沙那賣家からの離脱および京師への逃亡を選択。
- 沙那賣朝陽: 晨の父。欒氏根絶を画策。実妹・杳への歪んだ執着を背景に、秘密を保持していた浣紗を殺害。
書籍情報
後宮の烏 6
著者:白川紺子 氏
イラストレーター:香魚子 氏
出版社:集英社
発売日:2021年8月20日
ISBN:978-4-08-680400-4
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あらすじ・内容
寿雪の銀髪が、衆目にさらされた。その銀髪こそが、前王朝の血を引く証だった。高峻が策をもって隠してきた寿雪の秘密がしられてしまったのだ。
同時に、柳寿雪は化け物を退治した美しき巫婆だという評判も城下に広がり始めていた。だが寿雪本人の魂は何処かへとってしまい、その肉体に宿り動かしているのは“烏”だった。
そして騒動のさなか、衣斯哈の行方も不明となり、白雷と隠娘もともに姿を消していた。寿雪の命を守れるかどうかの瀬戸際に立っている――そう考え冷たい汗をにじませる高峻。
状況は緊迫の度合いを高めていく中、寿雪の魂を呼び戻すためには血縁者の存在が不可欠だという情報がもたらされるが……?
物語は新たな局面へ。圧倒的中華幻想譚、緊迫の第6巻!
感想
6巻を読んでいて最初に感じたのは、
「寿雪、大丈夫なのか?」
という不安だった。
前巻で香薔の結界を破ることには成功した。
ところが、その代償はあまりにも大きい。
寿雪の銀髪は衆目にさらされ、前王朝の血を引いていることが知られてしまう。
さらに寿雪本人の魂はどこかへ飛ばされ、身体を動かしているのは烏漣娘娘である「烏」になってしまった。
結界を破れば寿雪を自由にできる。
そんな話だったはずなのに、むしろ状況は悪化していないか?
しかも衣斯哈は行方不明。
白雷と隠娘も姿を消す。
界島では噴火が起き、鼇の神も動いている。
沙那賣の朝陽も何をするかわからない。
寿雪を取り巻く状況は、相変わらず不安定である。
ただ、そんな中で印象に残ったのは、寿雪を助けようとする人間が想像以上に多かったことだ。
寿雪本人がいないからこそ、これまで彼女が築いてきたものが見えてくる。
6巻はそんな巻だったように感じた。
寿雪の身体にいるのは「烏」
結界を破った寿雪だったが、その魂は回廊星河へ飛ばされてしまう。
そして空になった身体に現れたのが烏である。
これまでずっと物語の中心にいながら、実際にはよくわからない存在だった烏漣娘娘。
かなり強大な神なのだと思っていた。
鼇の神と戦った存在でもある。
ところが実際に出てきた烏を見て、最初に思ったのは、
「想像より幼いな……」
だった。
明かりを嫌がる。
髪を結われれば頭が痛いと文句を言う。
箸や匙をうまく使えない。
食べられないと癇癪を起こす。
泣く。
拗ねる。
かなり子供っぽい。
寿雪の身体でやっているから余計に違和感がある。
いつもの寿雪なら、こんなふうにわんわん泣いたりしない。
しかし読み進めていくと、この幼さには理由があるのだと思えてくる。
烏はもともと人間ではない。
巫がいなければ人間と話すことすらできない存在だった。
誰にも自分の姿が見えない。
誰にも声が届かない。
ようやく自分を認識してくれる巫を見つければ、その存在に強く依存する。
だから烏にとって、自分の巫を失うことは何より恐ろしい。
烏が怖かったのは、結局「ひとりになること」だったのではないか。
そう考えると、これまで見えていた神としての姿とはかなり印象が変わってくる。
香薔もまた、思っていたより幼かった
そして驚いたのが香薔である。
前巻を読んだ時点では、香薔に対してかなり恐ろしい印象を持っていた。
宮城を囲む強力な結界を作る。
烏妃を外へ逃がさない。
それでも結界を破られた場合に備えて、歴代烏妃の亡骸を使った仕掛けまで残している。
いったい何をそこまで恐れていたのか。
夏の王への恋だけで、ここまでやるものなのか。
かなり疑問だった。
ところが烏の口から語られる香薔は、想像していた人物像とは少し違う。
幼い頃から奴隷だった。
痩せていて、弱くて、ひとりぼっちだった。
そんな香薔にとって、烏だけが友であり味方だった。
烏にとっても香薔は、ようやく見つけた大切な巫だった。
つまり最初の二人は、もっと巨大な野望を持った存在なのだと思っていたが、実際には孤独な者同士だったのではないか。
ここが興味深かった。
もちろん、その後に香薔が作った仕組みによって歴代烏妃が苦しめられた事実は変わらない。
しかし単純に「恐ろしい初代烏妃」として見ることもできなくなった。
烏も香薔も、想像していたよりずっと幼い。
だからこそ人に騙され、利用され、取り返しのつかないところまで進んでしまったようにも見える。
大きな歴史を動かした存在だからといって、最初から大きな人間だったわけではない。
むしろ未熟な感情が積み重なった結果、何世代にもわたる悲劇になってしまった。
そこが何ともやるせない。
寿雪の銀髪が知られてしまった
もうひとつの大問題が、寿雪の銀髪である。
これまで高峻が必死に隠してきた秘密だった。
銀髪は前王朝の血を引く証。
それが大勢の人間に見られてしまった。
もう隠しようがない。
これはかなり危険な状況である。
しかし同時に、
「化け物を退治した美しき巫婆」
という評判まで城下に広がっていく。
ここが面白い。
前王朝の血を引く危険人物として見られる可能性がある一方で、人智を超えた怪異を退けた特別な巫婆としても知られてしまった。
寿雪自身の意思とは関係なく、どんどん存在が大きくなっていく。
4巻の「緇衣娘娘」の騒動を思い出した。
寿雪は自分から人を集めているわけではない。
しかし困っている人を助けてきた。
その積み重ねが噂になり、信頼になり、ときには信仰にまで変わってしまう。
今回も同じである。
銀髪が露見したことは大きな危機だった。
ところが、これまで寿雪が積み重ねてきた行動が、逆に彼女を守る材料にもなっている。
人生、何がどうつながるかわからない。
寿雪がいなくても、寿雪のために人が動く
6巻で強く印象に残ったのは、寿雪本人が不在でも多くの人間が彼女を助けようとすることだった。
高峻はもちろん動く。
千里も寿雪を守ろうとする。
花娘も後宮の妃たちをまとめ、寿雪を庇う。
温螢も動く。
封一行まで自分の残された力を寿雪のために使おうとする。
かつての寿雪は「烏妃はひとりで在るもの」という教えを守り、人を遠ざけていた。
ところが今は違う。
寿雪が倒れれば、周囲の人間が一斉に動き始める。
しかも彼らは寿雪が前王朝の血を引いていると知っても、助けることをやめない。
ここが大きい。
血筋ではなく、
「これまで寿雪がどう生きてきたか」
を知っているからだと思う。
寿雪は誰かを助けてきた。
幽鬼の願いを聞いてきた。
後宮で苦しむ人間を放っておかなかった。
ときには自分の立場を危うくしてまで人を助けた。
その積み重ねが、寿雪自身が動けなくなったときに返ってきている。
寿雪はひとりではない。
むしろ寿雪がいなくなったことで、それがはっきり見えた気がする。
高峻は今回も寿雪を守るために動き続ける
もちろん、誰より必死なのは高峻である。
寿雪の銀髪が露見した。
寿雪本人の魂も消えた。
政治的にも個人的にも、とんでもない状況である。
それでも高峻は止まらない。
寿雪を「烏漣娘娘に仕える巫婆」として扱い、前王朝の血筋という問題だけに焦点が集まらないようにする。
後宮の妃たちからの嘆願も利用する。
寿雪を処罰するのではなく、制度の中へ組み込む道を作ろうとする。
このあたりは高峻らしい。
感情だけで、
「寿雪を助けたい」
と叫んでも皇帝にはどうにもならない。
助けるためには、朝廷が納得できる理由を作らなければならない。
法律。
祭祀。
後宮。
民衆の評判。
使えるものを全部使って寿雪の居場所を作る。
5巻でも思ったが、高峻はとにかく正しい道筋を作るのがうまい。
今回はその能力が完全に寿雪を救う方向へ使われている。
それだけ寿雪への想いが強くなったのだとも感じた。
寿雪を戻すために必要なのは「血縁者」
ところが、政治的な危機を何とかしても、肝心の寿雪本人が戻ってこない。
烏によれば、寿雪の魂は回廊星河にいる。
まだ生を終えていないため幽宮へ行くこともできず、魂だけがさまよっている状態らしい。
そして寿雪を呼び戻すために必要なのが、
「血縁者」
である。
いや、そんな人いるのか?
