小説「異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~ 7」感想・ネタバレ

小説「異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~ 7」感想・ネタバレ

物語の概要

本作は、転生した主人公・伊良拓斗(イラ=タクト)が“邪神”として異世界に君臨し、「探索・拡張・開発・殲滅」という4X戦略の要素を駆使しながら文明を築く戦略ファンタジーである。本巻では、拓斗が意識を喪失し、制御不能となった英雄ヴィットーリオや聖女リトレイン=ネリム=クォーツとの激戦を経て一時的な平和を回復する。しかし、貞淑の魔女ヴァギアによる国際会議の提案が持ちかけられ、そこに予期せぬ人物が現れる――さらなる波乱の幕開けである。

主要キャラクター

  • 伊良拓斗(イラ=タクト):転生者で邪神としてマイノグーラを統治する。平和を望むが、必要とあらば厳しく敵を対処するリーダー。
  • 幸福なる舌禍ヴィットーリオ:制御不能の英雄で、国内外で暗躍する強大な存在。
  • リトレイン=ネリム=クォーツ(日記の聖女):拓斗の前に立ちはだかる強敵で、彼との戦いが平和への鍵となる。
  • ヴァギア(貞淑の魔女):国際会議を提案した魔女で、その真意と登場人物たちの反応が本巻の重要な焦点となる。

物語の特徴

本作は、4X系戦略ゲームの要素を異世界ファンタジーに巧みに融和させている点で独自性を持つ。その展開は戦略・政治・キャラクター間の駆け引きを含み、単なるバトルものにとどまらない深みを備えている。本巻では国際外交や内部崩壊の危機といった要素が入り混じり、シリーズ屈指のストラテジックな盛り上がりを見せる。読者は、戦争だけでなく、内政や外交の醍醐味も味わえる構造となっている。

書籍情報

異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~ 7
著者:鹿角フェフ 氏
イラスト: じゅん 氏
出版社:マイクロマガジン社(GCノベルズ
発売日:2024年6月28日

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あらすじ・内容

指導者である拓斗の意識喪失、制御不能の英雄《幸福なる舌禍ヴィットーリオ》の国内外における暗躍、そして《日記の聖女リトレイン=ネリム=クォーツ》との戦い――数々の困難を乗り越えて平和を取り戻したかのように見えたマイノグーラ。しかしそんな彼らのもとに《貞淑の魔女ヴァギア》からの国際会議開催の提案が。彼女の真意を巡って議論を交わす拓斗たちを意外な人物が訪ねてくるのだが……?

大人気4X系異世界戦略ファンタジー、驚天の第7巻!

異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~ 7

感想

今巻もまた、怒涛の展開に感情が揺さぶられた。
平和が訪れたかに見えたマイノグーラに、国際会議の提案という新たな波乱が巻き起こり、意外な人物まで訪ねてくる。
これから何が起こるのか、ページをめくる手が止まらなかった。

特に印象深かったのは、プレイヤーたちとの腹の探り合いである。それぞれの思惑が交錯し、一瞬たりとも油断できない緊張感が漂う。そんな中で、勇者ユウの存在は清涼剤のようだった。彼の純粋さ、どこか抜けているところが、読んでいるこちらの心を和ませてくれる。最初の頃の警戒心が強い姿を知っているからこそ、今の素直さがより一層愛おしく感じられるのだ。しかし、ユウの根底には一体何が隠されているのだろうか。彼の行動原理は、本当に見えているものだけなのだろうか。どうしても、そう簡単には信じきれない自分がいる。あの笑顔の裏に、計り知れないものが隠されているのではないかと疑ってしまうのだ。

そして、サキュバスたちの敵対心。彼女たちの憎しみはもはや隠すこともなく、むき出しになっている。これは、大きな戦いの始まりを予感させる。マイノグーラは再び戦火に包まれてしまうのだろうか。平和を願う気持ちと、これから起こるであろう悲劇への不安が胸の中で入り混じり、どうしたらいいのかわからなくなるほどだ。

『異世界黙示録マイノグーラ』は、ただの異世界ファンタジーではない。戦い、日常、そして人間関係。様々な要素が複雑に絡み合い、読者を飽きさせない。今巻も多くの謎が提示され、次巻への期待が高まるばかりである。はやく続きが読みたい、そんな気持ちでいっぱいだ。どうか、ユウが無事でいてほしい。そして、この戦いが少しでも良い方向へ向かうように、祈るような気持ちでその時を待ちたいと思う。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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展開まとめ

プロローグ

テーブルトークRPG勢力との戦いと拓斗の意識喪失

強大な力を持つテーブルトークRPG勢力によってマイノグーラは脅かされ、その代償として拓斗は意識を喪失した。アトゥはこの状況を打破すべく、新たな英雄を召喚し、問題の解決を試みた。

最低最悪の英雄ヴィットーリオの登場と暴走

召喚されたのは、『Eternal Nations』において最低最悪の英雄と評される《幸福なる舌禍ヴィットーリオ》であった。彼は名に恥じぬ行動を取り、マイノグーラの体制にさえ影響を与える爪痕を残した。具体的には、《イラ教》と呼ばれる拓斗を信仰する宗教を立ち上げ、廃都レネア神光国への布教と領土拡大を断行した。

聖王国クオリアとの衝突と奇抜な作戦

その活動の過程で、聖王国クオリアが派遣した《日記の聖女》や異端審問官クレーエと衝突が起こった。アトゥでは実行し得なかった奇抜な作戦の数々をヴィットーリオは実行したが、それは拓斗の回復のためだけではなかった。

神格化計画とヴィットーリオの真の目的

ヴィットーリオの本当の狙いは、拓斗の神格化にあった。彼は、拓斗の意識喪失が《名も無き邪神》という英雄の本質に起因すると見抜き、その性質を利用し、自らの理想とする存在としての拓斗を創り上げようと目論んだ。無色であるがゆえに、名を与えればどのようにも染まるという前提に立ち、完全無欠の存在を形成しようとした。

