物語の概要
本作は異世界転生×戦記ファンタジーライトノベルである。ゲーム世界に転生した元モブ貴族ヴェルナーは、バッドエンドを回避し生き延びるために前世の知識を駆使して内政と防衛に奔走する。第7〈上〉巻では、王都の地下書庫で触れた古代王国の謎から、思わぬ陰謀に巻き込まれる展開となる。刺客からの襲撃をかわしつつ、神殿で起こる罠に対処する中で重要人物リリーが囚われる事態へと発展する――。
主要キャラクター
- ヴェルナー:主人公。転生後はモブ貴族として生き残るため、内政と防衛を担いながら政治的陰謀に立ち向かう人物である。
- リリー:ヴェルナーの近くにいる女性。陰謀の中で囚われる重要な立場にある。
物語の特徴
本作の魅力は「モブキャラ転生戦記」という独自の視点である。勇者が旅立った後の王都を舞台に、ヴェルナーが陰謀や裁判、刺客対応、神殿での罠といった様々な危機に直面し、リアルな政治戦と防衛戦を描く点が他作品と一線を画す。たとえバトル路線ではなくとも、「内政と防衛」を主人公の仕事とし、モブ視点ながら王都を支える緊張感と達成感を読者に提供する点が興味深い。
書籍情報
魔王と勇者の戦いの裏で 7〈上〉 ~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~
著者:涼樹悠樹 氏
イラスト:山椒魚 氏
出版社:レーベル:オーバーラップ文庫
発売日:2025年7月25日
ISBN:978‑4‑8240‑1252‑4
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あらすじ・内容
束の間の平和の裏で、蠢く陰謀――「慧眼」で闇を切り開く。
転生したゲーム世界で、バッドエンドを回避しようとするヴェルナーは、ヒュベルトゥスの命で王城の地下書庫の調査中、古代王国の謎と違和感に触れた。
調査と検証を続ける一方、決闘裁判を終えて束の間の平和が訪れたと思った矢先、ヴェルナーは別の形で刺客に狙われる。機転を利かし反撃に出てその事件を解決したが、今度は裁判の件で起きた別の問題を調査するため神殿を訪ねることに。
しかし、そこで周到に張り巡らされていた陰謀と罠に嵌まってしまい、リリーが囚われの身に――。
モブキャラによる本格戦記ファンタジー、激動の第七幕――開演。魔王と勇者の戦いの裏で 7〈上〉 ~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~
感想
読み終えて、まず感じたのは、物語の重厚さが増しているということだ。どうやら、この巻から上下巻になったのは、内容が濃すぎて、まさに「鈍器」になりそうだったかららしい。
それも納得できるほど、情報量が多く、物語の展開も複雑になっている。
ヴェルナーが王城の地下書庫を調査することで明らかになる古代王国の秘密は、物語の根幹を揺るがすほどの衝撃を与えてくれる。
平穏な日常の裏で、着実に世界を蝕んでいく陰謀の存在が、じわじわと明らかになっていく過程は、読者を飽きさせない。
今巻では、勇者の妹であるリリーが、何度も危険な目に遭う。彼女を狙う者たちの存在は、物語に緊張感をもたらしている。
おまけに、ヴェルナー自身も暗殺者に狙われるという展開で、混乱はさらに混沌としていく。
リリーがモンスターに攫われてしまう場面は、読んでいて本当に辛かった。
彼女がいつもこのような目に遭っていることに、少しばかり同情してしまう。
ヴェルナーは、持ち前の知略と行動力で、これらの困難に立ち向かっていく。
彼の活躍は、読者に爽快感を与えてくれる一方で、彼が抱える苦悩や葛藤も丁寧に描かれているため、感情移入しやすい。
戦い、日常、人間関係。本作の魅力は多岐にわたるが、特に今巻では、陰謀が渦巻く中で、ヴェルナーがどのように立ち回り、大切な人々を守っていくのか、という点に注目したい。
下巻への期待が高まる、そんな一冊だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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展開まとめ
一章(王都の一幕~罠と遊~)
リリーの茶会への同行と貴族社会の形式
ヴェルナーはリリーをシュラム侯爵家の茶会に送り届けるため、伯爵家の馬車を用いて王都に向かった。リリーの礼儀作法を支えるため、ベテランのメイドも同行し、万全の体制で臨んでいた。周囲の視線を警戒しながらリリーを送り出した後、ヴェルナーは王城へと向かい、道中でRと接触し、魔皮紙の受け取りと新たな依頼を行った。
典礼省での業務と貴族の衣装文化
王城では典礼大臣である父の補佐として、生誕祭に関する膨大な通達書作成に従事した。服装の区分や宝飾品の使用に関する詳細な注意事項を全貴族家に届けるため、印刷技術がない中、手作業での書写が続いた。日中服と夜会服の目的や見た目の違い、主役を立てるための着こなしへの配慮など、貴族社会の服飾規範が明かされた。
茶会後のリリーの迎えと侯爵家の対応
茶会の終了時刻にあわせてリリーを迎えに行くと、予想外にシュラム侯爵本人が現れ、丁重にリリーを見送っていた。ローゼマリー嬢も親しげに接し、リリーに好印象を抱いている様子が見られた。ヴェルナーはこれ以上の関係の進展を避けるため、礼儀から外れた形でリリーを馬に乗せてその場を離れた。
