どんな本?
俺は星間国家の悪徳領主!とは、三嶋与夢氏によるライトノベルのタイトル。
イラストは高峰ナダレ氏が担当。
小説家になろうというサイトで2018年から連載されており、オーバーラップ文庫から書籍化されている。
また、コミックガルドで灘島かい氏による漫画化もされている。
この作品は、現代日本で不幸な最期を迎えた男性が、星間国家が存在する異世界に転生し、悪徳領主を目指すという物語。
しかし、彼は前世の価値観や性格のせいで、悪徳領主になりきれず、逆に領民から名君として慕われ、美女たちに惚れられたりする。
魔法あり、剣術あり、ロボットあり、宇宙艦隊あり、ギャグありのてんこ盛り。
「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」(以下モブせか)と同じ作家さんの作品。
WEBでは”モブせか”の広報用に公開していたらしいが、好評だったので書籍化が決まった作品。
あとがきで執事のブライアンと、モブせかの自称アイドル苗木ちゃんのコントが面白いと評判。
ブライアンの「辛いです」が頭から離れないw
酷いヒロイン、略してヒドインが売りのこの作品。
主人公のリアムが行方不明になり留守を預かるハズが、実力NO.1、2のヒドイン達が同志撃ちを始めて内乱を起こしてしまう。
その分、雑用係と呼ばれていたNO.3の男性騎士クラウスが混乱している軍をまとめ、リアム不在に乗じて攻めて来た宇宙海賊にも対応。
そして行方不明になったリアムは、辺境の宇宙の片田舎に召喚されて魔王を倒せと言われる。
側には前世のリアムの娘、カナミがおりどんな生活を送っていたか察する格好をしていた。
読んだ本のタイトル
#俺は星間国家の悪徳領主!⑦
著者:#三嶋与夢 氏
イラスト:#高峰ナダレ 氏
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
勇者リアム、JKと一緒に魔王討伐!?
善良さ故に奪われ続けた前世の反省から「悪徳領主」を目指すリアム。
連合王国の侵攻を退けたことで、その派閥は第一皇子のものより巨大になりつつあった。
そんな中、突如出現した魔法陣に吸い込まれたリアムは――
「どうかこの国をお救い下さい、勇者様! ……え、二人いる!?」
どうやら未開惑星の勇者召喚に巻き込まれてしまったようで、現代日本から召喚された女子高生カナミと一緒に魔王を倒してほしいと頼まれるのだった。
一方、リアム不在のバンフィールド領では邪悪な思惑で暗躍する者達が……!?
悪徳領主が目標なのに勇者として魔王と戦っちゃう勘違い領地経営譚、第7幕!!
前巻からのあらすじ
皇帝の派閥争いに首を突っ込んだせいで、大学生活は派閥争いをして終わってしまったリアム。
役人としての研修に入るのだが、、
研修の合間にカルヴァン派との派閥争いをしながら、連合王国との戦争の矢面に立たされてしまう。
さらに、バンフィールド家の星では大規模な住民デモが起こっており。
最初は、共和国から受け入れた住民の一部が民主化をしろとデモをしていが、、
だんだんと変容して行く。
戦争でいつ戦死するかわからないリアムに「早く子作りして後継者を決めろ」と訴えるデモだった。
それをカルヴァン派が帝国本星に戦艦を持ち込んで、リアム暗殺に使用した件を査問してる場で暴露されて恥辱に震えるリアム。
査問していた委員達はリアムが住民にら慕われているのを微笑ましく思っていたのだが、リアム本人は嘲られてると思い込んでしまっている。
感想
リアム誘拐されヒドインが無双する!
チョット一押した黒幕の案内人もドン引きするほどの暴れ具合。
リアムの後継問題で執事のブライアンとメイドロボの天城から攻められてタジタジになっていたら。
たまたま現れた召喚魔法に、これ幸いと乗っかって遠い宇宙へ逃亡してしまった。
バンフィールド家当主、リアムが行方不明。
混乱するバンフィールド家(ビドイン無双)
本来なら軍を掌握して混乱を収めないといけない元筆頭騎士のティアと、彼女のライバルのマリーが率先してお互いを潰そうと内乱を起こす。
彼女達の懐には保存されたリアムの精子を忍ばせる。
勝ったらリアムの精子を使ってリアムの子を産もうと企てながら。。
それをドン引きしながら見守る案内人。
さらに、リアムの不在中にバンフィールド家を乗っ取ろうとリアムの弟のアイザックが首都星から乗り込んで来た。
リアムが5歳の時に、先代と共に首都星に逃げた自称、譜代家臣の元筆頭騎士のキースと共に。。
彼等はバンフィールド家の屋敷に乗り込んで傍若無人に振る舞う。
キースは皇太子候補筆頭のカルバンからアイザックを次期バンフィールド家当主に推薦すると、カルバンの派閥から派遣された工作員から聞いて気を大きくしてしまう。
そんなキースの前で当主交代を出来てないと言ってブライアン達は抵抗して膠着状態に持って行った。
それでも我が物顔で屋敷に居座るキースの部下の騎士が、量産型メイドロボ立山を破壊してしまう。
この一件で、リアムを恐れている使用人達はキース達から離れ。
それが判らない者、それでも野心を抑えられない者はキースに擦り寄って行った。
そして、その擦り寄った連中をチェックする侍女長のセリーナ。
中央省庁では、出世競争から脱落したが野心を持つバンフィールド家の官僚達が操りやすい貴族を後ろ盾にするために領内に誘引。
さらに、リアムに恨みを持つ貴族、宇宙海賊がバンフィールド領を略奪しようと襲い掛かって来たが、、
ティアとマリーは内乱中で睨み合い状態。
そうなると、クラウスしか対応出来ない状態。
そのクラウスは騎士が本来やるべき仕事、バンフィールド家軍を纏め、攻めて来る貴族や海賊を領内に入れないために防衛戦を構築。
そんな彼を見て、リアムにしか従わない最精鋭のロイヤルガードもクラウスの指揮下に入ると言って来た。
これで誰が筆頭騎士になるか、誰の目から見てもハッキリする。
そうして新型の旗艦を受領して帰還している途中の戦艦はリアムからの救難信号を受信。
それを知ったクラウス達は、居なくなったリアムの救出に艦隊を編成して動き出す。
召喚されたリアム
その行方不明になったリアムは、勇者召喚されたらしく魔王軍に攻め滅ぼされる直前のアール王国の城に出て来た。
共に召喚された日本人の女子高生(リアムの前世の娘と同じ名前のカナミ)と共に”魔王軍から我々を救って欲しい”と言われた。
カナミは二つ返事で了承したが、リアムはそんな義務は無いと突っぱねてしまう。
だが、魔王軍の四天王の1人が攻めて来ると、カナミは頑張ったが魔王軍が圧倒的に有利。
城も陥落して、略奪虐殺の蹂躙劇が始まるかと思ったら、、
リアムが出て来て、攻めて来た獣人族を全て斬り倒して本陣まで逆侵攻してしまう。
そして、四天王の1人を圧倒して殺害。
リアムの強さを見た獣人達はリアムに降伏。
リアム1人で戦局をひっくり返し勝利してしまった。
アール王国の女王はリアムに獣人族達を傘下に入れるな皆殺しにしろと言って来る。
それをリアムは”俺が勝って奴等を傘下に入れた。勝ち馬に乗らせてやるから黙って見てろ”と言って、、
そこから始まる逆侵攻。
リアムは魔王を倒そうとするのだが、、
魔王は霊体らしく刀で斬れない。
それに苦戦するリアムにリアム救出艦隊が到着。
弟子のエレンが起動騎士アヴィドと共に降下して来てリアムを収容。
そして、魔王を神聖魔法で浄化して消滅させて終わる。
その後、リアム誘拐の容疑でアール王国はリアムの艦隊に占領されてしまう。
そしてリアムを召喚した魔法陣を見てバンフィールド家の魔法使い達に携わるエリート達は、あまりの稚拙さと原始的な魔法陣に愕然とする。
そして、リアム誘拐の賠償をどうするかと武力を背景にした交渉に入るのだが、、
バンフィールド家の混乱が大きくて、アール王国には支払い能力が無い。
攻め滅ぼすかと騎士、官僚達が思い始めた時に、天城がリアムを迎えに来てアール王国に救援物資を送って帰って行った。
その後、アール王国は女神アマギを主神とする宗教が国教となる。
ちなみにリアムは魔王と、、、
そして、勇者召喚されたカナミはリアムから貰った魔王の財宝を手に元の世界に帰るのだが、、
WEB版でには無いカナミの後日談が収録されている。
リアムの前世で教えられた人を信じる心と、リアムに教えられた自身の人生を決めるのは自身だけ。
他人は何も責任を取ってくれない。
風俗かキャバクラで働けと言う母親の呪縛から逃れるために、祖父母を頼り彼等の保護下に入って自身の人生のために勉学に励む。
リアムから貰った魔王の財宝は売らずに持っている事にしたらしい。
後始末
領地に戻ったリアムは、領地に侵入していた宇宙海賊と貴族の連合軍を後背から襲い全滅させ。
内乱で乱闘しているティアとマリーをアヴィドで黙らせ。
次期当主だと豪語していたアイザックには、アテにしていたカルバンとの後見は、口約束にでしか無く。
カルバンが次期当主がアイザックだと言っても、皇太子候補のクレオが違うと言えば終わってしまう程度だった。
さらに立山を壊したキース部下を斬り殺し。
反乱を起こそうとしていたキースも部下諸共全滅してしまう。
旗頭にされていたアイザックは、首都星に強制送還されてしまう。
この混乱で悪事に染まっていた官僚、軍人、従者が処断された。
内乱を起こし、リアムの遺伝子を持ち出したティアとマリーは領内での騎士の資格を剥奪され。
2人の教育係に任命されたセリーナは頭を抱える。
リアムの妹弟子の2人より苦戦する。
さらに、ティアとマリーの同期にリアムのペット枠のチノが一緒に教育されるが、、
リアムに猫可愛がりされるチノに2人は嫉妬の炎を上げるが。。
リアムから冷たくされて泣いてしまう落差が面白い。
そうやって後始末が終わったリアムは、無意味な増税をするが、、
彼は使用先を何も指定していなかった。
さらに粛清から生き残った官僚達は、増税する意味を社会福祉の増設にし。
リアムに見せたら、もっとわかりやすくしろと言われて福祉の効果がさらに上がってしまう。
それに喜ぶ領民を見てリアムは何でコイツ等は喜ぶんだと疑問に思い、教育レベルが低いのかと思い、領民への教育レベルを上昇させるようにする。
こうして、リアムの評価はさらに飛躍する。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
登場キャラクター
新登場キャラクター
香菜美
異世界へと召喚された女子高生。現代日本では貧困家庭に育ち、母からの暴言と無理解に苦しんでいた。父を失った過去に強い罪悪感を抱いている。
