物語の概要
本作は、地獄から返り咲いた陰陽師・賀茂一樹が、妖怪退治と弟子の育成に奔走する異能ファンタジーである。前巻での激闘から数日後、一樹は協会から秘伝呪具「真の天狗の羽団扇」の作成を依頼される。そのため、五行の属性に偏りなく強力な鳥妖怪の風切羽を集めるべく、全国を巡ることとなる。地脈を取り込んだ大森山の怪鳥や、仏の遣いたる鳥海山の霊鳥など、一筋縄ではいかない相手との対峙が描かれる。また、弟子たちの育成にも力を注ぎ、陰陽師としての成長を促す姿が描かれている。
主要キャラクター
• 賀茂一樹:地獄から返り咲いた陰陽師。閻魔大王から得た神気を活用し、妖怪退治や弟子の育成に尽力する。 
• 柚葉:龍神の娘で、一樹の弟子。陰陽術の素質を持ち、修行に励む。
• 香苗:妖狐のクォーターで、一樹の弟子。陰陽術の素人であるが、努力を重ねて成長を目指す。 
• 宇賀:A級上位の陰陽師。一樹の任務を支援し、頼れる存在である。
• 豊川:妖狐の三尾で、豊川稲荷の主。一樹に協力し、呪力の強化を図る。
物語の特徴
本作は、地獄から返り咲いた陰陽師が、妖怪退治と弟子の育成を通じて成長していく姿を描いている。特に、秘伝呪具の作成や、全国を巡る鳥妖怪との対峙など、スケールの大きな展開が特徴である。また、弟子たちの成長や、個性豊かなキャラクターたちとの関係性も見どころである。読者は、主人公の活躍や、仲間たちとの絆に引き込まれることだろう。
書籍情報
転生陰陽師・賀茂一樹 4~二度と地獄はご免なので、閻魔大王の神気で無双します~
著者:赤野用介 氏
イラスト:hakusai(カバーイラスト)氏、きばとり(口絵・挿絵) 氏
出版社:TOブックス
発売日:2024年8月17日
レーベル:TOブックスノベル
ISBN:9784867942840
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あらすじ・内容
富士御殿場での激闘から数日。
やむなく撤退を強いられた一樹は協会に呼び出されていた。
そこで要請されたのは――秘伝呪具のための素材集め!?
復活した荒ラ獅子魔王に対抗するには“真の天狗の羽団扇”での戦力強化が必須。
それには強力な鳥妖怪の風切羽が、五行の属性に偏りなく多数必要なのだという。
高難易度かつ全国を飛び回る依頼にも、“魂の浄化を進めるのに魔王は邪魔だからな”とやる気十分!
地脈を取り込んだ大森山の怪鳥や仏の遣いたる鳥海山の霊鳥など、一筋縄ではいかない相手も難なく攻略していく!
だが、順調な滑り出しも束の間、火行と水行の妖鳥探しが難航してしまい……?
「主様なら、神も仏も楽勝ですよね?」
とある陰陽師が地獄から返り咲く無双萬屋、第四弾!
感想
準備回ながらも読みごたえのある展開
本巻は前巻での敗北を踏まえ、反撃の準備に徹する構成となっていた。これまで短期決戦で敵を退けてきた一樹が、今回は明確な敗北を喫したため、戦力の底上げが急務となった。そのための「羽団扇」制作を軸に物語が進む構成は、これまでの爽快な流れと異なり、地に足の着いた戦略的な展開となっていた。
鳥妖怪狩りと素材集めの旅
羽団扇制作に必要な風切羽を集めるため、一樹は全国を巡ることとなった。秋田では春日家の婿取り問題に巻き込まれそうになる場面もあったが、沙羅の強い牽制もあり、恋愛騒動には発展しなかった。霊鳥や怪鳥、生血鳥など、個性豊かな妖怪たちとの戦いは、それぞれに違った難しさや面白さがあり、素材集めが単なる作業で終わらない工夫が光っていた。
日常とユーモア、そして不穏な影
八咫烏との日常的なやり取りや、「モヤシ尽くし」の罰則といった場面には独特のユーモアがあり、緊張感ある展開の中でも読者の心を緩めてくれる。一方で、花咲小太郎の父が戻らなかった事実や、魔王の再襲撃に備えた動きなど、不穏な要素も随所に散りばめられ、緩急のある構成で飽きさせなかった。
総括
本巻は、バトル主体のシリーズにおいて異色ともいえる「力を蓄える回」であった。だが、その過程には各地の妖怪や神仏とのやり取りが濃密に描かれ、設定の奥行きと構成力が発揮されていた。一樹の成長と周囲の人々との絆が丁寧に描かれたことで、次巻に向けての期待が一層高まる一冊となった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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登場キャラクター
賀茂一樹陣営
賀茂一樹
本作の主人公であり、地獄から転生して現代に蘇った陰陽師である。冷静かつ合理的な性格を持ち、過去の贖罪を背負いながらも、妖怪の脅威に対抗するため、陰陽道と神仏の力を融合させた戦術を展開している。複数の式神と信頼関係を築き、仲間と協力して戦いに臨む姿勢を貫いている。
・所属:賀茂家、A級陰陽師、陰陽師協会所属、花咲高校生、賀茂陰陽事務所代表
・秋田県にて怪鳥(声良鶏)を討伐し、風切羽を回収する計画を主導した
・薬師如来および虚空蔵菩薩に祈願を行い、神霊の力を得て羽団扇用の羽根を授与された
・五行理論に基づき、呪陣を構築して鳥妖怪の誘導・捕獲に成功した
・八咫烏を将来的に氏神とする構想を持ち、育成方針を提示した
・蒼依や沙羅と協力し、春日家の協力を得ながら強力な式神戦力を維持している
・陰陽師協会の次期会長候補に名が挙がるも、年齢と責任の重さから辞退を示唆
・天狗の羽根など強力な素材の収集にも着手し、羽団扇の量産体制を視野に入れている
・魔王の復活や煙鬼の増殖という国家的危機に対し、陰陽師として責務を果たそうとしている
蒼依
山姥の孫にあたる妖怪の少女であり、人間として生きる道を選び、一樹の式神となった。穏やかで几帳面な性格を持ち、家事全般をこなす生活支援役である。戦闘面では高い身体能力を有し、護衛や実戦にも対応する。
・所属:賀茂家、一樹の式神
・料理や掃除などの家事を通じて事務所の生活を支えた
・山姥化を防ぐため、一樹から定期的に気を受け取っている
・物理戦闘に強く、護衛や式神間の交渉にも関与した
五鬼童沙羅