魔法道具と女性貴族の装いの工夫
帰路では、魔法によって補助される貴族女性の衣装について語られた。魔術師隊が貴族女性の強い要望を受けて開発した「一人で着けられるコルセット」や「自然に広がるスカート」などの道具が登場し、貴族社会の華やかさと実用性の両立が描かれた。
リリーとの会話と新たな事件の発生
移動中、リリーとの穏やかな会話が交わされたが、突如一人の少女が助けを求めて現れた。父親が襲われたという話を聞いたヴェルナーは、護衛にリリーの保護を任せ、自ら現場に急行した。現場には倒れた中年男性の遺体があり、殺人事件の形跡が確認された。
衛兵隊の到着と捜査の開始
ヴェルナーは即座に衛兵隊への通報を指示し、周囲の警戒を強化させた。現場に駆け付けた衛兵隊に状況を説明し、事件の調査が始まった。ヴェルナーが子爵であることに気づいた隊長の対応は一変し、事態の深刻さが共有された。
貧民の現実と社会の構造
少女は父親とともに貴族の館からの残飯を期待して王都に来ていたと語った。貴族街における貧富の差や社会の構造が垣間見え、ヴェルナーはその現実に対して無力感を覚えながらも、状況に即した行動を取っていた。
クララの証言とヴェルナーの保護判断
クララは偶然、襲撃計画を耳にし、父親とともに逃げようとしたが、父親が犠牲となったと語った。旧トライオット出身で身寄りがないと主張するクララに対し、ヴェルナーは衛兵詰め所より自邸で保護する方が適切と判断し、伯爵邸に一時的に宿泊させることを決めた。同行する護衛たちは周囲を警戒しつつ帰路についた。
クララへの疑念と家族会議での分析
帰宅後、クララを入浴させ監視下に置きつつ、ヴェルナーは父や使用人たちとクララの正体について検討した。リリーの観察や護衛たちの意見から、クララの反応には不自然さがあり、仕組まれた芝居の可能性が高まった。また、現場に残された男性の遺体に防御創がなかったことや、逃走中に叫び声がなかった点も疑念を強める材料となった。
クララの身元調査と仕込まれた薬包の発見
トライオット難民制度では家族単位で管理されているため、実在する家族であれば所在確認が可能である。さらに、クララの服の内側から発見された薬包には毒性の可能性がある白い粉が入っており、これは難民が持ち得ない品であることから、背後に貴族階級の関与があると推測された。薬包は中身だけ入れ替えられ、渡された目的を探るための準備が進められた。
毒の鑑定とクララの扱いに関する策略
翌朝、ヴェルナーは変装してラフェドの店を訪れ、薬包の毒性鑑定と解毒薬の購入を行った。毒は即死性ではなかったが、何らかの意図を持って渡されたものであることは明らかとなった。クララの似顔絵を用いて情報収集を進める一方、ヴェルナーは彼女の行動が独断専行の下っ端によるものと推定し、背後にいる主導者の尻尾を掴む準備を整えた。
裏社会との接触と相互理解の構築
その後、ヴェルナーは情報提供の礼を伝えるために貧民街を訪れ、ベルトのもとを訪問した。金銭の受け渡しを通じて義理を通し、今後の協力関係に道を残す姿勢を示した。裏社会を敵視するのではなく、必要に応じた距離感と中立的な立場を維持する方針を明示し、双方の信頼関係の構築を意図していた。帰路についたヴェルナーは、精神的な疲労を感じつつも、冷静な対応を続けていた。
養護施設での視察と教育支援
ヴェルナーは学生服姿で養護施設を訪問し、美化活動や教育状況を確認した。九九表が使用されていることに気づき、教育の浸透を実感した。帳簿の重要性を考慮し、計算授業の強化を依頼するとともに寄付金を託した。施設の子供たちは情報網としても機能しているが、その自覚はない。活動の周知によって町での受け入れも進んでいた。
王城での業務とリリーの補佐
王城ではリリーが事務処理をこなしており、来客に対しても礼儀正しく対応していた。ヴェルナーの衣服に皺があるのを見てリリーが魔道アイロンで整え、外見の乱れを直す配慮も見せた。表の業務として、戦時国債に関する諸問題に取り組み、持参金への使用、教会への寄付、不動産との関連性などを検討しつつ適切な提案を行った。
戦費調達と経済政策の検討
戦時下における財政対策として、ヴェルナーは印紙税や贅沢税の導入、間接税の拡充を検討した。魔法具所有税や冒険者ランクに応じた課税制度の現状も踏まえ、税制の調整案をまとめた。また、領主による民の労働徴収に兵士を投入する案を提示し、生活の安定と出生率の維持を図ることを提案した。加えて、魔物素材の流通活用による経済循環の可能性にも言及し、工具や農具としての転用案を提示した。
クララ問題と内政上の対応
クララに関する調査は進行中で、難民管理記録に該当者がいないことから、身元の虚偽が疑われた。伯爵家ではクララを軟禁状態で保護し、相手の出方を待つことにした。衛兵隊の聴取では有効な情報が得られず、偽装された死体の存在が濃厚となった。ヴェルナーは関係者と打ち合わせを行い、家騎士団の出動体制を整えて不測の事態に備えた。
宰相との会談と教会の動きへの疑念