拓斗の策とヴィットーリオの敗北

しかし、この計画は失敗に終わった。むしろ全ては最初から拓斗自身の策であり、ヴィットーリオの思惑も行動も、予期され誘導されたものであった。拓斗は予定通り復活し、ヴィットーリオとの立場の決着をつけた。

新たなる戦乱の予兆

この復活と勝利は、平和の到来ではなかった。それはむしろ、新たなる戦乱の幕開けに過ぎなかったのである。

第一話    再動

世界会談への誘いと新たな懸念

拓斗が意識を取り戻し、マイノグーラに一時の安定が訪れた直後、貞淑の魔女ヴァギアによる世界規模の会談への招待が届いた。フォーンカヴンを含む各国への招待状の存在が報告され、拓斗はその意図を探りつつ、リスクと利益の天秤を慎重に計った。過去の戦争や諸問題の処理に追われたことで調査は後手に回っており、情報不足が明確な課題として浮上していた。

会談参加の是非と《出来損ない》の起用

敵地への直接出向を避けるため、拓斗は影武者として魔獣ユニット《出来損ない》を会談に派遣する策を採用した。《出来損ない》は高い擬態能力と念話による遠隔操作が可能であり、かつてヴィットーリオへの対抗策として運用された前例がある。この決断にはアトゥも賛同し、会談参加による情報収集の重要性が改めて確認された。

情報の価値とリスクの比較

拓斗は《出来損ない》が失われるリスクを容認し、得られる情報の価値を優先した。プレイヤー勢力の詳細や潜在的な脅威の把握は、今後のマイノグーラの存続と拡張に不可欠であった。アトゥとの対話により、この判断はマイノグーラの存亡を左右する「虎子」となり得るとの認識に至った。

神の存在に関する思索と疑念

ヴァギアの発言に含まれた《拡大の神》という言葉をきっかけに、拓斗は神なる存在の干渉を疑い始める。自らやアトゥが異世界に転移した経緯を鑑みても、自然現象ではなく意思ある何者かの意図が存在する可能性が高いと推測した。プレイヤーや敵勢力の背後に神的存在があるとすれば、それは重大な脅威となる。

マイノグーラへの神の干渉の不在

他勢力が神の加護や干渉を受けている様子が見られる中、マイノグーラにはそのような明確な介入が確認されていない。この事実に拓斗は違和感を抱き、自身の背後に存在するはずの神についての思考を深めた。神の存在がどのような意図をもって行動しているのかは不明であり、拓斗にとっては新たな不確定要素となっていた。

会談に向けた準備と新領土の管理課題

拓斗はアトゥとエムルとともに、今後の国家運営について意見を交わした。先の戦いにより獲得したレネア神光国の一部領域は、人口・規模共に膨大であり、マイノグーラの統治機構では管理しきれない事態が発生していた。内政官ヴィットーリオを活用して現地の体制を整えつつ、従来のレネアの統治機構を一時的に利用することで事態の収拾を図った。

情報共有の制限と配下への配慮

拓斗とアトゥの二人だけで神やプレイヤー関連の機密事項を扱うことへの配下の不満を回避すべく、エムルに対しては必要最小限の情報を伝えるにとどめた。プレイヤー関連の情報共有には慎重さが求められ、国家運営の中枢としてのバランス感覚が問われる局面であった。

勇者の来訪と再び動き出す運命

モルタール老の報告により、ドラゴンタンに滞在する謎の旅人が王への謁見を求めていることが明かされた。その人物は一流の戦士の風格を備え、何より自らを『勇者』と名乗っていた。この報せに対し、拓斗は《出来損ない》の活用を即座に決意し、運命が再び大きく動き出す予感を強く抱いたのであった。

第二話    勇者

ドラゴンタンの発展と勇者との会談

マイノグーラ第二の都市ドラゴンタンは、イラ教の影響下で異様な発展を遂げていた。その行政中枢では拓斗と、勇者と名乗る神宮寺優との会談が行われることになった。勇者は、かつて魔王軍とエルフール姉妹の戦いに乱入した人物であり、拓斗は彼をRPG勢力のプレイヤーと判断したため、面会を受け入れたのであった。

勇者の人物像と同行者

優は黒髪黒目に学生服姿の少年で、刀を帯び、明るい性格と高いコミュニケーション能力を持っていた。彼の隣には奴隷風の少女が控えており、拓斗はその関係性や装いに警戒心を抱いた。少女の存在は、優の提案の真意を探る上で重要な手がかりとなった。

勇者の提案と警戒

優はサキュバス勢力に対抗するため、拓斗と手を組むことを提案した。だが、拓斗は魔王軍による先の襲撃を理由に簡単には受け入れず、相手の意図を探ろうとした。優は魔王軍の行動を自分の関知しない神の仕業とし、謝罪の意を示したものの、拓斗は警戒を強めた。

レガリアの宝剣と驚愕の展開

優は謝罪の証として、突如「勇者の剣」と呼ばれる剣を提示する。拓斗はそれが『Eternal Nations』における勝利条件である「レガリアの宝剣」と同一のものであると直感した。この剣の存在により、勇者の真意に対する疑念が一層深まったと同時に、同盟の可能性を現実的に考慮する契機となった。

神々の目的と遊戯の本質

優は神々がこの世界にプレイヤーを送り込んだ理由を問われ、ゲームのクリア条件は「神のみぞ知る」と答えた。多くの神々は勝利そのものを目的としておらず、プレイヤーの行動こそが重要とされていると語った。拓斗はその不明瞭な真意に懐疑を抱きつつも、優の話から一定の理解を示した。

