小説「ゲート外伝2<下> <黒神の大祭典編>」感想・ネタバレ

小説「ゲート外伝2<下> <黒神の大祭典編>」感想・ネタバレ

ゲート外伝2下 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 黒神の大祭典編の表紙画像(レビュー記事導入用)

Table of Contents

物語の概要

■ 作品概要

『ゲート外伝2<下> 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<黒神の大祭典編>』は、柳内たくみによる超人気ファンタジー小説『ゲート』シリーズの外伝第2弾の後編である。 物語は、現実世界の日本と「特地」と呼ばれる異世界が繋がり、そこに自衛隊が派遣されているという世界観をベースとしている。本作では、自衛隊がアルヌスで主催したイベントが、ついに十数万人が集う一大フェスティバル「大祭典」へと発展する。実行委員である伊丹の活躍により、日本食屋台やアトラクション、曲芸飛行などありとあらゆる見世物が大盛況となる。しかし、クライマックスである結婚式当日、ロゥリィと古き因縁を抱えた亜神メイベルが伝説の宝剣を携えて姿を現し、祭典が熾烈な戦場と化していくというあらすじである。

■ 主要キャラクター

  • 伊丹耀司(いたみ ようじ): 自衛隊特地派遣部隊の自衛官であり、大祭典の実行委員を務める本作の主人公。彼の手腕と奔走によって数々の見世物やイベントが成功を収めるなど、事態を牽引する中心人物である。
  • ロゥリィ・マーキュリー: 死と断罪の神・エムロイに仕える亜神の少女。大祭典のクライマックスとなる結婚式において重要な役割を担うが、過去からの因縁を持つメイベルの強襲に直面することになる。
  • メイベル: ロゥリィと古き因縁を抱える亜神(あるいは高位神官)。伝説の宝剣を携えて結婚式当日の大祭典に乱入し、平和な祭りを熾烈な戦場へと変貌させる敵対的な立ち位置である。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、異世界と現代日本の文化が融合した「お祭り(大祭典)」という非日常的な熱狂と、その裏で突発的に発生する神々(亜神)同士の壮絶なバトルが交差する点である。 屋台のB級グルメやアトラクションといった平和的でコミカルな文化交流が詳細に描かれる一方で、伝説の宝剣を巡る因縁や激しい戦闘シーンへのシームレスな移行が見どころとなっている。日常の祭りの高揚感と、死地と化す戦場のギャップが、読者にとって非常に興味深いエンターテインメント要素として確立されている。

書籍情報

ゲート外伝 2<下>自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<黒神の大祭典編>
著者:柳内たくみ 氏
イラスト:黒獅子
出版社:アルファポリス
発売日:2015年4月4日

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あらすじ・内容

2015年TVアニメ化!超人気の自衛隊×異世界ファンタジー、外伝文庫化第二弾・後編! 自衛隊がアルヌスで主催するイベントは、ついに十数万人が集う一大フェスティバル『大祭典』へと発展した。実行委員伊丹の活躍もあり、日本食屋台、アトラクション、曲芸飛行……ありとあらゆる見世物が大盛況に! ところがクライマックスとなる結婚式当日、ロゥリィとの古き因縁を抱えた亜神メイベルが、伝説の宝剣を携え姿を現す。熾烈な戦場と化した大祭典の結末は――!?

ゲート外伝2<下>自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<黒神の大祭典編>

感想

祝祭の熱狂と、運命が交差する瞬間の記録

本作は、自衛官の富田と帝国貴族であるボーゼスの結婚式、そして二人の娘・舞の誕生を祝う「ナッシダ」を軸とした、アルヌス中を巻きこむ大騒動の物語である 。ロゥリィが地上にいる五柱の亜神をすべて招集したことで、当初の予定をはるかにこえる数万人規模の祭典へとふくれあがる展開には、ただ圧倒されるばかりであった 。

意地と力がぶつかり合う、前代未聞の棒倒し

物語のなかでも、とくに目を引くのはクライマックスの棒倒しである 。
結婚式の成否や神の呪いという重大な局面を、150対150という大規模な肉弾戦で決める発想が、この作品らしい愉快なセンスだと感じた 。
当事者たちにとってはたまったものではないだろうが、はたから見ている分にはこれほど楽しい競技はない 。
賛成派に女性陣が多く集まった一方で、有力な戦力たちがなぜか反対派にまわっている構図も、お祭り騒ぎとしての面白さを引き立てていた 。

ロゥリィの過去と、メイベルに託された因縁

また、ロゥリィの過去に深く触れる構成も、非常に読みごたえがあった 。彼女がかつて亜神となったころの姿が描かれる一方で、親友ベルティと瓜二つの容姿を持つメイベルが登場する 。
メイベルがその身に宿していた神器「ディーヴァ」が、実は彼女の心臓と血管そのものであったという設定には驚きを隠せなかった 。
ロゥリィとの激闘を経て神器を奪われた彼女が、奇妙な形で生きながらえ、そのまま物語にとどまることになる流れは、単なる敵役に終わらない深みを感じさせるものである 。

未来へとつながる、鮮やかな伏線の数々

なによりも驚かされたのは、このお祭り騒ぎのなかに、後の物語へとつながる重要な手がかりが隠されていた点である 。
江田島はもちろんのこと、のちにシリーズの中心となる青年が、名前こそ出ていないものの、この時点で既に特地へ残る姿で描かれている 。
初見では見逃しそうになるほど自然にまぎれているが、後から読み返したときに「お前、ここで登場していたのか!」と気づかされる構造は、外伝ならではの心憎い演出だといえる 。

まとめ

本作は、四日間にわたるにぎやかな祭りの裏側で、ロゥリィの長い時間軸の物語と、次なる世代への布石が同時に進行している 。
単なるドタバタのお祭り回ではなく、シリーズ全体の設定を補強し、物語の枠組みをより強固なものにしている一冊であった 。
にぎやかなバカ騒ぎと、神話的な重厚さが重なりあった、実に贅沢なエピソードである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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考察

ロゥリィ・マーキュリーにおける昇神の経緯

ロゥリィ・マーキュリーがエムロイの使徒である亜神へと昇神した瞬間や、その自覚に至るまでの経緯は、劇的な伝説とは対照的なものであった。世間に流布する神話的なエピソードとは異なり、彼女の転機は極めて日常的な場面から始まっている。

予兆なき昇神の瞬間

一般的に人間が亜神へと至る際は、神の泉に身を浸す、あるいは落雷に打たれるといった劇的な転機が必要であると信じられてきた。しかし、ロゥリィの場合は以下の通り極めて簡素な状況下で発生している。

  • フェブロン神殿の見習いとなって半年が経過した頃の出来事であった。
  • 指導官であるナムダに命じられ、祭壇を掃除していた最中に転機が訪れた。
  • 掃除の弾みで倒してしまった神意の徴たるハルバートに触れた瞬間、脳内に神の声が響いた。
  • ロゥリィ自身はこれをただの空耳であると結論づけたが、実際にはこの瞬間に昇神が完了していた。

自覚の欠如と身体的変化

昇神後、ロゥリィの身体には明らかな異変が生じ始めたが、本人の自覚や使命感は乏しい状態が続いた。

  • 過酷な稽古で生じた手の肉刺が即座に完治し、擦り傷も痕を残さず消失するようになった。
  • 主神エムロイから選別理由に関する説明が一切なかったため、自身の現状を半信半疑のまま受け入れていた。
  • 長い期間にわたり特別な使命感を持つことなく、一介の見習い神官としての生活を継続していた。

親友の危機と使命の発見

ロゥリィが自らの力と真の役割を定義したのは、親友であるベルティ・エム・フォーンの窮地を救う場面であった。

  • ベルティは王権の象徴である血剣ディーヴァを体内に宿す存在であり、その命は権力者カストーリに狙われていた。
  • 絶望的な状況下でベルティの幽閉先である茨の塔へ到達したロゥリィは、傷一つない掌を見せて自身が使徒であることを告白した。
  • 自分が選ばれた理由を模索し続けてきた彼女は、過酷な運命に抗う友の姿を見て、彼女を救うことこそが神から与えられた役割であると悟った。

結論

ロゥリィにおける亜神としての自覚は、神からの直接的な啓示によってもたらされたものではない。理不尽な運命にさらされた愛する親友を救い出したいという強い意志を通じ、彼女自身が自らの力に意味を見出した結果であるといえる。

ベルティ救出作戦の背景と経緯

エデン王国のフェブロン神殿において、神官見習いであったロゥリィと仲間たちが、親友ベルティ・エム・フォーンを理不尽な運命から救うために決行した救出作戦の全容を整理する。この作戦は、権力者の野望に抗い、友情と執念によって完遂された二段階の行動記録である。

カストーリの野望と血剣ディーヴァ

作戦の根本的な原因は、メタノール家当主カストーリによる王権奪取の企てにあった。

  • ベルティは建国王の血を引く蒼髪の娘であり、その体内には王権の正統性を示す神器である血剣ディーヴァを宿していた。
  • カストーリはベルティの両親を殺害して後見人の座に就き、彼女との政略結婚を強行しようとした。
  • 結婚の真の目的は、夫としてディーヴァを所有する資格を得たのち、初夜にベルティを殺害して体内から剣を取り出すことにあった。

第一次救出作戦の失敗と人質事件

カストーリの企みを察知した友人ビムリコとホロンが先行して救出を試みたが、事態は悪化を辿った。

  • 二人はベルティを神殿から連れ出し、隣国クレシア王国へ逃がす計画を立てて実行した。
  • ロゥリィは作戦への参加を望んだが、失敗時の家族への累を懸念し、この時点では断念せざるを得なかった。
  • 救出計画はカストーリの罠によって阻止され、ビムリコとホロンは地下神殿に監禁された。
  • ベルティは二人の命を救うために結婚を承諾させられ、茨の塔に幽閉される結果となった。

ロゥリィの覚醒と単独潜入

結婚式前夜、ロゥリィは自らがエムロイの使徒(亜神)になったことを自覚し、単独での行動を開始した。

  • ロゥリィは茨の塔の外壁をよじ登ってベルティと面会し、救出の約束を交わして彼女に希望を与えた。
  • 結婚式当日、身代わりを立てて自身の不在を隠し、通風口から地下神殿への侵入を果たした。
  • 見張りの神官を圧倒的な力で退け、監禁されていたホロンとビムリコの救出に成功した。

大礼拝堂における奪還劇

救出された三人は地下通路から脱出し、式典が進行する大礼拝堂へと向かった。

  • 式壇に引き出され絶望していたベルティに対し、ホロンとビムリコが二階から結婚の拒絶を促した。
  • 決意を固めたベルティが拒絶を叫んだ隙に、漆黒の神官服を着たロゥリィが彼女を連れて逃走を開始した。
  • 参列者が混乱する中、一行は大礼拝堂のバージンロードを駆け抜け、外部へと脱出した。

螺旋階段の死闘と作戦の完遂

逃走する一行を追撃するカストーリとの間で、塔の螺旋階段を舞台とした最終決戦が行われた。

  • ロゥリィはカストーリの剛腕と凶刃を一身に受け、左肩が外れるほどの重傷を負いながらも戦い続けた。
  • 落下寸前の危機に陥ったが、駆けつけた仲間の助けを借りて踏みとどまった。
  • ロゥリィは掴まれていた頭髪を自ら切り離し、カストーリを塔の底へと転落させた。
  • 転落したカストーリは偽の神器に貫かれて絶命し、元凶は完全に排除された。

救出作戦の結末とその後

この命懸けの作戦は見事に成功を収めた。ベルティとビムリコは神殿を脱出し、隣国へと逃れることに成功した。二人はホロンの伝手によって大商人の保護下に置かれ、理不尽な運命を乗り越えて穏やかな生涯を送ることとなった。

アルヌス大祭典の概要と記録

アルヌスの街と自衛隊駐屯地が合同で開催したアルヌス大祭典について、その経緯と当日の状況を整理する。本催事は、当初の計画を大幅に上回る規模となり、特地における歴史的な転換点となった。

大祭典への規模拡大と経緯

本催事は、富田二等陸曹と帝国貴族ボーゼスの間に誕生した娘の生誕祭であるナッシダ、および両名の結婚式を駐屯地内で実施するという伊丹二尉の企画が発端であった。しかし、祭司を務めるロゥリィが地上で活動する五柱の亜神を招集したことで、事態は一変した。この情報を聞きつけた帝国の要人や民衆がアルヌスに殺到することが予見されたためである。

想定される来場者数の激増に対し、実行委員長に就任した江田島二等海佐と伊丹は、自衛隊員の士気向上も兼ねて街全体を巻き込んだ大祭典へと計画を拡大した。これは、押し寄せる人波を正面から受け止めるための現実的な決断であった。

開催に向けた準備とインフラ整備

大祭典の準備は多岐にわたり、日本国内の大規模なイベントや祭りに匹敵する密度で進められた。具体的な準備内容は以下の通りである。

  • 自衛隊は特地の食材を用いた飲食メニューの開発や、観覧車およびボブスレー風の遊具建設を主導した。
  • 州民自治会代表のディアボは各地から大道芸人を集め、生活組合は倉庫を宿舎や食堂に改装してインフラの整備にあたった。
  • ロゥリィは事前に呪舞を捧げることで、祭りの熱狂を維持しつつも不測の事態を防ぐ霊的な防塞を構築した。
  • 帝都における渡航申請の急増に対し、謄写版を用いた旅券発給体制を確立した。これにより約3万6千人の移動が可能となった。

祭典の開幕と当日の熱狂

狭間陸将による開幕宣言とともに、十数万人の多種族が入り乱れる祭典が始まった。

  • 開会式では水素を詰めた風船を火矢で爆破し、内部の花びらを散らす演出が行われた。
  • 航空自衛隊によるアクロバット飛行や仮装パレード、大音楽会などの催しが同時多発的に開催された。
  • 参加者はボブスレーなどの遊具や多様な展示を楽しみ、アルヌスは昼夜を問わず祝祭の活気に包まれた。

結婚式の波乱と棒倒しによる決着

三日目に挙行された結婚式では、光神ズフムートの使徒であるメイベルが乱入し、ロゥリィの祭司資格を否定する事態が発生した。この紛争を収めるため、江田島は自衛隊の伝統競技である棒倒しによる決着を提案した。

  • ロゥリィと伊丹が率いる自衛官および騎士団連合の黒軍に対し、メイベルとユエルが率いる帝国貴族主体の蒼軍が対峙した。
  • 激しい肉弾戦の末、両軍の棒が同時に倒れる大接戦となった。決着は両軍代表の一騎打ちに委ねられた。
  • 強大な神器を振るうメイベルに対し、ロゥリィが勝利を収めたことで混乱は沈静化した。

祭典の成功と終幕

混乱の収束後、結婚式とナッシダが滞りなく執り行われ、亜神たちによる赤ん坊への祝福が授けられた。四日間にわたる祭典は後夜祭を経て閉幕し、大成功のうちに幕を閉じた。

本催事は、アルヌスが異世界と日本を繋ぐ独自の文化圏として確立されたことを示す象徴的な出来事となった。この経験は、その後の両世界の交流における重要な基盤となったといえる。

登場キャラクター

伊丹耀司

自衛隊特地派遣部隊の自衛官である。
性格は怠け者を装いながらも必要な時に強い意志を発揮する。
ロゥリィやピニャといった特地の有力者と深い信頼関係を築いている。

・所属組織、地位や役職
 陸上自衛隊・二等陸尉。

・物語内での具体的な行動や成果
 アルヌス大祭典の運営や現場の整理を担当した。
 露店でトラブルを起こしていたメイベルを保護している。
 棒倒しでは黒軍の防御班を指揮して勝利に貢献した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ピニャより元老院勲章を授与された。
 大祭典の成功により実行委員としての影響力を示した。

ロゥリィ・マーキュリー

主神エムロイに仕える亜神である。
見かけは少女だが漆黒のハルバートを操る高い戦闘能力を持つ。
親友であるベルティを救うために自らの正体を明かして奔走する。

・所属組織、地位や役職
 エムロイ神殿・使徒(亜神)。

・物語内での具体的な行動や成果
 茨の塔の壁を登り幽閉されていたベルティと面会した。
 地下神殿に潜入して監禁された友人たちを救出している。
 決闘において神器を持つメイベルを撃退した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 亡くなったかつての友人たちの魂と再会を果たした。
 大祭典を通じて死神としての威名を高めている。

ベルティ・エム・フォーン

没落したフォーン家の令嬢である。
建国王スディの血を引く「蒼髪の娘」としての宿命を背負う。
カストーリによる野心の犠牲者となるが最後には自由を手にする。

・所属組織、地位や役職
 フォーン家・当主(元フェブロン神殿見習い)。

・物語内での具体的な行動や成果
 茨の塔に幽閉されながらも自決を辞さない覚悟で抵抗した。
 結婚式の場でカストーリとの婚姻を明確に拒絶している。
 ロゥリィに自らの衣服や毛布を渡して登攀を助けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 隣国へ逃れて大商人の内縁の妻となり幸せに暮らした。
 死後に魂となってロゥリィの前に姿を現している。

カストーリ・エム・メタノール

エデン王国の摂政を務めるメタノール家の当主である。
王権の正統性を示す「血剣ディーヴァ」を奪うために画策する。
ベルティの両親を殺害し彼女を政略結婚で支配しようとした。

