どんな本?
『水属性の魔法使い』は、久宝忠による異世界ファンタジー小説である。主人公・涼が水属性の魔法を駆使し、異世界での冒険を繰り広げる物語である。
主要キャラクター
• 涼:異世界に転生した青年で、水属性の魔法使い。マイペースな性格でありながら、卓越した魔法の才能を持つ。
• アベル:涼の仲間であり、天才剣士。涼との出会いをきっかけに、共に冒険を続ける。
• セーラ:涼の仲間で、エルフの女性。高い戦闘能力と知識を持ち、涼をサポートする。
物語の特徴
本作は、異世界転生や魔法、冒険といった要素を中心に展開される。主人公・涼のマイペースな性格と圧倒的な魔法の実力が、物語にユーモアと爽快感を与えている。また、仲間との絆や成長、各国の陰謀や戦争など、多彩なストーリーラインが魅力である。
出版情報
• 出版社:TOブックス
• 書籍版発売日:2023年7月20日
•ISBN:9784866999005
• コミカライズ:墨天業による漫画版が『comicコロナ』にて2021年9月より連載中
• アニメ化:2025年7月よりテレビアニメ放送予定
読んだ本のタイトル
水属性の魔法使い 第一部 中央諸国編7
著者:久宝忠 氏
イラスト:めばる 氏
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あらすじ・内容
新しい必殺技を作ろうと試行錯誤する涼のもとに、とんでもないニュースが飛び込んできた。
「帝国軍7,000、王国北部の国境を侵犯」
慌てる涼とは裏腹にアベルは冷静だ。このくらいの小競り合いはよくあることらしい。
いつも通り王国軍20,000が即座に布陣するが……王弟レイモンド率いる北部貴族すべてが敵に寝返ってしまう事態に!
しかもその勢いのまま王国領へ侵攻! 王都クリスタルパレスもわずか一日で陥落してしまった。
このままでは帝国の属国になってしまう。王子【アベル】の身も危ない。
仲間と国を守るため、侵略者を一網打尽へ!
「僕らで玉座を取り戻しましょう!」
決戦の地・ゴールドヒルへいざ出陣!
感想
【第一部 中央諸国編7】の出来事は以下の通り。
- 涼とアベルの技術開発
涼は独自の水属性魔法「動的水蒸気機雷」を改良し、新技「らくりま・アベルー」を発表した。これは相手の脛に氷をぶつける攻撃技である。 - 冒険者ギルドでの交渉
涼とアベルは冒険者ギルドを訪れ、シェナの針技術を学ぶため「アベルの訓練提供」を条件に協力を得た。 - フェルプスとの模擬戦
アベルは魔槍ゲイボルグを使うフェルプスとの模擬戦で苦戦し、槍士の強さを体感した。 - シェナからの針技術習得
涼はシェナから針技術の基礎を学び、集中力を活かして短期間で進歩を遂げた。 - チェスとアベルの心情
模擬戦後のチェス対局で、アベルは自身の王位継承に対する不安と覚悟を語った。 - 針技術の実践と成果
涼は針技術をアベルで試し、習得を確立したことでフェルプスらからも才能を評価された。 - 政務院の命令とリウィアの葛藤
リウィアは空中機動船団排除を命じられるが、不満を抱えながらも命令を受け入れた。 - 王都陥落と帝国軍侵攻
王太子の死を契機に王都が陥落し、帝国軍は王国全域への進攻を進めた。 - エルフの抵抗とセーラの活躍
西の森での戦闘でセーラが帝国軍を圧倒し、エルフたちを救った。 - ランシャス将軍の敗北
ランシャス将軍はセーラに敗北し、帝国への使者として派遣された。 - 王弟レイモンドの即位
王都で王弟レイモンドが即位を強行し、新たな国王として権威を確立した。 - 南部でのアベルの即位準備
アベルは南部で即位式の計画を進め、市民への広報を意識した演出案を検討した。 - 魔法と科学の融合
涼はイラリオンと無属性魔法について議論し、重力と魔法の関係を探求した。 - 即位式の演出計画
涼はアベルの即位を印象づけるため、空中投影や音響魔法の利用を提案した。 - セーラ不在による涼の変化
セーラが西の森へ向かった後、涼の日常は規則性を失い、喪失感と迷走が見られた。 - アベルとの掛け合い
涼はアベルの執務室で独創的な提案を行うも、アベルに却下されるやり取りが続いた。 - 新たな役割と目的の発見
涼はルン辺境伯からアベルの護衛と精神的支えを依頼され、さらにルン騎士団の指導を引き受けた。 - 氷の鎧と剣ダコ
涼はアベルの安全のため「アイスアーマー」を提案したが却下され、自らの剣士としての誇りを再確認した。 - エルシーの到着と協力
王都から逃れてきた風属性魔法使いエルシーが、艤装計画に参加し重要な役割を果たした。 - 反乱者と白髪の剣士
王都陥落後、反乱者たちは帝国軍の物資集積所を破壊しながら逃走するが、「爆炎の魔法使い」と推測される白髪の剣士に遭遇した。 - オスカー副長の決断
白髪の剣士オスカーは反乱者を見逃し、皇帝魔法師団は王国東部へ進発した。 - 王弟レイモンドの即位計画
レイモンドは国民の安心を理由に即位を急ぎ、かつての癇癪持ちから冷静な王子へ成長した姿を見せた。 - 連合のランス地域侵攻
オーブリー卿は王国政府の混乱を突き、ランス地域の統治権確立を目指した。 - 帝国の影響と連合の危機感
帝国が北部貴族の裏切りを誘導した可能性を連合が推測し、迅速な対応を進めた。 - アベルとレイモンドの対立
南部を基盤とするアベルと北部を掌握するレイモンドの勢力対立が鮮明化した。 - アベルの即位準備
南部で即位式の計画が進み、風属性魔法を活用した広報戦略が検討された。 - 涼とイラリオンの魔法議論
涼とイラリオンは無属性魔法「反重力」の仕組みについて議論を深めた。 - 即位式の演出計画
涼はアベルの姿を空中に投影する案を提案し、即位式を印象的に演出する戦略を練った。 - 反乱者の避難と情報交換
反乱者たちは大使館に避難し、次の行動計画を議論した。 - 帝国軍撤退とアベルの判断
アベルは国民の参加意識を重視し、涼の提案を却下して解放戦争の意義を貫いた。 - ゴールデン・ハインド号の登場と初航行
新型空中戦艦「ゴールデン・ハインド号」が披露され、涼とアベルがその初航行に参加した。 - 初陣と帝国艦隊との戦闘
初航行直後に帝国艦隊と交戦し、ゴールデン・ハインド号は高度な錬金技術で圧倒的優位を示した。 - 艦内の緊急通信と新たな展開
北方での新艦隊接近の報告を受け、さらなる戦闘準備が進められた。 - ゴールデン・ハインド号と敵艦隊の激突
帝国艦隊との接近戦を展開し、敵旗艦を突撃・撃破する戦術を成功させた。 - ゾラ司令官との停戦交渉
敵旗艦に突入したアベルがゾラ司令官と交渉し、停戦に成功した。 - 帝国の策略と黒い粉の利用
デブヒ帝国は黒い粉を戦略物資として利用しつつ、反皇帝派貴族の勢力を瓦解させた。 - 解放軍出陣とゴールド・ヒル会戦
アベル王率いる解放軍がレイモンド軍を破り、ナイトレイ王国解放戦の大きな転機を迎えた。 - 王都攻略作戦と地下通路の使用
王都攻略に際し、地下通路を利用して王城への侵入と国王スタッフォード四世の救出を目指した。 - レイモンド王の自決と王位継承
レイモンド王が自決し、アベルが正式に王位を継承した。 - 王都解放祭と新王の披露
王都解放後、解放祭を開催し、アベル王が新政権の正当性を強調した。 - ビシー平野での帝国軍との決戦
解放軍と帝国軍が激突し、涼とオスカーが壮絶な戦闘を繰り広げた。 - 涼の勝利と戦争の終結
涼がオスカーに勝利し、王国と帝国の戦争が停戦に至った。 - 帝国の評価とフィオナとの婚姻計画
帝国皇帝が涼の実力を警戒しつつ、オスカーと皇女フィオナの婚姻を計画した。 - 涼の公爵任命と新たな挑戦
涼が筆頭公爵に任命され、新たな冒険と研究の自由を得た。 - 王国の新たな時代
アベル王の下、平和と再建に向けた王国の新たな時代が始まった。
総括
本巻は戦闘や策略が絶え間なく続く、緊張感あふれる内容である。特に、涼の怒りが爆発する場面や、アベルの即位に至る過程が見どころとなっている。浮遊大陸「元老」の命令による帝国機動船団排除や、王太子の死をきっかけとした王都陥落の描写は、物語のスケールを大きく広げていた。また、主人公たちが戦場で繰り広げる熾烈な戦いの中で、それぞれの成長がしっかりと描かれている点が印象的である。