オリキャラシステムと動機の核心

拓斗は優の強い動機が少女との関係にあると推察し、『ブレイブクエスタス』のオリジナルキャラクターシステムを引き合いに出したところ、優は明らかに動揺した。この反応から、少女が優の自作キャラクターであり、強い感情的結びつきを有していることが明らかとなった。

協力関係の受諾と今後の展望

拓斗は勇者の提案を一定の条件付きで受け入れる決断を下した。防衛を目的とした協力であり、今後の状況によっては再考の余地があるとした。アトゥにはこの判断の背景を念話で説明し、必要に応じて後日詳細を語ると伝えた。

組織内の懸念と得られた成果

拓斗はマイノグーラ内の他の指導者たち、とりわけダークエルフ陣営との調整に頭を悩ませることとなった。プレイヤーという存在に対する強い不信と過去のトラウマがそれを困難にするだろうと認識していた。しかしながら、レガリアの宝剣という成果と、プレイヤー同士の接触という意義は極めて大きなものであった。

拓斗の内省と決断

最後に、拓斗は優とその従者の姿を見やり、自身とアトゥの関係を顧みることで一定の共感を覚えた。神々の意図が不明な中、今は得られる協力を有効に活用し、慎重に情勢を見極めていく方針を固めたのである。

第三話    説得

勇者ユウとの協力に対する懸念

大呪界マイノグーラにおいて、拓斗は勇者ユウとの協力関係について、ダークエルフの重臣たちに説明を行った。だが、かつて魔王軍やRPG勢力によって苦杯を舐めさせられた彼らにとっては、プレイヤーとの接近そのものが強い不信の対象であり、特にモルタール老の言葉に代表されるように、全面的な賛同は得られなかった。拓斗は彼らの反発を理解した上で、国家の安定を考慮し、強引ではなく説得によって合意を得る道を選んでいた。

ヴィットーリオによる支援と現実的視点の導入

会議には《舌禍の英雄》ヴィットーリオも参加しており、飄々とした態度で場をかき乱しながらも、勇者ユウが国家を持たぬ立場である以上、現実的な生活のためにマイノグーラとの協力を望んだ可能性を示唆した。これにより、ダークエルフたちも勇者側の立場に一定の理解を示すようになり、会議の空気はわずかに軟化した。

品位と幻想を守る必要性

拓斗はレガリアを受け取っている以上、無下に勇者を拒絶すれば王としての品位を問われることを重視した。また、マイノグーラのダークエルフたちが王であるイラ=タクトに絶対の幻想を抱いている以上、裏切りや背信的行為は国家の瓦解に繋がると考えていた。これらの事情を踏まえ、誠実な対応の必要性が強調された。

勇者の選択と他国との比較

エル=ナーやクオリアなど他国に向かわなかった理由についても議論された。サキュバス国家は危険であり、宗教国家であるクオリアはしがらみが大きいことから、マイノグーラが最も受け入れやすい選択肢だったと推測された。こうした分析も、勇者の行動に一定の合理性を与える材料となった。

協力関係への合意と監視体制の構築

最終的にモルタール老らは協力関係を認める意向を示した。ただし、王の安全確保を条件にヴィットーリオを監視役として提案したのはギアであり、その理由として彼の人心掌握や観察眼の鋭さを挙げた。拓斗もその合理性を認めながらも、ヴィットーリオの気まぐれさを考慮して、作戦自体に彼を組み込むのは困難であると内心で見做していた。

ヴィットーリオによる偽装作戦の発動

全陣営会談への出席について、拓斗は参加を表明しつつも、自身の身を案じて本人ではなく影武者を送り込む作戦を披露した。その役目はヴィットーリオが《偽装》によって担うこととなり、拓斗とアトゥのいずれかに変身させることで会談に臨ませる予定が明かされた。この発表により、アトゥは激しく動揺し、特に自身の姿に化けられることに強く拒否感を示した。

《偽装》と《擬態》による影武者計画

ヴィットーリオと《出来損ない》の両者を影武者とすることで、主従の体裁を整えた状態で全陣営会談に出席させる計画が確定された。二人とも変身能力を持ち、危険に対して柔軟な対応が可能であるため、これ以上に安全かつ効果的な策は存在しなかった。拓斗は彼らの能力と役割を明確に説明し、全体の納得を得るよう努めた。

再会議とダークエルフたちの支持

会議は一度中断されたが、翌日に再開され、アトゥの参加のもと、改めて勇者との協力関係が確認された。会議冒頭では反省と謝罪の声が上がったが、拓斗はそれを受け入れつつ、本題である全陣営会談への参加を断言した。彼の強い意志と説得により、ダークエルフたちはこの方針に従う姿勢を示し、国家方針としても統一が図られた。

作戦実行に向けた準備と課題

作戦の準備として、ヴィットーリオの変身訓練や、セルドーチの支配体制の強化など、今後に向けた具体的な動きが計画された。拓斗はヴィットーリオの乗り気な様子を確認し、また《出来損ない》との連携によって遠隔操作も視野に入れていた。残された問題は、アトゥとヴィットーリオの相性の悪さによる不要な混乱であり、今後の会議運営における大きな課題として浮上した。

次なる目標と展望

最終的に、全陣営会談への影武者出席という方針が確定され、拓斗は国家運営や他陣営との情報交換に目を向けることとした。勇者勢力の実力把握と、サキュバス陣営の動向への警戒も引き続き重要な課題として意識されていた。多くの火種を抱える中、拓斗は次の行動に備えて思案を深めていくこととなった。

閑話    ドラゴンタン

影武者による都市視察とその狙い

イラ=タクトは全陣営会談の翌日、影武者《出来損ない》を用いて第二都市ドラゴンタンの視察を行った。本体は大呪界の私室に留まりつつ、擬態を通じて都市長アンテリーゼとの対話を進めた。目的は都市の安定運営の確認であり、都市の発展よりも管理体制の維持を重視していた。影武者の運用は、戦略上の要所に本人が姿を現さずとも影響を及ぼす手段として有効であり、今後も活用されることが確実視された。