・所属組織、地位や役職
 メタノール家当主。エデン王国・摂政。

・物語内での具体的な行動や成果
 ベルティを茨の塔に幽閉して外部との接触を断った。
 逃亡を図ったロゥリィを急襲して重傷を負わせている。
 最後は螺旋階段から転落して自ら用意した偽の剣に貫かれた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ズフムート信者と共謀して国家叛逆の罪を犯した。

ナムダ

フェブロン神殿の見習い神官を指導する神官である。
厳格な性格で規律を重んじるが教え子たちの安全を深く案じている。
事件の際には自ら武装神官団を率いて現場へ突入する。

・所属組織、地位や役職
 フェブロン神殿・指導官。

・物語内での具体的な行動や成果
 夜間に外出していたロゥリィとメグルを発見して叱責した。
 地下神殿に突入してカストーリの逮捕を宣言している。
 ビムリコたちにベルティを連れて逃げるよう密かに命じた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神殿内のズフムート信者を掃討して秩序を回復させた。

メグル

フェブロン神殿の三年次見習い神官である。
ロゥリィの親友であり行動力と機転に富んでいる。
女の子同士の色恋沙汰に関心を持つ快活な性格である。

・所属組織、地位や役職
 フェブロン神殿・神官見習い。

・物語内での具体的な行動や成果
 ロゥリィとともにキマ・シセナ塔の調査へ向かった。
 結婚式当日にロゥリィの身代わりを務めて時間を稼いだ。
 乱戦の中でトンスルーを圧倒してベルティの奪還を助けている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 生涯を神殿で過ごしロゥリィの神殿改革を支えた。

ビムリコ

フェブロン神殿の見習い神官である。
盗賊の娘であり実利的な判断力と勇敢さを備えている。
ベルティを守るために命を懸けて行動する。

・所属組織、地位や役職
 フェブロン神殿・見習い神官。

・物語内での具体的な行動や成果
 ホロンとともに第一次ベルティ救出作戦を決行した。
 地下神殿に監禁されるがロゥリィによって救出されている。
 螺旋階段での死闘では落下しそうなロゥリィを支え上げた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神殿を脱出した後はベルティの秘書として生活した。

ホロン

フェブロン神殿の見習い神官である。
将軍家ルーチェの娘であり誇り高い性格を持つ。
友人のために貴族としての地位や家格を捨てて協力する。

・所属組織、地位や役職
 ルーチェ家令嬢(フェブロン神殿見習い神官)。

・物語内での具体的な行動や成果
 ビムリコと協力してベルティを国外へ逃がそうとした。
 監禁中も屈することなく見張りの暴力に耐えている。
 自らの家の伝手を利用してベルティの亡命先を手配した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 生涯独身を貫きルーチェ家の女主人として生涯を終えた。

メイベル・フォーン

ズフムートの使徒(亜神)となった少女である。
ベルティ・エム・フォーンの末裔としてロゥリィに因縁を持つ。
真面目な性格だが世の中の欺瞞に対して強い反発心を抱いている。

・所属組織、地位や役職
 ズフムート神殿・使徒(亜神)。

・物語内での具体的な行動や成果
 富田とボーゼスの結婚式に乱入して儀式に異議を唱えた。
 自らの体内から神器「法剣ディーヴァ」を取り出している。
 ロゥリィとの決闘に敗北してアルヌス郊外まで吹き飛ばされた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 地上で六柱目の亜神としてその存在を広く知らしめた。

ピニャ・コ・ラーダ

帝国の第三皇女である。
ボーゼスの親友として彼女の結婚を全面的に支援する。
自衛隊の文化を吸収し帝国の軍事改革を志している。

・所属組織、地位や役職
 帝国・第三皇女。

・物語内での具体的な行動や成果
 ボーゼスの結婚式で自らゼプリルの列に並んだ。
 棒倒しでは黒軍の攻撃班に参加して乱闘に加わっている。
 神器を求めて暴走する貴族たちをその権威で一喝した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 日本から謄写版の技術を獲得して旅券問題を解決した。

ボーゼス

パレスティ侯爵家の令嬢である。
富田との間に娘の舞をもうけ彼と結婚する。
誇り高い貴族だが現在はアルヌスで新しい生活を送っている。

・所属組織、地位や役職
 パレスティ侯爵家・令嬢。

・物語内での具体的な行動や成果
 大祭典のボブスレーを体験して激しく疲弊した。
 ピニャに対し伊丹への積極的なアプローチを促している。
 結婚式ではテュカたちによる完璧な花嫁支度を受けて登場した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父親から勘当を解かれ正式に富田と結婚した。

富田

自衛隊特地派遣部隊の自衛官である。
ボーゼスを妻として迎え一児の父となる。
誠実だが少し不器用な性格の持ち主である。

・所属組織、地位や役職
 陸上自衛隊・二等陸曹。

・物語内での具体的な行動や成果
 ボーゼスに対し正式なプロポーズを行い結婚を決意した。
 棒倒しではユエルを押さえ込み行動を封じている。
 パレスティ侯爵から首を絞められるが耐え抜いた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 元老院勲章を授与され貴族として叙爵される見込みである。

江田島二等海佐

海上自衛隊の自衛官である。
アルヌス大祭典の実行委員長を務め驚異的な指導力を発揮する。
帆船模型の制作を趣味とする情熱的な人物である。

・所属組織、地位や役職
 海上自衛隊・二等海佐。大祭典実行委員長。

・物語内での具体的な行動や成果
 結婚式の問題を解決するために棒倒しの実施を提案した。
 パウルという海藻を利用した風船の演出を企画している。
 伊丹に対し将来的な海洋調査任務への同行を要請した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大規模な催しを成功させ特地での存在感を高めた。

狭間陸将

自衛隊特地派遣部隊の最高責任者である。
大祭典の開会宣言を行い平和の実現を強調した。
部下である伊丹や富田を高く評価し支援している。

・所属組織、地位や役職
 陸上自衛隊・陸将。特地派遣部隊指揮官。

・物語内での具体的な行動や成果
 棒倒しでは自ら迎撃班を指揮して敵軍を阻んだ。
 パレスティ侯爵に対し腰を低くして富田への理解を求めている。
 風船が空を埋め尽くす光景に平和を実感した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 特地における自衛隊の活動を政治的・軍事的に統括する。

ユエル・バーバレン

亜神グランハムの眷属の男である。
強い相手と戦うことに至上の喜びを感じる武人である。
メイベルの口車に乗り伊丹に戦いを挑む。

・所属組織、地位や役職
 グランハムの眷属。

・物語内での具体的な行動や成果
 棒倒しでは蒼軍の攻撃班を率いて単騎で陣地を突破した。
 富田やパレスティ侯爵を背負ったまま立ち上がる怪力を見せた。
 敗北後は来年の再戦を誓いエルダー一家を仲間に加えている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 戦神の使徒としての誇りを持ち常に研鑽を積んでいる。

グランハム・ホーテック

太陽神フレアの使徒(亜神)である。
眩いばかりの美貌を持ち「太陽の神子」と称される。
ロゥリィより後に亜神になったため彼女を先輩として敬う。

・所属組織、地位や役職
 太陽神フレア・使徒(亜神)。

・物語内での具体的な行動や成果
 アルヌス大祭典を訪れ人々の熱狂を呼んだ。
 ナッシダの儀式において赤ん坊の舞に祝福を授けている。
 テュカに対し彼女の父親に関する生存の可能性を示唆した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 地上で活動する五柱の亜神の一人として強い影響力を持つ。

ジゼル

冥王ハーディの使徒(亜神)である。
竜人族の女性で巨大な大鎌を武器として操る。
好戦的な性格で自分の作を騙る偽物屋を力で制圧する。

・所属組織、地位や役職
 冥王ハーディ・使徒(亜神)。

・物語内での具体的な行動や成果
 街のモグリ店舗を摘発して治安の維持に貢献した。
 冥王の言葉を代弁しベルティの魂を地上へ導いている。
 レレイに対してハーディからの伝言を届けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 棒倒しに参加できなかったことを不満に感じている。

モーター・マブチス

神匠エランの使徒(亜神)である。
ドワーフの老人でロゥリィのハルバートを鍛えた人物である。
豪快な性格で亜神としての長い年月を生きている。

・所属組織、地位や役職
 神匠エラン・使徒(亜神)。

・物語内での具体的な行動や成果
 ナッシダの儀式に参列して舞に加護を与えた。
 ロゥリィを「お嬢ちゃん」と呼び彼女の成長を喜んでいる。
 アルヌスの街に自身の工房を構えることを決めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 優れた鍛冶技術を持ち神鉄の武具を制作できる。

ワレハルン

樹神の使徒(亜神)である。
樹海としての意思を持つ特異な存在で人型の分身を派遣する。
人間に対して独自の価値観を持ち自身の果肉を分け与える。

・所属組織、地位や役職
 樹神・使徒(亜神)。

・物語内での具体的な行動や成果
 森の礼拝堂を造成して結婚式の会場を整えた。
 ナッシダの儀式において自らの耳(果実)を舞に授けている。
 大祭典後もアルヌスに留まり自身の森を形成した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 彼女の種を植えた地にはワレハルンの分枝が芽吹く。

ディアボ

帝国の皇子である。
大祭典においては州民自治会代表として活動する。
金銭的に追い詰められると亜神を餌に寄付を募るなどの策を弄する。

・所属組織、地位や役職
 帝国・皇子。州民自治会代表。

・物語内での具体的な行動や成果
 多数の大道芸人を集めて大祭典の賑わいを創出した。
 棒倒しの勝敗を対象とした賭博の胴元を務めている。
 費用の支払いに窮してロゥリィから叱責を受けた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自らの野心のために祭りの熱狂を利用した。

ヴォトカ

フェブロン神殿の司教である。
神殿の権威拡大を望み富裕層を優遇するよう提案する。
ロゥリィを恐れているが棒倒しでは彼女に挑む勇気を見せた。

・所属組織、地位や役職
 フェブロン神殿・司教。

・物語内での具体的な行動や成果
 貴族や商人を優先的に参拝させるようロゥリィに求めた。
 棒倒しでは蒼軍に参加してロゥリィに飛びついている。
 実績を作って大司教の座に就くことを目論んだ。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ロゥリィによってその提案を一蹴され面目を失った。

トンスルー

メタノール家の執事である。
カストーリの野心のために動き地下神殿の管理などを行う。
冷酷な手段を厭わずビムリコたちを人質として扱った。

・所属組織、地位や役職
 メタノール家・執事(ズフムート信者)。

・物語内での具体的な行動や成果
 ホロンたちの捕縛を指揮して地下神殿へ監禁した。
 結婚式の最中にビムリコの喉に短剣を突きつけて脅迫した。
 地下神殿の乱戦ではメグルの攻勢に圧倒されている。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 主であるカストーリの最期を見届けて降伏した。

ロルド・フラ・パレスティ

ボーゼスの父親でありパレスティ家の当主である。
厳格な貴族として一度は娘を勘当したが心底では彼女を愛している。
帝国での立場を守るために苦渋の決断を繰り返す。

・所属組織、地位や役職
 パレスティ侯爵家・当主。

・物語内での具体的な行動や成果
 当初は富田との結婚を断固として拒否していた。
 棒倒しでは蒼軍に参加して富田の首を絞めるなどの抵抗を見せた。
 最後は婿である富田の実力を認めて勘当を解除している。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大祭典への参列を通じて家の名誉を回復した。

モーイ

ロゥリィ神殿の見習い神官である。
真面目な性格だが樹神ワレハルンに恋をしてしまう。
自身の役割と個人的な感情の間で激しく葛藤する。

・所属組織、地位や役職
 ロゥリィ神殿・見習い神官。

・物語内での具体的な行動や成果
 ワレハルンに養分を吸い取られながらも彼女を慕った。
 ワレハルンの神体拝受式ではその果肉を切り分ける役を務めた。
 初恋の相手を皆に食べさせる役割に耐えきれず涙を流した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大祭典を通じて初恋と別れの痛みを経験した。

展開まとめ

06

フェブロン神殿で進む結婚式の準備

フェブロン神殿では、エデン王国摂政家のカストーリ・エム・メタノールとベルティ・エム・フォーンの結婚式に向けた準備が進められていた。見習い神官たちも動員され、礼拝堂の巨大な青銅製燭台の清掃や装飾の準備などで神殿は慌ただしくなっていた。ロゥリィはメグルとともに作業に当たり、倉庫から大量のカーテンを運び出して礼拝堂へ届けた。

ベルティの監禁と茨の塔

作業の合間、メグルはベルティの居場所について尋ねた。ロゥリィは、ベルティが現在茨の塔に移されていることを説明した。ホロンとビムリコが姿を消した後に行われた措置であり、カストーリの差し金ではないかとロゥリィは考えていた。メグルが塔の頂上に見える人影に手を振ったが反応はなく、塔は茨に覆われた脱出不可能の牢獄のような場所であると語られた。

ゼブリルへの選出とロゥリィの疑念

大礼拝堂の装飾作業が終わると、ナムダは儀式のための選抜メンバーであるゼブリルに集まるよう命じた。ロゥリィは志願していないにもかかわらずゼブリルに選ばれており、これはベルティ救出に関係する行動を警戒しての措置ではないかと考えた。儀式の説明と呪舞の稽古は夕食後まで続き、見習いたちは疲れて眠りについたが、ロゥリィだけは起きて手紙を書きながら思案を続けていた。

ベルティ救出を決意するロゥリィ

ロゥリィはホロンとビムリコの行方を案じ、もし捕らえられているなら救出し、そのうえでベルティを塔から逃がす決意を固めていた。しかし家族を巻き込まないためにも慎重に行動する必要があり、指導官の厳しい監視をどう突破するかが問題であった。

幽霊の噂とメグルの提案

そのときメグルが現れ、ホロンとビムリコの行方について話を持ちかけた。メグルはキマ・シセナ塔の壁から助けを求める幽霊の声が聞こえるという噂を語り、それを確かめに行こうと誘った。ロゥリィは噂に疑念を抱きつつも、二人の手がかりが見つかる可能性を考え、夜の神殿を抜け出して調査に向かうことになった。

キマ・シセナ塔への潜入

二人は月明かりを頼りに神殿の敷地を進み、崩れかけたキマ・シセナ塔へ向かった。塔はかつて十二階あったが雷で崩れて放置されており、現在は途中で折れた廃塔となっていた。メグルはこの場所を密会に使っていたことを明かし、窓から塔の内部へ入った。中には灯りや道具が用意されており、螺旋階段を上って六階まで進んだ。

壁の隙間と通風口の発見

六階で耳を澄ましても声は聞こえなかったが、ロゥリィが灯火を壁に近づけると炎が揺れ、隙間風があることに気づいた。二人は上階へ向かい、崩れた七階部分を調べた結果、壁の交点に縦に続く狭い空洞があることを発見した。それは煙突のように下へと続く通風口であり、どこかに空間がある可能性が浮かび上がった。

地下空間の存在の推測

六階から一階まで調べても通風口の出口は見つからなかったため、二人は塔の外側を調査した。すると塔の床が地面より低い位置にあることに気づき、崩落した瓦礫によって本来の一階部分が埋まっている可能性が浮かび上がった。つまり塔の地下に空間があり、そこから通風口を通じて空気が流れているのではないかと考えられた。

地下にいる者の存在の可能性

この推測からロゥリィは、幽霊ではなく誰かが地下に閉じ込められている可能性を考えた。そしてその人物がホロンやビムリコであるかもしれないと感じ、地下への入口を探して救出しようと決意した。

ナムダ指導官の出現

しかしその矢先、二人の行動を見つけたナムダ指導官の叱責が夜の静寂を破った。ロゥリィとメグルは塔の前で発見され、行動はそこで中断されることとなった。

ナムダによる夜間外出の尋問

ナムダはロゥリィとメグルを舎監棟へ連行し、夜更けにキマ・シセナ塔へ行った理由を厳しく問い詰めた。執拗な追及を受けた二人は、幽霊の噂を確かめるために塔へ行ったことを認めた。ナムダは曖昧な噂を理由に夜中に宿舎を抜け出したことを叱責し、ホロンとビムリコについては幽霊に捕まったのではなく脱柵して帰郷したのだと説明した。二人はベルティの結婚を知って思うところがあり、家に戻った可能性があると語られた。

友人の名を守ろうとするメグル

ナムダは塔で幽霊の噂を語った友人の名前を明かすよう求めたが、メグルは頑なに拒んだ。ナムダは、危険な塔への出入りを黙認することは友人が事故で命を落としても構わないと思うのと同じだと説き、責任を自覚するよう強く諭した。正論に二人は言葉を失ったが、それでもメグルは名前を明かさなかった。

メグルの自白

やがてメグルは、塔に下級生を連れ込んでいたのは自分であり、禁を破った主犯は自分であると認めた。下級生たちは自分について来ただけであり、自分が行かなければ塔に近づくこともないため、名前だけは明かさないでほしいと願い出た。幽霊の噂自体は作り話ではなく、塔で遊んでいた際に聞いた声が発端であると説明した。

ロゥリィへの処罰

ナムダは事情を理解すると、ロゥリィに規則違反の罰として一ヶ月の外出禁止とハルバート一万回の立木打ちを命じた。ただし立木打ちは執行猶予とされ、今後キマ・シセナ塔へ近づかないことを条件にされた。ロゥリィはその命令を受け入れ、舎監室を後にした。

メグルへの追加尋問

ロゥリィが解放された一方で、メグルはさらに事情を詳しく説明するため舎監棟に残されることになった。塔で誰と何をしていたのかを話す必要があると告げられ、メグルは不安げな視線をロゥリィへ向けたが、ロゥリィには助ける術がなかった。

