物語の概要
■ 作品概要
本作は、かつてゲーム「マジックワールド」で不遇クラスとされていた「重騎士」に転生した主人公が、前世の圧倒的なゲーム知識を駆使して最強へと成り上がる異世界転生ファンタジーである。
第17巻では、準A級への特別昇級試験の最終局面が描かれる。エルマたちの前に、ケルトの師匠であり、三大回避スキルを自在に操る回避特化の狩人ダーレンが「夢神の尖兵」の刺客として立ちはだかる。
レベル差と毒に追い詰められる全滅寸前の逆境の中、エルマは捨て身の作戦を決行する。戦闘の終結とともにケルトとダーレンの過去の因縁の真実が明かされ、物語は次なる舞台である「禁断の大森林」の大討伐へと動き出す。
■ 主要キャラクター
- エルマ:本作の主人公。元エドヴァン伯爵家の次期当主。不遇職とされる「重騎士」でありながら、ゲーム知識を武器に圧倒的な実力を発揮する。
- ルーチェ:エルマの相棒。「豪運」と「死神の凶手」を併せ持ち、アタッカーとして活躍する。
- ケルト:ダーレンの元弟子。17巻では、かつて自分を裏切って逃亡したとされる師匠との戦闘に命懸けで挑む。
- メアベル:エルマたちのパーティーを支える回復役。
- ダーレン:三大回避スキルを操る「宵闇隠形」型狩人。「夢神の尖兵」の一員としてエルマたちの前に現れる。
- アイザス伯爵:エドヴァン伯爵家当主であり、エルマの父親。伝統と当主個人の圧倒的な武力を重視する。
- マリス:エドヴァン伯爵家の次期当主候補。クラスは「剣聖」。圧倒的な剣技を持つ一方、戦闘時の残忍さから「血染め姫(狂姫)」と囁かれている。
- ハーデン侯爵:ハウルロッド侯爵家当主。エルマの実力を高く評価し、大討伐に際して彼をアイザス伯爵へ貸し出すことで、二人の関係性やエルマの正体を探ろうとする。
■ 物語の特徴
- 緻密なゲーム知識に基づく戦術頭脳戦:三大回避スキルが持つ「四十秒」のクールタイムを涸らし切るための読み合いなど、ゲームの仕様を徹底的に理解した上でのロジカルな戦闘描写が本作の大きな強みである。
- 人間味あふれる重厚なキャラクタードラマ:ケルトとダーレンの関係性を通じて、過去の「裏切り」の背後に隠された、弟子を巻き込むまいとした師匠の不器用な真実が明かされるなど、深みのあるドラマが展開される。
- 動き出す大討伐と貴族たちの思惑:昇級試験の突破後、エドヴァン伯爵家とハウルロッド侯爵家の間での政治的思惑や、追放されたエルマが実家とどう交錯していくかというサスペンスフルな展開が描かれる。
書籍情報
追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する(17)
著者:武六甲理衣 氏
原作:猫子 氏
イラスト:じゃいあん 氏
出版社:講談社
レーベル:ヤンマガKCスペシャル
連載:ヤンマガWeb
発売日:2026年4月6日
ISBN:9784065431979
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あらすじ・内容
毒&回避特化「宵闇隠形」型狩人を倒せ!! 覇権作品堂々漫画化第17巻!!
準A級への昇級試験終了間際、エルマたちの前に立ちはだかったのは、
三大回避スキルを自在に操る「宵闇隠形」型狩人ダーレン。
ケルトの師匠でもあるダーレンは、レベル差と毒でエルマたちを徐々に追い詰める。
全滅の危機に瀕する逆境の中で、エルマが捨て身の作戦を決行する‥‥!!
感想
準A級への特別昇級試験もいよいよ最終局面。
本巻で特に印象に残ったのは、《夢神の尖兵》ダーレンとの死闘である。
毒と回避能力に特化したダーレンはとにかく厄介だった。
戦力として頼りになるメアベルは消耗し、ケルトもかつての師匠を前にして平静ではいられない。
そんな状態で、エルマとルーチェが必死に戦線を維持する。
ゲーム知識で相手のビルドを知っているエルマでさえ、簡単には攻撃を当てられない。
「知っているから勝てる」ではなく、「知識をどう使って勝つか」が問われる戦いだった。
三つの回避スキルを使わせるエルマの攻略法
ダーレンが使うのは、《脱兎》《火の輪潜り》《朧身の術》という三つの回避スキル。
どれも強力だが、再使用まで約40秒かかる。
ならば短時間ですべて使わせ、その隙に本命の一撃を叩き込めばいい。
理屈だけなら単純である。
しかしダーレンは、回避スキルだけに頼った敵ではない。
弓も強い。
ナイフも使える。
接近すれば《ジャックジョーカー》による反撃まで待っている。
そこでエルマは自らダメージを受け、HPを限界まで減らして《死線の暴竜》と《不惜身命》を発動。
一撃でもまともに受ければ終わる状況で、ダーレンの回避スキルを一つずつ使わせていく。
エルマらしい、ゲーム知識を徹底的に戦術へ落とし込んだ攻略だった。
エルマが外した最後の二択を埋めたケルト
しかし、エルマだけでは最後まで届かなかった。
《火の輪潜り》《脱兎》《朧身の術》。
三つすべてを使わせたところで、《朧身の術》による最後の逃走方向を読み違えてしまう。
右か左か。
エルマが選んだ方向にダーレンはいなかった。
そこで飛び込んできたのがケルトである。
ケルトは、追い詰められたダーレンがどちらへ逃げるかを知っていた。
かつて一緒に戦っていたからこそ知っている、師匠の癖である。
ゲーム知識では分からない。
長く一緒にいた人間だからこそ分かる。
ここが非常に熱かった。
さらにケルトは武器を失ってもダーレンへ食らいつき、エルマが追いつくまで時間を稼ぐ。
《火の輪潜り》を使わせてから37秒。
再使用可能になる直前。
そのわずかな時間をケルトが繋ぎ、エルマの《燻り狂う一撃》がついにダーレンを捉える。
エルマだけでも、ルーチェだけでも、ケルトだけでも勝てなかった。
仲間全員の行動が最後の一撃へ繋がった戦いだった。
ダーレンに褒められたケルト
そして、ダーレン戦で最も印象に残ったのは決着後である。
追い詰められても、ダーレンは最後までダーレンだった。
油断した相手を騙し、再び攻撃へ出る。
その最後の攻撃を止めたのはケルトである。
かつて師匠として慕った男。
裏切られたと思い、長い間憎み続けてきた男。
それでも完全に割り切ることなどできなかった相手。
そんなダーレンを、最後はケルト自身が止める。
そしてダーレンは、成長したケルトの姿を見て、
「人間嫌いのお前が、いっちょ前になりやがって」
とでも言うように笑う。
この場面がとてもよかった。
昔のケルトなら、他人とここまで深く関わることはなかったのかもしれない。
しかし今は違う。
エルマ、ルーチェ、メアベルという仲間がいる。
誰かを守るために、自分の身体を張ることもできる。
ダーレンは最後の最後で、そんな弟子の変化を目にした。
素直に褒めるような男ではない。
それでも、あの表情と言葉には、ケルトが一人ではなくなったことへの不器用な感情が滲んでいるように感じた。
そして戦いが終わったあと、ケルトは仲間たちに背を向けてほしいと頼む。
誰にも見られないように、一人で泣く。
憎かった。
それでも師匠だった。
簡単に「いい話だった」と片付けられない複雑さが、この涙には詰まっていた。
最悪の裏切りにも理由があった
さらに後になって、ダーレンの過去が明らかになる。
かつてダーレンは、仲間のギースを殺したと疑われていた。
しかし実際には、ギースの死は事故だった可能性が極めて高かった。
ダーレンがギースの装備を売り、その金で高級酒を飲んだことも事実である。
だが、それは以前から二人で交わしていた約束を守った結果だった。
どちらかが先に死んだら、装備を売って普段飲めないような酒で弔う。
その行動だけを外から見れば、確かに怪しすぎる。
素行の悪さも重なり、「仲間を殺して装備を奪った」という噂だけが広がってしまった。
そして、さらに切なかったのがケルトの父親の形見の弓である。
殺人疑惑が広がった時、それでもケルトはダーレンを信じていた。
他の冒険者と喧嘩してまで師匠を庇った。
それを見たダーレンは、このままではケルトまで自分と一緒に孤立すると考える。
そこで、あえてケルトを裏切った。
父親の形見の弓を利用して金を騙し取り、そのまま逃げたように見せかける。
自分を完全に嫌わせるためである。
しかも、その金をダーレンは使わず、川へ投げ捨てている。
善人だったわけではない。
その後、本当に犯罪者となり、《夢神の尖兵》へ加わった。
今回もエルマたちを殺そうとしている。
だから過去を知ったからといって、すべてを許せるわけではない。
それでもケルトだけは、自分と同じ暗闇へ連れていかなかった。
最悪の裏切り者として憎まれることを選んででも、弟子を自分から切り離した。
その不器用さが何ともやりきれなかった。
読後の感想
『追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する17』は、ダーレンという人物の印象が大きく変わる一冊だった。
戦っている最中は、とにかく嫌らしくて強い敵である。
回避し、毒を使い、相手の心理まで読みながら追い詰める。
最後まで騙し討ちまで狙う。
決して美しい人物ではない。
しかし、その裏にはケルトとの歪んだ師弟関係があった。
そして最後は、かつて人間嫌いだった弟子が仲間を得て、自分の前へ立ちはだかる姿を見ることになる。
ケルトもまた、ダーレンを許したわけではないだろう。
それでも自分自身で師匠との因縁に決着をつけた。
その後、エルマたちは準A級へ昇級する。
ケルトは大討伐にも同行すると決め、メアベルも一緒に戦うことを選ぶ。
最初は一時的に組んだだけだった四人が、本当の仲間になっていく。
ダーレンが最後に目にしたケルトは、もう一人で生きようとしていた少年ではなかった。