寿雪は前王朝の生き残りである。
欒氏はほとんど殺されている。
高峻が絶望するのもわかる。
しかし、ここで別の可能性が出てくる。
寿雪の母親ではなく、父親側の血縁である。
寿雪の母・玉は妓女だった。
父親はわからない。
ならば、その父親側に血縁者が残っている可能性がある。
ここから思わぬ方向へ話が転がっていく。
まさか衛青がここでつながるとは
この展開は驚いた。
衛青である。
寿雪の血縁者を探していたら、まさかこんな近くに可能性のある人物がいた。
これまで衛青は、高峻を守ることを何より優先してきた。
だから寿雪に対しても複雑な感情を持っている。
寿雪が高峻にとって危険な存在なら、いないほうがいい。
高峻のためならそう判断する。
その衛青が、寿雪を救えるかもしれない。
しかも自分自身の血によって。
これはかなり皮肉な状況である。
そして印象に残ったのが、温螢から問われる、
「大家のためでなかったら、あなたはどうするのか」
という問題だった。
衛青は何でも高峻を基準に考える。
高峻のためになるか。
高峻の害になるか。
それが衛青の生き方だった。
しかし寿雪を救うかどうかについては、それだけでは答えが出ない。
自分自身はどうしたいのか。
もしかしたら妹かもしれない少女を、本当に見殺しにしたいのか。
衛青自身が自分の気持ちと向き合わされる。
寿雪を助ける物語でありながら、衛青まで変化を迫られているのが面白かった。
寿雪が戻ってくるまでが想像より短くてよかった
寿雪の魂が飛ばされたときは、かなり長くこの状態が続くのではないかと思った。
寿雪の身体を烏が使い続け、本人不在のまま物語が進む。
そんな展開も覚悟した。
だから寿雪不在の時間が想像より短かったのはよかった。
やはり『後宮の烏』は寿雪がいてこそだと思う。
ただし、寿雪がいなかった短い時間にも意味はあった。
寿雪自身が見ていないところで、どれだけ多くの人間が彼女のために動くのかがわかったからだ。
これは本人がいたら見えにくかった部分でもある。
「自分はひとりだ」
と思い続けてきた寿雪だが、もうそんなことはない。
寿雪がいなくなれば、これだけの人間が必死になって探し、守り、呼び戻そうとする。
それこそ寿雪がこれまで生きてきた結果なのだと思う。
界島へ向かう千里たちと、外へ広がっていく物語
6巻では、物語の舞台そのものも大きく広がってきた。
これまでは烏妃である寿雪を中心として、後宮で起こる怪異や人間関係を追うことが多かった。
しかし今は違う。
界島。
海底火山の噴火。
鼇の神。
白雷。
隠娘。
衣斯哈。
さらに寿雪の魂や烏の過去まで関わってくる。
千里たちも状況を探るため界島へ向かう。
物語が完全に後宮の外へ飛び出し始めている。
1巻の頃は、
「後宮にいる不思議な妃が幽鬼の願いを解決する物語」
くらいの感覚で読んでいた。
それが今では神々と古代王朝の因縁にまでつながっている。
ずいぶん遠くまで来たものである。
それでも、物語の中心にあるのは人間関係なのが面白い。
神同士の争いだけで話が進むわけではない。
高峻と寿雪。
衛青と高峻。
温螢と寿雪。
衣斯哈と隠娘。
白雷と鼇の神。
そして烏と香薔。
結局、それぞれが誰かを大切に思ったことから話が動いている。
沙那賣も、思っていた以上に幼い
香薔だけではなく、沙那賣の話にも「幼さ」を感じた。
大きな一族。
政治的な思惑。
前王朝の血。
反乱の可能性。
言葉だけを見ると、とても大きな話である。
しかし中にいる人間を見ると、もっと個人的な感情で動いている。
父に認められたい。
誰かを守りたい。
自分の存在を認めてほしい。
そんな感情が、一族や政治という巨大な問題につながってしまう。
香薔も同じだったのではないか。
最初から歴史を動かそうと思っていたわけではない。
ただ誰かに愛されたかった。
誰かを失いたくなかった。
ひとりになりたくなかった。
そういう小さくて幼い感情が、立場や力と結びつくと、とんでもない結果を生む。
6巻を読んでいると、そんなことを考えさせられた。
朝陽の息子たちが今後の鍵になりそう
そして、まだ気になるのが沙那賣朝陽の動きである。
朝陽は何を狙っているのか。
前巻から引き続き、かなり不穏である。
しかし朝陽本人だけでなく、その息子たちの存在が重要になってきたように感じる。
晨。
亘。
父親の思惑に巻き込まれながら、それぞれが自分の道を選び始めている。
朝陽がどれだけ計画を立てても、息子たちまで完全に思いどおりに動くとは限らない。
むしろ彼らの選択によって、朝陽の計画そのものが崩れていく可能性もありそうだ。
これまで『後宮の烏』では、親や先代が残したものに次の世代が縛られる話が何度も描かれてきた。
寿雪もそうである。
香薔が作った仕組みに歴代烏妃が縛られてきた。
高峻も先帝や皇太后が残した政治の影響を受けている。
だからこそ、朝陽の息子たちが父親の思惑からどう離れていくのかは気になるところである。
とりあえず危機は脱した。でも何も終わっていない
6巻では、とりあえず目の前にあった大きな危機は脱したように見える。
寿雪の銀髪が知られたことで、すぐに処刑されるような状況にはならなかった。
寿雪本人についても、戻るための道が見つかった。
高峻たちも寿雪を守るために動いている。
しかし、安心できるかと言われるとまったく安心できない。
界島では噴火が起きている。
鼇の神が動いている。
白雷と隠娘、衣斯哈の問題もある。
烏の半身も残っている。
沙那賣朝陽の思惑も消えていない。
そして何より、寿雪が前王朝の血を引く存在であることは、もう隠せない。
危機を脱したというより、
「とりあえず即死は回避した」
くらいではないだろうか。
寿雪の立ち位置はまだまだ不安定である。
まとめ|寿雪がひとりではないことが、はっきり見えた6巻
『後宮の烏』6巻で最も印象に残ったのは、寿雪がいない間の人々だった。
寿雪はずっと、
「烏妃はひとりで在るもの」
という言葉に縛られてきた。
しかし今の寿雪は、もうひとりではない。
高峻がいる。
九九がいる。
温螢がいる。
淡海がいる。
花娘がいる。
千里がいる。
封一行まで命を削って動こうとする。
そして、もしかすると衛青まで血でつながっている。
寿雪が銀髪であることが知られても。
前王朝の血を引いているとわかっても。
それでも彼らは寿雪を助けようとする。
これは寿雪が特別な烏妃だからというだけではないと思う。
寿雪がこれまで人に対してどう振る舞ってきたのか。
困っている者をどう助けてきたのか。
誰とどんな関係を築いてきたのか。
その積み重ねが返ってきている。
一方で、烏と香薔の過去も見えてきた。
驚いたのは、二人とも想像していたよりずっと幼かったことである。
巨大な力を持つ神。
何代もの烏妃を縛る仕組みを作った初代烏妃。
そんな肩書きだけを見れば、もっと恐ろしく完成された存在を想像してしまう。
しかし実際には、ひとりになることを恐れた烏と、ひとりぼっちだった香薔だった。
もしかすると『後宮の烏』という物語は、ずっと「ひとりでいること」の話だったのかもしれない。
烏はひとりになることを恐れた。
香薔もひとりだった。
歴代の烏妃は「ひとりで在るもの」とされてきた。
寿雪もひとりで生きようとしていた。
しかし寿雪だけは、その流れから外れ始めている。
人と関わった。
友を作った。
誰かを助けた。
高峻という半身とも呼べる存在に出会った。
だから寿雪が消えれば、今度は周囲の人間が寿雪を助けようとする。
そこに、香薔から続いてきた烏妃の歴史を変える鍵があるのではないか。
ただし、物語は後宮の外へどんどん広がっている。
界島。
鼇の神。
白雷。
衣斯哈と隠娘。
沙那賣朝陽とその息子たち。
そして烏の半身。
流動的な要素が多すぎて、まだ何が起きるかわからない。
とりあえずの危機は脱した。
だが寿雪の立場は、まだまだ危うい。
それでも以前とはひとつだけ違う。
寿雪が危機に陥ったとき、もう彼女はひとりではない。
6巻を読んで、一番強く感じたのはそこだった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
ストーリー・プロット
第1幕:銀髪の露見と魂の喪失
香薔が設置した結界の破壊に伴い、寿雪の銀髪が衆目に晒された。禁術の影響により寿雪の魂は肉体から弾き飛ばされ、魂の浄化の場である「回廊星河」へと漂流する。魂を失った肉体には内なる神「烏」が顕現。高峻は現場の混乱を収拾するため、寿雪を「怪異を払った巫婆」として即座に再定義し、夜明宮へ隔離・搬送する措置を講じた。
第2幕:皇帝の政治的決断と朝議
高峻は、欒氏の生き残りに対する処刑圧力を回避するため、花娘や行徳、千里らと連携し、助命の論理を構築した。朝議において、行徳は「徳による統治」への転換を提唱。恐怖による統治(前皇帝・皇太后の手法)を否定し、寿雪を法的・制度的に保護する使職「祀典使」の新設を承認させた。これは単なる個人の救済を超え、王朝の統治理念が「恐怖」から「徳」へと転換する政治的な分岐点となった。
第3幕:血縁者の探索と衛青の葛藤
烏の教示により、魂の帰還には「血縁者による招魂」が必須条件であると定義された。封一行の助言に基づき花街の記録を調査した結果、衛青の母「鶲玉」と寿雪の母を客として共有していた男の存在が浮上。衛青は「高峻を守る」という公的使命と、「唯一の血縁を救いたい」という私情を一致させ、自身が異母兄である可能性を告白。招魂の主体となることを志願した。
第4幕:回廊星河の邂逅と寿雪の帰還
回廊星河において寿雪は香薔の残滓と対峙する。香薔は晁華への執着から烏を拘束し続けていたが、寿雪は神(烏)と巫(香薔)の共依存的な孤独の構造を把握。現世からの衛青による血縁を介した呼びかけに応じ、意識を再統合した。寿雪は夜明宮で覚醒し、衛青と血縁の事実を共有。高峻を守るという共通目的を補完し合う関係を再確認した。
第5幕:沙那賣の惨劇と出生の真実
賀州へ戻った晨は、弟・亘から朝陽の策動への警告を受ける。晨は乳母・浣紗から、自身が朝陽と実妹・杳の近親相姦によって出生した事実を告知される。現場に現れた朝陽は「一族の呪い(末娘が15歳で死ぬという神理)」に対する独断的な解釈と、杳への固執を吐露。口封じのために浣紗を殺害して家屋を焼失させた。晨は沙那賣の家名と血族を放棄し、京師へ逃亡した。
