物語の概要
ライトノベル『水属性の魔法使い』は、異世界へ転生した青年・涼を主人公とするファンタジー作品である。本書はシリーズ累計70万部突破の第三部開幕編で、涼と剣士アベルが魔人ガーウィンとの戦いの余波で、遥か東方諸国へと強制転移させられる──そこから漂流しながら王女亡命の任務を引き受け、中央諸国へ戻るための旅路が始まる冒険譚である。
ジャンルは異世界ファンタジーであり、魔法、剣術、冒険、そして政治的陰謀が絡む重厚な世界観が展開される。
主要キャラクター
- 涼:異世界転生者。水属性の魔法使いであり、隠しスキル「不老」を備えた最強クラスの魔法使いである。
- アベル:天才剣士で、実は国王。涼と行動を共にし、彼のバディとして物語を牽引する。
物語の特徴
本作は“水属性”魔法を軸に、マイペースかつ上昇志向の主人公によるスローライフとシリアスな戦闘・陰謀が融合している点が際立つ。涼の気ままな魔法エピソードと、アベルとの“王と魔法使い”コンビによる政治絡みのドラマが他作品との差別化要素である。また、“漂流”、“亡命”、“異文化交流”など、第三部ならではの新しい舞台設定も読者を引きつける魅力となっている。
書籍情報
水属性の魔法使い 第三部 東方諸国編1
著者:久宝忠 氏
イラスト:天野英 氏
出版社:TOブックス(TOブックスノベル)
発売日:2025年3月19日
ISBN: 9784867945100
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あらすじ・内容
涼とアベルの強制転移先は――遥か遠くの東方諸国!?
最強水魔法使いの気ままな冒険譚、第三部開幕!
シリーズ累計60万部突破!(電子書籍含む)
涼とアベルは魔人ガーウィンとの死闘の末、暴走した魔力に巻き込まれて転移させられてしまった。ついた場所は常夏の亜熱帯、誰もいない砂浜!? なんとか辿り着いた最寄りの街で判明したのは、ここが東方諸国と呼ばれる場所で、中央諸国へ戻るには別の大陸を経由する長旅になるということだった。アベルは国王だ。一刻も早く王国に帰らなければならないが、遠い異国からの帰還はあまりに無謀。商人に海を渡る手助けを求めるが、引き換えにと持ちかけられた仕事は、王女様の亡命の手助けで──?
愛する仲間の元へ帰るため、二人の漂流譚が始まる!
最強水魔法使いの気ままな冒険譚、第三部開幕!
感想
涼とアベルが転移魔法によって見知らぬ大陸へと飛ばされてしまう、波瀾万丈な物語。
魔人ガーウィンとの激闘の末、暴走した魔力に巻き込まれてしまった二人が辿り着いたのは、常夏の亜熱帯の砂浜だった。
そこから始まる、故郷への帰還を目指す二人の珍道中が、今作の大きな魅力となっている。
第一部を彷彿とさせる展開に、思わず笑みがこぼれてしまった。
あの頃と比べて二人は確かに偉くなった。
しかし、その言動は変わらず、どこか抜けているところが引きつける。
最強の魔法使いと剣士であるはずなのに、どこか憎めない、そんな涼とアベルのキャラクター性が、この作品の核となっていると感じる。
物語は、砂浜への転移から始まる。
氷の潜水艦を製作し、海底に眠る島を探索したり、不在中の王国や周辺国との連絡手段を準備したりと、二人が通った後の後継には目を見張るものがあった。
コマキュタ藩王国マニャミャに到着し、末弟バンヒューと出会う場面や、『蒼玉亭』でのやり取りも、物語に彩りを添えている。
生存連絡を試みる二人の姿に、故郷への強い想いが感じられ。
それを受け取った故郷の者達の安堵にもホッとしたが、彼女たちの出番はそれだけ。
物語は、スージェー王国第六イリアジャ姫の亡命を手助けするという展開へと進む。王都ワンニャへの移送を『蒼玉商会』に依頼したり、次男バンソクスの護衛を依頼したりと、物語はますます複雑さを増していく。
バシュテーク号とダオ船長、ロックデイ提督、モンラシュー司令の登場は、物語に緊張感をもたらし。
連邦内戦、姫と護国卿カブイ・ソマルの会談、そして姫の帰還と即位式で、クライマックスを飾る。
ズルーマやプラボといったキャラクターも、物語に深みを与えており。
最終的に、二人は自由都市クベバサへと辿り着く。
全体を通して、『水属性の魔法使い 第三部 東方諸国編1』は、異世界での珍道中を描いた、笑いあり、冒険ありのエンターテイメント作品であった。
涼とアベルの活躍はもちろんのこと、個性豊かなキャラクターたちが織りなす人間ドラマも、見逃せない魅力の一つであり。
故郷への帰還を目指す二人の旅は、まだまだ続く。今後の展開が楽しみでならない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
プロローグ
海岸での目覚めと状況確認
涼は砂浜で目を覚まし、アベルと共に見知らぬ海辺にいることを確認した。身につけていた装備類や魔道具に異常はなく、状況把握に努めた。アベルは困惑していたが、涼は魔人ガーウィンの魔力の暴走による空間転移の可能性を指摘した。二人はどこか遠くに飛ばされたと理解し、元の場所へ戻る方策を考える必要に迫られていた。
海の脅威と水の魔石の価値
涼はこの海を越えるには避けがたい戦いがあると予見し、海中の魔物の強大さと水属性魔法の無力さを論じた。特にクラーケンの存在が警戒され、水中戦における戦術的不利が強調された。水の魔石は希少で高価であり、涼が身に着けるイヤリングに使われたそれも王立錬金工房でも年に数個しか手に入らない代物であると語られた。
試作の日々と錬金術の応用
涼は海中戦に備え、氷製の潜水艦「ロンド級二番艦ニール・アンダーセン」を錬金術によって完成させた。これは魔法制御を外部から奪われない構造であり、失敗に終わった一番艦ロンドとは異なる特徴を持つ。潜水艦の内部は二人乗りで設計され、操縦や兵装起動が可能である。潜水・浮上の機構には圧縮空気と錬金術を用い、浮力や水圧対策も施された。
海中進行と魔物除けの工夫
二人は潜水艦に乗り込み、海中の探索を開始した。氷製の船体は視界を遮らず、アベルはその美しさに感嘆した。艦には西方諸国で学んだ水属性の魔法式による魔物除けが刻まれており、一般的な魔物の接近を防いでいた。一方、強大な個体には効果が薄く、クラーケンの出現が予期されていた。
クラーケンとの戦闘と勝利
クラーケンとの交戦が始まり、水属性魔法は通用せず、魔法制御を奪われる事態となった。そこで涼は錬金術による外装を起動し、防御を維持しながら機動戦に突入した。ニール・アンダーセン号は三次元機動を駆使し、クラーケンの触腕をかわしつつ接近し、魚雷や氷の槍による攻撃で損傷を与えた。最終的に船体からの全方位攻撃と捕獲装置により、クラーケンから魔石を奪い、撃退に成功した。