ファルケンシュタイン宰相およびセイファート将爵との会談では、コルトレツィス侯爵領に多くの傭兵が集まっていることや、教会の関係者が同行していることへの疑念を報告した。神託を受けられる人物の失踪とピュックラーの神殿訪問履歴から、教会内部の権力闘争や魔族による偽装の可能性が示唆された。宰相はこの件について国としての調査を約束した。
日常業務と人間関係の描写
業務の合間にクララ問題への対応策を整理しつつ、ヴェルナーは増える業務量に苦慮していた。周囲の者たちの信頼も厚く、宰相からは将来的な職務分担の調整を期待されていた。マックスやリリーらとのやり取りも描かれ、リリーに対する敬称の変化や周囲の反応から、彼女が徐々に貴族社会の一員として認知されていく様子が伺えた。
緊張高まるクララ対策と情報伝達の準備
ヴェルナーはクララの動向を警戒し、彼女が使用する紙に固有の証明を持たせることを決定し、リリーに追加作成を依頼した。クララに異変があった際、確実な識別手段を持つための備えである。さらにクララが相談してきた際の対応方針や、毒の懸念への対策として解毒剤の準備もリリーに託し、慎重な監視体制を整えた。
トイテンベルク領での政情調査と不穏な背後関係
一方、ドリヒェンではバスティアンとレプシウス、ミーネらが集い、領内の異変と背後関係の分析が進んでいた。毒殺未遂に加え、物資の不自然な流出や不正取引、書状の隠匿などが明るみに出た。特にトイテンベルク領の備蓄が著しく不足しており、物資の買い手にはイェーリング伯爵家の関与が示唆された。コルトレツィス侯爵家や他国の関与の可能性も示唆され、王都への報告と領地防衛の準備が急がれた。
ミーネの功績とヴェルナーの影響力
ドリヒェン制圧作戦における戦略はヴェルナーの助言によるものであったが、ミーネはそれを伏せ、自身の采配として行動した。その結果、彼女の評価は領内で急上昇し、指揮系統の確立にも寄与した。バスティアンはこの評価を喜びつつも、ヴェルナーへの過度な依存を戒め、現場の判断を優先するよう助言を与えた。
王都インフラと戦時下の体制整備
ヴェルナーは地下書庫で上下水道の図面を調査し、王都インフラの完成度に驚くと同時に、防衛上の懸念からゲブハルト水路局への対応をセイファート将爵に委託した。さらに、王城内部の人事整理という秘書不在の過酷な業務にも従事し、機能的な人員配置や貴族家推薦者の把握、潜在的な敵対勢力の記録に努めた。
符丁による誘導とクララの動き
クララの行動を誘導するため、執務室の花やハンカチの色を使った符丁が使用された。ヴェルナーはリリーの協力のもと、クララが毒物を使用するかを試すため、意図的に彼女に茶を持参させる環境を整えた。
茶への細工と偽装された毒物の発覚
予想通りクララはティーセットを用いた手順に従い、紅茶に異物を混入。フレンセンと連携して観察していたヴェルナーはその動きを確認し、自らが飲むことで内容を確かめた。極端に塩分を加えられた紅茶により、クララの動機が明白となり、彼女の出自と背後関係のさらなる追及が始まる契機となった。ヴェルナーは冷静に対応を続け、次なる手を講じる構えを見せていた。
偽装と誘導による暗殺未遂の誘発
ヴェルナーは塩を混入した紅茶を飲み、毒の混入を装って倒れたふりをし、ツェアフェルト邸で騒動を演出した。表向きは病気ということで教会や王宮への使者を走らせ、邸宅内は通常通りを装いつつ、裏口からクララを逃がす計画が始動された。クララは混乱の中、闇夜の王都を抜けて指定された灰回収屋の廃屋に向かった。
クララの裏切りと組織の実態
灰回収屋にはクララの連絡を待っていた複数の男たちが集まっており、彼女がリリーの連行に失敗したことで失望を露わにした。さらにはクララの家族を人質にしていたことが明かされ、彼女は裏切られ暴力を受ける。男たちは武器を携えてクララを放置し、暗殺計画の続行とヴェルナーの死体処理による体面失墜を目論む。
空馬車への襲撃と衛兵隊の包囲
ヴェルナーの出発を装った空の馬車が狙われ、仕掛けた賊たちは衛兵隊と騎士団の連携によって包囲される。御者役を務めていたのはツェアフェルト騎士団のバルケイであり、作戦通り罠にかけた形となった。衛兵隊長ガウターの指揮で襲撃犯たちは次々に制圧され、補足任務として配置されていた冒険者パーティー「鋼鉄の雛」も対応にあたった。
裏拠点への突入とクララの確保
並行して灰回収屋への突入作戦も進行し、従卒オーゲンの指揮で残党を確保。クララも暗殺未遂犯として拘束されるが、ヴェルナーの指示により過度な処置は避けられた。建物内には大量の薬草らしき物資が発見され、毒物の可能性から衛兵隊に慎重に引き渡された。
黒幕の反応と追撃劇の決着
裏で計画を操っていたボーゲル子爵は脱出の準備をしていたが、騎士団と冒険者らの包囲によって阻止される。ヴェルナーが自ら前に立ち、槍を手にボーゲル一味に立ち向かった。ボーゲルとの一騎打ちでは実力差が顕著となり、ヴェルナーの冷静な戦術により圧倒された末、子爵であるボーゲルすらも捕縛されるに至った。
王都の戦術と情報網の活用
この一連の作戦はヴェルナーが王都地図を用いて綿密に構築したものであり、学生時代の人脈や夜警隊、冒険者らの協力を得て実現された。学友を鎧姿で配置することで心理的包囲効果を高め、襲撃犯をあえて逃がす形で誘導・捕縛する策が成功した。クララの尾行も交代制で進められ、黒幕の所在を特定するに至った。
ボーゲルの誤算とヴェルナーの決意