イラ教とその勢力拡大の現状

アンテリーゼの案内で市内を巡る中、拓斗は都市中央に巨大な大聖堂を発見した。それはヴィットーリオが無断で建設したイラ教の象徴【ドゥメリ・トゥーラ】であった。建設は都市計画に反しており、許認可も存在しなかったが、既に信徒による巡礼の地として機能していた。都市の経済に寄与している点や、信徒をドラゴンタンに誘導する役割を鑑み、拓斗は追認の方向で調整を図ることとした。

信徒の暴走と宗教の重圧

視察中、拓斗は信徒に発見され、「神の降臨」と誤認されて祭りが突如始まり、大混乱に陥った。最終的には影武者の擬態を解除し路地裏から脱出することで難を逃れた。この件により、宗教勢力の暴走や過剰な信仰が国家運営において重大なリスクとなり得ることが露呈した。加えて、イラ教の信徒たちは非常に熱狂的であり、拓斗自身もその扱いに困難を覚えていた。

セルドーチの統治問題と双子の提案

その後、拓斗は【宮殿】での定例会議に出席し、新たに支配下に置いた第三都市セルドーチの統治方針について議論を開始した。広大な土地と人口に対する行政能力が不足している現状を鑑み、マイノグーラ流の体制に段階的に移行することが決定された。適任者が見つからず人材不足に苦慮する中、エルフール姉妹が自らセルドーチへの赴任を申し出た。ネームバリューと力量を兼ね備えた彼女たちの提案は、国家戦略上きわめて有効なものであった。

クレーエの登用と再起の決意

エルフール姉妹は補佐役として元異端審問官クレーエに白羽の矢を立てた。クレーエは自身の立場に葛藤しつつも、ヴィットーリオとの遭遇回避と、かつての主である《日記の聖女ネリム》への想いから招聘を受諾した。彼女の戦闘技能と実務経験は、双子の弱点である実務面の補完として機能することが期待された。さらに、イラの騎士たちへの訓練計画も立案され、戦力増強と実務習得が並行して進められることとなった。

力への渇望と新たな決意

クレーエと双子は、過去の敗北を糧に「強くなる」ことを共通の目標として掲げた。彼女たちは失った者への想いを胸に、二度と同じ過ちを繰り返さぬよう力を求めて歩む道を選択した。それは宗教に依存せず、個人の意志によって新たな未来を切り開こうとする姿勢でもあった。三人の少女の声は、セルドーチの都市庁舎に明るく響き渡り、マイノグーラの新たな時代の始まりを予感させるものであった。

第五話    対話

影武者による直接外交の開始

影武者《出来損ない》の運用に慣れた拓斗は、その機動力を生かしてフォーンカヴン首都クレセントムーンを訪れ、国主ぺぺとの直接会談に臨んだ。目的は、レネア神光国との紛争における同国の軍事的支援に対する謝意の表明と、今後の両国関係の確認であった。ぺぺはマイノグーラから派遣された《破滅の精霊》によって国内の農業開発が順調であることに感謝し、土地の譲渡も農耕政策による国内集中化の一環であることが明かされた。両者は友好関係を確認し合い、引き続き協力関係を継続する方針を共有した。

全陣営会談をめぐる各国の反応

話題はサキュバス陣営による全陣営会談の招集に及び、拓斗は暗黒大陸各国の反応を確認した。ぺぺの発言によれば、フォーンカヴンは表向きは静観の立場を取るが、北部大陸への警戒感から使者の派遣を予定していた。他の中立国家も表立っての動きは控えているものの、マイノグーラとの関係構築には強い関心を示しており、フォーンカヴンが仲介役として交渉の場を整えようとしていた。

暗黒大陸の国家構成と実情

ぺぺの説明により、暗黒大陸には五つの国家が存在していることが明らかとなった。ドワーフの海洋国家サザーランド、多人種国家フォーンカヴン、犯罪者や政治敗者が築いた国家、その他都市国家、そしてマイノグーラである。特にサザーランドは高度な造船技術と貿易網を有し、別大陸とも通商関係を築いているとの情報がもたらされた。中でも注目されたのは、これら小規模国家がプレイヤー勢力による軍事行動を受け、恐慌状態に陥っている点である。

中立国家からの接触要望とその背景

サキュバス陣営による異常な行動──すなわち、自国への実体化降臨──が大陸中に強い衝撃を与え、中立国家の指導者たちは強い不安を抱いていた。そのため、得体の知れない脅威に対抗するため、同じく強力でありながら意思疎通が可能と見なされているマイノグーラとの対話を望んでいた。ぺぺは各国を代表する形で交渉窓口となり、食事会などの非公式会談の開催を打診した。

拓斗の判断と今後の展望

拓斗は各国の思惑と恐怖心を冷静に分析し、状況を掌握した。同時に、交渉の主導権を保持しながら国家としての利益を最大化する姿勢を崩さず、今後の展望を見据えてぺぺとの対話を続けた。両者は終始友好な雰囲気で会話を重ね、大陸全体におけるマイノグーラの影響力拡大の可能性を確認しあったのである。

第六話    旅路

少数精鋭による移動と偵察

全陣営会談を目前に控え、拓斗は擬態した影武者《出来損ない》を用い、目的地へ向けた旅を開始した。同行者はアトゥ(中身はヴィットーリオ)、勇者ユウ、奴隷少女アイの三名であり、いずれも信頼ある少数精鋭で構成された。この地はかつて交易の要所であったが、現在はマイノグーラとサキュバス陣営の国境地帯にあり、危険な無人地帯と化していた。拓斗は戦力を絞ることで相手に警戒心を与えず、情報収集と接触において優位に立とうとしていた。

