物語の概要
本作は、地獄から転生した陰陽師・賀茂一樹が、魑魅魍魎が跋扈する異世界日本で、式神たちと共に妖異を討伐し、魂の浄化を目指すファンタジー小説である。第6巻では、蒼依の昇神の儀から一ヶ月後、荒ラ獅子魔王の配下が日本各地に出現し、A級陰陽師たちが総出で対応するも戦況は膠着状態に陥る。協会は一発逆転の策として、敵本拠地への強襲を発案し、一樹はこれまで契約した式神たちと共に決戦の地へ向かう。
主要キャラクター
- 賀茂一樹:地獄から転生した陰陽師。莫大な神気を持ち、式神たちと共に妖異を討伐する。
- 蒼依:一樹の式神であり、昇神の儀を経てさらなる力を得る。
- 荒ラ獅子魔王:本巻の主要な敵対存在。日本各地に配下を送り込み、戦況を混乱させる。
物語の特徴
本巻では、これまでの短期決戦とは異なり、戦力の充実と準備に焦点を当てた展開が特徴である。羽団扇制作のための素材集めや、各地の妖怪との戦いを通じて、一樹の成長と式神たちとの絆が描かれる。また、ユーモアを交えた日常描写や、ハーレム要素も含まれ、多角的な魅力を持つ作品となっている。
書籍情報
転生陰陽師・賀茂一樹 6~二度と地獄はご免なので、閻魔大王の神気で無双します~
著者:赤野用介 氏
イラスト:hakusai(カバーイラスト)氏、きばとり(口絵・挿絵) 氏
出版社:TOブックス
レーベル:TOブックスノベル
発売日:2025年5月20日
ISBN:9784867945742
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あらすじ・内容
蒼依の昇神の儀から一ヶ月ほど。一樹たちは思わぬ事態に頭を悩ませていた。
突如、荒ラ獅子魔王の配下が日本各地に出現。A級陰陽師総出で対応するも、戦況が膠着状態に陥ってしまっているのだ。
このままでは人間側【こちら】のジリ貧。そう考えた協会が発案した一発逆転の策は……敵本拠地への強襲!?
戦力が分散し本丸が手薄になったのに乗じて、一気に獅子鬼の本体を討滅してしまおうということらしい。
イチかバチかの危険な作戦となるものの、「好機には間違いないか……」と一樹も覚悟を決める。
これまで契約した古今無双の式神たちとともに――いざ決戦の地へ!
総力戦で魔王を討て!
とある陰陽師が地獄から返り咲く無双萬屋、第六弾!
感想
女神の誕生と神使たちの独立的な歩み
物語の前半では、蒼依が正式に「女神」として認定され、その神域が花咲市に形成されたことが印象深い出来事であった。
神格という概念が単なる幻想ではなく、社会や協会の制度によって制度化・承認される様子には、現実と信仰のはざまを垣間見るような面白さがあった。
さらに、彼女を「母」と慕う八咫烏たちが、もはや一樹の呪力に依存せず、信仰による呪力供給で首都圏を自律的に守護し始める展開は、神話的でありながらも非常に合理的であった。
戦力を一手に引き受けていた一樹が、育てた存在に頼らずとも戦線を維持できるようになったことは、単なる強さだけではない「陰陽師としての成熟」を示していると感じた。
決戦の興奮と苦み:奇襲作戦の功と罪
後半の大きな山場である「魔王奇襲作戦」は、まさに命を賭けた一か八かの総力戦であった。
戦力が分散した敵の隙を突いて本体を討つという作戦は、軍事的にも戦略的にも筋が通っており、読み応えがあった。
獅子鬼との戦いでは、建御名方神の登場が熱く、そして重かった。
神でさえ肉体的な限界に抗えず、死を迎える。
その過程において、信君の覚醒、水仙との連携、そして蒼依と一樹による神気の合わせ技と、盛り上がりと緊張が何度も波のように押し寄せてくる。だが、倒すたびに何かが失われる。仲間の犠牲も、精神的な痛手も避けられない。戦力差を覆すという意味では「勝利」だが、それは「削り合い」の果てに立つ不安定な勝利であるという印象を受けた。
蒼依の成長と信仰の可視化
戦後において、蒼依が名実ともに「神」として扱われ、祈りが可視化されて呪力として八咫烏に供給される場面は、まさに神話が現代化されたような感動があった。
東京の高層ビルに神社が建ち、テレビ中継を通して人々が祈る。都市という無機質な空間の中で、神話的な存在がリアルに根付いていく描写は、信仰という抽象的な行為が「効力」を持つ世界観の描写として非常に魅力的である。
“無双”の陰にある葛藤と制約
このシリーズにおける「無双」とは、決して万能で全知全能な状態を指してはいない。
蒼依の神格が上がっても、一樹がA級上位になっても、戦いが終わったわけではなく、むしろ責任と注目が増すばかりである。
八咫烏を無責任に増やすことを拒み、育てる存在としての責任を自覚する一樹の姿に、戦力では測れない“重さ”を感じた。
また、仲間との信頼や喪失の痛みが、力の裏側にある人間性を際立たせていた点も心に残る。
読後の余韻と期待
蒼依の昇神から魔王討伐、そして八咫烏たちの活躍まで、ひとつの区切りとして完成された一冊であったが、物語はまだ終わっていない。
天竜魔王や白黒無常など、残された敵はなお健在であり、戦いの火種は尽きていない。
