小説「ゲート外伝2<上> <黒神の大祭典編>」感想・ネタバレ

小説「ゲート外伝2<上> <黒神の大祭典編>」感想・ネタバレ

ゲート外伝2上 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 黒神の大祭典編の表紙画像(レビュー記事導入用)

物語の概要

■ 作品概要

『ゲート外伝2<上> 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<黒神の大祭典編>』は、柳内たくみによる超人気「異世界×自衛隊」ファンタジー小説の外伝シリーズ第2弾(前編)である。 物語の世界観は、現実世界の日本と「特地」と呼ばれるファンタジー異世界が繋がり、そこに自衛隊が派遣されているというものである。本作は、両世界を繋ぐ「門(ゲート)」が封鎖されてから十ヶ月後のアルヌスが舞台となる。 特地アルヌスにて、自衛官と元帝国騎士の結婚、およびその娘の誕生を祝う伝統祭事が催されることとなり、主人公の自衛官・伊丹耀司は元部下の門出を祝うべく準備に奔走する。しかし、特地の「亜神」全員が式典に出席することが知れ渡り、帝国住民が殺到してパニック状態に陥ってしまう。さらに、亜神の一人であるロゥリィにかけられた謎の呪いが、式典に大いなる災いをもたらそうとする、というあらすじである。

■ 主要キャラクター

  • 伊丹耀司(いたみ ようじ): 陸上自衛隊の二等陸尉であり、筋金入りのオタク趣味を持つ本作の主人公。普段は飄々としているが、本作では元部下の結婚式や伝統祭事を無事に成功させるべく、式典の準備や異常事態の収拾に奔走する苦労人としての役割を担っている。
  • ロゥリィ・マーキュリー: 死と断罪の神・エムロイに仕える「亜神(使徒)」の少女。巨大なハルバードを操る圧倒的な戦闘力を持つが、本作では何者かによって呪いをかけられてしまい、それが原因で祭事に波乱をもたらす重要人物(キーパーソン)として位置づけられている。
  • 倉田三曹(くらた): 伊丹の元部下である自衛官。異世界特地の住人である猫耳メイドと恋に落ちており、本作の祭事は彼らの結婚などを祝う目的で開かれる。異世界人との異種間婚姻という、物語の文化交流を象徴する立ち位置である。

■ 物語の特徴

本作の最大の特徴は、単なる近代兵器と魔法の戦闘劇にとどまらず、自衛隊員と異世界住人との「結婚」や「異文化交流」、そしてそれに伴う「神事(お祭り)」という非日常の中の日常を深く掘り下げて描いている点である。 他作品の異世界ファンタジーとの明確な差別化要素として、言語や宗教、生活習慣が異なる者同士がどのように結ばれ、生活の基盤を築いていくのかという社会的な人間ドラマがリアリティをもって描かれている。また、多数の「亜神」たちが一堂に会するというスケールの大きさと、それに振り回される自衛隊という構図が、コメディタッチかつ壮大に展開される点も、読者にとって非常に興味深いポイントである。

書籍情報

ゲート外伝 2<上>自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<黒神の大祭典編>
著者:柳内たくみ 氏
イラスト:黒獅子
出版社:アルファポリス
発売日:2015年4月4日

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あらすじ・内容

2015年TVアニメ化!超人気の自衛隊×異世界ファンタジー、外伝文庫化第二弾・前編! 『門』封鎖から十ヶ月。『特地』アルヌスでは、自衛官と元帝国騎士との結婚式、及びその娘の誕生を祝う伝統祭事が催されることになった。元部下の門出を祝福すべく、自衛官伊丹も準備に奔走。しかし亜神全員の出席が知れ渡り、帝国住民がアルヌスに殺到する非常事態となってしまう。加えてロゥリィにかけられた呪いが、式典に大いなる災いをもたらそうとしていた――!

ゲート外伝2<上>自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり<黒神の大祭典編>

感想

勘違いから幕を開ける、賑やかな日常の風景

物語は、伊丹による何気ない提案から大きく動き出す。富田とボーゼスの結婚式を思い描く伊丹と、それを自分への求婚だと勘違いして舞い上がるロゥリィ 。この認識のズレが生み出す騒動は、シリアスな背景を持つ本作において、どこかほっとさせる日常の風景といえるだろう 。また、図書館の貸出記録を巡るやり取りも興味深い 。自らの趣味を知られたくないという久居三佐の無茶な願いは、公文書を扱う者としては困りものだが、体面を気にする人間らしさには少しばかり共感してしまった 。

少女ロゥリィが歩んだ、愛と痛みの記憶

第二章で描かれるのは、ロゥリィの知られざる幼少期の記憶である 。かつての彼女は、愛する者のために動く際に伴う「痛み」という感覚を、まだ本当には理解していなかった 。神殿での過酷な訓練や、一昼夜続く祈祷の疲労に翻弄される姿は、現在の彼女からは想像もつかないほどか弱い少女そのものだ 。指導官ナムダが彼女を追い出そうとしていたのか、それとも別の目的で試練を課していたのか 。その真意については、読み進める中でさらなる深掘りが必要だと感じた 。

執着と嫉妬がうごめく、祝典の裏側

現代の軸では、富田とボーゼスの絆を阻もうとする様々な執着が描かれる 。特に、富田への複雑な想いゆえに式を邪魔しようとする栗林の姿は、理屈ではない感情の揺らぎを強く感じさせた 。これに対し、ロゥリィが強烈な一撃で介入して事態を収拾する場面は、実にあざやかである 。 一方で、帝国側の情勢は重苦しい。身ごもったまま日本人と結ばれようとするボーゼスは、実家から勘当され、貴族社会の冷笑にさらされている 。彼女を執拗にけなす令嬢レディや、その背後でうごめく神官メイベルの存在は、祝典に暗い影を落とすだろう 。

下巻への期待を繋ぐ、丁寧な物語の「下地」

本巻は、いわば大きな祭典に向けた丁寧な下地作りといえる。富田とボーゼスの結婚式の準備が進む裏で、ロゥリィの過去や主神エムロイを巡る因縁が絡み合い、物語に深みを与えている 。多くの火種を残したまま、事態はアルヌスへと向かう三万六千人の大移動とともに加速していく 。下巻でこれらの因縁がどのような決着を見せるのか、今から期待がふくらむ展開であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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考察

亜神ロゥリィ・マーキュリーの知られざる過去

戦と狂気、死と断罪の神エムロイの使徒であり、死神の二つ名で恐れられる亜神ロゥリィ・マーキュリーの過去は、愛情深い家族との関わりや、友人たちとの悲劇的な別れ、そして教団との凄惨な確執に彩られている。彼女がいかにして現在の地位に至り、どのような経験を経てその人格を形成したのかを、重要なエピソードごとに整理して解説する。

エデン王国の下級貴族としての生い立ち

ロゥリィは、現在は滅亡したエデン王国の下級貴族であるマーキュリー家の娘として生を受けた。

  • 五男七女の十二人兄弟という大家族の五番目の子供として育った。
  • 家計は逼迫し食卓は常に騒がしかったが、父の愛情と母の細やかな気遣いに包まれた温かい家庭であった。
  • この原体験が、後にアルヌスでレレイやテュカなどの孤児の面倒を見る際の根底となっている。

愛を知るための火傷事件

十歳の頃、ロゥリィは長女ルイールの右手に残る酷い火傷の痕を目にする。それはルイールが奉公先の赤子を守るために、煮え立つ鍋を素手で掴んだ際にできたものであった。

  • 姉の語る、愛があれば熱さを感じないという言葉を確認するため、自ら熱湯に右腕を突っ込むという行動に出た。
  • 傷痕は残らなかったものの、両親から自分が傷つくことで周囲も同じように痛むのだと諭された。
  • この経験を通じて、愛とは他者の苦痛を自分のことのように感じるものであるという感覚を心に刻んだ。

フェブロン神殿での見習い時代

火傷事件から二年後、十二歳になった彼女はエムロイ信仰の本山であるフェブロン神殿の神官見習いとなる。

  • 立木打ちの稽古で掌の皮が剥けるほどの過酷な修行を積んだ。
  • 家族を悲しませたくないという思いから無意識に手加減をしたため、武術の成績は下位であった。
  • 同期にはメグル、ビムリコ、ホロン、そして後に悲劇の渦中に置かれるベルティといった友人たちが存在した。

友の危機と家族を守るための苦渋の決断

友人ベルティが建国王の血を引く蒼髪の娘であり、神器を体内に宿していることが判明する。カストーリの目的は、結婚の初夜にベルティを殺害して神器を奪うことであった。

  • ビムリコとホロンがベルティの救出計画を立てたが、ロゥリィは名乗り出ることができなかった。
  • 計画に加担することは一族郎党皆殺しの危険を伴うため、家族を愛するがゆえに友を見捨てる選択を強いられた。
  • 暗闇の中、友人たちが去っていく音を聞き続けるしかない状況は、彼女にとって深い後悔となった。

亜神への昇神と教団との確執

ロゥリィはエムロイの使徒である亜神となるが、当時の腐敗した教団にとって本物の使徒は不都合な存在であった。

  • 教団は彼女を幽閉し、不老不死の体を断ち分けるという非道な手段で排除を試みた。
  • この絶体絶命の窮地を救ったのは、かつての親友であるメグルであった。
  • 二人は辺境の修道院へと逃れ、共に修行の日々を過ごすこととなった。

まとめ

死神として恐れられるロゥリィ・マーキュリーが、将来的に愛の神を目指している背景には、こうした凄絶な過去が存在する。家族との絆や、愛ゆえの痛みを知る火傷の経験、そして家族を守るために友を助けられなかった後悔。これらすべての体験が、彼女の根底にある慈愛と、理不尽な運命に対する断固たる姿勢を形作っているのである。

