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フィクション(Novel)読書感想魔女と傭兵

小説「魔女と傭兵 3 ジグとシアーシャ、カチコム」感想・ネタバレ

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魔女と傭兵3の表紙画像(レビュー記事導入用) フィクション(Novel)

魔女と傭兵2レビュー
魔女と傭兵全巻まとめ
魔女と傭兵4レビュー

Table of Contents

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  1. 物語の概要
    1. ■ 作品概要
    2. ■ 主要キャラクター
    3. ■ 物語の特徴
  2. 書籍情報
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 考察・解説
    1. 異文化と食習慣
      1. 魔術による保存技術と生食への衝撃
      2. 砂糖の価値と豊かな食生活
      3. 極限を生きる傭兵の食習慣と異民族のゲテモノ
      4. 回復術の反動と食事への執着
      5. まとめ
    2. 魔力生命体の脅威
      1. 純粋な魔力生命体という特異性と再生力
      2. 不可視の衝撃波と高威力の魔術攻撃
      3. まとめ
    3. 新魔術の開発
      1. 開発のきっかけと目的
      2. 新魔術の仕組みと実用性
      3. 危険性と秘匿の必要性
      4. まとめ
    4. 亜人差別と対立
      1. 日常に潜む差別と偏見
      2. 排斥を正当化する宗教「澄人教」
      3. 社会的弱者としての異民族
      4. 冒険者クラン「バーディア」の狂気
      5. 余所者であるジグとシアーシャの視点
      6. まとめ
    5. 傭兵の過去と師弟
      1. 極限状態の戦場での出会い
      2. 師ヴィクトールとの関係と実践的な教え
      3. まとめ
  6. 登場キャラクター
    1. 主要キャラクター
      1. ジグ=クレイン
      2. シアーシャ
    2. 冒険者
      1. アラン
      2. グロウ
      3. ウルバス
    3. 冒険者クラン「ワダツミ」
      1. ベイツ
      2. ミリーナ
      3. セツ
      4. ケイン
      5. アキト=カスカベ
    4. 冒険者クラン「バーディア」
    5. 冒険者ギルド
      1. アオイ=カスカベ
      2. シアン
    6. 鍛冶屋
      1. ガント
    7. 病院
      1. ドレア
    8. ジィンスゥ・ヤ
      1. イサナ
      2. 族長
    9. マフィア / 裏社会
      1. ヴァンノ
      2. お嬢
    10. 百翼兵団
      1. ディバルトス=クレイン
      2. ヴィクトール=クレイン
    11. 集団
      1. 冒険者クラン「ワダツミ」
      2. 澄人教
      3. 緑鱗氏族
      4. ジィンスゥ・ヤ
      5. 冒険者クラン「バーディア」
      6. アグリェーシャ
      7. 百翼兵団
  7. 展開まとめ
    1. 一章 見慣れた火種と見慣れぬ日常
    2. 二章 異物と余所者、慮外者
    3. 二章 異物と余所者、慮外者
    4. 三章 我が前に道はなし
    5. 四章 弱兵どもが夢の跡
    6. 番外編 生きるという選択
  8. 魔女と傭兵 シリーズ
  9. その他フィクション

物語の概要

■ 作品概要

『魔女と傭兵 3』は、WEB小説発の本格バトル&ハイファンタジー作品の第3弾である。 物語の舞台は、失われた魔術や凶悪な魔獣が存在し、過酷な弱肉強食の理が支配する異世界である。
本作は、賞金首の強力な魔獣が出現した影響で、等級不足のシアーシャが冒険者家業を一時休業せざるを得なくなるところから始まる。不本意ながら休息をとることになったジグとシアーシャは、朝市に出かけた際に人間と亜人の諍いを目撃するが、二人とも他人の争いには興味を持たずその場を後にする。しかし、この人種間の問題は想像以上に根深いものであった。 休息のはずが仕事を請けてしまったジグは、討伐された魔獣の中から現れたイレギュラーな寄生型の魔獣との死闘に巻き込まれ、同行者を庇って瀕死の重傷を負う。一方のシアーシャも自身の依頼を妨害され、魔女としての圧倒的かつ容赦のない力を見せつけることとなる。不測の事態に直面する二人の姿と、背後で蠢き始めた新たな不穏な影が描かれる。

■ 主要キャラクター

  • ジグ: 本作の主人公であり、実力と合理性を重んじる凄腕の傭兵である。自身は魔力を持たないが、高度な体術や双刃剣を駆使して戦う。今巻では強敵であるイレギュラーな魔獣との戦いで、若手の魔術師を身を挺して守り抜き、重傷を負うというプロの傭兵としての矜持を見せる。
  • シアーシャ: かつて「沈黙の魔女」と呼ばれた存在。規格外の魔力量と回避を許さない圧倒的な制圧力を有する。今巻では等級不足により冒険者を休業し街の文化に触れるが、後に自身の依頼を妨害した者に対して激怒し、圧倒的な力で徹底的な制裁を下す。
  • ディバルトス&ヴィクトール: 「百鬼兵団」とも呼ばれる精強な傭兵集団「百翼兵団」を率いる団長と副団長。番外編の過去編に登場し、凄惨な戦場跡で飢餓状態にあった幼き日のジグを見出し、傭兵として生きる道を提示した人物たちである。

■ 物語の特徴

本作の魅力は、倫理観の異なる過酷なファンタジー世界において、主人公のジグが「傭兵」としてのシビアなプロフェッショナリズムを一切崩さない点である。 第3巻では、人間と亜人の間に存在する種族間差別といった重い社会問題が提示されると同時に、予測不能なイレギュラー魔獣との手に汗握る激戦が描かれる。凄惨な死闘の直後、治療魔法で傷が癒えたジグの腹の虫が最大の音量で鳴り響くといった、緊迫感と人間味あふれるユーモアのギャップも読者を強く惹きつける。 また、怒りに触れたシアーシャの容赦ない恐ろしさや、次巻以降へと繋がる伏線が散りばめられている点、さらにジグの原点となる過去が明かされる点など、物語のスケールと深みが一段と増しているのが特徴である。

書籍情報

魔女と傭兵 3
著者:超法規的かえる 氏
イラスト: 叶世べんち 氏
出版社:マイクロマガジン社GC NOVELS
発売日:2024年3月19日
ISBN:9784867165478

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あらすじ・内容

双刃、奔る。
歪な二人が交わるとき、物語は始まる
賞金首のモンスターが出現し、
等級不足のシアーシャは冒険者家業の休業を余儀なくされていた。

不本意ながらも休息となった二人が朝市へと出かけ満喫していると、なにやら周囲が騒がしい。
どうやら人間と亜人の諍いのようだ。

もとより人外であるシアーシャはもちろんのこと、傭兵であるジグもそんな争いには興味がない。
何事もなかったようにその場を後にするジグとシアーシャ。

しかし後に二人は知ることとなる。
この人種間の問題が想像以上に根深いことを……。

魔女と傭兵 3

感想

休息をとるはずだった二人が、図らずも大きな事件に巻き込まれていく様子は、この世界の厳しさと彼らの「らしさ」を際立たせていた。

特に印象に残っているのは、物語の前半、ジグが負った凄惨な深手である。イレギュラーな魔獣との戦いは、手に汗握る展開の連続であった。若手の魔術師を身を挺して守り抜き、身代わりとなって重傷を負うジグの姿には、冷徹な傭兵の内にあるプロとしての誇りを感じて、胸が熱くなった。

瀕死の傷を負いながらも、治療師の魔術によって瞬く間に身体が治っていく描写は、ファンタジーならではの鮮やかさがある。しかし、その直後にジグの腹の虫が最大の音量で鳴り響く場面では、思わず笑みがこぼれてしまった。命がけの戦いのあとに訪れるこうした人間味あふれる一幕こそが、この作品の大きな魅力ではないだろうか。

また、自身の依頼を妨害されたシアーシャが、激しい怒りと共に圧倒的な力を見せつけるシーンも圧巻である。容赦のない力での制裁は、彼女の魔女としての恐ろしさを感じさせると同時に、読んでいて非常に痛快であった。彼女なりの感情の昂りが、行動に表れているようにも受け取れる。

物語の端々には次巻への伏線も散りばめられており、人間と亜人の根深い対立というテーマが、今後どのように彼らの運命に絡んでくるのか興味が尽きない。血と剣戟に彩られた日常の裏側で、確実に動き始めた大きな時代のうねりを感じさせる一冊であった。次の巻での二人の活躍が、今から待ち遠しくてならない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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魔女と傭兵2レビュー
魔女と傭兵全巻まとめ
魔女と傭兵4レビュー

考察・解説

異文化と食習慣

『魔女と傭兵』の作中において、食に関するエピソードは、ジグとシアーシャのいた旧大陸と異大陸との文化的な違いや、戦場を生き抜いてきた傭兵ならではの特異な価値観を浮き彫りにする重要な要素として描かれている。本稿では、その詳細について整理する。

魔術による保存技術と生食への衝撃

異大陸の沿岸部にあるハリアンの朝市では、氷を生成する魔術によって低温保存が容易なため、新鮮な魚介類が豊富に流通している。ここでジグとシアーシャは、人々が魚を生で食べている光景に遭遇し、強いカルチャーショックを受けた。
・彼らがいた旧大陸では、長距離移動中に腹を壊して脱水症状になることは命に関わるため、生食は野菜や果物などに限られ、肉や魚は火を通して食べるのが常識であった。
・シアーシャは過去に川魚の生食で死にかけた経験があるためドン引きしていたが、ジグは将来生のものしか出されない事態が来た時に備えると覚悟を決め、あえて刺身に挑戦している。

砂糖の価値と豊かな食生活

両大陸では特定の食材の価値にも大きな違いがある。
・旧大陸において砂糖は市場にほとんど出回らず、医薬品として扱われるほど貴重なものであった。
・しかし異大陸では多少奮発すれば手に入り、水飴なども料理に広く使われている。シアーシャがギルドの食堂で芋の甘煮を嬉しそうに食べている描写からも、異大陸の食生活の豊かさがうかがえる。
・また、討伐した魔獣である飛烏賊のエンペラステーキをトマトチリソースで味わったり、朝市の露店で地元の男たちから教わりながらサザエや海老の浜焼きを楽しんだりと、未知の食文化に触れながら適応していく二人の姿が描かれている。

極限を生きる傭兵の食習慣と異民族のゲテモノ

異民族ジィンスゥ・ヤの集落で食事をした際、イサナには小海老の素揚げが出されたのに対し、ジグには芋虫の素揚げが出された。
・集落でも今や一部の老人しか食べず、若者が罰ゲームで口にするようなゲテモノであったが、ジグはそれを平然と完食した。
・さらに、戦で食料が尽きた時は生で踊り食いしたこともあると語り、逆にイサナや店員を戦慄させた。
・常に命の危機に晒され、食べられる時に食べるしかない傭兵の極限の食習慣が、異民族の文化すらも凌駕してしまう様子がユーモラスに描かれている。

回復術の反動と食事への執着

ジグにとって、食事は戦うための直接的な燃料である。
・彼が重傷を負って回復術を受けた際、魔力に頼らない生来の回復力と術の相乗効果で驚異的な速度で傷が塞がったが、その反動として莫大なエネルギーを消費し、凄まじい飢餓感に襲われた。
・病院のベッドで腹を押さえて苦しむジグに対し、医者は胃に優しいお粥などを勧めたが、ジグはそれを即座に却下し、粒マスタードのかかった腸詰パンやワインなどを猛烈な勢いで平らげた。

まとめ

傭兵にとって、満足に食事が摂れない状況で燃料切れになることは死活問題であり、食が生命維持や戦闘力に直結する切実な行為であることが示されている。また、食文化の違いや未知の食材への適応を通じて、旧大陸と異大陸の世界観の差異やキャラクターの特異な価値観が鮮やかに描き出されている。

魔力生命体の脅威

『魔女と傭兵』の世界において、物理的な攻撃が通用しない純粋な魔力生命体は、魔力を持たない傭兵ジグにとって単独では打倒不可能な天敵ともいえる脅威である。作中では、賞金首の魔獣の死体から現れた異常成長した魔繰蟲(まくりむし)との死闘を通して、その恐ろしさが描かれている。