五鬼童家に属する女性陰陽師であり、冷静で論理的な判断力を持つ実戦派である。国家試験では一樹に敗北を喫したが、その後の妖怪討伐戦で重傷を負い、一樹の治療によって救われた。以後、彼の事務所に参加し、戦力および対話面での補佐を務めている。
・所属:五鬼童家 → 賀茂一樹陰陽師事務所、陰陽師
・国家試験で一樹と対戦し、戦術面での相違を実感した
・母蜘蛛討伐戦で重傷を負うも回復し、事務所に合流した
八咫烏たち(青龍・朱雀・白虎・玄武・黄竜)
一樹が自ら孵化させた三本足の霊鳥で、五行思想に基づく名前を持つ式神群である。気の属性に応じた特性を備え、索敵・追跡・戦闘など多様な任務を担う。YouTubeにも登場し、視聴者の注目を集める存在でもある。
・所属:賀茂家、一樹の式神
・国家試験や実戦での支援活動を通じ、実力を証明した
・名付けにより個性と機能が強化され、式神としての完成度が高まった
水仙
元は絡新婦として人を襲っていた妖怪であり、一樹に敗北後、式神として使役される存在となった。高い知性と分析力を持ち、主に調査や諜報、作戦立案を担当している。落ち着いた性格で他の式神との調整役でもある。
・所属:賀茂家、一樹の式神
・調査や作戦設計を担い、情報処理能力に長けている
・蒼依と並び、事務所内での支援的役割を果たしている
・元妖怪としての経験を活かし、精神的支柱の一角を担った
牛太郎(うしたろう)
古来より知られる神霊「牛鬼」であり、現在は一樹の式神として忠実に仕えている。温厚な性格と圧倒的な腕力を持ち、戦闘では最前線での攻撃と防御の要となっている。「うしたろう」と命名され、家族同然に扱われている。
・所属:賀茂家、一樹の式神
・鉄鼠や八咫烏の捕獲任務で貢献した
・高い身体能力と回復力を有し、物理戦に特化した式神として運用された
・人間社会にも順応し、仲間として親しまれている
穴山信君
武田家に仕えた実在の武将の怨霊であり、霊的存在「槐の邪神」として人々から財宝を奪っていた。討伐後は一樹の呼びかけに応じ、準式神として協力する立場となる。完全従属ではなく、一定の自主性を持ちながら共闘関係を築いている。
・所属:妖怪(槐の邪神)→ 賀茂家(準式神)
・財宝を集める性質を持ち、戦後はそれらを一樹に提供した
・管玉や勾玉など、陰陽道に必要な霊具の回収に寄与した
・一樹の信頼を受け、限定的に式神として活動している
陰陽同好会
花咲小太郎(はなさきこたろう)
花咲高校の生徒であり、理事長の息子として陰陽同好会の活動を支援している。一樹とは同級生であり、組織運営や事務的支援を担う。戦闘力は描写されていないが、人的・物的な後方支援で貢献する立場にある。
・所属:花咲高校、花咲家、陰陽同好会
・活動場所の手配など、同好会の運営を支援した
・理事長の息子として家柄による影響力を発揮している
・妖怪騒動の際にも冷静に状況を把握し、協力を惜しまなかった
柚葉(ゆずは)
赤城山の龍神を母に持つ少女であり、異種混血として人間社会に順応するために一樹の保護下に入る。国家試験で圧倒的な霊力を示し、白狐・金狐の式神契約により戦術的優位を獲得した。柔軟な発想力と霊力制御に長ける。
・所属:花咲高校、陰陽同好会、陰陽師候補生
・国家試験で白狐・金狐と契約し、強豪相手に勝利した
・霊的適性と発想力により、戦闘以外の場面でも活躍している
・一樹からも信頼を得ており、精神的な成長が描かれている
香苗(かなえ)
柚葉と共に行動する陰陽師候補生であり、国家試験では雪菜と契約して凪紗に勝利した。理知的な思考と冷静な判断を持ち、攻防ともにバランスの取れた戦術を展開する。柚葉との連携で特に高い成果を上げた。
・所属:花咲高校、陰陽同好会、陰陽師候補生
・雪女・雪菜と契約し、霊的攻撃を中心に戦術を構築した
・凪紗との対戦で連携による勝利を収め、才能を証明した
・精神面でも成長が描かれ、今後の伸びしろが期待されている
陰陽師協会
宇賀
陰陽師協会の副会長であり、組織の運営と独立性の維持に尽力している。沈着冷静な性格で、協会の自治を重んじる立場を取る。豊川りんや諏訪らと共に協会幹部を構成し、一樹に対しても高い評価を与えている。
・所属:陰陽師協会副会長
・陰陽師協会の方針決定や運営実務に関与した
・一樹に重要任務を託し、能力を信頼した
向井
陰陽師協会の会長であり、陰陽師組織の最高責任者として全体を統括している。柔軟な判断力と実務的な姿勢を特徴とし、若手育成や制度運営にも積極的に関与する。一樹に対して敬意と評価を示し、今後の活躍を支援している。
・所属:陰陽師協会会長
・報酬制度や作法の説明を通じて一樹を導いた
・虎狼狸掃討戦での功績を承認し、謝意を示した
春日弥生(かすがやよい)
春日家出身の上級陰陽師であり、秋田県の統括陰陽師として活動する。実務能力と交渉力に優れ、国家試験や討伐作戦での調整役を担っている。五鬼童義一郎の妹にあたる。
・所属:陰陽師協会、秋田県統括陰陽師
・母蜘蛛討伐作戦では戦力編成を主導し、作戦成功に貢献した
・青森県の妖怪対策では自衛隊動員と報酬倍額を交渉し、主導権を握った
・羽団扇の治癒効果により、戦線への復帰を果たした
春日一義(かすがかずよし)
春日家の一員であり、弥生と共に戦線に立つ陰陽師である。過去に負傷していたが、羽団扇による治癒を受け、現役復帰を果たした。戦闘能力や立場については詳細な描写がない。
・所属:春日家、陰陽師
・羽団扇による神気の加護により、身体の治癒を受けた
・戦線への復帰により、春日家の戦力維持に貢献した
・結月の側室提案のきっかけとなった存在
五鬼童義一郎(ごきどうぎいちろう)
五鬼童家の長兄であり、国家試験および討伐作戦の総指揮を務めるA級陰陽師である。冷静な判断と現場主義を重視し、弟妹にも公平に接する指導者的存在である。
・所属:五鬼童家、A級陰陽師
・国家試験の運営や戦力配置を担当し、試験全体を統括した
・母蜘蛛討伐戦では自ら総指揮を執り、勝利に導いた
・羽団扇の加護によって現役復帰を果たし、戦線に復帰した
五鬼童義輔(ごきどうよしすけ)
五鬼童義一郎の弟であり、沙羅や紫苑と共に五鬼童家の中核戦力を担う陰陽師である。冷静な判断力を持ち、現場の判断と治療支援に従事する場面が多く描かれる。
・所属:五鬼童家、陰陽師
・沙羅の重傷時に治療に立ち会い、一樹に対する警戒心を見せた
