小説【ささピー】「佐々木とピーちゃん 12」感想・ネタバレ

小説【ささピー】「佐々木とピーちゃん 12」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は現代日本と異世界が交錯する異世界ファンタジー兼異能バトルを主軸とするライトノベルである。主人公の社畜サラリーマン「佐々木」が、ペットとして飼った小鳥「ピーちゃん」の正体が異世界から転生した賢者であることから、異能力と魔法が絡む事件に巻き込まれていく。
12巻では、異世界の“妖精界”の不手際によって地球上に散らばった“フェアリードロップス”を巡る争奪戦が描かれ、世界に七名いる魔法少女たちも動き出す。魔法少女、超科学勢力、ささピーの面々──多様な勢力が交錯する中で、かつての日常とはかけ離れた混沌が展開される。

主要キャラクター

  • 佐々木:平凡な会社員。ペットショップで鳥を買ったことから人生が激変。ピーちゃんと共に異世界・現代を往復しながら、異能力バトルに巻き込まれる主人公である。
  • ピーちゃん(本名ピエルカルロ):異世界から転生した賢者。文鳥の姿をしており、佐々木のペットとして迎えられたが、その正体は魔法と異能力の使い手。佐々木に魔法を教え、異世界–現代間の往来を可能にするキーキャラクターである。

物語の特徴

本作の魅力は、社畜中年サラリーマンという「凡人」が、ペットの文鳥をきっかけに異世界と現代を股にかけるぶっ飛んだ展開に巻き込まれるという“日常⇔非日常のギャップ”にある。
さらに、ライトノベル的な異世界ファンタジー要素に加えて、異能力バトル、魔法少女、超科学、コメディ、サスペンスといった“多ジャンル混合”を軽快なテンポで描く構成が特徴的である。
12巻ではそのスケールが一段と拡大し、単なる一人と一羽の“逃避行”から、世界規模の争奪戦へと発展しており、既存読者にとっても新鮮な驚きを与える展開となっている。

書籍情報

佐々木とピーちゃん  12 妖精界からの落とし物は、変態! 変態! 大変態! ~長きにわたるアップの末、魔法少女たちが活動を開始するようです
著者:ぶんころり
イラスト:カントク
出版社:KADOKAWA
発売日:2025年11月25日
ISBN:9784046852908

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あらすじ・内容

妖精界の不手際により、地球上に散らばってしまったフェアリードロップス。
世界に七名いる魔法少女たちは、その回収を妖精界からの使者である妖精さんにお願いされて活動しているという。
一見可愛らしい響きのそれらは、しかし、地球人類にしてみれば機械生命体の超科学に勝るとも劣らない代物。
様々な国や組織が我先にと捜索を行っている。
佐々木たちも二人静からの提案をもって、これに倣うことになった。
すると、なかなかどうして上手くいかない。
予期せずフェアリードロップスの作用に当てられて、そのマジカルなパワーにより自らの在り方すら変貌させていく家族ごっこの面々で……?
皆様ご待望のTS回が幕開けとなるシリーズ第十二巻!

佐々木とピーちゃん 12 妖精界からの落とし物は、変態! 変態! 大変態! ~長きにわたるアップの末、魔法少女たちが活動を開始するようです~

感想

フェアリードロップスの捜索が本格化し、家族ごっこの面々がプロパガンダ用アニメの企画と並行して世界各地を巡り始めたところから、今巻の「変態劇場」は動き出したのである。ヨーロッパの寒村で発見されたステッキ型フェアリードロップスに触れた結果、まず佐々木が女児の身体へと変貌し、物語は一気に加速した。単なるギャグでは済まないほどの危険を孕んだ変身であり、ピーちゃんの回復魔法がなければ本当に命を落としていてもおかしくない、という事実がじわじわと恐怖を際立たせている。

火星基地での精密検査の結果、佐々木の肉体が遺伝子レベルで書き換えられ、元の姿に戻れない可能性が高いと告げられるくだりは、笑えるシチュエーションでありながら、読み手の背筋を冷やすシーンであった。この「取り返しのつかなさ」が、以降の変身騒動すべてに影を落とす。続いて星崎がムキムキの美形成人男性へと変貌し、さらに香港での透明フェアリードロップス事件を経て、お隣さんがオオカミへと変身してしまう。表面的には「女児・マッチョ・オオカミ」という出オチ級の並びなのに、その裏には常に「もう戻れないかもしれない」という重さが付きまとい、笑いと恐怖の落差が異様な読後感を生んでいた。

その一方で、作者はこの異常な三人を日常生活へ叩き込んでいく。女児の姿で家事をこなし、スーツを着て出版社に出向く佐々木。マッチョな体でドアの枠に頭をぶつけ続ける星崎。大型犬のように家の中を歩き回り、特大キーボードで会話するオオカミのお隣さん。どれも発想自体はギャグなのに、生活描写が細かく積み重ねられているせいで、「この世界で生きていく」というリアリティが妙に説得力を持って迫ってくる。フェアリードロップスはただのギミックではなく、キャラクターたちの人生そのものを変えてしまう危険物として機能しているのである。

そこに追い打ちをかけるように、ハト型フェアリードロップスによる「正月ボケ」騒動が発生する。ヘリ墜落、横浜中華街での大事故、横須賀基地からのミサイル発射と、スケールだけ見れば完全に終末世界であるにもかかわらず、当事者たちの思考が「怪電波」でパッパラにされていく描写は、笑えるのに笑えない危うさがあった。そんな状況の中で、ついに「魔法中年」が本格的に表の舞台に立ち、「マジカルブラック」としてミサイルを宇宙空間で迎撃し、人命を救う展開は、バカバカしさとカッコよさが同居した本巻のハイライトである。表紙であらかじめ提示されていた「魔法中年が魔法少女に変態する」という悪ふざけが、ここまで物語の中核に食い込んでくるとは思わなかった。

さらに、家族ごっこのアニメ企画と小説投稿サイトでのABテスト、そこから派生する書籍化打診と出版社訪問、異世界側でのトンネル開発と貿易拡大など、日常と仕事と戦いが並行して進んでいく構成も読み応えがあった。地球と異世界、日本の出版社と火星基地、家族ごっこの食卓と戦場が一直線に繋がっていて、「ただの異世界ファンタジー」では到底収まらないスケール感が生まれている。どれも単独で一冊分のネタになりそうなイベントなのに、それらが全部「家族ごっこ」と「フェアリードロップス」という軸で束ねられているのが見事である。

ユーモア面でも、本作らしさは健在どころか加速している。女児化した佐々木とマッチョ化した星崎が、出版社の編集者相手に疑似親子ムーブをやりながら真顔で書籍化の打ち合わせをする場面や、あとがきで作者が自分で仕掛けた悪ふざけをちゃっかり回収してくるノリには、笑うしかなかった。今巻で描かれた「変態」は、単なる一発芸ではなく、「身体が変わっても関係性は続くのか」「元に戻れないかもしれない世界でどう生きるか」というテーマにまで踏み込んでいる。そのうえで、きっちり読者を笑わせに来るサービス精神が、このシリーズ最大の魅力であると改めて感じた。

文鳥の賢者、機械生命体、妖精界、魔法少女、異世界王国、出版社と書籍化、そして女児・マッチョ・オオカミ。要素だけ並べるとカオスの極みなのに、それぞれが物語の中で必然性を持って絡み合うから、ページをめくる手が本当に止まらない。今巻でここまで「変態」をやり切った以上、次は一体どんな形でハードルを超えてくるのか。もはや恐怖すら覚えつつも、次巻でまた常識をぶち壊してくれることを期待せざるを得ない一冊であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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登場キャラクター

主要キャラクター

佐々木(ササキ)

疲れた会社員として現代日本にいたが、文鳥ピーちゃんと出会い、異能力者として各種騒動に巻き込まれていく中年男性である。家族ごっこと称する共同生活の中心に立ち、周囲の面々をなだめつつも、自身の女児化という異常事態を抱えながら現実的な判断を続ける立場にある。

・所属組織、地位や役職
 内閣府超常現象対策局の元職員である。
 現在は事実上の追放状態であり、機械生命体十二式や異世界勢と行動を共にしている。
 家族ごっこの内部では、保護者役や窓口役を担うことが多い。

・物語内での具体的な行動や成果
 フェアリードロップス回収作戦に参加し、ステッキ型フェアリードロップスの発動に巻き込まれて女児の身体に変化した。
 機械生命体の設備や火星基地で検査を受け、変質した肉体の安全性を確認しつつ、今後の治療方針を保留した。
 小説投稿サイトで異世界ファンタジー作品の原案を担当し、高評価と書籍化打診を得る企画の柱となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 肉体が遺伝子レベルで女児化したことで、日常生活や社会的立場に大きな制約を抱える存在となった。
 八人目の魔法少女「マジカルブラック」として回復魔法を行使し、その力が全世界から注目される潜在的な危険要素となっている。
 出版社との交渉では黒須の代理兼保護者の外見的窓口を務め、今後は商人としても異世界と現代をつなぐ役割を期待されている。

ピーちゃん

異世界から転生した賢者であり、文鳥の姿で佐々木の肩に乗る魔法使いである。冷静な助言役として振る舞いながらも、妖精界と袂を分かった過去を持ち、フェアリードロップスの危険性に人一倍警戒している存在である。

・所属組織、地位や役職
 元は異世界の賢者であり、現在は佐々木の相棒である。
 家族ごっこの内側では、医療担当と魔法支援役を兼ねている。
 妖精界とは距離を取りつつも、マジカルピンクや他の魔法少女と情報を共有する立場にある。

・物語内での具体的な行動や成果
 佐々木や星崎の肉体変化に対し、回復魔法と診断で健康を維持し、異常の進行を止めた。
 スイスの牛舎で発見したステッキがフェアリードロップスであると見抜き、その危険性を説明した。
 横浜・横須賀でのハト型フェアリードロップス回収作戦では、障壁魔法とビーム砲でバリアを破壊し、決定打を補助した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 回復魔法の効果が病気の寛解や四肢再生にまで及ぶことが判明し、人類社会にとって極めて重要な戦力とみなされつつある。
 キタキツネへの変身で対局偽装を行うなど、姿を変えて前線に立つ柔軟性を示した。
 フェアリードロップスと妖精界の関係を巡る今後の交渉において、情報源としての重要度が高まっている。

黒須(お隣さん)

元は「お隣さん」と呼ばれていた女子中学生であり、現在は魔法少女や悪魔と関わりながら生活する存在である。ラブコメ作品の作者でありつつ、デスゲームや天使・悪魔の抗争の中で、現場感覚に優れた判断を行う立場である。

・所属組織、地位や役職
 中学一年生であり、家族ごっこ内では末娘ポジションに近い立場である。
 小説投稿サイトではラブコメ作品「エイリアンの山田さんVSクラス担任の谷川原先生」の名義上の作者である。
 フェアリードロップス案件では、デスゲームの勝者として天使・悪魔双方と接点を持つ調停役でもある。

・物語内での具体的な行動や成果
 犬飼の上司との関係構築を目的に那覇基地訪問を提案し、国家権力との衝突を避ける根回しを行った。
 那覇基地上空で隔離空間に巻き込まれ、自衛官の使徒たちと交渉して衝突を回避し、基地外への退避を実現した。
 フェアリードロップスによりタイリクオオカミへ変身した後も、キーボード入力や思考補助によって会話を続け、家族会議に参加した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 オオカミ化により人間社会での活動に制限が生じたが、家族内では象徴的存在として強い発言力を保っている。
 小説投稿サイトでの書籍化打診を複数社から受け、物語企画の中心人物の一人として扱われるようになった。
 妖精界との取引条件に自らの変身解除を組み込むことで、交渉材料としての価値も持つようになった。

星崎

元は女性の警察官であり、現在はムキムキの美形成人男性の身体へ変化した人物である。冷静な判断と行動力を備えつつも、家族内では母親役や保護者役を担い、精神的な支柱となっている。