ロゥリィの密かな決意

寮に戻ったロゥリィは、寝台に潜り込まず毛布を取り出し、小刀で切り裂いて布片を作った。二枚の毛布切れを用意すると、それを抱えて再び寮を抜け出した。

メグルを囮にした行動

ロゥリィは舎監棟の窓から中を窺い、メグルがなおもナムダから叱責を受けながら友人の名前を守り続けている様子を確認した。メグルが尋問を引き受けているため、監視の目が他へ向いていない今こそ行動の機会であると判断したロゥリィは、ベルティに会うため茨の塔へ向かうことを決めた。

茨の塔への接近

茨の塔は外壁全体が鋭い棘を持つ茨で覆われ、窓は最上階にしかない構造であった。入口には武装した神官が見張りとして立っていたため、ロゥリィは迂回して塔の背後へ回り、最上階の窓に灯りがあることを確認した。

茨を利用した登攀

ロゥリィは切り出した毛布を両手に巻きつけ、紐で縛って簡易の手袋にした。毛布の厚みが茨の棘を防ぐことを確かめると、その茎を掴んで体を支えられると判断した。こうしてロゥリィは茨に覆われた壁を足場として、最上階を目指して静かに登り始めた。

ベルティの抵抗とカストーリの冷笑

ベルティは人でなしだと叫び、貝紫のドレスやサファイアの宝飾品をカストーリへ投げつけた。投げる物が尽きると花瓶まで投げ、外した花瓶が壁に当たって破片が散った。カストーリは破片を避けつつ微苦笑し、数日後にはベルティが自分の妻になるのだと告げ、ベルティは結婚はまだだと反発した。

リコとホロンを巡る脅迫とベルティの絶望

ベルティは、リコとホロンが陽も当たらない場所に押し込められ、このまま殺されるのだと訴えた。二人が死ねば自分も命を絶つと言い、壺の破片を喉に押し当てた。カストーリは水は与えていると述べ、執事トンスルーが一日一杯の水だけ与えていると答えたため、ベルティは衝撃を受けて崩れ落ち、助けを乞うて額を床に擦りつけた。

人質の理由と屈辱的な条件

カストーリは、ルーチェ家の動きを封じるためにリコとホロンを人質にしたのだと説明した。式が終われば解放してもよいと言い、ベルティが食事を求めると、明日は美しい装いと笑顔で迎えることを条件に食事を与えると告げた。カストーリは床に落ちていた貝紫のドレスをベルティへ投げて退出し、ベルティは屈辱に震えて泣き崩れ、リコとホロンの名を呼んだ。

満身創痍のロゥリィの来訪

ベルティが泣いていると、名前を呼ばれないのかと第三者の声がし、窓辺にロゥリィが立っているのを見た。ロゥリィは全身に傷を負い、手足を血で染めた満身創痍の状態であった。ベルティは手当てをしようとしたが、ロゥリィは見た目ほどではないとして制し、茨の塔の壁を登って来たと説明した。

救出計画の失敗とズフムート信者の潜伏

ロゥリィはリコとホロンの状況を尋ね、ベルティは救出計画が途中まで成功したが罠だったと語った。ビムリコとホロンは見張りの女性神官を襲ってベルティを連れ出したものの、アデル聖堂を出たところで異教徒の集団に囲まれた。ベルティは、フェブロン神殿にはエムロイ信者のふりをしたズフムート信者が多数潜んでいたのだと説明し、二人は壊れた塔の地下にあるズフムートを祀る神殿へ閉じ込められたと述べた。

ベルティの諦念とロゥリィの決意

ベルティは自分が逃げればリコとホロンが酷い目に遭うため従うしかないと語り、両親を失って追われ続けた苦しさを吐露して涙した。ロゥリィは、ここで諦めればカストーリを喜ばせるだけだとして戦うよう促し、ベルティが自分を投げ捨てればロゥリィも苦しくなるのだと訴えた。ベルティはロゥリィの怪我を見て自責の念を強めたが、ロゥリィは大したことではないと言い、傷跡のない掌を示した。

ロゥリィが亜神となった告白

ロゥリィは自分がエムロイの使徒になったと告げた。ベルティが理由を問うと、ロゥリィは見習いになって半年目に祭壇掃除中、倒れた神意の徴たるハルバートに触れた瞬間、脳幹を打つ声を聞いて以後、傷がすぐ治り痕も残らなくなった経緯を語った。ロゥリィは、これがベルティを助けよということだと思うと述べ、ベルティに負けないで戦うよう説いた。

ベルティの再起と秘密の約束

ロゥリィは、ベルティが全てを諦めればリコとホロンは後悔し続けると語り、二人の気持ちを大切にするなら戦うべきだと迫った。ベルティは嫌だと涙ながらに答え、ロゥリィに抱きしめられて小さく頷いた。ロゥリィは、自分が亜神であることはベルティだけの秘密にし、リコやホロンにも内緒にするよう約束させた。

脱出準備と衣服の交換

ロゥリィが帰ろうとすると、ベルティは寝台の毛布に陶器片を突き立てて裂き、ロゥリィのための代わりの毛布を用意した。さらに血だらけの神官服をベルティのものと取り替え、ロゥリィには着替えをさせた。ベルティは自分はカストーリに命じられた貝紫のドレスを着るのだと示し、ロゥリィはその薄い素材に言葉を失った。

決行日の約束と落下の騒動

ベルティは上等な毛布をロゥリィの両手に被せ、手首で縛って手袋代わりにした。ロゥリィは結婚式当日にビムリコとホロンを助けに行くと告げ、茨を掴んで外壁を降り始めた。だが途中で茎が壁から剥がれて千切れ、ロゥリィは急降下した。ベルティが凍りつく中、地上から大丈夫だとロゥリィの声が聞こえ、ロゥリィは元気に手を振って闇の中へ消えていった。

07

アルヌス大祭典の開会

狭間陸将の宣言によってアルヌス大祭典の開会セレモニーが始まった。会場はアルヌス駐屯地と街の間にある演習場エリアであり、ヒト種をはじめダークエルフ、ドワーフ、プッカ、キャットピープル、ヴォーリアバニー、ディンゴス、六肢族、翼人、ハーピィ、小人、竜人族など多様な種族が集まり、十数万人規模の人々が会場を埋め尽くしていた。かつて戦争や混乱の際には不安に満ちていたアルヌスであったが、この日は何が始まるのかという期待と喜びに満ちた空気が広がっていた。

風船の放出と平和の実感

特地の楽士によるファンファーレを合図に、参加者たちは一斉に風船を空へ放った。色とりどりの風船が空を埋め尽くす光景を、舞台裏のひな壇に座る自衛隊幹部たちは感慨深く見上げた。門が閉じられて一年、日本との連絡が絶たれた状況で隊の士気を維持し続けてきた彼らにとって、この光景は初めて平和を実感できる瞬間であった。

海藻由来の風船の秘密

壇上から降りた狭間陸将は、大祭典実行委員長の江田島二等海佐に風船の出所を尋ねた。江田島は、それがパウルという海藻の浮き袋を利用したものであり、天然ゴムに似た材質を持つため化学班が関心を示していると説明した。海藻の中には光合成によって生じた純粋酸素が入っており、一度それを抜いた後に水素を注入して風船として利用したのだと語った。

空中の連鎖爆発と花びらの演出

江田島の用意した仕掛けとして、主催者代表の挨拶を終えたテュカが火矢を空へ放った。鏑矢が風船の一つに触れると破裂し、その衝撃で次々と風船が連鎖的に爆発した。さらに風船の中から色とりどりの花びらが舞い降り、会場を埋め尽くす人々はその華やかな光景にどよめきと拍手を送った。

祭典の開始と会場の熱狂

その直後、四人乗りボブスレーが轟音とともに大会場の横を通過し、人々の歓声がさらに高まった。これを合図にすべての催しが営業を開始し、大道芸人が芸を披露し、露店の呼び込みの声が響き、音楽が鳴り始めた。子供たちは目当ての場所へ駆け出し、スタッフが走らないよう呼びかける中、アルヌスの街は大祭典という非日常の熱気に包まれていった。

花びらに足を止めたメイベル

光神ズフムートの使徒メイベル・フォーンは、アルヌスの麓で花びらが積もるように降りそそぐ光景を見て足を止め、祭典の華やかさに見入っていた。住民主体の祭りが小規模になりがちな大陸の常識や、権力者の慶事を祝わせる祭りに伴うお仕着せ感と比べ、この大祭典には皆で楽しませ皆で楽しむという熱気があり、酒に酔うような陶酔感を生んでいると捉えていた。また、その高揚が人の冷静さの限界に近いほどに高められていると感じ、暗黒神の使徒の仕業である可能性を疑っていた。

街へ下りる途中の賑わい

メイベルは人の流れに従って丘を下り、街へ向かった。その途中では大道芸人が拍手喝采を浴び、道の両脇には屋台が並び、店主たちが滑稽な啖呵で商品を宣伝して通行人の関心を引いていた。

護符屋での口論と暴力沙汰

メイベルは護符を売る禿頭でひげ面の商店主に声をかけ、ベルナーゴから来たのかと問いただした。商店主はベルナーゴから来たと名乗ったが、並べられた護符はメイベルには偽物にしか見えず、力ある護符がないと指摘したため客が離れ、商店主は激昂してメイベルの襟首を掴み拳を振り上げた。

伊丹の介入と露店の不正発覚

拳が振り下ろされそうになった瞬間、伊丹が背後から商店主の腕を掴んで止め、暴力沙汰は禁止であり問題があれば係員に連絡するよう事前説明会で伝えたと告げた。伊丹はさらに、この道路は通行の妨げになるため露店禁止のはずだと気づき、なぜ複数の店が並んでいるのか疑問を示した。すると周辺の店主たちが集まり、この一帯がエルダー一家の縄張りだと主張して威圧し始めた。

メイベルの抵抗と状況の悪化

伊丹は戦力差を見て穏便に退く判断を考えたが、メイベルは偽物を売る無礼者だと非難し続けた。男たちに吊り上げられたメイベルは怯まず、ひげ男の臑を蹴って手を離させ、伊丹は隙を見て逃げろと叫んだ。だがメイベルは逃げずに襲いかかろうとし、伊丹が引き戻したため、メイベルは派手に転倒し下着が露わになり、男たちは嘲笑とともに卑劣な言葉で迫った。

ジゼルの登場とエルダー一家の連行

伊丹が男たちを制止しようとしたところ、ひげ男の喉元に巨大な大鎌がかけられ、白いゴスロリ神官服の竜人女性ジゼルが現れた。メイベルは、男たちがジゼルの作だと称して力のない民芸品を護符として売り、指摘した自分と伊丹に性的暴行を加えようとしたと説明した。ジゼルは偽物販売を確認し、男たちを痛めつけると告げて連れて行った。伊丹は過剰な危害を加えないよう釘を刺し、ジゼルはこの地の法に従うと応じた結果、エルダー一家は連行され、モグリの店舗も撤去される流れとなった。

暴力の是非を巡る伊丹とメイベルの応酬

伊丹はメイベルに暴力は駄目だと叱り、正当防衛の範囲を超えていたと指摘した。メイベルは一対複数であった以上、確実に行動不能にする必要があったと反論し、ジゼルが来なければ二人とも捕らえられていたと述べた。伊丹は逃げることも選択肢だと諭したが、メイベルは悪人相手に逃げるのは性に合わないと譲らなかった。

食事を巡る押し問答とメイベルの身の上話

メイベルは伊丹の正義心に報いるとして粗餐を捧げる権利を与えると言い、伊丹は面倒だとして仕事に戻ろうとしたが、メイベルは空腹で金がないと主張して引き留めた。メイベルは父の顔を知らず母は殺されたと語り、各地を旅して路銀が尽きたとも述べたうえで、神殿に頼らないのは面倒で義務に縛られたくないからだと話した。また、有力者に眷属にしてやると言って喜捨させてきたが、眷属にしないままでいたため疎まれたとも語り、伊丹はそれを詐欺同然だと受け止めた。

自衛官屋台の繁盛と材料確保の判断

大祭典の模擬店では自衛官サークルのB級グルメ屋台に長い行列ができ、焼きそばやお好み焼き、綿あめなどが売れた。焼きそば担当の久居三佐は売れ行きの良さを受け、茂原三等陸曹から材料確保を急ぐべきだと進言され、三日目四日目の客を落胆させたくないとして追加調達を決断した。ただし欲張って買いすぎず、収支はトントンでよいと釘を刺し、手に入った分だけ作って無くなれば閉店にすると方針を示した。

伊丹の試食券とソースの商品化構想

伊丹は見回り中に迷子を保護した経緯を久居に話し、焼きそば試食券を提示した。久居は伊丹に二人前を渡し、以前の世話への礼だと告げたうえで、食後にソースの感想を求め、調子が良ければ食堂での提供や商品化も視野に入れていると語った。

休憩所での食事と箸の冗談

伊丹は休憩用テーブルでメイベルに焼きそばやお好み焼き、羊肉の明石焼きを並べた。メイベルは味が濃いが美味いと評価し、伊丹の使う箸に関心を示した。伊丹は箸の習得が命がけの訓練だと冗談を言い、秤や奈落の話で脅かしたため、メイベルは恐れて反応した。

名乗りと今後の行動の確認

伊丹が名を尋ねると、少女はメイベル・フォーンだと名乗り、名で呼ぶことを許した。伊丹は今後の行動や宿泊先を気にしたが、メイベルは使命を果たすまでこの地にいるとし、今夜の伝手もあると述べた。さらに、帝国の貴族の娘を頼り食客として世話を受けており、ランドール公爵家で令嬢レディの相談役のような立場にあると説明した。伊丹は宿営地の地区まで案内を申し出たが、メイベルは祭り見物をしてから道を聞きつつ向かうとして断り、案内図入りのカタログを示した。伊丹は念のため乱暴は駄目だと言い残して別れ、メイベルは去っていく伊丹の背中を見送り、死神ロゥリィの眷属だと評して悪い男ではなさそうだと呟いた。

ボブスレー初挑戦と疲弊

大祭典が始まるとピニャたちはすぐにボブスレーを試したが、速さと勢いに目を回し、停止したソリの中で揃って突っ伏していた。係員はふらつく客を降ろして大型ソリを荷馬車に積み、一定数が溜まるたび丘の上へ運ぶ段取りで動いていた。降車場近くではヴィフィータが寝転がり、ボーゼスは震えが止まらず、ピニャとハミルトンも四つん這いで息を整えており、落下中心のスカイダイビングとは異なる揺さぶりと景色の流れが別種のスリルになっていたため、侮っていたピニャは大いに驚かされていた。

次の演目への移動判断と夫婦の話題

呼吸を整えたピニャはもう一度挑戦しようとしたが、ハミルトンは第三会場の大天幕に赤い旗が揚がっており、ドベルト曲芸団が始まりそうだと告げた。ピニャは身体を起こしてボーゼスの様子を気にしたが、ボーゼスは富田が子供の面倒を見るから今日と明日は好きに過ごせと言ってくれたと話し、周囲の女性たちは囃し立てた。ボーゼスはヴィフィータにも健軍一佐のもとへ行かないのかと尋ね、ヴィフィータは勤務中なので非番になってから行くつもりだと答えた。

ヴィフィータの夜の予定と兵棋演習の説明

ハミルトンが夜中に男の部屋へ行って何をするのかとからかうと、ヴィフィータは最近は兵棋演習だと述べた。ヴィフィータは地図の上で兵を表す駒を動かして戦術を研究する遊びだと説明し、将棋とは違い地形や天候まで考慮する本格的なものだと強調した。ピニャは興味を示し、ヴィフィータはその経験からこの世界の戦争が遅れていると実感したと語り、ピニャは自分の代になったら軍の改革を担わせると宣言し、ヴィフィータも学んでおくと応じた。

恋愛事情の暴露合戦とピニャの孤立

ボーゼスとハミルトンは、殿方と二人きりならもっと色気のあることをしていると思ったと揶揄し、ヴィフィータは歯切れ悪く言葉を濁した。ボーゼスは自分が赤裸々に話させられたのだからヴィフィータにも同じ思いをさせると言い、ハミルトンも同調した。そこへピニャが、男がいないのは自分だけではないかと気づき、周囲は忘れて遊び倒せばよい、夜は寂しくないよう付き合うと慰めたが、ピニャはそれを屈辱的に感じていた。

ピニャへの叱咤と伊丹への方針転換

ボーゼスは、こうなったのはピニャが手をこまねいているからだとして、伊丹との関係がどうなっているのかを問いただした。ピニャは手紙のやりとりはあるが絵の感想程度だと答え、ボーゼスとハミルトンは趣味の友達の関係だと評した。ボーゼスは危機感を持つべきだと強く迫り、ヤオやロゥリィ、レレイ、テュカも本腰を入れているのに、ピニャがもたもたすれば割り込む余地がなくなると告げた。さらに二人で旅していた間に何もしなかったのかと責め立て、ピニャが口づけはしたと弁明すると、ボーゼスは口づけで終わるのは子供の恋愛ごっこだと叱責し、相手が伊丹で競争者が多い以上は領有権を得ることが先決だと説いた。ピニャはそれを戦争だと受け止め、伊丹に会ったら攻め続けると宣言し、ボーゼスはそれでこそだと称え、ピニャは感謝して手を握り返した。