純粋な魔力生命体という特異性と再生力

魔繰蟲は、他の魔獣に寄生して宿主の魔力を喰らい成長する寄生生物である。純粋な魔力で構成された生命体であるため、通常の武器による物理攻撃は水をかき回すようなものであり、ほとんどダメージを与えられない。
・実際、ジグが渾身の力で投擲した双刃剣が魔繰蟲の頭部を完全に吹き飛ばしたにもかかわらず、霧が集まるように即座に再生してしまった。
・魔力生命体を倒すには、魔術か魔具による攻撃が不可欠となる。

不可視の衝撃波と高威力の魔術攻撃

魔力生命体である魔繰蟲は近接戦闘を行わず、強力な魔術を主体とする。
・不可視の衝撃波:予兆や攻撃範囲が読みにくく、回避が極めて困難な面制圧攻撃である。冒険者たちが展開した防御術を貫通し、一撃で部隊を吹き飛ばして半壊状態に陥れるほどの絶大な威力を誇った。
・黒い斬撃:対象を正確に狙い撃つ高威力かつ高速の攻撃で、障害物を切り裂きながら迫り、標的を追い詰める。

まとめ

魔術も魔具も使えないジグは、自らの攻撃では有効打を与えられないと判断し、魔術師であるセツが攻撃準備を完了するまでの時間稼ぎと陽動に徹した。ジグは魔繰蟲の斬撃を避け続けながら、魔力を分解する性質を持つ蒼金剛の硬貨を指弾として撃ち込み、敵の術の発動を一瞬だけ妨害して時間を稼いだ。最終的に、ジグが魔繰蟲の攻撃からセツを抱えて回避した直後、セツが魔力の限界まで練り上げた無数の氷槍の魔術を魔繰蟲に直撃させた。魔力でできた体に氷槍が突き刺さることで黒い靄(魔力)が流出し、ようやく魔繰蟲は砂のように崩れ去って消滅した。

新魔術の開発

『魔女と傭兵』において、シアーシャによる新魔術の開発は、彼女が冒険者としての実用性と効率性を追求する中で行われた。本稿では、その開発の背景、特殊な仕組み、そして実戦での成果と限界について整理する。

開発のきっかけと目的

シアーシャは賞金首への手出しをギルドから禁じられた際、その鬱憤を晴らすために魔獣を徹底的に蹂躙してしまった。
・その結果、魔獣の死体は原形をとどめない肉塊と化し、討伐証明部位や有用な素材が全く回収できないという事態を引き起こした。
・これまで人間相手の戦闘しかしてこなかった彼女の魔術は殺傷力や破壊力に特化していたため、素材の損壊を防ぎつつ効率よく魔獣を討伐するための使い勝手のいい魔術を新たに開発する必要性に迫られた。

新魔術の仕組みと実用性

休息を取って開発された新魔術は、一見すると女性の腕ほどの細長い小型の岩槍である。
・この術の最大の特徴は、先端部分に魔力を込めて硬質化させた粘土を用いている点にある。
・この岩槍が対象に命中し体内に侵入すると、先端の粘土部分が潰れてキノコの笠状に広がり、抵抗となって標的の内部だけをかき回し破壊する仕組みになっている。
・これにより、外側の素材を傷つけることなく魔獣を討伐できるため、素材回収に非常に適した画期的な魔術となった。

危険性と秘匿の必要性

一方で、この魔術は肉や筋をズタズタにするため、回復術での治療が極めて困難になるという凶悪な殺傷力を秘めていた。
・親指ほどのサイズでも人間に当たれば致命傷になりかねないため、ジグはあまり広めない方がいいと忠告した。
・しかし、術の構成が複雑で並の魔術師には扱いきれないうえ、無資格者が攻撃魔術を教えることは厳しく罰せられるという規定があるため、この危険な技術がむやみに世間に広まる心配はないとされた。

まとめ

岩石蜥蜴の討伐などで絶大な効果を発揮した新魔術であるが、弱点も存在した。四等級の強力な魔獣である削岩竜に対してこの術を使用しようとした際、削岩竜の分厚く強靭な甲殻に弾かれてしまい、効果を上げられなかった。新魔術はあくまで内部破壊を目的とした構造であるため、そもそも表面の装甲を貫通できないほど硬い相手には無力であることが実戦を通じて明らかになっている。

亜人差別と対立

『魔女と傭兵』の舞台となる異大陸では、人間と亜人とよばれる多様な種族が社会で共存しているが、その裏には根深い差別と対立の構造が存在している。本稿では、異なる種族間の軋轢や、それを正当化する思想、そしてその対立に巻き込まれる余所者(ジグとシアーシャ)の視点を通じた描写について整理する。

日常に潜む差別と偏見

ハリアンの街では、亜人は冒険者などの労働力として社会に組み込まれている一方で、日常的な迫害を受けている。
・朝市では、犬の特徴を持つ亜人が人間のチンピラから薄汚ねぇ亜人共、ここは人間サマの市場だと理理不尽な侮辱を受け、数に押されて追い出される場面が描かれている。
・周囲の人間もこれを見て見ぬふりをするか同調しており、亜人に対する冷遇が日常の一部となっている。
・ジィンスゥ・ヤの族長によれば、亜人は五感や身体能力が優れているため重宝される反面、犯罪率が高いという事実もあり、多くの人間が潜在意識下で亜人に対し嫌悪感を抱いているという。

排斥を正当化する宗教「澄人教」

この対立を思想的に裏付けているのが、澄人教という宗教である。
・澄人教は人間至上主義を掲げ、亜人を過去に大罪を犯した者が人間以外と交わって生まれた、大罪人の血を引く邪悪な存在と定義している。
・この教義を信奉する者の中には、自らの不徳を亜人に押し付ける小物から、本気で亜人を浄化(排斥)しようとする狂信者までが存在し、亜人への差別を悪化させる要因となっている。

社会的弱者としての異民族

優れた武術を持つ異民族の集団「ジィンスゥ・ヤ」もまた、差別の対象となっている。
・彼らはその戦闘力の高さからマフィアですら正面からは手を出せない存在だが、社会的には公的機関(憲兵やギルド)が保護してくれないという致命的な弱点を抱えている。
・バザルタ・ファミリーの一部強硬派はこの足元の弱さを突き、彼らの子供を連続誘拐して人身売買にかけようと企んだ。
・これは単なる金銭目的ではなく、絶望的な状況に追い込んで自発的に街から立ち去らせることを真の狙いとした、陰湿な排斥行動であった。

冒険者クラン「バーディア」の狂気

亜人嫌いをこじらせた冒険者クラン「バーディア」は、緑鱗氏族の亜人ウルバスを助けたジグとシアーシャを亜人贔屓の裏切り者と見なし、彼らの依頼を組織的に妨害した。
・違法薬物で理性を失った彼らは、人間の街を取り戻す、人間の誇りのために人モドキどもを追い出すと狂信的な人間至上主義を叫び、ジグたちに襲い掛かった。
・しかし、その人間の誇りという下らないお題目は、己の弱さから目を背けた結果に過ぎず、シアーシャの圧倒的な魔術の前にクランハウスごと木端微塵に粉砕された。

余所者であるジグとシアーシャの視点

この大陸における種族間の対立に対し、外の世界から来た二人のスタンスは極めて特異である。
・魔力を持たないがゆえに過酷な戦争を生き抜いてきた傭兵のジグは、人間であることに誇りを感じたことはない、誇りというものは自らで成したことに抱くものだと言い切り、人間至上主義を真っ向から否定する。
・彼は思想や種族に関係なく、金を払えば依頼主であり、敵に回れば誰であろうと躊躇なく斬るという絶対的な個人主義を貫いている。
・一方のシアーシャは、かつて魔女として人間社会から理不尽に迫害されてきた過去を持つ。そのため、見た目が少し違うだけで虐げられる亜人の境遇に同情しつつ、弱い立場にある者を不当に貶める人間の捻くれた悪意に対して激しい怒りを露わにした。

まとめ

人間社会の身勝手な排斥構造に対し、ジグとシアーシャは種族の枠に囚われない行動をとり続ける。その結果、彼らに助けられた鱗人のウルバスは、人間と亜人を対等に扱うジグの姿勢に敬意を抱き、友と呼びたいと申し出た。ジグは敵に回れば斬ると念を押しながらもその拳に応じ、種族の壁や社会の差別に縛られない、個人と個人の新たな信頼関係が築かれている。

傭兵の過去と師弟

主人公である傭兵ジグ=クレインの凄絶な過去と、彼を育て上げた師との関係は、ジグの強さや合理的で非情な価値観の根幹を成す重要な要素である。本稿では、その過去と師弟関係について整理する。

極限状態の戦場での出会い

ジグは、列強国に挟まれ戦争の渦に呑み込まれた資源国の出身である。民間人の死体が積み上がるほどの凄惨な戦場の中、彼はたった一人で飢餓と孤独を生き延びていた。
・体力が限界を迎えていた彼は、そこへやってきた傭兵団「百翼兵団」の団長ディバルトスと副団長ヴィクトールに対し、食器のナイフ一つで襲いかかった。
・圧倒的な実力差でヴィクトールに制圧されながらも、ジグは決して死を受け入れず、生きようとする強い意思を眼に宿していた。
・ディバルトスから「このまま野垂れ死ぬか、俺たちと来て生きるために他者を殺すか」と過酷な選択を突きつけられた彼は、即座に「行く」「俺は生きる」と答え、ジグ=クレインという一人の傭兵として生きる道を選んだ。

師ヴィクトールとの関係と実践的な教え

百翼兵団に入ったジグは、団長のディバルトスではなく、副団長であるヴィクトールを直々に剣の師として選ぶという鋭い観察眼を見せた。長槍を扱う壮年の傭兵であるヴィクトールは、気品と教養を感じさせつつも戦場では冷徹な判断を下す人物である。
・現在のジグの戦い方は我流に変化しているが、基礎はヴィクトールから教わった軍隊式槍術にある。ジグは異大陸へ渡った今でも師を高く評価しており、「接近戦でなら今の俺でなんとか互角。だが用兵技術や頭の切れなど、総合評価では勝ち目はない」と語っている。
・また、過酷な戦場を生き抜くための師からの教えは、ジグの行動原理に深く根付いている。
・「身の程を弁えた道具を使え」という教えは、高価すぎる装備は失った際に苦労するため、自分の稼ぎで買える範囲に収めるべきというものである。
・「命以外なら何をおいても足を守れ」という教訓は、歩けなくなった兵は助けを待つか死ぬしかなく、撤退の足手まといになるため、足回りの装備には決して費用を惜しまないというものである。

まとめ

異大陸でジグがシアーシャの護衛として活動している一方、元の世界ではジグが沈黙の魔女の討伐依頼で命を落としたという噂が流れていた。しかし、ディバルトスは討伐隊の全滅や生き残りの様子から、その結果に疑念を抱く。魔女の真偽を確かめるために現地へ向かうことをディバルトスが提案すると、ヴィクトールは珍しく即答でそれに同意した。「弟子の不始末を片付けるのも、師の役割だろう」と語るヴィクトールは、ジグの選んだ道の結果に自ら向き合う決意を固めており、過去の師弟が今後どのような形で再び交錯するのかが示唆されている。

魔女と傭兵2レビュー
魔女と傭兵全巻まとめ
魔女と傭兵4レビュー

登場キャラクター

主要キャラクター

ジグ=クレイン

金次第で動くが外道ではない傭兵である。異大陸では魔術を使えないが、鍛え抜かれた身体能力と戦闘技術で魔獣や敵対者と戦う。シアーシャの護衛を務め、彼女の選択を尊重する。

・所属組織、地位や役職
 傭兵。シアーシャの護衛。元「百翼兵団」所属。
・物語内での具体的な行動や成果
 蒼双兜の討伐でワダツミの若手冒険者を護衛し、魔繰蟲の猛攻から彼らを救出している。削岩竜の討伐ではシアーシャと連携して一匹を仕留めた。シアーシャを妨害したバーディアのメンバーを酒場で打ち倒した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ガントからインパクトグローブを購入した。ウルバスから友と呼ばれるようになった。

シアーシャ

人間離れした強大な魔力を持つ魔女である。ジグを信頼しており、彼と行動を共にしている。自分を迫害するような理不尽な悪意には激しい怒りを見せる。

・所属組織、地位や役職
 冒険者。七等級。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔獣の素材を傷つけない内部破壊用の新魔術を開発した。削岩竜の一匹を黒い巨剣の魔術で両断している。自分への依頼を妨害した冒険者クラン「バーディア」に対して報復を行い、クランハウスを魔術で完全に破壊した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 七等級に昇級し、魔術書や資料の閲覧制限が解除された。