一樹が抱く「今度こそ圧勝を」という言葉は、勝利の先にある「安定」や「日常」の希求でもあると感じた。
次巻では、果たしてその願いが報われるのか。
それともまた、何かが失われていくのか。
期待と不安がないまぜになった、不思議な読後感が胸に残った。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
第六章 彼誰時
第一話 新たな A級陰陽師
恐山の天竜魔王と魔王陣営の動き
青森県の霊場・恐山では、荒ラ獅子魔王からの贈り物として霊亀が天竜魔王に献上された。霊亀に込められた呪力はA級相当であったが、S級復活には不十分であった。天竜魔王は贈り物の意義を評価しつつも、荒ラ獅子魔王の余裕のなさを指摘した。その後、天竜魔王は飛天夜叉の派遣を決定し、自身の配下の復活と各地への進出を明言した。
花咲市に誕生した新たな霊場と蒼依の神格化
花咲市の山間部では、かつて呪われた地に相川蒼依が神格を得て神域を形成した。一樹の申告により、陰陽師協会の高位者と神格を持つ高照光姫が蒼依の神域を訪問した。蒼依は正式に神として認定され、神々と社会からの承認を受けた。高照光姫は自らがイザナミの曾孫であると明かし、日本神話の神格構造を一樹と蒼依に詳しく説明した。
花咲小太郎のA級昇格と順位付け
犬神を継承した花咲小太郎がA級陰陽師としての順位付けを受けることとなり、神奈川県西部を対象とした大規模な作戦が展開された。一樹は自身の経験を踏まえ、過度な公開に懸念を抱いたが、プロモーションとしての意義が語られた。小太郎の式神・犬神は圧倒的な戦力を持ち、地域全体に影響力を及ぼせることが示された。
荒ラ獅子魔王の再進出と作戦の本格始動
荒ラ獅子魔王の煙鬼は、相模原や山梨など広範囲に展開可能であり、花咲の犬神と同等の制圧力を有していた。中国から来た魔王である荒ラ獅子魔王は、より強力な犬神に匹敵する力を持つ存在を従えた可能性が示唆された。一樹と小太郎は協力して作戦に臨み、犬神の投入によって煙鬼の討伐を開始した。
地獄から戻った陰陽師の活動再開
賀茂一樹は、荒ラ獅子魔王との戦いで負傷した式神たちの回復を図るべく、戦線からの一時離脱を選んだ。魔王との決戦に備えるため、戦力の補充と準備を進める必要があった。
犬神の大規模展開と煙鬼の掃討
花咲小太郎が率いる犬神が、神奈川県の相模川河口から大磯町にかけて出現し、煙鬼の掃討を実施した。一〇〇〇体に分霊された犬神は、分霊ゆえにD級に落ちていたが、煙鬼に対しては圧倒的な優位を保っていた。分霊個体でも、霊体である煙鬼を嗅覚と脚力で捉えて討滅できたため、煙鬼は逃げ場を失った。
専門家の解説による評価
テレビ局のスタジオでは、元C級陰陽師の大崎が登場し、犬神の分霊と性能に関して解説を行った。犬神の圧倒的な戦果について、「神社の分霊に似た原理によるものであり、D級でも能力差によって十分に機能する」と評価された。煙鬼は復活の可能性があるものの、復活場所が限定されるため、前線を押し上げる効果は高いとされた。
花咲小太郎のA級昇格
この掃討戦の戦果をもって、花咲小太郎はA級七位に昇格した。彼が使役する犬神は、荒ラ獅子魔王の式神である煙鬼を各地で撃破し、神奈川県南部の広範囲に安全圏を確保した。これにより、魔王の実効支配地域は大幅に縮小された。
陰陽師界の評価と序列
掲示板では、犬神の活躍に対する賞賛とともに、上位A級陰陽師との比較が行われた。比叡山を解放した六位や、癖のある陰陽師を束ねる五位に比べても、小太郎の活躍は「頭おかしい(=異常なレベル)」と評された。陰陽師の力量と貢献は、呪力のみならず、式神の性能や作戦遂行能力でも測られていた。
犬神による地域の奪還と人類の前進
犬神は神奈川県を南から北へと駆け抜け、厚木市や二宮町まで到達した。その通過地域では、煙鬼が一掃され、人類の生活圏が取り戻された。最終的にこの作戦は、魔王の勢力圏を御殿場市を中心とした半径六〇キロから、二〇キロにまで押し下げる成果を収めた。
第二話 陰陽同好会チャンネル
香苗の活動支援とYouTuboチャンネル開設
一樹は陰陽同好会の一環として、香苗の音楽活動を支援するためにYouTuboチャンネルを開設した。これは香苗が自身の存在を社会に認めてもらいたいという承認欲求に基づくものであった。チャンネル開設に際しては世間の情勢と批判のリスクも考慮されたが、高校の部活動の延長であることを強調することで、批判を回避できると判断された。
紹介動画のバズとSNS戦略の展開
陰陽同好会が作成した紹介動画は、YouTuboに投稿された直後に急速に拡散され、再生回数は20万を超えた。香苗のTwittorも連動して注目を集め、フォロワー数が急増した。一樹は香苗に、早い段階で男性と写った写真を投稿し、いわゆる「ガチ恋勢」の発生を予防するよう助言した。
集合写真の投稿と予想外の反響