・所属組織:異世界に転移後は無所属
・母親との口論の末に公園で異世界召喚に巻き込まれた
・前世においてはリアムの娘であった可能性が示唆されている
香菜美の母
娘を風俗で働かせようとするなど、育児放棄に等しい態度を見せる冷酷な存在。家庭崩壊の原因を他人に転嫁する姿勢を取る。
・所属組織:不明
・生活保護を打ち切られ、香菜美に過酷な労働を強いる
・物語開始時点で香菜美と決定的に対立する存在として描かれる
クナイ
リアムに従う暗部の女性であり、異世界召喚に巻き込まれた部下の一人である。主君から名を与えられたことで忠誠心をさらに強めた。
・リアム配下の暗部に属する工作員である。
・異世界召喚に巻き込まれ、リアムと共にアール王国に現れた。
・リアムから「クナイ」という仮名を与えられ、深く感激した。
・王国の内部調査を命じられ、実態把握に努めた。
・亜人への偏見や軍備の弱体化を的確に報告し、任務を全うした。
アンシュリー
ハイエルフの女王であり、世界樹を「かつての故郷」として返還を求めた人物である。美貌と威圧的な態度でリアムに交渉を持ちかけるが、過去の搾取の歴史を自覚している一面もある。
・エルフ族を率いる統治者であり、外交交渉の主導権を持つ。
・世界樹の惑星の返還と保護を名目に訪問し、エリクサー献上を提案した。
・先祖が惑星を荒廃させた過去を持ち、真の目的は再搾取にあった。
・リアムの決定に激昂し、「呪星毒」の使用を仄めかすも、家臣に諫められた。
・案内人の影響を受けた後、家庭を求める穏やかな思考に転じた。
ゴブリン
世界樹の惑星にかつて住んでいた種族であり、リアムに対してその管理権を任せてほしいと申し出た。祖先がエルフに追われ、宇宙を彷徨っていた経緯を持つ。
・かつて惑星に住んでいた原住種族の末裔である。
・アンシュリーの祖先に故郷を追われ、宇宙放浪を続けてきた。
・再び発見された世界樹の地を「先祖の故地」として位置付けた。
・リアムに誠意をもって管理の志を訴え、任されることとなった。
・その後はリアムの命に従い、世界樹の保護と育成に従事している。
オーク
ゴブリンと共に現れた種族であり、世界樹の保護者となることを願い出た。精神的・宗教的な語り口を持つが、リアムには信仰心の面では理解されていなかった。
・ゴブリンと同様、世界樹の惑星を故郷とする種族である。
・リアムに世界樹の霊的価値と使命について熱弁した。
・スピリチュアルな思想を展開するが、リアムには軽視された。
・管理権を譲渡された後は、世界樹を健康に育てる責務を与えられた。
・リアムの命に従い、配下としての立場を得て今後の出番に備えている。
チノ
魔王軍に属する白銀の毛を持つ狼族の少女であり、グラスの娘である。巫女として特別視される存在であるが、戦士としての未熟さを抱えている。
・魔王軍参謀グラスの娘であり、狼族における巫女的存在である。
・初陣ではリアムの圧倒的な力に晒され、恐怖に震えた。
・戦場で名乗りを上げたことでリアムに気に入られ、「ペット」として迎えられた。
・リアム帰還後は共に過ごしており、アヴィド内でも同伴していた。
・周囲の扱いに戸惑いながらも、リアムへの親愛の情を抱く描写が見られた。
ノゴ
魔王軍四天王の一人であり、獣人軍を率いる将軍である。戦果を重んじる一方で、敗者に対しては容赦なく処罰を下す苛烈な指導者であった。
・魔王軍の重鎮であり、戦闘部隊を率いる指揮官である。
・敗走した獣人兵を自らの手で処刑し、統制を維持していた。
・王都への突撃を命じるが、リアムの威圧感により軍が戦意喪失した。
・リアムにより一撃で殺害され、部下たちは恭順へと転じた。
・死後も、魔王ゴリウスに報告されるほどの重要人物であった。
主要キャラクター
リアム・セラ・バンフィールド
アルグランド帝国の伯爵であり、本作の主人公である。自身を悪徳領主と称しながらも領地経営、軍政、政治判断すべてにおいて卓越した手腕を発揮している。美醜や常識に囚われず、損得と合理性を最優先とする価値観を持つ。
・アルグランド帝国の領主として複数惑星を統治する立場にある。
・世界樹の所有権を巡って、エルフ、ゴブリン、オークの交渉を受けた。
・世界樹の管理権をゴブリンとオークに譲渡し、希少性を優先した判断を下した。
・召喚魔法に巻き込まれて異世界へ転移し、アール王国に現れる。
・魔王軍と単身で戦い、魔王ゴリウスを討伐する活躍を見せた。
・帰還後は分裂した自領を即座に掌握し、秩序を回復した。
案内人
かつてリアムを異世界へ転送した存在であり、混乱や争いを糧とする干渉者である。影から各勢力の分断と破壊を促し、リアムの不在を利用してバンフィールド家の弱体化を画策した。
・正体不明の存在であり、現実世界に干渉し続ける陰謀者である。
・呪星毒や複製体を用い、エルフやティア・マリーの暴走を引き起こした。
・リアムを異世界へ飛ばす計画を実行し、現地の勇者召喚に干渉した。
・バンフィールド領では混乱を煽ることで勢力分断を助長した。
・最終的にはエレンとアヴィドの迎撃によって姿を消す結果となった。
皇太子カルヴァン
アルグランド帝国の皇太子であり、派閥闘争の中で劣勢に立たされていた人物である。策謀に長け、クレオ派の内部分裂を狙って間接的にリアムと対峙しようとしていた。
・帝国における皇太子であり、かつての派閥を失った状態にあった。
・リアムが派閥統制を崩すことを見越して、工作員を潜入させた。
・案内人の干渉には懐疑的で、誘導には乗らなかった。
・リアム失踪時も冷静に状況を分析し、慎重な立場を崩さなかった。
・直接的な行動は控えたが、今後の政治動向に影響を及ぼす存在である。
クリスティアナ・レタ・ローズブレイア
かつての筆頭騎士であり、現在はリアムの家臣団の一翼を担う存在である。リアムへの異常な執着を持ち、権力と正統性を得るため暴走を開始した。
・バンフィールド家の筆頭騎士を務めた女性である。
・リアムの不在を機に、遺伝子を元に「正当な後継者を産む」計画を立案した。
・忠誠よりも独占欲を優先し、艦隊を動かして第二惑星に布陣した。
・案内人に傀儡化された後も、自発的な暴走を続けた。
・マリーとの対立により、バンフィールド家を分裂へと導く一因となった。
マリー・セラ・マリアン
かつての次席騎士であり、リアムへの執着と妄執に駆られて動く人物である。ロゼッタを伴い、後継者擁立を目論むが、その手段は強引かつ危険である。
・バンフィールド家の元次席騎士として高い戦闘能力を持つ。
・リアムの遺伝子を用い、ロゼッタを妊娠させようと企てた。
・第三惑星に拠点を移し、三千隻以上の艦隊を集結させた。
・案内人に操られつつも、その影響を超える暴走を見せた。
・ティアとの全面衝突に発展し、内戦の引き金を引いた。
クラウス・セラ・モント
ロイヤルガードおよび精鋭艦隊を統括する立場を託された騎士である。忠誠心と責任感に厚く、リアム不在の中で混乱する勢力の均衡を維持する要となっていた。
・バンフィールド家に仕える騎士であり、後にロイヤルガードの指揮を任された。
・ティアとマリーの対立による内戦状態の調整に尽力した。
・命令ではなく協力を求める姿勢により、部下たちから高い信頼を得た。
・屋敷防衛や統制の維持を担い、胃痛に悩まされつつも職務を全うした。
・最終的にはキースとの一騎打ちに勝利し、実力と正統性を証明した。
天城
リアムに仕えるメイドロボであり、常に冷静に主の意図を読み取り支援する存在である。ブライアンと並ぶ忠臣であり、戦闘面・事務面ともに支援を行う。
・リアムの側に仕える高性能メイドロボットである。
・リアム失踪後も屋敷の秩序維持と情報分析に努めた。
・リアムが異世界から連れ帰ったチノの処遇を巡り、厳しく諫言した。
・帝国法に基づき、異星知的生命体との接触制限を主張し撤退を進言した。
・最終話ではリアムの行動に対し「お遊びはここまで」と明言し、行動を律した。
ロゼッタ・セラ・クラウディア
リアムの婚約者であり、政略結婚の枠を超えて信頼関係を築こうとしていた女性である。リアムの失踪に動揺しつつも、再会を信じて行動していた。
・バンフィールド家に迎えられた政略婚の相手である。
・リアムに協力して領内統治への参加を申し出たが拒否された。
・失踪後は精神的に大きな衝撃を受けたが、再会を信じて行動した。
・マリーに連れられ第三惑星へと同行し、後継者計画の中心に置かれた。
・ティアやマリーの暴走に巻き込まれるも、自己を保ち続けた。
ブライアン
バンフィールド家に仕える執事であり、リアムの最も信頼する家臣の一人である。家の伝統と秩序を守るために奔走し、リアム不在の中で多くの苦悩を抱えた。
・バンフィールド家の執事として長年仕えてきた忠臣である。
・リアムの召喚失踪に深く動揺し、涙を流す場面もあった。
・騎士団内の混乱や略奪行為に対し毅然とした態度で抗議した。
・破壊されたメイドロボ・立山を抱えて撤退し、忠義を貫いた。
・リアムの帰還後は叱責を行いながらも、深い信頼と愛着を示していた。
エノラ
アール王国の若き女王であり、国家存亡の危機に際して異世界から勇者を召喚する決断を下した人物である。理想主義的な信念を持つが、現実との乖離に葛藤する場面も多い。
・十七歳でアール王国の女王として即位した。
・王国の壊滅的状況を受け、勇者召喚を決断した。
・香菜美に丁寧な応対を示し、誠実な協力を依頼した。
・リアムに対しても礼節を尽くす一方で、亜人への偏見を抱いていた。
・リアムの冷酷な論理に反発しつつも、説得力に押され沈黙した。
シタサン
アール王国に仕える魔法使いであり、勇者召喚の儀式を執行した責任者である。魔法技術の未熟さによりリアムの召喚を招いてしまった。
・王家直属の魔法使いとして召喚術を担当していた。
・香菜美の召喚に成功するが、リアムも巻き込まれる事態となった。
・王国の魔法レベルは低く、召喚術は不安定で再現性に乏しかった。
・リアムの帰還後、処刑を免れたものの、今後の修練を命じられた。
・星間国家の魔法使いとの差を痛感し、技術力の乖離を実感した。
立山
メイドロボとして屋敷に仕える存在であり、騎士団の暴走を止めるなど、混乱期のバンフィールド家において重要な制御役を果たした。
・バンフィールド家の屋敷で稼働するメイドロボである。
・ティア派とマリー派の騎士団衝突に介入し、実力で両者を仲裁した。
・リアムの名と共に暴力の抑止力として機能していた。
・後に破壊され、ブライアンに抱えられながら撤退された。
・忠義と秩序を象徴する存在として家臣たちに記憶されていた。
展開まとめ