派手な《燻り狂う一撃》以上に、師匠と弟子のどうしようもなく不器用な別れが心に残る第17巻だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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考察・解説
ダーレンとの死闘
狩人ダーレンとの死闘と裏に隠された真実
『追放された転生重騎士は ゲーム知識で無双する17』で描かれる狩人ダーレンとの死闘について、圧倒的な実力差と宵闇隠形型の脅威、回避スキルを涸らす40秒の攻略法、エルマの覚悟と敗北を利用したコンボ、勝敗を分けた最後の二択とケルトの執念、および死闘の後に明かされる最悪の裏切りの真実の各点から解説する。
圧倒的な実力差と「宵闇隠形型」の脅威
ダーレンはレベル110以上に達しており、エルマたちとは25以上の圧倒的なレベル差があった。
・対人戦において極めて厄介な宵闇隠形型のビルドを組んでおり、以下の能力でエルマたちを絶望的な消耗戦へ引き込んだ。
・毒弓妃アデイラータ:装備者と対象の素早さの差に応じて、致死性の毒を付与する推奨レベル105の魔弓である。
・三大回避スキル:脱兎、火の輪潜り、朧身の術という、窮地から瞬時に逃れる強力な回避技である。
・白兵戦の技量:弓だけでなく、ナイフと体術を組み合わせた近接攻撃「ジャックジョーカー」や、幻術・軽業も使いこなす万能な強さを持つ。
回避スキルを涸らす「40秒」の攻略法
エルマ、ルーチェ、ケルトが次々とダーレンに翻弄され、仲間たちが深手を負っていく中、エルマはダーレンの回避スキルの致命的な仕様に着目した。
・強力な3つの回避スキル(脱兎・火の輪潜り・朧身の術)には、それぞれ再使用までに約40秒が必要という点があった。
・エルマが導き出した唯一の突破口は、ダーレンの思考を読み、3つの回避スキルを次々と使わせ、すべてが再使用できない約40秒の間に本命の一撃を叩き込むという、極めてシビアな時間制限バトルであった。
エルマの覚悟と「敗北を利用したコンボ」
エルマは勝負に出るため、あえてダーレンの罠である近接迎撃技「ジャックジョーカー」を被弾する道を選んだ。これには二つの狙いがあった。
・ダーレンが宵闇隠形の戦術をどこまで徹底しているか、その行動前提をその身で確認すること。
・攻撃を受けることで自身のHPを限界まで削り、攻撃力と素早さを100%上昇させる最強の背水スキル「死線の暴竜」と、防御を捨てて攻撃力へ転換する「不惜身命」を同時発動させること。
・これにより、エルマは極限まで高めた速度と火力でダーレンを猛追し、火の輪潜り、脱兎、朧身の術のすべてを順番に使わせることに成功した。
勝敗を分けた「最後の二択」とケルトの執念
3つの回避スキルをすべて吐かせたものの、最後の朧身の術による大木の裏への逃走先で、エルマは二択を外して右に駆け込んでしまった。ダーレンが勝利を確信して弓を構えたその瞬間、戦場を決定づけたのはケルトであった。
・ダーレンの癖の看破:かつて師弟だったケルトは、ダーレンが焦ったときは必ず利き手側を選ぶという特有の癖を覚えており、ダーレンの出現先を完璧に先読みして飛び込んだ。
・メアベルの保険:ダーレンはケルトを矢で射抜くが、メアベルがあらかじめ付与していた「ポイゾプロテクト」により毒による速度低下が無効化され、ケルトは止まらなかった。
・命懸けの拘束:武器を弾かれてもなお、ケルトはダーレンの足に身体ごとしがみつき、エルマが追いつくための時間を稼いだ。
・エルマが最初の回避スキルを使わせてから37秒。ダーレンの回避スキルが復活する40秒のわずか3秒手前で、ケルトが繋いだその刹那、エルマの「燻り狂う一撃」がダーレンのジャックジョーカーを叩き砕き、死闘に決着をつけた。
死闘の後に明かされる「最悪の裏切り」の真実
戦闘後、ダーレンは降伏を装ってメアベルを不意打ちしようとするが、ケルトに阻まれて力尽き、消滅した。そして、彼がかつて起こした仲間殺しとケルトへの裏切りの真実が明らかになった。
・ギース殺しの真実:事故死した親友ギースとの「先に死んだ方の装備を売って酒で弔う」という不器用な約束を果たしただけだったが、それが周囲に誤解され冤罪をかけられていた。
・形見の弓を奪った真意:自分が冤罪で街を去る際、自分を庇って周囲から孤立しかけていたケルトを巻き込まないため、あえて形見の弓を奪って逃げた最悪の裏切り者を演じて決別を促した。さらに、その奪った弓を質に入れた金は、使うことなく川へ投げ捨てていた。
・ケルトは、自分を暗闇に巻き込ませないために泥水をすすり、最期まで悪党の仮面を被り続けた師の不器用すぎる愛情を知り、仲間たちに背を向けさせて独り涙を流した。
まとめ
狩人ダーレンとの死闘と裏に隠された真実を巡る一連の全貌は、レベル差のある宵闇隠形型との戦闘から始まり、40秒という冷却時間の隙を突くシビアな攻略、死線の暴竜と不惜身命のコンボによる追撃、ケルトによる癖の看破と身を賭した拘束、そして冤罪と弟子を庇うための裏切りの真実の解明に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
レベル差や相手の回避能力という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、ゲーム知識に基づく徹底したロジックと不屈の師弟愛の記録である。
圧倒的な消耗戦から、スキルの誘発、命懸けの足止め、一撃の粉砕、そして仮面の剥落へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
回避スキルの攻略
狩人ダーレンの三大回避スキルの攻略と死闘の全貌
『追放された転生重騎士は ゲーム知識で無双する』の特別昇級試験最終局面において、エルマたちが直面した狩人ダーレンの三大回避スキルの攻略について、ダーレンの三大回避スキルの脅威と弱点、回避スキルを涸らす基本戦術、敗北を利用したコンボ発動とスキル回収、最後の二択の失敗とケルトが繋いだ37秒、および決着の各点から解説する。
ダーレンの「三大回避スキルの脅威と弱点
ダーレンは、対人戦において極めて厄介な宵闇隠形型のビルドを組んでおり、3つの強力な回避スキルを自在に操る。
・脱兎:瞬時に間合いを離す。
・火の輪潜り:炎の輪をまとって上空へ跳ね上がる(スキルツリー「宵闇の曲馬団」のスキル)。
・朧身の術:残像をその場に残し、実体は別の場所へ高速移動する。
・これらは近接攻撃を完全に無効化する絶望的なスキルであるが、エルマはこれらがゲームのシステム上、一度発動すると再使用までに約40秒を必要とするという共通の致命的な弱点を見抜いた。
回避スキルを「涸らす」基本戦術
エルマが構築した勝利への唯一のロジックは、ダーレンの思考を読み、3つの回避スキルを次々と使わせてすべてをクールタイムに追い込み、残された無防備な約40秒の間に決定打を叩き込むという時間制限バトルであった。
・ダーレンはスキルに頼るだけでなく、弓、ナイフ(ジャックジョーカー)、体術を含む白兵戦そのものにも長けていた。
・そのため、単に攻撃を仕掛けるだけでは回避スキルを2回連続で使わせることすら困難という高い壁が存在した。
実践:敗北を利用した「コンボ発動」とスキル回収
エルマは、このシビアな時間制限バトルを成立させるために、あえてダーレンのカウンター技「ジャックジョーカー」を被弾する道を選んだ。これには2つの戦術的意図があった。
・行動前提の確認:引くと見せかけて押すという、ダーレンの宵闇隠形の戦術思考をその身で確認すること。
・背水スキルの起動:被弾によって自身のHPをあえて閾値(20%以下)まで削り、攻撃力と素早さを100%上昇させる最強のバフスキル「死線の暴竜」と、防御を完全に捨てて攻撃力へ転換する「不惜身命」を同時発動させること。
・この圧倒的な超スピードと超火力をもってダーレンを猛追することで、エルマはダーレンに選択の余地を与えず、順に回避スキルを強制的に切らせていった。
・まずエルマの急襲に対し、ダーレンは火の輪潜りを使用。
・すぐさま追いすがるエルマに対し、左右の揺さぶりである脱兎を使用。
・さらに最短距離を突き進むエルマに対し、最後の手段である朧身の術を使用。
・これによって、ダーレンのすべての回避スキルを涸らすことに成功した。
最後の「二択」の失敗と、ケルトが繋いだ「37秒」
3つのスキルをすべて吐かせた直後、エルマの前に致命的な障害が立ちはだかった。朧身の術で気配を消したダーレンの出現先が、大木を挟んで右か左かという最後の二択になったのである。
・エルマは右に踏み込んだが、ダーレンが姿を現したのは左側であった。
・二択を外したエルマに対し、ダーレンは勝利を確信して弓を構えた。
・この絶体絶命の膠着を破ったのが、かつてダーレンの弟子だったケルトであった。
・師の癖の先読み:ケルトはダーレンが焦ったとき、必ず利き手側(左側)を選ぶという特有の癖を完全に覚えており、ダーレンの出現先(左側)へあらかじめ回り込んで飛び込んだ。
・毒対策の保険:ダーレンは瞬時にケルトを魔弓で射抜いたが、メアベルが事前にケルトへ施していた白魔法「ポイゾプロテクト」により、ダーレンの最大の強みである毒による移動速度低下が無効化され、ケルトの足は止まらなかった。
・肉体による完全拘束:ケルトは武器を弾かれ、血を流しながらも、ダーレンの身体にしがみついてその動きを強引に止め、エルマが追いつくための時間を稼いだ。
決着:クールタイム「40秒」のわずか3秒手前
エルマが最初の火の輪潜りを使わせてから37秒。
・ダーレンの回避スキルが再び使えるようになる40秒まで残りわずか3秒という極限の刹那、ケルトが命懸けで作り出したその一瞬の隙に、エルマの渾身のスキル「燻り狂う一撃」がダーレンを捉え、死闘に完全なる決着をつけた。
まとめ