香苗は一樹ら同好会メンバーと撮った集合写真をTwittorに投稿し、それが予想以上の反響を呼んだ。陰陽師としてのメンバー構成や実績が注目され、写真は短期間で爆発的に拡散された。これにより、ファン層の制約を受けにくくなり、今後の活動の自由度が増した。
香苗の音楽活動に向けた戦略転換
拡散された集合写真によって、Twittorが陰陽同好会の宣伝媒体のようになってしまう懸念が生まれた。香苗が音楽活動を進めるため、一樹は過去に豊川稲荷で撮影された歌唱奉納の動画を公開する案を提示した。これは香苗の能力が陰陽師としての鍛錬の一環であると示すことで、音楽活動の正当性を確保するためであった。
豊川稲荷の動画と正当性の確立
香苗が豊川稲荷で行った歌唱奉納は、彼女の霊力を高める重要な儀式であり、その様子を収めた動画には、豊川本人の解説も含まれていた。この動画を公開することで、香苗の芸能活動が陰陽師としての活動の一部であると広く認識させる狙いがあった。最終的には、香苗が豊川と一緒に写真を撮影し、それをTwittorに投稿することで、動画の正当性と信頼性を補強する方針が採られた。
豊川稲荷での歌唱奉納と霊狐達との交流
霊狐塚での奉納演奏
愛知県豊川市の豊川稲荷にある霊狐塚にて、少女・香苗がギターで歌唱奉納を行っていた。観客は石像に宿る千体の霊狐であり、彼らは百年以上、あるいは五百年以上を生きた格の高い存在であった。香苗の演奏には真摯な気持ちと妖狐としての気が込められており、その姿は自然と霊狐達の心を打った。一樹の懸念とは裏腹に、霊狐達は既にギターに馴染んでおり、過去の打ち上げや良房の主導による遊興で接していたことが明らかとなった。
良房と香苗の関係
白面の三尾・良房は、自身の石像を香苗の立ち位置に指定するほど関心を寄せており、香苗の歌を特等席で楽しんでいた。香苗の奉納が終わると良房は賞賛を送り、音楽と巫女の資質を併せ持つ香苗の将来性を高く評価した。さらに、歌唱奉納が継続されれば霊狐達からの協力を得やすくなると助言した。香苗は当初、音楽活動が主目的で陰陽師の道は本意ではなかったが、良房の助言に応じて奉納を継続することを決意した。
記録と世間への発信
この日の歌唱奉納の様子は、水仙によって記録され、写真や動画としてTwittorに投稿された。香苗はガチ恋勢の回避や陰陽師批判の抑止のために、同好会の一環として投稿しており、豊川の承認を得た奉納であることが世間への説得力を持った。特に、豊川が香苗の頭を撫でる様子は、承認の象徴として活用できる重要な映像となった。
バンド活動における課題
豊川は香苗に対し、今後も一人で活動を続けるのかを尋ねた。香苗は共に演奏する仲間を見つけたいと語ったが、対等な関係で実力に極端な差があると、対立が生じやすいと一樹は説明した。香苗の人気や技量が突出していることで、他のメンバーが不満を抱く構造になりやすいとの懸念が示された。
妖怪とのバンド構想
こうした問題に対し、豊川は香苗が歌や演奏が可能な妖怪を使役する案を提示した。人間ではなく妖怪をメンバーとすることで、実力差による不満や報酬格差の問題を回避しつつ、香苗が音楽活動を続けられる環境を整える意図があった。香苗はその提案を受け、可能性として受け入れ始めた。豊川の提案は、香苗の音楽活動に新たな道を示すものとなった。
第三話 音楽系陰陽師
但馬海域の妖怪探しと霊狐ネットワーク
香苗と一樹は、豊川の提案を受け、兵庫県の但馬海岸沖に位置する「ななかます」へと向かった。目的は、バンド活動に加わる音楽系妖怪の探索である。音楽に秀でた妖怪の情報は、豊川稲荷に集う霊狐達からもたらされた。彼らは各地の伝承や体験を蓄積しており、全国規模の情報網、通称「キツネット」として機能していた。この情報網により、香苗の呪力に見合ったD級妖怪の候補として「ナナカマス」の存在が浮上した。
姫の亡霊との邂逅と正体の確認
ナナカマスとは、竹野町奥須井に伝わる海に棲む姫の地縛霊であった。彼女は四国・伊予から訪れ、地元の若者の悪戯で海難事故に遭い命を落としたという。亡霊は怨念を抱き、長らく海に留まり続けていた。香苗と一樹は現地で姫の霊と遭遇し、彼女が伊予松山藩主・松平定頼の五女であり、徳川家康の血を引く高貴な出自であることを知った。
使役契約と帰郷の条件
姫は故郷へ帰りたいという願いを持っており、それを条件に香苗の式神としての使役を了承した。香苗は地縛からの解放と引き換えに、姫の新たな名を「菜々花」として授けた。菜々花は帰郷を果たすまでの間、現代の生活を観察し、松山城を訪れたのち、香苗の与力となる覚悟を決めた。
琴姫探しと音楽系妖怪の検証
次に一行は、島根県大田市の琴ヶ浜に赴き、音楽を司る妖怪「琴姫」の探索を開始した。琴姫は壇ノ浦の戦いに敗れた平氏の姫が浜に流れ着いたという伝承に基づく霊であった。彼女は琴の名手であり、死後に琴ヶ浜の砂が音を奏でるようになったことで、人々に慕われた存在である。平安貴族の教養を持ち、源平合戦を背景にした出自が推測された。
貴族文化と時代観のすれ違い