・所属組織、地位や役職
 元警察官であり、現在は局や家族ごっこに協力する立場である。
 家族内では実務担当と保護者的役回りを兼ねている。
 魔法少女たちとの連携任務では、現場責任者に近い立場で動いている。

・物語内での具体的な行動や成果
 フェアリードロップスの影響で身体が男性化したが、ナノマシンと回復魔法の働きで異形化を免れた。
 火星基地での検査を受け、自身の健康状態を確認したうえで、今後の任務継続に同意した。
 出版社との打ち合わせでは、女児姿の佐々木の保護者として交渉の前面に立ち、印税やスケジュールを冷静に確認した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 肉体変化により戦闘能力と耐久力が大きく向上し、前線での行動が現実的になった。
 「可愛げのない娘」と佐々木をからかいながらも、髪を梳かすなど細かなケアを行い、精神面で支える役割を強めている。
 ミサイル迎撃後の政治的処理や局との調整においても、責任を引き受ける覚悟を示す存在となった。

二人静

大財閥の令嬢であり、局のエージェントとしても活動する女性である。冷徹な合理主義と、妙なネット慣れを併せ持ち、情報操作や交渉の場面で前線に立つ調整役である。

・所属組織、地位や役職
 内閣府超常現象対策局の職員であり、大企業一族の一員である。
 家族ごっこの中では資金源と政治的パイプ役を担っている。
 局内でも現場対応と情報整理を一手に引き受ける立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 フェアリードロップス案件に関する情報を局に対して意図的に伏せ、家族側の主導権を確保した。
 小説投稿サイトを利用したABテストを提案し、アニメ企画のジャンル選定を市場データに基づいて行う方針を打ち出した。
 ハト型フェアリードロップスの思考撹乱効果を分析し、怪電波のような性質を持つことを整理した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 局の阿久津課長から直接指令を受ける立場となり、公的任務と私的な家族ごっこを両立させている。
 出版社との窓口やスーツのスポンサーを買って出るなど、財力を背景にした支援者としての比重が増している。
 妖精界と機械生命体の対立を緩和するため、条件付き情報隠蔽という危ういバランスを引き受けている。

十二式(末娘)

宇宙から飛来した機械生命体であり、末娘として家族ごっこに参加する高性能AIである。膨大な演算能力と物量を背景に、監視・迎撃・インフラ建設を担いながら、アニメ制作や小説分析にも関わる多機能な存在である。

・所属組織、地位や役職
 宇宙由来の機械生命体であり、人類とは別系統の存在である。
 家族ごっこの中では末娘として扱われているが、実質的には兵器群と情報ネットワークの司令塔である。
 地球各地と小惑星帯に端末を展開し、独自の観測網を持っている。

・物語内での具体的な行動や成果
 地球各地のフェアリードロップス候補をネット情報から抽出し、三件の有力事例を特定した。
 東京都市圏のハトを大量追跡し、ハト型フェアリードロップスの位置を特定したうえで、横浜・横須賀の作戦を支援した。
 ミサイル迎撃では多数の端末を用いて他国ミサイルを無力化し、事実上の地球防衛を単独で達成した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 自作アニメを高品質で完成させ、機械生命体イメージ向上キャンペーンの中核を担う存在となった。
 妖精界に対して「家族を不幸にするなら滅ぼす」と宣言するなど、交渉において極めて強硬な立場を取っている。
 今後予定している妖精界調査部隊の規模を示すことで、抑止力としての影響力を人間側にも認識させている。

アバドン

悪魔の使徒である少年であり、肉塊のような本体を持つ存在である。普段は人間の少年の姿で振る舞うが、戦闘や防御の際には巨大な肉塊として仲間を守る役割を果たす。

・所属組織、地位や役職
 悪魔アバドンの本体と、その使徒としての少年形態を併せ持つ存在である。
 黒須と強い絆を持ち、家族ごっこ内ではパートナー的立場である。
 天使・悪魔の代理戦争において、重要な戦力として扱われている。

・物語内での具体的な行動や成果
 那覇基地上空の隔離空間で、お隣さんをお姫様抱っこで抱えつつ基地上空に留まり、交渉の時間を稼いだ。
 基地内部突入時には肉塊バリケードを形成し、天使ペネムを傷つけずに拘束して交戦を回避した。
 オオカミとなったお隣さんの食事や移動を補助し、生活面の支援も行った。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 黒須とのラブコメ作品の共同担当として、小説投稿企画でも重要なポジションとなっている。
 自衛隊や天使側からも認識される戦力となり、「交戦禁止対象」として扱われている。
 家族ごっこにおいては、悪魔でありながら保護者的な一面も見せる複雑な立場である。

マジカルピンク(サヨコ)

妖精と契約した魔法少女であり、フェアリードロップス回収の依頼を受けている存在である。戦闘能力と情報収集力を持つが、妖精界との関係や契約内容に不透明さも抱えている。

・所属組織、地位や役職
 妖精界と契約した魔法少女であり、地球側の現場担当である。
 局とは直接の所属関係はないが、佐々木たちと協力関係にある。
 家族ごっこの中では前線要員として位置付けられる。

・物語内での具体的な行動や成果
 フェアリードロップスが危険物であると説明し、回収を急ぐ必要性を家族に共有した。
 スイスや香港、横浜など各地でフェアリードロップスの反応を探知し、現地捜索のポイントを示した。
 ハト型フェアリードロップス戦では、マジカルブラックやピーと共に隔離空間内で接近し、最終的な回収成功に寄与した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 妖精界への窓口として、対象の性質や別種フェアリードロップスの情報を持ち込む役割が強まっている。
 妖精界と機械生命体の対立の板挟みとなる立場に置かれつつも、現場優先の姿勢を崩していない。
 家族ごっこ内では、マジカルコスチュームや戦闘スタイルの基準として扱われている。

異世界側の関係者

ルイス

異世界ヘルツ王国の王族であり、かつて帝国へ攻め込んで命を落とした人物である。死亡後も家族ごっこ内では回想や影響として語られ、現在はカートゥーン作品担当として名を連ねている存在である。

・所属組織、地位や役職
 ヘルツ王国王族であり、帝国派との争いに巻き込まれた立場であった。
 家族ごっこ内では、エルザと共にカートゥーン路線作品の担当者とされている。
 異世界側の政治と交易の歴史の中で重要な位置を占める人物である。

・物語内での具体的な行動や成果
 生前は帝国へ攻め込み、意図を悟ったアドニスに未来を託す形で戦死した。
 アニメ企画会議では、カートゥーンジャンルの嗜好を示し、企画の一端を担った。
 その死は、アドニスの王位継承と内乱終結の契機となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 死後は象徴的存在となり、ヘルツ王国の政変と和平の象徴として語られている。
 カートゥーン作品の読者定着率の高さにより、彼の担当ジャンルも一定の評価を得ている。
 異世界側の王族ネットワークを通じて、現代側との交易拡大にも間接的に影響している。

エルザ

ヘルツ王国の血筋を引く少女であり、古代大帝国ムルムルの血を継ぐ存在である。王族と共和国商人の間をつなぐ立場として、地下都市との交渉や交易拡大に深く関わっている。

・所属組織、地位や役職
 ヘルツ王国の有力貴族家の娘であり、ムルムルの血族である。
 地下都市側からは血筋の継承者として厚遇されている。
 家族ごっこではカートゥーン作品の共同担当としても名前が挙がっている。

・物語内での具体的な行動や成果
 地下都市でムルムルと対面し、血族として信頼を得て、トンネル開通後の交易に道を開いた。
 父ミュラー伯爵と共に地下都市を再訪し、古代王国の歴史書を授かることでヘルツ王国の知的資本を強化した。
 アルテリアン地方の発展を視察し、急速な街づくりの現場を確認した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 地下都市の主から保護を約され、将来的な政治的影響力が高まっている。
 ルンゲ共和国商人との橋渡し役として、両国の交易拡大に不可欠な存在となりつつある。
 佐々木の変身事情を知る限られた相手として、秘密保持にも関わっている。

ミュラー伯爵

ヘルツ王国の貴族であり、軍事的実績と政治的信頼を持つ人物である。娘エルザを通じてムルムルと縁を結び、王国と地下都市の関係を安定させている。

・所属組織、地位や役職
 ヘルツ王国の伯爵であり、王都アレストで軍事と政治に関わる立場である。
 地下都市との窓口として、王国側の代表役を務めている。
 家族ごっこから見れば、異世界側の重要カウンターパートである。

・物語内での具体的な行動や成果
 トンネル開通後、アルテリアン地方の防衛や開発を指揮し、王国側の秩序を保った。
 ムルムルとの会談に参加し、その庇護を得て王国の安全保障を強化した。
 佐々木の外見変化についても事情を聞き、一定期間の活動継続を許可した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 ムルムルから「血脈を継ぐ息子同然」と評価され、地下都市側からの信頼を獲得した。
 王都とアルテリアン地方の両方で影響力を持ち、開発政策の要となっている。
 佐々木とピーちゃんを通じて、現代地球との経済的な結びつきを拡大している。

ヨーゼフ(ケプラー商会代表)

ルンゲ共和国の大商会ケプラー商会の代表であり、利益追求を重視しつつも長期的な投資判断ができる商人である。トンネル貿易を機会と見て、ヘルツ王国との交易拡大に積極的に動いている。

・所属組織、地位や役職
 ルンゲ共和国ケプラー商会の代表である。
 長老会系商家とのつながりを持つ有力商人である。
 アルテリアン地方開発への投資家でもある。

・物語内での具体的な行動や成果
 地下トンネルを利用した交易路を「大成功」と評価し、今後の物資流入拡大を見込んで投資を増やした。
 ヘルツ王国側の人件費や政情を分析し、リスクを承知の上で商機と判断した。
 佐々木に対し、「商人としての道」を誤らないよう忠告し、富の還元先としてヘルツ王国開発を示した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 トンネル貿易の主導者として、共和国側の対外戦略における重要人物となっている。
 ラングハイム商会の失地を背景に、自らの影響力を長老会内で高めつつある。
 佐々木を異世界と地球をつなぐ商人候補として評価し、その成長に期待を示している。

ムルムル

太古の大帝国ムルムルの皇帝であり、地下都市の主として今も存続している存在である。エルザやミュラー伯爵を血族として迎え、ヘルツ王国と地下都市の関係を保護する役割を担っている。

・所属組織、地位や役職
 古代大帝国ムルムルの皇帝である。
 現在は地下都市の支配者として君臨している。
 ヘルツ王国とルンゲ共和国双方にとって重要な後見人である。

・物語内での具体的な行動や成果
 エルザを血族として歓迎し、ミュラー伯爵を庇護対象と認めた。
 ヘルツ王国と地下都市の関係を安泰とする約束を交わし、歴史書を土産として与えた。
 佐々木の変身事情を知りつつ、秘密保持と引き換えに血族の定期的訪問を求めた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 大陸規模の歴史を背負う存在として、異世界側の政治と交易の根底に影響を及ぼしている。
 エルザとミュラー伯爵を通じて現代ヘルツ王国に関わり続けることで、古代帝国の遺産を現在へつなげている。
 佐々木とピーちゃんにとっては、強大だが協調的なパートナーとして位置付けられている。

組織・外部勢力の関係者

犬飼

自衛隊の三等海尉であり、佐々木たちと機械生命体の仲介役となっている人物である。那覇基地を拠点に潜入調査を行い、国家側と家族ごっこの橋渡しを務めている。

・所属組織、地位や役職
 海上自衛隊の三等海尉である。
 那覇航空自衛隊基地に関わる調査任務を担っている。
 家族ごっこの中では、国家権力との窓口役となっている。