会談の意図と警戒心

一行は警戒を怠ることなく進軍しつつ、サキュバス陣営による会談の意図について議論を交わした。ヴィットーリオは敵の真意を探ろうとし、拓斗はその開催形式に利点があるものの、真の目的は不明であるとの認識を示した。双方とも慎重な姿勢を保ちつつ、最終的には現地での観察と判断を重視する方針を取った。

勇者ユウによる過去の告白

道中、拓斗はユウに対して過去の経緯を確認し、サキュバス陣営と敵対する理由を尋ねた。ユウは、自らが鬼剛雅人というプレイヤーを殺害したことを明かし、その経緯について語った。鬼剛はプレイヤーとして一方的に攻撃を仕掛けてきたうえ、アイを引き渡すよう要求するなど、極めて独善的かつ暴力的な人物であったとされる。ユウは正当防衛として殺害を選択し、拓斗もその判断に理解を示した。

ゲームシステムの残滓と深刻な脅威

ユウの説明により、鬼剛が使用していたゲームがトレーディングカードゲーム『七神王』であったことが判明した。さらに、鬼剛を倒した後もカードデッキがこの世界に残留しており、それをサキュバス陣営が入手した事実が発覚した。拓斗はこれを極めて重大な脅威と捉え、『七神王』のシステムがマナを使用して強力な魔法や召喚を可能とすること、さらにはこの世界の【龍脈穴】との親和性が高いことから、無限召喚や直接攻撃が現実化する危険性を認識した。

戦力評価の急変と不安の共有

この情報により、サキュバス陣営の戦力が大幅に強化されている可能性が浮上した。既存の構成に加え、強力なカードシステムを取り込んだことが明らかとなり、拓斗は動揺を隠せなかった。アトゥ(ヴィットーリオ)はその様子を面白がり、ユウとアイは申し訳なさそうに謝罪した。だが事態はすでに深刻であり、拓斗とユウの間にはこの予想外の脅威に対抗するため、今後の協力体制をより強固にすべきという共通認識が形成された。

緊張と喜怒哀楽の交錯

道中、アトゥは楽しげに、アイは悲壮な覚悟をもって拓斗を激励したが、当の拓斗とユウはその言葉も耳に入らないほどに動揺していた。予想を遥かに超える危機を前に、二人の指導者は困惑しつつも、戦略を再構築する必要性を痛感することとなった。

第七話    淫婦

サキュバス支配下の町への入国と観察

拓斗一行はサキュバスの案内によってエル=ナー精霊契約連合へ入国し、旧エルフ都市であるサキュバスの町へ到着した。町の建築様式はダークエルフの樹上建築に類似し、白や緑を基調とした色彩と森の中の静かな環境が特徴であった。住民たちは来訪者に対して好奇心と警戒を示していたが、町の様子には意外な秩序と生活の充実が見られた。

色香と警戒の狭間での認識の変化

町中には多くのサキュバスが存在し、訪問者を誘うような態度を見せていた。優はその光景に興奮するも、アイによって抑制され、状況が悪化することは回避された。拓斗は都市の雰囲気と市民の様子を観察し、支配されているというよりも共存している印象を受けた。その点はヴィットーリオも同様の見解を示し、当初想定していた退廃や搾取の様相とは異なっていた。

サキュバスたちの理念と支配の実態

案内人であるフリージアとゴリアテは、サキュバスの目的が「共存繁栄」であることを語り、女王ヴァギアの意向として「仲良く過ごすこと」が掲げられていると説明した。エルフの住民たちは明るく生活しており、男女の関係も公然と認められていた。さらに、エルフの女性たちも趣味や政治活動を通じて適応しており、反発の声は存在するが極端な迫害は確認されなかった。

支配方法への疑問と価値観の断絶

ヴィットーリオは、共存を謳うのであれば侵略ではなく他の手段が取れたのではないかと問いかけた。しかし、案内人たちはその発想自体に理解を示さず、「拡大することが正しい姿」であると答えた。この回答により、拓斗たちはサキュバスたちが異なる価値観と生態に基づいて行動していることを理解し、以降の交渉に妥協点を見出すことは困難であると認識した。

領内移動とサキュバスの生態観察

一行はさらに二つの町を経由しながら進軍し、その間もサキュバスたちの誘惑を受けたが、案内人の統制により問題は起きなかった。優とアイの間で一時険悪な雰囲気も生じたが、関係はすぐに回復した。拓斗は平穏な旅路に安堵しつつも、油断を避け警戒を続けた。

首都カーン=ナーへの到着と会談準備

数日後、一行はサキュバスの女王ヴァギアが治める首都カーン=ナーへ到着した。カーン=ナーはエルフの世界樹を中心とした巨大都市であり、精霊との調和と壮麗さを併せ持っていた。会談の会場となる評議会は強力なマナ源を持ち、その機能と規模はマイノグーラの宮殿を上回っていた。

全陣営会談の始まりと異変の予兆

拓斗たちは他陣営の使者たちと共に評議会の円卓に着席し、サキュバスによる主催のもと会談の開始を迎えた。他プレイヤーの姿は確認できず、謎めいたオブジェが置かれた席が存在していた。そこに現れたのは案内役のサキュバスたちと、初対面ながらよく知る存在──サキュバスの女王ヴァギアであった。こうして、大陸の命運を決する全陣営会談が幕を開けたのである。

第八話    全陣営会談

魔女ヴァギアの登場と全陣営会談の開催

魔女ヴァギアは、各勢力を招集し全陣営会談を主催した。彼女はふざけた言動で参加者を迎え入れたが、明らかに場の空気を掌握していた。サキュバスの女王としての立場を強調し、配下のサキュバス二人を従えて登場した。ヴァギアの目的は、各プレイヤーが持ち込んだゲームの情報を明かし、世界の現状を共有することにあった。