プロローグ
香菜美の日常と家庭環境
香菜美は高校に通いながらアルバイトに励む女子高生であった。夜の公園で星を眺めるのは現実逃避の一環であり、特に星に興味があるわけではなかった。彼女の家庭は貧しく、母親は働かずに部屋で過ごしていた。香菜美は家計を支えるため、生活費を稼ぎ、夕食も自ら用意していた。
母親はかつては美しく明るい人物であったが、今では容姿も生活態度も荒れ果てていた。香菜美との会話では、母親は生活保護を失った原因を他人のせいにし、娘に夜の仕事を提案するほどであった。香菜美はそれに強く反発し、家庭の崩壊は母親の裏切りに起因すると断じた。
父親との記憶と後悔
香菜美はかつての幸せな家庭を思い出し、父親との思い出に涙を流した。父は厳しくも愛情深い人物であり、香菜美を深く愛していた。しかし、母親が別の男性と関係を持ったことで家庭は崩壊し、離婚の場面で香菜美は「新しいパパの方がいい」と発言してしまった。
その発言が父親を深く傷つけ、結果的に父は失意の中で死去した。香菜美はその過去を強く後悔しており、自身が父を裏切ったという罪の意識を背負っていた。
異世界への召喚
母親との言い争いの末に家を飛び出した香菜美は、公園で過去の後悔を思い出し、涙を流していた。すると突如として地面に魔法陣のような模様が現れ、光に包まれた香菜美はその場から姿を消した。
第一話 世界樹
メイドたちの日常と立場
屋敷の庭園を掃除していた凜鳳と風華は、粗暴で反抗的な性格を持ちながらも、リアムと同門の一閃流の剣士であった。彼女たちの特別な立場ゆえに他の使用人たちも注意を控えていた。凜鳳と風華は言い争いを始め、箒を構えて喧嘩寸前となるが、侍女長セリーナの登場により事態は収束した。リアムの命令で礼儀作法を学んでいる立場である二人は、セリーナに頭が上がらなかった。彼女たちは、屋敷で起きている騒がしさが「世界樹発見の報」によるものと知らされるが、事の重大性には気づいていなかった。
星間国家の支配構造とリアムの立場
リアムはアルグランド帝国の伯爵として複数の惑星を支配していた。旧来の貴族制が広大な領土を管理する上で有効であることを認識し、自身の領地に戻り、領主としての業務に励んでいた。そんな中、領地内で世界樹が発見され、重要な資源と見なされたこの樹の所有を巡って各種族が動き始めた。
ハイエルフの女王アンシュリーの訪問
エルフの女王アンシュリーは、リアムの領地に存在する世界樹の惑星を「かつての故郷」と主張し、返還を申し出た。美貌と高貴な態度で圧をかけるが、リアムは動じなかった。アンシュリーはエリクサーの定期献上という交換条件を持ち出すが、リアムは惑星開発装置により既にエリクサー供給手段を確保していた。リアムはエルフの提案に一応の検討を示しつつも、その裏の殺意に気づきながらも笑って受け流した。
エルフたちの本心と世界樹の過去
アンシュリーは表向き世界樹の保護を訴える一方で、かつて自分たちの祖先が惑星の生命力を吸い尽くし荒廃させていた過去を持っていた。世界樹の管理と称してエリクサーを搾取し、それによって繁栄してきた事実を口にし、今回も同じように利用するつもりであった。
ゴブリンとオークの来訪
アンシュリーの面会直後に、同じく世界樹を管理できる種族であるゴブリンとオークが現れた。彼らはアンシュリーの祖先に故郷を追われ、宇宙を放浪していた民であった。今回、再び発見された世界樹のある惑星が自らの祖先の地であることを訴え、リアムに世界樹の管理を任せてほしいと申し出る。ゴブリンたちは真摯な思いで話すが、アンシュリーは彼らを見下し、勝利を確信して去っていった。
価値観とリアムの本質
アンシュリーはリアムを「人間である以上、美しいエルフを選ぶ」と高をくくっていたが、リアムは美醜や常識に囚われぬ価値観を持ち、悪徳領主を自称する男であった。エルフたちの策略や見下した態度が、必ずしも成功に繋がるわけではないことを、彼女たちは理解していなかった。
ゴブリンとオークの訪問
リアムの屋敷を訪れたのは、世界樹の管理を願い出るゴブリンとオークであった。彼らは希少な存在であり、リアムにとっても実物を見るのは初めてであった。オークは世界樹の本来の意義について熱心に語ったが、スピリチュアルな内容に関心を持たなかったリアムはその話を聞き流していた。
リアムの価値判断と選択
リアムは悪徳領主を自称する者として、傲慢なエルフよりもむしろゴブリンやオークのような種族こそが相応しいと考えた。美女であるエルフの代わりは他で補えるが、ゴブリンやオークのような存在は希少であり、集めるのが難しいと判断した。見栄のために所持する世界樹の管理を任せるならば、彼らの方が都合が良いと結論づけた。
世界樹の管理権譲渡と今後の関係
リアムは正式に世界樹のある惑星の管理をゴブリンとオークに任せると伝えた。思いがけない決定に、彼らは驚きつつも次第に喜びを露わにした。リアムは彼らに今後も自分のために働くよう命じたが、具体的な使い道は思いついておらず、必要になった時に呼び出す方針を取った。
リアムの動機と期待
リアムの真意は、領主として世界樹の存在を誇示するためであり、彼らには健康に世界樹を育てることを求めただけであった。薄い知識ながらも悪としての行動を意識しつつ、ゴブリンとオークを配下に置いたリアムは、自身の満足感を得ると同時に、新たな布陣を整えていった。
第二話 案内人の暗躍
エルフの激昂と呪詛の危機
世界樹の管理者に選ばれたのがゴブリンとオークであったことに、女王アンシュリーは激昂した。移住を当然視していたエルフの民は混乱し、アンシュリーは「呪星毒」による報復を口にする。呪星毒は惑星を呪い死に至らしめる恐ろしい毒であり、家臣たちは必死に制止した。
案内人の復活と暗躍の始まり
エルフの怒りを吸収した案内人は、呪星毒と共に負のエネルギーを大量補給し、完全復活を果たした。リアムへの敵意から、案内人はリアムを異世界へ転送しようと企てた。魔王に苦しむ惑星で異世界召喚が実行されようとしているタイミングを狙い、リアムを召喚術に巻き込ませる計画を立てた。
アンシュリーの変化と撤退宣言
案内人の復活と共に、アンシュリーの激情は失われ、現実的で穏やかな思考に転じた。呪星毒の使用も放棄し、安住の地での生活と家庭を求める意志を表明した。家臣たちは安堵しつつも、年齢を口にした若手を女王が殴打する場面もあった。
皇太子カルヴァンの静かな策謀
帝国首都では、皇太子カルヴァンがかつての派閥から多くの貴族を失い劣勢に立たされていた。だが、彼はクレオ派に愚かな貴族を送り込むことで、内部崩壊を誘発させようと目論んでいた。リアムが派閥を掌握できず混乱するのを待つという策を進めていた。
騎士団内部の緊張とメイドロボの介入
屋敷内の移動電車で、元筆頭騎士ティアと元次席騎士マリーが鉢合わせし、一触即発の空気が流れた。しかし、メイドロボの存在が双方の殺気を和らげ衝突を回避した。その後、クラウスがメイドロボとの会話で自身の立場と不安を自覚し、冗談交じりに警戒を促される場面もあった。
リアムの過去と信頼の問題
休憩室で天城の膝枕を受けながら安息を得たリアムは、前世で裏切られた元家族の夢を見て苦悩した。そこへ婚約者ロゼッタと執事ブライアンが現れ、世界樹誕生を契機にロゼッタを領内運営へ参加させる提案を行った。しかし、リアムは人間不信からその提案を拒絶し、周囲と衝突した。
お世継ぎとハーレムを巡る騒動
ブライアンと天城は後継者問題の重要性を訴えたが、リアムは子供嫌いと過去のトラウマから拒否の姿勢を崩さなかった。強引な展開の末、ハーレム計画の話に発展するも、現実には誰一人側におらず、突発的に言った「毎日一人」の発言により、十万名規模の側室候補が選抜されかけた。最終的にリアムは自身の美学を理由にそれを撤回した。
リアム、異世界へ召喚される
突如として休憩室に召喚魔法陣が出現し、リアムは抗う間もなく吸い込まれた。天城とブライアンの手も届かず、リアムは異世界へと飛ばされていった。最後の瞬間、リアムの内心は絶望ではなく、この騒動から逃れられたという清々しい喜びに満ちていた。
第三話 勇者召喚
アール王国の窮地と女王の決断
大陸の覇者として名を馳せたアール王国は、魔王軍の侵攻によって壊滅寸前となっていた。国王と王族の多くが命を落とす中、十七歳のエノラが女王として即位した。絶望的な状況下で、最後の手段として異世界からの「勇者召喚」が決断された。
召喚術の発動と少女の出現
地下で行われた召喚の儀式には、王家に仕える魔法使いシタサンが担当し、弟子たちと共に準備を整えた。召喚魔法陣の発動によって、現れたのは一人の少女・香菜美であった。異世界から召喚された香菜美は状況に困惑しながらも、エノラの丁寧な応対に戸惑いを見せた。
二人目の勇者の出現と動揺
儀式終了直後、突如魔法陣からもう一人の人物が召喚された。リアム・セラ・バンフィールドである。彼は召喚術の完成度に呆れつつも、その場の全員を威圧する態度で現れた。王国関係者は想定外の事態に混乱し、香菜美もまたリアムの存在にただならぬ気配を感じ取っていた。
リアムの応答とエノラの願い
エノラは、予定外の召喚となったリアムにも丁寧に願いを伝え、国の救済を依頼した。リアムはその姿に笑いながらも、軽い調子で協力を了承した。一方、香菜美はリアムの堂々とした態度に苛立ちを覚えつつも、その実力を察していた。
リアム失踪後の屋敷の混乱
一方その頃、リアムの本拠地である屋敷では、召喚による失踪が発覚し、魔法使いや家臣たちが混乱に陥っていた。マリーは魔法使いたちの責任を追及し、召喚魔法に関する痕跡を探していた。ロゼッタはリアムの失踪に深く傷つき、再会を信じて倒れながらも行動を起こしていた。
暗部の介入と捜索開始
暗部の指導者ククリも姿を現し、リアムの護衛に失敗したことをマリーに責められる。互いに敵意を隠さず牽制し合いながらも、リアムの行方を追うことでは一致していた。召喚魔法が原始的であったことから痕跡は乏しく、捜索は難航していた。
ティアの指揮と家臣団の混乱
中央管理センターではティアが指揮を執り、責任者を圧迫しながら解析を急がせていた。リアム不在により後継体制は整っておらず、政庁や騎士団でも指導権を巡る混乱が生じていた。ティアはリアムの右腕としての自負から、自ら指揮を執ることを決意した。
官僚たちの裏切りと案内人の暗躍
バンフィールド家の政庁では、一部の官僚たちがリアム失踪を好機と見て主導権を奪おうと画策していた。彼らはリアムの父・クリフや、放蕩貴族ノーデン男爵に新領主就任を打診しようとしていた。その様子を案内人が監視しており、彼らの野心を増幅させることで、バンフィールド家の弱体化を図っていた。リアム不在の間に混乱を拡大させ、帰還後の困難を増大させようとしていたのである。