最終的に追い詰められたボーゲルはケンペル司祭の名をヴェルナーに出され、動揺を隠せなかった。ヴェルナーはあくまで捕縛を優先し、不必要な殺害を回避する意図を示しながらも、王都の安全と策謀排除に向けた断固たる姿勢を示していた。
騒動の終息と残された疑念
ヴェルナーの指揮による襲撃者の制圧が完了し、ボーゲル子爵らは拘束された。拾い上げたボーゲルの剣が外国製であったことから、背後に外国勢力が絡んでいる可能性が示唆され、証拠として提出された。館への襲撃の可能性はゲッケ傭兵隊の投入などにより事前に防がれており、事態は想定以上に速やかに収束していた。
黒幕の存在と目的への疑念
今回の背後にいるのがケンペル司祭であるとの仮説に対し、ヴェルナーは確証を持ちきれないまま推論を巡らせた。毒の入手経路、陰謀の粗雑さなどから、現場の暴走の可能性や、黒幕が焦って動いているのではないかという推察が浮かんでいた。勇者マゼルやリリーが政治的に利用される未来を避けるためにも、今の段階での謀略の意図が掴みきれないことは懸念材料であった。
事件後の処理と地下書庫での再始動
マックスの報告により現場の整理を衛兵隊へと引き継ぎ、ヴェルナーは一連の作戦を終えて帰邸。最初に望んだのは「まともな紅茶」であった。翌日からは地下書庫での作業が再開されたが、決闘裁判などにより長く中断していたこともあり、計画は大きく遅れていた。地図と神に関する記述を探す作業が主であり、リリーとの分業によって進められていた。
クララ一家への処遇と雇用の提案
クララの一件について法務関係者から最終決定が伝えられ、ヴェルナーは直接面会する道を選んだ。クララは貴族殺害未遂の罪で労働民とされ、王都追放の処分を受ける。家族も同様に追放となるが、ヴェルナーはツェアフェルト領での新規事業への雇用を提案し、護衛付きで移送されることとなった。これは情状酌量と今後への再生の機会を与える措置であった。
ヴェルナーの信条と仲間たちの支持
人道的な対応を示したヴェルナーに対し、ノイラートとシュンツェル、リリーはそれぞれ賛意を示した。ヴェルナーは、自身が望む責任の取り方として「処罰よりも再起の道を与える」ことを選び、それを「自己満足」と認識しつつも信念として貫いた。彼の生き方は周囲に支えられながら形作られていた。
王国内政会議での評価と外交戦略
一方、王宮ではヴェルナーの行動が外交戦略として注目されていた。ツェアフェルト子爵としての振る舞いや決闘裁判での勇者代理の姿勢により、周辺諸国が彼に注目し始めている。国王は、ヴェルナーが目的遂行能力に長けているが、野心がないというセイファートの評価を共有し、彼を国益に資する存在として利用し続ける意図を持っていた。
外交的な誤解と牽制としての存在
浪費子爵という外見上の誤解を逆手に取り、賄賂を持ち込む他国貴族の動きを逆に利用して情報収集が行われていた。ヴェルナーの存在は、表向きには無欲で抜けているが、実際には有能な人物として国内外の牽制に用いられていた。
今後の展望と会議の続行
ヴァイン王国はヴェルナーの性格と能力を慎重に管理しつつ、彼が敵に回らないように配慮することで安定を図ろうとしている。会議ではボーゲル子爵の処遇や上水道の問題、コルトレツィス侯爵家の動き、逃亡者の行方などが議題となり、夜更けまで審議が続けられていた。ヴァイン王国は内政・外交ともに次の局面へと進み始めていた。
二章 それぞれの戦場~軍事と思案〜
魔物の襲来とドリヒェン防衛体制の始動
早朝、ドリヒェン西方に現れた魔物の群れを確認した兵の報告により、城門は即座に閉鎖され、バスティアン指揮下の防衛態勢が開始された。住民も動員され、城壁上には石鹸水を用いた滑落阻止策が展開され、混乱なく備えが進行した。
前衛の撃退と滑落戦術の効果
殺人猿や赤帽子、ジャイアントリーチなどの魔物が城壁に取り付くと、事前に準備された石鹸水が投下され、城壁を登る魔物は滑り落ちる事態となった。さらに魔除け薬を投げ込むことで、魔物同士の混乱と将棋倒しが引き起こされ、敵集団は密集状態に陥った。
騎士団の攻勢と迎撃作戦の展開
魔物の移動を誘導する形で、南北の門からフュルスト伯爵家およびガームリヒ伯爵家の騎士団が突撃。城壁に沿って移動しようとする魔物の列を逐次撃破しながら後退、城門前へと誘導していった。同時に城内には釘板や魔除け布を用いた罠が設置され、城門突破を狙った魔物の進行を封じた。
密集地帯への突撃と戦局の転換
魔物の密集地に対してミーネらが突入し、魔除け布の効果と後方からの魔物圧力の相乗効果により、前線の魔物は混乱したまま戦闘に突入した。南北門でそれぞれミーネとレプシウスが指揮を執り、城外の騎士団も合流。人数に勝る魔物に対し連携と交代制により持久戦を展開した。
敵指揮官狙撃の奇策と勝利の決定打
事前の予測に基づき、ヴェルナーの提案により周辺の拠点へ傭兵団が派遣されていた。魔物に護衛を割かれていなかった魔族の指揮官が討たれたことで、敵軍は統率を失い動揺、ドリヒェンの戦いはわずか一日で勝利に終わった。王都へ援軍要請が届く前に戦局が収束したことで、王都防衛戦に戦力を温存することが可能となった。
街の噂と評価の変化