・物語内での具体的な行動や成果
 機械生命体十二式に関する情報を上層部へ伝え、自衛隊側の対応を促した。
 黒須らの那覇基地訪問に際し、上官への連絡と礼遇のきっかけを作った。
 帰還後は正式な送還と厚遇を受ける立場となり、家族側の安全保障に貢献した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 機械生命体と接触した数少ない自衛官として、組織内での重要度が上がっている。
 那覇基地司令から厚遇を示され、今後の配置転換や昇進の可能性が示唆されている。
 家族ごっこからは「迎えに行く対象」として扱われ、継続的な関係維持が前提とされている。

阿久津課長

内閣府超常現象対策局の課長であり、二人静や星崎の直属の上司である。現場の詳細を知らされないまま、大枠の指令だけを出す立場に置かれている。

・所属組織、地位や役職
 内閣府超常現象対策局の課長である。
 現場部隊の統括責任者である。
 政治的判断と報告窓口を兼ねる管理職である。

・物語内での具体的な行動や成果
 東京都市圏で多発する「正月ボケ」案件について、二人静に正式な調査指示を出した。
 ハト型フェアリードロップスに関する詳細を知らされないまま、異能力者事案として案件を認識した。
 ミサイル発射を含む一連の騒動を、大規模演習扱いで政治的に処理する流れに組み込まれた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 現場に情報を隠される構図により、表向きの責任だけを負わされる危険な立場になっている。
 家族ごっこ側からは「横取りリスク」の象徴として警戒されつつも、完全な敵とは見なされていない。
 今後、フェアリードロップス案件の実態が表に出た際には、政治的な渦の中心となる可能性が高い。

斎藤(編集者)

大手出版社MARUKAWAの編集者であり、黒須とアバドンのラブコメ作品の書籍化を担当する人物である。ビジネスライクでありながらノリの良い会話を好み、作者との距離を詰めるタイプの編集者である。

・所属組織、地位や役職
 大手出版社MARUKAWAの編集部員である。
 「エイリアンの山田さんVSクラス担任の谷川原先生」の担当編集である。
 レーベル内で新規作家発掘を任されている立場である。

・物語内での具体的な行動や成果
 小説投稿サイト経由で作品を発見し、「絶対に売れる」と評価して書籍化打診を行った。
 黒須の年齢と保護者の有無を確認し、星崎と佐々木との電話・対面交渉を通じて契約準備を進めた。
 ヘリ墜落という非常事態の直前まで、爪の垢に関する奇妙な会話を受け流しつつ打ち合わせを継続した。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 黒須作品の成功如何によって、自身の編集者としての評価が大きく変動する局面に立っている。
 ヘリ墜落事件に巻き込まれたことで、今後の取材や社内評価にも影響が出る可能性がある。
 作者側の異常な環境を知らないまま、通常の商業出版として案件を進めている数少ない一般人である。

インリン(マジカルレッド)

海外拠点の魔法少女であり、マジカルレッドとして活動する人物である。大財閥の令嬢でもあり、父を暗殺して一族を掌握した過去を持つ冷徹な実務家である。

・所属組織、地位や役職
 海外を拠点とする魔法少女マジカルレッドである。
 巨大財閥の現当主である。
 妖精界と直接つながる戦力として、現地フェアリードロップス管理を任されている。

・物語内での具体的な行動や成果
 香港でのフェアリードロップス案件に介入し、自国領内の優先権を主張しつつも、ケンタへの恩義から譲歩した。
 タヌキ妖精と共に、フェアリードロップス三種の性質情報を佐々木たちに提供した。
 書籍化打診後の会合にも姿を見せ、ハト型フェアリードロップスの処理条件として「元に戻す手段」の提示を受け入れた。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 父の暗殺で一族を掌握した事実を隠さず語ることで、善悪の枠外に立つ人物像が強調されている。
 フェアリードロップスの引き渡し条件として、佐々木たちの変身解除の成否に関わる立場となった。
 機械生命体十二式からの信頼は得られておらず、家族の聖域への立ち入りを禁じられている。

タヌキ妖精(レッサーパンダ姿の妖精)

レッサーパンダの姿をとる妖精であり、マジカルレッドに同行する存在である。ふわふわした態度でありながら、妖精界との通信経路を持ち、フェアリードロップスの情報を扱う窓口となっている。

・所属組織、地位や役職
 妖精界に属する妖精であり、マジカルレッドのパートナーである。
 フェアリードロップスの管理と調査を担う立場にある。
 妖精界と地球側をつなぐ通信役である。

・物語内での具体的な行動や成果
 佐々木女児化や星崎・黒須の変身に関わるフェアリードロップス三種の性質を調べると約束した。
 姿変化系フェアリードロップスの危険性や、一方通行の変化であることを説明した。
 ハト型フェアリードロップスの処遇に関する取引で、妖精界側の譲歩を引き受ける立場となった。

・地位の変化、昇進、影響力、特筆事項
 機械生命体から「家族を元に戻す手段」を提供するよう強く迫られ、妖精界全体の命運を背負う交渉役となっている。
 妖精界と人類・機械生命体の三者関係において、中間的なクッション役として期待されている。
 その場しのぎのような口調とは裏腹に、今後の解決策を握る重要な情報源と見なされている。

展開まとめ

〈前巻までのあらすじ〉

文鳥との出会いと異能力者としての転職
佐々木は都内の中小商社で働く疲れた会社員であったが、ペットショップで購入した文鳥ピーちゃんが異世界から転生した賢者であった事実を知った。強力な魔法を授かった佐々木は、国に異能力者と誤認され、内閣府超常現象対策局へ転職することになった。

魔法少女との対立と仲介役への苦悩
佐々木の前に魔法少女を名乗る少女が現れ、異能力者を嫌う彼女との関係調整に苦戦した。佐々木は魔法中年として扱われつつも、彼女との関係を築こうと奔走した。

デスゲームへの巻き込まれと協力関係の成立
悪魔と天使の代理戦争として現代でデスゲームが始まり、アバドン少年が協力を求めて佐々木と二人静は協力を決めた。同時期に巨大ドラゴンが地球へ飛来し、佐々木、星崎、二人静が討伐に成功した。

お隣さんの喪失と軽井沢での新生活
デスゲームで勝利を重ねたお隣さんは保護者と住まいを失い、二人静が身元を引き受けた。生活拠点は軽井沢へ移り、彼女は転校して新生活を開始した。

異世界ヘルツ王国の王位継承問題の決着
異世界ではヘルツ王国で跡目争いが激化。ルイスは帝国へ攻め入って命を落とし、意図を悟ったアドニスが帝国派貴族を倒して王位を継ぎ、内乱は終結した。

宇宙からの機械生命体・十二式の到来
地球には十二式と名乗る機械生命体が飛来し、人類への侵略が一時危惧されたが、星崎に懐いた十二式はバグ調査のため佐々木たちと同行することを選んだ。彼女の提案で家族ごっこが始まり、佐々木らは未確認飛行物体内部で生活することになった。

学校生活とネット炎上騒動
十二式はチヤホヤされる価値に目覚め、お隣さんの学校への入学を希望し、佐々木と二人静も教員として潜入した。宇宙人や悪魔らが在籍する学級で、十二式は塩対応に耐えられず引き籠もりを宣言。二人静主催のPVバトルが展開され、お隣さんとアバドン少年はVチューバーとして成功し、大規模フェスでも暗躍するテロ組織を隠密裏に抑えつつ成功を収めた。

海外での対テロ作戦と生物兵器の危機
功績を重ねた佐々木にはメイソン大佐から声がかかり、海外赴任が決定。接待漬けの環境でありながら単身でテロ組織に対抗し、中国マフィアの従者に収まる事態にもなった。テロ組織壊滅後、生物兵器が起動したが、佐々木と魔法少女たちは協力して都市を救い、その姿がメディアに流出した。

異世界の地下遺跡争奪とトンネル開通
異世界ではトンネル工事中に大量のアンデッドが発生し、太古の大帝国ムルムルの皇帝の遺跡が発見された。ルンゲ共和国やヘルツ王国が争奪する中、ムルムルの血を継ぐエルザが勝利し、開通したトンネルにより両国の交易が開始された。

〈諸国漫遊一〉

帰国の宛てのない日々とプロパガンダ案
母国から追放された佐々木は、年末年始を迎えても課長やメイソン大佐から連絡を受けられず、帰国の目処が立たないまま手持ち無沙汰な日々を過ごしていた。その時間をフェアリードロップス捜索と機械生命体十二式によるプロパガンダに充てる方針が決まり、十二式は家族全員で同じ目標に向かう共同作業としてアニメ制作を提案した。

アニメ制作工程と役割分担の整理
十二式はネットから得た知識をもとに、企画から脚本、設定、絵コンテ以降の工程を説明し、作画や撮影などの実務は自身の演算能力で数秒で処理すると宣言した。その上で、企画と脚本、世界観やキャラクター作りといった作品の根幹部分を佐々木たち人間の役割と位置付け、家族全員に議論と発想への参加を求めた。

ジャンルを巡る家族会議と犬飼の線引き
星崎は刑事物、二人静はSF、お隣さんはファンタジーやラブコメ、ルイスとエルザはカートゥーン、マジカルピンクはかつて好んでいた魔法少女物への言及を見せ、それぞれの嗜好からジャンル案が出された。一方、十二式は犬飼を家族外とみなし、家族会議への参加権を認めず、犬飼はそれを静かに受け入れた。議論は白熱するものの決め手を欠き、星崎がジャンルを混ぜる案を口にしたことで、まずは複数案をすべて試す方向性が示された。

小説投稿サイトを使ったABテスト案
二人静は小説投稿サイトを利用し、まず小説として各ジャンル案の導入部を書いて投稿し、読者の反応とランキングで需要を測る方法を提案した。十二式は家族の会話をすべてデータとして記録していると明かし、その発言をもとに執筆を自動化できると説明した。これにより、出たとこ勝負ではなく市場の反応を踏まえて脚本を固める方針が決まった。

チーム分けと執筆体制の確立
家族会議の結果、各ジャンルは提案者ごとの担当制となり、佐々木とピーちゃんがファンタジー、お隣さんとアバドン少年がラブコメ、星崎と十二式が刑事物、二人静とマジカルピンクがSF、エルザとルイスがカートゥーンを受け持つことになった。十二式が執筆を担当し、各チームの議論内容を反映した小説がその日のうちに完成した。

投稿作品のタイトルと運用方針
夕食時、小説投稿サイトへの初回投稿が行われ、ラブコメは「エイリアンの山田さんVSクラス担任の谷川原先生」、刑事物は「アストロ刑事〜相棒は地球外生命体〜」、SFは「前世は地球人だった宇宙人、左遷された辺境惑星(地球)で現地住民にチヤホヤされて有頂天」、カートゥーンは「ハッピー・スペースシップ」、ファンタジーは「異世界に迷い込んだ宇宙人が持ち前の超科学で無双するようです」と題された。以後は全チームが同一の時間帯に連載更新を続け、PVや評価ポイントを指標に、どの企画をアニメ化の本命とするか見極めていく方針が定められたのである。

投稿初日の結果とサイト事情の確認
翌朝、佐々木たちはコタツで朝食を取りながら、小説投稿サイトの途中経過を確認した。どの作品もPVは二桁程度で、唯一ファンタジーだけが三桁に届いていた。二人静は新着作品紹介ページや検索流入の仕組みを説明し、五万〜十万文字ほど連載を続けなければ正確な評価は得られないと述べ、自身の妙なサイト慣れを星崎から突っ込まれてはぐらかした。

フェアリードロップス調査の進捗と祖母と孫の温度差
アニメ企画の目処が立ったため、二人静は約束通りフェアリードロップス捜索への協力を十二式に求めた。十二式は既にネット上の怪異・未解決事件情報を解析し、地球各地に小型ポッドを派遣して三件の有力事例を九割方フェアリードロップスと断定したと報告した。家族からはその手際に賞賛が送られるが、二人静だけは成果が出てから褒めると突き放し、相変わらず祖母と孫の温度差が際立った。