琴姫の出自や文化的背景を語る中で、香苗と菜々花の間に歴史認識や価値観の相違が表出した。特に一夫多妻制に関する考え方をめぐって対立が起こり、江戸時代と現代の女性観の違いが浮き彫りとなった。これに対し、一樹は中立を保ちつつ、状況の収拾に努めた。
琴姫の顕現と新たな式神候補の出現
香苗たちが琴姫の過去や平氏の末路について語るうち、霊的な反応が高まり、琴姫と目される霊体が姿を現した。彼女は平安の姫らしい気品と教養を備えており、菜々花と同様に式神として香苗のバンド活動に加わる可能性が示唆された。琴姫もまた、自らの存在に意味を求め、後の展開へと繋がっていった。
音楽活動を通じた価値観の対立と式神たちの躍進
陰陽同好会の音楽室設立と香苗の不機嫌
花咲学園では、陰陽同好会の活動が拡大し、新たにR棟7階のA室が仮の音楽室として提供された。香苗はその部屋で音楽の練習を続けていたが、不機嫌な様子を見せていた。その原因は、香苗と式神である菜々花・琴里との間に存在する、時代や価値観の相違による対立であった。
一夫一妻制をめぐる議論と沙羅の見解
香苗は妖狐として一夫一妻制を支持しており、対して江戸や平安の姫である式神達は多妻制に肯定的な立場を取っていた。一樹は時代背景による違いとして捉えていたが、沙羅は現代でも高呪力者の子孫を増やすことは合理的とし、多妻制の有効性を主張した。これにより、種の保存と社会的利益の観点から多様な意見が交錯した。
高呪力者の繁殖戦略と教育の問題
一樹は仮定として高呪力者が多数の子を持った場合の社会的利益を想定したが、それに伴う教育資源の不足という問題も認識していた。才能ある子供を量産しても、教育が追いつかなければ妖怪の餌にしかならないという指摘がなされた。実際、香苗の支持者や式神たちの間でもこの点に関する賛否が分かれた。
式神による音楽表現の極致
菜々花と琴里は、冬をテーマとした曲の練習に取り組み、琴里の演奏と菜々花の歌唱によって、音楽は情景描写の域に達していた。八百年の演奏歴を持つ琴里と、三百年の歌唱経験を持つ菜々花が紡ぎ出す音は、人々の記憶や情感を超え、季節と人間の営みを深く表現していた。一樹はその演奏に圧倒され、現代音楽を超越する芸術性を実感した。
演奏動画の拡散と世界的評価
香苗が公開した演奏動画は、SNSや動画サイトで急速に拡散され、再生回数は5,000万回を超えた。式神たちの背景や歴史も相まって、国内外から絶賛され、「人間では到達できない次元の表現」とまで評された。演奏の完成度と霊的な深みが融合した作品は、リスナーを深く魅了し、SNS上でも多くの賞賛と分析が飛び交った。
愛人制度を巡る騒動と香苗の意志表明
演奏の評価とは別に、香苗はSNS上で「上級陰陽師が愛人を持つこと」に関するアンケートを投稿し、議論を巻き起こした。結果は圧倒的に「持ってもよい」が支持されたが、香苗自身は「清き一票」の強調や設問順などから反対の意志を表していたと解釈された。この行動は、陰陽師界やファンの間で波紋を広げる結果となった。
第四話 各地の異変
陰陽師協会の予算会議と東京霊障対策
常任理事会の概要と決議構造
陰陽師協会の常任理事会は年2回開かれ、予算と人事を主に審議する。出席者は最大8名で、うち会長と副会長、3人の上位A級が含まれる。意見が分かれても、上位A級の3票で方向が決まる場合が多く、協会の不文律に従えば、上位者の意見が優先される構造であった。魔王出現時の臨時理事会では、この構造を活かし迅速な対応が行われた。
魔王対策と予算の赤字
協会の2024年度予算は、護符販売による収入増を見込む一方で、魔王対策費により大幅な赤字を計上していた。政府から一部補填の申し出があったが、過去に起きたS級妖怪・蜃の対応失敗と、その結果としての殉職事例を教訓に、宇賀は強く反対し、政府の介入を拒絶した。魔王対策は協会の独立した判断によって継続され、赤字予算案は承認された。
B級陰陽師の昇格と紫苑の評価
魔王対策に伴い、B級陰陽師の配置拡充が急務となり、全国でC級上位の者が昇格した。今回の審議では、五鬼童家出身の紫苑がB級に推薦され、その術力と実績により全会一致で昇格が決定された。彼女は典型的な五鬼童家の才能を備え、特別な装備である羽団扇と家伝の術によって戦闘能力が補強されていた。
中国系妖怪の出現と対策の必要性
全国で中国系の妖怪が霊障を引き起こしており、その多くは魔王によって召喚された可能性が高かった。中には『山 』のような古代中国由来の妖怪も含まれ、人間の気を吸うことで魔王に力を供給していた。協会はこれらの脅威に迅速な対応を迫られ、対応者リストには賀茂一樹の名も記されていた。
東京天空櫓と蒼依姫命の神社建立
東京都心に霊障が発生し、協会は東京天空櫓の高層部に、女神・蒼依姫命を祀る神社を建立した。目的は二つあり、八咫烏による首都圏の霊障対策と、蒼依の神格向上の実績作りである。飛行可能で感知能力に優れた八咫烏は、密集した都市で発生する走無常に対抗できる存在として期待された。
八咫烏の運用と蒼依の神格向上