戦いの終結と決意
クラーケンは魔石を失って撤退し、涼はかつて失われた一番艦ロンドの仇を討ったと宣言した。アベルはこの潜水艦と涼の錬金術に感銘を受け、二人は新たな展開を見据えていた。涼はこの戦いを通じて錬金術の可能性に確信を深め、さらなる構想へと歩みを進める意志を固めたのである。
海底に眠る島
クラーケン討伐後の安堵と新たな懸念
完全勝利を収めた涼とアベルは、安堵と空腹に包まれたが、アベルはクラーケンが集団で行動する可能性に言及し、新たな懸念が生まれた。涼はクラーケンから得た大きな青い魔石を見せ、戦果の大きさを示した。その後、魚を捕まえるためにベイト・ボールを探す過程で、アベルが沈没船らしきものを発見し、調査に乗り出すこととなった。
海底に沈んだ空の船の正体
海底に沈んでいたのは、空に浮かぶべきサントゥアリオの巨大艦であり、ゴールデン・ハインドで突入した旗艦と同規模であった。アベルと涼は、紫髪の空の民についての知識を再確認し、敵の情報を得る重要性を共有した。浮遊の原理に関心を持つ涼は、魔石の構造や特性に興味を抱いた。
光ケーブルによる海底照明と調査準備
涼はニール・アンダーセン号から光ケーブルを伸ばし、海面から光を集めて海底を照らした。これは魔法ではなく、光ファイバーの原理を応用した科学技術であった。照らされた艦は「島」と表現されるほど巨大で、至る所にタコのような生物が付着していた。二人はそれが魔物か否かに留意しながら、慎重に島への侵入を決めた。
艦橋への突入と潜水服の使用
ニール・アンダーセン号を艦橋に接舷させた後、涼は氷の潜水服を生成してアベルと共に船外へ出た。島内は長年の海水による腐食で情報の取得は困難であったが、涼は錬金術でも情報の復元が困難であると認めたため、内部の探索を継続することにした。
会議室と沈没船の内部構造の調査
島の内部構造は、かつて突入した別の旗艦と類似しており、第一会議室なども存在していた。扉の多くは開かず、設備も破損していたが、涼とアベルは情報や戦利品の取得を期待して探索を続けた。金銭的なお宝は空の民が地上を対等と見ていなかった点から、積載されていない可能性が高いとされた。
弾薬庫の発見と武装の確認
探索の中で発見された広間には大量の金属製の筒が保管されており、涼はそれを砲弾と認識した。これは島が物理攻撃手段も有していた証拠であり、今後の戦いに向けて有益な情報とされた。アベルも島の武装に対する認識を改め、今後の戦略に反映する意識を強めた。
島の墜落要因と海中戦の困難
島がクラーケンの攻撃により沈んだ可能性について検討がなされ、魔法や砲撃が通用しない海中戦の困難さが改めて浮き彫りとなった。涼は新たな防御魔法の発想を語ったが、アベルからは既存の氷の壁で十分ではないかとの指摘も受けた。
死と食物連鎖に対する二人の見解
島内には遺体の痕跡がなく、魔物や魚によって処理された可能性が示唆された。アベルは命の循環としての受け止めを示したが、涼は死生観の違いに戸惑いを見せた。二人の価値観の差は明確であったが、互いを否定することはなかった。
最深部で発見された動力炉
島の最下層に到達した涼とアベルは、海水のない巨大な部屋を発見した。その中央には天井まで届く巨大な装置があり、内部には火・水・風・土の四属性の巨大魔石が同時に稼働していた。涼はこれを動力炉と認識し、空の民の錬金術技術が極めて高度であることを実感した。特に複数魔石の同時稼働は極めて難しく、サントゥアリオの技術水準の高さを証明するものであった。
戦闘ゴーレムとの交戦と情報収集
突如として起動した一体のゴーレムが出現し、アベルはこれと交戦する。目的は戦力分析であり、王国軍が将来対峙する可能性を見越した情報収集であった。剣と盾を巧みに扱うゴーレムに対し、アベルは潜水服の防護に支えられながら、力と技の特性、関節の弱点などを見抜いていく。途中、両肩から火属性魔法を発射する能力も判明し、戦闘能力の多様さが明らかとなった。
機体の自己破壊と技術的分析
アベルの投擲によって魔法発射機構を破壊され、ゴーレムは機能停止寸前に自壊した。この自己破壊機構からも、機密保持の徹底と技術の重要性が示唆された。ゴーレムが地上制圧用兵器である可能性も指摘され、空の民の本格侵攻を予感させる。動力炉の四属性魔石も放置されることになり、環境への影響やリスク回避が優先された。
大ダコとの遭遇と脱出戦
島から脱出しようとした二人の前に、巨大な大ダコが出現する。島内部での戦闘音が原因で覚醒したと推測され、さらに後方からはタコの群れの接近が確認された。涼はローリング突撃を選択し、錬金外装と氷の槍によって敵を牽制、突破口を開いた。墨の中での奇襲やソナーによる索敵を活用し、見事な操艦で包囲を脱した。
砂浜への帰還と食事の喜び
無事に出発地点の砂浜へ戻った二人は、帰路で捕獲したベイト・ボールの魔物を塩焼きにして空腹を満たした。イワシ状の魔物から取り出された小さな魔石は、『魂の響』と同等のものと判明した。魔物の方が動物より美味であるという共通認識も語られ、涼はその理由を魔力の浸透にあると考察した。
森の探索と新たな発見
食後、森の中の様子を確認するために涼は上空へ飛び、森の奥に街らしきものを発見した。その結果、自分たちが島ではなく半島の先端にいることが判明する。涼は街に近づくことに消極的だったが、アベルは帰還手段や位置把握のために訪問を主張する。結局、二人の本質が冒険者であるがゆえに、街への探索を避けることはできなかった。
間章 残された人々
消失直後の混乱と対応
魔人大戦終結直後、涼とアベルが突然姿を消した戦場では、一時的な混乱が広がった。だが、最初に動いたのは天才錬金術師ケネス・ヘイワード子爵であった。彼は即座にアベルの識別タグを使って位置を探索し、二人が転移したと推測。通信手段として涼が所持する「魂の響」を活用する可能性を見出し、王都への帰還と通信機器の準備に取り掛かった。
王妃とセーラの決意
王妃リーヒャは、セーラの慰めと共に立ち直りを見せ、国を守る決意を固めた。二人は空位となった王と筆頭公爵の不在を埋めるべく、政務と防衛に取り組む覚悟を共有する。王国周辺の脅威を想定し、最初の対応として宰相ハインラインの助力を求めることが合意された。
王国騎士団とワルキューレ騎士団の復活
王国騎士団では、団長ドンタンが速やかに指揮権を明示し、王妃リーヒャの指示に従う体制を構築。これにより騎士たちは混乱を脱し、組織として再起を図った。ワルキューレ騎士団でも、団長イモージェンが親友ミューの叱咤で立ち直り、副団長や幹部の支援を得て士気を取り戻す。一方、救護隊長スカーレットは未だ涼の喪失に動揺を見せるが、徐々に平常心を取り戻していった。