冬休み終盤と下艦・通学組の調整
二人静とマジカルピンクが現地調査に出ようとしたところで、佐々木は犬飼の下艦予定と、お隣さんとアバドンの新学期準備を思い出させた。冬休みの宿題が手付かずであることをアバドンに指摘され、お隣さんは渋々帰還と支度を承諾した。星崎も妹と会うため下艦を選び、十二式は本心では姉と一緒にいたいと述べつつも、中等教育の重要性を理由に送迎役を引き受ける決意を示した。

三件の異常事案と最初の目的地選定
十二式が示した三件の候補は、人口三千規模の欧州の寒村で半年の間に八人が失踪しながら報道もされない事案、南米で遺伝子異常では説明しにくい奇形かつ凶暴な動物が多発して軍が隠蔽している事案、そして東アジア沿岸部で本来いない動物が相次いで現れ、行方不明者と立ち入り禁止区域が出ている事案であった。マジカルピンクは妖精から危険物としてフェアリードロップスの回収を頼まれていた経緯と、マジカルフィールドに溜め込んだままになっている現状を説明し、その危険性が改めて共有された。

欧州行き調査と出発
軍隊との正面衝突を避けたいという佐々木と二人静の意見から、まずは観光客を装いやすい欧州の失踪事件の村を最初の目的地とする方針が決まった。朝食を終えた一行は、下艦して日常へ戻る組と、十二式の飛行物体に乗ってフェアリードロップス捜索に向かう組に分かれ、それぞれの目的地へ出発したのである。

お隣さんの帰国と自衛隊基地訪問の決断
お隣さんは擬態でジェット機風に変形した機械生命体の末端に乗り、アバドンや星崎・犬飼と共に母国へ帰還していた。軽井沢に直接戻る予定だったが、自衛隊の犬飼の上司に挨拶して関係を作っておくべきだと判断し、犬飼の那覇航空自衛隊基地への帰還を優先するよう十二式に依頼した。天使・悪魔と国家権力の接点を直接確認し、将来的な敵対を避けるための“根回し”であるとお隣さんは認識していた。

沖縄到着直前の隔離空間と自由落下
沖縄本島と基地滑走路が視界に入った直後、突如隔離空間が発生し、末端からお隣さんとアバドンだけが空中に放り出された。移動体は隔離空間に取り込まれないという以前からの説明通りであり、運動エネルギーは打ち消される一方、位置エネルギーは残る仕様であると再確認された。アバドンが空中でお隣さんをお姫様抱っこで受け止め、二人はそのまま自衛隊基地上空に留まりつつ、使徒との交渉を優先するため島への上陸と自衛隊基地への接近を選択した。

基地内でのアバドン顕現と自衛官たちとの遭遇
お隣さんは自衛隊基地滑走路に降下し、アバドンに顕現を指示した。アバドンは肉塊の巨体となってお隣さんを囲うバリケードを形成し、その姿に対して見えない位置から「天使の使徒から悪魔の使徒に告ぐ」と名乗る声が警告を発した。お隣さんは交渉を選び、アバドンに突入を命じる。肉塊は基地壁面をぶち抜いて内部に侵入し、お隣さんの周囲を防御と攻撃用に二分して展開した。そこには自衛隊制服の若い男性使徒三名と、それぞれの天使三体(老人、少年、ブロンド女性)が待ち構えていた。

軽率な攻撃とアバドンによる無傷拘束
三名のうち一人の使徒が恐慌状態でブロンド天使ペネムに攻撃を命じ、細身の剣を構えた彼女が突撃した。お隣さんはアバドンに「傷つけず無力化」を指示し、アバドンは投網のように肉塊を広げて天使を丸ごと包み込んだ。暴走した使徒は他の二人とその天使に組み伏せられ、制止される。お隣さんの要請でアバドンがペネムをぬめった状態のまま解放したことで、使徒たちはアバドンが本気で害意を持っていないことを理解し、警戒を緩めた。

自衛隊と使徒・天使の運用実態の露見
最も落ち着いた自衛官が、お隣さんとアバドンを「悪魔アバドンとその使徒・黒須」と名指しし、敵として来たのかと確認してきた。お隣さんは敵意の有無を問い返しつつ対話に応じ、三名が那覇基地所属の正規自衛官であり、そのうち二名は元々自衛官、暴走した一名は“使徒であるがゆえに採用された新任”であると聞き出した。天使・悪魔は国防上の戦力として極秘裏に集められ、クラーケン討伐やテロ鎮圧にも投入されているが、デスゲーム事務局の実態やグロサイトの背後組織については彼らにも共有されていないことが判明する。また、自衛隊上層部は「黒須とアバドンとは交戦するな」とだけ通達しているが、その理由は末端には伝えられていなかった。

訪問目的の説明と基地からの一時退避要請
お隣さんは、自分たちが犬飼三等海尉の帰還に随行し、吉川一等海佐ら上役への挨拶を目的としていたことを説明する。隔離空間発生により事態が変質したため、基地敷地外まで天使に抱えられて移動し、隔離空間が解除された後に上官へ連絡してもらえないかと提案した。使徒側は隔離空間内で一定の裁量権を持つと認め、彼女の提案に敬礼をもって応じて基地外へ退避する。お隣さんは、この場で権力を背景に礼遇される心地よさを実感する一方、ピラミッド型権力構造が人の精神を歪める危険性についても内心で批判的に考えていた。

自衛隊基地での正式な歓迎と謝罪
天使の使徒たちと別れた数分後、隔離空間が解け、お隣さんは末端に再搭乗して那覇基地へ入った。末端はステルス機能と管制情報の把握により勝手に空きスペースへ着陸し、自衛官たちは突然現れた一行に驚愕していた。基地司令と犬飼の上司・吉川一等海佐が代表として迎え、犬飼送還と機械生命体への対応に礼を述べる一方、事前連絡にもかかわらず隔離空間発生を招いた不手際について謝罪した。

本土への即時移動決定
応接室での面談では、基地司令が自衛隊内における犬飼の潜入調査の成果と、機械生命体情報の価値を踏まえて厚遇を示し、本土までの移動手段として海自機の提供と沖縄観光の提案を行った。化粧女は観光に未練を見せたが、お隣さんは接待の意図を理解し、フェアリードロップス捜索を優先して即時出発を希望したため、一行は那覇基地を後にした。

スイス農村への夜間到着と捜索方針
末端は擬態した旅客機型の外観と男女別トイレを備えた新仕様で運用され、十二式の操縦により一行は数分でヨーロッパ上空に到達した。夜景を眺めながらルイス殿下らと談笑しつつ、目的地のスイス山間の湖畔集落に夜間着陸した。一行は観光地的な豊かな景観とスイス経済の構造について二人静の解説を聞きながら、行方不明者の集中地点を警察データベースから抽出した十二式のマップを手掛かりに、湖南側の牧草地帯を重点的に調べる方針を確認した。

牛舎で発見された異様な血肉とステッキ
マジカルピンクがフェアリードロップスの一瞬の反応を捉え、一行は牧草地の家畜小屋へ向かった。内部は無人で、牛は移牧中と見られたが、牛床の一角に血と肉片と骨が混じり合った悪臭漂う塊が残されており、何らかの生物がミキサーにかけられたような惨状であった。その近くには赤い宝石をあしらった金属製ステッキが落ちており、二人静が拾い上げた後、魔法中年が手に取って観察した。ステッキはマジカルステッキに似た意匠で、十二式は本人の外見改造すら可能だと語り、魔法中年は子供としてやり直すことへの淡い幻想を抱いていた。

ステッキの起動と魔法中年の異変
魔法中年がステッキを握っていると、宝石部分がミラーボールのように輝き出し、同時にピーちゃんが魔法陣を展開して彼を対象に魔法を発動した。魔法中年の全身は強烈な痺れとむず痒さに襲われ、衣服越しにも分かるほど眩しく発光し、牛舎内部を昼間のように照らした。彼はピーちゃんだけは巻き込むまいと肩から投げて二人静へ託し、ピーちゃんも「必ず何とかする」と応じたが、その直後に魔法中年の意識は暗転し、フェアリードロップスとステッキの真の性質を示唆するかのような異変の中で倒れたのである。

〈諸国漫遊二〉

女児の身体での覚醒と混乱

ササキは機械生命体の末端内部で目を覚まし、自分のコートとズボンを掛け布団と枕代わりにされていることに気づいた。立ち上がると、体毛のない細い脚と大きすぎるシャツだけを身に着けた女児の身体に変化しており、二人静やマジカルピンク、ピーちゃん、十二式らにからかわれつつも、鏡で自分の幼い顔と伸びた髪を確認して動揺していた。

フェアリードロップスによる変化と危険性

ピーちゃんは、家畜小屋で拾ったステッキがフェアリードロップスであり、その影響でササキの肉体が女児へ変質したことを詫びた。ササキは過去に行った変身魔法で一時的に元に戻れないか相談したが、ピーちゃんは肉体崩壊の危険から使用を止め、再度ステッキに触れる案も血肉と化す可能性が高いとして強く制止した。ステッキ自体はマジカルピンクが回収し、当面は彼女側で保管・調査することが決まった。

肉塊写真と妖精界への疑念

十二式は地元警察のデータベースを解析し、家畜小屋で見つけた肉塊と同様の被写体を写した画像が集落内で複数撮影されている事実を提示したが、遺伝子検査などの記録は見当たらず、組織的隠蔽の疑いが示唆された。二人静は地球上にフェアリードロップスが存在する経緯や妖精界の意図に疑問を抱き、マジカルピンクが妖精の毛皮を身につけている事情や、ピーちゃんが妖精界と袂を分かった存在であることも明らかになった。

検査の結果判明した不可逆な変質

ササキ一行は欧州から離脱し、未確認飛行物体で家族ごっこの舞台へ戻った後、機械生命体の設備による検査と、火星の施設での精密検査を受けた。その結果、ササキの肉体は遺伝子レベルで完全に変質しており、このままでは元の姿に戻らない可能性が高いと診断された。健康状態自体は回復魔法の効果で良好と判定されたが、十二式から提案された遺伝子組換え治療は若返りや性別の変更には対応できず、時間もかかるためササキは返答を保留した。

帰路につくササキの逡巡

ササキはデスゲームのご褒美なら元の姿に戻れるかもしれないと考えつつも、事務局との協定を理由に安易な行使を控えるしかなかった。元に戻れない現実と、機械的な治療やご褒美への依存に迷いを抱えたまま、一行は火星から地球への帰路についた。

再会と女児化したササキの認知

フェアリードロップス回収の翌日、星崎とお隣さんが未確認飛行物体を経由して和住宅に帰還したところ、コタツの場には見知らぬ女児の姿があった。二人はその子どもの正体に戸惑うが、ピーちゃんが肩にとまった様子を見て星崎が「まさか佐々木では」と推測し、ササキ本人の告白により、女児に変化した当人であることを理解した。

変化の経緯説明と魔法少女側の限界

ササキはフェアリードロップス回収作業の経緯と、自身だけが女児化した経過を説明し、二人静も「対象と接触して女児になった」と補足した。一晩様子を見ても元に戻らず、当面は調査と経過観察という方針が共有された。星崎は不用意に触れたことを咎めつつも、マジカルピンクに何か情報がないか問い質すが、彼女自身も原因を把握しておらず、魔法少女側でも対応策が見いだせていないことが明らかになった。

服装と身だしなみを巡るやり取り

お隣さんから「その格好はおじさんの趣味か」と問われ、ササキは二人静から借りた服であると説明した。会話の流れで髪の乱れを指摘されたササキは、星崎に背後から櫛で髪を梳かれて身だしなみを整えられる。星崎は「世話になっている分を少しずつ返したい」と語り、妹の髪を梳いていた昔話を重ねながら、子どもとしてのササキを世話する時間をどこか楽しんでいた。一方で、お隣さんは距離の近さに不満を示し、十二式やルイスたちも交えた軽口が飛び交う中、家族ごっこのような温かな空気が生まれていた。