・絡新婦討伐に参加し、現場戦力として貢献した
・羽団扇の治癒効果により、戦力としての役割を継続した
五鬼童紫苑(ごきどうしおん)
五鬼童家に所属する陰陽師であり、B級中位の実力者として討伐戦や国家試験に参加している。明確な描写は少ないが、戦闘部隊の一員として作戦に参加しており、一定の実力を持つ。
・所属:五鬼童家、B級中位陰陽師
・母蜘蛛討伐戦などの実戦に参加し、連携行動に貢献した
・五鬼童家の主力戦力の一人として、戦力配置に含まれていた
若槻姚音(わかつきよういん)
陰陽師協会に所属する中堅陰陽師であり、国家試験の評価官や妖怪事件の監督役としても登場する。伝統と実力を重視する姿勢を持ち、綾華や陽鞠の立場を理解しながらも冷静な判断を下す。
・所属:陰陽師協会、陰陽師
・国家試験にて香苗・柚葉の評価を行い、現実的な観察を行った
・橋姫事件では囮役に指名され、妖怪を引き寄せる役割を担った
・名門出身としての矜持と実力主義の融合を体現した存在である
金文の霊鳥
薬師如来の導きにより、鳥海湖から顕現した霊鳥である。神気に満ちた存在であり、羽団扇に必要な風切羽を授ける役割を担った。金文が刻まれた風切羽は土行属性に分類される。
・所属:神霊に属する霊鳥(薬師如来の加護)
・鳥海湖での祈願に応じて、二枚の風切羽を一樹に授けた
・羽団扇の構成要素として貴重な霊的素材を提供した
・出現は神仏との交感によるもので、霊的意味合いが強い
白鷹
虚空蔵菩薩と交信した際に現れた霊鳥であり、光の中に昇華して姿を消す前に、両翼から風切羽を二枚落とした。風切羽は羽団扇の素材として使われ、金行に分類された。
・所属:神仏由来の霊鳥(虚空蔵菩薩の化身)
・両翼を広げ光を放った後、姿を消して交感を終了した
・風切羽を一樹の手に授け、任務完遂の象徴となった
・強い神気を宿す存在であり、五行属性における金行の象徴
虚空蔵菩薩
一樹の祈願を受け入れ、白鷹を通じて風切羽を授けた神仏である。明確な人格や言葉は描かれていないが、神との交感の場面においてその存在感が示された。
・所属:仏教系神格、霊的存在
・鳥海山での祈願に応じ、神気と白鷹を遣わした
・直接登場はしないが、霊的儀式を通じて作用した
・羽団扇の完成と呪力供給の鍵を握る存在として示唆された
天津鰐(あまつわに)
神話に由来する霊獣であり、羽団扇に必要な風切羽を持つ妖怪として登場する。剣尾山に出現し、一樹らと激戦を繰り広げた。強大な力を持つが、使役の危険性が高く、討伐された後は肉体を式神強化に利用された。
・所属:妖怪(水行属性)
・剣尾山に出現し、牛太郎や信君、水仙らとの連携で討伐された
・風切羽を提供する最後の素材妖怪として、羽団扇完成に貢献した
・使役は見送られ、肉体は水仙と朱雀に分配され式神強化に用いられた
姫魚(ひめうお)
神話的存在として予言を伝える霊獣であり、一樹に「疫病を止めよ」という使命を与えた。直接の描写は少ないが、現代においても霊的影響を及ぼす存在として尊重されている。
・所属:霊獣、予言神霊
・疫病に関する予言を発し、その使命を一樹に託した
・正体や姿は描かれないが、霊的儀式を通じて影響を及ぼした
・人間界への助言者として、物語上の起点を担った
卿華女学院中等部
綾華(あやか)
賀茂一樹の実妹であり、中学生として普通の生活を送っている。兄との距離感に悩みながらも信頼を寄せており、陽鞠の件や橋姫事件の際には一樹に相談を持ちかけるなど、物語における家族的支柱となる存在である。
・所属:卿華女学院中等部
・陽鞠の霊体化や社会復帰の件で兄に助言を求めた
・橋姫事件では私的な相談の末、一樹の出動を促した
・兄の決断に対して理解を示し、精神的な支えとなっている
陽鞠(ひまり)
交通事故で死亡した中学生の少女であり、霊体として綾華に取り憑いたのち、北川楓の身体を借りて社会復帰を果たした。家族や学校からも新たな人格として認められている。恋愛感情を抱くなど、精神面でも人間らしい振る舞いを示す。
・所属:霊体 → 卿華女学院中等部(北川楓の身体を使用)
・霊体状態から楓の身体を借り受け、生活を再開した
・法的・社会的にも新たな人格として受容されている
・一樹に好意を持ち、その感情を自覚しながら日常を過ごしている
妖怪
獅子鬼
強力な妖怪であり、受肉によって肉体を持つ特異な存在である。戦闘によって右腕を損傷し、呪力回復と肉体維持の間で苦悩していた。羅刹を従えていたが、忠誠は不完全であり、主導権を保つため天竜魔王の復活を計画した。
・所属:妖怪(元・敵対存在)
・神気の矢や白狐の攻撃で重傷を負い、再受肉を強いられた
・呪力の維持と使役の両立に苦しみ、羅刹の離反を警戒した
・天竜魔王復活のために煙鬼を投入し、準備を進めた
羅刹
かつて貪多利魔王の配下であった妖怪であり、現在は獅子鬼に従属している。従属の理由は忠誠ではなく合理性に基づいており、主の判断次第で関係が崩れる危険性がある。高い霊力を持ちながらも、消耗が激しく使役には制限がある。
・所属:妖怪(獅子鬼の配下)
・形式上は獅子鬼に従うが、実際には利害による協力関係
・呪力の消費が激しく、使役対象として扱うことを獅子鬼が断念した
・煙鬼の使用など復活計画の一部に関与していた
煙鬼(えんき)
アヘン中毒死者の怨霊から生じた存在であり、生者に同様の中毒症状を引き起こし、死に至らせる霊的ゾンビである。獅子鬼と羅刹によって使用され、人間の気を吸収する役割を担う。人間界に被害を拡大しながら、魔王復活のエネルギー源として利用された。
・所属:妖怪(呪具的存在)
・怨霊としての特性を持ち、人間にアヘン中毒様の症状を発症させた
・羅刹によって操作され、天竜魔王の復活に必要な呪力を収集した
・感染性があり、複数体が出現して都市圏に被害を及ぼした
怪鳥(声良鶏)
天然記念物「声良鶏(こえよしどり)」が地脈の力を受けて妖怪化した存在であり、特異な霊鳥として出現した。高い呪力と飛行能力を持つが、呪陣によって誘導され一樹により討伐された。討伐後、その羽根は羽団扇作成の素材として使用された。
・所属:妖怪(自然霊化した存在)
・尾去沢鉱山にて発見され、一樹によって地脈誘導陣で捕獲された
・飛行能力と呪力が強化されており、通常の鳥類より危険であった