第6幕:界島の異変と再集結
界島に派遣された千里と之季は、海底火山の噴火に遭遇。この噴火により新たな島が形成され、地理的境界が変容する。白雷は鼇の神の命を受け、海流制御によって流れ着いた烏の半身「黒刀」を回収。界島は幽宮と楽宮の境界であり、噴火は鼇の神が海流を操り死骸を捕食する行為と関連していることが示唆される。寿雪、晨、そして白雷らが界島周辺へと集結し、新局面へと移行する。
主要な転換点
- 転換点:寿雪の魂の飛散と「烏」の顕現
- それ以前の状況: 寿雪が自身の意志で烏妃として行動。
- 出来事: 禁術により魂が消失し、肉体が烏の神性に占拠された。
- 変化: 神(烏)と高峻が直接対話を行い、相互理解の基礎が形成された。
- 次への影響: 血縁者探索、および烏との「半身回収」の契約。
- 転換点:衛青による出自の告白
- それ以前の状況: 衛青は寿雪を「天敵・排除対象」として認識。
- 出来事: 鶲玉の名簿特定を経て、衛青が自身の父と寿雪の父が同一であることを認めた。
- 変化: 招魂が成功し、寿雪の現世帰還が実現。
- 次への影響: 二人の間に「高峻を守る」という目的を共有する血縁の認識が成立。
- 転換点:新職「祀典使」の制定
- それ以前の状況: 寿雪は「前王朝の生き残り」という法的な死罪対象。
- 出来事: 行徳の「徳による統治」の論理に基づき、皇帝直属の使職が創設された。
- 変化: 寿雪の法的地位が確定し、活動範囲が後宮外へと拡大。
- 次への影響: 祭祀を通じた王朝の正統性の再定義。
- 転換点:白雷による「黒刀」の回収
- それ以前の状況: 烏の半身は所在不明のまま、鼇の神の支配下にあった。
- 出来事: 界島の噴火と海流操作により、半身(黒刀)が白雷の手に渡った。
- 変化: 烏の半身が物理的に回収され、神々の力の均衡が変化。
- 次への影響: 寿雪・烏による半身奪還のための界島進出。
主人公を中心とした人物関係の変化
- 寿雪 ⇔ 衛青: 警戒対象から、父を同じくする「宿命的な兄妹」としての事実共有へ。嫌悪を前提としつつ、高峻を支える共通目的を補完し合う血縁関係に変化。
- 寿雪 ⇔ 烏(烏漣娘娘): 抑圧・共生関係から、孤独を恐れる者同士の「理解者」へ。烏の半身回収という共通目的を持つ協力関係に進展。
- 寿雪 ⇔ 高峻: 秘匿された保護関係から、新職「祀典使」を通じた公的な保護・被保護関係へ。碁の対局継続という具体的な行動を通じ、絆の深化が事実として確認された。
主人公の認識と周囲の評価
- 寿雪自身の認識: 欒氏の血を「死を招く禁忌」と規定し、自己を否定する認識。
- 朝廷(朝陽ら)の評価: 体制を揺るがす「前王朝の遺毒」であり、排除すべき対象。
- 周囲(民衆・淡海ら)の評価: 怪異(骸の大軍や水柱)を退けた神秘的な「美しき巫婆」。淡海は「なんと美しい髪だ」と形容し、その神秘性を高く評価した。
- 統治理念の評価: 行徳は朝議にて、寿雪への処遇を「恐怖」か「徳」かの選択であると定義。彼女を庇護することが王朝の「徳」の証明になると主張した。
クライマックス
招魂儀礼
回廊星河の深淵へ沈みかけていた寿雪に対し、衛青が「兄」としての血縁を介して呼びかけを執行。高峻の声を拠り所として寿雪が意識の輪郭を再構築し、肉体と再統合された。目覚めた夜明宮には高峻、九九らが立ち会い、魂の帰還が事実として認定された。
沙那賣家の崩壊
晨は乳母・浣紗から、自身が朝陽と実妹・杳の不義の子である事実を知らされる。直後に現れた朝陽は、実妹への歪んだ執着を吐露し、秘密を語った浣紗を殺害。証拠隠滅のために家屋を焼失させた。晨は父の冷酷さと出生の事実を前に、沙那賣の家名と血族を完全に放棄。事実上の絶交を宣言し、京師へ逃亡した。
巻末時点の状況
- 寿雪の立場: 夜明宮に滞在しつつ、皇帝直属の「祀典使」に就任。社会的地位を獲得。
- 主要人物との関係: 衛青との血縁確定。高峻との個人的・公的絆の強化。
- 解決した問題: 死罪の回避、および魂の肉体への帰還。
- 継続・発生した問題:
- 白雷が回収した「烏の半身(黒刀)」の奪還。
- 鼇の神による衣斯哈の拉致(衣斯哈が囚われている事実の確定)。
- 界島における新たな島の出現と、神々の境界(縄張り)の変容。
- 沙那賣朝陽による北辺部族への扇動の予兆。
柳寿雪の魂
柳寿雪の魂は、物語全般を通じて神の器としての過酷な宿命に晒されながらも、人間としての絆によって繋ぎ止められ、回帰していく過程が極めて象徴的に描かれる。神の器としての重圧から魂の遊離、そして現世への帰還に至る軌跡を以下に整理する。
神の器としての重圧と新月の苦痛
初代烏妃が女神を己および歴代の身に繋ぎ止めて以来、寿雪の魂は自らの意志と無関係に神を宿す器としての役目を強制されてきた。
・体内の神が外へ抜け出そうとして暴れる新月の夜には、四肢や魂を引き裂かれるような過酷な激痛を味わう。
・知らぬ間に半ば神に魂を奪われているのではないかという恐怖と孤独に常に苛まれる日々を過ごす。
結界破壊と回廊星河への流出
宮城を縛る初代の結界を破った直後、仕掛けられていた禁術によって歴代の骸が襲来し、育ての親である先代が自ら引き裂かれて白骨へ戻る事態が生じる。
・深い悲哀と激しい絶望による慟哭を通じ、寿雪の心は肉体を離れて外へ弾き飛ぶ。
・肉体側には押し込められていた神の意識が表出する。
・寿命を終えていない寿雪自身の魂は、死者の赴く幽宮へも行けず、星々の光が揺らぐ回廊星河へと引き寄せられて漂流を始める。
血縁者と名前による魂の呼び戻し
回廊星河の暗闇に沈み、自らの輪郭や自身の名前さえ失いかけた際、闇の彼方から名を呼び続ける皇帝の温かな声が届く。
・生きながら回廊星河を彷徨う魂は通常の招魂術では呼び戻せず、血縁者を経由する儀礼を要する。
・同じ父親を持つ異母兄と判明した側近の宦官が手を取り、皇帝が名を呼び続けた結果、寿雪の魂は己の輪郭を取り戻して肉体への帰還を果たす。
魂を現世に繋ぎ止める人間的絆
孤立を守り自らを罰するように生きてきた寿雪にとって、周囲との温かな交わりは魂の帰路を照らす光となる。
・半身と称して寄り添う皇帝の存在や、一人の少女として案じる従者たちの情愛が大きな支えとなる。
・他者から名を呼ばれ、情を交わし合う関係性こそが、神の神威に呑まれかけた魂を人の世へ留める確固たる錨として作用する。
まとめ
過酷な宿命によって肉体と魂を削られ続けた少女は、肉親の血脈と他者からの真摯な呼びかけによって暗黒の漂流から生還を果たす。孤独を強いられていた存在が他者との結びつきを受け入れた軌跡は、神の器から一人の人間として生きる道への回帰を力強く示す。
衛青の出自
衛青の出自は、遊里における過酷な生い立ちから夏高峻との出会い、そして烏妃・柳寿雪との血縁関係に至るまで、物語の重要な根幹をなす。過酷な過去を背負いながら皇帝の側近として生きる彼の歩みについて、各項目に沿って整理する。
生い立ちと幼少期の過酷な境遇
・遊里での出生
京師の花街に位置する妓家で生を受ける。
・母の自刃と父の裏切り
母は妓家屈指の美貌を誇る売れっ子の妓女であったが、上客であった父親に裏切られる。父親は身請けの約束を反故にして別の妓女へ鞍替えし、絶望した母は剃刀で自らの喉を突いて命を絶つ。
・無責任な父親の素性
父親にあたる男は各地で子どもを作っては見捨てる破綻者であり、後に別の妓女に刺されて絶命した経緯を持つ。
宦官への転身と夏高峻との邂逅
・自ら選んだ宮中への道と師父による虐待
母を失った後、年少の男娼に身を落とす事態を拒絶し、自ら去勢して宦官となる道を選択する。端正な容貌を備えていたことから、宮中で仕えた師父より凄惨な折檻や虐待を受ける日々を強いられる。
・皇子による保護と救済
虐待に耐えかねて裸同然の姿で逃走し、庭先へ逃げ込んだ際に当時幼少であった皇子の夏高峻に保護される。高峻は事情を詮索せずに傷ついた体を匿い、後に十歳を迎えた折に自身の側仕えとして引き取る。
・新たな名の獲得
衛青という姓名は高峻より授けられたものであり、かつての名は自ら完全に捨て去る選択をとる。
烏妃・柳寿雪との血縁関係
・妓女名の符号と血脈の発覚
寿雪の実母は市井で妓女を務めており、その源氏名が鶲玉であった。かつて自身の母を捨てた父親が乗り換えた相手の名と一致したことから、自身と寿雪が同一の父親を持つ異母兄妹の関係にある事実を察知する。
・漂流する魂の救出
宮城の結界が崩壊した折、肉体を離れて回廊星河を彷徨う寿雪の魂を呼び戻すため、血縁者を経由する儀礼が求められる。異母兄にあたる衛青がその手を固く握り締め、高峻が名を呼び続けた結果、寿雪の魂は現世への生還を果たす。
・血縁を踏まえた互いの距離感
魂の生還後、双方は腹違いの兄妹である事実を認識し合うものの、徒に情に流された関係を結ぶ姿勢を退け、従前通りの立場と適度な距離感を維持する合意を結ぶ。
まとめ
過酷な境遇を生き延びた衛青は、主君から授かった新たな生を胸に刻み、揺るぎない忠誠を尽くし続ける。隠された血脈が窮地に陥った妹の魂を現世へ繋ぎ止める役割を果たした事実を踏まえつつも、互いの分限を守り抜く姿勢を貫く歩みは、冷徹な理性の奥底に秘められた強固な意志を示す。
烏の半身
烏の半身は、夜と生命を司る女神・烏漣娘娘の分かたれた本来の神力および肉体の一部を指し、黒き羽刈の大刀という刀の姿をとって東の海底に沈む。物語全般において、主人公の柳寿雪を神の器という過酷な宿命から解き放つための最重要事項として位置づけられる。
概要と神話的由来
- 千年前の激突
今からおよそ千年前の時代、烏漣娘娘と大鼇の神の間で大規模な戦闘が生じる。両神の激闘により島は火山噴火を起こして海へ沈下し、双方ともに力を消耗する結末を迎える。 - 我が身を分かつ決断
海底深くへ完全に沈む事態を回避するため、烏漣娘娘は自らの体を二つに引き裂く。半分は山頂へ逃れた一方、残る半身は黒き羽刈の大刀となって東の海の底へと没する。
烏妃を縛る呪縛との関連性
- 神力の減衰と夜明宮への封印
半身を欠いて神力が著しく減衰し、正気を失った烏漣娘娘は、初代烏妃の手によって自らと結び合わされ、夜明宮の直下に封印される。これにより、歴代の烏妃は神を留める器として宮城へ幽閉される事態に至る。 - 新月の夜に走る激痛