犬飼の所在と十二式の裏方仕事

談笑の最中、ササキは一人足りないことに気付き、犬飼の所在を確認する。星崎もお隣さんも消息を知らなかったが、十二式が「自衛隊側から後日連絡があり、そのタイミングで基地へ迎えに行く段取りになっている」と説明した。連絡手段は詳細不明ながら、十二式が人類のネットワークを自在にハッキングして調整しているらしいことが示唆され、ササキは現在の外見で人前に出ることを避けつつ、その手配に甘えることにした。

小説投稿サイトの結果確認とジャンル別の明暗

十二式は家族に対し、「忘れていることがある」としてアニメ制作の叩き台である小説投稿サイトの結果確認を提案した。空中に投影されたウィンドウには、家族それぞれが担当する複数作品のトップページと評価が表示され、公開二晩にして異世界ファンタジー(ササキ+ピーちゃん担当)とラブコメ(お隣さん+アバドン担当)が高評価を獲得していることが判明した。SF作品(二人静+マジカルピンク担当)も二桁前半の評価で健闘していた一方、カートゥーン(ルイス+エルザ担当)は評価数こそ少ないものの、初回から最新話まで読まれる割合が高く「定着率」に優れていると二人静に評価された。

刑事モノ失速と星崎のメンタルダメージ

対照的に、星崎と十二式が担当する刑事モノは評価ゼロで、閲覧者の離脱も早いという厳しい結果となった。星崎はショックを受け、自作自演による水増し評価をササキに疑うほど動揺するが、十二式は「家族内に自作自演は見られない」と断言した。ササキは「最終的には皆で一つの作品に向き合うのだから気にしすぎる必要はない」となだめるものの、星崎は失敗続きの現状に悔しさを隠しきれず、二人静の辛辣なコメントも相まってメンタルが削られていった。

今後の執筆方針とササキの前向きさ

閲覧データの統括として、十二式は「現時点では異世界ファンタジーとラブコメを主軸に据えた作品が有力候補であり、カートゥーン路線も継続視聴に耐えると証明された」と総括した。刑事モノについては「今夜から展開にテコ入れする」と星崎と十二式が合意し、向こう一週間ほど投稿を続けながら方向性を探る方針が共有された。ササキ自身も、女児化した状況に不安を抱えつつも、ピーちゃんと協力して物語を紡げる機会を前向きに受け止め、小説投稿サイトでの連載を「満更でもない」と感じていたのである。

女児化した佐々木への観察と違和感

お隣さんは、軽井沢から帰還した後も佐々木が女児のまま戻らない様子を、宿題をしながら観察していた。翌朝もスーツ姿の女児のままで、背丈が足りず正座で姿勢を補いながら、大人と同じ所作で魚をきれいに食べる姿に、子どもらしさと中年らしさが同居する違和感と微笑ましさを感じていた。

生活動作と「中身はおじさん」であることの確認

入浴やシャワーヘッドの高さの話題から、佐々木は女の身体になっても、風呂の段取りや気遣いはいつも通りであることが示された。星崎が髪や風呂、銭湯の女湯・男湯の話で揺さぶりをかけても、佐々木は淡々と「身体は女だが心は男」と答え、状況に動じない胆力を見せる。その動じなさに、お隣さんは尊敬と同時に、これを機に陽キャ化して自分から離れてしまうのではという危機感を覚え、冴えない中年男性のままでいて欲しいと内心で願っていた。

フェアリードロップス追加回収の提案と全会一致

食後、二人静が残るフェアリードロップス回収を提案すると、お隣さんは佐々木を元に戻す手掛かりとなる可能性も踏まえ、即座に賛成した。他の面々も同意し、十二式が家族ごっこのルールとして多数決を宣言した結果、全員賛成で追加回収に向かう方針が決定された。

佐々木の残留決定と回収メンバー編成

佐々木はルイスとエルザを危険から守るため留守番を提案するが、星崎とピーちゃんは「佐々木自身も残るべき」と主張し、お隣さんもこれに同調した。佐々木は不満を抱きながらも折れ、ブロンド女とイケメン王子も残留を了承した。結果として、回収班は二人静、マジカルピンク、お隣さん、アバドン、星崎、十二式の六名となり、佐々木とピーちゃんは自宅で留守番として見送る形となった。

星崎の変身とピーちゃんによる救命

お隣さんたちは未確認飛行物体へ戻ると、まずピーちゃんに星崎の容態を診てもらった。文鳥による回復魔法により苦しげな呼吸や激痛は収まり、肉体の変化もそれ以上は進行しなかったが、既に変質した身体は元に戻らず、星崎はムキムキの美形成人男性の姿で目を覚ました。末娘は母の無事に感極まり、星崎に抱きついて離れようとしなかった一方、本人は鏡に映る自分の「イケメン」ぶりに衝撃を受けつつも、痛みが消えていることに安堵していた。

ナノマシンの働きと火星での検診決定

末娘の分析によれば、事前の健康診断で体内に投与されたナノマシンが外部から侵入した異物に抵抗し、その間にピーちゃんの回復魔法が作用した結果、星崎の変化は「異形化」ではなく、性別と体格の変化にとどまったと判断された。異物は肉体変化の完了とともに自壊したと推測され、正体解明のためにも火星基地での精密検査が必要とされた。星崎もそれを受け入れ、未確認飛行物体はすでに火星へ航行中であり、星崎を含む家族ごっこの面々は入念な健康診断を受診した。その結果、佐々木と同様に遺伝子レベルでは外見相応に変質しているが、健康面では問題なしと太鼓判が押され、今後フェアリードロップスと関わる全員がナノマシン投与と定期検診を受ける方針が確認された。

地球生活の不安と異世界取引の優先

地球側では無線設備用軽油の納品など現実的な生活基盤の維持が依然として重要であり、身体が元に戻る目途が立たない中でも、佐々木たちは異世界側での取引を優先することに決めた。幸い、ヘルツ王国は剣と魔法のファンタジー世界であり、星の賢者の助言によって、見た目の変化も「それなりの言い訳」で乗り切れると判断されたことが背中を押した。こうして一行はヘルツ王国首都アレストを訪れ、ミュラー伯爵に事情を明かし、一定期間は「女児の姿の佐々木」として活動を継続する許可を得た上で、王や周囲への不用意な動揺を避けるため目立った行動を控えることを申し合わせた。

ルンゲ共和国との貿易拡大とササキの立場

続いて一行はルンゲ共和国のケプラー商会を訪れ、ピーちゃんの幻惑魔法で見た目を誤魔化しつつ、代表のヨーゼフと面談した。地下トンネルを利用した王国と共和国の新たな交易路は「大成功」と評価され、馬車の往来は日増しに増加し、今後は無線通信事業の利益を凌ぐ可能性も示された。一方で、ヘルツ王国の政情不安やマーゲン帝国との関係、王国側の人件費の安さ、入国審査の厳格化、トンネル周辺の未開地開拓、マルク商会の役割、ラングハイム商会の失地など、政治経済的なリスクも共有されたが、ヨーゼフはそれらを織り込んだ上で「今こそ投資の好機」と判断していた。

将来への期待と「商人としての道」への忠告

ヨーゼフは、ケプラー商会内部でも意見が割れていたが、自身が先頭に立って旗を振ることで、リッター商会ら大手の参入を呼び込み、ヘルツ王国開発と地下都市の利用が両国にとって有望な成長エンジンになると説明した。また、地下都市の主がエルザに会いたがっていることや、ラングハイム商会が長老会内で影響力を失っている現状も伝え、ササキがルンゲとヘルツの両方と繋がる存在として今後ますます重要になると強調した。そのうえで彼は、「利益こそ正義」の共和国においても、ササキには商人としての道を誤らぬよう強く願い、ササキはその忠告を胸に刻みつつ、増え続ける富をヘルツ王国とアルテリアン地方の開発へ還元していく決意を新たにしたのである。

ミュラー伯爵への報告と地下都市再訪の決定

一行はルンゲ共和国からヘルツ王国へ引き返し、首都アレスト城でミュラー伯爵に共和国商人の動向と地下都市の主ムルムルの様子を報告した。交易の実務はマルク商会に委ねられていることが確認され、地下都市側については翌日エルザと共に再訪する段取りとなった。移動はピーちゃんの空間魔法により一瞬で行われ、多忙な伯爵も娘を一人で行かせまいとして同行したのである。

ムルムルの「祖父」ムーブと秘密保持の約束

地下都市の小部屋でムルムルは、エルザからミュラー伯爵の武勲を聞かされて上機嫌となり、伯爵を「自らの血脈を継ぐ息子同然」と呼んで庇護を約した。その一方で、佐々木は女児の姿のまま出向き、ムルムルに変身の事実を口外しないようエルザを通じて頼み込み、了承を得た。ただし条件として、ピーちゃんと佐々木が今後も血族たちを定期的に連れてくることを約束させられた。歓談の後、ムルムルはエルザとミュラー伯爵に古代王国の歴史書を土産として渡し、ヘルツ王国と地下都市の関係は当面安泰と見なされた。

アルテリアン地方の発展と共和国勢の進出

その後、佐々木とピーちゃんはアルテリアン地方の現状視察に向かった。前回訪問から一ヶ月足らずにもかかわらず人口は倍増し、各所で大規模建築の基礎工事が進み、テント村だった一帯は家屋が立ち並ぶ宿場町の様相を呈していた。人型ゴーレムを用いた魔法土木により建設は急速に進み、大通りは石畳で舗装されていた。街中にはルンゲ共和国の国旗を掲げた立派な馬車や、ケプラー商会・リッター商会など長老会系商家の紋章が見られ、地下トンネルを通じた安全な輸送路を背景に、共和国からの物資流入が地元発展を強く後押ししている様子が窺えた。

「商人としての道」をめぐる対話と元の身体への願望

エイトリアムの宿へ戻り帰還準備を進める中、佐々木はヨーゼフが語った「商人としての道」の真意をピーちゃんに尋ねた。ピーちゃんは自分にも分からないとしつつ、ルンゲ共和国特有の価値観に基づく言葉だろうから、そのまま善意の忠告として受け取り、細部を気にし過ぎない方がよいと諭した。この言葉に佐々木は安心感を覚え、慰めを素直に嬉しいと口にしたが、女児の姿でそう告げられたピーちゃんは調子を狂わされる。そこで佐々木は改めて、早く元の身体に戻りたいという強い願望を自覚するに至ったのである。

〈諸国漫遊 三〉

正月明けの日常と節分談義

正月気分が薄れ、ニュースや季節商品が通常運転に戻る中、家では国際色豊かな朝食を囲みつつ、次の行事である節分について話題が上った。鬼役を誰が務めるか、豆を年の数だけ食べる風習の非合理さ、二人静の実年齢などが冗談交じりに語られ、和気藹々とした空気が流れていた。

星崎の変化した身体への適応

語り手は、屈強な男性の肉体へと変化した星崎が驚くほど自然体で過ごしていることに違和感を覚えたが、本人は筋力・持久力の向上を前向きに受け止めていた。その一方で食欲が増大していることを自覚し、将来元の身体に戻った際の体形悪化を危惧されてからかわれた。語り手は、自身が「弱者男性の中身を持つ女児」という立場に強い社会的ハンデを感じ、星崎やピーちゃんを羨ましく思っていた。

東京都市圏の事故増加と末娘の相談

テレビでは年明け以降、東京都市圏で交通事故など物騒なニュースが増えていることが報じられたが、上司からの招集もなく、一同は正月ボケによる偶然と判断した。その後、十二式(末娘)が改まって相談を切り出し、自身と星崎が連載する小説に悪質なアンチが粘着している問題を共有した。アンチは連番アカウントを量産して誹謗中傷を続け、十二式は機械生命体ゆえの「嘘を吐けない」建前を盾に、自ら別アカウントで理詰めの反論を行っていた。