王国外の反応と混乱
援軍として参戦していた勇者ローマンと魔王ナディアも、涼とアベルの消失に驚愕するが、ナディアは直感的に二人が無事であると感じていた。また、魔人マーリンは転移に使用された謎の棺桶の存在に困惑し、涼が説得した相手の協力を得られず西方への帰還を断念した。
王都での再構築とセーラの就任
王都ではケネスが「中継器」と魂の響を接続する準備を進めていた。やがてリーヒャは、セーラにかつてリチャード王しか就かなかった「総騎士団長兼筆頭騎士」の任命を打診。これによりセーラは王国軍の最高指揮権を持つこととなり、王国の求心力は保たれた。
連合と他国の動向
一方、連合ではストラ侯国が盗賊追撃を口実に王国領へ侵攻。オーブリー執政は、王国の罠に嵌ったことを即座に察し、宰相ハインラインの謀略を見抜いた。目的は王国の防衛力を示すことであり、ストラ軍は短時間で包囲殲滅された。二千人超の捕虜がレッドポストに移送され、王国の政治的勝利が確定した。
戦後処理と軍制強化
セーラは王国軍の練度向上を目指し、王国騎士団の訓練増加を提案。騎士団内でも若手騎士ザックが過剰な提案をするなど、熱意ある声も上がった。また、セーラはかつて指南したルン騎士団の訓練法を共有し、継続的な強化策として六十分連続戦闘などを導入していたことが明かされた。
王都での静かな異物と未来の兆し
王都には、マーリンの後をついてくる棺桶が定着しつつあった。その正体や機能は不明なままだが、涼の存在が様々な形で王国に影響を与えていることを象徴していた。魔王ナディアの存在も、王国の抑止力として重要視され、マーリンと共に王都に滞在することとなった。
こうして、筆頭戦力を失ったナイトレイ王国は、王妃・セーラ・宰相ハインラインを軸に体制を再構築し、外敵への備えと内政の安定化を進めていくこととなった。
最初の街へ
ジャングルの踏破と街への到着
涼とアベルは森を抜けて一時間後、ついに街の入口へと到達した。街には城壁が存在せず、中央諸国との文化的相違が明らかとなる。平和な環境下であることが城壁不要の理由とされ、二人はその安穏な様子に安堵した。
街中での食事と地図の重要性
地図を見つけ次第すぐ出発するという宣言とは裏腹に、二人は現地の炒めご飯の美味しさに舌鼓を打ち、店主との身振り手振りでの交流を楽しんだ。アベルは所持金がなく、支払いは涼が担当する形となった。貨幣価値が共通であることも、文化圏を越えた利便性を実感させた。
現地少年バンヒューとの出会い
現地語が通じない中、中央諸国語を話す少年バンヒューが現れ、二人を宿『蒼玉亭』へと案内する。宿には周辺地図があり、宿泊客には閲覧可能という方針から、二人はそのまま宿泊を決定する。ウェルカムドリンクとして出されたブレンドコーヒーの完成度に、涼もアベルも感嘆した。
周辺状況の把握と帰還の困難
街の位置が中央諸国から遠く離れていることが周辺地図により判明し、即時帰還が困難であると理解された。涼は国元への連絡の必要性を主張し、『魂の響』の改良によって一方通行の伝言送信機能を実装する。
錬金術による通信と王都への伝達
涼の調整により、アベルが王都へ向けた伝言を送信し、王都ではケネスが中枢通信機で受信に成功。国王の無事が確認され、王都は歓喜に包まれた。
翻訳機の購入と現地適応
二人は言語の壁を越えるため、錬金道具店で「翻訳機」を購入する。これにより、会話・読み書き・視認文字の即時翻訳が可能となり、現地文化への対応力が一気に向上した。
翻訳機の解析と翻訳不能の障壁
涼は翻訳機の内部構造を解析するが、記述が未知の文字であったため解読に至らず、改めて言語の壁の高さを実感する。一方、宿に設置された中央諸国語の文庫本を手に取って、読書を楽しむ時間も生まれた。
王道展開を夢見る涼と現実主義のアベル
街の港から都への船便を待つ中、涼は海賊による襲撃という「王道展開」を期待するも、アベルは現実的な軍備と秩序を語り、その可能性を否定した。だが涼はなおも、私掠船や歴史的背景に夢を馳せ、物語的展開への淡い期待を抱き続けるのだった。
イリアジャ姫
雨上がりの異変と飛行船の墜落
雨が上がると同時に、マニャミャの街中に非常警報の鐘が鳴り響いた。住民が広場に集まる中、涼とアベルも騒動の中心である港へと足を運び、そこで墜落した巨大な飛行船を目撃した。地上には存在しないとされる飛行船の技術に驚いた二人は、自分たちが東方諸国にいると確信した。
飛行船の正体と第六王女の亡命
墜落したのはスージェー王国の王室専用船であり、乗っていたのは旧王家の第六王女イリアジャ姫であった。スージェー王国では三ヶ月前に第一海軍卿カブイ・ソマルが反乱を起こし、国土の九割を制圧。イリアジャ姫は南部タマコ州に視察中であったために難を逃れ、現地勢力の支援を受けて三ヶ月にわたり抵抗を続けていたが、ついに脱出を決断し、亡命先としてマニャミャを選んだ。
マニャミャ行政府の苦悩と政治的緊張
マニャミャは藩王直轄地であり、行政長官レメンゲサスは都の指示に従い、姫ら亡命希望者の受け入れ対応に追われた。だが都からの指示は曖昧であり、「移送をせよ。方法は任せる」との内容に、現場は混乱する。マニャミャに百人以上を一度に運べる船はなく、分乗を要求すれば護衛たちの反発は必至であった。
イリアジャ姫一行の警戒と宿泊施設への収容
イリアジャ姫と供の者百名は、街で最大規模の宿『麗しの泉亭』に収容された。宿の周囲は守備隊三百名によって厳重に警備され、街全体が緊張感に包まれる。宿泊客として滞在する涼とアベルは、この騒動が今後の行動に影響を及ぼすことを懸念した。
政治判断と現場の葛藤
都の決定に従わざるを得ない立場にありながらも、レメンゲサス長官は指示の現実性のなさに憤りを抱いた。部下である首席補佐官ニージュも同様であり、都の官僚たちが数字しか見ていないことへの警鐘を鳴らす。最終的に、現場の判断で唯一の解決策として蒼玉商会への協力要請が決定されるが、それは新たな火種ともなりうる政治的賭けでもあった。
蒼玉商会との交渉と決断
行政長官レメンゲサスは、亡命希望者百名の一括移送のため、蒼玉商会長バンデルシュに唯一の大型船バシュテーク号の提供を要請した。バンデルシュは、護衛として三百名の海兵と二十艘の護衛艦の派遣を条件に了承したが、万一の事態に備え、自らの商会員の安全を最優先とすることを強く主張した。その責任を重く受け止めたレメンゲサスは、自身と一族の名誉に懸けて船の防衛を誓った。
家族会議と次男バンソクスの同行決定