涼が発動する水属性魔法の数々や、敵を圧倒する場面は爽快感に満ちている。特にゴールデン・ハインド号の初陣での戦闘シーンや、ビシー平野での壮絶な戦いは迫力があり、読者を引き込むものであった。
アベルと涼の信頼関係や、それを取り巻く仲間たちの絆も深く描かれ、単なる戦争物語以上の温かさを感じさせる。また、オスカーとの対決では、涼の理論に基づく戦闘スタイルが独特であり、科学的な要素が魔法と融合している点が新鮮であった。
次巻では、涼が帝国皇帝との新たな旅に挑むとのことで、これからの展開が非常に気になる。シリーズ全体としての大きな伏線も張られており、物語の先を想像する楽しみが尽きない一冊であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ
魔法使いと剣士の新たな技術開発
涼とアベルは、涼の広大な庭で新しい技術を試みていた。涼は五分前に開発したという〈動的水蒸気機雷〉の改良点を説明し、続けて新技〈らくりま・アベルー〉を発表した。この技は相手の脛に硬い氷をぶつけるもので、アベルの涙を誘発することを狙った命名であった。剣士であるアベルにはこの技の真価が理解しにくかったが、涼の情熱に圧倒されていた。
針技術を巡る冒険者ギルドの訪問
涼はアベルとともに冒険者ギルドを訪れ、シェナの「針」の技術を学びたいと申し出た。シェナは「白の旅団」の副団長であり、涼とアベルには未知の技術を持つ凄腕の冒険者であった。二人はシェナとフェルプスの協力を得るため、「アベルを訓練に差し出す」という条件で交渉を成立させた。
フェルプスとの模擬戦
アベルはフェルプスと模擬戦を行った。フェルプスが使う魔槍ゲイボルグは圧倒的な速さと力を誇り、アベルは間合いを攻略するのに苦戦した。剣士としての経験を活かしつつも、槍士の攻撃に対処する難しさを実感した。
シェナの針技術の指導
涼はシェナから針技術の指導を受け、深夜まで訓練を続けた。針の技術は細かく精密な動作を要求するものであったが、涼は持ち前の集中力と柔軟な思考でその基礎を習得した。シェナは涼の才能を高く評価し、さらなる指導を約束した。
チェスとアベルの心情
模擬戦後、アベルとフェルプスはチェスを指しながら語り合った。アベルはチェスの戦術に自らの心情を投影し、次期王位継承への不安や覚悟を示していた。フェルプスは、アベルにとって涼が対等な関係でいられる貴重な存在であると感じていた。
帰還と針技術の実践
翌朝、涼とアベルは「白の旅団」の屋敷を後にし、針技術の習得を祝った。帰宅後、涼はアベルを実験台にして針の練習を重ね、その成果を着実に自分のものとした。フェルプスとシェナは、涼の未知の才能に改めて興味を抱いていた。
政務院での命令とリウィアの葛藤
巨大なテーブルを囲む九人の政務院メンバーは、リウィアに副司令官就任を命じた。デブヒ帝国の空中機動船団を排除する作戦への従事を命令されるも、リウィアはその不満を隠しきれなかった。しかし、政務院の命令である以上、反論は許されず彼女はこれを受け入れた。
ゾラ司令官との対面と作戦内容の確認
ゾラ・パラス司令官との初対面で、リウィアは彼女が直接リウィアを幕僚として推薦したことを知らされた。今回の作戦では、空中機動船団を全面的に排除し地上への圧力を強める意図があることが説明された。この行動の背景には、目覚めた「元老」たちの地上人支配への強硬な思想が影響していた。
浮遊大陸の戦力と作戦の規模
作戦に投入される艦隊は、マルス級20隻、ユピテル級2隻、そして旗艦テラ級1隻という大規模な編成であった。リウィアはこの動きが地上との新たな戦争の幕開けを意味すると理解し、浮遊大陸の政治的な思惑に嫌気を覚えていたが、副司令官としての責務を果たす覚悟を決めた。
ナイトレイ王国の冒険者たちの動向
ナイトレイ王国北部では、「明けの明星」と呼ばれる冒険者パーティーが王都への帰還命令を受けた。彼らはこれまで地方での調査任務をこなしていたが、報酬や王都への期待からその命令を喜んでいた。一方、同じく北部に潜入していた「白の旅団」の四人は、王弟レイモンドの裏切りを証明する情報を掴み、報告手段を模索していた。
五竜との遭遇と激闘
「白の旅団」の四人は、裏切りを報告しようとする中で「五竜」のメンバーと遭遇した。「五竜」は帝国と通じており、圧倒的な実力を持つ剣士サンを中心に四人を圧倒した。「白の旅団」の四人は辛うじて脱出したが、状況は依然として厳しく、追撃の危機に晒されていた。
浮遊大陸と地上人の未来
「元老」たちの影響力が強まる中、地上人との新たな戦争の予兆が浮遊大陸全体を包み込んでいた。リウィアとゾラはそれぞれの立場から状況を見つめながらも、迫りくる混乱に備える必要に迫られていた。
針の特訓と情報交換
『白の旅団』の屋敷では、副団長シェナが水属性の魔法使いリョウに針の技術を教えていた。リョウはその腕前を称賛し、シェナも臨時の弟子としての才能を認めていた。団長フェルプスと剣士アベルは、帝国による「自国民保護」を名目とした武力侵攻の可能性について情報交換を進めた。王国の戦力が不足している現状を憂慮しつつ、北部領主たちの動きや王弟レイモンドの不穏な行動を懸念していた。
王国の戦力と課題
軍務卿エリオット・オースティンが北部領主たちの参戦を促しているものの、その結束には不安が残っていた。財務卿フーカは、領主たちへの褒賞の捻出に頭を悩ませていた。出陣予定の王国騎士団や民兵に加え、宮廷魔法団と第一軍の練度の低さも課題となっていた。帝国軍との練度差を埋めるため、王国は数で対抗する方針を取っていたが、フェルプスとアベルは結果がどうなるか予断を許さない状況であると考えていた。
北部の動向と諜報活動
フェルプスは北部の状況を完全に把握できていないことを認めつつも、情報収集のため『白の旅団』の一部を王弟レイモンドの領地に派遣していた。北部の領主たちの中には、帝国と通じる可能性がある者もいると推測され、その裏切りが戦局に及ぼす影響を警戒していた。
ハインライン侯爵の決意
アクレのハインライン侯爵アレクシスは、フェルプスからの報告を受け、王国の現状に対する危機感を募らせていた。内務卿ハロルド・ロレンスの動きに疑念を抱きつつ、過去の自分の判断が王国の現在の混迷を招いたのではないかと悔いていた。しかし、未来の世代に良い国を残すために行動することを決意していた。
始まり
ギルドでの呼び出しと勲章授与
涼とアベルはギルドマスター、ヒュー・マクグラスに呼び出された。トワイライトランドでの一件は公式記録では「何も起きなかった」とされ、二人には王城から第十等銀勲章が授与された。涼は授与式の簡素さに寂しさを覚えたが、アベルはそれが政治的な意味合いを持つものだと理解していた。その直後、帝国軍が国境を越えたとの報告が入り、戦争の幕開けが予感された。
王太子の死と戦争の開始
アベルは突然倒れ、兄である王太子カインディッシュの死を察知したと語った。彼の優れた思考と問題作成の才能を知る涼は、王太子が名君であったことを感じ取った。一方で、帝国軍は約七千の兵力で侵攻を開始し、これに対抗する王国軍は二万人以上を動員してデスボロー平原に布陣した。
デスボロー平原での布陣と違和感
帝国軍の動きが遅く、王国軍指揮官エリオット・オースティン侯爵は不審に思っていた。宮廷魔法団顧問アーサー・ベラシスもまた、その動きを奇妙と感じ、帝国軍の意図を測りかねていた。北部貴族が動員された王国軍は、士気の統一が課題となっていた。
帝国の策と爆炎の魔法使い
帝国軍のオスカー・ルスカは、寝返りを躊躇する北部貴族を揺さぶるため、〈真・天地崩落〉を使用した。炎の岩が地獄のような光景を作り出し、北部貴族たちは恐怖から王国軍本軍に攻撃を開始した。結果として、王国軍本軍は左右から挟撃され、混乱が広がった。
王国軍の撤退と遅滞戦闘
アーサー・ベラシスと王国騎士団が遅滞戦闘を指揮し、時間を稼いだ。水属性魔法使いナタリー・シュワルツコフも含む数名の奮闘で、多くの兵が脱出に成功した。最終的にアーサーらは大規模な魔法で敵の足を止め、戦場からの脱出を果たした。
敗走後の休息と新たな出会い