・神仏に祈願して得た風切羽は、特殊な道具作成に用いられた
斑猫喰(はんびょうくい)
強力な毒を持つ鳥型妖怪であり、玄武がかつて探していた火行属性の存在である。相川家の山に潜み、神経毒「ホモバトラコトキシン」を有する危険な存在として登場する。羽団扇の素材収集対象となった。
・所属:妖怪(火行属性)
・神経毒を持ち、戦闘時の接触は極めて危険とされる
・羽団扇の五行構成における火行素材として注目された
・居場所の特定が困難で、収集難度の高い妖怪であった
天狗たち
古来から伝わる霊的存在であり、斑猫喰や天津鰐などと同様に羽団扇の素材を提供しうる妖怪として言及されている。戦闘描写はないが、羽根の提供元や生態として物語に登場する。
・所属:妖怪(霊鳥系)
・羽団扇の風切羽の素材候補として一樹らが言及
・出現や討伐の具体描写はないが、存在が確かめられている
・五行属性の一端として登場し、神霊とも関係する可能性が示唆された
橋姫(はしひめ)
嫉妬によって鬼と化した伝説上の存在であり、現代の宇治市に復活してカップルを襲撃する事件を引き起こしている。強い感情と因縁に基づく行動を取り、一樹や陽鞠との接触によって事態が複雑化した。
・所属:妖怪(伝説の鬼女)
・宇治橋でカップルを強制的に別れさせる行動を繰り返した
・一樹との交渉により、封印せずに放置するという対応がとられた
・陽鞠の共感を得て、第二の橋姫化を誘発する結果となった
展開まとめ
第四章 天狗の羽団扇
第一話 六種の風切羽
魔王との戦いと自衛隊の対応
陰陽師協会本部にて、一樹と宇賀は妖怪との歴史的な境界の成り立ちについて語り合っていた。時を同じくして、自衛隊は静岡県御殿場市に出現した魔王への攻撃を続行していた。重迫撃砲や多連装ロケットなど、近代兵器を用いた攻撃は実施されたものの、蜃や獅子鬼といった妖怪の強固な呪力に阻まれ、決定打とはならなかった。協会が掲げた「勢いを弱める」という目標は達成されたものの、世間からの批判と混乱が収まることはなかった。
陰陽師協会の内情と次期会長問題
この戦いにより、協会の上位A級陰陽師たちは損耗し、向井会長と一樹のみが主要戦力として残った。その結果、次期会長候補として一樹の名前が挙がるが、年齢や経験面から本人は難色を示す。代替候補として五鬼童義経の名が挙がるも、現在はまだB級上位の段階であり、即戦力には至っていなかった。宇賀や向井との話し合いの中で、協会長の実力主義と構造的な後継問題が浮き彫りとなった。
羽団扇とその製作条件
宇賀が持ち出した「真の羽団扇」の作成は、義経をA級に昇格させるための切り札とされた。羽団扇には、五行のバランスが取れた11枚の風切羽が必要であり、かつ提供者の呪力も必要とされた。素材には強力な鳥妖怪や天狗の羽根が必要であるが、呪力の損耗や魂の一部を削る必要があるなど、提供者側に大きな負担が課せられる。
八咫烏の羽根と一樹の交渉
一樹は自身の使役する八咫烏たちの換羽で得られる羽根を提供することで、義経用の羽団扇作成に協力する意志を示した。その代価として、自らの弟子である沙羅用の羽団扇2本の作成を提案し、宇賀もこれを受諾した。さらに五鬼童家や春日家の強化も視野に入れた宇賀の指示により、一樹は追加で有用な羽根を収集することになった。
羽団扇製作と呪力バランスの意義
羽団扇の作成には、異なる個体の羽根、抜けてから一年以内の新しい羽根、五行のバランスを保つ構成が求められた。また、天狗の羽根を使う場合、呪力を封じるために魂の一部を提供する必要があり、呪力の一部が永久に失われる。この点において、一樹は沙羅の羽根を守る姿勢を明確に示し、八咫烏の羽根のみを提供することを強調した。
自陣営の強化と協会への提言
羽団扇が完成すれば、沙羅や義経の戦力は飛躍的に向上し、魔王への対抗戦力となる。一樹は、金銭よりも実戦力の強化が重要であると判断し、自身の持つ資源を最大限に活用する方向へ動いた。その一方で、協会の実力主義構造や後継問題に対して疑問を呈し、改めて自身の立場に重圧を感じながらも、将来を見据えて行動を開始した。
羽団扇の意義と贈呈の誤解
協会本部から帰宅した一樹は、沙羅に羽団扇を渡す意図を説明した。沙羅はそれを「結納品」と受け取り冗談交じりに応じたが、一樹は明確に「戦力強化」のためと否定した。現在、荒ラ獅子魔王と思しき存在が復活しており、その配下の脅威も現れていた。一樹にとって、沙羅や五鬼童家が強化されることは、自身の生存率を高める手段であった。
羽団扇製作と風切羽集めの方針
羽団扇には、11種類の異なる鳥妖怪の風切羽が必要とされた。一樹は蒼依や沙羅と共に、夏休み期間を活用して羽根を収集する計画を立てた。五鬼童家も同時並行で別枠の収集を行い、製作が失敗に終わった場合の保険としても機能させようとしていた。
秋田県への出発と八咫烏の育成
協会からの情報提供により、秋田県に強力な鳥妖怪の存在が確認され、一樹たちは現地へ向かった。同行した八咫烏たちはキャリーバッグに分けられ、蒼依・沙羅・一樹がそれぞれ携帯した。道中、蒼依は八咫烏を戦わせることに慎重な姿勢を見せたが、一樹は成長の必要性を説き、彼らが式神として本来の役割を果たすよう導こうとしていた。
春日家の由緒と大邸宅の威容
秋田市に到着した一樹たちは、統括陰陽師である春日結月の案内で春日邸を訪れた。その邸宅は由緒ある春日家の歴史と権威を反映した壮麗な建物であり、千年以上の歴史を誇っていた。春日家は、陰陽頭と陰陽博士を兼任した大春日真野麻呂を始祖とし、安倍晴明以前から権勢を誇った家系であることが明かされた。
春日結月の婿探しと陰陽師の血統事情
春日結月は沙羅の従姉妹であり、B級陰陽師として自家を継いだ人物であった。彼女は一樹に強い婿入り希望を示したが、一樹は賀茂家の嫡男であるために応じなかった。結月の立場は、かつての「嫁入り先が選り取り見取り」から「婿入り候補が皆無」へと変わっており、陰陽師家系における血統維持と後継問題の困難さが浮き彫りとなった。
陰陽師協会と家系維持の現実
全国の陰陽大家にとって、B級以上の後継者を持つことは家の存続に直結していた。C級しかいない地域の優先順位が上がる一方で、既にB級がいる県は後回しにされる現実がある。春日家もまた、宇賀らの政治的調整を仰ぐ余地は残されていたが、恋愛結婚による個別解決を除けば、立場的には婿取りの交渉権限を欠いていた。