蒼玉亭に戻ったバンデルシュは、四人の子どもたちを集め、現状と依頼の危険性を説明した。次男バンソクスは自ら船に同行することを申し出、船員たちの不安を和らげるため、護衛隊長として共に乗船する覚悟を示した。彼は王女の保護よりも船員の安全確保を優先事項とし、可能な限りの準備と人員の確保を求めた。
涼とアベルへの依頼と交渉成立
バンソクスは、宿泊中の涼とアベルの戦闘力を高く評価し、彼らを護衛に雇うことを提案。バンデルシュ商会長は二人に詳細を説明し、報酬として金貨百枚+成功報酬、さらに帰還支援を約束した。涼は条件として、蒼玉亭特製ブレンドコーヒーの大量積載を求め、交渉は無事成立した。
情報提供と帰還経路の確認
バンデルシュは、涼とアベルに東方諸国から中央諸国への帰還ルートについて概要を伝えた。目指すべきは大陸南端のゲギッシュ・ルー連邦であり、そこから西への出口を経て中央諸国へ向かうのが現実的な行程であった。情報は乏しいが、蒼玉商会の協力を得られることで、旅の見通しが立った。
スージェー王国の正式抗議と情勢の緊迫
スージェー新政府がイリアジャ姫の引き渡しを正式に要求し、藩王国政府は亡命者として受け入れた上で、都での審問を理由に即時引き渡しを拒否した。この発表により、姫の都移送が敵に知られ、襲撃の可能性が飛躍的に高まる。バンデルシュは報酬の増額を申し出、両者は改めて合意に至った。
出発準備と街での補給
出発を控えた涼とアベルは、蒼玉商会の費用負担で必要装備の補修や錬金術書の購入を行った。アベルの革鎧は職人により魔法・錬金術的技術で完璧に修復され、涼は専門書店で興味深い書籍を入手した。二人はその待遇と対応に満足し、船旅への準備を整えた。
出航と新たな仲間たちとの邂逅
出航日、港でバンソクスおよび船長ダオと合流した涼とアベルは、巨大な三層甲板船バシュテーク号に乗船した。両者の人柄や職人気質に親しみを感じた二人は、正式な護衛任務を開始する。そこへイリアジャ姫一行が到着し、港には緊張が走る。
任務の性質と涼の小さなこだわり
戦闘時のみの任務であることを告げられ、涼は安堵した。移送艦隊は旗艦ロコモコ号に随行する形で出港する予定であり、任務の実態は極めて危険であるが、涼とアベルは状況を理解した上で快諾した。蒼玉亭のコーヒーが船に積まれたことにも満足し、船上でのひとときを楽しむ余裕も見せた。
冒険者の不在と多島海の平和
多島海地域では冒険者の存在がほとんどなく、陸地の密林と魔物の少なさ、海上交通の発達がその背景にあると語られた。冒険者に似た商会員や船員たちとの交流の中で、涼とアベルは懐かしさと平和な土地柄への感慨を覚えた。
護衛依頰
護衛艦隊とバシュテーク号の構成
涼とアベルは、バシュテーク号上で王女イリアジャ一行に護衛として紹介された。乗船者は船員40名、王女一行100名、マニャミャ駐留海軍海兵隊100名、蒼玉商会護衛隊30名、さらに涼とアベルの二人を加え、総勢約300名に及んだ。荷の積載量も多く、船の安定性が保たれていた。
海戦様式と風属性魔法の優位性
涼は地球における帆船の歴史と比較しつつ、ファイ世界の船舶と海戦の在り方を再考した。特に風属性魔法の存在により、帆船は常に望む方向へ航行可能となっており、海戦も大砲の存在を伴わない接舷戦や白兵戦が主であった。艦隊陣形はバシュテーク号を中心とした輪形陣が採られ、その構成は地球の空母打撃群にも似ていた。
海兵隊との作戦会議と航路説明
移送開始後、バシュテーク号上甲板にて海兵隊長ラジャトンによる作戦会議が開かれた。イリアジャ姫や執事長ロンク、バンソクスらと共に、涼とアベルも参加した。作戦では四日目・十日目・十四日目に襲撃の可能性が高いとされ、二十日間の航海の間は警戒が必要と確認された。ラジャトンは落ち着いた指揮官であり、会議は円滑に進行した。
王女との交流と距離の縮小
作戦会議後、イリアジャ姫はロンク執事長と共に涼とアベルの元を訪れた。他者と距離を感じるという姫の率直な悩みに対し、二人は気兼ねなく接し続けることを約束し、姫は久しぶりに心からの笑顔を見せた。アベルの自己犠牲的な言動と涼の軽妙なやり取りが姫の心を和ませ、三者の信頼関係が深まっていった。
船上の日常と魔法の応用
上甲板では、涼が読書や魔法の研究に勤しみ、アベルは剣の鍛錬を行っていた。涼は魔法によって椅子やテーブルを生成し、アイスクッションの開発に成功した。アベルによる座り心地の試験も問題なく、船上生活の快適さが向上した。
バンソクスとの交流と水属性魔法の利便性
護衛隊長バンソクスが涼のコーヒーに誘われて加わり、蒼玉亭特製ブレンドを楽しみながら、水属性魔法の利点について語り合った。バンソクスは父バンデルシュも水属性使いであると明かし、涼と意気投合する。水属性魔法は真水を生成できることから商業的優位性が高く、荷の積載量を増やせる点でも利を得ていた。
魔力感知と涼の制御技術
話題は魔力の感知へと及び、涼は「完全シャットアウト」を習得しており、魔力の漏出をゼロにできると語った。この技術は中央諸国の詠唱魔法体系とは異なり、涼独自の修練によるものであった。また、強力な魔法使いほど魔力の圧力が周囲に漏れることも話題となった。
再びの王女来訪と親密な交流
イリアジャ姫が再び訪れ、涼とアベルは茶会に誘った。アイスクッションの快適さに姫も驚き、涼はアベルの犠牲によって完成したと冗談交じりに語った。和やかなやり取りの中で、姫は二人の人柄に改めて親しみを覚える。また、中央諸国から来た理由を問われた際、二人は複雑な事情から魔法の暴走で転移したと説明を濁すが、姫は深く追及せず、温かく受け入れた。
想定を外れた静寂と疑念
十一日目まで、移送艦隊はスージェー王国からの襲撃を受けることなく順調に航行していた。四日目・十日目と、最も襲撃の可能性が高いと予測されていた日を超えても平穏が続いたことで、緊張は緩みつつあった。艦隊内ではコーヒーを囲んでの雑談が続き、警戒の空気は徐々に緩和されていった。
現地語の習得と錬金術の進展
アベルが多島海語を習得していたことが判明し、涼は刺激を受けて学習意欲を新たにした。また、錬金術の研究においては、アベルの革鎧修復の技術を理論的に理解し、再現可能性を見出したことで達成感を得た。実用には更なる研鑽が必要であったが、涼は自信と希望を持って取り組みを継続した。
静寂の破れと敵艦隊の出現
十五日目、予測されていなかったタイミングで艦隊に鐘の音が響き、ついにスージェー王国の襲撃が始まった。現れたのは、既存の帆船とは全く異なる「ガレアス船」と呼ばれる古式の軍船であり、機動性に優れ、ラム(衝角)を用いた攻撃で護衛艦を撃沈し始めた。
包囲陣形と戦術的劣勢