デスボロー平原から撤退した王国軍本軍の残党は、ようやく休息を得た。その中で騎士ザックとスコッティーは、宮廷魔法団のナタリー・シュワルツコフと出会った。ナタリーは水属性魔法の名門一族の出身であり、無詠唱魔法を行使する才能を持つとアーサー・ベラシスから称賛された。ザックとスコッティーは彼女の実力に驚愕し、彼女を支えることを決意した。
王都陥落の報告と新たな脅威
その日のうちに、デスボロー平原での敗北と北部貴族の裏切りが王城に伝えられた。しかし、情報は民間に隠され、強い箝口令が敷かれた。同時に帝国軍は進軍を開始し、北部貴族の寝返りにより王都に向けた障害はほぼなくなっていた。一方、王都では内通者による夜襲が行われ、城門が開放されるとともに王城が陥落した。
冒険者ギルドの対応と王都陥落の知らせ
王都冒険者ギルドからルンのギルドに緊急通信が入り、王都陥落がヒュー・マクグラスに伝えられた。ヒューはすぐに南部最大の都市アクレへ連絡を行い、その後アベルにこの情報を伝えた。王都陥落の報せを受けたアベルは、父である国王の安否を案じつつも、王都奪還の決意を固めた。
ルン辺境伯との対話と決意
アベルはヒューとともにルン辺境伯カルメーロ・スピナゾーラのもとを訪れ、王都陥落と王族の安否不明を報告した。アベルは国王として立ち、王都奪還を目指す意志を表明し、辺境伯は全面的な支援を約束した。この場には冒険者セーラと涼も呼ばれ、辺境伯はエルフと王国が結ぶ約定をセーラに伝えた。
セーラの決断と別れ
辺境伯の言葉を受け、セーラは西の森を救うために旅立つことを決意した。涼は彼女を力強く送り出し、「森を守っている間に帝国軍を滅ぼす」と誓った。別れの前、二人は強い絆を確認し合い、セーラは館を後にした。涼とアベルは残された任務に向け、気持ちを新たにしたのであった。
王城制圧と王太子の死
ナイトレイ王国王城にて、帝国軍主席副官リーヌスは怒声を上げた。アリスバール将軍の報告によれば、王太子は数日前に病死しており、王城を制圧した際には既に亡くなっていたという。リーヌスはこの事態に不満を示しつつも、国王スタッフォード四世が確保されていることを確認し、宝物庫への移送を命じた。
英雄の間の扉と国王の鍵
国王が宝物庫「英雄の間」の扉の前に立たされ、扉の認証を試みた。緑色の光が国王を照らしたが、扉は開かなかった。錬金協会最高顧問ハッシュフォード伯爵の検証により、スタッフォード四世が鍵を持っていないことが判明した。これにより、遠征軍の最優先目標である英雄の間の開放は不可能となり、リーヌスは困惑と怒りを露わにした。
英雄の間の秘密と推測
オスカーは宝物庫を後にし、帝国への報告を試みた。その後、ハッシュフォード伯爵と会話を交わし、英雄の間に関する推測を聞いた。伯爵によれば、リチャード王は緊急避難的な機構を用意している可能性が高く、鍵を持つ第三者の存在も考えられるという。この情報にオスカーは興味を示しつつも、伯爵の提案には慎重であった。
英雄の間の防御機構の警告
ハッシュフォード伯爵はオスカーに対し、英雄の間を力で破壊する試みを避けるよう忠告した。伯爵によれば、英雄の間には強力な魔法的防御機構が備わっており、攻撃を加えればその力が反射される可能性があるという。この説明にオスカーは驚き、リチャード王の錬金術の卓越性に改めて感嘆した。
リチャード王の偉大さ
ハッシュフォード伯爵は、リチャード王が錬金術において類稀なる存在であり、帝国の錬金術師をも凌駕する存在であったことを語った。その説明を聞いたオスカーは、リチャード王の業績がいかに驚異的であるかを実感し、英雄の間の秘密に対する理解を深めたのであった。
西の森防衛戦
錬金工房とエルフ自治庁の撤退
オスカーは副官ユルゲンからの報告を受けた。王立錬金工房とエルフ自治庁は既に撤退済みで、貴重な資料や人員も全て持ち出されていた。これは王太子が王都陥落を予見し命じたものであり、彼の知略を示す結果であった。この失敗により「西の森」攻略への影響が懸念される状況となった。
西の森への侵攻
西の森では、帝国第二十軍の襲撃によりエルフ側が甚大な被害を受けていた。大長老ゴリンが戦死し、生き残ったおババ様は中央砦への撤退を指示した。一方、第二十軍はその損害に驚愕しつつも、エルフの抵抗を打破するため作戦を進めていた。
帝国軍の別動隊とエルフの迎撃
ランシャス将軍率いる別動隊は中央砦を急襲しようとしたが、王都から撤退したエルフ自治庁の一行により迎撃を受けた。カーソン長官の指揮の下、エルフたちは奮闘するも、相手の戦力に苦戦を強いられる。帝国軍の援軍が到着する中、状況はさらに厳しくなった。
中央砦の死闘
中央砦では、エルフたちがダウンバーストを駆使し敵の動きを封じていたが、魔力切れにより次第に限界が近付いていた。おババ様は部下たちを叱咤激励し、士気を維持しつつ戦闘を続行。だが、帝国軍の圧倒的な戦力により戦況は悪化していた。
自治庁と帝国軍の拮抗
自治庁のエルフたちは帝国軍の別動隊との激しい近接戦を展開した。敵の高い戦闘能力と人数差により多くの犠牲を出し、カーソン長官は追い詰められた。中央砦の守備も限界に近付いており、勝機を見いだすのは困難な状況であった。
西の森の激戦とランシャス将軍の敗北
帝国軍の劣勢と増援への期待
ランシャス将軍は、自軍の大きな損害に困惑していた。王都帰りのエルフたちとの戦闘で、圧倒的な力の差を実感しつつも、援軍の到着を待ちながら戦闘を継続していた。そんな中、エルフ自治庁のカーソン長官と激しい剣戟を繰り広げることとなった。
セーラの圧倒的な力
一方、中央砦では帝国軍の増援が迫る中、エルフの士気は大きく低下していた。しかし、そこに現れたのがプラチナブロンドのセーラであった。彼女は圧倒的な力で帝国兵を一掃し、千人を戦闘不能に追い込んだ。その姿に、おババ様をはじめとするエルフたちは驚愕し、同時に安堵の表情を浮かべていた。
ランシャス将軍の敗北
カーソン長官との剣戟中、ランシャス将軍の前にセーラが現れた。彼女の攻撃によってランシャスは敗北し、その後捕虜となった。セーラの力を目の当たりにしたランシャスは、自分の敗北と部隊の壊滅を受け入れざるを得なかった。
帝国への使者としての選択
捕虜となったランシャスは、エルフ側から帝国軍への使者として選ばれた。彼には西の森での出来事を報告する役目が課され、抑止力としての役割を果たすことが期待されていた。自らの敗北に苦悩しつつも、家族を守るためランシャスはこの任務を引き受けた。
西の森襲撃の結末
こうして、帝国第二十軍による西の森襲撃は完全な失敗に終わった。セーラをはじめとするエルフたちの奮闘により、帝国軍は壊滅的な損害を受け、ランシャス将軍の敗北とともに戦いの幕が閉じた。
友人として
セーラ不在と涼の日常の変化
セーラ不在による喪失感
セーラが西の森へ向かった後、涼の日常は大きく変わった。それまでの規則正しい生活は崩れ、彼女と過ごしていた時間や活動がなくなったことで、何をすべきか分からず迷走していた。涼は周囲に影響を与えることを避けながらも、時折アベルの執務室で気ままに過ごす姿が見られた。
アベルとの掛け合い
次期国王として多忙な日々を送るアベルの執務室で、涼はその場に居座りつつ冗談を交えながら独特の提案を続けていた。帝国軍や国内の脅威に対する議論の中で、涼は「敵国を凍らせる」や「アベルを氷漬けにする」など大胆かつ独創的な案を出したが、アベルに却下され続けた。
新たな依頼と目的の発見
涼はルン辺境伯から、アベルの護衛を依頼された。アベルの精神的支えとなる友人として、また次期国王を支える存在として期待されていることを聞いた涼は、その役割を引き受ける決意をした。また、アルフォンソ・スピナゾーラとの会話を通じて、涼はルン騎士団への指導を行うことを頼まれ、承諾した。こうして、彼に新たな目的が与えられた。
氷の鎧と剣ダコ
涼はアベルの安全を守るため〈アイスアーマー〉の使用を提案したが、リーヒャの「握手の感動が損なわれる」という理由で却下された。その後、涼は自らの手の剣ダコを見て、剣士としての誇りを再確認した。
エルシーの到着と新たな協力者
同じ頃、冒険者ギルドでは王都から逃れてきたエルシー・フォーサイスが到着していた。彼女は風属性魔法の才媛であり、ルン辺境伯の計画に協力するため、開発工房に加わった。この動きは、『艤装』の計画にとって重要な一歩であった。