伊丹発見と曲芸団への誘いの準備

ヴィフィータが人混みの中に伊丹を見つけて呼び止め、伊丹を連れて戻ってきた。ボーゼスは好機到来だと囁き、ピニャは何を話せばよいか戸惑ったが、ボーゼスはドベルト曲芸団の天幕で青旗が揚がったことを材料に、一緒に行かないか誘うよう促した。ピニャは唾を呑み込み、敢然と伊丹へ向かい、久しいなと呼びかけたが声は裏返っていた。伊丹が殿下と呼ぶと、ピニャはピニャと呼べと求め、ボブスレーを楽しんで休んでいたこと、次は曲芸団を見に行くつもりだと説明したが、ヴィフィータは団名を言い間違えていると指摘し、ボーゼスは緊張で固まっているのだと評していた。

誘いの寸前での介入

ピニャが伊丹の腕を取ろうとして公演に誘おうとした瞬間、ピニャの手を横から掴む者が現れ、伊丹とピニャの間にロゥリィ、レレイ、テュカ、ヤオの四人が割って入った。レレイ、テュカ、ヤオは薄桃色のフリルの衣装をまとい、テュカは伊丹の右隣に立ち、レレイは伊丹の左腕にしがみついて無表情にだめと告げ、ピニャは身動きできなくなっていた。ボーゼスは邪魔が入ったことを悔しがり、四人の美しさが主役の自分を圧倒しかねないことにも内心で複雑さを抱えていた。

ボーゼスの策と群衆の集中

ボーゼスは一計を案じ、ロゥリィ、レレイ、テュカ、ヤオに対し、炎龍を斃した英雄としてよく似合っていると周囲に聞こえる大声で称えた。すると周囲の視線が集まり、亜神や英雄を一目見たい者たちが集まって四人はたちまち取り囲まれた。伊丹は名を告げられなかったこともあって群衆から押しのけられ、端に追いやられていた。

ピニャの強行突破と逃走

ボーゼスは四人をここで抑えるから伊丹を連れて早く行けとピニャに囁き、ピニャは詫びてから伊丹の手を掴み、群衆を押しのけるように走り出した。ボーゼスやハミルトンが叫ぶ声を背に、ピニャは応援だと思い込み、後ろを振り返る余裕もなく、追ってくる気配が消えるまで走り続けた。

二人きりのはずがロゥリィの出現

ピニャはようやく二人きりになれたとして、伊丹に前から打ち明けたいことがあると口にしながら振り向いた。だがその瞬間、満面の笑みを浮かべたロゥリィが目の前に立っており、ピニャは凍り付いた。ロゥリィはふたりきりだと告げ、打ち明けたいことは何かと尋ねていた。

08

結婚式準備の完了と前夜の静けさ

ベルティ・エム・フォーンとカストーリ・エム・メタノールの結婚式が明日に迫っていた。大礼拝堂の掃除と飾り付けは終わり、枢機卿や助祭、神官の衣装、ゼプリル役の見習いが着る薄桃色のドレスも準備済みであった。式の段取りは繰り返し練習され、宴の料理の下ごしらえも整い、あとは眠って明日を迎えるだけの状態になっていた。祭り前夜の空気が漂う中、見習いの少女たちは珍しく自主的に早く床に就いて寝静まっていた。

ロゥリィの救出計画の反復と覚悟

ロゥリィはベッドに横たわっていたが眠気は来ず、ホロンとビムリコを救出し、その後ベルティを攫って神殿から逃げ出すまでの手順を頭の中で繰り返し予習していた。明日は結婚式でカストーリと手下が気を取られて油断し、見張りも減るはずだと見込み、その隙に地下神殿へ忍び込み二人を探して解放し、茨の塔から降りてきたベルティを三人で救い出すつもりであった。そのための縄を用意し、練習用ハルバートを黒く塗り、闇に紛れるよう神官服も黒く染めていた。

後始末への恐れと家族への手紙

ロゥリィは計画が行き当たりばったりで運任せになることを自覚しつつ、それ以外にベルティとビムリコとホロンを助け出す方法を考えられないでいた。さらに、結婚式を邪魔した後の報復という問題を解決できずにいた。野心を挫かれたカストーリが復讐に動けば、家に力があるホロンと家族のいないビムリコはともかく、ロゥリィの家族が目をつけられる恐れがあると考え、実家が焼かれ家族が殺される想像に追い詰められていた。ベルティたちを見捨てられない一方で家族を巻き込む恐怖も拭えず、ロゥリィは両親宛てに事情を説明して自分を勘当したことにしてほしいと頼む手紙を書いていたが、返事は届かないままであり、寝返りを打ちながら懊悩し続けていた。

メグルの介入と執拗な追及

ロゥリィがため息を重ねる中、メグルが逆さまの頭を目の前に下ろして現れ、悩みを問いかけて遊びに誘った。ロゥリィが否定すると、メグルは隠しても無駄だと迫り、ベッドに潜り込んで抱きすくめ、どんな手を使っても悩みを聞くと言い切った。メグルは力任せではない手つきでロゥリィの抵抗を奪い、耳朶に吐息を吹きかけて反応を引き出し、答えなければ拷問だとして質問を始めた。

ベルティへの悩みの指摘とホロン・ビムリコの所在推理

メグルはロゥリィがベルティのことで悩んでいると断じ、結婚式の日が近づくほどため息が増えたからだと理由を示した。さらに、ロゥリィがホロンとビムリコの本当の居場所を知っているはずだと詰め、ロゥリィがナムダ先生の言葉を持ち出して誤魔化そうとすると、メグルはそれをその場しのぎの嘘だと退けた。メグルは、リコがベルティの望まない結婚を放置するはずがないことを根拠に二人がホロンの実家に揃っている話は信じがたいと述べ、ロゥリィが二人のベッドを眺めなくなった点を手がかりに、居場所の手がかりを得たからだと推し進めた。ロゥリィが否定しかけると、メグルは胸に耳を当てて動揺を確かめ、二つの事実から結論に達したと告げて推理を続けた。

飛躍した結論とロゥリィの反発

メグルは、ホロンがリコと無理心中を図ったのだと断定し、ベルティとリコが恋人で、ホロンがリコに横恋慕し、ベルティが結婚すればリコが自分のものになると考えたが上手くいかず、嫉妬で無理心中に至ったのだと語った。さらにロゥリィが二人の遺体を見つけ、弔いを済ませたがベルティに伝えられずため息が増えたのだと筋立てた。ロゥリィはその推理を違うと否定し、メグルが何でも色恋沙汰の痴情のもつれに結びつけることを非難し、女の子同士のことだと指摘した。メグルは女の子同士の色恋沙汰が大好きだからだと開き直り、ロゥリィは呆れて末代まで女の子でいろと言い放ったが、メグルは男に生まれ変わっても女の子の姿でいると思うと返し、ロゥリィは頭を抱えていた。

薄明の出発とキマ・シセナ塔への侵入

薄明が始まる頃、ロゥリィは黒く染めた神官服に身を包み、顔を隠すために黒い紗のベールをかぶってキマ・シセナ塔へ向かった。肩に担いだ太い縄の重さで足取りはふらつき、ハルバートを杖代わりにして進んだ。塔に到着すると人影がないことを確かめ、窓から忍び入って部屋の片隅の穴に手を入れ、メグルが用意した燭台を取り出した。

通風口からの降下準備と覚悟

ロゥリィは螺旋階段を休み休み上り、かつて七階だった屋上に至ると、以前調べた通風口を確かめた。内部から吹き上がる生暖かい風を感じ、ここを降りれば地下神殿へ行き着くはずだと判断した。周囲の柱に縄の一端を縛り、もう一端を通風口へ落として闇へ沈めたうえで、ハルバートを背負い、縄を握って通風口へ身を沈めた。

暗闇での落下事故と負傷の再生

全体重を預けた瞬間、縄が撓る音がして千切れる不安に襲われたが、ロゥリィは深呼吸で落ち着き、壁を蹴りながら慎重に降り始めた。やがて周囲は完全な闇となり、不安を紛らわすため燭台を取り出そうとして手を緩めたところ、スカートが舞い上がって縄が暴れ、掌が滑って強烈な摩擦熱で皮膚が焼けた。ロゥリィは歯を食いしばって耐え、腿と膝で縄を挟み込んで落下を止めた。暗闇の深い位置まで落ち込んだ後、指の皮膚が張りつくほどの損傷を確認し、無理に剥がすと皮膚の再生が始まった。

縄の終端と飛び降りの決断、通風口の底到達

ロゥリィは恐怖で震えながらも四点で縄を挟んで降下を続けたが、突然、足に感じていた縄の感触が消え、縄が途中で終わってしまった。ぶら下がっていても時間を失うだけだと考え、死なないとしても痛みを恐れる自分を自覚しつつ、リコとホロゥに向けて今行くと告げ、意を決して縄から手を離した。ところが、ほとんど落下しないまま衝撃を足裏に受け、通風口の底がすぐそこだったことを知った。

結婚式当日の神殿での点呼とロゥリィ不在の発覚

その頃、結婚式当日のフェブロン神殿は早い朝を迎えていた。ナムダは薄桃色のゼプリルドレスをまとった少女たちを集め、点呼を取った。名前を呼ばれて返事が続く中、ロゥリィの番で返事がなく、周囲が見回すと、遅れてロゥリィが走って到着し、ここですうと答えた。ナムダはゼプリルは優雅に静かに歩くべきだと叱り、声の違和感に気づきつつも時間が押しているため点検を急いだ。

ゼプリルの準備作業とメグル不在の確認

ナムダは少女たちに本番の心構えを説き、聖堂へ向かって準備の仕上げを始めさせた。三年次見習いは門の周辺を清め、花道に花びらを敷き詰める作業を分担し、初年生と二年次生には参観席の拭き掃除を命じた。そこでナムダはメグルの姿がないことに気づき、初年生からカルネに命じられて水汲みに行ったと聞かされ、戻ったら自分のところへ来るよう伝えるよう指示した。

ゼプリルに紛れたメグルの正体と地下神殿への視線

初年生に声をかけられた黒い造花を胸につけたゼプリルの少女は、ベールの向こうで片目を閉じて応じたが、その正体はメグルであった。メグルはロゥリィに救出を任せたと呟き、ズフムートを祀る地下神殿がキマ・シセナ塔の地下にあることを思い返し、内部が光を遮断され照明が不可欠で、煤煙と油で不快な環境になっている状況を見据えていた。

ホロンとビムリコの監禁状況と時間感覚の喪失

ホロンとビムリコは地下の暗い倉庫に縛られて転がされ、解放されるのは食事と水とトイレの時間に限られていた。暗闇で横たわり続けるうちに時間感覚が失われ、日付も定かでなくなっていた。ホロンは見張りが規則正しく食事を出すため朝だろうと推測し、今日がベルティの結婚式だろうと述べた。ビムリコは無力さに悔しさを滲ませ、二人は自分たちが人質であり、用済みになれば解放されるか殺されるかは相手次第だと理解していた。

見張り番の会話と処分の決定、二人の恐怖

見張り番のオーリーとベンソンは叫びが無意味だと語り合い、結婚式が終われば二人は用済みで、殺して埋めろと命じられていると明かした。さらに二人は監禁中のホロンとビムリコに対して下卑た意図を示し、あえて聞こえるように会話して精神的に追い詰めた。ホロンとビムリコは抗う術がなく、互いの名を呼び合って震え、声を押し殺すことだけを最後の抵抗とした。

ロゥリィの潜伏と奇襲の機会待ち

ロゥリィは地下神殿の祭壇裏上方にある通風口の位置に潜み、内部の様子を窺っていた。礼拝堂にいる見張りが二人いるため、礼拝堂を通らなければ小部屋に入れず、二人が見張っている限り救出も所在確認もできないと判断した。二人は正規の神官で強く、ロゥリィ一人では正面からどうにもならないため、片方が離れた隙を突くしかないと考え、心を鎮めて機会を待った。すると二人が松明を持って小部屋へ入っていき、ロゥリィは今だと即座に動いた。

暴行の現場への突入とオーリーの撃破

ロゥリィは礼拝堂へ滑り込み、開け放された扉の向こうでオーリーがホロンの髪を掴んで乱暴に扱っている様子を見た。ホロンが呻き声を漏らした瞬間、ロゥリィは激情に駆られ、部屋へ突入してハルバートをオーリーの後頭部へ振り下ろした。衝撃で柄が折れるほどの一撃となり、オーリーは意識を失って倒れ伏した。

折れた柄でのベンソン制圧と救出の完了

ロゥリィは折れた柄を構え直し、ビムリコに覆い被さろうとしていたベンソンに突きを放ち、ベンソンは異様な声を上げて崩れ落ちた。ホロンとビムリコは暴漢の体重を浴びて叫び、何が起きたのか理解できない様子だったが、ロゥリィは男たちを蹴って二人を引き出した。ロゥリィは縄を解きながら怪我と貞操の無事を確かめ、二人は震えながら頷いた。

正体の提示と安堵の涙

ロゥリィは二人の無事を喜び、ベールを上げて顔を見せ、二人をまとめて抱きしめた。するとホロンとビムリコはようやく安心し、堰を切ったように泣き声を上げてロゥリィにしがみついた。ロゥリィは二人が泣き止むまで頭を撫で続けた。

ナムダの不安とメグル探索の空振り

ナムダは、呼び出したはずのメグルが姿を見せないことに苛立ち、不在を不安視して初年生に確認を重ねた。初年生は水汲みや後片付けで動いていると説明したが、ナムダは行き違いの可能性を考えても不安を拭えなかった。ロゥリィの動きはゼプリルにして封じた一方で、メグルの監視が緩んだことを自覚し、失策だったかもしれないと思い至った。

初年生の攪乱と祭壇対応への離脱

初年生は、来賓の案内が集まる辺りを指してメグルが手を振っていると言い、ナムダに探させ続けたが、ナムダには該当者が見えなかった。やりとりが続く最中、ゼプリルから祭壇の件で呼ばれ、ナムダは儀式に間に合わない恐れを理由に対応を求められた。ナムダは初年生に、メグルが来たらここで動かず待てと伝言させ、祭壇へ向かった。残された初年生は、ナムダの背に向けて悪戯を示した。

ホロンとビムリコの立ち直りと衣服の確保

ホロンとビムリコは、泣き止むまでに時間を要したが、大きな怪我がない以上、ベルティ救出へ急ぐ必要があると考えて立ち上がった。衣服が引き裂かれて裸に近い状態であったため、二人はオーリーとベンソンのズボンとシャツを奪って身につけた。ビムリコは動きやすさを優先して裾や袖を切り落とし、ホロンは刺さったままのハルバートの柄を見て複雑な反応を示したが、ビムリコは天罰だと受け止めた。

救出の手がかりと地下通路による離脱

ビムリコは、ロゥリィが自分たちの居場所を知った理由を問い、ロゥリィはメグルがシセナ塔で幽霊の声を聞いたという話を持ち込んだことを明かした。三人は地下神殿の出口を探し、礼拝堂南側の細く長い地下通路を見つけて進んだ結果、塔の丘から少し離れた地点へ出た。入口は廃材と雑草で巧みに隠され、気づかれにくい造りであったため、三人は周囲を警戒しつつデリカ大礼拝堂へ向かった。

脱出後の方針確認と役割分担

道中で三人は、救出後の動きについて話し合った。ビムリコは、ベルティとホロンと三人で神殿を抜け出し、用意された馬で隣国まで逃げる計画を語り、ホロンはその後に伝手を頼ってベルティを預けるつもりだったと補足した。二人がその手段を引き続き使えると答えたため、ロゥリィはベルティ救出後の段取りを二人に任せたいと申し出た。

強行案と告発案の検討、成立条件の壁

ロゥリィは、式が始まる前に控え室からベルティを攫って逃げる強行案を口にし、行き当たりばったりの出たとこ勝負だと自認した。さらに、貴族が集まる場でカストーリがズフムートの信者であることと地下神殿の存在を暴露する案も出したが、ホロンは言い掛かりだとして退けられる可能性が高いと述べた。ロゥリィがディーヴァ目的を示して追及する案を重ねても、ホロンはディーヴァの存在を証明するには取り出す必要があり、それではベルティが死ぬため意味がないと退けた。ビムリコも、告発には地下神殿で礼拝している姿を見せるほどの決定打が必要だと述べ、ロゥリィは思いつきが通らないことに悔しさを示した。

ロゥリィの撤退提案と身代わりの手当て

ビムリコとホロンは目配せし、ロゥリィにこれ以上関わらないよう告げた。理由は、関与が露見すればロゥリィの家族が酷い目に遭う恐れがあるためであった。ロゥリィは顔を隠していると反論し、黒いベールを被って変装の意図を示したが、ビムリコはナムダに不在が気づかれれば素性が割れる可能性を指摘した。ロゥリィは、メグルが身代わりをしており、下級生が協力して存在をでっち上げると言っていたと説明し、メグルが大丈夫だと自信を見せていたことも伝えた。ビムリコとホロンは、露見しそうになったらすぐ戻るよう念を押し、家族に何かあれば取り返しがつかないと重ねて注意した。

09

叙勲式後の挨拶攻めと食事の機会喪失

アルヌスの大祭典初日は、叙勲式と帝国主催の野外晩餐会で締めくくられようとしていた。ピニャから胸に大きな勲章を付けてもらった伊丹は、次々に挨拶を求める帝国貴族に応じ続け、酒も料理も口にする機会を失っていた。