八咫烏は、賀茂一樹と蒼依が育てた神使であり、閻魔大王の神気、龍気、天津鰐の力を得ていた。そのため、走無常の捜索と祓いにおいて圧倒的な優位性を持っていた。八咫烏は神社に集まる信仰の気を受けて活動でき、神社の設置により首都圏全域から安定した呪力供給が見込まれた。
勾玉による霊物の奉納と神社の機能補完
神社に気を集めるため、かつて槐の邪神討伐時に入手した五つの翡翠の勾玉が奉納された。これらは蒼依の神域構築訓練や五鬼王の調伏にも使われた霊物であり、霊的媒介として高い価値を持っていた。勾玉が神物として機能するかは未知数であったが、蒼依の神格向上に資するならば惜しくないと一樹は判断した。
東京天空櫓と八咫烏による霊障対策の進展
神社への信仰と八咫烏の活動報道
12月の東京では、東京天空櫓に祈りを捧げる市民の姿が日常の風景となっていた。神社の建立は霊障対策の一環であり、死神の使いである走無常が出現した首都圏での被害を受けての措置であった。陰陽師協会は女神の名を秘したまま、神使である八咫烏を派遣し、各地の霊障に対応していた。テレビ中継では八咫烏が小鬼を駆逐する姿が放映され、彼らの活躍が都民の信仰を集めていた。
東京天空櫓での現地取材と賀茂一樹の対応
東京天空櫓の地上497メートル地点で、テレビ局のリポーターによる現地取材が行われた。賀茂一樹は唯一の対応者として取材に応じ、八咫烏の行動や霊障対応について説明した。八咫烏は感知力と記憶力に優れ、判断に迷う際は一樹に確認を取り、100%の精度で対象を判別していた。その能力は、花咲市と周辺市町村で既に証明済であり、都内でも同様の成果が期待された。
女神への信仰と呪力供給の仕組み
神社に祈りを捧げたリポーターの姿が全国放送されると、社が淡く輝き、八咫烏たちに呪力が供給される様子が可視化された。神社は都民の祈りを集め、八咫烏に呪力を与える媒介となっていた。八咫烏は女神・蒼依姫命の神使として、神気による調伏と祓いの活動を担っていた。
陰陽師協会東京都支部と九条家の接触
一樹は東京都支部を訪れ、九条家の当主で陰陽長官である九条道康、統括の道直、次代候補の茉莉花と面会した。東京に出現する走無常の処理状況を尋ねられた一樹は、二三区を含む範囲で祓ったこと、八咫烏の識別精度の高さなどを報告した。九条家はその能力に深い敬意を示し、特異な神気と技術がなければ八咫烏の再現は不可能と理解した。
東京都における陰陽師の職域と競合問題
八咫烏の活動によって東京都内のC級妖怪が狩り尽くされたため、陰陽師の昇格に必要な実戦機会が著しく減少していた。特にC級である茉莉花は、B級昇格に必要な実績を積む場を失っていた。これに対し九条家は、他家に借りを作らずに茉莉花を成長させるため、花咲高校への進学を視野に入れていた。
花咲高校進学と陰陽同好会の影響力
花咲高校は賀茂一樹をはじめ、花咲家・五鬼童家の指導を受けられる場として陰陽師志望の生徒に注目されていた。同好会に属する者は上位陰陽師との繋がりを得られ、将来のアドバンテージとなるため、志願者が激増していた。九条茉莉花も同高校への進学を検討しており、一樹はそれを受け入れる形となった。
賀茂家との将来的な縁組の打診
会話の終盤、長官は賀茂家と九条家の将来的な縁組を持ちかけた。一樹は自身や子孫を含む将来的な話としてその意図を理解し、可能性を否定しない姿勢を見せた。茉莉花は香苗への敬意を表しつつ、一樹に対する肯定的な感情を述べた。だが一樹は、愛人制度を肯定する立場ではなく、九条家の思惑には慎重な姿勢を保っていた。
第五話 逆転の発想
玄武による異変の感知と無常鬼出現の兆候
玄武の夜間活動と気の判別基準
東京の天空社を拠点に、八咫烏の一羽・玄武は夜間に霊障の感知と調伏を行っていた。彼は視界を切り替えて、気の光の大小や性質を判断し、他者の気を吸っている存在を調伏対象と見なしていた。玄武は都市を巡りながら神気の霧雨を降らせ、霊的穢れを浄化していった。
兄弟間の性格差と以心伝心の連携
八咫烏五羽は一樹のイメージに基づいて育てられ、それぞれ性格や得意分野が異なっていた。狩りが得意な青龍らと異なり、玄武は穏やかで慎重な性格であり、異常を発見すると一樹に即座に報告した。以心伝心により危険を伝えた玄武の報告を受けた一樹は、全機撤退を指示した。
異常呪力の発見と無常鬼出現の予測
玄武が感知した異様な光と闇の塊から、一樹は無常鬼の出現を確信した。白黒一対の存在は、中国の死神伝承に登場する白黒無常である可能性が高く、その呪力はA級中位と推定された。彼は玄武から得た情報をもとに、夜間にもかかわらず宇賀に報告を行った。
無常鬼の由来と能力に対する考察
一樹は宇賀との電話で、無常鬼の由来が中国の歴史的死神にあること、また現代において彼らが魔王陣営と接点を持ち得る存在であることを推測した。無常鬼が独立個体である場合、呪力や戦闘能力において分霊式神よりも脅威となりうると判断された。
陰陽師協会の戦力不足と戦術判断
協会は魔王対策と同時にA級妖怪への対応も行っており、戦力に余裕がなかった。宇賀は一樹に直接戦闘を避け、式神による遠隔戦を命じた。一樹は呪力量に余裕があるものの、無常鬼との正面衝突を避け、追い返す程度の対応にとどめる方針を取った。