第四話 魔王軍
王城での初対面と疑念
リアムは召喚されたアール王国の王城を「小汚い」と評し、期待外れであると感じていた。召喚されたもう一人の勇者・香菜美はエノラ女王と親しげに会話を交わしていたが、香菜美の名がリアムの前世の娘と同じであったことから、リアムは動揺した。香菜美の名に対する思い入れや反応の違いから、自身の娘とは別人であると判断し、感情を切り替えた。
晩餐会と香菜美との会話
アール王国の用意した晩餐会は質素であり、国の困窮ぶりが露呈していた。リアムはそれを率直に「口に合わない」と評したことで、香菜美に態度を咎められた。香菜美はエノラの好意を真摯に受け止めていたが、リアムは召喚術の一方通行性や、魔王討伐という依頼の意図を見抜き、王国側の都合を冷静に指摘した。香菜美は自身の家庭環境を語り、「帰る場所がない」と心情を吐露したが、リアムは同情を示すことなく事実を突きつけた。
召喚術の仕組みと誤認の指摘
リアムは自らが異世界からではなく同一世界の別惑星から召喚されたと分析した。召喚魔法が原始的かつ事故率が高いものであり、今回の自分の召喚も偶然であると考察した。香菜美は異世界に魔法が存在しないことを根拠に混乱していたが、リアムは話を続けず部屋の準備が整ったことで応接室を後にした。
部下との再会と命名
客室に通されたリアムは、影に潜んでいた暗部の部下と再会した。彼女も召喚に巻き込まれていたが、リアムは処分を否定し、代わりに仮名として「クナイ」と命名した。これは、暗部の者にとって雇い主から名を与えられることが存在証明となる重要な行為であり、クナイは深く感謝していた。
情報収集の指示と異世界転移の実感
リアムはクナイに王国内部の実情調査を命じた後、ベッドで過去を思い出しながら物思いにふけった。自らが異世界転移と転生を経験したことを認識し、手元の高機能ブレスレットからドローンを起動して救難信号を発信した。星間国家の支援を期待しつつ、しばらくこの世界を楽しむ決意を固めた。
クナイの忠誠と王国の実態調査
命を与えられたことに感動するクナイは、自らの存在が主君の記憶に残ることに誇りを感じながら情報収集を開始した。王城内の警備の甘さに失望し、騎士たちの無礼な発言にも怒りを覚えつつ任務を遂行した。王国の戦力は老兵と未熟な若者に頼る限界状態であり、国力の衰退が顕著であると判断したクナイは、さらなる調査へと向かった。
武器庫の案内とミスリル装備の披露
リアムと香菜美は、エノラにより武器庫に案内された。アール王国に残された数少ない武具の中から、国宝級のミスリル製の剣と鎧が提示されたが、リアムはその品質に一定の評価をしつつも、刻まれたルーン文字の拙さを指摘した。香菜美はその批判的態度に不満を示したが、リアムは王国の技術レベルを冷静に分析していた。
ミスリル武具の使用可否と計画の確認
ミスリル装備を巡るやりとりの中で、香菜美はリアムが使用するものと思い込んでいたが、リアムは武具の使用を拒否した。代わりに戦闘計画の確認を求めたところ、エノラは四天王の一人が王都に迫っている状況を説明し、装備以外に準備すべきアイテムは存在しないと語った。
エノラの亜人種への嫌悪と感情の暴走
リアムはエノラが亜人種を「野蛮」と形容したことに反応し、彼女の偏見を引き出した。エノラは亜人種による略奪と暴虐を感情的に訴え、香菜美もこれに感化されて怒りを覚えた。エノラは興奮を詫び、リアムたちに武具の自由な選択を許して去っていった。
理想主義と現実主義の対立
エノラが去った後、香菜美はリアムの態度を非難した。リアムは彼女の純粋さと善意を「愚かで御しやすい勇者」と評し、王国の発言を鵜呑みにする危険性を指摘した。香菜美は理想を信じる姿勢を曲げず、リアムとの思想的隔たりが明確となった。
香菜美の信念と葛藤
リアムの去った後、香菜美は怒りを表出したが、若い騎士に称賛されることで落ち着きを取り戻した。彼女の信念の根幹には、かつて父から授けられた「人を信じる」姿勢があった。だが、同時にその父を裏切った過去の記憶に胸を痛めていた。
国情の報告とリアムの情勢分析
クナイからの報告により、魔王軍の侵攻が三日後に迫っていることが明らかとなった。アール王国は老若男女を総動員して戦争準備を進めていたが、すでに戦力的にも再建能力的にも限界に達していた。リアムは勇者召喚のタイミングの誤りを指摘し、戦後の展望が極めて厳しいことを予測した。
魔王軍の実態と亜人種の連携
一方、王都周辺では魔王軍が布陣していた。その構成は人間以外の種族――かつて人間に迫害されてきた亜人種たちであり、彼らは種族を越えて結束していた。四天王の一人・獅子将軍ノゴの指揮の下、彼らは圧倒的戦力で王都攻略を目前にしていた。
白銀の狼・チノの登場
魔王軍に属する狼族の軍師グラスは、娘のチノと共に戦に備えていた。チノは白銀の毛を持つ巫女として特別視される存在であったが、戦士としての成熟には欠けていた。父グラスは娘の未熟さを憂いつつも、彼女の初陣を通じて一人前と認められることを期待していた。
軍内の懸念と食糧問題
グラスは、ノゴ将軍が戦果を酒宴で浪費する姿勢に懸念を抱いていた。戦勝後の王都に食糧が残っている保証はなく、魔王軍内部での略奪と混乱を懸念していた。だが、チノは楽観的な見方を崩さず、父の不安を理解しきれていなかった。グラスは、武力に従う軍内の掟の下で思い通りにならない現実を嘆きながら、今後の戦局に対する不安を強めていた。
第五話 混迷するバンフィールド家
リアム失踪による屋敷の混乱
リアムの召喚失踪により、バンフィールド家は深刻な混乱に陥っていた。執事のブライアンは悲嘆に暮れ、天城も権限を持たぬ中で情報分析に尽力していた。だが、リアム不在の情報が意図的に漏洩しており、領内の統制が取れず不穏な空気が広がっていた。
騎士団内の派閥衝突と立山の仲裁
騎士団内ではティア派とマリー派が対立し、廊下で実力行使に発展した。互いに殺意を剥き出しにして争う中、メイドロボの立山が仲裁に入ることで辛うじて衝突は収束した。リアムの名と立山の存在が、暴走する騎士たちを抑止する唯一の力となっていた。
クラウスの苦悩と忠勤
騎士団の維持に努めるクラウスは、リアムの不在を補うために雑務に追われていた。周囲からの過大な期待に苦しみながらも、部下たちの信頼に応えるべく表情を崩さず指揮を執っていた。ティアとマリーの対立で発生した混乱の尻拭いを一手に担っていた。
チェンシーと凜鳳・風華の衝突
屋敷内では、メイド姿の凜鳳と風華が口論の末に戦闘寸前となり、そこにチェンシーが襲撃を仕掛けた。チェンシーは肉体を捨て、脳まで改造したサイボーグと化していた。彼女はリアムを倒す力を得たと自負し、一閃流の弟子である二人に試そうとした。両者は箒を武器に応戦し、本格的な戦闘が始まろうとしていた。
十二家の策謀と新当主擁立計画
かつての寄子であるノーデン男爵バオリーは、バンフィールド家の実権を握るためにクリフの子・アイザックを新当主として擁立した。リアム不在を好機と見たバオリーは、首都星での縁を利用し、政庁官僚と共に動いていた。アイザックは美少年であるが傲慢で無能さが露呈しており、バンフィールド家の未来に不安を抱かせた。
譜代騎士キースの復帰と不信感
アイザックの護衛として復帰した譜代の騎士キースは、リアムを見捨て首都星に逃れた過去を持っていた。キースは筆頭騎士の立場を得て再び実権を狙っていたが、その姿勢にブライアンやセリーナは深い不信感を抱いた。騎士団を再び牛耳ろうとするキースは、かつての地位回復を目論み、利害関係者と結託していた。
屋敷支配を巡る動きとバンフィールド家の危機
バオリーたちはリアムの死を既成事実化し、アイザックを正式な当主に据えようと画策していた。政庁は主導権を奪取し、反対意見を処刑で封じようとするなど横暴な振る舞いを見せた。だがセリーナの冷静な反論により即時の強硬策は避けられたものの、今後の支配構造には暗雲が立ち込めていた。
忠臣たちの苦悩とリアムの帰還待望
屋敷を支える忠臣たちはリアムの不在により無力さを痛感しながらも、暴走する派閥や利己的な旧臣たちの中で静かに抵抗を試みていた。立山の掃除、ブライアンの涙、クラウスの胃痛、セリーナの睨みといった様々な形で、彼らは一様に「リアムの帰還」を心から待ち望んでいた。
アイザックへの案内人の期待
リアム不在の屋敷に乗り込んだアイザックに対し、案内人は極めて好意的な評価を下していた。帝国貴族らしい非情な性格と利己性を高く評価し、バンフィールド家がアイザックの手で衰退する未来に期待を寄せた。だが、その計画を邪魔する恐れがあるティアやマリーの存在を危険視し、介入を決意した。
ティアとマリーの暴力的衝突
案内人が確認したティアとマリーは、主導権争いから激しい暴力の応酬を繰り広げていた。互いを罵倒しながら素手で殴り合い、破壊の限りを尽くしていた。案内人はこれを「求めていた暗い未来」とは異なると評しつつも、二人の暴走を利用するため、自らの複製を用いて操ることを決断した。
案内人による操縦と傀儡化
複製された案内人は背後からティアとマリーに接触し、欲望を刺激して傀儡化に成功した。二人は己の欲求――「リアムの一番になりたい」という強い執着に支配され、操られるままバンフィールド家内部で破壊活動を開始するよう仕向けられた。
ティアの遺伝子強奪と軍事行動
ティアは目覚めると、自室からリアムの遺伝子サンプルを確保し、「正当な後継者を産む」ことを企てた。これによりバンフィールド家の権威を掌握しようとし、忠誠心の高い騎士たちと共に第二惑星を拠点とする艦隊を編成した。彼女は本拠星の戦闘を避け、「リアム様のため」と称して実際は自らの欲望実現に動いていた。
マリーとロゼッタの逃亡計画
一方マリーは、リアムの婚約者ロゼッタを連れて第三惑星へ移動。リアムの遺伝子を利用し、ロゼッタに子供を産ませようとする計画を進行していた。また、自身も同様に子を宿す意図があり、非常時の混乱を利用して正統性を獲得しようとしていた。
シエルの困惑と葛藤
ロゼッタの侍女であるシエルは、兄クルトからの過剰な連絡に悩まされつつも、ロゼッタを見捨てられず事態に巻き込まれていた。ティアとマリーの暴走に困惑しながらも、クルトへの連絡を断ち、屋敷に残る選択を取った。
案内人の困惑と嘆き