王都では酒場を中心に、クララ事件およびボーゲル子爵の陰謀に関する噂が流布していた。ヴェルナーの寛容さや行動力は庶民から騎士の鑑として称賛され、ツェアフェルト伯爵家が意図的に評判を広めていることも判明する。ヴェルナーの評判は、国の内外においても影響力を持ち始めていた。
権力者たちの戦略的評価
王城では、王太子や外務大臣らがヴェルナーの人物像について協議し、無欲であるがゆえの扱いやすさと、目的を遂行する能力に長けた危険性を指摘していた。ヴァイン王国がヴェルナーを敵に回さぬよう、適切な目的を与えることが望ましいと結論付けた。
戦後処理とミーネの苦悩
ドリヒェンではヘルミーネが戦後処理と住民の要望対応に追われていた。町の予算削減により職人育成事業が停滞していたことが判明し、バスティアンは資金の流れに不正がある可能性を示唆した。領民の信頼を繋ぎとめるため、今後の領政運営に課題を残しつつ、戦の余波が次第に形を現し始めていた。
イェーリング伯爵家の不正と財政問題の波紋
トイテンベルク伯爵家の資金不足に関して、バスティアンはイェーリング伯爵家が主導した疑惑のある交易が原因と判断し、ミーネに説得の方針を伝えた。人的資源の損失を補えぬ現実にミーネは政治の重さを再認識することとなった。
ヴェルナー婚約の報とその政治的影響
王都にいる兄タイロンからの手紙で、ヴェルナーが勇者の妹との婚約を内定させたとの情報が伝えられた。これにより、第二王女との縁談を退いたヴェルナーは、逆に多くの貴族から敵視されなくなり、関係修復を望まれる立場へと変化した。これにより、今後の地位向上への障害が少なくなると予測された。
政略結婚と貴族的価値観の再確認
リリーとの婚約が第二王女の推薦という形式をとる可能性も示唆され、王家以外の派閥がヴェルナーを取り込むことは困難になった。バスティアンは政略婚であっても尊重の精神があれば良き夫婦になり得ると語り、ミーネは複雑な感情を抱きつつ民政業務に戻った。
イェーリング伯爵家の急転と示談的展開
前当主が退き、新たにアンスヘルムが伯爵位を継承し、王家に寝返ったことが発覚した。背景には親族であるガームリヒ伯爵家への毒殺未遂があり、関係断絶の決断がされた。これにより王国側で一斉調査が開始され、関係勢力への圧力が強まった。
王家と宗教勢力の微妙な関係
教会関係者による事件調査の独占が王家と神殿の緊張関係を招いていた。教会の治外法権的性質と、聖女としての第二王女の立場が複雑に絡み、政権側も強権発動を控えざるを得なかった。宗教内の派閥抗争や協力者の有無も事態の複雑化に拍車をかけていた。
新伯爵アンスヘルムの勧誘とヴェルナーの立場
王城にてアンスヘルム・イェーリング伯爵はヴェルナーに直接接触し、手を組むよう持ち掛けた。ヴェルナーの才覚と勇者との関係に着目した上での申し出であったが、ヴェルナーは平民勇者を道具視する伯爵の発言に内心で不快感を抱いた。ヴェルナーは名誉や実利に目がくらまぬ態度を示しつつも、相手の真意を探り続けていた。
イェーリング伯爵の思惑とヴェルナーの拒絶
アンスヘルム・イェーリング伯爵は、ヴェルナーに対し協力の意志を示したが、その発言はリリーを道具扱いするものであり、ヴェルナーは内心で激しい反発を覚えた。伯爵の申し出を丁重に断り、戦後は領政に専念する意向を示した。
将爵の分析とイェーリング伯の策略
セイファート将爵は、伯爵の言動が一種の政治的演技であり、ヴェルナーを敵視する貴族を自身の派閥に引き寄せる目的であったと説明した。同時に、伯爵がマゼルを戦場に利用しようとした意図は本心であり、国上層部がその件で奔走していた事実が明かされた。
デリッツダムの動きと王女の政治的価値
デリッツダムの一部貴族は、王族の混乱を背景にラウラを女王として迎える計画を進めていた。将爵は、これが実現すればヴァイン王国の干渉と見なされ外交問題となると指摘し、国としての対応を急いでいた。
功績と誤解がもたらす婚約問題
ヴェルナーが勇者の妹リリーと親しい関係にあることや、ラウラ王女との関係も取り沙汰され、周囲の誤解が増していた。特にその功績からヴェルナーは理想の婿候補と目されていたが、彼自身はリリーを大切に思い、他の思惑には関与しない姿勢を貫いていた。
リリーの扱いと国の備え
万が一マゼルが魔王討伐に失敗した場合を想定し、国はリリーを勇者の妹として世間に認知させ、対魔軍戦の象徴にしようとしていた。この背景には、政治的に扱えない個人ではなく、旗印として必要不可欠な存在に仕立てる国の意図があった。
終末思想の広がりと内部脅威の兆候
魔王復活を契機に、「神に見捨てられた」という終末論的思想を信奉する一団「猫」が王都内で広がりを見せていた。将爵は、これが一部貴族にまで浸透し、社会不安や魔族側への内通者の存在と結びつく危険性があると懸念を示した。
ヴェルナーの立場と多方面からの敵意
商業ギルドや一部貴族からの反発、誤解に基づく嫉妬、思想的な敵意など、ヴェルナーを取り巻く敵対勢力は多岐にわたっていた。セイファート将爵は国が支援する方針を示したものの、ヴェルナーは自身の安全確保と情報収集の重要性を再認識した。
勇者一行との再会と対話の場
その日の夜、ヴェルナーは勇者マゼルらと高級レストランで再会した。王都での混乱を避けるため、目立たぬ場を選んだ彼らと情報交換を行うこととなった。勇者一行と接触することで、ヴェルナーはさらに状況を把握し、次なる行動に備えようとしていた。