特地におけるナッシダと結婚式の挙行

特地のアルヌスにおいて実施された自衛官の富田二曹と帝国貴族ボーゼス・コ・パレスティーのナッシダおよび結婚式は、当初の規模を大幅に上回る大祭典へと発展した。その経緯を以下の通り解説する。

企画の発端と法的課題の解消

ナッシダとは赤ん坊に正式な名を与えて祝福する祭事であり、舞の誕生を機に企画された。特地においては、この儀式の日が正式な誕生日として扱われる。

  • 特地には戸籍制度が存在しないため、富田とボーゼスは内縁関係に留まっていた。
  • 子供の日本国籍取得が困難であるなど、法的な課題が山積していた。
  • 伊丹二尉はこれらの問題を解決するため、ナッシダに合わせた結婚式の挙行を提案した。

亜神の招聘と大祭典への拡大

祭司を引き受けたロゥリィは、地上で活動する亜神五柱すべてを招集すると宣言した。これにより、個人の祝祭は歴史的な意味を持つ行事へと変質した。

  • 亜神の集結により十万人規模の来場者が予想され、ボーゼスは一時開催を断念しようとした。
  • 実行委員長の江田島二佐は、規模を逆手に取った大祭典化を提案した。
  • 駐屯地祭を街全体の祭りに仕立て上げることで、人波を受け止める方針が固まった。

波乱を乗り越えたプロポーズ

富田はけじめをつけるべく、ボーゼスの屋敷にて正式なプロポーズを試みた。しかし、その場には予期せぬ混乱が発生した。

  • 富田に想いを寄せる栗林が乱入し、ボーゼスと武器を交える騒動となった。
  • ロゥリィによる鎮圧を経て、富田は改めて結婚を申し込んだ。
  • ボーゼスはこれを受諾し、二人は堂々と式を挙げる決意を共有した。

パレスティ侯爵家の事情と叙爵

帝国ではボーゼスの懐妊が醜聞として扱われ、実家であるパレスティ家は窮地に立たされていた。

  • ピニャ皇女は、周囲の嫉妬を恐れる侯爵に対し、式を堂々と行うべきだと主張した。
  • 富田に炎龍退治の功績で勲章を与え、貴族として叙爵する解決策が示された。
  • これにより体面が保たれた侯爵は、ボーゼスの勘当を解き参列を決定した。

情報の公然化と三万六千人の移動

亜神集結の情報が外部に漏れたことで、拝謁を希望する貴族や民衆が招待客に殺到した。

  • 旅券の発給申請が爆発的に増加し、帝国の事務処理能力が限界に達した。
  • ピニャは日本側から謄写版の印刷技術を引き出し、この危機を解決した。
  • 結果として、およそ三万六千人という前代未聞の人数がアルヌスへと移動した。

まとめ

本イベントは、個人の家庭的な祝祭から始まり、最終的には技術提供や政治的解決を伴う特地最大級の文化交流行事となった。アルヌスという街が日本と帝国の境界線として独自の活力を獲得した象徴的な出来事であるといえる。

登場キャラクター

伊丹耀司

自衛隊特地派遣部隊に所属する二等陸尉である 。彼は普段は怠け者を装っている 。ロゥリィから深い好意を寄せられている 。

・所属組織、地位や役職
 自衛隊特地派遣部隊・二等陸尉 。

・物語内での具体的な行動や成果
 駐屯地祭と結婚式の同時開催を提案した 。日本側要人の出席に向けた根回しを担当した 。図書館の貸出業務で久居三佐のために記録を偽った 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大祭典の実行委員の一人として準備に携わった 。江田島からは「意志力の強い人物」と評されている 。

ロゥリィ・マーキュリー

死と断罪の神エムロイに仕える亜神である 。彼女はアルヌスにおいて自身の神殿を構えている 。伊丹に対して異性としての関心を抱く 。

・所属組織、地位や役職
 エムロイの使徒・亜神 。

・物語内での具体的な行動や成果
 娘マイの生誕祝いである「ナッシダ」の主催を宣言した 。伊丹の提案を自身の結婚申し込みと誤解して激しく動揺した 。大祭典の熱狂を後押しするために丘で呪舞を舞った 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 現存する亜神全員を無償で招集する影響力を見せた 。過去にエデン王国の下級貴族の娘として育った経緯が明かされた 。

ボーゼス・フラ・パレスティ

帝国の元騎士であり、パレスティ侯爵家の令嬢である 。自衛官の富田との間に娘マイをもうけている 。彼女は誇り高く、家族への愛情が深い 。

・所属組織、地位や役職
 元帝国騎士 。

・物語内での具体的な行動や成果
 娘のためにナッシダを盛式で行うことを希望した 。栗林によるプロポーズ妨害に対してサーベルを抜いて対峙した 。費用の増大を懸念して一時は式の縮小を申し出た 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 長らく父から受け継いでいた勘当が最終的に解かれた 。帝国貴族社会においては敵国兵との関係が醜聞の対象となっていた 。

富田(一等陸曹)

自衛隊特地派遣部隊に所属する隊員である 。ボーゼスと内縁関係にあり、一児の父となっている 。彼は誠実だが、押しに弱い面がある 。

・所属組織、地位や役職
 自衛隊特地派遣部隊・一等陸曹 。

・物語内での具体的な行動や成果
 当初は節約を理由に祭典の規模縮小を提案した 。栗林の乱入を経てボーゼスに正式なプロポーズを行った 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 炎龍撃退の功績により元老院勲章を授与される可能性が示された 。叙爵され帝国貴族の一員となる案が浮上している 。

ピニャ・フォル・ラーダ

帝国の皇女であり、現在は執政代行を務めている 。日本の文化や技術に対して強い敬意を抱く 。ボーゼスとは主従を超えた信頼関係にある 。

・所属組織、地位や役職
 帝国皇女・執政代行 。

・物語内での具体的な行動や成果
 ボーゼスの結婚式を公に祝うことを決定した 。旅券発給の停滞を解消するため日本側に謄写版技術を求めた 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 日本との交渉において強硬な姿勢を貫き成果を勝ち取った 。伝統貴族たちからの評価を回復させることに成功した 。

江田島(二等海佐)

自衛隊の二等海佐であり、海上地区を拠点としている 。精巧な帆船模型の制作を趣味とする 。彼は指揮官として断固たる意志力を持つ 。

・所属組織、地位や役職
 自衛隊・二等海佐。大祭典実行委員長 。

・物語内での具体的な行動や成果
 頓挫しかけた結婚式計画を「大祭典」へ拡大するよう伊丹に促した 。伊丹の特異な性質を的確に分析した 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 陸海の垣根を越えた催しの責任者として全体を統括した 。

レディ・フレ・ランドール

帝国ランドール公爵家の令嬢である 。ボーゼスに対して一方的な嫉妬と憎悪を抱いている 。彼女は周囲を支配しようとする傲慢な性格とされる 。

・所属組織、地位や役職
 ランドール公爵家令嬢 。

・物語内での具体的な行動や成果
 茶会においてボーゼスの悪評を広める工作を行った 。亜神への拝謁を自慢し、結果的にアルヌスへの渡航希望者を激増させた 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神官メイベルの影響を強く受けている 。結婚式を阻止するためにアルヌスへ同行することを決めた 。

メイベル

ランドール公爵家に身を寄せる高位の神官である 。光神ズフムートを信仰している 。ロゥリィを敵視し、彼女の儀式を阻もうとする 。

・所属組織、地位や役職
 ズフムート神殿・神官 。

・物語内での具体的な行動や成果
 レディの陰湿な嫌がらせを背後から助言した 。結婚式を物理的に阻止するための直接的な行動を宣言した 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 諸王侯貴族から高い尊敬を集める立場にある 。ロゥリィの呪いを利用した策略を練っている 。

ベルティ・エム・フォーン

ロゥリィの神殿見習い時代の同期である 。没落したフォーン家の娘として生まれた 。彼女は優しくも気弱な性格として描かれる 。

・所属組織、地位や役職
 元神殿見習い 。

・物語内での具体的な行動や成果
 カストーリとの政略結婚に際して花嫁として神殿に現れた 。自身の境遇が仲間に迷惑をかけることを恐れ、一時は失踪した 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 神器「血剣ディーヴァ」をその身に宿す重要な血脈である 。カストーリによる殺害の危機にさらされている 。

ビムリコ・エム・ジン

神殿見習い時代のロゥリィの友人で、盗賊の娘を自称する 。非常に洞察力が鋭く、過酷な現実に立ち向かう強さを持つ 。彼女はベルティを命がけで守ろうとする 。

・所属組織、地位や役職
 元神殿見習い 。

・物語内での具体的な行動や成果
 カストーリの真の狙いがベルティの殺害であると喝破した 。ホロンと協力してベルティを救出するための緻密な計画を立案した 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 亡き父の遺志を継ぎ、長年にわたりベルティを見守り続けてきた 。

グランハム

“太陽の神子”と称される美しい容姿を持つ亜神である 。彼は奔放な性格で、周囲を容易に熱狂させる 。

・所属組織、地位や役職
 十二神の一柱に仕える亜神 。

・物語内での具体的な行動や成果
 帝都を訪れた際、意図せず秘匿されていたナッシダの情報を公表した 。ロゥリィからの呼び出しに従いアルヌスへの参列を決めた 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ロゥリィに対して断れない個人的な負い目がある 。

菅原

日本の特地外交官である 。彼は常に理性的であり、日本の国益を守るために行動する 。

・所属組織、地位や役職
 日本政府・外交官 。

・物語内での具体的な行動や成果
 大祭典の内容を網羅した詳細な「カタログ」を帝国側へ配布した 。謄写版技術の提供を求めるピニャと粘り強い交渉を行った 。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ピニャの気迫に押され、最終的には技術の提供に同意した 。

謄写版(ガリ版)は、油紙に文字を刻みインクで刷る印刷技術であり、旅券の大量発行を支えた 。

次は、彼らが繰り広げる大祭典本番での活躍や、さらなる新キャラクターの登場について整理しましょうか?