新月の夜に烏妃の体内で神が暴れ、四肢を引き裂くような痛痒をもたらす事象は、身を裂かれた神が欠落した自らの半身を求めて外界へ脱出しようともがく動きに起因する。
所在の解明と古文書の記述
- 書写生が遺した記述
前王朝の書写生が残した文書の断片から、古代の神々の抗争とともに、半身が黒い大刀と化して海底に沈んだ事実を示す文面が見出される。 - 海底火山の伝承による特定
かつて神が争った地と同様、半身が没した海域にも異変が生じたとの推測が成り立つ。島に伝わる噴火の伝承や、過去に逃亡を図った烏妃の記録を照合した結果、半身が特定海域の海底火山付近に沈んでいる事実を突き止める。
大刀の発見と主人公の解放
- 浅瀬での回収
島周辺で海底火山が隆起して再び噴火する異変が生じる中、巫術師の手によって浅瀬の岩場に引っかかっていた黒き羽刈の大刀が引き上げられる。 - 完全な神への回帰
烏漣娘娘自身も語る通り、半身を取り戻して本来の完全な力を取り戻すことにより、依代の体内を出入りする自由を得て、風のごとく立ち去ることが可能となる。 - 人間としての自由の獲得
宮城を囲む結界を破却し、海中からこの大刀を回収して神へ本来の完全な力を返還する工程こそが、主人公の体内から神を完全に離脱させ、過酷な宿命から解放するための不可欠な条件を形成する。
まとめ
黒き羽刈の大刀として海に沈んだ半身の奪還は、神話の時代から続く神々の因縁に終止符を打つ鍵を握る。神を完全な姿へ戻す試みは、神の器として囚われ続けてきた一人の少女が人間としての生を取り戻すための、揺るぎない希望の光を物語へもたらす。
鼇の神
後宮の烏の物語において、鼇の神は夜と生命を司る女神・烏漣娘娘と対比される原初の荒神に位置づけられる。歴史の裏側で作品の世界観や事件の暗雲を形作る極めて重要な存在として、その神格、千年前の激闘、信仰の復活、そして主人公への執着を整理して記述する。
鼇の神の神格と伝承
・大海亀の神としての性質
白亀の神、白鼇、亀の王とも称される大海亀の神に位置づけられる。古くは荒波を鎮めて船の航海を守護する神として信仰を集め、内陸へ伝播してからは延命長寿を司る存在として崇められた歴史を持つ。
・国土創世神話における位置
古歌謡や祭文によれば、罪を犯して八つに切り殺され流された大鼇の神の遺骸から国土や稲、桑、民が生じ、そのひとつの骨から生まれた白亀の神が鼇の神と伝えられる。
・古代王朝や豪族との繋がり
鼇の神から八代目の後胤が古代杼王朝の白き王とされる。白塩の製法を授かったとされる解州の大豪族・羊舌氏や、白を尊ぶ杼王朝および前王朝の歴史と深い結びつきを有する。
烏漣娘娘との激闘と深い怨恨
・千年前の衝突と島の水没
およそ千年前、鼇の神と烏漣娘娘は大海において激しく衝突した。双方が荒波と暴風を起こして相撃ちとなり、死闘の影響によって島は火山噴火を起こして海底へと沈没した。消耗した鼇の神は西海へ沈み、烏漣娘娘も自らの半身を切り割いて黒き羽刈の大刀となって東の海底へ沈む傷を負った。
・人間を巻き込んだ血塗られた抗争
現世に降り立った烏漣娘娘が最初に言葉を交わした巫に対し、鼇の神を信仰する杼の王が謀殺を企てたため、烏漣娘娘は相手の王朝を滅亡へ追い込み、鼇の神の巫も命を落とした。鼇の神もまた夏の王の兄弟を反目させて烏の巫を殺害させたとされ、両神の間には数千年に及ぶ流血の記憶と怨恨が沈殿する。
新興宗教としての復活と生贄の要求
・白妙子信仰の実態
衰退していた信仰は、新興宗教・八真教が祀る主神の白妙子として息を吹き返した。教団の象徴である亀甲紋や白珊瑚の装飾具は、鼇の神に由来する意匠にほかならない。
・生贄を求める苛烈さ
荒れた海に若い娘の身を投げる生贄を受け取ってきた過去を持ち、消耗した力を回復するために漂流する水死体を貪るなど、異様な凄惨さを備える。
・依代と術者の使役
教団の指導者や、巫婆となる少女の肉体を介して神託を下し、水面下で思惑を張り巡らせる動きを見せた。
宮城における痕跡と烏妃への執着
・初代皇帝による防備
前王朝の初代皇帝は烏漣娘娘の暴走を警戒し、鼇の神の甲羅を用いた装飾を殿舎の床に施して防御の壁とした。宝物庫の番人を務めた宦官も、鼇の神によって生み出された人形に由来する。
・寿雪の奪還を狙う策略
寿雪が古代杼王朝の血を引く銀髪の持ち主である点に着目し、本来は自身の巫となるべき存在と主張した。結界を破断させ、その間隙を突いて寿雪を烏漣娘娘から強奪し、宿敵を完全に消滅させようと画策した。
まとめ
鼇の神は単なる神話上の存在にとどまらず、古代の因縁を現代の宮廷や宗教的動乱へと直結させる第二の神格として大きな影響を及ぼした。太古より続く怨恨と生贄を求める残酷な神威は、呪縛の連鎖を深める要因となり、物語の緊迫感を高める重要な背景を形作っている。
沙那賣の秘密
物語において賀州を統治する豪族の沙那賣家は、物語の展開に深く関わる数々の凄惨かつ重層的な秘密を抱える。その秘密は一族の起源から血統、裏で重ねられてきた犠牲に至るまで多岐にわたる。
神殺しの過去と家宝の強奪
- 異国からの逃亡
- 一族はもともと異国である卡卡密の出身であり、かつてその土地で大蝦蟇の姿をした豊穣の神を祀る立場にあった。
- 神殺しと神宝の奪取
- 土地を独占したい欲に駆られた先祖は、末娘を嫁にやると偽って神を謀殺し、神の腹を引き裂いて天候を操る神宝・黄昏宝珠を奪い取った。しかし、この神殺しによって周囲から忌み嫌われ、国を追われて海を渡ってきた暗い歴史を持つ。
末娘の呪いと身代わりの養女
- 十五歳で絶命する祟り
- 神殺しの祟りにより、当主の末娘は代々、十五歳を迎えると原因不明の高熱を発して絶命する呪いを背負う。
- 身代わりによる犠牲
- 呪いから実の娘を救うため、歴代当主は十五歳になる前に貧しい少女を買い取り、身代わりの養女として迎えて代わりに死なせる歪んだ手段を繰り返した。
- 鶴妃の抱える罪悪感
- 現在の鶴妃も、自らが可愛がっていた養女を身代わりとして死なせることで生き延びており、この事実に深い罪悪感を抱き続ける。
当主の禁忌と長男の出生の真実
- 実妹との関係
- 沙那賣家当主の朝陽が秘め続けていた最大の禁忌として、実の妹である末娘と深く愛し合っていた事実が挙げられる。
- 長男の真の血統
- 朝陽の長男である晨は正妻の子ではなく、朝陽と実妹の間に生まれた血統を持つ。妹は身代わりの養女の存在を知らずに十五歳を迎え、養女の死を知った衝撃と兄との子を身籠もった罪悪感に耐えかね、晨を出産した直後に命を落とした。
- 跡継ぎへの執着
- 晨は正妻の連れ子と偽って育てられたものの、朝陽自身は妹しか愛さないと誓い、晨こそが己の唯一の正当な跡継ぎであると強く執着した。
実名の秘匿と徹底した生存戦略
- 本名の隠蔽
- 一族は他者や兄弟に対して決して本当の名前を明かさない。名を知られることは相手に主導権を握られることを意味するため、外部には表向きの名を用いて接する。
- 門外不出の養蚕と冷徹な保身
- 故国から持ち込んだ蚕を門外不出として最高品質の生糸を独占し、圧倒的な富を築き上げた。当主は中央の政治闘争には深入りせず、一族の安泰と生存のみを絶対的な基準とし、暴走した身内を自ら処刑するなど冷徹な策略を巡らせた。
まとめ
沙那賣家の秘密は、一族の繁栄と安泰の裏で神殺しや身代わりの犠牲、禁忌の血統といった歪んだ罪と呪いを積み重ねてきた歴史を示す。過酷な生存戦略の果てに生じた重層的な因縁は、登場人物たちの葛藤を生み出す重大な影を投げかける。
登場キャラクター
夜明宮
柳寿雪
夜明宮に住む烏妃を務める。
前王朝の血を引く銀髪の少女に該当する。
過酷な運命に晒されながらも自身の足で立ち向かう。
・所属組織、地位や役職
夜明宮・烏妃。新たな使職である祀典使。
・物語内での具体的な行動や成果
結界の破壊により隠されていた銀髪があらわとなった。一時的に魂が体から弾き飛んで「回廊星河」を漂流した。異母兄である衛青の呼びかけと高峻の声によって意識を取り戻した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
高峻の政略によって処刑を回避した。皇帝直属の祀典使へ就任した。
麗娘
かつて夜明宮で寿雪を育てた先代の烏妃を指す。
生前に施した術によって寿雪を護ろうとした。
・所属組織、地位や役職
夜明宮・先代烏妃(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
生前に烏妃の塚へ呪詛返しの術を仕込んでおいた。香薔の禁術を壊して自らの骸とともに崩壊させた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
死後も寿雪を守る存在として影響を残した。
九九
夜明宮で寿雪に仕える侍女を務める。
明るい性格で寿雪の身の回りの世話をこなす。
・所属組織、地位や役職
夜明宮侍女。
・物語内での具体的な行動や成果
目覚めた烏の突飛な行動に困惑しながらも世話を続けた。失踪した衣斯哈の身を案じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
寿雪の側近くで変わらぬ忠誠を示した。
蘇紅翹
夜明宮で仕える宮女を務める。
手先が器用で寿雪の生活を助ける。
・所属組織、地位や役職
夜明宮宮女。
・物語内での具体的な行動や成果
目覚めた寿雪の寝台のそばに控えて看病に当たった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
夜明宮の温かな環境を支え続けた。
星星
夜明宮で飼われている金色の化鳥を指す。
金鶏と呼ばれる存在に該当する。
・所属組織、地位や役職
夜明宮の化鳥。
・物語内での具体的な行動や成果
鰲枝殿で隠娘を取り巻く水と戦った。水の矢を避けて上空へと飛び去った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
烏漣娘娘の使いとして神聖な役割を保持する。
皇室・凝光殿
夏高峻
霄国の皇帝を務める。
冷徹な決断力と深い慈愛を合わせ持つ。
・所属組織、地位や役職
霄国・皇帝。夏の王。
・物語内での具体的な行動や成果