元老院議員たちの詮索と伊丹の退避

元老院議員のキケロ卿らは伊丹を取り囲み、噂話を交えながら過去の出来事を次々に掘り起こした。伊丹は栗林を指して説明しつつも、話題が尽きない状況に耐えきれず、切りの良いところで席を外して会場から逃げ出した。

暗がりでの食事と宴会場の情景把握

陽が落ちて暗くなったのを利用し、伊丹は料理を山盛りにして篝火の届かない暗がりに腰を下ろした。明るい場所にいる者から暗がりは見えにくくなり、伊丹はようやく落ち着いて食事にありついた。宴会場は貴族の天幕に囲まれ、帝都で行うべき式典を他国で挙行するために、ピニャが野戦叙勲の形式を取った結果、格式や序列が緩んだフランクな空気が漂っていた。

仲間たちの様子と初日の無事を確信

伊丹の位置からは、貴族に囲まれて応対するテュカやヤオ、質問攻めに遭うレレイ、さらに栗林や倉田の姿が見えていた。富田はボーゼスを腕にぶら下げたままパレスティ侯爵の前で背筋を伸ばし、厳しい表情の相手に返事を繰り返していたため、わだかまりが簡単に解けない状況が示されていた。一方でボーゼスは幼なじみの女性ビーナと再会し、富田を交えて紹介し合う場面もあり、周囲の笑い声から伊丹は初日が無事に終わりそうだと感じていた。

江田島の来訪と伊丹の行動の見抜き

伊丹を見つけ出したのは大祭典実行委員長の江田島であった。江田島は伊丹の行動を予想したのではなく、居心地悪そうな伊丹を目で追っていたため居場所が分かったと明かし、果実酒の杯を渡して勲章が似合うと述べた。

勲章の重さと着用を巡るハミルトンの叱責

伊丹は勲章を重たいだけだとこぼし、胸に複数の勲章が飾られている状況を語った。式典前、服装点検に来たハミルトンは、伊丹が過去の徽章類を付けていないことを問題視し、叙勲式の場で功績を示す装いを欠くのは許されないと叱責した。ハミルトンは、勲章は将兵の血と汗と命の代償を象徴し、信賞必罰は国と軍の基である以上、敬意を示す態度が必要だと説き、伊丹はその理屈に反論できず従うことになった。

勲章選別の助言と伊丹の反発的な装着

ハミルトンはデュラン陛下から贈られた爵士章を付けるよう求め、国家的権威のない感状類は付けなくてよいとも述べた。帝国では位の高い勲章を一つか二つ着用するのが品が良いとされるが、伊丹はダークエルフ族長会議や村々の感状が軽んじられたように感じ、引き出しを漁ってレンジャー徽章や空挺徽章、防衛記念章などを含め、手持ちのものをじゃらじゃらと取り付けて臨んでいた。

江田島の海洋調査依頼と保留

江田島は大祭典後に伊丹の協力が欲しいと切り出し、海の情報収集の任務として船に乗り各地の海を調査したい、そのため経験者の伊丹に同行してほしいと述べた。著名な伊丹なら各地で有力者から歓迎されると見込み、伊丹が向こうから声を掛けられる状況を、人脈形成に努力する者から見れば恵まれた立場に見えるとも示唆した。伊丹は自分にも仕事があるとして難しいと返したが、江田島は返事を急かさず前向きに考えてほしいと述べ、宴席へ戻っていった。

二日目の混雑と空の見世物

大祭典の二日目は初日以上に人々で賑わった。亜神への参拝を目的に二日目到着となるよう旅してきた者が多く、午後には街が通勤客で混み合う都内の駅のような状態になっていた。催しの中でも航空自衛隊F4ファントムのアクロバット飛行が人々を強く惹きつけ、パイロットたちは青空に大きな軌跡を描き、見上げた群衆は感嘆していた。

伊丹の現場対応と神官団からの呼び出し

伊丹は空を眺める余裕もなく、運営のために人の流れを整理し続けていた。その最中、呼びかけてきた黒ゴス姿の少女二人が恐怖に顔を引きつらせて平伏し、聖下からの伝言として伊丹を神殿へ来るよう告げた。二人はフェブロンの総本山から派遣された神官団で、伊丹は過度に怯える態度に困りつつも、後を同僚に任せてロゥリィの待つ神殿へ向かった。

参道の行列と殿舎での対立

ロゥリィ神殿の参道は参拝客の行列で賑わい、伊丹は案内役の神官とともに列の脇を進んだ。殿舎に入ると張り詰めた空気があり、ロゥリィは神官たちに余計なことはするなと強く叱り、男性神官が食い下がっていた。伊丹が声をかけるとロゥリィの冷気は消え、ロゥリィは伊丹に駆け寄ったため、神官たちは唖然としていた。

富裕層優遇の提案とロゥリィの拒絶

ロゥリィは、貴族や大商人を並ばせないようにしろという要求が出たことを伊丹に訴えた。フェプロン神殿の司教ヴォトカは、多額の喜捨をする高貴な者に便宜を図れば神殿を拡張できると主張したが、ロゥリィはきっぱりと拒否した。伊丹も実行委員の立場から同意し、金で特別扱いを得るような形を許さないと述べたため、意見が通らなかったヴォトカは不満を露わにした。

ヴォトカの反抗の背景とロゥリィの自覚

神官たちの重い空気を残したまま、伊丹はロゥリィに連れられて神殿を出た。フラムとニーナは、ヴォトカの態度が恐怖感の反転によるものであり、次の大司教の座を狙って聖下と対等に渡り合った実績を欲した結果だと説明した。ロゥリィは、反抗そのものを否定はしないが、挑むなら別の形で挑む気概が欲しいと述べ、伊丹に死神ロゥリィの名が高まると釘を刺されて拗ねた。

宿泊施設前の信者殺到と群衆の危うさ

伊丹たちは組合の宿泊施設に到着したが、玄関前は人だかりで近づけなかった。亜神たちがここに宿泊している情報が漏れ、信者が一目見ようと集まっていたのである。警備員のウォルフが道を開けようとして聖下がお通りになると言うと、逆に群衆がロゥリィへ殺到し、伊丹は前に出て押し寄せる流れを止めようとしたが、集団の力に押し潰されかけた。

ロゥリィの一喝による沈静化と情報漏洩の発覚

ロゥリィが一歩進み、ハルバートの柄を地面に強く打ち付けると、鋭い音が響いて群衆は冷静さを取り戻し、自発的に道を開けた。伊丹がその効果に驚く中、宿泊施設に入った一行は情報漏洩の原因に行き当たり、ディアボが名士たちを引き連れて亜神のもとへ来ていたことが判明した。ロゥリィは懲罰を加えようとしたが、ディアボは大祭典成功のためだとして事情を説明し始めた。

費用の未払いと寄付金集めの企図

ディアボは大道芸人や役者を多数招いたが、後援者への賂や顎足などで費用が嵩み、最終日までにまとまった金を作る必要があると明かした。伊丹が要点を問い詰めると、ディアボは報酬を借金で払ったのではなく、約束の対価をまだ支払っていない状況だと認めた。ロゥリィは返済の当てがない借り入れを問題視し、友人たちを餌に寄付金を集める行為は信用に関わるとして拒絶した。

ロゥリィの説諭とディアボの退場

ディアボが破滅を訴えると、ロゥリィは誤魔化しやいい加減な対応は必ず悪い形で返ってくると諭し、責めから逃げず正面から受け止め、真摯に金を貸してくれる相手を探せと告げた。ディアボは項垂れて宿泊施設を去り、同行していた帝国要人たちも満足そうに退いた。

モーターの登場と伊丹の動揺

ロゥリィは亜神たちの待つラウンジへ戻り、迷惑をかけたと詫びた。すると白髪のドワーフ老人がロゥリィをお嬢ちゃんと呼び、頭を撫でてもロゥリィは眉一つ動かさず許したため、伊丹は戦慄した。ロゥリィはその老人をモーター・マブチスと紹介し、ハルバートがモーターの鍛えた神鉄であることを示し、モーターは鉾槍を神意の兆しに高めたのはロゥリィの魂だと述べた。

亜神たちの紹介と眷属としての伊丹

ロゥリィは続けて、七色に輝く髪の青年グランハム・ホーテックを太陽神フレアの使徒として紹介し、グランハムは亜神になった順を理由にロゥリィを先輩と呼んだ。さらに黒髪の男ユエル・バーバレンをグランハムの愛人として紹介し、ユエルは問題ないと返した。ロゥリィは伊丹を自分の眷属として示し、グランハムやモーター、ジゼルらが言葉を掛け、ワレハルンは発言の途中でロゥリィにクッションを投げつけられた。

果実酒の宴とユエルの挑発

仕事を終えたテュカ、レレイ、ヤオらが合流し、ピニャ奉納の帝国産果実酒の試飲会となった。レレイはジゼルから本を受け取りハーディからの言付けを聞き、テュカとヤオはワレハルンと話し込み、モーターはロゥリィと昔話をしていたため、伊丹はグランハムとユエルの相手をすることになった。グランハムは炎龍退治の話を持ち出し親しげに接したが、ユエルは自分なら被害なく退治できたと牽制し、さらに伊丹に勝負を迫って距離を詰めた。グランハムが酒の過ぎを指摘してユエルを休ませ、伊丹には無礼を詫び、ユエルは強い相手に挑みたくなる本能だと語った。

静まり返った居酒屋とユエルの暴力の後始末

一方で祭りの喧噪から取り残されたように静まり返った居酒屋では、倒れたテーブルや壊れた椅子の中、エルダー一家のならず者たちが折り重なるように倒れていた。ユエルは彼らを弱いと切り捨て、女中をいじめたことを理由に男の風上にも置けないと断じた。青いドレスの娘メイベルが現れ、ユエルの強さを称えつつ意見を求め、酒を注いで話を促した。

戦えない鬱屈とメイベルの提案

ユエルは強い相手と戦いたい欲求だけを語り、メイベルは亜神に喧嘩を売ればよいと提案した。ユエルは神には挑まない約束があり、以前の一件でグランハムがロゥリィに頭が上がらなくなったと述べた。メイベルは、約束に反しない相手として神ではない男を挙げ、戦わざるを得ない状況を作る場を用意できると持ちかけると、ユエルは興味を示して話を求めた。

結婚式当日の段取りと控え室入り

大祭典三日目は結婚式当日であり、午前に結婚式、昼食を挟んでナッシダ、夕方から結婚披露晩餐会という流れで儀式が進む予定であった。ボーゼスと富田は早朝に起き、子供を子守メイドに預け、朝食もとらずにロゥリィ神殿へ向かった。ロゥリィは新婦のために自室を控え室として貸し与えており、富田が体力のため食事を勧めても、ボーゼスは緊張のあまり受け付けない様子であった。

花嫁支度とコルセットの締め付け

控え室では栗林が富田を部屋から追い出し、テュカ、レレイ、ヤオ、栗林が総掛かりでボーゼスにコルセットを装着した。紐を強く引き締める中でボーゼスは呻き声を漏らし、外を行き交う神官たちは中で拷問めいたことが行われているのではないかと邪推し、死神ロゥリィへの恐怖を強めていた。ボーゼスは締め付けの強さに疑義を呈したが、栗林は取り合わず、ボーゼスは意地でも弱音を認めない姿勢を崩さなかった。

ドレス着用と化粧の仕上げ

コルセットで身体を固めた後、ボーゼスは床に広げた布の山の中央に立つ形でドレスを身にまとい、髪のセットはメイドが担当した。テュカはアクトレス社製の高級化粧品セットを用意し、段階を踏んで化粧を進めた。途中で栗林が富田の入室を許可し、富田は改造を施した礼服姿で現れたが、その視線は最後の仕上げを受けるボーゼスに釘付けとなり、富田の言葉にボーゼスはさらに表情を輝かせたところで、テュカが完成を宣言した。

関係者の来室とピニャの祝意

完成の直後にロゥリィが現れ、続いてピニャ、ハミルトン、パナシュ、ヴィフィータ、ニコラシカら騎士団仲間が入ってきて花嫁姿に見蕩れた。ピニャがボーゼスを欲しいと冗談めかして言うと、富田は反射的にボーゼスを抱き寄せた。ピニャは富田にボーゼスを泣かせるなと釘を刺し、ボーゼスに膝をつくなと止めて、傷が残っていないことを確かめた上で、結婚後も腹心の友であることを忘れるなと告げた。感極まって抱き合う二人を見てテュカは化粧を気にし、ヤオが着替えのため富田に退室を促した結果、富田は再び控え室から追い出された。

伊丹の式場最終確認と森の礼拝堂

同じ頃、伊丹は式場の最終チェックをしていた。ロゥリィは一般参拝客で祭壇が埋まる見込みから、ワレハルンの協力で神殿近くの森に礼拝堂を増設していた。樹木を移植して空間を整地し、石を敷き詰め、樹冠を天蓋代わりにした森の礼拝堂が用意され、伊丹は並べたパイプ椅子を数えて確認した。倉田は控えの間に来るよう狭間陸将から言われていると伝え、伊丹は了承した。

花道準備と参列者の集結

花道ではゼプリルの衣装をまとったミュイ伯爵夫人が、ペルシアやマミーナらと白い花びらを敷き詰めていた。準備が整うと伊丹は倉田と外の広場へ向かい、そこにはボーゼスの家族や友人、親戚、富田の上官や同僚が集まっていた。さらに招待されていない帝国の伝統貴族も、外から式の様子を見物できるため、敷物を敷いて食事を楽しみながら開始を待っていた。

伝統貴族の視察と礼拝堂の評価

パレスティ侯爵のもとへコリント伯爵家が祝いに訪れ、礼拝堂の素晴らしさが話題となった。皇帝の姪であるレディ・フレ・ランドールは森の式場を見て批判する意図で鼻で笑ったが、コリント伯がワレハルン樹下が造成したと述べたことで勢いを削がれた。ビーナは、ロゥリィの求めに応じてワレハルンが神殿を開くことになった経緯を説明し、さらにワレハルンの神官服の件に触れ、迷彩模様の再現によってデザインを決める話も出ていた。

自衛隊幹部の挨拶と将来性の示唆

狭間陸将を代表とする自衛隊幹部が倉田を通訳に同行して現れ、パレスティ侯爵夫妻に祝辞を述べ、富田が不器用でも見守ってほしいと伝えた。狭間の腰の低い態度に侯爵は慌てつつも、後見を得ているなら婿は将来有望だと受け取った。狭間は前言を翻しにくい形で、富田が幹部への道に邁進するしかないと述べ、倉田を通じて期待を伝えた。

開場案内と入場準備の整列

倉田が通訳を終えた頃、伊丹は手を叩いて会場の支度完了を告知し、参列者を礼拝堂へ誘導した。全員が着席して落ち着いたところで、ロゥリィがフラムとニーナを伴って祭壇へ向かった。主役を迎える準備が整うと、礼拝堂の外からどよめきが起こり、新郎新婦が到着した。

新郎新婦の入場と花嫁姿への反応

ミュイたちが聖歌を歌い、新郎新婦は花びらの敷かれた花道を進んで祭壇へ向かった。自衛官は後日の資料のため写真を撮り、参列した女性たちはボーゼスの花嫁姿にため息をついた一方、唸り声も混じった。レディとアンは、ボーゼスが落ちぶれたという噂を流してきたが、目の前の現実は期待と逆であり、富田の身なりや式場の評判、ボーゼスの衣装や体形、化粧の完成度によって見下す材料が失われ、妬みが殺意に転じそうな唸り声となって表れた。ビーナは二人を必死に宥めながら、和解が不可能であることと、自身が距離を置くしかないことを理解し、関わらないと心に決めた。

ゼプリル行列の正体とレディの沈静化

ボーゼスの長いベールを支えるゼプリルはテュカとレレイであり、ヤオは指輪の台を捧げて続いた。さらに花を持って続く四人が現れると、式場内外は一斉にどよめいた。パナシュ、ハミルトン、ヴィフィータ、そしてピニャまでがゼプリルの列に並び、しかも素顔を晒していたのである。ピニャは驚きを楽しみ、ヴィフィータはレディとアンを牽制する意図を含めていたため、ピニャが列にいるのを見た瞬間、レディの表情は諦念へ変わり、乱入の気配は消えた。狭間と江田島は、この光景が極めて異例であることを会話で確認し、ボーゼスの心情が複雑であると見立て、そのしわ寄せが富田に向かうだろうと述べた。

婚姻儀式開始の宣言と異議の声

新郎新婦が祭壇前の木漏れ日の位置に並び立つと、ロゥリィは覚悟を問うた。ボーゼスは静かに頷き、富田は自衛官らしく返答した。ロゥリィは婚姻の儀式を執り行うと宣言し、阻もうとする者は主エムロイと自分の呪いを受けるとして異議がある者に声を上げるよう促した。周囲が今にも声を上げそうな者を抑える中、突然、結婚式に異議ありという声が上がり、小鳥が飛び立ち動物が逃げた。

メイベルの登場と異議の対象の提示

紺碧の衣装をまとった蒼髪の少女が側廊を進んで祭壇へ近づき、ロゥリィは来たのかと問いかけた。少女は新郎新婦に不足はないと述べた上で、異議の対象はロゥリィ・マーキュリーであり、婚儀を祭司する資格がないと断じた。メイベル・フォーンはそう宣言し、ロゥリィに指を突きつけた。