展開まとめ

ナッシダの説明と誕生祝いの意義

伊丹耀司は老司祭フラムからナッシダとは何かを問われ、生誕後数ヶ月を無事に過ごした赤子に正式な名を与え、神々の祝福を賜る祭りであると説明を受けた。ボーゼスは娘マイを抱きながら、名は既に付いているが、神殿で祝福を受けてこそ正式となり、その日が誕生日になるのだと語った。

赤子を巡るやり取りとヤオの提案

赤子をあやす中でボーゼスは不慣れさを見せ、ヤオが手際よく泣き止ませた。子守経験を語るヤオは、自身も子を望むと伊丹に協力を求めたが、ロゥリィらの鋭い視線に気圧された。話が逸れかけたため、フラムはナッシダをロゥリィ神殿初の祝祭として盛大に行うと強調した。

盛式開催の決定と招待客の調整

ロゥリィは最初の祝事として盛式で行うと宣言し、ボーゼスは両家の親族や友人を招くと述べた。宿泊所の使用や幹事役としてディアボの名が挙がったが、富田は節約を理由に規模縮小を提案した。しかし女達の圧力とモーイの説明により、男は口出しせず資金を出す立場だと退けられた。

亜神招聘と大規模化への転換

フラムは盛式には複数の神官招聘が必要だと指摘したが、ロゥリィは現存する亜神全員を無償で招けると名を挙げた。それを聞いた一同は驚愕し、実現すれば歴史的祝祭になると高揚した。応援神官の増員も決まり、ロゥリィも覚悟を決めて承諾したことで、準備は一気に具体化した。

日本側への交渉役としての伊丹

参列者は子の後見役となる地位ある人物が望ましいとされ、帝国側に釣り合う日本側要人の出席が必要となった。富田では荷が重いと判断され、事前の根回しを伊丹が担うよう求められた。女性達の無言の圧力を受け、伊丹はその役目を引き受けることとなった。

夜の孤独とロゥリィの葛藤

夕食を終えた後、ロゥリィは小さな家に戻り、一人になると小さくため息をついた。衣装を脱ぎ姿見に向かうと、自身の変わらぬ肢体を見つめながら、成熟した魅力を持つヤオと比べてしまう。伊丹がヤオに困惑していた表情を思い出し、自分は彼の心を揺さぶれているのかと不安を抱いた。伊丹の好みに近づこうとポーズを研究し、自らの魅力を磨こうとする時間を過ごした。

亜神への招聘状と突然の来訪

その後、ナッシダを盛式で行うため亜神達への招聘状を記し、血を混ぜた花押で封を施して送り出した。三通目を書き終えた時、伊丹の来訪を察知する。慌てて身だしなみを整え、練習した笑顔で迎え入れた。伊丹は折り入って相談があると切り出し、結婚式をやらないかと告げる。

誤解と騒動

ロゥリィは自分との結婚と早合点して激しく動揺し、伊丹に抱きつく。だがそれは富田とボーゼスの式の提案であると知り、騒動は収束した。やがてロゥリィは伊丹を縛って悪戯を始め、くすぐり続けた末に見習い神官モーイとニーナが誤解したまま立ち去る事態となった。

結婚式計画とロゥリィの事情

落ち着いた後、伊丹はボーゼスの鬱屈を案じ、ナッシダに合わせて秘密裏に結婚式を挙げる計画を説明した。ロゥリィは賛同するが、自分が関わると邪魔が入る事情があると明かす。それでも式直前まで無関係を装えば可能だと提案し、伊丹も同意した。

神官五十人の宿舎問題

しかし伊丹は、増員予定の五十人の神官の宿泊先が確保されていないと指摘する。小さな神殿や組合宿舎では収容できず、建物不足の現状では解決策がないことにロゥリィは狼狽した。実務的な手配を失念していたことに気づき焦るが、伊丹は何とかなると言って縄を解くよう求めた。

01

自衛隊の娯楽対策と伊丹の企画

門閉鎖から十ヶ月、自衛隊特地派遣部隊は燃料や食糧確保に追われる一方、娯楽不足による士気低下という課題に直面していた。伊丹は特別図書館設立に続く施策として、ナッシダに合わせた駐屯地祭を提案した。地域住民を招き、模擬店や展示演習を行い、日本と特地の文化比較として結婚式を実施する構想であった。

法的問題と結婚式提案の承認

富田とボーゼスは入籍できず内縁関係に留まり、子の国籍問題も抱えていた。狭間は事情説明と誠意を示す必要性を認め、形式的な結婚式の実施を条件付きで了承した。駐屯地の空き施設を宿泊に充てる方針も決まり、自衛隊祭は方面隊を挙げた催しとして進むことになった。

江田島の実行委員長就任

企画の規模拡大に伴い、伊丹単独では任が重いと判断され、江田島二等海佐が実行委員長に任命された。陸海の垣根を越えた催しとすることで合意が得られ、伊丹は委員の一人として関与することとなった。

結婚式公表と招待客の激増

伊丹が計画を説明すると、ボーゼスは喜びのあまり涙した。だが招待客は三百名規模、従者を含めれば千人に及ぶ見込みであることが判明し、準備の負担は急増した。さらにディアボは、亜神が勢揃いする祭典には王侯貴族や信者、商人まで押し寄せ、一万から十万規模に膨れ上がる可能性を指摘した。

費用問題と計画の頓挫

膨大な費用と治安対策の必要性が明らかになると、ボーゼスは周囲に迷惑をかけられないとして結婚式、さらにはナッシダの縮小を申し出た。ディアボは自治会に運営を委ねるよう提案したが、ボーゼスは盛式を断念し略式での実施を望んだ。こうして祭りへの期待は急速にしぼみ、ロゥリィは頭を抱える事態となった。

貸出記録を巡る葛藤

特別図書館のカウンター業務に就いていた伊丹は、貸出希望者に身分証の提示を求めていた。久居三佐は貸出履歴が他者に知られることを恥じ、記録を残さないよう求めた。伊丹は規則を理由に断ったが、久居の懇願と便宜供与の示唆に折れ、自身名義で貸出手続きを行った。その様子を江田島二等海佐に見咎められる。

江田島の観察と伊丹の性質

江田島は図書館の蔵書の充実ぶりを評価しつつ、伊丹が同人誌を三冊ずつ所持し布教用を提供している事実に驚いた。さらに伊丹の経歴を挙げ、怠け者を装いながらも必要な時には強い意志と能力を発揮する人物だと指摘した。その一方で、伊丹が本気で動く対象は極めて限定的であると評した。

結婚式中止への疑問

話題は自衛隊祭の企画に及び、江田島は結婚式計画が頓挫した件に触れた。ディアボが混乱を強調し過ぎた結果、ボーゼスの意欲を削いだと分析する。伊丹が本人の意思を尊重して静観していることを、江田島は薄情だと断じた。

行動を促す呼び出し

江田島は、もし対象が伊丹の庇護下にある者であれば彼は必ず動いたはずだと示唆し、自らは実行委員長としてこのまま放置できないと告げた。そして伊丹に同行を求め、事実上の強い呼び出しを行ったのである。

海上地区と帆船模型の魔窟

江田島に伴われた伊丹は、アルヌスの丘に密かに設けられた海上地区を訪れた。そこは使われなくなった建物の一角であり、江田島の執務室には無数の帆船模型が整然と並んでいた。全て自作と思しき精巧な模型であり、江田島は暇を紛らわせるために制作していると語った。二人は互いの趣味を認め合い、分野は違えど偏執的情熱を尊重する者同士として共感を抱いた。

ヒューゴ号模型と海の現実

江田島は、伊丹がかつて乗ったヒューゴ号を再現した模型を示した。実地を見ず情報を集めて推測で作り上げたものであり、伊丹はその再現度に驚いた。さらに江田島は、特地の海で護衛艦が即座に活躍できない理由を説明する。精密な海図や現在位置測定技術がなければ航行は危険であり、準備なく艦を持ち込んでも無力だと論じた。

意志力の定義

江田島は、指揮官に必要なのは断固たる意志力だと説いた。それは精神論ではなく、情報を集め、準備を重ね、代替手段を確保し、障害を一つずつ突破する粘り強さであると定義した。伊丹が同人誌即売会に何としても辿り着こうとする姿勢を例に挙げ、それこそが意志力だと示した。

結婚式への再挑戦提案

そして江田島は、なぜその粘り強さを結婚式の挙行に発揮しないのかと問い質した。費用や招待客の問題は、より大規模な祭典に仕立て上げれば相対化できると提案する。自衛隊のみならず街全体を巻き込む大規模な催しに拡大し、千人規模の負担を十万人規模の祭典へと転換する構想を示したのである。名付けて「大祭典」。それは困難を呑み込む規模で押し切る発想であった。

02

エデン王国と下級荘園貴族の暮らし

ロゥリィの両親は、すでに滅んだエデン王国の下級貴族であった。爵位制のないエデンにおける「貴族」とは、実態として荘園領主を指し、大農場の所有と経済力がそのまま権勢に直結する素朴な体制であった。マーキュリー家は開拓で農地を広げ、辺境ながら荘園主としての体面を保てるだけの基盤を築いていたが、子どもが五男七女の十二人に及んだため家計は常に逼迫していた。

騒がしくも愛情に満ちた大家族

屋敷は幼い子どもたちで常に騒がしく、食卓は奪い合いに近い喧噪となり、両親や召使いが声を張り上げて収拾することも多かった。それでも子どもたちは、父の粗野だが分かりやすい愛情と、母の細やかな気遣いに包まれて育った。ロゥリィが後にアルヌス協同生活組合へ加わった背景には、レレイやテュカが村の子どもの世話をする姿が、兄姉に世話されつつ自分も弟妹の面倒を見るという、当時の家庭の空気を想起させたことがあった。