スージェー王国の艦隊は、ガレアス船による正面攻撃に加え、通常の帆船を側方から回り込ませて移送艦隊の背後を制圧する戦術を展開した。これにより移送艦隊は前後を挟まれ、包囲される形となった。涼はこの戦術を「玉ねぎ剥き」と形容し、外縁から順に各艦を沈め、最終的に中心のバシュテーク号を狙う意図を明確に見抜いた。
姫の登場と士気の回復
混乱が広がる中、イリアジャ姫は自ら船首に現れ、危険を顧みず全乗員の前に姿を現した。その行動は、味方艦の乗員たちの士気を一気に高め、歓声が艦内に響き渡った。涼は姫を防御するために20層のアイスウォールを生成し、彼女の安全を確保した。
王の姿勢と支持の本質
アベルは、姫の行動を「王の姿に従う」という言葉で肯定し、自らも王である立場からその意味を理解・賞賛した。姫の姿勢は、士気を回復させる強い象徴として、全艦隊の結束力を高める効果をもたらした。
旗艦強襲
三度目の突撃と艦隊の損耗
スージェー王国海軍のガレアス船が二度目の突撃を敢行し、移送艦隊の護衛艦がさらに四隻沈没した。既に合計八隻が沈み、一隻が接舷戦闘中であり、無傷の艦は十一隻にまで減少していた。しかし、イリアジャ姫の船首登場により士気は高く、沈没艦の乗員もバシュテーク号へ引き上げられて戦意を維持していた。
旗艦の特定と強襲作戦の決断
涼は敵艦の中から金色の船首像を備えた艦を旗艦と見抜いた。指揮官排除のため、バシュテーク号から敵旗艦まで氷のトンネル《アイスゲート》を作成し、アベルと蒼玉商会護衛隊が突撃する体制を整えた。敵艦は反応が遅れ、氷の橋による突撃を阻止することができなかった。
バシュテーク号への逆襲と戦闘
突撃とほぼ同時に、スージェー王国艦隊の後方六隻から兵士が飛翔してバシュテーク号に強襲上陸した。空から飛来する敵に対し、マニャミャ海兵隊やダオ船長が応戦したが、精鋭部隊である敵兵の猛攻に押され気味となる。涼は船尾の船員と姫を保護するため、氷の壁《アイスウォール20層》を展開し守備を固めた。
旗艦上での死闘とモンラシューの迎撃
アベルとバンソクス隊は敵旗艦に突入し、中央海軍直属の精鋭・第一突撃団と交戦した。中でも指揮官モンラシュー司令は、圧倒的な連撃速度を誇り、アベルと剣戟を繰り広げた。しかし、アベルの技量は防御においても群を抜いており、戦闘は徐々にアベル優位に傾いていった。
ロックディ提督の魔法介入と反撃
戦況が不利になったことで、艦隊指揮官ロックディ提督が介入。魔法による石の槍でアベルに重傷を負わせた。腹部と足に深手を負ったアベルは一時的に行動不能となるが、隙をついて反撃し、ロックディとモンラシューの両者に致命傷を与えた。旗艦への攻撃は成功し、敵の指揮系統に重大な打撃を与えることとなった。
正体の露見と動揺
アベルがロックディにとどめを刺そうとした瞬間、モンラシュー司令がその正体が艦隊の提督であることを暴露した。ロックディは、護国卿の右腕として国家の要を担う人物であり、死んではならない存在と語られた。この暴露によって、ロックディ提督の命運と、戦局に新たな展開が生まれることとなる。
停戦の成立と旗艦制圧の帰結
旗艦に掲げられた停戦の旗により、スージェー王国海軍全体へ停戦が伝わり、戦闘は終息に向かった。アベルは重傷を負いながらも戦闘を制し、艦隊指揮官ロックディ提督を降伏させた。護衛隊長バンソクスと共に、氷橋を用いてロックディをバシュテーク号へと連行した。ロックディはアベルから特製ポーションを受け取り、重傷を癒すことに成功。さらに、アベルの許可により、重傷の突撃団司令モンラシューにも治癒が施された。
降伏艦隊の取扱いと戦後処理
スージェー王国の襲撃艦隊は形式的に降伏したが、その扱いに移送艦隊は頭を悩ませた。生存した護衛艦は11隻で、そのうち2隻は航行不能に近く、実質的に機能するのは9隻とバシュテーク号のみであった。完全に無傷な襲撃艦隊の12隻に随伴されることを懸念し、最終的には3隻のみを同行させ、残りの14隻は自主的にコマキュタ藩王国の港へ向かわせた。
捕虜ロックディ提督との交流と情報戦
翌日、ロックディ提督はアベルと涼の元を訪れ、氷の椅子に座ってコーヒーを共にした。会話の中で、涼が氷橋を架けた魔法使いであることを見抜かれたが、提督も自らが魔法を用いた事実を認め、互いに敬意を交わした。また、ロックディは指揮官であるモンラシューを守るため魔法を放った経緯を語った。
涼はロックディに「スージェー王国の落としどころ」について尋ね、提督は「切り捨ての可能性」について仄めかしたが、最終的にそれは虚偽であると認めた。
護国卿カブイ・ソマルへの忠誠と人物像
ロックディ提督は、スージェー王国の新体制を築いた護国卿カブイ・ソマルについて、深い尊敬と忠誠の念を示した。提督にとっては命を捧げるに値する存在であり、涼もその心情に共感を示した。
涼とアベルの会話から浮かび上がる政体論
戦後の読書と雑談の中で、涼とアベルは王政・共和制の違い、君主制の理想と現実について語り合った。イリアジャ姫がスージェー王国で民衆や軍に人気があった背景や、反乱前後の王政内部の腐敗が言及され、涼は共和制の可能性と難しさについて考察した。
イリアジャ姫の命の扱いと真の狙いの疑念
涼は、戦闘中にイリアジャ姫が魔法や遠距離攻撃の標的にされなかったことに着目し、「生け捕り」が本来の目的であった可能性を指摘した。公開処刑など象徴的手段による権威誇示が想定される中、アベルはそのような残酷さに嫌悪を示した。
移送艦隊の都ワンニャ到着
戦闘から二十一日後、移送艦隊はコマキュタ藩王国の都ワンニャに到着した。戦闘後に大きな問題は発生せず、目的地に無事到達した。
王都ワンニャ
軍港への到着と見送りの場面
移送艦隊のバシュテーク号は、都ワンニャの広大な軍港に到着した。イリアジャ姫は船員や海兵たちに見送られながら上陸し、バンソクスやダオ船長、アベル、涼らに感謝の言葉を述べた。彼女は今後の不安を口にしつつも、再会の可能性を尋ね、二人はそれを肯定的に受け止めた。
商会での報酬と滞在手配
アベルと涼は、バンソクスとダオ船長に連れられて、蒼玉商会ワンニャ支店を訪問した。支店長バントンは若きながらも有能な人物であり、護衛任務の完全成功により、報酬は一人金貨三百枚と倍額支払われた。さらに、大陸渡航までの間、宿泊や生活支援も蒼玉商会によって全面的に手配されることとなった。
渡航延期の事情と情勢変化
大陸渡航の時期について、支店長バントンから説明があり、南端のゲギッシュ・ルー連邦で内戦が発生したことが判明した。そのため、商会としても状況を見極めた上で、渡航の判断をすることになると伝えられた。
コマキュタ藩王国の政治的動揺と会議