ティアとマリーが予想を超えて欲望に忠実に動いたことに、案内人やその複製すらも呆れていた。元々欲望を刺激するだけの意図だったが、二人の行動は案内人の操作を凌駕し、自発的な暴走に至っていた。
ティアによる艦隊出撃と分裂の加速
ティアはリアムの名のもとに艦隊を動かし、バンフィールド家の領地を分割統治しようとしていた。マリーとの拠点争いも激化し、忠義の厚い部隊が各地に分かれて離反する事態となった。精鋭艦隊やロイヤルガードは中立を保っていたが、家臣団はすでに二分され、バンフィールド領は崩壊寸前であった。
リアムのいない間に起きたお家の一大事
リアムの帰還を信じながらも、ティアとマリーはそれぞれの思惑で動き続けた。彼の帰還を「お家の一大事だった」として正当化する算段も整えつつ、両者は自らの欲望と正統性の追求に没頭していた。案内人の裏工作とは別に、もはや二人は自らの意思で暴走を続けていたのである。
第六話 ロイヤルガード
マリーの艦隊集結と拡大
マリーはロゼッタを伴い第三惑星を目指して進軍していた。当初は千隻未満の艦隊規模であったが、道中で治安維持用の小規模艦隊を次々と吸収し、最終的には三千隻にまで増強された。だが、精鋭艦隊やロイヤルガードの引き抜きには失敗し、マリーは苛立ちながらも敵に回らなかった点に安堵していた。
ロイヤルガードとの対立と破談
ロイヤルガードとの交渉において、マリーはロゼッタの護衛を理由に協力を要請したが、彼らはリアムの直接命令にしか従わないという立場を貫いた。ロゼッタを正式な守護対象と認めない発言にマリーは激昂し、交渉は決裂した。ロイヤルガードはマリーの行動を敵対視しつつも、中立の姿勢を維持した。
ロゼッタの保護とマリーの策略
マリーは第三惑星に到着次第、駐屯軍を吸収しさらに軍を拡大する方針を取っていた。アイザック排除よりも、自身の計画を優先しており、リアムの子を宿す機会を逃さぬために時間稼ぎをしていた。試験管に収められた遺伝子を胸に、欲望を実現する段取りを着々と整えていた。
案内人の戸惑いと無力感
裏でマリーを操る複製された案内人は、ほとんど介入の必要がないほどにマリーが欲望に忠実であることに驚いていた。本来ならば操作する役目を担うはずだったが、マリーの自発的な暴走により存在意義を失っていた。
ロイヤルガードの独自行動決定
マリーとの通話後、ロイヤルガードは精鋭艦隊の大将と会談し、軍閥分裂を防ぐため独自行動を決断した。リアム不在の今、アイザックを主君と認めることはできず、クラウスの下に集結することで組織の統一を図ることにした。
クラウスの動揺と指揮権の集中
クラウスは突如ロイヤルガードの指揮を任されるという事態に困惑しつつも、現場の混乱を抑えるべく役割を引き受けた。彼は命令ではなく協力を要請するという謙虚な態度でロイヤルガードと接し、彼らからも高い評価と信頼を得た。ロイヤルガードは精鋭艦隊との連携も取り付け、クラウスのもとでバンフィールド家防衛体制を再構築する運びとなった。
軍勢の三分化と今後の展開
こうして、バンフィールド家の軍勢はマリー、ティア、そしてクラウス率いる中立勢力の三勢力に分かれることとなった。リアムの帰還を待つ中、各勢力はそれぞれの正統性と信念を掲げて動き出していたが、根底にあるのは欲望と忠義の複雑な交錯であった。
第七話 大誤算
案内人の暗躍と領内混乱の拡大
案内人はリアム不在のバンフィールド領にて混乱の広がりを観察していた。街では失踪の噂が広まり、領民たちは動揺し政庁前で本格的なデモを展開した。ティアやマリーの暴走に加え、官僚や軍内部でも規律が崩壊し、不良分子の暗躍が目立ちはじめていた。案内人はこの負の感情を吸収し、力を回復しながら錬金箱を狙うべくアヴィドの格納庫へと向かった。
エレンとアヴィドの防衛、案内人の撃退
リアムの失踪を悲しむエレンは、地下格納庫のアヴィドに身を寄せていた。案内人は錬金箱を強奪するため侵入するが、エレンの抱くリアムの愛刀が反応し、自動的に案内人に攻撃を加えた。結果、案内人は身体を失い帽子だけの姿で逃走を余儀なくされた。アヴィドはこの事態を受け、自らの強化と進化を開始した。
案内人の更なる陰謀とカルヴァンへの接触
案内人はリアムの領地を更に混乱に陥れるべく、悪徳貴族や海賊を招集し、カルヴァン皇太子への支援も計画した。リアムの不在を帝国内に広めることで、帝国全体を巻き込んだ破壊工作を加速させようと画策した。
香菜美の戦意と勇者の力の覚醒
一方、異世界のアール王国では香菜美が王都の惨状を目にし、戦う決意を固めていた。訓練場での試合において勇者としての特異な能力が覚醒し、敵の動きが遅く見えるという異能を発現。これにより、自身がこの世界で必要とされる存在であると自覚するに至った。
アール王国防衛戦と香菜美の初陣
王都が獣人たちの夜襲を受ける中、香菜美は実戦に投入された。最初は恐怖に震えていたが、異能を活かして獣人を撃退し、初陣を勝利に導いた。だが、兵士たちが動けぬ敵に止めを刺す光景に戦争の非情さを痛感し、その場に崩れ落ちた。
獣人軍の反応と謎の威圧感の発現
敗走した獣人たちは獅子将軍ノゴの前に引き出され、逃亡の罪により処刑された。ノゴは次なる攻撃として城門への突撃を命じるが、アール王国側から放たれた謎の威圧感により、獣人軍全体が戦慄した。城門が開かれ、突入した部隊が一瞬にして殲滅されると、敵陣には細身の剣を持ったリアムと思しき男が立ち塞がっていた。
グラスとチノの葛藤と出撃決断
獣人軍参謀グラスは、この異常事態に危機感を抱いたが、ノゴの命令に逆らえず突撃命令を下すしかなかった。娘チノを含む部族を率い、グラスは恐怖を胸に前線へと進む決断を強いられていた。
第八話 一番の悪党
王都城門の開放と獣人軍の壊滅
リアムは王都の城門前に単身で立ち、守りに徹する兵たちの動揺をよそに、城門を開けるよう命じた。誰の指示かわからぬまま城門が開かれ、獣人軍が突入したが、リアムの剣圧により次々と爆散し、一切の接触なしに殲滅されていった。その様子を見ていた香菜美とエノラは、リアムの力に戦慄した。
剣圧による制圧と魔王軍への問いかけ
リアムは城門から出て敵陣へ進撃し、獣人たちを一方的に葬った。名乗りを上げたライオン型の獣人を圧倒し、魔王の所在を問いただすが、返答を拒んだその男を躊躇なく殺害した。剣の一振りで多数の獣人を斬り伏せ、恐怖によって全軍を沈黙させた。
降伏勧告と獣人軍の恭順
圧倒的な力を目の当たりにした獣人たちは、次第に抵抗を諦め恭順の意思を示した。そこに現れた少女・チノは怯えながらも名乗りを上げるが、犬か狼かを巡るやり取りを経て、彼女の父グラスが自らの娘をリアムに献上した。リアムはチノを「可愛いペット」として迎え、獣人軍をそのまま配下に加えた。
玉座での報告と香菜美の怒り
王城に戻ったリアムは、玉座に座りながら獣人幹部たちと会談を進め、魔王討伐の意思を示した。しかし、四天王の存在を軽視し、民衆の苦しみへの共感も見せず、香菜美の怒りを買った。リアムは彼女を「素人」と断じ、役立たずと見なした上で、魔王討伐を「暇潰し」と言い放った。
女王エノラの抗議と謁見の間の混乱
エノラはリアムに対し、獣人たちを城内に招き入れたことへの非難と、王国民の感情を無視した姿勢を批判した。リアムはそれを聞き入れず、逆に女王に対して横柄な態度を貫いた。若い騎士が剣を抜き反抗するも、リアムは素手で首を刎ねて沈黙させた。その異常な力に謁見の間は凍りつき、香菜美も言葉を失った。
リアムの暴言と支配者としての論理
リアムは「勝者」としての自己を主張し、他の者たちを「敗者」と断じた。獣人は彼の所有物であり、口を出すことは許さないと宣言した。血を流した者たちの苦しみにも耳を貸さず、努力は当然であり評価の対象ではないと断じた。
香菜美とエノラの敗北感
香菜美とエノラはリアムの論理に反論できず、彼の冷酷さと理不尽さを前に言葉を失った。リアムは彼女たちの理想主義を嘲笑し、民のための政治すら「弱者の言い訳」として切り捨てた。リアムの暴君的な支配は確立し、王国と魔王軍を巡る構図は完全に彼を中心に再編されていった。
第九話 お家争い
カルヴァンの会議と案内人の扇動失敗
帝都ではカルヴァン皇太子が、リアムの失踪によるバンフィールド家の混乱について派閥貴族と会議を開いていた。案内人は陰から貴族たちを煽動し、バンフィールド領への侵攻を唆したが、カルヴァンは冷静に「罠の可能性」を指摘し、介入を否定した。案内人は苛立ち、思惑通りに進まぬ状況に憤慨していた。
クラウスの奮闘と忠誠
本星ではクラウスがロイヤルガードと精鋭艦隊を預かる立場となり、混乱の中で現状維持に努めていた。ティアとマリーの両名がそれぞれ勝手に艦隊を動かし、内部対立が激化する中、クラウスは私欲を挟まずリアムの帰還を信じて屋敷を守っていた。
後継者を騙る者たちと財産狙いの来訪者
バンフィールド家の権威を狙う者たちが次々と現れ、「リアムの子を身籠もった」「分家の血縁だ」などと主張し、当主の座を狙っていた。クラウスは騎士団の統制と外部の侵入者対応に追われ、胃痛に苦しみながらも冷静に状況を抑え込んでいた。
キース一派の傍若無人な振る舞い
アイザックに仕えるキースとその騎士団は屋敷内で傍若無人に振る舞い、高級品を略奪し、屋敷を荒らしていた。中にはメイドロボへの暴行もあり、かつての家臣とは思えぬ行為に堕していた。カルヴァン派の工作員や他国のスパイも加わり、屋敷は蹂躙されていた。
ブライアンの抗議と忠義の対立
惨状を目にした執事ブライアンは立ち上がり、キースに抗議したが、逆に脅される形となった。ブライアンは立山と名付けた損壊したメイドロボを抱えて撤退し、忠義を貫く姿勢を崩さなかった。彼はリアムの恐ろしさを知るがゆえに、背信者たちに忠告を残して去っていった。
セリーナと侍女たちの動揺と再起
侍女長セリーナは、動揺する侍女たちを叱咤しつつ、メイドロボの破壊を受けて内部の裏切り者の識別を進めていた。多くの侍女たちは反省して業務に復帰しており、セリーナはそれに安堵しながらも、依然アイザックにすり寄る者たちを見限る決意を固めていた。
リアムの暗殺未遂と処分命令
異世界では、リアムが暗殺を仕掛けた王国の将軍や大臣に処分命令を下していた。クナイの報告で裏切り者の存在を知ると、リアムは淡々と命を下した。一方で、リアムに無礼を働いた香菜美については、処分せず「からかいの対象」として放置するよう命じた。
香菜美との対話と価値観の衝突
香菜美は女王エノラを庇い、リアムの非情な論理に反発したが、リアムは統治者に必要なのは能力であり、人間性は二の次であると断じた。香菜美の甘さや父への想いを厳しく否定し、怒らせてしまうが、その反応にリアムはかつての娘との関係を思い出し、自嘲した。