狩人ダーレンの三大回避スキルの攻略と死闘の全貌を巡る一連の全貌は、脱兎、火の輪潜り、朧身の術という3大回避スキルの特性分析と約40秒という冷却時間の見切りから始まり、ジャックジョーカー被弾による死線の暴竜および不惜身命の同時発動、強制的な回避スキルの回収、最後の二択失敗時のケルトによる癖の先読みと身を挺した拘束、そして37秒経過時点での燻り狂う一撃による粉砕に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
レベル差や完全回避能力という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、ゲームシステムのロジック解析と仲間の強い信頼の記録である。
能力の看破から、自傷リスクを伴うコンボ、スキルの枯渇、命懸けの足止め、そして決着の一撃へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
ケルトの過去と真実
ケルトの過去とダーレンの真実
『追放された転生重騎士は ゲーム知識で無双する』におけるケルトの過去と、その裏に隠されていた師匠ダーレンとの真実について、ケルトが抱えていた過去の傷とトラウマ、明かされた過去の真実、およびダーレンが遺した不器用な教えの結末の各点から解説する。
ケルトが抱えていた「過去の傷」とトラウマ
ケルトは長年、かつての師匠であるダーレンに対し、深い憎悪と未練を抱き続けていた。
・搾取される日々:若き日のケルトは、ダーレンから冒険者としての技術(弓術、体術、ナイフ捌き)を叩き込まれる一方で、雑用や危険な仕事を押し付けられ、得た金は巻き上げられ、機嫌次第で理不尽な暴力を受けていた。
・仲間殺しの逃亡犯:8年前、ダーレンは飲み仲間だったギースを殺害し、パーティー強盗を働いた犯罪者としてラコリナから逃亡したとされていた。
・形見の弓という決定的な裏切り:ダーレンが逃亡する直前、ケルトは金を無心してきた師を信じ、亡き父の唯一の形見である大切な弓を質に入れて金を用立てた。しかし、ダーレンはその金を持ったまま逃亡し、ケルトを裏切って姿を消した。
・この出来事により、ケルトは冒険者もギルドも、組織も誰も信用できないという深い人間不信に陥ることとなった。
明かされた過去の「真実」
特別昇級試験の最終局面、エルマたちとの死闘の果てにダーレンが力尽きたことで、当時の事件の全く異なる真実が明らかになった。
・仲間殺し(ギース殺害)の真相:実は、ダーレンはギースを殺害していなかった。当時、ギースはダンジョンでの探索中に重傷を負い、自分を置いていくようダーレンに頼んでいた。その際ギースは、どちらかが先に死んだら、装備を売って高い酒で弔う、という生前の約束を果たすよう依頼した。ダーレンは約束通りギースの装備を売って高級な酒を飲んだが、この仲間の遺品を闇で売り、死んだ日に高い酒を飲んでいた不自然な行動が周囲の邪推を呼び、仲間を殺したという冤罪を生むことになった。
・形見の弓を騙し取ったダーレンの真意:冤罪によってラコリナを追われることになった際、ギルドで周囲から孤立するのも構わず、必死に自分を庇って他の冒険者と殴り合っていたのがケルトであった。ダーレンはケルトのその純粋さを嬉しく思うと同時に、このままではケルトまでお尋ね者の身内にされ、暗闇に巻き込まれてしまうと危惧した。
・そこでダーレンは、あえてケルトが一番大切にしていた父親の形見の弓を騙し取り、金を持ち逃げする、という最悪の裏切り者を自ら演じることで、ケルトに自分を憎ませ、完全に決別させた。
・なお、ケルトから騙し取った金をダーレンが使うことはなく、そのままラコリナの川へと投げ捨てていた。エルマは、もしあの一件がなければ、ケルトが罪人となったダーレンを追いかけ、同じように教団の闇に堕ちていた可能性に思い至っている。
ダーレンが遺した「不器用な教え」の結末
ダーレンは生前、酒に酔った席でケルトに、誰かが手を差し伸べてくれたなら、その恩には必ず報いろ、そうしていれば、いつか背中を預けられる仲間ができる、という言葉を遺していた。
・ダーレン自身は裏切り者の仮面を被り、教団「夢神の尖兵」に身を落として最期を迎えたが、その散り際、身を挺してメアベルを庇おうとし、自分にしがみついて攻撃を止めたケルトの姿を見て笑った。
・ケルトの周りには、かつての自分とは違い、エルマやルーチェ、メアベルといった背中を預けられる本物の仲間できていたからである。その様子を見届けるようにして、ダーレンは息を引き取った。
・死闘の後、ケルトは仲間たちに少しだけ背を向けてくれと頼み、独り静かに涙を流した。
・その後、事実を知ったケルトは、ただの被害者ではなく、罪に手を染めた師匠の始末を弟子として自らつけるべきだったと受け入れ、ダーレンが関わっていた教団の先を見届けるため、エルマたちと共に大討伐へ同行することを決意した。
まとめ
ケルトの過去とダーレンの真実を巡る一連の全貌は、師匠による搾取や形見の弓を巡る裏切りから始まった人間不信、死闘の果てに明かされたギース殺害冤罪と弟子を守るための偽りの裏切り、そして不器用な教えが実を結び本物の仲間を得たケルトの成長と決意に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
過去のトラウマや歪んだ宿命という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、不器用な師弟愛と真実の解放の記録である。
偽りの憎悪から、冤罪の露呈、師の真意の解明、涙の受容、そして真の仲間と共に歩む不退転の決意へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
特別昇級試験の突破
特別昇級試験の突破と動き出す思惑
『追放された転生重騎士は ゲーム知識で無双する』における特別昇級試験の突破について、試験の概要と目的、第1の試練である祟り神アナクの突破、第2の試練であるダーレンの撃破、準A級への昇級、および突破の裏で動き出す貴族たちの思惑の各点から解説する。
特別昇級試験(準A級)の概要と目的
この試験は、ハウルロッド侯爵家が主催する特例措置として、ラコリナのB級冒険者を対象に開催された。
・その真の目的は、危険度が極めて高く、通常は10年周期でしか行われない「禁断の大森林の大討伐」に参加させるための、優秀な精鋭(準A級冒険者)を選定することにあった。
・エルマは、使命感や見知った人が犠牲になるのは嫌だというルーチェの熱意、そして元師匠ダーレンとの因縁を予感したケルトたちの事情を踏まえ、エルマ、ルーチェ、ケルト、メアベルの4人パーティーで挑むことになった。
・試験会場は厳重に管理された訓練場「選定の森」で、森の最奥の石碑にあるハウルロッド侯爵家の飾盾を持ち帰ること、Lv75以上の魔物を討伐してその魔石を保持することの2つのクリア条件が提示された。
第1の試練:裏ボス「祟り神アナク(Lv92)」の突破
順調に森を進むエルマたちであったが、目的地である忘却の寺院エリアにて、開発者の悪意の権化と恐れられた裏ボス「祟り神アナク(Lv92)」と遭遇した。
・近接攻撃に対して自動で毒・火傷カウンターを行う「怨念の瘴気」を持つアナクは、前衛主体のエルマたちにとって最悪の相性であった。
・しかし、エルマの的確なヘイトコントロール、そしてダメージを受ける覚悟で突撃してアナクのHPを討伐可能ラインまで削り落としたルーチェの決死の連携が行われた。
・さらにはエルマがHP20%以下で発動する死線の暴竜と不惜身命を起動して放った新スキル「燻り狂う一撃」によって、格上の祟り神アナクを見事に討伐し、Lv75以上の魔石という条件を破格の形でクリアした。
第2の試練:「夢神の尖兵」ダーレンの強襲と決着
アナクを討ち倒し、石碑に到達して飾盾を回収しようとした際、一行の前に「夢神の尖兵」の一員であり、ケルトの因縁の元師匠であるダーレン(Lv110以上)が立ちはだかった。
・対人戦最強格の宵闇隠形型ビルドと推奨Lv105の魔弓毒弓妃アデイラータを操るダーレンを前に、メアベルは重傷を負い、ケルトも精神的に戦力外となるなど、壊滅寸前まで追い詰められた。
・ここでエルマは、ダーレンの持つ3つの回避スキル(脱兎、火の輪潜り、朧身の術)が一度使うと再使用まで40秒かかるというゲーム仕様に着目した。
・あえてダーレンのカウンターを被弾してHPを削り、再び死線の暴竜と不惜身命を起動した超スピードで追い詰めて回避スキルをすべて涸らすことに成功した。
・最後の朧身の術の出現先をエルマは外してしまうが、ダーレンの焦ったときは必ず利き手側を選ぶという癖を完璧に覚えていたケルトが先読みして飛び込み、メアベルの毒無効魔法(ポイゾプロテクト)に支えられながらダーレンを完全拘束した。
・クールタイム終了のわずか3秒前にエルマの燻り狂う一撃が炸裂し、ダーレンを撃破して因縁に決着をつけた。
特別昇級試験の突破と「準A級」への戴冠
ダーレンの襲撃と討伐をもって、特別昇級試験は予定より早く終了となった。
・数日後、ラコリナの広場にて開かれた式典において、ギルド長ハレインはエルマたち4人が祟り神アナクを討伐し、尖兵の刺客をも退けた破格の成績で試験を突破したことを宣言し、彼らは準A級冒険者へと昇級を果たした。
・通常は長い実績が必要なA級への特例の足掛かりとなるこの戴冠は、周囲の冒険者たちに驚愕と羨望をもたらした。
・試験突破後の祝宴では、普段通りにケルトを弄り倒すメアベルのおかげで、重苦しかった空気も和やかな日常へと戻った。
・ケルトはダーレンの最悪の裏切りの真実を知った上で、師が手を貸していた教団の先をその目で見届けるため、エルマと共に大討伐へ参加することを決意し、メアベルもそれに同行することになった。
突破の裏で動き出す、貴族たちの思惑