銀髪が露呈した寿雪を祀典使に任じる政略を成功させた。衛青とともに「回廊星河」へ声を届けて寿雪の魂を救い出した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
皇帝としての権威を高めつつ寿雪の庇護を成立させた。
衛青
夏高峻に絶対の忠誠を誓う宦官を務める。
冷静沈着に高峻の身辺を守る。
・所属組織、地位や役職
内侍省・衛内常侍。
・物語内での具体的な行動や成果
寿雪と自らが同じ父親を持つ異母兄妹であることを自覚した。高峻とともに寿雪の手を握り「回廊星河」から魂を呼び戻した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
高峻に対する隠し事を謝罪し強い絆を再確認した。
温螢
寿雪の護衛を務める宦官を指す。
武芸に長け義理堅い性格を見せる。
・所属組織、地位や役職
寿雪の護衛宦官。
・物語内での具体的な行動や成果
寿雪を守れなかった不甲斐なさに打ちひしがれた。封一行とともに花街へ赴き血縁の調査に協力した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
衛青へ自らの本心と向き合うよう促した。
淡海
寿雪の護衛を務める宦官を指す。
機転が利き後宮の情勢に精通する。
・所属組織、地位や役職
寿雪の護衛宦官。
・物語内での具体的な行動や成果
気を失った寿雪を夜明宮へ迅速に搬送した。後宮内の混乱を警戒して見回りを実施した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
寿雪の側近として護衛の任を果たし続けた。
玉児
内廷で仕える見習い宦官を務める。
素直で気弱な面を見せる。
・所属組織、地位や役職
内廷見習い宦官。
・物語内での具体的な行動や成果
隠娘の見張り役を担当した。鰲枝殿で隠娘と衣斯哈が水柱に消える光景を目撃して高峻へ報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
重大な事件の目撃者として真相を伝えた。
後宮(妃嬪・宮女・宦官)
雲花娘(鴦妃)
鴛鴦宮に住む二の妃を務める。
品格が高く後宮の調和に配慮する。
・所属組織、地位や役職
鴛鴦宮・二の妃(鴦妃)。
・物語内での具体的な行動や成果
事件発生時に各宮へ外出を控える通達を出した。目覚めた寿雪のもとを訪れて青い衣装や髪飾りを贈った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
最上位の妃として後宮の動揺を未然に抑えた。
藍晩霞(鶴妃)
泊鶴宮に住む妃を務める。
高峻の御子を身籠もっている。
・所属組織、地位や役職
泊鶴宮・妃(鶴妃)。
・物語内での具体的な行動や成果
無事に過ごす寿雪へ耳飾りを贈って祝福した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
胎内の御子の存在が寿雪の助命の一因となった。
昌黄英(鵲妃)
飛燕宮に住む妃を務める。
高峻の御子を身籠もっている。
・所属組織、地位や役職
飛燕宮・妃(鵲妃)。
・物語内での具体的な行動や成果
寿雪の無事を喜び髪飾りを贈った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
妊婦としての存在が後宮の安定に寄与した。
衣斯哈
夜明宮で仕える見習い宦官を務める。
素直で健気な性格を見せる。
・所属組織、地位や役職
夜明宮見習い宦官。
・物語内での具体的な行動や成果
星星を追いかけて鰲枝殿へ向かった。水柱に呑まれそうになった隠娘の手を握りともに姿を消した。界島で薬草採りを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
界島で漂海民と暮らしながら阿兪拉を支えた。
朝廷・官吏・学士
何明允
朝廷の中書省を統括する長官を務める。
厳格で合理的な判断を下す。
・所属組織、地位や役職
中書令(宰相)。
・物語内での具体的な行動や成果
朝議で寿雪の処刑を強く主張した。高峻や行徳の議論を受けて処刑を断念した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
国家の法と安定を重視する立場を保持した。
雲行徳
朝廷の高官を務める。
温和で徳を尊ぶ姿勢を持つ。
・所属組織、地位や役職
朝廷高官。雲家次男。
・物語内での具体的な行動や成果
朝議で徳による統治の重要性を訴えた。寿雪を庇護することが民衆の反発を防ぐと論じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
熱情的な弁舌で朝議の論調を転換させた。
令狐之季
洪濤殿書院の学士を務める。
観察力と行動力を備える。
・所属組織、地位や役職
洪濤殿書院学士。
・物語内での具体的な行動や成果
高峻の命を受けて董千里とともに界島へ赴いた。界島の浜辺で宿敵である白雷の姿を目撃した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
復讐心と妹の幽鬼の間で葛藤を抱え続けた。
監門衛の将軍
宮城の門の警備を担う武官の長を務める。
・所属組織、地位や役職
監門衛将軍。
・物語内での具体的な行動や成果
朝議において門の倒壊や骸の大群の発生状況を客観的に報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現場の事実を正確に伝達する役割を果たした。
冬官府・神祇
董千里
冬官府の長官を務める。
知性的で命を賭して筋を通す。
・所属組織、地位や役職
冬官府・冬官。
・物語内での具体的な行動や成果
朝議で自らの首をかけて寿雪を庇護した。界島へ移動して海底火山や烏の半身に纏わる伝承を解明した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
寿雪の救出に向けて決定的な事実を突き止めた。
封一行
かつて宮廷に仕えた老巫術師を指す。
・所属組織、地位や役職
元宮廷巫術師。
・物語内での具体的な行動や成果
寿雪の母の名である鶲玉から父方の血縁を探すことを提案した。温螢や衛青とともに花街調査に同行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去の悔根を晴らすため寿雪救出に力を尽くした。
烏漣娘娘
夜と生命を司る女神を指す。
・所属組織、地位や役職
神(夜と生命の女神)。
・物語内での具体的な行動や成果
寿雪の体に顕現して会話を行った。高峻に対して自らの半身を捜索することを認めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
過去の悲劇や裏切りにより深い孤独を抱える。
梟
幽宮の神を指す。
烏漣娘娘の兄に該当する。
・所属組織、地位や役職
幽宮の神。
・物語内での具体的な行動や成果
流罪となって星烏に宿り高峻へ助言を与えた。妹である烏と対話して和解を果たした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現世に留まり烏を救うために行動した。
鼇の神
大海亀の荒神を指す。
・所属組織、地位や役職
神(白鼇)。
・物語内での具体的な行動や成果
隠娘や衣斯哈を界島へ連れ去った。海上の死骸を食らいながら傷を癒やして烏の半身を狙った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
烏漣娘娘との千年の宿怨を継続させている。
地方官吏・市舶司
馮若芳
界島の市舶使を務める。
元海賊の頭領に該当する。
・所属組織、地位や役職
界島市舶使。
・物語内での具体的な行動や成果
羊舌慈恵からの頼みを受けて董千里たちを歓迎した。海底火山の位置についての情報を提供した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
異例の経歴を持ちながら島の実権を握る。
楪
界島の市舶司に勤める役人を指す。
阿開の離れ小島の出身に該当する。
・所属組織、地位や役職
界島市舶司役人。
・物語内での具体的な行動や成果
千里たちを序家や昭家へ案内した。小舟を出して海底火山近くの海域へ同行した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
海の状況や島の歴史に通じている。
市井・宗教・漂海民・巫術師
白雷
八真教の教主を務める巫術師を指す。
・所属組織、地位や役職
八真教教主。
・物語内での具体的な行動や成果
連れ去られた隠娘と衣斯哈を川辺で救出した。界島の岩場で黒刀(烏の半身)を拾い上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
鼇の神の脅迫を受けながらも独自の行動をとった。
隠娘(阿兪拉)
哈彈族の少女を指す。
鼇の神の巫婆に該当する。
・所属組織、地位や役職
鼇の神の巫婆。
・物語内での具体的な行動や成果
羽衣に促されて鰲枝殿へ向かった。水柱に呑まれて界島へ運ばれたのちに貝殻拾いを行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
鼇の神の声を聞く能力を保持する。
羽衣
宝物庫の番人を務めていた老宦官を指す。
・所属組織、地位や役職
鼇の神の使い部。
・物語内での具体的な行動や成果
隠娘のもとへ現れて鼇の神のもとへ誘導した。界島へ向かうよう白雷に命じた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
人形の使い部として神の意を実行した。
那他利
漂海民である蛇古族の少年を指す。
・所属組織、地位や役職
蛇古族の少年。
・物語内での具体的な行動や成果
過去に助けられた白雷たちを界島の窟へ受け入れた。薬草の精製作業を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
白雷に対して強い恩義を感じている。
昭氏の老婆
界島の旧家である昭氏の生き残りを指す。