勇者パーティーとの再会と情報交換
ヴェルナーは高級レストランにてマゼルら勇者一行と再会し、過去の出来事に対する謝意と感謝を交わした。ザルツナッハ国の状況や、魔軍の動きに関する情報交換が行われ、ヴェルナーはゲーム知識をもとに助言を提供した。また、魔物避けの魔道具に似た箱から発見された黒水晶が、魔物を引き寄せる逆効果を持つことが判明し、魔王軍の狙いが王都地下の結界装置にある可能性が示唆された。
王都地下の謎と隠し部屋の存在
ヴェルナーは、王都地下に隠し部屋が存在するという自身の仮説を共有し、ウーヴェらもその可能性に興味を示した。ラウラは宝物庫の不自然な構造から、そこが本来の用途ではなかった可能性を指摘した。これらの情報が魔軍の戦略に関係する可能性が浮上し、王都防衛の要所となる地下調査の重要性が増した。
トライオット復興支援と評判の広がり
旧トライオット地方の一部町村が復興し始めており、ヴァイン王国による支援活動が展開されていた。ヴェルナーの名も評判として広まっており、本人は関与していないにもかかわらず、その名声が利用されていた。王国が復興支援に力を入れる背景には、難民問題や治安維持の必要性があった。
政治的立場と出世問題の葛藤
ヴェルナーは、自身の名声が高まりすぎることで伯爵家の世代交代に支障が出ることを懸念していた。自身を別家に封じる案もあるが、家臣団を持たない彼にとっては現実的でなく、政治的に扱いにくい存在となっていた。
リリーとの関係と勇者への告白
マゼルに対し、ヴェルナーはリリーとの交際を告白した。マゼルは穏やかに受け入れ、ラウラや仲間たちは興味津々の反応を示した。ヴェルナーは、マゼルたちが信頼を寄せてくれることに責任を感じ、彼らに報いる覚悟を強めた。
帰路での襲撃と即応撃退
帰路についたヴェルナー一行は、刺客に襲撃されたが迅速に対処し、数名を撃退した。ヴェルナーは襲撃の目的が騒乱の誘発にあると判断し、事態を拡大させないために静かに処理を行った。証拠として敵の毒付き武器を回収し、正規でない経路を通じて王都に報告することを決意した。
実験による魔道具の検証
ツェアフェルト邸に戻ったヴェルナーは、リリーとフレンセンの協力を得て魔道具の仮説実験を行った。風の魔道具による密閉袋が熱で浮上する様子を確認し、熱気球の原理を再現することで、魔法と物理法則の接点に新たな理解を得ようと試みていた。
魔道具による実験と違和感の発見
ヴェルナーはリリーとフレンセンの協力を得て、火・水・風の魔道具を使った実験を行い、現象の挙動を観察した。その中で、水中に火の魔道具を起動させても燃焼が伝播しないことや、風の魔道具によって生成された気体が通常の空気と同様に振る舞うことを確認し、物理法則とは異なる「魔法独自の法則」の存在を再認識した。さらに、魔法の火と蝋燭の火、水の魔道具の味の違いなどから、魔道具が作り出す物質は現実の物質とは異なる「一〇〇%属性純粋体」である可能性が示唆された。
魔石と魔力の正体に関する疑問
ヴェルナーは、魔物から得られる魔石が人体には存在しない点に着目し、「人体魔力」「自然魔力」「魔石魔力」という三種の魔力の可能性を提示した。魔法と物理現象が併存するこの世界では、魔法がどの法則に基づいて再現されているかを見極める必要があると考え、さらに魔法の「再現性」が存在する以上、そこには体系的な法則=魔術理論があるはずだと論じた。
魔法法則と自然法則のねじれた共存
ヴェルナーは魔法が自然法則とは異なる独立した体系であると仮定し、魔法で作られた水や火の存在が通常の物理的現象とは異なることから、魔法現象と自然現象が「不格好に併存」していると結論づけた。また、魔法が人体や物質に作用する範囲や制限をもつこと、例えば毒消し魔法が粉末毒には作用しないことから、魔法には「法則的な条件分岐」があると推測した。
魔法の起源と魔王の可能性
ヴェルナーは、魔法が神の技術ではなく「魔王が持ち込んだ異質な知識」であるという仮説に至った。神託や僧侶魔法といった存在がありながら、魔法という表現に“神”でなく“魔”が用いられている点から、魔法の由来が神ではなく別の存在=魔王起源である可能性が高いと考えた。さらに、魔王が別世界からの転生者であり、自分自身もまた同様に“異世界由来の存在”であることに思い至り、異文化の技術がもたらす破壊性と世界への影響に恐怖を抱いた。
思想の伝播と転生者の影響
自身が無意識に持ち込んでいる前世の知識がこの世界に新たな技術体系や思想を生み出し、それが魔王と同様の影響をもたらす可能性があることに、ヴェルナーは懸念を示した。知識や技術そのものが善悪ではないが、それが過剰に流入した場合、魔法研究の滞りや兵器開発といったリスクを内包していると認識した。
リリーの反応と視点の転換
深刻な思考に囚われるヴェルナーに対し、リリーは“違う知識=スキル”という捉え方で話を軽く受け止め、彼の緊張を和らげた。その反応に救われたヴェルナーは、自身の思考が偏りすぎていたことを自覚し、冷静さを取り戻す。リリーの優しい気遣いに感謝しつつ、前世の世界について話すよう求められた彼は、女の子にも楽しめる話題を模索しながら、再び語り始めた。
三章(過去の謎と現在の危機~秘密と謀略~)
地下書庫での情報探索と仮説の進展