冒険者

アラン

燃えるような赤髪の冒険者である。冷静で妹思いの性格を持つ。ジグを恩人と見なし、妹たちが無礼を働いたことに怒りを示す。

・所属組織、地位や役職
 冒険者。ミリーナの兄。
・物語内での具体的な行動や成果
 ギルドでジグと再会し、妹たちがジグに無礼を働いたことを知って彼女たちを厳しく諭した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 実力のある冒険者として描かれている。

グロウ

口数は少ないが、仲間や若手を気遣うベテラン冒険者である。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン「ワダツミ」。冒険者。ベイツの相棒。
・物語内での具体的な行動や成果
 肉料理店でジグに会い、一緒に食事をした。若手の討伐隊を護衛するようジグに依頼している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

ウルバス

緑の鱗と縦に裂けた瞳孔を持つ鱗人の冒険者である。礼儀正しく、助けてもらった恩を重んじる。種族に関係なく対等に接するジグに好感を抱き、彼を友と呼ぶ。

・所属組織、地位や役職
 冒険者。緑鱗氏族の鱗人。
・物語内での具体的な行動や成果
 削岩竜との戦闘で危機に陥ったところをジグとシアーシャに救出された。ギルドでの報告で削岩竜討伐の功績を自分たちのものではなくシアーシャの援護によるものだと口裏を合わせた。酒場でジグたちを侮辱した男たちに割って入り、威圧している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ジグと友人関係になった。

冒険者クラン「ワダツミ」

ベイツ

面倒見がよく、若手冒険者の成長を見守る陽気なベテラン冒険者である。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン「ワダツミ」。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 肉料理店でジグに会い、蒼双兜の討伐に向かった若手の護衛を依頼した。後日、クランハウスでジグに残りの報酬と追加の口止め料を支払っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

ミリーナ

赤毛の若手剣士である。才能がありながらも、以前の敗北から謙虚さを学んでいる。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン「ワダツミ」。冒険者。アランの妹。
・物語内での具体的な行動や成果
 蒼双兜の討伐で前衛として魔獣の攻撃を引きつけ、セツとの連携で雄と雌の蒼双兜を打ち倒した。魔繰蟲の攻撃では負傷し、後退を余儀なくされている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 賞金首討伐の功績をクランにもたらした。

セツ

冷静な判断力を持つ魔術剣士である。パーティーの頭脳的な役割を担う。ジグの実力に恐れを抱きつつも恩を感じている。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン「ワダツミ」。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 蒼双兜の討伐で氷魔術を用いて魔獣の動きを封じ、とどめを刺した。魔繰蟲が出現した際は、仲間を逃がすために足止めを引き受け、ジグの援護を受けて大魔術で魔繰蟲を撃破している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 討伐後、取得した魔力核をジグへ譲渡した。

ケイン

感情の割り切りができ、自分のなすべきことを理解している若手冒険者である。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン「ワダツミ」。冒険者。
・物語内での具体的な行動や成果
 以前ジグに武器を壊されたため、蒼双兜の討伐に参加できず、案内役としてジグに同行した。魔繰蟲の出現時にはジグの指示に従い、負傷者の救助と撤退の指揮を行っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

アキト=カスカベ

線の細い眼鏡の男である。人が良さそうな作り笑いを浮かべるが、計算高くクランの利益を第一に考える。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン「ワダツミ」。経理・事務管理。アオイの弟。
・物語内での具体的な行動や成果
 ジグに賞金首討伐の追加報酬を渡し、若手だけで討伐を成し遂げたことにしてほしいと口止め交渉を行った。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

冒険者クラン「バーディア」

下品で野蛮な冒険者である。自身の思い通りに事が進むと信じており、亜人や有望な新人を目の敵にしている。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン「バーディア」。頭。
・物語内での具体的な行動や成果
 シアーシャの依頼を意図的に受諾・破棄する妨害工作を行った。クランハウスに乗り込んできたシアーシャに薬物で強化された体で襲いかかったが、返り討ちに遭っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 クランハウスを破壊され、ギルドから解散命令を受けた後に夜逃げした。

冒険者ギルド

アオイ=カスカベ

無表情で冷静な受付嬢である。規則を重視し、冒険者同士の揉め事にも事務的に対応する。

・所属組織、地位や役職
 冒険者ギルド。受付嬢。アキトの姉。
・物語内での具体的な行動や成果
 ギルド内で私闘を起こそうとした男たちを制止した。シアーシャの妨害工作に対して厳重注意と罰則追加の準備を進め、ジグに妨害者の情報を密かに提供している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

シアン

朗らかな受付嬢であるが、怒ると感情を爆発させる。冒険者たちの身勝手な行動に腹を立てている。

・所属組織、地位や役職
 冒険者ギルド。受付嬢。
・物語内での具体的な行動や成果
 バーディアによる依頼の悪用行為に激怒し、ジグとシアーシャに事情を説明した。シアーシャが殺しを行おうとするのを必死に止めようとしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

鍛冶屋

ガント

髭を蓄えた鍛冶職人である。神経質でマイペースだが、鍛冶仕事には強い情熱を持つ。自分の作品に強い誇りを持っている。

・所属組織、地位や役職
 鍛冶屋の職人。
・物語内での具体的な行動や成果
 ジグが持ち込んだ魔繰蟲の魔力核を鑑定し、自身が制作したインパクトグローブを販売した。ウルバスの曲刀や盾などを、種族特有の骨格に合わせて丁寧に制作・調整している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

病院

ドレア

ふくよかな体格の医師である。穏やかな性格で、経緯はどうあれ目の前の患者を治すことを優先する。

・所属組織、地位や役職
 個人経営の病院の院長。
・物語内での具体的な行動や成果
 魔繰蟲との戦闘で負傷したワダツミのメンバーやジグを治療した。ジグの異常な回復速度に驚き、体の構造が根本から違うのではないかと疑問を抱いている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

ジィンスゥ・ヤ

イサナ

白髪で長い耳を持つ剣士である。戦闘狂でありながら、同族のために尽力する仲間思いな一面を持つ。

・所属組織、地位や役職
 ジィンスゥ・ヤ。二等級冒険者。白雷姫。
・物語内での具体的な行動や成果
 ギルドでジグに削岩竜の情報を教え、彼が亜人をどう扱うか観察した。早朝にジグと競走を行い、持久力の差で敗北して走り込みを日課にすることを決意している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

族長

冷静で思慮深い老人である。同族の将来を案じ、有力な戦力を引き込みたいと考えている。

・所属組織、地位や役職
 ジィンスゥ・ヤの族長。
・物語内での具体的な行動や成果
 ジグを招いて茶を振る舞い、亜人排斥を掲げる澄人教の危険性について警告した。ジグを自陣営に引き入れたいと画策している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

マフィア / 裏社会

ヴァンノ

トレンチコートを着た油断ならない中年男性である。縄張りを荒らす者を許さない。

・所属組織、地位や役職
 マフィアの構成員。
・物語内での具体的な行動や成果
 裏路地でアグリェーシャの薬物が流通していることを調査し、その注射器をお嬢に報告した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

お嬢

茶髪の鋭い目つきをした女性である。縄張りを守るため、街を腐らせる薬物の流入を阻止しようとしている。

・所属組織、地位や役職
 マフィアの幹部。
・物語内での具体的な行動や成果
 ヴァンノからの報告を受け、西の組織アグリェーシャが薬物をばらまいていることを突き止め、早急な対応が必要だと判断した。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

百翼兵団

ディバルトス=クレイン

獅子のような髪の偉丈夫である。豪快で無神経なところがあるが、傭兵団の長としての厳しい眼差しを持つ。

・所属組織、地位や役職
 百翼兵団。団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 戦争で孤児となったジグを拾い、傭兵として生きるかどうかの選択を迫った。現在、ジグが討伐したとされる魔女の真偽を確かめるため現地へ向かうことを提案している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

ヴィクトール=クレイン

長槍を扱う壮年の傭兵である。気品と教養を感じさせるが、戦場では冷徹な判断を下す。ジグの師匠にあたる。

・所属組織、地位や役職
 百翼兵団。副団長。
・物語内での具体的な行動や成果
 襲いかかってきた幼いジグを制圧し、水を与えた。ディバルトスの提案に乗り、弟子の不始末を片付けるために魔女の地へ向かうことを決意している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

集団

冒険者クラン「ワダツミ」

若手冒険者の育成に力を入れている中堅クランである。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン。
・物語内での具体的な行動や成果
 若手だけで蒼双兜を討伐させることでクランの評価を高めようとした。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 討伐の成功により名声を上げた。

澄人教

人間至上主義を掲げ、亜人を排斥しようとする宗教である。亜人を大罪人の血を引く邪悪な存在としている。

・所属組織、地位や役職
 宗教団体。
・物語内での具体的な行動や成果
 信者の一部が亜人に対する嫌がらせや排斥行動を行っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

緑鱗氏族

緑の鱗を持つ鱗人の一族である。

・所属組織、地位や役職
 亜人の氏族。
・物語内での具体的な行動や成果
 ウルバスなどが冒険者として活動している。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

ジィンスゥ・ヤ

寄る辺のない異民の集団である。排他的であったが、ジグとの関わりを経て外部を受け入れる柔軟さを持ち始めている。

・所属組織、地位や役職
 異民族の集団。
・物語内での具体的な行動や成果
 族長を通じてジグとの関係強化を図っている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

冒険者クラン「バーディア」

素行の悪い中堅以下のクランである。亜人を嫌い、薬物に手を出している。

・所属組織、地位や役職
 冒険者クラン。
・物語内での具体的な行動や成果
 シアーシャの依頼を組織的に妨害したが、報復としてクランハウスを破壊された。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ギルドから解散命令を受け、消滅した。

アグリェーシャ

西のストリゴを牛耳る組織である。節操がなく、違法薬物をばらまいて街を腐敗させようとしている。

・所属組織、地位や役職
 裏社会の組織。
・物語内での具体的な行動や成果
 ハリアンの街に薬物を流通させ、中毒者を増やして縄張りを荒らしている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

百翼兵団

圧倒的な戦闘力から百鬼兵団とも呼ばれる精強な傭兵団である。孤児や脛に傷を持つ者が集まっている。

・所属組織、地位や役職
 傭兵団。
・物語内での具体的な行動や成果
 正規軍にも劣らない統率力で戦場の趨勢を決定づけている。
・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 物語内での特筆すべき地位の変化は描かれていない。

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展開まとめ

一章 見慣れた火種と見慣れぬ日常

朝市の活気と異文化の導入

ハリアンの朝市は、沿岸に近い地理と魔術による保存技術によって新鮮な魚介が豊富に並び、活気に満ちていた。氷を生成する魔術により生鮮食品の保存が容易であり、食文化が発展している一方で、運搬には危険と手間が伴う土地柄であった。そんな市場を前に、ジグとシアーシャは普段とは異なる熱気に触れていた。

朝市訪問の理由と狩場の混雑

二人が朝市を訪れた背景には、蒼双兜という強力な魔獣の出現があった。高位冒険者が狩場に流入した結果、七等級の狩場が制限され、低位冒険者の活動環境は著しく悪化していた。そのため通常の冒険を避ける必要が生じたこと、加えてシアーシャが街の営みに興味を抱いたことが重なり、この日は休息と見物に充てられたのである。

生食文化への衝撃と試み

市場で魚を生のまま食べる光景を目にした二人は強い衝撃を受けた。元の大陸では食材は加熱が基本であり、生食は危険と認識されていたためである。シアーシャは過去に川魚の生食で命の危険を経験しており強く警戒したが、ジグは将来の状況に備えるためあえて挑戦を決断した。結果として味は許容範囲であったものの、長年の価値観から完全に受け入れるには至らなかった。

市場散策と人混みの中の対応

シアーシャは珍しい品々に興味を示しながら市場を楽しみ、ジグは彼女を守るように立ち回った。彼女の無防備さに目を付けた者も現れたが、ジグが排除し事なきを得た。二人は市場の多様な露店を巡りながら、異文化の中での時間を過ごした。