エルマたちの特別昇級試験の突破は、ただの冒険者のランクアップに留まらず、北方貴族たちの政治劇を加速させることになった。
・ハウルロッド侯爵ハーデンの一手:ハーデン侯爵は、尖兵を2人も返り討ちにしたエルマの実力を底知れないものとして極めて高く評価した。そして、大討伐において戦力不足に喘ぐエルマの実家・エドヴァン伯爵家(アイザス伯爵)へ、エルマを戦力として貸し出すという計画を立てた。これは親切心ではなく、エルマを遠ざけたアイザスの真意や、エルマ自身の正体を探るための極めて冷徹な政治的探りであった。さらにハーデン侯爵は、大討伐での働き次第では、エルマを再びエドヴァン家の当主候補として擁立し、娘スノウを嫁がせて両家の強固な繋がりを作る裏の思惑まで巡らせていた。
・アイザス・エドヴァン伯爵の葛藤と決断:伝統と圧倒的な武力(剣聖としての華)こそがエドヴァン家の威信を守ると信じるアイザスは、エルマの実力を認めつつも、エルマ(重騎士)ではいかんのだ、と静かに結論を下していた。アイザスは大討伐にて、実力は高いが残忍さから血染め姫と囁かれる次期当主候補・マリスのお披露目を決断した。
まとめ
特別昇級試験の突破と動き出す思惑を巡る一連の全貌は、選定の森での過酷な試練の設定から始まり、裏ボス・祟り神アナクの撃破、ダーレンの回避能力の枯渇とケルトによる因縁の決着、準A級冒険者への戴冠、そしてハウルロッド侯爵家と実家エドヴァン伯爵家による政治的思惑の交錯に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
試験の難関や敵の強大さという不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、ゲーム知識を駆使した躍進と貴族社会の思惑の記録である。
試練の開始から、強敵の討伐、ランクアップの達成、身内の真実の受容、そして次なる大討伐への交錯へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
エドヴァン家の思惑
エドヴァン家の現当主アイザスとマリスを巡る思惑
『追放された転生重騎士は ゲーム知識で無双する』において、エドヴァン家の現当主アイザス・エドヴァン、および新たな次期当主候補となったマリスを巡るエドヴァン家の思惑について、当主アイザスが抱く剣聖至上主義とエルマへの評価、大討伐における政治的・軍事的思惑、次期当主候補マリスの起用と冷酷な育成、およびハウルロッド侯爵の政治的介入との交錯の各点から解説する。
当主アイザスが抱く「剣聖」至上主義とエルマへの冷徹な評価
エドヴァン家は代々、当主が圧倒的な剣を振るうことによって、その領地と貴族としての威信を守ってきた武門の名家である。
・現当主であるアイザスは、一騎当千の武勇こそが貴族の正道であると信じて疑わない。
・「剣聖としての華」の重視:加護の力が一般の冒険者にも広く行き渡り、その神秘性が薄れつつある現代だからこそ、当主には誰もが一目で認める剣聖としての華が必要不可欠であるとアイザスは考えている。
・エルマに対する静かな拒絶:実の息子であるエルマが、高い使命感を持ち、冒険者として腕を上げている事実自体はアイザスも理解している。しかし、どれほど実力があろうとも、クラスが重騎士である以上はエルマではいかんのだと静かに結論を下している。エドヴァン家の伝統的な威信を守るためには、盾を構える重騎士ではなく、剣を振るう剣聖でなければならないという頑迷な信念が根底にある。
「大討伐」におけるエドヴァン家の政治的・軍事的思惑
間近に迫る「禁断の大森林の大討伐」は、エドヴァン家が自家の権威を示すための極めて重要な政治的舞台となっている。
・冒険者の台頭に対する強い危機感:主催者であるハウルロッド侯爵(ハーデン)が、準A級冒険者をはじめとする一般の冒険者を戦力としてかき集めて大討伐に臨む手法を、アイザスは激しく嫌悪している。国家の安寧を守る役目を冒険者に委ねてしまえば、貴族自身の権威が損なわれ、いずれ力そのものが失われていくと危惧しているためである。
・「貴族の威信」を示すための決戦:アイザスは自らの手で魔を討ち滅ぼすことこそが貴族の本質と主張する。大討伐においてハウルロッド家から戦力を借りるような形になれば、エドヴァン家が衰退したと他家に見なされる屈辱に繋がる。そのため、大討伐という大舞台で、エドヴァン家単独の圧倒的な力を世に示し、ハウルロッド家に対する劣勢を覆そうと画策している。
次期当主候補“血染め姫”マリスの起用と冷酷な育成
アイザスが家の威信を守るための切り札として、満を持して大討伐への投入を決断したのが、分家出身で剣聖のクラスを発現させたマリスである。
・「マリスのお披露目」という一手:マリスは剣聖の加護を得て日が浅いにもかかわらず、すでに単独で強敵を討つほどの実力を備えている。しかしその一方で、魔物や野盗を必要以上に痛めつけて仕留める残忍な戦い方から、陰では血染め姫と囁かれている。
・非道な手段による急速育成:アイザスは、マリスの精神的な不安定さや戦闘時の残忍さを承知の上で、彼女が持つ剣聖としての華と才能に縋っている。実際に、マリスのレベルを短期間で急上昇させるために、アイザスは領内において命移し(罪人の命を糧にして経験値を吸わせる非道な手法)を指示し、彼女を無理やり急速育成させていた。
ハウルロッド侯爵の政治的介入との交錯
エドヴァン家がこうした自家の一存や思惑に縛られている一方で、ライバルであるハウルロッド侯爵(ハーデン)はさらに一枚上手から政治的な罠を仕掛けようとしている。
・エルマの「貸し出し」計画:ハーデン侯は、エドヴァン家の準備不足や戦力不足を突き、大討伐におけるアイザス側の戦力としてエルマ(準A級)を貸し出すという極めて冷徹な計画を立てている。これは純粋な支援などではなく、アイザスとエルマの父子関係の裏にある真意を探り、謎の多いエルマの正体を見極めるための探りである。
・エドヴァン家乗っ取りの野望:ハーデン侯の思惑はさらに先を見据えており、大討伐での結果次第では、エルマを再びエドヴァン家の当主候補として擁立し、自らの娘スノウをエルマに嫁がせることで、エドヴァン家をハウルロッド家の強固な影響下に置くことまで視野に入れている。
・アイザスは、かつて自分が欠陥職として追放したはずの息子エルマが、自身が目の敵にしているハーデン侯の懐刀として自らのもとへ送り込まれようとしている事実すら知らぬまま、政治的・軍事的に激しく揺さぶられている状態にある。
まとめ
エドヴァン家の現当主アイザスとマリスを巡る思惑の一連の全貌は、伝統的な剣聖至上主義に基づくエルマの不適格判定と重騎士への拒絶から始まり、大討伐を貴族の威信を示す決戦と捉える主導権の誇示、血染め姫マリスの非道な命令移しによる急速育成、そしてライバルのハウルロッド侯爵によるエルマの貸し出しを通じた政治的介入に至るまで、その歩みを明瞭に示している。
血統の傲慢や形骸化した貴族観という不条理な檻を打ち破り、自分たちの尊厳と平穏な生の主権を自らの選択と確固たる意志によって完璧に確立するに至る、権勢維持の固執と政治的交錯の記録である。
伝統への執着から、次期当主の強制擁立、政敵との思惑の対立、そして父子再会を巡る緊迫の情勢へと繋がったプロセスは、どれほど不条理な事態の混迷や過酷な環境の激変によって状況が脅かされようとも、本質を突いた人間の知性と確固たる意志の果断によって打破され、新しい生き方を切り拓く輝かしい未来の道が厳密に証明されている。
登場キャラクター
エルマのパーティー
エルマ
本作の主人公である。
クラスは重騎士を授かっている。
前世のゲーム知識を豊富に保持している。
冷静に戦術を構築する能力に優れる。
仲間を大切にする立場を取る。
・所属組織、地位や役職
冒険者パーティーのリーダー。
・物語内での具体的な行動や成果
ダーレンとの死闘においてルーチェと挟撃を試みた。
スキル「影踏み」を使い、ダーレンの影を捉える。
あえてダーレンのカウンター攻撃を受けて自身のHPを削るに留めた。
HP20%以下で発動するスキル「死線の暴竜」と「不惜身命」を同時に起動させる。
ダーレンのすべての回避スキルを枯渇させた。
新スキル「燻り狂う一撃」を叩き込み、ダーレンの撃破を達成する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特別昇級試験を突破して準A級冒険者へと昇級した。
格上の魔物を討伐したことで周囲の冒険者から羨望の視線を集める。
ハウルロッド侯爵の政治的策略により、実家のエドヴァン伯爵家への貸し出し戦力とされる予定である。
ルーチェ
エルマの相棒として冒険を共にする少女である。
クラスは道化師を担当している。
極めて高い幸運値の持ち主とされる。
アタッカーとして優れた瞬発力を発揮する。
エルマに対して全幅の信頼を寄せている。
・所属組織、地位や役職
エルマのパーティーメンバー。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
ダーレンとの死闘においてエルマの指示に従い背後に回り込む。
スキル「ダイススラスト」を放ってクリティカル攻撃を炸裂させた。
ダーレンの反撃からケルトが放った矢に救われる。
ダーレンの体術と弓矢による攻撃を受けて負傷した。
瀕死のダーレンが放とうとした最後の弓を蹴り飛ばす。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特別昇級試験を突破し、準A級冒険者へと昇級を果たした。
ケルト
弓使いの冒険者である。
感知スキル「第六感」や「聴覚強化」に優れている。
かつてダーレンの弟子として活動していた。
ダーレンから搾取や裏切りの被害を受けた過去を持つ。
現在はエルマの指示に全幅の信頼を置いている。