一方、コマキュタ藩王国では、イリアジャ姫の処遇を巡って御前会議が開催されていた。姫の亡命受け入れと、その後の襲撃事件、さらには捕虜となったロックディ提督の存在によって、会議は混迷を極めていた。カブイ・ソマルの意志の強さとスージェー王国の再興を予感させる行動に、藩王国は慎重な対応を求められていた。
官僚ドスナジの憂慮と現実
会議に参加していた外務省第五次官ドスナジは、省庁内の無関心と責任回避に失望していた。スージェー王国南部を担当する立場から、かつての異常事態を察知しようと試みたが、中央官僚からは黙殺された経緯があった。国の将来と官僚制度の機能不全に危機感を抱いていた。
護国卿カブイ・ソマルの電撃訪問
会議の最中、藩王付き侍従長が持ち込んだ報により、スージェー王国護国卿カブイ・ソマルが都ワンニャに到着し、藩王への拝謁を求めていることが明かされた。この突如の来訪により、会議は騒然とし、参加者全員が「何をしに来たのか」という疑念に包まれたまま、緊張の度を高めていくのであった。
護国卿カブイ・ソマル、謁見に現る
コマキュタ藩王国王宮にて、スージェー王国の護国卿カブイ・ソマルが謁見に臨んだ。彼の目的は、移送艦隊との武力衝突の処理と、イリアジャ姫の身柄引き渡し交渉であった。コマキュタ藩王国側は姫の扱いを保留すると答え、交渉の余地を残した。カブイ・ソマル一行は王宮近くの高級宿『平和の海亭』に投宿した。
『蒼玉亭ワンニャ』での滞在と不思議な再会
アベルと涼は、蒼玉商会が運営する宿『蒼玉亭ワンニャ』で贅沢な滞在を楽しんでいた。宿の大浴場やカフェは高級感に満ち、彼らは心から満足していた。そんな中、二人は商港に停泊する一隻の船を目にし、驚愕する。それはかつてナイトレイ王国で建造され、消息を絶った「レインシューター号」であった。船は現在、スージェー王国に接収され「ブラルカウ号」と呼ばれていた。
船の真相を探るための奔走
レインシューター号の持ち主と接触を試みるため、涼は『平和の海亭』を訪ねるが、守備兵からは詳細を聞き出せなかった。その後、蒼玉商会ワンニャ支店を訪ね、護国卿が宿泊しているとの情報を得る。アベルと涼は、艦隊戦の影響やイリアジャ姫の問題が交渉の核心であることを再確認した。
自己紹介の“奇策”と相手の反応
涼は「護国卿が来たのはアベルのせいだ」とあえて叫び、注意を引こうとする大胆な策を取った。その言葉は護国卿カブイ・ソマルの耳に届き、「アベル」「レインシューター号」という名前に反応を示す。副官ナルンに調査を命じ、ロックディ提督への情報収集を進めた。
ゴラン監獄での密談と情報収集
その夜、ロックディ提督の独房にはスージェー王国側の訪問者が現れた。彼は、艦隊戦の詳細とアベル・リョウの能力について報告を受ける。特に、涼による二百メートルの氷の橋の魔法構築と、アベルの剣術によるモンラシュー司令の撃破が強調され、二人の脅威度が高く評価された。
コマキュタ王宮、混迷する会議
王宮では連日の会議が続いていたが、藩王の体調不良により混迷が深まっていた。イリアジャ姫の処遇と、カブイ・ソマルの面会希望についての議論が繰り返されるが、結論は出なかった。
その最中、スージェー王国海軍がコマキュタ藩王国国境に艦隊を展開し、その規模は四百艦に及んだ。これは圧力を加えるための“押し”の一手であり、会議は騒然となる。
カブイ・ソマルの関心と方針
夜、カブイ・ソマルはナルンからの報告を受け、アベルとリョウが蒼玉商会の「特別な客」であることを知った。両名の実力に強い関心を抱きつつも、当面の最優先事項はイリアジャ姫との面会であるとし、翌日の再参内を決断するのであった。
朝の手紙とイリアジャ姫からの招待
涼とアベルは、宿「蒼玉亭ワンニャ」での朝食の美味に満足していた。その折、イリアジャ姫からの手紙が届けられる。手紙には、大陸から仕入れた茶葉を用いた茶会への誘いと、相談したい事柄がある旨が記されていた。二人は姫のもとを訪ねる決意を固め、王宮の迎賓館へと向かった。
迎賓館での再会と厳重な警備
迎賓館は非常に厳重な警備体制が敷かれており、二人はその警戒ぶりに驚きを隠せなかった。だが、案内に従い姫のもとに通されると、イリアジャ姫は変わらぬ様子で彼らを迎えた。テラスでのお茶会では、多島海地域の伝統菓子「カエルプラ」と香り高い緑茶が振る舞われた。
カブイ・ソマルからの面会申し入れ
お茶会の途中、姫にカブイ・ソマルからの面会要請の手紙が届く。イリアジャ姫は了承し、二人にも会談の同席を求めた。姫の震える手に気づいた涼は、家族を奪われた姫の心情を思いやり、同席を快諾する。アベルもそれに続き、二人は護衛として会談に立ち会うこととなる。
謁見とカブイ・ソマルの真意
カブイ・ソマルが現れると、姫は毅然と応対し、彼の「一対一での会談」要望を断った。彼は、姫を女王として擁立することが自らの使命であると語り、その行動の背後にあったのが、亡き国王の「勅命」であったことを明かす。彼は王命の証である書面を姫に渡し、全てが王の意志によるものであったと主張した。
スージェー王国王家壊滅の真相
カブイ・ソマルは、王太子が外国勢力と通じて国王を害し、その混乱の中で他の王族が暗殺されたと説明した。アティンジョ大公国が背後にあり、彼らの狙いは王太子の遺児ジョルトを王位に据え、摂政となる王太子妃ライナを通じてスージェー王国を支配することであったと語る。
イリアジャ姫の決断と盟約
話を聞き終えたイリアジャ姫は、国王の勅命と国家の現状を受け入れ、自らが女王となって国に戻る決意を固める。そして、カブイ・ソマルに支援を求めると、彼もまた忠誠を誓った。姫はさらに、アベルと涼にも同行を願い出る。二人は一度は逡巡するが、最終的には「戦友」として姫を助けることを誓った。
スージェー王国帰還への準備と策略
姫の帰還には、亡命先であるコマキュタ藩王国の承認が必要である。しかし、姫は半ば人質同然の立場にあるため、簡単には許可が下りないと見られていた。これに対しカブイ・ソマルは、タカ派のグス提督を利用して、「出て行け」と言わせる策略を講じる意向を示した。
帰還
出航準備と別便手配
イリアジャ姫と共にスージェー王国へ戻ることを決めたアベルと涼は、蒼玉商会ワンニャ支店で出航準備を整えた。姫と行動を共にする百人の支持者のうち、近衛兵十名が姫と共にレインシューター号に乗船し、残りは蒼玉商会の手配する別便で送還されることとなった。
グス提督の“追放工作”と行政論
カブイ・ソマルは、イリアジャ姫と自身の「国外追放」という名目での出発を実現させるべく、藩王国の高官を巧みに動かして手続きを完了させた。アベルはその手際を評価する一方で、自国ナイトレイ王国への外部干渉の可能性と、行政の理想について涼と語り合った。