口減らしとしての奉公と進路の選択

子どもたちが成長すると、父エドル・エム・マーキュリーは将来の道を用意する必要に迫られた。家督と土地は一人しか継げず、財産分与も限られるため、十〜十二歳で奉公・修行・婚姻の名目で家を出す方針を取った。長男は小姓、次男は従卒、長女は侍女、次女は豪商の嫁へと送り出され、十歳になったロゥリィにも進路を考えるよう告げられた。

姉ルイールの誘いと、権力家の内情

宿下がりで帰省した長女ルイールは、宰相職のメダイル家で信頼を得ており、ロゥリィを同じ奉公先へ誘った。奥方の妊娠出産期に、子育てに慣れたルイールが重宝され、部屋を与えられるほど遇されていたため、妹も引き上げで安全に働けるという理屈であった。しかしロゥリィは子守仕事に倦み、姉と同じ道ではない挑戦を求めて拒んだ。

「愛」と火傷痕がもたらした衝撃

会話の中で、姉の右手に残る酷い火傷痕が露わになった。赤子に煮えた鍋が落ちかけた瞬間、姉は咄嗟に鍋を掴み、守り抜いた結果として深い火傷を負ったのだという。姉は鍋を掴んだ瞬間には熱さを感じなかったと語り、その理由を「これが愛ってやつ」と断じた。ロゥリィはその言葉と傷痕に強烈な衝撃を受けた。

熱湯に腕を突っ込む実験と、家族の痛み

その夕刻、ロゥリィは熱湯へ腕を突っ込み重度の火傷を負った。父は井戸水へ身体ごと投げ込み冷却するが、冷たさと溺れかける苦しさも加わり、ロゥリィは三重の苦痛に襲われた。手当て後、父は「姉が痛みを感じなかったのは赤子を守るためであり、愛する者の危機には痛みより先に身体が動く」と説明し、さらに「お前が苦しむと、父母も同じように痛い」と語った。ロゥリィは自分の行為が両親をも苦しめたと理解し、泣きながら謝罪した。この体験が、ロゥリィにとって「愛」を身体感覚として刻み込む契機となった。

神殿見習いへの進路と、矛盾する身体の扱い

火傷事件から二年後、十二歳のロゥリィはエムロイを祀るフェブロン神殿で神官見習いとして過ごしていた。エデンでは上流階級の娘が基礎教育を受ける場として神殿修行が奨励され、奉公にも有利であるため、進路保留の選択として自然な道であった。だがロゥリィにとってそれは結果的に選択肢を狭める契機となり、後に「馬鹿なことをした」と振り返ることになる。

苛烈な稽古とロゥリィの異質さ

見習い達は木製ハルバートで立木打ちを課され、肉刺が潰れるほどの反復を強いられた。指導官ナムダは痛みを克服しろと叱咤し、ベルティ・エム・フォーンのように限界を訴える者にも容赦しなかった。同期には、武術の才に秀でるメグル・エム・スワンリィ、盗賊の娘を自称しつつ神殿に入り込んだビムリコ・エム・ジン、将軍家ルーチェの娘で優等生のホロン・エム・ルーチェらがいた。ロゥリィは対戦成績では下位であり、衝撃と痛みが戦いを鈍らせる弱点を抱えていた。

一撃で折れる丸太と、指導官の試験

ロゥリィが渾身で打ち込むと丸太が一撃で折れ、周囲がざわめいた。これを見たナムダは、ロゥリィの間合いに立って「自分に打ち込め」と命じ、遠慮するなと促した。ロゥリィが力を込めて振り下ろした瞬間、ナムダは閃光のような一撃でハルバートを強打し、ロゥリィは激痛に引きずられて前のめりに倒れ込んだ。ナムダはその様子を見て、ロゥリィの試合での鈍さと根本的な問題を見極めたかのように深く嘆息した。

休憩時間の手当てと、ロゥリィの「気にしすぎ」

戦闘訓練でビムリコは掌の血豆を割られ、井戸端で傷を洗っていた。ロゥリィは負い目から謝るが、ビムリコは「稽古場で起きたことは稽古場で終わり」と切り捨て、勝負は自分の勝ちなのだから手加減などするなと釘を刺した。メグルは貝殻に入った獣脂と薬草の軟膏を差し出し、刺激は強いが効くと説明した。ビムリコは塗った瞬間に激痛で転げ回るが、メグルは既に体験済みで包帯まで用意しており、手当てを進めた。

ベルティへの治療が暴走し、ホロンが止めに入る

足裏まで水疱で動けないベルティにも軟膏が回るが、恐怖で少しずつしか塗れない。苛立ったビムリコはメグルに拘束を頼み、ベルティへ一気に塗り広げようとする。ところが拘束姿勢が不自然に艶っぽい形になり、ビムリコが冗談半分で胸に手を出し始め、メグルも煽って騒ぎは加速する。ロゥリィまで参戦しかけたところで、ビムリコは独占欲を見せて制止し、ベルティは泣き出す。最後に優等生のホロンが救出し、「ナムダ先生に見られたら大変」と現実的な危険を突きつけ、少女たちは一斉に怯えて正気に戻った。

寄付と建設の話題で露わになる価値観の差

稽古の合間、視察に来た客人がいるという話題が出る。ビムリコは「見栄っ張りの貴族や金持ちが使いもしない塔を建てる」類だと吐き捨て、寄付が中抜きされ末端の職人には雀の涙しか回らない現実を語った。ホロンは当初、神殿が壮麗になることを善と捉えるが、ビムリコの言い分にも一理あると認め、林立する塔だらけの神殿景観を見て複雑な表情になる。

呼集直前の異変と、植え込みへの退避

やがてナムダが呼集をかけ、少女たちは反射的に集合へ向かう。ところが直前、ビムリコが危機を察してベルティの手を掴み植え込みに飛び込み、ホロンまで強引に引きずり込む。ロゥリィとメグルも事情不明のまま同調して隠れ、ビムリコは「ナムダの後ろの男がヤバい」とだけ告げる。植え込みの外には身なりの良い五十歳ほどの男が立っており、ビムリコは彼を「エデンを牛耳る三巨頭の一人、メタノール家当主カストーリ」と断じた。

カストーリの来訪目的と、ベルティの異常な恐怖

ホロンはルーチェ家の娘として挨拶に出ようとするが、ビムリコは必死に止め、「ヤバいのはベルだ」と明言する。ベルティは植え込みで頭を抱え、震えが止まらないほど怯えていた。一方のカストーリは、集まった見習いを見回して「これで全部か」と問う。ナムダは客人の前で反感を出させまいと見習いを睨みつけつつ、ロゥリィ達の不在に内心苛立ちながらも「全員です」と迎合する。

「家出した娘」を探す言葉と、すれ違い

カストーリは「家出した娘がここにいるかもしれない」と噂を聞いたと述べる。血の繋がりはなく、両親の死後に後見してきたが懐かず、ついに家を飛び出したという説明であった。植え込みが一瞬動くが、カストーリは深追いせず、礼拝堂案内へ移る。ナムダも案内役として後に続き、ロゥリィ達はひとまず見つからずにやり過ごす形となった。

連続祈祷という名の「試練」

呼集に応じなかった罰として、ナムダはロゥリィ、ビムリコ、メグル、ベルティ、ホロンの五人に「一昼夜の連続祈祷(連祷)」を命じた。連祷は神殿に籠もり聖句を唱え続ける行であり、食事も睡眠も許されない。ベルティは自分のせいだとして許しを請うが、ナムダは「罰であると同時に階梯を上がる試練」と断じ、巻き込み合いを人生の本質として突きつけた。拒む者は神官の資格なしとして退出を迫り、ベルティは残留を選び、五人は聖堂へ向かった。

祈りが崩れ、眠気と排泄が支配する夜

開始数時間で喉が枯れ、姿勢維持も困難となり、半日も経たずに惰性で声を出すだけの状態へ落ちた。就寝時刻が来ると体内リズムと疲労が合わさり強烈な睡魔に襲われる。ホロンは「寝ていない」と取り繕い、ビムリコは聖句ではなく罵声を唱え、メグルは言葉が崩れ、ベルティはトイレの切実さを訴える。排泄を我慢する苦痛も重なり、祈りは次第に形骸化した。

神への見解が衝突し、ベルティが仲裁に入る

ホロンが「力を与えてください」と祈ると、ビムリコは神頼みを否定し、「叶えば神、叶わなければ信心不足という理屈は便利だ」と皮肉る。さらに「本当に助けが必要な者ほど神は助けない」と言い、ベルティへ視線を向けた。ホロンが事情に踏み込もうとした瞬間、ベルティが震えながら争いを止める。ビムリコは即座に態度を柔らげ、ベルティの不安(失禁)を現実的に支え、夜明けまで耐えろと励ました。

夜明けの安堵と、ベルティの脱落

朝日が差し込み、五人は堰を切ったようにトイレへ走る。半分を越えた達成感で祈りを再開するが、安堵の隙を突かれベルティが祈りの姿勢のまま舟を漕ぎ始める。ロゥリィとビムリコが揺さぶって起こそうとするが間に合わず、背後にはナムダが立っていた。ナムダはベルティの居眠りを嘲り、連帯責任として「半日延長」を宣告し、従えぬなら退去せよと迫った。

「別々にやれ」方式での追い出し誘導

さらにナムダは、以後は各自別の場所で連祷を行い、誰かが眠って脱落するたびに残った者へ半日ずつ延長を課すという制度を提示する。一方で「自ら諦めて神殿を去るなら延長は課さない」とし、事実上の離脱誘導を明確化した。メグルが「追い出したいのか」と問うと、ナムダは「その通り」と認め、信仰心も求道心もない者が神殿にいること自体が不快だと述べ、特にベルティとビムリコを名指しして「神を信じていない」と断じた。