・所属組織、地位や役職
エルマのパーティーメンバー。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
ダーレンの放った矢に対し、自身の矢をぶつけてルーチェを救う。
ダーレンの攻撃を受けて地面へ倒された。
ダーレンが焦った際に利き手側(左側)へ逃げる癖を先読みした。
ダーレンの足にしがみつき、エルマが攻撃するまでの時間を稼ぐ。
メアベルを襲おうとしたダーレンの腕を掴んで防いだ。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特別昇級試験を突破し、準A級冒険者へ昇級した。
ダーレンの死後、彼を信じていた過去と裏切りの真実を受け止める。
ダーレンが手を貸していた教団の先を見届けるため、大討伐へ同行することを決意した。
メアベル
僧侶のクラスを持つ女性冒険者である。
パーティーの回復役を専門としている。
人懐っこい笑顔の裏に、強かで冷静な性格を秘める。
周囲の冒険者を的確に観察する。
ケルトとは普段から口論を交わす関係にある。
・所属組織、地位や役職
エルマのパーティーメンバー。僧侶。
・物語内での具体的な行動や成果
傷ついたエルマたちの治療を担当した。
ケルトへ毒を無効化する白魔法「ポイゾプロテクト」を付与する。
ダーレンが降伏を装って放った最後の一撃の標的となる。
昇級祝いの席でケルトの過去の言動をからかい、おごらせることに成功した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
特別昇級試験を突破し、準A級冒険者に昇級した。
ケルトを放っておけないという理由を挙げ、大討伐への同行を申し出る。
冒険者ギルド
ハレイン
冒険者の都ラコリナのギルド長である。
ハウルロッド侯爵家の分家出身に位置する。
公正な判断力を備えた人物とされる。
優秀な冒険者を正当に評価する方針を持つ。
ケルトに対してギルドの不手際を謝罪する誠実な一面を示した。
・所属組織、地位や役職
冒険者ギルド・ラコリナ支部ギルド長。
・物語内での具体的な行動や成果
式典でエルマたちの特別昇級試験の突破と準A級への昇級を公式に宣言した。
ダーレンのギース殺しの噂が冤罪であった事実をケルトに伝える。
ギルドの未熟な仕組みによりダーレンを犯罪者へ追い込んだ責任を認め、ケルトへ頭を下げた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エルマたちが度重なる異常事態の解決を持ち込むため、疲労を滲ませて頭を抱えている。
夢神の尖兵
ダーレン
「宵闇隠形」型と呼ばれる対人戦に長けた狩人である。
三大回避スキルを自在に操る技量を誇る。
かつてケルトの師匠を務めていた。
他者を騙して使い捨てる冷酷な本性を持つとされる。
教団「夢神の尖兵」の傭兵としてエルマたちを襲う。
・所属組織、地位や役職
教団「夢神の尖兵」の構成員。元冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
特別昇級試験の最終局面に現れ、エルマたちの前に立ちはだかる。
スキル「火の輪潜り」を用いてエルマの影踏みによる拘束を逃れた。
ルーチェやケルトを体術と弓矢で圧倒して負傷させた。
エルマの猛攻に対し、所持する回避スキルを順に切らされる。
「朧身の術」の出現先をケルトに読まれ、身体を拘束されるに至る。
エルマの「燻り狂う一撃」を被弾して敗北した。
敗北後に降伏を装い、メアベルへ隠し持ったナイフで襲いかかる。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エルマたちとの死闘の末に力尽き、死亡した。
過去に仲間のギースを殺害しておらず、噂が冤罪であったことが明かされた。
ケルトを自分の罪に巻き込まないため、あえて裏切り者を演じていた真実が明らかとなる。
エドヴァン伯爵家
アイザス伯爵
エドヴァン伯爵家の現当主である。
伝統的な「武(剣聖)」の価値観を至上とする。
期待に沿わない息子エルマを勘当した冷徹な父親とされる。
ハウルロッド侯爵の手法を激しく嫌悪している。
大討伐において自らの家の威信を示そうと画策する。
・所属組織、地位や役職
エドヴァン伯爵家当主。貴族。
・物語内での具体的な行動や成果
ハーデン侯爵から届いた大討伐に関する書状に目を通した。
国防を冒険者に委ねるハーデン侯爵の戦略を強く批判する。
大討伐に際して、分家出身のマリスのお披露目を決断するに至る。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
エルマの実力を認めつつも、重騎士には「剣聖としての華」がないため当主にできないと結論づけている。
マリス
エドヴァン伯爵家の新たな次期当主候補である。
クラスは最高位とされる「剣聖」を授かっている。
表面上は素直な少女を演じる人物とされる。
内面には他者を壊すことを好む残忍な性格を秘める。
戦闘での残虐な立ち回りから「血染め姫」と囁かれる。
・所属組織、地位や役職
エドヴァン伯爵家分家出身、次期当主候補。
・物語内での具体的な行動や成果
罪人の命を経験値として吸い上げる「命移し」を行った。
この非道な手法により、レベルを急速に上昇させる。
大討伐に際し、伯爵家単独 of 強さを示す切り札としてお披露目されることが決定する。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
圧倒的な剣の才能を評価され、現当主アイザスから大きな期待を背負っている。
ハウルロッド侯爵家
ハーデン侯爵
ハウルロッド侯爵家の現当主である。
領地の安定を第一に考える実力主義者とされる。
表面上の陽気さの裏に、冷徹で狡猾な政治的思考を隠している。
他家に対する劣勢を覆すための知略を巡らせる。
エルマの特異な実力と知識の深さを高く評価している。
・所属組織、地位や役職
ハウルロッド侯爵家当主。都市ラコリナの統治者。
・物語内での具体的な行動や成果
大討伐に向けて、準A級となったエルマをエドヴァン家へ「貸し出す」計画を立てた。
エルマをアイザス伯爵のもとへ送り、その反応から二人の関係を探る。
エルマをエドヴァン家の当主として擁立する策略を思い描く。
自らの娘スノウをエルマに嫁がせることで、両家の繋がりを作る計画を視野に入れた。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
王家やベルネット公爵家からも一目置かれる実力者として、北方の権力を掌握している。
スノウ
ハウルロッド侯爵家の第一子である。
クラスは「氷晶騎士」を授かっている。
非常に優れた剣技と能力を持つとされる。
実際には極度な人見知りな性格を内に秘める。
威厳を保つために従者のイザベラを介して会話を行う。
・所属組織、地位や役職
ハウルロッド侯爵家令嬢。次期当主候補。
・物語内での具体的な行動や成果
本編(第145〜153話)において直接の登場や戦闘行動は描写されていない。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
ハーデン侯爵の政治的計画において、エルマとの政略結婚の対象として名前が挙げられている。
その他(過去の登場人物)
カロス
「黒き炎刃」の異名を持つ元A級冒険者である。
かつてはラコリナの英雄として信頼を集めていた。
その正体は、狂信的な教義を信奉する裏切り者とされる。
他者との戦闘の愉楽に執着する本性を持つ。
ダーレンからは「三流のイカレ野郎」と蔑まれている。
・所属組織、地位や役職
元A級冒険者。教団「夢神の尖兵」の元メンバー。
・物語内での具体的な行動や成果
教団の指示で異変を追うふりをしながら暗躍を続けていた。
時折本気で英雄を演じ、冒険者の使命や義務を語った。
エルマたちの手によって討伐され、消滅している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
その死後もエルマからは、演技の中に残された本心を見出されていた。
ギース
ダーレンのかつての飲み仲間であり、パーティーメンバーである。
親も子もない境遇の冒険者とされる。
ダーレンとは互いの遺品を売って弔い合う約束をしていた。
周囲からはダーレンに殺害されたと誤解されていた。
・所属組織、地位や役職
元冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
ダンジョン探索中に重傷を負い、自身を置いていくようダーレンに頼む。
生前の約束通り、自分の装備を売り払って上等な酒で弔うよう依頼した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
彼の死と装備売却が誤解を生み、ダーレンが冤罪をかけられるきっかけとなった。
展開まとめ
第145話
エルマとルーチェの挟撃
森の中でダーレンとの戦いが続く中、エルマはルーチェに背後へ回るよう指示した。ルーチェが勢いよく飛び出すと、エルマは「シールドバッシュ」で彼女をさらに押し出し、二人でダーレンを挟み込もうとする。
しかしダーレンは素早く身をかわし、攻撃を避けて駆け抜けた。そこでエルマが足元を狙い、逃げようとするダーレンの影を「影踏み」で捉える。
エルマは、うまく追い込んだルーチェを称えながらダーレンを拘束した。対するダーレンは面倒そうにナイフを抜き、エルマへ斬りかかる。その一撃は速いうえに重く、受けたエルマも思わず「重い」と驚くほどであった。それでもエルマは足を離さず、ダーレンの影を押さえ続けた。
「火の輪潜り」で拘束を突破
動きを封じられたダーレンへ、今度はルーチェが背後から襲いかかった。