ゲーム『ドキサキュ』の公開とシステムの分析

ヴァギアが持ち込んだゲームは、ノベル系アダルトゲーム『ドキドキ☆サキュバスワールド』であった。脅威度は低く、直接戦闘には不向きなシステムであると認識されたが、背後にある「七神王」のシステムやサキュバス陣営の地力が警戒された。

プレイヤーの確認と各陣営の参加状況

会談では各陣営の出席者紹介が行われ、正統大陸と暗黒大陸からの限られた代表が出席していた。特に拓斗は不参加プレイヤーの存在を示すオブジェに注目し、過去に戦った繰腹慶次の生存と、未知のプレイヤー「H氏」の存在を確認した。

拓斗と繰腹の接触とH氏の沈黙

拓斗は繰腹に語りかけることで相手の反応を引き出し、一定の恐れがあることを確認した。また、「H氏」と名乗るプレイヤーは情報の開示を拒否し、ヴァギアが代わって説明を行う形となった。この対応から、H氏がサキュバス陣営の切り札である可能性が浮上した。

会談の主題とヴァギアの提案

会談の目的は「世界の恒久的平和」と「新たな秩序の構築」であった。ヴァギアはゲームそのものの終了を提案し、全プレイヤーが同時に降参することでゲームを破綻させる構想を提示した。彼女の話によれば、神々は過程を楽しむ存在であり、プレイヤー全員が本心からゲーム終了を望めば、それは受け入れられると説明した。

拓斗と神宮寺優の疑念と反論

神宮寺優は提案に否定的な立場を取り、平和構想に対して現実的で懐疑的な姿勢を崩さなかった。拓斗もまた疑念を抱きつつも観察を続け、最終的には自らの意思で提案を拒絶した。彼は「破滅の王」としての自負と覚悟をもって会談を否定に導いた。

ヴァギアの交渉と失敗

ヴァギアは提案への協力を得るために譲歩を示唆したが、拓斗はH氏の情報開示を交換条件に出し、それを拒否されたことで最終的に交渉は決裂した。H氏も沈黙を破り、自らの秘匿を優先したことで、和平構想の脆さが露呈した。

サプライズ発表と『正統大陸連盟』の宣言

会談の終盤、ヴァギアは新たな同盟体制『正統大陸連盟』の設立を宣言した。サキュバス陣営、エル =ナー精霊契約連合、聖王国クオリア、そしてプレイヤーH氏の四者による連合が結成された。この発表により、世界のパワーバランスは大きく変動することとなった。

拓斗の拒絶と敵対の決意

和平構想を拒否した拓斗は、ヴァギアの提案を滑稽なものと一蹴した。互いの意志が明確になったことで、今後の対立は避けられないものとなった。会談は破綻し、静かな緊張の中で次なる局面が訪れる兆しを見せて幕を閉じた。

第九話    決裂

正統大陸連盟の設立と揺らぐ均衡

ヴァギアによって「正統大陸連盟」の設立が宣言された。エル=ナー精霊契約連合、聖王国クオリア、プレイヤーH氏の三勢力によるこの同盟は、戦力的にも圧倒的優位を誇る体制であった。拓斗はこの動きをある程度予想していたものの、その構築速度と規模には驚かされた。優とアイも明らかな動揺を見せたが、拓斗は冷静を保ち、情報収集と脱出を視野に入れた戦略の構築を進めた。

交渉の拒絶と宣戦布告の明言

ヴァギアは、すでに和平案の拒否をした拓斗に対し最後通告を突きつけた。正統大陸のプレイヤーおよび国家が新たな秩序を掲げ、他の勢力に降伏を求めたのである。拓斗は冷静にそれを拒絶し、勇者・神宮寺優との連携を再確認した。拓斗と優は、プレイヤー間で共通する「舐められたら殺す」というスタンスを明確にし、それを合図に会場の破壊と離脱作戦を開始した。

強行突破と脱出作戦の開始

拓斗は自らの《擬態》を解除して豪腕を振るい、優は最高レアリティの斧で議場の床を破壊した。ヴィットーリオの触手によってフォーンカヴンの使者が救出され、ブレイブクエスタスの爆発魔法によって敵の接近を牽制した。アイが発動した範囲転移魔法「テレスフーラ」により離脱を図ったが、その直後、ヴァギアが『七神王』の魔法カード《原生林の結界》を発動。転移魔法は失敗に終わった。

『七神王』カードの発動と足止めの成功

《原生林の結界》の効果によって転移魔法が封じられ、脱出は阻止された。ヴァギアはサキュバスにとって本来縁遠い魔法的戦力を、このカードによって補完していた。カードのコストは高いものの、エル=ナーのマナ源を活用することで発動を可能にしていた。拓斗はその準備の綿密さとタイミングの巧妙さに警戒を強め、さらにH氏のスタチューがヴァギアの手中にあることを確認し、最大の脅威が依然として未知の存在であることを認識した。

臨戦態勢と決意の表明

脱出手段を封じられたことで、拓斗たちはその場に留まらざるを得なくなった。優とアイは混乱しつつも戦闘の意志を固め、ヴィットーリオは使者を抱えて戦闘に備えた。拓斗は勇者である優に奇跡的な打開策が無いかを問うたが、状況を打開できる手段は無かった。最終的に拓斗は《出来損ない》の力を全開にし、異形の姿となって戦闘準備を整えた。ヴァギアの挑発に対し、拓斗たちは抵抗の姿勢を貫き、戦いは次の局面へと移行していった。