浜焼きの交流と庶民の賑わい

やがて二人は地元の男たちと交渉し、網の一部を借りて魚介を焼いて食べることになった。男たちの助言を受けながら焼き方や食べ方を学び、貝や海老などの海産物を堪能した。素朴ながらも豊かな味わいにシアーシャは感嘆し、ジグも新たな食体験を受け入れていた。

騒動の発生と亜人差別の現実

食事の最中、市場の一角で争いが起こった。人間の男たちが亜人に対して侮辱を浴びせ、利用を拒絶する騒動であった。数の差に押された亜人たちは抵抗できず退去を余儀なくされた。周囲の人間もこれを特別な出来事とは捉えておらず、日常的な問題として受け流していた。

ジグの内省と変わらぬ現実

騒動を見たジグは、人種や文化の違いによる対立がどの地でも存在することを改めて認識した。傭兵として争いに関わってきた過去から、どちらにも肩入れしない立場を取ってきたが、亜人と人間の対立に対しても同様でいられるかを一瞬考える。しかしその思考はすぐに消え、今は目の前のシアーシャを優先すべきだと判断した。市場には結局、強者が弱者を排する見慣れた光景が広がっているに過ぎなかった。

アランとの再会と賞金首の影響

翌日も蒼双兜の賞金首は討伐されておらず、狩場は混雑していた。そのためジグとシアーシャは仕事を早めに切り上げ、ギルドで手続きをしていた。シアーシャを待つジグのもとへ、休み中のアランが現れ、待ち人が来るまで冒険業や賞金首の状況について雑談を交わした。

ミリーナとセツの登場による気まずい再会

アランの待ち人として現れたのは、かつてワダツミでジグと騒動を起こしたミリーナとセツであった。ジグはミリーナがアランの妹であることを知り、剣筋が似ていると口にしたことで、アランは二人とジグの間に何かがあったと察した。ミリーナとセツは動揺し、過去の乱闘について説明を求められることになった。

アランの怒りとジグの制止

事情を聞いたアランは、ジグが自分たちの命を二度救った恩人であるにもかかわらず、ミリーナたちが無礼を働いたことに怒りを示した。ワダツミとの関係を考え直すとまで告げられ、セツは焦った。しかしジグは、すでに済んだ話であり自分が納得している以上、これ以上問題にする必要はないと止めた。アランは自分の筋を押し付けていたと認め、この話を終わらせた。

ジグの異質さを見抜くアラン

アランは、ジグの考え方が傭兵という職業だけでは説明できないほど異質であり、まるで文化そのものが違う場所から来たようだと感じた。その後、仕事の話に入るためジグは席を外し、ちょうど戻ってきたシアーシャの方へ向かった。

妹を案じるアランの忠告

ジグが去った後、アランはミリーナの怪我や後遺症の有無を確認し、無事を心から安堵した。そのうえで、仲間のために戦うこと自体は否定しないが、勝てない相手に無策で挑むのは愚かだと諭した。搦め手や交渉、謝罪などを含め、生き残るために最善を尽くすべきだと伝えたのである。

ジグとの実力差の自覚

アランは、ミリーナとセツが二人がかりで挟撃してもジグに届かなかった事実を重く見ていた。さらに、あの時ジグは本来の得物である両剣ではなく、拾った片手剣を使っていただけだと指摘した。その言葉にセツとミリーナは、自分たちが本気のジグどころか、あり合わせの武器を使う彼にすら及ばなかったのだと理解し、背筋を震わせた。

危険人物としてのジグへの認識

アランは、ジグは手を出さなければ無害であり、執念深い相手でもないと説明した。しかし同時に、情で手を緩める相手ではなく、接触には細心の注意が必要だと告げた。ミリーナとセツは、自分たちがどれほど危うい相手に挑んでいたのかを改めて認識し、アランの忠告を素直に受け入れた。

魔術開発の提案とその動機

その日の冒険を終えた夜、宿で休もうとしていたジグのもとへシアーシャが現れ、魔術の新規開発を提案した。彼女は以前、鬱憤から魔獣を過剰に破壊してしまい、有用な素材すら残らなかった失敗を挙げ、既存の攻撃魔術では損壊が激しすぎるため、制御可能な魔術が必要だと説明した。

戦闘経験の偏りと魔術の課題

シアーシャはこれまで人間相手の戦闘を主としてきたため、相手を殺す前提の魔術しか持っていなかった。そのため、素材回収を前提とする魔獣討伐では威力の調整が難しく、結果として効率の悪さが露呈していた。ジグもその問題を認め、新たな魔術開発の必要性を理解した。

休養と魔術開発の決定

賞金首の影響で狩場が混雑している現状もあり、シアーシャは休みを取り魔術開発に専念する方針を示した。ジグも資金的余裕があることからこれを受け入れ、休養を兼ねて付き合うことを了承した。

信頼関係を示す穏やかな時間

シアーシャは髪を梳かせるためにジグの前に座り、無防備な様子で身を預けた。ジグはその要求に応じつつ、彼女の体を気遣い毛布を掛けるなど配慮を見せた。シアーシャにとってこの行為は信頼の表れであり、警戒心のない自然な振る舞いであった。

無垢な寝顔とジグの内面の変化

やがてシアーシャはそのまま眠りに落ち、ジグは彼女をベッドへ運んだ。強大な力を持つ魔女でありながら、無防備に眠る姿を前に、ジグはその信頼を裏切らぬようにと静かに決意を固めた。

ジグの日課と休暇中の鍛錬

休みの日であっても、ジグは早朝の走り込みと素振りを欠かさなかった。魔獣と人間では戦い方が異なるため、仮想敵を切り替えながら実戦を想定した訓練を行っていた。魔獣の膂力や頑強さ、人間の狡猾さをそれぞれ意識し、どちらを相手にしても油断できないと確認していた。

シアーシャの集中と街歩き

訓練を終えたジグはシアーシャの様子を見に行ったが、彼女は部屋で大量の紙に何かを書き込み、魔術開発に没頭していた。邪魔を避けたジグは一人で街へ出て、店を冷やかしたり鍛冶屋で武具を眺めたりして過ごした。やがて空腹を覚え、匂いに誘われて小さな肉料理店へ入った。

ベイツとグロウとの昼食

肉料理店でジグはベイツとグロウに再会し、同席することになった。ジグは牛ヒレを使った料理を複数注文し、ベイツたちと近況や傭兵の仕事について話した。戦争の凄惨さについては直接的な表現を避けつつ説明し、ベイツとグロウは傭兵にも信用が重要であることに理解を示した。

賞金首討伐とワダツミの事情

食事中、ベイツは蒼双兜討伐にワダツミの若手が出ていることを話した。賞金そのものは大きな利益ではなかったが、七等級の狩場が混雑し、若手冒険者の活動に支障が出ているため、対処が必要になっていた。今回の討伐は、ミリーナとセツに経験を積ませ、人をまとめる難しさを学ばせる意味もあった。

ジグへの護衛依頼

ベイツとグロウは、本来なら自分たちが若手を見守りたかったが、別件で動けなかった。そのため、偶然暇だったジグに討伐隊の監視と救援を依頼した。ジグは報酬と店の支払いを条件に依頼を受け、ベイツたちは案内役としてケインを手配した。

ケインとの同行と役割分担

ギルドで合流した案内役は、以前ジグに武器代わりに振り回された冒険者ケインであった。ケインはその時に剣を失ったため、今回の討伐に参加できなかった事情を明かした。ジグは謝罪し、討伐現場では基本的に傍観し、敗色が濃厚になった場合や重傷者が出た場合のみ救援する方針を伝えた。ケインは重傷者の補助を任され、ジグの指示に従うことを了承した。

蒼双兜との戦闘開始

二人が現場に到着すると、すでに討伐隊と蒼双兜の戦闘が始まっていた。蒼双兜は蒼い甲冑のような外骨格と二本の頭角を持つ直立型の魔獣であり、賞金首にふさわしい威圧感を放っていた。ミリーナたちは打撃や斬撃が通りにくいと判断し、前衛が注意を引きつける間にセツたち術師が氷魔術を準備した。

ミリーナとセツの連携

ミリーナは前衛として蒼双兜の攻撃を引き受け、仲間と連携して関節を狙わせた。セツたちの氷弾が蒼双兜の足を凍らせ、動きを封じると、ミリーナが身体強化を一瞬だけ高めた斬撃で凍った足を砕いた。片足を失った蒼双兜は倒れ伏し、討伐隊は優勢に見えた。

ジグの違和感と番の不在

戦闘を見て興奮するケインに対し、ジグは蒼双兜が思ったより弱いことに違和感を覚えた。防御と力はあるものの動きが鈍く、ケインでも逃げるだけなら可能だと判断できる相手であったためである。そこでジグは、蒼双兜が番であるはずなのに、もう一匹の姿が見えないことに気づいた。

雌の蒼双兜の出現

ミリーナとセツが雄の蒼双兜にとどめを刺そうとした時、警戒していた冒険者がもう一匹の出現を知らせた。現れた個体は先ほどより一回り小さく、頭角の代わりに口元へ短い角を持つ雌と思われる蒼双兜であった。

雌への対応とセツの判断

雌の蒼双兜は草木を薙ぎ倒しながら突進してきた。セツは、脚を失い凍結している雄を無視し、雌への集中攻撃を即座に指示した。討伐隊は雄から距離を取りつつ、万が一に備えながら雌との戦闘へ移行した。

予想外の強さとミリーナの苦戦

雌は雄より体格が小さく、力や硬さでは劣るように見えた。しかし実際には速度と技量で大きく上回っており、ミリーナは攻撃を引きつけながらも余裕を失っていた。四本の腕による攻撃はただの乱暴な振り回しではなく、わずかな知性を感じさせる動きであった。

ミリーナとセツの連携による押し止め

ミリーナだけでは押し切られると判断したセツは、自ら援護に入り、先ほどと同じ手順で攻めるよう指示した。二人がかりの攻撃によって雌の猛攻は一時的に抑え込まれ、サーベルと長剣が甲殻を大きく削った。しかし雌は怯まず、負傷を恐れない苛烈な攻撃を続けた。

討伐隊に広がる緊張

痛みを感じていないかのように攻め続ける雌の蒼双兜は、ワダツミの冒険者たちに強い緊張を与えた。雄より小柄でありながら、速度、技量、執拗さによって、討伐隊は予想以上に危険な戦闘へ引き込まれていた。

番の正体と違和感の正体

雌の蒼双兜が雄よりも明らかに強い様子を見て、ジグは二匹で一体の賞金首であると理解した。しかし同時に、雄の異様な弱さに違和感を覚えた。寿命や病による衰弱を推測しつつ、かつて強者であった存在の末路として納得しかけていた。

討伐の完了と若手の達成感

戦闘は終盤に入り、ミリーナたちは着実に雌を追い詰めていった。連携によって腕を封じ、動きを鈍らせたところで、セツの氷槍が胸部を貫き討伐に成功した。雄もすでに息絶えており、討伐隊は勝利を確認した。若手だけで強敵を倒した達成感は大きく、ミリーナとセツは互いの健闘を称え合った。

クラン内事情と若手の鬱憤

ワダツミは若手を優遇する方針であったが、その裏で古参との軋轢が存在していた。支援を受ける若手と、それによって割を食う古参との間には不満が蓄積していた。今回の討伐成功は、若手が自力で成果を上げた証となり、評価を覆す契機となるはずであった。

異変の発生と不穏な兆候

しかし勝利の余韻に浸る中、異様な音が響いた。脈打つような振動とともに地面が揺れ、音の発生源は雄の死体であることが判明した。死体は膨れ上がり、背中が裂けるように破裂した。

黒い存在の出現

裂けた背中から現れたのは、黒い体を持つ異形の存在であった。ナナフシのように細長い体と六本の手足を持ち、蒼双兜を上回る全長を誇っていた。その体は濁った黒色で靄のようなものをまとい、赤い目で周囲を見渡していた。

未知の脅威への対応開始

正体不明の存在に対し、セツは即座に防御術の準備を指示した。冒険者たちは混乱から立ち直り術を組み始める。セツは肉弾戦には向かない術主体の魔獣と判断し、防御後に一気に反撃する方針を立てた。しかし黒い存在はすでに動き出しており、細い腕を向けて攻撃の兆しを見せていた。