ところがダーレンは炎の輪をまとい、「火の輪潜り」で一気に上空へ跳ね上がる。エルマはそれがスキルツリー「宵闇の曲馬団」の回避スキルであることを見抜いた。
木の上へ逃れたダーレンは、影を踏み続けるエルマへ「その邪魔くせぇ足どけろよ」と言い放つ。そのまま高所から矢を射掛けられ、エルマは「影踏み」を維持したままではいられなくなる。
拘束を解いたことでダーレンは再び自由になった。
ルーチェの必殺を幻影でかわすダーレン
それでもルーチェは諦めなかった。自分の一撃さえ届けばいいとダーレンへ迫り、「ダイススラスト」を放つ。
ナイフの先に「6」が現れ、ルーチェの強烈な一撃が炸裂する。攻撃は太い木を叩き砕き、そのままダーレンを捉えたかに見えた。
だが、刃が貫いたダーレンの姿はその場から消失した。
別の場所には、すでに弓を構えたダーレンが立っていた。強烈な攻撃をかわしたダーレンは、ルーチェの一撃そのものは認めながらも、「死神の凶手」を警戒し過ぎたと笑う。そして、大振りで単調な攻撃なら百回繰り返されても当たらないと挑発した。
宙にいるルーチェへ、ダーレンの弓が向けられる。
ルーチェを救った一矢
ダーレンの矢が、身動きの取りづらいルーチェへ一直線に飛んだ。
その瞬間、横から一本の矢が飛来する。
二本の矢は空中でぶつかり、ダーレンの放った矢はルーチェから逸れた。突然の出来事にダーレンもエルマも目を見開く。
矢を放ったのはケルトであった。
先ほどまで木陰にいたケルトは弓を手に立ち、ダーレンを睨みつける。そして怒りをむき出しにして叫んだ。
ダーレンだけは、自分がぶっ殺してやる――。
エルマとルーチェが追い詰めてもなお翻弄し続けたダーレンに対し、ついにケルトが自ら戦う意思を示した。
第146話
三大回避スキルを涸らす唯一の突破口
ケルトが戦線へ戻ったものの、エルマはルーチェたちがダーレンに翻弄され続けている現状を冷静に見ていた。焦るルーチェへ、今のダーレンは命懸けで距離を詰めても、回避スキルによって攻撃をことごとくかわしてしまう相手だと告げる。
それでも突破方法が皆無というわけではなかった。
エルマが着目したのは、ダーレンが使う三種類の回避スキル――「脱兎」「火の輪潜り」「朧身の術」である。いずれも窮地から瞬時に逃れる強力な技である一方、再使用までには約四十秒を必要とする。
ならば答えは一つ。
ダーレンの思考を読み切り、三つの回避スキルを次々と使わせる。そして全てが再使用できない時間帯に、間髪入れず本命の一撃を叩き込むのである。
しかし、それは口で言うほど簡単な攻略法ではなかった。ダーレンは回避スキルだけに頼る相手ではなく、弓、ナイフ、そして自らの技量まで併せ持つ強敵だった。
五メートルの間合いを見抜かれたルーチェ
ダーレンの矢を警戒しながら距離を取るルーチェだったが、その慎重ささえ相手には筒抜けだった。
ダーレンは、ルーチェが必死に保っている五メートルほどの距離を見抜き、それ以上近づかれれば矢へ対応できないと自分から教えているようなものだと嘲る。
その言葉どおり、ダーレンは一気に間合いを詰めて射撃を仕掛けた。
ルーチェは矢をかわし、そのまま反撃へ転じる。だが、そこまで含めてダーレンの狙いだった。ルーチェのナイフを身体を反らしてかわした彼の手には、すでに別の刃が握られていた。
ダーレンが繰り出したのは「ジャックジョーカー」。
巨大な刃がルーチェへ襲いかかり、脇腹をまともに捉える。ルーチェは吹き飛ばされ、その場に倒れ込んだ。
ダーレンは、引くと見せかけて押し、押すと見せかけて引くのが定石だと吐き捨てる。真正面から反応してしまったルーチェを、あまりにも素直だと切り捨てた。
ケルトの救援も、ダーレンには通じない
倒れたルーチェへ追撃しようとしたダーレン。その前へ飛び込んだのがケルトだった。
ケルトはナイフを振るってダーレンを止めようとするが、待っていたのは圧倒的な技量差であった。
二人のナイフが激しくぶつかる。
だがダーレンはケルトの攻撃を捌き、その武器を弾き飛ばす。そしてケルトへ、自分にナイフの扱いを教えたのが誰だったか忘れたのかと突きつけた。
続けざまに蹴りを叩き込み、さらに距離の開いたケルトへ弓を向ける。
放たれた矢はケルトの身体を捉えた。
ルーチェに続き、ケルトまでも地面へ倒れる。
戦線へ戻ったばかりのケルトだったが、ダーレンはその意地すら力ずくでねじ伏せた。
エルマが仲間を戦場から逃がす
ケルトへの追撃を止めるため、今度はエルマがダーレンへ斬り込んだ。
エルマは剣を振るいながら「影踏み」を狙う。しかしダーレンは「脱兎」を発動し、一気に後方へ跳んで拘束から逃れた。
その瞬間、エルマは倒れているケルトへ向きを変える。
「シールドバッシュ」。
盾の一撃でケルトの身体を弾き飛ばし、ダーレンから距離を取らせたのである。
吹き飛ばされたケルトは、メアベルのいる場所まで運ばれる。ルーチェもまた戦線から離れ、傷ついた仲間たちは次々と前線から退いていった。
エルマはそこで改めて痛感する。
三回どころか、ダーレンに回避スキルを二回続けて使わせることさえ難しい。しかも厄介なのはスキルだけではない。白兵戦でもダーレンは強く、ナイフと体術を組み合わせた戦いまでこなしていた。
三つの回避スキルを封じれば勝てる――そんな単純な相手ではなかった。
残されたエルマと「英雄気取りのイカレ野郎」
ルーチェ、ケルト、メアベルはいずれも傷を負い、すぐに戦線へ戻れる状態ではなくなった。
ダーレンは周囲を見渡し、今の攻防で一人も仕留められなかったことを惜しみながらも、戦力として復帰できないのであれば同じことだと言い放つ。
エルマも、もはや後がないことを悟る。
十分な隙を見切ったわけではない。それでも、ここで勝負に出るしかなかった。
弓を構えるダーレンを前に、エルマは彼がカロスのようなスキル頼みの相手ではないと告げる。
するとダーレンは鼻で笑った。
自分を、あんな三流冒険者の「イカレ野郎」と一緒にするな――。
そして最後に吐き捨てたのは、ケルトが英雄として見ていた男への侮蔑だった。
「あの英雄気取りのイカレ野郎が」
その言葉に、エルマの表情が変わる。
第147話
嘲笑されたカロスの「英雄」
ダーレンは、かつて仲間だったカロスを思い出して笑った。教団の命令で異変を追っているふりをしていただけなのに、時折本気で英雄を演じ、冒険者の使命や義務まで語っていたというのである。
だが、その嘲笑はエルマには不愉快だった。
エルマはカロスの演技を見抜けなかった。それは単に騙されたからではない。カロスが口にした言葉には、かつて彼自身が信じていた理想と、偽りの姿の中に残された本心が滲んでいたからである。許されざる大罪人であったことに変わりはない。それでも、彼を知るダーレンがその生き方まで笑いものにすることは、エルマには許し難かった。
その感情が表情に現れた一瞬を、ダーレンは見逃さなかった。
読み負けたエルマ
矢が一直線にエルマへ迫る。
反応が遅れたエルマは盾を投げつけ、矢を弾いて軌道を逸らすと、そのままダーレンへ突進した。距離を詰めれば、回避スキルを発動されるより先に剣が届く――そう踏んで飛び込む。
しかし、ダーレンは逃げなかった。
腰を落としたその手には、赤黒い光をまとったナイフがあった。
「ジャックジョーカー」。
引くと見せかけて押す。ルーチェを仕留めたのと同じ誘いである。ダーレンは、仲間に焦るなと忠告していた本人が飛び込んできたことを嘲り、伸びた刃でエルマを斬り裂いた。
攻撃を受けたエルマは吹き飛ばされ、膝をつく。
ダーレンは勝負が決したと笑った。散々こちらの手口を見抜いたような口を利きながら、結局は見え透いた罠に掛かった――その言葉通り、この一手の読み合いではエルマの完敗であった。
だが、エルマは剣を手に再び立ち上がった。
「今の読み合いに限っては、俺は負けても良かった」
敗北を利用した最後の準備
エルマが確認したかったのは、ダーレンが「宵闇隠形」の戦術をどこまで理解し、それを徹底しているかであった。
敵の行動を読むには、まず相手が何を前提として戦っているかを掴まなければならない。そのためにエルマは、自ら飛び込み、ダーレンが予想通り「ジャックジョーカー」で迎撃することを確かめたのである。
さらに、もう一つの狙いがあった。
ダーレンの攻撃を受けたことで、エルマのHPは限界まで削られていた。
その身体から黒い気配が噴き上がる。
「死線の暴竜」――そして「不惜身命」。
低HPを条件とする強化を発動させたエルマの全身に力が満ちる。ここから先は、防御よりも攻撃と速度へ全てを振り切った背水の勝負であった。
ダーレンもその姿を見て、ようやく来たかと挑発する。
互いに武器を構える。
勝負は一度。
回避スキルの先を読み、逃げるダーレンへ食らいつき、一撃を叩き込めればエルマの勝ち。逆に読み違えれば、その時点で終わりである。
三つの回避を涸らせ
先に動いたのはエルマだった。
ダーレンの矢をかわしながら一気に距離を詰め、剣を振るう。
ダーレンは炎をまとって後方へ跳躍した。
「火の輪潜り」。
エルマの剣は空を切った。
だが、エルマは止まらない。その回避先へ即座に追いすがる。
ダーレンが焦るなと声を飛ばしても、今度のエルマは迷わなかった。先ほどの読み負けによって、ダーレンの戦い方はすでに確認している。
そして「火の輪潜り」を一度使わせた。
残る回避は――あと二回。
回避スキルを涸らせば、勝つ。
死線に踏み込んだエルマは、逃げ続けるダーレンを追ってさらに加速した。
第148話
三大回避スキルを追い詰めるエルマ
「火の輪潜り」で距離を取ったダーレンを、エルマは止まらず追い続けた。次にダーレンが選んだのは、左右へ高速で揺さぶる「脱兎」である。
しかしエルマは、その動きに惑わされなかった。逃走経路を読みながら最短距離を突き進み、回避スキルで離されても再び肉薄していく。