・所属組織、地位や役職
昭氏の占い師。
・物語内での具体的な行動や成果
港で占いや薬草売りを行って生活した。千年前の海底火山と生き神の伝承を千里へ語った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
古くからの祭祀の記憶を保持していた。
沙那賣家・羊舌家・諸家
沙那賣朝陽
賀州の大豪族・沙那賣家の当主を務める。
一族の存続と権力を絶対視する。
・所属組織、地位や役職
沙那賣家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
帰郷した晨に吉菟女との早期婚姻を命じた。実妹との近親相姦を告発した浣紗を斬殺して火を放った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
圧倒的な冷酷さで一族を支配し続けた。
沙那賣晨
沙那賣家の長男を務める。
責任感が強く葛藤を抱え込む。
・所属組織、地位や役職
沙那賣家長男。
・物語内での具体的な行動や成果
高峻の密命を受けて賀州へ帰郷した。浣紗から実母が朝陽の実妹である事実を知り絶望した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
故郷と沙那賣家を捨てて京師へ向かった。
沙那賣亘
沙那賣家の次男を務める。
鋭い洞察力を持ち冷厳に振る舞う。
・所属組織、地位や役職
沙那賣家次男。
・物語内での具体的な行動や成果
朝陽の命で北辺山脈の部族交渉へ赴くこととなった。晨に沙那賣家の滅亡を予告して逃亡を勧めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
命懸けの任務を引き受けて北へ向かった。
沙那賣小璇
朝陽の正妻を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
沙那賣家当主正妻(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
我が子でない晨を冷遇しながら暮らした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
一族の複雑な血縁関係に巻き込まれた。
沙那賣杳
朝陽の実妹を務めた人物を指す。
・所属組織、地位や役職
沙那賣家令嬢(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
実兄である朝陽との間に晨を出産した。養女の犠牲を知り罪の意識から死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
15歳の祟りを免れず命を落とした。
浣紗
小璇の乳母を務めた老女を指す。
・所属組織、地位や役職
小璇の元乳母(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
山中の家で養蚕や機織りを行った。晨の出生の秘密を暴露した直後に朝陽に刺殺された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朝陽の手によって殺害され家とともに焼かれた。
吉菟女
沙那賣家の家臣である吉家の娘を指す。
・所属組織、地位や役職
吉家令嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
桑畑で転んだ際に晨に手を貸してもらった。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朝陽の政治的決定により晨の婚約者とされた。
羊舌慈恵
解州の大豪族・塩鉄使を務める。
重厚で老獪な手腕を見せる。
・所属組織、地位や役職
解州大豪族・塩鉄使。
・物語内での具体的な行動や成果
朝議において意図的に静観を守った。北辺山脈の動向を探るため現地へ赴き沙那賣亘と出会った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
寿雪を陰から支える後ろ盾として行動した。
序氏の当主
界島の旧家である序氏の当主を務める。
・所属組織、地位や役職
序家当主。
・物語内での具体的な行動や成果
屋敷を訪れた千里たちの質問に対して気のない返答を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
落ちぶれた家の現状を受け入れている。
歴史上の人物・過去の人物
欒夕(晁華)
前王朝の初代皇帝を務めた人物を指す。
・所属組織、地位や役職
前王朝初代皇帝(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
奴隷だった香薔に名前を与えて助け出した。死後の復生を恐れて香薔の遺体を塩漬けにした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
香薔の絶大な執着の対象となった。
香薔
前王朝の初代烏妃を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
前王朝初代烏妃(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
宮城の九門に結界を張り禁術を残した。「回廊星河」で寿雪を自らの側へと引き込もうとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
幽宮に入れず「回廊星河」を彷徨い続けた。
欒冰月
封一行の愛弟子を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
巫術師(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
過去の混乱の中で命を落とした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
封一行の激しい後悔の要因となった。
鶲玉
市井の妓女を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
妓女(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
寿雪や衛青の父親にあたる客を別の妓女から奪い取った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
寿雪の母親として名を残した。
吉鹿女
藍晩霞の元侍女を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
泊鶴宮元侍女(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
沙那賣朝陽の策に巻き込まれて死亡した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
娘の吉菟女を遺して世を去った。
炎帝
現王朝の初代皇帝を務めた人物を指す。
・所属組織、地位や役職
現王朝初代皇帝(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
神事や怪異を徹底的に排除した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
高峻の祖父に該当する。
さきの皇太后
現王朝の皇太后を務めた女性を指す。
・所属組織、地位や役職
皇太后(故人)。
・物語内での具体的な行動や成果
苛烈な政治を行って多くの命を奪った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
高峻の祖母に該当する。
集団・組織
監門衛
宮城の門の警備を担当する武官組織を指す。
・所属組織、地位や役職
宮城警備組織。
・物語内での具体的な行動や成果
倒壊した門や骸の発生状況を現場で確認して朝廷へ伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
宮城の安全維持を担う。
内侍省
後宮の事務や宦官を統括する機関を指す。
・所属組織、地位や役職
後宮管理機関。
・物語内での具体的な行動や成果
衛青の指導のもと後宮の秩序維持に努めた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
後宮の人的組織を運用する。
冬官府(放下郎)
神祇や天文や儀式を司る官庁を指す。
・所属組織、地位や役職
神祇管理機関。
・物語内での具体的な行動や成果
董千里を中心に門の神の厄払い儀式を準備した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
国家の神事や伝承の解読を担う。
洪濤殿
古文書の収集や書写を行う史館を指す。
・所属組織、地位や役職
典籍管理機関。
・物語内での具体的な行動や成果
令狐之季などの学士が歴史調査を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
国家の膨大な歴史記録を保管する。
八真教
白雷が教主を務める新興宗教を指す。
・所属組織、地位や役職
宗教組織。
・物語内での具体的な行動や成果
白雷の導きにより各地で活動を展開した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
鼇の神の信仰と深く結びつく。
海燕子(蛇古族)
海上で暮らす漂海民の集団を指す。
・所属組織、地位や役職
漂海民集団。
・物語内での具体的な行動や成果
界島の窟で生活しながら白雷たちを保護した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
独自の文化と共同体を保持する。
沙那賣家
賀州を実質的に支配する豪族を指す。
・所属組織、地位や役職
賀州大豪族。
・物語内での具体的な行動や成果
朝陽の指導により門外不出の養蚕や道造りを推進した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