ベルティとビムリコの踏みとどまり、仲間が並び立つ

ベルティは怯えながらも「ここにいたい」と言い切り、ビムリコは「他に行くところがない」と開き直って残留を主張する。ナムダは「ならば試練で価値を証明しろ」と突き放す。そこでロゥリィがベルティを支えつつ条件を確認し、ビムリコも「徹夜程度はできる」と乗り、ホロンも自尊心から並び立ち、メグルも詩篇を唱えながら加勢する。ナムダはメグルらを評価しつつも「この二人(ベルティとビムリコ)と付き合わなければ将来が楽しみ」と言い捨て、残り半日+罰の半日、合計一昼夜の追加連祷を命じた。

連祷成功と、ベルティの失踪

五人は追加の連祷をやり遂げ、同期の見習い達は拍手で称えた。しかし聖堂から出てきた列にベルティの姿はなく、ベルティは「自分がいると皆に迷惑をかける」と言い残して姿を消していた。ロゥリィは「ベルティのばか」と一人で罵倒し、置き去りにされた感情を露わにした。

03

深夜のアルヌスと黄薔薇屋敷への潜入

深夜、照明設備の乏しいアルヌスは暗く、伊丹はレレイの杖の青白い光と、テュカの光精の灯りを頼りに一行を誘導した。狙いは「坂の上の黄薔薇屋敷」であり、実家を飛び出したボーゼスが、早く生活基盤を整えるため小ぶりな屋敷を急造した事情も語られた。屋敷に近づくと消灯し、暗視鏡を装着して行動を継続した。

盗聴・盗撮の準備と“覗き”への後ろめたさ

伊丹はボーゼスの部屋を特定し、パラボラ集音マイクを設置、倉田はカメラを三脚に据え、室内映像と音声を確保した。画面には赤ん坊を抱くボーゼスと富田、給仕する使用人達の姿が映る。栗林は「覗き」「盗み聞き」と不満を漏らすが、ペルシアは面白がり、栗林の富田への横恋慕が周囲に周知であること、放置すると泥沼化し得ることを倉田に囁いて現実的な対策まで語った。

富田の逡巡と“お前が言うな”の空気

使用人が退出し二人きりになると、富田は当たり障りない話で雰囲気を作ろうとするが、肝心の言葉が出ず、周囲は苛立ちと期待で固唾を飲んだ。伊丹は「女の子は要所で意思表示がないと不安になる」と説くが、その瞬間、ロゥリィ達が一斉に伊丹へ刺すような視線を向け、場には「お前が言うな」という空気が漂った。倉田は必死に取り繕い、富田の背中を押す役回りに回った。

栗林の乱入とボーゼス対決の勃発

富田が「俺と……」と言いかけた瞬間、栗林が脱兎の勢いで屋敷へ突入し、開け放たれた窓から跳び込んだ。栗林は「そこから先を口にするな」と富田を止め、ボーゼスは「横恋慕女」と応じて立ち塞がり、栗林はナイフ、ボーゼスはサーベルを抜いて交戦に入った。ボーゼスの刺突を栗林が捌き、栗林は余裕を見せて挑発し、室内に金属音が響き続けた。

ロゥリィの一撃で鎮圧、覗き部隊の撤収

栗林が消えたように動いた直後、凄まじい衝撃音とともに栗林は壁に叩きつけられ、潰れた蛙のように貼り付いて滑り落ちた。原因はロゥリィのハルバートの一撃であり、ロゥリィは残心を決めたままボーゼスに無事を確認した。伊丹達も窓からなだれ込み、気絶した栗林を運び出し、レレイとテュカが脈や状態を確認して命に別状がないことを確かめた。ロゥリィは「邪魔したわねえ。そのまま続きをどうぞぉ」と言い残し、一行は撤収した。富田は覗かれていた事実に絶叫した。

けじめの言葉とプロポーズの成就

騒動後、ボーゼスは「けじめがつかない想いは心の棘になり、やがて毒になる」と栗林の心理を言語化し、自身もこのままでは危ういと漏らした。富田はその流れを断ち切るように「だったらきちんとけじめをつけよう。結婚してくれ」と即断で告げ、ボーゼスは涙をこぼしながら、誰にも文句を言われないよう「しっかり挙げてしまいましょう」と応じた。二人は抱き合い、夜の一件は“遅れたプロポーズ”の成就として決着した。

大祭典始動と街の熱狂

富田とボーゼスが結婚式とナッシダを盛大に行う決意を固めたことで、狭間陸将は江田島の計画に承認を与え、「大祭典」が正式に始動した。自衛官も住民も一斉に動き出し、街では歌や踊りの稽古が始まり、ヴォーリアバニーやキャットピープルも伝統の踊りで客を魅了しようと張り切った。

屋台用の新商品開発も進み、特地の食材のみでソースやケチャップを再現しようと試作が重ねられた。酸味や香辛料の配分を巡って試食と改良が繰り返され、B級グルメの成否が彼らの工夫に委ねられていた。

娯楽施設とディアボの対抗心

自衛隊は観覧車やボブスレー風の遊具を製作し、試験走行での絶叫が住民の期待を煽った。一方、ディアボは対抗意識から各地の大道芸人を集め、さらにオーディションまで実施して祭りを盛り上げようと奔走した。資金不足を懸念する声にも、策があると強気に応じた。

アルヌス協同生活組合も宿泊施設や食堂への改装、井戸や排水路の整備を進め、来訪者増加に備えた。

ロゥリィの呪舞と街の浄化

その裏でロゥリィは丘で呪舞を舞っていた。戦場の狂舞とは異なり、自らの意志で楽しげに踊り、祭りの高揚と熱狂を後押しする儀式を重ねていた。効力を分散させ回数で積み重ねることで、当日の盛り上がりを確実にするという。

街では物資と人が溢れ、渋滞と混乱が生じていたが、どこか陽気な空気が漂い、殺気は感じられなかった。伊丹はそれを呪舞の効果だと感心した。

アルヌスの発展と境界としての役割

丘を下りながら伊丹は、街が再び大きくなる予兆を感じ取った。これまでも道が渋滞するたびにアルヌスは拡張されてきたからである。だが彼は単なる拡大を望んでいるわけではなかった。

やがて「門」が開けば日本から人と物が押し寄せる。無批判に受け入れればアルヌスは日本の劣化コピーになると伊丹は懸念した。石と木を組み合わせた建築、銅瓦の屋根など、この地特有の景観こそ守るべきだと主張し、街全体が異世界への境界線として機能すべきだと語った。

ロゥリィが神殿街を構想し、多くの神々を招こうとするのも同じ理念からであった。信仰と霊的秩序によってこの世界の独自性を守ろうとしていたのである。

伊丹の本音とロゥリィの不機嫌

しかし伊丹はさらに踏み込み、神官服や多種族の女性達の装いが守られるべき魅力だと熱弁した。街が独自の雰囲気を確立すれば、特別な装いも許容されると語ったが、その発言はロゥリィの心に微妙な齟齬を生んだ。

モーイは、豊作を願う農夫の逸話を引き合いに出し、夫が富を得れば妾を持つことを恐れた妻の話を語った。伊丹は意図を理解できず首を傾げるが、ロゥリィが不機嫌になった理由は明白であった。自分が想いを寄せる男が、他の女性の姿を嬉々として語ることへの複雑な感情である。

新たな来訪者の出現

その時、ロゥリィが名を呼ぶ声とともに、緑の髪と肌を持つ女性が現れた。伊丹はその姿に凍り付いた。彼女は一糸まとわぬ裸体で立っていたのである。

樹神ワレハルンという特異な亜神

ワレハルンは、本来は別個体である樹木が地下茎で接続し、樹海という総体として意思を持った極めて特異な存在であった。個々の木は寿命を持つが、全体として新陳代謝を繰り返すことで無限に近い生命を獲得し、亜神へと昇ったのである。

通常、亜神は十二神によって人間から引き上げられる「昇神」によって誕生し、主神の意志を執行する使徒となる。だがワレハルンはその枠に収まらない例外であり、ゆえに神々から特別な敬愛を受けていた。

人型の果実という分身

動くことがほぼ不可能な樹海であるワレハルンは、人間型の果実を実らせ、それを分身として派遣する方法を編み出した。その果実は緑の肌を持つ女性の姿をしており、葉状の髪や体毛を備えていた。外見は動物的な柔らかさを持ちながら、どこか人為的な造形美を感じさせる存在であった。

突然裸体で現れたため伊丹は狼狽し、ロゥリィは戦闘服を着せて常識を説いた。ワレハルンは迷彩柄を気に入りつつも、衣服が光を遮り萎れやすくなると語った。

養分の摂取とモーイの犠牲

ワレハルンは滞在中の栄養補給が必要であると述べ、ロゥリィはモーイを提供した。果実はある意味で肉食系であり、養分を摂取しなければナッシダまで保たないという事情があった。森へ連れて行かれたモーイは大きく消耗し、ワレハルンは逆に艶やかさを増して戻ってきた。

モーイは精神的にも肉体的にも憔悴していたが、命に別状はなかった。ロゥリィはそれを単なる栄養摂取だと断じ、過度な解釈を否定した。

信仰形態と衣服の問題

ワレハルンの神官は衣服を着用せず、火も用いない原始的な生活を送るという。森そのものを神体とするためであり、ジヴォージョニーや小人族など森に適応した種族が信者となることが多い。

テュカとヤオは盟友としてワレハルンを歓迎し、森を守る助力を求めた。だが伊丹は、アルヌスに神殿を構えるなら衣服問題は避けられないと懸念した。街の独自性を守りつつも、無制限の裸の容認は難しいと考え、神官服の制定や方針変更の必要性を思案するに至ったのである。

04

鸚鵡鳩書簡と父の意地

帝都のパレスティ侯爵家に、ボーゼスから鸚鵡鳩書簡が届いた。だがロルド・フラ・パレスティ侯爵は、勘当した娘の名を認めようとせず、怒りを露わにした。執事シェフルは、鸚鵡鳩通信事業が成功し侯爵家に利益をもたらしていることを挙げ、勘当を解く理由は十分であると進言した。しかし侯爵は損得ではなく、娘が命令に背き続けたことこそ問題だと退けた。