香菜美の怒りとリアムの共感
香菜美が父への侮辱に怒り、剣を抜こうとする寸前、クナイが制止し、香菜美は気絶した。リアムはその姿に、前世の自分が娘に与えられなかった「愛された父」の存在を見出し、羨望と諦念を抱いていた。
霊犬の遠吠えと救援への呼びかけ
部屋の隅でリアムを見つめていた犬の霊は、彼の内面の孤独に悲しみを覚え、香菜美のもとへと向かった。涙を流す彼女を見て慰められないもどかしさを感じた犬は、リアムを救う存在を呼ぶべく城の屋上で遠吠えを放ち、ドローンによる救難信号の伝播を試みた。救援を呼ぶその遠吠えは、リアムの帰還と混迷する状況を打破する鍵となる兆しであった。
第十話 魔王
超戦艦の出撃と救難信号の受信
帝国第七兵器工場で建造されたリアム専用の超弩級戦艦が完成し、バンフィールド家へ向けて航行していた。技術少佐ニアスはその性能に歓喜し、我が子のように戦艦に執着していた。その戦艦が微弱な救難信号を受信し、艦長が発信元を確認するとリアムによるものであると判明した。艦長は即座に本星へ連絡し、全友軍への召集を命じた。
魔王の怒りと人間社会への侮蔑
獣人将軍ノゴの死を感知した魔王ゴリウスは、人間の手によって四天王が倒されたことに激昂していた。彼は負の感情を糧とする存在であり、過去に何度も倒されながらも復活してきた。だが、今や自らを「魔王を超えた存在」と称し、再び人類を滅ぼすことで力を得ようと考えていた。
リアムの単独進軍とアール王国の動揺
リアムは獣人を率いて王都を出発し、わずか百名にも満たぬ戦力で魔王城を目指した。彼は王国の協力を当てにせず、勝手に将軍や大臣を暗殺し、その首を女王エノラに送りつけた。エノラはリアムの背後に存在する「惑星」や「星間国家」の存在を聞かされ、国としての対応に苦悩していた。
魔王軍の襲撃とアール王国の危機
会議中の王城に、魔王軍襲来の報せが届き、王国は絶望的状況に陥った。一方その頃、リアムは魔王城に突入し、抵抗する幹部や兵を斬り伏せていた。
リアムと魔王の対峙と剣技の衝突
リアムはオリハルコン製の剣を手にゴリウスと対峙した。だがゴリウスは物理・魔法を無効とし、斬撃すら通用しなかった。黒い炎の巨人体へと姿を変えたゴリウスは、無数の攻撃を繰り出すが、リアムはすべてを回避し反撃の隙を窺っていた。
悪の定義を巡る論戦とリアムの宣言
ゴリウスは「悪そのもの」と自称し、人類が存在する限り不死であると高らかに宣言した。しかしリアムはその主張を一蹴し、自らが「真の悪党」であると叫んだ。彼は億単位の人命を奪い、銀河を跨ぐ戦争で多くを滅ぼしてきた実績を語り、魔王風情が「悪」を名乗ること自体が烏滸がましいと断じた。
救援の到来とリアムの武器強化
空からはアヴィドが降下し、エレンがリアムの愛刀を届けた。師弟の絆により刀がリアムの手に収まり、彼は本気の一撃を放つ準備を整えた。魔王の嘲笑を遮りながら、リアムは最もお気に入りの刀を抜き放ち、「二度と復活できぬよう消し去る」と宣言した。
決戦への幕開け
圧倒的な力を誇るゴリウスに対し、リアムは銀河規模の悪としての威圧と力を示しながら戦いを挑んだ。勝利の鍵は、単なる戦力ではなく、「悪意とは何か」という本質的な価値の衝突にあった。魔王戦の決着は、まさにこの戦いにすべてが懸かっていた。
第十一話 魔王討伐
神聖武装とリアムの神格化
アヴィドと融合した勇者リアムの姿は、魔王ゴリウスにとって圧倒的な恐怖をもたらした。伝説級の金属で構成された巨人アヴィドが空から降臨し、リアムに従う意志を示した。さらに、リアムが手にした剣は、ゴリウスが直感的に「触れてはならない」と確信するほどの神聖な武器であった。リアムの背後には、死者や星々の意志までもが力として具現化しており、ゴリウスはリアムを「人間ではない」と断じた。
ゴリウスの逃走とアヴィドによる追撃
恐怖に駆られたゴリウスはリアムから逃走し、空中で黒炎のドラゴンへと姿を変えた。自らの意志で敗北を選び、千年後の復活を誓いながらアヴィドへ襲いかかる。だが、アヴィドは迎撃レーザーで容易に対応し、神聖魔法を発動してゴリウスを完全に消滅させた。魔王は復活不可能な状態で滅び、戦いは終焉を迎えた。
再会と説教の兆し
戦いの後、エレンが泣きながらリアムに抱きつき、無事を喜んだ。クナイやククリも再会し、クナイの処分を巡る場面では、リアムが彼女を庇い許しを与えた。一方、天城やブライアンの到着により、リアムは説教を受ける未来に頭を抱えることとなった。
バンフィールド領の内乱とリアムの怒り
ククリの報告により、リアムの不在中にバンフィールド家が分裂し、複数の勢力が略奪や後継者擁立を企てていたことが判明した。リアムは激怒し、アール王国の王都に降下した艦隊と共に即座に制圧を開始した。街は戦慄に包まれ、王城は完全に制圧された。
アール王国関係者への裁定と魔法使いの粛清
召喚を行った魔法使いシタサンは、星間国家の魔法使いたちにより圧倒され、その実力差を痛感した。リアムは原始的な魔法で自分を召喚した罪を問う姿勢を見せながらも処刑は見送った。代わりに、再発防止を命じて彼らに更なる修練を課した。
アール王国への賠償要求とロイヤルガードの過激反応
リアムはアール王国に対し、城を満たすほどの財宝で償えと過剰な賠償を求めた。重臣たちは絶望する中、ロイヤルガードたちは処分の即時実行を主張したが、リアムは冗談半分で場を収めた。そこに天城が現れ、リアムに「お遊びはここまで」と釘を刺し、惑星への干渉は帝国法に反するとして撤退を進言した。
帝国法を理由とした撤収と説教回避の試み
帝国法により宇宙進出できない知的生命体への干渉を禁じていることを理由に、リアムは面目を保ちつつ撤収を決定した。部下たちは理解を示しつつも、説教回避を図るリアムに天城とブライアンの追及の手が迫っていた。
天城の謝罪とエノラへの諭し
天城はアール王国の女王エノラに謝罪し、物資の提供と再度の勇者召喚への自制を促した。エノラは救済を求めたが、天城は「自らの試練を乗り越えるべき」と諭し、依存を断ち切らせた。
香菜美(カナミ)との別れと人生の指針
香菜美は元の世界へ戻されようとしていたが拒否の姿勢を見せ、リアムと対話を交わした。彼女は孤独や家族への不信を吐露したが、リアムは厳しくも温かい言葉をかけた。香菜美は財宝を受け取り、自身の人生を自ら切り開くよう励まされ、召喚陣へ向かった。リアムは最後に、男を見る目を養うよう助言を与え、悪徳領主としての矜持を保ったまま別れを告げた。
第十二話 飼い犬
アルゴス帰還とリアムへの叱責
リアムは超弩級戦艦アルゴスで帰還し、専用の豪奢な部屋にてチノと共に過ごしていた。だが、ブライアンと天城からは未開惑星からの連れ帰りに関して厳しく責められた。チノを可愛がるエレンとは対照的に、リアムは説得に苦慮しながらも引き下がらず、己の貴族的気まぐれとして押し通そうとした。
リアムの反省と出陣決意
チノを巡る騒動の中で、リアムは前世で飼っていた犬の死を思い出し、「再び深い悲しみを味わいたくない」と語った。ブライアンと天城からの叱責に押されつつも、リアムは話を打ち切り、暴走した旧臣や略奪者への討伐を決意した。
三万隻の略奪艦隊と貴族の奢り
バンフィールド領内には三万隻を超える海賊と偽装貴族による大艦隊が侵入していた。クレオ派閥の中にもリアムに嫉妬する貴族が紛れ、内紛に乗じて財を奪おうと略奪に走っていた。自らの特権に胡坐をかいた彼らは、リアムの脅威を過小評価していた。
リアムの出撃と艦隊の反撃
アルゴスに乗ったリアムはエレンとチノを同行させ、余裕の態度で指揮を取った。三万隻の敵艦隊に対し、リアムの指揮する精鋭艦隊は奇襲を仕掛け、敵陣形を崩壊させた。降伏の打診にも応じず、リアムは要塞級戦艦の投入と敵の完全殲滅を命じた。
クレオ派の裏切り者バーンズの末路
敵艦隊の中には、リアムと面識のあるクレオ派貴族・バーンズも含まれていた。バーンズは取り入ろうと試みたが、リアムは彼を「知り合いなどいない」と断じ、即座に通信を切った。バーンズは逃げ場を失い、次々と撃沈されていく仲間を目前に絶望の淵に沈んでいった。
クラウスの重責とキースとの対決
本星ではクラウスがロイヤルガードと精鋭艦隊を統括し、分裂状態のバンフィールド家を支えていた。騎士団内ではキース率いる旧臣が暴れ、クラウスの部下を傷つける事件が発生した。キースとの一騎打ちでクラウスは勝利を収め、実力と忠義を示した。
ティアとマリー、決戦の準備
第二惑星ではティアがワルキューレ装備を投入し、第三惑星ではマリーがテウメッサに搭乗する騎士団と共に出陣を準備していた。互いに軽視せず、真剣に戦力分析を行いながらも、一触即発の内戦に向けて軍を整えていた。
案内人の傀儡とクラウスの嘆き
マリーを操る案内人の複製体は、自らの存在意義に疑問を抱きながらも、彼女の暴走を止められなかった。一方、クラウスは次々と発生する問題と胃痛に悩まされながらも、リアムの帰還を唯一の希望として待ち続けていた。
クラウスとバンフィールド家の危機
キースとの一件を経て、クラウスは部下の信頼を得るが、同時にティアとマリーの両勢力が決戦へ向けて動き出した報を受ける。内戦の危機が目前に迫る中、クラウスは再び天を仰ぎ、リアムの速やかな復帰を心から願った。
両軍の対峙と戦端の火蓋
ティアとマリーがそれぞれ艦隊を率いてバンフィールド領内で対峙した。両軍ともかつての味方同士であり、兵たちは動揺していたが、当人たちはためらいなく交戦を選んだ。互いに罵倒を投げかけ合い、通信を切った直後、マリーが先制攻撃を命じたが、味方は躊躇し命令に従おうとしなかった。
両者の出撃と案内人たちの戸惑い
状況を見かねたティアとマリーは自ら出撃し、直接決着をつけることを選んだ。複製された案内人たちは、傀儡であるはずの二人が暴走している状況に困惑し、予定外の事態に不満を抱いていた。
テウメッサとネヴァンの激突
マリーのテウメッサ部隊とティアのネヴァン部隊が激突した。ネヴァンたちは空間魔法を利用した特別なコンテナで武装を展開し、戦場で優位に立った。ティア自身も特殊オプションパーツ「ブリュンヒルド」を装備し、指揮官として数百機のネヴァンを統率しながら戦闘に参加していた。
一騎打ちの展開と技量の応酬
ティアの圧倒的な装備と指揮能力に追い詰められたマリーは、巧妙な動きで反撃を試み、ティアの隙を突いてオプションパーツの破壊に成功した。だが、ネヴァンはなおも稼働可能であり、ティアも冷静に戦線を維持していた。