領民から強い敬意を受け続けている。
羊舌氏
解州で巨大な塩田を所有する豪族を指す。
・所属組織、地位や役職
解州大豪族。
・物語内での具体的な行動や成果
慈恵の指揮のもと塩の流通や北辺との取引を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
朝廷の塩政を支える重任を果たす。
序氏
界島に位置する古い海商の家系を指す。
・所属組織、地位や役職
界島海商家系。
・物語内での具体的な行動や成果
かつて烏妃を輩出したが現在は衰退している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
歴史ある家柄としての名残を留める。
昭氏
古くから界島の神事や祭祀を司ってきた家系を指す。
・所属組織、地位や役職
界島祭祀家系。
・物語内での具体的な行動や成果
千年前の海底火山鎮圧の伝承を現代へ伝えた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
現在は老婆一人を残して没落している。
吉家
沙那賣家の分家および家臣筋にあたる家系を指す。
・所属組織、地位や役職
沙那賣家家臣筋家系。
・物語内での具体的な行動や成果
菟女を当主の娘として育て上げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
沙那賣家との婚姻関係を通じて結びつきを深める。
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展開まとめ
血の縁
烏となった寿雪
香薔の禁術によって歴代烏妃の亡骸が襲来した後、高峻の前に銀髪となった寿雪が現れた。しかし、その内面は寿雪ではなく、烏漣娘娘である烏に入れ替わっていた。陽光を浴びた寿雪は苦しんで気を失い、温螢と淡海によって夜明宮へ運ばれた。
寿雪の銀髪は欒氏の血を引く証であり、多くの者に目撃されていた。高峻は混乱を抑えるため、寿雪を烏漣娘娘に仕える巫婆だと広め、儀式を担当した冬官と監門衛から正式に報告を受ける形を整えた。
寿雪の心の消失
流罪となって星烏に宿った梟は、高峻に寿雪の心がどこかへ飛び、代わって押し込められていた烏が表に出たと説明した。烏は禁術で殺されるはずだったが生き残り、寿雪だけが失われた状態になっていた。
梟自身も人への干渉を咎められて幽宮を追放されていた。しかし、それによって烏のそばへ来られるようになり、言葉を交わせる可能性が生まれていた。
衣斯哈と隠娘の失踪
夜明宮では衣斯哈が行方不明になっていた。見張り役の玉児によれば、宝物庫の番人だった羽衣が現れ、鼇の神が呼んでいるとして隠娘を解放した。隠娘は鰲枝殿へ向かい、そこへ星星を追って衣斯哈も現れた。
鰲枝殿では床が水へ変わり、巨大な水柱が屋根を突き破った。水は隠娘を呑み込み、助けようとした衣斯哈も巻き込んで、二人を消し去った。その後、白雷が姿を現して鼇の神を罵り、立ち去った。高峻は、鼇の神が二人を連れ去ったと考えたものの、その目的まではわからなかった。
烏との対話
夜明宮を訪れた高峻は、寿雪の体にいるのが烏であることを温螢たちへ説明し、寿雪を戻す方法を尋ねた。烏は当初知らないと突き放したが、梟は魂を導く役目を担っていた烏が方法を知らないはずはないと指摘した。
高峻はさらに、烏の失われた半身を探していることを明かした。しかし、過去に何度も騙された烏は高峻を信用せず、彼らを夜明宮から追い出した。
柳寿雪をめぐる朝議
翌朝、朝廷では門の倒壊や歴代烏妃の骸、鰲枝殿の異変とともに、銀髪をさらした寿雪の処遇が問題となった。冬官の千里は寿雪を烏漣娘娘に仕える巫婆と説明し、欒氏との関係を追及されても、幼い頃に人買いへ攫われたため本人には知りようがないと庇った。さらに責任を問われるなら自分の首を差し出すと述べ、寿雪に代わって怪異へ対処できる者はいないと訴えた。
高峻は前夜に花娘へ事情を明かし、後宮の妃嬪たちが寿雪を頼りにしていることや、欒氏の血を理由に処罰する法はすでに存在しないことを記した嘆願書を用意していた。行徳も、寿雪が化け物を退けた美しい巫婆として城下で評判になっており、処刑すれば民衆の反発を招くと指摘した。さらに恐怖ではなく徳による統治を望み、高峻ならそれを実現できると訴えた。
高峻は寿雪を処刑せず、星烏廟を修繕したうえで祭祀を司る使職に就けることを決めた。寿雪を制度の中へ組み込み、皇帝直属の立場として庇護することで、その命を守った。
烏と梟の和解
夜明宮の烏は人間の生活に慣れず、明かりを嫌い、箸も使えずに癇癪を起こしていた。高峻が衣斯哈について尋ねると、烏は鼇の神が腹いせに攫ったのだと語った。
烏によれば、哈彈族は最初に烏の声を聞いた巫の一族であり、鼇の神もまた巫を必要としていた。過去に烏は、自分を騙した杼王朝を哈彈族に滅ぼさせ、その際に鼇の神の巫も殺された。鼇の神は報復として烏の巫を失わせ、両者の争いによって烏は半身を失っていた。
烏はその後に出会った香薔を唯一の巫であり友だと思っていたため、香薔に裏切られたことにも深く傷ついていた。高峻は、烏が半身を取り戻せば寿雪も自由になれると説明し、双方に利益がある以上、裏切る理由はないと説いた。梟も、自分は烏を救うために流罪となり、これからは二人でいると告げた。孤独を恐れていた烏はその言葉に涙を流し、ようやく心を開いた。
回廊星河の寿雪
烏は、生を終えていない魂は幽宮へ行けず、回廊星河に引き寄せられてさまようと明かした。寿雪の魂も回廊星河にあり、呼び戻す方法は存在していた。
しかし、そのためには寿雪の血縁者を通じて呼びかけなければならなかった。欒氏の一族は寿雪を残して殺されていたため、高峻は救う道を失ったと思い、絶望した。
寿雪の父方の血縁
高峻は巫術に詳しい封一行を訪ね、血縁者を使わず寿雪を呼び戻せないか尋ねた。しかし封も、生者の魂を通常の招魂で戻すことはできないと答えた。
そこで封は、欒氏だった母方ではなく、父方の血縁を探すことを提案した。寿雪の母は妓女であり父親は不明だったが、妓女としての名や所属していた妓家がわかれば、当時の客をたどれる可能性があった。温螢から母の名が鶲玉だと聞いた封は、かつて花街で働いていた伝手を使って調べることになり、温螢と衛青も同行した。
衛青と寿雪の血縁
馬車の中で温螢は、衛青が以前から鶲玉の名を知っていたにもかかわらず黙っていたことを追及した。さらに封が鶲玉について思い出すと、衛青は話を止めようとして封の喉を締めた。
追及された衛青は、自分と寿雪の父親が同じ可能性があることを明かした。しかし確証はなく、寿雪が戻らないほうが高峻のためになるとして、協力を拒もうとした。温螢は、高峻のためという理由ではなく、衛青自身がどうしたいのかを考えるよう問いかけた。
衛青は、自分が迷い続けていた理由と向き合い、寿雪を助けたいと望んでいたことを認めた。もし血縁が本当なら、父母もなく子を持つこともない衛青にとって、寿雪はただ一人の血縁者となる存在だった。
高峻への告白
衛青は花街へ向かう必要はないと決め、馬車を宮城へ戻した。鶲玉のいた妓家はすでになく、父親を確定することは困難だったが、自分が異母兄である可能性に賭けるほかに道はなかった。
内廷へ戻った衛青は高峻の前にひざまずき、これまで黙っていたことがあると涙ながらに告白し始めた。寿雪を救える可能性を知りながら、自分の迷いから目をそむけて高峻に絶望を与えていたことを詫びようとしていた。高峻は問いただすことなく、かつて傷ついた少年だった衛青を迎え入れたときと同じように、その肩へ静かに手を置いた。
冬の咎人
回廊星河の寿雪
寿雪は暗闇の川で目覚め、青白い光の塊が流れていく光景を目にした。そこへ指を失った香薔が現れ、神の宮へ導かれた魂が川で洗われ、巡った末に新たな命として生まれるのだと語った。寿雪は香薔こそ烏と歴代烏妃を縛った張本人だと悟り、怒りのまま彼女を押し倒した。
香薔と晁華
寿雪が烏と烏妃を閉じこめた理由を問うと、香薔は逃がさないためだと当然のように答えた。香薔にとって欒夕こと晁華は、自分を奴隷から救い、名前を与えた何より大切な存在だった。晁華から命じられなくても望みを理解していると思い込み、烏を閉じこめ、指を落として結界を作り、禁術まで用いていた。
香薔は奴隷だった頃、毎日籾米を搗く過酷な生活のなかで、自分にだけ聞こえる烏の声を話し相手としていた。その後、晁華に救われたことで彼だけを絶対的な存在として慕うようになった。晁華が自分を恐れ、鼇の神の御殿を造り、死後の屍を塩漬けにしても、香薔は彼が自分から離れられないと信じていた。禁術によって神々から疎まれた香薔は幽宮にも入れず、回廊星河をさまよい続けていた。
帰れない魂
香薔は寿雪が死んでおらず、魂だけが回廊星河へ来たため、血縁者から呼ばれなければ元の体へ戻れないと告げた。血縁者を失っている寿雪は、香薔のように永遠にさまよう可能性に恐怖した。
さらに香薔は、寿雪が晁華の血を引いていると知ると、共にここにいようと誘った。いつか回廊星河へ晁華の生まれ変わりが流れてきたら見つけ出し、二度と離さないと喜ぶ香薔から、寿雪は逃げ出した。
高峻の呼び声
逃げる寿雪の足元が突然沈み始め、もがくほど深みへ引き込まれた。水中へ沈み、自分の体や名前さえ失いかけた寿雪は、高峻を思い浮かべた。
そのとき暗闇のなかから寿雪を呼ぶ声が聞こえた。聞き覚えのある穏やかな声によって自分の名前を思い出した寿雪は、失われかけていた心と体の感覚を取り戻した。
夜明宮への帰還
寿雪が目覚めると、そこは夜明宮であり、高峻や九九、温螢、淡海、紅翹、衛青がそばにいた。高峻によれば、香薔の結界と禁術を破った際に寿雪の心は体から弾き飛ばされ、その間は烏が寿雪の体を使っていた。烏が術を施し、衛青が協力したことで寿雪は呼び戻されたのである。
寿雪が回廊星河から戻るには血縁者が必要だったことを話すと、衛青は自分の母も妓女であり、母を捨てた男が寿雪の父でもあったと明かした。二人は父親を同じくする兄妹だったため、衛青の呼びかけが寿雪へ届いていた。衛青は兄妹として振る舞うつもりはないと告げ、寿雪もそれに同意した。
烏の半身探し