ヴェルナーは地下書庫に籠もり、魔法の起源や古代王国に関する資料を探した。だが、あまりに情報が少ないため、隠蔽の可能性すら感じる状態であった。一方で地上では、ケンペル司祭の水死体が発見され、その死が他殺か自殺か判断できない中、神殿の評判にも影響を与えていた。また、ヴェルナーが起こした町中での“事件”も陰口の的になっていたが、国側は静観の構えを見せていた。
未知の国「ゼルムンベック」と古代王国の影
リリーが発見した書物には、ヴェルナーの知識には存在しない「ゼルムンベック」という国家の名と地図が記されていた。これにより、古代王国には実は国名があり、ゼルムンベックこそがその前身、あるいはそれに相当する国家である可能性が浮上した。ゼルムンベックは大陸北部に存在していたが、現在その地は海となっており、戦争の記録や国家の南北分裂の経緯などが描かれていた。
魔法の記録の欠如とその意味
ゼルムンベック関連の書物には、魔法に関する記述が一切存在していなかった。このことから、当時の人類は魔法をまだ持っていなかったか、あるいは魔法の技術が後から外部より持ち込まれたものである可能性が示唆された。ヴェルナーは魔法が本来この世界にあった自然発生的なものではなく、魔王などの異文化的存在が導入した技術ではないかと考えた。
多神教神話の発見と宗教観の揺らぎ
リリーが読んでいた本には、多神教的な神話、すなわち“花の神”など複数の神の存在が記されていた。これにより、現在の一神教体系が実は後発であり、過去には多神教的信仰が存在していたことが明らかとなった。ゼルムンベックと同じ棚にこれらの神話書が存在している点からも、この思想の変遷が歴史の中で意図的に改変された可能性が浮上した。
この世界の神話と多世界観の提示
神が複数の世界を創造し、それぞれの世界を子どもの神に委ねたという創世神話が語られた。リリーの話によれば、各神は分身を作り、その分身に自然の力(風・水など)を授けたという。この分割神話は一神教と多神教の境界を曖昧にし、ヴェルナーはこの世界が「箱庭」として創造された可能性にも思いを馳せた。
日常の合間に見える子供時代の記憶と文化
調査の合間、リリーとの会話では、ホルーアルの実を焼いた軽食をとりながら、子供時代の遊びや家庭教師制度、そしてゲーム「ヴァレオ」の変則ルールなどが語られた。これにより、ヴェルナーの育ちや文化的背景が描写され、また新たな娯楽の可能性にも思考を巡らせていた。
情報の断片と拭えぬ違和感
ゼルムンベック=古代王国であるか否かは確定できず、また災害の記録の曖昧さや、フィノイ城塞と大神殿のつながりなど、調査すべき点は山積していた。ヴェルナーは、まるで重要な情報だけがぽっかりと抜けているような違和感を覚え、その感覚を“弓を持たずに矢だけ持っているような状態”と表現した。調査はまだ序盤であり、全貌を掴むにはさらなる探索が必要であると認識していた。
ゼルムンベック二巻と魔石技術の発見
ヴェルナーはゼルムンベック興国記の続巻を読破し、魔石の発明が北方の研究施設でなされたことを知った。これは自然の力を結晶化し、動力源とするものであり、魔石の大量生産が結果的に環境破壊を招いたとされる。水源の枯渇や作物不良といった問題が生じたことから、産業革命に伴う負の側面が描かれていた。さらに、異世界からの「力の流入」による環境修復という記述もあり、この世界が何らかのシステム的「自己修復」機能を有しているのではないかという仮説が浮かび上がった。
王都神殿への立ち入り調査の準備と出発
地下書庫での調査後、ヴェルナーは表向きは決闘裁判関連の確認という名目で王都神殿に赴く準備を整えた。だがその実態は、王室による教会への内部調査を開始する布石であった。表立っての対立を避けるため、複数の貴族が個別の名目で神殿に出入りする形式が取られていた。
マラヴォワ大神官の失踪と教会内の闇
出発前にヴェルナーはマラヴォワ大神官が突如失踪したとの情報を得る。神殿内部では争った形跡もなく、行方不明となっていた。背景には「扶助人制度」に絡む不正や、略奪婚を巡る不公平な裁定など、大神官に関わる複数の疑惑が存在していた。これらは教会の資産蓄積や賄賂、不当労働などを含み、教会組織の腐敗を示唆していた。
神殿前の対立と政治的演出
王都神殿の前にはイェーリング伯爵家の騎士団が出現し、ヴェルナーの訪問と重なることで世間の注目を集めようとした。ヴェルナーはこれを意図的な情報操作と察し、冷静に応対しつつ距離を取り、両者の立場の違いを強調した。リリーに対する敵意や威圧もあったが、ヴェルナーとアネットが彼女を守る体勢を取ったことで、即時の衝突は回避された。
神殿会議と調査体制の確認
神殿内では、貴族たちと法務関係者による会議が開かれた。シュリュンツ子爵、ドレーゼケ男爵らが出席し、神殿に対する穏便かつ組織的な調査体制が協議された。レッペ大神官もこれに同意し、腐敗の温床となる者を排除する意向を示した。神殿の構造や居住棟、施療院、廃棄物処理棟などの説明もなされ、調査の範囲が視野化された。
都市清掃員と中世的廃棄物処理の現実