10

大礼拝堂前の混雑と潜入経路の再考

ロゥリィ、ビムリコ、ホロンの三人はキマ・シセナ塔の地下神殿を抜け出し、結婚式が行われるデリカ大礼拝堂へ向かった。しかし周囲には参列予定の貴族が大勢集まっており、三人の見窄らしい服装では近づくだけで排除される状況であった。旗の色が変わり参列者が入場し始めたため、時間切れが迫り、三人は裏手からの侵入に切り替える判断をした。

ゼプリル楽屋への侵入計画

ロゥリィは大礼拝堂の見取り図を地面に描き、新婦の控え室の位置と、裏手のゼプリル楽屋に窓から入れる可能性を示した。ホロンは女児の着替え部屋に男の見張りを置きにくい点に着目し、三人はその窓から侵入する方針を固めて裏手へ回った。

呪舞の場で浮くメグルとナムダの介入

大礼拝堂内では参列者を迎える祝いの呪舞が行われていたが、ロゥリィの身代わりを務めるメグルは振り付けを十分に習得しておらず、見よう見真似で合わせていた。動作は何とか追随できたものの舞踊としては不格好で、周囲には緊張のせいだろうという会話が広がった。指導役のナムダは目に余ると判断し、呪舞後にメグルを呼び止めて退場を命じ、控え室へ連れて行った。

身代わり発覚と掌による決定的な露見

ゼプリル控え室でナムダはメグルにロゥリィではないと指摘し、話し方の違和感に加えて掌が決定的に違うと断じた。メグルはベールを上げて素顔を見せ、自分が身代わりであることを認めたが、ロゥリィの所在は明かさなかった。ナムダが止めに行こうとすると、メグルはベルのためだとして通行を阻み、儀式用ハルバートを構えて対決を選んだ。

ロゥリィたちの乱入と役割分担の確定

窓からロゥリィ、ホロン、ビムリコが控え室に侵入し、ナムダの闘気は削がれた。メグルは二人の無事を喜び、ホロンも今回は抱擁を受け入れた。ロゥリィはこれからベルを助けに行くと告げ、メグルは自分がナムダを足止めするので三人は先に行けと主張し、秘策があるとして任せるよう求めた。ロゥリィは確実とは言えないとしつつも互いの役割を信じるしかないと述べ、ベルの救出後はビムリコが隣国へ逃がし、ホロンが預け先を手配する流れを確認して階段を上った。

控え室の空振りとベルティ不在の判明

二階の新郎新婦控え室へ到着した三人は静かに扉へ近づき、ロゥリィが衣装を運んだので間違いないと断言した。ビムリコが扉を開けると室内にベルティはおらず、行き違いが起きたと悟った三人は焦りを強めた。

正面玄関前でのカストーリの脅迫とベルティの孤立

大礼拝堂の正面玄関前では新郎新婦の入場が控えており、神官たちは式後の趣向として二列縦隊を組んでいた。カストーリはエデンの婚礼衣装を着せたベルティの顎を掴み、視線を逸らす彼女に強引に口づけし、ベルティは唾を吐きかけて抵抗した。カストーリは友達が人質だと告げて脅し、トンスルーは薬で丸一日は声が出ないと説明し、儀式を今宵にも行えるよう手はずを整えていると述べた。ベルティは必死に耐えようとしつつ、友達が来れば捕まるという恐れも抱え、諦めの色を浮かべたことでカストーリは満足げになった。

ホロンとビムリコの挑発とベルティの決意回復

その場でベルティの名を呼ぶ声が響き、二階からホロンとビムリコが手を振って無事を示した。二人は結婚を拒めと促し、ベルティは拒絶の選択肢を得たことで心を強くし、結婚が成立しなければディーヴァが所有者と認めないという見通しを持った。ホロンとビムリコはカストーリを嘲笑し、カストーリはトンスルーに二人の捕縛を命じた。

囮作戦の成功とベルティの奪取

トンスルーが神官団を率いて二人を追うと、ホロンとビムリコは狙い通りだとして逃走を開始した。カストーリが振り返った時には、ベルティは黒い神官服の少女に手を引かれて逃げており、カストーリは自ら追跡に移った。トンスルーは逡巡しつつも、配下を二手に分けて一方をホロンたち、もう一方をカストーリ側に付ける判断をした。

逃走中の会話と追跡の激化

ロゥリィはベルティを連れて全力疾走し、待たせたことを詫びたが、ベルティは喉を指して声が出ないことを示した。ロゥリィは薬を使われたと理解し、効果が一時的かを確認するとベルティは頷いた。背後からカストーリと神官たちが迫り、ロゥリィはスカートをたくし上げて加速したが、ベルティは靴を脱いでさらに速度を上げ、神殿内を土地勘で走り回った。

包囲と大礼拝堂への突入

神官たちは地形を熟知しており先回りして包囲を狭めたため、二人は左右に不規則に動いて囲まれを避けたが、結果として大礼拝堂前へ戻り、正面にカストーリ、左右に神官団、背後が礼拝堂という形で追い詰められた。ロゥリィはベルティの手を引き、大礼拝堂の入口へ飛び込み、歓声と拍手が上がる中で花びらを蹴散らして聖壇前へ突進した。

禁忌による追跡の遅れと離脱成功

カストーリの手下は花道に踏み入ってはならない禁忌を恐れて躊躇し、カストーリが怒鳴っても動きが鈍った。その間にロゥリィたちは花道途中から右へ折れて参列者の隙間を抜け、祭壇脇から外へ出た。カストーリはゼプリルからハルバートを奪って単独で追い、手下には側廊を進めと命じたが、人垣で進行が妨げられた。

作戦の成果確認と油断の代償

ロゥリィは即興の作戦が成功したと喜び、カストーリが最初から二人を助けるつもりがなかったと苦労を語った。ベルティは自分の見通しの甘さを痛感しつつ、二人が無事であることを重視してロゥリィを労い、今後を目で問うた。ロゥリィは約束の場所でビムリコとホロンと合流し、隣国へ逃がす段取りを示したが、その直後に背後から風を切る音が走り、ロゥリィは背中を突き飛ばされて転倒した。

カストーリの急襲とロゥリィの防戦

ロゥリィはベルティに押されたのではなく攻撃が掠めたと気づき、振り返るとカストーリがハルバートを振りかぶっていた。ロゥリィは二撃目を受け止めようとし、金属が激突する衝撃で掌に強烈な痛みを受けて吹き飛ばされながらも、ハルバートを落とさずに踏みとどまった。カストーリは乱打で防御を叩き続け、ロゥリィは掌の皮が剥け筋繊維が傷む激痛に耐え、倒れたベルティを守るために防戦を続けた。

蹴倒しと刺突による決着

ロゥリィの耐久に業を煮やしたカストーリは横から蹴倒し、転げたロゥリィの胸をハルバートの突端で刺し貫いた。カストーリは血を見て勝利を確信し、ベルティを引きずり起こして捕縛を完了させた。

捕縛の合流と地下神殿での儀式決定

トンスルーが到着し、ベルティを捕えた報告とともに、ホロンとビムリコも拘束できたと告げた。大礼拝堂が騒然としている状況を受け、カストーリは茶番をやめてディーヴァを取り出す儀式を直ちに行うと決めた。結婚式なしでは所有者と認められない懸念に対し、カストーリは大礼拝堂以外で挙げればよいとし、ズフムートを祀る地下神殿で婚姻の儀式を行うのが筋だと宣言した。トンスルーと神官たちは喜色を浮かべて準備に取りかかり、地下神殿へ向かった。

地下神殿の準備とズフムート信者たちの高揚

キマ・シセナ塔地下神殿は、壁という壁に松明が並べられ、いつも薄暗い空間が強い光に満たされていた。フェブロンに隠れていたズフムートの隠れ信徒が集まり、カストーリの婚姻儀式に向けた支度を進めていた。信徒たちはエムロイへの信仰心を装い続けねばならない鬱屈や、大きな儀式を控える屈辱を抱えていたため、この機会にそれが払拭されるとして張り切っていた。

トンスルーの不備への悔恨とカストーリの要求

信徒たちは礼拝堂を飾るためにカーテンをかけ、拭き掃除をし、ゼプリル役の少女たちが花びらを撒いた。しかし花が混ざってしまい、トンスルーは準備不足を悔いた。トンスルーはカストーリに威厳ある装いを整えようとしたが、カストーリは結婚式の後にベルティからディーヴァを取り出す儀式を行うとして、その準備を急がせた。

拷問台と刃物の提示による脅迫と人質の存在

トンスルーが示した先には拘束具付きの拷問台と多数の刃物が並び、ベルティは身を震わせたが動けなかった。カストーリは自らベルティを押さえ込み、器具で身体を引き裂いてディーヴァを取り出すと告げ、さらに友達のことに言及して見せつけた。ベルティは瞼を開き、器具の向こうに捕らえられたホロンとビムリコの姿を確認したが、猿ぐつわのため訴えは聞き取れなかった。

祭司ビスコの登場と儀式の強行

蒼い神官服の年寄りが来て、剣を模した信仰の象徴を祭壇に立てた。祭司ビスコは婚儀の祭司を務めると名乗り、カストーリは細かな打ち合わせを省いて儀式を急がせた。ビスコが進行し、信徒が着席する中、カストーリはベルティを引きずるように祭壇へ進め、ベルティは小指一本動かさないことで抵抗した。

誓いの問いとビムリコへの刃、ベルティの追い詰め

ビスコが異議の有無を問うと、カストーリは異議なしと答えた。ベルティにも問いが向けられたが、カストーリは返事を迫り、トンスルーはビムリコの喉元に短剣を突きつけ、肌を傷つけて血を見せた。ベルティは胸を拳で押さえ、傷つけないでほしいと目で訴えたが、カストーリは声を封じる薬を飲ませていたことを思い出し、ビスコは頷きで意思表示させることにした。

ベルティの葛藤と拒絶の叫び

ホロンとビムリコは首を横に振って拒否を訴えていたが、ベルティは自分を諦めれば二人が助かるかもしれないという思いに揺れた。だがロゥリィが、皆がベルティの幸せを願っていると語ったことが胸によみがえり、ベルティは迷いの中で答えを迫られた末、死んでも譲れないものがあるという怒りに突き動かされた。ベルティは嗄れ声ながら大音量で結婚を拒絶し、どうせ自分も二人も殺されるのだと告げ、喜ばせないと宣言した。

通風口のロゥリィ出現と信者の突撃

ベルティの拒絶にホロンとビムリコは大きく頷いた直後、地下礼拝堂に女の声が響き、祭壇裏の天井近くの通風口から漆黒の神官服の少女がハルバートを手に見下ろしていた。少女はエムロイの使徒だと名乗り、カストーリにベルティから手を放せと命じた。信者たちは否定したが、カストーリはその姿に動揺し、信者たちは一斉に通風口へ群がって祭壇をよじ登った。ロゥリィはそれを突き落とし、叩打して阻んだ。

ナムダ率いる武装神官団の突入と乱戦の開始

その最中、正面扉が破られ、フェブロン神殿の武装神官団がナムダを先頭に突入した。ナムダは摂政カストーリ・ズフ・メタノールを国家叛逆罪で逮捕すると宣言し、蒼髪の少女を生け贄にして成り立つ国ではないとして、三人は大切な生徒であり返してもらうと告げた。これにより、ズフムート信者と武装神官団の間で乱戦が始まった。

メグルの突貫とトンスルーへの攻勢

乱戦の中、最初に飛び出したのはメグルであった。メグルはベルティたちを取り戻すためトンスルーに挑み、ハルバートを回旋させて突きや払い、鉄斧部分での斬撃を繰り出して翻弄した。メグルは足払いでトンスルーを転倒させ、ビスコは狼狽して祭壇脇へ走った。

ビスコの取っ手と天井崩落、カストーリの処断

ビスコは壁際の隠し戸棚から鎖付きの取っ手を引き出し、カストーリに見せた。カストーリはベルティを部下に預けて取っ手を引いたが、それは天井崩落の仕組みであり、敵味方を押しつぶして殉教する意図だとビスコは告げた。カストーリは激怒して剣を抜き、ビスコの腹を刺して殺した。梁や瓦礫が降り注ぎ、ズフムート信者も武装神官団も下敷きになっていったが、崩落は一斉ではなく、注意すれば避けられる程度の勢いでもあった。

混乱に乗じた救出と螺旋階段での逃走

瓦礫に皆の意識が向く中、ロゥリィはベルティを捕らえる男の脳天にハルバートを振り下ろして取り戻し、手を引いて駆け抜けた。カストーリは追おうとしたが梁を避けて出足をくじかれた。天井崩落で閉ざされていた螺旋階段の通路が開け、ロゥリィとベルティは駆け上がった。カストーリはトンスルーに敵を防いで時間を稼げと命じ、自らは部下を叱咤して追跡した。

塔内での追い詰めと階段での決戦準備

ロゥリィとベルティは一階に出て塔外へ逃げるつもりだったが、飛び込んだ部屋の窓が板で塞がれており、追いつかれて上へ逃げるしかなくなった。螺旋階段を上る二組は互いの姿が見える距離まで詰まり、ベルティは追跡をやめるよう訴えたが、カストーリはベルティさえ捕まえれば逆転できると答え、ディーヴァを引き抜くつもりだと述べた。

ロゥリィの足止めと再逃走、魂の奔流による異変

カストーリの手がベルティに届きそうになると、ロゥリィはそれを払い、ベルティを先に行かせようとしてハルバートを打ち込んだ。カストーリはサーベルで受け止め、称賛しつつも余裕を見せた。ロゥリィは狭い階段では一度に一人しか向かえない利を使い、粘ってナムダたちの追いつきを待とうとしたが、ベルティは先に進まず石を投げて抗い、ディーヴァが認める血筋の話を述べた。再び刃がぶつかり合い、ロゥリィは掌の皮が剥け、左肩関節が外れる音を聞き、冷や汗を流したが、カストーリを一歩退かせた。ロゥリィは追撃せずベルティの手を取って上へ走り、走行中に異変の痛みを感じ取り、地下神殿で斃れた者の魂が脊髄を駆け抜けて昇っていく感覚に呑まれていった。

最上階到達と待ち構え、フラパンの即死

ロゥリィとベルティはキマ・シセナ塔の最上階に到達した。カストーリは逃げ道はないと勝ち誇り、ロゥリィは屋上へ出る前の狭い階段口で振り返り、囲まれにくい場所で防ぐ構えを取った。信徒たちはカストーリを陛下と呼び、人質にするかの判断を仰いだが、カストーリは蒼髪の娘を捕らえ、黒い方は殺せと命じた。前に出た小男フラパンはロゥリィに手を掛けることすらできず、ロゥリィの斬撃で肩口から腹部まで柄もろとも真っ二つにされ、驚愕の表情のまま崩れ落ちた。

戦闘の長期化とズフムート信者の徹底抗戦

地下礼拝堂で始まった戦いはキマ・シセナ塔全体に広がり、容易に終わらなかった。天井崩落による負傷者が敵味方に続出したうえ、トンスルーの指揮でズフムート信者たちが粘り強く徹底抗戦し、カストーリのために時間を稼ごうとしたからである。降伏を促されても信者たちは信仰心が試される時だとして拒み、殺されるまで抵抗する姿勢を貫いたため、フェブロンの武装神官たちは対応に苦慮した。

ナムダの包囲強化要請と偵察の命令

同僚であった者同士の戦いでもあり手の内が知れていたことから、制圧は簡単ではなかった。ナムダはハルバートの血を拭い、地上で待機するボトル・エム・メダイルに伝令を送り、シセナ塔の包囲をいっそう密にするよう求めた。続いてナムダはメグル、ホロン、ビムリコを呼び寄せ、三人を抱きしめたうえで、掃討に手間取る見込みのため先行して塔の最上階へ向かうよう命じた。

最上階へ向かう理由と想定された逃走経路

メグルが最上階で何をするのか尋ねると、ナムダは偵察任務だと答えた。シセナ塔はメダイルとクメセン枢機卿の指揮で武装神官団が包囲しており、カストーリが逃げるとすれば行き先は上しかないため、三人で様子を見てくるよう指示したのである。

ベルティ救出後の離脱指示とビムリコへの説明

三人がすぐに走り出そうとすると、ナムダは話があるとして引き留めた。ナムダはビムリコに対し、カストーリと遭遇せずベルティを助けられた場合は、そのままベルティを連れてここからいなくなるよう命じた。蒼髪の娘だと知られた以上、ここにいれば再び誰かに狙われると説明し、ビムリコが意外そうに味方するのかと問うと、ナムダは敵になったつもりも味方をしたつもりもなく、単に役割をこなしただけだと述べた。

連続祈祷やベルティへの扱いの理由とナムダの本音

ビムリコが連続祈祷やベルティへの扱いを問いただすと、ナムダはエムロイへの信仰心に欠けながら卒業資格だけ欲する者を排除するのも役割だと語った。特にベルティは自分を無価値だと決めつけていたことが致命的な勘違いであり、自分を無価値と思えば戦いに勝てず、自分を諦めることは期待してくれる全ての人の気持ちを無下にする行為だとして、そうした態度に苛立っていたとも明かした。

ベルティへの伝言と三人の出発

ナムダは三人に、ベルティに会ったら、最後の最後でカストーリに啖呵を切った時の気持ちを忘れないように伝えよと頼んだ。あの瞬間は胸がすうっとしたのだと付け加えたうえで、ナムダは三人をベルティの元へと送り出した。