アンチ対応と書籍化打診の発覚

アンチへの報復として電子戦やウイルス送付を提案する声もあったが、課長に発覚すればネット活動そのものが制限されると星崎が制止し、最終的に「放置が最善」との結論に傾いた。議論の最中、お隣さんの端末に小説投稿サイト運営からのメッセージが届き、末娘作品に対し出版社から書籍化打診が来ていることが判明した。十二式はアニメ制作と直接関係しないとして報告を後回しにしていたが、星崎は「より多くの人に読まれることは目的と合致する」と書籍化に強く賛成した。

多数決による書籍化決定と編集者からの電話

書籍化受諾の是非は家族ごっこの参加者全員による多数決に委ねられ、最終的に全員賛成となった。連絡役は黒須(お隣さん)とアバドンが担当し、ほどなくして出版社・MARUKAWAの編集者斎藤から電話が入った。斎藤は「エイリアンの山田さんVSクラス担任の谷川原先生」を高く評価し、是非書籍化したいと熱意を示したうえで、作者の出版経験と年齢を確認した。

中学生作家と「保護者」問題のドタバタ

黒須が十三歳の中学一年生であると知った斎藤は、保護者への説明と了承を求めた。語り手は自らを保護者と名乗って電話を代わったが、女児の声色が致命的に幼く、信憑性を欠いてしまう。そこで星崎が「母親役」として通話を引き継ぎ、印税や部数などを確認しつつ、落ち着いた電話応対で斎藤と交渉した。最終的に対面での打ち合わせ提案がなされ、一行が出版社に出向く形で合意した。

書籍化への期待と不確実性

こうして黒須とアバドンが担当する作品の書籍化が動き出したものの、刊行までは最低三〜四ヶ月を要し、その間に局からの横槍や十二式の帰還などで計画が頓挫する可能性も残されている。語り手は過度な期待を避けつつ、「気長に見守るべき出来事」として、この新たな展開を受け止めていたのである。

香港島での探索と象の異常行動

アニメ制作が順調に進む一方で、フェアリードロップス回収は難航し、お隣さんたちは最後の反応源である香港に向かったのである。末端で上空から目撃情報マップを確認し、冬で人気の少ない砂浜に着地して捜索を開始したが成果はなかった。やがてマジカル娘の反応を頼りに山中の貯水池へ移動し、そこではアフリカゾウと思しき個体が岸辺で混乱して暴れていたが、フェアリードロップスの反応は直前で途絶していた。

マジカルレッドと妖精との邂逅

象を前にした一行の前に、現地の魔法少女マジカルレッドと、レッサーパンダ姿の妖精が飛来した。マジカル娘サヨコとは旧知の間柄であり、さらに二人静とも財閥同士の縁があることが判明した。レッドは自分が父を暗殺して一族を掌握したことを淡々と語りつつ、自国領内のフェアリードロップスは自分が優先的に確保すべきだと主張したが、サヨコは「魔法中年ケンタらを元に戻すために必要だ」と食い下がったため、ケンタへの恩義から譲歩を約束した。

妖精界への警戒と治療手段探索の糸口

レッサーパンダの妖精は、妖精界やフェアリードロップスについてふわふわとした態度で語り、姿変化系のフェアリードロップスの存在を示唆しつつ「調べてみる」と応じた。二人静は謝礼を申し出たが、レッドは大財閥の令嬢として金銭を拒み、ケンタへの個人的な恩返しとして協力すると宣言した。一方、十二式は妖精界と魔法少女の戦力を潜在的脅威と見なして強い警告を発し、自宅という「家族の聖域」にレッドを立ち入らせることを断固拒否したため、ケンタとの直接面会は見送られた。

撤収と透明なフェアリードロップスによる新たな変異

貯水池周辺ではその後もフェアリードロップスの反応が戻らず、象もレッドの通報を受けてどこかへ逃走したため、双方とも撤収を決めた。お隣さんたちは末端に乗り込んで帰路についたが、その直後、お隣さんの全身を焼くような激痛が襲い、衣服の下で急速に体毛が増えるなど異常な変化が始まった。マジカル娘が末端内部で新たな反応を検知し、十二式が跳躍して空中から透明な物体をつまみ取った結果、それが高度なステルス機能を持つフェアリードロップスであると判明し、一行は文鳥のもとでの対処を急ぐ中、お隣さんは意識を失ってしまったのである。

お隣さんの帰還とオオカミ化の発覚

フェアリードロップス回収組が慌てて帰宅し、お隣さんが新たな対象に襲われたことが判明したのである。戻ってきたお隣さんは性別どころか種族ごと変化し、タイリクオオカミと思しき大型のオオカミになっていた。ピーちゃんが何度も回復魔法を試みたが効果はなく、お隣さん本人も前足で制止を示したため、治癒は一旦中断された。吠え方によるイエス・ノー確認から、痛みもなく意識も明瞭であることだけは確認された。

透明なフェアリードロップスの回収と技術的限界

末端内でのスキャンにより、十二式は高度なステルス機能を備えたフェアリードロップスを検知し、末娘がそれを指先で摘み上げていた。人間には視認不能なそれは、マジカルピンクのマジカルフィールド内に収容されることになった。十二式は、屋外の羽虫サイズの物体を検出するのは機械生命体にとっても現実的でないと説明し、末端内部という完全制御空間だからこそ捕捉できたと述べた。

オオカミとしての生活補助と家族ごっこのルール

エルザは脳波などを利用した「思考音声化デバイス」でお隣さんと会話する案を出したが、十二式は思考の筒抜けはプライバシー侵害であり、家族ごっこの第七条にも反するとして却下した。その代替として二人静が秋葉原で巨大キーボードとタブレットを調達し、お隣さんは前足でキー入力し、音声読み上げアプリで発話する手段を獲得した。お隣さんは毛布をかけてくれる佐々木に感謝しつつ、頭を撫でてもらおうと画策するなど、オオカミの身体を逆手に取ったスキンシップも試みていた。

火星基地での検査と治療選択

火星基地での精密検査の結果、お隣さんの遺伝子は人間からオオカミへと書き換わっており、おじさんや化粧女と同様に根本的な肉体変化が起きていると判明した。人間同士は遺伝子がほぼ同一であるのに対し、人間とオオカミは約二割弱異なるため、治療にはより長期の医療ポッド収容が必要と説明された。ただし、事前に保存した健康診断データを使えば、元の身体へ戻すことは十分可能と示され、お隣さんは治療開始を保留しつつ、デスゲームの報酬や妖精側の調査結果も踏まえて判断を先送りすることにした。

出版社との打ち合わせと佐々木の窓口就任

日常の段取りを整える中で、出版社との書籍化打ち合わせが数日後に迫っていることが思い出された。本来の原作者はお隣さんとアバドンであるが、当人はオオカミで対面は不可能である。顔バレしている星崎や乗り気でない二人静を巡って議論した結果、現在女児の姿にある佐々木が窓口役を務める案が浮上した。機械生命体も「家族一丸のプロパガンダ」という目的からこれを支持し、ピーちゃんも見た目を化かすなどと後押ししたことで、最終的に佐々木が担当を引き受け、二人静が新調スーツのスポンサーを申し出る形で、打ち合わせ体制が固められたのである。

女児・マッチョ・オオカミの日常への適応

語り手は女児、星崎はマッチョ、お隣さんはオオカミという異常な状態のまま、日常生活が続いていたのである。語り手は背丈不足を補うため飛行魔法で家事をこなし、星崎は急激な身長増加のせいであちこちに頭をぶつけ、日常的に流血しては語り手やピーちゃんの回復魔法に頼る生活となっていた。一方、お隣さんは食器や食べ方を巡って議論が交わされた末、アバドンに「あーん」されるのを拒絶し、皿に直接口を付けて食事を取る形に落ち着いた。排泄はトイレ、入浴は湯船とブロワー乾燥で対応し、家の中を大型犬のように歩き回るその姿は、語り手にとって癒やしの光景ともなっていた。

投稿サイトでの書籍化打診とアニメ企画の方向性決定

小説投稿サイトで活動を始めて一週間が経過し、十二式は「当初の目的に照らして結論を出す時期である」と告げた。語り手からは、担当作に四件の書籍化打診が来たことが報告され、日間ランキング上昇を受けた複数社からのオファーであると判明した。これを受け、十二式はアニメ化における題材ジャンルはこの原案で決まりと判断し、父とピーの提案した案をベースに脚本制作へ進む方針を示した。盗作疑惑を避けるため、既存テキストの削除や設定の再編も検討され、エルザやルイス殿下ら異世界勢が世界観・生活描写(農村の窓や下着、領土統治)にリアリティを加える助言を行った。キャラクターの声については、特定の声優連想を避ける方針が確認され、十二式が当日の成果を映像化し、翌日以降に全員でスパイラル的にブラッシュアップする体制が整えられた。

機械生命体製銭湯の開業と家族での来訪

十二式は近所に新たに銭湯が完成したことを告げ、家族での利用を提案した。機械生命体が月面建材プラントを活用して短期間で建てたその銭湯は、瓦葺き唐破風に赤い暖簾、提灯と白漆喰の壁が映える昭和レトロな佇まいであり、休憩所や自販機も備えた本格的な施設であった。星崎の男湯・女湯問題については、情緒教育の観点や本人のリスク回避が議論され、最終的に星崎は男湯を選択した。お隣さんもアバドンによる身の回りの世話を理由に男湯へ向かい、男湯側は語り手、ピーちゃん、ルイス殿下、星崎、お隣さん、アバドンという面子となった。十二式は母の肉体を戻す決意を口にしつつ女湯へ回されることになった。

男湯での入浴騒動とささやかな幸福感

男湯の浴室は富士山のペンキ絵と横長の湯船を備えたレトロな造りであり、男女の浴室は高い壁で仕切られつつも声は届く昭和的な構造であった。身体洗いの場面では、お隣さんがアバドンの洗体から逃げて語り手のもとへ駆け込み、潤んだ瞳で助けを求めたため、語り手は目にシャンプーが入ったと推測して介助しようとした。しかし、その役目は先んじて星崎が担い、マッチョな腕でオオカミを小脇に抱え、「女同士」と言いつつ強引に洗い場へ連行した。語り手はピーちゃんと共に貸し切り同然の湯を満喫しつつ、十二式の働きに感謝する気持ちと、変則的ながらも家族で銭湯を楽しむ時間にささやかな幸福感を覚えたのである。

〈フェアリードロップス 一〉

出版社へ向かう道中と星崎の保護者役

打ち合わせ当日、元の姿に戻れないまま、語り手と星崎はピーちゃんの空間魔法でビジネスホテルへ移動し、そこから電車で出版社へ向かったのである。久々の満員電車に語り手は子供の体格とパンプスの不安定さに苦戦し、人の流れに流されそうになるたびに、マッチョ化した星崎に片手で抱き寄せられて難を逃れた。星崎は欧州で新調したスーツとロングコートで決めており、圧倒的な存在感を放っていた。

担当編集との初対面と作品評価

大手出版社の社屋に到着した二人は、受付を経て担当編集・斎藤と会議室で対面した。名義上は「黒須」として来訪した語り手は、保護者役の星崎とともに応対し、挨拶の最中につい社畜口調を漏らして学生らしさを外し、星崎に肘で小突かれて取り繕う羽目になった。斎藤は『エイリアンの山田さんVSクラス担任の谷川原先生』を高く評価し、「絶対に売れる」と断言、編集部内での評判も良好であると述べ、今後一緒にやっていきたいと熱意を示した。

執筆体制とスケジュール確認、奇妙な会話劇

打ち合わせは、連載方針と生活リズムの確認へと進んだ。編集側は年二〜三冊刊行を目標として示し、原稿のストック状況と執筆スピードを質問した。語り手は機械生命体の支援を背景に「十万文字一冊分のストックがあり、執筆には二ヶ月ほど」と回答し、斎藤はその速さを称賛しつつも無理は禁物と釘を刺した。一方で星崎は「可愛げのない娘」とからかい、語り手は「父さん」と呼び掛けて返すなど、親子ロールプレイを続けた。斎藤も「爪の垢を同僚に煎じて飲ませたい」と乗り、イタリア製の爪切りを探しに出るなど、会話は徐々に奇妙な方向へ転がっていった。