第十話    痛打

勇者の攻撃とノーブルサキュバスの迎撃

和平会談が破綻し、武力による争いが勃発した。勇者ユウはヴァギアに対して斬撃を放ったが、フリージアとゴリアテの二名によって阻まれた。両者はノーブルサキュバスと呼ばれ、サキュバスにおける貴族階級に位置する存在であった。ゴリアテは小柄ながら、勇者の剣撃を巨大な盾で防ぎ、その実力を証明した。ユウの攻撃力と速度はアイの魔法によって強化され、次なる一撃は会場を破壊するほどの威力を持っていたが、ヴァギアも《森の底力》という魔法カードを発動し応戦した。

勇者の圧倒的優位とゲームシステムの暴露

個体としての戦闘力において勇者は他を凌駕しており、拓斗もその実力と装備の性能を高く評価していた。ユウの装備は極めて入手困難なレアアイテムで構成されており、その性能は魔王をも一撃で葬るほどである。だがその圧倒的な装備を貫いたのは、ヴァギアが持つ異質な剣であった。その武器は明らかに別ゲーム由来のものであり、H氏の関与が強く疑われた。

反撃と洗脳の応酬

ユウが受けた傷はアイの回復魔法により即座に治癒されたが、ヴァギアたちの装備の異常性は疑いようがなかった。拓斗は戦局を分析しながらもヴィットーリオに命じて洗脳能力を行使させ、一般のサキュバスたちを無力化した。しかしヴァギアは《解呪》を用いて洗脳を解除し、さらに護衛たちの装飾品にも状態異常防止の効果があることが判明した。

武装の正体とH氏のゲームシステムの暴露

護衛たちが持つ装備がヴァギアと同様にH氏から与えられたものであること、そしてそれが極めて強力な効果を持つことが明らかとなった。拓斗はその装備がH氏のゲームシステムの核に関わるものであると推察し、ついにその正体を断定した。装備の自由度、重ね掛け、個別性能から導き出された答えは、ジャンルがハックアンドスラッシュである名作ゲーム『Avicii』であった。

謎の解明と脅威の失墜

ゲームの正体を看破されたH氏は動揺し、拓斗はそれを冷笑した。情報が明かされたことで、未知なる脅威は既知の対象へと成り下がり、その脅威度は著しく低下した。拓斗の目的はH氏の能力を解体することにあり、そのための布石は着実に打たれ続けていた。

第十一話    喜悦

ハックアンドスラッシュの正体と戦況の変化

拓斗はヴァギアたちが使用していた装備の正体を、ハックアンドスラッシュ系ゲーム『Avicii』と特定した。装備のランダム性と多様な効果により、彼女たちの戦力は大幅に強化されていた。この事実が露見したことで、ヴァギアの態度は和解から敵対へと完全に転じ、拓斗たちの排除に方針を切り替えた。

高レア装備を持つ混成軍の脅威

ヴァギアは、サキュバスとエルフによる混成軍をマイノグーラ国境に展開させており、その全員がH氏の提供した高性能な装備を装着していた。これらの軍勢は、拓斗が指揮するマイノグーラの戦力では到底対抗不可能な存在であった。事態はすでに詰みに近く、拓斗の思考すらその認識に至っていた。

包囲と絶望の淵

サキュバスたちによる包囲網が形成され、七神王の魔法カードによる転移封鎖も継続されていた。拓斗側には戦局を覆す策が無く、ヴィットーリオも完封状態であった。フォーンカヴンの使者を含む関係者全員の無事な帰還は極めて困難となり、拓斗の思考は徐々に現状維持から最小限の損失確保へと移っていた。

戦力差と拒絶された降伏提案

ヴァギアは和解と服従を条件に命の保証を提示したが、それが意味するのはサキュバスによる支配と快楽の虜となる生存であった。拓斗はこれを断固として拒否し、自らの信念に基づき行動する意志を固めた。そして、彼が心に抱く人物への忠誠を理由に誘惑を拒絶した。

大儀式《仄暗い国》の発動と戦局逆転

拓斗は《大儀式:仄暗い国》を発動し、世界樹の結界を超えるほどの魔力を以て世界そのものの理を改変し始めた。ヴァギアたちは総攻撃を仕掛けたが、その全てが無効化された。攻撃を無効化する理不尽な防衛は、拓斗の用意した大儀式の効果によるものであり、ヴァギアは感情を露わにしながら動揺した。

拓斗の撤退と予告された再戦

拓斗は間近に迫るヴァギアへとあえて接近し、理不尽の再現を強調することで彼女に痛烈な精神的打撃を与えた。そして全員を包む黒い魔力によってその場からの完全な撤退に成功し、姿を消した。彼は最後に再戦の意志を言葉に残し、全員は無事に逃走を果たしたのである。

第十二話    解散

大儀式発動後の転移と状況確認

神宮寺優はサキュバス本拠地で絶体絶命の危機に陥ったが、《大儀式:仄暗い国》の発動によって、暗黒大陸内の安全圏に強制的に転移させられた。周囲を確認した結果、同行していたフォーンカヴンの使者も含めて全員無事であることが確認された。拓斗とヴィットーリオは儀式の成功に安堵し、敵の徹底した準備に対して改めて警戒感を深めていた。

大儀式の効果と時間稼ぎの成就

拓斗は優らに《大儀式》の効果について説明を行い、使用した魔法が国家間の相互干渉を封じるものであることを明かした。そのため敵勢力の侵攻は一定期間不可能となり、結果的に全員が安全な場所へ転移することに成功した。効果の継続期間については正確な時間は不明であったが、現実世界の時間にして少なくとも一年は持続するという見解が示された。

勇者の決意と自由行動の選択

優は自身の無力さを痛感し、戦力不足を補うために鍛え直す決意を固めた。完全な離脱ではなく、連絡手段と資金援助を条件に自由行動を希望し、拓斗もこれを了承した。この判断により、彼がサキュバス側に狙われる危険性は回避された。マイノグーラとの協力関係は緩やかに維持され、戦力強化という共通認識が共有された。