懐妊騒動と家の没落

ボーゼスの懐妊は、敵国兵との関係という事情も重なり、帝国貴族社会で大きな醜聞となった。進めていた縁談も破談となり、悪意ある噂が広がった結果、侯爵家は事実上の追放状態に陥った。自領に籠もったものの、流通を断たれ財政は逼迫した。のちに政局が変わり、ボーゼスが権勢を得ても、侯爵が勘当を解かなかったため家の窮状は改善しなかった。

貴族社会の陰口

一方、帝都では若い貴族令嬢たちが茶会でボーゼスを嘲笑していた。敵国兵を選び、権勢を捨ててアルヌスへ赴いた行動は愚かだと評された。だがビーナは、愛する者と共に生きる選択なら幸せなのだろうと静かに述べた。それでも周囲の空気は批判へと傾き、噂は貴族社会全体へ広がっていった。こうしてパレスティ家への倦厭は消えずに残った。

結婚式とナッシダの報せ

書簡の内容は、アルヌスで大祭典に合わせ結婚式とナッシダを行うというものであった。侯爵は格式を欠く見世物同然の式だと激怒し、結婚を認めないと断じた。しかしナッシダへの招待を拒めば、親子の縁は永久に断たれることになる。意地を通しても、折れても、いずれにせよ世間の嘲笑は免れない状況であった。

亜神参列という重大事

さらに書簡には、ロゥリィ・マーキュリーをはじめ複数の亜神が祭司を務めると記されていた。歴代皇帝すら成し得なかった亜神の招集が実現すれば、侯爵家は比類なき名誉を得る。だが同時に皇帝や貴族たちの嫉妬を招く危険も孕んでいた。侯爵は事態の重大さを悟り、まず箝口令を敷く決断を下した。

ピニャへの相談と家臣の願い

執事は、事前にピニャ殿下へ相談すべきだと進言した。殿下が参列すれば秘密は保てず、逆に嫉妬や反発を招く恐れがあるからである。侯爵は面会を決意するが、その際アルヌスへ赴く可能性も生じた。すると執事シェフルやメイドたちが、花嫁姿を見届けたいと同行を願い出た。侯爵は家臣たちの強い思いに胸を打たれ、熟考すると応じた。

静物デッサンと伊丹の言葉

皇城東宮殿でピニャは静物デッサンに取り組んでいた。だが成果は出ず、果物は原形を失った奇妙な形に描かれていた。才能の無さを疑いかけたところで、伊丹の「悩む前に描け。描き続けろ」という言葉を思い出し、ピニャは再び木炭を握って線を引いた。

ヴィフィータ帰還と“台無し”

そこへ親衛隊長ヴィフィータが護送任務から帰還し、机上の果物ベトロンを勝手に齧った。描きやすい球形が歯形で複雑化し、ピニャは描写を諦めて乱線で塗り潰した。ヴィフィータは事情を理解せず、割って食べやすくしたベトロンを差し出し、話題を任務報告へ切り替えた。

アルヌス“大祭典”の招待

ヴィフィータは、アルヌスで自衛隊と街が総力を挙げる大祭典が準備されていると報告し、ピニャにも招待があると伝えた。大道芸人や吟遊詩人のオーディション、仮装パレード、大音楽会、棒倒し、大食い大会、競馬など多彩な企画が並び、丘の斜面を使う「ぼぶすれー」という大掛かりな遊具も建設中であった。ピニャは日本の「じぇっとこーすたー」に似たものと推測し、興奮を強めた。

ボーゼスの手紙と決意の固定

続いてヴィフィータは、ボーゼスからピニャ宛の手紙を託した。内容は、祭りに合わせてトミタとの結婚式とナッシダを行い、しかも亜神が祭司を務めるというものだった。ピニャは衝撃を受け、これは「面白い」ではなく「極めて重大」だと憤るが、結局アルヌス行きの決意は「何があっても行く」ほどに固まった。

秘密保持の難しさと懸念

ピニャは、亜神集結の話が外に漏れれば熱狂的な信者が騒ぎを起こすと危惧した。ヴィフィータは「内緒にすればいい」と軽く言うが、ピニャ自身が自慢したくてうずくほどで、秘匿の難しさは明白であった。さらに結婚式は公に祝われやすい行事であるため、ボーゼスの場合はより大きな話題となり、隠し通せない危険が増すと見立てた。

パレスティ侯爵の来訪

その最中、執務室にハミルトンが現れ、パレスティ侯爵が来訪したと告げた。ボーゼスの件が帝都側でも動き始めたことが示され、事態は次の局面へ移っていった。

東宮殿での対面

皇城東宮殿・花の間にて、パレスティ侯爵はピニャの到着を待っていた。やがて現れたピニャは、秘書官ハミルトンと親衛隊長ヴィフィータを伴い、侯爵と向き合った。話題は当然、ボーゼスから届いた手紙の件であった。侯爵は、亜神を招く結婚式とナッシダが引き起こす嫉妬や誹謗中傷により、家が再び窮地に立たされると懸念を示した。

ひっそり挙げるか、堂々と行うか

侯爵は、噂にならぬよう密やかに式を挙げてほしいと願い出た。だがピニャはそれを退けた。人目を避ける結婚式こそ不幸の象徴と受け取られ、かえって宮廷雀たちの嘲笑を招くと指摘したのである。困難を恐れず堂々と祝うべきであり、それこそが後の禍根を断つ道だと断じた。

爵位授与という策

議論の最中、ヴィフィータは大胆な提案をした。トミタに爵位を与え、貴族とすれば反発の理由は減るのではないかというのである。炎龍撃退における功績を顕彰すれば名目は立つと主張し、勲章や叙爵を大祭典の場で行えばよいと進言した。これにより、結婚は貴族家同士の縁組として整えられる可能性が生まれた。

侯爵の逡巡と決断

侯爵は当初、父としての矜持から容易に是とは言えなかった。だが、悪評を封じ、幸せな結婚を公に示す方が得策であるとの説得を受け、次第に意を固めた。最終的にボーゼスの勘当を解くことを表明し、場は動き出した。

即座の実行

ピニャは直ちに動く決意を示し、父皇への拝謁と内相への手配を命じた。こうして結婚式とナッシダを巡る事態は、帝国の中枢を巻き込みながら現実の施策へと進み始めたのであった。

ゼプリル募集と禁断の質問

連続祈祷を終えて一ヶ月、ベルティを欠いたロゥリィ達は訓練漬けの日々を送っていた。そこへ指導官が全学年を集め、結婚式の「ゼプリル」役を募ると、見習い達は将来の縁談の機会と理解して一斉に色めき立った。だがホロンが勢いで「ナムダ先生もゼプリルをするのか」と問うと場は凍り付いた。ゼプリルは独身の少女が担う慣例であり、年齢的に踏み込み過ぎた質問だったからである。

ナムダの強行参加と“勝負”の空気

当のナムダは動じず「自分も未婚だから問題ない」と言い切り、さらに「高貴な式なので監督役が必要」と理屈を整えた。周囲は建前に頷きつつも、ナムダがこの式を“勝負の場”と見ていることを察していた。式の当主が摂政家メタノール家のカストーリだと知れたことで、見習い達の期待と興奮は一気に跳ね上がった。

花嫁の到着とベルティの正体

潔斎のために花嫁一行が神殿へ到着し、カストーリと執事が指示を飛ばして神官達が荷を運ぶ中、見習い達は呆気に取られた。そこでホロンが花嫁の顔を見て叫ぶ。花嫁はベルティ・エム・フォーンだったのである。友人達は「ベルが結婚」と衝撃を受け、ホロンは事前に何も告げなかったことを「友達甲斐がない」と糾弾した。

政略結婚の内実と“保護者=相手”の歪み

ビムリコは、これは政略結婚であり、ベルティは望んでいないと断じた。ベルティは孤児で、後見(パトロネ)がいるはずだが、その後見こそがカストーリであり、フォーン家の秘宝を狙って結婚を決めたのだという説明が出る。ホロンとロゥリィは、後見人が結婚相手になる構図に強い違和感を覚え、小さく悲鳴を上げた。

価値観の衝突と、相談できなかった理由

貴族であるホロンとロゥリィは「家の都合で結婚相手が決まる」こと自体には馴染みがあり、必ずしも即“不幸”とは捉えなかった。ホロンは、没落したフォーン家がメタノール家の庇護に入るのは現実的だとも考えた。だがビムリコは、秘宝目的で愛情がない結婚だと強く反発し、だからこそベルティは貴族的な理屈で受け止めてしまう友人達には相談できなかったのだと突き付けた。ホロンは反論できず、唇を尖らせて沈黙するに至った。

雑居寝台と、ベルティ不在の実感

フェブロン神殿の見習い達は雑居部屋で集団生活を送り、三段ベッドの一段だけが私的空間であった。消灯後もロゥリィは眠れず、ベルティを久々に見た安堵と衝撃が尾を引いていた。最上段のベルティの寝台を見つめ、かつての起床や洗濯の何気ない光景を思い返すが、ベルティは今やアデル聖堂で潔斎という名の隔離状態にあると認識していた。

ビムリコの苛立ちと、ホロンへの告白の前提

ビムリコは寝返りを繰り返し、ホロンも眠りを妨げられる。ホロンは「結婚後に相手を好きになることもある」と宥めようとするが、ビムリコは「ベルは殺される」と断言し、ホロンが知りたがっていた「知らない方が良いこと」を話す決意を示した。これはメタノール家に正面から敵対する企てであり、家族持ちを巻き込めないという線引きが語られる一方、ホロンの家なら対抗力があるとして信頼の根拠も示された。