船上での再会と「レインシューター号」の由来
レインシューター号に乗り込んだ涼とアベルは、その設計と由来をカブイ・ソマルと確認し合った。この船は元来ナイトレイ王国が建造し、海洋調査中に消息を絶ったものだった。海賊に奪われたのち、スージェー王国に接収され、現在に至る。涼はこの船を「船の女王」と称し、その価値と尊厳を重んじた。
国境突破と敵船襲来
国境間近で、ゴーウォー船五隻が航路を塞ぐように出現した。それらは魔法使いによる遠距離砲撃を搭載しており、国籍旗を掲げない「海賊」とみなされる存在であった。カブイ・ソマルは強行突破を検討するが、涼は船体損傷を拒み、自ら防衛を志願した。
涼による防衛魔法の発動
涼は「複層氷(ヘアイスウォール)」によって船を堅牢に保護し、「動的水蒸気機雷(アクティブ)」で移動中の防衛機構を展開。さらに「アイシクルランスシャワー“扇”」を用いて船のみを精密に破壊し、敵兵には被害を与えず全艦を撃沈させた。これは、レインシューター号を守るという彼の強い執念の表れであった。
英雄視される涼と海戦の終結
無傷で戦場を離脱したレインシューター号に乗員たちは安堵し、カブイ・ソマルは深く感謝の意を表した。イリアジャ姫も涼の功績を称え、涼は「船の女王レインシューター号の伝説の一頁を刻んだ」と語った。伝説は、船を守るという強い意志と魔法の力によって成し遂げられたものであった。
王都の熱狂とイリアジャ姫の帰還
スージェー王国の王都ピューリでは、イリアジャ姫の帰還と女王即位の噂が急速に拡散され、港は民衆の歓声で満ちた。四百隻の艦隊を従えて帰還した姫は、民に圧倒的な歓迎を受け、女王としての期待が高まっていた。涼はこれを見て「プロパガンダ」と評しつつも、姫の人望と正当性に感銘を受けた。
王城の生活と東屋での安寧
イリアジャ姫は王城内の「白の離れ」に居を構え、アベルと涼は付属する東屋に宿泊することとなった。設備は豪華で、侍女たちも丁寧な対応を見せた。二人は高品質なコーヒー「ケンジャ」を味わい、平穏なひとときを過ごす。
謀略の影とアティンジョ大公国の介入
アティンジョ大公国大使館では、ズルーマとプラボがイリアジャ姫の帰還と失敗した襲撃を嘆いていた。彼らは王太子妃ライナを操ることで、ジョルトを擁立し王国を掌握する計画を推進していたが、現場の不手際に苛立ちを見せた。姫の排除は即位前に完了させるつもりであった。
イリアジャ姫の警護と毒物講習
アベルと涼には姫の警護が任され、城内でも丁重な扱いを受けていた。毒物対策として、治癒師ボイズナンによる講義が行われ、シュリンやチリルカリルといった致死毒の特徴と対策が教えられた。シュリンの毒はカブイ・ソマルがかつて中毒したもので、致命的な危険性を持っていた。
残された謎と迫る陰謀
涼はジュビジュビの毒を試験目的で入手し、さらなる研究に着手。カブイ・ソマルは副官ナルンから、大公国籍の船が王太子宮にシュリンの毒を運び込んでいたという報告を受け、王太子妃とアティンジョ大公国の結託を疑った。また、故国王の体内からチリルカリルの毒が検出されたことも明らかとなり、毒による病死の疑惑が浮上した。
即位式を前にした緊張
イリアジャ姫の即位式は四日後に迫っており、貴族たちの到着と共に、王都では何らかの動きが起きることが予想されていた。涼は姫の寝室全体を氷の壁で防御する措置を講じ、カブイ・ソマルも二人の存在を姫の「秘めた力」と評した。誰もが、次に起きる事態に備えていた。
王太子妃からの招待と毒の懸念
即位式の準備中、イリアジャ姫のもとにライナ王太子妃からの招待状が届いた。これを受け、イリアジャ、涼、アベル、カブイ・ソマルらは対策を検討した。毒の可能性が高いと判断し、涼は姫に不可視の防御魔法《アイスアーマーミスト》を施した上で、毒を無効化する策を講じた。
王太子宮での毒酒と涼の介入
王太子宮では、ライナ妃がイリアジャ姫に毒入りの酒を勧めた。涼は絶妙なタイミングで介入し、姫の盃を自らの特異体質によって無毒化した。ライナ妃は毒の効果が発現しないことに焦燥し、事態の流れを完全に読み違えていた。
呪法による襲撃と防衛戦
突如、窓から石の槍が射出されるという襲撃が発生。涼は《アイスウォール複層氷》を連続展開して姫と一行を守り抜いた。さらに、「呪符」と思しき紙片による魔術攻撃が加わり、全方位からの石の雨が降り注いだが、これも防ぎ切った。最終的に部屋は崩落し、姫らは辛くも離脱に成功した。
防御魔法の無効化と呪法の脅威
今回の攻撃では、氷の防壁が短時間で崩壊させられるなど、通常の魔法とは異なる現象が見られた。涼はこの現象を、呪符を使う大陸の「呪法使い」の仕業と推測。呪符による遠隔魔法や霊的存在の使役が可能な呪法使いの存在が浮上し、その脅威が認識された。
毒の真相と涼の特異体質
涼は自らの身体が毒を無効化する特性を持つと語り、実際にジュビジュビの毒を用いた実験でアベルを犠牲にして効果を検証していた。イリアジャ姫の杯に毒が仕込まれていた可能性は高いが、涼の対処により無効化されていた。
襲撃者の正体と即位式への懸念
今回の襲撃は、ライナ妃の関与ではなく、第三者、恐らくアティンジョ大公国の呪法使いの仕業であるとイリアジャ姫は判断した。急な招待であったため、襲撃者は内部潜入を諦め、外部からの攻撃に切り替えたと考えられる。次なる襲撃は、日程と場所が明確な「即位式」で起きる可能性が高いと、四人は警戒を強めた。
王太子宮襲撃失敗とズルーマの苛立ち
王太子宮での襲撃失敗を受け、アティンジョ大公国のズルーマ第二書記官は苛立ちをあらわにした。呪法使いプラボの報告によれば、強力な魔法使いの介入により、呪符攻撃は阻止された。ズルーマはイリアジャ姫を警戒し、次なる一手として即位式での暗殺計画を再確認した。
大陸への異動と暗殺部隊の配備
ズルーマは、大公からの勅命により大陸への異動を命じられた。仕上げのための最終段階に向かうためである。後を任されたプラボには、「黒装束」と呼ばれる暗殺部隊十人が託され、即位式での暗殺任務の遂行を厳命された。プラボ自身の生存は最優先とされ、失敗は許されぬ状況となる。
呪法対策のための学習と準備
涼はカブイ・ソマルに提案し、呪符・呪法の専門家として治癒師ボイズナンの指導を受けることとなった。涼は知識を吸収することに喜びを感じつつ、イリアジャ姫を守るため真剣に学習を進めた。さらに、イワシ型の海魔から得た青い魔石を用い、錬金道具の制作を開始する。
魔力線の乱れと呪符の効果分析