ロゥリィの異常な力とカストーリ陣営の動揺

フラパンに続いてサンペまで倒れ伏すと、カストーリの部下たちは事態の異常さに気付き始めた。ロゥリィは血塗れのハルバートをゆっくり掲げ、普通に打ち込んだだけだと答えたが、部下たちは仕掛けがあるはずだと否定した。カストーリは火事場の馬鹿力の可能性を語り、ロゥリィが意思でそれを引き出していると見なして警戒を促した。ベルティも、凄惨な笑みを浮かべ狂気を宿したロゥリィの様子に異変を察していた。

カストーリの復讐心とハルバートの力比べ

ロゥリィが次はカストーリかと挑発すると、カストーリは部下からハルバートを奪って前に出た。かつてロゥリィを力でねじ伏せきれなかった悔しさが、復讐戦に挑む動機となっていた。カストーリは敵を侮らず、打ち込みだけなら屈強な戦士と同等として慎重に構えた。両者が振り下ろした刃は噛み合い、カストーリは押し返されながらも踏ん張り、肩に刃が当たるところで辛うじて止めて片膝を突いた。小娘の打ち込みを防いだだけで安堵した自分に気付いたカストーリは、精神的な敗北を感じ、ロゥリィが巨人のように見えるほど怯えを深めた。

武器の破損と集団突撃による隙、ロゥリィの被弾

次の衝撃で儀式用ハルバートの鉄斧部位が粉砕され、カストーリは敗北を確信した。直後に部下たちがカストーリを助けようとロゥリィへ殺到し、武器を失ったロゥリィは特攻に対応しきれず隙を許した。柄で数人を突き落とし打ちのめしたものの、最後にカストーリが腰の剣を抜き、ロゥリィの首へ走らせた。ロゥリィは大量の血を噴き、膝から崩れるように倒れ込んだ。

ベルティへの脅迫とロゥリィの執念の反撃

カストーリはベルティへ向かい、ロゥリィにすがろうとするベルティを取り押さえて衣服を裂き、剣先を胸に押し当てて血を滲ませ、ディーヴァの在処を探ろうとした。だがロゥリィが這い寄ってカストーリの両足に絡みつき、束ねるようにしがみついたためカストーリは転倒した。ベールの外れたロゥリィは鮮血に染まった顔で狂気の眼差しを向け、ベルティに汚らしい手で触ろうとするのは誰かと嗤った。恐怖したカストーリは後ずさるが、螺旋階段に手すりがなく、背後は吹き抜けであった。

落下寸前の綱引きと救援、ロゥリィの決断

ロゥリィに押し込まれたカストーリは階段の縁からずれ落ちたが、落下を避けようとしてロゥリィの髪を掴み、ロゥリィも引きずられて縁へ迫った。ベルティはカストーリの落とした剣を拾い、床に突き刺して支えにしつつロゥリィの腰を抱えて必死に支えた。カストーリは死なば諸共だと叫び、ベルティの支えの剣先も折れて三人が巻き込まれかけた瞬間、駆けつけたビムリコ、ホロン、メグルがロゥリィの胴を押さえ、ベルティの上から覆い被さって落下を防いだ。下からカストーリは四人に支え続けろと命じたが、少女たちは落ちろと罵倒した。

髪を切って支えを断ち、カストーリの最期と降伏

ロゥリィは階段に放り出されたカストーリの剣を手探りで見つけ、刃を自分のお下げ髪の真ん中に当てた。カストーリはやめろと懇願したが、ロゥリィは待ってあげないと言い、苦痛に顔を顰めながらも微笑んで髪を切断した。支えを失ったカストーリは吹き抜けの底へ落下し、地下神殿の祭壇に祀られていたディーヴァを模した剣に貫かれて絶命した。ロゥリィ、メグル、ベルティ、ホロン、ビムリコは互いに抱き合って無事を喜び合い、その光景を見たトンスルー以下ズフムート信者たちは抵抗から降伏へと転じた。

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蒼髪の少女メイベルの名乗りと異議申し立て

富田とボーゼスの結婚式で、新郎新婦が祭壇に揃い誓いの儀式に入ろうとした段階で、蒼い神官服の蒼髪の少女が異議を唱えた。少女はメイベル・フォーンと名乗り、ズフムートが呪いを成就させんとして来たと宣言した。証人として祭壇脇に立っていた伊丹は、近づく十四〜十五歳ほどの少女に既視感を覚えたが、蒼髪が意識の足枷となって記憶が結びつかなかった。

伊丹の記憶の回復とロゥリィの皮肉な感慨

伊丹は蒼い髪から意識を外し、顔立ちや物腰に目を向けたことで記憶が蘇り、モグリ露店の店主たちと揉めた少女に行き着いた。少女は伊丹を見て黙礼し、伊丹はベルティを思い浮かべた。ロゥリィもまた少女の姿を見て、茨の塔に幽閉されていた親友の容姿を重ね、懐かしさを抱いたが、ズフムートの呪いという言葉の意味が行き渡ると、その感情は急速に冷え、因果の巡りへのおかしみを覚えた。

呪いの説明とロゥリィへの下命

ロゥリィが、少女がベルティの子孫で呪いに関わるのかと問うと、メイベルは男がズフムートの使徒であり地上で六柱目の亜神になったと語った。パレスティ侯爵が新たな亜神の出現を知らないと漏らすと、メイベルは使徒に昇ったのが最近で名乗りを控えていたためだと答えた。さらにメイベルは、ロゥリィもかつて使徒になってからしばらく隠していたと述べ、自身の初名乗りが結婚式の妨害になることを残念がった。続けてメイベルは、ズフムートからの下命として、ロゥリィが呪いの打破を決意し結婚式の挙行に挑む以上、小手先の邪魔では砕けないため、男が直々に来て呪いを成就させよと命じられたと告げた。

退場要求とロゥリィの拒否、伊丹の説得

ロゥリィは祝い事の席を血で汚したくないとして、穏便に済ませたい様子で妨害の回避を求めたが、メイベルは当事者か媒酌人かを問わず関わるだけで発動するのが呪いの法則だとして退けた。伊丹もロゥリィに簡単に諦めるなと求め、メイベルにも邪魔をしないでほしいと頼んだ。するとメイベルは、説得するなら自分ではなくロゥリィへ向けるべきだとし、ロゥリィが婚儀から手を引けば呪いは達し、席が血で汚れないと述べた。

メイベルの代替案とロゥリィの決意表明

伊丹がそれは駄目だと返すと、パレスティ侯爵も祭司なくして結婚式はできないと同調した。メイベルは新婦の父君に向け、自分が祭司役を担えば婚儀は無事に執り行えるとして、ロゥリィに祭壇を譲るよう求めた。ロゥリィは自分一人が我慢して身を引けば全てが上手くいくという理屈を確認し、よりにもよってベルティの子孫から聞かされることへの苦い思いを漏らした。伊丹は、この企画はロゥリィのためでもあるとして退くなと促し、ロゥリィも呪いを打ち破るため祭司をやりきると宣言した。

決闘の合意と参列者の黙認

メイベルは、呪いにあえて立ち向かうのかと問い、伊丹は退けないと答えた。ロゥリィも、自分一人が犠牲になれば皆が幸せになるという考え方が嫌いだと述べた。メイベルは婚儀の成否を自分とロゥリィの戦いで決すると確認し、ロゥリィは異議や苦情の有無を参列者に問いかけたが、誰も声を上げなかった。富田とボーゼスは視線を交わして頷き、ボーゼスは全てを託し勝ち抜くよう求めた。伊丹が改めて反対者を問うても、反対は出なかった。

損得勘定への言及とピニャの説明

メイベルが損得勘定のできない者ばかりだと呆れると、ピニャが人間は損得だけで動かないと述べ、損得で判断しても多くはロゥリィを支持すると語った。メイベルが理由を問うと、ピニャはメイベルがこの後のナッシダに他の亜神を集める力があるかと問うた。メイベルは亜神となって間もなく先達と話したこともないため無理だと認めた。ピニャは、亜神を参拝する目的で集まる者が少なくない以上、婚儀を仕切るのはロゥリィでなければならないという判断も成り立つと述べ、メイベルはその理を認めた。

伊丹の巻き込みと助太刀ユエルの登場

メイベルが改めて戦う意思を問うと、ロゥリィは戦うしかないと答えた。ロゥリィの視線を受けた伊丹は、自分も勘定に入っているのかと確認したが、メイベルは眷主が戦うなら眷属も肩を並べるべきだと断じた。伊丹が二人がかりで一人の少女を相手にするのはどうかと遠慮を示すと、メイベルは助太刀を用意しており、伊丹の相手はその者にさせると告げた。続いてメイベルがユエルを呼ぶと、グランハムの眷属の男が現れ、闘気を漲らせて伊丹を睨み据えた。

決闘の強要と武器使用の拒否

メイベルは、ユエルが強い相手との戦いを求めているとして機会を与えたと説明し、ユエルも炎龍を斃したほどの男が相手なら不足はないと述べた。伊丹は目眩を覚え、剣も扱えないとして決闘を拒んだが、ユエルは飛び道具を使うなら使えばよいとし、両刃の剣を抜いた。伊丹は武器使用の許可が出ないと述べ、狭間陸将に確認を求めた。狭間陸将は、伊丹が自衛官で武器使用には上官の命令が必要であり、特地の最高責任者として絶対に許可しないと断言した。

花嫁強奪の脅しと江田島の提案

ユエルは、婚儀を成功させたいなら戦いは避けられないとし、戦わないなら花嫁を強奪すると告げた。ユエルがボーゼスへ手を伸ばしかけたため、伊丹が前に出て止め、富田とパレスティ侯爵もボーゼスを守るように立ちはだかった。ユエルは嫌なら自分と戦えと迫った。そこへ江田島が進み出て、この争いは宗教的な儀式としての意味が大きいと確認し、メイベルも神の呪いが関わっているのだから当然だと認めた。江田島は止めろとは言えないが、伊丹は個人技で応じられないとして、勝負の方法をこちらで決めさせてほしいと提案した。メイベルは受諾し、ユエルもどのような勝負でも受けると答えた。狭間陸将が意図を問うと、江田島は大祭典実行委員長として大祭典が上手くいくことを考えていると述べ、勝負を棒倒しで決着させると宣言し、狭間陸将が棒倒しだと驚く中で江田島は棒倒しだと繰り返した。

棒倒しのルール提示と会場への誘導

ユエルが棒倒しとは何かと問うと、江田島は実際に見せた方が早いとして関係者を大広場へ誘導した。そこでは丸太棒に群がって肉弾戦を行う自衛官たちが示され、江田島は双方が百五十名ずつ軍を指揮し、二分以内に相手の棒を倒すか三秒間傾けさせた方が勝ちだと説明した。準備時間がないため競技時間は五分とされた。

武器と魔法の禁止、伊丹側の条件確認

江田島は参加者を集めて率いる方法は各自の自由だが、武器は肉体のみで魔法の類いも禁止すると定めた。メイベルは伊丹に有利な競技だと評したが、江田島は伊丹に指揮する隊がなく、人望だけで参加者を募る必要がある点で対等だと述べた。単身で戦ってきたユエルは部下集めに戸惑いを見せたが、メイベルは仲間集めは自分がなんとかすると申し出た。

蒼軍の募集と参加者の拡大

メイベルは野次馬の伝統貴族たちに声を掛け、最初にレディが黄薔薇閣下に恥をかかせられるなら参加すると応じ、アンも面白そうだとして加わった。貴族だけでなく、エルダー一家の男たちやフェブロン神殿の神官も名乗りを上げ、ヴォトカ司教はロゥリィと正面から戦いたいが恐ろしくてできなかったため、この競技なら戦えそうだと理由を語った。こうしてユエル率いる蒼軍は男女合わせて百四十九名となり、江田島の点検で装飾品や爪の注意が出る中、人数が一人足りない問題が表面化した。

パレスティ侯爵の編入と蒼軍の定員達成

江田島は一人足りないだけでも不公平だとして、パレスティ侯爵を蒼軍側に加えるよう連れてきた。侯爵は最初は結婚に反対していたとされ、勝てば娘と孫を連れて帰れるという提案に目を輝かせ、参加を決めた。ユエルは花嫁強奪の発言は挑発に過ぎないとし、勝った後の後始末を考えると父親が連れ帰る方が良いと述べ、メイベルも同じ目的で集まった同志として受け容れると宣言した。こうして蒼軍は百五十名の精鋭を揃えた。

黒軍の結成と伊丹の動揺

ロゥリィと伊丹の黒軍にも参加者が集まり、テュカ、レレイ、ヤオ、メイアや組合の従業員、帝国騎士団の有志、自衛官たち、さらにフォルマル家のメイドたちまで加わった。黒軍は男性六十九名、女性八十一名となり、伊丹は防御班を率いることになったが、ユエルを先頭に敵が殺到すると想像して恐怖で震え、冷や汗を流しながら戦術を伝えた。

役割分担の確定と伊丹の指揮位置

用賀二佐は棒を支える棒持ち班を指揮し、乱入騒動が余興になる点や、相手側に新婦の父を置いて処遇が守られる点を評価した。健軍一等陸佐は棒を囲んで守る部隊を指揮し、伊丹は片膝を突いた健軍らの肩を借りて棒の上へ登った。狭間陸将は迎撃班を指揮し、これは伊丹の戦いだから当然だとして、勝って婚儀を成立させろと命じた。倉田や栗林も伊丹を守ると述べ、ロゥリィは攻撃班を率いる象徴として黒ゴスのまま、特地出身者を中心に円陣を組んだ。

黒軍の士気と規律の確認

ロゥリィが大まかな手順を示すと、ハミルトンやピニャは作戦を称賛し、聖下の旗の下で戦えることを誉れとした。ウォルフが捕虜への不穏な発言をすると、テュカが即座に制止し、競技試合である以上の逸脱を許さないと釘を刺した。メイアの声に傭兵たちも応じ、江田島が両軍に位置につくよう告げてホイッスルを鳴らした。

観客の殺到と賭博の成立

結婚式賛成派対反対派の勝負で、しかも花嫁を賭けて戦うと知れ渡ると観客が一気に集まり、他会場の客や大道芸人まで棒倒しへ流れた。ディアボはこれを好機として賭博の胴元に名乗りを上げ、黒軍か蒼軍かの勝敗に賭けさせ、多額の掛け金を集めて歓喜した。江田島は審判として正々堂々の戦いを求め、戦後に文句をつけないよう注意した上で、花嫁姿のボーゼスをひな壇に座らせたため、会場は歓声に包まれた。

亜神たちの観戦とボーゼスの心境

立会人を兼ねた亜神たちが左右に座り、グランハムとモーターは酒壺を手に機嫌良く見物し、ジゼルは参加できないことに不満を露わにした。フラム司祭は空を飛べる者が参加すれば黒軍が有利になりすぎると説明して宥めた。ボーゼスは優勝商品のように扱われ恥ずかしげにしつつも興奮を自覚し、心配はないとして必ず勝利が捧げられると信じていた。

開戦と蒼軍の突破、ユエルの単騎の危うさ

江田島が号砲を鳴らすと、両軍の攻撃班は前進し、広場中央ですれ違って攻撃目標へ突き進み、五分間の死闘が始まった。蒼軍はユエルを先頭に突進し、伊丹の耳には地響きのように聞こえた。伊丹の命令で迎撃班が横隊の壁を作ったが、ユエルは中央を突き破り隊員を吹き飛ばし、蒼軍の男たちが突破口へ殺到した。しかし蒼軍主力の多くは防御陣に阻まれ、栗林や出雲らの攻撃で次々と意識を刈り取られ、ユエルは本隊から切り離されていった。狭間陸将は半包囲を命じ、個の力に頼る者は己の力で滅ぶと断じた。

黒軍の攻勢と蒼軍防御陣の動揺

黒軍攻撃班は蒼軍の人間の城郭へ殺到し、蒼軍は棒を支える者と周囲を守る者、さらに上に立つ者を組み合わせた二段重ねの防御を固めた。ロゥリィがウォルフを突入させ、傭兵たちはスクラムのように激突して防御陣を歪ませ、背中を踏み台としてペルシアらが棒へ駆け登った。ピニャは騎士団女性士官を前進させ、メイベルは棒の上から寄せ付けるなと叫び、レディらが立ちはだかった。レディは妾の娘が次期皇帝であることへの憤りをぶつけ、ピニャらは絡め取られて転落し、土煙の上がる肉弾戦が広がった。

戦線の膠着と第四陣の突進

格闘戦に陥ると相手を沈黙させるまで復帰できず、攻守とも戦力が急速に失われていったが、ロゥリィは不敵に笑って突撃を続けさせた。テュカ、レレイ、ヤオが一丸となって丸太へ迫り、黒軍側ではユエルの単身突撃が攻城槌のように城郭の横腹へ刺さったものの、後続が少なく決定打にならなかった。ユエルは単身で壁を登ろうとし、伊丹は楠木流千早城戦術を指示し、掴まれた自衛官たちがわざと潰れて足場を拒否したため、ユエルは地に投げ出された。

ユエルの無力化と想定外の介入

伊丹は富田に押さえ込ませ、富田は死んでも放さないと叫んでユエルを止めた。伊丹は時間切れを狙うと述べたが、そこへパレスティ侯爵が現れ、富田の首を締め上げて娘を連れ帰ると宣言した。富田はボーゼスは自分の嫁だと抵抗し、ユエルもこのまま負けることを認めないと歯を食いしばった。