王都陥落後の混乱と帝国・連合の動向
反乱者の活動と白髪の剣士
王都陥落後五日、反乱者たちは帝国軍の物資集積所を破壊しながら逃走していた。C級冒険者パーティー『明けの明星』は危険な任務を遂行するが、白髪の剣士に遭遇する。彼は圧倒的な威圧感でパーティーを圧倒し、無抵抗のまま通り過ぎた。この剣士の正体が「爆炎の魔法使い」であるとケンジーが推測したが、彼の存在はパーティーに深い恐怖を刻み込んだ。
オスカーの決断と皇帝魔法師団の動向
その白髪剣士、オスカー副長は反乱者を見逃す決断を下した。治安維持は自身の任務外と見なしたためである。皇帝魔法師団は翌日王都を離れ、次の勅命遂行に向け王国東部へと進発した。その一方で、王都での反乱者の増加が早期の秩序回復を困難にしていた。
王弟レイモンドの到着と即位計画
王弟フリットウィック公爵レイモンドが王都に到着し、即位を急ぐ意向を示した。彼は不安定な国情の中で、早期の即位が国民の安心につながると主張したが、ミューゼル侯爵らはこれを警戒し、即位を遅らせる策を練っていた。一方で、レイモンドの冷静な態度はかつての癇癪持ちの王子からの成長を示していた。
連合の侵攻と王国ランス地域の喪失
その頃、連合のオーブリー卿は王国ランス地域への侵攻を開始した。彼は帝国がこの地域を奪還する可能性は低いと判断し、統治権を確立するための動きを加速させた。この侵攻は、王国政府の機能不全と帝国軍の無関与を突いたものであり、王弟レイモンドもランス地域の放棄を余儀なくされた。
帝国の狙いと連合の危機感
オーブリー卿は、王国北部の全貴族が裏切りに転じた背景に帝国の影響があると考えた。彼は、帝国が王国東部を完全支配する意図を持っていると推測し、侵攻したランス地域に迅速に戦力を配置することを決断した。この情勢は、連合と帝国の間で新たな火種を生む予兆であった。
王国南部と国王即位の動き
涼の報告とアベルの推察
ルン辺境伯の執務室で、涼が東部での連合の侵攻を報告した。レッドポストの包囲は陽動であり、連合の本当の狙いはランス地域であるとアベルが指摘した。『大戦』で王国が連合から割譲されたランス地域を取り戻そうとする動きは予想通りであったが、アベルには兵の救援が叶わない現状が重くのしかかっていた。
王弟レイモンドの即位強行
王都では、王弟レイモンドが北部貴族の支持を得て国王即位を強行した。ミューゼル侯爵らが動揺する中、中央神殿大神官ガブリエルの立会いにより正式に国王として認められた。新国王レイモンドは帝国軍に一週間以内の撤退を命じる布告を発表し、侯爵側の反発を受けながらも北部貴族を背景にその権威を確立した。
南部でのアベルの準備
一方、南部ではアベルが即位準備を進めていた。ハインライン侯爵の報告を受け、レイモンドの即位布告から二日後に自らの即位を布告する計画を立てた。即位式は南部の広場で市民に公開する形式で行われる予定で、街中に声を届ける風属性魔法の活用も検討された。
魔法に関する議論とイラリオンの登場
涼はイラリオンと魔人の魔法について議論を交わした。魔人が使用した無属性魔法による「反重力」現象に興味を示し、重力と魔法の関係性について考察を深めた。イラリオンもまた、そのテーマに関心を抱き、夜遅くまで議論が続けられた。
即位式に向けた新たなアイデア
涼は即位式でのアベルの演出について提案を行った。声を広場全体に届ける魔法の活用や、アベルの姿を空中に投影する案を検討し、即位式をより印象的なものにしようと計画を練った。これらの案はアベルの即位を市民に広く認知させるための重要な戦略であった。
即位式
即位式とアベルの演説
リーヒャによる即位宣言
ルンの広場で即位式が開催され、聖女リーヒャが正装で儀式を取り仕切った。その美しさに民衆は魅了され、冒険者たちも見惚れていた。リーヒャの宣言により、アベルは正式に「国王アベル一世」として認められた。広場中は「アベル」の歓声で埋め尽くされ、民衆の熱狂は街全体に広がった。
アベルの演説と決意
アベルは静まる民衆に向けて、王国の危機と自らの決意を述べた。彼はルンを守り、奪われた平穏を取り戻すため、民衆の力を結集することを呼びかけた。この言葉はイラリオンの魔法により街全体に伝わり、さらなる歓声を巻き起こした。その後、アベルが立つ台が浮上し、多くの民衆の記憶に残る光景となった。
ホープ侯爵家の支持表明
イグニスの説得と決断
西部ホープ侯爵領では、外務省交渉官イグニスが父と兄にアベル王への支持を説得していた。彼の情熱的な弁論により、侯爵はアベルを支持する声明を出すことを決断した。同時に南部のハインライン侯爵やルン辺境伯も支持を表明し、エルフの「西の森」もこれに続いた。
対立する王国の勢力
この支持表明により、北部と中央を掌握するレイモンド王と、南部と西部を支持基盤とするアベル王の対立構造が明確となった。東部は混乱状態にあり、王国は二分される状況に至った。
ウイングストンの陥落
皇帝魔法師団の圧倒的な力
王国東部最大の街ウイングストン近郊では、王国軍七千が皇帝魔法師団九十人と対峙した。戦意を示す王国軍であったが、爆炎の魔法使いオスカー率いる魔法師団の障壁に、矢や魔法、槍のいずれも通じなかった。ガスパー伯爵の奮闘もむなしく、帝国軍は無傷で降伏を迫り、王国軍はついに降伏を余儀なくされた。
シュールズベリー公爵家の苦境
ウイングストンを守るシュールズベリー公爵家は、後継者の若さと混乱により動揺していた。ガスパー伯爵の決断の裏には、公爵家の存続を守るための苦渋の選択があった。
開発工房と涼の探求
工房への興味と許可の取得
ルン領主館内の開発工房に興味を持った涼は、入館許可を得るため奔走した。最終的に辺境伯の直筆による許可を手に入れ、工房への立ち入りが認められた。
巨大な飛行船の発見
工房内では、巨大な飛行船が開発されており、涼はその設計や魔法技術に驚嘆した。この飛行船は、風の魔石を動力とし「ヴェイドラ」を搭載することで戦争において重要な役割を果たす予定であった。
涼の興奮とアベルとのやり取り
涼は飛行船への興味を示し、その性能に感嘆しつつも自分のものにしたいと願望を漏らした。しかし、アベルによって即座に拒否され、その場は笑いと驚きで包まれた。涼の情熱的な姿勢に周囲の人物も感心する一幕であった。
帝国と王国の戦略的対立
アベル王とハインライン侯爵の推測
アベル王とハインライン侯爵は、帝国軍の東部進出について議論していた。帝国軍がストーンレイクからウイングストン、さらにスランゼウイに進出した理由が不明であったが、涼が「黒い粉」という戦略物資が狙いである可能性を指摘した。その可能性を聞き、アベルと侯爵は緊張感を高めた。
東部の不安定な情勢
東部は帝国と王国、レイモンド王、アベル王の各勢力の思惑が交錯しており、特にスランゼウイが戦略的に重要視されていることが明らかになった。ハインライン侯爵は、息子フェルプスを含む信頼できる人材を現地に派遣し、情報収集と備えを進めていた。
カーライルの戦闘と『五竜』
追い詰められた冒険者たち
フリットウィック公爵領の都カーライルでは、冒険者たちが帝国側のエリート部隊『五竜』に追い詰められていた。『五竜』の強大な力に抗うことは困難であり、冒険者たちは土属性魔法使いワイアットの土壁を使い地下に逃走した。逃亡の際、『五竜』の一員であるサンが追撃を試みたが、冒険者たちは下水道に身を隠した。
ヒューの懸念
ルンの冒険者ギルドマスター、ヒューは『五竜』が敵側についていることを知り、厄介な戦力が王国内で暗躍している状況を憂慮した。特に暗殺任務における『五竜』の脅威が大きく、アベル王への影響を懸念した。
レイモンド王と帝国軍の思惑
帝国軍の進軍とレイモンド王の困惑
レイモンド王と右腕のパーカー伯爵は、帝国軍が次々と東部の街を陥落させている状況に困惑していた。特に帝国との協定では領土は王国側に譲渡されると明記されているにもかかわらず、帝国軍が街を制圧し続ける理由が不明であった。
王都での反乱者の活動
一方、帝国軍の駐留地では反乱者による襲撃が相次いでいた。帝国軍が王都を去ることを狙ったこれらの活動は、計画的かつ的確であり、パーカーは次の標的が自分たちになる可能性を危惧した。
アベル王の信頼と影響力
涼の提案とアベル王の行動