鍛錬の目的と再会の予感

優は今後の修行の第一歩として、自身を召喚した存在《ふざけた神》に再会することを目的に掲げた。担当神との交流を通じてさらなる力を得る可能性を示唆し、その前向きな姿勢に拓斗は静かに願いを託した。再戦に備えるための時間は確保され、各陣営はそれぞれの役割と意志を胸に、次なる戦いへの準備を開始したのである。

第十三話    秘策

会議での報告とプレイヤーの情報共有

拓斗は影武者《出来損ない》による全陣営会談での顛末を、大呪界の宮殿にてダークエルフたちに報告した。配下たちは、事前の想定を超える事態に混乱を示したが、拓斗はプレイヤーに関する情報を意図的にぼかし、神の力として説明することで彼らの理解を促した。H氏の装備については言葉を選びながらも伝え、敵の脅威の実態を共有した。

猶予期間の確認と戦力強化の必要性

《大儀式:仄暗い国》の効果は現実時間で約一年と判明し、ダークエルフたちはその短さを認識した。通常の内政や軍備強化では間に合わず、抜本的な改革が必要との結論に至った。だがその空気をアトゥが打破し、拓斗には既に打開策があると宣言して場の士気を鼓舞した。

敵の目標と対抗戦略の策定

拓斗は、敵の正統大陸連盟が目指す全陣営制圧に対し、マイノグーラも同様に暗黒大陸内で同盟を結成し対抗する方針を打ち出した。その上でペペからの事前打診を挙げ、中立国家との交渉が可能であることを示した。ダークエルフたちはこれを現実的な戦略として受け入れ、各国との連携構築に向けた準備を進めることとなった。

技術導入による軍事力の底上げ

軍事的戦力差を埋めるため、拓斗は海洋国家サザーランドが持つ未知の技術の導入を提案した。それにより、より強力な魔物ユニットの生産が可能となるとし、配下たちに情報収集と人材確保の強化を命じた。また、調査対象を中立国家に振り向け、フォーンカヴンと連携して情報網の構築を図る方針を示した。

指揮系統と技術者の発掘の重要性

今後の大規模戦争に備え、中間管理職や指揮官クラスの人材が多数必要となることが明言された。拓斗はネームド級の人物だけでなく、幅広い戦力となりうる人材の確保を重要視し、配下にその発掘を厳命した。

拓斗の真意と秘めた切り札

会議終了後、拓斗は自室でアトゥと語らいながら、今回の敵対同盟の結成が予想を超える事態であったことを認めつつも、それを完全な失策とは捉えていなかった。ヴァギアたちの綿密な準備や、まだ隠された意図を持つ同盟の存在を警戒しつつも、すでに対抗策を構想していた。そして最後にアトゥの問いかけに応じ、正統大陸連盟に対抗する決定的な作戦の存在を示唆した。アトゥはその予想外の内容に呆れと驚きをもって感嘆し、拓斗の胆力と知謀を改めて実感することとなった。

第十四話    立ち上がる者

グラムフィルで絶望する敗北者の姿

暗黒大陸南部に位置する犯罪と奴隷の都市国家グラムフィルにて、繰腹慶次は敗北の傷を抱え、絶望の淵に沈んでいた。彼は戦いで魔女エラキノを失い、GM権限も封じられ、少年の姿に変えられた上でこの地に流されていた。精神的に崩壊寸前の彼は、過去を悔い、かつての仲間に謝罪しながら自責に沈んでいた。

ザンガイの叱責と再起のきっかけ

繰腹の前に現れたのは、失われたエラキノの姿を残す存在ザンガイであった。彼女はエラキノの残留データに近いものであり、彼の妄執の対象とは別物であった。繰腹は彼女の叱責と挑発に晒されながらも、自身の弱さと向き合い始める。ザンガイは、聖女ソアリーナとフェンネを探すことを提案し、放置すれば彼女たちがサキュバスの脅威に晒される可能性を示唆した。

繰腹の意志と決意の再燃

ザンガイの挑発により、繰腹は己の情けなさに怒り、立ち上がる決意を固めた。自身のGM能力の多くが封印されたままでも、残された手段で運命に抗おうとする意志が芽生え、彼は再起の第一歩を踏み出した。完全復活には程遠いものの、その意志の変化は確かに現れ、戦いに挑む意志を再び手にし始めた。

拓斗による予想外の同盟構想

一方、拓斗はアトゥに対し、新たな作戦として繰腹慶次との同盟構築を語った。かつて敵対し、GM権限を剥奪した相手を味方に引き込むという大胆な方針は、アトゥにとっては想定外のものであったが、拓斗は繰腹の心情と過去の行動を見極めた上で交渉の可能性を示した。

テーブルトーク勢力の過去と未来

繰腹の行動や、聖女たちの言動からも、彼らが善意に基づく平和構築を志していたことが伺えた。そのため、敵対勢力から味方に転じる可能性も否定はできず、拓斗は繰腹の行動次第ではGMの能力の再活用も視野に入れていた。聖女たちの説得は難航が予想されたが、少なくとも敵に回さぬよう慎重に対応する方針が示された。

戦略構築と人材調達の必要性

拓斗は暗黒大陸において中立国家との同盟交渉を進めると同時に、未知の技術を持つ国家サザーランドへの接触も視野に入れていた。さらに、繰腹らの所在を突き止めるため、ダークエルフたちに対して人材調査の強化を命じ、軍指揮官や技術者といった有能な人材の発掘も急務としていた。

一年後に向けた雌伏と準備

猶予は一年。拓斗はそれを戦力と外交の充実に充てると同時に、かつての敵との接触という乾坤一擲の一手に望みを託した。プレイヤーである拓斗・優・繰腹の三名が共闘すれば、正統大陸連盟にも匹敵し得る勢力となりうる。拓斗はその構想を胸に抱き、戦乱の時に向けて動き始めた。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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