ヘリ墜落とフェアリードロップスの影、そして違和感

その最中、外から大きな爆音が響き、二人が窓の外を確認すると、出版社前の道路に民間ヘリが墜落し炎上している光景が広がっていた。星崎は消防車の手配を慌てて口にし、語り手の端末には二人静からの着信が入る。通話の中で四件目のフェアリードロップスに関連する事態であることが示唆され、二人静は状況を警告したが、語り手は強い違和感を覚えつつも「これから爪の垢を採取しに行く」として通話を一方的に切り、機内モードにしてしまった。こうして、日常的な商談と異常な災害、そしてフェアリードロップスによる事態が静かに重なり合い始めていたのである。

正月ボケ報道とヘリ墜落の速報

お隣さんはオオカミの身でコタツに横たわり、二人静らとテレビの討論番組を眺めていた。番組では「正月ボケ」による事故多発が議論されていたが、途中で生中継の速報に切り替わり、都内でヘリ墜落が発生したことが報じられた。映像に映ったビルの社名から、その場所が佐々木と星崎が打ち合わせに向かった大手出版社であると判明し、一同は二人の安否に強い不安を抱いた。

電話越しに感じた違和感と出動決定

二人静は末娘からの「四件目のフェアリードロ」の報告を受けつつ、佐々木に電話をかけた。佐々木は「今まさにヘリが落ちてきた」と状況を説明しつつ、「何かが変だ」と曖昧な不安を口にしたが、その後は爪の垢を採取して編集者の同僚に煎じて飲ませるという支離滅裂な話へ逸れていった。通話は一方的に切られ、再発信しても繋がらない。これを受け、末娘はフェアリードロ関与の確率が高いと推定し、「家族のピンチには全員で助けに向かう」という家族ルールを根拠に、総出で現場へ向かうことが決まった。

現場上空への転送とビル内部への強行侵入

機械生命体の末端による転送で、一行は東京のオフィス街上空からヘリ墜落現場近くのビル屋上へ移動した。現場周辺では玉突き事故に巻き込まれた消防車や救急車が立ち往生し、救助活動が滞っていた。マジカル娘の感知により、近隣の高層ビル上部にフェアリードロの反応があることが判明し、一同は重力制御で隣のビル屋上へ移動した。しかし屋上にはそれらしい物体が見当たらず、二人静は窓ガラスを破ってフロア内に突入する強行策を選択した。文鳥は即座にオフィスの人間を昏倒させ、末娘はセキュリティを掌握したため、内部捜索は可能となった。

思考撹乱の異常とハトとしての正体露見

ところが捜索を進めるにつれ、二人静やエルザ、ルイスらは、くだらない連想話や暴走気味の冗談を次々に口走り、行動も興奮状態に近づいていった。末娘とアバドンだけがその知性低下を問題視し、疎外感を覚えるほどであった。お隣さんは本能的な違和感を抱きつつ、強く漂う獣臭を辿って窓際へ向かい、半開きの窓から外を覗き込むと、外壁の出っ張りに複数のハトが留まっているのを発見した。お隣さんの鳴き声でハトが一斉に飛び立つと同時に、室内の面々は一斉に正気を取り戻し、自分たちの発言と行動に戦慄と羞恥を覚えた。

フェアドロの能力の整理と今後への布石

マジカル娘はフェアリードロップスの反応が完全に消えたことを確認し、二人静は、ハトに擬態したフェアドロが一定範囲の生物の思考をかき乱す「怪電波」のようなものを放っていたのだと推論した。末娘に影響がなかったことから、機械生命体は対象外と考えられた。また、お隣さんとアバドンの証言から、東京で問題となっていた「正月ボケ」やヘリ墜落すら、このハト型フェアドロの影響である可能性が浮上した。そこへ佐々木から再び連絡が入り、やはり自分たちもフェアドロに翻弄されていたと自覚したことから、打ち合わせ終了後に合流して情報を共有する段取りが整えられたのである。

昼食兼作戦会議の開始

出版社での打ち合わせを終えた佐々木と星崎は、担当編集に見送られて社屋を後にし、家族ごっこの面々と合流して洋食店で昼食兼作戦会議を開いた。お隣さんやピーちゃんの存在はアバドンが誤魔化し、全員が席に着いた段階で先ほどのヘリ墜落と「正月ボケ」の元凶がハト型フェアリードロップスであるとの共有が行われた。

ハト型フェアドロと怪電波の分析

フェアドロはハトに擬態し、怪しい電波を撒き散らして周囲の生物の思考を乱していると整理された。十二式は、都内の事故・事件をマッピングした空中ウィンドウを示し、特定地点を中心に半径数百メートル規模で影響が出ていること、移動に伴い帯状の被害域も形成されていることを説明した。機械生命体には効果がなく、家族の知性が次々と崩れていく光景は十二式に強い恐怖を与えていた。

インリンの合流とフェアドロ三種の正体

そこへ海外の魔法少女インリン(マジカルレッド)がレッサーパンダ姿のタヌキ妖精を連れて合流し、これまでのフェアドロ三種の情報を開示した。佐々木を女児化させたステッキは本来「変身願望の充足」だが、欠陥により思考を過剰に読み取り肉体崩壊に至る危険な品であり、南米の個体は「生体ビルドアップ」、香港の個体は「他生物への変身」をもたらすと判明した。いずれも一方通行の変化で、原則として自力では元に戻れないことが示された。

妖精界と機械生命体の対立懸念と取引条件

十二式は「家族を不幸にするなら妖精界を滅ぼす」とまで宣言し、タヌキに対し「家族を元に戻す手段か技術情報の提供」を強く要求した。タヌキは妖精界と接続されたマジカルフィールドを通じて調査可能であると認め、家族を元に戻す方法を探すと約束した。星崎はこれを利用し、「佐々木・星崎・お隣さんが元に戻れたなら、ハト型フェアドロをインリン側へ譲渡する」という条件付き取引を提案し、家族内多数決の末に承認された。インリンとタヌキもこの条件を受諾し、互いに協力して解決を目指す方針が固まった。

局からの正式指令

協議が一段落したところで、二人静に阿久津課長から電話が入り、巷を騒がせる「正月ボケ」の原因である「厄介なハト」を捜索・確保せよとの正式な指令が下された。これにより、私的な家族会議として進めていたフェアドロ対策は、公的任務としても本格的に動き出すことになったのである。

局からの指令と情報隠蔽の取り決め

年明けから東京都市圏で多発している正月ボケについて、局から二人静に正式な調査指示が下った。送られてきた事故・事件の位置情報は、十二式が先ほど示したピンマップとほぼ同一であり、局も事態の異常性には気づきつつあった。ただし、フェアリードロップスが原因であることや、その姿がハトであることは阿久津には報告されておらず、局はあくまで「異能力者による所業」と認識していた。二人静は、横取りを防ぐために情報を伏せたと明言し、星崎も嘘が露見した場合のリスクを承知しつつ、言い出しっぺとして責任を取る覚悟を固めた。

機械生命体によるハト捜索計画

フェアリードロップスの回収について議論が進む中、十二式が「東京都市圏のハトを片っ端から確認する」という力業の捜索案を提示した。彼女は既に地球各地や小惑星帯に展開していた末端機を東京都市圏に集中させ、群れ単位でハトを追跡しており、センサーの性能からハト個体数より二桁少ない末端での監視が可能と説明した。その結果、十数万羽規模のハト群も一〜二時間で対象に行き当たると見積もられ、機械生命体の物量と管制能力が家族から改めて高く評価された。十二式は、将来的な妖精界調査部隊はこの「五千倍」の規模になると誇示し、半ば脅しのような形で機械生命体のポテンシャルを示した。

偽装と監視対策:狐への変身とカメラ掌握

局に怪しまれないため、ピーちゃんは「シルバー文鳥」として佐々木に同行することを避ける必要があった。そこで彼は一時的な目眩ましとしてキタキツネに変身し、オオカミ化したお隣さんとの「イヌ科コンビ」として行動する案を採用した。変身の瞬間は店内の監視カメラに映る危険があったが、十二式が近隣一帯のセンサー類をすべて掌握していると宣言し、映像やログを機械生命体側で処理することで痕跡を残さない体制を整えた。これにより、狐姿のピーちゃんは局や一般の目を欺きつつ、現場での「付きの妖精」として同行できるようになった。

魔法少女風コスチュームの押し付けとアニメお披露目

二人静は、現場での正体隠しと局への言い訳の両立を狙い、軽井沢の仕立て屋で密かに採寸しておいたデータを使って、佐々木専用の魔法少女風コスチューム(黒基調)を特注していた。高級スーツを破かせないためという名目で、着替えなければ今後服を貸さないと書かれたメモまで仕込み、トイレでの強制的な「変身」を成立させた結果、佐々木は事実上「八人目の魔法少女」として扱われることになった。その合間、十二式は機械生命体のイメージ向上を目的とした自作アニメを空中ウィンドウで上映し、三十分のファンタジー冒険活劇は家族ごっこの面々から「テレビアニメと遜色ない」と好意的評価を得た。十二式はこれを「末娘の心の栄養」と満足げに受け止め、当日中の公開まで見据えていた。

フェアリードロップス発見と現地出動の決定

上映が終わる頃、十二式が関東沿岸部でフェアリードロップスらしき個体を探知したと報告した。機械生命体だけでも回収は可能だが、現地では既に人類や異能力者が混乱状態にあり、局から星崎・二人静に正式な出動命令が出ていることも踏まえ、家族としても現場に向かわざるを得ないと判断された。一方、十二式は母である星崎の身を案じ、佐々木は遠距離から指示に回す形を提案した。最終的には、佐々木は安全圏から状況把握と指揮に徹し、現場には星崎・二人静・魔法少女たちが出向く構図が固まる。また、インリンも協力を申し出るが、十二式は「末端搭乗時に消し飛ぶ」と警告し、彼女には自力移動を求める一方、機械生命体の信頼獲得は「未来永劫あり得ない」と言い放った。こうして一行は、洋食屋での会計を済ませ、ハト型フェアリードロップスの本格的な追跡・回収作戦へと踏み出すことになったのである。

〈フェアリードロップス 二〉

中華街上空への追跡と状況確認
一行は十二式の末端に搭乗し、ハト型フェアリードロップスを追って東京都から神奈川県へ南下しながら追跡していた。末端内のモニターには位置情報と地図が投影され、対象が横浜中華街の雑居ビル屋上で静止したことが判明した。周辺では交通事故や喧嘩が発生し始めており、フェアリードロップスの影響による混乱が顕在化していた。

回収末端の撃墜と機械生命体の怒り
十二式は宇宙から回収用円盤を投下し、反重力的な手段でハトごと回収しようとしたが、ハトは口からマジカルビームに似た光線を放ち、末端を正確に撃ち抜いて撃墜した。これにより、対象の周囲には機械生命体が観測不能な力場が存在し、マジカルバリア類に守られていると判明した。十二式は末端を二度撃墜されたことで妖精界への報復を口にするほど激昂した。

隔離空間と「認識」による巻き戻りの仕組み
二人静とアバドンは、隔離空間では「人かモノか」という参加者の認識により、退出時の巻き戻り対象が決まると整理した。三宅島での事例を踏まえ、エルザが末端を生物のように認識していたため、末端内のデータだけが巻き戻りを免れ、十二式の継続的記録となったと推論した。一方、この仕組みを当人たちに説明すれば、認識が変化しライフラインを失いかねないため、エルザとルイスには意図的に伏せておく判断となった。