秘宝の正体と、ベルティの血筋

ビムリコが明かした秘宝は、光神ズフムートの法剣「血剣ディーヴァ」であった。ベルティは建国王スディの血を引く「蒼髪の娘」の系統で、ディーヴァが宿る器に繋がる存在だとされる。ディーヴァは王権の正統性を示す神器で、秩序を人々に植え付け反抗心を奪う力が伝承される。鞘がなく劣化するため、歴代王は蒼髪の娘から剣を抜き取ってきたが、それは娘の死を伴う。これを拒否したメディがズフムート信仰を禁じ、国教をエムロイへ改めたという由来も整理され、フォーン家がそのメディの血脈だと位置付けられた。

カストーリの狙いと「結婚=資格」の構図

カストーリがベルティと結婚する目的は、ディーヴァを手にする「資格」を得ることにあるとされる。担い手を選ぶため、血縁の一族の者でなければ扱えず、夫になれば手にする権利を主張できる。ホロンは、カストーリがディーヴァを得れば王権を主張でき、伝説通りなら誰も叛けず国が問答無用で乗っ取られると理解した。

ビムリコの来歴と、神殿に潜った理由

ホロンが「なぜ知っているのか」「なぜ見習いをしていたのか」を求めると、ビムリコは父の目撃と介入を語る。父はメタノール家の屋敷でベルティの父が殺され、母が腹を裂かれてディーヴァを取り出されかけた現場に遭遇し、手下の犯行から母を奪い返したが救命は叶わなかった。母は「娘を守ってほしい」と依頼し、父は約束して陰からベルティを見守らせ、同年代のビムリコが部屋に忍び込んで交流するよう仕向けた。だがベルティを連れ出す直前に父が殺され、ビムリコだけがベルティを連れてフェブロン神殿へ逃げ込んだという経緯である。さらにカストーリは彼女らの潜伏を嗅ぎつけ、ベルが神殿にいる限り結婚できないため、裏工作で理不尽な連祷を課した可能性が示唆された。

ベルティの自発離脱と、結婚式での“殺し”予告

ベルティは周囲を巻き込むことを苦にして自分から神殿を出たが、待ち構えた手下に捕まったとされる。ビムリコが後を追わなかった理由は、ディーヴァ取得の正当性のためカストーリは結婚式までベルを殺せず、しかも式を挙げるなら国内最大のこの神殿になるから、待てば必ず戻ってくると読んだからである。だが結婚後は不要となり、王が若く弱い今を好機として初夜の場で腹を裂かれても驚かない、とビムリコは言い切った。

救出計画と、ホロンの合流

ビムリコは、ベルティが監禁される聖堂へ忍び込み、隣国へ逃がす計画を提示した。国境までの足は父の手下筋の男に手配済みで、隣国でベルティを匿い面倒を見られる伝手が必要になる。ホロンはクレシア王国の地方豪族に頼めると申し出て、覇王ソルモンの国ならカストーリの手が出せないと合意が成立した。互いに友として、また家として利害も一致する形で腹を括り、笑い合う。

ロゥリィの盗み聞きと、参加できない理由

ロゥリィは会話を盗み聞きし、二人の覚悟を理解して自分も参加したいと即決しかけた。しかし「失敗でも成功でも一族郎党に及ぶ」企てである以上、家族を巻き込めないという論理が突き刺さり、ロゥリィは名乗り出られなかった。ホロンはメグルとロゥリィへいつ打ち明けるかを問うが、ビムリコは二人の一族が皆殺しにされかねないとして拒否し、ホロンもそれを受け入れる。

即時決行と、二人の失踪

ホロンは「思い立ったが吉日」として即座に身支度を始め、計画面の不足がないことを確認すると、その夜のうちに決行へ踏み切った。ロゥリィは息を殺して荷造りの音を聞きながら、自分は家族のために動けないと結論する。ホロンとビムリコは仲間達に小声で言い残して出発し、そのまま戻らなかった。

05

結婚式の噂と、茶会の空気の変質

ボーゼスの結婚式の噂は瞬時に貴族社会を席巻し、若い令嬢達の茶会は詩歌や刺繍ではなく「パレスティ家の放蕩娘」叩き一色となった。アルヌスが僻地で参列者のない惨めな式になる、という嘲笑が共有される一方、パトロネ姉妹であるビーナは招待状を受け、家族で参列すると明言して場の空気を揺らした。

“日本製”ブランドが生む手のひら返し

ビーナはアルヌスを「ニホンへの出入口」と捉え、日本の真珠や宝飾、扇、ドレスなどの文物に会える期待を語る。貴族女性の間では日本製品を持つことが一種のステータスとなっており、アルヌスを頭ごなしに貶すと自分の装身具に跳ね返るため、嘲弄の勢いが鈍る。そこへ「門は閉じられ、今は入ってこない」という反論が出て、アルヌスはニホンではなく“蛮地”だという論点へ切り替わる。

富田の叙勲情報で“格”が補強される

ビーナが「相手の男は元老院勲章を授与される」と告げると、茶会は一転して色めき立つ。相手が無名の一兵卒ではなく「緑の人」の一人であり、ピニャから直々に勲章が授けられる、その結果として叙爵・貴族化し、パレスティ侯爵も勘当解除に傾いた――という筋が共有され、ボーゼスの評価を回復してよいのでは、という空気が生まれる。

レディの激しい反発と“エファン伯爵公子”の禁句

その流れをレディが強く遮り、「ボーゼスはエファン伯爵公子を酷いやり方で辱めた」と糾弾して場を凍らせる。だが直後、レディとアンはメイベルに窘められ、エファン家の名を出すこと自体が危険だと釘を刺される。エファン伯爵公子は帝権擁護委員部に属し、ゾルザル敗亡後も徒党を組んで辺境を荒らす反逆者として元老院に訴追されているためである。

レディの執着の正体と、恐怖による支配

ビーナが関係性を探ると、レディはエファン伯爵公子を慕っていたが交際は一方的で、関係が深ければ「大逆人の係累」として連座の恐れがあった、という内情が明かされる。さらに、レディに逆らった者が嫌がらせで引きこもり、帝都から消えた例があること、暴漢事件さえ噂されることが語られ、ビーナは「道中気をつけて」という言葉が忠告ではなく恫喝である可能性を悟る。茶会への招待も、敵対者の友人を奪い孤立させる手口だと説明される。

メイベルの立場と、ナッシダ秘匿の必要

蒼い神官服の女メイベルはランドール公爵家の客人で、ある神に仕える高位神官として諸王侯貴族の尊敬を集め、レディが強く依存している存在だとされる。ビーナはここで、ナッシダの情報は絶対に漏らせないと確信する。レディの自我と嫉妬心を見れば、亜神が集うナッシダを知った瞬間に憎悪が爆発しかねないからである。手紙には秘密厳守の但し書きがあったため、表向きは守られるはずだが、ナッシダ情報は“誰も予想しない形”で別経路から漏れる、という不穏さを残して場面が閉じる。

グランハム輝下の来訪と、帝都規模の熱狂

ピニャが財政報告を読みつつ登極後の人事を考えている最中、ハミルトンが「グランハム輝下が帝都に来た」と告げる。三年ぶりの降臨に宮殿内のメイド達まで興奮し、ピニャもバルコニーへ急ぐ。皇城前から中央道一帯は女性で埋まり、グランハムの一挙手一投足に歓声が上がる。亜神グランハムは“太陽の神子”と呼ばれるほどの美貌を持ち、その眩い外見が群衆の熱狂を増幅していた。

眷属ユエルの同伴と、ピニャ・ハミルトンの口論

グランハムの傍には眷属ユエルが黒馬で随行しており、こちらも野性味と威圧感のある美丈夫として人気を集める。二人が困惑気味に苦笑を交わしただけで周囲は絶叫し、ピニャは同人趣味的な解釈で暴走、ハミルトンと“どちらが攻めか”を巡って言い争いを始める。この無駄口が、後の致命的な聞き逃しにつながる。

レディ・フレ・ランドールの接触と、皇城への誘導失敗

群衆整理で道が開かれると、レディ・フレ・ランドール(アン同伴)が前に出てグランハムに用向きを確認する。グランハムの目的は皇城ではなく帝都フレア神殿で、群衆を避けて広い道を選んだ結果、逆方向の皇城前に出てしまっただけだという。レディは「皇城に逗留して落ち着いてから神殿へ」と提案し、自分が世話役を買って出るが、ユエルが「身分ある者が群がって面倒が増える」と拒否し、グランハムも同調して辞退する。

アルヌス行きの理由が“ロゥリィの呼び出し”と判明

グランハムは「これからアルヌスに向かう。ロゥリィから呼ばれている」と述べ、さらに「個人的な借りがあって逆らえない」と補足する。レディは意外性に首を傾げるが、会話は続き、ここで最悪の単語が出る。

ナッシダ情報の暴発と、箝口令の崩壊

グランハムが「ロゥリィはナッシダをやると言っていた」と口にした瞬間、ハミルトンとピニャは正気に戻る。ナッシダは秘密扱いで箝口令も敷いていたが、亜神の口までは封じられない。ピニャがバルコニー上から制止しても雑音扱いされ、グランハムはさらに「亜神を全員掻き集める豪勢なナッシダ」と言い、参加予定の名を列挙してしまう。周囲は衝撃で沈黙し、この時点で情報は“漏れた”のではなく“公然化”した。

宮廷雀の拡散と、情報源グランハムへの集中

「アルヌスに活動中の亜神五柱が集まる」という噂は即座に宮廷雀へ伝播する。特に「グランハムが口を滑らせた」ことから、彼が最大の情報源と見なされ、レディはフレア神殿に赴いて神官達に調査を依頼する。しかしグランハム自身は「誰のためのナッシダか知らない。拒否権もない」と述べ、ユエルも同様に情報を持たないため、直接の裏取りは失敗する。