寿雪は、自分の体を使っていた烏と高峻が対話できたことを知った。高峻は烏に失われた半身を見つけると約束し、その手掛かりを求めて千里と之季を界島へ向かわせていた。
さらに寿雪は、意識を失っている間に銀髪を大勢に見られ、欒氏の生き残りであることが露見したと知らされた。しかし高峻はすでに朝廷をまとめ、寿雪を処罰せず、祭祀を司る新たな使職である祀典使に就けることを決めていた。
途中の対局
寿雪は、千里や行徳、花娘たち、衛青の協力によって自分が守られたことを知り、高峻にも礼を告げようとした。高峻は寿雪だけのためにしたことではないと答えながら、途中になっていた碁の対局を続けようと口にした。
自分自身の望みをほとんど口にしない高峻からの言葉を受け、寿雪は続きをすると答えた。高峻はその返事に、わずかな笑みを浮かべた。
界島の衣斯哈と阿兪拉
界島では、白雷が衣斯哈や阿兪拉と暮らしていた。衣斯哈は海燕子の装束をまとい、薬草を集めて働いていた。一行は海燕子の蛇古族に世話になっており、白雷は以前助けた少年・那它利と再会していた。
衣斯哈と阿兪拉は鰲枝殿から攫われた後、京師近くの川辺で白雷に発見されていた。そこには鼇の神の使いである羽衣もおり、白雷たちに界島へ向かうよう命じたため、三人は海を渡っていた。
鼇の神の命令
鼇の神は阿兪拉を通じ、界島の海に沈んでいるはずの烏の半身を見つけるよう命じていた。失敗すれば阿兪拉と衣斯哈を食らうと脅していたため、衣斯哈は寿雪のもとへ帰ることができなかった。
白雷は、鼇の神が烏の矢によって傷を負い、追い詰められているのではないかと考えた。手負いであるからこそ何をするかわからず、白雷は自分自身も食われかねない危険を感じていた。
海より来りて
高峻との対局
寿雪は高峻と碁を打ちながら、界島へ向かった千里と之季の報告を待っていた。烏の半身は界島周辺の海に沈んでいると考えられていたが、確証はなく、半身である黒刀を海底から探し出せるのは烏だけだった。そのため寿雪自身も界島へ赴く必要があったが、高峻は現地の情報を得てから動くべきだとして慎重に準備を進めていた。
高峻は界島の交易を管理する市舶使・馮若芳が協力者になると話した。一方、寿雪は鼇の神や白雷の動向、行方の知れない衣斯哈を案じていた。
烏との対話
寿雪は自分の立場が今後も不安定であり、そのたびに高峻へ負担をかけることを思っていた。そのとき暗闇から少女のような声が寿雪を呼び、自分の半身が見つかるのかと尋ねた。それは寿雪の内にいる烏の声だった。
寿雪が界島へ半身を探しに行くと答えると、烏は半身へ近づけば自分自身であるため見つけられると告げた。半身を取り戻せば寿雪から離れられることも確認され、寿雪は半身を見つけた後に進む道を選ぼうとした。
境界の島
烏は界島が幽宮と楽宮の境界にある島だと話した。神々にはそれぞれ縄張りがあり、烏は界島より先へ進めず、過去に白鼇と争った際には楽宮の者たちから怒られたこともあった。寿雪は、人間が国を越えて交易できる一方、神々には越えられない境界があることを意外に感じた。
界島の海底火山
界島に到着した千里は、烏漣娘娘の半身が沈んだ際に海や天候へ異変が起こり、それが伝承として残っている可能性を考えた。封の協力を得て界島と対岸の伝承を調べた結果、界島北側の海には海底火山があるらしいことを突き止めた。
海底から大きな貝が泡を吹く、時化でもないのに舟が消える、海水が空まで噴き上がるといった伝承が残されていた。そこへ寿雪から文が届き、招魂した烏妃・序寧も、生まれ育った界島に伝わる海底火山と烏の半身に関係があるのではないかと考えていたことが伝えられた。
千里は自分の調査と序寧の話が一致したことで、半身の所在へ近づいた。さらに、残された魚泳の記録を眺め、魚泳も同じ答えにたどり着きながら、それを明示せずに去ったのだと考えた。
血の鎖
賀州への帰郷
晨は久しぶりに故郷の賀州へ戻った。肥沃な田畑と桑畑が広がる土地には、かつて沙那賣が整備した頑丈な道が通っており、民は今も沙那賣を領主のように敬っていた。晨は屋敷へ向かわず、母の乳母だった浣紗が暮らす山中の家を訪ねた。
浣紗は母の死後も養蚕と機織りを続けており、晨を温かく迎えた。そこへ弟の亘が現れ、父・朝陽が晨を待っているとして連れ戻した。亘は、朝陽より先に浣紗を訪ねた晨を諫め、浣紗が朝陽を悪く言っているとして、今後は近づかないほうがよいと忠告した。
朝陽への報告
晨は高峻から、寿雪が前王朝の遺児であり、朝陽が彼女を危険視していることを知らされ、朝陽の動向を探る密命を受けていた。朝陽は帰宅した晨から、寿雪が処刑を免れて使職を与えられたことや、朝廷の動きを聞き出そうとした。さらに北辺山脈周辺の州院や使院、軍の動向まで尋ねた。
朝陽は寿雪に対する市井の評判を聞いて苛立ちを見せた後、晨に春から吉家の菟女との婚姻を進めると告げた。菟女は朝陽の策に関わって死んだ吉鹿女の娘であり、晨は喪が明けるまで待つよう求めたが、朝陽は認めなかった。さらに朝陽は、晨が京師で自分の意に反する動きをしていたことを把握しており、沙那賣の者として賀州に留まり、妻を娶って暮らすよう命じた。
吉菟女との出会い
屋敷を出た晨は桑畑で若い少女と出会った。少女は晨の前で転び、助け起こされると何も言わず走り去った。亘から、その少女が婚約相手となる吉菟女だと知らされた。
亘は、朝陽が普段になく苛立っていることを気にしていた。晨が自分は朝陽から期待されていないと考えているのに対し、亘は、朝陽が本気なら晨を京師から連れ戻せたはずであり、晨を頼りにしているからこそ報告を聞いているのだと語った。しかし晨は、跡継ぎを巡る噂への不安を拭えなかった。
浣紗の告白
翌日、晨は再び浣紗を訪ねた。浣紗は晨と菟女の縁談を以前から知っており、沙那賣当主の妻としては家臣筋の吉家では家格が低いと噂されていることを明かした。その背景には、晨ではなく亘が次期当主になるという噂があった。
さらに浣紗は、亡き母・小璇が最近この家へ現れるようになったと話した。埋葬時の衣をまとった小璇が柴垣の向こうに立ち、栗や干し柿、柑子を食べ、食べ物がなければ柴垣を壊すというのである。晨は浣紗の話に不安を覚え、孤独から母の姿を見ているのではないかと考えた。
亘の警告
晨が浣紗の様子を亘に相談すると、亘は彼女を信用してはならないと強く警告した。浣紗は小璇が沙那賣へ嫁いだことを不満に思い、朝陽を悪く言っていただけでなく、沙那賣の跡継ぎは晨ではなく亘だと吹聴していたというのである。
さらに亘は、朝陽の命令で北辺山脈へ向かい、現地の部族へ朝陽の意向を伝える役目を負ったことを明かした。自分が跡継ぎなら危険な役目を任されるはずがないとして、次男の自分は捨て駒なのだと語った。そして朝陽は今回の企てについて何かを見誤っており、成功しなければ沙那賣そのものが滅びるとして、晨に沙那賣から離れ、高峻とのつながりを手放さないよう警告した。
晨の出生
晨は亘の言葉を確かめるため、その日の夜に浣紗を問い詰めた。浣紗は、亘が跡継ぎになるという噂を広めていたことを事実上認め、小璇の子を当主にしたかったのだと語った。
さらに浣紗は、晨が小璇の実子ではないと明かした。朝陽には実妹の杳がおり、二人は実の兄妹でありながら愛し合っていたという。杳は朝陽との子を産んで亡くなり、その赤子が晨だった。晨は十月後に小璇の子として扱われ、出生を隠されたまま育てられたのだと浣紗は告げた。
晨はその話を信じず、二度と浣紗のもとへ来ないと告げた。しかし浣紗は、朝陽が晨を正式な跡継ぎに据えるため、吉家の娘を娶らせようとしていることまで明かした。
浣紗の死と朝陽の真実
晨が家を出ようとした瞬間、現れた朝陽が浣紗を刀で刺し、さらに喉を貫いた。朝陽は、浣紗が噂を広めていたことを以前から知っていたが放置していたと語り、火鉢の炭を撒いて家に火を放った。
朝陽の態度から、晨は浣紗が語った出生の秘密が真実だと悟った。朝陽も、これまでもこれからも杳しか愛さないと認めた。杳は沙那賣の末娘が十五歳で死ぬという呪いを避けるための身代わりについて知らされないまま育ち、身代わりとなった養女の死を知ったことで責めを負い、晨を産んだ後に死んでいた。
朝陽は晨を、自分と杳のたった一人の大切な息子であり、ほかの者を跡継ぎにするつもりはないと告げた。それは晨が長く望んでいた父からの言葉だったが、出生の真実とともに与えられたことで、晨は自分が信じてきたものを失い、その場で慟哭した。
沙那賣との決別
夜明け前、浣紗の家は焼け落ちた。晨は、かつて誇りに感じていた沙那賣の道さえ忌まわしく感じながら港へ向かった。高峻への復命も必要であり、二度と賀州へ戻らないと決めて京師を目指した。
三日後、皐州へ到着した晨は、界島付近で海底火山が噴火していることを知った。噴煙が上がり、溶岩が固まって新たな陸地が形成され、灰も対岸まで降っていた。界島への船は止まり、港は避難しようとする人々で混乱していた。
皐州での寿雪との再会
港で立ち尽くしていた晨は、男装した寿雪と偶然出会った。寿雪も界島へ渡れず、皐州刺史の屋敷に滞在していた。寿雪は晨の顔色が悪いことに気づいたが事情を尋ねず、疲れたときは茶を飲むのがよいとして、自分と一緒に来るよう促した。
何も問わずに歩き出した寿雪の背を見た晨は、張り詰めていた感情を揺さぶられ、彼女にすがりたいほどの思いを抱いた。
北辺山脈へ向かう慈恵
羊舌慈恵は塩を積んだ船で北へ向かい、北辺山脈周辺の情報を集めながら落州へ到着した。市場で買い物をしていると、雪国には不向きな衣服と靴を身につけた青年を見かけた。慈恵は北辺山脈へ向かうという青年に、驚牛の毛皮で作った長靴や毛織物、子羊の裘、貂帽などを揃えるよう助言した。
青年は慈恵の知識に感謝し、買い物への同行を求めた。断ろうとした慈恵だったが、青年は自らを賀州の豪族・沙那賣の次男、亘と名乗った。朝陽の命を受けて北辺山脈へ向かっていた亘と、同じ地を目指す羊舌家当主の慈恵がそこで出会った。
同シリーズ
後宮の鳥





https://www.kashiwa1969.online/novel-kokyu-no-karasu-6-review/

同著者のシリーズ
花菱夫妻の退魔帖


その他フィクション

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