魔繰蟲の正体と脅威の認識

雄の死体から現れた異形の存在に対し、ジグは寄生虫の可能性を疑った。ケインはそれを魔繰蟲だと推測し、他の魔獣に寄生して魔力を吸い、行動を操る存在だと説明した。しかし本来は弱い魔獣であるはずの魔繰蟲が、目の前の個体のように強大な力を持つことに強い違和感を抱いていた。

不可視の衝撃波による壊滅的被害

ワダツミの冒険者たちが防御態勢を取る中、魔繰蟲は腕を掲げ不可視の衝撃波を放った。防御術は一瞬抵抗したものの突破され、冒険者たちは吹き飛ばされ半壊状態に陥った。さらに次の攻撃に備えて魔力を収束させる魔繰蟲に対し、このままでは壊滅するとジグは判断した。

ジグの投擲による一時的阻止

間に合わないと判断したジグは、双刃剣を投擲し魔繰蟲の攻撃を阻止しようとした。全身の力を込めた一撃は衝撃波を貫き、魔繰蟲の頭部を消し飛ばすことに成功した。しかしそれでも魔繰蟲は完全には倒れず、再生を始めた。

魔力生命体としての特性の判明

ケインは魔繰蟲が純粋な魔力生命体であり、通常の武器では効果が薄く、魔術や魔具でなければ倒せないと説明した。ジグはそれを理解し、自分では討伐が不可能であると判断したうえで、役割を切り替える決断を下した。

役割分担と撤退支援の開始

ジグは魔繰蟲を引き付けて時間を稼ぐ役を引き受け、ケインには負傷者の救助と撤退支援を任せた。ケインはミリーナやセツのもとへ急行し、負傷者の搬送と撤退の指揮に加わった。戦闘不能者は半数近くに達していたが、幸い致命傷を負った者はいなかった。

セツの決断と足止めの覚悟

セツは負傷者の避難を優先しつつ、自らは魔繰蟲の足止めに向かう決断を下した。仲間を失わないために時間を稼ぐ必要があり、危険を承知で戦線に残る覚悟を固めた。

ジグの介入と戦局の転換

その時、魔繰蟲の前に現れたのはジグであった。不可視の衝撃波を正確に回避し続ける彼の動きに、セツは驚愕した。予兆の掴みにくい攻撃を見切るその様子は偶然ではなく、確かな技量によるものであった。

仲間を守るための意志

セツは疑問を抱きつつも、今はそれよりも時間を稼ぐことが重要であると判断した。後方で撤退する仲間たちとミリーナを見据え、サーベルを握り直し、仲間を守るために戦い続ける決意を固めた。

魔繰蟲の猛攻とジグの足止め

魔繰蟲は不可視の衝撃波で木々を砕きながら、ジグへ攻撃を集中させた。ジグは攻撃のタイミングを読んで回避していたが、衝撃波の範囲は広く、負傷者を運ぶ冒険者たちを巻き込まない位置取りまで求められたため、余裕はなかった。

セツの援護と共闘の成立

ジグが怪我人を巻き込む位置に追い込まれた時、セツが氷塊を叩きつけて魔繰蟲の攻撃を逸らした。ジグはその隙に安全な位置へ移動し、セツと合流した。ジグは自分では有効打を与えられないと判断し、残りの魔力で大技を放つようセツに託した。

蒼金剛による妨害と時間稼ぎ

魔繰蟲は衝撃波から黒い斬撃へ攻撃方法を変えた。ジグはそれを回避しながら、蒼金剛を含んだ硬貨を指弾として撃ち込み、魔繰蟲の魔術発動を妨害した。蒼金剛は予想以上に魔繰蟲へ効き、ジグは斬撃を避け続けながらセツの術が完成するまで時間を稼いだ。

セツの大魔術とジグの救出

セツの術が完成に近づくと、魔繰蟲はその脅威に気づき彼女へ攻撃を向けた。セツは術を中断すべきか迷ったが、ジグの続けろという声に従った。ジグは全力で駆け寄り、黒い斬撃が彼女を両断する直前に抱えて回避した。セツはそのまま術を維持し、無数の氷槍を魔繰蟲へ撃ち込んだ。

魔繰蟲の撃破とセツの消耗

氷槍は魔力生命体である魔繰蟲の体を貫き、黒い靄を流出させた。魔繰蟲は苦しみながら弱り、やがて全身が砂のように崩れ、赤い球だけを残して消滅した。セツは魔力を使い果たし、その場で膝を折った。

ジグの重傷と緊急搬送

勝利を確認したセツは、自分の手に血が付いていることに気づいた。振り返ると、ジグが背中から大量の血を流して膝をついていた。セツを救う際に攻撃を受けていたのである。ジグは危険な状態を自覚しながら意識を失い、ワダツミの冒険者たちは応急処置を施してギルドへ運び込んだ。

ギルドでの治療とジグの異質な回復力

ギルド職員はジグの傷を確認し、止血と回復術による処置を始めた。通常なら重傷者への回復術は体力を大きく消耗させるため慎重に行う必要があったが、ジグは魔力に頼らない身体能力と回復力を持つため、術の効きが異様に良かった。職員はその回復速度に驚き、周囲の冒険者は術者の腕前だと誤解した。

討伐報告と依頼の説明

ジグが医者のもとへ運ばれた後、セツとミリーナはギルドに残り、賞金首討伐と魔繰蟲の出現について報告した。ケインはジグが自分の同行者として登録されていたこと、実際にはベイツからワダツミの若手を護衛する依頼を受けていたことを説明した。職員は同行者申請と依頼の扱いを確認し、治療費はワダツミに請求することになった。

異常成長した魔繰蟲の説明

職員は過去の論文をもとに、魔繰蟲が幼体時に宿主へ寄生し、宿主の魔力を食って成長する魔獣であると説明した。通常は弱い魔獣であり、強い魔獣には寄生できないが、ごくまれに大きな幼体が脆弱な時期の魔獣へ寄生し、その宿主が長く生きた場合、異常に巨大で強力な個体が生まれる可能性があった。今回の事態は偶然が重なった異常例であった。

勝利の後に残ったしこり

職員は、賞金首討伐に成功し、死人も出ず、ジグも回復の見込みがある以上、結果だけ見れば運が良かったと述べた。しかしミリーナとセツは、自分たちだけで成し遂げたと思った成功が、最終的にジグの介入によって支えられた事実を受け止めきれず、納得できない思いを抱えた。職員はその心情を察しつつも、冒険者として生き残っただけでも儲けものだと考え、口には出さなかった。

二章 異物と余所者、慮外者

病院での治療と院長の違和感

ワダツミと付き合いのある病院では、賞金首討伐で負傷した冒険者たちの治療が続いていた。院長のドレアは軽傷者を順に診終えたが、先に運び込まれたジグの回復状態には強い違和感を覚えていた。ジグは重傷だったはずにもかかわらず、傷の塞がる速度が異常に速く、ドレアは体のつくりが根本から違うようだと感じていた。

ケインへの説明とジグの覚醒

ケインがジグの容体を尋ねると、ドレアは経過が良好であると伝えた。その直後、ジグ本人が診察室へ現れ、腹を押さえながらケインに頼みがあると告げた。ケインは深刻な要件を想像したが、ジグの訴えは空腹であった。

異常な食欲と回復の反動

ジグは病院内で大量の食事を摂り始めた。ドレアは、急速な回復には膨大な体力とエネルギーを消費するため、異常な空腹も不自然ではないと説明した。ケインは呆れながらも、ジグがふざけているのではなく、本当に体が食料を求めているのだと理解した。

ジグの回復と傭兵としての立場

食事を終えたジグは体の調子を確認し、背中に違和感がある程度で済んでいることを確かめた。ケインは治療費や食事代をワダツミ側が負担すると伝え、仲間を助けたことへ礼を述べた。その後、ケインはジグがなぜ冒険者ではなく傭兵にこだわるのかを尋ねた。ジグは、傭兵が自分の生き方であり、特定の団体に所属すれば受けられない仕事が生じるためだと答えた。

回復術への警戒と帰宿

病院を出たジグは、回復術による急速な治癒が強烈な空腹を招くことを知り、使い方には注意が必要だと考えた。食事を満足に摂れない状況で回復術に頼れば、かえって燃料切れで動けなくなる危険があるためである。血で汚れた服を替えるため、ジグは宿へ戻った。

シアーシャの魔術開発と疲労

宿ではシアーシャが魔術開発を終えており、目の下に隈を作るほど疲れていた。彼女は魔力配分と硬度調整に苦労しながらも、従来より使い勝手のよい魔術ができたと得意げに語った。しかし食事も摂らず集中していたため、疲労は隠しきれていなかった。

シアーシャの遠慮とジグの気遣い

シアーシャはジグに食事へ同行してほしい様子を見せたが、彼がすでに食事を済ませていると知り、遠慮して取り下げようとした。ジグは彼女の意図を完全には理解できなかったが、求めているものは察した。そこで、晩酌に付き合ってほしいと自然に誘い、シアーシャは喜びを隠しきれずに応じた。

夜の街へ向かう二人

日が暮れた街を歩きながら、シアーシャは無言でジグの腕を取った。ジグは何も言わず、彼女のしたいようにさせた。戦闘と負傷の一日を経て、二人は静かに夜の繁華街へ向かっていった。

二章 異物と余所者、慮外者

休養とワダツミへの報告

翌日はジグの怪我とシアーシャの疲労を考慮し、休みになった。ジグは報酬の話をするためワダツミへ向かい、途中で胸当ての修理を鍛冶屋に頼んだ。クランハウスではジグの回復の早さに冒険者たちが驚き、ベイツたちを呼びに走った。

カスカベとの会話と姉の反応

ジグはカスカベに案内され、以前と同じ席で茶を出された。カスカベは賞金首討伐の件で礼を述べたが、ジグは仕事だったと答えた。またジグがカスカベの姉に会ったことを話すと、カスカベは姉が激怒し、踵落としを受けたと苦々しく語った。

報酬交渉と口止めの意図

ベイツとミリーナが現れ、ジグへ残りの報酬と追加報酬の話がなされた。カスカベは治療費や防具修繕費を負担したうえで、追加五十万を提示した。その中には、賞金首討伐をワダツミの若手だけの功績として扱うための口止め料が含まれていた。ジグはそれを理解し、賞金首とは無関係の魔獣で負傷したという形にすることを了承した。

セツからの魔力核の譲渡

カスカベはさらに、魔繰蟲から残った赤い魔力核をジグへ渡した。所有権はとどめを刺したセツにあり、彼女がジグへ譲渡すると決めたものであった。ミリーナは、借りは返したというセツの言葉を伝え、ジグはそれを受け取った。

鍛冶屋での魔力核の鑑定

ジグは魔力核の用途を知るため鍛冶屋を訪れた。店員は自分では判断できないとして職人のガントを呼び、ガントは魔繰蟲の魔力核に強い興味を示した。魔力核は魔具の燃料として使えるが、珍しい核を単なる燃料にするのは惜しいとされ、特性を活かした使い道が検討された。

インパクトグローブの試用

ガントは衝撃の魔術刻印を施したインパクトグローブを提示した。ジグが試用すると、軽く殴っただけでフルプレートを貫通し、強い反動で腕が弾かれた。ガントは、拳の強さに比例して出力が上がる魔具だと説明したが、用途は人間相手ではなく装甲の厚い魔獣や魔力生命体用であった。

価格交渉と購入決定

インパクトグローブは高性能であったが、本体価格も交換用の魔力核も高額であり、ジグは一度購入を見送ろうとした。しかし店員は、四年間売れ残っていた在庫であることを指摘し、価格交渉に持ち込んだ。最終的にジグは魔力核の加工費込みで百二十万を提示し、商談は成立した。

新たな生活への実感と過去への思い

ジグはこの街で次々と仕事が舞い込む状況に、戦争がない大陸でも騒動や諍いは尽きないのだと実感した。シアーシャとの出会いによって異大陸へ渡り、魔術や魔獣のある世界で生きるようになった自分を思い、古馴染みに話せば正気を疑われるだろうと考えた。その中で、もう二度と会えない先輩傭兵ライエルなら何と言ったのかを、ふと気にかけていた。

賞金首討伐後の狩場の混雑

蒼双兜の討伐後も、狩場の混雑はすぐには収まらなかった。抑圧されていた冒険者たちが一斉に押し寄せ、特に借金を抱えた者たちは必死に魔獣を探していた。ジグとシアーシャは比較的人の少ない深部へ向かい、そこで狩りを行っていた。