一樹の呪力と春日家の期待
一樹の呪力はA級中位をはるかに超え、神気・陽気・龍気の三重構造を持っていた。彼の子供がその力を半分でも継げば、将来はA級上位以上となる可能性が高く、春日家の存続にとっては垂涎の的であった。しかし一樹本人はその意図を察しつつも、春日家に対して慎重な距離を保ち、警戒心を強めていった。
第二話 大森山の怪鳥
春日邸での対話と陰陽師制度の背景
春日邸に到着した一樹たちは、統括陰陽師・春日結月のもとで羽団扇製作の相談を開始した。結月は婿探しを口実に話を進めようとしたが、沙羅らの強い牽制によって逸脱は阻止された。一樹は、陰陽師制度が実力主義である以上、春日家が統括を維持するには後継者がB級以上を確保し続ける必要があるという厳しい現実を再認識した。
羽根収集計画と秋田の怪鳥情報
結月は、秋田県および周辺の山形県に存在する三羽の強力な鳥妖怪を紹介した。その中でも、大森山に現れる「怪鳥」は、かつて村を荒らし鉱物を吐き出して死んだが、その力を再び蓄えた新個体が現れているとされた。この怪鳥は金行に属し、最大でA級中位相当と見積もられた。羽団扇用の風切羽として有力な対象とされたため、一樹は討伐を決断した。
陰陽師と後継問題に関する議論
移動中、一樹と蒼依、沙羅は春日家の後継者問題について再考した。陰陽師においては遺伝的な呪力と家庭環境の双方が子の能力に影響するため、春日家のような名家がB級の婚姻相手を求めるのは合理的であった。特に、A級の血を取り込むことで、後代にB級以上を輩出する可能性を高められるという沙羅の分析に一樹も納得した。
大森山の怪鳥に備える八咫烏と式神の布陣
現地の森には、知能と力を備えた小鬼が生息していたが、八咫烏たちが神気を帯びた攻撃で圧倒し、鬼たちを一掃した。一樹の感知力と八咫烏のテリトリー意識によって、鹿角市周辺から敵性存在は排除されていった。これは一種の防衛と威嚇の演出であり、式神としての忠誠を誇示するものでもあった。
怪鳥対策としての呪陣構築と五行理論の応用
一樹は怪鳥をおびき寄せるため、五行相剋と相生の理に基づいた呪陣を尾去沢鉱山に展開した。火行を用いて金行を堰き止め、土行で誘導する複合陣は、地脈の流れを封じ、新たな経路に力を誘導する仕組みであった。これにより、怪鳥は呪力の供給源を絶たれ、陣の中央に引き寄せられる形となった。
式神・水仙の助言と魔王への備え
一樹の式神・水仙は魔王との戦いに懸念を示し、当面は生存と成長を優先するよう忠告した。一樹も、死後の地獄を避けるために魔王を討つ必要性は認めながらも、無謀な突撃は避けると明言した。現在の一樹は、複数の式神を擁してA級中位に匹敵する戦力を整えており、合理的な戦術を取る構えを見せていた。
怪鳥討伐に向けた陣地での待機と冷却対策
尾去沢鉱山にて、地脈を封じて怪鳥を誘き寄せた一樹は、地熱の上昇により苦しんでいた。対策として、水行の八咫烏・玄武に冷却術を使わせ、周囲に霧を発生させて温度を下げた。これにより仲間たちは体力を回復し、式神たちも和んだ空気の中で過ごすこととなった。
八咫烏と賀茂家の未来
一樹は八咫烏たちを将来的に賀茂家の氏神とする構想を持っていた。氏神としての定着は数代にわたる呪力の継承と、共存生活によって実現可能と見なしていた。八咫烏たちがB級中位に育てば、5羽でA級下位の力を持つと予測され、賀茂家の地位向上にも繋がる可能性が示唆された。
声良鶏との遭遇と奇妙な戦いの幕開け
現れた怪鳥は、天然記念物の「声良鶏」が地脈の力を受けて妖怪化した存在であった。見た目はニワトリでありながら、巨体とA級下位の力を持っていた。一樹は半信半疑ながら迎撃を開始し、式神である牛太郎と信君を中心に戦闘態勢を整えた。
怪鳥との激戦と撃破
一樹は火行の式神・朱雀の力を矢に込めて発射し、怪鳥の翼を焼いた。続けて、信君の居合いによって左脚を斬り落とし、牛太郎の棍棒で頭部を強打した。蒼依の天沼矛や水仙の毒糸などの支援も加わり、怪鳥は行動不能に追い込まれた末に討伐された。
怪鳥の解体と風切羽の回収
戦後、怪鳥の右翼から風切羽24枚を回収するため、牛太郎・信君・水仙が解体作業にあたった。羽根の質はB級上位と見積もられたが、A級妖怪を倒して得た成果としては物足りない評価であった。水仙は肉質の低さを指摘し、食用を断念した。
怪鳥発生の制御案と羽団扇量産の可能性
一樹は怪鳥の発生を制御する案を検討し、地脈の流れを意図的に鳥へ向けることで、管理可能な怪鳥を生み出すことができると考えた。だが羽団扇用として安定供給するには費用対効果が合わないと判断し、発生制御のみに着目する方針へと変更した。
八咫烏の周辺駆除と後始末
待機していた八咫烏たちは、近隣に潜む鬼を討伐する任務を与えられた。怪鳥の消滅により勢力が広がることへの予防策であった。一樹は周囲の安全を守る意識を持って行動していた。
支部回収班との合流と輸送準備
怪鳥の素材は本部と支部の二系統により運搬されることとなり、先に到着した支部の回収班に風切羽を引き渡した。一樹は護符と式神符を大量に提供し、輸送時の防衛策を強化した。これにより、輸送中のトラブル発生リスクに対する備えを万全とした。
第三話 縁深き霊鳥
春日邸への再訪と怪鳥の情報整理
大森山の怪鳥を調伏した一樹は、春日邸を再訪し、結月と共に霊鳥の情報を整理した。鳥類は飛行のためエネルギー消費が激しく、基本的にB級以上には進化しないが、霊鳥や怪鳥など例外も存在する。制御可能な怪鳥を任意に作成しようという提案が行われ、春日家が管理しやすい鳥を選ぶ方針が定められた。
怪鳥との戦闘と警告
怪鳥の強さについて議論が交わされ、沙羅は過去に自らの四肢を失わせた絡新婦の母体との比較で警鐘を鳴らした。一樹も過去にS級の獅子鬼に敗北しており、格上との交戦が危険であることを自覚していた。これを踏まえ、結月は怪鳥が弱いうちに入れ替える方針に同意した。
怪鳥の使役と飛行手段の模索
一樹は怪鳥の使役に否定的であり、飛行能力には惹かれるも、それ以上に不効率であることを理由に断念した。霊獣・龍馬の提案もあったが、運用の困難さから却下した。