涼はアベルに助言を続け、王としての影響力を高める方法を提案した。また、涼の努力がアベルや周囲から高く評価されている様子が描かれた。
アベル王とレイモンド王の比較
パーカー伯爵はアベル王の持つ自然なカリスマ性を羨みつつも、レイモンドを支える覚悟を固めた。レイモンド王の統治への困難が浮き彫りになる中、王国の未来をめぐる両者の対立がさらに深刻化していった。
帝国軍の空中艦隊と王都の反乱者
空中艦隊の出現
王都の空に十隻以上の空中艦が現れ、住民たちを驚愕させた。反乱者のザックとスコッティーも空中艦を目にし、その軍事的優位性を懸念した。これらの船は帝国クルコヴァ侯爵領で開発されたものであるとの情報が、反乱者たちの中心人物であるショーケンに伝わった。彼らは帝国軍が王都を離れるという計画者からの提案書に希望を見出したが、同時に第二段階の戦いに備える必要性を痛感した。
帝国軍の動向
空中艦隊の指揮官アンゼルム提督が王都に到着し、遠征軍総司令官ミューゼル侯爵に南部侵攻の命令を伝達した。これにより、帝国軍は王都を去ることとなった。一方、反乱者たちは帝国軍撤退後の新たな脅威、レイモンド陣営との戦いに備えていた。
反乱者と護衛隊の衝突
隠れ家の襲撃
帝国軍が去った直後、レイモンド陣営の護衛隊が反乱者たちの最大の隠れ家である「南の隠れ家」を急襲した。ザックやスコッティーらは隠れ家の防衛と仲間たちの脱出を指揮したが、多勢に無勢の状況に追い詰められた。その危機を救ったのは、女性のみのC級パーティー『ワルキューレ』であった。彼女たちの奮戦により、護衛隊を押し返すことに成功した。
ハロルド・ロレンス伯爵の死
護衛隊を指揮していたハロルド・ロレンス伯爵は、反乱者たちの反撃で命を落とした。彼を討ち取ったのは冒険者パーティー『明けの明星』の剣士ヘクターであり、この一撃が護衛隊の士気を崩壊させた。隠れ家は焼き払われ、反乱者たちは撤収を余儀なくされた。
新たな避難先と情報交換
ジュー王国大使館への避難
隠れ家から撤収した反乱者たちは、ジュー王国大使館に匿われた。大使館を提供したウィリー殿下は反乱者たちを労い、食事と安全な場を提供した。反乱者たちはそこで情報を交換し、次の行動を計画した。
王都の支援者たち
反乱者たちは、解放された領主や支持者が増えればアベル王の勢力が拡大すると期待していた。一方で、レイモンド陣営が次にどのような手を打つかを警戒していた。反乱者たちは戦いの長期化を覚悟しつつも、アベル王の勝利を信じて行動を続ける決意を固めた。
帝国軍撤退と涼の提案
帝国軍撤退の報告
アベルは帝国軍が王都を去ったという報告書を読んで呟いた。涼はソファーで本を読みながら適当に返事をしたが、突然立ち上がり、驚いたアベルに提案を持ちかけた。しかし、提案が東部派遣であると察したアベルは即座に却下した。涼は抗議したが、アベルの冷静な態度に屈した。
解放戦争の意義
アベルが涼の提案を却下した理由は明確であった。解放戦争とは、国民自身が「自分たちの手で国を取り戻した」と感じることが重要であるからである。涼のような強力な戦力を投入して敵軍を圧倒する戦術は、侵略戦争には適していても、解放戦争では逆効果となる。国民の参加意識を醸成することで、戦後の国民統合と国家運営が円滑になるのだ。
アベルの政治的判断
解放戦争は、単なる戦術や戦略の問題ではなく、戦後を見据えた政略的な判断が求められる。アベルは王として、国を統治するための政治家としての視点をすでに持っていた。そのため、涼の提案を退け、国民とともに戦う道を選んだのである。
ゴールデン・ハインド号
ゴールデン・ハインド号の初航行と戦闘
ゴールデン・ハインド号のお披露目
アベルは新しい空中戦艦「ゴールデン・ハインド号」のお披露目を告げ、涼はその名に興奮した。かつて地球でも使われた「黄金の雌鹿」の名が、この船にふさわしいと感じたからである。開発工房地下格納庫でその全容を見た涼は、アベルと共に乗艦することを即答した。
式典と出航準備
護衛役として涼はアベルの隣に立ち、緊張した面持ちを見せたが、喜びを隠せなかった。式典終了後、開発陣や見守る者たちの拍手の中、ゴールデン・ハインド号は離陸した。領主館の窓際でその様子を見たルン辺境伯カルメーロは、感慨深く船を見つめていた。
艦橋での会話と錬金技術
艦橋では艦長イーデンがアベルを迎え、ケネス・ヘイワード男爵がゴールデン・ハインド号の高度な錬金技術について涼に説明した。映像膜に映る敵艦を確認した涼は、その優雅な設計と技術の差に感嘆した。設計者スプリングウッドが遺した「三つのトリマラン」の一隻であるゴールデン・ハインド号が、その時代を超えた存在であると知り、驚きを隠せなかった。
初陣への出発
航行中、ルン辺境伯邸からの緊急通信が入り、帝国の空中戦艦十隻がワイク子爵領を襲撃していることが報告された。アベルはゴールデン・ハインド号で救援に向かうことを提案し、ルン辺境伯もその決断を支持した。こうしてゴールデン・ハインド号は、初航行からそのまま初陣へと向かうこととなった。
帝国艦隊との戦闘開始
ゴールデン・ハインド号は敵艦隊の旗艦を正確に狙い撃ち、一隻を撃沈した。その際、敵の〈障壁〉を突破する威力を見せつけた。帝国艦隊は距離を詰めるべく動き出したが、通信妨害により連携が乱れ、二番艦マルクドルフが単独でゴールデン・ハインド号の後背を取ろうと迫った。
ゴールデン・ハインド号の優位
ゴールデン・ハインド号は高度な錬金技術と機動性で帝国艦隊に圧倒的な優位を見せつけた。敵艦隊が追撃する中、船内では涼が船の設計思想や装備の威力に感嘆しつつ、ケネスやアベルと共に次の一手を考えていた。戦闘はまだ序盤であり、ゴールデン・ハインド号の性能が試される時が来たのである。
ゴールデン・ハインド号の戦闘と新たな脅威
帝国艦隊との砲撃戦
ゴールデン・ハインド号は順調に帝国艦を『ヴェイドラ』で撃沈し、混乱する敵艦隊を圧倒していた。だが、敵艦隊の一隻が混乱から脱し、後方から接近していた。アベルは艦隊の戦闘能力を試す意図から、涼に手を貸させず乗組員たちで対応する方針を取った。戦闘は続き、ついに九隻目を撃沈。だが、最後の一隻が軌道を読んで接近し、衝突寸前となるも急激な操舵で回避。『ヴェイドラ』で至近距離からの攻撃を成功させ、敵艦を撃破した。
空中戦艦の脱出機構
涼が敵乗組員の安否を気にすると、ケネスは艦が沈む際に乗組員が強制的に射出される安全機構を説明した。この設計思想により、貴重な人材の保護が重視されていることが明らかになり、涼も安堵した。
北方の別戦場
ゴールデン・ハインド号の戦闘の北方では、帝国第二空中艦隊とロマネスクの民による遠征打撃艦隊が激突していた。圧倒的な火力を誇るロマネスクの艦隊が一方的に帝国艦隊を全滅させ、損害ゼロで戦闘を終えた。遠征打撃艦隊は次の標的である帝国第一空中艦隊に向けて進軍を開始した。
新たな艦隊の出現
ゴールデン・ハインド号に、北方から接近する二十三隻の精鋭艦隊の報告が入った。その艦隊は一糸乱れぬ動きと洗練された外観を持ち、帝国のものとは異なる設計であった。涼はそれを「伝説の浮遊大陸」に由来する艦隊であると断定したが、乗組員たちには理解が及ばなかった。アベルは交渉の意思を示す旗を掲げたが、相手側の指揮官ゾラは交渉権限がないと明言し、敵対を選んだ。
戦闘準備と魔力補充
ゴールデン・ハインド号の損傷は軽微で、魔力もまだ十分に残っていた。しかし、念のために涼が魔力充填に協力し、驚異的な速度で全ての魔石を満タンにした。その過程で、錬金術の高度な技術と涼の莫大な魔力が改めて示された。
次なる戦いへの緊張
ゴールデン・ハインド号は新たな艦隊との戦闘を控え、乗組員たちが準備を進めていた。アベルは初めて経験する艦隊戦の指揮に不安を抱いていたが、仲間たちの励ましにより自信を取り戻した。一方で、相手側の司令官ゾラもまた、独特の使命感と厳しい制約の下で戦闘態勢を整えていた。両者の対峙は避けられないものとなり、さらなる緊張が艦橋を包んでいた。
ゴールデン・ハインドの迎撃と戦闘の激化
敵艦隊との接触と包囲
ゴールデン・ハインドは、正面に展開する小型艦隊二十隻と接触した。アベルは敵の意図を探りつつ後退を命じたが、敵の包囲網が徐々に狭まり、さらに後方には中型艦二隻が瞬時に移動して退路を断った。小型艦からの一斉砲撃により戦端が開かれたが、ゴールデン・ハインドは〈飛竜障壁〉で攻撃をすべて防いだ。