シアーシャの新魔術の実験

二人は岩石蜥蜴を相手に、シアーシャが開発した新しい魔術を試した。その術は一見すると小型の岩槍であったが、先端部分に硬質化させた粘土を用いることで、命中後に体内で笠状に広がり、内部を大きく損壊させる仕組みであった。外側の素材を傷つけず、体内だけを破壊するため、素材回収に適した実用的な魔術であった。

新魔術の危険性と秘匿の必要

ジグはその魔術の凶悪さに閉口した。小さなものでも人間に当たれば戦闘不能どころか致命傷になりかねず、治療も困難であるためである。シアーシャは構成が複雑で並の魔術師には扱えず、攻撃魔術の教授にも厳しい制限があると説明したため、ジグはその術が容易に広まらないことに安堵した。

不自然な魔獣の群れ

その後、二人は現れた魔獣たちを連携して撃破した。しかし倒した魔獣は本来群れない種類が多く、同じ方向から逃げるように集まっていた。ジグとシアーシャは、魔獣たちが何かから逃げてきた可能性に気づき、痕跡をたどって奥へ進むことにした。

削岩竜と冒険者たちの発見

痕跡を追った先で、二人は二匹の削岩竜と交戦する冒険者たちを発見した。削岩竜は四等級中位の魔獣であり、本来この地域にいるはずのない存在であった。冒険者たちは実力者ではあったが、怪我人を抱えて防戦一方となっており、このままでは全滅しかねない状況であった。

救援の決断と役割分担

シアーシャは助けるべきか迷ったが、最終的に救援を選んだ。ジグはその判断を受け入れ、二人は短く役割を決めた。シアーシャは一匹を引きつけ、ジグはもう一匹を相手にすることになった。

ジグの介入と冒険者の退避

シアーシャが魔術で一匹の注意を引きつけると、ジグは残る削岩竜へ突撃した。双刃剣で脚を打ち、転倒させた隙に、冒険者たちは怪我人を抱えて退避した。まだ戦える者たちは魔術で援護し、削岩竜の甲殻を剥がしてジグが攻め込む隙を作った。

インパクトグローブによる一撃

削岩竜の尾による薙ぎ払いをかわしたジグは、懐に潜り込み、インパクトグローブで顎へアッパーカットを叩き込んだ。魔具の衝撃波によって削岩竜の頭部は大きく跳ね上がり、首元の甲殻が剥がれた。ジグはその隙を逃さず、双刃剣で喉元を大きく抉った。

死に際の抵抗と首の切断

致命傷を受けた削岩竜は、それでもジグを道連れにしようと頭部を打ち下ろした。ジグは双刃剣の柄で受け止め、脚が地面にめり込むほどの衝撃に耐えた。彼は力の流れをずらして頭部を弾き、地面に突き刺さった削岩竜の首へ双刃剣を叩きつけた。既に大きく損傷していた首はその一撃で切断され、削岩竜はようやく討たれた。

シアーシャの新魔術の限界

シアーシャは削岩竜に新しく開発した岩槍を放ったが、硬い表皮に弾かれた。新魔術は内部破壊を目的とした構造であり、表面を貫けないほど硬い相手には効果を発揮できなかった。シアーシャはその限界を確認し、削岩竜には別の手段で対処することにした。

土盾による足止めと術の準備

削岩竜の突進に対し、シアーシャは土盾を展開して進路を塞いだ。削岩竜はピッケル状の頭部と質量で土盾を破壊していったが、その間にシアーシャは次の術を組み上げていた。彼女は削岩竜の力と硬さを認めつつも、動きの遅さを突いていた。

地杭による拘束と防御突破

シアーシャが手をかざすと、四方から螺旋状の地杭が飛び出し、削岩竜の甲殻を削って肉へ達した。削岩竜は苦痛と驚きで咆哮し、拘束から逃れようと身を引きちぎった。しかし、その反応はシアーシャの次の一撃を止めるには遅すぎた。

黒い巨剣による決着

シアーシャは削岩竜と同等の大きさを持つ黒い巨剣を生成した。圧縮された岩は過剰な魔力によって黒く染まり、その威圧感に削岩竜は恐怖で立ち竦んだ。シアーシャは巨剣を振り下ろし、削岩竜の頭部から股下までを一息に断ち斬った。

削岩竜討伐後の異種族との対面

ジグは削岩竜を倒した後も警戒を解かなかった。声を掛けてきた冒険者は、緑の鱗と爬虫類の瞳を持つ蜥蜴のような姿をしており、ジグは初めて間近で見る亜人の姿に驚いた。相手に敵意はなかったが、ジグが思わず距離を取ったことで、周囲の亜人たちは不信感を露わにした。

ウルバスの制止と鱗人としての名乗り

周囲の冒険者たちはジグを澄人教の者ではないかと疑ったが、蜥蜴の姿をした冒険者が仲間を制止した。彼は、ジグが自分たちを助けた事実を重んじ、礼を欠いてはならないと諭した。ジグが亜人という総称ではなく本人たちの呼び名を尋ねると、彼は緑鱗氏族の鱗人ウルバスと名乗り、ジグと鱗人式の挨拶を交わした。

シアーシャの合流と救助の確認

もう一匹の削岩竜を倒したシアーシャが合流し、鱗人であるウルバスたちに強い興味を示した。ジグは失礼があっても大目に見てほしいと補足し、シアーシャも澄人教とは関係がないと伝えた。ウルバスは二人に助けられた礼を述べたが、シアーシャは成り行きと気分で助けただけだと返した。

削岩竜出現の経緯と異常事態

ウルバスたちは本来、別の魔獣を狩りに来ていたが、途中で削岩竜に遭遇して襲われたのだという。一匹なら対処可能と判断して戦っていたが、途中でもう一匹が現れ、魔術師が負傷したことで撤退も難しくなっていた。削岩竜が七等級の狩場に現れた理由は不明であり、ギルドへの報告が必要な異常事態であった。

功績の扱いと口裏合わせ

シアーシャは、削岩竜の討伐功績をウルバスたちのものとして報告してほしいと頼んだ。自分たちはすでに無茶を重ねてギルドに目を付けられており、竜を倒したと知られれば昇級どころか不利になる可能性があったためである。ウルバスは恩人のために嘘をつくことへ戸惑いながらも、非常事態に巻き込まれ援護を受けたという筋書きを整えた。

ギルドでの報告と七等級昇級

一行は削岩竜の素材を持ち帰り、ギルドで報告した。シアーシャが倒した個体は頭から股下まで両断されており、ウルバスたちは彼女の力に恐れを含んだ視線を向けていた。報告の結果、シアーシャは無事に七等級へ昇級し、冒険者として一人前の入口に立った。

イサナの評価とジグの立場

ギルドではイサナが現れ、ジグが亜人を助けたことに関心を示した。以前、ジグが異種族でも金を払えば客だと述べていたことが、口先だけではなかったと確認したのである。ジグは異種族に肩入れするつもりはなく、敵対すれば容赦しないと釘を刺したが、イサナはその距離感だからこそ信用できると受け止めた。

ならず者の絡みとウルバスの介入

シアーシャの昇級祝いに向かおうとした二人は、以前絡んできた男たちに再び絡まれた。男たちはジグを、女の後ろに隠れているだけの護衛だと嘲笑した。ジグは無反応だったが、シアーシャは強い殺意を抱き、魔術を放とうとした。その直前、ウルバスが割って入り、ジグを勇敢な戦士だと認め、侮辱は許さないと男たちを威圧した。

アオイの制止とジグの変化

一触即発の空気の中、受付嬢アオイが私闘を禁じて場を収めた。ウルバスはジグを庇った理由を問われ、助けられた恩を示したが、その態度は援護された程度にしては大きく、アオイに疑われかけた。アオイはジグが想像以上に人脈を広げていることを意外に思い、ジグ自身も環境の変化とともに自分が変わっているのかもしれないと感じた。

昇級祝いとシアーシャへの甘さ

騒動で機嫌を損ねたシアーシャは、ジグを侮辱されたことに強く腹を立てていた。ジグはその手の相手に慣れるべきだと諭したが、シアーシャは納得しなかった。やがて豪華な食事を前にして彼女は機嫌を直し、ジグはそんな姿を見ながら、自分が少し甘やかしすぎているのではないかと考えた。同時に、その変化を悪くないものとして受け止めていた。

イサナの呼び出しとジグの日課

早朝、ジグが走り込みをしていると、イサナが現れて同行を求めた。ジグは彼女が自分の走る時間と場所を知っていることを訝しんだが、イサナは、フル装備の大男が毎朝街を走っていると噂になっているのだと説明した。ジグは、自分の鍛錬が人目を引いていたことを初めて知った。

族長からの用件

イサナは、ジィンスゥ・ヤの族長がジグに話があると告げた。ジグは真面目な用件だと判断し、同行を了承した。ただし走り込みの途中であったため、歩かずに走って向かうことにした。

走り勝負の提案

ジグが先に走り出すと、イサナはそれを面白がり、どちらが早く着くか勝負しようと提案した。ジグは、走り込みを怠っている者に負ける鍛え方はしていないと挑発し、イサナも負けた方が奢るという条件を出した。

即席の競走開始

二人は西区の入口まで行ってから折り返すルートを決めた。ジグはフル装備でありながらハンデを拒み、イサナも不敵に構えた。合図代わりに投げられた小石が地面に落ちると同時に、二人は猛然と走り出した。

競走の決着と実力差の自覚

ジグとイサナは競走の末、ジグが勝利した。序盤は速度に優れるイサナが優勢であったが、持久力の差によって後半で逆転され、大きな差をつけられた。ジグは体力の重要性を説き、戦いは総合力であると指摘した。これを受けたイサナは自身の不足を認め、走り込みを強化する決意を固めた。

族長との会見と茶のもてなし

二人はジィンスゥ・ヤの族長のもとを訪れ、茶でもてなされた。ジグは茶の味を評価し、嗜好品としての価値を語った。戦場においても士気維持のために嗜好品が重要であるという自身の経験を示し、茶の実用性を認識していた。

亜人救助の件と社会の偏見

族長は、ジグが亜人を助けた件について言及した。亜人に対する感情は一様ではないが、社会全体として潜在的な嫌悪が存在すると説明された。また、亜人の犯罪率の高さが偏見を助長している可能性にも触れられたが、その原因が環境か本質かは不明であるとされた。

澄人教の思想と対立構造

さらに族長は、亜人排斥を教義とする澄人教について説明した。この宗教は亜人を堕落した人間の末裔とみなし、危険な存在として排除すべき対象と捉えている。信仰の程度には差があるものの、亜人への悪感情は確実に存在しているとされた。

冒険者社会と亜人の立場

イサナは、冒険者の世界では実力主義のため亜人も一定の評価を受けるが、それでも活躍を快く思わない者もいると補足した。自身も異民族として苦労してきた過去を持ち、現在も仲間のために尽力していることが示された。

今後の危険性への警告

族長は、亜人を助けたことでジグたちが標的になる可能性を指摘した。特に澄人教の影響を受けた者たちが何らかの行動を起こす危険性が高いとされ、警戒が必要であると伝えられた。ジグはその忠告に感謝しつつも、内心ではシアーシャへの危害が通用しないことを理解しており、静かに警戒を強めるのであった。

ジグへの高評価と戦士としての資質

ジィンスゥ・ヤの族長は、去っていくジグの背を見送りながら、その戦士としての資質を高く評価していた。迷いのない姿勢はそれだけで強さに直結し、目的や信念の有無に関わらず、確固たる意思を持つ者は強いと認識していた。加えて、単なる武力だけでなく状況を判断して行動する能力も備えており、過去の人攫い事件での対応からもその有能さが明らかであった。

勢力としての取り込みへの思惑

族長はジグを自らの側に引き入れたいと考えていた。亜人排斥の問題は切迫した現実であり、万一の事態に備えて有力な戦力を確保する必要があった。ジィンスゥ・ヤもまた、これまでの閉鎖的な姿勢から変化しつつあり、外部の人間を受け入れる柔軟さを持ち始めていた。その流れの中で、ジグの存在は極めて有益なものと見なされていた。