鳥海山への登山と羽根の入手計画
一樹は薬師如来と関係のある金文の霊鳥と、虚空蔵菩薩に由来する白鷹から風切羽を得るため、鳥海山へと向かった。祈願の儀式を行うため、蒼依と沙羅を同行させ、結月には送迎を依頼した。
登山中の会話と情報共有
登山の途中、一樹は五鬼童家も羽団扇作成のために風切羽を集めていると知る。福井県の鵺が候補に挙がり、B級妖怪である可能性が高いと判断された。五鬼童家用には風切羽の種類を減らすことで、神仏に対する負担を軽減する方針が立てられた。
鳥海湖での祈願と霊鳥の出現
鳥海湖に到着した一樹は、薬師如来に風切羽の提供を祈願する儀式を開始した。五芒星を描いて五如来の種字を唱え、薬師如来への接触を試みた。その結果、湖面から神気が湧き上がり、金文の霊鳥が姿を現した。
風切羽の授与
薬師如来が導いた霊鳥は、一樹の祈願に応じて、金文の刻まれた二枚の風切羽を授けた。一樹は羽団扇作成に必要な風切羽を確保し、神仏の加護と自らの特異な立場を再確認した。
蒼依と沙羅の忠誠と同行理由
鳥海湖での風切羽獲得後、一樹は蒼依と沙羅の信頼の深さを再確認した。蒼依は一樹から得た気によって山姥にならずに済み、沙羅は命と手足を救われた恩義を抱いていた。二人とも一樹を裏切る理由は皆無であり、一樹もそれを理解して同行者に選んでいた。
風切羽の配分と結月への報告
白鷹の風切羽を得る前段階で、一樹は鳥海山で得た風切羽が二枚であったことを結月に報告した。少数である理由を「違和感を持たれないため」としてあえて限定しており、自家優先の判断を取った。これは他の陰陽大家も同様であり、非難される性質のものではなかった。
土行と金行の属性整理
金文の霊鳥の風切羽は黄色を呈しており、土行と判定された。五行の色と方位の関係に基づく判断であり、これは羽団扇の属性調整に重要な意味を持った。大森山の怪鳥や白鷹も金行に分類され、五行のうち木行・火行・水行が未取得の状態となった。
五行の構成と今後の目標
一樹と結月は、羽団扇に必要な五行をすべて揃えるため、次なる収集対象を議論した。金行と土行についてはほぼ揃い、残りは木行・火行・水行であった。白鷹からの風切羽を得られなかった場合の補完案として、五鬼童家が所有する鵺の風切羽を受け取る可能性も想定された。
白鷹山への移動と獅子鬼への言及
一樹は白鷹山へ向かう途中、かつて戦った獅子鬼の現状について思索した。超強酸を浴びせた宇賀の攻撃によって肉体は甚大な損傷を受け、魔王は退却した可能性が高いと推察された。蒼依は、獅子鬼を化学薬品で攻撃する案を提案し、一樹も霊体化後の弱体化を見越してその利点を認めた。
白鷹神社での神域突入と祈願
白鷹山山頂にある虚空蔵尊神社にて、一樹は蒼依と沙羅を待機させ、神域に単独で踏み入った。境界を越えると神気が吹き付け、妖怪には耐え難い空間であることを実感した。一樹は虚空を見上げ、虚空蔵菩薩の存在を直感し、白鷹の風切羽二枚の授与を願った。
虚空蔵菩薩との対話と意図
虚空蔵菩薩は一樹の祈願に対して、「医薬の利益を求める理由」を問うた。一樹は仲間の治癒と復帰のためであると説明し、薬師如来の薬と虚空蔵菩薩の知恵による神経治癒の可能性に言及した。仏の手落ちによって被った困難を訴え、援助を請うた。
風切羽の授与と白鷹の昇華
虚空蔵菩薩は一樹の願いを受け入れ、白鷹が両翼を広げて白光を放った。白鷹の風切羽二枚が一樹の掌に舞い降り、授与は完了した。白鷹はその後、光となって姿を消し、神との交感の幕が下ろされた。
第四話 煙鬼
獅子鬼の傷と苦悩
御殿場市に現れた蜃の領域
蜃気楼のように変貌した御殿場市のホテルにて、獅子鬼は傷を抱えたまま休息していた。戦闘で削られた呪力は回復の途上にあり、神気の矢や白狐の噛撃によって右腕は深く損傷していた。中でも宇賀が浴びせたフルオロアンチモン酸が致命的で、皮膚と骨が溶かされ、神経まで損なわれていた。
肉体保持の意義とリスク
肉体があることで呪力の自然回復が可能となる一方、物理的損傷のリスクも増す。右腕が満足に動かせない状態では、次の戦いに耐える保証はなく、霊体に戻ることは死に等しいため、再受肉を選ぶことは獅子鬼にとって屈辱的であった。
羅刹との力関係と忠誠の限界
羅刹の立場と従属の根拠
羅刹はもともと貪多利魔王の配下であり、現在は獅子鬼に暫定的に従っていた。しかし、受肉をやり直すという決断を下せば、その信頼を失う恐れがあり、配下を失うことも懸念された。羅刹は忠誠心ではなく、合理的な従属関係であるため、その行動には限界があった。
呪力消耗と使役制約
獅子鬼は羅刹の使役に必要な呪力消費の大きさを考慮し、それを断念した。獅子鬼の呪力は羅刹の十倍に達していたが、不満を抱いた羅刹を縛るには余計な負荷を強いられるため、敵への対応が遅れる可能性があった。
魔王復活計画と煙鬼の投入
天竜魔王の選択と復活準備
獅子鬼は同格の魔王である天竜魔王の復活を計画した。自らが負傷した状態では、天竜魔王に主導権を奪われる恐れもあるが、敗北するよりは復活の賭けを選んだ。羅刹に命じて、過去に献上された煙鬼を利用し、人間の気を吸い上げて復活の呪力とする準備を整えた。
煙鬼の特性と感染拡大
煙鬼はアヘン中毒死した者の怨霊であり、生者に同様の症状を与えて殺す霊的ゾンビであった。新たな煙鬼を生み出しつつ人間の気を吸うことができ、獅子鬼は彼らを使って呪力を逆流させる戦術を採用した。これにより、天竜魔王の復活資源を効率的に確保しようとした。
現実世界への影響と政府対応
御殿場市周辺への避難命令
煙鬼の逆侵攻により、日本政府は御殿場市から半径60kmにわたる避難命令をレベル7に引き上げた。自衛隊も完全撤退し、推定300万人が避難対象となった。煙鬼の発生源が霊的であるため、通常兵器は効果を示さず、対処可能な存在は陰陽師に限定された。
SNS上での陰陽師達の反応
ネット掲示板では、魔王の脅威に対する懸念と神仏への祈り、さらには陰陽師の実力評価が語られていた。煙鬼は個体としてはF級陰陽師でも対処可能だが、増殖し続けるため被害は広範囲に及び、護符の不足と防衛困難が現場を混乱させた。
協会本部での報告と蒼依の不在