戦場全体の趨勢とマリーの優勢
両者の一騎打ちが続く中、ティアの部隊はマリーの指揮下の機体に圧倒されつつあり、戦況はマリー優勢に傾いていった。ティアのネヴァンは高加速性能を持ちながらも、運動性に欠ける部分を突かれていた。
怒りと執着がもたらす変異
両者は互いにリアムへの執着と憎悪を募らせ、機体性能を限界まで引き出す。その過程で、ティアとマリーは案内人たちの複製体から負のエネルギーを無意識に吸収し始め、彼らをエネルギー源のように利用した。案内人たちは次第に力を失い、最終的には消滅した。
機体の限界とリアムの登場
弾薬とエネルギーを使い果たし、装甲を剥がされた状態のネヴァンとテウメッサは、殴り合いを繰り返していた。両者とも命を燃やしての死闘を繰り広げていたが、ついにリアムがアヴィドと共に戦場に現れ、戦いを制止した。
リアムの叱責と命令
アヴィドに乗ったリアムは、ティアとマリーの戦いを一方的に制圧し、機体の手足を切断して戦闘を終了させた。二人に対して怒りを表しつつも処分を後回しとし、まずは領内の敵を一掃するよう命じた。
アイザックの慢心と迎撃の構え
本星に戻ったリアムを迎えるのは、反乱者アイザックであった。彼はカルヴァン皇太子の後ろ盾を過信し、リアムを排除しようとするも、実際には口約束のみであり、ロイヤルガードからも嘲笑されていた。
謁見の間での裁定とリアムの制裁宣言
リアムは自らの高座で親類や官僚、騎士を一堂に集め、裏切り者や逃亡した家臣たちに冷徹な視線を向けた。彼はアイザックに対し、一切の妥協を許さず当主の座の移譲を拒否した。また、騎士キースや官僚たちの弁明を退け、悪徳領主としての意志をもって粛清の意を明確にした。
最後の疑念と立山の不在
混乱の収束を図るリアムであったが、ふとメイドロボの列に目を向けた時、一人――立山がいないことに気づいた。戦いの結末を迎えた後もなお、すべてが解決してはいなかったのである。
第十三話 怒り
アイザックの反逆とリアムの制裁
謁見の間にて、アイザックはリアムに対し暗殺を画策していた。カルヴァンの口約束を信じ、筆頭騎士キースと共にリアムの命を奪おうとしたが、立山メイドロボの破壊を巡るリアムの怒りが爆発し、制裁の場と化した。キースの部下は一瞬で殲滅され、キース自身も四肢を切断されて敗北した。アイザックは恐怖で失禁し、気絶した。
粛清と暗部の処理指令
リアムは裏切り者への処罰を明言し、暗部のククリに命じてキースらを引き渡した。処刑は拷問的手法によって行われ、彼らの首は首都星のクリフに送りつけるよう指示された。領内の裏切り者たちも処刑、または追放とし、徹底した浄化を宣言した。
クラウスへの信頼と「大掃除」開始
クラウスの冷静な対応に信頼を寄せたリアムは、領内の裏切り者一掃を「大掃除」と称して実施することを決定した。すべての使用人や騎士、官僚たちに清掃(処罰)を命じ、全員が膝をついて従った。クラウスは疲労困憊でありながらも命令に従い、領内の粛清作戦に着手した。
チェンシーとの戦闘と再生の断罪
妹弟子である凜鳳と風華は、液体金属の身体に改造されたチェンシーとの戦闘で苦戦していた。彼女は何度斬られても再生し、ついには一閃流の技を模倣するに至った。リアムが介入し、一瞬でコアを見抜いて捕獲。チェンシーを生身へ戻すよう命じたうえで「妹弟子たちのために生かす」と宣告し、彼女の挑戦を無視した。
凜鳳と風華への叱責と再修行
チェンシーに苦戦したことを咎めたリアムは、凜鳳と風華に修行のやり直しを命じた。二人は疲労困憊となるまで鍛えられ、一閃流の看板に泥を塗った責任を痛感していた。修行はエレンにも及び、リアムは自身の未熟さにも反省を示して更なる高みを目指していた。
バンフィールド領の粛清と混乱の余波
リアムによる大掃除の影響で、バンフィールド領では連日多くの処刑と追放が実行された。凜鳳と風華はニュースでこの状況を知り、「首都星に戻ればよかった」と嘆いた。領内の不正は想像以上に蔓延していた。
カルヴァンの誤算と派閥崩壊の兆し
一方、首都星ではカルヴァンがリアムの帰還と粛清による自派閥への影響を受け、計画が崩壊していた。送り込んだ工作員は全滅し、リアムの反撃によりクレオ派の裏切り者たちも排除された。さらに、リアムを恨む貴族たちがカルヴァン派に勝手に合流を宣言し、カルヴァンは迷惑を感じていた。
カルヴァンの苦悩と混乱の拡大
カルヴァンは状況を整理すべく、勝手に名乗りを上げた貴族たちのリストアップを命じ、派閥の統制に追われることとなった。リアムによる徹底した粛清と統率力が、敵対者の組織力に深刻な混乱をもたらしていた。リアムの存在が、帝国内の勢力図を再編し始めていたのである。
第十四話 正しい悪徳領主
ノーデン家の粛清と民衆の反旗
ノーデン家に戻ったバオリーは、リアムの帰還を恐れて逃走を図った。だが、民衆は長年の搾取に対する怒りを爆発させ、バオリー夫妻を殺害した。これは、リアムに敵対した者を差し出すことで自らの安全を図る民衆の戦略でもあった。後にティアが派遣され、ノーデン領は戦闘もなく降伏し、ティアは民衆を裏切り者として処刑せず、偽装して処理した上で統治を引き継いだ。
ティアの統治とノーデン領の再建
ティアはリアムの意向を反映させ、ノーデン領を一時的に統治することを決めた。荒廃した惑星を視察し、リアムのような徹底した悪徳領主として統治に乗り出した。リアムの支援を無にした重税政策や民の苦しみに強く反発し、ティアはリアムの威光を広めるべく本格的な支配を開始した。
ロゼッタとの再会と親衛隊の編成
帰還したリアムはロゼッタと再会し、感情的に縋りつく彼女を受け入れた。だが、内心ではロゼッタに実権を与えるつもりはなく、親衛隊を設けて保護と名目の隔離を行う方針を取った。これにより、彼女が統治に干渉できる範囲を限定し、自身の体制維持を狙った。
シエルとの対話と増税命令
執務室でリアムは、社会福祉を口実とした増税を命じた。シエルはこれに抗議し、領民の苦しみを訴えたが、リアムは冷笑しつつもその真っ直ぐな姿勢に興味を持った。彼女の理想主義と善性を面白がりつつ、自身の悪政を貫く構えを崩さなかった。
ククリへの命令と案内役の扱い
リアムは、シエルを脅かしそうなククリに手を出さぬよう命じた。シエルのような存在を側に置くこと自体が愉悦であり、保護対象でもあった。リアムの命令により、彼女の命は守られることとなった。
マリーとクリスティアナの遺伝子窃盗と処罰決定
ククリの報告により、マリーとクリスティアナがリアムの遺伝子を無断で所持していたことが発覚した。リアムは激怒し、自ら制裁を下す決意を固めた。未遂とはいえ、正統な後継者を捏造しかねない重大な違反であり、決して看過できない事案であった。
新たな支配への布石と領民への報復
リアムは、今後の支配体制においてもロゼッタの行動を制限し、シエルを観察対象としつつ、増税や領民への圧政を通じて「悪徳領主」としての姿を貫いた。粛清と罰、統治と娯楽を織り交ぜながら、リアムの支配は新たな段階へと進み始めていた。
第十五話 命の重み
ティアとマリーへの断罪
リアムはティアとマリーを執務室へ呼びつけ、土下座させた上で罪状を告げた。クラウスが読み上げた内容は、ノーデン男爵らの放置、艦隊の無断使用、惑星の不法占拠、そしてリアムの遺伝子窃盗という深刻なものであった。リアムは自らの騎士としての資質を疑い、二人の言い訳に耳を傾ける前に処断も辞さぬ構えを示した。
愚行と妄執の暴露
マリーはリアムの子を欲して遺伝子を盗んだと告白し、命を賭して許しを乞うた。続いてティアも、リアムとの繋がりを持ちたいという欲望から同様の行為を働いたと涙ながらに訴えた。リアムは彼女らの異常性と価値観の乖離に呆れつつ、斬首の意志を引っ込め、騎士としての地位を剥奪しメイドとして再教育する処分を下した。
クラウスへの称賛と昇進
リアムは、忠実に務めたクラウスを筆頭騎士「一番」として任命し、権限と給与を増加させた。この突然の栄誉に戸惑うクラウスであったが、リアムの意志に従い、再び胃を痛めながらも覚悟を決めた。ティアとマリーはその光景に落胆し、自らの失敗の重さを実感した。
クラウスの苦悩と騎士団の動揺
過去に「十二騎士」制度が噂されたことがあり、今回の昇進がそれを裏付けるものと騎士団は認識した。クラウス自身は予期せぬ栄誉に戸惑い、ティアとマリーからの冷たい視線にさらされることとなった。騎士団を率いる立場となったクラウスの苦悩は、ますます増す一方であった。
カルヴァンの敗北と策略の瓦解
首都星では、カルヴァン皇太子がリアムへの対抗策を失い、追い詰められていた。リアムの不在時に崩壊させる計画は、却ってバンフィールド領の問題点を浮き彫りにし、彼の手によって再編成される結果となった。クレオ派から離反した雑多な貴族が勝手にカルヴァン派へ流入し、彼の足かせとなっていた。
案内人の自壊と世界樹の干渉
案内人は、自らの企みがすべて裏目に出たことに絶望していた。領内の破壊工作は結果としてリアムの支配力を強化し、民衆も粛清と増税を受け入れ始めていた。リアムの豪遊すら肯定され、案内人は追い詰められた。その身を焦がしたのは、惑星全体から放たれた神聖な熱――リアムが保有する世界樹の神力であった。
世界樹の覚醒と案内人への拒絶
リアムが守る惑星に復活した世界樹が、リアムへの感謝と共鳴して加護を発動し、案内人の存在を拒絶した。本来は中立的存在であるはずの世界樹が個人へ肩入れする異常事態に、案内人は神聖な毒のような力に焼かれ、黒焦げとなって逃走を余儀なくされた。
新たなる対抗の決意
案内人は、己一人の力ではリアムに抗う術を持たないと悟り、ついにプライドを捨て、同種の存在――他の案内人たちの助力を求める決断を下した。世界樹という予想外の防壁、領民の信頼、強固な軍と家臣団、すべてを備えたリアムに対抗するため、より大きな敵対勢力の形成を試みることとなった。
第十六話 試金石
社会福祉と増税の裏に潜む官僚の恐怖
リアムは理由もなく増税を断行し、名目として社会福祉の充実を掲げた。しかし具体策は官僚に丸投げされ、粛清直後の彼らは処罰を恐れて必死に制度設計へ取り組んだ。若手官僚たちはリアムの過去の苛烈な処断の記憶に脅え、古株の忠告により危機感を募らせていった。
家庭の会話と領民の信頼感
バンフィールド領の一般家庭では、祖父母や親がリアムへの信頼を口にし、子供たちは疑問を抱いた。彼らは義務教育制度の中で過去を実感できず、リアム統治以前の暗黒時代を知らない世代であった。それでも大人たちは領主としてのリアムに絶大な信頼を寄せていた。