神殿構造の一部として紹介された都市清掃員の存在は、中世的社会構造における廃棄物処理のリアリズムを表していた。陶器の破片や食料廃棄物、解体後の家畜の骨などを分別・再利用・処分する役割があり、都市内での魔物の誘引を防ぐため壁内で処理されていた。この点は、前世の知識との比較を通じてヴェルナーの視点から明確に描かれていた。
王都神殿の調査方針と三者分担
調査会議において、ヴェルナーはマラヴォワ大神官の執務室、ドレーゼケ男爵は神殿周囲、シュリュンツ子爵は居住棟の調査をそれぞれ担当することとなった。神殿の財務調査は後日全員で実施するという方針が決定された。
大神官からの個別接触と聖女の歴史
調査の直前、レッペ大神官がヴェルナーを神殿長室に招き、聖女ユリアーネにまつわる歴史的背景を語った。王都神殿はユリアーネの実家跡地に建っており、彼女の登場は魔法の人類使用解禁と深く関係していた。また、ヴァインツィアール王家は北方からの亡命貴族の末裔であり、ユリアーネの活躍によって市民から支持を得て王家として定着したとされた。
聖女と勇者の知られざる真実
聖女と共に魔王と戦った勇者イェルクは実は元奴隷兵であり、公式には義勇兵とされていた。また、勇者パーティーの構成員は全員が貴族出身とされており、監視と補佐の役割を担っていた可能性がある。この勇者の出自は政治的な不都合を生み、記録の中でその存在が軽視・隠蔽されている節があった。
神殿に伝わる魔法の技術と危機感
ユリアーネは当初、回復魔法のみを伝えたが、応用により攻撃魔法も実用化された。だが、彼女はこの魔法が将来的に人間同士の戦争に使用されることを危惧していた。また、魔王が使用していた“吸容石”の破壊が魔物の無限生成を止める鍵となっていたが、これもまた魔石生成技術との関連性が疑われた。
神殿の情報操作とヴェルナーの違和感
史料には勇者パーティーの他の構成員やユリアーネの弟についての記述が一切なく、神殿が都合のよい情報だけを残している可能性が示唆された。さらに、僧侶系魔法が神の加護によらないことや、神殿内部の記録をヴェルナーが自由に読めている状況にヴェルナー自身が強い違和感を抱いた。
突如として閉ざされる神殿長室の扉
読書を終えたヴェルナーが外へ出ようとしたところ、神殿長室の扉が外側から封鎖されており、罠に嵌められたことに気づいた。この間、他の調査隊員とも連絡が取れていなかった。
地下水道での逃亡と真の裏切り者
場面は変わり、神殿の地下水道を通じて逃亡する一団が描かれた。レッペ大神官と貴族クヌートは共謀しており、ヴェルナーを罠に嵌めてリリーを拉致していた。しかも、マラヴォワ大神官の失踪もこの計画の一環であり、部屋に仕掛けられた毒の罠も計画的なものだった。
リリーの連行と非情な言葉
連行されるリリーに対し、レッペは表面上は同情を示しつつ、内心では“器”としての利用価値のみを見出していた。クヌートはそのリリーに対して侮辱的な態度を取り、抵抗するリリーをあざ笑った。
ヴェルナーの追跡と対峙の始まり
やがて、地下水道を通じて追跡してきたヴェルナーが一団に追いつき、単身で彼らの前に現れた。レッペはその登場に驚きつつも、衛士に指示を出し、両者の対峙が始まることとなった。緊張が高まる中、反撃の幕が開けようとしていた。
レッペとの対峙と暴かれる策略
地下水路にて、ヴェルナーはレッペやクヌートらと対峙し、衛士たちに包囲された状態に置かれた。レッペは過去のヴェリーザ砦の薬物混入などの事件に自らが関与していたことを明かし、王宮や神殿内に流す偽情報によってヴェルナーを貶めようとする策略も披露した。これに対しヴェルナーは、神殿長室に火を放ち、陽光と水晶を利用した火災を演出して脱出、さらにリリーの残した偽メモから敵の意図を看破して追跡していたことを告げた。
目的の暴露と神託への狂信
レッペはヴェルナーに対し、行動の動機が「ラウラ殿下への神託」にあると語り出した。彼は現王家を排除し、ラウラの子を高位に就かせるためにリリーを犠牲にしようとしていた。神の神託が事実であった以上、それに従うことが正義であるという狂信的な論理を述べ、ヴェルナーはこの倒錯した信念に嫌悪感をあらわにした。
“破滅の剣”による苦戦と治癒魔法の連携
レッペ配下の衛士たちは、“破滅の剣”という呪われた武器を用いてヴェルナーに襲いかかった。ヴェルナーは応戦するも、戦闘に集中できない状況に加え、敵はレッペの治癒魔法で即座に回復するため、次第に不利に追い込まれていった。加えて、呪われた武器は同士討ちを引き起こすこともあり、混乱が戦場を覆った。
現れた第三勢力とヴェルナーへの襲撃
激戦のさなか、新たに登場したフードを被った女神官と虫型魔獣の群れが現れた。女神官はレッペの協力者であり、ヴェルナーに呪縛の魔法を行使。さらに衛士の一撃がヴェルナーの脇腹を深く貫き、致命的な状況に陥った。そこに女神官が広範囲の暴風魔法を発動させ、地下水道の天井が崩落。土砂と瓦礫に包まれたことで、ヴェルナーの安否は不明となった。
リリーの拘束と闇への消失
崩落後、女神官はリリーの身柄を引き取り、魔獣とともに水路の奥へと消えていった。ヴェルナーの遺体は衛士により回収が命じられたが、その生死は明確にされていない。リリーの悲痛な叫びも空しく、誰一人として彼女に同情を寄せる者はおらず、反撃の機会は絶たれたかに見えた。
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