予想以上に食らいついてくるエルマを前に、ダーレンの表情にも焦りが滲み始めた。
残された大きな回避手段は「朧身の術」。だがダーレンはナイフを引き、エルマの胸元へ視線を向ける。「ジャックジョーカー」で迎え撃つかのような構えだった。
それでもエルマは突っ込んだ。
ダーレンの姿が揺らぎ、幻影となって消える。
最後に選んだのは、やはり「朧身の術」であった。
勝敗を分ける最後の二択
三つの回避スキルを使わせた。
残る問題はただ一つ。「朧身の術」でダーレンがどこへ逃げたのか。
目の前には大木があり、逃走先は右か左の二択となっていた。
エルマは右へ駆け込む。
この先にダーレンが現れれば、そのまま一撃を叩き込める。
だが――そこにダーレンはいなかった。
反対側から現れたダーレンは弓を構え、自分の勝利を確信して笑う。ここまで回避スキルを読み切って追い詰めながら、最後の最後でエルマは二択を外したのである。
ダーレンは、重騎士エルマの名を覚えておくと言い放った。
三大回避スキルをすべて吐かせても、最後の逃走先を外せば届かない。
エルマの勝負は、あと一歩のところで届かなかった。
ダーレンの癖を知るケルト
だが、そのときダーレンの視線がエルマから逸れた。
反対側から飛び込んできたのは、戦線を離れていたはずのケルトだった。
「焦ったとき、テメェは必ず利き手側を選ぶクセがある!」
ケルトはダーレンの癖を覚えていた。
かつて共に戦ってきたからこそ分かる、追い詰められたときの選択。その癖は今も変わっていなかったのである。
ダーレンは即座にケルトへ矢を放つ。
矢はケルトの身体を捉えた。
ダーレンは毒が入ればそこで終わりだと笑いかけるが、ケルトの身体には淡い光が浮かんでいた。
「ポイゾプロテクト」。
メアベルがケルトを回復させるだけでなく、毒への対策まで施していたのである。
遠くの木陰で力を使い果たしかけながら、メアベルはケルトへ託していた。
こんなんじゃ俺は止まらねえ
毒によって足を止める――それがダーレンの戦い方だった。
だが、その前提が崩れた。
矢を受けてもケルトは止まらない。
血を流しながら、それでもナイフを握り締め、ダーレンへ突進する。
「こんなんじゃ俺は止まらねえぞォ!」
第149話
ケルトが託された時間
ダーレンへ食らいついたケルトは、自分が巻き込んだうえに足まで引っ張ったのだから、ここで踏ん張らなければただのクズになってしまうと叫んだ。メアベルが無理をして残したMPも、自分に託されたものだと理解していたのである。
ダーレンは、瀕死のケルトの攻撃など通用しないとナイフを弾き飛ばした。
だが、ケルトの狙いは最初から斬ることではなかった。
武器を失った瞬間、ケルトはそのままダーレンの足へ飛びつき、身体ごとしがみついた。逃げようとするダーレンを必死に止め、エルマが追いつくための時間を稼ぐ。
エルマが「火の輪潜り」を使わせてから、37秒。
ダーレンの回避スキルが再び使えるようになる、その直前であった。
「燻り狂う一撃」がダーレンを捉える
追いついたエルマを見て、ダーレンは「こんなところで終わって堪るか」と叫び、赤黒い光をまとったナイフを構えた。
迎え撃つのは「ジャックジョーカー」。
だがエルマは、その間合いの外から攻撃を叩き込んだ。
「燻り狂う一撃」。
エルマの背後に荒れ狂う竜の姿が浮かび、剣とともに巨大な一撃がダーレンを襲う。
ナイフは砕け、ダーレンの身体は大きく吹き飛ばされた。
ケルトが無理やり繋いだ数秒が、ついにエルマの攻撃を届かせたのである。
ダーレンとギースの約束
倒れながら、ダーレンの脳裏にはかつての仲間ギースとの記憶が蘇っていた。
二人には親も子もいなかった。
そんな自分たちが冒険の途中で死ねば、遺品はギルドに渡るらしい。ならば、どちらかが先に死んだときは、その装備を売り払い、普段は飲めないような上等な酒で弔おう。
二人はそんな約束を交わしていた。
やがてギースは探索中に重傷を負い、自分を置いていけとダーレンへ告げた。そして装備を託し、以前の取り決めどおり景気よく弔ってくれと頼んだ。
ダーレンはギースを残し、一人で帰還した。
約束を果たすため、ギースの装備を売り、高級酒を飲んだ。
しかし、その行動がすべて裏目に出た。
仲間の武器を闇で売った。仲間が死んだ日に高い酒を飲んだ。探索から戻ってから様子がおかしかった。
それらが積み重なり、いつしか「ダーレンがギースを殺した」という噂が広まっていった。
ダーレンがケルトを裏切った理由
疑惑が広がる中、ダーレンはラコリナを離れることを決めた。
だがその前にギルドへ忍び込むと、そこでケルトが他の冒険者と殴り合っていた。
理由はダーレンを庇うためだった。
ケルトは、ダーレンが仲間を殺すはずがないと信じ、周囲からどれだけ罵られても引かなかった。
ダーレンはその姿を見ていた。
自分はただ都合がいいからケルトを舎弟にし、気が向いたときに師匠ぶっていただけだった。それでも、自分を信じてくれるケルトの存在は嬉しかった。
同時に、このままではケルトまで巻き込まれると考えた。
そこでダーレンは、ケルトが大切にしていた父親の形見の弓を騙して質に入れさせ、その金を持って逃げたように見せかけた。
ケルトから見れば、自分は最低の裏切り者になる。
それでいい。
二度と自分を庇わずに済むようにするためであった。
そしてダーレンは、受け取った金さえ川へ投げ捨て、街を去った。
最後に胸の内で、ケルトとの冒険者暮らしは案外悪くなかったと振り返る。
次に会うときは、きっと敵同士。
だから二度と顔を合わせないことを願いながら。
第150話
ケルトの胸に残っていた教え
振り返れば、ダーレンがケルトに冒険者としての生き方をまともに教えてくれたことは、ほとんどなかった。
不器用な動きを笑い飛ばし、その場で思いついたような助言を投げるだけ。ナイフの扱いも、冒険者としての立ち回りも、ケルトはダーレンの姿を見ながら必死に盗んできた。
そんな中、酒に酔ったダーレンが語った言葉だけは、今もケルトの記憶に残っていた。
同業者を簡単に信用するな。冒険者とは荒っぽく、狡くなければ生き残れない。他人を顧みず、甘さを見せれば食い物にされる――普段のダーレンそのもののような教えだった。
だが、その最後に彼は一つだけ付け加えていた。
誰かが手を差し伸べてくれたなら、その恩には必ず報いろ。それは相手のためではなく、自分自身のためだ。人の善意まで食い物にしてしまえば、最後には何も残らない。
そうしていれば、いつか背中を預けられる仲間ができる。
普段なら聞き流していたはずのダーレンの言葉が、この時ばかりはケルトの胸に深く残っていた。
敗北してなお牙を隠すダーレン
エルマの強烈な一撃を受けたダーレンは地面に倒れ、自分の戦い方が破られたことを受け入れられずにいた。
それでも諦めず、手を伸ばした先には自分の弓があった。だが、ルーチェがすぐさま駆け込み、その弓を蹴り飛ばす。
追い詰められたダーレンは、自分は教団に雇われただけの傭兵であり、知っていることならすべて話すから命だけは助けてほしいと降伏を申し出た。
しかし、それも最後の騙しだった。
ふらつきながら立ち上がったダーレンの手には、隠し持っていたナイフが握られていた。
「油断してんじゃねぇよ」
瀕死の身体で最後の攻撃に出たダーレンが狙ったのは、メアベルだった。
ダーレンの最期
メアベルへ襲いかかるダーレン。
その攻撃を止めたのはケルトだった。
ケルトはダーレンの腕を掴み、最後の一撃を阻んだ。
もはや身体の限界を迎えていたダーレンは、目の前のケルトを見て笑う。
「クク……なんだケルト」
人間嫌いだったお前が、いっちょ前になりやがって――。
かつて酒の席で、手を差し伸べてくれた相手への恩には必ず報いろ、そうすればいつか背中を預けられる仲間ができると語ったダーレン。そのケルトの周囲には、今やエルマ、ルーチェ、メアベルがいた。
その姿を見届けるようにして、ダーレンは力尽き、地面へ倒れた。
直後に経験値獲得とレベルアップが表示され、ダーレンの死が確認された。
ケルトの涙
戦いが終わり、エルマはケルトへ声をかけた。
ケルトはダーレンを前にした自分の行動を受け止めたあと、エルマ、ルーチェ、メアベルへ頼んだ。
「ちょっとだけ背向けてくれねぇか」
三人はその言葉を受け入れ、ケルトへ背を向けた。
静かな森の中、背後からケルトの嗚咽が聞こえてきた。
こうしてエルマたちはハウルロッド侯爵家の石碑を背に、特別昇級試験の終わりを迎えた。
第151話
特別昇級試験からの帰還
ダーレンとの死闘を終えたエルマたちは、選定の森の入口にあるギルドの拠点へ戻った。
そこにはすでに多くの冒険者が帰還していたが、負傷者も多く、侯爵家の兵士たちは救護や情報収集に追われていた。牛骨の兜をかぶった冒険者からは、エルマたちも試験を諦めて戻ってきたと思われるほど、その表情には疲労が滲んでいた。
今回の特別昇級試験は、単純に強い魔物を倒せばいいものではない。エルマは、この試験が大討伐に参加できるほどの実力者を見極めるためのものだったと理解していた。
一行はその場を離れ、ギルド長ハレインがいる天幕へ向かった。
夢神の尖兵・ダーレンの襲撃を報告
エルマはハレインに、石碑の前で「夢神の尖兵」と思われるダーレンから襲撃されたことを報告した。
ダーレンは過去にラコリナを離れた冒険者であり、現在は教団側に身を置き、カロスを倒したエルマたちを狙って現れた。そして激戦の末、エルマたちはダーレンを討ち取った。
報告を聞いたハレインは表情を引き締め、石碑周辺を巡回している兵士にも確認を取ると告げる。
だが、そこでケルトが堪え切れず声を荒らげた。
かつてダーレンに仲間殺しの疑惑が持ち上がったとき、ギルドや貴族がきちんと動いていれば、今回のような事態にはならなかったのではないか。
ケルトにとって、それは長年抱えてきた怒りだった。
ダーレンはギースを殺していなかった