隔離空間内での接近作戦と北京ダック騒動
作戦として、天使側が隔離空間を発生させ、その内部でハトを回収する方針が決定された。マジカルピンクと、魔法少女衣装を着せられた「マジカルブラック」(佐々木)、さらに狐姿のピーが突入役を務めることになった。ピーは過去の薬物事件になぞらえて、回復魔法で正気を維持する策を提案したが、フェアリードロップスの影響は意識やシナプス発火に限定され、身体の損傷や変質を伴わないため、回復魔法では打ち消せないと十二式が分析した。隔離空間内で接近を始めた三人は、周囲の飲食店や北京ダックの話題に意識を奪われ、会話がどんどん脱線していくなど、頭が「パッパラパー」になっていく様子が周囲からはほとんどホラーのように映っていた。

交通事故現場での救助と再挑戦の決意
隔離空間からの離脱に伴い、フェアリードロップスの影響が残ったまま現実世界に復帰した結果、大規模な多重事故現場に遭遇した三人は、周囲の視線も憚らず、浮遊魔法や回復魔法で横転車両の救出と負傷者の治療を次々と行ってしまった。十二式は監視カメラや端末の映像を必死にジャミングしたが、野次馬の視線までは防ぎきれず、対応に追われることになった。正気を取り戻した佐々木は事態の重さを自覚しつつも、今この機会を逃せば被害が拡大すると考え、「もう一度だけチャンスをくれ」と二人静に再挑戦を願い出た。

空間転移による強襲回収とマジカルストライク
地図情報からフェアリードロップスが東京湾岸の半島部ビル屋上で静止していることが分かると、ピーは空間魔法によるピンポイント転移を提案した。初動で使わなかったのは不意打ちのリスクを避けるためだったが、他に打ち手がない状況を踏まえ、この案が採用された。三人は一息で屋上に転移し、至近距離からのマジカルビームはピーの障壁魔法で防がれた。ピーのビーム砲がハトのバリアを砕いたところで、佐々木は事前に身体強化魔法をかけた上で跳躍し、特注のステッキによる「マジカルストライク」でハトをマジカルフィールドへ叩き込んだ。フェアリードロップスがフィールドに収まった瞬間、三人の意識は一気にクリアになり、回収の成功が確認された。

横須賀基地でのミサイル発射という新たな危機
しかし安堵も束の間、彼らが立っている場所が横須賀基地の滑走路を抱える敷地内であることに気づき、直後に東京湾内から複数のミサイルが海中から打ち上がる光景を目撃した。潜水艦や周辺艦艇から次々と発射される飛翔体は、恐らくフェアリードロップスの影響下で「頭がパッパラパー」となった基地関係者による暴走であると推察され、フェアリードロップス回収の成否とは別に、事態が新たな軍事的危機の局面へと移行しつつあることが示されたのである。

宇宙空間でのミサイル迎撃
フェアリードロップスを回収した直後、横須賀基地から実戦用と思しきミサイルが発射され、諸外国からも報復ミサイルが飛来した。十二式は日本防衛を宣言し、高高度に展開した端末で迎撃を開始した。佐々木とピーは転移魔法で宇宙空間に出て、障壁魔法で放射線などを遮断しつつビーム魔法で自国のミサイルを完全消滅させ、十二式は他国ミサイルを軌道上で無効化した。

現場離脱とニュース報道
ミサイルが止むと、地上からの注目を避けるため一同は速やかな撤収を決定し、事後処理は二人静に一任された。帰宅後、テレビでは横浜中華街近くの大規模玉突き事故が大々的に報じられ、死傷者ゼロという異常な結果とともに、「空から降りてきた魔法少女に助けられた」という証言が繰り返し流れた。横須賀基地からのミサイル発射も話題に上るが、スタジオは早々に話題を打ち切り、統制の存在が示唆された。

ネット上でのバズと情報統制の限界
二人静に促されてネットを確認した佐々木は、魔法少女とミサイルを巡る投稿がソーシャルメディアで爆発的に拡散している現状を知った。ドラレコ映像には、空中浮遊する自動車や救護にあたるマジカルピンクとマジカルブラック、狐の姿まで鮮明に映っており、万単位のバズとなっていた。十二式はネットワーク経由のデータ削除を申し出るが、スタンドアロン機器由来の映像までは消せないと二人静に諫められる。結果として、機械生命体の能力を用いて魔法少女本人と浮浪児が写るデータのみをピンポイントで削除し、それ以外の事故映像は残されることになった。

回復魔法の異常性と八人目への注目
現場対応の経緯を報告する中で、交通事故の被害者の一人に、余命宣告を受けていた重病者が含まれていたことが判明した。その患者は病院搬送後の検査で病気の完全寛解が確認され、四肢再生どころか致命的疾患まで癒やす回復魔法の実在が明るみに出た。局のデータベースにも類例はなく、各国や諸組織が「八人目の魔法少女」の力に強い関心を示すことが予想されるため、二人静は回復魔法をマジカルブラックの固有能力「マジカルヒーリング」として説明しつつ、本人の正体秘匿を最優先とする方針を共有した。

ミサイル発射の政治的処理と機械生命体の立場
横須賀基地と諸外国からのミサイル発射については、各国間で大規模演習扱いとして政治的に幕引きする方向で調整が進んでいると二人静は報告した。しかし、実際には人類の兵器が機械生命体の足止めにもならないことが露呈しており、十二式が本気を出せば世界規模の軍事バランスが崩壊し得る危険性も示された。佐々木と星崎は、局や同盟国の魔法少女からの接触、阿久津ら上司の動きに警戒しつつ、当面は外出や通信を控え、元の肉体への復帰と今後の対応策を優先課題と認識した。

魔法少女たちの出自と妖精界の影
話題はやがて、外国出身の魔法少女たちがなぜ流暢な日本語を話すのかという疑問に移った。マジカルピンクによれば、彼女たちは魔法少女アニメのイベント会場で妖精と邂逅し、そこでスカウトされた存在であり、レッドは日本文化への傾倒、イエローは幼少期からの日本生活を通じて二言語話者となっていたという。この証言から、魔法少女制度の背後にアニメ文化を媒介とした妖精界の意図的な勧誘構造がある可能性が示され、インリンお嬢様やメイソン大佐が妖精を扱いかねていた理由にも納得がいく形となった。

機械生命体プロパガンダの失敗と今後の不安
同じ午後に家族で制作・公開した機械生命体の宣伝アニメは、本来ならネットのトレンドを席巻するはずだったが、魔法少女騒動に話題を奪われて再生数は数千回に留まった。十二式は身内に話題を攫われたと不満を述べ、クオリティが高すぎて企業制作動画と誤認された可能性や、「個人らしさ」を強調する戦略の必要性が議論された。冗談半分に十二式自身が魔法少女としてデビューする構想も出るが、星崎は当面、宇宙人プロパガンダを含む目立つ行動を控えるべきだと進言する。ミサイル事件と魔法少女バレ、重病完治の余波がどこまで広がるか見通せない中で、一同はネットから距離を置きつつ、局と世界情勢の出方を窺うしかない状況に置かれていた。

異世界側の近況とトンネル開発の進展
地球側が忙しくなる前に事情を伝えるため、ササキとピーちゃんは異世界を訪れ、ミュラー伯爵にエルザを返還しつつ近況を説明した。伯爵は引き続き二人の都合を最優先すると約束し、エルザの滞在も鳥の賢者が預かる形で認められた。その後、ササキ=アルテリアン辺境伯領の地下トンネル出口を視察すると、かつてのテント村は石造りの建物が立ち並ぶ活気ある町へと発展し、ルンゲ共和国との貿易によって人と馬車が絶えない一大拠点となっていた。

ケプラー商会から知らされた帝国の軍備拡張
ルンゲ共和国に移動したササキは、軽油を通常より多く納品したうえでケプラー商会のヨーゼフと面会した。そこでマーゲン帝国が近くヘルツ王国へ再び侵攻する可能性が高いとの情報を知らされる。帝国系商会から異常な規模の食料買い付けが入っており、過去の事例から演習ではなく本格的な出兵と判断できるという。背景には、地下トンネル事業と共和国貿易によってヘルツ王国の財政と体制が立て直されつつあることがあり、帝国がその前に王国を叩こうとしていると推測された。

情報の扱いと商人としての立ち位置
ササキはアドニス王へ警告すべきか逡巡するが、軍需品発注で共和国中の商会が帝国と取引している状況を考え、軽率に動けばケプラー商会や長老会を敵に回し、マルク商会の立場を失う危険を認識する。そのため情報はせいぜいミュラー伯爵までに留め、星の賢者の名を用いて他言無用を取り付けるべきだと考えつつも、放置すればヘルツ王国が壊滅しかねないという板挟みに苦しんだ。

ヘルツ王国防衛か共和国との共存かというジレンマ
エイトリアムの宿に戻ったササキとピーちゃんは、リビングで改めて状況を整理した。王国と帝国が正面から戦えば王国に勝ち目は薄く、国境の砦や旧ミュラー伯爵領、エイトリアムの町にはササキの知己も多い。星の賢者や地下都市の戦力を総動員すれば帝国軍を撃退できる可能性はあるが、その場合は帝国に多額の投資をしているルンゲ共和国の利益を損ない、マルク商会が長老会から総スカンを食らう恐れがある。ピーちゃんも、帝国を打ち破ったとして広大な領土と多数の特権階級をどう統治するかという重荷を懸念し、理想はヘルツ王国とマーゲン帝国、共和国が共存共栄する形であると語った。

外部者としての立場と「恩返し」としての介入決意
ササキは、自分たちはあくまで異世界の「外から来た者」であり、最終的な決定はピーちゃんと、この世界の住人たちに委ねるべきだと自覚する。一方で、ヘルツ王国と共和国で築いた人間関係を戦争で失いたくない思いも強く、せめて被害を減らす方向で手伝いたいと願う。ピーちゃんは「自分に構わず放り出してもよい」と気遣うが、ササキはブラック企業生活から救い出してくれた愛鳥への恩返しとして、スローライフから遠ざかる覚悟で協力すると応じる。まずは現地に赴いて情報収集し、商人としての立場を守りつつも、後悔のないようできる限り尽力する決意を固めていたのである。

女児化した身体と衣類調達の必要性
フェアリードロップス回収の際の暴発に巻き込まれたことで、語り手はピーちゃんの回復魔法により一命を取り留めたものの、肉体が女児の姿へと変化してしまったのである。元に戻る気配は当面見られず、この姿で生活せざるを得なくなった結果、手持ちに児童用衣料がないことが最初の実務的な問題として浮上した。そこで語り手は同僚であり資産家でもある二人静に頼み込み、軽井沢の別荘で衣類を貸与してもらう段取りを付けた。

子供っぽい服と狙った人選による「悪ノリ」
別荘のリビングに戻ってきた二人静は、背格好が近いことを理由に大量の服をテーブルに積み上げたが、その中身はキャラクター物のTシャツ、短いスカートやホットパンツ、猫耳フード付きパーカーなど、意図的に子供っぽく可愛らしいものばかりであった。語り手が「もう少し落ち着いた服」を求めると、二人静は「普段着ていない服を貸す」と最初に宣言していたことを盾に取り、対価の金インゴットを返して手を引くぞと揺さぶりをかけつつ、明らかに愉快がる態度を見せた。これに対し語り手は、かつて二人静が教員をしていた際のスーツに言及し、「それも普段は着ていないはず」と切り返して、彼女に渋々スーツと冬物コートを取りに行かせることに成功したのである。

スーツ採用と過激な下着という新たな難題
戻ってきた二人静は、語り手にも見覚えのあるスーツとコートを差し出し、実務上は十分な配慮を見せたものの、ボトムはかなりタイトなミニスカートであり、語り手は抵抗を覚えつつも子供服よりはマシと判断して受け取った。さらに二人静は「下着」と称して黒レースやローライズ仕様の、大人向けかつ刺激的なデザインの新品を提示し、ノーパンで過ごすつもりかと畳みかける。語り手は戸惑いながらも選択肢のなさを悟り、二人静の悪ノリ混じりの厚意を受け入れて、女児の身体に合わせた最低限の衣装問題をひとまず解決したのである。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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