アベルの問いかけにより、涼は王太子宮で起きた《アイスウォール》崩壊の理由を明かした。それは魔法制御の奪取ではなく、「魔力線のずれ」によるものだった。呪符が魔力供給の方向をずらし、魔法の制御が失われる現象であった。この対策として、魔力供給源と防御対象を密着させた錬金道具の開発が進められた。
即位式に備えた新たな防御策
涼は、魔法式を錬金道具に写し込み、姫に密着させることで、呪符の干渉を最小限に抑える新戦術を計画した。即位式ではアベルと涼は来賓席に座るため、姫に直接防御魔法を施すことはできない。そのため、独立型の錬金装置を用いた防御が鍵となる。
正装準備と式典への緊張感
アベルと涼には式典用の衣装が用意され、アベルは格式高い正装に、涼は妖精王から授かったローブで臨むこととなった。いよいよ迫る即位式に向けて、準備は最終段階を迎えつつあった。
即位式
即位式前の朝と防御準備
女王即位式当日の朝、涼とアベルはイリアジャ姫不在の中で朝食を共にしていた。王の霊的象徴性から、即位者は当日の朝食を摂らないという慣習があるためである。涼は即位式に備えて、姫に贈るブレスレット型の防御用錬金道具を完成させた。このブレスレットには、姫の身を氷で包み守る《アイスアーマーミスト》が組み込まれていた。
謀略の背景と大陸勢力の意図
アベルと涼は、王太子妃ライナとジョルト王子を擁立するアティンジョ大公国の意図について議論した。即位妨害の動機は、スージェー王国の混乱を通じて、多島海地域から大陸南部の戦争への介入を防ぐためと推察された。スージェー王国の強化は、ゲギッシュ・ルー連邦や大公国の都合に合わないため、妨害工作が繰り返されていると結論付けられた。
女王即位式と襲撃の開始
正午、王城の「大謁見の間」にて、イリアジャ姫の即位式が挙行された。姫が赤絨毯を進む中、突如として短剣が襲来し、《動的水蒸気機雷》によって阻止された。続いてストラゴイもどきのような不死の存在と、死霊の騎士が多数出現し、会場は混乱に陥った。
暗殺者との接触と三人の活躍
近衛騎士の護衛を突破した三名の黒装束が姫を襲撃するも、アベル、カブイ・ソマル、そして涼がそれぞれを一瞬で撃退した。涼はその直後、会場上部に多数の呪符が展開されていることを発見。これらの呪符は空間を歪ませており、魔法の効果が届かなかった。
怪物の降臨と氷の封印
天井に設置された霊符から死霊や魔物が出現し、涼は《ウォータージェット》や《パーマフロスト》を駆使して怪物を凍結。さらに《フローティングマジックサークル》による魔法陣を展開し、天井全体を氷の世界に変え、生み出される怪物を封じ込めた。
呪法使いとの決戦とアベルの捕縛
涼は呪符で守られた白仮面の呪法使いプラボと対峙し、アベルは突如現れた呪符の罠により石棺に閉じ込められた。涼は「魂の響」を通じてアベルの無事を確認し、再び冷静さを取り戻した。
呪法への対応と勝利の瞬間
涼は白仮面の動揺を誘発し、氷の槍で足を封じ、呪符による防御を突破。《ウォータージェットスラスタ》を用いた奇襲で白仮面を気絶させた。その後、呪符や霊符が突然自動的に剥がれ、空中で燃え尽きるという現象が発生し、異変の終息が確認された。
護送中の死亡と即位の決断
捕らえられた白仮面の呪法使いプラボは護送中に謎の炎によって死亡し、すべての証拠が消失した。イリアジャ姫はなお即位を強行することを宣言し、式は成功裏に完了した。
謀略の残滓と今後の動向
事件後、アベルと涼は、謀略による支配と抵抗の構図を再認識しつつ、今後の大陸への移動を「自由都市クベバサ」経由で行うことを決定した。カブイ・ソマルからは、三週間後に出航する中央海軍の戦闘艦が用意されていると告げられた。
女王との日々と涼の執筆活動
即位後、イリアジャ女王はたびたび涼とアベルのもとを訪れ、また二人をお茶会に招いた。三人は穏やかな時間を共有し、涼は一時的に謎の執筆活動に没頭した。その内容は当初伏せられていたが、後に明らかとなる。
王の孤独とアベルの信条
ある日、イリアジャ女王が「王は孤独か」と問うた。アベルは、王を家長に喩え、民を家族と見なすことで孤独ではないと答えた。その信念に、イリアジャ女王は深く共鳴し、自らの王としての覚悟を新たにした。
出発の準備と贈り物の数々
出航日が近づく中、涼とアベルには王国からさまざまな贈り物が贈られた。涼には、彼が執筆した『そんなアベルは、腹ペコ剣士』の原著が出版され、初版本としてアベルに手渡された。さらに、王室禁書の写本『錬金術の深』が贈られ、涼は大いに感激した。
一方アベルには、まず涼著の小説が贈られた後、王国からの正式な礼として高品質な短剣が与えられた。これは涼の提案によるものであり、冒険者時代を知る彼の配慮が込められていた。
女王の見送りと正体への確信
涼とアベルは中央海軍の遠洋巡航艦に乗って出航した。港では、イリアジャ女王とカブイ・ソマル護国卿が最後まで見送った。その際、護国卿は涼とアベルに王国残留を打診したが、イリアジャ女王は「あの二人はこの地に留めることはできない」と明言した。
さらにイリアジャ女王は、アベルこそがナイトレイ王国国王「アベル一世」、涼こそが同国筆頭公爵「ロンド公リョウ・ミハラ」であることを確信していた。吟遊詩人の詩の中で語られる「水の魔法で十万の大軍を打ち破る魔法使い」の描写が、涼の力と一致していたからである。
希望と別れ
イリアジャ女王は、「いつかまた、一人には会える気がする」と静かに呟き、旅立つ二人を見送った。スージェー王国での使命を終えたアベルと涼は、次なる地、自由都市クベバサを目指して、再び動き出したのである。
エピローグ
白き空間の管理者
舞台は、すべてが白に包まれた世界。そこには、「ミカエル(仮名)」と呼ばれる存在がいた。彼は日常的に複数の世界の管理を行っており、その手元には操作端末となる石板があった。
三原涼の動向確認
ミカエル(仮名)は石板を通じて、三原涼が多島海地域に到達したことを確認した。彼はスペルノ──人々が「魔人」と呼ぶ存在──との接触を懸念しながらも興味を抱いていた。過去の接触から、彼らと関わることで起こる影響を理解していたためである。
新たな出会いへの期待
涼がこれから出会う存在について、ミカエル(仮名)は中央諸国や西方諸国にはいない「珍しい者たち」であると認識していた。彼は、それらとの邂逅によって涼が何を感じ、どう変化していくのかに興味を持っていた。
地球との断絶と微笑
ミカエル(仮名)は、すでに地球とはあらゆる点で異なる世界に適応している涼に対し、今さら驚くこともないかもしれないと独りごちた。そして、次なる運命の交差点を見届けるかのように、穏やかに微笑んでいた。
同シリーズ














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