しかし、ハレインから返ってきた答えは、ケルトが想像していたものとは違った。
ダーレンと共に行動していたギースの死は、調査上、十中八九事故だったのである。
ケルトは動揺する。
ギースの武器を売り、その金で酒を飲み、さらに自分を裏切って父親の形見まで質に入れた。だからこそ、ダーレンがギースを殺したのだと信じる理由は揃っていた。
だがハレインによれば、ダーレンが実際に行ったのは、死亡した仲間の武器をギルドへ届けず売却した横領だった。
当時、ダーレンを快く思っていなかった一部の冒険者たちが騒ぎ立て、ギルドも殺人事件として動いている、他にも余罪があるといった憶測まで広めていたのである。
つまり、ダーレンはギース殺しの犯人ではなかった。
それでも、その後に教団へ身を落とし、国に害をなす犯罪者になった事実まで消えるわけではない。
ハレインは、ダーレンが悪評によって冒険者としての信用を失い、その果てに教団へ加担したのなら、ギルドの未熟な仕組みにも責任の一端があるとして、ケルトへ頭を下げた。
ケルトも怒りを収め、自分の八つ当たりだったと謝罪した。
父親の形見だけが残した疑問
話を聞き終えたケルトは、黙り込んだ。
ギースの死が事故だったのなら、これまで信じていたダーレンの過去は大きく形を変える。
そしてエルマには、一つだけ腑に落ちないことが残った。
ダーレンが最後にケルトから騙し取った、父親の形見の弓である。
ギースの武器を売った理由は判明した。しかし、ケルトの大切な弓まで奪った理由だけは別だった。
もしあの一件がなければ、ケルトは罪人となったダーレンを追いかけ、同じ道へ踏み込んでいたかもしれない。
エルマは、ダーレンがケルトを自分から引き離すため、あえて恨まれるような行動を取った可能性に思い至る。
だが、その真意を本人に確かめることはもうできない。
ダーレンがその後、夢神の尖兵となり、実際にエルマたちへ牙を剥いた事実も変わらなかった。
過去を知っていたとしても、最後の戦いの結末は変えられなかった――エルマはそう考えた。
ケルトの「ありがとう」
すべてを聞き終え、ケルトは仲間たちと歩き出した。
そしてエルマへ声をかける。
「ありがとうな。この試験に誘ってくれて」
その表情には、これまでの険しさとは違う穏やかな笑みが浮かんでいた。
エルマ、ルーチェ、メアベルも、その言葉を静かに受け止める。
ダーレンとの再会は、ケルトにとってあまりにも重いものとなった。それでも彼は、師匠の死と、その過去に隠されていた事実を知ったうえで仲間たちのもとへ戻ってきた。
第152話
特別昇級試験を破格の成績で突破
〈夢神の尖兵〉ダーレンの襲撃を受けたことで、特別昇級試験は予定より早く終了した。
その数日後、ラコリナの広場では昇級者を称える式典が開かれ、エルマ、ルーチェ、ケルト、メアベルの四人も人々の前へ並んでいた。
試験監督を務めたハレインは、彼らが本試験を破格の成績で突破したと宣言する。
準A級は決して軽い称号ではない。国の安寧を守る次代の勇者として見出された証であり、その中でもエルマたちは筆頭だというのである。
周囲の冒険者たちも、彼らが「祟り神アナク」を討伐したと知ってざわめく。強大な魔物を仕留めた若い一行へ、驚きや羨望の視線が集中した。
その空気にルーチェは落ち着かなげだったが、ケルトとメアベルは対照的に堂々としていた。
一方、立派な演説を終えたハレインは、エルマたちが〈夢神の尖兵〉の刺客まで倒したうえに強大な魔物まで討伐していたことに改めて頭を抱える。
十年に一度あるかどうかという出来事を立て続けに持ち込まれ、さすがのハレインも疲労を隠しきれない様子だった。
ケルトを容赦なく弄るメアベル
式典を終えた四人は、酒場で昇級祝いを開いた。
そこでメアベルは、試験開始時のケルトを真似ながら、
「このくだらねぇ試験と仲良しごっこを、とっとと終わらせるんよ」
と蒸し返す。
ケルトは露骨に嫌そうな顔をするが、メアベルの追撃は止まらない。
私情で皆を試験へ巻き込み、終始不機嫌で周囲に気を遣わせたのだから、今日はケルトの奢りだと言い切ったのである。
ついにケルトも、
「わかったよ! 俺が出しゃいいんだろうが!」
と折れた。
メアベルは大喜びし、ルーチェと二軒目の相談まで始める。
だが、その遠慮のない態度に救われたのも事実だった。ケルトも、妙に気を遣われ続けるより、このくらい直接言われるほうが楽だと受け入れていた。
ケルトが選んだ次の道
騒ぎが落ち着くと、ケルトは改めて三人へ頭を下げた。
ダーレンと決着をつけることができたこと、そしてそのために力を貸してくれたことへの感謝だった。
まだ完全に気持ちを切り替えられたわけではない。
それでも、自分自身でダーレンと向き合ったからこそ分かったこともあった。もし知らない誰かにダーレンが討たれていたなら、何が真実だったのか分からないまま一生引きずっていたかもしれない。
ケルトは、ダーレンが誰かに唆されただけの被害者だったとは考えなかった。追い詰められれば悪事にも手を染めるような男だったと理解したうえで、それでも師匠だった男の始末は弟子である自分がつけるべきだったと語る。
そしてエルマへ、新たな頼みを口にした。
これから行われる「大討伐」に、自分も連れて行ってほしい。
ダーレンが何に手を貸していたのか、その先を自分の目で確かめたかったのである。
エルマはその申し出を受け入れた。
するとメアベルも、自分だけ仲間外れは嫌だと参加を申し出る。エルマたちといれば退屈しないうえ、ケルトを放っておけばまた突然飛んできた矢に射られかねないとまで言われ、ケルトは言い返せずに詰まった。
こうして、ダーレンを追うためだけに一時的に組んだはずだった四人は、大討伐でも再び共に戦うことになった。
アイザス伯爵が選ぶ「マリス」
その頃、エドヴァン伯爵領ではアイザス伯爵のもとへハーデン侯爵から書状が届いていた。
内容は、迫る大討伐についてのものだった。
ハーデン侯爵は準A級冒険者たちも戦力として投入するつもりであり、アイザスはその方針を快く思っていなかった。
冒険者へ国を守る役目まで委ねれば、いずれ貴族家の権威と力そのものが失われていく――そう危惧していたのである。
だからこそ、今回の大討伐はエドヴァン家が貴族としての強さを示す機会でもあった。
アイザスは一つの決断を下す。
「マリスのお披露目としよう」
第153話
マリス――“血染め姫”のお披露目
大討伐を前に、アイザス伯爵はエドヴァン家の戦力をどう示すか思案していた。
冒険者を戦力としてかき集めるハーデン侯のやり方を好ましく思わないアイザスにとって、貴族とは自ら剣を取り、国を守る責任を負う存在である。ハーデン侯から戦力を借りるだけでは、エドヴァン家が衰えたと他家に見られかねない。
そこでアイザスが大討伐へ投入しようと考えたのが、次期当主候補のマリスだった。
剣聖の加護を得てまだ日が浅いにもかかわらず、すでに高い戦闘能力を備え、単独で強敵を討つほどの実力を持つマリス。その一方で、魔物や野盗を必要以上に痛めつけて仕留める残忍な戦い方から、陰では「血染め姫」と呼ばれていた。
不安定な一面を承知しながらも、アイザスはマリスならばエドヴァン家の強さを世に示せると考える。自らとマリスが大討伐で力を示せば、家の威信を守れる――それがアイザスの狙いだった。
ハーデン侯がエルマを貸し出す理由
同じ頃、ハウルロッド侯爵邸では、ハーデン侯が黒翼の騎士を前に上機嫌でエルマについて語っていた。
〈夢神の尖兵〉を二人も返り討ちにしたエルマを、ハーデン侯は高く評価している。それどころか、娘スノウの婿にしてもよいと笑いながら口にするほどだった。
だが、大討伐ではエルマを自分の傍に置くつもりではない。
戦力不足を訴えるアイザス伯へ、エルマを戦力として貸し出すつもりなのである。
もちろん、それは単なる親切ではなかった。
ハーデン侯は、この機会にアイザスとエルマの関係を直接確かめようとしていた。アイザスが本当に剣聖の加護に固執してエルマを遠ざけたのか。それとも、その裏に別の意図があるのか。
そして何より、底の知れないエルマ自身が何者なのか。
大討伐という舞台を利用し、その両方を見極めようとしていた。
エルマを当主へ――ハーデン侯のさらに先の一手
ハーデン侯の思惑は、それだけでは終わらない。
大討伐でのアイザスの働きと、父子の関係次第では、エルマを再びエドヴァン伯爵家の当主候補として擁立することまで考えていた。
その場合、スノウをエルマへ嫁がせ、両家の繋がりを作ることも視野に入れている。
黒翼の騎士が内政干渉ではないかと驚くと、ハーデン侯は、不当に追い出された元次期当主と実家の仲を取り持つだけだと笑ってみせる。
もっとも、以前エルマ本人へ探りを入れた際には、貴族の地位そのものに執着していない様子だった。
それでもハーデン侯は、エルマとアイザスを同じ大討伐へ送り込み、その先に何が起こるのかを見定めようとしていた。
「エルマではいかんのだ」
一方、アイザスの胸にもエルマへの思いは残っていた。
使命感があり、腕も立つ。
それでもアイザスは、静かに結論を下す。
「……エルマではいかんのだ」
エドヴァン伯爵家は代々、当主の圧倒的な剣によって威信を守ってきた。
加護の力が冒険者にも広く行き渡り、その神秘性が薄れつつある今だからこそ、当主には誰もが一目で認めるほどの「剣聖としての華」が必要だと、アイザスは考えている。
その条件を満たす存在として、彼が選んでいるのがマリスだった。
だが皮肉にも、そんなアイザスのもとへハーデン侯はエルマを送り込もうとしている。
追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する 一覧

あらすじと考察は本文で詳しく解説。

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