戦術転換と接近戦への準備
敵艦隊の砲撃を受け続ける中、ゴールデン・ハインドは防御を維持しつつ敵旗艦への突撃を決定した。涼の水属性魔法による防御が艦を包み、アベルの指揮の下、船は最大戦速で敵の包囲網を突破した。突撃により敵の小型艦一隻を撃沈し、旗艦テラへの接舷を試みた。
敵司令官ゾラの焦りと決断
テラ艦内では、ゾラ司令官が冷静に敵の動きを分析していた。包囲が突破され、テラへの突撃を察知したゾラは、艦内に配置したゴーレム兵「グラディエーター」を起動させ迎撃態勢を整えた。しかし、ゴーレム兵は涼が発する「妖精の因子」の影響で動作を停止。ゾラはその事実を受け入れ、リウィア副司令官に敵の足止めを命じた。
リウィアと涼の対決
ゴールデン・ハインドが敵旗艦に突入した後、涼はリウィアと直接対決に臨んだ。リウィアは光輝く槍を操り、突撃や薙ぎ払いを駆使して涼に猛攻を仕掛けた。一方、涼は〈パッシブソナー〉で周囲の状況を把握しながら、巧妙に攻撃をかわしていたが、リウィアの間合いの長さに苦戦を強いられた。
未知の力「シングラリタス」の発動
涼が放った魔法攻撃に対し、リウィアは左手の指輪から未知の力「〈シングラリタス〉」を発動。これによりすべての攻撃が吸収され、戦況は一気にリウィア優位に傾いた。さらに、リウィアは「〈シングラリタス︱ヴィチシム〉」を解放し、戦闘は予測不能な展開へと進んでいった。
ゴールデン・ハインド初陣の終結と停戦交渉
ブリッジでの対面と緊張
アベル率いる『赤き剣』は、旗艦テラのブリッジに到着した。広大な空間に武装した兵士が並び、ゾラ司令官が彼らを迎え入れた。アベルはナイトレイ王国国王として交渉を試み、空中に浮かぶものを撃沈せよという命令の非合理性を問いただした。しかしゾラは、「交渉の権限を持たない」と冷静に拒絶。アベルは彼女の部下たちに無益な戦争の責任を負わせないよう、説得を続けた。
交渉の打開と突発的な衝撃
アベルは停戦を提案し、王としての親書を持ち帰らせることで、サントゥアリオ上層部に冷静な判断を求めた。ゾラ司令官もこれに耳を傾け始めたが、その時、第一会議室から爆音が響き、艦全体が揺れた。リウィア副司令官と涼の戦闘によるものであり、事態の緊迫感が一層高まった。
停戦の決断
アベルは「リョウが本気になれば、この船が沈む」と急かし、ゾラは停戦を決断。テラ艦内に停戦命令が放送され、戦闘行為は停止された。リウィアも命令を受け入れ、涼との戦いを終えた。
涼の合流と初陣の終結
涼がブリッジに戻ると、戦闘の状況や敵の強さについて軽い調子で語りつつも、最後の一撃がいかに危険だったかを説明した。アベルは彼の無事を喜びつつ、停戦の成立に安堵した。
ゾラ司令官の決意
ゾラ司令官は、今回の停戦が部下を守るための判断であったと述べた。戦争を望むならば、上層部が宣戦布告をすべきであるとの意見を示し、彼女の指揮下での戦闘行為を終わらせた。こうしてゴールデン・ハインドの初陣は無事に終了し、戦争はひとまず回避された。
狙い
デブヒ帝国の策略と戦場の混迷
皇帝の親征とモールグルント公爵への策謀
デブヒ帝国皇帝ルパート六世は、王国への侵攻を名目に軍を進めたが、実際の目的地は帝国南東部のモールグルント公爵領であった。反皇帝派の筆頭である公爵家を討伐するため、親征を宣言し、他の貴族らには王国侵攻と思わせることで反皇帝派の動きを封じ込めていた。この計略は、中立派を動けなくし、反皇帝派の警戒心を逆手に取る形で進行していた。
ランス地域の制圧と黒い粉の精製施設
ミューゼル侯爵軍はランス地域東部へ転進し、連合軍の第三独立部隊と対峙することになった。ランス地域には黒い粉の精製施設が存在し、帝国軍にとっても重要な戦略拠点であった。連合軍は炎帝フラム・ディープロードを中心に、強力な部隊で迎え撃つ準備を整えた。
イブン・バンク攻防戦と奇襲の展開
イブン・バンクの街では、連合の臨時西方防衛隊が籠城戦を展開。敵軍の圧力が増す中、第三独立部隊が奇襲を仕掛け、敵前衛部隊を混乱させた。城門を開放して反撃に転じた臨時西方防衛隊と第三独立部隊は、敵軍を二正面で挟み撃ちにし、戦況を優位に進めた。
炎帝による本陣奇襲と総司令官の討伐
炎帝フラム率いる部隊は、敵本陣へ奇襲を敢行。主席副官リーヌスとその護衛隊を次々と撃破し、ついにミューゼル侯爵を追い詰めた。炎帝の剣が侯爵を貫き、戦いは終結したかに見えたが、侯爵は「黒い粉」の爆発により自らの力を示したことを告げ、笑みを浮かべながら命を落とした。
黒い粉の爆発と戦略の影響
イブン・バンクの街から響いた爆音は、黒い粉の精製施設が爆発したことを示していた。ミューゼル侯爵は、敗北しながらも皇帝へ己の存在感を刻むことに成功した。戦場は混乱に包まれ、帝国と連合、さらには王国を巻き込む争いの火種を残したまま幕を閉じた。
イブン・バンクの攻防とその余波
精製所の爆発と戦いの決着
イブン・バンクの街での戦闘は、ミューゼル侯爵軍による精製所への攻撃をもって終結した。精製後に残されていた「黒い粉」の爆発は、侯爵の計画に基づくものであり、自らの命を賭した作戦であった。連合側はイブン・バンクを守り抜き、侯爵軍を撃退するとともに、司令官ミューゼル侯爵を討ち取り、嫡男リーヌスを捕虜とするという大きな成果を上げた。
モールグルント公爵家の取り潰し
戦闘後数日で、デブヒ帝国は反皇帝派筆頭であるモールグルント公爵家を取り潰し、反皇帝派は瓦解した。さらに、ミューゼル侯爵家の相続人として次男イグナーツが発表されたが、彼は若年かつ温和な性格から新たな派閥を率いることは難しく、多くの貴族が親皇帝派へと流れた。
アベル王の執務室での日常と事件
アベル王の執務室では、護衛である涼が、城外演習の依頼を受けていたが、この間に帝国から雇われたA級パーティー「五竜」がアベル王の暗殺を図った。「五竜」の斥候カルヴィンが館の全員を眠らせ、アベルたち護衛数名のみが応戦するという異常事態となった。
暗殺未遂と涼の激昂
暗殺者たちとの戦闘は熾烈を極めたが、涼が帰還したことで戦況は一変した。涼は圧倒的な魔法の力で「五竜」の3名を制圧し、最後に残ったリーダー、サンもアベル王との一騎打ちで敗北した。館の者たちが目覚めた後、アベルは事態を収拾し、涼には護衛任務への感謝と新たな指示が与えられた。
ドラゴンの存在と未来への警鐘
戦闘後、涼はアベルにドラゴンが実在することを伝え、ロンドの森の東の山にいる彼らに手を出さないよう警告した。アベルはその情報に動揺しつつも、王として未来に備えることを誓い、涼の助言を受け入れることで、国の安泰を目指す決意を新たにした。
暗殺の失敗と新たな決意
五竜の襲撃失敗
レイモンド王は、アベル王への暗殺に失敗したという報告を受け、驚愕していた。A級冒険者の中でも屈指の実力を誇る五竜が壊滅し、リーダーのサンは首を刎ねられ、他の三人は氷漬けにされた状態で公開されたことに、王は信じがたい様子であった。さらに、帝国軍の動きに神経を尖らせ、アベルとの対峙に向けた軍事戦略を練る必要性を感じていた。
帝国の策略と反皇帝派の瓦解
モールグルント公爵家の取り潰しにより、帝国内の反皇帝派貴族は完全に瓦解した。ミューゼル侯爵を国外へ送り出し、その隙に皇帝自らが公爵領を占領するという皇帝ルパート六世の計略が見事に成功していた。アベルはその巧妙な策略を評価しつつも、帝国の動きに対抗する準備を進める必要性を感じていた。
出陣準備と涼の提案
アベル王は、レイモンドとの戦いに備えた出陣式を計画し、涼との相談の中で氷で壇を作るという案が採用された。涼はケーキ特権を週一に増やす要求を出したが、アベルに冷静に拒絶され、悔しがりながらも準備を進めることになった。ハインライン侯爵は二人のやり取りを見守りながら、涼の圧倒的な能力とアベルとの信頼関係に安心を覚えていた。
平穏な時間と隠れた力の脅威
アベルの執務室では一見平和な空気が漂っていたが、その裏では涼の持つ絶大な力が暗に示されていた。敵対すれば絶望を招く存在である涼を味方に引き入れたアベルの手腕が、王国の未来を支えているとハインライン侯爵は感じていたのである。
出陣式
解放軍出陣式と新たな決意