作戦準備と神域内での戦術展開
土曜日の夜、一樹と義一郎は天空の社から出撃し、蒼依の神域内で式神を顕現させた。八咫烏の導きのもと、無常鬼の出現地である千葉県松戸市の霊園に向かった。そこは死霊の溜まり場であり、無常鬼にとって有利な環境であった。
無常鬼との邂逅と水仙の血統確認
顕現した白黒無常は、式神である水仙に注目し、彼女の血統について問いかけた。水仙は自らが悪魔の孫であり、母方に死神を持つことを告白した。これにより白黒無常は彼女が孫にあたる存在であることを確認し、戦闘を回避する選択を取った。
白黒無常の撤退と目的の明示
無常鬼たちは、霊園での戦闘が目的ではなく、呪力の収集が目的であることを明かし、戦力の無駄遣いを避けるために撤退した。一樹は状況の制御には成功したが、魔王陣営の戦略として絡新婦との交配による悪魔の増加が示唆され、戦力分散の懸念を抱いた。
妖怪たちの脅威と陰陽師協会の戦術的転換
各地に出現したA級妖怪の脅威と協会の限界
白黒無常との遭遇から四日後、奈良県の協会本部に常任理事全員が参集した。宇賀副会長の要請により協議が開始され、A級妖怪の「山」、「猿」、「白黒無常」およびS級の魔王・羅刹によって、協会の戦力が圧倒的に劣勢にあることが確認された。協会は刺し違えるような戦いを避け、安全に戦力を分散させる方針を採っていたが、それすら困難な情勢であった。
妖怪「山」と「猿」への対応状況
「山」は木に乗り移る巨人の妖怪であり、撃退が困難であった。五鬼童家と春日家の協力により霊毒を撒いて対応したが、削り合いに終始していた。一方、「猿」は女性を攫う中国由来の妖怪で、豊川稲荷の霊狐達との争いが継続中であった。豊川が激昂するほど手を焼いており、早期解決の見通しは立っていなかった。
白黒無常の動向と神社展開の限界
白黒無常は首都圏から福岡県へ移動し、走無常の痕跡も確認された。協会は追跡と神社建立を繰り返す対応を試みたが、次々と移動されるため追随が困難であった。信仰の構築や常駐の八咫烏の不足も障害となり、対応を断念する判断が下された。
協会が確保可能な防衛範囲と神仏の加護の限界
協会が常時守れるのは、御所市、豊川市、花咲市、首都圏に限られていた。御所市は高照光姫大神命の神域であり、神仏が妖怪には反応するが、人間には冷淡であった。結果として、協会の防衛可能範囲は極めて限定的であった。
八咫烏の増産提案と一樹の拒否
向井は八咫烏を増産し、全国に分散配備する提案を行ったが、一樹は断った。理由は育成の手間と統制の困難、そして死なせる精神的負担であった。八咫烏達を無責任に増やし、蒼依を悲しませたくないという一樹の強い意志が背景にあった。
自然繁殖と今後の八咫烏の扱い
自然に増えた八咫烏に関しては容認する姿勢を見せたが、式神にする予定はなかった。一樹は五羽の八咫烏を賀茂家の氏神とすることを期待し、有限な労力をその育成に集中させるべきと考えていた。
魔王強襲作戦の発動
宇賀の提案により、魔王の本体を奇襲する作戦が立案された。魔王は右腕を損傷しており、回復前に打撃を与える好機と判断された。配下が各地に分散した今こそが最大の好機であり、協会は少数精鋭による奇襲を決定した。
作戦参加者の構成と車内のやり取り
一樹、小太郎、晴也、蒼依、沙羅、堀河、そしてキヨが作戦に参加し、御殿場へ移動していた。車内では過去の出来事や蒼依の正体が話題となり、参加者間の絆と信頼が確認された。キヨの力に期待した協会は、彼女と晴也を厚遇していた。
霊狐隊の進軍と各家の戦力展開
豊川は一〇〇〇体の霊狐を召喚し、御殿場を包囲するように展開させた。五鬼童家と春日家もB級陰陽師を出し、前線に加わった。第一陣を霊狐隊とし、各地からA級陰陽師たちが包囲網を形成した。
魔王出現と羅刹・夜叉の確認
霧を晴らす攻撃の結果、御殿場駅付近に獅子鬼(魔王)が現れ、その傍らには羅刹と未知の藍色の鬼が出現した。観測により藍色の鬼は夜叉であり、呪力は羅刹と同等と確認された。
戦力評価と作戦続行の判断
戦力の再評価が行われたが、犬神・白蛇・赤牛・キヨらの協力により、夜叉との戦いは可能と判断された。協会長の指示により、作戦は継続となり、進撃が開始された。
突入直前の召喚と展開の加速
一樹は式神たちを召喚し、犬神、赤牛、キヨらが続々と戦列に加わった。霊狐とA級陰陽師達も攻勢を開始し、魔王側の三体の鬼に迫っていった。
魔王の奇襲と隔離空間への突入
獅子鬼は蜃を振り回して投擲し、それに羅刹と夜叉が続いた。蜃気楼の領域が発生し、一樹達の周囲は隔離された空間に包まれた。突如として、魔王側が後衛部隊を狙って突入してきたのである。
第六話 彼誰時
羅刹と夜叉の撃破戦闘と一樹側の反撃展開
蜃の落下と八咫烏の迎撃
空中から落とされた蜃が羅刹と夜叉により操られながら迫る中、八咫烏は五行術を発動して迎撃を行った。攻撃は蜃や羅刹に幾重にも突き刺さり、重傷を負わせたが、完全な撃墜には至らなかった。一樹は、狙いを羅刹か夜叉に絞るべきだったと後悔した。