イサナへの期待と見当違いな回答

族長はイサナに対し、ジグを引き込めるかを問うた。しかし彼女はその意図を汲まず、戦士として彼を打ち破ることに意識を向けてしまう。自らの未熟さを認めつつも、いずれは勝利する決意を語る姿は、武人としては正しいが、族長の意図とは大きくずれていた。

イサナの人物像と課題

イサナは卓越した剣の才を持ちながらも、戦い以外の面では未熟な部分が目立っていた。外見的には優れた魅力を持ちながらも、それを活かす発想はなく、思考は常に武の研鑽へと向いている。族長はその偏りに苦笑しつつも、彼女の資質を理解していた。

引き込みの難しさの認識

最終的に族長は、ジグの取り込みが容易ではないことを認識した。単なる力や条件では動かない相手であり、慎重な対応が必要であると判断する。その難題を前に、族長とイサナの認識には温度差がありながらも、双方がその困難さを共有する形で話は締めくくられた。

三章 我が前に道はなし

異世界の鍛冶文化への認識

ジグは工房の様子を見ながら、自身の知る鍛冶文化との違いを実感していた。かつての戦場では数が重視され、武器は消耗品として扱われていたが、この地では一品ごとに性能を追求する職人文化が根付いていた。魔獣素材による武具の存在も含め、常識とは異なる価値観に適応しつつあることを自覚していた。

武器修理と実戦の記録

ジグは削岩竜との戦闘で損傷した双刃剣の修理を依頼し、その使用状況をガントに伝えた。短期間で多数の魔獣を斬ってきたことが明らかとなり、武器の消耗の激しさも裏付けられた。削岩竜の攻撃を受け止めたという報告にはガントも呆れつつも、自身の武器の耐久性に一定の満足を示した。

魔具の評価と改善点の提示

インパクトグローブについてジグは、装甲を破壊するだけの威力はあるが反動が大きく、扱いには技術が必要であると指摘した。また足場の不安定な状況では使用が危険であることも伝え、実戦的な改善点を提示した。ガントはそれらを記録し、更なる性能向上を模索し始めた。

宣伝という発想への疑問

ガントはジグに対し、自身の装備を宣伝してほしいと依頼した。冒険者の間でも見た目や憧れによる装備選択が一定数存在するという現実が語られたが、ジグはその効果に懐疑的であった。しかし実際には著名な冒険者への憧れから装備を求める者がいることも示され、価値観の違いが浮き彫りとなった。

ウルバスとの再会と相互理解

そこへウルバスが現れ、武器の調整のために訪れていたことが明かされた。彼はジグの無茶な戦い方を危険視しつつも、その身体を気遣う姿勢を見せた。ジグもまた亜人に対する偏見を持たず、敵対しなければ問題としないという立場を改めて示した。

職人としてのガントの姿勢

ガントは種族に関係なく依頼を受ける実利的な姿勢を持ちつつも、ウルバスの装備には種族特有の身体構造を考慮した工夫が施されていた。曲刀や盾、防具に至るまで丁寧に調整されており、彼が単なる利益優先ではなく職人としての矜持を持っていることが明らかとなった。

装備と戦歴の繋がり

ウルバスの装備に使われている素材が強力な魔獣由来であることが判明し、その価値と性能が語られた。さらに、その素材がギルド依頼を受けずに討伐されたものであったことが明かされ、報酬を逃した事実に対してガントが呆れる場面も描かれた。これにより、冒険者の行動が必ずしも効率だけで決まらないことが示された。

依頼妨害の発覚

シアーシャが読もうとしていた魔術書の続巻が不自然に借りられ、さらに受けたい依頼も軒並み消えていた。最初は偶然にも見えたが、七等級で受けられる有用な依頼だけが狙ったように失われており、ジグは族長の警告を思い出した。

単調な依頼とシアーシャの鬱憤

残っていたのは刃蜂の定期討伐だけであり、シアーシャは仕方なくそれを受け続けた。しかし順番待ちが長く、実戦は一瞬で終わる単調な仕事は、彼女にとって耐え難いものだった。三度続いた退屈な仕事に、シアーシャの不満は限界へ近づいていた。

シアーシャの威圧とジグの評価

不満を口にしたシアーシャへ、周囲の冒険者が文句を言おうとした。しかし機嫌の悪い彼女は、土腕で相手の目前の地面を叩き潰し、さらに脅しを重ねて沈黙させた。ジグはやり過ぎだと諫めつつも、殺さずに脅しで済ませた点を成長と捉え、彼女を褒めた。

ギルド側の事情と妨害の構図

ギルドで確認すると、依頼を受けた者たちが期限ぎりぎりまで放置し、失敗時は違約金を払う形で妨害していることが分かった。複数の者が意図的に依頼を押さえており、シアーシャの活動を封じる嫌がらせであった。シアンは事務処理の負担と他の冒険者への迷惑に強く怒っていた。

アオイの対応とギルドの処置

アオイはシアンを制止し、ギルドとしても規則の悪用を問題視していると説明した。被害がシアーシャだけなら動きは遅かったが、他の冒険者からの苦情も重なったことで、厳重注意や罰則追加の準備が進められていた。ギルド側も組織として、この悪用を放置するつもりはなかった。

シアーシャの怒りの爆発

シアーシャは、自分への妨害が亜人を助けたことへの報復であり、単なる妬みや嫌がらせであると知って激怒した。魔女として向けられてきた殺意や憎悪とは異なる、捻じれた悪意に触れたことで、彼女の怒りは大きく膨れ上がった。彼女は妨害者たちへ直接報いを与えることを決めた。

情報提供と落としどころ

シアンとアオイは殺しだけは避けるよう必死に止めた。ジグも大っぴらな殺害は冒険業に支障が出ると判断し、妨害者たちの名前と所属情報を求めた。アオイは冒険者の命を守るためという名目で情報を渡し、ジグはそれを受け取ってシアーシャを追った。

ジグの助言とシアーシャの選択

ジグはシアーシャに追いつき、彼女が異種族への差別と過去の自分を重ねて迷っていることを知った。彼は、人が生まれる時代や種族を選べない以上、どうにもならない問いに意味はないと断じた。そして、変わると決めたのはシアーシャ自身であり、進む道も彼女が選ぶべきだと告げた。

邪魔者への対処へ向かう二人

ジグは、敵ができることを恐れて行動を止める必要はないが、やり過ぎないよう自分が支えると伝えた。シアーシャは迷いを振り払い、自分の進む道を邪魔する者に報いを与えると決意した。ジグは傭兵としてそれに従い、二人は妨害者たちの根城を調べるために動き出した。

酒場での情報収集

ジグとシアーシャは、妨害者たちの居場所を調べるため、バーディアの者たちが集まる酒場を訪れた。ジグは情報を買うつもりで店に入ったが、外で待っていたシアーシャが特徴的な男を見つけ、即座に叩き込んだことで事態は乱闘へ発展した。

バーディアの一斉反撃

酒場にはバーディア関係者が多数おり、彼らは仲間を倒されたことでシアーシャへ襲いかかった。シアーシャは土腕を使い、男たちを次々に床や壁へ叩きつけた。ジグも彼女に近づく者を排除し、格闘や指弾、酒瓶などを用いて相手を無力化した。

シアーシャの暴走気味な制圧

シアーシャは終始楽しげに暴れ、土腕で複数の男を掴んでは床へ叩きつけ続けた。ジグはその光景に、発破をかけすぎたかもしれないと考えた。最終的にバーディアの男たちは戦意を失い、二人はクランの情報を引き出した。

バーディアの実態

得られた情報によると、バーディアは六等級から八等級の冒険者が中心の中堅以下のクランで、人数は三十人ほどであった。素行は悪く、狩場の占有、横取り、暴力沙汰などで評判も悪かった。亜人嫌いでもあり、近頃は古参が怪しい連中と付き合い、薬にも手を出しているらしいことが分かった。

妨害工作の背景

今回の依頼妨害は、バーディア上層部に脅される形で下位の者たちも加担していたとされた。ただし、それがどこまで本当かは分からず、保身のための言い訳も含まれていると考えられた。ジグは、小物にしては騒動が大きすぎる点に違和感を覚えた。

クランハウスへの殴り込み

夜、二人はバーディアのクランハウス前に到着した。建物の中からは騒ぎ声が聞こえており、ジグが突入方法を考える間もなく、シアーシャは巨大な土腕を呼び出した。そして両開きの扉をこじ開けるように、壁へ土腕を差し込んだ。

バーディアの薬物使用と暴走

バーディアのクランハウスでは、クランメンバーたちが酒や薬物に溺れながら、シアーシャたちへの報復を企てていた。彼らはギルド規則を直接破っていないと考え、ワダツミや亜人への敵意も膨らませていた。注射器に入った赤い薬物によって、理性を失いながら自分たちの優位を信じ込んでいたのである。

シアーシャの襲撃とクランハウスの破壊

そこへシアーシャが現れ、巨大な土腕でクランハウスの正面を割り開いた。建物は見開き絵本のように裂かれ、内部にいた者たちは落下や家具の倒壊に巻き込まれて混乱した。シアーシャはその惨状を前に楽しげな笑みを浮かべ、堂々と自分がやったと認めた。

人間至上主義への怒り

バーディアの頭は、亜人を助けたシアーシャとジグを罵り、人間の街を取り戻すと叫んだ。彼らは亜人やジィンスゥ・ヤへの敵意をむき出しにし、薬物で強化された体で襲いかかった。ジグはその様子から、彼らの異常な行動が薬物中毒によるものだと見抜いた。

薬物強化を圧倒する魔女の力

バーディアの者たちは薬物によって速度や再生力を得ていたが、シアーシャの前では力不足だった。彼女は土腕、石柱、石弾、土盾を次々に使い、襲いかかる者たちを圧倒した。骨や肉が砕けても再生する相手に対し、彼女は動けなくなるまで叩き伏せればよいと判断した。

シアーシャの宣言

シアーシャは、人間であることを誇る前に己の弱さを知るべきだと断じた。そして、人間であろうと亜人であろうと、自分の前に立ち塞がる者は全て敵であり、邪魔をする者は全員ぶっ飛ばすと宣言した。その言葉とともに大地を操り、バーディアのクランハウスそのものを宙に浮かせた。

クランハウスの崩壊と完全な敗北

シアーシャは建物をひっくり返し、屋根から地面へ落下させた。クランハウスは破砕音とともに崩壊し、バーディアの者たちは言葉を失った。圧倒的な実力差を見せつけられた彼らには、もはや立ち向かう気力も残っていなかった。

ジグの受け止めとシアーシャの変化

ジグは、ここまでやるとは思っていなかったものの、シアーシャの行動に大きな意味を見出していた。かつてはそうするしかなかった彼女が、今は自分の意思で選び、邪魔者を排除していたからである。ジグは、それが彼女の変化であると受け止めた。

傭兵としての決意

鬱憤を晴らしたシアーシャは晴れやかな顔で帰ろうとした。ジグは、彼女が自ら選んだ道を最後まで助けようと静かに思った。それは情ではなく仕事であると、自分に言い聞かせるように呟いた。

四章 弱兵どもが夢の跡

バーディアへの解散命令

後日、バーディアには解散命令が下された。理由は、依頼の多重受注や不履行による迷惑行為、民間からの苦情、さらに拠点の倒壊であった。資金難にあった彼らにとってクランハウスの喪失は致命的であり、以後は個人またはパーティー単位の無所属冒険者として活動することになった。

依頼再発行の報告

ギルドの食堂で、シアンはジグとシアーシャに事の顛末を説明した。バーディアが受けていた依頼はすべて破棄され、新たに発行し直されることになった。シアーシャはようやく冒険業を再開できると喜び、甘味を食べながら上機嫌になった。

クランハウス倒壊の扱い

ジグは、クランハウスの倒壊が老朽化によるものと処理されたことに疑問を示した。シアンは、安物件を手入れもせず使っていれば壊れて当然だと説明し、家が逆さまに落ちたという報告は常識的ではないとして流した。ギルドは、死人も一般被害も出ていないことから、この件を大きく追及しない姿勢を取っていた。

怪我の消失と薬物の異常性

バーディアの主要メンバーは運ばれたものの、出血の跡に反して傷はほとんど残っていなかった。ジグは、彼らが使用していた薬の効能が非常に強力であったことを改めて認識した。シアーシャから激しい攻撃を受けながら死者が出なかったのは、その薬の影響が大きいと考えられた。