一樹は奈良県の協会本部にて、宇賀に風切羽二種を直接手渡した。蒼依と沙羅は建前として帰宅中であったが、実際には妖怪である蒼依を協会に同行させたくなかったためである。協会内部の政治的配慮が背景にあり、一樹は波風を立てぬように立ち回っていた。
集めた風切羽の評価と五行の進捗
一樹が収集した三種の風切羽は、いずれも高位のものであり、五行のうち金行と土行を確保済みであった。一方、五鬼童家は自力で二種の鵺を討伐していたが、加算値の面では一樹の成果に及ばなかった。宇賀は一樹の高品質な羽根を高く評価し、祈願による「御利益」が宿っている可能性を示唆した。
羽団扇の加工と対価の相談
羽団扇の作成において、宇賀は加工作業で力を弱める調整は不要と了承した。一樹は沙羅用の羽団扇を依頼中であり、今後も風切羽を収集し、必要に応じて作成数を増やす方針であった。特に義経のようなA級候補にとって、高品質な羽根は有効であると判断されていた。
煙鬼の被害と政府の避難命令
魔王の眷属である煙鬼の被害が急拡大し、日本政府は協会の助言を受けて早急に避難命令を発出した。対象は御殿場市を中心とする約300万人であり、極めて迅速な対応であった。煙鬼は音も立てずに忍び寄り、すでに万単位の犠牲者を出していた。
煙鬼の性質と増殖の脅威
煙鬼はアヘン中毒死者の怨霊であり、吸煙によって相手を中毒死させ、さらに煙鬼として増殖させる性質を持っていた。霊体であるため通常兵器では無力であり、捕捉も難しい。しかも気を奪って獅子鬼へ供給するため、時間経過とともに脅威が拡大していく仕組みであった。
生血鳥収集と「ズル」の戦略
宇賀の提案により、一樹は強力な鳥型妖怪を意図的に作る「ズル」作戦に出た。群馬県で発見された吸血性の生血鳥に自身の気を吸わせることで、五行を木行に寄せ、かつ強化された個体を生み出すことが目的であった。これは一樹の特性を利用したドーピングに等しい戦略である。
蒼依と沙羅の留守番と八咫烏の同行
今回の遠征では、見た目がカラスに似た妖怪を討伐対象とするため、蒼依をあえて同行させなかった。一方で、戦闘に支障がない八咫烏たちと水仙が同行者として選ばれた。
仮設住宅と災害対応の課題
避難命令に伴い、政府はプレハブ工法による仮設住宅を大量に供給予定であった。過去の建築費や耐用年数に疑問を抱いた一樹は、北海道が導入していたトレーラーハウス型の仮設住宅の合理性を高く評価していた。仮設住宅にかかる不透明な税金支出に対し、一樹は苦い思いを抱いていた。
第五話 近しき妖鳥
群馬県太田市での生血鳥捜索
一樹は八咫烏達と共に群馬県太田市強田地区を訪れ、生血鳥という人の生き血を吸う鳥妖怪の捜索を開始した。強田地区は小規模な集落であり、生血鳥の目撃例が集中していたため、妖怪の拠点は東側の金山と推定された。
生血鳥が調伏されなかった理由
生血鳥が長年調伏されなかったのは、空を飛ぶ鳥妖怪に人間が対抗できなかったためである。鳥の式神は呪力消費が高く、近接戦闘に不向きであるため、主力にはされにくい。鳥の式神使いが少数派であることも、対応の遅れに拍車をかけた。
式神運用と戦力差の戦略
一樹は鳥妖怪への対抗として八咫烏を複数召喚し、戦力差で圧倒する戦術を選択した。八咫烏の連携により、生血鳥は短時間で制圧された。一樹は戦力の過剰投入を承知の上で、損害を最小化するための行動とした。
捕獲と強化の準備
生血鳥を捕獲した一樹は、風切羽の取得を目的として、妖怪の強化を試みた。水仙が妖糸と麻痺毒で生血鳥を封じ、一樹は自らの血を与えて強化を開始した。彼の血は地獄の穢れを含んでおり、通常の妖怪に比べ強化の効果が高かった。
強化の過程と危険の高まり
一樹の血によって、生血鳥の妖力は急激に上昇し、C級中位からB級中位にまで達した。さらに力を得ようとする生血鳥に対して、一樹は最後の血を投与することを決断し、信君に止めを任せた。最終的に、生血鳥は首を斬られて絶命した。
学校への復帰と陰陽同好会の現状
討伐を終えた一樹は、数日遅れて学校に復帰した。煙鬼の出現により社会が混乱する中で、一樹の周囲には陰陽術への関心が高まり、陰陽同好会の部活昇格を望む声も上がっていた。
煙鬼の対処と陰陽師の役割
一樹は、煙鬼は物理攻撃では倒せず、一般人には対応が困難であると説明した。煙鬼に対処できるのは、一定の呪力を持つ陰陽師のみであり、国家試験に合格している者に限られる。中禅寺湖や豊川稲荷などの神域が安全地帯として挙げられたが、一般人の避難先としては限界がある。
花咲家とA級陰陽師の継承問題
小太郎の父の死により、犬神の継承者を選ぶ儀式が行われていた。小太郎が継承すればA級陰陽師となるが、高校生の身で会長職とA級陰陽師を兼ねることは大きな負担である。一樹は、彼の将来に思いを馳せながら、現実の厳しさを再認識した。
試験の栄光と魔王の影
陰陽同好会に所属する柚葉と香苗は、陰陽師国家試験で二位・三位に入り、五鬼童凪紗を打ち破るという快挙を成し遂げた。しかし、魔王の出現により、その栄光は世間から忘れ去られた。柚葉は淡々としていたが、香苗は承認欲求と配信活動の願望を断念せざるを得なかった。
情報収集と羽団扇の進捗
一樹は香苗の質問に答えつつ、煙鬼対策の進捗が十一分の九に達したと明かした。羽団扇の完成は、大規模な呪力供給と戦力強化を可能にし、人海戦術の効率化が期待されていた。残る風切羽は、火行と水行のB級以上の妖怪のものであり、希少性が課題となっていた。
斑猫喰という火行妖怪の発見
柚葉の情報からは得られるものがなかったが、蒼依の発言により、相川家の山に斑猫喰という毒鳥が潜んでいることが判明した。かつて玄武が探していた存在であり、強力な神経毒「ホモバトラコトキシン」を持つ危険な妖怪であった。
調伏計画と安全対策
一樹は斑猫喰の調伏を決断し、蒼依と沙羅には同行を禁じた。作戦は八咫烏で追い立て、大鳩の式神で急襲し、鎌鼬、水仙、信君で仕留めるという構成であった。特に蒼依の条件により、八咫烏への安全配慮は徹底され、万が一の場合の「もやし生活」回避が動機づけとされた。
妖怪の来襲と戦闘の開始
斑猫喰は空を赤く染めながら出現し、八咫烏達と式神がそれに応戦した。鳩の式神が妖気を削り、五色の術で高度を落とした後、鎌鼬三柱と信君の連携攻撃で斑猫喰を地上に落とした。水仙の糸が妖怪を拘束し、最後は信君の刀によって斬首された。