広場に集まる冒険者たち
出陣式当日、広場にはルンをはじめとする多くの街から冒険者たちが集結していた。『十号室』のアモン、ニルス、エトの三人は、リョウが設置したと思われる氷の柵を見て感嘆していた。さらに、冒険者仲間『六華』と再会し、過去の共闘を思い出しながら旧交を温めた。周囲の冒険者たちは彼らの名声を耳にし、注目していた。
アベル王の登壇と民衆の歓声
アベル王が氷の壇に登場すると、広場は熱狂的な歓声に包まれた。「アベル!」という声が広場全体に響き渡り、全員が一つとなった。アベルは右手を掲げて歓声を静めると、感謝と共に決意を述べた。奪われた王国を取り戻すために立ち上がるという言葉は、〈伝声〉の魔法を通じて街中に伝わり、解放軍の士気を高めた。
王国解放軍の布陣
アベルを総大将とする王国解放軍は、ルン辺境伯領軍、ハインライン侯爵領軍、冒険者部隊など多岐にわたる勢力で編成されていた。涼は副官としてアベルの護衛を務め、その存在が解放軍の中でも注目されていた。
行軍と涼の役割
解放軍の行軍では、涼はアベルの傍らで護衛に徹した。騎乗訓練を経た涼は、危なげなく馬を操り、行軍中もその実力を発揮した。野営地では涼の評判が冒険者たちの間で語られ、特に氷魔法の力は畏怖と尊敬を集めていた。
出陣式後の小休止と新たな結束
行軍中、涼の要望で始まったケーキ議論はリンとウォーレンの登場によって和やかな場面へと変わった。涼は初めて口にするシュークリームに感動し、全てを許す心境となった。食事を共にしたことで部隊内の絆も強まり、解放軍は一丸となった。
ゴールド・ヒルでの会戦の準備
解放軍の進軍が進む中、両軍の接敵地点がゴールド・ヒルに決まった。ハインライン侯爵の報告に基づき、アベルたちは戦場の布陣を整えた。解放軍は三万人を超え、対するレイモンド軍も四万人を超える規模となり、ナイトレイ王国の運命を決する戦いが始まる準備が整えられた。
ゴールド・ヒル会戦
ゴールド・ヒル会戦の開始
アベル王とレイモンド王の対話
戦場の中央でアベル王とレイモンド王が会談を行った。アベルは王位の返還を求めたが、レイモンドは拒否し、軍事力による決着を主張した。アベルは帝国の脅威を説き、黒い粉が戦争を変える危険性を訴えたが、レイモンドの態度は変わらなかった。両者は噛み合わない対話を終え、それぞれの軍へ戻った。
戦端の開幕と解放軍の防衛
レイモンド軍の進軍が始まり、解放軍は風属性魔法〈風圧〉を駆使して弓矢の攻撃を無効化した。接近戦では冒険者たちが奮戦し、中央部を率いるヒュー・マクグラスの指揮でレイモンド軍を迎え撃った。一方、レイモンド軍も攻撃魔法を駆使し、解放軍との激しい攻防が続いた。
黒い粉の使用と解放軍の対応
レイモンド軍は黒い粉を用いて樽爆弾を投下し、解放軍に損害を与えた。しかし、解放軍の魔法使いたちが爆発を防ぎ、さらなる被害を食い止めた。イラリオンの指示により全軍が迅速に対応し、樽爆弾の脅威を最小限に抑えた。
涼の魔法と戦況の転換
アベルの命令で涼が前線に出撃し、〈アイシクルランスシャワー〝扇〟〉を発動した。涼の氷の槍は敵兵の武器を破壊し、戦意を奪うことでレイモンド軍の陣形を崩壊させた。この魔法の威力によって、解放軍は全軍突撃を決行し、レイモンド軍の主力を撃破した。
レイモンド王の逃亡と会戦の終結
解放軍は包囲陣を完成させ、レイモンド王の指揮所に突入した。しかし、指揮所はすでにもぬけの殻で、レイモンド王の捕獲には失敗した。会戦自体は解放軍の勝利に終わり、ナイトレイ王国解放戦は新たな局面を迎えることとなった。
王都攻略作戦の準備
ゴールド・ヒル会戦から三日後、解放軍は王都を包囲した。王都の城壁はリチャード王の錬金術によって強化されており、魔法攻撃や物理攻撃を弾き返す機構が施されていた。アベルはエルフの手紙から、封印された地下通路の存在を知り、その鍵を涼に託した。涼の妖精の因子による鍵の活性化が確認され、彼が地下通路突入の役割を担うこととなった。
エルフの地下通路への突入
鍵の開錠と突入隊の作戦
涼が活性化した鍵を使い、エルフの地下通路の扉を開いた。ヒュー・マクグラスを指揮官とする精鋭冒険者部隊が、西門を目指して突入を開始した。目立たぬよう自治庁から西門まで短距離で移動し、王都内の反乱者と連携して城門を開ける作戦であった。
王城潜入隊と反乱者の連携
王城への潜入隊はドンタンを指揮官とし、目的はスタッフォード四世の救出であった。彼らは王城内の反乱者たちと合流し、元王国騎士団のザックとスコッティーの協力を得て潜入を開始した。涼も潜入隊に加わり、その一員として行動することになった。
涼の孤立と予期せぬ遭遇
王城内で涼は不明な理由により単独行動を余儀なくされ、さまよう中でレイモンド王がいる部屋に到達した。レイモンドは自決を覚悟し涼に遺言を託した。涼の説得によりレイモンドは臣下パーカーに遺品を託し、その後、自ら命を絶った。
スタッフォード四世の所在とアベル王への報告
レイモンドから、スタッフォード四世が中央神殿にいるとの情報を得た涼は、アベル王に報告した。スタッフォード四世は帝国の毒により重篤な状態であり、光属性魔法〈キュア〉でも回復は困難とされた。
スタッフォード四世との対面と王位継承
アベル王はスタッフォード四世の元を訪れ、現在の状況を報告した。四世は微笑みと頷きでアベルの行動を認め、正式に王位が継承された。
王都解放祭と新王の披露
解放祭の開催と王都民への食料提供
王都解放祭が始まり、食料が無料で配布された。ゲッコーの尽力により南部から調達された物資が使用され、王都民の士気が高められた。この祭は王都民への恩恵を示し、アベル王の新政権の正当性を強調する目的があった。
王城での解放祭パーティー
王城では貴族向けのパーティーが開かれ、各地の貴族が参内した。アベル王は一人ひとりに感謝の言葉を述べ、新政権への支持を得る努力を続けた。涼はアベルの右後ろに控え、貴族たちとの交流を見守った。
ジュー王国のウィリー殿下の参内
ジュー王国のウィリー殿下が、アベル王への早期支援を理由に紹介された。涼は彼と親交があり、彼に「食の嗜み」として日本料理を教えたことを回想した。殿下はアベル王に忠誠を示し、涼との食談義で場を和ませた。
新たな戦いへの決意
涼とウィリー殿下の和やかな会話を横目に、アベル王は帝国軍との戦いが待つ現実を改めて自覚した。王国の未来をかけた新たな挑戦が始まろうとしていた。
教授の本音と計画の継続
教授の本音
ウィリー殿下は、王都の反乱者たちを効果的に指揮した人物が教授クリストファー・ブラットであると断言したが、教授自身は世俗的な栄達を望んでおらず、研究に専念するため学長になりたいだけであると答えた。そして、まだ帝国に占領された東部地域の奪還が残っていると述べ、研究室に戻った。
王都東部奪還の計画
ハインライン侯爵からの報告で、王国東部のウイングストンとスランゼウイが帝国軍の支配下にあることが確認された。これらの街を奪還する計画がアベル王に提出され、解放軍を使わずに成功する見通しが立ったため、アベルは計画を承認した。
進軍計画の会議
帝国軍の侵攻報告
翌日、解放軍の首脳陣が集まり、帝国軍の侵攻状況が報告された。ルパート六世率いる帝国軍は、総勢三万六千の兵力を持ち、魔法団や精鋭部隊を伴い王国北部に進軍していた。
涼の決意
フィオナ皇女率いる皇帝魔法師団が含まれると聞き、涼は爆炎の魔法使いを自らの敵とすることを決意した。その決意をアベルも認めた。
進軍戦術の議論
帝国軍が魔法砲撃と錘行陣形による戦術を用いると予測され、涼はそれに対抗するための新たな水属性魔法の可能性を示唆した。彼の提案は周囲から注目され、後で試すこととなった。
アベルと涼の絆
会議中、アベルと涼は軽妙なやり取りを交わし、周囲の大人たちは微笑ましく見守った。孤独になりがちな王であるアベルにとって、涼のような心を許せる存在は非常に貴重であった。この関係性は、アベルが王として前進するうえで大きな力となっていた。
ビシー平野の戦い
アベル王の解放軍進軍と天幕の一幕
進軍準備と部隊構成