夜逃げと残る不穏さ

ギルドは薬や事件の詳細を聞こうとしたが、バーディアの者たちは夜逃げしていた。ジグは、その薬の出所を考えると、彼らがこの街を無事に出られるかは怪しいと見ていた。いずれどこかで発見されるだろうと考えていたのである。

恐怖による沈黙

シアンによれば、バーディアの者たちはギルドの処分を意外なほど大人しく受け入れていた。ジグはその理由を、死ぬほど怖いものを見たからだろうと述べた。その視線の先では、シアーシャが何事もなかったかのように甘味を楽しんでいた。

噂として消費されるクラン崩壊

バーディアの解散は冒険者たちの噂話となったが、やがて酒の肴として消費されていった。中にはジグが単独で壊滅させたという誇張された話まで混じり、彼は知らぬ間にクラン潰しの大男として語られるようになっていた。

魔女の存在に関する疑問

食事中、シアーシャはこの大陸に魔女についての記述がほとんどないことを気にしていた。魔術が日常にある土地なら魔女という種が認識されていても不思議ではないが、実際には魔術に長けた女性を比喩的に呼ぶ程度であった。ジグとシアーシャは、魔女が人間に紛れている可能性を考えたが、結論は出なかった。

シアーシャの過去と孤独

ジグが魔女に男がいるのか尋ねると、シアーシャは自身の過去をほとんど覚えていないと語った。幼い頃に誰かと暮らしていたような気はするが、その相手が親かどうかも分からなかった。彼女は、自分を一人にした者なら親でも他人でも同じだと冷たく言い、今はジグがいるからそれでいいと笑った。

ウルバスの謝罪

そこへウルバスが現れ、亜人を助けたことでジグたちに迷惑をかけたと謝罪した。シアーシャは、助けると決めたのは自分であり、その結果は自分のものだと受け入れた。彼女はバーディアへの報復も、自分の邪魔者を排除しただけだと言い切った。

冒険者らしさの承認

ウルバスは、シアーシャの姿勢をとても冒険者らしいと評した。その言葉はシアーシャにとって嬉しいものであり、彼女は先輩であるウルバスをいつか追い抜くと宣言した。ウルバスも、また肩を並べて戦える日を待つと応じた。

ジグの傭兵としての線引き

ジグは、亜人側にも人間側にも与することはできないとウルバスに告げた。彼にとって重要なのは思想や種族ではなく、仕事であり、敵であれば誰であっても斬るという傭兵としての価値観であった。助けた相手に対しても、無条件の味方になるつもりはなかった。

ウルバスの友情

しかしウルバスは、ジグが人間や亜人に関係なく対等に見てくれることを重んじ、友と呼びたいと申し出た。ジグは、敵になれば躊躇なく斬ると念を押したが、ウルバスは友とは馴れ合うだけの関係ではないと答えた。ジグはそれを受け入れ、鱗人式に拳を合わせた。

初めての友

ウルバスとの関係は、戦友ではなくただの友であった。ジグはその存在に戸惑いながらも、差し出された拳に応じた。その表情には、傭兵として生きてきた彼が久しく見せていなかった少年の面影が残っていた。

裏路地での情報収集

薄汚れた裏路地で、鋭い目つきの女は浮浪者たちを冷めた目で見ながら待機していた。そこへヴァンノが現れ、調査の結果として空の注射器を差し出した。それは医療用とは思えぬ粗雑なものであり、例の薬物が流通している証拠であった。

薬物流通の実態

ヴァンノは、薬物が決まった場所や時間で取引されているのではなく、無作為にばらまかれていると報告した。女は、それが中毒者を増やすだけでなく、自分たちの縄張りへの挑発と下層の人間を取り込むための手段であると見抜いた。

黒幕アグリェーシャの存在

調査の結果、背後にいるのは「アグリェーシャ」と呼ばれる勢力であることが判明した。それは西のストリゴを支配する組織であり、薬物規制の緩い地域から流入してきた存在であった。女はその名に覚えがあり、事態の重大さを認識した。

薬物の危険性と危機感

薬物は人の理性を破壊し、強烈な快楽と依存をもたらす危険なものであった。ギャンブルや酒とは比較にならないほどの破壊力を持ち、一度深みに落ちれば抜け出すことは困難である。そのため、裏社会の者であっても扱いには慎重さが求められていた。

バーディア壊滅との関連

ヴァンノは、最近問題を起こしていた冒険者クランが薬物に関わっていた可能性を報告した。しかしそのクランは、二人組の襲撃によって壊滅し、逃亡を図った者たちも始末されたと推測された。女はこの件から、事態が既に冒険者層にまで及んでいると判断した。

迫る腐敗の兆し

女は、街を腐らせようとする動きが既に進行していると理解した。薬物の流入とそれに伴う勢力拡大は、単なる犯罪ではなく街そのものを侵食する危機であった。事態は想定以上に深刻であり、早急な対応が必要と認識された。

番外編 生きるという選択

腐敗した戦場の描写

平原は血肉と死臭に満ち、あらゆるものが腐敗した空気に包まれていた。その地は戦略上避けて通れぬ重要拠点であり、多大な犠牲を払ってでも奪取すべき価値を持っていた。戦いはすでに決着しつつあり、その場に立つ者たちは勝敗の行方を見届けていた。

ディバルトスとヴィクトールの評価

百翼兵団の団長ディバルトス=クレインは、敵軍を烏合の衆と切り捨て、数だけでは勝てぬ戦の現実を語った。一方、副団長ヴィクトール=クレインはその軽口に応じつつも、戦場の結果を冷静に受け止めていた。両者は勝利を確信しながらも、最後まで警戒を緩めることはなかった。

百翼兵団の在り方

彼らの率いる百翼兵団は、圧倒的な戦闘力から百鬼兵団とも呼ばれる傭兵集団であった。団員の多くは素性を隠した者や孤児で構成され、クレインの名もまた作られたものであった。血縁ではなく、戦場での実力と絆によって成り立つ集団であった。

戦いの終結と撤収

やがて勝鬨が響き渡る中、二人は戦場に背を向けた。勝敗が決した場に留まる意味はなく、彼らにとって戦とは報酬を得るための仕事に過ぎなかった。戦場の余韻に浸ることなく、次の行動へと移る冷徹さがあった。

ジグの死の報せ

ディバルトスは唐突に、ある噂について言及した。それはかつての仲間であるジグの死に関するものであった。ヴィクトールは短く応じるのみで、感情を表に出すことはなかったが、その内には確かな認識があった。

戦士としての死の受容

ディバルトスは、どれほど強い者でも死ぬ時は死ぬという現実を語りつつ、それでもジグだけは死なないと思っていたと漏らした。その言葉には、戦場で幾度も死を見てきた者としての実感と、特別な存在への思いが滲んでいた。

記憶に残る弟子

ヴィクトールは無言のまま長槍を握りしめ、数多の戦士の中でも特に印象深い存在としてジグを思い浮かべた。彼にとってジグは、ただの一兵ではなく、確かに記憶に刻まれた弟子であった。

戦乱に呑まれた資源国

ディバルトスとヴィクトールが少年を拾ったのは、列強に挟まれた資源国での戦争中であった。その国は鉄鉱石や石炭の産出により繁栄していたが、東西の大国の戦争に巻き込まれ、両側から侵略を受けて崩壊した。戦場は荒廃し、民間人の死体が積み上がる凄惨な光景へと変わり果てていた。

戦争の裏側と非道な戦術

ディバルトスが惨状に辟易する中、ヴィクトールは冷静に状況を分析した。先兵として犯罪奴隷を使い、略奪と虐殺を行わせた後に粛清することで軍規を保つという、大国の非情な戦術であった。ディバルトスはその非道さに嫌悪を示し、ヴィクトールもそれを実行できなかった過去を認めた。

少年との遭遇と襲撃

移動中、突如として襲撃を受けたヴィクトールは反射的に迎撃しようとしたが、ディバルトスに制止された。襲撃者は武装した敵ではなく、痩せ細った少年であった。彼は食器のナイフを手に、空腹に耐えかねて襲いかかってきたのである。

極限状態で生き延びた少年

少年は荒廃した街に取り残された生存者であり、長期間にわたり孤独と飢餓の中で生き延びてきた存在であった。敵意に満ちた眼差しで周囲を警戒しながらも、体力は既に限界に達していた。それでもなお武器を取り、必死に抗おうとする姿勢を崩さなかった。

戦闘と少年の意地

少年は短剣を手にヴィクトールへ突進したが、技量差は圧倒的であり、一撃で制圧された。それでもなお諦めず、ディバルトスに敵意を向け続けた。その眼には死を受け入れない意思が宿っており、絶望的状況でも生きることを放棄していなかった。

生への執着を見抜く二人

ディバルトスとヴィクトールは、その少年の目に宿る強い生存意志を見抜いた。圧倒的な差を見せつけられてもなお抗おうとする姿は、単なる子供ではなく戦場に適応した存在であった。二人はその資質に興味を抱いた。

取引と少年の誇り

ディバルトスは食料と引き換えに情報を求める取引を持ちかけたが、少年はまず水を求めた。ヴィクトールは取引とは別に水を与えたが、少年は借りは返すと主張し、自らの意思で応じようとした。その態度は幼いながらも強い自尊心を示していた。

選択の提示

ディバルトスは少年に二つの道を示した。野垂れ死ぬか、傭兵として生きるために他者を殺すかであった。それは逃げ場のない過酷な道であり、一度選べば後戻りできない生き方であった。

ジグの決断

少年は迷うことなく後者を選び、自らの意志で生きる道を選択した。そして名を問われ、「ジグ」と名乗った。その瞬間、ただの生存者であった少年は、ジグ=クレインという一人の傭兵として新たな人生を歩み始めたのである。

ジグとの記憶の回想

ディバルトスはかつての記憶を語り、ジグが自らの剣の指導を断りヴィクトールを選んだことを思い出していた。ヴィクトールもまた、その選択が的確であったと認め、ジグの観察眼の鋭さを評価した。二人にとって、その出来事は今なお鮮明に残る印象的なものであった。

兵としての資質の評価

ヴィクトールはジグを将の器ではなかったとしながらも、兵としては優れていたと断じた。ディバルトスもまた、かつては痩せた少年に過ぎなかったジグの成長を思い返し、その変化を感慨と共に受け止めていた。

百翼兵団と積み重ねた成果

撤収準備を進める百翼兵団の姿を見ながら、二人は自分たちが築いてきた戦力の価値を再認識していた。彼らの統率された動きは正規軍にも劣らず、長年の経験と積み重ねの成果であった。

魔女討伐任務への疑念

ディバルトスはジグが最後に受けた依頼について言及した。それは「沈黙の魔女」と呼ばれる強大な存在の討伐任務であり、討伐成功と報告されていたものの、彼はその結果に疑念を抱いていた。生き残った者たちの様子や、その後の状況から、完全な討伐であったとは思えなかったのである。

魔女への関心と提案

ディバルトスはその魔女の真偽を確かめるため、現地へ向かうことを提案した。その意図には好奇心と戦士としての興味が含まれていた。

ヴィクトールの即答と決意

ヴィクトールは迷うことなく同行を承諾した。その即答は彼らしくないものであり、ディバルトスすら驚かせた。ヴィクトールは理由を多く語らずとも、その内には明確な動機を持っていた。

師としての責任

戦場の空気にかつての記憶を重ねたヴィクトールは、ジグの行動の結末に対して責任を感じていた。弟子の選んだ道とその結果に向き合うことこそが、自らの役割であると認識していたのである。

魔女と傭兵 シリーズ

魔女と傭兵1の表紙画像(レビュー記事導入用)
魔女と傭兵 1
魔女と傭兵2の表紙画像(レビュー記事導入用)
魔女と傭兵 2
魔女と傭兵3の表紙画像(レビュー記事導入用)
魔女と傭兵 3
魔女と傭兵4の表紙画像(レビュー記事導入用)
魔女と傭兵 4
魔女と傭兵5の表紙画像(レビュー記事導入用)
魔女と傭兵 5
魔女と傭兵6上の表紙画像(レビュー記事導入用)
魔女と傭兵 6
魔女と傭兵6下の表紙画像(レビュー記事導入用)
魔女と傭兵 6
魔女と傭兵7の表紙画像(レビュー記事導入用)
魔女と傭兵 7

その他フィクション

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