各戦力への指示と魔王の狙い
蜃の落下地点が迫る中、一樹は羅刹に小太郎と堀河を、夜叉に晴也・蒼依・沙羅を、魔王に他の陰陽師を割り当てた。魔王の真の目的が後続部隊の撃破であると見抜いた一樹は、時間稼ぎと主力合流を目指し、式神たちを分配した。
鬼市への隔離と建御名方神の登場
蜃が煙を吐き、戦場は霊的に隔離された「鬼市」となった。そこへ割って入ったのは、日本神話の神格を宿す諏訪(建御名方神)であり、巨大な身体で獅子鬼に突撃。地に叩きつけられた獅子鬼に対し、式神たちが援護に動き出した。
犬神と羅刹の激突と堀河の決死
犬神は飛行中の羅刹に食らいつき、地上に引き摺り下ろした。続けて堀河の式神・赤牛も突進し、羅刹に傷を負わせた。堀河は命を削って呪力を供給し、羅刹の腹に赤牛の角が突き刺さる。羅刹は怒りと苦悶を抱えながらも、犬神との激戦に突入した。
犬神の戦意と赤牛との連携
犬神は格下と見なされたことに怒り、羅刹に再び食らいついた。そこに赤牛が突進し、斧で迎撃する羅刹に対して犬神が背後から首筋を噛み付いた。連携により羅刹の動きを封じ、最終的に羅刹は犬神によって動かぬ存在となった。
夜叉の戦術転換と蒼依への狙い
夜叉は戦場における優位性を見極め、戦力の薄い蒼依を狙って突撃を開始した。だが、突如として巨大な白蛇・キヨが立ちはだかり、夜叉に火炎を浴びせて撃墜した。そこから白熱の肉弾戦が始まった。
八咫烏の援護と三者連携の包囲網
地に落ちた夜叉に対し、キヨ、蒼依、八咫烏たちが連携して攻撃を加えた。さらに上空から沙羅が羽団扇を用いた奇襲を敢行し、夜叉に火炎と毒を叩き込んだ。天沼矛による蒼依の突きと、キヨの締め付けによって夜叉は追い詰められた。
夜叉の最期と反撃完了の兆し
天沼矛の連撃と毒による追撃で、夜叉の抵抗力は失われ、力尽きていった。羅刹と夜叉という二体の鬼神を撃破したことで、一樹側の戦局は一時的に有利となった。だが、魔王との本格戦闘は未だ続いていた。
獅子鬼との死闘と魔王討伐の結末
建御名方神と獅子鬼の激突
陰陽師たちが羅刹・夜叉と交戦する中、建御名方神と獅子鬼も激しく戦っていた。獅子鬼は周囲の式神たちの攻撃を物ともせず、建御名方神に集中して力をぶつけていた。牛太郎や水仙、信君らが支援に入るも、獅子鬼の呪力と力の差は歴然としており、戦局は厳しい状況に陥っていた。
信君の覚醒と連携攻撃の開始
信君は水仙の働きかけにより、一樹への忠誠を明確にし、神気を刀『鳴神兼定』に籠めた。風神と雷神の力を宿したその刀により、獅子鬼に深手を負わせることに成功した。水仙はその傷口に毒を流し込み、神気と穢れを併せ持つ一連の攻撃が獅子鬼に有効打となった。
建御名方神と獅子鬼の応酬と神の矛盾
獅子鬼は建御名方神の肉体が人間であることを見抜き、彼を「人を喰う神」と罵倒した。建御名方神は子孫に神魂を宿すという形で顕現しており、その代償として肉体の負荷は極限に達していた。獅子鬼は神としての矛盾を突き、建御名方神の身体を噛み砕くことで優位を得た。
全戦力の投入と獅子鬼の追い詰め
戦況を見た一樹は、蒼依や沙羅、八咫烏たちに加勢を命じた。牛太郎や信君、水仙らも連携して獅子鬼に集中攻撃を加え、神気を帯びた武器や毒、五行の矢などで追い込んだ。一樹は隠形を解き、自ら呪詛を発動して獅子鬼の足を拘束、決定的な一手を放つ準備を整えた。
蒼依と一樹による祓いの一撃
蒼依が天沼矛を獅子鬼の首に突き刺し、『蒼依姫命の祓』を発動。続けて一樹の宿す閻魔大王の神気を『閻魔大王の祓』として注ぎ込んだ。神仏の力に晒された獅子鬼は力を失い、蒼依と一樹の連携により完全に討ち果たされた。
魔王討伐後の余波と天竜魔王の計略
夜叉は討たれたのち、使役者である天竜魔王のもとに強制帰還した。天竜魔王は魔王の敗北に動じず、烈風魔王の復活計画を進めようとしていた。荒ラ獅子魔王の敗北から得られた教訓をもとに、より強大な存在を復活させる意図が明かされた。
世間への発表と蒼依の神格上昇
十二月十六日、陰陽師協会は魔王および大魔の討伐成功を公表。殉職者として諏訪と堀河の名が挙がった一方、蒼依は魔王への止めを刺したことで神格をA級上位相当へと昇格させたとされた。協会は蒼依が女神であることを秘しつつも、画像や動画を証拠として残していた。
蒼依と一樹の日常と勾玉の変化
花咲市に戻った蒼依と一樹は、八咫烏たちの活発さと報道対応の煩雑さに直面していた。戦いに使われた五つの勾玉は信仰と神話によって神物へと変質し、A級中位相当の呪力を蓄える存在となった。これにより、八咫烏の天空櫓への派遣も終了した。
残党への備えと一樹の決意
魔王は討たれたが、無常鬼などのA級妖怪は依然として各地に潜伏していた。一樹は次なる戦いに備え、今度こそ圧勝を目指す決意を新たにした。戦いの記憶と神々の意志を胸に、彼の戦いはまだ終わっていなかった。
書き下ろし番外編 由良の浜姫
文化祭の礼と冬休みの巡視船旅行計画
陽鞠へのお礼と巡視船による計画立案