アベル王率いる解放軍は、王都での『解放祭』終了から四日後に進軍を開始した。部隊の構成はゴールド・ヒル会戦時とほぼ変わらず、新たにウィストン侯爵が率いる騎士団三百と、王都所属の冒険者たちが加わったのみであった。貴族たちには物資や防衛戦力の提供を求め、出兵は免除されたため、協力への同意が得られた。戦場はビシー平野が有力と推測され、解放軍は補給の心配もなく進軍できる状況であった。
シュークリームと護衛たちの休息
進軍の途上、アベル王の天幕では、涼と『赤き剣』の三人がシュークリームを食べながら休息を取っていた。解放軍には甘い物が福利厚生として支給されており、この日は特別に王都の菓子店が製造したシュークリームが提供されていた。彼らはアベルの天幕で気楽に過ごしながら、甘い物が心身のストレスを和らげると主張し、アベルを誘った。
国王の孤独と仲間の支え
アベルは彼らの態度に呆れながらも、自らもシュークリームを食べることになった。愚痴をこぼすアベルに、リーヒャが国王としての健康を気遣い、アベルも少し照れながら感謝を述べた。そんな中、涼、リン、ウォーレンの三人は気を利かせたつもりで天幕を出て行き、アベルとリーヒャだけが残った。アベルはその状況に少し困惑したが、仲間たちの配慮と支えが、国王としての彼を支えていたのである。
ビシー平野での布陣と開戦
両軍の布陣と戦場の様子
王国解放軍三万二千と帝国軍三万六千がビシー平野に布陣し、壮大な戦場となった。帝国軍は特に事前の正当性を主張することなく、王国解放軍も開戦前のアピールを避ける形で対峙した。解放軍本陣では、ウイングストンとスランゼウイの二都市を奪還したとの報告がもたらされ、アベル王もその成果に喜んでいた。
帝国魔法団の攻撃と迎撃
帝国軍は三万本以上の攻撃魔法を放ち、解放軍への大規模な砲撃を試みた。しかし、解放軍は〈動的水蒸気機雷〉による迎撃で、全ての攻撃魔法を対消滅させた。これにより帝国軍の砲撃は効果を発揮せず、戦況は膠着状態に入った。
持久戦への移行
帝国軍は砲撃の失敗を受け、両翼での接近戦へと移行した。解放軍側もハインライン侯爵領軍とルン辺境伯領軍が正面から応戦し、接近戦が激化した。一方、中央部ではヒュー・マクグラス率いる冒険者と民兵が帝国第一軍と対峙し、戦闘が開始された。
奇襲の発生とアベルの防衛
帝国軍は〈転移〉を用いて一万人の奇襲部隊を解放軍本陣に送り込み、ハルトムート・バルテルがアベル王に迫った。しかし、アベルは的確な判断で反撃し、奇襲部隊を撃退した。リンの〈バレットレイン〉による強力な援護とアベルの連携で、ハルトムートを撤退に追い込んだ。
戦場中央での決戦
フィオナ皇女とヒューの一騎打ちが戦場中央で繰り広げられ、フィオナは〈エクストラヒール〉で疲労を回復しつつ持久戦を展開。ヒューも経験を活かして防御に徹し、戦況は均衡したまま推移した。
戦場の動きと援軍の到着
解放軍本陣が奇襲を退けた後、西の森のエルフ部隊が戦場に到着し、帝国軍第二軍を横から突破した。ゴールデン・ハインドの砲撃も加わり、戦場中央の力関係は拮抗した。
帝国皇帝との対峙
アベル王はデブヒ帝国皇帝ルパート六世と直接対決しつつ交渉を展開。両軍の最高指揮官たちは、戦場中央の勝敗がこの戦いの結果を決すると見ていた。
最後の焦点
戦場の中央で繰り広げられるフィオナとヒュー、涼とオスカーの戦いが最終的な鍵を握る状況で、両軍の行方は大きく注目されていた。
決戦
激しい魔法戦と近接戦への移行
二人の魔法使い、涼とオスカーは戦場の中心で壮絶な魔法戦を繰り広げていた。水と火、それぞれの属性が衝突し、氷の壁と炎の滝が互いを押し合う状況であった。だが、どちらも決着がつかないことを理解しており、最終的に剣と魔法を組み合わせた近接戦への移行を余儀なくされていた。
涼の魔力理論と全力戦
涼は、自身の魔力理論に基づき戦いを展開していた。彼の結論は、魔力は体内だけではなく外部の無尽蔵のエネルギー源からも引き出せるというものだった。その理論を支えるのは、地球で学んだ物理学とアインシュタインの公式「E=mc²」である。これにより、涼は魔力切れを起こさない自信を持ち、全力で攻撃を続けていた。
戦場の変化と奇襲への対応
戦場では皇帝ルパート六世の奇襲計画が進行しており、オスカーは涼を戦場から引き離す役割を担っていた。一方で、涼は王国解放軍の指揮が堅実に行われていることを信じ、戦いに集中した。彼は氷の半球〈アイスドーム〉を展開し、その内部でオスカーとの一騎打ちを続けた。
戦局の激化と涼の優位
涼の魔法技術は高度であり、〈アイシクルランス〉や〈フローティングマジックサークル〉などを駆使してオスカーに圧力をかけた。一方、オスカーも〈炎霰弾〉や〈障壁〉を使い応戦するが、次第に涼の優位が明確になっていった。その背景には、涼が地球の物理学を基盤にした魔法理論を活用していたことがあった。
オスカーの反撃と両者の消耗
オスカーは遅延魔法や自爆技術を駆使して反撃を試みたが、涼の柔軟な対応力に押されていった。彼の血液や斬り飛ばされた腕が罠として作用するなど、激しい攻防が続いたが、二人とも重傷を負いながらも戦意を失わなかった。
決着と涼の勝利
涼は最後の力を振り絞り、氷の針を自身に刺して体を動かし、オスカーに決定的な一撃を与えた。その結果、オスカーは倒れ、涼は勝利を収めた。戦いの中で涼は、魔力理論の実証と戦場での勝利を同時に達成し、王国解放軍の士気をさらに高めたのである。
戦争の終結
王国と帝国の間で続いていた戦争は、ついに終結を迎えた。条約の正式な締結は後日となったが、帝国軍は撤退を開始した。ヒュー・マクグラスは疲労の色を隠さず、「帝国軍がようやく帰った」と安堵の声を漏らしていた。
帝国の戦略的成果
この戦争の間、帝国はモールグルント公爵家を滅ぼし、ミューゼル侯爵を失脚させることに成功した。これにより反皇帝派と中立派が大きく力を失った。また、王国東部に保管されていた「黒い粉」を帝国領へ運び出すことにも成功し、帝国として十分な成果を得たといえる。
王国の反撃と抑止力の示威
一方、王国は最後のビシー会戦において戦術的勝利を収めた。この勝利により、王国の国力が未だ侮れないものであることを帝国と連合に示すことができた。軍事力を誇示することによる戦争抑止は、歴史を通じて繰り返されてきた人類の普遍的な手段であった。この矛盾を内包する論理が、王国の今後の安定に寄与すると考えられた。
エピローグ
皇帝ルパート六世の判断
皇帝ルパート六世は、敗北を認め跪いた皇女フィオナとオスカーの姿を前に、二人を許し無事を喜んだ。帝国軍が大きな損害を受けたにもかかわらず、ルパートはオスカーの功績を称え、彼を伯爵へ昇爵させる意向を示した。オスカーの戦果には、王国北部の貴族を裏切らせた功績があり、帝国領への利益も大きかった。
フィオナとの婚姻計画
ルパートはオスカーを皇女フィオナの婚約者として考えていた。彼の魔法の才能を帝室近くに留めることで、帝国の未来へも大きな影響をもたらすと信じていた。フィオナへの愛情と帝国の利益を考慮した結果、この決定に至ったのである。
王国への評価と戦略転換
ルパートは王国を侮れない存在とし、アベル王とその配下の実力を高く評価した。特に水属性の魔法使い涼の活躍を警戒し、今後は王国との友好的な関係を模索する必要性を認めた。その背後には、王国の軍事力と新しい王政の安定が影響していた。
アベル王と涼の新たな挑戦
一方、王城ではアベル王が新たな執務室で国の運営に取り組んでいた。涼は戦いで負傷しながらも、最後には村雨で敵を討ち取り勝利を収めたことを誇っていた。また、涼は新必殺技の実行を逃したことに悔しさを滲ませたが、次なる挑戦への意欲を見せていた。
涼の公爵任命と未来への展望
アベル王は涼を筆頭公爵に任命することで、彼を貴族社会の中で保護する意図を示した。筆頭公爵としての地位を持ちながらも、涼には自由な活動を許すという配慮がなされていた。この決定により、涼は名誉ある地位と禁書庫へのアクセスを手に入れることとなった。彼の喜びは大きく、新たな冒険と発見の可能性に胸を膨らませていた。
王国の新たな時代
こうして、王国は平和を取り戻し、新たな統治体制のもとで再建に向かうこととなった。アベル王と彼の仲間たちの活躍は、王国の未来を明るく照らす礎となっていた。
同シリーズ












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