怪力の投擲と黒軍側への追い風

ユエルは富田とパレスティ侯爵を背負ったまま立ち上がろうとし、伊丹の指示でさらに複数がのしかかったが、ユエルはぐらつきながらも立ち上がった。ユエルは富田たちを塊のまま伊丹たちへ投げつけ、伊丹は人間を投げる異常さに驚愕した。この混乱が追い風となり、蒼軍の棒から少し離れて待機していたヤオ、テュカ、レレイが背中を蹴って駆け登り、テュカは追い風が吹いたと囁きつつ棒に飛びついた。

棒上の攻防とメイベルの転落

テュカとレレイが登ろうとすると、貴族娘たちが髪や足、衣服を引いて妨害し、棒の上のメイベルも蹴って落とそうとしたため、三人はあと少しで止められた。メイベルはユエルが敵陣を落とせば勝ちだと勝ち誇ったが、ヤオの背に隠れて登ってきたロゥリィが中空に舞い、メイベルへ体当たりしようとした。ところがヴォトカ司教が横合いから飛びついて阻止し、司教は恐怖の払拭のためロゥリィを倒すと叫び、使徒と司教の肉弾戦が始まった。その最中、ヤオの手がメイベルの足に絡みつき、メイベルはヤオとともに棒からずり落ち、支え手の群れに落下して揉みくちゃにされた。

蒼軍の棒の傾斜と同時決着、混乱の発生

守る者を失った棒にテュカとレレイがよじ登って揺すり、蒼軍の棒は傾いていった。観客の興奮は頂点に達し、双方の棒が傾き始めたところで会場は歓声に包まれた。実際には蒼軍と黒軍の棒が倒れたのはほぼ同時であったが、賭け金も絡んで観客は自分の側が勝ったと主張し、激しく騒ぎ始めた。

静寂への転化とメイベルの異変

グランハムはユエルの働きを面白がり、モーターもその益荒男ぶりを称えた。ボーゼスは富田が立ち上がるのを見て安堵した一方、ユエルは勝てなかったことを悔しがった。しかし直後、会場は急に静まり返り、ユエルが周囲を見回すと、メイベルが自らの胸を切り開き体内から剣を引き抜こうとしている姿が映っていた。

12

引き分け後の決着宣言と再戦の開始

棒倒しが引き分けに終わる中、メイベルは痛み分けは存在せず、呪いは達せられるか破られるかの二択だとして戦いの続行を宣言した。ロゥリィは泥を払ってため息をつきつつ正対し、両者は改めて武器を整えて向かい合った。

メイベルの神器の取り出しと会場の沈黙

メイベルは預けていたブーツを取り戻し、そこからナイフを抜いた後、神器を持ち出す必要があると述べた。ロゥリィが驚く中、メイベルは自らの胸に短剣を立てて皮膚を裂き、腕を胸腔へ突き入れて目的のものを探った。その光景に観衆は沈黙し、会場は熱狂から一転して静けさに包まれた。

法剣ディーヴァの出現と周囲の欲望

メイベルは激痛に耐えながら胸から腕を引き抜き、血の色に輝く法剣を握りしめて掲げた。観衆はそれを古代エデン王国建国の神器、ズフムートがスディに与えた名剣だと語り合い、使う度に命を奪うため乱用が諫められていた剣を、使徒であるメイベルなら常時使用できるのではないかと推し量った。野心を抱く者たちは深紅の刀身を垂涎の思いで見つめた。

亜神同士の武器戦と激烈な攻防

準備を整えたメイベルはディーヴァを両手で握り、ふらつきながらもロゥリィへ歩み寄り、ロゥリィも迎え撃つ姿勢を示した。両者は駆け寄って武器を振りかぶり、鋼がぶつかる響きと火花が聖堂の鐘のように鳴り渡った。メイベルは呪いの受容を迫り、ロゥリィは踏み固めてハルバートで払いのけ、速度と臂力が拮抗するかのような攻防が続いた。

相打ちと不死の再生、言葉の応酬

岩塊が激突したような音とともに両者は弾き飛ばされ、手足がねじれ傷だらけの姿で大地に倒れたが、すぐに治癒して立ち上がり臨戦態勢に戻った。ロゥリィとメイベルは互いの出自を罵り合いながら得物を叩きつけ合い、戦いは華麗な駆け引きではなく力比べのぶつけ合いへ収斂していった。

フォーン家の因縁の提示とロゥリィの動揺

メイベルは、結婚式を邪魔された因が呪いとして降りかかるのが道理であり、被害者と加害者の関係は歳月が流れても変わらないと述べた。ロゥリィがベルティの言い残しを問うと、メイベルは玉の輿に乗り損なったという言葉を告げ、さらにフォーン家の女が呪いで結婚できなくなり、髪色を隠して妾や短い内縁に甘んじる運命になったと語った。ロゥリィは理解できず戦意を削がれ、濡れ衣だとして動揺しながら防戦に追われた。

伊丹の介入と原因の再整理

メイベルがとどめを刺そうとした瞬間、伊丹が両手を広げて割って入り、代々結婚できなかった原因が本当にロゥリィのせいなのかと問いかけた。伊丹は、蒼髪の娘が剣を狙われ続けたのなら隠遁生活の原因は呪いではなく髪色、つまりディーヴァの存在ではないかと指摘し、ロゥリィも同意した。メイベルはそれを責任逃れだと退け、ベルティへの嫉妬と劣等感で結婚式を邪魔したのだと断じたため、ロゥリィは強い怒りを滾らせた。

ズフムート信者の歴史観とメイベルの確信

メイベルは幼少期に母を亡くし、敬虔なズフムート信者の養い親に引き取られて一族の運命と真実を知ったと語った。メイベルは旅に出て世が欺瞞に満ちていると感じ、髪を衆目に晒して名乗りを上げ、ロゥリィと堂々と戦うことを選んだと述べた。ロゥリィは救いを求める声を上げ、伊丹も言葉に詰まった。

亜神たちの審議と冥府での確認案

ひな壇の亜神たちは顔を寄せ合って審議し、モーターとグランハムはメイベルの知識が間違っていると判断した。グランハムは、間違いはいずれ気付けるが、ディーヴァの力で考えを押し通されると厄介だと述べた。ジゼルはぶん殴ってでも分からせるしかないと言って立ち上がったが、グランハムは冥府にいる祖先の魂に会わせて自分で気付かせる方法を提案し、ジゼルはそれに納得した。

ジゼルの宣言とベルティの魂の出現

ロゥリィはメイベルを幽閉すると決めて構え直し、メイベルも間合いを慎重に測った。そこへ天空から光が差し、ジゼルが冥王ハーディの言葉だと宣言すると、群衆は一斉に膝を突いてひれ伏し、ロゥリィも片膝を突いた。ジゼルはメイベルに祖たるベルティらの魂との面会を許し、真実を知れと告げ、光の柱の中にベルティの姿が浮かび上がった。

ロゥリィとベルティの抱擁、メイベルの崩壊

ロゥリィはベルティを見て駆け出し、光の中で抱き合ったが、周囲には会話は聞こえなかった。ロゥリィとメイベルにはそれが聞こえ、メイベルは今まで信じていた全てが否定されたため叫び、嘘だと繰り返して動揺した。ロゥリィは真実を理解したかと問い、ハルバートを振り上げたが、メイベルは気勢を削がれて剣先に力が入らなかった。

ロゥリィの制裁とメイベルの吹き飛び

ロゥリィは覚悟を促し、渾身の一撃でメイベルの両腕からディーヴァを弾き飛ばした。追撃のためハルバートを振り上げたが、ベルティの子孫を目の前で八つ裂きにするのを忍び、刃を返して横腹を叩きつけた。激烈な衝撃に耐えきれず、メイベルはその場から遠くへ吹き飛ばされていった。

ロゥリィの一撃と会場の静止

ロゥリィはハルバートを振り切った姿勢のまま固まり、観衆もまた静まり返って緊張を解けなかった。ロゥリィがゆっくりとハルバートを下ろしたことでようやく空気が緩み、直後に地鳴りのような大歓声が湧き起こってロゥリィの勝利が称賛された。

ディーヴァを巡る殺到と乱闘の発生

歓声と同時に貴族や傭兵やならず者が一斉に広場の一点へ駆け出し、ディーヴァを求めて手を伸ばした。資格なき者が手にすれば錆びて崩れると知られていたが、剣に認められるかもしれないという望みに賭け、奪い合いの乱闘が始まった。騒動は瞬く間に広がり、狭間は武装した警務隊の出動すら考えた。

ピニャの糾弾と忠誠心の問題化

乱闘は長く続かず、ピニャが前に立って制止した。ピニャは、帝国貴族であり皇帝の臣下である者たちが主君を差し置いてディーヴァを求めたのなら問題であり、返答次第では忠誠心を改めて考えると告げた。蔑む視線を向けられた貴族たちは顔色を青ざめさせ、乱闘は収まって沈黙が広がった。

ボーゼスの取りなしと余興への転換

ピニャが処分の好機を得たところへ、ボーゼスが割って入り、憤った目で見れば皆が恐怖でいたたまれないとして寛恕を求めた。ボーゼスはこれを余興だと位置づけ、ピニャが不利になると感じて問い返しても、その姿勢を崩さなかった。ビーナもボーゼスの寛容を称え、貴族たちは殿下へ捧げるつもりだったのだと口を揃えて頷いた。ピニャは結婚の儀式がまだ終わっていないことを踏まえ、ボーゼスに免じて容赦することを選び、パレスティ侯爵も負けたことで腹蔵なく向き合えると述べた。

結婚式の再開と富田とボーゼスの夫婦成立

こうして伝統貴族たちの狂態は、ボーゼスの取りなしによって余興の一つとして扱われることになった。反感を示しにくくなったことで式は速やかに再開され、ロゥリィは二人を夫婦と認め、夫婦は同盟者で戦友であり好敵手でもあると告げた。富田とボーゼスは夫婦となり、ロゥリィも祭司を務めきって呪いが払拭されたことを衆目に示した。

ブーケトスの導入と争奪戦の勃発

その後、日本側の習慣としてブーケトスが紹介された。投げられた花を掴んだ者が次の花嫁になれるという話にピニャが反応し、栗林はただの言い伝えだと言いながらも前に出た。レディも言い伝えであっても縋りたくなるのが女だとして参加を表明し、好智と策謀と暴力が渦巻く壮絶なブーケ争奪戦が行われることになった。

ナッシダでの祝福とワレハルンの神体拝受

華燭の典の終了後、夫婦の子である舞を中心にナッシダが開かれ、五柱の亜神と後見役の参列者が別室に集った。モーターは蒼髪の娘のせいで目玉が成り立たなかったことを残念がりつつ、六柱が集まった扱いにしてよいと言って舞の額に指を当て、人生を創り上げる加護を授けた。グランハムは舞の頭に手を載せ、太陽の加護の下で明るく元気で美しくあるよう祝福した。ジゼルは舞の左手に唇を当て、冥王の加護を語り、ロゥリィも舞の右手に唇を寄せて死を遠ざけ戦う術を与えると述べた。

耳の儀礼への反射的な制止と説明

最後にワレハルンは、他人の言葉をよく聞き真実を聞き分ける耳を授けるとして、自らの耳をもいで舞の口に含ませた。伊丹と富田は反射的に止めに入ったが、ボーゼスとロゥリィに大丈夫だと制された。ロゥリィはワレハルンが木の実であり果物だと説明し、神体拝受という儀式で食べると寿命が十年延びると言った。のちに皆へ配られると告げられたことで、伊丹は強い抵抗を覚え、富田と顔を見合わせた。

メイベルの落下と衰弱した状態

ロゥリィの渾身の一撃を受けたメイベルは、アルヌス街の丘を挟んだ北側斜面まで吹き飛ばされ、泥にまみれて虫の息の状態で倒れていた。亜神であるため死には至らなかったが、身体の回復は進まなかった。ディーヴァを取り出したことで心臓と大血管が剣へ変化しており、剣が錆びて朽ちるまで心拍を司る臓器が欠けたままであるため、回復には時間が必要だった。

無力な状況を示す言葉と青年の登場

メイベルは、このような姿を誰かに見つかれば何をされても抵抗できないと独り言のように語った。それは傍らに立つ青年に聞かせる意図もあった。青年はそれを、今が襲う好機だと誘っている言葉なのかと問いかけた。

助けを促す言葉と青年の警戒

メイベルは、可哀想だと思うなら助けるのが人の道に適う行いだと諭したのだと答えた。青年は罠の匂いがすると警戒しつつも、何をしてほしいのかを尋ね、人を呼ぶか医者へ連れて行くかと提案した。

星を眺めたいという願いと会話の始まり

メイベルは星を眺めていたいので、その間愚痴を聞いてほしいと頼んだ。しかしその時刻はまだ夕方で星が見える時間ではなかった。青年はその矛盾には触れず、なぜそのような状態になったのかを尋ねた。

語り始める前のやり取り

メイベルは生まれてからの経緯を語れば長くなると述べ、かいつまんで話すのでは面白くないと主張した。青年は人生すべてを語れと言ったわけではないと返し、要点を話すよう求めた。こうして青年はメイベルの隣に腰を下ろし、彼女の話を聞く姿勢を取った。

宴の最中に街外れで再会するロゥリィとベルティ

ナッシダが無事に終わり、結婚披露の宴が盛り上がる頃、ロゥリィは一人で街の外に出ていた。そこにはベルティの魂が寄り添っており、ロゥリィは彼女のその後について語りを聞いていた。ベルティはエデン脱出後、ホロンの知人である大商人の秘書として働き、その商人と結ばれたが結婚はできず、内縁の妻として二人の娘を産み、家を切り盛りしながら幸せに暮らしたと語った。ロゥリィはその人生が幸せであったと知り安堵した。

ベルティの姿とロゥリィの反応

ベルティの魂は二十歳前後の姿で現れていた。成長した体つきは非常に魅力的であり、ロゥリィはその姿に思わず嫉妬を覚えた。

旧友たちの魂の登場

その場に突然メグルが現れ、ベルティの背後から抱きついた。続いてビムリコがメグルを引き離そうとし、ホロンも姿を見せた。ジゼルがハーディからベルティの魂を受け取る際、三人の魂も一緒に連れてきていたのである。

それぞれのその後の人生

ビムリコは盗賊をやめてベルティの仕事を手伝いながら暮らした。ホロンは結婚することなくルーチェ家の女主人として生涯を過ごした。メグルはフェブロン神殿に残り、ロゥリィの神殿改革を手伝った。

魂の転生と別れ

やがて時間が来たことを悟り、四人は静かに頷いた。ハーディの籠から放たれた魂は次の人生へ向かうため、徐々に大気へ溶け込むように姿を薄くしていった。ロゥリィは四人の姿が完全に消えるまで手を振り続け、その姿を静かに見送った。

後夜祭と大祭典の成功

後夜祭の夜は大祭典当日以上の盛り上がりを見せた。四日目まで参加者をもてなす側に回っていた街の人々や自衛官たちが、閉会式後に自ら楽しもうとしたためである。大祭典は盛大な閉会式とともに大成功のうちに幕を閉じ、翌日には撤収作業が始まり、街のあちこちで別れの光景が見られた。

ピニャの別れと伝えられなかった言葉

ピニャは伊丹に対し、任務ではなく帝都へ来てほしいと告げて両手を握った。伊丹は観光の意味かと受け取ったため、ピニャは本来の思いを伝える機会を失った。さらにレレイ、テュカ、ロゥリィに促され、ピニャは言葉を言い切れないまま貴族たちを率いてアルヌスを後にした。去り際に再び訪れると叫びながら帰途についた。

アルヌスに残る者たち

一方でこの街に可能性を見出し、移り住むことを決めた商人や芸人も多く現れた。ワレハルンもその一柱として残り、モーター・マブチスも工房をアルヌスに構えることを決めたため、ロゥリィは喜んだ。

ワレハルンの神体拝受と森の誕生

ワレハルンは神体拝受式を行い、自身の果肉を信者たちに振る舞った。果肉を食べると寿命が十年延びると言われており、人々はその甘い味を楽しんだうえで種を地面に植えた。やがてそれらは芽吹いて森を形成し、この地にワレハルンの分枝が根付くことになる。

モーイの悲嘆と初恋の終わり

ワレハルンの果肉を切り分ける役割はモーイに任された。モーイは他人に触らせることを拒んだため一人で作業を行ったが、情を通じた相手の身体を切り分けて皆に食べさせる役割に耐えられず涙を流した。ロゥリィはワレハルンの本体は森であり、目の前にいた姿は木の実に過ぎないと説明したが、モーイは理解していても悲しいと泣き続けた。こうしてモーイの初恋は終わった。

グランハムとユエルの帰還

グランハムはユエルと共にフレア神殿へ戻ることを決めた。ユエルは祭典を有意義だったと語り、来年の棒倒しに勝つための方法を考え、百五十人の仲間も集めるつもりだと述べた。エルダー一家のならず者たちはユエルの後ろについて歩き出し、彼の仲間として数えられた様子であった。彼らはユエルの配下として生きる道を選んだようであり、波瀾万丈の未来が予感された。

来年の再訪の約束

グランハムは伊丹たちに、来年も訪れるかもしれないと告げた。ロゥリィはそれまでに泊まる建物を建てておくと応じ、別れの言葉を交わした。

テュカの父の名と衝撃の事実

別れ際、グランハムはテュカにマルソー家の血筋について尋ね、ホドリュー・レイ・マルソーという人物の名を挙げた。その名を聞いたテュカは息を詰まらせ、それが自分の亡くなった父の名だと答えた。グランハムはその人物と会ったのは五ヶ月ほど前だと語ったため、テュカはその言葉に衝撃を受け、しばらく凍り付いた。

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本編

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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