勝利と平穏の回復
一樹は、神気の加護により毒の影響を受けず、調伏を成し遂げた。これにより、必要な風切羽の一つを手に入れ、もやし尽くしの生活も回避することができた。妖怪との命懸けの戦いの裏に、日常と小さな幸福が織り込まれた戦いであった。
第六話 最後の風切羽
風切羽の検分と羽団扇の強化
一樹は、斑猫喰を調伏して得た風切羽を奈良の陰陽師協会に持ち込み、宇賀に手渡した。羽根の赤色と呪力から火行に属することが確認され、妖毒の効果を加味した羽団扇として活用できることが分かった。これにより、残すは水行の風切羽のみとなった。宇賀と一樹は、羽団扇の力の強さと五鬼童家への信頼性から、使用者や内容を非公開にする方針を固めた。
水行妖怪・天津鰐の調査と選定
羽団扇の最後の素材として、水行に属しB級以上の力を持つ天津鰐が選ばれた。大阪府の剣尾山に関する伝承に基づき、天津鰐は鷲の姿で降臨し、人を喰らう妖怪とされていた。鰐の性質や出典の信頼性について、一樹は歴史的・神話的背景を参照し、水行に適した存在であると判断した。
天津鰐の出現と戦闘開始
一樹は蒼依・沙羅・八咫烏達と共に剣尾山へ登り、天津鰐の襲来に備えた。襲撃を察知した一樹は、黄竜の力を込めた矢で初撃を加え、式神達と連携して戦闘を開始した。牛太郎が正面から受け止め、信君が後肢を断ち切るなど、各式神が役割を果たして連携攻撃を展開した。
天津鰐の反撃と戦局の激化
天津鰐は牛太郎の左足を食いちぎるなどの反撃を見せたが、牛太郎が片目を潰し、鎌鼬三柱が右肢を攻撃することで動きを封じられた。水仙の妖糸が天津鰐の尾羽を捉え、飛行して逃れようとする天津鰐を滑空状態にし、信君が鷹の姿となった首元にとどめを刺した。
天津鰐の調伏と羽団扇の完成
天津鰐が鷹の姿で倒されたことで、風切羽の収集は完了した。一樹はこれ以上の素材集めを不要と判断し、羽団扇の完成を宣言した。蒼依や沙羅も同意し、風切羽収集は成功裡に終わった。
天津鰐の処遇と一樹の決断
天津鰐の強力さと使役の利便性に一樹は心惹かれたが、呪力消費の負担と反逆の危険性を考慮し、使役を断念した。最終的に天津鰐の肉を半分水仙に、残りを朱雀たち八咫烏に与えることで、式神の強化を選んだ。一樹は実利と安全性を秤にかけた末、堅実な選択を取ったのである。
羽団扇の完成と沙羅への最優先提供
天津鰐の討伐から二週間後、一樹は全素材が揃ったことを受け、最優先で沙羅用の羽団扇を作成した。この羽団扇は、陰陽五行の力に加え、薬師如来・虚空蔵菩薩・妖怪の力を宿しており、治癒効果まで持っていた。
羽団扇の呪力換算と支給配分
八咫烏・怪鳥・霊鳥・白鷹・生血鳥・斑猫喰・天津鰐といった妖怪の風切羽は、各妖力に応じて5%の呪力を加算する基準で羽団扇の効果に換算された。沙羅の羽団扇には最大値が投入され、五万七千の呪力を与えた。一方、五鬼童家・春日家には各二万七千程度の羽団扇が支給され、治癒効果は沙羅のもののみに限定された。
羽団扇提供の政治的意図と貢献
一樹は羽団扇の素材の大半を提供することで、他家の戦力増強を通じて自身の貢献を担保した。とくにA級陰陽師としての責務を果たすべく、協会からの評価に耐える構図を構築した。また、羽団扇の効果で五鬼童義一郎や春日家の負傷者が現役復帰を果たし、その結果として一樹の寄与が公的にも明確化された。
春日家の治癒と結月の側室申し出
沙羅の羽団扇により、春日家の弥生と一義は完全に治癒され、B級として復帰した。これを受けて結月は、一義の復帰分に釣り合う返礼として、自らが側室となる提案をした。しかし、沙羅がそれを即座に却下したため、結月は一樹をからかう形で話題を終えた。
協会戦力の強化と宇賀の評価
羽団扇の配備と治癒者の復帰によって、協会の戦力は飛躍的に向上した。A級中位として義一郎、A級下位に義輔・義経・沙羅、B級上位に五鬼童家・春日家の主力が加わり、B級中位の紫苑・天狗達を含め、当初より遥かに好転した戦力編成が整った。宇賀もこの成果を高く評価し、神仏の加護の有効性すら認める結果となった。
書き下ろし番外編 宇治の橋姫
橋姫の復活と陰陽師・賀茂一樹の対応
女子校での注意喚起と橋姫伝説の再確認
九月上旬、卿華女学院の担任は、橋姫の出現について注意喚起を行い、橋姫に関する伝承や封印の経緯を生徒に説明した。橋姫は嫉妬から鬼と化し、源頼光の四天王・渡辺綱に腕を斬られ、安倍晴明によって封印された存在である。
宇治市の現状と協会・政府の動向
橋姫は宇治市の宇治橋に現れ、カップルを襲撃していたが、政府や警察は魔王対策や責任問題への懸念から対応せず、協会も動いていなかった。これにより、被害は野放しの状態が続いていた。
橋姫の現在の行動と報道
現代に復活した橋姫は、宇治橋にてカップルを襲い、嫉妬に基づく行動で強引に別れさせていた。テレビではその様子が報道され、「カップル危険」などの注意喚起が行われていた。
綾華の決断と一樹の出動
一樹の妹・綾華は兄に相談し、一樹は家族を守る目的で宇治市に赴いた。これは常任理事としての任務を果たした後の私的行動であり、誰にも咎められるものではなかった。
宇治橋での遭遇と囮役の選出
一樹は橋姫との接触を図るべく、姚音を囮役に選び、共に宇治橋に向かった。姚音の妖気により橋姫は姿を現したが、一樹の持つ神気と式神の力を前に、即座の襲撃は控えた。
橋姫の行動理由と一樹の理解
橋姫は、自身の伝承を面白半分で煽るカップルの存在に激怒しており、その処罰として襲撃を繰り返していた。一樹はこの動機に理解を示し、橋姫の感情的な行動を無理に制止しないことを選んだ。
陽鞠の介入と事態の混乱
一樹の周囲にいた陽鞠が橋姫に共感し、暴走して割って入ったことで、状況は混乱した。橋姫と意気投合した陽鞠は嫉妬を撒き散らし、第二の橋姫のような存在と化していた。
一樹の決断と宇治橋の新たな役割
一樹は、橋姫の封印が中途半端に解けている現状に鑑み、下手に干渉せず放置することが最善と判断した。その後、宇治橋は「カップル別れ橋」として知られるようになり、別れたい恋人同士が訪れる場所として再定義された。
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