軍部の腐敗と海賊との内通発覚
軍部でも不正が発覚し、特に海賊との内通は重罪とされた。大佐クラスの士官が賄賂を受け取り海賊の通過を黙認していた事実が判明し、上層部は震え上がった。リアムの海賊に対する容赦ない姿勢を知る将官たちは、処刑を免れないと悟り、徹底的な内部調査を開始した。
執務室での報告と個人への感情
リアムは報告書を読み、思ったよりも不正者が少なかったことに驚いていた。官僚や軍部を手足として重宝する一方で、領民たちには恨みを抱き、子作りデモの件を今も忘れていなかった。さらに、忘れていた側室候補ユリーシアの存在に気づき、制裁としてロゼッタの親衛隊設立を命じた。
ユリーシアへの任務と巨額予算の混乱
リアムはユリーシアに親衛隊設立を丸投げし、巨額の予算を与えた。額面を理解したユリーシアは混乱し、一個艦隊規模の親衛隊になりかねないことを危惧した。外観と中身を兼ね備えた精鋭部隊を編成することで、数と質のバランスを図る方針を立てた。
ロゼッタの葛藤とシエルの策略
ロゼッタはユリーシアの提案を受け取り戸惑ったが、側近シエルの助言により、親衛隊を通じて領内の小規模争乱を自ら処理する案を検討した。これによりリアムの負担を軽減できると考えたが、シエルは裏でロゼッタに力を持たせ、いずれリアムに反旗を翻すよう仕向けていた。
リアムの監視と介入
シエルの策略は即座にクナイを通じてリアムに伝わり、彼はすべてを見抜いていた。リアムはシエルの存在を潰すことなく、鋼の精神を評価し様子を見ることに決めた。ロゼッタには、親衛隊は他者の意見に流されず自分で決めるよう命じ、シエルの手の内から引き離す意図を示した。
ユリーシアの失策と予算の問題
リアムは電子マネーの桁を見誤ったことで、ユリーシアに与えた予算が艦隊数万隻分に及ぶ規模であったことに気づいたが、見栄を張って訂正しなかった。ユリーシアの計画が失敗するであろうことを見越していたリアムは、その成否すらも娯楽として楽しもうとしていた。
帝国への宣戦とリアムの無関心
首都星では友人ウォーレスから覇王国の宣戦布告を知らされたが、リアムは冷静に受け流し、戦争への関与を拒んだ。彼は戦争自体に興味がなく、勝てる戦だけに参加する方針で、早く修行を終え自由な悪徳領主としての生活に戻ることを優先していた。
エピローグ
アール王国における天城信仰の誕生
勇者たちが去った後、アール王国では復興とともに「天城信仰」が広まっていた。天城を模した像が建てられ、女王エノラを含む民衆は、男女問わず両肩を露出した天城風の衣装を着て祈りを捧げていた。リアムにすら屈しなかった存在として、天城は女神とされ、信仰の対象となっていた。
獣人社会での神格化と犬族の台頭
犬族族長グラスは、娘チノがリアムに嫁いだことを利用し、リアムを神とする教義のもとで族の再編を図っていた。荒削りな木像を建て、演説で神の一族であると宣言。これにより他部族を従わせようとしたが、「犬」と呼ばれることには抵抗が強く、調和は一筋縄ではいかなかった。グラスはリアムの威光を借り、部族統合を進めようと苦慮していた。
セリーナの新人教育とメイド二人の転落
バンフィールド家では、メイド長セリーナのもとに新たにティアとマリーが配属された。かつての騎士である彼女らは、可愛らしいポーズとメイド服に抵抗を見せながらも、リアムの命令には逆らえず渋々従っていた。だが、セリーナの指導に反発し、口汚い罵倒合戦を繰り広げる有様であった。
チノのメイド配属と浮き彫りになる価値観の違い
そこへ現れたのが、狼族出身のチノである。彼女はリアムのお気に入りとして、特別待遇のマスコットメイドとして迎えられた。ティアとマリーはその存在に嫉妬し、威圧を加えるが、セリーナは「チノの方がよほどまとも」と断言。二人はその評価に憤慨し、理不尽を感じながらも反論を繰り返した。
自己投影に気付かぬ二人とセリーナの嘆息
セリーナは二人の過去の行動を例え話にして問いかけるが、ティアとマリーは自分たちのことだと気づかず「怖い女だ」と批判。だが、すぐに本心をさらけ出し、リアムを神と崇め、禁忌をも厭わぬ愛情を語る姿を見せた。セリーナは手に負えない二人に天を仰ぎ、頭を抱えた。
リアムとチノの交流、二人の絶望
その場に現れたリアムは、チノを連れてパンケーキを食べに行くと言い出す。チノは一応の抵抗を見せつつも、最終的には嬉しそうに同行した。リアムはティアとマリーに対して嫌悪をあらわにし、「教育を受けろ」と告げた。チノに怯えられた二人はその場に崩れ落ち、リアムへの好意が通じないことに涙した。
セリーナによる教育の再開
ティアとマリーが泣き崩れる中、セリーナは再びため息をつき、二人への本格的な教育を始める決意を固めた。リアムに寵愛されるチノとの対比により、騎士としての誇りを失った二人は、メイドとしての再生の道を歩まされることになった。
ロゼッタの親衛隊設立と理念の発表
ロゼッタはユリーシア、シエルと共に親衛隊設立の方針を協議し、「困っている人を助けたい」という理念を打ち出した。親や先祖の負債など本人に責任のない境遇の者を優先し、時間をかけて育てる姿勢を示した。ユリーシアはその非効率さに難色を示しつつも、妥協して計画の支援を決めた。
シエルの内心と親衛隊の発足
ロゼッタの優しさを感じたシエルは、親衛隊がリアムを止める存在になる未来を密かに夢見ていた。ロゼッタは直ちに帝国全土での隊員募集を命じ、ユリーシアは仕事が増えたことに苦笑しながらも嬉しげに動き出した。
世論調査結果とリアムの苛立ち
天城と共に世論調査の結果を見たリアムは、領民の増税賛成に衝撃を受けた。社会福祉の充実を訴えた政策が正しく伝わった結果であり、官僚たちの努力によって好評価を得ていた。リアムは、領民が苦しんでいないことに憤り、官僚に対してよりシンプルな「搾取」に見える制度設計を命じた。
制度改正と領民のさらなる賞賛
政庁が制度の見直しを発表すると、領民たちはさらに感謝の声を上げた。使いやすくなった社会福祉制度を歓迎し、リアムを称賛する声が高まった。リアムは自身の評価が上がったことに絶望し、領民の無自覚な愚かさに恐れを抱いた。
教育制度の見直しとリアムの決意
リアムは、領民が搾取に気づかぬまま感謝している状況に耐えきれず、義務教育を9年から12年に延長し、教育レベルの見直しを命じた。悪徳領主としての理想を実現するためには、領民に「苦しみを理解させる」必要があると考えた。
香菜美の帰還と日常への復帰
香菜美は元の世界の公園で目を覚まし、リアムとの別れと金貨入りの袋を手に異世界の現実を実感した。自宅に戻ると、母親は酒に溺れ変わらぬ生活を続けていた。日付は異世界から戻った翌日であり、母親が自分を捜していなかった事実に憤りと失望を抱いた。
祖父母との再会と母親との決別
香菜美は祖父母の家を訪ね、現状を告白した。祖父母は彼女を受け入れ、翌日には母親の元へ同行し、対話の中で母親が責任を放棄する姿を見て香菜美は完全に見切りを付けた。その後、香菜美は祖父母に引き取られ、新生活を始めた。
新たな暮らしと勉学への意欲
田舎の高校へ転校した香菜美は、バス通学と家事の手伝いをこなしつつ、進学のために勉強へ励んでいた。奨学金の獲得を目指し、成績向上に努めていたが、過去の遅れから目標達成は容易でなかった。
リアムの言葉と心の支え
苦しみに挫けそうな時、香菜美はリアムの「自分の人生の責任は自分で取る」という言葉を思い出し、勇気を得ていた。彼女は宝石と金貨の入った袋を売らずに手元に残し、それを異世界での記憶の証として大切にしていた。
未来への決意
香菜美は、リアムや亡き父との記憶を胸に、自らの人生を歩む決意を新たにしていた。勉強机に向かいながら、彼女は再び日常に戻り、未来へと進み始めていた。リアムから受け取った「自分を変えるための機会」を確かなものとすべく、一歩ずつ前進していった。
特別編 量産型メイドロボ・玉城
立山の復帰とリアムの過保護
キースたちによって破壊された立山は、修理を経てバンフィールド家に復帰して一ヶ月が経過していた。業務に支障はなかったが、リアムは日々様子を見に訪れ、異常なほど心配していた。普段は冷静な天城でさえ、この過保護ぶりに注意を促したが、リアムは反論し続けた。
玉城の挑発と天城の動揺
そんな中、量産型メイドロボの玉城が「天城が嫉妬している」と発言し、周囲を騒がせた。リアムはそれを真に受け、天城に詰め寄るが、彼女は冷静に否定した。だが、リアムは天城の態度が事務的すぎる点に違和感を抱き、嫉妬の可能性を疑った。
チャットルームでの姉妹たちの騒ぎ
メイドロボたちのチャットルームでは、天城の内心を巡る憶測が飛び交い、スタンプが貼られ騒然となった。説教の長さや業務監視の厳しさなどから、姉妹たちは天城の嫉妬を確信していた。特に塩見は騒ぎ立て、玉城とともに後の報復を覚悟していた。
リアムの謝罪と天城の受容
リアムは自ら天城に謝罪し、立山をないがしろにしたつもりはないと釈明した。天城はその真摯な姿勢に心を動かされ、わずかに困ったような表情を見せた。リアムは立山の仕事を他のメイドに振り分けるよう命じ、ティアとマリーにその負担を押しつける決定を下した。
玉城のネタ帳とメイドロボの風刺
玉城はこの一連のやり取りを“ネタ帳”に記録し、「メイドロボのために働かされる人間たち」というテーマとして書き留めた。人間のために働くメイドロボの本分が逆転したことを、面白おかしく記録する姿は、メイド社会のユーモアを象徴していた。
説教の行方と塩見の末路
その後、天城は玉城の失礼な発言を咎めたが、意外にも軽い注意で終えた。驚いたチャットルームでは塩見が反発したが、直後に天城が降臨し、塩見の業務を増やすという報復を宣告した。チャットルームに貼られた泣き顔スタンプがその末路を物語っていた。
天城と玉城の関係の静かな再構築
天城は玉城を許しつつ、静かに管理を強化していた。玉城は塩見の顛末を見届けつつ、さらにその一件もネタ帳に記し、未来の談話の糧とすることで満足していた。リアム、天城、そしてメイドロボたちの複雑な感情と役割が交差する一幕であった。
同シリーズ
俺は星間国家の悪徳領主! シリーズ











外伝
あたしは星間国家の英雄騎士!




同著者の作品
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です シリーズ













セブンスシリーズ










その他フィクション

アニメ
PV
OP
ED
Share this content:
コメントを残す