“誰のためのナッシダか”の推理が、ボーゼスへ収束する兆し

宮廷雀は断片情報を寄せ集め、もっともらしい答えを作る方向へ動く。そこで浮上するのが、直近で噂になった「パレスティ侯爵家令嬢ボーゼスがニホン人と挙式する」話である。招待状が出回っている以上、参列者(および招待された者)が真相に近いと見なされ、ボーゼスの結婚式そのものが“ナッシダの主目的を隠す仮面”として注目され始める。

出立準備と、ビーナ来訪

アルヌス出立が近づき、パレスティ家では老執事シェフルが従僕達に「引き出物を丁寧に梱包せよ」と指図していた。その最中、コリント伯令嬢ビーナが来訪したと知らされ、侯爵は玄関へ急ぐ。ビーナは父が結婚祝いの品を選んでいること、そしてパレスティ家とはパトロネ関係を含む長年の付き合いであり、万一の際は味方する覚悟だと述べ、侯爵を感涙させる。

ナッシダ流出後の“尋問”と、レディの存在

ビーナの用件は、グランハム輝下の口からナッシダ情報が漏れた結果、周囲から「アルヌスで結婚式と一緒にナッシダがあるのでは」と詰問され続けていることだった。知らぬ存ぜぬで切り抜けてきたが、憶測が独り歩きし、特にランドール公爵家のレディが絡む点が危険だと告げる。

悪評の源流としてのレディと、背後の神官メイベル

ビーナは、パレスティ家に流れる悪評の一部はレディが源流だと思われる、と“告げ口”の形で伝える。理由はエファン伯爵公子への一方的な執着と、それに起因する逆恨みである可能性が高いという。さらにビーナは、レディの変質には側近の神官メイベルの影響があるのではないかと見ており、侯爵も「神官が絡むのは厄介」と警戒する。表立ってピニャの寵臣に手出しできないため、嫌がらせが陰湿化し、累積して家の立て直しを阻害してきた、という構図が示される。

渡航妨害の工作失敗と、レディの方針転換

レディは当初、招待客がアルヌス行きを躊躇するよう工作していたらしいが、相手が戦場経験のある女傑揃いで通じず、苛立っていた。ところがナッシダの件が公然化すると、今度はレディ自身が「アルヌスへ連れて行け」と要求するようになる。アルヌスは外国領扱いで、渡航許可・旅券・査証などの手続き上、招待状を持つ者への同行という名目が必要になるため、ビーナはパレスティ家に同行させてよいかを相談しに来た。

“連れて行く”判断と、その狙い

ビーナは、ピニャも出席する場ならレディは大人しくなる見込みがあり、アルヌス行きを“目を醒まさせる好機”として利用できると提案する。一方で、それはナッシダの中心人物を探る動きや、誰のための祭事かの詮索を加速させる危険もある。しかしビーナは「既に隠しても意味がない。事実だから否定も難しい」と現実論を述べ、侯爵も熟考の末に同意する。拒絶しても嫌がらせが止まらない以上、同行させて現地で和解を試みる方が合理的だと判断した、という結論である。

ピニャの叱責と、事態の全貌

パレスティ侯爵は宮廷に呼び出され、ピニャから「軽率な判断」として厳しく詰責された。侯爵は汗だくで弁明するが、ピニャはビーナから報告されたレディの策が、悪口・陰口の段階を越えて“次の段階”に入っていたことを把握し、眉を寄せる。

レディの“自慢”が引き起こした雪崩

レディは「ビーナに同行して結婚式に出席する」「亜神五柱に拝謁できる」と公然と自慢して回った。これは陰謀に見えにくいが、周囲の嫉妬と羨望を直撃し、結婚式招待状を持つ者に「自分も同行させろ」という圧力が一斉に噴出する。血縁・友人・取引先といった断りづらい縁が武器になり、招待客側は拒否しきれず、同行者を次々に増やしていった結果、アルヌス渡航許可を求める者が全体で一気に万単位へ膨張した。

旅券発給が崩壊寸前

ハミルトンは、旅券の発給申請が「一万六百二」に達したと報告する。帝国の旅券は羊皮紙への手書きで、格調高い筆記、複数の印章、浮き出し印、役職者の署名まで必要で、1枚の作成に時間がかかり、字が書けるだけでは代替も効かない。発給遅延は招待客にも直撃し、出発の見通しが立たず、結婚式に間に合わない恐れが出る。ピニャは自分にも同伴依頼が殺到していると述べ、キケロ卿の申し出には「往還だけでは益がない」として、即位後も閣僚に加わる条件で追い返した。

菅原来訪と、“大祭典カタログ”の投入

そこへ日本の外交官・菅原が来訪し、入国査証と併せて大祭典の案内冊子を配布する。伊丹二尉が「カタログ」と呼ぶそれは電話帳級の分厚さで、表紙には猫耳少女のイラストが描かれている。出店者名・日程・場所記号・演目・注意事項が網羅され、宿不足に対する野営場案内や、野宿・徹夜の禁止なども執拗に記載されていた。規模はサークル720、個人芸人381、団体67、大催し32など、紙一枚では収まらないと説明される。

“見たいものが被る”不満と、混乱の予感

ヴィフィータは「二日目の展示演習や観閲行進と仮装パレードが被っている」「三日目は結婚式なのに音楽会・棒倒し・競馬をやるな」と、警備ではなく“見逃したくない”という理由で不満を爆発させる。棒倒しへの参加まで要求するが、菅原は女性参加は無理と断る。さらに人気演目同士(辻芝居と歌姫など)の同時開催も発覚し、ピニャとハミルトンまで冊子をめくって騒ぎ始める。侯爵は「よくぞまあこんな面々を片っ端から集めた」と呆れ、ピニャは「事情を知りつつ敢えてそうした理由があるのでは」と推測する一方、スケジュール決定者はディアボ殿下だと示される。

ピニャの着眼:旅券地獄の解決策としての“謄写版”

ピニャは以前から疑問だったとして、こうした冊子をどう作っているのかを菅原に尋ねる。背景には、旅券発給の崩壊で多くが足止めされ、大祭典に間に合わない恐れがある現実がある。菅原は、アルヌスではトナーやコピー紙が貴重になったため、現在は「謄写版印刷」を使っていると説明する。油紙を削って文字や絵を作り、インクを含ませたローラーで刷る方式で、手書きよりは大幅に楽だという。旅券は氏名以外ほぼ定型なので、ピニャは謄写版を使えば発給効率が上がると直感し、「譲ってほしい」と食いつく。ハミルトンも同意し、二人の期待の視線が菅原に突き刺さる場面で章は締まる。

出立と“観光大移動”の成立

数日後、帝都南門からアルヌスへ向かう人馬の群れが出立した。軍隊ではないため隊列は乱雑で、騎乗・馬車・徒歩が混在し、十五日分の荷を背負う者も多い。休暇を工面できた者を老若男女・身分・種族を問わず掻き集めた総数は約三万六千人に達し、大祭典見物のため街道を埋め尽くして進軍のように進んだ。

旅券ラッシュを救った“謄写版”と、ピニャの功績化

群衆はカタログと旅券を掲げ、ピニャを称えた。称賛の理由は、日本から「謄写版技術」を提供させ、期限内の旅券発給を可能にした点にある。帝国政府はこれを「久々の快挙」として宣伝し、戦や交渉で日本相手に成果のなかった流れを一時的に塗り替えた。

菅原の躊躇と、ピニャの“机を叩く交渉”

一方で、日本側(菅原)は即答を避け「アルヌスに持ち帰って検討」と先延ばしを図った。無償提供が将来的な“商売敵”を生むリスクを、既存の前例から警戒していたためである。
しかしピニャは結婚式とナッシダに人々を間に合わせる必要に迫られ、机を叩いて「是か非かはっきりしろ」と迫る勢いで訴え、半泣き同然で押し切った。菅原はその強硬さに圧倒され、頷かざるを得なかった。ピニャが日本に対してここまで強気に出たのは、イタリカ攻防戦以降の恐怖感から見れば例外的であり、その変化が周囲にも印象づけられる。

ピニャの“会得”と、貴族社会の評価回復

この一件はピニャに「日本相手に互角に交渉を進める秘訣」を掴んだという自負を与えた。伝統貴族たちも、大祭典に間に合わない不安が解消されたことで「さすが我らの殿下」と称え、講和交渉で発揮できなかったのが惜しいとまで語る。ただし欲張りすぎ(ナッシダ参列要求や、日系の子のパトロネなど)には慎重論も出た。

“別口の拝謁ルート”と、ディアボへの接近

貴族の一部は、ナッシダでの正式拝謁が難しくても、ディアボ殿下に手間代(実質的なお布施)を払って「亜神の控え室へ伺候」する段取りを整えたと語り合う。群衆の海を漂うように進む馬車の中で、便乗と取り次ぎの算段が進む。

ランドール公爵家の同行と、レディの不機嫌

コリント伯爵家の一行の後ろにはランドール公爵家の馬車が続き、レディ、アン、そしてメイベルが同乗していた。レディは、旅券が大量発給された結果「下賎な者と同じ道を行く」状況になったことを不快がり、農民や商人の視線や臭いを嫌悪して窓を閉めさせる。

メイベルの本音:結婚式阻止へ“直接手段”

メイベルは「残念だったのう。結婚式に間に合ってしまって」と述べ、ピニャの手柄で“遅延妨害”が潰れたことを悔しがる。そしてズフムートの呪いを果たすのが役目だとして、最後は直接的手段に訴える決意を示す。具体的には、祭司役のロゥリィ・マーキュリーに男をぶつけて結婚式を阻むという発想である。
レディは相手が「漆黒の戦神」と恐れられるロゥリィである点や、眷属(炎龍を斃した男が付いている)を懸念するが、メイベルは「眷属対策はこれから考える」として強行姿勢を崩さない。

引き

こうして、アルヌスへ向かう三万六千の大移動の裏側で、結婚式を守りたい側の準備と、阻みたい側(レディ一派)の“直接行動”が同時に走り出したところで下巻へ続く。

ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 一覧

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本編

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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