魔王討伐後、一樹は冬休みの時間を使い、陽鞠への文化祭の礼として幽霊巡視船でのクルージングを提案した。幽霊巡視船は自前で用意可能な最上級のもてなしであり、その希少性と居住性を踏まえ、特別な贈り物として位置づけられた。
芹那と姚音、綾華の同行調整
姚音は一樹の管理下にあり問題なかったが、名家出身の槇村芹那と綾華の参加には調整が必要であった。芹那には京都府の統括陰陽師の家柄が関係しており、保護者同伴が不可欠であったため、京都の妖怪調伏を口実に槇村家への許可申請が行われた。綾華については、離別した母親との確執が障害となっていた。
伏原家祖父母との交渉と承諾
冬休みの機を捉え、一樹は元母親の不在を利用して祖父母へ連絡を取り、綾華を旅行に同行させるための協力を求めた。祖父母は伏原家の名誉を高めた一樹の功績を評価し、快く協力を申し出た。祖父の会社に勤める母親を業務で拘束する形で、綾華を連れ出す計画が成立した。
舞鶴港での出航と乗船者の反応
旅行当日、一行は京都府舞鶴市の舞鶴港から出港した。美しい景観に感動した姚音や綾華が巡視船の設備と景色を楽しむ中、陽鞠は祖父への進学意欲を積極的にアピールした。陽鞠の成績は楓の身体の知識を活用しており、卿華女学院でも優秀な成績を維持していた。
陽鞠の態度と一樹の困惑
陽鞠は成績と意志を示しながら、一樹への好意を匂わせた発言を行い、祖父の笑みを誘った。一方で一樹は冷静さを保ちながらも困惑を隠せず、話題を芹那との会話に切り替えた。
舞鶴の由良の浜姫討伐作戦の開始
槇村芹那を同行させるため、一樹は京都府舞鶴市の妖怪「由良の浜姫」の調伏任務を遂行する計画を進めた。浜姫は過去の逸話通り、美しい姿と魅了能力を用いて人を誘う妖怪であった。魅了された者が既知の手口でも抗えないことにより、由良の浜は未だに浜姫の領域となっていた。
幽霊巡視船による囮と戦術展開
幽霊巡視船員が浜姫に手紙を受け取り、誘導を演出した後、艦上からの四〇ミリ機関砲によって浜姫を砲撃した。妖怪の領域であるがゆえに維持はしないが、討伐は可能であり、今回は芹那同行の口実としてその実行に踏み切った。
芹那の反応と一樹の態度
妖怪の様式美をあっさりと砲撃で処理した様子に芹那は呆れたが、一樹は閻魔大王の神気を持つ者として、その理不尽を受け入れるような態度を見せた。
金成太郎
魔王調伏後の報告と金成太郎の怨霊討伐
宮城支部への礼訪と絡新婦討伐の報酬判断
魔王を討伐した一樹は、蒼依の昇神に必要な情報を提供した宮城支部の前統括・前庭を訪ねた。蒼依と八咫烏が賀茂家の氏神となる見通しが立つ中、一樹はその対価として、前庭の要請で千年生きた絡新婦を討伐していた。前庭は過剰な報酬と受け取ったが、一樹は将来的な協力関係維持のため、見返りを惜しまなかった。
魔王領の掃討と安全宣言の発令
魔王調伏後の数日間で、A級陰陽師たちにより残党の煙鬼や羅刹が一掃された。豊川が召喚した霊狐と犬神の分体の活躍により、旧魔王領は安全圏となった。報道ヘリが裾野市の戦場跡を中継し、神と魔王が激突した爪痕が世間に広まった。
協会の見舞金制度と世間の理解
陰陽師は民法上、妖怪由来の損害に賠償責任を負わないが、協会は自発的に見舞金を支払っている。これにより、損害が不可避であったことが社会に伝わり、陰陽師の自重と協会の信頼を保っていた。今回も協会と政府が復旧支援を進める方針が示された。
報道解説による作戦の意義と損害評価
テレビ番組では、元C級陰陽師の大崎がゲストとして出演し、協会が単独で作戦を実行した理由を「情報漏洩防止」と説明した。殉職者として諏訪と堀河の名が挙がったが、相手がS級魔王であったことを考慮すれば、犠牲は想定内であると評価された。
討伐成果の報告と神格変動の見通し
協会は戦果を公表し、羅刹は花咲と堀河、夜叉は安倍晴也、獅子鬼は建御名方神と一樹たちによって討伐されたとした。建御名方神の戦死による神格の上昇は見込まれなかったが、蒼依は神格を高めたとされ、一樹の実力もA級上位相当に上昇した。
白石市の大猪・金成太郎の怨霊出現
一樹は前庭からの情報を基に、白石市金成沢に出没する怨霊「金成太郎」の討伐に向かった。金成太郎は江戸時代、強盗団の親玉が獣化したと伝えられる大猪であり、死後に怨霊となって人里に現れていた。
囮としての柚葉と囮物資の搭載
一樹は米俵・干し椎茸・蜂蜜といったかつての略奪対象とともに柚葉を大八車に乗せ、囮として山道に配置した。柚葉自身は困惑と反発を示したが、一樹は「龍神への奉公実績」として彼女を説得した。
怨霊の出現と天沼矛による拘束
金成太郎の怨霊は突如山中から出現し、柚葉を囮に引き寄せられた。突進によって大八車が破壊されるも、蒼依が投げた天沼矛が霊体を貫き、地に縫い留めた。
蒼依の神気による祓と討伐完了
蒼依が神気を注ぎ込むことで、金成太郎の怨霊は霊的に浄化され、消滅に至った。これにより白石市の妖怪被害は解消され、一樹たちは新たな討伐を円満に終えた。
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